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- 2026年9月14日 第8回労働政策審議会労働条件分科会「組織再編に伴う労働関係の調整に関する部会」 議事録
2026年9月14日 第8回労働政策審議会労働条件分科会「組織再編に伴う労働関係の調整に関する部会」 議事録
労働基準局労働関係法課
日時
令和8年9月14日(月) 10:00~12:00
場所
厚生労働省専用第21会議室(中央合同庁舎5号館17階)
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号)
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号)
出席者
- 公益代表委員
- 山川部会長、池田委員、石﨑委員、髙橋委員、成田委員
- 労働者代表委員
- 小林委員、菅村委員、浜委員、浜田委員
- 使用者代表委員
- 荒川委員、木村委員、鈴木委員、鳥澤委員
- 参考人
- 株式会社レコフデータ 吉富優子代表取締役社長
株式会社レコフデータ 田城謙一執行役員企画管理部長
- 事務局
- 岸本労働基準局長、長良大臣官房審議官(労働条件政策、働き方改革担当)、竹野労働関係法課長、瀧田労働関係法課課長補佐
議題
- (1)M&A調査会社からのヒアリング
- (2)組織再編に関する諸外国の労働法制について
議事
○山川部会長 定刻になりましたので、ただいまより第8回「労働政策審議会労働条件分科会組織再編に伴う労働関係の調整に関する部会」を開催いたします。
委員の皆様方、御多忙の中、お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
本日の部会は、全ての委員の皆様に会場にお越しいただいております。
それでは、議事に入ります前に、事務局に異動がありましたので御説明をお願いいたします。
○労働関係法課長補佐 事務局でございます。
8月1日及び同月4日付で事務局に異動がございましたので、御紹介させていただきます。
大臣官房審議官(労働条件政策、働き方改革担当)の長良でございます。
○大臣官房審議官 よろしくお願いいたします。
○労働関係法課長補佐 続きまして、労働関係法課長の竹野でございます。
○労働関係法課長 よろしくお願いいたします。
○労働関係法課長補佐 事務局からは以上でございます。
それでは、カメラ撮りはここまでといたします。
○山川部会長 よろしくお願いいたします。
本日の議事に入ります。最初に、議題(1)「M&A調査会社からのヒアリング」でございます。M&A市場の動向や事業再編・組織再編の現状につきまして、株式会社レコフデータの代表取締役社長の吉富優子様、執行役員企画管理部長の田城謙一様から御報告いただきます。本日はお越しいただきまして、誠にありがとうございます。
その後、委員の皆様から、御報告いただいた内容に関する質疑応答を予定しております。
それでは、株式会社レコフデータの吉富様、田城様から御報告をお願いいたします。
○吉富様 レコフデータの吉富と申します。よろしくお願いいたします。
レコフデータは、1985年以降の日本企業におけるM&Aデータベースを構築しており、今年で41年目となります。ニュースリリースや新聞に掲載された記事を端緒に取材を行い、事実に基づいて構築しているデータベースであり、恐らく世界に類がないほど信頼性の高いデータを構築していると自負しています。厚生労働省様では、2015年5月の第6回「組織の変動に伴う労働関係に関する研究会」において御説明をさせていただいて以来です。M&A市場の動向と会社分割制度が運用されて十数年経過したその状況についてお話しいたしました。
本日も、同様のテーマで、田城から御説明させていただきますが、当時に比べましてM&A市場は活況であり、会社分割制度はなくてはならない制度になっており、皆様方にそうした状況をお知らせしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○田城様 それでは、私から資料の御説明をさせていただきます。「データで見るM&A市場の動向と会社分割の活用状況」ということで御説明させていただきます。
まず、M&Aの基本的な定義を整理した上で、日本のM&A市場の動向、そして事業再編や組織再編の中での会社分割の活用状況についてデータを中心に御説明させていただきます。
1ページ目を御覧ください。こちらは当社の概要となります。当社は、M&Aデータベース「MARR Pro」の提供やM&A情報サイト「MARR Online」の運営を通じて、日本のM&A市場に関する情報収集・分析を行っておりまして、当社のデータベースを基に今回御説明をさせていただきます。
2ページ目は官公庁との取引実績で、古くから取引があり、こちらは後ほど御覧いただければと思います。
続きまして、M&Aの定義についてです。4ページ目を御覧ください。当社では、日本資本が原則として50%超の法人を日本企業、外国資本が50%超の法人を外国企業としております。市場を国内企業同士のM&AであるIN-IN、日本の企業と海外の企業のM&AであるIN-OUT、海外企業による日本企業のM&AであるOUT-INという形で分類をしております。
また、形態別では、合併、買収、資本参加、出資拡大、事業譲渡の5つに分類しています。
5ページ目です。M&Aデータの定義ということで整理しております。事業や経営権が移転する取引について、当社では、大きく「M&A」と「グループ内再編」に区分しております。M&Aは企業グループの外部との取引になります。例えば他社への事業譲渡や企業買収が該当します。一方、グループ内再編は同じ企業グループ内で行われる再編ということで、親会社から子会社への事業移管などが挙げられます。グループ内M&Aのほか、M&A関連データとして子会社株式の取得、分社・分割、持株会社設立のデータも整備しています。
6ページ目を御覧ください。こちらは会社分割の位置付けを示しております。会社分割は事業を別の会社へ移す仕組みですが、それだけでは経営権、あるいは支配権は移転しません。このため、会社分割単独ではM&Aには分類しないという形にしております。
一方で、事業譲渡や会社売却の前に対象事業を切り出す目的で利用されることが多く、実務上はM&Aを実現するための準備行為、あるいは組織再編手法と位置付けられるかと思います。実際には、会社分割はM&Aのプロセスで活用されるケースが見られますので、当社のデータベースではそれを集計することができるような形にしております。
7ページ目に集計した結果を表で載せています。例えば2025年を見ますと、2025年のM&Aについて、件数が5,115件です。これとは別にグループ内再編の案件が1,336件ございます。また、M&Aやグループ内再編のうち会社分割を利用した案件がM&Aで161件、M&Aのうちの約3%を占めます。それとグループ内再編で308件、グループ内再編の約23%を占める件数です。会社分割が企業の組織再編上、必要な制度となっていることがうかがえるかと思います。
続きまして、8ページ目以降はM&A市場の動向について御説明します。
9ページ目を御覧ください。こちらが日本企業によるM&Aの年間件数の推移を示しております。これまでM&A件数の推移には幾つか波があり、1つ目が1980年代後半のバブル期で、日本企業による大規模な海外企業の買収が相次いだ時期でもございました。2つ目の波が1990年代後半から2008年のリーマン・ショック前までの時期です。この時期が株式交換や株式移転、あるいは株式分割、そうした制度が導入されるなど、M&A関連の法整備が進んだ時期でもございます。3つ目が、リーマン・ショックによる市場縮小から再拡大を始めた時期の2012年以降でございます。第2次安倍内閣が発足してアベノミクスがスタートした時期になります。現在のM&A件数は2012年からの増加の途上にあり、依然として上昇傾向が続いております。
10ページ目は形態別M&A件数の推移を見ております。2025年の買収、事業譲渡の合計件数ですと2,875件で、56.2%を占めております。近年は買収、あるいは事業譲渡といった経営権、事業権を取得するといった取引が主流となりつつあります。
11ページ目は、M&A件数とマクロ経済の動向として企業の業績、株価指数との関係を見たものでございます。左上が四半期ベースのM&A件数で、左下が日本企業の経常利益並びにTOPIXの動きを示しておりまして、両者の関係を見ますと連動する形で動いている傾向が見て取れます。そのため、景気、業績の底割れが発生しなければM&A件数は今後も底堅く推移すると考えられますが、イラン戦争をはじめ、地政学リスク、あるいは金利の上昇などの影響が大きくなりますと、M&A件数は頭打ちになる可能性も考えられると思っております。
次に12ページ目です。こちらでは日本企業によるM&A金額の推移を載せております。近年は、国内市場の成熟、あるいは人口減少を背景として、日本企業による海外企業の買収が継続しています。また、海外ファンドによる日本企業への投資も活発であり、金額ベースでいきますと、IN-OUT、あるいはOUT-INといったクロスボーダーの案件の存在感が非常に大きくなっており、日本のM&A市場の重要な構成要素となっています。
なお、M&A金額全体ですと、2025年は37兆9,082億円で、これまでの最高を記録しております。
13ページ目は、2026年の1月から8月に公表された金額上位の10件を示しております。白がIN-IN、黄色がIN-OUT、青がOUT-INとなっていますが、黄色のIN-OUTが4件、青色のOUT-INが4件ということで、引き続きクロスボーダー案件が上位を占めていることが見て取れるかと思います。
次に14ページ目です。M&A市場を牽引するドライバーについて示しています。左のグラフが上場企業の事業再編件数の推移で、近年は上場企業を中心に事業ポートフォリオの見直しを進める動きが活発化しています。企業価値の向上に向けて事業の選択と集中を進める中で、経営権、事業権の売り買いが増加しており、2025年は1,500件に達しております。
また、こうしたM&Aの動きは上場企業だけではなく、未上場企業にも広がっており、右側のグラフは事業承継M&Aの件数でございます。主に中堅、中小企業においてM&Aによって後継者不足の問題解決を図る動きが活発化しており、事業承継M&Aは2018年頃から大きな市場を形成しております。2025年には1,000件を超える件数になっている状況です。
なお、こちらの件数は公表された件数ですので、公表されていない件数も含めますと更に多い件数になるかと思っております。
15ページ目は、M&A市場の牽引のドライバーとして買い手の状況を見ております。左のグラフが日本企業に対する投資ファンドのM&Aの件数で、2013年以降、大幅に増加しており、2025年で1,100件を超えております。
また、右側のベンチャー企業への投資の件数も近年大幅に増加しております。2022年が直近のピークで1,780件となっていますが、その後も1,400件前後の高水準で推移しております。中でも、ベンチャー企業との提携の目的で事業会社によるベンチャー企業への投資が高水準で推移していることが見て取れるかと思います。
続いて16ページ目です。M&A市場のその他の動向で左側が破綻関連のM&Aの件数を載せています。ここでは、会社更生法や民事再生法などの法的整理に入るか、私的整理で再建を目的としない会社を対象とした案件を集計しております。
折れ線グラフで示した倒産件数は増加に転じていますが、破綻関連のM&Aは年20件前後で、以前に比べると件数は減少しております。
一方で、近年新たなM&Aのドライバーとして、サステナビリティ経営実現に向けて、SDGs、あるいはESGといった取組を推進するためのM&Aが増えており、年間350~400件のM&Aが実施されております。また、ベンチャー企業との連携も増加しております。
続いて、事業再編・組織再編の現状について御説明いたします。18ページ目です。上場企業の事業再編のM&A増加の背景には、上場企業のガバナンス改革が影響しています。第2次安倍内閣のアベノミクスにおける3本の矢のうちの第三の矢であります成長戦略では、その中核としてガバナンス改革が進められました。こちらに示しているように、経産省を中心に、ガイドラインや報告書が発表され、上場企業は市場からROEといった資本効率を向上していく圧力を受けております。カーブアウト等の事業再編に取り組んでいくこととなり、これがM&A市場の活性化につながっていると見ております。
19ページ目です。こちらは組織再編や会社分割をめぐる主な制度改正の動きを整理したものです。会社分割制度は商法改正によって導入され、その後、会社法の制定や税制整備などを通じて、活用しやすい環境が整えられました。その結果、企業は従来の合併だけではなく、会社分割、株式交換など多様な手段が利用できるようになり、制度活用がM&Aを促進する動きにつながっていることが見て取れるかと思います。
20ページ目です。こちらはM&Aによる事業再編の中で会社分割がどの程度活用されているかを示したものです。御覧のとおり、事業再編の件数は近年、高水準で推移していますが、その中で会社分割を活用した案件も継続的に見られます。企業が事業の売却や統合を行う際には、事業を切り出して移転しやすくする必要があるため、その手段として会社分割が活用されている状況です。
21ページ目です。会社分割制度を活用して事業譲渡を行った企業について、当事者2、つまり事業を譲り渡す側の企業が上場企業か未上場企業かを見たものです。
このグラフを見ますと、事業譲渡のケースでは、未上場企業の割合が上場企業を上回っております。会社分割というと、大企業、あるいは上場企業が利用する制度のイメージを持たれるかもしれませんが、実際のデータを見ますと、事業譲渡の局面では未上場企業においても活用されており、必ずしも大企業だけの制度ではないことが見て取れるかと思います。
22ページ目です。こちらは会社分割を活用して事業譲渡を行った企業の業種別の内訳を載せております。御覧いただいて分かるように、多様な業種で活用されていることが見て取れるかと思います。製造業、大企業だけではなく、実際には情報関連やサービス業で多く、また、幅広い業種で活用されている状況です。
23ページ目です。以下では、M&Aの個別の事例を幾つか見ていきたいということで個別事例を挙げています。こちらでは、花王のヘルシア事業をキリンホールディングス傘下のキリンビバレッジが譲り受けた事業譲渡の事例を載せています。この事例は近年増加する事業ポートフォリオ改革を象徴する案件かと思います。
売り手の花王ですが、ヘルシアは2003年に販売された特定保健用食品のブランドで、高い知名度を持っております。一方で、花王は近年、事業ポートフォリオ全体を見直して、経営資源をより重点分野に集中する方針で進めています。今回の事業譲渡もその一環で行われております。
これに対し、買い手のキリンビバレッジは飲料事業に加え、ヘルスサイエンス領域を成長分野として位置付けております。そのため、自社で一から商品を開発するのではなく、既にブランド力や顧客基盤を持つヘルシアの事業を取り込むことで事業拡大を図ろうとしています。
この案件で譲渡されたのは、ヘルシアという特定の事業ですが、売り手は事業の選択と集中を進め、買い手は成長分野を強化する双方の経営戦略が一致した結果かと思います。
24ページ目です。こちらは未上場企業同士の事業譲渡の事例を挙げております。買い手はポエックグループ、売り手は東鉄工でございます。この案件はいわゆる事業承継型のM&Aです。東鉄工は高炉向けのバルブなどの部品の設計やOEM製造を手がける企業で、大手製鉄会社との取引実績、あるいは専門的な技術、ノウハウを有しております。
一方で、同社は後継者不在の課題を抱えており、事業を終了するのではなく、事業そのものを他社へ引き継ぐ選択をしています。買い手であるポエックは、新たに設立した受け皿会社を通じて対象事業を譲り受けており、単に設備、契約を取得しただけではなく、従業員、顧客基盤、設計技術、OEM製造のネットワークを引き継ぐ形で進めた案件です。
25ページ目は、会社分割の活用事例を載せております。リコーと東芝テックが共同で設立したエトリアが沖電気工業のプリンター事業を吸収分割によって承継した案件です。プリンター市場は成熟市場となっており、各社が単独で事業を維持拡大していくことが難しくなっているため、各社が持つ技術、それから生産機能を集約して競争力を高めるために事業統合が行われています。
通常の事業譲渡であれば、対象となる資産や契約、従業員など個別に移転する必要がありますが、この案件では会社分割を利用することにより、プリンター事業に関する権利義務を包括的に承継することが可能になっています。また、対価として現金ではなく株式が交付されていることで、沖電気工業は事業を譲渡して撤退するのではなく、承継会社であるエトリアの株を取得し、事業統合後も一定の持ち分を保有しています。つまり、事業を持ち寄って一つにする形の事案になっております。
26ページ目はダイドードリンコとアサヒ飲料グループが自動販売機事業の統合を行った例です。この案件では、両グループがそれぞれ保有していた自動販売機運営会社6社を統合するために、新たに共同持株会社を設立しております。先ほどのスライドでは、特定の事業を切り出して統合するために会社分割が活用されていましたが、この事例では、それぞれの会社を存続させたまま、その上に共同の持株会社を設立して、経営を一体化する形になっております。
27ページ目です。ここからは第三者とのM&Aではなく、企業グループの内部で行われる組織再編について見ていきたいと思います。企業グループの外部との取引である通常のM&Aは年間5,000件程度ありますが、グループ内での再編案件も年間1,000件程度ございます。また、グループ内再編においてもそれぞれのスキームで会社分割が活用されていることが見て取れるかと思います。
28ページ目はグループ内再編において会社分割を活用しながら合併や事業譲渡を行った企業について、上場企業か未上場企業かを見たものです。先ほど御説明した第三者との事業譲渡では、未上場企業の活用割合が比較的高かったですが、グループ内再編では状況が異なっており、上場企業による活用が未上場企業を上回っている状況です。その背景としては、上場企業は未上場企業と比べて様々な事業を有しており、近年、事業ポートフォリオの改革やグループ経営の高度化が進んでいることが挙げられるかと思います。
29ページ目です。こちらはグループ内組織再編において会社分割を活用しながら合併や事業譲渡を行った企業の業種別の内訳を示しております。製造業、サービス業、情報関連産業をはじめ幅広い業種で活用されております。組織再編や会社分割の活用が、一部の大企業、あるいは特定の業界に限られた現象ではなく、多くの企業に共通する経営課題への対応手段になっていることが見て取れます。
以下ではグループ内再編の事例を4つほど載せています。まず、30ページ目は三井物産における事業譲渡を用いたグループ内再編の事例です。この案件では、三井物産が保有していた国内再生可能エネルギー事業を100%子会社である三井物産プロジェクトソリューションへ事業譲渡しています。譲渡対象は、太陽光発電や陸上風力発電を中心とした合計8つの資産となっています。
この事例のポイントは、第三者への売却ではなく、グループ内で事業の担当会社を見直している点かと思います。従来、再生可能エネルギー事業は親会社である三井物産が保有しておりましたが、インフラやエネルギー関連事業を専門的に扱う三井物産プロジェクトソリューションへ集約することで専門性の向上や事業運営の効率化を図ろうとしている事例です。
31ページ目です。こちらは未上場企業のTANAKAホールディングスグループにおけるグループ内再編の事例を載せています。この案件では、TANAKAホールディングスが担っていたグループ全体の経営管理機能を新たに設立した田中貴金属グループへ事業譲渡しております。
併せて、主要事業会社である田中貴金属工業や田中貴金属ジュエリーなどを新会社の傘下に再配置しています。この事例の特徴は、移転されているのが工場や製品事業ではなく、経営管理機能そのものである点かと思います。グループ企業ごとの役割を明確にし、経営管理機能を新会社へ集約することで意思決定の迅速化や経営効率化の向上を図ることが目的とされております。
32ページ目です。こちらはミツウロコグループホールディングスにおけるグループ内再編の事例です。この案件では、ミツウロコグループホールディングスが保有していた商業施設運営事業に関する資産や権利義務、更にはグループ会社であるミツウロコが運営していた事業を同じグループ内のミツウロコスポーツへ会社分割によって集約しております。
対象となったのは温泉施設やボウリング施設です。この事例のポイントは、第三者への売却ではなく、同じ事業を一つの会社にまとめることが目的となっている点かと思います。再編前は、資産は持株会社側、事業運営は別のグループ会社という形で機能が分散しておりましたが、施設運営を担うミツウロコスポーツに集約することで責任の所在を明確にし、経営や運営をより効率的に行える体制へ移行している事例です。
最後に、33ページ目のセブン&アイHDグループにおける組織再編の事例です。この案件の特徴は、合併と会社分割を組み合わせてグループ再編を行っている点かと思います。まず、同じスーパーストア事業を行っていたイトーヨーカ堂とヨークについては事業運営の効率化を目的として吸収合併を実施しております。一方で、イトーヨーカ堂が保有していた製造インフラ事業とネットスーパー事業については、そのまま合併会社に残すのではなく、それぞれの専門会社へ会社分割によって移管しています。
この事案では、合併と会社分割を組み合わせながらグループ全体の機能を整理し、それぞれの事業に最適な運営体制を構築している点が特徴で、会社分割はそのような組織設計を実現するための手段として活用されている事例です。
私からの説明は以上となります。
○山川部会長 有意義な御報告、ありがとうございました。それでは、質疑応答に移りたいと思います。ただいまの御報告につきまして、委員の皆様から御質問等がありましたら、お願いいたします。
では、浜委員、お願いします。
○浜委員 労働側の浜と申します。御説明ありがとうございました。私からは、M&Aの件数の今後の見通しについて確認させてください。私どもJAMは、ものづくり産業の中小労組で集まる団体でございまして、その加盟組合では人手不足や、事業承継における後継者不足が非常に深刻化しており、実際に後継者が見通せていない状況も多く見受けられます。
そうした中で、資料1の11ページにあるM&A件数の頭打ちの可能性について、中小企業の事業承継や破綻関連を含めても、M&Aの件数はいずれ横ばいになると見られているのでしょうか。その理由や背景を含めてお伺いできればと思います。今後も更に増える可能性もあるのではないかと思いますので、確認させてください。
以上です。
○山川部会長 レコフデータ様、御質問ですが、いかがでしょうか。
○吉富様 ありがとうございます。先ほど田城が御説明したとおり、私どもとしては、災害や戦争など日本経済に大きな影響を与えるような事象が発生しない限り、M&Aは今後も増え続けていくと考えております。これまでにM&Aが減少した局面としては、リーマン・ショックや、東日本大震災が挙げられます。ただ、いずれも一時的な減少にとどまっており、そうした大きな外部環境の変化がない限りは、このまま増え続けていくと思います。
M&A市場を大きく分けると、上場企業を中心とする大企業の領域と中小企業の領域に分かれます。今の中小企業につきましては、事業承継は喫緊の課題です。公表されている案件だけでも年間1,000件程度ありますが、水面下で行われている案件も含めれば、その3倍から4倍程度の規模があるだろうとみております。更に後継者不足や経営者の高齢化といった課題も深刻化しています。そのため、後継者不足によって事業が黒字でも廃業となる前に第三者へ承継する必要性が高まっています。特に成熟した事業では、適正な継承先の第三者が見つからず、そのまま終わってしまう恐れがあります。中小企業庁もそれを重要な政策課題と位置付けて数年前から研究会を立ち上げて検討が進められています。また、M&A仲介の専門会社も増えており、中小企業のM&A市場は恐らく今後5年程度は拡大を続けていくと認識しております。
一方で上場企業につきましても、多くの産業で戦後から継続して成長してきた事業が成熟段階に入っています。そのため、成熟した事業を見直し、新たな成長分野に経営資源を振り向ける動きが活発になっています。また、成熟している事業であっても、ほかの会社のもとであれば更に成長できる可能性があることから、企業は「買収する側」にも「売却する側」にもなっています。こうした事業の売買は、上場企業において定着し始めていると感じております。経済産業省をはじめとする行政も企業の事業再編を後押ししています。その一例として、事業会社によるスタートアップ投資や買収を通じて、新しい技術やノウハウなどを取り込む動きがあります。こうした取組もM&A市場を支える一つのドライバーになっています。そういう意味では、上場企業のM&A案件も更に増えていくと考えています。したがって、大きな外的ショックが発生しない限りは、M&A市場が頭打ちになる可能性は低いものと認識しております。
以上です。
○山川部会長 ありがとうございます。浜委員、何かございますか。
○浜委員 ありがとうございました。
○山川部会長 ほかに御質問等ございますでしょうか。
では、石﨑委員、お願いします。
○石﨑委員 詳細に御説明いただきありがとうございました。21ページのグラフについてお尋ねしたいと思います。こちらは基本的に件数ベースでのデータと理解しておりますが、先ほど御説明の中で、グループ内再編の場合には上場企業が多く、21ページのように、グループ内ではない再編の場合には未上場企業が行っている件数が多いことかと理解しました。そもそも上場企業で、例えば事業譲渡を行ったうち会社分割を選択したものの割合と、未上場企業で事業譲渡を行ったもののうち、会社分割を行ったものの割合で比較した場合にも、未上場企業のほうが会社分割をより選択する傾向にあるなど、そうしたことまで言えるのかどうなのか教えていただきたいのがまず1点です。
併せて、これは何か傾向のようなものがあれば教えてほしいという趣旨になりますが、労働契約の承継を伴う組織再編を行うに当たり、各企業がどのような場合に会社分割を選択されるのか、どういうシチュエーションだと会社分割を選択しやすい傾向にあるのかなど、量的なデータでなければ質的なデータでも結構ですが、何らかの傾向が見出せるのかどうかについて御感触を教えていただけたらありがたく思います。
以上です。
○山川部会長 お願いいたします。
○吉富様 ありがとうございます。要するに、第三者間のM&Aの事業譲渡においては未上場企業の件数が上場企業を上回っているという結果になっています。この割合については、先ほど申し上げたとおり、未上場企業の案件はなかなか収集しづらい面がありますので、一概に正確にお伝えできない中で、未上場企業の割合が高かったことには、集計していて驚きました。実務に携わっていないので個人的な感想とはなりますが、会社分割をする事業規模が上場企業と未上場企業で大きく違うのではないかと考えています。未上場企業の場合は事業規模がそれほど大きくないので、従業員数十名といった単独の事業が移転するといった場面では、会社分割が比較的使いやすいと思います。
一方で上場企業については、先ほど御説明しましたM&A法制が2000年前後に制定されて以降25年ほどたっており、その間に買収や再編を重ね、単一の事業の中にも複数の会社に由来する組織や人材がミックスされており、例えば100人規模の従業員の中でも、もともと異なる会社に所属していた従業員が集まっていることがあります。例えば労働契約などの制度的なものがどの程度整備されているのかによって、労働関係を一括してほかの会社へ承継することが容易でないケースもあるのではないかと思います。そのため、上場企業と未上場企業とでは組織の成り立ちが異なり、その違いが数字に出てきているものと想像しております。
○山川部会長 石﨑委員、よろしいでしょうか。
○石﨑委員 ありがとうございました。確かに御説明の中で明らかになっていないケースもあるとのことで、明らかになったケースでのこの統計の結果と理解しました。ありがとうございます。
○山川部会長 ほかにございますでしょうか。
髙橋委員、どうぞ。
○髙橋委員 ありがとうございます。委員の髙橋でございます。
私から、今回御丁寧に説明していただいたデータのことで読み方を教えていただきたい点が2点ございます。まず、資料の6ページに、「会社分割そのものはM&A形態ではなく、M&Aのプロセスにおける準備行為や企業内の組織再編手法の位置づけとなる」と書かれていますが、確かに、例えば事例3、32ページのミツウロコの事例のように、あらかじめ企業グループ内でこうした形にしたい、という場合には、最終的にこのホールディングスの形にすることを念頭にカウントすると思うのですが、例えばグループ内M&Aと外部とのやり取りのどちらとも評価できる事例、例えば25ページの沖電気のカーブアウトの案件のように、法的には吸収分割1つになりますが、事業がエトリアに移るときは事業の譲渡とも整理でき、その対価として沖電気が株式を取得することに関しては、沖電気が資本参加した、と説明することができるようにも見えます。
このような場合、7ページで書いている分類では1件としてカウントされているのか、それとも、事業譲渡、資本参加として、1件ずつ2件としてカウントされているのかをどのように数えているのか教えていただきたいのが第1点です。
それからもう一点、東鉄工の後継者不在の事業承継の件です。この事例が特殊なのかもしれませんが、売り手であった東鉄工がその後どうなったのかに関心があります。後継者不在ということで、この事業譲渡先のポエックソリューションが名前を変えて東鉄工の名前になったことですが、元の譲渡人の法人である東鉄工は、解散や清算など、法人としては終わりとなる場合には、これは清算になったということになりますでしょうか。そしてその場合、先ほどの16ページにありました破綻関連のM&Aとカウントされてしまうのかお伺いしたいと思います。先ほど御質問の回答でありましたが、必ずしも経営難であるわけではないけれども、譲渡会社が消滅してしまうタイプがあるようにお見受けしておりますが、これは件数として把握されているのか、それとも破綻関連の中に含まれているのかをお伺いできればと思います。
以上です。
○山川部会長 いかがでしょうか。
○吉富様 最初の御質問ですが、会社分割として、吸収分割を使って対価として株式を取得するため、資本参加ではないかとのことですが、ここはダブルカウントしておりません。事業譲渡の中の吸収分割を活用した1案件になっております。
この事例で言いますと、株式を取得するのはM&Aの戦略の一つであり、共同で事業をするためにエトリアに事業を集約し、結果として沖電気がそこの株主になる形をとっています。リコーと東芝テックと沖電気の3者の業務提携戦略の一つと位置付けられます。場合によって、事業を売却し、株式ではなく金銭を対価にすることもできますが、このような選択をしたことは、3者が業務提携をして事業を運営していく戦略的な意図があり、その実現として、このM&Aのスキームを選択したことかと思います。
○田城様 東鉄工の事例ですが、これは未上場企業ということもあり、把握できる情報には限りがあります。ホームページは現在も存在しており、事業移転後の事業についても東鉄工の名前で営業されていますので、恐らく、現在確認できるのは移転された後のホームページになるかと思っていますが、以前の東鉄工がその後どのような経緯をたどっているかについては、未上場企業でもあり正直なところ確認できておりません。
○吉富様 これが破綻関連案件ではないかとの御質問ですが、破綻関連でカウントしているのは、仮にこの東鉄工が民事再生法を適用し、そのスポンサーとしてポエックが事業を承継した場合です。本件は通常の事業譲渡であり、その後に仮に会社が清算された場合でも、破綻関連には入れておりません。
以上です。
○髙橋委員 ありがとうございました。
○山川部会長 ほかにございますでしょうか。
鈴木委員、どうぞ。
○鈴木委員 丁寧な御説明ありがとうございます。先ほどの石﨑先生からの御質問に関連してお伺いします。
資料21ページの会社分割制度を活用して事業譲渡を行った企業の上場、未上場別内訳について、非上場企業による活用が上場企業よりも多いが、非上場企業の場合には情報が収集しにくいといったお話があったかと思います。
こうした非上場企業のM&Aに関する情報を収集しにくい背景、理由についてお伺いできますでしょうか。
もう一点お伺いしますが、資料16ページにおいて、破綻関連のM&A件数は以前に比べ減少しているとの御指摘がございました。お答えいただける範囲で結構ですが、未上場の会社による破綻関連のM&Aがどのくらいあるか、資料16ページのデータに含まれているかどうかも含めて質問させていただきます。よろしくお願いします。
○吉富様 まず、情報収集のところですが、上場企業は開示義務がありますので、M&A案件は重要事項として扱われることが多く、ニュースリリースや適時開示が行われます。私どもはそうした情報を集計しています。一方で未上場企業については適時開示の義務がないため、情報収集が非常に難しいです。案件に上場企業が関与していればリリース等で把握できますが、未上場企業同士の案件になると、様々な手段を用いても把握できないものが少なくありません。特に小規模な案件は日常的に行われていると思いますが、例えば地域のクリーニング店同士が一緒になるような案件までは、なかなか把握できないのが実情です。
そうした中で、中小企業庁では、M&Aの支援機関登録制度を設けており、登録した支援機関が年間にどの程度の案件を行ったのかを集計しています。恐らく案件の中身もレポーティングが行われているのではないかと思いますが、その集計では4,000件以上あったかと記憶しております。そうした意味では、現在、未上場企業の情報を最も多く持っているのは中小企業庁ではないかと思います。
もう一つ、破綻関連のM&Aが減少している点についてですが、過去に最も多かったのは、民事再生法の活用が広がった2000年代の前半です。バブルが崩壊して企業業績が急速に悪化したため、会社更生法よりも利用しやすい民事再生法が導入されました。また、再生支援する公的機関も整備され、民間企業の再生が進められました。当時は、会社の事業そのものには価値があるものの資金繰りの悪化によって経営が困難になった企業を救済する仕組みとして機能していたため、破綻関連M&Aも急激に増加しました。しかし、そこから20年近く経過し、事業承継も数年前からうたわれており、破綻の整備も行われた中で、民事再生を含む再建手続を活用しても再生をすることが難しく、法的整理や清算に向かわざるを得ないケースが増えているのではないかと認識しております。ただ、これも公表されている情報がベースになっておりますので、これ以上のことは把握しておりません。
以上です。
○山川部会長 鈴木委員、よろしいでしょうか。
ほかにございますでしょうか。
菅村委員、どうぞ。
○菅村委員 ありがとうございます。連合の菅村と申します。
個別の事例も含めて詳細な御説明ありがとうございました。労働者の立場からすれば、M&Aの増減にかかわらず、再編手法ごとに異なっている労働者保護ルールの充実と強化が必要であると考えております。その上で、資料1の12ページを見ますと、近年では外国企業が関わるクロスボーダー案件が一定の割合を占めているデータも示していただきました。この後の議論になりますが、諸外国においては日本と法制度や商習慣、労使関係など異なる点が多くありますが、法務デューデリジェンスにおいては労働者保護ルールをはじめとする法令遵守の状況の精査が大きな課題の一つであると考えております。
この点、データ上で把握できることに限界はあるのかもしれませんが、再編時において、雇用や労働契約の承継に関して紛争が生じたことによって調整が難航した案件など、そうした事案などを把握されていれば教えていただきたいと思います。
以上です。
○山川部会長 いかがでしょうか。
○吉富様 通常、M&Aは買い手と売り手の両者間で合意したうえで進められるため、労働紛争に関する問題が表面化することはあまりありません。過去には、いわゆる同意なき買収において従業員による反対が表面化した事例があります。例えば王子製紙による北越製紙に対する同意なき買収案件では、従業員から反対の声が上がりました。その後も何件か、買収対象企業の労働組合が一斉に反対した結果、案件が成立に至らなかった事例が幾つかあります。ただし、それは上場企業のM&Aであり、公正性を担保するために情報開示が行われているため、動きを把握することができますが、未上場企業になりますと、そういうことも表には出てこないのが実情だと思います。
以上です。
○山川部会長 ほかにございますか。
鳥澤委員、どうぞ。
○鳥澤委員 御説明ありがとうございました。6年ほど前に私もM&Aをして売却をしておりますが、先ほど資料14ページの中で、昨年度の実績が1,000件ほどで、公表されていないものが大体その3倍程度あると御説明をいただきました。私の事例は恐らくその3倍程度に入るものと思いますが、そうしたM&Aを行った側の中小企業としてお話しさせていただきますと、先ほど、国際紛争や大規模な災害等があるとM&Aの数が減るというお話がありましたが、恐らくこの未公表の会社のM&Aは逆で、増えるのではないかと思っております。
その理由としては、そうした状況下では会社の株価が下がるため、売る側も買う側も取引がしやすい状況が起こり、加えて経営的な不安が増すことで売却が増えると考えられます。この見えない部分でのM&Aは、今後もそういった意味では増えるのではないかと思っております。
加えて、先ほどクリーニング屋の事例がございましたが、例えばある会社が、実はその会社としては完全に売却しているものの、実情を見れば、経営者は例えば飲食店などのほかの事業も行っており、その中の一部のクリーニング屋だけ売却する、という場合もございます。このようなケースは、経営者との関係で見れば実態としては事業分割に近いものの、会社同士の株式・資本関係がないため、単純な売却となっている場合もございます。その辺りについてはなかなかデータの読み取りが難しいかと思いますが、今後も未上場企業についてもより詳細に調べていただくとありがたいと考えます。困難な内容かとは思いますが、よろしくお願いいたします。
以上でございます。
○山川部会長 御感想ということですが、何かございますか。
○吉富様 私どもとしても、未上場企業の案件データの収集を更に進めていきたいと考えております。そもそも、私どもがM&Aのデータベースを作り始めた背景には、経済の発展に貢献したいという考えがあったからです。未上場企業のM&A案件については、実は世界的に見ても、未上場企業同士の案件を体系的に収集して整理されているところはないのですが、私どもとしてもその領域のデータ収集にチャレンジしていきたいと思っております。
ただ、実際には大きな課題があります。M&A案件をまとめられている仲介会社は、秘密保持契約をそれぞれの会社と結んでいるため、案件情報がなかなかオープンになりません。M&Aは「秘密保持で始まり秘密保持で終わる」ようなところがあるので、そこが未上場企業のM&A情報の収集を難しくしている要因です。そうした課題はありますが、今後も未上場企業のM&A実態を把握するためにチャレンジしていきたいと考えています。
○山川部会長 ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。
それでは、議題(1)「M&A調査会社からのヒアリング」はここまでといたします。ここで株式会社レコフデータの吉富様、田城様は御退出されます。本日は御出席いただき、また有益な御報告をいただきまして誠にありがとうございました。
それでは、次の議題に入ります。議題(2)「組織再編に関する諸外国の労働法制について」でございます。こちらについては、事務局と池田委員から御説明をお願いしたいと思います。まず、資料2に基づいて事務局から、次に、資料3に基づいて池田委員から御説明をお願いいたします。それらの御説明の後、質疑応答を予定しております。
それでは、まず事務局からお願いいたします。
○労働関係法課長補佐 それでは資料2を御覧ください。「組織再編に関する諸外国の労働法制について」御説明いたします。
2ページを御覧ください。こちらは独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)による調査「企業組織再編に関する労働法制-ドイツ、フランス、イギリス-」について、その概要を示したスライドになります。
本調査の目的は、本部会における議論に活用するため、海外における組織再編に伴う労働関係法制及び実務上の影響に関する実態を把握することにあります。調査の内容について、本調査は厚生労働省からJILPTへの要請により実施しており、EU、ドイツ、フランス及びイギリスを調査対象国等として、文献調査を行っています。
主な調査項目は、現行法制及び法改正の動向、労働契約一般のあり方の概観、組織再編前における労働契約の取扱いに関する法令及び実務の取扱い等とされております。
執筆担当者はそれぞれ、EU・ドイツは橋本陽子先生、フランスは細川良先生、イギリスは志水深雪先生となっています。
なお、調査報告書は現在、JILPTにて取りまとめ中となっております。
3ページを御覧ください。本資料は、平成28年2月23日に開催しました「第2回組織の変動に伴う労働関係に関する対応方策検討会」で参考資料8としてお示しした各国比較の一覧表を基にして、今回のJILPT調査で把握された内容等を「根拠法令」、「適用範囲・適用要件」、「労働契約の取扱い」等の項目ごとに整理し直したものです。掲載対象のうち、平成28年以降の裁判例及び法令改正の箇所は赤字としております。
また、前提として補足しますと、EU欄は、EU指令の内容やEU司法裁判所における先決裁定の内容を記載したものです。この先決裁定とは何かということですが、EU加盟国の国内裁判所は、EU法に関連する事項について判決を下す場合において、EU法の解釈が分からないときはEU司法裁判所に先決裁定を求めることができます。EU司法裁判所はこの求めに応じて判断、すなわち先決裁定を行い、その判断に基づき、国内裁判所が最終的に判決を下す仕組みとなっております。
「根拠法令」につきまして、EUでは、1977年事業移転指令によって、事業移転における労働関係の自動承継ルールが定められました。EU指令は1998年及び2001年に改正されていますが、基本的な内容は、1977年EU指令から変わっていません。
ドイツでは、EU指令に先立ち、1972年に民法典613a条が制定されています。フランスでは、労働法典L.1224-1条に規定されており、1928年の法律の一部として規定され、以降これといった改正のないまま、現在も存続しています。イギリスでは、EU指令を国内法化するため、1981年に事業譲渡規則(TUPE)が制定され、数回の改正を経て、2006年に全面的に改正されました。その後、2014年及び2024年にも改正が行われております。
なお、イギリスは2020年にEUを離脱しております。
「適用範囲・適用要件」につきまして、EU指令では、会社法においていかなる組織再編手段が採られたのかを問わず、「同一性を保持した経済的一体」の移転が適用対象になっております。「同一性を保持した経済的一体」の移転が認められるための具体的な判断要素はEU司法裁判所の判例によって示されてきており、1986年のSpijkers事件において、事業移転の有無は、7つの判断要素の総合判断によることが明らかにされました。
EU司法裁判所は、「7つの判断要素」のうちで何が事業移転の成否の決め手となるのかを明らかにすることはできないと述べていますが、事業移転の判断に当たり、「人間の労働力が決め手となる事業」であるか否かを重視しているとされております。「人間の労働力が決め手の事業」では、労働者の大部分が承継されれば事業移転に当たり得るが、労働者が誰も承継されなかった場合には、事業移転には当たらないと判断されています。一方、物的設備が決め手となる事業では、事業遂行に不可欠な物的設備が承継されたかどうかが重要となりますが、その上で、物的設備が承継されなかった事案でも事業移転の成立が認められる場合もあることがGüney-Görres事件等で示されています。
また、Klarenberg事件やAmatori事件の先決裁定によって、「『経済的一体』は、組織的独立性が失われても、機能的関連性が維持されていれば認められる」とされております。
更に、2019年には、EU司法裁判所において、「濫用的事業移転の場合には、事業移転の成立は認められず、労働者は譲渡人に留まることになる」ことがElinika Nafpigeia事件において示されています。
ドイツでは、「事業移転」が適用範囲であり、このことは民法典613a条において規定されております。また、組織再編の手続及び効果について定めた組織変更法があり、組織再編の手段である合併、分割及び財産譲渡も、民法典613a条にいう「事業移転」に含まれ得ることとされています。
なお、日本の事業譲渡に相当するような個別承継となる取引については、組織変更法は適用されませんが、客観的に事業移転と認められれば民法典613a条が適用されることになります。
また、平成28年以降に示された裁判例として、連邦労働裁判所においても、「濫用的事業移転の場合には、事業移転の成立は認められず、労働者は譲渡人に留まることになる」ことがWerzalit事件において示されています。
フランスでは、労働法典L.1224-1条において、使用者の法的地位において変動が生じたとき、特に、相続、売却、合併、資本の移転、法人化によって変動が生じた場合、変動が生じた日において有効な全ての労働契約は、新たな雇用主及び当該企業の従業員との間で引き続き有効となることとされています。また、その解釈をめぐって破毀院の判例において議論が重ねられてきています。
イギリスでは、TUPE3条1項a号に規定される「事業譲渡」については、「譲渡直前にイギリス国内に所在していた事業、事業体又はその一部が「同一性を維持する経済的実体」の移転を伴って、他の者に移転する場合を指します。
また、イギリスにおいては、譲渡前後の活動内容が「根本的に又は本質的に同一」である「サービス提供主体の変更」も規制対象とされています。
「労働契約の取扱い」につきまして、EU指令及びいずれの国内法においても、原則として、事業移転の対象となった事業で雇用されていた労働者の雇用が譲受人に自動承継されることになります。
4ページを御覧ください。「労働者による承継拒否」につきまして、EU指令には規定がなく、労働者が譲受人への承継を拒んだ場合の処理は加盟国が国内法で決すべき問題とされています。
ドイツでは、適法に行われた情報提供後、1か月以内に異議を申し立てれば、譲渡人との労働関係を維持できることとされています。また、判例において使用者の情報提供が不適法だった場合は、1か月の期間徒過後も異議申立権の行使が可能ですが、失権効に服することとされています。この異議申立権は判例において、憲法上の権利であると解されています。もっとも、この場合、労働者は、譲渡人による経営上の理由による解雇のリスクを負うものです。
フランスでは、ドイツのように労働者の異議申立権はありません。承継を望まない労働者は、譲受会社において辞職するか、当該事業移転が、そもそも労働法典L.1224-1条の対象とならないものであることを主張して争うことになります。
イギリスでは、承継に異議を伝えた場合には、譲渡人との雇用契約が終了し、原則として自主退職と同様に扱われます。
ただし、関連譲渡又はその予定によって労働者の労働条件に実質的かつ重大な不利益変更が生じる場合には、労働者は雇用契約が終了したものとして扱うことができ、この場合は使用者によって「解雇されたもの」として扱われ、その上で、不公正解雇の申立てを行うことができます。
「労働条件の変更(個別的労働条件)」につきまして、EU指令では、事業移転によって個別労働契約上の労働条件は譲受人との労働契約の内容となります。このことは基本的に各国において同様です。
その上で、ドイツでは、譲受人による個別契約上の労働条件の変更は、個別契約上の労働条件変更法理(変更解約告知、撤回留保条項の可否等)によることになります。
フランスでは、新使用者による労働条件の変更は、解雇と評価されることになります。
イギリスでは、労働条件の不利益変更の唯一又は主たる理由が当該譲渡である場合には変更が無効となります。
ただし、①変更の唯一又は主たる理由が、労働条件の変更を伴うような経済的、技術的、組織的理由であり、変更に使用者と労働者が合意している場合、又は契約上、使用者に条件変更が許されている場合、労働条件の変更は無効とならないこととされています。
5ページを御覧ください。「労働者代表への協議・事前通知」につきまして、EU指令では、譲渡人及び譲受人は、移転に関係のある労働者代表に、移転の時期、移転理由、労働者に及ぼす移転の法的、経済的及び社会的帰結、労働者に関して予測される措置について情報提供義務が規定されております。また、譲渡人又は譲受人が、自己の労働者に関する措置を考慮するときは、譲渡人又は譲受人は、合意を得るために、自己の労働者代表と適時にかかる措置について協議する義務を負うと規定されております。
ドイツでは、民法典613a条5項において、従前の使用者又は新所有者は、移転に関係する労働者に対して、移転前に書面により情報提供を行わなければならないと規定されております。
また、事業所組織法上の「事業所変更」に当たる場合には、20人超の企業を対象として、事業所委員会への通知と協議義務が規定されています。更に、組織変更法における「合併」「分割」に当たる場合には、労働者及び労働者代表に及ぼす帰結・予測される措置について合併・分割契約等に定めなければならず、また、関係企業の権限ある事業所委員会に株主総会等の遅くとも1か月前までに、合併・分割契約書(案)等を通知しなければならないと規定されております。
フランスでは、従業員50人以上の企業に設置された社会経済委員会に対し、組織変動の理由を示し、労働者に対して実施する措置について情報提供義務があることが規定されております。
イギリスでは、譲渡人及び譲受人は、譲渡又はこれに関連する措置によって影響を受け得る被用者について、情報提供義務及び協議義務を負うことが規定されています。これらの義務は個々の被用者に直接履行されるのではなく、原則として被用者の「適切な代表者」を通じて行われます。
このような被用者の「適切な代表者」を通じて、譲渡人は、協議が可能となる十分前に、譲渡の事実・時期・理由、譲渡が被用者に及ぼす法的・経済的・社会的影響並びに譲渡人自身が講じる予定の措置について情報提供を行う義務を負います。
また、譲受人も、譲渡後に自らの被用者となる者や、既存の自社被用者のうち譲渡又はこれに関連する措置によって影響を受け得る者について、使用者として独立した情報提供義務を負い、自らが予定している措置について説明を行う必要があります。
「従業員代表の機能の承継及び労働協約の承継・取扱い」につきまして、EU指令では、事業所等がその独立性を維持する限り、移転に関係のある労働者の代表者又は代表の法的地位及び機能は、労働者代表の構成のための条件が満たされている限り、同一の条件で維持されることとされています。
また、集団的協定において合意された労働条件は、かかる集団的協定の解約又は期間満了、若しくは、他の集団的協定が発効又は適用されるまで、遵守されます。ただし、労働条件の遵守される期間を限定する場合は、1年以下であってはならないと規定されています。
ドイツにおける労働協約法では、双方の協約拘束性が事業移転後も維持される場合には、当該労働協約が適用され続けることとされています。また、譲受人が協約に拘束されない場合、譲渡人の下で適用されていた労働協約等は、個別労働契約の内容となって承継され、1年間は不利益に変更できないとされています。なお、その例外も規定されています。
フランスでは、従前の労働協約は、新たな協約が締結されない限り、予告期間満了時から1年間その効力を維持することが規定されています。
イギリスでは、事業譲渡の時点において、譲渡人が承認している労働組合との間で労働協約が締結されており、かつ、その協約が譲渡後も雇用契約が存続する被用者に適用されている場合には、当該労働協約は譲渡後も当該被用者との関係において効力を維持すること、労働協約から取り込まれた条項・労働条件の変更は、当該変更が事業譲渡の日から1年を経過しており、かつ、変更後の労働契約上の権利義務を全体として評価した場合に、被用者にとって不利にならない場合に限り、変更が無効の対象とならないことが規定されています。
6ページを御覧ください。「事業譲渡に伴う人員整理」につきまして、EU指令では、事業移転自体を理由とする解雇は禁止されています。ただし、雇用の領域における変化をそれ自体で生じるような経済的、技術的又は組織的理由に基づく何らかの解雇、特定の範疇の労働者の適用除外は許容されています。
ドイツでは、事業移転を理由とする解雇は新旧使用者により禁止されています。
その上で、「譲受人の構想に基づく解雇」とは、譲受人が、譲渡人の事業を引き受ける条件として、譲渡人に人員削減を要求し、これに基づき譲渡人が行う解雇のことをいい、解雇の時点で、譲受人の構想が具体化し、譲渡人と譲受人との間で事業譲渡契約又は予備契約が締結されている場合には、このような解雇が認められ得るとされています。
フランスでは、移転前の労働契約の解約について、経済的一体の移転があった場合、その譲受人は、譲渡人が当事者(使用者)であった労働契約が、譲渡の時点で有効であった場合に、当該労働契約の使用者となり、その拘束を受けることとされています。
この場合、労働法典L.1224-1条の適用を回避するために、事業の移転の前に解雇がなされるということが起こり得ますが、こうした事業移転を円滑に進めることを目的とした解雇は、広く無効とされています。その場合、労働契約は、新たな使用者(事業の譲受人)との間で有効に存続することがGuermonprez事件において示されています。
イギリスでは、事業譲渡が「解雇の唯一又は主たる理由」である場合、その解雇は自動的に不公正解雇となります。2014年のTUPE改正以降は、「事業譲渡そのもの」を直接の理由とする解雇に限らず、従来、「事業譲渡と関連する理由」と整理されてきた場合であっても、事案の具体的状況に照らし、事業譲渡が解雇の主たる理由であると評価され得ることが明確化されています。
その上で、事業譲渡が行われた場合であっても、解雇の唯一又は主要な理由が、「経済的・技術的又は組織的理由」(ETO理由)であり、かつ「労働力の変更を伴う場合」には、解雇が自動的に不公正なものとはなりません。裁判例は、ETO理由の適用範囲を厳格に限定して解釈しています。
なお、3つ目及び4つ目の点において、「ETO理由」や「労働力の変更」に当たり得る場合につき、裁判例等で示された基準を記載しております。
7ページを御覧ください。「その他」として、ドイツでは、事業移転等の事業所変更が行われる場合、社会計画において、解雇補償金の支給に加えて、再就職支援措置が定められることが多いとされています。
再就職支援措置は、失業のおそれのある労働者について、再就職支援措置を第三者に委託して実施する場合に、その費用の一部を使用者に助成する制度です。再就職支援措置に参加する労働者には、再就職支援操短手当が、12か月を上限として支給されます。
再就職支援会社への転籍は、通常、企業、再就職支援会社及び労働者の三者契約によって行われます。労働者は、従前の企業との労働関係を合意解約し、再就職支援会社との間で最長12か月の有期労働契約を締結します。
事業移転法理との関係では、再就職支援会社への転籍が民法典613a条の潜脱となり得ることが問題とされております。
イギリスでは、使用者が提案する契約条件の変更に被用者が同意しない場合、使用者が当該被用者を解雇した上で再雇用を申し出る、又は同一若しくは実質的に同一の職務に別の被用者を雇用することにより、当該変更を実現する手法が用いられてきました。このような手法は「解雇と再雇用」と呼ばれており、労働者保護の観点から強い懸念が示されてきました。
こうした慣行に対し、2025年雇用権法は包括的な規制を設け、2026年10月からの施行が予定されています。同法の下では、賃金、労働時間、シフト、年金、時間外労働、休暇といった「制限された労働条件」の変更に被用者が同意しないことを理由とする解雇は、自動的不公正解雇と位置付けられます。TUPEの形式的枠組みを変更するものではありませんが、関連譲渡の前後において実務上用いられてきた「解雇と再雇用」による条件変更及び条件統一の手法を制約する効果を有するものです。
事務局からは以上でございます。
○山川部会長 ありがとうございました。それでは、アメリカにつきまして、池田委員から御説明をお願いします。
○池田委員 委員の池田です。
アメリカに関しては今回のJILPTの調査対象にならなかったということで、隣接分野を研究している私からアメリカの状況を簡単に御報告いたします。
お手元の資料3を御覧いただきながら説明してまいりたいと思います。
まず、前提として、アメリカは、他の先進諸国に比べて非常に特殊な労働法体系を持っておりますので、アメリカの労働法規範の特徴を簡単に把握していただきたいと思います。
アメリカでは、古典的な契約自由原則と市場原理を通じた需給調整が今なお労働法規範の根幹を構成しておりまして、公序による一定の制約を受けながらも、古典的な契約自由原則に裏打ちされた随意的雇用(employment at will)と言われる原則が今なお労働契約を規律する大原則として維持されています。
この「随意的雇用原則」の下では、使用者は労働者との契約関係をいつでも、いかなる理由でも、何ら理由がなくても解約することができるため、使用者が労働条件を変更したいという場合も、対象となる労働者に対して労働条件変更を打診し、労働者が変更に同意しない場合には当該労働者を使用者が解雇し、当該変更後の労働条件の下で別の労働者を新たに雇用してしまえば、結果的に労働条件変更が実現されることになります。
もちろん、変更後の労働条件が余りに劣悪であれば、当該労働条件に同意する労働者が現れず、結果的に使用者が当該労働条件変更を実施できないことも考えられますが、それは労働市場が決定することであり、このような採用と解雇(hire and fire)と言われるプロセスを通じて労働力が調整されることを前提に、労働法規範は市場を適正化させるために差別を禁止し、あるいは最低労働条件を規制するにとどまります。そして、労働者自身が随意的雇用原則の帰結を回避するには、労働市場において自らの交渉力を発揮することにより使用者の解雇権を制限するほかありません。
このような個人として労働市場における交渉力がある労働者に対して、アメリカにおいて、いわば第二類型の交渉力のある労働者として位置付けられるのは、排他的交渉代表たる労働組合を通じて組織化された組合労働者となります。
というのも、市場原理を尊重するアメリカで個人として交渉力のない労働者が、労働市場での使用者との交渉において自らに有利な労働条件を獲得できるようになるための唯一の方法は、団結権を行使することによって自らの労働力を集団的に取引することとされているからです。
この点、アメリカの集団的労働法規範は、沿革的な理由から、いずれもアメリカ合衆国憲法上の州際通商を規制する合衆国政府の権限に基づいて立法された連邦法として、州際通商に携わる使用者一般に適用される1935年制定の全国労働関係法(NLRA)と鉄道会社及び航空会社のみに適用される1926年制定の鉄道労働法(RLA)に分かれております。
もっとも、これら2つの法律は、いずれも多数決原理に基づく代表選択に始まり、労働協約の成立・改定・終了に至る団体交渉プロセスには積極的に介入するものの、合意の成立や労働協約の内容については一切関知しない形式を取ることで一貫しています。
そのため、選出された排他的交渉代表と使用者との間で成立する労働協約の実体的な内容はあくまでも古典的な契約自由原則と市場原理に委ねられることになります。
ここで、排他的交渉代表と使用者との間で成立した労働協約は、当該交渉単位における排他的な労働条件設定規範として機能するだけではなく、NLRA上の苦情仲裁条項ないしRLA上の強制仲裁制度と判例上の仲裁尊重法理が相まって、交渉単位内の私的な法制度とも言うべき包括的な自治規範を構成します。
このように紛争解決手続までもが労働協約によってカバーされる反面、その他の紛争解決手段となるストライキなどの経済的実力行使は、NLRAでは労働協約によって、RLAでは立法によって大きく制約され、労使平和が実現されることになります。
すなわち、アメリカの集団的労働法規範は、労使間の合意によって労働協約が成立した場合、包括的な自治規範となって労使平和が達成されることを前提に、成立した労働協約自体を保護するのはもちろん、労働協約の成立あるいは維持の手段となる団体交渉をも厳格に規律する立場を採ることで、労働協約秩序の成立を積極的に促進しているということになります。
したがいまして、アメリカで、団体交渉は、労働者の団結する権利を保障する手段であると同時に、労働協約秩序の実現を促進するための手段としての位置付けも有しているわけです。ただし、労働協約の成立・改定・終了に向けられた団体交渉を巡る規律は、NLRAとRLAで実際には大きく異なるというところにも注意が必要です。
続きまして、アメリカでの事業譲渡ですが、アメリカ各州の会社法は一般に資産売却としての規律のみを設けており、我が国のような事業譲渡固有の規整は存在しません。しかしながら、継続事業として資産を一括売却することはアメリカでも一般的に行われておりますので、ここでは継続事業として資産を一括売却することを「事業譲渡」と表現して報告を進めてまいります。
まず、アメリカでは会社法が州によって異なりますので、事業譲渡に必要な手続はそれぞれの州によって異なるということになります。
次に、労働法上の承継者理論ですが、随意的雇用原則に基づいて解雇が原則として自由なアメリカでは、事業譲渡があった場合も、事業譲渡に際しての労働者の承継の有無及びその条件は、「真正」な事業譲渡である限りにおいて事業譲渡当事者の自由な判断に委ねられます。
一方、従前の使用者が自ら別会社を新設して事業譲渡した場合のように、事業譲渡を仮装して労働法上の使用者としての責任を免れようとする濫用的な事業譲渡の場合には、従前の使用者の別人格(alter ego)として、労働協約も含めた労働法上の義務に拘束されることが判例上認められています。
また、たとえ「真正」な事業譲渡であるとしても、事業譲渡によって、先ほどお話しした労働組合の排他的交渉代表としての地位が容易に脅かされると、排他的交渉代表制を通じて労使平和の実現を図る集団的労働法秩序が根底から覆されかねません。そこで、組織再編手法として有意義な事業譲渡の自由を確保しつつ、事業譲渡による集団的労働法秩序の破壊を防止するための判例法理として、労働法上の承継者理論と言われるものが確立されております。
この労働法上の承継者理論では、事業譲受人が労働者の過半数を従前の交渉単位内労働者から雇用するに至った場合に適用され、いわば結果責任として、従前の交渉単位における排他的交渉代表の地位が事業譲受人の下でも保全・承継される効果をもたらします。したがいまして、仮に労働法上の承継者理論が適用されても、事業譲受人が自ら引き受けない限り、従前の労働協約は事業譲受人を拘束し得ないことになります。
そして、仮に労働法上の承継者理論が適用されても、労働協約上の労働条件は原則として事業譲受人を拘束しないため、事業譲受人は事業譲渡人から引き継ぐ労働者にかかる最初の労働条件を自由に設定することができるようになっています。なお、これについても一定の場合には例外が判例上認められております。
その上で、労働法上の承継者理論が適用される場合には、事業譲受人の下で排他的交渉代表としての労働組合の地位が保全される結果として、事業譲渡後の労働条件変更に関しては、排他的交渉代表たる労働組合との団体交渉義務が課せられることになります。
このように、労働法上の承継者理論は、そもそも労働者の過半数を従前の交渉単位内労働者から雇用しなければ形式的に適用可能性がないことになっております。ただ、これもやや複雑ですが、事業譲受人は、労働法上の承継者理論の適用を回避するためだけの理由で、事業譲渡人の労働者の採用を拒否することは許されないと判例上理解されております。
最後に、承継使用者条項についても少し触れておきますが、以上のような判例上のルールに加えて、必ずしも一般的ではないとされておりますけれども、承継使用者や事業譲受人も当該労働協約に拘束されることを規定するなど、労働協約に承継使用者条項が置かれることもあると言われています。
もちろん、承継使用者条項は、判例上、労働協約当事者ではない事業譲受人を直接に拘束するような効力はないと解されておりますが、労働協約当事者間では有効なことが認められておりますので、使用者は当該承継使用者条項を遵守するために労働協約を事業譲受人に引き受けさせる責任を労働協約上の義務として負担すると言われています。
また、裁判所では、労働協約上の仲裁手続が継続している期間などに、承継使用者条項違反に基づいて事業譲渡手続を停止させることもできると解しています。
簡潔ではございますが、私からの報告は以上です。
○山川部会長 ありがとうございました。それでは、事務局から、また池田委員の御説明につきまして、委員の皆様から御質問等がありましたらお願いいたします。
菅村委員、お願いします。
○菅村委員 御説明ありがとうございました。質問ではなく、意見を3点申し上げたいと思います。
まず1点目です。事務局から御説明いただいた各国の資料を拝見しますと、今後の組織再編における労働者保護のルールを検討する上では、諸外国の現状を参照することは大変意義があると考えております。各国の法体系や慣習、労使関係などの状況が異なっていることは踏まえる必要があるものの、労使間に厳然たる力の関係の格差がある中において、必要な労働者保護を図るということの重要性は広く国際的にも共有されていると、この資料からも読み取れると思います。
先ほど、ヒアリングを行いましたが、グローバル化に伴うクロスボーダー案件が大きな存在感を示す中にあって、組織再編に伴う労働者保護についても、国際的な観点に立った検討が求められているのではないかと考えております。
2点目でございますが、資料2の3ページにあるように、諸外国では再編手法ごとではなく、事業の移転や使用者の法的地位の変動が生じたケースで共通のルールを適用されていることは重要と思っております。先ほど御紹介いただいたように、日本においても、事業譲渡や会社分割など組み合わせて行われていることも、実際少なくないと思っておりますが、労働者からすれば、その再編手法によって雇用や労働条件が守られるケースとそうでないケースが分かれることは不合理ではないかと考えております。
だからこそ、労働契約承継法の適用範囲を、事業譲渡など再編全般に拡大することを含めた検討を行うべきであると考えております。
3点目として、資料の5ページ目の上段において、EU指令やドイツ、イギリスでは譲渡人と譲受人双方に労働者代表への情報提供義務と協議義務が課されている点は非常に重要だと思っております。以前の部会でも弁護士ヒアリングにおける労働側の弁護士から、「事業譲渡等指針は、譲渡会社だけではなく、譲受会社も対象にすべき」との意見がございましたが、そうした意見とも整合的であると考えております。
会社分割を含め、移転元と移転先の企業の双方に労働組合等への事前の情報提供や協議義務を課すことで実効性を確保することが重要であると考えております。以上3点、意見として申し上げます。
以上です。
○山川部会長 ありがとうございました。ほかに御質問又は御意見はございますでしょうか。
鈴木委員、お願いします。
○鈴木委員 御指名ありがとうございます。
まず情報提供についてですが、資料を見ますと、EUにおける承継労働者一人一人への情報提供は、企業に労働者代表が存在しない場合に限られていると理解しています。他方で、日本における事業譲渡では、承継予定労働者から個別の同意を得ることが必要である上に、以前にも議論が出ましたように、山梨県民信用組合事件の最高裁判決によって、労働者が自由な意思に基づく同意ができるよう十分な説明が求められています。
それから、日本の場合、いわゆるデロゲーションではなく、労働条件の設定や変更に関して、組合以外の団体と会社の集団的労働契約は認められていないと思います。これはドイツの従業員代表制や、フランスの社会経済委員会と少し背景が異なる印象を持ちました。
したがって、EUの情報提供制度のみに着目するのではなく、労働契約の承継方法や、先ほど申し上げた集団的労使関係の違いも踏まえて検討する必要があると思います。
日本におきましても、例えば事業譲渡に際して労働者に丁寧な情報提供を行い、理解を得ることは大変重要であり、その点について異論はありません。しかし、一律の対象に対して一律の情報提供義務を課すことについては、慎重に議論する必要があると考えます。
まずは、指針やQ&Aなどによって情報提供すべき事項や望ましいタイミングを明確化し、好事例を周知することによって対応すべき問題であることを改めて申し上げます。
もう一点ですが、欧州とアメリカとでは事情が大きく異なるため、国際的な観点から検討する際には、アメリカも含めた多角的な議論が必要だと考えます。その上で、EUでは、御説明のとおり、EU指令並びにドイツ、フランス及びイギリスの法制において、労働契約の自動承継がルールとして採用されていることは理解しました。
ただ、現在のEU指令の基となった企業譲渡指針の制定過程を調べますと、1970年代当時、企業再編や企業集中が急速に進む一方、加盟国の中には、譲受人が労働者の承継を拒否することにより、譲渡人が当該労働者を解雇せざるを得ず、雇用を失う可能性が高いことが問題視されていました。また、加盟国間で労働者保護の水準に差があったため、域内市場における労働者保護を適切に確保する観点から、加盟国間の法制を調整する必要性がEU内で認識されていたという事情もあるようです。
こうしたEUにおける当時の時代背景や、社会・経済の統合を図るというEU特有の目的を背景に、自動承継のルールが採用されたのではないかと考えております。
また、資料にあるように、ドイツでは、承継を拒否した場合に労働者が解雇のリスクを負うとの説明があります。他方、日本における事業譲渡について申し上げると、労働契約が譲受会社に承継されない場合であっても、それだけで譲渡会社との労働契約が当然に終了するわけではありません。譲渡会社との雇用関係は引き続き存続し、仮に解雇を行うのであれば、御案内のとおり、労働契約法第16条をはじめとする解雇に関する規律が適用されます。また、民法第625条により、労働者本人の同意なく譲受会社に転籍させることはできないものと理解しております。
したがいまして、欧州各国が自動承継制度を採用していることや、労働者保護の抽象的な必要性のみをもって、日本においても同様の制度を導入すべきとの結論を導くことについては、慎重に考える必要があると私は考えております。
私からは以上でございます。
○山川部会長 コメントありがとうございました。浜田委員、お願いします。
○浜田委員 質問ではなく1点意見を申し上げます。
前回発言したように、労働者による承継拒否は、異議申出機会の保障に関わる部分であると思いますが、EUでは自動承継ルールが明確になった上で、更にドイツでは承継拒否ルールも整備されています。
日本の事業譲渡の場合においては、雇用の承継ルールがなく、企業側が承継・不承継の範囲を自由に設定できるために労働者が不利益を被るリスクが高く、また、今まで従事してきた業務と切り離される不利益については、会社分割でも問題になっていたことから、異議申出権が認められることになりました。
こうした経緯や現場の実態を踏まえると、ドイツを参考にしつつ、日本の事業譲渡においても、雇用の自動承継と労働者による異議申出を組み合わせることは可能なのではないかと考えております。
先ほどあった外国の制度をそのまま日本にも導入することに対する慎重な意見の中や、裁判例を御紹介いただいた際に、日本の裁判所では労働者の同意が厳格に解されているという発言もありましたが、労働者が裁判にまで訴えることはハードルが極めて高いことであり、現実的ではないと考えます。そうしたことからすれば、事業譲渡を含めて当事者となる労働者には異議申出権を認めていく方向で検討すべきではないかと考えます。
以上です。
○山川部会長 ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。
小林委員、お願いします。
○小林委員 事務局に2点御質問させていただきたいと思います。
資料2の5ページ、労働協約の承継・取扱いについて、EU指令に基づき新たな協約が締結されなければ、従前の協約で定めたルールが1年間は維持されることは、ドイツ、フランス、イギリスで共通と理解してよいものか確認をさせてください。もう一点は、労働者代表の法的地位や機能の承継について、EU指令では同一の条件で維持されるとありますが、この部分の各国の状況が資料からは読み取れなかったので、もし把握されていることがあればお伺いしたいと思います。
以上でございます。
○山川部会長 ありがとうございます。御質問ですので、事務局からいかがでしょうか。
○労働関係法課長補佐 御質問ありがとうございます。まず、最初の点につきましては、まさに御発言いただきましたとおり、集団的協定において合意された労働条件について、例えばドイツでは、まさに譲受人が協約に拘束されない場合であっても、譲渡人の下で適用されていた労働協約等は個別的労働協約の内容となって承継されて、1年間、不利益に変更できないと規定されております。ただ、一応例外規定はあるものです。
イギリスにおいても同じような形で規定がなされ、フランスでも1年間、その効力を維持という形で、共通する形で規制がなされているかと理解しています。
また、2つ目にいただいた点につきましては、従業員代表の機能の承継について、これがEU指令の6条に規定されている内容がドイツ、フランス、イギリスではどのようなものになっているのかとの御質問であると受け止めました。この点について、私どものほうで理解しているところだけ御説明しますと、ドイツにおいては、事業移転によって事業が別の所有者に移転する場合、民法典613a条によって新所有者が労働関係に参入し、かつ、移転それ自体によって事業所の同一性が変更されないことから、事業所委員会もその職務を維持するとされていると理解しております。また、仮に事業譲渡に関連して事業所が分割された場合でも、事業所組織法21a条1項1文によって、原則として分割された事業所の事業所委員会はその職務を保持し、全ての関与権及び共同決定権を引き続き行使することが保障されるものと理解をしております。
フランスにおきましては、判例上、労働法典L.1224-1条が適用される一体性のある事業組織変動の場合には、労働者代表、例えば社会経済委員会の地位はそのまま引き継がれるとされているものと理解しております。
イギリスの国内法がどうなっているかについては承知しておりません。
以上でございます。
○山川部会長 小林委員、よろしいでしょうか。
ほかに何かございますでしょうか。
浜委員、どうぞ。
○浜委員 私からは、各国の労働法制の状況を踏まえて、受け止めと意見を申し上げます。
まず、労働条件の変更の項におきまして、EU指令に基づき各国が労働条件の維持ルールを定めており、特にフランスでは「変更は解雇とみなされる」と厳格なものになっていると受け止めました。
加えて、6ページには、事業譲渡に伴う人員整理において、事業移転を理由とする解雇を禁止するルールが明確になっています。
こうした点を踏まえた意見となりますが、再編時の雇用や労働条件の維持につきましては、労働契約法第10条、16条などや整理解雇法理などに基づいて、解雇や不利益変更の無効を争うことしかできない日本とは大きく異なると考えております。労働組合があれば、しっかり労使で協議をして交渉することができますが、組合がない職場で働く労働者は会社が提示した条件などを受け入れざるを得ない実態も多くあります。
事業再編は労働契約の相手方が変わる意味で労働者にとって重大なことであるから、会社分割、事業譲渡などの再編方法にかかわらず、再編を理由とした解雇や労働条件の不利益変更を禁止する法的なルールをしっかり整備すべきであると考えております。
以上です。
○山川部会長 ありがとうございました。ほかにございますでしょうか。
よろしいでしょうか。
それでは、議題(2)についてはここまでとさせていただきたいと思います。
以上で本日の議事は終了となります。次回について、事務局から説明をお願いします。
○労働関係法課長補佐 次回の部会の日時、場所については調整中ですので、追って御連絡いたします。
○山川部会長 それでは、本日の第8回の部会は、これで終了いたします。お忙しい中お集まりいただき、また、有益な議論をいただきまして、誠にありがとうございました。
委員の皆様方、御多忙の中、お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
本日の部会は、全ての委員の皆様に会場にお越しいただいております。
それでは、議事に入ります前に、事務局に異動がありましたので御説明をお願いいたします。
○労働関係法課長補佐 事務局でございます。
8月1日及び同月4日付で事務局に異動がございましたので、御紹介させていただきます。
大臣官房審議官(労働条件政策、働き方改革担当)の長良でございます。
○大臣官房審議官 よろしくお願いいたします。
○労働関係法課長補佐 続きまして、労働関係法課長の竹野でございます。
○労働関係法課長 よろしくお願いいたします。
○労働関係法課長補佐 事務局からは以上でございます。
それでは、カメラ撮りはここまでといたします。
○山川部会長 よろしくお願いいたします。
本日の議事に入ります。最初に、議題(1)「M&A調査会社からのヒアリング」でございます。M&A市場の動向や事業再編・組織再編の現状につきまして、株式会社レコフデータの代表取締役社長の吉富優子様、執行役員企画管理部長の田城謙一様から御報告いただきます。本日はお越しいただきまして、誠にありがとうございます。
その後、委員の皆様から、御報告いただいた内容に関する質疑応答を予定しております。
それでは、株式会社レコフデータの吉富様、田城様から御報告をお願いいたします。
○吉富様 レコフデータの吉富と申します。よろしくお願いいたします。
レコフデータは、1985年以降の日本企業におけるM&Aデータベースを構築しており、今年で41年目となります。ニュースリリースや新聞に掲載された記事を端緒に取材を行い、事実に基づいて構築しているデータベースであり、恐らく世界に類がないほど信頼性の高いデータを構築していると自負しています。厚生労働省様では、2015年5月の第6回「組織の変動に伴う労働関係に関する研究会」において御説明をさせていただいて以来です。M&A市場の動向と会社分割制度が運用されて十数年経過したその状況についてお話しいたしました。
本日も、同様のテーマで、田城から御説明させていただきますが、当時に比べましてM&A市場は活況であり、会社分割制度はなくてはならない制度になっており、皆様方にそうした状況をお知らせしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○田城様 それでは、私から資料の御説明をさせていただきます。「データで見るM&A市場の動向と会社分割の活用状況」ということで御説明させていただきます。
まず、M&Aの基本的な定義を整理した上で、日本のM&A市場の動向、そして事業再編や組織再編の中での会社分割の活用状況についてデータを中心に御説明させていただきます。
1ページ目を御覧ください。こちらは当社の概要となります。当社は、M&Aデータベース「MARR Pro」の提供やM&A情報サイト「MARR Online」の運営を通じて、日本のM&A市場に関する情報収集・分析を行っておりまして、当社のデータベースを基に今回御説明をさせていただきます。
2ページ目は官公庁との取引実績で、古くから取引があり、こちらは後ほど御覧いただければと思います。
続きまして、M&Aの定義についてです。4ページ目を御覧ください。当社では、日本資本が原則として50%超の法人を日本企業、外国資本が50%超の法人を外国企業としております。市場を国内企業同士のM&AであるIN-IN、日本の企業と海外の企業のM&AであるIN-OUT、海外企業による日本企業のM&AであるOUT-INという形で分類をしております。
また、形態別では、合併、買収、資本参加、出資拡大、事業譲渡の5つに分類しています。
5ページ目です。M&Aデータの定義ということで整理しております。事業や経営権が移転する取引について、当社では、大きく「M&A」と「グループ内再編」に区分しております。M&Aは企業グループの外部との取引になります。例えば他社への事業譲渡や企業買収が該当します。一方、グループ内再編は同じ企業グループ内で行われる再編ということで、親会社から子会社への事業移管などが挙げられます。グループ内M&Aのほか、M&A関連データとして子会社株式の取得、分社・分割、持株会社設立のデータも整備しています。
6ページ目を御覧ください。こちらは会社分割の位置付けを示しております。会社分割は事業を別の会社へ移す仕組みですが、それだけでは経営権、あるいは支配権は移転しません。このため、会社分割単独ではM&Aには分類しないという形にしております。
一方で、事業譲渡や会社売却の前に対象事業を切り出す目的で利用されることが多く、実務上はM&Aを実現するための準備行為、あるいは組織再編手法と位置付けられるかと思います。実際には、会社分割はM&Aのプロセスで活用されるケースが見られますので、当社のデータベースではそれを集計することができるような形にしております。
7ページ目に集計した結果を表で載せています。例えば2025年を見ますと、2025年のM&Aについて、件数が5,115件です。これとは別にグループ内再編の案件が1,336件ございます。また、M&Aやグループ内再編のうち会社分割を利用した案件がM&Aで161件、M&Aのうちの約3%を占めます。それとグループ内再編で308件、グループ内再編の約23%を占める件数です。会社分割が企業の組織再編上、必要な制度となっていることがうかがえるかと思います。
続きまして、8ページ目以降はM&A市場の動向について御説明します。
9ページ目を御覧ください。こちらが日本企業によるM&Aの年間件数の推移を示しております。これまでM&A件数の推移には幾つか波があり、1つ目が1980年代後半のバブル期で、日本企業による大規模な海外企業の買収が相次いだ時期でもございました。2つ目の波が1990年代後半から2008年のリーマン・ショック前までの時期です。この時期が株式交換や株式移転、あるいは株式分割、そうした制度が導入されるなど、M&A関連の法整備が進んだ時期でもございます。3つ目が、リーマン・ショックによる市場縮小から再拡大を始めた時期の2012年以降でございます。第2次安倍内閣が発足してアベノミクスがスタートした時期になります。現在のM&A件数は2012年からの増加の途上にあり、依然として上昇傾向が続いております。
10ページ目は形態別M&A件数の推移を見ております。2025年の買収、事業譲渡の合計件数ですと2,875件で、56.2%を占めております。近年は買収、あるいは事業譲渡といった経営権、事業権を取得するといった取引が主流となりつつあります。
11ページ目は、M&A件数とマクロ経済の動向として企業の業績、株価指数との関係を見たものでございます。左上が四半期ベースのM&A件数で、左下が日本企業の経常利益並びにTOPIXの動きを示しておりまして、両者の関係を見ますと連動する形で動いている傾向が見て取れます。そのため、景気、業績の底割れが発生しなければM&A件数は今後も底堅く推移すると考えられますが、イラン戦争をはじめ、地政学リスク、あるいは金利の上昇などの影響が大きくなりますと、M&A件数は頭打ちになる可能性も考えられると思っております。
次に12ページ目です。こちらでは日本企業によるM&A金額の推移を載せております。近年は、国内市場の成熟、あるいは人口減少を背景として、日本企業による海外企業の買収が継続しています。また、海外ファンドによる日本企業への投資も活発であり、金額ベースでいきますと、IN-OUT、あるいはOUT-INといったクロスボーダーの案件の存在感が非常に大きくなっており、日本のM&A市場の重要な構成要素となっています。
なお、M&A金額全体ですと、2025年は37兆9,082億円で、これまでの最高を記録しております。
13ページ目は、2026年の1月から8月に公表された金額上位の10件を示しております。白がIN-IN、黄色がIN-OUT、青がOUT-INとなっていますが、黄色のIN-OUTが4件、青色のOUT-INが4件ということで、引き続きクロスボーダー案件が上位を占めていることが見て取れるかと思います。
次に14ページ目です。M&A市場を牽引するドライバーについて示しています。左のグラフが上場企業の事業再編件数の推移で、近年は上場企業を中心に事業ポートフォリオの見直しを進める動きが活発化しています。企業価値の向上に向けて事業の選択と集中を進める中で、経営権、事業権の売り買いが増加しており、2025年は1,500件に達しております。
また、こうしたM&Aの動きは上場企業だけではなく、未上場企業にも広がっており、右側のグラフは事業承継M&Aの件数でございます。主に中堅、中小企業においてM&Aによって後継者不足の問題解決を図る動きが活発化しており、事業承継M&Aは2018年頃から大きな市場を形成しております。2025年には1,000件を超える件数になっている状況です。
なお、こちらの件数は公表された件数ですので、公表されていない件数も含めますと更に多い件数になるかと思っております。
15ページ目は、M&A市場の牽引のドライバーとして買い手の状況を見ております。左のグラフが日本企業に対する投資ファンドのM&Aの件数で、2013年以降、大幅に増加しており、2025年で1,100件を超えております。
また、右側のベンチャー企業への投資の件数も近年大幅に増加しております。2022年が直近のピークで1,780件となっていますが、その後も1,400件前後の高水準で推移しております。中でも、ベンチャー企業との提携の目的で事業会社によるベンチャー企業への投資が高水準で推移していることが見て取れるかと思います。
続いて16ページ目です。M&A市場のその他の動向で左側が破綻関連のM&Aの件数を載せています。ここでは、会社更生法や民事再生法などの法的整理に入るか、私的整理で再建を目的としない会社を対象とした案件を集計しております。
折れ線グラフで示した倒産件数は増加に転じていますが、破綻関連のM&Aは年20件前後で、以前に比べると件数は減少しております。
一方で、近年新たなM&Aのドライバーとして、サステナビリティ経営実現に向けて、SDGs、あるいはESGといった取組を推進するためのM&Aが増えており、年間350~400件のM&Aが実施されております。また、ベンチャー企業との連携も増加しております。
続いて、事業再編・組織再編の現状について御説明いたします。18ページ目です。上場企業の事業再編のM&A増加の背景には、上場企業のガバナンス改革が影響しています。第2次安倍内閣のアベノミクスにおける3本の矢のうちの第三の矢であります成長戦略では、その中核としてガバナンス改革が進められました。こちらに示しているように、経産省を中心に、ガイドラインや報告書が発表され、上場企業は市場からROEといった資本効率を向上していく圧力を受けております。カーブアウト等の事業再編に取り組んでいくこととなり、これがM&A市場の活性化につながっていると見ております。
19ページ目です。こちらは組織再編や会社分割をめぐる主な制度改正の動きを整理したものです。会社分割制度は商法改正によって導入され、その後、会社法の制定や税制整備などを通じて、活用しやすい環境が整えられました。その結果、企業は従来の合併だけではなく、会社分割、株式交換など多様な手段が利用できるようになり、制度活用がM&Aを促進する動きにつながっていることが見て取れるかと思います。
20ページ目です。こちらはM&Aによる事業再編の中で会社分割がどの程度活用されているかを示したものです。御覧のとおり、事業再編の件数は近年、高水準で推移していますが、その中で会社分割を活用した案件も継続的に見られます。企業が事業の売却や統合を行う際には、事業を切り出して移転しやすくする必要があるため、その手段として会社分割が活用されている状況です。
21ページ目です。会社分割制度を活用して事業譲渡を行った企業について、当事者2、つまり事業を譲り渡す側の企業が上場企業か未上場企業かを見たものです。
このグラフを見ますと、事業譲渡のケースでは、未上場企業の割合が上場企業を上回っております。会社分割というと、大企業、あるいは上場企業が利用する制度のイメージを持たれるかもしれませんが、実際のデータを見ますと、事業譲渡の局面では未上場企業においても活用されており、必ずしも大企業だけの制度ではないことが見て取れるかと思います。
22ページ目です。こちらは会社分割を活用して事業譲渡を行った企業の業種別の内訳を載せております。御覧いただいて分かるように、多様な業種で活用されていることが見て取れるかと思います。製造業、大企業だけではなく、実際には情報関連やサービス業で多く、また、幅広い業種で活用されている状況です。
23ページ目です。以下では、M&Aの個別の事例を幾つか見ていきたいということで個別事例を挙げています。こちらでは、花王のヘルシア事業をキリンホールディングス傘下のキリンビバレッジが譲り受けた事業譲渡の事例を載せています。この事例は近年増加する事業ポートフォリオ改革を象徴する案件かと思います。
売り手の花王ですが、ヘルシアは2003年に販売された特定保健用食品のブランドで、高い知名度を持っております。一方で、花王は近年、事業ポートフォリオ全体を見直して、経営資源をより重点分野に集中する方針で進めています。今回の事業譲渡もその一環で行われております。
これに対し、買い手のキリンビバレッジは飲料事業に加え、ヘルスサイエンス領域を成長分野として位置付けております。そのため、自社で一から商品を開発するのではなく、既にブランド力や顧客基盤を持つヘルシアの事業を取り込むことで事業拡大を図ろうとしています。
この案件で譲渡されたのは、ヘルシアという特定の事業ですが、売り手は事業の選択と集中を進め、買い手は成長分野を強化する双方の経営戦略が一致した結果かと思います。
24ページ目です。こちらは未上場企業同士の事業譲渡の事例を挙げております。買い手はポエックグループ、売り手は東鉄工でございます。この案件はいわゆる事業承継型のM&Aです。東鉄工は高炉向けのバルブなどの部品の設計やOEM製造を手がける企業で、大手製鉄会社との取引実績、あるいは専門的な技術、ノウハウを有しております。
一方で、同社は後継者不在の課題を抱えており、事業を終了するのではなく、事業そのものを他社へ引き継ぐ選択をしています。買い手であるポエックは、新たに設立した受け皿会社を通じて対象事業を譲り受けており、単に設備、契約を取得しただけではなく、従業員、顧客基盤、設計技術、OEM製造のネットワークを引き継ぐ形で進めた案件です。
25ページ目は、会社分割の活用事例を載せております。リコーと東芝テックが共同で設立したエトリアが沖電気工業のプリンター事業を吸収分割によって承継した案件です。プリンター市場は成熟市場となっており、各社が単独で事業を維持拡大していくことが難しくなっているため、各社が持つ技術、それから生産機能を集約して競争力を高めるために事業統合が行われています。
通常の事業譲渡であれば、対象となる資産や契約、従業員など個別に移転する必要がありますが、この案件では会社分割を利用することにより、プリンター事業に関する権利義務を包括的に承継することが可能になっています。また、対価として現金ではなく株式が交付されていることで、沖電気工業は事業を譲渡して撤退するのではなく、承継会社であるエトリアの株を取得し、事業統合後も一定の持ち分を保有しています。つまり、事業を持ち寄って一つにする形の事案になっております。
26ページ目はダイドードリンコとアサヒ飲料グループが自動販売機事業の統合を行った例です。この案件では、両グループがそれぞれ保有していた自動販売機運営会社6社を統合するために、新たに共同持株会社を設立しております。先ほどのスライドでは、特定の事業を切り出して統合するために会社分割が活用されていましたが、この事例では、それぞれの会社を存続させたまま、その上に共同の持株会社を設立して、経営を一体化する形になっております。
27ページ目です。ここからは第三者とのM&Aではなく、企業グループの内部で行われる組織再編について見ていきたいと思います。企業グループの外部との取引である通常のM&Aは年間5,000件程度ありますが、グループ内での再編案件も年間1,000件程度ございます。また、グループ内再編においてもそれぞれのスキームで会社分割が活用されていることが見て取れるかと思います。
28ページ目はグループ内再編において会社分割を活用しながら合併や事業譲渡を行った企業について、上場企業か未上場企業かを見たものです。先ほど御説明した第三者との事業譲渡では、未上場企業の活用割合が比較的高かったですが、グループ内再編では状況が異なっており、上場企業による活用が未上場企業を上回っている状況です。その背景としては、上場企業は未上場企業と比べて様々な事業を有しており、近年、事業ポートフォリオの改革やグループ経営の高度化が進んでいることが挙げられるかと思います。
29ページ目です。こちらはグループ内組織再編において会社分割を活用しながら合併や事業譲渡を行った企業の業種別の内訳を示しております。製造業、サービス業、情報関連産業をはじめ幅広い業種で活用されております。組織再編や会社分割の活用が、一部の大企業、あるいは特定の業界に限られた現象ではなく、多くの企業に共通する経営課題への対応手段になっていることが見て取れます。
以下ではグループ内再編の事例を4つほど載せています。まず、30ページ目は三井物産における事業譲渡を用いたグループ内再編の事例です。この案件では、三井物産が保有していた国内再生可能エネルギー事業を100%子会社である三井物産プロジェクトソリューションへ事業譲渡しています。譲渡対象は、太陽光発電や陸上風力発電を中心とした合計8つの資産となっています。
この事例のポイントは、第三者への売却ではなく、グループ内で事業の担当会社を見直している点かと思います。従来、再生可能エネルギー事業は親会社である三井物産が保有しておりましたが、インフラやエネルギー関連事業を専門的に扱う三井物産プロジェクトソリューションへ集約することで専門性の向上や事業運営の効率化を図ろうとしている事例です。
31ページ目です。こちらは未上場企業のTANAKAホールディングスグループにおけるグループ内再編の事例を載せています。この案件では、TANAKAホールディングスが担っていたグループ全体の経営管理機能を新たに設立した田中貴金属グループへ事業譲渡しております。
併せて、主要事業会社である田中貴金属工業や田中貴金属ジュエリーなどを新会社の傘下に再配置しています。この事例の特徴は、移転されているのが工場や製品事業ではなく、経営管理機能そのものである点かと思います。グループ企業ごとの役割を明確にし、経営管理機能を新会社へ集約することで意思決定の迅速化や経営効率化の向上を図ることが目的とされております。
32ページ目です。こちらはミツウロコグループホールディングスにおけるグループ内再編の事例です。この案件では、ミツウロコグループホールディングスが保有していた商業施設運営事業に関する資産や権利義務、更にはグループ会社であるミツウロコが運営していた事業を同じグループ内のミツウロコスポーツへ会社分割によって集約しております。
対象となったのは温泉施設やボウリング施設です。この事例のポイントは、第三者への売却ではなく、同じ事業を一つの会社にまとめることが目的となっている点かと思います。再編前は、資産は持株会社側、事業運営は別のグループ会社という形で機能が分散しておりましたが、施設運営を担うミツウロコスポーツに集約することで責任の所在を明確にし、経営や運営をより効率的に行える体制へ移行している事例です。
最後に、33ページ目のセブン&アイHDグループにおける組織再編の事例です。この案件の特徴は、合併と会社分割を組み合わせてグループ再編を行っている点かと思います。まず、同じスーパーストア事業を行っていたイトーヨーカ堂とヨークについては事業運営の効率化を目的として吸収合併を実施しております。一方で、イトーヨーカ堂が保有していた製造インフラ事業とネットスーパー事業については、そのまま合併会社に残すのではなく、それぞれの専門会社へ会社分割によって移管しています。
この事案では、合併と会社分割を組み合わせながらグループ全体の機能を整理し、それぞれの事業に最適な運営体制を構築している点が特徴で、会社分割はそのような組織設計を実現するための手段として活用されている事例です。
私からの説明は以上となります。
○山川部会長 有意義な御報告、ありがとうございました。それでは、質疑応答に移りたいと思います。ただいまの御報告につきまして、委員の皆様から御質問等がありましたら、お願いいたします。
では、浜委員、お願いします。
○浜委員 労働側の浜と申します。御説明ありがとうございました。私からは、M&Aの件数の今後の見通しについて確認させてください。私どもJAMは、ものづくり産業の中小労組で集まる団体でございまして、その加盟組合では人手不足や、事業承継における後継者不足が非常に深刻化しており、実際に後継者が見通せていない状況も多く見受けられます。
そうした中で、資料1の11ページにあるM&A件数の頭打ちの可能性について、中小企業の事業承継や破綻関連を含めても、M&Aの件数はいずれ横ばいになると見られているのでしょうか。その理由や背景を含めてお伺いできればと思います。今後も更に増える可能性もあるのではないかと思いますので、確認させてください。
以上です。
○山川部会長 レコフデータ様、御質問ですが、いかがでしょうか。
○吉富様 ありがとうございます。先ほど田城が御説明したとおり、私どもとしては、災害や戦争など日本経済に大きな影響を与えるような事象が発生しない限り、M&Aは今後も増え続けていくと考えております。これまでにM&Aが減少した局面としては、リーマン・ショックや、東日本大震災が挙げられます。ただ、いずれも一時的な減少にとどまっており、そうした大きな外部環境の変化がない限りは、このまま増え続けていくと思います。
M&A市場を大きく分けると、上場企業を中心とする大企業の領域と中小企業の領域に分かれます。今の中小企業につきましては、事業承継は喫緊の課題です。公表されている案件だけでも年間1,000件程度ありますが、水面下で行われている案件も含めれば、その3倍から4倍程度の規模があるだろうとみております。更に後継者不足や経営者の高齢化といった課題も深刻化しています。そのため、後継者不足によって事業が黒字でも廃業となる前に第三者へ承継する必要性が高まっています。特に成熟した事業では、適正な継承先の第三者が見つからず、そのまま終わってしまう恐れがあります。中小企業庁もそれを重要な政策課題と位置付けて数年前から研究会を立ち上げて検討が進められています。また、M&A仲介の専門会社も増えており、中小企業のM&A市場は恐らく今後5年程度は拡大を続けていくと認識しております。
一方で上場企業につきましても、多くの産業で戦後から継続して成長してきた事業が成熟段階に入っています。そのため、成熟した事業を見直し、新たな成長分野に経営資源を振り向ける動きが活発になっています。また、成熟している事業であっても、ほかの会社のもとであれば更に成長できる可能性があることから、企業は「買収する側」にも「売却する側」にもなっています。こうした事業の売買は、上場企業において定着し始めていると感じております。経済産業省をはじめとする行政も企業の事業再編を後押ししています。その一例として、事業会社によるスタートアップ投資や買収を通じて、新しい技術やノウハウなどを取り込む動きがあります。こうした取組もM&A市場を支える一つのドライバーになっています。そういう意味では、上場企業のM&A案件も更に増えていくと考えています。したがって、大きな外的ショックが発生しない限りは、M&A市場が頭打ちになる可能性は低いものと認識しております。
以上です。
○山川部会長 ありがとうございます。浜委員、何かございますか。
○浜委員 ありがとうございました。
○山川部会長 ほかに御質問等ございますでしょうか。
では、石﨑委員、お願いします。
○石﨑委員 詳細に御説明いただきありがとうございました。21ページのグラフについてお尋ねしたいと思います。こちらは基本的に件数ベースでのデータと理解しておりますが、先ほど御説明の中で、グループ内再編の場合には上場企業が多く、21ページのように、グループ内ではない再編の場合には未上場企業が行っている件数が多いことかと理解しました。そもそも上場企業で、例えば事業譲渡を行ったうち会社分割を選択したものの割合と、未上場企業で事業譲渡を行ったもののうち、会社分割を行ったものの割合で比較した場合にも、未上場企業のほうが会社分割をより選択する傾向にあるなど、そうしたことまで言えるのかどうなのか教えていただきたいのがまず1点です。
併せて、これは何か傾向のようなものがあれば教えてほしいという趣旨になりますが、労働契約の承継を伴う組織再編を行うに当たり、各企業がどのような場合に会社分割を選択されるのか、どういうシチュエーションだと会社分割を選択しやすい傾向にあるのかなど、量的なデータでなければ質的なデータでも結構ですが、何らかの傾向が見出せるのかどうかについて御感触を教えていただけたらありがたく思います。
以上です。
○山川部会長 お願いいたします。
○吉富様 ありがとうございます。要するに、第三者間のM&Aの事業譲渡においては未上場企業の件数が上場企業を上回っているという結果になっています。この割合については、先ほど申し上げたとおり、未上場企業の案件はなかなか収集しづらい面がありますので、一概に正確にお伝えできない中で、未上場企業の割合が高かったことには、集計していて驚きました。実務に携わっていないので個人的な感想とはなりますが、会社分割をする事業規模が上場企業と未上場企業で大きく違うのではないかと考えています。未上場企業の場合は事業規模がそれほど大きくないので、従業員数十名といった単独の事業が移転するといった場面では、会社分割が比較的使いやすいと思います。
一方で上場企業については、先ほど御説明しましたM&A法制が2000年前後に制定されて以降25年ほどたっており、その間に買収や再編を重ね、単一の事業の中にも複数の会社に由来する組織や人材がミックスされており、例えば100人規模の従業員の中でも、もともと異なる会社に所属していた従業員が集まっていることがあります。例えば労働契約などの制度的なものがどの程度整備されているのかによって、労働関係を一括してほかの会社へ承継することが容易でないケースもあるのではないかと思います。そのため、上場企業と未上場企業とでは組織の成り立ちが異なり、その違いが数字に出てきているものと想像しております。
○山川部会長 石﨑委員、よろしいでしょうか。
○石﨑委員 ありがとうございました。確かに御説明の中で明らかになっていないケースもあるとのことで、明らかになったケースでのこの統計の結果と理解しました。ありがとうございます。
○山川部会長 ほかにございますでしょうか。
髙橋委員、どうぞ。
○髙橋委員 ありがとうございます。委員の髙橋でございます。
私から、今回御丁寧に説明していただいたデータのことで読み方を教えていただきたい点が2点ございます。まず、資料の6ページに、「会社分割そのものはM&A形態ではなく、M&Aのプロセスにおける準備行為や企業内の組織再編手法の位置づけとなる」と書かれていますが、確かに、例えば事例3、32ページのミツウロコの事例のように、あらかじめ企業グループ内でこうした形にしたい、という場合には、最終的にこのホールディングスの形にすることを念頭にカウントすると思うのですが、例えばグループ内M&Aと外部とのやり取りのどちらとも評価できる事例、例えば25ページの沖電気のカーブアウトの案件のように、法的には吸収分割1つになりますが、事業がエトリアに移るときは事業の譲渡とも整理でき、その対価として沖電気が株式を取得することに関しては、沖電気が資本参加した、と説明することができるようにも見えます。
このような場合、7ページで書いている分類では1件としてカウントされているのか、それとも、事業譲渡、資本参加として、1件ずつ2件としてカウントされているのかをどのように数えているのか教えていただきたいのが第1点です。
それからもう一点、東鉄工の後継者不在の事業承継の件です。この事例が特殊なのかもしれませんが、売り手であった東鉄工がその後どうなったのかに関心があります。後継者不在ということで、この事業譲渡先のポエックソリューションが名前を変えて東鉄工の名前になったことですが、元の譲渡人の法人である東鉄工は、解散や清算など、法人としては終わりとなる場合には、これは清算になったということになりますでしょうか。そしてその場合、先ほどの16ページにありました破綻関連のM&Aとカウントされてしまうのかお伺いしたいと思います。先ほど御質問の回答でありましたが、必ずしも経営難であるわけではないけれども、譲渡会社が消滅してしまうタイプがあるようにお見受けしておりますが、これは件数として把握されているのか、それとも破綻関連の中に含まれているのかをお伺いできればと思います。
以上です。
○山川部会長 いかがでしょうか。
○吉富様 最初の御質問ですが、会社分割として、吸収分割を使って対価として株式を取得するため、資本参加ではないかとのことですが、ここはダブルカウントしておりません。事業譲渡の中の吸収分割を活用した1案件になっております。
この事例で言いますと、株式を取得するのはM&Aの戦略の一つであり、共同で事業をするためにエトリアに事業を集約し、結果として沖電気がそこの株主になる形をとっています。リコーと東芝テックと沖電気の3者の業務提携戦略の一つと位置付けられます。場合によって、事業を売却し、株式ではなく金銭を対価にすることもできますが、このような選択をしたことは、3者が業務提携をして事業を運営していく戦略的な意図があり、その実現として、このM&Aのスキームを選択したことかと思います。
○田城様 東鉄工の事例ですが、これは未上場企業ということもあり、把握できる情報には限りがあります。ホームページは現在も存在しており、事業移転後の事業についても東鉄工の名前で営業されていますので、恐らく、現在確認できるのは移転された後のホームページになるかと思っていますが、以前の東鉄工がその後どのような経緯をたどっているかについては、未上場企業でもあり正直なところ確認できておりません。
○吉富様 これが破綻関連案件ではないかとの御質問ですが、破綻関連でカウントしているのは、仮にこの東鉄工が民事再生法を適用し、そのスポンサーとしてポエックが事業を承継した場合です。本件は通常の事業譲渡であり、その後に仮に会社が清算された場合でも、破綻関連には入れておりません。
以上です。
○髙橋委員 ありがとうございました。
○山川部会長 ほかにございますでしょうか。
鈴木委員、どうぞ。
○鈴木委員 丁寧な御説明ありがとうございます。先ほどの石﨑先生からの御質問に関連してお伺いします。
資料21ページの会社分割制度を活用して事業譲渡を行った企業の上場、未上場別内訳について、非上場企業による活用が上場企業よりも多いが、非上場企業の場合には情報が収集しにくいといったお話があったかと思います。
こうした非上場企業のM&Aに関する情報を収集しにくい背景、理由についてお伺いできますでしょうか。
もう一点お伺いしますが、資料16ページにおいて、破綻関連のM&A件数は以前に比べ減少しているとの御指摘がございました。お答えいただける範囲で結構ですが、未上場の会社による破綻関連のM&Aがどのくらいあるか、資料16ページのデータに含まれているかどうかも含めて質問させていただきます。よろしくお願いします。
○吉富様 まず、情報収集のところですが、上場企業は開示義務がありますので、M&A案件は重要事項として扱われることが多く、ニュースリリースや適時開示が行われます。私どもはそうした情報を集計しています。一方で未上場企業については適時開示の義務がないため、情報収集が非常に難しいです。案件に上場企業が関与していればリリース等で把握できますが、未上場企業同士の案件になると、様々な手段を用いても把握できないものが少なくありません。特に小規模な案件は日常的に行われていると思いますが、例えば地域のクリーニング店同士が一緒になるような案件までは、なかなか把握できないのが実情です。
そうした中で、中小企業庁では、M&Aの支援機関登録制度を設けており、登録した支援機関が年間にどの程度の案件を行ったのかを集計しています。恐らく案件の中身もレポーティングが行われているのではないかと思いますが、その集計では4,000件以上あったかと記憶しております。そうした意味では、現在、未上場企業の情報を最も多く持っているのは中小企業庁ではないかと思います。
もう一つ、破綻関連のM&Aが減少している点についてですが、過去に最も多かったのは、民事再生法の活用が広がった2000年代の前半です。バブルが崩壊して企業業績が急速に悪化したため、会社更生法よりも利用しやすい民事再生法が導入されました。また、再生支援する公的機関も整備され、民間企業の再生が進められました。当時は、会社の事業そのものには価値があるものの資金繰りの悪化によって経営が困難になった企業を救済する仕組みとして機能していたため、破綻関連M&Aも急激に増加しました。しかし、そこから20年近く経過し、事業承継も数年前からうたわれており、破綻の整備も行われた中で、民事再生を含む再建手続を活用しても再生をすることが難しく、法的整理や清算に向かわざるを得ないケースが増えているのではないかと認識しております。ただ、これも公表されている情報がベースになっておりますので、これ以上のことは把握しておりません。
以上です。
○山川部会長 鈴木委員、よろしいでしょうか。
ほかにございますでしょうか。
菅村委員、どうぞ。
○菅村委員 ありがとうございます。連合の菅村と申します。
個別の事例も含めて詳細な御説明ありがとうございました。労働者の立場からすれば、M&Aの増減にかかわらず、再編手法ごとに異なっている労働者保護ルールの充実と強化が必要であると考えております。その上で、資料1の12ページを見ますと、近年では外国企業が関わるクロスボーダー案件が一定の割合を占めているデータも示していただきました。この後の議論になりますが、諸外国においては日本と法制度や商習慣、労使関係など異なる点が多くありますが、法務デューデリジェンスにおいては労働者保護ルールをはじめとする法令遵守の状況の精査が大きな課題の一つであると考えております。
この点、データ上で把握できることに限界はあるのかもしれませんが、再編時において、雇用や労働契約の承継に関して紛争が生じたことによって調整が難航した案件など、そうした事案などを把握されていれば教えていただきたいと思います。
以上です。
○山川部会長 いかがでしょうか。
○吉富様 通常、M&Aは買い手と売り手の両者間で合意したうえで進められるため、労働紛争に関する問題が表面化することはあまりありません。過去には、いわゆる同意なき買収において従業員による反対が表面化した事例があります。例えば王子製紙による北越製紙に対する同意なき買収案件では、従業員から反対の声が上がりました。その後も何件か、買収対象企業の労働組合が一斉に反対した結果、案件が成立に至らなかった事例が幾つかあります。ただし、それは上場企業のM&Aであり、公正性を担保するために情報開示が行われているため、動きを把握することができますが、未上場企業になりますと、そういうことも表には出てこないのが実情だと思います。
以上です。
○山川部会長 ほかにございますか。
鳥澤委員、どうぞ。
○鳥澤委員 御説明ありがとうございました。6年ほど前に私もM&Aをして売却をしておりますが、先ほど資料14ページの中で、昨年度の実績が1,000件ほどで、公表されていないものが大体その3倍程度あると御説明をいただきました。私の事例は恐らくその3倍程度に入るものと思いますが、そうしたM&Aを行った側の中小企業としてお話しさせていただきますと、先ほど、国際紛争や大規模な災害等があるとM&Aの数が減るというお話がありましたが、恐らくこの未公表の会社のM&Aは逆で、増えるのではないかと思っております。
その理由としては、そうした状況下では会社の株価が下がるため、売る側も買う側も取引がしやすい状況が起こり、加えて経営的な不安が増すことで売却が増えると考えられます。この見えない部分でのM&Aは、今後もそういった意味では増えるのではないかと思っております。
加えて、先ほどクリーニング屋の事例がございましたが、例えばある会社が、実はその会社としては完全に売却しているものの、実情を見れば、経営者は例えば飲食店などのほかの事業も行っており、その中の一部のクリーニング屋だけ売却する、という場合もございます。このようなケースは、経営者との関係で見れば実態としては事業分割に近いものの、会社同士の株式・資本関係がないため、単純な売却となっている場合もございます。その辺りについてはなかなかデータの読み取りが難しいかと思いますが、今後も未上場企業についてもより詳細に調べていただくとありがたいと考えます。困難な内容かとは思いますが、よろしくお願いいたします。
以上でございます。
○山川部会長 御感想ということですが、何かございますか。
○吉富様 私どもとしても、未上場企業の案件データの収集を更に進めていきたいと考えております。そもそも、私どもがM&Aのデータベースを作り始めた背景には、経済の発展に貢献したいという考えがあったからです。未上場企業のM&A案件については、実は世界的に見ても、未上場企業同士の案件を体系的に収集して整理されているところはないのですが、私どもとしてもその領域のデータ収集にチャレンジしていきたいと思っております。
ただ、実際には大きな課題があります。M&A案件をまとめられている仲介会社は、秘密保持契約をそれぞれの会社と結んでいるため、案件情報がなかなかオープンになりません。M&Aは「秘密保持で始まり秘密保持で終わる」ようなところがあるので、そこが未上場企業のM&A情報の収集を難しくしている要因です。そうした課題はありますが、今後も未上場企業のM&A実態を把握するためにチャレンジしていきたいと考えています。
○山川部会長 ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。
それでは、議題(1)「M&A調査会社からのヒアリング」はここまでといたします。ここで株式会社レコフデータの吉富様、田城様は御退出されます。本日は御出席いただき、また有益な御報告をいただきまして誠にありがとうございました。
それでは、次の議題に入ります。議題(2)「組織再編に関する諸外国の労働法制について」でございます。こちらについては、事務局と池田委員から御説明をお願いしたいと思います。まず、資料2に基づいて事務局から、次に、資料3に基づいて池田委員から御説明をお願いいたします。それらの御説明の後、質疑応答を予定しております。
それでは、まず事務局からお願いいたします。
○労働関係法課長補佐 それでは資料2を御覧ください。「組織再編に関する諸外国の労働法制について」御説明いたします。
2ページを御覧ください。こちらは独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)による調査「企業組織再編に関する労働法制-ドイツ、フランス、イギリス-」について、その概要を示したスライドになります。
本調査の目的は、本部会における議論に活用するため、海外における組織再編に伴う労働関係法制及び実務上の影響に関する実態を把握することにあります。調査の内容について、本調査は厚生労働省からJILPTへの要請により実施しており、EU、ドイツ、フランス及びイギリスを調査対象国等として、文献調査を行っています。
主な調査項目は、現行法制及び法改正の動向、労働契約一般のあり方の概観、組織再編前における労働契約の取扱いに関する法令及び実務の取扱い等とされております。
執筆担当者はそれぞれ、EU・ドイツは橋本陽子先生、フランスは細川良先生、イギリスは志水深雪先生となっています。
なお、調査報告書は現在、JILPTにて取りまとめ中となっております。
3ページを御覧ください。本資料は、平成28年2月23日に開催しました「第2回組織の変動に伴う労働関係に関する対応方策検討会」で参考資料8としてお示しした各国比較の一覧表を基にして、今回のJILPT調査で把握された内容等を「根拠法令」、「適用範囲・適用要件」、「労働契約の取扱い」等の項目ごとに整理し直したものです。掲載対象のうち、平成28年以降の裁判例及び法令改正の箇所は赤字としております。
また、前提として補足しますと、EU欄は、EU指令の内容やEU司法裁判所における先決裁定の内容を記載したものです。この先決裁定とは何かということですが、EU加盟国の国内裁判所は、EU法に関連する事項について判決を下す場合において、EU法の解釈が分からないときはEU司法裁判所に先決裁定を求めることができます。EU司法裁判所はこの求めに応じて判断、すなわち先決裁定を行い、その判断に基づき、国内裁判所が最終的に判決を下す仕組みとなっております。
「根拠法令」につきまして、EUでは、1977年事業移転指令によって、事業移転における労働関係の自動承継ルールが定められました。EU指令は1998年及び2001年に改正されていますが、基本的な内容は、1977年EU指令から変わっていません。
ドイツでは、EU指令に先立ち、1972年に民法典613a条が制定されています。フランスでは、労働法典L.1224-1条に規定されており、1928年の法律の一部として規定され、以降これといった改正のないまま、現在も存続しています。イギリスでは、EU指令を国内法化するため、1981年に事業譲渡規則(TUPE)が制定され、数回の改正を経て、2006年に全面的に改正されました。その後、2014年及び2024年にも改正が行われております。
なお、イギリスは2020年にEUを離脱しております。
「適用範囲・適用要件」につきまして、EU指令では、会社法においていかなる組織再編手段が採られたのかを問わず、「同一性を保持した経済的一体」の移転が適用対象になっております。「同一性を保持した経済的一体」の移転が認められるための具体的な判断要素はEU司法裁判所の判例によって示されてきており、1986年のSpijkers事件において、事業移転の有無は、7つの判断要素の総合判断によることが明らかにされました。
EU司法裁判所は、「7つの判断要素」のうちで何が事業移転の成否の決め手となるのかを明らかにすることはできないと述べていますが、事業移転の判断に当たり、「人間の労働力が決め手となる事業」であるか否かを重視しているとされております。「人間の労働力が決め手の事業」では、労働者の大部分が承継されれば事業移転に当たり得るが、労働者が誰も承継されなかった場合には、事業移転には当たらないと判断されています。一方、物的設備が決め手となる事業では、事業遂行に不可欠な物的設備が承継されたかどうかが重要となりますが、その上で、物的設備が承継されなかった事案でも事業移転の成立が認められる場合もあることがGüney-Görres事件等で示されています。
また、Klarenberg事件やAmatori事件の先決裁定によって、「『経済的一体』は、組織的独立性が失われても、機能的関連性が維持されていれば認められる」とされております。
更に、2019年には、EU司法裁判所において、「濫用的事業移転の場合には、事業移転の成立は認められず、労働者は譲渡人に留まることになる」ことがElinika Nafpigeia事件において示されています。
ドイツでは、「事業移転」が適用範囲であり、このことは民法典613a条において規定されております。また、組織再編の手続及び効果について定めた組織変更法があり、組織再編の手段である合併、分割及び財産譲渡も、民法典613a条にいう「事業移転」に含まれ得ることとされています。
なお、日本の事業譲渡に相当するような個別承継となる取引については、組織変更法は適用されませんが、客観的に事業移転と認められれば民法典613a条が適用されることになります。
また、平成28年以降に示された裁判例として、連邦労働裁判所においても、「濫用的事業移転の場合には、事業移転の成立は認められず、労働者は譲渡人に留まることになる」ことがWerzalit事件において示されています。
フランスでは、労働法典L.1224-1条において、使用者の法的地位において変動が生じたとき、特に、相続、売却、合併、資本の移転、法人化によって変動が生じた場合、変動が生じた日において有効な全ての労働契約は、新たな雇用主及び当該企業の従業員との間で引き続き有効となることとされています。また、その解釈をめぐって破毀院の判例において議論が重ねられてきています。
イギリスでは、TUPE3条1項a号に規定される「事業譲渡」については、「譲渡直前にイギリス国内に所在していた事業、事業体又はその一部が「同一性を維持する経済的実体」の移転を伴って、他の者に移転する場合を指します。
また、イギリスにおいては、譲渡前後の活動内容が「根本的に又は本質的に同一」である「サービス提供主体の変更」も規制対象とされています。
「労働契約の取扱い」につきまして、EU指令及びいずれの国内法においても、原則として、事業移転の対象となった事業で雇用されていた労働者の雇用が譲受人に自動承継されることになります。
4ページを御覧ください。「労働者による承継拒否」につきまして、EU指令には規定がなく、労働者が譲受人への承継を拒んだ場合の処理は加盟国が国内法で決すべき問題とされています。
ドイツでは、適法に行われた情報提供後、1か月以内に異議を申し立てれば、譲渡人との労働関係を維持できることとされています。また、判例において使用者の情報提供が不適法だった場合は、1か月の期間徒過後も異議申立権の行使が可能ですが、失権効に服することとされています。この異議申立権は判例において、憲法上の権利であると解されています。もっとも、この場合、労働者は、譲渡人による経営上の理由による解雇のリスクを負うものです。
フランスでは、ドイツのように労働者の異議申立権はありません。承継を望まない労働者は、譲受会社において辞職するか、当該事業移転が、そもそも労働法典L.1224-1条の対象とならないものであることを主張して争うことになります。
イギリスでは、承継に異議を伝えた場合には、譲渡人との雇用契約が終了し、原則として自主退職と同様に扱われます。
ただし、関連譲渡又はその予定によって労働者の労働条件に実質的かつ重大な不利益変更が生じる場合には、労働者は雇用契約が終了したものとして扱うことができ、この場合は使用者によって「解雇されたもの」として扱われ、その上で、不公正解雇の申立てを行うことができます。
「労働条件の変更(個別的労働条件)」につきまして、EU指令では、事業移転によって個別労働契約上の労働条件は譲受人との労働契約の内容となります。このことは基本的に各国において同様です。
その上で、ドイツでは、譲受人による個別契約上の労働条件の変更は、個別契約上の労働条件変更法理(変更解約告知、撤回留保条項の可否等)によることになります。
フランスでは、新使用者による労働条件の変更は、解雇と評価されることになります。
イギリスでは、労働条件の不利益変更の唯一又は主たる理由が当該譲渡である場合には変更が無効となります。
ただし、①変更の唯一又は主たる理由が、労働条件の変更を伴うような経済的、技術的、組織的理由であり、変更に使用者と労働者が合意している場合、又は契約上、使用者に条件変更が許されている場合、労働条件の変更は無効とならないこととされています。
5ページを御覧ください。「労働者代表への協議・事前通知」につきまして、EU指令では、譲渡人及び譲受人は、移転に関係のある労働者代表に、移転の時期、移転理由、労働者に及ぼす移転の法的、経済的及び社会的帰結、労働者に関して予測される措置について情報提供義務が規定されております。また、譲渡人又は譲受人が、自己の労働者に関する措置を考慮するときは、譲渡人又は譲受人は、合意を得るために、自己の労働者代表と適時にかかる措置について協議する義務を負うと規定されております。
ドイツでは、民法典613a条5項において、従前の使用者又は新所有者は、移転に関係する労働者に対して、移転前に書面により情報提供を行わなければならないと規定されております。
また、事業所組織法上の「事業所変更」に当たる場合には、20人超の企業を対象として、事業所委員会への通知と協議義務が規定されています。更に、組織変更法における「合併」「分割」に当たる場合には、労働者及び労働者代表に及ぼす帰結・予測される措置について合併・分割契約等に定めなければならず、また、関係企業の権限ある事業所委員会に株主総会等の遅くとも1か月前までに、合併・分割契約書(案)等を通知しなければならないと規定されております。
フランスでは、従業員50人以上の企業に設置された社会経済委員会に対し、組織変動の理由を示し、労働者に対して実施する措置について情報提供義務があることが規定されております。
イギリスでは、譲渡人及び譲受人は、譲渡又はこれに関連する措置によって影響を受け得る被用者について、情報提供義務及び協議義務を負うことが規定されています。これらの義務は個々の被用者に直接履行されるのではなく、原則として被用者の「適切な代表者」を通じて行われます。
このような被用者の「適切な代表者」を通じて、譲渡人は、協議が可能となる十分前に、譲渡の事実・時期・理由、譲渡が被用者に及ぼす法的・経済的・社会的影響並びに譲渡人自身が講じる予定の措置について情報提供を行う義務を負います。
また、譲受人も、譲渡後に自らの被用者となる者や、既存の自社被用者のうち譲渡又はこれに関連する措置によって影響を受け得る者について、使用者として独立した情報提供義務を負い、自らが予定している措置について説明を行う必要があります。
「従業員代表の機能の承継及び労働協約の承継・取扱い」につきまして、EU指令では、事業所等がその独立性を維持する限り、移転に関係のある労働者の代表者又は代表の法的地位及び機能は、労働者代表の構成のための条件が満たされている限り、同一の条件で維持されることとされています。
また、集団的協定において合意された労働条件は、かかる集団的協定の解約又は期間満了、若しくは、他の集団的協定が発効又は適用されるまで、遵守されます。ただし、労働条件の遵守される期間を限定する場合は、1年以下であってはならないと規定されています。
ドイツにおける労働協約法では、双方の協約拘束性が事業移転後も維持される場合には、当該労働協約が適用され続けることとされています。また、譲受人が協約に拘束されない場合、譲渡人の下で適用されていた労働協約等は、個別労働契約の内容となって承継され、1年間は不利益に変更できないとされています。なお、その例外も規定されています。
フランスでは、従前の労働協約は、新たな協約が締結されない限り、予告期間満了時から1年間その効力を維持することが規定されています。
イギリスでは、事業譲渡の時点において、譲渡人が承認している労働組合との間で労働協約が締結されており、かつ、その協約が譲渡後も雇用契約が存続する被用者に適用されている場合には、当該労働協約は譲渡後も当該被用者との関係において効力を維持すること、労働協約から取り込まれた条項・労働条件の変更は、当該変更が事業譲渡の日から1年を経過しており、かつ、変更後の労働契約上の権利義務を全体として評価した場合に、被用者にとって不利にならない場合に限り、変更が無効の対象とならないことが規定されています。
6ページを御覧ください。「事業譲渡に伴う人員整理」につきまして、EU指令では、事業移転自体を理由とする解雇は禁止されています。ただし、雇用の領域における変化をそれ自体で生じるような経済的、技術的又は組織的理由に基づく何らかの解雇、特定の範疇の労働者の適用除外は許容されています。
ドイツでは、事業移転を理由とする解雇は新旧使用者により禁止されています。
その上で、「譲受人の構想に基づく解雇」とは、譲受人が、譲渡人の事業を引き受ける条件として、譲渡人に人員削減を要求し、これに基づき譲渡人が行う解雇のことをいい、解雇の時点で、譲受人の構想が具体化し、譲渡人と譲受人との間で事業譲渡契約又は予備契約が締結されている場合には、このような解雇が認められ得るとされています。
フランスでは、移転前の労働契約の解約について、経済的一体の移転があった場合、その譲受人は、譲渡人が当事者(使用者)であった労働契約が、譲渡の時点で有効であった場合に、当該労働契約の使用者となり、その拘束を受けることとされています。
この場合、労働法典L.1224-1条の適用を回避するために、事業の移転の前に解雇がなされるということが起こり得ますが、こうした事業移転を円滑に進めることを目的とした解雇は、広く無効とされています。その場合、労働契約は、新たな使用者(事業の譲受人)との間で有効に存続することがGuermonprez事件において示されています。
イギリスでは、事業譲渡が「解雇の唯一又は主たる理由」である場合、その解雇は自動的に不公正解雇となります。2014年のTUPE改正以降は、「事業譲渡そのもの」を直接の理由とする解雇に限らず、従来、「事業譲渡と関連する理由」と整理されてきた場合であっても、事案の具体的状況に照らし、事業譲渡が解雇の主たる理由であると評価され得ることが明確化されています。
その上で、事業譲渡が行われた場合であっても、解雇の唯一又は主要な理由が、「経済的・技術的又は組織的理由」(ETO理由)であり、かつ「労働力の変更を伴う場合」には、解雇が自動的に不公正なものとはなりません。裁判例は、ETO理由の適用範囲を厳格に限定して解釈しています。
なお、3つ目及び4つ目の点において、「ETO理由」や「労働力の変更」に当たり得る場合につき、裁判例等で示された基準を記載しております。
7ページを御覧ください。「その他」として、ドイツでは、事業移転等の事業所変更が行われる場合、社会計画において、解雇補償金の支給に加えて、再就職支援措置が定められることが多いとされています。
再就職支援措置は、失業のおそれのある労働者について、再就職支援措置を第三者に委託して実施する場合に、その費用の一部を使用者に助成する制度です。再就職支援措置に参加する労働者には、再就職支援操短手当が、12か月を上限として支給されます。
再就職支援会社への転籍は、通常、企業、再就職支援会社及び労働者の三者契約によって行われます。労働者は、従前の企業との労働関係を合意解約し、再就職支援会社との間で最長12か月の有期労働契約を締結します。
事業移転法理との関係では、再就職支援会社への転籍が民法典613a条の潜脱となり得ることが問題とされております。
イギリスでは、使用者が提案する契約条件の変更に被用者が同意しない場合、使用者が当該被用者を解雇した上で再雇用を申し出る、又は同一若しくは実質的に同一の職務に別の被用者を雇用することにより、当該変更を実現する手法が用いられてきました。このような手法は「解雇と再雇用」と呼ばれており、労働者保護の観点から強い懸念が示されてきました。
こうした慣行に対し、2025年雇用権法は包括的な規制を設け、2026年10月からの施行が予定されています。同法の下では、賃金、労働時間、シフト、年金、時間外労働、休暇といった「制限された労働条件」の変更に被用者が同意しないことを理由とする解雇は、自動的不公正解雇と位置付けられます。TUPEの形式的枠組みを変更するものではありませんが、関連譲渡の前後において実務上用いられてきた「解雇と再雇用」による条件変更及び条件統一の手法を制約する効果を有するものです。
事務局からは以上でございます。
○山川部会長 ありがとうございました。それでは、アメリカにつきまして、池田委員から御説明をお願いします。
○池田委員 委員の池田です。
アメリカに関しては今回のJILPTの調査対象にならなかったということで、隣接分野を研究している私からアメリカの状況を簡単に御報告いたします。
お手元の資料3を御覧いただきながら説明してまいりたいと思います。
まず、前提として、アメリカは、他の先進諸国に比べて非常に特殊な労働法体系を持っておりますので、アメリカの労働法規範の特徴を簡単に把握していただきたいと思います。
アメリカでは、古典的な契約自由原則と市場原理を通じた需給調整が今なお労働法規範の根幹を構成しておりまして、公序による一定の制約を受けながらも、古典的な契約自由原則に裏打ちされた随意的雇用(employment at will)と言われる原則が今なお労働契約を規律する大原則として維持されています。
この「随意的雇用原則」の下では、使用者は労働者との契約関係をいつでも、いかなる理由でも、何ら理由がなくても解約することができるため、使用者が労働条件を変更したいという場合も、対象となる労働者に対して労働条件変更を打診し、労働者が変更に同意しない場合には当該労働者を使用者が解雇し、当該変更後の労働条件の下で別の労働者を新たに雇用してしまえば、結果的に労働条件変更が実現されることになります。
もちろん、変更後の労働条件が余りに劣悪であれば、当該労働条件に同意する労働者が現れず、結果的に使用者が当該労働条件変更を実施できないことも考えられますが、それは労働市場が決定することであり、このような採用と解雇(hire and fire)と言われるプロセスを通じて労働力が調整されることを前提に、労働法規範は市場を適正化させるために差別を禁止し、あるいは最低労働条件を規制するにとどまります。そして、労働者自身が随意的雇用原則の帰結を回避するには、労働市場において自らの交渉力を発揮することにより使用者の解雇権を制限するほかありません。
このような個人として労働市場における交渉力がある労働者に対して、アメリカにおいて、いわば第二類型の交渉力のある労働者として位置付けられるのは、排他的交渉代表たる労働組合を通じて組織化された組合労働者となります。
というのも、市場原理を尊重するアメリカで個人として交渉力のない労働者が、労働市場での使用者との交渉において自らに有利な労働条件を獲得できるようになるための唯一の方法は、団結権を行使することによって自らの労働力を集団的に取引することとされているからです。
この点、アメリカの集団的労働法規範は、沿革的な理由から、いずれもアメリカ合衆国憲法上の州際通商を規制する合衆国政府の権限に基づいて立法された連邦法として、州際通商に携わる使用者一般に適用される1935年制定の全国労働関係法(NLRA)と鉄道会社及び航空会社のみに適用される1926年制定の鉄道労働法(RLA)に分かれております。
もっとも、これら2つの法律は、いずれも多数決原理に基づく代表選択に始まり、労働協約の成立・改定・終了に至る団体交渉プロセスには積極的に介入するものの、合意の成立や労働協約の内容については一切関知しない形式を取ることで一貫しています。
そのため、選出された排他的交渉代表と使用者との間で成立する労働協約の実体的な内容はあくまでも古典的な契約自由原則と市場原理に委ねられることになります。
ここで、排他的交渉代表と使用者との間で成立した労働協約は、当該交渉単位における排他的な労働条件設定規範として機能するだけではなく、NLRA上の苦情仲裁条項ないしRLA上の強制仲裁制度と判例上の仲裁尊重法理が相まって、交渉単位内の私的な法制度とも言うべき包括的な自治規範を構成します。
このように紛争解決手続までもが労働協約によってカバーされる反面、その他の紛争解決手段となるストライキなどの経済的実力行使は、NLRAでは労働協約によって、RLAでは立法によって大きく制約され、労使平和が実現されることになります。
すなわち、アメリカの集団的労働法規範は、労使間の合意によって労働協約が成立した場合、包括的な自治規範となって労使平和が達成されることを前提に、成立した労働協約自体を保護するのはもちろん、労働協約の成立あるいは維持の手段となる団体交渉をも厳格に規律する立場を採ることで、労働協約秩序の成立を積極的に促進しているということになります。
したがいまして、アメリカで、団体交渉は、労働者の団結する権利を保障する手段であると同時に、労働協約秩序の実現を促進するための手段としての位置付けも有しているわけです。ただし、労働協約の成立・改定・終了に向けられた団体交渉を巡る規律は、NLRAとRLAで実際には大きく異なるというところにも注意が必要です。
続きまして、アメリカでの事業譲渡ですが、アメリカ各州の会社法は一般に資産売却としての規律のみを設けており、我が国のような事業譲渡固有の規整は存在しません。しかしながら、継続事業として資産を一括売却することはアメリカでも一般的に行われておりますので、ここでは継続事業として資産を一括売却することを「事業譲渡」と表現して報告を進めてまいります。
まず、アメリカでは会社法が州によって異なりますので、事業譲渡に必要な手続はそれぞれの州によって異なるということになります。
次に、労働法上の承継者理論ですが、随意的雇用原則に基づいて解雇が原則として自由なアメリカでは、事業譲渡があった場合も、事業譲渡に際しての労働者の承継の有無及びその条件は、「真正」な事業譲渡である限りにおいて事業譲渡当事者の自由な判断に委ねられます。
一方、従前の使用者が自ら別会社を新設して事業譲渡した場合のように、事業譲渡を仮装して労働法上の使用者としての責任を免れようとする濫用的な事業譲渡の場合には、従前の使用者の別人格(alter ego)として、労働協約も含めた労働法上の義務に拘束されることが判例上認められています。
また、たとえ「真正」な事業譲渡であるとしても、事業譲渡によって、先ほどお話しした労働組合の排他的交渉代表としての地位が容易に脅かされると、排他的交渉代表制を通じて労使平和の実現を図る集団的労働法秩序が根底から覆されかねません。そこで、組織再編手法として有意義な事業譲渡の自由を確保しつつ、事業譲渡による集団的労働法秩序の破壊を防止するための判例法理として、労働法上の承継者理論と言われるものが確立されております。
この労働法上の承継者理論では、事業譲受人が労働者の過半数を従前の交渉単位内労働者から雇用するに至った場合に適用され、いわば結果責任として、従前の交渉単位における排他的交渉代表の地位が事業譲受人の下でも保全・承継される効果をもたらします。したがいまして、仮に労働法上の承継者理論が適用されても、事業譲受人が自ら引き受けない限り、従前の労働協約は事業譲受人を拘束し得ないことになります。
そして、仮に労働法上の承継者理論が適用されても、労働協約上の労働条件は原則として事業譲受人を拘束しないため、事業譲受人は事業譲渡人から引き継ぐ労働者にかかる最初の労働条件を自由に設定することができるようになっています。なお、これについても一定の場合には例外が判例上認められております。
その上で、労働法上の承継者理論が適用される場合には、事業譲受人の下で排他的交渉代表としての労働組合の地位が保全される結果として、事業譲渡後の労働条件変更に関しては、排他的交渉代表たる労働組合との団体交渉義務が課せられることになります。
このように、労働法上の承継者理論は、そもそも労働者の過半数を従前の交渉単位内労働者から雇用しなければ形式的に適用可能性がないことになっております。ただ、これもやや複雑ですが、事業譲受人は、労働法上の承継者理論の適用を回避するためだけの理由で、事業譲渡人の労働者の採用を拒否することは許されないと判例上理解されております。
最後に、承継使用者条項についても少し触れておきますが、以上のような判例上のルールに加えて、必ずしも一般的ではないとされておりますけれども、承継使用者や事業譲受人も当該労働協約に拘束されることを規定するなど、労働協約に承継使用者条項が置かれることもあると言われています。
もちろん、承継使用者条項は、判例上、労働協約当事者ではない事業譲受人を直接に拘束するような効力はないと解されておりますが、労働協約当事者間では有効なことが認められておりますので、使用者は当該承継使用者条項を遵守するために労働協約を事業譲受人に引き受けさせる責任を労働協約上の義務として負担すると言われています。
また、裁判所では、労働協約上の仲裁手続が継続している期間などに、承継使用者条項違反に基づいて事業譲渡手続を停止させることもできると解しています。
簡潔ではございますが、私からの報告は以上です。
○山川部会長 ありがとうございました。それでは、事務局から、また池田委員の御説明につきまして、委員の皆様から御質問等がありましたらお願いいたします。
菅村委員、お願いします。
○菅村委員 御説明ありがとうございました。質問ではなく、意見を3点申し上げたいと思います。
まず1点目です。事務局から御説明いただいた各国の資料を拝見しますと、今後の組織再編における労働者保護のルールを検討する上では、諸外国の現状を参照することは大変意義があると考えております。各国の法体系や慣習、労使関係などの状況が異なっていることは踏まえる必要があるものの、労使間に厳然たる力の関係の格差がある中において、必要な労働者保護を図るということの重要性は広く国際的にも共有されていると、この資料からも読み取れると思います。
先ほど、ヒアリングを行いましたが、グローバル化に伴うクロスボーダー案件が大きな存在感を示す中にあって、組織再編に伴う労働者保護についても、国際的な観点に立った検討が求められているのではないかと考えております。
2点目でございますが、資料2の3ページにあるように、諸外国では再編手法ごとではなく、事業の移転や使用者の法的地位の変動が生じたケースで共通のルールを適用されていることは重要と思っております。先ほど御紹介いただいたように、日本においても、事業譲渡や会社分割など組み合わせて行われていることも、実際少なくないと思っておりますが、労働者からすれば、その再編手法によって雇用や労働条件が守られるケースとそうでないケースが分かれることは不合理ではないかと考えております。
だからこそ、労働契約承継法の適用範囲を、事業譲渡など再編全般に拡大することを含めた検討を行うべきであると考えております。
3点目として、資料の5ページ目の上段において、EU指令やドイツ、イギリスでは譲渡人と譲受人双方に労働者代表への情報提供義務と協議義務が課されている点は非常に重要だと思っております。以前の部会でも弁護士ヒアリングにおける労働側の弁護士から、「事業譲渡等指針は、譲渡会社だけではなく、譲受会社も対象にすべき」との意見がございましたが、そうした意見とも整合的であると考えております。
会社分割を含め、移転元と移転先の企業の双方に労働組合等への事前の情報提供や協議義務を課すことで実効性を確保することが重要であると考えております。以上3点、意見として申し上げます。
以上です。
○山川部会長 ありがとうございました。ほかに御質問又は御意見はございますでしょうか。
鈴木委員、お願いします。
○鈴木委員 御指名ありがとうございます。
まず情報提供についてですが、資料を見ますと、EUにおける承継労働者一人一人への情報提供は、企業に労働者代表が存在しない場合に限られていると理解しています。他方で、日本における事業譲渡では、承継予定労働者から個別の同意を得ることが必要である上に、以前にも議論が出ましたように、山梨県民信用組合事件の最高裁判決によって、労働者が自由な意思に基づく同意ができるよう十分な説明が求められています。
それから、日本の場合、いわゆるデロゲーションではなく、労働条件の設定や変更に関して、組合以外の団体と会社の集団的労働契約は認められていないと思います。これはドイツの従業員代表制や、フランスの社会経済委員会と少し背景が異なる印象を持ちました。
したがって、EUの情報提供制度のみに着目するのではなく、労働契約の承継方法や、先ほど申し上げた集団的労使関係の違いも踏まえて検討する必要があると思います。
日本におきましても、例えば事業譲渡に際して労働者に丁寧な情報提供を行い、理解を得ることは大変重要であり、その点について異論はありません。しかし、一律の対象に対して一律の情報提供義務を課すことについては、慎重に議論する必要があると考えます。
まずは、指針やQ&Aなどによって情報提供すべき事項や望ましいタイミングを明確化し、好事例を周知することによって対応すべき問題であることを改めて申し上げます。
もう一点ですが、欧州とアメリカとでは事情が大きく異なるため、国際的な観点から検討する際には、アメリカも含めた多角的な議論が必要だと考えます。その上で、EUでは、御説明のとおり、EU指令並びにドイツ、フランス及びイギリスの法制において、労働契約の自動承継がルールとして採用されていることは理解しました。
ただ、現在のEU指令の基となった企業譲渡指針の制定過程を調べますと、1970年代当時、企業再編や企業集中が急速に進む一方、加盟国の中には、譲受人が労働者の承継を拒否することにより、譲渡人が当該労働者を解雇せざるを得ず、雇用を失う可能性が高いことが問題視されていました。また、加盟国間で労働者保護の水準に差があったため、域内市場における労働者保護を適切に確保する観点から、加盟国間の法制を調整する必要性がEU内で認識されていたという事情もあるようです。
こうしたEUにおける当時の時代背景や、社会・経済の統合を図るというEU特有の目的を背景に、自動承継のルールが採用されたのではないかと考えております。
また、資料にあるように、ドイツでは、承継を拒否した場合に労働者が解雇のリスクを負うとの説明があります。他方、日本における事業譲渡について申し上げると、労働契約が譲受会社に承継されない場合であっても、それだけで譲渡会社との労働契約が当然に終了するわけではありません。譲渡会社との雇用関係は引き続き存続し、仮に解雇を行うのであれば、御案内のとおり、労働契約法第16条をはじめとする解雇に関する規律が適用されます。また、民法第625条により、労働者本人の同意なく譲受会社に転籍させることはできないものと理解しております。
したがいまして、欧州各国が自動承継制度を採用していることや、労働者保護の抽象的な必要性のみをもって、日本においても同様の制度を導入すべきとの結論を導くことについては、慎重に考える必要があると私は考えております。
私からは以上でございます。
○山川部会長 コメントありがとうございました。浜田委員、お願いします。
○浜田委員 質問ではなく1点意見を申し上げます。
前回発言したように、労働者による承継拒否は、異議申出機会の保障に関わる部分であると思いますが、EUでは自動承継ルールが明確になった上で、更にドイツでは承継拒否ルールも整備されています。
日本の事業譲渡の場合においては、雇用の承継ルールがなく、企業側が承継・不承継の範囲を自由に設定できるために労働者が不利益を被るリスクが高く、また、今まで従事してきた業務と切り離される不利益については、会社分割でも問題になっていたことから、異議申出権が認められることになりました。
こうした経緯や現場の実態を踏まえると、ドイツを参考にしつつ、日本の事業譲渡においても、雇用の自動承継と労働者による異議申出を組み合わせることは可能なのではないかと考えております。
先ほどあった外国の制度をそのまま日本にも導入することに対する慎重な意見の中や、裁判例を御紹介いただいた際に、日本の裁判所では労働者の同意が厳格に解されているという発言もありましたが、労働者が裁判にまで訴えることはハードルが極めて高いことであり、現実的ではないと考えます。そうしたことからすれば、事業譲渡を含めて当事者となる労働者には異議申出権を認めていく方向で検討すべきではないかと考えます。
以上です。
○山川部会長 ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。
小林委員、お願いします。
○小林委員 事務局に2点御質問させていただきたいと思います。
資料2の5ページ、労働協約の承継・取扱いについて、EU指令に基づき新たな協約が締結されなければ、従前の協約で定めたルールが1年間は維持されることは、ドイツ、フランス、イギリスで共通と理解してよいものか確認をさせてください。もう一点は、労働者代表の法的地位や機能の承継について、EU指令では同一の条件で維持されるとありますが、この部分の各国の状況が資料からは読み取れなかったので、もし把握されていることがあればお伺いしたいと思います。
以上でございます。
○山川部会長 ありがとうございます。御質問ですので、事務局からいかがでしょうか。
○労働関係法課長補佐 御質問ありがとうございます。まず、最初の点につきましては、まさに御発言いただきましたとおり、集団的協定において合意された労働条件について、例えばドイツでは、まさに譲受人が協約に拘束されない場合であっても、譲渡人の下で適用されていた労働協約等は個別的労働協約の内容となって承継されて、1年間、不利益に変更できないと規定されております。ただ、一応例外規定はあるものです。
イギリスにおいても同じような形で規定がなされ、フランスでも1年間、その効力を維持という形で、共通する形で規制がなされているかと理解しています。
また、2つ目にいただいた点につきましては、従業員代表の機能の承継について、これがEU指令の6条に規定されている内容がドイツ、フランス、イギリスではどのようなものになっているのかとの御質問であると受け止めました。この点について、私どものほうで理解しているところだけ御説明しますと、ドイツにおいては、事業移転によって事業が別の所有者に移転する場合、民法典613a条によって新所有者が労働関係に参入し、かつ、移転それ自体によって事業所の同一性が変更されないことから、事業所委員会もその職務を維持するとされていると理解しております。また、仮に事業譲渡に関連して事業所が分割された場合でも、事業所組織法21a条1項1文によって、原則として分割された事業所の事業所委員会はその職務を保持し、全ての関与権及び共同決定権を引き続き行使することが保障されるものと理解をしております。
フランスにおきましては、判例上、労働法典L.1224-1条が適用される一体性のある事業組織変動の場合には、労働者代表、例えば社会経済委員会の地位はそのまま引き継がれるとされているものと理解しております。
イギリスの国内法がどうなっているかについては承知しておりません。
以上でございます。
○山川部会長 小林委員、よろしいでしょうか。
ほかに何かございますでしょうか。
浜委員、どうぞ。
○浜委員 私からは、各国の労働法制の状況を踏まえて、受け止めと意見を申し上げます。
まず、労働条件の変更の項におきまして、EU指令に基づき各国が労働条件の維持ルールを定めており、特にフランスでは「変更は解雇とみなされる」と厳格なものになっていると受け止めました。
加えて、6ページには、事業譲渡に伴う人員整理において、事業移転を理由とする解雇を禁止するルールが明確になっています。
こうした点を踏まえた意見となりますが、再編時の雇用や労働条件の維持につきましては、労働契約法第10条、16条などや整理解雇法理などに基づいて、解雇や不利益変更の無効を争うことしかできない日本とは大きく異なると考えております。労働組合があれば、しっかり労使で協議をして交渉することができますが、組合がない職場で働く労働者は会社が提示した条件などを受け入れざるを得ない実態も多くあります。
事業再編は労働契約の相手方が変わる意味で労働者にとって重大なことであるから、会社分割、事業譲渡などの再編方法にかかわらず、再編を理由とした解雇や労働条件の不利益変更を禁止する法的なルールをしっかり整備すべきであると考えております。
以上です。
○山川部会長 ありがとうございました。ほかにございますでしょうか。
よろしいでしょうか。
それでは、議題(2)についてはここまでとさせていただきたいと思います。
以上で本日の議事は終了となります。次回について、事務局から説明をお願いします。
○労働関係法課長補佐 次回の部会の日時、場所については調整中ですので、追って御連絡いたします。
○山川部会長 それでは、本日の第8回の部会は、これで終了いたします。お忙しい中お集まりいただき、また、有益な議論をいただきまして、誠にありがとうございました。

