第9回社会保障審議会生活保護基準部会最高裁判決への対応に関する専門委員会 議事録

日時

令和7年11月17日(月) 10:30~12:30

場所

東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎第5号館
厚生労働省 12階 専用第14会議室

出席者(五十音順)

・岩村 正彦  東京大学名誉教授
・太田 匡彦  東京大学大学院法学政治学研究科教授
・興津 征雄  神戸大学大学院法学研究科教授
・新保 美香  明治学院大学社会学部教授
・嵩 さやか  東北大学大学院法学研究科教授
・永田 祐   同志社大学社会学部教授
・別所 俊一郎 早稲田大学政治経済学術院教授
・若林 緑   東北大学大学院経済学研究科教授

議題

平成25年生活扶助基準改定に関する最高裁判決を踏まえた検討について 

議事録

(議事録)
○岩村委員長 皆様、おはようございます。定刻でございますので、ただいまから第9回「社会保障審議会生活保護基準部会 最高裁判決への対応に関する専門委員会」を始めさせていただきます。
 委員の皆様方におかれましては、大変お忙しい中御出席いただきまして、誠にありがとうございます。
 まず、事務局から、本日の委員の皆様方の出欠状況と資料の確認をいただきたいと思います。また、オンラインで出席されている委員の方がいらっしゃいますので、改めてということにはなりますけれども、会議での発言方法などについても御説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○千田社会・援護局保護課長補佐 事務局でございます。
 本日も、対面及びオンラインを組み合わせての実施とさせていただきます。また、動画配信システムでのライブ配信により一般公開する形としております。アーカイブ配信はいたしませんので、あらかじめ御了承ください。
 続けて、本日の委員の出席状況について申し上げます。本日は、村田委員より御欠席の連絡をいただいております。また、別所委員より遅れて御出席されるとの連絡をいただいております。
 以上でございます。
 会議冒頭のカメラ撮りはここまでとさせていただきたいと存じます。恐縮ではございますが、カメラの皆様は御退席をお願いいたします。
(カメラ退室)
○千田社会・援護局保護課長補佐 それでは、事務局より、お手元の資料と会議の運営方法の確認をさせていただきます。
 本日の資料でございますけれども、議事に関して、資料1「第8回専門委員会においてご指摘のあった事項等」、資料2-1「社会保障審議会・生活保護基準部会 最高裁判決への対応に関する専門委員会 報告書案」、資料2-2「社会保障審議会・生活保護基準部会 最高裁判決への対応に関する専門委員会 報告書 別紙案」、資料2-3「判決文(原審:大阪高等裁判所)」、資料2-4「判決文(原審:名古屋高等裁判所)」、また、参考資料として、参考資料1「年金における遅延損害金請求事案について」、参考資料2「いのちのとりで裁判全国アクション 提出資料」を御用意いたしております。参考資料2につきましては、原告関係者の皆様から御提出されたものでありますが、こちらの資料も踏まえながら、本日は御議論をいただけますと幸いでございます。
 会場にお越しの委員におかれましては、机上に用意してございます。過不足等ございましたら事務局へお申しつけください。オンラインにて出席の委員におかれましては、電子媒体でお送りしております資料を御覧いただければと思います。同様の資料をホームページにも掲載してございますので、資料の不足等がございましたら、恐縮ですがホームページからダウンロードいただくなどの御対応をお願いいたします。
 次に、発言方法について、オンラインで御参加の委員の皆様には、画面の下にマイクのアイコンが出ていると思います。会議の進行中は基本的に皆様のマイクをミュートにしていただきます。御発言をされる際には、Zoomツールバーの「リアクション」から「手を挙げる」をクリックいただき、委員長の御指名を受けてからマイクのミュートを解除して御発言ください。御発言が終わりました後は、Zoomツールバーの「リアクション」から「手を下ろす」をクリックしていただき、併せて、再度マイクをミュートにしていただきますようお願いいたします。
 事務局からは以上でございます。
○岩村委員長 ありがとうございました。
 それでは、議事に入りたいと思います。
 本日の議論ですけれども、前回の専門委員会におきまして、経済に関する議論に関しての指摘事項、また、それに関連した内容について事務局より補足説明資料を用意していただいておりますので、まずその説明をいただきたいと思います。その後に、これまでの専門委員会での議論を踏まえまして、事務局のほうで報告書案を作成いただいておりますので、その内容について御審議をいただきたいと思います。
 それでは、まず事務局から資料1「第8回専門委員会においてご指摘のあった事項等」について御説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○榎社会・援護局保護課生活保護統括数理調整官 社会・援護局保護課の榎でございます。
 それでは、資料1「第8回専門委員会においてご指摘のあった事項等」について御説明をいたします。
 おめくりいただきまして、1ページを御覧ください。
 前回の専門委員会でいただいた御指摘を踏まえまして、平成30年の基準見直しの際に講じた措置に関して、平成25年改定後の基準を見直すとした場合の取扱いに係る考え方を再度整理してございます。
 まず、平成25年改定後の生活扶助基準を見直すとした場合について、平成30年見直し前の取扱いを整理しております。仮に基準を見直し、平成25年改定当時の生活扶助基準の水準が引き上がることとなる場合、改定当時に保障するべき水準はより高かったこととなり、差額が生じることとなりますので、その差額分について追加支給が必要となるということでございます。
 その一方で、平成30年の見直しにおける激変緩和措置につきましては、平成30年10月以降に本来の水準が大きく減額となることによる生活への影響を緩和するという観点から、本来の水準を上回る額を支払うものでございまして、これは行政裁量による措置ということでございます。
 今般の基準の見直しは、平成30年10月以降の本来水準には影響しませんので、激変緩和措置はその点で平成30年見直し前の追加支給とは事情が異なります。また、これに加えまして、激変緩和措置はあくまで行政裁量による措置であるという点に鑑みますと、平成30年の見直し当時に既に本来水準を上回る額を措置している中で、今般の見直し後の基準額を基に、追加の措置を講じる必要はないと考えることができます。
 以上から、平成30年見直し当時の激変緩和措置につきましては、追加支給の対象とする必要がないと整理できると考えてございます。
 2ページを御覧ください。
 ゆがみ調整の2分の1処理の目的と効果についてお示しをしてございます。これまでの議論を踏まえますと、平成25年改定後の基準を見直すとした場合に、当時のゆがみ調整を反映することも想定されるところでございまして、今回、補足的に説明しておきたいということで御用意した資料でございます。
 まず、ゆがみ調整そのものの目的でございますが、生活保護受給世帯間の公平を図るため、生活扶助基準における年齢階級別等の相対的な格差について、一般低所得世帯の消費実態との乖離を是正する、ということでございました。
 そして、その消費実態との乖離を基準額に反映する際に、統計上の限界や子どものいる世帯への配慮の必要性等を踏まえて、乖離幅の2分の1を反映したのがいわゆる2分の1処理でございます。詳細については割愛させていただきますが、仮に消費実態との乖離をそのまま反映した場合には、子どもの多い世帯ほど大きく減額されるということが見込まれてございました。2分の1処理は、その影響を抑制するという効果を持つものでございまして、これを言い換えますと、2分の1処理の効果は子どもの多い世帯ほど大きく表れる、ということでございます。
 今回、仮に平成25年改定後の基準を見直すとして、ゆがみ調整と高さ調整をどちらも実施するとした場合には、令和5年改定と同様に、夫婦子1人世帯を基軸としまして、ゆがみ調整によって算出される較差指数、これは世帯属性間の相対的な較差を指数化したものになりますけれども、この較差指数を組み合わせることで、全世帯の水準を設定することが想定されます。
 このような場合であっても、2分の1処理によって減額幅を抑制する効果は子どもの多い世帯ほど大きく表れることとなります。こうした点につきましては、平成25年の生活保護基準部会報告書において「貧困の世代間連鎖を防止する観点から、子どものいる世帯への影響にも配慮する必要がある」とされたことに沿ったものであると考えてございます。
 資料1につきまして、事務局からの説明は以上でございます。御審議のほど、何卒よろしくお願いいたします。
○岩村委員長 ありがとうございました。
 前回の委員会で御指摘をいただいた事項や関連する事項につきまして、事務局に資料を作成していただいて、今、説明をいただいたところであります。
 今日の資料1を踏まえて、御指摘、御質問、御意見等があれば御発言をいただきたいと思います。いかがでございましょうか。
 それでは、若林委員、どうぞ。
○若林委員 よろしくお願いいたします。若林です。
 ゆがみ調整なのですが、私の観点からすると、生活保護受給世帯と一般低所得世帯の消費の乖離を是正し、公平性を確保するために必要なことであると考えます。また、ゆがみ調整をそのまま適用すると、やはり子供の多い世帯の減額幅が相対的に大きくなる傾向があることは否めません。
 裁判においても、ゆがみ調整そのものが否定されていないことや、また、過去の取扱いを踏まえても、子育て世帯にはやはりゆがみ調整を2分の1の案ですることが妥当ではないかと私個人は思います。
 以上です。
○岩村委員長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでございましょうか。
 太田委員、どうぞ。
○太田委員 御説明ありがとうございました。
 平成30年生活扶助基準見直しの経過的加算等の取扱いですが、再整理していただいた原因者として、今の説明は了解できるものでございます。もちろん原告団は不満を持つでしょうが、了解は可能な説明だと考えています。
○岩村委員長 ありがとうございます。
 ほかにはいかがでございましょうか。よろしいでしょうか。
 ありがとうございます。それでは、次に資料2-1の報告書案について御審議を頂戴したいと考えます。まずは事務局から資料2-1についての説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○榎社会・援護局保護課生活保護統括数理調整官 事務局の榎でございます。
 それでは、資料2-1「社会保障審議会・生活保護基準部会 最高裁判決への対応に関する専門委員会 報告書案」について御説明をいたします。
 この報告書案につきましては、前回の専門委員会でお示しした「取りまとめに向けた方向性(案)」をベースとしまして、第1章と第4章を加えるとともに、各委員からいただいた御意見を反映する形で御用意してございます。
 まず、目次部分を御覧いただければと思います。第1章は今般の最高裁判決及び本委員会の検討事項、第2章は平成25年改定当時の生活扶助基準に係る再検討、第3章は判決の効果及び平成25年当時の生活扶助基準に係る検討を踏まえた対応の在り方、第4章は生活保護法の理念・実務との関係及び平成25年生活扶助基準を見直す場合の各種論点としてございます。
 2ページを御覧ください。
 第1章としまして、今般の最高裁判決及び本専門委員会の検討内容についてまとめております。
 1つ目の○から4つ目の○までは最高裁判決の内容を紹介してございます。また、5つ目の○については、本専門委員会での検討事項を御紹介してございます。
 一番下の○の部分でございます。今回の最高裁判決の趣旨・内容及び対応の在り方に関する各委員からの御意見をおまとめしてございます。
 1つ目のポツについては、「判決が違法と指摘した基準改定に対する是正措置は、既判力や形成力といった狭い意味での判決の効力とは異なる議論になってくると思われる。」、「判決の拘束力の人的範囲について、他の訴訟の原告、訴訟を提起していない者には直接拘束力は及ばず、司法判断の尊重、行政の敬譲の観点から検討する必要。」といった御意見でございます。
 2つ目のポツについては、次ページに移りますけれども、「今回の判決は、ゆがみ調整については適法としており、デフレ調整については、改定当時、生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間に不均衡が生じていると判断したことは許容しており、それを国家賠償請求における違法性を否定する理由に使っている。その点において、前の基準で差額を支払うということまでが決まる判決ではなく、差し戻しタイプの判決と言えるのではないか。」という御意見でございます。
 3つ目のポツについては、「生活保護法の第8条第2項の規律が厚生労働大臣の判断の外に客観的にあり、最低限度の生活の需要が何であるかを中心として厚生労働大臣の裁量的判断に委ねられているというのが最高裁の理解だと考える。それであるがゆえに、最高裁は厚生労働大臣の判断の過程を今回は厳格に審査する姿勢を見せたのではないか。」という御意見でございます。
 4ページを御覧いただければと思います。
 第2章としまして、平成25年改定当時の生活扶助基準に係る再検討についてまとめてございます。
 前回の専門委員会でお示しをしました「取りまとめに向けた方向性(案)」をベースとしてございまして、前回時点からの主な修正点、資料中で下線を引いている部分になりますけれども、この部分に絞って御説明をさせていただきます。
 少し飛んで6ページを御覧いただければと思います。マル1の1つ目の○の※の部分でございます。家計調査を用いた補正の具体的な計算方法について追加してございます。
 続いて、7ページを御覧いただければと思います。
 1つ目の○になりますが、家計調査を用いて補正する場合の変動率の終点に関して、ただし書きとしまして、「平成25年平均データは、当時3段階で実施された基準改定の3年目までは利用可能であったが、平成25年の改定時点では利用できなかったものであることに留意し、慎重に検討すべき」としてございます。
 それから、3つ目の○でございます。世帯分布調整値の取扱いに関して、こ「れまで生活扶助基準の改定に採用した実績のない手法であることから、今般の対応については採用しないことが妥当」としてございます。
 続いて、4つ目の○でございます。外れ値処理の取扱いに関して、「これらの方法自体を否定するものではないが、恣意性の排除が課題となることから、今般の対応については、必ずしも十分な検討が行われていないことを踏まえ、採用しないことが妥当」としてございます。
 8ページを御覧いただければと思います。
 最後の○になります。水準調整における比較対象に関して、「令和4年検証と同様の指標により、家計調査に基づく補正後で見れば平成16年時点の集団の状況と大きく変化していないことが確認できることに加え、平成24年検証時にゆがみ調整に関して第1・十分位を用いる根拠の整理を行っていたことも踏まえ、年収階級第1・十分位を用いることが適当」としてございます。
 9ページを御覧いただければと思います。
 一番下の○でございまして、ゆがみ調整(2分の1処理)に加えて、今回の再検討の結果を反映した場合の効果に関して、「モデル世帯である夫婦子1人世帯(勤労者世帯)における第1・十分位の生活扶助相当支出額と生活扶助基準の乖離を解消しつつ、生活保護受給世帯間における相対的な較差の適正化を図ることが可能となる」としてございます。
 また、※の部分では、ゆがみ調整の2分の1処理については、統計上の限界や子どものいる世帯への配慮の必要性等を踏まえたものであり、2分の1処理によって子どもの多い世帯ほど減額幅を抑制する効果が生じる」としてございます。
 このほか第2章の関係では、別紙として詳細なデータを添付してございます。資料2-2の方でお示しをしてございますので、適宜御確認いただければと思います。
 第3章以降につきましては、千田補佐の方から御説明をさせていただきます。
○千田社会・援護局保護課長補佐 社会・援護局保護課の千田でございます。私から第3章及び第4章の内容を御説明いたします。
 10ページを御覧ください。
 第3章として、判決の効果及び平成25年当時の生活扶助基準に係る検討を踏まえた対応の在り方についてまとめてございます。前回特に議論のあった点に絞って御説明いたします。
 まず、1つ目の○において略称を定義させていただきます。以後、今回の最高裁判決の対象となった大阪訴訟及び名古屋訴訟の当事者の原告を「原告」、他の訴訟の原告を「後続訴訟の原告」、そして原告と後続訴訟の原告の総称を「原告等」とした上で、訴訟を提起していない被保護者を「原告等以外の被保護者」といたします。
 2つ目の○でございますが、これまでの法学的議論の前提とされてきたとおり、原告については、今回の最高裁判決が確定判決であり、判決の形成力により、平成25年当時の基準改定前の処分が存続している状態であるということを明確化いたしました。
 11ページを御覧ください。
 判決の効果及び平成25年当時の生活扶助基準に係る検討を踏まえた対応の基本的考え方について、前回の議論を踏まえ、大きく3点の内容を追加いたしました。
 1つ目でございますが、原告及び後続訴訟の原告との関係においては、特に高さ(水準)調整について、紛争の一回的解決の要請に特に留意が必要であるものと考えられること。
 2つ目については、取消判決の形成力、生活保護法第8条第2項の要請、生活保護法に基づく保護は原則として全国一律に行われるものであること、こうした3つの要請全てが完全に満たされる方策はなく、比較衡量に基づく一定の判断をして対応の在り方を導く必要があると考えられること。
 3つ目でございますが、告示の一般性からすれば、原告等と原告等以外の被保護者を区別せずに平成25年生活扶助基準を見直すことが適切と考えられるとの意見があったこと。
 12ページを御覧ください。
 ゆがみ調整の再実施に関しまして、12ページの上から5つ目の○でございますが、原告及び既に判決が確定した後続訴訟の原告については、判決の形成力により、ゆがみ調整分も含めて、当時の処分前の状態に戻っていることに鑑み、平成25年当時の改定前の水準を適用するとともに、訴訟継続中の後続訴訟の原告についてもこれらの者と同様に扱って、原告等についてはゆがみ調整と高さ調整の両方について再度の改定を行わないことも解決の一手法として考えられますが、前回の御議論を踏まえ、この場合は、原告等に対する対応と原告等以外の被保護者に対する対応は法的に区別されると考えられる。こうしたことを明記いたしました。
 次に、高さ調整の再実施に関し、マル1の上から3つ目の○でございますが、前回の議論を踏まえ、第2章の経済学的な検討の結果を踏まえれば、当時の経済情勢においては、生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間の不均衡が認められ、高さ調整を行う必要性があったものと言え、生活保護法第8条第2項に基づき、新たな検証結果に基づく指標を用いて水準を再設定することが適当であることを追記いたしました。
 また、マル1の4つ目の○でございますが、原告等についても、これまでの争訟の経緯をおいて考えれば、生活保護法第8条第2項に基づき、経済学的な検討を踏まえた指標を用いて水準を再設定することが適当であると考えられますが、この点について、今回の検証結果から見ても、高さ調整自体は制度の持続性を確保する上で実施する必要があったのではないかとの意見があったことを追記いたしました。
 その上で、マル1の5つ目の○において、原告等については、本件改定に基づく保護変更決定以降、10年以上という長きにわたって争訟が継続されてきたことの負担や、これまでの争訟の経緯を踏まえた原告との紛争の一回的解決の観点から、解決の一手法として、ゆがみ調整は行った上で、改めての高さ調整は行わないことも考えられるとしております。
 13ページを御覧ください。
 最初の2つの○に記載をしてございますが、原告等と原告等以外の被保護者を区別することについて、1つ目でございますが、生活保護法に基づく無差別平等原則については、保護の内容の区別には求められないことが立法者の意思であり、給付の内容を区別することは必ずしも当該原則に反しないのではないか。
 2つ目でございますが、憲法第14条の平等原則との関係について、紛争の一回的解決の要請が強く及ぶ原告等と、直ちに原告等と同程度には及ぶとは思われない原告等以外の被保護者との間で追加支給に関して区別を設けることは、合理的な区別と解される余地があるが、区別の程度には確認が必要との意見もございましたので、ここで明記をしてございます。
 他方で、上から3つ目の○でございますが、訴訟で争ったかどうかは、生活保護法第8条第2項の最低限度の生活の需要の考慮要素には含まれないのではないかとの疑問があり、原告等について、ゆがみ調整を行った上で、改めての高さ調整を行わないのであれば、これまでの争訟の経緯や無差別平等原則を重視して、原告等以外の被保護者についても、原告等と同様の対応とすべきとの意見がございました。
 なお、※印の記載については、平成30年基準改定の施行時に生じた下限措置については、あくまで激変緩和を目的として、本来の保障すべき最低限度の生活水準を上回る額を行政措置により措置したものであり、平成30年10月以降は見直した当時に既に本来の保障するべき最低限度の生活水準を上回る額が措置されている中で、見直し後の基準額に基づき、さらに行政裁量による措置を講じる必要がないことから、基準の見直しの影響は及ばないと考えられることを明記したものでございます。
 次に、基準の見直しの具体的手法に関し、原告等以外の被保護者との関係について、仮に原告等と原告等以外の被保護者で別々の基準を設けるならば、これまでの告示とは異なる枠組みとなる。仮に新たな基準を制定する場合は、現行の告示の枠組みに影響しないような工夫が必要ではないか。
 新たな基準制定による対応とする場合は、被保護者との間で考慮過程が分からなくならないよう、基準の制定理由、計算過程などが分かるようにすべきとの意見がございました。
 14ページを御覧ください。
 仮に原告及び既に判決が確定した後続訴訟の原告についてゆがみ調整も高さ調整も実施せず、平成25年当時の改定前の水準を適用し、差額を給付することにする場合は、特段の告示制定行為は不要となり、給付の性質は、判決の形成力によって請求可能となった給付請求権に対する支払いとなると考えられますが、前回の議論を踏まえ、この場合は原告等以外の被保護者に対する対応とは法的に区別されると考えられることを明記いたしました。
 15ページを御覧ください。
 第4章として、生活保護法の理念・実務との関係及び平成25年生活扶助基準を見直す場合の各種論点についてまとめてございます。これまでに特に議論のあった点に絞って御説明をいたしたいと思います。
 まず、(1)の3つ目の○でございます。今回の事案が、最高裁判決により、当時の基準改定の一部について違法性が指摘されたという特別な指標を有することを踏まえ、追加給付に係る技術的・事務的対応方針を早急に整理し、支給事務を行う必要があること。具体的な支給事務や受給者への対応の在り方などについて、自治体・福祉事務所の負担も踏まえた現実的な事務設計が不可欠であり、自治体との協議の場などにおける丁寧な検討が求められること。これらのことについて記載をいたしました。
 (2)の2つ目の○でございますが、追加給付の額の算定の基礎に加算等を含める期間については、第7回専門委員会における御意見を踏まえまして、デフレ調整の適用があり、現在まで水準の検証やそれに基づく改定が行われていない加算等については、平成25年改定後、基準の見直しの時点まで、マル1でございますが、過去、デフレ調整の適用があったが、その後水準の検証やそれに基づく改定が行われている加算等については、過去、デフレ調整の適用があった期間を対象期間とする方向で検討することが適当といたしました。
 (3)の2つ目の○でございますが、既に保護廃止された者についても給付の対象に含めることが適当である。ただし、具体的な実施方法については、本人による申出等、一定の関与を前提とする仕組みとすることが適当と考えられる。このようにいたしました。
 16ページを御覧ください。
 上から2つ目の○でございますが、外国人については、第7回専門委員会での御意見を踏まえ、行政措置として追加給付の対象とすることが適当といたしました。
 (4)の1つ目の○でございますが、当時の基準改定により保護廃止となった方の取扱いや、申請により却下とされた方の取扱いについては、第7回専門委員会での御意見を踏まえ、本人から必要な証明がなされた場合に個別に判断する方法など、対応の在り方を検討することが適当といたしました。
 17ページを御覧ください。
 時効の起算点につきまして、第7回の議論を踏まえ、新たな基準により再処分を行う場合には、当該再処分の時点と考えることが適当であるとし、仮に追加給付を行う場合には、消滅時効が問題にならない期間内に事務処理を終えることが前提になるのではないかという意見があったことを記載いたしました。
 遅延損害金につきましては、第7回の議論を踏まえまして、原告及び既に判決が確定した後続訴訟の原告については、判決により当時の保護変更決定処分が取り消されたことによる給付請求権が生じていることを踏まえつつ、行政処分一般の取扱いとの整合性にも留意しながら、遅滞に陥る時期について整理することが適当といたしました。
 その上で、遅滞に陥る時期を仮に再処分時と考える場合には、遅延損害金は発生していないと考え得る一方で、平成25年の保護変更決定以降、10年以上という長きにわたって争訟が継続されてきたことに留意し、一定の額を上乗せすることも考えられるといたしました。
 なお、※印につきましては、国税における瑕疵のある賦課処分に基づいて生じた還付請求権については、取消しのときから生ずるとともに、還付の際には、法律上の規定により還付加算金が支払われるとされていることについて、御議論の参考として記載したものでございます。
 また、第7回専門委員会の議論におきまして、他の社会保障法における遅延損害金の取扱いも確認する必要があるといった御意見があったことを踏まえまして、参考資料1をお配りしております。
 参考資料1につきましては、年金における遅延損害金請求事案に関する内容でございますが、裁定前の年金の支分権は、裁定を受けて初めて支給が可能になるものであり、政府は裁定がされない限り具体的な金銭の給付をする義務を負わないものであるから、各支払期を徒過したというだけでは、政府の支給事務が遅滞に陥っているということはできず、債務不履行による遅延損害金の発生を認めることはできないなどと判示をしたものでございます。
 なお、参考資料1につきましては、事案の性質を踏まえ、情報保護の観点から、架空の日付を記載しております。判決年月日及び事件番号については、委員の皆様限り別途共有とさせていただきましたこと、御了承いただけますと幸いでございます。
 以上で資料2-1の説明を終わります。御審議のほど、よろしくお願いいたします。
○岩村委員長 ありがとうございました。
 それでは、資料2-1の報告書案につきまして、質疑応答、意見交換をいたしたいと思います。今日は取りまとめに向けた議論でございますので、できるだけ多くの委員の皆様から御意見を頂戴したいと思っております。よろしくお願いいたします。
 それでは、どなたからでも結構ですので、よろしくお願いいたします。
 興津先生、どうぞ。
○興津委員 興津です。
 御説明ありがとうございました。
 まず1つ確認させていただきたいのですけれども、今の御説明によりますと、報告書案の中のとりわけ第3章の法学的検討についての部分ですが、この委員会として一つの結論を出すというか、これがベストの解決であるというのを一つに絞り込まずに、幾つかの考え方を併記することになったと理解をいたしましたが、そのような理解でよろしいかということをまず確認させていただけますでしょうか。
○岩村委員長 では、事務局、お願いします。
○千田社会・援護局保護課長補佐 事務局でございます。
 御指摘のとおり、法学的議論については、様々な考え方があることから、報告書案については様々な考え方を併記すると、このような形で提案をさせていただくものでございます。
 以上です。
○岩村委員長 では、続けて興津先生、どうぞ。
○興津委員 分かりました。ありがとうございます。
 その前提で若干コメントを続けさせていただきたいと思います。
 今、委員会として一つの結論を示すものではないというお答えをいただきましたが、私もそれはやむを得ないことかなと考えております。と申しますのは、11ページの下線部、マル1からマル3として考慮要素が示されておりますけれども、これら相反する要請の全てを同時に満たす解決がどうも存在しないようです。どの解決を支持するかについて、法学系の委員の間ですら意見の一致というものがこれまでの議論の中で見られなかったかなと思いますので、無理に一つにまとめることはしないというのは、それでやむを得ないことかなと思います。
 ただ、どのような解決があり得て、それぞれにどのような得失があるかということは、これまでの検討及び報告書案で明らかにされていると思いますので、短い時間で検討を行ったこの委員会としては、最低限の任務を果たしたと言ってよいのかなと思っております。
 その上で、私自身が現時点でこれがいいのではないかと支持している解決について、これまでの委員会での発言と重複するところはありますが、その理由をかいつまんでお話しして、今後の決定の考慮要素としていただければと思います。
 まず、原告等との関係については、12ページの5つ目の○、下線部として追記していた考え方を個人的には支持しております。つまり、取消判決の形成力によって減額変更処分が取り消され、法律関係が平成25年改定前の状態に戻っているということを前提にいたしますと、ゆがみ調整分もデフレ調整分も含めて満額を追加支給するということが原則になるのではないかと考えております。
 これに対して最高裁は、ゆがみ調整については適法としているのだから、その分、追加支給すると過剰な救済になるという考え方もあり得るところであり、現に委員からもそのような意見が表明されたことがありますが、私自身は、そうであるにもかかわらず最高裁が、減額変更処分の一部取消しにとどめず全部取消しをしたということを重視したいと考えております。判決理由中でデフレ調整を適法としたのは、判断過程のどこに過誤・欠落があったかを示さなければならないという判断枠組みからすると、併せてどこに過誤・欠落がなかったかも示す必要があったからであって、判決主文で全部取消しをしている以上、原告等との関係では、満額を追加支給するということが判決の趣旨であると解することは十分に可能かなと思うところです。
 次に、それに対して原告等以外の被保護者との関係では、判決の効力が直接に及ぶわけではありませんので、判決理由中で平成25年改定をした告示が違法と判断されている以上、厚生労働大臣は、司法判断を尊重するという要請から、これを是正すべきであり、その際には、判決理由中の判断が意味を持ってくることになるのかなと思います。
 最高裁は、ゆがみ調整は適法としておりますから、2分の1処理を含めてこれをやり直す余地はあるだろうと思います。さらに高さ調整についても、物価ではなく、消費を基準とした調整もやり直す余地があるのだろうと思います。
 その際に、13ページに基準の見直しの具体的手法として示されたところとの関係で申しますと、14ページのマル3として示されているように、基準の遡及適用の方法による、すなわち、平成25年改定告示を遡って再改定し遡及適用するという方法によるのだとすると、原告等についても原告等以外の被保護者と同じ基準が適用されることになると解する余地が出てくると思いますが、今回そうではなくて13ページのマル1にいうように、差額支給の根拠となる新たな基準を別につくるという方法が提案されていますので、原告等以外の被保護者については、その新たな基準に基づく追加支給をする。それから、原告等については、判決の形成力に基づく追加支給をするということで、法的な整理はできるかなと考えております。
 そうしますと、原告等とそれ以外とで追加支給額が異なるということになりますが、判決の成果を実際に争った者のみが享受するというのは訴訟制度の構造からしてやむを得ないところであり、そのように解しても無差別平等原則には反しないと言えるのではないかと思います。
 この点について、本訴訟は代表訴訟的性格を持つという指摘が以前委員からありましたし、また、本日、参考資料2として提出されているいのちのとりで裁判全国アクションの意見書にもその旨の指摘がありますが、日本の行政訴訟制度は、告示などの一般的行為を万人との関係で対世的に違法・無効とするという仕組みにはなっておらず、自己に対する個別の処分を争うしかないという制度的な前提からいたしますと、法的にはやむを得ないことかなと考えております。
 それから、原告等については、ゆがみ調整のみを再実施し、高さ調整は実施しないという解決を取る場合には、判決の形成力では説明がつきませんので、13ページのマル1の1つ目の○のとおり、原告等にのみ適用される基準というのを別につくる必要がありますが、それは私には不自然のように思えてしまいまして、この論点については、私は14ページの1つ目の○の下線部の考え方を支持しているところであります。
 それから、13ページの※印の激変緩和措置については、先ほど資料1として御説明をいただいたところですけれども、老齢加算に関する最高裁判決によれば、激変緩和措置は厚生労働大臣の裁量権の行使として行われるものであり、今回の件について、被保護者に激変緩和措置を受け得る権利、あるいは法的に保護された期待があるとまでは言えないように思いますので、この※印のような考え方を取ったとしても、裁量権の逸脱・濫用に当たるとまでは言えないのではないかと思うところであります。
 それから、17ページのマル1の時効の起算点については、ここで整理されているとおりでよろしいかと思いますけれども、原告については、判決の形成力に基づいて追加支給をするという案を採用する場合には、法的には判決確定時から時効が起算されるということになりそうです。ただ、原告の方々については、この専門委員会で検討している間、請求を待っていただいているという事情がありますので、そのことを考慮していただき、結論が出たら迅速な支給をお願いしたいと思います。
 それから、(6)の遅延損害金については、2つ目の○として下線部で追記していただいた考え方を以前、私、発言させていただきましたが、ぜひこの線で積極的に御検討いただければと思います。
 最後に一言、今後、この報告書を受けて、最終的には厚生労働大臣のほうで、その権限と責任において採用されるべき解決を決定し、また、追加支給のために補正予算も組むことになると思いますので、国会の審議にも委ねられるということになると思いますが、その際、大臣及び議員の方々には、本委員会における検討と報告書の内容を踏まえていただいて、良識ある御判断をお願いしたいと思っております。
 以上、私のコメントでございます。報告書については現時点で修正をお願いしたいというところはございません。
 以上です。
○岩村委員長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 では、永田委員、お願いいたします。
○永田委員 お先に失礼いたします。
 私からは主に第3章について意見を述べたいと思います。
 まず確認しておきたいのは、生活保護基準が憲法第25条の最低生活を具体化する基準であって、日本の社会保障体系全体を支える基盤であるという点です。この基準の改定が最高裁によって裁量の逸脱・濫用と判断されたことは、制度の根幹に関わる極めて重大な問題だと考えています。そのため、違法と指摘された基準を専門的知見に基づいて再検討し、これまでの定期検証との連続性・整合性を確保しながら、より妥当な水準を確認したことは、生活保護行政、ひいては福祉行政全体の連続性の観点から極めて重要だったと考えています。
 その観点から、私は、12ページ以降のとおり、平成25年の基準部会の報告書に基づいて行われたゆがみ調整を前提に、今回再検討して得られた水準調整を踏まえた新基準を設定し、追加給付を行うという方向性が妥当だと思います。興津先生の議論と少し順番が逆になりますが、一方で、原告及び後続訴訟の原告については、判決の形成力によって、平成25年改定前の状態に戻っている以上、行政庁は判決に従って形成力に基づく請求権の支払いとして差額を給付すべき立場にあると理解しています。その点は、新基準による追加給付を行うほかの被保護者の皆さんとは法的性質が異なると私は考えます。この点では、興津先生と同様に、12ページの上から5つ目の○に書かれている「他方で」以下の記述のほうに賛成です。
 そのような観点から見ると、給付の方法については、13ページに書かれている方法を基本としつつ、原告の皆さんについては、14ページの最初の○で書かれている方法で行うことが妥当であると考えており、こうした考え方が多様な意見の中で、報告書の中でも反映されていると理解をしました。
 もう一点、冒頭に申し上げましたとおり、日本の社会保障体系の基盤であるこの基準が、広範な裁量が認められているにもかかわらず違法と判断されたこと、これはやはり重く受け止める必要があると思っています。今回のような適切な審議のプロセスを踏まえていれば、このような問題は生じることがなく、原告の皆さんの苦労であるとか、福祉行政の推進に割けたはずの現在の行政官の皆さんの御苦労、また、今後、自治体の皆さんが担わなければならない様々な苦労、こうしたことも本来であれば必要なかったことです。
 こうしたことが二度と起きないようにすべきであるということは、最後に委員としても申し上げたいと思いますし、もし可能であれば、報告書にもそういった観点から今後に向けた教訓を記載していただきたいと希望しますけれども、この点は今回の報告書の趣旨とは異なるかもしれませんので、委員長に一任したいと思います。
 私のほうから、その他特に修正をお願いしたい箇所はございません。
 以上です。お願いいたします。
○岩村委員長 ありがとうございました。
 それでは、太田先生、どうぞ。
○太田委員 太田でございます。御説明ありがとうございました。私のほうからは大きく3点お伝えしたいと思います。
 1つは、先ほど興津委員がおっしゃった部分と対応するのですが、少し報告書についてお考えいただきたいところがあります。実際、法学系の委員で、最善だと思う解決案がばらばらになってしまいました。そのぐらいのものなので、一本化はできないと思います。私は、興津委員の支持する12ページの上から5つ目のものについては、やはり、判断過程において一部適法と言い、また一部過誤があり、一部違法であると言いながら、全部取り消したというのは、これはやり直せという趣旨のものであって、そのまま全額支払えという趣旨は含んでいないと思いますので、少なくとも、適法とした部分を基礎に再度の改定を行う、つまりゆがみ調整、かつ、個人的には残念な判示だと思いますが、引上げになる方との関係でも2分の1処理をしたゆがみ調整で再度の改定を行うことは、判決の内在的な理解としては求められている、許されていると考えるべきだと理解していますので、興津委員の12ページの下線部の引かれた上から5つめの○の解決には賛成いたしません。
 もう一つ、13ページの告示の部分に関し、新しい追加支給の告示を立てるので据わりがいいのではないかということも御指摘になっておられましたが、新しい告示については、少なくとも原告を除外する形で適用範囲を決めておかないといけないので、つまり被保護者の中で少なくとも原告を適用除外にする形で決めないといけないので、結局2本立てのようなものになるという点において、あまり変わらない、こっちのほうが素直だと私は思っていないというところも付言しておきます。
 他方で、私は13ページの上から3つ目の○で書かれたところを支持しておりますが、その理由については、ここでは再度申し上げません。
 ただ、同時に、ほかの先生方との関係で御注意いただきたいことがございます。私の理解するところ、嵩委員は12ページの一番下の○の解決に比較的親近感を覚えておられたのではないかと思います。かくして、みんな3者3様で法学者らしいのでございますが、結論だけ見ますと、興津委員も嵩委員も私も、原告等に対する再度の高さ調整というのはやるとまずいのではないかという部分については重なっているのです。そこから先、それだけで理屈が立つかということになると、興津委員のようにやはり主文の形成力を重視するのだとなれば12ページの興津案になりますし、私のように無差別平等の趣旨、その内容は変わってもいいのだけれども、それはやはり需要に関わる考慮要素を踏まえて内容を検討するということなので、原告か原告でなかったかというのが考慮要素にならない以上、やはり無差別平等を重んじるべきだと考えるかによって分かれている。
 その点において、最善だと思う裁量行使はばらばらでございますが、やってはまずいだろうという部分については実は共通しているのだということについては御配慮いただきたいと思います。これは議事録において確認するだけでもいいのですが、最終的な判断は委員長にお任せしますが、12ページの一番下の○については、12ページの5番目の○とか13ページの上から3つ目の○を支持する委員でもこの部分はやはり支持しているのだということは、どこかで注記していただければ一番ありがたいと思います。
 やってはまずいだろうという部分についてだけでも委員会のコンセンサスが取れるのであれば、もちろん取ったほうがよろしいかと思います。永田先生は興津委員にジョインされましたので大丈夫かなという気はいたしますが、経済系の先生は、前回の議論の雰囲気からするとそこまで行くのが適切と考えることに躊躇がおありであるように思えます。それはそれで一つのあり得べき考え方だと思いますし、ほかの社会福祉系の新保先生の考え方もよく分かりませんので、そこは今からの委員会の議論に委ねたいと思います。
 また、以上の結果、もう一つコンセンサスがある点として、原告団が要求している、何もせずに、しかも原告以外にも全部払えという解決は誰も支持しなかったということも確認しておいてよろしかろうと思います。この部分については、報告書に入れる必要はないと思います。委員が積極的に支持した見解を見ていけば、そこで原告団の要求を支持する委員は誰もいなかったということは分かりますので、それでよろしいかと思います。
 それから、参考資料1として挙げていただいた事案、遅延損害金の取扱いについてでございます。個人情報に関する御配慮の中、我々にはきちんと事件番号まで示して、実在性を一応検証可能にしてくださったことには御礼申し上げます。
 その上で、事案を見た限り、かなり複雑な事案ではございましたが、広い意味でやはり申請拒否の取扱いにおける遅延損害金を論じたものであろうと整理できると思います。したがって、今回のような、既にそもそも具体的な保護請求権があるところを減額変更した、その減額変更が取り消されたという場合とはなお区別して考えることができるのではないかと思いますので、現在の報告書案の書き方で考慮していただければと思います。
 私からの発言は以上です。
○岩村委員長 ありがとうございます。
 ほかにはいかがでしょうか。
 それでは、若林先生、お願いいたします。
○若林委員
 ありがとうございます。若林です。
 私からは、第2章について、経済学の観点からコメントいたします。
 まず、報告書案にはこれまでの議論を踏まえた内容が適切に盛り込まれていると認識しております。そのうえで、今回の違法判決の契機となった物価調整について、一点申し上げたいことがあります。すなわち、物価連動という手法自体が誤っているわけではないという点です。経済学的には複数の調整方法があり、その中で指標や期間を比較検討しながら判断するものであり、物価指標を用いること自体が不適切という趣旨ではありません。今後、基準部会においても、物価要素をどの程度反映させるかを引き続き検討していく必要があると考えます。
 そのうえで、手法そのものが誤りではないとしても、これまで行ってきた検証作業との整合性を確保することが重要と考えております。例えば、8ページの「乖離の評価」に関する部分では、平成21年の生活扶助相当支出額を、全国消費実態調査(全消)に基づき、家計調査の変動率を用いて補正しています。この際、経済学的には補正後の水準の「終点」は平成24年、平成25年、あるいはその平均値など複数あり得ます。どれか一つが絶対的に正しいわけではありません。
 今回、平成24年を採用したのは、当時利用可能であったデータとの整合性を重視した結果として自然な選択であり、平成24年が唯一正しいという趣旨ではないことを明確にしておくことが重要だと考えます。また、平成25年の情報を併記することで、平成24年の値が結果としてやや高めとなったことを客観的に確認できるようになるため、今後も複数の値を併せて提示したうえで整合性の観点から採用値を示すことが適切と考えます。
 さらに、全国家計構造調査の調査時点以降の経済変動をどう反映させるかについても、基準部会での検討事項になると承知していますが、家計調査で補正を行う場合には、単年ではなく複数年のデータを踏まえて慎重に比較検討する姿勢が今後も重要であると考えます。
 以上です。
○岩村委員長 ありがとうございます。
 今後の基準部会での検討事項についてもコメントいただき、誠にありがとうございます。
 ほかはいかがでございましょうか。
 では、嵩先生、お願いします。
○嵩委員 御説明ありがとうございました。
 まず資料の3ページのところで、私が恐らく言ったと思われることをまとめていただいたところがあるのですけれども、3ページ目の2つ目の点のところなのですが、若干私が言ったこととニュアンスが変わってきているような気がしますので、私の発言が不明瞭だったせいだと思いますけれども、改めてお伝えしますと、私の意図としましては、保護基準を設定する際に依拠すべき最低限度の生活の需要については、それがどの程度なのかということについて、厚生労働大臣の判断の外にもともと客観的にあるわけではなくて、最低限度の生活の需要が何であるかの判断自体からして厚生労働大臣の裁量に委ねられているということで、ある意味ゴールみたいなところも自分で設定するということであるので、その判断過程を厳格に統制するしかないというか、統制しなければいけないという姿勢を最高裁が示したのではないかという指摘でしたので、若干1行目のところがニュアンスが変わったかもという気はしますので、適宜修正していただけますとありがたく存じます。
 その上で、第3章についてなのですけれども、私は、最終的には、先ほど太田委員からも御指摘がありましたけれども、12ページの一番最後の○の点はぜひ必要だと思っているところです。ゆがみ調整を原告や後続訴訟の原告について行うかどうかについては、確かに形成力などの観点からのいろいろな議論があると思うのですけれども、私自身は、ゆがみ調整は2分の1処理も含めて適法と言われているので、そこは行ってもよいだろうと。最高裁はそこまで禁じている、ゆがみ調整してはいけないという趣旨ではないのではないかと思っているので、そこは実施できるという前提です。ただ、高さ調整につきましては、紛争の一回的解決で、特に原告については、最低限度の生活の保障に係る給付ですので、何度も紛争を蒸し返すということは生活保護法の趣旨からして望ましくないと思いますので、高さ調整について改めて原告について行うということについては反対ということでございます。
 その上で、原告以外についてですけれども、11ページの3つの要請がなかなか全部満たすのは難しいということでして、確かにマル3の原則として全国一律という要請はもちろんあるのですけれども、他方で、12ページの下から2つ目の○にあります制度の持続性という御指摘もありまして、そういった点も踏まえますと、どこまで原告以外の人について見直すことができるだろうかと考えたときに、高さ調整については、原告とは異なって、今回、第2章で緻密に検討していただいた新たな基準で調整するということも可能ではないかと思っております。
 ただ、積極的にそうしてほしいというよりかは、基本的には高さ調整について改めて行政がまたやり直すことができるというのはやや違和感を覚えるところもありますので、ぜひほかの人については新しい基準を設定し、原告については高さ調整をしないという差を設けることが、直ちにいいと思っているわけではないのですけれども、持続可能性などを考えるという視点も踏まえるとなると、原告以外の方について高さ調整を行って、追加支給をその分行うということが妥当かなというか、そういう解決もあり得ると考えています。
 また、基準については、そうしますと2つつくったりしてやや不自然というのは確かにそうかもしれませんが、そもそもいろいろと通常ではない事態になっておりますので、そこは原告と原告以外とで基準が書き分けられてしまうとしても許容範囲ではないかと思っております。
 あと、17ページの遅延損害金については、まだこの報告書の中では、原告と後続訴訟の原告の方について再処分しない場合の遅滞に陥る時期についての整理があまり書かれていないと思うので、そこについては整理が必要だと思います。そこはやや難しいところはあるかもしれなくて、既に受給権が元に戻っていて、訴訟の提起ではないとしても、実施機関に支払いを求めているというような報道も伺っていますので、それでもって遅滞に陥るのかどうかとか、今までの従来の行政処分での取扱いも参考として判断が必要かと思います。
 ただ、仮に遅延損害金が厳密な意味で発生していないとしても、今回の事案の経過に照らして、政策的な判断で一定額の上乗せというのは選択肢としてあり得るだろうと。そういうこともぜひ検討はしていただきたいと思っております。
 全体的に、特に修正していただくというのは、冒頭の3ページのところ以外はないのですけれども、ほかの委員からも御指摘があったように、当然今回のような事態については再び起きぬように、生活扶助の基準を見直すときには、必要な手順などを踏んで、厳格に検討していただきたいと思うので、そういった点についてもし書くことができるのであれば、付言をお願いしたいと思います。
 以上になります。
○岩村委員長 ありがとうございます。
 そのほかいかがでございましょう。
 では、新保委員、どうぞ。
○新保委員 ありがとうございます。
 報告書の内容について、法学の先生方、経済学の先生方、社会福祉学から永田委員も御発言されていましたけれども、それぞれの専門的な見地から慎重に検討された御意見を載せていただいていると思います。ですので、私自身は、内容をよく吟味していただいて、的確に対応を進めていただきたいと思います。
 その上で3点意見を述べさせていただきます。
 まず、これから報告書がまとまっていくかと思いますけれども、その内容や国としての判断は、自治体はもとより、原告の方々、対象となる生活保護世帯の方々、そして広く一般市民に対しても説明をしていくことになると思います。厚生労働省の皆様には、自治体が対応の根拠や方法を着実に統一的に説明できるような分かりやすい資料を整えていただくことをお願いいたします。
 第2ですが、自治体・福祉事務所の体制によって、あるべき対応がなされなかったり、対象となる方々への対応に差が出たりしないようにしていただきたいと思います。自治体・福祉事務所にとっては、多忙な平常業務に加えて、さらに丁寧に対応しなければならない業務が加わることが想定されます。全国の自治体・福祉事務所があるべき対応をするための実施体制の整備は、国が責任を持って行っていただくようお願いいたします。
 第3に、今後行う対応が、生活保護世帯の方々はもちろんのこと、一般市民の方々に理解されるように進めていただくことを切にお願いいたします。第2回の委員会では、原告関係者ヒアリングの機会をつくっていただきました。特に原告の皆様の御発言の一つ一つはとても重たく心に残っております。今回の対応によって、原告や生活保護世帯の方々がバッシングの対象となることのないようにする必要があります。
 生活保護基準は、日本の健康で文化的な最低限度の生活を保障する基準であるばかりでなく、報告書案の16ページにも記載されているように、住民税や国の制度、地方単独事業に関連しており、私たちの生活に影響を与える重要な基準となっています。今回の最高裁判決への対応を、生活保護制度が日本国憲法第25条の生存権を具現化し、私たちの生活を支える極めて重要な制度であるという正しい理解を広める機会にしていただきたいと思います。
 以上です。
○岩村委員長 ありがとうございます。
 そのほかいかがでしょうか。
 では、別所先生、お願いいたします。
○別所委員 別所です。
 報告書案についてですけれども、幾つかの両論併記のようなことになったことについては十分に理解いたしました。互いに同時に成り立たないような条件がいろいろあって難しいということで、そこら辺も理解いたしました。
 特に報告書の内容についても、私からは意見はありません。
 以上です。
○岩村委員長 ありがとうございます。
 そのほかいかがでしょうか。
 今日御欠席の村田委員からは、経済系の先生方の御意見におおむね同じであり、主要なところは賛成であるという御意見を事務局のほうにいただいているということを報告していただいています。
 それでは、一通り先生方に御発言いただきましたので、事務方でもし以上の先生方の発言を受けてのコメントなどがあればお願いしたいと思います。
○竹内社会・援護局保護課長 保護課長でございます。
 幾つか私のほうから発言をさせていただきたいと思います。
 まず、興津先生のほうからコメントをいただく中で、補正予算について言及いただいたかと思います。現時点におきましては、今まさにこの専門委員会で御議論いただいているところでございますが、補正予算に追加的な措置を講ずるための費用を計上するかどうか、まだ今の時点では決まっておりませんので、その点補足をさせていただければと思っております。
 それから、新保先生のほうから幾つか今後の対応について御指摘をいただきました。私どもとしても、今、3点御指摘をいただきましたけれども、そうした点にしっかりと注意をしながら対応させていただこうと思っております。
 よろしくお願いいたします。
○岩村委員長 ありがとうございました。
 今の事務局のコメントにつきまして、何かございますでしょうか。
 新保先生、よろしゅうございましょうか。
○新保委員 ありがとうございます。
○岩村委員長 ありがとうございます。
 そうしますと、一通り発言をいただいたということで、若干私のほうから議論の整理のコメントをさせていただきたいと思います。
 まず、ゆがみ調整の再実施でございますけれども、これについては2つのポイントがあるのかなと思っています。ゆがみ調整は2分の1処理を含めて最高裁判決で適法ということになっていますので、法的観点から言いますと、原告なども含めて、2分の1処理も含めて再度ゆがみ調整を行うということは許容されると言えるのですが、他方で、最高裁判決の形成力に着目しますと、原告などにはゆがみ調整と高さ調整の両方を行わないということも法的な解決策となり得るという御意見があったかなと思っております。
 次に、高さ調整を再度行うかということについては、今日も御意見を頂戴しましたけれども、いろいろな考え方があるわけでありまして、そういったものを勘案しつつ、最終的にどのような解決策を講じるかということは、厚生労働大臣の裁量権の行使の範囲内で適切に行っていただくということかと思います。
 その際、法的な観点からすると幾つか議論が出たかなと思います。1つは告示の一般性ということをめぐっての御議論があって、原告等と原告等以外の被保護者を区別なく実施するということが生活保護法の第8条第2項に沿う対応だろうというお立場の意見がございました。
 他方で、10年という非常に長い期間、訴訟で争ってきました原告等との関係では、紛争の一回的解決の要請との関係に特に留意が必要だということかと思います。これについては特に法学系の先生方からはコンセンサスをいただいているものと理解しております。
 そうした観点からしますと、ゆがみ調整は行った上で、改めて高さの調整は行わないという解決方法も考えられるだろうということかと思います。
 もう一つは、これも今日また御発言があったところでありますけれども、原告等と原告等以外の被保護者で給付内容を区別するということが、必ずしも生活保護法の無差別平等原則には反しないもので、また、平等原則との関係では合理的区別と解される余地もあるというお立場がある一方、訴訟で争ったことが生活保護法で扶助を支給する考慮要素には含まれないのではないかという疑問を呈され、原告等について改めて高さの調整を行わないというなら、原告等以外の被保護者にも同様に高さの調整を行わないとすべきだという御意見もあったという状況かと思います。
 今日、先ほど委員の皆様から御発言いただいたように、いろいろと考え方が分かれている中で、最低限、以上のような整理はできるのかなと思っておりますが、今、私がコメントしましたけれども、御指摘等があればと思いますが、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 そうしますと、今日、資料として提示されております報告書案に、今ほどいただいた御意見も踏まえて必要な修正を行うということで、本委員会としての報告書ということでまとめることができるのではないかと私としては考えております。
 どのような形でいただいた御意見、御指摘を報告書に反映させるかという点につきましては、私のほうに御一任いただければと思うのですけれども、よろしゅうございましょうか。
(首肯する委員あり)
○岩村委員長 ありがとうございます。それでは、報告書の取りまとめは私に御一任いただいたということで、事務局と相談の上、皆様の御意見、御指摘の趣旨を十分に踏まえて、作業を速やかに進めてまいりたいと考えております。
 本日、ここで一旦取りまとめということになります。そこで、鹿沼社会・援護局長から御挨拶を頂戴したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○鹿沼社会・援護局長 社会・援護局長の鹿沼でございます。専門委員会の報告書の取りまとめに当たりまして、一言御挨拶申し上げます。
 委員の皆様方におかれましては、大変お忙しい中、本専門委員会への御出席、また、活発な御議論をいただきまして、本当にありがとうございます。
 この専門委員会、平成25年の生活扶助基準改定に関して、本年6月27日に最高裁から判決が示され、今後の在り方について御審議を賜るという、言わば類を見ないようなものであったと思ってございます。今日の議論を聞いていましても、法学系の先生方においても様々な御議論もあり、また、経済系の先生方におきましてもいろいろ議論がございました。非常に重要かつ難しい御議論であったのではないかと思いますが、委員の皆様方の御尽力により、本日、報告書について委員長一任となったところであり、深く感謝を申し上げます。
 今後は、この専門委員会の審議結果のみならず、ここで行われた様々な議論、こういったことも踏まえまして、国会のほうの議論ですとか、また、この問題につきましては実務という点も非常に重要でございますので、地方自治体の御意見、こういったものも伺いながら、厚生労働省としての対応を速やかに決定していきたいと考えております。
 最後になりますが、委員の皆様のこれまでの真摯な御議論に重ねて御礼申し上げますとともに、取りまとめの労をお取りいただきました岩村委員長に改めて感謝を申し上げ、私の挨拶といたします。本当にありがとうございました。
○岩村委員長 ありがとうございました。
 それでは、最後に事務局から、今後の予定について連絡をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○千田社会・援護局保護課長補佐 事務局でございます。
 報告書につきましては、今ほど委員長御一任という形としていただきましたので、今後、岩村委員長と御相談の上で、できるだけ速やかに厚生労働省のホームページにおいて、本委員会の資料等を掲載しているページに公表をさせていただく予定でございます。
 事務局からは以上でございます。
○岩村委員長 ありがとうございました。
 それでは、以上をもちまして、本委員会における審議は終了とさせていただきます。
 委員の皆様には、大変お忙しい中を、かつ時間的制約がある中で、非常に精力的に御議論をいただきました。本当に厚く御礼を申し上げたいと思います。誠にありがとうございました。
 それでは、今日はこれで散会といたします。ありがとうございました。