第3回社会保障審議会生活保護基準部会最高裁判決への対応に関する専門委員会 議事録

日時

令和7年9月8日(月) 10:00~12:00

場所

東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎第5号館
厚生労働省 3階 共用第6会議室

出席者(五十音順)

・岩村 正彦  東京大学名誉教授
・太田 匡彦  東京大学大学院法学政治学研究科教授
・興津 征雄  神戸大学大学院法学研究科教授
・新保 美香  明治学院大学社会学部教授
・嵩 さやか  東北大学大学院法学研究科教授
・永田 祐   同志社大学社会学部教授
・別所 俊一郎 早稲田大学政治経済学術院教授
・村田 啓子  立正大学大学院経済学研究科教授
・若林 緑   東北大学大学院経済学研究科教授

議題

(1)第1回専門委員会においてご指摘のあった事項について
(2)平成25年生活扶助基準改定に関する最高裁判決を踏まえた検討について 

議事録

(議事録)
○岩村委員長 それでは、定刻となりましたので、ただいまから第3回「社会保障審議会生活保護基準部会 最高裁判決への対応に関する専門委員会」を始めさせていただきます。
委員の皆様におかれましては、大変お忙しい中、御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。
事務局から、今日の委員の皆様方の出欠状況と資料の確認をお願いしたいと思います。また、オンラインで御出席の委員の方もいらっしゃいますので、会議での発言方法等について、改めて御説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○阿部社会・援護局保護課総括調整官 事務局でございます。
本日も、対面及びオンラインを組み合わせての実施とさせていただきます。また、動画配信システムでのライブ配信により一般公開する形としております。アーカイブ配信はいたしませんので、あらかじめ御了承ください。
最初に、本日の委員の出欠状況について申し上げます。
本日は全ての委員に御出席いただいています。
以上でございます。
会議冒頭のカメラ撮りはここまでとさせていただきたいと存じます。恐縮ではございますが、カメラの皆様は御退席をお願い申し上げます。
(カメラ退室)
○阿部社会・援護局保護課総括調整官 それでは、事務局よりお手元の資料と会議の運営方法の確認をさせていただきます。
本日の資料でございますけれども、議事1に関して、資料1「第1回専門委員会においてご指摘のあった事項について」、議事2に関して、資料2「平成25年生活扶助基準改定に関する最高裁判決を踏まえた対応について」を御用意しております。また、併せて参考資料として、参考資料1「平成25年基準改定に用いた生活扶助相当CPIの算出について」、参考資料2「令和4年家庭の生活実態及び生活意識に関する調査について」、参考資料3「社会保障審議会生活保護基準部会報告書(平成25年1月18日社会保障審議会生活保護基準部会)」、参考資料4「伊藤参考人追加提出資料」、参考資料5「第2回専門委員会における参考人ヒアリングでご指摘のあった判例等」を御用意してございます。
会場にお越しの委員におかれては、机上に御用意させていただいております。過不足等ございましたら事務局にお申し出ください。オンラインにて出席の委員におかれましては、電子媒体でお送りしております資料を御覧いただければと思います。同様の資料をホームページにも掲載してございますので、資料の不足等がございましたら、恐縮ですがホームページからダウンロードいただくなどの御対応をお願いいたします。
次に、発言方法について、オンラインで御参加の委員の皆様には、画面の下にマイクのアイコンが出ていると思います。会議の進行中は、基本的に皆様のマイクをミュートにしていただきます。御発言をされる場合には、Zoomツールバーの「リアクション」から「手を挙げる」をクリックいただき、委員長の御指名を受けてからマイクのミュートを解除して御発言ください。御発言が終わりました後は、Zoomツールバーの「リアクション」から「手を下ろす」をクリックいただき、併せて、再度マイクをミュートにしていただきますようお願い申し上げます。
以上でございます。
○岩村委員長 ありがとうございました。
今ほど事務局のほうから御紹介がございましたけれども、参考資料4「伊藤参考人追加提出資料」につきましては、前回の委員会における原告関係者ヒアリングでの議論の延長ということで、補足説明をされているという性格のものでありますので、今日お配りをしております。
また、参考資料5は、事務局におきまして前回の原告ヒアリングで指摘がございました判例等についてまとめた資料でありまして、こちらは議論に当たって適宜御参照いただければと思います。
それでは、早速、議事に入りたいと存じます。まず、お手元の議事次第にありますとおり、1番目としては「第1回専門委員会においてご指摘のあった事項について」でございます。これにつきまして、事務局のほうで資料を用意いただいておりますので、その説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
○榎社会・援護局保護課生活保護統括数理調整官 社会・援護局保護課の榎でございます。
それでは、資料1「第1回専門委員会においてご指摘のあった事項について」、御説明をさせていただきます。
ページをおめくりいただきまして、1ページを御覧ください。
第1回専門委員会において御指摘のあった事項のうち、この資料で用意している事項を記載してございます。
まず1点目でございますが、判決を踏まえて専門的知見に基づき確認すべき論点に関して、これまでの基準改定の検討における「一般国民」と「一般低所得世帯」の使い分けの経緯についての資料についてお求めがございました。
また、2つ目以降になりますが、判決を踏まえた対応の在り方を検討するに当たって必要な材料・資料に関しまして、デフレ調整で用いた生活扶助相当CPIの計算方法、それから生活保護受給者に対するアンケート調査の詳細について、それぞれお求めがございました。これらについて、次ページ以降にてお示しをしてございます。
まず、これまでの基準改定の検討における一般国民と一般低所得世帯の使い分けの経緯についての資料でございます。
3ページを御覧ください。
これまでの審議会等の報告書における生活扶助基準の設定の考え方を整理した資料でございます。
生活扶助基準の改定に水準均衡方式を導入した際の昭和58年の審議会以降の報告書について、生活扶助基準改定の検証や改定の基本的な考え方を記載した部分で、一般国民と一般低所得世帯についてどのような考え方で参照してきたのかが分かる内容を抜粋してございます。報告書の内容を踏まえた生活扶助基準の設定の考え方は、スライドの最初の四角囲みの中に整理して記載してございます。
まず1つ目の○でございます。水準均衡方式を導入する前の昭和40年度から58年度においては、格差縮小方式を採用してございます。一般国民の消費の伸び率以上に生活扶助基準を引き上げ、結果的に一般国民と生活保護受給世帯との消費水準の格差を縮小させようという考え方で改定が行われてきたところでございます。
格差縮小方式の下で改善してきた生活扶助基準について、昭和58年の中央社会福祉審議会において、「変曲点」という概念を用いて家計調査を所得階層別に詳細に分析・検討した結果、当時の生活扶助基準は、一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準との評価がされてございます。
変曲点の概念につきましては、次の4ページを御参照いただきたいと思います。ページの左下を御覧いただければと思いますが、変曲点の概念を記載してございます。2つ目のポツを御覧いただきますと、社会的に必要不可欠な消費水準があると仮定をいたしますと、所得が減っていっても、この消費水準を維持しようとするが、ある水準の所得を超えて低くなると、この消費水準を維持できなくなり、急激に消費水準が低下する。そのため、このような変曲点が生じるというような解釈ができるということでございます。
この変曲点を境といたしまして、それ以下の水準では最低生活を営むことが難しくなるものと考えられるといった考え方が、変曲点における消費水準を最低限度の生活を維持するための水準とするという考え方でございます。
また、次ページを御覧いただきまして、5ページ目には、昭和58年当時に家計調査のデータを用いて、当時の標準世帯である勤労者4人世帯について、年間収入階級50分位別に消費支出額を分析し、変曲点の分位を2.99分位と算出していたものをお示ししてございます。
3ページにまた戻っていただきたいと思います。
四角囲みの中の2つ目の○の「具体的には」の段落を御覧いただければと思います。変曲点の分位である年間収入階級第2.99分位における消費水準と生活扶助基準が均衡しているということから、当時の生活扶助基準はほぼ妥当な水準に達しているという評価を行ってございます。このように、水準均衡方式を導入した当時においても、生活扶助基準は低所得世帯における消費水準と均衡の取れる水準となっていたところでございます。
昭和59年度以降、生活保護において保障すべき最低生活の水準は、一般国民生活における消費水準との比較における相対的なものとして設定すべきといった基本的な考え方の下で、一般国民の消費実態との均衡上妥当とされた水準、実際には低所得世帯の消費水準と均衡の取れる水準でございますが、これを維持する水準均衡方式により、一般国民の消費動向を踏まえて改定を行うことが必要であるとされてございます。
水準均衡方式を導入した当時は、国民の生活水準は今後も向上すると見込まれたことを踏まえまして、当該年度に予想される一般国民の消費動向に対応する見地から、政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びに準拠して生活扶助基準を改定するということが妥当とされてございました。
この点に関しましては、その下の※の部分に補足を書いてございますが、毎年の改定の指標としまして、一般国民の消費動向を参照していたということの背景には、政府経済見通しにおいて、低所得世帯の消費支出の伸びの見通しを把握することができないといった事情もあったのではないかと考えてございます。
続いて6ページを御覧いただければと思います。
昭和59年度以降、生活扶助基準については、毎年度の政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びを基礎とする改定方式が取られてまいりました。こういう中で、生活保護制度の在り方に関する専門委員会では、平成15年当時、デフレ状況となっていたことも踏まえて、改めて生活扶助基準の評価が行われてございます。
その際、生活扶助基準の評価は、年間収入階級第1・十分位の世帯の消費水準に着目するということが適当とされてございました。
また、同委員会において、生活扶助基準の改定方式の在り方について議論が行われまして、民間最終消費支出の伸びについては、見通しがプラスとなっても、実績ではマイナスになるといったような形で、安定していないということなどを踏まえまして、改定指標の在り方について検討が必要とされてございました。その際、国民にとって分かりやすい指標として、消費者物価指数の伸びも改定指標の一つとして用いることも考えられるとされていたところでございます。
なお、※の部分にございますとおり、毎年の改定に当たって参照する適切な指標については、その後も現在に至るまで審議会としての結論は出てございませんで、平成17年度以降、消費増税対応を除き、毎年の改定は行われていないという状況でございます。
7ページを御覧ください。
平成16年の生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書において、いわゆる水準均衡方式を前提とする手法により、標準世帯である勤労3人世帯の当時の生活扶助基準について、低所得世帯の消費支出額との比較において、検証・評価した結果、その水準は基本的に妥当と評価をされてございます。また、今後、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているかといった点を、全国消費実態調査などを基に5年に一度の頻度で検証を行う必要があると、このようにされていたところでございます。
平成19年の生活扶助基準に関する検討会においては、水準均衡方式の下で、生活扶助基準の評価・検証は、第1・十分位の消費水準と比較することが適当とされたところでございます。
8ページを御覧いただければと思います。
平成23年に生活保護基準部会が設置されてございますが、その部会において、下の表にございますとおり、平成25年、平成29年、それから令和4年と3回の定期検証が行われ、報告書がまとめられてございます。いずれの定期検証においても、生活扶助基準は、一般国民の消費実態との均衡上の妥当な水準を維持する水準均衡方式という考え方の下で、一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているかという観点から検証を行うことが基本とされてございます。具体的には、一般低所得世帯として年間収入階級第1・十分位を設定し、検証・評価を行ってきたところでございます。
続きまして、デフレ調整で用いた生活扶助相当CPIの計算方法に関する資料でございます。
10ページを御覧いただければと思います。
平成25年の基準見直しに用いた生活扶助相当CPIの基本的な考え方を示した資料でございます。
上の四角囲みを御覧ください。生活扶助は、食費や水道光熱費といった基礎的な日常生活費を賄うものでございます。
従来、生活扶助基準について消費実態との比較検証を行うに当たっては、生活保護制度上の取扱いを踏まえまして、消費支出項目のうち生活扶助によるべき需要に相当する項目を生活扶助相当として検証に用いてきたといった経緯がございます。
平成25年の基準見直しにおきましてCPIを用いる際には、この取扱いを踏まえて、生活扶助に相当する消費品目のCPIを見ることとしてございます。
総務省が公表するCPIは、品目別の価格指数の加重平均によって計算をされてございますが、生活扶助相当CPIは、その総務省のCPIを構成する品目のうち幾つかを除いて算出したということでございます。
3つ目の○のマル1、マル2にございますが、1つ目としましては、家賃、教育費、医療費など生活扶助以外の扶助で賄われる品目、2つ目としましては、自動車関係費、NHK受信料など原則生活保護受給世帯には生じない品目、こういった品目を除いて算出した。これが生活扶助相当CPIでございます。
参考資料1では、品目別のウエイトや価格指数を含めまして、この生活扶助相当CPIの詳細な計算方法が分かる資料を掲載してございます。必要に応じて御参照いただければと思います。
平成25年当時に実際に算出した生活扶助相当CPIは、この10ページ右下の表にございますが、平成20年平均で104.5、平成23年平均で99.5となってございまして、平成20年から23年にかけての生活扶助に相当する物価は4.78%下落していたといった結果になってございました。
11ページを御覧ください。
生活扶助相当CPIの計算において、平成22年基準のウエイトを用いた理由を整理してお示しをしてございます。
総務省消費者物価指数(総務省CPI)のウエイトのデータは5年ごとに改定されてございまして、平成25年基準改定が検討された当時は、総務省CPIのウエイトのデータとして、平成17年以前の基準によるもの、それから平成22年基準によるもの、こういったものが存在してございました。
国民の消費の内容は経時的に変化をするということでございますので、現実の消費実態を反映した物価指数を算定するためには、物価指数の算定時点に可能な限り近接した時点の消費の構造を示すデータを用いることが適当と考えまして、総務省CPIにおける平成22年基準の品目別ウエイトを用いたということでございます。
それから、物価変動率を算定する期間を平成20年から23年までとした理由についても整理をしてございます。
デフレ調整の目的は、平成20年以降のリーマンショックの影響を大きく受けた経済情勢によって生じた生活扶助基準の水準(絶対的な高さ)と一般国民の生活水準との間の不均衡を是正することにありました。
また、当時の経緯としましては、平成19年検証において、生活扶助基準の水準が一般低所得世帯の消費水準と比較して高いという結果が得られてございまして、生活扶助基準の水準を引き下げる必要性が認められていたという状況でございました。
ただ、その一方で、平成20年当時の原油価格の高騰等を含む社会経済情勢などを総合的に勘案いたしまして、同年度の予算編成において生活扶助基準の水準を据え置くという判断を行ったという経緯がございます。
この定期的な検証を踏まえた改定の経緯、それからデフレ調整の目的を踏まえまして、平成20年を物価変動率を算定する期間の始期としたところでございます。
また、平成25年基準改定が検討された当時におきましては、最新の総務省CPIのデータは平成23年であったということを踏まえて、物価変動率算定の終期については平成23年としたところでございます。
最後に、生活保護受給者に対するアンケート調査の資料を御用意してございます。
13ページを御覧いただければと思います。
厚生労働省において、生活保護受給世帯における家庭の生活実態及び生活意識調査を実施してございます。平成25年基準改定の前後では、平成22年と平成28年に調査を実施してございます。
その結果を13ページ~21ページに掲載をしてございます。この資料は、第30回生活保護基準部会においてお示しをしたものでございまして、その中から抜粋をしたものでございます。サンプル数は約1,000世帯となってございますので、この点は結果を見る際に御注意をいただきたいと考えてございます。
調査の内容でございます。【普段の生活について】の項目が13ページ、14ページにございます。【耐久消費財の保有状況】については14ページ~16ページ、【親族・近隣とのお付き合いについて】の項目は16ページ~17ページ、【レジャーや社会参加について】の項目は17ページ~19ページ、貯蓄の状況そのほか【家計の状況について】の項目は19ページ、【育児・子育て・子どもの教育について】の項目は20ページ~21ページにそれぞれ掲載をされてございます。
なお、家庭の生活実態及び生活意識の調査は、生活保護受給世帯に加え一般国民に対しても実施をしてございます。令和4年の調査結果が最新のものとなりますけれども、一般国民の結果と生活保護受給世帯の結果を比較できるような形で、参考資料2に結果を掲載してございます。必要に応じて御参照いただければと思います。
また、参考資料3としましては、平成25年1月18日付の生活保護基準部会報告書を掲載してございます。こちらについても必要に応じて御参照いただければと思います。
資料1につきまして、事務局からの説明は以上となります。
委員の皆様からのお求めに沿った資料となっているか、あるいは現時点でさらに事務局で用意すべきと考えられるような資料があるかなど、御意見をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○岩村委員長 ありがとうございました。
ただいま事務局から、資料1について御説明をいただいたところでございます。これにつきまして、御意見、御質問などありましたらお願いをしたいと思います。
太田委員、どうぞ。
○太田委員 どうも御説明をありがとうございました。
最初の問題であった一般国民と一般低所得世帯との概念に関してお伺いしたいと思います。素人としての質問ですけれども、全体のストーリーとしては、一般国民の消費実態との均衡上妥当とされた水準の保障を図ると言いながら、昔から低所得世帯の消費水準と均衡の取れる水準の保障を図ろうとしてきた、とりわけ2003年(平成15年)改定以降は、第1・十分位を念頭に置いて見てきたのだというストーリーに聞こえたのですが、ちょっと腑に落ちないところがあります。昭和58年の報告書の抜粋を見ても、低所得世帯の生活実態を常時把握しておくこととは言っているのですが、低所得世帯の消費支出の伸びの見通しを把握できる指標はないということもあり、結局、一般国民の消費水準との調整を図ってきたと読めます。実際、今日は言及されませんでしたけれども、私が聞いた説明だと、一般国民消費水準の7割ぐらいという説明もされてきたところです。
そうした後で、今は第1・十分位を中心とする低所得世帯を見ているというときに、そこで入れ替えが起こっていないか。その入れ替えはいつ、どのように起こったのか。あるいは、入れ替えたつもりも本当はなくて、やはり一般国民の生活水準との均衡を図るのだけれども、要は補助手段として第1・十分位を使っているということではないのかという気がいたします。
参考資料3で、平成25年のときの基準部会の報告書をつけてくださっているわけですが、最近の令和4年の基準部会の報告書を見ても、「はじめに」の2つ目の○で、一般国民の消費実態との均衡上妥当な水準を維持するようにしていると言った上で、しかし、基準部会においては、一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているかを見極めるため、専門的かつ客観的に検証していると言っています。このようになっていて、どうもバランスが違うというか、前の説明は否定しないのだけれども、後ろの低所得世帯に注意するというような説明になっていて、その間の移行を全然説明していない、あるいは移行したのかさえ怪しい説明をしているわけです。この点はどう理解したらいいのかというのが1点目です。
それから、もう一つ、昭和58年の中央社会福祉審議会の説明は、一般国民の消費水準と低所得世帯の消費水準が一定の平行的な動きをしてくれないと成り立たないわけです。要するに、例えば格差がどんどん広がって、平均生活水準は上がるのだけれども、第1・十分位の生活水準はそこまで上がらないというようなことになったときに、その第1・十分位だけ見ていていいのかという問題は論理的に生じるはずなのですが、そこの部分はどういうふうに考えてこられたのかということを教えておいていただきたいと思います。
前回の議論の関係もあって、老齢加算の2月最判を読み直していきますと、老齢加算を廃止したときには、厚労省は前提として一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当だと言っている。生活扶助の水準は、一般国民の消費水準7割で推移してきた。平成13年度には71.9%、同14年度には73.0%に達しているということを最高裁は事実のところでまとめています。ということは、厚労省は、老齢加算を廃止するときにはこういう把握をしていたのです。その点からすると、どうも今回は、今はもう低所得世帯しか見ないのですと、水準均衡方式の内容を入れ替えて説明されているようで、どうもそこはやや都合よく今のことに引っ張っておられるのではないか。変えたのか、変わらないと思って今のことをやっているのか、あるいは格差が広がってしまったときにどうするつもりだったのかとか、そこら辺のことを補充で教えていただくか、それを説明する資料を出していただきたいと思います。
長くなりましたが以上です。
○岩村委員長 ありがとうございました。
続けて嵩先生、どうぞ。
○嵩委員 ありがとうございます。
私はもう少し一般的なお話になってしまうのですけれども、第1回の私の意見を受けて、丁寧に資料を御準備くださって誠にありがとうございます。今回示していただいた資料を踏まえて、生活扶助基準に関する比較対象についての考えを整理したいと思っています。
まず生活保護法の8条2項にて、保護基準設定において満たすべき最低限度の生活の需要というのが厚生労働大臣の判断の外に客観的にあって、行政裁量を規律しているのではなくて、最低限度の生活の需要が何であるかを含めてというか、それを中心として厚生労働大臣の裁量的判断に委ねられているというのが最高裁の理解だと思います。それであるがゆえに、最高裁が厚生労働大臣判断の過程を今回は厳格に審査する姿勢を見せたのかなと思っています。
その最低限度の生活ですけれども、これがまた最高裁は、相対的概念で、一般的な国民生活の状況との相関で判断、決定されるべきということになっていまして、比較対象とすべき一般的な国民というのはどのように切り取るかということについても、これは厚生労働大臣の裁量に委ねられているのだと思いますけれども、今、太田委員からも御指摘がございましたが、ここでの判断がその後の基準改定に対して非常に基礎的な統計資料を提示して判断を左右することになるので、どういう人を比較対象にするのかというのは非常に重要だと思っております。
この点について、今回の最高裁判決では、反対意見や、前回提出された伊藤参考人の意見書では、一般低所得世帯の消費水準を比較対象とすることの合理性に疑問が示されているところです。今、太田委員からも、その点についてというか、今回の説明について、どうなのかという御指摘もありましたけれども、ただ、今回の最高裁判決は、一般国民と一般低所得世帯の区別についての問題視は特段明示的にはしていないようにも見えますので、今すぐ一般低所得世帯を見直す必要性が直ちに生じているかというと、そうではないかもしれませんし、見直すとなると、連続なのか不連続なのか分からないですが、今までとまたちょっと違ってくるので、また十分な説明が必要となると思います。比較対象として一般低所得世帯を維持するというか、今までずっとそうでしたという御説明だったので維持すると申し上げますけれども、それを維持するとしても、これに対立する御意見がこの専門委員会に提出されている資料の中にも出ていますので、その点でもう一度、比較対象が何かは非常に重要だと思いますので、それに対する意見も踏まえて十分検討していく必要があると思っております。
今回の資料についての補足などについては、今、太田委員から御指摘いただいたとおり、もし補足いただければありがたいと思います。
以上となります。
○岩村委員長 ありがとうございます。
事務局のほうでコメントなりがあればと思います。お願いいたします。
○榎社会・援護局保護課生活保護統括数理調整官 御質問ありがとうございました。
説明が分かりづらいところもあったかと思います。大変恐縮でございます。
まず、何か考え方を途中で変えたのかといった御質問につきましては、委員御指摘のとおり、低所得世帯というところに着目をするのか、あるいは一般国民というような見方でいくのかというところがございますけれども、特段これまでの過程の中で我々政府側として考え方をどこかで変えたということはないと理解をしてございます。
ただ、考え方が恐らく難しい、混乱しやすいだろうなと思われるところとしましては、一般国民の消費実態との均衡上妥当とされた水準が、実際に見ているところは低所得世帯なわけでございますけれども、低所得世帯をピンポイントで見るという見方と、あるいは一般国民全体を見た中での階層というような見方、この両方が恐らく見方としてあり得るのではないかなと考えてございまして、前者の視点でいけば、低所得世帯のところにより集中をした見方になろうかと思いますし、後者でいけば、一般国民全体を見ながら、その中での階層というような見方にもなっていくのだろうと思います。
このどちらが正解かというところでは、どちらも考え方としては取り得るということでやってきたのではないかと考えてございますので、一般国民を基本とするというところも当然原則としてございますし、そういう中で実際、実務的な作業という点では、第1・十分位を見て、低所得世帯の水準と比較してきたということもございますので、どちらか一方が正しいということでもなく、両面見てきたというような形ではないかなと理解をしてございます。
それから、2点目に御質問いただいた点としましては、政府の民間最終消費支出で伸ばしていった場合に、言わば低所得世帯の方々の動きと必ずしも一致しないのではないかと。その結果、一般国民と低所得世帯、あるいは生活保護世帯との間の格差が広がる可能性もあるのではないかというような御指摘、この点についてどう考えるかといった御指摘もあったかと思います。
この点はまさに御指摘のとおりではないかと考えてございますが、例えば資料1の3ページ目の中で、昭和58年の意見具申抜粋を記載してございます。そちらを御覧いただければと思いますが、特に1(3)の「しかしながら」の段落になります。その最後のところになりますが、生活扶助基準の妥当性についての検証を定期的に行う必要があるというようなことも書いてございます。すなわち、一時点で水準の均衡が確認されたと。それ以降も政府の民間最終消費支出で伸ばしたというようなプロセスを続けていったときに、まさに太田委員から御指摘のあったような、ずっとそれで均衡が続けられるかという保証が必ずしもないというところがあろうかと思いますので、そこを踏まえて定期的に検証をする必要があるというような文言が入っていったのではないかと思います。
実際、平成15年においてもこういった観点から議論がされまして、改めて水準の均衡を確認した上で、さらに平成16年の報告書の中では、5年に一度の定期的な検証をしましょうという形につながっていったということで、まさに御懸念の観点を踏まえて、定期的にしっかり見ていこうという話になったのではないかと理解をしてございます。
お答えになっていない部分もあるかと思いますけれども、一旦以上でございます。
○岩村委員長 ありがとうございました。
私から追加の質問で、先ほどの太田先生の御質問に関連して、老齢加算の訴訟では、一般国民の消費水準の70%というのが数字として出てきたというのがあるのですが、70%という数字を具体的に検証の際に使ったことがあるのかということと、それから、今日の資料では分からないのですが、これまで出てきた報告書の中で、国民の一般的な消費水準というものとの検証を具体的に行った例があるのかどうか。つまり、第1・十分位のところの低所得者層との比較ということではなく、一般国民の消費水準と低所得者の消費水準との比較というか、それのチェックを具体的に報告書の中でやったケースがあるのかというのを、今すぐお答えは難しいかもしれませんが、もし分かるようであれば御教示いただければと思います。
○加藤社会・援護局保護課長補佐 事務局でございます。
これまで一般国民の消費支出と被保護世帯の消費支出の格差というところは、参考資料として見てきたというような経緯はございますけれども、その格差、例えば7割ということで基準を評価あるいは設定したということはないと認識しております。
また、一般国民の消費と低所得世帯の消費との比較というところを検証の中で使ってきたかというところでございますが、これまでの生活保護基準部会の中でも、基本的には、低所得世帯として第1・十分位というところが生活扶助基準の比較対象の所得階層として適当とされてきたところです。第1・十分位が適切かどうかを確認する指標としまして、中所得層の消費支出と第1・十分位の消費支出の比率が5年ごとの全国家計構造調査の中で大きく変化していないか、平たく言うと格差が拡大していないかなど確認しており、第1・十分位が適切かをその都度確認してきたという経緯がございます。
以上でございます。
○岩村委員長 ありがとうございます。
そうしましたら、次回以降、具体的に報告書のその部分とかを抜粋で資料としてお出しいただけると大変ありがたいなと思います。
ほかにはいかがでございましょうか。
私のほうから、生活意識調査で、購入物品を正確に分けつつ、細かい項目が挙がっているというのは、資料として出していただいてありがとうございます。
1点、今回の最高裁判決に至るまでの訴訟の過程の中で、生活扶助相当CPIは相当論点になったところでありますけれども、1つ、テレビの価格、物価というのがかなり争点になったのですが、生活実態及び生活意識調査のほうでは、耐久消費財のところにテレビというのが出てこないのですが、これは調査していないということなのでしょうか。
○加藤社会・援護局保護課長補佐 事務局でございます。
平成28年においては調査していないということで、テレビの保有に関する比較の結果は掲載していないところでございます。
直近の令和4年の調査におきましては、テレビについても把握をしておりますので、参考資料2の18ページで、テレビの保有率について掲載させていただいております。
○岩村委員長 ありがとうございます。
そのほかいかがでしょうか。
嵩先生、どうぞ。
○嵩委員 何度も申し訳ございません。
11ページのところで、平成19年検証においてと書いてあって、ここは生活扶助基準の水準が一般低所得世帯の消費水準と比較して高いという結果が得られていて、生活扶助基準の水準を引き下げる必要性が認められたことも踏まえつつも、平成20年当時の原油価格の高騰等を含む社会経済情勢等を総合的に勘案して据え置いたということなのですけれども、このように一般低所得世帯の消費水準は、一つには参考資料というか、それが絶対的なものではなくて、中心的な資料だけれども、それ以外に原油価格の高騰といったほかの事情も加味して総合的に判断しているということで、こういった判断は、平成19年のときはされていますけれども、それ以外にも行われているのか。このときに、原油の価格とか物価みたいなものも一緒に資料として出して、それを総合的に評価したのかということをお伺いしたいと思います。
○岩村委員長 事務局、いかがでしょうか。
○榎社会・援護局保護課生活保護統括数理調整官 大変恐縮ですけれども、今、手元に確認できる資料がございませんので、後ほど確認して、何らかの形でお答えをさせていただきたいと思います。申し訳ございません。
○嵩委員 ありがとうございます。
○岩村委員長 ここの表現を見ると、部会なりでの検証結果を受けて、最後、政策判断で据え置いたと読めるのですが、それはそうとして、それでいいのかどうかというのはあるのですが、平成19年検証のところも、報告書があれば資料としてお出しいただけるとよろしいかなと思います。
今、お手が挙がっている村田先生、どうぞ。
○村田委員 どうもありがとうございます。
私は、マイナス4.78の計算の仕方について質問させていただいたので、今日は詳細に説明していただきまして、よく分かりました。ありがとうございます。
1つ確認なのですが、スライド11の2つ目の○で、CPIの平成22年基準を用いた理由として、国民の消費の内容は経時的に変化することから、現実の消費実態を反映した物価指数を算定するためには、物価指数の算定時点に可能な限り近接した時点の消費の構造を示すデータを用いることが適当と考えられたことから、新しい基準の品目別ウエイトを用いたと説明がありまして、そのときのウエイトについても今回資料につけていただいているのですけれども、そうすると、先ほども議論がありましたが、品目別となると、一般国民のCPIのウエイトが公表されているということで、もちろん品目についてこの扶助項目は除くといった作業は行われていますが、ウエイトそのものを検討するといった、例えば一般国民と低所得世帯で食料品が多いとかは一般論としては認められているのですが、そういうことについては特に考慮することはなく、総務省が公表されているウエイトとしてこちらを採用したという理解でよろしいでしょうか。確認のお願いです。
○岩村委員長 ありがとうございます。
では、事務局、お願いします。
○榎社会・援護局保護課生活保護統括数理調整官 今の村田委員の御理解のとおりになろうかと思います。実際、生活扶助相当CPIを計算する際のウエイトにつきましては、いわゆる一般国民のウエイトを用いて計算をしてございます。
その背景としまして少し補足をさせていただきますと、一般低所得世帯を何らか勘案できるウエイトというものが考えられるのではないかという御指摘、そういった御趣旨だったのではないかと思いますけれども、総務省が公表されている消費者物価指数の各系列の中からでは、こういった個々の品目を除くという操作ができる指標としましては、低所得世帯を対象にしたものではなかなかそこまでの操作ができないという事情もございました。消費者物価指数の系列の中には、例えば第1・十分位に限定したような系列もたしかあったかと思いますけれども、そういったものではある程度大きな分類の内訳しかないということで、今、参考資料1にお付けをしているような個々の品目ごとに抜いたりというような操作がなかなかできないと。そういう事情も踏まえて、低所得世帯のウエイトについては採用には至らなかったというところでございます。
ただ、一方で、先ほど資料1の冒頭でも御説明をさせていただきましたが、一般国民を基準にするという考え方も、これはこれで生活保護基準の言わば原則的な考え方に沿うというところもございますので、そういった点も勘案しつつ、結果としましては、一般国民のウエイトを用いるに至ったということでございます。
以上です。
○岩村委員長 ありがとうございます。
村田先生、よろしいでしょうか。
○村田委員 ありがとうございます。
○岩村委員長 ありがとうございます。
ほかにはいかがでございましょうか。
若林先生、どうぞ。
○若林委員 ありがとうございます。若林です。
生活保護世帯に関するアンケートについて御説明いただき、ありがとうございました。その上で、1点質問させていただきます。
今回の調査では、一般国民、一般低所得世帯、生活保護世帯の三つを比較することになっていると思います。例えば昭和58年の家計調査の例では、標準世帯である勤労者4人世帯の消費実態が示されています。しかし実際には、一般国民、低所得世帯、生活保護世帯では家族構成が異なっているはずです。
その点について、具体的な計算を求めるということではなく、世帯構成に違いがあることをある程度明示しておいた方がよいのではないかと考えます。先ほどのウエイトの話や消費の違いにも関連しますが、世帯構成の違いを表などで丁寧に示していただければ、誤解が生じにくいのではないかと思いました。
以上です。
○岩村委員長 ありがとうございます。
事務局のほうで、今の御要望にどう応えるかは検討いただければと思います。ありがとうございます。
ほかにこの資料についての御意見、御質問等ございますでしょうか。
よろしければ、1番目の資料1についての質疑はこのくらいにさせていただきたいと思います。
お手元の議事次第の2番目「平成25年生活扶助基準改定に関する最高裁判決を踏まえた検討について」に移らせていただきたいと思います。
これについても事務局のほうで資料を用意いただいていますので、まずその説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○千田社会・援護局保護課長補佐 社会・援護局保護課の千田と申します。
私のほうから、資料2「平成25年生活扶助基準改定に関する最高裁判決を踏まえた対応について」を説明させていただきます。よろしくお願いいたします。
まず1ページを御覧ください。
1ページにつきましては、前回、第2回専門委員会資料でお示しをさせていただきました論点の再掲でございます。
2ページ以降につきましては、第2回専門委員会において委員の先生方から御指摘をいただきました内容について整理を行った資料となってございます。
再掲となりました前のページの論点に沿って、第2回専門委員会の議論において御指摘いただいた事項の概要について、事務局として整理を行ったものでございますが、この内容について修正あるいは補足すべき点、その他議論すべき論点等ございましたら、本日この場で御指摘をいただきますようにお願い申し上げます。
まず1つ目の論点でございます。今回の最高裁判決の趣旨をどのように受け止めるかに関していただいた御意見の概要でございます。以下、読み上げをさせていただきます。
1点目、今回の判決は、ゆがみ調整については適法としており、デフレ調整については、改定当時、生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間に不均衡が生じていると判断したことは許容しており、それを国家賠償請求における違法性を否定する理由に使っている。その点において、前の基準で差額を支払うということまでが決まる判決ではなく、差し戻しタイプの判決なのではないか。
2点目でございますが、論点はデフレ調整に当たるものを再度行えるかどうかであり、逆に、前提として、ゆがみ調整については2分の1処理を含めて再度行うことは可能なのではないか。
3点目、ただし、最高裁は前訴での主張が十分でなく、物価は一指標にすぎないと指摘しており、また、紛争の蒸し返しは厳しく見られる。反復禁止効は、厳密には同一内容の処分に及ぶものであるため、デフレ調整と同一のものでなければよいのではないかとの疑問があるが、紛争解決の観点からは、「同一内容」をおおらかに見るべきではないか。
4つ目の○でございますが、デフレ調整に当たるものを再度行うのであれば、それなりの論拠が必要ではないか。新しい資料が出てきたとしても、訴訟に出せたものなのかどうかが問題となるし、新しい資料で過去に遡って再度改定することができるのかどうか。再度行うのであれば、判決の趣旨を踏まえて考えるよう最高裁は指摘しているのではないかといった御意見がございました。
続いて、2つ目の論点でございます判決の法的効果及び当該法的効果を踏まえた対応の在り方に関するいただいた御意見の概要でございます。
まず、判決の既判力が及ぶ範囲につきましては、○が2つございますけれども、1つ目、主観的範囲として、原告以外に原則及ばないのはそのとおりだが、仮に基準改定をもう一度やり直すとなった場合、原告と原告以外では分けられず、原告でない方にも給付するということを考える必要がある。
2つ目の○でございますが、既判力は、新たな処分には及ばず、例外的には国家賠償に及ぶというのはあるが、本件では国賠は認められていないので、その作用については検討する必要はなく、拘束力としての人的範囲、第三者効を検討すればよいのではないかといった御意見がございました。
3ページにつきましては、2ページの続き、2つ目の論点の続きでございますが、まず、判決主文において、原告に対する保護変更決定処分が取り消されたことによる法的効果(形成力)につきましては、○1つで整理をしておりますけれども、職権による不利益処分が取り消されているので、形成力により処分前の状態に戻っていることは間違いなく、それを前提に議論が必要といった議論があったかと承知をしてございます。
続いて、判決理由において、デフレ調整に係る判断及びゆがみ調整に係る判断が示されたことによる法的効果(拘束力)につきましては、○を4点ほど記載してございます。
1点目につきましては、生活保護法8条2項を考慮して、処分のやり直しを行うことができるとしたら、判決の理由でデフレ調整が違法とされたことに拘束力が及ぶ。理由・内容が異なる処分には拘束力は及ばないことが原則なので、デフレ調整に相当するものを再度実施する余地がないわけではないが、現実問題として、前訴の口頭弁論終結時までに主張し得た内容を使って実施することについては、一般条項(信義則や権利濫用)との関係も含め、慎重な検討が必要。
2点目の○については、ゆがみ調整については、処分の違法性を直接根拠づけるものとはされていないので、拘束力は及ばない。生活保護法8条2項を考慮すると、やり直す余地はある。
3点目でございますが、再度改定を行うのであれば、生活保護法8条2項を踏まえる必要があり、最高裁が認めているゆがみ調整は2分の1処理も含めて実施するのではないか。
最後の○でございますが、人的範囲については、今回の最高裁判決の対象となった大阪訴訟と名古屋訴訟の当事者の原告について拘束力が及ぶのは異論の余地はないが、他の訴訟の原告、訴訟を提起していない者には、直接は拘束力は及ばず、司法判断の尊重や司法に対する行政の敬譲の観点から検討する必要がある。仮に今回の最高裁判決の趣旨に合うように基準改定されたならば、告示の効力として、原告に限らず被保護者一般に及ぶと考えられるといった御意見がこの点に関してございました。
2つ目の論点の最後でございます。判決の形成力・拘束力の内容と、実体法の規律(生活保護法の規定)との関係につきましては、1つの○でまとめておりますけれども、原処分が取り消されたことを受けて、従前の処分に基づいて遡及的に保護費を支給するかどうかは、生活保護法8条2項の上限の規律を考慮する必要がある。令和3年の最高裁判例で、拘束力による行政庁の義務は法令上の権限があるものに限られるとする一般論が示されており、生活保護法の権限の範囲内で義務が生じることになる。生活保護法8条2項が上限を定め、それを超えてはならないとする制約を定めているならば、当時の被保護者の期待的利益について改めて議論する必要があるのではないかとの御議論でございました。
4ページを御覧ください。
3つ目の論点でございます。その他、今回の最高裁判決を踏まえた対応の在り方を検討するに当たって、どのような論点が考えられるかでございますが、3つ○を掲げております。
1つ目については、仮に追加給付を行うこととした場合、平等原則の観点から、外国人に対しても行う必要があるのではないか。
2点目でございます。既に死亡している原告については、朝日訴訟判決の判例法理を用いれば、追加給付を行う必要はないのではないか。
3点目でございますが、保護を途中から離脱した人に追加給付を行うべきかどうか、議論が必要ではないかといった御意見がございました。
なお、事務局から前回提示させていただきました論点に直接関係するものではございませんが、その他の御意見として記載をしてございますが、仮に追加給付を行うこととした場合、福祉事務所が計算して支払う必要がある。この委員会で議論するべきものかは分からないが、厚労省においては、実現可能なオペレーションを今のうちから考えておいていただきたいといった御意見もございましたので、資料として記載をさせていただいております。
続きまして、5ページ以降でございます。
5ページを御覧いただきますと、改めまして、生活保護法の関連規定に関する資料になってございます。
このページは、生活保護法の3条、それから8条2項の規定及びその解釈に関する内容でございますが、まず3条におきましては、この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないと規定をされてございますが、同条にいう生活水準というのは、注釈に記載がございますけれども、消費生活の具体的内容を指す言葉で、消費生活がどのような仕方で営まれているかをその内容としていると解されております。
また、同条におけます健康で文化的な生活水準とは、今般の最高裁判決におきましても、抽象的かつ相対的な概念であって、その具体的な内容は、その時々における経済的・社会的条件、あるいは一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断・決定されるべきものと判示をされてございますが、ここにも書いてありますとおり、固定的なものではなく流動的なものであると解されているところでございます。
また、8条につきましては、前回も御議論がありましたけれども、趣旨にも解説を記載しておりますとおり、まずその要旨としては、1項において、厚生労働大臣が保護の基準を定めるとともに、2項において、最低生活の需要を満たすに十分かつこれを超えないものでなければならないとするものでございまして、大臣の定める基準の解釈といたしましては、一般的には各種類の保護について定められて、告示されるものを例とするとともに、当該告示については2項の要件を満たすものでなければならないと解されているところでございます。
6ページを御覧ください。前のページからの続きでございます。
前回会議でも御説明を申し上げたとおり、56条において不利益変更の禁止が規定されているところでございます。
規定のとおり、被保護者は、正当な理由がなければ、既に決定された保護を、不利益に変更されることがないとする規定でございますが、ここでいう正当な理由につきましては、ポツの一番下にありますとおり、法8条の基準及び程度の原則及び9条の必要即応の原則に基づき行われるところの法25条2項の職権による保護の変更等が当たると解されているところでございます。
なお、参考にも付けさせていただいておりますが、平成24年2月28日の老齢加算廃止に係る最高裁判決においても、この56条の関係が判示の中に言及がございますけれども、保護基準自体が減額改定されることに基づいて保護の内容が減額決定されるような場合については、同条が規律するところではないと言うべきといった内容もございましたことから、併せて申し上げたいと思います。
最後、7ページを御覧いただきますようにお願いいたします。
第2回専門委員会の御議論を踏まえた本日の追加の論点に係る資料でございます。文字が小さくて恐縮でございますが、読み上げさせていただきます。
まず、今般の最高裁判決の趣旨及びその法的効果を踏まえた対応の在り方と、生活保護法8条2項の規律の関係性について、例えば4つポツがございますが、この資料に記載のような点についてどのように考えるかでございます。
まず、ポツの1点目でございます。デフレ調整について、「本件改定当時、生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間に不均衡が生じていると判断したことにつき、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるとはいいがたい」とされた一方で、「物価変動率のみを直接の指標としてデフレ調整をすることとした点において、その厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用」があるとされたことを踏まえ、行政として、平成25年当時の基準改定に関してどのような検討を行うべきか。
2ポツ目でございますが、ゆがみ調整について、「2分の1処理を含むゆがみ調整に係る厚生労働大臣の判断に、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるとはいい難い」とされていることを踏まえて、再度実施を検討することについてどのように考えるか。
3ポツ目でございます。生活保護法8条2項の規定に基づき、平成25年改定当時の「最低限度の生活の需要」がどの程度であったかについて改めて検討することについてどのように考えるか。
最後、4ポツ目でございますが、第2回専門委員会における議論等を踏まえ、生活保護基準を遡及的に改定することについて、被保護者の期待的利益や既得権、受益的処分の事後的な不利益変更との関係も含め、どのように考えるかといった論点を掲げさせていただいておりますので、改めまして、これらの点につきまして本日、委員の皆様からの御意見を頂戴したいと思います。
それから、2つ目の○でございますけれども、第1回でお示しした論点の再掲でございますが、これまでの議論あるいは判決の法的効果を踏まえて、今後の議論を進めるに当たって必要な材料あるいは資料についてどう考えるかにつきましても、もし御意見がございましたら、改めて御発言をいただきますようにお願い申し上げます。
8ページ以降の参考資料につきましては、第2回でお示しをさせていただきました老齢加算廃止に係る最高裁判決や判決の法的効果に関する資料になってございますので、適宜御参照いただきますようにお願いいたします。
以上で資料2についての事務局からの説明を終わります。御審議のほど、よろしくお願いいたします。
○岩村委員長 ありがとうございました。
ただいま事務局から資料2の説明をいただいたところであります。その説明を伺いますと、最後、7ページでまとめていただいたような論点があるということでございます。
前回までの委員会で、判決の形成力とか拘束力などの法的な効果については一定程度御議論をいただいたところでありますが、今日はその続きということで、もう少し議論を深めることができればと考えております。
私のほうから、どういうことを具体的に議論していただきたいか、資料7ページでも既に事務局のほうで挙げていただいているところでありますけれども、私のほうからもう一度簡単に、繰り返しの部分もありますけれども、お話をしておきたいと思います。
1点目としては、前回も議論になっていたところでありますけれども、反復禁止効の問題でございます。資料の7ページの論点の1つ目の○の最初の2つの黒ポツとしまして、デフレ調整とゆがみ調整の再検討についての論点の提示がございますが、とりわけデフレ調整との関係で反復禁止効の及ぶ範囲はどこまでなのかということです。
それから、その下の2つ目のポツに関することですが、ゆがみ調整との関係で反復禁止効の及ぶ範囲というのはどこまでなのか。これは今後の議論を深めていく上で非常に重要な論点でございますので、改めて委員の皆様の御意見を伺いたいと思っております。
ついでにということですが、委員長という立場ではなく、一委員の立場としてのコメントですけれども、この最高裁判決に至るまでの訴訟の過程で、特に国側が主張してきた理由づけというものについては、同じことを繰り返して処分してはいけないというところは比較的分かっていただけるのだろうと思いますが、それよりも広く、口頭弁論終結時という、専門用語なので分かりにくいのですけれども、口頭弁論の終結時までに主張できたであろう国側の主張なり理由づけというものも反復禁止効などと抵触するので、それはやはり主張ができなくなるというところが、なかなか分かりにくいところなのかなと思います。
私自身の考えとしては、恐らくこれは取消訴訟で行政庁側は、処分の理由の修正とか追加とか差し替えが口頭弁論終結時まではいつでも可能であるというところと結びついているのではないかとは思うところであります。その点も含めて委員の御意見を伺えればと思います。
それから、先ほど3点と申しましたが、どちらかというと4点かもしれないのですが、2点目としては、資料とは順序が逆になるのですが、資料7ページの論点の1つ目の○の4番目の黒ポツにありますけれども、遡及効の問題があるだろうと思っています。生活保護基準を遡及的に改定するということについて、前回の委員会でも、原告関係者の方からのヒアリングで議論になりましたけれども、その点についてどのように考えるかということについて御意見を伺えればと思っています。また、受益的な処分を事後的に不利益に変更するという観点からも、少し御意見いただければと思っています。
これも私の一委員としてのコメントですけれども、私自身も、今回の最高裁判決によって原処分が取り消されて、したがって、基準改定前の状態に戻っていると考えることになると思っています。そうするとある意味、その当時、原告の方々というのは、一定の生活扶助を受けるということについて、こういう表現が適当かどうかは問題かもしれませんが、既得権なりあるいは財産権を持っているのではないか。それを後から変更するというのは、既得権の侵害あるいは財産権の侵害という問題を引き起こすのではないかという疑問は当然生じるだろうなと思っているのです。
他方で、これはこの後の生活保護法の8条2項とも関わるのですけれども、もともとそのときの権利なりが縮減されているもの、あるいは縮減されるべきものというのであれば、そうした既得権ないし財産権の侵害は起きないことになる可能性もあると思っています。
そうしますと、これは7ページの論点の1つ目の○の3番目の黒ポツとして挙げてあります生活保護法8条2項の規律との関係性という問題だろうと思います。条文のとおりなのですが、生活保護法8条2項というのは、保護の基準は要保護者の最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならないと規定されております。
前回の委員会でも、特に老齢加算の最高裁判決の読み方について議論になりましたけれども、保護費の減額または廃止について、8条2項はどの程度の規律を課しているのかという点について先生方の御意見を伺えればと思います。
私自身の一委員としての意見でありますが、今回の最高裁判決もそうなのですが、老齢加算廃止に関する最高裁判決では、資料の9ページの(2)の4行目ですが、仮にということになっていて、老齢加算の一部又は全部について云々、特別な需要が認められないというのであれば、老齢加算の減額又は廃止をすることは、8条2項の規定に沿うところであると言うことができると判示しております。
前回も、これをどう読むかということで議論になったところでありますが、ここに言っている「沿う」という用語は、広辞苑を見ますと、「基準となっているものから離れないようにする」、あるいは「かなう。適応する」といった意味で用いられていると解することができるだろうと思います。
もう一つの最高裁判決が言っていた、「要請である」ということとの表現の違いを考えると、資料の9頁の(2)の先ほど触れた文には主語がないのですが、隠れた主語は、「厚生労働大臣」と解することができますから、厚生労働大臣が老齢加算の減額又は廃止をすることは、8条2項の規定に沿う、つまり「かなう」という趣旨だろうと読めるのかなと思っています。
さらにその後、最高裁判決は続けて、「最低限度の生活」については、結論として、高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とすると言っていますので、8条2項の「かつ、これを超えないものでなければならない」と言っているときの「最低限度の生活」というのは、高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものだということであって、したがって厚生労働大臣のその意味での裁量が認められるということになります。だから、その前のところに戻ると、老齢加算の減額又は廃止をすることは、同項の規定に沿うという言い方をしたのかなと読むことができるかと思います。
ですので、8条2項に言う、超えないものでなければいけない最低限度の生活ということについても、やはり厚生労働大臣の専門技術的な考察と政策的判断による裁量が働くのだということかと理解をしておりますが、他方で、老齢加算廃止の判決の結論を見ると、具体的には激変緩和といったような措置を講じるというところで、厚生労働大臣の政策的な裁量を認めるということになっているのかなと思います。
逆に言うと、恐らくは永続的に最低限度の生活水準を超えるというような形にするということは、8条2項が予定するものではないと読めるのかという気がしているところであります。
私が最初に色々しゃべってしまって申し訳ないのですが、1番目、2番目、3番目、正確に言うと1番目の1と2と3ということになると思うのですが、一個ずつ議論するということでもないと思いますけれども、先に反復禁止効のほうについて、先生方の御意見等を伺えればと思います。その後、遡及効と8条2項のところはまとめて御意見等を伺えればと思います。ということで、まず反復禁止効のほうからとしたいと思いますが、先生方、いかがでございましょうか。
太田先生、どうぞ。
○太田委員 御説明ありがとうございました。
岩村先生の問題意識をきちんと把握できているかどうかよく分からないところがありますので、そういうことを聞きたいわけではないというのであれば、後でおっしゃっていただきたいと思います。まずこの判決を考えるための前提として、行政法学者が言う反復禁止効というのはかなり特定された内容を持っています。つまり、どの範囲で認めるべきかについて争いはありますが、争いの選択肢は2つです。
同一事情の下で、同一内容で、かつ、同一理由の処分をやったら反復禁止効に違反すると考えるのが伝統的な考え方です。それに対して、最近有力で、私もそっちに少なくともこの判決を読むまでは引きずられていた見解として、同一事情で同一内容の処分を繰り返したら反復禁止効に触れるという考え方もあります。このみそは、同一事情、同一内容、別理由でも反復禁止効に抵触すると考える。つまり、範囲が広いということになります。
本件の場合、まず論点になるのは、平成25年に仮に遡って遡及改定をするということであれば、同一事情の下での処分を行うことになるはずなので、そこはクリアします。問題は、同一内容をどの範囲で考えるのかです。今の行政法学は、典型的な例として、懲戒処分を受けて退職金を全額支給制限したところ、そこは考慮の仕方が悪いのでもう一度考え直せと言われたときに、退職金を3分の1減額にするとしたとすると、こういうときには同一内容の処分ではないと思っていたと思うのです。
その考え方で考えると、デフレ調整マイナス4.78%で計算しなければ、つまりマイナス2%ぐらいで計算したら、そもそも同一内容ではないので、反復禁止効には触れないのではないかと考える余地があります。
しかし、同時にもう一つ、反復禁止効というものは取消判決の拘束力から導かれる、ないしは取消判決の既判力から導かれる。いずれにせよ独立には基礎づけられていなくて、根源にある判決効があって、そこからコロラリーとして議論しているということに注意しておく必要があります。
今回とりわけ行訴法の条文もあるので理解しやすいのは拘束力ですが、拘束力は、端的に言うと同じ間違いを繰り返すなということを担保するためのものです。したがって、同一内容ではなくても、同一の間違いを繰り返していたら拘束力違反になります。
今回、デフレ調整をもう一度やる、あるいはほかの事情も考えてデフレ調整に当たるものをやるというときに注意しないといけないのは、この拘束力の裸の表れと言ってもいい、同じ過ちを繰り返していけないということであろうと。まずこういうものが問題になります。
そのときに、同じ過ちを繰り返さないように、別資料を使うということはもちろん考えられるわけです。ところが、取消判決の反復禁止効とか拘束力の範囲を少し拡張的に考えるときに法律家が使うのは、紛争は1回で解決しないといけないという考え方です。それがやはり望ましい。1回で解決するというのは、訴訟になったらその時点で言えることは全部言えという考え方です。
例えば取消訴訟の原告は、請求が棄却された、つまり負けた、取り消してもらえなかった後で、しまった、ああいう違法を言えばよかったんだと思っても、もう遅い。そういうときにやり直してくれとは言えない。
行政も同じです。行政は、行政手続を経ないといけないので、訴訟で新しい理由を出せるかというのをわざわざ論点にしていますけれども、基本は最高裁判決による限りは出せると思っているわけです。出せるというのが基本的に通説です。
そうすると、先ほど言った原告と同じで、こうやっておけば適法性を言えたのにと思ったところで、それが最初の訴訟の事実審理をする段階、これが口頭弁論終結時と言われているものですが、そこまでに使えた資料、言えた主張だったら、基本はやはり後訴では遮断しておかないとおかしいのではないのと考えるわけです。そこの理論構成は若干争いがあるのですけれども、結論においては、あまり争いはない。
ということで、前回言ったことですが、厳密には同一内容の処分に及ぶから、デフレ調整と同一でなければ、それは反復禁止効に違反しないのではないかとは言いましたが、他方において、同じ過ちを繰り返してはいけない、それから、前の訴訟で言えた主張を言うというのは裁判官の逆鱗に触れる可能性が高いということを考えると、デフレ調整の誤りと言われたこと、つまり、物価指標を単純に使ったこと、物価指標を修正するにしても、十分な根拠なく、しかし何となく物価指標をベースに考えてみましたみたいな誤りをやったら、紛争の蒸し返しだと、一回的解決の要請に反すると言われて、負けるのではないかということでございます。反復禁止と言われている考え方は、幾つか理論的背景を持っていますが、差し当たり整理すると以上のようなことになろうかと思います。
実は私より得意なのは興津先生なので、もし補充することがあれば補充していただければ幸いです。
○岩村委員長 太田先生の御指名なので、興津先生、お願いします。
○興津委員 興津です。
今の御説明には、特に付け加えることはございません。大変分かりやすく通説的な立場をまとめてくださったかと思いますので、さらに突っ込んでこういう点はどうかということがあれば追って発言をいたしますが、時間もありますので私からは取りあえず以上です。
○岩村委員長 ありがとうございます。
反復禁止効について、その他いかがでしょうか。
もし何かあればまた戻ってきていただいて構いませんので、2番目、3番目というか、遡及効と生活保護法の8条2項の問題についてに移りたいと思います。関連した論点でもありますので、ここは一まとめということにさせていただきたいと思います。
生活保護法8条2項との関係で、永田先生のほうから御質問を頂戴していますので、永田先生、まずお願いできますでしょうか。
○永田委員 永田です。ありがとうございます。
私が質問しなくても先生方からお答えいただけるのではないかなと思いますが、今回の資料の中で、ゆがみ調整について、最高裁判決の趣旨として、2ページの2つ目の○のところで、前提として2分の1処理を含めて再度行うことが可能であるという、前回の太田委員の発言が引用されています。
この点、特に生活保護法8条2項の解釈について、参考人の伊藤先生と太田委員との間で前回質疑があり、太田先生も、きちんと議論したほうがいいと後で述べられていたと記憶しています。
今回、伊藤参考人の追加資料を見ると、先ほど委員長も言及されていましたけれども、老齢加算訴訟における生活保護法8条2項についての見解が述べられています。この点を検討した上で、改めて法学の先生方から意見を伺いたいのですが、特に私がよく分からなかったのは、伊藤参考人が、最高裁が「要請である」との文言を、「沿うところである」との文言に書き換えた趣旨に着目されて、生活保護法8条2項の超えないものでなければならないというのは、法的拘束力のあるものではないと指摘されています。この点について、ぜひ先生方から見解をお伺いできれば、後の論点の意見に参考にさせていただけるかなと思いますので、よろしくお願いいたします。
○岩村委員長 よろしければ、事務局への質問も続けてお願いいたします。
○永田委員 これは委員長が御提示された法的な論点とはちょっと違うのですけれども、前回、伊藤参考人が意見陳述の中で、検討会で議論すべきことがあるとすればとお断りになった上でですけれども、専門家による検討を経ないでなされた増額分2分の1処理をせず、平成25年報告書のとおり反映すべきか否かについて、検討会議で議論すべきであるというような趣旨のご発言をされていました。
平成25年報告書のとおり調整を行うと、増額となる世帯とともに、デフレ調整を取り消してもなお減額となる世帯が出てくるのではないかと私は認識しているのですけれども、それについて、そのような理解でよろしいでしょうかということを事務局にお尋ねしたいと思います。特にこれは当事者の方への影響という意味でお聞きしたいと思います。
以上2点、よろしくお願いいたします。
○岩村委員長 ありがとうございます。
2点目は、私が後で忘れる危険性があるので、事務局から先にお答えをいただければと思います。
○榎社会・援護局保護課生活保護統括数理調整官 では、2点目についてお答えいたします。
基本的に永田委員の御理解のとおりになろうかと思います。2分の1処理をせずに、平成25年報告書のとおりに反映するという前提で考えたときに、当然2分の1がかからなくなるということで、増額になっていたところはさらに増額が増すと。一方で、減額になるところはさらに減額が増すと。このような影響になろうかと考えてございます。
以上です。
○岩村委員長 ありがとうございました。
永田委員、今の点についてはよろしいでしょうか。
○永田委員 ありがとうございます。
具体的に検討することになったら、ぜひデフレ調整を取り消してもなお減額になる世帯があるのではないかと推察しますので、そういった資料もどこかで出していただけるといいのかなと思いました。よろしくお願いいたします。
○岩村委員長 ありがとうございます。
事務局におかれては、今、御要望のあった資料のほうも、もしできれば準備をしていただければと思います。
それでは、先ほど来、議論することになっています遡及効と8条2項の点について、永田委員からの御質問も含めて御意見等おっしゃっていただければと思います。
恐縮ですが、太田先生から最初に口火を切っていただけるとありがたいです。
○太田委員 手を挙げなければ駄目だなと思っていたところでした。行きがかりがありますので、私からまず御説明いたします。
伊藤弁護士から提出された追加の文書も読み、どう考えるかでございます。結論としては、自分の立場は変えないつもり、変える必要はないだろうと思っています。その理由を、御説明いたします。
まず、前回確かに私は不注意でありまして、老齢加算の最高裁の2月判決が沿うところという表現を用い、4月の判決は要請であるという表現を用いていたのですが、4月最判の差し戻し上告審は、2月最判をベースに書いている、沿うところとしたという指摘は正しいです。
現在、今回の6月の我々が取り組んでいる最高裁の判決も、国家賠償のところにおいて沿うところであるという表現を用いているというのも、そのとおりでございます。
ただ、私の疑問は、そこの違いに大きな意味を見いだす必要があるのかでございます。結論から言うと、多分ないということになります。引き下げるのが義務だというのはなかなかどぎつい言い方でございましたが、あまり変わらないと。
なぜかというと、まず第1に日本語の問題として、先ほど岩村先生もおっしゃったように、沿うところの行動を取るのは、文脈上、厚生労働大臣です。ということは、法に沿うところの行動を取るというのは、やはり基本法の要請であると考えられます。法に沿うところの行動だけれども取るべきでないなどということを法が要請することはあり得ないと思いますので、そこはそもそも日本語として違いを見いだす必要がないだろうと。
2つ補助線があります。まず第1に、最高裁もそこは上品な機関ですので、蕪雑な言い方はしない。今回の判決を見ていても、国民の生活水準と生活保護基準の間に不均衡が生じているという言い方、これは厚生労働省も使っているのですが、それをそのまま使っています。ただ、これは向き付けに言うと、生活保護基準が最低生活需要を超えるものまで保障する水準に達していたと疑って考えている。不均衡というのはそういうことです。でも、そんな蕪雑な言い方はしないのです。ですから、そこを要請だと言うのはどぎつい、沿うところのほうがいいかなと思ったということはあり得るだろうと。
それから、もう一つ、これは伊藤弁護士もそこまで言っているわけではないと思いますが、4月判決と2月判決でやや緊張のある言い方をしているときに、2月判決をベースに考えることにしたのだと、最高裁はそうしたのだと理解するべきかということについて、もう少し気になる点があります。
学説のほうではむしろこちらのほうが注意されてきたのですが、2月判決と4月判決でちょっと気になる違いがございました。それは、沿うところ、要請のほかに、保護基準を設定する際に何を考慮してよいかという部分でございます。2月判決は、保護基準を設定するところにおいて、昭和57年7月の堀木訴訟大法廷判決を先例として指示しつつ、最低限度の生活は抽象的かつ相対的な概念であって、その具体的な内容は、その時々における経済的・社会的条件や一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断されると書いていて、4月判決も同じように引いているのですが、また、これを保護基準において具体化するに当たっては、国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な、しかも高度な専門技術的な考察云々と続いています。
堀木訴訟をそのまま引用しているのは、実は4月判決のほうで、国の財政事情を考慮することを正面から認めているのです。2月判決は、最低生活保障で生活保護基準だから、ここは注意して削ったのだろうと。激変緩和措置のところには考慮することを認めるという書き方をしたのだろうと指摘されています。ここにかなりの緊張があり、4月判決の差し戻し上告審は、2月判決をベースにした書き方になっていたので、つまり、やはり財政事情は考慮しない方向に最高裁は進むのかなと思っていたわけです。このような議論がされています。
ところが、今回の6月判決は、その部分について、実は4月判決に近い書き方をもう一度しているのです。これらの規定にいう最低限度の生活は抽象的かつ相対的な概念であって、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断、決定されるべきものであり、途中は飛ばしますと、同条1項の委任を受けた厚生労働大臣がこれを保護基準において具体化するに当たっては、国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な云々と、こうやってまた戻したわけです。つまり、2月判決と4月判決を強く対立させる必要があるとは、最高裁は今回は思わなかった。4月判決のことを踏まえて、両方ふんわりと同じことを言っている判決文だと思って書いているのだろうと思います。
そういうことを考えると、私は沿うところと要請であるにおいて違いに大きな意味はないし、沿うところであると言われたことを取る厚生労働大臣の裁量行使は、法の要請にかなったものだと考えます。
他方において、激変緩和措置を取ると、その部分、激変緩和措置を取る間、最低生活水準を超えているではないかと。この部分はどうなのかということでございますが、これはまず一つ、岩村先生もおっしゃったように、永続させる趣旨がない。つまり、最低生活を超えていると思ったら、削ることを前提に、どのぐらいの期間をかけて削るか、どういう削り方をするかについて裁量を認める趣旨だと考えます。
法律家もある程度そこら辺は期待的利益とか、今までこうやってきたのを急に変えられないよねということを考えることはありまして、行政法でいえば、時の裁量、時間を使って緩和していくということはよくあります。例えば時間を使う有名な例で、ここで出すと違いすぎるかもしれませんが、国会の議員定数配分の平等に関しては、最高裁は非常に時間をうまく使って、まだ是正するための合理的期間を超えていないとかいろいろとやっていますし、あるいは行政法の世界でも、申請に対してすぐ答えない、申請に対して、要件を満たしていることは分かるのだけれども、いろいろな事情から応答を引き伸ばすというようなことを認めるということを最高裁はやったことがあります。とすれば、最低生活水準をちょっと超えているのだけれども、いきなりがんがんと削ったらそれは被保護者が大変だから、なだらかに削ろう。その間ちょっと上回るけれども、それはいいではないかと考える裁量のようなものは当然認めていると考えられます。
つまり、8条2項の超えないものでなければならないという部分を空文化しなければ、認められないような裁量ではないと思います。だから、私は、激変緩和措置を取る裁量があるからといって、8条2項の超えないものでなければならないという部分は法的拘束力を失ったのだというのは言い過ぎというか、そこまで言う必要はないと思います。
憲法25条2項も持ち出すわけですが、社会保障制度というのはいろいろな制度を組み合わせて、結果として25条2項の向上努力義務を果たしていくようなものです。生活保護は公的扶助と伝統的に言われた、理由の如何を問わず最低生活水準を下回っていれば給付するという制度であって、しかし、最低生活しか保障しないということをベースにする制度であることからすれば、25条2項を使って8条2項を空文化するのも、その必要はないと思います。
さらに、十分に超えないといけないと、そこもベースにされているのですが、十分かどうか、超えているけれどもなお十分でないかどうかと、実は2つの基準を使って考えなければいけないのだというのは、裁判所では使えないと思うのです。つまり、両方とも厚生労働大臣の裁量が問題にならざるを得ず、裁判所は違法性を制限的にしか審査をしないのです。そうすると、引下げをやったときに、最低生活の需要を満たすのだけれども、なお十分ではないからその引下げは違法であるなんていう審理を裁判所は多分できない。端的に、最低生活を上回っているか、上回っていないかということだけが問題です。
老齢加算2月最判を見ても、十分に超えるかどうかではなくて、結局当てはめのところでも、最高裁は、要するに、老齢加算のための特別な需要が認められず、高齢者に係る老齢加算改定後の生活扶助基準の内容が、高齢者の健康で文化的な生活水準を維持するに足りるものであるとした厚生労働大臣の判断に裁量逸脱、濫用が認められるかという問題にしていますので、あまり十分というところは注意していないし、注意する意味もないだろうと思います。せいぜいあまり早まって削るなよ、低い水準で考え過ぎるなよという注意的な機能を持つということではないかと思います。
以上が8条2項に関してですが、そのまま遡及の問題もしゃべってしまってよろしいのですか。
○岩村委員長 お願いします。
○太田委員 遡及の問題ですが、私は、これは本当に事後的な改定なのかという部分に疑問があります。つまり、2013年の改定による変更処分が問題になった。その変更処分が取り消されたので、2013年改定当時の改定される直前の処分が今、生き残っているわけです。今回の遡及改定と言っているのも、その時点に戻ってやり直すというだけで、さらに遡るわけではありません。
結局、取消判決による取消しは、取り消される処分が違法なので必ず遡及的に行われる。しかし最高裁判決によれば適法だった部分もあるっぽいので、少し考え直して遡及的にやり直すというときに、それは要するに2013年当時できた処分をやるだけのことだから、今から見たら事後的だけれども、そもそも許される、許されないといって議論する必要があるのかというのがまず疑問です。
よしんば、負けた後で、今からやるのがどうも引っかかるという問題についても、一応遡及改定が適法かと考えるとしても、2分の1処理についてはちょっと微妙なのですが、少なくともゆがみ調整は一度も違法と言われたことはないはずです。つまり、ずっと適法だと言われていたことさえできなくなることになる。ゆがみ調整をする必要、裁量行使の必要が認められてきた。それによって実現される利益は正当であると言われてきたわけです。そうすると、違法だと言われていない部分を実現することは、当然、遡及改定だとしても、それを基礎づける正当な理由になるだろうと。
そのときの不利益は、ゆがみ調整をされることによる不利益にとどまるわけです。もともとゆがみ調整によって修正される、減額される場合は失われる給付にすぎず、それ以上を失うものでもないということで、許される範囲ではないかと。授益的な処分に対する不利益変更ではないかと言っても、これは保護基準を適切に改定することに対抗するようなものかというと、そうではないというのが老齢加算以来の最高裁の考え方ですよね。もしこういうことが言えるのであったら、老齢加算廃止だって危なくなりますよね。一度与えた給付を後で削れないということになりますので。しかし、そんなことはないだろうと。
特に違法な行政行為ないしは授益的行政行為でも、長期にわたって信頼を与えてしまった場合に、取消し・撤回が制限されるということは考えられるのですが、本件の場合、ずっと争っているわけです。要するに最初に変更処分をやって、そのゆがみ調整部分はずっと適法だと裁判所もそれを認めてきた。今回までずっと違法だと言われたことはない。だから、どこにも特別な信頼は与えていないので、授益的行政処分の撤回の制限という論理は、使ってもいいのですけれども、それをパスする論理になっている。そもそも射程外ではないのかと私は思うのですが、射程の中だとしてもパスするべき問題だろうという気がいたします。
後者のほうは整理が足りなかったかと思いますが、取りあえずは以上です。
○岩村委員長 ありがとうございました。
もし興津先生の補足なり別意見がございましたらお願いします。
○興津委員 どうもありがとうございます。
太田先生の御発言は、部分的に賛成であり、部分的には私自身がまだよく分かっていないので、少しお答えをいただくなり議論なりができればと思っております。
まず賛成する点なのですが、老齢加算の最判について、「要請」と「沿う」で文言が変わったことについて、それほど意味の違いをもたらさないのではないかと。8条2項はあくまでも最低限度の水準を超えることを禁止しているのではないかという御見解は、なるほどそのとおりかなと思いました。
それ以外の点も含めて、老齢加算の読み方としては、私にとって大変説得的のように感じました。
ただ、まだよく分かっていない、あるいは疑問があるというのが、遡及効の点に関わることなのですけれども、老齢加算の事件というのは、平成16年から3年間にわたって段階的にその加算を廃止するという告示の改定についての違法性が問われたケースだと思いますけれども、まず事実認識として誤っていたら訂正をお願いしたいのですが、それはあくまでも告示が改定されてから将来に向かって個々の被保護者の保護費を減額すると。一旦老齢加算が与えられた者が、告示の改定よりも前に遡って減額されたわけではないという事実だと認識をしております。
そうすると、老齢加算が言っていることは、結局全て告示の改定よりも将来に向かって変更することが適法であるかどうか、あるいはそれが8条2項に沿うものか、要請なのかということのみを言っていて、一旦与えられたものを遡って減額するということについては何も言っていないのではないか、要するに射程が及ばないのではないかというような読み方もできるのではないかと考えました。
太田先生は、8条2項についてのみおっしゃっていたのですけれども、老齢加算は同時に生活保護法56条についても判示をしておりまして、56条というのは、基準の改定を根拠として、その改定された基準の内容に従って減額することが同条による正当な理由があるということになるので、それを妨げるものではないという判示をしているのですけれども、それも将来に向かってのみそういうことをするということについての判示だと理解できるかと思います。
それに対して、本件、今この委員会で議論している事件というのは、最高裁判決によって、下級審が行った保護変更処分の取消判決が確定をし、変更処分がされる前の状態に戻っていると。これは何度も繰り返されていますが、委員会でも共有された前提かと思います。
戻っているとすると、減額変更される前の処分が復活して、その処分に基づいて生活保護の受給をすることができる権利、あるいは請求権が生じているというのが現在の状態だと思います。これは岩村委員長が冒頭で論点整理されたときにも、既得権あるいは財産権ということでおっしゃいましたし、あるいは前回の伊藤参考人の意見陳述の中でも、具体的請求権が発生していて、今すぐ給付訴訟を提起すれば、それは当然勝訴して給付されるべきものなのだというような御意見をおっしゃいましたが、それも同じ趣旨かと思います。
そうすると、そのような状態において、現在、その最高裁判決を受けて、平成25年に遡って、デフレ調整はやらないにしても、ゆがみ調整のみの基準の改定をもう一回やり直すと、減額される世帯については、現在発生している請求権なり財産権なりが、やはり遡及的に減らされると、権利が縮減するということになるのではないかという気がいたします。
そういったことが許されるかどうかは、老齢加算の一連の最高裁判決は必ずしも判示をしていないのではないかと。私もまだ自分の見解が固まっているわけではありませんので、許されないという主張をここでするつもりはないのですけれども、当然に許されるわけではないという前提で検討する必要があるだろうと。
検討の手がかりとしては幾つかあって、まず8条2項の「こえないものでなければならない」という要請なり規定なりが、このようなケースで遡及的に減額をすることを許容しているのかという生活保護法の解釈問題、あるいは56条の正当な理由に当たるのかという解釈問題があり、それからまたそのようなことが許されるという解釈をした場合に、それが財産権の不当な制約に当たらないかという、これは憲法問題と申しますか憲法を踏まえた適合的な解釈の問題というのがあるのかなと思いますので、遡及ができるかどうかという点については、太田先生は当然できるというようなニュアンスでおっしゃったように聞こえたのですけれども、そこまで明確な話ではないのではないかと。
もちろん生活保護法自体が、今回のようなケースで判決を受けて基準を改定するというケースについて想定していたとも思いませんので、そのようなケースは非常に特殊なケースであると。今回は特殊なケースだから遡及ができるのだという立論もあり得るかとは思いますが、いずれにしても、改定ができるのであればできるということの根拠はきちんとこの委員会で詰めておく必要があるのかなと思ったところであります。
取りあえず私からは以上です。
○岩村委員長 太田先生、興津先生、ありがとうございます。
というところで、今すぐに太田先生が手を挙げられているので、太田先生、どうぞ。
○太田委員 興津先生、ありがとうございました。
まず、おっしゃるとおりでございます。私の説明が悪い部分が多々ありました。とりわけ何が悪かったかというと、老齢加算最高裁判決の射程が及ぶ問題ではないという点においては、そのとおりです。私は、老齢加算最判を持ち出したつもりではなくて、老齢加算廃止のようなケースも難しく、老齢加算廃止をしたという、ああいう事象でさえ難しくなってしまうのではないかというつもりで言っただけでございます。失礼いたしました。
したがって、話を戻すと、2013年改定を受けた将来に向かっての改定を、今回の取消判決を受けて遡る形でやり直す分には、遡及効制限の問題をクリアできるのではないかということでございます。
何でできるかというと、取消判決によって遡及的に取り消されて、過去から支払えと言われているのだけれども、その判決を見ると一部分はどうも適法にしたっぽい。適法だというところの改定の要素は、生活保護法の8条2項の趣旨に沿うものだと言われているということは、この判決はやり直せと言っているのは、つまり遡及的にやり直せということであろうと。遡及的取消しなのだから、遡及的にやり直せと言っているのであって、その範囲で2013年改定当時にもう一度立ち戻る限りでは遡及ですが、そこから将来に向かってのみ適用される改定をする分には構わないのではないかと。よしんば遡及効制限の利益衡量をやってもパスできるのではないかということでございます。
それでよろしいですか。
○岩村委員長 ありがとうございます。
興津先生、今日のところはそのくらいでよろしいかなという気がしますが。
○興津委員 分かりました。では、また次回ということで。
○岩村委員長 また次回以降ということでお願いできればと思います。
それから、御質問いただいていた永田先生、何かコメントなりございますでしょうか。
○永田委員 ありがとうございました。
私が御質問させていただいたこと以上に先生方から御説明いただいて、よく分かりました。
意見のところにも関連するところなのですけれども、本日の委員の先生方の御意見をお聞きするにつけ、非常にこの点については慎重に考えていかなければいけないと思いますし、今回も、蒸し返しの問題だけではなくて、期待的利益、遡及立法の問題、またそれに伴う財産権の問題など、いろいろな論点が存在しているということがよく分かりました。私自身も十分理解できていない点もあるかと思うのですけれども、正しい法的な理解というのが出発点になるかと思いますので、今後も丁寧に合意形成を図っていただきたいというのが私の意見です。
どうもありがとうございました。
○岩村委員長 ありがとうございました。
これで終わりにしようという趣旨ではなく、ほかに御質問等があればと思いますけれども、御意見ももちろんですが、いかがでございましょうか。
永田先生、お手をお挙げになっていますね。よろしくお願いします。
○永田委員 質問のところではなくて、意見を1点だけ述べさせていただければと思います。よろしいでしょうか。
○岩村委員長 どうぞお願いします。
○永田委員 ありがとうございます。
7ページの論点の2つ目のポツのところなのですけれども、ゆがみ調整をやり直すとしても、当時のゆがみ調整について議論した基準部会の報告書や、今日資料につけていただいていますけれども、そのための議論の蓄積がありますので、まずはこれに基づいて検討を行うこと、また、準拠することが妥当ではないかなと現時点では思っています。
先ほども質問したのですけれども、改めて平成25年の基準部会の報告書、また、その前後の部会の議事録を拝見すると、いわゆるゆがみ調整の部分について、委員から、検証結果を基準に反映させる際には、特に子供のいる世帯の減額が見込まれることから、これについて慎重に判断すべきといった指摘が複数なされています。もしゆがみ調整をやり直すということになるのであれば、先ほどの興津先生の御主張と共に、こうしたことをぜひ考慮していただきたいなと思います。
1点意見です。
○岩村委員長 ありがとうございます。
ほかにはいかがでございましょうか。今日のところはよろしいでしょうか。
ありがとうございます。それでは、今日の議事次第の2点目の議論は、この辺りで終了ということにさせていただきたいと思います。
今、資料2の7ページで、事務局からの投げかけとして、判決による法的効果も踏まえて、今後の議論を進めるに当たって必要な材料・資料についてどう考えるかというのがありますけれども、今、永田委員からは御要望があったところでありますが、そのほかにこの点について、資料・材料についての御要望があればおっしゃっていただければと思います。今すぐにというわけにはいかないというのであれば、改めて事務局のほうに御要望をお伝えいただければと思いますが、いかがでございましょうか。
別所先生、どうぞ。
○別所委員 別所です。
7ページの資料の2つ目の○の1個目に、平成24年検証に用いられた全国消費実態調査のデータという書き方がしてあるのですけれども、今日の前半の説明を見ると、それから第1回の資料を見ると、低所得世帯の消費水準、第1・十分位と生活扶助基準との比較というのは、平成24年検証ではやっていなかったように理解しています。なので、その比較をするようなデータを用意しておいていただけると大変ありがたいなと思います。
それから、第1回の委員会で、これらの資料について、裁判の中で使われたか、使われていないかとか、使うことができたのかどうかという点について明らかにしていただきたいという要望があったかと思うのですけれども、今のところそういう区別なく資料が提示されています。
経済の人間としては、何もないところで水準を決めるわけではなくて、今回の裁判を踏まえて対応ということなので、そのロジックは使えないみたいなことを後から言われると、困りはしないのですけれども、エネルギーの無駄といえば無駄な気がするので、その辺りについて明示した形で示していただきたいと思います。
以上です。
○岩村委員長 ありがとうございます。
データを用意する上で、確かに第1回のときにそういう御指摘が委員の側からございましたので、事務局のほうでは、資料を用意していただく際に、その点もぜひ加えた形での御用意をいただきたいと思います。特に先ほどの反復禁止効のところの議論でもありましたように、訴訟の過程で出そうと思えば出せたでしょうというものもアウトということになるので、その点はよく注意していただいて、御用意いただければと思います。特に出せた資料なのか、そうでないのかというのは明記をしていただくとか、そういう区別をぜひともお願いしたいと思います。
ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
ありがとうございました。前回から今回にかけて、まずは法学の視点からということで、最高裁判決の内容について御議論をいただいてまいりました。法的効果に関する重要な論点というのは、法学系の委員の皆様から御意見を頂戴できたように思いますが、今回の最高裁判決を受けてのゆがみ調整と、それからデフレ調整への対応をどうするかということについて、もちろん法学的な議論というのは重要なのですけれども、今日の議論でもちょっとお分かりいただけたように、法学的な議論だけで結論を出せるというものでもありませんので、本委員会としてのお考えについては、その他の論点、経済学的な論点、社会福祉学的な論点というのも含めて、引き続き議論をさせていただいて、その上で、今後まとめていければと考えております。
そこで、次回以降でありますけれども、平成25年から実施しました生活扶助基準改定について、これを遡及的に改定するかどうかは今日、最後に法学的な見地から御議論いただいたところでありますけれども、そこは一旦置いた上で、経済指標といった統計データなども参照しながら議論を進めてまいりたいと考えております。そのように進めるということでよろしゅうございましょうか。
(首肯する委員あり)
○岩村委員長 ありがとうございます。
それでは、次回に向けて、事務局のほうで資料等の準備をよろしくお願いしたいと思います。
それでは、次回の開催につきまして、事務局から説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○千田社会・援護局保護課長補佐 事務局でございます。
次回の開催日程につきましては、後日、事務局より改めて皆様方に御連絡を差し上げたいと思います。引き続きよろしくお願いします。
○岩村委員長 ありがとうございました。
それでは、本日の当委員会の審議はこれをもちまして終了とさせていただきたいと思います。委員の皆様方、今日はお忙しい中を御参集いただきまして、誠にありがとうございました。また、非常に重要な御意見、貴重な御意見をいただいたことに厚く感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
では、これで散会といたします。