第2回社会保障審議会生活保護基準部会最高裁判決への対応に関する専門委員会 議事録
日時
令和7年8月29日(金) 18:00~20:00
場所
東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎第5号館
厚生労働省 3階 共用第6会議室
厚生労働省 3階 共用第6会議室
出席者(五十音順)
・岩村 正彦 東京大学名誉教授
・太田 匡彦 東京大学大学院法学政治学研究科教授
・興津 征雄 神戸大学大学院法学研究科教授
・新保 美香 明治学院大学社会学部教授
・嵩 さやか 東北大学大学院法学研究科教授
・永田 祐 同志社大学社会学部教授
・別所 俊一郎 早稲田大学政治経済学術院教授
・村田 啓子 立正大学大学院経済学研究科教授
・若林 緑 東北大学大学院経済学研究科教授
・太田 匡彦 東京大学大学院法学政治学研究科教授
・興津 征雄 神戸大学大学院法学研究科教授
・新保 美香 明治学院大学社会学部教授
・嵩 さやか 東北大学大学院法学研究科教授
・永田 祐 同志社大学社会学部教授
・別所 俊一郎 早稲田大学政治経済学術院教授
・村田 啓子 立正大学大学院経済学研究科教授
・若林 緑 東北大学大学院経済学研究科教授
議題
(1)原告関係者ヒアリングについて
(2)平成25年生活扶助基準改定に関する最高裁判決を踏まえた検討について
(2)平成25年生活扶助基準改定に関する最高裁判決を踏まえた検討について
議事録
- (議事録)
- ○岩村委員長 それでは、定刻となりましたので、ただいまから、第2回「社会保障審議会生活保護基準部会 最高裁判決への対応に関する専門委員会」を開催させていただきます。
委員の皆様におかれましては、大変お忙しい中を御出席いただきまして、誠にありがとうございます。
最初に、事務局から、今日の委員の出欠状況と、資料の確認をいただきたいと思います。また、オンラインで御出席の委員もいらっしゃいますので、会議での発言方法などについても改めて御説明をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○阿部社会・援護局保護課総括調整官 事務局でございます。
本日は、対面及びオンラインを組み合わせての実施とさせていただきます。また、動画配信システムでのライブ配信により一般公開する形としております。アーカイブ配信はしておりませんので、あらかじめ御了承ください。
最初に、本日の委員の出欠状況について申し上げます。本日は、全ての委員に御出席いただいてございます。
また、本日は、参考人として原告関係者の皆様から御意見をお伺いするため、小久保参考人、新垣参考人、澤村参考人、雨田参考人、尾藤参考人、伊藤参考人、西山参考人、以上、7名の方々にお越しいただいてございます。
参考人の御出席につきまして、委員会の御承認をいただければと思いますが、いかがでございましょうか。
(首肯する委員あり)
○阿部社会・援護局保護課総括調整官 ありがとうございます。御異議なきものとさせていただきます。
会議冒頭のカメラ撮りはここまでとさせていただきたいと存じます。恐縮でございますが、カメラの皆様は御退席をお願いいたします。
(カメラ退室)
○阿部社会・援護局保護課総括調整官 それでは、事務局よりお手元の資料と会議の運営方法の確認をさせていただきます。
本日の資料でございますけれども、議事1に関して、資料1「小久保参考人提出資料」、資料2「新垣参考人提出資料」、資料3「澤村参考人提出資料」、資料4「雨田参考人提出資料」、資料5「尾藤参考人提出資料」、資料6「伊藤参考人提出資料」、資料7「西山参考人提出資料」。議事2に関しまして、資料8としまして「平成25年生活扶助基準改定に関する最高裁判決を踏まえた対応について」を御用意してございます。
会場にお越しの委員におかれましては、机上に用意してございますが、過不足等がございましたら、事務局にお申しつけくださいませ。オンラインにて出席の委員におかれましては、電子媒体でお送りしております資料を御覧いただければと思います。同様の資料をホームページに掲載してございますので、資料の不足等がございましたら、恐縮でございますけれども、ホームページからダウンロードしていただくなどの御対応をお願いいたします。
次に、発言方法について、オンラインで御参加の委員の皆様には、画面の下にマイクのアイコンが出ていると思います。会議の進行中は、基本的に皆様のマイクをミュートにしていただきます。御発言をされる場合には、Zoomツールバーの「リアクション」から「手を挙げる」をクリックいただき、委員長の御指名を受けてからマイクのミュートを解除して御発言ください。御発言が終わりました後は、Zoomツールバーの「リアクション」から「手を下ろす」をクリックいただき、併せて、再度マイクをミュートにしていただきますようお願い申し上げます。
以上でございます。
○岩村委員長 ありがとうございました。
それでは、早速、議事に入りたいと存じます。お手元の議事次第にありますとおり、最初は原告関係者ヒアリングについてでございます。
参考人の皆様におかれましては、今日はお忙しい中、御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。
皆様から全体で50分程度の時間でお話しいただいた後、意見の陳述をしていただいた後、10分程度で質疑応答と意見交換を行いたいと考えております。御協力をよろしくお願いいたします。
それでは、参考人の皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
○小久保参考人 大阪の弁護士の小久保と申します。本日は、私たちが意見を述べる機会を設けていただきありがとうございます。
ただ、本日、この場に出席して意見を述べるか否かについては、我々には葛藤がありました。
本年6月27日、最高裁判所で歴史的な原告勝訴判決が言い渡されました。私たちは、その日のうちに、資料1-2の要請書のとおり、厚生労働大臣に対し、全ての生活保護利用者に対する真摯な謝罪、改定前基準との差額保護費の遡及支給による被害回復、生活保護基準と連動する諸制度への影響調査と被害回復、検証委員会による事実調査と原因解明、再発防止のための基準改定方法の適正化や生活保障法の制定を要請しました。しかし、6月30日の交渉で厚労省の担当者は、判決を精査し適切に対応するとの回答を繰り返すばかりで、謝罪しない可能性さえ示唆しました。
そして、翌7月1日、厚生労働大臣が閣議後記者会見において、突如として専門家会議を設置するとの方針を表明したため、私たちは、寝耳に水であるとして、方針撤回を求める抗議声明を発表しました。その後、7月7日、8月1日と協議を重ねましたが、同様の対応が続き、進展がありませんでした。課長以上の臨席を求めましたが、いまだに実現していません。
そんな中、8月13日、この専門委員会の第1回会議が開催されました。判決から2か月が経過しても、謝罪するかどうか、被害回復をするかどうかさえ明らかにしないという経過から、私たちは、国がこの専門委員会を利用して最高裁判決の意義を矮小化し、被害回復額をできる限り小さくしようとしているのではないかという不信感を拭えずにいます。
8月1日以降は事前に連絡はいただけるようになり、専門委員会で原告側の意見をしっかりとお聞きしたいとの申出をいただきました。しかし、私たちは、形式的に意見を聞いたという口実、単なるガス抜きとされるのではないかとの懸念があります。そこで私たちは、意見聴取に応じる前提として、専門委員会における審議に私たちの意見をきちんと反映させるための条件を提示し、交渉を重ねてきました。しかし、基本的にゼロ回答のまま、今日を迎えました。
そのため、私たちは、今日の日が単なるガス抜きとして利用されるのではないかという懸念を抱いたまま、苦渋の決断でこの場に臨んでいます。委員の先生方には、こうした経緯も踏まえて、私たちの話をしっかりと受け止めていただきたいと切に願っております。
それでは、まず、大阪訴訟原告の新垣敏夫さんのお声をお聞きください。では、新垣さん、お願いします。
○新垣参考人 大阪原告の新垣敏夫です。
引下げによる影響及び現在の生活。
生活保護利用者が今回の引下げでどういう生活をしているのか、ぜひ、想像してください。
最低限度の生活をさらに引き下げられ、食費を削り、光熱費も削り、外出、人付き合いも控え、社会との関係性を失い孤立を深めています。
月数千円の引下げが生活保護利用者には多大な影響を及ぼします。
私は、糖尿病をはじめ多くの持病があり医者から様々な食事制限を課せられているため、食費の節約には限界があります。そうなると、ほかで削るしかありません。
私は、施設にいた母親に親孝行の思いもあり、引下げ前は月4回面会に行っていました。しかし、この引下げ後、往復1,700円の交通費を節約するため母親に会いに行く回数を月2回に減らさざるを得ませんでした。いつも月末になると母親に会いに行く交通費に回すか、食費に回すか葛藤する日々でした。その後、姉から母親が「だれもこない」と言ったことがあるということを聞き、ショックを受けました。
令和2年にコロナ禍により面会が出来なくなり、同年10月頃、母親が、いつ何があってもおかしくない状態にあることを知りました。12月頃にやっと面会できましたが、母親は意思疎通もかなわない状態でした。そのような母親の姿を見て、これが最後の面会になると感じました。そして、翌3年1月に母親は息を引き取りました。
母親がまだ元気な頃、会いに行くための交通費があればもっと行けたはずです。それがかなわなかったのはとても残念です。
私は、今も少ない保護費の中で何とかやりくりをしながら生活しています。特に今、物価高の中で食費をどう切り詰めるか、猛暑の中でエアコンの電気代をいかに少なくするか、そういうことを考えながら生活しています。
また、外に出ることがほとんどなく、人と話すこともほとんどない中で、最近は話すときにとっさに言葉がうまく出てきません。
こんな生活がいつまで続くのかと思っています。
判決後の厚労省の対応について。
10年以上裁判で闘い、最高裁判決で今回の引下げが違法であることが確定しました。
最高裁判決が出た後、私は、判決を踏まえて厚労省は謝罪をして差額を支払ってくれるものと思っていました。
しかし、判決から2か月が経過した今も、厚労省は交渉の際に専門家会議の結果を踏まえて対応を検討するとしか述べず、謝罪するかどうかも専門家会議の結果を見て判断するかのような発言をして、当事者である私たち原告との解決に向けた協議を拒否し続けています。
このような姿勢は、あまりにも不誠実であり怒りがこみ上げています。
私たちが、10年以上前から、そして今もなお最低限度以下の生活を強いられていること、私たちの生存権、そして人権が侵害された状態が続いているということをきちんと理解していただきたい。この状態を解決するために速やかに差額の保護費を払ってほしいと思っています。
厚労省が自らの責任を認め、きちんと解決の内容を示し、その内容を私たち原告が承認しない限り、この問題が解決することはないと思います。厚労省は、自らの違法行為がもたらした結果を認め、その責任を引き受けて、私たち原告からの信頼を回復する第一歩としてほしいです。
最後に。
厚労省の今の対応は、新たな論点やあら探しをして最高裁判決を骨抜きにしようとしているとしか思えません。最高裁で確定した判断が専門家委員の審議により上書きされてよいわけがありません。過去に遡って別の理由で下げるなど許されません。
厚労省は、私たち原告にまた裁判をさせようと考えているのでしょうか。
そのようなことにならないよう、よろしくお願いします。
以上です。
○小久保参考人 それでは、続きまして、愛知訴訟原告の澤村彰さんから意見陳述をお願いします。
○澤村参考人 澤村です。
意見陳述書。
私は、2011年、派遣の仕事をしていましたが、東日本大震災をきっかけに仕事とともに住むところ(寮)を失い、ホームレスの状態から生活保護の申請をして生活保護利用者になりました。生活保護が開始した時点で、布団、炊飯器、食器など何もないところからのスタートでした。
生活保護基準が引き下げられる前は、当初は、カップラーメンと、100円均一で買った土鍋で炊いた焦げた御飯にふりかけでしたが、ごみ回収日に鍋・フライパンを拾ってきてからは、インスタントラーメンにもやしや豚小間などを入れるようなものではありますが、1日2食は食べられていました。
お風呂も、初めの頃はシャワーで、週1くらいでしたが、次第に週4くらい入れるようになりました。
そして、2013年、生活保護基準の引下げが行われました。
食事は1日1食になりました。インスタントラーメンにもやしも豚小間も入れられなくなりました。米は、ネットショッピングで、30キロ9,000円弱のものを買うようになりました。物価が高騰した現在は30キロ2万3000円の米を食べています。食べる米の量についても、一回に炊くのを3合から1.5合に減らしました。おかずと言えるか分かりませんが、炊いた御飯に袋ラーメン、御飯に安売りスーパーのレトルトカレー(94円)とかレトルトハヤシ(108円)とかだけです。夏場は、乾麺の素麵、うどん、そばをゆでて、めんつゆに一味唐辛子とかラー油とかマヨネーズとかで味を変化させています。ネギなどは入れられません。ごくたまに、天かすをかけるくらいです。最近の物価高騰により、乾麺も買えなくなってきています。
空腹に耐えるために毎日、水で溶けるタイプのインスタントコーヒーでガス代を節約し、それに砂糖を入れて一日3杯飲みます。
お風呂は、夏でもシャワーで週1、冬場は月2回程度になりました。
極力、外には出なくなりました。外出して喉が渇けば、コンビニとか自販機で飲み物を買うことになるからです。
2014年7月31日に裁判を起こして、最高裁判決まで11年、原告含む生活保護利用者はぎりぎりの生活を強いられてきました。
自分事になりますが、全国で最初に判決を受けたのは、2020年名古屋地裁でした。そのときから、自分は名前、顔出しをして闘ってきました。今でも続く、心ない生活保護バッシングの中で・・・
そのバッシングの例を挙げれば、
「生活保護者は一部の過疎、地域施設に集めて、自給自足生活させれば良い」
「米、味噌、塩、だけ支給しとけば良い」
生活保護利用者は犯罪者ですか?法を犯していますか?法を犯した人以下ですか?
辛かった・・・長かった・・・やっと終わると思った地裁判決までで6年、そこから高裁判決まででさらに3年、上告しないよう求めても上告受理申立され、最終的な判断が出るまでそこからさらに2年・・・これで終わる。そう思っていました。やっと報われる。そう思っていました。当事者にしか見えない世界ですが、いつまで、この生き地獄を続ければいいのでしょうか?
最高裁判決後に市のケースワーカー(現場)の方と話合いしました。厚生労働省の場合と違い、保護課の課長など権限のある職員が交渉の席に着いてくださいました。私は「この基準額で一か月でも生活できますか?」と聞きました。ケースワーカーは、言葉に詰まっていました。現場の職員は、分かっています。
最高裁の、この最終判断を聞けずに散って逝った原告・・・全国の1,000名を超える原告のうち少なくとも232名が亡くなっています。愛知でも3名、うち1名は最高裁に係っている今年の1月に亡くなりました。優しくて元気で、活動的な女性でした。現在、愛知の最高齢は94歳です。明日は自分もどうなるか知れません。一刻の猶予も許されません。
生活保護利用者、原告の気持ちは早く遡及支給してほしい。でも、違法な行為をして国民の生活レベルを異常に最低にしたということを謝罪してほしい。生活保護は最低限の生活レベルのラインなのですから。
毎日、朝起きてから、ずっと、空腹との闘いです。365日。今は一部の一般の方々もそうです。
専門家の先生方、365日、空腹で一日一食、ゆでうどんに醤油だけで生活できますか?そんな生活を10年以上してきた生活保護利用者の実情から目をそらさず、速やかに判決に従って遡及支給を行うよう進言してください。私たちの状況、気持ちを少しでも御理解ください。
外に出れば、ひそひそと「生活保護者でしょ?ずるい人たちでしょ?最低!」。そんな負の烙印生活を強いられながら闘ってきた者の気持ちを・・・このようなことのないように、最高裁判決に従った謝罪と遡及支給、そして検証、再発防止を求めます。
そして、私たちのことを私たち抜きで決めないでください。
以上です。
○小久保参考人 ありがとうございました。
では、続きまして、大阪訴訟の支援者の雨田信幸さんのほうから意見陳述をお願いします。
○雨田参考人 大阪の裁判を支援する「生活保護基準引き下げ違憲訴訟を支える会(通称:引き下げアカン!大阪の会)」で事務局長をしています雨田といいます。
大阪の会は、地裁提訴時の2014年12月19日に結成をされ、貧困問題や医療・年金・介護・障害など社会保障分野に関わる団体や個人の方が参加をして裁判支援を行ってきています。引下げの違法性と引下げが生活保護を利用される方だけの問題ではなく全ての人に関わる事柄であると訴えてきましたが、多くの皆さんがその訴えに共感をして支援活動に参加をいただいたところです。
先ほど澤村さん、新垣さんが自らの思い・生活実態を発言されました。大阪では最大53名の原告でしたが、最高裁判決時は33名、それまでの間に13名の方が亡くなりました。ほとんどの方が高齢で身体の不調や将来への不安をお持ちですし、追い討ちをかけるように現在は米不足や物価高騰がのしかかってきています。私たちの会に参加をしている全大阪生活と健康を守る会が毎年夏と冬に生活保護利用者へのアンケート調査を実施していますが、生活の苦しさによって人付き合いや社会との関わりを断たざるを得なくなる実態が広がってきています。こんな状況を10年以上にわたって国が放置してきたことについて、違法であると判断したのが今回の最高裁の判決だったと思います。
判決後に開いた集会では、ようやく希望が持てると原告をはじめ参加をされた皆さんが喜んでいました。しかし、この間の国の対応は謝罪なく、解決の道筋は見えてきません。原告の皆さんは傷ついており、私たちはそんな姿を見たり話を聞くたびに強い憤りを感じます。早期解決に向けて処分庁である自治体に対しても私たちは要請活動を行っていますが、どの自治体からも「国から具体的な指示がなく困っている」。基準の引下げ当時にケースワーカーだったという部長さんは「同じ行政の立場としては大変申し訳なく思う」。そういった言葉をかけていただいています。
最高裁判決から2か月が経過しました。国は謝罪をし早急に被害回復に取り組むべきではないでしょうか。
専門委員会の皆さんにお願いです。検討に当たり、原告の方の声に耳を傾けてほしいのです。本委員会には、私たちが作成したニュースで取り上げた原告の意見陳述要旨と先ほど紹介した生活保護利用者アンケート2024年を提出しています。ぜひお読みいただきたい。求められれば、私たちは何度でもこの場所で話をする準備もしています。
先ほどのお話にもありましたが、社会の中では残念ながら生活保護に関するバッシングが根強く存在しています。自分の顔と名前を出して裁判を闘うことがどれほど苦しかったことか、自分のことだけでなく生活保護を利用する人たちのことを考えながら訴えてきた原告の思いに寄り添っていただくことを重ねてお願いいたします。
以上です。
○小久保参考人 ありがとうございました。
続きまして、全国弁護団の共同代表の尾藤廣喜弁護士から意見陳述をさせていただきます。
○尾藤参考人 原告ら代理人の弁護士の尾藤と申します。
原告の思いは先ほどお二人の原告が述べられたとおりであります。
2013年の引下げから12年が経過しました。最初の提訴からすると11年が経過しています。
つくられた「生活保護バッシング」が広がっている中で、生活保護を利用している当事者が、自分の名前を明らかにし、法廷の内外で自らの生活実態を訴えることの大変さは私たちの想像を絶するところです。
現に、この裁判を提訴した中で、原告の皆さんに「国のお世話になっていながら、裁判をするなんて」とか「裁判をする位だったら働け」などという心ない声も寄せられています。
そんな中で、1,000人を超える人々が裁判に立ち上がり、強大な力を持つ国と自治体を相手にし、様々な主張に反論し、11年以上にわたって自らの正当性を訴え、立証してきました。この間、当事者は、最低生活を下回る生活を余儀なくされながらの裁判でした。
しかも、この間、原告のうち232人の人たちが最高裁判決を聞くこともなく亡くなっているのです。
このような切実な訴えに対する司法としての真摯な答えが、本年6月27日の最高裁判決でした。
被告となった国そして自治体は、最高裁判決が出された以上、これに真摯に対応しなければならないことは当然のことです。行政としても、この11年以上にわたって被告の立場で考えられるあらゆる主張を行い、立証を尽くしてきた。その上での最高裁判決です。
ところが、国は、最高裁によって2013年引下げが違法であると判断されたにもかかわらず全く不誠実であり、行政としてはもとより、人間として許されない態度を取っています。
11年以上にわたる訴訟の結果、引下げ処分が生活保護法3条及び法8条2項に違反して違法であるとして取り消されたにもかかわらず厚生労働大臣は、原告、そして、生活保護利用者に健康で文化的な最低限度を下回る生活を長年強いたことについて謝罪を行っていません。また、判決を受けての被害回復、すなわち、引下げによる差額の支払いですけれども、これらについては専門家の方々の判断に任せるという対応をしています。
これまでの裁判における国の対応を少し振り返ってみたいと思います。
国が、この事件で生活保護基準の決定につき、与えられた厚生労働大臣の幅が広いという主張を持ち出してきた朝日訴訟判決について、当時の厚生省はどう対応したでしょうか。
朝日茂さんの訴えを裁判上では争いながらも、訴えた内容について真剣に向かい合い、保護基準の在り方について内部で議論し、1960年10月19日の一審の東京地裁判決が出される前の1960年8月に保護基準の計算方式について、それまでの「マーケット・バスケット方式」から「エンゲル方式」に根本的に変更し、生活扶助基準を26%増額することを決定し、その旨の予算要求を行っているのです。
また、これも国が生活保護基準の決定につき、与えられた裁量の幅が広いという意味で持ち出してきた堀木訴訟への対応はどうだったでしょうか。
この事件は、御承知のとおり、障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止が憲法13条、14条、25条に違反しているということで提訴された事件であります。立法裁量が問題になった事件ですけれども、一審の神戸地裁判決は堀木さんの訴えを認め、併給調整が憲法14条に違反するとの違憲判決を出しました。ただ、この事件は、控訴審の大阪高等裁判所で逆転敗訴。上告審で敗訴した事件です。しかし、厚生省は、一審判決の憲法違反との判断結果を受けて法を改正して併給禁止条項を削除しています。つまり、堀木さんの要求内容を正当として認め、立法的な手当てまでして対応しているのです。
当事者から提起された問題について正面から受け止め、訴訟では争いながらも、要求が正当であると考えた場合にはこれを政策として実現する。
これが、本来、厚生労働省設置法3条に言うところの「国民生活の保障及び向上」「社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進」を図ることを任務とする厚生労働省の役割ではないでしょうか。また、官僚として少なくとも、これはなすべきことではないでしょうか。
国は、最高裁判決の判断内容について「最高裁判決は、手続きを違法としただけで、引き下げ自体は違法とされていない。手続(専門家の審議)をやり直せば、あらためて引下げてもよい」との主張をなしているようです。
根本的に誤っています。
最高裁判決の採った「判断過程審査」という審査手法は、単なる手続を問題にしているものではありません。
これは、違法の判断に当たって、2012年4月2日の老齢加算削減取消請求事件の最高裁第二小法廷で採られた「統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等」を審査するという判断枠組みを本件で採用したことによるものです。
ここでは、行政の第一次判断権は尊重しながらも、厚生労働大臣が引下げに当たって、1つ、どのような動機、考量で引下げを行うことにしたのか。2つ、「デフレ調整」及び「ゆがみ調整」の2分の1処理について、社会保障審議会生活保護基準部会の審議を経なかったことが妥当か。3つ、事務当局のみでなした「デフレ調整」の判断内容が妥当なのか等、厚生労働大臣の判断の内容に踏み込んで判断したもので、決して、手続だけに注目して違法としたものではありません。「基準部会等の審議検討が経られていない」ということは、違法の一つの要素として挙げられているものであり、専門家の審議さえあれば改めて引下げができるなどということではありません。
また、国は「最高裁判決の判断は、処分を取消しただけで、厚生労働大臣は、判決の判断内容には拘束されるものの、新たな処分をなすことが出来る」と主張しているようですが、この主張は、仮に新たな処分を行う場合にしても重大な制約があることを忘れたものです。
その制約の一つは、判決の拘束力のうち、反復禁止効の問題です。詳細は伊藤建弁護士の意見に委ねますけれども、11年以上の期間にわたる審理の結果出された最高裁判決の中で判断されたことについては、蒸し返しを防ぐということが、司法の存在意義、役割において極めて重要だということです。
つまり、最高裁の弁論終結に至るまでに、行政庁が、主張・立証していた争点や、提出できるにもかかわらず提出しなかった主張、証拠に基づき、処分を繰り返すことは許されません。そうでないと、確定判決を得た意味がありません。
行政庁に、判決で決着がついた争点に基づいて処分をすることを許してはなりません。判決までに主張・立証してきた争点に基づいて処分することを認めれば、際限なく争いが続くことになります。
その意味からすれば、第1回の委員会での厚生労働省側の「全国消費実態調査に基づき消費を基礎として改定する場合には減額幅が▲12.6%と大きくなることが想定された」などという主張は、全く認める余地がありません。
この主張は、愛知訴訟の控訴審で口頭弁論終結前に突然言い出されたものの、最高裁判決では採用されなかった主張です。にもかかわらず厚生労働大臣がこの点を理由にして新たな処分を行うことは、紛争の一回的解決、あるいは訴訟経済に反し、11年以上の裁判の結果出された最高裁の判決を無視するものです。
2013年の引下げ処分が違法であり取り消され、元に戻ったのですから、仮に新たな処分を行うのであれば、本来は当時の諮問に応えた基準部会のメンバーが、判決の判断内容に基づき、新たにどういう処分をなすべきかを検討すべきであると考えます。なぜなら、当時の基準部会が検証した「ゆがみ調整」に加えて別の理由による新たな処分を行うのであれば当時の検証における専門的知見を最もよく知る当時の基準部会のメンバーが行うのが適切だと考えるからです。
もし、それが実現しないということであれば、せめて当時のメンバーの意見をお聞きになるべきです。
結論として私が申し上げたいことは、11年以上に及ぶ審理の結果出された最高裁の判断の内容を無視して、行政の都合で新たな処分を行ってはならないこと、さらに、特定政党の公約に忖度し、物価偽装を行って、根拠のない引下げを行ったことを真摯に反省し、厚生労働省として、あるべき姿に立ち戻ることを貴委員会が明確にさせることを求めております。
以上です。
○小久保参考人 それでは、続きまして、弁護団弁護士の伊藤建弁護士から意見陳述をさせていただきます。
○伊藤参考人 弁護士の伊藤でございます。
まず、私が述べたいことにつきましては資料6で配付しているとおりでございますけれども、その前に、資料8について意見を述べさせていただきます。
厚生労働省側の事務局で作成された資料8の4ページですけれども、こちらに関して(2)として「拘束力」で引用されている箇所、非常に1つの立場のみを引用する点で、私は大変残念でなりません。
こちらは条解の第5版の749ページでございますけれども、742ページには別の記載がございます。資料にありませんでしたので、読み上げさせていただきます。
別理由の再処分の可否が論ぜられるのは、これを完全に認めてしまうと、処分を根拠づける理由が複数存在する場合に、ある処分理由については、当時の処分、前処分時、またはその取消訴訟、前訴で提示・主張するものも、再処分時ないしその取消訴訟(後訴)で提示・主張するものも行政庁の自由ということになりかねないからである。特に行政庁が前訴において新たな処分理由を主張しようと思えばできたのに、あえて主張せず、あるいは主張することを行って取消判決を受けた場合には、当事者間の公平・武器対等を損ない、攻撃・防御の手段を尽くさなかった行政庁に不当な利益を与えるとともに、事件が裁判所と行政庁との間を往復して、紛争解決が遅れ、訴訟経済に反することになる。この見解がなぜないのか、大変残念であります。
その上で、資料6に移らせていただきます。
私の本日述べたいことは5つございます。詳細につきましては7ページ以下に詳細に論じておりますが、口頭においては資料6-1-1を用いて5つ申し上げたいと思います。その前に、議論の前提を確認しておきます。
まず、本判決は、いわゆる判断過程審査を適用し、違法と判断したものです。しかし、手続の違法判断ではなく、実体の違法判断ですから、再度の手続を履践すれば、直ちに同一内容の処分が行えるというわけではありません。
本判決の拘束力の一つとして、処分庁には原状回復義務があります。本判決は、デフレ調整を違法としたもので、ゆがみ調整は違法ではないと判断していますが、本件改定を違法とし、本件各処分を取り消しましたので、本件原告らとの関係では、本判決の形成力により、本件改定前の基準に基づく本件各先行処分の効力が残存することとなります。つまり、処分庁は、原状回復義務として、本件各先行処分の効力を前提として、本件改定後の基準と本件改定前の基準との差額を補填する実体法上の義務があります。もし、処分庁が義務を履行しなければ、本件原告らは、公法上の当事者訴訟等により、義務の履行を請求できる状態にあります。
法8条2項は、保護基準は「最低限度の生活の需要を・・・(中略)・・・こえないものでなければならない」と定めていますが、老齢加算東京訴訟最判は、厚労大臣に対して、被保護者の「期待的利益についても可及的に配慮する」権限を認めています。ですから、本判決の多数意見が言うとおり、デフレ調整をするに当たり「厚生労働大臣が、本件改定当時、生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間に不均衡が生じていると判断したこと」について判断過程の過誤・欠落がないとしても、厚労大臣は、減額をすることを法8条2項により義務づけられているわけではありません。むしろ、厚労大臣には、被保護者の既得権に対する配慮義務があるというべきです。
本論に入ります。第1は、遡及立法の問題です。長谷部恭男東京大学名誉教授は、その著書『憲法』において「法の支配」の要請から、遡及立法が禁止されると明記しています。明文上は、憲法39条が刑事罰の遡及立法を禁止しています。最高裁判決も、刑事罰ではない事案において、改正法施行前における事由を不利益に取り扱う「後出しジャンケン」のようなルール制定を違法と判断しています。
そもそも、本件原告らが有している本件改定前の基準に基づく給付請求権を不利益に変更するためには、国会による法律でなければ、法律の留保を定める憲法41条に違反するところですが、法律であろうが、行政作用であろうが、現時点から遡及して、過去に発生した本件各給付請求権を不利益に変更することは、遡及立法の禁止に違反し、許されません。
第2は、財産権と比例原則の問題です。本件各給付請求権が存在する以上、これを事後的に不利益に変更することは、憲法学の観点からは、憲法29条1項が保障する財産権、憲法25条1項が保障する生存権に対する「制約」となり、別に正当化が必要です。最高裁判例は「いつたん定められた法律に基づく財産権の性質、その内容を変更する程度、及びこれを変更することによつて保護される公益の性質などを総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかによつて、判断すべきである」との判断枠組みを適用しています。
これまでの最高裁判例で問題となった「財産権の性質」は、国有農地の譲渡対価や「損益通算をして租税負担の軽減を図ることを納税者が期待し得る地位」といった政策上の権利にすぎませんでした。しかし、本件で問題となっているのは、憲法25条1項の生存権に由来する給付請求という具体的な財産権です。また、これにより保護される公益の性質も、国の財政事情といった生活外的要素であり、それ以外の公益に対する具体的危険性もありません。むしろ、本判決が厚労大臣の判断を違法とした以上、速やかに是正すべき筋合いのものです。事後的な減額をすることは、憲法29条1項や憲法25条1項に違反するというべきです。
また、行政法学の観点からは、比例原則が問題となります。最高裁判例は、受益的処分の不利益変更が許されるのは、これにより生ずる不利益と当該処分の効果を維持することによる公共の利益を含む不利益とを比較衡量し、その取消しを正当化するに足りる公益上の必要があると認められる場合に限られると判断しています。
本件では、違法の原因は、厚労大臣が専門的知見との整合性のない違法な本件改定を行ったことですから、生活保護受給者を不利益に扱うことを正当化し得るものではありません。また、公共の利益についても、被保護者との関係で一律に解決すれば平等原則は保たれますから「財政規律の確保」でしかありません。減額によって被る利益は、憲法25条1項の生存権を具体化した重要な憲法上の権利ですから「財政規律の確保」という生活外的要素の重要性は劣後します。
したがって、事後的に本件各給付請求権を減額することは、憲法上も行政法上も、比例原則の要請を満たさないと言わざるを得ません。
以上、第1、第2の主張のとおり、違法とされたデフレ調整はもちろん、違法とされなかったゆがみ調整分についても、本件改定が全体として違法と判断されている以上、これを後から減額することは許されないのです。
第3は、消費を基礎とする減額改定は、本判決の拘束力により禁止されるということです。厚労省は、第1回の本委員会において、デフレ調整に関し、夫婦子1人世帯については「仮に全国消費実態調査・・・(中略)・・・に基づき消費を基礎として改定する場合には減額幅が▲12.6%と大きくなることが想定された」と主張しています。
しかし、取消判決の拘束力の一つとして、反復禁止効があります。その内容については、紛争の一回的解決の要請を重視し、口頭弁論終結時までに行政庁が提出できるのに提出しなかった理由によって、行政庁が同一の処分を繰り返すことは許されないと解されています。この主張は、口頭弁論終結前の令和5年5月31日には既に主張されていたものです。また、上告審の口頭弁論に先立ち、裁判長からは、国側は現時点の説明を中心に口頭陳述をするように準備されたいと指定もされていました。実際に、本判決も、国側の「現時点において」の説明を前提として判断していますし、宇賀個別意見は、この主張も排斥しています。
このように、消費を基礎とした減額に関するこの主張は「口頭弁論終結時までに行政庁が提出」しているものですから、これを理由とした新たな引下げをすることはできません。具体的な消費を基礎とした改定率を算定していないとしても、10年以上もの期間にわたる裁判で、口頭弁論終結時までに提出できなかったとは到底いえません。違法判断を予想していなかったとしても、初めての違法判断である大阪地裁判決がなされた令和3年2月22日からは、4年以上もの時間的猶予があります。
もし、新たな消費を基礎とした減額改定を行えば、私たちは訴訟提起せざるを得ません。10年以上もの長きにわたる闘いをしたのに、再度の紛争となることは、紛争の一回的解決の要請、訴訟経済に反し、誰も望むところではありません。
しかも、厚労省が主張するように、12.6%のうち、8.5%は「ゆがみ」によるものです。生活扶助基準の絶対的な水準が12.6%高いというわけではありません。また、第1・十分位の夫婦子1人世帯との比較のみをもって、全体の生活扶助基準の水準が高いともいえません。さらに、この主張は、夫婦子1人世帯のうち、第1・十分位の「一般低所得世帯」の消費水準を根拠としていますが「水準均衡方式の下では、一般国民の生活水準との比較を行っており、一般低所得世帯の消費水準との比較を根拠に行っているわけではない」ことは、宇賀個別意見が指摘するとおりです。第1・十分位の消費水準との比較が行われたのは、あくまでも一般国民の6割を超えていることが確認されていたからです。第1・十分位の一般低所得世帯と比較をするだけでは、貧困の連鎖を生じさせ、絶対的な貧困ラインを割り込むおそれもあります。
したがって、この主張は、反復禁止効からも、実質的にも、新たな引下げの理由にはならないのです。
本専門委員会においては、2分の1処理を含むゆがみ調整を行うとともに、物価変動率のみを直接の指標とせず、あるいは物価変動率とは異なる指標を用いた水準の引下げの可否が検討されるかもしれません。念のため、第4として、ゆがみ調整に加えて、水準の引下げを行うことは許されないことも指摘しておきます。
訴訟において、国側は、ゆがみ調整は、生活扶助基準の水準の見直しをするものではないから、デフレ調整により水準の見直しをすることができると主張していました。確かに、平成25年検証では「仮に第1・十分位の全ての世帯が生活保護を受給した場合の1世帯当たりの平均受給額が不変となるようにして、年齢、世帯人員体系及び級地の基準額の水準への影響を評価する方法を採用」しています。しかし、これは「第1・十分位のサンプル世帯」において「生活保護を受給した場合の基準額の平均」と「実際の生活扶助相当消費支出の平均」とが同額となるように指数を算出したにすぎません。2分の1処理を含むゆがみ調整により、結果として約90億円もの財政削減効果が生じていることから明らかなとおり、全体としての生活扶助基準の「水準」が引き下げられています。したがって、2分の1処理をするか否かにかかわらずゆがみ調整に加えて、さらに水準の引下げを行うことは二重の引下げとなるのです。
そもそも、平成25年検証は「体系の検証と水準の検証」を「一体的に」行うものとされていました。「水準の検証」としては「現行の基準額」の年齢体系、人員体系、級地間較差が「消費の実態に合っていないことの影響」を「定量的に評価」するとともに「現行基準額の体系及び級地をすべて消費の実態並みにしてもなお、基準額の水準と消費水準には残差がある可能性が考えられる」とされていました。
しかし、平成25年報告書では、その「残差」については、様々な要因がありサンプル数も少ないので「分析ができない」とされています。つまり、平成25年報告書では、引下げの必要性があると判断はされていないのです。
本判決の多数意見は「厚生労働大臣が、本件改定当時、生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間に不均衡が生じていると判断したことにつき、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるとはいい難い」と判断していますが、この判断は、あくまでも、2分の1処理を含むゆがみ調整とデフレ調整のいずれもがなされていない状態における判断ですから、ゆがみ調整に加えて、さらなる水準の引下げを行う必要があることを肯定したものではありません。
本判決の宇賀個別意見も「ゆがみ調整の結果、標準世帯の生活扶助基準額に影響が及んでいることとデフレ調整との関係について専門技術的見地からの検討が行われたとは認められないところ、ゆがみ調整とデフレ調整を併せて行うことの影響を検討することは当然といえるが、それが行われた形跡がないため、ゆがみ調整とデフレ調整の併用についても、判断過程に過誤、欠落があり、違法と評価せざるを得ないと考える」と判断していますし、多くの下級審裁判例も同様です。とりわけ、名古屋高裁判決が指摘するように、ゆがみ調整により生活扶助基準額が一定程度変更されることを考慮しても「更に生活扶助基準を引き下げる必要性があるのか否か」「仮にその必要性があるとしても、世帯類型ごとにどの程度引き下げるのが相当か」、また、全国全世帯一律にデフレ調整を行うことが「平成25年検証の結果との整合性」や「妥当性を欠くことになったりしないか」を「様々な組み合わせについて検討」されなければなりません。
以上のとおり、本判決の多数意見に従うとしても、ゆがみ調整を含む引下げの改定を行うことは、遡及立法の禁止、財産権や比例原則の観点から、許されません。また、ゆがみ調整だけをするとしても、平成25年検証によれば、さらなる水準の引下げをする理由がありませんし、消費を理由とする引下げは本判決の反復禁止効にも違反します。
もし、本専門委員会で議論する事項があるとすれば、ゆがみ調整における2分の1処理分を増額し、平成25年報告書のとおり反映するか否かでしょう。これが第5の主張です。
2分の1位処理の増額分について、本判決の多数意見は「一定の合理性がある」というように「一定の」という留保を付しています。林補足意見も、専門技術的裁量よりも裁量が広い「政策的観点」であり「不合理であるということはできない」とするにとどまります。むしろ、宇賀個別意見が指摘するとおり、増額率の限定は「増額分を減少させられる・・・不利益な措置」であり「児童のいる世帯への影響」とは無関係です。「児童のいる世帯を優遇するために、児童のいない世帯が不利益を受ける措置を正当化」できず「合理性にも疑問が残る」のです。
いずれにせよ、増額分の2分の1処理の合理性は、あくまでも行政裁量に対する司法府の敬譲を前提に「違法とまではいえない」と、首の皮1枚でつながっているにすぎません。本専門委員会は、司法審査基準には拘束されませんので、財政事情にとらわれず、行政庁に敬譲せず、何が「合理的」といえるのかを専門的知見から忌憚なく審議する場です。
したがって、本専門委員会で検討する事項があるとすれば、ゆがみ調整やデフレ調整を含み、どの範囲であれば減額改定ができるのかということではなく、専門家による検討を経ないでなされた増額分の2分の1処理をせず、平成25年報告書のとおり反映すべきか否かにこそあるはずです。具体的な要望は、本日配付している32ページにございます令和7年8月10日付のはっさく訴訟の要望書のとおりですので、こちらも御参照ください。
以上です。
○小久保参考人 ありがとうございます。
それでは、続きまして、同じく弁護団弁護士の西山貞義弁護士のほうから意見陳述をさせていただきます。
○西山参考人 富山県の弁護士の西山です。10年以上、代理人として闘い続けてきました。
委員の皆様に申し上げたいことがあります。
「火中の栗を拾う」。そういう思いで、委員の重任を引き受けられたのだと思います。その御決断には最大限の敬意を表します。
私たちは、委員の皆様の専門的知見と専門家としての矜持を信じています。
私たちも、10年以上の闘いで、専門的知見と専門家の矜持に助けられてきました。
国に盾突く裁判です。協力してくれる専門家を見つけるのは、とても困難でした。それでも、多くの専門家が、その専門的知見に基づき「真実」を裁判所に伝えたい、司法の役割をしっかりと果たしたい。そういう強い矜持と信念をもって、裁判を闘ってきました。それがなければ、裁判は負けていたでしょう。
だからこそ、私たちは、専門家の尊さを身にしみて知っているのです。皆さんの専門的知見と矜持を信じているのです。
私自身も法律の専門家です。この裁判が負けるなら、司法の存在意義、弁護士である私の存在意義そのものが問われると考えていました。ですので、私は、この裁判で負ければ、法曹を辞める決意でした。私の専門家としての矜持です。
これから実質的な審議が始まります。
冒頭から宣言します。
審議の結果が私たちが了解できる内容でなければ、私たちは再び訴訟を起こします。
もちろん、そうしたいわけではありません。厚労省は訴訟対応機関ではありません。本来の厚生労働行政に集中していただきたい。ですが、審議結果が了解できないものなら、私たちの専門家としての矜持にかけて、そのような結果は容認しません。私たちを協議の対象から外すということは、そういうことを意味します。
委員の皆様を攻撃する意図は全くありません。それは大前提として、この委員会に関する厚労省の「仕組み作り」「運用」は極めて不公平です。
厚労省は敗訴し、私たちは勝訴しました。勝訴当事者の反対意見に全く耳を貸さず、貸さないどころか「寝耳に水」でこの委員会を設置しました。敗訴当事者の一方的な人選で、敗訴当事者が用意した資料と敗訴当事者からの説明だけで、勝訴当事者の発言はおろかリアル傍聴すら許されない中で、この委員会は開始されました。
裁判では、当事者双方が主張・立証を尽くしてこそ、公正・公平な判断ができるとされています。過去、幾多の不公平な裁判を経験して乗り越えてきた人類の到達点です。
そして、10年以上に及ぶ裁判を闘い、裁判所を動かすだけの主張・立証を血眼になってつくり上げ、裁判所を説得することに成功した私たちこそがこの問題の一番の専門家です。私たち以上にこの問題の核心を捉え精通している人はこの世にいない。そう言っても過言ではありません。最高裁判事は全員一致で国を敗訴させ、地裁・高裁では国の敗訴が27も積み重なりました。厚生労働省の主張・立証は、裁判所には全く通用しなかったのです。
そのような「完敗」と言っていい敗訴当事者が全てをコントロールする中で行われるこの専門委員会で、公正・公平な判断ができるのでしょうか。前回の専門委員会「事務局」としての厚労省の説明は、裁判所で全く通用しなかった主張と同じでした。もちろん、私たちには反論の機会も与えられませんでした。
どんなに優秀な判断者でも、判断の基礎となる情報が偏っていれば、偏った判断になるのは必定です。
今、私たちは、実質審議の経過を聞くこともなく意見を述べています。今のところ、厚労省が認めている意見陳述はこの1回だけです。審議の経過を聞いた上で、意見を述べたり、資料を出したりすることすら認められていません。リアル傍聴も許されていません。この意見を述べ終わったら傍聴できず退席せよと言われています。
敗訴当事者である厚労省は、皆様に「レクチャー」もするでしょう。それなのに、勝訴当事者である我々は、そんな機会は与えられていません。
こんな不公平な仕組み・運用で、公正・公平な判断ができるはずがない。そのようにしか見えません。法律家であり10年以上死力を尽くして主張・立証を行い様々な困難を乗り越えて勝ち切った私たちには、なおさらそう見えます。
専門委員会を開くなら、せめて、公平な仕組みづくり、運用を行うべきです。厚労省の仕組みづくりや運用には、最大限の抗議を表明します。委員の皆様には、完敗した敗訴当事者の厚労省の言い分だけで一方的な判断は行わないように切にお願いいたします。
厚労省が守っているのは「人間の尊厳」です。
政府の利益ではありません。
政府の利益ではなく「人間の尊厳」を守る。その意識があれば、こんな不公平なことをするはずがありません。厚労省は何を守っているのでしょうか。最大10%などという横暴な引下げを「物価偽装」までして行うはずがありません。根本的に意識を変えていただきたい。
私たちは、委員の皆様の専門的知見と矜持を信じています。「道理」は、厚労省ではなく、私たちの側にあると考え、私たちと共に闘ってくれた多くの専門家と同じように。私たちの味方になってくれた多くの裁判官と同じように。
信じています。
○小久保参考人 最後に、私たちから専門委員会の先生方に対するお願いを申し上げます。私の資料1-1の2ページ目を御覧ください。
1点目は、審議の徹底した公開と透明性の確保です。そのため、現場での一般傍聴、せめて私たち訴訟関係者の傍聴を認めるべきです。勝訴した私たちの監視さえない中で、敗訴した一方当事者である厚労省の運営でその説明のみを聞き続ける専門委員会に公平・中立性が担保されているとは言えないと思います。コロナ禍前までは生活保護基準部会でも一般傍聴が認められていたのに、なぜ今回は認めないのでしょうか。会場のスペースが問題であればもっと広い会場にすればいいし、定員制で先着順にするという方法もあります。
厚労省は、審議のオンライン視聴ができ、後日、議事録を公開することで足りると言います。しかし、関心のある人の皆がリアルタイムでオンライン視聴できるわけでもない中、アーカイブ、録画配信もされず、8月13日の第1回専門委員会の議事録も本日、つい先ほどになってようやくホームページにアップされました。誰がこれを読めますか。
アーカイブ視聴については、内閣府所管の障害者政策委員会や、厚労省所管でも社会保障審議会障害者部会などでは録画配信をしています。生活保護利用者の8割は高齢者・障害者・傷病者で、自力でリアルタイムのオンライン視聴をするのは難しい方々です。この極めて重要な問題で、なぜ、その程度の配慮をすることさえ拒否するのか、甚だ疑問です。よほど話を聞かれたくないのだろうと思われても仕方がないのではないでしょうか。
また、会議の数日前になって開催日程を公表するのではなく、日程が決まれば審議内容の詳細が準備できずとも、すぐに公にしていただきたいと思います。今回も少なくとも次回の日程は決まっているはずですから、今日明らかにしてください。
2点目は、今後の専門委員会での議論の経過を踏まえて、第1に、適宜、私たちが取りまとめる見解に関する文書を専門委員会の資料として配付していただくとともに、第2に、専門委員会の終盤にもう一度、私たちが意見を述べる機会を設定することです。
今回、私たちの意見を述べる機会を設定していただきましたが、専門委員会での実質的な議論は何も始まっていません。今回の私たちの意見表明は、これからどのような資料を基に、何が、どのように議論されるのかが全く分からない暗闇の中で行わざるを得なかったものです。今日提出された資料にも恣意的な引用がありましたが、今後、具体的な議論が始まる中で、私たちが今回の意見表明では触れられなかった意見を述べたい事態が生じることは当然に予想されます。原告弁護団の意見を真摯にお聞きしたいと言っていただけるのであれば、適宜の書面の資料配付と2回目の意見陳述程度は当然していただいてしかるべきだと思います。
最後に、もう一点あります。私たちは厚労省から、このヒアリングが終わればこの部屋から退室せよと要請されています。先ほど冒頭、始まる前にも担当者から言われました。せめて本日については、このまま、この場で傍聴させていただけないでしょうか。さもなければ、私たちはわざわざ、この場を出て、この場での議論をすぐ近くでオンライン視聴しなければならないというブラックジョークのような光景が繰り広げられることになります。それが訴訟当事者を尊重する姿勢と言えるでしょうか。
この専門委員会は、厚生労働省との意向とは独立して、委員の先生方が主体となり中立・公正に運営されるものと理解しています。ぜひ今回の我々からの要望について、この後、委員の先生方一人一人の意見を表明していただいた上で、専門委員会としての御判断をいただきたいと思います。
我々からの意見表明は以上となります。ありがとうございました。
○岩村委員長 ありがとうございました。
それでは、今、いろいろお話もいただきまして、1つ、伊藤参考人からは文献の資料についての御案内もいただきましたので、それはまた後ほどカバーをしたいと思います。ありがとうございました。
それでは、先生方のほうから御質問などございましたらお願いしたいと思います。
太田委員が手を挙げていらっしゃいますので、お願いいたします。
○太田委員 太田でございます。意見陳述ありがとうございました。
私から、伊藤弁護士に1点お伺いしておきたいことがございます。議論の前提に当たる部分なのですが、保護基準は最低限度の生活の需要を超えないものでなければならないと8条2項において定められている。それを前提とした上で、しかし、デフレ調整、ゆがみ調整する前の従前の保護基準が不均衡を生じさせていたと最高裁が言ったとしても、ゆがみ調整も含めて引き下げることはおかしいのではないかと議論されて、その前提として、これは老齢加算東京訴訟最判の期待的利益について可及的に配慮する権限を認めている、この部分を梃子にされていると理解しました。
ただ、老齢加算東京訴訟最判は、特別の需要がないのであれば、やはりそういう老齢加算を削らないといけない。それは法8条2項の要請するところだと言った上で、とはいえ、老齢加算、高齢者の問題もあるので、高齢者だと継続的に給付を受け続けるからということですね、したがって、可及的に配慮する必要があるとしている。その裁量を認めたということは、伊藤弁護士がそこで指摘された裁量というものは、削らないということを許す裁量ではない。要するに、削ることは法の要請として削らなければ裁量の逸脱・濫用だ。その上で、削り方について、激変緩和措置を取る裁量を認めただけではないかと私には思えます。
そういたしますと、今回もゆがみ調整、デフレ調整については、御指摘のように蒸し返しの問題がありますので、ここでは立ち入りませんが、ゆがみ調整、2分の1調整については、しておかないと8条2項の違反をまた犯すことになるのではないか。あとは、激変緩和措置を取る裁量が認められているだけではないかと思うのですが、このような考え方についてはどのようにお考えになっているか、確認をさせていただければ幸いです。
○岩村委員長 では、伊藤参考人、よろしくお願いします。
○伊藤参考人 お答えいたします。
まず、生活保護法8条2項の前に、憲法25条2項によって、まず、福祉についての向上義務という国家目標規定ないしは訓示規定と言われているものではございますけれども、根拠がございます。これとの憲法適合的解釈をするべきではないかというのがまず考えられる反論であります。
また、老齢加算最判自体が特別の需要が認められなかった場合にはこれを減額することは理由になる。こういう判断をしているわけでございまして、減額をしなければ8条2項に違反し、そして、それが利益処分であるにもかかわらず違法になるということまで述べているものとは当職は解しておりません。
以上でございます。
○岩村委員長 ありがとうございました。
太田委員、いかがですか。
○太田委員 では2点、簡単に、まず、老齢加算の廃止・減額については法の要請であると言っているので、その解釈はどうかなというものが一点。
それから、前者のほうについては、憲法25条を持ち出すことでしかお答えにならないという理解でいいですか。つまり、生活保護法8条2項の解釈として何か頑張るということはない。もちろん、25条2項の中の立法裁量の行使として8条2項はあるという前提に本来はなると思いますが、その2点、一応、念のため、確認させてください。
○岩村委員長 伊藤参考人、いかがでしょうか。
○伊藤参考人 ごめんなさい。1点目は何でしたか。
○岩村委員長 太田委員、1点目をもう一度。
○太田委員 1点目は、老齢加算の最判について、高齢者の特別な需要が認められないというのであれば、老齢加算の減額または廃止をすべきことは、同法8条2項の規定に基づく要請であると言っているので、今の御説明は文言解釈としておかしいのではないかというのが1点目です。これは指摘です。
2点目は、御理解いただいているのであれば、繰り返しません。
○伊藤参考人 1点目につきまして、判決文の確認をする時間を下さい。
いえ、私の理解ですと、まず、お答えします。第1点目につきまして、判決文に要請であるとの文言は書いていないという認識で。
○太田委員 いや、ありますよ。私、今、原文を見ているので、2月のほうですけれども。
○伊藤参考人 2月のほうですか。
○太田委員 はい。というか、2月にも4月にもあります。
ごめんなさい。2月のほうは同項の規定に沿うところという表現です。4月のほうが、福岡のほうが要請であるという言い方です。
○伊藤参考人 ですから、最高裁での判断が統一されていないので、要請であると書いてある判決もあれば、沿うところであるとのみ書いてある判決もあるという理解でございます。
○太田委員 沿うと要請は違うと。
○伊藤参考人 沿うと要請は、沿うというだけであって、義務づけられていることを意味するものではありません。また、要請であるというところも、法的な義務づけであるというところまで言えるのか、当職は疑問があります。
○太田委員 分かりました。では、それはそれで承っておきます。
○伊藤参考人 第2点につきましては、憲法以外の理由がないのかという御主張であったと存じますけれども、まず、法律による行政の原理等の関係であれば、当職が申し上げた比例原則や財産権を侵害するという問題があった場合には、これは不整合の、法に適合しない処分であっても取消しが制限されるということは当然あり得ようと思います。
したがいまして、まず、そもそもとして、8条2項について、これが法的な義務であるというところまで言えるとは考えられないことと、その上で、仮に法的な義務があったとしても、一定の事情があれば不利益処分の撤回の要件を満たさなければならないとは考えておりますので、8条2項の解釈が、仮に義務づけられているからといって、必ず取り消さなければ違法となるという関係にはないと考えております。
○太田委員 分かりました。どうもありがとうございました。
○岩村委員長 ありがとうございました。
ほかにはいかがでございましょうか。
小久保参考人、どうぞ。
○小久保参考人 先ほどの最高裁判決の文言なのですけれども、今すぐに出てこないのですが、もう一つ、最高裁判決が出ていまして、福岡訴訟の差戻し後の最高裁判決が出ていまして、そちらのほうはたしか沿うという文言になっていたと思います。そういう形で判断が最終的に統一されているといいますか、そちらになっているので、この点についても、ぜひ、きちんと検討して、書面にして出す機会を与えていただきたいと改めて要請します。
○岩村委員長 ありがとうございました。
ほかにはいかがでございましょうか。よろしいでしょうか。
ありがとうございました。
今日は、原告団の皆様、特に原告の方から大変貴重な、真摯な御意見をいただきまして、大変ありがたかったと思います。
最後、小久保参考人から御要望いただいたところでありますけれども、これについては、また、今日は伺ったということにさせていただいて、検討させていただきたいと思います。
では、これで参考人のヒアリングは。
○小久保参考人 よろしいですか。
それは誰の判断ですか。岩村委員長の判断ですか。
委員の意見は聞いたのですか。ここは合議体ではないのですか。
○岩村委員長 今日は私のほうで全体の運営を進行させていただくということですので、今日は承らせていただくということにさせていただきたいと思います。
○尾藤参考人 今日のことについての進行を聞いているのです。
○岩村委員長 今日のことについては、またお話をさせていただきたいと思います。
○尾藤参考人 だから、それについて皆さん方に諮っていただいているのですか。
○岩村委員長 では、一旦、これで休憩とさせていただきます。
(休憩)
○岩村委員長 それでは、議事を再開いたします。
今、議事次第の1番目の原告関係者ヒアリングが終了いたしましたので、続けて、2番目に移ります。「平成25年生活扶助基準改定に関する最高裁判決を踏まえた検討について」ということでございます。
これにつきましては、それでは、今日は事務局のほうで資料を用意していただいているので、まず、事務局から資料の説明をいただきたいと思います。よろしくお願いをいたします。
○千田社会・援護局保護課長補佐 事務局の社会・援護局保護課長補佐の千田でございます。私のほうから資料8「平成25年生活扶助基準改定に関する最高裁判決を踏まえた対応について」を御説明さしあげたいと思います。
資料を画面に投映させていただきますけれども、まず、資料1ページを御覧いただきますようにお願いいたします。資料1ページにつきましては、第1回専門委員会資料でお示しした論点の再掲でございます。
2ページを御覧ください。第1回専門委員会において、委員の先生方から御指摘のあった事項を整理した資料でございます。
前のページの論点ごとに御指摘いただきました事項の概要を記載しておりますが、本日は1つ目の論点であります<判決の法的効果及び当該法的効果を踏まえた対応の在り方>について、点線で囲っております部分への御指摘の回答も含めまして、次のページ以降で基本的な学説や判例等について説明させていただきまして、その上で今後御議論いただきたい論点を提示させていただきたいと思います。
なお、2つ目の論点、それから、3つ目の論点に関する御指摘につきましては、第3回目以降の専門委員会において説明をさせていただく予定でございます。
3ページを御覧ください。取消判決の既判力につきまして、基本的な学説等を整理した資料になってございます。
まず、判決が確定した場合、その同一事項がその後訴訟で問題になっても、当事者はこれに反する主張をすることができず、裁判所もこれに抵触する裁判ができないという効力を既判力といい、行政事件訴訟法及び民事訴訟法の規定に基づきまして、取消判決にも既判力が及ぶこととされてございます。
その具体的な定義や内容につきましては、一部の文献より引用いたしましたが、まず1つ目の箱の3行目の記載でございますけれども、判決が確定すれば、係争処分の違法性に関して既判力が及ぶ。
それから、2つ目の箱の(ア)の記載でございますが、その範囲については、時間的には口頭弁論終結時まで、主観的には訴訟の当事者(承継人)に限られ、客観的範囲は訴訟物であるといった理解が一般的であるものと承知をしておりまして、こうした効果については今回の最高裁判決にも一定程度及ぶものと考えてございます。
4ページを御覧いただきますようにお願いします。4ページにつきましては、取消判決の形成力及び拘束力についての資料でございます。
取消判決には形成力が働くとともに、行政事件訴訟法第33条1項に基づく拘束力も生じることから、今後の対応の在り方の検討においては、これらの両面を考慮する必要があるものと考えております。
まず、判決の形成力につきましては(1)に引用しておりますとおり、1つ目の○でございますけれども、取消判決の主文において、処分が取り消されることにより、原告との関係では処分は元からなかったことになり、2つ目の○でございますが、処分から本来であればもたらされるはずの法律効果がなかったものとなるといった効果であるものと承知をしております。
そして、判決の拘束力につきましては、行政事件訴訟法第33条1項の規定において「処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する」と規定されているところでございます。
その上で(2)の1つ目の○として引用しておりますとおり、職権による不利益処分が取り消された場合については、行政事件訴訟法第33条2項及び3項に相当する規定は法律上存在せず、処分のやり直しが当然に義務づけられているわけではないものの、行政庁が「判決の趣旨」に従うべきこと、例えば、手続の違法を理由に取り消された場合には、それを是正することや、判決で裁量判断の考慮不尽を指摘された場合には、指摘された事項をもう一度考慮して処分をやり直すべきことが、行政事件訴訟法第33条1項に基づく拘束力の作用として生じると解されていると承知をしております。
また、2つ目の○で引用しております内容につきましては、1つ目の○の内容と一部重複がございますが、そのほか、拘束力は、判決理由の中の具体的な違法理由について生じるが、傍論や間接事実の判断には及ばない。また、公益上、異なる理由によって同一処分を行わなければならない場合、例えば、手続上の瑕疵を理由に取り消された処分と同一の処分を適法な手続を経て行う場合があるといったような内容が示されているものでございます。
続いて、5ページを御覧ください。取消判決の拘束力に関する近年の判例についての資料でございます。
本判例につきましては、取消判決の拘束力による行政庁の義務の内容について、一般的な解釈を示した直近の判例であると承知をしておりますけれども、その内容においては、取消判決の拘束力による行政庁の義務の内容は、当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られることを判示したものであると承知をしております。
その具体的な内容につきましては、資料の一番下の箱の【判決抜粋】の最初の3行に記載がございますが、処分を取り消す判決が確定した場合には、その拘束力により、処分をした行政庁等は、その事件につき当該判決における主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に従って行動すべき義務を負うことになるが、その一方で、上記拘束力によっても、行政庁が法令上の根拠を欠く行動を義務づけられるものではないから、その義務の内容は、当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られるものと解されると判示をされておりまして、この考え方につきましては、今般の最高裁判決を受けた行政としての対応の在り方の検討に当たって一つの示唆を与えるものであると考えているところでございます。
6ページを御覧ください。生活保護法の関連規定に関する資料でございます。
前のページの内容も踏まえまして、今般の最高裁判決の拘束力を踏まえ、どのような対応を行うべきか検討いただくに当たって、生活保護法の関連規定との関係性についても考慮することが必要ではないかと考えております。
まず、生活保護法第3条におきまして、法により保障される最低限度の考え方が示されているところでございますが、ここで言う「健康で文化的な生活水準」は固定的なものではなく流動的なものであると解釈をされているところでございます。
そして、法第8条において、保護の基準及び程度の原則として、1項において、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、2項において、1項の基準は、最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつこれを超えないものでなければならないと規定されているところでございまして、今般の最高裁判決の法的効果を踏まえ何らかの対応を講じる場合には、当該規定との関係性についてどう考えるかという点が一つの論点になるものと考えているところでございます。
そして、法56条につきましては不利益変更の禁止を定めた規定でございまして、正当な理由がなければ、既に決定された保護を、不利益に変更されることがないことを明記した規定でございます。その考え方といたしましては、1つ目のポツのとおり、一度保護の実施機関が保護を決定したならば、その決定された内容において保護の実施を受けることが既得権となり、被保護者は、これに基づいてその実施を請求する権利を有するものである一方で、一番下のポツのとおり、不利益変更をなし得るもの、つまり、正当な理由に該当するものの例として、法8条の基準及び程度の原則等に基づいて行われる職権による保護の変更決定が挙げられているところでございます。
7ページを御覧ください。最高裁判例の拘束力に関する資料でございます。
第1回専門委員会における御指摘を踏まえまして、取消訴訟の拘束力は、行政事件訴訟法33条1項において「その事件」について及ぶとされている一方で、そのことと、行政の司法に対する一般的な敬譲または最高裁判例の拘束力の問題は区別をする必要があるということをまとめた資料になってございます。
引用しております箇所の最後の3行を御覧いただければと思いますが、ある問題について裁判所の確定判断が示されており、それが判例として確立されているような場合には、行政庁は異なる法律関係においても当該判断を尊重することが望ましいし、場合によっては義務づけられるとは言えるが、それは行政の司法に対する一般的な敬譲または判例の拘束力の問題であり、行政事件訴訟法33条にいう取消判決の拘束力の問題ではないということが示されているものでございます。
8ページを御覧ください。本日御議論いただきたい事項(論点)に関する資料でございます。
8ページの○の1つ目でございますけれども、まず、今回の最高裁判決の趣旨をどのように受け止めるかという点でございます。この点につきましては、第1回の委員会においてもお示ししたところでありますが、改めて御意見がありましたら御発言をいただきますようにお願いいたします。
2つ目の○ですけれども、判決の法的効果及び当該法的効果を踏まえた対応の在り方についてでございますが、4点ほど例示をさせていただいておりますが、1点目としては、今回の最高裁判決においては、判決主文において、大阪事件及び名古屋事件の原告に対する処分が取り消されておりますが、既判力が及ぶ範囲についてどのように考えるか。
2点目でございますが、今回の最高裁判決においては、デフレ調整に係る判断の過程及び手続の過誤・欠落があったと指摘された一方、ゆがみ調整については違法とされていないが、その点と判決の形成力との関係についてどう考えるか。
3点目でございますが、今回の最高裁判決による法的効果については、資料に記載の①及び②に区別して検討する必要があると考えておりますが、それぞれの法的効果の具体的な内容(行政に求められる対応の在り方)につきまして、どのように考えるかという点でございます。
最後、4点目の点については、判決の形成力及び拘束力の内容と、それから、実体法の規律、具体的には生活保護法の規定でございますが、これとの関係について、どのように考えるかといった、これらの点につきまして御意見をいただきたいと思います。
最後に、その他、最高裁判決を踏まえた対応の在り方を検討するに当たって、どのような論点が考えられるか、現時点で御意見がありましたら御発言をお願いいたします。
次のページ以降の参考資料につきましては、第1回専門委員会でお示しした最高裁判決の概要の再掲に加えまして、老齢加算の見直しに関する資料、それから、当該見直しに関する最高裁判決の概要の資料でございますので、検討・議論に当たって、適宜、御参照をいただきますようにお願いいたします。
以上で、事務局からの説明を終わります。御審議のほど、よろしくお願いいたします。
○岩村委員長 ありがとうございました。
それでは、今、事務局のほうで用意していただいた資料についての説明をいただいたところでありますけれども、委員の皆様のほうで御質問、御意見などあればお伺いしたいと思います。
ただ、今日は残された時間があまりないので、残る議論については次回以降ということになろうかとは思いますので、その点も御理解をいただければと思います。
一番、事務局の説明資料の中で、今、最後に触れていただいた8ページのところで、今回の最高裁判決の趣旨をどのように受け止めるかという、ある意味、総論的なところの質問といいますか、テーマ設定があるのですけれども、それについて、もし太田先生または興津先生から御意見等あればと思いますが、いかがでございましょうか。
では、太田先生、どうぞ。
○太田委員 ありがとうございました。
ただ、趣旨とい、総論といっても、本来は後ろの論点の分析結果として出てくるのですが、それでも総論だけ言えというご趣旨ですか。
○岩村委員長 それはそうなのですが、概括的にお話をいただければ、多分、専門外の先生、法学以外の分野の先生にもお分かりいただけるのではないかというように思いまして、お願いした次第です。
○太田委員 分かりました。
私の捉え方としては、まず、原告団が言っていたように、職権で行われた不利益処分を全部取り消しているので、もともとの処分が残っている、回復したというのが現時点の状態であるというのは間違いないと思います。
その上で、では、そのまま払うのかというと、どうも、最高裁は気になることを言っている。つまり、ゆがみ調整は2分の1処理も含めて適法であり、デフレ調整は調整しないといけないのではないか、不均衡が生じているのではないかと思って検討を開始したことは構わないと言っている。国賠のほうでも、それは過失を、違法性を否定する理由に使われているわけです。だから、その点において、どうも、そのまま払えというところまでは根性が決まらなかった判決だろう。言わば、もう一度考え直せと。つまり、差し戻したというタイプのものではないかと思います。
では、問題は、何を考え直せと言っているかでございます。つまり、論点はデフレ調整に当たるものをやれるのかというのが一番の問題で、私は逆に前提として、ゆがみ調整は2分の1処理を含めて行える、下手をすると、行わないとおかしなことになると思っているのですが、若干、そこは今日の弁護団の御意見を聞くと、きちんと議論したほうがいいかもしれません。
デフレ調整については、私はその部分について、なんというか、やれるというならやってみろという感じの書き方ではないかと思っています。ただ、最高裁も実際のところ、何かやれるとは思っていないのではないか。つまり、原告団が主張するように、前訴でやってきた主張では十分ではないと言っている。それから、物価というものは一指標にすぎないということを経験則のように言っている。これらからすると、それから、もう一つやはり、私もその点は同様に思いますが、紛争の蒸し返し、後出しじゃんけんのようなものは多分、次の訴訟で非常に厳しく見られるだろう。
厳密に言うと、我々が言っている、行政法学が言っている反復禁止効は同一内容の処分でないといけないので、デフレ調整率マイナス4.何%とかという前の数値でなかったらいいのだろうかという疑問はあるのですが、それをやると、つまり、ではマイナス2%ならオーケーなのかというと、それはあまり紛争の一回的解決に資さないので、そこはおおらかに同一内容を見るべきなのではないかなとは思っていて、そうすると、デフレ調整に当たるものをやるのだったら、それなりの論拠が必要だということになる。
ただし、前訴で出して負けたような資料しか、役に立たなかったような資料しか論拠とできないのではやはり駄目だし、目を見張るような新しい資料が処分後に出てきた、それで、訴訟には使えなかったのですといっても、そんな目を見張る資料が出てきて、そもそも、本当に訴訟に出せなかったのかという問題になります。仮に、口頭弁論の終結後で訴訟に本当に出せなかったとします。ただ、そうすると、普通は今から過去5年間のデータの変動を見て、今から5年間の保護基準を検証するわけです。それは親委員会がやる検証ですよ。ところが、原告団が言っていたのとは違う意味で、新しい資料を使って昔をいじるという遡及的なものになっていって、これは非常に例外的であるということになるので、やはりやれない可能性のほうが高いかなと。
したがって、私としては、やれるならやってみろと。そのときには、こちらが言った趣旨を踏まえてやってみろと最高裁は言ってくれているのですが、事実上やるのはすごいきついだろう。多分、やれないのではないかなというのが私の率直な総論レベルでの印象、趣旨理解でございます。
取りあえず、こんなものでよろしいでしょうか。
○岩村委員長 ありがとうございました。
興津先生、いかがでしょうか。
○興津委員 ありがとうございます。興津です。私も、今、太田先生がおっしゃったことに基本的には賛成で、同意見であります。
若干、私なりの視点も付け加えながらとなると、この8ページの○の2つ目の判決の効力にもやや及ぶのですけれども、それでよろしければ補足しながら申し上げたいと思います。そういうような発言でよろしいでしょうか。
○岩村委員長 お願いいたします。
○興津委員 まず、大前提として、保護変更決定処分が取り消された以上は、形成力の作用により、元の処分に戻った状態にあるという、太田先生がおっしゃった、それはそのとおりであり、それを前提として、この委員会でも議論をすべきなのだろうと思います。
その上で、では、その取り消された前の処分に基づいて保護費を遡及的に支給しなければならないのかということになると、そういう考え方ももちろん成り立ち得るとは思うのですけれども、ここでやはり生活保護法8条2項の超えないものでなければならないというほうの上限の規律を考慮する必要があるのかなと思います。
このことは、資料の中で御紹介いただいた令和3年の租税法に関する最高裁判決です。5ページで紹介していただいていますけれども、この判決が行政事件訴訟法33条の拘束力についての一般論の判示を含むということで資料に挙げていただいたのだと思いますが、その中で【判決抜粋】の冒頭の3行の中で、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に従って⾏動すべき義務を負うことになるのだけれども、それは当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られると言っておりまして、ここで言う法令上の権限というものを本件に当てはめると、生活保護法で厚生労働大臣に与えられた権限の範囲内でそういう義務が生じるのだということになりますので、8条2項が権限の保護基準の上限を定めているのだとすると、やはり上限を超えることはできないという実体法上の制約はかかってくるのかなと。
ただ、8条2項を具体的に本件に当てはめるに当たって、被保護者の期待的利益をどのように考慮するかというものは、先ほど太田先生と伊藤参考人との間で議論があった点であり、それは委員会で改めて議論する必要があると思うのですけれども、枠組みとしてはそのように考えられるのかなと思っております。
その上で、もう一つ申し上げますと、8条2項を考慮して、実体法上の問題として保護基準の設定と、それから、処分をやり直すということが許されるとした場合ですけれども、最高裁判決の処分を違法とした理由に働く拘束力がどのように及ぶかという点についても、これも太田先生が整理してくださったとおりかと思うのですけれども、まず、デフレ調整のほうは違法であると判示しているので、その部分に拘束力が生じる。
その拘束力を前提にして、なおデフレ調整をもう一回やって減額をする余地があるかということになると、理由の異なる処分とか、あるいは内容の異なる処分については、拘束力は直接には及ばないというのが一応、原則であるというのは、これも太田先生がおっしゃってくださったとおりなのですけれども、原則であるので、理論的にそういう余地が完全になくなるとまでは言えないのかなと思うのですけれども、現実問題として本件の状況に引きつけて考えたときに大きいのはやはり資料の問題だと思うのですけれども、前訴の口頭弁論終結時までに主張し得た事情であるとか資料というものをもう一度使ってデフレ調整をするということは、これは拘束力に反すると言い切ってよいのか、それとも、学説上は信義則とか行政庁の権利濫用とか、そういう一般条項で説明する見解もありますので、そちらに反するという言い方もできるかもしれませんが、いずれにしても、現実的にはそういうことはしない、できないという含意を含む判決ではないか。デフレ調整については、そう読んだほうがよいのではないかというのが今のところの考えということになります。
ゆがみ調整のほうは、こちらは処分の違法性を直接根拠づける理由となっておりませんので、ここに拘束力が及ぶということには多分ならないと思うのですけれども、ここで何度も出てくる8条2項の趣旨というものを考慮して、ゆがみ調整についてはもう一回やり直すという余地はないわけではないのかなというように考えているところであります。
差し当たり、私からは以上です。
○岩村委員長 ありがとうございました。
今、太田委員、それから、興津委員から御説明いただいたところでありますけれども、もし、ほかの委員の方で、今、お二人がお話しいただいたところについて、何か、これは教えてほしいと言うと上から目線で申し訳ないのですが、そういうところがあれば、あるいは今日はここまでという形にしておいて、次回以降に質問をまたお考えいただいた上で意見交換ということでもよろしいかと思いますけれども、行政法の専門家でないと分からない話、法律家でもなかなか分からない話のところもあるので、いずれにしろ、経済学あるいは社会福祉学の先生のほうでここは教えてほしいとか聞きたいということがあれば遠慮なくおっしゃっていただければと思います。
今日のところは、この辺りでということでよろしいでしょうか。
太田先生、気がつきませんで、失礼しました。どうぞ。
○太田委員 すみません。議論するべき論点を先に出しておかないと、どんどん時間稼ぎしているのではないかと思われるのはやはり困るので、判決効について少し言っておいてよろしいでしょうか。
○岩村委員長 ぜひお願いします。
○太田委員 まず、既判力が及ぶ範囲でございますが、既判力の主観的範囲については原告にしか及ばないというのはそうなのですが、この事件の場合、だから、どうだということはないのではないか。つまり、興津委員や私が言ったように、基準の改定をもう一度やり直すということになったら、原告用の基準とそうでない人の基準と分けられないので、分けるのは生活保護法の趣旨に反しますので、結局、原告でない人にも新しい保護基準を適用することになる。その結果、追給が必要になる人には追給するということを考えないといけないのではないかというのが一つでございます。
その結果、もう一つ厄介なのが外国人です。保護基準を使っていて、外国人に対して事実上の措置として行われている。しかし、やはり平等原則が及んでくるので、私は外国人に対しても給付を行う、追給するということを考える必要があると思います。
それから、第3に、この主観的な範囲で厄介な問題は死んだ人です。これは朝日訴訟最判の問題があるので、お亡くなりになった原告については、朝日訴訟最判の論理を使えば追給の必要はない。相続の対象にもならないので、追給の必要はないということになります。問題は保護を途中で離脱した人です。この方に追給するのかしないのか。今さら生活保護を追給しても、それはどうなのかというものの、しかし、違法に払っていなかったのだから追給しなければいけないのではないかという問題があると思って、これは私も正直、どちらがいいのか、どうすべきなのか、自分でも判断がつかないので、そこは議論しておいていただきたいと思います。
拘束力・形成力の内容と実体法の記述に関しては、興津委員が先ほどおっしゃってくださったことに私も付け加えることはないです。もう一度、ゆがみ調整、デフレ調整をやる場合、もちろん、8条2項の、あるいは3条の基準を満たすものでないといけないのですが、その部分は最高裁が承認しているし、前回の委員会で承認されている以上、こちらでやはりやめたというのはかえって難しいのではないか。せいぜい2分の1の部分ですが、そこでさえ最高裁が承認した以上、寝た子を起こすような格好になるのかどうか。やるならお付き合いしますけれどもということになります。
それから、もう一つ、追給は、実際は福祉事務所が計算して払わなければならず、これを回してもらわないと法律家としては困るのですが、回せる仕組みは少し考えないといけない。つまり、計算が確定した部分から払うとか、そこら辺はこの委員会でやる必要があるのかどうかは分かりませんが、やはり厚生労働省はそのオペレーションをきちんと考えておいていただきたい。どうやっても、追給しないでいいという結論は出ないと思いますので、よしんば少しデフレ調整をやってもマイナス4.78%はできないと思いますので、追給はしないといけない。そうすると、回るオペレーションを今から考えておかれたほうがよろしいのではないかと思います。
以上でございます。
○岩村委員長 ありがとうございました。
ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
○興津委員 すみません。もし時間があれば、一言よろしいでしょうか。
○岩村委員長 興津先生、どうぞ。
○興津委員 判決の効力についても言及してよいということでしたら、私からも若干申し上げます。
まず一つは、既判力については、これは取り消された当該処分が違法であるとする裁判所の判断を今後覆せなくなるという形で働く効力なのですけれども、この既判力が、処分がやり直された場合、新しい処分に及ぶかどうかということについては、学説上、若干の異説はあるのですけれども、一般的にはこれは処分が新しくなると既判力は及ばないと解されていると思います。
及ぶケースはどういうケースかというと、取り消された当該処分の違法性を理由として事後的に国家賠償請求などがされた場合には、その訴訟に及ぶ可能性があると言われているのですが、本件については、国賠請求は同時に最高裁で棄却が確定していますので、その点も問題にならない。したがって、本件では既判力そのものの作用については特に検討する必要がないのかなと思いました。
太田先生が既判力のところで言及されたのは人的範囲の問題なのですけれども、それは拘束力の人的範囲として議論する。誰に及ぶかというのは基本的に既判力と同じであって、行訴法32条の第三者効というものは考える必要があるのですけれども、いずれにしても、既判力を抜きにして人的範囲についても考えたらいいのかなと。したがって、既判力は今後考えなくていいのではないかというのが私の意見です。
もう一つは、人的範囲について申しますと、今回の最高裁判決が出た大阪訴訟と名古屋訴訟の当事者となった原告に対して拘束力が及ぶというのは、これは異論の余地がありませんけれども、ほかの訴訟の原告及び訴訟を提起していない当時の被保護者で、死亡した方の扱いについては太田先生から指摘がありましたが、少なくとも生きている方というのは、これは拘束力は直接には及ばないので、別の効力として考える必要があるのだろうと思います。
そこで、今回の資料で御用意いただいた点に、行政の司法判断の尊重とかそれに対する行政の敬譲という論点がありまして、それが7ページです。実は、7ページで御紹介いただいている条解行訴法のこの部分は私が分担執筆をした部分でありまして、私が前回資料としてお願いしたことについては私が書いたものを挙げていただいたので、マッチポンプのような形になってしまって申し訳ないのですけれども、今回の判決を受けて生活保護基準を、例えばゆがみ調整を考慮して、もう一回改定するということになった場合に、最高裁が示した判断はもちろん尊重する必要があるのだけれども、それは行訴法33条で定められた拘束力ではなくて、判例の拘束力と申しますか、最高裁が司法判断をしたという、その権威に基づくものなのだという、この辺りも理屈の整理にとどまるのですけれども、そういう趣旨であります。
それに基づいて最高裁判決の趣旨に合うように基準が改定された場合には、その基準自体は一般的な効力を持つので、今回の訴訟当事者にとどまらず、それが適用される当時の被保護者に一般的に及ぶ。これ自体は基準の効力、あるいは基準は告示という形式を取りますので告示の効力としてそういうことになるのだというのは、これは太田先生が御指摘になったとおりかなと思います。
ということで、既判力については検討しなくてもいいのではないかということと、それから、拘束力とは異なる判例の拘束力あるいは司法判断の権威というものがどういうものなのかということについての補足をさせていただきました。
以上です。
○岩村委員長 大変貴重な御意見を太田委員、それから、興津委員からいただきましてありがとうございました。
時間になってしまいましたので、次回以降続けて議論を進めてまいりますけれども、今日お二人がお話しいただいたことについては、何か御質問等あれば、次回にでもまたお出しいただければというように思いますので、御検討のほうをよろしくお願いをいたします。
それでは、以上をもちまして、今日のこの委員会のほうは終了とさせていただきます。
次回の開催につきまして、事務局のほうから説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○千田社会・援護局保護課長補佐 事務局でございます。
次回については、9月8日の月曜日10時からの開催を予定しておりますが、詳細につきましては事務局より追って皆様方に御連絡をさせていただきます。よろしくお願いいたします。
○岩村委員長 ありがとうございました。次回は9月8日10時からということですので、委員の皆様方、よろしくお願いをいたします。
本日の審議はこれをもちまして終了とさせていただきます。本日は夜遅くまで、お忙しい中、御参集いただきまして誠にありがとうございました。また、御意見のほうもありがとうございました。
それでは、これで散会といたします。ありがとうございました。