第3回労働基準法における「労働者」に関する研究会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和7年7月31日(木) 10:00~12:00

場所

厚生労働省 共用第6会議室

議題

(1)国際動向について
(2)労働基準法における「労働者」について

議事

議事内容
○岩村座長 おはようございます。定刻よりちょっと早いのですけれども、構成員の皆様、出席予定の方は全員おそろいでございますので、始めさせていただきたいと思います。ただいまから第3回「労働基準法における「労働者」に関する研究会」を始めさせていただきます。
 構成員の皆様におかれましては、御多忙のところをお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
 本日の研究会につきましては、会場参加とオンライン参加との双方による開催方式で行わせていただきたいと思います。
 本日は、小畑先生、島田先生、新屋敷先生がオンラインでの御参加でいらっしゃいます。
 それから、笠木先生は御欠席でございますが、本日の議題に関する御意見を事務局に事前に御提出いただいていると伺っております。議題に入りましたら、その意見につきまして、事務局から御紹介をいただこうと思います。
 それでは、恐縮ですけれども、報道の方、頭撮りはここまでということにさせていただきます。よろしくお願いいたします。
(カメラ退出)
○岩村座長 それでは、早速議事に入ります。
 まずは、議題の1つ目でございます。議事次第にもありますように、1つ目は労働者概念等に関する国際動向につきまして、事務局から説明をいただき、その後、構成員の皆様から資料に記載の内容についての補足、国際動向から得られる示唆に関する御意見を頂戴したいと考えております。
 なお、国際動向に関する資料の内容につきましては、ドイツに関して島田先生、フランスに関して水町先生、イギリスに関して新屋敷先生、そして、アメリカに関して竹内先生にそれぞれ記載内容の確認などをいただいているところです。事務局からも資料の作成方法に関して御説明はあるかと思いますけれども、先にこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
 それでは、議題の1つ目に入りますので、事務局から説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○小島課長補佐 ありがとうございます。労働条件政策課の小島でございます。
 説明に先立ちまして、7月8日付で事務局に異動がございましたので、御紹介いたします。
 総務課長の松下でございます。本日欠席です。
 労働条件政策課長の川口でございます。
 労働条件政策課労働条件確保改善対策室長の田邉でございます。
 それでは、国際動向の説明に入らせていただきます。
 お手元の資料1-1、国際動向についてでございます。
 国際動向については、本研究会の開催要綱にも国際動向を見ながらの検討を行うとされていること、また、第1回研究会において、特にプラットフォーム就業者に関する裁判例に関しては、国際動向をよく見る必要があるとの御意見があったところでございますので、資料を御用意いたしました。
 具体的には、書籍や論文を基に、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカの4か国とEUについて、労働者概念の全体像、労働者概念の拡張や類似の概念、プラットフォーム就業者を中心とした裁判例の状況、立法措置などに関して事務局において原案を作成し、ドイツについては島田先生、フランスについては水町先生、イギリスについては新屋敷先生、アメリカについては竹内先生、EUについては水町先生と島田先生にそれぞれ御確認いただいたものになります。
 続きまして、各国の状況について説明いたします。
 2ページ目、ドイツについてでございます。
 全体像としては、ドイツでは労働者概念は全ての法律で統一的な概念であると理解されております。また、労働者と自営業者の中間概念である労働者類似の者という概念が実定法上定められております。
 労働法規の一般的な適用対象としての労働者概念は、人的従属性によって特徴づけられておりまして、業務諾否の自由の有無や時間的・場所的拘束性、具体的指揮監督の程度、非代替性といった判断要素から判断されております。
 2017年4月に施行された民法典611a条では、これまでの判例法理を明文化する形で労働契約の定義が定められていまして、具体的な判断基準が明文化された状況となります。その中で、人的従属性を示す要素の1つとして組織への組み入れというところが挙げられております。
 一方で、労働者概念の拡張、類似の概念という枠ですけれども、労働者類似の者という中間概念が実定法上定められておりまして、これは経済的従属性によって特徴づけられています。具体的には収入依存など、日本で言うところの専属性の程度に当たるところですけれども、それによって特徴づけられているという形になっております。
 3ページ目になりますけれども、プラットフォームワーカーに関する裁判例の状況としては、2020年12月1日のCrowdworker事件連邦労働裁判所判決で、クラウドワーカーの労働者性を肯定する判断が出ております。
 具体的には、資料に記載の1~3を理由に労働者性を肯定しております。
 この中では、アプリシステムによる事実上の拘束を他人決定性という人的従属性の枠組みとして考慮に入れて判断しております。
 その下になりますけれども、ドイツにおいては、プラットフォーム就業者に特化した立法措置は取られていない状況です。
 4ページ目になりますけれども、続いて、フランスについてでございます。
 フランスでは、労働法と社会保障法で統一的に労働者概念が定められておりまして、労働者というのは、労働契約の当事者と理解されております。
 労働者概念というところですけれども、フランスも人的従属性を中核とする労働契約概念によって画定されておりまして、1996年の破毀院のSociété Générale判決において、「事業組織のなかで労働が行われることは、その労務提供の条件を使用者が一方的に決定している場合には、人的従属関係を示す一要素となりうる」とされておりまして、これらの事情を部分的に考慮しております。
 一方で、ほかの判例もありまして、人的従属性の要素として具体的に設定することなく、自営業者としての独立性の欠如を示す諸要素を考慮して労働者性を判断している判決もある状況でございます。
 判例の動向としては、20世紀末から契約形態よりも実態を重視する傾向と、経済的従属性を示す要素、事業組織への組み入れ、労働条件の一方的決定などを考慮する傾向が見られるようになっております。
 5ページ目になりますけれども、デジタルプラットフォーム就業に関する裁判例というところで、プラットフォーム就業者については、当初はアプリに接続する時間帯を就業者自身が選択できることを重視して、労働契約性を否定する裁判例が多い傾向にありましたが、破毀院の2018年のTake Eat Easy判決と2020年のUber判決は、これを転換しまして、プラットフォーム就業者の労働契約性を肯定しています。ここでは、GPSでの就業の把握と指示、アクセス停止等の制裁の付与という人的従属性を示す事情に加えて、固有の顧客保持の禁止、報酬の一方的決定などの経済的依存性を示す諸事情が考慮されております。
 また、フランスにおいては、プラットフォーム就業者に対する立法措置として様々あるところですけれども、例えば電子的プラットフォームが、独立自営業者が任意で労災保険に加入する場合に一定の保険料負担を行うとするもののほか、一部のプラットフォーム就業者に対しては、就業条件を記載した社会憲章の作成を行うとするものなど、様々な形態で積極的な対応が行われている状況でございます。
 6ページ目になりますけれども、イギリスについてでございます。
 イギリスの現行の労働法規制は2つの概念がございまして、コモン・ロー(判例法)が定義する雇用契約を締結したものであるemployeeを適用対象としているものと、制定法が定義するworkerを適用対象としているものがございます。
 どちらも契約の類型によって定義されていますが、employeeを適用対象とする法律によって付与されている権利には、解雇規制など、一定の勤続要件が課されているものがございます。
 労働者概念のところですけれども、まずemployeeについてですが、employeeは資料に記載の1~3によって判断されておりまして、具体的には、1契約の成立要件としての義務の相互性、2コントロール(指揮命令)、3契約条項が雇用契約と整合的であることという3つの要素によって判断されておりまして、1・2は必要な要素、3は消極的な要素とされておりまして、人的従属性を中心とした概念でございます。
 次にworkerですけれども、workerは制定法上の概念で、例えば雇用権利法においては、資料に記載のとおり定められておりまして、資料に記載の1~3で判断されております。具体的には、1契約の成立要件としての義務の相互性、2本人自身による労務提供、3契約の他方当事者が事業施行者の顧客の地位にないという顧客要件によって判断されています。
 7ページになりますけれども、両者を比較すると、workerのほうが広い概念となっております。employeeの判断では指揮命令が特に重視されておりまして、workerの判断では労務の非代替性と自律的なサービス提供の有無がより重要な要素となる傾向にあります。
 一方で、最高裁のレベルで、経済的従属性などの基準を解釈で判断要素に加えるものではないということが確認されております。
 8ページ目ですが、プラットフォームワーカーに関する裁判例としては、worker該当性が争われた2021年のUber事件の最高裁判決がございます。そこでは、ライドシェアの運転手に関して、workerの該当性が肯定されています。この判決では、報酬や就労条件がUberによって決定されていたこと、アプリログイン後に運送リクエストの受託に関する制約があったこと、サービス提供について相当程度の指揮監督を行っていたことなどをコントロールの要素として認定・評価して、workerの該当性を肯定しております。
 こちらの判決では、契約書面の位置づけ・解釈の在り方について、契約書面に縛られず、契約締結以降の労働の実態を確認するアプローチも整理されております。
 一方で、団体交渉の事案ではありますけれども、2023年のDeliveroo事件においては、レストランの料理を配達する配達員とアプリの運営会社との関係について、workerの該当性を否定した中央仲裁委員会の判断がありまして、それを違法ではないとする、つまりworker該当性を否定するという判断も出ておりまして、事例に応じた判断が見られるところでございます。
 9ページ目に行きまして、アメリカになります。
 全体像として、最低賃金規制や割増賃金規制などを内容とする公正労働基準法(FLSA)、団結権等の保障などを行う全国労働関係法(NLRA)、社会保障法などにおいて、法の適用対象をemployeeとしていますが、その概念と判断基準は各法令の趣旨・目的により異なり得る相対的なものとされております。
 労働者概念の部分ですけれども、具体的には全国労働関係法などの労働者性の判断として、判例では管理権テストというものが採用されておりまして、業務遂行の具体的方法についての管理権限の有無を重視しています。
 一方で、公正労働基準法における労働者性について、判例では全国労働関係法などの労働者よりも広い概念と解されております。判断基準としては、経済的実態テストというものを採用しております。
 経済的実態テストというのは、一般的には役務を提供する事業に依存しているか否か、すなわち経済的に依存しているかを検討して労働者性を判断するという形になっております。
 労働者概念の変化の部分ですけれども、全国労働関係法の下における労働者性の判断に関しては、管理権テストによることを前提としつつ、損益についての起業家的機会の有無の位置づけなどをめぐり、判断の変遷が見られております。
 一方で、公正労働基準法の下における労働者性の判断に関しては、経済的実態テストによることは前提としつつも、その具体的な判断要素に関しては、同法の履行を担っている連邦労働省賃金時間部による考え方の変遷が見られるような状況になっております。
 10ページ目ですけれども、こちらのスライドは、先ほど述べた公正労働基準法における労働者性の判断に関する考え方の変遷を中心にまとめております。
 第1次トランプ政権、バイデン政権、第2次トランプ政権と移り変わる中で、バイデン政権においては、それまでよりも労働者性をより広く解する考え方に立つと解し得る解釈を連邦規則として示したところですけれども、第2次トランプ政権においては、連邦労働省の賃金時間部においてその内容を適用せず、従前の解釈とすることを決定するなどの状況となっており、行政による判断基準が政権によって変更され得る状況となっております。
 一番下のところですけれども、このような解釈の変遷の一方で、Uberの運転手のようなギグワーカーの労働者性について、アメリカにおいて判例の立場は固まっていない状況にあります。
 11ページ目の立法措置ですけれども、カリフォルニア州などの州法では、プラットフォームワーカーなどを対象として、一定の要件を使用者側が立証しない限り、労働者と判断する基準を立法等で採用する例がございます。いわゆるABCテスト、AB5になります。ただ、中には真正な独立契約者も含まれているため、その点を踏まえて適用除外対象の業務を109挙げている状況になります。
 他方で、報酬などの一定の要件を満たす場合、プラットフォーマーとの関係で独立契約者と明確に位置づけると同時に、最低報酬保障など、一定の保護を行う制度もございます。
 このような形で、アメリカにおいては、州単位での立法措置が行われている状況です。
 12ページ目に移っていただきまして、続いてEUになります。
 EUについては、直近の状況として、プラットフォーム労働指令について御説明いたします。
 13ページ目になりますけれども、2024年10月23日にプラットフォーム労働における労働条件改善に関する指令が正式に採択されました。EU加盟国は、2026年12月2日までにこの指令を遵守するために必要な法律等を発効させることが求められておりまして、この中には雇用関係の推定、挙証責任の転換が含まれていますが、今回の調査対象国においては具体的な法案提出などの動きは見られておらず、今後、具体的な動きが現れてくるものと考えております。
 各国の国際動向については以上となりますが、全体を通して、基本的な労働者概念としては、各国とも人的従属性を中心・中核としたものとなっている状況でございます。
 一方で、最高裁レベルでアプリによる制裁・拘束を指揮命令の事情として認めているものもあれば、経済的依存の事情等が労働者性判断において考慮されている状況も確認されており、また一部では労働者性否定の裁判例も示されるなど、事例に応じた判断もなされている状況でございます。
 国際動向の資料1-1に関しての説明は以上になります。
 続きまして、資料1-2のILOにおける議論の御報告になります。
 2ページ目になりますけれども、デジタルプラットフォーム経済の下での就業者について、雇用関係がないとされることが多いこと、デジタルプラットフォームの所在と就業者・利用者の住む国が異なる場合も想定されるなど、既存の国際労働基準では必ずしもカバーできていないとの指摘があり、プラットフォーム経済に関する新しい国際労働基準について、今年6月の第113回ILO総会と来年6月の第114回ILO総会において議論がされることとなっております。
 3ページ目に行きまして、今年6月のILO総会においては、ILO事務局より示された結論案に基づいて議論が行われました。
 結論案では、文書の形式は一部勧告部分を含む条約形式で採択すべきとされておりまして、そこに記載のとおり、条約案の内容としては、労働における基本原則と権利、労働安全衛生、ハラスメントなどのほか、自動システム利用の通知など、幅広い内容のものとなっておりました。
 今年度の議論の結果としては、内容が広範で対象や定義もこれまでにない枠組みのものとなっていたため、文書の形式、すなわち条約とすべきか勧告とすべきかといった点と、条約の対象となるデジタル就業プラットフォーム、デジタルプラットフォーム就業者などの定義に関する議論に多くの時間が費やされ、先ほどの結論案にあった具体的内容については、ほとんど議論されずに終了したという状況になります。結論案のとおり、文書の形式は勧告付条約とされ、定義については結論案から一定の修正がなされた上で採択されている状況です。
 日本政府のスタンスとしては、プラットフォーム就業者に適切な保護をすべきとする考え方には賛同しつつ、取組が広がりやすくなるよう、各国の状況や規制に応じた柔軟性を認めるべきという姿勢で議論に参加しました。具体的に例を出しますと、文書の形式については、勧告とすべきなどの意見を提出したところでございます。
 今後については、来年の第114回総会においても議論される予定で、それまでに非公式の政労使三者会合が設けられる見込みでございますが、具体的な予定は不明の状況です。
 4ページ目でございますけれども、本総会で議論された定義について一部紹介します。こちらに記載のとおり、本基準の対象となるデジタルプラットフォーム就業者の定義には、雇用・非雇用の者が両者含まれるものになっております。
 一方で、基準案の中には、今回議論に至らなかったところでございますけれども、雇用・非雇用で一部措置の内容が異なるものも含まれております。
 5ページ目になりますけれども、こちらも本総会では議論されなかった点ではありますが、プラットフォーム就業者について、雇用かどうかの正しい分類を確保するための措置を講ずるべきといった内容も含まれておりまして、現在の案ではその措置の具体的内容は定められておりません。
 以上、簡単ではありますが、現在のILOでの議論の状況についての御報告となります。
○岩村座長 ありがとうございました。
 それでは、今、事務局から説明をいただきました国際動向についての補足や国際動向から得られる示唆などの御意見があれば、構成員の皆様から頂戴したいと思います。
 なお、本日も時間の制約がございます。この議題もそうですし、次の議題も同じですけれども、発言を希望される構成員ができるだけ全員発言できますように、2~3分程度で要点をまとめて御発言いただけますと大変ありがたく思います。ぜひ御協力をお願いいたします。
 それでは、まず笠木構成員から頂戴している御意見につきまして、事務局から御紹介をいただいた上で議論に入りたいと思います。よろしくお願いいたします。
○小島課長補佐 代読させていただきます。
 初めに、大変充実した資料を作成してくださった事務局の皆様、構成員の皆様には心から御礼申し上げます。
 (1)諸外国における動向について。
 私自身はフランス法を対象として研究することが多いので、同法についてのスライドに若干のコメントをさせていただきます。
 資料の中ほどのように、労働契約性が問題となりやすい一部の業界について、労働者性のみなし制度や労働法典・社会保障法典の一部規定の適用が法定されていることは、労働者性の判断基準について考える前提として注目すべき点かと思います。
 また、以下は資料を理解する上での補足的な視点になりますが、プラットフォームワーカーの保護との関係では、フランスでは、近年、起業支援政策が失業対策やワーキングプア対策の趣旨を有するものとして進められ、結果として不安定な個人事業主が増加したとの認識があり、プラットフォームワーカーに対する保護の問題は、しばしば法的には労働者と区別されるとしても、社会的・経済的に労働者との延長線上で捉えられるような、経済的に脆弱な個人事業主をイメージして論じられていることも念頭に置く必要があると思います。
 2点目に、社会保障法との関係については、資料中にも一部表れているように、比較の視点として、(1)労働法と社会保障法の分野で同じ労働者概念をとっているかという点と、(2)労働者でないとされた人についてどのような社会保障が用意されているかという点があり得ると考えております。
 いずれも労基法上の労働者性という本研究会で扱う論点の中心にかかるものではありませんが、特に後者は労基法上の労働者性が認められる場合、認められない場合の帰結という意味で、本研究会の議論において比較法的な視点を入れる際にも、周辺的・補完的な視点として考慮する必要があるように思われます。
 この点で、再度フランスについて若干の補足をいたしますと、フランスでは労働者性が認められず、自営業者とされる場合には、自営業者独自の社会保険が適用され、労働者の受ける社会保障制度よりも水準が劣るとはいえ、傷病時や妊娠・出産時の所得がある程度保障されています。
 また、近年の傾向としては、年金分野をはじめとして、労働者と自営業者に与えられる社会保障の水準をできる限り接近させていこうとする動向が観察できると言えそうです。
 他方で、労災保険の適用は労働者に限定されているものの、資料にありますとおり、プラットフォーム就業者については、任意加入時の保険料負担がプラットフォームに一部要求され、さらに農業分野では事業主も含めて労災が強制加入になっています。
 また、失業保険については、資料に紹介がありますように、自営業者にも適用拡大が行われているものの、数年前に調べたときの印象では、給付水準が低いことと、給付基準が比較的厳格であることからあまり利用されていないようであり、専門家による評価はそれほど高くないという印象を持ちました。
 最後に、プラットフォーム労働者に係るEU指令について。
 労働者概念そのものについては、各国の法令・労働協約等、各種の基準に委ねる一方で、雇用の推定に係る制度を導入することが加盟国に要求されているとのことで、この推定に係る規定の趣旨や各国でこの規定がどのように解釈され、運用されようとしているのかについて、詳しく知ることが有益ではないかと思いました。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございました。
 それでは、御出席の皆様からも御意見をいただければと存じます。いかがでございましょうか。
 特に外国法のリサーチについてコメントをいただいていた各国担当の先生方から、補足とか、留意点などがあればお願いしたいと思います。
 水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 ありがとうございます。
 フランスについては、御紹介いただいたとおりで、特に補足するところはありません。
 国際比較を竹内先生たちとも一緒にこれまで何年かやってきていて、全体として何でこういうことが議論されているかを少しだけお話ししたいと思いますが、もともと労働者概念は人的従属性、上長とか上司が、直接人間と人間で指揮命令という、工場労働の前提で労働者概念ができてきていますが、今、プラットフォームワーカーは、ソフトは人間がつくるけれども、一回回し始めたら人間の手を使わずにアルゴリズムで自動的に処理された指示を受けるので、要は伝統的な人的従属性とか、人的支配と違うような方法で働き始めているときに、労働者に当たるかどうかということで、今、問題になってきている。そういうアルゴリズムによる監視を労働法、社会保障法でどう受け止めるかということで問題が出てきています。
 総じて言うと、各国でいろいろな動きがありますが、実態に基づいて判断するということで、マルになることもあれば、バツになることもある。絶対に労働者に当たる、労働者として保護するという判断はなされていませんが、大きな傾向として言うと3つぐらいあると思います。
 1つは、就業時間決定の自由です。いつオンにして働くか、いつオフにして離脱するかというのは、新しいビジネスモデルでは働く人に認められているけれども、そのことゆえをもって労働者には当たらないという判断がなされないようになってきている。そういう意味では、就業時間決定の自由というのが、労働者性を否定する決定的な要素とはされていないというのが1つです。
 あとは、アルゴリズムによる監視、要はGPSとかアルゴリズムで自動的に監視しているということも、人的従属性の要素として考慮するという傾向が強くなっていること。また、アルゴリズムの監視というのは人的従属性よりも経済的に組み込まれて依存していたり、経済的に支配されているという側面があるので、言葉遣いは各国でいろいろですが、従来の人的従属性ではない、経済的従属性に当たるような要素も労働者性の中で判断される傾向にあるというのが全体としての傾向だと思います。
 そして、そういう中で判断すると、労働者性があるかどうかというのがすごく不明確で分かりにくいので、もう一つ重要なのは、労働者性の中身よりも、判断を少し分かりやすくしようということで、アメリカでABCテストとか、EU指令で労働者性の推定、原則として労働者に該当して反証するのは事業者側だという判断手法の改革が行われているけれども、これはまだ各国で明確にその手法が定まっているところではないので、これは先ほどあったように、状況を見ながら、我々としても検討していくべき課題だと思います。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございました。
 ほかに続けていかがでしょうか。お願いします。
○竹内構成員 アメリカについて、内容的に補足というわけではありませんが、それをどう受け止めるかということに関して、2点ほど申し上げたいと思います。
 アメリカにつきましては、御紹介いただいたとおり、日本の労働基準法に基本的に対応する公正労働基準法の被用者性判断基準では、経済的実態テストというものが用いられています。政権が交代しても、当該テストによること自体は、判例で言われていることですので、変わっていないのですけれども、当該テストの下における具体的な判断は揺れ動いています。その意味で、参考とするに当たっては、当該テストの下での具体的な判断要素を含めてきちんと検討していくということを、アメリカを参考にするときには一つ考慮に置かなければいけないと思っています。
 また、公正労働基準法のみならず、労使関係法の領域の立法である全国労働関係法を含めて、いずれの立法との関係でも、独立した事業者と言えるか否かの観点からの検討に一定の力点が置かれている、そういう傾向を見てとることが可能です。そういう傾向をどう受け止めるか、ないし、そういう観点の位置づけをどう考えるかということも、参考にするに当たっては考慮が必要だと思っています。
 2点目ですけれども、これは先ほど御紹介いただきました笠木構成員の意見とも重なるかと思いますが、デジタルプラットフォーム就労者について見ますと、判例レベルでは被用者性の判断は固まっていないのですけれども、判例が労働者性を推定するABCテストを採用するとか、当該テストを含めた立法をするという形で、被用者性を基本的に広く位置づけようとする試みが一つみられます。
 あるいは、仮にデジタルプラットフォーム就労者について被用者扱いしないということであっても、一定の最低報酬保障とか、差別の禁止といった、一定の保護を及ぼす、そうした試みがもう一つ、州レベル、ないしは州より下位の市などのレベルで行われています。
 そういう意味では、被用者か否かという点がこの研究会の一つの重要な検討点ですけれども、そうでないとしても、デジタルプラットフォーム就労者について一定の保護を及ぼすということの重要性は、アメリカでは十分に見てとることができるといえます。このこともアメリカ法の受け止め方として重要だと思っております。また、付け加えると、水町構成員からも御説明がありました推定の在り方を具体的に考えるに当たっても、アメリカ法は参考になると思っております。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
 それでは、新屋敷先生の手が挙がっていますので、よろしくお願いいたします。
○新屋敷構成員 ありがとうございます。
 私からはイギリスについて、スライドの8ページに関しまして、少し補足をさせていただきたいと思います。
 4点ございまして、まず1つ目がUber事件の最高裁判決の理解です。事務局の方から、worker概念についてコントロールが認められたという御紹介がございました。同最高裁判決では、Uberで働いている人について、顧客がレイティングシステムで評価をして、その評価がコントロールの内容に入るといった判断を最高裁がしました。他方で、同最高裁判決は、レイティングシステムというのは、Amazonで商品を評価するように、顧客にとって魅力的なものとして、商品の内容を理解するためのものとして提供されている場合もあるとしていました。このように、純粋に消費者や顧客のためにレイティングシステムが用いられる場合もあるが、Uber事件の場合は内部で労務提供者の管理のために使われているから、それはコントロールとして理解するとされていました。
 ですから、第1回の研究会でも島田先生に御指摘いただいたと思うのですけれども、当事者が、新しいサービス形態について、どういうシステムを利用して、どういうふうに魅力を感じて、どういうふうに使うかということも考えていかないといけないのではないかと私自身は理解しております。評価の仕方が分かれるところがあると思っております。
 2番目も同じUber事件最高裁判決についてで、資料ではゴシックにしていただいている、契約書面の位置づけ、解釈の在り方についてUber事件最高裁判決が明らかにしたところです。イギリスの研究者の指摘の中には、こうした契約書面の意義を相対化して、契約締結時以後の事情も含めた労働の実態を確認するアプローチというのは、労働者概念の判断に当たっての主張立証責任を転換するような意義があるというものもございます。
 3点目はDeliveroo事件最高裁判決についてなのですけれども、こちらは先ほど事務局からも御紹介がありましたように、イギリスの集団的労働関係法上の労働者概念の定義が問題になった事案になります。集団的労働関係法上の労働者概念については、個別的労働関係法の場合とは違って、seeks to workというフレーズが定義に入っております。スライドで御紹介していただいた内容では、集団的労働関係法上の労働者概念の範囲が少し限定的に見えるかもしれないのですけれども、本来的にはかなり広いworker概念になっているということがありまして、その点少し補足させていただきます。
 最後ですけれども、デジタルプラットフォーム就業に関する立法措置等のところで、2025年3月14日、ゼロ時間契約などの下で就労するworkerについて、新たな権利義務を多数創設するEmployment Rights Billのことについても紹介いただいております。こちらを見ますと、確かにemployee、worker側についての概念の修正はないのですけれども、例えば解雇規制について、Day1の権利として、今までだと労働者概念、被用者概念で問題になっていた義務の相互性の要件が問題にならないような形で、新たに制定法上の権利の内容を調整することによって、法の適用を認めていこうとする改革が進められています。こちらは先ほどの笠木先生の議論にも関係するかもしれませんが、労働者概念とか、被用者概念を拡大するのではなくて、別の方向で権利の構成を調整することによって、むしろ既存の権利を有効活用していくという方法が示されているものとして有用だと考えております。
 以上です。ありがとうございました。
○岩村座長 ありがとうございます。
 ほかにはいかがでしょうか。
 島田先生、どうぞ。
○島田構成員 ありがとうございます。
 それでは、ドイツに関して2点補足させていただきます。
 1点目は、2020年のCrowdworker判決についてです。2020年にCrowdworker労働者の労働者性が肯定されたというのは、非常にインパクトを持ってドイツでも受け止められているのですけれども、判決において人的従属性が労働者の判断要素という視点は変わっていないと言われています。ドイツの場合、経済的従属性は労働者類似の者という別の枠組みで考慮されているので、あえて労働者性の判断において考慮しなくてよいと思われているという背景も指摘されているのですけれども、あくまで人的従属性によって判断がされています。
 その上で、アプリシステムのインセンティブシステムをかなりしっかり見ています。アプリシステムでどういうインセンティブが行われているのかということです。それを見ると、実質的には労働者が自由にアプリをオン・オフできる状態にはなっていないということが認定されています。
 より具体的にお話ししますと、本件では2時間以内にタスクを処理しないといけないというルールがあって、たくさん業務を処理していくとポイントが貯まっていって、2時間以内に同時に受け持てるタスクがどんどん増えていくのです。2時間以内に1件ではなくて、何件も同時に受け持って、それを次々に処理していけるということになります。
 逆に、2時間以内に多くのタスクを処理していかないと、労力に見合うだけのお金が入ってこないのです。なので、労力に見合うだけの収入を得ようとすると、たくさんタスクを引き受けないといけない、ずっと引き受け続けないといけない。そうなっていくと、それはアプリのオン・オフが自由にできるというものではないということで、人的従属性としての他人決定性が認められる、というのが連邦労働裁判所の判決の重要な部分になります。なので、経済的従属性の解釈にもよるのですけれども、ドイツとしては一応人的従属性という枠組みは守っているということが言えるかと思います。
 2点目は、ドイツにおける人的従属性の判断枠組みです。人的従属性によって労働者性が判断されるわけですけれども、資料で言うと2ページ目にありますように、ドイツの人的従属性には2つの要素があって、指揮命令拘束性と他人決定性の2つに分けられています。ホームワーカーも含めた今日的な労働など、指揮命令が割と強くない場合の労働者性判断をする際に、他人決定性というもので柔軟に補えると考えられています。
 資料にもあるのですが、他人決定性の典型的な要素として、組織への組み入れが挙げられていて、組織への組み入れというと、国によっては経済的従属性ですとか、日本でも労組法の労働者性では判断されるけれども、労基法で判断されるのはおかしいのではないかという話もあるのですが、ドイツでは組織への組み入れというのは人的従属性の一つとして理解されています。
 それはなぜかというと、組織に組み入れられているということは、組織の意向に従って、たとえ直接的な指揮命令がないとしても、組織の意向に沿って動くようなことが何らかの形でプログラムされていると考えられるからです。なので、組織への組み入れといったときに、どの角度から見るかで内容が変わってくるのですけれども、ドイツの場合は、どちらかというと、人的従属性を示す重要な要素として位置づけられるということも特徴として挙げておきたいと思います。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございました。
 一通り、今回取り上げている各国についてのコメントは頂戴したと思います。
 あと、時間の制約もあるのですが、コメントなどがありましたらと思いますが、いかがでしょうか。芦野構成員、どうぞ。
○芦野構成員 今、ドイツの話が出ましたので、補足をさせていただきます。
 まず2020年の判決について、この判決を最初に見たとき、こういうものもあり得るのかと思ったのですが、Crowdworkerといっても、ガソリンスタンドや小売店に陳列されている商品がきちんと陳列されているかどうかの点検業務を行うのに、プラットフォームを利用していたという事案です。先ほどお話があったように、契約が成立したら2時間以内に指示された場所に行って写真を撮り、今このように陳列されていますということを報告するという働き方です。
 基本契約があって、個々の一つ一つの個別契約があるという形で、発注者がこれは労働契約ではないとして基本契約を解約したことに対して、受注者がこれは労働契約だから、基本契約の部分は解約できないとして争われたものです。1審のミュンヘン労働裁判所は原告の訴えを棄却し、2審のミュンヘン州労働裁判所(LAG München, 04.12.2019 - 8 Sa 146/19)も、受注者は発注者の仕事を引き受ける義務がないことなどから、人的従属性が認められないとして、労働者性を否定しました。その際には、経済的従属性があるという事情は、労働者性を肯定する結果を導かないとしました。先ほど御説明いただいたとおり、連邦労働裁判所(BAG, 01.12.2020 - 9 AZR 102/20)では、先ほど水町構成員からも御説明があったようなシステムがこのように構築されていることによって人的従属性が認められ得るものだとして、労働者性が認められる形になりました。その際には、ドイツ民法611a条の労働者性の定義を適用して判断しました。
 労働者としての地位を認めた一方で、解約そのものは有効ではあるという判断で、これはその後、さらに突っ込んで解約の有効性がどのように判断されるかということも議論がなされていたと思います。もう5年たっているので、おそらく結論は出ていると思います。
 それと、ドイツの民法は、先ほどのことにも関連した契約の終了について、雇用契約の終了と労働契約の終了とでは異なる規定を置いています。したがって、労働者概念が2017年の法改正で定められた後も、なおこの2つの契約の関係、両者の関係がどうなるのかということが問題になり、この点については、今回の2017年の法改正は過去の判例に基づくものだという観点から、2000年などに出された労働裁判所の判決において、労働契約とは異なる雇用契約で働く者としては、フリーランサーであるとか、弁護士、税務コンサルタント、医師などが該当する、基本的にこれらの者は自身の活動や勤務時間を自由に決定することができるからであるということで、そのような意味では、先ほどから話に出ているような人的従属性の観点で、民法の中でも雇用契約と労働契約を分けることができるという形で理解されています。
 そして、労働者類似の者については、例えば労働協約法の12a条の1項で定義規定が置かれています。こちらでは経済的な従属性に問題があり、社会的な保護を必要としているものが労働者類似の者に当たり、少し観点が異なっているために、この2つをどう考えるかということが問題にはなってきておりますが、2017年にベルリンでドイツの弁護士に聞いたところでは、実務的には、保護という観点から、労働者類似の者のほうが広い概念で捉えられているが、実際に保護の観点から適用される法規定というのはかなり限定的であって、資料では法律の名前で書いてありますが、具体的には、例えば労働裁判所法では5条1項の2文だけであるとか、個別の法律の中の個々の条文、あるいはその中の項が限定的に適用されるにすぎないという形となっており、概念を広げるけれども、適用される規定は狭めているという形で、少し違った捉え方もできるのではないかと考えております。
 私からは以上です。
○岩村座長 ありがとうございました。
 川田構成員、どうぞ。
○川田構成員 ありがとうございます。
 時間もありますので、手短に2点述べたいと思います。
 1点目として、研究者の視点としてはある意味当然ではあることかと思いますが、今御紹介いただいたそれぞれ国の制度は、それぞれコメントをいただいた先生方からすると、このスライドに収まりきらないような、それぞれの国の基本的な労働法の体系の成り立ちであるとか、現行法に至るまでの立法、あるいは判例の経緯等があって、そういうそれぞれの国の前提の下で、今、御紹介いただいたような内容になっているということであろうと思います。具体的には、例えば先ほど出てきた事業組織への組み入れをどのように捉えるかについて、これが人的従属性に関わるのかそれとも経済的従属性なのか等、いろいろな考え方が出てきているところですが、そういったところも、それぞれの国の前提を含めていろいろな考え方があり得るということで、多面的に検討していくことが外国法を参照する一つの意義だろうと思っています。
 2点目ですが、特に今回の検討で問題になっていることとの関係で言うと、例えば一見すると、働き方について働き手が選択しているようだけれども、アルゴリズムとか、その他の仕組みによって、経済的あるいは取引上のインセンティブをコントロールすることで、働き手を一定の方向に誘導しようとしているものについて、指揮命令関係があると言えるかを問題とするとか、あるいは先ほど述べた組織への組み入れをどのように見ていくかという問題などについては、従来の人的従属性、経済的従属性という枠組みの中で見ていくと、そもそも後者の経済的従属性の意味には多面的なところがあると思いますが、その点も含め両方の境界部分に非常に曖昧な面が増えてきていると思います。
 今の点は人的従属性のほうに寄せて考えていくこともできるし、経済的従属性という方向に寄せて考えていくこともできる。また、経済的従属性については、伝統的な、相手方への経済的な依存のほかに、起業家的な利益を得る機会、つまり利益に対するコントロールの状況を考慮するとして、こうしたものも経済的な依存関係に引きつけて捉えることもできるし、こうした起業家的利益の機会、利益に対するコントロールは経済的従属性とは別の事業者性という観点から、労働者性を否定する要素と捉えることもできる。その辺りは非常にいろいろな捉え方があり得て、実際、国ごとに捉え方が違う部分もある状況ということで、その辺りの問題をどう考えていくのかというのは日本でも重要なことだと思いますが、今、挙げたような、例えば組織への組み入れとか、インセンティブを使った扱いをどう見るかなどについては、ある程度多面的な性格があるのだという見方で考えていくことも必要だと思っています。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございました。
 次の議題もあるので、国際的な動向については、今日のところはこの辺までにさせていただきたいと思います。
 それでは、次に議題の(2)でございまして、「労働基準法における「労働者」について」という項目に移りたいと思います。
 事務局で第1回及び第2回の研究会でお出しいただいた御意見などを基にしまして、幾つか資料を用意いただいております。
 そこで、まず事務局からこれらの資料について御説明をいただいた後に、資料の内容に関する御意見や今後検討すべき点などの労働者性に関する御意見を頂戴できればと思います。
 それでは、事務局からよろしくお願いいたします。
○小島課長補佐 説明させていただきます。
 まず裁判例に関する資料ですけれども、資料2-1でございます。
 裁判例に関する資料は大きく2つありまして、1つ目が第1回の研究会でお出しした50の裁判例に評釈をつけた資料となります。
 2つ目は第1回、第2回の研究会で意見のありましたテーマごとに裁判例を抜粋した資料になります。
 まず1つ目の評釈に関する資料について御説明いたします。
 こちらの資料は、第1回の研究会で裁判例を検討していく上において評釈や学説を踏まえながら裁判例を見ていく必要があるという御意見がございましたので御用意いたしました。
 まず資料2-1の2ページ目で評釈の選び方というところですけれども、引用元とした雑誌については座長と御相談させていただきまして、そこに記載の7つの雑誌から引用させていただいております。『季刊労働法』『経営法曹』『重要判例解説』『ジュリスト』『判例時報』『民商法雑誌』『労働法律旬報』の7つの雑誌を選ばせていただきました。50の裁判例についてその雑誌に記載された労働者性に関する評釈は、全て掲載させていただいたところになります。
 例えばということで資料2-2を御覧いただきたいのですけれども、ここで全て見ることはできないのですが、例えば裁判例1のファーストシンク事件ですと10ページ目になりますけれども、裁判例の下のところに各評釈を載せております。どの裁判例にどのような評釈が掲載されているかということについての一覧も、資料2-3として準備しております。リストになっているものになります。
 評釈に関する裁判例の御説明は以上になります。
 続いて、資料2-4になります。
 こちらは4つあるのですけれども、資料2-4から2-7がセットになります。こちらについても第1回、第2回の研究会でいただいた御意見について、テーマごとに事務局でまとめて裁判例を抜粋したものになります。
 4つ資料を用意しておりまして、1つ目が「その他」一覧、2つ目が「未分類」一覧、3つ目が「業務の性質」一覧、4つ目が「契約内容の一方的・定型的決定、事業組織への組み入れ」一覧ということになります。
 まず1つ目の「その他」一覧のところを御説明いたします。
 こちらは、昭和60年報告の中で補強要素になっている「その他」の要素について50の裁判例の中から抜粋したものになりまして、第1回の研究会において裁判例の中で「その他」として取り上げられている事情がどのように評価されているのかという意見がございましたので、現状分析として抜粋したものになります。
 「その他」は昭和60年報告では5つに分けられております。例えば、1ページ目のところの「採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であること」であるとか、2つ目は「報酬について給与所得としての源泉徴収を行っていること」ということで、昭和60年報告では5つにまとめられているのですけれども、50の裁判例をそれぞれの事情ごとに抜き出しております。
 昭和60年報告では、裁判例の中にはこの5つの事情を、労働者性を肯定する判例の補強事由とするものがあるというような記載ぶりになっております。今回の資料は50の裁判例から抜粋したものになりますけれども、労働者性を肯定する方向にも、逆に否定する方向にも一定考慮されているというところが確認できております。
 スライド8ページ目以降になるのですけれども、こちらは1から5で分類できない事情について、裁判所が「その他」として見ている要素について拾っております。
 8ページ目と9ページ目は「使用者側の言動に関する事情」をまとめたもので、例えば契約の名称が雇用を思わせるようなものであったこととか、給与所得の源泉徴収票を交付していたということとか、解雇する旨を告げていたとか、そのような事情が裁判例においてございました。
 10ページ目になりますけれども、こちらは逆に「働く者の言動に関する事情」をまとめたものですがそのほとんどが、働く者が事業所得として確定申告していたというような事情になっております。
 以上の資料を踏まえまして、「その他」については、その位置づけであるとか、現在の用いられ方などの「その他」の在り方について御議論いただければと思っております。
 続きまして、資料の「未分類」一覧になります。
 こちらについては、50の裁判例を昭和60年報告の要素ごとに分類した際に、どこにも分類できない事情を拾っております。こちらも第1回の研究会において「未分類」の中の事情としてどのようなものがあって、どのように評価されているかについてご要望がございましたので、まとめさせていただいたものになります。
 一覧として並べていくだけだと、どういうものがあるかが見えにくいので、事務局においてグルーピングさせていただいておりますが、まず1ページ目のところで「労働契約により働く者との比較に関する事情」というところでまとめさせていただきました。
 こちらは第2回の研究会でも弁護士の方からお話がありましたけれども、裁判の中で争う方法として、同じ職場の中に労働契約を結んでいる方がいて、その方と働き方であるとか待遇が同じであるということを理由に、今回問題になっている方についても労働者ということを主張するという方法で、それぞれについて各要素でそのような判断がされているというところになります。
 こちらは厳密には主張の手法であり要素ではないですけれども、各要素についてそのような判断がされているのでまとめさせていただいております。
 2ページ目ですけれども、「契約に至った経緯に関する事情」という形でも裁判例が幾つかありまして、例えば社員になれば厚生年金に加入できるという形で会社に入ったというところで、結論的には労働者性肯定はしている。もちろんこれが決定的な事情になっているわけではないですけれども、そのように肯定事情として見ているものがございます。一方で、堺労基署長事件、傭車運転手の事案ですが、傭車運転手がどういうものかということが分かった上で、これを自ら望んで了承して入ったということで、最終的には労働者性否定がされておりまして、この事情が労働者性否定の事情として考慮されているというところになります。
 3つ目は「契約内容の一方的・定型的決定に関する事情」というところをまとめさせていただいておりますが、後ほど詳しく御説明させていただきますのでこちらでは割愛させていただきます。
 それ以外、3ページ、4ページ目のところは、それでも分類ができないものを一覧として載せております。
 例えば一番上のファーストシンク事件では、Xの芸能活動により生じた諸権利がプロダクションに帰属することとされていたとか、それ以外の事情もいろいろとあるところでございます。
 こちらの資料については、労働者性の判断の中で考慮すべき要素があるのか、またはそういう手法があるのかというところについて御議論いただければと思っております。
 3つ目の資料になりますけれども、続いて「業務の性質」一覧というところで、こちらは裁判例の中に業務の性質上、必要な指示であるとか、通常注文者が行う程度の指示という形で、業務の性質を理由に一定の事実を考慮しない、重視しないという形が出てくるものが多数あるのですけれども、そちらを一覧にしたものでございます。
 第1回の研究会において、この業務の性質として考慮しないのか、それとも考慮するのかというところがどちらもあり、そのことが予見可能性を低くしているという御意見がございましたので、どのようなものがあるか抜粋させていただきました。
 各要素について、それぞれかなりの数があるのですけれども、基本的には指揮監督の有無と拘束性の有無で、業務の性質というところがよく使われているところでございます。
 それ以外にも10ページ目でございますけれども、「代替性の有無」であったり、12ページ目の「事業者性の有無」のところでも業務の性質というところが使われております。
 業務の性質というものが雇用と請負等の業務委託というところの区別をする上では重要であるという指摘が学説ではある一方で、個々の事案によってその判断に差があるというところもございます。
 これらの状況を踏まえまして、予見可能性をより高めていくための新たな視点や分析方法、その他御意見がございましたら御議論いただければと思っております。
 最後に4つ目の「契約内容の一方的・定型的決定・事業組織への組み入れ」というところでございますけれども、こちらについては「契約内容の一方的・定型的決定、事業組織への組み入れ」というような要素が労基法上の労働者性の判決の中でどのように出てくるのかというところの御意見がございましたので、まとめさせていただいたものになります。
 まず1ページ目と2ページ目で、契約内容の一方的決定のところですけれども、裁判例では大きく2つのものについて一方的決定をしているという事例があり、1つ目が時間関係のところで、勤務シフトや開始時刻、終了時刻の決定をしていたというところで、ここについては、裁判例では諾否の自由であるとか、拘束性の有無の中で考慮されているところが多くある状況でした。
 もう一つが、報酬の定めについても一方的に決定したという事情が拾われておりまして、こちらは事業者性の中で考慮されているものが多く見られるところでした。
 ここについては、契約内容を一方的に決定していたという事情がどのような意味で労働者性を肯定する要素になるのかというところについても御議論いただければと思っております。
 次に事業組織への組み入れになりますけれども、こちらは50の裁判例の中では事業組織への組み入れというニュアンスが入っているものが4つございました。この事業組織の組み入れという用語については、この4つの裁判例の中でも意味合いが異なって使われているのではないかというところが考えられまして、例えば一番上の東京芸大事件、こちらは大学における非常勤講師の労働者性を否定した事例になりますけれども、「大学の本来的な業務ないし事業の遂行に不可欠な労働力として組織上組み込まれていたとは解し難く」と判断がされております。
 一方で、その下のシルバー人材センター事件においては、こちらは金属加工に従事されていた方ですけれども、労働者性は肯定されておりまして、他の従業員と一体として仕事を分担して業務を遂行していたというところをもって組織に組み込まれていたという判断がされておりまして、組織への組み込みというところで判断基準が厳しかったり、緩かったりするところがあるのではないかというところがございます。
 そのため、こちらの事業組織への組み入れについて御議論いただく際には、事業組織への組み入れの意味するところがどういうものなのかというところも含めて御議論いただけばと思っております。
 裁判例資料についての御説明は以上になります。
 続いて、資料の3になります。
 こちらは、昭和60年労働基準法研究会報告という形でまとめさせていただいたものですけれども、第1回でもお出ししております昭和60年報告と内容は同じものになるのですが、改めてまとめさせていただいたものになります。
 第1回の研究会の中で、昭和60年報告の中に出てくる各要素についての重みづけであるとか、どこが重要であるか、どこが補助的な要素なのかというところの御意見がございましたので、分かりやすいように3ページ目以降になりますけれども、赤字で記載しております。
 内容としては、昭和60年報告とそのまま同じものになります。
 続きまして、資料4の学説の資料になります。
 こちらについては、学説をまとめた資料になります。人選については座長と御相談させていただきまして、上から菅野先生、土田先生、山川先生、荒木先生、鎌田先生、水町先生、西谷先生、橋本先生、川口先生の各書籍の基本部分についてそのまま抜粋させていただいたものになります。
 現在の昭和60年報告の考え方としては、労基法上の労働者性の判断においては「使用従属性」を中心に据えて、副次的に事業者性の有無であるとか専属性の程度というところを考慮して判断しておりまして、学説の中にはこれに沿う学説もあれば、そうではないという学説もあるという状況で、そのまま書籍等の記載を抜粋させていただいたものになります。
 続きまして、資料5の「労働者性に係る監督復命書等の内容分析」になります。
 こちらは、第1回研究会で司法判断と行政判断とで異なる特徴はあるのかという御意見がございましたので、御用意した資料になります。こちらはJILPTがお出ししている研究結果になるのですけれども、分析方法としては厚生労働省からJILPTに監督復命書と申告処理台帳を提供しまして、合計で122件のそれらの資料を分析いただいたものになります。
 ここで言う監督復命書というのは、監督指導を実施した結果をまとめた書類でして、例えば労働災害が発生した際にその原因の調査と再発防止対策などの指導を行う災害時監督の結果をまとめた書類などが含まれるものでございます。
 申告処理台帳については法令違反に関する申告を受けた後、その処理状況を記録する帳簿になっております。
 報告書の内容としてはいろいろと分析をいただいているところですけれども、例えば19ページ目の「労働者性の判断状況」というところで、監督復命書と申告処理台帳で判断状況の傾向が異なりまして、例えば監督復命書では6割以上の事案で労働者性あり、なしという判断が下されているのですけれども、一方で申告処理台帳では逆に6割以上の事案で労働者性の判断に至っていないという結果になっております。
 考えられる原因としては、監督復命書の事案は監督種別で言うと災害時監督や災害調査が多くて、実際に災害が発生している中で労働安全衛生上の是正勧告や指導を行う関係上、乏しい情報の下であっても労働者性の判断が迫られるというところで、労働者性あり、なしの判断がされているものが多いというところに対して、申告処理台帳の事案では本来、民事上の問題、例えば賃金未払いの事案が大部分で、その後、裁判所に労働者性の判断を争って提訴するという事案もある中で、乏しい情報の下では安易に労働者性の判断を現場で踏み切れないという事情が考えられるという分析がされております。
 最後になりますけれども、資料6のヒアリング議事要旨になります。
 こちらは第2回研究会において、参考人である弁護士の方2名のヒアリングの概要をおまとめしたものになります。ヒアリングの中では、司法を含めて紛争の場面において基本的に昭和60年報告が参考にされているというところが両参考人の共通した認識でございました。
 一方で、各要素につきましては両参考人の各お立場から御意見をいただいたところでございます。このヒアリング議事要旨については、昨日ホームページで公表しているものになります。
 説明は以上になります。
○岩村座長 ありがとうございました。
 それでは、ここから議論に移りたいと思いますけれども、御説明いただいた中の資料番号の4で学説に関する資料というものがございますが、これについては私のほうでも人選をどうするかということで考えて選ばせていただいたというところがございます。学説は探すと山のように出てきて、一体何をもって学説がどういう状況になっているかというのを見るのが適切か、というのは非常に難しい問題なので、代表的だと思われるものを、基本は概説書から、ということで選ばせていただいております。
 それでは、先ほどと同様に、まず笠木構成員からいただいた御意見を事務局から御紹介いただき、その上で構成員の皆様の議論ということにさせていただきます。それでは、よろしくお願いいたします。
○小島課長補佐 代読させていただきます。
 労働政策研究所の報告書について。
 「労働者性に係る監督復命書等の内容分析」には、幾つかの箇所で昭和60年研究会報告の示す判断基準による判断が実務上困難であることや、報告書の基準が必ずしも忠実に適用されていない場面があることなどについての興味深い指摘があります。
 以前の会合で申し上げたこととも重なりますが、労働者性について司法判断が行われるのはごく一部のケースであることを考慮しますと、今回の研究会における検討では、監督行政や社会保険行政等において、一定の時間的制限と限られた情報の下であっても、ある程度の整合性をもって適用されやすいような労働者性の基準の在り方が検討されることが必要と思われます。
 関連して、一人親方との関係での記述ですが、労災に特別加入していることが労働者性を否定したり、労働者性の判断に至らない一つの理由になっていることがうかがえるとの記載は、特別加入の対象が大きく拡大されている今日の文脈において特に注意が必要な点であると思いました。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございました。
 それでは、構成員の皆様から御意見、御質問等をお願いしたいと思います。
 では、竹内構成員、どうぞ。
 さっきも言いましたけれども、皆様、2、3分程度で発言をまとめていただくようにお願いいたします。
○竹内構成員 ありがとうございます。
 まず、裁判例の分析につき、要素ごとに非常に詳細、有用な資料を御用意いただきましたこと、感謝申し上げます。その上で私からは3点申し上げたいと思っております。特に3点目が重要と認識しております。
 1点目は、裁判例に係る2つの分析視点を申し上げたいということです。今般の分析は、各要素を全ての事案から、いわば拾い上げ、抜き出した形で分析しております。もちろん、こうした分析は非常に重要と考えておりますけれども、併せて、文脈、つまり各事案における各要素の重みの違いというものが当然あろうかと思いますので、裁判例ごとの事案の全体的文脈を踏まえた各要素の検討、そういうものをもう一つの分析視点として採用し、これら2つの分析視点を併せて検討していくことが必要ではないかと感じています。
 2点目は、契約内容の一方的決定、組織への組み入れを含めた要素の意味合いが判断により違うという点に関してです。この点は、各裁判例における要素の位置づけ、意味合いがどのようなものであるかを区別、整理した上で検討する必要性を示していると思いますので、そういった作業を含めて分析をしていく必要があると思っています。
 3点目になりますけれども、今申し上げた要素の意味合いにも関係するところですが、特に申し上げたいのは業務の性質についてです。この点については、第1に、業務の性質にかかわる裁判例、この資料に載っている記述の限りではあるのですけれども、一応通覧をいたしまして、業務の性質上、当然とか、必然の、指示とか拘束というものが一方にあり、単に業務の性質という理由を挙げるにすぎないものが他方にあることがみてとれます。前者は例えば41番、47番の裁判例で、後者は37番、14番の裁判例が挙げられると思います。この2つは、指しているものが違うのではないかと考えられ、区別して検討すべきではないかと思っております。
 前者の当然、必然ということに関してなのですけれども、これに関しては、そもそもこの事情をそのまま労働者性を否定する要素として受け止めてよいのか、私は正直疑問がありまして、結論までには至っておりませんけれども、慎重に検討することが必要ではないかと思っております。
 例えば、ファミリーレストランで働いている人がいて、ホールスタッフとして料理をテーブルに届ける業務を担当しているとします。それで、厨房から出来立ての料理が出てきたら、テーブルのお客さんは当然、出来立てほやほやのおいしい料理を食べたいわけですから、出てきたらすぐに届ける業務に従事する必要があります。また、料理を届ける先というのは、注文したお客さんのテーブルであることは必然的に決まっているわけです。
 こうした場合に、このホールスタッフについて、行っていることは業務の性質上当然のものとして、指揮監督性などが否定されるのかということについて、私は非常に疑問に思っています。すなわち、そうしたことは指揮監督性などを否定しないと思っております。
 今申し上げたファミリーレストランのホールスタッフの例は働く人という言い方をしましたけれども、私は当該ホールスタッフの人が労働者であるのは当然の前提という認識でお話を実はしているのですが、判例で言われている業務の性質上、当然とか必然というものと、これらがどう区別されるのか。そもそも区別できるのかということを検討する必要があるかと思います。
 また、第2に、この点に関連しますけれども、住宅を建築するような場合、一定の指示が請負契約の下でも確かに当然なされるわけですが、それは完成物、物についての指示ではないかと思っております。
 配送業務が、この、業務の性質上、当然と位置づけられる例としてよく裁判例に出てきているのですけれども、配送業務については、配送する物についての指示の側面というものもありますし、配送する人についての指示の側面というものもあると思います。こうした人に対する指示という側面について、どう検討していくかを考えることがもしかしたら必要ではないかと思います。
 今、申し上げた住宅の建築の例は、請負契約という観点では芦野構成員も何かお考えがあるかもしれませんし、また、人に対する指示という点では、もしかしたらイギリスのワーカー概念でも本人の労務提供が求められているということで何か参考にできることがあるのかもしれませんけれども、適宜検討していく必要があるかと思っております。
 第3に、業務の性質に関してもう一点申し上げたい点は、性質上当然という場合であっても、あるいは業務の性質を単に理由に挙げるにすぎない場合であっても、労働力を利用している側の主体による、顧客に対するサービス提供について、品質管理的な側面から制約を及ぼしているという例が見られます。
 例えば裁判例の6番、8番、9番、18番、29番、50番で、代表的なのは29番ではないかと思いますけれども、そういうふうな事例であります。
 こうした制約は、業務の性質上、当然とか必然というものとは異なって、当該主体が提供するサービスの相手方、すなわち、サービスの顧客に対する役務提供について、実際にそれを提供する就労者に指揮監督をするものではないかと考えられます。
 要するに、ある業務を魅力的なサービス、商品として提供するために、提供主体が、それらを実際に提供する人に対していろいろコントロールを及ぼしていくという、品質管理的な側面のコントロールというものがあり、それは、業務の本質的に必要なものと、異なった形で整理され、分析される必要があると考えております。
 これに関連しますけれども、例えば安全衛生関係のことで、法令などで遵守が義務づけられていて、そのために実際に役務提供をしている、働いている人に指示などをしなければいけないという場合は、その指示というのは法令に由来するものですので、労働者性を基礎づける指揮監督とは区別されると思うのですけれども、法令で求められているもの以上のものを求めたいであるとか、使用者が自らのサービスを魅力的にしたいために品質管理をするとか、そのような場合は労働者性を基礎づける事情になるのではないかと考えます。
 こうした観点から、業務の性質と言われているものは、きちんと精査し、区別し、分析、検討する必要がありますし、業務の性質上、当然という場合は、そもそもそれが労働者性を否定する考慮事情になるのかも、非常に慎重に検討すべきではないかと思っております。
 長くなってすみませんでした。私からは以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
 ほかにどうぞ、時間が限られているので積極的に御発言いただければと思います。
 では、川田構成員、どうぞ。
○川田構成員 ありがとうございます。
 2点、できるだけ手短に述べたいと思います。
 1つは、今回挙げていただいた資料は、恐らくどう使うかというときに重要な視点として、裁判例を見ていくと、表面上は昭和60年報告書で挙げられたのと同じような考慮要素を踏襲しているように見えるけれども、昭和60年報告書の考え方がそのまま引き継がれていますというように現状を理解するだけでは、今起きている問題に適切に対処できないのではないかという問題意識があるのだろうと思います。
 そういう意味では、裁判例、評釈などを見ていくときに、昭和60年報告を基にした判断に対してこういう部分が批判されているのだというところに着目するというのが、一つのポイントになるかと思います。拾い切れているかどうかは分かりませんが、考慮要素そのものに疑問を呈するとか、その判断全体の中で特定の考慮要素のウェイトが課題なのではないかということで、そのウェイトづけに対する疑問。それから、考慮要素と具体的な事実の結び付け方に対する疑問などにある程度、類型化できるかと個人的には思っていますので、一つの方向性としてはそういう検討の進め方が考えられるのかなというのが1つ目です。
 それからもう1つは、竹内先生もおっしゃった業務の性質上の制約についてのことで、私もちょっと考えてみたところ、問題になり得ることとして、1つは、先ほど竹内先生もホールスタッフの例を挙げておられましたが、業務の性質上と言っている、その業務自体がそもそも、労働者が行うような性質が強いものだとすると、それを出発点として労働者性を否定する根拠として業務の性質上というような立論をすることが適切ではないというケースがあると考えられ、裁判例上も実際に見られていると思います。
 それからもう1つ、これも竹内先生がおっしゃったことなのですが、業務の性質上、当然と言っていることが実は当然とは言えないのではないかということもあると思います。
 そして、最後は今の話に付け加えるとすると、問題になっている方が仮に労働者ではないとしたら何なのかという点によって、業務の性質上当然の制約を考慮する考え方がうまく機能するかどうかが変わってくるところがあるかと思っています。
 労働者でないとしたら請負契約で働いている人だという場合には、請負契約の本質的な内容である仕事の完成にどうしても不可欠な部分というものが出てくる面があると思いますし、これまでも代表的な裁判例の中に割と、労働者ではないとしたら請負契約で働いている者になるというケースが多かったかと思いますが、例えばこれが、労働者ではないとしたら準委任契約になるというケースであるとか、事案によっては、最高裁判例で問題になったかつての制度の下での研修医のように、労働者ではないとしたら学生になるというようなケースなどもあり、それらの場合には、業務の性質上、当然の制約に当たるものが何なのかとか、それを労働者性を基礎づけるようなものと分けることができるのかというのが、より難しくなってくるというような問題もあるかと思っています。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
 新屋敷先生が手を挙げておられるので、新屋敷先生どうぞ。
○新屋敷構成員 ありがとうございます。
 スライドの5ページに挙げているところで、私も業務の性質に関して竹内先生のお話を伺いながらちょっと思ったところがあります。また、裁判例47番の横浜南労基署長事件があって、昭和60年報告の中でも業務の性質というものが挙げられて、47番の横浜南労基署長事件最高裁判決の中でも業務の性質というものが使われて、現在、業務の性質がたくさんの裁判例で使われているものに展開していっているのではないかというような話を、事前の事務局からの説明を伺う中で、確認、理解していました。
 それで、竹内先生から、各要素を見る上で文脈を考えなければいけないという御指摘があったと思うのですけれども、昭和60年報告があって、裁判例があって、最高裁判決があって、こういうふうに展開している、そうした点を考慮していかなければならないのかなというふうに私のほうでは理解しております。
 そうすると、考えなければいけないのが、この横浜南労基署長事件で言う業務の性質というものが一体何だったのかというところで、それを原点として考えていっていいのだろうか。それを伝統的な指揮監督の内容として理解して、それで今後どうするかと考えていくべきなのか。それとも、事務局のほうで挙げていただいた未分類の要素などを見ながら、あるいは、先ほど水町先生も御指摘されていましたが、アルゴリズム管理によるコントロールのような内容も含めて、この業務の性質というものをもう少し整理して考えて、将来的に使えるようなものにしていくべきなのかとか、そういうことを考えていく必要があるのかなと思ったというのが、私からの意見でございます。
 ありがとうございます。
○岩村座長 ありがとうございました。
 では、水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 ありがとうございます。
 いろいろ言いたいことはありますが、多分、具体的な検証をこの後の研究会でもやると思うので、具体的なところはまたおいおい検討したいと思いますが、1点だけ、業務の性質論についてお話をしておきますと、今、業務の性質論について学説の中で非常に議論が出てきています。
 それで、なぜ業務の性質上当然とされるものとか、業務の性質上こういう指示があるというものが労働者性の判断で考慮するべきとか考慮されるべきではないとかの議論がなされているかというと、理論的に突き詰めて考えれば、業務委託とか請負でもこういう指示はなされるので、労働者性の判断で、請負上指示されるものについては考慮しない、という根拠づけでこういうことが言われているのではないか、ということが、学説の中でも整理されて議論されているところです。
 そのことが本当によいかというところについて、学説上は、資料4の中では3枚目の土田先生の説では、業務の性質上当然なものは労働者性の中で判断しないというのがよいのではないかということが言われていますが、私水町とか、橋本先生とか、川口先生とかは、業務の性質上、当然と言われるものについて、労働者性の判断でそれを考慮しないということは理論的にはおかしいのではないかということが言われています。なぜそうかというと、1つは請負のときに指示されるものを労働者性、労働契約性を判断することに考慮しないでよいとすることは理論的に根拠が不明で、請負でも、労働契約でも指示されるということは連続線上で行われているので、請負上当然だから考慮しないというのはおかしいのではないかということ。
 あとはもう1つ強く言われているのは、どこまでが請負に必然的なもので、労働契約上それは考慮しなくてよいとするものとそうでないものとの区別が困難な中で、それが独り歩きするというおそれが非常に強いので、業務の性質論いかんで労働者性を判断するのはおかしいのではないかというのが学説上、今、強まっています。
 それで、私もこれまでずっと研究してきたのですが、業務の性質に関して、資料2-6で示されている肯定事例、否定事例について、肯定事例の中の大きな傾向として言うと、業務の性質上、当然と言われるものも、労働者性の判断で別に考慮外にしないで考慮してよい、だから結論としても肯定するというものが肯定事例では多い。
 では、否定事例はどうかというと、労働者性を否定するという結論の中で、指示は一定なれさているけれども、これは業務の性質上、当然行われる指示だから、結論否定のときには作用しない。要は、ほかの事情の中で結論を労働者性ではないとするときの説明としての便宜、補強から使っているものが多い。
 その中で、やはり業務の性質だから当然それが決定的に労働者性を左右するというふうに言っている裁判例は少なかったが、実は最近の裁判例で業務の性質上当然のものだから、労働者性を判断しないという独り歩きをしている裁判例がある。資料には直近過ぎて入っていないのですが、例えば大阪大学事件とか、東京海洋大学事件とか、今年に入ってからそういう裁判例が続いていて、その中では今までは考慮されていなかった諾否の自由についても、業務の性質上当然だということで、労働者性の判断に当たって考慮しない事情として、結果として労働者と言えないという判断がされているものもある。資料に入っている東京芸術大学事件もその独り歩きをする基になったような判決で、それらについては否定的な評釈もたくさん出ており、これからも評釈がたくさん出ると思うので、概説書やテキストだけでなく、学説を見るときに最近の裁判例を見て、業務の性質論が理論的にどういうものなのか、判例評釈の中で学説がどう議論しているかというのも見ながら判断していくということが大切かなと思います。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
 ほかにいかがですか。
 では、小畑先生、どうぞ。
○小畑構成員 どうもありがとうございます。
 裁判例など、非常に詳細な資料を御用意いただきまして誠にありがとうございます。大変勉強になりまして、いろいろと感想はあるのですが、まず1つだけ申し上げたいと思います。
 資料2-4なのですけれども、3ページ、4ページで保険の関係のところがございます。こちらで、18番の企業組合ワーカーズ・コレクティブと、35番の日興運送ですね。日興運送のほうが3ページ目で、ワーカーズ・コレクティブのほうが次のページかと思うのですけれども、こちらは労働者性を日興運送のほうは肯定している。それで、こちらはちゃんと雇用保険にも加入させている。次に4ページ目のワーカーズ・コレクティブのほうを見ますと、こちらは否定事例でございます。これは雇用保険の被保険者であるけれども否定事例というようになっておりまして、同じように保険に着目して同じような条件があっても肯定事例と否定事例に分かれている。
 それも割増賃金、退職金の事例ということなのですが、翻って考えてみますと、例えば労災保険の保護を受けられるかどうかというときに、特別加入はしていなくて労働者とみなされないとおかしいのではないかという訴えがあった場合は、当然特別加入もしていないし、労働者として扱われてもいない。そういう事件ですと、労災保険や雇用保険の対象としているかどうかということは、していないからこそ問題になっているので、そのことをあまり重視することはできない。
 しかしながら、それ以外の、例えば割増賃金、退職金といった、訴えの内容が違った事例においては、わざわざ経済的な出費をしてちゃんと保険に入っているのは労働者だからこそではないかということが言えるのだろうか、というような眼鏡で見ると、それに関しても18番と35番のように肯定事例もあれば否定事例もあるということが明らかになったという点で、大変ありがたい資料であったなと感じています。
JILPTの行政に関する資料も御紹介いただきました。こちらも大変勉強になりまして、特に7ページ目は笠木先生も御指摘になっていたところなのですけれども、行政においてどのような判断がなされているのかということは、非常に重要なことかと思いますが、そことの整合性ということを笠木先生がおっしゃって、私も全く同じことを考えております。
 特に労災の特別加入ということが、労働者性の肯定、否定に直結する話になると非常に問題が多いではないかというようなことも指摘していただいているということで、そういった点にも目配りする必要があるということも、今回の資料で大変示唆的であり、大ありがたかったと思っているところでございます。
 以上でございます。
○岩村座長 ありがとうございます。
 ほかにどうぞ、御遠慮なく。
 では、芦野先生、どうぞ。
○芦野構成員 まず、本当に他の先生もおっしゃっておりましたが、これだけ膨大かつ緻密な資料の御作成、ありがとうございました。
 とりわけ判例、裁判例について、その解説と、それから主な学説がまとまったことによって、それぞれを比較しながら検討することができるというのは非常に有益かつ重要かと思います。
 裁判例の1ページの表も非常に完結に分析してまとめていただいていますが、これだけ見てしまうと、裁判ではそうなんだと思って見てしまいますが、例えば29ページのところでは水町先生の判例評釈が掲示されていますが、問題点などが指摘されていたりして、そういうものも合わせながら見ていくことによって、裁判の内容であるとか検討すべきことなどが見えてくるのではないかと思いました。
 したがいまして、今日全てを見て何かを言えるわけではありませんが、私自身もそのような観点からぜひもう一度検討して勉強していきたいと思っております。
 また、民法の話が出てきましたので、幾つか民法の点についてコメントを申し上げます。
 まず、役務提供義務の一身専属性について、民法で言うと625条の規定ですが、この規定の意味することについて実は最近ではあまり議論がなされておりません。かつては我妻栄先生などが、基本的には一身専属性から認められるものではあるけれども、しかしながら、一定の場合には例外的に、これを行使することが使用者側の権利の濫用に該当することもあるなどと述べられ、検討されていたこともあります。しかし、現在では他の役務提供型の契約との差異を検討するに当たってあまり重視されていないと思われます。
 また、委任契約においても、復委任契約については原則自由にできるわけではありません。人的な近さという点では雇用、委任、請負の順番になるかと思いますが、委任でも一定の制約があることなどから、果たして準委任と雇用を分けるに当たって、ここの部分をどう考えるかというのは民法のほうでも少し検討しなければならないだろうと思います。
 また、竹内構成員、水町構成員からもお話がありましたが、請負契約に関しては専ら主たる債務が何なのか、役務提供側が負っているのは仕事の完成であるという、そこを最大限に強調することによって、だから請負なのだと。仕事の完成までが求められなかった場合には委任であるとか雇用になるという形で、簡単に整理されていることが多いかと思います。
 一方で、仕事の完成に当たって、全く指揮監督命令を受けない、指示を受けないのかというと必ずしもそうではなく、民法の規定においても一定の指示を受けた場合に、その指示に従って仕事が契約に適合していないような場合には瑕疵担保責任を負わないという規定があるなど、請負においても一定の指示を受けることは全く前提になっていないわけではありません。そこの部分をどう考えるのかということが問題になってくるのだろうと思います。
 この点については、まだまだ検討して述べたいこともたくさんあるのですが、今後私のほうでも明らかにしていきたいということを申し上げて終わりにしたいと思います。
 ありがとうございました。
○岩村座長 ありがとうございます。
 それでは、島田先生、どうぞ。
○島田構成員 ありがとうございます。
 先ほど竹内先生、水町先生の御指摘された業務上の性質というところで、業務の性質上どうなのかというのが非常に区別が困難で独り歩きしている。また、非常に濫発されやすいという問題点は非常に重要な点かと思います。
 他方で、請負でも指示できるというものはあり、何時にこれをどこに届けるということは、確かに請負でも実現可能なものなので、そうであれば、その点があるからといって請負になるというわけでもなく、労働者になるというわけでもなく、という非常にニュートラルな場合は確かにあるので、これを一切考慮しないほうがいいのかと言われると、それはケース・バイ・ケースということになるのかなと思います。
 業務の性質によって、もともと裁量が大きいような業務、大学教員のような業務もありますし、他方でもともと業務の性質によってあまり裁量はないというものもあるので、それはやはり業務を見る必要はケースによってはあるかと考えております。
 また、2点目は非常にささいな点で恐縮なのですけれども、代替性という要素についてです。昭和60年報告においては、代替性の有無というものも要素となっていますが、その内容は労務の一身専属性、ほかの人にさせることが許されるのかという点だと思うのですけれども、裁判例を見ていると、幾つかそれとは違う意味で代替性が使われているというところが散見されています。
 例えば、8番の日本代行事件などもそれに近いかと思うのですけれども、純粋に、その業務がその人でなくてもできるとか、資格を持っていたらできるとか、そのように使われている例が幾つか散見されるようですので、代替性の意味について、昭和60年報告で示す内容からのぶれが生じているかと感じました。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
 発言について1人1回という制限があるわけではないので、まだもう少し時間がございますから、あと2人くらいは可能かと思いますが、今日はこの辺りでよろしいでしょうか。
 今日の御議論を伺っていて思ったのは、事業組織への組み入れについてもそうですし、それから業務の性質というのもそうだなと思いながら聞いていたのですが、事業組織の組み入れというのが具体的に一体何を意味するのかということについて、確たる定義というものがないのではないかということ。それから、業務の性質というのも、その点では同じような気がしていて、先ほども話に出た横浜南労基署長事件は、運送という業務の性質上という、かなりアバウトというか、抽象度の高いレベルで業務の性質というものを考えている。
 それはおそらく商事の典型契約である、物品運送契約というのを念頭に置きながら考えているのだろうという気がしますが、裁判例の中には、業務の性質といったときに、その事業体が行っている業務の性質というように、話が変わっているというか、そのように捉えてしまっているというのもあるのかなという気がしています。
 そうすると、業務の性質というのは、一体どこを見て業務を考えて、その性質というものを捉えるのか。そこが実はあまり明確にされていない。裁判所は当然のことながら当事者の主張と証拠を見て考えてしまうので、それによっていろいろ揺れ動くということもあるでしょうし、先ほど水町先生がおっしゃったように、既に結論があった上で、その補強ということで考えるということもあるのかなと思います。
 事業組織の組み入れも同じような問題があるかなという気がしながら聞いていましたので、そのあたり、もう少し裁判例の傾向も参考にしつつ、一体何を意味するのかというところをもう少し明確にすることが、今後研究会として考えを深めていくに当たってポイントになるのかなと思いながら、今日皆様の御議論を伺っていました。ありがとうございました。
 それでは、本日の議論はここまでということにさせていただきたいと思います。事務局のほうで、またこれも大変なのですが、今日の議論も踏まえて引き続き資料の御用意などをお願いできればと思います。
 それでは、第3回「労働基準法における「労働者」に関する研究会」はこれをもちまして終了とさせていただきます。今日はお忙しい中、皆様、お時間を取っていただきありがとうございました。これで散会といたします。
 ありがとうございました。