第1回 医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会

日時

令和7年6月27日(金)16:00~18:00

場所

AP赤坂グリーンクロス 4階 ROOM A
東京都港区赤坂2-4-6赤坂グリーンクロス 4F

議事

○門野室長補佐 それでは、定刻になりましたので、ただいまより、第1回「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」を開催させていただきます。
 構成員の皆様方におかれましては、御多忙の折、御出席いただき、誠にありがとうございます。
 座長選任までの間、進行を務めさせていただきます、医政局地域医療計画課医療安全推進・医務指導室の門野と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日は、対面及びオンラインによる開催とさせていただいております。
 オンラインで御参加いただいております構成員の皆様に御注意いただきたい点について御連絡申し上げます。
 御発言時以外はマイクをミュートにしていただきますようお願いいたします。
 また、御発言の場合は、挙手機能やコメント等を用いて意思表示いただくようお願いいたします。座長の指名に基づき御発言をお願いいたします。
 御発言の際には、記録のため最初にお名前をお願いいたします。
 議事に入ります前に、本来であれば、構成員及びオブザーバーの皆様の御紹介と、事務局の紹介をさせていただくところではございますが、時間の関係上、座席表及び構成員名簿の配付をもって紹介に代えさせていただきます。
 なお、本日、長谷川構成員より、御欠席と御連絡をいただいております。
 また、木下(浩)構成員は、現在御移動中で少々遅れての御到着となります。
 続きまして、お手元の資料の確認をさせていただきます。
 会場に御出席の構成員におかれましては、お手元の資料、オンラインで御出席の構成員におかれましては、事前に送付させていただきました資料をそれぞれ御覧ください。
 資料は、議事次第、座席表のほか、資料1「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会開催要綱」。
 資料2「これまでの医療安全施策について」。
 資料3「日本の医療安全25年の歩み 医療現場がどう変わったか」。
 資料4「患者安全におけるインシデント報告・学習システムの位置づけと課題」をお配りしております。
 不足等がございましたら事務局までお知らせください。
 それでは、開会に先立ちまして、医政局長の森光より御挨拶申し上げます。
○森光医政局長 医政局長の森光でございます。
 第1回「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」を開催するに当たりまして、一言御挨拶を申し上げたいと思います。
 座って御挨拶をさせていただきます。
 本日は、皆様、お忙しい中御出席を賜りまして、誠にありがとうございます。
 また、構成員の皆様方におかれましては、平素より医療安全をはじめとした医療行政の推進に御尽力いただきまして、重ねてお礼を申し上げたいと思います。
 我が国におきましては、平成11年前後に国内で発生しました複数の重大な医療事故を踏まえまして、平成14年に策定されました医療安全推進総合対策の中で、医療安全が医療機関における最も重要な課題であり、緊急に取り組まれるべきとされまして、厚生労働省において関係者とともに取組を進めてまいりました。
 例えば、平成14年には、病院及び有床診療所に対し、さらに平成19年には、全ての医療機関に対して、医療機関内部における事例の報告等の医療安全管理体制の確保、これが義務づけられております。
 そして、また、平成27年には、全医療機関に対して提供した医療に起因する予期せぬ死亡、そして死産が発生した場合に、医療事故として第三者機関である医療事故調査支援センターへ報告し、院内での医療事故調査を実施することを義務づける医療事故調査制度が施行され、今年で施行からちょうど10年目に当たります。
 本検討会は、医療事故調査制度にとどまらず、医療安全に係る施策全般につきまして、これまでの取組を振り返った上で、現状と課題を整理して、今後の対策について御議論をいただきたいと考えております。
 本日はヒアリングを行いまして、医療機関で生じた事例を把握し、再発防止等に生かしていく仕組み、これにつきまして主に御議論していただく予定でございますけれども、次回以降、医療事故調査制度に関するヒアリングや議論なども行いながら、議論を重ねていって、今年の秋までには一定の取りまとめを行いたいと考えております。
 その上で、速やかに施策に生かしていきたいと考えておるところでございます。医療安全は、質の高い医療提供体制を構築する観点からも非常に重要な施策だと考えております。
 構成員の皆様方におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜りまして、闊達な御議論をいただきたく存じます。どうぞよろしくお願いしたいと思います。
○門野室長補佐 会議冒頭のカメラの頭撮りはここまでとさせていただきます。
(冒頭カメラ撮り終了)
○門野室長補佐 それでは、議題1の座長の選任に移らせていただきます。
 本検討会では、座長の選出は、資料1「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会開催要綱」に基づきまして、互選によるものとしております。
 構成員の皆様方におかれましては、座長として適任とお考えの方の御推薦をお願いいたします。自薦も含め、どなたか御意見のある方はいらっしゃいますでしょうか。
○今村構成員 リモートですが、失礼いたします。よろしいでしょうか。
○門野室長補佐 はい、今村構成員、よろしくお願いいたします。
○今村構成員 全日本病院協会の今村でございます。
 まず、議題1の座長の選出においてでございますが、私からぜひ推薦したい方がおられます。中央大学法科大学院の山本和彦構成員を、本検討会の座長として推挙させていただきたいと思います。
 山本構成員ですが、法制度に非常に詳しくいらっしゃいまして、医療安全に関する10年前の事故調の施行の際の検討会、医療事故調査制度の施行に関わる検討会なのですが、これでも座長を務められております。本検討会におきましても、山本構成員に座長を務めていただくのが、非常に適当であると考えております。
 以上です。
○門野室長補佐 ありがとうございます。
 先ほど、今村構成員から山本構成員を御推薦いただきましたが、ほかに推薦される構成員の方はいらっしゃいますでしょうか。
 それでは、本検討会における座長を山本構成員にお願いすることといたします。
 それでは、山本構成員におかれましては、座長席に御移動をお願いいたします。
(山本構成員 座長席へ移動)
○門野室長補佐 それでは、座長に選出されました山本構成員より、御挨拶をお願いいたします。
○山本座長 ただいま、座長に御選任いただきました、山本でございます。座って御挨拶をさせていただきます。
 ただいま、御推薦いただきまして、御発言いただきましたように、私は約10年前の、この事故調査制度の創設に当たる検討会等においても座長を務めさせていただきました。
 その意味で、個人的に医療事故調査制度の在り方について、この10年間、関心を持って見続けさせていただきました。今回、その制度について様々な方の御意見をお伺いすることができるということは、大変楽しみにしております。
 また、先ほど局長からの御挨拶にもございましたけれども、今回は、この事故調の制度にとどまらず、広く医療安全全体について御議論をいただくということも大変有意義なことかと思っております。そのような重要な会議で座長を務めさせていただくには、かなり力不足であるということは、10年前御一緒された方々はよく御存じだと思いますが、自由闊達な御議論が展開されるということを目標にして、座長の任を務めさせていただきますので、どうか皆様方におきましては、御協力のほどお願い申し上げます。よろしくお願いいたします。
○門野室長補佐 ありがとうございました。
 続きまして、座長におかれましては、座長不在時に座長の代わりを務める座長代理を指名することができます。座長代理として、どなたか指名されますでしょうか。
○山本座長 座長代理としては、私といたしましては、長谷川友紀構成員にお願いしたく存じます。
 先ほど、お話がありましたが長谷川構成員は御欠席ということで、やや欠席裁判的なことになって恐縮なのですけれども、恐らくお引き受けいただけるということだと思いますので、長谷川構成員にお願いしたいと思います。
○門野室長補佐 山本座長より長谷川構成員の御指名がありました。本日、長谷川構成員は御欠席でございますが、座長代理の御指名があったことは、事務局より、長谷川構成員にお伝えいたします。
 本検討会における座長及び座長代理が決定いたしました。以降の進行は、座長にお願いいたします。
○山本座長 それでは、早速議事に入りたいと思います。
 まず、本検討会の開催趣旨につきまして、事務局より御説明をお願いいたします。
○松本医療安全推進・医務指導室長 よろしくお願いいたします。事務局の医療安全推進・医務指導室長の松本でございます。
 資料1の開催要綱を御覧いただければと存じます。
 こちらの検討会でございますけれども、題名が「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」となってございます。先ほど座長から、それから局長からもございましたけれども、医療事故調査制度も当然スコープに入っておりますけれども、医療安全施策全体を議論する会議ということで開催をしております。
 開催要綱の「1 目的」のところを御覧いただければと思いますけれども、1つ目の○にございますように、平成14年策定された医療安全推進総合対策において、医療安全の課題が位置づけられて、様々な施策が展開されてまいりました。
 「さらに」のところにございますように、医療機関内部の事故報告、これは院内の把握の仕組みですけれども、このようなところが平成19年から義務づけられていたり、診療報酬の制度などもございます。
 そして、2つ目の○にございますように、医療事故調査制度が施行されて、今年で10年ということでございますけれども、その次の○にございますように、これらの制度、医療安全政策全体の振り返り、それから課題整理、そして課題、対応策を検討するというのが本会議の目的でございます。
 検討事項にございますように、医療安全全体を通して、これまでの経緯、それから現状を踏まえて課題整理、それから、そこへの対応ということが検討事項となってございます。
 御説明は以上でございます。
○山本座長 ありがとうございました。
 ただいまの御説明につきまして、何か御質問等ございますでしょうか。
 よろしいでしょうか。それでは、引き続きまして、議題2「医療安全施策の状況について」に入りたいと思います。
 この点につきましては、まず、資料2につきまして、事務局から説明をお願いいたします。
○植田専門官 事務局より御説明を差し上げます。これまでの医療安全施策についてです。
 まず、こちらは目次ですけれども、最初に施策の経緯ですとか、全体像をお示しした後で、2番目に、病院等に法令上求められている医療安全管理体制について、院内の事例報告や学習のための仕組み等を含めまして御説明を差し上げ、その後、第三者への報告を行う事例報告・学習のための仕組みを御説明いたします。
 まず、医療安全施策の経緯及び全体像ですけれども、こちらは、国内で発生した複数の重大な事故を契機として、平成13年に、まず、医療安全対策検討会議が開催されまして、その結果として、平成14年に医療安全推進総合対策が策定されております。
 こちらは、その内容ですけれども、この中で、かなり包括的に医療安全対策についてまとめられており、「第3章 国として当面取り組むべき課題」として3-1から3-7まで、7つの柱が示されております。基本的には、現在の医療安全施策は、この7本の柱に沿って進められております。
 こちらのスライドは、その7本の柱について、より詳細に御説明をしたものです。
 まず、左上の①番ですけれども、医療機関における医療安全管理体制の整備というところですけれども、こちらは、法令で全ての病院や診療所、助産所に義務づけられているものと、それに上乗せで、診療報酬で推進している内容がございます。
 医療法施行規則のところでは、従業者から医療機関の中で発生した事故等について報告を行うこと。そして、医療安全管理委員会で分析や対策立案を行い、指針、研修に反映させて、このような改善のためのサイクルを回すということが、院内の事例報告・学習のための仕組みとして求められています。
 さらに診療報酬では、それに上乗せが幾つかありまして、まず、ベーシックな加算で医療安全対策加算というものがございます。
 こちらは、専従または専任の医療安全管理者を配置すること等が要件となっております。さらにその上乗せで、医療安全対策地域連携加算1というものがございまして、こちらは、医療機関同士で医療安全に係る総合評価を行うことですとか、加算1のほうは、専任の医師を置くこと等が要件となっております。そして、特定機能病院では、さらに高度の医療安全管理体制が求められております。
 次に②番ですけれども、医療機関における医療安全対策に有用な情報の提供等を目的として、第三者に報告を行う事例報告・学習のための仕組みを設けております。
 2つありまして、1つは医療事故情報収集等事業、もう一つは医療事故調査制度です。
 このように、医療機関の内部で、まず、法令、通知で義務づけられている事例報告や学習のための仕組みというものがベースにありまして、そのうち条件に合致した一部のものが、第三者への報告を行う事例報告・学習のための仕組みに乗るという構造になっております。
 そのほかにも、スライドの右側にありますけれども、③番、医薬品・医療機器といったものの安全の確保ですとか、④番、医療安全に中心的に関わられる方の人材の育成、⑤番、患者の苦情や相談に対応するための体制の整備、⑥番、関係者の協働に向けた取組、⑦番、研究の推進等を行っておりまして、これら全体で医療安全対策を推進しているところでございます。
 スライドの7から9は診療報酬についてお示ししたものですけれども、ベーシックな加算である医療安全対策加算については、全国8,122病院のうち約半数に当たる4,100病院で現在取得がされております。
 その上乗せとなる医療安全対策地域連携加算につきましては、専任の医師が配置されている連携加算1というのは、1,495病院で届出がされております。
 また、こちらは令和6年度に行った診療報酬改定の内容ですけれども、ICUですとか、特定の手術というのは事故のリスクが相対的に高いということを踏まえまして、特定集中治療室管理料あるいは腹腔鏡・胸腔鏡手術等の一部の手術の施設基準として、医療安全対策加算1の届出というものを追加で求めることとなっております。
 こうした取組を通じて、よりリスクの高い医療を提供する医療機関において、しっかりとした医療安全管理体制が整備されるように政策を進めております。
 ここからは、法令等で病院等に求められている医療安全管理体制について、先ほど御説明いたしました院内の事例報告・学習のための仕組みを含めて御説明をいたします。
 こちらは、導入されてきた経緯なのですけれども、平成11年に大学病院で患者を取り違えるという事故が発生しまして、これを踏まえて、厚生省に検討会が設置されて対策が話し合われました。
 その中では誤認事故防止の方策に加えて、その他の医療事故防止に共通するような組織的な方策についても検討がされました。そちらの内容が、このアからカに示されておりまして、その中で事故等の院内報告制度ですとか、事故防止の委員会、マニュアル、職員研修といったものの提言がされております。
 そして、それを踏まえて平成12年に、特定機能病院に、この4つのことが義務づけられまして、さらに平成14年には、病院・有床診療所、平成19年には、医療法改正に伴って、無床の診療所や助産所にも、これらの義務が広がっております。
 そして、現在では、全ての医療機関に、これらの4点が義務づけられているという状況でございます。
 こちらは、現行の法令ですけれども、医療法第6条の12では、病院等の管理者は医療安全のための指針を策定し、研修を実施し、また、その他の措置を講ずることとなっております。
 医療法施行規則第1条の11により詳細が書かれておりまして、指針の整備、医療安全管理委員会の設置、職員研修の実施、そして、4番目ですけれども、事故報告等の改善のための方策を講ずることとなっております。
 さらに、その詳細が通知に記載されてございます。これはスライド17ですけれども、医療安全の指針については、事故が発生したときの対応に関する基本方針、これは医療安全管理委員会に報告すべき事例の範囲ですとか、報告手順を含めて定めてくださいということをお願いしております。
 また、医療安全管理委員会では、重要な検討内容については管理者に報告するということですとか、また、構造的な原因を分析して、再発防止につなげるということが記載されております。
 また、4番の事故報告等の改善の方策につきましては、あらかじめ指針で定められた報告すべき事例の範囲や報告手順に従って、事例を収集・分析した上で改善につなげること。
 また、さらに改善の実施状況をしっかりと把握して、その見直しも行っていくことということが含まれております。
 さらに、特定機能病院については、より厳格な医療安全管理体制が求められております。
 また、法令や通知で示している医療安全管理体制の状況は、医療法に基づく立入検査で確認を行っております。
 スライド25に、公表されている病院に対する立入検査の結果がまとめられておりますけれども、医療安全に関する項目は管理という大項目に含まれております。
 その遵守状況ですけれども、毎年98%以上となっております。
 次に「第三者に報告を行う事例報告・学習のための仕組み」について御説明してまいります。
 平成16年から医療事故情報収集等事業、平成27年から医療事故調査制度が開始されております。
 まず、医療事故情報収集等事業ですけれども、こちらは関連の法令をお示ししたものです。
 報告義務のある医療機関として特定機能病院と、それ以外に国立病院機構が開設する病院等、現在270医療機関が、報告義務がございます。そのほかにも任意で御参加いただくことが可能となっております。
 こちらは、制度の概要を示した図ですけれども、全国の医療機関から報告された事案を、第三者機関である公益財団法人日本医療機能評価機構が分析を行いまして、報告書や医療安全情報等の成果物にまとめて、国民、医療機関、関係学会等に幅広く公表していただいております。
 こちらは、医療事故情報収集等事業に報告が求められている事故等事案の定義ですけれども、医療法施行規則で定められております。イ、ロ、ハと3つありますけれども、このハのところを見ていただきますと、事故の再発防止に資する事例となっておりまして、幅広く御報告がいただけるような制度となっております。
 こちらは、事業の状況ですけれども、任意参加の医療機関の数、また、報告されている事案の数、ともに年々増えております。現在、年間6,000件程度の事故等事案が報告されております。
 また、当該事業ではヒヤリハットといって、より軽症の事例についても情報収集を行っております。これは、全て任意ですけれども、現在、1,397医療機関が御参加いただいております。
 こちらは、医療事故情報収集等事業で作成されている成果物でして、現在、医療安全情報は第222号まで、報告書は第80号まで公表されており、また、事例検索データベースには、数万件の事例の情報が集積されております。
 次に、医療事故調査制度についての御説明に移ります。
 こちらの年表は、施策の経緯をお示しした内容です。
 また、スライド41から55には、関連の法令や通知が参考として掲載されております。
 御説明は、56枚目に飛びますけれども、医療事故調査制度の目的としましては、医療の安全を確保するために、医療事故の再発を防止することでありまして、制度の対象となる医療事故の定義は、医療法第6条の10で定められております。提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡、死産であって予期しなかったものと定義がされております。
 こちらは、制度の流れを示したものですけれども、まず、前提として、この注のところですけれども、病院等の管理者は、病院等で発生した死亡や死産を確実に把握するための体制を確保するものと、医療法施行規則で定めております。
 そして、死亡事例が発生したら、その死亡事例が医療事故に該当するのか否かを判断し、御遺族に説明した上で、医療事故調査支援センターに報告されます。
 そして、院内調査を行って、その結果も御遺族に説明した上でセンターに報告する。
 医療事故調査支援センターは、この4番で、医療機関から医療事故として報告された事例についてですけれども、医療機関または遺族からの依頼があった場合には、上乗せのセンター調査を行うことができます。
 また、医療事故調査支援センターは、全国の医療機関から集まった事故等の情報を整理、分析を行いまして再発防止のための普及啓発を行っております。
 ここに支援団体とありますけれども、医療機関は院内調査を行うに際して必要な支援を支援団体に求めるものとされております。
 医療事故調査支援センター、第三者機関としては、一般社団法人日本医療安全調査機構が厚生労働大臣により指定されております。そして、医療法に定められた、これらの業務を行っていただいております。
 医療事故調査支援団体につきましては、行う支援の内容としては、こういったものが含まれておりまして、支援団体については厚生労働大臣が告示で定めており、こちらのスライドの下部に記載した団体に幅広く御協力をいただいております。
 さらに、支援団体は協議会を設置して支援に関する意見交換等を行っていただいております。
 次に、医療事故調査制度の状況ですけれども、開始後9年6か月の状況ですが、院内調査結果が約3,000件ですね、2,957件、そのうちの約1割がセンター調査となっております。
 また、医療事故調査支援センターは、様々な相談を受け付けており、累計2万件弱の相談が寄せられております。
 ここからは、医療事故調査支援センターの年報を基に、主要なものを御説明させていただきます。
 御遺族からの御相談は、年間1,000件前後寄せられています。また、センターは通知に基づいて、御遺族から医療事故に該当するのではないか等の御相談があった場合に、遺族の求めに応じて医療機関に伝達するという取組を行っております。
 これまで累計204件の伝達が行われまして、うち23件が医療事故としてセンターに報告がされております。
 こちらは、センター合議といいまして、医療機関の側から医療事故への該当性についてセンターに相談があった際に、センター合議の上で助言をしております。
 2024年は73件の相談がありまして、うち6割程度が医療事故として報告を推奨すると助言されており、そのうちの6割程度が報告されているという状況です。
 こちらは、医療事故発生報告件数の推移ですけれども、年間300件台の報告が寄せられています。
 スライド66は、特定機能病院における報告回数。
 スライド67は、医療機関の規模別の報告実績について。
 また、スライド70は、都道府県別の医療事故の発生報告件数。
 さらに71は、人口で補正したものとなっております。
 事故の分類ですけれども、手術によるものが最多となっております。
 病理解剖の実施状況としましては、院内調査のおよそ34.7%で実施がされております。
 こちらは、院内調査に外部委員が参画しているかというものを示したものですけれども、87.2%の院内調査に外部委員が参画をされております。また、院内調査の96.7%には再発防止策の記載があります。
 こちらは、センター調査の状況ですけれども、院内調査の9.5%がセンター調査対象となっており、御遺族からの依頼が80%を占めております。
 センターは、再発防止の普及啓発として提言を発行しておりまして、現在、第20号まで発行がされております。
 冊子の提言書に加えまして、動画ですとか、また、医療機関で活用を想定したポスター等の資料も作成されております。
 また、令和6年度に新たに始められた試みとして、警鐘レポートといいまして、より迅速に医療現場にアラートを出すといった取組も行われております。
 最後のスライドは、医療事故調査制度と医療事故情報収集等事業の比較を掲載したものです。
 御説明は以上です。
○山本座長 ありがとうございました。
 時間の関係もありますので、質疑応答につきましては、後ほどまとめてお時間を取らせていただきますが、ここでは、もしこの制度あるいは経緯等につきまして、御不明の点等の確認がございましたら、ここでお願いしたいと思いますが、何か確認すべき点等ございますでしょうか。
 よろしいですかね。それでは、また、後ほどまとめて御質問、御意見等をいただければと思います。
 それでは、引き続きまして、参考人の皆様方からのヒアリングのほうに移らせていただければと思います。
 本日は、横浜市立大学附属病院医療安全管理部長の菊地先生、そして、オンラインで御参加いただいております、名古屋大学医学部附属病院患者安全推進部教授の長尾先生から御意見を頂戴したいと思います。
 まずは、お二人から続けて御意見を伺いまして、それから、構成員の皆様に御議論をいただければと思います。
 それでは、菊地先生から、資料3に基づきまして御説明をお願いいたします。
○菊地参考人 私のほうは、医療現場がどう変わったかというテーマで、プレゼンテーションをさせていただきます。横浜市大附属病院の菊地と申します。
 私のプロフィールなのですけれども、今日は、患者取り違え事故、横浜市大の名前は出てきませんでしたけれども、私はもともと麻酔科医で、この事故が起きたとき、麻酔科医として附属病院に勤務していました。その後、手術部の医師を経て、安全管理部門の医師になったという、そういう経歴がございます。
 私の病院は、特定機能病院ですけれども、病床数600床台で比較的規模の小さな特定機能病院です。
 まず、各医療機関の安全管理の体制というタイトルをつけていますけれども、これは医療政策と、あと、特定機能病院、病院・有床診療所を並べて表につくりましたけれども、特定機能病院と病院・有床診療所では、各政策が導入された時期も違いますし、あと、今、到達度といいますか、現状も少し異なるということを、この後、御説明できればと思います。
 まず、取り違え事故が起きる以前の横浜市大の状況ですけれども、インシデント報告に関しては、看護部など一部で自主的に行っていたものの、病院全体で報告制度というものはありませんでした。また、看護部の状況を病院幹部が常に把握をするということもされていませんでした。
 事故予防マニュアルに関しても一部の診療科が、各論的なマニュアルをつくっているのみで、病院全体での共通のマニュアルというものはございませんでした。
 そのような中で取り違え事故が99年の1月に起きたわけですけれども、ここでは心臓の手術を予定する患者と肺の手術を予定する患者を取り違えて手術を行ったというものになります。
 このお二人は同一病棟に入院をしていて、同じ時刻に入室するスケジュールが組まれていましたので、1人の看護師が搬送していきました。それで、手術室の入り口で患者を取り違えて手術室に受け渡すことになって、手術室内では、患者が違うのではないかと疑問を持った医師もいたのですけれども、そのまま手術は続行されて実施に至っています。
 この事故を受けて厚生省の中に、患者誤認事故防止方策に関する検討会が立ち上がって、この中では、取り違えの防止というだけでなくて、医療事故防止に共通する方策の提言を行っています。
 先ほども御説明のあったこの4つが柱になりますけれども、この4つの提言の根拠というか、必要性を説明するのが、特定機能病院を対象に行ったアンケート調査の結果になります。
 まず、全職種についてインシデント報告を義務づけているという病院、この当時は特定機能病院でも28%しかありませんでした。
 このデータを基にして、全職員が参加する報告制度が必要であろうと。そして、受けた報告に対して分析を行って事故防止に役立てていく仕組みをつくらなければならないというのが、1つ目の提言になります。
 そして、事故防止委員会を設置している病院が35%という現状に対して、報告に基づく改善策の検討、職員への周知、マニュアルの作成などの機能を持つ委員会の整備を行うべきという提言が2つ目。
 そして、事故防止マニュアルをつくっていたのが、26%という現状に対して、改善策を明文化したマニュアルを作成して、周知徹底を図るべきという提言が3つ目です。
 そして、4つ目が、事故防止の研修を行っている施設は14%という現状に対して、定期的に事故防止について考える機会を設けるべきという提言が行われています。
 先ほども御説明がありましたけれども、その4つの提言、特定機能病院には2000年に義務づけられて、病院・有床診療所には2002年、無床診療所、助産所には2007年に義務づけられています。
 取り違え事故後の横浜市大の対応を御紹介しますけれども、1月に事故があって、4月には事故予防委員会が設置されています。この委員会の中で職員講演会の企画であったり、あと各部署に配置をしたリスクマネジャーが、各部署での教育の役割も負いました。ここで教育、研修の仕組みをつくって、6月には報告制度、全職員を対象にしたインシデント報告制度が開始になっています。
 そして10月には、事故予防マニュアルの初版を発行しています。
 翌年の4月には、医療安全管理部門を設置して、副院長の1名をその責任者とし、看護師、薬剤師と専従の医療安全管理者を配置しています。
 他の特定機能病院に比べて、動きが先行的に対応したわけなのですけれども、この当時横浜市大は特定機能病院を辞退していて、その再承認に向けて、特定機能病院に求められる要件を先取りして満たしておく必要があったという事情がございます。
 これは、1999年の6月に開始した報告制度の要旨なのですけれども、インシデント報告とアクシデント報告に分かれています。
 インシデント報告は、ヒヤリハットの事例で、患者さんには、事故には及ばなかった事例、アクシデントのほうは、患者さんに実害が及んだという定義づけを当時しています。
 最初は紙による報告で、2007年から電子化されています。電子化の前は、大体年間3,000件弱の報告でしたけれども、電子化された後、徐々に件数が増えて、現在は5,500から6,000の間、毎年報告がございます。
 当院では、早い時期からリスクマネジャーが、病院の安全の仕組みを検討していくという活動を行っていましたけれども、2002年のテーマに、インシデント報告システムの検証というテーマを選んでいます。
 この背景として、この当時でインシデント報告制度ができて3年が経過したわけなのですが、報告件数が約3,000件で頭打ちになって、報告職種も看護師は多いけれども、医師が少ないなど、職種の偏りが見られていました。
 自発的報告制度では、このように報告される事例が、全体の一部ではないかというところが問題点として認識されていて、このテーマが選ばれています。
 このリスクマネジャーの活動の中で、海外の状況、ジョイントコミッションのセンチネルイベントとか、あるいはニューヨーク州のオカレンス報告制度というものが紹介されて、あらかじめ定められた有害事象が発生したら、必ず報告する制度として、オカレンス報告を導入することを決めました。
 右側の図が、当時、職員に説明に用いられた図ですけれども、これまでのアクシデント、インシデントの報告では、一部しか報告されないと。報告されない部分をカバーする報告として、このオカレンスを報告してもらうことによって、全容を正しく把握できて、病院として適切な対応が可能となる、それを目的としています。
 2003年に順次部署を拡大して、2004年の1月に全病院的に実施をしています。
 これが最初の書式で、当初の報告を求める事例です。現在のオカレンス報告の対象としては、手術関連の中には、麻酔関連合併症、術中合併症、周術期の合併症、検査・処置関連で、カテーテル、内視鏡、注射などの項目をつくっています。
 オカレンスとインシデントの報告を比較してみますと、インシデントのほうは88%が看護師からの報告で、医師は4%にすぎません。内訳を見てみると、薬剤とドレーン・チューブというカテゴリーの件数が多いのですけれども、例えば、内服薬の過剰・過小内服であったり、胃管あるいは点滴の事故抜去というものが数多く含まれています。
 それに対してオカレンスの報告では、医師の報告が17%、インシデントの4倍ほど割合が増えています。
 医師からのオカレンス報告の内訳ですけれども、ここの赤字で書いてあるような患者さんに生じた有害事象の報告というものが多く占めていることが分かると思います。
 オカレンス報告の件数なのですけれども、2016年からしかデータがありませんでしたが、徐々に件数が増えていますが、今は年間550から600件で頭打ちになっているような状況です。
 これらの報告を受けた後の動きに関して御説明をしていきます。
 初めの10年間、2000年代です。報告制度をつくりましたけれども、それがシステム改善に結びつくというところには、なかなか活動がいかなくて、確認の徹底を呼びかけるという、そのような文章が多く発行されていました。
 この背景として、当時、安全管理部門に事例の分析や、背景要因に基づくシステム的な改善策を検討するだけの力がなかったこと。あるいは安全管理部門だけでできる対策には限界がありますけれども、病院幹部との連携が今ひとつうまく仕組みとして行っていないところがあったというところが背景にあるかなと思います。
 そこに大きな転換点になったのが、2013年なのですけれども、ちょうど2013年は、私が専従医師として安全管理に着任をした年になりますが、私が着任をした6日後に、患者さんの死亡に至る医療事故が起きて、それに対する対応策として、安全管理部門の体制の強化と、病院長を含む幹部との連携の強化というものが行われました。これが、現在の仕組みの基盤になっています。
 今の体制の御説明ですけれども、まず、報告体制としては、大きく2通りに分けられます。
 まず、レベル0から3aと、3aというのは、患者さんへの影響度が比較的軽微な処置を要したもの、例えば、簡単な皮膚の縫合であったりとか、湿布を貼るとか、軽微な処置を要したものまで、このようなものは48時間以内に、レポートシステムから入力をしてもらって、まず、初期の段階で我々が事実確認を行います。
 週2回、QIプレミーティングというものを開いて、報告を受けた事象の中で、どの事例に対応するかという絞り込み、トリアージを行います。年間5,500件以上の報告がありますので、全てに対応することは不可能ですので、事例の絞り込みを行います。
 この絞り込むメンバーなのですけれども、安全管理部の医療職、医師、看護師、薬剤師、あと、診療放射線技師がいます。そこに臨床工学技士、検査技師なども加わってもらって、多職種の視点でチェックをしていく。
 報告される事例というのは、非常に多岐にわたっていて、その重要度を把握、評価するためには、業務を理解していないと評価ができません。そのような意味で、この多職種の参加というものは必要だと思っています。
 ここで、トリアージした事例なのですけれども、週1回行っているQIミーティングというところに提示をして、改善策を検討して方針を決定していきます。
 このQIミーティングの出席者なのですが、病院長をはじめとして安全担当の副院長、看護部長、事務長、医薬品医療機器の責任者など、各部門のトップが出席をしていますので、非常に合意形成が容易で、院内の適切な担当部署の協力をすぐに得ることもできますし、費用がかかる対策に関しても、意思決定が容易な仕組みとなっています。
 ここで出された方針に基づいて、再び医療安全管理部のほうで具体的な方策に落とし込んで、マニュアル案を作成し、それを月1回の安全管理対策委員会のほうに提示をして、審議、承認を得て、それを翌月のリスクマネジャー会議で周知をしていくという流れをつくっています。
 次に、レベル3b以上の重大な事象、レベル3bというのは、例えば緊急手術であったり、集中治療部への入室というような濃厚な処置を要したような事例になりますけれども、それ以上の影響度の大きいものに関しては、即時報告ということを義務づけています。それで、安全管理部に即時報告があったものは、すぐに病院長まで伝わっています。
 また、死亡症例に関しても御紹介をしておきますけれども、2つ把握する仕組みがあって、1つは、患者さんがお亡くなりになったときに、主治医が死亡診断書を我々に提出をするのですけれども、そのときに、死亡診断書作成前のチェックシートというものをつけさせていて、この中で、原病で説明できない死亡事例に関しては、我々への報告や、あるいは病理解剖・Aiの実施へと誘導するような、そのようなフローになっています。
 このフローで予期せぬ死亡に該当する可能性があるとなった場合には、別途報告システムでの入力を求めています。
 また、これとは別に、能動的な把握も行っていて、前日の死亡患者の診療記録が、電子カルテを管理しているシステム担当から我々に毎日ファイル形式で送られてくるようにしています。それを朝のうちに、診療録の監査を行って内容の把握をしています。
 このような重大事例、3b以上の事例、あるいは予期せぬ死亡に該当する可能性のある死亡を把握した後なのですけれども、院内医療事故会議というものを必ず開いています。この院内医療事故会議の要綱なのですけれども、対象としては、このレベル3b以上の事象と、医療法でいう医療事故に該当する可能性のある死亡が生じた場合、その他と定めています。
 ここで検討するのは、原因の検証であったり、あるいは病院の定める公表規定に該当するか、日本医療機能評価機構、医療事故調査支援センターの報告に該当するかどうか、そして、調査委員会の設置の必要があるかどうかという決定を行っていきます。構成員は、病院長をはじめとして病院幹部が構成員となっています。
 実際に年間、大体十数件の院内医療事故会議、これは1事例に対して、複数回の会議が開かれることも多いですので、実際の会議の開催件数としては、この2倍から3倍ぐらいになるのかなと思います。
 実際に会議体の開かれたうち、調査委員会の設置まで進むものであるとか、あるいは技術的に何か問題がある可能性があると感じられた場合には、手術の一時停止措置などを行うこともあります。
 2023年は15事例に対して、ここでも手術の一時停止あるいは調査委員会の設置に進んでいるものがございます。
 このような仕組みができて、以前は、注意喚起にとどまっていたような対策が、これは、例えば、術後の撮影したレントゲンで写っていたガーゼを主治医が見逃したというものに対しては、ガーゼを強調して分かりやすく表示するような、そういうモードに加工することができるのですが、そういう画像が自動的に手術室の中では表示されるような仕組みをつくったりとか、あるいは病棟で夜間、ナースステーションに看護師が不在のときに、重篤な不整脈が起きたけれども、気づくのが遅れたという事象に関しては、これも注意喚起ではなく、離れていても看護師が持ち歩いているモニター、端末にモバイルモニターを設置して、ナースステーションにいなくても患者を集中監視できるような、そのような仕組みをつくるなどの活動を行っています。
 当院の安全対策は、大きく2段階で進化をしました。
 1つ目は、取り違えの後、報告制度をつくって、部門の設置などを行いましたけれども、院内の情報はある程度集まってくるようにはなりましたけれども、なかなかシステム改善には結びつきませんでした。
 それが2013年、医療安全管理部門の体制、充実させてトリアージから分析、検討の仕組みが、力がついたというところ。そして、大きかったのが管理者を含む病院幹部との関与が強化されて、システム的な改善策の意思決定が円滑化された。そして、組織的に対応すべき重大事象に確実に対応できるようになったというところが大きいかなと思います。
 私の病院と同じように、特定機能病院に関しては、2016年の要件の厳格化も合わせて、大体似たような状況だと思うのですけれども、ただ、それ以外の病院、診療所に関しては、少し状況が異なっているかなと思います。
 私は、少し個人の話をさせていただくと、病院機能評価のサーベイヤーをさせていただいたりとか、あるいは神奈川県内の病院のアドバイザーのようなものを務めたりもしているのですけれども、その病院の事例を少し御紹介したいと思うのですが、比較的大きな病院で医療安全部門には、かなり一般病院としては潤沢な人が配置をされている病院になります。
 それで、重大事故発生時の対応フローというものがきっちり決められていたのですけれども、何が問題かというと、当事者からの報告、特に診療所で起きた有害事象に関しては、医師がやむを得ない合併症と判断すると、なかなか報告自体が上がってこない。仮に、看護師である医療安全管理者が把握できたとしても、その診療所に起きたことに対して評価をすることが非常に難しいと。
 重大事象が起きた場合は、その下に関係者会議というものを招集するという矢印があったのですけれども、この会議の開催要件が不明確なので、実際にはほとんど開催されていないと、事故調査にも結びつかないという現状がありました。
 ここで少しアドバイスを行って、この関係者会議の開催規定を当院に準じたような決まりごとをつくったところ、年間3件程度だった開催件数が、月1、2件に増加して、事故調査に至る事例も発生したと。
 これは、今日のまとめになりますけれども、インシデント報告を受けて、部内でトリアージをして分析、そして、組織的な対策、立案、周知という流れ、重大事象、死亡事例に関しては、報告を受けて直ちに管理者と共有をして、規定に基づいて会議体を設置して検討、そして、事故調査への判断というものを行うというお話をしてきましたけれども、多くの一般病院においては、まず、この報告がされないケースというものがかなりある。報告を受けても、医療安全管理部門の中でトリアージであるとか、分析のノウハウあるいは人的な資源が不足していて、ここが進まない。あるいは安全部門だけでは、組織的な対策を取ることがなかなか難しいという現状。重大事例、死亡事例に関しては、特に診療に関わるものに関して、看護師の医療安全管理者が踏み込むことが難しい。管理者との連携が十分でないと、その先、特に規定が設置されていないと、会議体を設置して詳しく分析をするというところにもなかなか進まないというところが、多くの一般病院の現状ではないかなと思います。
 最初の図に戻りますけれども、病院機能によって医療安全対策は、今、モザイク状になっているというのが現状かなと感じています。
 今日のまとめになりますけれども、1999年の事故を契機に、当院では院内でインシデントを収集して改善につなげる仕組みを整備してきました。
 その後、25年かけて、例えばオカレンス報告制度、重大合併症を確実に把握する仕組みの強化であったり、管理者を含む幹部との連携を強化することによって、組織的な改善策、重大事象への組織的な対応というものを、確実に行う体制をつくってきました。
 インシデント報告制度が医療機関の中で円滑で実効性を持って運用されるためには、報告・検証に関する規定の整備であるとか、管理者との連携というものが重要と考えています。
 以上になります。
○山本座長 菊地先生、ありがとうございました。
 それでは、御質疑、御議論等については、後でまとめてお願いをするといたしまして、引き続きまして、長尾先生から資料4に基づきまして、御説明をいただきたいと思います。
 長尾先生、よろしくお願いいたします。
○長尾参考人 よろしくお願いいたします。名古屋大学病院の長尾です。資料を共有させていただきます。
 本日、私に課せられたテーマですけれども「患者安全におけるインシデント報告・学習システムの位置づけと課題」ということで、少しお話しさせていただきます。
 私は、もともと呼吸器臨床を専門とする医師で、医師になってから30年になりますけれども、患者安全を専従とする医師として、20年を経過いたしました。京都大学と名古屋大学病院で患者安全専従医師として今日に至ります。よろしくお願いいたします。
 今日お話しすることは3つになります。
 まず、患者安全におけるインシデント報告・学習システムの位置づけについて、そして、このインシデント報告・学習システムの抱えている課題について、そして、このシステムの課題の改善に向けた工夫について、特に名古屋大学病院における実践などを織り込みながらお話しさせていただければと思います。
 まず、最初、位置づけについてですけれども、1999年以前は、私は1994年に医師になったわけですけれども、患者安全あるいは医療事故といったものに対しては、非常に閉鎖的かつ密室的というか、あるいは懲罰的な対応もあったかと思いますが、どちらかといえば、医療従事者個人の努力に負った対策が中心となって進められていたかと記憶しております。
 それが2000年以降、先ほどの菊地先生のお話にもありましたように、個々の医療者の質を高めるということは重要ですけれども、一方で、システム全体を安全性の高いものにしていかねば、同じことが繰り返されるということで、そして、この学習のシステムが導入されてきたということかと思います。
 特に、このインシデントを収集して改善していくといった活動が業務として位置づけられてきたと。
 このインシデントレポートシステムというのは、確かに従前の医療事故といったものへのイメージを随分大きく変換した部分があると思っていて、それは開放的であり、組織的であり、支援的なことを可能とするような、そういった大きな転換であったなと、シンボリックな取組の1つだと認識しています。
 行政もかなり早い時期から、この学習の重要性といったものを指摘しています。先ほど厚労省の説明にもありましたが、この医療安全推進総合対策について触れられていましたが、事故の予防に重点を置いて考える場合には、誤りに対する個人の責任追及よりも、むしろ起こった誤りに対して原因を究明し、その防止のための対策を立てていくことが極めて重要だということをうたっていまして、まず報告体制を構築しましょう。そして、組織全体で学び続ける。収集した情報を活用するためには、的確な原因分析、それに基づく改善策を講じる。さらに迅速に関係部署に還元する。その後、改善策が遵守されているかを監視して、もしできていない場合は、その原因をさらに分析し、より実効性のある改善策を再検討すると。さらに、新たな誤りが発生しないよう、全体的な視点から精査して、その結果を評価し改善していくと。
 この改善という言葉は何回も出てくるのですけれども、まさにPDCAサイクルを回していくというか、現場からの報告から様々な活動を繰り返ししていくことの重要性を、2002年に提示しているということになります。
 これは今日でも、あるいは国際的にもほぼ同じことが言われています。WHOは、世界患者安全行動計画というものを、この2020年に向こう10年の計画として提示していますが、医療における回避可能な害をなくすためにということで、最大限の削減を世界レベルで達成するための7原則というものをうたっています。
 その3つ目に、データを分析、共有して学習機会を生み出すのだということを提示しています。
 また、このエビデンスを実行可能かつ測定可能な改善に転換することの重要性を提示していまして、現状、世界の約7割の国でこのインシデント広告学習システムが普及しているということになります。
 このインシデント報告・学習システムは、必要不可欠なものとして普及してきているわけですけれども、様々な課題も指摘されているということです。
 これは、同じくWHOが2020年に発行した、この学習システムに対する指針なのですけれども、このようなことが冒頭に書かれています。まず、この報告システムというのは、国によっては、国レベルでの患者安全、インシデント報告システム等の急速な確立につなげられたということが書かれているのですが、しかし一方で、報告することだけでは、リスク低減と安全性の向上をもたらす独立した仕組みとならないということに対しての注意喚起がされているということが記載されています。
 つまり、報告するときは、以下の全体的な文化の一部でなくてはならない。その文化とは、害がどのように発生するかについての好奇心と理解があり、患者に対する全てのリスク源を明らかにしようとする意志の強さに加え、調査のルールとプロセスを十分に理解した学習に基づき、安全性の向上のための改善策を効果的に実施する方法も併せ持つ文化であると書かれています。
 まさに報告していれば、病院は安全になっていくのか、患者は安全になっていくのかというと、そういうことではないです。報告から学習へとつながる仕組みを構築しなければ、あまり有効な意味をなさないということはお分かりいただけるかと思います。
 このような図がこの指針には掲載されていますが、まず、インシデントをしっかり報告するということは基盤にあり、それを評価する仕組みが必要で、それがなぜ起きたかという因果関係を調査し、そしてシステム的な構造をしっかりと調べ分析して、そして何か改善策を立案していく、システムで改善できればそれでいいのですが、それだけでは難しいとなれば、人間の行動変容を期待して、その計画を立てて、その遵守状況などをしっかりとモニタリングしていくと、最終的に害は予防されていくというピラミッドをモデルとして提示しています。
 課題があります。まず、先ほどの菊地先生にもお話もありましたが、報告自体が足りないという課題。それから、この分析に係る資源が不足している。それは人的資源もそうですし、物的資源も十分かどうかといった課題です。
 さらに、改善そのものへの利用が不十分ではないかという指摘です。
 WHOは、これらに対し6つの推奨策を提示していまして、まず、新規及び既存のリスクを特定できる堅牢な方法を確立する必要があると。さらに、その中から重大なリスクをピックアップ、エスカレーションして病院中枢に届け出るという仕組みが必要だと。
 そして、組織体はリスクの明確な優先順位づけをし、そして、その原因を分析し調査する。
 そして、害の予防を可能とするプロセスを考案、構築して、最終的に既存のリスクの系統的モニタリングにつなげていくという、この6つの推奨策が提示されています。
 私は、よく医療安全活動を免疫機能に例えるのですけれども、抗原提示をしているだけでは不十分で、そこに対し、組織がいかなる抗原抗体反応を来して、的確なリスクに対して予防していくのかという、この機能を病院体として有することが重要ではないかと。まさにそのことが、昨今でも等しく言われているということだと思います。
 3つ目ですけれども、では、どのような工夫が必要なのかということです。
 まず、インシデントの報告というものに対してですが、先ほど新規及び既存のリスクを特定できる堅牢な方法が必要だということが推奨策として提示されているわけですが、国際的に他国を見ますと、この既存のリスクの特定というものには様々な努力がされています。
 諸外国では、回避可能性が高く重大な結果を引き起こす事象、警鐘的な事象といったものをあらかじめ明確に定義して、これらが発生した場合には報告・検証を義務づけているということです。
 例えば、Never Events listとか、Sentinel Event Policyとか、これらは、先進国では定着している国がありますが、日本では、こういったリストがあるということは認識されていても、それが行政レベルで義務づけられているという状況にはありませんし、特定機能病院でも、この報告を義務づけているという医療機関は、全てではありません。
 また、より難しいと思われるのが、新たなリスクをいかにオンゴーイングで把握する仕組みを持っているかということです。
 これは、名古屋大学病院のインシデント報告の3年分を見たものですが、医師が報告したものと、それ以外の2群に分けていますが、この色は、患者に発生した疾病の重症度を表します。
 黄色は軽症、赤は重症、重大といった形で示していますが、医師が報告したインシデントレポートの4割は、患者さんに軽症以上の疾病が発生しているというデータになります。
 医師集団が報告しないとなりますと、これらがよく分からないということになってきますし、医師以外でも重大な情報を報告する傾向にある職種、部署があることも分かっています。
 つまり、幅広い職種から多角的な報告がされることで、病院は重要な情報を把握できます。
 名古屋大学では、先ほど横市でも取り組んでいるという報告がありましたが、オカレンス報告基準や合併症と考えられる事象における報告基準等を定めて、まずは重大事案の早期一元収集を企図してきたということになります。
 次に評価ですけれども、これはWHOが示しているインシデントの分類方法ですけれども、大きく患者に到達していないものと、到達したもので2群に分けましょうと。そして到達して害を起こさなかったものと、有害となったものとに分けましょうと。有害となったもののうち、回避可能な出来事と回避が難しい出来事とに分けましょうと。ここをしっかりとターゲットとして定めていきましょうということがうたわれています。
 つまり、患者安全の目標は、回避可能な危害を患者に与えないことだとすれば、報告さされた事例の評価に当たっては、回避可能か否かの判断が重要ということになりますが、しかし、これが存外に難しいという経験をいたします。回避可能とはいかなることかですけれども、これは、名古屋大学病院のインシデント3万件を大きく2群に分けたものです。こちらが回避可能性あり、こちらがその可能性が低いというものですけれども、大体2対1に割れます。
 こういうデータを見たときに、私たちが率先して優先的に対策をしなくてはいけないところは、ここということになります。というのは回避可能性があって患者に疾病が発生しているということであれば、まずは患者の救命をしなくてはいけませんし、説明をしなくてはなりませんし、再発防止対策などを急がねばならないということになるからです。
 しかし、先ほど申し上げたように、この2群の分別というのが、医療者の経験や勘によって左右され、結構苦労するというか、難儀をするということがあります。例えば、手術中に何か血管を損傷してしまったといったときに、ある集団は、これはやむを得ない出来事だと言いますし、ある集団は、これはあってはならない出来事だと言います。どうしてもその辺の判断基準というものが明確にしにくく、俗人的な影響を受ける、ということです。
 回避可能なインシデントというのは、少なくともこういった事象群となります。異型輸血や薬剤の誤投与とか、重要情報の伝達不備であったり、放射線の過剰照射、異物遺残、異常の見落とし、機器の誤操作などなどですが、こういった形でインシデントは上がってくるものではなく、実際はこんなような形で上がってきます。
 検査中に状況が悪化したとか、手術に患者が亡くなったとか、合併症だと現場は言っているとか、転倒して骨が折れて、その後亡くなった。術後感染で亡くなった。気管支鏡中に脳梗塞で亡くなったなどなど、つまり、回避可能性というものは、こういった出来事のプロセスをしっかり検証して初めて正確に把握されるということになります。しかも、迅速に検証する必要があります。
 このインシデントの優先順位づけを適切に行うには、医療安全担当者等への教育やトレーニングが必要になりますし、そこに時間的、人的リソースが必要になるということを、まず、お伝えしておきたいと思います。
 さらに、日本でできているか、これは2016年ですね、全国の病院にアンケート調査をしたのですけれども、約半数の病院がインシデント報告の評価をよく行っていると回答しています。
 一方で、トリアージの基準について共通認識の構築には至っていないのではないかという現状があると思います。
 世界では、どちらかというと、できているかどうかについては懐疑的です。大量のデータが収集されることで、それらをまとめて保存する作業に利用可能な時間や資源の大半が費やされることが、あまりに多いのが実情で、学習に利用できるようにし、一貫して確実に患者安全の改善に貢献できる方法でデータを分析、共有する作業には時間が費やされていないという、ややシニカルな評価が行われています。
 続いて、調査、検証といったところになりますけれども、ここにもかなりの専門性と人的リソース、あるいは物的リソースの投入が必要になるということで、ただ報告をして、それを評価していればいいということではなく、それをいかに改善につなげるかといったところが重要になります。
 名古屋大学では、全部署にセーフティーマネジャーという方が配置されています。これは、全職種に1人以上が配置されていますが、特に確立した医療安全対策の実装に向けた教育といったことに力を注いできました。
 しかし、こういうことがあります。経鼻胃管挿入時のチューブ先端位置の最も確実な確認方法は、気泡音の聴取である。まさに私が医師になった30年前には、これは正解だったわけですが、ちょうど25年ぐらい前から、これは危うい方法だということになり、今では、正解はこちらということになります。20年以上、このことを医療安全はずっと現場に言い続けてきましたが、実際、名古屋大学の看護系の職員に問うと、2020年の段階でも正答率は75%にしかならないということです。つまり25%は、この知識を持っていないということになります。
 ということで、私たちはいろいろな取組をするわけです。日々のインシデントのチェックはもとより、定期的な巡視、教育、そして理解度確認などです。ということで3か月ごとに6回連続で同じ問題を取材した結果、1年半後には96.6%になるといった、こういう現状があるということです。
 まとめですけれども、これは名大病院のインシデント報告数のグラフで、今、年間1万4000件ぐらいが集まる状況です。
 この縦の棒は、重大な回避可能な事象を調査した、事故調査の件数ということになります。
 赤く塗った件数が回避可能であったという件数で、ブルーは、やはり回避可能が難しかったと判断された事例です。ピンクは、現在、調査をしている事象群ということになります。
 このインシデント報告が増えてくることによって、院内で発生している多くの出来事が、正確に迅速に把握されるようになっていきます。
 5年ごとぐらいに見ますと、年間2.6件ぐらいだったら回避可能死が、この5年間(2013
年-2017年)では1.2件になり、この5年間(2018年-2022年)では年平均0.8件になっているということが見て取れるということです。
 このグラフは大きく2つの意味があって、つまり現場からの報告をしっかりと地道に改善活動につなげていくことの重要性と、もう一つは透明性を維持して、初めてこういった数値の評価が可能になるということです。
 昔は、まず、数自体の精度が低いということになるかと思いますが、一定の透明性を保っていれば、こういった測定比較というのは可能になります。また、さらに重要なことは、これはゼロを目指していくわけですけれども、医療は今後あらゆるリスクに適用していく必要があります。新しいリスクが生まれるかもしれませんから、患者のリスクが増えているのか、減っているのかといったことを客観的に評価しながら進めていくという意味でも、重要な測定方法ということかと思います。
 つまり、報告文化を醸成し、重要事象を明らかにしながら、適切なトリアージと分析を行い、回避可能な重大事案を減少させていく。
 明確な目標のもと、一貫性のある粘り強い取り組みが求められるということをお伝えしておきたいと思います。
 総括です。
 インシデント報告・学習システムは、国内外で患者安全の中核戦略として、既に位置づけられています。
 諸外国では、回避可能性が高く、かつ重大な結果を引き起こす事象や警鐘的な事象等を予め明確に定義し、確実な報告・検証・モニタリングを実践している例があって、つまり、ターゲットを明確にしているということだと思います。
 報告されたインシデントの優先順位づけや、質の高い分析・調査を可能とするためには、医療安全担当者等への適切な教育とともに、十分なリソースを確保する必要があります。
 安全文化を醸成し、回避可能な重大事案を減少させるという明確な目標のもと、一貫性のある分析・調査を行った上で、システムの改善や職員の行動変容につなげるための中長期的、かつ粘り強い取り組みが求められるということで、私のお話とさせていただきます。
 ありがとうございました。
○山本座長 長尾先生、ありがとうございました。
 それでは、質疑応答、御議論のほうに入っていきたいと思いますが、まず、事務局のほうで何か補足いただくことはございますでしょうか。
○松本医療安全推進・医務指導室長 事務局でございます。先生方、ヒアリングをありがとうございました。
 これからディスカッションとなると思いますけれども、本日、事務局からも御説明している資料がございますが、これが医療安全政策の全体ということになってございます。
 医療安全推進総合対策と、そこから始まるそれぞれの施策の経緯、現状、在り方、これらをどう考えるかというのが大きな1つ目の論点ということになるかと思います。
 それから、もう一つの大きな論点が、ヒアリングの中で取り上げていただきました、医療機関の中での事例報告・学習の仕組みということで、お二人の中から論点として提示されているのが、まず、報告対象はどういうものなのか、それから学習分析や再発防止の内容、実行において医療機関の中でどういう体制、それから管理者の取組など、その辺りをどう考えるかという論点、大きく分けて2つあるかと思いますので、時間的にも分けることなくの御議論だと思いますけれども、どちらのお話なのかということを、ある程度、発言の際におっしゃっていただくと我々も整理はしやすいかと思いますので、よろしくお願いしたいと考えております。御議論をよろしくお願いします。
○山本座長 ありがとうございました。
 それでは、先ほどの事務局からの説明、そして、菊地先生、長尾先生からの御説明につきまして、今、事務局から補足がありましたような観点に留意をしていただきながら、御質問あるいは御意見等を御自由にお出しをいただければと思います。
 木下(正)構成員、どうぞ。
○木下(正)構成員 弁護士をしております、木下と申します。
 私からは、菊地先生と長尾先生の御報告に関することで質問をさせていただきたいと思います。
 まず、先生方の御説明、非常にありがとうございました。
 インシデント、それから、オカレンス報告とその対応で、非常に熱心に取り組まれているということで、僭越ながら敬意を表したいと思います。
 それで、長尾先生のほうからは、その取組によって重大な事案も減少しているということで、そういう成果も出ているのだなと感嘆した次第です。
 それで、先生方がこれだけ濃厚なという言い方でいいのでしょうか、非常に大変な取組をされていて、長尾先生のスライドの中に、時間的、人的リソースが必要ということを書いてあって、医療界の外に身を置く者としても、当然そうだろうと考えており、こういう場合というのは、当然金銭的にもいろいろ負担がかかってくるのかなと思うのですが、先生方が行ってくださっているような取組を、もっと広く他の医療施設でも行っていけるようにするには、どのような制度や、手当があれば、よりよいと考えられるか、もしお答えが可能であれば、教え願いたいと思います。よろしくお願いします。
○山本座長 それでは、お二人にということですが、まず、菊地先生、よろしいでしょうか。
○菊地参考人 リソースとしては、まず、時間なのですけれども、例えば、今、当院で術中に起きた死亡事故に関する調査委員会を行っているのですけれども、1つ調査委員会を持つと、多分そこに私がかけた時間というのが、400から500時間ぐらいかけていると思うのです。それを通常の業務に加えて、その時間の業務が増えるということになります。
 そうすると、時間外とか休日とか、あるいは通常やっている業務をどこか削るということになってしまうので、絶対的な有事にかけるだけの余裕というものが、ふだんから少し足りないなというのが、特定機能病院である本院でさえも感じるところになりますので、市中病院だと、かなりそこで逆に調査委員会を行うことをちゅうちょしてしまうというケースもあるのかなと思います。
 あとは、やはり事故調査あるいは適切に分析をして対応していくためには、長尾先生のお話にもありましたけれども、そのポジションについたからすぐに行えるようになるというものではありません。やはり、知識あるいは現場での経験というものが必要になるのですけれども、これは私の私見になりますが、特定機能病院に関しては、専従の医師というものが配置をされて、特定機能病院同士のピアレビューなども行っていて、他の病院がどういうことをやっているというような、そういう情報交換もかなり密に行われて蓄積をしてきて、レベルアップというものが行われているかと思うのですけれども、今、あまり特定機能病院と地域の病院の関わりというものがありません。地域連携加算にしても、そこには、今、特定機能病院は含まれていませんので、やはり一般病院の、特に医師の力の底上げというものを図るような策というものが何か必要かなと。
 具体的には、やはり特定機能病院とある程度交わるような方策というものがあるとよいのかなと思いますけれども、かなり時間がかかる対策かなと存じます。
○山本座長 ありがとうございました。
 長尾先生からも、よろしくお願いいたします。
○長尾参考人 現在でも医療安全実務者の教育が行われていて、あと養成も行われているのですが、それが大体40時間で、多くは看護師が担ってきた歴史が長いですけれども、特定機能病院では多職種でということになります。
 問題は、40時間では恐らく足りないと、特にNever Eventsなどをしっかりと迅速に把握して、適切にトリアージして、しかも再発防止まで結びつけるということになれば、もう少し教育に時間を費やす必要がありますし、また、単一職種だけでも難しく、多角的な検討が必要になりますので、複数の専門性を持つ人材、チームと言うのですかね、チーム養成が必要になるだろうと思っています。
 特に有事系の重大案件を把握して対策するということに関しては、第三者性が求められますし、また、改善というものに関しては、全員野球というか、多くの現場と一緒に改善活動をしていくといったリーダーシップが求められると思っているのですが、名古屋大学は1,035床ですけれども、1,000床から1,500床規模ぐらいにワンチームあると、まずはいいのかなという感触は持っていて、つまり、いろいろな病院群や地域間での連携などを駆使する。小規模医療機関群全てにそのチームが存在しているということよりは、エリアをある程度区分しながら管轄していくといった発想も必要になるかなと思っています。いずれにしましても、先ほど申し上げたように、このサイクル活動を有効に回すためには、一定のトレーニングとリソースが必要だろうなと思っております。
○山本座長 ありがとうございました。
 木下(正)構成員、よろしいでしょうか。
 それでは、まず、岡構成員、お願いいたします。
○岡構成員 ありがとうございます。日本病院会の岡でございます。
 今日は、非常に菊地先生、長尾先生、歴史から含めていろいろ教えていただき、ありがとうございます。
 長尾先生に、まず1点御質問なのですけれども、こういう質問をしていいかどうか少し悩むのですけれども、報告は本当に多く、数もどんどん増えているのですけれども、そこの分析に関わる資源の不足というお話をされたと思うのです。ただ、やはり多くの報告で、質の高い分析が必要ということで、3b以上は医療安全室の人間がやるのですけれども、例えば1とか2あるいは3aまでの軽微なものを、今、膨大な報告で適切な分析というと、人工知能のAIというのが、今後そこに入る余地があるのか、こういう医療安全に関してAIが不適なのかどうかと、それに関して長尾先生がどのようなお考えか、ちょっとお聞きしたいのが1つ。
 もう一つは、菊地先生と長尾先生にお聞きしたいのですけれども、今日はインシデント報告のお話だったと思うのですけれども、うちの病院でも最近始めたのが、いわゆる好事例のグッドジョブ報告です。これも医療安全に寄与するかと思って、なかなか数は集まるのですけれども、先生方の病院で、こういうグッドジョブの報告をどのような形で集めているのか、あるいはそういう数を増やす工夫をされているのか、もしあれば教えていただきたいと思います。
 以上です。
○山本座長 それでは、長尾先生からお願いいたします。
〇長尾参考人 まず、AIの介入のできる余地があるかですけれども、私たちは研究ベースでは、そういうことをやっています。つまり、現場から上がった大量のインシデント報告の中から、どういったものに優先的に着手し、どんな改善活動が有効なのかといった辺りを、機械がサポートするといった発想はあると思いますし、実際、私たちは過去10年以上の数万件以上のインシデントレポートという教師データがありますので、それに対して私たちが行ってきたことを入力すれば、一定の判断ができるといった技術開発まではできています。それを制度も含めて社会実装できるかといったレベルになると、まだまだ改良の余地はあるかなと思っていますが、視野には入れておきたいもう一つの方法論だと考えています。
 もう一つ、グッドジョブについての御質問ですけれども、私たちもエラーを早期に発見できたような、そういったことを伝えようとしている報告は、きらり報告などと呼んだりして、特別にラベリングして注目しています。
 どうすれば被害を抑えられるかといったこと、そういったことをきらり報告が教えてくれるということで、成功体験に学ぶということは常に姿勢として持っています。
 これを増やすということに関して、特別な取組をしているわけではないのですが、少なくとも国際基準では、インシデントは大体4パターンに分けなさいと言っていて、まず、患者さんに到達したものと、到達していないものとに大きく分けられるわけです。到達していないところに随分ヒントがあるということで、日本のレベル分類で言えば、0レベルをよくよく解析して、1より上のものを防ぐという発想が必要になるのだろうと考えており、注目しながら見ているということになります。
○山本座長 ありがとうございました。
 菊地先生、お願いします。
○菊地参考人 当院ではグッドジョブに相当するものは2通りありまして、1つは病院長が安全だけではなくて、例えば経営面での貢献なども含めて、職員から推薦された人を表彰するような仕組みというのがあります。
 もう一つは、インシデント報告の中から未然に防いだというものに関しては、ファインプレー賞という名称で、その現場に行って表彰するという活動をしていますけれども、表彰する意味ですけれども、報告制度自体を、いまだに懲罰的に捉える職員も、まだかなり多いと思うのです。そういう懲罰、悪いことをいさめるためにやっているのではなくて、やはり、報告を仕組みの改善に結びつけているというところを見える化、フィードバックすることは非常に重要だと思っていて、その中の1つとして、よい報告に関しては表彰するということを、意味づけとしてはあるのかなと思います。
○山本座長 ありがとうございました。
 岡構成員、よろしゅうございましょうか。
○岡構成員 ありがとうございました。非常に勉強になりました。
○山本座長 それでは、菅間構成員。
○菅間構成員 医療法人協会から来ています、菅間と申します。
 私ども医療法人協会は、基本的には民間の病院で、多くは中小で、今、日本病院会の先生からありましたけれども、ややもう少し規模が小さい病院ということになります。
 先ほど厚労省のほうから、これまでの経緯、もろもろという話がありましたけれども、そこのところの話を少しさせていただきますと、私も10年前に医療事故調ができたときから、それ以前からある程度、医療事故調査制度の立ち上げ、もろもろを含めて見ながらいましたので、そこのところは把握しているつもりなのですけれども、事故調査制度が立ち上がったとき、いろいろな問題がありました。
 今、説明の中で、まだ、この後出てくるのかもしれませんけれども、強調されなかったことがいろいろな問題があって、訴訟がたくさん起きて、特に地方においては、病院の消滅も含めた医療体制の萎縮というのがありました。
 私自身は、今、病院としては、栃木県の一番北、福島県に接するところで338床ぐらいの病院をしておりますけれども、大野事件というのがあった後、福島県から栃木県にかけて、産婦人科の診療所がほとんどなくなりました。
 その後、私どもとして、私の町は栃木県で一番外れなのですけれども、町の中でお産をする場所がなくなったので、その後、この10年間で産婦人科を立ち上げて、ようやく町の中で産まれる数がゼロだったのが、大体月に300ぐらいまで持ち上がってきたというところを実感しているのですけれども、それを見ながら、この立ち上がった医療安全対策は、この10年間うまくいっていたと私は思っています。地方において、平均的な医療、日本中どこでもある程度同じレベルの医療を受けられるということに関しての萎縮というのは進まなかったと思っています。
 ただ、今、長尾先生、菊地先生のお話を聞きながらつくづく感じたところは、この10年間、医療安全に関して進んだところ、そこのところは、国がお金を投資したかどうかのところも感じるのですけれども、基本的には、特定機能病院中心にはよく進んだと思うのですね。
 結果として菊地先生も、長尾先生も、最終的な結論は、医療安全をきちんと成し遂げるのには、時間的、人的リソースが必要だということに、何となく聞こえたように思いました。それはイコール、逆に言うと、人的、時間的リソースの少ない地方の中小病院だとなかなか難しい。ということは、地方の中小病院と、大学中心等の大病院との医療安全の観点での差を広げてしまった可能性はないのかなと思っています。
 それには、やはり改めて今回の検討の中で、これまでは、ある意味で厳しい同じ基準を中小病院に当てはめると難しいというところがありましたけれども、大病院でやられてきたところのノウハウを含めて、中小病院にも広げるような観点をぜひとも入れていただければなと思っています。
 そのときに、先ほどの人的、時間的リソースは、大学病院よりも中小病院はありません。特に、例えば、個々の事案が起こったときに、CTで、AIで撮り直す、さらには、病理解剖までするとなると、これは、地方の中小病院はかなり難しいところがありますけれども、そこのところは、少なくとも例えば診療報酬上の個々それぞれに関してのサポートがきちんとあれば、できるのかなと思ったりしています。
 というところが、経緯もろもろなのですけれども、あと、長尾先生や菊地先生のお話の中で、中小病院でもインシデントレポート体制はそれなりに広がって、先ほど差が広がったという話を少ししましたけれども、でも、割と10年間進んでいるように思います。
 その中で、特に菊地先生が言われたオカレンスの報告は、WHOの言われているところのインシデントをきちんと決めた報告と同じことだと思うのですけれども、この点に関しては、民間の中小病院でも多分同じように行けるのだと思うのですけれども、その辺のところも含めた観点をぜひ入れて、今日は、大学病院、特定機能病院だけの議論でしたけれども、このあと、ぜひとも中小病院レベルの医療安全もろもろを、どうしたらいいかという観点も、ぜひとも入れていただければなと思います。よろしくお願いします。
○山本座長 ありがとうございます。
 御意見をいただいたかと思いますが、事務局は、何かコメントがあれば、大丈夫ですか。
 では、宮脇構成員。
○宮脇構成員 医療過誤原告の会の宮脇です。お二人の先生方、ありがとうございました。
 1999年の大きな医療事故報道をきっかけに、2000年代になってから、急速に医療安全対策が、これほど努力されているというのを詳しく聞くことができて大変勉強になりました。
 私たち医療事故に遭った被害者の立場から質問です。発表頂いた2つの病院では、重大な医療事故が発生した場合、当事者、患者さんや遺族の方に、どういう形でヒアリングを行い、再発防止にその声を活かされているのでしょうか。菊地先生のお話では、43ページに、院内医療事故会議というのが位置づけされていまして、基本的に病院の職員で構成され、ここが最初の取っかかりだと思われます。御遺族や患者さんの声は、事故当事者として、再発防止にどう活かされるのか、患者さんの声を代弁する医療対話推進者とか、そういう人たちを活用しているところもありますが、そのつながりがよく見えなかったので、もし、今どのように、当事者からの情報収集や思いとかも含めて、把握されているのか教えていただければと思います。
 以上です。
○山本座長 それでは、菊地先生、お願いできますでしょうか。
○菊地参考人 院内医療事故会議のレベルでは、なかなか患者さん、あるいは御家族とお話をするという機会は、現実的には持てていないのですけれども、事故調査委員会を設置するような事例の場合には、どちらかというと、事実を正確に我々が把握するという観点で、診療記録に書かれていること、あと、職員からのヒアリングというのは、やはり病院側から見た側面の事実であって、患者さん、御家族が把握されている事実と異なることがあるので、当初は行っていなかったのですけれども、最近では、診療記録を見てもらって御家族が把握されていること、説明をされたことと、そごがないかというところを実際に御意見をお聞きして、調査に入るようにしています。
 その結果、例えば、医師のほうは、きちんと説明をしたと言っていても、患者さん側がそれをきちんと理解していない場合には、そのインフォームド・コンセントに関しても焦点を当てて、調査委員会の中で、1回2時間ぐらいを割いてインフォームド・コンセントに焦点を当てた議論を行う事例もございます。
○山本座長 宮脇構成員、よろしいでしょうか。
○宮脇構成員 ありがとうございます。
 今、毎日こういう猛暑のもとで、熱中症や脱水で亡くなられる高齢者の方についての報道をよく耳にします。多分、当日か前日に医療機関にかかっていた方も結構いるのだろうなと。しかし、そこで必要な検査や点滴などの治療をされないまま、様子を見ましょうと帰されて、そのまま亡くなられる方もいるのではないでしょうか。いつも外来にかかっている患者さんが、特に元気がない時に、看護師さんが脱水等を疑い、主治医に検査をした方がいいのではと進言した時、いや大丈夫だから帰していいと指示され、そのまま自宅で亡くなられる方も少なからずいるのではないかなと思います。
 チーム医療がしっかり機能せず、何か医療上の技術的な大きなミスとかではなくて、不作為による亡くなり方なんですが、こういう例も後で丁寧に、患者さんや家族の状況を把握するようなシステムを、今後どこかでつくっていくことによって、より多くの方が不幸な事例にならずに済みます。私たちのところに、そういう相談が結構あるものですから、こういう教訓を何とか活かせないかと常々考えているところです。病院の中で検討する際にも、やはり遺族や御家族のヒアリングは、とても大事で、再発防止にかなり活かされるのではないかなと思います。
 横浜市大や名古屋大学病院は、一般病院に比べて、研究・教育機能が充実していますので、ぜひ先行して教訓化し、市中病院のところでも活かしていただければと願っています。直接制度からは少しずれましたが発言させていただきました。
 以上です。
○山本座長 ありがとうございました。
 それでは、木下浩作構成員、お願いいたします。
○木下(浩)構成員 私は、全国医学部長病院長会議の患者安全推進委員会の委員長をしております。
 今日、お二方の病院のお話をお聞きしまして、特定機能病院はかなり成熟した医療安全の取組をしているのだなと聞いて感心していたところでございます。
 私の質問といいますか、思いは、この医療インシデントの覚知につきましては、最初にスイッチを入れるのは現場であったとしても、それを医療安全管理室に報告を上げるということになりますが、例えば特定機能病院ですと、医療安全上の最終的な責任者は病院長ですし、医療法上でも病院長の要件として医療安全の実務経験があるといった、たしか縛りがあったと思うのです。
 そういったところからしますと、病院長の熱量によって、最終的にその状況を覚知する、あるいは自分から状況を取りに行くといったところがあれば、医療安全管理室、部門というものは物すごく発展していくのではないかなと思います。
 そういった観点からしますと、お二方の病院の初期の頃での病院長との関わり方というのは、どのような状況だったのでしょうか。私は、中小病院などでの勤務経験もあるのですけれども、そういったところでは、やはり医療安全室に対するサポート体制が病院全体でなされていないようなところも、やはりまだ見受けられますものですから、そういったところを、やはり病院長がリーダーシップを取って動いていけば、圧倒的に発展するのではないかなという思いで聞いておりました。いかがでしょうか。
○山本座長 それでは、菊地先生からお願いできますか。
○菊地参考人 平成23年を境にして、病院長、幹部との関わり方が変わったというお話をしたと思うのですけれども、それ以前も決して疎遠だったということではないのですが、ただ、仕組みとして定期的に話をする機会というものがあったわけではないと。
 35ページの週間予定表みたいなものを見ていただいて、今日は御説明をしなかったのですけれども、毎朝、病院運営課題共有ミーティングというものをやっているのですけれども、ここも病院長、副院長あるいは病院の幹部が集まって、そこに安全部門も参加をして、ここで前日の3b事例と死亡事例の報告を行っているのです。
 これだけで週5回、あと、QIミーティングでプラス1回、必ず仕組みとして、安全部門と病院長が顔を合わせる機会というのが週6回あります。
 病院長の熱量によって変わってしまう、熱量が高い病院長が病院長になってもらえればいいのですけれども、そうではないときに活性が下がってしまうというのは、それは問題だなと思うのです。
 やはり仕組みとして、定期的に病院長と安全管理部門が関わるという、そういう仕組みが必要かなと。それは、先ほど大規模病院と中小病院のお話がありましたけれども、やはり中小病院においても、安全部門が病院長から切り離されて、独自に動いているような状況であると、やはり孤立してしまうと思うので、そこは病院長のサポートが必要というのは、それは中小病院でも同じではないかなと思います。
○山本座長 それでは、長尾先生、お願いします。
○長尾参考人 病院長の理解や支援というのは、この患者安全を推進する上で極めて重要だと思っています。
 特に、名古屋大学でもその他の病院でもそうだと思うのですけれども、重大な案件が発生したときの初動が遅れたり、あるいはそれを一旦伏せて、あるいは事故性、重大性の判断が十分できないまま時間が経過してしまったことによって、患者を失い、やがて訴訟になり、そのことによって私たちの組織の存在自体が問われるといった案件を、日本の医療界は医療安全の黎明期に随分経験しました。
 そういったことを肌で理解しているリーダーは、この患者安全の重要性、特に有害事象が発生したときに、当事者たちのみで判断することの不確実さというか、危うさといったものを肌身にしみて理解しているので、患者安全チームという第三者性を有した専門チームを育むことの意義をわかっていると思います。
 もちろん調査、検証といったこともそうですし、再発防止もそうなのですけれども、このようなことが市民や患者層と、その病院の、その後の信頼関係といったものに大きな影響を与えるということを理解していることが重要かと思います。
 幸い名古屋大学病院においては、歴代の病院長は、そのことに対して非常に積極的であったということだと思います。
 また、どのような方が病院長になったとしても、そのことの重要性を正しく伝え、教育し、あるいは伝承していくという、ある意味文化としての取り組みというか、私たちのマインドセットも重要で、例えば、先ほど宮脇構成員が患者参画の重要性をおっしゃったのだと思いますが、患者さんにカルテを所有してもらうとか、スマホから自分の診療記録が把握できるようになるとか、あるいは私は近い将来、患者さん方がインシデントレポートを自ら入力する時代が、もうそこまで来ているなと思っているのですけれども、そういったような患者参画の取り組みによって、医療と国民が一体となって医療安全を高めていくといった、そういった発想自体に対して、積極的かどうかといった辺りも病院長に求められる素養かなとも思っています。もちろん病院長は、患者安全の経験をしてきた方ばかりではないと思いますので、その辺りをマネジャーになるまでの過程の中で、どのように育成して育んでいくのかといった辺りは、重要な課題ではないかなと思っております。
○山本座長 木下(浩)構成員、よろしいでしょうか。
 それでは、オンラインの南須原構成員、お願いいたします。
○南須原構成員 北海道大学病院の南須原です。
 僕は、今、羽田空港にいて飛行機までの時間がないものですから、今のうちにお話ししたいことがありましたのと、あと、ちょうど今、病院長という話が出て、私は長尾先生の少し後ぐらいに医療安全をやっていて、17年目ですかね、多分、大学病院で初めて診療科を持たない医療安全の教授が病院長になったのは、僕が初めてだと思うのですね。
 今まさに長尾先生がおっしゃっていたとおりで、私自身部長として病院長とタッグを組んでやってきましたけれども、やはり自分が病院長になると、情報の判断も速くなりますし、本当に現場で起きたことが、今まで以上に自分の経験がすごく生かせるなと思っています。
 私が病院長になったからといって事故は減っていません。減ることはないのですね。ただし、起きたときの対応とか、再発防止に向けた話し合いとかというのは、まだ、2、3か月ですけれども随分スムーズになったと思います。ですので、やはり医療安全の経験というのは病院長にとって重要と思います。もちろん、今、経営を含めてものすごく大変なので、それだけではいけないのですけれども、やはり自分が医療安全をやって病院長になってみて思うものは、医療安全に関する考え方、そういうものがいかにトップとして大事かというのは痛感しております。
 それ以外に、今日お伝えしたいことがありまして、今日お二人の話を聞いて、それから宮脇さんとかの話も聞いて思うのですけれども、医療安全文化の醸成ということで、確かに医療安全を担当する看護師さん、医師の教育というのは生涯教育としても大事だと思うのですけれども、そもそも学生教育という観点も重要だと思うのですね。私が14年前になったときに、国立大学附属病院でアンケートを取ったときに、学生に対して医療安全の授業をしていますかとの質問に、一番少ないのが1コマ、多いのが、たしか十数コマあったのです。非常にばらばらなのです。
 もちろん学生さんに、例えば、先ほど長尾先生が出した医管挿入のときの気泡音のみによる確認は正しいか、間違っているかということを覚えさせるということではなくて、報告文化の重要性とか、それから医療安全の考え方、すなわち懲罰ではなくてシステムでやるのだということ。そういうことというのは、学生のときに植えつけなければいけないと。
 それから、今日は宮脇さん、豊田さんもいらっしゃいますけれども、やはり被害者の方の声とか、悲惨な医療事故を起こしたときには、患者さん家族に対して非常につらい思いをさせると、そういう面での教育というのは、学生のときから非常に重要ではないかと思うのですね。
 今日は厚労省の会議ですけれども、長くなって申し訳ないですけれども、先ほどまで、私、国立大学の病院長会議に出ていたのですけれども、そこには文科省と厚労省の双方が参加していましたが、大学病院の経営の話になったときに、教育の部分、我々は医者を育てなければいけないと、そうすると、診療に対する報酬は厚労省だと、教育は文科省みたいなことになってしまうのですね。
 ですので、こういう医療安全においても、今、松本室長がいますけれども、やはり文科省と厚労省の協力ということも考えていかないと、シームレスに医療安全文化が醸成されないのではないかということで、今日私からの提案の1つとして、文科省、厚労省がタッグを組んで医療安全に取り組むということ、学生に対する医療安全教育からシームレスの生涯学習に取り組むということが大事ではないかということで、発言させていただきました。
 長くなってすみません。
○山本座長 ありがとうございました。
 それでは、豊田構成員、お願いいたします。
○豊田構成員 豊田と申します。
 最初に患者家族の立場で少し発言をさせていただきたいのですけれども、今、南須原構成員がおっしゃってくださいました学生の教育からというところですけれども、多分、医療界、医療職の皆さんは、ほとんど御存じないと思うのですけれども、私どもも人が足りないですが、医学部、看護学部、薬学部、その他の職種の学生さんのところに、実は講演活動を20年以上行っていて、最初のうちは、そういう苦しい話を学生が聞いたら、なり手が減ってしまうのではないかとか、教育者の先生方も心配されたのですけれども、実際に学生さんのレポートとか質問、意見を聞くと、現場に出る前にこういうお話を聞いてよかったという感想がほとんどです。知らないより知っていたほうがよかったと言われています。そのときに私たちは脅かすわけではなくて、この20年の歴史の中で安全対策がこれだけつくられてきているということも必ずお伝えしていて、多くの学生さんがそのように言ってくださっていますので、ぜひそういったことを活用していただけたらと思っております。
 もう一つ私は、中小病院の職員でもあるのですけれども、先ほど菅間構成員がおっしゃったことは本当に深刻な問題と私も認識しています。人が足りない中でどうやってきちんとやれるのだろうと悩みますし、本当に、いろいろな人的負担も予算も含めて困っているのは間違いないと思っております。
 その一方で、特定機能病院をはじめとした病院の、こういう先生方が一生懸命専門的にいろいろなことやってくださっている、そういう方がおられないと、私たちまで教わることができないので、ぜひ今後も広げていっていただいて、やはり先ほど菊地先生も、特定機能病院同士はつながりがあるのだけれども、なかなか中小病院とはというお話があったので、ぜひそういう中小病院のほうにも指導していただけるような仕組み、これができてくるとよいと思いました。
 私の勤務先は100床規模で、病院長は、とても意識が高いので、非常に相談しやすくて、小さい病院だからこそ相談ができてよいのですけれども、やはり、先ほど菊地先生がおっしゃられていたように、熱量が違っていたりというのは、正直なところあると思いますので、ぜひ引き続き、このように専門家の皆さんでずっと声を上げ続けていただいたら、医療界全体で、学生の教育もずっと行っていけば、いつか広がっていくのではないかと思いますので、ぜひとも私たち患者家族の立場からもお願いしたいと思っております。
 長くなりました。すみません。
○山本座長 ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。
 米村構成員、お願いいたします。
○米村構成員 すみません、東京大学の米村でございます。
 今までの議論を伺っていて、思ったことも含めて少し発言をさせていただきたいと思います。一部、質問を含みます。
 先に質問のほうからさせていただいたほうがいいかもしれませんが、両先生には、大変すばらしい御報告を誠にありがとうございました。私も十分に把握できていなかった最新の医療安全に対する考え方や実務的な運用の在り方、大変勉強になりました。ありがとうございました。
 それに関連して、大変すばらしいと思いつつ、やはり先ほども何人かの先生方から御発言があったとおり、なかなかこのレベルの医療安全の対策、取組を、あまねく全ての医療機関で実現するというのは、相当にハードルが高いのではないかという気がしております。
 こういう状況は、今に始まったことではなくて、ずっと以前からといってもいいと思いますけれども、病院長の意欲という話も先ほどあったかと思いますが、必ずしもそれだけではなくて、人員的なリソース、予算的なリソース、あるいは地域環境様々なことによって、医療安全の取組の手厚い医療機関と、そうでない医療機関がどうしても出てくるということは避け難い現実としてあるように思っております。
 医療事故調査制度を導入した際に議論があったのは、そういう現実があったとしても、やはり院内調査というのを全ての医療機関でやっていただくことに大変意味があると。医療機関それぞれの固有の事情や、固有のシステムというのがあるので、そのシステムの中身を見直すというきっかけを持っていただくということは、やはり必要で、それを第三者調査みたいなもので全て代替するというわけにはいかないのだから、院内調査をやはりやるべきだという考え方で、院内調査を義務化するということで、医療事故調査制度は始まった、少なくとも1つの柱はそうだったと私は認識しております。
 それが、果たしてうまくいっているのかどうかというのが、私は非常に気になっているのですね。今日お話しいただいた菊地先生、長尾先生のところは、本当にすばらしい仕組みを導入されておられると思うのですが、その仕組みをほかの医療機関に適用して、うまくいくものなのかどうなのかというのが、私のお尋ねしたいポイントということになります。
 もし、うまくいきそうなのであれば、ほかの医療機関でも、それでうまくいくということであるならば、むしろ、ある種の標準化をして、院内事故調査というのは、それぞれの医療機関の独自のやり方に任せるというのではなくて、このやり方でやってくださいという1つの標準モデルを全ての医療機関に対して適用してしまって、もちろん意識の高いところが自前で変えていくとか、あるいはもっとよりよい制度につくり変えていくということはあってもいいと思うのですけれども、しかし、デフォルトとしては、これで取りあえずやってくださいというものをパッケージとして用意して、その仕組みに従ってやっていくことを、まずは求めるというやり方がうまくいくのであれば、そういう制度設計もあり得るのではないかと思います。
 従来の院内調査を重視する考え方では、むしろそうではなくて、それぞれの医療機関で考えてもらうということを重視していたと思いますけれども、それがうまくいかないのであれば、そういった1つのデフォルトの在り方を全ての医療機関に、まずは適用していくということも考えてもいいのかもしれないという気がした次第です。
 両先生にお考えをお伺いしたいと思います。
 以上です。
○山本座長 それでは、まず、菊地先生からお願いできますでしょうか。
○菊地参考人 今日お話ししたことは、ふだん行っていることのごく一部なのですね。インシデントなどで集まる情報あるいは別の方法で院内から集める情報にしても、多くは病院の仕組みを改善しようというところに、つなげる、そういう活動が我々の行いたい半分以上、それが事故調査とかよりも、そういうところに、実際には熱量を注ぎたいなと思いながらやっているわけです。
 その中で、事故調査をしなければならないものが出てきた場合も、なるべくそこから過失があるのかどうかというところだけではなくて、では、それを防ぐためには、どういう仕組みの改善をすればいいかというところにつなげていくことが必要で、事故調査をして、その背景要因を分析する意味の半分以上は、そういう改善というところにつなげることにあるのかなと思います。
 あと、中小の病院にも同じようなやり方が適用できるかどうかなのですけれども、全く同じというわけにはいかないと思いますが、やはり懲罰、過失の有無というところだけではなくて、病院をよくしていこう、改善していこうというところにつながるというところを理解していただければ、例えば、病院の中で限られた人数の医師に少しずつ、そこに対して改善をしていくということに関して協力を得るとか、病院の規模に応じたやり方というのは考え得るのかなと思います。
○山本座長 それでは、長尾先生、お願いできますでしょうか。
○長尾参考人 米村先生、御質問ありがとうございます。
 私、ちょうど2009年ぐらいに、小規模医療機関群の患者安全をどのようにするといいのかという厚生労働科学研究班に所属いたしまして、かなり全国津々浦々いろいろなパターンの診療形態の医療機関を訪問したりして、実情を把握する機会をいただきました。その時の経験から、基本的な患者安全の考え方や仕組みといったものは、恐らくどのような規模の医療機関においても、医療行為を提供する以上求められるのだと考えています。
 ただ、侵襲的な医療行為が日々行われている小規模医療機関と、そうでもない医療機関であれば、当然発生することの頻度や深刻度というものは変わってきますので、それに対してどのような手当が必要なのかといったことについては、多少の差異は出るとは思いますが、まず、ポリシーとしては同じであろうと。
 規模に関係なく求められる部分から学習していく、そして改善につなげるといった、このサイクル活動については等しく求められると考えています。
 では、そこに莫大なお金や人が必要なのかといえばそうでもなく、工夫によってはローテクで行われるものも多いですし、また、先ほど少し申し上げましたが、幾つかの診療群が集まることによって達成するというアイディアもあるわけで、そういったところに昨今のインフラ技術を投入するといったことも選択肢としてあり得ると思っていまして、やりようだと思います。
 あと、もう一つ私が課題だと思っているのは、回避可能性といったことの明確化がないまま、多くの医療現場が、何か私たちのやっていることが全て批判されるのではないかという恐怖を与えられてしまってきた感があるといったところですね。
 特に、全体の安全活動の一部かもしれない事故調査制度などをめぐっては、通常の医療行為の多くを私たちが全て検証しなくてはいけないなどといった誤解が生まれると、もうやっていられないという声が聞こえてきたりと。そうではなくて、本当に私たちが、まず、国民目線で見たときに防がなくてはいけない、回避しなくてはいけない事象群といったものは何なのか。そもそもそれが明確になっていないので、発生頻度自体も把握されていないのです。大規模医療機関でどのぐらいあるのか、小規模ではどのぐらいあるのかもわかっていません。むしろそれを、どちらかといえば、そのターゲット群を明確にすること自体を遠ざけてきた感があると。
 いよいよ本格的な成果といったものを求めていく、あと効率的な改善を導入していくということであれば、その辺りをしっかりと明確にしつつ、規模に応じた適切な手当をしていくことが必要です。
 患者安全のポリシーは等しく基盤として同じものを抱えること、それは、先ほど南須原構成員からもあった医学教育にもつながる部分かもしれません。そういった教育を受けた人たちが、いろいろな医療提供の形態で、国民に安全な医療を提供していくといった在り方が重要なのではないかなと考えております。
○山本座長 米村構成員、いかがでしょうか。
○米村構成員 大変よく分かりました。ありがとうございました。
 両先生とも、恐らくこういうことをおっしゃったのではないかと思いましたけれども、実際上の適用において、医療機関の違いはあり得るけれども、しかし基本的な考え方や、ポリシーに関しては共通するものがあるという御趣旨だったと思います。私も全くそうだろうと思っておりまして、やはりそうであるならば、すぐに法的義務というのになるかどうか、それは慎重に考えたほうがいいと思いますが、もう少し一般的な共通の考え方をしっかり打ち出して、こういう考え方で、皆さん、医療安全に取り組んでくださいということを、ある程度取りまとめるようなこともやったほうがいいのかもしれないと。今ですと、やはり医療機関ごとに完全に丸投げになってしまっていて、それぞれの医療機関で全部一から考えなくてはいけないという形になっているので、これだとなかなかうまくいかないのかもしれないという印象を持った次第です。
 ありがとうございました。
○山本座長 ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。
 よろしいでしょうか。既に時間も参っておりますので、本日は、それでは、この程度とさせていただければと思います。
 本日いただきました御議論を基に、事務局のほうで論点整理をお願いしたいと思います。
 事務局のほうから、何かございますでしょうか。
○松本医療安全推進・医務指導室長 次回の日程は、また、御相談をさせていただければと思います。今回は主に、医療機関の中における事例報告・学習システムについて御議論いただきましたけれども、次回は、また、医療事故調査制度等につきましても取り扱いまして、御議論を深めていきたいと考えております。ありがとうございました。
○山本座長 それでは、私の不手際でやや時間を超過してしまいましたが、熱心な御議論を誠にありがとうございました。
 本日は、これで閉会といたします。ありがとうございました。
 

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医政局 地域医療計画課

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