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第6回労災保険制度の在り方に関する研究会 議事録
1.日時
令和7年5月30日(金) 16時00分~18時06分
2.場所
厚生労働省共用第8会議室(※一部オンライン)
(東京都千代田区霞ヶ関1-2-2 中央合同庁舎第5号館 19階)
(東京都千代田区霞ヶ関1-2-2 中央合同庁舎第5号館 19階)
3.出席委員
- 京都大学大学院人間・環境学研究科教授 小畑 史子
- 東京大学大学院法学政治学研究科教授 笠木 映里
- 明治大学法学部教授 小西 康之
- 同志社大学法学部教授 坂井 岳夫
- 法政大学経済学部教授 酒井 正
- 大阪大学大学院高等司法研究科准教授 地神 亮祐
- 名古屋大学大学院法学研究科教授 中野 妙子
- 亜細亜大学法学部教授 中益 陽子
- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 水島 郁子
4.議題
労災保険制度の在り方について(給付・適用・徴収等関係)
5.議事
- 発言内容
○小畑座長 「第6回労災保険制度の在り方に関する研究会」を開催いたします。委員の皆様方におかれましては、御多忙のところ、お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
本日の研究会については、笠木委員、小西委員、酒井委員、中野委員、中益委員及び水島委員がオンラインで御参加です。また、水島委員は遅れての御出席予定と伺っています。カメラ撮りについては、ここまでとさせていただきます。
それでは、本日の議題に入りたいと思います。本日の議題は、「労災保険制度の在り方について(給付・適用・徴収等の個別論点のうち議論を深めていただきたい点)」についてです。まずは、遺族補償等年金について議論していきたいと思います。事務局から資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 企画班長の狩集です。御説明します。まず、論点1を御覧ください。3ページの現行部分です。現在、労災保険の遺族補償給付に関しましては、年金と一時金の2種類があります。このうち遺族補償年金の部分ですが、夫と妻とで支給要件に差異があるところで、具体的な差異についてはこの赤字部分のとおりです。
研究会の中で構成員の皆様から頂いた御意見の要旨ですが、遺族(補償)等年金の趣旨・目的や生計維持要件の考え方といったものについて、多角的な御意見を頂いているところです。次のページです。支給対象の範囲の在り方についても、様々御意見を頂いているところですが、夫と妻の給付要件の差異自体は解消すべきというところでは、皆様の御意見は一致をしているのではないかと考えています。
その上で、更に御議論いただきたい論点です。申し上げたとおり、これまでの御議論の中、制度の趣旨、生計維持要件の考え方について様々な御意見を頂いていますが、いずれの立場にお立ちになった場合でも、支給要件について夫と妻で区別する理由は見当たらないと考えてよいのではないか。また、夫と妻とで支給要件が明確に異なるのは年齢要件のみですが、どのような年齢要件を設定するのが適当かというものです。
続きまして、論点2です。特別加算についてです。現行部分ですが、遺族補償年金の受給権者である妻が55歳以上又は一定の障害の状態にある場合に、生計を同じくするお子さんなど、他の受給資格者がいらっしゃらない場合には、給付基礎日額の22日分が特別加算されることになっています。こうした特別加算の制度が設けられている背景については、この一番下の緑色の座布団部分に記載がありますが、高齢あるいは障害のある妻という立場に着目したものと言われています。
その上で、この現行の参考部分ですが、実際には、この受給資格者がお一人の場合の属性といったものを見ていきますと、奥様が大半を占めているところです。その中でも55歳以上の方が大宗を占めているという状況です。
研究会で頂いている御意見、黄色の部分です。昭和45年の制度創設からもう半世紀たっているところですが、どの程度のニーズがカバーできているのか、また、受給権者の高齢化、給付の長期化といったものが与える影響についても考えてよいのではないかという御意見を頂いているところです。
御議論を踏まえて、新たな論点です。1つ目が、遺族が妻のみの場合、妻以外の遺族が1人だった場合と異なり特別加算を行うということについて、この制度創設時の考え方は現在でも妥当と言えるのかというものです。もう1つは、遺族がお一人の場合、実態として9割以上が女性、かつ、そのほとんどが55歳以上であり、特別加算がされないケース、夫や子供という場合がむしろ少ないという状況です。こうした方々から見て、あえて給付水準を低く設定する、そういった合理的根拠はあるのかというものです。遺族補償年金に関する説明は以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、資料の4ページ目、5ページ目にある論点について、意見をお伺いできればと存じます。御発言の際には、会場の委員におかれましては挙手を、オンラインから御参加の委員におかれましては、チャットのメッセージから発言希望と入力していただくか、挙手ボタンで御連絡いただきますようにお願いいたします。御意見いかがでしょうか。では、坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 坂井です。発言させていただきます。まず、論点1からですが、私は、夫、妻について年齢要件を廃止するという方向で対応すべきではないかと考えています。この場合には、配偶者とそれ以外の遺族とが、年齢要件のありなしということで、別の取扱いを受けるということになるわけですが、次の理由から説明が可能ではないかと考えています。すなわち、遺族の中でも被災労働者から見た配偶者と未成熟の子は、法律上の扶養義務との関係でも社会一般の認識に照らしても、被災労働者との経済的結び付きが取り分け強度です。そうすると、これらの者が持つ被扶養利益というものは、他の遺族のそれと比べて、補償の必要が高いと言えるのではないかと考えています。このような認識を前提として、また、労災保険の趣旨が労働災害による損害の填補であるということも考慮すると、配偶者の死亡による被扶養利益の喪失については、生存する配偶者が高齢であるという現在の一般的な要件設定に該当する場合に限らず、広く補償の対象にすべきではないかと考えています。
続いて、論点2については、先ほど説明していただいた制度創設当時の考え方の中でも、「その妻という特別の身分に着目し」という、このより具体的な意義をどう考えるかというところが大事になってくるかと思います。これはあくまで私が考えてみた推測にすぎない話ですが、かつての社会状況においては、夫婦間での稼得活動と家事労働の分担をどうするかという問題については、当事者の主体的な選択というよりも性別役割分業の観念に従って割り振りがなされていた、要するに、夫のほうが稼得活動に従事して、妻のほうが家事労働を担当するという側面が大きかったのではないかと思います。このような前提の下では、婚姻により稼得活動に従事する機会を失った、家事労働のほうをやるということになった妻が、その稼得活動を分担していた夫を亡くしてしまったという場合に、その被扶養利益というのは、やはり他の遺族と比較して補償の必要が高いと言えるのではないか。そういった考え方の下に、妻という特別の身分だという見方をして優遇された給付を行うことに、相応の理由があったのではないかと思います。
これに対して、現在は、性別役割分業の観念がなくなったとは言えないと思いますが、夫婦間での稼得活動と家事労働の分担というのは、基本的には当事者が選択をした結果だということは言えるのだろうと思います。そうすると、現在の妻のみを対象とする加算には合理的な理由がないということになるのではないかと思います。
他方で、以上とは別の観点、すなわち、先ほども触れました扶養義務の内容や被扶養利益に対する補償の必要性の度合いといったことに着目すると、特に被災労働者から見た配偶者と未成熟の子について、補償を充実させるべきという主張はあり得るのではないかと感じています。このような理解からは、その配偶者と未成熟の子について特別加算を適用して、配偶者または子のみが受給資格者の場合に、受給資格者の中でもこれらの人たちに手厚い補償をするという議論の余地はあるのではないかと考えています。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、続きまして、中野委員、お願いいたします。
○中野委員 論点1についてですが、私も、これまでの研究会で発言してきましたとおり、支給要件について夫と妻で区別をする理由が今日では失われており、男女差は解消するべきだと考えています。どのような形で差を解消するかについては様々な選択肢があり得ますが、例えばパートタイムとして働く妻を亡くした夫にも、被扶養利益の喪失が認められることを踏まえれば、男女ともに年齢要件を課さない方向での改正が望ましいと思われます。
具体的な改革の方向性としては、これも以前に述べましたように、遺族補償年金の役割を、労働者の死亡後の急激な生活水準の低下を勘案し、遺族が自身の就労によって自立するまでの生活を支えるものと考えて、遺族厚生年金のように原則として有期給付化するということも1つの選択肢ではないかと考えています。ただし、配偶者について有期給付化すると、それ以外の遺族、すなわち60歳以上の父母や祖父母、兄弟、姉妹は、終身遺族補償年金を受けることができることとのバランスが問題になります。先ほど坂井委員も述べられましたように、扶養義務の程度がより強い配偶者が、扶養義務の程度がより弱いほかの遺族よりも不利益な給付を受けることは、正当化できないだろうと思います。ですから、有期給付化は遺族補償年金の制度全体に影響が及び、配偶者についてのみの見直しでは収まらず、より広い議論が必要になるということは自覚しています。
加えて、これは以前、中益委員から指摘されていますように、有期給付化をすることによって保険給付が縮小すると、遺族が民事上の損害賠償請求による損失の填補を余儀なくされることになるという問題への配慮も必要だと思います。ただ、労災保険法は1条で労働者の業務災害等に対する迅速かつ公正な保護を目的としており、障害補償給付の障害等級の在り方などにも表れているように、もとより損害の完全な填補を目的としているわけではありません。ですから、何が公正な保護なのかということを考えるべきなのだろうと思います。
続けて、論点2についても発言をさせていただきます。論点1に関する議論の流れを踏まえれば、妻という身分を特別視して加算を行うことを今日では正当化できず、少なくとも夫と妻については平等の取扱いをすべきであると考えます。そのほかの遺族、例えば子供などについても、障害の状態にある場合には、就労が困難であるという事情は共通するので、特別加算から排除する理由は弱いのではないかと思われます。ただ、一方で、受給権を有する遺族が2人以上の場合、その中に障害を有する者がいたとしても加算はなされません。かつ、その場合、遺族補償年金の支給額は増加しますが、頭割りした1人当たりの受給額は、遺族が1人の場合よりもむしろ下がることになります。遺族が1人の場合だけをなぜ特別視するのか、特別加算を含めた年金額が、遺族が2人以上の場合と比べて大きすぎるのではないかという疑問が生じます。突き詰めますと、遺族自身の障害による就労機会の制約、それに伴う所得保障の必要性は、労災保険ではなく障害年金制度によって対応すべきニーズであり、特別加算という制度の意味自体を改めて考える必要があるようにも思われます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。続きまして、笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 論点1から意見を述べさせていただきます。これまでもほかの委員から発言がありましたので簡略にしますが、私も、以前から発言していますように、遺族補償年金等について男女で支給要件を区々にする今の制度というものについては、両者を統一する形で変更すべきと考えています。この点については、この制度の趣旨についてどう考えるかという問題にかかる意見の相違を超えて、各委員の意見が合致しているところではないかと理解しております。
男女差を解消するに当たって、いかなる給付要件を設定することが適切かについては、これもこれまでほかの委員から出ていますように、遺族補償年金の趣旨・目的を考慮して検討する必要があるわけで、ここについては委員の間で見解の相違があったかと思います。私としては、遺族補償年金は、被扶養利益の喪失の補填というものと、これと区別される社会保障としての遺族の生活保障という2つの側面を有するもので、このうち前者、つまり被扶養利益の喪失については、少なくともこれまでの運用から考えますと、現実に遺族が被保険者に扶養されていた利益というよりは、民法上の扶養義務を背景とした理論的、抽象的な扶養の利益を念頭に置いて考えるべきではないかと考えています。以上からしますと、遺族補償年金について、直ちに社会保障制度であるところの遺族厚生年金と同様に考えて、例えば有期化するといったことについては、ちゅうちょせざるを得ないところです。
他方で、中野委員から御発言がありましたように、被扶養利益の喪失を填補するものとして、いかなる給付が適切であるかという問題は、容易に答えの出るものではありません。また、生活保障としての側面から、いかなる給付が必要かという観点からも、今日において若年配偶者を含めて終身の年金を支給し続けることの必要性や適否について、議論があり得るということも理解できるところです。この点については、年金の水準や給付期間という観点から、損害填補の趣旨と生活保障の趣旨の双方に目配りをしつつ、引き続き検討することが必要と考えています。
論点2について、特別加算については、既に本日の資料にも少し出ているのですが、より詳しくは第2回資料の資料2にあります特別加算の創設当時の議論を参照しますと、もともと若年の一人遺族の場合、当時は女性ということに、当時というか今も女性なのですが、一人遺族の場合には就労などによって所得を得ることが期待される一方で、子などを扶養する妻については特別な困難が認められることから、二人遺族について相対的に手厚い補償をしており、これによって、本体の給付水準が一人遺族については二人遺族についての補償と比較すると相対的に低くなっているという前提の下で、あくまで一定年齢を超えた、あるいは一定の障害状態にある女性について特別な加算を行うというロジックだったように見えます。こうしたロジック、あくまで単身遺族の間で比較した場合に、年齢及び障害の有無によって就職の難しさが異なるというロジック、このロジックについては、もし男性についても若年の遺族年金支給を認めるのであれば、女性と異ならず男性についても当てはまるように思われます。一人遺族について、配偶者間で区別をせず、同じ条件で性別を問わず加算するという可能性も考えられるかと思います。
他方で、これまで寡婦について55歳ないし一定の障害状態が特別加算の条件となっていますが、今日において55歳という年齢が一定の障害に比肩するような特別な就労を妨げるハードルになるかというような問題もありそうです。また、一人遺族と二人遺族、それぞれの就労の難しさについて、立法から非常に長期間がたった今日において、どのように評価するのが適切かについては、改めて検討の余地がありそうにも思われます。そのため、特別加算の前提となる、そもそもの本体の給付水準についての検討や、今日の文脈でどういった状況にある遺族に特別な就労困難性が認められるのかという論点、障害があるケースや子供が遺族となっているケースについてはほかの委員から御発言がありましたように、そもそも特別な加算が必要な人というのは今日の文脈で誰なのかといったところも、併せて議論が必要な論点ではないかと考えています。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、中益委員、お願いいたします。
○中益委員 発言させていただきます。まず論点1ですが、私は今までの各委員の発言と結論としては同じなのですが、立場としては、遺族補償年金の趣旨は被扶養利益の喪失補填では一元的に説明しにくいのではないかという立場から、特に配偶者との関係では年齢要件は不要ではないかと考えています。
以下、理由を述べさせていただきます。第1に、被扶養利益の喪失補填を遺族補償給付の趣旨とみることは、労働基準法及び労働者災害補償保険法の労働者性、および、労働基準法において遺族補償が全ての労働者にとっての最低労働条件となっていることと余り整合的ではないと考えます。そう言いますのも、「被扶養」という言葉の素直な意味としては「扶養される」ですから、対象となる遺族の労働者に対する経済的に従たる性質を前提とすると考えます。しかしながら、労働基準法及び労働者災害補償保険法の労働者には低賃金の者が当然に含まれますので、労働者と遺族との関係性には、扶養される利益という内実を持たないものが含まれるのは当然です。したがいまして、被扶養利益の保護と言うにふさわしい制度設計とすればするほど、低賃金の労働者が最低労働条件であるはずの遺族補償から事実上漏れるおそれが出てくるのではないかと考えています。実際、労働者災害補償保険法の生計維持要件に関しては、極めて広義な解釈が採用されているところですが、これは低賃金労働者が事実上遺族補償から排除されるような不都合な事態を避けるために、そのような解釈が採られたと推測されるところです。
第2に、災害補償制度は、いずれの国においても損害賠償制度と密接な関連性を有し、日本もその例外ではありません。そして、日本では、生命侵害に対する損害賠償については、扶養侵害利益構成ではなく、いわゆる相続構成が採られているところです。つまり、それを補完する遺族補償や遺族補償給付は、扶養利益の代替物というよりは、労働者が得るはずだった得べかりし賃金の代替物と考えるほうが整合的であるように思います。したがって、仮に遺族補償や遺族補償給付を被扶養利益の喪失補填として制度設計すれば、生命侵害の場合の損害賠償制度と乖離が生じ、損害賠償の補完として機能しなくなるおそれも出ないとは言えないように思います。
第3に、遺族補償や遺族補償費が得べかりし賃金の代替物であるということに加えて、賃金が生活の糧だとするならば、それを第一に取得させるべきは、法規範的には、労働者に扶養されているか否かにかかわらず、配偶者や未成熟子になるはずです。そう言いますのも、坂井委員からの御指摘にもあったように、労働者と配偶者とは、配偶者の要扶養性にかかわらず、いわゆる生活保持義務関係にありますから、仮に配偶者以外に被扶養親族がいるとしても、労働者はまずは配偶者との共同生活を成り立たせて、その上で余力がある場合に、生活扶助義務に基づき、その他の要扶養状態にある親族を扶養する義務が生じるにすぎません。労働基準法の遺族補償が、配偶者に関して、その地位以外に何ら要件を設けていないのは、こうした民法秩序を反映したものと考えられます。一方、労働者災害補償保険法の遺族補償給付ですが、こちらは、労働者が生存していたならば賃金は配偶者との共同生活のために優先的に費消されたと考えられるにもかかわらず、なぜ業務災害で死亡すれば、配偶者に優先して他の親族が優先的にこの賃金の代替物である遺族補償給付を支給することになるのかが、説得的に説明される必要があるのではないかと考えます。
長くなりまして恐縮ですが、仮にこのように考えられるならば、遺族補償給付は得べかりし賃金の代替物と考えるほうが素直であって、損害賠償においては、そのような得べかりし賃金は労働者の就労可能年数に基づいて算定されるというところがヒントになろうかと思います。よって、それを補完する労災保険法の遺族補償給付も、生活保持義務関係にある配偶者には賃金によって支えられていた共同生活が続いたであろう、労働者の就労可能年数相当は支給されるべきであるため、長期給付となってしかるべきところです。なお、労災保険法の遺族補償給付が60歳を就労困難性の基準と見ているようであるところは気にはなりますが、他方で、労働基準法には高齢者が就労できないという前提はなく、定年制に関する規定もないと見えますので、労働者が終身就労したと考えてもさほどおかしくはないと思います。いずれにせよ、少なくとも平均的には労働者と同世代であろう配偶者にとって、賃金によって支えられていた共同生活が続いたであろう期間とは、配偶者の平均余命と大差ないと考えられることから、終身の年金としても説明はつくのではないかと考えています。
続きまして、長くなりまして恐縮ですが、論点2についても述べさせていただきます。初めに、論点とは直接的な関係がないかもしれませんが、特別加算創設当時の考え方によれば、若年の妻は就労が可能であるとされていますので、そうすると、妻が要扶養状態であるとか、被扶養者であるという前提は、夫との処遇差との関係でどの程度説得的であったか、創設当時から疑問が持たれてしかるべきではなかったとの印象を持ちます。いずれにせよ、遺族補償給付が被扶養利益の喪失補填ではなく、得べかりし賃金の代替物であるとすれば、これは就労可能年数が前提となりますから、就労不能によって額が増えるというのは余り説明しにくい仕組みと思います。
ただ、他方で、日本では生命侵害の場合の補償は高くあるべきだとの発想で、損害賠償制度においては相続構成が採られたこと、また、相続構成がとられるということは、遺族補償給付は間接的には相続秩序をも補完しているわけですが、相続における配偶者の相続割合に鑑みても、現行の特別加算後の水準はその範囲内に収まっているようであること、さらに、労働基準法や労働者災害補償保険法の成立時には、遺族補償及び旧遺族補償費の水準は重度障害とのバランスにも鑑み設定されていたところですが、今日においては障害補償給付の水準はかなり上がっていることが想起されるところです。こうしたことを併せ考えると、少なくとも配偶者に関しては、あえてこの水準を下げる必要もないのではないかと考えています。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。オンラインのほうもよろしいでしょうか。ありがとうございます。委員の皆様の御発言、大きく言いますと、まず①の論点については、男女差を解消する、そして、年齢要件廃止ということが皆様のお考えというようにまとめてよいかと存じます。また、2番については、特別加算の対象というのは誰かという議論をする必要があるのではないか、現状はやはり改善されるべきなのではないかというお考えが主流であったかと思います。こちらの点について、更に何か御発言のある方はいらっしゃいますか。よろしいでしょうか。ありがとうございました。
それでは、続きまして、次の論点に移ります。労災保険給付、災害補償請求権の消滅時効について、議論していきたいと存じます。事務局から資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 資料の7ページを御覧ください。論点3です。現行部分ですけれども、労基法における災害補償請求権、それから労災保険給付について、このうち短期給付については、それぞれ2年間で消滅時効が到来するものです。
研究会で頂いている御意見の要旨ですけれども、事故性の災害、これは工事現場から墜落したといった見て分かるような災害ですけれども、そういった災害については、発生したことが明らかであり、延ばす理由というのはさほどないのではないか。また、一律にこういった消滅時効期間を延長するのではなく、手続自体が精神的負荷になるという事例について特例を設けるといったことも考えられるのではないか。また、他の措置でも対応が可能に思われ、具体的なケースに即した広報や周知などが大事ではないか、こういった運用改善に重きを置くといった御意見も頂いております。
参考部分ですけれども、1つ目が、令和元年12月末の労働政策審議会での建議です。こちらでは、当時、労基法の改正に当たりまして、災害補償請求権の消滅時効について、2年間に据え置いているところですけれども、そこでの考え方、据え置いた理由といったものについて触れています。その下の参考ですけれども、こちらは令和2年改正法における附帯決議です。
8ページです。こちらは、引き続き参考ですけれども、労災保険法の逐条解説の中にあります消滅時効の規定に関する解説部分です。この中を御覧いただきますと、前ページに記載しております労政審の建議の内容などと共通する項目もありますけれども、労災保険における消滅時効の性質、考え方といったものについて記載しているものです。
御議論を踏まえた新たな論点です。1つ目は、時間の経過による証拠の散逸のおそれや被災者の早期の社会復帰等の要請について、時効の規定のみに「背負わせる」必要はないのではないかというものです。2つ目は、一定の疾病等については、これは脳疾患、心臓疾患あるいは精神障害などを念頭に置いておりますが、必ずしも労災事故として「当然に認知」できるものではないのではないか、また、労災給付を請求する権利行使が常に「容易」な状況にあると言えるのかというものです。3つ目は、請求手続そのものが負荷になる、心理的な重荷になるといったケース等について、仮に何らかの手当てを行うとすれば、具体的にどのような方法が考えられるのかというものです。4つ目は、同様の消滅時効期間を定めている他の保険制度、雇用保険や健康保険等との関係をどのように考えるのか、仮に労災保険・災害補償に特有の理由があるということであれば、異なる取扱いをしてはならないのか。こういった論点を設定しております。以上になります。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、資料の8ページにある論点につきまして御意見をお伺いできればと存じます。よろしくお願いいたします。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 特に出していただいた新たな論点の2つ目と4つ目の○に関連して発言させていただきます。まず、労災保険は業務上という要件により保険事故の発生自体に争いが生じやすいと、この点は明らかでありますけれども、この点を意識すると、特に早期に法律関係を確定する要請というのはあると思われます。他方で、資料でもお示しいただいたように、労働者にとって自らの疾病などが業務上であることの認識は難しい場合がある、これは確かであろうと思います。ほかの労働保険、社会保険制度との関係という点で言うと、例えば健康保険だと、熱が出たりすれば保険事故が発生したということが分かるわけですけれども、労災の場合、そのように熱が出たということが、果たしてこれは業務に関連して熱が出たのだろうかといったことなどについて、当然に認知はできない場合もある。これは恐らく確かであろうと思います。このように、早期に法律関係を確定するという要請と、当然に認知できないという点の注意、この2点の調整が図られなければいけない。この点がほかの労働保険や社会保険との違いと思われるところでありまして、一番下の○で考えますと、異なる取扱いということも許容されると考えます。
この点について、以前、私が本研究会で、諸外国ではそれほど長くはないとか、アメリカの例を挙げたことがありますが、その点、アメリカについてもう少し確認をしてみたところ、やはり1~2年程度というかなり短めの時効期間、正確に言うと、労災補償を請求することができなくなるという期間が設定されていることが分かりました。一方で、各種法を眺めていますと、その起算点という点についてだと思いますけれども、法律上、明文で、被災労働者というか労働者が、傷病が業務に関連することを知り又は知るべきであった時点というのを起算点とするというような規定というのも、比較的多いとされておりました。例えばニューヨーク州などで言いますと、いわゆる事故性の災害に関しては、正に2年というのは厳格に捉えられるということですが、明文上、職業病と呼ばれる業務上の疾病に関しては、このように知り又は知るべきであった時点から2年というように、取扱いを異にしているということも分かりました。
これをヒントに、一般的に時効自体を延長するのではなく、起算点の問題を新たに考えるというのが、先ほど述べた早期に法律関係を確定するという要請、それから、ただし、労働者として業務起因性を当然すぐには認知できないという点との調整の1つの在り方ではないかと考えます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。次に中野委員、お願いいたします。
○中野委員 まず、以前の研究会において、私は、健康保険と比べた場合に労災保険では請求手続が必要であることを考慮する余地はあるのではないかと発言したのですが、療養の給付のみを念頭に置いており、視野が狭い発言であったと、率直に反省しているところです。
例えば健康保険でも、傷病手当金は受給者からの請求が必要ですし、ほかにも雇用保険の求職者手当など、受給者側からの請求が必要な給付はほかの制度にも多く存在しており、それらの給付についても消滅時効は2年間で統一されています。ですので、労働者側の請求が必要であるということだけをもって、労災保険についてのみ短期給付の消滅時効を延ばす理由とはならないと考え直しました。
消滅時効が論点に挙がっている背景には、特に精神疾患やアスベスト関連の遅発性疾病など、労働者が業務上の疾病であると認識できないままに時効になってしまうことがあり、そのまま消滅時効を適用すると酷であるといった指摘があること、また、以前の研究会では、手続に伴う精神的負荷を考慮して特例を設けてはどうかという御提案もあったので、この点について私なりに少し勉強してみました。
確かに、かつての裁判例には、労働者や遺族が、疾病が業務上のものであると認識せず労災保険給付を請求しないまま時間が過ぎてしまった場合について、労働者が傷病の業務起因性を認識したときを消滅時効の起算点とすることで救済を図るものもありました。しかし、平成29年の民法改正によって、民法166条の債権の消滅時効の起算点が、権利を行使することができることを知ったときという主観的起算点と、権利を行使することができるときという客観的起算点に二元化され、これに合わせて労災保険法42条でも、これらを行使することができるときを消滅時効の起算点とする、すなわち、客観的起算点によることが明示されています。
このような法改正の経緯に照らすと、労働者の主観的事情をもって消滅時効の起算点を変えたり、あるいは消滅時効を延ばしたりするような特例を設けるというのは適切ではないように思われます。しかし、一方で、平成29年の民法改正では、診療報酬請求権などの短期消滅時効が削除されたこと、これに合わせて労働基準法上の賃金の消滅時効も5年に改められたこと、また、資料の論点にも挙げられているように、保険給付を受ける権利の行使が常に容易であるとは言えないですし、業務上の傷病であることの認知も当然にできるとは言えないこと、賃金と同じ消滅時効とすることで、使用者の労務管理に特段追加での負担を与えるとは考えられないことを考慮しますと、将来的には、現在2年間の短期消滅時効に掛からされている療養補償給付などについても、5年の消滅時効にそろえることが望ましいように思われます。早期に権利を確定させて労働者の救済を図るということは確かに重要ですが、そのために消滅時効を短く設定することで、かえって救済を受けられない労働者や遺族が生じるというのも、制度の趣旨・目的に反するだろうと思います。
もっとも、ほかの社会保険や労働保険の短期給付との比較という観点からすると、先ほど地神委員からは理由が見いだせるのではないかという御発言もありましたが、私は労災保険においてのみ消滅時効を延ばす理由というものを見いだし難いのではないかと思います。したがいまして、この研究会の所掌範囲を超えることだろうと思いますし、時間も掛かるだろうと思いますが、労災保険だけではなく、健康保険、雇用保険など、ほかの社会保険と併せて制度横断的な調整、検討をしていくことはできないかと考えます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。次に笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 中野委員の御発言に重なる部分もありますが、なるべく手短に申し上げます。私も、時効については、本来受給資格のある方が確実に受給すべきで、権利を失うべきではないと考えられる一方で、原則としては、労働者本人にとっても、できる限り早期に申請をすることが、証拠等の収集が容易で、権利の実現に資することであると思われます。また、時効によって申請ができなくなった事例の中には、制度の不知や手続忘れというものもありますので、様々な周知の努力が引き続き必要であることも、一方で事実であろうと考えます。
他方で、労災の場合には、既に議論になっておりますように、業務起因性を中心に、そもそも自分の疾病が労災なのか、受給要件を満たしているのか否かについて、労働者が容易に判断できない、あるいは誤解するようなケースも多々あると考えております。また、これとは少し性質の違う問題と理解しておりますが、メンタルヘルスのようなケースで、申請のために資料を集めることそのものが、疾病の治癒にネガティブな影響を及ぼすケースもあろうかと思われます。こうした、典型的に時効との関係で問題のありうる場面について時効ルールの例外を認めるべきなのか、あるいは、こうした例もあることを考慮して、賃金請求権にそろえる形で、全体として消滅時効の期間を3年ないし5年に延ばすべきかが論点となるのではないかと考えております。
ただ、特別な場面での例外を認めるという取扱いですと、その場合にどういった基準で例外を認めるかの基準設定を明確にしない場合には、当事者の権利関係が不安定になるおそれがあるように思います。そうした観点からは、労災保険における時効を全体として当面の間は3年に延長した上で、その影響をにらみつつも、今後の労基法の動向なども見守ってその後の方向性を考えていくというような方向性がよいのではないかと現時点では考えております。他方で、先ほど挙げたような困難なケースについて、2年を3年に延ばすことで本当に解決できるのかという問題もあると思いますので、併せて、時効との関係で例外を認めるべきケースというものがカテゴリカルに定義できるのかについて、引き続き検討する必要があると思います。
こうした時効の延長を他の労働保険や社会保険との関係で正当化できるかという論点につきましては、先ほど申し上げたように、労災については受給要件を満たしているかについての判断が微妙なケースが特に多いということは言えると思いますが、例えば障害年金などでも障害等級の点でどう評価されるかが精神障害や内部障害について難しいという問題もあります。ただ、労災について相対的に判断の難しいケースが特に多いという面は認められるのではないかと考えております。それから、病気の原因となった業務について資料を集め、場合によっては職場と密接にコンタクトを取りつつ労災申請をする必要性があるという点も、これも労災に厳密には限られないかもしれませんが、特徴的な面と思います。
いずれにしましても、まとめますと、厳密に言えば、社会保険や労働保険一般の中で、労災に限られた特徴というわけではないのですけれども、相対的な意味では労災保険に一定の特殊性があると考えてもよいのではないかと考えております。すみません、少し話がごちゃごちゃしましたが、私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。次に中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益でございます。時効に関しましては、疾病によってはすぐにアクションを取りにくいものもあることから、現行よりも消滅時効を延ばすことについては共感できる点もございます。ただ、他方で、労働災害については、他の社会保険や民法などよりも、早期の法的安定性を要するのではないかとの仕組みも散見されるところで、その分、短期の消滅時効にも説得力があるように思います。
例えば、労働基準法19条の業務災害における解雇制限とか、あるいは労働基準法83条や労働者災害補償保険法12条の5にある、退職後の補償や保険給付に影響がないとする仕組みなどです。つまり、解雇制限については、これは現在もあり得る問題と思いますが、業務災害と考えられていなかった労働者を解雇して、その後、業務災害と認定された場合には、やはり混乱を来すのではないかと考えられますし、また、退職後にも補償や給付を認めるという仕組みは、退職後に各種の証拠が恐らく散逸しやすいであろうことを考えると、余り長期の時効期間は予定していないのではないかという気もするところです。そのため、仮に消滅時効を延ばすということになったときには、こうしたような規定との調整も必要ではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかにいかがですか。坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 発言させていただきます。この点に関する基本的な問題意識としては、先ほど地神委員が御発言された内容と、相当程度、私も重なっております。すなわち、この消滅時効の問題で注目すべき1つの重要なポイントとして、業務起因性の概念というものがあって、業務起因性の概念は、一方では、権利関係の早期確定という要請をもたらして、時効期間の短縮を求めて、他方では、被災労働者への配慮という要請をもたらして、受給期間の延長を求めるのではないか。それは全く同じような認識でおりました。
その上で、私の考えを述べさせていただきたいと思います。特にここで強調すべきところとしては、業務起因性というのは、人身損害の賠償に当たって要求される因果関係の災害補償の側面、労災補償の側面での1つの表れなのだろうと思いますけれども、人身損害一般の因果関係と比べましても、やはり難しい概念だというところはあるかと思います。すなわち、それ自体として高度に抽象的な「業務」という概念を起点としまして、これと傷病等との関連を問題とするというものでして、もちろん相当数の事例では業務起因性の存在は自明であるという一方で、一定の事例においてはその存否に関する判断が困難を極めると。この点に対して、どうやって時効の話とつなげていくのかというところが非常に難しいなと思って考えていたところであります。
その上での私の意見としましては、まず労基法上の災害補償の請求権の2年の時効期間につきましては、やはり証拠の散逸による不都合に配慮すべきであるという要請が相当程度強いのではないか、その2年の短期消滅時効にも相応の理由があるのではないかと考えております。すなわち、業務起因性の判断に当たっては、労働者の業務遂行であるとか、使用者の労務管理に関する証拠というのが重要になってくるわけですが、もちろんそれらの証拠の散逸というのは業務起因性の判断の障害となります。
ここで業務起因性の立証責任ですけれども、疾病に関しては、一定の職業病に関しては、例示疾病の仕組みによる配慮というものがなされております。これに対して、それ以外の原則的な取扱いとしましては、立証責任を厳格に被災労働者やその遺族に課すのだというような前提で話を展開する場合には、証拠の散逸というのは労働者側の不利益として表れるのだろうと思います。他方で、労働者側の立証の困難があるというところに配慮して、業務起因性の判断に当たって、事実上、労働者側の立証の負担を軽減するというような判断がなされる場合には、今度は、証拠の散逸というのは、その補償責任の成立を否定しようとする使用者側の不利益としても表れることになります。
このような観点からは、例えば各種の書面とかデータといった保存が簡単な証拠だけで恐らく業務起因性の判断というのは難しくて、それにとどまらない様々な事実による立証が求められる災害補償の請求権に関しては、労基法上、2年の時効期間を設けているところには、相応の理由があるのではないかと考えております。
他方で、労災保険の取扱いということに目を転じてみますと、労災保険におきましては、使用者の責任というのが財源としての保険料負担というような形で表れておりまして、業務起因性の肯定が直ちに使用者単独の災害補償責任を基礎付けるというようなことになってはおりません。もちろん、この研究会でも議論されておりますメリット制との関係で、使用者に業務起因性が肯定されると、使用者に一定の負担が生じるということはあるわけですけれども、一般的には保険料負担に置き換えられているという点で、労基法上の議論と比べますと、その証拠の散逸に関して、使用者の不利益に十分な配慮をすべきだという要請は後退するのではないかと思います。
他方で、先ほど来、様々な委員から御指摘がありますとおり、社会保険の中の給付として考えた場合には、業務起因性の有無に関する認識とか、立証に関する被災労働者や遺族の負担に配慮して、社会保険制度の側の労災保険では、時効期間の延長というのも検討に値する選択肢ではないかと考えております。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかはいかがですか。よろしいでしょうか。
大変たくさんの御意見が出ました。やはり証拠の散逸の問題は、早ければ早いほど証拠や証人が大変集まりやすいという面があるのではないかと、そういった点では、短期であることにも説得力があるという御発言が出た一方で、やはり手続的な問題若しくは精神疾患などに関して業務起因性があるという自覚が持てるのかどうか、そういった観点からすると、2年というのは余りにも短いのではないかということで、より長くする、例えば当面3年とする、若しくは将来的に5年とするといったような選択肢をお示しくださった御意見もございました。また、社会保険にはほかにもいろいろな保険がありますけれども、そういったものと総合的な検討をすべきではないかという御意見が出た一方で、労災保険については、特殊性若しくはほかとは違った性質があるので、別と扱うこともあり得るのではないか、そういった御意見が出たということです。また、起算点の捉え方を変えるという御発言がある一方で、いや、変えることはしないほうがよいのではないかという御発言もあったと。大変様々な御意見が出たところかと思います。
更に何か御発言がございましたらお願いしたいと存じますが、いかがですか。よろしゅうございますか。非常にたくさんの御意見が出まして、まとめることが難しいところではございます。こちらについて、事務局におかれまして、いろいろと整理していただいて、またお示しいただければと思います。よろしいでしょうか。ありがとうございました。
続きまして、次の論点に移ります。遅発性疾病等に係る給付基礎日額の算定方法について、議論をしてまいりたいと存じます。事務局から資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 御説明します。論点4です。10ページを御覧ください。現行部分です。労災保険給付の単価になってくる給付基礎日額については、基本的に労基法の平均賃金を用いるところですが、遅発性疾病に関しては、この現行部分の赤字にあるような取扱いが別途通知に基づきなされているところです。
こうした取扱いの中で問題となるケースが何かといったところが、この図の中にあるとおりです。例えば、20代の頃に粉じんばく露業務のような有害作業に複数の事業場を渡り歩いて従事されていた方、この中ではA、B、Cという事業場を渡り歩かれた上で、C事業場で離職をされているわけです。このとき、離職時の給付基礎日額は8,000円となっております。この方が、その後、他の事務作業等に転職をされて、その後、賃金水準等がだんだん上がっていく。この中で、50代の半ば頃に発症した。これがケース①です。この発症時の給付基礎日額は、賃金が上がっているということで12,000円となっておりますが、現在の取扱いに照らせば、このC事業場をお辞めになったときの8,000円という給付基礎日額で算定されることになってまいります。
また、もう1つのケースとして、これは更に時間がたってから発症したケース、この図の中では、70代で発症したというケース②です。このとき、この方は既に完全にリタイアをされておられて、お仕事をしていない、賃金がないという状態ですが、こういった場合についても、離職時の給付基礎日額8,000円というもので算定がなされることになってまいります。
こうした事例を踏まえつつ、研究会における御意見の要旨です。ケース①のような場合、この方が実際にもらわれていた賃金の点から稼得能力をどう考えるのかといった御意見、あるいは、労基法の災害補償責任を担保するという要請について忠実に考えるとどうなるのかといった御意見について、多角的に御議論いただいたと承知しております。
11ページです。その上で、更に御議論いただきたい論点です。ケース①ですが、労災保険法8条1項に規定しております「疾病の発生が確定した日」を算定の原則とすることについてどう考えるのかと提起させていただいております。ただ、この図の中ですと、C事業場をお辞めになってから発症まで賃金が上がっているという前提になっておりますが、逆に下がっていっていることもあるわけです。こういった場合、仮にケース①で発症時の賃金がC事業場離職時よりも低いということであれば、現在の取扱いと同じく、C事業場を離職した日を基礎とするということについてもどう考えるかということで提起させていただいております。
ケース②です。このとき、被災者に生じた稼得能力の喪失についてどう考えていくのかという問題がありますが、この点については中長期的な議論が必要であろうかと考えております。当面は現状どおり、発症した日において就業していない場合であっても、この最終ばく露事業場を離職した日を基準日として算定するということについてどう考えるかと提起させていただいております。
こうした2つの考え方ですが、労災保険法には、労働者の稼得能力の喪失あるいは損害の穴埋めをするといった目的がございますが、一方で、実質的に労基法の災害補償責任を担保するという役割もございます。本来、この2つの要請は一致するところですが、こういった必ずしも一致しないという場面において、それを調和するとこういった考え方が導き出されるのではないかというものです。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、資料の11ページにある論点に沿いまして、御意見をお伺いできればと存じます。委員の皆様、いかがでしょうか。坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 では、発言させてもらいます。まずケース①の場合についてですが、原則的な考え方、「傷病の発生が確定した日」として、この例で言うD事業場における発症時の賃金を基準とすることは合理的な解釈ではないかと、私も考えております。他方で、ケース①の場合の後段といいますか、例外的な「ただし」以降の部分です。最終ばく露事業場であるC事業場における離職時の賃金を、いわゆる最低基準として取り扱うということについては、いろいろ考えを巡らせてみて、結論としては、これは必要ないのではないかという考えに至りました。この点については、まず労基法上の個別使用者の災害補償責任についてどう考えるか、続いて、それを受けて労災保険についてどう考えるかという形で、考えを整理させていただきたいと思います。
まず労基法による補償額を算定するための平均賃金に関しましては、今回で言ったらC事業場の事業主の立場、使用者の立場に立って、在職中の業務に起因する疾病が離職後に発症したという場合に、その使用者のあずかり知らない、離職後の賃金水準によって補償額を算定することは妥当ではなく、当該使用者の事業場を離職した時点の賃金によって補償額を算定することが妥当ではないかと考えております。
その上で、労基法上の補償責任に関する以上の議論、考え方というのが労災保険にどう影響するかということは、また難しい問題だと感じております。すなわち、労災保険が個別使用者の補償責任に関する責任保険の機能を持つというところを重視しますと、労基法で最終ばく露事業場の、この例で言うとC事業場の賃金水準を補償するという考えを採る以上、労災保険においても、労基法が想定する補償額に相当する損害、C事業場、最終ばく露事業場の離職時の賃金水準というのは填補されるべきである、最低基準として取り扱うべきであるというような考え方が、一方であり得るところだろうと思います。他方で、労基法では離職時の賃金により平均賃金を算定するのだという先ほどの考え方を前提としても、それは労基法に基づく使用者の災害補償責任の定型化という観点から、離職後の賃金の上昇というところまで責任を負わせるのは妥当でない、使用者の責任を限定するための取扱いなのだということを強調しますと、労災保険においてこの補償額を最低基準にする必然性はないとも言えそうです。
私自身は、後者の理解が妥当ではないかと考えています。したがって、最終ばく露事業場の賃金による補償額、補償水準を実質的な最低基準と位置付けるという取扱いの必要はないのではないかと考える次第です。
続きまして、ケース②の場合につきましては、ここで整理していただいた考え方が妥当ではないかと考えております。もちろん、ケース②の取扱い自体は、過剰な補償ではないかという評価は十分あり得るところだろうと思いますが、このような取扱いというのは、一般に稼得能力を喪失すると想定される老齢期についても給付を行うのだという、労災保険の基本構造の帰結であります。そうすると、遅発性疾病に限って特別の対応を取るということではなく、今後の課題として、このような基本構造の当否を議論していくことが妥当なのではないかと考えております。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。続きまして、笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 この点は大変難しい問題だと思うのですが、労災保険法の8条1項は、疾病の発症が確定した時点というものを基準時にしておりますけれども、ここでは、基本的には危険因子へのばく露と疾病発症の確定がそれほど乖離しないことを念頭に置いた条文になっているのではないかと思われます。そのため、危険因子へのばく露から発症までの期間が長期に及ぶ遅発性の疾病の場合には、もともと労災保険法が想定していなかったような補償水準の拡大となる可能性もありますけれども、ただ、労働者の生活保障の役割という観点から、補償水準を拡大する意義があるのではないかと考えております。
そのため、ケース①については、まず発症確定日を算定の原則とすることについて賛成をいたします。他方で、その時点で賃金が下がってしまっている場合については、今の私の立論からいたしますと、生活保障の趣旨からむしろ例外的に水準を拡大しているようなケースと考えるべきであり、賃金がむしろ低くなっているようなケースでは、危険因子へのばく露時の水準に戻るという整理でよいのではないかと思いまして、つまりはどちらか有利な水準を適用するという整理が望ましいのではないかと思います。
ケース②につきましては、もともと法が想定していない場面とも思われまして、今後の議論が必要であるということではあります。しかし、現状では、危険因子への最終ばく露事業場を基本とするということで、このケース②についても、私としては異論ございません。
他方で、①のようなケースなどで、遅発性疾病についての特別な取扱いを行うということになりそうですので、「遅発性疾病」とここで呼ばれているものの範囲をどのように確定し、また、「疾病の発生が確定した日」というものをどのように定義していくのかといったことが、更に論点となるように思われます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 ケース①について、研究会における御意見の要旨という所の4つ目に、労災保険の補償は、原因となる有害業務に従事させたことによる事業主の補償と考えられ、その後の働き方の違いや退職時期等で給付基礎日額の扱いが異なるのは公平でないという御意見があったかと思いますが、私としては、労働基準法上の使用者の個々の補償責任を踏まえたとしても、被災労働者の遅発性疾病が発生した頃の現実的な賃金稼得能力の喪失と災害との間に相当因果関係があると言えるようなレベルであれば、現実の低下分を補償する、すなわち、この表で言いますと12,000円という給付日額の設定というのも、必ずしも矛盾はしないのではないかと思っております。その点で、御議論いただきたい論点のケース①の場合に示されたような提案というのは賛成するところではあります。
ただ、何か少し緩い議論にはなってしまうのですけれど、ケース①の場合において、C事業場を離職し、D事業場に勤めるようになったと。そうすると給料が上がる、12,000円という給付基礎日額を基礎付けるような給料に上がったと。このような場合に給付日額を12,000円にするというような場合というのは、これは労働者であり続けた場合だと思っております。この場合に、例えば更に50代ぐらいで役員になった、役員レベルになって、労働者から外れてしまった場合というのは、新しい事業場での役員報酬を基に給付基礎日額を算定することは恐らくはせずに、原則に立ち戻って、C事業場の離職時の給付基礎日額8,000円にまた戻るのだろうと思います。役員報酬をかなり得ている状態の場合は給付基礎日額がかなり安くなり、労働者としてあり続ける場合は高くなると。何かこのような実態などを見ると、どこかバランスを欠くようにも思われるところです。
そうすると、私が正しくこの研究会における御意見の要旨を理解できているのか、若干の不安はありますが、10ページの一番下にありますように、一つの可能性として、年齢別の賃金水準を考慮したスライドをいわば個別の賃金の額にかかわらず掛けていくということも、将来的には検討対象とすることが、公平にかなう可能性もあるのではないかと考えております。少し将来的な課題となりますが、一応発言させていただきました。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。続きまして、中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益でございます。発言させていただきます。条文を見ますと、労働基準法も労働者災害補償保険法も、算定すべき事由が発生した日となっておりますから、この場合は発病時の平均賃金又は給付基礎日額とするのが原則と考えられるほか、これらの制度は損害賠償制度の補完という性質がございますので、得られるはずであった賃金を発病によって得られなくなった、これを補填するというのが原則的な形と個人的には考えております。したがって、発病時を基準とすることに賛成いたします。予想できない範囲の賃金上昇などを懸念するご意見もございましたが、給付基礎日額については、年金給付や休業補償給付等に関して年齢別の上限と下限があるかと思いますので、あまり高額にならないように制度設計されているということではないかとも思っています。いずれにせよ、立法論としては、上限を設定することは可能なはずです。
一方で、発病時の賃金を基準とすると、たまたま無職のタイミングで発病した労働者などにとって、やはり余り公平ではないであろうことから、ほかの時点の賃金なり、あるいは労働能力なりを基準とするのも理由があると考えられるところです。とはいえ、ほかの時点を具体的に設定することはなかなか難しいのですが、災害補償が危険責任の原則に則っているだろうことからすると、危険の発現時でなければ、危険との接触時、つまり、ばく露時に基準点を置くのも考えられる一つのあり方ではないかと思っております。
なお、稼得能力の喪失補填なのだとすると、例えば発病時点での同業種の、あるいは同年齢などの労働者の平均賃金などを基準とすることも、一応、制度論としては考えられるのではないかと思いますが、一体どのような要素をもって稼得能力と見るかというのは非常に難しい問題だと思いますので、早晩には決まらないと考えられることから、取りあえずは、このようにばく露時点を発病時点でない場合の例外的時点とする形でよろしいのではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。小西委員、よろしくお願いします。
○小西委員 小西です。聞こえますでしょうか。
○小畑座長 はい、聞こえております。
○小西委員 ありがとうございます。被災労働者の保護・補償ということを考えますと、ケース①の具体的な場合、そしてケース②の具体的な場合について、ここで書かれているような結論ということについては、妥当かなと、このような形でいいかなと思っています。ただ、他方で、具体的な論理構成というところですけれども、労災保険法8条1項の「疾病の発生が確定した日」ということをベースにして、具体的に例外的な場合というのを考えていくことについて、ややケースバイケースでの対応というようなところが見受けられるかなという印象も少し持っているところでございます。したがいまして、私としましては、この8条1項の「疾病の発生が確定した日」というような形で立法がされている、その背景というか、その考え方というのを知りたいなと、将来的にでも知りたいなと思っているところです。理屈的には、この最終ばく露時点というのをベースにして、例外的に幾つか考えていくというような形も、他の委員の先生からも少しお話があったかと思いますけれども、そちらのほうが、頭の整理がしやすいというようにもいえないかなと考えた次第です。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。今、8条1項の背景についてのお尋ねなどがございましたけれども、よろしければ、また事務局のほうでも検討していただければと存じます。よろしいでしょうか。ありがとうございます。
それでは、中野委員、お願いいたします。
○中野委員 今までの皆さんの御意見ですとか、以前に私が申し上げたことと重複するところもあるので、簡単に申し上げますと、労災保険の社会保障的な性格を強調するならば、ケース①については、発症直前の生活水準を保障するという考えに基づいて、現在の事業場における平均賃金に基づき給付基礎日額を算定するというのが適切であろうと思います。ただ、発症した現在の事業場の賃金が、最終ばく露事業場を退職した日を基準とする平均賃金を下回るという場合には、労働基準法の災害補償責任に基づいて、最終ばく露事業場の賃金に基づき算定される給付額を最低限保障することによって労働者の不利益にならないようにするというのが適切であろうと思います。
ケース②については、この資料の10ページですと、高年齢になって既に定年退職をして年をとっているというケースを描いていただいておりますけれども、それ以外にも、就労可能な年齢である現役世代であるけれども、たまたま失業しているというような場合もあり得て、様々なケースが考えられます。そのような場合についてですけれども、これは、ケース②を特別に考える必要はなく、ケース①の後段の一事例とも捉えることができるのではないでしょうか。つまり、現在無職で、得ている賃金がない、ゼロであるというのは、すなわち、最終ばく露事業場であるC事業場での賃金を現在の収入が下回っている状態であると考えれば、ケース①の後段と同様に、労働基準法上の災害補償責任に基づいた補償を行うということが考えられるのではないかと思います。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。皆様の御意見で結論について着目いたしますと、ケース①、②につきまして、ケース①の柱書きのほうは、ほぼ異論がないと。ただし書きについては、一部違う考え方を取られる先生もおられましたが、大まかに言うと、これでよいのではないかという方が多かったと。②につきましては、結論に関しまして異論なしと。それで、理論的な整理につきましては、またいろいろなお考えを深めていく必要があるのではないかと。こんなところかと思います。また事務局のほうでも補足なり整理などをお願いできましたら幸いに存じます。これにつきまして、ほかにもう少し御発言があるという委員の方はおられますか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。
続きまして、特別加入団体について、議論してまいりたいと存じます。事務局から資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 御説明いたします。13ページです。現行部分ですが、特別加入団体は、一人親方といった特別加入対象者で構成される団体によるものと規定されております。また、この特別加入団体については、災害防止に関して自らが講ずる措置を定めるといったことが施行規則の中に規定されているところです。
研究会の中で頂いた御意見の要旨ですが、この特別加入団体についての役割や機能といったものについて、多角的な御議論を頂いたものと承知しております。特に災害防止の促進という観点から、そういった措置に関する御意見を頂いているものと承知しております。
14ページです。御議論を踏まえた新たな論点です。これまでの御議論の中では、特別加入団体の役割等については様々な御意見を頂いておりますが、そもそも特別加入団体が政府から承認されるに当たり充足すべき要件について、この黄色い座布団部分に5つ要件がありますが、これは通知で定められているのみです。法令上、団体の性質が明らかになっていないというところですが、これが適切なのか。また、承認と同じく、出口として取消しの要件についても定められていないという状況です。これについても問題がないのかというものです。また、先般、労働安全衛生法が改正されているところですが、個人事業主等に対する安全衛生法による保護といったものが、より強化されているところです。こうした動きも踏まえて、特別加入団体についても、災害防止努力を一層促進する必要がないのかといった点です。
15ページです。特別加入団体の災害防止に関する取組事例です。こちらについては、先般の研究会で、現在、特別加入団体がどういった取組を行っているのかという事例についてお尋ねがあったことを踏まえて、当方でまとめたものです。御覧いただきますと、主に研修会の開催とメールマガジン等による情報発信、この2つに集約されてくると考えております。
16ページと17ページについては、先般成立した改正労働安全衛生法の中で、個人事業主等に対する安全衛生対策の推進に関する部分です。こちらの委細は省略いたしますが、申し上げたとおり、個人事業主についても、この安全衛生法の中での位置付けといったものが明確化され、その保護の対象となっているというところです。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは14ページの論点に沿って御意見を伺います。委員の先生方、御意見はいかがですか。坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 私からは、提示していただいた論点について、特に特別加入団体の組織運営などについて問題が生じた場合の対処の仕組みという観点から、考えを述べさせていただきたいと思います。
現行の労災保険法35条4項では、特別加入団体に所定の法令違反があった場合に、政府が保険関係を消滅させることができるという規定が置かれております。もっとも、先ほど御説明いただいたとおり、承認の要件には法令上の根拠がないというのが現行法の構造、建て付けになっております。そうすると、私の解釈が正しいのかどうなのか心配なところがありますが、特別加入団体が承認要件のいずれかを充足しなくなってしまったという場合に、それが同時に何らかの法令上の規定に違反していれば、もちろんまた話が別ということになるわけですが、承認要件に充足しなくなったという事実だけでは、35条4項による保険関係の消滅というのはできないように思われます。そうなると不都合だとも思われますので、少なくとも承認要件に法令上の根拠を与えるとともに、当該要件を充足しなくなった場合に、政府による保険関係の消滅を可能にしておくという対応が必要ではないかと考えております。
また、この新たな論点として、団体の承認取消要件という御指摘もありました。保険関係の消滅の議論とは別に、承認そのものの取消しという制度の要否については、本研究会で議論されている特別加入団体の役割の問題との関連も強いのではないかと考えております。すなわち、現時点では、特別加入団体というものは、保険者である政府とか特別加入者と並ぶ、特別加入に関する法律関係の一当事者という位置付けであり、それにとどまっているということなのかと理解しております。災害防止に関する取組が求められていますが、法令上は申請に関する条文の中の1つの項という位置付けですので、これも広い意味での特別加入の申請に関するルールの1つなのだということになるのかと思います。このように、特別加入団体の役割が保険関係の一当事者というところにとどまる限りでは、特別加入団体の組織運営に問題が生じたときも、先ほどの政府による保険関係の消滅によって対応が可能なのかと思います。
これに対して、特別加入団体に保険関係の一当事者にとどまらない特別な役割を付与するという場合、例えば申請承認とは完全に切り離した形で、一定の安全確保に関する取組などを求めるという場合などには、不適格な団体が仮に生じた場合に、保険関係の消滅によって対処するよりも、承認の取消しによるということが合理的ではないか、そういった制度の整備も必要になってくるのではないかと考えています。
なお、別な切り口になりますが、現行法では、政府による保険関係の消滅に関して、先ほど触れた35条4項のほかに、より詳細な手続が予定されているわけではないように見受けられます。ただ、保険関係の消滅というものが特別加入者に甚大な影響を及ぼすということに鑑みますと、保険関係を消滅させるに先立って、特別加入団体に改善を要求するなど、一定の手続も併せて設けることが適当ではないかという印象も持っております。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。続いて、酒井委員、お願いいたします。
○酒井委員 資料の15ページで、特別加入団体の取組事例について御紹介いただいたところですが、恐らく、私がこういった特別加入団体の機能を評価する上で具体的な事例を教えていただきたいと言ったことに対応していただいたのかなと考えるところです。具体的な取組の事例ということで、非常によく分かりました。ありがとうございました。
こういった取組が決して不十分だと考えているわけでは全くないのですが、一方で、これが災害防止にどれほど役に立ったのかというところは、まだこの限りでは分からない部分があるかという気がします。さらに、労災の性質とか、特別加入団体の加入者の属性といったものも、時間経過とともに変わり得るものであると思っておりますので、やはり特別加入団体が機能しているのか、その上でまた更に機能を強化すべきかどうかという議論には、その前提として継続的かつ掘り下げた分析というものが必要かと感じております。こういった機能について定量的に評価するということは、なかなか難しい部分もあるのかもしれませんが、とは言え、そのことを掘り下げていく必要はあるかと感じた次第です。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。今、酒井委員からお話がありましたが、特別加入団体の機能、これをどうしていくべきかということの前提となる分析などについて、もし事務局のほうで何か資料などがありましたら、また御検討いただければと存じます。よろしくお願いいたします。ほかはいかがですか。今のところ、特別加入団体がどのような役割を果たしていくのかということによって結論は変わり得るわけですが、重要な役割を果たしているということであるならば、やはり法令上整理をしておくことが重要ではないかという御意見は出ている状況です。ほかの御意見などはありますか。よろしいですか。一応、先ほど申し上げたようなまとめをさせていただけるかと思いますが、事務局のほうでも御意見の整理を頂けたらと思います。補足の御意見がなければ、次の論点へと進んでまいりたいと思います。よろしいですか。
それでは、メリット性について、議論していきたいと思います。事務局から資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 御説明します。19ページを御覧ください。メリット制について、まず現行部分です。労災保険率は、事業の種類ごとに災害率が決められております。一方、事業主間の負担の公平性の確保や事業主の災害防止努力の促進という観点から、個別の事業場の災害の多寡に応じて、労災保険率又は保険料が増減することになっております。これがメリット制です。具体的には、この災害の発生状況によって決まる保険収支率に応じて、保険料率がプラス40%からマイナス40%で設定されてまいります。適用される事業の範囲は一定規模以上の継続事業等で、全ての事業が適用対象となるものではありません。また、メリット増減率については、影響は基本的に3保険年度続きます。メリット制が適用される事業場は、労災保険が適用される全ての適用事業場の約4%ですが、そこで働かれている労働者に着目すると60%弱がカバーされている状況です。
研究会における御意見の要旨です。メリット制の効果についてですが、メリット制の災害防止の効果という点では、おおむねお認めいただいている状況ではないかと考えております。一方、メリット増減率が40%というのが2年間継続している事業場について、22ページを御覧ください。前回、御提出した資料の中で、メリット増減率の遷移ということで、メリット増減率について、令和4年度、令和5年度で変わった事業場、変わらなかった事業場の割合を見たものです。増減率が変わっていない事業場が、赤いタスキ部分です。こうした事業場が半分強ありますが、このタスキ掛けの一番下の部分を見ていただくと、翌年もプラス40%という事業場が6,700強ある状況です。19ページにお戻りください。こうした事業場について、どのような状況にあるのか長期的な検証が必要ではないかという御意見を頂いております。
20ページです。特定の疾患に係る給付の取扱い、これは心臓疾患や脳疾患、あるいは精神疾患ですが、こういう疾患に係る給付の取扱いについてどう取り扱うのか。あるいは、特定の労働者群への給付の取扱いについて、高齢者のような一種被災しやすい、脆弱性を抱えていると言いますか、そういう労働者に係る災害の給付について、どう取り扱っていくのか。こういった点についても、広く御意見を頂いたと承知しております。
その上で、御議論を踏まえた新たな論点です。1つ目は、メリット増減率がプラス40%の状態が続く事業に対してどう対応していくのかです。2つ目は、メリット制がいわゆる「労災かくし」の温床になっているという御意見が昔からあるところですが、これをどう評価すべきかという点です。3点目は、特定の疾病や労働者群の取扱いについて御議論があったところですが、ほかに検討すべきことはないかということです。こちらは、直接、この黄色の枠内にあるものではありませんが、先般、国会質疑の中でも取り上げられた事例で、被災地における水道復旧事業などのようなものですが、そういうリスクの高い現場、被災地のような現場で、そういうお仕事に当たられている事業について、業務の特殊性を鑑みて、メリット制の中でも何か特別な取扱いをすべきではないのかという質問がありました。こういうことも踏まえて、併せて御検討いただければと考えております。
21ページです。①は、メリット増減率がプラス40%、翌年もプラス40%である事業場が全体の3分の2ということについての分析です。申し上げたとおり、メリット増減率については、影響は基本的に3か年継続いたします。ですので、この影響が一旦消える3年後の状況を見ていくと、プラス40%の事業場がどのようになっていくのかが見えるのではないかという点に着目して、分析を行っております。その結果は、この下の棒グラフです。平成29年度にプラス40%になっていた事業場は7,178事業場あります。これが、3年後、令和2年度になると、プラス40%にとどまっている事業場は20%強にまでなっております。更に3年後の令和5年度になると、この割合は更に縮小しています。これを御覧いただくと、一度、プラス40%になった事業場がそのまま継続的にずっとプラス40%であり続けるものでは必ずしもない、むしろ小さくなっていくことがお分かりいただけるかと思います。
23ページです。メリット増減率がプラス40%というのを継続していた事業場において、業種別の構成比を分析したものです。業種の中、特筆すべき特性や顕著な傾向は見受けられないかなというところです。
24ページです。こちらは御参考ですが、メリット増減率が逆にマイナス40%である事業場、マイナス40%が続いている事業場がどうなっているかというものです。同じ手法で分析しましたが、プラス40%ほどではないですけれども、やはりそれなりに縮小はしている、入れ替わりは一定程度あることが見て取れるかと思います。
25ページです。マイナス40%が継続している事業場についても、業種別の構成比を分析しております。こちらについても、顕著な傾向までは見て取れないかなというところです。
26ページです。労災かくしの関係です。令和5年の1年間で、いわゆる労災かくし、これは労働安全衛生法に定めている死傷病報告の懈怠等ですが、この安衛法100条違反で送検された事業者は103事業者おります。この103事業者について、労災かくしを行った動機について、都道府県労働局を通じて調査を行っています。動機について、必ずしも1つの理由ではないので複数あるところですが、それを取りまとめたものが下の表です。元請に対する影響や発注が受けられなくなるという懸念、さらに、企業イメージの低下を心配しているといったことが多く挙げられているところですが、メリット制を直接の理由とした事例は確認されておりません。事務局からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、資料の20ページにある論点に沿って意見をお伺いできればと存じます。委員の皆様、いかがでしょうか。オンラインの酒井委員、お願いいたします。
○酒井委員 メリット制でプラス40%が適用された事業所が翌年もかなり継続していることに関して、今回、事務局に非常に詳細に分析いただきました。ありがとうございました。
この結果を見ると、3年後にはかなり減っていて、その3年後には更に減っているということで、本当に労災を繰り返している事業所はそれほど多いわけではないという印象は持ちました。ただ、それでも6年後にも7%くらいの事業所はプラス40%が適用されているということで、この数をどのように評価すべきか、多いとみなすべきか、少ないとみなすべきかは議論があるところです。とは言え、プラス40%で続いている事業所がそれだけ残っていることには、何らかの対処が必要かと感じた次第です。その対策ということですが、メリット制を更に強化するのではなく、もしかすると、労災を減らそうとしても減らすことができない事業所かもしれませんので、分析の上、別の対処が必要になってくるのではないかと感じた次第です。
続いて、労災かくしに関してです。26ページにお示しいただいた資料は、私にとってはすごく興味深いものに思いました。ここに示されているように、メリット制による労災保険料の増額が生じることを懸念して労災かくしをしたと答えた事業所はゼロだったということなのですが、これはあくまで発覚した労災かくしということですので、そういう観点から、留保を付けて評価すべきかとは思っています。
一方、労災かくしという論点とはずれるかもしれないのですが、むしろ元請業者に対する迷惑から労災かくしをしたと答えている事業所が非常に多いということ自体が、対処する必要がある新たな論点の1つを示唆していると感じた次第です。
すみません、少し長くなるのですが、あと1点です。メリット制の適用対象ですが、一部の労働者を外すべきなのではないかということで、前回、高齢者や障害者についてどうするべきかという議論があったわけですけれども、基本的には結論を急ぐ必要はなく、時間を掛けて議論すべきことだという気がいたします。
先ほど少し国会等の事柄が述べられましたが、前回、議論した高齢者や障害者が、労働者に内在する脆弱性によってメリット制の対象から外すべきかどうかといった話であったとすると、それ以外の論点としては、例えば災害時におけるエッセンシャルワーカーのような人たちについて、本当に従前のメリット制をそのまま適用していいのだろうかといった議論もあるかと感じました。もちろん、いろいろな観点があるかと思いますので、軽々に外すべきだというようなことは言えないと思うのですが、論点としてはそういう視点もあってもいいかと思いました。すみません、以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。続いて、笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 ②と③について申し上げます。②については、労災かくしについて調査の結果をお示しいただきありがとうございました。私も、とても興味深い結果だと思いました。メリット制を懸念して直接に労災かくしをした例は、この調査の範囲ではゼロということですので、この調査限りですが、一般に言われているほどは、この制度が直接に労災かくしの原因になっている状況はないかもしれないという感じを持ちました。
他方、元請業者に迷惑を掛ける、発注を受けられなくなる、元請業者からの指示・要請、自らの出世というのもあるのですが、もしかしたら、そういった様々な理由付けの裏側に隠れている可能性もあるのではというようなことも思いました。ただ、この調査で、メリット制が労災かくしの主たる原因ではないというような傾向は、一定程度お示しいただいたのではないかと思っております。繰り返しですが、先ほど酒井委員からもありましたように、103事業者で労災かくしで送検された例ということですので、その限りでということにはなると思いますけれども、一定の意義はあると考えます。
③のほうですが、既にこれまでの会合で私自身も発言しておりますように、メリット制については、様々な理由から実態として回避することが相対的に難しい労災、あるいは、回避するための努力がケースバイケースで極めて複雑なものになっているようなケースもあるような状況の中で、結果として発生した災害については、いかに予防の努力をしていたとしても、使用者に特別な負担を課す仕組みというような面もあります。このことを、労災保険制度の趣旨から当然と考えるのか、あるいは、事案によっては公平性を欠く、あるいは、予防の努力に必ずしも資さない制度と考えるのかの意見が分かれているところと思います。私自身は、個人的には後者のほうによりシンパシーを感じておりますが、意見の対立があるところと思います。
いずれにしても、これも繰り返しになってしまうのですが、メリット制は、そもそも予防効果が上がりやすい、あるいはメリット制が大きな負担にならないような事業所だけに適用対象を切るというようなことが行われていることからしても、一部の労働者をこの制度の対象外とすることが、直ちに当該労働者の健康や安全の問題が重要でないということを意味するわけではないということは言えるのではないかと思っております。様々な政策的考慮の中で、適用していくことに弊害や、かえって労災予防の努力に必ずしも資さないケースがある場面では、緩やかにメリット制の適用を除外することも考えてよいというように私自身は考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。続いて、中野委員、お願いいたします。
○中野委員 まず、論点の①と②について、前回の私の意見を若干修正させていただくことも含めて発言させていただきます。
前回の研究会では、提示された資料だけからはメリット制のプラスの効果が見えないのではという発言をしましたが、今回、追加で出していただいた資料を見ますと、プラス40%となっている事業場では、その多くが3年後、6年後にはプラス40%から離脱している。すなわち、労働災害の発生率を下げ、保険料率が引き下がっていることがうかがえます。また、マイナス40%の事業場でも、ある程度出入りがある、すなわち、労働災害の発生によって保険料率が変動しており、必ずしも固定化しているわけではないことが分かりました。
そのうちのどの程度が、事業主の災害発生防止努力によるものなのかを評価することは、やはり難しいと思います。すなわち、事業主の努力によっても発生を避けられない、避けにくい災害もあるのではないか。また、事業主の行動に変化がなくても、偶然、災害が起こらずに過ぎる場合もあるのではないかということが考えられます。しかし、メリット制が事業主の行動に一定のプラスの影響を与えることは認めてよいのかと、今回の資料を拝見して考えるに至りました。
また、メリット制のマイナスの効果、すなわち、労災かくしの問題についてですが、今回の資料からは、むしろメリット制を労災かくしの直接の理由として挙げている事業者がないことが示されました。もちろん、これまでもほかの委員から御指摘がありましたように、例えば監督署からの指導や処分という理由付けの中にメリット制の問題が含まれている可能性はあり、この資料だけをもってメリット制に労災かくしの誘発の効果が全くないと言い切ることはできないと思います。ですが、マイナスの効果が目立つほど大きなものではない、メリット制の意義を損なうほど強いものではないと言うことはできるのかもしれないと思いました。
加えて、以前にほかの委員から出された御指摘で、本日の資料でもまとめていただいているところですけれども、メリット制をなくすと、災害防止努力を怠った事業主のリスクを災害防止に努めている事業主が負担することになり、そのようなリスクの分配は適切ではないということ、モラルハザードを生じ得るということは、確かに御指摘のとおりだと思いました。私自身は、引き続きメリット制は必ずしも必須のものではないと思いますし、労働安全衛生上の監督行政をしっかり行うことでモラルハザードを防止すればよいのではないかとも思いますけれども、労災保険制度の中に、自律的な仕組みとしてメリット制を設けておくことも1つの選択肢なのだろうと思うように至りました。
続いて、論点の③について、国会で指摘された災害復旧のケースについてです。確かに、災害復旧の現場などでは通常とは異なる高いリスクがあり、また、国や自治体からの要請に応じて現場に入る事業者については、特別の配慮が必要であるということも言えそうではあります。しかし、原則論として、危険性の高い作業に労働者を従事させるのであれば、使用者はそれに応じた災害防止努力を講じるべきであるのですから、通常とは異なる危険性があることをもって、メリット制の対象から除外する理由にはならないと思われます。これは、例えば新聞やテレビなどの報道事業者が自らの判断で災害現場に労働者である記者らを派遣する場合を考えれば明らかです。
次に、国や自治体からの要請に応えている点に着目して特例を設けることができるかを考えたのですが、災害復旧の現場をメリット制の対象から除外するという特例を設けるとすると、今度はどこまでを対象とするのかという線引きの問題が生じます。例えば、震災や台風で大規模な被害を受け、激甚災害の指定を受けた地域に限るのか。それ以外にも危険な事故現場は様々にあり得ますが、そういう現場の作業に入る事業者はどうするのか。また、激甚災害の指定を受けた地域でも、被害の状況や作業の危険性は一律ではなく、地域の中で異なり得るのではないか。国や自治体の要請ではなく、私人からの注文に基づいて事業者が入る場合はどうするのか。こういったことを考えると、労災保険とは全く別の国家補償制度を設けるなどの立法論を考えない限り、現行制度を前提とする限りにおいては、災害復旧の場面にメリット制の特例を設けるのは難しいと言わざるを得ないのではないかと考えます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。続いて、中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益でございます。この論点に関しましては、もう既にいろいろ申し上げてきましたので、この度、新たに追加されました論点③の災害復興要請のケースについて発言させていただきます。
結論から申しますと、メリット制を外すということは、ある事業で発生した業務災害のコストを他の事業主に分担して負担させる意味を持つことから、やはり適当ではないのではないかと考えます。一般に業務災害に係るコストは、正に事業に伴い発生するコストであって、直接的には災害を発生させた事業が負担すべきであり、間接的には価格への転嫁を通じてその事業を利用するクライアントが負担する費用というのが基本と考えます。この点で、災害復興要請に関しては、自治体が要請した以上は、基本的にはその自治体が負担すべきものではないかと思います。パラレルに考えられるかどうか分かりませんが、例えば警察や消防の活動における公務災害にもメリット制が適用され、自治体がその負担をしていることなどが想起されます。また、仮に大規模な災害であって、当該自治体が負担できない事情があるときには、国が何らかの支援を行うというような形が適切ではないかと思いますので、いずれにせよ、これを他の事業主に分散させるという方法は余り適当ではないのではないかと思います。
もう少し詳細に申しますと、災害発生直後は、一般に随意契約で復興事業に当たる事業主を選出すると聞いていますが、これに関連して、メリット制が適用された場合の増減分を含められないかのような価格の積算方法を示すガイドラインが国土交通省から出ているように聞いております。しかしながら、このようにメリット分を価格に転嫁できず、自治体がまるで業務災害のリスクを事業主のみに押し付けるような形になっているとすれば、そのガイドラインが適当でないように思います。よって、事実、業務災害が発生し、メリット制に影響が出たときには、自治体が基本的には負担するような取決めをするとか、あるいは、自然災害時の業務災害の発生率などを早急に調査し、これを保険料負担の分として契約価格に盛り込めるようにしておくべきではないかと考えます。
一方、災害からしばらく時間が経過しますと、入札で災害復興に当たる事業主を選定するように聞いておりますが、仮に、その事業主がメリット率に影響が出る可能性を考えて、入札価格にそれを含めた価格を提示したならば、後日、メリット制の適用を外すことは、別にその必要はなかったというように考えられましょうし、他方で、メリット分は含めずに安い価格で入札が成立したのにメリット制を適用しないとなれば、これは他の事業主にメリット分を負担させつつ、自らは安い価格で同業他社を、ある意味、出し抜いたような形にもなることから、いずれにせよ、適当でないのではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。今のところ、まずプラス40%問題につきましては、3年後、6年後は減っている所が多いと、繰り返している所は少ない、ただ、やはりそれでも6年後もプラス40%の所があるので、そこについては何らかの対処が必要ではないかという御意見が出ております。
また、労災かくしのお話につきましては、労災かくしがメリットへの懸念が理由ではないということが、一応示されていると。ただし、この資料にない発覚した所以外、発覚しなかった所については分からないわけであるけれども、労災かくしというマイナス面があるのではないかということについては、この資料からはそうではないということが一応示されていると、そういったことが明らかになったのではないかということも、御意見として複数の委員から出てきたところではございます。そのように、メリット制にプラスの影響がある、また、マイナスの影響というのが心配されているほど大きくはないのではないかという御意見が出たところでございます。
また、③につきましては、メリット制を外すということに関しては、そのように考えてよいのではないかという方向の御意見と、そうではなく、外すということをしない、外すべきでなく、ほかの方法を採るべきではないかという御意見と、両方が出ているところでございます。
ほかに何か御意見のある委員はございませんか。ほかに余り御意見がないようでございます。そういたしましたら、こちらにつきましても事務局でまた御意見の整理を頂けたらと存じます。
さて、先ほど水島委員が遅れて御参加になられまして、水島委員のほうから論点1、2の関係で御発言の御希望があるというように伺っております。水島委員、お願いできますか。
○水島委員 ありがとうございます。既に御意見を頂いた後で重複しているかもしれませんが、論点1と論点2につき、発言させていただきます。
遺族補償年金の支給要件について、最高裁は、地公災基金の事案で、男女間の生産年齢人口に占める労働力人口の割合の違い、平均的な賃金額の格差、一般的な雇用形態の違いなどからうかがえる妻の置かれている社会的状況から、不支給処分が行われた当時において憲法14条違反にならないとしました。もっとも、賃金の面でも雇用形態の面でも男女格差は縮小し、男女で差を設けることに合理性は見いだしにくくなっています。放置しておけば将来的に憲法14条違反になることは明らかと考えます。
支給要件において夫と妻の区別をなくすことには賛成ですが、夫の年齢要件を撤廃し妻に合わせることに、私は賛同しかねます。地公災基金事案の高裁判決では、妻が独力で生計を維持することができなくなる可能性と、夫について独力で生計を維持できなくなる可能性を述べています。この点、独力で生計を維持できる妻は増加していると私は考えます。男女間賃金格差の解消、育児休業などの進展により、離職をせず働き続ける女性の増加、非正規雇用・正規雇用間の賃金格差の縮小等が理由です。他方で、男性に関して、雇用の場面で特段の状況変化は見られないように思います。もっとも、単身で子育てをする男性は増加し、子育て負担ゆえに仕事を調整し、収入が減少するケースはあると思います。これについては、子に対する遺族補償給付によりカバーされるであろうと考えます。
地公災基金事案の高裁、最高裁の論理からは、妻についての優遇を無くし夫に合わせるという考えが引き出せます。仮にすべての遺族に年齢要件を設けるとして、労災保険の趣旨から、配偶者には他の遺族と異なる年齢要件を設定する必要があるのであれば、配偶者について男女同一の年齢要件を特別に設ける考えはあり得ると思いますが、私はそのような設定をすることの合理的な理由を現時点では見いだせていません。
また、私のような意見に対しては、夫が遺族となるケースは少なく、労災保険財政に与える影響は極めて小さいのであるから、遺族に対する補償を優先すべきであり、したがって、現行の妻の要件に夫を合わせるべきであるという意見が考えられます。確かに、現時点では危険な作業や長時間労働に従事するのは相対的に男性が多く、男性労働者のほうが労災による死亡リスクが高いことがうかがわれますので、労災保険財政に与える影響は小さいと考えます。しかし、男性と女性の働き方が接近し、働き方の性差が縮小すれば、労災死亡リスクの性差も小さくなると考えられますので、労災保険財政に与える影響が小さいことは理由にすべきでないと考えます。
次に、論点2について、以前の研究会で意見を述べさせていただきましたが、特別加算創設当時の考え方は現在では妥当しないと考え、見直しが必要と思われます。高齢者の労働市場への参入が進み、平均余命が延びていることからしますと、55歳以上の者に加算を行う合理的な理由は見いだせないと考えます。以上でございます。ありがとうございました。
○小畑座長 ありがとうございました。水島委員の御意見に重ねて、またほかの委員からも御意見がありましたら、どうぞ挙手していただければと思いますが、ございますでしょうか。ほかの委員はよろしいでしょうか。ありがとうございます。
大分長く議論してまいりました。そのほかに御意見がないようでしたら、事務局にマイクをお返ししたいと存じます。事務局から御連絡事項などお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 事務局でございます。次回日程について、追って調整の上、御連絡申し上げます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、これにて第6回労災保険制度の在り方に関する研究会を終了いたします。本日はお忙しい中、お集まりいただきまして、誠にありがとうございました。お疲れさまでした。