第1回労働基準法における「労働者」に関する研究会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和7年5月2日(金) 15:00~17:00

場所

厚生労働省 専用第15会議室

議題

労働基準法における「労働者」について

議事

議事内容
○労働条件政策課長 定刻になりましたので、ただいまから第1回「労働基準法における「労働者」に関する研究会」を開催いたします。
 構成員の皆様方におかれましては、御多忙のところお集まりいただき、誠にありがとうございます。
 本研究会の進行につきまして、座長が選出されるまでの間、議事進行を務めさせていただきます厚生労働省労働条件政策課長の澁谷でございます。よろしくお願いいたします。
 本日の研究会でございますが、会場参加とオンライン参加の双方による開催とさせていただいております。
 まず、御出席いただいております構成員の皆様を五十音順に御紹介申し上げます。
 専修大学法学部教授、芦野訓和様。
 東京大学名誉教授、岩村正彦様。
 京都大学大学院人間・環境学研究科総合人間学部教授、小畑史子様。
 東京大学大学院法学政治学研究科教授、笠木映里様。
 筑波大学ビジネスサイエンス系教授、川田琢之様。
 それから、オンラインで御出席の京都大学大学院法学研究科教授、島田裕子様。
 九州大学法学部准教授、新屋敷恵美子様。
 早稲田大学法学学術院教授、竹内寿様。
 早稲田大学法学学術院教授、水町勇一郎様。
 以上でございます。
 それでは、本研究会の開催に当たり、労働基準局長の岸本より御挨拶を申し上げます。
○労働基準局長 労働基準局長の岸本でございます。
 構成員の先生の皆様方におかれましては、大変御多忙な中、本研究会の委員をお引き受けいただき、誠にありがとうございます。
 労働基準関係法制は改めて申すまでもございませんが、労働基準法を中心として様々な法律から成りますが、その法律の適用対象を画するのは労働基準法の労働者という概念でございます。これは労働基準関係法制だけでなく、労働法制全般に広く使われている大変重要な概念ともなっております。この労働者に該当するか否かについて、司法の場でも、または監督指導などの現場でも、非常に微妙なケースは多々ありまして、問題になることがございますが、これについては過去、昭和60年の労働基準法研究会報告において判断基準をお示しいただき、これまでそれを参考に実務などを運営してまいりました。
 大変有用な判断基準をお示しいただき、実務の面でも、私ども行政にとっても、また労使にとっても役立ててきたものでございますが、その後40年を経過いたしまして新しい働き方が様々出てきている、また、古くからある働き方にもグレーゾーンのケースは常にあるといったことで、この労働者性の判断について、その刷新をすることがずっと課題となってまいりました。
 この点について、先般報告書をまとめていただきました、荒木尚志先生に座長を務めていただいた労働基準関係法制研究会の報告書におきまして、昭和60年労働基準法研究会報告から約40年が経過をし、働き方の変化、多様化に必ずしも対応できていない部分が出てきているのではないか。また、労働者性の判断基準に関しては専門的な研究の場を改めて設けて総合的な検討が必要ではないか。こういった御提言をいただいたところでございます。この御提言を受けまして、本研究会を参集させていただきました。
 先生方には、幅広い論点がございますが、ぜひ様々な御知見をいただきまして、労働者性に関する広範な議論を今後進めてまいりたいと考えております。何とぞよろしくお願い申し上げます。
○労働条件政策課長 引き続きまして、本研究会の開催要綱について御説明を申し上げます。資料1を御覧ください。
 「趣旨・目的」につきましては、今ほど労働基準局長の岸本から申し上げたところでございます。労働者性につきまして専門的な研究の場を設けて総合的な検討を行うということとして開催するものでございます。
 「2.検討事項」は大きく3点ございます。
 労働基準法上の労働者性に関する事例、裁判例等や学説の分析・研究や、プラットフォームワーカーを含む新たな働き方に関する課題や国際的な動向の把握・分析。
 それから、労働基準法上の労働者性の判断基準の在り方。
 そして、新たな働き方への対応も含めた労働者性判断の予見可能性を高めるための方策。
 以上の3点を検討事項としてまず掲げさせていただいております。
 これらにつきまして、まず1点目に関しましては裁判例の分析・研究が必要でございます。今後の進め方にも関わりますけれども、単に既存の裁判例の分析を行うだけではなく、紛争実務への対応経験が豊富な専門家、具体的には今後弁護士へのヒアリングというものも行いまして、実態に関する研究を深めること、さらには国際的な動向の把握を行うこととしてはどうかということを事務局としては考えております。
 また、今後のスケジュール感でございますけれども、国際的な動きという点ではILOでもプラットフォームワーカーに関する国際労働基準の策定に向けた御議論が進んでいる状況でございます。そうした議論にも注視しながら十分な研究を行うことには一定の期間を要しますので、本研究会は今年度だけではなく来年度以降も設置をする方針で考えているところでございます。
 続きまして、本研究会の座長の選出につきましてお諮りしたく存じます。
 資料1の開催要綱の「3.運営」の(4)におきまして、「本研究会の座長は、参集者の互選により選出し、座長代理は座長が指名する。」としております。
 座長の選出でございますが、事前に事務局より各構成員の皆様にお諮りさせていただいておりますとおり、岩村構成員にお願いしたいと考えておりますが、よろしいでしょうか。
(異議なし)
○労働条件政策課長 ありがとうございます。御賛同いただきましたので、岩村構成員に座長をお願いしたく存じます。
 以降の進行は、岩村座長よろしくお願い申し上げます。
(岩村構成員 座長席へ移動)
○岩村座長 ただいま座長に選出いただきました岩村でございます。
 構成員の皆様の御支援、あるいは御指導等をいただきつつ、また事務局の皆様にお助けいただきつつ、この研究会を進めてまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いをいたします。
 それでは、開催要綱3の(4)に基づきまして、本研究会の座長代理を指名させていただきたいと存じます。
 座長代理は川田構成員にお願いしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いをいたします。
○川田構成員 承知しました。よろしくお願いいたします。
○岩村座長 カメラ撮りにつきましては、ここまでとさせていただきます。
(カメラ退出)
○岩村座長 それでは、まず本研究会の開催に当たりまして、会議の公開等につきまして事務局の方から説明をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○労働条件政策課長 資料2を御覧ください。
 本研究会につきましては原則公開とすることとし、資料2の1から4までに該当する場合であって、座長が非公開とすることが妥当であると判断した場合には非公開とさせていただきたいと考えておりますが、よろしいでしょうか。
(異議なし)
○岩村座長 ありがとうございます。
 それでは、会議の公開につきましては事務局から説明がありましたとおりということで取り扱わせていただきたいと思います。
 続きまして、事務局から裁判例に関する資料でございます資料3と参考資料の説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○労働条件政策課長補佐 ありがとうございます。労働条件政策課の課長補佐の小島と申します。
 今回、裁判例の資料と、そのほかの資料という形でかなり数が多いのですけれども、私のほうから説明させていただきます。
 まず裁判例の資料が資料3になるのですけれども、昭和60年の研究会報告以降に積み上がった裁判例について御議論いただく際の材料として、労働基準法上の労働者、ここでは契約法と労災保険法というものも含みますけれども、労働者性が争われた裁判例を50個ほどピックアップしまして、裁判例の資料を御用意いたしました。
 まず資料全体の概要を御説明いたします。
 資料3-1が「裁判例資料の作成方法」になります。資料3-2が、50の裁判例の一覧表です。そして、資料3-3が50の裁判例について60年報告書の各要素というものがありますけれども、裁判例ごとにコメント機能でどの分類になるかというところを、事務局の判断にはなりますが、お示ししたものでございます。
 まず、今回の裁判例の抽出方法について資料3-1を基に御説明いたします。
 今回の対象の裁判例ですけれども、昭和60年の1月1日から令和6年12月31日までに判決があった裁判例を対象にしています。
 そのうち1のところなのですけれども、フリーランス新法の施行のタイミングで労働基準局の監督課から出しております労働基準法における労働者性判断に係る参考事例集、今回参考資料5としてつけておりますけれども、こちらに労働者に関する裁判例が22個掲載されておりまして、この裁判例を選定する際にも一定の検討をして出しておりますので、これらの裁判例は50個の中に含めております。
 次に2ですけれども、雑誌の「労働判例」「労働経済判例速報」「判例時報」に掲載された裁判例のうち、学者や実務家による評釈がなされているもので、多様な職種がバランスよく散らばるようにというところと、肯定事例と否定事例がバランスよくなるようにというところで抽出させていただきました。
 こちらのほうから28個抽出しました。この中には労働者性の主要な最高裁判例、横浜南労基署長事件、関西医科大学研修医事件、藤沢労基署長事件という3つも含めております。
 それで、資料3-1の別紙、次のページなのですけれども、今回の昭和60年から令和6年までの判決のうち、先ほど申し上げた3つの雑誌に掲載された裁判例ですね。労働者性についての裁判例を一覧としてリスト化させていただいております。今、把握しているだけでも約210の裁判例があります。
 続きまして、資料3-2を飛ばしていただきまして、資料3-3を御覧いただければと思います。
 こちらは、その50個の裁判例について、労働者性の判断部分を抜粋して、裁判例で示されている各事情を昭和60年報告の各要素に分類するとどうなるか、ということを記号を用いて分類しております。ここでは、各事情が裁判例の中で労働者性を肯定する事情として評価されているのか、否定される事情として評価されているのかということが分かりやすいように、4つの記号を用いて表そうとして試みているのですけれども、まずその記号についてはちょっと戻っていただいて、資料3-1の一番下の記載で、「○」と「●」というところがまずあるのですが、この「○」「●」は単純に分かりやすくて、労働者性を肯定する方向の事情が「○」で、「●」は逆に労働者性否定の方向の事情というところになります。
 それで、「△」と「▲」というところがなかなか分かりにくいかと思うのですけれども、まず「△」は一見すると労働者性を否定するように見える事情なのですが、否定方向には評価されていなくて、労働者性肯定の結論と矛盾しないという表現がされているようなものになります。それで、「▲」は全く逆でして、一見すると労働者性を肯定するように見える事情なのですけれども、肯定方向には評価されていなくて、労働者性否定の結論と矛盾しないといった表現がされているものになります。
 例えば「△」がどういう場合に出てくるかといいますと、裁判例の傾向を見ていると、基本的には労働者性を肯定した裁判例では、労働者性肯定ということで「○」が多くなる傾向があるのですけれども、その中で例えば一見すると労働者性を否定するように見える事情もぽつぽつと入ってくる。そういう事情を裁判所は純粋に「●」という形にはしなくて、労働者であることと矛盾するとまでは言えないというふうな形で処理しているパターンがある。そういうものを「△」にしております。
 この御説明だと分かりにくいと思いますので、実際に資料3-3を御覧いただければと思うのですけれども、まず裁判例1のファーストシンク事件というところで7ページを御覧ください。
 こちらは労働者性を肯定した事例なので、基本的には「○」が並んでいくという形にはなっているのですけれども、この判決の右側にコメント機能をつけて、例えば「諾否の自由の有無:○」というふうな形につけております。
 それで、8ページにいくと、ほかの要素として「指揮監督の有無」とか「拘束性の有無」が「○」という形で事情ごとにつけております。
 続きまして「▲」を御説明させていただきたいのですけれども、51ページから始まる<裁判例9>のロジクエスト事件を御覧ください。
 こちらは、労働者性が否定された事案になります。比較的「●」が多くなる事案かと思います。
 それで、52ページに飛んでいただいて、1段落目の「また」から始まる段落なのですけれども、その2文目の「そして」のところです。ここは、「指揮監督の有無」に「▲」とつけています。それで、ここを読ませていただくと、「Xは、配送業務の遂行に当たり、本件会社の社名やロゴが入ったエコキャリーバック、エコキャリーカート、ユニフォームを使用しているが、これは円滑な業務遂行を目的としたものである可能性がある以上、Xの労働者性を基礎付けるものとはいえない。」とされています。
 通常、配送業務において社名がついたユニフォームを着せている事情というのは、労働者性を肯定する事情にどちらかというと傾きがちになりますけれども、ここでは円滑な業務遂行という目的であるために労働者性を肯定する事情にはならないとしているので「▲」にしております。
 最後に「△」の例なのですけれども、116ページの<裁判例22>のわいわいサービス事件を御覧ください。
 こちらは、労働者性が肯定された事例になります。116ページの一番下の行から117ページにわたる部分なのですけれども、ここも「拘束性の有無:△」、「代替性の有無:△」となっています。
 ここを読み上げますと、「倉庫作業の勤務時間を変更することやXの代わりの者に倉庫作業を行わせることが可能であったとしても、それらは上記各法律上の労働者であることと必ずしも矛盾するものではない」とされています。
 これらの作業において勤務時間を変更することができるというのは、拘束性の観点で通常は労働者性を否定する事情に傾くこともありますし、その後の部分、Xの代わりの者に倉庫作業を行わせることが可能であったという事情は代替性の観点で労働者性を否定するという事情にはなりがちですけれども、ここでは労働者性を否定する事情にはならないとしているので「△」としております。
 記号の説明は以上なのですけれども、裁判例の中には、昭和60年の要素の中で拾い切れない要素というのがありまして、そういうものは「未分類」という形で分類しています。それで、「未分類」というところについてはこの後、御説明申し上げますけれども、資料3-2の中でも未分類があるものについては未分類という形で記載しています。
 最後に、資料3-2を御覧ください。一覧の表になっているものです。
 こちらは、先ほどの資料3-3の裁判例の一覧をまとめたものです。例えば、何法の労働者性が争われているものなのかというところを「争点」として表していて、あとは「職種」、各要素の判断をお示ししています。
 それで、各要素について示した後に、緑のところで未分類の要素という形で未分類があるものは記載しています。
ひとまず研究会の議論の材料として裁判例の資料を作成させていただきました。何分、どのような分析方法を取ればいいのかというところで、どういうふうにすれば課題が見えやすいのかというのはこちらでも検討しながら作成はしたのですけれども、ほかの分析方法や追加すべき裁判例というものがございましたら、この後、裁判例資料に関する御意見をお伺いするお時間もありますので、御意見をいただければと思います。
 裁判例資料は以上でして、この後、資料4は飛ばしまして参考資料1になります。
 参考資料1は、これまで公表している資料を集めまして、労働者性に関する参考資料集としてつくったものになります。内容としては、労働基準法制研究会の報告概要や各種労働法令の労働者の定義、行政判断、ILOの議論の予定、アメリカやEUなどの国際動向など、既に公開しているものになります。
 続きまして、参考2になります。こちらは、昭和60年の研究会報告書になります。
 続きまして、参考資料3は平成8年の労働者性検討専門部会の報告書になります。こちらは、昭和60年の基準を踏まえて芸能関係者と建設業の一人親方などの個別業種について判断方法を示しています。
 参考資料4にいっていただきまして、平成23年の労使関係法研究会の報告書でございます。こちらは、労組法の労働者の判断基準について示したものです。
 参考資料の5は、令和6年10月に労働基準局から出しております労働者性に関する参考事例集です。こちらが、先ほどお伝えした22の裁判例が載っているものになります。
 参考資料6は、注文者・事業者の安全衛生上の指示について労働者性の該当性との関係を示した令和7年3月31日付の通達になります。
 参考資料7は、これまでの労働基準法上の労働者に関する通達をまとめたものになります。
 最後に参考資料8についてですけれども、先ほどの通達の一つなのですが、バイシクルメッセンジャーの労働者性について昭和60年報告の基準に従って具体的に判断したものになります。
 参考事例集のところは駆け足になってしまったのですけれども、資料の説明は以上になります。
○岩村座長 大変ありがとうございました。
 先ほど、岸本局長をはじめ、事務局からも言及がありました昭和60年の労働基準法研究会の報告、この後は端的に「昭和60年報告」と言わせていただきたいと思いますが、この報告で示された判断要素というのが、私が知っている限りではあるけれども、裁判所や行政実務での労働者性の判断に用いられていると言ってよいだろうと思っております。
 一方、先ほど来、本研究会の目的にもご説明等がありましたとおり、昭和60年報告につきましては、私も言われてみて、あぁそうかと思ったのですが、作成からもう既に40年がたっているということでありまして、その後の働き方の変化・多様化、とりわけ最近のインターネット等を使った、あるいはスマートフォンを使った世界の変化に必ずしも対応できていない部分があるのではないかという指摘もあるところでございます。
 事務局のほうから説明がありましたとおり、昭和60年報告の見直しを含めた労働基準法上の労働者性、これはさらに労働基準法の労働者概念を使っている他の法令にも及ぶわけでありますけれども、その判断基準の在り方についての研究を今後進めるということになりますと、まずは裁判例、そして先ほど事務局から言及がありましたILOを中心とする国際的動向などの現状の分析というのも必要だろうと考えられるところでございます。
 ですので、一定の期間をかけて丁寧に研究を行っていく必要があるだろうと考えているところでございます。
 今日は第1回ということでございますので、まずは構成員の皆様から、例えば昭和60年報告で示された労働者性判断の総論とか、またはこれまで示されてきた個別業種に関する労働者性判断の各論など、どういう点でも結構ですが、労働基準法上の労働者性に関する御意見を、時間が短くて恐縮なのですけれども、簡単にお話しいただければと思います。
 順番としては五十音順にさせていただきまして、まず芦野構成員から御発言をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
○芦野構成員 よろしくお願いいたします。
 改めまして、専修大学の芦野と申します。よろしくお願いいたします。
 私は民法財産法を専攻しております。私からは、民法から見た労働者概念との関係について述べたい思います。
 契約という観点から考えた場合に、労働者は労働契約の一方当事者になりますが、民法典には労働契約という契約は規定されていません。
 しかしながら、雇用契約という規定があり、そこでは「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」と定めています。
 この「労働に従事することを約し」というのがポイントになるのかと思いますが、この部分は明治期の立法時には「労務に服することを約し」と規定されており、この表現が平成17年、2005年の民法の現代語化に伴う改正によって「労働に従事する」と変更されました。
 この変更に伴って、それまで民法では労務者と表現されていたものが労働者に変更されたことによって、民法においても契約当事者として労働者という概念が登場することになります。
 そこで、民法の観点からはこの民法上623条の労働者と、いわゆる労働法上の労働者が同じ概念なのかという問題が生じます。このことは、契約という観点からは民法上の雇用契約と、労働法上の労働契約が同じであるかと言い換えてもよいかと思います。この点について、当初、民法の起草者は、労務に服するというのは労務自身が契約の目的であるということを表すためにこの表現を用いたのであって、特にその説明の中では使用者の指揮監督、命令に服するという意味を含むということは考えていなかったようでした。
 これは当然のことでして、民法が自由で平等、対等な当事者を前提としていること、さらには民法の契約類型を規定するに当たっては当事者の主たる債務に着目して分類し、したがって、主たる債務としては労務に服することであるというところに着目して分類したことによります。
 しかしながら、この点についてはその後に民法学の泰斗である我妻栄博士がその体系書の中で、この民法上の労務に服するというのはその労務自体、労務の給付を目的とする結果として使用者に労務についての指揮命令権を生じ、その意味において従属関係を生ずることを示す趣旨であり、民法が雇用とするものは全て労働法原理によって規律されるべきものであって、全てこれを労働契約と考えてよいという見解を示しました。
 その後、長い間、この考え方が民法での通説とされてきました。そうすると、労働者に当たるとされたら、もう民法の研究者は考えなくてよいということで、民法の教科書、体系書でも長い間、雇用契約に関する部分がほとんど省略されているに等しい時代もありました。
 そうなると、民法の寄与するところはあまりないかもしれませんが、しかしながら、この雇用契約と労働契約については同一である、したがって、民法は要らないんだという見解は必ずしも近時は通説とは言い切れない状況になっており、そういう観点からは民法からももう一度労働者概念、労働契約概念について検討する必要があるのだろうと思っています。
 ただし、その際には先ほども申し上げたとおり、民法は契約によって当事者が与えた意味という主観的な観点から契約類型を分類しているのに対して、労働法上のいわゆる労働者概念というのは客観的な関係に着目している。その両者をどう考えるのかというのも考慮する必要があると思います。
 もうひとつは、働き方の多様化によって従来の労働者に該当しない人が登場し、その保護については一般法である民法が機能してきたという点にあります。
 例えば、安全配慮義務については、2008年の労働契約法施行以前から、民法においては一定の関係にある当事者間について、信義則を根拠に判例や学説上において認められてきていました。その一定の関係とは、簡単に申し上げるならば、特別な社会的接触関係であり、それはある法律関係に基づいて形成されるものですが、その多くは当事者の意思により形成、規律される関係、すなわち契約関係です。
 ただし、これは労働関係にとどまるものではありません。すなわち、労働者に対してだけではありません。判例や裁判例では、雇用契約以外の契約関係において問題となる契約を雇用契約、あるいは労働契約と類似なもの、あるいはそれと同視し得るものとして安全配慮義務を認めたものも多く存在します。その際には、問題となっている関係、契約が雇用契約に準ずる、あるいは雇用契約に類似するとか、雇用的色彩を帯びているなどの表現で、契約の性質、内容から認められているものが見られます。
 一方で、契約の性質からではなく、当事者の直接の関係から安全配慮義務を認めたものも多く存在します。その際には、当事者の人的関係や役務提供の物的環境から実質的な使用従属関係が認められるということに着目して安全配慮義務を認めているものがあります。
 ここでの人的従属性というのは、労働者性の判断枠組みである使用従属性と同視し得るものと言えそうですが、しかしながら、私の見ている限りでは、この安全配慮義務をめぐる判例理論、判例法理によって形成されたものについては、それ自身が労働者に限定されていないことから、労働法で考えられるところの労働者性の要素としての人的従属性よりも、より柔軟で広義のものと考えることもできるのではないかと思っております。その点では、やはり民法の観点からもこの使用従属性というものをどのように考えるのかということの検討ができるのではないかと考えております。
 民法学の観点からほかにも話すべきことはあるのですが、時間の関係上、私からは以上とさせていただきます。よろしくお願いいたします。
○岩村座長 芦野構成員、ありがとうございました。
 それでは、次に小畑構成員に御発言いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○小畑構成員 ありがとうございます。京都大学の小畑でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 私は労働法が専攻で、労働災害の予防や補償について研究をしてまいりまして、労働基準法上の労働者、労働安全衛生法上の労働者、労災保険法上の労働者につきまして関心を持ってまいりました。
 そして、労災保険法につきましては、短期間ではありますが、労働保険審査会で労災保険給付の実務に携わった経験がございます。労災保険法上の労働者性の問題は、申すまでもなく、被災労働者やその御遺族の家計に直結し得るものでございます。労災保険法上の労働者性がなく、不支給処分は妥当であるというふうに考えることができるかどうか、という事例を担当したこともございます。直接当事者の方々の御主張もお伺いいたしました。そのたびに、過去にいかなる判断がなされたかの調査をしまして、調査の中で、特別加入していれば給付を受けられたはずであるけれども、御自身が労働者として保護されるはずだと考えて特別加入の手続を取る必要はないと判断して加入していなくて、しかも労働者性なしという結論になったという事例もございました。
 さて、先ほど局長の御挨拶にもございましたけれども、40年という年月の経過の中で労災保険法上の労働者との関係で私が見聞きしてきたことにつきまして変化があったなと実感しているところが3つほどございます。
 1つは、モデル就業規則で副業、兼業は原則駄目という世界から、原則はできるんだというふうに転換しているということが、請負で複数の会社の仕事をやっている人にとって、労働者であっても複数の会社の仕事をやっている人もいるではないかということになりますと。少なくとも外形的には、請負等で働く人と、労働者として働く人との類似の点というのがひとつ見受けられるようになったのではないか。
 そして、2つ目でございますけれども、こちらは申し上げるまでもないとは思いますが、コロナ禍を経まして、働く場所に関しまして、もちろん御自宅で働かれる労働者の方もおられれば、カフェで働く方もおられるといったことで、自分で決めた場所で働く労働者というのが増えている。また、裁量労働のみならず高度プロフェッショナルなどを考えますと、時間を自分で決めて働く労働者というのも増えている。そうすると、その請負等、自営などで働く方々、自分の好きなときに、自分の居場所を自分で決めて働いているという方々にとって、自分は請負等で働いているけれども、労働者である人も場所や時間を自分で決めているように見えるというように、労働者でない方にとって、少なくとも外形的に、自分と類似しているではないかと思うような点が出てきたように思われます。
 また、3つ目といたしまして安全衛生の観点がございます。労働安全衛生法につきましては令和3年5月17日の最高裁判決で57条の規制権限不行使に関する一人親方による国家賠償請求が認容されまして、労働安全衛生法1条の目的規定は、同法の保護対象は労働者であるとしているものの、同法全体の構成や構造、同法57条の内容と機能からは、同条が労働者と同じ場所で働き、健康被害を生ずるおそれのあるものを取り扱う労働者以外の作業従事者を、保護の対象外としているとは言えないということを述べまして、それに関心が集まった結果として、労働者以外の作業従事者が労災予防のための安全衛生に関して労働者と同じように扱われていると感じて、そしていざ労災が起きても労働者として労災保険法により保護されると考えてしまうようなケースも起こりやすくなっているかもしれないと、そのように感じている次第でございます。
 さて、こういったことを心配している背景といたしまして、SNSの存在がございます。例えば、こんな境遇、こんな立場だったが、労災保険法上の労働者と認められましたというような自分に関するニュースというのを、具体的な、細かな事情の説明もなしに、結論だけ発信する。それが瞬時に、見ず知らずの他人同士に拡散していく。そういったことで、同じ立場、境遇の自分も、労働者性を認められるはずだと早のみ込みして、そして特別加入しなくてもいいという選択をしたり、労働者性があるというふうに考えてしまって、実はそれが早のみ込みで、結果的に労災保険法の保護というのが得られなかったというようなことも生じてしまっている。そういった時代の影響というものがあるのではないか、というようなことを考えている次第でございます。
 そういった40年の経過を経たいろいろな変化、それが当事者にどのような影響を与え、そして労働者性の判断をどう難しくしているのか。そういったことを考えながら、ぜひこちらの研究会に参加させていただきたいと存じております。
 以上でございます。
○岩村座長 ありがとうございました。
 それでは、続けて笠木構成員、よろしくお願いいたします。
○笠木構成員 東京大学の笠木と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 私は社会保障法を研究しておりまして、労働法の専門家ではございませんので、労基法の労働者性という問題の中心的なところについてはまさに専門としているというわけではないのですけれども、いただきました資料等から勉強して議論に参加してまいりたいと思っております。
 他方で、労基法上の労働者性の問題は、労働者とされたときに加入する、既に論点となっております労災保険をはじめとする様々な社会保険の適用の観点や、労働者でないとされた場合に社会保障法上そのような就労者が働く人としてどのような立場に置かれ、どういった保護を受け得るのかというような観点から、社会保障法上の論点とも密接に関連して議論されなければならないということは、既に労働基準局長や座長の御発言でも意識され、また、労働基準関係法制研究会の報告書の中でも意識されているところかと存じます。私としては、特にそうした観点から皆様との議論に参加してまいりたいと思っております。
 これから多様な視点からの検討が必要と考えますけれども、これは社会保障法をやっておりますと特に気になる点かもしれませんが、個人的には現状、裁判例によって示され、本日の資料におまとめいただいたような法的な労働者性の判断基準がどの程度実務上、実体として社会の中で実効性を持ったものになっているのか、また将来において実効性を持つものとして機能していけるのかというような観点に特に関心を持っております。
 極めて多様な働き方が可能になっていく中で、労働者でない者として扱われている人たちが、実態として労働者に法的には近い立場にあるとしても、裁判にならない限り労働者ではない者として扱われていくケースも多くなってくるであろうと思いますし、逆に現に労働者と扱われている人が労働者でないとされている人と、その働き方の面で限りなく接近していく場面もあり得るかと思います。
 デジタル技術などを用いた新しい働き方が増える中での法規制や、法の趣旨と実態の乖離や、その乖離を埋めていく必要性、そのための施策についても、これは社会保険の適用のような実務的な側面にも関連していくと思いますけれども、考えていく必要があろうかと考えております。
 それから、今後の進め方との関係で2点ほど申し上げたいと思います。
 1つは裁判例の資料についてですけれども、おまとめいただきました事務局の皆様に感謝を申し上げます。また、これらを材料としてこれから分析、議論していくことに異論はございません。
 こうした資料から、全体の傾向や、特に論点となりそうな要素が見えてくるのだろうと思っておりますけれども、幾つかの重要な論点が浮かび上がってきますと、個別の判決はどこに力点を置いて書いているのかといったことを、やはり個別の判決にまた戻って、そして学説による評価なども参考にしつつ確認していく作業も必要になっていくのだろうと思っております。
 それからもう一点ですけれども、裁判例の傾向を見ていくときに、労働者性が問題となった場面との関係で、労働者性の判断傾向に違いがあり得るかという問題とも一部重なるかもしれないのですが、行政実務上、行われている労働者性の判断について、その判断に司法判断と異なる特徴があり得るかどうかというような論点も、ひとつあり得るかと思いました。
 典型的に念頭に置いておりますのは、労基署長が労災認定との関係で行っている労働者性の判断ですけれども、理論的にはこれはその裁判例や通達上の法的な労基法上の労働者性の解釈と一致するわけですが、実際には労災の場面における判断として、何らかの特徴があり得るということも想定され、そのことは必ずしも裁判例の分析からは出てこないように思えまして、併せてこの点にも少し目を配っておく必要もあるように思いました。
 これは、本日お示しいただいた資料の4で、先ほどの御説明では省略されたところですけれども、実務の方々に対するヒアリング事項の中にそういった視点も出てきているように思いますので、そこで併せて検討して、また裁判例に関する議論を補足することが有益になるのではないかと考えております。
 以上です。これからどうぞよろしくお願いいたします。
○岩村座長 ありがとうございました。
 それでは、川田構成員、よろしくお願いします。
○川田構成員 ありがとうございます。
 筑波大学の川田です。専門は労働法です。
 私からは、この研究会の検討課題はかなり幅広くあると考えられる中で、中心的な課題である労働者性の判断基準と並んで、あるいは一体のものとして、今回の資料の1の検討事項では3番目のところに出てくる判断の予見可能性を高めるための方策というのも重要なものとして目を向ける必要があるということを述べたいと思います。
 現在の労働者性の判断枠組みには、確かに判断の予見可能性が課題になる面があると思います。それで、予見可能性が低いということになると、それによって働く現場に混乱を生じさせるとか、あるいは労働者ではないと扱われているけれども、実は労働者として保護の対象になる立場にある働き手の人が、自分が労働者であると主張して保護を求めるということにちゅうちょしがちになってしまうというような問題もあり得ると思います。
 また、訴訟等の紛争解決の場面でも、判断の帰趨が読みにくいということから、事件の早期解決が難しくなるとか、あるいは何が決め手になるのかよく分からないので、主張できることは全部主張しておこうということで多くの主張がされて、それが事件を複雑化させてしまうなど、紛争解決のコストを高めてしまうというような面もあるように思っています。
 そこで、労働者性判断の予見可能性を高める方策が重要になってくると考えられるわけですが、これはこの検討会の中で少し先になるかもしれませんけれども、検討されていくことかと思いますが、今の段階で、私としてはまず、労働者性の判断基準を、判断の予見可能性を高めるということを意識したものにしていくというのは一つの方策になると思います。
 そのほかに幾つかあると思いますが、2つほど、今の時点で考えていることを述べたいと思います。
 1つは、行政機関が作成するガイドライン的な文書、今日も参考資料等で幾つか紹介されましたし、この研究会の報告もそういうものになる可能性がありますが、また、そういうものとは別にガイドラインをつくるということも考えられるかと思います。そうしたガイドラインの内容を、必要に応じて、判例裁判例の取りまとめを超えて具体的で分かりやすいものにしていくというのが一つの課題になり得るかと思っています。
 例えば、プラットフォームワーカーなどは、現時点で判例裁判例の蓄積はそれほど多くないと思います。こういうところについては、行政が司法に先行する形で考え方を示していくということも可能性としてはあり得るのではないか。あるいは、労働者性に関してはいわゆる誤分類という問題、労働者として扱われるべきものがそうなっていないとか、あるいはその逆という問題がありますが、例えばそういう誤分類をなくす、減らしていくというような政策的な考慮をガイドラインの中に読み込んでいくというようなことも予見可能性を高めることに資するものとして検討に値するかと思います。
 一方で、この点については、労働者性に関する法的判断を終局的に行うのは裁判所の役割であるので、行政機関でガイドラインをつくっていくというときには、その内容を裁判所に対しても十分な説得力を持つものにしていくということがポイントになると思います。
 それから、もう一つ挙げておきたい点として、労働者性をめぐる近年の国外の動きの中には推定という仕組みを用いて労働者性を判断する例、一定の要件の下で労働者性を推定し、その場合には相手方、働かせる側が反証に成功しなければ労働者性を認めるというような仕組みを取っている、あるいは検討している例が見られます。
 このように、労働者性の判断に推定の仕組みを取り入れるということは今、総合判断という形で行われていて、どこが結論、要求を聞いているのかというのが見えにくいという状況と比べると、労働者性の判断の流れが見えやすくなる、分かりやすくなるというような点などで予見可能性に資するところがあると思います。
 ただ、この点についても、留意点として、この推定の仕組みの導入というのは、予見可能性の向上だけでなく、むしろこちらのほうがより重要ではないかという点として、労働者と認められるものの範囲を変えていくものである可能性があるということで、そういうものであるということにも注意する必要があると思います。また、労働法規の違反が刑事罰の対象になるような場面で推定を使うと、有罪を推定するということになってしまいかねないということもありますので、そういう問題があり得るということを意識しつつ、日本の労働法制の下で労働者性判断に推定を用いる可能性、場面、使い方などを考えていく必要があるかと思っています。
 私からは以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
 それでは、島田構成員、よろしくお願いいたします。
○島田構成員 ありがとうございます。
 オンラインから失礼いたします。京都大学の島田でございます。労働法を専攻しております。
 昨年度、労働基準関係法制研究会に参加させていただきまして、今回引き続き労働者性の研究会に参加させていただけることになり、大変ありがたく思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
 私から、労基法上の労働者性の判断要素に関して、大きく4点ほど現在課題と感じていることがございます。
 まず1点、これは既に多くの方によって指摘されていますけれども、判断基準の不明確性です。現在、主に依拠されている昭和60年報告は、判断する人によってそれぞれの要素が操作可能なので不明確であるということです。これはメリットでもあって、かなり柔軟に判断ができるようになってきたということも言えるかとは思います。例えば、プラットフォームワーカーに関しても、諾否の自由をある程度操作することで、現在の判断基準においても労働者性を肯定することも可能というメリットもあるには思いますが、やはり不明確性があることで、当事者間で不意打ちとなるような状況になっているのではないかと思っております。
 2点目に、労働者性に関して統一的な判断要素を立てることが妥当なのかと感じていることがございます。労働者性が争われる職種のカテゴリーとしては、裁判例集にまとめていただきましたように様々なものがあるかと思います。伝統的な一人親方のように、裁量が比較的小さいようなもので請負との区別が問題になるものから、アーティスト、専門家のように代替性が低い、裁量が大きいもの、または経営者との区別が問題になるものや、研修医のように教育訓練との区別が問題になるものもあり、それぞれによって重視される事項というのは大きく変わってくるかと思います。
 例えば研修医ですと、その指示が細かいという点が問題というよりも、研修医の作業が使用者というか、病院によって利益になっている。利益の帰属先というものが問題になっているのであって、そういうふうにケースによって考慮要素がかなり変わってくる可能性があるかと思います。そういった中で、労働者性に関して統一的な判断要素を立てることが可能なのか、またはどの程度の意味があるのかという点について問題があるのではないかと感じております。
 また、3点目に、現在労働者性は、保護から漏れるものがないように、という視点で検討されることが多いのではないかと思うのですけれども、労働者と判断されることで、労働者にとってデメリットもあるのだということにも留意しておく必要があるのではないかと思います。労働者であると判断されてしまうと、その私的自治が制限される。つまり、労働者自身の意思も無視されてしまうということなので、人によってはそれがすごく足かせになるように感じる場合もあるかと思います。仮に労働者性のハードルを現在よりも低くするという方向で話を進めるのであれば、そのデメリットについても留意しておく必要があろうかと思います。
 また、その労働者性をパッケージで認めることが必要な人は誰なのか。場合によってはその一部分、例えば労災だけ認めて保護すべきだとか、最賃だけ認めるべきではないのかというケースもあり得るので、それはパッケージではなくて、その制度の問題として処理すべきところもあるかと思うので、その辺りも整理しておく必要があるかと思います。
 4点目に、労働者性の判断に関して、当事者の意思やその合意というものをどのように位置づけるかというのを改めて検討する必要があるのかなと感じております。もちろん強行法規の適用の問題ですので、当事者の意思というよりは客観的な状況を重視することが大切ということに異論はないのですけれども、現在の判断基準の不明確性も相まって、例えば業務委託の場合には労働者と誤解させないように、交通費とかの経費は一切出さないとか、かえってお互いにとって利益にならないような状況となっている可能性があるかもしれません。
 そういった中では、少なくともこの要件を満たせば当事者間の合意で労働者ではないというふうに明確にしてもいいというケースもあり得るのではないか。例えば、高度プロフェッショナル制度のような形で年収要件を入れるとか、少なくともここはもう安全な領域だというのをつくるというのも一つあり得るのかなと感じているところです。
 これからどうぞよろしくお願いいたします。
○岩村座長 島田構成員、ありがとうございました。
 続きまして、新屋敷構成員、どうぞよろしくお願いします。
○新屋敷構成員 ありがとうございます。九州大学の新屋敷です。どうぞよろしくお願いいたします。
 私の問題関心は大きく分けて2つございまして、1つは労働者性の判断基準と判断方法についてです。
 まず判断基準に関してなのですけれども、労働基準関係法制研究会でも指摘されているように、プラットフォームやAI、アルゴリズム管理といった指示形態をどのようにこれまでの労働者性の判断基準で見て捉えていくことができるのかという点が一つ、関心がございます。これまで示された内容でも十分対応できる可能性もあるとは思うのですけれども、実際に展開している技術の状況とか指示形態を、どのように捉えることができるのかということを、川田構成員からも御指摘がありましたけれども、今後予見可能性を高めるという意味でも、その対応関係についてどのように整理することができるのかという点が気になっております。
 そして、もう一つが判断方法の点です。これは実務の方のヒアリングにも関わってくるかと思いますけれども、契約書と事実認定との関係をどのようにするのかという点に関係します。もちろん今、島田構成員からも御指摘がありましたように、日本の労働法規制というのは強行法規制でありますし、労基法上の労働者性の判断は実態判断であるとされておりますが、実態判断をするのに事実認定が必要であるということは否定されないことかと思いますし、事務局のほうで御整理いただいた資料にも、事実認定の様子が記されているところかと思います。
 そして、もしこの事実認定において契約書に基づく判断をする、契約書をある程度重視していく、尊重していくとすれば、労働者性の判断が契約書の記載に左右されてしまうということになるように思っております。
 しかし、例えばエアースタジオ事件の東京高裁判決のように、それがいいか悪いかは措くとして、裁判官が当事者の契約書の意義もある程度相対的に捉えて、実態を見て判断するということも十分考えられるかと思います。どういうふうに契約書を尊重するのかというところで差が出てきてしまって、判断が分かりにくくなってしまうということが、事務局に御作成いただいた判例を少し見ただけでも、この点の判断にばらつきがあって分かりにくいものになっている、ということが理解できるように思います。
 例えば、業務遂行上の指示を単なる業務委託契約の業務の内容について当然に出てくる指示として理解するのか、そうではなくてやはり労働契約上の指揮命令として理解するのかといった点で判断、評価がばらけてきて、予測可能性が下がるといった問題があると考えております。
 また、この点に関連しまして、プラットフォームワークなどで、登録などをして労務の提供を開始する。このような場合に、登録の際の参照条項とか、そこでのアルゴリズムによる労務提供の形態の特定とか確定を、どういうふうに位置づけていけばよいのかということが気になっております。
 そもそもその登録ということ自体は、契約的な取決めをしたものとしては取り扱えない、法的には何の意味もないという可能性もございます。では、それをどういうふうに裁判所において判断するのかとか、行政実務においてどのように判断基準に組み入れていくというか、評価していくのかといった問題が出てくるのではないかと考えております。
 以上が、労働者性の判断基準と判断手法そのものについてです。他方で、先ほど小畑構成員のほうからも御指摘がありましたが、日本では建設アスベスト事件最高裁判決が出まして、安衛法の一部の規定について、労働者だけでなく、同じ場所で働く労働者でない者も保護する趣旨であるとの判断が示されたことを契機に、労働者のみならず、労働者と同じ場所で就業する個人事業者等による災害の防止を図るため、個人事業者等の安全衛生対策について対応が必要となっているというふうにされております。こちらは、令和7年の1月17日に示されております今後の労働安全衛生対策についての報告から抜粋したところでございます。
 もちろん、小畑構成員も御指摘のところで、これは労働者概念そのものについて扱った見直しではないのでございますが、既存の立法のこれまでの展開の中で、労基法上の労働者概念の位置づけについても、確認しておく必要があると私のほうでは理解しております。
 それから、先ほど島田構成員のほうから御指摘がございましたけれども、法規制の一部を合意等で適用しないということを考える必要があるのではないかということなのですが、その御指摘というのは、一方では恐らく労働者性そのものの範囲の問題ではあると思うのですけれども、他方で規制の内容自体がどういうふうになっているのか。一部の規制を適用しなくていいというふうにする構成もあり得ると思いますので、規制の内容と労働者性の権利主体との問題のつながりについても留意して検討していかなければならないと理解しているところでございます。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございました。
 それでは、竹内構成員、どうぞよろしくお願いいたします。
○竹内構成員 早稲田大学の竹内でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 労働法を専攻しており、これまで、労働組合法上の労働者性や、アメリカ法における労働者概念に関わる研究を一つの主要な研究領域としております。以下、幾つか申し上げさせていただきます。
 まず、第1点、本日の会議資料の1にもありますとおり、また、これまで御紹介されていますとおり、本研究会は労働基準関係法制研究会の報告書において、デジタルプラットフォームを通じて就労する者に代表されるように、労働者性ないしはその保護の在り方が問題となる就労者が種々見られる状況が進展する中で、これは引用ですけれども、「国際的な動向も視野に入れながら、……総合的な研究が必要」であるとの指摘がなされております。これは、当該報告書の12ページにございます。本研究会は、この指摘を踏まえて開催されていると理解しております。
 この指摘を含む労働基準関係法制研究会報告書の箇所では、現在、労基法等の適用において参照されている1985年の労基研報告について、同時期以降の事例及び裁判例並びに学説も踏まえながら、そこで示された判断基準等の内容について修正の要否を検討することも挙がっているのですが、それに限らず、労働者性の判断に係る要素の意義ないし判断における位置づけ、労働者性の推定規定などのような判断のプロセスの在り方等を含めまして、まさに総合的に検討すべきことが指摘されております。
 本日の会議資料として先ほど御紹介いただきましたとおり、1985年以降の裁判例のものが主要な分量を占める資料として出されておりまして、1985年の労基研報告の判断基準等の見直しが一つの焦点であるとはもちろん受け止めておりますけれども、私としては、本研究会が、当該1985年労基研報告の判断基準等の修正に限られず、労働法による保護の鍵となる概念であります労働者の概念につきまして、現在の労基法9条などが規定をしております定義規定は抽象的なものですので、規定そのものを見直すというのはともかくといたしまして、先ほど申し上げました、判断要素がそもそもどのような意義を持っているかや、これまでも先生方から御指摘がありましたけれども、そうした判断要素の意義について見直す必要がないのかということも含め、判断要素の位置づけの在り方、そして、推定規定など、判断プロセスの在り方等にもわたる、基礎的な研究と検討の作業を通じて、労働者性について広く今後の立法政策の礎となるような議論ができ、かつ、そうした今後に向けた本研究会としての考え方が、最終的に取りまとめられていくであろう報告書に、何らかの形で盛り込まれればと考えております。本研究会は、労働基準法を中心とする、いわゆる個別的労働関係法の領域における労働者概念の検討が基本的な領域、いわば外枠だとは思っておりますけれども、その中においては幅の広い検討がなされる場であってほしいと考えております。これが第1点目であります。
 もう少し具体的な事柄について、既にこれまで構成員の先生方が御指摘のところと重複するかもしれませんけれども、さらに申し上げます。
 今日、労働者性が問題となる、唯一ではないですけれども、代表的な就労形態は、デジタルプラットフォーム就労、あるいは日本の文脈でいいますと、より広くなっていきますが、フリーランスと呼ばれる就労と考えられます。こうした就労形態についての労働者性の在り方の考え方を本研究会として示すことは重要であると考えております。
 この点、フリーランスと広く言えば、一応関連する裁判例等はあるかと思いますけれども、デジタルプラットフォーム就労に関しては、少なくとも裁判例については、これまで公刊された形で知られたものはないように思われます。したがいまして、当然ながら、裁判例の分析により何らかの結論を十分に得るということは困難ですので、国際的な議論動向や学説等も踏まえて検討される必要があると考えております。これが第2点であります。
 第3点目として、先にも申し上げましたとおり、1985年の労基研報告の判断基準等の見直しが一つの焦点ではあろうと受け止めております。これに関連して、本日、資料3のリストが示されているものと考えられますが、この資料に示されております裁判例をどのように受け止めるかについては、一定の考慮を払いながら作業に当たる必要があると考えております。
 元の200件くらいある裁判例から50件をどう選んだかも、本来的にはこの検討会において検討すべきであろうと思いますし、さらに、選択されているものについても、理論的観点からは、適切に判断をしている裁判例なのか、その点について疑問を提起し得るものも含まれていると思います。
 そうした場合には、裁判例がこういう考え方を示しているからというものをいわば額面どおりに受け取って、それを単に整理するだけでは適切ではないように思います。とりわけ、下級審裁判例についてはそう言えるかと思います。
 その意味で、今後に向けた判断基準を裁判例の分析の中から考えていくという文脈においても、単純な裁判例の整理にはとどまらないということが非常に重要だと考えております。これが第3点目であります。
 第4点目として、これは正直やや思いつきのところがございますけれども、個別的労働関係法の領域に関わる労働者性というのは、基本的には共通しているところだと理解されているかと思います。そのこと自体には異議を必ずしも申し上げるものではないのですけれども、裁判例を分析していく中においては、労働基準法その他の行政監督が予定されている法律に関わる裁判例と、労働契約法に係る裁判例とで判断傾向に違いがないか、あるいはさらに言えば違いがなくてよいのか、あるべきなのかということも考慮していく必要があるのではないかと思います。
 また、ここまでも話に出ておりますけれども、行政監督が予定されている法律の中でも、例えば労災保険法に関わるものは、実務上の重要性なども考えますと、他の例えば労働基準法上の規定の適用が問題となった事例等とも、さらに一定の区別をして独自に検討をして、何か特徴があったりしないかといったことを分析する作業もあってよいのではないかと思っております。
 もう一つ、5点目として、これはやや印象に基づくことを申し上げるような形になりますけれども、労働基準法上の労働者性と、労働組合法上の労働者性に関して、後者がより広い概念であると一般的に理解されているかと思います。こうした表現の仕方は特にここでは異論を申し上げるものではないのですけれども、このことが、労働基準法上の労働者性は狭くてもよいというふうに理解されていいわけではないと思っております。本研究会の検討対象としては、労働組合法上の労働者性それ自体は対象外と理解しておりますけれども、本研究会で検討対象とする裁判例等の分析に当たりまして、労働組合法上の労働者性との関係も考慮しながら検討する際には、今申し上げたことも留意されていくのが望ましいのではないかと思っております。
 以上、労働者性につきまして、広く今後の立法政策の礎となる議論がなされるべきこと、デジタルプラットフォーム就労や日本でフリーランスと呼ばれる就労についての考え方が示されることが特に重要であるということ、そして単純な裁判例の整理ではなく、考察を経た上での判断基準への活用が目指されるべきこと、ほかにも申し上げましたが、特に、この3点について、1回目における私の意見として申し上げる次第です。
 長くなって恐縮です。ありがとうございました。
○岩村座長 ありがとうございました。
 それでは、水町構成員に御発言いただきたいと思います。よろしくお願いします。
○水町構成員 ありがとうございます。早稲田大学の水町です。
 これまで皆さんがおっしゃっていたこととの重なりをなるべく避けつつ、簡潔に4点だけお話ししておきたいと思います。
 1点目は、資料3-2を御覧ください。幾つかの基準がある中で、右側のところで「「労働者性」の判断を補強する要素」の「その他」というところと、さらには「未分類の要素」というものがありますが、これは中身を見てみるとさらにいろいろなものが入っていまして、「その他」の中にも実はすごく重要なものがどう評価されているかというものがあるので、これをもう少し具体的に書き下していただければと思います。
 2点目が、あまりこれまでの裁判例を絶対視したり過信したりしてはいけないよということを一言申し上げたいと思います。これまでの裁判例というのはいろいろありますが、目の前に昭和60年基準がある。それで、何でこの基準が労働者性の判断の中で立てられているのかを考えずに、ほぼこういう基準があるからというので機械的に当てはめをしていたり、さらにはこの3-2を見ていただくとある程度傾向が分かるのですが、結論が「○」になっているのは「○」「○」「○」、結論が「●」になっているのは「●」「●」「●」と並んでいるものが多くて、実は結論を先に決めて、結論を誘導するような目的論的解釈がなされているのではないかということも、これまで裁判例を見ても思うことです。
 そういう意味で、そういう機械的な解釈とか、目的論的な解釈が行われた中で取り上げられている基準を、その分析は相対的なものとか、ある意味ではそういう傾向があるなというところではいいと思いますが、この基準がこういうふうにこれまで積み上げられてきたからすごく偉いとか、そういう分析をするということについては、やや慎重にあったほうがいいと思います。
 実は、昭和60年基準の中に内在している問題が、これまでの過去の裁判例の中にそのまま内在しているということもあるので、この開催要綱の中にも書かれているように、判例にはいろいろ評釈もありますし、学説上、労働者性に関する議論はたくさんあるので、その学説の分析とか研究も踏まえて、裁判例をつぶさに見ていくことが大切かというのが2点目です。
 3点目は、この過去の裁判例で、竹内委員もおっしゃっていましたが、日本の新しいプラットフォームの働き方についての裁判例がほとんどない。それで、実際、欧米諸国と比べてみると、デジタル化が日本の働く現場ではかなり遅れているというのもありますが、日本というのはやはり裁判になるということが、裁判所利用率が非常に低いので、今、実際に現場で問題になっていることも、裁判で、例えば地裁、高裁、最高裁判決になるまでにはかなり時間がかかるし、実際にそこがほとんど見られていない中で、ではどこにヒントがあるかというと、竹内委員もおっしゃっていましたが、諸外国では最高裁判決がいっぱい出ている。
 プラットフォームワークの大きな特徴というのは、例えば人が直接そこで指揮命令をしているわけではなくて、アルゴリズムに従ってスマホを見ながら、人間はほぼアルゴリズムのソフトをつくるところにしか介在していないけれども、アルゴリズムの自動処理に従って働くというときに、では労働者概念でどうしたらいいかというと、例えばその中で人的従属性、人から指揮命令を受けているという要素はないけれども、経済的に組み込まれてそういう仕事をさせられているという、日本で言うと経済的従属性に近いような、例えば事業組織に組み入れられているとか、労働条件、就業条件が一方的に決められているとか、今の日本の労組法上の労働者概念で言われていて、労基法上の労働者概念に入っていないようなことが、諸外国で言われ始めるようになっていて、そういうちょっとダイナミックな動きというものが、日本の過去の判例を見るだけでは分からないので、そういう意味では、日本の判例を分析しつつ、並行して諸外国の新しい働き方に対してどういう分析とか、どういう判例が出ているのかというのも併せて見ていくことが大切なのではないかと思います。
 4点目はちょっと観点が違いますが、労基法などの適用範囲を確定する概念として、労働者概念と並んでもう一つ重要なのが事業概念、事業場概念。これが労働基準関係法制研究会報告書というものが今年の1月に公表された中で、労働者概念と並んで、事業概念については専門的な検討が必要だということが書かれている。
 それで、この研究会で、労働者概念と併せて、その事業概念についてもある程度、時間を取ってきちんとやるとすれば、それも含めて研究することが必要なのではないか。特にデジタル化との関係でいうと、事業、事業場の場所がない。今、事業場の場所、事業の場所で労基法等の適用範囲、適用対象を決めていますが、例えば今パソコンとか、あるいはクラウドの中にその事業があって、そのパソコンを例えば社長が港区のマンションに住んでいて、そこで事業をやって事業の法人登録をしていれば港区、東京都の法律が適用されるということでいいかもしれませんが、その法人登記が佐賀県でなされていた場合に、今だと佐賀県の最低賃金が適用されることになるのか。さらには、シンガポールとか上海で法人登記をクラウドでしている場合には、もう日本の労基法、最低賃金法等が適用されなくなってしまうのか。実際にそういう事案が世界的に起こっているので、そういうことについての研究も労働者概念と併せてやるということが、この前の研究会報告で課題として挙げられていた点なので、ぜひその点も併せて検討していただければと思います。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございました。
 大変いろいろな意見をいただきまして、今後この研究会でどれだけそれを反映できるかというのはなかなか時間的制約とか、いろいろあるので、考えさせていただきながら進めてまいりたいと思います。
 皆様の御意見をいただきましたので、座長があまりしゃべるのもどうかということもあり、また時間もあまりないということもあってですが、ちょっとだけ私の思うところをお話しさせていただきたいと思います。
 かなり皆様におっしゃっていただいたので、あまり私のしゃべることはないなと、最後にしゃべるのは常にそれが損なのですが、1つは何人かの方がおっしゃいましたけれども、我が国の場合は労基法上の労働者の概念というのと、もう一つは労組法上の労働者の概念というものが存在をしていて、実は沿革的には労組法上の労働者の概念のほうが先なのです。したがって、労基法上の労働者性の問題を議論するということになると、ある意味では変な言い方で、あまり言い方としてはよくないのですが、労基法上の労働者の領域と、それからの労組法上の労働者の領域の線引きというものを、もしかすると見直すということになる。そういう意味では、労組法上の労働者との関係というのをここで議論する必要はないとは思いますが、頭に置いておく必要があるだろうというのが1点目です。
 それから、2点目としては、これもまた何人かの方がおっしゃいましたけれども、やはり労基法上の労働者性という話になると、先ほどもちょっと申し上げましたが、労基法だけではなくて労働契約法とか、最低賃金法とか、労働安全衛生法とか、その他、同じ労働者概念を使っている各法律に影響を及ぼすというか、逆に言うと新たに、あなたは労基法上の労働者ですということにすると、そういった法律の適用がそのまま今、申し上げたようなその他の法律の適用も及んでくる。
 先ほど島田構成員がパッケージというふうにおっしゃいましたけれども、そういうことになる。そこの考え方を変えれば別ですが、変えるとなると相当大きな議論になるので、仮にそのままの議論でいくとすると、いわば島田委員のおっしゃるパッケージでの適用が及ぶということになる。それの中には、労基法もそうですけれども、罰則を持って強制するというものが入ってくるので、労基法上の労働者の概念をどうするかということは、結局のところ罰則をもって遵守を義務づける。そういった形で、保護を及ぼさなければいけない人たちというのはどういう人たちなのかということを考えるということなのかなと思っております。そうなると、なかなかこの労働者性の判断基準の議論というのは結構重いものだなと思っています。
 3番目は川田構成員がおっしゃったことと全く重なるのですが、やはり複雑な判断基準にすると透明性もなくなり、予見可能性も乏しくなり、かつ行政実務で使えないということになってしまいます。ですので、その点を考慮しながらその基準というものを考える必要がどうしてもあると考えています。
 最後は、今回仮に労働者性の判断基準というものの手直しをする。そのときに、その手直しの結果として労基法の世界、あるいはその労基法に関連する法令の世界に登場するアクター、主として事業主と労働者ということになるのですが、その人たちの行動がどう変わるかということも可能な範囲で考えておかないと、当初考えて予想していたのとは違う方向に物事が進んでいく可能性もあるので、そこのところもある程度可能な限りでは検討しておいたほうがいいのかなと思っております。
 さしあたり私のほうからは以上とさせていただきまして、ただいま各構成員からもいろいろ御意見等、コメントがありましたけれども、今回のこの資料の中では資料3の裁判例分析というものが重要なものとなっております。それで、今日はイメージとして事務局にお示しいただいたものと理解しておりますけれども、先ほど水町委員からも既に詳しい御意見をいただいていますが、例えば追加すべき裁判例とか、そういったものについて御意見があれば御発言いただければと思いますし、また、先ほどの各構成員の御発言についてさらに何かコメントしたいとか、他の構成員からコメントしたいというようなことがあれば同じく御発言いただきたいと思います。どなたからでも結構ですが、いかがでしょうか。
 では、竹内構成員、どうぞ。
○竹内構成員 ありがとうございます。
 今、座長から御示唆があったところに関連して言うと、令和7年に入って幾つか下級審裁判例ではございますけれども、注目される労働者性が争われている事例があると思いますので、そういうものは追加してよいのではないかと思います。それはここで何か具体的に申し上げるというよりは、後で適宜事務局後に申し上げればよろしいでしょうか。
○岩村座長 ただ、データベース上のものとなると、なかなかその後、公開されるかどうかとか、そういったことはよく分からないので、ちょっと時間がかかるかなという気はいたします。いずれにしろ、後で事務局のほうに御教示いただければと思います。
○竹内構成員 もう一点、資料3-2のエクセルの表を見ていると、数字がついています。それで、ちょっと事例と照らし合わせてみると、例えば「ファーストシンク事件」と初めにありまして、そこで「諾否の自由の有無」について「○4」となっていて、この「4」というのは何だろうと思って見ていたのですけれども、諾否の自由の評価につながるような事実関係が4点述べられているということで「○」が4つついているというのが、ワードのほうと照らし合わせてみると分かるのですが、その数字に意味があるかということはちょっと注意をする必要があるかと思いました。それは表の見方として思ったところなので申し上げさせていただきました。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
 そのほか、いかがでございましょうか。
 川田構成員、どうぞ。
○川田構成員 ありがとうございます。
 既に一巡目のところで出てきた御意見とまず重なるところがありますが、やはり何か定量的に分析するというのは難しいところがあるのかなということと、それから行われている判断についても評価がいろいろされているので、そこの受け止め方もあるだろうということがまずいえると思います。
 それを踏まえて、労働者性の判断においては、単純に考慮要素が並んでいるだけではなく、恐らく個々の事案で結論に対して重要な影響力を持った要素、事実があると思うので、その辺りは可能な限り、評価という視点を入れながら分析していく必要があるのかなというのが1つです。
 それからもう一つ申し上げたいのが、これも一巡目の御意見の中で、例えばデジタルプラットフォームみたいなものについては、裁判例の分析からはあまり適切な情報が得られないのではないかというように、そういう時代の動きの中で司法判断に反映されていない部分があるのは確かだと思いますが、一方でこれだけのタイムスパンの裁判例を見ると、現在の司法判断の中で時代の変化に対応してきている部分というものが読み取れるものはあると思うのです。
 その部分は、そういう分析をしっかり行うことが必要なのではないか。分析の視点として、そういうものがあるのではないかということを述べたいと思います。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
 芦野構成員、どうぞ。
○芦野構成員 民法はおそらく労働者を労働法の反対側から見ているのかなという気がしております。そのような観点からお願いがございます。先ほどの御発言でもあったとおり、労働法の諸規定の適用に関して、必ずしもメリットばかりではないという側面もあったりとか、あるいは労働者性を争って負けてしまうのが嫌なのでという形で、民法で問題となっているような諸事例でも、実態として見たら労働者だけれども、そこでは請負であったりとか、準委任であったりとかという形で解決しているものも見られます。
 そうなったときに、問題となっている事例が、なぜここでは労働者概念を持ってこないのかというのは、もし実務家の方とかに御意見をいただくことができればと思っております。そういう視点をいただけると私のほうでも、では脇を固めるような裁判例として、実は民法のほうでこのようなものもありますよと、もう少しお答えできるのではないかと思います。
 それと、プラットフォームなど、現在裁判例として出ていないもので外国法との比較が必要だろうというのは本当にそのとおりだと思います。ドイツなどはそれにも関連するのですが、近時は請負の濫用の問題が生じたことから、労働者概念を
民法に入れるべきではとの議論があり、2017年の改正で民法に労働者概念を入れたのです。
 もっとも、それも結局不十分だという指摘はあります。そそうすると、今日本で問題となっていることについて、外国ではこのようになっているということも重要であると思います。と同時に、やはり今、日本で問題となっていることについてもぜひ知りたいと思います。これは裁判例というよりは今後の進め方になってくるかと思うのですが、ぜひヒアリングの対象の中に実際にプラットフォームワーカーの人たちの集まり、団体であったりとか、あるいは最近では芸能従事者の問題も多いと思いますので、芸能従事者の団体で、今、労働者概念についてどう考えているのかということについても御意見をいただける機会があればと思います。そうすると、足りない裁判例、存在しない裁判例の補強にもなり得るのかなと思っております。
 よろしくお願いします。
○岩村座長 ありがとうございます。
 今いただいた御意見については、また事務局と相談させていただきたいと思います。
 ほかにいかがですか。
 では、水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 ありがとうございます。
 先ほどもちょっと申し上げたところなのですが、具体的な判断基準として1つは「その他」の中で、公租公課の負担、要は所得税とか、社会保険上、自営業者扱いしているかどうかというところが、学説上いろいろ問題提起されているので、それが具体的にこれまでの事案とか傾向としてどうなっているかということを、少し分かりやすく示していただきたいということと、先ほど岩村座長がおっしゃった労組法と労基法との関係でいうと、経済的従属性というのは、労組法では考慮されている事業組織への組み入れとか、労働条件の一方的決定というのが、労基法上の労働者概念では出てこないのですが、そういうものを例えば「その他」とか未分類の中で分析したものがあるのか、ないのかというところです。
 実は、この専属性の程度の、他者業務従事の制約というのは、ほかにお客さんを持ってはいけないよと、自営業者扱いしているのだけれども、うちの会社とだけやってくれ、ほかのお客さんと仲よくしては駄目と、名刺の交換とかしては駄目だとかというのも、経済的従属性として今プラットフォームビジネスの中では、例えばフランスの判例で考慮されたりしていますが、そこら辺をちょっと分析できればいいなということと、あとは日本の最近の裁判例の関係では、業務の性質上、当然そうなんだということが労働者性の中でどう考慮されているか。
 例えば、業務の性質上、時間と場所は決まってここでやるということだから、時間、場所の拘束は考慮しないよということになるのか、業務の性質上、当然であったとしても、時間と場所はそこでやれと言っているんだから、これは労働者性の中で考慮するのかというところが、なぜそうなるのかが分からないまま、60年報告書でも明確に言われていないまま、そこからちょっと判例、裁判例の中でもそういうものを挙げることもあるし、挙げないところもあって、これは実は今、最近の裁判例で、ややおかしな方向と言ったらあれですけれども、そういうことを強調して言うような裁判例も出てきているので、ここの表の中では明確に出てこないかもしれませんが、表自体を変えるということは必要ないかと思いますが、そういうところがかなり見えやすく出ているとか、こういうところを重視されている、重視されていないというところがあれば、別途記述していただいて、そういう傾向があるということが分かれば教えていただきたいと思います。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございました。
 よろしいでしょうか。
 そうしましたら、事務局におかれましては先ほどお話しいただいた御意見等も踏まえつつ、裁判例の分析を進めていただければと思います。
 次に、初めに事務局から方針のところで説明がありましたとおり、労働者性に関する検討につきましては現状の分析のために弁護士の方からお話を伺うヒアリングが重要であろうと思っております。なるべく早い時期にということで、次回にも可能であれば実施したほうがよいと考えているところであります。
 そこで、まず事務局から、現在想定しているヒアリングについての確認事項と、それから資料4についての御説明をいただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
○労働条件政策課長補佐 ありがとうございます。
 次回、第2回の研究会で労働者性に関する紛争実務に携わっている労働者側の弁護士と、使用者側の弁護士という形で、主に訴訟の場における現状や、その課題をお聞きする場を設けたいということで考えております。
 資料4を御覧ください。
 こちらが、事務局のほうで案としてまとめたものなのですけれども、読ませていただきます。
 労働者性に関する争点を含む訴訟・労働審判等において、昭和60年報告の内容は参考とされているか。
 昭和60年報告に沿った判断がなされているか。判断されていない事例があるとすれば、どのような判断基準で判断されている事例があるか。
 司法による労働者性判断で重視されている判断要素は何か。
 現場での労働実態と、契約上の働き方の内容のどちらが重視されている傾向にあるか。
 立証が難しい、司法における判断にばらつきがあるなど、対応に苦慮する要素はあるか。
 特に、労働者性の判断に関して課題が多いと考える業種・職種はあるか。
 労働基準監督署等の行政による労働者性の判断に、法曹専門家として課題を感じている点はあるか。
 使用者と就業者との紛争において、行政による労働者性判断と司法による労働者性判断に違いがあった事例はあるか。
 上記各点について、労働者性を争う具体的な個別的労働関係法によって様相が異なると考える部分はあるか。
 その他、労働者性判断において課題に感じている点など御所見を伺いたいというふうにまとめております。
 日々、訴訟実務に当たっておられます実務家の方の御意見は今後の議論においても非常に重要になると思いますので、確認事項についてもヒアリング事項についても今回御意見をいただければと思います。
○岩村座長 ありがとうございます。
 ただいま、資料4についての説明をいただいたところでありますけれども、特に確認しておきたいようなことがございましたら、あるいはその他、資料4に挙げている事項について御意見等があれば頂戴したいと思います。先ほど芦野構成員からは御意見をいただいたところでございますが、その他いかがでしょうか。
 竹内構成員、どうぞ。
○竹内構成員 ありがとうございます。
 いろいろと周到にヒアリングの事項について御用意いただきましてありがとうございます。
 その上で、少し付け足すという程度にとどまるかもしれませんけれども、2つか3つくらい申し上げさせていただきます。
 「(以下は具体的事例を念頭にお伺いしたい)」となっているところの項目で、「司法による労働者判断で重視されている判断要素は何か。」とありますけれども、特に1985年の労基研報告で重要と位置づけられている、また、近年の裁判例においても、よかれあしかれ重視されているのではないかと私は思っておりますけれども、諾否の自由、及び指揮監督。先ほど水町構成員からも話がございましたけれども、指揮監督に関してあらかじめ定型的な仕事として契約で示しているから別に指揮監督していないという判断もあるわけですが、特にこの諾否の自由と、指揮監督の2点については、判断要素として司法でどう位置づけられていると考えられるか、実務に携わる方々がその点をどう考えているかということを聞ければと思っております。
 関連してなのですけれども、諾否の自由や指揮監督の考慮要素について重視されているかどうかを聞くことはもちろん考えられるのですけれども、併せて、例えば、諾否の自由に関してどのような具体的な事実関係が重要になっているか、あるいは、当事者として、どのような具体的な事実関係がよく言及等をされているか、といった、要素に関連する事実として具体的にどのようなものが問題となっているかについても、当事者から知見をいただけるような問いがあればいいなと思っております。
 更に、その2つ下の「立証が難しい」という立証関連のところで、理論的に考えれば、現在の基本的な構造は、労働者であることを主張する側が労働者であることを肯定する事情を主張、立証することになっているかと思いますが、現にどのように立証作業をしているか、実務の現場、司法の現場で、双方の代理人などがどのように立証活動をしているかといった、現実の立証活動のありようについて問うことができればよいのではないかと思っております。
 4点目になってしまいますけれども、下から2つ目のところで「上記各点について、労働者性を争う具体的な個別的労働関係法……によって、様相が異なると考える部分はあるか。」ということですけれども、これにも関係しますし、既に先生方から御意見を出された中でもそのような意見があったかと思いますが、どういう紛争類型が問題となっているか、例えば、労災についてとか、あるいは労基法の中でも労基法のこの規定についてとか、最賃についてとか、どういった紛争との関係で労働者性が問題となっているかも、この質問に併せて問うことができれば、そして、それぞれの法の適用の関係で何か様相が違うのかといったことも、併せて聞ければと思っております。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
 最初の点は、あまりこちらから誘導したくないんです。つまり、ここはどうなんだというのを最初から立てるというのは避けたいと思います。ですので、多分お話をいただいた後に質疑の時間が持てると思いますので、そのときに御質問いただければと思います。その後の点については、また事務局と相談させていただければと思います。
 水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 下から4つ目のポツの「労働基準監督署等の行政による労働者性の判断に、法曹専門家として」ということですが、行政も例えば窓口に行ったときの窓口対応と、労災の申請をして認定を受けるというときの判断が恐らく違って、法曹専門家として、と言われる場合には、労災認定に携わっているということが前提なのか、あとは実際にフリーランス110番をやられている第二東京弁護士会でしたか。あそこに聞くと、窓口のこととか、いろいろな苦情を直接伺っている方がいらっしゃるので、誰に来てもらって話を聞くかというときには、そういう労災のフォーマルな労働者性の判断だけではなく、窓口でどれだけつらい思いをさせられているかということの実務も御存じの法曹専門家に話を聞けると、より具体的な課題が見つかるかと思います。
○岩村座長 そういう方が来ていただけるかどうか、時間の問題もあるので、またそれも事務局と相談させていただければと思います。
 それでは、新屋敷構成員、どうぞ。
○新屋敷構成員 ありがとうございます。
 もしかしたら先ほどの竹内構成員の御質問、御要望に重なってしまうかもしれないのですけれども、括弧の(以下は具体的事例を念頭にお伺いしたい)ということのポツの2番目なのですが、「現場での労働実態(労働態様)と、契約上の働き方の内容のどちらが重視される傾向にあるか。」というのが、そもそも弁護士の方がどういうふうにこの2つを分けて理解するのだろうかということの想像がつかなくて、どういうふうに御質問されることになるのか、御質問にもなっていないかもしれないのですけれども、この2つをどういうふうに切り分けて相手方にお伝えするのかがよく分からなかったので、教えていただければと思います。
○岩村座長 私の理解では、全部がそうだとは言いませんけれども、多くの場合、労働者サイドは、要するに労基法上の労働者だと主張する側は、労働実態がこうだから、だから労基法上の労働者だというふうに主張する傾向にあり、使用者側は、いや契約でこう定めていますよね、こういう契約条項になっているんだから、したがってこれは労基法上の労働者ではありませんよねという主張が最初に恐らくきて、その後、では契約上の条項と実態との乖離をどう理解するのかというところが、主たる想定になるというふうに理解しています。
 ですので、多分こう書けば両方の弁護士さんは分かるだろうと思って、これでいいのではないかというふうに私は申し上げたのです。
 川田構成員、どうぞ。
○川田構成員 ありがとうございます。
 この資料4は一番上のところに「訴訟・労働審判等において」と書いてあるので、ちょっと的外れな話になってしまうかもしれませんが、今までの話の流れの中で、弁護士の先生の話を聞くというのが現場の実態を把握するということであるとすると、訴訟等にならないケースについて聞くというのも考えられるかと思いました。
 例えば、労働者側の弁護士であれば、相談は受けるんだけれども、ちょっといろいろな事情があって訴訟とか労働審判まではいっていないようなケースにどのようなものがあるとか、あるいは使用者側の弁護士であれば、訴訟にはなっていないがこういうものについてはよく相談を受けますというようなものが何かあるのか、そういうことを聞くというのも考えられるかと思いました。
 以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。それも検討させていただければと思います。
 ほかにいかがでしょうか。
 よろしいでしょうか。
 それでは、今日いただいた御意見というものも検討しまして、次回の研究会において弁護士の方にヒアリングをお願いするということでよろしいでしょうか。
 ありがとうございます。では、事務局のほうで今日の意見を検討しつつ、調整のほうをよろしくお願いいたします。
 それでは、本日の議論はここまでとさせていただきたいと思います。皆様から労働基準法上の労働者性判断に関する御意見や裁判例の分析、そしてヒアリングなど、今後のこの研究会における作業の進め方に関しての御意見をいろいろ頂戴しました。事務局におかれましては、今日いただいた御意見も参照しつつ、各種資料の作成や裁判例の分析などを進めていただければと思います。ちょっと大変な作業なのですが、よろしくお願いを申し上げます。
 それでは、これをもちまして第1回「労働基準法における「労働者」に関する研究会」を終了させていただきます。構成員の皆様におかれましては、今日はお忙しい中、場合によっては遠方から御参加をいただきまして誠にありがとうございました。