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第2回労災保険制度の在り方に関する研究会 議事録
1.日時
令和7年2月4日(火) 14時00分~15時43分
2.場所
厚生労働省専用第14会議室(※一部オンライン)
(東京都千代田区霞ヶ関1-2-2 中央合同庁舎第5号館12階)
(東京都千代田区霞ヶ関1-2-2 中央合同庁舎第5号館12階)
3.出席委員
- 京都大学大学院人間・環境学研究科教授 小畑 史子
- 東京大学大学院法学政治学研究科教授 笠木 映里
- 明治大学法学部教授 小西 康之
- 同志社大学法学部教授 坂井 岳夫
- 法政大学経済学部教授 酒井 正
- 大阪大学大学院高等司法研究科准教授 地神 亮祐
- 名古屋大学大学院法学研究科教授 中野 妙子
- 亜細亜大学法学部教授 中益 陽子
- 大阪大学理事・副学長 水島 郁子
4.議題
労災保険制度の在り方について(給付関係等)
5.議事
- 発言内容
- ○小畑座長 定刻になりましたので、ただいまから「第2回労災保険制度の在り方に関する研究会」を開催いたします。委員の皆様方におかれましては、御多忙のところお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
本日の研究会につきましては、会場参加とオンライン参加の双方による開催方式とさせていただきます。笠木委員、小西委員、中野委員、水島委員、酒井委員がオンラインでの御出席です。また、笠木委員は15時までの御出席と伺っております。カメラ撮りにつきましてはここまでとさせていただきます。
それでは本日の議題に入りたいと思います。本日の議題は、「労災保険制度の在り方について(給付関係等)」となっていますところ、「遺族(補償)等年金」及び「災害補償請求権」及び「労災保険給付請求権の時効」について議論を深めてまいりたいと思います。まずは、前回の意見の確認と遺族等年金又は遺族(補償)等年金に係る資料について、事務局から御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 労災管理課企画班長です。資料1を御覧ください。資料1は、第1回の研究会で皆様から頂きました御意見に関して、「遺族(補償)等年金」それから「消滅時効」に関係するものを、事務局のほうで取りまとめているものです。遺族(補償)等給付の関係ですが、遺族(補償)等給付の趣旨・目的に関して、あるいはその給付の要件、さらには労働基準法の災害補償責任との関係などに関して御意見を頂いているものです。それから消滅時効の関係ですけれども、令和2年に労基法が改正された際の経緯も踏まえまして、災害補償責任の消滅時効の在り方等を踏まえて、労災保険給付の消滅時効についても検討すべきといった趣旨の御意見を頂いているところです。
資料2を御覧ください。遺族(補償)等年金に関してです。1ページは、委員の皆様から頂いた御意見を踏まえ、事務局で論点として想定される事項をまとめております。大きく4つありまして、論点①として、遺族(補償)等年金の趣旨・目的をどのように考えるのかです。論点②が給付の要件についてで、1つは生計維持要件について、それから夫と妻の支給要件の差についてです。論点③として、給付水準についてです。論点④は、労働基準法との関係についてです。
2ページは、遺族(補償)等給付の概要ですが、制度の目的、さらには支給対象者についてです。こちらでは、遺族(補償)等年金それから遺族(補償)等一時金について、それぞれ支給対象者の方について列記しております。また、3つ目の年金額ですが、遺族(補償)等年金の金額について、こちらは遺族の数に応じて変動してきますので、そちらの詳細を記載しております。
3ページは、遺族(補償)等年金の創設の経緯についてです。労災保険法の遺族補償給付については、労働基準法と労災保険法が制定された当初は同一の水準でした。しかしながら、昭和35年の法改正で労災保険法の中で保険給付に年金が一部導入された際の国会の附帯決議や、当時の国際的な動向も踏まえた上で、昭和40年の法改正により、遺族補償給付については原則年金化が図られているところです。その当時の逐条解説の記載について記載しておりますが、この当時、遺族(補償)等年金の趣旨を端的に表した説明として、一番下の下線太字部分ですが、新法、すなわち昭和40年改正法で、遺族補償の年金化が「補償を必要とする遺族に、補償を必要とする期間、必要な補償を行なう」ことを趣旨としていると記載してあります。
4ページ、論点①遺族(補償)等年金の趣旨・目的をどう考えるかです。遺族(補償)等給付の趣旨ですが、これは現行の逐条解説にも記載がありまして、労働者の業務上の死亡によってもたらされる被扶養利益の喪失を填補することを目的と述べております。ただ、これまでの制度が導入されてからの経緯を見ますと、下の参考部分ですが、制度立案当時の審議会に対する答申や、その後の国会審議の中での御議論、さらには昭和60年代の有識者の皆様にまとめていただいた研究会の報告の中で、若干、説明については変遷が見られるところです。
5ページ、論点②給付の要件(生計維持要件)についてです。労災保険法の第16条の2第1項の規定では、遺族補償年金の受給の際の要件として、被災労働者の死亡の当時、その収入によって生計を維持していたものと明記されております。この「生計を維持していた」ですが、その認定については厚生労働省労働基準局長が定める基準によって行うということが施行規則の中で規定されており、更にこの施行規則を受けた通知の中で具体的な基準が定められております。通知の内容については3つの○で抜粋しております。
6ページは、給付の要件のうち、夫と妻の要件の違いについてです。遺族(補償)等年金については、被災者の方が男性、つまり妻に当たる方が受給権者になる場合、特段の年齢要件は設けられておりません。一方で、女性が死亡された被災労働者の場合、夫に当たる方が受給権者となる場合、夫については、この奥様が亡くなられた当時55歳以上又は一定の障害の状態でなければ受給権が発生いたしません。この55歳以上について、受給自体は60歳以降から可能となっており、55歳から60歳までの期間については若年停止ということで、給付が猶予されることになっています。奥様については、満55歳以上又は一定の障害状態である場合、給付基礎日額について153日から175日に増額される特別加算が存在しますけれども、御遺族が夫である場合には、この特別加算はございません。
こうした遺族(補償)等年金の中で、夫と妻の支給要件の差異が設けられている考え方ですが、昭和40年の改正当時、男性の方は、60歳未満であって、かつ 健常の状態であれば、独力で生計を維持する能力があると判断されていたことが述べられています。また、こうした年齢の考え方については、当時の民間の定年制が念頭に置かれていたことがうかがえます。下半分のピクトグラムについては、今申しましたような支給要件の差異について図で表したものです。
7ページを御覧ください。論点③給付水準についてです。こちらは、昭和22年の労災保険法の制定以降、遺族(補償)等給付の給付水準がどのように変遷を遂げてきたかということについて、左から右に流れる形で表にしたものです。詳細な説明は省きますけれども、現行の遺族(補償)等給付の金額の算定方法について、8ページを御覧ください。現行の遺族(補償)等給付の算定方法は昭和55年の法改正時に採用されたもので、考え方としてはILO条約等も踏まえながら制定されているところですけれども、こちらは数式等の説明になりますので、詳細は省かせていただきます。
9ページ、論点③に関して特別加算についてです。特別加算に関しては、先ほど申しましたとおり、遺族(補償)等年金の受給権者である奥様が55歳以上又は一定の障害の状態にある場合に、生計を同じくする他の受給資格者がいないときには、具体例として18歳未満のお子さんがいない55歳以上の寡婦の方などを挙げていますが、給付基礎日額は通常の1人153日分ではなく22日分増額され、175日分が給付されることになっています。この特別加算の現行の水準は昭和55年の法改正により制定されたものですけれども、特別加算の制度自体は昭和45年に設けられたものです。この当時の創設の考え方についてはここに説明がありますが、端的に申しますと、高齢それから障害の状態にある寡婦の方については、就労の機会の確保がより困難の度を高めるということで、その特別な身分に着目をして、生活の安定に資するために特にこのような加算を行うことにしたという趣旨が述べられております。
10ページを御覧ください。労働基準法との関係についてです。経緯ですが、労災保険法と労基法の災害補償に関しては、制定当時、同一の水準でしたけれども、昭和40年改正で労災保険の遺族補償の大幅な年金化が行われているというところです。労基法と労災保険法の関係については、労基法の第84条に従前から規定があるところで、昭和40年の改正以前の労災保険法では、補償が行われたその価額の限度において、使用者についてはその災害補償に相当する給付を免れると規定されていたところですが、労災保険法において年金が導入されるといったことなども踏まえ、こちらについて、その関係性は若干変化しています。下の枠内ですが、直接的に労災保険法等により労基法の災害補償に相当する給付が行われる場合、使用者の災害補償責任を免除することとしたと規定されております。
11ページは、こうした労災保険法と労基法の災害補償との関係性を規定した労基法第84条第1項の考え方についてです。上のほうの太字下線部ですが、労災保険法の保険給付については、その一部が労働基準法の労災補償と内容が異なっているものの、それぞれ災害補償に相当するものとみなされていると位置付けられています。こうした考え方については、最高裁の判例の中でも認められているという経緯がありまして、下の○、若干古い判例ですが、いわゆる戸塚管工事件と言われるものです。こちらは、労災保険法の遺族補償一時金がまだ400日分である一方、労基法の災害補償による一時金が1,000日分という、差異があった時代に発生している事案ですけれども、この差額について御遺族が事業主に対して支払を求めたという事案です。こちらの事件について、最高裁の判決の中では、労災保険制度については労基法の災害補償責任と共通の基盤を有しているものの、並行して機能する独立の制度であるとした上で、労災保険法による補償が行われている場合、事業主についてはその災害補償義務を全て免れると解することが相当であると判示をしているというものです。
12ページは、労災保険法と労基法との関係についてそれぞれ条文ベースで見たときに、受給権者の順位と給付額についてどのような差異が生じてくるのかを、比較対照したものです。下の参考部分に、字が若干小さくて恐縮ですが、実際にどういったケースで労基法と労災保険法の差異が生じ得るかについて、2つほど事例を挙げております。
13ページ以降についてはデータ等の参考資料ですので、御議論の際に御参考、御活用いただきたいというところで資料を取りまとめております。特に御覧いただきたいものとしまして、24ページ以降は、遺族(補償)等給付に関して、支給状況について集計を行っているものです。多岐にわたりますので要点部分だけ簡単に御紹介いたします。
24ページの上の部分は、遺族(補償)等年金の受給権者を属性別に見ると、妻が全受給権者の約88%と大部分を占めているというものです。また、年齢別に見ると、70歳以上の受給権者が約75%を占めております。
25ページの上の枠ですが、遺族(補償)等年金の受給権者を年齢階級別に見ますと、80~84歳、80代前半で受給権者の頭数としてはピークを迎えていることが分かります。
26ページは、支給状況のうち、金額に着目したものです。遺族(補償)等年金の平均の受給額は約190万円となっています。妻が193万円と一番高いところですが、対して、夫が受給権者の場合が最も平均年金額が少なく110万円となっており、妻の場合と比べて80万円程度の差があるというものです。
28ページを御覧ください。こちらは、遺族(補償)等給付について、被災者の方が男性か女性かの点に着目をして集計をしております。2023年度の遺族(補償)等年金の支給決定がなされたものが2,200件余りですが、そのうち男性が被災した場合の支給決定件数は2,127件となっており、被災者については男性のほうが圧倒的に多い状況です。また、注5の部分ですが、小さくて恐縮ですけれども、2023年度、女性が被災者の場合で、遺族が一時金を受給している場合は、こちらの表で一番下の段の真ん中からやや右ですが、60件になっています。この60件に係る受給者の内訳を調査してみたところ、夫については2、子については41、父母については11、兄弟姉妹については6といった結果が出ているところです。
29ページ以降ですが、年金額の分布状況や給付基礎日額の分布状況をまとめております。
最後の33ページです。こちらは、社会保障審議会年金部会で昨年12月24日に提出した資料です。現在、遺族厚生年金についても、制度の見直しについて議論が進められているところです。この中で、遺族厚生年金に関しても、夫、妻に関して支給要件の差があるということで、こうした男女差について解消するという見直しの方向性が示されているところです。具体的には、40歳未満のお子さんのいない配偶者については、原則5年間の有期給付へと転換をしていくということが掲げられているところです。こちらについては御参考です。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、資料2の1ページにある論点に沿って、意見をお伺いできればと思います。この論点以外の御発言も構いません。御発言の際には、会場の委員におかれましては挙手を、オンラインから御参加の委員におかれましては、チャットのメッセージから発言希望と入力いただくか、挙手ボタンで御連絡いただくようお願いいたします。まずは、論点①の遺族(補償)等年金の趣旨・目的をどう考えるかについて、御意見はいかがですか。中益委員、お願いします。
○中益委員 中益です。前回も申し上げましたが、配偶者に関して、配偶者であるだけで当然に負うような抽象的な扶養義務関係ならともかく、具体的な生活に踏み入った扶養の在り方のみをベースに制度設計が検討されることは、労基法の遺族補償との関係で必ずしも適切ではないと考えております。前回と重複しますが、3点述べさせていただきます。
まず、1点目です。労災保険法は労働基準法の災害補償を基礎にしているわけです。これまでの制度設計に関する議論も、労働基準法の災害補償で不足であるという場合には、生活保障などを根拠に、労働基準法よりも充実した制度設計が志向されてきたところですが、労働基準法の災害補償よりも狭めることは基本的には目指されていなかったように思います。実際、この遺族補償と休業補償の初めの3日間以外には、労災保険法のほうが労働基準法よりも狭いものはないのではないかと考えております。
2点目です。前回も申し上げたように、労働基準法及びその施行規則からは、配偶者について、配偶者であること以外には何ら要件が付加されておりません。したがって、夫婦に関して、年齢や所得要件、障害状態、生活状態等、夫婦であること以上の要件を、どういう理由付けにせよ設ければ、労働基準法の遺族補償よりは当然狭くなるところです。
最後に3点目です。金額の点です。労働基準法上の遺族補償額は1,000日分ですが、これは、労災保険法の成立後の1948年に出された労働省の解釈によれば、労働者の死亡が永久的全部不能の最たるものとされており、そのために労働基準法の障害補償における障害等級の上位等級の額が参照されたと説明されております。この結果、1,000日分という額は、障害等級3級と4級の間の金額となっておりますが、これは、障害等級1級から3級については、このような重度の障害に関して介護の費用が掛かることが考慮されたからです。いずれにせよ、ここでの要点は、当時の労働省自体、遺族補償がカバーしようとしている損失は、遺族の生活能力によって左右されうる具体的な被扶養利益というよりは、まずは永久的全部労働不能による何らかの永続的な損失と考えていたであろうことがうかがわれるわけです。
よって、労働基準法から導かれる素直な制度設計としては、永続的損失なわけですから、長期給付が想定されそうですが、労働基準法の災害補償は、一事業主が行うものですから、余り過大な補償となるのは適当ではないとの考え方から、一時金なり、金額の設定なりが行われたとされているところです。一方、労災保険制度は、多数の事業主により災害発生のリスクを分散することから、そのような懸念を考慮する必要がないかと思います。
以上によれば、少なくとも立法論上の選択肢としては、労災保険法においては、遺族厚生年金などとは異なり、長期給付が検討されるのが素直かと思います。仮にそうでないとしても、具体的な生計維持などを考慮するのであれば、少なくとも労働基準法の遺族補償の上に構築されるべきかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、ほかの委員はいかがですか。坂井委員、お願いします。
○坂井委員 被扶養利益の喪失という概念については、今、中益委員から御指摘があったように、確かに遺族(補償)等年金でこの概念を使うと、労基法との関係の整理が難しくなるというのは、なるほどと思ってお話を伺っていたのですが、他方で、正に遺族(補償)等年金の給付の趣旨・目的としては、被扶養利益の喪失の填補だというのは、今なお、有用な概念なのかと考えております。
そもそも労災補償の責任というのは、一般的には損害の填補と考えられているわけですが、被災労働者本人ではなくて遺族に対する補償となった場合には、その被災労働者について生じた損害を常に遺族に対して補償していくのだと。特に年金という極めて充実した形で補償しているのだということになると、それはそれで補償の範囲が非常に広範過ぎてしまう、労災補償制度が目的としている被災労働者や遺族の生活の安定、福祉の確保というところを超えるような、広範な遺族への補償という状況も出てき得るのかと思います。その点、被扶養利益の喪失というのは、損害を少し概念的に狭めたような関係にあると思いますが、その損害の中の1つの要素である被扶養利益の喪失という形で、損害の填補と整合性のある形の概念を持ってきて、その上で、遺族の中でも特に被扶養利益を失って補償の必要が高い人たちに対して、充実した年金の給付を行っていくのだというのは、今の合理的な考え方かと考えております。
その上で、被扶養利益の喪失を填補するという趣旨・目的から、制度設計に関してどんな視点や視座が出てくるのかということになってくると思います。1つは、被扶養利益の喪失の填補ということになると、現行の年齢要件、障害要件によって受給資格を絞っていくという発想や考え方というのは、被扶養利益の喪失の填補のところからすると、やや異質なのかなという印象を持っております。年齢、障害要件というのは、特に経済的自立が難しい人たちを確定して、そこに補償という考え方ですが、これはどちらかと言いますと、公的年金、年金保険、国民年金、厚生年金といったところで、ニーズがあるから補償を行うのだという発想に近いのかなと思います。もちろん、様々な観点から適切な補償の範囲を確定していく必要がありますので、この1点をもって、年齢、障害要件が妥当でない、不要だという話にはならないわけですが、被扶養利益の喪失の填補という趣旨・目的との関係では、別途説明が必要な確定基準なのかなという気がしております。
他方で、現行の制度に表われていませんが、被扶養利益の喪失の填補だと制度の趣旨・目的を置く場合には、例えば法律上の扶養義務で言ったら、夫婦間や親と小さな子供の間に関しての扶養義務と、それ以外の親族間の扶養義務では内容が異なってくるという説明がされているところです。あるいは、扶養に関する法律論ではなくて、社会通念、一般的な観念との関係でも、やはり、親族間の扶養というのは、夫婦の間、あるいは親と小さな子供の間で、特に密接な扶養の関係があるのだという考え方というのは、一般的かなと思います。そうしますと、被扶養利益の喪失の填補と言ったときには、特に夫婦間の被災労働者から見たら配偶者や小さな子供、現行法で言ったら高校卒業前の子供について、特に充実した補償を意図するという考え方にも結び付き得るかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかにいかがですか。水島委員、お願いします。
○水島委員 遺族補償年金の目的が、被扶養利益の喪失を補填するという基本的な考えは、私も現在においても妥当すると考えます。
もっとも被扶養として想定された社会実態は大きく変化していると思います。年金化がされた時代は、夫が正社員として働き、妻が専業主婦であり、妻や子が夫に扶養されているという世帯が標準でした。世帯の生活は夫の就労に完全に依存していたと言えます。それが、昭和63年8月の研究会の検討で指摘されているように、社会保険において、女子を扶養家族から独立させ、女子の年金権を確立させるといったように、社会保険制度における扶養の考えが変容し、離婚の増加の状況も指摘されています。女性は結婚前は親に扶養され、結婚後は死ぬまで夫に扶養されるといった状況が変化していることが分かります。さらに、最近では、共働き家庭が増加し、夫の就労に完全に依存しているわけではない世帯が多数となっていると考えます。なお、障害を有している者の社会参加や就労が進んでいますが、女性の就労に比べれば、障害者についての実態の変化は小さいと考えます。
被扶養利益の喪失の填補を図ることの妥当性は認められるとしても、被扶養の意味、実態が相当程度変化していることを踏まえた検討が必要であると考えます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかはいかがですか。意見は出そろったという形でしょうか。今、複数の方向性の御意見があったかと思います。中益委員のほうからは、配偶者であるだけではなくて、扶養の在り方を問うているということについて、労基法との関係が不適切ではないかという御発言がありました。他方、坂井委員、水島委員からは、被扶養利益の喪失の填補については、現在でも妥当はするという方向での御発言だったかと思います。それ以外の委員からは、まだお話は出てきていないと思いますので、こちらのような委員の御意見、複数の方向性があるということを踏まえて、事務局のほうでも御意見の整理を頂けたらと思います。何か補足の御意見等はありますか。よろしいですか。事務局のほうでは大丈夫ですか。ありがとうございます。
続きまして、論点②の給付の要件について御意見を伺えればと思います。皆様、いかがですか。中野委員、お願いします。
○中野委員 先ほどの論点①とうまく切り分けられなくて、どちらで発言をしたらいいのか悩んでいたのですが、資料の2ページで御説明を頂いたように、現行法における遺族(補償)等給付は、労働者の死亡による被扶養利益の喪失の補填を目的とすると説明され、このことが、周知のとおり、地方公務員災害補償制度に関する最高裁判決の合憲判断の基礎となっております。しかし、この目的が、配偶者を亡くした場合に、妻は単独で生計を維持することが困難であるとして、遺族のうち妻についてのみ年齢要件を設けないことの合理性の根拠とされる一方で、実務における生計維持関係の認定は緩やかで、夫婦が共稼ぎをしていた場合も生計維持が認められ、かつ、年金保険と異なり、遺族側の年収の上限もありません。
資料の5ページ、昭和41年の通達では、遺族の生活水準が一般人のそれより著しく上回る場合を除くとありますが、具体的な基準はないものと理解をしております。誤っていたら事務局のほうから修正をしていただければと思います。ですので、生計維持関係の認定基準は、夫を亡くした妻が独力で生計を維持できないことまでは要求していないということになります。つまり、最高裁判決が考える被扶養利益の喪失の程度と、現在の生計維持関係の認定の実務の基準が念頭に置いている被扶養利益の喪失の程度には、ずれがあるのではないかと感じます。実務が念頭に置いている程度の被扶養利益の喪失は、妻を亡くした夫にも十分認められ得るものと思われます。
また、給付の期間のほうに関わるのですが、資料の3ページにあるように、被扶養利益の喪失状態が続く限り補償を続けるという考えから、遺族補償年金では支給期間に定めを設けていないとのことですが、同じページに、補償を必要とする期間、必要な補償を行うとの説明があります。労働者を失った遺族、特に今問題とされている夫を亡くした妻が、その後、永続的に補償を必要とするのかということを考える必要があるのではないかと思います。労働者を亡くした子の場合は、18歳になると、その年度末、すなわち高校を卒業したら、性別を問わず、就労可能となったとみなされ、遺族補償年金の受給資格を失います。このことと比較すれば、妻も労働者が死亡した後の生活に次第に順応し、就労して自立をしていくということが考えられます。
方向性としては、本日の資料の最後にありますが、厚生年金保険における改革と同様に、遺族補償給付は、労働者を亡くした後の生活水準の急激な低下を緩和し、その後の就労による自立までの期間を支えるものとして、有期給付化していくことが望ましいのではないかと考えています。ただし、もちろん未成年の子がいる場合には、フルタイムで就労することが難しいとか、子供が成人するのを待ってから、あるいは、中高年で夫を亡くしてから初めて就職先を探すという場合には、就労が難しいということも予想されますので、制度設計に当たっては配慮が必要なのかなと考えています。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それではほかの委員からいかがですか。笠木委員、お願いします。
○笠木委員 笠木です。私からは2点申し上げたいのですが、1点目は、今の中野委員からの発言と、事前に相談したわけではないのですが、ほぼ同じような趣旨になってしまい、繰り返しも含めて恐縮ですが、発言させていただきます。
1点目として、給付要件のところで、夫と妻の給付要件が異なることをどう考えるべきかという点については、既に他の委員からも発言がありましたように、性別による異なる要件というのは解消する方向で議論をするということで検討していくべきではないかと考えております。また、制度の見直しに当たっては、本日、資料2で最後に御紹介いただきました遺族厚生年金について、現に具体的な改正案について法改正に向けた作業が進んでいるということですので、遺族厚生年金との制度趣旨の違いについてどう考えるかということも、1つ大きな手掛かりになってくるように思いました。これが1点目です。
2点目は、以上を踏まえて論点①に戻りつつということになるのですが、男女差をどのように解消するかを考える上で、遺族補償年金の制度趣旨をどう捉えるかということが、やはり議論の核になってくるのではないかと考えております。そして、この点については、先ほどの中野委員の御発言と同じように、生計維持要件についてどう考えるかということと同時に考えていく必要があるかと考えております。また、この点について検討するにあたり、生計維持要件に関わるこれまでの運用実態について、制度趣旨に関するこれまでの理解と関連付けつつ、今日の時点でどのような立場を取るのかということを整理する必要があるように考えております。
すなわち、これまでの運用によれば、遺族補償年金について生計維持要件はかなり緩やかに解釈をされていて、遺族厚生年金についても余り厳格ではないとされてきましたが、それともまた違う次元の緩やかさで、運用されてきたと理解しております。この私の理解が正しければですが、これまで少なくとも定着してきた実務上の解釈、運用について、今日においてどのように位置付けて、これについてどういった態度を取るかということを明確にした上で議論していくことが有益ではないかと思いました。
もう既に議論で出ておりますように、被扶養利益の喪失と一言で言っても、いろいろな被扶養利益の捉え方があると思いますが、これまでの非常に緩やかな生計維持基準の運用を基に、この制度はこれまでどういったものと解釈されてきたのだろうかと考えますと、民法上の扶養義務に基づいて、かなり抽象的、理論的に被扶養利益が喪失された、と理解されていたかのようにも見えるわけです。他方で、生活保障を必要とする遺族に必要な補償を行う制度として遺族補償の趣旨が説明されていることもしばしばであり、給付要件について夫と妻の要件が違うということについては、むしろ、実質的な扶養の必要性やその遺族にとっての生活への打撃というものが制度の一義的な趣旨であるかのような説明も同時にされてきたわけです。ある意味では、これまでの制度が、運用も含めて全体として見ますと、整合的ではなかったようにも思えるところがあります。
もしかすると、制度ができた当時は、女性である、あるいは高齢であれば基本的にはもう生計維持されていると考えられるので、そこの所得の水準などをチェックすることは必要ないというような考え方だったかもしれませんが、いずれにしましてもこの部分については、なぜこのような運用が行われてきたのか、遺族厚生年金とも異なる考え方が意識的にとられてきたのであれば、この点がどのように説明されてきたのかということを、知りたいと考えております。もし事務局でお分かりでしたら教えていただきたいですし、自分なりに調べてみたいとも考えておりました。ちょっと横からの議論になるかもしれませんが、そういった運用が過去のある時点で制度趣旨にかなったものと考えられたとか、あるいは、何らかの技術的理由あるいは実質的理由で容認されてきたというのであれば、それはなぜだったのかというところから、制度の趣旨・目的について少し突っ込んだ議論をする手掛かりが得られないかということを私としては考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。今、笠木委員のほうから御指摘がありました、運用が非常に緩やかに行われてきたといったことについての不整合の理由、それは一体なぜなのかについて、事務局の中で何か今すぐ出せるような御説明や資料をお持ちでしたら御指摘いただければと思いますが、いかがですか。また少し時間を置いてということになりますか。
○労災管理課長 御指摘ありがとうございます。我々で今そこの評価ができる材料を持ち合わせておりませんので、今の現状で、我々ができるものはこれから準備できればさせていただきたいと思いますが、むしろ先生方におかれて、笠木先生や中野先生から頂いた評価も評価だと思いますし、そういったものも含めて、現状の我々の運用について評価なども頂ければ幸いかと思います。
○小畑座長 どうもありがとうございます。お願いします。
○大臣官房審議官(労災、賃金担当) 審議官の田中です。確かに被扶養利益の喪失の填補を行うということと、今の通達の内容というのが、一見しますと少しずれているのではないかというのは、我々事務方も初めて見ますと、えっと思うところはあります。歴史的に、被扶養利益の喪失の填補というのは、確かにある時点から言い始めていたのですが、昭和40年に法改正をしたときの議事録などを見ますと、あまり使っていなくて、要するに逸失利益の填補ですよと。単にそれで、当時としては、それは被扶養利益の喪失の填補というのと多分イコールですし、誰も疑わなかったのだろうと思います。
ということで、それで今まで走ってきたのですが、例えば交通事故で労働者の方が亡くなったときに、損害賠償と同じような考え方で、喪失の填補ですよと、逸失利益の填補ですというふうに考えていくと、被扶養利益の喪失の填補とイコールだったのが、だんだん時代の変遷に応じてずれていったのではないかと考えられます。そういうこともあって、だんだん通達の運用が、ある意味、現代化していったのではないかと推測されるところです。
ということですので、もし見直すとしたら、被扶養利益の喪失の填補というのは、我々もコンメンタール上などでは使っていますが、もう少しこの内容を明らかにしていく必要があるのではないかと。あるいは、使わないようにするということもあり得るのかもしれませんが、そういう必要はあるのではないかと推察をしております。以上です。
○小畑座長 どうもありがとうございました。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 今の説明からもありましたように、損害賠償等との関係も、やはり考えざるを得ないのではないかと思います。労働基準法や労災保険法が無過失責任を取った1つの目的は、災害がいずれかの主体の過失によって発生した場合に、複雑な生産工程のなかにあって一労働者ないし遺族がその過失を立証することがきわめて困難であることから、訴訟などを起こさずに、迅速に遺族なり労働者なりに補償を行うというところにあるわけです。結果的には金額の問題かと思いますが、例えば有期給付などにすることによって額が相対的に縮まって、損害賠償との差が大きくなれば、当然その差を埋めるべく、遺族なり労働者なりが過失の立証の負担を負うことになります。そうした事態は、無過失責任を採用した労働基準法や労災保険法のめざすところではないと思いますので、やはりその辺りも考慮した上で、制度設計を考えるべきかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。お二方からお手が挙がっておりますが、最初に酒井委員からお願いいたします。
○酒井委員 私は経済学を専門とする者なので、法律間の整合性に関しては、全くコメントできないのですけれども、今の議論を伺っていて、別の角度からコメントをさせていただきたいと思います。一応大きな問題意識としては、創設時とは社会実態がいろいろと異なってきているということにあるかと思います。特に今、議論になっている生計維持要件に関して、その是非をめぐってということだと思うのですが、事務局から御提示いただいている参考データというのは、量的にはかなり多いのだと思うのですけれども、生計維持要件の是非をめぐって議論するエビデンスとしては、若干心もとないかなという気がしております。
これは別に批判というわけではないのですが、例えば6ページでは、生計維持要件の男女格差ということに関して、当時、男性のほうは独力で生計維持ができるので、年齢制限が設けられているというような説明だったかと思うのです。そうすると、もしこの是非を議論するのであれば、現在では妻のほうも独力で生計を維持し得るようになっているとか、逆に現在では夫のほうも独力で生計を維持できないこが多いといったようなエビデンスが必要かと考えます。ですので、そういったエビデンスがあるのかないのか。あったならば、こういうことが言えるといった話ができるかと思うのですが、参考データの説明の要点のみだったので、もしかしたらそういったことも含まれているのかもしれませんけれども、少しエビデンスが足りないのかなという印象を持っております。
更に言うと、一般論として被扶養利益の喪失がかつてと変わってきているということを議論するのも重要ですけれども、同時に、労災という事象に照らして、被扶養利益の喪失も議論する必要があるのではないかという気がします。というのは、データを見ると、労災の発生という事象が必ずしも労働者にあまねく均等に生じているわけではないと考えています。特定の業種や特定の社会経済状態にある人に労災が生じやすくなっているということを考えると、被扶養利益の喪失ということに関しても、場合によっては偏りがあるかもしれない。そういった事実を踏まえた上でのエビデンスが必要かと思っております。このエビデンスがすぐに用意できるものとは思っておりませんけれども、大きな議論としては、そういうことも必要ではないかと感じたので述べさせていただきます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。水島委員、お待たせいたしました。お願いいたします。
○水島委員 ここまでの皆様の御意見、御発言に対する感想のようなものになります。まず1つ目として、中野委員や笠木委員からも御指摘がありましたように、運用面で不整合に思われる点が課題と考えます。その際、法制度の本来の目的から考えるのか、運用をベースに考えるのか、になると思うのですが、先ほど笠木委員から、どうしてこうなったのかを知りたいという御意見がありましたけれども、私も同じです。なぜこのような取扱いになったか、その時々の政治的・政策的な理由なのか、法制度の趣旨・目的あるいは法理念から妥当であるという検討が行われたのか。もし行われていないのであれば、今改めて検討が必要ではないかと思います。
それから、被扶養利益に関して、逸失利益との関係、違いというお話が先ほどありました。私自身は、逸失利益は損害賠償的な用語であって、被扶養利益を前面に押し出すことで、労災保険の社会保障法的性格を意図的に強めようとされていたのかと思っておりました。なので、これは変えられないと思い、本日の1つ目の発言で、被扶養利益の喪失の填補という目的は妥当であると申し上げました。ここから議論ができるのであれば、労災補償の目的や労災補償給付の意義から、法的性格を改めて議論をさせていただければと思います。
最後に、先ほどの酒井委員の御発言に少し関係するところです。6ページの参考で、「昭和40年の改正当時、男は60歳未満であれば障害等の場合を除き、独力で生計を維持しうると判断された」とあります。当時の判断として適切だったと思いますが、本日データでお示しいただいた14ページ以下の就業率の推移等を見ると、男性と全く同じではないけれども、女性も60歳未満であれば独力で生計を維持できる状況にあると思いました。少なくとも、これほど就業率が男女で近づいている中で、社会保障給付で要件に差を設ける合理性は、ほぼ失われていると言ってよいと思います。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかの委員はいかがでしょうか。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 地神です。今までのお話でも、おおむね真っ当なところは尽きているかと思うのですけれども、あえて技術面を無視して申し上げます。私が以前、JILPTの調査でアメリカを調べたときに、遺族補償についても少しだけ調べたところです。アメリカにおける遺族補償の仕組みについては、一般に生計維持要件を設けるわけではないけれども、実際にどれぐらい扶養を夫婦間なりで行っていたかどうかに応じて、いわば額というか週数を変える、給付内容を変える仕組みをとっている所が多いことが分かりました。
そこから派生して考えられることは、今回の年齢要件に男女差があることなどの問題について、結局、要件を1つ課すということは、そのハードルを超えなければ一時金にすぎない、超えれば年金になるという非常に大きな差、大きなギャップが生ずる、これが要件ではないかと思います。その要件の設定自体について、社会事実を見ながら考えていくというのはもちろんそうですけれども、まず一旦、要件というところを置いてしまうことが妥当なのかを、本質的に問うてもいいのかなと。その場合、要件自体は比較的緩めにしておいて、その上で実際に死亡当時行われていた扶養の内容を、どれぐらい具体的にやれるかは技術面になりますが、そこを見ながら、週数なり給付基礎日額などの調整によって、いわば実際に失われたもの、先ほど逸失利益という話もありましたけれども、それに対応した給付というのも、あり得る選択肢ではないかと思っております。
そうすると、数字的には比較的公正な仕組みになるような気はいたしますが、御承知のとおり、そのような給付額の差というものを個別に見ていくということになりますと、技術的には極めてコストが掛かることではあろうと思っております。例えば段階的にするということで、ある程度解決は可能だと思いますが、その辺りは、具体的な扶養の内容をチェックすることが、ある程度、技術的に可能であれば、そういう要件というところに必ずしもこだわらず、給付内容という点で妥当性を測るという方向性もありそうな気がいたします。これは、現行法の内容やこれまでの議論に比べると、かなり異質なものと言わざるを得ませんので、真っ向から取り扱うべきものかというと、自分としても疑問はなくはないのですけれども、選択肢としては少しありかと思っております。少し突拍子もない話ですが、以上とさせていただきます。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかの委員はいかがでしょうか。坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 今、いろいろなお話を伺っていると、被扶養利益の喪失の填補と言っても、確かにいろいろな捉え方の幅があるなと感じて、お話を伺っておりました。それを踏まえて、特に労災保険の特殊性を踏まえて、損害の填補、被扶養利益の喪失の填補というときには、やはり社会保障一般では、ニーズを確認して議論を組み立てていく、所得補償のニーズがあるから、それに対してどう手当てをしていくかというように議論を組み立てていく。それに対して、労災保険の場合はニーズではなく、少なくとも話の核にあるのは損害です。これまで入ってきたお金が、被災労働者の死亡によって入ってこなくなってしまったという損害、その落差に注目して議論を組み立てているというところが労災保険の特徴ではないかと理解しておりました。
先ほど、論点②の1個目と2個目について意見が出ていました。そういった視点で見ると、私はむしろ、論点①と論点②について、現行の取扱いにはそれなりの理由があるのではないかと感じております。例えば、生計維持要件に関しては非常に緩やかです。典型的には共働きの場合がこれに当たります。確かに、被災労働者の収入によって生計を維持していたというような条文の文言との間では、違和感のある取扱いかもしれません。しかし、夫婦で一生懸命働いて、お財布にお金を入れて暮らしていたけれども、一方が不幸にも亡くなってしまい、入ってこなくなってしまったお金の穴埋めをするということになったら、やはりそこには明らかに損害があるわけですし、これを「被扶養利益」と呼んでもいいだろうと思います。そういう意味では、比較的緩やかに生計維持関係の認定をするというのも、損害の穴埋めという観点からは説明可能ではないかと。
あるいは、夫と妻の要件の差というか、特に現行法での妻に関しては、受給権が発生したら基本的に無期での年金支給が続くということに関しても、先ほどちょっと触れたような法律上の扶養義務にしても、一般的な扶養の観念にしても、夫婦であれば、他方配偶者との経済的な結び付きというのは、お互いが引退するまで続くものだということが前提になっています。ですから、それが失われてしまったら、他方配偶者の収入というのは、他方配偶者の死亡がなければ、相手方が引退年齢に達するまで続いたであろうと考えられるわけですから、それが失われたらその落差分を穴埋めするという形で、説明、理解することも可能ではないかと考えております。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。今、まず確かなこととしては、夫と妻が違う取扱いになっていることについては、やはり解消を考えていくべきではないかという方向が強いというように、皆さんおっしゃっているのではないかと考えております。その点はいかがでしょうか。大丈夫でしょうか。
それに加えて、非常に重要な点として、これまでの被扶養利益の喪失の填補ということを所与のものと考えるかどうかという点については、委員の先生方におかれましては、そう考えるという出発点を捉える方と、出発点として必ずしもそれを前提としないということも考え得るのではないかというお立場と、両方があったかと思います。それについては、今議論をしていくと、やはりこの点をより深めていくと。そして、議論をした上で、ほかの物事へと派及していく、影響があることでもありますので、その点については、一旦、より深い議論をしていくことが必要ではないかと思った次第です。そういった認識でよろしいでしょうか。ありがとうございます。非常に重要な点かと思いますので、この点については、もう少し深掘りをしていくことが必要かと思われます。
さて、エビデンスのお話などもありましたが、事務局におかれましては、それについての対応など、また御検討いただけるかと思いますが、それでよろしいですか。ありがとうございます。
それでは、続いてその次に進んでいきたいと思います。今までの論点と重なるような御発言になっても全く構いませんので、その次の項目について、御意見がありましたらよろしくお願いいたします。いかがでしょうか。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益です。私から申し上げるのは、余り本質的なところではないのですけれども、メリット制との関係です。メリット制は、災害の発生の予防の効果を狙って設けられた側面があるわけですが、これからの改正によって、労働者の死亡に対する給付が、例えば障害よりもかなり短期化されるとか、低額化するなどによって、総額が下がりますと、障害のほうが死亡よりメリット制に大きな影響を及ぼすことになると考えております。ただし、現在の制度でも、遺族がいないなどの場合においては、労働者の死亡の場合に給付が支給されず、メリット制との関係でどうなのかという問題は出てこようかと思います。この点は、メリット制の議論の段階で御勘案いただければと思っております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。生計維持要件のお話から、次に金額の考え方などに移っていっております。論点③について、どのような角度からでも構いませんので、御発言を頂けたらと思います。先ほどの論点②の生計維持要件のお話と、かなり絡まってしまっておりますので、御意見などはなかなか出しにくいところかと思いますが、特別加算などの資料を提供いただき、データなどもお示しいただいたところです。御意見はありませんか。先ほどの御意見の延長で、こちらの方向に行くかなというところもあるかと思いますが、先ほどの議論の行方を確定しないまま御発言するのは難しいということかもしれません。創設当時の考え方などもお示しいただいておりますので。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 ちょっと不勉強で恐縮ですが、特別加算が創設されてから、この特別加算はこれまでずっと同じように行われているという理解でよろしいのでしょうか。
○小畑座長 御質問なので、事務局からお答えをお願いいたします。
○労災管理課長 事務局です。御指摘のとおり、創設当時から特別加算をやっております。
○水島委員 ありがとうございます。まず1つは、25ページで受給権者の年齢を見て驚いたのですが、受給権者の高齢化が進んでいる中で、こうした特別加算が、制度に過度な負担になっているのではないかといった素朴な疑問があります。その一方で、特別加算創設の昭和45年当時と、長生きをする年齢、平均寿命がかなり変わっていると思うのです。それを考慮することなく全く変えないままでいいのかどうかと。積極的に変更する必要はなかったと推測しますが、そうは言っても、50年の間の変化を考慮しなくてよいのか。特別加算によって当初想定されたニーズをカバーできるのか、もし可能であれば考えてみたいと思います。以上です。
○小畑座長 どうもありがとうございました。ほかの委員はいかがでしょうか。これについては、水島委員の御発言のみということでよろしいですか。ありがとうございます。
それでは、最後に論点④の労働基準法との関係です。こちらも先ほどからお話が出ておりますが、改めて御発言がありましたらお願いいたします。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 これも最初の①と関わる部分かと思います。恐らく多くの労災保険について見てきた人というのは、労働基準法よりも労災保険法のほうが下回るということが、原則としてあるべきではないというのが、一般的理解ではないかと思います。12ページにあるように、遺族の範囲が異なることにより、場合によっては労働基準法よりも労災保険法のほうが保護の範囲が狭まる可能性があるという点ですけれども、実際にこの根拠規定を見ますと、労災保険法自体は法律であり、労働基準法はあくまでも要件としては遺族という定めがあるのみであり、その具体的な内容、例えば配偶者(事実婚を含む。)と広く認めている内容は、あくまで施行規則によるものです。
この辺りは調べてお答えいただく必要があるかと思うのですけれども、この差を検討する際に、施行規則のほうが当初から変わっていないというか、特段ここで問題が生じていないからこのままにしてあって、特に労災保険法との整合性を確保していないという程度で差が付いているのであれば、むしろ施行規則のほうを検討する、あるいは、むしろ労働基準法における遺族の範囲の解釈について検討していくほうが、あり得る選択肢かというように考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかの委員はいかがでしょうか。労基法に関しても、もう既にかなりの意見が出尽くしているという感かと思うのですが、改めてという方がいらっしゃればと思います。よろしいでしょうか。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 ほかの回で議論ができるのかもしれませんし、平成27年に最高裁判決が出ているので、議論をする必要もないのかもしれませんが、労災保険給付を受ける労働者と労働基準法第81条の打切補償との関係を、もしこの研究会で議論あるいは整理ができるのであればと思い、意見として述べさせていただきます。
○小畑座長 どうもありがとうございます。ほかに改めての御意見は、もうなさそうでしょうか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。非常に充実した議論になり、大変意義深いかと思っております。
続いて、お話を次項のほうへ移させていただきたいと思います。よろしいですか。それでは、資料3について事務局から御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 資料3について、御説明を申し上げます。資料3を御覧ください。
資料3の1ページです。災害補償請求権及び労災保険の保険給付請求権に関する消滅時効について、論点案を記載しております。現在、消滅時効については、労基法の災害補償請求権及び労災保険法の休業補償給付等について、2年となっているところですけれども、これを見直すための立法事実があるのかという点について、論点として挙げております。
2ページです。労基法と労災保険法における消滅時効についてです。労基法における災害補償請求権については、行使できるときから2年間で消滅するといったことが、労基法第115条で規定されております。また、労災保険法上の給付請求権についてですけれども、行使できるときから、短期給付については2年間、長期給付については5年間で消滅すると規定されております。ここで言う短期給付、長期給付ですけれども、休業補償給付、介護補償給付といったものが短期給付でありまして、遺族補償給付、障害補償給付については長期給付と位置付けられています。また、3つ目のポツですけれども、ここで言う「行使できるとき」というのは、権利を行使するのに法律上の障害がなくなったときといったことを指しております。いわゆる客観的起算点という考え方を採用しております。
4つ目のポツですけれども、災害補償請求については労働者等が事業主に対して直接行うもので、行政が本来介在するものではありませんので、その件数等は必ずしも明らかではないところです。しかし、今日、労災保険法が災害補償の大部分の機能を果たしているところですので、今日においては、休業最初の3日間、いわゆる待期期間の補償等を除いて、災害補償請求権の役割というものは限定的になっているものと考えております。
3ページです。こちらは、今申し上げた労基法と労災保険法の関係と消滅時効期間について、図で表したものです。御参考です。
4ページです。労災保険給付(短期給付)における時効の起算点です。消滅時効が2年となっております短期給付のうち、休業(補償)等給付、療養の費用、介護(補償)等給付、葬祭料等の時効起算点に関しては、こちらの説明のとおりです。基本的には、行使できる日の翌日から時効が進行するというものです。
若干の説明を加えると、療養の費用の部分は少し取扱いが特殊で、本来は療養に関しては現物給付ですけれども、費用について事後的に支給する場合、当初は労災による負傷であるといったことが認識されないまま、健康保険等を利用されてしまうケースが中にはあります。この場合、注書にありますけれども、健康保険等からの切替えの場合、保険者から返還通知(納入告知)がなされるまで、請求人は保険者への返還義務、すなわち具体的な返金額を含んでおりますけれども、こういったものを知り得ないという状況ですので、保険者から費用の返還通知(納入告知)があったときを、当該費用の支出が具体的に確定した日、すなわち権利が行使できる日と捉えているというものです。こうした起算点の考え方について、下に色が付いておりますけれども、フローで表しています。御参考です。
5ページです。災害補償請求権、保険請求権に関する、これまでの経緯です。平成29年に民法の改正が行われて、このとき、一般債権の消滅時効の期間統一や、いわゆる短期消滅時効の廃止といったものが行われております。これに伴いまして、令和2年に労基法が改正されて、賃金請求権の消滅時効について、従前2年であったものを5年間とするなどの見直しが行われております。この5年間については、当面の間は3年とされております。この改正は既に令和2年4月に施行されております。
一方で、災害補償請求権の消滅時効期間についてですけれども、現行の2年間といったものが維持されております。この2年間が維持された考え方についてですけれども、この当時の労働政策審議会の建議の中に記載されております。早期に事実認定を行うことの必要性や、早期に補償が行われることで被災者の方の社会復帰が可能になるといったことなどについて、説明がなされているというものです。
6ページです。この令和2年の労基法改正の際、改正法の附則では、施行5年を経過した際に検討を行うという検討規定が付されております。また、法案審議の際には、労災保険法上の給付請求権と併せて、消滅時効期間について検討するといったことが、衆参ともに附帯決議がなされています。また、6ページの下半分から7ページにかけてです。国会審議の中において、特に精神疾患を発症されている被災労働者の方が念頭に置かれたケースとして、こういったメンタルヘルスに問題を抱えている被災者の方が、実際にそうした請求を起こすまでに時間が掛かってしまって、結果的にそのような機会を逃すおそれがあるのではないかと、そういった趣旨の御指摘を幾つか国会の中で頂いているところです。
8ページです。こちらは参考です。労災保険給付に係る時効期間徒過理由に関してです。上の枠内ですが、労基法の改正法が施行されて以降、令和2年度~5年度における労災保険の不支給決定のうち、実際に時効期間を徒過して支給に至らなかった件数がどの程度あるのか、短期給付について集計を行っています。下の枠内ですが、実際に時効期間を徒過した理由について、こちらについては復命書等から具体的な事情が分かるもののみですけれども、分析を行っているところです。これを見ると、請求人の制度に対する不理解や誤解、あるいは、手続の失念といったほか、事業主の方が手続を忘れてしまった場合。それから、⑥ですが、これは第三者行為災害の場合ですけれども、保険会社等との調整に時間を要して、結果的に請求が遅れたといったことが、複数挙げられています。また、その他の所では、個別的な事情ですけれども、逮捕後勾留されていた、あとは、先ほど申し上げました健康保険との関係で切替えの際に手間取ってしまった、そのような事例が見受けられるところです。
下の○ですけれども、葬祭料について理由が把握できたものは1件のみでして、請求人の方の制度の不知・誤解に相当するものであると考えられています。最後の○です。こちらは、受け付けた事案を受け付けた日から見ていった場合に、仮に3年目まで、4年目まで、5年目までに請求がなされていればどうなっていたかという点についてですけれども、やはり75%、90%近く、90%以上と、形式的には請求期間に間に合うものが増えていくといったことが見てとれます。私からの説明は以上でございます。
○小畑座長 どうもありがとうございました。それでは、資料3の1ページの論点に沿いまして、御意見をお伺いできればと思います。いかがでしょうか。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 御説明ありがとうございました。消滅時効2年自体は、先ほども言及いたしました2020年の私が参加しましたJILPTの調査におきましては、フランス、アメリカ辺りが2年、ドイツが4年という調査がされておりまして、それに比べて特に短いというわけではないようです。その点、事故性の災害について考えますと、2年を超えて3年、4年と遅らせる理由はさほどない。なぜなら、それが業務上であることなどが明らかなケースが多いと思いますので、それをいたずらに引き延ばす理由というのはないと理解できます。
他方で、今見たような国際比較で言いますと、例えばアメリカなどにおきましては、日本と比べて、正に頂いた資料の6、7ページの質疑などで指摘されているような、いわゆるメンタル疾患、長期にわたるようなものへの補償というものが、余り想定されていません。そのような意味で、近年指摘されている、この2年では短いのではないかという点について、単純に国際比較で済む問題ではないというところは指摘することができます。このように、事故性のものと、それからメンタル疾患など長期にわたるもの、請求手続をすること自体が心理的負荷になり得る、このような特徴を持つ疾患というものを考えたときには、そのバランスという点では、一般にこの消滅時効を単純に延ばせばよいという問題ではないようにも思います。
むしろ、資料の2ページにおける理解にありますように、権利行使に事実上の障害があることというのは、「行使できるとき」には影響しないという考え方について、やはり例外を設けるというのが一つの考え方、方向性ではないかと思います。すなわち、特別の事情がある場合ですとか、正当な理由がある場合の期間などについては、この責任を問わないという可能性、こういう可能性を用意しつつ、実際の実務的な対応については、更に検討を深めていく。これがまず一つの方向性ではないかなと考えております。
もう1つ挙げますと、8ページに参考として挙げていただいておりますように、制度の不知・誤解、手続の失念などというケースがあり、また事業主の手続漏れなどによって期間を徒過してしまうというようなことが、事実として出てきております。この点においては、この労災保険の仕組みにおいても、ほかの社会保障制度で近年見られるような相談援助の仕組みを、いかに用意していくかということも検討されてよいのではないかと思います。
ただ、ここに事業主による相談援助というものを期待するのは難しいかもしれません。すなわち、今、事業主としては、特に脳・心臓疾患や精神疾患に係る労災申請について、よく思わない、あるいは、損害賠償請求を恐れて、むしろ協力しないというような可能性も高いところでして、そこに余り過度な期待を掛けずに、何らかの方法を、現在、具体的な案があるわけではないのが大変申し訳ないのですが、検討の対象としてもよいのではないかと。これは時効に直接関係する話ではありませんが、現在の問題状況からして一つ挙げさせていただきたいところでございます。以上です。
○小畑座長 どうもありがとうございました。ほかの委員はいかがでしょうか。小西委員、お願いいたします。
○小西委員 小西です。御説明ありがとうございました。御用意していただきました資料の3ページの所で、消滅時効の期間についての整理をしていただいています。労働基準法と労災保険法の短期給付については、行使できるときから2年、労災保険法の長期給付については、行使できるときから5年間ということが書かれていて、この長期給付については、矢印の下の所で、「労働者や遺族の長期的な生活保障の目的があることから、消滅時効期間は5年とされている」と。こんな形で、現在、制度設計されているのかなと思います。
5ページの所で、改正の経緯と労働政策審議会の建議で考え方というのが青い所で書かれているのかと思います。まず、青い所の第1段落目の所ですが、早期に確定させる要請があるということが書いてあって、その点については、災害補償請求権の消滅時効期間については2年ということの理由というか、考え方ということなのかなと思います。そんな形で、早期に権利を確定させるということは、労働者救済においては重要なところではありますけれども、例えば、長期給付の場合には労災保険法においてということですけれども、5年とされているところとの関係をどう考えるのかというところが、少し気になったというところでございます。
5ページの青い所の2段落目の所ですが、早期に請求することで、労災事故を踏まえた安全衛生措置を早期に講ずることを促すとか、あとは、職場復帰が迅速になることが見込まれるということが書かれています。確かに、早期に請求することで、こういうことが見込まれることではあるのですが、時効という仕組みだけにこういう機能を持たせるというよりも、時効以外の仕組みでも対応させることができるのかなとも思います。労働安全衛生の場面などでは、労災とは切り離すというか、労働安全衛生対策として、それを早期に実施するということも考えられますし、あとは、時効の問題と先ほども話があったかと思いますけれども、こういう労災保険制度の周知を図ることで、早期の請求を促すということも併せて考えていくことはできるのかなと、現在のところの感想ですけれども、感じたという次第です。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、ほかの委員はいかがでしょうか。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益でございます。原則2年となっている理由については、ごもっともと思うところがございますが、例えば、疾病などに関しまして、危険因子にばく露してから、かなり時間がたってから発病するようなものもあります。そうしたものは、そもそもその当時の業務起因性を立証するのが非常に難しいという事情もありますので、今回、もしこのままになるとしても、引き続き御検討いただけるとよろしいかなと思っております。
もう一点、資料の一番最後のページに、時効期間が徒過したケースのデータがございます。しかし、例えば労災保険法第12条の5第1項のように、退職後も保険給付を請求できるような仕組みを知らず、請求もなさらないで、このデータに表れずに水面下に潜っているものもかなりあるかもしれません。そのため、制度の分かりやすい周知を厚労省にはお願いできればと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。中野委員、お待たせいたしました。お願いいたします。
○中野委員 ありがとうございます。少し中益委員の御発言と考えが重複するところがあると思うのですけれども、資料の6ページから7ページの国会での議論を見ますと、主に精神障害を発症した労働者について、2年の消滅時効が保険給付請求の障害になるとの指摘がなされているようですが、遅発性で、かつ業務起因性の認定が難しい疾患としては、これまでも、例えば石綿に起因する疾病などがあったと思います。すみません、これは意見というよりは事務局に対する質問になるかもしれませんけれども、例えば石綿の場合、仕事を辞めて何年もたってから病気が発症する、しかも、それが肺がんなどで私傷病との区別が難しいようなものが発症するということがあると思うのですけれども、消滅時効について、何か問題になってこなかったのかというのが1点です。
また、資料の8ページで、時効を徒過してしまった件数や、その理由について調査をしていただいておりますが、介護補償給付について、不支給決定に占める消滅時効を徒過したものの割合が特に多いという点が気になりました。これは何か理由があるのでしょうか。
また、理由が判明している件数が少ないということもあるかと思うのですが、国会審議で指摘されているような、本人の疾患が妨げとなって消滅時効を徒過してしまったという事例が、どの程度あるかということは、こちらの8ページの資料からは分からないと思いました。なお、先ほど地神委員からも御指摘がありましたが、特に休業補償給付では事業主の手続漏れが理由として多く挙げられており、これは時効の長短にかかわらず、あってはならないことであって、時効を延ばせばよいという問題ではないだろうと思います。
最後に、ほかの社会保険制度と比較すると、健康保険などの短期給付の消滅時効は2年間で、年金保険などの長期給付は5年間なので、その点では、労災保険も足並みはそろっていると思います。ただ、労災保険においては、療養補償給付などの短期給付を受けるためにも労働者側の特別な手続が必要である、つまり、健康保険の場合は、医療機関に行って保険証を見せれば保険給付が自動的に受けられますが、労災保険の場合には請求手続が必要だという点は、考慮してもよいのかもしれないなとは思いました。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。石綿のお話、介護補償給付のお話、それらの御質問に対して、もし事務局のほうでお答えがあればと思いますが、いかがでしょうか。
○補償課長 補償課長の児屋野でございます。最初におっしゃっていただいた、ばく露から長期にわたって疾病が発症するという石綿のことが念頭に出てきますが、疾病を発症して、療養を受けてから2年ということでして、今であっても、長期のものについても、その2年間で受け付けた後に10年、20年遡ったところの原因を調査しております。
介護補償給付のお話がありましたが、資料の8ページにありますように、率が少し高いということで、下の表を御覧いただくと、その率が多い中でも、手続を失念していたということが多い。介護補償給付については、実は障害補償給付の支給決定があってはじめてその支給要件が出てくる、障害補償給付の等級によるものでして、実はそういうところもあって、請求人の方が障害補償給付を請求した後にやらなければいけないところを失念していたと、その率が高いというデータが出ておりますので、手続の失念というのがそういうところであるのかなと。
もう1つは、障害補償給付の請求そのものは5年である。しかしながら、介護補償給付は2年であると。そういったところも若干影響してきているのかなというの感じはしております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。お願いいたします。
○労災管理課長 今の説明に補足しますと、石綿に関しましては、労災をもらえるということを知らずにお亡くなりになってしまったということもあります。これには石綿救済法という別の法律のスキームがありまして、時効を過ぎた方に対しても、一定の給付金を支給するという仕組みを設けることで対処していることは申し添えたいと思います。
○小畑座長 ありがとうございました。中野委員、これでよろしいでしょうか。ありがとうございます。
それでは、ほかの委員はいかがでしょうか。坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 この時効に関しましては、民法における時効制度の改正に当たって、人身損害に関する時効期間について特則が設けられたところです。そこでの議論でも、趣旨の1つとして、人身損害に関しては、その被害者の側で時効完成を阻止することが難しい場合がある、それに対する救済の趣旨も、その特則には含まれているのだという話もありましたので、人身損害をめぐる賠償補償制度全体との関係でも、やはりこの点の配慮というのは大事になってきているのかなと感じております。
その先の提案に関しては、複数の委員の先生から御指摘があったところで、全く重なるところですので、簡潔に済ませたいと思います。ただ、労災保険の特殊性を考慮すると、そういった時効完成を阻止するのが難しいから配慮が必要だというところが、時効期間の延長に直結しない、ほかにもいろいろな対応の仕方があります。既に御指摘があったとおり、広報等の対応が大事だというのは、私も全く同じように考えております。資料の6枚目、7枚目で示されている精神疾患に関する懸念ですとか、8枚目の調査で明らかにしていただいた時効期間徒過の理由などに即して、具体的な情報に即して、広報・周知のルート経路などを考えていくというのは有効ではないかと考えております。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 すみません、私が不勉強なので、これはちょっと伺ってみたいことにすぎないのですが、例えば、業務上の災害によって意識不明になって、3年ぐらいずっとその状態が続いていたと、そのような場合であっても、やはり、時効に掛かってしまうという取扱いになっているのでしょうか。それとプラスして、そのような場合に、代理人などによる請求というのは可能でしょうか。その辺りが、もしかしたら論点とつながってくるかもしれないので、現時点で分かることがあれば教えていただきたいのですが。
○小畑座長 お分かりでしたらお願いいたします。
○補償課長 お答えします。御本人様が意識不明になっているというときでも、やはり明らかに労働災害がある場合には、その原因を調べるのはまた別の部署なのですが、やっているとします。そのときに、事業主に請求の干渉というか、御本人は意識不明ですけれども、それは出すような形でということで、本人の意思は意識不明なのあれですが、そこはそういう手続も取りつつ、時効になったり請求がなくなったりしないような形で指導はしているところです。
○地神委員 ありがとうございます。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかはありませんか。今まで御意見を拝聴いたしまして、やはり建議の考え方に書かれていることというのは、必ずしも時効だけで機能させていくことでもないようなものがいろいろ含まれているのではないかという御指摘、それから、やはりメンタル問題をはじめ、現在のままでは不具合があるということから、手当てが必要という考えということで、まとめさせていただけるのかと思いますが、そのような方向でよろしいでしょうか。ありがとうございます。
それでは、もしこれ以外に御発言等がないようでしたら、事務局のほうにお返しして、今後についてなど、お話を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 次回の日程に関しましては、皆様と調整の上、また追ってお知らせしたいと思います。以上です。
○小畑座長 どうもありがとうございました。これにて、第2回労災保険制度の在り方に関する研究会を終了いたします。本日はお忙しい中、皆様、お集まりいただきまして、どうもありがとうございました。