第1回労災保険制度の在り方に関する研究会 議事録

1.日時

令和6年12月24日(火) 17時00分~18時27分

2.場所

AP虎ノ門 ルームA(※一部オンライン)
(東京都港区西新橋1-6-15NS虎ノ門ビル11階)

3.出席委員

  • 京都大学大学院人間・環境学研究科教授 小畑 史子
  • 東京大学大学院法学政治学研究科教授 笠木 映里
  • 明治大学法学部教授  小西 康之
  • 同志社大学法学部教授 坂井 岳夫
  • 法政大学経済学部教授 酒井 正
  • 大阪大学大学院高等司法研究科准教授 地神 亮祐
  • 名古屋大学大学院法学研究科教授 中野 妙子
  • 亜細亜大学法学部教授 中益 陽子
  • 大阪大学理事・副学長 水島 郁子

4.議題

労災保険制度に係るフリーディスカッション

5.議事

発言内容
○労災管理課長 定刻となりましたが、今、法政大学の酒井先生がこちらに向かわれているのですが、電車の遅延で遅れて来られるということなので、先に議事は進めさせていただきます。
 ただいまから「第1回労災保険制度の在り方に関する研究会」を開催いたします。委員の皆様方におかれましては、御多忙のところ、お集まりいただきまして誠にありがとうございます。本研究会の進行につきまして、座長が選出されるまでの間、議事進行を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。本日の研究会につきましては、会場参加とオンライン参加の双方による開催方式とさせていただいております。
 続きまして、御出席いただいております委員の皆様を御紹介いたします。五十音順で御紹介いたします。
 まず、京都大学大学院人間・環境学研究科教授の小畑史子様です。
○小畑委員 よろしくお願いします。
○労災管理課長 続きまして、東京大学大学院法学政治学研究科教授の笠木映里様です。
○笠木委員 よろしくお願いいたします。
○労災管理課長 続きまして、明治大学法学部教授の小西康之様です。オンラインでの御参加です。
○小西委員 小西です。よろしくお願いいたします。
○労災管理課長 それから、今、こちらに向かっておられますが、法政大学経済学部教授の酒井正様になります。続きまして、大阪大学大学院高等司法研究科准教授の地神亮佑様です。オンラインでの御参加です。
○地神委員 地神です。よろしくお願いいたします。
○労災管理課長 すみません。大変失礼しました。同志社大学法学部教授の坂井岳夫様です。
○坂井委員 よろしくお願いします。
○労災管理課長 失礼しました。続きまして、名古屋大学大学院法学研究科教授の中野妙子様です。オンラインでの御参加です。
○中野委員 よろしくお願いします。
○労災管理課長 続きまして、亜細亜大学法学部教授の中益陽子様です。オンラインでの御参加です。
○中益委員 中益です。よろしくお願いいたします。
○労災管理課長 大阪大学理事・副学長の水島郁子様です。
○水島委員 よろしくお願いします。
○労災管理課長 それでは、本研究会の開催に当たりまして、労働基準局長の岸本より御挨拶申し上げます。
○労働基準局長 労働基準局長の岸本でございます。本日は、皆様、年末の御多忙の折、本研究会にお集まりいただきまして誠にありがとうございます。御案内のとおり、労災保険制度は業務上の災害発生に際し、事業主の訴訟負担の緩和を図り、労働者に対する迅速かつ公正な保護を確保するために昭和22年に制定されました。
 その後、近年は平成12年改正による二次健康診断等給付の創設、平成17年改正による複数就業者の増加等を踏まえた通勤災害保護制度の拡充、船員保険の被保険者を適用対象とする平成19年改正、令和2年改正による複数業務要因災害に関する保険給付の創設など、それぞれの時期における社会的ニーズに対応した改正を重ねてまいりました。
 一方、女性の労働参加の進展、更なる就労形態の多様化など、労災保険制度を取り巻く環境は常に変化を続けております。こうした状況を踏まえ、今回は労災保険制度の現代的課題を包括的に検討したく、本研究会の参集をお願いした次第でございます。
 本研究会におきましては、委員の先生方からの忌憚のない御意見、精力的な御意見を賜れればと思っております。本研究会で、皆様から様々な御意見を頂き、これを将来的な労災保険制度の在り方に生かしてまいりたいと考えております。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
○労災管理課長 続きまして、本研究会の座長の選出についてですが、事前に委員の皆様に御相談をさせていただいておりましたが、小畑先生にお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか。
(異議なし)
○労災管理課長 ありがとうございます。皆様の御賛同を頂きましたので、小畑先生に座長をお願いしたいと思います。
○小畑座長 京都大学の小畑でございます。大変重要な研究会と存じております。皆様のお力添えを賜りながら、なんとかお役目を果たしていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
○労災管理課長 ありがとうございました。今、お越しになられましたが、もう一人の委員の方、法政大学経済学部教授の酒井正教授です。
○酒井委員 よろしくお願いいたします。
○労災管理課長 よろしくお願いいたします。それでは、カメラ撮りについては、ここまでとさせていただきます。以降の進行は小畑座長にお願いいたします。
○小畑座長 それでは、まず本研究会の開催に当たり、会議の公開等について事務局のほうから説明をお願いします。
○労災管理課長 それでは、お配りしております参考資料の開催要綱を御覧ください。本研究会については、その要綱の4の(2)にございますけれども、研究会、会議資料及び議事録については、原則公開することとし、ただし書きにある場合には非公開とすることとさせていただきますことを御承知おきいただければと思います。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。事務局より、続いて資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐 労災管理課企画班長、狩集でございます。私のほうから資料に関して御説明します。資料1の1ページを御覧ください。「労災保険制度の概要」についてです。労災保険に関して大きく2つの目的があり、1つは労働者の方の業務上の災害ですとか通勤災害に対する保険給付、それからまた、それに付帯しまして、いわゆる社会復帰の促進、それから被災労働者や、その遺家族に対する援護、労働者の安全及び衛生の確保といったことを図るという、いわゆる社復事業というものがございます。この2つが相まって、労働者の福祉の増進に寄与するということが大きな目的です。
 2つ目の○部分ですけれども、本来は労働基準法に基づいて、使用者が労働災害に対する責任を負うというところですけれども、今日では労災保険が実質的に事業主の災害補償責任を担保する役割を果たしているところです。
 概要・仕組みについてです。労災保険法は原則として労働者を使用する全ての事業に適用されますが、一部例外があり、公務員ですとか、それから小規模な農林水産業については、暫定任意適用事業という形で対象外となっているところです。また、必要な原資については、事業主の方から拠出いただいている保険料によって賄われているもので、特別会計によって経理がなされているところです。
 2ページです。こちらについては労災保険制度に関して、基本的なデータについてピクトグラムでまとめたものです。御参考です。
 3ページです。「労災保険給付の概要」についてです。真ん中に被災された労働者の方がいらっしゃる図ですけれども、これを見ていただきますと、被災直後から療養、場合によっては不幸にしてお亡くなりになるという、そういった各ステージにおいて、切れ目なく必要な補償が行われているということがお分かりいただけるかと思います。詳細な補償内容、保険給付の内容に関しては、4ページと5ページの一覧表の中にそれぞれ詳細な記載がありますので、適宜御覧いただければと思います。
 6ページを御覧ください。「労災保険における特別支給金について」です。冒頭申し上げました労災保険制度の目的の中で、保険給付のほかに労災保険法第29条に基づいて実施される社会復帰促進等事業、通称社復事業と言いますけれども、この一環として保険給付に上乗せする形で支払われる金銭給付として特別支給金というものがあります。これは損害の填補の性質を有する保険給付とは性格を異にするもので、見舞金ですとか援護的な性質の強いものです。
 詳細に関しては、省令の中に規定があり、9種類ありますけれども、特別支給一時金とボーナス特別支給金とに二分されます。それぞれ、これは算定項目について、いわゆる給付基礎日額か、あるいはボーナス等の算定基礎日額を基にしているかといった違いです。
 7ページです。「労働基準法の災害補償責任との関係」についてです。労災保険法は昭和22年に労基法とともに制定されたもので、本来労基法の災害補償とは対応した関係にあったところですが、冒頭申し上げましたとおり、今日労働基準法に代わって、被災者の方の補償責任を果たすといった役割を負っているところです。現在では労働災害の補償に係る総合的な保険制度というように大きく発展を遂げているものです。
 下の積み木の図を御覧いただきますと、こちら、もともと紫の部分が本来労働基準法と労災保険法とで重なり合っている部分ですけれども、赤い部分については労災保険法で現在独自に給付がなされているもので、今日では労災保険法が労基法の災害補償と比べて、非常に大きな補償範囲を担っていることがお分かりいただけるかと思います。
 ともしますと、こういった現象は労災保険の独り歩きとも言うことがあります。この点に関して次のページをおめくりください。こちらの「参考」ですけれども、これは昭和41年に刊行された当時の逐条解説の記載ですけれども、本来この労災保険法立案当時に労基法よりも、より発展的な給付内容へと進化を遂げていくといったことが当初から予定されていたことが記載されているところです。
 9ページです。「労災保険料(率)について」です。労災保険率に関しては、3年に1度改定をしているところで、54業種ごとに災害発生状況、業務の危険度等に応じて定められているところで、この一覧を御覧いただき ますと、やはり建設のような危険度の高い業務といったものが、率が高くなっていることがお分かりいただけると思います。10ページを御覧ください。労災保険率に関しては、推移を御覧いただきますと、おおむね引下げ傾向にあることがお分かりいただけると思います。
 前後して恐縮ですが、15ページを御覧ください。御案内のとおり労働保険は、労災保険と雇用保険とから成り立っているところですが、徴収手続については基本的に一緒に行われるというものです。労働保険料は、その年度の申告の際に、その年度の見込みの賃金総額に保険料率を乗じて求められる概算保険料を申告・納付し、翌年度に確定申告の上精算、ここでは追納あるいは還付といったことが行われることになっています。
 すなわち事業主の方は、年に一度、前年度の確定保険料と当該年度の概算保険料を申告・納付するということになります。この手続のことを「年度更新」、一般には「年更」と呼称していまして、毎年6月1日から7月10日に実施するものになっています。
 お戻りいただき11ページを御覧ください。「メリット制」についてです。労災保険は原則として事業所の年間賃金総額に、先ほど御説明した業種別の労災保険率を乗じて算定しますが、一定の要件を満たした事業主については、個別の事業場の災害発生状況に応じて、労災保険率,又は労災保険料を増減させるという仕組みを採用しています。この仕組みをメリット制と言っています。
 メリット制は、業務災害の多寡に応じて保険料の負担を増減させるということで、事業主の保険料負担の公平性の確保や災害防止努力の促進を図るといったことが目的になっています。ページの真ん中にあるメリット制の適用要件です。労働保険の適用事業は3種類に大別されるといったことが記載されているものです。
 12ページと14ページについてですけれども、こちらはメリット制に係る計算方式に関する説明ですので詳細は割愛いたします。13ページを御覧ください。「特例メリット制」です。継続事業のメリット制が適用される中小企業の事業主が、厚生労働省令で定める労働者の安全又は衛生の確保を行った場合については、メリット増減率の幅を広げられるというもので、これを特例メリット制と言っています。
 16ページを御覧ください。「特別加入制度について」です。労災保険は、原則として労働基準法上の労働者を対象としているところですけれども、業務の実態、災害の発生状況に鑑みて労働者に準じて保護するにふさわしい方について、特別に加入を認めているものです。対象者については、第1種、第2種、第3種と分かれていて、それぞれ中小事業主、それから、いわゆる一人親方、海外派遣者となっています。
 3つ目の特別加入団体ですけれども、第2種、いわゆる一人親方等ですけれども、これは個々の一人親方の疑似事業主として必要な徴収手続等を担う機能を果たす団体のことです。
 17ページです。それぞれ特別加入者に対して、第1種から第3種について補償の対象範囲、労災保険率等について一覧化したものです。
 18ページです。昭和22年の労災保険法の制定以降から今日に至るまでの、「主要な労災保険法改正の経緯」についてまとめたものです。御参考です。
 次、資料2です。こちらに関しては、事業年報に掲載されているデータの主要なものを抜粋したもので、議論の御参考にということで御用意しました。適宜御参照いただければと思います。
 資料3を御覧ください。「議論の視点」と記載しています。こちらは今後御議論いただく際に、どういった視点を踏まえて御議論いただきたいかといったことを3点挙げているものです。お目通しいただければと思います。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ただいま事務局から労災保険制度について御説明いただきました。また、本日の議論の視点についても御説明いただきました。それでは、これからフリーディスカッションに入りたいと思います。委員各位それぞれに御関心の部分があるかとは思いますが、「適用」「給付」「徴収」という保険の3つの領域ごとに御意見をお伺いできればと思います。御発言の際は会場の委員におかれましては挙手を、オンラインから御参加の委員におかれましては、チャットのメッセージから「発言希望」と入力いただくか、挙手ボタンで御連絡いただきますようお願いいたします。それでは「適用」に関して御意見を伺えればと存じます。
 「適用」というのは、例えば、労災保険の強制適用の範囲や、あるいは強制適用となっていない方の加入の仕組みである特別加入制度についてが「適用」に関する部分になるかと思います。それでは、御意見を賜りたいと思いますが、いかがでしょうか。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 水島でございます。先に発言させていただきます。今、小畑座長からもございましたが、私は適用に関して3点申し上げたいと思います。1つは、全面適用です。労災保険には暫定任意適用事業が残っていますが、これは全面適用の方向で進めるべきと考えています。現在の暫定任意適用事業は、常時5人未満の労働者を使用する個人経営の農林水産業の事業の一部であると認識しておりますが、同様の問題は、同じ労働保険である雇用保険にもあり、雇用保険のほうでは、農林水産の事業は事業所の把握が困難な場合が多く、雇用関係や賃金支払関係が明確でない場合が多いため、全面適用は事務的に困難であり、実行を期し難いなどと説明されますが、IT社会において情報関係の整備が進む中、全面適用する環境が整いつつあると思います。社会・経済の動きに応じ、当然適用事業化を全面的に推し進めるべきと考えます。
 2点目は家事使用人です。家事使用人は、労働基準法116条2項により、労働基準法の適用が除外されています。これについては、本日、午前に開催された労働基準関係法制研究会で取りまとめられた報告書案では、家事使用人の働き方の変化などを踏まえ、家事使用人のみを特別視して労働基準法を適用除外すべき事情に乏しくなってきたとし、適用除外を見直す方向の意見が示されました。今後、家事使用人に労働基準法が適用されることになれば、労災保険法も適用されることになると考えられますが、この点、同研究会報告書では、公法的規制については、私家庭に対する適用であることも踏まえて、実態に合わせて検討することが考えられると記載され、私家庭に労働基準法規制や労働監督行政を及ぼすことに慎重な姿勢を示しました。
 今後、家事使用人について、労働基準法適用が除外されるのであれば、労災保険による補償を受けられる前提で議論が進むと考えますし、また、そうすべきと考えますが、その一方で、家事使用人を雇用する私家庭にどのように労災に加入いただき、保険料を負担いただくか、監督行政の在り方を含めて丁寧な議論が必要と考えます。
 3点目は、特別加入についてです。事業や作業内容によらず、フリーランス全般が特別加入制度の対象となり、新たなフェーズに入ったと認識しております。保険料が自己負担となる特別加入は、加入が進まないとの声もありますが、連合さんは加入のハードルを下げ、「フリホケ」の愛称でフリーランス加入に向けた取組を積極的に行っておられます。
 また、建設業では、かねてから労働災害防止のために発注者に安全経費、これは一人親方等の労災保険の特別加入のために必要な費用を含みますが、安全経費の積算を求めています。私は非常にすばらしい取組であると思います。
 こうした保険料相当額の上乗せを業界が自主的に取り組んでいただくことにより、フリーランスあるいは一人親方の方々に、安心して仕事をしていただけるのではないかと思います。この点、労災保険本体の適用拡大をするという意見もあろうかと思いますが、私は、特別加入の促進と保険料の支援が現実的な方策であると考えます。以上です。
○小畑座長 水島委員、ありがとうございました。それでは、ほかに御意見はございますか。小西委員、お願いいたします。
○小西委員 小西です。余りまとまっていないのですけれども、適用に関して、少しお話というか、現在、私が思っていたり考えていることをお伝えしたいと思います。
 今、水島先生がおっしゃられたことと少し重なってくるのかと思いますが、2024年11月と12月に、2つ、厚生労働省から大きな報告書(案)というのが出たことを承知しております。1つが、12月10日、労働基準関係法制研究会での研究会報告書(案)というのが出て、そこでは、先ほどお話にあった家事使用人についての議論が記載されているところで、その点についても議論することが考えられるのかと思っております。
 もう1つは、今後の労働安全衛生対策について(報告)(案)というのが、11月に出されているかと承知しております。それを少し拝見いたしますと、個人事業者等に対する安全衛生対策の推進という題目が立てられていて、既存の労働災害防止対策に個人事業者等も盛り込み、労働者のみならず、個人事業者等による災害の防止を図るためうんぬんというような記載があったりとか、あとは、労働安全衛生法における保護対象や義務の主体となる個人事業者としてうんぬんというような記載がなされていて、私がこれを拝見する限りでは、労働安全衛生法での議論につきまして、個人事業者というのを、かなりこれまでより一歩踏み込んで、本格的に考えているのかなというように拝見した次第でございます。
 そういうことからすると、幅広な議論ということではあるのですけれども、労災保険法においても個人事業者というのを、もともと労基法の災害補償責任というところからスタートしていることではありますけれども、労安衛法のほうがこのような形で議論されているという中で、給付というか、実際に労働災害が起こった場合の給付ということを考えた場合に、こういったフリーランスや個人事業主の人たちというのをどう考えていくのか。特別加入というのが現実的なのかもしれませんけれども、中長期的に見た場合に、どう考えられるのかというところも個人的には関心を持っている次第でございます。私からは以上です。
○小畑座長 小西委員、ありがとうございます。それでは、ほかにいかがでしょうか。笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 関連するところについて、私からも発言させていただきます。既に他の委員からの御発言に出ておりますように、近年、個人事業主、フリーランスについて各種被用者保険、労働保険への適用が問題となっていますけれども、各種の社会保険の中で労災への加入というのは、当事者も含めて最も強くその必要性、重要性が意識されているところかと思います。
 他方で、日本の労災保険は、労働基準法との結び付きが非常に強固であり、労基法の適用対象に対象を限った上で、その労基法の適用対象でない者については、逆に任意加入、保険料完全自己負担であっても、一定の要件を課して、加入を逆に制限しているというようなところに特徴があるように思います。
 現行法を前提としますと、整合的な体系ですし、先ほど水島委員から御発言がありましたように、一定の合理性のある良い制度だというように評価することもできるかとは思うのですけれども、実態としてのフリーランスや個人事業主の働き方、ニーズに合った制度かということについては、やはり改めて検討の余地があるのではないかと思います。
 労基法と労災保険法とのつながりのところに関わりますので、非常に慎重な検討が必要とは思いますけれども、労基法の適用対象ではない者についても、労災加入の必要性が高い者については、現状のような完全な任意の特別加入ではなく、もう少し加入に向けて何らかの特別な手段を取っていくような必要や、端的に強制加入とするような必要性や可能性があるかといったことが論点となり得るかと思います。
 同時に、例えば民間保険の役割であるとか、必ずしも現行制度を前提とした強制加入の拡大に限られない様々な選択肢があり得ると思っております。あるいは特別加入としたときには、保険料負担のところが一番問題になってくるところですので、先ほども、一部の業界での取組について御紹介がありましたけれども、フリーランスなどについて保険料の一部を、仕事を依頼する者が負担する可能性をいかに開いていくかといったことも、諸外国の取組も参考にしつつ検討することが可能ではないかと思っております。以上です。
○小畑座長 笠木委員、ありがとうございました。それでは、中野委員、お待たせしました。よろしくお願いいたします。
○中野委員 中野です。今の御議論の流れに付け加える形になるのですけれども、私は労災保険部会で公益委員として、この数年、特別加入の対象拡大の議論に何度か接してきましたが、その時々の当事者団体からの要望や、フリーランス法などの新しい法律ができたこと等に応じて、アドホックに対応してきたという印象を受けています。フリーランス法への対応によって労働者以外の働き方をする方の多くが、特別加入をすることができるようになったと思うのですけれども、それでもまだ今後も、新たなニーズが出てくるごとにまた特別加入を拡大するといった、その時々の対応をしていくことになるのだろうかと感じています。
 直ちに法改正に結び付けるというようなことは難しいだろうと思いますし、先ほど水島先生から現実的ではないと言われてしまいましたけれども、労災保険制度の対象者を労働基準法上の労働者に限定する必要というのを再検討する。働く人が働き方にかかわらず労災保険に強制加入して補償を受けられるようにするという、そういう抜本的な制度改革というものも長期的な改革の視点としては考え得るのではないだろうかというように思います。
 特に、本日、先ほど御説明いただいた資料1の8ページのように、労働基準法上の労災保険の独り歩きという点に対しては、労働基準法上の災害補償と労災保険制度は別の制度であるということを強調するようなことを言うのであれば、なおさら労災保険独自の適用対象者というものを考えることは可能なのではないだろうかと思います。これが1点目です。
 2点目は、これはどちらかというと疑問点になるのですが、本日の先ほどの資料16ページで、特別加入について御説明いただきましたが、特別加入の第2種について、一人親方等と特定作業従事者の間での振り分けがどのようになされているのかというのが、余りよく分からないように思います。ざっと拝見すると、何らかの資格を有する業種、士業の方とかが一人親方に振り分けられているように見受けられるのですけれども、フリーランスの方たちはフリーランス法に対応して特別加入に加えられた方が一人親方等のほうに入る一方で、もともと特別加入の対象となっていたITフリーランスの方たちは特定作業従事者に振り分けられていたりして、必ずしも一貫性がないように思われるのですね。このようなところも、その時々にアドホックな対応をしてきたことの表れのように感じられています。これは検討課題というよりは、現行の対応に対する疑問のようなものです。以上です。
○小畑座長 中野委員、ありがとうございました。それでは坂井委員、よろしくお願いいたします。
○坂井委員 私からは2点、発言させてもらいたいと思います。1点目は、既に言及されております家事使用人についてです。こちらは既にされている議論と多くの部分が重複しますので、簡潔に発言させてもらいたいと思います。これまで家事使用人をめぐっては、労基法上の取扱いを含めて適用除外の当否という観点からの議論が中心だったというような形かと思います。他方で、家事使用人の働き方は様々ありますけれども、個人家庭に雇用される家事使用人の場合には、これは事業に使用される者ではないということになりますので、適用除外の対象にはしないとしても、当然に労災保険の適用対象だという話にもならないのかなと思います。そうすると、先ほども水島委員から御指摘があった話と重なるかと思いますが、労災保険による保護を及ぼすべきだというような判断をした場合に、具体的にどのような仕組みが必要なのかという点は重要であり、難しい課題なのかと考えております。あるいは、事業に使用される者ではないということからすると、現行の特別加入の枠組みの更なる活用といった方向の議論の可能性も残されているのかなと思います。
 2点目は、やや漠然とした指摘にはなるのですが、今も指摘されておりました特別加入をめぐるところで、特別加入の対象の画定に関する考え方についてです。従来から特別加入の対象については、労働者に準じた保護を必要とする者、それについて一定の着眼点から、その業務の危険度とか、あるいは技術的な観点を含めて、業務の範囲の明確性、特定性といったところから、具体的な対象を省令で定めるのだというような形で対応されてきました。
 ただ、今般のフリーランスを特別加入の対象とする改正に当たりましては、フリーランスの働き方は非常に多様で、それに対応する労災リスクというのも非常に多様だと。特定の在り方というものが想定されるものではないと。そういうことになると従来の事業や作業の特性に着目する、その拡大の仕方というのとは相当異なった面があるのではないかというような印象を受けております。
 そうしますと、就労自体の変化、多様化を受けて、特別加入の対象画定に関しての基本的な考え方について、今一度整理しておくことにも意義があるのではないかと考えております。私からは以上です。
○小畑座長 坂井委員、ありがとうございました。ほかにございますでしょうか。もしないようでしたら、「適用」に関する御発言は出揃ったと考えてよろしいでしょうか。
 それでは、続きまして「給付」に関して御意見を伺えればと思います。「給付」と申しますのは、例えば、資料1の3~5ページにありますような、療養給付、休業給付、障害給付、傷病年金、遺族給付といった各給付、あるいは、それぞれの「給付」の算定に用いられる給付基礎日額の考え方、こうした点が「給付」に関する部分になるかと思います。こちらの「給付」について、御意見はございますでしょうか。坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 給付について1点発言をさせてもらいたいと思います。具体的には、遺族補償年金に関する受給資格の問題についてです。周知のとおり、遺族補償年金の受給資格に関しては、夫と妻で異なる取扱いが現行法上規定されているということになります。これに対しては、既に男女の就労状況の変化ということを受けて、政策論的な当否が議論されているところでもあります。あるいは、訴訟において、結論としては公務員の仕組みで合憲の判断が下されたわけですが、やはり問題となっていたところであります。また、類似の枠組みを持つ遺族厚生年金のほうでも、この仕組みの在り方について議論がされているという状況かと思います。
 ただ、この仕組みを議論するに当たって、労災保険の基本的な考え方、出発点である、労災保険の給付というのは損害の填補の機能を持つのだ、それを趣旨・目的とするのだということとの関係をどう整理するのかというのが、非常に難しい課題なのだろうと思います。
 そういう問題意識で現行の遺族補償年金の仕組みを見てみますと、一般には損害の填補と言われるわけですが、遺族補償年金の受給資格に関しては、まず生計維持要件が設けられていて、損害が発生して損害を受けた人一般というよりは、その中でも特に被扶養利益を失ってしまった人というところに、まずは受給資格を限定して、さらに、年齢あるいは障害に関する要件を設けることによって、被災労働者の死亡によって損害を被った人の中でも経済的自立が困難な人に受給資格を絞っていると。こういった形で、労基法上想定され得る遺族から受給資格では絞って、その上で給付内容のレベルで年金化をして非常に充実した補償を行っているという制度の理解になるのかと思います。
 そうしますと、そういった特徴的な現行制度の枠組みを前提として、現行制度の下で労災保険が損害の填補、被扶養利益の喪失に対する填補という形で守ろうとしている利益の範囲が、性質がどのようなものなのかというところを整理した上で、議論を組み立てていく、あるいは厚生年金における遺族厚生年金との取扱いの違いなどについても検証していく必要があるのではないかと感じているところです。
○小畑座長 坂井委員、ありがとうございました。それでは、ほかにいかがでしょうか。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 ありがとうございます。今の坂井委員の発言と同じテーマですので、発言させていただきます。御紹介がありましたように地公災の事案ではありますが、大阪地裁が平成25年に、配偶者のうち夫についてのみ年齢要件を定める規定を憲法14条1項に反する不合理な差別的取扱いとして違憲無効としました。その後、大阪高裁、最高裁は合憲としましたが、そのときよりも更に共働き化が進んでいることなどを考慮すると、将来的にはこの男女差を維持することは困難であり、違憲の疑いも生じ得るため早急に解消することが不可欠と考えます。
 ただ、その方法ですが、単に夫についての年齢要件を撤廃すればよいというものではないと考えています。先ほど坂井委員からも御説明がありましたように、遺族補償は、労働者の業務上の死亡によってもたらされる被扶養利益の喪失を補填すべきものと言われていますが、現在の取扱いは生計維持関係が緩く判断されているように思います。コンメンタールによると、共に収入を得ていた場合においては、相互に生計維持関係がないことが明らかに認められる場合を除き生計維持関係を認めて差し支えないとありまして、私は、法律婚世帯において生計維持関係を認めないようなケースというのが実際にあるのか関心を持っていますが、この点は坂井委員とちょっと認識が違うようですので、私の方が誤っているのだろうと思いながら御発言を伺っていました。
 先ほど坂井委員は、対象を絞って給付を充実させているとおっしゃっていて、そうであれば評価できますが、一時金ならともかく、年金について生計維持関係をもし緩く認めて支給しているのであれば、そこにはちょっと疑問があります。
 遺族補償給付の目的、性格、役割というものを改めて問い直す必要があると思います。つまり、被扶養利益といった表現も含めて、何が損害の填補として求められているのか。労災保険法ができたとき、遺族補償給付が年金化されたときとは、事情が異なりますので、それを現代的に解き直すことも必要と思います。
 それほど遠くない将来、同性婚の配偶者についても労災保険法上の配偶者と認め、遺族補償給付を行うのではと予想していますが、そのような議論を開始する前に、遺族補償給付の役割を問い直し、場合によっては新たな役割を示すことが必要ではないかと考えます。以上です。
○小畑座長 水島委員、ありがとうございました。それでは中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益でございます。聞こえますでしょうか。それでは、今、遺族補償給付に関して御意見がありましたので、私もその点に関して意見がありますので、こちらで申し上げさせていただきます。今、ほかの委員から御指摘がありました点は、遺族補償給付等に関する男女格差についての御指摘でしたが、私が気になっておりますのは、もう少し広く、配偶者と生計維持関係との関係性の点です。
 この点、まずは労働基準法の遺族補償の規定を御確認いただきたいのですが、労働基準法79条の遺族補償の対象となる遺族の定義は、労働基準法施行規則42条にございます。同条では第1項で、労働者の配偶者となっており、それ以外の何の要件も付いておりません。一方、第2項では、配偶者がない場合に、労働者の子、父母、孫及び祖父母で、労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた者又は労働者の死亡当時、これと生計を一にしていた者に遺族補償を行うという建付けとなっております。つまり、この条文を素直に読めば、生計維持に関わる状況に関係なく、配偶者がいれば配偶者が遺族補償を受けるべきとの制度設計であり、第2項の遺族は、配偶者がいない場合に限って、生計維持条件を満たして初めて対象遺族となるものです。
 これに対して、労災保険法16条2の遺族補償給付では、配偶者を含めた遺族の全体に生計維持条件がかかる結果、生計維持条件を満たさない生活水準のかなり高い配偶者が、男女にかかわらず、まずは排除されるおそれがあります。これに加えて、男性配偶者に関して、先ほど指摘がありましたように、更に年齢要件が加わり、仮に生計維持要件を満たしても、第1順位の遺族の座から転がり落ち得ます。このとおり、ほかに順位の高い遺族がいれば、今説明したような男女の配偶者は、労災保険制度からは遺族補償一時金も受け取れない可能性が生じる構造です。
 このような事態の発生は、労働基準法の遺族補償と労災保険法の遺族補償給付との看過し得ない齟齬のように思います。生計維持要件を満たさない配偶者との関係で、現行の労災保険法の遺族補償給付が、労働基準法84条1項に言う労災保険法に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合と言えるのかどうかの疑問も残りますので、少なくとも立法論といたしましては、速やかに改善していただきたいと考えられております。
 なお、遺族厚生年金の議論が同時に進んでおりますので、そちらに引きずられないように申し上げておきたいのですが、今申しましたように、労働基準法の遺族補償は、そもそも配偶者に関して生計維持要件は問わないと見られること。また、労働基準法上の遺族補償は平均賃金の1,000日分ですが、これは労基法の遺族補償で言うと、障害等級3~4級程度の損害と見ているものと考えられますので、おのずと第1オプションは年金になるのではないかという印象も持っております。このとおり、遺族厚生年金などとも、また状況が違うと思いますので、その辺りも踏まえて議論を御検討いただければと思っております。以上です。
○小畑座長 中益委員、ありがとうございました。ほかに御意見はございますでしょうか。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 ありがとうございます。今、遺族補償に関して、かなり踏み込んだ議論がなされておりましたが、少し違う話に持っていってもよろしいでしょうか。というのは、社会復帰促進等事業です。これは、給付の所で扱ってよろしいものでしょうか。
○小畑座長 どちらでも結構です。先生にお任せいたします。
○地神委員 給付の所に入れていいのか、ちょっと微妙なところではあるのですが、では、少し発言させていただきます。社会復帰促進等事業について、資料1の2ページにもありますように、財政規模としてはかなり大きいものとなっていることが分かります。保険給付等が8,023億円であるのに対し、社会復帰促進等事業は742億円と、非常に大きな財政規模になってきており、保険給付に匹敵するものとは決して言えないわけですが、それでもかなり大きな役割を占めていることが分かります。
 その中で、恐らく中心となっているものは、同じ資料の6ページにまとめていだだいております特別支給金ではないかと思っております。この特別支給金については、6ページの特別支給一時金の横の部分に解説をしていただいておりますように、特別支給一時金の性質は、災害補償そのものではなく、療養生活や治ゆ後の生活転換援護金、遺族への見舞金などの色彩が濃いが、現実的機能としては、各保険給付と相まってこれを補う所得的効果を持つということです。具体的には、例えば、休業補償の60%に20%プラスされ80%になるという形で、所得保障として重要な役割を担っているところです。
 にもかかわらず、事業として取り扱われることにより、保険給付と比較し、その具体的内容が法律上明らかになっておらず、基本的な給付内容については、同事業の条文を見ていただければ分かるとおり、あまり具体的に定められるわけではなく、命令以下に委任をされており、極めて法的には不安定な状態に置かれています。また、同特別支給金あるいはそれ以外の様々な事業について、そのような性質である以上、不服申立ての対象であるとか、あるいは処分性などの点で、こちらも本来受けられるものが受けられなかった場合の保護というものの設計自体もかなり不安定なところがあります。
 とりわけ、この特別支給金に関しては長く所得保障の役割を担ってきており、かなり制度としては安定しているものであり、実際上の不安定さというものはないのかもしれませんが、これを給付として法定化するということなども考えられてよいのかと考えておりますし、また、法定化することにより救済の道というものも開かれるのではないかと考えております。
 加えて、リハビリテーションなどについても、これも給付として考える余地はないのか。諸外国においては給付として位置付ける場合もあり、段々注目されているところでもありますので、その辺り、給付と事業の役割分担というところも含めて考慮していく必要があるのではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 地神委員、ありがとうございました。それでは、ほかにいかがでしょうか。ほかの点でも結構ですが。小西委員、お願いいたします。
○小西委員 論点だけなのですが、消滅時効の点も一つ確認をしておくことが必要かなと思います。令和2年に労働基準法が改正されて、そこで消滅時効に関連する規定が改正されましたが、災害補償請求権については2年というのが維持されています。そうなのですが、法案審議の過程等で、また5年程度で見直すということが言われています。あとは、その際には労災保険法の給付請求権との関係も併せて検討するということも指摘されていたかと記憶しております。その点も一つ、この機会に検討することができるのかなと思いました。私からは以上です。
○小畑座長 小西委員、ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。給付基礎日額について、何かございますでしょうか。もしないようでしたら、給付基礎日額について、労働基準法の平均賃金を用いておりますが、一度この考え方を整理するということも意義があるのではないかと私は思っております。その点を付け加えさせていただきます。ほかにございますでしょうか。「給付」に関する御意見は出揃ったと考えてよろしいでしょうか。ありがとうございます。
 それでは、続きまして、「徴収その他」に関して御意見を伺いたいと思います。「徴収」というのは、例えば、資料1の15ページにあるような、年度更新、あるいはメリット制度、これも保険料徴収の仕組みという意味で「徴収」に分類されるテーマかと思います。御意見をお願いいたします。酒井委員、お願いいたします。
○酒井委員 法政大学の酒井です。今回の研究会の委員の中で、恐らく私だけが経済学を専攻とする立場なのかなと思います。そういう意味で、私は制度について余り申し上げられることはないのですが、経済学の観点から労災保険料の徴収ということに関して述べさせていただきたいと思います。労災保険料の徴収については、他の社会保険にはないような特徴を有していると思っております。具体的に言えば、まず業種別に細かく定められているという点。そしてもう1つが、この研究会でも恐らく検討することになると思われるメリット制についてです。
 この2つの仕組みは、大きく言えば、実際のリスクに見合った負担をすることで、公正性を担保して、ひいては労災の抑止につなげるという理念もあるのかなと思っております。しかし、実際にこれらの仕組みが本来の期待される役割、目的を果たしているのかというところについては疑問の余地があるというよりは、そもそも検証が行われてないと考えています。
 まず、業種別に定められた労災保険料率ですが、一見すると非常に細かく労災保険料率が定められているように思えるのですが、実際のところは、その他事業の中のその他各種事業にかなりの細かい業種が含まれています。その中には、かなり業種として異なるものが一緒くたに含まれているというようなことがあると伺っております。すなわち、業種分類自体が時代に似合わなくなってきている可能性があるということです。業種分類に関しては、数年に1度、見直してきていますが、今後も不断に見直す必要があると考えております。
 不断に見直していく必要があるのはなぜかというと、同じリスクに直面している労働者グループでないと、連帯意識がわかず、結局、労災抑止につながらないと考えるからです。私は個人的にはそういうふうに考えております。
 次に、メリット制です。メリット制については細かな効果検証の試みといったことがこの研究会でも話し合われるかと思いますが、それは少し置いておくとして、そもそもメリット制が適用される事業所が4%程度ということがあります。そういう観点から言うと、そもそも適用対象範囲がこれで適切かという議論、そういう論点もあるかと考えております。私は別にメリット制の適用対象をもっと広げるべきだと考えているわけではないのですが、効果があったとしても、そもそも4%程度ならば、そこに管理コストといったものもあるので、効果のあるなしということと同時に、それがコストに見合っているのかという視点も必要かと思っております。
 メリット制についてもう1つ考えがありまして、他の政策との整合性という観点もあるかと思っております。現在、政府を挙げて高齢者雇用の促進、あるいは外国人雇用についてもかなり前向きに進めているのが現状かと思います。これら高齢者や外国人労働者は、労災リスクという観点から言えば、被災率が高いグループに属すると考えられます。外国人労働者に関しては、ちょっとプリミティブなデータしか知りませんが、高齢者に関しては確実に労災リスクが高いというグループになります。
 そうすると、高齢者あるいは外国人労働者を積極的に雇うような事業所が、このメリット制を適用されることによって、労災保険料が高くなってしまうことも出てきます。もちろん労災抑止という努力は必要ですが、それでもどうしても労災が発生してしまって、保険料率がメリット制によって高くなってしまうということをどう考えるかという問題があろうかと思います。
 メリット制という仕組みが労災保険に備わっていることはすばらしいことだと思っておりますが、一方で、今後、もっとメリット制を強化するという考え方には少し慎重になるべきだと個人的には思っております。それは、今述べたような政策的な整合性という観点からも、もしもそういうメリット制を強化することが行われれば、そういった、そもそも労災リスクが高いような属性の労働者のグループを企業が雇わなくなってしまうという懸念があるからです。
 ですが、そもそも、今の私の話というのは、いずれにしても仮説に過ぎないとも思っております。とにかく、データに基づいたしっかりとした議論が必要かと思っておりますので、この研究会でもデータに基づいた議論というのを期待しております。以上です。
○小畑座長 酒井委員、ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 十分に練られた発言ではないのですが、最近の関心に即して、せっかくの機会ですので徴収に関わるところでも発言させてもらいたいと思います。近時、様々な技術革新、よく言われる用語としてはICTやIoT、AIやロボットなどと言われる技術を活用して、安全衛生の取組を促進しているとか労災予防に役立てているという取組例などが紹介されることがあろうかと思います。その辺りは興味深いと思って見ているところです。一般論としてはもちろん、そういった取組を後押しする仕組みは大事ではないかという話になろうかと思いますが、特に徴収との関係でというところで、この先は、私の現状認識が正確であるかどうか、ちょっと心もとないところはあるのですけれども、そういった取組例などの紹介を見ていると、高い予防効果が期待できる一方で、相当なコストが掛かっていそうだなという取組例が様々あります。相当の予防効果が期待できるというのであれば、労災保険料率との関係でいったら、労災リスクの代替変数の一種になり得るような事情なのかもしれないと感じるところがあります。
 この点、現行法では、先ほどもお話がありました業種別の労災保険率を基本としつつ、労災予防の取組の結果を反映したメリット制によって保険料の調整をしているという仕組みですが、例えば、労災保険率を考えるに当たって、そういった労災予防、安全衛生のための取組への投資といったことも今後重要性が高まってくるのであれば、考慮する可能性はないのかということを漠然と考えている次第です。以上です。
○小畑座長 坂井委員、ありがとうございました。それでは、中野委員、お願いいたします。
○中野委員 メリット制に関することで少し発言させていただきます。メリット制に関しては、先生方も御承知のように、メリット制の適用を受ける事業主が労災保険給付決定に対する取消訴訟を提起し得るか、すなわち、労災保険の支給決定がされたことで、将来自分が負担する保険料が増大し得るということを理由に、給付決定に対する取消訴訟を提起し得るかが争われるような裁判例が出てきたことを受けて、厚生労働省の通達で、事業主が保険料の認定決定に対する不服申立てをする際に、労災保険給付の支給要件非該当性を主張することを認めるという取扱いを認めることになりました。その旨を労災保険部会で報告された際に、労使双方の委員から、産業構造や労働災害の構成が制度の創設当初から変化した今日においては、メリット制が労働災害を低下させる効果を本当に有しているのかどうかを再検討すべきであるという意見が出されたと記憶しております。
 とはいえ、メリット制の効果を検証するといっても、日本の現行制度を念頭に置いて、メリット制の有無によって労働災害の発生状況にどのような影響があるのかをシミュレーションするというのは、なかなか難しいのではないかと思われます。そこで例えば、諸外国の労災補償制度において、メリット制を採用していない国において労災の発生率が特段高いことがあるのかどうかといったことも研究してみてはどうかと思いました。ただ、もちろん労働災害の定義自体に国によって差がある可能性がありますので、単純な比較は難しいだろうとは思うのですが、外国の制度も参考に検討することは考え得るのではないかと思いました。以上です。
○小畑座長 中野委員、ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 私もメリット制に関係して、2点申し上げたいと思います。1点目は、先ほどから指摘が出ていますとおり、最近の最高裁などを踏まえますと、今後、事業主はメリット制の適用で保険料が増額されたときには、増額について不服審査ないし訴訟で争うことができることになり、従来以上にメリット制や給付決定、遡って保険支給の保険給付決定に対して事業主が強い関心を持っていくことが予想されるかと思います。他方で、私自身もよく理解しているか自信がないのですが、現状では保険料が決まるときに、事業主はどういった保険給付があったことによってメリット制が適用され、保険料が上がっているのかということについて、必ずしも詳細な情報を得ているわけではないように理解しております。不服申立てや訴訟によって争う機会を与えることが明確になったからには、逆に言いますと、どういった形で使用者にそういった機会を担保していくのか、手続保障の観点についても考える必要があろうかと思います。
 他方で、昨今、脳・心臓疾患や精神疾患など、業務起因性の判断が非常に難しいところについても、労災保険の給付の対象がどちらかというと柔軟に広げられていく傾向が一般論としてはあります。そのような中で、そもそもメリット制についてどう評価するかということ、存在意義について再考の余地があるのではないかと私も思っております。先ほど酒井委員から出ていた点について賛同するところが多く、現実にどういった効果を及ぼしているかの検証が重要と考えますが、あわせて、理論的にも、例えば、労災が多い事業主と少ない事業主の間の一定の公平を実現するという説明がメリット制について一般論としてされるところ、ごく一部の事業所に適用される制度との関係で、そういった公平というものを論じることは、どの程度重要性のある理屈なのかといったところがよく分からないところもあるように思っております。あわせて、少し長くなりますが、メリット制が及ぼす影響という観点から、先ほど高齢者雇用などへの影響について酒井委員から御発言があったところですけれども、この点について、私からも改めて強調しておきたいと思います。先ほど申しましたように、脳・心臓疾患や精神疾患の補償のときには、個人の側に一定の脆弱性がある労働者についても、何とか業務との関連性を客観化する努力を認定基準などでしながら、そういった一定の個人の側の脆弱性がある労働者も補償から排除しない形で給付決定している面と思うのです。他方で、メリット制との関係では、特別な脆弱性を持つような労働者を雇用した、そういう努力を積極的にした使用者の保険料負担が事後的に引き上げられてしまうという副作用があります。これは、そうしたメリット制の適用が現に雇い控えにつながっているかという実際の効果の問題ももちろんありますが、理論的にも、全体として整合性のある制度かどうかが問われてもよいのではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 笠木委員、ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 メリット制について議論が進んでおりますが、私からも少し気になる点を発言させていただきます。まず1点目は、メリット制の災害防止効果について検討が必要だろうと言われていることが非常に注目される点ではあるのですが、メリット制の反対論を見てみますと、メリット制があることによって、むしろ労災隠しのほうに事業主が動いてしまうのではないか、むしろ、それを誘導する制度になっているのではないかということが指摘されたりしています。これはこれで、特に統計調査があるわけではない気がいたしますし、そもそもそのような労災隠しの意図を事業主に伺ったとしても、もちろんそのことを正確に御発言いただけるとは到底思えないので、それをどのように調査するのかという点は非常に難しいとは思うのですが、少しそのような意識を持たせてしまっているということがあるのかどうかという点について、何とか調べることができないかと感じております。
 ただ、これはかなり難しいことだと思いますので、今回盛り込めるかどうかということに関しては、かなり疑問ではありますが、一応発言させていただきます。
 2点目は、メリット制の適用に対して、例えば最近でいうと複数の事業場での合算についてメリット制から外すなど、保険給付が行われた場合であってもメリット制の算定対象から外すものは幾つもあるわけです。そのような対応が可能であることを考えますと、場合によっては予防効果の面、すなわち保険給付を行ったけれども、そこにメリット制を掛けることに予防効果が果たしてあるのかどうかということが疑問な疾病というものもあろうかと思います。メンタル疾患などについてメリット制を掛けたからといって、果たして、その疾病予防効果はこれまでのいわゆる事故性のものや職業病に比べてどれぐらい予防効果があるのかという点は、従前のものと比較すると疑問があるような気もいたします。
 このようなものを検討していく、あるいは事業主間の公平性という点、それに関連しての制度に対する納得性という点からも、たとえ、いわゆる業務災害に対する保険給付であっても、疾病の内容によってはメリット制の算定から外すなど、ゼロか100かではない対応も考え得るのではないかと。このような点も、予防効果についての検討と同時にしていければ、公平性の高い制度になるのではないかと考えております。
 もう一点は、実は最初の適用の部分にも関連する話になるのですが、メリット制を考えるに当たって、もしかしたら適用単位である事業の概念も同時に検討しなければならないのかもしれないと考えております。すなわち、先ほど4%程度であるという御指摘がありましたが、必ずしも大企業であるから適用されるなどというわけでもなく、事業自体が大きいかどうかで適用の可否というか、メリット制の適用が決まっていると感じられます。事業の概念についても、現在並行して行われています労働基準法制に関する研究会において、現在の事業場というものの変容に対応して、事業概念あるいは事業場の概念についても再検討が必要であろうという点があります。
 これは、もしかしたら労災保険の適用や、それに関わるメリット制の適用に関しても同じことが言えるのではないかと。すなわち、事業としては小さいけれども、一企業としては大変大きいという所に関して、そういう所のほうがメリット制の適用はないけれども、災害予防効果は大きいのではないかと。大企業が率先して労災予防に取り組み、かつ先ほども議論がありましたように、コストを掛けることも可能であると。そのような、現在の事業を元にした分け方も、最初にあった適用の部分も含めて検討してもよいのではないかと。労働基準法の議論と併せて見ていくことも可能ではないかと考えます。私からは以上です。
○小畑座長 地神委員、ありがとうございました。ほかに御意見はございますか。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 メリット制から離れますが、この研究会は、労災保険と労働基準法第8章との関係についての議論は避けて通れないと考えます。私は、労基法第8章が労災保険の根本にあることはいまも変わらないという理解、立場を採っています。たしかに、例えば、地神委員からも御指摘があったように、複数事業労働者に係る拡充は、個々の労働関係における使用者の災害補償責任に基づく補償という観点から、被災した労働者の生活を補償する観点に転換したように見えます。だから、保険料の負担も、メリット制の適用をしない、そのようなことはあるのですが、私は、労災保険法は、拡充によって複数の役割、性格を有するようになったのであって、コアの部分は労基法上の災害補償に係る給付であると考えています。先ほど中益委員から遺族についての御指摘がありましたが、我々はいま一度、労基法第8章や労基法施行規則をしっかり読み直して、労働基準法の意図を労災保険が本当に実現しているかの確認が必要ではないかと考えます。
 他方で、中野委員がおっしゃったように抜本的な制度改革をする考え方もあると思います。労働基準法第8章から離れて、場合によっては第8章を削除して、社会保障法の枠内で、社会保険の一つとしての労災保険を、あるいは災害保険を作るということも考え方としてはあり得ると思います。ただ、適用対象を拡げるにあたっては、併せて給付の範囲や水準が適切であるかという議論が不可欠であると考えます。私の認識では、日本の労災保険給付は、医療や年金の保険給付と比較しても、あるいは諸外国と比較しても、非常に高い水準にあります。
 私は労災保険の対象を労働者に限定して、給付水準を何とか守りたいと思っていますが、もし仮に対象を拡げるのであれば、労働者以外の者に労働者と全く同じ給付を本当にすべきなのか。笠木委員から御指摘がありましたように、多分、脳・心臓疾患、精神障害などが難しくなってくると思います。事故型あるいはアスベストなどの職業病について、事業者も労働者と同じように保護すべきとか、安全対策すべきとかは、理解します。しかし、脳・心臓疾患や精神障害についても、同様の給付を行うことが果たして適切か。また、労働基準法第8章から離れて、社会保障化した場合、事業主だけに保険料負担を求めることが果たして適切なのか。社会保障であるならば、国の応分の負担も考えられますし、場合によっては被保険者の一部負担という考え方もあると思います。
 労災保険を労働基準法第8章とセットにしている限りは、労働者が保険料を負担することは全くあり得ないですが、仮に抜本的な制度改革をするのであれば、そうした可能性も含めた議論が必要ではないかと考えます。以上です。
○小畑座長 水島委員、ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。「徴収」に関する御意見は出そろったと考えてよろしいですか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。それでは、「適用」「給付」「徴収」それぞれの分野ごとに、委員の方々の御意見を伺えたと思います。ほかに、これまでの委員の方々の発言を踏まえて何か御意見はありませんか。何か御意見がございましたらお願いいたします。酒井委員、お願いいたします。
○酒井委員 これまでの御意見を踏まえてではないのですが、適用、給付、徴収のどれにも当てはまらない意見です。労災保険制度の検討会ですが、その前に、そもそもの労災を取り巻く環境について一言だけ述べさせていただきたいと思います。御承知のように、就業を取り巻く状況自体が急速に変化している中で、片やDX化やリモートワークの普及といったことで、身体的・肉体的な労働負荷を下げる方向に働き方が変わっている側面がある一方で、先ほどもちょっと述べましたが、例えば高齢労働者あるいは外国人労働者の雇用が増えていると。そういう労働者グループが増えることによって、今後、労災がすぐに急速に増えるということではないかもしれませんが、少なくとも労災の発生が下げ止まってくる可能性があるかと考えております。ひいては、それが労災保険制度に長期的には負荷をかけてくることになるかと思いますので、今回、個々の制度の研究会ではありますが、長期的なトレンドというか、構造的な変化を踏まえて議論を進めていければいいかと思います。
 労災保険を雇用政策の一環と考えることに抵抗を覚える方もいらっしゃるかと思いますが、あえて雇用政策という観点から言うと、今、外国人労働者が非常に増えてきている状況の中で日本が選ばれる国となっていくためには、日本の労災補償がすごく充実しているということが周知され、理解される必要があるかと思います。そういう意味でも、日本の労災保険が日本の労働市場の魅力の一つになっていくような今後の制度改革であってほしいと願っております。単純な意見ですが、以上です。
○小畑座長 酒井委員、ありがとうございます。ほかはいかがでしょうか。全体を通していかがでしょうか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。大変重要な御意見ばかり随分たくさん出していただけたと思います。既に議論の深まりが見られた論点もあるかと思います。本日の議論については、一旦ここまでとさせていただきたいと思います。本日行われた議論については、事務局にて整理を頂戴したく思います。次回以降の議論については、私と事務局で調整をさせていただきたいと考えておりますが、よろしいでしょうか。
(異議なし)
○小畑座長 ありがとうございます。御異論はないようですので、そのようにさせていただければと思います。それでは最後に、事務局より今後の進め方と、次回の日程について御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐 今後の研究会の進め方については、本日頂いたフリーディスカッションでの御意見も踏まえて、来年1月から5月までの間に「適用」「給付」「徴収」それぞれの課題について更に御議論いただいた上で、6月から7月頃をめどに、中間報告の取りまとめを行うことができればと考えております。次回の日程等に関しては、調整の上、追ってお知らせしたいと考えております。
○小畑座長 ありがとうございました。これにて、第1回労災保険制度の在り方に関する研究会を終了いたします。本日は、お忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございました。