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労災保険財政懇談会(議事録)
1.日時
2.場所
3.出席者
- 外部有識者(五十音順、敬称略)
- 小野正昭、加藤久和、島村暁代、堀田一吉
- 厚生労働省
- 田中大臣官房審議官(労災、賃金担当)、松永労災管理課長、由井労災保険財政数理室長、伊藤労災保険財政数理室長補佐
4.議題
- (1)責任準備金の算定方法
- (2)その他
5.議事
○労災保険財政数理室長 それでは、これから「労災保険財政懇談会」を開催いたします。私は、労災保険財政数理室長の由井です。どうぞ、よろしくお願いします。
開催に当たり、大臣官房審議官の田中より御挨拶申し上げます。
○大臣官房審議官(労災、賃金担当) 官房審議官の田中です。本日はお忙しいところお集まりいただき、どうもありがとうございます。この財政懇談会ですが、過去2回ほど開催をさせていただき、特に積立金というか、責任準備金の算定方法等について、先生方から御意見を賜ったということです。今回は先生方の御意見も踏まえ、令和5年度の状況について主に説明をしたいと思っております。積立金に限らず、労災保険財政全般について御意見を頂ければと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。簡単ではありますが、冒頭の挨拶といたします。よろしくお願いします。
○労災保険財政数理室長 議事に入る前に、本日御参加いただいている委員の皆様を御紹介いたします。年金数理人の小野委員です。
○小野委員 小野です。よろしくお願いします。
○労災保険財政数理室長 明治大学副学長で、政治経済学部教授の加藤委員です。
○加藤委員 加藤です。どうぞよろしくお願いいたします。
○労災保険財政数理室長 立教大学法学部教授の島村委員です。
○島村委員 島村です。よろしくお願いいたします。
○労災保険財政数理室長 最後になりましたが、慶應義塾大学商学部教授の堀田委員です。
○堀田委員 堀田です。お願いします。
○労災保険財政数理室長 続いて、事務方の紹介をいたします。先ほど御挨拶いたしました審議官の田中のほか、労災管理課長の松永です。
○労災管理課長 松永です。よろしくお願いします。
○労災保険財政数理室長 室長補佐の伊藤です。
○労災保険財政数理室長補佐 伊藤です。よろしくお願いいたします。
○労災保険財政数理室長 本懇談会の議事については公開としておりますが、忌憚のない御意見を頂戴できればと思っております。また、議事概要については、後日、労働政策審議会労災保険部会に報告させていただく予定としております。また、従来、議事概要という形でホームページに掲載をしておりましたが、今回からは各委員の御発言をそのまままとめた議事録という形で、後日ホームページに掲載したいと考えておりますが、これについては御意見等はありますか。よろしいでしょうか。それでは、議事録という形で公開させていただきます。
それでは、お手元にお配りしております資料について、伊藤より説明いたします。
○労災保険財政数理室長補佐 室長補佐の伊藤です。資料1及び資料2について説明いたします。資料1「労災保険財政について」です。1ページを御覧ください。労災保険は、労働者の業務災害等に対して迅速かつ公正な保護をするために保険給付を行い、併せて被災労働者の社会復帰の促進や遺族への援護等を目的としている制度です。労働者の業務災害については、使用者は労働基準法に基づく災害補償責任を負っていますが、労災保険によって事業主の災害補償責任を担保する役割を果たしているものです。保険料は全額事業主負担となっており、主な保険給付としては被災者が通院した際に治療費や薬代の給付として療養補償給付。療養のために働けず、賃金をもらえない期間に給付基礎日額の60%を支給する休業補償給付。上乗せの特別支給金20%と合わせて給付基礎日額の計80%の支給となります。また、障害が残った場合の障害補償給付や、不幸にしてお亡くなりになられた場合に遺族に対して支給する遺族補償給付があります。社会復帰促進等事業としては、車いすの支給や労働災害で亡くなられた方の御遺族で学校に通われている方への学費の就学支援などを行っております。基本データですが、労災保険の適用となっている事業が約297万事業場、労働者数は約6,146万人、年間約78万人が新たに労災に被災しており、年金受給者数は約19万人といった保険の規模となっております。
2ページを御覧ください。先ほど触れました保険給付の主な内容で、それぞれの給付に要した支払実績を括弧で記載しております。3ページを御覧ください。決算値を示しており、令和5年度で見ますと、保険料収入が9,145億円、積立金を財政融資資金に預託しており、利子収入が980億円。一方の支出面を見ますと、保険給付として8,062億円、社会復帰促進等事業費が755億円、決算上の収支が305億円であり、これを積立金に積み増しており、積立金累計額が7兆8,454億円となっています。
4ページを御覧ください。労災保険の給付には、療養補償給付や休業補償給付等の短期間で給付が終わる短期給付と、遺族補償年金や障害補償年金等のように長期間にわたって給付を行う長期給付があります。財政方式としては、短期給付は当年度に要する給付費用と当年度の保険料収入が均衡する賦課方式としておりますが、長期給付分については、災害発生時点の事業主集団から被災労働者や遺族への将来にわたってお支払いする年金給付の費用を全額徴収する充足賦課方式を採用しております。したがって、将来の年金給付に要する費用を現在価値に一時金換算した金額を責任準備金として算出することにしています。令和5年度末の積立金の額を見ますと、7兆8,454億円であり、責任準備金の額7兆7,167億円と比べると、おおむね責任準備金に見合った積立金額となっております。
5ページを御覧ください。内閣総理大臣が議長となっております行政改革推進会議の検討結果ですが、一番最後のパラグラフにありますように、責任準備金の算出根拠となる賃金上昇率や運用利回りについては、設定値と実績値が乖離していることからも、妥当性について検討を行うとともに、その適正水準について引き続き検討する必要があるとの指摘がありました。こうしたことからも、責任準備金の算定方法について、検討を要するものとなっております。
6ページを御覧ください。6ページ以降は、昭和22年度に労災保険法が施行されてから今日まで適用給付の推移を表示しております。6ページは、適用面についてまとめたもので、事業場数や労働者数が時代の変遷で今日まで増加している傾向が見て取れます。7ページを御覧ください。上段の保険料収納済額についてですが、平成に入ってからは高い水準にありました。これは、昭和の時代に長期給付、つまり年金給付についても賦課方式としていましたが、年金受給者の累増によって世代間で費用負担の在り方について問題が顕在化してきたことなどを受けて、財政方式を現行の充足賦課方式へと改めており、改めた際に年金受給者への給付分が積立不足でしたので、長い期間を掛けて積立不足を解消するために保険率を高めていたためです。
8ページを御覧ください。上段は、小さなけがも含み、新たに労災給付を受給された方、下段は新たに年金を受給された方の人数を示しています。昭和に比べて、平成に入ると産業構造も変化し、災害率の低下から新たに労災給付を受給される方は少なくなってきております。9ページを御覧ください。年金受給者数の推移を示したグラフです。年金受給者の種別内訳が下段のグラフで、約19万人の年金受給者に対して遺族年金受給者が10万8,000人で大半となっております。
続いて、資料2「労災保険の責任準備金及び積立金について」を御覧ください。1ページです。令和5年度末の責任準備金を7兆7,167億円と算定しており、この内訳を見ますと、傷病補償年金分が2,390億円、障害補償年金分が2兆6,401億円、遺族補償年金分が4兆6,416億円、石綿による疾病で支給する遺族補償年金で444億円、傷病補償年金や障害補償年金の受給者が同じ業務災害を要因としてお亡くなりになられて、遺族補償年金を支給する分として、1,516億円となっております。
2ページを御覧ください。中段の表には、現在の年金受給者数を示しております。令和4年度末と令和5年度末を比べますと、年金受給者数が約5,000人程度減少しており、受給者の高齢化が要因と考えられます。年金受給者数が減少することは、責任準備金の減少を意味することとなります。下段の平均年金額ですが、令和5年度の額を見ますと、傷病補償年金が573万円、障害補償年金が170万円、遺族補償年金が190万円となっております。傷病補償年金には、じん肺や脊髄損傷などで長期間にわたって治療を受けている方は、治療費も含めて平均額を算出しておりますので、平均年金額が他の年金種別より高くなっております。
3ページを御覧ください。責任準備金の額が、令和4年度末の7兆7,541億円から、令和5年度末の7兆7,167億円へとマイナス373億円減少しておりますが、この減少を要因分解した資料です。一番上の行が、令和4年度末の責任準備金額と、金額を算出するときに使用しているパラメーターです。そこから、平均年金額を令和4年度末から令和5年度末へ入れ替えることで、プラス804億円、年金受給者数を同様に更新し、マイナス2,276億円、運用利回りの変更でマイナス1,418億円、賃金上昇率の変更でプラス2,516億円、合計で令和4年度末からマイナス373億円で令和5年度末の責任準備金7兆7,167億円となります。
4ページを御覧ください。将来にわたって年金を支給するために必要な積立金の額である責任準備金は、(1)~(5)の手順で算出しております。まずは(1)のとおり、足下の年度末の年金受給者数に、制度施行から今日までの年金記録データや完全生命表を基に算出している残存表を用いて、翌年度以降の年金受給者数を推計します。一方で、(2)の平均年金支給額についてですが、年金額は被災時の賃金に比例して支給額が決まっており、長期間の年金を受給する方に対しては、被災後の賃金水準の変動を年金額に反映させるために、現行制度上個人の年金額を名目賃金上昇率で年金額改定しております。したがって、責任準備金の算定でも、将来の年金支給額に賃金上昇率を掛けることで、次年度以降の平均年金支給額を推計しています。この(1)の年金受給者数と、(2)の平均年金支給額を乗じることで、次年度以降の各年度について年金支給総額を算出し、(4)にあるように運用利回りで現在価値に換算しているものです。
5ページを御覧ください。責任準備金の算定のうち、将来の平均年金支給額を推計するのに用いる賃金上昇率の設定についてです。(1)にありますように、統計による賃金上昇率が拡大しており、毎月勤労統計の賃金上昇率を見ると2%程度であること。また、内閣府の中長期試算の賃金上昇率の見込みを見ますと、2030年代には高成長実現ケースで3.3%、過去投影ケースで1.0%であり、それらの中間は2.15%であること。そして、また昨年1月の本懇談会では、賃金上昇率の設定は上げることが妥当であるとか、また社会情勢を捉えながら少しずつ実態に合わせていくことがよいとの意見を伺っており、これらを踏まえて昨年度に採用していた賃金上昇率1.5%から本年度は1.7%へと引き上げて設定しております。
10ページを御覧ください。責任準備金の算定のうち、将来の年金支給額を現在価値に換算するために用いる運用利回りの設定についてです。労災保険の場合、積立金の全額を財政融資資金に預託することとされており、毎年度4,000億円前後を18年から20年単位で預託しており、預託時の預託金利で単利により毎年度利子収入があります。今後6年間で償還期限が到来する債権については、足下の預託金利で再預託することとして算出した利子収入。償還期限が到来しない債権については、現在預託している金利での利子収入で利子収入を計算しており、6年間の平均運用利回りを算出すると1.12%となりましたので、1.12%を運用利回りの設定に用いることとしております。
11ページを御覧ください。上段は、財政融資資金の預託金利を過去20年分お示ししているものです。労災保険の積立金は、1つの債権をおおむね20年で預託しておりますので、ちょうど労災保険の積立金の預託債権の金利とほぼ等しいグラフとなっております。向こう数年で約定期限を迎える債権の金利は、2004年から数年間の金利ですので、2%を超えています。2%を超えていた金利が再預託する際には、足下の1.8%程度の金利へと預け替えとなりますので、平均の運用利回りは下がる傾向となります。下段の労災保険の積立金の平均運用利回りですが、令和5年度は1.25%であり、今後低下傾向となっております。私からの資料の説明は以上です。
○労災保険財政数理室長 ただいま御説明させていただきました資料1と資料2につきまして、御意見、御質問等ございましたら、御発言をお願いできればと思います。加藤委員、お願いします。
○加藤委員 御説明どうもありがとうございました。4点ほど伺いたいのですが、まず1点目です。1.7%という賃金上昇率については、長期見通し、中長期見通しからやむを得ないのかと思ってはいるのですが、例えば、実際問題、財政的には関係ないのですが、例えば、公的年金の財政検証で将来的な賃金上昇率を見込んでいるのですが、それとの整合性みたいなものというのは考えていらっしゃるのかというのが1つ目の質問です。1.7%はいいのかなと思いますが、やはり将来の賃金上昇率を出すときに、財政検証の数字も結構あちこちで使われているので、そことの整合性はどうなのですかというのが1点目です。
2つ目が、1.7%の賃金上昇率と、1.12%の割引率の関係ですが、もちろん、預託金利の関係があるので、この1.12%というのはやむを得ない、そういう数字になって出てくるのだろうと思いますが、過去の賃金上昇率と預託金利との関係性みたいな、賃金上昇率が上がれば預託金利は上がってくるだろうな、単純な線形関係かどうかは分からないですが、これについては両者の関係というのは、それなりに整合的な関係なのかどうかというのは確認されるのかどうかということが2点目です。
あと2つは、非常に簡単な話です。1つは、責任準備金と積立金で、今回は積立金のほうが少し多いのですが、このバッファみたいなものはどこまで許されるようなイメージでしょうか。例えば、完全に一致されるのは危な過ぎると思いますが、余り余裕を持ってはいけないのでしょうし、そこのバッファみたいなものはどの程度あるのでしょうか。
最後は4番目ですが、これは非常に簡単ですが、残存表は数字の生命表とどういう違いがあるのかみたいなことを、ちょっと教えていただければと思います。矢継ぎ早で大変恐縮ですが。
○労災保険財政数理室長補佐 ありがとうございます。1点目の公的年金の財政検証の賃金上昇率と、労災保険の1.7%の賃金上昇率との整合性についてですが、公的年金の財政検証についても、中長期試算の見通しを足元から10年間使用して、それを流用しております。我々も公的年金の財政検証と同様に、中長期試算の見通しを横目に置きながら、高成長実現ケースと過去投影ケースとの間ですが、中間値というものを用いておりますので、同じ中長期試算を用いているという観点では、整合はある程度取れているのではないかと考えております。それが1点目です。
それから、賃金上昇率と預託金利の整合的な関係なのか、これまで過去の実績はどのような推移をしていたのかという観点ですが、資料としては、資料2の7ページが、賃金上昇率のこれまでの推移です。見てみますと、平成20年頃から令和元年ぐらいまで、賃金上昇率としては0%程度の動きをしておりました。一方で、預託金利の運用利回りの実績を申し上げますと、11ページ、運用利回りの実績値の下段のグラフですが、値としては、1%後半の値でした。ですので、今年は令和5年度で設定している賃金上昇率と、運用利回りの上下関係という意味では、過去の実績から逆転しているというものです。
残存表については、資料2の4ページを御覧ください。残存表の参考として、作り方を示しているのですが、(1)にあるように、障害・傷病年金につきましては、年金受給者の年金記録データを基に、年金を支給する事由が生じた日から起算して、受給権を失うまでの残存実績を算出することで、残存表を作成しております。
一方で、遺族年金ですが、遺族年金の受給者は、労災で被災された方ではないので、こちらの遺族年金の受給者につきましては、完全生命表を基に算出しております。
○労災保険財政数理室長 あと、積立金がどれぐらい余裕が許されるのかという御質問だったと思いますが。特にどれだけが許されるとか、何か決まった水準というのはないのですが、労災保険の料率は、基本的に3年に1回見直すことになっておりまして、そのときに当然、責任準備金に比べて積立金に余裕があれば、その余裕の剰余分を使って、料率を少し下げる財源にするとか、あるいはもし責任準備金に積立金が足りなかったら、その積立不足分を保険料率に反映させて、積立不足を解消するとしています。できるだけバランスが取れる方向に料率を改正するのが基本的な考え方だと思っております。
○加藤委員 ありがとうございました。承知いたしました。
○堀田委員 残存表の話が今出ましたので、追加で質問をさせていただきます。この残存表の障害・傷病年金の受給者の方々というのは、一般の方よりは寿命が短いのですかね。その辺りはどのぐらいのギャップを持っているのでしょうか。
○労災保険財政数理室長補佐 生命表と比べますと、やはり、障害を受けていらっしゃる方については、早く失権されるという傾向が見て取れました。公的年金の財政検証でも、障害年金を受給されている方の年齢別の失権率を算出して生命表と見比べておりますが、やはり同様に障害を受けていらっしゃる方等につきましては、失権が生命表よりは高いような状態です。
○堀田委員 それは傾向的にそうなっているのですか。例えば、医療技術の進歩で、そういう方々の寿命も延びている。幸いなことですが。そういう傾向はありますか。
○労災保険財政数理室長補佐 長期的なデータというものは、申し訳ないのですが、見比べたことがないものですから、すみませんが回答できるデータが今はございません。申し訳ございません。
○労災保険財政数理室長 1点補足ですが、障害の方は症状固定してしまうのですが、傷病年金の方は、例えば、じん肺とか、脊髄損傷の方が多くいらっしゃるのですが、治療し続けながら年金を受けられる方なので、一般的には遺族年金の受給者よりも、早く亡くなられる傾向にはあるのではないかということで、データ上もそういうふうにも見て取れると思います。
○堀田委員 平均の生存期間みたいな、障害を受けられてからどのぐらいの受給期間という統計はあるのですか。
○労災保険財政数理室長補佐 はい、ございます。昨年の懇談会の資料の中で、残存表を更新しましたので、その中に平均の受給期間が掲載されていたと思います。
○堀田委員 私も見たような気がチラっとあったのでお聞きしたのですが。
○小野委員 ありがとうございます。今の残存表の話というのは、去年の記憶で、うろ覚えで恐縮ですが、ここで言う、受給権を失うまでの残存実績を算出するということになっていまして、これは必ずしも死亡率を使っているわけではないと理解しています。その意味では、前回この残存表が大分変わつたときに、どんな影響で変わったのかという質問を申し上げたところ、これは高齢化ですと言われたように記憶しております。であれば、年齢ごとの死亡傾向というのは、ある程度あらかじめ反映できるのではないかという印象を受けたということです。それはコメントですが。
令和5年度の責任準備金の算出のための計算基礎や、あるいは現行の充足賦課方式などの捉え方については、私としては了解させていただきました。
1点、今の残存表もそうかもしれませんが、今後、責任準備金の算出手法を見直す際には、厚生年金との併給調整の影響を考慮することの是非についても、検討項目に加えていただきたいと思っております。
併給調整に関しては、昨年の私の記憶では、公的年金を優先して支払いまして、労災保険はある種、差額給付のような御説明を頂いたのではないかと記憶しております。ただ、例えば、厚生年金の給付というのは、そもそもマクロ経済スライドもかかりますし、支給開始後なら物価スライドになります。その意味では、両者の差額というのは必ずしも将来的に一定にはならないだろうと思います。併給調整の具体的な方法というのは、私自身は把握してないので、若干、的外れかもしれませんが、可能であれば来年の懇談会において、検討結果を御説明いただきたいと思っております。
加えて、この懇談会は、制度の在り方を検討する場ではないということは承知しておりますので、あくまでも、参考として情報提供させていただきたいと思いますが、遺族厚生年金に関しては、現在でも30歳未満の子のない妻の場合は、5年の有期給付となっております。また、現在、社会保障審議会の年金部会では、私も島村委員も参加しているのですが、遺族厚生年金における男女差の解消とともに、有期給付の範囲を段階的に拡大していくことを検討しているということです。これは、共働き世帯の増加等、かつての専業主婦世帯から家族の在り方が変化していることを踏まえているということです。結論はどうなるかは分かりませんが、こうしたことも労災保険の年金給付を検討される際には、参考になるかもしれないということで情報提供をさせていただきます。以上です。
○労災保険財政数理室長 ありがとうございました。併給の話は、基本的には平均の労災年金と平均の公的年金の額を出して、その公的年金の最大2分の1まで労災を支給停止するという仕組みになっていて、個人ごとに計算する仕組みにはなっていないということなのですけれども、その調整率というのは見直すタイミングというのはもちろんございますので、将来の年金額を計算する際に、当然その調整率というのも基礎率として採用すべきだという御意見だと思いますが、それはもうごもっともだと思います。
ただ一方で、将来の調整をどう見込むかということも、よく考えないといけないと思いますので、そこは宿題として認識しておきますので、ちょっと検討させていただきたいと思います。
○小野委員 お願いします。
○労災管理課長 それと2点目にいただいた、厚生年金の見直しの動きとの関係で、御指摘ありがとうございます。我々も当然、年金部会の議論というのは注視していかなければいけないと思っているところです。
ただ一方で、遺族厚生年金と労災の遺族補償年金については、目的がそれぞれありまして、特に労災の遺族補償のほうでいきますと、労働者の業務上の死亡によってもたらされた、被扶養利益の喪失状態を補填するという目的があります。その辺は遺族厚生年金と違った部分だろうと思います。
今、御指摘いただいたように、現に現行でも30歳未満の子のない妻の所は、遺族厚生年金は5年間、労災はそういう期間は付けていないということで、そういったところは目的の違いみたいなこともあろうかと思っています。
遺族厚生年金が有期にすることになったときに、アプリオリに労災のほうがそれに倣うということでもないと思っています。そこは労災補償制度の目的というものを、ちゃんと照らした上でどうするかということは、考えていかなければいけないと思っているところです。
いずれにしろ、今、御指摘いただいたように、年金部会の議論というのは、よく注視していきたいと思っています。ありがとうございます。
○堀田委員 1点御質問させていただきたいのですが、産業構造の変化と労災保険財政との関係性について、どのように把握されておられるのかについてお聞きしたいと思います。
具体的には、産業別の労働者の構成というのが、このところ変わってきているのではないかと思うのです。それが労災保険の財政に何かの形で影響が及んでいると捉えているかどうか。
あるいは、2つ目には、最近やはり高齢者で就業なさる方が増えています。そういった傾向の中で、高齢者就業と労災問題というのが、将来どういうふうに影響を及ぼし合っていくのか。あるいは、外国人労働者も増えています。そういった方々が増えていく過程で、外国人労働者の方に対する補償の問題もさることながら、いわゆる労災の中身というか、それも変わってくるのかもしれないと推測するのです。
ちょっと大きな話で恐縮ですけれども、将来にわたる労災保険財政に及ぼす、現在あるいは将来にわたる産業構造の変化、これとの関係性についてどのように捉えているのかということをお聞きしたいと思います。
○労災保険財政数理室長補佐 産業構造と労災保険財政との関係ですが、平成に入ってからもですが、新規年金受給者や新たに労災保険を支給される方というのは減っている、減少傾向にあるという大きなトレンドがあります。
財政の観点で申し上げますと、平成元年頃は全業種の平均の保険料率で申し上げますと、10/1000程度の料率ではあったのですけれども、直近で申し上げますと、4.4/1000で、料率が下がってきているということです。
これはいろいろな要因はあるかと思いますが、やはり産業構造の変化もあり、リスクの高かった事業から、第三次産業へと構造が変化してきているのだろうというのも、大きな要因であると認識しています。
それから高齢化や、外国人の方々の災害リスクですけれども、労災保険料率の改定を3年に1度していまして、それぞれの業種ごとに災害リスクを過去のトレンドから、将来にかけて見込むということをしていまして、将来の3年間で起こるであろう事故に対しての保険料を集めているというような、そのような保険料率の設定をしています。
その中で外国人の方や高齢者など、そういった年齢要件であったり、国籍といったところについてまでは、現在、料率設定の中では見れていないところですが、今後そのリスクが違いうるものであれば、料率の設定の仕方も検討していかなければならないと考えていまして、御指摘いただきましてありがとうございます。今後何ができるか検討してまいりたいと思います。
○堀田委員 充足賦課方式ですから、その都度その都度の変化に、その都度対応するという形が可能なのだろうと思いますから、将来を推計しなくても変化をそのまま取り入れることで、対応可能という考え方なのかなと思います。そういう意味では、財政に直接的にここで見込んだものが、財政を揺るがすようなことに至ることはないと承知した上で、申し上げているのです。
しかしながら、逆に言うと、その都度の変化を取り入れていくと、もし財政を圧迫すれば、それはそのまま保険料に反映されるということでもあるわけでしょうから、将来を見通すという意味では、その傾向を捉えておくというのは、非常に大事なことだという印象を持っています。
○労災保険財政数理室長 ありがとうございました。
○大臣官房審議官(労災、賃金担当) 先ほど補佐の方から御説明しましたけれども、確かに産業構造の変化もあったということで、平均の保険料率がどんどん下がっていく状況になっているのですけれども、やはりいわゆる事故率の高いところから、そうでないところに移っているのは確かなのでしょう。
事故率の高い、昔高かったところであっても、労働安全衛生対策を、これは我々国がというよりも、労使特に使側ということだと思いますけれども、しっかりやっていただいているということで、そういう意味ではどんどん事故率は下がっている。こういう変化があろうかと思います。そういう意味では産業構造の変化だけではなくて、そういう労災防止努力といいますか、そういったことも十分影響しているのではないかと思います。
あと、高齢者、外国人、いろいろな要素があると思いますけれども、恐らくそれだけで突然事故率がものすごく上がることは、多分ないと思うので、保険料率に係る影響がそれほどあるとは思えないのです。
いずれにしても先ほど先生がおっしゃったように、3年ごとに我々も保険料率を見直していますので、そういう機会にどこの業種でどのようになっているかというのは、よく注視していきたいと思っています。
○労災保険財政数理室長 先ほどの高齢者や外国人労働者の話ですけれども、統計を見ていると、特に60歳以上の男性で就業率が最近すごく上がっていて、これは多分、公的年金の支給開始年齢の引上げや、あるいは継続雇用の義務化など、そういうことが背景にある。
女性はほとんどの年代で上がっているのですけれども、男性は60歳以上がすごく上がっているということで、例えば工場で歩いていて、転倒された。若い方だとちょっとすりむいたな、という程度で済むのですけれども、高齢の方だと骨折して入院するとかという、やはり災害が大きくなるリスクは高まってくると思うので、そういうことが今はそんなに財政には影響はないと思うのですけれども、影響が出てくるようであれば、そういうところもよくウオッチして料率改定の時に反映させないといけないなと、今、堀田先生のお話を聞いて思いましたので、ありがとうございました。
○堀田委員 ですから検証するとしたら、かなりいろいろな角度からの分析が可能な問題があるのだなと。財政の問題は直接関係はしないかも知れませんけれども、将来それこそ10年後20年後をスパンとして捉えたときに、産業構造の変化は更に加速的に進んでいくのだろうと思います。
一方で、もちろん防災の運動が効を奏しているという話もお聞きしましたけれども、例えばロボットを更に入れるとか、AIが導入されるとかで、また違った形にもなっていくでしょうし、そういう意味でも本当にいろいろな変化が、保険財政に遠隔的に及んでいる、あるいは及ぶかもしれないということかなと思います。
○労災保険財政数理室長 労災年金はかなり長期にお支払いするものですので、今受けておられる方に、将来まで確実にお支払いし続けることが何より大切ですので、財政の安定性といいますか健全性について、よくウオッチしていきたいと思います。
○堀田委員 そうですね。
○加藤委員 すみません、非常に初歩的な質問なのですけれども、労災の場合の納付率は、ほぼ100%と考えてよろしいのですか。保険料の納付率。それは財政にほとんど影響のないレベルですか。変更ないということであれば。
○大臣官房審議官(労災、賃金担当) 一応97%。大分高いのですけれども、そういう意味では。
○加藤委員 そういうことは考えなくていい。
○大臣官房審議官(労災、賃金担当) そういうわけではない。
○加藤委員 ありがとうございます。
○島村委員 すみません、労災の場合は保険料を事業主が払っていなかったとしても、取りあえず給付は出して、その後で事業主から取るという形になっているかと思うのですが、そういう形で取るのは、件数としてはすごく少ないという理解で、先ほどの話だとよろしいでしょうか。
○労災保険財政数理室長補佐 手元に資料がないのでごめんなさい、数字については分からないのですけれども、一定程度はいらっしゃいます。ただ金額や人数がそれほど大きかったかと言われると、それほど大きくはなかったように記憶しています。
○大臣官房審議官(労災、賃金担当) 余り頻繁にあることではないです。
○労災管理課長 3桁ぐらいですかね、件数で。
○労災保険財政数理室長補佐 そのぐらいのものですね。
○労災保険財政数理室長 そのほか何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。それでは大変貴重な御意見を頂きまして、ありがとうございました。冒頭でも申し上げたとおり、本日の議事録を作成しまして、後日、皆様方に御確認いただいた上で、議事録をホームページに掲載したいと思います。
それでは本日の議事は以上で終了いたします。お忙しい中、ありがとうございました。