第11回労働基準関係法制研究会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和6年8月20日(火) 14:30~17:30

場所

AP虎ノ門Aルーム

議題

労働基準関係法制について

議事

議事内容
○荒木座長 定刻になりましたので、ただいまから第11回「労働基準関係法制研究会」を開催いたします。
 先生方には、御多忙のところ御参加いただきまして、ありがとうございます。
 本日の研究会につきましても、会場参加とオンラインの参加双方による開催方式とさせていただいております。
 本日ですが、首藤先生が御欠席、石﨑先生、島田先生がオンラインでの御出席。それから、水島先生は途中からオンラインでの御参加と聞いております。
 カメラ撮りは、ここまでということでお願いします。
(カメラ退室)
○荒木座長 議事に入ります。
 本日は、前回の続きで、「労働からの解放の規制」と「割増賃金規制」を議論できればと考えておりますけれども、この積み残しの議論に入る前に、前回御欠席でいらっしゃった水町先生から前回議論した部分についてコメントをいただければと思いますので、よろしくお願いします。
○水町構成員 早速ありがとうございます。前回欠席させていただきまして恐縮でした。前回の議論について、事務局のほうから内容を若干伺って、私のほうから前回の議論に対して、大きく3点、意見、コメントを言わせていただきたいと思います。
 まず1つ目は、労使協定、36協定に対して個別の同意、オプトアウトという言葉が使われていたようですが、オプトアウトによって36協定の規制から外れるということについて、実は、イギリスで言われているオプトアウトとは、恐らく前回議論されたものはベクトルが逆で、イギリスのオプトアウトというのは規制から外れる個別同意ですが、前回議論されていたものは、36協定の集団的な合意からオプトアウトで外れる、36協定から外れると原則的な労働基準法第32条の規制に戻るという意味での話であれば、オプトアウトという言葉を使うこと自体に若干疑問があります。
 少なくともその趣旨で、例えば労使協定、36協定によって設定された上限時間から労働者個人の個別の意思によって外れて、時間外・休日労働に対して制限をかけるという意味での制度であれば、これは十分考えられるものだと思いますし、法技術的に考えたときには、現在の裁量労働のみなし制に対する個別同意。裁量労働制について労使委員会の決議、または労使協定によって裁量労働の範囲が集団的に設定されているときに、個別の不同意、同意をしないことによって裁量労働の対象から外れる。そういう意味で、労使委員会の決議や労使協定から個別の同意で外れるという制度が既にあるので、それとパラレルな制度設計で、同意と言うか不同意と言うかですが、36協定上の集団的な制度設計から個別の同意もしくは不同意によって外れるということは、法技術的には考えられるかなと。少なくとも、その点だけ1つ目はコメントしておきます。
 2つ目は、情報開示について。最近、ヨーロッパでも情報開示、特に透明性が大切だと言われる中で、この情報の開示・公表というのは3つのレベルのものがあって、外部に対して情報を公表する。あと、企業の中なんだけれども、企業内で労使コミュニケーションを円滑に促すために企業の内部で情報を開示する。さらには、個別のレベルで労働契約の内容である労働条件を個別の労働者に明示するというので、透明性を高めるためにはこの3つのレベルのものが言われていますが、特に前回の議論の中で私が個人的に大切だと思うのは、企業外部に対する公表が大切なのではないか。
 特に、今、労働政策として、例えば人的資本経営とか主体的なキャリア形成の支援とか労働移動の円滑化ということが言われていますが、そういう労働政策の方向性・観点からも、外部に情報をきちんと公表して労働移動、どこの会社に就職するか、どこの会社に転職するかということについてきちんと認識した上で選択させるということが、キャリア形成の上でも、きちんと自分の働く場所を探すという意味でも大切なのではないか。その中で、複雑な制度設計にするのではなくて、公表の仕方としても、見るほうとしても、非常にシンプルに分かりやすい制度設計をする。例えば、諸外国で情報を公表させるというときに、企業のホームページにシンプルな情報を公表するということが大きな流れになっている。
 ですので、ここでは時間外・休日労働の時間を含む実労働時間、全体として何時間働いているかというような基本的な情報を、例えば労働施策総合推進法で、今、中途採用の比率について企業のホームページ等で情報公表するということが義務づけられていますが、それと同じようなシンプルな形で、大切な情報を外に見えやすくするということが政策的に大切なのではないかというのが2点目。
 3点目については、テレワーク等に関する新しい労働時間制度として、前回の議論ではみなし労働時間制をテレワーク対応で新しくつくるというような議論が展開されていたというふうに伺っています。私自身は、テレワーク対応のためのみなし労働時間制をつくるということには個人的には反対です。なぜかというと、テレワークで長時間労働、過重労働が自宅で勤務する中で生じているというような実態の報告や報道等が見られている中で、みなし制を導入すると実労働時間による規律というのが外れてしまう。実労働時間による規律が外れてしまうことになると、上限時間の適用も実質的になくなってしまうということになってしまう。
 ですので、みなし労働時間制を在宅労働について導入するということは、そのリスクがかなり大きいのではないか。そして、制度設計する上でも、そういう過重労働、長時間労働の弊害をなくすような制度設計を行うということはかなり難しいのではないかと思います。
 そういう意味では、例えばテレワークなどに対応するためには、実労働時間で規律することを前提としながら新しい法制度をつくるとすれば、フレックスタイム制が望ましいのではないか。現行のフレックスタイム制というのは、例えば月曜から金曜日まで全体について就業時間を自由に設定するということが前提になっていますが、就労日ごとに、場合によってはフレックスに入る日とフレックスタイムに入らない日というのを選択できるというような部分フレックス制度を導入し、これは必ずしもテレワークに限るものではなく、出社した勤務の中でも部分フレックス制度を導入して、柔軟な働き方を弊害が起こらない形で認めていくということが適切な政策的な選択肢ではないかと思います。
 差し当たり、私のほうからは以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。前回もいろいろと議論すべき論点が多数提起されまして、今、水町先生から大変重要な御指摘をいただきましたけれども、積み残しの問題もたくさんありますので、今日のところは御意見を提示頂いたということで伺っておきまして、本日の論点に移っていきたいと考えております。
 本日は、資料で言いますと21ページ以降ということになります。今日は4つぐらいに分けて、「法定休日」がひと固まり、31ページ以降の「勤務間インターバル」と「つながらない権利」が2つ目、3つ目として、44ページ以降の「年次有給休暇」と「休憩」、最後に50ページ以降の「割増賃金」。この4つの固まりに分けて議論させていただければと思います。
 それでは、最初の部分ですけれども、資料の21ページから30ページまでの「法定休日」について、まず先生方から御意見を伺いたいと思います。どなたからでも結構ですので、どうぞ挙手ないし合図を送っていただければと思います。
 水島先生、よろしくお願いします。
○水島構成員 水島でございます。遅れての参加となり、申し訳ありません。
 4週4休という現在の制度は、健康確保の点からは疑問があり、見直しをすべきと考えます。労災認定基準も改正されていますし、これも参考にしながら検討することになろうと考えます。見直しとして22ページに提示していただいていますが、例2の連続勤務日数上限を設けるのが、健康確保や労働者の健康・安全を守る点からは望ましいと考えます。他方で、労災認定における考え方を労働基準法に取り入れることが労働基準法の規制に合致した制度設計になるのかは、私自身、まだ検討できていないところです。
 以上でございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
 山川先生。
○山川構成員 ありがとうございます。
 特に強い意見ということではないのですけれども、1つは、変形週休制における連続勤務で、25ページにあるように、制度上、48日連続勤務が可能になるというのはちょっとどうかと思いますので、これは水島先生と同様の志向ですけれども、連続勤務の制限をするということはあり得ると思っております。ただ、ここの書き方の問題としては、可能であると言うと、仮にこれを規制すると連続勤務が不可能になってしまうかというと、そういうことではなくて、36協定で休日労働をさせること自体は可能なわけですから、今、この変形休日制を使っているのは、要は休日割増しと36協定が要らなくなるというお話です。したがって、逆に言うと、この規制をかけたとしても、必要があれば36協定と休日労働の割増しを払えばできなくはないということです。もし、本当に健康確保の必要性が強いのであれば、逆に36協定、今で言えば特別条項があるかないかにかかわらず、絶対的上限規制というものがあります。そういうものとして設計するというようなお話になり得るかもしれませんけれども、少なくともここでは、休日労働になるかならないかというお話にとどまっているということは認識しておく必要があるかと思います。
 もう一つが休日の特定の問題で、なかなか難しいところかなと思います。27ページに御質問がありまして、かなり細かいことなのですけれども、4週4休制の規定を削除する場合、休日の(事前)振替は同一週内に行わなければならないことになるかということです。これは変形休日制の規定がある場合にそうなるということで、起算日を定めるというのは労働基準法施行規則の第12条の2は、実は労働基準法制定当時にはたしかなかった条文なのですね。変形制ですから、当然、平均計算をするために起算日が必要になると思うのですけれども、古いものを見ると、そういう起算日を定めなくても、当然、4週4休の範囲内でさえあればいいみたいな記述があって、それは第12条の2で起算日の要求がされてから以降は妥当しないのではないかと思っております。
 したがって、何が言いたいかといいますと、変形休日制を採用されていない場合、通常の週1日の休日の場合は、当然、休日振替をした場合には4週4休の範囲で振替を行えばいいということにはならないのではないかと私は思っているのです。要は、起算日を定めるということは、それだけ重要なことで、それがないとすると、週1日、最低の休日という規制は、振替の場合でも残るのかなと思っております。
 それから、次の矢印のところで、これが難しいお話で、かなり細かい御質問なのですけれども、週休1日制で法定休日がどの日か特定しない場合にどうするかということで、①から④とあります。①になりそうな気はしたのですけれども、これは年休の使用者による時季指定と関係がありまして、現在でも年休に関しては、使用者が時季指定義務を尽くさない場合については、39条違反ではなくて、その場合だけ特別に39条7項違反という罰則規定を設けているのですね。だから、罰則のかけ方もちょっと別になるのではないかという感じがしております。
 なかなか難しいのは、週休2日制の場合に、例えば日曜日から起算して日曜日と土曜日が休日になっていて、それで日曜日を法定休日とした場合には、その日に休日を与えなくて振替をした場合に、土曜日が法定外であるにせよ休日ではあるにもかかわらず、原則としてその週の中に法定休日である振替休日を設けなければいけないということになってしまいそうな感じがします。それでよいのかもしれませんけれども、そこまでする必要がなければ、例えば休日に働かせた場合には、同一週内に法定外休日があれば、その日をもって法定休日とするというようなただし書き、かなりテクニカルなお話ですけれども、要は推定みたいなものもあるかと思います。
 週休2日の場合であれば、特定は原則必要だけれども、その特定された法定休日に働かせた場合であっても、結局、本来の建前の週休1日が確保されていれば、そちらの休日を法定休日として取り扱う。問題は、法定休日が最初から特定されていないという予見可能性に欠けることであるというようなお話だったかと思いますので、そのような形の推定というか、例外、ただし書きというか、そういうようなことも法技術的にはあるかと思います。かなり細かいお話になってしまいますけれども。
 あとは、法定休日の変更みたいなこともあるのかもしれません。法定休日を特定したとしても、どういう要件で変更を認めるかという法規律の在り方のお話になるかもしれません。ちょっとブレーンストーミング的なことで申し訳ありません。
○荒木座長 ありがとうございました。
 では、事務局からお願いします。
○労働条件確保改善対策室長 今、山川先生からお話をいただいた中で、22ページの案のところで、いわゆる法定休日をどうするかという問題と休日労働の問題との観点をいただいていたかと思います。この22ページの資料でございますが、例1と2ということで、上段と下段の2段に分けてお示しさせていただいているかと思うのですが、下段のIIのほうが、まさに先生に御指摘いただきました休日労働の関係をどうするかということで、1つは、休日労働、36協定を締結すれば、労使で合意すれば、何回休日労働を認めるかということは無制限になっているというものに対して、回数をある程度縛るということですとか、あるいは先ほど先生がおっしゃられたように、36協定でも超えられない、今の上限規制のような形で連続勤務の上限日数を導入するか、こういうことが考えられるということで資料のほうをお示しさせていただいております。
 ですので、御指摘いただいたように、法定休日をどうするかという問題と、この休日労働と併せて御議論いただければありがたいかなと思っております。
○荒木座長 ありがとうございました。
 山川先生。
○山川構成員 ありがとうございました。
 先ほどの休日労働自体のいわば絶対的規制みたいなお話もあり得るというお話は、変形休日制の25ページだけ見て考えていて、22ページにその趣旨が既に入っているというお話でしたので、ここまでは意識しておりませんでした。ありがとうございました。
○荒木座長 続いて、石﨑先生から手が挙がっています。お願いします。
○石﨑構成員 ありがとうございます。
 今、議論されています22ページの点に関しましては、私も水島先生、山川先生と同様の問題意識で、制限は必要であろうというところは同様であります。
 また、この規制をかけるときに幾つかオプションを示していただいているところではあるかと思うのですが、現状、既に心理的負荷の判断要素として、この13日という数字が出てきているということですと、例②のような形での規制の仕方というのは、根拠がある数字ということもあって、1つ、こうした規制の導入になり得るのかなと思っているところです。
 ただ、今まさに議論になった休日労働に係る上限規制ということとの関係で、心理的負荷の判断に当たって、強となるレベルの数値というのが、直ちに絶対的に規制されなければならない数値なのかどうかというところは、また慎重に考える必要もあるのかなと思っておりまして、この辺り、何らか医学的なエビデンスとか、そういったものがあれば、そこは1つ基準になるのかなと思いますけれども、ここのIとIIで数字をそろえるべきなのか、多少、そこでバッファーみたいなものがあってもいいのかというところは、私自身、今の時点で明確な意見はないのですが、ちょっと慎重に議論してもいいのかなと思っているというところになります。
 それから、もう一点、27ページの特定に関する議論は非常に難しい議論だなと思ってお伺いしていたところでありますけれども、先ほどの連日勤務の制限の議論と比べると、やや中長期的に検討していい問題なのではないかなという気もしております。確かに労働者にとっての予測可能性の確保とかスケジュールを立てるというところとの関係で、特定されるということは本来的には望ましいところではあるのですけれども、他方で、ここでも問題提起していただいていますが、特定したかどうか、所定休日と法定休日とでの罰則の有無に差が生じるといった辺りなども、ちょっとどうなのかなという気もしております。
 特定しなければならないという規制をより明確に入れていくとしても、そこに関して、例えば罰則なしの規制として入れていくとか、いろいろなやり方、先ほど山川先生からもあった、もう1日の方、特定されていない日を、場合によっては法定休日とみなすとか、変更を認めるみたいな対応とか、いろいろな技術的な手法があり得るように思いまして、明確な意見でなくて恐縮ですけれども、そこについてはちょっと慎重に検討する必要があるのではないかというのが、今の時点での私の意見であります。
 以上になります。
○荒木座長 ありがとうございました。
 黒田先生。
○黒田構成員 基本的には、今までの先生方の意見に同意なのですが、医学的なというか、健康管理の面でというような、石﨑先生からも少しコメントがありましたので、その点についてコメントさせていただければと思います。
 今回、1番目の法定休日制度についてですが、2番の大きなセクション、「労働からの解放の規制」、いずれも健康管理だけではなくて、ワーク・ライフ・バランスという観点もあると思うのですが、一義的には健康管理というか、要は労働による疲労からの回復というか、休養によってどのように回復するかという話が非常に重要かと思います。法定休日制度、先ほど労災の基準もあってというのはもっともだなと思ったのですが、すごくエビデンスレベルが高い根拠に基づくかというと、まだいろいろ議論の余地があるところです。では、何日に1回休めばいいのかというのはなかなか結論が出ているものではないのですが、2週間に13日連続勤務、13日を超えるようになると、労災基準にもありますけれども、労働による疲労の回復がかなり難しくなってくるのではないかと思います。
 そもそも休養の効果というのは、疲労回復をどの程度するかという休養のタイミングとその量に依存すると言われており、4週4休で連続勤務できて最初と最後に休みがあればいいというものでもなく、適度なタイミングで適度な量を投入するという考え方が必要になるので、どこかで連続勤務を止めるような規制が必ず必要になってくると思います。
 あとは、私どもが実施した精神疲労に関して大学の研究者を対象にした調査のときに、週1回まとまった休養がないと、かなり抑うつ度が高まるという調査結果も出ました。それは、必ずしも病気になっているとか病気になることを意味してはいないのですが、予防という観点では連続勤務は本当はもうちょっと短いほうがいいと思います。一方で、今は最低基準の話をしていると思いますので、そうすると、週に1回ぐらい休日があると理想的ではあると思うけれども、せめて2週間内に1回ぐらいはというのが妥当なところではないかと、今までの先行施策や知見からは言えるのではないかと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 ありがとうございます。
 22ページのIについては、結論から言うと、私も例②の13日の連続勤務に対する規制については、望ましい方向だと考えております。その上での確認なのですけれども、上の色がついているところで、「2週間以上にわたって連続勤務を行った」ことのストレス強度が非常に高いという話ですが、2週間以上の連続勤務というのが、フルタイムでの労働が2週間続くのか、それともフルタイムの日と、もともと休日であるはずの日なんだけれども、例えば我々大学教員で言うと、入試が当たるとか、1時間だけ仕事があるとか、翌日の授業の準備をするとか、そういうもの、短期的に30分だけとか翌日の準備のためにみたいなものも、全部から完全に解放されるほうがストレスにならないのかといったとき、私の感覚では、多分、ここにいらっしゃる大学の先生たちは気になったことは調べるだろうし、でも、それは仕事だからやっては駄目よ、パソコンを触るなと言われて、果たしてそれは望ましい方向なのかということは少し気になるところです。
 フルタイムで働く、または肉体労働などを考えると、この基準というのは適正なものかと思いますが、どういうところまでが仕事かという前回、神吉先生からの問題提起もあったような論点にも関わる話でありますが、ここで言う2週間以上にわたっての連続勤務を会社側がやれと言った場合に、13日を超えては駄目という方向自体はよろしいと思いますが、その仕組みにどこまでが仕事かという線引きをどうするのか、プラス、それに実効性があるのか。もちろん職場に出てきて仕事をするというものを防ぐことには、このルールでつながるかもしれませんが、仕事につながる作業をやるといったものを止めることにつながるのかといったところ、うまい仕組みづくりが必要かなと感じました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 水町先生。
○水町構成員 今、議論になっている2点。
 まず1点目、27ページの法定休日の特定については、何のために法定休日の特定をさせるかという趣旨が大切で、これは少なくとも健康確保というより、労働者の働く人の私的生活の尊重とか生活リズムの確保という趣旨から行うとすれば、そのこと自体、例えば少なくとも1回のあらかじめ特定した休日を与えなければならないと書いてありますが、そのこと自体を作為義務として命じて、かつ、これは法定休日を少なくともきちんと罰則付きで特定しなければいけない。
 もう一つの、週休2日で法定休日ではないほうについては、罰則付きにするかどうかというのは難しい問題がありますが、法定休日を少なくとも週に1日はきちんと特定しなければいけないというのを罰則付きで命じることが大切で、その結果、下の①、②、③、④だと、恐らく①ということになるのではないか。その趣旨との関係で、そういうことが考えられるのではないかというのが1つ。
 2つ目は、法定休日を週1日特定したとしても、山川先生がおっしゃったように、36協定を結べば休日労働できるので、その36協定に基づく休日労働をさせた場合には健康確保が大切だねというので、健康確保のためにきちんと休日を取るというので、連続勤務の規制を強行的に罰則付きでかけることが必要だと思います。
 その話として、22ページの下の②。これを何日にするかというのはいろいろ議論があるかと思いますが、差し当たり、今の労災関係では13日を超えた2週間以上の連続勤務が規制対象となっていますし、これは前の労働基準法改正で、1か月、単月100時間、複数月平均80時間というのが労災で定められている、いわゆる過労死基準との関係で労働基準法上の上限時間を設定したということとパラレルに考えて、連続勤務についても、これ以上課すと、労災上、健康を損なう危険性が高いよというときに、労働基準法上もそこでリンクするような形で連続勤務時間の規制を強行的に罰則付きでかけるということは、大切になってくるのではないかと思います。
 補足して、安藤先生がおっしゃっていた、では、パソコンを開けて、我々が例えば休日だと言われているときに労働基準法の解釈通達について調べてみました。これで労働時間、勤務時間になるかというと、これは指揮命令下でそういう仕事をしているかという問題なので、例えば大学使用者としては、労働しては駄目ですよ、休日はちゃんと休んでくださいという、指揮命令下で働かせないことを明確にしながら規制をかけるということ。労働時間に当たるかどうかという点も明確にしながら、そういう連続勤務規制をかけるということが大切なのかなと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 27ページの記載内容について質問があります。この枠囲みの中で、毎週少なくとも1回のあらかじめ特定した休日を与えなければならないというのを、どのぐらいの指定の頻度というか、指定の変更ができるのかということがまず気になっております。これが例えば毎週日曜日というのを1年間ずっと続ける。だとすると、あらかじめ特定した休日という気もしますが、毎月1日に、今月はあなた、火曜日休みね。今月4週ありますので、4回、火曜日休みです。次の月の1日には、今月は日曜日休みにしましょうというのも、あらかじめ特定した休日になるのか。それとも、通年で同じものにしないといけない、または、それよりさらに長い期間で安定させないといけないということなのか。
 この期待権という話が、労働者の期待権も含めて保護法益であると考えられるときに、例えば髪の毛を切ってもらうヘアサロンとか、火曜日休みの店舗は東京とかは結構多いと思うのです。でも、みんなで順番に休みましょうということで、火曜日、日曜日とだんだん入れ替わっていくようなものが仮にあったとして、それだとこのルールは守れないのかといった辺り、このあらかじめ特定したというのは、どのくらいの頻度でそれが変更可能なのかといったところをもう少し明確にしたほうが、現場でトラブルを巻き起こさないのかなとも感じました。
 以上です。
○荒木座長 事務局からお願いします。
○労働条件確保改善対策室長 ありがとうございます。
 今、安藤先生からいただいたものですけれども、このあらかじめ特定したというのが今、考え得るものとして、1つ条文例としてお示ししたものでありますが、その際の運用に関してどうするかというのは、その方の雇用形態とかシフトの組み方によっても変わってくるのかなと思います。例えば、典型的な正社員で、曜日で休みが大体決まっているようなケースであれば、あなたの法定休日は毎週日曜日ですと書くことによって日曜日が法定休日になる。それが就業規則に書かれて、そのまま続くということで特定が可能ということが典型例としては考え得るわけです。
 ですが、そもそも労働日自体がシフト制で毎月決めているというようなパターン。3つ目の矢印で言うところの③とかのパターンですけれども、そういった場合にはシフトと同時に組まなければならないということも考え得るところでございます。現行制度でこういった特定を求めているわけではありませんので、今どうなのかというのはないわけですが、実際に制度を組んでいくときにどういう運用ルールにしていくのかということを、法律よりは下のレベルであるかと思いますけれども、検討していかなければならないということかと思います。
○労働条件政策課長 若干補足させていただきますと、この場は立法論を議論いただく場でもございますので、このような規制であるべきだということについて、制約なく先生方に御議論いただきたいと考えております。その上で、労働基準法が刑罰をもって履行確保を図る法規であることを考えますと、今、ここの枠内に書いてあるような表現、毎週、少なくとも1回のあらかじめ特定した休日を与えなければならないとだけ書いてあるような法令として罰則をかけようとするならば、極論、各週が始まる直前に、あなたの今週の休みはいつということが決まっていれば、少なくとも違法には問えない。それが望ましいかどうかは別にして、有罪になるものとしては、直前までに特定されているかどうかということで判断されることになると思っておりますが、それでは足りないから、もっといろいろ規制すべきだという御議論は十分にこの場ではしていただいて構わないものと思っております。
○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 技術的にいろいろ想定すると議論がどんどん膨らんでいきまして、週労働時間の上限との関係とか、様々な議論すべき論点があるかと思いますけれども、ほかの論点もありますので、また何かあれば後ほど追加で御指摘いただければと思います。
 それでは、次の固まりに参りましょう。資料の31ページから43ページの「勤務間インターバル」と「つながらない権利」についての部分です。どなたからでも結構ですので、どうぞよろしくお願いします。
 黒田先生。
○黒田構成員 産業医の立場から申し上げると、勤務間インターバルはぜひ設定いただきたいところですが、設定が難しい業態や業種ももちろんあると思うので、そこをどのように代替措置を設けるかというのは非常に大事だと思います。人事院のほうでも、努力義務ではありますけれども、11時間の勤務間インターバルをという方向で進んでいるとお伺いしていますので、民間法制でもぜひそのように進むといいなと思っております。勤務間インターバルを設定しない理由の調査が以前あり、「設定の必要を感じないから、設定が必要になるほど長時間勤務になる人はいないから」といった回答もあったと思うのですが、基本的には全労働者に適用というのが望ましいのではないかと思います。
 勤務間インターバルを守れないような長時間労働が基本的に発生しないとしても、原則としては設定して、設定できない、それがなかなか難しいとか、シフト勤務があるとか、そういった業態で難しいところは、どのように代替措置を設けるかということを検討できるといいのではないかと思っています。
○荒木座長 ありがとうございました。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 ありがとうございます。
 私も勤務間インターバルに関しては入れたほうがいいという、入れることに意義があるという意見をこれまで述べておりまして、その際、基本的に法令レベルで規定して、ただし、その規定が守れない場合の例外措置としての代償休暇の付与等というのを、その法令レベルで規律することを想定して意見を申し上げてきたところではあるわけですけれども、今回、改めて資料を拝見しておりまして、37ページなどで現在の取組事例などで実態とか適用除外になるケースとか、いろいろなケースがあり得るというような話が出ている中で改めて考えますと、インターバルの確保の在り方とか代替措置の在り方について、ある程度労使による柔軟な設計を認める余地というのもあるのではないかというようなことを思っているところであります。
 ただ、そうは言っても、単に例えばインターバルについて就業規則で定めなさいということだけだと、それもまた実効性を欠くのかなという気もしますので、デロゲーション的な形にするのか、あるいは任意法規的な形になるのか分かりませんけれども、その労使が合意に至らない場合とか、そういった規定が置かれない場合のデフォルトとしての勤務間インターバルの制度として、こういうものだというのを、それは法令レベルで定めてもいいのではないかと思うところであります。
 あと、もう一つは、黒田先生とも御一緒した人事院の検討会でもそうした方向性が示されたかと思いますが、ある種段階的な導入を目指していくというような形で、一定の時期にそういった規制を導入することを前提に労使での話し合いを促すような、そういう政策的な対応というのもあり得るのかなということを考えているところになります。
 インターバルについては以上ですけれども、1点、つながらない権利についても述べさせていただければと思っておりまして、こちらはテレワークに事業場外みなし制を適用するところの議論との関係でも申し上げたところではあるのですけれども、考え方によっては、テレワークみなし、これが仮に導入されればの話ですけれども、それに限らず、みなし制の適用に当たって、つながらない権利というか、それについても労使協定の協議事項としていくということも1つ考えられるのではないかということで、それも意見とさせていただければと思います。
 私からは以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 続いて、水島先生、お願いします。
○水島構成員 水島です。ありがとうございます。
 まず、勤務間インターバル制度につきましては、石﨑先生の今の御発言と基本的に同じ方向で、私も勤務間インターバル制度の導入が必要と考えますし、努力義務のような形ではなくて、法的規制が望ましいと考えます。
 37ページで導入事例を御紹介いただき、導入しているといっても、実は例外、対応・代替措置を取っての導入もあって、もちろんこの中にはあまり適切でない対応・代替措置もありますが、法律により導入するとしても、少なくとも導入当初はこうした例外を認めて、段階的に勤務間インターバル制度の実質を強めることが必要ではないかと考えます。
 勤務間インターバルに慎重な企業は勤務間インターバル制度を非常に厳格に捉えて、導入が難しいとお考えなのではとも思いました。私としましては、まずは例外といいましょうか、代替措置も認めつつ勤務間インターバル制度を導入し、その上で徐々に代替措置の範囲を狭めることが考えられると思っております。
 勤務間インターバルに関しては、その必要性が高い業務、すなわち、身体的負荷が大きい業務や心身の拘束が大きい業務があると思います。我々大学教員は、がちがちにインターバル規制がかけられると働きにくい、研究できないと思うのですけれども、大学教員や事務職を基準とするのでなく、インターバルの必要性が高い業務を念頭に置いた議論を進めなくてはいけないのではと思います。
 つながらない権利ですけれども、私は比較表のドイツの①の理由がそのとおりだと思っていまして、つながらない「権利」という構成に違和感があります。そもそも労働のオンとオフははっきりすべきで、オフには使用者は基本的に介入しないものなので、そこに権利を認めることにはあまり納得がいきません。
 日本の労働者の特性として、こうした権利の保障による実効性に疑問があります。年次有給休暇の5日間の付与義務のように、使用者の義務構成の方が日本の労働者にあっているのではないかと考えます。ドイツの①にあるように、使用者は労働者がオフになっている時間に労務提供を求めてはならないことについて配慮義務を負う、という構成が、日本の労働関係になじむのではと考えます。
 以上でございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 まず、勤務間インターバル制度について、今の水島先生の御発言には私も賛同するところであります。
 まず、31ページで勤務間インターバル制度の導入企業割合が6.0%という数字を見て、随分低いなと、最初、感じると思いますが、次の32ページの右下の棒グラフ、導入予定はなく、検討もしていない理由として、年度によって差はありますが、50%ぐらいの会社がそもそも超過勤務の機会が少なく、この導入の必要性を感じないためということで、6.0%しか導入していないというと、ほとんどの企業がこれを導入したら困るかというと、そういうわけではないというのが実態かと思います。そのことを踏まえて、まずは導入できるところでは導入していく。
 また、39ページにあるフランスの例のように、適用除外が必要なものについては明示的に定める。また、代償措置についても明確に定めている。この辺りを組み合わせることによって、現実的な形で始めていくことができるのではないかと感じました。その上で、水島先生からは、私の解釈で言えば、最初は受け入れやすい形で始めて、実態を見つつ、ルールを厳格化していくといった形というのは、望ましい方向性だと感じています。
 あとは、そういう仕組みを導入するとなったときに、この適用除外をどういうふうに設定するのか。この辺り、現場の声も聞きつつ、適切に設定できれば望ましいかと感じました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 水町先生。
○水町構成員 勤務間インターバルについては、これまでの議論におおむね賛成です。実は、上限時間の規制が一番難しい業務の一つだと考えられて、5年間の猶予を与えられた自動車運転業務については、労働基準法そのものではありませんが、改善基準告示という形で既に勤務間インターバル制度が導入されています。これが実際どう機能しているかということをまず知ることが大切で、改善基準告示でも示されているように、原則としてはデフォルトみたいなものを決めて、ただし、労使で現場の実態に合わせて、より柔軟に設定しましょうという同意・協定がある場合には、一定範囲で柔軟な勤務間インターバル制度等を設定することができるというのが制度設計として考えられるのではないかと思います。
 それと、つながらない権利。実は、フランス等先進的な例で、つながらない権利の議論があって法定化もされていますが、つながらない権利というのは非常に多様です。会社が違えば、つながらない権利の具体的な形もそれぞれ全部違うというぐらい。例えば、およそ勤務時間外については一切連絡はしませんとか、金曜日の勤務が終わって月曜日の勤務が始まる前は一切連絡しないし、メールを送っても自動的に返信するし、社内のネットとか情報にも自動的にアクセスできないようにするというような厳格な例から、他方で、それは全従業員、全労働者に貫徹できるわけではなくて、勤務時間外であったとしても、緊急連絡で緊急対応しなければいけない人たちというのは必ず出てくるので、そういう場合にどういう例外を設定するのか。
 つながらない権利の設定の仕方とか範囲というのは、実は先端的な議論を行ったり、法制化している国でも多様なので、労使でちゃんと協議してくださいねということを義務づけている。そういう意味で、例えば労働基準法上、罰則付きで、こういう形で、これに違反した場合には罰則の適用がありますよという形でつながらない権利を法制化するのは、比較法的にも、恐らく日本の実態としても非常に難しい。
 他方で、これは労使で話し合ってもらう。そして、労使が実態に合わせて柔軟に設定してもらうということであれば、労働契約法になるのかどうか分かりませんが、基本的には労使できちんと協議して、その会社とかその働き方の実態に合った形でつながらない権利についてきちんと議論し、その会社に合った、働き方に合ったつながらない権利を具体的に実現するようにしてくださいということを義務づけることが、例えば労働契約法上とか労働時間等設定改善法とか、いろいろな政策的な措置としてそういうことを義務づけて、話し合いを促してプライベートを保障するための法的な枠組みをつくるというやり方に、恐らくなるしかないかなという気はします。ただ、そういう形で具体的に制度化するということは、これからの働き方として極めて重要なことではないかと思います。
○荒木座長 ありがとうございました。
 神吉先生。
○神吉構成員 勤務間インターバルに関しては、現在は労働時間等設定改善法の中でソフトに導入できるようになっていて、それを強化すべきという議論もありうると思いますが、私は義務化してもいいのではと考えています。
 ただ、その発想は、時間外労働ありきの、それに対する反応として考えてしまっていました。前回提案したように、時間外労働を選択しないオプションができれば、24時間から8時間を引けば16時間は確保されるので、インターバル規制がなくても同じことが実現できると考える一方で、そうではない場合、あるいはそういうオプションがあっても時間外労働をする場合にはインターバル規制を重ねて義務化することも有効な歯止めになると考えています。
 勤務間インターバル規制の義務化にあたってのは「導入の希望はない」と答えた数字が強調されますが、規制を強めても問題がない余地も読み取れます。特に34ページ、平均残業時間が「0時間」なので導入の希望がないというのが38.2%。つまり、導入されたら困るから希望しないのではなくて、別に何も問題がないから希望はないということで、そうしたポテンシャルを考えれば義務化の支障はそれほど大きくないかもしれません。
 また、先ほどの論点とも関連して、例えば22ページの連続勤務日数上限の導入という考え方は、見方を変えれば週単位の勤務間インターバルといえそうです。1日ごとにインターバルを挟むという考え方と、1週、2週、4週の中できちんとインターバルを取ろうという考え方には共通する点があり、新たに法定休日に関しての連続勤務日数の上限などをかけていく場合とを整合的に考えてはどうでしょうか。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 山川先生。
○山川構成員 ありがとうございます。
 勤務間インターバル制度は、私も設けることが適切かと思いますけれども、現在の導入企業割合が6.0%であるという現状で、いきなり例えば労働基準法の中で刑罰を科するような規制をするというのは、ちょっと難しいのかなという感じもしていますので、さっきどなたかおっしゃいましたけれども、段階的な導入ということはあり得るかと思います。現在だと非常に抽象的な努力義務なので、もうちょっと具体化することはあり得るかと思います。
 あと、つながらない権利について、先ほど水町先生もおっしゃられたように、前も申しましたけれども、労働時間等設定改善法などでインターバル規制について特化したような協議の義務を課すとか、そういう形で取りあえず促進していくというようなことはあり得るかなと思います。罰則をもって担保すべきかと31ページにありますけれども、労働基準法ですと、原則、罰則を科することになりますが、前も申しましたように、労働時間等設定改善法でしたら罰則を付けないということも不可能ではないと思いますので、いろいろな履行の方法というか、政策実現の方法があるかと思います。
 突飛なことを言うようですが、例えば公契約の入札のときにインターバル制度を導入している企業はプラスアルファの点を与えるとか、女性活躍推進法的なスキームですけれども、そういういろいろな履行方法、政策実現方法を考えてよいのではないかと思います。
 あとは、制度化したときにいろいろ臨時的な必要も出てくるかと思います。現実に時間単位年休の取得で確保できているという回答も多いのですが、ある種、時間単位年休の制度化みたいなところもあるわけですので、そのような形で考えていくとすると、例えば時季変更権みたいなものを認めるとか。時季変更権や、個々に予測可能性が難しいとなれば、そこは労使協定で、こういう場合には適用しないことを認める、適用しなかった場合には代替的な休暇をどこかで与えるとか、いろいろな不都合に関しては、そういう形の制度化もあり得るので、そういうことも検討してはどうかなと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 先ほど、この勤務間インターバル、徐々に始めることに賛成というお話しをしましたが、では具体的に何時間にするのか。今、山川先生からあったとおり、先ほど発言したように、必ずしも6%というのが、それ以外のところは導入されたら困るという話ではないという理解がありつつも、現状、そのルールが入っているのが6%という中で、さて、いきなり罰則付きで始めるとして、何を出発点にするのが適切かといったときに、欧州で見られるような11時間というものをいきなり入れるべきなのか、もう少し短いところから始めるべきなのかといったところは検討の余地があるのかなと感じました。
 また、これは私がよく分かっていないだけなのですけれども、テレワークとかフレックスタイムとか、自分で労働時間を選べるようなタイプの労働者の場合に、自分の仕事の進め方の都合とか子供の相手とかの都合で、前の日の勤務と当日の勤務の間が11時間空くか空かないかみたいな、個人の選択としてどのぐらいのことが許されて、会社の命令としてどこまでが許されるのか。この辺りの整理についても混乱がないようにできればよろしいかなと感じました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 今の安藤先生の御意見の中でインターバルの時間数をどうするかというお話があったと思うのですけれども、個人的には今回のインターバル制度というのは、健康確保、プラス恐らく生活時間の確保という観点から入れるべきものであるという前提からしますと、時間数についてはあまり逸脱を認め過ぎないほうがいいと私自身は思っていて、11時間という形で設定するのがいいのかなと思っています。私が申し上げた段階的とか例外的な対応というのは、それが守れない場合の対応という余地を広めに認めるという趣旨で申し上げたということで、それはちょっと補足させていただければというところになります。
 もう一点、つながらない権利についても、いわゆるつながらない権利という言葉が使われているのでそのように呼びましたけれども、その後の先生方の御発言にあったとおり、労働者に請求権的な意味での権利を認めるというよりは、協議事項としての労働時間の解放、そしてこれに係る議論というのを労使でしていただくという発想が基本的に正しいのではないかと思っているところです。
 以上になります。ありがとうございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
 黒田先生。
○黒田構成員 今の石﨑先生のお話と、それに先立って安藤先生から、勤務間インターバルの時間としてどれぐらいが適切かというようなお話がありました。補足として、11時間というのは正直、最低基準だと思っています。労働安全衛生総合研究所の研究では、1日14時間の勤務間インターバル時間を下回ってくると疲労の蓄積が認められるという研究結果が出ています。14時間というのはちょっと現実的ではないかもしれませんが、勤務間インターバルの中には通勤時間も含まれていますし、勤務間インターバルの時間を完全に休養に充てられているわけでもないので、総合的に考えると、実際に会社で設定されている勤務間インターバルが9時間や8時間という話も聞きますが、それはさすがに短過ぎで、11時間というのは原則として掲げるべきだと思います。
 仮に11時間だとしても、休憩時間を含んでも13時間は労働に取られているわけなので、それでも最低基準ではないかと考えております。そもそも何のためにというのは、先ほどから申し上げているように、労働による疲労からの回復ということで、神吉先生がおっしゃったように、週休制というのは週単位の勤務間インターバルみたいなもので、同様に、どのタイミングでどれぐらいの量を投入するかというのはかなり重要なので、そのことで11時間という根拠の補足を申し上げました。
 もう一点、山川先生の御意見、というよりは勤務間インターバルを希望しない理由ということで「休息時間は時間単位年休の取得で確保できている」というのが理由に挙がっているという御指摘があったことですが、そもそもこれはちょっとおかしいのではないかと思っております。もちろん年休を何に使おうが自由だと思うのですが、時間単位年休を長く働いた分の疲労回復に充てるというのはちょっと趣旨が違うのではないかと思っています。労働者がこれを取得するのはいけないというわけではないのですが、会社として、国として推奨するというのはちょっと方向としては間違っているのではないかなと感じましたので、コメントをさせていただきました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 今、お二方の先生から11時間というような数字を推す声があったわけですが、例えばここに参加されている霞が関の厚生労働省の方が、夜21時に会社を離れて、朝8時に戻ってくると11時間ですか。というのが、例えば国会があるときに実現可能なのかといったときに、理想論と受け入れやすい現実というものは、まだまだギャップがあるのかなというのは正直感じているところであります。それをどう適用除外の対象にするのかとか、代償措置でケアすればよいというのがあったとして、その11時間という話。
 また、今、黒田先生からあった14時間ないと疲労は蓄積してしまうという話ですが、非常に極端なことを言えば、疲労は蓄積してはいけないのかというか、毎日完全にクリアされないといけないのかといったときに、この辺り、仕事と家庭のバランスについての個人個人の考え方であったり、2日頑張って働いて、1日休むだったり、いろいろな形があり得る中で、果たしてどこまでを最低基準として設定しないといけないのかというのは、まだ迷うところではあります。それが11時間を10にしたから社会的に受け入れやすいのかといった、それ自体は実際の声をよく聞いてみないと分からないものではありますが、理想に近いところからいきなり始めるのが本当に正解かというところは、私としてはまだ迷うところであります。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはよろしいでしょうか。
 それでは、また何かありましたら後ほど帰ってくるということで、先に参りたいと思います。次は、44ページから48ページの「年次有給休暇」と「休憩」についてです。これについてもどなたからでも結構ですので、よろしくお願いします。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 ありがとうございます。
 前回の意見と多少重なる部分もあるところですが、年次有給休暇の取得促進のための対応としまして、社外への情報開示というところで、時間外労働の時間数に加えて年休取得率についても対象としていくことが必要ではないかということと。
 それから、こちらにも3つ目のポツで書いていただいているように、労働者に対して残日数を可視化するというのも1つ有効な策ではないかと思うところであります。有給休暇については、時効で2年間というのがあるかと思うのですけれども、もし間もなく失効するよということが分かっていれば、そこで使おうかという労働者も出てくることも考えられます。それも毎月なのか、3か月に1回ぐらいなのか分かりませんけれども、どういうスパンで可視化させるのかというのは、企業側の負担との関係でも考えなければいけないところはあるかもしれませんけれども、そうした残日数を可視化していく方法というのは取ってもいいのではないかと思ったところになります。
 それから、もう一つ、時間単位の年次有給休暇の日数については、時間単位の年休が取れると労働者のいろいろな事情に使えて便利であるという側面と、他方で、年次有給休暇、1日単位が原則であるというところとの関係でなかなか難しいところがありまして、現状としては、これを増やすべきとも減らすべきとも、言うのは難しいのではないかというのが、この研究会で労使の方のヒアリング等も伺いながら思ったところではあります。
 ただ、他方、もう一つ思うところとして、そうした個々のいろいろな細かな労働者のニーズに対応した時間短縮みたいな仕組みというのが、有給休暇という形ではなくて、ほかのほうで整備されるのであれば、それはそれでそちらが望ましいと思うのですけれども、そうでない中で、労使協定を締結して時間単位を認めるのか、そうじゃなくて、労使協定を締結しなくても、5日分ぐらいについては逆にデフォルトで時間単位を認めてしまっていいのではないかというところは、私自身は1つ考えてもいいのかなとも思うところでして、そこは意見として伝えさせていただければと思います。
 以上になります。
○荒木座長 ありがとうございました。
 水町先生。
○水町構成員 ありがとうございます。
 44ページで幾つか。考えられる論点の2つ目の白丸の2つポチがありますが、1つ目、年度途中に育児休業から復帰した労働者や、退職する労働者について、5日間の使用者による年休指定義務、付与義務との関係でどうするかというのは、これは働き方改革で労働基準法を改正したときに十分に議論されないままになった積み残し分なので、これはきちんと対応するということが必要かなと思いますのと、2個目、5日の付与義務を設定するときに、本来はヨーロッパのようにきちんと計画的に連休を取らせましょうという場合に、ただ5日、罰則付きで導入するときに、折衷的な、妥協的な案として、自ら時季指定した場合にもカウントに入れてあげましょうという、趣旨とやや離れたような形で取り入れられたのですが、ここについては、労働者が時季指定して取得した日数分は、今は5日にカウントされていますが、これをカウントしないという本来の趣旨に戻すような形での検討が必要なのではないかということ。ある意味、後で五月雨的に労働者が取ったかどうかで年度末で調整する、年末で調整するというのではなくて、最初から少なくとも5日間はきちんと指定して、最初から計画的に予想できるような形で年休を取らせるということが大切なのではないか。
 そして、下から2番目の白丸とも関係してきますが、これは労働基準法が昭和22年、1947年に制定された当初から、ILO条約では一定の連続した休暇というものを保障するということが求められていましたが、日本ではそれはなかなか難しいというので、分割しということで、分割も可ということになって、ずっとそれが今まで来ているのですが、少なくとも分割で細切れする部分は部分的にあってもいいかもしれないけれども、基本的に連続して休暇を取るのがバカンス、年休の本来の趣旨なのだという関係で、今言った2つ目の白丸の2つ目と、下から2つ目の「2週間からなる年次有給休暇の連続取得」。2週間にするかどうかは置いておいて、連続して年休を取ってバカンスできちんとリフレッシュするということが本来の趣旨なのだというところに立ち戻るような年休制度の設計を考える、いい機会ではないかと思います。
 下から3つ目の白丸の8割出勤要件も日本に特異な制度なので、出勤要件は課さずに、きちんと年休は年休として保障する。ずる休みをした人をどうするかというのは、これは年休をあげる、あげないとはまた別の議論なので、例えば休職期間が長くなってゼロカウントに戻って、勤続10年、20年たったのに、またそこからゼロになってしまうのかという、年休制度とはまたちょっと違うようなものを誘発しかねない制度に導入当初からなっているので、この点を併せて考えるべき。
 あと、一番下の白丸は、社会保険労務士会連合会の方にヒアリングしたときにも出てきましたが、現行法上、3つの方法というのが、46ページの一番上、年休賃金というものの在り方が定められていますが、普通は②で、所定労働時間働いた分の、要は年休を取っても月給は減らさないという形で対応しているのが一般的ですが、①とか③の形で計算すると額が大きく減ってしまいます。
 これは導入されたときに、例えば不規則な勤務とかに対応するためにこういうものが入れられていますが、そういう当初想定されたような働き方とは違う形で年休を取ったときの賃金を減らそうという目的で、この選択肢が取られているということが、少なからず中小企業等で見られているので、ここの年休賃金の与え方については、そういう濫用的にならないような制度設計、原則②なのだという形できちんとした制度を整えることが、趣旨に沿った制度設計にすることが必要ではないかなと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 では、水町先生がおっしゃった点について少し質問なのですけれども、5日の年休付与日、今は労働者が自主的に取った分はそれから差し引くことになっているのですけれども、20日間の年休のうち5日については使用者に付与義務があるということは、言い方を変えると、5日間については労働者は時季指定権を持たないことになりますね。そういうものとして、現在20日まで持てる年休の5日分については、労働者から時季指定権を奪ってしまっても、強制的に年休を取らせるという制度にするのがよいのかどうかについては、異論もあり得るかと思うのですが、その点はいかがでしょうか。
○水町構成員 年休の趣旨をどう考えるかですが、本来、バカンスのための年休というのが、業務とのバランスできちんと年休を設定するというので、ヨーロッパでは計画年休的なものとして制度設計され、労働者に基本的に時季指定権というものは、ヨーロッパの本来の年休制度にはない中で、日本では導入のときにそれはなかなか難しいというので、労働者側に時季指定権で分割してもいいという形で与えたものを、そもそも計画年休でそれを戻そうとしたのだけれども、計画年休がなかなか普及しないというので、年休付与義務を少なくとも5日間、今回設定するというので、この前の働き方改革で行われた。
 その趣旨からすれば、例えば計画年休の場合は、諸外国と違って5日間は自分で好きに取る日を残しながら、それ以外の日は計画年休で定めることができるとなっている。その中では、本来のヨーロッパ型の計画年休的な趣旨を体現したものになっているので、その趣旨から5日間の年休付与義務を設定するとすれば、そもそも5日間、ないし一定期間、労働者が自由に選べる時季指定権を設定するということは、日本的なやり方として考えられるかもしれませんが、労働者に時季指定権を与えていれば与えているほど未消化の部分が残ってしまうので、本来の年休制度の趣旨から反するというので、バランスを考えながらも、きちんと最初から予測可能な範囲内で計画的に年休を与えて、安心して一定の連続した休暇を計画的に取るという制度にしていく。
 この前の5日間の導入では、結局、それが実現できなかったので、そっちのほうに今回の改正でだんだんそういうふうにシフトしていくという考え方は考えられるのではないかというのが、私の発想というか、考え方です。
○荒木座長 分かりました。連続休暇の促進のために、この使用者の5日の付与義務がきちんと使われるかどうか、それはまた議論が必要であって、現状の使用者の付与義務というのは、使用者がばらばらに指定することも可能ですね。ですから、そこをどう担保するのか。
 それから、使用者の付与義務は、年休取得率が5割を下回っていたという状況の中で議論されたということなのですけれども、その年休取得率を高めようということと、もう一つ、ILOのような2週間単位のまとまった休暇をきちんと取らせるということは、目的としては違うかもしれませんので、そこも併せて検討する必要があるかなと思いました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 島田先生、お願いします。
○島田構成員 ありがとうございます。
 特に根拠があるわけではなくて、ちょっと素朴な感覚としてなのですけれども、日本人に連続休暇というバカンスのニーズが本当にあるのかなというのは、実感としてはよく分からないなと思っています。どっちかというと、どかんと休むというよりは、ちょこちょこ休みたいという印象があります。印象でしかないのですけれども、自分の用事とか、ちょこちょこ好きなタイミングで好きなところに出かけるというところのニーズのほうが大きいような気もして、日本の年休制度を考えるに当たって、必ずしもバカンスというのを想定する必要はないのではないかなという気もしております。
 また、有休に関して、これは有休の制度でどうにかなるというものではないと思うのですけれども、有休を取ったところで仕事が減らない業種というか、地位の人たちというか、プロジェクトで割り振られた仕事が決まっていて、有休を取ったときに納期がずれるとか、代わりに誰かがやってくれるだったらいいのですけれども、結局はどこかで自分で帳尻を合わさないといけない人たちも結構いると思うのです。研究者とかもそうだと思うのですけれども、年休を取る意味がない人たちも結構いて、そういうふうな人たちがいることが年休の取得率が上がらないことの原因にもなっているのかなというふうに感じております。
 すみません、印象にすぎないですけれども、以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ヨーロッパのバカンスというのは、ヨーロッパに住んだ方はお分かりですけれども、冬の間、物すごく日照が不足して、一定の日照がないとくる病になるということから、日照のあるところまで移動するためにも、2週間の休みが必要というような説明も聞きますので、そういう点では少し趣旨が違うかもしれません。
 あと、日本で年休が取りづらい理由として、病気休暇制度がないので病気のために取っておくということが言われます。病気休暇制度を整備することによって、年休を心置きなく取れるという面は1つあるのですけれども、これから考えなければいけないのは、時間単位の年休といったものが病気以外の労働者の様々な生活の必要に柔軟に、つまり、法律が定めた特定の事由のためではなく、理由を問わずに労働から解放されるための権利として活用されていくとしたら、より自由な働き方をしたいという方のニーズに応え得るものになるかもしれない。
 ということで、単に年休の取得率を高めるというよりも、新しい働き方の中での労働から解放されるための1つのツールとしての活用として時間単位年休を捉えてみてもよいかもしれないと思いました。
 黒田先生、どうぞ。
○黒田構成員 現場で産業医として「年休をまとめて消化せず取っておきたい」理由としてお伺いしているのは、今、座長がおっしゃったように、病気休暇がある会社であっても、体調を崩したときのために取っておきたいので消化したくない、子の体調不良時に、子の看護休暇の1人当たり5日を超えて休むことがあるので取っておきたいのでまとめて取りたくないとか、介護に関連して、介護休暇もありますけれども、それを超えるいろいろな家庭の事情でということに備えて取っておきたい、要は不測の事態に備えて取っておきたい、というニーズをかなりお聞きします。
 本来の年休の趣旨としては、バケーションをしっかり取って、長期的にたまった疲労をそこで回復して、アクティブレストというか、さらに仕事へのモチベーションを高めるという意味でもバケーションは非常に大事だと思うのですけれども、本日の議論をお聞きしていて、2週間まとめて年休取得というのはなかなか厳しいなと。国民性という言葉で片づけていいかどうか分かりませんけれども、なかなか難しいなと思ってお聞きしておりました。
 そういう意味では、バケーションの趣旨には反するのですけれども、時間休暇の日数を増やしてもいいのではないかという考えもあります。一方で、健康管理の観点でそれが有効に働くかというと、健康上の問題をマスクする方向に働くことがあるという懸念もあります。以上は単なる感想で、こうしたらいいという提案には至っていないのですが、そういう懸念もあるなと思ってお伺いしておりました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 先ほどのバカンスに対しての希望がどのぐらいあるのかというのが私も少し気になっているところでありまして、まず、年休という名前がついているかどうかは別として、1年間にどのくらい休んでいるのかという実態を見たときに、例えば日本は諸外国と比べて祝日が多いとか、実際に休んでいる日数で比較することがまずは有益かと感じております。例えば、私も子供がいるので、休んでいいですよと言われて、子供に小学校を休ませて旅行に連れていくのかといったら、なかなかそれも厳しいということを考えたときに、それこそ個人個人のライフステージによって、どういう休み方が求められているのかといったものは違うのかなとも感じております。
 そして、先ほどの病気休暇の話というのは確かに非常にあり得る議論であるのですが、病気休暇を認めたとして、では、年次有給休暇20日間、フルに取るのかとなったときに、1年間にどのくらい働いているのだろうというのも少し気になるところであります。経済学者の視点からしますと、基本的には人に支払うことができる、また支払うことが可能なお金の上限というのは、生産性によって規定されるところがあります。
 ですので、年休が多ければ多いほど、労働者は表面的にはうれしいことのように感じるかもしれませんが、それをフルに取った場合に、1年間に自分が生み出しているものの価値から決まってくる自分の賃金の値が、例えば今のようにインフレが始まったような時代において、インフレ率よりも賃金の伸び方が低いとか、実質的な賃金率が下がっていくということも理論上はあり得ることだと思います。
 というわけで、現状で年休がフルに消化されていないとすると、フルに消化されていない反面、働いている時間があるわけで、その労働の貢献度に見合った賃金が支払われていたものが、フルに年休を取得するようになったら、当然、その部分は、少なくとも短期的には動かないにしても、中長期的には、賃金であったり、個人が受け取る処遇に跳ね返ってくるのではないかということは、経済学の視点からは気になるところであります。そうなると、より年休を取らないといけない。では、年休は取るのだけれども、ある会社では休んでいるのですが、その間、何をやっているのですかといったら、副業や兼業で生活費を確保するみたいなことになってしまっては、何かずれているかなという気もする。
 ですので、果たして年休をどこまで確実に取るのが社会的に望ましいのか。個人の希望、健康確保、社会的な要請、この辺りをセットとして考えたときに、まずは年休をフルに取るのかというよりは、実際に休んでいる日数がどのくらいあるのかというところを注目する必要があるかと感じております。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 水町先生。
○水町構成員 ありがとうございます。
 年休が20日というのは、国際的に見て、少なくとも先進諸国の中では多くない。その代わり祝祭日等が多くて、先進諸国の中でも全体としてそんなに遜色ないということはよく言われますが、じゃ、祝日が休日になるということが法的に保障されているのか。実際に週休2日を実現できていないところとか、祝日も働いているような業種とか働いている人がたくさんいらっしゃいますし、実際、中小企業でどうなっているかというと、コンプライアンスをある程度していれば、5日の年休付与義務というのが守られているところもあるかもしれませんが、5日でぺたっと張りついて、職場の雰囲気でそれ以上、年休が取れないという人たちもたくさんいらっしゃるわけです。なので、そういうところで、国民の権利として年休をどれくらい保障するかというのは非常に重要な議論だと思います。
 そして、例えば30日、年休を保障している国で、30日の中に病気休暇とか子供の看護とか介護休暇が含まれているか。それとは別です。年休は年休の権利として、どれくらいの日数にするかというのは、またこれは政策的にいろいろあり得るかもしれません。
 年休はあらかじめ計画的に決まっているので、後で病気になったから年休を使うとか、子供が病気になったから使うとか、障害を持っている家族が出たから、それで年休を使うということが基本的にはできないような制度の中で、年休以外の休暇とか休業制度をどういうふうにして具体的に考えていくかを同時に考えていくべきであって、年休については、少なくとも5日の付与義務も含めて、いろいろな事情で柔軟に取っていい。だけれども、リフレッシュのためには全く使えないという年休制度でいいのかどうかをきちんと考えることが必要ではないかと私は思います。
○荒木座長 ありがとうございました。
 水島先生、お願いします。
○水島構成員 休憩についても発言してよろしかったでしょうか。
○荒木座長 大丈夫です。
○水島構成員 休憩について幾つか発言させていただきます。
 休憩について、労働者の心身の疲労回復という目的は今も変わらないと思いますが、一方で、工場法の規制の延長のようなものは見直す可能性を検討してよいと考えます。
 1日8時間を大幅に超えて長時間労働をする場合に追加的に休憩を付与すべきかという論点について、2点目に書かれていますように、終業時刻が遅くなるとか拘束時間が長くなるということがあります。何か軽食を食べたりしながらの労働がもし一般的であるならば、休憩を付与して終業時間を遅くすることにはむしろ問題を感じます。
 他方で、もしかすると、例えば12時間を超える場合に休憩を与えるという御説明がありましたけれども、一定時間を超えた場合に休憩を与えなければならないといった規定により、その時間を超える前に仕事を終わらせようという動機につながる可能性もあります。
 休憩の必要性の観点からではないのですが、時間外労働を続けるのでなく終わらせる意識に向かわせるために、つまり、追加的休憩時間に付随的な効果を期待できるかもしれないと思いました。
 勤務時間が6時間を下回る労働者に対する休憩付与の必要性について。確かに10時から16時まで働くパートの方には労働基準法上、休憩時間を付与しなくていいのですが、休みがなくて昼食が取れない問題が事実上発生していると思います。ただ、これは労働基準法による規制の話ではなく、各企業が考える問題ではないかと私自身は考えます。
 最後に、休憩の法目的を達成するために、休憩をどのように付与するのか、どのような長さの休憩時間を与えるのかということも重要ですが、それと同じぐらい重要なのが、休憩できる環境がその事業所に備わっているかであると思います。たとえ休憩を与えていても、倉庫のようなところで食事をするしかないとか、事業場内では休憩する場所がなくて、事業場外のどこかの場所を探さないと休憩できない状況でしたら、休憩の目的が十分に達成できないと考えます。今回の労働基準関係法制の検討では取り上げられないと思いますけれども、休憩の環境整備につきましても何かメッセージができればと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 神吉先生。
○神吉構成員 私も休憩について、水島先生のおっしゃることにかなり共感します。休憩の必要性自体は誰も否定できないことながら、日本の従来の裁判例を見ていると、定められた休憩時間が休憩になっていないことの問題も大きいように思いました。実際の紛争では、休憩時間とされている時間が実際には労働から解放されておらず、休憩前の仕事の残りを続けていたりとか、来客対応したりとか、次の仕事の準備をしていたりといったことから労働時間性を前提に賃金請求されるケースもよく見ます。
 そうなると、制度的に「何時間労働で何時間休憩を取らせなければいけない」と規定しても、実質的な休憩の実態がなければ、単に拘束時間が長くなるだけで、しかも休憩とされて賃金は支払われず、労働者にとってメリットがない。むしろ休憩を形式的に入れることの弊害すらあると考えます。特に、法定労働時間を下回る6時間勤務未満などの場合は、短時間で働きたいというニーズがあるからそういう仕事を選んでいるはずなのに、途中で休憩を挟むことで拘束が長くなってしまう。
 労働が6時間を下回る場合となると、休憩は30分くらいが想定されそうですが、短い休憩になればなるほど、勤務場所から離れにくくなり、労働からの解放は保障されにくくなります。その場から離れずに、せいぜいお茶を飲んで、お菓子を食べて、動画を見るくらいで、ややもすると仕事の続きをやるようなことになりかねない。となると、長期間の拘束から早期に解放する必要のほうが高いのではないか、むしろインターバル規制などで対応すべき問題なのではないかと考えております。
 休憩を取らせなければいけなくなると、休憩付与義務が発生する前に終わらせようというインセンティブが働くという水島先生のお考えはもっともだと思いつつ、いい加減な事例を見ると一方で本当にそうなるかなという心配もあって、形式的な付与で終わる懸念もあるかなと思っています。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 水町先生。
○水町構成員 休憩について、47ページの一番下のところで、6時間を下回る場合にも休憩を付与する必要性について。これは社会保険労務士会連合会の方から御提案があった内容だと思いますが、1つ、働く現場で最近起こっている現象としては、トイレにも行かせない。実際、休憩時間はあるにしても、休憩時間以外はずっと机に座って仕事をしなさいとか、生理現象であるトイレに行かせない。行った場合には労働時間外だとして給料から賃金カットするとか、いろいろなことが現場で起こっている中で、労働基準法上の休憩時間と、そして、労働安全衛生法はトイレの設置のことについては義務づけられていますが、そういう生理現象から来る短時間の労働からポーズするということについて、これは労働基準法そのものの問題じゃないかもしれませんが、少し整理して実務に対しても提供してあげたほうがいいのではないか。非人間的な働き方が強制されているということも実際出てきているので、休憩時間との関係で現場で起こっている問題を少しウオッチして、休憩時間の見直しを検討するに当たって、労働安全衛生法や労働基準法や、その他、実務上の混乱について労働契約法上どう考えるかについて、少し整理してあげることも必要かなと思いました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 ありがとうございます。
 ほかの先生方の御意見とほぼ同様のところですけれども、8時間を超えて長時間労働する場合に追加的な休憩とか、あるいは6時間を下回る労働者に休憩付与ということになってしまうと、かえって拘束時間が長くなってしまうというのは、そのとおりかなと思っています。
 他方で、常識的に長時間労働になって夕食を取らなければいけない時間帯が重なってしまうとか、あるいは6時間を下回るけれども、昼を挟んで、この時間は普通、昼食を取るという時間帯にかかる場合の休憩付与の配慮みたいなものは必要ではないかと思っておりまして、先ほどの水町先生が出していただいた生理現象についての休憩を認めるというところとも重なるのかもしれないですが、そういった労働契約法上の休憩付与義務みたいなものを想定してもいいのかもしれないというようなことを、御意見を伺いながら思いました。
 以上になります。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはよろしいでしょうか。
 よろしければ、最後のパートに行きたいと思います。50ページ以降で「割増賃金規制」についてということになります。これもどなたからでも結構ですが、いかがでしょうか。
 水町先生。
○水町構成員 割増賃金の率に関してですが、日本では少なくとも時間外労働の割増賃金率は原則25%になっていますが、国際的な水準からすると非常に低くなっています。これは労働基準法が当初できるときに、国際的な基準に合わせて、例えば50%にしようという議論があった中で、現在は割増賃金5割という国際的な基準はなかなか難しいという産業界への配慮で、差し当たり25%として設定されて、その後、休日については35%になり、月60時間を超える部分については50%割増しになる中で、原則としてはそこまで行っていない部分については25%になっている。
 実は、37条は時間外労働を抑制するための割増賃金なのだけれども、25%だと抑止効果が低くて、実際には新しい人を雇うよりも割増賃金を払ったほうが得というので、時間外労働に対する抑止になっていないということが一般に言われています。そこで、このぐらいの設定にすれば、同じ人に残業させるよりは新しい人を雇ったほうが経済的にリーズナブルだろうという線に、例えばそれが国際的に言うと50%なのかどうかという均衡割増賃金率を考慮した上で割増賃金の率を設定するということが、1つ、労働基準法が設定された当初からの宿題としてあり得るのではないか。
 そして、現行法との関係で見てみると、月60時間を超える時間外労働に対しては50%割増し。これは中小企業について猶予されていましたが、それが実際に適用・施行されるようになって、社会保険労務士の方から、実際上は中小企業でも月60時間を超える時間外労働に対するかなりの抑止力になっているという話もありましたが、その月60時間の50%という割増率と、36協定上、原則として設定されている月45時間という時間が、要は特別条項が発動される月45時間と割増賃金50%になる月60時間がずれていることに対する制度的な不具合というか、これは抑止効果の問題も併せて考えなければいけませんが、その辺の制度設計をどうするかというのが、割増賃金率と時間外労働の抑止の点では重要な政策課題になるかなと思います。
○荒木座長 ありがとうございました。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 私からは、主に3点ほど述べさせていただければと思います。
 まず1点目が、副業・兼業時の割増賃金の点についてですけれども、これまでのこの研究会で、ほかの先生方からも割増賃金規制との関係で通算するというのはどうなのかという意見が多く出ていたかと思います。私自身もその点に関しては同意見であるわけですけれども、改めて考えたときに、逆に異なる事業場で働いていて、通算して割増賃金を支払うべき場合というのをクリアにしていくという考え方もあるのかなと思ったところです。
 つまり、典型的には同じ使用者の下で異なる事業場で働いている場合などはもちろんそうですけれども、それに加えて、例えば出向関係にある企業で、出向先で働き、かつ出向元でも働かなければいけないといったケースでは、なお割増賃金の支払いというのも通算して必要になってくるのかなと思いまして、そちらを明確にし、逆に必要でない場合というのを明らかにするというアプローチも、もしかするとあり得るのかもしれないというようなことを思いました。というのが1点目です。
 2点目としましては、特に裁量的な働き方をしている者との関係での深夜割増賃金、特に裁量労働制の場合の深夜割増賃金とか、場合によってはテレワークみなしみたいなものが入ってくる場合には、そういったケースでの深夜も入ってくるかも分かりませんけれども、そういった自分である程度働き方をコントロールできるケース、特に、休憩とかを所定労働時間中に取れるような仕事をしていて、その結果として深夜になってしまうというようなケース、要するに労働者の自己の選択によって深夜働いているというようなシチュエーションにおいて、なお深夜の割増賃金というのを使用者に支払わせる必要があるのかというところについて、私個人としては、そこに関しては支払い不要とする構成もあり得てよいのではないかと考えているところではあります。
 こうした意見に対しては、深夜という時間帯に働くことについてのプラスアルファの部分の支払いというのは必要で、危険手当的な位置づけと考えられるのではないかという御意見等もあったところかと思いますが、仮に危険手当的なものとして位置づけるとしても、ほかの深夜以外の危険有害業務との関係での危険手当に関しては法定されていなくて、そこは労使自治に委ねられているというところも併せ考えますと、必ずしもそこが必要なのかなという気はしているところです。
 特に、およそ全てということでなくても、日中の休憩時間が多くなることによって、実質、ほぼ所定に収まっているような働き方をしているようなケースにおいて、なお、それで深夜割増、しかも深夜に働くというのが専ら労働者の選択に基づいてなされているようなケースにおいて割増賃金が必要かというと、そこに関しては私自身はちょっと疑問を持っているというのが2点目になります。
 それから、3点目に関しては、より長期的かつ慎重に検討していかなければならないところかなと思いますけれども、割増賃金規制の趣旨との関係、とりわけ歩合給制の下で働いている労働者との関係での割増賃金の適用というのを考えたときに、一定の労使自治によるデロゲーションを認めていく余地というのがあるのではないかというところの意見になります。
 ただ、この点に関しては、これまでずっと議論してきたような労使コミュニケーションがきちんと行われるような基盤があって初めてというところもありますし、またもう一点、割増賃金規制の趣旨は時間外労働の抑制と補償というところであるわけですが、実質的な機能として生活保障的な機能、いわゆる生活残業と言われているように、そのような趣旨も果たしているところも考えますと、今、直ちにそこの規制緩和を進めるべきだといったことを申し上げるつもりはないわけですけれども、他方で、歩合給制的な賃金制度の在り方と割増賃金として時間外労働の抑制の趣旨みたいなところが、うまくリンクしないような部分もある。というところからしますと、これは賃金政策と関わるかもしれませんし、ベースとなる賃金が上がっていくことを前提にという話にはなってきますが、長期的にはそうした歩合給的な働き方をする労働者との関係での割増賃金規制の適用に対する、労使でのデロゲーションの方向性というのも考えていいのではないかということを立法論としては思っているところであります。
 意見としては以上になります。ありがとうございました。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 ありがとうございます。
 まず、割増賃金規制については、そもそも論として時間外労働がどのくらい一般的なことなのかということと表裏一体の関係があると感じております。これまでの議事録を振り返ったところ、2回ぐらい同じ発言をしていますが、日本において時間外労働がある意味当然のように扱われてきた、その背景は雇用保障とセットだったという面は忘れてはいけないと感じております。先ほど水町先生から均衡賃金のようなお話があって、確かによく言われる話であると思います。新しい人を雇うよりも、今、雇っている人に時間外労働してもらって残業代を払ったほうが、企業の視点からすると安く済むといったこと。
 でも、それを裏返して言えば、もしそこが均衡賃金になったとして、新しい人を雇うのか。仕事が忙しいときに新しい人を雇ったとして、仕事がなくなったときに経済的理由による解雇というものをどのくらい認めるのか。また、認めないと言うのだったら、仕事が増えても仕事を受けない、経済活動を停滞させるという方向に進むということもよくよく考えた上で、少なくともこれまでの高度経済成長期以降の日本の選択というのは、仕事が忙しいときには、まずは時間外労働で対応する。仕事が減ったときには時間外労働が減るという形で、できるだけ経済的理由の整理解雇をやらないという形での雇用保障と長時間労働というのはセットだったと私は理解しております。
 その観点から、仕事が少し忙しいときには時間外労働があるということが今後も避けられない社会だということをベースとすると、例えば割増賃金を上げたときに何が起こるのかといった経済学のモデルとかを解くと、よく出てくるような話ではあるのですが、試行実験をしておくことは重要かと思います。例えば、今、25%がベースとなっている割増賃金を50%として、一定時間以上50%になっているのを100%としたとしましょう。このとき労働者の取り分は増えますか、労働時間は減りますかといったときに、期待したものとは逆の結果が起こり得るということは理解する必要があると思います。
 と申しますのは、さっきと同じことを言っていますが、同じ時間だけ働いて生産された生産物の価値というものが賃金に跳ね返ってくるということを考えたときに、割増賃金率が上がったとすると、長期的にはどこが調整されるかといったら、ベースとなる賃金が少し下がる方向で調整が行われます。実際の労働量に比例して支払われる総額は変わらず、ベースとなる賃金が少なくなり、割増賃金部分が多くなる。こういうことで調整されるということが起こる。
 もちろん、短期的に物価の変動がないときにベースとなる賃金を下げるということは、労働者の意欲も失われるということがあって、実質的には賃金には下方硬直性があるので、デフレ経済下ではそんなに問題が起こりませんが、インフレ経済下ではベースとなる賃金が実際上がりにくい。ですが、時間外労働をしたとして、やっと従前の実質賃金が維持されるということで、実質的に割増賃金率を上げるということが、従来どおりの長時間労働、時間外労働をしないと生活水準が維持できないということにもつながりかねないということは理解しておく必要があるかと思います。
 また、現場での賃金の決め方というのは、基本的には多くの場合、賃金原資の枠を決めて、それをどのように配分していくかを考えることであることを踏まえると、割増賃金率を上げたら賃金原資がどかんと増えるかといったら、それをどのくらい期待できるのかなというのは少し疑問があるところであります。時間外労働についての健康問題というのが、まず一番考えないといけないこと。その上で、ワーク・ライフ・バランスであったり、生活時間の確保ということ、これまでいろいろ議論が出てきているところです。
 これも過去に発言したことの繰り返しになりますが、ライフステージの中で、今はお金が必要だとか、夫婦・家族の中での役割分担を決めた結果として、少し長時間労働をして外部で労働するということに時間を使うときに、時間外労働が難しくなる方向で歯止めがかけられると、それだけの収入を確保するためには別の副業や兼業のほうに進まないといけない。そちらのほうが賃金率が低く、かえってトータルの収入を維持するためには長時間働かないといけないといったことも起こり得るかなということで、表面的に割増賃金の規制をどう考えるのか。例えば、賃金率を上げるといったことを議論する際には、それが起こったときに実質的に何が起こるかという波及効果までセットで、まずは理解した上で議論をさらに進めていく必要があるかと感じています。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 山川先生。
○山川構成員 すみません、5時くらいには出なければいけないもので、あまり議論になっていないかもしれませんし、今回のテーマではないのかもしれませんけれども、割増賃金の計算の基礎になる通常の労働時間の賃金というのがあまりはっきりしていない部分があるかと思いまして、裁判例でも結構問題になりつつあります。例えば、仮眠時間をもともと労働時間ではないとしていて、しかし、その時間にある程度の賃金を払っているような場合に、仮眠時間が労働時間であるとされたら、何が通常の労働時間の賃金、つまり、単価の計算の基礎になるのかということがあまりはっきり整理されていない感じがあります。
 割増賃金の支払い方法は非常に複雑多様なものが出てきていますので、立法によって対処するまでもないのかもしれませんけれども、その辺りは実務上整理が必要なのではないかという感じがいたしております。
 それから、割増賃金の関係で非常に問題になりますのは、51ページの通算のお話ではないかと思います。諸外国では時間規制そのものといいますか、健康確保という観点からの労働時間の長さの規制のお話と割増賃金規制の話は別で、割増しまであまり通算しないということが多かろうと思いますので、見直しの検討の必要があるかと思います。ただ、どういうふうに見直していくかという話になると、まだあまり議論が進んでいない感じがありまして、今の32条と37条をどういうふうに考えるのかというのは、いろいろ考えるべき余地があるのかなという感じがいたします。
 趣旨からしても、特別の重い労働に対する負担への保障と考える場合に、特に兼業・副業の場合に割増賃金で時間外労働が発生するとすると、その負担というのは一体どこから生じてくる負担なのか。追加的な部分だけが負担の源泉になっているのか、あるいは競合原因みたいなことになっているのか。そうすると、競合的に割増賃金を払うのか。それはちょっと複雑ですし、その計算も恐らくできないと思いますが、この点は割増賃金の趣旨からどういうふうに考えていくのか。
 あるいは、逆に健康確保という観点から、これは例えば7時間、5時間ずつ働いた。それは健康に悪影響が生ずることは明らかですので、何らかの規制をかける必要がありますが、それについて現行の通算という形、つまり32条そのものは残すということにするのか、あるいは別途、兼業の場合の健康確保の規制をするのかとか、いろいろ考える必要があり、特にまだ結論ないし私見を持っているわけではないのですけれども、2つの、つまり割増賃金の問題と健康確保の問題を分ける場合には、それぞれの趣旨と、それからどういう規制方法を取るのかという点からの検討が必要ではないかなと考えております。
 以上です。
○荒木座長 今のは32条、37条ですけれども、労働基準法38条の、通算するとしたときに問題となる論点ということですね。38条は、使用者が異なっても通算するとは書いていなくて、使用者が違っても労働時間を通算するという昭和23年の行政解釈に立てば今の問題が生ずるのだけれども、そこを見直すとすると問題とならないという理解でよろしいでしょうか。
○山川構成員 もちろん、38条で同一事業主の事業場に限るとすれば、問題自体が発生しなくなりますので、今のお話は、事業主を異にする場合でも通算するという解釈を前提にした場合にどうするか。通算するというのはどういう意味かというと、そういうことです。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 今の点について、割増賃金の支払いという点で通算を行うのかという話は横に置いておいて、私はそれは通算しないという、これまでの皆様からの御意見、方向性に賛同するものではありますが、とはいえ、健康確保の観点から、先ほどの山川先生の例で言ったら、トータルの時間が非常に長いような副業・兼業などについては労働時間の把握が必要だとなったときに、この労働時間を通算して、この人がどのくらい働いているのかというのを誰が把握すべきかという、割増賃金の支払いとは別の論点としての話も同時に検討しておく必要があると思っています。
 これを契約の先後で、先に契約した会社が本業として、その労働者がほかにどこで働いているのかというのを全部把握することが求められるのか、また可能なのか。また、労働者が割増賃金の話がなければ適正に情報提供するのかとなったときに、割増賃金の関係がなかったとして、ほかでやっていますよということを言うことによって、会社に対する忠誠心というか、ロイヤリティーを疑われると思って正確に届けないのではないかとか、様々な論点を考えたときに、労働時間の把握と、通算した計算とか労働の強度を知るということ自身はとても必要なことだと思うのです。
 ですが、これを政府が直接やるのか。例えば、各企業が自分が雇用している労働者について、一定のマイナンバーなどを通じて届出をして、それの名寄せをするみたいなものを国が行うのか、企業が行うべきなのか、この辺りについても検討が必要かなと感じております。
○荒木座長 水町先生。
○水町構成員 少なくともヨーロッパの多くの国では、企業をまたぐ兼業をする場合に割増賃金は通算しない。だけれども、健康確保のためには通算する。例えば、上限規制との関係や勤務間インターバルとの関係でも、企業をまたいで働いているときにも健康確保は労働者にとって非常に重要なことなので、通算するという立場を取っています。
 その考え方からすると、実効性確保をどうするかというのはもちろん問題になりますが、労働基準法上の上限規制とか、これから勤務間インターバルを考えるときには、それも併せて問題になってきますし、さらには労働安全衛生法上の労働時間適正把握義務との関係でどうすべきか。さらには裁判例も最近出始めていますが、労働契約法等における安全配慮義務との関係で、それぞれの事業主はどういう把握をし、安全配慮をするかというのはそれぞれ問題になる点なので、それについて国はきちんと解釈の基準を示したり、分かりやすいルール化をして、それぞれの事業主に健康確保のためにきちんと施策を具体的にこうしてくださいということを併せてやることが、割増賃金の規制において通算規定を外すというときには必要になってくるかと思います。
○荒木座長 山川先生。
○山川構成員 今、安藤先生と水町先生の意見を聞いて、もっともだと思いました。
 先ほど荒木座長の38条の解釈のお話がありましたけれども、それに対して、38条で、事業主を異にする場合は適用が外れると言えば問題がなくなってしまうというのは、だから何もしなくていいということではなくて、38条は同一事業主の規定だというふうに解した上で、異事業の場合でも通算、例えば7時間、5時間ずつ働かせたという場合には、健康確保の観点から別途規定を設ける。そういう規定のつくり方はもちろんあり得る。そのお話を前半ではしたつもりでした。
○荒木座長 ありがとうございました。
 実は、副業・兼業問題をどうするかということで、厚生労働省から派遣されましてヨーロッパに実態調査に行ってまいりました。そのときの状況をちょっと確認しておきますと、EU諸国では割増賃金について副業・兼業で通算している国はそのときはなかった。では、健康確保のための実労働時間規制についてはどうかというとEUのうちの半分ぐらいの国は通算しますが、半分ぐらいの国は通算しないという法制度を採っていると認識しております。
 そういう中で、実労働時間については通算するというフランス、ドイツ、オランダに実態調査に参りました。そこで実労働時間は通算するのに割増賃金は通算しないのですかと聞きましたところ、政府からも労働組合からも、割増賃金の問題は健康確保の問題ではない。それは賃金の問題だから労使交渉でどうするかを決めるのであって、労働時間規制でもって通算して割増賃金を払わせるということはしないということが明言されました。ということで、割増賃金については通算しない、実労働時間を通算するかということについても、ヨーロッパも半々ぐらいという状況でした。
 そういう中で、日本としてはどうするかということは、それぞれの国が態度を決めるべき問題だろうと思います。割増賃金の問題について申しますと、今の管理モデル等々は、大企業で働いている方が副業・兼業するということが前提のモデルだと思いますけれども、副業・兼業している方で実数が多いのは、1つの仕事では生計が苦しいので、2つ3つ掛け持ちで働かざるを得ないという方々だろうと思います。そういう方々について労働時間を通算して割増賃金規制を適用することにすると、5時間労働する方が次に4時間労働するという場合に、あなたは時間外労働になりますね、割増賃金が発生しますね、という場合に、その方々から仕事を奪う、第二の職場では雇用されなくなるという意図せざる結果となりうることもよく考えた上で検討しなければいけないのではないかと思いました。
 ということで、以前、副業・兼業が問題となったときに調査・検討しましたので、若干報告をさせていただきました。
 安藤先生。
○安藤構成員 この労働時間の通算ということを考えたときに論点になるのは、本業も、副業・兼業もどちらも雇用である場合には労働時間を通算する。また、これまでであれば時間外労働の割増賃金の計算を行うという立てつけだったわけですが、ここで割増賃金の部分が仮に現行のルールから変更になったという場合に何が起こり得るか。
これまでは本業は雇用で、副業のほうは個人事業主として受けてくださいといった形で、雇用ではない、実際に指揮命令関係があったとすると、争いになれば雇用契約だったと認定されるケースもあるでしょうけれども、表面的には、また当事者間では業務委託であったりというような形を考えます。
 このように個人事業主として仕事を受けていた。そのために通算の必要がなかったという立てつけをしていた人たちが、荒木先生からあったように、5時間と4時間というケースで、4時間の副業に当たる部分については雇ってもらえないというのではなく、個人事業主として外部委託されるみたいな形で契約していた。
 これが通算の必要がなくなったときに、では、雇用になるという方向がどのぐらい実現するのか。それは労働者にとって望ましいという面も多分にあるでしょうと感じる一方、続いての問題として、労働時間を健康確保の観点から把握しないといけない。そこで通算が必要になるとなったときに、本業も副業も雇用であったとすると、割増賃金の計算は必要ないけれども、労働時間の通算は必要ですよと。また、上限に引っかかる場合にはその仕事はできませんとなったときに、副業に当たる仕事のほうが雇用契約の枠から外れて、別の形態での契約というふうに流れていってしまっては実効性を持たないのではないかという点を気にしています。
 そうなったときに、本業は雇用で副業は個人事業主として個人で働いているという場合に、実際に働いている時間を通算して、これ以上働いては駄目よという規制が、これは副業でやっているのは雇用契約ではなくて個人として働いているので、労働基準法の及ぶ範囲ではないといったときに、この人の長時間労働を抑制する、または健康確保を達成するという観点から何ができるのかというのは、今回の労働基準法の話とは別の話ではありますが、考えておかないといけない論点かなとは感じております。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 水町先生。
○水町構成員 今、安藤先生がおっしゃったのは、まさに先ほど私が話したことと重なり合うのですが、労働基準法上の労働者は誰かというところとは別に、労働安全衛生法の対象は誰か。最近は一人親方についても健康は大切でというので、労働安全衛生法のどういう規定については誰を入れるかというのが議論になっていますし、安全配慮義務については必ずしも雇用に限定されないので、雇用と業務委託の場合にはどうやって安全配慮義務を及ぼすかという点も問題になるので、そういう意味では、労働安全衛生法と労働契約法上の安全配慮義務を併せてきちんとルール設計するということが大切になるし、それによってある程度の答えが得られるかなと思います。
○荒木座長 ありがとうございました。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 ありがとうございます。
 私も今の安藤先生の御発言に触発されてというところになりますが、私個人の考え方としては、実効性確保の観点とか、通算した結果、上限規制に引っかかるので働くのをやめてくれという話になると、結局、雇用型兼業から非雇用型兼業へと流れしまうという観点からしますと、上限規制との関係での通算についても、私自身は今後維持していくのが望ましいのかという点について疑問を持っているところではあります。
 他方で、健康確保という観点からしたときに、これは同じことなのかもしれないですが、その労働者が一体どれぐらいの負荷を抱えているかというのを把握して、必要に応じて配慮するということは求められるところで、その際には、実は雇用か非雇用かというのはそれほど関係ないのではないかと考えるところであります。いずれにせよ、副業先での時間の把握ということになると、自己申告をかまさざるを得ないという話になるかと思うのですが、そうした自己申告ベースで長時間労働している者に対して働き方の見直しを促すとか、あくまでもソフトな形になるかもしれませんが、そういう対応が必要であるということは、雇用・非雇用、あまり関係ないのではないかなというのが私自身の考えとしてはあるところです。
 以上になります。
○荒木座長 ありがとうございました。
 黒田先生。
○黒田構成員 兼業・副業の場合の少なくとも健康管理時間の通算は重要で、それぞれの企業が働きかけるべきだというのはそのとおりだと思うのですが、現場にいて、それが本当に実施できるイメージが全く湧きません。本人の申告ベースで正確に申告していただいても、どちらの勤務時間を減らすという話になるのだろうかとか、これからの設計次第だと思うのですが、2社で雇用契約をして働いていた場合、契約時間の、例えば5時間と3時間で働いていたら、それぞれ8分の5割と8分の3割の健康管理の責任を負うのだろうか、などの点です。その辺り、産業医として面談して、多分本人や会社にいろいろと意見を申し述べることになるのだろうなと思うのですけれども、全くイメージが湧かないので、別途ケーススタディーをして対応の検討できるといいのかなと思いました。
 また兼業・副業の健康管理について、原則論はそのとおりだと思うのですが、実効性という点では、既にこの枠組みが走っているけれども私自身はその枠組みの中で対応したことが全くなく、本人健康状況を確認する産業保健スタッフ側に情報が来る仕組みも全くないと感じています。割増賃金の規定があるので、実際はどちらも雇用という形での兼業・副業はほとんど行われていないのかもしれません。そのため、そういう事例が生じていないので産業医として実際の事例を見ることがないのかもしれませんが、実際にどういうことが起こり得るかというのは、現場の方にもうちょっとお聞きして情報を集めることが必要かなと思いました。
 また、いろいろ枠組みをつくって情報までは集められても、誰が健康管理の主体者かというと、結局、本人のヘルスリテラシーを高めて、それぞれ自発的な範囲で減らしてくださいねというところだと、各会社は安全配慮義務を満たせるのかなというのはすごく疑問があるなとお聞きしながら思いました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 神吉先生、どうぞ。
○神吉構成員 先ほど座長がおっしゃった、ヨーロッパでは割増賃金は完全に賃金の問題であって、労働時間の問題ではないという点が、日本では必ずしもそう理解されにくい背景には、50ページの割増賃金規制の趣旨の冒頭の②、使用者に対して経済的負担を課すことによって過剰な労働を抑制するという間接的な強制、そういう趣旨が前面に出されてきたことも大きいと思います。
 ただ、使用者が異なる事業場で働いている場合は、先ほどの例で5時間働かせている使用者と4時間働かせている使用者とで、それぞれ長時間労働ではない状況だと、経済的負担を課すことで長時間労働を抑制させるべしという趣旨または機能は薄くなります。さらに雇用機会そのものが失われることで労働者の希望にも合致しないのであれば、異事業通算はしないという38条の解釈は、むしろ法の趣旨に合致するのだという正当化もできると思いました。
 ただ、健康時間の管理として通算し、さらにインターバル確保を義務化すると、別の使用者が働かせた終わりから、自分が働かせる部分に対してのインターバルを取らなければいけないとなってしまうと、そもそも把握が難しいうえに実効的なインターバル確保もできないのではないかという疑問も浮かんだところでした。
 以上です。
○荒木座長 黒田先生。
○黒田構成員 今の神吉先生のお話に関連して、臨床医の場合は複数事業場で働いていることが多く、医師の働き方改革の中で対応が始まっているので、そこから出てくる何らかの知見は参考になるかもしれません。ただ、実際には絶え間なく診察しているのに宿直扱いされている問題という、また別の問題があったりするので、必ずしも有効な知見が出てくるかどうか分かりませんけれども、複数事業場で働くにあたって、どのように勤務間インターバルを確保できているのか、もしくはできていないのかというのが、今後1年2年すると出てくるのかなというのが気になるところです。
 以上です。
○荒木座長 記憶がちょっと曖昧なのですけれども、ヨーロッパに調査に行ったときに、フランス、ドイツ、オランダという実労働に通算するという国に行って、休息時間についても聞いたのですけれども、休息時間11時間、労働から解放しなければいけないという規制も使用者が違っても適用されるのですかというのは、そんなことは全く想定していないということでした。あくまで労働時間についての通算であって、休息時間、インターバル規制について、使用者が異なっても両方に適用するということではないというのが、私がインタビューしたときの印象でした。
 山川先生。
○山川構成員 そのような比較法的知見をさらに具体化していくというのは、作業として有用だと思います。
 あとは、さっき申し上げましたが、通算と言うと、ある1人の使用者が全体としての労働をさせたことについての責任を負うという構造になりますけれども、それがいいかどうか。というのは、健康確保のためでしたら、通算ではなくて労働時間が過重になるのを防ぐ別のスキームもあり得るのかなと思ったところであります。いずれにしても把握の問題は残るのですけれども、企業が異なる場合、どう把握するかというのは、これも突飛な他の例ですけれども、労働者派遣法では派遣先との同一労働・同一賃金みたいなお話があって、その場合、派遣先が待遇に関する情報を派遣元に提供するというスキームがありますので、そういったことも参考にして何らかの形で把握しておくことは必要になるかなと思います。
 その先、どうするかというのは、もしかしたら企業間の協議みたいなことが出てくるのかもしれませんので、その辺りは先ほど比較法の見地と申しましたけれども、いろいろな工夫があり得るのかなと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 ただ、情報提供して通算するというのが、一部の極端な例かもしれないですけれども、たくさんの職場で少しずつ働いているような人について、どのくらい可能なのか。例えば、私個人のことを振り返ってみますと、大学がもちろん一番多いのですが、厚生労働省、経済産業省、内閣府。役所だけでこれだけやっていて、あと埼玉県の職業能力開発審議会もやっていてと、公的な仕事をいろいろやっています。電力・ガス取引関係でのいろいろなところの審議会や運営委員会の報酬も給料として来ているということで、毎年、確定申告のときにたくさんの紙を一生懸命打ち込むわけです。
 ですが、それぞれの仕事について労働時間をどう計算して、誰に届け出るのだといったときに、果たして最も労働時間が長いところにやってもらうのか、または契約的に一番前に取引したところが責任を負うのか。仮にトータルの労働時間は短くても、時間あたりの賃金が高くて、所得に占める重要性が一番高いところが責任を負うべきなのかといったときに、これを検討する際に労働者個人のほうに通算することを求めるというのが一番合理的かなと感じるところであります。
 その観点から、先ほどのインターバル規制自体には賛成しますが、そもそもインターバル規制というものが何で必要なのかといったら、特定の使用者が特定の労働者に対して過度な労働を求めるといったことをどうやって抑制するかという観点であって、その会社との関係とは別に、労働者がほかの会社で仕事をしたいといったときに、そこで何時から何時まで働いているといった選択が、もともと契約していた会社との関係で果たしてどのような影響を持つのだろうといったことを考える際に、本業として先に契約して、経済的にある程度の重要性を持って働いている会社があって、それとは別に仕事をしたいといったときには、その意思決定を行うのは労働者本人であると感じるところであります。
 それが、先ほどから幾つも議論に出たと思いますが、事実的に出向関係であるとか、何らかの割増賃金の規制を逃れるためのようなものについては、当然、別扱いであるでしょうし、同じ使用者の下での別の事業所で通算するというのも当然の話だと思いますが、全く関係ないところについて、まずは労働者本人の問題かなというふうにも思うのですが、それだと労働者に求め過ぎかどうかといったところが難しいかなと思っています。
○荒木座長 山川先生。
○山川構成員 重要な御指摘かと思います。多分、あまりにミニジョブのような場合は、そもそも労働者性がない場合もあるでしょうし、あったとしても一定の場合を外すということもあるかもしれません。これもブレーンストーミングみたいなもので、本人経由というのもあるかもしれませんけれども、一般に労働時間の算定というのは自己申告制は望ましくないということですが、場合によっては、そういう兼業の場合には特に本人の申告を経由するというのもなくはないかもしれません。そこはいろいろスキームがあり得るかと思います。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 今日議論してきたことは、最初に法定休日、勤務間インターバル、それから年次有給休暇・休憩。これはまさに労働からの解放についての規制を議論してきたわけです。最後に割増賃金規制を議論したのですけれども、実はドイツは1938年の労働時間令では割増賃金の規定を置いておりました。何割ということは法律には書いていないのですけれども、割増賃金を払えということがありました。それが1994年の現在の労働時間法では、割増賃金規定を削除しております。ドイツの労働時間法は、割増賃金は一切規定していないということです。
 にもかかわらず、ドイツの労働時間が非常に短いのは、時間外労働をしたら、その分、労働解放時間で返す。時間外労働に対して割増賃金で報いるという考え方ではなくて、時間外労働をしたら、その分、労働解放で返すということです。日本もドイツも非常に高度成長いたしましたけれども、労働時間について大きな格差が生じているのは、日本は高度成長の果実を全部賃金で反映させたのに対して、ドイツは労働解放時間、労働時間を短くするという方向に反映させたということが、現在の日本とドイツの労働時間の大きな違いになっているということです。
 割増賃金の意味について考えるときに、先ほど言及されました、月60時間を超えた時間外労働については5割増しということがあります。これを導入するときに労働条件分科会でも議論いたしましたけれども、割増賃金が高くなればなるほど、ある意味、時間外労働をすることを労働者自身が決定できるのであれば、長時間労働を誘発しかねない問題があります。それに対して、ドイツは割増賃金ということではなくて、労働解放で返すという発想であったのですけれども、その点が日本でも一部反映されているのが労働基準法37条3項で、時間外労働が60時間を超えた場合に5割増しですけれども、2割5分から2割5分上増しした部分については代替休暇で返す場合には割増賃金を払わなくても構わないというドイツ流の考え方が部分的に入ったところです。
 ですので、割増賃金の機能について考える場合も長時間労働の抑制という側面が指摘されますけれども、労働時間を抑制するために割増賃金だけに頼るというのは、実は逆効果になる場合もあるということも考えながら検討する必要もあろうかと思いました。
 それでは、一わたり議論したのですけれども、全体について、何かもし御指摘されたい点があれば伺いますけれども、いかがでしょうか。
 安藤先生。
○安藤構成員 ありがとうございます。
 今、座長からあった今日のまとめということで、前半、労働からの解放というのが重要なテーマであるのですが、この労働からの解放というのが、全ての労働からフリーになる自由な時間のことなのか、それとも特定の使用者、特定の企業からの指揮命令を受けたりする労働からの解放なのか。その捉え方によって、かなり見えてくるものが違うのかなというのは感じております。
 例えば、先ほど私がお話ししたインターバル規制について、複数の企業で働いている場合でも、全ての仕事と仕事の間を11時間空けるといった議論になると、なかなか実現可能性が低いのではというふうに感じるところで、この場合には、労働からの解放というのは、あくまで特定の指揮命令を行ってくる使用者からの指揮命令を受けないという観点でのお話かなとも捉えています。ということがまず1点。
 もう一点は、これまで比較法的な議論がいろいろ出てきているわけでありますが、先ほど私が申し上げた点で言ったら、仕事量が増減する場合にどう対応するかといったところで、経済的理由の解雇が容易かどうか、また当然視されているかどうかといったところでの差異などもちゃんと捉える必要があると思って発言した点と、併せてもう一点、重要かなと思っているのは、ベースとなる賃金の決まり方というところについても差異があるということは認識が必要かなと思っています。
 ヨーロッパなどで、例えば産業横断的に賃金が決定されるという場合には、特定の企業だけ、特定の労働者について、先ほど私が発言したような割増賃金の率がアップしたら、ベースとなる賃金で調整されるみたいなことは原則難しいと思います。あくまで産業横断的に決まってくるような、こういう仕事については給料が幾らというのが決まっていて、そこから割増しの算定が行われるという場合には、この割増賃金というものが労働時間を抑制する効果というのは比較的持ちやすいと思います。
 これに対して日本企業の場合には、労働者もその企業の業績に一定の責任を持ち、ボーナスなどでも報いられるといった関係があったりする中、例えば同じ自動車業界に所属している労働者であったとしても、自分が働いている会社の業績がよければ年収も高く、同じ仕事をしていても、今、働いている企業の売上げ状態が悪ければ労働者も連帯責任と言ったら言い過ぎかもしれないですが、処遇が少し低くても、そんなものだというふうに捉えてきたという観点からは、企業ごとに賃金の決定というものがいろいろ行われている。
 この辺りの違いということも捉えて、諸外国、欧州でできていることは当然日本でもできるだろうと捉えて入れて大丈夫なのかといったときに、日本のある意味よいところみたいなものを維持できるのか。特定の国の良いところも悪いところも全てパッケージで持ってくるのだったらまだしも、つまみ食いで導入というものが実際可能なのかということは、よくよく検討が必要かなと感じています。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 確かに労働時間制度を考えている場合、労働基準法自身は、普通は1人の使用者の下で就業していることを大原則に考えていて、それと違う場面として副業・兼業のような場合があって、既に労災補償のほうでは、そういった複数事業で就業する場合について特別の規制を法改正して導入しております。これから働き方が多様化してきますと、そういった対応が必要となってきますけれども、原則としては1人の使用者に使用されている労働者の問題を議論して、そこでうまくいかない問題がある場合にどうするかというのは、追加的にさらに検討するということではないかというふうに、御指摘を伺って考えたところでした。
 それでは、大分長時間の議論になりましたけれども、ほかに何か先生方から御発言等ございますでしょうか。
 黒田先生。
○黒田構成員 すみません、今日の主たる議論とあまり関係ないのかもしれないですし、自明のことかもしれないのですが、労働基準法第33条、災害時の時間外・休日労働に関してコメントさせてください。災害時にはやむを得ないということで労働時間の上限が外してあると思いますし、そういう場合にももちろん健康配慮義務はあるとは書かれているのですが、災害によって一気に上限規制が外れてしまうというところが健康管理上は気になっています。労働基準法で決めることかどうかは分かりませんけれども、第33条を適用するに当たって、実際に適用する前に、適用できない人に関しても検討しなさいよというような、何か枠がかかっているとよいのではないかと思っています。
 日本は災害が多い国で、適用されるケースも多かったり、適用される業種も多かったりするので、この点もどこかで議論できるといいのかなと思って、少し問題意識をお伝えいたします。
 以上です。
○荒木座長 労働基準法第33条については、現行でもいろいろ対応されているところでありますけれども、事務局から説明されますか。それとも、この問題については、別途さらに機会を設けて議論するということでよろしいですか。
○労働条件政策課長 若干補足といいますか、申し上げますと、もう御承知のことかと思いますけれども、第33条、災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合ということで、最近で言えば地震とか水害などの対応におきまして、建設業者とか地方公務員の方とか、様々な方々が実際に事前の許可とか事後の届出という手続はありますけれども、上限規制の適用なく働けるという状況になっているところがございます。御承知のように、これ自体は割増賃金の支払いは当然必要でございますし、月80時間の水準を超えた場合の面接指導等の義務は安全衛生法に基づいてかかるところでございます。
 これ自体の在り方について御意見あればまたさらに御議論いただきたいと思いますし、本日の議論との関係で申し上げれば、例えば22ページのような休日について従来とは異なった規制を入れた場合に、これと第33条の関係をどう考えるかとか、あるいは勤務間インターバル制度について何らか踏み込んだようなルールメイクをした場合に、第33条のような状況が起きているときにインターバルを確保しなければならないのか、これが例外事由の典型例として1つ挙げられることになるのかといったことなどが、解放規制と第33条との関係ではさらに詰めていく論点としてはあるのかなと思っております。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 それでは、一応、本日予定していた論点については議論いただいたと思いますので、今日の議論はここまでにさせていただきたいと思います。
 本日も熱心な議論をいただきまして、どうもありがとうございました。