第10回労働基準関係法制研究会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和6年7月31日(水) 10:00~12:00

場所

AP虎ノ門Aルーム

議題

労働基準関係法制について

議事

議事内容
○荒木座長 おはようございます。定刻になりましたので、ただいまから第10回「労働基準関係法制研究会」を開催いたします。
 委員の先生方におかれましては、御多忙のところ御参加いただき、ありがとうございます。
 本日の研究会につきましても、会場参加とオンライン参加の双方で実施をいたします。
 本日は水町先生が御欠席、石﨑先生、島田先生、水島先生がオンラインでの御参加ということになります。
 カメラ撮りはここまでということでお願いします。
(カメラ退室)
○荒木座長 では、議事に入ります。
 本日は、「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」について、これまでの議論を踏まえた検討ができればと考えております。
 まず、資料の1について事務局から説明をお願いいたします。
○労働条件確保改善対策室長 それでは、資料1を御覧ください。
 「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」ということでまとめております。大部の資料でございますので、ポイントを絞って御説明できればと思います。
 おめくりいただきまして、2ページ目から4ページ目まで、ここに関しましてこれまでの御議論を踏まえまして【視点】と【課題】ということをまとめさせていただいております。
 2ページ目は【視点】をざっとまとめた上で、【課題】として、労働時間制度の関係は「最長労働時間規制」と「労働からの解放の規制」、そして「割増賃金規制」の3つに大別できるということを示しております。
 3ページ目に「最長労働時間規制について」の細かい論点を、①、②、③、④と並べております。
 まず①に関しましては、上限規制を含めた労働時間規制についてどう考えるのかということで、この中には以前も議題に出しました法定労働時間週44時間の特例措置についても含めて、在り方をどう考えていくかということにしております。
 2つ目でございます。いわゆる法律による強行法規だけではなく、ソフトローで時間外・休日労働時間の短縮を図るということの在り方についてどう考えるかというものでございます。
 3つ目でございますが、管理監督者を含めた、いわゆる実労働時間から離れている方々への健康・福祉確保措置に関しては制度ごとにばらつきがあるということについてどう考えるのかということを含めた、みなし労働時間制等々を含めた在り方についてどう考えるかというものとしております。
 4つ目、テレワークでございます。テレワークを進めていく中で、テレワークにふさわしい労働時間管理というのはどういうものがあるのかということにしております。
 4ページ目、2つ目が「労働からの解放の規制について」でございます。
 ①から⑤までございますが、まず①と②、法定休日に関係しまして、今の休日関係の制度が連続の勤務に関しては特段の規制が入っておらず、やり方によっては相当長期間勤務させることができるようになっていることについて、どう考えるかということ。
 2つ目として、週休2日制が広がっている中で、どこの休日が法定休日なのか、この特定がないことについてどう考えるかということ。
 3つ目が勤務間インターバルでございますが、これをどのように進めていくのかということでございます。
 4つ目、年次有給休暇につきまして、働き方改革で入りました時季指定義務、時間単位取得というものも含めて、どのように考えていくのかということでございます。
 5つ目、休憩に関しまして、8時間につき1時間という休憩を超えて長時間労働をする場合の休憩をどうするのか、あるいはより短い時間での休憩をどうするのか、あるいは今、法律に定められております一斉付与の原則についてどう考えるのかといったところでございます。
 3つ目、「割増賃金規制について」でございますが、これは①、②と分けておりますけれども、全体として割増賃金規制の性質、趣旨とその効果といったものを踏まえながら在り方をどう考えるのかという点と、細かいところで副業・兼業の場合の割増賃金の通算管理をどうするかというものでございます。
 今回もこれらの論点に関しまして、必要性の高い事項は何か、早期に取り組むべき事項は何か、段階的に取り組む事項は何か、そういったことについて御議論いただければと思っております。
 まず「最長労働時間規制」についての細かい資料でございますが、6ページから開始いたします。
 6ページ、7ページは時間外労働の上限規制に関しましての先ほどの論点を再度まとめたものと、これまでの動きについてまとめたものでございます。
 8ページが、諸外国の法制の状況について比較できるような表にまとめたもの。
 9ページに、週44時間の特例措置に関しまして、前回御議論いただいたときのものを少しまとめた形にしております。ここに関しては、特例措置がどういうものであるかということ、今は8割の事業場で実際には40時間で運用されているということ。ただ、一方で業種によってはなかなか44時間を縮めるということが難しい事情もあるということ、そういったことをまとめさせていただいております。
 これが、まず1つ目の論点の部分でございます。
 10ページ、11ページが2つ目のソフトローでの対応についての資料でございます。
 10ページ、企業外部に情報開示をして市場機能を使ってというものでございますが、こちらに関しては女性活躍推進法、次世代育成推進法等で既に同じような仕組みがあるという中でどこまでやっていくのか。また、同じような制度をつくるということについてどう考えるのか。その際の事業主の負担というものに関してどう考えるのか、というようなことを論点として提示しております。
 11ページが、企業内部で残業時間等の情報を開示することで改善をしていけないかという視点でございます。
 これについては、考え方として例①、②、③というふうに分けさせていただいております。労働者個人に対して残業時間の情報を提供するのか、管理職に提供して職場の改善に取り組んでもらうのか、それとも衛生委員会等の企業体の中での組織に提供して改善に取り組んでいくのかといった、どのような目的で誰に何を開示するのかというところがポイントになってくるかと思います。
 なお、個人ごとの残業時間に関しましては労働者個人に関する情報が含まれますので、扱いに関しては配慮が必要ということは申し述べさせていただきます。
 12ページ、13ページはここに関する参考資料で、女性活躍推進法の仕組みですとか、次世代育成支援対策の仕組みですとか、そういったものの資料でございます。
 14ページ、15ページが裁量労働制、高度プロフェッショナル制度、管理監督者といった方々の現在の制度概要でございます。
 14ページが、制度を導入するに当たってどのような要件があって、どのような手続があるかというものでございます。
 御案内のとおり、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度に関しましては労使合意の手続がきちんと組まれておりますが、管理監督者や研究開発業務に関してはそういったものがないというようなことが分かるようになっております。
 15ページは、これらの労働者の方々の健康・福祉確保措置の比較表でございます。
 少し凸凹はございますが、目立つのは管理監督者のところで健康・福祉確保措置がないというようなところであろうかと思います。こういったことについてどう考えるかという御議論になろうかと思います。
 16ページからテレワークに関してでございます。
 16ページは、これまでいただいておりましたテレワークに関する考え方をまとめさせていただいております。
 これを踏まえまして、17ページにテレワークに対する労働時間制度の考え方の例ということで①、②、③、④と作成させていただきました。
 例①、例②に関しましてはフレックスタイム制をうまく活用するということで、例えばコアデイのようなものを導入するといったことで、今までフレックスの対象にならなかったような方もフレックスの対象にしてうまく使えるようにするにはどうしたらいいかということで考えたものです。
 例③、例④に関しましては、みなし労働時間制度を入れるというパターンで、例③は事業場外みなしのような考え方、例④はそうではない、例③には当てはまらない形での考え方というようなもので整理をさせていただいております。
 18ページはテレワークと勤務日が混在する場合のフレックスタイムのイメージで、19ページは事業場外みなしの労働時間を算定し難い場合という要件に関しての現状のデータでございます。
 以上が、「最長労働時間規制」に関する部分の資料でございます。
 続いて、「労働からの解放の規制」の部分でございます。
 21ページは、これに関して休憩・休息・休暇制度が諸外国はどうなっているのかを並べたものでございます。
 22ページ、まず法定休日に関してでございますが、ここについては先般も議論になりました4週4休の制度についてどう考えるのか。そして、36協定で休日労働をさせることはできますが、それについてどう考えるかという点です。
 考え方として上から2つ目のポツのところにありますように、2週間以上の連続勤務というものが労災認定の基準にもされているという中で、4週4休や休日労働を駆使するとかなり長い期間、連続勤務をさせることが可能になっている今の制度をどうするか。その点で、考え方として例①、②を挙げさせていただいております。
 下のところで、Iが4週4休をどうするか、IIが休日労働をどうするかということで分けております。
 例①でございますが、まず4週4休について1週1休なり2週2休なりといったようなものを入れることで連続勤務の最大数を縮めていく。そして、IIのところですが、休日労働についても36協定で現行は回数制限を設けておりませんが、そこに回数制限を一定程度設けるというような考えはどうかというものでございます。
 例②はI、II、共通してでございますけれども、そもそもとして労災の判断基準にもありますような13日を超えた連続勤務といったものに関して、制限の対象としていくというような考え方ではどうかということで並べさせていただいております。
 23ページから26ページまでは、これに関する参考資料でございます。
 続いて27ページでございますが、「法定休日の特定について」でございます。
 現行、労働基準法第35条は、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないとなっておりまして、休日がどの日であるかということを特定するようには書いておりません。監督署における指導では、具体的な日を定めるように指導はしておりますが、裁判実務等々ですと1週間の最後の休日は法定休日というふうにみなされるケースが多いというような実情にございます。
 これに関しまして、どこが法定休日かというのを分かりやすくしたほうがいいのではないかという御指摘は労使双方からあるところでございまして、そこに関して修正するとしたらどうなるかというものをまとめたものでございます。
 下の囲みのところにイメージを含めて書かせていただいておりますが、大きなものとしましては法第35条で保護すべき法益というものが週1回の休日を確保するということから、あらかじめ特定した法定休日を確保するということに変化するというものでございまして、これに伴いまして、実務上の問題ですとか、あるいは何をもって違法と捉えるのかという部分が変化していくことに関してどう考えるのかというのが論点となります。
 28ページ、29ページ、30ページに、休日の特定に関しまして現行法の解釈ですとか裁判例、そして学説といったものをまとめております。
 31ページ、勤務間インターバルでございます。
 勤務間インターバルに関しましては、導入企業割合は6%、残り94%の中にはそもそも導入しなくてもインターバルは取れるという企業も一定ございますが、そういった導入割合であるということを含めてどのような形で進めていくのか。法的に義務化をするのか、しないのかといったようなことが考えられるかということで論点をまとめております。
 下の囲みの論点のところでございますが、まず上から2つ目の○でございます。一律の制度として義務化すべきなのか、そうでないのか。仮に義務化をするとした場合に、例外の職種・業務ですとか、取れなかった場合の代替措置といったものを法令上で設計していくのか、それともある程度そういったものは労使に委ねていくべきなのか。義務化しないということであれば、指針などで推奨事項や留意事項としてある程度明確化することができるのか。
 上から4つ目の○でございますが、具体的なインターバルの時間数というのは何時間とすべきなのか。
 また、仮に義務化するとして、それは罰則をもって担保すべきなのか、罰則なしでまずは運用を始めるのか。
 最後から2つ目の○ですが、長時間労働をしている方を対象とするのか、全ての労働者を対象とするのか。
 最後でございますが、使用者の責務として捉えるのか、労働者の権利として捉えるのか。
 こういったような論点があるということで並べさせていただいております。ここについては、どのような形がよいのかということを御議論いただければと思います。
 32ページ、33ページ、34ページと、関連するデータについて資料を入れております。
 関係しまして、37ページに、参考資料がずっと続いている中ではございますが、今、導入している事例について私どものほうで少しピックアップをしてまとめてみたものがございます。これは統計調査ではありませんで、あくまでも事例集からまとめたものでございます。
 実際に今インターバル制度を入れている企業の中でも、例えば左側の表ですが、翌日の始業時刻を遅らせなければならないときにどうするかという中で、実際に繰り下げているですとか、働いたとみなすというような運用をしているところもあれば、年休で処理をするというようなところもある。また、インターバルを確保できなかったときの代替措置というものも、代替休暇を用意しているところもあれば、報告のみで済ませているようなケースもあるということで、導入している企業によっても取り組み方というのはかなりばらつきがあるというのが現状でございます。
 以下、参考資料、諸外国の例等を並べさせていただいております。
 43ページで、これは第2回で一度出させていただいたものでございますが、「つながらない権利」に関しても資料を用意しております。
 勤務間インターバルと合わせまして、つながらない権利に関してどう考えていくかということで、各国の法制度、導入状況等を並べさせていただいております。
 続いて44ページ、年次有給休暇制度でございます。
 こちらに関しましては、「考えられる論点」のところでざっと並べさせていただきましたが、時季指定義務の日数5日間、そして時間単位年休の日数5日間、これに関してどう考えるのかということ。
 あるいは、時季指定義務に関しまして育休から復帰した方、あるいは近く退職が予定されている方等々、そもそもの労働日が年間で数えると少ないという方に関して、この5日の義務というものの数字をどう考えるのかということ。
 それから、下から2つ目でございますけれども、もともとILO第132号条約でも規定されているような長期間の連続取得の推進に関してどう考えるのか。
 最後の○でございますが、年休取得のときの賃金算定方法について、平均賃金、通常支払う賃金、それから標準報酬月額の30分の1という考え方はありますが、そのずれに関してどう考えるのかというような点が論点になろうかと思っております。
 最後の点に関しましては、46ページにイメージとして実際に計算してみたものを用意しております。
 平均賃金や標準報酬月額の30分の1というものと、通常支払われる賃金というものの母数が歴日になるか、労働日になるかということで母数が変わってきますので、どうしても金額にずれが出てくるというようなことが実情としてあるというものでございます。
 続いて47ページ、「休憩について」でございます。
 休憩について論点のところで先ほども申し上げましたが、8時間を超えて長時間労働をする場合の休憩時間というものが8時間につき1時間のみでよいのかという点。
 あるいは下から3つ目の○でございますが、一斉付与の原則は工場労働を前提としてもともとあったものでございますが、この一斉付与の原則というものが働き方の多様化している中で引き続き必要であるかという点。
 最後のところに書かせていただきましたが、6時間を下回る労働者に対する休憩付与は現行ではありませんが、それに関してどう考えるのかという点、この辺りが論点になろうかと考えております。
 48ページは、長時間労働の場合の休憩付与のイメージを図示化したものでございます。
 最後に50ページでございますが、「割増賃金規制について」でございます。
 論点のところでまとめさせていただきました。上側の○が総論でございまして、割増賃金の目的というものが何なのか、現行の労働市場の動きですとか深夜割増を含めました補償的性質だとか健康管理の観点、こういったものを総合して割増賃金の在り方についてどのように考えるのかというのが総論としての論点でございます。
 各論といたしまして、下の○のところでございます。副業・兼業を行う場合についての労働時間の通算について、企業側の負担となるという点でありますとか、アメリカ、フランス、イギリス、ドイツといった諸外国では通算管理はしていないというようなことも含め、それと併せて時間外・休日・深夜労働の労働者への補償といったそもそもの性格を複合してどのように考えていくのかという点でございます。
 53ページ以降は、この点に関する参考資料となっております。
 最後に55ページですが、この割増賃金に関係しまして労働時間の上限規制のラインと割増賃金のラインというものを図示したものでございます。
 労働時間に関しては、もともと週40時間、1日8時間という法定労働時間があり、その上に原則として月45時間の超過勤務があり、上限として単月100時間、複数月80時間というものがあります。
 一方で、割増賃金に関しましては25%というラインが月60時間で、60時間を超えると50%ということになっておりまして、やや時間の考え方にずれがあるということでございます。こういった点もどう考えるのかということを含めた御議論をいただければと考えております。
 その他、参考資料でございます。
 駆け足になりましたが、資料説明は事務局からは以上でございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
 大部な資料で、今日は全部議論する時間はないと思いますので、4つくらいの項目を議論できればと思っております。
 最初の固まりが法定労働時間について、第2の固まりが情報開示、それからいわゆる特別規制や適用除外に関するもの、3つ目にテレワーク関係、そして4つ目として労働からの解放の中の休日規制、この辺りまで議論できればと考えております。
 それでは、最初の固まりですけれども、法定労働時間についての規制、資料でいいますと1ページから9ページまでについてまず先生方の御意見をいただければと思います。
 では、神吉先生お願いします。
○神吉構成員 まず3ページの1の①の「最長労働時間規制」について、今後、法定労働時間に係る事業場全体に係る上限規制を、現在の過労死基準と言われている水準から引き下げていくことが必要だと考えています。
 それに加えて、36協定の適用に関して労働者個人の個別合意を要する、つまり法定労働時間に集団的デロゲーションではなく個別オプトアウトを認めるオプションの導入を提案したいと考えています。なぜかというと、労使協定は法的には免罰効、強行性解除効を持つにすぎないと位置づけられ、時間外労働義務が生じるには別途契約上の根拠を要するわけですが、実際には就業規則で必要がある場合には時間外労働をさせられるという規定があれば基本的には合理性が認められ、簡単に契約内容となってしまう。さらに、具体的な時間外労働命令が権利濫用で無効になる理論的可能性はあるものの、実際にそのように判断された事例はほとんどない。つまり、現在、時間外労働に対する歯止めとして個人の希望や意図が反映される余地がほとんどないことを懸念しているためです。
 前回、過半数代表、特に過半数労働者についてその複線化や集団交渉化の検討をしましたが、個人に意見聴取義務や公正代表義務をかけることで対応できるかは疑問です。むしろ、これだけニーズが多様化しているなかで、労働者の意見を事業場に1つの画一化された基準でまとめるということ自体が無理なのではないかと考えるに至りました。
 結局、事業場単位での画一的枠組みでは、幾ら頑張ってみても全員の希望に対応することはできません。個々の労働者からすれば、過半数代表者という「他人」が自分の時間外労働の枠組みを決定してしまい、「集団」が本来的な交渉力の強化ではなく同調圧力のように働いてしまっているわけです。
 「課題」や「視点」に挙がっているように、過労死防止・健康確保、ワークライフバランスの確保、労働者のキャリアアップなど、労働者の保護のための労働時間規制の趣旨とは、これ自体が多様なものです。さらに、仕事に対する価値観や生活スタイルが個別多様化していることに鑑みれば、そうした個別の事情を反映させるオプションこそ必要ではないでしょうか。
 ちょっと広い話題になりますが、なぜ女性労働者の半数以上が非正規なのかを考えます。正社員については「いつでも、どこでも、いつまで」も働かせられるような働き方がデフォルトになっていて、家族のケア責任が偏りがちな女性労働者が選べない道になっている。会社から見れば柔軟に働かせられる利点があっても、労働者側から見ればいつ残業しなければならないかがわからず、非常に予測不可能な働き方です。正社員に定時で働くオプションがないと、それに対応できなければパートを選ばざるを得ない状況に陥るわけです。
 日本では、「フルタイム」が1日8時間といった時間数ではなく、もれなく時間外労働可能性がついてくる「無限定」な働き方を含意している。原則に立ち返って、法定労働時間を上限に働くというオプションさえあれば、フルタイムで働ける個人も増えるのではないでしょうか。
 集団性は労働法において重要な価値があるとは思いつつ、多様性、個別性とは相反する側面も確実にあります。これまで続けていた事業場単位の一律規制という古いスタイルをそろそろ見直す時期にきているのではないかと考えます。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 安藤先生。
○安藤構成員 ありがとうございます。
 今、神吉先生から問題提起があったお話について、幾つか疑問といいますか、引っかかっているところがあるので明確に教えていただきたいと思って発言しております。
 今、神吉先生からお話があったのは、仮にこれまでの企業で言ったら就業規則で時間外労働について、明確な合理的な理由がないと拒否できないみたいな書き方をしているところが多いと思うのですが、これについて個人個人の労働者がノーと言える、私は時間外労働しませんということを言えるといったことだと思ったのですが、それよりもう少し手前に、例えば近年、限定正社員とか、多様な正社員といった議論の中で、仕事内容を契約で特定する、勤務地を特定するとか以外に、形としては例えば時間外労働がないという限定をつけた契約ということも可能かと考えておりました。
 そういったときに、神吉先生からの御提案というのは、私の理解ではどんな契約で入った人でも労働者側が時間外労働をやりたくないと、オプトアプトを申請したらしなくていいということだと理解したのですが、それよりもう少しマイルドな手法としては、会社の中に複数の契約が走っていて、時間外労働がありの契約と、そもそも採用される段階で時間外労働がない、または時間外労働の時間に上限が課されているといったタイプの契約、これが明確にあらかじめ定められていて、これを納得ずくで選んで企業に入るといったケースもあるのではないかなと感じました。
 それよりもかなり強いことをおっしゃっていて、例えばこの場合、私は時間外労働できます、やりますと言って会社に入ったけれども、例えば子供ができたとか、特段の事情もないけれども、やはり気が変わったので時間外労働はしませんといったようなことが許されるのかどうか。この辺りは、あらかじめ契約で定めた内容と、それに対してオプトアウトするという選択がどういう場合には認められて、認められないのかといったところを教えていただけると話が分かりやすいかと思いました。
 以上です。お願いします。
○荒木座長 神吉先生、お願いします。
○神吉構成員 ありがとうございます。
 個別オプトアウト制をとっている国としては、例えば8ページにイギリスが挙がっています。イギリスは個別合意によって法定労働時間の適用除外を認めて、それが契約内容になる、個別のデロゲーションを認めています。さらに、
合意の撤回というのもいつでもできる仕組みになっています。ですから、制度としてやれないことはないと思います。
 もちろん、契約に入る段階で、時間外労働があります、転勤もあります、それを納得ずくで入ってきましたという状況はあるでしょう。しかし、長期の契約関係のなかで事情が変わる、変えたいという希望が出てくることは必ずあると思います。
 そういったとき、イギリスの場合は7日前に申し出れば、オプトアウトから元に戻る、法定労働時間が適用される状態に戻れるようになっていて、使用者はそれを妨げてはいけないという制度です。私はそれが、法定労働時間で守られている状態だと思うんですよね。
 そこまでケース・バイ・ケースにいつでもイン・アウトできる制度が煩雑すぎるならば、制度の組み方で工夫すればよいと思います。例えば1年に1度の確認とすれば、今年度は子供が小さいので時間外労働はできないけれど、来年は状況が変わるのでできるというふうに、ある程度柔軟にライフサイクルに応じて変更可能となります。それに、同じ事業場の中で、とにかく稼ぎたいのでたくさん働きたい人と、健康上の問題や育児・介護などがあるのでそんなにできないという人がいたとき、どちらかに合わせることで他方に不満が残る状況にならない点でもメリットがあると考えています。
○荒木座長 よろしいでしょうか。
 水島先生、お願いします。
○水島構成員 ありがとうございます。水島でございます。
 私も安藤先生と同じ質問をしようと思っておりまして、神吉先生の御説明を伺い、イギリスではそのようなことが可能である。しかし、かなり先駆的で、直ちに日本に導入するのは難しいと思いました。
 神吉先生の初めのご発言を伺い、労使協定締結に当たって個別に当該協定内容から外れることができ、その労使協定の期間中は除外が有効であるというものであれば、比較的導入しやすいのでは、と思いました。
 つまり、労使協定の有効期間に合わせて個別のオプトアウトを認める。オプトアウトしたらその期間中はずっとオプトアウトの状態で、逆にその期間中にオプトアウトしなければ就業規則に基づき時間外労働義務が発生する、という整理であれば、まだ実現可能かなと思います。
 ただ、私としては、安藤先生がおっしゃったように、契約で時間外労働が一切ないことを決めるという形式の方が理解しやすく思いました。
 そもそも法定労働時間内で仕事を終わらせる、そして法定労働時間内で終わる前提で業務量を考えるのが原則であるはずで、時間外労働が当然にあるという意識を労使とも変えていく必要があると強く思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 首藤先生。
○首藤構成員 先ほどの神吉先生の御提案なのですけれども、私は十分に検討すべき問題ではないかと思っております。
 法的な細かいところは分からないことも多いのですけれども、この間、集団合意の上で個別合意をすることによって、例えば高度プロフェッショナル制度というような形で長時間働くということが認められてきている一方で、定時に帰れるようにするというような短時間働くということも当然検討するべきではないかと思っておりました。
 先ほど安藤先生からの、それは契約の段階でというお話はもっともだと思います。現状でも、確かに時間外労働を原則しない働き方は当然あり、その多くが多分、非正規労働かと思っています。
 例えば派遣であったり契約社員であったりというような形で、それでも時間外労働をやっている非正規労働者はたくさんいますけれども、基本的には正社員のように非常に柔軟に時間外労働をしないことを選ぶために多くの女性は多分、非正規を選んでいる実態があるのではないかと思っております。
 今、水島先生からもありましたけれども、正社員で働くということがあまりにも時間外労働をすることが前提となり過ぎている現状を少し是正させていくためには、今、神吉先生が提起されたような点をぜひ議論していただきたい。
 正社員でありながらも法定労働時間である1日8時間、週40時間で働くことが選べるようにする、法定労働時間で働きながらキャリアを積みながら働くことができるにする、それが保障されるような環境づくりをしていく必要があるのではないかと思いました。
 以上です。
○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 ありがとうございます。
 ただいまの御議論を伺いながら、神吉先生が提起された問題意識という部分については非常に私自身も共感するところでありまして、過去の研究会のほうでも申し上げさせていただいたように、私自身は将来的には法定労働時間7時間というところを目指していっていいのではないかと考えているところではあります。
 ただ、これまでの御議論等を伺いながら、私自身の法定労働時間7時間というときの法定労働時間のイメージとしては、どちらかというとその法定労働時間の中での労働をしなければならないというような強い意味での規制というよりは、ある種のデフォルトルールのようなものとして観念していたところもありまして、ある意味、そこの7時間から逸脱するということももちろん許容するという枠組みで考えていたようなところがあったように思います。
 今回の神吉先生の御提案というのはそれとは逆で、法定労働時間の厳守、そしてそこに適用される労働者を限定していくというアプローチかと思います。1点教えていただきたいこととしては、先ほど撤回することも可能という話があったのですが、イギリス等で撤回権の濫用みたいな議論が逆にあるのか。労働者が時間外労働できるというふうにもともとは言っていたんだけれども、後でその同意を撤回する。だけど、それをされてしまうことで、例えば業務に著しい支障が生じてしまうというとき、それを止める手段みたいなものが使用者側にあるのかどうかという辺りを教えていただけたらと思います。
 私自身の提案する法定労働時間の点につきましても、今回の御提案につきましても、課題の位置づけとしてはかなり長期的な課題、しかし重要な課題になってくるのかなというふうに整理しているところでございます。
 ありがとうございます。
○荒木座長 続いて、島田先生お願いします。
○島田構成員 ありがとうございます。
 私は、神吉先生のオプトアウトを認めるべきという見解は非常に強く同意をしています。
 ただ、そのよりマイルドなステップとしては、例えば36協定のうち、一定時間の時間外労働については同意を必要とする、オプトアウトを認めるというものもあり得るのではないかとは考えています。
 正社員たるもの無限定に働くべきだという前提はやはり少しずつ変えていくべきで、契約で合意したのは基本的には所定労働時間働くことであり、仕方がないときは時間外労働もするという程度のものではあるので、36協定で上限が認められた範囲であれば、ほぼ無限定に残業ができてしまうという現状は基本的におかしいと思っています。
 それで、個別のオプトアプトを認める、こういう手段を使うメリットとしては2つほどあると思っています。
 まず1つは、働きたい人の自由に関しては一切矛盾しないというか、対立しないということです。
 また、2つ目に育児・介護等についてはいろいろと育児・介護支援ということで上限規制とは別の制度を使うということもあり得ると思うのですけれども、そうではなくて契約は所定労働時間であって、時間外労働というのは例外なんだという立場で見たら、育児・介護だけではなくて、よりその多様なというか、いろいろな立場の人が自分の労働を自律的に調整できるのではないか。そういうメリットもあるかと思います。
 また、個別のオプトアウトを使わなくても限定正社員という制度もあるので、そちらを使えばいいのではないかということもありましたけれども、もちろんそれも選択肢の一つだとは思います。
 ただ、個別のオプトアウトを認めると、今はちょっとできないというときに合意をしないとか、より短期間の調整が可能になるというメリットもあるかと思います。
 また、その限定正社員ですが、実際どのような運営をされているのかは企業によると思うのですけれども、その限定正社員の問題点というか、あり得る問題点として、限定正社員と無限定の正社員の転換が実質的にそんなに容易ではないということになってしまうと、結局、非正規の問題と一緒で、無限定じゃない以上は1軍じゃないと、キャリアにも非常に大きく影響する。ですから、一種、非正規みたいになってしまうよとなると、限定正社員のほうがいいじゃないかとは言えないと思うんです。それは、限定正社員と非限定正社員の転換の容易さにも関わってくることだと思います。
 ですから、限定正社員の契約に入る段階で決めてしまえばそれで問題ないとも言えないのではないかということで、少なくとも一定の労働時間、時間外労働時間を超える時間外労働については個別のオプトアウトを入れていくべきではないかと考えています。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 ありがとうございます。
 今までの先生方の御議論を聞いていて、もう少し検討できることがあるのではないかと思ってお話しさせていただきます。
 まず最初にお話しした点として、いつでも私は時間外労働ができます、やりますと言って入ったのに、先ほどイギリスでそういうものでトラブルが起こっていないかというお話がありましたが、言うだけ言って、入ったらその約束から抜けるといったことがどのくらい有効なのか。もちろんそれを入れてしまっても、結局はそういう口約束は意味がないよとしてしまうのも一つのやり方なのかもしれませんが、先ほど申し上げたとおり、もう少しマイルドな形でのいろいろな仕組みの導入の仕方があるかと考えていました。
 例えば、今、日本でも短時間正社員という仕組みを取っている企業があります。荒木先生と御一緒した研究会とかでも、そもそもこれまで働き方について呼称で管理をしているんだけれども、その呼ばれ方と働き方の実態がどう一致していて、どうずれているのかということをかなり大規模に調査したことがあります。
正社員と言うと実は法律的にあまり明確に定義されたものではない。ですが、学問上は無期、直接、フルタイム、この3条件を満たすと正社員であって、1つでも条件を満たさないと非正規だという整理をするわけです。
 しかし、短時間正社員と企業などで呼ばれている人はフルタイム働いていない。そういうわけで、学問的な分類で言ったら非正規なはずなんです。
 しかし、会社の中では正社員として雇われた人が一定期間、例えば子育てが忙しい時期などに短時間勤務にしてもらって、子供が小学校の3年生くらいになったらまたフルタイムに、場合によっては残業がある形にまで戻るといったようなこともあります。昔ながらの日本企業では会社のメンバーかどうかみたいな形で、社員として迎え入れて組織の仲間として一緒にやっていく。その中で、話合いによって勤務時間を短縮したり、時間外労働を免除したりといったことはこれまでやってきたという実態があると思います。
 それで、これがさらに今の人手不足の時代に、先進的とは言わず、かなり広い範囲で企業は柔軟に対応しているという実態もあると思います。契約で定めたんだから、フルタイムで働くのは当然だ、時間外労働を命じたら絶対にやれと言って、その労働者が退職してしまったら人手不足の時代に元も子もないということで、いろいろ柔軟な取組をしているところもあるという実態をまず考えた上で、うまくいっていないところがどういう理由でうまくいっていないのか。この辺りをまずは明確にすることが必要かと思いました。
 その中で、多様な正社員というものを一つの選択肢として先ほど申し上げましたが、その中に契約で最初から時間外労働ありとか、時間外労働なし、またはその中間に時間労働があるけれども何時間までといった契約、これに加えて先ほど神吉先生から相対的にはマイルドな提案としてあった、例えば1年1回、時間外労働のあり、なしを話し合って決める。もちろんそれに応じて、担当する仕事も責任の範囲なども少し変わるかもしれないけれども、そこは納得ずくで選ぶといったような多様なものをまずは契約ベースで考えることは可能ではないかとも考えました。
 私も今日、保育園に2歳の子供を送ってからこちらに来ました。そして、夕方にお迎えにも行くわけですが、先ほどから女性が家庭に対する責任を持つということを前提として議論をしている気がしていて、それだと、性別による役割分担を強化してしまう気がしますので、男性、女性問わず、子供が小さいときなどには働き方の強度を落とすといった選択肢が可能であったり、または若いうち、まだ結婚していないうち、子供がいないうちに自分のキャリアを考えてしっかり働きたいという時期があってもいいのではないかというところも含めての働き方の多様性というものは重要かなと考えております。
 ただ、今、言ったところで私が大事だと思っているのは、短時間勤務であったり、または時間外労働がないという選択をしたときに、正社員としてとか、キャリアを追求するみたいな発言が今まで皆様の中からあったと思うのですが、さすがに全ての面でいいところ取りはできないということは理解する必要があるとも思っています。キャリアも追求したい、出世も同期で1番になりたいけれども、時間外労働はしない。何だったら短時間勤務と、それができないのは差別的な扱いだと言えるのかといったとき、先ほどどの先生かの御意見だか忘れてしまったのですが、ばりばり働きたい人の邪魔はしないという点で優れているというお話がありましたが、仮に同期入社の人で結婚して子供を持って、子供との時間を大切にするという選択をした人と、仕事をばりばりやりたいという人がいたとき、仕事をばりばりやっている人のほうが労働時間も長く、高い成果が出て、個人のスキルも上がったということで、その人が仕事の面で評価されてしまうといったことには残念ながら向き合わないといけないのではないか。そのようなことは考えた上で、正社員として働き続けるのが難しいので非正規という選択をせざるを得ないといったものをどうにかしようといった意図には私も賛同いたします。
 ただし、繰り返しになりますが、もう少しマイルドな契約ベースのやり方でできることは多々あるのではないかとも思っております。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 山川先生、どうぞ。
○山川構成員 ありがとうございます。
 まず言葉の問題が2点ありまして、1つはオプトアウトという場合に、イギリスでは法定労働時間規制のオプトアウトとしてで、日本で言えば労基法第32条を個別同意で外せるということが前提になっていて、それと時間外労働義務ないし時間外労働の許容性のオプトアウトというのはちょっと次元が違う話ではないか。両者あり得るのかもしれません。イギリスの情報に詳しくないのですけれども、イギリスは前提としてかなりドラスティックな、労働時間上限規制自体をオプトアウトできるようになっているという点があったかと記憶しています。
 もう一つは、安藤先生も言われた、何々正社員という場合、短時間正社員の問題を今、議論しているわけでは恐らくなくて、言ってみれば定時間正社員の問題を議論しているということかと思います。現行法上あるのは、育児・介護休業法の第16条の8で、最近改正がなされましたが、現行で施行されている法律で言うと、3歳未満の子を養育するというような場合に所定外労働の制限を請求でき、いわば定時間社員になる請求権が与えられている。それを一般化するという御提案かなと思いました。それは言葉の問題ですが、長期的な課題としては非常に重要であるかと思いまして、そもそも上限規制を設定したということは一体どういう意味があるのかということに関わるお話だと思います。
 それで、多分現状との関係で言うと、では人員が一時的に足りなくなった場合どうするのかということで、1つあり得るのは新規採用を増やす。その新規採用がどういう形態になるか、あるいはそれが余剰になった場合どうするのかという場合と、あとは派遣社員で対応するというのもあり得るかと思いますが、そういった企業の一時的な人員ニーズにどう対応するのかということと併せ、考える必要があると思います。
 そういうことを考えると、集団的な協議等が重要になってくると思うのですけれども、ただ、そこは神吉先生からも御指摘がありましたように、なかなか現状の、特に組合がない場合の過半数代表者との協議がどれだけ実質化しているかという問題がありまして、そうすると集団プラス個別のしくみをどうやって仕組んでいくかということかと思いました。
 それで、選択肢がいろいろありますが、取りあえず段々と選択肢がマイルドになっていくかもしれませんが、労契法の第3条3項の中にワークライフバランスを考慮するという規定がありますので、そうしたことを例えば時間外労働とか休日労働について特に定めていく。現行の規定はそんなに強くはないのですけれども、ただ、転勤などでは配慮義務規定でもそれをもって権利濫用の根拠として援用するという判例が幾つかありますので、意味がないわけではないと思います。
 あとは意向聴取、育児・介護休業法で従来は育児休業につき規定があり、今度改正で介護休業にも個別的な意向聴取を求める手続規定が入りましたので、そういった形で個人のニーズを生かしていくということも、とりあえずのマイルドな規制としてはあり得るのかなと思いました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございます。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 今、安藤先生からありました契約上のアプローチがあるのではないかというところに関連して、私も詳しくはないのですけれども、たしかイギリスのほうでは労働時間の短縮等、柔軟な働き方を請求(申請)する権利が労働者の側にあって、ただし、合理的な理由がある場合には拒否できるという仕組みがあったり、ドイツも最近、正社員が一時的に短時間勤務を求めることができるというような仕組みが導入されたりというところがある中で、そういうアプローチというのも今、議論されている課題に対応する方法として一つは考えられるのではないかと思ったところであります。
 また、そこも請求権という形ですと、やや強めの話にはなるのですが、段階的に進めていくというところで考えていくときに、先ほど山川先生から意向聴取の手続規定に係るお話がありましたけれども、現在は育児・介護とか、特定の事由に該当する人のみ、時短の請求権などが認められているかと思うのですが、いろいろな事由が多分あり得ると思うので、もう少しそこの範囲を広げて、そこに当てはまらない人たちについても時短の希望がある場合には、使用者が協議に応じたり、検討したり、あるいはできないのであれば理由を説明するといったような手続規制を課すというアプローチもあるのではないかと思った次第であります。
 ありがとうございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
 法定労働時間についていろいろと御議論いただきました。提起された問題は労働基準法上の法定時間外労働規制からの個人的な除外というよりも、当該企業で設定した36協定上で許容された時間外労働から、それを逃れるようなオプションを認めるべきではないか。現在、育児・介護休業法では育介法の適用対象者について、法定外ではなくてまさに所定外の労働について拒否する権利を認めている。これをもっと広く認めるべきではないかという問題提起かと受け止めたところです。
 実際、ドイツやオランダでは、フルタイムとパートタイムと、働き方自体を特定の育児・介護の場合に限らずに認めるというような動きが出てきております。
 ただ、これは請求権という強い権利なのか、あるいはそういう希望を申し出たらそれに対して使用者に正当な理由があれば拒否できる、その理由を説明すべき義務を使用者に課すというようなもののようにも受け止められ、この辺はさらによく検討する必要があるかと思ったところです。
 法定労働時間について、8ページで諸外国の一覧表があります。ここを見て1つ気づかされるのは、1日8時間という法定労働時間規制を維持している国は非常に少ないということです。EU指令も最長労働時間規制をしておりますけれども、これは1日の規制ではなく、週労働時間の最長時間、これは時間外労働も含めてですけれども、週48時間という規制しかしていない。
 昭和22年、1947年に1日8時間、週48時間ということで労基法が始まりました。それで、1987年に週48時間を40時間に改正する。そのときに、多様な柔軟な働き方を認めるというので変形労働時間を投入しました。
 けれども、これは1日8時間という規制があるので、変形制についても非常に細かな変形制の在り方が用意されて、規制が非常に複雑化したということがあります。
 それで、1日8時間の規制がない働き方としてはフレックスタイム制、これは平均して法定労働時間に入っていればいいということですけれども、そのほかの場合は1日8時間の規制が変形制でも効いてきているということです。
 そういう中で、実は後ほど議論するかもしれませんが、副業・兼業という働き方がこれから広がってきたときに、A企業で何時間働くか自体が日によって変わる。そして、その日にB企業で働くという場合に、1日8時間規制を割増賃金規制で通算するのか、さらに実労働時間規制として通算するのかというようなことをいろいろシミュレーションしてみますと、1日8時間規制というのをどこまで法定労働時間として規制するのが合理的かという問題もあろうかと思います。
 ただ、日本では長時間労働が非常に大きな社会問題ですので、その点についてヨーロッパ、あるいはアメリカも週の労働時間規制ですけれども、日本においてこういう状況をどう考えるか。1987年に大きな改正をして、さらに40年目ということで、労働時間規制を総体的に検討する上ではその点ももう一度検討した上で今後の方向性も議論してみる必要があるかと思ったところです。
 ちなみに付言しておきますと、EUの規制は1日の最長労働時間規制はしておりませんが、日本で言えば勤務間インターバル、1日に必ず労働から解放される時間というものは強く規制している。それとセットで、それから時間外労働も含めて48時間というキャップを課した上での1日の時間は規制しない。そのことも含めて、日本としてもよく検討すべき課題かと考えております。
 それでは、大分時間を取りましたけれども、法定労働時間のところはよろしいでしょうか。
 では、次の項目として、10ページから15ページまで、これは情報開示の在り方、それから裁量労働制、高度プロフェッショナル制度、適用除外のうち管理監督者などについてです。御意見があればお願いいたします。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 すみません。10ページからということだったのですが、9ページの44時間の件について何も議論していないような気がしますので、まずこちらから申し上げられたらと思います。
○荒木座長 お願いします。
○石﨑構成員 私自身としましては、この特例措置については基本的に法定労働時間の週40時間にしていくべきだと考えておりまして、ただ、支障のある業種があるということですので、そこの猶予といいますか、経過措置的なものをどう考えるかというところになってくるのではないかと理解しているところであります。
 特例措置については以上でして、情報開示についてでありますけれども、こちらは比較的早期に対応ができる。そして、早期の対応が必要な問題ではないかというふうに私自身は認識しております。
 まず、法改正や省令等の改正も必要なくできる一つの改善点としまして、現在こちらのホームページで比較的分かりやすい形で情報の公開というものがなされているとは思うのですけれども、私のほうで検索してみた際に、例えば公表されている残業時間でリスト的な形で、ざっと一覧を見るとか、そういうことは検索の仕様上できていないようなところがありまして、この辺りはちょっと改善の余地があるのではないかと感じているところであります。
 それで、この後の話は改正等が必要になってくる話ではありますけれども、開示項目のうち、特に雇用管理区分ごとの平均残業時間や、あとは年休の取得率といった点については、恐らく今ワークライフバランスに関心が高い求職者が多いという点に鑑みても、必須の開示項目としていい事項なのではないかという気もしております。
 ただし、ウェブサイトを小規模の企業ですと持っていないというようなこともあろうかと思いますので、そういう場合には求職者に対する個別の情報提供という形ももちろんあり得るかとは思いますけれども、そういった形での情報開示規制の強化というのは考えてみてもよいのではないかと思っているところです。
 併せて、11ページの資料だったかと思うのですけれども、内部での情報開示のうち、特に衛生委員会等の労使の会議体への情報開示というのは、やはり実質的な議論をする上で非常に重要な情報になってきますので、ここはぜひ対応いただきたいと思っているということと、こちらは「衛生委員会等」となっていまして、恐らく労働時間設定改善委員会や労使委員会も含まれるとは思うのですけれども、会議体だけではなくて、過半数代表者、36協定を締結する過半数代表者というのも開示相手として当然ここに含まれるべきではないかという気がしているところであります。
 これ以外の管理職については、長時間労働が非常に常態化しているような状態の場合には、その改善として開示ということが求められるのではないかと思いますけれども、そういった形での職場環境改善の趣旨にかなった形で行われればいいのではないかというところがあります。
 もう一つは、各労働者への開示という点について、ここでメリットとして自主的な行動変容というのが挙げられているのですが、自主的な行動変容によって短縮できるのはある程度働き方に裁量のある労働者だけではないかという気もするところでありますので、そのメリットがどこまで達成可能かはやや疑問があるところです。
 ただ、他方で残業時間としてどれくらい働いたかを把握することによって、割増賃金が適正に払われているのかとか、権利行使の可能性があるのかを判断するための情報を提示するということでは意味があるようにも思いますので、そういった意味での開示制度を設けていくというのも一つの検討課題なのではないかと思っている次第であります。
 以上になります。
○荒木座長 ありがとうございました。
安藤先生。
○安藤構成員 ありがとうございます。
 先ほどの時間外労働の話ともここはリンクしていると私は思うのですが、契約ベースでやるほうが望ましいといったことに加えて、ここの情報開示というのは積極的に行うことを義務化していくことが必要かとも思っております。
 まず10ページ目のところに幾つかの法律で求めている開示の仕組みがありますが、それぞれ異なる法律の裏づけがあってやっていることだということは重々承知しておりますが、見やすさ、分かりやすさの観点からは統一した基準をつくって一つの表にまとまったものが出てくるとよろしいかと思っております。
 そこには、契約としてうちの会社ではどうなっています、どういう選択肢があります、何割の人がどのパターンを選んでいますというものを示す。かつ、実態として時間外労働が平均どのくらいありましたという数字をしっかりオープンにすることを義務づけるようなことがあって初めて、先ほどの神吉先生からのオプトアウト、山川先生からいただいたオプトインかオプトアウトかの言葉については後で整理するとして、時間外労働をやめるというのを途中でいつでも請求できるというのではなく、もうちょっとマイルドな契約ベースでといったものとセットで、自分の会社がどうなっているのかだけでなく、ほかの会社がどうなっているのかも互いに見えるということがとても大事かと思っております。
 そして、ホームページに掲載するのは難しいという話がございましたが、私も個人でホームページを持っておりますけれども、たかだか年間数千円で、一番ミニマムなものだったら自分のURLを取ってサーバーを借りてというものでは1万円もかからない。非常に少ないお金でできることですので、これについては義務化してもいのではないかと思うだけでなく、ただし、個別のホームページに行けば見ることができると言っても比較可能性が低いので、何らかの意味で企業として人を雇っている限りではその情報公開は義務としてデータとして届出があって、それを一括で検索できることが本来は望ましいかと思っています。
 例えば、我々が不動産を借りるとかという場合には、まずは不動産のサイトを見に行って、最初から一戸一戸の家を、町をめぐってどの家の家賃が幾らだとか見ないじゃないですか。比較サイトを見に行って、家賃と間取りと広さと築年数、あとは駅からの距離とか、いろんな条件でスクリーニングをかけて、その中から選ぶわけですね。このことによって比較可能性が高いということだけでなく、物件を開発する側としては、駅からの距離が何分を超えると魅力が一気に落ちるとか、こういうものを理解した上で行動を変えていくわけです。
 この労働条件を含めて、時間についての情報を公開することを義務化すると、今、人手不足の時代でいかにして人を雇うのか、またはリテンション、離職抑制というものが企業の存続に関わる重要な課題になっている現代だからこそ機能するものとして、契約上どうなっているかよりも、例えばうちは実態としては労働時間は短いですよとか、どういう働き方、働かせ方をしているのかということがしっかり表に出ていくということが人々の選択の自由にも資するものでありますし、また企業間競争を通じて労働条件を改善していくといったことにもつながるかと思います。
 ただし、私は以前からこだわっているポイントでもありますが、労働条件がよいというのは単に仕事が簡単で短時間勤務であれば労働条件がよいとも限らず、うちの仕事ではこういう経験ができます。例えば、うちの会社を何年間経験した人が自前で起業しましたとか、何を売りにするかということの多様性も含めて、企業がまずは義務化されているものをしっかり公表して比較可能性を担保するということ、またそれを超える部分については企業が、うちは数字上ではこうなっていますが、こういう点がありますということを積極的に公開していく。こういうことにつながるかと思っています。
 例えば、2022年から始まった男女間賃金差異の公表義務について社員全体、正社員、非正規、それぞれ男性と女性で、男性を100としたときの女性はどのくらいか、この数字の公表は義務化されていますが、その最低限の基準をクリアしているだけでなく、積極的に様々な統計分析を行って、この賃金差異がどこから出ているのかといったものを公表する、またはヨーロッパでは一般的に行われているような賃金差異の要因分解をした上で、合理性のない不合理な格差がこのくらいありました。それがどこから生まれたのかも明確にし、これからどう改善していくかというプランを表に出していく。こういう取組をやっている企業はあるわけですね。
 こういうものがあると、この会社はちゃんと向き合っているなということが分かって、周りからも安心してもらえるし、社員としてその会社に対する帰属意識も高まるといったこともあるかと思います。
 そういうわけで、この点について私は結構どんどんやるべきだという立場でお話をさせていただきました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 水島先生、お願いします。
○水島構成員 水島です。ありがとうございます。
 企業外部への情報開示と、企業内部での情報開示は、目的や対象が異なると考えます。私は労働時間を短縮するという観点からは、企業内部での情報開示が重要と考えます。
 企業外部への情報開示に私は消極的ですが、もし開示を求めるのであれば一体的な制度にするなど、制度の簡素化、整理が不可欠と考えます。
 企業内部での情報開示を、全労働者を対象とするのか、対象を限定して恒常的に時間外労働を行っている者に限るとか、一定時間数以上の時間外労働を行っている者に限るとするのか、どのような制度設計にするかによって事業所の負担は大きく異なります。なぜ情報開示をするのか、その目的に照らして適切な制度を設計すべきと考えます。
 それから、石﨑先生からも御意見がありましたが、私も過半数組合や過半数代表者に対する情報開示も検討すべきと考えます。36協定締結当事者である過半数組合、もしくは過半数代表者に、協定締結にあたり時間外労働の情報の開示を推奨することは、現実的な方策と考えます。
 以上でございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
  山川先生、どうぞ。
○山川構成員 ありがとうございます。
 社外、企業外部への情報開示につきましては、基本的に石﨑先生、安藤先生の言われたことに賛成です。どこの法律で実施するかという点は、現行の女性活躍推進法ですと選択項目の中の一つだということで、それを必須化するということが考えられるかと思いますが、これは所轄部局が異なるという問題があるかもしれませんけれども、そこは局間の調整といいますか、所轄部局が異なるからできないというのも縦割り的でどうかという感じがしますので、調整をしていただければと思います。
 企業内の情報開示ですけれども、これも今お話のありました過半数代表者ないし過半数組合、あるいは衛生委員会等での開示というのは重要になるかと思います。管理職の開示というのは、この資料にも書いてありますように若干いろいろ検討すべき事項が多いと思いますが、これも長期的なお話になると思うのですけれども、労働基準法の規制の構造に関わる問題があります。
 つまり、管理職というのは労働基準法上は第10条で使用者になっていて、自らが禁止規定の名宛人であって、かつ処罰の対象にもなり得るというものなのです。したがって、労働基準法の場合は事業主と管理職との関係を直接規律する発想に立っていなくて、管理職が権限がある場合は使用者であるという構造になっているのですが、そこのところをどう考えるかという長期的な課題になっていて、事業主が管理職に対してコンプライアンス等を実現するための何らかの行動を行うというような、ある種企業内ガバナンス規律みたいな発想が現在の労働基準法にはどうも欠けているような感じがいたします。
 それを取り入れているのがハラスメント規制で、事業主が、管理職に限らないのですが、従業員、企業内部に対してハラスメントを起こさないようにという、企業内でハラスメントを禁止することを義務づけているのが、均等法とか育児・介護休業法、労働政策推進法ですので、企業内の規律、特にこの問題ですと管理職に対する規律を導入するということは、多分労働基準法では難しいので、やるとしたら労働時間設定改善法等かと思いますけれども、そういうことと合わせて考える必要があるかと思います。
 改善のための行動、一般的に具体的に何をするかというのは難しくて、法律で決めるというよりも行動計画等で具体的に企業の実態に合わせてガバナンスの仕組みをより具体化してもらうというのがいいという感じはします。これが1点です。これは、現行法の労働基準法の規制の在り方に関わる問題なので、単純な問題提起かもしれません。
 あとは1点だけ、開示の前に周知が重要かと思います。これは前もどこかで申し上げましたように、36協定自体の周知がどの程度なされているのか。先ほど申しました意向聴取等をするとしたら、その前提として個別周知ということも考えられます。
 それから、就業規則の労働時間制度がどういうものかというのをどれだけ現実に認識しているかという問題がありまして、まずは周知のほうの充実も考えるということはあり得るかなと思います。
 それで、何を開示するかというのは、これは実務が分からないのですが、先ほど水島先生も言われましたように、個人ごとの残業時間を全従業員について改めて計算して提示をしてということになると、残業手当の計算とは別の作業も加わることによって相当残業が増えるのではないかという感じがしますので、そこはちょっと工夫を要するかと思います。安全衛生法で、例えば労働時間の状況として始業時間と終業時間、あるいは退社時間みたいなものが把握されて、その情報でしたら比較的簡単に開示できるような感じもしますので、過度な負担をかえって生じさせないような工夫は、導入するとしてもどのような場合でも必要かと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 黒田先生。
○黒田構成員 ありがとうございます。
 どちらの情報開示も大事だと思うのですが、私はやはり内部、社内の情報開示というものが、労働時間を抑制することばかりがよいわけではないというふうなお話が安藤先生からありましたけれども、実態を皆さんしっかりと認識いただいて対処するということは非常に重要だと思います。
 一方で、その前の段階で山川先生がおっしゃったように周知というのは非常に重要だと思っております。産業医をしておりますと、長時間勤務の方に限らず社員の方の面接をすることはありますが、そもそも所定労働時間と法定労働時間の差も分かっていなかったり、36協定で結んだ労働時間は基本超えてはいけないということも分かっていなかったりとか、そういう社員は結構たくさんいますし、何ならば人事の方でも、これは目安であって超えてはいけないということなのですかというような発言が出ることもあるので、やはりその前の周知も非常に重要だと思っています。
 それで、内部の周知ということに関しては例①、②、③、いずれも重要だと思いますけれども、やはり労働者集団というか、衛生委員会等ということで過半数代表者も含めてきちんと情報を提供していくというのは重要だと思います。
 また、各労働者への開示が非常に人事担当者の残業を増やすのではないかというような話もありましたけれども、管理監督者に関してはちょっと難しいところもあるのかもしれませんが、正しい把握をしてきちんと給料が払われているかという前提に基づくことを考えると、周知はそう大変なことではないと思いますし、例①、②、③、いずれも同時にやるべきだとは思いますけれども、最も大事なのは③衛生委員会等での周知で、次に①、②かなと思っています。管理職は当然部下の労働時間は知っているべきですけれども、ここが把握されていなかったり、1か月遅れで把握されてなかなか対処が難しかったりということもあったりするので、どうリアルタイムでやっていくかというのも非常に重要で、システムを入れている会社であれば、例えば今は残業時間が20時間まできていますのでアラートが出ますというようなところは結構あると思うのですが、手集計でやっているとなかなか難しいかもしれないので、いろいろと資料をつくってグッドプラクティスを共有していくことも重要かもしれません。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 神吉先生、どうぞ。
○神吉構成員 先生方からすでに御指摘があった以外のことについて。これまで現行法下で外部に開示されてきたのは、基本的には一人当たりの平均という形で丸めた数字でした。今回、内部への情報開示について、特に個人ごとの残業時間を明らかにするならば、大きな変化となると思います。
 山川先生、黒田先生からの御指摘に関連して、ここで開示される残業時間が使用者によって把握された労働時間であることも、結構大きな意味を持ちそうです。
 自分の残業時間がこのように把握されているという情報を労働者個人が受けた場合に、いやもっと働いていたはずだとか、持ち帰り残業の扱いはどうなるのかといった個別の問題が生じてくるかもしれません。
 そうなったときに、今、黒田先生から基本的な事項についての周知やリテラシーが重要とご発言がありましたが、例えば所定労働時間と法定労働時間の違いにとどまらず、一体何が労働時間に当たるのかといった労働時間該当性についても、使用者と労働者の双方が正しく認識できることが必要であるようにも思います。
 労基法の中では、何が労働時間に当たるのかの手がかりはほとんどありません。少なくとも条文上は「労働させ」てはならないと書いてあるだけです。今回の労働時間法制の議論をするにあたっては、労働時間の規制だけでなく、労働時間の分かりにくさへの対処もどこかで考えておくべきようにも思います。工場にみんなが集まって一斉に働くという時代ではなくなり、テレワークのような柔軟な多様な働き方が広がっています。そもそも何が労働時間なのかについての手がかり、あるいはその基準を明らかにするという方策も、この情報公開のところに限らず必要かもしれません。
 以上です。
○荒木座長 安藤先生。
○安藤構成員 今、神吉先生からお話があった、そもそも労働時間とは何かという話は、本来この研究会で検討すべき最初に考えないといけない重要な論点であったかとも思っております。
 と申しますのは、そもそもこの研究会がなぜ必要になったのかというと、職場にいる時間イコール労働している、職場から外に出たイコール労働していないという明確な切り分けができる時代ではない。特にホワイトカラー労働者を中心として、職場にいてもコーヒーを飲んでいたりするような時間もあったり、しかし、ではそのときは休憩なのかというと頭の中で仕事のことは考えているといったこともあるでしょう。
 また、会社の外に出たからといって、家でも仕事のことを考えることができる。パソコンを持って行って仕事をすることもできたりするということで、どこまで、またはどのような行動を取っているときを労働時間と捉えるのかといったところが出発点となっていて、この辺りは後で議論することになるテレワークをみなしにするか、実労働にするかといった話全部に反映してくる重要な論点かとも思っております。
 これまでは、それこそ時間比例で考えて、拘束されている時間は働いているということが当然の実態であったところから、ホワイトカラー労働者に対しても、ある種のみなしのようなことが行われてきたのかなとも理解しています。職場にいる時間だからといって仕事をしているとは限らないけれども、職場にいる時間は仕事の時間、そして明確に指示された持ち帰り残業とかでない限り、いわゆるサービス残業みたいな言葉もありましたが、家で仕事のことを考えたりとか、何らかの作業をするといっても上司からの明確な指示があったり把握がない限り、そこは労働時間にカウントしないといったある種、割り切ったことをやってきたわけですが、そのままでいいのかというのが今日的な課題なのかとも思っております。
 併せて、そもそも時間比例で賃金を払うことについてもいろいろな意見が、特に企業の経営者側などからも出たりする現実があります。現実的に、例えばアルバイト、パートなどの場合には時給計算で賃金が払われることが一般的だと思いますが、企業の正社員の場合はどうかというと、大体月給などで払われているケースは多いと思いますが、時給計算したときに最低賃金を割り込まないというまずルールの下で、その保障されている部分とボーナスや昇進などで業績が反映されている部分、こういうものを組み合わせて多面的に評価が行われていて、よく企業経営者が時間比例で賃金を払うのはおかしいとか言うのですが、実際はそうなっていないわけですよね。最低限の部分は時間比例のものをギャランティーとして求められていますが、それ以上のところは会社があまりにリスクを負わせ過ぎると労働者が来てくれないということで、固定給として与える部分、俸給表どおり上がっていったりする部分、そして取組であったり成果に基づいて報酬が変わってくる部分、このようなことを多面的にやっているわけですよね。
 そういうことを考えたりすると、私は個人的には今の時間比例で賃金を払うというものがミニマムで求められている。というのも、日本はというか、ほかの国はどうか存じ上げないのですが、そんなに実は厳しいことは言っていなくて、最低賃金規制とか、現金で払えとか、そんなことしか言っていないわけで、そこについては現行のままで大丈夫だと私は思っているのですが、ではどこまでを労働時間と考えるのかといったところは本来もう少し議論してもいいのかなと思っておりますというのがまず神吉先生からのお話に対する1点のコメントです。
 もう一点、先ほど私が対外的に労働時間の実態を公開すべきだ、それが企業に就職する際の労働者の選択に資するとか、今、企業に雇われている人が他社に移動する際に参考になるとか、他社の状況を見て自社と交渉する際の手がかりになる。こういった外部的な公表の話を申し上げたわけですが、企業内部での情報開示について11ページ目にあるものもとても大事だと思っています。
 この中で、自分のことを知るという例①、そして上司がしっかり把握するという例②、この辺りの重要性はとても大事かと思っています。
 特に例②の管理職への開示といったときに、法律の建前上は上司が命令して部下が時間外労働をするという立てつけになっているはずですが、仕事の現場ではどうなっているかといったら、一定のある種の自由裁量を部下に任せて、いつまでにこれをやってくれ、終わらなかったら残業することがあってもいいよという形で自己判断で残業をしている。それで、一定以上長くなり過ぎると、それが上司の目に留まるといったことをやっている会社は多いと思います。これを細かく細かくマイクロマネジメントしてほしくないという部下もいるという実態も多分にあると思います。
 ですから、ここで上司が、自分がふんわりと命令したものによって労働者、部下がどのくらい働いているのかということをしっかり数字として見ているのか、それを見ていない会社も多々あるのではないかということで、ここをしっかり捉えることにより、上司から見た時、特定の部下が「思ったより随分やっているな」ということがあるかもしれない。
 または、一部の人に偏っている、特に上司としては、少し忙しそうであったとしても、確実に仕事をやってくれそうな人に仕事を頼みがちなので、誰に仕事が偏っているかなどをしっかり把握するということをこれまで怠ってきたような企業であったとしても、今はそういうことをすると優秀な人から辞めてしまうといったリスクもあるわけで、その辺りは上司の責務として誰にどのくらいの仕事を振ったというところだけではなくて、労働時間を把握して、場合によっては巻き取ってほかの人に割り振り直すとか、こんなことにつながるので重要かとも思っています。
 併せて、例①、例②にない、さらに重要だと私が思っているポイントとして、横並びの関係ですね。同僚がどのくらい時間外労働をしているのかといったものが見えるかどうかによって、例えば自分が少し困っていることについて誰に相談するかとか、仕事を一部依頼するかというようなことが、どの人が忙しいのか、長時間労働をしているのかが見えるということも大事かと思っています。
 ちょっと失念しましたが、2019年に何かの賞を取って有名になったのですが、熊本の病院で看護師さんの制服の色を変えるといった取組がありました。日勤の看護師さんと夜勤の看護師さんの制服の色を変えて、その引継ぎの時間に、忙しいからということで夜勤の看護師さんがその後も引き続いて継続して働いている。みんなが白い制服を着ていると、誰が夜勤明けかが分からないということで、ついついオーバーラップして時間外労働が長くなってしまうということで、制服の色を変えることによって夜勤の人がまだ残っていると、その人には追加の仕事をお願いしなかったり、あなたはもう早く帰りなさいよと周りの人が声をかけるようになる。こういうことを通じて、時間外労働の削減につながったという事例があったりもします。
 ホワイトカラー労働者などがそういうふうに見た目で分かるというのは、なかなか取組として考えるのはいろいろアイデアが必要かとも思いますが、労働者同士で誰がどのくらい長く働いていて、どのくらい負荷がかかっているのかということを捉えるといったことにつながる取組も、これは労基法で考える問題ではなく、企業の中の自主的な取組と、その成功事例、効果的な事例の共有がまずは大事だと思いますが、こんなことも考えることが必要かと思っています。
 少し余談になりまして失礼いたしました。
○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
 黒田先生。
○黒田構成員 すみません。先ほどちょっと言い忘れた点を補足いたします。
 情報開示、情報収集して開示するのは非常に重要だと思います。一方で、働き方改革で例えば残業を過度にしていると罰金対象になりますということも決まったことで非常に残業時間、時間外労働の抑制にはよい影響はあったと思う一方で、先ほどの労働の定義とも関係すると思うのですが、それは自己研鑽を労働としてやっていて過剰に労働時間が長くなっているのではないかとか、自己研鑽と会社が判断した部分は労働時間としては認めないというような話が結構現場では出てきていることがあって、定義の問題がはっきりしていないからそれに基づくミスコミュニケーションがあるのかもしれませんけれども、労働者本人としては働いていると思っていても、その部分が過小評価されてしまうというようなこともあったりする部分も懸念されます。もちろん情報開示することのデメリットとまでは言えなくて制度設計の話だとは思うのですけれども、弊害も少し懸念されるので、そこの辺りをどうやって社内監査とかでどうやってミスコミュニケーションを小さくするかとか、労働時間として認めないというような話の部分を丁寧に扱っていくというところの対応も併せて必要になってくるかと思いまして、ちょっと補足をさせていただきました。
○荒木座長 ありがとうございました。
 情報開示について随分議論いただきましたけれども、14ページ、15ページは裁量労働制、高度プロフェッショナル制度、管理監督者等々が並んでおります。これは、いわゆる一般の労働者に対する実労働時間規制と異なる受け皿を用意しているというものです。
 15ページで健康管理、健康確保措置について規制に少し凸凹があるのでならせないかという問題提起がありますが、中長期的な課題かもしれませんが、実は健康管理だけではなくて14ページの制度の適用に当たっても、例えば手続規制について非常に厳格な規制を置いている左側のほうと、手続規制がない管理監督者、それから実体規制としても例えば割増賃金規制が適用されないこととの関係で高度プロフェッショナル制度では1,075万円の年収という実体要件がありますけれども、管理監督者についてはそういった要件がないなど実体規制についてもいろいろと凸凹がある。実労働時間規制が合理的でない場合の受け皿についても、非常に制度が複雑化している中で、これを全体として整合的な方向に見直していく必要があるか、ないかということも検討課題としては認識しておいてよいのかなと考えております。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 ありがとうございます。
 この14、15ページが今、議論する対象に入っているということが分かっていなくて情報開示のほうだけを話してしまったところがあったのですけれども、こちらの点について2点ほど意見を述べさせていただければと思います。
 過去の研究会のほうでも、この凸凹について管理監督者についていろいろな規制がかかっていないところは見直していくべきではないかという意見を申し上げたところではあるのですが、それとはまた別に、いろいろなみなしの適用労働者、または高度プロフェッショナル制度に対してかかっている健康確保規制が今のままでいいのかというところも議論していく必要があるのではないかと思っています。
 つまり、現状いろいろな相談窓口とか、面接指導とか、そういったもので対応できてしまう部分もあるのですが、もう少し労働時間の解放規制に重点を置いたような特別規制を課していくということも一つの検討課題としてあるのではないかというのが私自身のこちらについての感触であります。
 また、これは管理監督者との関係では実体要件に関する話なのか、それとも特別規制に関わる部分の話なのか、私自身も整理できていないところはあるのですけれども、例えば管理監督者に対しては特別のバカンス休暇を取れるようにするとか、あるいはそういう長期連続休暇を取れるような人、そういう処遇というのか、それが可能になるような労働時間の裁量を持っているような人について初めて管理監督者と認めるというような方向も考えられるのではないかと思っています。というのは、管理監督者自身の健康確保だったりワークライフバランスというだけではなくて、現在最近の調査とかですと管理職になりたがらない若い人が多いというような問題があるということも指摘されているかと思うのですが、その管理監督者の現時点での仕事の状況というのが管理監督者ではない人たちの働き方改革を進めたりという中でちょっとしわ寄せを受けてしまっていて、その結果、管理監督者が非常に魅力的でないような仕事に映ってしまうというような部分もあると思います。そこで、管理監督者は要するに労働時間規制の適用を受けないんだけれども、他方でそういった休暇があるとか、時間に裁量があるということで、その職自体の魅力を高めていくということも、労働市場政策的な話になるのかもしれませんけれども、必要なのではないかと感じるところであります。
 仮にそうしますと、管理監督者が担っている仕事の業務分担だったりが結局は必要になってくるかと思うのですが、他方で、管理監督者自身が時間制約のある労働者になることによって、そのほかの時間制約のある労働者との関係でも望ましい方向に進んでいくのではないかというところも期待したりはしているところであります。
 いずれにしましても、中長期的な課題にはなってくるかと思いますが、そうした健康確保措置規制の強化であったり、中身の見直しというのはこれから必要になってくるのではないかと思っているところです。
 以上になります。
○荒木座長 ありがとうございました。
 それでは、時間も押しておりますので、次にまいりましょう。
 この次は、16ページから19ページまでのテレワークについてです。いかがでしょうか。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 続けての発言、大変恐縮です。
 テレワークにつきまして、17ページで今後新たな柔軟な労働時間制度の適用というものが考えられないかということで案を御提示いただいているかと思います。それで、私自身はこの中ですと、例③に挙げられている、テレワークに特化した形でのみなし制の創設というのは必要ではないかと感じているところであります。もちろんテレワークに対して事業場外みなし制の適用が一定の要件の下で可能であるということや、どういう要件で適用可能かということについては、厚生労働省さんのほうでも長らく行政通達を出されたり、またはガイドラインの中に書き込んだりという形で明確化を図られているところだと認識してはいますけれども、ただし、やはり実務上は果たして一定の就労実態がある場合に、それが行政通達やガイドラインで言うような状況に当てはまっているのか、そして仮に当てはまっているとしても訴訟になったときに本当にそれで算定困難なときというふうに認められるのか。特にいろいろな通信技術の発展なども背景として、予測可能性がないような状況があるように思っております。
 また、他方、ちょっと別の側面から言いますと、事業場外みなし制においては裁量労働制などのように必ずしも労使協定の締結というのが前提となっていなかったり、そういう意味でも協定の中で健康確保措置であったり、そういったことを定めることも難しいというようなところもありますので、そういう意味でテレワークに特化したみなし制を創設し、ただし、手続的な規制をそこで課していくことが必要ではないかと思います。
 例えば、テレワークの場合、つながらない権利のことなどがしばしば問題になりますけれども、そういったことについてもあらかじめ話し合っておくということですとか、あるいはテレワークの頻度、テレワークは実態が様々なのでかなり現場の労使で設計したり、あるいは設計してうまくいかない場合には見直していったりというプロセスが必要になってくるかと思うのですけれども、それを可能とするようなことを労使協定の中に盛り込ませることによって、みなし制を適用していくことが考えられます。
 今、申し上げているテレワークは在宅勤務を念頭に置いておりますけれども、私生活と仕事が混在しがちになったりする中で必ずしも中抜け時間の把握を厳密に行うというのではないような働き方、働かせ方というのが、もちろんみなし制を導入するかどうかは自由ではありますが、より予測性を持って導入できるのではないかと感じているところではあります。
 そういうことで、私からは以上です。ありがとうございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
  安藤先生。
○安藤構成員 ありがとうございます。
 16ページの上の色がついているところの最後のところですね。事業場外みなしの労働時間制度について「労働時間を算定し難いとき」というものがやはり重要だったということなのですが、これまで議論になったように、特に在宅勤務を想定したときに一定の仕事であれば労働時間を技術的には把握できる、厳密に把握できるが、労働者がそれを望まないときに、みなしというものを果たして認めるべきかといったことが重要な論点になるかと思います。
 パソコンを使って作業するような仕事であれば、例えばオンライン会議システムですね。Zoomであったり、Webexであったり、Teams、こういうもののカメラをオンにして顔が見える状況で、かつキーボードをどう操作しているのかというログを取ったりすれば、仕事をしていたかどうかを100%把握することは物理的には可能かとも思いますが、果たして労働者がそれを求めるのかといったときに、私はそれを求めない労働者も多々いるのだろうと思います。
 そうして、16ページの上に書いてあるとおり、プライバシー保護等の観点で不適当であったり、中抜け時間が細切れに発生する可能性があるといったところも、何の理由もなく、例えば育児であったり介護とかではなく在宅勤務を選択するという場合には、業務時間中はしっかり仕事をするという割り切りも物理的には可能かと思います。
 ただ、そうではなく、やはり労働者側が、今の時期はそれこそ子育てがあるから家で仕事をしたい。それで、ここでは途中で中抜けなどもあってそれを認めてほしいというときに、労働時間を算定し難いわけではないが、労働者側が望むからそこは割り切ったみなしというものが可能かどうか。また、その仕組みが濫用されないように、つまりは短いみなし労働時間を設定して多大な業務を与えるといった不適当な行動にならないためにどういうふうな仕組みが必要なのか。
 ここなどでは、例えば極端なケースかもしれませんが、先ほどのオプトアウトだったかオプトインだったかちょっと分からなくなってしまいますが、みなし労働時間になっているんだけれども、そのみなしで与えられた仕事の量と決められた時間のバランスが悪過ぎるという場合には、労働者側からの請求で実労働時間を把握するほうに戻るとかということも含めて、不適当な扱いをされないようにという注意が必要ではあったとしても、みなし労働時間制を、それも労働時間を算定し難いわけではなかったとしても実現可能にしていくといったことが必要かと思っています。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 首藤先生。
○首藤構成員 今の安藤先生のお話は私も本当にそうだなと思うのですけれども、労働時間の把握がどこまで本当に困難であるのかといったとき、技術的にはかなりできるようになってきていると私も思っています。
 現状でテレワークをされている事業所、職場においても何らかの形で労働時間の把握をされていると思いますし、これはテレワークだけの話ではなくて、職場の中でも今、本当にオフィスの在り方というのはすごく多様になっていて、何か特別のブースを設けていたりとか、職場の中でもどこに誰がいるのか分からないし、上司は部下をずっと見ているわけでは当然ないわけですね。その中で、もしかしたらどこかブースに入ってそこで休んでいるかもしれないですけれども、それも含めてやはり労働時間としては算定されているのだと思っています。
 ですので、テレワークであることが労働時間管理において峻別すべき事項なのかどうか、現行としてあまり問題なくできていることをどう考えるのかという思いが、まず1つ前提にあります。
 ただ、こちらにもあるとおり、その中抜けのような形の時間を自由に使って働きたいんだというような思いを持っている労働者も当然いるのかもしれません。そういった場合に、テレワーク一般というよりは、自分は細切れに仕事をしながら、中抜けをしながら働くといった労働者がどれほどいるのかという気もしますけれども、そういった働き方まで認めていくということであれば、何らかのみなし労働みたいな形にならざるを得ないのかなとは思いますけれども、ただ、やはり長時間労働の懸念等がありますので、併せてその上限を決めるなり、解放時間を決めるなり、何らかの形で規制とともに導入することも考える必要があるのかもしれないと思っています。
○荒木座長 ありがとうございました。
 水島先生、お願いします。
○水島構成員 ありがとうございます。
 石﨑先生が事業場外みなしと類似のみなし労働時間制度という御意見だったと認識しておりますが、私も同じ意見です。
 16ページにありますように、自宅での労働の場合は厳密な労働時間の把握が困難であることや、プライバシー保護の観点から介入すべきでないと考え、みなし時間制度が必要と考えます。
 私はこのような理由からみなし制が必要と考えますので、テレワーク一般にではなくてコロナ禍で活用されるようになった自宅での労働、すなわち在宅勤務に限定するのが適切と考えます。
 サテライトオフィスでは労働時間管理が困難でなく、プライバシー保護の観点も必要ありません。今回テレワークにおけるという書き方ですけれども、私としましては、在宅勤務に限定した新たな労働時間制度を考えればよいのではと思っております。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 黒田先生。
○黒田構成員 ありがとうございます。
 以前も少し簡潔な議論があったときに、先ほどの私生活の不可分な関係があるので、私は3番のテレワークに特化した形でのみなし制がいいのではないかと申し上げました。一方で18ページにお示しいただいたDAY5のような深夜まで働くことが頻発するとなると健康影響は必須なので、何らかの形で別立てで、労働時間、特に睡眠時間を圧迫するような深夜労働を、本人が把握することは大前提の上で、会社としても何らかの把握ですとか関与とか指導とかが必要になってくると思います。ただし、そうすると、みなし労働時間制を導入するメリットが失われるのではないか。そうすると、やはり通常の時間管理をしたほうがいいのではないかなという考えがあって、結論ではないのですが、ここがちょっと懸念点ですということでコメントさせていただきました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございます。
 事務局からお願いします。
○労働条件確保改善対策室長 今は18ページのDAY5が長いという御指摘だったかと思いますけれども、18ページに関してはフレックス制度のイメージでございます。
 ですので、ある程度、始業時刻と終業時刻を労働者自身が設定するという中ではありますが、フレックスなのであくまでも実労働時間規制の中でございます。それで、その一定の期間の中で、最終的には決められた労働時間の中にはまるようにこれを動かす。その中で、労働者自身がこの日は長いほうがいいというところがあれば、始業時刻と終業時刻をこういうふうに決めることもあるという絵になっています。ですから、総労働時間はそのフレックス全体の中ではめていただくというような制度になります。
 それで、この絵の中で緑の点線はみなしになるので、どのような場合も緑の点線の中でみなすということになるのですが、そちらのほうの御指摘だったでしょうか。
○黒田構成員 そうですね。緑のほうの点線でみなすが、実態は労働時間の長さというよりは労働時間帯の話が気になっていて、不勉強ですみませんが、この場合フレックスであっても、例えば国際会議などで深夜労働の対応が必要になってくることもあると思うのですが、そういう場合にはやはり割増賃金の対象になるし別枠で把握するので、それは別問題という認識でいいのですか。22時以降の労働などが発生した場合です。
○労働条件確保改善対策室長 みなしは別になりますけれども、基本的にはフレックスの場合でも深夜の場合には深夜割賃が発生することになるかと思います。
○黒田構成員 ただ、みなしの場合は別に義務ではなく御自身の裁量でやっている範囲なので総労働時間だけ把握していて、深夜勤務に関しては別段把握はしていないという感じですか。
○労働条件政策課長 若干補足をいたしますと、まさにみなし労働時間制で休日ですとか深夜帯にかかった場合、そこは実労働時間管理をするのか、しないのかということ自体は制度設計上の論点であると思っております。
 もちろん、今の裁量労働制はそこは把握していただくことになっていますが、高度プロフェッショナル制度は把握をしないので、そこはつくり方によるものと考えます。
○荒木座長 少し補足したいと思いますが、その前に、石﨑先生、どうぞ。
○石﨑構成員 ありがとうございます。
 補足の後でとは思ったのですが、今の黒田先生の御意見を伺っていて3点ほど気づいた点がございまして、まさに御指摘のように前の議論のところでも話題になったと思うのですが、何のために労働時間把握をするのかというところとの関係の話なのかと思っております。
 みなし制を適用しますと一定時間働いたとみなされるわけですので、そこに関して割増賃金だとか、時間に応じた賃金みたいな話というのは、そこがちょっと緩やかになるという部分もあるのですけれども、ただ、他方で、裁量労働制であれ、管理監督者であれ、高度プロフェッショナル制度であれ、健康確保のための労働時間管理というのはやはり依然として必要で、恐らくこのテレワークみなしみたいなものを構想する場合にも、健康管理の目的での労働時間把握というのはやはり必要になってくるというところはまず1つあるのかなと思っています。
 それで、このお話はあくまでも時間の長さに関わる話ですけれども、たしかフランスにおきましてはテレワークを企業内で導入するに当たって、まさに企業側が労働者にアクセスできないというか、コネクトできないと言ったほうがいいのか、コネクトできる時間帯を設定するのだったかもしれませんけれども、要するにその時間帯に注目して、仕事の指示が飛んでくるのはこの時間帯ですよというような設定をするということが求められているところでして、そういう設計の在り方もあるのかなとは思います。
 あるいは、さらに踏み込むのであれば高度プロフェッショナル制度のような形で健康管理時間みたいなものを想定して、それが一定の範囲内に収まる場合を前提に適用していくということも考えられるのかもしれませんけれども、そうなってくるとどこまで時間管理を、中抜けとかを細かく見るのか、見ないのかというところで異なり得る話なのかなと思ったところであります。
 あとは、先ほど安藤先生も示唆されていたところですけれども、これは基本的に労使協定などの、そこでベースで仮に労使合意で集団的な合意で決めるとしても、やはりテレワークによって受けるメリットだったり、あるいはそれによるデメリットみたいなものはかなり個人差があったり家庭状況等によっても大分違うということからすると、まさに個別同意にも要件として適用を認めるというような設計はあり得るところなのかなというふうに私自身は理解しているところになります。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 補足しようと思った点を発言いただきましてありがとうございました。
 神吉先生。
○神吉構成員 首藤先生から御指摘があったようにテレワークの実態が非常に多様で、オフィスもフリーアドレスで、オフィスに来てもどこでもいいし、カフェでも、サテライトオフィスでも、自宅でもいいという状況を全てを「みなし」で対応してしまうと、これまで裁量労働制の対象業務などを非常に厳密に仕組んできた、つまりそれは副作用を小さくしようとしてきた試みですけれども、そうした規制を潜脱することになりかねないという懸念はあります。
 水島先生がおっしゃったように、何でもかんでもテレワークならみなし制を適用することは避けるべきで、もし導入する場合には在宅等の場合に場面を限定することが非常に重要と感じました。
 ただ、在宅を適用要件としてしまうと、その裏返しとして在宅義務といったような縛りは生じないのか。そうだとすると、実はそこまで柔軟ではない気もしました。
 こうした懸念はみなし制に関するものです。一方で、フレックスの場合は実労働時間規制で、私はそうした懸念は少ないフレックスタイム制の活用を検討する価値があると考えています。
 以上です。
○荒木座長 山川先生。
○山川構成員 私も今の神吉先生の御意見と基本的に同じで、かつ、多くの先生方が言われているように例③が穏当なところかなと思います。
 それで、濫用規制、非常に量が多いというのはみなし制についてはほかのところでも出てき得ることでありますが、例えば本人の同意のほかに撤回を認めるという高度プロフェッショナル制度型のもので、非常に過重な量を割り当てられることが多ければ撤回するとか、そういう選択肢もあり得るのかなと思います。
 これは、ほかのみなし制とはかなり趣旨が違っていて、事業場外みなしはそもそも時間算定が困難であるという要件が課されていますし、専門業務型裁量労働制は業務遂行の手段、時間配分の決定等に関して具体的な指示をすることが困難であるという要件が協定要件としてかかっていて、それから企画業務型裁量労働制は、さらにそこが変わっていて、決議要件として、使用者が具体的な指示をしないこととするという主体的な選択のような形になっている。
 それはいずれも業務の裁量性の問題なのですけれども、ここで問題になっている例③は業務の裁量性から出てくるということでも必ずしもなくて、ある程度の裁量性がないと在宅勤務はできないとは思いますけれども、より主体的に、例えばワークライフバランスのような観点から具体的な指示をしないこととするみたいな仕組み方になるのかなと思います。
 あとは、神吉先生がおっしゃられましたように、例①はテレワークに直接関係なくても成り立つ話ですので、例③を採用するとしても、例①と③は矛盾しないといいますか、両立可能な選択肢になると思います。以上です。
○荒木座長 ありがとうございます。
 安藤先生。
○安藤構成員 短く2点お話します。
 まず、神吉先生がお話しされていた、どこでもテレワーク扱いにするというのは不適当だというのはそのとおりだと思います。
 ただし、家にいないといけないかというと、この辺りの線引きは難しくて、私などは家のすぐ近所にあるカフェで仕事をしたりすることもあるのですが、プライベート空間の中に含まれる範囲がどこまでなのかといったところの線引き、恐らく会社が用意したサテライトオフィスはどう考えてもプライベートではないわけですが、その間にあるラインをどこで引くかということの議論が必要かと思っています。
 もう一つ、山川先生からありましたみなしの撤回の話なのですが、みなしを撤回したときに自宅で実労働時間の完璧な把握をされると、今、問題視されているプライバシーが侵害されるようなものが撤回した際の働き方の形なのか。または、理由があって在宅勤務を望んでいたのに、みなしの撤回をすると出社が求められるとなってしまっても、やはり実質的にみなしの撤回というオプションを選定されていても選べないということになりかねないということで、この辺りは実効性がある仕組みをどう捉えるのかということが大事かと感じました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 島田先生、お願いします。
○島田構成員 みなしの撤回の場合なんですけれども、私も必ずしもみなしが適用されない場面が出てきたときに、どの程度の時間の算定のための監視が許されるのか。そういったところの規制が別途必要ではないかと考えました。
 以上です。
○荒木座長 山川先生。
○山川構成員 重要な点のご指摘を、島田先生と安藤先生からいただきました。
 そのみなしの撤回と同意の撤回がどう違うのかという問題と、これはそもそもテレワークをする権利があるのかという問題とも関わってくるかと思いますので、その辺りはいろいろ検討が必要かと思いました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 これからどういう制度を仕組むかということですね。御指摘の懸念点について、制度の仕組み方のところで受け止めることは十分可能かなと思って聞いておりました。
 それではすみません。予定していた休日のところまでいきたかったのですけれども、ちょっと今日は時間がなくなってしまいましたので、時間外労働にならないようにここで終了したいと思います。
 次回も今日残った休日のところも含めて、さらに議論を続けていきたいと考えております。
 それでは、第10回目の研究会はこれまでといたします。今日も御参加いただき、ありがとうございました。