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第8回労働基準関係法制研究会 議事録
労働基準局労働条件政策課
日時
令和6年6月27日(木) 9:00~11:00
場所
AP 虎ノ門 A ルーム
議題
労働基準関係法制について
議事
- 議事内容
- ○荒木座長 定刻になりましたので、ただいまから、第8回「労働基準関係法制研究会」を開催いたします。
構成員の皆様方におかれましては、御多忙のところ御参集いただきましてありがとうございます。
本日の研究会につきましては、会場参加とオンライン参加の双方による開催方式とさせていただいております。
本日は、石﨑先生、神吉先生、島田先生がオンラインでの御出席、水島先生、山川先生は御欠席と承っております。
カメラ撮りはここまでということでお願いします。
(カメラ退室)
○荒木座長 それでは議事に入ります。
本日は、全国社会保険労務士会連合会副会長、若林正清様、常任理事、大津章敬様、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事、平田麻莉様にお越しいただいております。若林様、大津様、平田様におかれましては、お忙しいところを御参加いただき、誠にありがとうございます。
皆様には、これまでの研究会での議論を踏まえた労働基準関係法制に関する各論点について、現状と課題をお伺いできればと考えております。
まず、全国社会保険労務士会連合会副会長の若林様、常任理事の大津様より御説明をよろしくお願いいたします。
○若林参考人 皆様、おはようございます。本日はお招きいただきまして誠にありがとうございます。全国社労士会連合会副会長の若林と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。
まず、私のほうより社労士の状況についてお伝えいたします。
資料の1ページ目を御覧いただきますとおり、全国における会員数は約4万5000人となります。また、左側部分の社労士法第1条にては、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上という大きな目的が並列されており、1条の2におきましては、それを支える上で公正な立場について規定されています。
そのような中で、例えば労使コミュニケーションにおいては法が複雑化する中、就業規則変更や36協定成立などにおいて、説明会への同席などで従業員と直接接点を持つことも多く、実質的な労使コミュニケーションの潤滑油のような活動を行っているといえます。
9ページ、社労士の特徴として、複眼的な洞察ということがあるかと思います。企業と労働者等は既に述べたところですが、2つ目の労働と社会保険については、解雇を含む退職、出産、育児、傷病など、労働者に生じる問題を労働と社会保険と双方の結びつきを理解した上で相談に応じております。
3つ目は、法令遵守だけではなく、働きやすい、働きがいのある職場環境改善並びに適正な取引環境の整備として、22ページに、いわゆる労務監査について資料として記載させていただきました。
具体的な取組としては、次の23ページの①から⑤が主な取組となっております。
さて、連合会では国際化の事業を行っており、韓国の公認労務士をはじめ、イタリア、スペインなどに類似資格があり、交流を図っておりますが、他の国では主に労使紛争の解決に重点を置かれた専門的な資格であることと比較して、社労士は労務トラブルの未然防止が本旨であることは大きな特色であると言えます。
交流の際によく言われるのが、事業主から報酬を得ていて中立性を確保しながら支援できるのか、という疑問です。そこでの我々の説明といたしましては、中長期的視点に立ち、優秀な社員の確保と定着に向けて、事業の継続性に重点を置き、ときには事業主を啓蒙すると伝えております。また、そもそも労働条件は労使の合意によって成り立つものであり、事業主は事業を前へ進めるため、バランサーとしての社労士に相談を行うことは日常的であるといえます。
18ページ、国際化といたしましてはILO駐日事務所の技術支援を受け、ビジネスと人権の推進社労士を養成しております。令和6年度までに上級研修修了者を全国で600名予定しております。御承知のように、ビジネスと人権では事業所のみならず、サプライチェーンにおける取引先の人権状況も確認することや、家族労働における児童労働の問題など、広範囲な領域となっており、詳細に研修を行っているところでございます。
それでは、個別の論点につきまして、大津より述べさせていただきます。
○大津参考人 全国社会保険労務士会連合会の大津でございます。よろしくお願いいたします。私のほうからは3~8ページまでのところ、本研究会の第6回の資料にございましたこれまでの議論の整理の各項目について取り上げていきたいと思っております。
中でも、多分我々に期待をされておりますのは中小企業ですとか小規模企業の状況だと思いますので、その辺りの課題感を中心にお話をしたいと思います。
まず、前提です。中小企業の人事労務の現場で何が起こっているかということですけれども、何といいましても深刻な人材難というところが全てのベースになっていると感じております。日頃企業を訪問しても本当に人が採れない、優秀な人材から辞めていくというような状況が続いております。
その中で今、企業の対応は二極化をしていると考えております。
まず、1つ目の方向というのが、これは比較的余裕がある企業の前向きな対応ということになりますけれども、労働条件を改善することによって採用競争力を高めようという動きが、ここ最近は非常に強まっています。具体的に言いますと、例えば年間休日を120日以上にしていこうであるとか、完全週休2日を入れよう、もちろん最近の賃上げに対応して初任給、若手を中心とした給与カーブを持ち上げていく、給与カーブの見直しを行っていくというような流れです。そしてそういった企業に関しましては、人に頼った経営には限界があることにも気づいておりますので、省力化投資等も積極的に進めていくという、ある意味で望ましい方向に行く一つのパターンです。
もう一つは、残念ながら余裕がないということもあろうかと思いますけれども、それに対応できずに人が減る中で持久戦のような状況に陥っているパターンです。とはいえ、業務は止められませんので残業である程度カバーをしていく。一方では、この物価高の状況もございますので、労働者側に関しましてもある程度生活残業を求めるようなところもあり、そのような形で利害が一致をしてしまっている。それで、時間外労働が80時間であるとか100時間という水準まではいきませんけれども、なかなか45時間に収まらないような、特別条項の年6回というのが守れないような状況が一部の企業で見られているのが現状ではないかと考えております。
以上のような課題認識に基づきまして、4ページ以降の各論点について、時間も限られますのでポイントだけお伝えをしていきたいと思います。詳細につきましては資料にまとめておりますので、また御覧いただければと思います。
4ページの初めのところ、最長労働時間規制の青色で書かれているところのすぐ下のところです。まず、上限規制に関する評価というところですけれども、結果的には、かなり意識の変革をもたらしたと考えております。法改正でかなり意識が変革をしたことによりまして、労働時間縮減に対する一定の効果はあったと考えております。
ただ、その反面、2つ目の○に書きましたけれども、若手労働者を中心に残業が悪だというような認識がかなり強まってしまったところがありますので、結果的には業務の中でOJTを十分に行えないというような問題が起こっており、人材育成に一部滞りが見られると感じております。
下の(2)労働時間の意義というところですけれども、ここに関しましては1つ目、労働者の意識の多様化が進んでおりますので、労働時間縮減の動きが全て歓迎というわけではないという状況かと思います。最近はむしろ若手を中心にちょっとゆるいというような感想が出るような企業が出ているというのが実態でございます。とはいえ、その反面、過重労働の事業所もございますので、そこも二極化しているということかと思います。
自らの市場価値の向上を進めたいというキャリア形成期においては集中して仕事をする一方で、子育て期などはワークライフバランスを重視するといったような形で、ライフサイクルの中で柔軟な働き方を選択できるような環境が望まれるのは間違いがないと感じております。
5ページの(3)の裁量労働・高プロのところになりますけれども、中小企業におきましても労働時間と成果がリンクしない働き方をしている労働者が増加しているという現実は変わりませんので、裁量労働を中心とした柔軟な働き方ができる労働時間の整備というのは重要な課題になっております。しかし、裁量労働・高プロ・管理監督者に関しましても、ここに書かれているような様々な課題があると認識をしております。
今後(3)の一番下に書きましたけれども、中小企業におきましては、今日のテーマの最後にございます労使コミュニケーションの話にはなってまいりますけれども、過半数組合が存在しないことが大半ということを考えますと、労働時間制度のデロゲーションの範囲拡大に関しましては、かなり慎重な対応をしていかないと、働かせ放題というような状況ができてしまう恐れを危惧しております。
(5)法定労働時間週44時間のところに関しましては、労働者間の公平性を欠くというところ、もしくは過重労働の原因の一つになってしまうというところ、そして、現実的に8割以上の事業場がこの特例措置を使っていないという現状を踏まえれば、この取扱いに関しましては廃止の方向で、週40時間制への統一という議論を進めていくのが適当ではないかと考えております。
時間の関係で6ページはまた御覧いただくとしまして、7ページに進みたいと思います。7ページの一番上の(4)休憩のところに関しましては、短時間で勤務をする方が増えている。特に副業・兼業の増加などにより、短い時間の勤務が見受けられるというときに、従来よりもきめ細かい休憩時間を設定する必要があるのではないかと考えております。例えば1日6時間の仕事を2つかけ持ちをしているというような場合、現状ですと法定では休憩時間はないということになりますので、場合によりましては2つ目の○に書きました労働時間が4時間超の場合には30分といった形で、6時間以下の場合であっても新たな休憩を付与する義務を検討してもよいのではないかと考えております。
そのページの一番下の(2)副業・兼業の場合の割増賃金の問題につきましては、昨今の議論のとおりですけれども、割増賃金に関する通算に関しましては通算ルールの廃止・撤廃の検討を進めていくことが望まれるのではないかと考えております。この通算問題により、雇用型での副業・兼業がなかなか進まないという実態があるのは間違いがないと考えております。結果的には、ほぼ雇用類似の働き方をしているにもかかわらず、非雇用型で十分な保護が受けられない労働者が増えているという課題認識を持っております。とはいえ、この通算ルールを見直す際には過重労働の対策は重要になりますので、そこに関しましては実効性確保のための措置をさらに講じていくという前提が必要だと考えております。
最後に8ページ、2番の労働基準法の事業についてというところですけれども、労働時間管理ですとか安全衛生管理に関しましては事業所単位で行われておりますので、それを原則とするということを基本にしながらも、一部手続の企業単位化の検討は必要ではないか。全社統一での労働条件設定が見られるのは間違いありませんので、その検討は望まれると考えております。
そして、3番目の○のところ、例えば50人以上の労働者を使用する事業所の衛生管理者・産業医の選任等の義務ですけれども、従業員総数が数百人あるにもかかわらず、50人以上の事業場がないというような場合は多々見られます。このような場合に関しまして、企業単位の考え方を入れていくことが労働者保護に資するのではないかと考えております。
3番の労働者のところに関しましては、実務的に現在の判断基準では予見可能性が乏しいのが実態かと考えております。
一番下に書きました労災のところ、加入を希望するフリーランス自身が行政機関等で加入できるような仕組みを構築することが、より中立的な制度になるのではないかと我々は考えております。
最後、労使コミュニケーションのところです。引き続き労働組合が果たす役割が大きいのは間違いがないという大前提の認識をしておりますけれども、中小・小規模事業所におきましては労働組合がほぼ機能していない、組織率がこれだけ低いという状況ですと、なかなか機能していないというのが実態でございます。過半数代表者のところの役割が期待されるところでありますが、現実的には十分にこちらも機能していないことになります。それがゆえに無用なトラブル等が発生している現状、もしくは労働条件の改善がなかなか進まないというところもございますので、この点の労使コミュニケーションの改善は重要な課題であると考えております。
一番下に書きました、現在におきましても労使委員会の設置等が求められている場合がございますが、労使コミュニケーションを促進し、様々な課題に関して提言を行う機能として、テーマ別等も含めて、こういった労使コミュニケーションの機能を創設することは重要な課題にはなるのではないかと考えております。
ということで、時間になりましたので、以上とさせていただきます。ありがとうございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
それでは、委員の皆様から、ただいまの御説明につきまして御意見・御質問等がありましたらお願いいたします。
首藤先生、お願いします。
○首藤構成員 貴重なお話をありがとうございました。何点か質問させてください。
まず、36協定や就業規則の見直しで、冒頭に若林様より従業員との接点があるというようなお話がございましたけれども、これは社労士の業務として一般的であると考えていいのかどうかというところが1点目です。
その上で、使用者からお金をもらっているけれども、中立性を担保しながらやられているというお話を大変興味深く伺いました。法令の遵守というのを大前提として、法令が遵守されている上で労使の意見が異なっているような場合、何を根拠に判断されるのかを教えていただきたいということが2点目です。
3点目、もし、そういった活動をされていればということなのですけれども、社労士さんが関わることで労使間のコミュニケーションの促進みたいなものに貢献されているというようなことがいえるのかどうかというところを教えていただきたいです。
この3点をお願いいたします。
○若林参考人 就業規則、36協定の成立において説明会が開かれる場合に、中小零細事業主の場所ではなかなか専門的スタッフがおりませんので、それを補う形で社労士が説明会で説明をさせてもらうということはしばしばあります。ただ、過半数労働者代表の意見を求めるときに必ず社労士が同席しているかとか、そういったことまでは一般的ではございません。もちろん御要望があって、そういう場を設けられた際において出席させていただいて説明させていただくということで、経営者から見れば、決して経営者の意見を押し通すということではなくて、国家資格者としての社労士さんに中立性を持って説明会に出席していただければいいという、事業主さんもそういうスタンスだと思います。
それから、法令遵守が守られている上で、労働者と経営者との何を根拠に指導していくかといったところについては、社会経済にとって有益な価値観のあるということを基に、経営者に対しては先ほどもお話ししましたが、目の前の利益にこだわることなく長期的な経営の視点を促すことが多いですし、労働者の方に対しては法律を超えてワークライフバランス等の働きやすさ、加えて人事評価制度などの働きがいといったところまで御指導させていただくといったところになります。
3点目、コミュニケーションの促進に関しては、私ども社労士は大体月に1回ぐらい会社を訪問することが多いのですけれども、私どもも若い会員には、なるべく会社へお邪魔したら、経営者としゃべるだけではなくて労働者の方ともお話をして、日頃から信頼関係をつくるようにしましょうということを話したりします。労働問題は複雑になってきている中で、事業主さんは労働者から問い合わせがあっても、すぐに答えることができなくて、顧問の社労士さんに1回相談してみるというお答えをすることがしばしばありまして、そういったときに、あの社労士さんに相談してもらうのだなと顔が浮かべば、安心して待っていただけるのではないかなということで、日頃から社労士から労働者に対しても接点を求めるように努力するように伝えているところです。
以上です。
○荒木座長 よろしいですか。
それでは、オンラインから石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 本日はお忙しい中、非常に分かりやすい御説明をありがとうございました。大きく分けて2点ございます。
1点目は、先ほどの首藤先生の御質問と重なる部分もあるのですけれども、労使コミュニケーションのところの課題感で書かれていた内容があったかと思います。そこへの対応策として労使委員会の設置等が考えられるというようなお話があったかと思います。そこは立法的な対応という話にはなってくると思うのですけれども、そこに至らない部分で、組合がなくて過半数代表しかない事業場において、より労使コミュニケーションを活発化させていく上で、社労士会として今後取り組んでいこうと思っているような方向性みたいなものがあるのかどうか。
例えばですが、労働者のほうのエンパワーを図っていくみたいな役割を果たしていくみたいなことというのは考えられるのかどうかというところ、そういったところを果たしていこうとしたときに、先ほどの中立性の話もありますけれども、使用者から報酬を受け取って仕事をするというところとの関係で何か困難みたいなものを現場の社労士として感じられたりとか、そこに対する何らかの制度的な対応だったり、何かが必要になっているとか、そういうことがあるのかどうかというところを教えていただきたいというのが、まず1点目でございます。
2点目は、いただいたスライドの7ページに記載があったところなのですけれども、割増賃金規制と上限規制とで、労働時間の抑制効果という意味では、割増賃金規制が効果を感じられるような場面は少ないという記述があったのです。割増賃金規制が時間外労働の抑制の機能を果たしていると思えるような局面と、そうではないなと思われるような局面とで、ある程度類型化できたりするものなのかどうか。その辺りの実態というか実感のところを詳しく教えていただけるとありがたいです。
以上になります。
○若林参考人 お答えさせていただきたいと思います。労使コミュニケーションについて、労使協議としての労使委員会を資料に書かせていただいております。既に議論もあったかと思いますけれども、過半数労働者代表の委員会等、中小零細企業ではなかなか過半数労働者代表者になり手がないという部分もありまして、複数ということもあり得るのかなと思ったりもしております。そういった中で、そういった過半数代表者の委員会ができましたら、そこは社労士として基本的なことをお伝えして、こういう考え方の下で、やり方として意見をこのように出していただいてはいかがですかといったような道筋をお話ししたりすることで、そういった複数代表的なものの検討の上においても、社労士が関与して御相談に乗ることは可能かなと思っております。
○大津参考人 2点目に関しましては私から回答させていただきます。割増賃金規制と上限規制の関係・効果というところになります。これは今、御質問をいただきまして、改めて時系列でも考えていたところなのですけれども、中小企業の場合は上限規制のほうが先に来まして、60時間の割増賃金の引き上げのところが後に来たという特殊性もあるのかなと少し感じるところであります。ですから、上限規制のときにあれだけの法改正でしたので、労使ともにかなり意識の変化がありました。今後はそれ以上残業させられない、違法になるというところで、この時間を何とか守ろうという取組が進められました。
これに対しまして先日の60時間超の50%の引き上げのタイミングでは、その先に、ある程度労働時間の改善のほうが進んでいたというところもありますので、反応が鈍かったという要素もあったのかなと感じております。
ですから、いずれが効果的かというところに関しまして言うと、そこが複合的になっておりますので、なかなかそれを細かく分析するのは難しいかと思っております。ただ、経営者の反応、もしくは労働者側の反応というところを実感ベースでお話しするとすれば、上限規制のときのインパクトが非常に大きかったと感じております。
以上です。
○石﨑構成員 ありがとうございました。
1点目についてなのですが、今のお答えとしましては、そういった複数代表制に対して社労士として関与していくというお話だったのですけれども、そうしたものが入っていない段階でのいろいろな関与とか支援というのは難しいところがあるということなのか、その辺りについてもお答えをお願いできるとありがたいです。
○若林参考人 冒頭の説明でも少しお話しましたけれども、事業主さんとして、このように進めたいけれども、従業員の方はどう考えるでしょうみたいなことの相談というのは多くて、その中で、それこそ場合によっては、社長さん、それは駄目です、無理ですというようなことを私どもがお話しすることも多いです。そういった意味では、あらかじめ従業員代表の意見を予想しながら、私どもは事業主さんにあらかじめお話をしたりすることで、事業主さんに考える時間を持っていただいたりもしております。
御質問に中立性についての難しさということがありました。確かに報酬面においてはそのとおりなのですけれども、その部分におきましては会計監査も本質的には同じなのではないかと思いますので、これは我々の努力ですけれども、社労士がさらなる責任感と社会における公正さについて重要な仕事をしているという認識が深まれば、問題はそれほど深くないのではないかなと思っております。そういう意味においては、さらなる社労士制度についても、行政等も含めて我々のそういう責務をさらにということで進展させていただければ、ありがたいなと思っております。
以上です。
○石﨑構成員 ありがとうございました。
○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
水町先生、お願いします。
○水町構成員 労働時間関係で、大津さんの話の中で2つお伺いしたいです。
まず、100時間、80時間の絶対的上限について、そこまでの例はないけれども、45時間越え、年6回というのがなかなか難しい例も出ているという話ですが、例えば100時間、80時間の絶対的な上限をこれからさらに国際的に見て適正なレベル、原則45時間に近づけていくということに対する中小企業の実感、今すぐは難しいのか、今すぐでもできるのか、どれぐらいのタイムスパンだったら考えられるのか、そもそもそういうことをするのが望ましいのか望ましくないのかというのが一つ。
あと、デロゲーションとの関係で働かせ放題の危惧があるというお話がありました。例えばみなし制とかの適用の中で具体的にこういうことがあり得るとか、管理監督者は、デロゲーションではないですけれども、原則規制が外されているというところで、働かせ放題が中小企業で実際にどのようなリスクとして考えられているかというところを教えてください。
○大津参考人 ありがとうございます。
1点目の上限規制のさらなる引き下げというところに関して、先ほど水町先生からも御指摘をいただきましたとおり、多くの企業、中小企業の場合は繁閑の差が大きいというよりは慢性的に人が足りないところが多いです。そう考えますと、現実的には50時間、60時間ぐらいの残業がずっと続いているというところで、6回がなかなか守れないというのが現状かと思います。
かといって、一方で、80であるとか100というところは既にかなり意識が進んでいますので、一部の企業はもちろん守れていないという実態はあろうかと思いますけれども、大半はそこを意識されておりますので、段階的な引き下げに関しましては十分対応できるのではないかなという実感は得ております。
もう1点、デロゲーションのところです。例えば今年の春の改正でいきますと、専門業務型の裁量労働の個別同意の問題があったかと思いますけれども、今回、この個別同意が入りましたが、従来の包括的同意を協定で行う場合に関しましては、従来、実態として協定、適正な過半数代表が選ばれているわけでもなく、何となくその職種に関しては裁量労働が適用になるというようなところで、実態としては裁量労働の要件をなかなか満たしていないような働き方をしている例が散見されました。多分、これを拡大していくとなると、それと同様の事例がみなし、その他でまた発生するのではないかというのが先ほどの御指摘の内容になります。
○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
黒田先生、どうぞ。
○黒田構成員 現場に近いところからの非常に貴重なお話をありがとうございました。
私も産業医をしておりますので、企業と労働者のコミュニケーション促進ですとか、職場環境改善に寄与するというところで、専門性は違いますけれども、そういうところで支援をしていくというのは、非常に共感を覚えながらお聞きしておりました。
3点質問があるのですが、まず、7ページの短時間勤務の際の健康確保の一環として、4時間以上の勤務で今は休憩時間の設定というのは法律では規定されていませんが、4時間ぐらいまとまった時間の勤務があるのであれば、30分程度の休憩を設定するのがよいのではないかということで、理念としては非常に賛同するのですが、恐らく企業側からも労働者側からも拘束時間としては長くなるので、ある程度の設定の困難さですとか抵抗感があると思います。その辺りについて、既に意見などがありましたら、抵抗感の実情やその解決策ですとかを教えていただければと思います。
2点目は、資料の8ページとか16ページにもありましたが、産業医が健康管理などをカバーしている労働者の割合というのは6割弱ということで、それ以外の企業には全く産業医がいないということは、ほかの看護職ですとか心理職などの産業保健職が全くいないということだと思いますので、実質は社労士さんが健康管理に関するところも結構関わってらっしゃるとお伺いしております。例えば健康管理に寄与するような社内の制度の作成ですとか、実際に既に起こっている健康問題が関係するような労働問題、そういう御経験に関して何か会員様から、たくさんあると思うのですけれども、こういうことに関わっているという御知見があれば、教えていただければと思います。
3点目は社労士会への御質問というよりは、お二人への御質問になるのかもしれないのですが、社労士は開業社労士さんが結構多くて5割弱ぐらいということなので、御自身が当事者として働く人であり、かつ自営業という感じの方が多いのかと思います。その観点から、今後の労働基準関連法に関して、何かこういう点が加味されると、労働者の概念から外れるかもしれないけれども、働く人の保護ですとか健康管理ということに関して寄与する点があるのではないかという御知見や御意見があれば教えていただければと思います。
以上です。
○大津参考人 それでは、1点目と2点目に関しまして、私のほうから対応させていただきたいと思います。
まず、短時間勤務の場合の休憩の件はおっしゃるとおり、例えば今でも6時間の勤務の場合であれば休憩がないわけですので、できるだけ拘束時間を短く6時間働きたい、ですから、6時間を超えると休憩が必要になるので6時間以内にしようというような意見ですとか考え方というのは聞かれますので、これを例えば4時間に短縮したとすると、より発生頻度が高くなろうかと思います。ですから、30分というところがいいかどうかというところにはなりますけれども、現実問題、健康の問題もありますし、業務の集中、もしくはそれによるミス、労災事故の発生ということを考えますと、短い時間でもいいので、ある程度そこは規制を入れていくほうが有効ではないのかと考えております。
実態としましては、例えば6時間近く働くような場合に全く休憩を取っていないということはないとは思うのですけれども、そこはある程度規制を入れていくということは十分検討できるのではないかという提言になっております。
2点目、産業医がない、産業保健体制を構築されていない中小企業が大半なわけですけれども、私どもが確かにそこのところを一部担っている部分があろうかと思います。もちろん我々は医学的な判断ができるわけではございませんので、例えばメンタルヘルス不調の社員であった場合に病院の受診を促すであるとか、もしくはそれ以外の様々なところに関しまして、十分ではないかもしれませんけれども、アドバイスをさしあげたり、もしくは労使の協議の場に入っていくなり、それを設定するなり、例えば働きやすさを改善するような会議を社内でつくるように提言をして、そのファシリテーションをするであるとかというような活動は、私どもも行っているところでございます。
3点目は若林さんからお願いします。
○若林参考人 個人的な御質問ということだったので個人的な回答となりますが、まず、開業と法人社員で約6割、勤務等で4割ですが、勤務等の中にはもちろん社労士法人、社労士事務所への勤務の社労士も含まれておりますので、そういった意味では社労士事務所に関わっている人数というのは、かなりの割合になります。経営者として従業員を抱えている中でということで言うと、例えば労働基準法の関係で言いますと、私どもはパートタイマーの方で曜日によって所定労働時間の設定が違っていて、その中で年次有給休暇の取得に当たって、どうしてもシフトの時間の長い日に年次有給休暇を取るというパートさんが実際に事務所の中にいまして、でも、それはそちらのほうが有給手当の金額が大きいわけですから、それは無理もないと思いつつ、規定に通常の賃金を支給すると書いてありますので、そのようにやっております。
労働基準法には平均賃金を取る方法、あるいは労使協定を使っての標準報酬日額という規定がありますけれども、そちらを使うと1日当たりの金額が相当小さくなって、実質それでは労働者は納得しませんので、ほぼほぼ使えない状態になっているかなと思います。そういう意味で、クリニックとか、そういうシフト制の多いところでの有給手当のつけ方、支払いの仕方というのは、私自身も思いますけれども、何かいい方法があればなと思ったことがあります。
以上です。
○荒木座長 よろしいでしょうか。
ほかにはいかがでしょうか。
それでは、ほぼ予定した時間でございますので、全国社会保険労務士会連合会の若林様、大津様からの御意見については以上ということにいたします。どうもありがとうございます。
○若林参考人 ありがとうございました。
○大津参考人 ありがとうございました。
○荒木座長 続きまして、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事の平田麻莉様より御説明をよろしくお願いいたします。
○平田参考人 本日は、貴重なお時間をいただきましてありがとうございます。フリーランス協会の平田と申します。本日、私からフリーランス・ギグワーカーの労働者性に係る現状と課題ということで、お話しさせていただきたいと思っております。
先ほど全国社会保険労務士会連合会様よりお話のあった割増賃金規制で雇用型の副業・兼業が抑制された結果、副業したい人の増加に反して企業の受け皿が広がらなかったり、偽装フリーランスが増加したりしているというお話は、私も同様の認識でして、副業の労働時間通算ルールは見直していただきたいと思っておりますが、本日、私からはそもそもフリーランスや副業・兼業ワーカーといった方々が、なぜこの働き方を選んでいるのかというインサイトですとか、業界ごとに異なる実態、偽装フリーランス問題や働き方に中立でない現在の社会保障制度の課題について、お話を申し上げたいと思っております。
3ページ、そもそもフリーランスの定義がまだ固まっていないところもありまして、11月施行のフリーランス法の中で一定の定義はされているものの、私たちが捉えている広義のフリーランスというのは、それよりも少し広い概念で考えております。「特定の企業や団体・組織に専従しない独立した形態で、御自身の専門知識やスキルを提供して対価を得る方」ということで、大きく分けて左の独立系フリーランス、どこの組織とも雇用関係を持っていない方と、右の副業系フリーランス、日中はどこかの組織で雇用関係がありながら就業時間内に業務委託の仕事をしている方、これを総称してフリーランスと捉えております。
フリーランスというと個人事業主を想起される方も多いのですけれども、それだけではなく、私自身も法人成りしておりますけれども、法人成りしている一人社長ですとか、開業届を出さずに隙間時間でお仕事されている方もいらっしゃいます。また、副業系のフリーランスの中にも様々な属性があります。
なお、グレーアウトしている一番右のところ、いわゆる二重雇用・多重雇用の方はフリーランスとは呼んでいなくて、基本的には雇用関係によらず、業務委託や自営でお仕事している方と考えていただければと思います。
フリーランス法はB to Bでお仕事をされている方が特定受託事業者として対象となっておりますけれども、実際はto Cでお仕事しているフリーランスもたくさんいらっしゃるので、少し法の定義のほうが狭くなっているかなと思います。フリーランスは総務省が昨年秋に公表した基幹統計だと257万人いるといわれています。なお、2020年の内閣官房調査の推計ですと462万人だったのですけれども、この差については副業の人口が大きく、200万人ほど違っているということで、いわゆる隠れ副業、統計上表れてこない副業の方というのはたくさんいらっしゃるのかなと、この差を見ても感じるところであります。
4ページにフリーランスが多様ですというお話をさせていただいています。フリーランスの話をすると人によって想像しているものが全然違いまして、カフェでノートパソコンをカタカタ打っているノマドワーカーを想像してお話ししている方もいれば、文化・芸術のアーティストを想像している方とか、フードデリバリー配達員のことを話している方など、前提として思い描いているフリーランス像が人によって違うので、議論が難しくなるのが特徴かなと思います。フリーランスといっても会社員の対義語ぐらい広い概念ですので、職種・働き方・バックグラウンドは千差万別です。
何がフリーランスの共通項なのかを5ページ目で書いています。釈迦に説法にはなりますけれども、私たちフリーランスは事業者で、働き方の裁量と経済的な自律性を前提として、事業リスクについては背負う責任と覚悟を持った自律的な働き方です。ここは異論のない部分だと思うのですけれども、今、この線引きが曖昧になってきてしまっているところに課題を感じております。
続きまして、6ページ目、フリーランスといわれる人たちが、なぜフリーランスになったのか、当協会でいろいろな実態調査をしています。ピンク色で囲っているところ、働き方の裁量や柔軟性、ワークライフバランスを理由にしている方は非常に多いかなと思います。もう一つは、専門領域でキャリア形成していきたいということです。会社に所属していると異動も転勤も仰せのままにということで、自分で専門性を追求するということが難しい場合もありますので、自分でキャリアを形成する手綱を握っていたいとフリーランスになる方がいらっしゃるかなと思います。
当協会の調査に回答してくださる方の96%ほどが会社員からフリーランスになっている方なのですけれども、変化を聞いていますと、総じて満足度、スキル、生産性などは増えた・上がったと言っている方が多いです。収入については、ワークライフバランスを重視して働く時間を減らしたいとか、残業代がなくなることも織り込み済みでこの働き方を選択する方もいらっしゃるので、収入が減っていることが即ち悪いことだとも限らないのですけれども、増えた方・減った方、それぞれいらっしゃいます。また、働く時間に関しては減ったという方が6割いらっしゃいます。
8ページ目は、法政大学の石山教授との共同調査です。面白かったのが、日本人のワークエンゲージメントは国際的に低いとよく言われるのですけれども、実は低いのは日本の会社員であって、フリーランスのワークエンゲージメントは国際標準と遜色がなかったというようなことも調査結果から分かってきておりまして、このキャリア自律というところ、自ら望んでこの働き方を選択している方は結構いらっしゃるのかなと感じております。
また、ギグワーカーというキーワードも昨今よく議論に登場するので御説明できればと思います。9ページにございますように、いわゆるギグワークというのは、デジタルプラットフォームを利用する単発の仕事と定義されております。
10ページ目、当協会ではフリーランスの皆さんが直近1年間でどういう獲得経路から仕事を得ているのか、最も収入が得られる仕事の獲得経路は何か、ということを毎年聞いています。これは7年間ぐらい取っていて、傾向はそんなに大きく変わってはいないのですが、いわゆるデジタルプラットフォームを使って直近1年にお仕事をされた方は2割で、さらにデジタルプラットフォームが一番大きな収入源になっている方は5.3%ほどです。大半の方はデジタルプラットフォームではなく、直接の知り合いとか過去や現在の取引先とか、あとは最近はいわゆる人材紹介会社に近いエージェントサービスが増えておりますので、こういったサービスを使ってお仕事を探している方が多いのかなと思います。
11ページ目、よくフリーランス=ギグワーカー、=ウーバーというようなことをイメージされている方も多いので補足的に申し上げます。当協会でフードデリバリー配達員の大規模調査を行った際に、週40時間未満の隙間時間副業の方が8割で、専業でやっている方は2割と推察されたのですけれども、それを先ほどの国内のフリーランス人口と照らし合わせますと、デリバリー配達員を主な収入源としている方はフリーランス全体の1.5~2.3%の規模感です。もしかすると、マスメディアなどから非常に注目されている注目の高さが、フリーランスやギグワーク全体像の理解をミスリードしている可能性もあるのかなと感じております。
以上が前提の話になりますけれども、続いて、偽装フリーランスの話です。
13ページ、先ほど申し上げたとおり、フリーランス法を立法していただくに先立って、フリーランスとして業務委託契約を締結していても労働者性が認められると判断され、実態として労働者に該当する場合は労働関連法令が適用されると整理していただいております。
14ページ、現在の労働者性の判断が非常に複雑で分かりづらいところから様々な問題が生じています。その難しさというのは幾つかあるのですけれども、まず、指揮監督がある状態はどういう状態なのかといった、一般の市中の私たちからすると専門用語と考えられる用語の解釈の難解さ。また、あくまで総合的な判断ですということで、チェックリスト的に自分で判断することが難しいということ。あとは都道府県の労働局ごとに少し判断のぶれがあるというような話もありまして、予見可能性が低いというお話も先ほどもありましたけれども、なかなか混乱が生じていると感じています。
さらに15ページにありますように、リモートワークの普及で労働者性の概念そのものが時代にそぐわなくなってきて、会社員でもテレワーク促進で制約から解放されているというような状況がありますので、ますます混乱が深まっているのかなと思います。
16ページ、そのような中で、この曖昧さが生み出している一つの現象として、偽装フリーランスが増えていると認識しております。本来あるべき事業者としての裁量、経済的自律性がなく、労基法と社保を加入しなくて安価で融通の利く労働力としてフリーランスが扱われてしまっている状態が、広く行われているとは申し上げませんけれども、一部の業界で生じています。悪質性が高いものに限らず、無知や誤解を背景としているところも非常に多いかなと考えております。
17ページ、フリーランス・トラブル110番に寄せられている相談の実績を載せておりますけれども、労働者性に関する相談が5.7%で6番目に多く、また、御本人の意図に反して雇用から業務委託に切り換えられてしまったというような相談も1.3%存在しております。
18ページ、最近の労働者認定の事例を載せておりますけれども、現在は偽装フリーランスを疑われる状況があっても、裁判を起こしてみたり、労基署の判断を待たないと、その結果が分からないということがございまして、なかなか全てのケースが拾えている状況ではないのかなと思っております。
19ページ、とはいえ、業界によって非常に実態が異なりますということをあくまで参考として載せております。自律性が高い業界もあれば、疑われる業界もあるということです。例えば、左上のビジネス系のフリーランス、非常に多くの職種の方がここのビジネス系に当てはまりますけれども、こういう方々は雇用で働く選択肢もある中で御自身の意思で独立をしていて、専門性を持っている方なので値決めや働き方の裁量はあることが多い。取引先も不特定多数で、どの企業でも人事だったり広報だったり開発だったりニーズはありますので、トラブルや不条理があったときには、ほかのお客さんと取引するというようなことが可能です。
その下のギグワーカーの方々も、複数のプラットフォームを自由意志でスマートに使い分けており、基本的には顧客とは単発の取引で、いつでも始め、止められる裁量や諾否の自由がある働き方です。ただ、サービスによって、値決めがプラットフォームに依存してしまうケースもあります。
左から2つ目の文化芸術・アーティストと、放送・出版メディアの業界は、自律して働いている方と、そうではない方が両方混在している業界かなと思います。文化芸術については、そもそもこの仕事を選んだ時点で雇用で働く選択肢がほぼない業界になります。事務所や劇団に所属している方が多い職種もありますけれども、売れたら交渉力も裁量も得られるが、売れるまでの間は従属的になりがちで、特にアシスタント・見習い期間において指揮監督が疑われるケースもあります。
また、下の放送・出版メディア業界は、雇用で働く選択肢もある中で、従来からキャリアパスの一つとして独立する方が多く、フリーランス化してきた傾向があるのですが、昨今の制作費減少に伴って外注化・業務委託への切り換えが進行していて、本人の意思に反して業務委託にされてしまった偽装フリーランスも出てきているかなと思います。
また、右に移りましてコンテンツ制作、軽貨物、講師、美容・リラクゼーション等の業界は、従属性が高い実態が多いように見受けられます。コンテンツ制作は、いわゆる映画やドラマなど、番組をつくる裏方の方々です。この業界も雇用で働く選択肢が少なく、また、多重下請構造になっていて、発注者も小規模の一人親方が多い中で、専属フリーみたいな囲い込みがあったり、現場に長時間・長期間拘束されるようなことがあったりします。
また、その下の講師や通訳案内士の方々は、不安定なシフト勤務というような形で、御本人たちも事業者の自覚がなくバイトやパートの感覚で働いている方も多くみられます。コロナ禍で持続化給付金の申請においても、自分でも事業者なのか労働者なのか分かっていない方が非常に多かった職種になります。生徒さんや旅行者の人数に合わせて供給を調整するために業務委託にされているケースが多いと思います。
右上の軽貨物業界は、独立を応援しますという謳い文句で人材を集めつつ、登録料や車両費といったものを払わせていたり、ペナルティー違約金、ノルマなどの仕組みで実質的な指揮管理下に置いているケースもある。あと、昨今はアプリによる指揮監督が疑われているほか、多重下請構造といった特徴もあります。
右下の美容・リラクゼーション業界も、自分のペースで稼げるというような触れ込みで人材を集めており、具体例として20ページを御覧いただければと思います。大手マッサージチェーン店で10年以上就業するセラピストの例です。1つ目の契約形態のところは後ほど御覧いただくとして、指揮監督下の労働にあたりかねない部分、拘束性で言うと、表向きはエントリー制でシフトに入りたい時間にいつでも入れますと謳っているのですけれども、実際は出勤時間の強要があったり、エントリーした時間内は店舗内で待機が求められて中抜けは禁止されているとか、エントリー後にシフトをキャンセルするとペナルティーが課せられるとか、そういったルールで縛られている。あとは諾否の自由もなくて、施術拒否の禁止というのがマニュアルに大々的に書いてあったりします。
また、ほかの業界の参考で言うと、21ページ目はドラマ制作における多重下請構造の参考イメージ、22ページはフードデリバリー配達員の実態を載せています。フードデリバリー配達員はよく労働者性の話で話題に挙がる職種なのですけれども、実際、当協会の調査等では複数のプラットフォームを使い分けているだけで、雇用されたいわけではないというお声があったり、労組法上の労働者認定に反対する署名が行われていたりもするので、当事者の意識にしっかり注意を払う必要があるかなと思っております。
時間も限られておりますので、少し飛ばさせていただきますけれども、24ページ、こういった状況を踏まえて、当協会では偽装フリーランス防止のための手引きというのを今年2月に公開させていただきました。詳しくは25ページ以降に載せておりますけれども、少し平易な言葉で事例も交えながら解説することを試みております。
28ページ、労働者性の判断に関して求められる対策ということで申し上げますと、ギグワーカーを含めて自律した働き方を求めているフリーランスにとっては、過剰な保護や規制が入ってしまうと事業者としての創造性・主体性を損なってしまう恐れがあり、当事者たちからの反発もあるかと思います。一方で、偽装フリーランスというのは、フリーランス全般の問題というよりは、ブラック企業またはブラック業界の問題だと思いますけれども、こちらはしっかり取り締まっていただきたい。ということで、短期的には先ほどの手引きのように、労働者性に関する適切な理解の普及啓発をしつつ、中長期的にこの判断基準の明確化・標準化に取り組んでいただけたらと思っております。
最後、駆け足になりますけれども、労働者性がない場合にも必要と思われる保護がございますので、少し触れさせていただきます。
30ページ、フリーランスの人たちは何が必要だと思っているかという調査の上位に来ているのが、ライフリスクのセーフティーネットになります。
31ページ、健康保険をはじめとする社会保険には、それぞれ会社員との格差がありまして、このライフリスク、つまり生命・身体のリスクというのは働き方を問わず誰もが平等に抱えているはずだと思いますので、対策が必要かなと思っているところです。
次のページ以降は、働き方に中立な制度が必要だと思うかとか、御自身が保険料を負担する前提でも加入したいか、といったことを聞いた意識調査データも載せております。
35ページ、多くの職種のフリーランスは非連続的に不特定多数の事業者と取引しておりますので、特定の発注者に社会保険料を負担してもらうような関係性ではないということで、本人たちが社会保険料を負担しつつ、同じ保険のプールに入れる仕組みをどうつくっていくのか検討が求められていると思っております。
36ページ、働き方に中立な社会保障制度構築に向けて(まとめ)と書いておりますけれども、会社員であれ、個人事業主であれ、法人経営者であれ、全ての働く人が御自身の所得に応じて公平公正に社会保険料を納め、同じセーフティーネットに参加できる仕組みをつくっていただきたいなと思っております。
お時間も限られておりますので、私からは以上とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。
○荒木座長 ありがとうございました。
それでは、ただいまの御説明につきまして、委員の先生方から御質問・御意見があればお願いいたします。
石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 多様なフリーランスの実態についての御紹介、本当にありがとうございました。私からは1点お伺いしたいことがございます。
いただいた資料の30ページ、どういった規制ないし保護が必要かというところのグラフの中で、下のほうに労働時間規制というのが上がっているかと思うのですけれども、ここでは具体的にはどういうものをイメージされているのか。つまりフリーランスとはいえ、あまりにも長時間の労働はよろしくないということでの規制みたいなイメージなのか。他方で、お話の前半では時間について自分の裁量があることから、その仕事を選んでいる方も多いというお話だったので、ここでイメージされているものはどういうものなのかについて、少し教えていただけるとありがたいです。
以上になります。
○平田参考人 ありがとうございます。
まず、前提として、この質問はこちらで選択肢を用意して選んでいただいているものになります。いわゆる会社員の方々は1日何時間が理想的であるという労働時間規制や、それを超えると割増賃金があると思います。最近ですと、インターバル規制もありますけれども、そういった過重労働にならないための規制が必要だと思うかという趣旨での質問でした。
これについては個人事業主等の健康管理に関するガイドラインということで、安全衛生対策のほうで今年議論していただいていますけれども、そちらでもあくまで自主的な取組として過重労働を防ぐべきであるということになっていると思います。
それ自体には私も賛成しているのですけれども、結構フリーランスの当事者には、他人にどうこう言われたくないみたいな方も結構多くいらっしゃって、ワークライフバランスのために自分のペースで短く働いてきたけれども、今は人生のチャレンジの時だから頑張りたいとか、稼ぎ時だと思うときに集中して働いて、それ以外の期間はのんびり過ごすのだとか、皆さん事業者の方々ですので、自分の事業計画の中で裁量を持たせてほしいというような意見も多いです。そのため、そんなにニーズとしてはない、15%の人しか求めてなかったというような結果になったのかなと思っております。
○石﨑構成員 ありがとうございました。
私は時間の関係で、ここで失礼させていただきます。ありがとうございました。
(石﨑構成員退室)
○荒木座長 ありがとうございました。
ほかの先生方、いかがでしょうか。
水町先生、どうぞ。
○水町構成員 今の質問とも関連するのですが、いただいた資料の23ページのオーバーコンプライアンスのところが、今日具体的に御説明いただけなかったのですが、特にいろいろオーバーコンプライアンスの懸念がある中の下の4つの囲みの中の左から2番目、安全衛生対策や福利厚生の提供主体が労働者性を疑われたら困るので何もできないという御指摘があります。実際、今ライドシェアについて法制度化するときに、例えば雇用型しか認めないのか、業務委託によるフリーランスとしてのライドシェアを認めるかというところで、本人は何時間でも働きたいとおっしゃるかもしれないけれども、顧客の安全もあるので、そういう安全対策として一定の規制、自主的に任せないで規制をかけるべきなのではないかということが検討されています。実際、諸外国の中でも、いわゆるプラットフォームワーカーについての就業時間規制をどうするかというのは議論されているところです。
他方で、一人親方さんとかそういうのも含めて、就業時間規制とか健康確保について、プラットフォーム側が何らかのサジェスチョンをしたり、何らかの規制を加えることになると、そのことで労働時間についていろいろ口出ししていったり、健康確保についてサービス提供をしているから労働者に当たるのではないか、そこの辺の関係をどう考えるのかが実は大きな問題になってきているところであります。日本でも業務委託の場合でも安全配慮義務がかかるので、働かせ放題でやっていて健康を阻害した場合には安全配慮義務違反というのが裁判所に行けば科される可能性があるので、そこら辺について具体的に何か懸念されることとか心配されていることとか、具体的に起こっている問題等があれば教えてください。
○平田参考人 ありがとうございます。
まず、前提としてライドシェアとか、本人がちゃんと元気な状態で従事しないと安全に影響を与えてしまう職種については対策が必要かもしれないのですけれども、フリーランスは非常に多様ですので、仮に安全衛生対策上、何か規制をかけるとしても、フリーランス全般にということではなく、特定の業界や職種の個別ルールとして御検討いただくほうがいいと思っております。
その上で、ここに書いてある意見は業界を問わずいろいろな発注者から出てくる言葉でして、例えばエンジニアは非常に人材確保が難しくなっており、発注者側が拝み倒しても社員になってもらえないケースもある中で、フリーランスの優秀な人材をどう確保していくか、皆さんすごく競争されているのです。その中で、競争優位に立つために福利厚生を提供したいというときに、労働者と疑われたら困るから、いろいろやってあげたいのだけれども、できないということで悩んでいる企業さんがいらっしゃったりします。
あとは安全衛生対策です。フードデリバリーとか軽貨物とかもそうだと思います。対策を求められているし、やりたいのだけれども、どこまでやっていいのか分からないということがあります。そういったところに今の労働者性の判断基準の曖昧さが根本的な原因としてあると思いますので、その辺りをしっかり整理していただいて、発注者、そして、フリーランス当事者側も、何がよくて何が駄目なのかというところを各自で判断できるようにしていただきたいなと思っております。お答えになっていますでしょうか。
○水町構成員 ありがとうございます。
○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
首藤先生、どうぞ。
○首藤構成員 大変貴重なお話をありがとうございました。
1点お伺いしたいのですけれども、セーフティーネットのところで非常にニーズが大きいということを改めて実感したところです。他方で、労災保険等の任意加入を認めている場合がありますが、なかなか加入者が増えない実態もあるかなと思っています。発注者に保険料負担を求めているわけではないですというお話がありましたが、もちろん非連続的で取引をしているようなケースも多々あると思うのですけれども、フリーランス個々人から見ると、非連続的であったとしても発注者側から見たときに別々のフリーランスに常に発注をしているような場合もそれなりにあるのかなと思うのです。特定の発注者に負担を求めるということ自体、これも多様なので、どこの業界を指すかというところによって違うと思うのですけれども、一定の業界においてはあり得ると判断してもいいのかどうかという点を教えていただけますか。
○平田参考人 ありがとうございます。
まず、お答えすると、業務委託契約を結んでいても従属的な働き方をされている方に関しては労基法を適用して社保の対象とするということは既に整理されていますので、そういった被用者性が考えられる方々について、しっかり今の仕組みの中で社保を適用していただくのは必要だと思いますし、今後増えていくと思います。
他方で、不特定多数の企業と取引をしているようなフリーランスからしますと、まず、どのクライアントに負担してもらうのだ、みたいな問題が生じるという話と、もう一つはパートナーシップの関係性的に、事業者として対等なパートナーシップを望んでいる方も多く、社保をカバーしてもらっているというようなパターナリスティックな関係性を望んでいないという方も結構いらっしゃるのです。そういった意味からも、自分で払うつもりはありますという方もいらっしゃるのかなと思っています。
労災保険の特別加入制度が実は増えていないというお話がありましたけれども、おっしゃるとおり、30ページのグラフを見ていただいても労災保険のニーズは45.9%です。今回はお示ししなかったのですが、フリーランス新法の施行に合わせて全ての特定受託事業者が特別加入が可能になるということで、今年発表したフリーランス白書の中で労災保険の加入ニーズを聞いております。
そちらのデータでは半数ほど入りたい、前向きに加入検討したいという方はいるのですけれども、保険料が自己負担であることや、フリーランスは労災認定される可能性が低いのではないか、そもそも労災認定の基準が働き方にそぐわない職種も多いので、入っても意味がないのではないかと思っている方も一定数いらっしゃるのかなと思います。例えば家でずっと仕事をしていて、仕事の合間にネットサーフィンしたり、調べものをしたり、ゲームをしたりしている方が、仮に鬱になりましたといったときに、それが過重労働とみなされるのかどうかとか、その辺りはいろいろ難しい面があります。職種によってニーズが変わってくるのが労災保険かなと思います。
他方で、健康保険とか雇用保険を財源としてカバーされている育児・介護のセーフティーネットの部分については、働き方を問わず、職種を問わず、多くの人が求めている部分になります。なので、この2つ、健康保険と雇用保険の部分をどうしていくかというところが多分フリーランスの皆さんの一番の関心事ではないかなと思っております。
○荒木座長 それでは、オンラインから神吉先生、お願いします。
○神吉構成員 多様なフリーランスの働き方につきまして、御説明いただいてありがとうございました。
冒頭で整理してくださったように、ここで言われているフリーランスは、隙間ワーカーや、実際には他の関係では労働者と認定される雇用関係を持っている人が副業的にやるもの、さらに労働時間以外の隙間時間で行うものも含められており、そうだとすると、非常にニーズが多様であるというのはよく理解できました。
その中で、フリーランスという働き方をするポイントといいますかニーズとしては、まずは専門性を発揮する、専門的なキャリアを主体的に構築していくニーズと、それから、自律的な働き方を確保する、それはつまり働き方の柔軟性確保が大きいのではと思います。そのポイントとなる2点の、個々人のニーズでのバランスが多様であるということだと理解しました。
その上で、そうしたフリーランスは現在、統計上は257万人程度、推計では462万人ということだったかと、これは全て隙間ワーカーや雇用を持っている人も含めてという推計ですね。一方で、最近非常に急成長しているスポットワーク、これは雇用形態であることを売りにしているのでグレーアウトしているところに入ると思いますが、専門性と自律性というニーズのうち、柔軟性の確保・自律性の確保を主な目的としてフリーランスを選んでいる人に関しては、雇用形態であるスポットワークが同等の選択肢になってくるように思います。
スポットワークが現在非常に伸びていて、既に登録者が2000万人を超えている状況にあるときに、自律的な柔軟的な働き方をしたい人が、隙間的なフリーランスと、それが雇用で行われる場合とどちらを選ぶか。もしかすると、雇用であるという安心感からスポットワークが急激に伸びているのかなと思った次第です。
そうだとすると、28ページにある、「パターナリスティックな」という表現を先ほどおっしゃられましたけれども、過剰な保護・規制がどういうものを指しているのか、労働者として守られることで何が阻害要因になっているのか、労働時間を先ほど挙げられましたが、その具体的な中身を伺いたいと思いました。
ウーバーの労働者認定に対して、労働者側からも反対の声が上がっている、署名がされているということも伺いましたが、多分そこと裏腹で、何が労働契約関係として扱われることの問題なのかを改めて伺います。
以上です。
○平田参考人 ありがとうございます。
おっしゃっていただいたスポットワークが登場したことによって、どう変わっていくかというところは私もすごく関心を持っている部分でして、先にお伝え申し上げますと、実はフードデリバリー配達員の大規模調査を今年も準備しておりまして、7月から実査を始められたらと思っており、そこでもその辺りをぜひ聞きたいと思っているところです。
現時点でフリーランスの皆さんの声を聞いているわけではないので、あくまで私の仮説ということでお話し申し上げますけれども、スポットワークの選択肢が出てきたことによって、いわゆる柔軟性、時間とか場所の柔軟性だけを求めて業務委託の仕事をしていた方、特にギグワーカーの中ではスポットワークも同等の選択肢になっている可能性はあるかなと思っております。
そもそも私たちが前回フードデリバリー配達員の調査をしたときも、普段見聞きしているお話でも、ギグワークの方々はその仕事自体に大きなこだわりがあるわけではなく、隙間時間をうまく活用して生産性が高い時間としたいという気持ちの方が多いので、選択肢は非常に柔軟に、広く考えていらっしゃると思います。
あと、スポットワークが今伸びている背景として、業務委託で働くというのは一部の偽装フリーランスを除いて、一般的には高い専門性が求められるのです。なので、副業したいけれども、できない、自分に何ができるか分からない、自信がないという方々は今、受け皿がない状態なのです。その方々がスポットワーク、いわゆる労働集約型の仕事が多いと思うのですけれども、そういったお仕事であれば、自分でもできるのではないかということで歩み出しやすいということで増えているのもあると思います。
ここは冒頭申し上げた副業の労働時間通算や割増賃金の問題から、雇用での副業を禁止している会社とか、もしくは雇用での副業は受け入れない、業務委託でしか受け入れないという企業が非常に多いもので、これから労働時間通算のルールが見直されていくと、もっと雇用型で副業したい、スポットワークしたいという方は増えていく可能性があると思っております。
後半の御質問であった、その中で何で反対運動が起きているのかとか、事業者にこだわる方がいるのかという話でいうと、先ほど申し上げたような柔軟性だけを求めている方はスポットワークでもいいと思うのですけれども、私たちがフードデリバリー配達員のグループインタビューでお話を伺っている中で、上司みたいな存在がいないのがいいとか、実際に会社で働いていたときにパワハラとか、そういった問題でメンタルを崩してしまったりして、誰にも指揮監督を受けないことがいいのだとか、あと、就業規則とか、社員は全社会議みたいなのに出なくてはいけないとか、そういうことではなく、働きたいときに自分の意思で誰にもとやかく言われずに働きたいというような方が結構いらっしゃるので、指揮監督の部分でギグワークを求めている方がいるのかと。
グループインタビューで出てきた印象的な言葉をそのまま言うと、ウーバーに雇用主面をされたくないと言っていた方がいらっしゃって、そういう感覚の方も一定いらっしゃるのかなと感じております。お答えになっていますでしょうか。
○神吉構成員 貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。
○荒木座長 ありがとうございました。
時間も来ているのですけれども、1点だけお伺いしてよろしいでしょうか。労働者性判断は予測可能性がない、総合判断でチェックリストになっていないという問題を御指摘いただきました。偽装フリーランス防止のための手引きをつくっておられて、これは逆の視点から同じ作業をされていると思うのですけれども、チェックリスト化したような労働者性判断、あるいはフリーランス性判断、これは相当可能性があるという感触を持っておられるでしょうか。
○平田参考人 ありがとうございます。
先ほど御紹介させていただいた偽装フリーランス防止のための手引きは、今回載せてはいないのですけれども、実はチェックリストもつくりました。そのチェックリストは、あくまでチェックが入ったからといって、すなわち労働者になるわけではなく、総合的判断になりますというような言い訳つきのチェックリストではあるのですけれども、一応重みづけを反映しています。
今の労働者性の判断基準の中でも、特に重く見られる項目と、あくまで補足的な判断になる項目があると思うのですけれども、そこがちゃんと分かるようなチェックリストを目指して作成しまして、例えばこちらの項目は一つでも当てはまっていたら労働者性が肯定される可能性が高いとか、こちらの項目は何個以上当てはまっていたら労働者性を肯定する補強要素になるとか。そういった重みづけも加味しながらチェックリスト化するのは、可能かなと思った次第です。
○荒木座長 ありがとうございました。
安藤先生、お願いします。
○安藤構成員 御説明ありがとうございました。
私からは14ページのところの労働者性の判断で、諾否の自由というのが左下にありまして、こちらに注目した質問を1点させていただきます。
どのようなレベルで断れる・断れないというところが重要かと思うのですが、例えば19ページの整理を見たところ、ビジネス系やギグワーカー、一番左側にあるものは基本的には諾否の自由がありという整理になっています。ただし、全く断れないというのを一つの端っこに置いて、もう一つの端っこに、個々の依頼を断ったとしても、次の正当な依頼がまた来る、つまり、自分の都合がいいとき、またはその仕事の条件がいいときだけ選んでやればいいというものがあります。その間に、断ることはできます。ただ、断ると次の仕事がなかなか発注されないというものがあると思われます。そしてこのような中間形態は、ビジネス系として挙げられているものでもあるでしょう。原稿執筆の依頼であったり講演の依頼について、選り好みをして依頼を断っていたら次はなかなか来なくなってしまう。
これと同じようなことが、左下の整理されているギグワーカーで諾否の自由ありとなっているところでも、そういうような個々の依頼であったり提案を断ったとして不利益があるのかないのかの辺りについて、まず実態を教えていただきたい。
あと、この点を含めて諾否の自由ありという、ここではそういう整理になっているというのは、あくまで個別の依頼、または提案を技術的には断れるけれどもというような基準で、このありなしを決めているのか、この辺り教えていただければと思います。お願いします。
○平田参考人 ありがとうございます。
まず、この諾否の自由について、今回偽装フリーランス防止のための手引きをつくるに当たって労働基準局監督課の皆様にもいろいろ質問をしながら、私も勉強をさせていただいたところなのですけれども、おっしゃるとおり、いわゆる契約書に書いていない新たな業務についてやるかやらないかは、基本的にはフリーランス側が決めていいはずであると理解をしております。
ギグワーカーのプラットフォームがどうなっているかということで言うと、私が把握している限り、何か仕事を断ったという理由で次の発注が受けられなくなるというプラットフォームは見たことも聞いたこともないです。ただ、多くのプラットフォームがレビューの仕組みを採用していまして、レビューの件数が多く評価が高ければ、それだけアルゴリズムで上位に出てきて顧客から選ばれやすくなるというのはありますので、そういった意味で実績を増やしたいがために受けるということはあるかなと思います。
それは別にギグワーカーではなく普通のフリーランスでも同じことで、実績が多いほうがもちろん信頼はされるので、頑張って増やそうという方が多いと思います。プラットフォーム側にコントロールされているかどうかでいうと、そういうことではないと思います。
○荒木座長 それでは、時間も過ぎておりますので、ここまでとしたいと思います。
本日は、若林様、大津様、平田様、大変貴重な御意見をお聞かせいただき、ありがとうございました。
(若林参考人、大津参考人、平田参考人退席、傍聴席へ移動)
○荒木座長 それでは、次の議題に移りたいと思います。本日は、労働基準法の労働者について、これまでの議論を踏まえた検討ができればと考えております。
資料3について事務局から説明をお願いいたします。
○労働条件確保改善対策室長 では、資料3を御覧ください。労働基準法における労働者についてというものになっております。
2ページ、第3回でもお示しをいたしました労働基準法の労働者に関して論点として考えられることでございます。1、2、3番、判断基準をどう考えるか、各法律に関して労働者を同一に解釈する意見は何か、家事使用人についての労働基準法適用をどう考えるかということで、これまでもお示しさせていただきました。
3~5ページまでに関しましては、第6回で整理をさせていただきましたこれまでの議論の整理から関係する部分を抜粋したものとなっております。これは御参照いただければと思います。
第3回で論点を示しまして、その後、御議論をいただいたことを踏まえまして、6ページでございます。これまでの議論を踏まえた考え方(案)というものをまとめております。考えるべき方向性を議論していただきたいこととして、3点まとめております。
1点目でございますが、労働基準法第9条の労働者の定義についてということでございます。労働基準法の労働者の定義は第9条に規定しておりますが、これは法制定時から変わっておりません。今日の課題としまして、もっぱら個別に働く人が労働者に該当するかどうかをどう当てはめるのかというようなことが議論になっているかと思います。これは国際的にも同様ということで、欧米においても労働者の基本的な定義は維持しつつ、個別のプラットフォームワーカー等が労働者の定義に当てはまるか、そういった判断の明確化をしようとしております。こういったことを踏まえましたときに、労働基準法第9条の定義自体をどのように考えるかということが御議論になろうかと思っております。
2点目、昭和60年労働基準法研究会で報告されました労働基準法の労働者の判断基準についてでございます。この判断基準ですが、職種や雇用形態にかかわらず、労働者であると判断するために必要な要件を抽象的に一般化して示されたものと解しております。
また、これらの個別の職種に関連しまして当てはめが難しい事情が生じた場合には、当てはめについての具体的な考え方を通達の形でお示しすることもございます。建設手間請け労働者の判断基準の例というのを第3回にも出させていただいております。
他方で、欧米でのプラットフォームワーカーの労働者性の検討の中で、経済的従属性の考慮というものは入っておりますけれども、昭和60年の判断基準のほうにはないということもございまして、そういったものをどのように扱うか、そして、労働基準法は刑罰法規でございますので、この判断基準が罪刑にも関わってくるということで、罪刑法定主義の観点で適当かどうかこういったことも踏まえて、丁寧に御検討いただく必要があるのかなと考えております。
プラットフォームワーカーに関しましては、プラットフォームを介して契約を行うという特徴がありますので、役務の提供実態を踏まえた検討が求められるという事情があるかと思います。
こうしたことを踏まえまして、1つ目がこの60年の判断基準、これに盛り込むことが適当な要素があるかということ、2つ目といたしまして、プラットフォームワーカーなど、個別の職種に関して、より具体的な判断基準を作成することが可能かどうか、裁判例などを通じて国際動向を踏まえながら検討する必要があるのではないかということ、その上で、契約関係や役務の提供の実態を踏まえまして、労働基準法の労働者に当たらないプラットフォームワーカーの方に対して、労働基準関係法令などにおける特別の取扱いの必要性をどう考えるかといったことが御議論になるのかなと考えております。
3点目、家事使用人についてでございます。家事使用人について労働基準法制定当初からの状況変化、家事使用人の方の働き方の変化を踏まえまして、基準法を適用する方向で具体的施策を検討すべきではないか。その検討に当たりましては、基準法上の使用者義務ですとか災害補償責任、これを私家庭にどこまで負わせることができるのか、そういったことの検討が必要ではないかということをまとめさせていただいております。
こういった論点に関しまして先生方に御議論いただきまして、今後何をやるべきか、どのような形で検討を進めていくべきか、御意見等々をいただければと考えているところでございます。
以上でございます。
○労働条件政策課長 引き続きで恐縮でございますが、本日御欠席の水島先生から御意見を文書でいただきましたので、代読させていただきます。
事務局に提示いただいた考え方の案について、私見を述べさせていただきます。
まず、労働基準法第9条には事業に使用され、賃金を支払われる者という必要な内容が適切に示されており、労働者の定義自体を改正する必要はないと考えます。その上で、労働基準法の労働者の判断基準について、裁判例等を踏まえ、判断要素の追加等を検討することには異論ありません。
さて、労働者災害補償保険法は労働基準法の災害補償制度を補完する役割があり、最高裁判所も労働者災害補償保険法の労働者と労働基準法上の労働者を同じとする立場を採っています。確かに労働者災害補償保険法には労働者に当てはまらない者を一部法の対象とする特別加入制度がありますが、これは任意の制度であり、通常、特別加入者自身が保険料を負担する点でも労働基準法第8章を前提とする労災保険本体と明らかに異なるもので、別の建付けと捉えるべきです。
すなわち、現行制度は労働基準法上の労働者を対象とする本体部分と、労働者に当てはまらないが業務の実情や災害の発生状況等から見て、特に労働者に準じて保護することが適当であると認められる者に加入を認める特別加入制度から構成されていると整理できます。
今後、労働者災害補償保険法の対象範囲を拡大する方向の議論があるかもしれませんが、まずは特別加入制度の拡大可能性から検討すべきであり、もし、それで解決できないのであれば、労災保険本体とも特別加入制度とも異なる新たな枠組みを検討する可能性があると考えます。
申し上げたいことは、労働者の範囲と法律の対象範囲を議論する際には、各法律の制度に照らし、整理した上での議論が必要ということです。
家事使用人については、「その労働の態様が各事業における労働とは相当に異なったものであり、各事業に使用される場合と同一の労働条件で律するのは適当ではないことから、労基法の適用がないとされている」と述べる裁判例もありますが、私も私家庭における労働と企業等における労働は相当異なると考えます。
別の裁判例が、「家事使用人について、労働基準法の適用が除外されている趣旨は、家事一般に携わる家事使用人の労働が一般家庭における私生活と密着して行われるため、その労働条件等について、これを把握して労働基準法による国家的監督・規制に服せしめることが実際上困難であり、その実効性が期し難いこと、また、私生活と密着した労働条件等についての監督・規制等を及ぼすことが、一般家庭における私生活の自由の保障との調和上、好ましくないという配慮があったことに基づくものと解される」と述べるとおり、労働基準法を私家庭に適用することにより、労働基準法による国家的監督・規制が私家庭に及ぶことを懸念します。
使用者は労働者の労働力を利用して利潤を得る者であり、利益の帰属者との性格があります。お手伝いさんを雇っている一般家庭にそのような性格があるとは思えません。私家庭と営利を目的とする事業等を同等に扱い、私家庭に使用者としての責任を負わせることに疑問を感じます。
以上でございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
それでは、ただいまの事務局の説明について御意見・御質問等があれば、委員の皆様からお願いいたします。
水町先生、どうぞ。
○水町構成員 今、御説明いただいた6ページの2の下のほうの①②の部分について、法的な観点からやや疑問に思う点を3点挙げさせていただきます。
まず一つは、昭和60年研究会報告の位置づけ、これは何か法的根拠があって法令上位置づけられているものではなくて、昭和60年の前の段階で、その前の段階にある裁判例などを踏まえながらどうなっているかというのを整理したもので、実際、それについて必ずしも自覚的・無自覚的にそれを基にした事実上の判断が行政でも裁判例でも積み重ねられてきていますが、今になって見てみると、内在する理論的な問題点が散見されたり、さらには、もう40年近くたっていますので実態の変化に対応できない点が出てきています。
そういう意味で、ここで昭和60年判断基準に盛り込むということが書かれていますが、この昭和60年の研究会報告自体を所与の前提として議論をするということよりかは、もう1回きちんと専門的な検討をして、労働者概念自体をどう考えるかというのを議論していくべきだというのが1点目です。
2点目は、諸外国で何をやっているか。労働者概念をいろいろ見てみたところ、総合判断で予測可能性が非常に低いというところはどの国でも共通しているところですが、今、各国で何をしているかというと、予測可能性を高めたり、さらには取引の安定性・安全性を高めるためにはどうしたらいいのかということを一生懸命やっているわけです。例えば裁判になってみると、立証責任の在り方とも密接に関わってくるところです。
実はEUで推定方式をEU指令で今度入れて、2年以内に各国でどういう推定規定を設けるかというのがこれから議論になるところですが、これは労働者推定だけではなくて、実は諸外国のやつを見てみると、事業主として推定するとか、場合によっては一定の保護を与えた上で、事業主としてみなすという国の方法も実際に法令上あって、いろいろな形で予測可能性をどう高めるか、場合によっては推定とかみなしを入れるときは法律改正が必要になってくるので、そういう予測可能性を高める方法としてどういうものがあるのか。労働者概念の具体的な中身だけではなくて法的な方式、先ほどチェックリスト方式というのもありましたが、そういうのも含めてどうやって予測可能性を高めて法的安定性を高めるかというのも、もう少しきちんと議論していくことが必要というのが2点目です。
それと、先ほど平田さんの話の中で申し上げましたが、それを超えてプラットフォームワーカーとかフリーランスとか、労働者に当たらない場合にも一定の社会的保護を及ぼすということが重要だということが各国で併せて議論されているところです。
その中で、労働者概念との兼ね合いで問題になってきているのは、健康確保とか、いろいろな社会的保護をいわゆる業務委託、プラットフォーマーかフリーランス、労働者ではない人に及ぼすときに、その健康確保とか報酬の保障とか、そういう社会的保護を及ぼすことが労働者概念にどう影響するかしないのかというところをきちんと議論しているところです。健康確保とか就業時間規制とか報酬の安定とか、そういうものを及ぼしていけばいくほど、黙っていれば、労働者概念をそのままにしておくと、労働者になってしまうということでいいのかどうかというところで、労働者概念にそれをそのまま考慮するという国もありますし、逆に労働者かどうかにかかわらず必要な社会的保護については労働者概念の中で考慮に入れないというやり方もあります。
逆に、先ほどの2番目の問題で言ったように、社会的保護を及ぼすけれども使用者と推定する、事業主と推定する、事業者とみなすというやり方を取って、労働者概念との抵触を避けるというような方法を採っている国もあります。
そういう意味で、労働者概念は実は中身を実態の変化に合わせてどのように変えていくかということと同時に、併せて法制度の在り方としてどういう仕組みにするかというのを両方考えないといけないので、そういうことも含めて、この①②というのを諸外国の状況も含めた制度の立てつけとの兼ね合いも含めて、少し専門的な検討を行っていって、これは多分すぐに答えが出る問題ではないと思いますが、少し専門的な検討を深めた上で、もう1回、民主的な議論のテーブルにのせるための原案をつくっていくことが大切ではないかなと思います。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
ほかにはいかがでしょうか。
安藤先生、どうぞ。
○安藤構成員 6ページ目の2のところで、欧米でのプラットフォームワーカーの労働者性の検討においては経済的従属性を考慮しているというお話がございます。この下、太字のところで国際動向も踏まえながらという記述もありますが、労働者性の判断として、今のような多様化した社会でいろいろな人が働いている、場合によっては外国から来た人が日本で働くことも増える中で、ルールを国際的に調和させることがどのくらい必要なのかという点が気になっております。
そして、欧米では経済的従属性を考慮しているという話ですが、先ほどフリーランス協会様からいただいた資料の中では、独立系フリーランスと副業を分けて左右に並べて説明されていました。ここで例えば本業で生活できるだけの収入があって、隙間時間に副業していますという場合には経済的従属性がなく、そうではなく、独立的なフリーランスの場合には経済的従属性があるとなったような場合に、全く同じ仕事をしているのだけれども、ほかに本業となるような仕事があるかどうかによって、この労働者性が変わってくるというのも何か不自然な気もしています。この辺りをどのように整理するのが、ほかの国での整理とのバランスが取れている形なのか、また日本における実態というものを踏まえて、まさに理解しやすい、捉えやすいものになるのかという観点から検討が必要かなと感じました。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
ほかにはいかがでしょうか。
島田先生、お願いします。
○島田構成員 水町先生のおっしゃったことで質問させていただきたいのですけれども、60年報告はその当時の裁判例を整理したものであって、今では変化に対応できていないので検討するべきとおっしゃっていたという点です。
あの60年報告をベースとした裁判例、あるいは行政の判断などが多くあって、今ずっとあれがベースになっていろいろ判断されていると思うのです。軽重は多少変わっているかもしれないと思うのですけれども、あれがベースに裁判例は今まで、ある程度積み重なってしまっているので、あれを一から時代に合ったものをつくり直そうとなったときの指針というのは、多分裁判例はあまり役に立たないと思うのですが、そうなったときの専門的に検討するべき指針となるものは、一体どのようなものになるのでしょうか。諸外国の制度を整理するというのは一つそうだと思うのですけれども、具体的に方向性がありましたら教えていただけますでしょうか。お願いします。
○荒木座長 水町先生、お願いします。
○水町構成員 ありがとうございます。
昭和60年報告以降のこれまである裁判例は分析するためにもちろん重要なものになると思いますが、実は裁判例の中で、その実態の変化を踏まえながらきちんと分析しているかどうか。ただ、所与の前提としてあるので、それをそのまま当てはめて変な結果になりましたというようなものもなくはないですし、裁判例をきちんと分析しつつ、かつ、それに対して学説がいろいろな反応をしているので、学説がどのように反応しているか。そこに内在する理論的な問題点に関する指摘もあります。
新しい実態については、諸外国が先に進んでいるところもありますので、諸外国の実態とか諸外国の法令・裁判例も見ながら、新しいこれから出てくる日本の実態等に対して、どのように対応するかというのは複眼的に分析することが必要なのではないかと思います。
○島田構成員 ありがとうございます。
○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
首藤先生、どうぞ。
○首藤構成員 法的なところは門外漢で分からないところが多いのですけれども、実態として、先ほど平田様からもお話がありましたけれども、フリーランスはすごく多様な中で、交渉力を持ちながら活動されている方もいる一方で、これまでも議論になっている偽装フリーランスが疑われるケースであるとか、グレーゾーンのケースが広がっていることも事実だと思っております。
労働者性の労働者の定義をどう見直していくのかということも重要だと思うのですけれども、何らかの形で労働者の定義が見直されるか、このままかということで定義ができたとしても、そこからまたグレーのゾーンというのは常に出てくると予想されますので、そこにどう対応するのかということの検討が私は必要だと思っております。ですので、6ページの2の特に太字で書かれているところの②の最後のところ、労働基準関係法令などにおける特別の取扱いの必要性について、議論は必要だろうと思っております。
先ほど水島先生からもございましたが、労働者に当たらない場合においても健康の確保であったりとか、労働の安全基準であったりというようなところをどのように保障していくのかというところは、ぜひ議論していただきたいと思っています。
○荒木座長 ありがとうございました。
労働者の概念を議論するときに、これまでは労働基準法という法律があって、これを誰に適用するのかといったときに、労基法上の労働者に当たる人ということで、労働基準法の適用範囲を画する概念として労働者性が議論されてきたということだと思います。先ほど水町先生の発言にもありましたけれども、労働者に該当した場合にどういう規制が適用されるのか、つまり法規制の中身はどういうものになっていて、それはどういう人に適用されるべきか。概念だけを議論していくことに意味があるのではなくて、適用される法制度がどういうものか、その法制度が適用される対象者としてどういう者が適切かを考える必要がある。したがって、労働者概念の問題と適用される制度の中身、この双方を考えなければ建設的な議論にならないと思っています。
例えば労働基準法が昭和62年に改正されて裁量労働制が入りました。それまでは、労働時間について自分で決められるような、いわば拘束がないような働き方をしていた労働者はいなかったかもしれませんが、裁量労働制という制度を労働基準法の中に設けたために、非常に裁量的に働く方も労基法上の労働者ではあるけれども、時間的な拘束はないという働き方が認められた。つまり制度のほうで受け皿を作ったために労働者概念を議論せずに、労基法上の労働者のまま、そのような働き方を受け止めることになりました。
昨年、フリーランス法が制定されまして、労働基準法の労働者とみなされない人についても就業環境については一定の保護を及ぼすということで、これは独立自営業者であっても雇用に類似したような働き方をされている個人については一定の保護を及ぼそうという、法制度のほうで受け皿をつくったということです。この受け皿がきちんとしていれば、労働基準法の労働者とみなさなくても、その就業実態に見合った適切な働き方が確保されるということかもしれません。
ということで、労働者概念をどう見直すかという問題は、労働者に当たる、あるいは当たらないときに適用される法制度としてどういう受け皿があるか、概念と制度の双方を見ながら議論する必要がある。まさに労働基準法制をどう見直していくかということとパラレルに労働者概念も議論を深めていくべき問題ということかと、お話を伺って感じたところでした。
ほかにはいかがでしょうか。
神吉先生、お願いします。
○神吉構成員 簡単に1点だけ。先ほど安藤先生が御指摘になった点は重要で、「労働者」という言い方をすることで属人的な性質のように捉えられてしまうと良くないと思っております。今、働き方が非常に多様化していて、先ほどフリーランスのお話でもありましたように、ある使用者との関係では完全に雇用関係にあるけれども、別に請負的な仕事をしたり、契約も多層化するなかで、雇用であっても非常にタスクが細分化してスポット的に働いたりとなると、個人が労働者かどうかではなく、契約関係をベースに個別に見ていくのだという原則をより明らかにする必要があります。
具体的に労働者性の基準の中にそうした考え方を反映させると、経済的従属性を労基法の基準の中に入れていくのは、かなり難しいと思います。たとえば専属性の程度を現在、どこまで重要視する必要があるのかは気にかかっています。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
ほかにはいかがでしょうか。
事務局からお願いします。
○労働条件確保改善対策室長 事務局から失礼いたします。
本研究会でこれまで議論をしてきた中で、先ほど水町先生からかなり専門的な議論をしっかり深めていくべきだというようなお話もいただきました。本会でいろいろな制度を含めて検討を進めてきたところでございますが、本件に関して今後の検討の進め方、先生方はどのようなイメージをお持ちかいうのをお聞かせいただければありがたいかなと思うのですが、今後どのような形で検討を進めていくべきでございましょうかというようなところでございます。
○荒木座長 労働者性の問題は大変重たい議論ですけれども、今後どう議論していくのがよろしいでしょうかというお尋ねですが、いかがでしょうか。
○水町構成員 私が勝手に個人的な見解を言っていいかどうかあれですが、おっしゃっているように、1番のところで、基本的な法律上の定義を今直ちに労働者概念が変容している中で定義を変えている国というのはほとんどない中で、直ちに労働基準法上の労働者概念の法律改正をして定義を変えるということが必要かどうかについては、直ちに行わなくてはいけないという状況にはないと思います。
労働基準法上に書かれた労働者の定義の中身についてどう考えるかというのは、議論をこれからきちんと深めなくてはいけないところでもありますし、仮に推定方式、みなし方式も含めた、例えば法的な明確性・予測可能性、立証責任の適切な分配等も考えた制度、あと、荒木先生もおっしゃったように、労働法制全体の制度の在り方との関係でどう考えていくかということを考えるとすると、これも専門的な議論をもう少し積み重ねていかなくてはいけないと思います。無駄に長い時間をかける必要はないと思いますが、直ちにすぐ、来月、再来月に答えが出るような問題でもないと思います。
EU指令がこれから正式に公表されて、そして、2年以内に推定方式を入れるというときに、前提として、どういう指揮監督関係が各国であるときには推定するという、労働者性の判断の中身についても議論して、2年以内に各国が法令の整備をするということになっているので、そこの状況等も勘案しつつ、日本の制度設計をどうするかというのを、さらに専門的な観点から研究した上で、もう一度議論のテーブルにのせるというステップにするのが私はふさわしいのではないかなと個人的には思います。
○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
この点について、これは私個人の見解でありますけれども、まさに受け皿となる法制度をどのようなものとして構想するかということを踏まえた労働者概念の議論が必要だと思います。それから、世界各国で労働者概念が大変議論されているのは、実はギグワーク、プラットフォームワークの広がりによって、多数の訴訟が起こされ、実際に法改正を行った国もある。しかし、立法がされても事態はさらに混迷を深めている状況も見られます。
そういう状況の中でどうするか。つまり、直接契約関係のある人の労働者性の問題と、プラットフォームを介して役務を提供することがデジタルエコノミーの下で可能となったという新しい現象の下での労働者性をどう捉えるかという2つの問題があるわけです。プラットフォームワークについてはEUの動きもありますし、それから、ILOでも来年、再来年でしょうか、総会の議題として議論することが予定されているということがあります。そこで、これはプラットフォームワーカーのことも含めた上で労働者性をどう考えるかを、拙速に議論するというよりも、じっくりと専門的な分析を踏まえて検討するのが、私も適切ではないかと考えています。そういう意見があったということを含めて、今後さらにどうするか検討いただければと思います。
ほかにはいかがでしょうか。
黒田先生、お願いします。
○黒田構成員 私も法律は門外漢なので的外れなことを申し上げるかもしれません。議論の進め方に特に意見があるわけではないのですが、今、荒木先生がおっしゃった労働者性の概念が社会的にどう変わっていくかという話で、プラットフォームワーカーの出現がかなり影響しているという話がありました。
健康という面で言うと、一番分かりやすいのは事故ですとか怪我、労災と呼べるかどうか分からないですが、仕事に関するような怪我に関しては、3年前の日本の調査で、例えば切り傷とか擦り傷というマイナーな怪我ですとか、日常生活に活動制限を及ぼすような怪我に関して、どちらも通常の伝統的な雇用形式で働いている方に比べると、非常に高い割合で経験しているというような調査結果が出ています。マイナーな怪我だと4倍ぐらい、活動制限が出るような怪我だと9倍ぐらいギグワーカーの方が経験している。もちろん業務内容によって違うのですけれども、そういう調査結果があります。
それが直ちに労働者性に影響を及ぼすかどうかということは、私には意見を申し上げられないのですが、先ほど水島先生から前もって出された意見にもあったように、受け皿として補償ですとか救済ですとか、そういうところにはできるだけ早く適用がされるといいのではないか。労働者性の議論は少し時間がかかりそうなので、違うほうでカバーできる、手当ができる方向で早めに議論が進むといいのかなと思っています。
以上です。
○荒木座長 ありがとうございます。
一定のフリーランスについては既に特別加入を用意しておりますけれども、フリーランス法ができたことで、フリーランス一般について全て特別加入が可能ということになりました。
さらに諸外国ではプラットフォームワーカーについては、プラットフォーマー(プラットフォーム事業者)に一定程度保険料を拠出させるというような議論もなされているところですので、そういうことも含めて必要な対応については早急に議論することが必要だと思います。
安藤先生、どうぞ。
○安藤構成員 資料6ページの最後、家事使用人について、水島先生から事前にいただいていたお話として、私家庭に労働基準法上の使用者義務、災害補償義務の責任を負わせることについて否定的な御意見があったかと思います。私個人としては、これまで家事使用人の位置づけが時代を経て変わってきたということを踏まえて、基本的には労働基準法を適用する、それもここで挙げたような使用者義務や災害補償についても一定の責任を負うべきだと考えていたのですが、法学者の先生たちがどうお考えなのかということをお伺いしておきたいのです。これも事前の根回しもないむちゃ振りかもしれませんが、御意見があったら教えていただきたいと思います。
○荒木座長 いかがでしょうか。
水町先生、どうぞ。
○水町構成員 私家庭においても労働者に該当するような指揮監督、使用しながら労働し、それに対して賃金を支払うという実態があれば、私家庭における人も使用者として労働基準法上の責任を負う。ただし、家事使用人については適用除外されていたので、今までそれが及んでいなかったということなので、適用除外から外して、労働基準法の適用の世界に入ってくると、その他の場合によっては、私家庭が負うかもしれない労働基準法上の責任を、家事使用人を使う私家庭も同じように負ってくださいという議論になると思います。なので、家事使用人だけ今まで特別扱いしていたのを通常の扱いにしましょうというコンテクストでの議論かなと私は思います。
○荒木座長 これもどういう法制度で受けるかということもありまして、労働安全衛生についてはそれで特別に対応する。それから、解雇のような問題について労働基準法というよりも労働契約法の問題として受けるとか、問題ごとにどう受けるのがベストなのかというのは、労働基準法上の労働者とみてもさらに議論となり得るところかと思います。そういう問題提起が水島先生の議論からは導かれるかと承ったところでした。
それでは、予定した時間を過ぎておりますので、第8回の研究会はこれで終了ということにいたします。
本日も、お忙しい中御参加いただきまして、どうもありがとうございました。