第6回労働基準関係法制研究会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和6年4月23日(火) 13:00~15:00

場所

厚生労働省 専用22~24会議室

議題

労働基準関係法制について

議事

議事内容
○荒木座長 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第6回「労働基準関係法制研究会」を開催いたします。構成員の皆様方には、御多忙のところ御参集いただきまして、ありがとうございます。
 本日の研究会につきましては、会場参加とオンライン参加の双方の方式で開催いたします。
 本日は、石﨑先生、黒田先生、島田先生、水島先生、山川先生がオンラインでの出席と承っております。
 それでは、カメラ撮りはここまでということでお願いします。
 議事に入ります。この研究会では、これまで5回にわたって委員の先生方と様々な論点について意見を交換させていただきました。当初検討しなければならないと考えられていた事項については、おおむね一巡して議論できたのではないかと考えております。そこで、本日は議論の振り返りを行うため、事務局にこれまでいただいた御意見をまとめて組み立てたものを資料として用意していただいております。
 まず、事務局より、その資料について説明をお願いいたします。
○労働条件確保改善対策室長 それでは、「労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理」を御覧ください。
 ページをおめくりいただきまして、3ページ目からでございます。
 まず、Iでございますけれども、この資料の位置づけでございます。この資料は、今後の研究会で、より具体的に各論点について掘り下げていただくために、これまでの研究会でいただきました先生方の御意見を整理し、リストアップしたという形のものとなっております。したがいまして、Ⅱ以降、各論点についていただいた意見を政策ごとに分類してまとめたという形になっております。
 3ページ中段、Ⅱからが本論でございます。この中で、全体でございますが、Iに書いてある4つの分類に分けております。まず、労働時間法制に関するもの。2つ目として、労働基準法の「事業」に関するもの。3つ目として、労働基準法の「労働者」に関するもの。最後に、労使コミュニケーションに関するものというふうに章分けをしております。
 3ページ中頃からは、まず1つ目、「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」に関する部分でございます。この中は、さらに3つに分けております。その下に書いておりますとおり、最長労働時間規制に関すること、労働時間からの解放の規制に関すること、割増賃金規制に関することというふうに3つに分けております。
 4ページ、まずは最長労働時間規制に関するところでございます。
 その1番目が、時間外・休日労働の上限規制に関する部分でございます。
 こちらに関しまして、働き方改革関連法の評価の部分でございますが、働き方改革関連法で導入いたしました時間外労働の上限規制により、一定の労働時間の縮減効果があったという御意見をいただいております。
 それを踏まえての今後の議論の方向性に関していただいた御意見ですが、原則であるところの月45時間、年360時間に近づけていくように努めていくという部分と、いわゆる適用猶予業種にも上限規制が適用されたというような状況も踏まえて、施行状況を見ながら、さらに健康確保措置や長時間労働の撲滅といったことを考えていかなければならない。その際、強行法規だけではなく、情報公表等の手法も含めて議論すべきといった様々な御意見をいただいたところです。
 次いで、2つ目ですが、労働時間の意義等と題しております。これは先ほどの上限規制と関係してきますが、そもそも労働時間規制というものは何のためにあるのかというところで、健康確保のための制限ということなのか、それともワークライフバランス、生活との関係も踏まえたものを考えてくべきなのかといったところで様々な御意見をいただいたところでございます。それにつきまして、5ページに一覧としてまとめさせていただいております。そういった哲学的なところに加えまして、事業場外みなし労働時間制の労働時間を算定しがたい部分ですとか、テレワーク中の労働時間管理といったものに関しても御意見をいただいたところです。
 6ページ、(3)(4)(5)の部分でございます。これは裁量労働制・高度プロフェッショナル制度・管理監督者、テレワーク、法定労働時間週44時間の特例措置ということで、個別の論点になります。
 まず、3番、裁量労働制・高度プロフェッショナル制度・管理監督者のところでございますけれども、これに関しまして、一部、長時間労働もみられるという中で、健康・福祉確保措置についてでございますが、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度に関しましては、健康・福祉確保措置が一定、設けられているところである一方で、管理監督者等には設けられていないという御意見をいただいていたり、健康・福祉確保措置が導入されているのは医師の面接指導・窓口であるけれども、相談や指導後の改善も含めた検討をすべきでないかという御意見、そういった健康確保をしっかりしていくべきという御意見をいただいたところです。
 4番目、テレワーク等の柔軟な働き方のところでございます。働き方改革関連法の施行後の評価として、テレワークについては、仕事と生活を両立させやすいという中で、時間管理を厳格にやっているところもあれば、緩やかなところもあるという中で、実態に合わせたものが求められるのではないかというような御議論をいただいたところです。
 今後の議論の方向性といたしましても、フレックスタイム制やみなし労働時間制などの緩やかな時間管理の下で行えるようにすべきというような御意見をいただいている中で、テレワーク下の長時間労働も踏まえて検討を進めなければならないのではないかということも言われたところでございます。
 そういったところで、具体的な制度設計をどうしていくかということで、7ページに列挙しておりますような御意見をいただいております。
 5番目、法定労働時間週44時間の特例措置に関しましては、既にその役割を終えているのではないかという御意見をいただいている一方で、業種に特徴的な労働時間の実態もきちんと踏まえて検討すべきという御意見をいただいていたところです。
 7ページ、下のところから2つ目でございます。労働時間からの解放の規制のブロックでございます。
 その1つ目、法定休日制度というところでございます。ここに関しましては、御議論、2つあったかと思います。1つが、現在の基準法で認められている4週4休制に関しまして、かなりの連続勤務が可能になることなど、課題があるという御意見をいただいておりまして、この4週4休制の扱いについて、どうするかということを検討すべきという御意見。それから、8ページに移りまして、疲労回復の程度は休養タイミングと量に依存することもありまして、週に1回は休日が必要というようなルールは必要ではないかというような御議論をいただいたところです。
 続いて、2つ目、勤務間インターバル制度に関するところでございます。
 勤務間インターバル制度に関して、働き方改革関連法施行後の評価として、導入企業は増えているものの、普及したとまでは言いがたい水準であり、より普及を進めていくべきであるという御意見ですとか、科学的に見て11時間を基本に考えるべきではないかというような御意見をいただいていたところです。
 8ページ、真ん中から今後に関する御意見というところで、基本的には勤務間インターバルの導入は進めていくべきというところではございますが、罰則付きの義務規定でやるものなのかどうかというところで、罰則付きの義務規定を法に設けるのではなくて、労使の話し合いで進めていくという方向ではないかといった御意見もいただいたところでございます。
 また、深夜勤務に関して、常態的に行う場合も不規則に行う場合も健康に影響があるのではないかという御意見。そういったものを含めてインターバルをしっかり保つ規制をしていくべきではないかといった御意見もいただいたところでございます。
 9ページ目、3番目、年次有給休暇制度についてでございます。
 働き方改革関連法で入れたものとしましては、企業による5日間の時季指定義務。それから、時間単位年休の取得にかかる上限日数を5日とするところでございますけれども、そこに関しまして、年休取得率の向上に一定の効果があったという御意見をいただいておりまして、それを踏まえてどうするかというところでございます。
 今後の議論に関する方向性として、年休の計画的な完全消化をしっかり目指していくべきという御意見をいただいているところですとか、時季指定に関しまして、事前に計画的な手法を検討すべきという御意見をいただいていたところです。
 また、労働者の年休の残日数の把握とか時間単位年休との関係の整理といったような課題もあるということで、その取扱いを検討してはどうかという御意見もいただいていたところです。
 9ページ、下のところ、4つ目、休憩でございます。
 休憩に関しまして、まず、いただいた御意見として、労働基準法34条第2項で休憩は一斉に付与する、一斉付与でない場合には労使協定を結ぶ必要があるというような手続になっております。これについて、現代では交代で休憩を取ることが通常であることから、労使協定まで必要なのかというような御意見をいただいております。
 2点目が、休憩時間に関して、6時間につき45分、8時間につき1時間というのが現行規定でございますけれども、もっと労働時間が長い場合にこのままでいいのだろうかというような御意見もいただいたところです。
 10ページ目、中段から3つ目の論点、割増賃金規制でございます。
 1つ目の割増賃金の趣旨・目的というところで、割増賃金は、時間外・休日・深夜の労働抑制、そして、それを行った場合の補償の趣旨であるというようなところで御説明いただいていたところです。
 今後、割増賃金規制に関して、時間外の労働の抑制効果がどれだけ働いているのかということ。一方で、労働市場において人手不足の傾向が強まっている中で、労働時間が増えやすくなっている。こういった中で、割増賃金に今後どこまで頼っていくのかというような御議論をいただいたところです。
 こういった基本的な御議論を踏まえまして、11ページ、2番目、副業・兼業の場合の割増賃金というところで、1つ項目を立てております。
 副業・兼業に関しましては、働き方改革関連法の施行以降、認める企業は増加しているところでございますけれども、労働時間の通算の煩雑さ等々、雇用ではなく請負で副業・兼業を受け入れているケースが多くなっているのではないかという御意見ですとか、労働者の保護の観点からも、雇用での副業・兼業をやりやすくしていくべきではないかというような御意見をいただいたところです。
 今後の方向性に関しまして、副業・兼業を行う場合の労働時間をどう考えるかというところで、健康確保のための労働時間通算は絶対に必要であるというのは、御議論としていただいています。その上で、割増賃金に係る通算に関しては、真ん中のところにありますような弊害も考え得るということで、検討すべきではないかというような御意見をいただいたところです。
 以上、1番目の労働時間制度に関する部分でございます。
 続いて、11ページ、2番目の「労働基準法の「事業」について」の部分でございます。労働基準法の「事業」の概念に関しては、法律上、12ページ、上の表に整理いたしましたような機能を持っているということ。その機能を踏まえて、それぞれどのような概念で整理していくかということを御議論いただきました。
 今後の方向性に関してでございますが、「事業」の概念に関して、これを場所的概念で持つのかどうなのかということですとか、現行の行政解釈を維持するのか。維持する場合に事業場という判定をどう考えていくのか。特に、テレワークの場合などを含めた検討が必要ではないかというようなことを御議論いただいたところでございます。
 監督行政との関係ですとか、事業の責任主体である「使用者」が企業全体として動いている中での事業場単位というものをどう考えるのかとか、あるいは「人」に関すること、「場所」に関すること、「行動」や「物」に関することといった物事の性質に応じて事業場単位で考えるのか、そうでないのかということを考えていくべきではないかというような御意見をいただいたところです。
 13ページから大きな3番目「労働基準法の「労働者」について」というところでございます。労働者の概念に関しましては、近年の働き方の多様化に伴って、労働者であるかどうかを判断する判断基準に関して、どうしていくかという部分でございます。
 13ページ、中段から、まず1つ目でございますが、労働者性の判断基準と予見可能性ということで、現在、昭和60年の研究会報告によって労働者性の判断の基準が示されているというものでございますが、働き方が多様化していく中で予見可能性が低くなってきているのではないか。そういった中で、諸外国の状況なども踏まえながら、特にプラットフォームワーカーに関する推定方式の検討とか、昭和60年の基準そのものの見直しも含めて議論していくべきではないかというような御議論をいただいていたところでございます。
 14ページに移りまして、働く人自身が、自分が労働者に該当する可能性について認識することが必要であって、そのために、こういった基準に関して、きちんと働き方を認識していただく必要があるのではないかというような御議論ですとか、労働者に当たらない方への保護制度をどうするのか、それと、労働者の保護制度との連続性をどう保っていくのか、そういったような課題について御意見をいただいたところでございます。
 14ページ、下段、(2)でございます。労働基準法以外の法令の対象範囲ということで、1番のところは労働基準法の労働者に関する御議論でございましたが、それ以外の法律、例えば労働安全衛生法とか労働契約法とか労災保険法といったものでございます。これら法律に関しましても、労働者の範囲は同じとされております。
 一方で、それぞれの法律には、例えば労働安全衛生法に関しては、一人親方に特別な配慮規定を置いているとか、労働契約法の安全配慮義務は労働者以外にも適用されるということですとか、労災保険法に特別加入で一部自営業者を対象としているとか、それぞれの法律の単位というものがあるのではないかというような御議論をいただいております。そういった中で、それらの法律に関しては、それぞれ対象範囲というものを考えていくべきではないかといったような御意見をいただいたところです。
 15ページ、中段から、3番目、アルゴリズムによる使用者の指揮等新しい労働者概念というところでございます。これに関しましては、いわゆるプラットフォーム労働で、AIやアルゴリズムによって仕事の指示を受けておられる方々に関しての労働者の概念をどう考えていくのかというところでございます。これに関して、アルゴリズムの使用についての最終決定責任は人間であるということで、そこの使用者責任が管理者なのか設計者なのか人事担当者なのかといった様々なパターンがある中で、使用者が誰なのかというものをしっかり考えていかなければならないのではないかというようなことを、御議論としていただいていたところでございます。
 なお、こうしたプラットフォーム経済に関しましては、来年のILO 2025の総会におきましても議題とされる予定でございまして、総会の議題として「プラットフォーム経済におけるディーセントワーク」というものが挙げられております。今回、御議論いただいたようなアルゴリズムに関する労働者の労働者性も含めた議論が、ILO等の国際機関でもなされているという状況でございます。
 16ページ、4番目の家事使用人ということでございます。こちらに関しましては、基本的には労働基準法を適用する方向で検討すべきという御意見をいただいております。ただ、一方で、家事使用人の雇用主は私家庭であるということから、私家庭に労働基準法上の使用者義務を負わせること、災害補償責任を負わせることについては、しっかり検討すべきであるという御意見をいただいております。
 16ページ、中段から、4番目のブロック、「労使コミュニケーションについて」でございます。 労使コミュニケーションに関しては、労使が団体交渉して、よりよい労働条件を設定していくというもの、労働基準法制にある最低基準について労使合意で例外を認めるものといった2つの労使コミュニケーションがある中で、どのように考えていくかということで御議論いただきました。
 労使コミュニケーションのブロックも2つに分けております。1つ目は、4-1の集団的労使コミュニケーションの意義と課題ということで、全体的な労使コミュニケーションをどうしていくのかというところです。2つ目は、過半数代表者による労使コミュニケーションの課題ということで、特に手続上、各事業場の過半数代表者を選出するというふうにされているところに関して、その課題と解決に向けた検討について御議論いただきました。
 まず、4-1の(1)、労使コミュニケーションの意義と課題というところでございますが、労使コミュニケーションは、労働者個人と使用者の間にある交渉力の格差を埋め合わせることに意義があるということ。また、その労働組合などを通じて労働者が声を上げやすい環境をつくるということで、企業と様々な交渉をする中で、企業にとっても労働者にとっても、よりよい労使自治ができるというようなことを御意見としていただいているところでございます。そういったものを17ページに列挙してまとめさせていただいております。
 これを踏まえまして、大きな課題として、(2)労使協議を行う単位というところでございます。ここに関しましては、労使協議の単位、現在は特にいわゆるデロゲーションに関するものであれば、事業場単位で労使協定を結ぶというのが基本ルールとなっておりますけれども、これを事業場単位のままでいいのか、一部企業単位を入れるべきでないのかといったところで、様々御意見をいただいたところでございます。
 企業単位とする際には、労使関係が形骸化する危険もあるということで、一番上のポツに挙げさせていただいたような懸念があるのではないかという御意見をいただいておりますし、一方で、事業場単位に関しましては、3つ目のところにありますように、既に分断化されてしまっている中で、組合のない事業場の労使コミュニケーションをどうしていくのか、そこが大事なのではないかというような御意見をいただいたところでございます。意見は様々なものをいただきましたが、共通して労使コミュニケーションをしっかりと充実したものにしていかなければならないという方向性で御議論いただいていたのかなというところでございます。
 18ページ、下のところから、4-2 過半数代表者による労使コミュニケーションの課題というところでございます。
 (1)過半数代表者に関する課題ということで、手続としての過半数代表者を各事業場で選んでいただくことになっておりますが、様々な課題が指摘されている。特に、19ページの(2)で挙げましたような選出手続に関することに関しては、民主的な手続というものをどのように担保していくのかというのが重要な課題になっているという御意見をいただいているところでございます。
 それから、3番目、19ページ下のところから、過半数代表者を選んだ後に、その過半数代表者がどのように労働者の意見を集約していくのか、そこには大きな課題があるのではないかという御意見をいただきました。
 そこも踏まえまして、20ページの4番にありますように、そういったところを支援するために仕組みをどのように考えるのか。過半数代表者になっていただく労働者全体に対して、きちんと教育・研修しなければならないのではないかということですとか、外部の専門家を活用していただいて、過半数代表者の活動を支援できるのではないかといったような御意見をいただいたところです。
 21ページ、5番目として、過半数代表者以外の仕組みということで、ドイツやフランスにおける従業員代表者制度というものも例に引きながら、いわゆる労使での委員会方式のようなもので労使協議をより発展的にやっていけないかというような観点から、様々な御意見をいただきました。その際、組合との関係も踏まえまして、組合の重要性というものも言及いただいておりますし、それとの関係を考えながら検討していく必要があるだろうというような御意見をいただいていたところです。
 最後に、6番、22ページ、個別の労使コミュニケーションでございますが、個人がどう働きたいかサポートしていくという観点から、個別の労使コミュニケーションも重要であるという御意見をいただいたところです。
 以上、ざっと先生方の御意見をまとめたものでございます。これを基に今後に向けた御議論をいただければというふうに思います。事務局から以上でございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
 これまで議論していただいた内容は、今、説明のあったとおりで、いずれも大変傾聴すべき御意見をいただいたと考えております。私自身も蒙を啓かれる思いがしたところとか、以前考えていたものとは違うような政策の方向性も御示唆いただいて、自分自身の考え方を再検討する機会ともなったところです。
 そこで、今後の議論を通じまして、研究会として政策の進むべき方向性について打ち出すことができればと考えております。御議論いただいた内容、その論点には、直近対応すべきものもありますけれども、より中長期的に検討すべきといった点も御指摘いただいたと考えております。また、政策の方向性については一致していても、それを実現する手法については様々な考慮点を指摘いただいたと考えております。そこで、本日はこうしたことも念頭に置きまして意見交換をさせていただければと考えております。
 議論の整理というペーパーの3ページに①から④に分けて論点の記載がありますけれども、今日の議論はこれを3つに分けまして、最初に①の労働時間法制、次に、②、③の労基法の「事業」と「労働者」、そして3番目に④の労使コミュニケーション、大きくこの3つに分けて議論させていただければと思います。
 それでは、まず最初は、①の労働時間制度について意見交換してまいりたいと思います。どうぞ、どなたからでも御自由に御発言いただきたいと思いますし、オンラインの先生方も「手を挙げる」という操作をしていただければ幸いです。どうぞ、どなたからでもお願いいたします。
 石﨑先生、よろしくお願いします。
○石﨑構成員 ありがとうございます。
 今回、取りまとめいただきまして、ありがとうございました。私からは、前回の検討会で議論になったことについて、その際、時間の関係で申し遅れたところがありましたので、その点について申し上げさせていただければと思います。
 前回、労働時間制度の意義について、ワークライフバランス的なところも入れるべきではないかということに関して、島田先生、神吉先生から御意見が出され、他方で、安藤先生のほうから、負の外部性が生じないようなところについて、どこまで強い規制を入れるのが適切なのかというような趣旨の御議論があったかと思います。その中で、島田先生がおっしゃられていたと思うのですが、今後、労働時間規制を考えていくときに、労働者像を転換していく必要があるのではないか。また、その際、家庭責任を担っている労働者だけではなくて、自己研さんとか、そういったことに時間を使いたい労働者のニーズも踏まえた上で労働者像の転換を図っていくのではないかという御意見があって、そこには非常に共感したところでございます。
 また、ワークライフバランスに関わる問題に関しましても、非常に長時間労働が著しいということになりますと、要するに家庭が壊れていくというような形で、その問題も決して負の外部性が生じない問題ではないということはいえようかと思うのです。ただ、安藤先生がおっしゃられたところの、どこまで強い規制でそこに臨めるのかという問題意識にも、実は同時に共感しているところでもあります。
 前回の御議論の中では、その議論が上限規制との関係で議論されたというような記憶がございまして、私自身、そういった上限規制の時間を改めて見直していくという方向について、決して反対というわけではないわけですけれども、他方で、その上限規制の最後の歯止めとしての機能に鑑みますと、実際、どこまでそこを短縮できるのかというのはなかなか難しい部分もあるのではないかという気もしております。
 そうした中で、むしろ労働者像の転換といったようなところを考えていったときに、法定労働時間について、現在の1日8時間でいいのかというところも、実は改めて検討する必要があるのではないかと思った次第です。実際問題、今、リスキリングといったこともいろいろ言われているのですが、8時間、しっかり働いて、帰って、かつ、そこで残業がなくてもリスキリングできる方というのは、相当タフな方々であろうというところもありまして、そういったことを本当に促進していくのであれば、法定労働時間自体、見直していったほうがいいのかもしれないですし、そこが短くなってきますと、これまで時短とかを取っていた家庭責任を抱えている方々と、それ以外の労働者との実質的平等というのもより図られていくのではないかというようなことを思ったところであります。
 また、もう一つ、上限規制の引下げというところに関連してですけれども、昨今、長時間労働の背景に、もちろん、その企業としての体質とか風土もあるのだろうとは思うのですけれども、それ以外にいろいろな業界の取引慣行であるとか、そういったものが長時間労働の要因になっていたりするという部分もあると認識しております。そうすると、上限規制引下げを目指していくということであるのであれば、そこの長時間労働の要因を探るような、そういった要因を検証させて、そこに改善を図っていかせていく、そういうPDCAを回していくような規制手法というのを、まずは入れていって、そこでさらに上限のほうの引下げも目指していく方向性というのは考えられるのではないかというようなことを思った次第であります。
 取りあえずは以上とさせていただきまして、また何かありましたら発言させていただければと思います。
○荒木座長 ありがとうございました。
 続いて、水島先生、お願いします。
○水島構成員 ありがとうございます。
 石﨑先生の御発言を伺い、近い内容と思いましたので、発言させていただきます。
 本日、事務局からの御説明にもありましたが、労働基準法で規制すべきものと、それ以外の規制によるものを意識的に分けて議論することがこれからは必要と考えます。前回までの御議論では、労働基準法の規制に係る議論を中心にしながら、ワークライフバランスや、これからの働き方にどう対応していくかという議論へとに展開していたように思います。私としましては、労働基準法は使用者が守らなければならない最低基準の規制であって、それは労働者の健康確保等のために制限をかけるものであると考えます。もちろん、ワークライフバランスの観点は必要ですが、それは労働契約の在り方や、企業がどう対応すべきかという話と私は整理し、最低基準を定める労働基準法にはなじまないと考えます。
 また、健康確保は、労働安全衛生法が、労働者の安全と健康、快適な職場環境の形成を法の目的としていますので、安全・健康に関しては労基法の労働時間規制だけに頼らず、安衛法の規制と相まって、健康確保が可能と考えます。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 安藤先生。
○安藤構成員 ありがとうございます。
 今、法学者の先生、お二方からお話が出たわけですが、私としては、これまで拙いながら労働法についても少しだけ勉強したときには、労基法の役割は何ですかと言われたら、今、水島先生が整理していただいたような、最低限の基準を設けるものであって、それを上回るものは契約で、または市場における圧力でなど、様々な多面的な面で達成すべきものだと理解していました。
 もちろん、労働基準法に書いてあるのは最低限の基準であって、これを満たせばいいというものではなく、これを上回る形で頑張るべきだといったようなことも書いてあるわけですが、それを考えたときに、ワークライフバランスというものをどこまで労基法で扱うべきなのか。また、これを実現したいという気持ち自体は私も分かりますので、ほかにどのような手段でワークライフバランスについて法が言及するのかといったところは、ぜひここでは少数派の他分野の人間としては、法学の先生たちの御意見を伺いたいなと思ったところであります。
 あとは、家庭責任というお話がこれまでのお話で出てきたのですが、これ自体、いまいち、私には分からない概念でして、どのように定義されているのか。私も配偶者と子供を持っていて、それぞれ家庭責任を担っているつもりではいるのですが、子供を育てるためにお金を稼ぐこと、子供の世話をすること、これらを夫婦で分担していますが、全部50%、50%で分けているわけではない。でも、100%とゼロでもない。このようなものを家族の中で話し合って役割分担を決めているものに対して、いや、それは家庭責任を果たしていないと糾弾されるべきものなのかということに少し違和感を持ちますので、家庭責任というものがどう捉えられているのか。また、そこについても、労基法の範囲内で何か取り決めを外から課すべきものなのかといった辺り、この辺りについてもお話を聞かせていただきたいなと思いました。
 完全に別件ですが、1点お願いなのですけれども、44時間のところです。7ページ目の(5)、ここについては、これまで御説明いただいた中でも、理美容業界など、44時間を使っていて、かつ、これを40時間にすると困るといったような声をしっかりつかまえているように、捉えているように思うのですが、このページの下にある4週4休制について、これを1週1休の原則を貫くということにした場合に、「そうなると困ってしまいます」といったような声がどこかにあるのか。または、これを導入したとしても、全くどこからも困りますという声が現れないのかといった辺りは把握しておいたほうが、この点については議論がしやすく思うのですが、現状、どのように実態があるのか、この辺りも分かる範囲で結構ですので、教えていただければと思いました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 質問がありましたので、事務局からお願いします。
○労働条件確保改善対策室長 今、安藤先生からいただきました4週4休の関係でございます。これに関しまして、既存の統計でそのものずばりというものはないのですが、令和5年の就労条件総合調査におきまして、週休制をどのように取っていますかという質問がございます。選択肢としては、週休1日制または1日半制というものと、何らかの週休2日制を取っているものに分かれています。週休2日制を取っているものに関しては、完全週休2日、完全週休2日よりはやや少ない制度といったような選択肢になっています。
 その中で見ますと、何らかの週休2日制以上の休暇制度を基本的に設けていますというものが全体で9割以上となっておりまして、週休1日制または週休1日半制となっているのは全体で6.9%という結果でございました。いわゆる4週4休と1週1休の関係でいきますと、4週4休で1週間に1日も休暇がないケースがあるというところが問題になってくるというものでございますけれども、問題になり得るのは、この選択肢で言うところの週休1日制または週休1日半制といったような企業になるかと思います。これは全体で6.9%でございますので、実際にその中で問題になってくるのは、さらにそれより少ないと考えますと、それほど大多数ということではないのかなというのが想定されます。
 規模に関しましてですけれども、今、6.9%と申し上げました。やや小さい企業のほうが割合は高くなっておりまして、企業規模が30人から99人が一番小さい区分でございますが、そういったところですと7.5%と、少し割合が高くなっているというような状況でございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
 それでは、続いて、黒田先生、お願いします。
○黒田構成員 ありがとうございます。
 今まで3人の先生がおっしゃった点を踏まえて、最低限の基準、研究会ではまだどういう方針かというのは決まっていないと思うのですけれども、健康影響を及ぼさないような、もしくは最低限にとどめるような最低基準をという観点で言いますと、正直なところ、労働時間という観点で論じると、健康影響がどういう人にどれぐらい出るかというのはかなり個人差が大きい。暫定的に今の基準で決まっていると思うのですけれども、肌感覚で言うと、例えば週40時間の上限というのは、8割とか9割ぐらいの人には健康影響を及ぼさないだろう、ただし、健康状況に既に問題があって労働市場に参入できない人もいるので、働ける人というのは、もうそれなりのよい健康状況であるという前提があります。もしくは、週40時間労働はできないけれども、週20時間ぐらいならとか、週10時間ぐらいならという個人的な健康状況を踏まえた選択として選んでいて、週40時間の基準に達しないという人もいるとは思います。
 その上で、労働時間の短い部分の議論はなかなか難しいのですが、週40時間を超えてくる部分で、研究レベルでは残業時間ではなく実労働時間が週50時間もしくは55時間を超えてくる、これは月に均すと40時間残業とか45時間残業相当になりますが、そこを超えてくると、健康有害影響の割合が極端ではないですが高まってくるというのは、これは全世界ではっきりしていることなので、上限時間を緩めるというのはちょっと厳しいのではないかというふうに思います。
 これ以上にもっと働く権利もあるわけだから、もっと緩めてもいい、そういう選択肢を取るというのを大々的に打ち出すのは多分難しく、引き下げる必要があるのかというところは、今度、ワークライフバランスの観点と関係してくるところだと思うので、そうすると、最低基準ということを踏まえると、労働基準法だけじゃなくて、さっきの市場の原理とか、そういうもので展開していくのがいいのではないかと個人的には思っています。
 ただし、労働者の像は、さっき石﨑先生がおっしゃっていたように多様になってきているということに加えて、以前の労働者のように、週40時間プラス残業ができる人がマジョリティーではないという時代になってきていると思いますので、その点はしっかり議論が必要だと個人的には思います。
 もう一つ、4週4休制に関してつけ加えます。さっき安藤先生からの御質問への事務局回答として、1週1休制にすると現行の働き方に影響が及びそうな割合が7%ぐらいの一部か、さらにそのごく一部かなというお話がありました。ここは労働時間から解放される時間、休養時間に関することで、かつ定期的な休養はかなり大事だと思っています。休養は幾つか種類がありますけれども、1日の中で取る休養や1日単位の睡眠、あとは週1回とか、2週に少なくとも1回という単位、そして長期間のバケーション、というように何種類かあるのですけれども、疲労の回復という観点を踏まえると、できるだけ短期間に一定の休憩を取れるというような規制があったほうが望ましいと思います。しかし、どこまで規制を強化するのが理想的かというと、ちょっと答えを持ち合わせておりませんで、議論が必要なところだと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 山川先生、お願いします。
○山川構成員 労働時間に関するということで、各論的なことはさておきまして、総論的なお話で、まずはいろいろな規制手法を活用する。例えば、外部労働市場への情報公表を活用するとか労働安全衛生法的な仕組みを活用するという点の御意見、私も同感です。特に、例えば管理監督者なんかの場合ですと労働時間規制がないので、労働時間規制を通じて健康確保する場合と、デロゲーションも含めて、それと労働時間規制とは関係なく健康確保する場合とで、管理監督者は後者だと思いますので、そちらは例えば労働安全衛生法のほうで規制を行うということは十分あり得るかと思います。
 事務局の御説明にありました労基法で罰則をもって規制すべきかどうかという点について少し補足しますと、確かに現行の個別的労働関係法制はやや極端な感じがします。つまり、労働基準法は罰則付きの刑罰法規で、もう一つの主要法規である労働契約法は民事法規で、是正勧告とか行政指導すらできない。民事の紛争解決を通じて実現する法規で、基本的に中間がないのです。例えば、均等法とか育児介護休業法は原則罰則なしで行政指導で主として実現する法規になっていて、中間的なのですが、労働契約関係についてはそれがないというのをどう考えるかという問題を事務局から提起されたのではないかと思います。
 ここは幾つかの方法があって、労働基準法自体の罰則を見直すという方向と、それから、別の法規、例えば労働時間設定改善法のような、基本的に罰則がないものをもっとメジャーな法律に格上げしていくかとか、いろいろな選択肢があり得ると思います。しかし、労働契約法を行政指導で実現する法律にするのは、ちょっと慎重にしたほうがいいのではないか。例えば、解雇の合理性を行政指導で是正勧告するというのはなかなか難しいと思います。かといって、労働基準法の最低基準、最長労働時間とか、もともとの制定の当時からあったような規制の刑罰を外すというのも抵抗を感じるところでありまして、規制の水準とか事項によって変えるというようなことがいいのかなと思います。
 その場合には、労働時間設定改善法は今、マイナーな法律みたいな感じですが、これをもっとメジャーにする方向が1つ考えられて、もう一つは、現在の労基法の中でも、罰則なしで、行政指導中心で実施している規律があります。それは労基法の14条2項、3項の有期契約に関するものでして、基準を厚生労働大臣がつくって、雇止めの理由の告知とか、そういうものについて罰則はないわけです。しかし、行政指導は行っているというふうに、行政指導が行えるようなスタイルの規律の在り方を、一部、労働基準法に導入していくということはあり得るかなと思います。これが1点。
 どこに着地するか、まだ定見があるわけではありませんけれども、前半で申しましたように、罰則付きの行政取締法規と純粋な民事法規しかないというのは、現行法はちょっと両極端に走っているのかなという感じがします。
 あと一点だけ。石﨑先生が初めに言われた、個人の状況をどう考慮するかというのもなかなか難しいところで、前も言いましたけれども、デロゲーションは基本的に労使協定という集団的合意という手法ですので、なお課題が残るというところがあります。1つあり得るのは、集団的合意、プラス個人の事情ということで、一部、企画業務型あるいは専門業務型裁量労働制でも導入されていますけれども、そういう形のものはあり得るかなと思います。
 ただ、個人の同意だけをかけるのでしたら割と単純なのですけれども、労働時間規制はそれに限らないものがたくさんあって、どうするかというテクニカルな問題がありますけれども、例えばの話ですが、計画年休は基本的に労使協定で実現していますけれども、個人別に年休日を設定できる計画年休というのもあり得るということで、枠組み協定みたいなもの、プラス個人の意向を尊重する形など、具体的なイメージはまだつかめませんけれども、そういう形で両者を併用するということはあるのかなと思いました。
 すみません、以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 では、水町先生。
○水町構成員 ありがとうございます。
 労働時間の長さ、最長労働時間規制について、一言だけ比較法的な観点から言わせていただくと、まず、日本ではとにかく健康確保が上限規制で100時間、80時間のところで前面に出ていますが、比較法的に上限規制に類するもの、最長労働時間を設定するときに健康確保のみが考慮されているかというと、必ずしもそうでもない。ディーセントワークとか生活時間の確保とか、いろいろなことが考慮されながら決定されていて、何で日本においては健康確保かというと、健康が脅かされる、生命が脅かされるぐらい長時間労働が蔓延というか、一部そういうものが広く見られるので、上限を設定するんだったら、まず健康確保だよねというので、今、設定されている。
 ただ、諸外国で例えば労働基準法上、罰則で定められている上限規制みたいなものが法律上、定められるときに、生命を守るため、健康を守るためで、その観点から上限を設定しているという議論では必ずしもないかと思います。
 もう一つ、日本のそういう労働法の歴史というか、法の構造からして、最長労働時間とか労働時間の長さを諸外国がどう決めてきたかというと、必ずしも政府が主導して決めているわけではなくて、労使関係の中で企業を超えた産業別の労使であったり、全国レベルの労使であったり、要はこれ以上長く働くと過当競争になってしまうので、少なくともこの枠の中で競争しましょうという枠を労使で話し合って上限を設定してきた。では、日本で企業の中での労使関係を超えて、産業レベルとか全国レベルで労使で話し合って上限規制を決めましょうということがこれまであったかというと、これまでないわけですよ。最終的に罰則付きで上限を決めましょうということが決められています。
 4ページに今後の議論の方向性に関する意見の1つ目のポツで、実は上限規制を設定するときに、働き方改革の中で労使合意として、平成29年3月に「時間外労働の上限を36協定の原則で月45時間、年360時間に近づけていけるよう努めていくべきであり」と、労使としてこういうところまでは合意しているのですが、では、労使で決めてやれるかというとやれなかったので、法律で決めてやっていく。そして、長期的にはと書いてありますが、平成29年3月なので、もう7年経っているわけですよ。労使が7年前にこういう合意をしているときに、日本は100時間、80時間と法律で定めたけれども、そのままでいいかどうか。労使で議論して労働協約で決めてくれれば、それでいいかもしれないけれども、労使で決めるような枠組みがないので、法律でああいうふうに設定した。労使は、その前にこういう後押しをして、そういう基準が決まったので、そういう観点からすると、健康確保はもちろん大切ですが、その他の点も考慮しながら上限時間をどう設定するか。
 ここに書いてあるように、45時間、360時間にすぐ設定できるかどうかは、いろいろなプロセスが必要だと思いますが、長期的に見て、例えば医師の上限時間で10年後をめどに下げていくというようなことも決めて、努力してくださいねというプロセスをちゃんと踏ませるようにしているところもあるので、ここの100時間、80時間についても目標を決めて、今すぐ強制できないにしても、どういうふうに進めていくかという努力をしていくことが必要ではないか。
 それと併せて、要は100時間、80時間レベルで働かせている、働いている実態が一方である中で、先端的なケースでは、例えば健康経営とか働きがい、エンゲージメントを高めるので、残業時間をなるべく少なくしましょうという動きも見られている中で、そういうものを後押しするための方向性としても、上限時間よりももっと健全なところで情報公開して、実労働時間を少なくとも公表させて、そして就職しようと思う人とか転職しようと思っている人たちに、いや、私は長時間、頑張って働きながら能力を高めていくことを、若くて元気だから望むという人たちは、場合によっては上限時間に反しない範囲内で、公表された時間を見ながら、この会社に入ろうと思ってもいいかもしれないですし。私は、今、いろいろなことがあるので、残業なしの会社を選びたいというときに、公表している企業と公表していない企業があるとうまく選べないので、そういうものをきちんと政府として数字を公表させて、法律に反しない範囲でどっちを選ぶかという情報公表による労働時間の選択を促すということが大切かなと思います。
 もう一点、特に後者に関することなのですが、他の局で育児・介護休業法とか少子化対策を議論した中で、保育園の問題とか、育児休業制度、産休・育休制度を男性も取る、どういうふうにするかという議論もありましたが、そこを動かしても必ずしも少子化は改善しない。諸外国と比較してみると、労働時間が長い。男性も女性も、キャリアを積んでいってレギュラーのメンバーとして会社で働こうと思う人たちが長時間労働なので、長時間労働、残業を前提とした働き方というのが日本の少子化問題を改善させない大きな要因になっている。
 フランスなんか、出生率が2.0に近いところに行っているところは労働時間が短くて、フルタイムで働いていても、男性・女性がきちんと分担しながら育児も家庭生活も送れるという前提があるので、そういう他の政策目標の観点からも、どういうふうな労働時間制度にするかということを、広い意味ではワークライフバランスに入るかもしれませんが、そういう日本の置かれている政策的な状況とかを踏まえながら、どういう手法で労働時間を短くしていって、働きやすい環境をつくっていくかということが大切かなと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 では、神吉先生、お願いします。
○神吉構成員 ありがとうございます。
 それでは、私からは2点申し上げます。
 まず、再三指摘されているように、労基法の使用者に最低基準を罰則付きで強制するという性質を踏まえれば、その上乗せになるような契約の在り方の問題は別規制で考えていくべきだという基本的な考え方については、全く異存はございません。
 その上で、労働時間規制が特殊だと考える点について申し上げます。本来、労基法の最低基準は法定労働時間であるはずなのですが、労基法の定める最低基準であるところのその基準が労使協定という集団的な合意によってデロゲーションが認められている。そして、法定労働時間が有名無実化し、最低基準としては多くの事業所で機能していないという点です。
 例えば、労働時間と対峙されるものとして最低賃金法の枠組みがあります。しかし、最低賃金よりもっと安ければ働ける人はいるし、全然それで構わないという人に対する雇用機会の保障や意思の尊重を理由に、労使協定で最低賃金のデロゲーションを認めることはされておりません。それにもかかわらず、労働時間に関してはもっと働きたい人の意思を尊重する趣旨でデロゲーションが非常に大きいというところが問題だと思います。
 先ほど石﨑先生の御提案で、法定労働時間こそ見直すべきだというのは、それは法定労働時間を短縮することで対処するのでしょうか。私は上限規制よりもさらにラディカルだなと思いますが、それはそれで1つの方策と感じます。
 それから2点目としてですけれども、最低基準としては健康確保を主眼に置いて、ワークライフバランスは最低基準の問題ではなく、何らか別の上乗せ的な個人の自由が尊重される余地の大きい契約の在り方の問題として別に考えていく考え方もあるのでしょうが、私は、ワークライフバランスを上乗せ的な要請と考える点に疑問がございます。ワークライフバランスと言うときに、家事責任は一例ではあるのですが、本来的には、ライフは生命であり、人生であり、また生活ということですので、それは限られた人間の人生の中でのワーク以外の部分を指すと思います。
 そうすると、健康確保とも当然切り離せないものですし、非常に多様なライフ全体の中でのワークの浸食を許すかという問題だと考えます。ですので、まさにワークライフバランスを考えること自体が、1日の間にどれだけ使用者が使用することを許すかという観点から考えることであり、ワークライフバランスという観点が最低基準と関わらないというふうには、私は決して考えておりません。
 そうした意味では、ワークライフバランスに関係する最低基準は、結局、私生活の保障、生活時間の保障で、それは家庭責任を持っている人に関しては家庭責任と具体化されるのかもしれないですけれども、家庭を持たない人にも関係ないかというと、それは自律的な生活、自分のケアを自分ですることであったり、よりキャリアアップを目指せるような自己研さんに使うような自律的な生き方の保障につながっていくのではないか考えております。
 私からは以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 首藤先生、お願いします。
○首藤構成員 ありがとうございます。
 私からは3点ございまして、まず1点目としまして、労働基準法が健康確保のためなのか、ワークライフバランスも含めるのかというところ、私は神吉先生と比較的意見が近いです。まず、健康確保のためであるといったときに、今日の上限規制が本当に十分であるのかというところに私自身は疑問を感じています。最低基準として、先ほど黒田先生のほうからも月40、45時間以上で有害性が高まるというお話ありましたけれども、その場合、今日の上限規制の特別条項のところ、休日労働込みで100時間未満という話になってきますので、そういったことを考えると、特別条項の見直しというのは、健康確保の点から見ても今後議論されるべきポイントなのではないかというふうに私は考えています。
 もう一点、ワークライフバランスとの観点から言いますと、私も今、神吉先生がおっしゃった点と、先ほど水町先生もおっしゃっていましたけれども、労働基準法自体が本当に健康、つまり人が死なずに働けるということだけを保障するものでいいのだろうかという問題意識を持っています。実質的に家庭責任を多く負っているのが女性であって、多くの女性たちが長時間働けないことから、フルタイムで働くことがかなわない実態があるような状況をこのままずっと放置していくということでいいのだろうかと、私は問題意識としては持っているところであります。
 3点目としまして、最初に石﨑先生が特定の業界についてのPDCAを回していくということの重要性を御指摘くださって、先ほど水町先生も、目標値を決めて、それに向けて一歩ずつ進めていくような施策が必要ではないかというお話がありました。私は、例えば労働基準の上限もさらに超えているような自動車運転業とかいうところを研究していて、そこを見て本当に思うのは、生産性を高めていくことによって労働時間がどんどん短くなっていくというふうに一般的には考えられているのですけれども、結局、生産性を高めて労働時間が短くなるというよりは、労働時間規制によって労働時間が短くなることによって、その労働時間に合わせて働かなければいけなくなり、結果的に生産性が高まっていくという要素も多分にあると思っています。
 なので、PDCAを回していくために、いかに効率化や生産性を高めるかという方策のみならず、先に労働時間規制をやっていくと、結果的に生産性が高まっていってPDCAを回さざるを得なくなるというような面も非常に強くあるのではないかなと私は思っています。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 島田先生、お願いします。
○島田構成員 ありがとうございます。
 上限規制についてなのですけれども、労基法は健康確保で、ワークライフバランスはプラスアルファということもあり得ると思うのですけれども、ワークライフバランスの問題なのか、健康確保の問題なのかというのは、そんなに簡単に切り分けられないのではないかなと思っていまして、現在の労働時間の上限では労働だけでは死なないということではないかと思うのですけれども、例えば1日8時間労働して、ちょっと残業して、さらに帰宅後、ケア労働があるというケースだと、そこまで上限8時間を超えていなくても、トータルで見ればかなり健康に悪いということも考えられると思うのです。
 かつ、そういう労働者が増えているので、それはあくまでその人個人の問題なのだから、別に対処すればいいというふうに言い切ってしまっていいのか。そこまで少数の問題ではないのではないかと考えています。なので、できれば恒常的な残業をいかに抑えるか、労基法の枠内で抑えるかというのは重要な課題だと思うのですけれども、他方で、現在、人手不足等々、指摘されている中で、あまり非現実的な規制を及ぼしてしまうと、それはそれで弊害があると思いまして、例えばサービス残業が増えてしまうとか、非労働者化ということ、すなわち雇用もやめてしまうというような弊害もあるかもしれませんので、そこはちょっと注意するべきかなと思っています。
 なので、将来的には残業の上限規制を抑えていくというのを目標としつつも、現実的な範囲で、まず、例えば公表を用いて外部市場にアプローチしていくとかを考えるべきかなと思っています。特に、今、人手不足も言われる中で、公表の持つ力というのは大きいのではないかなと。長時間労働をやっているような会社に人が集まらないということはあり得るので、それはそれで有効なのかなと考えています。
 もう一点、法律の上限の範囲内であれば、実際に事実上、使用者が一方的に残業を命じることができて、労働者はそれに従わないといけない。就業規則に抽象的な規定さえ設けていれば、上限いっぱいまで働く義務があるというのも少し問題ではないかというふうに思っています。これは上限設定とは別に、例えば先ほど山川先生、言及されましたような、デロゲーションとは別に、残業、実際に働かせるために本人の同意をかませるとか、一定以上の残業に関しては同意をかませるということも検討すべきではないかなというふうに考えております。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生、どうぞ。
○安藤構成員 ありがとうございます。
 先生方の御意見と、多分、私はかなり考え方が違う立場なのですが、多勢に無勢なところもあるかもしれないのですが、いろいろな意見があるということでお聞きいただきたいのです。
 まず、水町先生からあった、外国では健康だけではないというのは、実態としてそういうものがあるというのだったら、とても勉強になりました。ありがとうございます。そして、政府が決めたのではなく、労使で話し合って決めるといった話も大事かとは思いました。ただし、諸外国のそういう実態が日本にどこまで適用可能か、パラレルに考えていいのかというところに少し引っ掛かりを覚えたのも事実です。
 と申しますのも、日本の労働者はどちらかというと雇用を守るということを相対的に優先してきたのではないかと感じているからです。景気が悪くなったときに労働者の数を減らすといった整理解雇などで調整するのではなく、労働時間で調整してきたというのが日本企業で、これまでよくあったパターンではないか。仕事があまりないときに8時間労働、仕事が増えた場合には、まずは残業で対処する。そして仕事が減った場合には、雇用者数を減らすのではなく労働時間で調整するといったことは、労働者が求めてきたものではないかと感じているからです。
 この点で、ほかの国でやれていることを日本でやるといったときに、そうしたら、そこで雇用保障についても、整理解雇について経済的理由の解雇については、今まで以上に容易になるようなことを仮に社会が求めるのかといった点も、同時にセットで考えていく必要があるかと感じました。
 次に、神吉先生がお話いただいた点で、私もとても興味がある点として、法定労働時間が最低限の基準になっていない。実質的にはかなり多くの企業で36協定が結ばれ、時間外労働があることを前提に業務が回っている。これ自体については、さきに申し上げたとおり、人数ではなく時間で調整してきたという経緯もありますし、また、残業代も込みで生活設計を立ててきた。少なくとも高度経済成長期以降、そういう実態もあった中で、仕事量が減ってしまって残業代がもらえなくなった。だから、配偶者がパートで働かなければみたいな話も昔は聞いたりしたわけです。
 こういうことを考えたときに、法定労働時間をきっちり守らせるのだということ、またはそれを短縮するのだというのが、本当に多くの労働者が求めるものなのかということに疑問を持っています。日本の労働法というのは、私の中では、どちらかというと守れるルールをつくって、きっちり守らせているというよりは、大手企業ではぎりぎり守れるようなルールにしておいて、中小では全く守られていない。時々見せしめ的に取締りを受ける。取締りを受けた人は、反省して心を入れ替えるのではなく、「何でだ、ほかもやっているのにうちだけ」と思い、今度は見つからないようにやろうとしてしまう。こういった不幸な実態があるかと思っています。
 この観点から、極端な思考実験ではありますが、私は法定時間を引き上げてもいいのではないかと思っています。例えば、8時間労働が望ましいとしつつも、法定労働時間をもう少し長く。そして、それを上回る労働時間についてはかなり規制をかけるとか、柔軟な発想が必要なのではないかと感じています。
 首藤先生から、トラックドライバーなどの働き方にとても詳しいということで御意見を聞いていて、私も前もお話ししましたが、実家がトラックドライバーを抱える運送会社で、トラックドライバーの人たちと小さいときからずっと一緒に育ってきたという経緯があります。そのような立場から、先生方が本当に多様な働く人の希望を分かっているのかなということは、まだ疑問が残るのですね。今ホワイトカラーとして労働していて、もしかしたら皆様の御家族も非常に恵まれた環境にあったのかもしれない。
 でも、例えばトラックドライバーの例で言ったら、前も申し上げたとおり、早くお金をためて自分のトラックを買いたい、独立したいということで頑張って働いている、若いうちは長時間働いているみたいなケースもある中で、ワークライフバランスという外から望ましい姿を、強制は言い過ぎかもしれないですが、設定する。そうすると、いつまでも自分の車が買えないということも含めて、雇われ続けないといけないといった点で、働く多様な人の要望をかなえるといったことも、同時に我々は意識しないといけないのではないかというふうに感じております。
 そして、神吉先生からあった話で、とても大事だと私も思っているのは、ワークライフバランスのワークとライフは別に対立構造ではなくて、ライフの中にワークが含まれている。そして、我々、ほとんどの人間は、人生の中でかなり大部分を、賃金労働に限らず、子育てであったり、介護であったり、いろいろな面でのワークも含めて、そのバランスを人生の中で適宜取っていくし、家族の中で役割分担を考えながら決めているといった中で、これも望ましいワークライフバランスというものをどこまで決めるのか、外から自分の考えを押しつけるのかといったところに、私はかなり抵抗を覚えるので、言及させていただきました。ありがとうございました。
○荒木座長 ありがとうございます。
 黒田先生、お願いします。
○黒田構成員 ありがとうございます。
 幾つか先生方の意見に反応してというか、意見を言わせてください。
 島田先生がおっしゃっていた、労働だけでは死ななくても、合わせ技で健康を害するのではないかみたいな話があったと思います。私、産業医として、対集団じゃなくて対個人の御相談をお受けすることもあるのですが、超長時間労働で健康を害するということももちろんあるのですけれども、それだけでというのは結構まれで、労働時間問題に加え、いろいろなケア労働、特に育児も介護もといったダブルケアですとか、さらに自身の病気もあって、何もかもが立ち行かないみたいなことで体調を大きく崩されることが男女問わずにあります。特に印象的なのは、今、40代ぐらいからでしょうか、男性が介護を行い始めてから、自分の健康管理も含めて仕事との両立ができない、というのがかなり増えてきています。
 ですので、諸統計でもそういうものは示されていると思うのですが、労働基準法は最低基準なのでというのもすごく同意するところなのですけれども、完全に切り離していいかというと、産業医の立場から言うとちょっともやもやするというか、先ほど申し上げましたように、労働1本の時期もあるかもしれませんが、労働だけに集中できる、自分の資源を全て投入できるという人はマジョリティーではないので、そっちに合わせて設計するというのは、もう時代的に合わないのではないかなと思います、というのが1点目です。
 ワークライフバランスという言葉はメジャーで、そういう言葉に最終的に収束すると思うのですが、今、ワークライフインテグレーションとかワークインライフとか、神吉先生がおっしゃったような「ワークはライフの一部の要素に過ぎない」という概念も出てきています。そうは言っても、結局ワークライフバランスという用語を使うことになると思うのですが、ワークとライフは対立しているわけではないし、ワークは大事な要素ではあるけれども、ライフの全てではなくて一要素なのだ、さて、その認識の上で、各使用者を縛る法律、という感じで考えていくといいのかなと思いました。
 ただ、そうは言っても、安藤先生のお話を聞いてすごく悩ましいなと思うのは、選択肢があるという事態がかなり重要で、選択肢が一切なくそれしか選べないと言われると、それはまた別の健康阻害要因になることもあるので、なかなか難しいです。また、石﨑先生がおっしゃったような、法定労働時間の上限は40時間じゃなく例えば週35時間とかでもいいのではないか、というのは個人的には賛同するところですけれども、そうなった場合に、その分、兼業・副業するかみたいになると、今度はますます健康管理に関する支援が得にくい感じになってくるのかなというのもあるので、ちょっとそこは慎重に考える必要もあるのかなという意見を持っています。
 以上です。ありがとうございました。
○荒木座長 ありがとうございました。
 労働時間について予定した時間を相当オーバーして議論いたしましたけれども、大変重要な御指摘をいただいたと思います。さらに私も考えたいと思います。
 それでは、次の1つの固まり、労働基準法の「事業」、そして労働基準法の「労働者」について御議論いただければと思います。いかがでしょうか。
 水町先生。
○水町構成員 事業について根本的な考え方を1つだけ。事業が基本的に場所的な概念で、同じ場所にある場合には同じ事業というふうになっていますが、場所が一定でない、もしくは場所がそもそもない。会社自体がパソコンの中とかクラウドの中にあって、働いている人も家でやるか、どこでやるか分からないけれども、パソコンを通じてやっている。これは業務委託の場合もあるかもしれないし、場合によっては雇用であるかもしれなくて、場所的概念と言ったときにどこにも場所がない。
 ただ、事業者、法人単位であるとすると、自然人の個人事業主は、それが場所が決まっているかどうかは別ですが、存在しますし、法人は登記しているところに場所が存在するので、そういう意味では、法人単位とか事業者・事業主単位だと想定されるのが、これからデジタル化する中で場所的単位としての事業概念・事業場概念というのを法的に残していったときに、それにそぐわないような規制ができない場合が出てくるのではないかという気がします。
 場所があるときには、場所に基づいてやるべきところは、場所があるから場所に基づいて規制したり、適用範囲を決めることができるかもしれませんが、例えば法の基本的な原則として、場所があるということを前提に規制を考えていいのかというところで、私は事業概念・事業場概念よりも、原則として実態に応じた法人とか事業主概念というものを規制の原則にすることが、そういう意味で長期的に考えていけば望ましいのではないかなと私は思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 水島先生、お願いします。
○水島構成員 ありがとうございます。
 労働者について一言申し上げます。労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法、労働者災害補償保険法の労働者の範囲は同じとされているけれども、各法律の趣旨・目的に照らして判断するという考え方が基本であることは理解します。ここには出ていませんが、例えば雇用保険について雇用保険法の趣旨・目的に照らして判断すればよいというような髙裁判例もあります。
 保険の場合、保険関係の成立の問題が出てきますので、例えば雇用保険の保険本体で言うところの労働者、すなわち保険本体が対象とする部分と、保険本体ではなく附帯事業で行う部分とは、ちゃんと整理して理解すべきものです。ある法律の保険本体の対象とするかと、法律の趣旨目的に照らしてカバーするのかは、次元が違う話であり、混同することなく議論したいと思います。
 労災でフリーランス等に加入を広げる場合に、労災保険給付本体で行うべきであるという考えと、特別加入で対応する考えとがあります。どちらも労災保険でカバーするという言葉で表せるけれども、考え方は全然違うので、区別が必要と考えます。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 これは1点、教えていただきたいことなのですけれども、事業の捉え方として、仮に水町先生から御説明いただいたような、今の多様化を踏まえて、企業単位で考えることをベースとしてしまうと考えたときに、それでどのような問題が起こり得るのかといった点についての質問です。12ページ目の3つ目の黒丸の1つ目の矢羽根のところで「現場である事業場を監督署が直接監督すべきものもある」といった記述がありますが、仮に事業の捉え方を企業単位にしてしまうと、このような形で特定の事業所を監督官庁が監督できなくなるといったような問題が起こり得るのか。そうではなく、事業の捉え方を企業単位にしたとしても、必要に応じて直接監督もできるのかといった辺りはいかがでしょうか、お願いします。
○荒木座長 これは水町先生への御質問ですか。
○水町構成員 これはデフォルトをどっちに置くかで、例えばデフォルトを個人事業主の場合には個人事業主、法人の場合には法人というのを規制の単位にしつつ、ただ、現場での安全を確保するためには、それぞれの工場で現地でいろいろなものを現認しながら危険を監督しなければいけないという場合には、そこは工場に場所があるので、その場所を所管する労働基準監督署が、その必要性に従って法の趣旨に沿った規制を事業場単位でやるということは、全然両立できると思います。
○安藤構成員 ありがとうございます。
○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
 山川先生、お願いします。
○山川構成員 ありがとうございます。
 事業概念のところは、私自身は前もお話ししたように、各規制の趣旨に応じて考えればいいのではないか。特に、今、安藤先生の御質問について言えば、権限行使だと場所的な側面は残らざるを得ないと思います。ただ、そこも企業単位というか、企業を直接の責任主体とした場合には、別個、監督官の権限行使に関する法律というか、これは多分、企業内部の権限分配の問題だと思いますが、そういう規定をつくれば、役所の内部での権限行使はそれに従って行えば済むのではないかという気はします。
 12ページの③、日本に存在する事業かどうかを問題にするというのは、結構難しい面があり、国際法上の管轄権の議論に関わってきまして、現行の規律のほかに考えられるのは設立準拠法、日本の法律に従って設立された企業は日本の法律が及ぶということですが、これはあまり現実的でないのではないか、アメリカのどこかの州の州法に従って設立された会社が日本で事業を行っている場合に、アメリカ州法の適用でいいのかとか、そんな問題が起きてきますので、③については、場所的な国際法の管轄権原則との関係で問題があると思います。
 いろいろこういうふうに考えていけばいいと思いますけれども、もう一つ、場所的な概念かどうかという問題のほかに、事業は組織ですので、組織に雇用されている者を適用範囲とすることでいいかという問題は、別途、家事使用人との関係もありますし、残るかと思います。労働契約法は、組織での雇用を前提としていないので、例えば個人が介護労働者を雇った場合でも契約法は適用される。しかし、一般にはそのような家庭での雇用については、家事使用人ではないとしても基準法は適用されない。そこは別途検討する必要があるのか。現実にはそれほど違いがなくて、今、言ったような事例が典型的なものかもしれません。
 ということで、何となく実際上、重要になってくるのは、12ページで言うと④とか⑸で、特に手続的な届け出とか、そういうものは企業単位でもいいのではないかというふうな感じがしております。事柄によるかもしれませんが。
 あと、ついでにほかのところについて申しますと、労働者性については、これも定見がないのですが、少なくとも昭和60年報告の段階とは裁判例の様相も違いますので、見直しが必要かどうか自体も裁判例等を分析して検討する機会を持つくらいのことはあってもいいのかなと思います。
 あと、アルゴリズムというのは実態がよく分からないのですが、もともとの労働基準法のよく言われる考え方として、現実の行為者をまず責任主体として、結果的に事業主の責任になるという構造が罰則の適用でも用いられているのですけれども、現実の行為者というのが、このアルゴリズム等を使うようになるとなかなか特定しにくくなるので、むしろ事業主が行為者であると考える。前回も申し上げました割増賃金の支払いとかについても、行為者の捉え方を変える必要が出てきているのではないか。
 積極的な何か作為の場合には、現実的な行為者は考えやすいのですけれども、不作為の場合は作為義務が誰にあるのかということが前提になり、ある程度規範的な捉え方をせざるを得ないので、そういう特殊性があるかと思います。要は、規制の問題というよりも、労基法違反の行為者は誰と考えるか。そこで事業主自体の責任というような捉え方が増えてくるのではないかということです。
 取りあえず、以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 もしよろしければ、事業の概念などは次の労使コミュニケーションとも関わる問題がございますので、3つ目の「労使コミュニケーションについて」、御議論いただきたいと思います。これもどなたからでも結構ですが、いかがでしょうか。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 ありがとうございます。
 労使コミュニケーションに関して、これまで議論していなかったところで、かつちょっと細かなところの話になってくるのかもしれないのですけれども、労働時間のほうで管理監督者に対する健康確保をどうするかみたいな話があったかと思うのですけれども、それとの関係で改めて気になり始めましたのが、管理監督者ももちろん労働者に含まれることにはなると思うのですが、この労使コミュニケーションみたいなことを仮に法制化していく方向を考えていったときに、その管理監督者的な立場の方々の利益代表みたいなものとどう考えたらいいのか。それともそもそも考える必要がないのかといった辺りが少し気になり始めました。
 今、私自身がこうだという意見があるわけではないのですが、その辺り、どう考えたらいいのかということも問題になるのではないかということで、今日は問題提起だけさせていただければと思います。
 あと、もう一つ、従業員代表とか、そういったところを考えていくときに、非正規と正規で利益状況が異なるときにどう考えるかというお話は、これまでにもあったかと思うのですけれども、非正規の中でも、特に派遣の方について考えていったときに、その場合に派遣をどう選出するかという問題に加えて、その相手方である使用者、派遣先と派遣元とがいる中で、どういうふうに組織し、また組み込んでいくのかみたいなところも併せて問題になってくるのではないかと思いました。いずれも問題提起だけで恐縮なのですけれども、以上でございます。
○荒木座長 どうもありがとうございます。
 ほかにはいかがでしょうか。
 首藤先生。
○首藤構成員 労使コミュニケーションの部分と、先ほどの労働時間の部分とも関わるところになるかなと思うのですけれども、この間の議論の中でも、過半数代表者があまりうまくこれまで機能してこなかったということが様々に指摘されてきていると思います。いろいろな実態から見ても、その選出についてもそうですし、職場の意見集約についてもそうですけれども、労使自治というものがあまりうまく機能していないという実態があるというふうに思っています。なので、これをきちんと機能させていこうという方向性が1つ重要だと思っています。
 そのことと、デロゲーションの話で、にもかかわらず、今、様々なものが労使自身で決定することが前提とされている労働法制があって、これはあまりにもバランスを欠いているのではないかという気がしています。労使の自治で決めるというのは、一見、美しい言葉で、これはそれでいいのかなというふうに思うかもしれませんけれども、実態はここの議論の中でも分かっているとおり、あまりにも機能していないにもかかわらず、最低基準を超えていってしまうというようなことが許されている状況に対して、私は強く懸念しているところではあります。
 ですので、今後、この労使コミュニケーションの在り方を何らか法制化していくのか、どういうふうな形でつくっていくのか分かりませんけれども、強化していくことはすごく重要だと思いますけれども、とはいえ、これまでこれだけ機能してこなかったものがいきなり機能し始めるということは想定しにくいと思いますので、それを前提にデロゲーションのあり方も考えていかないといけないのではないかなというような思いを抱いております。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 山川先生、お願いします。
○山川構成員 ありがとうございます。
 基本的に今の過半数代表者はデロゲーションのための仕組みである部分が多いものですから、それと労使コミュニケーションの活性化というのは、ちょっと次元の違うものが含まれていまして、以前申しましたけれども、過半数代表者については、その手続を取るインセンティブはほぼ使用者側にあるので、そこにコミュニケーションの促進手段としての過度な期待を持つことはちょっと難しい。むしろ、それは従業員代表制の議論一般のほうがふさわしい場かなと思います。
 過半数代表者だけを考える場合にも、その趣旨は場所の事業のお話と関わるのですけれども、事業場の実情を反映させるという観点から事業場単位の代表者というお話になっているのですが、そこは本当にそうなのかということはあるかもしれません。時間外労働などは、事業場の実情というのは大事だと思いますが、例えば社内預金とかはどうでしょうか。近くにATMがあるかないかとか、そんな話は出てくるかもしれませんが。あと、賃金全額払いの原則とかはいかがでしょうか。
 あと、就業規則も事業場によって違うかもしれませんけれども、意見聴取の手続というふうに、物によって違う。しかし、物によって違うから、一つ一つ実情を調べてというのも難しいので、場合によっては委任というふうに前に申しましたけれども、企業統一的な事項であるとすれば、企業単位の代表のほうに委ねるということもあり得るのかなと思います。ただ、前提として、委ねるためには事業場単位の代表が存在しないといけないということになるかもしれません。
 もう一つは、先ほど首藤先生もおっしゃられましたけれども、実際上、デロゲーションのプロセスが機能しているかどうかというほうが、より深刻な問題で、従前から提案があります委員会方式なども、結局はもっと適正化するということの一案になる。結果的にそういう委員会になれば話し合いも活発化するだろうということはあろうかと思います。そのための手段も、取締りを厳しくする以外には、紛争解決のための支援をするという、前回申し上げたこと以外、なかなか難しいのですけれどもね。
 例えば、極端なようですが、ハラスメント関係の措置義務的なものを考慮する。例えば、過半数代表者の活動ゆえに不利益取扱いはしませんというようなことを企業に宣言してもらう。ハラスメントは措置義務でハラスメントは許しませんということを宣言させているわけです。それをしないと、それだけで法違反になるという扱いですので、そういったガバナンス体制を強化するという面で、デロゲーションの適正さを確保するという方向性は1つあるかなという感じはしています。事後的に協定が無効になるというのは、労使共にあまり望ましくないようなこともあろうかと思いますので、紛争予防的な措置義務的、デロゲーションの適正化のための措置のようなことは考慮に値するかと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 水町先生。
○水町構成員 今の過半数代表者制度が実際上、形骸化してあまり機能していないということ、これは日本の非常に重要な問題だと思いますが、併せて、今、デジタル化が進んだり、非常に難しい問題・課題がたくさん出てくる中で、ヨーロッパでは情報格差が非常に大きくなっていて、個人だと情報の把握とかコントロールが非常に難しいので、きちんと労使コミュニケーション制度、これは例外としてのデロゲーションについては、そのままだと会社は原則を守らなければいけないので、デロゲーションのための労使交渉と労使協定を決定するというのは使用者にとってインセンティブがかかるので、一生懸命やって同意を得るということをしますが、それ以外の労働契約的な規制とか、いろいろな規制の中で労使コミュニケーションを促していく。
 例えば、今回、プラットフォームワーカーの指令がEUでいよいよ成立するというので、EU議会とEU理事会が3月に合意して、あしたEU議会で採択の投票がされるという中で、少し簡略化して労働者の推定方式を入れるということで合意がなされています。
 もう一つは、アルゴリズムに対する手続をプラットフォームワーカーについて定めるというので、EUレベルでは初めて労働者に関することについてアルゴリズムに対する規制を入れるということなのですが、アルゴリズムによる処理をするときには、きちんと労働者に情報を提供するということと、こういう個人情報については自動処理をしてはいけないというような規制を定めて、そこで基本的には1対1ではなく、集団的にコミュニケーションを取りながら、働いている人にもきちんと分かるような手続をきちんと導入するようにという方向で、これからルールが定められていくという状況になっています。
 そういう意味で、デジタル化とか情報格差が黙っていると広がる中で、どういうふうにして情報格差を埋め合わせるための労使コミュニケーションを促していくか。そういう観点からすると、労基法上の例外創出としてのデロゲーション以外のところでも労使コミュニケーションをうまく回すということが重要になってくると思います。
 その中で、20ページの一番下に外部専門家の活用ということで幾つかのパターンが書かれています。1つは、例えば個人である過半数代表者ではなくて、山川先生が先ほどおっしゃったように委員会方式をつくる。委員会方式にする場合にどういうふうに委員会を構成するか、いろいろあるかもしれませんが、そういうときには、委員会をつくるときの公正さとか、委員会で話し合いをするときに出てくる問題というのを、例えば労働委員会に言って、労働委員会が法適合性とか、きちんと公正さ、民主性を担保しているかというのをチェックしてサポートしてあげるという制度的なサポートもあるかもしれませんし。
 具体的に交渉とか協議をしていく中で、委員会をつくっても労働者側とか労使の中で情報がないということはたくさんあると思うので、このときに外部の専門家、ここでは弁護士とか社労士などと書いてありますが、その外部の人から情報面でのサポートをしてもらう。3つ例が書いてありますが、1と3はちょっとやり過ぎのような気がします。アメリカで、サミュエル・エストライヒャーが過半数代表に弁護士を立候補させて、弁護士に過半数代表者として投票させるという制度の提案をしたのですが、これは現実的になっていない。
 労働者の代表なので、労働者が代表しないといけないし、それを外部の弁護士とか社労士さんに委任して、その人たちに話し合いをしてもらったりというのは、私は労働者の代表という形にはならないと思うので、労働者にきちんと選んでもらって、その中で外部の専門家が具体的に交渉していく上で、例えばフランスなんかで企業委員会等で議論するときに、会計が分からない場合には公認会計士のアドバイスを受けるというようなことが法律上、制度化されたりしています。そういう専門性の高いところでは、こういう専門家がサポートするというのを制度化していって、情報格差を埋めながら労使コミュニケーションを集団的に行っていくということが重要かなと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 黒田先生、お願いします。
○黒田構成員 ありがとうございます。
 すみません、ちょっとよく分かっていないので、質問です。今、水町先生がおっしゃっていたことで、前回、この議論があったときに、私のイメージは、過半数代表者に相談できるようにする②と、①、何となく社外取締役的な、社外取締役は社外の人が参加していると思うのですけれども、そうではなくて、社外だけれども、過半数代表者の一員として参加している弁護士さんや社労士さんみたいなものを想像していたのですけれども、そういうものは、その人が全て代替するわけじゃなくて、あくまで5人ぐらいいるうちの1人みたいな感じで参加するのかなと想像していたのですけれども、それは今までの日本の法制を考えると、非現実的な感じということでしょうか。すみません、誰に質問したらいいか分からないのですが。
○水町構成員 すみません、これは私の意見なのですが、過半数代表者が1人のときは、それを弁護士とか外部の人にしては駄目。そして、複数の委員会制度にした場合に、例えば3人は労働者で、1人は外部を委員として入れるということがふさわしいかどうかは、これはかなり難しい問題で、オブザーバーとか監査役みたいな形でサポートするという入れ方はあるかもしれませんが、労働者を代表しているというのであれば労働者。
○黒田構成員 そうですね。労働者ではないですね。
○水町構成員 そういう意味で、医療のときには、産業医の方とか医療関係者が情報でサポートしているというようなイメージですね。
○黒田構成員 分かりました。ありがとうございます。より独立的な立場で、もしくは支援の立場で参加するという感じですかね。
○水町構成員 私の意見としてはそうです。
○黒田構成員 ありがとうございました。
○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
 神吉先生、どうぞ。
○神吉構成員 過半数代表者についての御意見は賛同するところが多くて、21ページの(5)過半数代表者以外の仕組みについて一言申し上げます。過半数代表者自体に問題があって、いろいろ変えていくとして、それ以外の仕組み、労使コミュニケーションを促進していくことについて、何をもって労使コミュニケーション義務みたいなものを選ばれる労働者に負わせるかが難しいと思いました。
 例えば、労働組合であれば、自主的な使用者からは独立した組織として、自らの労働条件の向上を図り、その成果を協約として勝ち取る道筋がありますし、過半数代表者は過半数代表者で、問題はありながらも、法的にはデロゲーションのために必要な仕組みと位置づけられているので、そこでコミュニケーションをどういうふうにやっていくかという課題は内部化できます。
 そうではない過半数代表者以外の仕組みをつくり、労使コミュニケーションをさせるといったときに、恐らく今まで過半数代表者の問題で出てきたように、何らかの労働者全体をうまく代表できるような公正代表義務みたいなものが負わされるのではないか。そうした責任や義務を負うばかりだとすると、またその担い手が出てこないのではないか。労使コミュニケーションをすることで、どういう成果やメリットがあるかというゴールが描けないと、結局、過半数組合がない事業所における過半数代表者と同じような問題が生じて、悪くすると形骸化していくのではないかと思います。
 コミュニケーションというのはあくまでもプロセスで、実際には諸外国でも組合がある事業所でこそ労使委員会が機能しているということですので、それがない場合の自律的なコミュニケーションチャンネルというのは、かなりうまく仕組まないと形骸化する可能性が高い懸念をもっています。
 以上です。
○荒木座長 水島先生、お願いします。
○水島構成員 ありがとうございます。
 過半数代表者が機能していないという御指摘が多いように思いますけれども、労使協定協議の場に出席した経験からしますと、それはちょっと即断的と思います。労働者の意見を集約し、しっかり仕事をされる過半数代表者もいらっしゃいます。過半数代表者を見限り、別の制度を考える前に、現在は機能していないとされる過半数代表者を育てるという考え方もあると思います。過半数代表者の育成については、デロゲーションによって利益を得る使用者が責任を果たすのも1つの考えですが、企業主体の教育・研修に対する懸念は、資料22ページに示されているところです。
 そうしますと、個々の企業が過半数代表を育てるというよりは、企業の上位団体、あるいは全国的な労働組合が過半数代表者を育てていくことが検討に値すると思います。特段難しいことを言っているのではなくて、過半数代表者として備えるべき基礎知識とか、過半数代表者が何をすべきとか、何をしなければいけないかということと、どのようにそれを進めるかといったマニュアルかガイドラインを作成し、リーフレットやホームページに掲載して情報提供いただくことで、過半数代表者の支援に十分なると思います。
 また、複数人の過半数代表者を認めることで、過半数代表者が使用者の言うとおりに労使協定を結んでよいかや、もっと事業場の労働者の意見を聞くべきではないかといったことを相談しあえる体制を採ることも、過半数代表者を機能させることになると思います。過半数代表者についての課題は確かにあると思うのですけれども、もう少し何かできるのではないか。それをした上で、それでも無理だというのであれば、次の方策を考えることもできるのではないかと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 ありがとうございます。
 今回、お配りいただきました議論の整理に、この労使コミュニケーションについてはかなり丁寧に意見をまとめていただいていると思っております。なので、特段、つけ加えることはないかなと思ったのですが、私の頭の整理として3点お話しさせていただきます。
 まず、1点目は、労使コミュニケーションと言ったときに労使が対立している姿を想定しているのか、ほぼ同じ方向を向いているケースがあるのかといったところが、論点ごとにいろいろあるのではないかといったことが気になりました。
 例えば、先ほど長時間労働の問題のところで、時間外労働について、労働者が完全に嫌がっているものを無理やりやらせているかといったら、必ずしもそうではなく、雇用保障とセットで労働時間というものを考える必要があるといった論点からは、法が求めている法定労働時間というものが短いということから、36協定について、これまで労働者も使用者も合意していた。そこで、緩過ぎる特別条項付きみたいなものをどんどん認めていて、トラブルがあるから法の規制が入ったと私は理解していますので、必ずしも労使が別の方向を向いているケースだけとは限らないなというのが、まず、考えていることであります。
 2点目は、労働者同士の意見の相違ということをもう少し捉えるべきではないかと感じています。正規と非正規の関係であったり、同じ非正規の中でも、そこの会社からの収入で生計を立てている人もいれば、学生のアルバイトのようなケースもあり、必ずしも労使コミュニケーションだけでなく、労働者間のコミュニケーションも今後必要だと考えるのですが、とはいえ、そのコミュニケーションを望まない労働者もいるだろうと。学生のアルバイトなどは、そんなのは私には関係ないと思っているかもしれない。このようなときに適正な労使コミュニケーションを実現するためには、その前段階としての労働者間のコミュニケーションというものをいかに充実させるかといったことが必要なのですが、そこにインセンティブがあるのかといった点が重要かと思いました。
 最後に、水町先生がお話しされていた外部専門家のところで、1番と3番というパターンは難しいだろうというお話でしたが、この点について、私が一番懸念を持っているのは、恐らく外部専門家をフォーマルに使いましょう、使えますよとなったときに、使えるところはいいのですけれども、小規模な企業などで、その専門家に払うお金がないからといった形で、一番困っていそうなところが外部専門家を使えないといった事態にならないかということに懸念を持っています。
 以前紹介しました区分所有建物、いわゆる分譲マンションの管理について、フランスやイタリアなどの諸外国では、プロの管理者に全部任せてしまう。区分所有者たちは、理事会として監事のようにモニタリングする。こんな役割分担をしているのが、イタリアだと過半数、フランスでも4割ぐらいかな。そして、プロの管理者としてマンション管理をするためには、国家資格に合格していないといけない、こんなルールがあったりもします。プロの管理者というのは、複数の物件の管理をして、それで生計を立てているといった姿があるのですが、日本でも区分所有者の中からマンションの管理組合の役員になりたいという人が現れないとか、老朽化マンションで高齢化の問題とか、いろいろある中で、仕組み上は外部専門家が区分所有法上の管理者になれるといった立てつけを整理したわけです。
 とはいえ、フランスでもイタリアでも、小さな物件では結局はプロを雇えないといった実態があったりするので、この外部専門家の話というのは、本当に困っているところが外部専門家を使えるように、いかに手当てするのかといったことが重要かなと感じました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 首藤先生。
○首藤構成員 今の安藤先生の御意見の専門家の話ですけれども、マンションの管理と職場の労使の自治を同列に議論していいかどうかというのが、まず大前提としてあるかなというふうに思いました。その上で、労使関係が三者構成主義というのを取っているというのは、別に日本だけの話ではなくて、これは国際基準であって、ILO自体もそう定めていますし、先進国、どこでもそれをやっている実態があるわけですね。なので、国際的な標準から大きくずれるということ自体も、私は問題があるのかなというふうに思っていまして、私は水町先生の見解とほぼ同じだと思うのですけれども、労働者の自主性とか主体性というのが極めて重要だろうと思っていますし、育成を含めて、それが担保できるような環境整備をしていくことがまず先決なのではないかというふうに思います。
○荒木座長 安藤先生。
○安藤構成員 首藤先生からのコメントに対して、1点、もし誤解されていたらという点での確認というか、発言ですけれども、私もどちらかというと水町先生の言うとおり、1や3はないかなと思っているほうで、ただし、プロに相談するというのが小さいところでは無理だよ。その一つの典型例として、プロを使うことが標準化しているところでも、小さい物件ではできていませんということで、あくまで日本でプロに過半数代表になってもらって、労働者たちはそれを監視するだけで十分だと捉えているわけではないというのは確認させてください。
 その上での発言ですが、とはいえ、日本でも、この制度について、国土交通省の会議でいろいろ議論したときに、外部のそれこそ管理業者の方とか、様々なマンション管理に携わっている人が、区分所有建物、マンションというのは自分たちの大事な資産であり、住んでいる生活の場なのだから、外部の人間に任せるなんてけしからぬ、中の人間がやるべきだと主張されるわけですね。とはいえ、そういう場所に出てくる人は事業者の方だったり、または非常に積極的にマンション管理に取り組みたいと考えている区分所有者の方で、立候補して理事になり、いわゆる理事長として区分所有法上の管理者として振る舞っている。そういう意欲的な人が「区分所有者が自ら行うのが望ましい姿だ」と言っているのですけれども、広く調査をすると、いやいや、なり手不足で困っていますという声が山のように出てきた。
 なので、原則はもちろん選択肢を増やすわけで、これまでどおりのことも当然できますが、どうしてもできなくて困っているところの場合には、外部の専門家に任せるというオプションも増やしますといったことをやったわけですね。
 では、今回のこの過半数代表の話として、労働者の話を議論する場なのだから、労働者が出るべきだ。それは理想論としては正しいと思います。では、実態として、そういう労働者がどのぐらい出てくるのか。また、出てこないということで困っている。例えば、職場のほとんどがパート・アルバイトで回っているような企業において、自分が全員の代表になるなんて考えられない。しかし、1人当たり100円出すだけだったらいいよとか、そういう姿が仮にあったときに、労働者の代表者が意見を言うべきだ。だから、意欲も能力もあまりない人にどうにかやってもらおうというのがいいのか、それとも選択肢として外部の人を増やすのかといったところは、原則としては中の人がやったほうがいいと思うのですが、選択肢を増やすことを否定するかといったときに、少し抵抗を覚えるのもたしかですといった感じです。
 以上です。
○荒木座長 水町先生、どうぞ。
○水町構成員 1つ、デロゲーションじゃないときのインセンティブですが、小さい企業でよく聞くのは、制度の改変をしたい。新しい制度を導入したり、制度を変えたいというときに手続が大変。例えば、就業規則を変更するときに、合理的な変更するためには手続が大切だと言われるけれども、我が社には労働組合がないし、誰とどうやって話し合ったらいいのですか。過半数代表者というのは多分いる。過半数代表者に賛成ですとサインしてもらったらいいんですかという話をよく聞きます。サインしたほうが、ないよりはいいけれども、そこできちんと実質的な話し合いがなされていなければ、それだけで手続が丸くおさまって合理的だというふうに言えない。
 では、どうやってやったらいいのですか、例えば、説明会を開いて、みんなからサインをもらったらいいのですかとか、そういう質問もある中で、倒産法制とかは倒産するときにどうやって労働者の意見を組み入れながら手続を進めていくかとか、日常的に起こる、そういう就業規則改正等でも、どうやって労働者の意見を反映させた手続をしていくことが望ましいのですかというインセンティブは、使用者、会社のほうにもないわけではないので、それをどうサポートしていくかということが大切かなというのが1つと。
 もう一つ、中小企業だと、まさにお金がないので、外部の専門家に頼むのが難しいというのはおっしゃるとおりで、働き方改革のときも本当にそうだったのです。就業規則もないし、36協定もないところに、どうやってきちんと上限規制を、36協定とか特別条項とかをつくってもらうかというときには、働き方改革推進支援センターというのを政府の事業としてやって、そして無料でサポートしてくれる専門家を派遣するということをやって、それでかなり中小企業にも成功をおさめたいろいろな事例が出てきているので、労働委員会であれば公的なサポートですし、それ以外の専門家のサポートもいろいろ工夫しながら、制度改正するのであれば、そういうことも併せてやっていくことが大切かなと私は思いました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 それでは、ほぼ時間になりましたが、本日も大変有意義な御議論をいただいたと思います。大きな方向性についてもいろいろな御意見をいただきました。これをどう考えるか、さらにこの研究会で検討していきたいと思いますけれども、どの法律で受けるかという問題もあれば、同じ法律でもどういった手法でそれを実現するか。それから、どういうタイムスパンで対応するか。いろいろな考え方によって、研究会としても方向性を見出すことができるのではないかという印象も持ったところでございます。そこで、今後の議論をさらに深めるために、各項目の具体的な案について、事務局には検討の素材となるような資料を作成いただきたいと考えております。
 次回ですけれども、一旦、これらの論点及び労働基準法制について労使双方に現状と課題を伺う機会を設けたいと考えております。事務局には、労使双方との調整をしていただくようお願いしたいと思います。
○労働条件政策課長 資料の作成及び労使双方のヒアリングにつきまして調整させていただきます。
〇荒木座長 どうもありがとうございました。
 それでは、第6回の研究会は以上で終了といたします。本日も大変貴重な御意見をありがとうございました。