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第4回労働基準関係法制研究会 議事録
労働基準局労働条件政策課
日時
令和6年3月18日(月) 16:00~18:00
場所
AP虎ノ門 Aルーム
議題
労働基準関係法制について
議事
- 議事内容
- ○荒木座長 それでは、定刻になりましたので、ただいまから、第4回「労働基準関係法制研究会」を開催いたします。委員の先生方におかれましては、御多忙のところ御参加いただき、ありがとうございます。
本日の研究会につきましては、会場参加とオンライン参加の双方による開催方式とさせていただいております。
本日は、石﨑先生、島田先生、水島先生、山川先生がオンラインでの御出席でございます。
カメラ撮りはここまでということでお願いいたします。
それでは、本日の議事に入ります。
本日は、労使コミュニケーションについて議論を深めていただきたいと思います。
資料1について、事務局から説明をお願いいたします。
○労働条件確保改善対策室長 それでは、資料1「労使コミュニケーションについて」を御参照ください。
本日の議題は、労使コミュニケーションということで資料を用意しております。
2ページ目、3ページでございます。労使コミュニケーションの関係につきましては、第1回の総論のときにも御意見をいただきまして、また、第3回の事業の関係の御議論をいただいた際も、過半数組合や過半数代表の関係を含めまして様々御意見をいただいたところでございます。それを2ページ、3ページにまとめさせていただいております。
これらの御意見を踏まえまして、4ページに今回の論点として考えられることをまとめております。こちらは1~5まで論点として書かせていただいておりますが、大きくは1と2~5に分かれております。
まず、1番でございますが、集団的な労使コミュニケーションの意義と課題をどのように考えるかということで、変化していく社会の中での集団的コミュニケーションをどういった役割で捉えていくのか、そういった包括的な御議論をいただきたいと考えてございます。
また、2~5でございますが、その際の具体的な手続等々についての議題をまとめております。
2番でございますが、過半数代表の意義というもの、それから、過半数代表が協定の締結者になるということに関してどう考えるかといったお話がございます。
3番でございますが、組合がない事業場の過半数代表者の選出、これにどういった課題があり、また、労働者自身が過半数代表者になっていただくことのメリット・負担をどう考えるのか。
4番目に、労働組合がある事業場とない事業場でどのような違いがあるかということ。
5番目に、各協定を結ぶという段階だけではなくて、協定を結んだ後のモニタリングについてどのような制度が適しているのか、どのような体制が必要で、当該体制を担う労働者を選出するためにどうすればよいのかといったことが論点になろうかと考えております。
個別具体論に入りまして、5ページ目からでございます。まず、論点1、集団的コミュニケーションの意義と課題でございます。
まず、ここ数年の検討会や労働条件分科会の報告といったもので、労使コミュニケーションについてどのようなコメントがなされているかをまとめたものでございます。大きくまとめますと、過半数代表者に関する適正な手続での選任の確保や、多様な労働者、全体の意見を反映した労使コミュニケーションの促進を図るといったことが中長期的な課題として指摘されているところでございます。
6ページは、これまでお出ししていたものから多少の修正はありますが、再掲でございます。集団的労使交渉に関して、そもそもの意義とは何なのかの学説をまとめさせていただいたものでございます。
7ページも再掲でございますが、こういった集団的労使交渉の中で各手続、協定を結んだりするわけでございますが、その中に個別同意が入っているものに関してまとめたものでございます。
その上で8ページ、9ページでございますが、こういった集団的手続の中に個別同意が含まれている場合の個別同意に関して、どのような法的な効果があるのかに関して、各学識者の先生方の見解をまとめさせていただいております。
10ページでございます。特定の労働者集団の意見聴取を求めている例ということで、基本的に過半数代表者は事業場の全労働者の代表でございますが、こちらに記載させていただいておりますパート法や派遣法での手続においては、一部パートのみ、派遣労働者のみの過半数代表の意見を聞くというものが立法例として作られているものでございます。
11ページ、論点2、過半数代表の意義とは何かでございます。
まず、過半数代表者という制度に関しての定義・経緯でございます。
定義といたしましては、当該事業場の全部の労働者の過半数を超える者によって代表者とされた者でございます。その上で、制度が導入されたのは労基法の制定当時でございますが、当初は労基法36条の時間外労働規制のみとなっていたものでございます。これがその後の法改正により、様々導入されました制度についても労使協定制度として導入をされていったという経緯となってございます。
真ん中に※で書かせていただきましたが、当初は、組合、団体交渉、労働協約といったような労働組合法によって構築されたシステムが念頭に置かれていたが、それを補完するものとして過半数代表というシステムが設けられたという解説をされているものもございまして、もともとは組合主眼でやっていたものが、過半数代表に広がっていったという経緯もあるのかなということで紹介させていただいております。
12ページ、13ページでございます。これらの議論をするに当たって、前回の事業の御議論をいただいていたときに先生方より、それぞれの規制の種類や機能といったものを基に個別に議論していく必要があるのではないかと御指摘いただいておりました。
まず、12ページですが、労働基準法の中で「事業」というものを使用している条文について、それぞれどういう特徴があるかで分けてみたものでございます。この中で、いわゆるデロゲーションに関する規制はこういうものがあり、場所に関する規制、規模に関する規制、内容に着目した規制、それぞれこういうものがありますということで分類をさせていただいております。
なお、これはまたがるものもございまして、例えば、労基法32条の5の1項、1週間単位の非定型的変形労働時間制ですが、これはデロゲーションでもあり、事業の規模に着目した規制でもあるということで、両方に入っているという形で一度、試みに整理をしてみたものでございます。
13ページでございますが、同じことを別の切り口といたしまして、いわゆる労使協定を結ぶに当たっての手続が規定されている条文とそうでないものに、左・右で分けてみたものでございます。
左側が手続ありのものでございますが、その中でも3つに分けまして星印を付しております。まず、星印がないものについては、企業全体で見たときに多少の違いはあれ、各事業場でそれほど大きな差はないであろうと思われるものでございます。代表的なものでいえば、賃金の全額払いの例外等々でございます。
次に、星を付したものでございますが、これは各事業場の実情に応じた協定内容が想定されるものでございます。これに関しては労働時間の各デロゲーションの制度などが入っています。
赤星にしたものでございますが、これは事業場の中で見ましても、全労働者への適用は予定されていないであろうというものでございます。代表例としては、裁量労働制ですとか高度プロフェッショナル制度といったものが挙げられます。こういった分類をしてみたものも御参考に議論いただければと思います。
14ページから論点3でございます。組合がない事業場における過半数代表の選出の問題でございます。
まず、労働政策審議会において、これまで過半数代表者に関して御指摘いただいていたものでございます。平成27年と29年、2回にわたりまして過半数代表者の使用者の意向による選出が手続違反であること、あるいは使用者が過半数代表者に対して必要な配慮をすることといったものを省令改正すべきであるという御指摘をいただいておりました。
それを踏まえまして15ページでございますが、平成30年に省令改正いたしまして、これを労働基準法施行規則に書き込んだという経緯をまとめたものでございます。
16ページ以降ですが、過半数代表者の選出方法に関する各種データを24ページまでにわたりまとめたものでございます。幾つかは再掲したものでございます。
16ページは、過半数代表者の基本的な選出方法ということで、これまで親睦会の代表や使用者が指名するといった手続をとっているところが幾つか見受けられます
17ページでは、信任という手続を使っているものの、その候補者に関しては企業側が定めているというケースが、規模の小さいところで多く見られます。
18ページは、各職位別の選出状況で、課長クラスや部長クラスが過半数代表者になっているケースでは、使用者が指名しているケースが多いということがわかります。
19ページは、過半数代表者の有無、過半数代表者を選出しなかった理由ということで、36%の企業で過半数代表がいないという答えであり、その理由としては、手続が発生しなかったからというところが多くなっているものでございます。
20ページは、過半数代表者をどのような頻度で選出しているかで、多くの企業において手続が必要な都度過半数代表者を選んでおり、18.9%でございますけれども、任期を決めて選出しているというケースもありました。これに関しては、任期を決めて選出している頻度は、事業場の規模が大きくなるほど高くなっているという結果があったものでございます。
21ページは、過半数代表者の選出についてということで、選出を開始しますというときに適用する事業場全てに周知していますかと聞いたところ、2割が周知していない、あるいは一部の事業場のみに通知しているという回答であったというものでございます。
22ページ、過半数代表制度の運用状況ということで、どのような手続で使っていますかということですが、これに関しては36協定や就業規則の作成・変更が多かったというものでございます。
23ページ、過半数代表者とどういった形でやり取りをしていますかというところで、左側は方法でございます。対面でやっているところが多くございますが、書面で行っているところも一定程度あるというものでございました。
右側は、話し合いの回数でございます。手続当たりの回数ですが、これは規模が大きくなるほど複数回やっている、頻度が増えるという結果でございました。
24ページは、過半数代表者を複数選んでいる例ということでございまして、複数代表者を選出したことがあると答えた事業場は2.9%、これも規模が大きくなるほうが多く出てくるという関係性にございます。その理由としては、1人の従業員が過半数代表では負担が大きいということが挙げられるのかなというところでございます。
25ページは、労働基準法の労使が関わる手続についてでございまして、これは再掲でございます。
26ページから30ページまで、25ページは基準法のみでございますが、基準法以外の法律も含めまして、過半数代表が関与する制度はこういうものがございますというものをまとめたものでございます。これも再掲でございます。
31ページは、労働時間等設定改善企業委員会ということで、労働時間等設定改善法に働き方改革関連法で盛り込まれたものでございます。下でございますが、企業委員会というものがございまして、こちらに関しては代替休暇や年次有給休暇の時間単位取得、計画的付与制度といったものに関する事項のみでございますが、企業単位の委員会の議決で事業場ごとの労使協定と同様の効果を有するとなされた立法例でございます。
32ページ、労働協約方式についてということで、労働協約方式は現在、通貨払いのみとなっているわけでございますけれども、もともとは通貨払いと賃金の全額払いの例外が協約方式でございました。その後、1952年の改正におきまして、組合がない事業場でも賃金控除、いわゆる天引きのニーズがあることに考慮して、こちらも協約方式から協定方式になったという経緯でございます。
33ページから論点4番、労働組合のあるところとないところでどのような違いがあるかでございます。33ページから労働組合関係のデータを39ページまでにわたって掲載しております。
33ページは、労働組合組織率の推移でございます。
34ページですけれども、労働組合があるところとないところでどのような違いがあるかでございます。まず1番の図でございますが、組合があるかないかで労使関係が安定的であるかないかでございますと、組合があるほうが、ないところよりも安定的な労使関係であるという頻度が高かったというもの。
2番目でございますけれども、組合があるところとないところで、労使コミュニケーションの中でどういった事項を重視するかでございます。顕著に差が出ておりますのは「賃金、労働時間等労働条件」あるいは「福利厚生、文化・体育・レジャー活動」で、賃金や福利厚生といった純粋にお金に関わってくるような交渉ごとに関しては、組合があるほうが組合のないところよりも割合が高く出ているという結果でございました。
3番目は、組合の加入状況ごとの労使コミュニケーションが良好であるか、悪いかを聞いたものでございます。基本的に組合があり、かつ加入しているほうがポジティブな結果が出てございます。
以降35ページから38ページは、これらの事項に関して様々なクロスを取ったデータでございます。こちらは御参照いただければと思います。
39ページでございますけれども、労働組合員30人以上の労働組合を対象に調査したものでございますが、ユニオンショップ協定を結んでいますかというものです。合計としましては69.8%がユニオンショップ協定を結んでいるとお答えがあったものでございます。規模別に見ますと、おおむねでございますが、規模の大きいところのほうがユニオンショップ協定を結んでいる率が高いという結果でございます。産業別には、産業ごとにかなりばらついているという状況でございました。
40ページ、論点5番でございます。モニタリングに関する部分でございます。モニタリング機能とは何かというところと、労働基準法の中で労使委員会がモニタリングに関する機能を担っておりますが、それが関わる手続はどこにあるかを示したものでございます。
41ページは、労使コミュニケーションに関して、労使委員会がどういう役割を担うかについてでございます。モニタリングの機能を担うことと、当該制度の下で生ずる苦情などの適時適切な処理も任務として担っているというものを御紹介させていただいております。
42ページは、ここまで出てきました労使委員会とは何かということで、労使委員会に求められる役割や委員の選出等の手続はどうなっているか、モニタリングのための情報開示をどういう形にしていくかをまとめたものでございます。
43ページから、これら労使委員会の運用がどのようになされているかというデータでございます。これは裁量労働の中での労使委員会に関するデータをまとめたものでございます。まず、議題といたしましては「健康・福祉確保措置」や「勤務状況や措置の実施状況の記録・保存」といったものが多くなっているという結果でございました。
これら労使委員会の議事に関しまして、実効性があるか労働者に認識を聞いたものが下でございまして、5割強の方々が「そう思う」もしくは「どちらかと言えばそう思う」というポジティブな回答でございました。「そう思わない」「どちらかと言えばそう思わない」は1割強という結果でございました。
この労使委員会の実効性が、労働時間や健康状況にどう影響するかが44ページ上の回帰分析でございます。労使委員会に実効性があると労働者が回答した場合、その労働者が週60時間以上の労働時間となる確率は、マイナス4.4ポイントの影響が出ていたというもの。労使委員会の実効性があると回答した者と健康状態があまりよくない・よくないと答える確率に関しては、マイナス4.7ポイントと、いずれも労使委員会の実効性があると労働者が認識していると、その方が長時間労働や健康状態がよくないとなっている率が下がるという結果でございました。
44ページの下段以降、労働者側委員の指名方法でございます。制度上、過半数組合がある場合には労働者側委員は組合の指名で、ない場合には過半数労働者による指名でとなっておりますけれども、その数についてまとめたものでございます。
これらのクロスをとったものが45ページ、46ページでございます。基本的に規模が大きい事業場ほど過半数組合がある可能性が高いことからも、組合による指名の率が高くなっているという結果でございます。
46ページは、それを組合の有無別に見たものでございますので、当然、組合があるところでは組合指名が多くなっているという結果でございました。
47ページは、労使委員会の年間の開催数でございます。こちらは、過半数代表の協議回数とも似たものでございますけれども、基本的に年2回やっているところが多くなってございます。規模別に分解してみますと、ややばらつきはございますが、おおむね傾向として規模の小さいところでは1回の開催のみのところが多く、規模が大きくなってくると複数回開催している傾向が強くなってきております。
48ページでございます。他制度におけるモニタリングということで、安全衛生委員会による制度のモニタリングについての例を出させていただいております。こちらも御参照いただければと思います。
以上が論点に関する資料でございますが、49ページから具体的な事例を幾つか集めております。
49ページは、過半数代表者による労働者の意見集約の事例ということで、私どもが地方ヒアリングした際に出てきたものでございます。過半数代表者による社員の意見集約をうまくやっている例ということで、例えば一番上でございましたら、年2回全労働者による会議を実施しているというものや、3つ目でございますと、全労働者から過半数代表者がメールで意見を募って意見を集約しているといった例があるという御紹介でございます。
50ページからはJILPTの調査からでございますけれども、労使コミュニケーションに関する事例として好事例を集めてきたものでございます。
50ページは、労使コミュニケーションの際に安全衛生委員会を活用して、安全衛生委員会を月1回開催して、そこで様々なコミュニケーションを図っているという事例でございます。この事業場は50人未満の事業場ですので、安全衛生法で設置義務を課している安全衛生委員会ではありません。
51ページは、組合がない事業場で、過半数代表者にきちんと立候補してもらうということで、お知らせを書面で配付して、立候補者を募っているという事例でございます。
52ページは、過半数代表者が従業員の意見集約をきちんとやっているという例でございまして、こちらに関しては全拠点3拠点ある会社さんですが、その3拠点の過半数代表者が集まって協議しながら意見を集約しているという例でございます。
53ページは、諸外国における集団的労使関係の比較表をつけさせていただいております。
本日の資料は以上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
〇荒木座長 ありがとうございました。
ただいま事務局から説明がありました資料1に基づいて議論していただきたいと思いますけれども、4ページに論点として考えられることということで1から5がありますけれども、本日の議論は、1は後により具体的な問題である過半数代表によるデロゲーションの問題がありますので、論点の2から5について御議論をいただき、その後に1について議論いただければと考えております。
それでは、議論に先立ちまして、デロゲーションの担い手である過半数代表の在り方について、事務局から補足的な説明をお願いいたします。
〇労働条件政策課長 資料の4ページの2から5に関しまして、事務局としての問題意識などを若干補足させていただきます。
まず、過半数代表者に関しましては、前回も御議論いただきましたけれども、過半数代表者の役割をどう考えるかや、現行の事業場単位での過半数代表者の選出における課題がどうであるか。資料にもありますように、例えば、任期付きでの選出や複数代表者の選出が一定割合見られるところですけれども、選出の方法等について、より具体的に法令で規制したり、あるいはガイドライン等で望ましい形を推奨したりすることなどをどう考えるかなども御議論かと思っております。
また、労使コミュニケーションを実質的に強化するという観点から、手続の内容や性質に応じて、例えば、企業単位であったり、複数の事業場を束ねた単位といったもののコミュニケーションを想定した場合に、そのような場に出る労働者の代表をどのように選出したり、あるいは協議を進めたらよいかも関連して議論になろうかと思っております。
また、例えば、専門業務型裁量労働制の導入などについて、対象予定業務に従事する労働者から過半数代表者を選ぶなど、手続の性質に応じて事業場単位でない母集団から労働者代表を選ぶことについて、適否も含めてどう考えるかということも論点になるかと考えております。
意見集約の適正化を考えました場合に、過半数代表者の負担の軽減あるいはなり手不足の解消のために、どのような方策が考えられるか。使用者との協議に当たりまして、外部の専門家、具体的には事業場の労働者でない方が選ばれることを認めるのかどうかですとか、逆に、過半数代表者に対して企業側からの便宜供与あるいは活動身分保障の在り方、適否などについても御議論があり得るかと思っております。
また、現行制度上、過半数代表者以外にも労使委員会、安全衛生委員会、労働時間等設定改善委員会などなど様々な組織体がそれぞれの目的に則して規定が設けられておりますけれども、これらを活用したデロゲーションや労働条件設定に関する労使コミュニケーションについて、適否も含めてどう考えるかというところも御議論があり得るかと思っております。
これら総体的に、労働組合がある事業場とない事業場で労使コミュニケーションにどのような違いがあり現状どのような課題があるか。その際、事業場単位以外の労使協議を仮に考えた場合に、労働組合がある事業場とない事業場の関係性、また、企業単位での多数派組合と少数派組合の関係性といったこと、労働組合のない事業場に対する労働組合の影響力といったことも考慮しながら御議論があるかと思っているところでございます。
これら2から4に関しましては、全ての企業や事業場における過半数代表者の在り方を適正化するという観点での全体の底上げという議論があると同時に、もう一つ、労使コミュニケーションをより実質的に活発化する、深めるという観点から、希望する労使について事業場単位でのアドホックな過半数代表者との協定締結以外の方法を選択できるようにするという議論もあり得るかと思っております。こうした点につきまして、組合のあり・なし含めてどのような職場を念頭にされているのかは御発言に当たって、留意いただきながら御議論いただければと思っているところでございます。
5のモニタリングに関しましては、労使協定でいろいろ定める事項の中で、モニタリングを行うべきもの、行う必要性が比較的低いものがあるとすると、どのようなものについてモニタリングを行うべきなのかということ。また、モニタリングが必要である制度につきまして、例えば、衛生委員会は長時間労働対策については現にモニタリング機能を担っているところでございますけれども、事業場の過半数労働組合ないし過半数代表者がモニタリングを行うことが適当であるもの、適当でないものがあるのかどうかといったことに関して。併せて、過半数代表者がなかなかモニタリングを行うことが現状難しいという御指摘もあるところでございますが、とすると、どのような体制があり得て、業務を担う労働者はどのように選ぶべきかなどについても様々御議論があるかと思っております。
以上、補足を申し上げましたけれども、これにとらわれずに幅広く御議論をいただければ幸いでございます。よろしくお願いいたします。
〇荒木座長 ありがとうございました。
それでは、4ページの2から5ということですけれども、労働基準法は労働条件の最低基準を設定しているわけですが、それから逸脱することを事業場の過半数代表との労使協定が締結された場合には許容するといった仕組みが採用されているわけです。
これがうまくいっているかどうかということで、今日の資料でいいますと、例えば、16ページなどでは、過半数代表者が適法に選出されていないと思われる例が直近の調査でも27.6%、3割近くは違法な状態ではないかといった問題点も指摘されています。過半数代表の選出や役割などについて課題が指摘されているということで、これを議論の取っかかりにしていただくのがよいか考えたところです。
それでは、どなたからでも結構でございますけれども、御自由に御発言をお願いいたします。
水町構成員、お願いします。
〇水町構成員 これは2、3、4、5と全部言ったらたくさんあるので、まず2だけでもいいですか。
過半数にこだわるかどうかですが、諸外国の法制から考えれば、必ずしも過半数じゃないといけないということではなくて、いろいろな選択肢はあり得ると思います。より重要なのは、民主性をどう担保できるかというので、従業員の意見が、代表者が出ていったときに、ちゃんとその人たちの支持を得ながら出てきているし、その人たちに声を返すというときにどのくらい支持を得ているかが大切であって、それを過半数にするのか、そうでないものにするのかは、それぞれ各国の労働組合法制や各国の法制に依存している。日本は戦後すぐできたときに36協定で過半数、そして労働組合法も過半数にしようと思ったけれどもできなかったところがありますが、その出発点からずっと過半数できていますが、それよりも、結果的には過半数になるかもしれませんが、民主性をどう担保するかという制度設計がより大切。例えば、労基法24条1項の賃金通貨払い原則の例外については、組合による例外が認められていて、そこでは過半数の定義というのは必ずしも入ってきていないので、そこでは民主性が優先されているという制度設計もあり得るので、具体的に制度設計するときにはどうかという、もうちょっと細かい議論をしないといけませんが、少なくとも制度設計の前提として国際比較法で見てみて、過半数じゃないといけないということにはなっていないということだけ、まずは申し上げさせていただきたいと思います。
〇荒木座長 ありがとうございました。
安藤先生どうぞ。
〇安藤構成員 御説明ありがとうございました。
まず14ページで、使用者の意向によるものではないことというのは、今、水町先生からもあった労働者側の意見が十分に反映されているといった点から、とても大事だと思うのです。ここで、16ページの下を見たときに、2018年、色がついているものは問題ありそうだということかと思われるのですが、その上にある投票や挙手、信任などであったら問題ないのかというと、現場をよく見てみないと分からないのではないかといった感覚も持っております。
と申しますのは、実際には誰も手を挙げてくれる人がいなくて、会社側が誰かやってよと声をかけてお願いしてやってもらうというケース。お願いして手を挙げていただいて、そこで投票などを行う。そして実際には労働者が過半数信任したことにはなっているわけですが、では、誰が選ばれたのかは、使用者が声をかけた人などというケースも十分にあり得ると私は考えているので、上の色がついていないところであれは問題なしと言えるのかといったら、そのあたりも要検討かなと考えております。
そして、これは以前も申し上げた話ですが、必ずしも過半数代表選任時に会社側から「信任投票しに来なさい」と強要できないとすると、場合によっては信任投票で過半数がとれず、不信任投票みたいな形で不信任という人もいなかったので、この人は過半数代表ですとなったときに、どのくらいの正当性があるのかといった点は、まだまだ適正な選び方というよりも前段階で問題があるのかなということも感じております。
また、今申し上げたように、会社が声をかけた方が手を挙げたというケースではなかったとしても、一部の労働者の代表者が手を挙げて、その方に対してほかに手を挙げる人がいなかった、不信任にもならなかった。ただし、その方が本当に過半数以上の人の声をしっかり聞いてやっているのかといったところに疑義があるかもしれない。しかし、自分が過半数代表者として手を挙げて、その任務を担うのは非常に荷が重いといったケースもあり得るのではないかといったことで、前提からの話になってしまいますが、どのような手段で選ばれることが労働者の意見集約に必要なのかといったところは、よくよく考える必要がある仕組みなのかなと考えております。
続いて、20ページです。労働者代表に任期を設けるということは、私が以前学んだ際には、一応これはやってはいけないことになっていると理解しておりましたが、現実にはやられているようだと思われます。建前論としては、労働者代表が必要になる事案ごとに労働者代表を選ぶというのが筋だとは思うのですが、実際問題、規模が大きい事業場で、ここでは300人以上みたいなところでは、かなりの割合で任期をつけて選んでいるというわけです。これが1,000人、2,000人となった場合には、論点ごとに毎回選ぶというのは非現実的だろうということで、労働者代表に任期を設けることは真正面から許容すべきだと考えております。ただし、どのような論点に対して意見を申し述べるのかといった点、役割についてもしっかり明示して選ぶことが必要でしょうし、任期の途中の段階での労働者からの意見募集や集約の手段、またはその過程について、事業場内では公表されるべきではないかとも感じております。
続いて、最後の申し述べたい論点ですが、24ページの複数代表のお話です。ここにも書かれているとおり、複数代表というケースがないわけではないし、一応ルール上では違法ではないと理解しております。労働者の多様性などを踏まえますと、例えば、短時間労働者の代表や正規の代表であるとか、複数の人が集団で代表として会社側と話し合うというようなことはメリットがあり得るものかもしれないとも考えております。
また、事業場単位で使用者と労働者が議論する場合には、事業場によって異なる結論に達してしまうといったケースもあり得る中、企業全体で議論することの中間に当たるので、事業場から例えば1人ずつ代表者が出ていって集団的に話し合うみたいなものが仕組み上は可能な気もしますが、それが有効に機能するのも、また難しい点があるかもしれないとも感じております。例えば、複数の代表者がいて、その間で意見が割れた場合にはどうするのか、そのあたり手当が必要な仕組みなので、ここについても複数代表というものが通常あまり予定されていないとか、企業によっては仮に労働者側がそういうことを希望しても、「いやいや窓口を1人にしてくれないと困る」といった答えがあるかもしれませんが、このあたりの仕組みをどこかに、労働者代表というのはこういう形までは実際に行われているし可能なんだよということが明示されていると、労働者側にも適正に過半数代表を選ぶ際の助けになるかなと感じております。
以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。
オンラインから水島先生、どうぞ御発言ください。
〇水島構成員 ありがとうございます。
ちょうど今、安藤先生がおっしゃった2点と関わるのですが、まずスライド20に関しまして、過半数代表者は本来、手続の都度選出するのが原則と思いますが、同じ方が選ばれるのであればよいですが、1回限りでその都度選ばれたときに、過半数代表者の役割を十分に理解し、判断いただくことが困難な場合もあるように思います。過半数代表者として一定期間その責務を担っていただき、就業規則の細かな改正に意見を述べ、労使協定を複数回締結いただくことで、過半数代表者が真の過半数代表になるのではないかと思います。
特に大企業では任期を定めて一定期間、過半数代表者の責務を担っていただいているようですが、規模が大きいところでは就業規則が複数存在し、改正頻度も相対的に多いこととも関係するのかなと思います。過半数代表者を育てることが任期を決めることによって可能になるのではないかということを意見として述べさせていただきます。
それから、スライド24の複数代表者について。複数代表者の定義があるものではなく、意味するところは様々ではないかと思いますけれども、事業場単位より小さい規模であったり、複数の職種や雇用形態の違いがある場合に、より小さなセルから過半数代表の候補者を出してもらって、その人たちがそれぞれの意見を集約して、過半数代表者に意見を持っていくことは考えられるのではないかと思いました。
好事例に意見集約の例が書かれていましたが、過半数代表者1人に任せてしまうのではなくて、それを支える労働者がいることで、過半数代表がより機能するのではないかと思います。
このような意味で、私は複数代表者を積極的に認めていくことは望ましいのではないかと考えます。
以上でございます。
〇荒木座長 ありがとうございました。
首藤先生どうぞ。
〇首藤構成員 私も、今の水島先生の意見とも重なりますが、先ほど水町先生が民主性をどう担保するのかとおっしゃいましたけれども、そこが一番肝だろうと思っています。民主性を担保するために各属性、当然職種、職制、性別もそうかもしれませんし、雇用形態などから複数選んでいくということは当然重要だろうと思っています。意見の集約という意味ではそれでいいのかもしれませんが、結局それぞれに利害が対立している場合は多々あって、そこをどうするのかが次の問題としてあると思います。労働組合がある場合には、対立した意見の中に優先順位をつけていくとか、社会の情勢を見ながら、どれを今は優先させるべきなのかを組合員内で相当議論している実態があると私は認識しております。
この優先順位を誰がつけるのかということだと思います。いろいろな意見を今でも多分、過半数代表、実質ほとんど形骸化していると思いますけれども、例えば、会社がWebアンケートで従業員の声を拾っているような場合はあるかもしれませんけれども、様々な違う意見の中でどれをとってどれを捨てるのかということを会社がやるのか、労働者自身でやるのか。組合があれば組合がかなりやっていると思います。ここは、私は労働者側の納得感がすごく違ってくるのではないかと思っています。それをやるためには、任期を設けるか設けないかという問題も当然ありますが、やはり育成体制がすごく重要で、研修や教育を受けるようなものを企業の中でやるのは大変かもしれませんから企業の外かもしれませんが、そういう体制がないと、例えば、労働組合のユニオンリーダーはものすごい数の研修を受けてそういったことを勉強し、どう社会が動いているのか、法律がどうなっているのかをやりながら考えてやっていますので、そういう育成体制をどこかで担保していかないと、なかなかそういったこともできないのではないかと思います。
そのことと多分次の課題である役割とも関係していて、どこまで過半数代表者に役割を担わせるのかだと思っています。36協定の締結というのは非常に大きな柱なのですけれども、例えば、労働時間を何時間認めるのかという話は、その裏には当然、その職場の中で要員数を何人にするのかと密接に結びついていて、要員が足りているのか、足りていないのか、それをどう評価するのか、判断するのかということを過半数代表に議論させるのであれば、それは相当勉強していかないとできないだろうなと私は考えています。
〇荒木座長 ありがとうございました。
山川先生、お願いします。
〇山川構成員 今の首藤先生のお話には同感している部分が多くて、後でまた申し上げますけれども、労使コミュニケーションという場合に、一般には使用者と労働者の集団とのコミュニケーションのお話が考えられがちなのですけれども、実は集団内部のコミュニケーションが、意見集約や調整という点ではすごく重要になってきているという感じがあります。
先ほど来議論があります、いわゆる労使委員会方式、複数名任期付常設というのは、JILPTの研究会に私も参加しておりまして、こういう方向は妥当なものだと考えています。今回の事務局のお話で、現状はそこまでいっていないので、適正化のためにどのようなことが考えられるかということがあろうかと思います。例えば、信任というのは、一言だけで言うとよく分からない部分がありまして、要は候補者を設定して、この方でいいのかどうかを個別に聞くということかと思いますが、そのあたり具体的に聞いてみると、協定届の様式を見ますと信任だけでいいとは書いていないのですけれども、実際どうなっているのか。届に信任とだけ書いてもいいのかということが一つあります。
それから、労基則の6条の2では、法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される手続、つまり、こういう協定を結ぶ者を選出することを明らかにすることが条文上要求されていまして、この意味が、例えば、36協定を結ぶという個別的にきくのか、あるいはおよそ協定を結ぶということでいいのか。ここは任期付にするとなると多少緩やかにせざるを得ないかと逆に思います。
あと、選任するという手続を開始するという周知が意外に低いなと思ったところと、誰が選任したという結果の周知もあり得るかと思いますので、いろいろな工夫はなおできるのかなと思います。
最終的には、これはいってみれば、労働者の集団的な意向を反映するためのガバナンス体制の問題だと思いますので、個々的な問題のほかに、ある種の措置義務的に意向聴取あるいは意向反映のためのガバナンスを、内容はいろいろありますけれども、設定することを求めるということがあってもいいのかなと思います。
ただ、根本的な問題は、このような適正な代表を選出する、さらには過半数代表者を選出するインセンティブが誰にあるかということで、現状は要するに36協定がないと困るということで、使用者側のインセンティブが大きいのではないかと思います。こうしたことから、なぜ適正に選べないのかという問題を発見したら原因を探って、そこから出てきた課題を示して、それに対する対応を考えるPDCAサイクル的な発想で、そもそもなぜ適正に選べていないのかをより詳細に分析することが、もうされているかもしれませんが求められるかと思います。
ちょっと長くなりますが、あと1点だけ。過半数代表者制度が適正ないし円滑に運営されるための、一つのあまり議論されていない点があります。それは、この制度は基本的には監督署が監督すべき問題であることは明らかなのですけれども、そこだけで解決できない問題が幾つかありまして、例えば、適法な選出方法のうち、どれをとるかについて議論が一致しない場合。例えば、選挙にするか信任にするかについて意見が一致しない場合。それから、協定を結ぶ場合には、そもそも協定を結ぶ義務はどちらにもないわけですので、協定を結ぶかどうか、またはその内容について合意が成立しない場合は、監督署は手が出せないということになります。合意がない場合に、それでも例えば、時間外労働を違法にさせてしまった場合には監督署の問題ですけれども、合意の形成に当たっての支援システムは現在存在しないということがあります。
そこで、また情報提供ですが、労働委員会の全国労働委員会連絡協議会で、そういった監督署で取り扱えないようなある種の利益紛争については労働委員会が支援を行えないかという点も議論いたしました。現にそういう紛争があります。組合が関与している場合は不当労働行為事件などになるのですが、関与していない場合でも個別紛争あっせんなどで支援ができないか。要は、過半数代表制度の監督的側面に加え、利益紛争になった場合の紛争解決支援もあり得るのではないかと思います。
すみません。ちょっと長くなりましたが、以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。
石﨑先生、お願いします。
〇石﨑構成員 これまで出していただいた御意見におおむね共感しながら伺っていたところでございます。第1回目の研究会でも申し上げたのですけれども、過半数代表者の方がきちんと役割を果たすための教育の仕組みをきちんとつくることが大事なのではないかと私も感じておりまして、その観点からいくと、実は任期制はそれに即しているという点は私も同様に感じております。
労使コミュニケーションというときに、そこに複数の内容が含まれるように思っておりまして、コミュニケーションの1つは、労働者側あるいは事業場のいろいろな情報を集めて、それを使用者側に伝える。また使用者のほうから情報提供を受けて、それをフィードバックするという情報を流すという側面を持つコミュニケーションと、既にお話の中に出てきておりますように、場合によっては相対立する労働者間の意見を集約したり調整したりする。またそれをもって企業と交渉して、必要に応じてさらに再調整を行っていくという、それぞれのプロセスがあるかと思います。このうち前者の情報を流すという点に関して言えば、今かなりいろいろなデジタル技術などの進展によって、実は過半数代表者を挟まなくても、個々の労働者と使用者の間での直接なやり取りみたいなことも可能になっているし、そのあたりの情報の整理を企業側が例えば担ったりすることもできなくもないというところかなと思います。
他方、意見集約や調整をやるのは、そこは人が必要になってくるのではないかという場面であり、また、非常に専門性というか、技術が必要になってくる場面ではないかと思っておりまして、そこをどういう形で、企業内なのか、あるいは先ほど労働委員会のお話も出ましたけれども、そういった企業外なのか、あるいは企業単位で組合はあって、ただ事業場にはないという場合であれば、そこの企業で組織される組合ということでもいいのかもしれませんけれども、どこがそういった教育を担っていくかというのが非常に重要になってくるかなと思っております。
また、先ほど安藤先生の御意見の中にもあったように、やりたがる人がいない問題に対して、どうアプローチしていくかというところがあるかと思いまして、そこに関しては、負担を軽減できる部分についていかに軽減していくかということのほかに、過半数代表者の重要性の周知・啓発も同時に重要になってくるのではないかという気がしておりまして、そういう意味では、過半数代表者に対する教育も重要だと思うのですが、それ以外のほかの労働者全体に対する周知・啓発も同様に重要になってくるのかなと思っているところです。
以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。
では、黒田先生、お願いします。
〇黒田構成員 あまり皆様のように格調高い意見は言えないのですが、産業医の立場と自分が一労働者の立場として、それぞれ聞いていて感じたことをお伝えします。
産業医の立場だと、過半数代表の方と直接やり取りしたりということはないのですが、あえて言えば、安全衛生委員会で御出席されている過半数代表の方の意見を伺って、何らか助言的なコメントをしたりということはあります。しかし、皆様あまり役割をきちんと認識されて参加されていない御様子というか、過半数代表を務める順番が回ってきたので選ばれて、不信任ではなかったので御出席されている。もちろん御知見のある方もいらっしゃるので、その範囲に関しては労働者の立場だったり、より専門的な立場だったりでコメントをされる。そこを会社としてまた持ち帰って検討しますというやり取りがされているように認識していますが、過半数代表を務める上で教育というか、どういう役割を担っているか、もしくは理解しているけれども負担が大き過ぎるので期待される役割は十分担えないという感じなのか、そのあたりには課題がありそうだなと思います。やりがいを持って取り組んでいらっしゃる方もいらっしゃると思うのですが。
一方で、一労働者の立場だと、どういうプロセスで選ばれるかは置いておいて、正直、自分が過半数代表者に選ばれたとしたらあまりにも荷が重過ぎるかなと思っています。合意形成もするし監査やモニタリングの役割もして、情報の集約を会社に伝えて、また、会社の意見を伝えるというのは、働きながらやるにはあまりにも重過ぎる役割ではないかと感じました。とはいえ、民主主義の根幹を成すようなやり取りだと思うので、全部外注してしまえばいいというものでもないとは思うのですが、やってもいいという人を出していくためには、そういったよく分からない役割と不安の軽減や、グットプラクスティスが資料の49ページ以降にあり、「成功体験を積んで自分が関与すると会社が変わっていくんだ」みたいなことが書いてあったかと思いますが、こういうこともできるんだなということが周知されるといいのかなと思います。女性活躍推進とちょっと似ているなと思いながら聞いていたのですが、「管理的な職員の人のうち3割は女性から出さないといけないから、よろしく管理職」と言われて「え~」という感じがあるかなと、過半数代表者もそれに最初は似ているかなと思うのですが、やってみるといろいろ問題はあるけれども、やれなくもないという感じかなと思うので、制度をつくって運用していくのでもいいと思うのですけれども、どうやって支援していくかというのは確かに課題だなと思っています。
ただ、外注というわけにはいかないと先ほど申し上げましたが、課長からは外部専門家の活用というコメントがありました。これも全然格調高い意見ではないですけれども、マンションの管理組合とかPTAとか、今、外部資源を使ってやっていくというのは主流とまでは言いませんが、割と一般的になってきているかと思います。労働組合があれば一番いいのでしょうけれども、過半数代表者を支援するとか、過半数代表者に成り代わることはできないと思うのですけれども、そういう外部資源を活用して、というのは現実的にあり得るのかなと、あくまで想像の範囲ですが感じました。
以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。
ほかにはいかがでしょうか。神吉先生どうぞ。
〇神吉構成員 今まで出たお話、ほぼ共感です。それを法制度上どうしていくか、15ページの過半数代表者の選出に関する施行規則を見て感じたのですけれども、過半数代表に関する規定は労基法の中にもありますが、そこで過半数代表に関して規定がある部分の主語が、ほとんど「使用者は」になっているんです。組合の場合は自動的に決まるのですけれども、使用者側から見た過半数代表者については、その選出や取扱いに着目した規制がメインで、過半数代表者の側に着目してその在り方、つまり権利義務などを定めた規定というのは実はほとんどないのです。労基法の中で一番メインの36協定も、「使用者は、過半数代表との労使協定をすることによって時間外労働や休日労働をさせることができる」という定めになっており、就業規則の作成・変更に関しても、「使用者は、過半数代表の意見を聞かなければならない」とあるだけです。だとすると、特に過半数代表者については、最終的には労使協定を結ぶ何らかのデロゲーションの合意に至ることが期待されるにしても、非常に難しい任務を理解して、合意に至るまでにどうやって自分を支えている、正当性を支えているはずの過半数の労働者の意見を集約するかは極めてブランク。ここをどう規律していくかが課題であろうと思います。
労使コミュニケーションには多様なものがあるなか、1つは、集団的か個別的かという軸、もう一つは、自発的か義務的かという軸で整理できると考えます。
過半数代表でも、過半数組合は労働者が自発的に集団となっているけれども、同じ過半数代表の中でも過半数代表者は、過半数を代表しているという意味では集団の側面もありつつ、基本的にはほとんど個人という特殊性があり、かつ、それが自発的に行われているものかというと、そうでもなさそうなのが実態だと思います。つまり、過半数組合を念頭に置いて考えられた過半数代表によるデロゲーションの仕組みは、実は集団でも自発的でもない存在である過半数代表者にかかっているという、特殊な制度だと思います。
だとすると、過半数代表者の自発性には任せきれない側面をどう対処するかが問題になるのではないでしょうか。先ほど来指摘されている教育や研修は、この実効性を確保していくために非常に重要だと思う反面、自発的にやっていることであれば支援する方策でよいと思うのですが、これが法で強制される契機とすると、もしかすると教育研修を受けなければいけない義務的なものになるのか。日本の労使コミュニケーションは、もともと組合という労働者の自発性からスタートしつつ、強制してでも導入すべきという価値を労基法上見出せるかが問われるのだと思います。グットプラクスティスを挙げてエンカレッジする方向でとどめるか、労基法上労使のチャンネルは必要なのだから何らかの義務づけの契機を持ち込むべきなのか、そのあたりの姿勢を再考すべきなのではと考えています。
以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。
島田先生どうぞ。
〇島田構成員 私も、先生方がおっしゃる意見をそのとおりと伺っておりました。
いわゆる労使委員会方式という、任期を定めて恒常的な委員会として設置するという点は望ましいと考えているのですけれども、現実的に可能なのかという点が非常に疑問でして、特に、過半数代表者すらなかなかちゃんと選べていない過半数組合がないような事業所で、今ほとんど設置されていないであろう労使委員会方式を入れるとして、絵に描いた餅的なものにならないのかというのが非常に気になっております。導入させるとしても、そのハードルをかなり下げる何か手だてが必要なのではないかと思っております。
また、労働者側の研修なり教育、また、過半数代表の育成というのも重要な課題だと思います。その上で、話し合って決めるという労働者側、労使の意識というのがかなり低いように感じていまして、自分が意見を述べるのだと、誰かの意見を述べるとか話し合って何かを決めるという素地がかなり足りていないところがあって、それをどう対処するのかというのが、私自身も全くいい案が浮かばないのですけれども、重要になってくるのではないかと感じました。
以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。
では、水町先生どうぞ。
〇水町構成員 幾つか関連することをお話しさせていただくと、まず、任期を設けるかどうか、これはすごく大切なことで、先ほど民主性の契機・担保と言いましたが、民主的であることは任期をつけるという、支持も変わってくるし、問題も変わってくるので、いつの時点でいつまで選ばれるのかを決めるのが民主主義なので、選挙があるのと同じです。フランスでは4年に1回選挙して代表を選んでいますが、選挙するかどうかは置いておいて、代表の人にもちゃんと任期をつけて、任期をつけるというのは同時に任期期間中は選ばれているということなので、単発ではなく常設的な機関になるという重要な意味があるかと思います。
もう一つ事務局から出た、例えば、短時間労働者については短時間労働者だとか、テーマごとに関係する人の代表で選ぶのか、それとも全体で選ぶのかという議論もありましたが、難しくして複雑化させて分断するというのは、個人的な意見としては避けるべきだと思います。シンプルに全体としてつくって、その中でいろいろな利益やいろいろなタイプの人がいらっしゃるかもしれませんが、それについては全体の中で利益調整をしながら話し合うことが一番大切なこと。
そして、何よりも日本では、中小企業を含めてきちんと民主的な組織をつくっていくということが大切で、フランスは最近の改革で、国際競争力を高めるために中小企業にも労使コミュニケーションの基盤をつくろうとした。従業員、働いている人の意見を吸い上げてガバナンスを高めて経営をしていかないと、労働者無視で勝手にやっていくといろいろな問題が起こっていくので、そこで何をしたかというと、複数あった企業委員会とか安全衛生委員会みたいなものを1個に統一して社会経済委員会とした。その1つに統一した委員会を中小企業も含めてつくらせて、小さな労働組合の代表が存在しないようなところでもそういうものをつくって、いろいろなテーマをきちんと労働者の代表も入って相談して話をさせようという制度をつくった。今は複雑になっていろいろな利益が絡んでくるからこそ、そういうものをきちんとつくって、大企業は大体組合代表がいてうまく回っているかもしれないけれども、今まで放っておかれた中小企業にそういうものをつくって、労使コミュニケーションを活性化させなければいけないというのを、いろいろな反対がありながらも政治的なイニシアチブで進めていったということがあります。
まさに日本も、中小企業で機能していない労使コミュニケーションをどうするか、誰もそんなのやりたくないと言ったとしても、政策的に大切だというのでどういう制度をつくるか。なので、あまり複雑なものをつくるのは、例えば、企画業務型裁量労働制を導入するための労使委員会を従業員数2人、3人のところにもつくらせろと言っても多分無理なので、小さいところにどういう組織をつくり得るかを考えて制度設計をする。そのときに、あまり細分化するのではなく、とにかくつくる。36協定を締結するにも、賃金全額払い原則の例外をするにも、そういうものについてきちんと話し合って、労使のコミュニケーションに基づくガバナンスや運営をしてもらうことが大切です。
もう一つ専門家のサポート、特に小さいところになればなるほど誰も分からないので、こういう制度をつくるときには専門家のサポートが大切だと言われていまして、日本では誰に当たるかというのはいろいろあるかもしれませんが、例えば、弁護士さんとか社労士さんとか、医療の問題については産業医の方をはじめとする医療従事者の方が、公的な政策としてこういうところに行くとサポートの人を呼んでサポートしてくれるよということとか、場合によっては紛争の場合には労働委員会に行って、紛争解決とか合意形成に向けてサポートしてもらうということもあるかもしれません。これは重要な制度だと思います。
それと、同意を得るのが難しい。基本的には、労働者のための労働者の代表ではなくて、企業の中のルールをつくる労使の話し合いの委員会なので、また後で労働組合とか団結権との関係は別に慎重に議論しなければいけないことが出てきますが、ストライキを行う労働者の代表としてここで議論しているのではなくて、例えば、労使委員会というものを労働者側委員と使用者側委員で話し合って決める。そのときに、同意を得るのが難しいというのがありますが、一つの工夫としては委員数を奇数にする。最終的には議論して、労働者側委員も1人、3人、5人、7人とか企業規模に応じて、必ず2人にしなければいけないということもないと思いますし、2人だと実は最後決められないということがあるので奇数にするとか、いろいろな工夫はありながらサポートしてもらうということがあり得るかと思います。
同意のときは特に最終的な決断をすることが必要なので、そういう工夫が必要ですが、同意だけではなくて、先ほど山川先生がおっしゃったように、協議とか意見聴取、最終的には使用者が権限を持っていて会社が決めるけれども、そういう重要な案件については労働者側の意見も聴くという、意見聴取や協議の手続をそういう中に入れていく。日本でも就業規則をつくるところは意見聴取で、就業規則変更について過半数代表の決定権があるわけではないので、そういうものを組み合わせながらなるべく、ハードルを低くするというのは言葉があれですけれども、中小企業でもつくりやすい制度にして、今、機能していない過半数代表者の制度をどう機能させていくかが必要かなと思いました。
差し当たり以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。大変重要な御指摘をいただきました。
山川先生どうぞ。
〇山川構成員 今の水町先生のお話の関係では、確かに過半数代表者の役割について、1つは、助言や支援をする者としての外部の専門家等はあると思います。また、先ほどの事務局のお話との関係では、ある種の委任みたいなことができるかが一つの論点になろうかと思います。例えば、各事業場においては過半数組合がなくて過半数代表者を選出したけれども、企業全体として見れば過半数組合があって、そこに職務ないし権限を委任することが可能か。また、可能であるとしても、その要件をどうするかということは、助言・支援のほかに、主体が誰になるかという問題で、一つの論点になるかと思いました。
あと、先生方の御意見で、確かに過半数代表者の負担というものがいろいろあろうかと思います。特に、使用者側のインセンティブによる実行が多いということからすると、労働組合のある場合とない場合の違いも論点の一つにありましたけれども、労働組合と同じ意見調整や集約を過半数代表者に期待するのは正直難しいと思います。あるとき、労働委員会の労側委員の組合役員の方とお話ししていましたら、団体交渉よりも組合内部の意見集約のほうがよっぽど難しいという意見を聞きました。それはそうではないか、特に現状のような多様化の時代ではそう思いますので、代表者に全くの同一の役割というのは難しいのではないかと思います。
ただ、それにしても制度が適正に機能する上では、さっきガバナンス的なことを申し上げましたけれども、例えば、労基則では過半数代表者の活動のための配慮をするというのがありましたし、また、不利益取扱いをしないようにしなければならないという努力義務規定的なものがありまして、これらはある種の体制づくりの話で、例えば、先ほど女性活躍推進法のお話もありましたけれども、不利益取扱いをしないという方針を企業内で明示するとか、配慮はこういうことをしますよと企業内で周知するとか、施行規則だけで済むかどうかという問題はありますが、全体として過半数代表者が適正ないし安心して活動できるような仕組みをつくるようにして、それを周知して安心してもらうという仕組みは一つ措置義務的な観点から考えられるのかなと思いました。
以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。
いろいろ重要な御指摘がありました。お話をお聞きしながら、なぜデロゲーションの話をしているのかもう一度確認しておきたいと思います。例えば、36協定がそうですが、労働基準法は8時間、40時間以上働かせてはならない、これを最低基準としております。しかし、現場においてはそれでは対応できない正当なニーズがありうる。これを全部法律で、こういう場合には時間外労働をやっていいとか事細かに定めることは不可能ですので、最低基準の現場におけるカスタマイズの任務を過半数代表に委ねているということだろうと思います。ですので、過半数代表との協定は、最低基準から逸脱することを認めますけれども、個々人の労働契約の権利義務を設定することはできないというものです。ですから、これは労働組合との団体交渉による労働協約とは決定的に違うものです。あくまで最低基準を現場にふさわしい形で調整する権限のみが委ねられているというのが過半数代表です。これが必ずしも適正に運用されてないのではないかということから話を始めたわけです。
そこで、様々な支援が必要だという御指摘をいただきました。非常に大事な点だと思いますが、山川先生の御指摘の中で、なぜこれがうまくいっていないのかというと、企業としては絶対的に残業の必要性があって、残業ができないということは現実的にはあり得ない。それは使用者側のみならず労働者側のニーズでもあるかもしれません。
ところが、労使協定締結方式というのは、労使協定が締結できた場合に法定基準を下回ることができる。過半数代表が協定締結を拒めばできない。ですから、過半数代表が拒否権を持っているという制度です。見方を変えれば、過半数代表と共同決定をしなければ法定基準を下回ることができない。このように、労使が合意した場合のみそれを行うことができるという仕組みは、ドイツの事業所委員会では共同決定制度として導入しています。時間外労働もそうですけれども、共同決定事項については、事業所委員会の同意がなければ使用者は一方的な措置はとれない。
しかし、ニーズがある場合に、従業員代表が同意してくれなければ企業は何ら決定ができないというのでは回りません。そこで、ドイツでは従業員代表の合意が得られない場合には、仲裁委員会に付託することができる。仲裁委員会というのは、労働者が指名した方と使用者が指名した方と労使双方が合意によって選んだ中立の方、これは、しばしば労働裁判所の裁判官だったりするのですけれども、この三者で構成される仲裁委員会の裁定が労使合意に代わるということで、共同決定できずに措置がとりえないということに対する対応策を用意しております。
日本の36協定などは、労側が合意していないけれどもニーズがあるという場合の制度的な対処はないわけです。それが実は適正でないような36協定の締結を生んでいるかもしれない。そういった制度的な問題も踏まえて検討すべき課題の御指摘をいただいたのではないかと考えております。
さて、その他何か御意見ございますか。
安藤先生どうぞ。
〇安藤構成員 私も先ほどお話ししましたが、過半数代表になりたい人が少ないという実態は多分にあるとは思いますが、思考実験として、なりたい人がたくさんいた場合にどうするのかも考えておく必要があるのかと思いました。まず、過半数を押さえたからといって少数の意見が押しとどめられてしまっては問題だと思いますし、それ以上に、例えば、3つ以上のグループが代表者を出して選挙で投票する。どこも過半数をとれなかったらどうするのかみたいな集団的意思決定の問題というのは、経済学の中でもかなりの文献がある領域です。ここで3人以上候補者がいるときに、多数決で選んでどの代表者も過半数をとれなかった場合、例えば、上位2人だけで決選投票やるとか、4人候補者がいる中で誰も過半数をとれなかったら最下位を取り除いて残り3人で投票する最下位消去のやり方など、いろいろな多人数での決め方が現実には使われているわけですが、そのどの手法を使うかによって選ばれる人が違うといった問題が、経済学の集団的意思決定の分野では結構有名です。経済学者で坂井豊貴さんという方が「多数決を疑う」という有名な本を書かれていて、かなり知られているものなのですが、このあたりどうやって多数の方が意見を言いたい、自分が代表になりたいと言ったときに選ぶのかといったことを考える必要があるかと感じました。
また、短時間勤務の非正規の方が過半数を占めているような、例えば、飲食店のような、またスーパーマーケットなどもそうかもしれません。こういうところで単純に選挙をすると、週に数時間しか働いていない人が過半数代表者になることも十分にあり得るのではないか。こういうことを考えた際に、どのような人がふさわしいのか、知識がなくてもいいのか、神吉先生から先ほど自発的に立候補した場合、その人に任せてよいのかといったことなのかなと私は捉えたのですが、どういう人がふさわしいのかといったことも、労働者が自分はやりたくない、誰かいい人にやってほしいというだけではない、過半数代表というものをしっかり理解し、学ぶことが重要なのかなとも思いました。
これも首藤先生からあった言葉ですが、過半数代表を育てるといったお話があって重要だと思っているのですが、それは会社が育てるものでもないような気がします。会社側にとって有利な形に誘導されてしまっては問題だという際に、変な例かもしれませんが、私たちが自動車の運転をするには免許が必要です。自分がけがをするだけだから、やりたい人だけ自発的に教習所に行けばいいわけではなくて、車の運転は他人にけがをさせたりする可能性もあるといった感じで、経済学で言う負の外部性があり得るわけです。この労働者の過半数代表というのも、判断によっては他人に不利益をもたらす可能性がある、大きな影響を与える可能性があるといった観点から、自動車の教習所で試験を受ける際にテキストがあるみたいに、過半数代表というものはどういう役割で、どのような判断の重みがあるのか、また、労働法の最低限の中身などが学べるような簡単な資料などがあると望ましいのではないかといったことも感じました。
最後に、過半数代表になるということで、会社が不利益な扱いはしないといっても、少なくとも物事を考える時間は必要ですし、時間はとられる。また、会社とほかの労働者との間に挟まれて、辛い立場になり得ることもありますし、また、異なる希望を持つ労働者間の意見の修正・調整が難しいという山川先生からもあったお話で、それはとても感じることです。
そこで、これまで外部専門家の活用といった論点も出てきたわけですが、私は国土交通省で区分所有建物、いわゆる分譲マンションの管理組合の標準管理規約の改正に加わったことがあります。これはマンション管理組合に外部専門家を活用するという結構大きい改正だったのですが、その際に、幾つかのパターンを用意しまして、あくまで区分所有者の中から区分所有法上の管理者を選ぶのだけれども、外部の理事として理事会に参加してもらう、専門家に入ってもらうということも一つのパターンとしました。そして、一番極端なケースとして、問題を抱えている状況で選ぶ可能性があるものとしては、外部専門家に区分所有法上の管理者になってもらい、対価をお支払いしてその任を担ってもらうということも幾つかある候補の中に挙げてあります。
その際に、非常に長く議論したのが利益相反の問題でした。一番マンションに詳しいのは今、管理実務を請け負っている管理会社なのですが、その管理会社の中から管理者を出してしまうと、高価な工事などを請け負ったほうがお得になってしまったりといった利益相反の問題があるので、どういう人だったら外部の専門家としてふさわしいのか。このあたりを非常に丁寧に議論した経緯がございます。今の過半数代表、労働者の代表として意見を出す、協議をするといった人に、外部の方に入ってもらうときにはどのような方がふさわしいのか。先ほど弁護士というお話もありましたが、このあたりの視点はとても重要かと思います。また、それが誰が呼んできた外部専門家なのかによって、一部の意見を代表してしまっても困るといった観点から、このあたりよくよく検討が必要だろうと思います。
あとは、これも余計な視点かもしれませんが、マンションの話をしたときには外部専門家に対して対価を払う必要があるという点も注目されました。その金額はどのくらいが適正なのか。中の人がやるよりも相当に専門的な人を呼んでくるとコストもかかるといった点、認識が必要なのかなと思っています。
以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。
首藤先生どうぞ。
〇首藤構成員
外部専門家の話は、私は労使自治をどう考えるかということと矛盾してくる可能性もあるなと思っています。外部専門家には誰がお金を払うのですかという、今の安藤先生のお話もありますけれども、企業がお金を払う外部専門家が労使コミュニケーションの中に入ってきた場合には、誰と誰が議論しているのかという気がします。
本来の目的に立ち返ったときに、労使のコミュニケーションをとにかく充実させる必要があるのだということをまず大前提としたときに、先ほど神吉先生から自発か義務かというお話がありまして、すごく重要な御指摘だと私も思いました。確かに義務的になっている現状があります、なり手がいないというのも実態だと思いますので、負担や不安をどう軽減できるかという体制のつくり込みが極めて重要だと思っています。
例えば、私も詳しくないのですけれども、ヨーロッパで調査などをしたときに、ドイツの従業員代表と会うと結構専従だったりするんです。つまり、会社の仕事をしていないで、それをやっているというような人たちとも何度も会って議論したことがありますけれども、過半数代表の活動を就業時間内にできるのかどうか。そのほうが望ましいと思うのですけれども、時間内にできたら会社から金をもらってやっているという、ドイツはそうなっていると思いますが、そこで自律性が担保できるのかというところが当然問題になってきますけれども、負担を軽減することと時間を確保することとともに教育だと思います。そこによって、義務が自発に変わる可能性はないかなと。それは可変的なものではないのだろうかという期待をこめて思っているところではあります。
〇荒木座長 ありがとうございました。
黒田先生。
〇黒田構成員 会社からお金をもらっている専従で、どちらの立場なのだというのは産業医もよく言われるのですが、産業医の場合は独立しております。中立ではなく、独立した立場でやっておりますと回答しているので、制度設計によってうまくいくのではないかなと思います。
以上です。
〇荒木座長 経費負担の問題は、ヨーロッパでは従業員代表制が制度化されておりますけれども、特にドイツでは、事業場の労使共同の利益を増進させるパートナーと位置付けられていますから、使用者は経費援助しなければならないと法律上決まっております。これが労働組合とは全く違う。労働組合の場合は、労使が対立してそれぞれの利益を、ロックアウトとストライキという経済的な武器を構えながら闘う。そういう労使交渉と、事業場の従業員代表と使用者の協議というのは全く性格が違う。だから、後者の場合、従業員代表については使用者が時間内に賃金を保障して協議もするし、様々な便宜供与を行わなければいけない。このように、労使コミュニケーションといっても内実が違うということを前提に考えるということかと思います。
水町先生どうぞ。
〇水町構成員 労働組合と労使委員会的なものの関係をどうするかというのが制度設計のときには非常に大切になりますが、今、荒木先生がおっしゃったように、2つの制度は性質として別の制度で、組合は組合の代表であり、ストライキをして組合の利益・権利を守るという労使対立構造の中で組合としての役割を、日本で言うと憲法28条にありますが、例えば、労使でコミュニケーションをとって企業の中のルールをつくるための委員会という位置づけがフランスやドイツでもなされていて、それは組合とはまた別という位置づけの中で、例えば、委員の権利保障、活動保障であったり、差別をされない、不利益取扱いをされないとか、勤務時間内に使用者のサポートの上で活動するとか、有給保障とかいろいろなものが法律上定められていて、これは組合と別のものだよと。神吉委員がおっしゃったように、日本でもそういう制度をきちんと定めることが重要だと思います。
その上で制度全体として、例えば、新しく制度を改変するときに、労働組合とこの制度が排他的なものになってしまうと駄目で、実際上制度は別なのだけれども、フランスでもドイツでも組合があって、実質組合員が活動しているところではうまく機能していて、組合のないところでは情報がないので形骸化していることが多いと言われていて、これはある程度どう情報をサポートするかという問題にもなりますが、要は、組合があるところではこの委員会もうまく回っているという相乗的な制度設計にすることが大切。
これは今すぐ答えが出るものではないと思いますが、例えば、デロゲーションのやり方として、組合によるデロゲーションと労使委員会によるデロゲーションの2つを認めるか。例えば、賃金通貨払い原則の例外というのは、今、組合がデロゲーションもできるし、過半数代表者がデロゲーションもできるし、そういう並列的な制度にするか、それとも例えば、企画業務型裁量労働制の労使委員会というのは、組合があるかどうかに関わらず、労使委員会があって決議をしないと制度を使えないというので、労使委員会で一本化しているわけです。だけれども、実際上そこで組合との関係がどうなっているかというと、労働者側の委員を過半数組合がある場合には過半数組合が指名できるという形で、実質的には過半数組合があるときには、その中に入っている。これは、過半数組合が新しく仮に委員会をつくったときに、全員組合員を指名していいかというのは、例えば51対49で分かれていたり、非正規の人が加入していなかったりするときに、誰を委員として指名するかはいろいろあるかもしれませんが、いずれにしても、労使委員会として組合のあるなしに関わらず一本化した上で、誰を委員に選出するかという中で組合の関与の仕方を考えるというやり方があって、いずれにしても、憲法28条に反しないような形で制度設計することができると思いますし、これは制度設計を具体的にするときの選択の問題かなと思います。
以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。
集団的コミュニケーションの意義に議論が移ってきていると思いますので、その方向で議論いただきたいと思います。
石﨑先生、お願いします。
〇石﨑構成員 ちょっと戻してしまうかもしれないのですが、先ほど出ていた負担感への対応の関係での外部専門家の活用という点についてですけれども、これも労使コミュニケーションの中身によって、使うことがよりよい場面もあるのではないかという趣旨の意見でございます。というのは、デロゲーションに関わるところではないですが、例えば、従業員代表が苦情処理的なところを担っている部分があるかと思います。そうした苦情処理や、ある種企業の課題を告発するような内部告発的な側面を持つ部分については、まさに過半数代表者に委ねるよりも、外部の機関に委ねたほうが申告する側も申告しやすいといったこともあるかと思いますし、その場合、受けた情報を適宜匿名化して過半数代表にフィードバックしていただくといったプロセスも必要になってくるかもしれませんけれども、そういった場面での活用が考えられるかなと思ったところです。
もう一点目は、先ほど黒田先生からも産業医という立場の関わりというお話もありましたけれども、モニタリング、特に労働時間関係のモニタリングに関しては、既に衛生委員会あるいは安全衛生委員会で、長時間労働者の時間外の状況等は調査・審議等されているのではないかと思うのですけれども、このあたりの衛生委員会が担っているモニタリングと、さらに労働条件設定の部分、特に36協定の特別条項をどうするかといったところに関して、衛生委員会を利用していくという方向性も一つの段階としては考えられるのではないかと考えたところです。
ただ、将来的に、特に衛生委員会は50人以上の規模のところだけですので、中小企業を含めた全体的な制度設計を考えていく際には、水町先生が先ほどおっしゃられたような統一的に扱うという方向性が望ましいのかなとも思うところなのですが、一つ段階的なプロセスの中で衛生委員会の活用も考えられるのではないかと思ったところです。
あとは、最後の点ですけれども、これまで主に過半数代表者の組合がないところについての課題を中心に議論されてきたかと思うのですが、過半数組合があれば何の問題もないのかというと、そこもどうなのだろうと。実態がよく分かっていないところもあるのですが、そういう気がしていまして、そうしたところで特に組合員は大丈夫だと思いますが、組合員以外の利益がどの程度きちんと反映されているのか、あるいはどのような形で取り込みをされているのかといった実態も踏まえながら、また考えていく必要があるのかなと思いました。
以上になります。
〇荒木座長 ありがとうございました。
過半数代表との関係も常に問題となるところですけれども、残った時間では、より広く集団的な労使コミュニケーションの意義・課題について御議論いただければと思います。
山川先生、お願いします。
〇山川構成員 労使コミュニケーションの充実の必要性、特に従業員代表制等と絡めて議論されることが多いのですけれども、割と学者主導のような感じを抱いておりまして、現場の労使がどれだけ充実の必要性を認識しているのかが重要ではないかと思います。私は、それはあるのではないかと思っておりまして、それは、今回の資料にもあります多様化する労働契約のルールに関する検討会でいろいろ調査を行ったのですけれども、1つは無期転換後の元契約社員と正社員の関係の処遇のバランスをどうするかの問題、それから、勤務地や職務が限定されている正社員とそうでない、いわゆる無限定正社員の処遇のバランスの問題。これは、企業や組合も結構苦労されていて、課題として認識されているというデータが出てきたと思います。
そのほかにも例えば、育児や介護で配慮が必要な従業員と、そういう配慮が必要でない従業員とのバランスの問題。これも、よく育児介護休業制度等で議論されていまして、これらは処遇のバランスという点で集団的な制度設計が必要であるわけですけれども、個人の利害関係がかなり多様化している。一人一人の意向を聞くというのもありますが、制度をつくるときには意見集約や調整の役割が重要になると。こういった集団の中での個別利害を調整するシステムをどうつくっていくかというときは、まさに集団的な労使コミュニケーションが重要ではないか。そのニーズ自体は、多分労使とも感じられているのではないかと思います。ただ、先ほど申しましたように、集団内部の利害調整や意見集約をどう行うかというのは非常に難しいところがありまして、このこと自体に法律で介入するというのは、なかなか難しいのではないかという感じがします。
先ほど好事例の紹介がありましたけれども、ニーズがあることを認識してもらうことと、その意見調整や集約の方法でこういうことが有効であるということを周知して促進していくというのが、とりあえずはあるかなと思ったところです。これは先ほどの対外的コミュニケーションはともかく、対内的コミュニケーションの難しさの反映になるかと思います。
個人の利害が多様な場合に、座長がおっしゃったような規制の柔軟化を図る方法というのは、なかなか難しいところがありますが、資料のほかの点とも関連させていいますと、例えば、個人の同意のみで例外を認めるという政策手法が一つあって、もう一つは、企画業務型裁量労働制などのように集団的同意と個人の同意の双方を要件とする方法があって、あとは若干過半数代表から外れますけれども、個人の意向の聴取を使側に義務づける、労側は難しいということですが。4番目が、特定の類型の労働者の代表との協議や協定を要件とする。水町先生からも先ほどありましたが、これもなかなか難しいところがあって、パート労働法と労働者派遣法では、「過半数を代表すると認められる者」となっていて「過半数を代表する者」ではない。しかも、両方とも努力義務で、一体どのように運用されているのか、パート法と派遣法の「代表すると認められる者」の選出につきどうやって行政指導をやっておられるのか、あるいはやっているのかどうかも含めて、よく分からない点があるのですが、特定の類型の労働者の代表を関与させるのはなかなか難しい点があるのかなと思いました。
以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。
ほかにはいかがでしょうか。水町先生どうぞ。
〇水町構成員 これまでデロゲーションの話が中心でした。デロゲーションでも重要ですが、例えば、労働契約ルールをつくるときに集団的な意見を踏まえてつくるとか、さらには人事権を行使したり、企業が何か決定するときに従業員、これは従業員の共同決定で同意を得るというのではなく、情報を与えたり意見を聞いたりするという意味でのガバナンスとかコミュニケーションをとることが大切。今、その制度が、例えば、一部労働基準法とか労働安全衛生法などで書かれていますが、労働契約法ではそういうものが制度化されていない。今でもそのニーズはあって、例えば、テレワークガイドラインとか副業・兼業ガイドラインでも、労基法に関係するときはしなければならない規定になっていますが、契約ルールになると労使で話し合うことが望ましいと書いてありますが、何も担保されていないので、望ましいけれども誰もやっていないか、ちゃんとしたところはやっているというレベルの話になっているので、これをどう制度化するかに関わってくるかと思います。
それと、デジタル化やアルゴリズムによる監視という新しい問題が、つながらない権利もそうですが、出てきて非常に複雑になるときに、複雑なルールをつくる際に国が一律のルールをつくって、現場でアルゴリズムで新しいデジタル技術の対応を職場でするときに、こういうふうにしてねというのは決められない。結局新しい技術を職場に導入するときには、それについて従業員代表や労使で話し合って意見を聞きながらルールをつくっていってくださいとか、企業の中で導入していってくださいという、新しい難しい問題になればなるほど、労使コミュニケーションの基盤が大切なのだけれども、諸外国でも組織率が下がってきているので、そういう中で制度をつくるときに労使コミュニケーションの基盤が必要だと言われてきています。日本の今の企業の実態として、どれくらいそれが認識されているか分かりませんが、これからいろいろなアルゴリズムによる監視や、要は、仕事と私生活の境界がつけにくくなったときに、どういうルールを決めようかというときには、やはり労使で話し合ってルールを決めてくださいということをどう制度化していくかというときに今のような問題が出てきます。
また、企業は今、対外的にガイドラインに基づいて情報開示をして、投資家や消費者、求職者に対して理解を得るという方向で、マーケットや会社法をはじめとする大きな動きがある中で、マーケットの投資家にはガイドラインに従ったルールをつくって情報を出しているけれども、従業員にそれを出して従業員にちゃんと説明しているのかというところが、制度的に十分に担保されていないので、本来は投資家に見せるだけではなくて、もちろん投資家にしか見せられない情報はあるかもしれませんけれども、働くことに関しては従業員にちゃんと見てもらって意見を言って、納得の上で働いてもらうことが大切なので、今起こっている新しい技術変化等に対する対応という点でも、デロゲーション以外の分野でも労使コミュニケーションをきちんと実態として機能させるための基盤をつくることが大切で、これは労働基準法、労働安全衛生法だけではなくて、労働契約法などより広いところで、それも複雑にいろいろバラバラにすると機能しないので、例えば1個だけつくって、これは36協定も締結しているし、新しい技術を職場に導入するときの情報開示もして、その意見も聞くという基盤を、例えば、任期付で恒常的に中小企業も含めて定めるという制度に切り替えていくことが大切かなと思います。
以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。
首藤先生どうぞ。
〇首藤構成員 まず、労使コミュニケーションで労組があるところとないところだと話が簡単なのですが、労組がある場合と過半数代表者をどうすみ分けていくかというところは非常にセンシティブな話だと思っています。労働組合は当然ストライキができて、団体交渉ができてということで過半数代表と明らかに違いますというのは、本当にそのとおりだと思っていて、法的にも明らかに違うと思っています。ただ、実態として、どこまで本当に切り分けることができるのだろうかと私はずっと疑問に思っています。36協定で、例えば、特別条項を結んで長時間労働している人がいて、その結果過労で倒れました。これは業務上の災害になるかどうかという話にまでいくことも当然あり得ると思うんです。例えば、労働時間を制限していかないといけないという話が現場で出ている中で、もっと人員を増やしてほしいという話だって当然出てくるかもしれないわけで、法的には確かに明確に違うのですけれども、これを法的に定めることはできないから運用上に規定するのかどうか分かりませんが、多分、本当に労使コミュニケーションを実質的に機能させようとすると、そんなきれいな切り分けができるのだろうかと。こちらは組合の話で、それは交渉事項だけれども、これは過半数代表ですよという切り分けは、どこまでできるのかと少し疑問に思っています。
もう一つ、ヨーロッパの例を見ても、私もいろいろな文献を読んでいますけれども、先ほど水町先生がおっしゃったように、結局、組合がないところは機能していないというのは、私も多くの研究で確認しているところで、結局そういうバックボーンがないと過半数代表をヨーロッパでさえ、制度は一応あるのだけれども、実質的にほとんど話し合いが行われていなかったり、開催されていなかったりというケースがものすごく多いということは報告されていますので、これからつくるというときに、どういう形であれば機能するのかということは考えていかないといけない。助言体制で外部の専門家という話もありましたけれども、誰よりも専門家が欲しいのは労働組合かもしれないと思っています。
〇荒木座長 ありがとうございます。
ほかにはいかがでしょうか。水島先生、お願いします。
〇水島構成員 集団的な労使コミュニケーションを議論する際、法律など制度のレベルと事実上のレベルという2つの段階があると考えます。労働協約を締結する労働組合、労使協定を締結する過半数代表のように、法律で締結主体とされるもの、特に労働基準法上必要とされる主体と、それとは別のレベルで従業員の意見をどのように集約し、使用者に伝えるかというレベルがあると思います。この研究会では前者の、特に労働基準法の手続を履践するための労働者側当事者の役割や課題を論じることが期待されているのだろうということは認識していますが、事実上のレベルでの労働者の集まりに着目して、うまく使用者に意見を伝えることもできるのではないかと思いながら、先生方の議論を聞いておりました。
例えば、親睦会の代表が自動的に過半数代表者になることが問題なのは当然ですが、親睦会が親睦だけではなくて、社会的な関心、職場のことや働き方、ワークライフバランスなどについて話し合うこともあるのではないでしょうか。そのような自発的な緩やかな集団、つまり労働組合を結成して会社と対抗したいわけではないけれども、職場のことをみんなで真剣に考えたいという集団がうまく労働者の意見を集約し、また、会社と労使コミュニケーションをとることも可能なのではないかと思いました。
先ほど、神吉先生が自発的な集団か、義務的な集団かとおっしゃっていました。制度をつくって義務づけることはもちろん重要ですけれども、自発的な力に頼ることができる可能性もあるのではと思いながら、先生方のお話を伺っていました。
以上でございます。
〇荒木座長 ありがとうございました。
ほかにはいかがでしょうか。黒田先生どうぞ。
〇黒田構成員 今の水島先生のお話を伺って、事実上のレベル、こちらでは機能する制度をつくってどう実装するかという話が主体だとは理解しているのですが、若い人、20代や10代は違うかもしれないですけれども、30代や私のような40代、さらにもっと上の世代だと労働組合に負のイメージを持っている方もいらっしゃるかなと。私は、労働組合の活動の実態がはっきり分かっていないところもありますけれども、対立・交渉というイメージを強く感じています。産業医として相談をお受けするときに「組合員なんですが、会社に絶対言わないでください」という話が出てくることが時々あります。なので、なぜかしら負のイメージが強いというのがあるのでしょうし、その根底として、会社に物申すということがあまりよくない、黙って働けみたいな雰囲気があるのかな、という疑問を持っています。
そういう面で、若い世代、高校生、大学生に関しては、ワークルールを学ぼうという課程があると聞いています。教材なども拝見しましたが、すごくよくできていると思うので、それがきちんと実装されていけば若い世代は変わっていくのかなと。かつ、公衆衛生の分野でもそうですけれども、若い世代、子どもから親に影響が波及していくこともあるので、アーリーエクスポージャーというか、若い世代を勇気づけ、情報を提供し、会社とよりよい経済活動を共にしていくために、会社にもきちんと物申して、一緒に共同でものをつくっていくんだよ、それが当然だよ、という働きかけも非常に重要ではないかと思っています。若い世代への働きかけにとどまらず、その周辺にも影響が広がるという意味でも期待しています。
ただ、そうすると、残されるベテラン勢に対して、労使コミュニケーションの重要性の、啓蒙というのは適切ではないかもしれませんが、周知はやはり重要ですよね。それは分かってはいるけれどもできない、その阻害要因は何であろうかという調査や、山川先生が繰り返しおっしゃったと思いますが、阻害要因を取り除く働きかけを法律でやるのがいいのか、ガイドラインでやるのがいいのか、どのレベルでやるのがいいかよく分かりませんが、そういったことも併せて検討していくことが必要かなと感じました。
以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。
水町先生。
〇水町構成員 首藤構成員がおっしゃったことと黒田構成員がおっしゃったことと少し関係するかもしれませんが、例えば、36協定を締結するというのは、デロゲーションのための労働基準法の適用除外として、過半数代表者とか過半数組合、もしかしたら労使委員会になるかもしれませんが、その36協定の締結がデロゲーションのための36協定を締結していると同時に、労働組合だった場合には労働協約を同時に締結していることになるので、同じ活動をしていても2つの意味を持つということがあります。例えば、労使委員会や過半数代表者として、これは労働基準法上の例外を罰則の適用がなくなるというサインをしつつ、組合に戻って組合として36協定締結拒否、締結反対としてストライキをすることもできるんですよ。なので、実は労使委員会等の活動と組合の活動は実質的に重なることがすごく多い。その中で、労使委員会の活動を法的にどう位置づけて守るか。重なることの多い組合の活動はどう位置づけられるのかを整理しながらやっていくことが必要で、実際には今ある日本の労働組合はすごく一生懸命活動して、労働者の代表として機能しつつ、過半数組合として労使協定等でゴリゴリと協議しながら毎年毎年サインをしているところもあるし、組合として存在するのだけれどもほぼなり手がいなくなって、活動家がもう引退してしまうので組合としてなくなるというところも現場ではたくさんあります。ほとんどの事業場、日本の99%以上には労働組合がない中で、1番目を邪魔しないように、かつ2番目にこういう機能があるんだと認識させ、3番目にもこういうコミュニケーションをとるのが大切で、その場合に労働組合をつくるのか、それともコミュニケーションのネットワークとしてネットでいろいろ調べて横とやり取りをするのか、専門家のサポートをするのかという、2番目と3番目を活性化しつつ、1番目を邪魔しない制度設計をどうするのかが恐らく課題であって、それを制度設計するときに慎重に対応しなければいけない。1番目を駄目にして、2番・3番目も形骸化するから駄目というものにならないようにどうするかという制度設計の問題かなと私は思います。
〇荒木座長 ありがとうございました。
ほかにはいかがでしょうか。安藤委員どうぞ。
〇安藤構成員 集団的な労使コミュニケーションを誰が必要としているのかを考えたときに、有名な1970年のハーシュマンのボイス・オア・イグジットというお話があります。今みたいに人手不足が深刻な状況において、労働条件の改善や不満の解消を、嫌だから会社を辞めてほかに行きますというイグジットで解決するのではなく、声を上げて協議するボイスで行ってもらえることは、会社にとってもとてもメリットがあることだと、今の時代重視すべきだと思っています。もちろんこれまで議論にあった36協定を結びたいといったような点もあって、その意味で、労使コミュニケーションというのは使用者側にもかなり利益あるもので重要かと思っています。
ここで労働者側が労使コミュニケーションをやりたいと希望するためには、昔のように労働者のライフスタイルや希望がおおむね一致していたり、長期雇用ベースでその会社とある意味同じ方向を向いて、嫌だから辞めるというのではない形で条件の改善を図ろうとしていた場合には、コミュニケーションが可能なのかなと思う一方、労働者側からの希望が一致しているとは限らないこと、またほかに行けばよいというアウトサイドオプションが今行使できるようになってきたところで、だんだんと労使コミュニケーションが難しい状況になっているのかなと思っています。特に、労働者の働き方や生活スタイルに対する希望が多様化している。先ほども挙げた例ですが、必ずしもそこの職場での労働条件の改善などをあまり考えていない、例えば、短期間のアルバイトをしている学生などに、正社員と同じだけの意欲的な労働条件改善のための交渉に取り組んでもらうというのは、なかなか想像がしにくいと思っています。
このような観点から、コミュニケーションをしたいと思っている労使を支援するのはとても大事なのですが、別にコミュニケーションなんてしたくないという労働者をどう捉えるのか。どのような企業だったら労使コミュニケーションの支援がうまくいって、どのようなところだと難しいのか。そして、難しい企業、産業、職場において、どのような手当が必要なのかといったところと、2つ分けて考えないといけない問題なのかなと先生方の議論を聞きながら考えていました。
以上です。
〇荒木座長 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。
今のボイス・オア・イグジットのボイスの必要性もそうなのですけれども、労使コミュニケーションのニーズという話を山川先生から御指摘いただきました。今日の労働法の様々なルール、例えば正規・非正規の格差が不合理かとか、就業規則の変更は合理性があるかとか、あるいは経済的な解雇が権利濫用とならないかなど、労働法を規律する重要な規範が非常に抽象的な、いわゆる「規範的要件」になっている。こういう規範の適用に当たって、企業が労使と十分コミュニケーションした上で決めたルールは、裁判所は相当尊重してくれるのですが、ある事例では、整理解雇の基準は不当といえるか、かなり微妙なものだったのですけれども、その企業には組合がなかった。したがって、その基準は使用者が一方的に決めた基準であるということで、裁判所はかなり厳しく判断し、当該解雇を権利濫用だと判断しました。使用者が一方的に決めたルールについて裁判所は非常に厳しく取り扱うことがあるとすると、使用者は十分な労使コミュニケーションをとることが、人事管理の法的な安定性にもつながるという側面はあるのかなとお話をお聞きしながら感じたところでした。
そのほかにはよろしいでしょうか。
予定していた2つの大きなテーマについて、大変充実した議論をいただいたと思います。本日は、これまでにしたいと思います。
最後に、事務局から次回の日程について説明をお願いします。
〇労働条件確保改善対策室長 次回の日程等につきましては、調整の上、追ってお知らせいたします。
〇荒木座長 それでは、第4回の研究会を以上といたします。
本日も御参加いただき、ありがとうございました。