第3回労働基準関係法制研究会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和6年2月28日(水) 9:00~11:00

場所

AP虎ノ門 Aルーム

議題

労働基準関係法制について

議事

議事内容
○荒木座長 おはようございます。
 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第3回「労働基準関係法制研究会」を開催いたします。構成員の先生方には、御多忙のところ御参加いただきまして、ありがとうございます。
 本日の研究会につきましても、会場参加とオンライン参加の双方による開催方式とさせていただきます。
 出欠状況ですけれども、本日は、山川先生が御欠席ということです。
 石﨑先生、島田先生、水島先生には、オンラインで御参加いただいております。
 それでは、カメラ撮りは、ここまでということでお願いいたします。
(カメラ退出)
○荒木座長 本日の議事に入ります。
 本日は、第2回の議論に引き続きまして、労働基準法の基本概念である事業と労働者について議論をいただきたいと考えております。
 それでは、資料1について、事務局より説明をお願いいたします。
○労働条件政策課労働条件確保改善対策室長 資料1「労働基準法における『事業』及び『労働者』について」を御覧ください。
 1ページおめくりいただきまして、2ページ目でございます。
 第1回の研究会におきまして、事業、事業場に関して、そして労働者に関して、先生方からいただいた御意見をまとめております。
 これらを基にして、3ページ目「論点として考えられること」を事務局としてまとめております。
 1つ目、事業のほうでございますが、基準法の適用単位をどう考えるか、その適用単位が事業場単位であることの意義は何なのか。
 現代において、その全ての手続を事業場単位で維持することの意義は何なのか。
 労働基準法の使用者の範囲をどう考えるのか。
 労働基準法の労働者の意思表明方法というものをどう考えるか。
 2つ目が、労働者の概念につきまして、労働者の判断基準、昭和60年の報告でございますが、これをどのように考えるか。
 労働基準法、労災保険法、労働安全衛生法、これらの労働者というものを同一に解釈する意義は何なのか。
 家事使用人について、労働基準法の適用をどう考えるかというものになっております。
 5ページ以降、まず、1つ目の労働基準法の事業のところからでございます。
 まず、論点1-①でございます。労働基準法の適用単位をどう考えるか。
 5ページ目は、現在の事業、事業所及び適用単位について、現行法制についての解説でございます。
 6ページに、それに関係する学説をまとめさせていただきました。
 7ページ目でございます。2つ目の適用単位が事業場であることの意義ということでございますが、まず、7ページでは、労働基準法第8条を削除したときの趣旨ということで、もともと労働基準法制定当時は、事業所の事業の内容に応じて適用が変わっていたということで、旧第8条というところに、事業所の事業が列挙されておりました。ほぼ全て網羅しておりますので、包括的に近いものではございましたが、一部適用されていなかったところがあったものを、1998年の改正におきまして第8条を削除して、全ての事業を対象とするという形としたと。
 一部事業に応じた適用というものが残っておりますので、ここに載っていた列挙というものは、別表の第1のほうに移ったという経緯がございます。
 これらを踏まえまして、8ページ目、9ページ目、適用の事業に関して、様々な学説がございます。
 8ページ目、国際的適用範囲ということで、例えば、事業が他国にまたがる場合、日本の事業に海外の労働者を雇う場合のアプローチといった点の学説をまとめております。
 10ページのところは、労基法の事業の適用の関係で、監督行政の体制との関係についての学説を御紹介しております。
 それに関連いたしまして、11ページでございますが、私ども労働基準監督署が指導を行う際の取扱いについてまとめております。
 法律が事業場単位での適用でございますので、監督署も、現在、全国321箇所に置かれておりまして、基本的には管轄する事業場に対する指導を行うという形となっております。
 一方で、下の赤い箱のところでございますが、一部、例えば就業規則の本社一括届出をした場合の本社への指導ですとか、違法な長時間労働が複数の事業場で認められた企業に対する指導ですとか、あるいは過労死を繰り返し発生させた企業への指導といったものに関しては、本社に対して一括で指導を行うということもやっております。
 12ページ、13ページが、所在地によって適用の内容が異なる制度が、ほかにどんなものがあるかというものでございます。
 12ページ、最低賃金は御案内のとおり、地域別の最低賃金が設定されているところでございます。
 13ページは、組合の関係でございますが、組合との間で締結した労働協約に関して、1つの地域において、多数の労働者を含むものであるという場合に、その地域に拡張適用するという制度がございます。こういったものも、地域ごとに適用されているというものになります。
 14ページが、現行の労働基準法の中で、事業の種類によって適用が変わるものを列挙させていただいております。例えば、労働時間に関して言えば、労働時間の規定に関しては、農業、そして水産業等に関しては適用されていないものがあったりするというものでございます。
 続いて、15ページ目、論点1-③でございます。
 事業場単位を労働基準法の全ての手続において維持することの意義は何かというところで、15ページは、現在の労基法の中で事業、事業場というものが使用されているものを列挙いたしました。
 多数の手続の中で事業場単位になっておりますが、16ページ、企業における届出の本社一括化の状況ということで、その中でも数が多い36協定と就業規則でございますが、これに関しましては、同一の内容で複数の事業場に適用するものを、本社が一括で、電子申請で提出できるという取扱いをしております。
 これに関しても数字を見ていただければ分かりますとおり、近年、本社一括で届出をするという割合が、かなり大きくなってきているという状況でございます。
 その下の箱の中には、一部企業さんからの声を御紹介しておりますけれども、本社で一括して届出の事務を簡素化してほしいという声が上がっているというものでございます。
 17ページ、18ページが、現行法制の中で事業場単位ではなくて、企業単位で労使合意を行っている制度の例でございます。
 これらは、労働法というよりは、ほかのものでございます。17ページは、健康保険、厚生年金保険における適用拡大の労使合意のもの。
 18ページは、民事再生手続の中で労働組合の意見を聞かなければならないとなっているもの、これらに関しては企業単位でやることとなっております。
 19ページです。論点1-④、使用者の範囲をどのように考えるのかというところでございます。
 19ページは、使用者に関する定義規定でございますが、使用者は、事業主または事業の経営者、その他、事業の労働者に関する事項について、事業主のために雇用する全ての者をいうということで、法人ではなく自然人を捉えております。
 労働基準法は強行法規で罰則が適用されますので、罰則の対象者ということで、行為者の処罰を原則としているものとなっております。
 なお、参考のところにありますけれども、その場合に事業主、法人に対しては、罰金規定ということで、両罰規定もかかっているという内容となっております。
 20ページ、論点1-⑤でございます。労働者の意見表明の方法というところでございます。
 20ページは、第1回でもお出しをいたしました労使に係る手続のところでございます。労働協約方式は、賃金の通貨払いの部分のみというところになっている。
 21ページに、賃金の通貨払い部分のみ労働協約方式である理由というものに関して、その経緯をまとめさせていただいております。
 22ページに、組合における集団的労使交渉の意義は何かというところで、学説をまとめたものをおつけしております。
 23ページでございます。労働法制における個別同意ということで、基本的に集団的労使合意のもとで様々な制度は適用されておりますが、その手続の中で個別の同意も取れということになっているものがございますので、それを列挙しております。
 代表例で言えば、裁量労働制の適用ですとか、高度プロフェッショナル制度の適用というものとなります。
 こうした制度の中における個別同意が、法的にどのような効力を持つかということに関しては、様々議論がございます。学識経験者の方々の見解というものを24ページ、25ページにまとめております。
 以上、事業に関する部分の資料でございます。
 続いて、27ページ以降、労働者に関する資料でございます。
 27ページから、まず1つ目の論点としての判断基準、昭和60年の研究会報告をどのように考えるかというところでございます。
 27ページは、60年の労働基準法研究会で報告をされました、現行の判断基準を掲載したものでございます。
 これらの判断基準に関して、28ページを御覧ください。
 様々な業種ですとか職種に関して、どういった判断をすればいいのかというものに関しては、昔から疑義はあったというものでございます。それらについては、ものに応じて判断基準を示すということもやっております。
 28ページに載せておりますのが、その例として、建設業の手間請け従事者に関する判断基準をお示しした際のものということとなっております。
 労働者の判断基準に関しましては、司法の場でも争われているものとなっております。
 29ページ以降、判例をまとめております。
 29ページは、代表的な最高裁判例を2つ挙げてございます。
 30ページ、31ページ、32ページと、地裁も含めた判例を列挙させていただいております。3ページに分かれておりますのは、まず、30ページが労災保険法上の労働者性が想定となったもの、31ページが労基法上の労働者性が争点となったもの、32ページが労働契約法や就業規則の適用に関して争点となったものということで、様々な切り口から労働者性に関しては争点となっているというものを示しております。
 続いて33ページ、論点2-②でございます。
 労働基準法、労災保険法、労働安全衛生法の労働者を同一に解釈する意義は何かということで、代表する労働関係法として、33ページ、労働基準法、労災保険法、労働安全衛生法、労働契約法、労働組合法と5つ並べております。
 それぞれに関して労働者をどう定義しているか、どのような判断基準になっているかというものを列挙したものとなっております。
 かいつまんで申し上げますと、労働基準法、労災保険法、労働安全衛生法の労働者の定義に関しては、基本的にリンクをしておりまして、同一のものを指すと。
 労働契約法に関しては、若干書きぶりが異なるという形にはなっておりますが、これに関しても現行は、昭和60年の労働基準法の判断基準が一般的に採用されているというものとなっております。
 労働組合法に関しては、少し違った判断基準となっているというものでございます。
 34ページに、労働基準法と労働組合法における判断基準を比較して掲載しているものでございますので、こちらも御参照いただければと思います。
 これら労働者性の判断基準に関する学者の方々の御指摘に関して、35ページにまとめさせていただいております。
 36ページでございますが、労働関係法の中というだけではなくて、フリーランス法との関係はどうなっているのかということで、これは、第1回に山川先生から御指摘をいただきました。
 フリーランス法における特定受託事業者と、労働組合法の労働者、労働基準法の労働者、それぞれどういった概念となっているかというものを、36ページの右側に図でお示しをしております。
 37ページ、先ほど出てきました労働基準法と労働安全衛生法、そして、労働基準法と労災保険法の関係をどのように規定しているかというものでございます。
 労働安全衛生法の労働者の定義に関しては、労働基準法を単純に引用するという形になっている。
 労災保険法に関しては、労働者の規定は置いておりませんが、労災保険そのものが労働基準法に基づく災害補償責任に対する保険ということで、労働者というものは、おのずと同じものを指しているという解釈に立っております。
 38ページから41ページまででございますが、昨年12月に貨物軽自動車運送事業の自動車運転者の方々に関しまして、請負事業者とされていたものを、労働基準法の労働者に該当すると、厚生労働省として判断した例に関して、こういった事実関係から判断しましたということを、公表させていただいているものでございます。その公表資料を掲載したものです。
 事例1、2、3とございますけれども、負傷した場合の労災保険の適用の話であったり、賃金の不払いであったりといったことで監督署に対して相談がありまして、請負事業者ということで来たのですが、あなたは労働者ですねということで判断をしたものの例を示させていただきました。
 42ページ目、労災保険制度の各国比較でございます。
 労災保険の対象者ということで、基本的には、我が国では労働者を対象として、一部特別加入ができるという形になっているものでございますが、ほかの国におきましても、保険の対象者は様々でございます。例えば、ドイツであれば、就労者だけでなく訓練生なども入っているというもので、それは制度の組み方で様々変わり得るということをお示ししたものでございます。
 43ページでございます。プラットフォーム労働に関する部分でございます。
 EUに関するもので、これは第1回も示した資料でございます。若干EUのほうでの議論は錯綜していると聞いておりまして、実際に指令案が成立するかどうかというのは不透明な状況になっているとは聞いておりますけれども、こういった議論が行われているということで御紹介をしております。
 44ページから47ページまででございます。こちらは、アメリカの例でございます。
 44ページは、カリフォルニア州における州法でございますが、いわゆるABCテストでもって、独立自営業者であるか労働者であるかというものを判断するというものの例を出しております。
 こういった形で労働者であるかどうかを判定するような基準をカリフォルニア州はつくりましたが、2019年にこれを立法化した後、2020年には、今度は大統領選挙に合わせた州民発案で、プラットフォーマーの関係でのアプリに基づき稼動する運転手、これに関しては、一定の条件を満たせば、自営業者であるということを位置づけるべしというものが承認されたということもございまして、アメリカは国内でも両側から様々なことが議論をされているというものでございます。
 45ページ以降のところは、今年の1月に連邦労働省が発表いたしました、公正労働基準法のもとでの被用者の判断基準というものでございます。
 これは、トランプ政権のときに、一部判断基準を変えたものを基本的には元に戻しながら、労働者として伝統的な判断基準のもとで労働者として判定するための要素というものを示した、我が国で言うところの省令のような扱いのものということになっております。
 これらはアメリカの資料でございますが、事務局として作成する際には、早稲田大学法学部の竹内先生の御協力をかなりいただいたものでございます。この場をお借りして、感謝を申し上げます。
 最後に48ページから論点2-③でございます。家事使用人についてでございます。
 家事使用人に関しては、前回も御議論の中で一部出てきましたけれども、現行制度で適用除外となっているという中で、労働基準法の適用についてどうするかというものでございます。
 50ページに概要をおつけしましたが、先般、私どもで現行制度下においての家事使用人の方を、家庭が雇う際のガイドラインというものをお出しいたしました。今回、参考資料で本体も配付をさせていただいております。こちらも御参照いただければと思います。
 資料1についての説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。
○荒木座長 ありがとうございました。
 本日は、ただいまの説明がありました資料1に基づいて、論点の1及び2、そして、最後に全体について御議論をいただくということにしたいと思います。
 論点1について御議論いただきますけれども、大部の資料の御説明でありましたので、事務局より問題の所在が分かりやすいよう、資料の3ページの記載の論点について、補足的な説明をお願いできればと思います。
 まず、1つ目の労働基準法の事業について、補足の説明をお願いいたします。
○労働条件政策課長 資料の3ページ、論点として考えられることにつきまして、若干の補足を申し上げさせていただきたいと思います。
 いずれも論点の例として並べたものとなります。各論点、概念的な議論とかなり実務的なもの等が、それぞれに含まれているかとは思っておりますが、例えば、まず、①の適用単位につきましては、労働基準法は罰則をもって一定の行為を義務づけたり、禁止したりする規定が設けられていて、その行為の主体が使用者ということになりますので、それぞれの事業の中には、使用者と労働者がいるということになるかと考えますけれども、そのような事業というものをどのように捉えて、また、どのように区分して適用することが適当かといったことについて、様々御議論をいただけないかと思っております。
 この点に関しては、若干具体的なことを申し上げますと、使用者が備えているべき機能といいますか、単独の事業、事業場と認められるためには、どのような能力を持つ人が使用者としている必要があるのかというところにつきましても、現行の行政解釈では、出張所、支所等で規模が著しく小さく、組織的関連ないし事務能力等を勘案して一の事業という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一の事業として取り扱うと解釈は示しておりますけれども、何をもって独立性があると見るのかという辺りも、1つの御議論なのかなと思っているところでございます。
 ②と③は関連いたしますが、事業について、従来、物理的な場所である事業場ごとというのを基本的な単位して捉えてきたことに、どのような機能とか効果があったのかということ、それを踏まえつつ、情報通信技術の進展で労務管理の手法なども変わってきている中で、引き続き、事業、事業場単位がなじむものもある一方で、企業において、斉一的な取扱いの必要性が高いものもあると思われますけれども、それぞれどのようなものが該当するのかと。
 例えば、36協定あるいは専門業務型裁量労働制の労使協定または就業規則作成変更時の意見聴取など、具体的な手続によりまして、事業場と本社の関わり方の違いなども踏まえながら、どう考えるかというところなどの御議論があるのかなと思っております。
 本件は、また、実際の手続上の問題としては、仮に企業において、斉一に取扱いの必要性が高い手続などがある場合に、法律の適用単位自体を企業単位にするのかとか、あるいは、手続だけを一括して行えるようにするのかといった辺りのいずれが適当かですとか、そうしたことを考えた際の使用者側と当事者、労働者側の当事者としては、どのような人がそれぞれ想定されるかなどについても、御議論があればなと思っております。
 ④の使用者の範囲につきましては、労働基準法等に基づく義務を履行すべき主体としての使用者が誰かということを考えました場合に、これも、例えば、違法な長時間労働命令がアルゴリズムとかAIなどによって行われた場合、それの使用者は誰なのかということ。現行の規定ですと、自然人たる使用者がいた上で、両罰規定で法人を罰するという構造になっておりますけれども、罰すべき自然人が本当に存在するかどうかが疑われるような事案があり得るのかどうか、あり得るとすると、それをどう考えるか、使用者をどう考えるかといったこと。
 また、別のパターンとして、そうした違法な命令が親会社とか企業外の者によって行われた場合の使用者についてどう考えるかなど、使用者の範囲というものについて、現代的な働き方、働かせ方を踏まえた御議論をいただければと思っております。
 あわせて、義務履行主体ということとは別に、労働条件の設定あるいはデロゲーションといった労使協議の行為を行う者としての使用者について、事業場の長として使用者を見るのか、あるいは本社の人事部なりを使用者と見るのか、両方と見るのかなど、手続の場面においての使用者について、どのように考えたらよいかということについても、御議論があるのかなと思っているところでございます。
 ⑤の労働者の意思表明につきましては、労使コミュニケーション全般については、また、回を改めて御議論をお願いしたいと考えておりますけれども、資料でも御説明申し上げましたように、労働組合とか過半数代表者を通じた集団的な労働者の意思表明というものと、個々の労働者が使用者、企業に対して行う個別の意思表明がいろいろあり得るわけですが、両者の役割分担といいますか、機能分担はどうあるべきか、どういうものについては集団、どういうものについては個別ということについて御議論があるかとか、また、従来の事業場単位での労使の話し合いとは別に、企業単位といったものを考える場合に、その場合の労働者の代表というのは、どのように選定でできるのか、すべきなのかということなども、様々な観点から御議論をいただければと思っております。
 すみません、引き続きで恐縮でございますが、本日御欠席の山川構成員から、事業につきまして、コメントをいただいておりますので、読み上げさせていただきます。
 労基法上の事業概念については、今から申し上げる1から8のような機能を有しているということで、1つ目、事業に使用されていないものについては労働基準法が適用されないということは、基準法の9条。例えば、解雇予告については、労働基準法の20条の30日ではなくて、そのような者については、民法627条の2週間という記述が適用されると。
 2つ目として、事業の所在地を監督する労働基準監督署が、その事業につき監督権限等を行使する。
 3つ目、事業が日本に存在しない場合には、その事業には労基法の適用が及ばない。
 4つ目、事業の種類、規模によって規制内容が異なる場合がある。例えば、労働時間規制。
 5つ目、事業により使用者の義務内容が場所的に確定される場合がある。例えば、就業規則の届出、意見聴取。
 6つ目、事業場の外での労働について、特別の規制が設けられている場合がある。例えば、事業場外労働のみなし制。
 7つ目、労基法116条2項で、同居の親族のみを使用する事業が適用除外とされている。
 8つ目、労働安全衛生法や最低賃金法も同様の適用の仕組みを採用している。例えば、各種管理者等の選任、各種委員会の設置等という機能を有していますが、事業概念を再検討する場合は、適用の単位の問題として一律に考えることは、必ずしも不可欠ではなく、それぞれの規律の趣旨に照らして、個別に考えるのが適切ではないでしょうか。
 例えば、1つ目の労働者の定義から事業を外したとしても、2つ目の監督権限の行使において、事業概念を残すことは、その旨の法令上の対応の要否は別として可能ではないかと思いますということを、コメントいただいております。
 引き続いて、事業概念を全面的にではないにしても維持する場合は、上記の事項のほかに、例えば、以下のような課題も検討する必要はないでしょうかということで、9点目、事業という用語は、全て場所的概念としての事業か。例えば、労働基準法10条における事業の経営担当者や、その事業の労働者に関する事項というものをどう考えるか。
 10点目としまして、事業概念を維持する場合、現在の定義、行政解釈もそのまま維持すべきか。維持可能としても労働者の所属事業場の判定方法に検討すべき点はないか。例えば、配属事業場が未定の採用内定者で労働契約の成立を認め得る者。
 11点目としまして、事業場の中で事業主の権限行使や義務履行が完結しない場合の労基法の規律をどう考えるか。例えば、本店から支店の労働者に時間外労働命令が発せられた場合や、私法上割増賃金支払義務を負うのは、労働基準法10条の使用者全てではなく事業主と考えられるところ、支店の労働者につき割増賃金支払関係の事務が本店でなされている場合、
というコメントをいただいております。
 以上でございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
 それでは、今、御提示いただいた内容には限りませんけれども、御自由に事業、概念について御議論いただければと思います。
 オンラインの先生方も手を挙げていただいても、手を挙げる機能を使っていただいても結構ですので、どうぞ御発言ください。
 首藤先生、お願いします。
○首藤構成員 私は労使関係を研究していますので、労使関係の実態に基づき事業単位化から企業単位化することについて、コメントをしたいと思います。
 2点、懸念点があります。1つ目は、企業単位化することによって、そもそも集団的労使関係の形骸化が指摘されているわけですけれども、それがますます進行していくのではないかという懸念を持っています。
 その理由として、企業単位になりますと、事業場単位では組合があり、企業単位では過半数代表ではないけれども、事業場単位においては過半数代表を取っていて、労使自治を機能させており、36協定を含めて労使で協定がされている実態が、かなり多く存在すると思っております。
 そういうところが、企業単位化になってしまいますと、従来持っている組合の機能が、ほぼ実質的に消滅してしまう可能性があります。ただでさえ組織率が下がっている中で、さらに組合にカバーされる人が少なくなってしまうということを懸念します。
 もう一点としましては、例えば、36協定をはじめ、事業単位のものは、多くが労働時間に関するものが多いと思うのですけれども、企業単位化した場合、現場の実態をどこまで考慮しながら、労使協議ができるのかというところに課題があると思います。
 そもそも組合がない場合には、事業場単位で36協定を締結するときにも、過半数代表になった方が、どこまでちゃんと発言されているのかというのは、いろいろ問題があると思いますけれども、それが企業単位になってしまったときに、各職場でどれほど長時間労働者がいるのかとか、どういった労働の実態があるのかということを十分に考慮した上で、協議ができるのだろうかという意味で、労使の自治がきちんと守られるのかなというところに、懸念を持っているところです。
 加えて、36協定をはじめとして、労働時間の問題というのは、届出を出して終わりではなくて、その後、それがきちんと遵守されているかどうかというチェック機能も含めて、やはり機能させていかないといけない問題だと思っております。
 そういったものが、非常に大きな単位になったときに、きちんと機能するのだろうかというところに疑問があります。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかには、いかがでしょうか。
 水島先生、お願いします。
○水島構成員 ありがとうございます。
 労働基準法の適用単位が事業場であることは、労働基準監督行政の体制に対応しているものと理解し、今後も維持すべきであると考えます。
 その上で、事業場単位から生じる課題についても、現在、ご対応いただいているものと考えております。
 つまり、労基署においては、事業場単位の指導を原則としつつ、企業への指導が有効なものについては、企業単位での指導が行われ、また、届出の本社一括化により、手続の効率化が図られていると理解しております。
 このような考え方、つまり、事業場単位を原則としつつ、指導の有効性や手続の効率化等の観点から、企業単位とすることが適切である、また、企業単位としても支障がないような場合に、企業単位化するという考え方は、今後も維持してよいと思います。
 首藤先生から労使自治が形骸化するのではないかとの御発言がありましたが、私も同意見です。事業場や企業の規模によって違いはあると思いますけれども、企業単位化することで、多様な労働者の意見を十分に集約できなくなるのではないかを懸念します。
 それから、本日の資料で、テレワークの導入やIT化が進んでいる中、事業場単位の規制は、現実にそぐわないといった企業からの御意見があるようですけれども、個々の企業において、かなり以前に定まった事業場の範囲が現在の実態に即していないのであれば、事業場の範囲の再検証が必要かもしれません。一足飛びに企業単位化の議論になるものではないと考えます。
 以上でございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
 水町先生、お願いします。
○水町構成員 ありがとうございます。
 山川先生がおっしゃっていたように、事業概念、事業者概念も幾つかのタイプのものがあって、これまでは労働基準法が事業とか事業場という単位、概念を使ってきたので、そこからアプリオリに、形式的に今に至っているところがたくさんあるとは思いますが、それぞれの規制との関係で趣旨に照らして、よりふさわしい概念なり、方法を選んでいくことがふさわしい方向かなと思います。
 具体的に幾つか申し上げると、今、労使コミュニケーションの話がありましたが、労使コミュニケーションが事業場単位で、事業単位でうまく機能しているところと、全く機能していない、特に過半数代表者で、誰が代表者になっているかも分からないという事業が圧倒的に多い中で、例えば、事業場単位で、企業単位で見た場合には、過半数になっていないけれども、事業場単位で過半数の労働組合が非常に積極的に現場の労使関係を支えているということはありますが、そういうものを阻害しないような形で、どういう労使コミュニケーションを制度としてつくっていくかということが、私は大切かなと思います。
 逆に言うと、事業場単位で分断化されて、ノウハウも何もないところで、今、鍵括弧つきの擬制的な「労使関係」が行われていて、何も従業員の意見が反映されないというところが圧倒的に多い中で、その中で、例えば企業レベルに集約していくと、いろいろな代表者の、企業レベルでも、一対一の企業レベルの交渉にしては駄目で、多様な労働者、働く現場の多様性を集約したような労使コミュニケーションを、企業単位に変えていく中で、どう集約したり凝縮していけるかで、労働者側の意見も反映されやすいようなシステムとして、労使コミュニケーションをどうつくっていくかということが、むしろ私は大切だと思います。
 そこが、事業場単位なのか企業単位なのかという二者択一ではなくて、どういう制度をつくるかという中身の議論で、今の日本の実態をうまくいっている例だけではなくて、ほとんど何もない形骸化している状況を、どう変えていくかという観点からも、制度設計を考えていくべきかなと思います。それが間接的に事業単位との関わりの1つの側面かと思います。
 あと、監督権限のところも、責任主体としての使用者と監督がばらばらになっていて、先ほど山川先生の例にもあったように、事業をまたいで、いろいろな権限が分散している中で、責任を取るのは企業として、法人としての使用者なのだけれども、実際には事業場単位で監督されているというところの不整合も出てきているように思います。
 ですので、基本的には責任主体としての使用者と監督の在り方で、今、事業場ごとに監督がなされていますし、いろいろな書類も原則としては事業場単位で、そして、何かあった場合には、最寄りの所轄の労働基準監督署で監督するということになっていますが、これからデジタル化を通じて情報も、各労働基準監督署で、事業場レベルで、そこでやっていくというやり方以外の効率的なやり方があるかもしれませんし、そういう中で、責任主体と監督権限の在り方をどうリンクさせていくかという観点から考えるべきかと思います。
 ただ、いろいろなタイプのものがあって、例えば労働安全衛生法で、現場で起こっている実際のリスクを一番近い監督署が行って監督するということも必要かもしれないので、規制の具体的な内容として、労働基準法上のこういう規制と、場所でのリスクとか、機械のリスクを見るための労働安全衛生法上のリスク管理の在り方というのは、もしかしたら、監督権限の在り方としても違うかもしれません。
 そういうところも、およそ労働基準法と労働安全衛生法は事業単位なのでということではなく、少し実態に即した単位とか、規制の在り方を考えていくことが必要かなと思います。
 もう一点、論点のところでプラットフォーム、アルゴリズムで、誰が労働基準法上の使用者として、これは、罰則の適用の単位のある使用者というのは、実行行為者なので、いわゆる一般的に言っている法人として、誰が使用者としての責任を負うかというのと、実行行為者としての、自然人としての使用者の問題ですが、これはアルゴリズム、AIの発展の中でも原則として人間決定、責任は、最終的には人間が負うのだと、要は、アルゴリズムを設計しているのは人間であって、最終的にはアルゴリズムの最終決定ではなくて、人間が責任を持って設計し、最終的な決定責任は人間が負わなくてはいけないというのが、今、ヨーロッパ等で一般化している考え方なので、アルゴリズムについてどう考えるかという中で、誰が関与しているか、アルゴリズムに罰則をつけても意味がないので、そこでどのように人間が管理をしていて、そして、規範的に人間とアルゴリズムの関わりの中で、どういう責任を誰が負うのかという観点から、そこをつぶさに検討していけば、労働基準法上の使用者として、罰則の実行行為者としての責任を負うのは誰かというのが、自然と認定できるかなと思います。
 もう一点だけ、労働基準法上の事業場概念、人数のカウントのところでも出てきていまして、要は一番典型的なのは、就業規則の作成義務があるかというのに、常用労働者10人という基準がありますが、あれは事業場単位で今も労働基準法だから計算されていますが、今、その他の女活法とか次世代法の従業員数、基本的には、企業、事業主単位で計算しています。労基法だけが事業場単位で残っていて、これから事業場がいろいろ分散されて、ネットワークでつながって一個一個の単位は、1人とか、2、3人とかしかいないけれども、全体で見ると、1,000人、2,000人使っているというところが、10人単位のところで抜けていいのかという話で、もうほかの法制では、事業主単位、企業単位で人数設定をしているのに、労基法だけそこが残されているというところもあるので、そういう意味では、山川先生がおっしゃったように、何のためのものかというので、ほかの法制度とのバランスも見ながら、調整すべき問題もあるかなと思います。
 ですので、労基法だから労働安全衛生法だからアプリオリに行こうというわけではなくて、いろいろな規制についてチェックしていけば、趣旨に基づいて、ある程度どういうものにするか、そして、労使関係については、少しいろいろ考えなくてはいけないこともあるので、およそ事業場を維持するとか、およそ企業単位にするというのではなくて、労使コミュニケーションが実質的に機能するような制度は、どうかということも加味しながら制度設計をするべきかなと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがですか。
 安藤先生。
○安藤構成員 私は、この分野について、いまいちよく分かっていなかったので、先生方のコメントを聞きながら勉強させていただいているのですが、首藤先生がおっしゃった事業場単位のものを企業単位にすると、労使コミュニケーションが阻害されるというのは、可能性としてはあるなと思って、お話を聞いていました。
 そこから、少し考えを整理してみますと、そもそも個人単位で労使コミュニケーションを取るものと、企業全体で取るもの、その間に事業場単位という中間を置くというのには、やはり個人としての労働者がコミュニケーションを取ったり、企業全体でというものよりも優れた点があるからだろうと思います。少なくとも昔は多くあったのでしょう。例えば、ICT技術が発達していなくて、異なる立地にあるような事業所で働く労働者同士のコミュニケーションが実質的に難しいといったことがあったのではないかと推察します。
 それに対して、今の時代、働き方が非常に多様化していて、同じ事業所で働く人の中でも、異なる働き方をしている、働き方について異なる希望を持って働いている人というのがたくさんいると思っています。
 例えば、首藤先生も私も私立大学で働いていると思いますが、学部ごとに、仮に事業場として区分されていたとして、教員と職員で希望しているものが違ったりということは十分にあり得るかと思っています。
 ですので、必ずしも空間的に同じ建物で働いているからというだけではなく、同じようなタイプの仕事をしている人たち同士でつながったほうが、1つの企業の中を区切ったほうが、コミュニケーションが取りやすいというのであれば、空間的な区切り方以外の区切り方もあるのかなと思って、お話を聞いていました。
 というわけで、最近は様々な点について、例えば裁量労働制の話でもそうですが、個人単位の同意を取るケースもありますし、事業場単位か企業単位かという、まさに二者択一ではなく、どういう項目については、どういう単位で話し合いをするのが、企業または社会全体にとって望ましいのか、この研究会は、ある程度大きなテーマについて議論できる場なのかなと思っていたので、その辺りからしっかり考えてみると、よろしいのではないかと思ってお話を聞いていました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 ありがとうございます。
 これまでの先生方の意見と大分重なる部分も多いのですけれども、まず、規制の対象、事業単位でやるのか、企業単位でやるのかという話との関係で、いただいた資料の16ページなどを見ますと、確かに就業規則について、本社一括の電子申請の割合というのは、非常に高くなっているとか、届出事務の簡素化をしてほしいという声もあるということが紹介されているかと思います。
 確かに、こうしたことからすると、ここにもあるように、企業単位の規制にしてもらえると便利というところはあるのだろうと思いますし、確かに届出という点に関して言えば、一括という方法もあり得るのかなとは思うところです。
 ただ、他方、首藤先生あるいは水島先生から問題提起がありましたように、それ自体、企業単位でという話になると、意見聴取手続が企業単位ということで本当にいいのかという、課題が出てくるように思っております。
 そこに関しては、要するに、現状、意見聴取がどの程度されているのかというところとも関わってくると思うのですけれども、企業単位化することで、要するに事業場のいろいろな実態とかが反映されなくなってしまう状況というのは望ましくないということで、もし、仮に企業単位化という話になってくるとすると、やはり個々の事業場の実態を踏まえ、また、そこの意見も反映させるような形での労使コミュニケーションの整備というのが前提になって、企業単位あるいはそういう条件をクリアしているところのみ、企業単位という考え方があり得るのかなと思ったところであります。
 あとは、ほかの論点になりますけれども、アルゴリズム管理のお話があって、こちらは、既に水町先生からお話があったところですけれども、結局、アルゴリズムを使うとしても、使うということを決め、また、アルゴリズムが出した結果に基づいて、いろいろな決定をするのは、結局事業者であったり、現場の方ということですので、そこは、これまでと大きく異なる部分はないのかなと思っておるところです。
 あと、強いて言うならば、労基法の規制の枠組みは超えるかもしれませんけれども、アルゴリズムを設計した設計者や、製造業者のほうの責任をどう考えていくのかという課題は、なお論点として存在するかなと思うところであります。
 もう一点として、意見表明の方法で、個別同意と集団的同意というか、集団的な協議の関係をどう考えるかという論点もあったかと思います。
 この点、いろいろと難しい問題があるかなと思いますけれども、やはりそこが両方存在しているときにおける、やはり集団的な協議とか、そういうことの役割として、やはり個別同意をシーンに基づいて行う前提としての、いろいろな情報共有とか、情報提供を受けるとか、そういった役割があって集団的なコミュニケーションというのが、個別の同意の真意性を担保するような、そういう役割というのもあるのではないかと、私自身は認識している次第です。
 以上になります。ありがとうございました。
○荒木座長 ありがとうございます。
 黒田先生、どうぞ。
○黒田構成員 ありがとうございます。
 私もあまり法律には詳しくないのですが、現場で主に産業医をしておりますので、労働安全衛生のほうの実務を担当する立場では、人、場所、行動及び物、と分けて、基本的に対応して考えるようにしています。
 ですので、会社の中にはいろいろな業務があると思うのですけれども、主に人の管理に関することは、そうすっきりは切り分けられないのですが、企業単位でもいいのかなと思っていて、場所が重要なファクターであれば、事業場単位であることが必要でしょうし、物や行動、主にリスクソースということになりますが、そういったものに関係が深いものであれば、事業場単位というものがすっきりするかと思います。ただし、最後の物や行動に関しては、同じ会社の中でもA部門、B部門、C部門とあって、Bだけが特殊な健康リスクがあるものを扱っていて、それが、例えば関東事業場と大阪事業場にあるというと、だんだんややこしくなってくるのですけれども、その場合は、場合によっては会社単位でもいいのかなという気もするのですが、ただ、やはり現場密着のほうが、多分管理はやりやすいと思いますので、結局、事業場単位というのが原則という感じになるのかと理解しています。
 また、労使コミュニケーションという意味では、誰が責任を取るか、それは事業場なのか、企業なのかという議論があると思うのですが、そういう観点からはやはり事業場単位というのがしっくりくるなと思って、首藤先生や水島先生のお話をお伺いしていました。そうは言っても、先ほど水町先生から「労働者側の意見を会社単位に集約したほうが効率的なこともあるのではないか」という御意見がありました。例えば私の分野であれば、産業保健サービスを提供するとなると、一部社外のリソースを使うかもしれませんが会社単位のサービスの提供になることが多いです。事業所ごとに個別に細かくサービス提供というのは、それだけ個別に会社内でリソースを抱えるのはなかなか無理なので、会社単位のサービス提供になってくると思うと、人の要素が強いものについては企業単位の規制対応とか届出というものでもいいのかと思っていて、例えば、ストレスチェックは事業場単位で労基署報告をしていますが、それは、会社単位でもいいのではないかなと個人的には思っています。
 一方で、定期健康診断の報告については会社単位か企業単位か悩ましいところだなと思うのですけれども、有害業務に伴う健康診断、いわゆる特殊健康診断というのがありますが、そういったものは、やはり事業場単位というのが、多分求められるのだろうなと。何か気になることがあったときに、労働基準監督署の方がおいでいただいて、実際の現場を御覧になってということをする上では、最終的には会社単位になることもあると思いますが、事業場単位のほうがやりやすいのかなと考えております。
 あとは、ホールディングスという持ち株会社と関連会社の形をとっている会社もあります。大学も持ち株会社みたいなところがあって、何とか大学の工学部と医学部と理学部、文学部とは全然違うことをやっているという感じなので、大学もホールディングスみたいな感じだと思いますし、国家公務員の場合も人事院と各省庁があって、と同じような感じだと思います。ホールディングスですと、また少し考え方が変わってくるのかもしれません。人事や安全衛生を管理している別会社があったりするので、そこをどうするのかなという、原則に従ってやってくださいでもいいのでしょうし、そういう何か特例を認めてもいいのかもしれませんと考えております。
 あとは、先ほどアルゴリズムを用いた場合の責任者は誰なのだという話は、水町先生や石﨑先生がおっしゃったことと全く同意見です。医者もよくアルゴリズムを使って診断や治療をすることありますが、だからといってアルゴリズムの責任を問うかというと、やはり医者が行っているということで、最終判断は医者が取りますので、そういう場合も、この会社単位で、もしくは事業場単位でやる場合も、事業主が、会社が、最終責任を負うというのがしっくりくるかなと思いました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 島田先生、お願いします。
○島田構成員 ありがとうございます。
 アルゴリズムについてなのですけれども、アルゴリズムで違法な命令をしてしまった場合にも、最終的には、誰か人間が決定をかんでいる以上は責任を負うべきだというのは、そのとおりだと思うのですけれども、その場合の帰責性というのをどう考えるのかは、少し問題になるのかなと思いまして、アルゴリズムを設計した人が社内にいる場合に、その人が、何かミスをしたというときに、違法な命令をしてしまった場合に、その人が使用者としての責任を負うのかというと、それはややおかしいような気がしますし、かといって、最終的にアルゴリズムを使った人事担当者なり、権限のある人が、そのアルゴリズムのミスを知らずに、専門家に任せたから大丈夫だろうと使った場合に、過失がないのではないのかという場面もあり得ると思うのです。
 そういった場合に、誰も両罰規定としての責任を負わないというのも、可能性としてはあると思うのですけれども、どのように帰責する人を決めるのかというのは、割と難しい問題ではないかと思います。
 もう一点、企業単位なのか事業単位なのかという話なのですけれども、先生方がおっしゃるように、企業によってやはり労務管理の単位とか、労使コミュニケーションの実態とかが全然違うので、企業によって一番いい形というのがあるのだと思うのですけれども、ただ、それは外から見たときに一見して分からないので、どうしても監督ということを考えた場合には、今の事業場にならざるを得ないことが多いのではないかと思います。
 ですので、1つの可能性としては、今の事業場を維持しつつ、何らかの労使コミュニケーションなり、労務管理で労働者保護が欠けないという何か要件を満たした場合は、例外として企業単位にするといったことも考えられるのではないかと思いました。
 以上です。ありがとうございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
 神吉先生、どうぞ。
○神吉構成員 すでに言われたことで、改めて労基法が想定してきたリスク管理の在り方、今まではずっと事業場で考えていたものを、山川先生がおっしゃるように、それぞれの規律の趣旨に照らして、個別に考えるという方向性に集約されてきているように感じました。
 先ほど黒田先生が整理されたように、リスクソースとしての人、場所、行動、物という考え方が非常にしっくりきまして、それをどう規律していくかを、よりきめ細かく考えていくことがよいのではと思います。
 企業の労務管理、意思決定で生じている問題、権限行使とか義務履行の場面という問題と、場所で生じている問題、それは監督の実効性を考えながら企業単位、事業場単位と振り分けていくことが選択肢であると感じました。
 今、ちょうど島田先生がおっしゃった、労使コミュニケーションはどちらがいいのかは結構難しい問題かなと思います。首藤先生、水島先生は事業場単位、水町先生は、企業でまとめたほうがうまくいくこともあり得るということで、私も島田先生とも同じように、その企業ごとの実態にかなり依存するところがあるように思います。
 ですので、それを制度に落とし込むときに、当事者が選ぶのではなくて、どちらか決めうちの制度となると、やはり事業場単位の維持に傾くのかなと、私自身は考えております。
 別の論点で、5番目の労働基準法の労働者の意思表明の方法について、一言申し上げます。資料の20ページで、労働基準法における労使が関わる手続が整理されています。
 「過半数代表」となっているところ、これは「過半数代表者」で、過半数労働組合と過半数代表者、これをまとめて過半数代表と呼んでいるという理解で、黄色い網掛けが過半数代表者だとすると、これは「集団」の代表なのだけれども「個人」であるという、集団的な意思表明なのか、個人的な意思表明なのか、実情も考え合わせるとかなりあいまいな位置付けだと感じております。
 労働者の過半数を代表する個人という微妙な位置づけにもかかわらず、現在、過半数代表者の果たしている役割は、本来的な集団であるところの過半数労働組合と同じことを検討することになっている。それなのに、集団の意見集約のプロセスは何も保障されていないということが、非常に重要な問題かと思います。ですので、意思表明の方法だけでなく、他の労働者の意見集約方法とか、代表性の保障みたいなものを考えていく必要があり、過半数代表者の問題が、労使コミュニケーションにも関わる重要な論点になると考えています。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 皆さんから御意見をいただきましたけれども、ほかの先生の意見を聞いて、さらに御発言があるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
 首藤先生。
○首藤構成員 いろいろ御意見、ありがとうございました。
 私も労使コミュニケーションや、労使自治をどうつくっていくのかということが極めて重要だと思っていまして、そのときに、事業場単位を飛び越えて企業単位でやったほうが、より健全な労使自治ができるというところの根拠が、私には見えません。実態からして、事業場単位でやるというのは、やはり手間暇がかかって非常に煩雑だと思います。企業にとっての負担も大きいと思っております。
 でも、その煩雑の中で、声がようやく出せるという場合もあります。むろん、今、十分に機能していないのは確かですので、そこをどう機能させるかということを考えていかないといけないと思っていまして、今の神吉先生のお話もそうですけれども、やはり意見集約をきちんとするということを、取組としてはしていく必要があって、そこがないままに企業レベルでやってうまくいくということが、実態として、どのようにすれば、それが可能なのかなというのが、正直理解しがたいと感じております。
○荒木座長 ありがとうございます。
 水町先生。
○水町構成員 また、これは労使コミュニケーションのところで具体的に議論すればいいかなと思いますが、20ページの表の中で、例えば労働協約方式とか過半数労働組合のところは、労働組合が存在して、労働組合というのは、憲法28条に基づいて機能している非常に重要な組織なので、憲法28条と労基法との関係を考えながら制度設計をしなくてはいけないのですが、労働組合のない過半数代表のところが事業場単位で分断化されていて、実質的な労使コミュニケーションを果たしているか、その分断化された小さいところの過半数代表者を選んで、例えば、それぞれの事業場のこともあるし、本社で決めているようなことまで、そこで話し合いをして、十分な情報とコミュニケーションがなされているかというのが大きな問題なので、そこは、例えば、企業レベルで集約して、企業レベルで集約したときには、企業で1人だけ過半数代表者を選ぶというフィクションではなくて、ちゃんといろいろなところから複数の労働者の代表を入れて、企業としても企業全体のことについて過半数代表組織と企業とで話し合うような場をつくっていくことが重要な課題だと思っていますが、また、これは、そのときにお話しできればと思います。
○荒木座長 ありがとうございます。
 安藤先生、どうぞ。
○安藤構成員 重要な論点に対して、少し混ぜ返すようなのですが、労使自治はどこまで必要というか、どこまで可能なのかということに関心があります。今、副業や兼業とか、日雇い労働であったりとか、短時間勤務、こういう多様な働き方が増えている中で、同じ企業の中で働いている人の中でも、その会社にコミットしている労働者もいれば、その会社とは、契約としては雇用契約であるのだが、非常に短期的で、嫌だったらすぐにやめればいいという考え方の人もいます。
 企業や、やっている事業などによって、その割合は全く違うと思うのですが、労使自治にあまり興味がなくて、議論に参加しなさいと言われても、なかなかそれ自体を希望しないと、時間がもったいないと思っている労働者もいるのではないかということに懸念を持っています。
 そうすると、例えば、過半数代表者を選ぶというときに、実際にどういう手続で選んでいるのかといったときに、過半数が全員その人の名前を書いて選んだというケースが、果たしてどのくらいあるのか疑問です。私が認識している範囲内で、実際に採用されているケースとして、過半数代表者を選出する際に、まずは、誰か手を挙げてくださいと募って、手を挙げた人がいましたといったときに、その人に対する信任投票をやる。信任投票では、半数どころではない非常に少ない票しか集まらない。しかし、手を挙げた人は、その人しかいないので、では、次に不信任投票をやる。不信任という人が半数いなかったら信任されたことにしてしまおうといったような形をとっているケースはあると思います。
このように、過半数代表をうまく選ぶことができていなくて、しかし、36協定を結びたいとか様々な要請に基づいて、そういう不信任投票などが行われる。このとき興味がない人が投票プロセスに実質的には参加していないということで、関心が高い一部の人の代表でしかないにもかかわらず、過半数代表になれてしまうということもあると思うのです。
 そういったときに、果たして労使自治というのが、関心が高い、意識が高い人たちの代表者を選ぶだけで、それでいいのかというところも関心があって、事業場単位で選べば、そこで働く人たちの総意を代表したものに近いものが選ばれるのかといったら、それがうまく機能しなくなっているような現場、実情も増えてきているのではないかと感じました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 首藤先生、どうぞ。
○首藤構成員 確かに多様な労働者がいる中で、労働者の声を1つにまとめ上げるということ自体が、非常に難しくなっている現実はあると思います。
 ただ、労基法での規定とか、あと安全衛生の基準というのは、最低基準であって、最低限遵守しなければならない水準です。最低限の基準を遵守した上で多様性は存在するのだと思っています。その最低基準を遵守するときに、やはり労使で協定を結ぶということであるならば、そこは何らかの形で正当に結んでいかないといけないことだと私は思っています。
 あと、安全衛生の観点などからすると、例えば、非正規で働いていても、やはり仕事が原因でけがをしたり、病気になることは、誰もが避けたい、避けるべきことだと私は思っております。先ほど黒田先生の安全衛生の話もありましたけれども、例えば、ヒヤリハットがどれくらいあるかとか、そういった声は正規・
非正規関係なく現場の意見を出していただき、ヒヤリハットを改善してなくしていこうと取り組む、そういった地道な活動の上で安全は守られていくのだと私は思っています。職場の安全衛生委員会などがきちんと機能していることが、安全を守るために重要だと思うのですが、結局、多様化したので、企業への忠誠心もなくなったので、そういうのはやらなくていいということになると、本当に安全は守られるのだろうかと懸念します。
○荒木座長 ありがとうございました。
 冒頭、労使コミュニケーションの課題から口火を切っていただきまして、大変議論が深まりました。労使コミュニケーションの回に、また別途議論はするかとは思いますけれども、労使コミュニケーションは、いろいろなレベルがあるわけですね。労使が団体交渉して、よりよい労働条件を設定していくという、そういう団体交渉に典型的に表れるような労使コミュニケーションもあれば、労働基準法制が規定としているのは、過半数代表との労使協定があれば最低基準を逸脱することを認めるという仕組み、そこから過半数代表者、過半数代表との労使コミュニケーションはどうあるべきかという問題がある。
 つまり、最低基準を下回ることを許容するための労使協定という制度を労働基準法は採っているわけですが、これは、戦後、労働基準法ができたときは、ほんのわずかなところでしか採用されていなかった。労働時間については、36協定だけでしたが、それが昭和62年の改正で多くの労働時間制度の中に取り入れられて、それがどんどん肥大化してきているという中で、この事業場の過半数代表との労使コミュニケーションが労働基準制度と非常に密接に関連して議論されてくるようになった。特に、過半数組合がない場合、過半数代表者との労使協定でも逸脱を認める制度が、最低基準の例外を認める制度として、どこまで妥当性があるのか、そういった課題が提起されているということがあって、非常に議論されているのだと思います。
 労使コミュケーションのときに、もう一度議論したいと思いますけれども、今日の御意見で、ほぼコンセンサスがあったのは、労働基準法は事業場単位の規制を前提としていたのですけれども、それはどういう趣旨なのか、監督のためなのか、それとも最低基準を設定するための単位ということなのか、あるいは新しい政策を実施する上で、より実効的なレベルはどこなのか、といったことを検討すべきということかと思います。
最近、実務家、弁護士の先生からお聞きしますと、平均残業時間とか女性活躍の状況は、ソフトローですけれども、情報公開の対象になっている。そうすると、これまで事業場単位のマターは、取締役に上がってこなかったのが、取締役会マターになり、企業がトップダウンで、労働時間短縮や女性活躍に取り組まなければいけないということで、労働行政上も実効性が高まったのではないかと。これは、企業単位の企業中枢でこの問題を捉えるようになってきたことの変化ではないかと思っております。
 ということで、その制度が何のための規制を行っているかという趣旨を考えながら、事業場単位がふさわしいのか、あるいは企業単位で議論するのがよいのかということも踏まえて検討すべきだ、という示唆をいただいたように思います。
 それでは、事業について、そのほかに意見がなければ、次に移りたいと思いますが、よろしゅうございましょうか。
 それでは、2つ目の労働基準法の労働者について、これもまずは、事務局から問題意識について、補足説明をお願いいたします。
○労働条件政策課長 資料の3ページの論点例の2でございますが、①は、まさに書いてあるとおりでございますが、労働基準法の労働者性の判断基準につきましては、昭和60年の判断基準の定立から約40年が経とうとしております。この間の諸外国の動向なども踏まえながら、現行の判断基準の評価や課題あるいは見直しの要否、必要というのであれば、どういう方向性なのかなどについて、幅広く御議論をいただければと思っております。
 その際、資料にも入れましたが、プラットフォームワーカーなどの新しい働き方が出てきている中で、使用者、働く人双方にとって、労働者であるか否かを分かりやすくする。予見可能性を高めるという観点も踏まえて御議論をいただけると、1つの切り口かなと思っております。
 あと、第1回の研究会でも御発言ありましたように、グレーゾーンで働く人の保護ということについて、労働者の範囲との関係で、どのようにアプローチしていくかということも議論の1つかと思うところでございます。
 ②につきましては、現在は労働基準法、労働者災害補償保険法、労働安全衛生法、労働契約法も含めて、労働者の範囲は、基本的には同じであると解釈をしてきていますが、その点について、どのように考えるか。
 個別には労災保険への特別加入ですとか、あるいは請負の関係の責任について、いろいろ条文上広げようとしたり、制度上広げようとしているものもございますが、そもそもの概念として同じであるということについてどう考えるか、マル1とも関連しますが、御議論を賜ればと思います。
 ③、家事使用人につきましては、現行の適用除外を維持すべきか、適用に舵を切るべきか、適用する場合の法制的な問題、これは、先ほどまでの事業の議論とも関わりますが、そもそも家庭を事業と見ないと適用できないのではないかということも含めて、御議論が考えられるかと存じます。よろしくお願いいたします。
○荒木座長 ありがとうございました。
 それでは、この労働者の概念についても御自由に御議論をいただきたいと思います。
 労働法の一番基礎概念に関わることで、大変議論も難しいのですけれども、どなたか口火を切っていただけますと幸いですが。
 では、水町先生。
○水町構成員 たくさんあるのですけれども、最初にたくさん話すとあれなので、ポイントだけお話ししますと、労働基準法が想定している労働者概念、昭和60年の研究会報告で、複数の判断基準が出されて総合考慮するというので、実際上は予見可能性がなくて非常に分かりにくいし、裁判所に行ってみても、裁判所の判決によって、白と出るか黒と出るか分からないような事態も出てきています。
 ただ、これは、実は諸外国にも共通しているところで、労働者概念が非常に分かりやすくて誰でも分かるという状況ではない状況なので、どうするかというのは非常に重要な課題だとは思います。
 その中で、あえて幾つか言うと、プラットフォームマーカー、デジタル化アルゴリズムが進展していく中で、アメリカやヨーロッパは、恐らく日本よりも、この動きが非常に早く広く広がっているので、それが裁判にたくさんなって最高裁判決も出ているような状況の中で、日本で言うと労働基準法上の労働者概念、労働者概念の重点とかが大分変わってきている、要はビジネスモデルとして、人が指揮命令をするわけではなく、アルゴリズム、アプリの指示に従って、誰が指示しているか分からないけれどもアプリで言われたとおりにするということであったり、さらには、そこから誰が評価をして解約されるかどうかというのは、お客さんが評価をして、お客さんの評価が平均よりも低くなったら、これもアルゴリズムによって、アクセス停止とか、解約するというので、上司がいて人間が指示して、悪かったので懲戒処分とか解雇するというような昔ながらの労基法が想定していたようなものではなくなってきているときに、大きく問題が2つあって、労働者性を分かりやすくしよう、要は業務委託でほぼ労働者ではないものとして扱われていることがプラットフォームワーカーで多いので、予測可能性を高めるために、要は労働者だと推定して、実態として労働者ではないということをプラットフォーム事業者側が反証できれば、個人事業主に戻りますよという推定方式が、アメリカでも一部出てきたり、ヨーロッパでもEC指令案が、まだ恐らく、最終的な決定はなされていませんが、今、調整がなされているところで、そういう推定方式を取るかどうかというのが1つ議論になるかと思います。
 ただ、推定方式を取るときには、誰を推定の対象にするか、プラットフォームで運転をしている人だけだとか、アプリを使って働いている人だけだとか、業務委託で働いている人全体なのかという射程の問題と、推定するときには、どういう条件で推定して、どういう条件で反証するかという、実は推定しただけでは何も解決していないという、より複雑にしているという問題もあって、そういう意味で、アメリカでも採用されるか、ヨーロッパでも指令としてどうするかというのが、今、議論されているところです。
 それ以外に分かりやすい方式をどうするかというと、やはり7つ、8つの基準で総合判断になるというのは、労働者概念では不可避かもしれませんが、それぞれの判断基準の持つ意味をもう少し趣旨に照らして分かりやすくして、例えばチェックシートみたいなものをつくって、現場で判断しやすいものに少し法の趣旨に沿って分かりやすくしつつ、個別の判断については、やはり現場で悩ましいというところは相談体制を築いて、あるところに行って相談をしたら、ある程度道案内をしてくれるという形で分かりやすさを実現するという方法もあり得るかもしれませんが、いずれにしても何か工夫が必要だと、分かりやすさですね、それと労働者概念のより具体的な見直し、今の7つ、8つの基準の中で、アルゴリズム、プラットフォームワーカーになってくると、今までと想定していたものと違うやり方で、いろいろな指図がされたり、あと、いろいろな問題が出てきていて、労働者性の判断の重点が大分シフトしていったりして、それを具体的に話し始めるとあれなので、また、この後、各論のときに、いろいろお話しできればと思います。
 そういう意味で、今、世界で労働者性の判断基準とか労働者性の認定の仕方がどう変わっているかというのを、少しデジタル化が先に進んで法的判断も蓄積されつつある外国の例を見ながら、日本でもしっかり議論して、制度設計を考えていくことが必要かなということ。
 もう一点だけ、そもそも、今、労基法上の労働者と労働契約法上の労働者が一緒で、必然的に労働安全衛生法と労災保険法の労働者性も一緒になって、労組法上の労働者性だけ少し違うということになっていますが、例えば、労働安全衛生法の適用対象者は労働者なのだけれども、一人親方については、場所の概念でリスクがあるので、そういう人たちにもケアをしましょうとか、労働契約法上の労働者は、労基法と一緒だと言われていますが、安全配慮義務については、労働者に限らず、いろいろな人に法の趣旨に基づいて信義則から拡張適用するということが出てきているので、実は、労働契約法上の労働者は、リスク管理の問題なのか、継続的契約関係に対する信頼保護なのか、いろいろな趣旨にさかのぼると、労基法上の労働者とは違う観点からその射程が出てくることもあると思いますので、そういうのも視野に入れながら、労基法上の労働者と労契法上の労働者と労働安全衛生法上の適用対象と、労災保険法上の適用対象が、およそ一律のものとして確定されていいのかというのも併せて検討対象になるかなと思います。
 差し当たり、以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかの先生から、いかがでしょうか。
 黒田先生。
○黒田構成員 また、法律のことはちょっとという感じなのですが、産業保健や労働科学の研究で、先進分野が幾つかありまして、北欧が割と先進国とされているのですが、そういうところの論文を見ると、セルフエンプロイド、自営業の方も失業保険をもらっていたりとか、休業補償をもらっていたりして驚くことがあります。労働者災害補償保険法ですとか、あと、スウェーデンとかだと親休暇や親給付というのがあると思うのですが、そういう出産関係のものというのを、自営業者や、例えばフリーランスですとか請負の方も含めるというのは、もう少し大きい話になってきてしまいますけれども、ありなのかなと思って、そうすると、労働基準法と労働者災害補償保険法や労働安全衛生法の労働者性というのは、少し異なってくるのかなと思っています。
 自営業者は、経営者ではあると思うのですが、経営者かつ労働者という側面が、ここで言う労働者というのは単に働く人ということで言っていますけれども、そういう側面があるかなと理解しています。ただ、国によってどの制度が適応されるかというのは違っていて良よいと思います。EUだと2019年に社会保障アクセス勧告というのが出てこういう給付が必要ですみたいな列挙をされていますが、日本だと、例えば、別に労働者扱いしなくても、年金の話というのは別の枠組みで対応されているので、労働者か否かの議論に別に含めなくていいのかなと思うのですが、疾病治療の給付ですとか、労災の給付、労災認定をするですとか、これも一部特別加入とかで手当はされていると思うのですけれども、そういう面では、働く人というのは全て含めるという考え方もありなのかなと。国のもっと大きな社会保障の設計の話になってきますけれども、そう考えております。
 ということで、結論としては、全部同一に解釈しなくてもいいのではないかと考えております。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 オンラインから、石﨑先生、お願いします。
○石﨑構成員 ありがとうございます。
 この部分は非常に難しいところで、確たる私見がということではないのですけれども、まず、論点の1点目の判断基準の問題に関しましては、諸外国の状況を見ても、結局、労働者性の判断を、実態を踏まえて客観的に行うという原則を維持する限り、また、それは維持すべきだとも考えているのですが、やはり総合考慮型にはならざるを得ないのかなと思っております。
 その際、結局、予測可能性が欠ける、また、実際には裁判で争ってかなり長い期間をかけないと固まらないみたいな、そこの部分の課題に対して、どこまで抜本的な対応をするのか、あるいはサポートをするのか、というところは、要検討かなとは思うのですが、この辺りは、結局、裁判所と行政、あるいは場合によっては学説が、それぞれ何ができるのかということを考える必要があるように思っていまして、先ほど水町先生から相談体制等という話があったのですが、行政機関のほうで、ある種その辺りの相談に応じるのか、あるいはさらに踏み込んで、より短期の手続で、要するに認定してしまうような仕組みみたいなものを導入するのかといった、そういう対応というのが、ビジョン的には1つ考えられるのかなと思うところであります。
 さらに、予測可能性というところと、特に最近新しい働き方が、デジタル技術の進展に伴って広がっているというところとの関係で、そうした働き方に関して、例えばグレーゾーンにある労働者か、個人事業者かはっきりしない部分について、1つのアプローチとして、労働者自身の意思というか、同意を重く見るという判断手法を取っていけば、予測可能性の点はクリアされる部分はありますけれども、他方で、初回の研究会でも申し上げたように、そこには、やはりリスクもあるところですので、それがいいかどうかというのは、かなり慎重に考えなければならないのかなと思っているところです。
 それから、2番目の論点について、各法それぞれ趣旨が違いますので、もちろんばらばらに考えるというアプローチはあり得ると思いますし、現状、労働安全衛生法分野でも労働者だけではなくて、かなり個人事業者も視野に入れたガイドライン等でのアプローチもありますし、あるいは有害業務との関係では、いろいろ規制も入っていますが、個人事業者も含めたアプローチというのは入ってきているところがあるので、それぞれの趣旨に応じて考えるという考え方もあり得ないではないと思う一方で、ただ、他方で、やはり労働者概念が統一的であるというところは、実効性との関係でも意味があるように思っておりまして、そうだとしたら、やはり労働者の概念は同一に解釈しつつ、そこから広げていく部分については、規制を広げていくということも、もちろん考えられるのかなと思うところです。
 あとは、将来的な話にはなるのかもしれませんが、労働者であれ、個人事業者であれ、就労している人全てに適用されるべきルールのほうをルールとして整理していくというアプローチも、別に考えられるのではないかと思っているところです。労働者概念を動かすのではなくて、規制のほうを変えていくというか、そういったアプローチがあるのではないかと思うところであります。
 家事使用人につきましては、私自身の見解としましては、やはり、かなり当時の実態といいますか、かなり家事使用人の方が、家族同然のような形で働かれていたという前提での適用除外というところがあったように理解しておりますので、適用する方向の改正というのが望ましいのではないかと考えております。
 私からは以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 続いて、水島先生、お願いします。
○水島構成員 ありがとうございます。水島です。
 今、石﨑先生から労働基準法、労災保険法、労働安全衛生法の労働者を同一に解釈する点について、お話をいただきまして、安衛法については、石﨑先生が丁寧にお話しされたので省略するとして、労災保険について考えを述べさせていただきます。
 労働基準法の労働者と労災保険法の労働者は同一である必要はないという意見が、比較的多いように思っております。水町先生も、立法論として労働安全衛生法制と合わせて、例えば、経済的従属性をより重視した、より広い労働者概念を採用することも考えられると御著書に書かれていますし、社会保障法学の視点から、今や、使用者の責任は損害賠償訴訟で追及される時代になっていて、労基法上の責任保険として、労災保険があるという考え方を持って、労基法と労災保険の労働者概念を統一的に見るという、その根拠としては希薄であるといった御意見もあります。
 このような考えは承知していますが、私自身は、労基法第8章の災害補償責任と労災保険法は、やはりリンクしていて、労基法第8章が労災保険の原点であると考えております。
 また、働き方の実態が労災保険の補償を受けられる労働者とほとんど変わらない者に対して、保護が必要である、保護をすべきであるという御意見も多く聞かれます。
 保護の必要性を私も否定するものではありませんが、補償を行わせる根拠が何かという点の議論が不足しているように思います。
 現在は、そのような者への保護の必要性に鑑み、労災保険の特別加入制度が、家事使用人や、今後はフリーランス全般の保護に対応するものです。
 それから、先ほど黒田先生から北欧では自営業者もカバーするような社会保障制度が見られるといったお話があったと受け取りました。
 そうしたことを踏まえますと、立法論として大きな話ですが、今後、労働者であるか否かにかかわらず、働く者を全てカバーする保険、さらには無償ボランティア等の社会活動もカバーするような災害保険という大きな構想を立てることは、考え方としてあり得ると思います。
 ただ、その場合に、先ほど申しました、誰に補償させるのかと、補償水準について検討する必要があると考えます。
 私が懸念しておりますのは、現在の労災保険の補償水準を維持したまま、そのような災害保険制度をつくることは非常に困難であって、現在の補償水準を維持する前提であれば、労基法第8章とリンクさせて労基法上の労働者に対象を限定することの意義を重視しなければならないと考えます。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 安藤先生。
○安藤構成員 考えないといけない点として、今まで労働者ではなかった人を労働者に取り込んでいく、例えば、フリーランスであったりとか、ギグワーカーみたいなものの労働者性をどこまで見ていくのかという話と同時に、今まで労働者とされていた人が、その労働者の範囲から外れる可能性があるのかないのかというところにも興味がありました。
 27ページに書いてある労働基準法の労働者の判断基準というと、まずは、使用従属性というキーワード、法律家ではない門外漢でも知っているような言葉がありますが、これが誰に従属しているのかといったものが次第に変わってきているケースも増えているのではないかと思っています。
 先ほど、AIという話も出ていましたが、例えば、プラットフォーム型のビジネスでいったら、お客さんが低い評価をすると仕事が来ないということで、お客さんの評価というものを見て自分の行動を選んでいる。例えば、アメリカなどでチップがもらえるようなレストランなどでも、お客さんがどう評価するかを見て行動を決めている。もちろん、そこには、そこの会社の使用者がいて、それはやらなくていいとか、そういう指示はできるのでしょうけれども、どちらを見て仕事をしているのかというものには、多様性があるのかと思っています。
 例えば、ホワイトカラーの労働者などでも、上司から命じられた仕事というもので、もうこのレベルでいいから次に行きなさいと言われても、自分の名前で公表するような資料等であれば、会社から求められた基準以上に、質を高めるといった行動があり得たり、より卑近に言えば、先ほどから大学の例をよく出していますが、大学教員も職場から、この程度でいいと仮に言われたとしても、必ずしも今の雇い主ではなく、コミュニティ全体、会社をまたがっての同業者の評価などを気にして自分の行動を決めている、こういうケースも増えているのかと思っています。
 これは、大学教員、研究者に限らず、例えば、プログラマーの方なども、自分のスキルレベルを上げていくことによって、自分の転職可能性であったりとか、新しい、より楽しい仕事を得られる可能性が上がったりといったようなことで、必ずしも今の雇い主だけを見て仕事をしているのではないケースも増えてきているといったときに、どういう人をどこまで保護する必要があるのかといったことが、関心がある事項になります。
 先ほど、ほかの委員の先生から、可能性として、それは難しいというお話がありましたが、そもそも誰かに仕事を任せる際に、雇用契約として雇うのだった労働者として、また労働者ではない形態で任せる場合にはその代わりに拘束の度合いが弱い契約にする、これを契約時に明示的に選択できるとすると、そこの労働者性の不明確性は減るのではないかと感じています。
 ここまでが労働者性のお話で、最後に1点だけ、労災保険の話が、先ほど水島先生からあったと思いますが、労災保険はメリット制があって、労働災害を起こすと負担が増える点があって、それが労働災害を起こさないインセンティブとして機能していると思っています。
 この観点から、全ての災害を網羅した保険などにしてしまうと、今の労働者が雇われている事業主が、適切に労働災害を減らすインセンティブというものが損なわれる可能性はないかということが、少し気になりました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかには、いかがでしょうか。
 首藤先生、どうぞ。
○首藤構成員 労働者性の話で、私は労働実態を調べていますので、その観点から、少しお話をさせていただきたいと思いますが、例えば、39ページ以降にあります、軽貨物運送のところの実態ですけれども、現状としてどういうことが起きているかと申し上げますと、ある企業は、個人事業主の人に委託をして荷物を運んでもらい、ある企業は、労働者を雇用して荷物を運ぶということをやっていて、両社は当然市場で競争しているわけです。
 その市場競争の中で、やはり雇用するよりも個人事業主のほうが競争上優位にあることから、いわゆる労働者を雇うことが侵食されていくような事態が起きているように私には見えています。
 これは、労基法とは関係ない、多分、別の法律の規制緩和とかも影響しており、例えば、今、ライドシェアの解禁などが議論されていますけれども、あれも全面的に解禁されれば同じようなことがタクシーでも起こってくるかもしれません。
 ですので、まず、個人事業主として働いている人たちが、本当は労働者なのに個人事業主になっているという可能性が、ここにも書いてあるとおり極めて高いので、やはり水町先生が先ほどおっしゃったように、判断基準の明確化というのは、すごく重要だと思っております。
 もう一つは、判断基準が明確になったとしても、当然、どこかで線引きをしないといけないわけで、線引きの内側と外側というのは、当然出てきます。そうなったときに、この落差があまりにも大きいと、やはり外側のほうが拡大していくということが起きるので、この落差を少しでも縮めることはできないのだろうかという思いは、常々抱いているところであります。
 ですので、先ほど水島先生がおっしゃった労災の話などは、労災を幅広く適用するというのは、落差を縮小するためにも望ましいなと思います。ただ、誰が補償するのかとか、基準ですとか、その水準という問題もあり、そんな簡単ではないと思いますけれども、そういった点も議論していただけるといいなと思っております。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 水町先生、どうぞ。
○水町構成員 今の点について、私も全く同感なのですが、労働者性を実態に合わせてきちんと認識できるようにしても、やはり実態としても労働者ではない人が出てきて、これが、今まさに諸外国で問題になっていて、日本ではフリーランス保護法ですが、諸外国ではプラットフォーム就業者の保護制度をどうするかというときに、例えば、労災とか失業保険についても、労働者ではない人にどういう制度設計をするかということが、今、重要な課題になっています。
 例えば、労災については、日本は特別加入を広げていく対応をされていますが、諸外国では、いわゆる労働者の労災保険法とは別に、例えば民間の医療保険とか、別の制度だけれども、そこに加入するときのコスト、保険料を誰が負担するかというときに、ちゃんと事業者に負担させようという方向で法の整備が進んでいるので、要は、そこできちんと保険料を負担させることによって、業務委託のほうがやはり安いよとしないようにすること。
 あと、実際上は、例えば日本で、特別加入制度でやっていますが、特別加入制度の保険料をきちんと事業者、経済的な利益が行く人が併せて負担しなくてはいけないよというところになっていくかどうかというのが1つ。
 その保険料の水準が、どういう水準になるかによって給付の水準が決まってくるので、要は保険料もきちんとビジネスとして負担して、それが給付の水準とも近づいていって、労働者と労働者ではない人のところが、連続的な制度になっていくというのが最終的な目指すべきところで、それについて諸外国は努力をしていますし、失業保険についても、実は労働者の失業保険制度と全く同じ失業保険制度を個人事業主に適用するというのは、やはり難しいのですよ、どこからお金を負担してもらうか、労働者だと、事業主負担分もある中で、例えば、個人自営業者についても失業保険制度を別につくって、それで補償をしようという方向が出てきています。
 そのときに、例えば日本でもコロナのもとで、持続化給付金が個人事業主にも、ああいうときに経済的なリスクを負う人には、やはり補償しなくてはいけないねというので、どこからかお金を持ってきて補償するという発想が、コロナだけの問題なのか、そうではないのかと考えたときに、では、失業保険の労働者の範囲を広げるのか、それとも別の制度で失業保険に類似する連続性のある制度をつくるかというのは、1つ大きな課題になってくると思います。
 ですので、そういう意味では、今日は労働者概念の話だと思って、労働者概念を実態に応じて分かりやすくという話をしましたが、労働者に当たらない人の制度をどうするか、それを労働者との制度で、どう連続的な制度にしていくかというのが、今まさに諸外国でも問題になっていて、それを視野に入れて検討していくことが、日本でも必要かなと思ったところです。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかには、神吉先生。
○神吉構成員 それでは、今まで挙がらなかった論点について、2つ申し上げたいと思います。
 1つ目は、労働者性の判断基準、昭和60年労基研報告で整理されているところの、この基準の妥当性を考えるときに、労働者と何を区別するのかという、その視点も必要と感じております。
 基本的には、この労働者性の判断基準は、労働者なのか、それとも個人事業主、請負などで働いている人なのかの区別のための基準という側面が強いです。
 それはプラットフォーム労働の拡大などと非常に整合的で、これからも、そういった観点で深めていかなければいけないと思うのですけれども、他方で、拾えていないものがある。資料32ページ、列の2つ目に入っている、②東京地判平成28年の「アイドル」ですけれども、もう少し正確には、「アイドルの卵」の事例です。つまり、訓練や研修などの側面があり、働いているといえるかどうかが微妙、自分の練習のために行っている側面があるが報酬も受け取っているので、労働者性が争われた事案だと思います。
 航空会社の客室乗務員の訓練をする契約期間が、労働契約かが争われた事例もあります。あるいはインターンシップなども問題になります。
 有期の試用や、研修も兼ねた労働契約もありうるところ、その区別も問題になってくるはずです。
 そうした事例はあまり多くないのですけれども、27ページで挙がっているような判断基準というのが、うまくマッチしないこともある。例えば、KLMの事案、ロイヤルダッチエアーラインズ事件などを見ますと、これらに加えて訓練を受けている、問題になっている期間について利益の帰属がどちらにあるのかとか、そういう要素を足すような形で判断している例もあります。
 ですので、この労働者性が何との区別をする基準かという観点も加えて考えていく必要があると感じました。
 2つ目は、やや広い話になりますが、判断基準の在り方を詰めていって、それをどういう形で制度化するか。労基法の労働者の規定ぶりは非常にシンプルで、だからこそ、それはどういうことなのかが掘り下げられてきて、現在では、昭和60年労基研報告を使って判断されることが多いですけれども、この位置づけは一体何なのだろうかと。
 今回、この研究会で議論した結果の報告が、令和6年労基研報告としてアップデートされて使われるようになっていくのか。それでいいのか。法律上の規定はそのままで、こういう解釈であるべきだという、行政文書で決まっていくのでいいのだろうかと、根本的な問題意識をもっています。
 私からは以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ほかには、いかがでしょうか。
 島田先生、お願いします。
○島田構成員 ありがとうございます。
 判断基準そのもののお話と少し異なってしまって恐縮なのですけれども、先ほど神吉先生もおっしゃったように、法文が非常にシンプルで、労働者性という論点自体が、一般の労働者にとって非常に分かりにくいというのも問題かと思います。そもそも契約形態が何かというのがよく分かっていないということだったり、業務委託と書いてあるから、自分は労働者ではないのだというところから出発してしまっている労働者も多くて、それは、制度の中身自体の話ではないのですけれども、一般の法律家でない労働者にとって、自分が労働者かもしれないというところを周知させていくことも問題かと思っていまして、1つは法文に書いて、判断基準が深まったとして、それを何らかの形で書くというのもあり得るかもしれませんし、あと、これは労働法自体の話ではなくなるのでしょうけれども、例えば、一般個人の人と業務委託を締結するに当たって、判断基準に即して、あなたは労働者ではないですよということを使用者に説明させるとか、従属性はこういう理由で低いので、あなたとは、労働契約ではなくて業務委託契約を締結しますという説明義務を課すとか、そういう形で労働者性という論点を、一般の労働者にとって認識可能なことにすることも重要かなと思いました。
 以上です。ありがとうございます。
○荒木座長 ありがとうございました。
 ひとわたり御発言をいただきましたけれども、さらに何か御議論ございましょうか。
 神吉先生。
○神吉構成員 すみません、今の島田先生の御指摘で、さらに少し付け加えますと、論点として労働者性が認識されていない、あるいは争うときに、勝てるかどうか分からないことは、実際には非常に大きな問題になっていると思います。履行確保の点では、今は訴訟のほかに労働審判制度が使いやすくなっている。ただ、労働審判制度は、基本的には労働者が使う制度なので、労働者かどうか分からなければ労働審判を使えないと、入り口で詰まってしまう実態があるので、まずは、労働者の可能性があるという意識が持てるようにすることが非常に重要だと思いました。
○荒木座長 ありがとうございました。
 労働者性の問題は、世界中で大議論がなされていて、最初、水町先生から御指摘があったように、どの国でも大変これは難しく、クリアカットはできないのですね、クリアカットの線を引けば、また、それを潜脱しようという動きが生じますので。ただ、世界中で共通の理解と恐らく言えるのは、契約の名称にかかわらず、労働の実態に照らして労働者性は決まるということですね。そうでなければ、力の強い使用者に押し切られて、これは雇用契約ではないという契約をさせられてしまう。そういった事態があっても、労働法は労働の実態に即して労働者と評価された人には労働法の保護を及ぼすと、これは、ほぼ労働法の共通の理解だと思います。
 ですので、労働者かどうかは、契約の名称にかかわらず判断されるとか、そういった条文を置いている国もありますが、そういうことがあってもいいのかなと、御指摘を伺いながら思ったところです。世界中で誤った分類、誤分類問題が、プラットフォームエコノミーにおいて大変問題となって、これは客観的に判断されるということにはなっております。
 同時に、総合判断ということですと、予見可能性がない。この予見可能性を高めるために様々な工夫がなされて、1つは、個人で役務を提供している人は労働者と推定して、労働者ではないということを使用者に立証させる、今日、AB5としてアメリカの例がありましたけれども、そういったやり方もある。プラットフォームエコノミーについて、EUでもそういった立法をしようという動きがありましたけれども、これは、今、混乱している状況のようです。
 これもうまくいくかどうか、御指摘があったように、どうやって反証を認めるかということをめぐって、難しい議論になるのかもしれません。
 とにかく労働者自身というか、労働者ではない契約をしている役務提供者が、自分は労働者なのか、そうではないのかということに関する紛争について、行政も含めてナビゲートしてあげる、そういった仕組みが重要になってくるだろうと思います。
 フリーランス新法も客観的に労働者であれば、契約の名称如何に関わらず労働者であって、フリーランスではないということが前提の立法です。ところが、一旦業務受託者という契約を結んだ人は、自分が労働者ではないと思っておりますから、それでも客観的には労働者ということがあるということをきちんとナビゲートし、サポートしてあげる仕組みが、重要になってくると思います。
 大変有益な御議論をいただきましたけれども、労働者性について、何かほかに、安藤先生。
○安藤構成員 働く人が労働者でないと判断されると、それは何か企業にとって有利であり、また労働者にとって不利であると一面的に捉えられるのかということには、少し疑問を持ちました。
 先ほど、トラックドライバーの話、首藤先生からも水町先生からもございましたが、雇われて働くトラックドライバーは何を目指しているかといったら、お金を貯めて、いつかは自分で車を買うことを希望しているケースは多くあります。そして、自分が個人で請けたほうが圧倒的に儲かるし、自由裁量が効くということで、雇われているよりも自営して請負になりたいのだと言っているわけです。そういうパターンがかなり多いと認識しております。
 これは、タクシーなどでも似たような構造があって、一定の基準をクリアしなければならないわけですが、個人タクシーになったほうが、企業に雇われているよりも有利だといったような構造があります。それなのに、実態を見て判断するとして、結局は労働者とみなされてしまうとなったときに、自営業として個人で請け負う形であったなら得られたであろう経済的なメリットが失われてしまうという構造もあり得るのではないか。もちろん、大多数については、企業側が労働者とするよりも請負としたほうが、手間がかからないことから労働者性を否定する方向に行く可能性があるという構造自体は理解しておりますが、必ずしも、それだけではないということは、注意が必要かなと感じました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございます。
 水島先生、お願いします。
○水島構成員 ありがとうございます。
 家事使用人について、一言述べさせていただきます。
 私は、労基法第9条の「事業又は事務所」を、業として継続的に行われているものと理解すべきと考えております。労基法に使用者の様々な義務が定められていますが、それを履行させるべき使用者がいて、使用者が履行できるものであるとの趣旨も含むと理解しております。
 そのため、家事使用人が就労する私家庭は、私の理解では「事業」に当たらないと考えます。私家庭に労基法の使用者としての義務を課すことが、現実的ではないこともその理由です。
 先ほど労災について意見を述べましたが、私家庭に労基法第8章の災害補償の責任を負わせることは、現実的でないと考えます。
 もう一点、先ほど水町先生が御指摘になった特別加入の保険料を発注者に負担させるという点は非常に重要と私も考えます。
 建設業では、義務ではありませんけれども、発注者に安全経費として保険料分の積算をかねてから求めていまして、こうした動きが進めばと考えます。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございました。
 では、黒田先生。
○黒田構成員 島田先生、神吉先生、そして安藤先生のお話を伺っていて、すみません、私が言うべきことで抜けていたところがあったと思って補足をします。
 労働者ではないことのメリットがいろいろあるという部分を理解していますが、結局、誰が働く人のヘルスリテラシーを高めるのだという観点は、もちろん、別に仕事を発注する側だけが責任を負うべきとは思いませんし、個人事業主やフリーランス側も負うべきだと思いますけれども、誰がというところが、なかなか実効性を考えると難しいところです。フリーランス新法でカバーされる部分もあるのでしょうが、そうではない部分も結構ありそうなので、そこに関しては、法律に書き込むのはやはり難しいと思うので、もう少しガイドライン的なものを充実させるということも重要かと思います。ただ、シンプルという方向とは逆方向に行ってしまいますけれども、働く人のヘルスリテラシーを高めることが重要なのだ、ということを盛り込む。そして、発注側が請負者に対して無理なことを言わない、今日の20時に明日の朝までに御願いしたいなど根本的な仕事の無理な期限を述べない、そうすると、結局、請負契約書の労働者性が高まるようなわけですよね、そういう無理なことを言うことは労働者であっても、もちろん駄目なわけですけれども、そういう労働者性を高めるような行動を企業側は取らない、ということも盛り込むことが必要と考えます。それを罰則で設定するのが適切なのか、罰則というのは難しければ、やはりガイドラインになるのか、何らかの手当が必要なのかなと思いました。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございます。
 水町先生。
○水町構成員 労働者性判断の技術的な点を2点だけ、1つは、推定方式は、なかなか難しいという話をしましたが、推定方式の非常に大きな意味は、立証責任を適正に分配するという点で、今の労働者性だと、請求をする労働者が、自分は労働者だということを裁判で主張立証しなくてはいけませんが、推定だと、原則として労働者として推定されて、反証を使用者が負うと、基本的には情報の偏在で、そういう労働者性に、どのように仕事をしてもらっているか、使用者がたくさん情報を持っているので、その情報の偏在からすると立証責任が、適正な分配というのが重要なポイントになるので、アメリカとかEUの状況を見ながら、日本でも検討すべき1つの課題にはなるかと思います。
 もう一つ、ここで労働者性をどう議論するかというので、例えば、ヨーロッパとかアメリカとかで、デジタル化の中で労働者性の判断基準が、今、大きく動いていく中で、法律上の定義を改正しているかと、法律上の定義を改正している例はほとんどなくて、要は、法律には一般的な定義しかされていないけれども、実態が変わっている中で判例が新しいことをどんどん言って、新しい実態に対して労働者性の判断を変えていっているということもあります。
 ですので、日本も事案がいっぱい上がってきて、最高裁の確定する判決がたくさん出てくればいいのですが、恐らくそれが出てくるのは、まだまだかなり先になると思いますし、まだ、東京地裁で争われている例も、全国の地裁で争われている例もほとんどない状況なので、そういう中で、例えば、昭和60年の研究会報告とか、労組法上の労働者については、労使関係法研究会で判例を基に、どのように判断するかと、研究者が研究会で労働者性の判断の基準をまとめたというのもありますし、今回、例えば諸外国の情勢等を今の労働基準監督署の決定等、新しい動きに対して、どう判断すべきかというのを専門家が研究会でまとめて、例えば、それが裁判所に拘束するという効力は持たないので、それを採用するかどうかは裁判所の判断ですが、例えば、行政で新しい事案に対する労働者の労働基準監督行政等の具体的な判断の通達、指針としてもらうということは、1つ、今、考えられる方法として重要なポイントになるかなと思います。
 以上です。
○荒木座長 ありがとうございます。
 今日の労働者の議論について、労働者の概念を広げるべきか否かみたいな議論が多かったかもしれませんけれども、実は、このグレーゾーンをどうするかというときに、安藤先生の御指摘は大変重要だと思いました。労働者等に含めてあげれば、全て本人にとって望ましい状況かというと、そうとは限らない、もっと自由な働き方をしたいという方もおられるわけですね。
 今般、フリーランス新法ができて、改めて確認できたことは、フリーランスという個人で役務を提供している方については、個人として、人間として働いていますから、ハラスメントからの保護とか、あるいは出産・育児に対しての一定の配慮、そういったことは人が働いている以上は当然必要だと。
 でも、これは労働者に対するものと全く同じ規制ではないわけです。そのようにグレーゾーンにいる人たちを、そのまま捉えた上で、必要な保護は何かを考える。それは、必ずしも労働者と全く同一とは限らないし、完全な独立自営業者と同じとも限らない。何がもっともふさわしい保護かを考えて、新たな制度を設けて対処するということは、過渡的かもしれませんけれども、1つのアプローチとして十分考えられる。その後で労働者概念をどうするかは考えるということも十分あり得ると考えております。
 ほぼ時間となりましたけれども、今日のところはよろしいでしょうか。
 それでは、事務局から次回の予定について、お願いします。
○労働条件政策課労働条件確保改善対策室長 次回の日程等につきましては、調整の上、追ってお知らせをいたします。
○荒木座長 それでは、本日の研究会は、以上といたします。
 本日も御参集いただきまして、ありがとうございました。