第2回ゲノム医療推進法に基づく基本計画の検討に係るワーキンググループ 議事録

日時

令和6年2月14日(水)10:00~12:00

場所

AP虎ノ門
(オンラインとのハイブリッド開催)

議題

  1. 1.有識者等からのヒアリング①(ゲノム研究・医療提供等)
  2. 2.意見交換
  3. 3.その他

資料

議事

議事内容

○中田研究開発政策課長
 皆様、おはようございます。定刻より前ですが、全員おそろいになりましたので、ただいまより「第2回ゲノム医療推進法に基づく基本計画の検討に係るワーキンググループ」を開催いたします。構成員の皆様方におかれましては、お忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
 本日は、全ての構成員に御出席を頂いております。また、本日の会より小崎健次郎構成員、佐保昌一構成員、角山和久構成員に参加をしていただいております。また、本日は佐保構成員の代理として、小林様に御出席を頂いております。
 続いて、資料の確認をいたします。資料は、厚生労働省のWebサイトに掲載しております。議事次第、資料1~6、参考資料1~3までありますので、御確認いただければと存じます。また、本ワーキンググループは公開としており、議事録については各構成員への確認の上、後日公開したいと思います。
 簡単に会議の進め方について説明いたします。適宜御発言がある際には、挙手をお願いいたします。オンライン出席の方におかれましては、画面上の手を挙げるボタンを使っていただければと存じます。こちらの会場から御指名をさせていただくような形にいたしますので、名前をおっしゃってから御発言いただければ幸いです。御発言をされない間は、マイクをミュートにしていただきますよう、お願いいたします。また、ときに音声等が不安定になるような場合もあります。場合によっては、一旦ビデオをオフにするなどの対応を試みていただくよう、お願いいたします。
 傍聴に際しましては、携帯電話等の音の出る機器について、電源を切るか、マナーモードへの設定をお願いいたします。頭撮りは、ここまでとさせていただきます。以降の運営を、座長にお願いいたします。
○中釜座長
 それでは、本日の会議を始めます。座長の中釜です。本日も発表が多く予定されていますので、早速本日の議題に入ります。
 議題1は、有識者からのヒアリングとなっております。本日は、あらかじめ6名の構成員の方々に、主にゲノム研究や医療提供に関してゲノム医療を推進するための意見をお伺いし、その後ディスカッションとさせていただきます。おおむねお一人7分を目処に御発表いただきます。なお、発表に関しての特段の質問があった場合には、その発表後に質問を受けたいと思います。それから、6名の発表が終わってから全体の議論に入りますので、政策全般に関わる事項に関するものについては、その場での御発言をお願いしたいと思います。よろしいでしょうか。
 それでは、早速御発表に移ります。最初は、五十嵐隆構成員にお願いいたします。
○五十嵐構成員
成育医療センターの五十嵐と申します。どうぞよろしくお願いいたします。私は、厚生労働省が中心になって行っている指定難病と小児慢性特定疾病の事業に関して、その中に占める遺伝性疾患についてお話をしたいと思います。
 次のスライドをお願いいたします。遺伝子が原因となる疾患を大きくカテゴリーごとにまとめたものです。いわゆる遺伝性疾患というのは、多くは単一遺伝子の異常による疾患ですが、疾患の遺伝形式によっては、特に常染色体顕性遺伝疾患やX染色体性の疾患では、表現型が一致しないことが少なくありません。したがって、臨床症状、あるいは検査所見だけで、この遺伝性疾患を100%診断するということは、現実には不可能だと思います。
 さらに、孤発性稀少疾患では、複数の遺伝子の異常や遺伝子の発現量の変化が組み合わさって発症いたしますので、いわゆる量的形質遺伝子座の関与があり、更に複雑になってまいります。一方、がんに関しても、体細胞遺伝子に新規の変異が生じて発症する病気ですが、一部は遺伝性で体細胞のみならず、染色細胞にも変異が存在することが特徴です。
 次のスライドをお願いいたします。我が国では、難病事業と小児慢性特定疾病事業というものがあります。難病事業はスモンに代表されるように、原因不明の病気の研究を援助することから始まった事業です。現在、338疾患が認められており、先週更に2疾患がこれに加わったところです。一方、小児慢性特定疾病事業は、フェニルケトン尿症などの7疾患に対して医療費を助成しようということで始まった事業ですが、小児の場合は疾患数が非常に多いということで、公称は788疾患。実は、1疾患の中に異なった疾患が入っておりますので、細かく見ますと848疾患が対象になっています。
 これも先週の会議で、15疾患が更に新しく加わっております。対象が、難病は年齢制限がないのに対して、小児慢性特定疾患は当初は多くが小児期に亡くなることが多かったので、18歳、ないしは20歳未満が対象でしたが、現在は大人になってからもこの疾患を持って生存する方が増えておりますので、これに対して今後対応が必要ではないかと考えています。
 次のスライドをお願いします。今申し上げましたように、小慢と難病はそれぞれ別々に事業が行われているわけですが、オーバーラップしている疾患もあります。小児慢性特定疾患から見て、指定難病と対応がある疾患が48%、指定難病と一部対応があるのが3%ということで、半分ぐらいが指定難病と対応がない状況にあります。
 次のスライドをお願いします。その内訳は、これは各疾患群ごとにどのぐらい小児慢性特定疾患のうち、指定難病にも該当しているかという表ですが、ここで強調したいのは、小児の悪性新生物は難病に指定されていないというのが大きな特徴だと思います。
 次のスライドをお願いします。指定難病に占める遺伝性疾患の割合ですが、指定難病338疾患のうち55%が、いわゆる遺伝性疾患だと考えられています。これは、黒澤先生の研究発表をお借りいたしました。その中で、遺伝学的な検査が保険適用になっている遺伝性疾患は、78%になります。225疾患があるわけですが、その中でシークエンスで対応可能なのが38疾患、それから既疾患145疾患は、いわゆるシークエンス等で診断ができます。
 次のスライドをお願いします。一方、小児慢性特定疾病に占める遺伝性疾患は、57%と今考えられています。そのうち、指定難病として270疾患、それから指定難病には指定されていない小児慢性特定疾患で遺伝性の疾患が134あるということで、合計404疾患がそれに相当すると考えられています。そのうち、遺伝学的検査が保険適用になっているのは228疾患で、56%ぐらい、これが現状ではないかと思います。ですから、保険適用になっている遺伝性疾患にも、遺伝学的検査を公的に行うことができるような体制が求められていると言えると思います。
 次のスライドをお願いします。少し古いですが、去年の8月の段階で、ヒトの遺伝子の数は2万7,000ぐらい、遺伝性疾患は1万ぐらい、そのうち明らかになった病因遺伝子は6割ぐらいとなります。
 次のスライドをお願いします。今申し上げましたように、小児慢性特定疾患として遺伝学的検査が保険適用されている疾患は228疾患で、遺伝性疾患である小児慢性特定疾患404のうちの56%しかありませんので、大多数の遺伝性疾患の遺伝学的検査が保険適用になっていないというのが現状だと思います。
 次のスライドをお願いします。まとめますと、指定難病338疾患のうち、55%が遺伝性疾患を占めていると、そのうち78%の遺伝学的検査が保険適用になっていますが、22%がまだ適用になっていないということです。難病のほうは8割近くが保険適用になっているということに対して、小児慢性特定疾病のほうは56%しか遺伝学的検査が保険適用になっていないということで、小慢のほうが遺伝学的検査がより必要とされる状況になっています。
 一番最後ですが、既存、あるいは病名として確立していない遺伝性疾患の正確な診断には、先ほど申し上げましたとおりゲノム解析は不可欠ですので、今後難病、小慢の遺伝性疾患に対してゲノム解析が更に進むことが必要と考えられています。以上です。どうもありがとうございました。
○中釜座長
 ありがとうございました。それでは、ただいまの五十嵐先生の御発表に関して、何か御質問のある方はいらっしゃいますか。よろしいでしょうか。後ほどの全体討論のほうでお願いいたします。
 続いて、慶應義塾大学病院の小崎先生、御発表をお願いいたします。
○小崎構成員
 よろしくお願いいたします。今、五十嵐先生がおっしゃったように、小児科、あるいは成人の難病の領域でゲノム解析が不可欠であると感じております。現場からの声をお届けしたいと思い、説明させていただきます。
 スライドをお願いいたします。私どもの所では、症状がありながら従来の検査では診断がつかない患者さんの診察を続けており、未診断疾患外来と呼んでおります。患者さんの問診、診察、遺伝カウンセリングを行った後、ゲノムシーケンシングを行い、結果の解釈を行って、その結果、多数診療科との症例検討を行っております。今では、がんの領域でエキスパートパネルと呼ばれておりますが、多診療科との検討は非常に重要と考えております。その中で、結果が得られたと合理的に臨床症状と患者さんの症状が突合できるものについて、結果を説明しております。診断率は、大体45%程度と考えております。
 スライドをお願いいたします。1例だけ、具体的な事例をお示ししたいと思います。歩行障害を主訴として受診した50歳の男性です。20歳代から高血圧があり、30歳代で手の震え、構音障害があり、慢性腎臓病・大脳石灰化・小脳失調・黄斑ジストロフィーが指摘されて、原因は不明ということで30年が経過しているわけです。40代で末期腎不全となり、血液透析を受けておられます。スライドに示すような様々な指定難病の病名がつけられていますが、現場の医師としては明らかな診断、権威診断には至っていないと考え続けていたわけです。これまでに行われた侵襲的な痛みを伴う検査を列記しますが、腎生検、腰椎穿刺、小腸生検などが含まれ、また高額な検査も、スライドに示すように、かなりの金額が掛かっていたということです。
 スライドをお願いいたします。全ゲノム解析を行ったところ、CYP2U1という遺伝子に変異が判明しました。この後、次々と世界的な研究、これは2012年にフランスで発見された病気なのですが、2021年に同じ遺伝子の変異を持つマウスでは葉酸が低値で、出生直後から葉酸を補充すると神経症状が抑制できるとの論文報告があり、また2023年には同じ遺伝子変異がある兄弟で葉酸投与が有効であったという論文報告もありました。患者さんの葉酸を直ちに調べたところ、低値であり、内服を開始し、自覚症状としては低減が見られているということです。1例のデータから治療法を見いだすことができたというのは、むしろ例外かもしれませんが、提示させていただきました。
 スライドをお願いいたします。つまり、既存の仕組みでは診断がつかない患者に対して、全ゲノム解析により治療が開始できたということになります。スライドをお願いいたします。このプロセスの中で重要な部分は、やはりゲノムシーケンシング、あるいは結果の解釈の部分です。スライドをお願いいたします。やや複雑なスライドになりますが、機械的にDNAの配列、A/T/G/Cの順番を決めるプロセスというのは、正直に申し上げるとかなりルーティーン化しているところであり、恐らく今後は検査会社などで質を担保して行うことが可能だと思われますが、個人のゲノムの配列と人間の標準とされている配列の差は無数にあり、これを適切に解釈する部分が極めて重要です。この部分について、十分なスキルを持っている臨床医が十分数いないというのが現実です。この部分について対応するために、難病ゲノム医療専門職養成事業を昨年より開始しております。
 スライドをお願いいたします。この事業では、実際の患者さんのデータを解析することは倫理的な観点から難しいので、実際のエクソーム解析の生データに疾患原因の遺伝子変異を入れ込んだ疑似症例を作成し、このデータを受講者にお配りして、御自身の施設で解析をしていただいた後、その結果を普段作成している報告書と同様の形でレポートとして提出していただき、発表討論を行っています。
 次のスライドをお願いいたします。これは、具体的な症例と家系図ですが、配布しているデータは右下に示すような機械的なコンピューターのデータです。この中から標準配列の差を見いだした後に、様々なデータベースを使いつつ、患者さんの症状と合致するものがあるかどうかを報告書としてまとめていただくことになります。
 次のスライドをお願いいたします。そうすると、全国的に今行われている解析手法の共通点について認識すること、それから報告書に含むべき内容についてのディスカッション、それからこれを患者さんに伝えるときに注意すべき点についてのディスカッション、それから期せずして同定された所見についてのディスカッション、あるいは最新の解析手法についてのディスカッションなどが行われ、情報の共有を通じてよりよい報告書や解析法についての全国的なコンセンサスが得られる、あるいはそのような解析者の間のネットワークができ、また解析が適切に行われている施設を認証するという意味合いもあります。
 次のスライドをお願いいたします。以上、難病ゲノムの医療が非常に現場の患者さんに役立つことを示させていただいた上で、人材育成が課題であること、それから、研究的要素を維持して新しい国際動向を捉え続けることが重要であること、それから、検査としての継続性を担保するために、臨床検査会社とアカデミアが連携すべきであること、そして、診断が確定した各患者さんから得られた疾患原因バリアントのデータを常に最新のデータとして共有して研究に取り込むことが必要であることを提言させていただきたいと思います。以上です。
○中釜座長
 ありがとうございました。それでは、ただいまの小崎先生の御発表に関して、何か御質問はありますか。よろしいでしょうか。
 続いて、千葉大学未来医療教育研究機構の菅野先生に御発表をお願いしたいと思います。菅野先生、よろしくお願いいたします。
○菅野構成員
 菅野です。私は基礎研究の立場から、ゲノム研究の現状を御紹介していきたいと思います。次のスライドをお願いします。御存じのように疾患というのは、その方の持っていらっしゃる遺伝的要因と、その方がそれまで晒されてきた環境要因の複合で起こってくると現代は理解されております。ゲノム解析によって、この遺伝的な要因について非常にたくさんのデータが出てきております。特に、遺伝学のいいところは、途中の発症メカニズム、どうしてその遺伝子がおかしくなると病気が起こるのかが分からなくても、いきなり疾患と遺伝子を結び付けることができることです。ここが非常に強力で、ゲノムプロジェクトが完了してから20年たって、例えば遺伝病の6、7割で原因遺伝子が分かる状況になっております。
 小崎先生がお話になったように、今、診断は非常に強力に発展しつつありまして、シークエンスしてエキスパートがその結果を解析することができると、かなりの疾患について診断がある程度厳密につくという状況ですし、疾患そのものを逆さまにして、今までは症状から疾患を分類していたわけですが、遺伝子の変異から疾患を分類したほうが早いのではないかと言われる状況にまできております。
 次のスライドをお願いします。ただ、では診断はつくけれども治療できるのかと言われると、実は簡単ではありません。遺伝子が分かって、疾患との関係が単純なもの、例えば、EGFレセプターの活性化が肺腺がんで見られると。これを抑えると、肺腺がんが死んでしまうというような単純な関係ですと、阻害剤を使うと治療可能です。あるいは、酵素が欠損している病気でしたら、その酵素を例えば2週間に1度補充する必要がありますが、それで何とか遺伝病が治るとまではいきませんが、それとほとんど変わらない予後が期待できるというような状況があります。ただ、単純であるものは必ずしも多くなく、しかも遺伝子そのものに直接このように働きかけて治るというものも多くはありません。その遺伝子が単独で働いていることは少なくて、いろいろなほかの遺伝子とネットワークを作って働いています。そういったものをパスウェイなどと言っていますが、そのような異常なパスウェイのどこをターゲットにして治療法を考えたらいいかというようなことは、単に遺伝子が分かっただけでは分からないわけです。ですので先ほどの、ブラックボックスになっていましたメカニズムが知りたいということが起こっております。
 次のスライドをお願いします。実は、今、このメカニズム研究に使える新しいゲノム解析と似たような解析法がたくさん出てまいりました。それは、ゲノムから出てくるRNAや、RNAから作られるタンパクの解析法が非常に高感度になってきて、1個の細胞の中でどんな遺伝子が出ているか、あるいは組織切片のスライドでですね。肺がんの中ですが、肺がんのそばにいるリンパ球でどんな遺伝子が発現しているのか、あるいは血管のそばのがん細胞ではどういう遺伝子が発現しているのかが分かるような解析法が、今どんどん出てきています。これらをまとめて、私どもは機能ゲノム解析と呼んでいるのですが、これがこれからメカニズムをはっきりさせて治療法を考えていく上でキーになると考えており、世界でもこの技術を使って皆で治療法を考えていこうという時代にきております。
 次のスライドをお願いします。ところが、このゲノム解析はゲノム解析全般そうなのですが、これまでももちろん疾患のメカニズム解析はされてきたわけですが、そのようなものに応用するのに若干問題点があります。1つは、非常に高額なのです。参考資料2に、1回のサンプルの試算にどれぐらい掛かるかを出しておりますが、普通の大学の医学部の研究室でやろうとすると、下手をすると年間の研究費分ぐらいを数サンプルの解析で使わなければいけないという状況が起こり得ます。さらに、こういう解析をするためには、機器の熟練したオペレーターが必要ですし、更に得られる情報が大量で、しかも数値化で出てきますので、情報学的な知識が必要となります。また、技術開発が日進月歩で、2年もたつと1億円もした機器が古くて使えないというようなことが起こりかねない状況です。
 こういうことで、正直申し上げて、これまで疾患メカニズムの研究は分子生物学の研究者の方々が医学部、若しくは理学部、薬学等でされていたわけですが、なかなか機能ゲノムの最新の機器を使って切り込んでいくのは難しい状況になっております。ですので、これまでゲノム研究に携わってきた機能ゲノム解析のプロをうまく拠点化して、そしてこれまで疾患の研究をされてきた方々とつなぐ基礎研究のシステムが必要ではないかと考えております。
 次のスライドをお願いします。今言いましたように、機能ゲノム解析基盤拠点と抽象的に言いましたが、こういうものを作って最先端の解析技術をたくさんのがん、遺伝病だけでなく、多くの疾患について応用できるようにすることによって、日本だけでなく、世界の患者の方々に貢献できると考えることができます。以上です。
○中釜座長
 ありがとうございました。それでは、ただいまの菅野先生の御発表に関して、何か御質問はありますか。よろしいですか。資料の後半には、参考資料も付けられております。
○菅野構成員
 すみません。一瞬だけ参考資料をご説明させてください。小崎先生の所では、いわゆる遺伝病に近い数個の遺伝子で起こる病気についての御発表がありました。今、多因子病でたくさんの遺伝子が関わって、それがリスクになっており、非常に数学的な変な式が出ていますが、たくさんの体中の遺伝子の変異を数値化して、それを足し合わせたようなポリジェニックリスクスコアというものが実用化されようとしています。これを使うことで、数パーセントの患者さんが非常に高いリスクを持っているということがわかる時代になってきております。
 次のスライドをお願いします。こういう方を選ぶと、赤い印はそういう方なのですが、スタチンなどを飲ませたときに非常に効果が高く出るということが知られております。逆に言いますと、リスクが低い方にスタチンを一生懸命飲んでいただいても、効果が必ずしも高いわけではないということで、こういったことも分かってきつつあります。ですから、多因子病のほうでもこのゲノム研究で、薬の使い方ですね。どういう人を集中して治療すると、これは一人一人に対してはそれほど大きな影響はないのですが、医療経済全体を見ると、随分大きな医療費の削減みたいなことをうまく設計していくことができる可能性があるかと思って、紹介させていただきました。長くなり、すみません。
○中釜座長
 ありがとうございます。最後には、ポリジェニックリスクスコアという新しいゲノム情報の活用も御紹介いただきました。何か御質問はありますか。よろしいでしょうか。
 それでは、続いて、がん研究会有明病院の深田先生に御発表をお願いいたします。
○深田構成員
 よろしくお願いします。がん研有明の深田です。私からは「臨床現場からみたがんゲノム医療推進の現状と課題」ということで、お話させていただきます。本日の内容ですが、5番目の「当院でのがんゲノム医療の認知度に関するアンケート調査」という資料に関しては、学術発表予定の観点から、事前配布資料には含まれておりませんので、御留意いただければと思います。
 まずは1番、がんゲノム医療の期待についてお話させていただければと思います。御承知のとおり、2019年6月にがん遺伝子パネル検査が保険収載され、我が国においてもがんゲノム医療の本格的な実装が始まっております。左表に、遺伝子パネル検査後の遺伝子変異に応じた治療到達率をお示ししております。パネル検査後の治療到達率には様々な報告がありますが、いずれも10%程度と高くない状況です。しかしながら右側にお示ししているとおり、遺伝子パネル検査後に遺伝子変異に応じた治療に到達した場合には、患者の予後が改善する可能性が示されており、がんゲノム医療への期待が高まっております。
 次に、当院での経験を基に、がんゲノム医療の現状と課題について、お話をさせていただければと思います。当院の検討でも、やはり治療の到達率は7%と高くない状況です。しかしながら標準治療終了が見込まれる状況でも、パネル検査において治療到達した場合には、約6割の患者で治療奏効が得られます。これは部分寛解(PR)と不変(SD)を足した数値ですが、高い確率で奏効が得られることが示されています。左下の図を御覧ください。治療に到達して、更に治療の奏効が得られた場合には、有意に予後が改善していることがデータで示されました。もちろん、これは後方視的な検討であり、患者選択バイアスが含まれていることは重々承知しておりますが、パネル検査を行って治療に到達し、更に効果が得られることが、とても重要であることを示しているデータではないかと考えております。
 一方でパネル検査によって治療が推奨されても、実際に投与に至らなかった患者が一定程度いらっしゃいます。その理由を右の円グラフにお示ししております。約3割の方で治験の参加可能枠がなかったり、20%の方でパネル検査結果が判明した時点で病状が増悪し、治療の検討ができる状況でなかったり、臨床医にとって非常に悔しい思いをしていることが多いのが、今の臨床現場の現状だと考えております。治療開始時のより早い段階で、パネル検査を実施するなどの工夫を行ったり、治験を増やすような取組みや、治験の情報を医療機関で共有するような取組みが、非常に重要だと考えております。
 続いて、リキッドバイオプシー(血中循環腫瘍DNA:ctDNA)の更なる実装への期待ということで、一例をお示ししたいと思います。こちらは進行乳がん患者の治療中にリキッドバイオプシーを繰り返し行って、ctDNAから治療抵抗性の遺伝子、この場合は乳がんのESR1という有名な遺伝子ですが、このような遺伝子を検出した場合には、それに効くような薬に変えていくという試験が行われ、無増悪生存期間を有意に延長したということが報告されています。ctDNA分析による治療耐性関連変異をリアルタイムにモニタリングを行って、それを標的とした治療が有効である可能性を示した試験であり、リキッドバイオプシー検査の更なる実装に関しても、現場での期待が高まっております。
 次に、パネル検査以外のゲノム医療の課題についても、少し触れたいと思います。当院が行った、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の診療の現状に関するアンケート調査をお示ししております。HBOC診療の一部が2020年に保険収載され、全国の医療機関で保険診療として行われるようになりましたけれども、施設間や地域での医療体制に、大きな差があることが予想されます。全国のがん診療連携拠点病院に、遺伝性腫瘍に関する現状の把握及び課題を抽出するためのアンケートを行いました。その結果、BRACAnalysisの検査後、遺伝カウンセリングやリスク低減手術の実施というHBOC診療が、自施設では完結できていないがん診療連携拠点病院が一定程度存在することが明らかになりました。右側の円グラフを御覧ください。青が自施設で対応している施設の割合ですが、自施設で対応していない割合が、質問の項目によっては半数近くになることが示されております。
 次はお手元の資料にありませんので、投影スライドを御覧いただければと思います。当院の看護部において、がんゲノム医療の認知度に関するアンケート調査を行った結果です。全看護師にアンケートを行い、463例、60%から回答を得ております。左下の横の棒グラフを御覧ください。一番上の「がんゲノム医療という言葉を知っていますか」という項目では、「知っていた」が44%、「少し知っていた」を合わせると80%を超える方が認知しているということになります。一方でその下にありますように、パネル検査の内容や具体的な適用、パネル検査に限界があるかどうかに関する項目になりますと、「知っていた」が10~30%、「少し知っていた」を加えても50%に足りないという現状になっております。がん専門病院の医療従事者においても、ゲノムリテラシーの向上の更なる取組が必要であると痛感しております。
 全ゲノム解析等の臨床実装に向けた課題も、簡単にお示しいたします。御承知のとおり、全ゲノム解析等に関する事業実施準備室が発足し、全ゲノム解析等の臨床実装に向けて、様々な取組や課題の整理、その対応が進められております。左側に専門委員会で示されている、全ゲノム解析に関する主な課題をお示ししております。今後の臨床実装に向けて医療機関での体制の構築、検査の精度、エキスパートパネルでの課題、臨床的な有用性、倫理的課題など、様々な課題が挙げられています。右側に全ゲノム解析の精度管理に関する課題を抽出しております。医療実装に関する考え方の整理や第三者認定の仕組みの整理、外部・内部精度管理の課題などが挙げられています。
 こちらが最後のスライドです。臨床現場から見たがんゲノム医療の現状と課題のまとめです。遺伝子パネル検査に関しては検査のタイミングや検査の回数、エキスパートパネルの負担などについて、改めて記載をしております。また、医療従事者におけるゲノムリテラシーの向上の必要性、更に全ゲノム解析等の新規技術の実装に関する課題と、その改善の取組みと可能性について記載しておりますので、御覧いただければと思います。御清聴、誠にありがとうございました。
○中釜座長
 ありがとうございました。ただいまの深田先生の御発表に関して、何か御質問はありますか。それでは天野構成員、お願いいたします。
○天野構成員
 天野です。詳細に御説明いただきまして、ありがとうございました。私からは2点あります。まず、1点目はスライド6です。HBOCの診療を自施設で全て完結することができない、がん診療連携拠点病院が一定程度存在するという御指摘がありました。これについては、どういった方策が考えられるのか。あるいは体制整備では難しく、集約が必要なのかなどについて、先生の御見解を教えていただければというのが1点目です。
 2点目がスライド8です。スライドの右側に、薬事未承認検査の医療実装に関する考え方の整理等のコメントを頂いています。これについて具体的に、もう少し詳しく説明していただければと思いました。私からは以上です。
○中釜座長
 では、以上2点についてお願いいたします。
○深田構成員
 天野構成員、御質問ありがとうございます。まず、1点目のHBOCに関する御質問です。左下の棒グラフを御覧ください。がん診療拠点病院の中で、JOHBOC(日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療精度機構)の基幹・連携病院となっている施設の内訳を示しております。全体のがん診療拠点病院の中で、JOHBOCが基幹連携病院になっている施設がそもそもまだ少ない、全ての地域において50%以下になりますので、御指摘のとおり、まずは各地域でJOHBOCの関連施設を増やす必要があると思います。しかしながら、そういった取組みにおいても更にいろいろな細かい専門的なことに対応しないといけないので、一定程度の集約は必要だろうと思います。ただ、まずは全体的な底上げが必要かと考えております。
 2点目の精度管理の抽出については、先ほどの小崎先生の御発表にもありましたように、全ゲノムを解析したデータというのは、アノテーションが非常に重要になってくるわけですが、本当に刻々と日々新しい情報解釈が加わってきますので、そういったものをどのように薬事承認すべきか、そうでないのか、更に保険収載に向けて、どのような考え方をしていくのかというのが、これまでの検査とは少し趣が異なってくるのではないかと、臨床現場の医師として考えております。私自身が検査の専門家ではありませんので、このような課題が専門家の先生から上がってきているところを踏まえ、規制当局や専門家の先生も含めて議論が必要ではないかということで、こちらのスライドを提示させていただきました。回答になっていますか。
○中釜座長
 今の回答でよろしいでしょうか。
○天野構成員
 ありがとうございました。
○中釜座長
 今の天野委員の御質問に関連して、私からも1点御質問があります。先ほどのJOHBOCの話で、がん治療連携拠点病院408施設のうち、回答が191施設ということですけれども、この中でゲノム医療の拠点病院、中核病院、連携病院に入っているのは、約半数ぐらいと考えてよろしいですか。その辺はいかがですか。
○深田構成員
 詳細なデータは今、パッとお示しできないのですが、おおよそそのぐらいの数字になろうかと思います。
○中釜座長
 分かりました。ほかに御質問はよろしいでしょうか。ありがとうございます。続いて、筑波大学の三木先生に御発表をお願いいたします。
○三木構成員
 よろしくお願いいたします。筑波大学の三木です。私はゲノム医療の研究の立場から、お話をさせていただきたいと思います。
 次のスライドをお願いします。最近の幾つかの閣議で、全ゲノム解析の推進が決定されております。それに伴って現在、全ゲノム解析等の実施計画2022というものが進められております。これらの成果及びこの計画以外にもゲノム医療を含め、その研究と適切な提供に関する議論を進め、体制を整備する必要があるということだと思います。
 次のスライドをお願いします。以前から2点感じていたことがありますので、研究の前に提案させていただきます。1つには、いわゆる全ゲノム解析が進みますと、ゲノム情報の国内解析あるいはデータセンターの設置が、非常に重要になってきます。DR(Disaster Recovery)あるいは事業の継続計画等を考慮して国内に2か所、3か所程度は設置する必要があるのではないかということです。それからオンプレミスですね。自前で情報を管理・解析するには、やはり限界があるということで、ガバナンスやセキュリティを解決した上で、クラウドなどを利用していく。それから一つ重要なことは、サーバーのローケーションですね。やはり国内に設置すべきで、気が付けば情報がアメリカ、国外にあるということがないように、国内に複数の企業あるいはアカデミアが担い、国内企業がプライベートコネクターとして、クラウド等と連携するという体制が望ましいと思っております。情報の取扱いを定めたガイドラインとして、現在、厚生労働省と経済産業省、総務省が発行する2つのものがあります。事業実施組織が、統一したガイドラインによって運営されることがよろしいのではないかと思っております。
 次をお願いします。もう1点は、差別等への適切な対応です。私が遺伝性がんについて研究を進めてきて、BRCA論文からちょうど30年がたちます。その当時から差別等への適切な対応が求められてきましたけれども、これを期に、省庁横断的な検討によって具体的な指針、あるいはガイドラインを作成していただきたいと思います。
 次のスライドをお願いします。本題に戻ります。私は、がんの全ゲノム解析により同定された情報及び医療の提供を中心に、お話をさせていただきたいと思います。日常の診療に導入できる情報として、全ゲノム解析によって、既存の検査では検出できないがんに関与するゲノム異常の検出として、下半分に挙げたようなものがあります。診断や治療に有効であった例、あるいはがん以外の疾患に関与する可能性が高いゲノム異常の検出が、既にこの計画において報告されております。それに加えて重要なのは、全ゲノム解析等の結果によって医学的意義の不明であったものが、高度な横断的解析などによって医学的意義を明確にして、それを還元することが重要と思います。すなわち、患者に還元する情報を持続的に創出していくためには、高度な横断的解析によって検出されたゲノム情報の医学的意義を明確にする研究が必要です。さらに、そういった情報が出てきた場合に、それを使いこなせる診療体制の構築、充実化が重要と考えます。
 次のスライドをお願いします。もう1つ進めてください。この高度な横断的解析で現在、構造異常や転写調節領域などの非コード領域の異常が解析されています。さらに、スプライシング変異のためのトランスクリプトームとの統合解析、エピジェネティクスの異常、それと私はがんの代謝物解析(メタボローム解析)を。がん細胞というのは、正常とは異なる代謝経路でエネルギーを得ていると言われています。したがって、がん特異的な代謝物によってがんを検出する、がんの性質を解明していく、あるいはがん特異的な代謝経路を同定して、それを遮断することで治療を開発していくという、非常に重要な要素を含んでいると思います。
 こういった体細胞レベルの解析に対し、②で示すように、生殖細胞系列ゲノム変異も含めたゲノムプロファイリングによる層別化が、特に小児・AYA世代のがん、遺伝性のがん、婦人科がん・乳がんの一部の遺伝性のがんには非常に重要です。具体的には全ゲノム解析によるがんのプロファイリング、原因遺伝子の同定も含みますが、更に生殖細胞系列ゲノム変異というのは、非常に大きなものを含みますので、やはりロングリード解析技術の導入が必要であろうと思います。これらを統合して、既存のサブタイプ分類の精緻化が非常に重要だろうと考えております。
 1つ戻っていただけますか。ゲノム医療の研究開発の推進の中で1つ申し上げたいのは、先ほど深田先生からもお話がありましたが、リキッドバイオプシーを用いたがんの早期発見・再発早期診断法の確立、更にはそのための前向検診コホートによる大規模比較研究が、非常に重要だと思います。
 次のスライドをお願いします。もう1つ進めてください。リキッドバイオプシーは御存じのように、ctDNAを検出することによって、がんの早期発見や術後残存病変の解析により予後予測、術後治療の選択が行われます。あるいは再発の早期発見、増えてきたクローンの性状を調べることで治療の選択、選択に基づいた治療、更にその治療の効果判定、陽性モニタリングが可能になります。論文も既に出ておりますので、リキッドバイオプシーによるこういった個別化医療を実現するための臨床試験、治療等の立案・実施が非常に重要であろうと考えます。
 次のスライドをお願いします。研究とはちょっと異なるのですが、今度は検査の実施体制の整備です。遺伝子検査、染色体検査の精度の確保のために設けるべき基準として、こういうものが上がっております。やはり全ゲノム検査の質保証なので、全ゲノム解析技術そのものの内部・外部の精度管理、あるいは技術そのもののISOやCLIAの認定取得が重要であろうと思います。さらに人材育成ですね。医療機関やデータセンターや研究といった所の人材確保が、明らかに必要だと思います。
 次のスライドをお願いします。これは全ゲノム解析とは別で、現時点での課題の洗い出しと施策の検討ということで、がんゲノム医療の課題をここに挙げました。これは先ほど深田先生が詳しくお話になりましたので、こういうものに対する検討が必要であるというように考えています。以上です。
○中釜座長
 ありがとうございました。ただいまの三木先生の御発表に関して、何か御質問はありますか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。では、続いて現在AMED、IRUDのコーディネーターも務められている水澤先生に御発表をお願いいたします。
○水澤構成員
 水澤です。それでは共有をさせていただきたいと思います。すみません、私のパワーポイントがうまく画面で出てこないのですが。
○中釜座長
 スライド共有されていますか。
○水澤構成員
 今、しようとしているのですが、もう1回ちょっとすみません。今、共有されていますか。
○中釜座長
 共有できています。スライドショーをお願いします。
○水澤構成員
 大丈夫でしょうか。
○中釜座長
 スライドショーになっていないのですが、大丈夫ですか。
○水澤構成員
 なっていないですか。私のほうはなっているのですが。
○中釜座長
 では、少しタイムラグがあるのかもしれませんが、ではこの状態でもよろしいですか。では、お願いいたします。
○水澤構成員
 これで進みましたか。
○中釜座長
 スライドは進んでいないです。
○水澤構成員
 そうですか、何かやはりちょっとおかしいですね。戻ります。これで見えますか。
○中釜座長
 はい、大丈夫です。
○水澤構成員
 では、これで進めさせていただきます。私から、難病領域のゲノム医療の推進ということで、IRUDや國土班を中心に発表させていただきます。国立精神・神経医療研究センターの水澤と申します。
 これは必要ないかもしれませんが、ゲノムというのは我々の細胞全ての中にある染色体にたたみ込まれた遺伝子の総体で、約30億の塩基対の非常に大きなビッグデータと言ってもいいかもしれませんが、そういうものです。我々個体の設計図とも言えると思います。なぜこれが重要かというと、これも既に出てきましたが、我々の全ての病気、あるいはその正常形質が、このゲノムと環境の相互作用で決まってくる。様々な割合で決まってくるということから、非常に重要であるということになります。
 一方、難病について、これもよく使われていますが、難しい病気といった意味とともに、我が国では治療法が確立していないといった、こういった要件が定められた行政の言葉という意味もありますので、そこはちょっと御注意を頂きたい。欧米には難病という概念はなくて、rare diseaseがそれに相当すると思われます。
 この難病の歴史ですが、スモンという病気を御存じかもしれませんが、これは当初、原因不明の奇病とされましたが、その後、研究により薬の副作用ということが分かり、克服することに成功しました。そういうことを受けまして、1972年に難病対策要綱が定められ、ちょっと申し上げましたが、こういった一定の要件を満たす病気を難病と定めて、研究を推進したり、医療費を助成するといったことが始まりました。徐々に発展してきましたが、2014年の難病法の制定によりまして、この数も飛躍的に増えて、さらなる発展をしています。
 したがいまして、我が国には世界に誇る難病対策の歴史があるわけですが、この条件として診断がついているということがあります。もし診断がついていない場合はどうなるかと言いますと、それが大きな問題で、未診断の疾患に対する対応ということで始まったのが、このInitiative on Rare and Undiagnosed Diseases、IRUDと呼ばれるプロジェクトです。
 ちょうど機を同じくしてと申しますか、少し先行する形で世界各国でもそういうプロジェクトが動いています。国際的な組織もできています。具体的には診断のついていない患者さんがおられたら、そういう方々がかかりつけ医の先生から診断委員会、拠点病院のほうに紹介されて、検討されて、適切であると判断されると解析センターで、この場合はwhole exome sequenceですが、解析されて、その結果が患者さんに還元されるとともに、データは蓄積されて国際連携、あるいは更なる研究に供されるというプロジェクトです。非常に重要なことは、この様に多くの病院に御協力いただいて全国をカバーし、またそこには多くの専門領域の先生がおられますので、全国どこにいても、どのような症状であっても、この研究に参加できるという体制ができていることです。例えばこの臨床専門分科会という専門家の方からなる組織は、500名を超える方々から成り立っています。また、これは関係する病院です。このような3種類の病院から構成されますが、既に500を超える病院の方々に参画していただきまして、今の診断連携という体制を維持しています。
 具体的にどれぐらいの成果が上がっているかということですが、これは昨年の9月の一番新しいのデータですが、既に8,200家系を超える数が登録されました。個人で言いますと2万3,000を超えています。そのうち6,880の家系で解析が終了し、3,226家系で原因が確定しています。46.9%の確定率でかなり高い数字が出ています。この残った未診断にとどまる家系が問題ですが、そちらのほうがこれから後で述べます國土班のほうに提出されて、全ゲノム解析をしていただいているという状況です。
得られたデータは、IRUD Exchangeと呼ばれるデータベースに蓄積されまして、国際連携可能な形になっています。それがもう既に6,000を超えるデータとなっている状況です。これは診断のついた家系が2,700くらいのときの原因遺伝子ですが、734原因遺伝子があります。見ていただきたいのはこの辺ですが、70%の遺伝子は1家系か2家系しかない。非常にまれな疾病ということになります。
 診断がつくということが、どういうことにつながるかということの1例です。これは5歳の方ですが、新生児期から下痢や血便といった症状があって、様々な病名で検討されましたが診断がつかず、治らないという状況だったものが、このIRUDの解析で診断がつき、この治療が確立していたということがありまして、完治ということで、元気に今は小学校に通ってらっしゃると、そういう結果に結び付いています。
 全ゲノムのほうですが、2020年から始まりました。まず、先行解析が昨年度までありました。それが昨年度末から始まった本格解析につながっています。先行解析がどういうものかと申し上げますと、我が国において、先進的にこのゲノム研究をしておられる研究グループがたくさんあります。その研究グループが持っておられる検体や臨床情報を提供していただいて、それに対して全ゲノム解析を行うというプロジェクトです。予定していた6,500をはるかに超える、8,000を超える症例、家系ですね。それから1万2,000を超える検体について、全ゲノム解析を実施し、その結果をお返ししていると伺っています。
 本格研究のほうはどういうことかと申し上げますと、まず分担研究の方々が非常に増えているということと、新たに同意を取り直して、企業の方の利用など、そういうことが可能になるような形で解析を進めているという状況です。ここにありますように、非常に分担研究者の方々も多くなりまして、研究や創薬、あるいは日常診療への導入、あるいは個別化医療等を実現するために、貢献すべく研究が進められているという状況です。
 最後にもう1枚ちょっと追加したいのですが、この難病のほうをやっていますと、そんなまれな病気をやって何か意味があるのですかとよく言われるのですが、その1つの例です。腎性糖尿病という疾患があります。これは稀少難病になりますが、この原因遺伝子SGLT2というものが同定されて、その阻害薬が開発されました。そうしますと、患者数が1,000万を超えるような通常の糖尿病に効くということ。それのみならず心疾患や腎疾患にも効く、非常に有用な薬ということで、多くのものが開発されています。したがいまして、まれな疾患であっても、その原因遺伝子を解明するといったことは決してそれだけではなくて、医療全体で多くの疾患に役立つということを強調しておきたいと思います。
 これが最後です。先ほどもスライドが出ていましたが、ヒトの場合は約2万の遺伝子を持っていると言われていますが、その1万を少し超える数が病原性があると言われています。そのうち6,800強のものが分かっていますが、まだ3,200ぐらいが未解明です。この全容解明ということを、積極的に日本がリーダーシップを取って進めていくということが非常に重要だろうと我々は考えています。以上です。御清聴ありがとうございました。
○中釜座長
 ありがとうございました。ただいまの水澤先生の御発表に関して、何か御質問はありませんか。
 それでは、本日は6名の構成員の先生方にそれぞれの視点から御発表いただきましたが、これから総合討論に入り、意見交換をしたいと思います。御発言のある方は挙手ボタンをお願いいたします。吉田構成員、お願いいたします。
○吉田構成員
 ありがとうございます。五十嵐先生と小崎先生に1つずつ質問させていただきます。五十嵐先生からは成育医療センターでの難病の診断治療について御発表いただきましたが、難病患者さんが成育医療センターのような高度医療機関の遺伝科にたどり着くのは難しいという状況があるのではないでしょうか。
 また、小崎先生には、難病ゲノム医療における遺伝専門職の重要性について解説いただきましたが、やはり遺伝専門職の人数が足りないのではないかと思いますが如何でしょうか。
○中釜座長
 まず五十嵐先生、お願いいたします。
○五十嵐構成員
 御質問どうもありがとうございました。大変重要なポイントだと思います。患者さんを見てらっしゃる主治医の先生が、いかにこうした情報にアクセスできるかということが診断につながる道だと思います。それぞれ皆さん専門性があって、例えば小児の患者の場合は内科ほどサブスペシャリティは分かれてはいませんが、しかしそれぞれ皆さん専門性があります。ですから、神経疾患の場合は神経に強い先生が見ているのだと思いますが、その方がいかに学会、あるいはこうした厚生労働省の事業を知ってらっしゃるかということがポイントで、あとは地方だと専門外来を大学病院から派遣して、その専門外来で患者さんを見ていることも多いと思いますが、そういう方たちも含めて、いかに情報に近いかということが私はとても大事なことだと思っています。以前に比べて、インターネットも進みましたし、それからIRUDの、先ほど水澤先生や小崎先生たちがやってらっしゃるAMEDの研究班などが、かなり宣伝もされまして、いろいろ情報は行っているのですが、まだまだ現状は足りないと思います。ですから、やはり正しい情報を繰り返し定期的に、単にホームページに出すだけではなくて、もう少し積極的に患者さんを見ている先生方に伝えるような方策を考える。それは私どものナショナルセンターの役目でもあると思っていますので、是非、検討したいと考えています。御質問、どうもありがとうございました。
○中釜座長
 よろしいでしょうか。
○吉田構成員
 ありがとうございました。
○中釜座長
 では、2つ目の専門家の人材育成などについて、小崎構成員、お願いいたします。
○小崎構成員
 小崎です。ちょっと今、インターネットから落ちてしまったので、質問をもう一度簡単にお願いしてよろしいですか。申し訳ありません。
○吉田構成員
 小崎先生、先生に御発表いただいた難病ゲノムの専門職の育成は、非常に重要な事業だと思います。今後、遺伝学的検査の結果開示に遺伝専門職が関わる機会も増えること予想されますが、どのように対応するのがよいでしょうか。
○小崎構成員
 恐らくコンピューター技術の進展につれて、解釈はより有意になってくると思うので、その知識そのものに並行して、日常診療における知識が重要だと考えています。決してゲノムのデータだけで診断をして、過剰診断をしないような心構えで、若い人たちの興味を誘っていくことが重要かなと考えています。以上です。
○吉田構成員
 ありがとうございました。
○中釜座長
 よろしいでしょうか。では、続きまして、天野構成員から御質問をお願いいたします。
○天野構成員
 ありがとうございました。私から2点あります。まず1点目ですが、深田構成員の御説明の中で、臨床現場から見たがんゲノム医療の現状と課題のまとめ、あるいは全ゲノム解析等の臨床実装に向けた課題で、網羅的にゲノム医療、あるいは全ゲノム解析における論点をお示しいただいたと承知しています。今後、この計画を書いていく際、深田構成員からお示しいただいたこのまとめなどを参考にしつつ、遺伝子パネル検査における課題の解消、あるいは格差の一定程度の解消、例えばお示しいただきましたが、遺伝子パネル検査については早期からの適用が必要ではないか。あるいは治験参加枠がないということについては、臨床試験に関する課題の整理、あるいは患者申出療養、拡大治験の見直しといった制度の見直しなどを含めて、論点整理をした上で基本計画に盛り込むということは必要かと思います。また、全ゲノム解析の医療実装については、例えばがんの領域では小児がんから先行して進めてはどうかという議論があると承知していますが、これについてもどのようにしていくのかということについて、ある程度、基本計画で方向性を示していただいてはどうかということを感じました。
 2点目が、これも深田構成員の御説明の中でHBOC診療に格差があるということをお示しいただきました。このことについては、従来の厚生労働省のゲノム関連の様々な会議でも、必ずしも議論されてこなかった論点であり、かつとても重要なことかと思いますので、HBOC診療については格差の解消、あるいは一定程度の集約化の推進も含めて議論になるかと思いますが、どういった体制整備が必要かということについても基本計画に盛り込んでいただくのがよいのではないかと感じました。私からは以上です。
○中釜座長
 ありがとうございます。今の御指摘に対して、深田構成員、何か追加で御発言はありますか。
○深田構成員
 ありがとうございます。大丈夫です。うまくまとめていただきまして、大変恐縮です。
○中釜座長
 特に深田構成員の資料の最後の取りまとめ、現状のゲノム医療の課題について整理されていると思いますので、この辺りは重要な論点の整理なのかと思います。
 では、続きまして水澤構成員、お願いいたします。
○水澤構成員 私はまず、吉田先生の先ほどの御質問の最初のほうに対して、ちょっとコメントしたいと思います。私がIRUDのほうで申し上げましたように、やはり先生のおっしゃるように患者さんが大きな病院というか、ゲノム関連の専門の病院にたどり着くということがなかなか大変だと認識しています。詳しく説明するお時間はなかったのですが、IRUDのほうでは協力病院という患者さんを紹介してくださる病院、それは非常にたくさんありまして、検体を出せる拠点病院、あるいは高度協力病院というのは実は52しかありません。もっと高度の解析センターというアノテーション等ができる所は5施設という形になっていますが、やはりそういう協力をしてくださる、患者さんを紹介してくださるような病院を増やしていくという努力が必要なのではないかなと、それが割と効率がいいのではないかなと感じています。我々ですと、60%の患者さんはその協力病院から御紹介されてきています。40%が拠点病院等を直接受診するという形になっています。少しコメントさせていただきました。以上です。
○中釜座長
 ありがとうございます。御指摘の情報や対象となった医療機関へのアクセスの改善は、非常に重要な課題だと思いますので、その辺りは共通の大きなテーマと思います。ほかに御発言はありませんか。よろしいですか。まだ時間もありますので、本日、御発表いただいた構成員以外で、まだ御発言いただいていない構成員の方に御意見をお伺いしたいと思います。上野さやか構成員、何かコメントはありませんか。失礼しました。角山構成員、声は聞こえていますか。ミュートになっていらっしゃるかな。
○角山構成員
 もしもし聞こえますか。経団連の角山です。よろしくお願いします。それでは、せっかく機会を頂きましたので、コメントさせていただきます。
 まず企業の立場としては、この雇用差別というものに対して、やはり敏感になるべきで、経団連ではもともと企業行動憲章実行の手引き第9版というものを出していまして、その基本的な心構えとしまして、労働関係法令にのっとり国籍、性別、年齢、信条、障害の有無又は社会的身分などを理由として、雇用管理や処遇について差別的な取扱いを行わないとしています。これはゲノム情報を理由とする雇用差別も含まれると解釈すべきと考えています。ただ、もともと我々が採用選考時等々に応募者や従業員の個人情報、あるいはゲノム情報を突き合わせたものを入手しているということは、想定しにくいというか、あるいはあってはならない状況だと思いますので、そういうことはなかなかないと考えています。ほとんどあり得ないと考えますが、ゲノム情報に基づいて差別的な対応を行わないということは、企業としては考えていきたいと思います。
 それから今日、御発表いただいた先生方は幾つか産業界との連携について言及していただきました。感謝申し上げます。今回のゲノム医療法では、私の読解力かもしれませんが、そこまではっきりと読み取れる部分がありませんでしたので、今後、議論の中で産業界との連携方法についてより議論を進めていただければと希望します。
 それから、ポリジェニックリスクスコアのお話も菅野先生からありました。今日、難病とがんの先生方からの御発表でしたが、本当にポリジェニックリスクスコアのようなものを実装をしていくとなりますと、これは予防であったり、未病であったり、そういったものがスコープに入ってきますので、そうしますと、例えば疾病になる前の健常時の方のデータを広く取っていく必要性もあろうかと思います。そうしますと、NDBとゲノム情報をどうやってつなげるのかなど、非常に長い期間の個人の健康情報をどうやって取っていくのかという、別のストリームで今、議論されていると思いますが、そことの連携も必要になろうかと思います。
 最後ですが、頂いた検体はどこに蓄積して、どのように貯められていくのか、そのデータのほうは拠点というお話がありましたが、試料はどういうふうになるのか。これは別に企業側が気にすることではないかもしれませんが、もちろん試料に再アクセスをお願いして、別の解析を進めたいと考える場合もあろうかと思いますので、そちらも御検討いただければと思います。以上です。
○中釜座長
 重要な御指摘をありがとうございます。ポリジェニックリスクスコアに関しては、恐らく新しく研究をスタートすると同時に、これまでのゲノム情報、あるいは疫学研究と連携しながら意義をどう出していくかということも必要ではないかと思います。それから試料の収集に関して、現状、三大バイオバンクと言われるバンクでの検体収集、さらには現在のゲノム医療、あるいは全ゲノム解析事業の中での検体の取扱いをどうするか、という議論が正に進められていますので、その辺りを企業、産業界からの意見も参考にしながら進めていく必要があると思います。これは個人情報保護との関係もあり、解決しなければならない課題もあると思いますが、重要な指摘だと思います。
 最初の差別に関して、これは三木先生からも御指摘がありましたが、追加で三木先生から御発言、あるいはそれに関連する横野先生、あるいは上野先生から何か追加の御発言がありましたらお願いいたします。三木先生、いかがですか。
○三木構成員
 先ほど申し上げたけれども、私の場合は遺伝性がんを対象とした研究を進めてきまして、やはり診断をします。ところが、診断を受けたくないという方々の声、それで差別が起こるとどうするのかというようなお声を、もう30年ほど前からずっと聞いてきました。そこで先ほど申し上げたように、適切に対応、あるいはそのためのガイドライン、あるいは指針を、今は例えば生命保険の協会がそういうことをしてはならないという声明を出したり、あるいは周知徹底をするということが行われている。しかし何らかの指針、あるいはガイドラインというものが必要ではないかということで、先ほどのようなことを申し上げました。以上です。
○中釜座長
 ありがとうございます。いわゆるポリジェニックリスクスコアも将来的にはいろいろなゲノム情報を含めた個人のリスクなどを反映しますので、こういうことを含めた大きな議論が必要かなと感じます。このゲノム情報に基づく差別等に関して、横野構成員、何か御発言はありませんか。
○横野構成員
 ありがとうございます。三木先生のお話の中にもありましたが、まずはルールとしてガイドライン等を整備するということが重要だと思います。それが実際の現場に浸透する形でなければ、余り意味がないというところもありますので、例えば保険や雇用など、特に懸念されている分野の現場の方々だけでなく、先ほど深田先生からのお話の中にも、現場でのゲノム医療に対する認知というものは、必ずしも高くないという話もありましたので、人材育成をしていく中で倫理的な対応の必要性や差別の問題も含めて、実際に患者さんと接する方の人材育成の中で、そういった問題を十分に周知していくということが重要だと考えました。以上です。
○中釜座長
 ありがとうございます。このゲノム情報に基づく差別の問題については、基本計画における重要な論点、課題と認識します。この点について、何か追加で御発言はありますか。
○上野構成員
 先ほどマウスのポイントがうまくいかなくて、ミュートの解除もできなくてすみません。この点も含め、コメントということで少し申し述べさせていただきます。個人情報保護法であったり、差別等の法律家的な観点からのコメントは、来月の委員会でより細かく申し上げさせていただくつもりです。今回は、大きなところからの感想ということで述べさせていただきます。
 今、先生方のコメントにもありましたように、差別であれば、差別ということについてどういうふうに対応していくかというのを、従来よりもより粒度の高いガイドライン等々で、法律あるいは実務的な観点から対応していかなければならないという思いを新たにするとともに、今、横野委員からも御指摘がありましたが、より現場の方のリテラシーもそうですし、最終的には世間そのものと言いますか、私自身みたいな患者になり得る立場の、いわゆる世間一般の人々自身のリテラシーというのも、最終的には向上していかなければいけないかと思いました。そのために、全体的な取組としての雰囲気作りと言いますか、そういったことも考えていく必要があるのかと思いました。
 今日御説明いただいた資料で、歴史的な背景や技術的なところの御説明を頂きました。深い理解に私自身が至っていない所もあるかもしれませんが、やはり、この取組を続けていく際に、新しい技術のことだと思いますので、これからもまた新しい技術が出てきたり、新しい何か情報の取扱いの形が必要になったりとか、新しい形のデータのコンビネーションで、こういうふうに使いたいとか、そういったものが出てくると思います。それを柔軟に取り入れて、新しい運用をしていけるような柔軟なシステム作り、あるいは何か新しい対応をしなければいけなくなったときに、それを適時に取り上げて議論して、制度に組み入れていって、制度をアップデートしていけるような形に作っていくことも、とても重要ではないかと思いました。簡単ですが以上です。
○中釜座長
 ありがとうございます。先ほど角山構成員から、企業の立場からの御発言がありましたが、遠山構成員、生命保険会社の御意見として何か追加で御発言はありますか。
○遠山構成員
 先ほどからお話にも少し出ておりましたとおり、生命保険協会としては、周知文書を公表させていただいておりまして、現在は遺伝学的検査結果については使用していないということを明確にさせていただいております。また、周知徹底に関しては、業界内で努力しているところです。そのほか、次回以降、生命保険会社における取扱いについて  御説明する時間を頂けると伺っておりますので、生命保険業界の現在の考え方を含め、その中でお伝えできればと思っております。以上です。
○中釜座長
 ありがとうございます。主にゲノム情報に基づく差別の論点ですが、関連したことでもよろしいですし、ほかの視点からの御発言はありますか。神里構成員、何かこれまでのコメントについてありますか。
○神里構成員
 先ほど出てきたリテラシーの問題や、差別を防止するためのガイドラインという話に関連しては、先ほど上野委員からもありましたが、一般市民、国民の理解という点が非常に重要かと思います。これに関して、初等・中等教育の頃から教育していくことは、ゲノムの扱いの仕方についてのリテラシーを向上させ、また差別をしてはいけないということのリテラシーにもつながっていくと思いますので、教育の在り方も広くは考えていかなければならない議論の論点かと思います。以上です。
○中釜座長
 ありがとうございます。水澤構成員、お願いします。
○水澤構成員
 今の神里先生の御意見に全く賛成で、私も第1回目のときも申し上げたのですが、全体的な一般国民というか、我々も含めて全体的なリテラシーの向上というのは非常に重要で、個別の我々がやっている研究等は、研究者は一生懸命やりますので、それなりに進むと思うのですが、一般国民の理解が進まないと、検査とかそういうものに対して十分な協力が得られませんし、研究も進まないと思います。したがいまして、急がば回れではないですが、まずというか、同時にというか全体的なリテラシーを向上する方策を考えて行ったほうがいいと思います。
 今、先生がおっしゃったように、義務教育の中に組み込んでいくことも私は大賛成ですが、現在の一般国民に対して、例えばメディアを活用したような形で、周知徹底を図ると。いうのもよいと思います。例えば、皆さん御存じのように、認知症の周知徹底と言うのでしょうか、オレンジプランに従って、少し前から一時期メディア等で非常に放送が多かったと思います。様々な工夫ができると思いますので、是非、そういう方向で努力をしたほうがよいと思いました。以上です。
○中釜座長
 ありがとうございます。重要な御指摘と思います。実際に全ゲノム解析事業は、がん・難病からのスタートですが、広報活動、PR活動の重要性は認識されております。いかに効率的に情報発信し、その効果を評価した上でさらに情報発信し、それを広めていくということが重要な活動になると改めて認識したところです。大沢構成員、御発言はありますか。
○大沢構成員
 よろしくお願いします。今まで関わってきた患者さんの顔や経過を思い浮かべながら、皆様のお話を伺っていました。当院で対応できることには限界があるので、例えばHBOC以外の遺伝性のがんが疑われる家族歴、そして本人に既往があるケースでは、BRACAnalysisでHBOCを否定してから、遺伝子診療科のある病院に紹介し、検査とその後のフォローをしていただくなど、患者さんが施設の限界で不利益にならないよう連携しています。
他にも例えば、乳がん術前のPET-CTをおこなったところ、ほかのがんが見つかり、そちらの手術が終わった時点の造影CTで、新たな部位のがんの疑いが出てきたケースがありました。子宮内膜生検で判断つかず、子宮全面掻爬し、結局定期的な生検か手術が提案されました。HBOCは否定できていますが家族歴もあるので、一度遺伝カウンセリングに繋げたいのですが、当院で経過をみていくのでいいのでは、ととどまっています。
 やはり、がんを診ているすべての医師の遺伝に関する情報のアップデート、全体的なリテラシーの向上は非常に大事だと思います。適切なタイミングで必要な遺伝子検査を受けて、結果に応じたサーベイランスを受けられる患者さんが増えることで、患者さんも、血縁者も、将来の健康管理に繋げることができるので。
○中釜座長
 ありがとうございます。先ほど角山構成員から、予防につながるリスクの評価を、ゲノム情報に基づいたリスク評価ということから、必ずしも特定の疾患に限らず、国民全体の問題として、いかに広めていけるかというところの重要性があるという御指摘であると、複数の構成員の御意見から感じたところです。吉田構成員、よろしいですか。
○吉田構成員
 今の大沢構成員の話にも関連しますが、やはり、国民のゲノムリテラシーの向上が今後非常に重要な課題になってくるかと思います。
 一方で今、遺伝専門職が不足しているという現実があります。水澤先生がご発言されたように、遺伝医療の専門機関がどこにあるのかが、国民に見えにくいことが問題ではないかと思います。
 また、遺伝学的検査の枠組みとして、どこまで医療の中でやっていくのか。医療以外の所での遺伝学的な検査は一部行われていますので、それをどのように国民の利益になる方向に導けるかも重要な課題であると思います。以上です。
○中釜座長
 重要な御指摘ありがとうございました。本日、佐保構成員の代理で御出席いただいている小林構成員、よろしいですか。
○小林構成員(佐保構成員代理)
 第1回に続きまして、代理で出席させていただきます。ありがとうございます。様々、これまでの御意見を拝聴しておりました。ゲノム情報の適正な取扱い及び差別等への適切な対応の確保、そういった点を皆さん強調されたことについて、非常に心強く思っております。この観点はとても重要だと私どもも思っております。
 ガイドラインでということについては、その拘束力がしっかり担保されて、また現場で実効性のあるものになるよう、引き続き、ワーキングで議論を深められればと思っております。また、ゲノム情報を活用することで、これは前回も申し上げましたが、適切な治療がなかったり、あるいは困難であったりする疾病の対応につながるという、ここに光が当てられることについては大事なことだとは思いつつ、医療安全についても、しっかりと併せ持ったものとなっていくように、これはくれぐれもとお願いできればと思っております。というのは、患者申出療養が導入される当時、医療安全などは大丈夫なのか、私たちはその点がよく分からない中で危惧したところもありますので、そういうことを併せ持って発展していくことになればと思っております。以上です。
○中釜座長
 医療・臨床試験を行う際の、安全の確保ということは非常に重要な御指摘だと思います。森構成員、お願いできますか。
○森構成員
 先生方からの御発表をありがとうございました。ゲノムの医療については非常に期待しているところです。難病の差別についても、私たちも長年取り組んできましたが、大変難しい状況があります。社会全体の問題でもありますので、そういったところが、このゲノム情報の取扱い等に関しても、良い機会だと捉えて、この機会に是非良い法整備ができるといいなと思います。
 次に、未診断の患者さんをいかにより良いシステムにつないでいくかというところについて、難病の専門医というのは、都道府県の中でも非常に数は少ないですし、拠点病院、協力病院といった形の医療提供体制を構築していただいておりますが、未診断の方については、やはり、かかりつけ医という所も重要だと思います。
 また、拠点病院等に行きましても、先ほど五十嵐先生もおっしゃったように、大学病院のほうから、例えば週に1回だけその病院に来ていて、外来診療をしていただいている病院がかなり多いです。やはり、私たちもそういった専門医にかかりながらも、かかりつけ医との連携もしっかりと患者団体のほうでも取っております。かかりつけ医にしっかりと相談できるような体制を取りたいと思っています。
 そういったところから、非常に話しやすい先生を選ぶということが、特にかかりつけ医の場合はできると思いますので、そういったところとうまく連携ができるような体制作りもしていただけると有り難いです。是非、よろしくお願いします。
○中釜座長
 ありがとうございます。稀少性の疾患に対する地域での医療提供の在り方に関する重要な御指摘と理解します。山田構成員、よろしいですか。
○山田構成員
 ジェネシスヘルスケアの山田です。本日はありがとうございました。様々な先生方から、専門分野に関するプレゼンテーションを拝聴することができて、様々な分野での最新の部分と、論点・問題点として残されているものが非常に理解が進みましたので、今後、こちらのワーキンググループの議論に参加させていただく上で、是非、これを使って更に議論に貢献できればと考えております。価格の面、検査の面、データの面といろいろありまして、私ども事業検査会社として貢献できる部分があるかと思いますので、そういった中で今後、議論も含めて貢献させていただければと思っています。
 あとは、複数の方々から御発言がありました差別のところです。私ども差別というものに対しては、決してあってはならないと強く信じている会社ですので、そういった面からも、疾患というところは、もちろんこちらのワーキンググループの中心にはなると思いますが、日本自体、国際化・多様化している国ですので、いわゆる疾患と言われるもの以外にも、遺伝的なもので差別につながるものがあるといけないと考えております。そういった観点からも、次回はプレゼンテーションをするかと思いますが、何かそういった話もさせていただければと考えております。本日はありがとうございました。
○中釜座長
 ありがとうございます。これで全員に御発言していただきましたが、今日御発表いただいた6名の構成員の先生方に、改めて何か追加の御発言はありますか。何名かの先生方からは、例えば、解析基盤の充実、あるいはそこにおける解析データセンター、さらにはデータの管理の仕方、セキュアな環境下での取扱い、その辺りについて御意見をいただきました。また、新しい技術を導入することによって、今日御指摘のポリジェニックリスクスコアやリスク評価、そういうものがより簡便・迅速にできるかなということも御指摘があったかと思います。そういう技術的な面を基本計画の中にどういうふうに盛り込むべきなのか、あるいはどのように対策として活せるのかということに関して、何か追加の御発言はありますか。菅野先生、何か御発言はありますか。
○菅野構成員
 申し上げたとおり、基礎研究の部分は非常に流れが早くて、今、難病・遺伝病の世界では、遺伝子治療とか、そういう形で治療法がどんどんと進んできております。ですので、遺伝病だと治らない病気だという偏見があるわけですが、これがどんどんと変わっているということも、情報として発信することによって社会の受け止め方が随分変わってくるのではないかと感じております。こういう点で、先ほどお話があったように、初等・中等教育から始めて全体のリテラシーを、認知症のときに上げたようなことをやはり、やっていかなければいけないという気はしております。
 もう一つ、私が触れたかったところではあるのですが、企業との関係です。これは非常に実は微妙なことがあります。もう保険医療の範囲内ではできないことがいっぱい出てきて、特に未病のところの予防をどうするかということです。そういうところを政府が全部コントロールするというビジネスモデルは成り立たない形になりつつあります。そうしますと、企業の方にこういう形の所に入っていただくのにおいて、クオリティコントロールと申しますか、そういったことがどうなるかというのは、非常に不安があるところです。そこのところも、国民のリテラシーがどれだけ高いかということが非常に大切になってくるかと。今、サイエンスが、AIもそうですし、エネルギーもそうですし、どんどん新しくなってきて、サイエンスのディテールがある程度分かっていないと、善悪の判断がしにくい状況も出てきています。これは本当にゲノム医療については、正に当てはまるかと。そこで、企業の参加のある意味影響力の大きさと、逆に言えば、そこに頑張っていただけると、非常に良いものができる可能性も高いという気がしております。諸刃の刃という感じがしておりますので、そこをどうするかというのは実行計画の中に良い形で入れていければと考えております。以上です。
○中釜座長
 ありがとうございます。基礎的な視点から重要な御指摘を頂きました。ほかに御発言はありますか。
○五十嵐構成員
 先ほども御指摘があったのですが、これはバイオバンクの問題にも関連すると思います。集めた遺伝情報はもちろんそうですが、残った検体があると思います。DNAあるいはメッセンジャーRNA等を保存した場合に、それを何年間保存するのか、そういう基本的な考え方は現在あるのですか。特にIRUDなどでは事業をやっているわけですが、今後それがどのように、保存のことも含めて方向性が決まっているかどうか教えていただきたいと思います。
○中釜座長
 重要な御指摘です。がん領域ですと、具体的な保存期間のルールは特になかったと思います。収集したものを利活用してもらい、それを積極的に活用する方向で、できるだけデータの利活用を活性化したいということで動いています。具体的な保存の期間は、がんと難病、あるいは一般の生活習慣関連の疾患でも多少異なるかもしれません。この辺りについて、難病科のほうで、水澤先生、何か保存期間についてのルールはあるのですか。
○水澤構成員
 五十嵐先生、御質問ありがとうございました。とても重要なことだと思いますが、今の中釜先生のがん領域と同じで、決まっておりません。利活用をしましょうということをむしろ進めている段階で、いつまで保存するかと。これはおっしゃるように、カルテの保存は5年と言われています。大学病院はもう少し長いかもしれませんが、そういう所ですと、臨床情報も廃棄されてしまう可能性がありますので、試料等をどこまで保存するかといったことを決めておく必要があると思います。大変重要な御指摘だと思います。
○菅野構成員
 御存じのように、東北メガバンクとか、バイオバンク・ジャパンとかいう所では、サンプルの収集をして、それで保存をほとんど永久にというか、できる体制ができています。バイオバンク事業は一時期大流行で、各大学で小規模なバイオバンクがたくさんできた時代があります。まだ続いているとは思いますが。そういうときに保存が問題になりまして、バイオバンク・ジャパンで保存を引き受ける、配布までは引き受けられないが、保存のところは引き受けるということがあったかに記憶しております。ですので、そういう事業について、例えばIRUDで、非常に貴重なサンプルで、遺伝情報などもきちんと付いているものですと、IRをどういうふうに取るかはありますが、そういう機関を利用するという手もあるように思います。
〇中釜座長
 バイオバンクに関しては、現在、いわゆる三大バイオバンクと言われる東北メディカルメガバンク、BBJ、NCBNに加えて、大規模な保存システムを持っているような大学、東京医科歯科大学や岡山大学、京都大学などのバンクがAMED事業の中で連携する仕組みがあったのではないかと思います。そういうものをどこまで広げて確保するか。恐らく、各大学の財源、あるいはその事業体としての資金の問題もあると思いますが、重要な御指摘だと思います。天野構成員、手が挙がっていますが。
○天野構成員
 企業との関わりという御指摘があったので、それに関連して1点、私から意見を申し上げます。例えば、きちんとした医療機関、あるいは研究機関で行われているゲノム医療とは別に、民間のDTCの遺伝子検査ビジネスというものがあって、それも適正化に向けた様々な施策が行われているところですが、それとは別に、いわゆる自由診療で遺伝子検査や、ゲノム医療と称するものは実は行われています。少なからず、がんの患者さんはそういった自由診療を受けている実態があります。そういった実態について必ずしも明らかになっていない部分もあるかと思います。実際、漏れ伝え聞く話では、そういった自由診療で遺伝子に関わる検査を受け、その結果を持ってきちんとした保険診療を行っている医療機関に改めて検査を受けたら、全く違う結果が出たということも患者さんから聞いております。
 そういった自由診療で行っている部分については、例えば、今後それがきちんとした研究、あるいは医療につながっていくことを前提とした臨床試験等で行われているのであればまだいいのですが、そうではない部分で行われている自由診療のゲノム医療と称するもの、あるいは遺伝子検査と称するものが、かなり質が危ういのではないかという指摘がありますので、その部分についての注意が必要かと思いました。例えば、免疫療法については、がん診療連携拠点病院では、免疫療法等を行う場合は臨床試験の枠組みで行うということが、拠点病院の整備指針で定められておりますが、同様にゲノム医療についても、自由診療で行われている部分についても一定の歯止めが必要ではないかと感じております。以上です。
○中釜座長
 大変重要な御指摘だと理解しました。正しいゲノム医療を推進する上で重要な論点と認識します。ありがとうございます。ほかに御発言はありますか。小崎構成員、お願いします。
○小崎構成員
 私が先ほど申し上げたように、ゲノムの情報だけで判断するのは危ういところがありまして、患者さんの症状と組み合わせて判断するということが重要です。この新たに得られた知識を、当該患者以外の患者さんの診療にいかしていくことも重要です。このような症状の患者さんのこの遺伝子にこういう遺伝子の変化があったという情報を蓄積していくことが必要です。その際に、切り出した情報を個人の情報として扱うのではなく、公の財産として蓄積していくことが必要です。海外ではこうしたデータベースが充実しているところですが、日本ではまだそのことについて、場合によっては個人情報上の懸念などが提起されていて、自由に集めることが難しいです。個人の全てのゲノムの情報を公開するということと、抽出された、要は蒸留された情報との区別を明確につけて、患者さん同士が助け合う仕組みを是非作っていただきたいと思います。海外では、ClinVarなどというデータベースがありまして、非常に充実しているところですが、先ほど申し上げたような個人情報の懸念が提起される結果、日本で十分に情報が集め切れないという現状がありまして、発言させていただきました。以上です。
○中釜座長
 重要な御指摘と思います。ゲノム情報、個人の情報をきちんと管理すると同時に、それが国民へもたらす利益、メリットを十分に管理された状況で提供する仕組みの両方を提示しながら、きちんとしたリスク管理を行うことの重要性の御指摘と理解しました。ありがとうございます。この点について、横野構成員、何か追加で御発言はありますか。
○横野構成員
 先ほども少し発言させていただきましたが、適切に個人のゲノム情報を扱うためには、やはり、不適切な利用がされた場合に、きちんとそれに対して対処がなされることが制度的に担保されるということが重要だと思いますので、差別を含めたルールの整備に注力していく必要があると思います。以上です。
○中釜座長
 ありがとうございます。そのほかよろしいですか。大沢構成員、よろしいですか。
○大沢構成員
 最後に差別のところで、保険と雇用の話が出ていましたが、気持ちの差別もどうにかなればと願います。患者さんと話をしていて、これから結婚するときに、どの段階でがんになった話をしたらいいのかとか、向こうの親にこれから子供を作ることについて、遺伝に関して傷つくことを言われたという話が出てくるのです。病気はあくまでもその人の一部分でしかないわけで、そういった教育も先ほどから出てきている初等・中等教育でなされるといいと思います。がんがその人を特徴付けているわけではなくて、その人の中のほんの一部分が病気であるという、みんながそんな認識になっていくといいなと。すみません、感想でした。失礼しました。
○中釜座長
 ありがとうございます。ほかはよろしいですか。本日は、構成員の先生方には、ゲノム医療を推進する上での貴重な論点・視点について御意見を頂いたと思います。本日、頂いた御意見を踏まえて、今後の検討に反映していきたいと思います。よろしいですか。それでは、議題3、その他に移ります。事務局よりお願いします。
○中田研究開発政策課長
 次回の有識者等との意見交換については、主に生命倫理、ゲノム情報、差別、医療目的以外の検査の質等について、議論させていただきたいと考えております。一部の構成員の方には、事前に御相談をさせていただいておりますので、御協力いただければ幸いです。どうぞ、よろしくお願いいたします。以上です。
○中釜座長
 ありがとうございました。構成員の先生方にはスムーズな議事進行に御協力いただきまして、誠にありがとうございました。これをもちまして、本日の会議を終了させていただきます。どうもありがとうございました。