第7回社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提に関する専門委員会 議事録

●日時

2023(令和5)年12月27日(水)15時00分~17時00分

●場所

全国都市会館 第2会議室(3階)

●出席者

深尾委員長、権丈委員(オンライン)、滝澤委員(オンライン)、武田委員(オンライン)、土居委員(オンライン)、玉木委員、德島委員、藤澤委員、小枝委員
(オブザーバー)
前田参事官(内閣府計量分析室)(オンライン)、石川審議役(年金積立金管理運用(独):GPIF)、植田調査数理部長(年金積立金管理運用(独):GPIF)

●議題

年金財政における経済前提のあり方について
(年金部会への議論の経過報告について)

●議事録

佐藤数理課長
 定刻より少し早いですが、ただいまより、第7回「年金財政における経済前提に関する専門委員会」を開催いたします。
 委員の皆様におかれましては、御多忙の折、お集まりいただき、ありがとうございます。
 本日の委員の出欠状況について御報告いたします。権丈委員、滝澤委員、武田委員、土居委員からオンラインでの御参加の旨、御連絡をいただいております。
 オブザーバーにつきましては、内閣府計量分析室の前田参事官。また、年金積立金管理運用独立行政法人からは、石川審議役と植田調査数理部長に出席いただいております。
 なお、前田参事官はオンラインでの参加となっております。
 では、審議に入ります前に資料の確認をさせていただきます。
 本日の資料は、
 資料1 これまでの財政検証の経済前提について
 資料2 年金財政における経済前提のあり方について(専門委員会における議論の経過報告)(案)
 参考資料として、
 参考資料1 年金財政における経済前提のあり方について(専門委員会における議論の経過報告)-参考資料集-(案)
 参考資料2 2019年3月13日 年金財政における経済前提について(検討結果の報告)
をお配りしております。
 それでは、以降の進行につきましては、深尾委員長にお願いいたします。

○深尾委員長
 委員の皆様には、年末のお忙しい中、お集まりいただき、ありがとうございます。
 議事に入らせていただきますので、カメラの方々はここで退席をお願いします。
 これまで1年ほどかけまして、この専門委員会で6回、それから一部の先生方には検討作業班に入っていただきまして、3回の御議論をいただいてきました。
 次は、年金部会で、この専門委員会での議論を報告することになっております。本日は、その経過報告の案について、事務局にたたき台を作成していただいておりますので、委員の皆様におかれましては、これを基に御議論いただければと思います。
 本日の議題である「年金財政における経済前提のあり方について(専門委員会における議論の経過報告)」について、事務局より資料の説明をお願いします。

○佐藤数理課長
 数理課長でございます。
 それでは、資料1を御覧ください。こちらは、過去の財政検証において設定された経済前提について、実績と比較しつつ、一定の評価を行った資料であります。前回の専門委員会でもお示しした資料でありますが、資料を追加しております。また、年明けの年金部会でも、資料2と併せて専門委員会の経過報告として御報告したいと考えております。前回も御説明しましたが、全体を簡潔に御説明いたします。
 まず、2ページから6ページです。こちらは前回から変更ありません。「年金財政の構造」について説明した資料となっております。
 2ページでは、公的年金は、現役世代が支払った保険料をそのときの年金の支払いに充てる賦課方式を基本としており、世代間での支え合いの仕組みとなっていること。このため、賃金をベースにした保険料が年金の原資となり、現役世代の賃金、つまり生活水準に応じた年金の支給が可能になっていることを説明しております。
 続く3ページ、4ページでは、積立金の役割を確認しております。日本の公的年金は200兆円を超える積立金を保有し、少子高齢化の影響を緩和していること。特に、団塊世代ジュニアが引退し、高齢化がさらに進行する2040年代以降に活用して、将来の給付水準を下支えする役割があること。ただし、今後100年間の年金給付の財源を考えますと、積立金は全体の1割ということであり、補助的な役割であることを説明しております。
 続く5ページ、6ページでは、年金財政に重要な経済要素を確認しているものになります。公的年金の財政は、収入・支出ともに賃金水準の変化に応じて変化する構造となっております。このため、収入・支出の中で賃金に連動しない部分が収支のバランスに影響し、年金財政に大きな影響を与えること。また、このような観点から考えると、年金財政に大きな影響を与える経済要素は、1つが、賃金上昇率を上回る運用利回りである実質的な運用利回り、スプレッドと言われるものでありますし、もう一つが実質賃金上昇率、この2つであるということです。
 さらに、物価上昇率につきましては、基本的に年金財政に中立でありますが、マクロ経済スライド調整には名目下限があるため、物価上昇率が低い場合にはマクロ経済スライド調整がフル発動せず、年金財政にマイナスの影響を与えることを説明しているものであります。
 続く7から8ページが新たに追加した資料となっております。
 7ページを御覧ください。公的年金をマクロ的な視点で捉えますと、その年の現役世代が生産した付加価値を、年金財政を通じて高齢者に分配する仕組みと捉えることができます。しばしばパイの切り分けに例えられるものであります。我が国の公的年金は、賃金に対する保険料率を固定するということでありますが、これはマクロで見ますと、総賃金の一定割合を年金として高齢者に分配するということを意味しております。さらに、保険料に加えて国庫負担も基礎年金給付の2分の1ということで投入しておりますが、こちらも税を通じて付加価値の再分配を行ったものと考えることができます。したがって、この仕組みの下で年金を充実させるために重要な要素ということは、日本経済を大きくすること。つまり、経済成長が重要ということになります。
 なお、付加価値を分配する仕組みであることは、どんな財政方式であっても変わらないということであります。財政方式によって分配の経路というのは変わってくるということだと思いますが、パイの大きさが変わらない限り、年金を通じた高齢者の取り分が大きくなれば、その分、現役世代の取り分が小さくなるということになります。このため、年金の議論においては、財政方式の違いを誇張すべきではなく、本当に重要なのは経済成長であると言われるものであります。
 次の8ページ、9ページは、平成25年に社会保障制度改革国民会議に提出した資料であります。世界銀行のコンサルタントも務めましたニコラス・バー教授の講演資料の紹介となります。今、述べたような議論は、国際的にも展開されている議論であることを紹介しているものであります。
 8ページの上のスライドでは、財政方式の違いを誇張すべきではないということを示しております。
 また、下のスライドでは、年金財政問題の解決には、給付の引下げか負担の増加か、また国民総生産の増大しかないということを書いております。
 また、9ページの結論、下のスライドでありますが、こちらを御覧いただきますと、最後の部分で、本当に重要なことは良い政府と経済成長と締めくくられているというものであります。
 続きまして、11ページ以降でありますが、こちらは前回から変更ありません。
 11ページ、12ページにおきましては、これまでの財政検証の前提と実績を比較しております。実質賃金上昇率は実績が前提を下回りましたが、逆に実質的な運用利回りは前提を上回ったことを示しております。
 このようになった要因について、財政検証においては、労働生産性向上に伴い、実質賃金も上昇することを仮定しておりましたが、実際には労働生産性が向上したにもかかわらず、実質賃金が低迷して乖離が生じることになったということであります。一方、実質的な運用利回りについては、対賃金の運用利回りですので、賃金が低迷したことが実績が高い要因の一つとなったということを示しております。
 また、実質賃金上昇率の基礎となります全要素生産性上昇率、労働生産性上昇率についても、実績はおおむね経済前提で設定された範囲に位置しておりますが、範囲の中では低めに位置していることもお示ししているものであります。
 続く13から15ページは、実質賃金の伸びと労働生産性向上の関係について国際比較をしております。
 まず、13ページでは、多くの先進諸国では、労働生産性向上を基礎に実質賃金が伸びているということが確認できますが、日本においては、デフレーターの差などの要因と相殺しているところであります。
 続く14ページ、15ページにおいては、多くの国では、労働生産性向上に伴って実質賃金も上昇していることが確認できるわけですが、日本のみ異なる状況にあることが見られるものであります。
 続いて、16ページ、17ページにおきましては、国内外の市場運用を行っている年金基金において、長期的な運用実績として10年移動平均を調べましたところ、日本のGPIFも含め、おおむね財政検証の前提を上回っているということを確認したものであります。
 さらに、18ページから20ページにおきましては、GPIFの運用対象であります法人企業について、収益の状況を示しております。
 19ページ、20ページを見ていただきますと、人件費が横ばいで推移する中、純利益、純資産が増加しておりまして、GPIFの運用にもプラスの影響を与えていたということを確認したものであります。
 最後の21ページが以上のまとめとなります。こちらの内容は、資料2の専門委員会としての経過報告にも盛り込んでいるものであります。
 続きまして、資料2を御覧ください。こちらが年金部会への報告(案)の本体になります。前回の専門委員会において検討作業班の報告をお示ししたところでありますが、その方向性については、基本的に御了承いただいたと承知しております。したがって、この内容につきましては、検討作業班の報告がベースとなっているというものであります。前回と重複するところが多くなりますが、確認のため、簡潔に全体を説明させていただきたいと思います。
 まず、四角囲みの「1 報告の趣旨」につきましては、5年に一度の財政検証に用いる経済前提のあり方について、専門委員会の議論の経過報告を行う旨を記載しているというものであります。
 四角囲みの2については、「経済前提の基本的な考え方」をまとめております。
 まず、(1)につきましては、財政検証の枠組み、平成16年改正において導入された財政フレームについて記載しております。
 また、(2)は、財政検証につきましては、社会経済の動向を踏まえ、最新のデータを用いて5年ごとに見直すものであることを記載しているものであります。
 続く(3)は、財政検証は予測でなく、投影であるという性格に留意が必要であることを記載しております。そのため、財政検証の将来見通しというものは、一定のシナリオを基に長期の平均的な姿を描いたものと解釈すべきであること。経済前提は、複数のケースを幅広く設定すること。結果についても幅広く解釈すべきであること。また、100年にわたる推計であることを踏まえまして、経済前提は足下の一時的な変動にとらわれず、設定すべきであることを記載しているというものであります。
 (4)につきましては、国民に分かりやすく伝えるという視点の重要性について述べておるところであります。設定方法はできるだけシンプルにして、シナリオの意味を分かりやすく伝えるよう工夫すべきとしております。
 (5)につきましては、以上のような性質を踏まえますと、将来見通しの積立金や経済前提の運用利回りというものは、短期的な時価の変動を平滑化したものと整理することが適当であること。そのため、財政検証で用いる足下の積立金についても、平滑化したものを使うことが適当であるとさせていただいております。
 続きまして、四角囲みの「3 これまでの財政検証の経済前提」というところでありますが、こちらが資料1で御紹介した内容となります。これまでの財政検証で設定してきた経済前提について、一定の評価を行いつつ、今回の設定に当たっての視点を記載しております。
 (1)は、賃金に伴って収支が変動する公的年金の財政において重要な経済要素は、実質賃金上昇率と賃金を上回る実質的な運用利回りであることを記載しております。
 (2)は、長期の実績と経済前提を比較しまして、実質賃金上昇率につきましては実績が前提を下回ったものの、実質的な運用利回りについては、逆に上回っていることを記載しております。また、実質賃金上昇率の設定の基礎となっております全要素生産性上昇率や労働生産性上昇率は、おおむね前提の範囲に入っているものでありますが、実績は低めに位置しているということも記載しております。
 続く(3)は、その要因といたしまして、財政検証では労働生産性向上に伴い実質賃金も上昇するという仮定を置いておりましたが、労働生産性が向上する一方で実質賃金は横ばいで推移したことが乖離の要因となったこと。また、実質的な運用利回りについては、実質賃金が低迷したことが逆に働き、実績が前提を上回る要因となったこと。また、国内の法人企業においては、人件費が横ばいで推移する中、純利益や純資産が増加して、運用利回りが上回る一因に至ったことも記載しております。
 (4)につきましては、今回の実質賃金上昇率の設定に当たっての視点を記載しております。
 先進諸国の実質賃金の伸びについて要因分解を行ったところ、多くの先進諸国では労働生産性向上が寄与して、労働生産性向上に伴い実質賃金も上昇していること。
 また、注に記載しておりますが、日本においては、女性や高齢者の就業率が高まる中で労働力不足が続くと見込まれることを踏まえますと、状況が変わる転換点にあるという可能性も視野に入れる必要があることも留意が必要としております。
 一方、全要素生産性上昇率や労働生産性上昇率についても、実績は前提の範囲に入っているものの、低めに位置していることにも留意が必要としております。
 続く(5)は、実質的な運用利回りの設定に当たっての視点を記載しております。
 市場運用を行っている諸外国の年金基金の長期の運用実績を調べたところ、財政検証の前提を上回っているということ。
 将来、日本の実質賃金が上昇に転じますと、こちらはマイナスの影響というものがあるわけですが、実質賃金の上昇が見られた先進諸国の年金基金においても財政検証の前提を上回っているということ。
 また、GPIFにおいては、海外の年金基金と同様に長期分散投資によりグローバルな運用を行っていることを考慮する必要があるとしております。
 続いて、四角囲みの4になります。こちらは「経済モデルの建て方」についての記載になります。
 (1)及び(2)については、基本的にはこれまで用いてきたモデルを用いるということ。ただし、改善が可能な点については改善していくことを記載しているというものであります。
 (3)につきましては、1つ目の改善点を記載しておりまして、総投資率の設定につきまして、当専門委員会でも御議論いただいたとおり、利潤率等の回帰式を用いて設定する方法に見直すことを記載しております。
 (4)につきましては、もう一つの改善点になりまして、利潤率の算定式の見直しについての記載となります。こちらは当委員会で御議論いただいたとおり、利潤率の定義に沿うよう見直すものであります。
 (5)は、モデルに投入するパラメータについて、投影という性格を踏まえまして、前回と同様に過去30年程度の長期のヒストリカルなデータに基づいて設定することが適当としております。
 (6)につきましては、新型コロナウイルス感染症下のデータの取扱いについての記載になります。過去、コロナ以外にも様々なショックがあった中、異常値を排除する場合に何を異常とするか判断することは困難であります。このため、コロナ感染症下のデータを排除せずに使用することが適当としております。
 続いて、四角囲みの5になります。こちらは「パラメータの設定」についての記載ということになります。
 (1)は、シナリオの基軸となるTFPの設定方法につきまして、内閣府の中長期試算の設定や長期の実績を踏まえて、幅広く設定することが適当としております。
 (2)は、労働投入量の設定についてになります。労働力需給推計を基礎に幅広く設定することが適当と、こちらもしております。
 (3)は、資本分配率と資本減耗率の設定についてになります。前回は、ケースによって過去30年平均、過去10年平均と使い分けておりましたが、今回は、全てのケースで過去30年平均で設定することが適当と整理されました。
 続く(4)になりますが、こちらは物価上昇率の設定について、前回同様、日銀の物価目標や内閣府の中長期試算、過去30年の実績を参考に設定することが適当としております。
 続いて、(5)は、運用利回りの設定についてとなります。前回同様、GPIFの長期の実績を基礎に、保守的に設定することが適当とされております。
 また、前回については、一番低いケースVIについては、イールドカーブから算出したフォワードレートを用いておりましたが、フォワードレートの動きは非常に不安定であるということ。また、GPIFのポートフォリオによって国内債券の割合は25%まで低下しているということから、今回は全てのケースで実績を基礎に設定する方法を用いることが適当しております。
 続いて、(6)におきましては、実質賃金上昇率と労働生産性上昇率の差について、その要因を確認したところ、デフレーターの差のうち、「作成方法の違い」によるところは、多くの年度で賃金上昇率にマイナスの影響を与え続けているということで、今後もこの方向性というのは続くことが想定されるということから、前回同様、考慮することが適当とされております。
 一方、ほかの要素につきましては、毎年度の動向を確認しますと、プラスマイナス変化しており、将来にわたり一定方向に続くことは必ずしも想定できないということで、今回も考慮することは積極的な理由がないとしております。
 続いて、四角囲みの「6 足下の経済前提の設定」になります。
 (1)につきましては、物価上昇率と賃金上昇率につきましては、内閣府の中長期試算に準拠することが適当であるとしております。一方、運用利回りにつきましては、前回は内閣府の中長期試算の金利を基礎に設定していたというものでありますが、足下と長期で設定方法が異なることから、その接続が悪くなっていることを確認しました。また、先ほどと同じように、GPIFのポートフォリオにおいて、金利と関係の深い国内債券の割合は25%まで低下しているということを踏まえますと、足下についても、長期と同様にGPIFの実績を基礎に設定する方法に変更することが適当とされております。
 (2)では、足下と長期の接続を意識すべきということを記載しているものであります。
 続いて、四角囲みの7です。
 まず、(1)は、経済変動を仮定するケースについて、前回と同様、変動幅や周期を機械的に設定するということを記載しております。
 (2)につきましては、国際人口移動の前提につきまして、将来推計人口において外国人の入国超過の前提が見直されたというものでありますが、この見直しの経済前提に与える影響は限定的であることを確認した上で、引き続き、影響を確認して、取扱いについて検討すべきであることを記載しているものであります。
 続いて、四角囲みの8は、具体的な数値の議論については、今後公表されますJILPTの労働力需給推計や内閣府の中長期試算を踏まえまして、本専門委員会で議論の上、結果を取りまとめ、改めて年金部会へ報告することを記載しているものであります。
 続く11ページ、12ページは、委員名簿及び開催状況としております。
 私からの説明は以上となります。

○深尾委員長
 ありがとうございました。
 説明していただいた資料は、いろいろな形で、これまで何度か委員の皆様に御覧いただき、議論していただいてきたところですが、改めて事務局より提出された年金部会への報告(案)につきまして、御質問、御意見等がございましたらお願いします。これは参考資料も含めての御意見でいいですね。何かありますでしょうか。
 お願いします。

○権丈委員
 資料1の8ページで、ニコラス・バーさんが2013年に講演して、その時のスライドが社会保障制度改革国民会議に提出された資料が載っております。ここで、8ページの2つ目の、もし年金の支払いに問題がある場合、4つそしてただ4つだけの解決策があると、彼のスライドではこういうふうに書いてあって、彼は何十年間もこういうことをずっと言い続けていたわけですけれども、日本の保険料固定方式下のマクロ経済スライドは視野に入っていないです。
 だから、今回、新しくこういう形で年金局のほうでバージョンアップしてくるということがあるのであれば、例えば支給開始年齢の引上げのところにアスタリスクでもつけて、これはマクロ経済スライドを考慮していない段階での議論になっているというような注でもつけていただくと、私としては使いやすい。これがあるために、このスライドはなかなか使えなかったです。よろしくお願いいたします。御検討いただければと思います。

○佐藤数理課長
 先生がおっしゃったとおり、マクロ経済スライドというのは、ある意味給付を調整するという仕組みでありまして、支給開始年齢の引上げと同じ効果があります。どちらも年金を調整する仕組みでありますけれども、違うところは、マクロ経済スライドの方は全ての世代に同じように効果があるのに対して、支給開始年齢の引上げについては、これから受給開始する世代だけに影響があるというところで違いがあるということであります。そういったところは、今後も丁寧に年金局として説明していきたいと思っております。資料の取扱いについては、検討させていただきたいと思います。

○権丈委員
 検討していただければありがたい。先ほど数理課長は、この支給開始の引上げを抜かして3つのことを挙げたわけですけれども、分かっている人じゃないと、この資料を読むことができず、ニコラス・バーさんも言っているという形で支給開始年齢の引上げを言う人が出てくる、そのくらいのリスクをいつも年金の場合は考えておかなければいけないわけですけれども、そういうことがあまりないように、せっかくの機会なので御検討いただければと思います。

○深尾委員長
 ほかにはいかがですか。よろしいですか。
 では、私のほうから1点。細かいことなのですけれども、資料1の13ページ、オレンジ色がGDPデフレーター、マイナスCPI上昇率になっていますけれども、これはGDPデフレーター上昇率、マイナスCPI上昇率ですね。
 あと、グレーの部分が自営業者、混合所得等の影響となっていますけれども、これは分子のほうに混合所得が入っていて、分母のほうに自営業者とか無給の家族労働者の就業時間が入っていて、その動きの違いで影響が出てくるのだと思うのですけれども、どうして日本でマイナスになっているのか。それから、自営業者とか無給の家族従業者の労働時間というのは、国民経済計算、少なくとも昔のデータにはないと思いますので、そういうことを含めて、もうちょっと丁寧に説明したほうがいいのかなと思います。
 これと関連して、参考資料1の56ページに、データの差のうちの右側の測り方の違いの問題。これは重要なので、今後考慮するということになっていたと思うのですけれども、作成方法の違い等でラスパイレス指数とパーシェ指数の話が出てきていて、CPIはラスパイレスで、GDPデフレーターはパーシェの連鎖なので、その違いの問題だと思うのですけれども、たしかパーシェで連鎖にしたら、どう結果が変わってくるかという検証もCPIのほうでされていると思いますので、その結果の確認の話が少しあってもいいのかなと、それで大体説明できるかどうかですね。この作成方法の違いというのは、ほとんどパーシェ指数とラスパイレス指数の違いで生じているかどうかという話を、ちょっと裏づけておいたほうがいいのかなと思います。

○佐藤数理課長
 御指摘ありがとうございます。
 まず、自営業者の労働時間等は、先生おっしゃるとおり、長期のものは国民経済計算では公表されておりませんけれども、足下は就業者の労働時間が公表されていたと承知しております。資料1の13ページの自営業者、混合所得等の算出に当たっては、国際比較のためOECDのデータを用いて、名目GDPを労働時間当たりの名目GDPで除すことにより就業者の総労働時間を算出しております。
 自営業者、混合所得等、つまり、自営業者を除くと実質賃金が下がる方向になるというものでありますが、これは数理課のほうで分析したところでは、自営業者の労働生産性というのは雇用者に比べて低いということでありまして、それで自営業者が傾向的にずっと減ってきているということになりますと、自営業者がいなくなると労働生産性が上がるということになります。その結果、実質賃金は雇用者のものになりますので、雇用者の実質賃金との差ができてマイナスの影響があると承知しております。
 もう一つ、参考資料1の56ページのほうですが、作成方法の違いでラスパイレス指数、パーシェ指数は、例としてこういうふうに書かせていただいているということですけれども、これはこれまでも深尾先生等、御指摘いただいていたかと思いますけれども、ほかにも範囲の違いとか、いろいろ異なる部分があるということは承知しております。CPIについては、たしかラスパイレスの連鎖指数で公表しているものを確認したと思いますが、その連鎖指数で公表しているというものを確認した限りでは、影響についてはそれほど大きくないと感じております。ですから、あくまで例としてラスパイレス、パーシェと書かせていただいているだけでありまして、そのほかいろいろな違いがあって、この0.4という差が生じているものと承知しております。

○深尾委員長
 分かりました。ありがとうございます。
 ほかにいかがですか。
 土居委員、お願いします。

○土居委員
 土居でございます。御説明、どうもありがとうございました。
 資料2の経過報告につきましては、原案のとおりで基本的によろしいかと思います。その上で、この経過報告であぶり出された、今回の財政検証の特徴というものを、今後、実際に経済前提を固めていって、ほぼ、その前提で財政検証を行うという段になったとき、ないしは最終的に財政検証を国民に報告する最終版には、前回の財政検証の前提と今回の財政検証の前提の違い、ないしは計算方法で、ある程度根本的なところから見直して、より現実的にしたものについては、より分かりやすく説明していただきたいという要望といいましょうか。この専門委員会、まだ残りがありますけれども、その中でもより分かりやすく国民にその違いを説明するというところが、ますます重要になってくるかなと思いました。
 特に、例えば内閣府の中長期試算との接続というのは、前回とはやや違ってきている。根本的な方法の違いということではないですけれども、内閣府の中長期試算も、成長実現ケースが以前よりかはより現実的になっているという言い方をしたらいいのかどうか分かりませんけれども、そういうところもありながら、コロナ禍を挟んで、ポストコロナの経済に移行しているということがある。なので、前回のような接続というほど単純ではなくて、もう少しより現実的な、我々のこの専門委員会でも精査したところを、こういう形で接続しているということが、まだ今日現在は固まっていないわけですけれども、いよいよ最終的に固まるという段になったときには、こういう形で接続しているということを示すことが、1つTFP、それから物価上昇率といったところは鍵になるかなと思います。
 コロナ禍で明らかにTFPや物価上昇率については、前回の財政検証のときに比べて変動期を迎えているという要素があるわけですので、前回ほど単純ではないということは、恐らく多くの方々には理解を共有していただけるだろうと思います。
 それから、もう一つは、より技術的なところでありますけれども、総投資率、利潤率の計算というところも、前回よりも工夫しているというところがあって、そこもこういう形で工夫したのだということをより明確に説明するということ。
 あと、社人研の人口推計で、外国人の取扱いというものが前回の社人研の将来推計人口とは違うところですので、そこは我々がそうしたというわけではありませんけれども、社人研の将来推計人口でそうなったということを受けて、我々としてこういう形で経済前提を見ておくのがよいのではないかという議論をしたというところも、今後、国民により分かりやすく説明するということが重要になってくるかなと思います。
 私からは以上です。

○深尾委員長
 ありがとうございます。次回の年金部会での報告の話ではなくて、最終的に検証を出すときに、過去と前回との違いについて留意して丁寧に説明すべきであるという意見ですね。

○土居委員
 はい。今回の経過報告で、まだ固まってはいないものの、今回の経済前提の置き方に特徴がかなりはっきり記されているなと思いましたものですから、まだ結論が出ていないから、若干奥歯に物が挟まったような説明の仕方にはなっているけれども、明らかにこれをお認めいただけるということであれば、最終的な財政検証でも、我々がここで議論したことを生かした特徴が、財政検証の経済前提になるだろうということで、最終的にそういう御説明を国民にしていただけるといいのかなと思ったということでございます。

○深尾委員長
 私も基本的に御意見に賛成ですけれども、そういう方向で今後議論していくということでよろしいですか。

○佐藤数理課長
 先生にいただいた御意見につきましては、年明けにまた具体的に数字をどういうふうに設定していくかという議論を、この専門委員会の中でしていただくことになりますので、その中でできるだけ分かりやすい資料、また国民に対しても説明できるような資料というものを整えて、御議論いただきたいと思っております。事務局としても努力していきたいと思います。

○深尾委員長
 ほかにはよろしいですか。
 では、小枝委員、玉木委員の順でお願いします。

○小枝委員
 御説明ありがとうございました。
 私もこちらでお使いのモデル、分析の枠組みというのは、長期の投影をする上では引き続き適切なモデルであると考えていますし、今回、総投資率に利潤率などを見ながら修正を加えていったという点も納得できます。ただ、あくまでもおっしゃるとおり、投影なので、様々なリスク、例えば気候変動リスクとか考えると資本の減耗率とか、大分変わってくるかもしれないといったこと、構造変化なども留意すべきということは、引き続き説明していくことが必要だと思います。
 今回、運用利回りの設定が実績ベースということで、こちらも以前、委員の方々から御指摘あったことですけれども、リスクプレミアムが乗って高くなるという説明、長期的に考えると運用利回りは上がるのだけれども、短期での変動というのはあり得るという説明等は、今回も丁寧に行う必要があると考えます。
 以上です。

○玉木委員
 今回の資料1、資料2とも、検討作業班の作業を手際よくまとめていただきまして、大変ありがとうございます。
 これらにつきまして、2~3、コメントを申し上げると、資料1の7ページから9ページの3ページは、賦課方式の本質をよく表したものになるわけでございますけれども、こういった資料は5年前、10年前にはかなりいろいろ使われていたもので、多くの方の記憶に残っているかと思いますけれども、今後、今回の作業を世の中に説明していくに当たりましては、説明を受ける側の皆さんも世代交代がございますので、折に触れて賦課方式の本質を表す、こういった資料は説明の中に活用していただければよろしいかと思うところでございます。
 8ページ、9ページのさらなる改善につきましては、先ほどの権丈委員の御指摘も踏まえて御判断いただければよろしいかと思います。
 それと、今回、2種類の新しいグラフが大変有効であるかなと思っております。というのが、資料1の14ページ、15ページの労働生産性と実質賃金の推移の国際比較のグラフでございますけれども、これは従来の財政検証等で私はあまり見たことがなかった表現方法でございまして、非常に分かりやすいといいますか、14ページの左上、日本の姿が、これだけグローバル化している世界経済において、何でこんなふうになってしまっているのかという1つの議論のポイントを示すものと思います。
 日本経済がほかの資本主義経済と大体似たようなパスを長期的にはたどるのであれば、何らかここから見いだすものがあるだろうという予感を持たせるところがございますので、こういった資料が出てくることは非常に有益であろうかと思います。
 また、この資料の中で1つ特異なものは、15ページの左下、ノルウェーでございます。ノルウェーはほかの国と違いまして、実質賃金が大きく、しかも2005年ぐらいから急に上振れしてございます。また、13ページの要因分解のグラフを御覧いただきますと、右から2つのノルウェーは、オレンジのGDPデフレーター、マイナスCPI上昇率、非常に大きく起因しているわけでございまして、これは恐らくノルウェーの産業構造の反映かなと思うところもありますので、日本の14ページの左上のグラフにありますような現象といったものを世の中に説明する際には、ノルウェーと比較してお話しをされるというのも1つの手かなと思ったところでございます。
 それから、もう一つ、最後のコメントでございますが、16ページ、17ページにGPIFの運用実績につきまして、ほかの国の類似の諸機関と長期的に比較したグラフがございますけれども、これを拝見しまして非常に得るところが多かったというのが私の感想でございます。
 と申しますのも、日本のGPIFが働きかけている相手というのはグローバルマーケットという点で、ほかの国の類似の機関と同じものでございますし、また、そこで用いられている方法論も大体同じ。しばしば運用を委託しているファンドマネジャーも同じということですので、結果が同じであるのは非常に自然ということではあるのですけれども、それがこういった形で定量的な情報を伴って、分かりやすく、またビジュアルに出ているというのは、何かと分かりにくい積立金の運用に関する国民への説明において大変有益ではないかと思ったところでございますので、今後活用していただきたいと思うところでございます。
 以上です。

○深尾委員長
 ありがとうございます。
 小枝委員の御指摘になったリスクの問題、それから、玉木委員の御指摘になった分かりやすい説明を国際比較も含めて考える問題、今後、さらにここで検討して、最終的な報告で入れていくということでよろしいですか。

○玉木委員
 このペーパーとしては、私はこれでよろしいかと思います。

○深尾委員長
 武田委員、どうぞ。

○武田委員
 まず、検討作業の委員の皆様、本当にありがとうございました。取りまとめいただいた内容、本日の資料について、基本的に賛成でございます。
 その上で、2点でございます。
 1点目は、皆様がおっしゃっていたとおり、今後の説明の留意点としまして、丁寧な説明が必要になると思います。基本的には、作業が進んだ段階で最終的に世の中に出す際に丁寧に説明いただくというのがよろしいかと思いますが、一方で、年金部会で出しますと、質問の段階で、本日のように丁寧に説明したほうがいい場面もあるかと思いますので、最終的には、座長及び事務局の方々の御判断にゆだねたいと思います。
 部会での議論で類似の御指摘等、特に労働力人口の推計は、大本の統計の推計ですので、公開情報に基づいて、年金財政の経済前提を考えていくという点については、しっかりお伝えいただいたほうがよいのではと思います。
 2点目は、本日の資料1でも出ており、先ほど玉木委員からも御指摘いただいた労働生産性と実質賃金の違いについて非常に興味深く、日本の過去数十年間を表している大変よい図表、データと見ておりましたが、その見方についてです。川口先生にお越しいただいてお話を伺った際にも議論になりましたように、労働参加率が、女性もシニアもかなり上限に達しつつあるのではないかという見方がある中で、この点をどう捉えるのかにより、注の点も今後変わっていくかもしれないと思います。資料2の4ページの(4)の注でございます。
 このグラフと注をどのように見て、前提として考えるかという点は、御質問が出るかもしれないと思います。この表記に問題があるというわけではなく、その可能性も十分ありますので、データに即した回答を、年金部会で御説明いただければと思います。
 以上です。

○深尾委員長
 年金部会での報告の際には、できるだけ丁寧に説明したいと思います。ありがとうございます。
 ほかによろしいですか。
 どうぞ。

○権丈委員
 玉木委員の御発言に加えておきますと、資料1の7ページから9ページが賦課方式の本質ということが出てきているところでありまして、この賦課方式の本質、積立方式の本質、家の中で扶養していく方式の本質というのをいろいろ考えていくと、付加価値を高齢期と現役期で分け合うという視点で見ていくと、そんなに変わらなかったという本質ですね。賦課方式はこうだぞという話じゃなくて、よく考えてみると、ルートは違うけどそんなに変わらなかったよという本質という捉え方で理解をしておいていいのと思っております。
 もう一つは、今、武田委員が発言された資料2の4ページの脚注のところ。これから状況が変わる。要するに、女性と高齢者の就業率が高まった今、労働力不足に構造的に転換していくかもしれないというところがあるのですけれども、これはプロジェクションであれ、フォーキャストであれ、構造的な変化というのは事前に組み込むことはできないですね。事後的にダミーを入れたらこうだったという話にはなり得るでしょうけれども、事前にこう変わるかもしれないという大それたことを、経済学というか人類はなかなかできないと思います。
 ですので、構造的な変化が起こる可能性があるけれども、これは年金財政にとって結構有利な方向に変化していくことなので、僕たちは気づいていたけれども注として書いておくにとどめて、試算に組み込むことは控えて、何も気づいていなかったというのはちょっと恥ずかしいものがあるので、気づいていたけれども、慎重にやっていきますよというメッセージとして伝えていくことがあっていいのではないかと思います。基本、構造変化というのはできないですね、事前に折り込んだ形で。こういう試算で組み込んでいったら、たたかれる状況が目に見えているので、その辺は慎重にやっていただくという形でいいのではないかと思っております。どうも。

○深尾委員長
 ほかにはいかがでしょうか。よろしいですか。
 では、いろいろ御議論、御指摘いただきまして、ありがとうございました。主にいただいた御意見、今後の検討の方向、それから年金部会での説明の仕方に関することが中心で、年金部会で報告する資料について、特段の修正の御意見はあまりなかったと私、理解していますが、よろしいですかね。
 では、もしかして微調整がある場合には、できれば座長と事務局に一任していただければと思いますが、原則として、この報告(案)で年金部会に報告させていただきたい、そういう方向で進めたいと思います。よろしいでしょうか。

(首肯する委員あり)

○深尾委員長
 御賛同が得られたようですので、そのように進めさせていただきます。
 それでは、まだ時間がかなり早いのですが、予定した議題は以上なので、本日の審議を終了させていただきたいと思います。
 事務局より何か連絡はありますか。

○佐藤数理課長
 次回以降の日程につきましては、改めて御連絡申し上げたいと思います。よろしくお願いいたします。

○深尾委員長
 ありがとうございました。
 それでは、本日の審議は終了します。御多忙の折、お集まりいただき、ありがとうございました。