薬事・食品衛生審議会薬事分科会血液事業部会令和5年度第1回安全技術調査会議事録

日時

令和5年10月31日(火)16:00~18:00

場所

Web併用形式
日比谷国際ビルコンファレンススクエア8階 8E会議室

出席者

出席委員(10名):五十音順、敬称略 ◎座長
欠席委員:敬称略
国立感染症研究所 次世代生物学的製剤研究センター:敬称略
日本赤十字社:敬称略
事務局:

議題

  1. 1.座長代理の指名について
  2. 2.感染症安全対策体制整備事業について
  3. 3.NATコントロールサーベイ事業について
  4. 4.令和4年度の血液製剤安全性確保の取組
  5. 5.その他

配布資料

資料ページをご参照ください。

議事

議事内容
○鈴木血液対策課長補佐 それでは定刻となりましたので、血液事業部会令和5年度第1回安全技術調査会を開催いたします。本日は、お忙しい中御参集いただき誠にありがとうございます。私は、9月30日に着任いたしました血液対策課課長補佐の鈴木でございます。この度は、御参加いただく方の利便性等の観点から、Web併用での審議とさせていただきます。また、本日の会議は公開で行いますが、カメラ撮りは議事に入るまでとさせていただきます。マスコミ関係者の方々におかれましては、御理解と御協力をお願いいたします。
 はじめに、薬事・食品衛生審議会血液事業部会委員等の改選があり、安全技術調査会委員につきましても改めて分科会長より委員の指名がありましたので、お手元の委員名簿に沿って御紹介申し上げます。朝比奈靖浩委員、天野景裕委員、荒戸照世委員、石井明子委員、大隈和委員、岡崎仁委員、玉井佳子委員、長村登紀子委員、濵口功委員、水上拓郎委員、脇田隆字委員。
 次に本日の委員の出席状況ですが、脇田委員より御欠席との御連絡を頂いております。現時点で、安全技術調査会委員11名中10名に御出席いただいていることを御報告いたします。
 また、本日は参考人として、国立感染症研究所より手塚健太次世代生物学的製剤研究センター第2室主任研究官に御出席いただいております。加えまして、日本赤十字社血液事業本部より佐竹正博血液事業経営会議委員、後藤直子技術部次長に御出席いただいております。
 なお、事務局の異動がありましたので、併せて御報告いたします。血液対策課長、山本圭子が、渡辺の後任として着任しておりますので御紹介いたします。
○山本血液対策課長 よろしくお願いします。
○鈴木血液対策課長補佐 次に、本日は改選後初めての会議ですので、委員の皆様に御留意いただきたい事項につきまして2点御説明いたします。第1に守秘義務の関係です。国家公務員法第100条において、「職員は職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」と規定されております。委員の皆様は非常勤の国家公務員として、この規定の適用を受けますので、職務上知り得た秘密について漏らすことのないようお願い申し上げます。
 第2に薬事に関する企業等との関係です。薬事分科会規程第11条において、「委員、臨時委員又は専門委員は、在任中、薬事に関する企業の役員、職員又は当該企業から定期的に報酬を得る顧問等に就任した場合には辞任しなければならない」と規定されております。審議の忠実性、公平性を確保する観点から規定されておりますので、これらに該当する場合、又は任期中に該当することになった場合は、速やかに事務局に御連絡を頂くようお願い申し上げます。
 なお、ただいま御説明した薬事分科会規程第11条につきまして、全ての委員の皆様より適合している旨を御申告いただいておりますので、御報告させていただきます。委員の皆様におかれましては、会議の開催の都度、書面を御提出いただいており御負担をお掛けしておりますが、引き続き御理解、御協力を賜りますよう、なにとぞよろしくお願い申し上げます。
 議事に入る前に、会場にお越しいただいている委員の皆様におかれましては、本日の資料の御確認をお願いいたします。タブレット上に、マル1議事次第からマル8資料3までのPDFファイルが表示されているか御確認をお願いいたします。ファイルがもしも表示されていない場合や不足がある場合には、お近くの職員にお声掛けください。
 本日はWeb併用での審議のため、対面での進行と一部異なる部分がありますので、審議の進行方法について御説明させていただきます。審議中に御意見、御質問をされたい委員におかれましては、まず挙手等により発言したい旨をお示しいただきますようお願いいたします。その後、座長から順に発言者を御指名いただきます。御発言いただく際は、マイクがミュートになっていないことを御確認の上、御自身のお名前を明示し御発言ください。また、ノイズを減らすため、御発言が終わりましたらマイクをミュートにしていただきますようお願いいたします。
 なお、発言者が多くなり、音声のみでの判別が難しいほど混雑した際は、一度皆様の発言を控えていただき、発言したい委員についてはチャットにその旨のメッセージを記入していただくよう、事務局又は座長からお願いをする場合がございます。その場合には、記入されたメッセージに応じて、座長より発言者を御指名いただきます。Web参加の皆様におかれましては、議事進行中に会場の音声が聞こえづらい状況が続き、審議参加に支障を来すような場合には、チャット等でお知らせいただくようお願い申し上げます。
 間もなく議事に入りますので、カメラ撮影はここまででお願いいたします。それでは以降の進行を、濵口座長にお願いいたします。
○濵口座長 皆様、こんにちは。お忙しい中、御参集いただきましてありがとうございます。ここまでの事務局からの御説明に関しまして御質問、御意見等ございましたらお願いいたします。いかがでしょうか。よろしいですか。それでは議事に入りたいと思います。議題1「座長代理の指名について」です。安全技術調査会の設置要綱第4条第3項に基づき、私が座長代理を指名することとされております。座長代理は、大隈委員にお願いしたいと思います。大隈先生、よろしいでしょうか。
○大隈委員 承知いたしました。
○濵口座長 それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、続く議事に入りたいと思います。議題2「感染症安全対策体制整備事業について」です。まずは事務局より説明をお願いいたします。
○鈴木血液対策課長補佐 感染症安全対策体制整備事業は、新たな病原体が移入した場合などに備えて血液対策課が国立感染症研究所に実施を依頼している事業となります。令和4年度の実績の報告につきまして、水上委員よりお願いいたします。
○水上委員 感染症研究所次世代生物学的製剤研究センターのセンター長の水上です。よろしくお願いいたします。令和4年度の実績報告をいたします。まず、事業の代表者ですが、昨年度は濵口先生がセンター長でしたので、事業代表者は濵口先生になっております。報告は私のほうからさせていただきます。
 1、事業の目的になります。PDFの1ページを御覧ください。輸血用血液製剤を含む血液製剤は、ヒト血液を原料とするために、ウイルス等の病原体混入のリスクが常に存在しておりまして、日本ではHIV、HCV、HBV、梅毒、パルボウイルスB19等に関して、血清学的検査、核酸増幅検査が実施されており、極めて高い安全性が保持されております。しかし、グローバル化が進む現代におきましては、国内ではほとんど発生例のないような感染症、特に、海外での新興・再興感染症が国内に輸入され、問題となることが少なくありません。そこで平成25年(2013年)4月より、新たな病原体が移入した場合に備えて、国立感染症研究所と厚生労働省の血液対策課及び日本赤十字社と協力連携し、感染症安全対策体制整備事業を開始いたしました。
 本事業では、日本の献血血液への混入リスクのある病原体について、高感度の核酸検査法の開発や、標準品・参照品パネルを整備し、将来的な血液の安全対策に資することを目的としております。本事業の概要について、過去の実績等に関しても、今回、是非説明していただきたいという血液対策課からの御依頼がありましたので、図A、表Aということで、PDF5ページに、事業開始前に作成した概要図を添付しております。5ページ、図Aを御覧ください。
 こちらは、感染症安全対策体制整備事業のまとめになります。目的として、血液製剤の安全性に新たな脅威となりうる感染症について献血血液を用いた核酸検査等を行うことにより、我が国の血液製剤の潜在的リスクを評価し、新たな安全対策への迅速な対応を可能にするという目的になっております。対象疾患、病原体としては、1に書いてあるとおりです。新興・再興感染症の病原体や、献血より感染を拡大させるおそれのある病原体。マル2に書いてあるとおり、緊急時の上記の病原体。マル3に書いてある、検査法が未確立等によって診断されておらず、あるいは近年、検査法などが確立したことにより、診断することが可能となり、輸血による感染が危惧されるような病原体ということになっております。具体的な内容としては、蚊やダニなどの節足動物媒介性ウイルスを主に念頭に置きまして、3つの課題を掲げております。
 まず一つ目は,一番下に記載されている通り,精度の高い診断方法・スクリーニング手法の確立ということです。そして2つ目は,左上のカラムにある通り,献血血液を用いたサーベイランス及び臨床血液検体を用いた協力依頼検査への対応があげられ、3番目に、海外の規制当局、行政関係者との情報交換というのが、この事業の課題の3つの柱となっております。
 その下の表A、2013年度以降実施してきた課題リスト等が記載されております。2013年度はセットアップということになりますので、協力体制の構築や、どういった血漿を使って検討するかという検討が行われております。
 2014年度以降は、主な研究カテゴリーとして検出系の開発、検証事業、2020年度以降,参照品制定と、主に3つの課題が出ていることが分かります。例えば、2014年検出系に関しては、デングウイルスの高感度検出系の開発、2015年になりますとチクングニアウイルス、2016年ジカウイルス、2017年はジカウイルスとチクングニアウイルスの高感度のマルチプレックス検出系の開発、2018年は黄熱ウイルス、2019年はチクングニアウイルスとジカウイルスと黄熱ウイルスの高感度マルチプレックス検出系の開発という形になっております。いずれも検証事業として、例えば、2014年に関してはALT高値による検査落ち検体を用いた確認や、輸血後、発熱のあった検体などで検証しております。あるいは、検査落ち検体ということで、以後、2015年以降は、そういったものを主に使っております。
 2020年になりまして、SARS-CoV-2がパンデミックとなったこともありまして、SARS-CoV-2、特にこちらは、重症患者の方の中の血中で核酸が検出されるということからも、検出系の開発、更に,国立国際医療センター(NCGM)と共同で回復期血漿での210検体の解析や、血漿採取時の安全性確認検体ということで69検体の確認を行いました。更に、参照品の制定として、SARS-CoV-2の国内参照品を制定いたしました。
 2021年は更にSARS-CoV-2が、いろいろな変異株が出てきたということもありまして、オミクロンも含め、変異株のパネルを製作しております。2022年、SARS-CoV-2が収束に向かっていると我々は考えており、今後はまた人の流れ等が増えてくるということもありまして、再度、リスクの高いチクングニアやジカウイルスに関して標準品を制定して、製造所管での製造管理に使えるようなものを策定しようと考えています。現在、2023年は、エムポックスが日本でも発生して200名を超える感染者が発生しております。そういったこともありますので、エムポックスの国内標準品を作っているという状況です。ここまでが感染症安全対策体制整備事業の概要の説明です。
 1ページに戻りまして、1の事業の目的の項の下から3行目となります。今、既にお話したとおり、令和4年度は輸入感染症のリスクのあるチクングニアウイルス、ジカウイルスの核酸検査のための国内参照品を整備し、多施設による値付けのための共同測定を行いました。両ウイルスの国際標準品を並行して測定し、相対的に評価することにより、IU/mL単位の値付けを付与いたしました。ということで、これからその内容について説明させていただきます。
 2の実施内容になります。PDF1ページの真ん中当たりです。課題1、チクングニアウイルスの核酸検査のための国内参照品の整備となります。グローバル化が進み、訪日外国人数、出国日本人数が年々増加しておりますが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、人流が一時抑制されていたものの、WHOによるPHEICの宣言終了及び国内においては、感染症法上の分類が5類感染症に移行後に様々な規制が緩和され、急速に人流が回復しているところであり、日本には存在しない病原体が、旅行者や帰国者から持ち込まれる可能性も同時に増えていると考えております。
 チクングニアウイルスは、トガウィルス科アルファウィルス属のRNAウイルスであるチクングニアウイルス(CHIKV)によって引き起こされるウイルス性疾患で、蚊を介してチクングニアウイルスが感染することで発症いたします。2004年以降、チクングニアウイルスの流行は頻繁かつ広範囲に及び、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸の約110か国以上で確認され、未感染の国では、依然として伝播が続いております。媒介する蚊は、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカであり、日本にはヒトスジシマカが生息することから、2014年のデング熱のように、蚊-ヒト-蚊の経路で海外渡航歴のない人への感染の拡大リスクがあります。また、10%から25%が不顕性感染で、潜伏期は30~12日であり、不顕性ウイルス血症があり、発症すると1010コピー/mLと高値となることもありまして、感染者が献血をするリスクを否定できないため、国内のアウトブレイクの際には、献血血液中にウイルスが混入するリスクを想定し、対策を講じておく必要があります。検査センターや血液センターなど多施設で、チクングニアウイルスの核酸検査を実施する場合には、国際標準品と同様に作製され、国内でも利用しやすく核酸量をIU/mL単位で付与された国内参照品があれば、試験法キャリブレーションや性能調査、感度比較が実施可能となります。そこで令和4年度は、チクングニアウイルスの参照品を整備いたしました。
 2ページ目になります。課題2は、引き続き、ジカウイルスになります。こちらも説明させていただきます。ジカウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属の単一血清型のRNAウイルスであり、ウイルス感染を媒介するヒトスジシマカが日本に生息することから、先ほどのチクングニアと同様に、感染が拡大するリスクがあります。1960年~1980年代にかけて、散発的なヒトへの感染が認められましたが、2007年以降、アフリカ、アメリカ、アジア、太洋平地域でのジカウイルスの感染症の発生が拡大しております。
 2016年2月には、WHOはPHEICを宣言し、ジカウイルスを先天奇形の因果関係が報告されております。また、ジカウイルス感染症とギラン・バレー症候群の発症率上昇等の関連も示唆されております。
 ジカウイルス感染症は、ネッタイシマカが生息しているその他の地域でも確認され、また、流行地域からの旅行者にも感染が確認され、ジカウイルス感染症の経路としては、性感染症も確認されております。80%が不顕性感染で、無症候でも1010コピー/mLと高値のウイルス血症となることが分かっております。
 米国でのアウトブレイク時には、FDAのガイドラインに従い、献血ドナーのNAT screeningが実施されております。また、流行地域での試験的NATにおける献血ドナーのプールNATの陽性率は1%程度と高く、輸血での感染事例は報告されているものの、数は少なくなっております。ジカウイルスに関しても、国際標準品と同様に作製された国内参照品の整備が必要であると考え、今年度の対象製剤といたしました。
 続きまして、研究方法及び結果となります。チクングニアウイルスの国内参照品の作製として、チクングニアウイルスは遺伝子型がAsian、East/Central/South Africa(ECSA)、West Africa、Indian Ocean lineagesの4つの型がありますが、日本での海外輸入例の多くはECSAとなっていることから、国立感染症研究所ウイルス1部の保有するECSA型ウイルス3株、SL11131、Mal09-02、DOM14.73の分与を受けて、国際標準品と同様の方法で製造いたしました。酸処理15分、60℃1時間の加熱処理によりウイルスを不活化し、血漿由来のベースマトリックス(市販品)で希釈し400本ずつ参照品を作製いたしました。この図1-1に示すとおり、不活化処理により核酸量に影響がないことはあらかじめ確認されております。6ページ目の所に図1-1がありまして、ウイルスの酸処理前、酸処理後、加熱処理後、限外ろ過膜の処理後の核酸量がcopies/Fractionという形で示されておりまして、3つの株で、特に大きな変化がないということが分かっております。
 続きまして、ジカウイルスについては、アジアとアフリカの2つの亜型がありますが、最も代表的で世界的に用いられているのは、Asian/American型のPRVABC599株ということになっております。こちらは同様にウイルス1部から分与いただきまして、先ほどと同様の方法で400本参照品を作りました。省略しますが、先ほどの6ページの図1-2の所で、こちらも不活化等の処理による核酸の影響がないことを確認しております。
 続きまして、結果となります。値付けのための共同測定の方法になります。日本赤十字社及び国立感染症研究所を含む4施設におきまして、定性法で4施設、定量法で2施設、一部定量法、定性法、両方ともやっていただく所もありますので、このような数になっております。共同測定を実施しました。国立感染症研究所では、感染症研究所の病原体検出マニュアルに従って測定を実施いたしました。1施設は自社製品を使っておりまして、残りの2施設はin-house法によるリアルタイムRT-PCR法により測定しております。チクングニアウイルスの国内参照品3種類と、国際標準品ポールエーリッヒのコードのものを合計4種類。ジカウイルスに関しては、国内参照品1種類と、国際標準品1種類、合計2種類の検体を並行して測定いたしました。
 定性法では、初めに予備試験を実施して、希釈用の血漿マトリックス10-から10-希釈の10倍段階希釈したものを、それぞれ抽出し、リアルタイムRT-PCRで検出されるエンドポイントを定めて、本試験ではそのエンドポイントの両側にハーフロブで2点ずつ、合計5点を更に希釈追加いたしまして、日を変えて3回測定しております。定量法は、定性法測定時に核酸量既知のスタンダードDNAを使っております。また、in-houseのスタンダードDNAを使って定量している所もあります。参加施設はここに書いてあるとおりです。
 結果となります。値付け値の算出ですが、チクングニア、ジカウイルスとも定性法では国内参照品と国際標準品測定時のlog希釈倍率を横軸、logCt値を縦軸にプロットし、平行線定量法により国際標準品を1としたときの相対力価として国内参照品の核酸量を算出しております。こちらがページ7の表1になります。表1の下の段、定性法(Ct)と書いてある所になります。また、定量法に関しては、国内参照品と国際標準品のlog、同様の方法で平行線定量法により国際標準品を1としたときの相対力価の核酸量を示しております。こちらは定量法が上になります。この表の見方ですが、♯1、2、3が先ほどのチクングニアの3つの株になります。1、2と横の施設が書いてあるのが施設名となっております。定量法は2施設、定性法は4施設で測定した結果が記載されております。
 相対力価、それから相対力価のCombinedと書いてある所が平均値になっております。ジカウイルスも同様です。以上の結果をまとめて、定性法と定量法の幾何平均値を値付け値として、3種類の値付け値を設定しました。こちらがページ8の表3、表4となっております。先ほどの定量法、定性法の平均値を示しておりまして、それを幾何平均したものが、Combinedと書いてある所になります。表3、上から3つのものの値付け値が出ております。ジカウイルスに関しても、1つの値付け値が出ております。ここまでが値付け値の値となります。
 続きまして、先ほどの値付け値の算出の所の下から4行目、絶対値に関しては、プロビット法を用いた最尤推定法により、こちらはWHO等で、国際標準品、定性法で使う方法ですが、63%が陽性となるときの希釈倍率を算出し、測定に用いた検体量や抽出容量、PCR反応に用いた容量を考慮した換算係数を考慮して、NAT detectable units/mLとして算出しております。こちらが図2になります。図2はページ6の下の段になります。こちらが絶対評価と先ほどの値付けした相対評価になります。本来であれば、相対評価することによって、ばらつきが抑えられるところではあるのですが、今回は4施設という形で少なかったということと、もともと値がある程度近接していたということで、相対評価の影響がそこまではなかったという形になっております。
 3、考察と課題となります。チクングニアウイルス、ジカウイルスの核酸検査のための国内参照品を整備しました。2014年のデングウイルスの国内発生のように、チクングニアウイルス及びジカウイルスに感染して日本に渡航、又は帰国して蚊に刺された場合は、ヒト-蚊-ヒトのサイクルでアウトブレイクが起こる可能性が否定できません。感染症のアウトブレイクの際には、新型コロナ感染症のときに複数の施設でPCRを実施する可能性があり、アッセイごとに検出できる核酸量は、技術的な大きな差はないと考えられますが、測定キットにより測定に必要な検体量、抽出量、PCR反応に用いる検体量が異なるため、採取検体のウイルス量がどこまで薄くても検出できるかに当たる検出感度は測定施設ごとに異なると考えられます。今回の共同測定におきましても、表3に示すように、63%の確率で検出できる検体の希釈倍率は4施設で、最大100倍程度ありました。しかしながら、こういった標準品を使うことで、施設間差はある程度抑まることが確認されております。こういった抽出効率を考慮した国内参照品を整備しておく有用性が改めて示されたと言えます。
 今回、感染研への依頼によって、次世代生物学的製剤研究センターより参照品を提供できる仕組みを今後は整えていきたいと考えております。参照品の値付けについては以上です。
 当該事業では、海外における血液安全に関する情報の収集ということで、WHO ECBS等の情報、カンファレンス等にも参加して、連携を図っているということになります。
 最後、4ページ、結論です。本事業では、血液を介して感染症及び病原体に関する情報を継続して収集し、日本にリスクのある病原体については必要に応じて国内参照品等を整備し、アウトブレイクに備えた体制整備に貢献したいと考えております。世界規模でのコロナ収束と社会活動の活発化に合わせて、エムポックスをはじめ、その他、新興・再興感感染症の流行が起こっております。引き続き、新たな感染症リスクの早期把握と評価及び対策を実施し、血液を介して感染する新たな病原体等について常に注視・情報収集し、血液安全性確保のために適宜対応していくことが必要であると考えております。令和5年度は先ほどお伝えしたとおり、今日本でも200名を超えているエムポックスについての国内標準品の整備を引き続き実施しております。長くなりまして申し訳ありません。以上となります。
○濵口座長 ありがとうございました。ただいまの説明について、委員の先生方から御意見、御質問がありましたらお願いしたいと思います。いかがですか。それでは、私のほうから水上先生にお聞きしたいのですが、この事業の中で作製された標準品、参照品については、感染研の中でも検討されることにはなると思いますが、この安全技術調査会の中で、ある程度検討がなされたということを報告した上で、感染研の標準品のリストの中に上げていくという流れになるということでよろしいですか。
○水上委員 私たちもそのように考えておりまして、多くの検査機関、あるいは血漿分画メーカー等でも活用していただきたいと思っておりますので、そういう方向性で配付を検討していきたいと考えております。
○濵口座長 ありがとうございます。どなたか御意見はありますか。
○石井委員 御説明ありがとうございました。本日初めて参加させていただいております。2点、教えてください。まず、表5、63%の確率で陽性となる希釈倍率、こちらの赤字は、補正が必要であった箇所とありますが、御説明いただいたかもしれませんが、どのような補正をされたか教えていただけますか。
○水上委員 換算係数と言いまして、実際、これは抽出に用いる検体の容量、あるいは溶質容量、1反応に用いるPCRの容量、最終的なトータル反応量がそれぞれ異なりますので、units/アッセイの所をunits/mLに換算するための換算係数を、それぞれのキット、あるいは試験法に合わせて作製して、そちらを係数として掛けることで最終的な補正をしております。
○石井委員 分かりました。結果に応じてではなく、メソッドから、そもそも補正が必要であったという理解でよろしいですか。
○水上委員 はい、そうなります。
○石井委員 ありがとうございます。もう一点ですが、今回の標準品の安定性の評価、あるいは安定性の確認の御計画はありますか。
○水上委員 一応、私たちも定期的に測定を継続することにしております。現状は、今まで作ったものも含めて、凍結保存しておりますので、安定性が落ちてくるということは、特に現状では確認されておりませんが、継続的に安定性についてはモニターしていきたいと考えております。
○石井委員 ありがとうございました。
○濵口座長 ありがとうございました。ほかはいかがですか。よろしいですか。
○水上委員 私のほうから1点修正です。先ほど読んでいたときに、チクングニアウイルスの不顕性感染が10%と言いましたが、75~80%ぐらいだったと思いますので、すみません、ここは修正させていただきます。
○濵口座長 そこはお願いいたします。ほかにありますか。特にないようでしたら、引き続き、今年度の事業を実施していただき、来年に御報告を頂きたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
○水上委員 ありがとうございます。
○濵口座長 続いて、議題3「NATコントロールサーベイ事業について」に移ります。事務局より説明をお願いします。
○鈴木血液対策課長補佐 NATコントロールサーベイ事業は、NATの精度管理の実情を把握するため血液対策課が国立感染症研究所に実施を依頼している事業です。令和4年度の実績の報告について、手塚参考人よりお願い致します。
○手塚参考人 国立感染症研究所次世代生物学的製剤研究センターの手塚と申します。よろしくお願いします。資料2番になります。まず1ページ目、NATコントロールサーベイ事業の概要とスライドで示してあるものを御説明いたします。本事業の目的・実施内容です。血液製剤の安全性確保のために、メーカー等のNAT実施施設において適切な精度管理が実施されていることを確認するものです。
 引き続き、事業部会運営委員会において、メーカー等のNAT実施施設に対し、定期的にコントロールサーベイを実施することが求められております。また、平成22年に出されたWHOガイドラインによって、献血血液のスクリーニング実施施設においては、外部品質検査の実施が求められているところです。国内のNAT実施施設のそれぞれにおいて、マスキングされた標準の検体を測定することで、各施設におけるNATの感度や精度を相互に比較することが可能になるため、公的な第三者機関である国立感染症研究所で、標準検体を作製しコントロールサーベイを実施することが、本事業の目的と実施内容になっております。
 実施内容を図示したものがございます。1番として、実施計画です。厚生労働省と感染研で対象となるウイルス等を決定し、NATコントロールサーベイへの実施計画を立案します。
 2番目として、実施計画に基づき、コントロールサーベイへの対象となるNAT実施施設にマスキングされた標準品を送付します。
 3番目として、標準品に対し、実際にNATを実施していただきます。
 4番目で、そのNATの結果を感染研に返送いただきまして、感染研にて、その結果を取りまとめ解析させていただきます。
 6番目として、取りまとめた結果を厚生労働省に報告すると共に、各解析対象の施設にフィードバックすることにしております。
 7番目として、感染研からの報告、是正等の措置が必要になった場合には、必要に応じて、通知を発出する等により対処することになっております。
 資料の2枚目です。NATコントロールサーベイ事業の履歴ということでまとめております。本事業は、前身となります厚生労働科学研究費の補助金で実施されてきたという経緯がございます。2006年から、試験的にNATコントロールサーベイの前身となる事業、研究がスタートしております。2006年から2010年までは、この厚労科研で行われてきておりまして、HBV/ HCV/ HIVの主に検出感度に関わるようなコントロールサーベイが実施されてきたものと理解しております。
 その後、2011年から、本事業でありますNATコントロールサーベイ事業に移行しまして、ここから、主にジェノタイプやサブタイプなどの、いわゆるパネル検体を用いたコントロールサーベイが中心となって行われてきております。大きな変化としまして、2013年から14年の間に、血漿分画製剤の原料プールと輸血用血液のNATスクリーニング検査法が新しいマルチプレックス法に更新されております。これに伴いまして、本サーベイの事業も、この新しいマルチプレックス法に対応したものに変更してきているところです。また、後ほど説明を差し上げますが、2014年前後に、国内標準品として整備していたHCVやHIVの国内標準品に、ごく微量なのですが、HBVのDNAが混入していることも、本調査会にて報告させていただいております。
 2015年以降は、マルチプレックス法に対応したNATコントロールサーベイを実施してきております。さらに、2020年に、HEVに対応したマルチプレックス法が輸血用血液製剤のNATスクリーニング法で採用されております。したがいまして、2021年以降には、HEVに対応したコントロールサーベイを実施してきている流れになっております。
 今後の検討課題としましては、輸血用血液のスクリーニング試験で扱われております、PVウイルスB19やHAV、あるいはHEV等のジェノタイピングパネルを用いたサーベイが国内では求められてきていると考えております。以上が、今事業の目的と過去の履歴になります。
 次に資料3ページ目です。昨年度のNATコントロールサーベイランス事業の実績について、報告いたします。まず1番目、事業の目的です。最近のNAT技術の進歩は目覚ましく、我が国においても、2013年から14年の間に、血漿分画製剤の原料プールと輸血用血液のNATスクリーニング試験法が、それぞれ新しいマルチプレックス法に更新されております。それを踏まえまして、2014年の血液製剤のウイルスに対する安全性確保を目的とした核酸増幅検査(NAT)の実施に関するガイドラインの改正が行われました。さらに、輸血用血液スクリーニングへの個別NAT導入に伴う、NATに必要とされる検出限界値の改正も行われてきております。
 以降、2016年度に、新しいマルチプレックス法を用いたHBV NATの検出感度と特異性の実情把握を目的として、WHO HBVジェノタイピング国際参照パネルを用いた第8回のNATコントロールサーベイ。そして、2017年から18年の間に、HIV-1 NATの検出感度と特異性の実情把握を目的として、WHO HIV-1サブタイプ国際参照パネルを用いた第9回のNATコントロールサーベイ。2019年度に、HCV NATの検出感度と特異性の実情把握を目的として、HCVサブタイプパネルを用いた第10回のNATコントロールサーベイ。そして、2020年度に、HEVを加えた新しいマルチプレックス法における、HIV-1 NATの検出感度と特異性の実情把握を目的としたWHO HIV-1 CRF国際参照パネルを用いた第11回のNATコントロールサーベイが実施されてきております。さらに、2021年度は、HBV、HCV、HIVにHEVも加えまして、4つのウイルスパネルを用いて、新しい試験法のウイルスに対する検出感度と特異性の把握を目的とした第12回のNATコントロールサーベイを実施してきております。昨年度ですが、第13回のNATコントロールサーベイでは、血漿分画製剤の原料血漿プールのNATを実施する施設を対象に、HBV、HCV、HIV-1 NATの感度と特異性の把握を目的として、3つのウイルスのパネルを用いたサーベイを実施することにしております。
 まず参加施設ですが、表1を御覧ください。PDFファイルの後半の6ページ目からになります。参加施設としまして、血漿分画製剤の原料血漿プールのNAT実施施設5施設に加えまして、オブザーバー参加として試薬メーカー1施設を加えております。
 そして表2です。パネルの調整の所の御説明をします。材料として、HBV、HCV、HIVの国内標準表を用いて評価用パネルを作製しました。国内標準品の希釈には、陰性血漿、あるいは、3つのウイルスのいずれかが高濃度に含まれる陽性血漿を用いて希釈を行っております。標的ウイルスの低濃度陽性検体として、輸血用血液のNATで必要とされる検出限界値(HBVでは100IU/mL、HCVでは100IU/mL、HIVでは200IU/mL)の1.5倍、あるいは3倍濃度に当たる300IU/mLに検体を希釈調整しました。陰性対照検体も含めた計10検体をブラインド化して、作製したパネルを参加施設に送付しております。
 そして、測定の所です。血漿分画製剤の原料血漿プールNAT実施施設と試薬メーカーは、コバス TaqScreen MPX v2.0、これはロシュ・ダイアグノスティックス社から出されているものですが、これを用いて測定しております。この試験法は、HBV、HCV、HIV-1/-2の3つのウイルスを検出すると同時に、種類を同定するものです。参加施設は、上記の10検体について、それぞれ日を変えて3回測定しております。
 そして結果になります。資料の8ページ目、表3、あるいは次のページの表4になります。血漿分画製剤の原料血漿プールNAT実施施設5施設において、改正後のNATガイドラインに基づいて実施しているNAT試験は、HBV、HCV、及びHIVに関する精度管理が適切に実施されておりました。全施設において、HBV、HCV及びHIVの低濃度(300IU/mL)に希釈された検体及び高濃度のほかのウイルスが混在した検体、10以上のほかのウイルスが混在した検体がありますが、これでも、標的のウイルスが特異的に検出・同定できることが確認されております。陰性対照は全て陰性と判定されております。なお、HIV国内標準品にはごく微量のHBV DNAが混在していることを、既に2014年度の本調査会において報告しておりますが、HBVにはHBVが混在していることが分かっております。したがいまして、HIVの陽性血漿には、陽性血漿を用いて作製した低濃度HCV陽性検体は、HIVとHCVだけでなく、HIVの国内標準品に混入しているHBVも同時に検出され得ることが想定されます。こちらの表3の中では、青で示した所が、BとCとIの全てのウイルスが検出されている検体番号03になっております。
 この検体番号03について、更に詳しく示したのが表4になります。この表4に示したとおり、検体番号03において、測定結果では、全ての施設でHIVとHCVが検出・同定されております。さらに、5施設の合計45回の測定機会がありましたが、このうち5回でHBVも併せて検出されております。この5回の検出機会における各ウイルスのCT値は、ウイルス量の多い順から、HIV-1が28.7~30.6、平均値が30.1になります。HCVは、33~34.2、平均値が33.8。そして最後にHBVが35.7~38.6、平均値が37.9でした。HBVの平均CT値に対するΔCTは、HIVが7.7、HCVは4.0ということになっております。また、試薬メーカーにおけるNATですが、こちらは、HBVの検出が検体03番で見られなく、全て表3に示したとおりの結果となっているところです。
 最後に考察です。2022年度に実施したHBV、HCV、HIVの3ウイルスパネルを用いた第13回NATコントロールサーベイにて、血漿分画製剤の原料血漿プールのNAT試験において、HBV、HCV及びHIVの各ウイルスの陽性検体を検出できたことから、試験の精度管理が適切に実施されていることが確認されました。全施設において、HBV、HCV、HIVの低濃度に希釈された検体及び高濃度のほかのウイルスが混在した検体でも、標的のウイルスが特異的に検出・同定されております。HIV国内標準品にはごく微量のHBV DNAが混入することが確認されております。HIV国内標準品血漿を用いて、HCVを低濃度に希釈した検体、検体番号03ですが、これにおいて、検出されたHCVとHBVの平均CT値の差から、当該検体中のHBVのDNA量は、HCVの16分の1量以下、およそ18.8IU/mLであったことが推定されております。これは、輸血用血液のNATで必要とされる検出限界値100IU/mLを大きく下回っております。全5施設の合計45回の測定機会のうち5回のみでHBVが検出されたということからも、混在するHBV DNA量は試験法の検出感度付近であると考えられます。
 本邦で実施される血漿分画製剤の原料血漿プールのNAT試験では、極めて低濃度、今回は18.8IU/mL以下であると推定されるウイルスを検出可能な高感度な試験法であるということが示唆されました。今後は、国内標準品の更新と整備についても検討を進めていきたいと考えております。
 最後に、2023年度の実施計画です。こちらは表5に示しております。10ページ目になります。輸血用血液のNATスクリーニング試験法が、2020年度の8月より、HEVを加えたマルチプレックス法に更新されたということから、2023年度は、輸血用血液のNAT実施施設を対象に、新しい試験法における、HBV、HCV、HIV及びHEVの4ウイルスNATの検出感度と特異性の実情把握を目的とした第14回NATコントロールサーベイの実施を計画しているところです。発表は以上になります。
○濵口座長 ありがとうございました。ただいまの説明につきまして、委員の先生方から御意見や御質問ございましたらお願いします。いかがでしょうか。
○長村委員 東大医科研の長村です。
○濵口座長 長村先生、お願いします。
○長村委員 聞き漏らしたかもしれないのですが、これは、それぞれのウイルスのCT値の幾つ以下とかが、陽性とかというのを決めていらっしゃるのでしょうか。
○手塚参考人 それぞれの施設で、今回はMPX法ですが、こちらで定められている方法に従って実施していると考えております。このCT値が絶対的な数値でなければならないということではないかと考えております。
○長村委員 ない。これはサイクルは40サイクルですか。
○手塚参考人 それもですね。
○長村委員 ここもばらばらなのですか。
○手塚参考人 各施設の方法に従って変動する部分ではありますが、おおよそ40サイクルから45サイクルであると考えているところです。
○長村委員 ありがとうございます。
○濵口座長 大隈先生、お願いします。
○大隈委員 関西医科大の大隈です。1つ確認させてください。本年度の実施計画ですが、HEVを入れた4ウイルスのNATの検出感度等を調べられるということかと思うのですが、これは、つまり、HEVも含めた国内標準品を作製していくことにつながるということでよろしいでしょうか。
○手塚参考人 HEVの国内標準品は、感染研で2012年に制定したものがありますので、そちらを使った4ウイルスパネルを作成することを考えております。
○大隈委員 では、これから作っていくということですね。
○手塚参考人 そうですね。第一次のHEV国内標準品は既に感染研で整備されておりますので、まずはそちらを使用させていただいて、必要に応じて、また更新の時期等を検討したいと考えているところです。
○大隈委員 分かりました。ありがとうございます。
○濵口座長 ほか、いかがでしょうか。よろしいですか。それでは、引き続き、今年度の事業の実施をお願いしたいと思います。ありがとうございました。
 続いて、議題4に移りたいと思います。「令和4年度の血液製剤安全性確保の取組」に移りたいと思います。日本赤十字社より資料の説明をお願いします。
○日本赤十字社血液事業本部後藤技術部次長 日本赤十字社における2022年のヘモビジランスについて、日赤の後藤より御報告いたします。資料3を御覧ください。
 2枚目、本日は輸血感染症としてウイルス感染症、細菌感染症のほか、今後、導入を予定している細菌スクリーニングについても簡潔に御説明いたします。その後、輸血副作用についてお話いたします。
 3枚目、輸血後に感染が疑われ医療機関から御報告いただいた症例数の推移を病原体別にお示ししました。個別NAT導入後の年間報告受理数は100件以下となって減少傾向が続いており、2022年は合計46例の報告を頂きました。
 4枚目、2022年の病原体別解析結果をお示しします。報告受理数はBが9件、Cが6件、細菌感染疑いが29件、HEV感染疑いが2件の合計46件、輸血後による感染が特定されたのはHBVの1例と細菌感染の4例でした。
 5枚目以降、輸血後のウイルス感染症について御報告いたします。6枚目、輸血による感染が特定された症例について、原因となった血液の採血年ごとの件数を安全対策の導入状況とともにお示ししています。輸血後のHCV、HIV感染については、個別NAT導入後は認められておりません。HBVはプールNAT時代は年に10件ほどの発生がありましたが、2014年に個別NATを導入して以降は、主に遡及調査により受血者の感染が判明した、個別NATを陰性の血液によるHBV感染例が年に1例ほどの割合で発生しています。青で示したHEVについては2020年8月に個別NATを導入以降は感染例は認めておりません。
 7枚目、遡及調査については、遡及調査ガイドラインにもあるように、大きく分けて医療機関発と供血者発の2種類があります。左に示した医療機関発の場合、輸血後の患者にマーカーの陽転が認められたということで報告されます。輸血した血液は過去の献血も含め、相当前のものでない限り、個別NATは陰性ですが、この被疑薬とされた血液が個別NATのウインドウ・ピリオドに採血されたものかどうかは分かりません。したがって、ウインドウ・ピリオドを超えた時期の次回献血、又は事後検査の結果により当該血液がNATウインドウ・ピリオドのものでないことを確認しております。
 右に示した供血者発の遡及調査の場合は、複数回献血者の陽転情報を基に調査を行います。個別NATのウインドウ・ピリオドを基に定めた遡及調査期間の献血血液について受血者の感染状況を調査しています。
 次に、遡及調査により判明したNAT陰性の血液によるHBVの感染事例を御紹介いたします。
 8枚目、この症例は献血者のHBV-NAT陽転に伴う遡及調査により受血者の感染が判明したものです。献血者は30代の男性、2021年8月の献血でHBV-NAT陽性となり、そのときの検査結果は、NAT陽性血清学的検査が陰性でした。14日前にマルチプレックスNAT陽性、同定NAT陰性を挟んで、28日前に今回の原因となった血液の献血がありました。そのときの検査結果は、NAT、血清学的検査が全て陰性で、この血液から血小板製剤を2本製造しました。
 血小板製剤1の受血者は血液疾患の60代の男性で、2021年7月に輸血を受けており、遡及調査により受血者のフォローを実施いたしました。8月、10月、11月の採血では陰性、12月の採血でHBV-DNAが陽性となり、献血者より検出されたウイルスと相同性が一致し、輸血による感染と特定されました。
 血小板製剤2の受血者は下に示したとおり、血液疾患の80代の女性で、2021年7月に輸血を受けており、同じく遡及調査による受血者フォローとして8月、9月の採血で陰性でしたが、その後、他院へ転院しております。転院先にて、12月の採血でHBV-DNAが陽性となり、献血者より検出されたウイルスと相同性が一致しました。患者はその後、原疾患の進行により死亡されております。日赤への報告が、年が明けて2022年に入ってからでしたので、こちらの症例を2022年のものとしてカウントしております。
 9枚目、遡及調査により判明したNAT陰性の血液からのHBV感染事例は、個別NAT導入後2022年までに8例となりました。血小板製剤によるものが7例、血漿製剤によるものが1例で、陽転献血時のウイルス濃度は表の真ん中辺にお示ししたとおりです。近年はHBV-NAT陽転時のウイルス濃度が定量限界未満で、非常に低濃度のウイルスによる感染事例が続いている状況です。感染源となったNAT陰性の献血から陽転献血までの間隔は血小板の場合は14日~31日でしたが、血漿製剤は全血採血由来であり84日でした。HBVのGenotypeはA2が5例、B2が2例、C2が1例でした。
 10枚目、HEVの遡及調査について、昨年もほかの審議会で報告しておりますが、改めて報告いたします。
 11枚目、HEVの遡及調査については2020年8月のHEV-NAT導入以降、複数回献血者で陽転が認められた場合は、陽転から過去6か月以内の献血血液についてHEV-NAT陽性、陰性にかかわらず、受血者の感染状況を調査いたしました。
 12枚目、HEVの遡及調査において、保管検体の調査によりHEV-NATの陽性が確認されたものは真ん中に示したとおり15件ありました。そのうち、医療機関に供給され輸血された赤血球製剤1本、血小板製剤5本の受血者の感染状況を調査いたしました。その結果、下に示したとおりHEV陽性の血液の受血者において、明らかに感染しE型肝炎を発症した方はおりませんでした。FFPと原料血漿については全て供給停止、又は送付停止にできました。
 13枚目、遡及調査の対象でHEV-NAT陰性の血液についての調査の結果です。6,893本について医療機関に情報提供を行い、6,015件の回答を頂きました。抗体の陽転を認めた受血者が報告されましたが、日赤でその検体についてHEV-NATを実施したところ、陰性でした。HEV-NAT陰性の血液の受血者の明らかな感染も認められませんでした。14枚目に輸血後ウイルス感染症のまとめを記載しておりますので、後ほど御覧ください。
 15枚目から輸血後細菌感染症について御報告いたします。16枚目、こちらは血液事業学会や運営委員会でも御報告しましたが、Morganella morganiiの症例です。健康状態等に異常のない40代男性の献血者より採血した血液より、血小板製剤を2本採血翌日に分割製造をしております。1本は採血3日目に供給済みでしたが、悪性腫瘍の70代男性の受血者マル1の方に採血4日目に投与され、アレルギー症状があり輸血中止とし、抗アレルギー薬を投与しましたが、翌日に発熱を認め、血液培養を実施したところMorganella morganiiが検出されました。その後の転帰は、回復したが後遺症ありとの情報です。
 もう1本の血小板も採血3日目に供給済みでしたが、受血者マル2の緊急手術の70代の男性に4日目に投与されました。術中に全量投与され、術後、ICU入室直後より血圧低下を認め、翌日に血液培養を実施したところMorganella morganiiが検出され、その後、残念ながら敗血症性ショックにより死亡されました。
 献血者については上の右に示したとおり、当該献血2週間後に試験用採血と健康状態の確認を行い、健康状態には異常はなかったこと、(血液)培養試験も陰性であり、一過性の菌血症であった可能性が示唆されました。
 17枚目、受血者マル1の方の解析結果です。医療機関にて、セグメントチューブや輸血ルート、患者の血培でMorganella morganiiが検出され、日赤ではバッグ本体の調査を行い、同様にMorganella morganiiが検出されました。この血小板製剤の同時製造の原料血漿からは細菌は検出されませんでした。製剤由来の菌株と患者由来の菌株をパルスフィールドゲル電気泳動法で比較したところ、パターンに差異はなく一致しておりました。
 18枚目、受血者マル2の方の解析結果です。医療機関にてバッグは廃棄されておりましたが、セグメントチューブと患者血液培養よりMorganella morganiiが検出されました。製剤バッグは廃棄済みでしたが、受血者マル1に投与された血小板製剤から検出された菌株と患者由来菌株を比較したところ、パターンに差異はなく一致しました。これらの結果から、いずれも細菌が混入した血小板製剤による細菌感染であったと考えられました。
 19枚目、この2例は非常に重大な事例であったことから、血小板製剤による細菌感染症に関する注意喚起文を日赤の医薬品情報ページに早急に掲載いたしました。
 20枚目、2022年12月の血液事業部会で御報告した後、日赤の情報媒体である輸血情報を作成し、全国の医療機関に配布いたしました。また、2023年2月の血液事業部会終了後に、国のほうから血小板製剤使用時の安全確保措置の周知徹底について通知が発出されております。
 21枚目、黄色ブドウ球菌の感染事例です。健康状態に異常がない50代男性より採血した血液から血小板製剤を2本、採血当日に分割製造いたしました。1本は下の受血者マル2の70代男性の急性骨髄性白血病患者の方に採血3日目に輸血され、副作用症状はなく全量投与されました。その後も臨床症状はなく、血培も陰性でした。もう1本は採血4日目に、上の受血者マル1の70代女性の骨髄異形成症候群の患者に外来で輸血され、こちらは副作用症状があり輸血中止となりました。輸血当日に患者の血液培養を実施したところ、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌が検出されました。献血者については上に示したとおり、当該献血の2週間後に試験用採血と健康状態の確認を行いましたが、健康状態には異常はなかったこと、また、血液培養も陰性であり一過性の菌血症であった可能性が示唆されました。
 右に解析結果をお示ししています。受血者マル1に投与された血小板製剤の残余から黄色ブドウ球菌が検出されましたが、受血者マル2に投与された血小板製剤からは細菌は検出されませんでした。また、同時製造の原料血漿からも細菌は検出されておりません。受血者マル1の方に投与された血小板製剤Aのものから検出された菌株と、受血者マル1の患者から検出された菌株を比較したところ、パターンに差異はなく一致しておりました。
 22枚目、大腸菌の感染症例です。健康状態に異常のない20代男性より採血した血液から血小板製剤を1本製造しました。こちらが50代女性の骨髄異形成症候群の患者に採血4日目に輸血され、悪寒戦慄、発熱、呼吸苦、血圧低下があり輸血は中止されました。輸血当日に患者の血液培養を実施したところ、大腸菌が検出されました。
 献血者については上に示したとおり、当該献血の4週間後に試験採血と健康状態の確認を行い、健康状態に異常はなかったこと、また、(血液)培養試験も陰性であり、一過性の菌血症であった可能性が示唆されました。
 右に解析結果をお示ししています。当該血小板製剤の残余から大腸菌が検出されました。同時製造の原料血漿から細菌は検出されず、当該血小板製剤と医療機関で実施した輸血ルートと患者輸血後の血液培養では、いずれも大腸菌を検出しております。血小板製剤から検出された菌株と患者から検出された菌株を比較したところ、パターンに差異はなく一致しておりました。2022年は4例の細菌感染例となりました。
 次のページから、日本赤十字社では今後、血小板製剤への安全対策として細菌スクリーニングの導入を進めていることについて御説明いたします。24枚目、日本と諸外国の血小板製剤による細菌感染症の発生頻度と安全対策をお示ししました。日本は細菌スクリーニング、BSと記載していますが、これはなしで、有効期間4日で運用しており、血小板製剤の供給100万本あたりの細菌感染症は1.9件ほど発生しております。死亡例は0.16件です。
 一方、細菌スクリーニングを実施した上で有効期間6日~8日で運用していたアメリカやカナダでは、供給100万本あたり8~10件の細菌感染が発生し、死亡例も1、2件発生しておりました。さらに、細菌スクリーニングなしでやっていたフランスやイングランドでは、供給100万本あたり、細菌感染症の発生が10件を超えており、死亡例も3~5件発生している状況でした。
 2011年にイングランドが米国やカナダで実施していた培養法を改良し、右に示したとおり、採血後の待機時間を長くし、好気・嫌気の両方の条件で培養を行う改良細菌スクリーニングを導入したところ、供給100万本あたりの細菌感染症が0.4件、死亡例はなしと、非常に効果があることが分かりました。この結果から、日本でも有効期間を延長して改良スクリーニングを導入したほうが細菌感染リスクを低く抑えられる可能性があると考え、スクリーニング導入の検討を開始いたしました。なお、既に米国とカナダは改良培養法に変更し、フランスは安全対策として病原体の低減化を導入いたしました。
 25枚目、スクリーニング導入後の血小板製剤については製剤規格と有効期間を変更する予定であり、先日、関連学会宛てに御連絡したところです。細菌スクリーニング導入後は放射線照射済み製剤の供給のみとし、1、2単位の血小板の製造販売を停止、また、HLA血小板に5単位製剤を追加する予定としています。有効期間は通常の血小板製剤は採血後4日間~6日間に変更しますが、洗浄血小板については製造後48時間、ただし、採血後4日間を超えないという現在と同様の有効期間とする予定です。
 26枚目、有効期間と血小板輸血の有効性については文献の調査を行いました。次のスライドから調査結果をお示しします。
 27枚目、少しビジーなスライドで申し訳ありません。血小板製剤の保存期間と有効性の関係を輸血後の回収率(Recovery)と生体内寿命(Survival)で評価した報告です。左の表の赤字に示したとおり、採血後2日間と6日間保存した血小板の輸血について、RecoveryとSurvivalはほぼ同等であったと報告されています。また、黄色いマーカーで示した論文においても、6日間の値はほぼ同等であることが示されています。
 さらに、上に赤字で示したとおり、FDAが定める血小板のviabilityの基準はRecoveryがFreshの66%以上、Survivalが58%以上とされており、右の表に示した論文では、採血後6日~9日目までの血小板はFDAの基準を満たすことが報告されております。
 28枚目、有効性の指標として用いられるCCIについては、基準は左に示したとおりですが、保存期間により低下傾向は見られるものの、幹細胞移植や化学療法の患者1,200名以上を対象とした調査をはじめ、ここに示した調査において、6日間保存した血小板輸血のCCIは、諸外国及び日本の指標を満たした結果となっております。これらの文献調査に基づき、有効期間を6日間に延長することと申請いたしました。
 なお、細菌スクリーニング導入後における有効期間の延長に関連して起こる可能性がある事象のデータ収集については、日本輸血細胞治療学会と一緒に検討し、何らかの形で収集する方向で考えております。29枚目に参考文献をお示しいたしました。
 30枚目を御覧ください。細菌スクリーニング導入後の濃厚血小板製剤の運用例をお示ししました。血小板を採血後、40時間以上待機させてからサンプリングし、培養を開始します。6時間培養後に陰性のものを販売施設、つまり各都道府県の血液センターに配送し、培養24時間後に陰性のものを医療機関にお届けする予定です。下に現在の血小板製剤の運用をお示ししましたが、医療機関での持ち時間は、現在とほとんど変わらないようにいたします。
 31枚目を御覧ください。洗浄血小板製剤については、血小板採血後、24時間経過後にサンプリングし、培養を実施。6時間後に陰性のものを各都道府県の血液センターに配送し、24時間後に陰性のものを医療機関にお届けする予定です。こちらは、有効期間に変更はありませんが、細菌スクリーニングの安全対策が追加された形となります。
 32枚目を御覧ください。スケジュールとしては、今年度の終わり近くに承認申請を行い、審査期間を約1年とし、2025年、令和7年の夏以降に供給を開始できるよう、準備を取り進めております。
 33枚目を御覧ください。先日、日本輸血・細胞治療学会をはじめ、関連学会へ、ここまで御説明した細菌スクリーニング導入に伴う変更点等の予定について、情報提供をいたしました。
 34枚目に、輸血後細菌感染症のまとめをお示ししましたので、後ほど御覧いただければと思います。
 36枚目を御覧ください。続いて、輸血の副作用について、まず非溶血性の副作用から御説明いたします。輸血による副作用や感染症が認められ、日赤に報告を頂いた事例は、2022年は非溶血性の副作用が2,514症例、溶血が31症例、感染症疑いが46症例でした。輸血後GVHD疑いはありませんでした。
 37枚目を御覧ください。非溶血性の副作用の内訳は、軽微なアレルギーと重症アレルギーで全体の3分の2以上を占め、発熱やTRALI やTACOを含む呼吸困難、血圧低下、と続いております。右に示してますが、重篤な症例というのは、報告を頂いた中で大体4分の1ぐらい、そして重篤なものは重症アレルギーや、呼吸困難が占めているという状況でした。
 38枚目を御覧ください。製剤別の副作用では、血小板と赤血球による副作用が全体の4割弱と多く、次がFFPでした。下のグラフには、製剤ごとの副作用の内訳をお示ししました。血漿が多い製剤であるFFPとPCについては、圧倒的にアレルギーの割合が高い傾向ですが、一番下の赤血球はアレルギーのほかにも、発熱と呼吸困難の割合が高い傾向でした。
 40枚目を御覧ください。続いて、輸血副作用のうち、肺水腫など重篤な症状を呈する呼吸器の副作用であるTRALIやTACOについてお示しいたします。TRALIとTACOの発生機序を簡単にお示ししました。どちらも胸部画像では、浸潤影が見られることも多くありますが、発生機序は異なります。TRALIは原因の1つとして、製剤中の白血球抗体と患者の白血球が結合することにより、補体が活性化し、肺の毛細血管の透過性が亢進して、血漿が滲出して肺水腫を引き起こすということが知られています。TACOは、輸血に伴い起こる循環負荷のための心不全であり、呼吸困難を伴うものです。
 41枚目を御覧ください。TRALI、TACO共に、従来の国際的な診断基準や報告基準が見直されたことから、日赤のTRALI診断基準及びTACOの評価基準を見直し、左に示した過去の基準を見直し、2021年4月情報入手分の症例から、右にお示しした新たな基準による評価を開始しました。左側が、TRALIとTACOのこれまでの評価基準で右が新しいものですが、新しい評価基準では、一度の評価でTRALIやTACO、その他の呼吸器系の輸血副作用を分類できるように、ロジックを組んでおります。
 42枚目を御覧ください。新たな評価基準では、主にVlaarのTRALI再定義の項目に、TACOの定義で示された左房圧上昇の項目を加えた評価基準としています。これらのどの項目に当てはまるのかを評価し、このマトリクスでTRALIやTACOなどを分類します。この○×表だけではなくて、この胸部画像などのデータと併せて、総合的に評価いただいております。
 43枚目を御覧ください。2022年は137件のTRALI、TACOの評価を実施し、TRALI TypeⅠ、以前のTRALIが6件、TRALI TypeⅡ、以前のpossible TRALIに該当しますが、これが3件、TRALIとTACOが両方とも起きていたか、どちらが起きていたかの区別ができなかったものが3件、そしてTACOが81件、TADつまり輸血関連の呼吸困難が12件、ARDSが4件、その他が16件ありました。詳細な情報の提供や胸部画像への協力が得られず、評価ができなかった事例が12件ありました。
 44枚目を御覧ください。2004年からのTRALI、TACOの評価状況をお示ししました。TRALIについては、ここ数年は、TRALIと評価される事例が年間に10例いかない程度で推移しておりましたが、2022年は、TRALIを含む項目に分類されたものが全部で12例と若干多く評価されておりました。TACOについては、例年と比べ大きな差は認められず、TRALI疑いと報告され、TACOと評価されるものを含め、評価対象となる症例の大半を占めておりました。
 45枚目を御覧ください。TRALIと評価された12例の患者内訳をお示ししています。TRALI TypeⅠは、男性が多く60代以上であり、TRALI TypeⅡは全て男性、TRALI、TACOについても男性が多い傾向でした。
 46枚目を御覧ください。原因製剤の内訳をお示ししています。FFPが3例、血小板が4例、赤血球が2例、複数の製剤の輸血が3例でした。詳細は、右の表にお示ししたとおりで、括弧内の数字は製剤の抗白血球抗体が陽性だった症例です。製剤の白血球抗体は、TRALIの原因の1つではありますが、TRALI評価は発現した症状を基に行うものですので、白血球抗体が陽性というのはTRALI評価の必須条件ではありませんが、白血球抗体陽性となるものが半分あったということですので、日赤では少なくとも血漿製剤については、安全対策を講じております。
 47枚目を御覧ください。白血球抗体は、妊娠や出産が産生のきっかけになるため、血漿製剤は可能な限り、男性献血者の血液から製造する対策を講じております。黒い線で示した400mL献血由来のFFPは全て男性由来となりましたが、女性の献血者がほとんど占める200mL献血由来では、男性由来が2割以下となっております。これは、ほとんどが女性の献血者なので、ソースがないということになります。真ん中の成分採血由来は、7割を男性献血者由来の血漿から製造しております。この対策の導入後、血漿製剤によるTRALI症例は下のグラフに示したとおり減少しました。ただ、男性でも白血球抗体を産生する方がおられること、成分採血のFFPは100%男性由来ではないことから、年に1例程度のTRALIの発生が認められているという状況です。
 48枚目を御覧ください。続いて、TACOと評価された事例について御説明します。TACO症例81例のうち、患者は男性が48例、女性が33例で、年代別分布は多くが60代以上となっておりました。患者の原疾患の分類を右に示しましたが、血液疾患系が一番多く、次いで血液以外の新生物、循環器系の疾患となっておりました。
 49枚目を御覧ください。TACO症例の原因製剤としては、赤血球製剤が54例と最も多く、全体の3分の2を占めていました。その後、FFP、血小板と続きますが、複合製剤の内訳も右の表に示したとおりで、赤血球が使用されている場合が多く認められておりました。
 50枚目を御覧ください。TACOの評価指標となる左房圧上昇の該当項目について、詳細をお示ししました。該当項目は、先ほどのマトリクスにお示ししたとおり、BNPの上昇、体液過剰、心血管系の変化の3項目があり、44%が該当するBNPの上昇については、日赤でもNTpro-BNPを用いています。上昇の度合いを見ると、ほとんどがTACOの基準である基準値を超えた輸血前の1.5倍以上に該当することが分かります。これは副作用を起こした結果、測定したので判明したものであって、これらの患者の年代分布を合わせて考えると、高齢者ではBNPの検査が必要と判断されるものではないものの、潜在的に心不全を起こしやすい状態になっている方が多いのではないかということが推測されました。
 51枚目を御覧ください。TRALIやTACOについては、輸血情報等により情報提供を随時行っております。これらについては、日赤の医薬品情報のホームページにも掲載して、いつでも見られるようになっております。TACO症例が非常に増えておりますので、TACOについての情報提供も今後、また続けていきたいと考えております。
 53枚目を御覧ください。最後に溶血性の副作用についてです。輸血による溶血が疑われると報告された31例のうち、即時性の溶血が12例、そのうち重篤例は9例、非重篤が3例でした。遅発性の溶血は19例で、重篤症例が7例、非重篤が12例でした。医療機関での検査を含め、不規則抗体が検出されたのは、右の表に示してますが、即時性の溶血で6例、遅発性の溶血で12例、計18例であり、例年同様、Rh系やKiddの抗体が多い傾向でした。また昨年は、高頻度抗原に対する抗体の抗AnWj抗体が検出された事例なども報告されました。
 54枚目に輸血副作用についてまとめております。後ほど御覧ください。私からの説明は以上となります。長くなって申し訳ありません。
○濵口座長 御報告ありがとうございました。ただいまの説明について、委員の先生方から御意見や御質問がありましたら、お願いします。岡崎委員、お願いします。
○岡崎委員 TRALIを起こしたFFPを投与された症例のFFPの種類と性別は、お分かりになりますか。
○日本赤十字社血液事業本部後藤技術部次長 FFPの種類は、2022年のものは、男性の全血採血由来のものが原因でした。
○岡崎委員 ありがとうございます。複合製剤のFFP+RBCというのも46ページに1つありますが、こちらはどちらの製剤が陽性だったのでしょうか。
○日本赤十字社血液事業本部後藤技術部次長 2022年でFFPでTRALIとなったものが1例しかないので、FFPで起きたのとFFPと赤血球の症例のどちらのものであったか、今、手元にデータがなくて分からないのですが、そのどちらかが男性由来の血漿製剤であったということになります。
○岡崎委員 分かりました。それから、もう1点よろしいでしょうか。
○濵口座長 はい、お願いします。
○岡崎委員 TACOは100例近くTACOだと言われているのですが、TRALIのときには死亡例の中でどれが死亡例だというのを見ていたと思うのですが、TACOによる死亡例というのは日赤では数は出していないのでしょうか。
○日本赤十字社血液事業本部後藤技術部次長 個別の症例としては、死亡症例は死亡症例としてPMDAには報告しておりますし、社内でも集計はしております。今後は、TACOの症例も多く、また結果的に死亡となる事例というのも何例か出てきておりますので、それについてももう少し詳細に検討を進めたいと考えております。
○岡崎委員 ありがとうございます。もしそれで死亡する症例が多かった場合には、やはり何らかの数を出すだけではなく、イギリスのSHOTなどで出しているような、どういう方が危険であり、どういう製剤をどのように投与したというようなチェックリストを医療機関に提示して、イカタボの予防に努めていただくというような対策も必要ではないかとは感じておりますので、その辺りの御検討をよろしくお願いいたします。
○日本赤十字社血液事業本部後藤技術部次長 承知いたしました。ありがとうございます。
○濵口座長 では日赤のほうも、よろしくお願いします。ほかにはいかがでしょうか。大隈委員、その後荒戸委員、お願いします。
○大隈委員 関西医大の大隈です。2つ質問させていただきます。1つは、輸血後の細菌感染症の原因菌の由来には、皮膚の常在菌でないものも含まれているようなのですが、どういったルートでこれが血液中に入ってきているのかを想定されているのかをお聞きしたいです。
 もう1つは、細菌スクリーニングを導入されるということですが、輸血による細菌感染症の防止という意味では非常に有効かと思いますが、やはり採血されてからの日数がある程度たつものが出てくるかと思うのです。先ほど、有効性等をお示ししていただいたのですが、血小板の止血に関する機能的な評価などを今後予定されているのか、その必要性についてもお教えください。以上です。
○日本赤十字社血液事業本部佐竹血液事業経営会議委員 日赤の佐竹です。1つ目の質問の感染のルートですが、ドナーにおける感染のルートとしては、御存じのように皮膚から入るものと、もともと菌血者にあった場合の2つがあります。最近日赤から発表する例は、腸管由来のものが多い傾向があります。しかも、それがより重篤な経過をたどる場合が多いようです。世界全体としては、3分の2ぐらいは皮膚由来であろうと考えられますが、日本で認められるような、重篤なもので多いのは腸管由来と思われます。腸管由来かどうかを最終的に決定することは難しいのですが、菌種からそのようなことを推察しております。あとは菌種においては、腸管での特殊な病態を予想させるものもありますので、そういうものが見つけられた場合には我々もドナーにそのことを御連絡して、何らかの健康診断等を受けるように勧めている場合があります。例えば、ストレプトコッカス・ボビスなどは腸内の何らかの腫瘍などがあることが推察されることが知られていますので、そのようなことを行っております。ただ、多くの菌血症は機会的な菌血症が多いと思われますので、何らかの持続的な疾患がみんなに当てはまるとは言えないのではないかと思います。そこが難しいところかと思います。
 もう1つの御質問である血小板の有効期限が延びることによる血小板の機能の低下については、先ほどの後藤の話にもありましたように、少なくとも海外でのこれまでのレポートでは、ほとんど機能的差異はない、短い期間のものと差異はない状態が示されております。我々のほうでも、もちろん承認申請のためには、その機能を全部評価したものを提出するわけですが、臨床的にもそれが示されるかどうかは我々も何らかのパラメーターを追っていきたいと考えております。以上です。
○大隈委員 ありがとうございます。1つ目の質問については、そうすると皮膚由来のものが多くて、腸管由来のものも結構見つかるということなので、何かしらの原因でやはり腸管由来のものが皮膚に付いてしまったというか、そういうことも考えられるのでしょうか。
○日本赤十字社血液事業本部佐竹血液事業経営会議委員 腸管由来のものが皮膚に付くということは、余りないかとは思います。世界的には報告はあるのですが、それは赤ちゃんを抱いていて、そのおむつから肘の所に漏れ出たものが付いていて、それが穿刺のときに一緒に入っていったと考えられるというような例は報告はありますが、一般的には余り考えられないのではないかと思います。
○大隈委員 分かりました。1つ目の質問については、今の御説明の内容で理解しました。2つ目の質問については、是非とも日本は日本での評価が必要かと思いますので、日本での評価をしていただいた上で、今後進めていただければと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。
○日本赤十字社血液事業本部佐竹血液事業経営会議委員 ありがとうございます。とても大事なポイントかと思います。
○濵口座長 ありがとうございます。では、次に荒戸委員、お願いします。
○荒戸委員 北大病院の荒戸です。私も、細菌スクリーニング導入に関してお伺いしたいのですが。32枚目のロードマップを拝見しますと、長期保存試験を2回実施しているようなのですが、これは何らかの問題があって再度実施し直しているのでしょうか、その辺りの経緯を教えていただけますか。
○日本赤十字社血液事業本部佐竹血液事業経営会議委員 佐竹です。おっしゃるとおりです。最初の長期保存試験で、テクニカル上で後ほど問題が見つけられたものですから、もう一度行ったということです。それは、分析法バリデーションの実験の組み方について、考え方が少し違っていたということで、やり直しをしたものです。以上です。
○荒戸委員 分かりました。結果自体に問題があるというより、方法の問題ということで理解いたしました。
○日本赤十字社血液事業本部佐竹血液事業経営会議委員 結果そのものには問題ないのですが、統計の取り方や試験の組み方が非常に難しいところで、もう1回やり直したほうがいいだろうということでした。
○濵口座長 ほかにいかがでしょうか。私からの感想ですが、特に前半部のウイルスの対策については、かなり成績がよくなってきていると。近年課題であったB型肝炎についても、目処がついてきたのかなというのを実感しました。是非、今後も更なる精度を上げていくような方向性を考えていただきたいと思います。
 加えて細菌感染については、なかなか保存状態が許さないということもあり、感染自体が近年どんどん減っていくということはなく、むしろウイルスが減ってくる分、細菌のほうが少しクローズアップされているのかと思います。幾つか課題については委員から指摘があった点も踏まえて、十分にこれまで日本赤十字社がやってこられた血小板の安全性と有効性を更に高めていくような方向を目指していただきたいと思っております。よろしくお願いします。
 先生方からのコメントや御質問は、ほかによろしいでしょうか。では、日本赤十字社においては、引き続き血液安全監視の一環として、情報収集を行い、安全対策に取り組んでいただきますようお願いいたします。
 それでは、最後に議題5、その他ですが、事務局から何かありますか。
○鈴木血液対策課長補佐 特にありません。
○濵口座長 ありがとうございました。それでは、本日の議題は以上となります。ほかに何か御意見はありますか。よろしいでしょうか。では、事務局に議事進行を戻します。
○鈴木血液対策課長補佐 濵口座長、ありがとうございました。次回の安全技術調査会の日程は、別途御連絡差し上げます。これにて、血液事業部会令和5年度第1回安全技術調査会を終了いたします。ありがとうございました。
(了)