「社会保障教育の推進に関する検討会(第1回)」議事録

日時

令和5年11月1日(水)18:30~20:30

場所

厚生労働省 政策統括官(総合政策担当)大会議室及びオンライン
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館11階公園側)

出席者

構成員(五十音順)

 

事務局

議題

(1)検討会の開催について
(2)これまでの取組について
(3)委員によるプレゼンテーション
   (杉浦委員、藤村委員、佐々木委員、横山委員)
(4)意見交換
(5)今年度の進め方について
(6)意見交換
(7)その他

議事録

議事内容

〇横山補佐
 定刻になりましたので、ただ今から社会保障教育の推進に関する検討会の第1回を開催いたします。構成員の皆様におかれましては、本日はお忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。冒頭は、横山が司会を務めさせていただきます。よろしくお願いします。
 本日は、オンライン会議システムを併用しての実施とさせていただきました。なお、本会議は議事録の作成のため、録音させていただきますのでご承知おきください。また、動画配信システムのライブ配信により一般公開する形としております。まず開会の挨拶を政策統括官の鹿沼より申し上げます。
 
〇鹿沼統括官
 厚生労働省の鹿沼でございます。本日はお忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございます。
 この検討会では、昨年度の検討会報告書でお示しいただいた改訂案を踏まえ、指導者用マニュアル等の具体的な改訂内容についてご議論いただきたいと考えております。昨年度の検討会にご参加いただいた先生方が多数いらっしゃると思いますが、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 昨今、社会保障についてインターネット等を見ていると、高齢者の方々が非常に良い暮らしをしているのにもかかわらず、なぜ若い自分たちが保険料を払わなければいけないのか、という書き込みが増えている印象です。また、高齢者で所得のある比較的裕福な方々を狙った事件も起きております。
 私ぐらいの世代ですと、自分の親がその親を養うことや仕送りをすることを見てきたので、自分がそういうことをしないですんでいるのは、保険料を世代間みんなで支え合っているためという実感がありますが、最近では段々そういう感覚が薄れてきて、いわゆる医療保険、介護保険、年金保険などは、当たり前の公的サービスであるにもかかわらず、なぜ自分たちは保険料を払わなきゃいけないのかという感覚になってきているのではないかと懸念をしております。
 これから人口減少、少子高齢化が進んでいく中で、社会保障の重要性はますます大切になってきますし、負担と給付の関係も非常に厳しくなってまいりますので、そういう意味でいうと、若い方を含め、国民の皆様のご理解をいただけなければ、本制度は成り立っていかないと思っております。
 昨年の年末に全世代型社会保障構築会議で、報告書を取りまとめました。その報告書の中でも、次世代の主役となるべき中高生をはじめ若い世代が、社会保障の意義や仕組みを理解し、必要な制度を活用できるようになる観点から、社会保障教育の取組を一層推進すると記載させていただきました。また、その議論の中で、社会保障教育に地域共生社会の構築という文脈を加えることで、地域のあらゆる住民が主体的にそれぞれの役割を持ち、支えられる総合的な関係性を持ちながら暮らしていく重要性や、その起点となるべき考え方を示せるのではないか、といったご意見もいただいたところであります。
 社会保障教育の重要性もさることながら、こうした地域共生社会の実現という観点からも、マニュアル等の充実を図る方策についてのご助言をいただければと思っております。
繰り返しになりますが、この社会保障教育は、本当に大切なものと思っております。社会保障教育の推進のために、自由闊達なご議論を、どうぞよろしくお願いいたします。
 
〇横山補佐
 構成員のご紹介については、お時間の都合上、資料1、開催要綱の別紙の構成員名簿で代えさせていただきますが、検討会の座長は小野構成員にお願いしておりますので、ご了承ください。
続いて、事務局を紹介します。政策統括官の鹿沼、審議官の宮崎、政策統括室参事官の安藤、室長補佐の横山、企画調整専門官の山﨑、大島、以上です。なお、鹿沼統括官は業務の都合上、中座いたしますので、ご了承ください。
 それから、この検討会は文部科学省と連携しながら進めていくという形にしたいと思っておりまして、文部科学省には事前の資料や検討会結果について、随時共有する予定ですのでご承知おきください。それでは、この後の議事進行は小野座長にお願いいたします。
 
〇小野座長
 ただいまご紹介いただきました政策研究大学院大学教授の小野です。大学では、社会保障に関しまして、日本の学生や留学生に対して教育を行っております。座長を務めさせていただきますけれども、よろしくお願いいたします。
 それでは、早速本日の議題に入らせていただきます。まず、「議題(1)検討会の開催について」、事務局からご説明をお願いいたします。
 
〇山﨑企画調整専門官
 企画調整専門官の山﨑でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 まず資料の1をご覧ください。「社会保障教育の推進に関する検討会設置要綱(案)」でございます。趣旨と検討事項については統括官よりご説明いただきましたので、構成員の皆様のご紹介とあわせ、配付をもって代えさせていただきます。運営に当たりまして、重要事項を申し上げます。
本検討会は政策統括官が構成員の参集を求めて開催し、原則として公開とするとともに、議事録を作成し、公表することとしております。一方で、公開することにより、個人等の不利益を及ぼすおそれがあるなど、特段の事情がある場合には、座長の判断により非公開とすることができるとしており、会議を非公開とする場合、開催予定とともに、非公開である旨、その理由と議事要旨を公開することとしております。
 次に、資料2をご覧ください。公開の取扱いについてですが、こちらは今申し上げました内容を厚生労働省の指針に則って具体的に定めたものですので、配付をもって代えさせていただきます。
運営については、以上でございます。
 
〇小野座長
 ご説明ありがとうございました。
 ただ今ご説明いただきましたことに関しまして、何か先生方の中からご意見はありますか。
よろしいでしょうか。それでは、今ご説明いただいた方針で検討会を進行させていただきたいと思います。では、次の議題に入ります。
 「議題(2)これまでの取組について」、事務局より説明をお願いしたいと思います。
 
〇山﨑企画調整専門官
 資料の3をご覧ください。表紙をおめくりいただきまして、1ページに、これまでの社会保障教育の歴史をまとめております。平成26年に最初の検討会報告書が取りまとめられています。
この報告書では、「社会保障教育を教える際に重点とすべき学習項目」を「社会保障制度の理念・内容・課題」と整理した上で、それらを理解するための教材を作成いただいております。この報告書の提言に基づいて、厚生労働省でも、学習指導要領の改訂に向けた提言や教科書会社への情報提供、講習の実施等の取組を進めてまいりました。
 おめくりいただきまして、2ページ目に、作成された教材と研修の実績を記載しております。これらの取組を通じて、社会保障教育が一定程度進んだ一方で、課題も指摘されました。例えば、社会保障に割ける時間が非常に短いことや先生がお忙しく資料を読む時間がないこと。作成した教材の分量が多く、難易度が高いこと。さらに、現場では、指導案や具体的な授業実践例についてのニーズがあることです。
 こうしたご意見を踏まえて始まったのが、次の3ページにありますモデル事業の開発です。令和4年度から新科目「公共」の実施が始まることを見据え、全ての学校で、年間2コマ程度、社会保障を扱っていただけるよう、モデル案を開発することになりました。令和2年度から3年度までにかけて、検討会を開催し、モデル授業で伝えたいポイントと目標をまとめていただいております。ポイントは社会保障の意義と支え合いの仕組みを学んでいただくこと、また、目標は、それらを理解いただき、必要な制度を活用できるようになるとともに、社会保障について当事者意識を持っていただくことです。これらを踏まえて、先生方や生徒さんにご協力いただきながら、モデル授業案を開発し、指導者用のマニュアルと映像資料を全国約5,000の高校に配布いたしました。また、先生方の社会保障に対する理解向上を図るため、講義も実施しております。
 次の4ページで検討会について、5ページでモデル授業の開発チームについて、6ページで作成いただいたマニュアルについて、概要をまとめておりますので、あわせてご覧下さい。指導者用マニュアルにおいては、新しい学習指導要領に則って50分授業にそのまま使える指導案と教材、ワークシート、統計資料の読み取り課題、個別の制度に関するコラムが盛り込まれております。またこれらについては、厚生労働省のウェブページからダウンロードできるようになっております。
 その上で、次の7ページに記載があるとおり、昨年度、指導者用マニュアル等の活用状況の把握などを目的として検討会が開催されました。ここでは、高校の先生方へのヒアリングと社会保障教育の海外動向調査を通じて、マニュアル等の課題と改善案についてまとめていただきました。
 次の8ページに、ヒアリング結果をまとめております。高校の先生方のお話から、「公共」の授業で、教科書の説明以外に時間を取れないこと、マニュアル等を十分に認知いただくには、まだまだ現場の実態を踏まえた周知のための取組が必要であることが分かりました。さらに、マニュアル等において改善すべき事項についても、貴重なご助言を多数いただきました。
 おめくりいただき、9ページに海外動向調査の結果をまとめております。ここでは、フランス、ドイツ及びスウェーデンにおける社会保障教育の考え方や目標、内容、考え方の工夫等について、公開情報や関係者へのヒアリングによる調査を行いました。この調査を通じて、3カ国において、教育は自由、連帯等の価値を身に付けるためのもので、その一環として社会保障の意義や生徒との関わりについて教えていることが分かりました。これを踏まえ、これまでの取組における「社会保障制度の理念」等を重点的に教えるという方針は、今後も踏襲すべき考えております。
 次に10ページに昨年度の報告書で整理いただいた3つの課題とそれぞれに応じた11の改善案をまとめ、11ページ以降で、各改善案の実現に向けた進め方の案をお示ししております。案においては、構成員の皆様の取組を参考にさせていただいておりますので、先生方のプレゼンテーションの後に、ご説明させていただければと思います。以上でございます。
 
〇小野座長
 ご説明ありがとうございました。
 進行に関しましては、今事務局からご説明いただいた内容をもとに、先生方からの実践例を聞いていていただいた後に質疑応答の時間を設けます。その後、事務局より今後の進め方についてご説明いただいて、今後の話をしてまいりたいと思います。過去の経緯に関しまして、何かご質問がある方はいらっしゃいますでしょうか。よろしいでしょうか。
 続いて、先生方のプレゼンテーションに移りたいと思います。時間の限りがありますので、お一人10分ということでお願いいたします。4名の先生方にご説明をいただいた後、まとめて質疑に入らせていただきたいと思います。
それでは、杉浦先生からご説明、ご発表をお願いいたします。
 
〇杉浦構成員
 東京都立井草高等学校の杉浦と申します。公民科を担当しております。昨年度、授業は作っておりませんが、検討に携わらせていただきました。その関係で、社会保障教育モデル授業を部分的に実践してみて、生徒の感想を聞いてみましたので、それについて話ができればと考えております。
 高等学校の授業で社会保障が扱われないことは、はっきり言って、ないと思います。公共の中でも、少子高齢社会における社会保障の充実・安定化というような形で取り上げられており、日本においても大きなトピックです。その中で、実際にモデル授業を実施してみてどうだったか、という話をさせていただきます。
 勤務校については、基本的には大学の進学者が多い学校だというところで、お聞きいただければ良いかなと思っております。
 授業では、ワークシートを少しだけ変えてやってみました。ワークシートにはクエスチョンがあったりして、それを埋めていくような形です。「これからの人生で起こるかもしれない困難な出来事にはどのようなものがあるのか」という、リスクについて、生徒は色々と答えるわけですね。それを拾いながら、ちょっとヒントを出せば、失業とか怪我などはすぐに出てきます。
 公民科では、高齢になっていて、働いてはいない状態といったところで、年金保険を取り扱うことが多いと思います。それとともに、社会保険の仕組みと理念について紹介しました。始まりはそんな感じです。
 また、こういったクイズが実際に付いています。「あなたは結婚して子どもがいるとします。もし、事故などによって30代であなたが亡くなった場合、あなたが払った年金保険料は払い損となるのでしょうか」という問に対する答えが、「1.払い損になる」「2.必ずしも払い損にはならない」というクイズなのですが、随所で生徒に答えさせます。生徒にとって、老齢年金のイメージは強いので、その点について理解を深めることができたのは良かったのではないかと思っております。
 他にもクイズがありまして、「今から50年後の物価はどうなっているでしょうか」というものです。少し前だったら、「どんどん下がる」とか「変わらない」という答えが多かったのかもしれませんけれども、昨年実施したこともあり、「上がっていく」と答える生徒がすごく多かったです。「分からない」というのが答えになっていて、「そんな答えがあるの?」という反応もありましたが、物価や経済状況は見通し切れないということを伝えています。
 賦課方式についても、積立式ではないメリットとデメリットを紹介していくような授業ができました。
 最後がワークになります。「少子高齢化社会が公的年金保険に与える影響について、考えてみよう」については、厚生労働省の少子高齢化の現状についてのスライドがございますので、そういったものを活用しつつ考えていけば、多くの生徒が不安と問題を指摘してきます。これは、ある意味では理解できるからこそ、ということかと思います。その上で、「少子高齢化が進む中で、みんなが長生きに伴うリスクに備えるためにはどうすれば良いか考えてみよう」については、「A:みんなで税金や社会保険料を支払う中で支えていくという連帯や公助の考え」と、「B:税金や社会保険料を支払うのではなく、家族間で助け合うべきといった自助の考え」のどちらが良いかアンケートを取ってみたところ、基本的にはAの連帯や公助を支持する答えが多かったという結果でした。サンプル数が限られていますが、一般的な傾向なのかなと思います。実は、授業をやる前にも同じことを聞いております。授業をやったから増えたということではなかったので、元から公助を重視する考えが多い傾向があるということが分かりました。
 生徒の意見ですが、Aについては、「家族だけではどうにもならない問題がある。貯金では対応できない可能性もある。」などがありました。あとは生徒によってですが、「自分たちにとって充実した社会保障になるように選挙に行く」ということや、経済格差や低所得者の問題なども挙がっていたので、考えなければいけないキーワードは理解できていると感じました。
 そういう風に、ある種、社会を変えていくみたいな視点、これは主権者教育ということで、公民科の公共においては非常に重要な視点ということになります。
 一方で、Bの家族や個人が対応するという、いわゆる自助的な発想については、税金をたくさん使っている意識があるのか、政策に対して、「あまりお金がかからない方法」も必要なんじゃないかとう意見がありました。
 ただ、「負担は増えるが給料は増えない現状のため、制度を見直すべき」という意見もあり、これが私は重要じゃないかなと思っています。制度の在り方について、全体を見るような視点は公民科として必要で、教材の使い方によっては、こういった視点を見出すことが十分に可能であると思いました。
 スライドについても、どれが見やすかったかアンケートをお願いしたところ、人がたくさん写っている「社会保険とは?」や、視覚的に理解しやすい「社会保障給付費の推移」が分かりやすいという意見が多かったです。また、時間の都合上、十分に説明できなかったのですが、「賦課方式」についての資料も見やすいという意見がありました。
 授業を受けてみてのアンケートですが、生徒が多少忖度しているところがあるかもしれないですが、「人生には様々なリスクが潜んでいることが分かった」など、全ての項目において、きちんと理解できた、分かりやすかったとの回答が多かったという結果でした。
 授業の最初に、「社会保障って何?」という質問をしたところ、生徒によっては即答できずに、少し考えてから「年金?」としか答えられませんでしたが、授業後の評価からは理解してもらえたのではないかと思っています。
 感想についてですが、「もしもに備えるため」といった、社会保障の理念について理解してもらえたことが分かりました。一方で、心配や疑問もありまして、「将来、年金はどのくらい貰えるのだろうか?」といったことや、少々哲学的ですが「年金から得る幸福は年金による苦労よりも大きいものなのか?」という生徒もおりました。年金は、単純に金額を比較して、多い少ないといった観点で判断する話ではないという説明もありますが、具体的な金額が気になり、深刻に捉えた生徒もおりました。やはり具体的な金額は知りたいし、働く意義を考えた上でも、データに基づいて考えてみるような授業をしていくことが必要になってくるのかなと思いました。
 去年、社会保障教育の授業について新聞の取材を受けました。こちらが記事になります。生徒は、「大人になる前に社会保障を知っておくのは良いこと」だと答えておりました。
 まとめますと、厚労省作成の指導者用マニュアルについては、社会保障の理念について伝える力は十分にあるだろうと思います。ただ、それに加えて、きちんとデータに基づいて、批判的な視点も含め、将来の主権者を育成していくことが大事ではないかなと思います。
 新聞社がせっかく作ってくださったので、どうこう言うつもりはありませんが、このタイトルが気になっていて、「社会保障は「君たち」の問題」となっておりますが、私は、日本全体「みんな」の問題として扱っていかなければならないと感じています。
 今回は、マニュアルに記載している部分をそのまま試してみましたが、教員はカリキュラムを使うだけのカリキュラムユーザーではなく、カリキュラムメーカーです。あるものをそのまま使うのは逆に難しい部分がありました。今後は、上手くカスタマイズしながら使えるような教材とデータを発信していければと思います。以上です。
 
〇小野座長
 どうもありがとうございました。
 続きまして、藤村先生からご発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
 
〇藤村構成員
 高等学校家庭科における社会保障教育の授業実践についてご報告します。
 家庭科は「生涯を見通し、世界に目を向け、多様性を認め、寛容さを身に付け、現在と未来の生活をより良く創造するために必要な知識・技能、思考力や判断力や表現力を身に付けることができる教科」だと生徒たちに説明しています。高校家庭科は、空間軸としては社会・世界、時間軸としては一生涯の視点を持ち、多様な人々が自立し、支え合って、持続可能な社会を構築していくために必要な資質や能力を身に付けることができる教科です。
 家庭科は、主として専門学科において開設される教科「家庭」もありますが、今回は、各学科に共通する教科「家庭」における実践の紹介をいたします。
 家庭科の必履修科目は、家庭基礎と家庭総合です。私の勤務校では、家庭基礎を1年生で履修しています。社会保障教育に関しては、家庭科だけではなく、公民科と連携を取ることで効果的な指導を行うことができると考えています。私の勤務校では、公共は2年生で履修していますので、家庭基礎では、基礎的な内容を扱っています。
 こちらは、家庭基礎の内容です。AからDまでの4つの内容を扱います。
 社会保障に関しては、主に、Aの(5)「共生社会と福祉」とCの(1)「生活における経済の計画」で学習しています。Aの(1)と(4)でも一部学習しています。
 まずAの(1)「生涯の生活設計」では、現在を起点として生涯を見通し、生涯にわたって、学習したことを活かして課題解決できる力を付けていくことを目指しており、学習の導入やAからCまでの内容と関連付け、科目のまとめとして扱う単元です。Aの(4)や(5)と関連付けた内容として、授業では、支え合う社会を創造することができるように、様々な生き方があることを理解したり、生活課題に対応した意思決定について考察したりしています。社会保障に関しては、制度を良く理解することや、相応の負担をする必要があることについて話をしています。
 Cの(1)と関連付けた内容としては、一生涯を見通し、家計を長期的に安定させるために、想定しているライフイベントだけではなく、予想外のライフイベントについても考え、公的な支援や制度を理解し、生活設計と資金計画をセットで考えられるよう説明しています。
 Aの(4)では、「高齢期の生活と福祉」について学習しています。高齢夫婦と若年夫婦の家計支出グラフを比較し、家計において高齢期に向けて想定したり備えたりすることについて考察する授業を行っています。また、ケーススタディーを行い、介護サービスについて理解できるようにしています。
 Aの(5)は、福祉や社会支援について学習し、生活を支える福祉の基本的な理念を学習する単元です。キーワードとして、多様性、社会的包摂、ユニバーサルデザイン、社会貢献、環境共生といった言葉が出てくる単元です。
 社会的な排除は、社会全体の課題でもあるという前提に立って、社会保障について学び、誰もが安心して支え合って生活していく社会の考え方について理解できるようにしています。
 Cの(1)では、経済の管理や計画の重要性について、社会保障制度とも関連付けて考察することとされています。「生活における経済の計画」の学習では、賃金の年齢カーブや30歳未満単身男女の支出内訳、ライフステージ別消費支出の構成のグラフなどの確認をし、様々な働き方を理解したり、生涯を見通した備えについて考察したりする授業を行っています。また、正社員とアルバイトの給与明細を比較し、社会保険料について確認したり、経済的なリスクへの備えとして、公的保険や民間保険について、補償内容や条件などを比較検討したりできるような授業を行っています。
 ここでCの(1)「生活における経済の計画」の1時間分の授業実践についてご紹介します。生活設計や共生社会の学習内容と関連付けながら授業を進めています。自分で選んだり、望んで叶えたりすることができるライフイベントだけではなく、望んでいないけれど経験する可能性があるライフイベント、つまり想定しておく必要があるライフイベントについても確認します。もしものときに、生活を守るものが保障であり、公的保障、企業保障、私的保障の3つの保障手段で備えることができることを説明します。
 公的保障については、共生社会の単元で学習した内容を復習し、年金保険は老後の生活費の保障だけではなく、障がい者と認定された後や遺族になった後にも、生活費を保障してくれる公的保険であることを確認した後で、交通事故によって重度の障害を負ったものの、国民年金の保険料未払いにより、年額約100万円の障害年金を生涯受け取れなくなってしまった方が紹介されているニュース記事を示します。あらゆる「もしも」を想定することは難しいですが、実際にこのような事例もあるということを理解する必要があることを話します。
 次に、生徒にとってよりリアルに想像できる自転車に関係した交通事故について、考えてもらいました。例えば、このような事例の場合、高校生の賠償額はどれくらいなのかを推測してもらい、正解を発表した後、現在の預貯金から支払うことができる人がいるか、質問します。予想どおり、支払えると答えた生徒はいません。もしものときには、公的保障と企業保障で不足する部分を私的保障で補うことについて確認し、私的保障の代表的なものである預貯金と民間保険の特徴を説明します。先ほどの自転車事故の場合の賠償金は約9,000万円でしたが、事故を想定して貯金しておくことは難しいケースが多いので、保険に入って備えている人は多いのではないかと話をしています。自転車保険以外にどのような民間保険があるのか、各自の学習用端末で確認してもらい、社会を形成している人々と支え合う仕組みである、生命保険と損害保険について説明します。
 次に、具体的な事例から、もしもの時への備えについて検討する課題を出します。4人で行うグループワークです。想定しておく必要があるライフイベントを想像しながら、Aさんはどのような備えをしておくとよいのか、思いつく限り書き、優先度の高いライフイベントを検討してもらいます。学習用端末で保険料や補償内容について調べ、調べたことを一緒に作業している人たちに共有します。他のグループが調べた内容も確認し、グループ内で考察します。こちらは1時間の学習のまとめになります。
 家庭基礎では、自分や家庭、地域の生活を主体的に創造しようとする実践的な態度を育成することを目指し、授業を展開しています。今回紹介した授業に関する学習指導案などは、生命保険文化センターのウェブページでも見ることができますので、もしご興味がありましたらご覧ください。家庭科の学習内容は、教科書が一番分かりやすいと思います。機会がありましたら、ぜひ家庭科の教科書をご覧いただけたらと思います。
 最後になりますが、私が以前からお願いしているのは、ポスターや冊子、チラシやDVDを学校に送付する事業を再検討してほしいということです。学校には官庁や民間会社などから多くの資料が届きます。特に家庭科宛てに届く資料は多く、分別や処分に時間を割かれていますし、不要なものだとしても受け取らざるをえないことに負担感があります。ウェブサイトのデザインを工夫し、アクセシビリティに配慮することにコストをかけていただけたらありがたく思います。アクセシビリティに配慮しており、使いやすいと感じているサイトを3つ紹介し、報告を終わりにします。
 
〇小野座長
 藤村先生、どうもありがとうございました。
 次に、佐々木先生からご発言をお願いしたいと思います。佐々木先生どうぞよろしくお願いいたします。
 
〇佐々木構成員
 都立世田谷泉高校で勤務をしております、佐々木と申します。本校はチャレンジスクールという種類の学校で、小学校や中学校になかなか学校に通うことができなかった子たちの学びの支援の学校であります。そのため、社会保障を含めて、初めて経済や政治を勉強する子供たちにいかに分かりやすく伝えていくかが課題となっております。
 私は教員8年目で最近は社会保障教育や、金融教育に注力しております。今日私がお話する流れですが、資料を2つ用意いたしまして、1つ目の資料で公民最新資料に載っている実践報告を端的に紹介させていただいた後、2つ目の資料で、全国公民科・社会科教育研究会において家庭科との連携について発表いたしましたので、お話させていただきます。
 まず「5.授業実践における6つの要点」についてです。社会保障教育については、要点を絞ってコンパクトに伝えることが重要だと考えています。
 今写っておりますのは、厚生労働省が社会保障を教える際に重点とすべき学習項目について整理していただいたもので、これを用いて理念や内容などを教えています。
 (1)でまず、「生徒にとって身近なテーマを導入とする」ということを意識しております。生徒たちは半径1メートルの世界で生きています。そこから視野を広げるのが公民科教員の仕事です。大事なのは、まずは寄り添うこと。そして社会保障教育を扱うに当たり、具体例から入りたくなってしまうのですが、それでは「木を見て森を見ず」で、なかなか全体像が俯瞰できず、かえって学ぶ生徒たちが疲れてしまうという懸念があります。ですので、私は全体像を見渡せる定義を示して、定義の具体例を示すということをしております。
 どういうことかと申しますと、まず「自助・公助・共助」という考え方を紹介して、それから、身近な例として、「定期テストで単位が取れるか取れないかというリスクにどう対応するか」と投げかけ、「自分で勉強するのが自助、友達と教え合うのが共助、先生に助けてもらうのが公助」と説明します。それによって、「自助・公助・共助」という全体のイメージを持ちながら、本題に入っていけるようにしています。
 次をめくっていただくと、「(2)社会保険の説明を重視する」とあります。社会保障の中で一番の中心部分といえば社会保険ですので、医療保険と年金保険に焦点を絞って教えるようにしています。
 次が、「(3)社会保障制度のサービスを受けた経験を語る」ということで、これは声を大にして言いたいのですが、大事なのは、教員自ら制度で恩恵を受けた経験を生徒に伝える、ということです。この部分を丁寧に話すことで、生徒たちも、確かに自分たちにも関係があることだ、と「自分事」として捉えてくれるきっかけになると思います。
 次の「(4)財政と関連付けて扱う」ということですが、優れた社会保障制度の持続可能性に関わってくるのが負担の問題であって、財政赤字により今後どうなっていくのかと、両者を結び付けて行う必要性を感じています。
 (5)については、いざ生徒たちに「今後の制度のあり方」を考えさせるに当たって、1.高福祉・高負担と、2.低福祉・低負担の2択も大変有益ですが、現実に即した考え方として、4択にしております。具体的には、まず1.既存制度の維持か、2.縮小か、その中間の選択肢として、3.年金保険を重視して残す、4.医療保険を重視して残す、の4つの選択肢です。4択にするメリットは、現物給付と現金給付のどちらが望ましいか、リスクの予測可能性に違いがあることなど、制度の特色を踏まえた上で議論ができることだと感じています。資料に生徒が考えた内容を記載しております。ここまで制度について考えてくれて良かったと思います。
 「(6)家庭科との教科間連携」に移りたいと思います。この夏に、全国公民科・社会科教育研究会の全国大会にて、金融経済教育を家庭科とどのように連携していくかという授業実践を報告いたしました。そもそもなぜ家庭科との連携なのかというと、一番の理由は生徒に関心を持ってもらえるためです。公民科や社会科は、マクロ的視点で社会のあるべき姿を考えさせることを求めます。一方で、家庭科は生活者の視点から社会を見ていく科目だと思います。まず家庭科的な視点で入って、そこから社会全体の視点に広げていく。いわゆるミクロからマクロへ展開するということを理想とすると、家庭科の先生方の協力が不可欠と思った次第です。
 連携はなかなか難しい。なぜできないかと言いますと、3つの壁があります。人の壁、時間の壁、分担の壁です。まず人の壁というのは、公民科も家庭科も、基本的には教員が学校に一人しか配置されていないことが少なくありません。連携するといっても相手があってのことなので、両者が同じベクトルで志向しないとなかなか連携は実現できないのです。時間の壁は、時間割や年間スケジュール上の問題です。分担の壁は、具体的にどの内容を、どう分担すれば良いかの判断が難しいということです。人の壁と時間の壁へ対応としては、「無理をしない」ということです。家庭科のカリキュラムを見ますと、生活設計、家計管理、ライフプラン、給与明細について、通常授業で扱われていますので、この部分について公民科の授業の中でゲスト講師として教えていただき、その後に公民科へバトンタッチするリレー方式がやりやすいのではないかと思います。分担の壁に関しては、ミクロとマクロで内容を見極めて分担をしていくということです。
 一昨年の授業では、社会保障人生ゲームをやりました。これは、生徒に会社員か経営者を選ばせて、国民年金と厚生年金では保険料の負担が違うが、年を取った後に給付の差があるということを10年刻みで示して、考えてもらいました。
 他には、給与明細を導入として、社会保障制度の役割について扱いました。まず給与明細の見方を家庭科の先生が生徒に教えました。驚いたことに、社会保険料と税が天引きされることを知らない生徒がほとんどでした。その上で、先ほどの社会保障制度の今後の在り方に関する4択の話をします。その結果、給与明細を見ずに議論していた授業では、今の制度は理想的であって現状維持すべきという生徒がたくさんいたのですが、実際に給与明細を見た後だと、「こんなに負担しないと制度が成り立たないのか」と我に返って、自分事として制度を捉えてもらえた結果、社会保障制度のあり方をより深く考える生徒が増えました。
 最後になりますが、社会保障教育は「生徒のみならず、まず教員自身が自分事として捉えられるかどうか」に成功の鍵があると思います。一般論として、日本の社会保障制度は、世界最高水準の医療を安価に受けられるという優れたサービスであるはずです。しかし、どうしても、持続可能性のところに目が行きがちで、制度自体を否定的に捉えてしまう傾向が少なからずあるのではないでしょうか。原点に立ち返って、我々教員は今の制度の良いところを伝えるという意識をしっかり持つことが重要ではないかなと思います。以上になります。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。
 それではお待たせいたしましたが、横山先生からご発表をお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 
〇横山構成員
 よろしくお願いいたします。私は、教育実践をやっている立場ではありませんが、社会福祉士として、日頃から制度の利用をサポートする立場から、昨年、「15歳からの社会保障」という書籍を出させていただきましたので、こちらの刊行の背景や内容や工夫した点について、参考までにお話をさせていただきます。今日のお話は、制度を知っていただく機会を作るということを前提としておりますので、よろしくお願いいたします。
 自己紹介は割愛させていただきますが、先ほど申し上げましたとおり、現場で社会福祉士として制度利用をサポートさせていただいている中で、社会保障制度を知る機会が乏しい現状があり、制度を知らないことによって利用できていない人がいるという問題意識を持ちまして、書籍の刊行に至りました。
 制度はあっても、様々な障壁により制度の利用に至らない方に、相談支援や福祉の現場で多く出会ってきておりますので、その障壁をどうにかしたいという思いながら、日頃、社会福祉士として働いております。社会保障制度の利用しやすさを改善する上で、様々な政策を講じる可能性はあるとはと思うのですが、制度の種類や内容を知る機会が乏しいという現状に対して、福祉現場から何かできることはないかということで刊行させていただいたのが、この書籍です。
 人生の早期のタイミングで、医療や介護や年金という大きな制度体系以外にも、様々なライフイベントやアクシデントに応じた細かな制度があるんだ、助けてもらえることがあるんだということ知って、ぼんやりとでも、今後の人生で思い出していただけるようなきっかけが作りたいと考えました。短編10本で構成し、架空の人物が登場して、その人たちに起こる様々な出来事、貧困の問題や家族の介護、若年の妊娠、突然の事故で障害を負ってしまうといったイベントを通して、利用できる制度を紹介していくといった内容になっております。
 物語を採用したと理由と構成の方法ということで、先ほどご講演いただいた先生方の様々な工夫がとても素晴らしいと思いながらお話を聞いていたのですが、社会保障制度というと固いテーマになりますので、それを読み切っていただくために物語を採用したということになります。
 書籍自体が制度を知るきっかけの1つとなることを目的としておりますので、(1)から(5)までに書かせていただいたような流れとなっております。
 社会保障制度は、200、細かいものを含めると300くらいあるのですが、この書籍では、そのうち50くらいの制度を紹介しておりまして、登場する架空の人物にどんな困りごとが起きるかというケーススタディーの形で物語を構成しております。
 各エピソードの登場人物は、何かしらの困りごとに直面して、そこから教師や社会福祉系の人から制度の情報提供を受けて、利用に至るという流れになっております。
 僭越ながら細かな工夫としまして、3点ほど挙げさせていただいております。
 本書では、10人の主人公が登場しますが、その主人公を弱き人として描かないことを徹底しました。よく言われる社会保障制度の利用によるスティグマですが、物語を通して制度の知識を知っていただくことと引き換えに、やはりこういう制度は社会的に弱い人が使うんだよねという印象を残してしまっては、この書籍を出した意味がなくなってしまいますので、そこは留意いたしました。
 あと細かな点としましては、各エピソードの終わりに登場人物が利用した制度の概要を付けております。よく自治体の制度文章は自治体が主語として描かれていますが、本書では制度を利用する側の方を主語にしました。制度窓口の探し方についても、インターネットで検索される際のキーワードを例示しております。
 出版後の反響と今後の展開につきまして、読んでいただいた方からどの様な声があったかということですが、中高生からも積極的に声をいただく事がありました。例えば、「生存権という言葉が具体的にどういったことを意味しているのか分かった気がした。」ですとか、多かったものとして、「生活保護という制度の名前は知っていたけど、基準となる最低生活費というものがあることは知らなかった。働けない人が利用するものだと思っていたけど、自分の世帯の最低生活費を計算して、どれくらいの金額なのかは知らなかった。」という声をいただきました。
 社会保障制度を知る機会を作ることに焦点を当てすぎているかもしれませんが、今後の展開としては、学校教育において、こういう困りごとがあった時にこういう制度がある、ということを知ってもらうための取組を、支援者の立場として、東京都の先生方と共同して行っていきたいと考えております。準備中ですが、都立高校の現場でそういったことをお話しできる機会をいただけるよう検討してもらっているところです。
 本日は書籍を出させていただいた内容や背景、内容に関する工夫についてお話をさせていただきました。私からは以上になります。ありがとうございました。
 
〇小野座長
 横山先生、ありがとうございました。
 
〇小野座長
 続きまして、意見交換に移りたいと思います。ご発表いただきました4人の先生方に、ご質問やご意見があればお願いいたします。
 まず猪熊先生、梶ヶ谷先生、玉木先生からコメントをいただきまして、その後、意見交換に移りたいと思います。まず猪熊先生からよろしくお願いいたします。
 
〇猪熊構成員
 はい。猪熊です。よろしくお願いいたします。
 4人の先生方のプレゼンテーションを大変興味深く、拝聴させていただきました。
 まず、杉浦先生の社会保障教育の授業実践ですが、生徒の意見や感想がとても面白くて、考え方は違っても、若い世代がこうした声を出すことはとても重要だと思いました。
 1つ質問ですが、生徒さんの感想・意見はどのようにして聞かれたのでしょうか。意見の中でAとかBとか、それぞれ異なる見方がありますが、ここからさらに議論をして発展させる授業も行われたのかどうかについて教えていただければと思います。
 
〇杉浦構成員
 授業後に、ウェブサイトから入力できるフォームを使って質問をして、それに答えてもらったものを発表させていただきました。
 だからAとかBというのは、あなたはAを選びましたか、Bを選びましたか、というのを聞いて選択してもらい、区別したということです。生徒の意見を基に、さらに考えてみようという授業までは、できませんでした。
 
〇猪熊構成員
 はい。ありがとうございます。
 非常に面白いですね。時間的に大変だとは思いますが、そこからまた時間を使って議論をしてもらえると、さらによろしいのかなと思いました。
 藤村先生のご発表の中で、「家庭科とは」というご説明がありました。私の年代ですと、家庭科は生活のこと、せいぜい消費分野も学ぶというイメージが強かったので、時代とともに家庭科で教えられる内容が随分変わってきていていることを実感しました。また、社会保障について、家庭科で教えられる部分は非常に多いと感じました。
 佐々木先生の実践事例について、社会保障人生ゲームのところで、民間保険に入った方が良いとありましたが、これはどういう経緯で民間保険の方が良いという話になったのでしょうか?
 
〇佐々木構成員
 はい。この人生ゲームは、生命保険文化センターの報告もあって、それにあわせて実施しました。民間保険と社会保険を両方知ろうという趣旨です。
 一応、ファイナンシャルプランナーの方に金額として適正かどうか、確認していただきましたが、このゲームは民間保険の準備をしてない方が、金額的には損が大きく出るようなからくりになっております。授業は成立させたのですが、民間保険に入らずとも安心に暮らせるというのは多分にしてありますので、見せ方については、今後ブラッシュアップが必要と感じています。
 
〇猪熊構成員
 民間保険ももちろん大事ではあります。社会保障教育の中では、公的保険と民間保険の関係性を知ることは結構重要なことだと思うので、そういう意味で気になったところでした。それと、佐々木先生が、公共の授業内容で存在する弱みを補完するのが家庭科であると、金融教育のところで仰っていましたが、これは社会保障教育分野でも同じことが言えると思います。
 社会保障について、最初に理念や意義を分かってもらうことは非常に重要ですが、ミクロからマクロの視点に広げていくことも大事で、その意味では、横山先生がお書きになられた書籍のようなツールは有効かと思います。以前、スウェーデンの中学生向け社会科の教科書を読んだ時、生徒の生活実感が出ていて、こういう書籍は非常に良いなと思ったのですが、同じように、ミクロからマクロを考えさせるようなツールを実際に増やしていくことが、これからますます必要になってくると感じます。
 4人の先生方のプレゼンテーションを聞いて全体として思ったことは、社会保障教育は公共でも、家庭科でも、政治・経済でも、保健・体育でも登場します。もし公共で教える時間が十分取れないということであれば、ほかのあらゆる教科で取り上げてもらうことが重要だと改めて感じました。本日のご発表を伺っていても、宝の山と言いますか、すでに実践されている良い事例があるので、それらを活かして、さらに広げていくことできればと考えます。
 もう1つ。教科間で連携をして、色々な場面で社会保障を取り上げていく際に、どのように教えていくかという課題があります。
 最近、医療の取材をする機会が多いのでちょっとたとえると、高齢者は複数の病気を患っているために、臓器別の専門医からそれぞれ治療を受けるわけですが、患者の立場からすると、まず患者が中心となって、さまざまな医療に繋がっていくことが望ましい。これを社会保障に鑑みると、1人の生徒がこれから100歳まで生きる世の中で、社会保障のどんな知識が必要か、どんな教材が必要かということを、各教科が個別に考えるというよりは、まず社会保障を学ぶ1人の生徒が中心に据えられて、その上で、教科ごとに何を教えるか、それぞれの得意分野を活かして、教える内容を考えられたら良いなと思いました。
 ただし、教科間でどのように連携したり、効率的に教えたりするかは、それでなくても忙しい現場の先生方にとって、非常に難しい課題だと推察します。ではどうするか。
 1つは、佐々木先生からご報告があったように、先生方自身が社会保障は大事だと実感して、できれば校長先生などにもそう感じてもらって、各教科で連携して教えていく方向にもっていく。もう1つは、各教科で重複しても良いので、社会保障に触れてもらう時間を増やしていく。   
 さらに言えば、上から攻めるといいますか、昨年の政府の全世代型社会保障構築会議の報告書に社会保障教育の推進が入ったように、政府が、政府全体として社会保障教育は大事だからやらなければいけないということを示すことも大切なことだと思っています。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。
 今のご発言について、4人の先生方の中からリプライをされたい先生もいらっしゃるかと思いますので、リプライをされていなかった藤村先生と横山先生に伺った後、残りの2人の先生に伺いたいと思います。
 まずオンラインでご参加の藤村先生、猪熊先生のご発言にご意見等はございますか。
 
〇藤村構成員
 はい。家庭科は約30年前は女子のみ履修の4単位で、調理実習や被服実習に多くの時間をかけていました。その当時の家庭科と今の家庭科では学習内容が大きく異なることから、家庭科の学習内容の紹介をさせていただきました。社会保障については年間通して学んでいます。
 私の勤務校は1学年8クラスあるので、家庭科と公民科の教員の授業を合わせることは難しいのですが、例えば1年生の家庭基礎で教えたことを2年生の公共担当の先生に伝えることで、公共の先生から「去年、家庭科でこういう話聞いたでしょう?」と生徒に問いかけながら授業を進めることはできます。そのため、何をどのように教えているのかということについては、色々なところで伝えています。
 公民以外の他の教科との関係も同様です。例えば、1年生の家庭基礎で食生活を学び、2年生の保健で食事と健康について学ぶので、学習内容について保健の先生とお話します。家庭科は色々な教科と関わっています。
 猪熊先生が仰ってくださったように、社会保障については、重複しても良いから色々なところで教えることができれば良いなと思っています。以上です。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。
 それでは、横山先生お願いします。
 
〇横山構成員
 はい。
 私は教育現場で教える立場ではないのですが、藤村委員が言及されたような、複数の教科で分散して教える機会があるというのは、とても良いことだと思います。社会保障制度は、細かく分けて数百とあるので、1つの授業の限られた時間の中で伝えていくというのは、なかなか難しいこととは思いますが、様々な教科で接点を持って学んでいく機会が増えていくということは、非常に有効ではないかと思いながら、お話を聞かせていただきました。以上です。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。
 それでは、佐々木先生、いかがでしょうか。
 
〇佐々木構成員
 猪熊先生が仰っていたように、教科ごとに専門性で切り分けていくことは非常に重要です。私の発表資料の金融教育のところにも書いたのですが、公民科の教員に家庭基礎の教科書を見てもらうと、公民科の内容に近いものが含まれていることに気づかれると思います。そう考えると公民科の教員1人でも家庭科的視点から公民の学習内容に持っていくことは十分に可能ですので、自助努力ではないですが、ある程度フォローできると思います。
 社会保障制度は、損得という面よりも、みんなで支え合って安心を作り上げていくことが最大の目的だと思います。先ほど学校全体でという話がありましたが、そういう理念を共有した上で、社会保障制度に対して前向きな教育を学校教育全体でできれば良いなとお話を伺っていて感じました。
 
〇小野座長
 それでは次に、梶ヶ谷先生、どうぞよろしくお願いいたします。
 
〇梶ヶ谷構成員
 はい。お願いします。
 今日、参議院の予算委員会で首相が答弁をされていまして、子ども・子育て拠出金の関係だと思いますが、その時に、社会保障制度についてもっと若い人に参加してほしいという趣旨のメッセージを発していて、感動しました。
 先生方が発表された内容とほぼ同じことですが、生徒はもちろんですが、教員が、もう少し社会保障に興味や関心を持つべきだと思います。専門的な知識はともかく、自分の家族や周りで体験したことを、例えば、授業以外のホームルームや集会などで、少しでも話をする機会が増えれば良いと思います。
 そういうことで、1つは、中学生、高校生、大学生に対する教育ももちろん重要ですが、教員の知識向上と、社会保障に対する意識を少し向けていただければ良いのかなと思います。それと、藤村先生がお話しされたように、新しい学習指導要領の関係かもしれませんが、この数年で家庭科と公民科の社会保障に関する内容が充実してきました。
 また、先生が言われたように、できれば、公民科の先生に家庭科の教科書を見ていただきたいと思います。こんなことを家庭科でやっているのかと、きっとびっくりするでしょう。
 つまり、今までの公民科の先生には、あまりなかった発想や内容、情報を、家庭科の方が先行的にやっています。今までの学習指導要領の内容では、公民科の社会保障は財政と関連付けるという視点が大きかったのだと思います。例えば歳出の総額の中で、社会保障はどれくらいかということです。一方で、パーソナルファイナンス的な内容、あるいは投資や金融といった観点で社会保障を論じることは、今までの学習指導要領ではなかったし、公民科の教科書でも触れていませんでした。
 新しい学習指導要領では、その点が結構充実してきました。今後、公民科の先生と家庭科の先生が、うまくそのあたりを連携できると、より一層興味深い授業が展開されるし、仮に家庭科と公民科で学習内容や学習項目が重複しても構わないので、授業を実践することが重要だと思います。
 最近では、各県で家庭科と公民科の先生が連携した研究会が行われるようなことも見受けられましたので、期待したいと思います。コメントは以上です。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。
 ご発表いただいた4人の先生の中で、梶谷先生のご発言に対してコメントをされたい先生はいらっしゃいますでしょうか。
 それでは、佐々木先生お願いします。
 
〇佐々木構成員
 梶ヶ谷先生が仰っていた教員の知識向上については、厚生労働省の「社会保障を教える際に重点とすべき学習項目」という資料について、令和4年度の東京都研修センターに厚生労働省の方がいらっしゃった時の研修で初めて知りました。教員への啓蒙として、そういう研修は重要だと思いました。
 あと、公共の中で資産形成を扱うようになりましたし、家庭科でもあるべき社会保障制度を考えましょうという分野があったりするので、教科連携の敷居は低くなりつつあると思います。
 これも梶ヶ谷先生が仰っていましたが、リスクというのは生徒と教員の共通の話題にもなりますので、色々なところで話題にしていくことで身近なものになるのかなと感じました。以上です。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。
 藤村先生、ご発言よろしいでしょうか。
 
〇藤村構成員
 ありがとうございます。家庭科の教員も公共の学習内容を理解すべきだと思います。私の勤務校では1年生で家庭基礎、2年生で公共を学んでいますが、近隣の学校では、公共は1年生、家庭基礎は2年生で学ぶ学校もありますし、どちらも1年生で学んでいる学校もあります。学校や生徒の実態に応じてやり方が変わると思いますので、リレーのようにバトンを繋いだり、一緒にバトンを持ったりするイメージを持ちながら、連携して指導するうえで参考になる教員向けの研修や資料があると良いなと思います。ありがとうございます。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。
 ではお待たせいたしました。玉木先生、ご発言をお願いいたします。
 
〇玉木構成員
 はい。
 先生方の教育実践のご報告を伺いまして、大変感銘を受け、心強く感じました。
井草高校の資料を拝見して、主権者教育になっているところがすごいなと思いました。主権者教育にならないと、「どうせ勉強しても無駄だよ」と言って生徒が離れようとする傾向がありますが、主権者教育という切り口があると、自分ごとになりますので、それが大変嬉しく思いました。
 あと、生徒が理解しやすかったスライド2枚目の、社会保障給付費がどんどん増えていく有名な資料ですが、この資料からは恐怖感やコントロール不能な事態が起きているという印象が与えられるかもしれません。確かに昭和の初期から見ればそう思うかもしれませんが、生徒が生まれた頃からの20年間で見れば、全く違う印象になります。
 おそらく財政と関連付けて教える方々の頭の中には、国家財政が国民生活の重荷、負担になるという発想があるのだろうと思いますが、一方で、社会保障給付がこれだけあるということなので、個人の生活においてどれほどストレスが軽減されて安定しているのかは計り知れないものがあります。よって、負担が大きいとばかり言及するのは、どうかと思います。
 財政と関連付けるということですが、これは財政赤字と関連付けるべきなのか、それとも消費税と結び付けるのかは考えどころです。生徒たちはお金が大好きなので、関心があります。自分で払っている消費税については、皆知っています。消費税は、年金、医療、介護、子育ての4分野の特定財源ですので、それを教えることで、日々の買い物で支払っている消費税と社会保障が結び付いたという満足感を与えやすいと思いました。
 もう1つ、藤村先生の家庭科の授業ですが、これは教育ニーズが非常に高いところに対して、ど真ん中にストレートを投げ込んでいるようで、大変心強く思いました。
 私は短大の教員ですので、18歳の女性が入学してきますが、少しでも自立した社会人として教養を持たせるためには、どうしても彼女らの関心のタイムホライズンを先に延ばす必要があります。80歳や100歳まで生きるのだったら、あと60年働くことになるというところから話をするのですが、このようにライフプランニング全体として教えないと、年金について単体で教えても、半径1メートルどころか半径1万キロメートル先のことなので、話が全く耳に入りません。
 一方で20歳になったら、給料をもらって独り立ちするという意識はあるので、そこで20歳から保険料を払い始めるということと結び付けていくと、自分事に少し近づいていくのではないかと思います。
 家庭科は、大学受験とあまり関係がなく、色々な意味で自由に教えやすい教科と想像していますが、そういうところで、家計が長期的に安定するようにという視点を持って、社会保障を教えてくださっていることは、広く、非常にポジティブに捉えられてほしいと思います。
 佐々木先生のご発表資料の8枚目、上から3行目に金融経済教育推進機構の設置について言及されています。この機構の設置に係る法案は、現在審議中と思いますが、機構には取締役会のような決定機関である運営委員会が置かれ、メンバーである運営委員の要件として、金融経済及び年金に関する専門的な知見が求められています。
 この金融経済教育推進機構というのは、投資信託を教えるのではなく、ライフプラン全体を教えるところに位置付けられるということになります。そうでなければ、法律で年金の専門知識を求めるわけがありません。この金融経済教育推進機構は、藤村先生のように家庭科を教えるという面も多く出てきますので、本日ご参加されている先生方にとって、使い勝手の良い公的組織になる可能性があります。
 あと、杉浦先生のご発表で、お金の管理は国に任せると危ないから自分でした方が良いという生徒の意見があったと思います。そういう発想があって当然だと思いますが、そもそも社会保障は国がやっているものですし、民主主義国家の中でこれほど利害関係者が多い制度はないと思います。ただ、これがもし潰れてしまうとすれば、それは国全体が壊れてしまうような状態であるはずで、預金も保険も何もかもが毀損してしまうような、金融システム全体の大混乱が起きているはずです。社会保険がだめになる時は、銀行も保険会社も証券会社も全てだめになるときです。よって、自分でお金を管理した方が良い人というのは、少なくとも100人中97人から98人には当てはまりません。
 私は、教員になる前は、日本銀行に勤めておりましたので、いかに金融なるものが不安定であるか、長期的には非常に危なっかしいものであるか、ということを強く感じてきております。金融は、国や中央銀行の総力でやっと支えている状態なのです。
 先般、金融庁が保険会社に対する監督指針を改正しました。民間の保険会社が顧客に医療保険や年金保険のセールスをする際には、公的保険の説明をしないと自社商品の話をしてはいけないというものです。そのくらい、公的保険すなわち社会保険の位置付けは上がっているということです。このことからも、先生方には「公的保険は良いものだ」と自信を持って生徒たちに紹介してほしいと思います。
 佐々木先生が日本の医療の素晴らしさ、レベルの高さをお話されていましたが、私も学生には、わが国の健康保険証は、世界的にみたらスーパープラチナカードであると説明しています。我が国の社会保険制度にプライドを持たせると言いますか、自慢に思わせるというのも、自分事として捉えさせる1つのポイントではないかと思います。
 また、横山先生の書籍の目次に10個のストーリーが書かれていますが、ここに記載されているぐらいのことは、日常で起こり得ることだと思います。100人の生徒がいたとしたら、このストーリーのうち3つくらいは誰かしら遭遇していそうですよね。生徒たちは、世の中は地雷原であることはよく分かっているかもしれません。しかし、この国には色々な制度があるので、誰かにナビゲートさえしてもらえれば絶望する必要はないという仕組みになっていることも知ってほしいです。数年後には、自分の状況を書き込んだらAIが近くの役所の何階の何番に行けば良いと答えてくれるような世の中になっていることを希望しますが、この国は、困っている人を助けるキャパシティが結構高いということを、発信していくべきではないかと思います。
 自分にとってメリットのある制度が周りにあるという感覚を持たなかったら、自分事として捉えようとしないはずです。自分にとって意味のないことを学べというのは無理ですが、自分にとってプラスの意味があることを、ふわっとした感覚で良いので持たせることができれば、半径1メートル以内に色々なことが入ってくるのではないかと思いました。以上です。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。
 今の玉木先生のご発言に対して、ご発表いただいた4人の先生からリプライを頂きたいのですが、まずは、杉浦先生からお願いいたします。
 
〇杉浦構成員
 はい。ありがとうございました。
 大切なことは、生徒に自信を持たせるためのアプローチと、生徒はメディア等から色々な情報に触れていることから、社会保障制度について危機的に感じてしまう傾向がありますが、それだけではないということを、きちんとデータを持って示していくことが必要なのかなと思います。
 生徒は、制度によって幸福になりましたという話よりも、抱いている危機感から、制度の落とし穴の方が多いのではないかという印象を持っていると思います。制度はきちんと充実している部分もあるというところを示す一方、捕捉率が低く、必ずしも十分じゃないところもあるわけだから、改善していかなければならないことはしっかりと教えていかなければならないなと感じています。
 よく生徒が教科書の太字を暗記するということがありますが、横山先生の本の末尾に記載されている制度の一覧がまとまったページこそ暗記すべきと思いました。こういう制度があることを、もっともっと伝えていくことが必要で、それがあっての自信に繋がるのではないかなと思います。
 制度がどれだけ優れているかという話と財政的な問題についても、両面で考えさせていくことが必要ではないかと感じております。
 
〇小野座長
 はい。ありがとうございました。
 続いて、藤村先生よろしくお願いします。
 
〇藤村構成員
 ありがとうございます。
 家庭基礎では、年間通して生涯を見通したライフプランについて学んでいます。生涯を見通しながら社会保障について学んでいることが、他の教科や生徒の進学先での学びに繋がれば良いなと思っています。玉木先生は、高校の学習を踏まえて教えてくださっており、大変ありがたいと思いました。
 家庭科は受験教科ではないと捉えられていますが、さまざまな教科と関わっていますし、教える内容が増え、多岐にわたっています。そのため、何をどのように教えていけばよいのかということについて教員の裁量が大きい教科です。昨年の検討会で、玉木先生が高齢者の年齢の定義についてお話をしてくださり、大変勉強になりました。教員自身が専門家から学び、知識をアップデートしていく必要があると思いました。以上です。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。
 では佐々木先生、お願いします。
 
〇佐々木構成員
 ありがとうございました。玉木先生の仰るとおりだなと思って、お話を聞いておりました。
 国民年金は20歳から始まるということで、それが16歳から17歳の生徒にとっては間近なこととして、自分事にもなるだろうと思いました。保険証はプラチナカードという言葉もよく心に響きました。
 財政のところで申し上げますと、これまでのカリキュラムだと、財政と社会保障のところが、教科書どおりの流れに沿って授業を行うと、財政を教えて時間が経ってから社会保障を教える、となっていたので、今回、新科目である公共で財政と社会保障を関連付けて扱うことになり、どの教科書会社を見ても近接で載せてくれていることは、とても有益なことです。
 社会保障制度の素晴らしさを語って終わりではなく、持続が難しい面もあるということを考えさせる動機として財政は触れた方が良いと思っています。そこから消費税も社会保障に関係している、日々の支払いがそこに繋がるということを伝えると、生徒をはっとさせられる展開を作ることができると思いますので、今後その点について検討していきます。
 また、家庭科の先生で、被服や調理がご専門の先生はいらっしゃっても、金融がご専門の先生はあまりいらっしゃらないと思います。そうすると公民科の教員と家庭科の教員が手と手を取り合って、社会保障の分野をしっかり教えていくことはやはり必要でしょうし、あとはライフプランニングという部分では、公民で取り扱うとやりすぎになってしまうので、そこを公民科として扱うべきかどうかが難しく、悩ましいところです。今後、金融経済教育推進機構ができるに当たって、公民科はどの領域まで扱うかという議論になるのだろうなと聞いていて思いました。以上です。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。
 では、横山先生お願いします。
 
〇横山構成員
 玉木先生が仰ったように、私も今の仕事に就いてから、自分が思っていた以上に様々な制度があることを知って、これからの人生に絶望しないですみました。そのような観点から、制度を知る機会を作っていただくのは重要だと感じました。
 繰り返しになりますが、生活保護制度についても、生活扶助の計算式があることや自分の世帯の基準額を知っている相談者にほぼ出会ったことがありません。
 教材の中で、生活保護の計算についても触れてもらい、そういうことを知っておくことは、今後の人生に絶望しないために必要ではないかと感じました。以上です。
 
〇小野座長
 まだ色々ご発言あるかと思いますけれども、議事を進めさせていただきたいと思います。
 「議題(5)今年度の進め方について」、厚労省の方からご説明いただきたいと思います。よろしく願います。
 
〇山﨑企画調整専門官
 お伝えしようとしていたことは、先生方から全部お話しいただいたのではないかと思いますが、昨年度の検討会報告書において11の改善案を示していますので、それらの具体的な進め方について、資料3の11ページ以降を用いてご説明します。
 まず、改善案の実現のため、社会保障教育で伝えるべき重点事項は引き継ぎつつ、新規資料の作成、他機関との連携、既存資料の更新の3つの方策に取り組む案をお示ししています。これらの取組は、全社会議の報告書における「地域共生社会の実現に向けた社会保障教育の推進」にもつながると考えています。報告書については、参考資料の1、2ページに詳しく記載しています。
 3つの方策のうち1つ目の新規資料作成が、特に重点的に取り組むべきものと考えています。改善案の2、6、8がこれに該当し、まず2についてご説明します。昨年度の教員ヒアリングにおいて、授業の冒頭で使用し、生徒さんたちに、自分に関係のある話だからしっかり聞かなければいけない、と思ってもらえるような、具体的なエピソードを盛り込んだ資料がほしいというご意見をいただきました。これをどのように実現していけばいいか考えていた時に出会ったのが、横山先生の書籍です。
 御本にあるような、将来直面しうるトラブルに関する具体的な物語を、先生からお話しいただくことによって、生徒さんがより興味関心を持って授業に臨んでくださり、内容が記憶に残りやすくなるのではないかと思っています。
 参考資料3ページのとおり、例えば書籍のストーリーの8で、事故で障害を負って障害年金の受給に至った登場人物の話が取り上げられています。昨年度の教員ヒアリングにおいて、社会保障の意義を伝えるため障害年金について言及する、というご意見をたくさんいただきました。
 年金は高齢者のためのものという意識が強い中で、若い人でも障害を負った場合に対象となりうる障害年金が存在していることや、保険料の未納により障害年金を受けられなくなってしまうという話は、生徒さんの反響が大きいということです。
 自立相談支援機関の相談員の方へのヒアリングにおいて、社会保障の知識を若いうちからしっかり身に付けておくことは、将来の困窮を予防するために非常に重要だという話を伺いました。また、大学生に対するヒアリングでは、社会保障がなかったらどうなるか具体的にイメージできるような話を伝えることにより、自分事と感じられ、印象に残りやすいのではないかというご意見をいただきました。
 これらを踏まえて、多感な時期の高校生が社会保障の意義や必要性を感じ、心に残って、いずれ困ったときに思い出せるような教材を作れればと思っており、横山先生のご知見をお借りできればと思います。
 2点目が、資料3の11ページの改善案6、映像教材の作成と周知です。
 先生方は授業の準備をする時間がなかなか取れず、そのまま流せるような動画があると良いというご意見をいただいたため、番組制作とお金の教育がご専門の方と共同し、映像教材を作成したいと思います。厚生労働省で動画の内容を監修した上で、先生方や生徒さんたちに、分かりやすく、飽きずに楽しめるものになっているか確認いただきながら、有用な教材づくりに取り組んでいきたいと思います。
 次に改善案8、社会保障の在り方について議論ができる資料の作成です。学習指導要領の中でも、「社会保障に関わる受益と負担の均衡、世代間の調和のとれた制度の在り方」について触れることとされており、その実現のために財務省と連携して教材を作成したいと考えています。
 参考資料8~11ページに記載していますが、財務省によりフューチャーデザインという取組が推進されています。フューチャーデザインとは、現世代が、将来世代の利益を考えつつ行動できるような社会を作ることを志向する取組で、その一環として社会保障を題材にしたパンフレット作成をご提案いただきました。統計データや国際比較など、自由な議論に役立つようなものを作成したいと思います。この際、社会保障教育で重点的に伝えることとしている支え合いや連帯といった理念などをしっかり盛り込んでいきます。
 次の改善案9については、先ほどの3つとは異なり、既存の取組を活用する方針としています。他機関が作成している教材等には素晴らしいものがたくさんあり、その中で社会保障を取り扱っているものを収集して周知することが最も効率的・効果的ではないかと考えました。このため、財務省、金融庁、文部科学省などから該当するものを提供いただき、厚生労働省のウェブページ上に掲載し、先生方がアクセスしやすい形とできればと思っています。
 ウェブページ上に掲載されている、社会保障教育の参考となる資料はまだ不十分ですので、参考資料12ページに記載したイメージのとおり、財政教育、金融経済教育、年金教育、福祉教育などの教材や出前授業を紹介したいと思っています。福祉教育は全国社会福祉協議会による取組で、地域共生社会の実現に向けて、社協の職員の方が出前授業などをされております。実際に授業をされた方のお話で心に残っているのが、生徒さんには、生活上の困難を抱えているのは自分だけではなく、恥じることでもないので、困ったときに助けを求め、人や制度に頼って良いのだと伝えるようにしているというものでした。福祉教育の実践は、まさに全社会議の報告書における提言に対応するものと思われ、関係者の方々と連携してしっかり進めていきたいと思います。
 また、昨年度の検討会で、素晴らしい教材改善案を多数作成いただきましたので、それもしっかり活用していきたいと思います。
 例えば、参考資料21ページに記載した給与明細の具体例です。給与明細は、家庭科の授業でも取り扱っているとお話がありましたが、大学生にヒアリングをした際にも、授業冒頭で、このように生活に身近で、具体的な数値を含む資料を示してもらえれば、実際にイメージできて自分事に感じられるというお話を伺いました。
 給与明細においては、社会保険料の欄に健康保険、年金保険、雇用保険の保険料額が記載されていますが、現在の案では、保険料がどのくらい引かれているか学ぶだけで終わってしまいます。意見をいただいた大学生の方からは、各種保険料額に加えて、それぞれがどういったときに役に立つものかも示すことによって、使途が分かり、納得感を持って払えるという貴重なご意見いただきました。これを踏まえて有用な資料を作っていきたいと思います。なお、この資料には生活保護費の具体例も記載しており、この部分の充実策についてもご助言いただければと思います。
 以上ですが、基本的には他機関との連携や既存資料の更新という形で効率的に取り組んでいきたいと思っています。
 最後に、先ほど藤村先生からもお話がありましたが、昨年度の検討会において、学校に対して教材を送るのではなく、先生のお手元に届けることが必要だというご意見をいただきました。
 その後、梶ヶ谷先生などにもご助言いただきながら、各都道府県の教育委員会が実施する研修会に積極的にアプローチをし、たくさん周知の機会をいただきました。参考資料19ページに記載していますが、多くの研修の場で、リーフレットを配布いただき、指導者用マニュアルを紹介できました。
 今年度は、我々が研修に参加してマニュアルをご紹介することはできなかったため、今後はそれも視野に入れ、余裕を持って企画調整したいと思っています。
 この方針に対してご意見をいただき、次回は、具体的な教材案をお示しして先生方にご確認いただき、最終回となる第3回では、完成形に近い資料をお示しできればと思いますので、引き続きご指導のほど、よろしくお願いします。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。
 それでは、今のご説明に関しまして、ご意見、ご質問等があれば、挙手をお願いいたします。
 それでは、杉浦先生お願いいたします。
 
〇杉浦構成員
 はい。これから色々と進めていく上で、面白くて分かりやすい教材ができれば良いなと思います。
 改善案の6の授業でそのまま流せる動画教材ですが、内容はどういうものになるのでしょうか。ただ面白くても、教師が自分で話そうと思っている内容であれば使いづらいと思います。授業で使うにしても、ただ映像を見せるだけというわけにはいかないと思うので、その点に関心を持ちました。
 次に改善案8ですが、議論ができる資料は非常に大事であると感じています。実際にどういうデータが盛り込まれるか分からないのですが、色々なケースにおける年金の給付水準とか、今後の物価変動にも関わることだと思いますが、ぜひ生活の観点からでも分かるような給付水準についての資料を盛り込んでほしいと思います。今まで日本の社会がどのような形で進んできたのかということも踏まえて、別に対立を煽るわけではないのですが、世代間の負担についても議論する必要性があるのかなと感じています。
 あとは、財務省の管轄にもなるのかとは思いますが、社会保障制度について考えていく上で、財政支出の使い方についても考えていけるように繋げていけたら良いのではないかと思います。どこまで踏み込めるか分かりませんが、単に社会保障の在り方だけではなく、大きなお金があるとして、それをどのように使っていくかというところまで踏まえて議論できるように、色々な資料を揃えていただいて、例えば、その中から生徒自身の考えを発表してもらうなり、先生が授業で使うときにこのページを見てもらったらよく分かるというにしていければ、大変良いかなと考えています。
 最後に、福祉教育の視点はとても大事だと考えています。横山先生の書籍でも書かれていましたが、制度を活用することに関して、ラベリングというかレッテルとして見られてしまう部分があると思います。しかしながら、セーフティーネットとしての制度があるから色々と挑戦ができるということも考えられます。そういったところで、きちんと扱っていくことが大変重要になるかと思います。
 先ほど、生徒は連帯とか公助とか共助についての意識を初めから持っていると分かったとお話しましたが、あのような問い方をすれば、結果はそうなります。一方で、国際比較の統計資料を見ると、他人を手助けしてみたとか、手伝うべきだとか、自分が負担をしてでも困っている人を救うべきだという意識は、諸外国に比べて日本はすごく低いのが現状です。
 そういった自己責任論的な在り方と社会保障で皆保険的にやっていることは、実は価値観と制度がマッチしてないということになります。価値観を無理に変える必要はないとは思うのですが、安易に自己責任論に流れないような方向性を考えることができると良いのかなと思います。以上です。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。他の先生いかがでしょうか。
 では、横山先生お願いします。
 
〇横山構成員
 1点、要望というか意見になります。今後、教育現場で先生方が教えてくださることをきっかけに社会保障制度を知っていく機会が増えていくと思うのですが、細かい制度についても知るきっかけとなるよう、配布物に制度を紹介したサイトのQRコードを付けていただけると良いのではないかと思いました。
 内閣官房の孤独・孤立対策で、チャットボットで150くらいの制度を案内している「あなたはひとりじゃない」というウェブサイトがありますので、そのQRコードを載せて、もっと細かい制度について知りたい方はここからスマホで見られます、といったガイダンスを付けていただけたら、よいきっかけになるのではないかと思いました。ご検討いただければと思います。
 
〇小野座長
 ありがとうございます。他の先生方、いかがでしょうか。
 それでは、藤村先生お願いいたします。
 
〇藤村構成員
 お時間のない中申し訳ございません。まず、改善案10で家庭科が金融経済教育と関連ということが示されていますが、どうして金融教育なのでしょうか。何らかの要望があったのかなどお聞きしたかったです。
 それから学校に色々なところから教材が郵送されてくることについては負担に思っているので、学校以外の場からの情報発信や資料配布をお願したいです。生徒の立場から考えても、SNSを活用して直接情報を届けたり、QRコードを用いて案内したりする方が便利なのではないかと思っています。学校経由の情報が多いので、学校を経由せず生徒に直接届くような方法があれば、検討してもらえたらと思います。
 また、教材を作る際に注意を払わないといけないことは、生徒自身が当事者の可能性があるということです。例えば生活保護世帯の子とか、障害年金を受け取っている家庭の子とか、教材で取り上げるエピソードがどこかの知らない家庭で起こっていることではなく生徒自身のことである可能性があります。そういう状況に色々な思いを持っている子もいるので、当事者の生徒が二次的な傷つきを感じないような工夫ができたら良いなと思いました。
 動画については様々なところが制作していると思うので、授業の導入で使うことを想定しているのであれば、長さは3分程度が良いと思います。5分以上だと生徒は飽きてしまう印象があります。目的にもよりますが、動画の制作に関しては色々な人の意見を聞いて、内容だけでなく長さも検討していただけたらと思います。よろしくお願いします。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。
 それでは、佐々木先生お願いいたします。
 
〇佐々木構成員
 すでに皆さんお気づきだと思いますが、教員は基本的に話好きの性格の方が少なくないはずなので、動画に頼るということが、心理的にあまり好まないということが往々にしてあります。
 藤村先生が仰ったように、要所要所で使える長さのものが適切だと思います。
 あともう1つは、公共が始まって2年目になりますが、基本的に、先生方は教科書をベースにして色々と噛み砕いて授業を作っていると思います。
 「良い教材だけど、教科書どおりでやっている者としては、ちょっと扱いづらいな」と感じるリーフレット系の教材は官民問わず多くあります。
 ですので、既存の教材を確認していただいて、「教員はこれを使って授業をしている」という前提に立ち、全体的な教科指導の流れの中で財政や社会保障を扱いやすいような教材ですと、大変活用率が上がると思います。以上です。
 
〇小野座長
 ありがとうございました。他の先生方いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
では、本日ご意見いただいた点は、事務局にて整理していただいた上で、これから作業に入っていただきたいと思います。
 時間がないので1つだけですが、このように厚労省の方が自ら宿題を宣言して下さったことは、非常に画期的なことだと思っております。先ほどの統括官のご挨拶も非常に熱が入ったものだと私もとても心強く思っております。
 ぜひ素晴らしいものを作っていただきたいと思っておりますし、おそらくこの検討会は何回かありますので、先生方も厚労省の皆さんの意欲を後押していただけるとありがたいと思います。私が言う立場ではありませんが、皆で良いものにしていければなと強く感じた次第でございます。
 感想だけ申し上げさせていただきました。どうもありがとうございました。恐縮でございますが、今日の議論はここまでにしたいと思います。
 では、事務局の方にお返します。よろしくお願いいたします。
 
〇横山補佐
 小野座長、ありがとうございました。
 最後に宮崎審議官よりご挨拶をさせていただきます。
 
〇宮崎審議官
 ありがとうございます。
 本日は大変お忙しい中お集まりいただき、熱心なご議論いただきましてありがとうございました。
 先生方が色々な現場で活躍されている中で、本当に貴重な時間を割いていただいて、お集まりいただいたこと、本当に感謝申し上げます。
 また杉浦先生、藤村先生、佐々木先生、横山先生におかれましては、お忙しい中、この検討会のためにプレゼンテーションの準備をしていただきまして、ありがとうございました。御礼申し上げます。
 厚生労働省で、この社会保障教育の議論を始めたのが平成23年、梶ヶ谷先生にもご参加いただいた検討会がスタートだったと思います。そこから12年経ち、今日は色々な現場での実践例を伺いまして、相当進んできたと感じました。一方で横山先生の著書にありますように、まだ全体に広がっていないので、良い事例をどう全国に広げて、若い世代の皆様、全員がそれぞれ社会保障を自分事として、捉えていただけるようにしていくことが大事だなとも改めて感じました。
 最初の検討会の報告書の冒頭には、社会保障制度の意義を理解してもらうとともに当事者意識を持って考えてもらうことが重要だと、まず書かれておりました。社会保障を自分事として伝え、また捉えていただくことを、我々もこれまでの取組に基づいて、さらに進めていきたいと思っております。
 本日いただいたご意見を踏まえて、我々事務局の方でも取り組んでまいりたいと思います。先ほど小野先生からお話いただきましたけれども、むしろ現場の皆様方の熱意に押されて、うちの担当も頑張っております。引き続き、色々とご助言ご指導いただいて、それを力にして進めていきたいと思います。
 本日は本当にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。
 
〇小野座長
 どうもありがとうございました。プレゼンテーションをいただきました先生方には、私からも御礼申し上げます。
 それでは第2回の連絡について事務局からお願いします。
 
〇横山補佐
 本日の検討会はこれにて閉会をいたします。
 貴重なご意見をいただきまして、ありがとうございました。
 第2回については、事務局より追ってご連絡をさせていただきます。
 本日は、誠にありがとうございました。

(以上)