第5回社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提に関する専門委員会 議事録

●日時

2023(令和5)年8月24日(木)10時00分~12時30分

●場所

全国都市会館 第2会議室(3階)

●出席者

深尾委員長、権丈委員、小枝委員、武田委員(オンライン)、滝澤委員、玉木委員、土居委員、徳島委員、藤澤委員、河野経済調査本部長チーフエコノミスト(BNPパリバ証券株式会社)
(オブザーバー)
前田参事官(内閣府計量分析室)、石川審議役(年金積立金管理運用(独):GPIF)、植田調査数理部長(年金積立金管理運用(独):GPIF)

●議題

(1)有識者及び内閣府へのヒアリング
(2)これまでの主な意見について
(3)その他

●議事録

佐藤数理課長
定刻になりましたので、ただいまより、第5回「年金財政における経済前提に関する専門委員会」を開催いたします。
 委員の皆様におかれましては、御多忙の折、お集まりいただき、ありがとうございます。
 本日の委員の出欠状況について御報告いたします。本日は、武田委員からオンラインでの御参加の旨、御連絡いただいております。全員出席となっております。
 オブザーバーにつきましては、内閣府計量分析室の前田参事官に御出席いただいております。
 また、年金積立金管理運用独立行政法人からは、人事異動がありまして、今回より石川審議役と植田調査数理部長に御出席いただいております。
 また、本日は有識者からのヒアリングを行いますため、大変お忙しい中、BNPパリバ証券株式会社経済調査本部長チーフエコノミストの河野龍太郎様に御出席いただいております。
 続きまして、事務局の人事異動について御紹介いたします。
 大臣官房審議官の泉でございます。

泉審議官 
 よろしくお願いいたします。

佐藤数理課長 
 年金制度改革推進官の芦田でございます。

芦田年金制度改革推進官 
 よろしくお願いいたします。

佐藤数理課長 
 では、審議に入ります前に資料の確認をさせていただきます。
 本日の資料は、
 資料1 日本の潜在成長率に影響を与える諸々の要因について
 資料2-1 中長期の経済財政に関する試算(2023年7月)のポイント
 資料2-2 中長期の経済財政に関する試算
 資料3 専門委員会での経済前提の設定に関する主な意見(未定稿)
 資料4 年金財政における経済前提に関する専門委員会検討作業班の設置について(案)
をお配りしております。
 それでは、以降の進行につきましては、深尾委員長にお願いいたします。

深尾委員長 
 委員の皆様には御多忙の折、お集まりいただき、大変ありがとうございます。
 議事に入らせていただきます。
 カメラの方々はここで退席をお願いします。
 それでは、まず「有識者ヒアリング」ということで、河野様と前田参事官、お二人からの御説明と御説明に対する質疑の時間を設けさせていただきたいと思います。
 それでは、まず河野様から資料1について御説明をよろしくお願いします。

河野様 
 BNPパリバの河野龍太郎と申します。本日は貴重な機会をいただきましてありがとうございます。
 日本の潜在成長率に影響を与える様々な要因についてということで、「社会保障制度のアップグレードが潜在成長率を改善させるか?」というタイトルでお話をいたしたいと思います。よろしくお願いします。
 1ページ目に「今日のお話」をまとめてございますが、まず潜在成長率と時間当たり実質賃金上昇率は低迷が続いております。様々な改善を目的に、成長戦略をはじめ、様々な政策にトライされておられますが、十分な効果は現れていません。
 私は、この十数年来、日本の停滞について2つ仮説を立ててお話をしてきました。1つは、もうかっても人的資本投資や無形資産投資、あるいは有形資産投資、賃上げを怠ってきた企業が元凶であるということ。これは多くの方が今、認識されておられることだと思います。もう一つが、あまり認識されていないのですが、私が繰り返し申し上げてきたことは、経済社会が大きく変容している、そして家計の直面するリスクが変質しているため、社会保障制度のアップグレードが必要だったにもかかわらず、それを怠ってきたということが経済の低迷を助長しているのではないか、ということです。
 例えば2000年代に膨張する高齢者向けの社会保障費を補うために、我々は現役世代の被用者の社会保険料の引上げで対応してきたわけですが、それがセーフティーネットを持たない非正規雇用を増やす遠因となって、経済低迷につながったのではないかということです。そうした意味では、当時付加価値税での対応であるとか被用者皆保険を確立する必要があったのだろうと考えております。
 最後の論点でございますが、社会保障制度に対する人々の不安の根底には公定債務の持続可能性への疑念があるということで、信頼に足る長期の財政健全化プランの作成が急務であろうということと、公的年金制度の頑健性を高めるためには、被用者保険の適用拡大を図るとともに、繰下げ受給の促進であるとか在老の廃止など、経済社会の変化に対応した社会保障制度のアップグレードが必要だと。それは成長に資するだろうといった話をいたしたいと思います。
 3ページです。潜在成長率は図1にあるとおり低迷が続いております。全要素生産性上昇率の低下は止まっておりません。資本投入の寄与度もゼロ近傍が継続しています。2010年度は高齢者や女性の労働参加の改善で労働投入の減少が止まっておりましたが、再び20年代にはマイナスに向かう可能性が大きいかと思われます。
 図2を見ていただきますと、時間当たり実質賃金を労働生産性と交易条件と分配率。これは定義によって分けておりますが、こちらも生産性上昇率が低迷しているほか、交易条件の悪化の継続もあって、実質賃金は2010年代も低迷したままであります。
 4ページに、後ほどお時間があれば見ていただきたいと思いますが、各要素の動きが出ておりますが、足元も低迷しているということで、残念ながらこれまで行われた成長戦略は寄与していない。そして、積極的な財政・金融政策が2010年代は行われていましたが、潜在成長率の改善にはつながっていないということです。
 ただ、5ページでありますが、足元で名目賃金が上がっているわけでありまして、今年、春闘では1993年以来の3.6%。もちろん、1.6~1.8%の定昇込みでありますが、3.6%の高い賃上げになりました。恐らく今年も昨年と同じように3%程度のインフレ、CPIが続きそうですから、来年の春も実質賃金の目減り分を補うということで高めの賃上げになりそうだと思いますが、結局のところはインフレ期待が2%に上がっても、賃金上昇率は名目で2%になって、実質賃金上昇率はゼロ近傍が変わらないのかなと。そんな感じになっております。図2にあるとおり、名目の雇用者報酬は大きく上がっておりますが、実質は低迷が続いたままということであります。
 こうした中、中長期の論点を見ていきたいのですが、7ページ、経済構造がどのように変わったかということです。やや歴史的な議論をしますと、18世紀の後半以降に産業革命が起こって大量生産・大量輸送が可能になったわけでありまして、その後、工業国と言えば先進国のことで、大体サプライチェーンは一国で完結していたわけですが、90年代の後半のITデジタル革命によって、国境を越えて情報を持ち出すことが可能になりましたので、グローバル企業は自らの経営ノウハウとともに、新興国の安い労働力を使うということをやり始めたということで、オフショアリングが進んだということです。これはボールドウィンが言ういわゆる「大いなる収斂」が始まったわけでありますが、日本の停滞と中国の復活劇が例えば図1の「製造業の世界に占めるシェア」で示されているということであります。
 より具体的には、深尾先生が分析されておられるとおりですが、出ていった製造現場というのは、むしろ全要素生産性の高いものが出ていってしまったということ。その結果、周りの中堅・中小企業に対するスピルオーバーも止まったということ。結局、我々は生産性の高い生産現場を失ったけれども、それに代わる生産性の高いビジネスを見出すこともできなかったし、増えたのは非正規雇用ばかりでした。
 特に非製造業に関して言いますと、図2にあるとおり、ここでも中間的な賃金の仕事が世界的に減少しておりまして、高い賃金と低賃金の二極化が進んでいるということです。ですから、我々は、本当は90年代半ば以降、こういったグローバル経済の変容に合わせる形で社会保障制度のアップグレードが必要だったけれども、それを行わなかったということでございます。
 足元の話は、もし時間があれば皆さんと議論いたしたいと思いますが、飛ばしまして、日本の話を少ししたいと思います。
 9ページでございますが、タイトルに日本の長期停滞の理由として、「Bad Luck(運が悪かった)」「Bad Management(経営が悪かった)」「Bad Policy(政策が悪かった)」という3つを書いております。
 まず、10ページ目、1つ目「Bad Luck(運が悪かった)」ということですが、御案内のとおり、「失われた30年」というふうに言いますが、2000年代の半ばには過剰問題はほとんど解決されていたわけでありますが、その後も日本は筋肉質になってもコストカットを続けた。なぜかということでありますが、それは金融危機、ドットコムバブル崩壊、グローバル金融危機ということで、危機が繰り返して、リスクを取らなかった企業経営者ばかりが生き残って、リスクを取った方々は退任するということで、結局、社会としてはもうかっても、ため込んで、無形資産投資、有形資産投資、人的資本投資、賃上げを怠ってきた。そういった経営者ばかりが任期を全うしてきたということになっているということであります。
 今、既にBad Managementの話をし始めておりますが、次の11ページを見ていただくと2つあるのですけれども、時間の関係もありますので2つ目の話をいたします。結局、我々は正規雇用を守るために、セーフティーネットを持たない非正規雇用を増やしてしまったわけでありますが、まず正規雇用に対してもOJTやOFFJTを怠ってきて、人的資本の蓄積が相当おろそかになってしまった。最近、「リスキリング」などと言われますけれども、あまり現場を考えたような話にはなっていないなという印象もあります。企業からすると、もうかっても、コストカットが主にその原因ですから、従業員が頑張っているということでもないので賃上げをしない。そうすると、消費も増えずに、売上げが増えない合成の誤謬になってしまうということだろうと思います。
 次の12ページ、Bad Policyが非常に重要かと思われます。例えば日本は短期的な利益を追求する株主のプレッシャーを遮断するような仕組みが以前は存在していたわけですが、コーポレートガバナンス改革の名の下にそれを取り除いてしまったということもあろうかと思います。新しい技術を導入するときに、日本の場合は欧米と違って、よそから人を引き抜いてくるとか、技術を持っている会社を買収するということができませんので、自分たちが一から人材育成をする必要があるわけですが、株主からのプレッシャーでそんな辛気くさいことはできないということになってしまって、それでも利益を求めないといけないので、コストカットばかりが追求されてしまったということで、制度補完性の重要性を忘れて一つの改革だけやっているというようなこともあります。
 もう一つ、これは私自身も2000年代、やむなしと思って賛成したので、非常に反省しているのですが、2000年代の半ば、社会保障制度改革で膨張する高齢者向けの社会保障費を結局、私たちは被用者の社会保険料の引上げで賄った。それは厚生年金もそうでしたし、高齢者医療の財源を組合健保から持ってきたということで、結局、最も取りやすいところから徴収してしまった結果、正規雇用の人件費が高くなってしまって、企業経営者は非正規に頼るようになっていった。恐らく消費税で対応していたならば、仕向け地課税でもありますので、競争力には影響せずに、非正規雇用を増やす圧力にはならなかったのではないかと考えております。
 13ページでございますが、今後もまた観測されることかもしれませんが、2017年から2019年、バブル期並みの人手不足社会が訪れたわけでありますが、個人消費は増えませんでした。非正規雇用が当時増えたわけですが、将来不況がやってくると自らが調整弁になるということを恐れて、予備的動機で貯蓄をしているということで、恐らくそれが、経済が完全雇用になってもなかなか消費が増えない原因だったと思います。
 ここで私が1つ気になっているのは、昨今、少子化対策の財源を社会保険料で賄いましょうという話があるのですが、2000年代の経験からすると、正規雇用の人件費が上がってしまうと、また非正規雇用を増やすことになりかねないので、せめてそのときには同一労働同一賃金原則を強化して、非正規雇用へのセーフティーネットを拡充すべく、被用者皆保険を実現すべきだろうと思っております。
 社会保障制度について15ページ以降でもう少し踏み込んでいきたいのですが、まず公的年金の頑健性をいかに高めるかということです。図1、図2もありますけれども、65歳で労働参加が低下しているのは、やはり年金受給開始年齢が大きく影響しているということだろうと思います。制度の頑健性を高めるには、やはり経済全体のパイを拡大させないといけないということと、被用者保険の適用拡大を進めるとともに、高齢者の就労期間の延長が何より不可欠かと思います。より具体的な議論でありますが、繰下げ受給の促進を行うということと同時に、高齢者の就労継続に大きなペナルティーになっていると思われる在職老齢年金制度を廃止するということが必要だろうと思います。
 マクロ経済を見ている方は、概して支給開始年齢の引上げを模索するのですが、私も一度模索してみたのですが、これはむしろマクロ経済の観点から言うならば、不確実性を高めて不要なショックをマクロ経済に与えるだけだと思います。今回のフランスでもそういったことになっているのではないかなと思っております。
 より重要な点でございますが、16ページの部分でありまして、図2を見ていただきますと、グリーンの色は通常我々が目にする貯蓄率であります。高齢化の影響もあって貯蓄率は低下しているということですが、この貯蓄率を高齢化の要因と物価の要因と実質所得の要因で分解しまして、高齢化の要因を取り除きますと、2000年頃から貯蓄率は上がっております。恐らくこれは社会保障制度に対する疑念があると。でも、その疑念に対する底流には公的債務の膨張があると。公的債務の膨張が社会保障制度に対する不安を高めているということだろうと思います。そういった意味で、冒頭も少しお話ししましたが、社会保障制度の頑健性を高めるには、同時に財政の持続可能性も高める必要があるということだと思います。
 18ページに行きますと、最後のまとめをお話ししていきたいと思います。まず、2000年代から2010年代、社会保障給付の増大に対して、私たちは被用者の社会保険料の引上げで対応したと。これが非正規雇用の依存を助長したと。もし付加価値税で対応していたならば、仕向け地課税でありますから、競争力への悪影響は避けられて、非正規雇用もここまで増えなかったと思います。
 非正規雇用が増えたということは、これは単に教育訓練の機会が乏しくて、人的資本が乏しくて、生産性が低いという人たちを増やしただけではなくて、十分なセーフティーネットを持っていない人たちを増やしてしまったと。その意味するところは、一国全体でリスクシェアリングができなくなったということで、これが長期停滞の原因になったと思われます。同一労働同一賃金原則を確立して、被用者皆保険を早期に整備する必要があろうかと思います。現行制度の下で少子化対策の財源、現役世代の保険料に頼ると、非正規雇用を増やして少子化を助長するという点は改めて強調しておきたいと思います。
 改めて、そもそも産業構造が変わって、人々の働き方、家族の形態が変わって、家計の直面するリスクが大きく変容したにもかかわらず、90年代以降、我々は財源問題で社会保障制度をアップグレードしてこなかったということ。それがむしろ長期停滞の一因になっている。あるいはケアに携わる人々の仕事に対して、社会が高い評価を与えてこなかったということが停滞の原因であろう。そういうことだと思っております。
 歳入改革としては、社会保険料の引上げではなくて、付加価値税での対応が望ましいと思っておりますが、その際、逆進性対策として、低所得の被用者に対して、負担増を給付付き税額控除で対応すべきだろうと思っております。
 19ページ、具体的に歳入改革をどうするのかということですが、私が最近とみに強調しておりますのが、日本の消費税は欧州の付加価値税と大きく違って、極めて特殊であり、これを見直す必要があるということです。日本は一斉に一律に引き上げるわけで、これによって駆け込み需要が起こってしまうわけで、相当大きな制度的な問題を抱えていると思います。ヨーロッパは、事業者は付加価値税を、例えば原油価格が上がりましたということで、コストが上がったのと同じ認識でやっているので、どこに転嫁するかは事業者の裁量に任されているということで、日本のように駆け込みとかその後の反動が起きないということです。
 今の消費税はこのままにしておいて、社会連帯税という形で新たに付加価値税を導入して、コロナに応じた費用も少子化対策に要する費用も、議論は分かれますが防衛費などの財源も一括で対応すべきではないか。歳出ごとに財源を見出していては恐らく政治的にハードルが高いということと、新しい税金でやるならば交付税問題も回避できるのではないかと思っております。
 税率の問題ですが、私は、日本の潜在成長率が0.5%弱であるということを考えると、例えば2010年代に行った2%とか3%の水準は相当大き過ぎると思います。例えば2~3年に1回0.5%ずつの増税であれば、例えば毎年年間で0.5%所得が増えた場合、3年で1.5%所得が増えるわけで、1.5%増えたうちの中から3年に1回、付加価値税で0.5%を持っていくというのがよいのではないかと思っています。こうした小幅であれば不況を避けられるということと、家計の所得の増加も可能になると。景気へのダメージが小さいので、景気対策としての追加財政も不要ではないかと思っています。
 ただ、こういった小刻みかつ間隔を置いた増税ですと時間がかかるわけですが、10ポイントにも恐らく40年から60年、15ポイント引き上げるにも60年から90年かかるわけですけれども、そもそも日本の財政健全化の議論は50年、100年を要する国家事業でありますので、不況を回避できるということであれば、それは信頼に足る財政健全化プランになるのではないかと思っております。
 最後に、20ページでありますが、現在外国人増加を踏まえた制度設計の議論が行われています。寿命あるいは出生数は比較的予測可能であり、そこから人口がどうなるか予測可能ですが、社会的移動がもたらす人口の予測は非常に難しい部分があります。そして、外国人労働がもたらすメリット・デメリットは、欧米でもかなり意見が分かれております。片方側の意見を御紹介しますと、例えばジョージ・ボージャスが言っているのは、移民の経済効果の本質は所得分配の問題であって、海外からの低スキル労働を拡大した場合、企業が受けるメリットは、おおむね国内の低スキル労働者からの所得移転だと。つまり、供給が増えた低スキル労働者の相対賃金が低下しているということです。
 これを日本にインプリケーションとして考えた場合、高スキル労働の増大は、スピルオーバーもあって、日本の労働者にも大きなメリットがあるかもしれないけれども、低スキル労働の流入拡大は、国内の低スキル労働者の相対賃金の低下に圧力がかかるわけでありますので、それらを考慮した上で制度設計を考える必要があるだろうと。
 社会の安定性を損なうおそれのある政策はよく考える必要があるだろうと思います。
 日本人が誰もやりたがらないきつい仕事だということであれば、自動化で対応すべきであって、本当に誰もやりたがらない仕事であれば、それは高い賃金が支払われるべきということが原則であろうかと思います。
 少し駆け足になりましたが、以上でございます。

深尾委員長 
 河野さん、ありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明につきまして、御質問、御意見等ございましたらお願いします。
 私から1点よろしいですか。この専門委員会のミッションは、30年、40年先の経済成長とか実質賃金を予測する、プロジェクションするということでして、そういう意味で言うと、河野さんの資料の3ページ、成長会計の分析がありますけれども、ここのTFPが今後どうなっていくか、非常に予測は難しいのですが、足元は非常に低くなっていて、これは後で内閣府の前田さんの御報告とも関係しますけれども、どう捉えるかというのを我々は考える必要があるのですが、例えば労働投入のところは、労働の質の要因は入っていないのでしょうか。

河野様 
 これは入れておりません。

深尾委員長 
 マンアワーで考えていると。

河野様 
 はい。

深尾委員長
 そうすると、労働の質の要因もこのTFPの中に入っていますね。

河野様
 はい。

深尾委員長
 そうすると、先ほどおっしゃった非正規雇用が過去に増えたことでTFPは下がっているという要因もあると思うのですけれども、そういった要因も含めて考えて、大体10年、20年先のTFPの上昇というのはどれくらいだと考えられますか。

河野様
 ゼロとは言いませんが、今のままだとゼロ近傍ではないかと思っています。ただ、それは必然ではなくて、人的資本の乏しい非正規雇用の部分が、サプライサイドにおいても、あるいは需要サイドにおいても、皆保険等々が導入されれば上がってくる部分ではないかと思います。私はそれこそが成長戦略になると考えております。

深尾委員長
 ありがとうございました。
 どうぞ。

権丈委員
 どうもありがとうございました。
 日本の社会保険に適用除外規定がありますね。勤労者が全員入っているわけではない。使用者に非正規の雇用を推奨する制度になっています。非正規のほうがいいですよと言っているわけです。本来は社会保障としてあってはならない制度であり続けたわけで、だから、適用拡大というのは長く最優先の課題だったんですね。しかし、この国の政策形成過程がこの改革を阻んできたというのを私は前回のこの前提会議でも話したのですが、この国の政策形成過程の特徴としてレントシーキング社会というのがあって、この性格が適用拡大を阻んできたんですね。
 ところが、今は政府が彼らの支持基盤からの要望に反するような、あるいは不人気な勤労者皆保険ということを言い始めてきています。制度が矛盾を抱えて、デッド・ウエイト・ロスが高くなって肥大化してくると、社会システム的にどうもそういう動きが出てくるみたいです。ただ、遅過ぎたというのがあるのですが。従来の適用拡大とは言わば次元の異なる適用除外規定の見直しが今、掲げられています。
その勤労者皆保険というのは適用拡大のことだというように矮小化する論も今、いろんなところから出てきているわけですけれども、勤労者皆保険というものと適用拡大は話が違います。勤労者皆保険は、昨年の全世代型社会保障構築会議ではオリジナルの勤労者皆保険という意味でまとめられていて、今、進めなければならないのは、河野さんが心配されている非正規雇用を促す性格を取り除くことです。ぜひこの適用拡大ではなく、勤労者皆保険を進める必要があることを言い続けてもらえればと思います。

河野様
 はい。

権丈委員
 年金局がかわいそうだったのは、制度、ニアリーイコール歴史なのですけれども、そういうことを知らない人たちが年金の世界に参入してきて、破綻論をはじめとして、支給開始年齢の引上げというのもそうだったのですが、フランスとかだったら労働法と年金法がセットに動くので、支給開始年齢を引き上げたら定年延長まで同時に動くとかいうのが大陸諸国はあるので、日本とはちょっと状況が違うのですが、そういう年金とんでも論を掲げる人たちを「間違えているよ」と正していくことに、年金局は膨大なエネルギーを費やさざるを得なかったんですね。だから、そういうことに彼らの限られた資源が使われていた、つまり、年金とんでも論者たちというのが真になさねばならない改革をクラウンディングアウトしてきたわけです。日本の年金が本当に変えなければならない改革に対して使われるべき年金局の人的リソースが、本当にかわいそうなくらいにとんでも論を正すことに使われていたというのがあります。
 ただ、2020年の年金改革で与野党共同提出の修正案というものは共産党を除く全会一致で通るようになって、少しばかり年金回りの政治環境は改善されてきています。
ただし、河野さんも言われている在職老齢年金というのは、前回は政府は廃止を目指していたのですけれども、ただ、当時の立憲民主党の山井さんなどが高所得者優遇だと批判をして、与党も面倒だねということで、在老の改革を取り下げています。これを変えるには政治的にはなかなか難しい。だから、ぜひお力を貸してもらえればと思います。彼らは高所得者優遇という批判をしてきます。ワークロンガーという、極めてこの国で高い価値に従属する話が再分配の話であって、優先するのはワークロンガーなのだということを言い続けていかなければいけないところがあって、これはなかなか難しいところがあります。
 これは質問になります。最後の財政について、今、話したように勤労者皆保険を進めれば、使用者が非正規を雇うインセンティブが消えます。仮にそうであっても社会保険よりも付加価値税のほうが多くの面で望ましいと私も思います。この国は給付を先行して福祉国家を形成してきたという給付先行型福祉国家を形成してきたんですね。だから、歳出ごとに財源を見出す方法で行くと、最後には財政再建という歳出項目だけが残って、財政が詰みます。その意味でも付加価値税は早急に取りかかる必要があると思います。
 その上での質問ですけれども、国民連帯税の実現は何年後ぐらいになるとお考えでしょうか。リアルな財源論ということを考えていくときには、これを考えないと難しいのかなというのがある。ということで、よろしくお願いします。

河野様
 実現性ということですね。

権丈委員
 うん。何年後ぐらいに実現できるか。

河野様
 私自身は10年後の実現を目指してやり始めています。今、付加価値税、消費税という言葉を言われると、ポリティカルインコレクトだと思っていらっしゃる方がいますから、そこから変えていかないといけないということですね。例えば、本当に近い将来、今の防衛費とか子供にかかる費用に関しての財源をどうするかという話を、最終的な財源について、目の前は歳出改革で頑張るというふうに言っていますから、それで足りない部分をどうするかということで、例えば今年末の税法の附則とかに書き込んで、そこから議論を始めるということですから、10年後と言いましたが、5年後にそういった話になっていればいいなと思います。すみません。附則に書き込むというのは今、思いつきで言ってしまったのですけれども、さすがに10年後という話などはないでしょうから、そこに5年内に書き込むということをやるということを、今年なのか、来年なのか、再来年書き込めるのかということで、X+5ということで、そんな感じではないでしょうか。

権丈委員
 ありがとうございます。
 そこのところもリアルに考えていって、同時に勤労者皆保険という形で、非正規を雇用することを促す制度を改善していくことを含めた形でセットにして、当面の子育てのところで財源を先取りしていこうというような考えがベースにあります。

河野様
 一言だけ。おっしゃったとおりでして、もしそれができないと言うのであれば、私が今日お話しした社会保障制度のアップグレードができない、諦めるということになりますから、それはあってはならないと思います。

権丈委員
 あってはならない。一緒に議論できればと思います。

深尾委員長
 土居委員、お願いします。

土居委員
 御説明、どうもありがとうございました。
 3ページの潜在成長率に関連して質問をしたいと思います。先ほど深尾委員長がおっしゃった問題意識は、この専門委員会では非常に重要なポイントになっているわけですが、釈迦に説法ですけれども、成長会計でコブ=ダグラス型生産関数を前提にして計算すると。そのときにコブ=ダグラス型生産関数というのは、資本と労働の代替弾力性が1と仮定しているということになるので、労働と引換えに資本が投入されるということが前提となっている生産関数の下でこの計算がなされているということです。
 何を申し上げたいかというと、今後労働投入が減ってくるという話があって、それに何が補われるのかということと、それが特に潜在成長率にどう影響するのかというところの論理的な見立てを河野さんがどういうふうに見ておられるのかというのをお伺いしたい。
 つまり、どういうことかというと、確かに3ページの図1を見ると、潜在成長率の低下がまさにどんどん全要素生産性の低下と連動するような形で低下しているというふうにも見えるし、因果関係はないにしても、そういう相関関係が見てとれると。
 だけれども、これはアネクドートでしかないのですけれども、今、日本は人材不足になっているので、それを新しい技術で補おうという話が片やあるわけです。新しい技術で補うということは、労働投入量が減っていても、別のイノベーションなり技術進歩でその生産量を減らさないように、ないしは増やそうというような試みであると。これはあくまでもアネクドートなので、これからどうなるかということこそがここの質問の核心なのですが、もしそういうアネクドートがそれなりに功を奏するとすれば、労働力が減ったとしても、これは全要素生産性のほうに入ってくるはずなのだろうけれども、デジタル化とか新しい技術を持って労働力不足を補うということがもしできたとすると、意外と潜在成長率は下がらないという可能性は考えられるかどうかというところです。特に論理的な裏づけということがあってもなくても、直感でも構わないので、お聞かせいただければと思います。

河野様
 土居先生、ありがとうございます。
 まず、質問にお答えする前に1つ。今の答えとも関係するのですけれども、私が推計している潜在成長率は、恐らくGDP統計自体が本当の経済を過小推計している可能性があるので、本当はもっと高いだろうと。それはまさに経済の付加価値の源泉が無形資産等々になっているわけですが、我々はそれを十分取り込めておらないだろうと。
 まさにこのコロナにおいても、感染の問題もあったので、自動化とかデジタル化が相当進んでいるわけですけれども、多分それが取り込めていないであろうと。恐らく税収が大きく増えているのは、名目値が増えているということとか、累進課税の影響以上に増えているので、本当のGDPはもっと高いだろうという想定がありますが、あくまでもオリジナルのGDPからつくっているので、こういうことになってしまっている。今、半分答えを申し上げたとおりですが、無形資産化が進んでいるので、付加価値もそちらの方向になってきますから、労働力を補う形でそちらが増えてくるということがあろうかと思います。
 あと、今日話を飛ばしましたが、例えばお隣の中国の経済が停滞していると。日本から輸出が減って大変だ、大変だと皆さんおっしゃっているのですが、90年代、世界で2番目に大きい日本の経済が停滞したときに諸外国に大きなダメージがあったかというと、97年の金融危機のときを除くとあまりないのです。むしろ日本の停滞の原因は、生産性の高い生産現場が例えば中国とかアジアに向かったという話があったわけです。今、経済安全保障の観点からも日本に対してリショアリングとかいう話になってきている。最近はやりの関心の経済学の議論から言うと、中国に対する関心が高まり、日本に対する関心が低下していたのは、単に中国が高い成長をしていた、あるいは日本が停滞していただけではなくて、その関心あるいは無関心がより日本の状況を不利にしてきた部分もあるのですが、ひょっとすると経済安全保障の観点で日本にそういった生産の現場が戻ってくると、人が足りませんからロボティクスとかアルゴリズムを使ってやるのですが、現場が増えれば、そこでまたイノベーションが増えるということになりますから、今、起こっている動き、利用を我々がうまくできれば、そういったことにもつながり得るかなと思います。
 もう一つはどうでもいい話かもしれませんが、お隣の中国の高い成長が20年続いていた結果、資源高が続いて、工業製品をつくる日本に対してはずっと不利な状況が続いていましたので、中国の停滞というのは、ひょっとするとコモディティー高がひっくり返って、日本の交易条件、過去20年間のように悪化しないという部分もあるかもしれないということだと思います。

深尾委員長
 ほかにはいかがでしょうか。どうぞ。

小枝委員
 御説明ありがとうございます。
 潜在成長率というのは、この委員会で前提として議論することになるTFP成長率より少し大きな概念であると思います。高齢化が非正規雇用を増やす要因になっているというご指摘を興味深く伺っておりましたが、TFP成長率以外に考慮すべき要因について、宜しければもう少しお考えをお聞かせ頂けると幸いです。長期的には資本も労働も均衡に収束していくので、潜在成長率はTFP成長率だけを考えればいいとい考えもあると思いますが、そもそも長期的な資本や労働を考えるうえで、人口動態や構造的な要因も影響すると思います。よろしくお願いいたします。
 
河野様
 それは先ほどの土居先生の御指摘とも関係しますが、もちろん人口動態の影響はやはり大きいと思います。例えばお隣の中国の停滞も、1つは不動産が停滞しているわけですが、振り返ると、中国の場合、25歳から34歳の方が最も住宅を購入されるのですが、この方々が2010年代の半ば以降、減少が始まっているのです。
 日本の停滞が始まった頃を振り返ると、まさに停滞の前には、日本の住宅を最も購入される方々の年齢というのは35歳から44歳ですが、ここがちょうど団塊世代に当たった頃がバブルのピークで、そこから毎年毎年住宅購入する人たちの数が減ってくるので、なかなか不動産セクターの過剰が調整できなかったということがあります。
 人口の要因というのは、恐らく先に総需要に悪影響が現れてきて、ラグを持って供給に現れてくると思われます。ですから、私たちがこういうコブ=ダグラス型の生産関数で見るときは、何となく労働力が減っているという話だけになってくるのですが、需要が先に低迷してきている部分というのが人口動態の影響であるという観点が大事かなと思っています。
 一方で、先ほどの議論ですけれども、無形資産経済化が進んでいたりもしているので、そういった分野に需要が増えてくるということであれば、必ずしもそれが規定しているわけではない。
 日本経済の停滞と日本の企業が海外に出たり入ったりする議論に関してもう一言追加で申し上げますと、恐らく日本の消費者が世界で一番厳しい目を持っていらっしゃるわけで、本当言うと日本の企業は我々が直面している人口減少ぐらいであれば、別に売上げが大きく減るという話ではないのですが、企業経営者が上手く適用できなかったのは、高齢化した社会において、高齢者が欲する財・サービスをうまく提供できなかった。一方で、彼らはどうしたかというと、平成前期の時代に日本で適用できていたビジネスモデルを新興国に持ち込んだ。海外展開をしていますと格好いいことを言っているけれども、実は古いビジネスモデルの使い回しを海外でしているだけという部分も結構ありますから、国内で高齢者向けに新たな財サービスを生み出すことができれば、必ずしも人口減少だから停滞だという話にもならないのかなと。そういうふうにも思っております。
 すみません。回答がなかったような気もしますが、以上でございます。

深尾委員長
 時間が押していますので、もう一つ、2つの質問で終わりたいと思います。ほかに御質問ありますか。では、まとめて。まず、滝澤委員から質問していただいて。

滝澤委員
 御報告ありがとうございます。
 河野先生の御著書の中でも「6人の目の見えない人と象」というお話がありまして、多角的にいろいろなデータを見ていくことが重要であるということを、本日御報告いただいて改めて感じました。
 私からは1点。深尾先生の労働の質に関する御質問とも関連いたしますけれども、最後のパートのところで外国人労働の増加について御紹介いただいていました。前回のこの専門委員会で令和5年度の日本の将来人口推計で、外国人の入国超過数が年16万人と仮定されている。その数字自身、いろいろとディスカッションの余地があると思いますけれども、本日の御報告で、低スキル労働力の流入拡大というのは、そうした国内の低スキル労働者の相対賃金に対して低下圧力をもたらす可能性があるのでというようなお話がありました。そこで、この制度設計をどうすべきかというところを一言書かれておりましたが、追加で何か御説明いただける部分がありましたらお願いいたします。
 以上です。

深尾委員長
 時間の制約があるので、質問を集めさせていただいて、まとめて答えていただこうと思います。オンラインで参加されている武田委員からも質問がある。まず、德島委員、お願いします。

德島委員
 御説明ありがとうございました。
 今日の河野先生のお話とちょっと離れるところかもしれませんけれども、この経済前提に関する専門委員会で、その中で金利というのも一つの大きな要素であると考えます。河野先生は金利について御専門でいらっしゃいますので、これから先の金利を考える際に何か注意しないといけない点とか、これまでと違うこととか、何か気にされている要因がありましたら教えていただけたらと思います。
 以上です。

深尾委員長
 では、オンラインで参加されている武田委員も御質問がありますか。お願いします。

武田委員
 本日は大変すばらしい発表をありがとうございました。
 1点ございます。先生が本日強調されたとおり、日本は1994年~1995年頃に生産年齢人口が減少に転じたにもかかわらず、その後も労働集約型の経済モデルを変更することができず、非正規雇用を拡大することでOJT、OFFJT共に減少し、人的資本の質の低下を招いてきた問題は大きいと感じています。
 企業側は、コストを抑制することでビジネスを維持し、付加価値向上をともなわないビジネスモデルを続けてきたと思います。しかし、現在のように本当に人手不足になり初めて、非正規雇用の拡大や人件費の抑制ではなく、ロボットやAIを活用して付加価値向上を実現しようとする経営の動きが広がり、結果的に日本のTFP上昇の転機になるという、人口減を契機とした影響があるのか、ないのか。その点、河野様にご意見を伺えればと思います。

深尾委員長
 御回答をお願いします。

河野様
 皆様、ありがとうございます。
 まず、滝澤先生からの御指摘でございますが、この件で私が非常に気にしておりますのが、日本の場合、年配の方は違いますけれども、働いていらっしゃる方の半分が大学に行くようになられて、今はほぼ5割行かれることになっているわけですが、結局、大学に行かれていない5割の方々は、日本の場合、皆さん、高校はきちんと卒業されておられるので、欧米の低スキル労働をされておられる方と比べても、スキル度合いが全員高いのです。つまり、高校卒業で高い教育を受けているけれども、低スキル労働に携わられる方が少ないので、たまたまその人たちがやっているというケースがあるわけでありますが、人件費が安いということで海外から人を招いた場合、国内にいらっしゃるそういった仕事をされている方々の相対賃金が下がるということになります。
 2010年代以降、ほとんどの先進国で中道左派、中道右派の政党が瓦解していますが、この背景は、明らかにどこの国も中間層が瓦解しているからなのです。我が国でも政治的安定性がまだ損なわれていないというのは、そういった部分が影響していますので、目先の人手不足で、利益のためには外国人が要るのだというのは短期的な思考であって、制度を変えることによって今、お話ししたようなことがどういう帰結を持つのかということまで考える必要があるのではないかというのが私の認識であります。
 この話と関わりますと武田先生がおっしゃったことに対応するのだと思うのですが、海外からやってくる方が増えると多様性が増すとは言いますが、スピルオーバー等々を考えると、高スキルの労働を入れたほうがいいことと、あと、まさにこの10年間、人手が足りない。それは高齢者や主婦をされておられる方が技術革新、スマホ等で簡単に仕事を見つけることができるようになったので、そういった方々の参加率が上がったというのは極めて重要だったと思うのですが、結局、本当言うと、IT・デジタルとかロボティクスとか、そういったもので対応しないといけないのだけれども、安い人件費が確保されているから資本投入も増やさなかったし、イノベーションも行わなかったと。それゆえTFPの上昇も抑制されてきたということもありますから、低スキルの安い労働を海外から求めると、またそれが先送りされてしまう。逆に低スキルの外国人労働に頼るということをしなければ、武田先生がおっしゃったようなことの可能性もあり得るのではないか。すみません。2つまとめてお答えしたいと思います。
 最後に德島先生から御指摘いただいた件ですが、17ページで少し金利のグラフが出ておりまして、今日時間がなかったのでお話をしなかったのですが、我々が財政などを考えるときに大事なのは長期金利ですが、とりわけ長期金利と名目成長率の関係です。「r-g」の問題です。これはピケティの「r>g」のほうではなくて、ブランシャールの「r-g」のほうでありますが、2010年代から成長率のほうが長期金利より高くなっているということで、逆転が起こっているわけです。私は今回このグローバルインフレーションでこの逆転が起きるかどうかすごく気にしていたのです。インフレは両方関係するので、両方に影響してということもあるかもしれませんが、インフレが上がったほどは名目の長期金利も上がらなかったので、むしろ長期金利と名目成長率の逆転幅はさらに大きくなっています。
 これはインフレが収束してくれば、あるいはひょっとするとインフレが収束しても元のインフレ期待よりも高いところにあれば、最終的には長期金利が上がるということになるのですが、どうやら長期金利と名目成長率が逆転した状況がまだしばらくは続きそうだと。これについて3つ仮説を持っておりまして、1つは世界的に長寿化が進んでいるので、貯蓄をする人たちがどんどん増えて、貯蓄と投資のバランスが逸して、長期金利が低下傾向にあるということが1点目。
 2点目ですが、これはグローバリゼーションの影響があって、新興国がグローバル経済に参入するときに、結局、基軸通貨国、あるいは国際通貨国(先進国)の国債を持つと。つまり、新興国は安全資産を供給できないので、先進国の国債を持つということが先進国の金利を相当抑えていると思います。
 あとは、世界的な現象としては、日本はそうではないかもしれませんが、結局、イノベーションが起こって、その生み出す付加価値の受け取りが所得の高い人に集中しているということで、これまた貯蓄と投資のバランスを崩して長期金利を低い状況にさせているのですが、これはなかなか変わらないかなと思っております。
 ただ、問題は、政策的な議論をしますと、では、長期金利と名目成長率が逆転した状況で、さらにこの状況が拡大しているのであれば、財政の問題は放置していいかという話なのですが、長期金利を抑えたままにしておきますと、インフレも上がっておりますので、実質金利が相当に下がってきていて、これが円安を引き起こすことになります。
 昨今の140円台半ばの円安も、計算をこの隣のグラフでしてみると全然行き過ぎていなくて、これは名古屋大学に移られた齊藤誠先生がつくられたグラフを拡張したものですけれども、日米の実質金利差が拡大する結果、大幅な円安が起こっているということなので、そうすると、経済の天井が労働供給の問題で徐々に低くなっている日本では、既に完全雇用に入っていると思われますが、にもかかわらず、インフレが高いのにゼロ金利を続けてしまうと、これまでは、長く「低成長、ゼロ金利、ゼロインフレ」の組み合わせでしたが、金利を低いままにしておきますと、低成長だけど、円安・インフレで高いインフレが常態化することにもなりかねないということもあろうかと思います。
 以上でございます。

深尾委員長
 金利の問題を含めてまだまだ議論が尽きないのですが、予定の時間が大分過ぎましたので、次の議事に移らせていただきたいと思います。
 河野様、どうもありがとうございました。
 引き続きまして、前田参事官から資料2について、御説明をよろしくお願いします。

前田参事官
 前田でございます。座って失礼します。
 内閣府でございます。「中長期の経済財政に関する試算」、資料番号2-1になろうかと思います。時間も過ぎておりますので、ポイント資料のほうを使いまして御説明申し上げられればと思います。配られております資料のほうでよろしくお願いいたします。
 こちらは「中長期の経済財政に関する試算」、中長期試算と呼ばれておりますけれども、この試算は今後10年程度の経済と財政の展望を示しておりまして、中長期の経済財政の検討のための基礎資料ということで、経済財政諮問会議に提出しているものということになります。近年、予算編成のスケジュールなどに合わせまして年2回、1月と7月に公表してきておりまして、直近7月25日に公表したものを本日はお持ちしてございます。
 1ページ目に経済の概要を記載してございます。数字の比較のためにベースラインケースと成長実現ケースという2つのケースを提示しております。後ほど御説明申し上げますけれども、中長期の成長に大きな影響を与えるTFP上昇率というものがございますが、ベースラインケースではこれまで同様の年率0.5%程度の成長。現在の成長が継続する姿ということでお示ししてございます。一方で、成長実現ケースに関しましては、デフレ前の期間、大体1980年代と90年代でございますが、その平均で1.4%まで上昇する姿を示してございます。
 この試算でございますが、経済財政モデルという計量モデルを用いて試算してございます。人口などの前提を基に、マクロ経済の姿と、社会保障、財政について相互に影響を及ぼすという形のモデルになってございます。こちらのマクロ経済の試算に関しましては、これも後ほど紹介したいと思いますけれども、経済の供給構造、成長会計の枠組みで明らかにしておりまして、潜在成長率というものを計算しております。1ページ目の左のグラフはその結果でございます。
 右側が需給バランスに応じまして、物価とか金利とか、そうしたものの変化に応じて計算した結果で、経済の需要面も表した実質GDPの成長率の姿となってございます。実質GDP成長率は、中長期的には供給側でございます、左側の潜在成長率、GDPの姿に近づいていく、収れんする姿になってございます。
 経済の供給側であります潜在成長率の動きに対しまして、経済の需要面であります実質GDPの成長を見ますと、足元で需給ギャップがかなり縮小しているということもございまして、おおむね潜在成長に沿った動きとなってございます。ベースラインケースで実質0%台半ば、成長実現ケースで実質2%程度の成長の姿を示してございます。
 このような経済の姿を前提とした財政の姿が2ページ目でございます。左側は国と地方を合わせた基礎的財政収支、プライマリーバランス、PBの対GDPを示しています。PBとは、社会保障とか公共事業をはじめとしまして、様々な行政サービスを提供するための経費、すなわち政策的経費を税収等で賄えているかどうかということを示す指標となってございます。ほかに、利払いを除いた政府の出資という言い方もできるかと思います。
 PBに関しましては、コロナ禍の累次の経済対策によりまして歳出の増加がございまして、2019年度まではマイナス2.6%程度まで改善してきていた状態なのですけれども、20年度に大幅に悪化いたしました。23年度まで5%程度の赤字が続くという姿になってございます。その後2024年度には大幅な経済対策を想定していないことから、コロナ前の水準を回復する姿となってございます。25年度にはベースラインケース、成長実現ケース、いずれも若干の赤字が残るという姿を示してございます。赤の成長実現ケースに関しましてはマイナス0.2%程度、青のベースラインケースに関しましてはマイナス0.4%程度と計算してございます。
 成長実現ケースに関しましては、歳出効率化努力というものを継続した場合におきましては、ぎりぎりですけれども、0.1%程度の黒字ということでお示ししてございます。その後、成長実現ケースに関しましてはプライマリーバランスが改善していくという姿になってございます。
 この試算は様々な仮定を置いてございまして、詳細は本文の詳細の前提を御覧いただければと思います。1つに本試算は既に定められた政府の政策は盛り込んでいるということでございますが、まだ決まっていない政策というものは盛り込んでございません。こちらのポイント資料では備考のほうに記載してございますが、「防衛力整備計画」及び「防災・減災・国土強靱化のための5か年加速化対策」などは反映してございますが、「こども未来戦略方針」で示された予算・財源フレームに関しましては、今後具体的な内容、規模について決定されてから反映するということになろうかと思います。
 また、税収に関しまして、2022年度決算で少し上振れた部分がございますけれども、こちらも一部23年度以降に反映させるという措置を取ってございます。
 右図がそれを反映いたしました公債等残高の対GDPでございます。ベースラインケースでは若干の赤字が残って、名目成長率も低いということもございますので、試算期間後半に上昇に転じるという結果になってございます。
 成長実現ケースではPBが黒字化していくということがございますので、成長率が金利を上回る中で、徐々に低下していくという姿を描いてございます。
 以上が主な結果でございます。
 なお、今回の試算では経済財政諮問会議の議論などを踏まえまして様々な拡充を行っております。骨太の2023の中で、例えば中長期の経済財政の枠組みの検討に当たりまして、経済シナリオの位置づけ、政策効果の発現の仕方といったものなど、中長期の経済財政の展望の分析を拡充すると。あと、将来の不確実性を考慮したリスクの評価、感応度の分析の充実など、対外発信する情報を拡充するとしております。
 これに関しまして4点ほど御紹介しておきたいと思います。まず、3ページ目ですけれども、シナリオの位置づけでございます。参考ケースという簡易試算を示してございます。成長実現ケースが試算時期の後半にTFP上昇率が1.4%程度となっている状況でございますが、こちらに関しましては、過去40年程度の平均の1.1%程度としたものを想定してございます。これによりますと、1人当たり実質GDP成長率が2%程度、PBに関しましては、成長実現ケースと同様、2025年度に若干のPB赤字が残りますけれども、歳出効率化により黒字化が視野に入る範囲となってございます。
 なお、本文のBOXコラムというものを幾つか設けておりますが、その中でTFPの上昇率に関しまして、岸田政権が取り組んでおります主要政策について、「人への投資」などでどれぐらいTFPが上昇するだろうかということを説明する試みなどを行ってございます。
 次に、リスクと不確実性の分析は拡充してございまして、こちらが4ページになります。推計値が振れる確率というものを示すファンチャート分析を掲載してございます。これは過去の経済データを用いました確率シミュレーションを基にいたしまして、ベースラインケースの成長率が低下するにつれてマイナス成長率に振れる確率がどれぐらい高まるかということが見てとれる形になってございます。
 また、リスクの内容に関しましては、中長期のリスクということで、詳細は本文14ページ以降に記載してございますけれども、こちらで潜在成長率がベースラインケースよりも引き下がったベースとか、長期金利が試算推計値よりも引き上がったケースなどの感応度分析なども示してございます。
 5ページ目も拡充の一環でございまして、冒頭申し上げました潜在成長率の成長会計の姿というものを示してございます。成長会計の枠組みですと、紫がTFP、オレンジが資本、緑が労働の寄与となってございます。潜在成長率は、1980年代の4%、90年代の2%程度と、河野様の御資料の中にありましたけれども、それと同じ姿が書かれてございます。緑の労働でございますが、本文2ページ目に人口の推移が書いてございますが、生産年齢人口が減少していくと。それを反映してプラスの寄与がだんだんマイナスになっていくという形になっております。
 2028~2032年度の平均で、ベースラインケースでは0.5%程度、成長実現ケースでは1.8%程度と潜在成長率を計算してございますけれども、先ほどの人口減少の結果に関しましては、ベースラインケースで一定程度、成長実現ケースでかなり労働が促進されるという世界になってございますが、ちょっとマイナスの寄与というものは残っているという形になってございます。
 その下でございますけれども、併せて1人当たり実質GDP成長率、右側に賃金上昇率というものもお示ししてございます。
 拡充の内容で最後に御紹介するのは財政の分析でございます。プライマリーバランス。バランスと申しますので、収支になっているわけですが、その収入と支出、歳入と歳出を分けて図解するということなどを行ってございます。
 簡単ではございますけれども、以上で御説明を終えたいと思います。試算の結果ですとかリスクですとか、そうしたものは試算の本体に詳しく説明してございます。物価上昇率、賃金、金利とかそういったものに関しまして、計数表、本文では23ページ以降に記載してございますので、併せて御覧いただければと思います。
 失礼しました。

深尾委員長
 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明につきまして、御質問、御意見等ありましたらお願いします。どうぞ。

藤澤委員
 御説明のほう、ありがとうございました。
 この委員会でも過去に議論になったのですが、コロナの影響をどう見るのかという論点で、この中長期試算をつくるときにコロナの影響をどう考えられているのかという点をお伺いしたいのが御質問です。例えば、TFP成長率の0.5%というベースラインの前提ですが、資料2-2を見ると、2012年から2020年の平均を使っているという記載がございまして、2020年にしているのは、コロナの影響を加味しているからここまでの期間にしているのかどうか。その辺りについてコメントをいただければと思います。よろしくお願いします。

深尾委員長
 お願いします。

前田参事官
 コロナの影響でございますけれども、ポイント資料ですと1ページ目、経済の姿がございます。2020~2022年度まではコロナの期間だと思いますが、実際潜在成長率が引き下がってございます。TFPに関しましては、試算上は2013年から2020年の平均という形で取ってございまして、これは第16循環、景気循環の平均値ということで取ってございます。たまたまと申しますか、2022年度で取ったTFPの成長率も0.5ということになってございまして、足元の出発地点というものも想定しております0.5%の成長と大体同程度であるということでございます。
 一方で、コロナの影響ということに関しましては、労働時間が引き下がったことなどが大きく出ておりますので、労働に対する影響というものが一番大きく出ているのではないかなと見ております。

深尾委員長
 権丈委員。

権丈委員
 伺いたいのは、この試算というのは予測なのか、投影なのか、それとも、違うとは思うけれども、希望なのか。どれかはっきりしてもらえればと思います。我々、年金の経済前提は投影をやっています。そして、利用している資料の人口も投影をやっています。その中に内閣府試算をどう組み込んでいくのかということを考えなければいけない作業があるので、内閣府がいつもやっている作業というのは、予測なのか、投影なのか、希望なのか。
 そして、投影をやるときに最もやってはいけないことは恣意的なこと。だから、恣意的なことをやらないように、会議をオープンにして、前提を議論して、みんなでやっていくというのを、人口もこの経済前提の会議もやっていくわけですけれども、果たして中長期の経済財政に関する試算とは何なのかというのを教えていただければと思います。

前田参事官
 ありがとうございます。
 こちらは議論のため、足下の予測値と一定程度の前提を置いたシミュレーションという形になっています。この2つのシナリオに関しまして前提を幾つか置いているわけですが、TFPについて、ベースラインケースが足元と同程度で続いているだろうと。成長実現ケースに関しては、政策の効果が発現して1.4ぐらいまで上がるでしょうということを、まず置いているというところがございます。
 労働に関しまして、ベースラインケースでは労働参加が一定程度進むという、JILなどで行われている推計の前提などを参考につくってございます。成長実現ケースでは労働参加が高齢者とか女性を中心に伸びるということを前提につくってございます。それらを用いまして公開しておりますマクロ経済モデルの中で計算をするということで示してございます。
 成長実現ケースに関しましては、一定程度この政策の効果を織り込んでいるというところがございますので、この部分について議論いただいていると思います。

深尾委員長
 ほかにはいかがでしょうか。小枝委員。

小枝委員 御説明ありがとうございました。
 内閣府の中長期試算は、私も定期的に見ている資料なのですけれども、今回ファンチャートが加えられたり、歳出・歳入の内訳が出ていたり、拡充されているなという印象を受けました。経済前提では内閣府の最初の試算を前提にしてつなげていくというところなので、そのつなぎということで非常に大事なパートとなるので、ぜひ分析をさらに拡充していただいて、いろいろ公表していただきたいなと。お願いでございます。

深尾委員長 ほかにはよろしいですか。
 では、前田委員の御報告と質疑はこれで終わりたいと思います。ありがとうございました。
 ここで河野様は所用により御退席となります。河野様、本日はお忙しいところ、大変ありがとうございました。

河野様
 ありがとうございました。失礼いたします。

(河野様退室)

深尾委員長
 引き続きまして、議題2「これまでの主な意見の整理について」の議事に入ります。これまで4回本委員会を開催し、委員の皆様からは様々な御意見をいただきました。今後取りまとめに向けてより具体的、技術的な検討や作業を行っていく必要がありますので、これまでの意見について事務局にまとめていただきました。事務局から資料3により御説明をお願いします。

佐藤数理課長
 数理課長でございます。
 資料3を御覧ください。ただいま委員長より御説明がありましたけれども、こちらは事務局の責任において第4回までの専門委員会の主な意見を議事録より抽出し、項目ごとに並べたものであります。
 表紙をおめくりになりまして1ページを御覧ください。まず、1の総論となります。基本的な考え方として、財政検証は、予測というよりも、一定のシナリオに基づく投影であるといった性格に留意し、幅広く複数のシナリオを設定するということをベースとすべきといった御意見があったところであります。
 続く、2の経済モデルについてであります。まず、経済モデルの在り方でございますが、これまでも使われてきているフレームワークについては極めて簡単なものでありまして、これ自体は否定しようがないということ。また、閉鎖的な経済を仮定されておりますが、これを使うのが現実的ではないかという御意見があったところであります。
 一方、見直すべきところは見直すということでありまして、総投資率の設定について御議論があったところであります。前回、5年前の設定については、投資率を過去の低下傾向で外挿して設定した結果、投資率が低迷する一方、利潤率が上がっていくという議論になっていたわけでありますが、利潤率が上昇すれば、逆に投資が促進するといったメカニズムも考えられるのではないかという御指摘があったところであります。それを踏まえまして、過去の実績を調べたところ、利潤率の変化に一定のラグを置いて投資率が変化しているということを確認したところであります。
 そこで、事務局より利潤率と投資率の関係を用いて過去の利潤率から投資率を設定するといった方法を1つの案として御提案させていただいたところであります。この提案に関しましては、利潤が上昇すれば投資が促進するといった理にかなったものであるのではないかという御意見があったところであります。
 一方、投資が増えれば景気がよくなり、利潤率が上昇するという逆の因果も考えられるのではないかという御指摘もあったというところであります。
 さらに、利潤率の計算式についても御議論があったところであります。分配を考える際に間接税マイナス補助金というものを最初に控除して考える必要があるのではないかということで、計算式を見直すべきではないかという御意見があったところであります。
 一方、理論的には御指摘のとおりということでありますが、数量的な影響は軽微と思えますので、どう説明するかという問題ではないかという御指摘もあったところであります。
 続きまして、2ページを御覧ください。経済モデルに様々なパラメータを設定しておりますが、このパラメータに関する御意見でございます。まず、TFP上昇率についてであります。前回、過去30年の分布を踏まえて設定しておりましたが、同様に過去30年とすると、バブル期がデータより外れてしまうということになります。これに関しては、バブル前後の構造変化などを踏まえますと、バブル期を入れずに見るということが妥当ではないかという御意見があったところであります。また、今後の動きにつきましては慎重に見ていくべきという御意見もあったところであります。
 続いて、運用利回りの設定のベースとなるGPIFの実績についてであります。運用についてはアップダウンはありますが、結果的には分散投資により成長の果実を得ることができる。こういった観点から現行のポートフォリオやこれまでの運用実績を基に設定する方法、こちらは現行の方式ということになりますが、これが適切ではないかという御意見があったところであります。
 また、本委員会ではGPIFや各国の年金基金の長期的な運用実績を確認したところであります。その結果、前回設定した実質的な運用利回りと比べまして、実績は前提を上回っているところでありまして、前回の設定がむやみに高いものではないということがクリアになったという御指摘がありました。
 また、GPIFの基本ポートフォリオは段階的にリスク資産の構成割合が高いものに変わってきておりますが、これをバックテストということで、現行のポートフォリオで過去から運用した場合における、リターンの推計を実施したというところであります。その結果、リスク資産が高ければボラティリティーは高いが、平均収益率も高くなるという結果が得られたところであります。このことから、今後もリスク資産の高いポートフォリオでいくのであれば、シナリオの一つとして、実績だけではなく、バックテストの数字も考慮するという方法も考えられる等の御意見があったところであります。
 続いて、3ページを御覧ください。賃金上昇率の設定の考え方になります。これまでの財政検証では、労働生産性上昇率をベースに実質賃金上昇率を設定してきているところでありますが、この設定方法については、完全競争市場であれば両者は連動するはずでありまして、一つの仮定としてリーズナブルではないかという御指摘がありました。
 一方、雇主と雇われる側の賃金交渉力に格差があるという場合などについては、両者に乖離が生じますので、今後の日本において両者の乖離をどう見立てていくかというのが非常に重要なポイントになるという御意見があったところであります。
 また、ヒアリングにおきましても、企業単位の分析であったかと思いますけれども、賃金のドライバは労働分配率でなく、労働生産性であるという御指摘もあったところであります。
 労働生産性上昇率と実質賃金上昇率の乖離についても御議論があったところであります。この乖離の主要因の一つとしてCPIとGDPデフレーターの差がありますが、前回はこのうち作成方法の違いの一部を考慮するということにいたしました。これを構造的にどれだけ考慮するかについて、国際比較などを踏まえて、日本はこの差が大きいということもありまして、論点の一つではないかという御指摘があったところであります。
 また、デフレーターの差のもう一つの要因であります交易条件の悪化についても御議論があったというところであります。足元、日本では交易条件が悪化しておりますが、中長期的にどうなるか考える必要があるのではないかという御意見がありました。また、国際比較で日本と韓国が交易条件が悪化していることにつきまして、原材料を輸入して完成品を輸出するという産業構造の影響についても御指摘があったところであります。
 また、CPIの作成方法の違いについても御指摘がありまして、事務局で調べたところ、各国によりCPIの作成方法に違いがあるというところも確認したところであります。
 さらに、デフレーターの差以外の要因につきましても、国際比較で見ますと日本では大きな要因となっていることから、慎重に考えていくべきとの御意見がありました。特にその他の要因の中で雇主の社会負担の問題は重要ではないかという御意見もあったところであります。
 また、こういった乖離を考える際に、経済前提というのは数十年単位の前提になりますので、その要因が数十年単位で続くものなのかどうか、そういったことを整理する必要があるのではないかという御意見もあったところであります。
 続いて、4ページを御覧ください。引き続き賃金上昇率の設定の考え方についてであります。今後の労働生産性や賃金の動向について御意見がありましたので、まとめております。
 国際的に見て賃金上昇率をマイナスに仮定している国はないという御指摘があったということであります。
 また、過去10年から20年の日本の状況を振り返りますと、女性や高齢者が低賃金で働く労働供給となったために賃金が伸びなかったという見解をお示しになられた上で、ただ、これから先を考えますと、こういった労働供給は細っていくということで、状況はかなり変わってくるのではないか、また、変わる転換期にあるという仮説を視野に入れるべきという御意見があったところであります。
 また、ヒアリングにつきましてもいろいろ御指摘がありまして、内部労働市場の重要性が低下していく一方、外部労働市場の供給余力がなくなっていくということになると、賃上げ圧力が効いてくるであろうという御指摘がありました。
 また、日本では賃金よりも雇用を優先してきたので、賃金上昇の圧力が弱かったが、徐々にその変化が生まれてきているといった御指摘。
 さらに、賃金と密接な関係のある労働生産性についても、投資やスキルの累積といったことによって向上の余地があるという御指摘があったところであります。
 さらに、国際比較で日本の資本減耗率が高いことに関連しまして、資本のビンテージが短いことに原因があり、その結果として労働分配に回っていないのではないかという御意見もあったところであります。
 続いて、5ページを御覧ください。前回はケースVIのみ他のケースと異なる運用利回りの設定方法を用いておりまして、ほかのケースは実績を基に設定しているわけですが、ケースVIのみイールドカーブから設定するという方法を用いておりました。これに関連しまして、他のケースと比べて方法論としては優劣がつくものではないということで、分かりやすさの観点から実績を使った方法に統一していってもよいのではないかという御意見がありました。
 また、イールドカーブというのはよく動くものでありますので、特定の時点のイールドカーブを用いる手法をメインの手法とはしにくいということ。特に日本銀行によるイールドカーブコントロール下のものについては、マーケットの期待を反映しているものではないのではないかという御意見があったところであります。
 続いて、物価上昇率の設定についても御意見がありました。物価上昇率については、モデルとは別に設定しているわけでありまして、こういった手法をきちんと説明すべきではないかという御意見。さらに、経済学における古典派的二分法を仮定しますと、このような方法も一つの方法としてあり得るだろうという御意見もあったところであります。
 続いて、6ページを御覧ください。新型コロナウイルス感染拡大の影響についての御意見であります。前回検証後、コロナの感染拡大がありまして、中長期的な経済前提を考える際、情報としてどこまで取り入れるかということは非常に難しい問題であるが、議論が必要という御意見がありました。
 一方、この影響につきまして、異常年度として取り扱う場合は、何が異常かと定義する必要があり、この中では一定の恣意性が入る余地があるという御指摘がありました。このため、特別な処理を行わないことも合理的な取扱いではないかという御意見があったところであります。
 さらに、その他の御意見といたしましては、将来推計人口において外国人割合が大きく上昇するということに関連しまして、日本全体の形に関する強い仮定が置かれているということになりますので、これについては慎重に考えていく必要があるということ。例えばケース分けのようなことも検討すべきではないかという御意見があったところであります。
 一方、財政検証で社人研の将来推計人口をこれまでずっと用いてきたという御指摘があり、外国人も日本人と同様に年金制度に適用されることを踏まえますと、年金財政に国籍の違いが大きく影響するものではないという御指摘もあったところであります。
 さらに、積立金の平滑化に関して、その影響や経済前提の整合性も考慮すべきという御意見があったところであります。
 以上、私からの説明であります。

深尾委員長
 ありがとうございました。
 資料3については事務局でまとめていただいたものですが、資料3について御質問、それから追加すべき御意見、補足説明などありましたらお願いします。どうぞ。

権丈委員
 補足説明になるのでしょうか。財政検証は、最初に書いてありますように、プロジェクション、投影であるということは、これからも繰り返し確認しなければならない原点だと思います。財政検証は投影だという命題は、政策という現実側面からの必要性、そして予測ということは、他の条件を一定とするという議論はできるのですけれども、他の条件一定というはずもないので、予測には人知の限界があるという認識の下、これは様々な理由から導かれた命題ですね。
 政策の必要性、人知の限界を意識した人口試算も投影です。言わば財政検証というのは、投影である人口試算の上に経済前提を勘案して投影を重ねるという二重の投影を行う作業です。こうした作業で最も注意しなければならないことは恣意性を排除することで、先ほども言いましたように、だから、議論の透明性を保障するためにこういう会議が存在するわけです。
 6ページに今回の将来推計人口では外国人の流入について「強い仮定」が置かれたと書かれていますけれども、この人口推計に関わった人たちから見れば、恣意性を排除したらこうなったという話で、彼らは納得しているようなんですね。そこで、この会議で「強い仮定」という表現を使っていくことに関しては若干の違和感があるかなと思います。
 年金の制度設計を行うためには将来の見通しが必要で、各国、長期試算を行っています。これについては前期の経済前提専門委員会で出口治明委員が、「諸外国に比べて異常に細かい前提を置いているということが本当に妥当なのかどうか。前提条件においては、グローバルスタンダードに合わせるという視点がないことは少し残念な気がします」と発言されていまして、年金の制度設計のために行っている投影であるということを考えれば、出口さんの発言も一理あるのかもしれません。
 また、前期の委員会で吉川洋先生は、「スタンダードな成長会計のモデルであるというのは、結論的にはこれしかないだろうと思いますし、私もそのことに異存はないのですが、成長会計のモデルというのは、通常はいわゆるサプライサイドのモデルだと理解している」と。そして、吉川先生が、「私はそれにはテイクイシュー、異論があるのですが、そのことはちょっと別にして、需要サイドをどう考えるのかということです」という発言をされています。
 そもそも2004年の財政再計算のときからコブ=ダグラス型の生産関数が使われ始めたのですけれども、それは労働力が減少していく側面を試算に反映させるべきであるという1999年の財政再計算時の年金審議会での意見を反映させる方法を数理課が考えていったところから始まります。
 需要サイドから経済を考えるモデルは、労働力は登場しなかったりもするのがあるわけですが、これは技術的にはこの財政検証には使えない。だから、ケインジアンのソローも供給側のモデルを使ったように、我々は吉川先生がおっしゃるようにサプライサイドのモデルを使わざるを得ない。そうすると、全要素生産性というような、労働と資本の誤差項のようなものが登場してくることになって、いろいろと議論していくことになるのですけれども、原点は投影であって、年金の財政検証のために行うのだということは確認していく必要があると思います。
 この会議では生産関数を恒等式として利用しているだけであって、因果を考えているのではないわけです。だから、吉川先生もモデルそのものには異論があるけれども、この会議で使用することには異存がないという話だったわけです。
 ここで事務局にお願いしたいことは、前回の経済前提専門委員会で当時数理調整官だった佐藤さんが報告をした経済変動が年金財政に与える影響、つまり、ここで検討している変数が年金財政のどのような変数にどのように影響を与えているのかということを次回にでももう一度説明していただければと思っております。
 以上です。

深尾委員長
 どうぞ。

佐藤数理課長
 御要望に関しては、委員長と相談の上、検討いたします。

深尾委員長
 土居委員、お願いします。

土居委員
 追加の意見というか、今日前田参事官からも御説明があった中長期試算のTFP成長率の説明と、来年の財政検証でどういうTFP上昇率を用いるかというところの関係について問題提起というか、若干意見が入りますけれども、申し上げたいと思います。
 先ほどの前田参事官の御説明ではポイントのほうを使われましたが、資料2-2の2ページから3ページにかけて、TFP上昇率はどういうところからその数字を参照したかということが書かれていて、ベースラインケースだと2ページの下から3行目にあるように、直近の景気循環並みのもの。成長実現ケースでは3ページの中頃にデフレ状況に入る前の期間の平均ということが書かれているということです。
 前回の令和元年の財政検証では、皆さん御承知のように、過去のTFP上昇率の分布を取って、その分布の上位2割とか4割という形で、そこから先のTFP上昇率をどういうふうに見込むかということで、6ケース設定したということになっている。ということだとすると、令和元年のときの過去30年のTFP上昇率の分布からその先の上昇率を6ケース出したということと、内閣府がデフレ状況に入る前の平均、これは成長実現ケースですけれども、との関係をどういうふうに見るか。つまり、内閣府は内閣府で分布とまでは言わないけれども、平均を取ってきて、その数字を使っている。令和元年の財政検証と同じ方法を用いるとすると、過去30年のTFP上昇率の分布を取ってきて、上から何%のところでの値、その次のカテゴリーのところでの値というふうな形で、6ケースに分けているということですけれども、整合性は取ろうと思ったら多分取れるのではないかなと思いますが、矛盾しないような形で整合性を取っていくということが、来年の財政検証のときのTFP上昇率の設定に重要になってくるというところはあるのかなと思います。
 私も内閣府のTFP上昇率の設定がどういうデータを参照されて、平均という言葉を使われているのかというのは、つぶさには存じませんので、そこはより綿密に御検討されるということが必要なのかなと思います。
 以上です。

深尾委員長
 前田さん、ベースラインのケースになるのですかね。過去の平均で計算されている場合、いつからいつのTFPの上昇について計算されているかとか、もし追加の説明がありましたらお願いします。

前田参事官
 ありがとうございます。お時間をいただきましたので。
 今、土居先生から御指摘いただきました2ページと3ページ、特に2ページの脚注のほうに詳細の時期を書いてございます。2ページ目の脚注7と8になります。脚注7がベースラインケースの範囲ということで、第16循環、一番直近の2012年10-12月期から2022年4-6月期ということです。こちらのTFPの成長率の平均という形になります。
 成長実現ケースに関しましては、デフレに入る前ということで、1999年度からということで考えておりますので、それまでということでデータがございます。1980年4-6月期以降ということで、1986年4-6月期から1999年1-3月期までを平均したという形で取ってございます。

深尾委員長
 すみません。関連して質問なのですけれども、国民経済計算2008SNAでソフトウエアとか研究開発とかを資本に考慮、入れている公式の推計というのは90年代以降しかないような気がする。そうでもないのですか。ずっと昔まで同じ基準で計ることができるのですか。

前田参事官
 基本的に94年からの数値というものが書かれてございますけれども、1980年から93年までの遡及推計というものがございますので、私どもはそちらを使ってございます。

深尾委員長
 2008SNAで遡及することができるということですね。

前田参事官
 はい。

深尾委員長
 分かりました。
 ほかに。玉木委員。

玉木委員
 ただいま土居先生から前回のTFPについての言及がございました。実はTFPについては、前回検討作業班というのが置かれまして、そこでTFPの置き方についてどう国民に説明するかというところが議論になりました。それで、ある委員がうまいことを考えてくださいました。平成の30年間のヒストグラムでこれぐらいのところにあるものはどのケースだというふうな出し方をすることによって、この経済前提で置かれているTFPがやけに楽観的であるとかいったことがないように、分かりやすく、過去の、平成の経済を先に伸ばしたような形になるのだということをうまく表現してくださいました。
 全要素生産性という言葉は、なかなか一般国民に届けることが難しい概念でもございますので、そこは非常に工夫を要するところだと思います。また、今日の河野さんの御説明とか、その後の質疑でも出てまいりましたけれども、本格的な人手不足というものが、もしかすると企業経営の根幹にまで及ぶかもしれないという指摘があったところでございます。これがTFPにどういう影響を及ぼすのか、到底分からないわけです。ですから、そこはある意味「置く」しかないわけでありまして、置くときには何か歴史に根拠がないと、誰も納得感を持つことはできないわけです。もしかすると、本当に企業経営が変わってきた場合には、従来のヒストグラムの一番端っこにあるものになるかもしれないわけです。そういったことが起きつつあるときにこの経済前提の報告書を出すわけですし、また、財政検証のプロセスも進んでいくわけですので、そのときの国民に届けやすいような表現の仕方といったものを、TFPについては特に工夫を凝らしていくべきかなと思っているところでございます。
 以上です。

深尾委員長
 土居委員。

土居委員
 私の発言に補足をちょっとしておく必要があるかなと思って申し上げたいと思います。令和元年の財形検証のときの内閣府の試算における成長実現ケースとベースラインケースのTFP上昇率が、今回前田参事官が御説明されたような形で置かれていたわけでは必ずしもなかったのではないかというのが私の認識としてあって、どうやったかというのは、つぶさには存じませんので、今、申し上げることはできませんけれども、何を申し上げたいかというと、まさに玉木委員がおっしゃったように、過去のヒストグラムからケースを6ケース出してきたということと、前回はそのヒストグラムと関係ないと言ったら怒られますけれども、分からないですが、ヒストグラムと関係ないところから内閣府の中長期試算で置いていたTFPの値があるので、そうすると、重複しないというか、玉木委員が御説明されように、ヒストグラムはヒストグラムとして情報を取ってきて、それを経済前提として使うということがあって、それと内閣府の中長期試算は全く独立してTFP成長率を仮定して、その当時の中長期試算を推計していたということとは独立して数字が出てきているので、それをつなげるということは確かに一つの考え方だろうなと思うのです。
 ところが、今回は、先ほど前田参事官の説明にあったように、過去のデータから内閣府も数字を取ってきたということになっているということなので、令和元年の財形検証のときのTFPのヒストグラムの形状から数字を取ってきたということとどこまで矛盾なくそれができるかというところに私の認識があって、今、申し上げたというところを付け加えさせていただきたいと思います。

深尾委員長
 どうぞ。

佐藤数理課長 
 前回の設定について事務局から補足いたします。前回は、土居委員がおっしゃったように、足元と長期のところでTFPの設定の考え方は異なっていたわけですが、ただ、数字のつながりは意識しておりまして、例えばケースI~IIIが成長実現ケースとつながるのですけれども、その場合にはケースIが内閣府と大体同じ水準になるように、また、ケースIV~VIがベースラインケースとつながるわけですが、ケースIVが内閣府と大体同じような水準になるように設定をしたところであります。このように一定の足元と長期とのつながりというのは考えて設定しているところであります。

深尾委員長
 私のほうからいいですか。別の論点です。ここの主な意見にまだ載っていない論点で、成長会計の専門家の一人として気になっているのは、労働の質の上昇について明示的に考えていないことです。60年ぐらい前にソローが初めて成長会計分析をしたときには、経済成長のほとんどは残差のTFPになってしまって、説明できなかったわけです。その意味で、TFPの上昇というのは経済学者の無知のインデックスだと言われることもあるぐらいなわけですけれども、その後も世界中の研究者が頑張ってTFPを削って、構造的な要因で説明しようということをしてきたわけです。例えば研究開発をSNA、投資の中に入れることで、資本蓄積の寄与のところにその要因を入れるとかいった形で改善されてきたわけですが、そういう意味で、日本の現在の内閣府とかのTFPの計算で世界標準の研究者の研究と比べて遅れているのは、労働の質の上昇を考慮していないということだと思います。
 今日も幾つか論点、河野さんの御報告にもありましたけれども、日本はここ10年ぐらい非正規雇用が増えることでいわゆる労働の質、賃金で計るわけですが、報酬が低くて、生産への寄与も低いとみなされるような働き方、非正規雇用、高齢者とか女性中心に増えて、そのことが残差としてのTFPを引き下げているのだけれども、実はそれは生産性の要因というよりは、労働の質、労働者をうまく生かしていないという意味でのマイナスの要因だった可能性があって、長期的に考えると、恐らくここ10年ぐらいの非正規雇用の拡大のようなことは続かないでしょうから、そういうことは何か少し考えてもいいのかなと思います。これは楽観的なシナリオというよりは、構造的な、計測できる実証研究に基づく議論になりますので、プロジェクションの一部として認められるのかなと私は思います。またここも議論させていただければと思います。
 小枝委員。

小枝委員
 御説明ありがとうございました。私からはコメントを申し上げたいと思います。
 今回の経済前提でいくつか望ましい変更点があると思います。一つ目は、総投資率の設定方法であると思っております。総投資率というのは、そのパスを与えてあげて、モデルから利潤率が出てきて、それが実質運用利回り等の計算で使う大事なピースとなると思います。今回は、総投資率をただ外挿するだけでなく、前年の利潤率に依存するように設定(外挿)していくと点が新しくなったと理解しています。
 二つ目は、運用利回りのところで、実績値の情報をもう少し使っていく点です。前回5年前と比べると、世の中で資産運用の理解が進んだという印象を受けております。過去30年といったような、長い目で見てどのぐらいの運用利回りが見込まれるかという考え方、目先の変動にあまりとらわれない考え方、などです。
 
深尾委員長
 ほかにはよろしいですか。お願いします。

藤澤委員
 御説明のほう、ありがとうございました。
 5ページのイールドカーブの説明の中に、分かりやすさの観点も必要ではないかというコメントがありますが、これはイールドカーブだけでなくて、全般的に必要な観点だと思っています。財政検証も一種のアクチュアリアルなレポートだと考えてございますが、アクチュアリアルなレポートをつくるときに、利用者のレベルに応じてコミュニケーションする必要があるというのがベストプラクティスとされていますので、この財政検証の利用者である国民に分かりやすく伝えていくという観点が全般的に必要ではないかと考えてございます。
 以上です。

深尾委員長
 どうぞ。
権丈委員 先ほどの深尾委員長の話と武田委員の話は同じことではないのかなと考えておりまして、労働市場がいよいよ逼迫してきて、非正規が正規の供給源になるような現象が起こり始めているわけですが、そうなると付加価値生産性が低い企業は生きていけなくなってくるので、そこが淘汰されるか、あるいは付加価値生産性が高い業態へ転換していくというふうにならざるを得なくなってくる。そういう現象が起こってくると、平均的に見た付加価値生産性というもの、つまり、他の条件が一定であれば、この国の労働生産性というのは高くなっていくというような現象が起こってくる。そのようになり得るだろうから、深尾先生がおっしゃっていたようないろんなバリエーションをある程度考えていくというのは、投影の中で行うことができるような話になっていくのではないかと私の中でも理解しております。

深尾委員長
 武田委員から手が挙がっていますので、武田委員、お願いします。

武田委員
 ありがとうございます。
 少し前の議論に戻りますが、先ほどTFPの議論がございました。前回は内閣府のベースラインと成長シナリオを途中まで使い、その後つなげていく形でした。当時少し問題提起しましたが、途中までは成長率が上がり、途中で段差でつなげる形が前回気になっていた点です。
 当時は、精査した上で、100年という単位の中では大きな差はないということで、最終的にはその形で終えた記憶がありますが、今回内閣府の詳細版資料の4章にあるとおり、リスクや不確実性がますます高まる中で、これは機械的な試算とのことですが、潜在成長率が低下した場合の数字も出して頂いています。したがって、ベースラインより下のケースも接続として一つ候補になるのかどうか。その点も検討が必要ではないかと思います。
 同時に、成長実現ケースですが、これは過去の数字を用いて算出されているとのことですが、大変興味深いのは、BOXで様々な政策が功を奏した場合のTFP上昇の先行研究に基づく成長押上げ効果を出していただいております。その資料に基づきますと、0.7%程度が種々の施策の押上げ効果として示されております。足元のTFP上昇率0.5%程度に足しますとTFP上昇率は1%強となり、1.4より若干低い値です。前半は内閣府の試算に基づくとしましても、様々なバリエーションを持って試算していただいている中で、我々としてどのようにそれを活用させていただくか検討が必要なのではないかと感じた次第です。
 以上です。ありがとうございます。

深尾委員長
 ほかにはいかがですか。土居さん。

土居委員
 今の武田委員のおっしゃった点は非常に重要なポイントだと思うのですけれども、特に潜在成長率がより低いケースという話ですが、ただ、論理的に考えると結論は見えているという感じがするのです。どういうことかというと、令和元年の財政検証のケースVIという話です。あれが一番潜在成長率が低いケースで、要は、2050年代半ばに積立金がなくなって完全賦課方式に移行するという話だと。
 そういうことなので、結論は分かっているのだと思うのです。それがどの程度の成長率だったらそういうことになるのかというレベルになってくるのかなという気がしていて、私の印象で言うと、そこにリアリティーを求める。つまり、過去の実績値からTFPの上昇率を出してきて、だからケースVIですと言うのは、確かにそうなのだけれども、そこにあまりリアリティーを求めても、結局のところマクロ経済スライドがうまく効かなくてどんどん積立金が減っていって、2050年代かいつかには積立金がなくなってしまうと。その後は完全賦課方式だということではあるので、どの程度成長率が低いならそうなるかということを知っているということは大事だけれども、リアリティーを求めて低ければ低いほどというふうにしたところで結論は変わらない。つまり、積立金がなくなるということですね。だから、完全に賦課方式に移行するということ自体が導かれる答えだということはほぼ分かっているので、そこはむしろどの程度ならば令和元年のときのケースVIのようなことになるのかということを解明することのほうが大事なのではないかなと思います。
 以上です。

深尾委員長
 どうぞ。

玉木委員
 今の土居先生の御指摘は大変重要だと思います。というのは、ケースを幾つも出すのはなぜかというと、経済という下部構造とその上に上部構造としてある年金制度の組合せを幾つか示すという意味があるからです。それで、こんな組合せは嫌だと国民が思うのだったら、よりよい組合せになるように国民が頑張る、企業経営も頑張る、政策も頑張る、あるいは各人のライフプランニングにおいても頑張る、努力すればこうなるのですということを示すというのがこの財形検証の一つの目的だろうと思います。
 また、オプション試算という形で、こういう下部構造のときに上部構造をこう変えたら、上部構造はこうなるのですというふうな出し方ももちろんできるわけで、そうすることによって、国民の皆さんに年金制度というものは長期的に動いていくものであって、こう動いていったらこういう年金制度になるのだなというイメージをなるべく分かりやすく出すという点で、我々は知恵を出すべきなのだろうと思います。その際に「全要素生産性」とか大変難しい言葉が出てきますので、そこでロバストな分析の上であることはもちろんなのですけれども、全要素生産性というのは、結局は例えばここに現れているのだなとか、あるいはこういうことが起きると年金制度のここにあるのは、つまり、下部構造の変化が上部構造にこういうふうに響くのだなというイメージを少しでも出すことができれば、この委員会の生産物としてよりよいものになっていくのではないかなと思うところでございます。
 以上です。

深尾委員長
 武田委員、まだ手が挙がっているみたいですけれども。

武田委員
 少し誤解がありましたが、土居先生がおっしゃったとおり、本来の目的はそのとおりと思います。ただ、図として見た場合、前回は内閣府の予測値と経済前提の予想値をつないだ際に段差が生じているのは事実です。もちろん精緻な分析をすることがこの委員会の目的ではないため、内閣府の分析をそのまま利用していますが、ご提示頂いたシナリオが増えているなかで、それを活用するか、これまでどおり2ケースのみで大きな段差のもとで複数のシナリオをつなくのか、そのつなげ方の問題です。目的自体は土居先生がおっしゃったとおりと思いますので、補足させていただきました。
 以上です。

深尾委員長
 ほかには。どうぞ。

德島委員
 ありがとうございます。
 1点だけ、私の専門である運用のところですが、これまで議論させていただいたとおり、経済が成長している中であれば、株価が下落したりというのは、いずれ回復してくるという想定を置くことが可能なので、これまでのGPIFの運用実績といったものがベースとして使えるだろうことに、異論は全くありません。一方、1点だけ懸念しないといけないと思うのは、積立金が今後減少していく過程で従来と同じような運用ができるかどうか、です。GPIFはこれまで積立金が増えていく過程の中で運用して来られました。積立金が減少していく過程での運用は、最近GPIFで注力されていらっしゃいます低流動性資産とか、運用の影響が出てまいります。ケースによっては積立金の減少による影響も考えないといけないかと思っております。
 以上です。

深尾委員長
 ありがとうございました。
 ほかによろしいですか。
 では、御意見ありがとうございました。
 次の議題に入りたいと思います。議題3「その他」の議事です。今後の進め方について、資料4を用意しておりますので、事務局より説明をお願いします。

佐藤数理課長
 では、資料4を御覧ください。本日御議論いただいた方向に沿いまして技術的な検討や具体的な作業を行うために、当専門委員会の下に検討作業班を設置し、当面検討作業班で検討を進めていただいてはどうかと考えているところであります。
 具体的な検討事項といたしましては、これまで専門委員会で論点となっておりました事項を中心に、2ポツの検討事項に記載しているとおりであります。これらにつきまして、11月ぐらいまでこの検討作業班で御議論をお願いたしまして、専門委員会にその成果を御報告いただき、その後、年内をめどに専門委員会として一定の取りまとめを行う段取りで進めてはどうかと考えているところであります。
 以上であります。

深尾委員長
 ありがとうございます。
 検討作業班のメンバーについては、あらかじめ各委員とも御相談して、玉木委員を座長として、滝澤委員、德島委員、藤澤委員の4名の方にお願いしたいと考えています。
 今後このような形で進めるということでよろしいでしょうか。

(首肯する委員あり)

深尾委員長
 ありがとうございます。
 それでは、皆様、御賛同いただけたようですので、本日追加でいただいた御意見も踏まえながら、当面検討作業班で議論を進めていただければと思います。
 玉木委員におかれましては、座長をお願いして大変恐縮ですが、ぜひよろしくお願いします。
 それでは、予定した時間は12時半までということになっているのですが、早く終わってしまいましたが、本日の審議を終了するということでよろしいでしょうか。

(首肯する委員あり)

深尾委員長
 では、事務局から何かありますか。

佐藤数理課長
 次回以降の日程につきましては、改めて御連絡申し上げたいと思います。よろしくお願いいたします。

深尾委員長
 ありがとうございました。
 それでは、本日の審議は終了いたします。御多忙の折、お集まりいただきありがとうございました。