第11回新しい時代の働き方に関する研究会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和5年7月31日(月) 13:00~15:00

場所

AP虎ノ門 C・Dルーム

議題

有識者からのヒアリング
労働者の働き方・ニーズに関する調査について

議事

議事内容
○今野座長 それでは、時間になりましたので、ただいまから第11回「新しい時代の働き方に関する研究会」を開催いたします。
 本日の研究会は、会場参加とオンライン参加の双方で開催いたします。
 なお、本日は安部構成員が御欠席でございます。
 それでは、本日の議題に入りたいと思います。本日は、外部の有識者の方にヒアリングをさせていただきたいと思います。その後に、「労働者の働き方・ニーズに関する調査」について、事務局から発表していただいて議論をしたいと思います。
 それでは、最初に有識者ヒアリングから入ります。今日いらしていただいたのは、独立行政法人労働政策研究・研修機構の山本陽大参考人です。20分ほどお話をいただいてから、質疑の時間とします。
 それでは、山本参考人、お願いします。
○山本氏 大変貴重な御報告の機会をいただきましたことに感謝申し上げます。
 今、御紹介を賜りましたJILPTの山本でございます。私の本日の報告テーマでありますが、「ドイツにおける労働時間・雇用型テレワーク・集団的労使関係法制」、サブタイトルとして「働き方の柔軟化と保護をめぐる近時の政策動向」というテーマでお話をさせていただければと思います。
 私はこちらの研究会の第1回で事務局の方々が用意された資料を拝読いたしましたけれども、そのなかで、日本でも働く「時間」や「場所」を自分で決めたい労働者が増えてきているという御指摘があったかと思います。実は、この点に関しては、ドイツにおいても全く同様であります。すなわち、近年ドイツにおいても働く「時間」や「場所」を柔軟に自分で決めたいという希望、これは最近ドイツでは時間主権あるいは場所主権といったような言い方がされますけれども、こういった希望を持つ労働者が増えてきているところであります。こういったトレンドというのは、もちろんコロナ禍以前からデジタル化や少子高齢化を背景として存在したわけでありますけれども、コロナ禍で一層拍車がかかったということであります。
 このことを背景に、ドイツでは2015年という比較的早い時期から、一方において今申し上げたような意味での柔軟化を促進しつつ、他方においてそれによって生じる安全や健康に対するリスクから労働者を保護するための法政策の在り方について検討が進められ、一部は既に実際の法改正、あるいは新たな判例に結実しています。
 そこで、本日の私の報告では、働く「時間」を規律する労働時間規制、それから「場所」的に柔軟な働き方であるところの雇用型のテレワーク、そしてこれら2つのテーマにとっても重要なインフラとして位置づけられている集団的労使関係について、ドイツにおける近時の法政策ないしその議論動向について御紹介することにしたいと思います。
 スライドの3ページでありますが、この本題に入る前に2点ほど前情報を御紹介しておきたいと思います。まず労働時間に関してでありますけれども、ドイツでは労働時間は労働時間法という法律によって規律されております。その内容について本報告と関係するところだけ御紹介しておきますと、ドイツの労働時間法は、まず労働者の週日の労働時間は8時間を超えてはならないという形でのいわゆる上限規制を行っております。ただし、6か月あるいは24週を平均した場合の労働時間が週日8時間を超えないのであれば、特定の日の労働時間を10時間まで延長することもできるという、いわば変形労働時間制も認められておりますけれども、この場合でもあくまでも1日10時間というのが上限となってまいります。
 なお、使用者には労働者を1日8時間を超えて働かせた場合、超えた時間分についての記録義務というものが課されております。
 またこのほか、ドイツではいわゆるインターバル規制というものも行われており、1日の労働時間の終業後から最低11時間の休息時間が与えられなければならないということになっております。
 その上で、現在の労働時間法の下では、そもそも民間企業の労働者においてこの労働時間法の規制が適用除外されるのは、いわゆる管理職、ドイツでは管理監督者と言いますが、それのみでございます。労働時間法が適用された上で一定の要件を満たせば、先ほど申し上げた上限規制とか、あるいはインターバル規制からの逸脱、いわゆるデロゲーションですね。そういったものを認める例外規定というのも幾つか存在するのですけれども、こういった規定の対象というのは、現在のところ、病院のような特定の業種とか、あるいはいわゆる手待ち時間が多い労働者のような特定の働き方をする労働者に限定されております。
 一方、集団的労使関係に関してでありますが、ドイツではいわゆる二元的労使関係というものが伝統的に構築されてまいりました。すなわち、ドイツにおいてはまず産業のレベルにおいて労使関係というものが存在していて、ここでは産業ごとに組織された労働組合と、同じく産業ないし業種ごとに組織された使用者団体というものがアクターとなって、労働者の労働条件を規律する労働協約について交渉し、そして締結するという営みが主として行われております。以下、これを「労働協約システム」と呼ぶことにしたいと思いますが、ドイツでは労働者による組合の結成、あるいは労働協約の締結についてはドイツの憲法に相当する基本法というものの中で保障されていて、これをより具体化するために労働協約法という法律が整備されております。
 一方、ドイツでは個々の企業の事業所のレベルでも労使関係が存在していて、ここでは事業所委員会と、当該企業の企業主であるところの使用者がアクターとなって、当該事業所内で働く労働者の労働条件について共同で決定し、事業所協定という労使協定を結ぶ営みが行われております。
 ただし、この事業所委員会は労働組合ではありません。事業所委員会は、当該事業所に所属する全労働者による民主的な選挙を通じて選ばれた従業員代表組織です。したがって、この事業所レベルの労使関係を以下では従業員代表システムと呼ぶことにしたいと思いますが、この事業所委員会の選挙のやり方や権限、あるいは結ばれた事業所協定の効力等は、ドイツでは事業所組織法という法律の中で網羅的に規律されています。
 かくしてドイツでは産業レベルと事業所レベルという2つのレベルで二元的な形で労使関係が存在するわけでありますが、しかし、こういったドイツの集団的労使関係システムというのは1990年以降、弱体化の傾向が見られます。すなわち、組合の組織率、労働協約の適用を受ける労働者の割合、あるいは事業所の中で事業所委員会が存在する事業所の割合は、全て年々低下の一途をたどっているわけであります。したがって、近年のドイツの労働法政策においては、集団的労使関係の強化というのが極めて重要な政策課題となっておりますが、この点は後ほど改めて取り上げたいと思います。 
なお、宣伝になってしまって恐縮ですけれども、私どもは昨年3月にJILPTから『現代ドイツ労働法令集』という書籍を刊行しておりまして、この中で、今申し上げた労働時間法や労働協約法、あるいは事業組織法等の主要なドイツの労働関係法令は全て翻訳してあります。もし御関心等があればそちらも御参照いただければと思います。
 以上を踏まえて、本日の報告では、労働時間、テレワーク、集団的労使関係をめぐってドイツにおいて施行され、あるいは議論されている各種法政策について検討をするものであります。
 ちなみに、本日の報告の内容は、基本的には私がこれも昨年3月にJILPTから上梓いたしました『第四次産業革命と労働法政策』という書籍に基づいております。ただ、この本が刊行された後も、ドイツでは例えばコロナ禍などで新しい幾つか政策的な動きが見られておりますので、本日はそれらに関しても適宜フォローアップしながらお話しいたします。 それでは、まず「労働時間をめぐる法政策」に関してであります。
 この点に関しては、まず柔軟な働き方の促進と保護の両方にまたがる法政策として、ドイツでは“労働時間選択法”というものについて議論がなされております。これは2016年に、ドイツの連邦労働社会省が取りまとめた労働4.0白書というペーパーの中で構想されていたものです。この労働時間選択法の目的というのは、労働者が自身で働く時間を柔軟に決定できるように、一定の要件を満たす場合には、先ほどの上限規制やインターバル規制からの逸脱を認めて、ときには1日10時間を超えて働くという労働者の選択肢も認めていこうという点にありました。これは、現在の労働時間法の例外規定のように、その対象となる業種や働き方を特に限定するようなものではありませんでしたので、幅広い労働者層を対象とした新たなデロゲーションの手段を導入しようとするものであったということができます。
 しかし他方で、上記の白書では、対象となった労働者の過重労働や長時間労働のリスクを考慮し、要件はかなり厳格に設定されておりました。すなわち、労働時間選択法の構想としては、まずは労働組合と使用者あるいは使用者団体との間で労働協約を締結し、その中で対象労働者の範囲を定めるということを要するとともに、個々の企業の事業所のレベルでも事業所委員会と使用者との間で事業所協定を締結し、その中で労働時間の記録方法やデロゲーションをしたことによる影響評価の実施等を定めるといったことも要件として提案されております。そしてさらに、これらに加えて対象労働者本人の同意も必要とされていて、いわば労働協約、事業所協定、本人同意という三層の要件が設定されていたわけであります。
 この労働4.0白書の中では、労働時間選択法に関しては2年間の時限立法として、その間に政策効果を図るということが予定されておりました。白書の中では、これに基づいて2年の間デロゲーションが認められている事業所を指して、“実験空間”という呼称が用いられておりました。
 しかしながら、この労働時間選択法というのは、実は2023年7月現在でもいまだドイツにおいて実現しておりません。これは、理由の一つには、この労働時間選択法が提案された当時、労働組合側も使用者団体の側もかなり批判的な評価を示していたということがあったのではないかと、私は推察しております。また、最近、連邦労働社会省や連邦政府が公表している政策文書を見ても、今後労働協約と事業所協定をツールとしながら実験空間の設置を可能としていくべきだという記述自体は散見されるのですけれども、かなり詳細な制度設計まで提案していた労働4.0白書と比べると、明らかにトーンダウンしてしまっております。ドイツの研究者の中には、労働時間選択法は、もはや実現しないと指摘する方もおられて、これが今後どうなるかということについてはやや不透明な状況があるといわざるをえません。
 ちなみに、今申し上げた話というのは労働契約上定められた労働時間を、労働者が各就業日にどれだけ自分で配分できるかという労働時間の配分の柔軟性の問題です。一方、ドイツではこれとは別に、そもそも契約上定められた労働時間の長さ自体を労働者の都合に合わせて短くしたり長くしたり、短くするというのは要するに一時的にパートタイムになるということなのですけれども、そういったことを可能とする労働時間の長さの柔軟性というものも重要な政策課題となっていて、しかもこの点に関しては既にドイツで法改正が行われております。本日は時間の関係でこれ以上は申し上げませんけれども、もし御関心があれば後ほど質疑のときに御紹介させていただければと思います。
 続いてスライド7ページであります。労働時間に関しては、これは柔軟な働き方に限った話ではありませんが、保護のベクトルに属するものとして労働時間の把握あるいは記録義務というものについて最近新たな動きが生じております。
 これは大本をたどると、EUのレベルで2019年にCCOO事件という事件の欧州司法裁判所判決というものが下されておりまして、その中で、EUは労働時間指令という指令があるのですけれども、その指令の解釈として、EU加盟国は各国内の使用者に対してそれによって全ての労働者の日々の労働時間を測定することを可能とする客観的で信頼できる利用しやすいシステムを導入することを義務づけなければいけないということを欧州司法裁判所が判断として示したわけであります。これによって、ドイツも労働者の全労働時間、すなわち労働時間の開始と終了およびその間の休憩時間、これらを全て把握し記録するためのシステムを導入する。そういった意味での労働時間把握義務ないし記録義務を使用者に課すということが求められることになったわけです。
 一方、先ほど申し上げましたように、ドイツでは現在の労働時間法上は、使用者は1日8時間を超えた部分のみ記録せよということになっておりますので、これだけではCCOO事件判決の要請に応えるには不十分ということになります。
 そのため、例えば2020年11月にドイツの連邦労働社会省が取りまとめたモバイルワーク法案の中では、労働者が在宅勤務を含めてモバイルワークというものに従事している場合には、労働時間法が現在定めている労働時間記録義務の対象を当該労働者の全労働時間に広げるといったような提案も示されておりました。
 ただ、ドイツではこの後に連邦議会選挙がありまして、この法案自体は結局廃案となってしまったんですけれども、そうこうしているうちに昨年、2022年の9月にドイツの連邦労働裁判所が、この問題に関して判断を示すに至っております。すなわち、この判決のなかで連邦労働裁判所は、現行法の下でも使用者というのはCCOO事件判決が言うような労働者の日々の労働時間を把握するためのシステムを導入すべき義務というのを既に負っているんだという判断を示しておりまして、これはかなり現地の研究者の注目を集めているところであります。
 ただ、実はこれは労働時間法の解釈に関する判断ではありません。というのは、ドイツでは日本の労働安全衛生法に相当する労働保護法という法律がありまして、その3条が、使用者は労働者の保護に必要な措置を実施すべき義務を負うというかなり抽象的ないし一般的な使用者の義務を規定しているのですけれども、連邦労働裁判所はこの規定の解釈として、使用者というのは先ほど申し上げたような労働時間把握のシステムを導入して、労働者の全労働時間を把握する義務を負っているんだという判断を示したわけであります。これによって、いわば労安衛法の規制として使用者が労働者の労働時間把握義務を負っているという点では、ドイツはまさに働き方改革以降の日本とほぼ同様の状況になったと言うことができます。
 その上で、この2022年9月判決に関連して、最近になって連邦労働社会省が公表した政策文書を見ておりますと、今後同省としては来年4月までに労働時間把握義務に関して労働時間法自体も改正するという法案を取りまとめる予定のようです。
 続いて、雇用型テレワークに関する法政策についてお話しいたします。
 こちらについては、まず促進のベクトルにおいて立法政策上の動きというものが見られます。まず挙げられるのは、先ほど出てきたモバイルワーク法案でありますけれども、この中ではいわゆるモバイルワークの権利というものを労働者に与えようということの提案がなされておりました。ただ、モバイルワークの権利と言っても、労働者が在宅勤務のようにモバイルワークで働くということをいきなり認めるというものではありません。ここで言うモバイルワークの権利というのは、労働者が在宅勤務を含めてモバイルワークで働くことを希望している場合には、まずその旨を使用者の側に通知する。そうすると、これを受けた使用者は、モバイルワークの実施について労使で合意に至るべくその労働者と協議を行わなければいけない。そして、合意に至ればそれでモバイルワーク実施ということになりますが、一方、使用者が合意を拒否する場合には、その理由について労働者に説明をしなければいけない。言い換えれば、労働者は理由の説明を使用者に対し求めることができる。そういった権利として提案されておりました。この場合に、使用者は協議と合意を拒否する場合には理由説明義務を負うわけですが、拒否理由の内容についてモバイルワーク法案上は、特に制限はされておりませんでした。
 ただし、使用者がそもそも協議に応じなかった、あるいはその理由を説明しなかった場合には、労働者が当初希望して使用者に通知したとおりのモバイルワークの実施について労使で合意がなされたものと法律上みなされて、これにより労働者はモバイルワークで働くことができる。そういう内容の法案が以前提出されておりました。
 しかしながら、先ほど申し上げた通り、この法案自体は結局廃案になったのですけれども、その後にコロナ禍に突入しましたので、この間テレワークの中でも特に在宅勤務に関しては、コロナ禍における特別の臨時的な規制が行われておりました。これは、コロナ労働保護規則という日本でいう省令と感染症予防法という法律の中で定められていたものです。これらのなかでは、一方において、使用者に対してやむを得ない経営上の理由がある場合を除いては、オフィスワークまたはそれと比較可能な職務に従事している労働者に対して、在宅勤務で就労することを申し入れるべき義務をまず使用者に課しつつ、他方において、労働者の側に対しても理由がない限り使用者からの申入れを受け入れて在宅勤務で就労せよという義務を課すというものでありました。
 ここでは、使用者が在宅勤務を申し入れることができない理由というものが経営上の理由という形で法的に制限されておりましたし、または労働者の側に対しても一定の場合には在宅勤務を受け入れる義務を課すという点で、先ほどみたモバイルワーク法案と比較してみても、一見してかなりハードな規制になっております。ただ、これは先ほどのモバイルワークの権利とは異なって、あくまでも公法上の義務であって、その不履行に対しては行政監督、日本で言うところの労基署に相当する機関が労使当事者に対して在宅勤務の申入れをしてください、あるいは労働者の側にはちゃんと受け入れてくださいという指示を出すという程度のエンフォースメントにとどまっていたという点には、注意を要するところであります。
 なお、このコロナ禍での規制はあくまでも時限立法であって、昨年の3月をもって既に廃止されておりますが、連邦労働社会省のホームページを見ておりますと、同省はまた来年以降、新しいモバイルワーク法案の提出を予定しているようであります。
 続いて、テレワークにおける保護のベクトルについては、主として労災保険との関係が論じられ、しかもこの点については既に法改正に結実しております。ドイツでは労災保険は社会法典第Ⅶ編で定められているのですけれども、これが2021年の6月に改正され、それによって次の2つの規定が新たに追加されております。
 1つは、社会法典第Ⅶ編の8条1項に3文というものを追加して、労働者が自宅のように企業施設以外の場所で働いている場合にも、企業施設内における職務遂行の場合と同様に労災保険によって保護されるという旨が新たに規定されております。
 ただ、この点に関しては、従来から判例は、テレワーク中の災害についても労災保険制度の適用があることを前提に、企業施設内における災害と基本的に同様の判断基準で労災該当性を判断しておりましたので、この8条1項新3文は単に確認的な意味を持つ規定と言えようかと思います。
 むしろ日本法との関係でも興味深いのは、2つ目の8条2項への新2号の追加でありまして、これはどういう規定かというと、在宅勤務を行っている労働者が、家に子供がいると仕事にならないから子供を保育園に預けに行くという場合に、自宅と保育園との間を往復する過程で災害に遭ってしまったというケースにも、労災保険による保護が及ぶということが新たに規定されております。
 実は、この点に関しては、連邦社会裁判所の2020年1月30日判決というのがあって、そこではまさに今申し上げたようなケース、すなわちテレワーカーが子供を近くの保育園に預けに行き、その帰り道に冬だったので路面が凍結していて自転車でスリップして片肘を骨折してしまったというケースだったのですけれども、このケースでは労災保険の保護は及ばないという判断が、従来は示されておりました。そのため、まさにこういったケースにも、新たに労災保険による保護を及ぼすために、2021年6月の社会法典第Ⅶ編の改正によって立法措置が講じられたわけであります。
 なお、ドイツでもテレワーカーの保護という文脈ではいわゆる「つながらない権利」というものに関して議論があります。この点については集団的労使関係の法政策との関係で一定の立法措置が既に講じられておりますので、のちほどお話することにしたいと思います。
 続いて、「集団的労使関係をめぐる法政策」についてお話します。冒頭申し上げましたように、ドイツの集団的労使関係というのは産業レベルにおける労働協約システムと、事業所レベルにおける従業員代表システムによって二元的に構成されているわけでありますけれども、いずれのシステムも年々弱体化しておりますので、近年その強化をめぐって法政策上の動きが見られます。
 まず労働協約システムについてでありますけれども、こちらについてはまだ法改正には至っていないのですが、連邦労働社会省をはじめ政府がこの間公表してきた政策文書においては幾つかの提案が示されております。大まかな方向性としては、まだ組合に加入していない未組織の労働者あるいは使用者団体に加入していない未組織の企業が、ちゃんと組合や使用者団体に加入、加盟するということを促進しようという方向性での法政策がまずは提案されております。
 例えば、スライド12ページの上から2つ目にデジタル立入権というものを御紹介しておりますが、これはどういう提案かというと、労働組合がオルグ活動をしたいので、使用者に対して職場の電子的なコミュニケーションのシステム、例えば典型的なものはメールのシステムとか、そういったものを使わせてくださいということを求めることができる権利を組合に与えよう。それによって、組合がオルグをしやすくして組合組織率を上げていこうという提案であります。
 また、ドイツでは、労働協約というのは組合員と使用者団体加盟企業に対してのみ適用されるというのが大原則なのですけれども、例外として連邦労働社会省がある労働協約に対して一般的拘束力宣言というものを付与した場合には、当該協約をその適用範囲内にいる未組織の労働者あるいは企業に対しても拡張適用するということが可能となっております。最近、日本においても労組法18条に基づく労働協約の地域単位での拡張適用の制度が徐々に利用されつつありますが、そのモデルとなったのはこのドイツの一般的拘束力宣言の制度です。もっとも、ドイツではこの一般的拘束力宣言の数も年々減ってきておりますので、これをより利用しやすくして労働協約の利用率、労働契約の適用率を上げていくといった方向性も最近の政府文書の中では示されています。
 一方、従業員代表システムに関しては、既に一昨年の6月にこのシステムを規律する事業所組織法が大幅に改正されております。このときの改正の内容も、大まかに言って2つの方向性があり、1つは事業所委員会がある事業所の数を増やしていこうという量的強化のベクトルと、もう一つは事業所委員会がデジタル化という変化にちゃんと対応できるようにしようという、いわば質的な強化という、この2つのベクトルに分けることができ、また、このうち量的強化に関しては、今後も進めていくことが予定されております。
 そのなかで、1点だけ紹介しておきたいこととして、一昨年6月の事業所組織法改正によって、在宅勤務を含めてモバイルワークの構成というものについて事業所委員会に使用者と共同決定を行う権利というものが新たに認められております。これによってどうなったかというと、モバイルワークの制度を職場へ導入するかどうかという判断自体は使用者に委ねられているのですけれども、使用者が導入しますというふうに決めた場合には、その具体的なルールメイキングについては事業所委員会と話し合って決めなければいけないということになりました。そして、この場合のルールメイキングには色々な事柄が含まれるのですけれども、その中の一つとして、使用者が例えば電話とかメールといった情報通信技術によって何時から何時までの間、労働者に連絡を取ることができるのかといういわば「アクセス可能な時間帯」の設定というものがここでの構成というものに含まれているわけです。これによって、ドイツではいわゆる「つながらない権利」の保障というものが、モバイルワークの場面においては事業所委員会の共同決定を通じて強化されることになったと評価することができようかと思います。
 それでは最後に、「ドイツ法の特徴」に関して、日本にとっても示唆的と思われる点を簡単にまとめて終わりにしたいと思います。
 まず第1の特徴として、ドイツでは時間主権に対する労働者のニーズに応えるために、労働時間の配分の柔軟化をめぐる法政策としての労働時間選択法について議論されておりますが、そこでは労働協約と事業所協定の双方がツールとして予定されて、それぞれの中で法が定めるところに従って事業所ごとの実情に即したルールメイキングを行うということが構成されています。言い換えれば、ドイツでは労働者と使用者の1対1の個別の合意だけで労働時間規制からのデロゲーションを認めるということは想定されておりません。なお、この労働時間選択法をめぐる提案の中では、事業所協定の中で労働時間の記録についても定めるということが提案されておりましたが、これはEU法の影響もあって判例により、使用者というのは現在でも労働保護法上労働者の全労働時間の把握、記録義務を負っているという解釈が既に取られています。
 また、第2の特徴としては、ドイツでは場所的に柔軟な働き方としてのテレワークないしモバイルワークについて、労使当事者に対して法的な権利を与え、あるいは義務を課すという手法を持ってこれを促進しようとしている点が挙げられます。その上で、こういった法政策の興味深いところは、まずは労働者と使用者との間での協議を促して、できるだけ合意に基づくテレワークへの実施へと労使を誘導しようという構成が取られている点であります。コロナ禍における在宅勤務規制というのも一見してハードな規制なのですけれども、これも実質は行政機関の指示というものを間に介在させることによって、労使当事者を在宅勤務の実施合意へと導く法政策と理解することができようかと思います。
 そのうえで、こういった手法が取られている背景ですけれども、ドイツでは営業法という法律の中で労働者が働く場所の決定というのは使用者の指揮命令権の範囲に含まれるという旨が明確に規定されている一方で、労働者のほうも自宅というのは基本法、憲法上いわゆる住居の不可侵というものによって保護されているということがあるのではないかと、私自身は考えております。すなわち、テレワークの場面では労使双方にそれぞれ保護されるべき利益がある関係で、労働者が一方的にテレワークで働いたりとか、あるいは逆に使用者が一方的に在宅勤務を命じたりとか、そういったことができるような法政策というのは必ずしも妥当ではなくて、あくまでも労使がお互いに納得した上でテレワークを実施するように誘導する法政策が望ましい。おそらくそういう政策判断があるのではないかと、私は見ております。
 なお、モバイルワークの場面に関しては、2021年6月の事業組織法の改正によって使用者が労働者へアクセス可能な時間帯の設定についても事業所委員会に共同決定権が新たに認められることになりました。ここからは、いわゆる「つながらない権利」を集団的な労使関係の関与の下で実効的に保障していこうという政策判断を看取することができようかと思います。
 最後に、第3の特徴として、その集団的労使関係自体についても、ドイツでは1990年代以来の弱体化を受けて、これを強化するための法政策が積極的に推し進められております。実は先ほどの労働時間選択法というのも、実験空間の中で労働時間規制からのデロゲーションを可能とするためには労働協約と事業所協定を要件しているという点に注目すれば、これはまさに協約の適用率の向上、あるいは事業所委員会の設置を促す機能も持っている。そういう点では、これもいわば集団的労使関係の法政策としての側面も持つというふうに見ることもできるわけでありまして、実際にも最近の政策文書ではそういった位置づけが明確に与えられているようであります。
 もっとも、ここで政府が強化しようしている集団的労使関係は、あくまでもドイツにおける伝統的な二元的労使関係システムであって、とりわけ労働協約システムに関して言えば、労働者側のアクターとしては、産別組合が念頭に置かれているという点には注意が必要です。本日の主たるテーマではありませんが、このことが特に鮮明になりましたのが、2015年にドイツで成立した協約単一法と呼ばれる法律です。これは簡単にいいますと、1つの事業所の中で多数組合が結んだ協約と少数組合が結んだ協約が併存するに至った場合、当該事業所においては多数組合の協約だけを適用して少数組合の協約の適用は排除することができるというルールを立法化したものです。ドイツで1つの事業所のなかで多数組合になるのがどういう組合かというと、通常普通は産別組合ですから、この協約単一法は明らかに伝統的な産別組合モデルの強化のための法律であったわけです。
 しかしながら、ドイツでは産別組合以外にも例えば職種別組合のような労働組合も幾つか存在していて、それらも憲法、基本法のレベルでは団結権や協約締結権が認められています。そのため、この協約単一法というのはその後、連邦憲法裁判所によって一部違憲だと判断され、それによって政府は再度法改正を迫られたという出来事が数年ほど前にドイツではございました。
 このようなドイツの経験というのは、国が特定の集団的労使関係モデルを前提として立法政策を進めようとすると、内容次第ではそのモデルから外れてくる、いわばアウトサイダーとの関係では、当該法政策の合憲性に疑義が生じる。そういうことに留意せよという警告を、言わば「他山の石」として、憲法28条がすべての組合に対して労働三権を保障している日本に対しても発してくれているように私には思われるわけであります。
 以上、長くなりましたが、私からの報告とさせていただきます。御清聴、誠にありがとうございました。
○今野座長 ありがとうございました。
 それでは、質疑に入ります。水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 御報告ありがとうございました。
 ドイツとの比較、特に山本参考人が問題設定された、時間の問題と場所の問題と労使関係との関わりでフランスのことを少しだけお話しさせていただくと、背景として似ている部分が多いです。
 時間については、EUの労働時間指令でかなり厳しい規制がなされているので、その中で時間をどう柔軟化しようという要請が労使関係の中でも法改正の中でもある。
 場所についても、コロナの前からテレワークの議論はあったけれども、やはりコロナを介してテレワークをどう常態化させていこうかという議論がある。
 そして、労使関係についても、日本と比べてもドイツ、フランスは労使関係の影響力がかなり大きかったけれども、傾向的に言うと弱体化している。
 そこで、ドイツでもそうですが、フランスも事実として弱体化している労使関係を、法律によってどうやって復活させたり制度化させていくかというのが重要な課題になっているというところは一緒です。
 それで、ここから先は少し違うところと同じところがあるかもしれませんが、時間についての柔軟化については、実は最後の労使関係の強化、復活のところと結びつけてフランスはかなり思い切った改革で、ドイツは違憲判決が出たという話がありましたが、実はマクロン改革は労使関係にも手を突っ込んで、労使関係を法律とか制度で復活させながら労働時間の柔軟化を図ろう。その法律改正をしたところ、憲法裁判所がこれは合憲だという判断をし、そのまま法律が有効になっています。簡単に言うと、強行的な労働時間規制があっても、労使の合意、組合との集団的な合意があれば柔軟化していい。その柔軟化する範囲をかなりいろいろ設けて、かつその合意というのは産業別の合意ではなくて企業レベルの合意でもいいし、企業レベルになると実は組合員がいない企業が沢山ある中で、社会経済委員会といういわゆる従業員代表をかなりつくりやすい。11人以上の企業には法律上つくらせ、その手続も簡素化し、従業員代表機関で話し合って合意すれば、労働組合との労働協約ではなくても柔軟化していいということを法律上マクロンは定め、憲法院も合憲だと言っている。
 既存の組合からはいろいろ批判がありますが、組合がないところでも集団的に話し合って自分たちのルールをなるべく現場に近いところで決め、それぞれ労働者の選択権を集団的な合意の下で見つけていくのが大切だという、かなり思い切った時間と労使関係が結びついたような改革をマクロンが進めているというのが1つです。
 場所については、労働契約や契約に関わるルールで、EUで何か規制があって強行的な規制でそれを逸脱してはいけないというようなものがあるわけではないです。ルールをどうやってつくっていこうかというときにフランスでやったのは、全国レベルで労働組合と使用者団体が話し合って、全国レベルの労使協定、労働協約を基本的なルールを法律で定められる前につくって、テレワークのときも平等に権利を保障すること、労使で話し合ってテレワークを導入すること、テレワークに関する権利、つながらない権利についても労使で話し合うというルールをつくっていく中で、その3つの点でフランスはかなり思い切ったことをやりながら、労使関係の分権化強化と規制の柔軟化を併せて行っていました。フランスの中では伝統的な組合からかなり強い批判がありましたが、そういう改革を今、行っていっているという特徴があると思います。
 1つ質問です。個別合意、労働時間選択法は結局実現していないところでも、柔軟化のときに個別合意ではなく、集団的な合意をかませているという話がありました。今日お話がなかった労働時間の長短のところについては法律が既に成立している。そこの例外の定め方についても個別合意なのか、集団的合意が前提になっているのか。仮にそういう大切な労働時間の強行的な規制の逸脱というのはやはり個別合意、労働者の契約合意に基づく選択ではなくて、労働協約なり事業所委員会の集団的な合意をかませないと柔軟化を認めないという制度だとすると、何で集団的な合意が大切だとドイツで思われているのでしょうか。
○山本氏 今の御質問は労働時間のまさに長さの話ですよね。契約で定めた時間を労働者の都合に合わせてその長短を決めるという話で、これは労働時間法とは別の問題であります。すなわち、ドイツではパートタイム・有期労働契約法という法律が昔からあって、この中でそもそも労働者には契約上定められた労働時間を短くすることを使用者に求めることができる。日本風に言えば正社員がパートタイムに転換できる権利がもともと与えられていました。
 この権利は従来、女性が家族のケアのために、例えばいままで週40時間だったものを20時間とか30時間とかに短くするために行使するというパターンが多かったのですけれども従来は、この権利を行使した後に育児が終わった、あるいは介護が終わって元の労働時間に戻りたいけれども、一度短くしてしまったものは元に戻せないという問題がありました。これをドイツではパートタイムトラップと言うのですが、それを克服するために数年前のパート有期法の改正で、5年以内で期限を定めてパートタイムに転換し、定められた期限がたったら元の時間に復帰するという復帰権つきのパートタイム転換請求権というのが導入されたというのが私のスライドの労働時間規制の柔軟化のところで申し上げたところです。ですので、これは労働時間選択法みたいに原則的な規制に対するデロゲーションがという話ではなくて、もともとパート有期法上あった権利を拡張していったという話なので、少し問題の設定が違うと思います。
○水町構成員 強行的な法規制から外れるときには、労働協約や事業所協定といった、集団的合意がないと駄目という前提は今でも保たれているということですか。
○山本氏 そうです。
○水町構成員 では、私は例外としていろいろな働き方をしたいというのは個別に逸脱することが認められないのはなぜかというのをもうちょっと教えてください。
○山本氏 個別にというか、さきほどのパートタイム転換は強行的な規制からの逸脱ではなく、あくまで権利の行使という問題です。
○水町構成員 強行放棄からの逸脱です。1日10時間とか、そういう規制については強行的な労働時間規制がありますよね。それについて柔軟化しようというときには、集団的な合意が前提で例外をつくろうとしているけれども、個別同意ではやはり駄目なのか。
○山本氏 労働時間選択法に関しては、労働4.0の白書の中で個別合意だけでなく集団的合意を含めた要件設定が提案されていましたが、それがなぜなのかということの背景事情までは白書の中ではきちんと示されていませんでした。ただ、現行の労働時間法の中でも幾つかデロゲーションの規定がみられるのですけれども、いずれも労働協約あるいは事業所協定が逸脱のための要件とされていて、個別合意のみによってデロゲーションを認める規定は、現在の労働時間法上も存在しません。このこともあって、個別合意のみによるデロゲーションは駄目だということについての理論的な説明というのは、今のところお答えすることが難しいです。
 お差支えなければ水町構成員にお伺いしたいのが、フランスは、企業レベルでも逸脱を、労働時間規制からの柔軟化を認めたというお話がありましたけれども、ドイツで労働協約と事業所協定と両方必要だとされていることの背景には、労働組合と事業所委員会の間の緊張関係があり、事業所委員会は原理的には組合費の要らない組合の代替物として、組合の権限を掘り崩してしまうことへの危機感があって、事業組織法もそこにはかなり気を遣って制度設計しています。
 ですから、事業所委員会に規制権限を丸々委ねてしまうということに対する危惧感みたいなものが恐らくドイツではあるのではないかと思うのですけれども、フランスでは企業委員会と組合との間のそういった緊張関係みたいなものはあまりないから、マクロン改革のようなことが実現できたのでしょうか。
○水町構成員 理論としては、組合のない従業員代表機関にそういう権限を与えると、組合の組織拡大ができないということで、組合からの根強い反対は一部ありますが、実際には組合がなくて集団的な話合いの機会がないところで柔軟化、例外を設けようといっても従来のやり方ではできないので、社会経済委員会という従業員代表での合意でもいいから集団的な協議の場を作ろうということで、実際上はそういう方向で動いているということです。
○山本氏 ありがとうございます。
○今野座長 今の点に関連していいですか。
 労働時間の長さについての柔軟化のときに強行法規を超えるというのは、例えば1日10時間というのに僕は12時間でいきたいということが引っかかりますよね。今日の発表ではそういう状況は想定されていなかったですね。延ばす場合は、労働協約と事業所委員会の決定が必要なのかという質問かなと思って聞いていたのですが、いかがでしょうか。
○山本氏 そういう話です。
 ただ、労働時間選択法自体はまだできていませんので、現在のところそういったことはできないです。
○水町構成員 フランスでも1日10時間というのは絶対的な強行的な規制です。例えば、休息時間、勤務間インターバルの11時間は強行的な規制なので労働協約、労使合意があっても例外を作っては駄目ですよというものです。そういう強行的な枠の中で労働時間の配分などについて労使協定で決められる範囲が増えているということです。
○今野座長 中村構成員、どうぞ。
○中村構成員 労働時間法制の適用除外が管理的職員となっていたと思うんですけれども、高度専門人材みたいな人たち、日本だとエンジニアだったり研究開発だったり企画の人たちが労働時間の法制度も別になっているというか、別な選択肢が取れるようになっていますけれども、管理的職員と一般労働者の間の制度とか、もしくはそういう働き方をしている人たちの働き方に対するニーズにはどうやって対応しているのかを教えてもらえればと思います。
○山本氏 そこが基本的には対応できていないので、労働時間選択法というものが労働白書の中で提案されたということなのだろうと思います。今のところ、労働時間規制が適用除外されるのは管理的職員のみであって、一般労働者に関してはどれだけ高度専門的な働き方をしていようが、そこはもう労働時間規制がかかってきます。
 ただし、場合によっては契約の時間が例えば40時間のときに、今野先生がおっしゃったように、この日12時間働きたいとか、専門的な働き方としてはそういうこともあるでしょう。だから、労働時間選択法を作って柔軟に働けるようにしたらいいんじゃないかという提案がされていたものの、しかしそこはまだ立法化には至っていないということです。
○中村構成員 水町構成員、フランスも同じですか。
○水町構成員 フランスも基本的に一緒で、適用除外はすごく一部の管理監督者に限定されていて、あとは労働協約を通じてどこまで柔軟化するかというレベルの話になっています。
○中村構成員 ありがとうございます。
○今野座長 ちなみに、管理監督者というのはどういう人をイメージすればいいですか。日本との対応だと、どうですか。
○山本氏 日本と単純比較することは難しいとも思うのですけれども、ドイツで労働時間法が適用除外される管理的職員の概念というのは3つ類型があって、1つは当該事業所に雇用される労働者を単独で採用し、あるいは解雇する権限を持っている人ですね。それからもう一つは、使用者からその事業所の業務を包括的に代理されてその支配権を有しているという人、そして最後は、そのほか企業もしくは事業所の存立、発展にとって重要であり、それを遂行するための特別な経験と知識を必要とする任務を恒常的に引き受けている人です。
 かなり抽象的で、日本の管理監督者と比較するのは難しいとは思うのですが、私のイメージではそれよりももうちょっと上の層のことを想定しているのかなという印象ではあります。
○今野座長 今、言った条件というのは、オアーなんですか、アンドなんですか。
○山本氏 オアーです。
○今野座長 最後のものはかなり抽象的で、高度専門職はここだと言ってしまえという話にもなりそうですね。この高度専門職は我が企業にとっては非常に戦略上重要だと。
○山本氏 すみませんが、そこは保留にさせてください。
○今野座長 中村構成員、どうぞ。
○中村構成員 もう一点、別の観点であって、技術が進んでいく中で労働時間も含めて電子的な監視みたいなこととか、個人の働き方や健康情報に関する電子データの扱いというものも労働者側からというか、社会的には非常にデリケートなテーマになってきていると思うのですけれども、そういうものの扱いについてドイツではどういう対応や議論があるか、もし御存じだったら教えてください。
○山本氏 情報保護の問題に関してはEUでは現在でもいわゆるGDPR、一般データ保護規則がありますから、その下で今おっしゃっていただいた健康情報の取扱いがどこまで許されるかということが判断されることになるのだと思います。
 また、これは水町構成員のほうがお詳しいと思いますけれども、今、特にプラットフォームワークの関係ではEUで指令案が策定されようとしています。その中で、健康情報の取り扱いについても規制が入ろうとしているところでありますから、健康情報の問題については、むしろEUレベルでの規制が重要になってきていると思います。
○水町構成員 個人情報保護の観点からいうと、個人への通知というのは個人との間で同意をもらうことが大切なのですが、フランスの労働法典だとさっき言った社会経済委員会という従業員代表にそのプロファイリングや労働者の健康や労働者の監視に関するような技術を導入するときには従業員代表に通知をして、それとの協議の上で実施しなさいということが書いてあるので、そこでもやはりいろんなものがどうなるか分からないところはとにかく集団で話し合いなさいという方向に向かっているのかなと思います。
○山本氏 そこはドイツも全く一緒です。事業組織法のなかでは、使用者が労働者を監視できるシステム、それこそ監視カメラとかが典型ですけれども、そういったものを導入する場合には、事業所委員会があるのであれば、そこときちんと共同決定しなければならないというルールが規定されています。
○今野座長 今、言葉が2つあって、協議と共同決定が出てきたんですが、これは全然違いますよね。それで、ドイツは共同決定、共同決定という言葉を言っていますが、フランスは協議ですか、共同決定ですが。
○水町構成員 まず大切なのは通知と協議が必要なんですけれども、強行的なルールの例外を設定するときには同意がないと例外ができないので、そのために例外を享受したいんだったら同意を得なさいねということを会社側に促しているということです。
○山本氏 ドイツの共同決定も多義的な概念で、共同決定にもいろいろな種類があります。単に情報提供とか、あるいは通知とか、さらに協議というレベルのものもありますが、一番強いのは狭義での共同決定です。今申し上げた監視のためのシステムの導入も、狭義の共同決定の大将で、事業所委員会側が同意しなければ、そういったものを使用者が一方的に導入することはできないものとして構成されております。
○今野座長 そうすると、今お話をされていた強行法規を少し緩めることは、ドイツでも完全共同決定ですね。
○山本氏 そうですね。
○今野座長 ほかにいかがですか。
 先ほどの労働時間選択法というのはすごく興味深いなと思ったのですけれども、結局労使団体からの批判がいっぱいあったということですが、批判というのは何なんですか。
○山本氏 この点は先ほどの報告では説明を省略してしまったのですが、2016年に出た労働4.0白書に対して、労働組合と使用者団体のナショナルセンターがそれぞれ意見書というものを公表したのですけれども、その中では労働時間選択法に対しては両方ともが批判的な評価を下していました。
 というのは、まず組合側は労働時間選択法を入れるとして、ではどこまで柔軟化できるのか、そこのボーダーラインが白書の中では必ずしも明確ではない。この点は、恐らくシンプルに考えれば、EUの労働時間指令は週48時間というのを絶対的なボーダーに設定していますから、幾ら柔軟化しようがここを超えることはできないとは思うのですけれども、そのことははっきりとは白書の中には書かれていなくて、どこまで柔軟化を認めるのかというボーダーが不明確だという批判が、組合側からはなされておりました。
 一方、使用者団体側のほうは、労働時間選択法の建前はあくまで労働者の時間主権のためのものになっている、使用者の側にも柔軟に1日10時間を超えて労働者を働かせたいというニーズはあるのに、それに応えるものになっていないと批判しておりました。
ということで、方向性は違うのですけれども、労使それぞれからの批判というのが相まって、この労働時間選択法の提案が今後どうなっていくのかというのは不透明な状況になってしまっているのだろうと思います。
○今野座長 そうすると、労働組合も初めから反対というのではないんですね。つまり、今、言われた48時間みたいな、これ以上ないぞというのを明確にしてくれていればいいぞという立場だということですか。
○山本氏 ただ、労働組合側がこの労働時間選択法みたいなものをどこまで実際に要望しているかというのは、正直申し上げてよく分からないところであります。
○今野座長 経営者側は今の状況を考えると労働時間を柔軟化したいと思っていると思うのですけれども、使用者側からこのようにして欲しいという提案はないのでしょうか。
○山本氏 立法提案みたいなものですか。
○今野座長 立法提案でもいいですけれども。
○山本氏 今の労働時間規制が厳しいから、より柔軟化の余地を認めるべきだということは折に触れて使用者側は主張しているのですけれども、勉強不足かもしれませんが、使用者側からの立法提案というのは、私ははまだ見たことはありません。
○今野座長 大湾構成員、どうぞ。
○大湾構成員 個々の会社の働き方について、労使の協議に任せて決めさせる場合は、会社によってルールが変わってきますよね。そうすると、非常に柔軟な働き方を求める人は柔軟な働き方ができる会社に移動しようと思うでしょうし、逆の場合もあるかと思います。そういった情報の開示については、どういった法律上の定めがなされているのでしょうか。
○山本氏 企業内の労働条件に関する開示のルールということですよね。そういうものについては企業の中に、日本風に言うとその企業の就業規則とか、そういったものを企業の労働者に対して開示しなさいというルールは、ドイツでももちろんあります。例えば、その企業に適用される労働協約とか、事業所協定をその企業の従業員にちゃんと周知しなさいというのは、事業組織法上そういうルールがありますけれども、それを広くその会社の外部の人たちにも開示せよという法的なルールは、ドイツでは一般的にはないと思います。
 ただ、労働協約に関しては産業別の労働協約でありますから、これは産別組合に行けば普通に見せてくれるわけですけれども、事業所協定に関しては私は昔調べたことがあるんですが、なかなか企業も外の人には見せてくれない。日本でも就業規則を簡単に見せてくれる企業というのはあまりないのかもしれませんけれども、事業所協定に関しては外部の人間が外からアクセスするのはハードルが高いのではないかなと思います。
○大湾構成員 雇用契約を結ぶとき、そこにサインするときには開示義務はあるわけですよね。
○山本氏 それはもちろんそうです。要するに、その会社の人間になった後に関してはもちろん労働条件として明示されるわけですけれども、その前段階で、例えば転職活動をしている人がこの会社の労働条件はこうなっていて、一方この会社はこうなっていてと比較検討できるような状況を作るための法的規制は、ドイツでは現在のところはないと思います。
○大湾構成員 分かりました。ありがとうございます。
○今野座長 戎野構成員、どうぞ。
○戎野構成員 先ほどの労働時間規制の柔軟化のところで、産別の中の意見の相違がある中で、例えばそれが事業所協定を締結するときに何か差し障りになる、あるいは個人が非常に多様化している中で事業所協定を締結するときに非常に難しいといった、3構造の中での課題はないのでしょうか。
○山本氏 ドイツの場合、産別組合というのは9つしかなく、例えば有名なダイムラーであればIGメタルという産別組合が管轄しています。ドイツでは通常1つの企業に対しては1つの産別組合のみが管轄するため、産別間で意見が異なるという事態は基本的には生じないシステムとなっています。
○戎野構成員 個別の問題はどうですか。
○山本氏 もちろん、事業所委員会というのは事業所協定を結ぶ前には当然職場での集会を開いて、意見を集約して事業所協定を締結しますから、そこでの意見が割れてしまって最終的には結べなくなるという状況はあり得るとは思いますけれども、そういった状況が実際にどれくらい生じているか、私にはよく分からないところがあります。
○戎野構成員 高度人材とか先ほどありましたので、相当ニーズが違うのではないかと思ったんです。そのときに、事業所協定を結ぶというのが難しいこともあるのではないかなと思いました。
○今野座長 典型的には、高度人材に対して柔軟化すると言っても、多くの人にはそのような話は関係なく、そこでの合意が難しくなる。
○山本氏 先ほども申し上げたように、労働時間選択法自体は高度人材のためだけというよりも、もう少し幅広い労働者層を念頭に置いた制度構想だったと思うんですけれども、繰り返すように現時点ではいまだ法制化されておりませんから、それ以上は何とも言いようがないところがあります。
○今野座長 最後に、これは将来できそうですか、難しそうですか。
○山本氏 正直申し上げて分からないです。これには恐らく政治的な理由も絡んでいて、今ドイツはオラフ・ショルツを首相とする連立政権ですけれども、彼が所属する最大与党である社会民主党は、もともとは労働組合を母体にして出てきた政党なのです。また、オラフ・ショルツの前のアンゲラ・メルケルの時代でも、ここ十数年間ずっと労働大臣は基本的に社会民主党の人間が務めていて、幾ら労働者の時間主権のためとはいえ、労働時間規制からデロゲーションするような政策というのは、なかなか進めづらい状況があるのではないかと私は拝察しております。
 報告でも申し上げたように、労働時間選択法のアイディア自体は、労働4.0白書ほど詳しく提案されてはいないものの、最近の政府文書でもちょいちょい顔を出すのですが、連邦政府の中できおれが優先度の高い政策として位置づけられているかというと実際はかなり疑わしいところがあるのではないかなと私自身は思っております。
○今野座長 それでは、この辺で終わりたいと思います。山本参考人、ありがとうございました。
○山本氏 ありがとうございました。
○今野座長 それでは、次にいきたいと思います。
 次は、事務局から、この前の調査結果の報告をしていただければと思います。それでは、事務局からお願いします。
○労働条件確保改善対策室長 「労働者の働き方・ニーズに関する調査」については、6月23日の研究会で単純集計及び基本属性別の集計結果を御説明させていただきました。本日は、グループ別のクロスの集計結果について御報告をさせていただきます。
 それでは、PwCコンサルティング合同会社のマネジャーの森川様、シニアアソシエイトの中西様より御説明いただきます。よろしくお願いします。
○受託業者(PwC) それでは、ここからPwCコンサルティングの私、中西のほうから調査の結果について御説明をさせていただきます。
 先日6月に発表させていただきました属性別のグループの集計に加えて、調査表の中で労働者の特性に応じて分けたグループごとに結果をクロス集計したものを今回御説明させていただきます。今回のクロス集計の内容については、2ページ目のところに「目次」としてどのような軸で集計しているかといったところが一覧になっております。
 まず、5ページ目です。1つ目のグループの軸は「一つの企業に長く勤めることを重視するか」。5ページ目は単純集計になっておりまして、全部で5,600人程度の労働者のうち、いわゆる正規、非正規で雇用されて働いている方の63%程度が、1つの企業に長く勤めることについて、重視するかについて、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計が63%ほどとなっております。
 6ページ目はクロス集計です。こちらは、先ほどの「一つの企業に長く勤めることを重視するか別」の集計として、社員の雇用安定を最優先に考えるべきか、また成果や能力を重視すべきか、この2つについて長く勤めることを重視するかどうか別で見ていきますと、重視すると回答している側のほうが、「そう思う」と回答している割合が高い傾向が見られました。
 続いて7ページですが、異動について個々の従業員の意見や希望を重視すべきか、賃金は成果に基づくべきか、この2つについて「一つの企業に長く勤めることを重視するか別」に見ていきますと、長く勤めることを重視するほうが、「そう思う側」の回答の割合が高い結果となりました。
 8ページを御覧ください。こちらは、今後個人が健康確保を行っていくべきか、もう一つは仕事よりも仕事以外の生活をこれまで以上に大切にするか、この2つについて1つの企業に長く勤めるかどうか別で見ていきますと、「一つの企業に長く勤めることを重視する」と回答した方のほうが、健康確保を行っていくべき、仕事以外の生活をこれまで以上に大切にするという2つとも「そう思う」の割合が高い結果になっております。
 続いて、9ページ目は「今後、労働組合が企業と交渉する際に、特に何に力を入れてほしいと思うか」、この設問についてクロス集計を取っております。まず職場環境の改善という問いについては、1つの企業に長く勤めることを「そう思う」と回答している側のほうが28%で最も多くなっております。
 一方で、その下にあります「賃金、労働時間等の労働条件」については、1つの企業に長く勤めることを重視する側のほうが44.4%となっております。
 続いて、「仕事の裁量の程度別」の集計についてお話しさせていただきます。
 12ページは仕事を裁量の程度別で見た、単純集計の結果になります。1つ目が「仕事の手順を自分で決めることができる」、2つ目が「仕事の時間配分を自分で決めることができる」、3つ目が「勤務場所を自分で決めることができる」、この3つをもって「仕事の裁量の程度」を見ております。この3変数をポイント化して合成をして、上位と下位、中位に分けて今後の13ページ以降の分析を進めております。
 13ページは、昇進は成果や能力を重視すべき、賃金は成果に基づいて決めるべき、この2つについて見ていきましたところ、仕事の裁量が大きい方々のほうがその2つについて「そう思う」側の割合が高くなるという傾向がございました。
 14ページは、異動は従業員の希望や意見を重視すべきか、社員の雇用安定を最優先に考えるべきか、この2つについて仕事の裁量別で見たところ、裁量が大きいほうが重視すべき等の「そう思う」側の割合が高い傾向でございました。
 15ページは「仕事の裁量の程度別」で、1つの企業で長く働くことを重視するかを見たところ、これも裁量が大きい方々のほうが「そう思う」側の割合が高い結果でございました。
 続いて、16ページは労働時間についてそれぞれ働きたいと思うかを聞いております。これを裁量の程度別で見たところ、まず通常の勤務時間で働きたいか、こちらは仕事の裁量が大きいほうが少しそう思う側の割合が高い。変形労働については、仕事の裁量が大きい方のほうが明確にそう思う側の割合が高い結果になっております。
 17ページは同じく労働時間について、今度は「フレックスタイム制度」と「みなし労働時間制度」について働きたいかを裁量の大きさ別に見ております。結果、裁量が大きいほうが、フレックスもみなし労働時間制もどちらも「働きたい」と思う側の割合が高い結果になりました。
 18ページは労働時間制の最後になりますけれども、労働時間制度の対象としないというような形で今後働きたいかについては、仕事の裁量が大きいほうが「働きたい」と思う側の割合が高い結果になりました。
 続いて、リモートワークで今後働きたいかについて、仕事の裁量が大きいか別で見たところ、これも仕事の裁量が大きいほうがリモートワークで今後働きたいという結果が得られております。
 次のページは、個人で健康確保を行っていくべきか、または仕事よりも仕事以外の生活をこれまで以上に大切にするか、この2つについて裁量の大きさ別に見たところ、裁量が大きい方々のほうが健康確保も仕事以外の生活についても「そう思う」という回答が高い結果になっております。
 21ページは交渉力について、個人として勤め先と労働時間等の労働条件の交渉ができるか、これを裁量の大きさ別に見ていきますと、裁量が大きい方のほうが「そう思う」側の割合が高い結果になっております。
 同様に、下のほうのグラフですね。労働条件が希望に合わない場合に転職できるかについては、これも裁量が大きい方々のほうが「そう思う」といった割合が高い結果になりました。
 続いて、3つ目の軸です。「現在、成果に基づく賃金となっていると思うか別」で軸を分けて集計をしております。
 次のページは、単純集計の結果です。現在、成果に基づく賃金となっているかという問いに対して、31.1%の方が「そう思う」、または「どちらかといえばそう思う」と答えていただいています。
 これを軸に次の25ページを見ていただきますと、今後、仕事の裁量を増やしていきたいかという問いについて、まずは仕事の手順について裁量を増やしていきたいかを成果に基づく賃金となっていると思うかどうか別で見たところ、成果に基づく賃金になっていると思うといった回答の方のほうが、手順の裁量を増やしていきたい割合が高くなっておりました。
 同様に下のほうのグラフ、時間配分の裁量についても、成果に基づく賃金となっている方のほうが、裁量を増やしていきたい側の回答が多くなっております。
 続いて、26ページは、勤務場所の裁量について聞いた結果です。こちらも、勤務場所の裁量については成果に基づく賃金となっている方のほうが「そう思う側」が高い結果になっています。
 次に、27ページは、将来どのような働き方をしたいと思うかという設問についてクロス集計を行っております。「なりゆきにまかせたい」、もしくは「分からない」というような合計割合については、成果に基づく賃金となっているかについて「そう思わない側」の方のほうが高くなっております。「なりゆきにまかせたい」と「分からない」を合計すると60.8%程度となっています。
 もう一点、下のほうのグラフですが、今後仕事の時間をどのように変えたいかという設問については、「増やしたい」「少し増やしたい」の合計割合を見ていきますと、成果に基づく賃金となっていると答えた方々のほうが、時間を「増やしたい」「少し増やしたい」の合計割合が高い結果になっております。
 次のページは「成果に基づく賃金となっていると思うか別」で、1つの企業に長く働くことを重視するかを見ております。これは、成果に基づく賃金となっていると思っている方々のほうが、1つの企業で長く働くことを重視する傾向にありました。
 続いて、29ページは労働時間制度に関する設問です。今後、通常の労働時間制度で働きたいかについては、成果に基づく賃金となっていると思っている方のほうが、「そう思う側」の回答割合が少し高い。
 続いて、変形労働時間で働きたいかについても同様に、成果に基づく賃金になっているという層のほうが「働きたい」側の回答割合が高いとなっておりました。
 続いて30ページです。同様の設問で、今度はフレックスタイム制で今後働きたいか、もう一つは下のグラフでみなし労働時間制で働きたいか、この2つについて成果に基づく賃金となっていると思うか別で見ていくと、成果に基づく賃金となっていると思う側のほうが、それぞれ「働きたい」というふうに回答した割合が高いとなっております。
 「労働時間制度の対象としない」という働き方をしたいかについては、成果に基づく賃金となっていると思う方々のほうが「働きたい」側の割合が高い結果でございました。
 「今後、労働組合が企業と交渉する際に、特に何に力を入れてほしいと思うか」については、「経営に関する事項」の割合が現在成果に基づく賃金となっていると思っている側が最大で14.9%、「日常業務改善」については成果に基づく賃金となっていると思う側が23.0%、「賃金、労働時間等の労働条件」について話し合ってほしいというところは成果に基づく賃金になっていないと思っている側のほうが高く、45.8%でございました。
 33ページは、個人として務め先と労働条件等の交渉ができるかについてですが、こちらは現在成果に基づく賃金となっていると思う、交渉できるというふうに回答する割合が高いとなっておりました。
 下のグラフは、労働条件等が希望に合わない場合に転職できるかですが、こちらについても同様に成果に基づくと思っている方々が「そう思う」という回答割合が高いとなっておりました。
 続いて4つ目の軸です。「今後、専門性・目標・権限の高い仕事を増やしたいか別」に集計をしております。
 次のページを見ていただきますと、それぞれ単純集計の結果をこちらでお示ししております。1つ目の問いが高度な専門性を要する仕事を増やしていきたいか、2つ目が責任の重い仕事を増やしていきたいか、3つ目が高い目標を有する仕事を増やしていきたいか、この3つの回答をポイント化して合計したものを今後の高度業務志向として集計をして軸として活用しております。
 次のページからクロス集計になります。
 まず、昇進を決める際は成果や能力を重視すべき、これについては今後高度な業務を志向する方々のほうが「そう思う」という回答の割合が高くなっています。
 下のグラフは、異動は個々の従業員の希望を重視すべき、こちらについても同様に権限の高い仕事をしたいと思う方々のほうの割合が高いとなっております。
 37ページは、賃金は成果に基づいて決めるべきかですが、こちらについては今後専門性、目標、権限等の高い仕事を増やしたいと思う方々のほうが成果に基づくべきという回答割合が高いとなっております。
 続いて、38ページは裁量について聞いております。今後仕事の手順の裁量を増やしたいか、こちらについては専門性・目標・権限等の高い仕事を増やしたい方々は手順の裁量も増やしたい。
 下のグラフですが、時間配分の裁量を増やしたいかについても、こういった専門性・目標・権限を増やしたい方は時間配分の裁量も増やしたいというような傾向でございました。
 次の39ページですが、3点目で勤務場所の裁量についても目標・専門性・権限等の高い仕事を増やしたい方々は勤務場所の裁量も増やしたいというところの割合が高いという傾向でございます。
 次のページですが、将来どのような働き方をしたいと思っているかについて、「なりゆきにまかせたい」「わからない」と回答した割合については、こういった専門性・目標・権限の高い仕事を増やしたいかについて、あまりポイントが高くない、ポイント数として「下位」に当たるような方々が割合としては高く、「なりゆきにまかせたい」「わからない」の合計が78.1%となっています。
 下のグラフですが、今後仕事の時間についてどうしたいかについては、こういった専門性・目標・権限を増やしたいと言っている方々は労働時間も「増やしたい」「少し増やしたい」の割合が一番多くなっていまして28.2%となっています。
 続いて41ページですが、また労働時間制についての希望になっています。通常の労働時間で働きたい、もしくは下のグラフは変形労働で働きたいですが、こちらについても今後専門性・目標・権限の高い仕事を増やしたいというふうに志向している方々のほうがそれぞれの労働時間制で「働きたい」という回答の割合が高くなっておりました。
 42ページは、フレックスタイム制で働きたいか、みなし労働時間制で働きたいか、こちらについて今後専門性・目標・権限が高い仕事を増やしたいと思うか別に見ていきますと、やはり増やしたいと思っている方々のほうがフレックス、みなし労働、どちらも「働きたい」の割合が高いとなっています。
 労働時間制の対象としない働き方についても、今後専門性・目標・権限の高い仕事を増やしたいと思っている方々のほうが「働きたい」側の回答割合が高いとなっています。
 続いて、5つ目の集計軸、「兼業・副業の希望有無別」です。
 こちらも45ページが単純集計の結果となっており、約3割の方が今後兼業・副業を行う希望があるとなっています。
 46ページですが、今後リモートワークをしたいかについては、兼業・副業の希望がある方々のほうがリモートワークの希望も「そう思う」側が高いとなっております。
 続いて47ページですが、同様に企業よりも働く方個人が自身の健康確保を行っていくべきだと思うかについても、兼業・副業を希望している方々のほうが個人で行っていくべきというふうな回答割合が高いとなっています。
 次が6つ目の軸、「労働組合の信頼度別」です。
 49ページに単純集計の結果がございます。こちらについては、まず労働組合が勤め先にあるかということを聞いております。38.5%があるとなっておりまして、その方々について労働条件等を改善する上でその組合が頼りになる存在だと思うかということを聞いております。この2つの設問を使って、組合があって頼りになると思う、組合はあるが頼りになると思わない、あとは組合がない、この3つにサンプルを分けて分析を進めております。
 50ページを見ていただくと、将来どのような働き方をしたいと思うかについて、「なりゆきにまかせたい」「わからない」の2つを合計した結果で見ると、「組合なし」のカテゴリーが一番高く、61.6%となっています。
 続いて51ページを御覧ください。こちらは「今後、1つの企業で長く働くことをこれまで以上に重視するか」、これについては組合があって頼りなると思うという方々のほうが1つの企業で長く働くことを重視するという結果になっております。
 次のページは、労働時間についてです。通常の労働時間制度で働きたいかについては、労働組合があり頼りになると回答している方々のほうが「働きたい」という割合が高い結果となっています。
 同様に、変形労働時間制についても、組合があり頼りになると思う方々のほうが「働きたい」という割合が高いという傾向にあります。
 53ページですが、こちらも同様に労働時間制度についてフレックスタイム制とみなし労働時間制で見ております。フレックスタイム制も、組合があり頼りになると回答した方々のほうが「働きたい」という割合が高い。
 みなし労働時間制も同様に、組合があり頼りになるという方々のほうが「働きたい」という割合が高くなっております。
 54ページは労働時間制の最後の項目ですが、労働時間制度の対象としない働き方についても労働組合があり頼りになると回答している方々のほうが「働きたい」という割合が高くなっております。
 続いて55ページを御覧ください。こちらは、リモートワークを今後したいかという希望について見ております。これも、労働組合があり頼りになるというふうに回答した方々のほうが、リモートワークの希望は「そう思う」側の回答が高い結果になっております。
 次のページが、労働組合が企業と交渉する際に特に何に力を入れてほしいと思うかです。「経営に関する事項」「日常業務改善」「職場環境改善」、これらについては組合があり頼りになると思うというカテゴリーの割合が高くなっておりました。
 一方で、「賃金、労働時間等の労働条件」については、組合があるが頼りになると思わないというカテゴリーのほうが割合として高く、48.2%となっておりました。
 続いて、57ページを御覧ください。こちらは交渉力についてで、個人として勤め先と労働条件等の交渉ができる。これについては、組合があり頼りになると思うと回答している方々のほうが、交渉できると回答した割合が非常に高くなっております。
 同様に下のグラフは、労働条件等が希望に合わない場合に転職できるかについては、組合があり頼りになる方々のほうが転職することができると回答した割合が高くなっております。
 最後に、「交渉力の程度別」の軸での分析について御説明してまいります。
 次のページを御覧ください。こちらが2つの設問で「交渉力の程度」といったところを見ております。
 1つ目が、勤め先との労働条件や報酬の交渉や話合いについて、個人として勤め先と労働条件、仕事内容、報酬について交渉や話合いができるかどうか。もう一つが、勤め先が示す労働条件・仕事内容・報酬が希望に合わない場合には転職することができるか。この2つの項目で見ております。これもそれぞれをポイント化して、ポイントが高いほうが「上位」、ポイントが低いほうが「下位」としております。
 次のページは、仕事の手順等の裁量を増やしていきたいかを交渉力の程度別で見ております。まず手順の裁量を増やしていきたいかについては、交渉力が高いカテゴリーのほうが「そう思う」という回答の割合が高くなっております。
 同様に、仕事配分の裁量を増やしていきたいかについても、交渉力が高いほうが「そう思う」という回答の割合が高くなっています。
 61ページは勤務場所の裁量について、これも交渉力が高い方々のほうが「そう思う」側の回答が多いとなっております。
 続いて、62ページは労働時間について、まずは通常の労働時間制度も、交渉力が高い方々のほうが「働きたい」という側の回答が多い。
 変形労働時間制度についても同様に、交渉力が高い方々のほうが「働きたい」という割合が高くなっております。
 次に、フレックスタイム制度とみなし労働時間制について、フレックスタイム制で働きたいかについては、交渉力が高い方々のほうが「働きたい」という割合が高い。みなし労働時間制についても、交渉力が高いほうがみなし労働時間制で「働きたい」という割合が高いとなっています。
 次のページが「労働時間制度の対象としない」ということについて、こちらも交渉力が高いほうが「働きたい」側が高いとなっております。
 以上、ここまでが労働者の希望等の軸に沿ったグループ別の集計でございます。
 そのほか、6月の研究会発表において、御質問や詳細の追加の分析等をオーダーいただいたものについては「(8)その他」に収録をしております。今回は御説明の時間が限られていますので割愛させていただきますけれども、内容について御参照の際は「(8)その他」を御覧いただければと思います。
 事務局からは以上でございます。
○今野座長 それでは、質疑に入ります。戎野構成員、どうぞ。
○戎野構成員 私が前回お願いした、組合の信頼度別はどうもありがとうございました。やはり組合に対する信頼というのは二極化しているのではないかと思っていましたけれども、かなりその状況が克明に出ていて、しかもその信頼度があるかないかによって、交渉力であったり、労働時間に対する希望であったり、いろいろなところがかなり違うんだなということを改めて見せていただくことができました。
 そのため、組合の質を向上させていくということが労使コミュニケーション、労使関係を今後発展させていく上で極めて重要だと思いました。
そして、2点目ですが、組合への信頼によって、これだけ行動パターンなり考え方に差異が生じてしまうということは、労働組合の担っている役割は大きいということを改めて思いました。
 例えば、将来に対して「なりゆきにまかせたい」や「わからない」という回答は組合がないところが最も多いので、組合からある一定の情報提供というものがあり、役割を果たしているのではないかと思います。将来に向けての個々人の働き方、または現在の働き方に関する様々な情報提供がされているのではないかと感じました。一方、交渉力などを見ましても、逆に組合に対して信頼できない場合は、組合がないほうがまだ交渉ができると思う人が多いくらいになってしまっていて、組合に対する不信感みたいなものは、自分自身の企業への交渉力や、キャリアに対する自信喪失につながっているところもあるのかなと思いました。組合の姿がしっかりしていないと、もっと悪影響も与えてしまうくらい、逆にそれだけ影響力が大きい部分もあるのではないかと思いました。
 3点目は、私の報告の中で経営に関する事項の議論が減っていると申し上げましたが、組合に対して信頼度があるとそこに対する交渉もやや期待できるのではと思いました。これによって初めて労使互角にといいますか、なかなか個人では言いにくいところを組合が発信できると思います。そういった発言が期待できるということは、労使双方にとって非常に重要なことだと思います。
 最後に、「組合に力を入れてほしいことはない」という回答は結構ありましたけれども、ここも、組合に対し信頼しているところも、信頼していないところもあるのではないかと思いました。信頼していないところは諦めてしまっているのだろうなと思いますし、信頼しているところは今、結構やってくれているというふうに解釈できるのかもしれません。ここのところの解釈もやはり複数あるだろうなと思う結果でした。
 以上です。どうもありがとうございました。
○今野座長 中村構成員、どうぞ。
○中村構成員 ありがとうございました。
 今、戎野構成員がおっしゃった点は私も非常に重要な点だと思います。それに付け足すという観点で2点あります。
 1つは、信頼できる組合があることが個人の様々な働き方に対する態度に大きく影響するというのはとても重要な点だと思います。
 加えて、その後ろに続いている交渉力の程度という7番のところもそうなんですけれども、ここはイグジットとボイスという個人でのオプションがあることによる差異を見ていて、こちらも大きく差がついている。集団的な労使関係と合わせてやはり個人のオプションを個人に渡すことが、個人にとって結果的には働き方の可能性を広げていくということもあって、やはり集団と個人の2階層という観点はどちらも大事なのではないかと改めて確認しました。
 その上でもう一点気になっているのが、4花目の専門性や権限のところで、3階層に上、中、下で分けているところです。専門性・目標・権限が高い仕事を増やしたいという上位が大体全体の2割、中位が5割、下位が3割という分類になっています。分析結果は、上位の人と中下位で違うところと、下位だけが違うというようなところと、物によって多少分かれていて、上中下で傾向に差があるというのが全般的に見えている。
 そういう意味で言うと、管理職と一般労働者と働く人が2階層で本当にいいのだろうか。それを3階層にすることが大事なのか、3階層ではなくてそれはその職場なり、労使関係なり、様々なやり方の中でその多様性を担保していくのか。専門性が高い上位の人たちと下位の人たちでは働き方に対する裁量だったり、キャリアに対する考えだったりが違うというときに、全部一緒くたにして議論すると混乱を招くのではないかということをデータから思いました。
 以上です。
○今野座長 水町構成員、どうぞ。 どうぞ。
○水町構成員 中村構成員が最後におっしゃったところとも関係するかもしれませんが、全体として見て、そんなに差がついていないと感じました。いろいろな変数を見たときにそんなに劇的な差がないため、そこからどうやってインプリケーションを無理に導くのか、導かないのかという点が一つあるかなと思いました。
 あとは、結構全体として言えるのが、労働時間制度はどれを選ぶかというのは色々な変数で見ていただいていますが、1つを除いて、これはスライドで言うと16、17、18くらいで、仕事の裁量の程度で見た違いで言うところだけフレックスタイム制が相対的に大きくなっているんですよ。それ以外のところは、勤続を重視するというものから何から全部、通常の勤務時間制度の希望が一番大きいのですね。
 ですから、例えば高度な仕事をしているとか、いろいろな変数で見てみても、みなし労働時間制がいいとか、適用除外にしたいという人よりは、普通の労働時間制度がいいよと思っている人が相対的に多い。これは労働者の意識をどれくらい反映するか、会社側のアンケートを取ったら違うことになるかもしれませんが、そういうことが1つありました。
 もう一つ、解釈を教えてほしいことがあります。スライドの6ページから7ページのところで、長期勤続を望んでいる人は年齢や勤続年数を重視するということのほうが成果や能力を重視するよりも多くなるのかなと思ったり、スライドの7で言うと長期勤続を重視するというのであれば、あまり成果で競争を激しくするよりも時間でというほうが多いかなと思ったのですが、ここはそうではなくて、長期勤続を希望している人が成果とか、ある意味で競争的な環境を望むというのは、もしかしたら長期勤続を希望している人は、例えばエンゲージメントが高くてやる気の高い人が多いというのを間接的に反映したことになっているのかどうか、何か推測できることはあるのでしょうか。
○今野座長 雇用安定を大事にしたい方と、成果を重視する方が共存しているんですよね。一般的に何となくトレードオフというふうに考えていますけれども、そんなことはなく、共存しているというのが今回の結果だったと思うのですが、伊達構成員はどのように解釈されますか。
○伊達構成員 幾つかの解釈ができるということを感じながら見ていました。
1つ考えられる仮説としてあるのが、縦の関係でいうと、基本的に上のほうの人はいい環境にいて、かつ、意欲が高い人たちが選ばれてもいるので、全ての物事に対してある程度ポジティブに捉えているのではないかということです。
○今野座長 いずれにしても、さっきみたいな単純にはいかないということだと思います。
 つまり、会社にずっといたいなという人は成果なんかどうでもいいとは思っていないということですね。でも、水町さんが言われたように、会社にずっといたいなという人は社内で競争したくないのではないかと思うのですけれども、そうでもない。ではどう解釈するかですね。
小林構成員、どうぞ。
○小林構成員 スライドの8枚目の健康管理に関して確認したいと思っております。一つの企業に長く勤めることを重視する人のほうが、そう思わない人よりも、働く人個人が自身の健康確保をやるべきだと言っている割合が高い。すんなり入ってこない部分があったのですけれども、今のお話を聞いて、もしかすると会社の中での立場が高い方や、会社に対して信頼感が高くてワークエンゲージメントなども高いような方が、一つの企業に長く勤めることを重視していて、同時にそのような方は健康確保も自分でやるべきだと考える傾向があることを示している可能性もあるのではないか、考えながら伺っていました。
 いずれにしても、会社側が健康確保を行っていくことが重要であると考える方が2,3割はおられるということで、やはり会社側も体制を整えていくことが重要だと改めて思いました。
 以上です。
○今野座長 大湾構成員、どうぞ。
○大湾構成員 1つの企業に長く勤めるというのは幾つかの要素が入ってきていると思うんです。
 1つは、自分で活躍の場をその会社で見つけている人はその会社にずっと長くいようと思うでしょうし、それから製造業とサービス業は全く違うと思うんです。製造業などだとその企業の特殊的な技能は非常に大事なので、1つの企業でやっていこうという人が比較的多いと感じています。ですから、必ずしも安定を求めてそういうことを言っているわけではない。
 アメリカなどでも起業する人というのはいろいろな会社をジョブアップしながら最終的に起業するというイメージがあるかもしれないのですけれども、転職していく人よりも同じ会社の中で幅広い経験を積んだ人のほうが起業する確率が高いというような研究もありますので、1つの企業に長く勤めるということの中には先ほどからお話がありましたいろいろな意味合いがあると思います。
 それから、今のクロス表ですが、因果関係として解釈するのは非常に危険だと私は思っています。例えば、組合があるとかないとか、あるいは組合に対する信頼感がある、ないというのは、非常に伝統的な企業で、かつ企業規模の大きいところには組合が多いですから、そういった企業の特性をきちんとコントロールしないと、本当の意味での組合の効果は分からないと思います。
 また、会社の求めるものや考え方も業種によってもかなり異なるので、本人の属性、企業の業種、規模、そういった基本的な属性をある程度コントロールしないと、因果関係に近いものは読み取れないと思います。今回の調査は今の段階では一つの示唆を得るためのものだと思って解釈するのがいいのではないかと思います。
 今回の調査結果について、今後回帰分析を行う予定はあるのでしょうか。
○今野座長 事務局、どうですか。
○労働条件政策課長補佐 事務局でございます。
 現在のところ、この調査に関してはクロス集計のほうで対応させていただくことになっておりまして、回帰分析等の予定はございません。
 事務局からは以上でございます。
○大湾構成員 分かりました。ありがとうございます。
○今野座長 本当は、これを誰か研究者にぽんと渡して分析しろと言ったらいろいろなことをするんだけれども。
○大湾構成員 そう思います。データをいただければ私のところで分析します。
以上です。
○今野座長 武田構成員、どうぞ。
○武田構成員 ありがとうございました。
 後半のほうを見ていくと、年代別で幹部や管理職を目指したいとか、専門的な技能などを生かせる仕事に就きたいというのが例えば72ページのところとか、幾つか分岐点になるようなところがあり、年代別のところだと正規、非正規でも85ページとかだと差異が結構出てきていると思います。
 非正規のところの将来の働き方について「なりゆきにまかせたい」とか「わからない」という数字の高いパーセントはどうにかしていかなくちゃいけないと思っていますし、ほかの設問と違ってここは分からないから答えられないんですよね。純粋にどう思いますかではなくて、選択肢を見たことがないのでこうつけざるを得ない。
 先ほど大湾構成員がおっしゃるように、業種にもよると思うんですけれども、社員登用の仕組みや、そうなった方たちのキャリアを社内で見せてあげる、少なくとも分からないというところにつけさせてはいけないなとすごく人事として思いました。 やはり業種とか、会社の中での正規と非正規の割合だったり、または年代の割合によって答えてくる内容も大分違ったりするかなと思ったので、もうちょっとうまい切り口はないかしらと思ったところです。
 うっすら、霞っぽく見えるところはあるんですけれども、まだ確信には至れないので、切り口を変えたいなと思いました。
 以上です。
○今野座長 伊達構成員、どうぞ。
○伊達構成員 ありがとうございました。
 前回、年代を見てほしいということを申し上げたので、年代について感じたことを共有させていただきます。
 まず72ページの、将来どのような働き方をしたいかについて、年代別で見ると「なりゆきにまかせたい」という回答は若いほど少し減っていく傾向があります。つまり、働き方について若い人ほど考えている傾向があります。
 もう一つ興味深かったのが、77ページのリモートワークについてです。リモートワークをしたいと思いますかということについて、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」という回答は傾斜がかかっていて、若いほどそういった働き方を望んでいます。
 この研究会で言うと、まさにニーズの多様化に関係することと読み取っていまして、若い層ほどニーズが多様化する余地がある。「今支える」労働基準の重要性が年数を増すごとに高まるのではないかと感じました。
 その一方で、気になった点が、79ページなのですが、労働組合に力を入れてほしいと思うことについて「力を入れてほしいことはない」という回答が、これも年代とともに多くなっています。若い人ほど期待していないという傾向です。
 ニーズの多様化に対応するときに、個別対応という可能性もあり得ますが、集団的な労使コミュニケーションも必要性もあると思います。いずれにせよ、新たな労使のコミュニケーションの可能性や方法を探索していくことが求められるのではないかと思います。
 
○今野座長 前回、企業の話を聞きましたよね。話はいろいろあったんですけれども、すごく大きなキーは、雇用は保障するけれども内部で競争を激しくするという人事モデルなんですよね。
 そうすると、さっきから話になっているのは、雇用は安定させるけれども成果重視でいくぞというのと非常に整合的で、もしかしたら一つのこれからのモデルを示しているのかもしれないなと思いました。だから、論理的にどうなのかは別にして、1社で長く働く、雇用の安定を守っていくことと、成果で競争するということが共存するのは、だんだん当たり前になってくるのかなと思いました。
 今の点について、武田構成員はどう思いますか。
○武田構成員 まさにそうだと思いますし、私の知っている範囲ですけれども、彼らはそういう意味ではイグジットマネジメントも物すごくちゃんとやっているので、いるんだったらちゃんとやることをやってくださいねというのが彼らのルールです。
 それに、若い人たちはそもそも定年までいようと思っていないじゃないですか。それを考えると、きちんとニーズは会社と従業員のほうで合っているのかなという気がします。
 これは年代別に見ていて、見ている世界があまりに違い過ぎる。60代、70代の方たちがずっと長い間、本当に少ない働き方の選択肢の中で見てきた結果、答えていらっしゃることと、今の若い方たちが経験はしないけれども、いろいろ知っている彼らの基準で答えていることと、そこの前提からどうやったらそろうんだろうというのは分からないですけれども、そこは大湾先生と伊達さんにお任せすることとして、すごく違う中で答えている感がにじみ出てきてしまうように私には見えました。
○今野座長 武田構成員が言われたことで重要かなと思ったのは、雇用は安定してほしいということと、ずっと会社にいたいと思うことは別だという話です。
○武田構成員 そうですね。自分たちの出たいタイミングで出たい。
○今野座長 でも、雇用は安定してほしいというのは最近の言葉で言うと心理的安全性を非常に重視しようというので、心理的安全性を担保する最初の出発点は雇用の安定だから、そうすると雇用の安定をしてほしいというニーズと、この会社にずっといようかなというキャリア志向は別だということですか。
○武田構成員 この間、企業ヒアリングで言っていたことをそのまま言うと、心理的安全性は挑戦とセットだということで別物ですね。
○今野座長 伊達構成員、どうぞ。
○伊達構成員 69ページのところで雇用の安定を最優先に考えるべきかどうかというデータが取られていて、それは若い人ほどそうは思わないという回答が多くなっています。ですので、キャリアの側面と雇用の安定は切り離して考えられているのかもしれません。
 もう一点、若い世代とシニア世代の価値観はデータを見る限り違っているところもあります。今回のデータで非常に興味深いのは、一つ一つの年代を比較するとそんなに大きな差はないんですね。例えば20代と30代だったらそんなに大きな差はない。同じように、30代と40代もあまり差はない。ただ、全体で見ると傾斜がかかっていて、一番下の世代と一番上の世代は考え方が異なることがわかります。
○今野座長 それでは、そろそろ時間ですので、今回の出口として我々はレポートを作らなければいけないんですけれども、レポートを作る際に参考にできる部分は参考にするということだろうと思います。本日は終わりにしたいと思いますが、全体を通して何かございますか。よろしいでしょうか。
 それでは、最後に事務局より次回の予告をお願いします。
○労働条件確保改善対策室長 次回は8月10日木曜日の10時から12時、ここAP虎ノ門にて行います。
○今野座長 それでは本日の研究会を終了いたします。
 ありがとうございました。