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- 2023年7月12日 令和5年第2回目安に関する小委員会 議事録
2023年7月12日 令和5年第2回目安に関する小委員会 議事録
日時
令和5年7月12日(火)13:00~15:52
場所
航空会館201号室
(東京都港区新橋1-18-1 航空会館2階)
(東京都港区新橋1-18-1 航空会館2階)
出席者
- 公益代表委員
- 藤村委員長、戎野委員、小西委員、首藤委員
- 労働者代表委員
- 伊藤委員、永井委員、仁平委員、水崎委員
- 使用者代表委員
- 大下委員、佐久間委員、土井委員、新田委員
- 事務局
- 鈴木労働基準局長、増田大臣官房審議官、岡賃金課長、友住主任中央賃金指導官、
古長調査官、長山賃金課長補佐、青野賃金課長補佐、川辺副主任中央賃金指導官
議題
令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について
議事
<第1回全体会議>
○藤村委員長
ただいまから、第2回目安に関する小委員会を開催いたします。まず、お手元の資料について、事務局から御説明をお願いいたします。
○青野賃金課長補佐
事務局です。本日も、お手元の資料のほかに、各種団体からの要望書を回覧しておりますので御参照いただければと思います。配布資料については、資料No.1~5、参考資料No.1~3の合計8点があります。全て通しで御説明させていただきます。
まず、資料No.1を御覧ください。令和5年の賃金改定状況調査結果です。
1ページは調査の概要です。真ん中の3の(2)にありますが、常用労働者数が30人未満の企業に属する民営事業所を調査しています。その下の表を御覧ください。調査事業所数は1万6,489、集計事業所数は5,281、回収率は32.0%と、概ね例年並みになっています。また、今年4月に取りまとめられた全員協議会報告に基づき3ランクとなったことを踏まえまして、3ランクで調査設計を行っております。
3ページの第1表を御覧ください。こちらは、今年の1月から6月までに賃金の引上げ、引下げを実施した、あるいは実施しなかったという区分で事業所単位で割合を集計したものです。左上の産業・ランク計を見ていただきますと、1月から6月までに賃金の引上げを実施した事業所の割合は43.5%となっており、昨年より上昇しております。隣の列の賃金の引下げを実施した事業所の割合は0.7%となっており、昨年より低下しております。さらに隣の列ですが、1月から6月までに賃金改定を実施しない事業所のうち、7月以降も賃金改定を実施しない事業所の割合は38.4%で昨年より低下しており、7月以降に賃金改定を実施する予定の事業所の割合は17.4%で昨年より上昇しております。産業別でみますと、1月から6月までに賃金の引上げを実施した事業所の割合は、医療・福祉で最も高く、62.3%となっております。
次に、4ページの第2表は、平均賃金改定率を事業所単位で集計したものです。左下の産業計・ランク計で見ていただくと、今年の1月から6月までに賃金引上げを実施した事業所の平均賃金改定率は4.3%と、昨年と比べて上昇しています。真ん中の賃金引下げを実施した事業所はマイナス14.2%です。一番右は、改定を実施した事業所と凍結した事業所を合わせて、今年1月から6月までの事業所ごとの平均賃金改定率を集計したもので、プラス1.8%となっています。
次に、5ページの第3表です。こちらは賃金引上げを実施した事業所の賃金引上げ率の分布の特性値です。産業計・ランク計をみていただくと、第1・四分位数が1.3%、中位数が2.9%、第3・四分位数が5.0%と、いずれも昨年より上昇しています。
次に、6ページの第4表は、賃金上昇率です。第4表の①は男女別の内訳を示しています。
なお、斜字となっている令和4年のBランク及びCランクの賃金上昇率は、令和4年調査の調査票情報を用いて、新ランクに合わせて組替集計した参考値となっております。第4表①の産業計・男女計をみると、ランク計の賃金上昇率は2.1%となっています。2.1%という上昇率は、最低賃金が時間額のみで表示されるようになった平成14年以降最大の水準であった昨年を更に上回っているものです。ランク別では、産業計・男女計で、Aランクが2.3%、Bランクが2.0%、Cランクが2.1%となっており、Aランクが最も高くなっています。
男女計で産業ごとに見ますと、左から5番目の宿泊業,飲食サービス業が最も高く、ランク計で2.6%となっております。男女別の賃金上昇率をみますと、左端の産業計・ランク計で、中段の男性が1.8%、下段の女性が2.3%となっています。
次に、7ページは第4表②です。こちらは一般・パート別の賃金上昇率です。左端の産業・ランク計でみますと、中段の一般労働者は2.0%、下段のパートは2.1%となっています。
次に、8ページの第4表③です。こちらの資料は、昨年は委員からの追加要望を踏まえてお示ししましたが、今年4月に取りまとめられた全員協議会報告に基づき、これから毎年提出することとされています。第4表の①②と③には共通点と相違点があり、まず同じ点としては、集計対象となる事業所で、昨年6月と今年6月の賃金を調査して賃金上昇率を計算している点です。違う点としては、一番下の(資料注)を御覧ください。第4表①、②については、集計労働者である3万2,180人全員から賃金上昇率を計算しています。一方、第4表③では、昨年6月と今年6月の両方に在籍していた労働者である2万6,256人のみ、割合ですと81.6%の労働者に限定して賃金上昇率を計算しています。言い換えますと、第4表③では、継続労働者のみを集計対象にしていますので、昨年6月に在籍していたものの今年6月に在籍していない退職者と、逆に昨年6月には在籍していなかったものの今年6月に在籍するようになった入職者は、第4表③の集計対象には入っていないことになります。
前置きが長くなりましたが、表の左上を御覧ください。産業計・ランク計の賃金上昇率は2.5%となっており、ランク別にみますと、A、Bランクは2.4%、Cランクは2.7%となっております。いずれも第4表①、②よりも高い上昇率となっております。
続いて、縦に御覧いただければと思いますが、内訳をみると、男性は産業計・ランク計で2.3%、女性は2.6%、一般は2.4%、パートは2.4%となっています。第4表①、②と同じく、男性より女性が高い、一般・パートは同程度という傾向は変わりませんが、いずれも第4表①、②よりも高い水準となっています。
9ページには、賃金引上げの実施時期別の事業所数の割合を、10ページには、事由別の賃金改定未実施事業所の割合を、参考表としてお付けしています。11ページは、この調査における労働者構成比率と年間所定労働日数をお付けしていますので、適宜、御参照いただければと思います。資料No.1の説明は以上です。
続きまして資料No.2を御覧ください。生活保護と最低賃金の比較についてです。まず、1ページのグラフを御覧ください。右上の四角囲みに説明がありますが、破線の△は生活保護水準で、生活扶助基準の人口加重平均に住宅扶助の実績値を加えたものです。実線の◇は令和3年度の最低賃金額で、法定労働時間を働いた場合の手取額を示しています。全ての都道府県において、最低賃金が生活保護水準を上回っています。
2ページは、1ページの最低賃金額のグラフを令和4年度のものに更新したものです。全体的に最低賃金の水準は1ページよりも上がっており、こちらも同様に、全ての都道府県において最低賃金が生活保護水準を上回っています。
3ページは、47都道府県について、最新の乖離額を示すとともに、その乖離額の変動について要因分析したものです。列Cの額は、2ページのグラフでお示しした乖離額を時間額に換算したもので、列Dの額が昨年度の目安小委で示した乖離額です。△は最低賃金額が生活保護水準を上回っていることを示しています。そして、列Eが、昨年度から今年度の乖離額の変動分であり、△の幅が大きくなっているので、最低賃金と生活保護水準の差が大きくなっていることを示しています。右端の4つの列は、この最低賃金と生活保護水準の差が大きくなった要因を、e①~e④の4つに分けています。e①の昨年度の「最低賃金引上げ」の影響が、要因のほとんどを占めています。資料No.2の説明は以上です。
続いて、資料No.3を御覧ください。影響率と未満率に関する資料です。第1回の目安小委員会では、全国計の数値について御説明いたしましたが、今回はランク別、都道府県別の数値となっています。
1ページは、「最低賃金に関する基礎調査」によるものですので、原則30人未満の小規模事業所が対象となっています。表は過去10年間の推移であり、一番右の列が令和4年度になります。注4にありますとおり、各年における適用ランクでお示ししています。
未満率をランク別にみますと、Aランクが2.2%、Bランクが1.6%、Cランクが1.5%、Dランクが1.7%と、Aランクが最も高くなっています。影響率をランク別にみますと、Aランクが20.4%、Bランクが18.9%、Cランクが17.1%、Dランクが19.4%で、こちらも、Aランクが最も高くなっています。
次に、2ページを御覧ください。1ページと同じく、(注1)のとおり、原則30人未満の小規模事業所を対象とした都道府県別の影響率、未満率です。まず、上の破線が影響率ですが、最も高いのは左から2番目の神奈川県、次いで高いのが右から2番目の青森県となっており、最も低いのが真ん中左辺りの石川県となっています。次に、下の実線が未満率ですが、一番高いのは左から2番目の神奈川県、一番低いのは左から4番目の愛知県となっています。
次に3ページを御覧ください。2ページと同様のグラフを賃金構造基本統計調査に基づいて示したものです。注1)のとおり、5人以上の事業所が対象となります。上の破線の影響率では、真ん中辺りの北海道が最も高く、左から2番目の神奈川県が次いで高くなっています。真ん中左辺りの石川県が最も低くなっております。下の実線の未満率では、左から2番目の神奈川県が最も高く、真ん中右辺りの徳島県が最も低くなっています。資料No.3の説明は以上です。
続いて、資料No.4を御覧ください。こちらは、令和4年の賃金構造基本統計調査を基にした各都道府県別の賃金分布です。一般・短時間計、一般、短時間の順で、それぞれA~Cランクの順に都道府県を並べています。最低賃金の張り付き具合については、影響率や未満率と同様に、同一ランク内でも異なった傾向が見られます。個別の御紹介は割愛させていただきますが、適宜、御参照いただければと思います。
続いて、資料No.5を御覧ください。最新の経済指標の動向です。こちらは、今年も昨年度と同様に、内閣府月例経済報告の主要経済指標を提出させていただいています。主立った指標については、第1回の目安小委員会で御説明いたしましたので、個別の説明は割愛させていただきたいと思います。
続いて、参考資料No.1を御覧ください。こちらは、前回、委員から御要望がありました、6月20日に中小企業庁が公表した「価格交渉促進月間(2023年3月)フォローアップ調査の結果について」です。
2ページは、価格交渉促進月間とフォローアップ調査の概要です。中小企業庁は、毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」と設定し、価格交渉・転嫁の要請、広報、講習会等を実施しています。今年3月には、例えば約1,700の業界団体へ経産大臣名の周知文書を送付しております。成果を確認するため、月間終了後に、価格交渉と価格転嫁それぞれの実施は状況について、中小企業からアンケート調査と下請Gメンによるヒアリングを実施して月間の結果として取りまとめたのがフォローアップ調査です。
3ページが、今年3月の価格交渉促進月間における価格交渉の状況です。「価格交渉を申し入れて応じてもらえた/発注側からの声かけで交渉できた」の割合は、昨年9月の月間に関する前回調査より増加しているなど、価格交渉の実施状況は一部で好転している一方、「発注側からの交渉の申し入れがなかった、協議に応じてもらえなかった、減額のために協議申し入れがあった」が依然として約16%あり、二極化が進行しているところです。
4ページは、価格転嫁の状況のうち、コスト全般のものです。「コスト上昇分のうち何割を価格転嫁できたか」を集計した価格転嫁率は47.6%であり、前回調査と比べて微増です。コスト上昇分のうち高い割合(10割や9~7割)を価格転嫁できた回答が増加する一方、「全く転嫁できない、減額された」という割合も増加しており、ここでも二極化が進行しています。また、「コストが上昇していないため、価格改定不要」の割合は減少しており、コスト上昇の影響は拡大しています。
5ページは、コストを「原材料費」「エネルギーコスト」「労務費」に分解して、価格転嫁の状況を見たものです。原材料費について、「一部だけでも転嫁できた割合」は66.6%と前回調査より増加していますが、「転嫁0割」も増加しており、全体として横ばいです。エネルギーコストと労務費も、転嫁率は前回調査より増加しているものの、先ほど紹介した原材料費の転嫁率より1割程度低い水準です。
6~8ページについては、発注者側の価格交渉や価格転嫁の状況に関する業種別ランキングです。
9~11ページについては、受注者側から見て、発注者側企業に対して価格転嫁してもらえたかという視点で集計された業種別のランキングです。
12ページは、価格転嫁率と賃上げ率との関係です。価格転嫁できている割合が高くなるほど、賃上げ率も高くなる傾向が見て取れます。
続いて13ページは、今後の価格転嫁対策です。大きく5つあり、1つ目は、下請中小企業による価格交渉を後押しする体制の整備、2つ目は、発注側企業ごとに価格交渉・転嫁状況のリストの公表、3つ目は、事業所管大臣名で経営トップに対して指導・助言、4つ目が、各業界団体による自主行動計画の改定・徹底、取引適正化の取組状況のフォローアップの実施、最後に、パートナーシップ構築宣言の更なる拡大、実効性の向上などです。
15ページを御覧ください。今、申し上げた対策の1つ目の詳細です。7月10日より、全国のよろず支援拠点に「価格転嫁サポート窓口」を設置し、中小企業等に対する価格交渉に関する基礎的な知識の習得支援、原価計算の手法の習得支援を実施しています。また、商工会議所・商工会等の地域支援機関を通じた、中小企業の価格転嫁を支援する全国的なサポート体制も整備しています。これ以外の対策については、8月以降に順次、関係省庁と連携の上で対応するとのことです。参考資料No.1の説明は以上です。
続いて、参考資料No.2です。こちらは、前回の目安小委員会でも御説明いたしました「足下の経済状況等に関する補足資料」のうち、更新した部分のみの抜粋です。ページ番号については、前回の資料と便宜上同じにしています。
2ページを御覧ください。連合の春季賃上げ妥結状況です。第1回の目安小委員会では第6回集計のものをお示ししましたが、先週、第7回の最終集計結果が出ましたので更新したものです。今年の賃上げ率は3.58%、中小で3.23%と、比較可能な2013年以降で最も高い結果となっています。
続いて4ページは、日銀短観の雇用人員判断D.I.です。今年6月の実績は、3月の実績からやや「過剰」方向に振れましたが、引き続き「不足」が「過剰」を大幅に上回っており、人手不足感は強いままです。
次に7ページですが、ランク別の有効求人倍率の推移です。今年5月の数値が新しく出ましたので更新しています。4月と比べると、5月はどのランクでもほぼ横ばいです。
次に8ページは、ランク別の新規求人数の水準の推移です。特にCランクで増加が見られます。
続いて12ページは、日銀短観による業況判断DIです。グラフの青色の飲食宿泊サービス業は、今年3月から更に改善し、この資料でお示ししている主な産業の中でも最も高い水準となりました。その他の産業も改善しています。参考資料No.2の説明は以上です。
最後に、参考資料No.3を御覧ください。第1回目安小委でも御説明しました主要統計資料の更新部分のみを抜粋したものです。こちらのページ数も、便宜上、前回のお示しした資料と同じものにしています。
2ページは、毎月勤労統計調査の5月分速報が公表されたことを踏まえ、5月分の賃金等を更新しています。
次の12ページと印字されたものは、春季賃上げ妥結状況です。こちらも連合の第7回最終回答集計結果が出ていますので、資料の左半分を更新しています。
次の14ページについても同様に、夏季賞与・一時金妥結状況について、資料の上半分の連合の結果を更新しています。
次の22ページについては、令和5年6月の日銀短観による企業の業況判断の更新です。令和5年6月は、全ての規模で製造業も非製造業も改善しています。
続いて23ページは、令和5年6月の日銀短観による経常利益です。令和4年度の結果は、計画のものから実績のものに更新されています。
28ページは、中小企業景況調査の業況判断DIについて、今年4~6月の数値が出ていますので、更新しています。表の一番右端ですが、合計あるいはどの産業でも、1~3月に比べて改善が見られます。
次の41ページは、都道府県庁所在都市における消費者物価地域差指数の推移の令和4年の結果を追加したものです。
次の42ページは、都道府県下全域を対象とした消費者物価地域差指数の推移の令和4年の結果を追加したものです。大変長くなりましたが、資料の説明は以上です。
○藤村委員長
どうもありがとうございました。それでは、ただいま御説明いただきました資料の内容について、あるいは、それに対する質問、また次回以降に提出を求める資料がありましたら御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。
○戎野委員
御説明ありがとうございました。昨今の物価について、その実態をもう少し理解させていただきたいと思います。前回の目安小委員会のときに配られた資料No.4ですが、消費者物価指数の資料とともに、政府による、いわゆるエネルギー価格対策の資料が入っていたと思います。まず1点目は、このエネルギー価格対策による消費者物価指数の押し下げ効果はどの程度あるのかということを、質問させていただきたいと思います。
2点目は、このエネルギー価格対策というのは、いつまで継続される見込みなのかということです。分かる範囲で結構ですので、よろしくお願いいたします。
○岡賃金課長
ありがとうございます。お手元に前回の資料がファイルにとじてありますが、前回の資料No.4の42ページに、「電気・ガス価格激変緩和措置対策事業」を載せております。この事業による消費者物価指数の押し下げ効果についてですが、総務省の公表資料によりますと、5月分の総合指数の前年同月比の変動に対しまして、マイナス1%ポイントと試算されているということです。
次に、この対策はいつまでかということですが、昨年10月の総合経済対策に基づいて、今年の1月使用分から適用が開始されたところで、令和5年9月使用分までが適用されることになっていると承知しております。
なお、10月使用分以降の扱いについては、現時点では決っておりませんが、引き続き、物価、経済動向、国際的な燃料価格の動向等を踏まえて適切に対応されるものと承知しております。以上です。
○戎野委員
ありがとうございました。
○藤村委員長
政府の経済対策によって1%ポイント分の物価が低く出ているということですね。もし、これが終わると、恐らくそれが上載せされて消費者物価には反影されるであろうと。それを私たちがどういうふうに捉えるかというのは、これまた別の問題ですが。そのほかに何か御質問はございますか。よろしいでしょうか。では、配布資料に関する議論は以上といたします。
次に、前回、委員の皆さんにお願いしたとおり、目安についての基本的な考え方というのを、それぞれの側から表明いただきたいと思います。まず初めに、労働者側委員からお願いしたいと思います。仁平さん、どうぞ。
○仁平委員
ありがとうございます。では、私から総括的に労働側の見解を述べさせていただいて、引き続き各委員から補足の見解を少し述べさせていただきたいと思っております。
まずもって、最賃に対する社会的な注目度というのは年々高まっていると思っておりますが、とりわけ今年は30年ぶりの賃上げの流れも受けまして昨年以上に注目されていると感じております。昨年も、全国で30円を超えるような積極的な金額の引上げが実現したわけですが、まずもって、公益の皆さん方、使用者の先生方も含めて、公労使の委員による目安額に対する真摯な議論、そして、その目安に基づき、ぎりぎりまで議論を行っていただいた各地方の最低賃金審議会に携わる皆様方の御努力の結果であるというように思っております。こういうスタンスは私も大事だと思っております。
まず、今年の議論に先立ちまして、労働側として、釈迦に説法かもしれませんけど、最賃法の第1条の目的ということを改めて踏まえさせていただいて、しっかりと議論を尽くす必要があるのではないかと思っておりますので、若干、時間を使わせていただきたいと思っております。御案内のとおり、第1条では「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」と書かれています。今年の春季生活闘争、コロナ禍で落ち込んだ経済からの回復ということのみならず、20年以上にわたる日本社会のデフレマインドを払拭し、局面を転換する大きな意味をもった労使交渉だというように評価をしている次第です。
春の労使交渉が新たなステージへの第1幕だとすれば、最賃の大幅な引上げを通じ、組合のない企業で働く方々の賃金の底上げをすることが、この新たなステージへの第2幕になるのではないかと考えております。30年ぶりの賃上げの成果を社会に広く、確実に波及させる必要があると思っておりますし、それは文字どおり国民経済の健全な発展に寄与するために、今年の最賃の議論というのはひときわ重要な意義をもつものだというふうに考えております。
その上で、足元の経済状況について何点か申し上げたいと思います。まず物価でございますが、御説明にもございましたが、2021年度後半から上昇局面に入った物価は、依然として高い水準で推移しているというように捉えております。他方、賃金については、資料でも提供させていただいておりますが、連合集計の平均賃金方式でいきますと、5,272組合の賃上げの結果、金額で1万560円、3.58%で、昨年を大幅に上回る水準となっております。また、有期・短時間契約労働者の賃上げということでいけば、これも時給で53円、率にすると5%を超える水準となっております。とは言いましても、先週公表されました毎月勤労統計調査によりますと、足元の実質賃金は前年比1.2%のマイナスということで、いまだに賃金が物価上昇に追いつかない状況が続いているというふうに考えております。特に、最低賃金近傍で働く労働者の生活というのは苦しく、生活水準の維持向上の観点から、実質賃金を強く意識した議論が必要ではないかと考えております。今年の審議においても、労側としては、公益の先生方の知見も伺いながら、労使で議論を尽くして結論を得るよう、全力で取り組んでまいります。引き続き、各委員から補強意見を順番に述べさせていただきます。それでは、永井委員からよろしくお願いいたします。
○永井委員
よろしくお願いします。私からは、最低賃金のあるべき水準の観点から意見を述べさせていただきます。
まず、最低生計費を補う水準への引上げが必要だという点です。基本的な認識として、現在の地域別最低賃金は、絶対額として最低生計費を賄う水準として十分ではないという点を、改めて強調したいと思います。毎年の審議でも指摘していますが、現在の最賃の加重平均961円という水準では、いわゆるワーキングプア水準といわれる、2,000時間働いても年収200万円程度にとどまるということです。最低賃金と平均賃金の中央値を比較すると、日本は45%程度であり、OECD諸各国の中でも低位にあるということです。
さらに、生計費という観点で、連合は、健康で文化的な生活ができ、労働力を再生産し、社会的体裁を保持するために、最低限必要な水準を連合リビングウェイジとして試算していますが、最も低い県でも、時給990円を上回らなければ単身でも生活が維持できないと出ています。現在の水準は、これも下回っていることを踏まえれば、生存権を確保した上で労働の対価としてふさわしいナショナルミニマム水準へと引き上げていくべきだと考えます。
2つ目には、至近の物価上昇を考慮した引上げが必要だという点です。今申し上げた状況に加え、足下の物価上昇は、昨年から引き続き、働く者の生活に大きな影響を与えています。消費者物価の持家の帰属家賃を除く総合指数の対前年比は4月時点で4.1%の上昇に達しています。
基礎的支出項目や、1か月に1回以上購入する品目に着目しても、それぞれ高い水準で推移しています。こうした生活必需品などの切り詰めることのできない支出項目の物価上昇が最低賃金近傍で働く者の生活を特に圧迫しています。
前回の資料で消費者物価指数も示されていますが、総務省の公表資料によれば、「電気・ガス価格激変緩和措置対策事業」の政策効果により、総合指数は1ポイント引き下げられたと説明がありました。生活実感として一層厳しい状況でありますし、この激変緩和が終了する10月以降も見通して最低賃金額について議論しなければならないと考えます。このことも念頭に置きつつ、やはり実質賃金を維持・向上しなければ働く者の生活は苦しくなるばかりであります。最低賃金近傍で働く者の厳しい生活実態に真っすぐ目を向け、生活水準の維持・向上の観点からも、消費者物価上昇率を考慮した引上げが必要だと考えています。私からは以上です。
○水崎委員
私からは、労働者の賃金という観点から今日の意見を述べさせていただきたいと思います。冒頭、仁平委員からありましたとおり、本年度の春季生活闘争では、かつてない水準での賃上げが報告されています。日本経済のステージを変えるという観点について、労使で一定の共通の理解が進み、結果にも結び付いたと受け止めています。
一例を申し上げますと、私が所属する電機連合においては、本年度の闘争で、多くの加盟組合で賃金水準改善を実施し、その平均額は約6,700円ということで、これも過去に類のない非常に高い水準での賃上げという結果になっております。これらは、大手、中堅、中小組合のみならず多くの加盟組合に、賃上げの流れが波及した結果であると、我々としては捉えています。一方で、最賃近傍で働く者の多くは労働組合に組織されていないことから、労使交渉の機会がなく、自らの労働条件の決定にほとんど関与することができない状況にあります。長く続いた日本のデフレマインドを払拭し、経済を好循環に導くためには、この流れを中長期的に継続していく必要があると考えています。それには、春季生活闘争の成果を労働組合のない企業で働く労働者にも確実に波及させなければならないと考えています。
今次の最低賃金審議会は、その意味で、今年が経済の好循環へ向かうターニングポイントとなるかどうか、いわば分水嶺になると認識しています。その上で、外部労働市場との賃金との均衡についても着目させていただきたいと思います。前回の主要統計資料にもありますように、パートタイム労働者の募集賃金からも、着実な上昇傾向が見られると思います。今年4月の下限額で、全都道府県で現行の最低賃金よりも80円以上も高い水準で出ていると認識をしています。
労働力人口が減少する現下の環境において、企業が存続、発展に向けて、賃上げを通じた人材の確保に重きを置いていることの現れではないかと認識をしています。こうした実態も念頭において、目安を検討すべきであると考えています。
一方で、雇用情勢については、完全失業率、有効求人倍率、共に2022年度目安審議以来、以降は堅調に推移しています。雇用人員判断D.I.も、製造業・非製造業ともに、不足という状況が続いています。また、Aランク圏よりもB、Cランク圏において、雇用指数が好調であることからすれば、とりわけB、Cランク圏で、労働者の取り合いは今まで以上に激化することが想定されます。そうであるならば、人材獲得が非常に難しいと言われる中小企業あるいは零細事業所においてこそ、むしろ人材の確保・定着の観点で、最低賃金を含む賃上げをしていくことが急務ではないかと考えています。各地域別の最低賃金で、共通の課題意識を持った議論に資する目安の提示に向けて、本委員会での議論を深めてまいりたいと考えています。以上です。
○藤村委員長
では、伊藤さん、どうぞ。
○伊藤委員
ありがとうございます。私からは、地域間格差是正の観点で補強意見を述べたいと思います。前回お示しいただいた主要統計資料にありますとおり、最低賃金を時間額のみで表示するようになった2002年度には104円であった最高額と最低額の額差が、2018年度には224円まで拡大しています。以降、各地域の懸命な努力により、昨年度では219円にまで額差を縮小させていますが、地域間格差が地方部から都市部へ労働力を流出させる一因となっており、結果として地方の中小・零細企業の事業継続、あるいは事業や企業の発展の厳しさに拍車をかけているのではないかと。そうした意味では、地域そのものの持続性にも悪影響を及ぼし得るのではないかと考えるところです。
目安制度は、これまで目安制度の在り方に関する全員協議会でも労側として、こうした主張をずっとさせていただきながら、結果として地域間の額差の拡大防止する観点も含めて、本年から初めて3ランク区分で議論していくことになったのが最近の経過だったと思っています。
最高額と最低額の額差縮小につながる目安をという観点は、骨太の方針などでも明記されているとおりですが、先ほど水崎委員が触れたとおり、雇用指標の状況も鑑みれば、とりわけB、Cランクにおける引上げ、つまり格差の是正が実現するように、中賃としても、しっかりと意識していくべきではないかと考えるところです。
その上で、各地での具体的な議論に際しては、当然、通常の事業の賃金の支払能力が大きな焦点となるのは我々としても重々承知しているところです。そのもとで、現下の情勢において最低賃金の引上げを議論するに当たりましては、通常の事業の賃金支払能力を高めていくために、これまでにも増して、環境整備の観点もセットで議論すべきだと考えています。厚生労働省においては、環境整備に向けて、政府の各種支援策の更なる活用、推進、利活用、こうした状況を踏まえた効果測定と情報提供を一層徹底していくことを、まずはお願いしたいと思っています。
一方で、労務費の価格転嫁を阻んでいるのは、少し言いにくいところではありますが、従来の企業あるいは経営者間の取引慣行や意識の差、こうしたことによる部分が少なくないのではないかとも考えています。先ほど御説明いただきましたが、今回、追加でお示しいただいた参考資料1の8ページを見てみますと、例えばトラック運送業とか、放送コンテンツ業、こうした所については、価格転嫁率が非常に低い上に、昨年9月の調査と比較しても更に減少しているということがあり、業種間で、かなりの温度差があるのではないかと実感し、こうした実態がうかがえるのではないかと思っています。先ほどの御説明にもありましたとおり、正に格差が拡大しているのが実態なのではないかと。
あらゆる業界が中小企業の置かれた状況、そして労働者の権利を十分に理解して、日本経済をより良い方向に導いていくことが求められているのではないかと感じるところです。正に、こうした課題については、政策課題として本来対応すべきところではありますが、中長期的な経済の好循環を目指す上で、労使においてもしっかり取り組んでいかなければならないと感じています。そうした意味では、まずは最低賃金の引上げ分、これを含めた労務費の上昇を適切に価格転嫁できるよう、政労使一丸となって進めている「パートナーシップ構築宣言」、これを一層、普及促進していくとともに、この実効性を高めていく必要があることを、労側として強く主張させていただきたいと思います。以上です。
○藤村委員長
どうもありがとうございました。それでは、引き続いて使用者側委員からお願いしたいと思います。どうぞ。
○新田委員
それでは私から、まず今年度の目安審議における使用者側の基本的な考え方について申し上げます。その上で、労働者側と同じく、各委員から補足を含めて発言させていただきたいと思います。
最初に、中小企業をめぐる状況を、改めて皆さんと確認させていただければと思います。先ほどの資料でも御説明があった点と重なる所もありますが、御容赦いただきたいと思います。
まず、物価の動向についてです。今年5月の「消費者物価指数」、持家の帰属家賃を除く総合は、前年同月と比べてプラス3.8%で、引き続き高い水準で推移していることは我々も十分に承知しているところです。一方で、同じ5月の国内の「企業物価指数」を見ますと、こちらも前年同月比プラス5.1%で、消費者物価指数よりも更に高い水準であり、この点も事実として踏まえていただきたいと思っています。
次に、中小企業の景況感について言及したいと思います。先ほども御紹介がありましたが、中小企業庁の「中小企業景況調査」によれば、今年4月から6月期の業況判断DIは、前期比で2.9ポイント増であり、2期連続で上昇していることは事実として認識しております。一方で、数字自体をみれば、マイナス10.8ポイントであり、引き続きマイナス圏で推移しているということも御認識いただきたいと思っております。さらに、日銀の短観の6月調査で中小企業の業況判断を見れば、全産業では前回3月調査から2ポイント改善して5ポイントとなっておりますが、先月については1ポイント下がって4ポイントとなっているとともに、業種ごとに見ると、非製造業を中心に、実は中小の先行きについて悪化すると見込んでいる業種が非常に多くなっているという点については、やはり注視しておく必要があるのではないかと思っております。
続いて、労働需給の関係についてです。中小企業庁の「中小企業景況調査」によれば、従業員数の過不足DIは、全産業でマイナス21.9ポイントと非常に高いということです。業種別では、建設業ではマイナス36.0ポイント、サービス業ではマイナス24.8ポイントで、人手不足感が非常に根強いということは承知しております。先ほど労働者側委員からも御紹介がありましたが、今年の春季労使交渉においては、中小企業を含めて多くの企業が大幅な賃金引上げを実施したということは承知しております。ただ、その理由として、やはり労働需給が逼迫しているということも当然あると思っています。そうしたことを背景として、正に人材の確保・定着のために業績が改善していないにもかかわらず、賃金を引き上げた、いわば「防衛的な賃上げ」を行った中小企業が一定程度存在しているというのも事実ですし、この点も十分考慮した上での検討をすべきと考えているところです。
こうした状況を踏まえた上で、目安審議における使用者側の基本的な考え方を申し上げたいと思います。昨年度の最低賃金は、「より早期に全国加重平均1,000円以上」を目指すという政府方針、近年にない物価上昇による生計費への影響等を勘案された公益委員見解が示され、それが目安として各地方に示された結果、全国加重平均でプラス31円、率で3.3%という過去最大の大幅な引上げとなりました。その結果、先ほども御紹介がありましたが、影響率については、前年度から3.0ポイントと大幅に上がって19.2%となり、こちらも過去最高値を記録しています。正に、その言葉が表すとおり、中小企業の経営に与える影響が増大していることは、この数値にも表れているところです。
実際、現在の最低賃金が負担になっていると感じている中小企業の割合も相当程度増加していると承知しております。最低賃金引上げが中小企業の経営に更なる影響を与えるといった側面は否めないと思っています。御承知のように、地域別最低賃金は、最低賃金法を根拠として、企業の業績あるいは価格転嫁の状況、いわば個々の企業の経営状況に関わりなく適用される、正に罰則付きの強行法規です。したがって、最低賃金引上げの影響を受けやすい中小・零細企業が置かれている厳しい経営状況を十分に踏まえた審議が不可欠と考えているところです。この点については、皆様とも認識を共有しながら、是非とも真摯な議論を重ねていければと切に願っているところです。
こうした基本的な考え方に基づいて、最後に、今年度の目安審議について申し上げたいと思います。今年度の目安審議に当たっては、厚生労働大臣からの諮問文にもありましたように、「全国加重平均1,000円の達成」や「地域間格差の是正」など、そういったことが記された政府のいわゆる「骨太方針2023」等への配意が求められていることは十分承知しております。使用者側としても、足下の物価の上昇、春季労使交渉における賃金引上げの状況や、先ほど御説明のあった賃金改定状況調査、とりわけ第4表の賃金上昇率の結果、そして人材の確保・定着の観点から、今年度の最低賃金を引き上げることの必要性については、十分理解しているところです。
また、今年度は、目安のランク区分を4から3に変更して初めての目安審議です。地域間格差是正の観点も踏まえながら検討していくことが、我々目安小委員会のメンバーに求められていることも認識しております。最低賃金の決定に当たっては、最低賃金法第9条に定められている法の原則、すなわち、地域における労働者の生計費、賃金、通常の事業の賃金支払能力の3つの要素を考慮することが、正に基本になるということです。その上で、目安審議においては、法の原則と目安制度を基に、時々の事情も含めて総合的に勘案することになると承知しております。こうした認識に立ちながら、今年度の目安審議においても、使用者側としては、まずは最低賃金決定の三要素を総合的に表していると考えている賃金改定状況調査、その中でも、第4表の賃金上昇率の結果を最も重視するとの基本的な考え方は堅持することを申し上げておきたいと思います。
その上で、エネルギーや原材料費の高騰といった企業物価の動向や、価格転嫁の進捗状況など、中小企業の置かれている厳しい状況も踏まえながら、事業の継続と従業員の雇用維持の観点から、様々なデータに基づいてしっかりと議論を尽くして、全国の企業の経営者に対して、納得感のある目安を示すことが、我々使用者側委員の責務であると強く認識しているところです。こうした中、今後の目安審議については、20日、26日に開催するというスケジュールが示されています。これは10月上旬、その中でもとりわけ10月1日発効を前提に、中賃の目安を参考に調査審議を行われる各地方の最低賃金審議会のスケジュールに配慮したものと理解しております。
しかしながら、使用者側としては、10月1日発効を前提とした審議スケジュールに必要以上にとらわれることなく、先ほど労側の仁平委員からもありましたように、しっかりと真摯に議論を尽くしていき、慎重の上に慎重な議論を重ねていきたいと考えているところです。私からの総括的な発言は以上とさせていただいて、この後は、各委員からの発言とさせていただきます。
○大下委員
日商の大下です。補足の意見として、特に中小企業の支払い能力の観点から、私ども商工会議所が行いました調査の結果等も踏まえて御意見を申し上げたいと思います。
最低賃金については、2016年以降、経済の実態をいささか上回る、3%を超える大幅な引上げが続いてまいりました。その結果として、引上げの影響を受ける中小企業も年々増えてきております。私どもの調査では、昨年度の改定で、おおよそ4割の企業が賃上げを強いられております。また、現在の最低賃金額について、6割近い中小企業が、負担であると訴えているところです。
足下では、深刻な人手不足への対応から、これまでの御発言にもありましたとおり、中小企業も含めて、近年にない水準で賃上げの動きが進んでおりますが、これも私どもの調査では、賃上げを行った企業のうち約7割が、業績の改善が伴わないが人手確保のために「防衛的に賃上げ」を行っているという状況です。こうした厳しい状況、何とか賃上げに付いていっているという状況の中で、最低賃金が大幅な引上げということになれば、とりわけ地方の中小企業を中心に、経営上の負担感がますます高まることが懸念されます。
私ども日商としては、最低賃金の引上げ自体には全く異論はございません。ただ、そのためには、何よりも雇用の7割を支えております、地方も含めた中小企業の支払能力を高めて、足下の賃上げの流れを自発的、かつ持続的な賃上げにつなげていくことが重要です。そのためには、「パートナーシップ構築宣言」など、価格転嫁と生産性向上の取組を官民を挙げて粘り強く進めていくことが不可欠であると考えております。資料で御説明いただきました3月の価格交渉促進月間のフォローアップ調査の結果では、原材料費については一定程度の転嫁が進んでいるものの、高騰が続いておりますエネルギー価格、あるいは労務費の転嫁については、まだまだ進んでいないのが実態です。このことが、何よりも中小企業の支払い能力を圧迫しているという実態をしっかりと踏まえておく必要があろうかと思っております。
今回の目安審議においては、昨年に引き続き、法に定める3要素の状況、中でも今申し上げたような中小企業の支払い能力の厳しい状況と、それを取り巻く価格転嫁等の構造的な問題をしっかりと踏まえた上で、公労使で真摯な議論を尽くして納得感のある審議決定につなげていければと思っております。私からは以上です。
○佐久間委員
続いて、中小企業団体中央会の佐久間でございます。現在、中小企業の景況感は、私ども全国中央会が都道府県中央会の協力の下に実施しております中小企業月次景況調査、直近のものは6月26日に発表したものですが、これによりますと、コロナ感染症の5類への分類変更、インバウンドの増加による人流の回復により、製造業・非製造業とも改善の傾向にあると言えます。一方で、エネルギーや原材料価格の上昇分、従業員への人件費の原資を含めたマークアップを確保するための価格転嫁が遅れていることや、人手不足の問題が収益力確保の足かせとなっています。さらには、世界経済の減速も懸念され、先行きは依然として不透明な状況が続き、自らの努力では到底克服できない重荷であるという状況です。
多くの中小企業は、不足している人材を確保・育成し、そして定着を図るため、リスキリングのための教育や訓練に要する費用、従業員給与を手当として人的投資を図るとともに、毎年引き上げられる傾向にあります社会保険料、労働保険料など、必要不可欠な費用を捻出し、そこから利益を出して経営を維持しています。中小企業は、大企業に比べて営業利益率が低く、労働分配率は高い状況です。そのため、賃上げや新たな人材の確保しようとしても、まずは現状の従業員の雇用を確保し、人員を維持するのが精一杯である企業が多いのが現状です。
一方で、製造業や宿泊・飲食業では、通常期に戻りつつある景況を受けて、不足する人材、人手を確保しようとしているものの、大幅な賃金の引上げは、生産性向上を実現して賃上げ原資を確保する前に、企業経営を直撃し、事業の存続、また継続が危うくなっています。ここ数箇月の企業倒産件数の増加も気になるところです。賃金に振り分ける原資を確保するため、まず1つ目には、中小企業のコスト上昇分の転嫁を進め、人件費などの付加価値分を販売価格に適正に反映することができれば、懸案であるマークアップ率の向上につながり、中小企業の生産性が改善されます。このような好循環を築くことで、労働者の約7割を占める中小企業の賃上げ原資を生み出すことができ、国全体で継続的な賃上げをすることも可能になると考えます。
2つ目には、最近の最低賃金額の大幅な上昇、賃金引上げの拡大により、所得税、住民税、雇用保険、厚生年金、健康保険など、社会保障制度上のいわゆる年収の壁を踏まえて就業調整が行われることで、年末の繁忙期や、月単位のシフトを自ら外し、労働者の実質的な所得が向上しない要因にもなっています。このような環境下で賃上げの必要性を肌で感じ、雇用と経営の維持に懸命な努力をしている中小企業に、通常の事業活動の支払能力を超えた過度の最低賃金の引上げ負担を担わせないよう、配慮をお願いしたいところです。以上です。
○藤村委員長
では土井さん、どうぞ。
○土井委員
全国商工会連合会の土井でございます。今年度から、私としても組織としても初めての参画ですので、冒頭、商工会についての御説明をしたいと思います。商工会というのは、平成の大合併以前の旧町村部を中心に設立されている団体であり、国土に占める面積は非常に広いのですが、人口は少ないといった交通等が不便な地域であることが多い地域です。主要産業は第一次産業であることが多くて、離島や中山間地域をはじめ、人口減少地域というのがほとんどを占めております。会員としては、全国約300万超と言われる中小企業のうち、80万程度が会員になっております。そのうち、従業員50人超というのは僅か2.2%、20人超でも5.5%ということで、ほとんどがいわゆる中小企業基本法上の小規模事業者といったところです。
そのような私ども商工会の地域の景況や賃上げの状況について御説明いたします。まず、景況は、先ほど事務局から御説明いただき、新田委員からも言及のあった「中小企業景況調査」では、全体には回復傾向ですが、規模別にみますと、中規模と小規模の間では、DIで7.2%の開きがあるというところですし、業種別にみると、一番景況の悪い小売業ですと16.3%ということで、やはり小規模企業の回復が遅れている現状があります。また、地域で見てみますと、商工会地域の調査は、大体全体の3分の1程度の企業に入っておりますが、それを含めてみても、商工会地域と比べてみると、売上額で1%から3%、採算では他の地域と3%から5%の乖離があり、やはり小規模企業、商工会地域というのは、通常の地域よりも経営環境が更に厳しいという状況です。
その理由ですが、本会の実施している小規模企業景気動向調査というのがありますが、ここの状況をみると、売上げの回復は見られるのですけれども、物価上昇が続く中、採算、いわゆる経常利益と売上の乖離が大体40%ある時期が続き、今は縮小してきて30%台までには行ったのですが、それでも乖離幅が非常に大きくて、特に今、原油価格が上がっていることで、例えば商品仕入れに関しても、実際に事業に使う燃料についても、やはり商工会地域は拠点から遠いので、その分、仕入れ等のコストがかかるといったことで収益確保に苦しんでいる状況です。賃上げについては、私どもも今年度、賃上げをしたかどうかというアンケートを取っております。お隣の日本商工会議所さんの調査ですと、6割ぐらいだという調査結果も出ていますが、今のところは3割程度ということです。もちろん、最賃がもし引き上がったら上げようといったことを考えている企業もあると思いますが、春闘とかの状況とは大分異なっている状況であるということも御理解いただければと思います。
また、そのようなところでの最賃引上げの影響ということですが、既に影響率が20%を超えている県が約4分の1にもなります。本会の今年度実施した調査でも、経営上の影響があったという所が約42.5%でした。それから、平成28年から急激に最低賃金が上がっているわけですが、その引上げに関しては58.8%の企業が影響を受けているということで、影響度が年々増大しているといったところです。
先ほど佐久間委員からもお話がありましたが、特に我々の地域は、働き手そのものが少ない状況ですので、最低賃金の引上げに伴って就業調整が発生しております。そもそも働き手の数が少ないので、代替要員も容易に確保できず、特に我々の地域では深刻な問題となっております。
加えて、昨今、報道でもかなり取り上げられておりますが、ゼロゼロ融資の本格的な返済が始まったことを受けて、上半期の倒産件数というのも全業種にわたり増加して、昨年比31%増になっているという報道もあります。傾向として、小規模な倒産が多いのも特徴ということです。以上のことから、企業規模や地域による格差は拡大しておりますし、このままでは最低賃金をはじめとするコスト増に耐えかねた地方の企業の廃業・倒産が増加するのではないかという懸念を商工会としては持っております。
地域の中小企業、小規模事業者というのは、地域住民の生活と雇用を支えるセーフティネットでもあるわけです。物価上昇局面の中、もちろん我々中小企業、小規模事業者としても、従業員の処遇改善というのは重要であると認識しておりますが、それについては当然、企業の持続的な発展との両立を図る必要があると思っております。以上の申し上げたことを御理解いただき、本年度の審議では、通常の事業の賃金支払能力を重視して、データに基づく審議決定をお願いしたいと思います。私からは以上です。
○藤村委員長
どうもありがとうございました。労使双方から、それぞれ今年の目安審議に対する基本的な考え方を表明いただきました。それぞれに質問はございますか。よろしいですか。
今伺っておりますと、労使ともに賃上げは必要であろうと。水準はちょっと置いておいて、最低賃金を引き上げることの必然性、必要性というのは両者が認識している、一致していると思います。しかし、納得感がある審議を行うためには、これから詰めていく必要があって、それぞれの率直な御意見を伺っていきたいということで、ここからは、公労・公使で個別に進めていきたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。
では、異議なしということですので、まず、公労会議から始めたいと思います。事務局から連絡事項をお願いいたします。
○青野賃金課長補佐
それでは、まず公労会議から行うとのことですので、使用者側委員の皆様は、控室へ御案内させていただきたいと思います。
(使用者側委員 退室)
○青野賃金課長補佐
それでは、この後は二者協議になりますので、この場面は非公開となります。このため、傍聴者の皆様は御退室をお願いいたします。
(傍聴者 退室)
<第2回全体会議>
○藤村委員長
では、ただいまから「第2回全体会議」を開催いたします。本日は、本年度の目安の取りまとめに向けて、労使双方から基本的な考え方をお出しいただき、それに基づいて御議論いただきました。その結果、それぞれの主張をもっと深掘りしていく必要があるということで、今日は取りまとめまではいかないということになりました。
そこで、次回の目安小委員会において、更なる議論を行っていただき、目安の取りまとめに向けて努力していただきたいと思います。それでよろしいでしょうか。では、次回の日程と会場について、事務局から連絡をお願いいたします。
○青野賃金課長補佐
事務局です。次回の日程と場所については、追ってお知らせいたします。
○藤村委員長
それでは、これをもちまして、本日の小委員会は終了といたします。どうもお疲れさまでした。
○藤村委員長
ただいまから、第2回目安に関する小委員会を開催いたします。まず、お手元の資料について、事務局から御説明をお願いいたします。
○青野賃金課長補佐
事務局です。本日も、お手元の資料のほかに、各種団体からの要望書を回覧しておりますので御参照いただければと思います。配布資料については、資料No.1~5、参考資料No.1~3の合計8点があります。全て通しで御説明させていただきます。
まず、資料No.1を御覧ください。令和5年の賃金改定状況調査結果です。
1ページは調査の概要です。真ん中の3の(2)にありますが、常用労働者数が30人未満の企業に属する民営事業所を調査しています。その下の表を御覧ください。調査事業所数は1万6,489、集計事業所数は5,281、回収率は32.0%と、概ね例年並みになっています。また、今年4月に取りまとめられた全員協議会報告に基づき3ランクとなったことを踏まえまして、3ランクで調査設計を行っております。
3ページの第1表を御覧ください。こちらは、今年の1月から6月までに賃金の引上げ、引下げを実施した、あるいは実施しなかったという区分で事業所単位で割合を集計したものです。左上の産業・ランク計を見ていただきますと、1月から6月までに賃金の引上げを実施した事業所の割合は43.5%となっており、昨年より上昇しております。隣の列の賃金の引下げを実施した事業所の割合は0.7%となっており、昨年より低下しております。さらに隣の列ですが、1月から6月までに賃金改定を実施しない事業所のうち、7月以降も賃金改定を実施しない事業所の割合は38.4%で昨年より低下しており、7月以降に賃金改定を実施する予定の事業所の割合は17.4%で昨年より上昇しております。産業別でみますと、1月から6月までに賃金の引上げを実施した事業所の割合は、医療・福祉で最も高く、62.3%となっております。
次に、4ページの第2表は、平均賃金改定率を事業所単位で集計したものです。左下の産業計・ランク計で見ていただくと、今年の1月から6月までに賃金引上げを実施した事業所の平均賃金改定率は4.3%と、昨年と比べて上昇しています。真ん中の賃金引下げを実施した事業所はマイナス14.2%です。一番右は、改定を実施した事業所と凍結した事業所を合わせて、今年1月から6月までの事業所ごとの平均賃金改定率を集計したもので、プラス1.8%となっています。
次に、5ページの第3表です。こちらは賃金引上げを実施した事業所の賃金引上げ率の分布の特性値です。産業計・ランク計をみていただくと、第1・四分位数が1.3%、中位数が2.9%、第3・四分位数が5.0%と、いずれも昨年より上昇しています。
次に、6ページの第4表は、賃金上昇率です。第4表の①は男女別の内訳を示しています。
なお、斜字となっている令和4年のBランク及びCランクの賃金上昇率は、令和4年調査の調査票情報を用いて、新ランクに合わせて組替集計した参考値となっております。第4表①の産業計・男女計をみると、ランク計の賃金上昇率は2.1%となっています。2.1%という上昇率は、最低賃金が時間額のみで表示されるようになった平成14年以降最大の水準であった昨年を更に上回っているものです。ランク別では、産業計・男女計で、Aランクが2.3%、Bランクが2.0%、Cランクが2.1%となっており、Aランクが最も高くなっています。
男女計で産業ごとに見ますと、左から5番目の宿泊業,飲食サービス業が最も高く、ランク計で2.6%となっております。男女別の賃金上昇率をみますと、左端の産業計・ランク計で、中段の男性が1.8%、下段の女性が2.3%となっています。
次に、7ページは第4表②です。こちらは一般・パート別の賃金上昇率です。左端の産業・ランク計でみますと、中段の一般労働者は2.0%、下段のパートは2.1%となっています。
次に、8ページの第4表③です。こちらの資料は、昨年は委員からの追加要望を踏まえてお示ししましたが、今年4月に取りまとめられた全員協議会報告に基づき、これから毎年提出することとされています。第4表の①②と③には共通点と相違点があり、まず同じ点としては、集計対象となる事業所で、昨年6月と今年6月の賃金を調査して賃金上昇率を計算している点です。違う点としては、一番下の(資料注)を御覧ください。第4表①、②については、集計労働者である3万2,180人全員から賃金上昇率を計算しています。一方、第4表③では、昨年6月と今年6月の両方に在籍していた労働者である2万6,256人のみ、割合ですと81.6%の労働者に限定して賃金上昇率を計算しています。言い換えますと、第4表③では、継続労働者のみを集計対象にしていますので、昨年6月に在籍していたものの今年6月に在籍していない退職者と、逆に昨年6月には在籍していなかったものの今年6月に在籍するようになった入職者は、第4表③の集計対象には入っていないことになります。
前置きが長くなりましたが、表の左上を御覧ください。産業計・ランク計の賃金上昇率は2.5%となっており、ランク別にみますと、A、Bランクは2.4%、Cランクは2.7%となっております。いずれも第4表①、②よりも高い上昇率となっております。
続いて、縦に御覧いただければと思いますが、内訳をみると、男性は産業計・ランク計で2.3%、女性は2.6%、一般は2.4%、パートは2.4%となっています。第4表①、②と同じく、男性より女性が高い、一般・パートは同程度という傾向は変わりませんが、いずれも第4表①、②よりも高い水準となっています。
9ページには、賃金引上げの実施時期別の事業所数の割合を、10ページには、事由別の賃金改定未実施事業所の割合を、参考表としてお付けしています。11ページは、この調査における労働者構成比率と年間所定労働日数をお付けしていますので、適宜、御参照いただければと思います。資料No.1の説明は以上です。
続きまして資料No.2を御覧ください。生活保護と最低賃金の比較についてです。まず、1ページのグラフを御覧ください。右上の四角囲みに説明がありますが、破線の△は生活保護水準で、生活扶助基準の人口加重平均に住宅扶助の実績値を加えたものです。実線の◇は令和3年度の最低賃金額で、法定労働時間を働いた場合の手取額を示しています。全ての都道府県において、最低賃金が生活保護水準を上回っています。
2ページは、1ページの最低賃金額のグラフを令和4年度のものに更新したものです。全体的に最低賃金の水準は1ページよりも上がっており、こちらも同様に、全ての都道府県において最低賃金が生活保護水準を上回っています。
3ページは、47都道府県について、最新の乖離額を示すとともに、その乖離額の変動について要因分析したものです。列Cの額は、2ページのグラフでお示しした乖離額を時間額に換算したもので、列Dの額が昨年度の目安小委で示した乖離額です。△は最低賃金額が生活保護水準を上回っていることを示しています。そして、列Eが、昨年度から今年度の乖離額の変動分であり、△の幅が大きくなっているので、最低賃金と生活保護水準の差が大きくなっていることを示しています。右端の4つの列は、この最低賃金と生活保護水準の差が大きくなった要因を、e①~e④の4つに分けています。e①の昨年度の「最低賃金引上げ」の影響が、要因のほとんどを占めています。資料No.2の説明は以上です。
続いて、資料No.3を御覧ください。影響率と未満率に関する資料です。第1回の目安小委員会では、全国計の数値について御説明いたしましたが、今回はランク別、都道府県別の数値となっています。
1ページは、「最低賃金に関する基礎調査」によるものですので、原則30人未満の小規模事業所が対象となっています。表は過去10年間の推移であり、一番右の列が令和4年度になります。注4にありますとおり、各年における適用ランクでお示ししています。
未満率をランク別にみますと、Aランクが2.2%、Bランクが1.6%、Cランクが1.5%、Dランクが1.7%と、Aランクが最も高くなっています。影響率をランク別にみますと、Aランクが20.4%、Bランクが18.9%、Cランクが17.1%、Dランクが19.4%で、こちらも、Aランクが最も高くなっています。
次に、2ページを御覧ください。1ページと同じく、(注1)のとおり、原則30人未満の小規模事業所を対象とした都道府県別の影響率、未満率です。まず、上の破線が影響率ですが、最も高いのは左から2番目の神奈川県、次いで高いのが右から2番目の青森県となっており、最も低いのが真ん中左辺りの石川県となっています。次に、下の実線が未満率ですが、一番高いのは左から2番目の神奈川県、一番低いのは左から4番目の愛知県となっています。
次に3ページを御覧ください。2ページと同様のグラフを賃金構造基本統計調査に基づいて示したものです。注1)のとおり、5人以上の事業所が対象となります。上の破線の影響率では、真ん中辺りの北海道が最も高く、左から2番目の神奈川県が次いで高くなっています。真ん中左辺りの石川県が最も低くなっております。下の実線の未満率では、左から2番目の神奈川県が最も高く、真ん中右辺りの徳島県が最も低くなっています。資料No.3の説明は以上です。
続いて、資料No.4を御覧ください。こちらは、令和4年の賃金構造基本統計調査を基にした各都道府県別の賃金分布です。一般・短時間計、一般、短時間の順で、それぞれA~Cランクの順に都道府県を並べています。最低賃金の張り付き具合については、影響率や未満率と同様に、同一ランク内でも異なった傾向が見られます。個別の御紹介は割愛させていただきますが、適宜、御参照いただければと思います。
続いて、資料No.5を御覧ください。最新の経済指標の動向です。こちらは、今年も昨年度と同様に、内閣府月例経済報告の主要経済指標を提出させていただいています。主立った指標については、第1回の目安小委員会で御説明いたしましたので、個別の説明は割愛させていただきたいと思います。
続いて、参考資料No.1を御覧ください。こちらは、前回、委員から御要望がありました、6月20日に中小企業庁が公表した「価格交渉促進月間(2023年3月)フォローアップ調査の結果について」です。
2ページは、価格交渉促進月間とフォローアップ調査の概要です。中小企業庁は、毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」と設定し、価格交渉・転嫁の要請、広報、講習会等を実施しています。今年3月には、例えば約1,700の業界団体へ経産大臣名の周知文書を送付しております。成果を確認するため、月間終了後に、価格交渉と価格転嫁それぞれの実施は状況について、中小企業からアンケート調査と下請Gメンによるヒアリングを実施して月間の結果として取りまとめたのがフォローアップ調査です。
3ページが、今年3月の価格交渉促進月間における価格交渉の状況です。「価格交渉を申し入れて応じてもらえた/発注側からの声かけで交渉できた」の割合は、昨年9月の月間に関する前回調査より増加しているなど、価格交渉の実施状況は一部で好転している一方、「発注側からの交渉の申し入れがなかった、協議に応じてもらえなかった、減額のために協議申し入れがあった」が依然として約16%あり、二極化が進行しているところです。
4ページは、価格転嫁の状況のうち、コスト全般のものです。「コスト上昇分のうち何割を価格転嫁できたか」を集計した価格転嫁率は47.6%であり、前回調査と比べて微増です。コスト上昇分のうち高い割合(10割や9~7割)を価格転嫁できた回答が増加する一方、「全く転嫁できない、減額された」という割合も増加しており、ここでも二極化が進行しています。また、「コストが上昇していないため、価格改定不要」の割合は減少しており、コスト上昇の影響は拡大しています。
5ページは、コストを「原材料費」「エネルギーコスト」「労務費」に分解して、価格転嫁の状況を見たものです。原材料費について、「一部だけでも転嫁できた割合」は66.6%と前回調査より増加していますが、「転嫁0割」も増加しており、全体として横ばいです。エネルギーコストと労務費も、転嫁率は前回調査より増加しているものの、先ほど紹介した原材料費の転嫁率より1割程度低い水準です。
6~8ページについては、発注者側の価格交渉や価格転嫁の状況に関する業種別ランキングです。
9~11ページについては、受注者側から見て、発注者側企業に対して価格転嫁してもらえたかという視点で集計された業種別のランキングです。
12ページは、価格転嫁率と賃上げ率との関係です。価格転嫁できている割合が高くなるほど、賃上げ率も高くなる傾向が見て取れます。
続いて13ページは、今後の価格転嫁対策です。大きく5つあり、1つ目は、下請中小企業による価格交渉を後押しする体制の整備、2つ目は、発注側企業ごとに価格交渉・転嫁状況のリストの公表、3つ目は、事業所管大臣名で経営トップに対して指導・助言、4つ目が、各業界団体による自主行動計画の改定・徹底、取引適正化の取組状況のフォローアップの実施、最後に、パートナーシップ構築宣言の更なる拡大、実効性の向上などです。
15ページを御覧ください。今、申し上げた対策の1つ目の詳細です。7月10日より、全国のよろず支援拠点に「価格転嫁サポート窓口」を設置し、中小企業等に対する価格交渉に関する基礎的な知識の習得支援、原価計算の手法の習得支援を実施しています。また、商工会議所・商工会等の地域支援機関を通じた、中小企業の価格転嫁を支援する全国的なサポート体制も整備しています。これ以外の対策については、8月以降に順次、関係省庁と連携の上で対応するとのことです。参考資料No.1の説明は以上です。
続いて、参考資料No.2です。こちらは、前回の目安小委員会でも御説明いたしました「足下の経済状況等に関する補足資料」のうち、更新した部分のみの抜粋です。ページ番号については、前回の資料と便宜上同じにしています。
2ページを御覧ください。連合の春季賃上げ妥結状況です。第1回の目安小委員会では第6回集計のものをお示ししましたが、先週、第7回の最終集計結果が出ましたので更新したものです。今年の賃上げ率は3.58%、中小で3.23%と、比較可能な2013年以降で最も高い結果となっています。
続いて4ページは、日銀短観の雇用人員判断D.I.です。今年6月の実績は、3月の実績からやや「過剰」方向に振れましたが、引き続き「不足」が「過剰」を大幅に上回っており、人手不足感は強いままです。
次に7ページですが、ランク別の有効求人倍率の推移です。今年5月の数値が新しく出ましたので更新しています。4月と比べると、5月はどのランクでもほぼ横ばいです。
次に8ページは、ランク別の新規求人数の水準の推移です。特にCランクで増加が見られます。
続いて12ページは、日銀短観による業況判断DIです。グラフの青色の飲食宿泊サービス業は、今年3月から更に改善し、この資料でお示ししている主な産業の中でも最も高い水準となりました。その他の産業も改善しています。参考資料No.2の説明は以上です。
最後に、参考資料No.3を御覧ください。第1回目安小委でも御説明しました主要統計資料の更新部分のみを抜粋したものです。こちらのページ数も、便宜上、前回のお示しした資料と同じものにしています。
2ページは、毎月勤労統計調査の5月分速報が公表されたことを踏まえ、5月分の賃金等を更新しています。
次の12ページと印字されたものは、春季賃上げ妥結状況です。こちらも連合の第7回最終回答集計結果が出ていますので、資料の左半分を更新しています。
次の14ページについても同様に、夏季賞与・一時金妥結状況について、資料の上半分の連合の結果を更新しています。
次の22ページについては、令和5年6月の日銀短観による企業の業況判断の更新です。令和5年6月は、全ての規模で製造業も非製造業も改善しています。
続いて23ページは、令和5年6月の日銀短観による経常利益です。令和4年度の結果は、計画のものから実績のものに更新されています。
28ページは、中小企業景況調査の業況判断DIについて、今年4~6月の数値が出ていますので、更新しています。表の一番右端ですが、合計あるいはどの産業でも、1~3月に比べて改善が見られます。
次の41ページは、都道府県庁所在都市における消費者物価地域差指数の推移の令和4年の結果を追加したものです。
次の42ページは、都道府県下全域を対象とした消費者物価地域差指数の推移の令和4年の結果を追加したものです。大変長くなりましたが、資料の説明は以上です。
○藤村委員長
どうもありがとうございました。それでは、ただいま御説明いただきました資料の内容について、あるいは、それに対する質問、また次回以降に提出を求める資料がありましたら御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。
○戎野委員
御説明ありがとうございました。昨今の物価について、その実態をもう少し理解させていただきたいと思います。前回の目安小委員会のときに配られた資料No.4ですが、消費者物価指数の資料とともに、政府による、いわゆるエネルギー価格対策の資料が入っていたと思います。まず1点目は、このエネルギー価格対策による消費者物価指数の押し下げ効果はどの程度あるのかということを、質問させていただきたいと思います。
2点目は、このエネルギー価格対策というのは、いつまで継続される見込みなのかということです。分かる範囲で結構ですので、よろしくお願いいたします。
○岡賃金課長
ありがとうございます。お手元に前回の資料がファイルにとじてありますが、前回の資料No.4の42ページに、「電気・ガス価格激変緩和措置対策事業」を載せております。この事業による消費者物価指数の押し下げ効果についてですが、総務省の公表資料によりますと、5月分の総合指数の前年同月比の変動に対しまして、マイナス1%ポイントと試算されているということです。
次に、この対策はいつまでかということですが、昨年10月の総合経済対策に基づいて、今年の1月使用分から適用が開始されたところで、令和5年9月使用分までが適用されることになっていると承知しております。
なお、10月使用分以降の扱いについては、現時点では決っておりませんが、引き続き、物価、経済動向、国際的な燃料価格の動向等を踏まえて適切に対応されるものと承知しております。以上です。
○戎野委員
ありがとうございました。
○藤村委員長
政府の経済対策によって1%ポイント分の物価が低く出ているということですね。もし、これが終わると、恐らくそれが上載せされて消費者物価には反影されるであろうと。それを私たちがどういうふうに捉えるかというのは、これまた別の問題ですが。そのほかに何か御質問はございますか。よろしいでしょうか。では、配布資料に関する議論は以上といたします。
次に、前回、委員の皆さんにお願いしたとおり、目安についての基本的な考え方というのを、それぞれの側から表明いただきたいと思います。まず初めに、労働者側委員からお願いしたいと思います。仁平さん、どうぞ。
○仁平委員
ありがとうございます。では、私から総括的に労働側の見解を述べさせていただいて、引き続き各委員から補足の見解を少し述べさせていただきたいと思っております。
まずもって、最賃に対する社会的な注目度というのは年々高まっていると思っておりますが、とりわけ今年は30年ぶりの賃上げの流れも受けまして昨年以上に注目されていると感じております。昨年も、全国で30円を超えるような積極的な金額の引上げが実現したわけですが、まずもって、公益の皆さん方、使用者の先生方も含めて、公労使の委員による目安額に対する真摯な議論、そして、その目安に基づき、ぎりぎりまで議論を行っていただいた各地方の最低賃金審議会に携わる皆様方の御努力の結果であるというように思っております。こういうスタンスは私も大事だと思っております。
まず、今年の議論に先立ちまして、労働側として、釈迦に説法かもしれませんけど、最賃法の第1条の目的ということを改めて踏まえさせていただいて、しっかりと議論を尽くす必要があるのではないかと思っておりますので、若干、時間を使わせていただきたいと思っております。御案内のとおり、第1条では「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」と書かれています。今年の春季生活闘争、コロナ禍で落ち込んだ経済からの回復ということのみならず、20年以上にわたる日本社会のデフレマインドを払拭し、局面を転換する大きな意味をもった労使交渉だというように評価をしている次第です。
春の労使交渉が新たなステージへの第1幕だとすれば、最賃の大幅な引上げを通じ、組合のない企業で働く方々の賃金の底上げをすることが、この新たなステージへの第2幕になるのではないかと考えております。30年ぶりの賃上げの成果を社会に広く、確実に波及させる必要があると思っておりますし、それは文字どおり国民経済の健全な発展に寄与するために、今年の最賃の議論というのはひときわ重要な意義をもつものだというふうに考えております。
その上で、足元の経済状況について何点か申し上げたいと思います。まず物価でございますが、御説明にもございましたが、2021年度後半から上昇局面に入った物価は、依然として高い水準で推移しているというように捉えております。他方、賃金については、資料でも提供させていただいておりますが、連合集計の平均賃金方式でいきますと、5,272組合の賃上げの結果、金額で1万560円、3.58%で、昨年を大幅に上回る水準となっております。また、有期・短時間契約労働者の賃上げということでいけば、これも時給で53円、率にすると5%を超える水準となっております。とは言いましても、先週公表されました毎月勤労統計調査によりますと、足元の実質賃金は前年比1.2%のマイナスということで、いまだに賃金が物価上昇に追いつかない状況が続いているというふうに考えております。特に、最低賃金近傍で働く労働者の生活というのは苦しく、生活水準の維持向上の観点から、実質賃金を強く意識した議論が必要ではないかと考えております。今年の審議においても、労側としては、公益の先生方の知見も伺いながら、労使で議論を尽くして結論を得るよう、全力で取り組んでまいります。引き続き、各委員から補強意見を順番に述べさせていただきます。それでは、永井委員からよろしくお願いいたします。
○永井委員
よろしくお願いします。私からは、最低賃金のあるべき水準の観点から意見を述べさせていただきます。
まず、最低生計費を補う水準への引上げが必要だという点です。基本的な認識として、現在の地域別最低賃金は、絶対額として最低生計費を賄う水準として十分ではないという点を、改めて強調したいと思います。毎年の審議でも指摘していますが、現在の最賃の加重平均961円という水準では、いわゆるワーキングプア水準といわれる、2,000時間働いても年収200万円程度にとどまるということです。最低賃金と平均賃金の中央値を比較すると、日本は45%程度であり、OECD諸各国の中でも低位にあるということです。
さらに、生計費という観点で、連合は、健康で文化的な生活ができ、労働力を再生産し、社会的体裁を保持するために、最低限必要な水準を連合リビングウェイジとして試算していますが、最も低い県でも、時給990円を上回らなければ単身でも生活が維持できないと出ています。現在の水準は、これも下回っていることを踏まえれば、生存権を確保した上で労働の対価としてふさわしいナショナルミニマム水準へと引き上げていくべきだと考えます。
2つ目には、至近の物価上昇を考慮した引上げが必要だという点です。今申し上げた状況に加え、足下の物価上昇は、昨年から引き続き、働く者の生活に大きな影響を与えています。消費者物価の持家の帰属家賃を除く総合指数の対前年比は4月時点で4.1%の上昇に達しています。
基礎的支出項目や、1か月に1回以上購入する品目に着目しても、それぞれ高い水準で推移しています。こうした生活必需品などの切り詰めることのできない支出項目の物価上昇が最低賃金近傍で働く者の生活を特に圧迫しています。
前回の資料で消費者物価指数も示されていますが、総務省の公表資料によれば、「電気・ガス価格激変緩和措置対策事業」の政策効果により、総合指数は1ポイント引き下げられたと説明がありました。生活実感として一層厳しい状況でありますし、この激変緩和が終了する10月以降も見通して最低賃金額について議論しなければならないと考えます。このことも念頭に置きつつ、やはり実質賃金を維持・向上しなければ働く者の生活は苦しくなるばかりであります。最低賃金近傍で働く者の厳しい生活実態に真っすぐ目を向け、生活水準の維持・向上の観点からも、消費者物価上昇率を考慮した引上げが必要だと考えています。私からは以上です。
○水崎委員
私からは、労働者の賃金という観点から今日の意見を述べさせていただきたいと思います。冒頭、仁平委員からありましたとおり、本年度の春季生活闘争では、かつてない水準での賃上げが報告されています。日本経済のステージを変えるという観点について、労使で一定の共通の理解が進み、結果にも結び付いたと受け止めています。
一例を申し上げますと、私が所属する電機連合においては、本年度の闘争で、多くの加盟組合で賃金水準改善を実施し、その平均額は約6,700円ということで、これも過去に類のない非常に高い水準での賃上げという結果になっております。これらは、大手、中堅、中小組合のみならず多くの加盟組合に、賃上げの流れが波及した結果であると、我々としては捉えています。一方で、最賃近傍で働く者の多くは労働組合に組織されていないことから、労使交渉の機会がなく、自らの労働条件の決定にほとんど関与することができない状況にあります。長く続いた日本のデフレマインドを払拭し、経済を好循環に導くためには、この流れを中長期的に継続していく必要があると考えています。それには、春季生活闘争の成果を労働組合のない企業で働く労働者にも確実に波及させなければならないと考えています。
今次の最低賃金審議会は、その意味で、今年が経済の好循環へ向かうターニングポイントとなるかどうか、いわば分水嶺になると認識しています。その上で、外部労働市場との賃金との均衡についても着目させていただきたいと思います。前回の主要統計資料にもありますように、パートタイム労働者の募集賃金からも、着実な上昇傾向が見られると思います。今年4月の下限額で、全都道府県で現行の最低賃金よりも80円以上も高い水準で出ていると認識をしています。
労働力人口が減少する現下の環境において、企業が存続、発展に向けて、賃上げを通じた人材の確保に重きを置いていることの現れではないかと認識をしています。こうした実態も念頭において、目安を検討すべきであると考えています。
一方で、雇用情勢については、完全失業率、有効求人倍率、共に2022年度目安審議以来、以降は堅調に推移しています。雇用人員判断D.I.も、製造業・非製造業ともに、不足という状況が続いています。また、Aランク圏よりもB、Cランク圏において、雇用指数が好調であることからすれば、とりわけB、Cランク圏で、労働者の取り合いは今まで以上に激化することが想定されます。そうであるならば、人材獲得が非常に難しいと言われる中小企業あるいは零細事業所においてこそ、むしろ人材の確保・定着の観点で、最低賃金を含む賃上げをしていくことが急務ではないかと考えています。各地域別の最低賃金で、共通の課題意識を持った議論に資する目安の提示に向けて、本委員会での議論を深めてまいりたいと考えています。以上です。
○藤村委員長
では、伊藤さん、どうぞ。
○伊藤委員
ありがとうございます。私からは、地域間格差是正の観点で補強意見を述べたいと思います。前回お示しいただいた主要統計資料にありますとおり、最低賃金を時間額のみで表示するようになった2002年度には104円であった最高額と最低額の額差が、2018年度には224円まで拡大しています。以降、各地域の懸命な努力により、昨年度では219円にまで額差を縮小させていますが、地域間格差が地方部から都市部へ労働力を流出させる一因となっており、結果として地方の中小・零細企業の事業継続、あるいは事業や企業の発展の厳しさに拍車をかけているのではないかと。そうした意味では、地域そのものの持続性にも悪影響を及ぼし得るのではないかと考えるところです。
目安制度は、これまで目安制度の在り方に関する全員協議会でも労側として、こうした主張をずっとさせていただきながら、結果として地域間の額差の拡大防止する観点も含めて、本年から初めて3ランク区分で議論していくことになったのが最近の経過だったと思っています。
最高額と最低額の額差縮小につながる目安をという観点は、骨太の方針などでも明記されているとおりですが、先ほど水崎委員が触れたとおり、雇用指標の状況も鑑みれば、とりわけB、Cランクにおける引上げ、つまり格差の是正が実現するように、中賃としても、しっかりと意識していくべきではないかと考えるところです。
その上で、各地での具体的な議論に際しては、当然、通常の事業の賃金の支払能力が大きな焦点となるのは我々としても重々承知しているところです。そのもとで、現下の情勢において最低賃金の引上げを議論するに当たりましては、通常の事業の賃金支払能力を高めていくために、これまでにも増して、環境整備の観点もセットで議論すべきだと考えています。厚生労働省においては、環境整備に向けて、政府の各種支援策の更なる活用、推進、利活用、こうした状況を踏まえた効果測定と情報提供を一層徹底していくことを、まずはお願いしたいと思っています。
一方で、労務費の価格転嫁を阻んでいるのは、少し言いにくいところではありますが、従来の企業あるいは経営者間の取引慣行や意識の差、こうしたことによる部分が少なくないのではないかとも考えています。先ほど御説明いただきましたが、今回、追加でお示しいただいた参考資料1の8ページを見てみますと、例えばトラック運送業とか、放送コンテンツ業、こうした所については、価格転嫁率が非常に低い上に、昨年9月の調査と比較しても更に減少しているということがあり、業種間で、かなりの温度差があるのではないかと実感し、こうした実態がうかがえるのではないかと思っています。先ほどの御説明にもありましたとおり、正に格差が拡大しているのが実態なのではないかと。
あらゆる業界が中小企業の置かれた状況、そして労働者の権利を十分に理解して、日本経済をより良い方向に導いていくことが求められているのではないかと感じるところです。正に、こうした課題については、政策課題として本来対応すべきところではありますが、中長期的な経済の好循環を目指す上で、労使においてもしっかり取り組んでいかなければならないと感じています。そうした意味では、まずは最低賃金の引上げ分、これを含めた労務費の上昇を適切に価格転嫁できるよう、政労使一丸となって進めている「パートナーシップ構築宣言」、これを一層、普及促進していくとともに、この実効性を高めていく必要があることを、労側として強く主張させていただきたいと思います。以上です。
○藤村委員長
どうもありがとうございました。それでは、引き続いて使用者側委員からお願いしたいと思います。どうぞ。
○新田委員
それでは私から、まず今年度の目安審議における使用者側の基本的な考え方について申し上げます。その上で、労働者側と同じく、各委員から補足を含めて発言させていただきたいと思います。
最初に、中小企業をめぐる状況を、改めて皆さんと確認させていただければと思います。先ほどの資料でも御説明があった点と重なる所もありますが、御容赦いただきたいと思います。
まず、物価の動向についてです。今年5月の「消費者物価指数」、持家の帰属家賃を除く総合は、前年同月と比べてプラス3.8%で、引き続き高い水準で推移していることは我々も十分に承知しているところです。一方で、同じ5月の国内の「企業物価指数」を見ますと、こちらも前年同月比プラス5.1%で、消費者物価指数よりも更に高い水準であり、この点も事実として踏まえていただきたいと思っています。
次に、中小企業の景況感について言及したいと思います。先ほども御紹介がありましたが、中小企業庁の「中小企業景況調査」によれば、今年4月から6月期の業況判断DIは、前期比で2.9ポイント増であり、2期連続で上昇していることは事実として認識しております。一方で、数字自体をみれば、マイナス10.8ポイントであり、引き続きマイナス圏で推移しているということも御認識いただきたいと思っております。さらに、日銀の短観の6月調査で中小企業の業況判断を見れば、全産業では前回3月調査から2ポイント改善して5ポイントとなっておりますが、先月については1ポイント下がって4ポイントとなっているとともに、業種ごとに見ると、非製造業を中心に、実は中小の先行きについて悪化すると見込んでいる業種が非常に多くなっているという点については、やはり注視しておく必要があるのではないかと思っております。
続いて、労働需給の関係についてです。中小企業庁の「中小企業景況調査」によれば、従業員数の過不足DIは、全産業でマイナス21.9ポイントと非常に高いということです。業種別では、建設業ではマイナス36.0ポイント、サービス業ではマイナス24.8ポイントで、人手不足感が非常に根強いということは承知しております。先ほど労働者側委員からも御紹介がありましたが、今年の春季労使交渉においては、中小企業を含めて多くの企業が大幅な賃金引上げを実施したということは承知しております。ただ、その理由として、やはり労働需給が逼迫しているということも当然あると思っています。そうしたことを背景として、正に人材の確保・定着のために業績が改善していないにもかかわらず、賃金を引き上げた、いわば「防衛的な賃上げ」を行った中小企業が一定程度存在しているというのも事実ですし、この点も十分考慮した上での検討をすべきと考えているところです。
こうした状況を踏まえた上で、目安審議における使用者側の基本的な考え方を申し上げたいと思います。昨年度の最低賃金は、「より早期に全国加重平均1,000円以上」を目指すという政府方針、近年にない物価上昇による生計費への影響等を勘案された公益委員見解が示され、それが目安として各地方に示された結果、全国加重平均でプラス31円、率で3.3%という過去最大の大幅な引上げとなりました。その結果、先ほども御紹介がありましたが、影響率については、前年度から3.0ポイントと大幅に上がって19.2%となり、こちらも過去最高値を記録しています。正に、その言葉が表すとおり、中小企業の経営に与える影響が増大していることは、この数値にも表れているところです。
実際、現在の最低賃金が負担になっていると感じている中小企業の割合も相当程度増加していると承知しております。最低賃金引上げが中小企業の経営に更なる影響を与えるといった側面は否めないと思っています。御承知のように、地域別最低賃金は、最低賃金法を根拠として、企業の業績あるいは価格転嫁の状況、いわば個々の企業の経営状況に関わりなく適用される、正に罰則付きの強行法規です。したがって、最低賃金引上げの影響を受けやすい中小・零細企業が置かれている厳しい経営状況を十分に踏まえた審議が不可欠と考えているところです。この点については、皆様とも認識を共有しながら、是非とも真摯な議論を重ねていければと切に願っているところです。
こうした基本的な考え方に基づいて、最後に、今年度の目安審議について申し上げたいと思います。今年度の目安審議に当たっては、厚生労働大臣からの諮問文にもありましたように、「全国加重平均1,000円の達成」や「地域間格差の是正」など、そういったことが記された政府のいわゆる「骨太方針2023」等への配意が求められていることは十分承知しております。使用者側としても、足下の物価の上昇、春季労使交渉における賃金引上げの状況や、先ほど御説明のあった賃金改定状況調査、とりわけ第4表の賃金上昇率の結果、そして人材の確保・定着の観点から、今年度の最低賃金を引き上げることの必要性については、十分理解しているところです。
また、今年度は、目安のランク区分を4から3に変更して初めての目安審議です。地域間格差是正の観点も踏まえながら検討していくことが、我々目安小委員会のメンバーに求められていることも認識しております。最低賃金の決定に当たっては、最低賃金法第9条に定められている法の原則、すなわち、地域における労働者の生計費、賃金、通常の事業の賃金支払能力の3つの要素を考慮することが、正に基本になるということです。その上で、目安審議においては、法の原則と目安制度を基に、時々の事情も含めて総合的に勘案することになると承知しております。こうした認識に立ちながら、今年度の目安審議においても、使用者側としては、まずは最低賃金決定の三要素を総合的に表していると考えている賃金改定状況調査、その中でも、第4表の賃金上昇率の結果を最も重視するとの基本的な考え方は堅持することを申し上げておきたいと思います。
その上で、エネルギーや原材料費の高騰といった企業物価の動向や、価格転嫁の進捗状況など、中小企業の置かれている厳しい状況も踏まえながら、事業の継続と従業員の雇用維持の観点から、様々なデータに基づいてしっかりと議論を尽くして、全国の企業の経営者に対して、納得感のある目安を示すことが、我々使用者側委員の責務であると強く認識しているところです。こうした中、今後の目安審議については、20日、26日に開催するというスケジュールが示されています。これは10月上旬、その中でもとりわけ10月1日発効を前提に、中賃の目安を参考に調査審議を行われる各地方の最低賃金審議会のスケジュールに配慮したものと理解しております。
しかしながら、使用者側としては、10月1日発効を前提とした審議スケジュールに必要以上にとらわれることなく、先ほど労側の仁平委員からもありましたように、しっかりと真摯に議論を尽くしていき、慎重の上に慎重な議論を重ねていきたいと考えているところです。私からの総括的な発言は以上とさせていただいて、この後は、各委員からの発言とさせていただきます。
○大下委員
日商の大下です。補足の意見として、特に中小企業の支払い能力の観点から、私ども商工会議所が行いました調査の結果等も踏まえて御意見を申し上げたいと思います。
最低賃金については、2016年以降、経済の実態をいささか上回る、3%を超える大幅な引上げが続いてまいりました。その結果として、引上げの影響を受ける中小企業も年々増えてきております。私どもの調査では、昨年度の改定で、おおよそ4割の企業が賃上げを強いられております。また、現在の最低賃金額について、6割近い中小企業が、負担であると訴えているところです。
足下では、深刻な人手不足への対応から、これまでの御発言にもありましたとおり、中小企業も含めて、近年にない水準で賃上げの動きが進んでおりますが、これも私どもの調査では、賃上げを行った企業のうち約7割が、業績の改善が伴わないが人手確保のために「防衛的に賃上げ」を行っているという状況です。こうした厳しい状況、何とか賃上げに付いていっているという状況の中で、最低賃金が大幅な引上げということになれば、とりわけ地方の中小企業を中心に、経営上の負担感がますます高まることが懸念されます。
私ども日商としては、最低賃金の引上げ自体には全く異論はございません。ただ、そのためには、何よりも雇用の7割を支えております、地方も含めた中小企業の支払能力を高めて、足下の賃上げの流れを自発的、かつ持続的な賃上げにつなげていくことが重要です。そのためには、「パートナーシップ構築宣言」など、価格転嫁と生産性向上の取組を官民を挙げて粘り強く進めていくことが不可欠であると考えております。資料で御説明いただきました3月の価格交渉促進月間のフォローアップ調査の結果では、原材料費については一定程度の転嫁が進んでいるものの、高騰が続いておりますエネルギー価格、あるいは労務費の転嫁については、まだまだ進んでいないのが実態です。このことが、何よりも中小企業の支払い能力を圧迫しているという実態をしっかりと踏まえておく必要があろうかと思っております。
今回の目安審議においては、昨年に引き続き、法に定める3要素の状況、中でも今申し上げたような中小企業の支払い能力の厳しい状況と、それを取り巻く価格転嫁等の構造的な問題をしっかりと踏まえた上で、公労使で真摯な議論を尽くして納得感のある審議決定につなげていければと思っております。私からは以上です。
○佐久間委員
続いて、中小企業団体中央会の佐久間でございます。現在、中小企業の景況感は、私ども全国中央会が都道府県中央会の協力の下に実施しております中小企業月次景況調査、直近のものは6月26日に発表したものですが、これによりますと、コロナ感染症の5類への分類変更、インバウンドの増加による人流の回復により、製造業・非製造業とも改善の傾向にあると言えます。一方で、エネルギーや原材料価格の上昇分、従業員への人件費の原資を含めたマークアップを確保するための価格転嫁が遅れていることや、人手不足の問題が収益力確保の足かせとなっています。さらには、世界経済の減速も懸念され、先行きは依然として不透明な状況が続き、自らの努力では到底克服できない重荷であるという状況です。
多くの中小企業は、不足している人材を確保・育成し、そして定着を図るため、リスキリングのための教育や訓練に要する費用、従業員給与を手当として人的投資を図るとともに、毎年引き上げられる傾向にあります社会保険料、労働保険料など、必要不可欠な費用を捻出し、そこから利益を出して経営を維持しています。中小企業は、大企業に比べて営業利益率が低く、労働分配率は高い状況です。そのため、賃上げや新たな人材の確保しようとしても、まずは現状の従業員の雇用を確保し、人員を維持するのが精一杯である企業が多いのが現状です。
一方で、製造業や宿泊・飲食業では、通常期に戻りつつある景況を受けて、不足する人材、人手を確保しようとしているものの、大幅な賃金の引上げは、生産性向上を実現して賃上げ原資を確保する前に、企業経営を直撃し、事業の存続、また継続が危うくなっています。ここ数箇月の企業倒産件数の増加も気になるところです。賃金に振り分ける原資を確保するため、まず1つ目には、中小企業のコスト上昇分の転嫁を進め、人件費などの付加価値分を販売価格に適正に反映することができれば、懸案であるマークアップ率の向上につながり、中小企業の生産性が改善されます。このような好循環を築くことで、労働者の約7割を占める中小企業の賃上げ原資を生み出すことができ、国全体で継続的な賃上げをすることも可能になると考えます。
2つ目には、最近の最低賃金額の大幅な上昇、賃金引上げの拡大により、所得税、住民税、雇用保険、厚生年金、健康保険など、社会保障制度上のいわゆる年収の壁を踏まえて就業調整が行われることで、年末の繁忙期や、月単位のシフトを自ら外し、労働者の実質的な所得が向上しない要因にもなっています。このような環境下で賃上げの必要性を肌で感じ、雇用と経営の維持に懸命な努力をしている中小企業に、通常の事業活動の支払能力を超えた過度の最低賃金の引上げ負担を担わせないよう、配慮をお願いしたいところです。以上です。
○藤村委員長
では土井さん、どうぞ。
○土井委員
全国商工会連合会の土井でございます。今年度から、私としても組織としても初めての参画ですので、冒頭、商工会についての御説明をしたいと思います。商工会というのは、平成の大合併以前の旧町村部を中心に設立されている団体であり、国土に占める面積は非常に広いのですが、人口は少ないといった交通等が不便な地域であることが多い地域です。主要産業は第一次産業であることが多くて、離島や中山間地域をはじめ、人口減少地域というのがほとんどを占めております。会員としては、全国約300万超と言われる中小企業のうち、80万程度が会員になっております。そのうち、従業員50人超というのは僅か2.2%、20人超でも5.5%ということで、ほとんどがいわゆる中小企業基本法上の小規模事業者といったところです。
そのような私ども商工会の地域の景況や賃上げの状況について御説明いたします。まず、景況は、先ほど事務局から御説明いただき、新田委員からも言及のあった「中小企業景況調査」では、全体には回復傾向ですが、規模別にみますと、中規模と小規模の間では、DIで7.2%の開きがあるというところですし、業種別にみると、一番景況の悪い小売業ですと16.3%ということで、やはり小規模企業の回復が遅れている現状があります。また、地域で見てみますと、商工会地域の調査は、大体全体の3分の1程度の企業に入っておりますが、それを含めてみても、商工会地域と比べてみると、売上額で1%から3%、採算では他の地域と3%から5%の乖離があり、やはり小規模企業、商工会地域というのは、通常の地域よりも経営環境が更に厳しいという状況です。
その理由ですが、本会の実施している小規模企業景気動向調査というのがありますが、ここの状況をみると、売上げの回復は見られるのですけれども、物価上昇が続く中、採算、いわゆる経常利益と売上の乖離が大体40%ある時期が続き、今は縮小してきて30%台までには行ったのですが、それでも乖離幅が非常に大きくて、特に今、原油価格が上がっていることで、例えば商品仕入れに関しても、実際に事業に使う燃料についても、やはり商工会地域は拠点から遠いので、その分、仕入れ等のコストがかかるといったことで収益確保に苦しんでいる状況です。賃上げについては、私どもも今年度、賃上げをしたかどうかというアンケートを取っております。お隣の日本商工会議所さんの調査ですと、6割ぐらいだという調査結果も出ていますが、今のところは3割程度ということです。もちろん、最賃がもし引き上がったら上げようといったことを考えている企業もあると思いますが、春闘とかの状況とは大分異なっている状況であるということも御理解いただければと思います。
また、そのようなところでの最賃引上げの影響ということですが、既に影響率が20%を超えている県が約4分の1にもなります。本会の今年度実施した調査でも、経営上の影響があったという所が約42.5%でした。それから、平成28年から急激に最低賃金が上がっているわけですが、その引上げに関しては58.8%の企業が影響を受けているということで、影響度が年々増大しているといったところです。
先ほど佐久間委員からもお話がありましたが、特に我々の地域は、働き手そのものが少ない状況ですので、最低賃金の引上げに伴って就業調整が発生しております。そもそも働き手の数が少ないので、代替要員も容易に確保できず、特に我々の地域では深刻な問題となっております。
加えて、昨今、報道でもかなり取り上げられておりますが、ゼロゼロ融資の本格的な返済が始まったことを受けて、上半期の倒産件数というのも全業種にわたり増加して、昨年比31%増になっているという報道もあります。傾向として、小規模な倒産が多いのも特徴ということです。以上のことから、企業規模や地域による格差は拡大しておりますし、このままでは最低賃金をはじめとするコスト増に耐えかねた地方の企業の廃業・倒産が増加するのではないかという懸念を商工会としては持っております。
地域の中小企業、小規模事業者というのは、地域住民の生活と雇用を支えるセーフティネットでもあるわけです。物価上昇局面の中、もちろん我々中小企業、小規模事業者としても、従業員の処遇改善というのは重要であると認識しておりますが、それについては当然、企業の持続的な発展との両立を図る必要があると思っております。以上の申し上げたことを御理解いただき、本年度の審議では、通常の事業の賃金支払能力を重視して、データに基づく審議決定をお願いしたいと思います。私からは以上です。
○藤村委員長
どうもありがとうございました。労使双方から、それぞれ今年の目安審議に対する基本的な考え方を表明いただきました。それぞれに質問はございますか。よろしいですか。
今伺っておりますと、労使ともに賃上げは必要であろうと。水準はちょっと置いておいて、最低賃金を引き上げることの必然性、必要性というのは両者が認識している、一致していると思います。しかし、納得感がある審議を行うためには、これから詰めていく必要があって、それぞれの率直な御意見を伺っていきたいということで、ここからは、公労・公使で個別に進めていきたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。
では、異議なしということですので、まず、公労会議から始めたいと思います。事務局から連絡事項をお願いいたします。
○青野賃金課長補佐
それでは、まず公労会議から行うとのことですので、使用者側委員の皆様は、控室へ御案内させていただきたいと思います。
(使用者側委員 退室)
○青野賃金課長補佐
それでは、この後は二者協議になりますので、この場面は非公開となります。このため、傍聴者の皆様は御退室をお願いいたします。
(傍聴者 退室)
<第2回全体会議>
○藤村委員長
では、ただいまから「第2回全体会議」を開催いたします。本日は、本年度の目安の取りまとめに向けて、労使双方から基本的な考え方をお出しいただき、それに基づいて御議論いただきました。その結果、それぞれの主張をもっと深掘りしていく必要があるということで、今日は取りまとめまではいかないということになりました。
そこで、次回の目安小委員会において、更なる議論を行っていただき、目安の取りまとめに向けて努力していただきたいと思います。それでよろしいでしょうか。では、次回の日程と会場について、事務局から連絡をお願いいたします。
○青野賃金課長補佐
事務局です。次回の日程と場所については、追ってお知らせいたします。
○藤村委員長
それでは、これをもちまして、本日の小委員会は終了といたします。どうもお疲れさまでした。