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- 2023年7月28日 第67回中央最低賃金審議会 議事録
2023年7月28日 第67回中央最低賃金審議会 議事録
日時
令和5年7月28日(金) 18:31~19:21
場所
厚生労働省専用第15会議室
(東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎5号館12階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎5号館12階)
出席者
公益代表委員
藤村会長、戎野委員、権丈委員、小西委員、首藤委員、松浦委員
労働者代表委員
伊藤委員、永井委員、仁平委員、平野委員、水崎委員
使用者代表委員
大下委員、佐久間委員、志賀委員、土井委員、新田委員、堀内委員
事務局
鈴木労働基準局長、増田大臣官房審議官、岡賃金課長、
友住主任中央賃金指導官、古長調査官、長山賃金課長補佐、青野賃金課長補佐、川辺副主任中央賃金指導官、
藤村会長、戎野委員、権丈委員、小西委員、首藤委員、松浦委員
労働者代表委員
伊藤委員、永井委員、仁平委員、平野委員、水崎委員
使用者代表委員
大下委員、佐久間委員、志賀委員、土井委員、新田委員、堀内委員
事務局
鈴木労働基準局長、増田大臣官房審議官、岡賃金課長、
友住主任中央賃金指導官、古長調査官、長山賃金課長補佐、青野賃金課長補佐、川辺副主任中央賃金指導官、
議題
- (1)中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告について
- (2)令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について(答申)
議事
○藤村会長
ただ今から、第67回中央最低賃金審議会を開催いたします。
本日は、所要のため池田委員がご欠席、権丈委員、松浦委員がオンラインにて参加です。
本日の議題は、中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告と令和5年度地域別最低賃金額改定の目安についてです。
まず、議題1「中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告について」です。本年度の地域別最低賃金額改定の目安については、目安に関する小委員会において熱心な御議論を重ねていただき、本日の第5回小委員会において、報告が取りまとめられましたので、委員長の私から報告したいと思います。
今年度の目安審議については、去る6月30日にこの本審において諮問が行われるとともに、目安に関する小委員会に付託されました。その後、小委員会においては、6月30日、7月12日、7月20日、7月26日、本日までの5回にわたって会議を開催いたしました。
今年度は、労使の皆様から「目安額の根拠・理由についても納得できるものとしてほしい」との御意見をいただき、熱心な御議論をいただきました。
目安については、労使の意見の一致を得ることができませんでしたが、公益委員の見解を小委員会報告として地方最低賃金審議会に示すように本審議会に報告することを了承いただいております。お手元のとおり、報告をとりまとめた次第でございます。
では、小委員会報告を事務局に朗読していただきます。お願いします。
○川辺副主任中央賃金指導官
それでは、朗読します。
中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告。令和5年7月28日。
1 はじめに。令和5年度の地域別最低賃金額改定の目安については、累次にわたり会議を開催し、目安額の根拠等についてそれぞれ真摯な議論が展開されるなど、十分審議を尽くしたところである。
2 労働者側見解。労働者側委員は、最低賃金に対する社会的な注目度が年々高まっている中、30年ぶりの賃上げの流れも受け従来にも増して注目されている状況について述べ、最低賃金法第1条にある「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与する」という法の目的を再認識した議論を行うべきであることを主張した。
本年の春季生活闘争は、コロナ禍で落ち込んだ経済からの回復のみならず、20年以上にわたる日本社会のデフレマインドを払拭し局面を転換する大きな意味を持った労使交渉であり、この賃上げの成果を、社会へ広く確実に波及させることで、賃上げの流れを中長期に継続する必要があると主張した。
加えて、現在の最低賃金の水準では、2,000時間働いても年収200万円程度といわゆるワーキングプア水準にとどまり、国際的にみても低位であること、連合が公表している「最低限必要な賃金水準」の試算によれば、最も低い県であっても時間単価で990円を上回らなければ単身でも生活できないことから、最低賃金は生存権を確保した上で労働の対価としてふさわしいナショナルミニマム水準へ引き上げるべきであると主張した。
さらに、2021年度後半以降の物価上昇が働く者の生活に大きな打撃を与えていること、生活必需品等の切り詰めることができない支出項目の上昇がとりわけ最低賃金近傍で働く者の生活を圧迫していること、「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の政策効果により足元の表面上の消費者物価指数の数値が押し下げられていることから、この政策が終了する10月以降も見通して議論しなければならないということを主張した。
また、労働市場でも募集賃金の上昇が見られるが、これは労働力人口が減少する現下の環境において、企業が存続・発展に向けて賃上げを通じた人材確保に重きを置いていることの現れであり、この点も本年度の目安の決定にあたり考慮すべきであること、人材不足が顕著な中小企業・零細事業所においてこそ、むしろ人材確保・定着の観点で最低賃金を含む賃上げが急務であることを主張した。なお、就業調整問題については、労働組合としても税・社会保険の正しい知識の周知などを進めており、最低賃金を上げていっても就業調整が起こらないようにしていくことが重要だと主張した。
加えて、地域間格差をこれ以上放置すれば、労働力の流出により、地方・地域経済への悪影響が懸念される。雇用指標の状況なども鑑みれば、とりわけB・Cランクにおける引上げ、格差是正が実現するよう意識すべきであると主張した。
以上を踏まえ、本年度は「誰もが時給1,000 円」への到達に向けてこれまで以上に前進する目安が必要であり、あわせて、地域間格差の是正につながる目安を示すべきであると主張した。
労働者側委員としては、上記主張が十分に反映されずに取りまとめられた下記1の公益委員見解については、不満の意を表明した。
3 使用者側見解。使用者側委員は、中小企業を取り巻く状況について、足元の物価動向は高い数値であるものの、国内企業物価指数は消費者物価指数より高い水準であることや、業況判断DIは上昇しているものの、マイナス圏で推移するほか、先行きについては悪化を見込んでいる業種が多くなっていること、また、小規模事業者の景況感は中規模事業者と比べて回復が遅れていることを主張した。
加えて、ゼロゼロ融資の本格的な返済も始まったことなどを受けて、上半期の倒産も全業種にわたり増加し、傾向として小規模企業の倒産が多い状況にあるとの認識を示した。
また、今年の春季労使交渉では、中小企業を含め多くの企業が大幅な賃金引上げを実施しているものの、労働需給のひっ迫を背景として、人材確保・定着のために、業績が改善していないにもかかわらず賃金を引き上げた中小企業が一定程度存在していることを考慮すべきであると訴えた。
加えて、最低賃金の大幅な引上げとなれば、地域住民の生活と雇用を支えるセーフティーネットでもある地方の中小企業を中心に、経営上の負担感の増大やコスト増に耐えかねた廃業・倒産が増加するとの懸念があると述べた。
また、いわゆる「年収の壁」を踏まえて就業調整が行われることで、特に年末の繁忙期等において人手不足に拍車がかかっているだけでなく、近年の最低賃金額の大幅な引上げが、労働者の実質的な所得向上につながっていない事例も生じていると指摘した。
さらに、地域別最低賃金は、企業の業績や価格転嫁の状況に関係なく適用される、罰則付きの強行法であることから、最低賃金引上げの影響を受けやすい中小企業が置かれている厳しい経営状況を十分に踏まえた審議が不可欠であり、「通常の事業の賃金支払能力」を超えた過度の引上げ負担を担わせない配慮が必要であると主張した。
今年度の最低賃金を引き上げることの必要性は理解しており、加えて、今年度は、目安のランク区分が4から3に変更されて初めての目安審議であり、地域間格差の是正の観点も踏まえた検討が求められていることも認識していると述べた。
また、中小企業の「賃金支払能力」を高め、足元の賃上げの流れを「自発的かつ持続的な賃上げ」につなげていくことが重要であり、価格転嫁と生産性向上の取組みを粘り強く推進していくことが不可欠であると主張した。
以上を踏まえ、今年度の目安審議においても、3要素を総合的に表している「賃金改定状況調査結果」の、とりわけ「第4表」の賃金上昇率の結果を最も重視するとの認識を示した。その上で、企業物価の動向、従業員への人件費の原資を含めたマークアップを確保するための価格転嫁の遅れなど、中小企業の置かれている厳しい状況を踏まえながら、事業の継続・存続と従業員の雇用維持の観点から、様々なデータに基づいて審議を尽くし、全国の企業経営者に対して納得感のある目安を示す責務があることを強調するとともに、「10月1日発効」を前提とした審議スケジュールに必要以上にとらわれることなく、慎重の上にも慎重な議論を重ねていきたいと主張した。
使用者側委員としては、上記主張が十分に反映されずに取りまとめられた下記1の公益委員見解については、不満の意を表明した。
4 意見の不一致。本小委員会(以下「目安小委員会」という。)としては、これらの意見を踏まえ目安を取りまとめるべく努めたところであるが、労使の意見が一致せず、目安を定めるに至らなかった。
5 公益委員見解及びその取扱い。公益委員としては、今年度の目安審議については、令和5年全員協議会報告の1(2)で「最低賃金法第9条第2項の3要素のデータに基づき労使で丁寧に議論を積み重ねて目安を導くことが非常に重要であり、今後の目安審議においても徹底すべきである」と合意されたことを踏まえ、加えて、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」及び「経済財政運営と改革の基本方針2023」に配意しつつ、各種指標を総合的に勘案し、下記1のとおり公益委員の見解を取りまとめたものである。
目安小委員会としては、地方最低賃金審議会における円滑な審議に資するため、これを公益委員見解として地方最低賃金審議会に示すよう総会に報告することとした。
また、地方最低賃金審議会の自主性発揮及び審議の際の留意点に関し、下記2のとおり示し、併せて総会に報告することとした。
さらに、中小企業・小規模事業者が継続的に賃上げしやすい環境整備の必要性については労使共通の認識であり、政府の掲げる「成長と分配の好循環」と「賃金と物価の好循環」を実現するためにも、特に地方、中小企業・小規模事業者に配意しつつ、生産性向上を図るとともに、官公需における対応や、価格転嫁対策を徹底し、賃上げの原資の確保につなげる取組を継続的に実施するよう政府に対し要望する。
生産性向上の支援については、可能な限り多くの企業が各種の助成金等を受給し、賃上げを実現できるように、政府の掲げる生産性向上等への支援の一層の強化を求める。特に、事業場内で最も低い時間給を一定以上引き上げ、生産性向上に取り組んだ場合に支給される業務改善助成金については、対象となる事業場を拡大するとともに、最低賃金引上げの影響を強く受ける小規模事業者が活用しやすくなるよう、より一層の実効性ある支援の拡充に加え、最低賃金が相対的に低い地域における重点的な支援の拡充を強く要望する。さらに、中小企業・小規模事業者において業務改善助成金の活用を推進するための周知等の徹底を要望する。
加えて、中小企業・小規模事業者の賃上げ実現に向けて、賃上げ税制や補助金等における賃上げ企業の優遇、ものづくり補助金、事業再構築補助金等を通じた生産性向上等への支援の一層の強化に取り組むことが必要である。その際、赤字法人においても賃上げを促進するため、課題を整理した上で、税制を含めて更なる施策を検討することも必要である。さらに、中小企業・小規模事業者がこれらの施策を一層活用できるよう、周知等の徹底を要望する。
価格転嫁対策については、「中小企業・小規模事業者の賃上げには労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化が不可欠である」という考え方を社会全体で共有し、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(令和3年12月)・「改正振興基準」(令和4年7月)に基づき、中小企業・小規模事業者が賃上げの原資を確保できるよう、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分の適切な転嫁に向けた取組の強化を要望する。また、行政機関が民間企業に業務委託を行っている場合に、年度途中の最低賃金額改定によって当該業務委託先における最低賃金の履行確保に支障が生じることがないよう、発注時における特段の配慮を要望する。
記。1令和5年度地域別最低賃金額改定の引上げ額の目安は、次の表に掲げる金額とする。令和5年度地域別最低賃金額改定の引上げ額の目安。A、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪。41円。B、北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡。40円。C、青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄。39円。
2(1)目安小委員会は、今年度の目安審議に当たって、令和5年全員協議会報告の1(2)で「最低賃金法第9条第2項の3要素のデータに基づき労使で丁寧に議論を積み重ねて目安を導くことが非常に重要であり、今後の目安審議においても徹底すべきである」と合意されたことを踏まえ、特に地方最低賃金審議会における自主性発揮が確保できるよう整備充実や取捨選択を行った資料を基にするとともに、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」及び「経済財政運営と改革の基本方針2023」に配意し、最低賃金法第9条第2項の3要素を考慮した審議を行ってきた。
ア 賃金。まず、賃金に関する指標を見ると、春季賃上げ妥結状況における賃金上昇率は、連合の第7回(最終)集計結果で、全体で3.58%、中小でも3.23%となっており、30年ぶりの高い水準となっている。さらに、有期・短時間・契約等労働者の賃上げ額(時給)の加重平均の引上げ率の概算は5.01%となっている。経団連による春季労使交渉月例賃金引上げ結果では、大手企業で3.91%、中小企業では2.94%となっている。賃金改定状況調査結果については、第4表①②における賃金上昇率(ランク計)は2.1%であり、最低賃金が時間額のみで表示されるようになった平成14年以降最大値であった昨年度の結果(1.5%)を上回っている。また、平成14年以降、第4表①②における賃金上昇率(男女計及び一般・パート計)は、今年度初めて全てのランクで2%以上の結果であった。さらに、継続労働者に限定した第4表③における賃金上昇率(ランク計)は2.5%となっており、これも昨年の結果(2.1%)を上回った。この第4表は、目安審議における重要な参考資料であり、同表における賃金上昇率を十分に考慮する必要がある。
イ 通常の事業の賃金支払能力。通常の事業の賃金支払能力については、個々の企業の賃金支払能力を指すものではないと解され、これまでの目安審議においても、業況の厳しい産業や企業の状況のみを見て議論するのではなく、各種統計資料を基に議論を行ってきた。関連する指標を見ると、法人企業統計における企業利益(売上高経常利益率)については、令和3年は6.3%であるところ、令和4年は6.6%と安定している。また、業況判断DIを見ても、日銀短観では、令和4年6月は+2であったものの、令和5年6月は+8と上昇し、また、中小企業景況調査では、令和4年4~6月の▲19.4から今年4~6月には▲10.5となっているように、昨年からさらに改善が見られる。
なお、昨年はコロナ禍の影響が引き続き見られた「宿泊業, 飲食サービス業」においても、令和4年の売上高経常利益率は0.0%と3年ぶりにマイナスから脱し、今年1~3月期は+1.1%と改善しており、加えて日銀短観による業況判断DIは、令和元年9月から令和4年9月までマイナスだったものの、令和5年6月には+25と大幅に改善している。
しかしながら、中小企業・小規模事業者が賃上げの原資を確保するためにも一層重要性が増している価格転嫁は、いまだ不十分な状況にある。価格転嫁については、中小企業庁が公表した令和5年3月の価格交渉促進月間のフォローアップ調査によると、前回令和4年9月の価格交渉促進月間のフォローアップ調査と比べて、コスト上昇分のうち高い割合(10割、9割~7割)を価格転嫁できたとする企業の割合が増加(35.6%→39.3%)し、転嫁状況は一部では好転する一方、「全く転嫁できない」又は「減額された」とする企業の割合も増加(20.2%→23.5%)しており、二極化が進行している。また、コスト要素別にみると、原材料費は転嫁率が約48%である一方、エネルギーコストや労務費コストはこれに比べて約11~13%ポイント低い水準であることを踏まえると、賃上げ原資を確保することが難しい企業も多く存在する。
さらに、国内企業物価指数は、今年6月(速報値)は対前年同月比4.1%と昨年より低下しているが、まだ消費者物価指数を上回っている状況である。
なお、賃金改定状況調査の第4表における賃金上昇率は、企業において賃金支払能力等も勘案して賃金決定がなされた結果であると解釈できるところ、春季賃上げ妥結状況の結果と一定程度差が生じている要因は、それぞれの調査対象企業の規模等が異なるためであると考えられ、また、法人企業統計調査における従業員一人当たり付加価値額をみると、一般に資本金規模が小さい企業ほど労働生産性は低いことからも、企業規模により、賃上げ原資の程度が異なることに留意する必要がある。
ウ 労働者の生計費。労働者の生計費については、関連する指標である消費者物価指数を見ると、昨年の改定後の最低賃金額が発効した10月から今年6月までの「持家の帰属家賃を除く総合」の対前年同期比は4.3%と、全国加重平均の最低賃金の引上げ率(3.3%)を上回る水準となった。直近の月次を見ると、対前年同月比で、今年4月に4.1%、5月に3.8%、6月に3.9%となっており、昨年10月から今年1月にかけて「持家の帰属家賃を除く総合」が4%を超え、5%以上にも達する高い伸びとなった時期と比べると対前年同月比の上昇幅は縮小傾向であるが、引き続き高い水準である。また、消費者物価指数の「総合」、とりわけ「基礎的支出項目」といった必需品的な支出項目については、経済産業省が実施するエネルギー価格の負担軽減策である「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の影響で一定程度押し下げられている(「総合」では、6月は1%ポイント押し下げられていると試算されている)。なお、6月の使用分から電気の規制料金の値上げが行われている上に、当該事業の適用は、9月使用分までとされており、10月使用分以降の扱いについては現時点では決まっていない。加えて、価格転嫁が進んだ場合には、さらに消費者物価の上昇もありうる。消費者物価の上昇が続く中では、最低賃金に近い賃金水準の労働者の生活は苦しくなっていると考えられる。
エ 各ランクの引上げ額の目安。最低賃金について、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」等において、「今年は全国加重平均1,000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論を行う」こととされていることも踏まえ、公労使で真摯に検討を重ねてきた。さらに、特に中小企業で人手不足感が強まり続けており、労働需給逼迫の観点から、人手確保のために賃金上昇圧力が高まって、業績に関係なく賃金を引き上げた場合が一定程度あることを考慮すべきという意見も踏まえて議論を行った。
この結果、ア~ウで触れたように、①賃金については、春季賃上げ妥結状況における賃金引上げ結果は30年ぶりの高い水準となっていることに加え、今年度の賃金改定状況調査結果第4表①②における賃金上昇率は、平成14年以降最大であり、男女計及び一般・パート計において全てのランクで初めて2%以上となった。
②通常の事業の賃金支払能力については、企業の利益や業況において、昨年からの改善傾向は見られる。しかし、中小企業・小規模事業者が賃上げの原資を確保するために重要な価格転嫁の状況としては、コスト上昇分を7割以上転嫁できた企業の割合が増加した一方、全く転嫁できない又は減額されたとする企業の割合も増加しており、二極化が進行していることや、コスト要素別で見ると、特にエネルギーコストや労務費コストの価格転嫁が十分でないことから賃上げ原資を確保することが難しい企業も多く存在する。また、第4表と春季賃上げ妥結状況の差からも、小規模事業者は賃金支払能力が相対的に低い可能性がある。そうした中で、最低賃金は、企業の経営状況にかかわらず、労働者を雇用する全ての企業に適用され、それを下回る場合には罰則の対象となることも考慮すれば、引上げ率の水準には一定の限界があると考えられる。
③しかしながら、労働者の生計費については、足元の消費者物価指数は、時限的なエネルギー価格の負担軽減策により上昇率が押し下げられているにもかかわらず、対前年同月比4%前後と引き続き高い水準であること、さらには消費者に対する価格転嫁が進みつつあることも踏まえ、最低賃金に近い賃金水準の労働者の購買力を維持する観点から、最低賃金が消費者物価を一定程度上回る水準であることが必要である。さらに、昨年以来、継続的に消費者物価の高騰が見られる状況であることから、昨年の改定後の最低賃金額が発効した10月から今年6月までの消費者物価指数の対前年同期比は4.3%と、昨年度の全国加重平均の最低賃金の引上げ率(3.3%)を上回る高い伸び率であったことも踏まえることが、今年度は適当と考えられる。
これらを総合的に勘案し、また、賃上げの流れの維持・拡大を図り、非正規雇用労働者や中小企業にも波及させることや、最低賃金法第1条に規定するとおり、最低賃金制度の目的は、賃金の低廉な労働者について賃金の最低額を保障し、その労働条件の改善を図り、国民経済の健全な発展に寄与するものであることにも留意すると、今年度の各ランクの引上げ額の目安(以下「目安額」という。)を検討するに当たっては4.3%を基準として検討することが適当であると考えられる。
各ランクの目安額については、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」等において、「最低賃金の地域間格差に関しては、最低賃金の目安額を示すランク数を4つから3つに見直したところであり、今後とも、地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げる等、地域間格差の是正を図る」とされていることも踏まえ、地域間格差への配慮の観点から少なくとも地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き続き上昇させていくことが必要である。
その上で、賃金改定状況調査結果第4表①②における賃金上昇率はAランクが、第4表③における賃金上昇率はCランクが最も高くなっている。一方、今年1~6月の消費者物価の上昇率は、Aランクがやや高めに推移している。雇用情勢としては、B・Cランクで相対的に良い状況であること等も考慮すれば、各ランクで大きな状況の差異があるとは言いがたい。しかしながら、地域別最低賃金額が相対的に低い地域における負担増にも一定の配慮が必要であることから、Aランク、Bランク、Cランクの目安額の差は1円とすることが適当であると考えられる。この結果、仮に目安どおりに各都道府県で引上げが行われた場合は、最高額に対する最低額の比率は79.6%から80.1%となり、地域間格差は比率の面で縮小することとなる。
オ 政府に対する要望。目安額の検討に当たっては、最低賃金法第9条第2項の3要素を総合的に勘案することを原則としながら、今年度は、消費者物価の上昇が続いていることや、昨年10月から今年6月までの消費者物価指数の対前年同期比は4.3%と、昨年度の全国加重平均の最低賃金の引上げ率(3.3%)を上回る高い伸び率であったこともあり、結果として、この3要素のうち、特に労働者の生計費を重視した目安額とした。このため、今年度の目安額は、原材料価格やエネルギー価格等が上昇する中、特にエネルギーコストや労務費コストの価格転嫁が十分でないといった企業経営を取り巻く環境を踏まえれば、特に中小企業・小規模事業者の賃金支払能力の点で厳しいものであると言わざるを得ない。
中小企業・小規模事業者が継続的に賃上げしやすい環境整備の必要性については労使共通の認識であり、政府の掲げる「成長と分配の好循環」と「賃金と物価の好循環」を実現するためにも、特に地方、中小企業・小規模事業者に配意しつつ、生産性向上を図るとともに、官公需における対応や、価格転嫁対策を徹底し、賃上げの原資の確保につなげる取組を継続的に実施するよう政府に対し要望する。
生産性向上の支援については、可能な限り多くの企業が各種の助成金等を受給し、賃上げを実現できるように、政府の掲げる生産性向上等への支援の一層の強化を求める。特に、事業場内で最も低い時間給を一定以上引き上げ、生産性向上に取り組んだ場合に支給される業務改善助成金については、対象となる事業場を拡大するとともに、最低賃金引上げの影響を強く受ける小規模事業者が活用しやすくなるよう、より一層の実効性ある支援の拡充を強く要望する。また、最低賃金の地域間格差を是正しつつ、引き上げていくためには、最低賃金が相対的に低い地域において、中小企業・小規模事業者が賃上げしやすい環境整備が必要である。このため、業務改善助成金について、最低賃金が相対的に低い地域における重点的な支援の拡充を強く要望する。さらに、中小企業・小規模事業者において業務改善助成金の活用を推進するための周知等の徹底を要望する。
加えて、中小企業・小規模事業者の賃上げ実現に向けて、賃上げ税制や補助金等における賃上げ企業の優遇、ものづくり補助金、事業再構築補助金等を通じた生産性向上等への支援の一層の強化に取り組むことが必要である。その際、赤字法人においても賃上げを促進するため、課題を整理した上で、税制を含めて更なる施策を検討することも必要である。さらに、中小企業・小規模事業者がこれらの施策を一層活用できるよう、周知等の徹底を要望する。
さらに、価格転嫁対策については、「中小企業・小規模事業者の賃上げには労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化が不可欠である」という考え方を社会全体で共有し、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(令和3年12月)・「改正振興基準」(令和4年7月)に基づき、中小企業・小規模事業者が賃上げの原資を確保できるよう、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分の適切な転嫁に向けた取組の強化を要望する。
カ 地方最低賃金審議会への期待等。目安は、地方最低賃金審議会が審議を進めるに当たって、全国的なバランスを配慮するという観点から参考にされるべきものであり、地方最低賃金審議会の審議決定を拘束するものではない。こうした前提の下、目安小委員会の公益委員としては、目安を十分に参酌しながら、地方最低賃金審議会において、地域別最低賃金の審議に際し、地域の経済・雇用の実態を見極めつつ、自主性を発揮することを期待する。その際、今年度の目安額は、最低賃金が消費者物価を一定程度上回る水準である必要があることや、これまで取り組んできた地域間格差の是正を引き続き図ること等を特に考慮して検討されたものであることにも配意いただきたいと考える。また、中央最低賃金審議会が地方最低賃金審議会の審議の結果を重大な関心をもって見守ることを要望する。
なお、公益委員見解を取りまとめるに当たって参照した主なデータは別添のとおりである。
(2)生活保護水準と最低賃金との比較では、昨年度に引き続き乖離が生じていないことが確認された。
なお、来年度以降の目安審議においても、最低賃金法第9条第3項に基づき、引き続き、その時点における最新のデータに基づいて生活保護水準と最低賃金との比較を行い、乖離が生じていないか確認することが適当と考える。
(3)最低賃金引上げの影響については、令和5年全員協議会報告の3(1)に基づき、引き続き、影響率や雇用者数等を注視しつつ、慎重に検討していくことが必要である。
以上です。
〇藤村会長
はいどうもありがとうございました。10ページにわたる報告ということで、ちょっと時間を使いました。皆様のご尽力により、今ご報告した小委員会報告を取りまとめることができました。重ねて御礼申し上げたいと思います。
この報告について何かご質問とかございますでしょうか。よろしいですか。はい。では議題1の報告としてはここまでといたします。
続きまして議題2、「令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について(答申)」についてです。先ほどご報告いたしました小委員会報告をもとに、答申を取りまとめたいと思います。
なお、この報告にもありますとおり、小委員会としては、政府が中小企業・小規模事業者等の生産性向上のための支援や価格転化対策に引き続き取り組むことなどの要望をさせていただいていますので、今年の答申においても、この趣旨を盛り込みたいと考えております。よろしいでしょうか。
(異議なし)
それでは、答申案を事務局から配布して読み上げていただきたいと思います。
○川辺副主任中央賃金指導官
それでは朗読いたします。
案。令和5年7月28日。厚生労働大臣加藤勝信殿。中央最低賃金審議会会長藤村博之。
令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について(答申)。令和5年6月30日に諮問のあった令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について、下記のとおり答申する。
記。1 令和5年度地域別最低賃金額改定の目安については、その金額に関し意見の一致をみるに至らなかった。
2 地方最低賃金審議会における審議に資するため、上記目安に関する公益委員見解(別紙1)及び中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告(別紙2)を地方最低賃金審議会に提示するものとする。
3 地方最低賃金審議会の審議の結果を重大な関心をもって見守ることとし、同審議会において、別紙1の2に示されている公益委員の見解を十分参酌され、自主性を発揮されることを強く期待するものである。
4 中小企業・小規模事業者が継続的に賃上げしやすい環境整備の必要性については労使共通の認識であり、政府の掲げる「成長と分配の好循環」と「賃金と物価の好循環」を実現するためにも、特に地方、中小企業・小規模事業者に配意しつつ、生産性向上を図るとともに、官公需における対応や、価格転嫁対策を徹底し、賃上げの原資の確保につなげる取組を継続的に実施するよう政府に対し要望する。
5 生産性向上の支援については、可能な限り多くの企業が各種の助成金等を受給し、賃上げを実現できるように、政府の掲げる生産性向上等への支援の一層の強化を求める。特に、事業場内で最も低い時間給を一定以上引き上げ、生産性向上に取り組んだ場合に支給される業務改善助成金については、対象となる事業場を拡大するとともに、最低賃金引上げの影響を強く受ける小規模事業者が活用しやすくなるよう、より一層の実効性ある支援の拡充に加え、最低賃金が相対的に低い地域における重点的な支援の拡充を強く要望する。さらに、中小企業・小規模事業者において業務改善助成金の活用を推進するための周知等の徹底を要望する。
6 中小企業・小規模事業者の賃上げ実現に向けて、賃上げ税制や補助金等における賃上げ企業の優遇、ものづくり補助金、事業再構築補助金等を通じた生産性向上等への支援の一層の強化に取り組むことが必要である。その際、赤字法人においても賃上げを促進するため、課題を整理した上で、税制を含めて更なる施策を検討することも必要である。さらに、中小企業・小規模事業者がこれらの施策を一層活用できるよう、周知等の徹底を要望する。
7 価格転嫁対策については、「中小企業・小規模事業者の賃上げには労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化が不可欠である」という考え方を社会全体で共有し、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(令和3年12月)・「改正振興基準」(令和4年7月)に基づき、中小企業・小規模事業者が賃上げの原資を確保できるよう、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分の適切な転嫁に向けた取組の強化を要望する。また、行政機関が民間企業に業務委託を行っている場合に、年度途中の最低賃金額改定によって当該業務委託先における最低賃金の履行確保に支障が生じることがないよう、発注時における特段の配慮を要望する。
別紙1、別紙2につきましては、省略いたします。
〇藤村会長
ただ今読み上げていただいた、答申(案)について御意見などございますでしょうか。
(異議なし)
ありがとうございます。ではこの(案)のとおり答申を取りまとめたいと思います。鈴木労働基準局長にお渡ししたいと思いますので、答申を用意していただきたいと思います。
(答申文手交)
〇藤村会長
それでは、鈴木労働基準局長から一言、御挨拶をお願いいたします。
○鈴木労働基準局長
一言、御挨拶申し上げたいと思います。
本年度の目安につきまして、答申を取りまとめていただきまして、誠にありがとうございます。
本年度の調査審議におきましては、最低賃金法に規定された3要素を考慮するとともに、地域間格差の是正にも留意いただきながら、真摯に議論を尽くしていただき、根拠・理由を含め、データに基づいた目安額をお示しいただくことができました。
今後、各都道府県労働局には、目安の位置付けに加え、今年度の答申内容を地方最低賃金審議会の委員に正確に伝えるよう伝達いたしまして、各地方最低賃金審議会における地域別最低賃金額の改定審議が円滑に進められるようにしてまいりたいと考えております。
委員の皆様方の御尽力に心より感謝申し上げまして、お礼の御挨拶とさせていただきます。長時間にわたる御審議、誠にありがとうございました。
〇藤村会長
はい。どうもありがとうございました。その他に何かございますか。
それではこれをもちまして、第67回中央最低賃金審議会を終了いたします。本日はどうもお疲れ様でした。
ただ今から、第67回中央最低賃金審議会を開催いたします。
本日は、所要のため池田委員がご欠席、権丈委員、松浦委員がオンラインにて参加です。
本日の議題は、中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告と令和5年度地域別最低賃金額改定の目安についてです。
まず、議題1「中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告について」です。本年度の地域別最低賃金額改定の目安については、目安に関する小委員会において熱心な御議論を重ねていただき、本日の第5回小委員会において、報告が取りまとめられましたので、委員長の私から報告したいと思います。
今年度の目安審議については、去る6月30日にこの本審において諮問が行われるとともに、目安に関する小委員会に付託されました。その後、小委員会においては、6月30日、7月12日、7月20日、7月26日、本日までの5回にわたって会議を開催いたしました。
今年度は、労使の皆様から「目安額の根拠・理由についても納得できるものとしてほしい」との御意見をいただき、熱心な御議論をいただきました。
目安については、労使の意見の一致を得ることができませんでしたが、公益委員の見解を小委員会報告として地方最低賃金審議会に示すように本審議会に報告することを了承いただいております。お手元のとおり、報告をとりまとめた次第でございます。
では、小委員会報告を事務局に朗読していただきます。お願いします。
○川辺副主任中央賃金指導官
それでは、朗読します。
中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告。令和5年7月28日。
1 はじめに。令和5年度の地域別最低賃金額改定の目安については、累次にわたり会議を開催し、目安額の根拠等についてそれぞれ真摯な議論が展開されるなど、十分審議を尽くしたところである。
2 労働者側見解。労働者側委員は、最低賃金に対する社会的な注目度が年々高まっている中、30年ぶりの賃上げの流れも受け従来にも増して注目されている状況について述べ、最低賃金法第1条にある「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与する」という法の目的を再認識した議論を行うべきであることを主張した。
本年の春季生活闘争は、コロナ禍で落ち込んだ経済からの回復のみならず、20年以上にわたる日本社会のデフレマインドを払拭し局面を転換する大きな意味を持った労使交渉であり、この賃上げの成果を、社会へ広く確実に波及させることで、賃上げの流れを中長期に継続する必要があると主張した。
加えて、現在の最低賃金の水準では、2,000時間働いても年収200万円程度といわゆるワーキングプア水準にとどまり、国際的にみても低位であること、連合が公表している「最低限必要な賃金水準」の試算によれば、最も低い県であっても時間単価で990円を上回らなければ単身でも生活できないことから、最低賃金は生存権を確保した上で労働の対価としてふさわしいナショナルミニマム水準へ引き上げるべきであると主張した。
さらに、2021年度後半以降の物価上昇が働く者の生活に大きな打撃を与えていること、生活必需品等の切り詰めることができない支出項目の上昇がとりわけ最低賃金近傍で働く者の生活を圧迫していること、「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の政策効果により足元の表面上の消費者物価指数の数値が押し下げられていることから、この政策が終了する10月以降も見通して議論しなければならないということを主張した。
また、労働市場でも募集賃金の上昇が見られるが、これは労働力人口が減少する現下の環境において、企業が存続・発展に向けて賃上げを通じた人材確保に重きを置いていることの現れであり、この点も本年度の目安の決定にあたり考慮すべきであること、人材不足が顕著な中小企業・零細事業所においてこそ、むしろ人材確保・定着の観点で最低賃金を含む賃上げが急務であることを主張した。なお、就業調整問題については、労働組合としても税・社会保険の正しい知識の周知などを進めており、最低賃金を上げていっても就業調整が起こらないようにしていくことが重要だと主張した。
加えて、地域間格差をこれ以上放置すれば、労働力の流出により、地方・地域経済への悪影響が懸念される。雇用指標の状況なども鑑みれば、とりわけB・Cランクにおける引上げ、格差是正が実現するよう意識すべきであると主張した。
以上を踏まえ、本年度は「誰もが時給1,000 円」への到達に向けてこれまで以上に前進する目安が必要であり、あわせて、地域間格差の是正につながる目安を示すべきであると主張した。
労働者側委員としては、上記主張が十分に反映されずに取りまとめられた下記1の公益委員見解については、不満の意を表明した。
3 使用者側見解。使用者側委員は、中小企業を取り巻く状況について、足元の物価動向は高い数値であるものの、国内企業物価指数は消費者物価指数より高い水準であることや、業況判断DIは上昇しているものの、マイナス圏で推移するほか、先行きについては悪化を見込んでいる業種が多くなっていること、また、小規模事業者の景況感は中規模事業者と比べて回復が遅れていることを主張した。
加えて、ゼロゼロ融資の本格的な返済も始まったことなどを受けて、上半期の倒産も全業種にわたり増加し、傾向として小規模企業の倒産が多い状況にあるとの認識を示した。
また、今年の春季労使交渉では、中小企業を含め多くの企業が大幅な賃金引上げを実施しているものの、労働需給のひっ迫を背景として、人材確保・定着のために、業績が改善していないにもかかわらず賃金を引き上げた中小企業が一定程度存在していることを考慮すべきであると訴えた。
加えて、最低賃金の大幅な引上げとなれば、地域住民の生活と雇用を支えるセーフティーネットでもある地方の中小企業を中心に、経営上の負担感の増大やコスト増に耐えかねた廃業・倒産が増加するとの懸念があると述べた。
また、いわゆる「年収の壁」を踏まえて就業調整が行われることで、特に年末の繁忙期等において人手不足に拍車がかかっているだけでなく、近年の最低賃金額の大幅な引上げが、労働者の実質的な所得向上につながっていない事例も生じていると指摘した。
さらに、地域別最低賃金は、企業の業績や価格転嫁の状況に関係なく適用される、罰則付きの強行法であることから、最低賃金引上げの影響を受けやすい中小企業が置かれている厳しい経営状況を十分に踏まえた審議が不可欠であり、「通常の事業の賃金支払能力」を超えた過度の引上げ負担を担わせない配慮が必要であると主張した。
今年度の最低賃金を引き上げることの必要性は理解しており、加えて、今年度は、目安のランク区分が4から3に変更されて初めての目安審議であり、地域間格差の是正の観点も踏まえた検討が求められていることも認識していると述べた。
また、中小企業の「賃金支払能力」を高め、足元の賃上げの流れを「自発的かつ持続的な賃上げ」につなげていくことが重要であり、価格転嫁と生産性向上の取組みを粘り強く推進していくことが不可欠であると主張した。
以上を踏まえ、今年度の目安審議においても、3要素を総合的に表している「賃金改定状況調査結果」の、とりわけ「第4表」の賃金上昇率の結果を最も重視するとの認識を示した。その上で、企業物価の動向、従業員への人件費の原資を含めたマークアップを確保するための価格転嫁の遅れなど、中小企業の置かれている厳しい状況を踏まえながら、事業の継続・存続と従業員の雇用維持の観点から、様々なデータに基づいて審議を尽くし、全国の企業経営者に対して納得感のある目安を示す責務があることを強調するとともに、「10月1日発効」を前提とした審議スケジュールに必要以上にとらわれることなく、慎重の上にも慎重な議論を重ねていきたいと主張した。
使用者側委員としては、上記主張が十分に反映されずに取りまとめられた下記1の公益委員見解については、不満の意を表明した。
4 意見の不一致。本小委員会(以下「目安小委員会」という。)としては、これらの意見を踏まえ目安を取りまとめるべく努めたところであるが、労使の意見が一致せず、目安を定めるに至らなかった。
5 公益委員見解及びその取扱い。公益委員としては、今年度の目安審議については、令和5年全員協議会報告の1(2)で「最低賃金法第9条第2項の3要素のデータに基づき労使で丁寧に議論を積み重ねて目安を導くことが非常に重要であり、今後の目安審議においても徹底すべきである」と合意されたことを踏まえ、加えて、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」及び「経済財政運営と改革の基本方針2023」に配意しつつ、各種指標を総合的に勘案し、下記1のとおり公益委員の見解を取りまとめたものである。
目安小委員会としては、地方最低賃金審議会における円滑な審議に資するため、これを公益委員見解として地方最低賃金審議会に示すよう総会に報告することとした。
また、地方最低賃金審議会の自主性発揮及び審議の際の留意点に関し、下記2のとおり示し、併せて総会に報告することとした。
さらに、中小企業・小規模事業者が継続的に賃上げしやすい環境整備の必要性については労使共通の認識であり、政府の掲げる「成長と分配の好循環」と「賃金と物価の好循環」を実現するためにも、特に地方、中小企業・小規模事業者に配意しつつ、生産性向上を図るとともに、官公需における対応や、価格転嫁対策を徹底し、賃上げの原資の確保につなげる取組を継続的に実施するよう政府に対し要望する。
生産性向上の支援については、可能な限り多くの企業が各種の助成金等を受給し、賃上げを実現できるように、政府の掲げる生産性向上等への支援の一層の強化を求める。特に、事業場内で最も低い時間給を一定以上引き上げ、生産性向上に取り組んだ場合に支給される業務改善助成金については、対象となる事業場を拡大するとともに、最低賃金引上げの影響を強く受ける小規模事業者が活用しやすくなるよう、より一層の実効性ある支援の拡充に加え、最低賃金が相対的に低い地域における重点的な支援の拡充を強く要望する。さらに、中小企業・小規模事業者において業務改善助成金の活用を推進するための周知等の徹底を要望する。
加えて、中小企業・小規模事業者の賃上げ実現に向けて、賃上げ税制や補助金等における賃上げ企業の優遇、ものづくり補助金、事業再構築補助金等を通じた生産性向上等への支援の一層の強化に取り組むことが必要である。その際、赤字法人においても賃上げを促進するため、課題を整理した上で、税制を含めて更なる施策を検討することも必要である。さらに、中小企業・小規模事業者がこれらの施策を一層活用できるよう、周知等の徹底を要望する。
価格転嫁対策については、「中小企業・小規模事業者の賃上げには労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化が不可欠である」という考え方を社会全体で共有し、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(令和3年12月)・「改正振興基準」(令和4年7月)に基づき、中小企業・小規模事業者が賃上げの原資を確保できるよう、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分の適切な転嫁に向けた取組の強化を要望する。また、行政機関が民間企業に業務委託を行っている場合に、年度途中の最低賃金額改定によって当該業務委託先における最低賃金の履行確保に支障が生じることがないよう、発注時における特段の配慮を要望する。
記。1令和5年度地域別最低賃金額改定の引上げ額の目安は、次の表に掲げる金額とする。令和5年度地域別最低賃金額改定の引上げ額の目安。A、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪。41円。B、北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡。40円。C、青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄。39円。
2(1)目安小委員会は、今年度の目安審議に当たって、令和5年全員協議会報告の1(2)で「最低賃金法第9条第2項の3要素のデータに基づき労使で丁寧に議論を積み重ねて目安を導くことが非常に重要であり、今後の目安審議においても徹底すべきである」と合意されたことを踏まえ、特に地方最低賃金審議会における自主性発揮が確保できるよう整備充実や取捨選択を行った資料を基にするとともに、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」及び「経済財政運営と改革の基本方針2023」に配意し、最低賃金法第9条第2項の3要素を考慮した審議を行ってきた。
ア 賃金。まず、賃金に関する指標を見ると、春季賃上げ妥結状況における賃金上昇率は、連合の第7回(最終)集計結果で、全体で3.58%、中小でも3.23%となっており、30年ぶりの高い水準となっている。さらに、有期・短時間・契約等労働者の賃上げ額(時給)の加重平均の引上げ率の概算は5.01%となっている。経団連による春季労使交渉月例賃金引上げ結果では、大手企業で3.91%、中小企業では2.94%となっている。賃金改定状況調査結果については、第4表①②における賃金上昇率(ランク計)は2.1%であり、最低賃金が時間額のみで表示されるようになった平成14年以降最大値であった昨年度の結果(1.5%)を上回っている。また、平成14年以降、第4表①②における賃金上昇率(男女計及び一般・パート計)は、今年度初めて全てのランクで2%以上の結果であった。さらに、継続労働者に限定した第4表③における賃金上昇率(ランク計)は2.5%となっており、これも昨年の結果(2.1%)を上回った。この第4表は、目安審議における重要な参考資料であり、同表における賃金上昇率を十分に考慮する必要がある。
イ 通常の事業の賃金支払能力。通常の事業の賃金支払能力については、個々の企業の賃金支払能力を指すものではないと解され、これまでの目安審議においても、業況の厳しい産業や企業の状況のみを見て議論するのではなく、各種統計資料を基に議論を行ってきた。関連する指標を見ると、法人企業統計における企業利益(売上高経常利益率)については、令和3年は6.3%であるところ、令和4年は6.6%と安定している。また、業況判断DIを見ても、日銀短観では、令和4年6月は+2であったものの、令和5年6月は+8と上昇し、また、中小企業景況調査では、令和4年4~6月の▲19.4から今年4~6月には▲10.5となっているように、昨年からさらに改善が見られる。
なお、昨年はコロナ禍の影響が引き続き見られた「宿泊業, 飲食サービス業」においても、令和4年の売上高経常利益率は0.0%と3年ぶりにマイナスから脱し、今年1~3月期は+1.1%と改善しており、加えて日銀短観による業況判断DIは、令和元年9月から令和4年9月までマイナスだったものの、令和5年6月には+25と大幅に改善している。
しかしながら、中小企業・小規模事業者が賃上げの原資を確保するためにも一層重要性が増している価格転嫁は、いまだ不十分な状況にある。価格転嫁については、中小企業庁が公表した令和5年3月の価格交渉促進月間のフォローアップ調査によると、前回令和4年9月の価格交渉促進月間のフォローアップ調査と比べて、コスト上昇分のうち高い割合(10割、9割~7割)を価格転嫁できたとする企業の割合が増加(35.6%→39.3%)し、転嫁状況は一部では好転する一方、「全く転嫁できない」又は「減額された」とする企業の割合も増加(20.2%→23.5%)しており、二極化が進行している。また、コスト要素別にみると、原材料費は転嫁率が約48%である一方、エネルギーコストや労務費コストはこれに比べて約11~13%ポイント低い水準であることを踏まえると、賃上げ原資を確保することが難しい企業も多く存在する。
さらに、国内企業物価指数は、今年6月(速報値)は対前年同月比4.1%と昨年より低下しているが、まだ消費者物価指数を上回っている状況である。
なお、賃金改定状況調査の第4表における賃金上昇率は、企業において賃金支払能力等も勘案して賃金決定がなされた結果であると解釈できるところ、春季賃上げ妥結状況の結果と一定程度差が生じている要因は、それぞれの調査対象企業の規模等が異なるためであると考えられ、また、法人企業統計調査における従業員一人当たり付加価値額をみると、一般に資本金規模が小さい企業ほど労働生産性は低いことからも、企業規模により、賃上げ原資の程度が異なることに留意する必要がある。
ウ 労働者の生計費。労働者の生計費については、関連する指標である消費者物価指数を見ると、昨年の改定後の最低賃金額が発効した10月から今年6月までの「持家の帰属家賃を除く総合」の対前年同期比は4.3%と、全国加重平均の最低賃金の引上げ率(3.3%)を上回る水準となった。直近の月次を見ると、対前年同月比で、今年4月に4.1%、5月に3.8%、6月に3.9%となっており、昨年10月から今年1月にかけて「持家の帰属家賃を除く総合」が4%を超え、5%以上にも達する高い伸びとなった時期と比べると対前年同月比の上昇幅は縮小傾向であるが、引き続き高い水準である。また、消費者物価指数の「総合」、とりわけ「基礎的支出項目」といった必需品的な支出項目については、経済産業省が実施するエネルギー価格の負担軽減策である「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の影響で一定程度押し下げられている(「総合」では、6月は1%ポイント押し下げられていると試算されている)。なお、6月の使用分から電気の規制料金の値上げが行われている上に、当該事業の適用は、9月使用分までとされており、10月使用分以降の扱いについては現時点では決まっていない。加えて、価格転嫁が進んだ場合には、さらに消費者物価の上昇もありうる。消費者物価の上昇が続く中では、最低賃金に近い賃金水準の労働者の生活は苦しくなっていると考えられる。
エ 各ランクの引上げ額の目安。最低賃金について、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」等において、「今年は全国加重平均1,000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論を行う」こととされていることも踏まえ、公労使で真摯に検討を重ねてきた。さらに、特に中小企業で人手不足感が強まり続けており、労働需給逼迫の観点から、人手確保のために賃金上昇圧力が高まって、業績に関係なく賃金を引き上げた場合が一定程度あることを考慮すべきという意見も踏まえて議論を行った。
この結果、ア~ウで触れたように、①賃金については、春季賃上げ妥結状況における賃金引上げ結果は30年ぶりの高い水準となっていることに加え、今年度の賃金改定状況調査結果第4表①②における賃金上昇率は、平成14年以降最大であり、男女計及び一般・パート計において全てのランクで初めて2%以上となった。
②通常の事業の賃金支払能力については、企業の利益や業況において、昨年からの改善傾向は見られる。しかし、中小企業・小規模事業者が賃上げの原資を確保するために重要な価格転嫁の状況としては、コスト上昇分を7割以上転嫁できた企業の割合が増加した一方、全く転嫁できない又は減額されたとする企業の割合も増加しており、二極化が進行していることや、コスト要素別で見ると、特にエネルギーコストや労務費コストの価格転嫁が十分でないことから賃上げ原資を確保することが難しい企業も多く存在する。また、第4表と春季賃上げ妥結状況の差からも、小規模事業者は賃金支払能力が相対的に低い可能性がある。そうした中で、最低賃金は、企業の経営状況にかかわらず、労働者を雇用する全ての企業に適用され、それを下回る場合には罰則の対象となることも考慮すれば、引上げ率の水準には一定の限界があると考えられる。
③しかしながら、労働者の生計費については、足元の消費者物価指数は、時限的なエネルギー価格の負担軽減策により上昇率が押し下げられているにもかかわらず、対前年同月比4%前後と引き続き高い水準であること、さらには消費者に対する価格転嫁が進みつつあることも踏まえ、最低賃金に近い賃金水準の労働者の購買力を維持する観点から、最低賃金が消費者物価を一定程度上回る水準であることが必要である。さらに、昨年以来、継続的に消費者物価の高騰が見られる状況であることから、昨年の改定後の最低賃金額が発効した10月から今年6月までの消費者物価指数の対前年同期比は4.3%と、昨年度の全国加重平均の最低賃金の引上げ率(3.3%)を上回る高い伸び率であったことも踏まえることが、今年度は適当と考えられる。
これらを総合的に勘案し、また、賃上げの流れの維持・拡大を図り、非正規雇用労働者や中小企業にも波及させることや、最低賃金法第1条に規定するとおり、最低賃金制度の目的は、賃金の低廉な労働者について賃金の最低額を保障し、その労働条件の改善を図り、国民経済の健全な発展に寄与するものであることにも留意すると、今年度の各ランクの引上げ額の目安(以下「目安額」という。)を検討するに当たっては4.3%を基準として検討することが適当であると考えられる。
各ランクの目安額については、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」等において、「最低賃金の地域間格差に関しては、最低賃金の目安額を示すランク数を4つから3つに見直したところであり、今後とも、地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げる等、地域間格差の是正を図る」とされていることも踏まえ、地域間格差への配慮の観点から少なくとも地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き続き上昇させていくことが必要である。
その上で、賃金改定状況調査結果第4表①②における賃金上昇率はAランクが、第4表③における賃金上昇率はCランクが最も高くなっている。一方、今年1~6月の消費者物価の上昇率は、Aランクがやや高めに推移している。雇用情勢としては、B・Cランクで相対的に良い状況であること等も考慮すれば、各ランクで大きな状況の差異があるとは言いがたい。しかしながら、地域別最低賃金額が相対的に低い地域における負担増にも一定の配慮が必要であることから、Aランク、Bランク、Cランクの目安額の差は1円とすることが適当であると考えられる。この結果、仮に目安どおりに各都道府県で引上げが行われた場合は、最高額に対する最低額の比率は79.6%から80.1%となり、地域間格差は比率の面で縮小することとなる。
オ 政府に対する要望。目安額の検討に当たっては、最低賃金法第9条第2項の3要素を総合的に勘案することを原則としながら、今年度は、消費者物価の上昇が続いていることや、昨年10月から今年6月までの消費者物価指数の対前年同期比は4.3%と、昨年度の全国加重平均の最低賃金の引上げ率(3.3%)を上回る高い伸び率であったこともあり、結果として、この3要素のうち、特に労働者の生計費を重視した目安額とした。このため、今年度の目安額は、原材料価格やエネルギー価格等が上昇する中、特にエネルギーコストや労務費コストの価格転嫁が十分でないといった企業経営を取り巻く環境を踏まえれば、特に中小企業・小規模事業者の賃金支払能力の点で厳しいものであると言わざるを得ない。
中小企業・小規模事業者が継続的に賃上げしやすい環境整備の必要性については労使共通の認識であり、政府の掲げる「成長と分配の好循環」と「賃金と物価の好循環」を実現するためにも、特に地方、中小企業・小規模事業者に配意しつつ、生産性向上を図るとともに、官公需における対応や、価格転嫁対策を徹底し、賃上げの原資の確保につなげる取組を継続的に実施するよう政府に対し要望する。
生産性向上の支援については、可能な限り多くの企業が各種の助成金等を受給し、賃上げを実現できるように、政府の掲げる生産性向上等への支援の一層の強化を求める。特に、事業場内で最も低い時間給を一定以上引き上げ、生産性向上に取り組んだ場合に支給される業務改善助成金については、対象となる事業場を拡大するとともに、最低賃金引上げの影響を強く受ける小規模事業者が活用しやすくなるよう、より一層の実効性ある支援の拡充を強く要望する。また、最低賃金の地域間格差を是正しつつ、引き上げていくためには、最低賃金が相対的に低い地域において、中小企業・小規模事業者が賃上げしやすい環境整備が必要である。このため、業務改善助成金について、最低賃金が相対的に低い地域における重点的な支援の拡充を強く要望する。さらに、中小企業・小規模事業者において業務改善助成金の活用を推進するための周知等の徹底を要望する。
加えて、中小企業・小規模事業者の賃上げ実現に向けて、賃上げ税制や補助金等における賃上げ企業の優遇、ものづくり補助金、事業再構築補助金等を通じた生産性向上等への支援の一層の強化に取り組むことが必要である。その際、赤字法人においても賃上げを促進するため、課題を整理した上で、税制を含めて更なる施策を検討することも必要である。さらに、中小企業・小規模事業者がこれらの施策を一層活用できるよう、周知等の徹底を要望する。
さらに、価格転嫁対策については、「中小企業・小規模事業者の賃上げには労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化が不可欠である」という考え方を社会全体で共有し、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(令和3年12月)・「改正振興基準」(令和4年7月)に基づき、中小企業・小規模事業者が賃上げの原資を確保できるよう、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分の適切な転嫁に向けた取組の強化を要望する。
カ 地方最低賃金審議会への期待等。目安は、地方最低賃金審議会が審議を進めるに当たって、全国的なバランスを配慮するという観点から参考にされるべきものであり、地方最低賃金審議会の審議決定を拘束するものではない。こうした前提の下、目安小委員会の公益委員としては、目安を十分に参酌しながら、地方最低賃金審議会において、地域別最低賃金の審議に際し、地域の経済・雇用の実態を見極めつつ、自主性を発揮することを期待する。その際、今年度の目安額は、最低賃金が消費者物価を一定程度上回る水準である必要があることや、これまで取り組んできた地域間格差の是正を引き続き図ること等を特に考慮して検討されたものであることにも配意いただきたいと考える。また、中央最低賃金審議会が地方最低賃金審議会の審議の結果を重大な関心をもって見守ることを要望する。
なお、公益委員見解を取りまとめるに当たって参照した主なデータは別添のとおりである。
(2)生活保護水準と最低賃金との比較では、昨年度に引き続き乖離が生じていないことが確認された。
なお、来年度以降の目安審議においても、最低賃金法第9条第3項に基づき、引き続き、その時点における最新のデータに基づいて生活保護水準と最低賃金との比較を行い、乖離が生じていないか確認することが適当と考える。
(3)最低賃金引上げの影響については、令和5年全員協議会報告の3(1)に基づき、引き続き、影響率や雇用者数等を注視しつつ、慎重に検討していくことが必要である。
以上です。
〇藤村会長
はいどうもありがとうございました。10ページにわたる報告ということで、ちょっと時間を使いました。皆様のご尽力により、今ご報告した小委員会報告を取りまとめることができました。重ねて御礼申し上げたいと思います。
この報告について何かご質問とかございますでしょうか。よろしいですか。はい。では議題1の報告としてはここまでといたします。
続きまして議題2、「令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について(答申)」についてです。先ほどご報告いたしました小委員会報告をもとに、答申を取りまとめたいと思います。
なお、この報告にもありますとおり、小委員会としては、政府が中小企業・小規模事業者等の生産性向上のための支援や価格転化対策に引き続き取り組むことなどの要望をさせていただいていますので、今年の答申においても、この趣旨を盛り込みたいと考えております。よろしいでしょうか。
(異議なし)
それでは、答申案を事務局から配布して読み上げていただきたいと思います。
○川辺副主任中央賃金指導官
それでは朗読いたします。
案。令和5年7月28日。厚生労働大臣加藤勝信殿。中央最低賃金審議会会長藤村博之。
令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について(答申)。令和5年6月30日に諮問のあった令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について、下記のとおり答申する。
記。1 令和5年度地域別最低賃金額改定の目安については、その金額に関し意見の一致をみるに至らなかった。
2 地方最低賃金審議会における審議に資するため、上記目安に関する公益委員見解(別紙1)及び中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告(別紙2)を地方最低賃金審議会に提示するものとする。
3 地方最低賃金審議会の審議の結果を重大な関心をもって見守ることとし、同審議会において、別紙1の2に示されている公益委員の見解を十分参酌され、自主性を発揮されることを強く期待するものである。
4 中小企業・小規模事業者が継続的に賃上げしやすい環境整備の必要性については労使共通の認識であり、政府の掲げる「成長と分配の好循環」と「賃金と物価の好循環」を実現するためにも、特に地方、中小企業・小規模事業者に配意しつつ、生産性向上を図るとともに、官公需における対応や、価格転嫁対策を徹底し、賃上げの原資の確保につなげる取組を継続的に実施するよう政府に対し要望する。
5 生産性向上の支援については、可能な限り多くの企業が各種の助成金等を受給し、賃上げを実現できるように、政府の掲げる生産性向上等への支援の一層の強化を求める。特に、事業場内で最も低い時間給を一定以上引き上げ、生産性向上に取り組んだ場合に支給される業務改善助成金については、対象となる事業場を拡大するとともに、最低賃金引上げの影響を強く受ける小規模事業者が活用しやすくなるよう、より一層の実効性ある支援の拡充に加え、最低賃金が相対的に低い地域における重点的な支援の拡充を強く要望する。さらに、中小企業・小規模事業者において業務改善助成金の活用を推進するための周知等の徹底を要望する。
6 中小企業・小規模事業者の賃上げ実現に向けて、賃上げ税制や補助金等における賃上げ企業の優遇、ものづくり補助金、事業再構築補助金等を通じた生産性向上等への支援の一層の強化に取り組むことが必要である。その際、赤字法人においても賃上げを促進するため、課題を整理した上で、税制を含めて更なる施策を検討することも必要である。さらに、中小企業・小規模事業者がこれらの施策を一層活用できるよう、周知等の徹底を要望する。
7 価格転嫁対策については、「中小企業・小規模事業者の賃上げには労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化が不可欠である」という考え方を社会全体で共有し、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(令和3年12月)・「改正振興基準」(令和4年7月)に基づき、中小企業・小規模事業者が賃上げの原資を確保できるよう、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分の適切な転嫁に向けた取組の強化を要望する。また、行政機関が民間企業に業務委託を行っている場合に、年度途中の最低賃金額改定によって当該業務委託先における最低賃金の履行確保に支障が生じることがないよう、発注時における特段の配慮を要望する。
別紙1、別紙2につきましては、省略いたします。
〇藤村会長
ただ今読み上げていただいた、答申(案)について御意見などございますでしょうか。
(異議なし)
ありがとうございます。ではこの(案)のとおり答申を取りまとめたいと思います。鈴木労働基準局長にお渡ししたいと思いますので、答申を用意していただきたいと思います。
(答申文手交)
〇藤村会長
それでは、鈴木労働基準局長から一言、御挨拶をお願いいたします。
○鈴木労働基準局長
一言、御挨拶申し上げたいと思います。
本年度の目安につきまして、答申を取りまとめていただきまして、誠にありがとうございます。
本年度の調査審議におきましては、最低賃金法に規定された3要素を考慮するとともに、地域間格差の是正にも留意いただきながら、真摯に議論を尽くしていただき、根拠・理由を含め、データに基づいた目安額をお示しいただくことができました。
今後、各都道府県労働局には、目安の位置付けに加え、今年度の答申内容を地方最低賃金審議会の委員に正確に伝えるよう伝達いたしまして、各地方最低賃金審議会における地域別最低賃金額の改定審議が円滑に進められるようにしてまいりたいと考えております。
委員の皆様方の御尽力に心より感謝申し上げまして、お礼の御挨拶とさせていただきます。長時間にわたる御審議、誠にありがとうございました。
〇藤村会長
はい。どうもありがとうございました。その他に何かございますか。
それではこれをもちまして、第67回中央最低賃金審議会を終了いたします。本日はどうもお疲れ様でした。