第9回新しい時代の働き方に関する研究会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和5年6月23日(金) 9:00~11:00

場所

AP虎ノ門 C・Dルーム

議題

労働者の働き方・ニーズに関する調査について(中間報告)
構成員からのプレゼンテーション

議事

議事内容
○今野座長 それでは、時間ですので、ただいまから第9回「新しい時代の働き方に関する研究会」を開催いたします。
 本日の研究会は、会場参加とオンライン参加の併用という形で進めさせていただきます。
 また、今日は大湾構成員が御欠席でございます。
 カメラ撮りはこの辺で終わりにさせていただけますか。
(カメラ退室)
○今野座長 それでは、本日の議題に入りたいと思います。
 今日は、「労働者の働き方・ニーズに関する調査について」の結果について事務局から説明をいただいてから議論したいと思います。
 後半は、私から、これまでの議論を踏まえた整理を少しさせていただいていますので、そのプレゼンをさせていただいて議論をしたいと思っております。
 それでは、まず事務局から労働者の働き方・ニーズに関する調査について、20分程度お話をいただいて議論したいと思います。よろしくお願いします。
○労働条件確保改善対策室長 5月25日の研究会におきまして、労働者の働き方・ニーズに関する調査について調査設計の御説明をさせていただいたところでございます。
 本日は、委託業者より、調査の単純集計及び基本属性別の集計結果について御報告いたします。
 それでは、PwCコンサルティング合同会社のマネジャー森川様、シニアアソシエイトの中西様より御説明いただきます。よろしくお願いいたします。
○受託業者(PwC) PwCコンサルティングの森川と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日は、資料に沿って労働者の働き方・ニーズに関する調査について、単純集計と属性別集計の結果について御報告をさせていただきます。
 1ページ目の「目次」を御覧いただければと思います。
 本日は、大きく3つの観点で御報告をさせていただきます。「分析の対象範囲」「回答者属性の集計結果」「働き方等に関するニーズ等の集計結果」について、順を追って御説明させていただきます。
 早速ではございますが、3ページ目の「分析の対象範囲」について御説明をさせていただきます。
 今回、回答をいただいた回答者の皆様を大きく2つ、「正規・非正規社員」と、いわゆる「雇用関係によらない者」に分割をさせていただいております。本資料では、会社等に雇われている正規・非正規社員のみについて言及をさせていただければと思っております。以降は、属性別に労働者のニーズについて分析をさせていただいているところでございます。
 続きまして、5ページ目以降、「回答者属性の集計結果」について御説明をさせていただきます。5ページから8ページまで、属性自体の御説明をさせていただいております。加えて、以降、各属性の中で一番高いカテゴリーについては青線を引かせていただいております。
 5ページ目で申し上げますと、一番上のグラフでございます。「年代別」というところでございますが、青線を引かせていただいている40代の皆様が例えば最も多いといったところで、以降も青線を引かせていただいます。
 ページをめくっていただきまして、6ページ目では「業種」について集計結果を御説明させていただいております。こちらで例えば申し上げると、製造業の方々が回答者としては最も多く、19.4%でございます。
 7ページ目については「職業」といったところで、職業別で見ると事務的職業の方々が最も多く回答をいただいております。
 8ページ目については「従業員規模」、回答者の皆様が所属されている企業の従業員規模と「年収」帯といったところで、従業員規模別で見ると1,000人以上の企業様に所属されている方が最も多く、年収別で見ると300万円未満の方々が最も多く御回答をいただいています。
 こういった方々が回答をいただいたデータについて、以降、働き方等に関するニーズについて御説明をさせていただきます。
○受託業者(PwC) それでは、続きまして「働き方等に関するニーズ等の集計結果」について、同じくPwCコンサルティングの中西より御説明させていただきます。
 資料の10ページを御覧ください。
 ここからまず1点目、「希望する人事管理の方針」について、単純集計結果でございます。
 まず1つ目、左上のグラフです。「昇進を決めるにあたって、年齢や勤続年数よりも、成果や能力を重視すべき」か。こちらが「そう思う」「どちらかといえばそう思う」、これらを合わせて、そう思う側の数値として71.3%となっております。
 同様に、「異動は、会社の方針よりも個々の従業員の意見や希望を重視して決定すべき」については71.5%、「賃金は働いた時間より成果に基づいて決めるべき」については、63.6%、「社員の雇用安定を最優先に考えるべき」については74.8%となっております。
 1ページ飛ばしていただきまして12ページを御覧ください。
 「賃金は働いた時間より成果に基づいて決めるべき」というところについて、業種別の属性別集計を取っております。こちらは、「今後、賃金は働いた時間より成果に基づいて決めるべきか」、業種別では学術研究、専門・技術サービス業にそう思う側の回答が最も多く70.9%となっております。
 13ページは、同じく「賃金は働いた時間より成果に基づいて決めるべき」について、そう思う側の回答を年収別で見ております。こちらでは、年収が高いほどそう思う側の回答の割合が高くなるという傾向がございました。
 続いて、14ページを御覧ください。
 こちらは、「社員の雇用安定を最優先に考えるべき」というところについて、年収別の比較をしております。年収別では、300万円未満がそう思う側の回答割合が最も高く、79.2%となっておりました。
 1ページ飛ばしていただきまして16ページを御覧ください。
 こちらは「希望する仕事の裁量」ということで、今後、仕事に対してどのような希望を持っているかということについて、仕事の手順を決定する際の裁量を増やしていきたいか、時間配分を決定する際の裁量を増やしていきたいか、勤務場所を決定する際の裁量を増やしていきたいか、この3点について単純集計の結果を16ページに掲載しております。
 手順の裁量については、増やしていきたいについて「そう思う」「どちらかといえばそう思う」のそう思う側が53.3%、時間配分については54.4%、勤務場所については47.2%となっておりました。
 17ページは、手順を決定する際の裁量を増やしたいかについて職業別で見ております。職業別では、管理的職業がそう思う側の回答が最も高く、75.2%となっておりました。
 18ページは、同じく手順を決定する際の裁量を増やしていきたいかですが、年収別で見ていきますと、年収は高いほどそう思う側の回答の割合が高くなる傾向が見られました。
 19ページは「仕事の時間配分を決定する際の、裁量を増やしていきたいか」ですが、職業別に見てまいりますと管理的職業の方々がそう思う側が最も高く74.3%、次いで専門的・技術的職業は63.2%で2番目となっておりました。
 続いて、20ページを御覧ください。
 同じく時間配分の裁量について、こちらは年収別に比較をしております。こちらも、年収が高いほどそう思う側の回答の割合が高くなる傾向がございました。
 21ページは「今後、勤務場所を決定する際の、自分の裁量を増やしていきたいか」について、業種別で比較をしております。結果、学術研究、専門・技術サービス業が最もそう思う側の回答の割合が高く、63.2%でございました。
 続いて、22ページを御覧ください。
 同じく勤務場所を決定する際の裁量ですが、今度は職業別で比較をしております。職業別では、管理的職業が最もそう思う側の回答割合が高く、65.1%でございました。
 続いて、23ページを御覧ください。
 同じく勤務場所についての裁量でございますが、こちらは年収別で比較をしております。年収が高いほど、そう思う側の回答の割合が高くなる傾向が見られております。
 続いて、24ページを御覧いただければと思います。
 こちらは、希望する将来の働き方について集計をしております。単純集計の結果として「なりゆきにまかせたい」が31.3%。「わからない」が25.2%、この2つを合計しますと56.5%というような単純集計の結果でございました。
 続いて、25ページ御覧ください。
 同じく、将来どのような働き方をしたいかという問いについて職業別の比較を行っております。「なりゆきにまかせたい」「わからない」、この2つを合計した割合が最も高くなっておりますのが、運搬・清掃・包装等の職業で78.3%となっていました。
 一方で、「会社幹部、管理職としてマネジメントの仕事に就きたい」という回答は管理的職業の方が最も高く32.2%、「専門的な知識・技術を活かせる仕事に就きたい」については専門的・技術的職業が最も高く、50.1%となっておりました。
 26ページも同様に「将来、どのような働き方をしたいと思うか」について、会社の規模の別に集計を取っております。「会社幹部、管理職としてマネジメントの仕事に就きたい」と、「専門的な知識・技能を活かせる仕事に就きたい」、この2つを合計した割合については企業規模が大きくなるにつれて高くなっていくというような傾向がおおむね見られております。
 27ページも同様、将来の働き方について、年収別で比較をしております。
 年収別で見ると、年収帯が高くなるにつれて、先ほどの会社幹部、管理職としてというところと、「専門的な知識・技能を活かせる仕事に就きたい」の合計の割合が高くなっていく傾向が見られております。
 28ページは、今後仕事の時間をどのように変えたいかということで、「増やしたい」「少し増やしたい」といったところを見ております。
 単純集計の結果としましては、「増やしたい」「少し増やしたい」を合計した増やしたい側の回答の割合が14.5%となっております。
 続いて、29ページを御覧ください。
 仕事の時間をどのように変えたいかについて年代別に比較をしております。結果として、20代が増やしたい側の回答が最も高く、20.8%となっておりました。
 続いて、30ページを御覧ください。
 ここで問いが変わりまして「1つの企業で⾧く働くことをこれまで以上に重視するか」という問いに対しての単純集計になります。こちらも「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」を合わせたそう思う側の回答の割合として、単純集計では57.9%がそう思う側となっておりました。
 31ページは「1つの企業で⾧く働くことをこれまで以上に重視する」かについて年収別に比較をしております。
 ページの右側のほうのグラフを御覧いただきますと、年収が高くなるほどそう思う側の回答の割合が高くなる傾向が見られております。
 32ページからは、「希望する労働時間制度」についての集計となっております。
 まず、単純集計ですね。通常の勤務時間制度について「働きたい」「やや働きたい」、この2つを合わせた働きたい側の合計値としては61.8%、フレックスタイム制度については53.2%、変形労働時間制度については37.3%、みなし労働時間制については30.8%、労働時間制度の対象としないについては27.4%となっておりました。
 33ページは、通常の勤務時間制度とフレックスタイム制度について、年代別に「働きたい」というところの割合を取っております。
 結果として、通常の勤務時間制度については60代が最も希望が高く、65.7%でした。一方で、最低の数値となっていたのが20代で55.3%、グラフの右側のフレックスタイム制度については年代別で言うと40代が最も高く、55.7%でございました。
 34ページは、「変形労働時間制度」と「みなし労働時間制度」についての希望を年代別に取っております。
 どちらも、働きたい側の割合はいずれの年代においても一定程度というような形というところです。
 35ページですが、「労働時間制度の対象としない」、こちらについても年代別で見ていきますと、一定程度、どの年代においても働きたい側の回答が発生しているという状況でございます。
 36ページは、業種別で今まで言及しておりました勤務時間制度について分析をしております。
 36ページのグラフ右側、フレックスタイム制度について業種別で見ていきますと、情報通信業が最も働きたい割合が高く、65.1%となっています。
 続いて37ページ、「変形労働時間制度」と「みなし労働時間制度」について、これも業種別に比較をしております。
 変形労働時間制度については、電気・ガス・熱供給・水道業が最も高く47.9%、みなし労働時間制度では学術研究、専門・技術サービス業が最も高く38.5%となっております。
 続いて38ページ、「労働時間制度の対象としない」というところについて働きたい希望を業種別で見ております。
 こちらについては、金融業、保険業が最も希望の割合が高く、36.2%でございました。
 40ページからまた問いが変わりまして、「リモートワークの希望」について、単純集計の結果を見ていきますと、リモートワークをしたいと思いますかということについて「そう思う」「どちらかといえばそう思う」、この2つを合計しますと39.4%が希望しているという状況です。
 41ページを御覧ください。
 こちらは、リモートワークについて年代別の集計をしたものでございます。年代別に見ますと、30代がリモートワークについて希望の、そう思う側の回答の割合が最も高く、45.9%でございました。
 続いて、42ページを御覧ください。
 こちらもリモートワークの希望についてですが、業種別に集計をしておりまして、そう思う側の回答が最も高いのが情報通信業で70.3%でございました。
 一方で、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」を合計した、そう思わない側の回答として最も高かったのは医療福祉で74.7%でございました。
 43ページですが、こちらもリモートワークについて職業別に希望の割合を集計しております。
 職業別では、管理的職業が最もそう思う側の回答が高く、54.7%でございました。
 44ページは、リモートワークについて年収別に比較をしております。年収については、高くなるにつれてリモートワークの希望を、そう思うというふうに回答している割合が高くなる傾向が見られました。
 46ページから問いが変わりまして、「今後の健康確保の主体者」について、企業よりも働く方個人が自身の健康確保を行っていくべきと思うかということについて、そう思う側の回答が73.2%でございました。
 47ページは、健康確保の主体者について職業別に集計を取っております。
 最も多かったのは管理的職業で80.9%、逆にそう思わない側については建設・採掘業が最も高く、36.8%となっておりました。
 それでは、1ページ飛ばしていただいて50ページを御覧ください。
 また問いが変わりまして、「今後、仕事よりも仕事以外の生活を大切にするか」についてですが、そう思う側の回答が74.3%となっております。
 51ページは、仕事以外の生活をこれまで以上に大切にするかについて年収別に見ております。
 こちらでは、どの年収帯でもそう思う側の割合が一定程度というような形になっております。
 52ページからまた新たな問いになっておりますが、「労働組合が企業と交渉する際に力を入れてほしいこと」はどのようなことか。
 こちらは、複数回答で集計をしております。単純集計としては、賃金、労働時間等の労働条件についての回答が最も多く、41.6%となっております。
 続いて、53ページは同様の設問について雇用形態別に比較をしております。
 結果として、先ほど単純集計で最も多かった「賃金、労働時間等の労働条件」については、正規の職員は39.8%、非正規の方は44.6%となっておりました。
 一方で、「力を入れてほしいことはない」ということについては、正規の方が29.3%、非正規の方が33.5%でございました。
 54ページは、「交渉力」についてです。
 こちらは、今回の調査において、個人として勤め先と労働条件、仕事内容について企業と交渉、話合いができるかということと、労働条件等が希望に合わない場合には転職することができるかというところを聞いております。それぞれ、そう思う側について、まず仕事内容について交渉、話合いができるについては22.0%、転職することができるについては32.8%でございました。
 続いて、55ページを御覧ください。
 こちらは、その交渉力のうち仕事内容について交渉や話合いができるかというところについて年代別に比較をしております。そう思う側は30代が最も高く23.8%、一方でそう思わない側の回答割合は年代が高くなるにつれて高くなっていくというような傾向がございました。
 56ページですが、こちらも交渉、話合いができるかという点について年収帯別に比較をしております。
 結果、年収が高くなるにつれてそう思う側の割合が高くなる傾向がございました。
 続いて、57ページは労働条件、仕事内容が希望に合わない場合には転職することができる。こちらについて、職業別に見ております。
 輸送・機械運転の職業についてはそう思う側の回答が最も高く、40.0%となっておりました。
 最後に58ページを御覧ください。
 こちらは、先ほどの転職することができるかということについて年収別に比較をしております。結果を見ていきますと、年収が高くなるについて転職することができるについてそう思う側の回答の割合が高くなる傾向がございました。
 駆け足ではございますけれども、労働、働き方等に関するニーズの集計結果は以上となります。
○労働条件確保改善対策室長 本日の御説明は以上でございますが、現在、労働者グループ別のクロス集計につきましても実施しているところでございますので、その結果につきましては今後の研究会において改めて御報告させていただきます。
 以上です。
○今野座長 それでは、議論に入ります。感想でも質問でも構いません。水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 労働基準法、労働時間規制等との関係で思ったことを感想として言います。
 12ページ、13ページのところで、特に賃金とのリンク、要は労働基準法で労働時間管理は何をしているかというと、時間外、休日労働、深夜労働に対して割増し賃金を払わなければいけないという義務づける範囲をどうするかというところで、その後の裁量は、人事労務管理の中でそれぞれ企業が工夫すればいいという話だと思いますが、労働時間規制との関係でいうと、12ページ、13ページのところを見てみると、業種別で見ても年収別で見ても、その以降のところと比べてそんなに差がない。
 要は、この業種だから賃金は成果にしてほしいとか、労働時間に基づいて払ってほしいとか、年収別で見てもそんなに差がないので、割増し賃金規制を外すか、外さないかというときに、客観的にこの職種だから、年収が幾ら以上だから外すか、外さないかということよりは、きちんと交渉できるインフラをつくって外すか、外さないかを決める。客観的にどこと、どこと、どこを外すということになりやすいかどうかというと、働いている人の意識はそう単純なというか、ステレオタイプのものではないということが言えるのかなというのが1つ目です。
 続けて、感想をお伝えします。
 1つ疑問が、37ページの「みなし労働時間制度」で、これもどうするかということとの関係です。37ページ右側の「みなし労働時間制度」を今後取りたいと思っている人たちの青いところと、そうではないところ、これは差が業種別に大きいかどうかというのは微妙なところだと思いますが、特に業種で出ている青いところというのは現行制度の適用との関係でどうなのかと思いました。
 我々研究者は、みなし労働時間制度を取っているところが多いので、やってみて、そんなに変える必要はないなと思っている人の数字がここに多く表れているのか。今、使っていない人というのは、どういうふうな制度でどうしたほうがいいかという希望があまりよく分からないので数値が相対的に小さく出ているのか。そこの現状、現行制度との関係が気になりました。
 もう一つ思ったのが、次の「労働時間制度の対象としない」です。これは、制度でいうと管理監督者などの適用除外の関係かと思いますが、実はみなし労働時間制度と、適用除外は、数字が比較的似ています。そういう意味では制度として今みなし制度と適用除外は分かれているけれども、意識としては同じような意識を持たれているというので、制度設計のときにどうするかということを考えるヒントになると思いました。
 加えて、健康確保の特に47ページについてです。青や赤で囲まれている部分がありますが、自分で健康確保を行っていくべきか、それとも「そう思う」か「そう思わない」かというところで見ると、実は我々が想像している以上に差がそんなについていないという気がしました。ある意味で、個人でやっていくべきだと思っている人が、特定の業種に多いのか、多くないのかと思ったら、そんなに多くないなと。それで、この制度設計をどうするかというときも、やはり業種別に見るというよりも制度設計全体をどうするかというところがポイントになってくると思いました。
 最後に、56ページです。これは交渉や話合いといった労働時間等の制度設計をするときに、この人たちは個人の交渉力があるから強硬的な規制を外していいとか、この人たちは交渉力がないからやはり外してはいけないと見るときに、年収が高いからもう外してもいいんじゃないかという意見が時々制度設計の議論で出てきますが、そんなに年収で変わっていないということがわかります。
 逆に、1000万円以上でも交渉や話合いができるかというと、できないという人がかなりたくさんいらっしゃるので、ここも制度設計においてあまり安易に年収が幾ら以上だから外してよくて、年収が幾ら以下だったら外してはいけないという切り貼りをすることが、意識として難しくなっているんじゃないかということがうかがい知れたかと思います。
 ざっと見て思ったところを言っただけです。ありがとうございます。
○今野座長 ありがとうございました。
 PwCの方に質問です。みなし労働時間制度で実際に取っている人と、取っていない人がいるじゃないか。それによって反応は当然違うだろうという点について、集計上、対応できるのでしょうか。
○労働条件確保改善対策室長 事務局でございます。
 労働時間制度との関係でいいますと、今回調査結果をお示ししたものは、今後どういった御希望を持たれていますかという点での集計をさせていただいておりまして、御指摘のとおり、現行制度でどういう適用関係になっているかというのは、細かく見れば御本人ごとに違ってくるかと思うのですが、今回お示ししたものの中ではあくまでも今後の希望ということで示させていただいているものになります。
○今野座長 調査表の中で、現在どういう労働時間制度でありますかというのは聞いているわけですか。
○労働条件確保改善対策室長 はい。
○今野座長 今、水町構成員が言われたことに対応するデータは、集計をしようと思えばできるということですか。
○労働条件確保改善対策室長 データはございますので、今後の検討に当たって必要に応じて確認をさせていただければと思います。
○今野座長 それから、みなし労働時間制度と、労働時間制度の対象としないが同じ制度と捉えられているんじゃないというのがもう一点です。
○水町構成員 2つあって、本人の認識がよく分かっていないから混同して答えているんじゃないかということと、本人はよく分かっていても結局、同じような認識を持っているから結果的に似たようになったのではないかと考えています。
○今野座長 ということは、本人が分かっていてそう言っているのか、分からなくてそう言っているのかということは分からないので、みなしをしたいという人と、対象外とするということを答えた人の関連は、集計はできるということでしょうか。
○受託業者(PwC) はい。
○水町構成員 言いたかったことは、制度設計として適用除外を選択した人と、みなし制度を選択した人が業種別とか属性別にすごく違った場合には、意識としても制度別にするという意味があるかもしれないけれども、似たような答えを結果的に出しているとすれば、制度として分ける必要があるのかというところのインプリケーションです。
○今野座長 それは検討してください。おそらく、みなしも時間管理外もどの業種が多いかというと、結果は大体同じ業種だと思っています。
○今野座長 戎野構成員、どうぞ。
○戎野構成員 52ページ以降の労働組合のところになりますが、労使コミュニケーションを考えたときにこれらの調査結果はいろいろな示唆があると思いました。
 まず、52ページで労働組合の役割や期待を考えたときに、いろいろな要望がある中で「力を入れてほしいことはない」という回答が3割もあることをどう読むかということが重要かと思いました。
 いろいろなことをやってくれているから大丈夫ということもあるでしょうし、今さら言っても意味ないよというのもあるかと思います。その両方が、力を入れてほしいことはないというところに一緒に入っているような気がいたしました。
 それからもう一つ、54ページの交渉力について、勤め先の労働条件・仕事内容について交渉や話し合いができるというよりも、希望に合わない場合は転職することができるというほうの割合が多いということに驚きました。
 交渉や話合いの中身が非常に重要だと思っていて、転職になると比較的個人で動く個人の力というところが大きいと思います。もちろん情報量が様々なルートから入ってくるということもありますので、その中には労組の役割もあるのかもしれませんけれども。
この交渉や話合いの在り方に関しては、どのような形で実現しているのか興味があります。
 もちろん、上司と直接お話をするというようなことが多いにしても、労組のほうから1on1ミーティングをはじめ、相談をもっと重視してくれというようなことを労使協議の場で、あるいは様々な懇談会の場で要望しているということはたくさんありますので、こういった話合いや交渉というのがどういった形で実現しているのかなというところです。
 すなわち、労働組合があるのか、あるいは労働組合が何か後ろでバックアップしているのか、あるいはあくまでも個人の力なのかというようなところが、より分かると、労使コミュニケーションの在り方を今後検討していく上で意味があると思った次第です。
○今野座長 ありがとうございます。
 特に後者の点は重要だと思うんだけれども、その点がどうなっているかということを今回のデータから見るということは残念ながら難しいと感じています。なぜならば、そのような調査項目を入れていなかったからです。規模別にはどうなっているか、業種別にどうなっているか等と、周辺から何とか触ってみてどこまでいけるかということだろうと思いますけれども、そういうことでいいですか。
 何か今の点についてコメントありますか。
○労働条件確保改善対策室長 回答者については、組合があるかどうかは聞いていますので、そういった観点からの確認はさせていただければと思います。
○戎野構成員 組合が役に立っているかどうか、聞いている設問があったと思いますが、なかったでしょうか。
○今野座長 組合がある、組合の有効度、このクロスを取ってみるということですかね。
○労働条件確保改善対策室長 それは項目としてはございますので、御指摘の点も踏まえて対応させていただきたいと思います。
○今野座長 伊達構成員、どうぞ。
○伊達構成員 ありがとうございました。
 これからの働き方という研究会の大きなテーマを考えたときに、年代による比較は重要になってくるのではないかと考えております。
 今回の結果の中で、年代による比較が出ているものもあれば、そうでないものもあります。出ていないものについて、そんなに際立った差が見られなかったのかということを質問させていただきたいと思います。それが1点です。
 もう一点が、水町構成員がおっしゃった労働時間制度の対象外と、あとはみなし労働時間に関係してというところなのですが、調査票の中に、それぞれの労働時間の制度についてどの程度知っているのかという質問があったかと思います。覚えている限りで大丈夫なのですが、どの程度知っていると回答していたかを教えていただきたいです。
 この2点です。お願いします。
○労働条件確保改善対策室長 年代について、クロスで取っているものでお示ししているものと、お示していないものがあるという御指摘でしたけれども、データのほうは御指摘いただいたとおり、確認したときに傾向が見られたものと、そうでないものがありまして、特にこの研究会との関係で御議論いただけそうなものをお示しをしています。
○伊達構成員 すみませんが、もう一度確認させていただければと思うのですが、出ていないものについてはそんなに特徴的な差がなかったということですか。
○労働条件政策室長 事務局でございます。
 伊達構成員のおっしゃるとおりで、際立った特徴が出ていないものにつきまして今回お出しはしていないという形になっておりますので、逆に言うと、年代別である程度、特徴的だなと考えられたものについて、今回のご報告でお出しをしているということです。
 ただ、単純集計でございますので、どういう形が出てくるかということにつきましては、クロス集計の際にまた検討させていただきたいと思っております。
○伊達構成員 ありがとうございます。
 思ったよりも年代による差がないんだなというのが感想です。例えば24ページに「なりゆきにまかせたい」とか「わからない」というところは結構、年代による差があると思ったのですが、ここに挙げられていないということは、年代による差は実はそこまで大きくないんだなというのは一つの驚きでもあったので、お伺いさせていただきました。
○今野座長 もう一つの点については、いかがでしょうか。
○受託業者(PwC) 御質問をいただいた各種労働時間制度についての理解度が大体どれくらいだったのかについてなのですけれども、単純集計ベースで、各種制度について制度の内容を知っている、聞いたことはあるが内容は知らない、聞いたことがない、というような3点の選択肢で聞いております。
 フレックスタイムについては、内容を知っているという方が53%程度。
 変形労働時間制度については、知っているという方が22%程度。
 裁量労働制については、知っている方が17%程度。
 裁量労働の中でも、企画業務型の方については14%程度。
 事業場外みなし労働時間制については、内容を知っているのは14.5%。
 高度プロフェッショナル制度については、制度の内容を知っている方は11%。
 時間管理なしについては15%程度。
 このようになっておりますので、フレックスのところが少し高いのですけれども、大体が15%から20%の間ぐらいで、高度プロフェッショナル制度は10%程度というような形になっております。
○伊達構成員 ここの割合を上げていけるといいなと思いました。制度設計上、よりシンプルなものになっていくといいのではないかと思いました。
○今野座長 安部構成員、どうぞ。
○安部構成員 ありがとうございます。
 大変、興味深く拝見させていただきました。前回の委員会で武田構成員と私からお話させていただいたとおり、企業が競争力を上げ続けて行かなければならないと言う危機感がある中、できるだけ個の力を発揮してもらうために、あらゆる制約を解放して、内発的な動機を存分に解き放ち、自主的に行動してもらおうと思っている割に、意外と社員のほうはまだその変化に対して保守的な部分があるという認識を持ち、これが全体を通した現状かなと言う、多少複雑な感想を持ちました。
 私が日頃受けている印象では、もっと自分で何かをやりたいとの思いに基づく、現状に対する不満というのが何らかの形で出てくるのかと思っていましたが、意外と新しい制度に対する期待や要望というより、現状に対してある部分で諦めているのか、安心しているのか、そう言った状況を表している印象を受けた次第です。
 仮にこれが現実だとすると、これを様々な人事制度で変えていこうとするのではなく、なぜこのような意識の人たちが今、多数を占めるようになったのか、その本質的な要因から向き合っていかないと、例えば法規制を変えたり、会社が制度を整えたりするだけでは、大きな変化は期待できないのかなと考えてしまいました。その意味でも、いろいろな示唆に富んだ統計結果だと思いました。
 具体的には、例えば、企業にとっては企業風土の醸成であったり、安心感の確保であったり、新しいことにチャレンジする意義であったり、成長に対する意欲促進であったり、今回の調査結果を踏まえて、やらなければならないこと、できることがまだいっぱいあるのではないかと感じた次第です。
 同時に、私には世代による差というものが企業の活動を通して明らかに見えてきており、自分でキャリアを選ぶとか、会社を選ぶ、辞めていくなどの行動も含め、若い世代の人たちにはまだ現状に対して何とかしようというエネルギーが行動につながる傾向が高いような気がしています。統計上、あまり有意な差がなかったとしても、それぞれの質問について、もし年代ごとの違いというのが見えるようだと、個人的には非常に関心を覚えると思った次第です。
○今野座長 ありがとうございました。
 今回年代別の集計は一部しか出ていませんし、明確な傾向もないかもしれないけれども、もう少し何か注意深く分析してほしいという要望だと思いますので、その辺はお願いをしたいと思います。
 小林構成員、どうぞ。
○小林構成員 ありがとうございました。
 職業性ストレスモデルで考えますと、労働時間の量的な負担と、ここで紹介していただいている裁量とのバランスが大事だというところがあります。例えば管理的な職業に就いている方ですとか、あとは研究職の方などは、時間的な負荷も高いですが、一方で裁量も高い。そこでバランスが取れているといった解釈もできると思います。
 業種別で見ても、勤務場所を見てみますと、金融業、保険業、それから研究などはそこの裁量を求めていて、かつ、労働時間の柔軟性も求めているということで、理論的なところと合致するなと思って拝見していました。
 一方で、そこが合致していない人に対してどのようにフォローしていくかというところは、割合としても少なくないので、そこは継続して考えていかないといけないところかと思います。
 裁量で見ていきますと、裁量がもっと必要だと思うかというような質問ですけれども、これは裁量を得て、それを活用できると思うかというところも含むと思うんです。ですから、管理的な職業に就いているような方は、裁量を得てそれを活用できると思うので、必要だと答えている一方で、裁量が必要だと思っていない人の中には、想像がつかないですとか、発揮できると思わないから必要と思わない、といった回答も混ざるのかもしれません。今後、労働時間の悪影響をマネージするためには裁量を高めていくスキルがより必要になってくるかと思いますので、それぞれが裁量高く仕事ができるような設計ですとか、教育というのは必要なのかなと思いました。
 健康確保のところの解釈でちょっと確認をさせていただきたいのですが、業種別で管理的な職業の方が個人で健康確保を行っていくべきだと思う割合が高いということですが、この回答のスタンスとして、管理的な職業に就いている方は、企業寄りの立場といいますか、会社として個人が管理をしていくべきか、というふうに考えて、それで割合が高くなっていくという解釈もできるのかなと思います。
 一方で、生産工程などの作業をしている方は、個人、自分自身の健康確保を自分でやるべきかというふうに問われると、企業に負担してもらいたい。そのように、ちょっと立場による解釈というのが混じってしまうのかなと思いましたので、年代などとのクロスも見てみたいです。
 あとは、先ほどの金融保険とか学術研究などの業種別では健康確保は個人でやるべきだと答えている人の割合の差がなかったというところかとも思うのですけれども、先ほど水町構成員にも御指摘いただきましたように、個人で行っていくべきだと考えている人は、全体として少なくないという点は、大きな示唆になるのではないかと思いました。
 以上です。
○今野座長 ありがとうございました。
 健康確保について、特に管理的職業の人は立場として答えているのではないかということについては、いかがでしょうか。
○労働条件政策課長 事務局でございます。
 制度設計の段階で聞いておりますのは、働いている立場という形で聞いておりますので、そういう意味では管理的職業というので働いている方が、働く立場上どうお考えかという考え方をお答えいただいているつもりではございます。
 絶対に今、小林委員がおっしゃったことが入っていないかと言われると、そこは限りではございませんが、基本的な制度設計の聞き方としましては、働いている立場でお答えいただいているという形でございます。
○今野座長 47ページに設問の文章が出ていますけれども、「あなたは今後、企業よりも、働く方個人が自身の」と聞いていますね。そうすると両方入ってしまう可能性があるんですね。
○労働条件確保改善対策室長 ほかの質問全体の中の位置づけとしましても、ほかの質問が御自身の希望を聞くような質問の中で同じように聞いていますので、基本的には今、説明しましたとおり、働く方としてどういった御関心を持っていらっしゃるかというのをお聞きしているものではございますが、ただ、読み手がどう理解されるかというところまで個別になかなか評価することは難しいかと思っております。
○今野座長 武田構成員、どうぞ。
○武田構成員 1つだけ質問です。最初の属性のところで意外と非正規の方が4割近くいらっしゃるじゃないですか。その割に、その後のところにはこのことが全然出てきていなくて、ここが結構回答に影響しているんじゃないか。つまり、見たい結果が見えていないので、そこに一縷の望みを持ちたいと思っています。
 例えば、もっと変化を、転職も前向きに考えていたり、現状を打破したいと思っていたり、別にワークライフのバランスのところはいいんですけれども、日本がこれから働き手として求めている人物のプロファイリングがもうちょっと何かここで出てくるようなことで、そのときに多分、正規と非正規のところは結構大きなキーになるのではないかと思っているのですが、出ないのであれば仕方ないですが、そこもちょっと見てみたいなという思いがあります。よろしくお願いします。
○今野座長 今回は調査結果が出ていないので、今後の研究会での報告をよろしくお願いします。
 それでは、前半の調査の結果についてはこの辺にさせていただいて、残った時間は私からプレゼンをさせていただいて皆さんと議論をしたいと思います。
 まず、これを作るときの思いをお話しさせていただければと思います。
 最初は高邁な思いはなくて、皆さん構成員の人たちがプレゼンしていただいたように、自分は何もしないのかという後ろめたい気持ちから何かしなければという思いでございました。では何をやろうかと思ったんですけれども、新たに何か私の考えをお伝えするよりは、ここで議論された内容を一度整理したらどのような内容になるだろうかと思い、整理しました。
 皆さんの発表や議論の中から私が重要だと思ったコンセプトとか考え方に関わるキーワードを拾って、それをつなげてストーリー化する方法で整理をしました。
 ですから、これから私がお話しする内容は、詳しいことはあまり書いていなくて、キーワードに基づくとこうなりますよというような形で整理をさせていただきました。
 私の個人としてこういう形で整理したらどうだろうかということだったので、タイトルにある通り、私個人としてこれまでの議論の内容を整理したらこうなりますということで資料をつくらせていただきました。
 それでは、次のページをお願いします。
 まず、「企業と労働者をめぐる環境変化」ということで、環境変化がこうなって、それぞれの主体はどういう戦略を取ろうとしているのかというつくりにしてあります。企業を取り巻く環境変化については、市場競争のグローバル化、急速に進む技術革新、高まる市場の不確実性などが挙げられます。これは言ってみると製品市場に関する環境変化ですが、もう一つの労働市場については、労働力人口の減少下で人手不足が深刻化しているという環境条件の変化もあります。
 それを受けて企業は、一種の経営戦略としてこういう戦略を取るということですけれども、イノベーションの促進とか、事業構造の再編とか、言ってみれば経営の高付加価値を進める。さらに、人手不足の深刻化等を背景にして、デジタル化等による経営効率の向上を図る。こういう戦略を取っていきます。
 他方で、労働者については、育児・介護等の両立をしなければいけないなど、働く上で制約を持っている人たちが非常に増えているという環境変化と、職業生活が非常に長期化しているという環境変化が大きくなっています。
 それを受けて、働く価値観の変化、言ってみると働く上での基本戦略については、生活と仕事の両立志向を高めているとか、働く場所・時間に縛られない働き方への希望を高めている。また「自分のキャリアは自分で」という意識が高まり、高度人材を中心にしたプロ志向が非常に高まっている。ただ、そういう志向が強まる一方で、いわゆる伝統的な働き方とかキャリア形成を望む労働者はまだまだいるという状況だと思います。
こういうふうに企業と労働者が戦略を変えてくると、それを受けて、当然労働者と会社の関係は変わってくるということになります。
 まず、会社が労働者に求めることが変わってきている。それをここでは人材育成面と、能力発揮の面と、キャリア形成の面で分けて書いてありますが、「人材育成の面」では、能力の高度化、経営のパーパスとかミッション・ビジョン・バリューの内部化を進めてほしいとか、高いエンゲージメントを持ってほしい。
 「能力発揮の面」では、付加価値がつくれるような仕事と働き方をしてほしい。そういう意味では、高度化してほしい。さらに、自ら考え行動して、柔軟な発想で革新を生む働き方をしてほしいという傾向を強めている。
 「キャリア形成の面」では、自律してキャリアが形成できるようになってほしい。
これらが企業の労働者に求めることの変化であり、人材戦略はこういう方向に移っていく。
 今度は、労働者が会社に求めることも変化をしていまして、先ほどの価値観の変化を受けて働き方の柔軟化と多様化を求める。
 さらに、キャリア形成の脱組織化志向を強める。具体的には、能力開発やキャリア形成の「自律化」を強める、あるいは組織内に限られない成長できる仕事経験とかキャリア形成を重視するような職業選択をする傾向を強める。
 こういう傾向の人たちが増えていると思いますが、先ほどの調査の結果などを踏まえても、働き方とキャリア形成への伝統的なニーズと、今、言ったような新たなニーズが混在するというのが現実かなということも考えておかなければいけないということです。
 こういう会社が労働者に求めることと、労働者が会社に求めることが変わってきますから、そうすると最後に労働者と組織の関係は次のように変化するだろう。
 従来は「労働者は会社の指揮命令に従って働く」という関係が非常に強かったと思いますが、これからは「労働者は自らに合った働き方・キャリア形成を指向しつつ会社に貢献し、会社は労働者の働き方・キャリア形成を支援しつつ労働者の活用をはかる」という関係に変わってくるのではないかとここでは整理をしています。
 こういうふうに労働者と会社の関係が変わると、当然雇用管理は変わるということになります。
 まず、「雇用管理の考え方」は、先ほど言った関係の変化を踏まえると、労働者のニーズとか視点に沿った雇用管理の構築を考えていかなければいけないと思います。そういう必要性が高まるのではないか。そうすると、「労働者を管理する」というやり方から「労働者の成長と働きがいを支援する」とか、「労働者の自己成長と組織への貢献の両立を図る」とかという方向に少しずつ変わっていく必要があるだろう。
 そうすると、そのためには「画一的」な雇用管理から「多様性を生かす」雇用管理へ、あるいは自律的な能力開発とか、キャリア形成に「火をつける」雇用管理ということが非常に重要になってくるだろうと思います。
 そういう考え方を踏まえて「雇用管理の方向」です。労働者が働き方、仕事、キャリアを「選べる」雇用管理という方向に持っていく必要があるだろうと思います。
 ここでは、以下、例示が書いてあります。
 配置政策について見ると、これは言ってみれば能力発揮の面に関わるわけですが、会社主導型から労働者の希望をもっと配慮をするような政策へ転換していくことが必要だろう。例示として、社内公募とか社内兼業みたいなものを書いておきました。
 もう一つは、能力開発については労働者が自主的に選択できるような能力開発体制の構築が必要だろう。
 さらに、キャリア形成については「選べる」ようにするために複線型のキャリア・パスというものを構築する必要があるだろうということになります。
 こうやって「選べる」雇用管理施策をつくったときに、それを支える基盤みたいなものをつくらなければいけませんので、それを②に書いておきました。
 1つは「人材育成、働き方、キャリアの見える化」を進めようということです。具体的には、契約でちゃんと見える化をするという考え方を浸透させる。あるいは、企業の人材育成の考え方とか、施策とか、仕事とか、スキルとか、キャリアというものの見える化、あるいは情報開示を進める。あるいは、人材データベースの整備を図るというようなプラットホームが必要だろう。
 もう一つは、労働者の自律的なキャリア形成を支援する基盤というものも整備する必要があるということで、そこでは「1on1ミーティング」と例示で書いてありますけれども、労使コミュニケーション体制、労使が対話する体制の整備というものが必要だということと、キャリアと働き方が多様化しますので、それに対応した新しい「公正・公平」な考え方の構築が必要だろうということになってきます。これも一つの大きな基盤になるということです。
 次に、今回のテーマである労働基準行政をどうするのかということになります。この労働基準行政を考える上で2つの観点が必要かと思うのです。1つは労働基準行政で何をするのかということと、もう一つはその基準が決まったときにそれをどうやって履行するのかという2つの面があると思います。ここの部分は、前者の何をするのかという点について整理してあります。
 これまでいろいろ言ってきた中での新しい変化として、自律的な働き方とキャリア形成を望む労働者が増えていますよということを言ってきたわけですが、他方では働き方とかキャリア形成に「不安」を抱えながら働いている人とか、伝統的な働き方・キャリア形成を希望する労働者が多数存在する。こういう現実を踏まえなければいけないだろうというのが最初の3行です。
 その上で「労働基準行政の役割」ですけれども、1つは従来型です。変わることのない役割、これをここでは「守る労働基準」と書いておきました。つまり労働者の「安全・安心」を守ることです。その際に注意すべきことは、先ほど言った自律的な働き方やキャリア形成を望む労働者が増えているといっても、その人たちについてもやはり「安心・安全」は非常に重要だということはちゃんと踏まえなければいけないということです。最後の2行がそれに当たります。
 つまり、働く環境の不確実性が高まる中で、自律的な働き方・キャリア形成を望む労働者であっても「安心・安全」を守る必要性があるので、それについても対応できることということを追加しました。
 これは、言ってみれば従来型の労働基準ですけれども、もう一つ、今後重視されるべき役割としては、多様な働き方、多様なキャリア形成をする労働者の希望を「支える」、あるいは労働者の働き方・キャリア形成の選択を「支える」労働基準が必要であるということです。それを「支える労働基準」としてあります。
 さらに、「安全・安心」を実現することは「労働者の活躍とキャリア形成」「企業の経営パフォーマンスの向上」に寄与するという、一種の投資であるという捉え方も必要だろうというふうに整理をしました。
 したがって、ここでは「守る労働基準」と「支える労働基準」という2つの役割があるんだということで整理をしました。
 では、その労働基準をどう設定するかということがその次のページになります。
 「これからの労働基準を考えるうえでの視点」というふうに整理しておきました。これは細かいことは書いていないですけれども、労働者基準のコンテンツをつくるときにどうするのかということの考え方を整理したものです。
 1つは、(1)で「労働基準のあり方に関わる視点」と書いております。
 「第一の方向」は、労働者が多様化しているので、これまで一貫して重視したテーマというか、テーゼですけれども、そういうことに対応できなければいけないということになりますので、労働者の働き方、キャリア形成の特質、あるいは多様化に合わせた多元的な労働基準法制の整備が必要だということです。一応ここでは多元的な労働基準法制という用語はつくっておきました。つまり、多様化に合わせることが必要だということです。
 「第二の方向」は、法的規制と労使自治の組合せを上手にすること。これは最適化と書いておきました。特に、多元的な労働基準法制にするには「現場で対応できる」体制整備が不可欠ですので、したがって「労働者の意見を反映できる」労使コミュニケーション体制の整備が必要になるということになります。
 「第三の方向」は、法的規制と市場機能の活用の組合せを上手にする。ここでは、最適化と書いてあります。具体的には、市場機能を生かす情報開示策の拡充等が考えられるだろうということです。
 こういう視点にたってコンテンツをつくるわけですが、そのときにさらに出来上がった労働基準はこうなってほしいなという評価の視点も整理しておいたほうがいいということで、それを(2)に記載しました。
 1つは「有効性」に関わる視点という言葉で書いてありますが、主旨・目的にちゃんと沿った基準になっているのかということはチェックしたほうがいい。
 もう一つは「透明性」に関わる視点ですが、「労使にとって分かりやすい基準になっているか」。この2つの基準で、出来上がった労働基準がいいかどうかを評価する必要があるよねということになります。
 こういう形で労働基準のコンテンツをつくった後に、今度それをどうやって履行確保するかということになりますが、それが最後のページになります。ここでは、「「守る」方策の方向」と記載しました。
 まず「履行確保策の方向性」ですが、1つは行政による監督指導とか労使による自主的な取組み、これまでやってきたやり方ですけれども、これは強化しなければいけないだろうということです。
 もう一つ重要な点は、市場機能を活用した新たな方法も考えなければいけないだろう。
 この2つが大きな方向だろうと思います。
 この2つの方向に沿って、(2)の「個別履行確保策の再編」の構成をつくってあります。
 まず、「行政による監督指導」については、ここでは何度も出ていますけれども、監督指導にさけるリソースが非常に限られているので、IT化・DX化等を活用して監督指導の効率化を図る必要があるというのが第1点。
 もう一つは、事業所を対象にするという従来型の履行確保方策の展開の在り方をもう一度考え直すことが必要だろうということです。
 その次の「労使による自主的な取組みについて」は、まず重要なことは使用者のすべきことです。それは「労働者の安心、安全を損なうことがないようにする」というのは基本的に使用者の責務だということは確認しなければいけないというので最初に書きました。
 ただ、そのために企業が取るべき行動はどうするかは、働き方が変わるとか、医療技術が変わるということがあれば、それに合わせて最適化を図ることは重要だということです。
 その次のポイントは、「労使自治によるチェック機能の強化」が必要で、ここでは、「過半数代表者」制に限られない制度という例示で示してありますけれども、そういう制度等を考えることを通して、労使自治における労働者の意思の反映の在り方というものをもう一度考える必要があるということだろうと思います。
 最後に、「市場機能を活用する方法について」は、情報開示の拡充によって企業の自主的改善行動を促進するということとか、労働者が、その会社は嫌だねとか、いいねと言って、最適な「働く場」の選択ができるように支援するということになりますので、そういう点で市場機能を活用する方法をどうするかを考えるべきだろうと思っております。
 そういうことで、キーワードを整理して体系化するとこういうようなストーリーになるということを意識して、整理をさせていただきました。
 最後に、本日発表した整理メモは、本日時点での整理メモと考えていただければと思います。つまり、これからの議論から追加すべきことがでてくるかもしれません。
 それでは、皆さんから御意見をいただければと思います。
水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 最初に2つお話をさせていただきます。
 1つは、基本的にこの方向性、枠組みは大賛成で、これまでの議論を非常に大きな観点からおまとめいただいて大変ありがたいと思いますし、今後この方向性で具体的にどうブレークダウンしていくかという議論が非常に重要になると改めて思ったところです。
 感想を言わせていただくと、自律という言葉の意味について。オートノミーということになるのかですが、特に労働法とか欧米の議論を見ているときに、多様化とか、個人化とか、個別化ということはよく言われます。もう集団的、定型的なものではなくていろいろ多様になっているよと、法律自体は定型を前提としているので、法律、法規制も柔軟化していかなければいけないということはあるのですが、自律という言葉が使われるかというと、日本ではよく自律という言葉が使われるんですが、外国で自律、オートノミーという言葉が使われるときは、個人の自律という意味ではあまり使いません。
 逆に言うと、多様化しているんだけれども、個人が強くなったり、個人の交渉力が強くなっているかというと、個人の交渉力は多様化する中で必ずしも強くなっていない。例えば、アメリカでスポーツ選手、プロ野球選手とか、芸能人とか、すごくたくさん報酬をもらっている人たちも、やはり個人としては交渉力がないから労働組合でルールをつくっていこうということが言われていて、自律とかオートノミーと言われるときには、基本的には個人ではなくて、やはり集団的な自治とか、集団でルールをつくって交渉していくことが重要だと今、言われています。
 ただ、日本はやはり組織に抱えられてきたということが多くて、組織から外に出て自分で考えたり動いたりしなければいけないよというところでは自律という言葉が使われることが多いと思うんです。少なくないと思うのですが、法的な観点から言って、自律して自分で責任を取りなさい、自分のことは自分でやらなければいけないよというコンセプトとか考え方で自律という言葉が使われるとすると、そこはやや誤解を生みやすくて海外の議論とちょっと違うということになるかなと思います。
 ただ、今野座長はそういう意味で使われていないと思いますが、よく自律、自律と日本では使われて、個人の責任で自分でしっかりやりなさいということだとすると、違う言葉を使ったほうがいいかなと思いました。
 制度設計の中では、基本的には守るとか支えるというので、個人で何でもやりさないということにはなっていないので、言葉としてややそういう印象があったと感じました。
○今野座長 おっしゃるように、自律する、しないという問題と、多様化する、しないというのは別の変数ですよね。
 ですから、極端に言うと、会社の指揮命令下で多様化するというのはあり得るわけです。それは別の問題だと私は思いますけれども、そのとき自律という言葉をどういうふうに言うか。何かいい言葉はありますか。
○水町構成員 個人とか個別という言葉はよく使われていますが、個人で律するとなると自分で責任を取れというイメージになるのかもしれないです。しかし、それを個人とかという言葉でうまく表現できるかはちょっと分からないです。
○今野座長 例えば、自分で選ぶのだから、その結果は責任を取りなさいというのはロジックとしてありますけれども、これは一つの方向を言っているので、全部自分で決めるということもないし、全部結果の責任を取れということもない。実務の世界だと、どの程度にするのかが問題になる。イチゼロじゃないから、ここで言っていることは自律という言葉の使い方はちょっと別にして、自律化と言ったときに、では全部自律してくださいと言っているんじゃなくて、そういう方向に行きましょうというメッセージだと思うんです。
 いずれにしても、自律という言葉がうまく言いたいことを表現していないとすると、何か言葉を考えなければいけないということですね。事務局に考えてもらいましょう。
○武田構成員 ちなみにですけれども、私が今までいた会社で、各社でキャリアオーナーシップという言い方をしています。御参考までに。
○今野座長 ほかにいかがでしょうか。
 小林構成員、どうぞ。
○小林構成員 ありがとうございます。
 まさに今までの議論をまとめてくださっていて、私自身も整理できましたし、このとおりの枠組みで進むといいなと思っています。特に今後重視される役割のところで、安全・安心を実現することが投資であるというところをしっかり、つまり健康管理の観点でいうと、不調になったら対応をすればいいという捉え方ではなく、健康ですとか安全・安心というのは投資である。そこに経営としても関わっていくんだという姿勢を持ってもらえるように、より促していければいいなと思っておりますので、こういった考え方で進んでいくのは望ましいと思います。
 それから、キャリアの選択などを労働者ができるように、より自由度を上げていこうという話です。そこで、企業の責任がどうなるのか、キャリアを自由に選択する従業員に企業がどこまで責任を持って対応していくのかというところは、やはりこれから議論になる部分かと思うんです。これまでのように、企業が労働者を抱えて使い、その責任も併せて持つ、という考え方と少しずれてくる部分があると思いますので、そこの順序を明確にしておく必要はあるのかなと思いました。
○今野座長 この点は多分、安部構成員の御意見を聞いたほうがいいかな。
 安部構成員、今の点について、どのようにお考えでしょうか。
○安部構成員 今野座長の資料は、全体を非常に網羅的にうまくまとめて頂いており、良いなと思いました。
 まだ考えをまとめ切れていないのですが、実は、心理的な安全性とか安心感を担保すれば、果たして自主性というのが本当に発揮されるのだろうか、と言ったことを日頃から考えています。
 先ほどの統計で明らかになったような意識の労働者をつくり出してしまったのは、結局、失われた30年と言われている期間、社会がそういう閉塞感を生み、新しいことに挑戦する意欲というものを封じ込めてきたことに起因するのではないかと感じているわけです。
 だからこそ、今、社会全体として、人材に対し何かしなければならないと言う機運が高まっていることはすごく良いと思うのですが、では、安心感が出てくると自発的にいろいろなことをどんどんチャレンジするのだろうか。
 戦後、日本の経済が非常に発展したときに、安心感があったから新しいことにチャレンジしたのか。極めて抽象的な投げかけになるのですが、そんなことを最近、いろいろと考えております。少なくとも、この枠組みで、これからやるべきことというのは次第に明確になって来ました。これは、私は絶対やらないといけないと思います。社会や企業の仕組みを変えていき、自律性を尊重しながら安心感を担保し、まずはそういう環境をつくるところから始めていく、この枠組みの再構築自体には非常に賛成です。
 ただ、これだけで本当に変わっていくかというところについては、まだまだ本質的で大きな課題を、社会も企業も労働者も抱えているのではないか、というのが今の私の感想です。
 それに関し、水町構成員が今、非常にすばらしい指摘をされたと思います。実は、たまたま私は今、出張先から参加しており、ちょうど私の会社の6つの事業を展開する8つの会社の人事責任者を、コロナ後、初めて集め、オフサイド・ミーティングをしておりました。そのうちの4人は社員の多くが欧米で在籍している海外の事業の人事の責任者で、彼ら彼女らは労働市場の特徴もあり、日頃から個に対するデリゲーション、オートノミーを与えることに腐心しています。それによって各自が抱える様々な制約を解放し、より自主性を促せるはずであるとの思いからそう言った施策を進めているわけですが、では、それをグループ全体のメッセージにしよう、と提案したところ、いみじくもまさにさっき水町構成員がおっしゃられた通り、メッセージとしては良いけれど、結局、雇う側と雇われる側という絶対的な関係性という事実が厳然と存在する中、完全にフリーハンドの権限を与えられるわけでもないことを踏まえると、果たしてどういうメッセージが本当に現実に即し、説得力を持って受け止められるだろうか、と言う議論をしていたわけです。
 米国西海岸では特にダイナミックな労働者の移動が顕著で、人が足りなくなるとタレントウォーと呼ばれる人材獲得競争が繰り広げられ、経済が厳しくなると大量解雇といった極端な変化を見せながら、振り子のような社会情勢の中に置かれているわけです。そのような状況下で、「主体性」を「オートノミー」と表すると、結局主体が社員になってしまうのですが、さきほどの水町構成員の例示の通り、では高額報酬を得るプロ野球プレーヤーでさえ、完全に主体性を持って交渉に当たれているかというとそうではないということを踏まえると、そう簡単なことではないと痛感するわけです。
 我々人事責任者と、社長始め経営者も含めた議論の中では、やはり主体は雇う側であり、オートノミーを付与すると言う理想を語るのでなく、むしろできる限り権限を委譲して与える、エンパワーメントというのが実情に合っているのではないか、これによって行使できる権限も選択肢もできるだけ多く与える。社員がオートノミーを持つとしても、その主体を社員に置くのではなく、あくまで企業が主体であるとの前提の下、社員に対しエンパワーしていく、と言うのがより現実に即しているのではないか、と。
 議論は、さらに進み、エンパワーよりトラストはどうか、と言った話になり、そこまでいくと、やや哲学的な内容になってしまうのですが、まずはそういう本質的なところから議論を始めないと、この30年間積もってきた閉塞感というものを解き放てないのかなと思った次第です。
 現状の労働組合も、社員代表も、労働行政も、やはり一時代前の社会を前提に組み立てられており、社会の変化と共に実効性がどんどん伴わなくなってきた中、この現状を変えることができる、変えなければならない主体はあくまでも雇用者の側であるという現実を受け入れながら、同時に労働者の主体性もできる限り引き出し、様々な社会慣行や法規、労働組合、従業員代表の在り方というものの実効性を、より高めていく必要があると思うわけです。すなわち、全体のグランドデザインをもう一回見直さなければならない状況にある中、今野座長が言われた「最適化」というのは、取り組むべきことを的確に表現していると感じました。つまり、人材を取り巻く社会の諸構成要素それぞれが持つ意義が引き続き、明確に存在する中、それを現状に即してあるべき方向に持っていくための最適化をどのようにしていくか、それが今、求められているのではないかと考える次第です。
 そういう意味で、こう言った課題の整理が徐々にされてきたことに対し、私は今回の今野座長の資料は非常に意義があると思いました。
○今野座長 安部構成員がおっしゃった中で、前者の安心・安全をつくって本当にチャレンジングになるのかということについては、労働基準行政をどうするかが我々が考えなくてはいけないテーマなので、そうすると労働基準行政でできることは限られますよね。それで、今、言った問題は会社はどういう手を打つのか、個人もどうするのか、さらに国はどうするのかということになると思うので、国の労働基準行政で、いま安部構成員がおっしゃられたような問題を全部解決するなんて無理ですよね。
 そうすると、ではどこまでやろうかということになるんですけれども、具体的にはまだまだ明確じゃないですが、労働基準行政の中で「守る基準」に加えて「支える基準」もあるんだといいましたが、この「支える基準」というのは今おっしゃられたようなことに対応する労働基準行政というか、政策ができる範囲かなと思ってお聞きしていました。
○安部構成員 全く同感です。ですから、職業転換であったり、もう一歩、守るだけではなく支える施策というところに何か検討できる余地があるのではないかという気がしています。
○今野座長 これは、どうやって表現するかは難しいんですけれども、安部構成員が言った後者の点です。
 そんなことを言ったって、しょせん会社に雇用されているんだろうとか、会社だって結局は経営成果に結びつかなければ動かないじゃないかとか、そういう点については、これもイチゼロが答えではないので、どの点をいい点とか均衡点と考えるかです。その均衡点を表現するやり方として今日の資料でいうと3ページ目の「労働者と組織の関係の変化」という中で最後の3行くらいですが、「労働者は自らに合った働き方・キャリア形成を指向しつつ会社に貢献」する。それで、会社はそういうことを支援するけれども、「労働者の活用をはかる」と、これで表現したんです。
 では、これは具体的にどうするのかというのは難しい問題ですけれども、考え方としてはやはりこういうことかなという形で表現をさせていただきました。
 中村構成員、どうぞ。
○中村構成員 ここまでの様々な議論をこのようにまとめていただいてありがとうございました。大きい方向感は、本当にこれまでの議論をまとめていただいて、そうだろうなと思って拝読していました。
 その上で、細かいところかもしれないんですけれども、ちょっと気になった点がありました。
 ページが順不同なんですけれども、1つは7ページの履行確保におけるところの2行目、3行目です。「伝統的方法の強化」というところですが、何となく強化と言うと伝統的な方法をそのまま堅持すればいいというニュアンスが強く伝わるんじゃないかと思っていて、これまでやってきたことを引き続き重視しながら今日的にアップデートするというのが必要だという議論だったと思うので、再強化とか、進化とか、言葉をより発展的なものにしたほうが、真意が伝わるかと思いました。
 それから、もう一つが4ページですけれども、同じく雇用管理の方向性で「労働者が働き方、仕事、キャリアを「選べる」雇用管理」ということで、選べるというのはすごく個人にとって大切なことなのでそうなったらいいなと思いました。
 ただ、そのときに、これまでで言えば、多様な働き方という中で有期だったり契約社員で働くという選択肢が出てきて、でも、それが一方通行で正社員に戻ってこられないということで、多様である、選べるということ、行き来できるということが必ず担保できていなかったというのが今の日本の反省点だと思うので、そういう意味でいうと選べて行き来できるというところのニュアンスがもうちょっと伝わるほうが誤解がないのではないかと思いました。
 あわせて、先ほど来から出ている安心・安全の先に企業の成長ですとか、個人のより発展的なというときに、「1on1ミーティング」みたいな言葉が今4ページに入っていて、私自身はすごく大事だと思うのでぜひ入れていただきたいです。企業と個人が約束する「心理的契約」、必ずしも文書では含まれていない、雇用契約のような時給だったり勤務地だったりという労働条件ではなくて、これからのあなたにこういうことを期待しているんだとか、期待値のすり合わせみたいなことが、結局個人がより頑張りたいと思ったり、頑張ることが会社の発展につながってくるときに重要になってくるので、うまく人材育成、働き方、キャリアの見える化というところに期待値を醸成するようなやり取りというのが入ったほうがいいのではないかと思いました。
 以上です。
○今野座長 ありがとうございました。
 中村構成員から指摘されたことは報告書を作るときに考慮していただくということにしますけれども、ただ、今の心理的契約の問題は、下手すると心理的契約だから、変な言い方をしちゃうと契約変更が起こって、あとはお互いに期待していることが全然違っていたとか、いろいろな問題がありそうなので、心理的契約が重要だということは分かりますけれども、どういうふうに今後していくかというのはもう少し議論していただかないとなかなか入れにくいかなというふうに今ちょっと思ってお話を聞いていました。
○中村構成員 ありがとうございます。
 この話は労働基準行政の枠の外にある、会社や労働組合が何をするのかとか、少なくとも個人以外の主体の今後の在り方というのも必要だと思うんです。
 ですので、労働基準行政そのものでできる範囲というのと、そうは言いながらそれが社会の中で実効性のある仕組みに変わっていく中で当然、会社に期待されることとか、労働組合に期待されることとか、そこが最後に報告書の中でこういう観点が大事だというような示し方かなと思います。
 心理的契約を法律できっちり履行させるというのは本来の心理的契約と矛盾を引き起こすので、そこは報告書の段階でやりようがあるのではないかと思いました。
○今野座長 例えば、今の中村構成員の御意見を入れて心理的契約の明確化を進めるとか、心理的契約を拡充するとかと書いたときに、私もそうですけれども、読み手の人は少なくともどういう状況を想定したらいいのか、なかなか思い浮かばないと思うので、もう少し書き込む必要がありますね。
○中村構成員 それで言うと、心理的契約という言葉が使いたいんじゃなくて、分かりやすい労働条件、勤務地とか、労働時間とか、お給料とかというところではなくて、むしろ個人をエンパワーするという、そのエンパワーの中身とか期待ということが実際の企業の現場の中では実はすごく大事なもう一つのポイントで、そこをどういうふうに個人とすり合わせていくのか。
 それを学術的な概念で言えば心理契約というラベルがありますけれども、ラベルを使ってほしいというよりは、先ほどから出ている4ページの下の「「人材育成、働き方、キャリアの見える化」の推進」とか、先ほど安部構成員がおっしゃったエンパワーメントということですとか、自律的なというのは個人だけではないんじゃないですかという指摘等々を含めたところの、要はこの「整備すべき「選べる」の基盤」という部分は少し丁寧に書き込みが必要な論点なのではないかというのが今の意見です。
○今野座長 分かりました。そういう点からすると、例えば企業が人材育成の考え方とか、施策を見える化をするとか、情報開示するということは、中村構成員の言葉で言うと、心理的契約が一歩前に進んだということになるわけですか。
○中村構成員 それで言うと、情報開示とかは、確かに心理的契約というか、明示的契約自体をどう可視化している側面のほうが強い。
○今野座長 いい言葉は浮かばないけれども、我が社は社員の教育はしっかりします。しっかりの意味は本当はあるんだけれども、しっかりしますというのは、個々の社員の人材教育はこうしますとは一切言っていなくて、我が社の方針としてそうしますということを打ち出して、それは守りますということなので、個々の人に対する対応は規制していないが、こういう方向で頑張りますという意味での心理的な契約に対して、会社が出すメッセージということにもなるかなと思って話を聞いていたんですが、いかがでしょうか。
○中村構成員 そこの集団としての平均値の説明と、一個人にとって、あなたにとってとか、私にとってというところの溝をどう埋めるかということが一番クリティカルなのかなと、今野座長のお話を聞いて改めて思いました。
 情報開示で全体的な平均値が開示されると、平均的にこれぐらいということは従業員側が理解できるので、いろいろな期待値を調整する重要なファクターになるので、ぜひやったほうがいいと思います。
 でも、平均値が分かることと、私がどうなるかということは必ずしも一致しないので、その私がどうなるかというところのすり合わせの仕組みが大事なんだろうなとも思います。
○今野座長 中村構成員が強調されていた1on1ミーティングなどというのは、実はそのための仕掛けの1つですね。
○中村構成員 そうです。ですから、強い個人を想定するのは現実味がないという、今日出ている御指摘は私もそうだと思っていて、でも、一方で、だから集団的な労使関係を整備すればいいと、集団だけに全てを求めるのはやはり将来性がないと思います。
 だから、基盤は集団的な労使関係だと思うんですけれども、そこの中で個人をエンパワーし、個人がキャリアオーナーシップを発揮できる環境整備、その二階層をきっちりつくっていくというのがこれからすごく大事なんだろうと思いました。
○今野座長 今の点については、ここの私の整理と全く一緒ですので、そうすると具体的にどう書き込むかという話ですね。ぜひとも報告書の作成の段階で、改めて御意見をいただければと思います。
戎野構成員、どうぞ。
○戒野構成員 全体の方向性は、とてもすばらしいと思いました。
 今の議論とも関係するんですけれども、この多様性とか新しい動きに対して非常に重要なキーワードの中に、やはり労使コミュニケーション体制というのが、今の1on1ミーティングもありましたけれども、これからの雇用管理において自律的という言葉がいいかどうか分かりませんが、非常に労働者一人一人のありようを充実させていく上でとても大事だと思うんですね。
 ただ、この労使コミュニケーションというのを議論するときに、やはり情報量であったり、交渉力であったり、明らかに労働者一人一人は弱いわけで、この労というものの捉え方として、個の労働者を捉えるものと同様に、やはり集団として捉えるということから、ここは二重構造といいますか、様々な労働者の集団の在り方、これは組合だけでなくてもいいですし、いろいろなものがあると思うんですけれども、この二重性というもののありようが労使コミュニケーションの質を規定していくだろうなというふうに感じながら伺っておりました。
 ですから、今後これを具体的に落としていくときには、労使という労の概念の捉え方というものを区分しながら整理していくということが必要かなと思った次第です。
 それから、これは一言だけ、先ほどの安心という言葉をどう捉えていくかというのは時代背景によって異なってくると思いますし、やはり置かれている労働者の状況によっても異なってくる中で、この概念というものが歪曲して捉えられないような説明等も求められるのではないかなと思って伺っていたところです。
 以上です。
○今野座長 ありがとうございました。
 伊達構成員、どうぞ。
○伊達構成員 ありがとうございました。
 ここまでの議論の内容をうまくまとめていただいていて、賛同するところです。
 私は分化と統合というお話をさせていただいたのですが、分化というのは分散したり、個人化が進んでいくという作用で、統合というのは集中したり、組織化が進んでいくという作用です。
分化に対応するのがまさに支える労働基準のお話なのかなと。他方で、統合を強めていくとどうしてもリスクが出てきてしまうので、そのリスクに対して改めて守る労働基準とを据えていくということが重要なんだなと思いました。
 その上で、整理していただいたからこそ難しさも見えてきたのかなと思っております。
 1点が、支える労働基準というものを進めていく中で現場での交渉をどういうふうに行っていくのかがやはり難しいということです。多様化したニーズをきちんと実現していくというところ、労使コミュニケーションが非常に難しいと見えてきました。
 2つ目は、自分の中でもまだ完全に整理し切れているわけではないのですが、守ると支えるということ自体、理念的には多分そんなにコンフリクトはしないと思うんですね。
 ただ、ちょっと細かいところを見ていくと、もしかすると守ると支えるということ自体が部分的にコンフリクトを起こすところも出てくるのではないかと感じました。
 例えば、とにかく働きたい、たくさんの会社で働きたいといったニーズを持っている労働者がいたとして、支える労働基準という方向性でいく一方で、ただ、健康を守っていかないと駄目という意味では守る労働基準も大事になります。理念的にはそんなにバッティングする話ではないのですが、手段としてバッティングしていく部分があるわけです。そこも考えていく必要がきっとあるんだろうなと感じました。
 感想なのですが、以上です。
○今野座長 ありがとうございます。
 皆さんに共通した一つのポイントとして、労使コミュニケーションは非常に重要だということがある。そのときに労使コミュニケーションというのは集団的なレベルでもあるし、個のレベルでもあるし、両方を含めてそれは重要だ。
 では、具体的にどうするのかということについては、これから皆さんアイデアを出していただきたいと思っています。
 もう一つは、伊達構成員が言われた、「守る」と「支える」の間で当然ハウツーを考えたときにコンフリクトが起こるというのは私もそう思います。
 この点については2つの考え方があって、これは我々のミッションの範囲に関わるのですが、1つは理念型だけ出せばいいという考え方と、もう一つはコンフリクトは必ず起こるので、それについて最低限こういうことは配慮したほうがいいよというぐらいまで議論するという考え方がある。そこをどうするかです。今いただいたコメントは私の出した資料に対するコメントですけれども、実はそれは我々全体に対して報告書でどこまで書くんですかとか、どこまで検討するんですかというコメントだと思います。
 武田構成員、どうぞ。 
○武田構成員 皆さんに同意をしながら聞いていました。究極は、一人一人の社員の働く側の方たちが自分自身が選んでここにいると、それは複数同時に所属しているかは分からないですけれども、自分自身は選んでここにいるんだよと、より企業と従業員がどうイーブンな関係になるかというところがゴール地点なのかなと思って聞いていました。
 あとは、皆さんがおっしゃっていないところで言うと、今野座長は理念を出してというお話をされていたんですけれども、とはいえ、ふわっとしていると何も変わらないんですよ。やはりさっきの前半のデータを見ても、変える一石は投じたいなと思いますし、何らかの今後出していくベクトル、矢印なのか、ある程度ハウまでできるのか。
 できたら、そのときにこういうことでこれは測れるねというようなことも、今エンゲージメントとかもはやっていますけれども、こんなことで計測をしていくといいんじゃないかなというぐらいのことまで出したいと個人的には思っていますし、企業の中でやはりいい切磋琢磨、いい競争が起きてほしいんですよ。そんなところまでイメージをして、アウトプットが出せるといいのではないか。
 私はまだ何もイメージはないですけれども、好きなことを言わせていただきました。
○今野座長 それでは、今回の私のプレゼンに関連して一番重要な結論は、まとめの流れはこれでいいのではないかということを皆さんに合意をしていただいたということかなと思いますので、今後報告書をつくるときに、大いに参考にしながら報告書をつくっていくということにしたいなと思っております。
 それでは、今日の研究会は終わりにさせていただきます。
 事務局から、次回の日程について説明をお願いします。
○労働条件確保改善対策室長 次回は7月11日火曜日、10時から12時にAP虎ノ門にて行います。企業からのヒアリングを予定しております。
○今野座長 それでは本日の研究会は以上で終了といたします。ありがとうございました。