第8回新しい時代の働き方に関する研究会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和5年6月9日(火) 9:00~11:00

場所

AP虎ノ門 C・Dルーム

議題

構成員からのプレゼンテーション

議事

議事内容
○今野座長 ただいまから、第8回「新しい時代の働き方に関する研究会」を開催いたします。
 本日は、大湾構成員が御欠席です。
 それでは、本日の議事に入ります。今日は武田構成員と安部構成員から発表をしていただきます。
 はじめに、武田構成員より、20分程度説明をお願いいたします。武田構成員、よろしくお願いいたします。
○武田構成員 皆さん、おはようございます。メンバーズの武田でございます。よろしくお願いいたします。
 前半は会社の説明資料が多いのですが、後半につながってくるので聞いていただければと思います。
 まず、会社は今、勝どきのトリトンスクエアの中にあります。創業は1995 年、東証一部上場は2017年と、まだまだ新しい会社です。スタートは広告代理店のような領域からで、ウェブと同時に拡大してきた会社です。
 実は、最初はかなりハードワークで、いわゆるブラックな働き方をしていた会社だったと聞いています。2008年に離職率が3割近くになり、業績は何とかキープをしているのですが、人が抜けていく状態となり、売りたくても人がいないという時代があったと聞いています。
 そこから働き方等々を改善し、それまでは比較的中途の方たちが多かったところ、新卒を入れて人を増やしていく形に転換をしていった、そんな歴史がある会社です。
 次のページがミッション・VISIONです。「”MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」というミッションを掲げています。業種で言うとITベンダーの中に入るのですけれども、一番の違いがその下に挙げているVISIONの部分です。デジタルクリエイターの力で気候変動であるとか、いわゆるSDGsに挙げられるような課題ですね。ここを一緒にお客様に提案をしていこう、お客様と一緒に持続可能社会への変革を自分たちでお仕事を通してリードしようということを掲げています。
 これは採用のシーンに物すごく効いています。通常の会社ですとサステナブル推進室みたいなものは普通の一部署として並列にあるということになりがちだと思うのですが、メンバーズの場合は全社を挙げて全社員が取り組んでいるというスタイルになっております。
 目標としては、2030年までに社員数を1万人にすることを挙げていて、今の3倍以上に増やさないといけないという状況です。
 メンバーズは実際の事業を通じて「脱炭素DX」の推進に挑戦しています。社内教育はもちろん、社内には研究所があり、過去には書籍の出版もしています。社内にいても環境問題や、社会課題に触れるチャンスが非常に多い会社です。
 次のチャートは取引先の一覧なのですが、メンバーズという社名はあまり表に出ていないものの、実は大手消費財の会社や大手金融の会社さんのECサイトの運用をさせていただいていたり、各社でお持ちのウェブサイトの運用や金融機関であればアプリであるとかSNSの運用、ECサイトをお持ちの会社さんなどは海外展開も含めてSNSのアカウントの運用、こういったことも実はやらせていただいています。
 次のページから、幾つか例を挙げさせていただいています。
 社名が出ていないのですが、日本のとても大きな有名なアパレルの会社さんで海外展開もしているような企業です。例えば社内のRPAのような実際に業務で使っていくシステムの部分から、お客様の目にとまるウェブサイトの運用、あとはメルマガ、SNSの運用を担っています。こちらの会社さんが海外展開をしていき、大きくなっていくと同時に、メンバーズの専任のチームもニーズが増えていって、今も数十名の人間がこちらの会社のほうで常駐のメンバーと、あとは会社からサポートするメンバーとで1つの大きなチームを組んで、かつ地方拠点でもクリエイターは働いていますので、かなり大きなチームを日本全国にまたがる形で、この会社をサポートしています。
 次の会社さんはベネッセさんです。もともとベネッセさんといえばこどもチャレンジが有名ですけれども、コロナ禍に紙の運用をオンラインに乗せ換え、4つのサイトを1つの運営サイトに移すときにもメンバーズが一手に引受けをして、かつお客様の継続利用やマーケティングの部分も含めて、当社に実はお任せをいただいています。
 こちらは今40名ぐらいのチームです。紙からデジタルに移るときにご支援をしましたが、たいていはそこで一旦お付き合いが終わるパターンが競合各社さんは多いのです。しかし、その後の実運用のところまで深く入って、中の社員の一員のように支援を続けています。
 次のページが金融各社さんです。おそらく皆さんは、アプリであったり、ウェブサイトであったり、どこかで触っていらっしゃるものがたくさんあると思います。JCBさんやみずほさんは、基幹システムとかではなくてウェブサイトのほうなので、実際にお客様が触られる部分の裏側の運用を含めて担っており、こちらも今30名ぐらいのチームで支援しています。
 あとは、SMBCさんも今、十数名のチームを組んで、こちらはアプリの運用も含めてやらせていただいています。
 私は入社をしてから、全部で130名ぐらいの方たちの社員インタビューをしました。そうすると、お客様先で自分は育ったんだということを話してくれる社員がすごく多く、お客様先に常駐をさせていただいているということも、実はメンバーズの社員にはすごくいい影響を及ぼしているんだなというのを実感しています。
 楽天さんについては、二子玉川に当社のメンバーがおり、2桁の人数でチームを組んでいます。楽天市場を含めてサイトの運用などをやらせてはいただいているのですけれども、お客様に向けてのメッセージ、利用促進のコンテンツなどを御相談いただいて、企画の中のところから提案をさしあげて、それが採択されたりもしています。
 このパターンが最近すごく増えてきていまして、その後のページに続くみずほ銀行様、これはマネーロンダリングを防止するためにワンタイムパスワードを彼らは発行しているんですけれども、なかなかそれをお客様が使ってくれないということで、そこにメンバーズのアイデアを入れていくことでお客様の利用の数が一気に増えていった事例ですとか、パナソニックさんはもともと消費財でBtoCのところのお客様に向けてのメッセージをたくさんされていらっしゃいますけれども、SNSをうまく絡めて訴求をしていくことで、実際のもともとの効果よりも大きなリターンが得られる御提案をさせていただいています。
 パナソニックを担当している当社の女性リーダーがいるのですが、パナソニックさん側の担当者がもう3回替わっている中で彼女はもう10年近くパナソニックさんの担当をしているので、むしろ先方の担当者よりもパナソニックさんについて詳しい。そこにまた若いメンバーがついて、本当に勉強もしながらお客様のことも研究をしながら提案をしていく、すごくいい関係ができていると思います。
 SMBC日興証券さんでは、お金の循環について当社から提案をして採択をされたパターンです。
 セイコーさんにも、こんな感じでマーケティングの手伝いをさせていただいています。
 今、SDGsに取り組まれている会社はとても多いんですけれども、そこにウェブ、デジタルが絡んだときにメンバーズが入っていってお手伝いをして企業価値を上げていく。その仕事に関わるうちの社員たちも、もともとそういうことに関心が高い世代ですから、非常にモチベーション高く働いてくれています。
 ここからは人事に関するお話をさせていただきます。1つ目の特徴は、「徹底した共感採用による新卒大量採用」です。毎年500名超採用しており、今年の春も585名の新入社員が入って、社員規模は今3,000人弱となっています。
 採用については、会社説明会や、CSVに絡むCSV経営であるとか、あとは環境問題等をテーマにした短いインターンシップを繰り返し行っています。そこでメンバーズを知ってくれている学生さんが非常に多いのと、ここまで学生さんの採用数が多いと学校からメンバーズを勧められるということも非常に多くなっています。ですから、OB、OGが全国の大学、または高専にいるということで、採用のマーケットの中では、知名度は上がってきていると思います。
 実は高専卒を一番採用している。年によって若干上下をしたりするんですけれども、大手メーカーさんをしのいで、メンバーズが1位になっている年もあります。
 メンバーズ自体は、日本のIT人材がこれから不足していくということも、一つの社会課題として捉えており、当社に来ている学生さんは高専生もいますけれども、全員が全員、理系のいわゆるデジタルウェブを勉強している学生さんではなく、文系の学生さんもインターンシップのイベントや会社説明会にたくさん見えていて、内定が決まった段階からプログラミングの勉強を始めるといった学生さんが4割ぐらいは含まれています。ですから、まず自分の思いと共感する部分があって、その後にHowがきて、資格の勉強をして入ってくるという流れになっています。
 理系の学生さん、特に研究職はなかなか採れないのが現状だと思うんですけれども、裾野を広げながら、トレーニングの機会も設けながらこの採用数を確保しているという状況になります。
 入社をすると一斉にトレーニングが始まります。ゴールデンウイークぐらいまでは本社で預かっています。実は内定が決まった段階からのトレーニングは人事ではなくて事業側に非常に大きな教育のチームがあり、そこにまずは所属になります。内定時代のときに勉強することと、入社時のときにかなりレベルもスキルもばらばらですので、入社後1か月のトレーニングをして、その後に4つぐらいのグループに分かれて、トップのクラスはゴールデンウイーク明けにはもうリアルのビジネスのプロジェクトチームの中にアサインされます。
 残りのクラスはレベル別に分かれていって、夏ぐらいに仕事に就けるチーム、秋、それから年明けになっていくチームと、段階的に教育をしていきます。
 また、中途社員も今年度は250人ぐらい採用していますので、そこを含めて今、人員がどれぐらい稼働ができているか、トレーニングが進んでいるか、レディーな状態になったメンバーがどれぐらいいるのかというのを毎週、役付の執行役員クラスの方たちから実際の担当者、中途採用の担当者、教育の担当者、それからそれを采配する営業側のマネジメントコントロールをしている者、あとは社長も交えたタレントパイプラインミーティングがあります。常に計画に対してビハインドになっているものがないかということのチェックを行いながら人の采配をしています。これを毎週ここまでやるというのは、人数も多いのでかなり会社としてはレアなことなのではないかと思います。
 もう一つ特徴的なのは、専門カンパニーと言われる専門技術に特化した小さい子会社です。小さいといっても、大きめのところは100人規模の会社から数名の会社までいろいろな会社があるんですけれども、若い社長さんは20代とか、あとは新卒、22年卒の社長がいる会社もあります。
 平均年齢は非常に若く29歳ぐらいです。男女で差異が出る仕事でもないので、半分弱女性で、一応30%以上、役職者もおりまして、何かすごく女性活躍支援を会社の中でしなくても自然体で今こんな感じなので、男子の育休のところもほとんど何もしていないんですけれども、若いメンバーが多いので、自然体でもう6割の方たちは育休もしっかり取っていて、かつ、期間も2か月弱ぐらいみんな平均して取っているんですね。ですから、コントロールを何かしなくても粘土層がいなければこれぐらいの数字にはなるのかなという感じです。残業も非常に少ない。本当に6時になるとみんなさっと帰るというめり張りのある働き方をしています。
 特徴的なのは、トレーニングは入社の後ずっと続いていきますので、1人当たりの年間能力開発費が昨年度で16万円、売上比の2.2%、営業利益比にすると4分の1ぐらいここに投下をしているということです。
 離職率は、今は8%から9%の間ぐらいで推移していますので、比較的健全な範囲ではなかろうかと思います。
 社員のポートフォリオとしては、入社4年目までの方たちが全体の78%という構成になっています。
 次に、人事の目線から見て、ここは多分、強いと思うところを挙げてきました。
 先ほどお話をしたように、一番上のところに書いたのは、「徹底した共感採用」です。メンバーズを自分で本当に選んで来ていますし、面接を実際していたり、社内のメンバーに聞くと、実はメンバーズしか受けていないという子たちが結構多いです。オンリーワン感を、学生さんも社員も感じているので、突出したブランディングとしてはいいポジションにいるのかなと思います。
 何となくふわっとしたSDGsがいいなと思うと環境問題とかに入ってくるんですけれども、入った途端に能力別のグループ分けでもう予備校みたいなことが始まるんですね。ここはやはりどれぐらい仕事があってとか、どれぐらい自分が成長してということを目の当たりにしますので、エンジニアは本当に一生勉強が続いていきますから、その環境に入るときから慣れているというのも一ついいことなのかなと思います。
 異動については、人事は基本的にほとんど何もコントロールしなく、社内のいろいろな部門から公募が常に出ています。自分が何をしたいかということで上司に断らなくても常に社内公募に応募して異動ができるので、実際に今、社命による異動というのはほとんどなくなっています。
 公募または先輩から声をかけてもらって、異動になるので、本当にキャリアをつくっていくために社内でどんな情報を得たらいいか、ネットワークをつくったらいいか、チャレンジしたらいいかというのを自分で考えていくというのは、もともとカルチャーとして非常に大きいですし、若い20代のメンバーではあるのですが、リスキリング、今までウェブデザインしかやっていないけれども、もうちょっとDX寄りのことを勉強しないといけないなとか、ブロックチェーンの勉強をしたいなとかと思うと、自ら「スキル開発室」が事業側の部門にありまして、ここに手を挙げて一旦お休みをして勉強をする期間が設けることもできます。大体3か月ぐらいでまた次の仕事に移っていくんですけれども、長い人だと半年、1年いるような人たちもいます。
 あとは、社内勉強会が非常に盛んで、毎晩、CSVのことだったり、デジタルのことだったり、そのジャンルで先端を行く外部ゲストが来たり、いろいろなパターンがあるのですが、今、自分が使わないスキルだったとしても、いずれちょっと興味を持って今から知っておこうかなというようなことも含め、非常にたくさんの人たちがウェブ上で集まって業後そういった勉強をしているという環境もあります。
 あとは、先ほど御紹介した15社の子会社の社長公募制度というのがあります。まずテーマが経営陣、または社員から挙げられて、こういったテーマの会社をつくったらどうだろう、今度はそこに向けてこのテーマをやりたい人というのを、手挙げで社長ができる制度があります。
 とはいえ、入ったばかりの人がすぐに経営をできないでしょうという理由から、創業者である会長の肝煎りで次世代リーダー塾が開催されていて、経営者としてのマインドから、もちろんテクニカルな部分は外部の講師にお願いしなければいけない部分もあるんですけれども、勉強会を同時進行で走らせて一緒に育てていく環境がありますので、手が挙げやすい環境かなと思います。
 あとは、ワークスタイルとして、メンバーズ自身は受託のお仕事が多いですから常にプロジェクト形式の業務進行なんですね。来年のこのシーズンに同じ仕事をしているというのはまずないんですよ。つくって、リリースして、運用しての繰り返しなので、もう二度と同じ仕事が来ないということは常に新しいことをやっていないといけないですね。
 お客様以上に、お客様の業界のことだとか商品のことを知っていないと提案ができないですから、変化に強く、常に学ぶという、このカルチャーは先輩たちのワークスタイルを見て新人たちもそれを覚えて背中についていく文化があります。
 あとは、これはインタビューをしていてすごく感じたことなのですが、いわゆる創業期のメンバーズを支えた中堅はみんな中途入社なんです。お話を聞くと、一回全然違う業界に就職しているんです。ただ、これからはウェブでしょうというので、いわゆるネットバブルのときに、自分で専門学校に行ったり、または職業訓練校に行ったりして、そういったところでスキルをつけてキャリアチェンジしている先輩たちが非常に多いです。ですから、自分で自分のキャリアをつくるという意識がある方たちが、他社さんよりも多いんだと思います。
 さらに、エンジニアの方たちは、謙虚で、お互いにリスペクトをしていて、信頼を大切にするといったHRTというマインドを持った人たちで、かつ自分の仕事の足跡はきちんと記録に残して、その後も例えば後任が来たときにすぐに分かるようにしておく。こういったカルチャーがもともと仕事のスタイルの中に入っているというのも、非常にメンバーズの強みではないかと思いました。
 そのほかにも、フラットな組織風土や、働き方の多様性ということで、地方都市への移住の支援をしております。社命による異動じゃないけれども自分で引っ越したいという人には少しお金を出すようなサポートをする仕組みがあったりします。いずれ、2030年までに地方で働いている社員を半分にしていこうという目標も持っていたりします。
 あとは、ミッションビジョン理解を深めるワークショップも全員が参加しています。今月には創業の6月26日に各拠点等、関東は1か所に集まってアワード、社員総会が行われたり、極力リアルで集まれるところは今このサイズを何とか保ちながら場をつくっている状況です。
 あとは、会社を宣伝する会社の営業マンになる採用活動に今年も約300名の社員が参加をしてくれていたり、会社の真の部分を感じるシーンがとてもお仕事の日常の中で多いということですね。
 SDGsの活動についても必ず目標設定の中にこれが入っているので、自分たちの本業で何をしますかと、そこもちゃんと上司がサポートもしてくれますし、これに関しては社内で自社の資格制度がありまして、どれくらい理解があるか、または人に教えられるレベルか、こういった活動も活発に行われています。
 あとは、先ほど冒頭のほうでエンジニア自体、IT人材が日本は足りないという話をしましたが、処遇も低いのだそうで、ここに関しても昨今のベアが言われる前から、20年の段階から最終的にエンジニアのお給料を2030年までに1.6倍にしますよということを計画に挙げて、自分たちのペースでベアを今、推進をしている最中です。
 あとは、エンジニア気質で、フラットに理屈がちゃんと通っていないと前に進まない人たちが多いので、そこはいろいろな声も上げやすいですし、ジェンダーやワークライフバランスについても、むしろ変わりたくない方たちが非常に少ないのも一つの特徴かなと思います。
 まとめていくと、キャリアを選択しているという実感が社員みんなにあり、ロールモデルも非常に近くに同じような年代の方たちがたくさんいたり、自分自身がキャリアを変えていくオプションが常にあります。あとは仲間、これは自分たちのコアバリューにもメンバーズは会社の中で挙げているんですけれども、自分を認められていないとお仕事もこないですし、お客様からのリピートも来ないので、そういったチャンスで自分を試す、または評価をしてもらえる場がたくさんあったり、あとは「共感と自分事化できるビジョンがある」と書きましたが、本当に共感採用に一番代表されるし、皆さんが同じ思いで仕事をしている、こういったところが非常に多いなと思います。
 最後にちょっとメモを1枚書きました。よいところがたくさんあるメンバーズですが、とはいえ、やはり若い方たちが多いといわゆる少し緩い組織、心理的安全性は高いけれどもパフォーマンスの妥協点が低くなるような傾向も今、若干見受けられるので、やはり緊張感を持たせたり、今の若いメンバーを見ていると、彼らはそもそも定年までいるつもりは全然なく、出たり入ったりする人たちですので、そういう意味では別に正社員イコール終身雇用と年功序列がメジャーではなくてむしろそういった働き方をマイノリティーにして、単年雇用で野球選手のように高い報酬をもらうという働き方がメジャーにならないかなということを書かせていただきました。
 とにかく会社と労働者、社員がイーブンな関係、会社を選んでいるのが自分だといった社会にできたらいいなと、そういう意味ではメンバーズは一つのいいプラットフォームになり得るのかなと思って見ています。以上です。
○今野座長 武田構成員、ありがとうございました。
 それでは、御意見、御質問をお願いします。
水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 働き方について共感するところがたくさんありました。具体的にお聞きしたいのが、16ページの平均残業時間についてです。13.6時間というのは月単位だと思いますが、具体的に所定労働時間が例えば40時間なのか、37.5時間なのか。このカウントの仕方が、平均残業時間というのは所定を超えたものの残業なのか、それとも週40時間を超えた時間でしょうか。
 あとは、賃金のことを聞きたいのですが、18ページの「社命による異動は実質無し」と、とにかく残業がなくて転勤命令がないというのがこれからの新しいスマートな働き方だと思うのですが、その場合の賃金は基本的に職務給で、転勤があるなしとか、いわゆる総合職で転勤があると高いとか、そういうものでなく職務給で決められていて勤続年数はほとんど考慮されていないというものなのか、かつ、その中でも海外に赴任したり、地方に赴任したり、同意の上で行く方はいらっしゃいますよね。その方々に対するサポートみたいなものが、例えば転勤に行ったときに賃金制度として基本給自体が上がるというよりは、例えば手当でサポートしているとか、そういうケアがあるのかどうかを知りたいと思いました。
○武田構成員 まず残業時間については、所定労働時間が9時から18時なので、法外の部分がこの時間ということになります。
 賃金のところですが、転勤が起きたときに手当が支給されますけれども、今、海外拠点はないので国内だけとなっています。地方も東京も全くお給料は同じで、これは今どこの会社さんもそれをむしろ売りにして、東京のお給料で地方在住ができますよと、そこがもう既にメリットなんです。ですから、転勤について固定を何か手当をし続けるということはしていないです。
 ただ、転勤のアクションに対しての転居の手当というのはもちろん補填をしていますけれども、むしろ地方で東京と同じお給料で、かつスキルがあれば東京と同じ仕事が地方でできるので、行きたい社員は多くて、早くスキルをつけて自由にやれる地方に行きたいといったいい流れはできています。
○水町構成員 ありがとうございます。よく分かりました。
○今野座長 職務給かどうかというのは。
○武田構成員 職務給ではなくて、基本は職能給なんです。どこに行ってもそのレベルの仕事がアサインされ、できますから、職能給ベースになっています。
○水町構成員 職能給というのは、勤続によってだんだん上がっていくということですか。○武田構成員 勤続ではなくて、今日ちょっと持ってこなかったんですけれども、物すごく細かく職種が分かれていて、例えば、君は今このデジタルクリエイターのレベル幾つですとか、社内で常に見直しがされていくんですけれども、どこに張りついているとか、全部一覧表になって、そこにお給料がイコールでくっついてします。
○水町構成員 ということは、入って1、2年目の人でも、10年目の人でも、この仕事についてこれぐらいの能力があるというのであればそこに格付する。
○武田構成員 そうです。
○水町構成員 そういう意味では、職能給というのか、職務給というのかはちょっと微妙で、もしかしたら我々のイメージだと職務給に近いものかもしれないですね。
○武田構成員 確かにそうですね。                 
○水町構成員 理解できました。
○今野座長 安部構成員、どうぞ。
○安部構成員 昨今、ジョブ型への対比としてメンバーシップ型というのがとかく揶揄されがちな中、あえてうたっておられるというのはすばらしいと思いました。個の意思を尊重しながらメンバーとして受け入れられる組織経営が成り立っているというところがすばらしいと思ったのですが、個人の意向を前提に経営を成り立たせようとしても、経営の意向を優先させなければならないときに、全てが個人の意向と合致するとは限りません。経営の優先度から、例えば人材のシフトだったり、スキルを持った人を本人の意向とは別の職務にアサインしなければならない局面など、どのようにされているのでしょうか。また、個人のキャリアの発展形としてクライアントの職務への転職という展開はあり得ると思うのですが、それを社員の一つの選択肢として受け入れて支援しておられるのかという点について、お伺いしたいです。
 最後に、今、素晴らしい経営体制を構築されていますが、30年後と言うと極端ですが、例えば10年後と言ったイメージというのは、どういうふうにお持ちなのか、その辺りを聞かせていただけますでしょうか。
○武田構成員 順番にお答えすると、おっしゃるとおり、トップの意向でというのはあるのですが、今のところはデジタルの領域ということで希望者がいるんですね。
 ただ、育成がし切れない場合もあるので、そういったときには中途で採ってくるであるとか、そこは同時進行で目星をつけながら進めていくことを考えています
 異動に関しては、ある日突然異動するということはなくて、きちんと膝詰めでお話をして、納得の上、本人がやりたいと、本人のやりたい気持ちをとても優先しています。手挙げが前提ですから、そういう意味でいえばある日突然事例が出てというのはメンバーズの中では考えられないパターンですね。
 クライアントさんへの転職は、一応就業規則の中で1年間は駄目ということになっています。
 ただ、クライアントさんから来られる方もいっぱいいらっしゃいますし、クライアントさんに転職しないまでも退職をしてメンバーズから仕事をもらっている社員もいっぱいいます。そういう意味では、すごく会社の壁みたいなものは緩いと思います。
 私は、今回社員のインタビューの中で優秀な退職者という方たちもリクエストをして何名かお話を聞かせていただいたんですが、会社のことを皆さん大好きですし、もっと工数をもらってもいいですよ、仕事をもらいますよ、という社員もいて、とてもいい関係をつくっていると感じました。
 15年目の姿については、私は今すぐにお答えはできないです。変化と一緒に育っていく、変わっていく会社だと思うので、社内で議論しているのは、バックキャスティングで中期経営計画をつくりましょう、ということが流行っていますけれども、バックキャスティングというのは特にこの業界は非常に難しいんですよね。3年先もよく分からないような状況なので、非連続なことは大歓迎なんですけれども、少し足元からの積上げできちんと物を考えていこうねというような議論を実はしています。
○安部構成員 良くわかりました。どうもありがとうございました。
○今野座長 戎野構成員、どうぞ。
○戎野構成員 大変興味深いお話をありがとうございました。
 先ほどの賃金とも関連するのですけれども、評価制度がどうなっているのかということと、人材の取り合いみたいにもなっているように思うのですが、賃金格差であったり、スタートの賃金の決め方について教えていただければと思います。
○武田構成員 入社時の賃金は、一律です。
 評価は、仕立てとしては、ベースの部分で、会社で決められたいわゆるテクニックのスキルの部分と、あとは自分たちのバリューに基づくコンピテンシーと、あとは業績の評価、この3つのウエートを変えながらベースと賞与をそれぞれかけながらしています。
 例えば、スキルとコンピテンシーが基本給とかになっていないですね。全部が一つの表が出てきて、それを月例給と賞与にそれぞれ掛けていくというスタイルになっています。ちょっと複雑なので、ここはちょっと直したいなと思っています。
○戎野構成員 退職金もあるんですか。
○武田構成員 はい、退職金はあります。
○戎野構成員 差はどのくらい出ているんでしょうか。
○武田構成員 差は今、若者が多いのもあるんですけれども、ごく一部のハイレイヤー、ハイスキルの社員以外は割とまだまとまった形で一緒に動いている。それで、その中からスキルの高い者が若干抜けてくる人たちが若手でもいますし、あとは中途で入ってきたハイスキルを持った方たちがいる感じなので、そんなにすごく大きくばらけているという感じはないです。
 ただ、営業側のほうは、例えば、一人工で月幾らという商売になるので、月200万円取ってくる人、月80万円取ってくる人と、一目瞭然で全部管理をしていますから、そこは本人たちも意識をしながら自然と仕事はしているはずです。
○今野座長 新入社員については、入社後、何グループかに分かれると言いましたよね。この人たちの給料はどのようにされていますか。グループ分けの段階で給料差をつけるという方法あるし、育成期だから一緒にしちゃえという考え方もあると思いますが、いかがでしょうか。
○武田構成員 初年度は一緒です。
 ただ、2年目からは階段の上がり方のスピードも変わってきますし、例えば横飛びして違う職種のところで張りつけがされれば当然その分上がります。
○今野座長 1年目は育成期と考えて、そこでの能力レベルは賃金決定上は問わないということでしょうか。
○武田構成員 ご認識の通りです。ただ、賞与でも差は出てきます。
○今野座長 中村構成員、どうぞ。
○中村構成員 個人の成長が事業の成長と完全に好循環しているので、働いている方たちもすごく生き生き働けるんだろうなと思って伺っていました。
 その上で、質問が2点あります。
 共感度が高く、事業も成長するような人事制度を入れていく中で、公募で異動の希望がかなわなかったり、ついていけない人は出ているのでしょうか。もし出ている場合は、どういうふうにその方たちをサポートしているのかという観点が1つ目の質問です。
 もう一点は、21ページに武田構成員が見解を書かれている中で、「解雇ルールの緩和を謳うということではなく」や、「解雇ルールを変えるのではなく」という言葉を強調されていたのが印象に強く残りました。
 武田構成員は従来型の正社員ではない、一部の職種ではプロフェッショナル雇用のような選択肢が多くある社会が望ましいと考えていらっしゃると思うんですけれども、このプロフェッショナル雇用を一選択肢に確立していくときに、どういう社会的な法制度だったり仕組みだったりがあればいいとお考えになっているのか、ご意見を伺えれば幸いです。
○武田構成員 ありがとうございます。
 メンバーズの中でも、待機者と言われる未稼働な人たちがいらっしゃいます。事業側の教育チームもそうですし、人事のほうでもタレントパイプラインミーティングの中で定期的に話題になっています。場合によってはバイネームで話をしたりもしますし、棚卸しをするときもあります。
 人によっては、例えば、バックオフィス側に異動の希望を聞いて、こんなチャンスがあるけれどもやってみないかというお声がけをして、エンジニアの道から一旦外れて、例えば人事になっていったり、個別にキャリア面談をしていっています。
 とはいえ、ずっと待機が長くなるものが今後ゼロではないと思うので、そのときには本当に膝詰めでどういうふうにお話をしていくかというのは個別対応していく、いわゆるExitマネジメントのところもやらなくちゃいけないんだろうなと、これも今後、私が考えなくてはいけないことの一つのとして頭の中に今、入れている状態です。
 2つ目については、問題意識としてはこういうことがあるというのを書きましたけれども、どういう法制度があればいいか、私は専門家ではないのでぜひ考えていただきたいなと思っている次第です。
 自分の望まない処遇でずっとお給料を上げてくれないというふうにおっしゃる方もいらっしゃいますけれども、労働者も選ぶ権利があるということに気がつき、そのときに出てこられる環境、そのためにはどうしたらいいかを考えていくべきだと思います
○今野座長 伊達構成員、どうぞ。
○伊達構成員 ありがとうございました。
 学ぶことに対する意欲が非常に高いというところが印象として残りました。実際、学びに対する意欲というのは、私の専門としている領域でもパフォーマンスに対しての有効というのが認められています。
 一方で、例えば、子供は学びの意欲が高いが、思春期になっていく中で、他者から評価されたいといった気持ちが出てきて、純粋に学びに対する意欲が低下するという指摘もあります。
 2点質問させていただければと思います。学びの意欲が高い人材を採用されているのかなと感じています。とはいえ、入社した後に学びに対する意欲は上下することもあるのかなと推測するんですが、学びの意欲を維持するために社内で取り組まれていることがあれば教えていただきたいです。
 2点目は、メンバーズさんのような人材マネジメントというのが、どういう会社や、どういう人材に対して適用できるのだろうか、あるいはどんな会社でも工夫次第で適用できるのだろうかという点について、ご意見をお聞かせください。
○武田構成員 ありがとうございます。
 実は、採用のシーンでもどういう学びをしてきたか、自分自身を成長させてきた、成長させて変えてきた経験があるかということは重要視している部分です。自分がコントロールできるものであるということ、自分のマネジメントができているかどうかという部分ですね。それは勉強だけではなくて、いろいろなシーンで再現性があるかというのは。とてもよく見ています。
 あとは、実際に入社をするまでにどんなものを自分でつくってみたいというようなことを面談もして、何かちょっと簡単なウェブサイトをつくるとか、自分で課題を決めて作品を作ってくるんですね。ですから、その過程のサポートももちろんそうなんですけれども、そういったことをいとわない人たちがもともと入ってきている。
 中に入ると、この業界は常に学んで新しい情報をキャッチしていないとすぐに置いて行かれるで、そういった先輩たちの中でまた新入社員が育つ。それが好循環をしていて、社内でもいろいろな学びをしている人たちの活躍が出ていますから、自然とこれが普通なのだと彼らも思ってついてきてくれています。
 中堅の社員でも過去に自分で新しいチャレンジをしてここに来ているので、それがいい循環になっているのではないかと思います。
 あとは、2つ目の御質問をいただいて思い出したのは前職のカルビーの時代です。私が入った2018年の段階ではまだコロナ前でしたが、安定した業績が出ていました。すごく急な伸びはないですけれども、一定の売上げも見込める。ですから、そんなに大きく変化しなくていい。いろいろなものの変化もゆっくりな業界なんですけれども、ただ、コロナだったことがむしろフォローウインドになって幾つか変化をさせてきました。
 すごく内向きで社内のことにしか御興味がない方が非常に多かったんですけれども、オンラインでいろいろなイベントが自由にできる環境をコロナで人事も手に入れたので、外からいろいろな知人を招いて、こんな働き方をしている人がいるよとか、例えば同じ食品業界でもこんなベンチャーで大企業の中で企業内企業をしてこんなことをしている人がいるよとか、こんなリーダーシップ、こんなキャリアのつくり方、または移住をしている人、とにかく変わった人たち、かつ少し成功されている方たちをオンラインでたくさん呼んでお話をしてもらって、聞く場、ディスカッションする場を設けたんですね。
 実際に2年半くらい続いて、中には社内のゲストの方も呼んだりしたので多分50回弱実施をしたんですけれども、そういったことで本流から少し外れたいろいろなチャレンジをした方たちを見せる。そして、外の状況も見せる。また、学びの場だけではなくて、外でも既にあるそういった学びのシーンなり、例えば学校の授業に一緒に会社員として参加をしてみるとか、そういったいわゆる越境の場をたくさんつくったんですね。
 同時進行で6種類くらい回していたんですけれども、そういったことを1年以上続けていくと、会社の中でもチャレンジをするとか、今までどおりの延長線上ではもう未来はないということを理解してくれた社員は非常に多く、その次の年の手挙げの研修のニーズが倍になったり、海外に赴任してもいいという社員の方たちが、それまで1桁ぎりぎりだったんですけれども、3桁近くに人数が増えてきたりしたので、やはりそういうチャンスを見せてあげることは大事だと思いました。
 できるだけ等身大に近いようなロールモデルを見せてあげることで、自分事になってくれるんですね。みんなそういうチャンスを待っていると思うんです。このままでずっといいやと思っている人は一人もいなくて、次のところに行くためのスロープを人事なり会社なりが、または社会がどうやってつくってあげられるかだと思います。
 活躍したくない人はいないので、どこかで何か新しいことをチャンスがあればやりたい。でも、それをさも自分で選び取ったかのようにそっとチャンスを目の前に置いてあげるとチャンスを活かしたい、そんな感覚です。
○伊達構成員 ありがとうございます。
 武田構成員のようなCHROの方を今度はどうやって発掘して育てていくのかが重要になるんだなと思いました。
○今野座長 小林構成員、どうぞ。
○小林構成員 ありがとうございました。
 自分がチャレンジしたいなと思うぐらい本当に魅力的な会社で、すばらしいお話を聞かせていただきました。自ら学んで成長を実感できていてというところで、自己決定理論とか、そういった観点からもモチベーションを高めて、エンゲージメントを高める要件もそろっていくんだと思いますし、何より健康に働けるといった要件にもなっているのかなと思って伺っていました。
 手挙げをして自らやりたいことや、自分のスキルを生かせる場を選んでいくというのは、とても重要な点だと思うのですけれども、先ほどの安部構成員のお話にもありましたように、個人の意向とは別に、会社として、ここに配置しなければいけないという局面はあると思います。また、チーム単位で見たときに、スキルが足りない人の能力をどう上げるのか、モチベーションを上げるのか、共感をもっと持ってもらうのか、方向性はいろいろケースによって違うとは思うのですけれども、どのようにアプローチするのか、そういったところのマネジメントスキルがすごく必要になってくるのかなと思います。どのような工夫をされているのでしょうか。
 また、チームを運営する中で、チームとしてここは頑張りたい、という時期もあると思うのですが、その時に乗ってきてくれない人がいるのではないか、その辺りのそのマネジメントのスキルを高めるための工夫についてもう少し伺いたいなと思いました。
 もう一点は年齢が高くなっていくとやはり学ぶ意欲が高い人の割合が減ってしまったり、御家庭の都合とか、健康面とか、そういった様々な事情があったりして全力で働けない人が出てくると思うのですが、その辺りのケアとか、もし工夫されていることがあったら教えてください。
○武田構成員 ありがとうございます。
 マネジメントなんですけれども、おっしゃるように現場の方たちによる部分が非常に大きくて、本当によく支えてくれています。特に、地方拠点には味のあるいいマネジャーいて、彼ら、彼女たちがいいマネジメントをして人を育ててくれているんですね。
 本当にレベルが低かったら外すこともやりますけれども、基本は凸凹の凹を埋める、要は、ちょっと基準に足りない人をいかに上げていくかということをトレーニングしていきます。
 この全体の平均の高位平準化、横の線をいかに上げていくかということをこれから人事で時間を取ってやりますから、時間をくださいということを各執行役員の方たちに申し上げました。
 新任のもちろんマネジャーになったスタート地点もそうなんですけれども、そのためにエンゲージメントのサーベイをやります。これはクオーターでパルスっぽく使っているものと、あとは年に1回、割と大がかりにやるものと、2つをちょうど今スタートして、クオーターで始めるものがスタートしたばかりのところです。
 このサーベイの結果をもってチームごとにコンディションを見に行き、そこの結果からマネジャーのトレーニングになるメニューも繁栄をさせますし、あとは各結果を各部門に戻しながら、答えは絶対に現場にあるので、よいことをしている、よい再現性の高くなってほしい行動しているマネジャーたちのインタビューなりプレゼンなりをしてもらって、そして全体のレベル感を上げていく。マネジメントをアップデートしましょうということを、1年間かけてぐるぐると何年も回していくということをやっていこうと思っています。
 特にこれはサーベイを使ってというのは、現場によいマネジャーたちがどんな行動をしているかをインタビューしに行くのは物すごく楽しい仕事なんですね。すごくいい事例がたくさん出てきて、外部のそれっぽい理論ももちろん大事なのですけれども、やはり身近にやっている人がすぐ隣にいるというのはマネジャーたちが物すごく勇気が出ることなので、トライもすごくしてくれやすいですから、これを進めていこうと思っています。
 実は65歳が定年なのですけれども、うちは再雇用の制度はまだないんですね。今、人口ピラミッドをつくると下が物すごく重たい。普通の会社さんとは逆のきれいなピラミッドで、下のほうがお餅みたいになっている状態なので、例えばこの後、結婚がいっぱい出てきて出産ラッシュがあるでしょうとかというのは年ごとに見ていかないといけないので、そこは追々考えていきたいと思います。
○今野座長 私はこの業界で前から思っていたことがあって、働いている人は市場で単価がついている、つまりその人には市場価値があるんですよ。
 それとは別に、企業内では、普通、大手の企業では、分野に関わらず能力レベルで統一的に賃金を決めていく。ということは、同じ能力レベルであっても分野によって当然ニーズが違うから市場の単価が違うはずなんです。それにもかかわらず、なぜ同じ賃金にするのでしょうか。
○武田構成員 もちろん一人一人にプライスがついているのでそれでいいじゃないかという考え方もありますが、それはフリーで仕事をするということなんです。
 メンバーズで働くということで、社会課題解決も同時にできる仕事をもらえるし、何よりも共感しているチームで働ける。ここに皆さん物すごく価値を感じているので、会社や社内が本当に好きなんですよね。ですから、フリーランスで幾らでも外へ行けば仕事がある人はいっぱいいると思うんですけれども、飛び出て行かないんです。やはりこのプラットフォームが好きなんです。
 あとは、仕事以外でもいろいろなコミュニティが、先ほどのラボのほかにも部活みたいなものがあったり、サークルがあったりコミュニティが沢山あるので、メンバーズという仕組みの中にいるということに皆さん価値を感じて、それで飛び出していくことの選択を結果していない。それはすごく大きいと思います。
○今野座長 水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 1つ質問があります。15年くらい前はハードワークで離職率が3割くらいに達していた状況から、今はもうほとんど残業がない働き方に変わったというのは、時間外労働や残業時間を大きく減らした方法や、どのような形で減ったのかがお分かりになれば教えてください。
○武田構成員 当時の資料を見ると、会社全体で部門横断の社長直轄の大きなプロジェクトチームが組まれて、自分たちで働き方を変えていった。そこをかなり厳しく当初はやって、もちろんその後から必要な人もきちんと増やしていったという、当時の資料を目にしたことがあります。
 かつ、事あるごとに、社内のイベントでそのときのことが語られています。いかにそのときが駄目だったかというのを会長も社長も話しますし、ほかの中堅の方たちも、あそこからせっかく今いい会社になったんだから、この状態をさらによくしていこうという話をする方はすごく多いです。
○水町構成員 よく分かりました。
○今野座長 安部構成員とお二人に聞きたいんですけれども、手挙げ方式はいいけれども、企業側のニーズと個人のニーズが合わなかったときどうするんですかという話なんです。
 普通の労働市場で考えると、このマッチングが難しいから賃金という変数を入れて調整しています。
 企業内で、賃金で調整することが難しいとすると、賃金以外で何か調整する手段を持たないと長期的にはもたないです。この点について、安部構成員はどう思いますか。
○安部構成員 端的に言うと、対話と時間軸、処遇、つまり、やはり賃金だと思います。
 まず、企業と労働者の関係性が改めて見直されている中、対話の重要性が益々高まっていると認識しています。企業と個人のニーズのギャップを埋めるのは、やはり対話に尽きると思っています。その際、合意点を見い出す上で重要な要素が時間軸です。すぐに実現できなかったとしても、一定の時間軸での実現に向けて、納得感を得る手段やステップを話し合うことが対話の重要な要素を占めています。とはいいながら企業のニーズとして、短期で思い切った社員のシフトをしなければならない局面はあります。ソニーでは試行錯誤の末、2015年に完全職務給(ジョブグレード給)に切り替え、基本給の下方硬直性を取り払いました。極端に言うと、仕事が変わると賃金も変わるという、ある意味では乱暴とも言える施策ですが、ニーズに対して職務をベースにした新たな処遇を即時にオファーし発効できる環境を整備しています。
 まだ試行錯誤は続いていますが、以上3つをうまく組み合わせながら企業と社員のニーズの整合を取ろうとしています。
○今野座長 武田構成員の会社は今そういう状況ではないですけれども、頭の整理としてどう考えますか。
○武田構成員 今そういう状況がもし起きて、本当に社内に人がいなければ、今のメンバーズだと採用することになると思います。
 ただ、今、本当にあるのは割と新しい、若い人たちにも聞こえのよい、かっこいい仕事なので、そうするとみんなちょっと無理をしてでも取りに来るという感じです。
○今野座長 
 武田構成員、ありがとうございました。
 それでは、次は安部構成員の発表となります。安部構成員、よろしくお願いします。
○安部構成員 武田構成員のお話と重なるところが相当あるなと思いながらお聞きしていました。これは、たまたまではなくて、やはり社会の変化によって企業から画一的な業務がなくなり、価値創造のプロセスのより上流で、一人一人の社員のアウトプットを最大化することが求められるという変化の中、必然的な流れとして、同様の課題認識に頻繁に接します。最近人事の様々な集まりに参加する度に、どの会社も個を活かすことを基本にした人事制度への変革を進められているように受け止めています。
 あとは、先ほど伊達構成員がおっしゃったとおり、どれだけのスピードと覚悟で企業がそれに向き合っていくか、が重要で、その観点でソニーの現状と、これまでたどってきた経緯を簡単にご説明させていただきます。
 経営を進める上で、会社と社員が互いにどう向き合って、何を促し合い、何を提供し合っているか、経営と社員の視点、双方から捉えてご説明します。
 経営と社員の対等性については、ソニーも創業来の企業理念としてうたい続けて来ました。その理念は今も尊重し、継承しようとしていますが、現実には、雇用者と被雇用者という絶対的な関係は避けられません。逆説的に聞こえるかも知れませんが、だからこそ、創業来、ソニーはユニークであり続けたいという創業者の思いを重視し続け、あえて社員と会社は対等な関係だと77年間、うたい続けて来たとも言えます。これはソニーの企業文化、或いは理念を維持するための、人事としての基本的な価値観だったのではないかと思っています。
 ユニークであり続ける、社員一人ひとりが個性を発揮し続けるというのは、経営のアジェンダとなかなか整合が取りにくい部分もあり、効率や安定的な成長という観点では、経営としてのコストも難易度も高くなると思います。我々の経営も業績の浮沈が激しく、大きな変動の歴史をたどって来ました。一時、株価が1,000円を割り、今の企業価値の15分の1程度という大変厳しい時代も経験しました。特に人事担当として重く受け止めているのは、最大で18万人だった社員数が今は11万人になっているという雇用規模の大幅な縮小です。雇用削減の経緯では、経営上、追い詰められ、厳しい施策の必要性に迫られてやむを得ず取ったケースも多く、そう言った経緯から生じた痛みを経験したこともあって、やはり普段から徹底的に個を活かし、そのための投資を惜しまずに行っておくことの大切さを痛感しました。これを軸に、人事の仕組みを抜本的に整え直さなければならないということを確信した次第です。
 やや情緒的な話になりますが、経営上必要な構造改革は、できる限り事業譲渡や雇用維持を前提として配置転換で対応しようとしたものの、当然限界があります。ある中京地区で、数千人を雇用する製造事業所を閉鎖せざるを得なくなった時のことでした。
 配置転換で雇用は確保すると言っても、そこで長年暮らした社員が他県に移ることなど現実的には考えにくい中、結果的に離職という選択肢を取った多くの社員の転職支援という形で工場を閉鎖しました。雇用を守りきれなかった現実の中、社員は雇用の最終日、つまり工場を閉じる最終日まで品質基準に合致した製品を製造すると言うプライドでラインを流し続けた上、退去時には世話になった工場を完全に清掃して退去する、と言う行動で最終日を迎えることを目の当たりにしました。
 このような事態を目の当たりにすると、雇用確保を配置転換と言う会社の裁量権で担保すると言う従来のモデルはもはや限界を迎えており、理想かもしれませんが、エンプロイアビリティー、すなわち市場での価値を高め続ける支援を日頃から行い続け、それを高いエンゲージメントで繋ぎ留め続ける、こう言った関係へ移行しなければならないと強く感じた次第です。特に、こういった極端な業績の経緯をたどったからこそ、より強く感じたという部分もありますが、重く捉えています。
 こういう変化をたどり、今は多様な事業体の集まりとして進化に向けた取り組みを続けています。ソニーというと皆さんはソニーブランドがついたAV製品を思い浮かべられるかもしれませんが、今それは6つの事業セグメントの一つにすぎず、その他、ゲームや映画、音楽、金融、半導体、各々でほぼ等分の売り上げ構成となっています。
 社員の構成も事業、地域、ともに多様な広がりを見せています。多様性、個性を活かすというのは、これだけの広がりになると、どう経営としてマネージしていくか、難易度も高まりますが、やはり徹底的に個を軸にして多様性を強みに繋げるしか解はないと思っています。
 多様な事業を効率良く運営していくために、社内で様々な議論を重ねた結果、2021年度に経営体制を見直してソニーグループ株式会社を発足、ホールディング会社とは呼んでいませんが、各事業を統括する会社と位置づけ、6つの事業をその傘下に置いてそれぞれの事業の成長を支援しリードする、そのために経営資本の最適配置を行う、という役割に整理しました。
 個を活かすというのはソニーの場合、個の社員と同時に多様な個の事業についても当てはまります。個の社員と、個の事業の成長によって、ソニーグループ全体の成長を実現するということで、その経営理念をいかに社員に落とし込んでいくか、それがソニーの今の人事の基本になっています。
 ソニーの特色の一つに、新しいことへの挑戦を常に重視し奨励する、というものがあり、創業者がずっとうたい続けました。常に新しいことをやる、個性を出す、そう言ったユニークさを何よりも重んじることを標榜し続けています。これが経営的に全てうまくいったわけではありませんが、言わばソニーのレゾンデートル、すなわち存在意義です。それを実現する上での原動力は、好奇心や、成長への意欲、新たな挑戦への熱意、やりがいや社会へのインパクトといったもので、それを誇示し続けてきました。
 「創業者の言葉」は、社内で非常に頻繁に引用され、繰り返し語られています。これは、純粋に創業者を敬うという背景もありますが、見方を変えると、こう言った企業文化の特異さを価値として認めて尊重しつつ、それを競争力の源泉として維持するために、創業者を偶像化して、こういう理念を引き継ぐためにあえて創業者の存在に頼り、活用しているという面もあるように思います。
 ちょうど私の世代がぎりぎり二人と直接接することができた最終世代で、これからの人たちは名前でしか知らないという時代にソニーも移っていきます。企業文化というものの価値を改めて痛感しています。
 盛田さんが入社式で、ソニーが違うと思ったら早く辞めなさい、人生を無駄にしてはいけません、当時からそう語り続けていたのは、ユニークですばらしいと私は思うのですが、最近は内心、冷や冷やしながら言っていると以前、申し上げました。ただ最近、各社が本当に個を活かし始められると状況は大きく変化してきます。あるスタートアップの社長から言われたのですが、ソニー始め、大手企業を3年程度で辞めてスタートアップ企業に挑戦する社員は、喜んで送り出してあげてください、なぜならスタートアップの7割は潰れると言われています、そう言った修羅場を経験した社員こそ、呼び戻したら、こんな人材育成の経験はありません、と。自嘲気味に揶揄されながらの表現でしたが、ある意味では的を射ているかも知れません。企業単位で辞める、戻る、ではなく、社会自体がそういった動きの受け皿になってくると、各社が自社単位で対等な関係性を構築するだけでなく、社会自体がそれを支える仕組みを構築し、或いはそこに個の成長を促し続ける一つの解があるかなと思います。
 ソニーでは辞めた社員が戻ってくるのはもちろんありですし、むしろ積極的に、機会があればまた戻って下さい、と送り出し、実際、かなりの数が戻ってこられているという状況になっています。
 それを支える多様性と個の意思を尊重するための上位概念として、創業の理念、創業者の思いを今に通じるよう、内部で議論を重ね、2019年ソニーの存在意義、Purposeを定めました。それは”クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす”と定義され、これは我々がかねてから信じ、感じていたソニーらしさをうまく表現していると思っていますし、社内でも共感を持って受け止められていると感じています。これを人事の理念に落とし込み、極めてシンプルに表現しようとして定めた人材理念が”Special You、Diverse Sony”で、これは多様性を最大限発揮し尊重するソニーで、個を徹底的に尊重する、との思いを表現しています。これを軸に改めて我々の人事の取り組みや制度を見直しているところです。
 具体的な施策としては、個を「求む」「伸ばす」「活かす」で、社員のキャリアのイベント、ライフイベントを通して、入社から成長期、そして成熟期まで、その成長の在り方、業務への臨み方を、この3つのフレームワークで、基本的には共通の概念で進めようとしています。但し事業があまりに多様で、それぞれ異なりますので、6つのセグメントに、8人のいわゆるCHROが多様な顔ぶれで揃っており、基本的な価値観を共有しながら都度、方向性を確認しつつ、具体的な施策は各自に任せ、その事業に合った形で展開するという形を取っています。
 ソニーの経営方針でもある「人に近づく」という行動規範を現CEOが掲げ、ユーザーに近づく、クリエイターに近づく、など展開を進めていますが、我々も社員に近づく、として人事の取り組みにも取り入れています。我々がやっていることが一人一人の社員にどう届いているか、どう見えているか、それを重視することを我々の人事施策の基本設計のコアにしようとして進めています。
 個を活かし、多様性から価値をつくることは、画一的な施策では厳しく、選択肢を常に提供し続ける中、各自が取り組んでいることは常に自らの意思と判断で選んだという形を取ることにしか解はない、と私は思っています。
 自ら選んだということを前提にしようとすると、人事の役割というのは、管理するのでなくて支援する人事に変わっていかなければなりません。これを基本に、あくまで我々は個を軸に、人事はそれを支援する、管理ではないんだと言い続けています。これはマネジメントにも当てはまります。これを前提に、人事の施策全般を、例えばライフイベント毎に見たとき、会社に入り、成長、活躍し、その後の成熟期に至るまで、自分の人生のキャリアと照らし合わせ、それぞれをどう過ごしていくか、会社と社員の対等性を前提に、各フェーズで果たしてどういう選択肢を与えられるか、それを人事の制度設計のフレームワークにしています。
 1年の流れで見ても、とにかく会社が問いや選択肢を社員に投げかけ続けます。他社の方からソニーは自主性が高くてやりたいことがはっきりしている自立心に富んだ社員が揃っているからそれが可能でうらやましいと言われたことがありました。現実は、みながみなそう言った社員ばかりと言うわけではなく、例えば国内で5万人くらい社員がいますが、自分は次に何をやりたいのか、悩み、模索し、考え続けている社員も多くいます。そんな中、やはり対話の重要性は非常に大きく、それは今後もさらに重視し、それを共有し続けていかなければならないと考えています。常に問いかけて、投げかけ続ける。いろんな気づきのきっかけを提供するということが、自分のやりたいこと、なりたいこと、成長したいことに対して様々な気づきやヒントを与えることに繋がります。これをいろんな仕組みで提供し続けていくことを基本にしたいと考えています。
 いわば11万人で77年間の蓄積というものがある中、11万通りの個の要望と経営の整合をどう取っていくか。全て理想どおりに個の要望に応え切れるわけはなく、対話を基本にしながら、時間軸という解も念頭に置きながら取り組み続けなければならないと考えます。経営との連動性と言う観点で、経営には、置かれた環境や事業のフェーズごとに、経営として重視すべき指標というものが変化し続けます。売り上げや利益、経営効率やキャッシュフローなど、都度、そのときに求められるものを使って価値基準を選定しますが、普遍的かつ最終的に経営の価値を示すものが企業価値として表されるとすると、人事もその時々にいろんな取り組みを行い、人事施策を社員に投げかけた結果、個別の施策の効果の集約として、普遍的で最終的な結果は社員のエンゲージメントに表れると思っています。その意味で、やはり社員エンゲージメント指標が、人事の施策の有効性を示す総合的な指標だと位置づけています。
 これを前提に経営チームで議論をした結果、2018年から経営陣の役員のボーナスに社員エンゲージメント指標を反映することを導入し、既に5年が経過しました。経営チームとして、きちんと社員と向き合う、ということを核としています。
 この辺りの共通理解の構築が比較的しやすかった理由の一つは、非常に厳しい時代を経験した、と言う危機感があると思います。今は比較的、業績が好調で、皆さんから好意的に見ていただいていますが、非常に厳しかったときは企業存続の危機を危惧する声さえありました。今も現状に安穏としているわけではなく、常に危機感というものはあります。特に企業の成長とは、外部環境、競合との相対的な関係の中で実現しますが、今のソニーの業容では、構成するそれぞれの事業が、そこに専念する巨大なグローバルな競合相手と対峙する中、ソニーは全体で競争優位性を保っていかなければなりません。資本の集中投下ができないと言う多様性による制約があるとすると、多様性を競争力に繋げることに優位性を見出すことが、ソニーにしかできない独自の戦略と言えます。多様性をソニーでしかできない価値創造につなげることを、投資家、資本市場に訴え続けており、それは人事の施策にも、そのまま当てはまると思っています。
 「さまざまな経営資本の特性」、これは私が自分なりに勝手に解釈したものですが、経営を進めていく上で、さまざまな資本がある中、人的資本は、効果を産むのに長期の時間軸を要するとか、定量化しにくい、見える化しにくい、施策と効果の相関関係を明らかにしにくい、など多くの難しい要素があるものの、創造される価値については変動要素が非常に大きく、しっかりと向き合ってうまく活躍の場を提供したときの振れ幅、拡張性、可能性が非常に大きいということが、やはり最も重要で大きな特徴だと思います。その意味で、創業以来継続する個を軸とした人事政策は、今後も貫くべき基本的な考え方だと思っています。
 人事施策、「個を求む」、「伸ばす」、「活かす」の具体例について、少し触れさせて頂きます。
「求む」については、随分前からユニークな人材を求むことを重視し続け、今に継承しています。
 経営が厳しかったときに、ユニークな人を欲して大学とやり取りをした際、ある大学の先生に、最近の学生さんは少し元気がないですねと言ったら、元気のない会社に元気な学生は行きませんよと言われ、改めて我々がどのように社会に、候補者に向き合っているか、何を示しているか、が重要だということを再認識させられ、応募してくる候補者群とは、我々の鏡だという思いを持ちました。
 多様な職種に分類した職種別採用を継続しており、やりたいことを考えてもらうきっかけにすると同時に、個の思いに応えようと努めています。中には、やりたいことが定まっていない学生さんもたくさんいますので、Will採用と称し、何にでも挑戦してみたい、あるいは入社後に継続して自ら模索していきたいという人にも門戸を開いています。また、毎年、新卒と同数程度、経験者も採用していますので、あらゆるチャンネルでユニークな個を「求む」取り組みを積極的に推進しています。
 「求む」に関しては、入社後の社内労働市場もできる限りオープンな場となるよう心掛け、社内募集制度を始め、常に様々な方法、機会で、新しいチャレンジの場を提供しています。
 個を「伸ばす」というのは、すなわち「伸びる」と同義語だと思っていますが、自らの成長意欲を引き出し、それを実現する場として、社内大学としてのソニーユニバーシティは既に23年の歴史を経て、着実に経営人材を輩出し続けています。また経営人材育成だけでなく、我々の競争力の一つであるテクノロジーを進化させ続けるために、専門領域ごとに技術戦略コミッティーというものを構成し、優秀なエンジニアの成長志向を反映して、積極的で有効な多くの施策を展開しています。
 ソニーらしい人を「伸ばす」施策として、多様な事業を抱える利点を最大限活用し、普段接することの無い異業種のビジネスリーダーと次世代リーダー候補との接点を戦略的に設け、活用しています。多様な事業のリーダーを擁する我々ならではのチャンスとして、「クロスメンター制度」と称し、毎回、好評な反応を確認しています。
 個を「活かす」施策として、自主性を前提とした社内募集制度とは別に、完全な異動を伴わない、いわば社内兼業的な「キャリアプラス制度」を機動的に運用しています。1週間のうちの20%程度、1~2日、ほかの職場の業務を担当することで、異なる職務への敷居を低くすると同時に、多くの学びと気づきの機会に繋げています。現在、社内だけでなく、パーソルさんの既存プラットフォームを活用して、予め趣旨に賛同した他社の方々と相乗りできないか、例えば日立製作所さんやキリンホールディングスさんと議論、検討を重ねています。学びと気づきをより大きな視野で捉えてもらい、社会全体の気運に繋げて行ければと考えています。
 他にも「フリーエージェント制度」は、特定職場で高い成果を出し続けている社員に対し、新たな挑戦の機会を優先的に与える制度です。これによって新たな気づきのきっかけを与えると同時に、「キャリアリンク」と言う制度では、自分の専門性を社内にオープンに発信できる仕組みを提供し、関心ある職場からのアプローチを行いやすくなるよう支援しています。様々な働きかけをすることで選択肢に気づいてもらうよう努めています。
 支援という意味ではライフイベントで、育児は当然ですが、介護や不妊治療、がんの治療など、様々なライフイベントに対する支援をできる限り充実させたいと考え、諸制度を揃えています。その上での社員の選択肢の行使が基本だと捉えています。
 他にも、ボトムアップで社員の声を経営戦略に反映させるために吸い上げる様々な場を提供したりもしていますが、やはり経営の意向と社員の意向を合わせにくいものの一つは職位ですね。特に上位職位、大きな責任を持って大きな活躍をしたいという意向に対しては当然、組織的な制約や限界があります。組織の効率と機動性を高めるために、2015年に完全職務ベースの制度に移行し、かつ下方硬直性を取り除きましたので、あくまで仕事=役割が基本、と言う制度に改めました。役割が与えられる、或いはその役割に応募して着任すれば即時にその処遇を実現する。その役割が見直されたり離れて下位の役割に移行した場合には、大変大胆ですが、下位の職務に再定義をして基本給については見直しをする。すなわち、下げるということをやっています。
 下げ幅は年間で5%を上限にしていますので、何年間か掛けて、なだらかな移行を前提にし、できれば、その間に新しい機会を見出してまた上位にチャレンジしてもらいたい、という期待を込めています。これによって経営上の必要性との整合を図ろうとしていますが、インパクトが大きい制度改定でしたので、変更の際には、自ら全ての職場を回って趣旨を説明し理解を求めました。運用上は、まだまだ課題があると認識しています。
 社員、特に次世代の活躍を期待する社員には、新しい挑戦の場であるポジションを創出し続けなければならないとの思いから、最適な解とは思わないものの、まだ一部の組織では役職定年制度を維持しています。ある年齢になると職位を離れてもらうことによって、そのポジションを次世代に対してオープンにし、新陳代謝を図ろうとしていますが、年齢と言う基準が果たして適切か、さらに検討が必要との認識です。
 人材への投資と言う観点での報酬については、特に株価連動の報酬を強化、充実させ続けており、これによって中長期での企業の成長を意識してもらうことを期待しています。
 これら様々な施策の効果をモニタリングする上での社員のエンゲージメントを確認するサーベイは極めて重要と捉えており、現在、全事業、グローバルの11万人全社員に対して毎年実施、レビューを行っています。
 50歳を超えた頃から、キャリアの選択肢、展開の幅を、社内だけでなく、社外も視野に入れながら、人生100年時代に対する支援、意識付けのための投げかけを行っています。シニア層の追い出しという趣旨では全くなく、平時からオープンに人生を考えてもらう場の醸成を心がけています。
 これらを支えるために、2019年、確定給付型の年金を確定拠出型に変更しました。これは冒頭でお話しした、経営が厳しくなって必要に迫られてやるのではなく、経営状況が比較的安定している時にこそ、長期的な視点で双方にとって意味がある形で実施できるとの判断のもと、決断しました。当時の社長、副社長と議論を重ね、過去分の積立ても含めて個人別の年金積立額を算出、そこに4割の加算をして各人に配布することを会社として認めてもらいました。これによって財務の健全性と個人の資産形成への支援を実現できたと考えています。引き続き資産形成への支援を充実させられるよう、できれば拠出限度額の見直しを行って頂けるとありがたいと思っていますが、ポータブルな個人資産として確定させることができ、運用に対する意識付けと情報提供を継続して参ります。
 働き方については、裁量労働制の導入当初から、積極的に活用させて頂いています。とは言え、労働時間の長さについては課題があると認識しており、裁量労働制の適用者であっても、ログインとログアウトの時間と申請された執務時間を比較するなど、モニタリングのチェックはしています。労働時間については、以前に比べるとかなり短縮はしてきていますが、武田構成員のお話にはとても及ばない水準ですので、まだ引き続き課題と思っています。
 もう一つの働き方、勤務場所については、在宅勤務はもちろん選択肢なのですが、住環境の制約に配慮し、弊社社員の居住地が割と首都圏から西に集まっていることを踏まえ、横浜のみなとみらいにリモートオフィスを設け、自宅ではなかなか集中できない人に職場ではない第三の勤務地という選択肢を提供しながら、成長実感を持ってもらえるような環境の提供を心掛けています。また会社自体も、我々が提供するものというのは社会から学び続けるのがテーマである、という趣旨でのスピーチを、昨年サステナビリティ説明会の場で、CEOが行っております。やはり「学び」と「成長」というのが、経営と個をつなげる共通のアジェンダではないかと考えながら追及し続けている次第です。
 経営環境の変化のスピードが速い中、個の尊重と言う要望にどう応えていけるか、は引き続き課題です。ソニーも77年たって大企業になり、幸いブランドとしても一定の認知をいただき、例えば就職人気企業ランキングの上位にも位置づけていただけるようになると、「出る杭求む」で期待する人材とはまたちょっと違うタイプの方々が来られる傾向も認められます。高い自己認知の要望だったり、早期の成功体験の渇望、失敗をちょっと恐れるといった意識が広く認められる傾向にある中、果たしてどういった趣旨の安心感を提供すべきか、できるか、といった新たな面での人材のシフトが起こっていると思います。経営環境の変化に応じたスキルのシフト、リソースのシフトも重要ですが、マインドのシフトというものが、常に環境変化に対応して行くために最も重要ではないか、と考えています。6つの多様な事業を抱えるソニーにとっては、特に大きな経営の課題であると同時に、チャンスでもあるのではないかと思っています。
 最後に挙げたいのが、マネジメントの役割の重要さです。人事はいろいろな施策を企画、導入するのですが、それらを実行するのは全て現場のマネジメントです。環境の変化に伴い、現在、マネジメントに掛かる負荷は大変な勢いで高まっていると感じています。かつては権限を持つことによる、情報量の非対称性を背景に様々なコミュニケーションのハブとなり、それをベースに組織統率を担ってもらっていた管理職が、今や管理職を経由せず、即時にかなりの経営情報がオープンにされます。
 これは労働組合も同様です。情報というのが権限や組織の意義とは必ずしもリンクせずに、常に瞬時でオープンになって来る中、組織をマネージする難易度が非常に高まっています。かつて中間管理職というような呼び方で揶揄されたりしていましたが、今や、「中核管理職」として、組織の中核、ビジネスのフロントで、社員と向き合って役割を遂行している管理職の責任と役割の大きさは、これからもさらに増してくると思っています。一義的には、人事の支援の対象はマネジメントであるべき、と認識しているほどです。
 将来的には新しい世代の人たちが、そういった環境の中で経験を積み、それを当たり前と受け止めた新しいマネジメントとして台頭し、情報の非対称性や権限で人を動かすのではない、新しいリーダーとして活躍してくることを期待しつつ、心強く思っています。これはソニーだけでのことではなく、むしろスタートアップの方々とお話しをする中で、社会全体でそういう人材が輩出され始めている兆候を感じ、大きな期待感を持っている次第です。それを企業という枠組みの中で、どのようなメカニズムで実現させていくかが課題であり、チャンスかなと思っています。
 個を活かす、と創業者が掲げた思いを、環境がいかに変化しようが、今後もどう経営に連動させながら継続するか、日々模索しながら取り組んでいるところです。
 私からは以上になります。
○今野座長 安部構成員、ありがとうございました。
 それでは、質疑に入ります。中村構成員、どうぞ。
○中村構成員 
 2点ありまして、まず1つが非常にソニーさんもすばらしい会社さんだなということを改めて認識したのですけれども、例えば「個を「活かす」キャリア支援施策の拡大」等、様々な人事施策を今日御紹介いただいた中で、研究開発のエンジニアですとか、企画職の人たちにはいろいろな施策がはまりがいいと思うのです。「学び」と「成長」と「エンゲージメント」が循環していって、それが会社の付加価値に跳ね返ってきて、個人の自己選択も支えられるというのはすごく相性がいいだろうと思うのですけれども、一方でソニーさんの場合は工場等もお持ちです。そういう様々な職種や、全ての従業員に一律でソニーの施策はうまくいっていると捉えていいのか、こういう人たちにはこれが向いているけれども、こういう人たちには別のことをやっています、ということがあるのであれば教えていただきたいというのが1つ目です。
 2つ目は、ソニーらしさのような学びと成長と事業発展というのをうまく循環していくことができる会社を世の中に増やすには何があれば増えていくとお考えでしょうか。ソニーさんは77年の創業来からの文化の蓄積がこれを支えているとなってしまうと、今まで違ったんだけれどもという各社さんはまねができないので、何があればそこが変わっていくのか、ぜひ教えていただければと思います。
○安部構成員 両方とも難しいテーマだと思います。
 前者は、おっしゃるとおり、エンジニアの専門性のように、比較的、自身の成長と会社におけるチャンスを連動させやすい職種もありますが、全般的には、経営が成長し続けるためには、求められるものも必要に応じて進化させ続けなければなりません。そのためには、自分が持っている専門性は決して普遍的なものではないと言う意識を常に持ち、新しいスキルを身につけ続けることを促すことと、その意欲さえあれば、いくらでも機会と場を提供するという支援の姿勢を示し続けることしかないと思っています。
 欧米各国に比べて日本の一般的な労働者の学びに費やす時間が相対的に低いという調査結果は、極論すると、雇用を守ることを重視し過ぎた、重視せざるを得なかった企業の責任だったとも言える気がします。
 決して雇用の不安と言う危機感や緊張感で学習し続けてもらう必要はありませんが、基本的な成長意欲というのは誰もが有するものなので、自分の専門性が普遍的なものではない、と言う事さえ意識し、その前提で常に新しい専門性を身につけようとしてもらうことしか解はないように思います。
 例えばブラウン管テレビが好例です。今や、ほぼマーケットから消失しましたので、そこに従事していたエンジニアは、その専門性が通用しない世界に極めて短期で巻き込まれてしまいました。我々の事業も、進化させ続けない限り、現状維持では生き残れないという危機感を強く持っていますので、それを投げかけ続けることしかないかなと思います。
 ユニークさを尊重する企業文化を持った会社をつくるというのは、今、社会全体でそういう機運が高まっていると感じます。特にスタートアップの社長と話していると、みなさんそう言う意識の人たちばかりで、その総数は着実に増えてきています。ソニーを辞めてスタートアップの会社を起こす人も多く、社会としてそういう人たちをどう支援するか。
 ソニーという小さな枠組みの中で個を活かすのと同じことが今、社会で起こっており、この研究会も含めて、そういった新しい動きを支援しようという取り組みを継続させ、進化させる限り、私は比較的楽観視しています。あとは実行のスピードだと思っています。
○今野座長 水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 今の最後のところとも少し関連するかもしれませんが、1つの企業で人を抱え込んだり雇用を保障するということは社会的に難しくなってきているというのは、安部構成員が最初の頃からおっしゃっていることですが、これをどのように仕組みとしてサポートしていくかというときに、人材仲介業も含めてビジネスとかマーケットに任せておけば楽観的に人は動くようになるのか、それともやはり国とか自治体とか公的な何か仕組みをつくって、そういうものをよりプッシュしていくような制度が必要なのか。
 例えばヨーロッパなどでは、労使関係で組合も経営団体も使用者団体も産業別に企業を超えて、その労使の努力によっていろいろなことを仲介しながら育てていったり転換したりはしていっていますが、日本は企業別の労使関係というのが基本なので、そこをどうにか変えるという中間的なやり方があるのか。
 これまでも安部構成員は何回もそういうお話をされていると思いますが、本日のお話と関係して教えていただければと思います。
○安部構成員 厳しい時代を経験したからこそ、社会的なインフラや支援の価値というものを痛感します。
 本来、企業がやるべきことを社会に委ねたり頼るつもりはないのですが、社会全体として成長していくためには一定の社会的な支援のインフラが必要ではないかと思います。日本総研の山田さんがお話になったときに少し触れましたが、スウェーデンのような小さな国でグローバルな企業が育っている社会の仕組みを自分自身、経験しました。
 私がエリクソンとソニーの合弁会社の設立に従事した際、特にエリクソンから参画する社員は2,500人を前提としており、当時の該当部門に在籍する1万8000人の社員を2,500人まで減らさなければならなかった。そのプロセスは合弁会社設立前のことなので私が直接の当事者だったわけではないのですが、事業の再編を支える仕組みというものが非常に整っていたなと感心した記憶があります。
 前提として、そう言った経営決定を行う最終意思決定機関であるエリクソンの取締役の中に労働組合の代表が入っていて、その必然性が多面的に議論された後、一旦決定されると職業訓練の支援であったり、休業補償だったりの社会的インフラが随分整っていると感じました。それに伴う日頃から企業が負担するコストは、社会保障費であったり、税金であったり、と相応にありますが、そういったことを恒常的に支える仕組みが、企業の責務、貢献とセットで成り立っていると捉え、あれは参考にすべき1つのモデルだなと思いました。
 ただ、それと同じものをそのまま日本に入れるのがいいのかというと、必ずしもそれは現実的ではありません。例えば経営の意思決定機関に労働組合の方々が参画するなどは、社会的、文化的な違いもありますので、簡単ではありません。ただ、今、人材が日本の競争力の源泉だと言われている中、もう少し日本らしい、何か社会的な仕組みというのは何かできないか、考えるべきと思います。具体的な案はありませんが、先述の、有志企業間での兼業、副業によってまずは新しい体験を支援する仕組みづくりから始めて見るのも、ひょっとしたら一つのきっかけになるかも知れません。
○水町構成員 ありがとうございます。
○今野座長 武田構成員、どうぞ。
○武田構成員 ありがとうございました。これだけの社員の方たちがいらっしゃって、ソニーの方たちがいわゆるソニーの人らしくあるためにミッションビジョンの浸透とか、いろいろなシーンで皆さん感じていらっしゃるところがイベントであったり仕掛けの中にあると思うのですが、会社が意図していわゆるミッションビジョンの浸透であるとか、皆さんがソニーを体現してくださるように何か仕掛けている仕組みについて、もう少しミッションビジョンがストレートに皆さんに浸透していくような、そういった場みたいなものとか、仕掛けというのはあるんでしょうか。
○安部構成員 決して、万能薬のような、これは非常に効果があるという施策があるわけではなく、各社がやられているのと同じように、タウンホールの開催、様々なメッセージの発信、ボトムアップでのワークショップの運営、などを継続的に行っています。
 メッセージの発信や、ポスターによる周知、アワードの実施、イベントの企画、運営と言った取り組みの中で比較的、共通して効果があるかなと思うのは、インタラクティブな対話、社員との直接のやり取りです。一方通行のコミュニケーションではなく、自分の口で発言したことに対して、何らかの反応を返し、そのやり取りが何回か重なることによる効果、理解の深まりや浸透度の効果というのは非常に大きいと思っています。経営チームが現場に行って社員とスモールタウンホールとかをやりながら、メッセージを伝える際に、質疑応答の時間をできるだけ多く取る、極めて当たり前でベーシックなことのように聞こえますが、やはり対話の価値と重要性というのは、改めてすごく大きいなと思います。
 それ以外にも、考え得るあらゆることをやっていますが、最近はコミュニケーションの手段として、テキストから、イメージへ、そしてそれが今ビデオによるストーリーという形での提供と言うふうに進化させています。これはもっぱらコミュニケーションの専門家の人たちがどんどん進めてくれて行っていますが、やはりストーリーを込めたビデオメッセージというものは、非常に進化したものとして、そのクオリティーと共に効果は着実に高まっているなという気がします。
○武田構成員 ありがとうございます。
○今野座長 伊達構成員、どうぞ。
○伊達構成員 ありがとうございました。
 武田構成員とお話と安部構成員のお話を伺いながら、個を単位にする方向性が大きな潮流になっているのだなと改めて感じました。
 一方で、個のニーズを踏まえていくと調整コストが発生してくると思います。例えばスタートアップぐらいであればそんなに気にならないレベルかと思うのですが、規模が大きくなってくると調整コストが膨大になるのではないでしょうか。調整コストを下げるための何かしらの工夫がなされているのだろうと思いながらお伺いしていました。
 例えばテクノロジーであったり、専門化を進めたり、いろいろな方法があると思いますが、調整コストの問題にどのように対処されているのでしょうか。
○安部構成員 調整コストというのは二つの種類があると思います。両者の意向のギャップに関し、どう整合を取るかと言うコストはなかなか難しいものがあります。他方、意向の種類が双方、膨大な量になるため、そのマッチングのためのコストと言うのも異なる種類のコストです。こちらは確かにおっしゃるとおりで、対象数が膨大な量になるため、可能な限りデータ化して見える化を図り、その情報をできるだけオープンにして、情報量の非対称性をなくすことが基本になるだと思います。
 ソニーではWorkdayという、この領域では非常に有名な人事システムを導入しており、そこに本人のスキルだけでなく、キャリアの志向や新たな挑戦の意向というものも反映できるようにしていこうとしています。ただ、データだけでは解決に繋がらず、いかにそれらをうまく整合させていくか、おっしゃられたコストと言うのは、その効率をどう上げるかにかかっていると思っています。
 他方、双方の意向にギャップが認められる場合に、それをどう縮め、埋めていくか、そちらは別の種類のコストと考えられます。それらに対しては、時間軸や、互いの意向の幅をできるだけ広くとることで整合を図り、両者の合意形成を構築すると言う対応が多く取られます。これを進める上で基本となるのは、やはり対話と言うことに尽き、マネジメントがその責任を持って時間や労力を惜しまず臨んでいく、と言うことだと思います。
 後者の調整コスト、労力に関しては、これもスタートアップの会社の社長から聞いたのですが、スタートアップのほうがむしろコストは大きいとおっしゃっていました。
 場も限られ、社員も限られている中、各自がやりたいことと経営のアジェンダはやはり一致させにくく、それをどうしているんですかと聞いたら、できないことはできないとはっきりと言う、とのこと。今は実現できないけれど、5年後にできるように一緒にやろうよ、などと言って時間軸に解を求めながら合意点を見出す、この不整合を埋めるコストはスタートアップのほうが相対的にやはり大きいので、何とか時間をかけて克服するようにしているとおっしゃっていました。
 その点では、やはり大企業のほうがまだすり合わせの手段や可能性は高いと思え、あとはマッチングを効率良く行い、どこにその可能性があるかをできるだけ効率よく見つけるためにテクノロジーを有効に使おうとしています。
○伊達構成員 ありがとうございます。
○今野座長 先ほどからおっしゃられている、個を生かすには本人が選ぶということが重要で、企業がそれを支援するということなんですけれども、そうすると論理的に考えると、選ぶ以上は結果はおまえが責任を取れよということになるんですよね。ですから、賃金とか報酬などの一種の結果については、あるいはパフォーマンスについてもおまえが責任を取れと。
 個人はそういう中で生きていくには能力を持つということも重要ですが、一種の賢い交渉人にならないと生きていけない。そうすると、その人の交渉力、広い意味の交渉力、こんな仕事を取るぞとか、あるいはこういう能力をつけて、こういう部門で仕事を取っていくぞとかという意味の交渉力を持たないといけない。
 しかし、個人の交渉力は限られる。そうすると、それをサポートするにはどうしたらいいかという問題も出てくる。それは今おっしゃられた、選ぶから会社が支援するという意味と違う支援ではないかという気もするんです。この辺はどうするかなと思ってお話を聞いていたんですけれども。
○安部構成員 まさにおっしゃられる通りで、支援するというのはむしろ期待に応えられかった社員にこそ、より強い支援というか、多様な支援をしていかなければならないと考えています。
 自分で選んだからこそ、結果に対して責任を持ってもらいたいというのは、共有していますので、ある程度のストレスがかかる状態にはなっていると思います。
 定期的に社員のエンゲージメントを調査すると同時に、ストレスチェックをするという二層構造は、その意味でも非常に重要だと思っています。ストレスチェックというのは、やはり絶対的な前提条件であるべきと言う意味で非常に重要で、そこで明らかになった課題に対する支援は、よく言われる心理的安全性の確保、という趣旨も含め、全ての人事施策の基本であるべきと思っています。
 個を活かし、やりたいことを選んだという前提で、活躍と成長を追求するほど、ストレスはひょっとしたら高くなっているかもしれない、それくらいの前提の下で、一体、必要な支援というのはどういったものであるべきか、人事は常に考え続けるべきと思っています。
 新卒採用で、複数の内定を得られたある学生さんが、ソニーは緊張感が続き、何だか疲れそうなので辞退しますと言われたことがありました。競争に勝ち続けなければならない会社のような印象を与えているとしたら、それは全く実態でも本意でもなく、あくまで個を活かすことによる、成果と言うものが基本です。成長し続けてもらいたい、そのための支援は惜しまない、というメッセージをしっかりと出していかなければならない、と思っています。
○今野座長 もう一つ、これは細かい制度の問題なんですけれども、先ほどジョブグレードのお話がありましたよね。何ページなのか、我々の資料と違うのでページで指定できないんですけれども、従来の言い方で1等級から9等級まであるという説明がありましたが、とくに下のリーダー層に対応する等級の説明の書き方を見ると、ちょっと乱暴なことを言うと職能資格制度の書き方とすごく似ている。
 ただ、職能資格制度はその仕事ができる能力で認定するけれども、多分この場合はその仕事をしているということで認定するという、その違いかと思うのです。そのときいつも困るのはこの右側の専門職ランクなんです。上級ですね。左側の組織上のランクはグレード化しやすいんですけれども、技術者の専門職をきちんと評価をして格付けるというのはすごく難しくて、日本の企業はずっと今まで失敗の連続をやってきたと思うのですが、この辺について今どういう状況になっているんですか。
○安部構成員 確かに専門職のところのランク付けはできるかぎり、丁寧に行うようにしています。できるだけ多面的、客観的に行うことに主眼を置き、単に一時的な評価者の評価結果を、その上位の者が確認をするというレベルに留めず、専門職については、独自の専門職認定制度のようなもの、いわゆるコミッティー形式で、それぞれの領域の専門家が複数参加して、様々な視点からレビューする、というプロセスを着実に行うようにしています。
 性格上、それとやや似ているのがジュニアの層です。職務給と言うのは、リーダー層以上は比較的適用しやすいのですが、さっきおっしゃられたとおり、本人が持っている力量に合わせて職務がアサインされている傾向が多いジュニアの人たちは、完全な職務給の運用というのは、現実に運用していく中では、なかなか難しいという現実があります。そのため、ここについては、先ほど下方硬直性をなくしていると申し上げましたが、この層に関しては実際に下に落ちると言った運用は、さほどしていないですね。やはりある程度の権限と責任を付与したマネジメント層以上で、職務を絶対的な基準とした運用というのをやっています。
○今野座長 戎野構成員、どうぞ。
○戎野構成員 個を大事にしていくという歴史的な蓄積がある中で、改めてまたここでそれを強調するということの意義と、なぜなのかというのを考えながら伺っていました。先ほど、歴史の蓄積というのが一つその大きな要因になっているというお話があって、歴史の蓄積の中で失敗をしにくくなってきたという、ここのところが改めて大きいのかなと思いした。
 これは別にソニーさんだけじゃなく、ほかの企業の方もコストを考えると失敗させられない。また、人材育成する上でも失敗をさせるのが怖いとか、失敗というのが一つのキーワードになっているのかなと思うのですが、さっきのスライドの中にもちらっとあったと思うんです。何か考えられて大きく変えられたこととか、今後変えていこうということがあれば教えてください。
○安部構成員 それは永遠の課題ですね。失敗は最高の学びの機会だとか、失敗は成長にとって非常に大きな気づきのきっかけになる、と言ってはいますが、現実に日々の生活の中では、当然失敗を称賛するわけではありませんから、まずは結果に対してそれをちゃんと受け入れるという文化が前提になります。むしろ、何をした結果の失敗なのか、といったプロセスを重視して、新しいことに挑戦をする、それを評価すると言う点をできるだけ発信し続けるようにしています。
 そのためには、最終的に、組織目標を個人のレベルにブレークダウンしていって、職務としてアサインするマネージャー、リーダーが、そう言った職場雰囲気をつくることに尽きます。現場で社員と日々接しているマネジメントが、日頃からそれを行動でどう語って示せるか、そこに全てがあると思っています。
○今野座長 小林構成員、どうぞ。
○小林構成員 先ほどの議論にもありましたけれども、ソニーのこのような取組で本当に成長していくんだろうなと、個人も会社も成長していくと思いますし、そういう人材を流動化していくような考え方で業界全体も成長していくんだろうなと思いました。
 それで、離職して戻ってということを繰り返すことが、かえって人材育成になるんじゃないかという発想は本当に大事だと思いますし、今後もそういった考え方がコンセンサスを得ていくといいなと思います。様々に個を伸ばす、生かすような取組をされて、他社とも連携しながらというところのお話が出てきましたけれども、きっと体力があって大きな会社の話でもあるのかなと思いまして、社会全体で見ると先ほど社会インフラの話もありましたけれども、中小企業ですとか、あとは一回脱落といいますか、そこから退職した人の中には競争が合わないような人もいると思うんですね。
 そういった方たちがそういう流動性の中に入っていく、全体が流動しながら成長していくような、そんな社会をつくっていくためにというところで考えると、今回の取組から得られた知見を社会の仕組みに生かしていけるところがあるといいのかなと思ったのですが、何かありますでしょうか。
○安部構成員 各社が個を活かして経営に繋げようと様々な取り組みを進められている中、各社で蓄積された知見を、今後どう企業を超えて共有していくかということは、これからますます重要になってくると思います。
 全く異なる視点での例えになるかも知れませんが、日本にはご存知の通り特例子会社というのがあり、我々もグループ内に数社、有しています。ところがグローバルな人事の集まりで、海外の人事担当に来てもらって現場を見せると、これは究極のエクスクルージョンで、全くインクルージョンではないではないか、と言われてしまいます。私は、特例子会社というのは、一定の段階で大いに意義ある役割を担っていると捉えており、もちろん最終的にはそう言った会社に障碍者を集めるのではなく、各職場で自然に活躍してもらえるようにすべきだとは思っています。ある企業の人事担当役員の方もおっしゃっていましたが、エクスクルージョンだ、などと言うのはきれいごとで、そういう方々を集めることによって、一体どういう支援をすればいいか、などの知見が集まる。そこで集めた知見をどう普通の職場に展開させていくか、ということに大きな意義と価値があると言われ、私も全く同様の考えです。スキルの転換や意識の変革など、大きな企業だからこそ蓄積された、失敗例も含めた知見やノウハウをどのように社会に還元と言うか、共有していくか、そういう仕組みの意義は感じます。
 我々も、ある意味、歴史を重ねたからこそ経験した痛みだったり、多くの学びはそれなりに蓄積されたものがあり、そういうものを共有できるような仕組みがあれば、水町構成員がおっしゃったような雇用に関する課題に限らず、もう少し広い範囲の社会的な支援の仕組み、インフラに繋がる気がします。
○小林構成員 ありがとうございます。
 一企業だとなかなか難しいなと思いますので、そういった知見を全体で集めることができればいいのかなと思います。
○安部構成員 そうですね。今、スキルに関しては大学が企業を超えた、いろいろなスキルの共有や転換、進化の働きかけ、リスキルのようなことを働きかけていただいているので、それ以外の領域についても課題ごとに共有できる仕組みが整ってくるといいなと思います。
○今野座長 安部構成員、ありがとうございました。
 本日の研究会は、終わりにさせていただいます。最後に事務局から事務連絡をお願いいたします。
○労働条件確保改善対策室長 次回は6月23日金曜日9時から11時にAP虎ノ門で行います。
 以上です。
○今野座長 今日は武田構成員と安部構成員、ありがとうございました。
 それでは、終了いたします。