第7回新しい時代の働き方に関する研究会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和5年5月25日(木) 13:00~15:00

場所

AP虎ノ門 Bルーム

議題

構成員からのプレゼンテーション
労働者の働き方・ニーズに関する調査について
 

議事

議事内容

○今野座長 それでは、ただいまから、第7回「新しい時代の働き方に関する研究会」を開催いたします。
 本日、安部構成員は御欠席でございます。
 本日ですが、最初は中村構成員から発表をしていただき、その後みなさんで議論をしていただきたいと思います。後半は、労働者の働き方・ニーズに関する調査の概況について、事務局から報告をしていただきます。
 それでは、まず中村構成員からプレゼンをしていただきたいと思います。よろしくお願いします。
○中村構成員 中村です。よろしくお願いします。
 本日、私からは「良質な「働く」を広げる」、サブタイトル「-情報とコミュニケーション-」をテーマにお話をさせていただければと思っております。
 まず、最初に新しい働き方を考えるという上で「現状認識」からいきたいのですけれども、現状では、様々に選択肢が増えてきていて、法整備は急速に進んでいるという認識を持っています。企業の人事制度も負けず劣らず、非常に様々な先進的な取組が生まれています。
 一方で働く人たちのほうを見てみたときは、必ずしもそれが世の中、全体に普及していないという認識も持っています。
 働き方ということであれば雇用形態ですとかケアとの両立、テレワーク、リスキリング、ジョブ型等々、様々なキーワードが出てきていて、様々な法律もくしは人事制度が整備されているのですけれども、直近、連合総研が行った調査では、非正規労働者の人と同一労働同一賃金をしているという割合は何と3割にとどまっているというような状態になっていますし、育児休業については、そもそも男性も育児休業を取れるというのは本来の制度趣旨ですが、いまだに男性の取得率は極めて低いという状態でした。
 また、テレワークに関しては、昨今コロナの収束に伴って出社を促すような動きが増えてきている一方で、テレワークが認められていない人でも5割の人たちが実はテレワークをしたいと言っています。リスキリングについても社会的に大きな関心を呼んでいますが、正社員で知っているという人が4割にとどまっている。正社員でない人たちに限れば2割を切っています。個人が諸制度を活用して充実して働く社会をつくるには、個人の人たちが大きな変化を一緒に進んでいくということが大きい論点だと思います。
 ジョブ型とともに出てくるキャリア自律が低い層という人たちは、雇用の安定性や働く仲間との関係性を重視する一方で、高い層というのは全体では1割程度ですけれども、成長機会や達成感のある仕事を求めています。この高い層の論理で制度をつくると、多くの低い層の人たちはついてこられない、一方で、低い層の仕組みだけを保全すると、今度は高い層の人たちにとっては不具合が生まれるという状況になっている。やはり多様な働き方、個別化が進んでいく中で社会の仕組み、もしくは個人の関わり方というものを根本的に見直さないといけないという、制度の実効性に論点が移り始めているんだと思います。
 個人がなかなか変化についてこられていないという一方で、この研究会の中でも何度か、これからどういうふうに変えていくんだという議論が出ていたように思います。
 4ページを見ていただくと、これはホフステードの有名な文化的価値観の国際比較のデータですけれども、赤で書いてあるのが日本の結果になっています。日本は諸外国と比べて男性的、長期志向、不確実性の回避というのが極めて高くなっています。
 一方で、人生の楽しみ方というのが低い。つまり、人生を楽しまない。右側に書いてあるように、幸福感や余暇というものについては望まない傾向があります。
 また、個人主義か、集団主義かというと、集団主義が強いということで、ここにあるように内集団に忠誠を誓う限り、その集団からは生涯にわたって保護されるという価値観が一般的には多く見られる傾向があります。
 この中で特に重要だと思うのは、やはり長期志向と不確実性の回避というのが文化の時代、不確実、非連続、複雑な変化が様々起きてくる中で非常に相性が悪いというのが日本人の価値観の特徴です。
 【不確実性の回避】というところを見ていただくと、右のほうにあるように、不確実な未知の状態に対して非常に不安を感じるというのが日本人の特徴になっていて、その結果として多くの細かい法律や暗黙の了解というのをつくりたがる。結果的にそれはつくるんですけれども、その次に書いてあるように、守れない法律も制度も必要とする。まさに先ほど冒頭出たように、様々な諸制度が整備されている一方で、それがなかなか実効性がないというのは、価値観からも一定の説明がつくというのが今の日本の状況です。
 また、上から2つ目の長期志向が強いという中の、結果が出るまで辛抱強く努力し、倹約を心がけ、余暇を重視しないというのも日本の特徴です。この辛抱強く努力してということとか、倹約を心がけるというのが、例えばハラスメントが起きてもそこで我慢せざるを得ないとか、労働時間が長くなっていても、そこでどうにかして我慢しようとみんなが言ってしまうというのが職場でよく見られる状況です。今、働き方で話題になるものは、価値観の国際比較の中からも一定、説明がつくということが分かります。
 政策に関してはこの後、議論になっていくと思うのですけれども、今の価値観を踏まえたものじゃないと社会は受け入れない一方で、その変化を乗り越えるためには、新しい価値観にしていくというある種の方向性を提示するということが併せて必要と認識しています。
 続いて、5ページ目です。このような状況の中で「日本の労使関係」というものをどういうふうに捉えるかということなのですけれども、まず日本の労使関係の特徴は左の図にありますように、単に労働組合の組織率が低いということが労使関係の脆弱さを表しているのではなく、2つ目にあるように、労働協約の適用率もフランス、デンマーク、ドイツ等と比べると非常に低い状況です。つまり、組織率が低くても労働協約の適用率が高ければ集団的労使関係の中で包摂されるんですけれども、まずそれが機能していないということです。
 一方で、集団的労使関係が脆弱だと個人が強いのかと言うと、アメリア、フランス、デンマークは個人の交渉が高いですけれども、日本は弱い。労働組合の組織率が低く、労働協約の適用率も低く、個人で労使コミュニケーションを取る慣行もないということで、何階層にもわたって労使コミュニケーションが脆弱というのが日本の現状です。
 加えて、より深刻だと思うのは右側の図になります。右側の図は、連合総研で行っている勤労者向けの調査の2003年と2022年のほぼ20年間の変化の比較を表したものです。見ていただくと分かるように、賃金改定の経過や賃金改定内容の説明というものもこの19年間で減っています。下側にあるように、職場環境や安全衛生に関する話合いも減っています。
 例えば、非正規雇用が増えたという説明がつくのかもしれないんですけれども、一方で非正規雇用に関しては同一労働同一賃金の法改正で企業への説明義務を課しているという状況があります。ですので、職場では、制度の変化が十分に効果を発していない。労使コミュニケーションが減少傾向にある中で、どのように労使ともに将来に期待ができるような働き方をしていくのかというのが今、問われていると言えます。
 では、こういう日本の現状において「良質な働き方を広げる」というときに、どういう物事の考え方があるのかというのを整理したのが次の6ページになります。
 まず1つ重要だと思うのは、企業に法律を課す、それを守るのは経営であり、管理職であるというのが建前、立てつけです。
 欧米諸国に比べ労働者が管理職になり、その人たちが経営者になっていくというのが日本のキャリアの特徴だといわれています。労働者の集団が職場や企業を形成しているという意味でいうと、単に管理職や経営側に義務を課すというのではなく、労働者一人一人がその新しい制度の当事者であるということが重要です。
 逆に管理職任せにしているからこそ、管理職は自分が労働者時代に経験していなかったことは、それでやってきてうまくいったんだからと。例えばハラスメントが繰り返されるというのも、やはり労働者側にちゃんと制度が浸透していないことによって説明がつくと考えています。
 個人の人たちも巻き込みながら働き方を変えていくときに恐らく一番重要なことは、情報が広く行き渡っていることだと思います。
 図は<働き方の質の向上メカニズム>ということで書きましたけれども、最初の働き方に関する情報があって、それが情報開示や説明義務等で広く普及される。それが例えば不動産を借りるときの手続みたいにすごく細かい小さな字が書いてあって、ほとんどよく分からないけれども一応聞きましたみたいな話ではなくて、ちゃんと理解できるものでコミュニケーションがされていることが大切です。そういうことが教育だったり広報で周知されたりすることで、理解になり、3つ目のタイミングで、それが職場の中で実行されていく。
 実行のときは、当然ながら法律ですとか労働基準監督というような、ある種の外圧も実行を促すんだと思います。ここで大事にするべきは、そういうふうに実行しているものが、より良質な、より健全な、より発展的な働き方になるような仕組みになっているかというところです。企業がそう変わりたいとするインセンティブがあるか、労使コミュニケーションの中でそれを自分たちで生み出していけるか、ということが問われていると認識しています。
 いずれにしても、情報を世の中に広げていくことによって、働く人一人一人も当事者として、働き方を一緒につくっていく社会を目指せるのではないかと考えています。
 さて、このような問題認識の中で、今後の変化の方向性について、お話します。
 まず1つ目が「働き方の情報開示」です。先ほど、情報開示が働き方を変えていくときの核になるとお伝えしました。その情報開示が今どういう状況にあるかということは8ページを御覧いただきたいと思います。
 近年、人的資本ですとか働き方の情報開示というのが進んでいます。2010年ぐらいから女性活躍や若年雇用、中途採用、あとは健康経営といったものが見られます。とりわけ大きいのは2010年代後半から海外でもGRI standardsやISO30414ですとか、人的資本の情報開示が大きな流れになってきて、日本でも2020年ぐらいからそこの開示の方向性が一気に進みました。人的資本に関しては、2023年の3月決算から、有価証券報告書で男女の賃金格差ですとか、育休の参加率の開示義務が課せられることになっています。
 考えたほうがいいと思うことは、特に人的資本の情報開示は、経済ですとかESG投資と言われているような社会政策の文脈で考えられているので、必ずしも労働政策、特に日本特有の労働の問題が十分に考慮されて、整備されていないということです。
 海外ではあまり優先順位が高くないんだけれども、日本では非常に重要度が高い、かつ情報開示が未整備になっている論点は4つあると考えています。
 1つ目が「心理的安全性を高める取組み」、2つ目が「1on1ミーティング」の実施状況、3つ目が「テレワーク利用率・利用日数」、4つ目が「雇用形態別の研修時間・研修費用」です。それぞれについて、説明させていただきます。
 まず9ページで、「心理的安全性を高める取組み」に関する情報開示をもっと積極的に進めるべき理由を述べています。
 1つ目の一番大きな理由は、総合労働相談の1位は10年連続で「いじめ・嫌がらせ」になっていることです。10年連続1位が「いじめ・嫌がらせ」というのは異常な事態で、これを解決することというのは働く上ではとても重要です。
 加えて、国際調査を行っても、日本は他国に比べて人間関係を理由とした離職も高いということが分かっています。
 また、小林先生からのプレゼンテーションでありましたように、身体的安全性の確保に注力している企業はたくさんあるけれども、メンタルヘルスやハラスメントという問題はいまだにその解決は十分でないという実態があります。労働環境が危険な発展途上の国等であれば身体的安全性の確保というのが極めて重要なんですけれども、日本のようにある程度、成熟した社会の中ではむしろ精神的充足、精神的健康ということの重要性がますます高くなっている。身体的安全性だけではなくて「心理的安全性」を今後は2本柱にしていくべきだと思います。
 心理的安全性はチームのほかのメンバーが自分の発言を拒絶したり罰したりしないというふうに思える状態、そして自分が生かされている、尊重されていると思える状態です。まさに職場の中にインクルージョンされている状態というのが心理的安全性です。
 心理的安全性の高い職場に関する研究というのは非常にたくさんあるんですけれども、右下にあるようにリクルートワークス研究所が行った研究でも、例えば仕事への充実感、自身への成果、自律的なマネジメント、学びへの意欲、他者への信頼、他者からの信頼、心理的安全性が高い職場というのはすべからくスコアが高くなることがわかっています。ほかの様々なことをやるよりも前に、まず心理的安全性を高めるのが有効です。
 心理的安全性の情報開示では、例えばストレスチェックの結果の状況や、メンタルヘルス・ハラスメントの研修の実施状況、メンタルヘルス休職者の数字の公表等が考えられます。
 続いて、2つ目の情報開示で今後考える論点としてあり得ると思うのは、「「1on1」ミーティングの実施状況」です。日本の労使関係の大きな特徴は個人的な労使コミュニケーションも脆弱だということです。そのため、個人的な労使コミュニケーションを活性化するのは政策の一つの方向性であろうと考えます。
 「1on1ミーティング」に注目する理由は、1つはキャリア自律ということが重視されて、リクルートマネジメントソリューションズの調査では、既に導入率が7割程度になっているからです。一定程度普及しているということです。
 導入の理由は、キャリア自律を促したいということが、企業が1番に挙げているケースが今は多いです。また、働き方の個別性が高まっていく中で、集団的な労使交渉の中で解決するよりも個別に上司、部下ですとか、職場の中で配慮、対処することが一番有効な場面というのは様々ある。学術概念で言えば、「I-deals」というものがありますけれども、「I-deals」の重要性も高まっているということで「1on1ミーティング」の実施状況を重視・、注視していく制度が望ましいと考えています。
 なお、補足になりますけれども、パワハラの起こる職場というのは右側の表にあるように、最も起こらない職場との差は上司・部下のコミュニケーションが少ないですので、やはり上司・部下のコミュニケーションを活性化する方向の政策は有効だと思います。
 続いて、3つ目に情報開示として考えるとよいと思うのは「テレワーク利用率・利用日数」です。先ほど述べたように、テレワークについては見直しの動きが起きています。一方で、個人側から見た場合は非常にテレワークに対する期待ですとか希望というのは高い状態です。
 一番左側はリクナビNEXTという転職サイトでのコロナが5類に下がった後のゴールデンウィーク明けの検索キーワードランキングですけれども、リモートワークに関するものがこれだけたくさん入っています。見ていただくと、転勤なしとか、そういうものよりもリモートのほうがずっと高いというのが分かっていただけるかと思います。
 また、国際的な働き方人的資本の情報開示の中で様々に職場に関する情報開示の項目もあるのですけれども、テレワークを明示的に求めているものは現時点でないように認識しています。
 ただし、日本に関していうと、少子高齢化が進展し、介護と仕事の両立が極めて重要になっていく中で、「ケアの権利」を守るという観点でも、テレワークの情報開示を進めていくことは日本ならではで、重要なのではと考えています。
 4つ目は「雇用形態別の研修期間・研究費用」の情報開示です。人的資本への投資ということで、リスキリングが大きな注目を集めています。今回の有価証券報告書の開示項目の中にも、この研修時間等が入っています。
 また、左下にあるように、国際的な様々な基準の中でも、リスキリングですとか研修に関する項目はほぼ必須と言っていいくらい、最もスタンダードかつ注目されている項目です。一方で、日本の有価証券報告書の開示義務は、雇用形態別の研修時間・研修費用に関する開示については分かりやすい義務としては課していません。右上にあるように、正規雇用と非正規雇用の人では企業の研修にかける時間も違っています。
 また、右下にあるように非正規雇用の人に対する情報開示というのは様々な中で一番遅れています。日本の労働問題の中で最も重要な問題の一つが非正規雇用の問題だということで言うと、スキルアップのための投資に雇用形態によらず包摂されているのかという観点での情報開示が望まれると考えています。
 13ページは、労働の情報開示について連合総研でディーセントワークの指標をまとめているのでその情報です。
 2点目の大きい論点としては、「労働基準監督の進化」が考えられます。様々な制度が入ってきて、本来望ましい在り方が示されているにもかかわらず、実態がついてきていないという中では、労働基準監督行政に求められる役割というのは極めて大きいものがあります。しかし、使用者の立場からすれば、労働基準監督の内容が地域や、人によってばらつきがあるといったことも混乱を招く原因になっていて、二重の意味で労働基準監督行政の水準を高めていくということが重要です。
 日本の労働基準監督官の数は少ないですし、人口減少が進んでいる中で今後それを大幅に増員するということはなかなか考えにくいです。
 そうだとすると、今の労働基準行政の精度や効率を上げる方法を考える必要があります。そのとき一番重要なのは、右下にあるように現在の労働基準監督のフローというのは、立入検査に入って、そこで企業から情報を求めて、その内容を精査した上で必要だったら対策を求めるということで、あくまでもその検査がスタートで企業に改善を促す仕組みにとどまっているという点です。本来は、立入検査なしでも企業が就業管理の質を高める仕組みが望ましいと考えます。
 加えて、労働基準監督の現場はデジタル化が遅れているので、デジタル化によって精度や効率を上げていくというのも方向性としては十分あり得ると考えています。
 では、具体的にどういうことがあり得るのかというのが次の16ページです。
 上の2つは、基本的に自主的に就業管理の質を高める取組みをしている企業を、労働基準監督においてある種の優遇措置の対象とするという考え方です。
 まず1つ目は、就業管理の状況について情報開示を行っている企業と、それを行っていない企業で、例えば検査対象を選定するときの中で差をつけるというようなことですとか、もう一つは2つ目に書いているように、例えば管理職の8割以上はワークルール検定に合格しているというような自主的な取組をしている企業というのは、やはりその検査対象の選定等のときに差をつけるというようなことが考えられます。
 加えて、3つ目は【デジタル化による監督業務の精度・効率の向上】です。例えば、企業の就業管理の状況ですとか検査履歴のデータ化を積極的に進めていけば、データの分析によって検査対象の選定やプロセスの効率化を図れますので、効率や精度を高めることができます。また、労働基準監督同士の情報連携もスムーズになります。それが結果的に使用者側から見た場合は、基準監督のレベルのばらつきを補正すると考えています。
 続いて、17ページからは大きい論点の3つ目、「労使コミュニケーションの活性化」についてです。
 労使コミュニケーションの活性化については、大きく論点が3つあると考えています。1つ目は「個人レベルの活性化」、2つ目は「集団レベルの活性化」、3つ目が「労働組合の位置づけの再定義」です。
 まず、一番上は、冒頭述べたように、日本の特徴は重層的に労使関係が脆弱ということであり、その一つの階層は個人レベルの労使コミュニケーションということです。ですので、1on1ですとか、I-dealsというような情報開示のところで積極的に促すということが方向性の一つです。この点については先ほど述べたので、ここではここまでとして、集団レベルの話をこさせていただきます。
 まず、論点②にあるように、「集団レベルの活性化」は大半の企業に労働組合がない現状で言えば必須だと考えています。そのようになったときに何が大事かというと、当然ながら、この間も研究会でも議論に出ていますけれども、過半数代表者の選出の適正化ですとか、労使委員会の有効化ですとか、従業員代表制の制度整備といったような方向性が考えられます。
 方向性はそのとおりだと思っていて、一方で問題だと思うのは、制度や手続を整備するだけでは、労働者側から十分に経営や人事と伍せるだけの対応はできないことを懸念しています。
 働き方が高度になっていますし、法律的な知識や過去の経緯を全く知らない人が、よく分からないままその場に行って、こうしたいと思うんですと言われて、違和感があると思っても、その違和感を誰とも共有できずに言語化して、検討して出してきている経営側に変更を促すのかといったら、一人で担当する従業員代表制では多分に弱いと考えています。
 そういう意味では、知識や経験、もしくは集団によって、これはこうなんじゃないかと検討できる集団的労使関係のほうが望ましいと考えています。そうなると、当然それを担っているのは労働組合となります。
 大半の企業に労働組合がない中で従業員代表制の導入が検討されているという中で言えば、労組がなくても従業員代表制だけがあればいいんじゃないかという論点もあるかと思います。
 しかし、私自身はそうではないと考えています。一番大きい理由は、労働者の立場に立って、自分たちの働き方はこうあってほしいんだと意見が言えるとか、すり合わせができる、経営にプロが必要なのと同じように、労働者側にもプロが要ると考えています。
 そうだとすると、もう一つの論点は、その労働組合の位置づけをどう再定義化していくのかということになります。労働組合法は労働基準局の所掌なので、働き方を根本的に考えるというこの研究会の趣旨から言えば、労組法の在り方というのも検討の射程に入ると考えています。
 「労働組合の位置づけの再定義」ということで、まず現状でお伝えしたいのは、右の図にあるように、前回のこの研究会で議論になっていたように、労働組合の守備範囲は大きく広がっているということです。
 この右の図は、<企業内労使コミュニケーションの構造>を表したものです。横軸は左が自主的活動、労使で利害が対立するもので、右は組織的活動、労使で協調・一体的に取り組むものです。縦軸は、上が経営ニーズの強いもので、下が個人ニーズの強いものです。例えばストライキや団体交渉は、左下の象限、第三象限に入ります。一方で、生産性を向上するための労使協議ですとか、例えば人事制度、裁量労働制を入れる、高プロを入れるというような人事制度を改定する労使委員会は右上に入ります。
 本来、労組法が想定している労働組合の在り方は左下、第三象限です。しかし、労働争議は減少の一途をたどっています。労使協議が増えて団体交渉が減っているということも研究で指摘されています。加えて、裁量労働や高プロというところで、労使協議ではなくて労使委員会というのも、昨今では重要な労使関係になってきています。
 労組法が想定していた左下から、労働組合が対応している範囲が右上に増えてきているというのが大きい変化になっています。
 ところが、こういうふうに活動実態が変わっていく中で労働組合法はどう整備されてきたかというと、実は労働組合法は成立した後、1949年と2004年に大きな改正があっただけで、それ以後ほとんど見直しがなされていません。特に企業内労使、企業内労働組合の機能に関する実質的な整備というのは、この1949年の不当労働行為に関する制度整備がほぼ最後になっていて、その意味で言うと、法律も実態の変化に追いついていないと思っています。
 1949年の改正以降の今の労組法の状況の中でとりわけ問題だと考えるのが、今お伝えしたように労働組合が行っている活動の多くが右上のほうにいっているにもかかわらず、労働組合の活動は就業時間外に組合費を使って自分たちで自発的に行うものになっているということです。
 もう少し具体的にお伝えしていきたいと思います。
 まず、19ページが「企業内労働組合の現状」です。労働組合の組織率は減少していて、2022年は16.5%で過去最低です。それだけが問題なのではありません。
 一番左と真ん中にある図が示すように、組合役員にとっての組合活動と仕事の負担というのが重くなっています。真ん中の図にあるように、7割以上の組合役員が「執行部へのなり手がいない」、6割以上の組合役員が「組合の役員になることが企業の中で魅力的なキャリアではなくなっている」と回答しているということです。役員のなり手がいないですとか、魅力的なキャリアではないという数字が6割、7割になっているという、危機的・末期的な状況です。
 さらに難しくしているのは、この右側の図です。見ていただくと分かるように、2008年から2021年にかけて雇用形態の変化に伴い、正社員以外で組合員になる方が増えました。包摂という観点では重要なんですけれども、組合の運営に関しては、組合員からの組合費が減少し、さらに専従役員を置けるところも減少しています。2008年から2021年にかけて、専従役員を置ける割合は約2割減少しています。
 以上をまとめると、企業内労働組合は運営の負担が非常に重くなっていて、このままいくとさらに機能不全が進むことが危惧されます。
 20ページを御覧ください。「企業内労働組合に関する政策の方向性」は2点です。1つは「労働組合法の不当労働行為に関する解釈・規定の見直し」です。もう一つは「従業員代表の取締役会レベルへの参加」です。
 まず、左側から御説明します。先ほど述べたように、現在の労組法では、労働組合は労働者が労働条件や経済的地位の向上のために自主的に活動する団体と定められています。それを守るために不当労働行為、使用者が労働者の団結や団体行為を侵害することを防ぐために整備されているのが労組法の7条です。
 使用者がしてはならない禁止行為に、「労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること」が含まれています。なぜかというと、経理上の援助を与えることによって使用者が労働者を支配することを防ぐためです。
 これが先ほどの組合活動は、就業時間として賃金が支払われるのではなく、就業時間外にボランティアで活動しなければならないという根拠になっています。しかしお伝えしたいことは、学説は文字どおりのことを求めていないということです。複数の労働法学者が組合活動に対する賃金の不控除は例外となりうると指摘しています。
 また、この不当労働行為の法整備は、アメリカ型の労使関係のシステムを無理やり導入しようとした結果、ゆがみをもたらしたとの指摘もあります。
 アメリカは労働組合に対して弾圧的で、協調的に労使が発展していく仕組みになっていません。そのためアメリカを前提にして、かつそれがゆがんだ状態で入っている今の不当労働行為の状況は、決して正当性があるわけではないと思います。
 実際、アメリカ以外の国の制度を見ていくと、就業時間中の賃金カットがない制度もあります。
 例えばフランスでは、労働協約や協定で組合活動を行うに際しての賃金の喪失、補償に関する規定を入れなければいけなりません。一定時間の組合活動や、そこの賃金に当たる金銭が補償されているケースがあります。
 また、韓国は企業別労働組合が日本に並んで普及している国ですけれども、その韓国も2012年に法律を改正してタイムオフ制を導入しました。タイムオフ制では、勤労時間の免除の範囲の中であれば賃金を削減されることなく、労使協議や交渉、苦情処理、安全衛生、組合の維持・運営活動に従事することが認められているので、広範な組合活動がこの中でできます。
 お伝えしたいことは、組合活動の範囲が経営に近いところに拡大している一方で、労組法の実態は旧態然としており、ねじれがあります。ねじれの一番の大きい原因は、行政解釈は1949年当時の改正法の趣旨が今も色濃く残っていて、大抵のものは不当労働行為で禁止とみなされていることです。
 労使間で結んでいる労働協約を見ても、団体交渉や労使協議は賃金の支払い対象にするという規定を持っているところはあっても、それ以外の活動については労使ともに不当労働行為だと認識しているので、そのような労働協約を結んでいるという事例を聞いたことがありません。
 労働組合は集団的労使関係を再生させる基盤です。その仕組みに対して、どういうふうに法制度や実態を変えていくのかという論点は、この研究会で提示できると思っています。具体的には、就業時間中の組合活動を認めるような労働法の不当労働行為に関する解釈・規定の見直しを検討できるといいと思います。
 続いて、「従業員代表の取締役会レベルへの参加」というのも検討の余地があると考えています。理由は、2つあります。
 1つは、先ほど前のページでお伝えしたように、組合活動が第三象限、左下から第一象限、上側に上がっている、要は経営ニーズに近いところにどんどん組合活動の主戦場が上がっているということです。これは前回、戎野先生からも、経営参加というのが日本の労使の一つの特徴であるとお話があったとおりです。
 欧州では19か国で従業員代表が取締役会や監査役会に参加する規定を持っています。特に、13か国に関して言えば民間企業でもそのようなことがなされています。ですが、日本は労働組合が経営に参加しているんだと言いつつも、経営参加の最上位のところには関わっていないというようないびつな構造になっています。その意味で言えば、労使一体となってより発展的な経営を促すという観点に立つのであれば、労働側もの最上位まで参加できるように変えていくことが考えられます。
 加えて、先ほど労働組合が衰退していく危惧の理由として、労働組合の役員のなり手ががおらず、魅力的なキャリアになっていないことを紹介しました。逆に言えば、従業員代表が経営者とは違う立場で経営の最上位レベルにも関与できるということは、そういうキャリアを目指すという、キャリアパスのゴールをつくるという別の意味もあると考えています。いずれにせよ、従業員代表の経営への参加の在り方というのも、集団的労使関係を今後再生していく上で考えうる論点だと思います。
 最後にまとめを述べさせていただきます。
 まず、情報開示が個人のキャリア選択や企業の就業管理の質の向上、労働監督行政の効率化に寄与すると考えています。特に、日本特有の雇用課題で残っているものを解決するために、「心理的安全性を高める取組み」「1on1ミーティングの実施状況」「テレワーク利用率・利用日数」「雇用形態別の研修時間・研修費用」の情報開示を積極的に進めたいと考えています。
 また、情報開示とデジタル化により、労働基準監督の精度と効率を高めるということも重要な政策だと思います。
 そして、労使コミュニケーションが弱化しているので、個人レベル・集団レベルのどちらも活性化する必要があります。
 集団レベルに関しては、過半数代表や労使委員会といった既にある制度の運用適正化と、従業員代表制の制度整備が考えられます。
 ただし、単に制度を整備して手続を精緻にしていくだけでは、労働者側の知識・ノウハウの不足は補えないので、労働者側のリテラシー強化策も併せて考えていく必要があると考えています。
 それをどういうふうにやっていくのかといえば、労働組合をやはり積極的に再定義することだと思います。労働組合は、対応範囲が大きく広がり、運営負担が重くなっています。そのため、労働組合法の不当労働行為に関する解釈・規定の見直しを検討すべきだと考えます。
 また、労働者側の経営参加とプロフェッショナルをつくっていくという観点から、欧州諸国のような従業員代表の取締役会・監査役会への参加というのも検討の余地があると考えています。
 最後に、このような形で働き方の多様化と個別化が進む中で、人々の公平感や納得感を高めることが一層重要になっていきます。働き方に関する情報や選択肢に誰もがアクセスできる環境整備も併せて求められていると認識しています。
 私のほうからは以上です。
○今野座長 中村構成員、ありがとうございました。
 それでは、質疑に入ります。伊達構成員、どうぞ。
○伊達構成員 ありがとうございました。
 6ページだったと思うのですが、情報が基点になって働き方の質が向上していくという点について、私も非常に重要な論点だと思いながらお伺いしていました。説得コミュニケーションの研究の中で精緻化見込みモデルという理論があります。その理論に基づくと、人がある情報を提供されたときに、その情報に対する関心や知識がないときちんと読み解こうとしません。
 なぜこの理論を思い出していたかというと、働き方に関する情報というのは、確かに重要性は高い。ここには、関心を恐らく持っている方々が集まっていると思うのですが、それ以外の一般の方々にとって働き方に関する情報に対する関心は現状高いのだろうかというのが1つ目の質問です。
 もう一つが、関心や知識を高めていかないと情報をきちんと読み解かないということは、例えば印象論でその情報を読み解いてしまうリスクがあるということです。むしろ情報を伝えれば伝えるほど変な誤解を与えていってしまう余地が広がっていく。その意味では、関心や知識を高めることは非常に大事かと思います。
 働き方の情報に対する関心や知識を高めていくには果たしてどうすればいいのかについてお伺いできればと思います。
○中村構成員 ありがとうございます。
 重要なのは、当事者であることだと思っています。働き方に関心がないと言いつつも、お給料の額は気になるんです。職場のハラスメントはすごく深刻で、どうでもいいと思っている人は少ない。だけど、その情報が出たときに、それを変えられるという手応えがないと、言っても変わらないんだよねと止まってしまう構造が問題だと思っています。
 身近で手応えのある関わりをどうつくるかが大事だと思っています。それはさっきお伝えたしたようなことで、1on1で相談したら、上司が思ったより聞いて配慮してくれたというような経験の積み重ねなのかと思っています。
○伊達構成員 ありがとうございます。
 何か小さな変化に対して参画できるような経験を積み重ねていくというのが、労使コミュニケーションでも労労コミュニケーションでも重要ですね。ありがとうございます。
○今野座長 今の点については、労使コミュニケーションがよくなる、あるいは制度が整備されるというのは一種の必要条件で、それがあったからといってそうなるとは限らないというふうに考えると、やはり十分条件が必要で、これまでの議論でいうと、自分はどうしたい、こうやって働きたい、将来こうしたい、これが今、言われた関心の本丸なんじゃないかという気がして今、聞いていました。
 水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 今のことと関連して、情報開示については2つほど絡み合った問題があると考えています。
 1つは、情報を欲しい人に対して見えやすい情報を与える。これは端的に言えば、学生がどこに就職しよう、中途で転職するときにどうしようというときに、入りたい会社の情報を知りたいということです。これは1社ではなくてほかの会社とも比較するので、それは分かりやすいデータを各社が勝手に出すのではなくて、国が標準をつくってあげて、ここだと平均残業時間が幾らで、テレワークの利用率が幾らとか、比較的、皆が関心を持ちやすいようなテーマを分かりやすく示すというのが一つのタイプです。これについては今、日本で出されている問題と、本当はもっとこれを出したほうがいいのにまだ出ていないなというものがあるので、少し整理したほうがいいかもしれません。
 もう一つは、今どういう取組をしていて、こういうふうなプロセスで企業としては体質改善とか、外に訴えかけようとしているのかということです。簡単に言うと、行動計画のようなもので、目標を立てて、今こういうふうにやって、こういう努力をして、目標は達成されていないけれども、10年後にはここにたどり着こうとしているということを、このアクションプランはやはり外国でもかなりしばらく前から一生懸命いろいろなルートでやられていて、アクションプランを公表させる。
 そのときには、個別のデータよりも目標が重要になる。こういう政策目標で、例えば女性を何割とか政策目標を決めて、その政策目標に向けて各企業でどれくらい具体的な目標を掲げて努力しているか、アクションプランを出させて、そのアクションプランを評価して政府として認証を与えるというような、やや込み入った手続を政策的に準備する。それでインセンティブを政策的に与えながら、それはマーケットからは簡単に見えにくいかもしれないけれども、そういうものを一生懸命見ようとしたり分析したら分かることがいっぱいある。特に、この会社に入ろうと思って具体的に調べようとすれば、アクションプランを見ればこういうふうにしているんだというのを見て内実を知れるかもしれないので、そういうことも同時に必要です。
 今、日本はどこまでいっているかというと、次世代法とか、女性活躍推進法とか、幾つかの法律で、アクションプランで星をつけることをしています。その方向はかなり進んで前進はしてきているけれども、総じて言うと、似たようなことを違う法律でいろいろやらされていて、期間が微妙にずれていたりして、同じようなことを部署としてちょっと違う部署が担当したりして、複雑に結局は似たような情報を開示したり、アクションプランをしているけれども、そこが微妙にずれているということがあるので、企業の方としては、こんなことだったら基本的にやるようなルールを決めて縦割りじゃないようにしてほしいということもありますし、本当に出してほしい情報がその中にまだ、例えば所定時間外労働の平均が出されているかというと、まだそれは多分どの法律でも入っていないですよね。
 本当に出してほしい情報というのは、本当は出したくない情報なので、なかなか国として出してくれと言いにくいのかもしれませんが、フォーマットで出したい情報とか、結果としての数字とか、プロセスとしての行動計画などというものを少し整理していけば、かなり今の日本の個別の立法の中でもそちらの方向に向かっていくのではないでしょうか。
 あとは、ターゲットはどれか、ということです。今、特に就職しようという求職者の話をしましたが、今はもうマーケットで消費者が見たり、あとは株主が有価証券報告書でどこの株を買おうかというところで、かなりこういう観点からの情報公開を求めるアクターが増えてきているので、これは有価証券報告書か、それとも少子化対策かというのだと会社の部署が違ったりするので、役所も違うかもしれませんが、そこら辺の調整もしながら会社としてやりやすい制度にし、かつ見たい人は消費者であり、株主であり、かつ求職者であったりすることもあるので、そこら辺も分かりやすく整理すると、いい方向に向かっているけれども、まだやらなければいけないことがあるかなと思いながら、中村構成員の御報告を聞きました。
○今野座長 中村構成員、いかがでしょうか。
○中村構成員 まさに縦割りが過ぎていて、似たようなものをばらばらに求められるというのはすごく大事なポイントだと思いました。
 情報開示疲れというのを多くの企業から伺うので、効率化、標準化という観点での横串の通し方が大事なんだなと思います。
○今野座長 武田構成員、どうぞ。
○武田構成員 2つ質問があります。9ページで、離職の理由のナンバーワンが人間関係だというところがあったんですけれども、例えば、海外だとそんなに気にしなかったりということもあるかなと思っていて、終身雇用でずっといなくてはいけないと思うからそう思うんじゃないかなとか、またはいわゆる心理的安全性のマトリックスだとぬるい職場や緩い職場は、人間関係がそもそもよくて居心地は悪くないんだと思うんです。それが理想形になってしまっているからなのではないかと、居心地が悪いのであればむしろ早く出てしまったほうがいい。人気がない、きちんとマネジメントがされていない職場であれば、そこはむしろ自分から立ち去ったほうがいいんじゃないかと思っているのです。
 日本の働く人たちが人間関係にこだわることについて、どのようにお考えでしょうか。
 もう1つは労働組合についてです。今、挙げていただいた施策がきちんと実行されると本当に労働組合は強くなるのか、私は今後、労働組合がもう一回強くなっていくということは可能性としてすごく低いと考えています。そこについてはいかがでしょうか。
 また、本当の意味で労使がイーブンの関係はどのように実現できるのか、ご意見をお伺いしたいです。
○中村構成員 ありがとうございます。
 国際比較の中で、日本人の離職理由は人間関係が多くて、ほかの国は仕事のやりがいや、賃金が多いという理由の2つあります。
一つは、海外だとキャリアアップ型の、賃金やポスト、役職が上がる転職がたくさんできるので転職するけれども、日本はその理由での転職が難しいということです。もう一つは、職場の居心地は働くうえで当然大事なのですが、人が入れ替わらないので風通しが悪くなったら改善の余地がない。そうするとハラスメントとかに対して自浄作用が働かないので、深刻な問題がずっと続いていく。結果的に人間関係で辞めざるを得ないということが起きていると考えています。
 もう一つ、就業時間中の労働組合の活動に対する制度の見直しというところなんですけれども、考え方を変えるというのはすごく大事だと思います。実は、リクルートワークス研究所で働いているときから、労働組合の方にも使用者団体の方々にも、そんなに労組の運営維持がしんどいというんだったら、使用者や国が労組に対する財政援助をしたらいいじゃないですか、ということを何度か言ったことがあります。すると、そんなことはあり得ないと言われて。何であり得ないかというと、それは不当な行為だから絶対やっちゃ駄目なんだと言うんですね。それは、労使ともにそうです。あとは、もっと言うと行政もそうです。
 本来、不当労働行為というのは使用者が労働者の団結権や団体行動を侵害することを防ぐための規定なのに、結果的にみんながそれ以外のところも相当拡大的に絶対視している状況にあります。そもそも不当労働行為の範囲や、あるべき形は何だったのかを議論して、コンセンサスをつくることが大事だと思います。
 一方で、企業内で企業内労組というのは力を持たないんじゃないのという武田構成員の御指摘で言うと、やはりいい人が来るとか、一生懸命やりたい人が組合活動をやれるようになるというのが一番いいと思っています。なり手不足が7割、魅力的なキャリアじゃないが6割という状態を、組合活動を頑張ることは結構面白いし、キャリアの選択肢の一つだというふうにしていくことが大事かと考えています。以上です。
○今野座長 大湾構成員、どうぞ。
○大湾構成員 2点あります。1つは、先ほど水町構成員のおっしゃっていた開示情報には2種類あるという話についてです。現在の状況に関する情報でも、標準化されていないために比較できない情報というのは多くあります。重要視されている情報は、生産性に関する情報、エンゲージメントに関する情報、それから人的資本投資に関する情報です。それから、もう一点大事なのが男女賃金差です。こういったものは本来であれば横で比較したいものですけれども、標準化されていないためになかなか横で比較できない。
 例えばエンゲージメントについては、ワークエンゲージメントに関する質問が厚生労働省の職業性ストレス簡易調査票の中に2問程度入っていますので、その2問の平均値を出させることは可能だと思うんですけれども、そういうことはやっていない。
 それから、男女賃金差に関しても、男女の賃金の平均値の比率を出すように言っていますけれども、従業員の属性を全くコントロールしないで平均だけ比較しても全く意味がないわけです。
 ですので、ある程度開示させるものに関して標準化というか、横で比較できるような数字を出させるということも行政の取組として考えられると思います。
 それから2点目は、デジタル化への取組についてです。恐らく、かなりの情報を自動で行政が吸い上げることは可能になると思います。
 今、多くの企業がERPをクラウドで管理し始めています。そうすると、残業時間とか、それから入退室管理なども人事が最近はしっかり数字を集めて、実際の自己申告の残業時間等、それから職場の出入りも時間に差がある場合には、どうして差があるのかということを本人に尋ねるようなこともやっています。
 ですから、どのように働いているかという数字はある程度サマリーの要約の統計量でも定期的に監督官庁に出させる、それも自動で出させるということは可能になると思うのです。
 ですから、企業は自動的に従業員の勤怠の管理記録が労働基準監督署に送られるというようにすれば、定期的に監督する必要もなくなってくる。部分的にはやらなければいけないのかもしれないですけれども、かなり簡素化できますし、先ほど中村構成員がおっしゃったように、そういった開示を積極的に進めているところはあまり行政が入らなくてもいいのではないかという考え方もできて、かなり行政の効率化につながると思うんですね。
○今野座長 中村構成員、いかがでしょうか。
○中村構成員 大湾構成員がおっしゃるとおりだと思います。標準化と比較可能にする、可視化することが社会から期待されていると思うので、ぜひそこの道筋をつけていただければと思いました。
 あとは、データの転送機能による企業と行政のデータ共有と、それによる労働基準監督行政の効率化というのは、10年とかの時間軸でそういう方向に持っていくように、準備をしていくのがいいんだろうと思って伺っていました。
○今野座長 今おっしゃられた中で、情報開示の仕方で標準化が必要だというお話だったんですけれども、現在の平均賃金の男女間の格差を出す。これは標準化されているんですよね。
○大湾構成員 標準化はされていますけれども、比較可能ではないということです。
○今野座長 標準化と有効性とか、何かもう一つ概念をくっつけてあげないといけないかなと思ったんですよね。単に標準化と言ってしまうと、今だって標準化しているんじゃないかという話になってしまう。
 ですから、先ほどの水町構成員の現状を知らせる情報については標準化と、何か政策目標に対する有効性みたいな概念で評価する必要があるということかなと思って聞いておりました。
 ほかにいかがでしょうか。小林構成員、どうぞ。
○小林構成員 ありがとうございます。
 私も今の議論で、情報開示のところは先生方の議論のことが本当に重要だなと思って伺っていました。例えば、データ化のところも、複数の部署が同じようなことをやっていて、かなり時間を費やしていることもあると思います。そういったところが統一されて、かつデジタル技術によって時間を効率化し、その一方で、アクションプランの部分については、各企業がしっかりと考えて、力を入れて時間をかけてつくっていくという設計ができればいいなとお話を伺っていて思いました。
 組合のところについては自分自身の経験ですけれども、20年前ぐらいはよく組合の方からメンタルヘルスの研修をとか、何かメンタルヘルスに関する従業員の相談があったりということが多くあったと思うのですが、最近は減っているように感じでいます。
 もちろん、いろいろな要因があるとは思うのですが、経営側のほうから、メンタルヘルスですとか従業員の精神的な健康に関する相談を受けることが主流になっておりまして、個人的な経験ですけれども、そういったところを考えても、やはり組合よりも経営が変わってきていて、健康経営もそうですし、ウエルビーイング経営とか、そういった形でどんどん変わっていく中で、組合の存在意義というのはもちろん従来の存在意義があるわけですけれども、経営も従業員も変わっている、環境も変わっている中で、なかなか存在意義を見出しづらい状況があるのかなというのはちょっと考えていました。
 先ほどのお話の中の18ページの「労使コミュニケーション活性化の論点」というところで、生産性向上というのが経営ニーズにあり、個人ニーズというところが精神的安全のところに記していただいているんですけれども、そういったところは大体、経営ニーズのほうで対応しているなと。
 産業保健スタッフの関わり方で言っても、どちらかというと経営ニーズに応えるような形に寄っていっています。では組合が何をするのかということを考えると、そもそも結束すべき人が結束できていない。非正規の組織率が低いという話もありましたように、その人たちがちゃんと結束できて、そして企業が、組合はやはり大事だよね、必要だよねという認識になるような仕組みを考える必要があるのかなと思ったりもするんですけれども、例えば企業の予防活動とか、事前の自主改善を促すとか、監督署のところの記載にありましたけれども、そういった機能を何か仕組みの中に組合がやるような形で入れ込んでいくとか、何かそういう組合の存在が必然になるような形というのを考えていく必要があるのかなと思うのですが、いかがでしょうか。
○中村構成員 ありがとうございます。
 まさに研究会の中でも、昔の工場労働から知識労度に比重が上がっていく中で、制度の在り方や人事の諸課題が変わっているという議論があったと思うんですけれども、今の組合活動のベースは工場労働の人たちが、非常に労働環境が過酷で、身体的な事故に遭うかもしれないというところで培われた行動原理というのが中心にあります。
 しかし、知識労働が増えれば増えるほど、先ほどの精神的安全の問題の比重というのがどんどん上がってきますし、当然、経営との関わりの在り方というのも変わってくる。ですから、労組がもう一回、自分たちはどこで軸足を置くんだということが、管理職にならない人たちの連帯集団としての労組なのではなくて、経営の中の労働者の集団というふうに位置づけたときに、労組自体が多分、自分たちの在り方をもう一回、再定義する必要があるんだろうなと思い聞いていました。
 その上で小林構成員がおっしゃるように、労組がどこの役割を果たすんだというところをもう一回共通言語にする必要があって、ここの機能はおっしゃるとおりなので、組合のセミナーに行くと、事故防止に対しては物すごくたくさんやっているけれども、やはりメンタルヘルスとかストレスのところはそうですねみたいな、ストレスチェックは経営が今やっていますで終わっちゃうところがまだまだあるので、やはり組合も一緒になって精神的健康を高めるための取組をしていく。
 そのときに組合の人たちがよく言うのは、それはプライバシー保護だから表に出せないと言うんですけれども、それをそう言ってしまったら多分駄目で、それは経営の論理なので、やはりもう一回、多くの従業員の人たちが、組合はこうやってくれていると可視化するところも含めて何かうまいつくり方ができればなと思っています。
○今野座長 戎野構成員、どうぞ。
○戎野構成員 大変幅広いお話、ありがとうございました。
 最初のほうに日本の価値観というお話がありました。その価値観を変えなければいけない部分はいろいろあるだろうなと思ってその後のお話を伺っていました。
 ただ、それは簡単なことではなくて、これまで諸外国の制度をいろいろと導入しようとした経験からしても、また日本の企業が海外進出した時にも、あるところではすごく有益な人事労務管理制度も、地域によっては変えなければいけないこともあって、やはり文化や価値観、歴史に寄り添って制度設計をするという面が現実の世界ではあると思うんです。
 しかし、例えばハラスメントに対する考え方など、変えなければいけないものは強制的に変えて、制度設計のほうが先に行かなければいけない。この辺りのバランスというのが非常に重要な今後の課題かなと思って伺っていたんですけれども、中村先生としては日本の特徴の中でやはりよさもあるし、もちろん変えなければいけないところもある中で、どういう考え方をこれから残し、どういうものを変化させていくべきなのかというのをお聞かせいただければと思います。
○中村構成員 戎野の先生がおっしゃることは、大事な論点だと思います。
 今、日本に一番大事なのはみんなで学ぶことだと思っていて。過去、これでうまくできた、こういうやり方が正しいはずだと思っていたのも、やはりいろいろ状況が変わっていく中で、今やハラスメントなんだとか、心理的安全性が高いとみんなのパフォーマンスが上がるんだとか、こうやったらうまくできるんだとか、それを知れば一歩前に出られるじゃないですか。
 そのためには、勉強しないと前に進めないんだと思っていて、単に今、担当している仕事の技術を上げるというよりは、もっと広くいろいろなことを労使ともに学ぶ必要があるのかなと思います。
 特に、労働側は守るということが強い分、新しいことを学ぶことは経営ほどには行動原理に組み込まれていない部分があるので、保守的な人たちが新しく学ぶ、それを牽引する労組もそうだし、労組以外のところは働く個人の人たちがどうできるかを様々な政策でつくっていくことが必要なのかなと思います。
○今野座長 水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 組合のところで少しだけお話をさせいただくと、会社が組合を勤務時間中に給料を減らさないで有給で活動させるということを認めてよいかという問題と、法律上、有給で組合活動をすることを認めなければならない、という2つのタイプの問題があって、前者については恐らく今の解釈では、組合活動についても過半数代表者、過半数代表の活動であっても、やったから不当労働行為、組合については不当労働行為の問題になりますが、不当労働行為になるという運用はほとんどなされていないですし、過半数代表としての活動はダイレクトの組合活動ではないので不当労働行為にはならない。
 組合活動もいろいろあるわけです。例えば、労働基準法、労働安全衛生法、時短促進法など、様々な観点から組合が関与を求められているもの、例えば、法律上の事項について組合活動をするということもありますし、法律と全く関係なく春闘で賃上げを求めるためにまさに組合活動をスト権を確立してやるというタイプのものがあります。前者は認めやすいけれども、後者については場合によってはノーワークノーペイでストライキをして、賃金が不払いの中でもどこまでの期間、戦うかというときに、その後者の活動にまで使用者が年に何時間、何人分賃金保障しなければいけないという話には恐らくなりにくいと思うので、どの範囲でどう認めるかというと、外国でも組合代表とか、法律上指定した組合の役員について年間これぐらいということもあるし、この業務については有給で活動させなければいけないとか、いろいろなやり方があるのですが、少なくとも日本で今、考えた場合には、組合休暇を有給で与えるというところは労使の合意でいっぱいやっていますが、そういうのは不当行動行為にほとんどならないし、過半数代表という法律上の活動をやる上では、勤務時間中に有給でやらせていいよということを確認するということがまず必要です。
 そこで大分、誤解が解けるところがあると思いますし、さらには、ただ会社が認めているというだけではなくて、労使協定や労使委員会で活動をするときに、これは単に労働者の利益だけではなくて、会社も原則ではなくて例外を享受できるという会社の利益のためにもやっているので、基本的に勤務時間中に不利益に当たらないような形で業務としてやらせることが原則なんだよということを打ち出していく。法律上の業務というのはたくさんあるので、そこを有給で組合としてみんなを代表して活動するということは、業務として認められる、という方向を打ち出すだけでも、組合活動の社内での位置づけや、従業員の中での位置づけは変わってくると思います。
 さらに、賃上げを求めるときに有給でどこまで認めるか、認めないか、これは労使の自治の中で決めるべき範囲というのはある程度残るかなという印象です。
○今野座長 私から1つだけいいでしょうか。職場における労使コミュニケーションが劣化しているという話なんですけれども、職場においての情報の共有化が遅れているという話を聞くと、昔の日本は職場の上司とみんな同じ船に乗っているから、飲んだりとかいろいろしながら職場でのコミュニケーションというのは非常に活発であって、しかもそういうことがあるので情報の共有化も非常に進んでいる。しかも、従業員は管理職になっていくのでよけいそういうことが助長される。したがって、日本も競争力が強いと教わってきたんです。
 心理的安全性についても、日本の場合は上司に変なことを言っても首にならないから、言いたいことを言える。したがって、新しいこともできる。アメリカなどは人事権が下に下りているので、上司に悪口を言って、首と言われたら終わり。したがって、心理的安全性は低いので、日本はそういう点では競争力はあると教わってきたのですが、今、言ったことはまるっきり逆になっているんですよね。
 今のお話だと、日本は職場とのコミュニケーションが低い、心理的安全性が低いと言われると、今、言ったようなこととどういうふうに整合を取るかなと思ったのですが、どうですか。
○中村構成員 少子高齢化による人口減少の影響が大きいと思いました。
 1つは、職場の中でも昔は若い人がたくさんいて、その若い人たちも、雇用が保障されているから好きなことを言えばいいという中で成立していたものが、上がどんどん増えてくれば言いにくくなるし、若い方が少数派になる。逆に、上の人は普通にしゃべっているつもりでも、それは下の少数派にとってはハラスメントになるということが起きるので、年齢構成の変化という問題が大きい。もう一つは人口減少によって企業が業績を上げにくくなっているので、そこの中での成果をシビアに要求するとか、コストカットを要求するということが起きているという面もあります。先生がおっしゃる媒介変数は人口構造の変化なのではないかと思って伺っていました。
○今野座長 伊達構成員、どうぞ。
○伊達構成員 コミュニケーション手段が時代に合わなくなってきているというところが、非常に大きいかなと思っています。
 例えば、先ほどの例の中で出てきた飲みニケーションであったり、ある種の無礼講であったり、そういうことが現代の感覚には合わなくなってきている。そうなってくると、結局コミュニケーションのやり方を新たな価値観に合った形でいかに整備していくのかが、重要になるのではないかと考えています。
○今野座長 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 中村構成員、本日はありがとうございました。
 それでは、次に、事務局から調査の概況につい発表いただきます。どうぞお願いします。
○労働条件確保改善対策室長 厚生労働省におきまして、労働者の働き方・ニーズに関する調査を委託事業で実施しているところでございます。本日は調査設計等について御説明させていただきまして、集計結果につきましては後日改めて研究会で報告をさせていただく予定です。
 それでは、資料の御説明をさせていただきます。
 1ページでございますけれども、「調査の実施方法」でございます。
 調査目的、対象としましては、中長期の労働基準法制の方向性を整理するため、働き方・労働時間制度等へのニーズ把握することを目的としまして、委託事業として調査を実施しているところでございます。
 調査対象としましては、インターネット調査を通じて2万4190人を対象にスクリーニング調査を実施しております。そのうち、就業形態が「正規社員」「非正規社員」「雇用関係者によらない者」に該当する15歳から79歳の男女から、就業構造基本調査と同様の比率になるように6,000人を抽出しまして令和5年3月に本調査を実施したものでございます。今後、集計結果につきましてはこの研究会において報告予定でございます。
 2ページは、回収状況でございます。
 性別につきましては男性が55%、女性が45%となっております。回答者の年代につきましては、40代が25%、次いで30代が20%、50代が19.6%となっているところでございます。
 3ページでございますけれども、就業形態につきましては、会社等で雇われている社員が93.3%、自営業主・フリーランスが6.7%となっています。また、会社等に雇われている社員のうち、正規の職員・従業員が61.8%、次いでパート・アルバイトが25.3%となっているところでございます。
 最後に4ページの「調査項目」につきましては、性別ですとかお住まいの地域、あるいは現在の仕事の特徴などの基本情報を調査するとともに、右側にありますような今後の働き方について重視したい事項、希望する時間制度、健康確保についての考え方、人事管理における希望等の項目について調査を実施しているところでございます。現在、集計を進めているところでございますので、後日改めて報告させていただきます。
 以上でございます。
○今野座長 ありがとうございました。何か質問はございますか。
 ご質問がないようですので、今日は終わりにさせていただきます。次回について、事務局から説明をお願いいたします。
○労働条件確保改善対策室長 次回は6月9日金曜日9時から11時にAP虎ノ門で行います。
○今野座長 それでは、本日の研究会を終了いたします。ありがとうございました。