第8回雇用保険制度研究会 議事録

日時

令和5年4月26日(水)15:30~17:30

場所

厚生労働省12階職業安定局安定第1会議室及びオンライン
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)

議事

議事内容
○尾田雇用保険課長 それでは、定刻になりましたので、第8回「雇用保険制度研究会」を開催させていただきます。
 土岐先生におかれましては、所用により遅れて御出席と聞いております。
 報道陣の皆様の頭撮りはここまでとさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
 それでは、議事に移りたいと思います。本日の議題は「中間整理(案)について」です。
 まず、資料につきまして事務局から説明いたします。
○山口調査官 それでは、事務局より資料の御説明をさしあげます。
 まず、資料1でございますけれども、こちらはこれまでの雇用保険制度研究会においていただきました御意見をテーマごとに整理したものでございます。適宜御参照いただければと思います。
 次に、資料2でございますけれども、補足資料ということで、海外の調査の結果を2点入れてございます。
 まず、2ページの1点目ですけれども、失業認定の手続のオンライン化の確保の状況について調査した結果になっております。ドイツ、フランスと、これまでも御紹介してまいりましたが、今回、イギリスの欄を追加してございます。
 各国、比較いたしますと、失業認定の仕組みは大体似通っておりまして、日本のハローワークに相当する機関に対して求職者の登録をした上で、そこの機関の職員と相談しながら再就職活動のための計画をつくり、その計画にのっとって、きちんと活動しているかどうかということを定期的に報告するということが給付受給の条件となっているということでございます。
 オンライン化の状況というところでございますが、まず、ドイツについては、失業認定に限られず、行政サービス全般につきましてオンラインアクセス推進法というものが制定されまして、デジタル化が進められているということでございます。求職者登録や失業認定に関する一連の流れにつきましては、2022年1月以降、オンライン処理が選択可能な仕組みが構築されたということでございました。ただ、失業後の初回面談・初回相談というのは、原則対面で面談を行うことになっております。また、失業前から、ドイツの場合は、在職期間から求職登録が可能になっておりますけれども、そのときに面談を対面で実施していれば、失業後には不要ということになっております。また、雇用エージェンシーのほうから要請があった場合は、直接対面に応じる必要があるという形になっております。
 真ん中のフランスでございますけれども、フランスにおきましても2015年以降、失業保険の手続についてオンライン化が進められているということでございます。初回の面談につきましては、対面で実施することになっておりまして、2回目以降の面談につきましては、オンラインを活用することも可能ということになっております。ただし、学歴が低かったり、資格や技能を持たないために長期失業者になる可能性が高い求職者の方の場合は、定期的な対面での面談が行われているということでございました。
 一番右のイギリスでございますけれども、イギリスにつきましては、オンライン化を進めるというよりは対面を重視するという傾向がございまして、失業認定については、来所して対面による面談が原則とされているということでございます。コロナ禍において、一時的に来所による面談というのが免除されて、電話等を通じた面談が行われていたのですけれども、感染状況が改善されるにつれて、来所による面談が再開されたという経緯があるということでございました。
 次に、3ページですけれども、諸外国における失業給付の自己都合離職者の取扱いということをまとめた資料になってございます。最近、新しい資本主義実現会議などにおいても議論になっておりますけれども、自己都合で離職された方については、現状、失業給付について給付制限期間というものが設定されております。これは、基本的に保険制度ということで運営している給付でありますので、偶発的なリスクが現実化したときに給付する。予想できないときに起きたリスクに対して給付するという仕組みになっておりまして、自ら保険事故を起こした方については、少し別の取扱いをするということを原則としております。
 海外の状況を見ますと、自己都合離職の場合には、原則、失業給付を支給しないという国、アメリカやフランスでございますが、そういった国もございますし、仮に支給する場合であっても、給付制限期間を設けているということが一般的であると考えております。
 次に、資料3でございます。こちらは、これまでの研究会における御議論の中身を、一旦、中間整理という形で取りまとめたものでございます。素案のたたき台として御用意したものでありますので、本日、御議論いただければと思っております。「総論」「各論」「おわりに」という大きく3つのパーツに分かれてございます。
 まず、「総論」でございますけれども、問題意識というところで、今回、研究会において、どういったところにフォーカスして議論してきたかということを記載してございます。
 最初に、雇用保険制度が昭和22年、失業保険として創設され、昭和50年に雇用保険制度となり、その後、様々な給付が創設されて、現状、非常に複雑な仕組みになっているという来歴の記載がございまして、その後、コロナ禍の影響によりまして、雇用調整助成金の支出を中心として、雇用保険財政の逼迫という事態が招かれたということの記載がございます。
 2ページにお移りいただきまして、こうした事態に対応するために、令和4年に雇用保険法が改正されましたが、その法改正の審議の過程の中で、雇用保険の給付と負担の在り方について検討する必要性ということが指摘されております。それを契機として、この研究会を設置したという流れであります。
 雇用保険制度につきましては、労使の方々に御負担いただいている保険料とか一般会計の国庫負担を財源として運営しておりますので、そのステークホルダーの方々が理解できるような制度であることが必要だと考えております。したがいまして、雇用保険制度が果たすべき機能は何であって、雇用保険制度の役割を超えた機能は何なのかということを検討するための視点を整理するということが、この中間整理の趣旨ということにしておりまして、何か特定の結論を導くというものではありませんで、委員の皆様からいただいた御意見を列挙することで、今後の制度運営を考えるための材料や選択肢を提示するという趣旨を書いてございます。
 (2)雇用保険制度を構成する考え方、構造という部分でありますけれども、そうした雇用保険制度の役割を考える上で、まず、前提となっている現行制度の考え方というもののエッセンスを記載してございます。
 大きく4点ございますけれども、1点目は「生計維持者」を同種の危険にさらされている集団と考える基本思想というふうに項目立てをしております。保険制度であります以上、同種類の偶発的な事故による危険にさらされている方々を、1つの危険集団と整理しておりまして、この雇用保険制度におきましては、現状、自らの労働により賃金を得て生計を立てている労働者の方が失業した場合の生活の安定等を図る制度という考え方に基づいて、適用対象を一定の方々に限っているということであります。具体的には、週所定労働時間20時間を適用の下限としているということであります。
 2点目といたしまして、「失業」という保険事故の特殊性ということでありますけれども、失業という保険事故が社会的な事故であるということで、その発生率、発生時期等、事前に一定の推定を行うことが困難で、発生要因や態様も複雑という特殊性があると記載しております。
 3ページですけれども、そういった前提の中で、保険事故を自発的に起こした方についても、自己都合離職者ということになりますけれども、一定程度、給付制限期間を設けるなどの設定を行った上で給付の対象にしているというのが、我が国の雇用保険制度でございます。
 3点目で、労働の意思と能力というふうに記載がございますけれども、単に失業して仕事に就いていないということだけではなくて、労働の意思と能力があるにもかかわらず、仕事についていない状態ということを雇用保険における失業と考えております。したがいまして、労働の意思ということを確認する必要があるのですけれども、この点について、内心の意思であって、外形的把握が困難であるために、原則、4週間に1回の失業認定日にハローワークにおいでいただきまして、そういった労働の意思と能力があるかどうかということを確認しているという仕組みになっております。
 4点目ですけれども、第二のセーフティネットとしての求職者支援制度との関係ということでございまして、雇用保険が第1層のセーフティネットであると考えますと、雇用保険と生活保護の間にある第二のセーフティネットとして、求職者支援制度が創設されております。こちらは、リーマンショックを背景として、非正規労働者に対するセーフティネットを強化するという趣旨でつくられたものでございまして、求職者支援制度の利用者の方々自身は、保険料を負担することなく、無拠出でこの制度を利用することができる仕組みになっております。
 4ページでございますけれども、こうした制度の構成要素を前提にした上で、失業という保険事故を対象としておる関係上、労働市場や社会経済情勢の変化に非常に密接に関連しているということになります。したがいまして、この直近の労働市場への大きな影響をもたらしましたコロナの影響ですとか、それから、20年、30年を振り返ってみたときに、労働市場はどのような構造変化を起こしているのかという点につきまして、簡単に振り返るというパーツを入れてございます。
 まず、コロナの影響でございますけれども、最初の緊急事態宣言直後におきまして、休業者数が急増したということが1つ大きな特徴でございます。この休業中の労働者の雇用維持を目的といたしまして、雇用調整助成金が積極的に活用されましたが、この雇用調整助成金は雇用保険制度の雇用保険二事業の一部として実施されたものということでございます。通常の助成内容に比べまして、コロナの特例といたしまして、助成率の引上げ、助成上限の引上げ等々といった特例措置が講じられたということであります。
 また、通常、雇用保険二事業は、使用者の方のみが負担する保険料を財源としておりますので、使用者にお支払いする助成金というものが中心となっているのですけれども、通常、実施していない個人からの申請で個人にお支払いするという形で、雇用調整助成金類似の助成金が創設されたこと。また、雇用保険被保険者以外の方々に対しても、一般会計によって同様の助成金が創設されたということを振り返っております。
 5ページでございますが、これらの施策の利用実績を見ますと、休業による収入への影響というのが、特に宿泊・飲食サービス、卸売・小売業の中高年の女性パートや学生バイトを中心に生じていたという傾向が見受けられます。
 また、休業支援給付金という個人申請に対してお支払いするものについて実績を見ますと、1対2の比率で雇用保険被保険者以外の方に対する支出が多いということから考えても、雇用保険の適用対象となっていない労働者についても、何らかのセーフティネットの必要性があったと考えられるとしております。こうしたセーフティネットを整備するために、社会保険方式で雇用保険で対応していくことが適切かというのが、1つ論点になると考えております。
 次に、中長期的な労働市場の変化というところですけれども、まず、人数的な部分を見ますと、労働力人口というのは少子高齢化の中にありながら増加傾向にあるわけですけれども、この人口を支えてきたのが女性や高齢者の労働参加でありまして、雇用形態としては、主として非正規雇用という形で支えられてきたと考えております。特に、週所定労働時間20時間未満の労働者の方というのは、雇用保険の適用対象となっておりませんけれども、この方々の実像というのを労働力調査で確認していますと、9割が非正規雇用ということで、特に女性が多く、業種としては卸売・小売業、医療・福祉、宿泊・飲食サービス業の割合が高いということになっております。
 6ページでございますが、こうした非正規労働者の方々が、正社員で働きたいにもかかわらず、その機会がなくて非正規で働いているという不本意非正規であるかどうかという数字を見ますと、それはだんだん減少傾向にあるということでありまして、自ら選択して多様で柔軟な働き方を求める動きが広がっているのではないかと考えられます。
 次に、賃金ですけれども、平成19年と比較したということで記載してございますが、女性の正規労働者・非正規労働者はともに賃金水準が伸びている一方で、男性の40代~50代前半の非正規労働者では賃金が低下傾向になっているということが確認されております。
 また、世帯単位ということで見ていきますと、いわゆる専業主婦世帯が減少傾向にありまして、昭和60年と比べますと半分ぐらいということで、専業主婦世帯は少なくなっております。逆に、共働き世帯は増加しておりまして、今や専業主婦世帯の2倍を超える水準になっているということであります。また、勤労者世帯の実収入に占める女性配偶者の収入の割合ということを見ますと、昭和50年と比較すれば、直近では2倍以上の水準に到達していることが確認されております。
 労働移動の状況でございますけれども、転職入職率の推移ということを確認いたしますと、女性やパートで大体高いという傾向がずっと続いております。それと、パートの方々が一般労働者の方と比べて、離職前の勤続期間が1年未満の方の比率が高く、また離職期間1か月未満で再就職したという方々については、パートのほうが一般よりも比率が高いということでありました。
 それから、多様な働き方の広まりということで、テレワーク、兼業・副業の広がりといったことも認められております。
 こうした労働市場の変化ですとか、近年の労働者の働き方、家族に対する意識の多様化などを踏まえて、雇用保険制度が雇用のセーフティネットとしてどのようにあるべきかという点について、御議論いただいた結果を記載してございます。
 7ページでございますが、まず、社会保険方式でセーフティネットを整備することの意義と題しております。社会保険方式ということは、保険料を納付して、その反対給付として給付を受け取るという形でありますので、給付が確実に受けられるという性格である一方で、その保険料納付に応じた給付額になるということで、望ましい給付水準を達成できない可能性があるということ。他方で、求職者支援制度のような第二のセーフティネットという形を考えますと、給付と負担の対応関係が少し緩められるということで、給付水準は達成しやすい。一方で財源の問題が生じるといった御指摘がありました。
 また、社会保険で運営するからには、保険料の負担能力ということは無視できないといった点ですとか、雇用保険、求職者支援制度、生活保護という3層構造のセーフティネットであることを踏まえて、雇用保険制度の役割を考える必要があるのではないかという御指摘もございました。
 それから、セーフティネットの手厚さを評価するというときに、適用労働者の範囲の大きさということだけではなくて、給付の受給者割合、給付額・給付日数などの給付水準という3つの軸で考えるべきではないかという御指摘ですとか、雇用保険の適用範囲が広がれば、一般論としては第二のセーフティネットの範囲は狭くなっていく傾向にあるという御指摘もございました。
 2点目ですが、「同種類の危険にさらされている集団」の範囲ということで、大きく2点、議論があったと考えております。
 1つは、現在の基本思想であります、生計維持をしている方々を同種類の危険集団と考えるということの具体化として、週所定労働時間20時間以上という適用要件を設けていることの妥当性について御意見がございました。ここについては、20時間とする必然性がないのではないかというお話ですとか、労働時間による線引きではなくて、収入で線引きすることも考えられるのではないかということ。また、マルチジョブホルダーということを考えると、雇用保険に達して20時間、複数の事業所での労働時間を足すと20時間以上になるような方についても、雇用保険で対応すべきではないか。逆に、マルチについては、雇用保険の対応は必要ないではないかといった御指摘もございました。
 8ページでございますけれども、もう一点の論点といたしましては、生計維持思想の変更の必要性という点でございます。これまで生計維持している方々を同種の危険集団と考えておりましたが、その考え方を変える必要があるかどうかという点について御議論いただきました。この点については、委員の先生方の御意見が分かれておりましたので、そういった御意見を列挙する形で記載してございます。
 最初の2つのポツにつきましては、そういった考え方を変えていく必要はないのではないかという御意見でありますけれども、3点目につきましては、例えば生計維持者だけではなくて、失業した場合に生計に支障を与えるような、生計の一端を担う方まで危険集団の範囲を緩和してはどうかという御指摘。その場合には、給付は保険料負担に見合った水準でよくて、生計維持的ではない水準の給付になっても構わないのではないかという御意見もございました。
 その次は、原則として全ての労働者が雇用保険に加入して保険料を払うということも考えられるのではないか。ただ、そうすると、かえって行政コストの面で非効率になったり、保険料の掛け捨ての問題が生じたりするという場合には、そこは違う対応ということも考えられるのではないかという御意見もございました。
 また、人々の価値観やライフスタイル、働き方の多様化ということが進む中で、1時間でも働いた場合に、その賃金に応じた保険料を納付いたしまして、1時間の失業に対して給付を払うというほうが、仕組みとしてはフェアではないかといった御意見もございました。
 3点目が現行の適用労働者への影響という点でございますけれども、現在、週20時間以上の方々を適用対象労働者としておりまして、20時間を下回る労働になった場合は失業給付の支給対象としてございます。この適用基準、イコール失業認定基準という考え方を維持いたしますと、仮に適用基準を20時間より引き下げた場合、その時間まで労働時間が減らなければ給付が出ないといった関係になって、そこは妥当なのかという論点の提示がございました。
 9ページでございますけれども、失業以外の事由に対して支給される給付ということでございます。昨今、リスキリングやこども政策の強化ということが政策課題となっている中で、雇用保険からは教育訓練給付や育児・介護休業給付といったものが支給されておりますが、この支給の必要性は雇用保険の被保険者に限られたものではないのではないかといった御指摘がありました。
 次に「各論」という部分でございます。雇用保険制度から支給されている給付を全て網羅したものではないのですけれども、これまでの研究会の議論の中で個別に資料をお示しして御議論いただいたものを整理しております。
 基本手当についてですけれども、給付の概要と直面する課題ということが、まず最初に記載がございます。給付の概要はちょっと省略いたしますけれども、基本手当については、令和4年の雇用保険部会報告書において、効果検証とか制度全体について不断に施行状況を検証すべきという御指摘がございます。また、新しい資本主義実現会議の議論において、自己都合離職者の給付制限期間について見直しが求められているところでございます。
 10ページでありますけれども、規制改革の推進といった文脈の中で、失業認定につきまして、原則、現状4週間に一度、ハローワークに来所していただきまして対面で行っておりますが、デジタル技術を活用する道があるのではないかという指摘がなされております。
 次に、検討の視点ということで、委員の先生方から御指摘があった点を列挙してございます。
 給付率・賃金日額・給付日数という点につきまして、給付率につきましては、低所得者と高所得者で給付が平準化するような現行制度の在り方は妥当ではないかという御指摘がありました。また、基本手当の金額と再就職時賃金が逆転すると、再就職の意欲がそがれるのではないかといった指摘がございますけれども、その基本手当の給付水準を上げてしまうと逆転する者が多くなるので、その点、慎重に考えるべきという御意見がございました。
 また、給付日数につきましては、その日数が長いほうが再就職の質がよくなるかどうかという点を中心に御議論いただきまして、少なくとも所定給付日数を延ばすとマッチングがよくなるという一貫したエビデンスはないということで、一律の給付日数の延長には慎重であるべきではないかといった御指摘がございました。
 次に、給付制限期間につきましては、現状、原則2か月ということになっておりますが、これを短縮することによって失業を選択しやすくなるということが考えられ、その場合において、転職しやすい労働市場が整っているのであればいいけれども、そうでなければ、単に失業者が増えるだけということになりかねない。また、給付の受給を目的に離職することをどう防ぐかが課題であるといった指摘がございました。
 それから、理論と実態の違いということで、現実的には給付目的の転職ということを誘発する可能性があるのではないかという御指摘ですとか、11ページでございますが、現状、失業保険において非自発的な失業が本来の保険事故という考え方には、「自発的失業が本来望ましくない選択である」という発想があったのではないかという指摘もございました。また、給付制限期間をなくすことには躊躇するけれども、失業中の生活の安定も含めて考えると、給付制限期間は1か月程度でもいいのではないかといった御指摘もございました。
 それから、ハの早期再就職支援の重要性につきましては、離職後、早い時点からトレーニングとか求人への応募等を行うことが、就職した後の定着率を考えても重要という御指摘がございました。
 (ニ)の再就職手当・就業促進定着手当という部分でございますが、諸外国の仕組みを見ますと、失業給付の給付水準が逓減する設計、離職直後については高い給付率で、だんだん給付率が下がっていくという仕組みが取られている場合があるけれども、日本の場合は、再就職手当がこれに似た機能を果たしていると考えられるので、その検証が必要であるという御指摘ですとか、就業促進定着手当につきましては、制度がつくられたときはともかく、賃上げが喫緊の課題である現状において、目先の手当を受けるために性急に低賃金の仕事に就く可能性もあることが懸念されるという御指摘がございました。
 次に、失業認定の在り方でございますけれども、まず、その意義といたしましては、保険事故としての失業の特性、モラルハザードが起きやすいということを考えると、ハローワークに来所して失業認定することは重要であるという御指摘。
 また、失業認定と職業相談が有効に連携することが非常に重要だというお話もございました。
 12ページでございますけれども、その失業認定のオンライン化に当たっては、オンラインで失業認定した場合に就職率が低くなっていないかという点も含めた検証が必要であるというお話もございました。また、海外の仕組みを参照いたしますと、求職者に個別的な就職支援のための計画をつくっているということで、この計画の進捗を確認する行為が、現状、日本の失業認定における求職活動実績の申告・確認作業の代わりになるのではないかというお話もございました。
 次に、オンライン化に対応した給付制度の在り方ということで、オンライン化に対応していくためには、現状、雇用保険の制度が非常に複雑ですけれども、その複雑性の解消を改めて考える必要があるのではないかということ。それから、必ずしも全員が対面の失業認定を行う立てつけにしなくてもいいのではないか。例えば、初回は来所するけれども、2回目以降はオンラインで失業認定するということもあるのではないかということですとか、フランスの事例を参照しながら、求職者を3つのグループに分類して、対面が必要な人、そうでない人と分けていくといったやり方も効率的ではないかというお話もございました。
 それから、オンライン化に対応したハローワークの体制整備ということでございますけれども、フランス、ドイツと比較して、日本の場合、現場の職員数が少ないのではないかという御指摘もございましたし、対面とオンライン、両方に対応できる体制を構築する必要があるというお話もございました。
 13ページですけれども、次は教育訓練給付でございます。こちらにつきましては、令和4年の雇用保険部会報告書において、制度の周知とか指定講座の偏りの是正、効果検証ということが求められております。また「人への投資」を推進する中で、教育訓練給付もその支援策の一つに位置づけられているという現状であります。
 検討の視点といたしまして、まず、給付の内容でございますが、専門実践教育訓練の受講者に偏りがあるのではないかという指摘がございましたけれども、一方で、受講の実態を見てみますと、看護師や介護福祉士という内容になっておりまして、社会にとってニーズがあるという観点からは評価されていいのではないかという御指摘がございました。
 それから、教育訓練給付の中身ということを見ていきますと、失業予防や生活安定というよりも、キャリアアップを後押しするようなものも含まれていて、雇用保険がセーフティネットである観点からは、そうしたものはなじまないのではないかという御指摘ですとか、労働市場政策の一環として、こういうことをやっていると考えるのが適当ではないかという御指摘もございました。
 効果検証につきましては、教育訓練給付のように、在職中の方をターゲットにして実施しているものであるので、訓練によって、どれぐらい効果が上がったかということを把握するのは、構造的にも非常に難しいということの御指摘もございました。
 それから、雇用保険でやるべきかという点でありますけれども、教育訓練給付というのは、被保険者自らが保険事故を積極的につくり出して、それを保険が推奨しているという形を取っておって、保険事故としては本来なじみにくいのではないかというお話がございました。
 それと、「人への投資」として、こうしたものを推進しているけれども、雇用政策にとどまらず、経済政策としてやっている面があって、雇用保険のみが担うのではなく、省庁を超えたもう少し幅広な施策でやるべきではないかという御指摘ですとか、こういった支援の必要性というのが、雇用保険の被保険者に限定されるものではないということで、どのような仕組みでやっていくべきかということを検討すべきといったお話もございました。
 次が育児休業給付ということでありますけれども、損失額が令和5年度で5700億円ということで、基本手当に匹敵する規模になっており、その安定的な財政運営を図っていく必要がある現状にございます。先般の雇用保険部会報告書においても、その在り方を検討すべきという御指摘もありますし、令和5年3月にこども政策担当大臣が公表した試案におきましては、育児休業給付の充実と、それを支える財政基盤の強化といったことが盛り込まれているところでございます。
 検討の視点といたしまして、給付の趣旨・目的でございますけれども、当初、育児休業給付は雇用継続のための給付ということで創設されておりますが、現状、非常に複合的な性格を帯びているということでありまして、労働市場政策の一環として雇用保険で支給しておりますけれども、少子化対策や男性の育児休業取得促進という目的をさらに強く読み込んだ形で制度設計することには、慎重であるべきではないかという御指摘がございました。
 また、育休を取るに当たって、女性は休業か離職かという選択であるのに対して、男性は休業か就労かという選択に直面しているということで、休業に伴う機会費用を引き下げるために給付率10割にすることが、雇用保険制度として果たして適切なのかという御指摘もございました。
 それから、給付の内容でございますが、海外と比べると、日本の育休給付というのは個人に権利付与されており、かつ給付率も非常に高いということが特徴とされております。
 15ページでございますが、恒常的・定期的に就業するときには育休を取得できませんけれども、もう少し柔軟な運用ができないかという御指摘。また、就業継続の観点から、夫と妻が時短勤務をうまく組み合わせて、仕事と育児の両立を図りやすくするための給付の在り方を検討してもいいのではないかというお話もございました。
 それから、育児休業給付は、原則、子が1歳未満の期間を支給対象としておりますが、一定のケースにおきましては、最長で2歳に達するまで延長可能ということになっております。ただ、最近、定員割れする保育所もある中で、限られた財政状況を踏まえて、バランスのよい給付の内容にしていく必要があるのではないかという御意見もございました。
 次に、雇用保険でやるべきかという点ですけれども、男性の育休取得促進といったことですとか、働き方に中立的な社会保障ということを目指すのであれば、家族政策として雇用保険ではなく一般会計でやるべきではないかというお話ですとか、雇用保険でなお育児休業給付をやっていくべきかという点におきまして、財源の在り方も含めて見直しが必要である。ただし、雇用保険から育休を切り離したとしても、それを全額一般会計でやるということに直結する話ではないのではないかという御指摘もございました。
 それから、雇用保険の適用対象となっていない方々についても必要な対応であるということで、雇用保険のみで対応する必要はないのではないかという御指摘もございました。
 次に、求職者支援制度ということでございますけれども、こちらにつきましては、コロナの影響の中で、一部、コロナ特例ということで、非正規の方々が受講しやすい仕組みを整えておりました。暫定的な措置でありましたけれども、そうした要件緩和の一部の恒久化ということも検討されてきたところでございます。また、雇用保険部会報告書におきまして、積極的な制度周知による利用促進や効果検証が求められているという現状でございます。
 検討の視点といたしまして、まず、訓練の内容ですが、雇用保険制度の中で、求職者支援制度と教育訓練給付という、位置づけは違いますが、どちらも訓練を実施するという点で共通した仕組みがあり、例えば教育訓練給付の対象となる教育訓練の実施に当たって、必要があれば生活補助したり、求職者訓練の内容もデジタル化に対応したものとすることも考えられるのではないかという御指摘がございました。
 それから、コロナ特例措置の評価でございますけれども、転職せずに働きながらスキルアップする在職者の方というのを、求職者支援制度の対象に追加しておりました。この特例というのが、今後の制度の在り方を考える上で非常に重要な措置ではないかという御指摘があり、そうしたコロナの特例ということで始めたことではありますけれども、リスキリングの観点から、経験職種の中でスキルアップするために求職者支援訓練を活用することもあり得るのではないかという御指摘がございました。
 効果検証につきましては、利用促進が中心的な課題になっておりますので、その観点から点検が必要等の御指摘がございました。
 最後に「おわりに」という点で、3点記載してございます。
 まず、1点目ですけれども、今後の方向性ということでございます。雇用保険制度は、単なる失業時のセーフティネットというだけではなくて、様々な機能・役割を果たしていることが確認されているところでありまして、そういった機能は、経済政策とか少子化対策、両立支援策に隣接する部分というのも非常に多くございます。雇用保険の基本的・根幹的な目的は何であって、追加的・派生的な目的は何なのか。雇用政策的な色彩を今後強めていくのか、それとも制度をスリム化していく方向を目指すのか。こうした点も議論が必要だと考えているとしております。
 それから、2点目でございますけれども、制度運営にあたって考慮すべき要素ということで、その給付の中身とか保険料負担ということのみならず、適用・給付の実務を担うハローワークなどの行政運営機関に必要なコストとか、財源の種類と財政的な実現可能性、EBPMに基づく効果検証の重要性といったことも考慮すべきであると考えております。
 そして、最後に、雇用保険制度に対する国民的な理解・議論が必要ということで記載しております。特に、この点につきましては、雇用保険の適用拡大を御議論いただく中で出てきたお話でございますけれども、これまで生計維持をされている方々を同種類の危険にさらされている集団ということで考えてまいりましたが、適用拡大するということは、この思想の変更ということになり、そのことは、適用面のみならず給付面にも影響してくるということでございます。
 具体的には、必ずしも設計維持的でない給付が行われる仕組みとなる可能性があり、また保険料負担をする必要があるので、毎月の手取り額がその分、減るということになってまいります。こういった点を幅広く国民に共有し、その意味を理解した上で、納得し、選択できるようにするということが非常に重要だと指摘して、最後、まとめる形にしております。
 御説明は以上でございます。
○尾田雇用保険課長 それでは、ただいまの事務局からの説明を踏まえまして、委員の皆様から御発言をお願いしたいと思います。今後、この研究会の取りまとめ、議論の中間整理に向けまして、文章の構成などについて変更したほうがよい点はあるか、追加すべき観点はあるかなど、留意すべき事項につきまして、委員の皆様から御意見をいただきたいと思います。恐縮ですが、名簿の五十音順でお願いしたいと思っておりまして、まず、酒井先生から御発言をお願いできますでしょうか。よろしくお願いいたします。
○酒井委員 事務局からのこれまでの議論の整理、ありがとうございました。大変見通しのよい整理になっていると思います。
 それで、これまで我々委員から出てきたことがもう既にまとめられていますので、私から申し上げることは特に新しいことはないのですけれども、あえて改めて確認すべき点を中心に述べさせていただきたいと思います。やや雑多な意見も含まれますけれども、御容赦ください。
 まず、1点目ですけれども、中間整理(案)の一番最後のところにも記されていましたけれども、例えば自己都合離職による給付制限の議論もそうですけれども、前回の研究会で議論した適用拡大にしても、それを進めていくということになると、雇用保険としての、あるいはセーフティネットとしての給付の性質あるいは性格といったものが大きく変わるということ。このことに関して、広く認識すること、共有することが一番重要なのかなと思います。この点については、中間整理の一番最後にも書かれていましたけれども、私のほうからも改めて述べさせていただきたいと思います。
 それから、2点目ですけれども、今回、コロナ禍の中で、例えば想定外のリスクみたいなものが生じたときに、果たして社会保険方式でやるべきなのかという議論も出ました。一方で、平時、そういった特別なときではないときに関しては、社会保険方式によってこのセーフティネットを運営することの意義、社会保険方式のメリットも忘れるべきではないのかなということも改めて感じました。
 これはあくまで一例ですけれども、例えば今回、適用拡大という議論がなされましたけれども、さらなる短時間労働者まで雇用保険の適用対象となる。そうすると、実はその人たちが失業した際に、給付水準は必ずしも高いものではなくなるのではないかという考え方が出てきたわけですね。その考え方というのは、社会保険方式の考え方としては穏当なものだと私なんかは思うわけですけれども、それに対して、例えば国庫から補塡することで、その人たちの給付水準を上げるという選択肢もあるのではないか、そういった意見も出てくるのではないかなという気がしております。
 ただ、そうすると、社会保障制度の一つとして雇用保険というものを常に見続けてきた、私のような立場からすると、国庫負担を増やしていくことによって、むしろ社会保険としての性質が薄まってしまって、逆に福祉としての側面が強くなってくるのではないかと考えてしまうのですね。そうすると、例えばミーンズテストのような形で厳格な所得制限が行われるというふうに自動的に連想してしまうというのがさがなのですけれどもね。
 逆に、そういうふうに考えると、私は現在の雇用保険は各種の給付において、そこそこ高い水準で給付が行われていると考えておりますけれども、これというのは、もしかして社会保険方式のたまものなのではないかというふうにも思われるわけです。ですので、少なくとも平時においては、この社会保険方式の利点というものが大きいのだということは忘れないほうがいいかなと感じました。
 このことと関連して、少し込み入った議論になるのですけれども、第二のセーフティネットとしての求職者支援制度という話も出てきました。先ほどの考えを同様に適用すると、今、求職者支援制度というのは雇用保険の附帯事業ということで、一応、雇用保険の延長線上にあるという考え方ができるかと思うのですが、そういうふうに捉えると、この求職者支援制度については、社会保険方式の延長にあるからこそさらに利用しやすくできるのだという考え方もあり得るのかなという気がしました。
 一方で、雇用保険料で運営されながら雇用保険料を支払っていない人たちに給付を行うというのは、原則としてはおかしいという考え方もあろうかと思います。そういった発想からは、もっと国庫負担を増やすべきだという考え方も認めるところです。そうすると、求職者支援制度は、今、雇用保険の附帯事業ということになっておりますけれども、附帯事業という考え方がなじんでいるのかというそもそも論からも議論する必要もあるのかなということは感じているところです。
 3点目になります。たしか中間整理(案)の7ページの2の前のポツなのですけれども、仮に雇用保険の適用範囲が広がれば、一般論としては第二のセーフティネットの範囲は狭くなる関係にあると考えられる。この意見は、私がたしか前回、述べさせていただいたのですけれども、これはこのとおりなのですけれども、重要なことは、原則としてはこうなのだけれども、例えば適用拡大したけれども、実際には新たに適用拡大された人たちが給付を受けられないとか、あるいは給付を受けられたとしても、その水準が低いといったことが生じると、適用拡大に従って雇用保険の範囲が広がって、第二のセーフティネットの範囲が狭まるのだけれども、そこの間に空白地帯が生じてしまう懸念というものがあるかと思います。そこのところが私は一番懸念しているところで、制度を変えることによって、このような空白地帯ができないようにすることが一番重要なのではないかなということです。ですから、最近の言葉で言えば、切れ目のないセーフティネットというのが、制度設計、特に制度変更する際に気をつけなければいけないことなのかなと感じるところです。
 それから、4点目になりますが、これもちょっと細かいことで恐縮ですが、16ページの一番最後です。雇用保険の基本的・根幹的な目的は何でというところで、今後の方向性として、セーフティネット以外の雇用政策的な色彩を強めていくのか、それとも逆に制度をスリム化していく方向を目指すのかといった議論、そういった視点も必要だという記述に関してですけれども、別に、この記述事態に異を唱えるつもりは全くないのですけれども、ここで気をつけるべきこととしては、雇用保険全体としてスリム化を進めるというよりは、例えば本丸というか、中核である失業給付に関しては、スリム化というわけではないのだけれども、現状維持をする。
 その一方で、派生的な給付である、例えば育児休業給付とか教育訓練給付については手厚くするというようなめり張りのつけ方というのもあるのではないか。その逆もあるわけです。中核である失業給付に関しては、より適用拡大するなり、手厚くする方向に持っていく。一方で、派生的な給付に関しては現状維持にするといった考え方もあるかと思うのですね。だから、その全体としてスリム化するのか、そうでないのかという話ではなくて、個々の給付において、あるところではスリム化するし、あるところでは手厚くするという考え方もあるということで、もう少し細かい選択肢もあるのかなと感じた次第です。
 以上が私の大きなところなのですけれども、ちょっとだけ細かい点ですみませんけれども、中間整理(案)で書かれていることに関して、少しだけ質問というか、させていただきたいのは、2ページ目の一番最後です。「失業」という保険事故の特殊性という項目がございます。これに関して、ちょっと質問というか、私の疑問点を述べさせていただきたいのですけれども、「「失業」の発生は、他の社会保険制度の保険事故である「老齢」「傷病」などの生理的・物理的現象ではなく、生きた社会経済現象であって」という文章があるのですが、生理的・物理的現象ではないので、発生原因や態様も複雑であるという特殊性があるというところが、若干腑に落ちなかった部分がございます。
 なので、社会的現象のほうが生理的現象よりも複雑であるという事情があるのかというところがちょっと気になったのと、その後の接続詞として「このため、保険事故の危険にさらされている一定の範囲の者を強制的に保険適用し」というところです。社会的事故であるがゆえに、強制的に保険適用しているのだと私なんかは読めてしまったのですが、そうすると、老齢・傷病に関しては、こういった強制的な適用は必要ないのか。実際には、老齢・傷病に関しても社会保険というものがありますけれども、そういうような疑問点がわいたので、この辺りの説明というか、整理をお願いできたらなと思います。
 そうだとした上で、1点述べさせていただきたいのは、例えば社会的事故というのが事実だとして、確かに発生時期・発生地域、対象となる年齢・業種・職種等によって失業というものが発生する確率といいますか、リスクの発現が違うというのは全くそのとおりだと思うのですけれども、一方で失業の性質として、マクロ的な経済状態に依存するという面があるかと思います。すなわち、景気が悪ければ、総じてみんなが、ありとあらゆる人たちが失業確率という意味では高くなる。景気がよいときには、その失業確率が総じて低くなるという側面があるかと思います。
 そうすると、実は雇用保険というのは、多様な人たちの間でリスク分散しているという面もありますが、時間の差を通じて、景気がよいときと悪いときでリスクを分散しているという考え方もできるのではないかと思っております。ですので、細かいことで恐縮なのですけれども、失業という保険事故の特殊性ということで述べるのであれば、そういった側面に関してもちょっと言及が必要かなと思いました。それが失業保険の財政的な安定ということに関わってくることかと思いますので、その点、ちょっと思ったということで述べさせていただきたいと思います。
 すみません、最後、細かいことになってしまって恐縮でしたが、私のほうからの意見は以上となります。
○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。
 それでは、お尋ねの点につきまして、事務局からお答えさせていただきます。
○山口調査官 酒井先生、御指摘どうもありがとうございます。
 確かに論理的に甘いようなところがありますので、書きぶりを精査させていただきたいと思いますけれども、趣旨といたしましては、老齢・傷病というのがある程度人間の生理的な年を取っていくとか、傷病につきましても、仕事をしている中でけがをすることがあるということで、パターナリスティックに理解できる事故であることに対して、失業というのが、国によっても社会経済情勢によって全く異なってきてといった前提の違いがあるということを言わんとして書いているということかと思います。
 ただし、傷病についての発生率とかも全く読めるわけでもないという点については、当然変わりがございませんので、その辺りのグラデーションというところをもう少し分かるように書きぶりを変更したいと思っております。そことの因果関係といいますか、論理的なつながりという意味において、このために一定の範囲のものを強制的に保険適用しているという部分については、社会経済情勢ということによっているものであって、その社会経済情勢を踏まえて一定の線引きをしているということになるかと思いますので、そういった意味が通じるように記載させていただきたいと思います。
 時間の点につきましても、記載を盛り込ませていただきます。
○尾田雇用保険課長 酒井先生、よろしいでしょうか。
○酒井委員 分かりました。ありがとうございます。
○尾田雇用保険課長 ありがとうございます。
 続きまして、佐々木先生、お願いできますでしょうか。
○佐々木委員 どうもありがとうございます。
 事務局の方から非常に詳細な説明をしていただき、大変ありがとうございます。既に結構完璧に書かれておりますので、正直、私からも特に大きなコメントはありませんが、ちょっと感想めいたことと、一部、表現の変更の提案について御説明させていただければと思います。
 まず、9ページの4の失業以外の事由に対して支給される給付に関することの最後のポツですが、教育訓練給付は、人への投資やリスキリングの観点から非常に重要なことですが、自ら職業に関する教育訓練を受けることを保険事故と捉えて保険給付を行うことは、ここに書かれているように、本来の失業保険の目的と離れていると思います。また、育児休暇に関しても、育児することを保険事故としているところで、保険給付になじまないと思いますので、ここに書かれていることに賛同します。本来ならば目的に合った会計の枠組みを構築したほうがいいと思います。
 ただ、そうは言うものの目的に合った会計の枠組みの構築の実現可能性について、あまり議論してこなかったことは少し反省しているところであります。目的に応じて会計の枠組みを複数設けることで財源の安定が図れるのか、そして行政上の運営コストがどれほど増えてしまうのかということを議論すべきだったかなと思います。もしかしたら、現状のまま雇用保険制度内に1つにまとめているほうが運営上、楽でコストも安いのかもしれません。会計の枠組みのあり方については、今後に向けた課題にしたいと思いました。
 次は、10ページの2の検討の視点、イの給付率・賃金日額・給付日数の3つ目です。「公的統計を使用して調査したところ、ある程度じっくり仕事を探す期間を設けることで定着率が上がったことが分かった」の箇所ですが、これは理論的にありえることですが、公的統計を使用して調査からは必ずしもそうとは言えませ
 第6回研究会に招待した小原先生や、私が第2回研究会で発言した職業安定業務統計を使った我々の研究では、求職期間と定着率の相関はマイナスになりました。すなわち、求職期間が長いほど、次の職の定着率が下がるということを意味します。マイナスになった理由というのはいろいろ考えられます。小原先生が報告したように、求職者の職探しに対する意欲の異質性が要因とも考えられます。ここの文なのですけれども、ある程度じっくり仕事を探す期間を設けることで、定着率が上がる結果、下がる結果、そして変わらない結果と混在しているとしたほうがいいのかなと思います。
 実際、2回目の研究会での私の報告から、アメリカの研究ではプラスの相関があって、カナダではマイナスの相関、スロバキアやオーストラリアでは相関がないという結果を報告しておりますので、こういう書き方になるとちょっと誤解を招くと思いました。
 次に、その下の(ロ)給付制限期間ですけれども、その2つ目のポツに書かれているように、給付制限期間の短縮は、離職を促し求職期間を延ばしますが、留保賃金を引き上げるので、就職した場合、マッチングの質は高くなります。しかし、私が最近の日経新聞の経済教室でも書いたように、転職しようという人のほとんどが事前に転職先を決めているような失業なき労働移動をしているのなら、給付制限期間の短縮による転職促進効果はそれほど大きくないと考えております。
 ましてや、給付制限期間を短縮ではなく一気に撤廃してしまう場合、そういう議論もちらほら聞かれるのですけれども、考えられることは、例えば今の4月のうちに転職活動して、先方に6月1日から働き始めますと約束し、今の仕事は4月31日に自己都合離職します。そして、5月の1か月間は失業給付を受けながら悠々自適の生活を送る。そうすることを選択する人は多いと思います。
 実際のところ、先ほど説明いただいた資料2の補足資料、諸外国の失業給付における自己都合離職の取扱いでも、給付制限がない、撤廃するという国はありません。資料の中で一番給付制限期間が短いのはデンマークですが、3週間あります。イギリスは長くて26週間ですから、ほぼ半年の制限を設けております。給付制限期間を短縮する方向に進みそうですが、一気に撤廃することには少し慎重であるべきではないかなと思います。
 次に、17ページの最初の1ポツ目、制度運営にあたって考慮すべき要素ですけれども、この点は前回の研究会でも中間整理へ向けた視点、留意点として述べたところでありますが、EBPMに基づく効果検証の重要性をもう少し強調してほしいと思います。
 13ページには、教育訓練給付に関する効果検証の把握と工夫が必要と書いており、16ページには、求職者支援制度に関する効果検証において、雇用保険受給資格者とそうでない者とで教育効果が違うのかを分析する必要があると書いております。本当にもっともなことでありまして、積極的に進めてほしいなと思うところでありますが、そうすることの障害がまだまだ大きいのかなと思います。第3回研究会において紹介されました、原先生が御指摘していたように、業務統計や行政記録情報へのアクセスが非常に難しいことが挙げられます。特に、学生自身が業務統計に応募することはできません。
 このような研究しにくい環境になってしまうと、原先生もおっしゃったように、有望な若手の研究者が労働経済学や社会保障の分野から離れていくことになりかねません。研究者の層が薄くなると、良質な効果検証はできなくなりますし、政策立案の際に参考になるエビデンスを提示できなくなります。信頼できるエビデンスを提供し続けられるようにするためにも、業務統計の公開手続の簡素化ということを非常に望むところであります。
 大きく今のように4つ、コメントしました。私のほうからは以上でございます。
○尾田雇用保険課長 佐々木先生、ありがとうございました。
 それでは、土岐先生、次、お願いできますでしょうか。よろしくお願いいたします。
○土岐委員 本日は、冒頭、本務校の会議で遅れてしまい、申し訳ございませんでした。5分遅れで参加いたしまして、ほぼお話は伺っていたと認識しております。
 事務局の山口さん、御説明どうもありがとうございました。これまでの議論がよく整理されておりまして、全体的なコメントということでお話しさせていただければと思っております。
 取りまとめの方向性として、雇用保険制度を支える資金が枯渇する中で、雇用保険が果たすべき機能や雇用保険制度の役割を超える機能が何かを考える視点を示すということで取りまとめいただいており、この方向性に全く異論はございません。これまでの研究会でも、現在、雇用保険制度が行っている様々な給付について、それをやめるべきだという話は多分されていなくて、給付することの必要性があったり、あるいは対象者の拡大が必要であるとか、給付を充実させることが必要であるという話を、雇用保険制度の枠内でやっていくかが課題になっていたと思っております。ですので、こういった形で整理いただくということでよいと思っております。
 私自身は、ふだん雇用保険制度を直接の専門にしていないのですが、今回、1年近く研究会で先生方の御議論を伺っていて、中間整理の中でも雇用保険制度は難しい制度であるということが書かれていたと思うのですけれども、現実に様々な機能を果たしていて、制度を考える際には本当にいろいろな考慮要素があって、かつ、その中で取り得る選択肢というのも常に複数あり得ると思っております。今後、さらに一定の方向性に向けて議論を続けていくことになると思っているのですけれども、その際に重要になるのは、当たり前のことかもしれないのですが、最終的に特定の選択をするときに、複数あり得る選択肢の中で、こういう理由で今回、こちらの選択をするので、こちらの選択はしないということをきちんと説明できるようにしておくことが重要であると思っております。
 その説明をする際には、経済政策的な色彩を帯びるみたいなこともございますので、きちんとエビデンスがある部分に関してはエビデンスにのっとって行う。法律の研究をやっていると、いろいろな理念から概念法学的に物事を考えてしまうところがあってそれも大事なのですけれども、エビデンスがあれば、それもきちんと使って選択の説明をしていくことも重要だろうと思います。
 先ほど佐々木先生もお話になっていましたが、エビデンスを得ることは難しいという話がございまして、17ページの最後の辺りで、EBPMに基づく効果検証の重要性ということを記載していただいていたと思うのですけれども、まさに御指摘があったように、いろいろな情報とか統計をしかるべき研究者がきちんと利用しやすくしておくようにすることが、法律学の研究者が制度を考えるときにも、ほかの分野の研究をベースに考えていくこともあると思いますので、このことはぜひ中間整理(案)に明示しておいていただいたほうがいいと考えます。もちろん、いろいろ障害があるということも承知はしております。
 そして、この中間整理(案)の最後に書いてあるように、保険料を負担している労使とか国民の皆さんにちゃんと納得してもらうような形で議論を進めていくことが大事なのだろうと思っております。
 全体の構成に関連して、1の「総論」の(4)、セーフティネットとしての雇用保険制度の在り方とあって、社会保険方式でセーフティネットを整備することの意義。それから、同種類の危険集団の範囲、現行の適用対象労働者への影響、失業以外の事由に対して支給される給付という4つの項目に分けて整理されているのですけれども、私が見たところ、この1、2、3は、基本的には失業のことを念頭に置いて議論されていると思います。
 というのは、現在の雇用保険制度が提供する全ての給付を念頭に置きつつ、この1、2、3を論じるのは難しいので、適用範囲とか制度の理念を議論するに当たっては、失業という本来的な事故を念頭に議論していて、それから、4では、この研究会で、雇用保険で行うことの適否とか対象者の拡大等も含めて、しばしば議論されていた失業以外の話を整理していただいているのかなと思います。
 私は、この整理でよいと思っているのですけれども、暗に失業と失業以外の教育訓練給付であるとか育児介護給付は少し違うというメッセージを出していると見る余地もあるのかなと思われるところでして、雇用保険の本来的な機能が失業時に給付を行うというところにあるとすると、失業に対する給付とそれ以外の給付を明確に区別して整理するということも、わかりやすさの観点からはあり得るのかなと思いました。もちろん、そういう整理をして誤解される可能性があるということですと、そうしないほうがいいと思います。
 それから、最後に、前回、適用対象者拡大の議論との関係で、適用対象者の週所定労働時間を引き下げたときに、適用基準と失業認定基準を同じ基準で考えたときに、部分失業が対応しにくくなる可能性があるという御指摘があり、適用基準と失業認定基準をリンクさせていいかという課題が指摘されていたと思います。
 改めて、この問題について少し考えておりまして、雇用保険制度の趣旨をどのように捉えるのか。つまり、賃金による生計維持なのか、あるいはもう少し広く捉えるかとも関わると思われるのですけれども、適用対象者を拡大していくと、どのような考え方を取ったとしても、うまく説明できているか自信がないのですが、働き方に中立的な形の制度になっていく結果、その人個人が失った賃金を補塡していくという性格が強くなっていくのかなと思います。そうすると、雇用保険の適用基準と失業認定基準が必ずしも同一である必要は恐らくなくなって、失業認定基準についてはその人の従来の労働時間を基準として失業したかどうかを判定していくことになるのかなと考えております。
 前回、雇用保険の適用基準に関して、必ずしも労働時間だけではなくて賃金で判断する余地もあるかもしれないということを申し上げたのですけれども、適用基準を賃金で判断することとしたときに、失業認定基準についても賃金ではかろうとすると、例えば労働条件の不利益変更によって賃金が減ってしまって、その結果として失業認定基準に該当するということになってしまうと、制度の趣旨からは外れるように思います。ですので、適用基準を賃金で画するということにした場合であっても、失業認定基準については、何らかの形で労働時間というのを基準に含める必要があるのではないかということを、考えております。
 すみません、早口で申し訳なかったのですが、私からは以上でございます。
○尾田雇用保険課長 土岐先生、ありがとうございました。
 続きまして、水島先生、お願いできますでしょうか。
○水島委員 山口さん、御説明ありがとうございました。
 まず、2ページの「総論」、(2)の雇用保険制度を構成する考え方、構造につきまして、大きく2つの意見があります。
 1つ目は、文章のつながりに関することで、先ほど酒井先生から質問があり、山口さんから御説明いただいたところで恐縮ですが、同じところです。「このため」の前の部分で、失業という保険事故の特殊性を年金・医療と比較して、「このため」で第2文に接続しているのですが、第2文の内容は基本的に年金・医療と共通するものであって、失業という保険事故の特殊性を、私は「一定の範囲の者」、すなわち生活維持者にかろうじて読み取りました。ただ、私のこの理解は、先ほどの山口さんの回答とちょっと異なるようにも思いますので、書きぶりについて御検討いただければと思います。もし「このため」というワードを残すのであれば、社会保険一般の内容を薄め、失業の特殊性から引き出される内容を記載いただければと思います。
 3労働の意思と能力の2つ目の〇の「このため」は、1つ目の〇のワードとどう接続するのか、すみません、私にはよく分かりませんでした。○も変わりますので、「このため」は要らないのではないかと思います。
 総論についてのもう一つの意見ですが、2ページに戻っていただいていいでしょうか。ありがとうございます。雇用保険制度の骨格を理解するに当たって、現行制度を構成している基本的な考え方や構造を整理するとあって、1から4まであります。雇用保険制度の保険給付は失業等給付が中核にあって、特に求職者給付及び関連する給付が重要であること、したがって、1から3が基本的な考え方であることには同感です。狭義の雇用保険制度を構成する考え方として、まさに1から3があると考えます。
 ただ、4の求職者支援制度が、現行制度を構成する基本的な考え方や構造と言えるのか、よく分かりません。入れることは可能と思いますが、仮に入れるのであれば、雇用保険二事業についての基本的な考え方や構造を含める必要があると考えます。二事業は、雇用対策において重要な役割を果たしていると考えられますので、雇用保険制度における位置づけを再確認すべきと考えます。
 それから、失業以外に関わる失業等給付や育児休業給付についての項目を、雇用保険制度の骨格を理解するに当たって、書く必要があると思います。私自身は、育児休業給付が、当初の雇用継続の機能が減少し、今では少子化対策とか男性の育休促進のために用いられるようになっていて、雇用保険の基本的な考え方になじまないと考えていますので、あえてここから外すことには賛成でもあるのですけれども、報告書の性格を考えると、雇用保険制度の中で事実上、重要な役割を担っている育児休業給付について基本的な考え方や、構造の中での位置づけといいましょうか、整理して記載することが必要と考えました。
 総論の(4)、6ページになりますが、様々な検討の視点を記載いただき、本当にありがたく思います。雇用保険のコアの部分を強化する方向で今後進めるのか。あるいは、雇用保険の基本的な考え方や構造を社会の状況に即したものに変化させていくのか、どちらにも難しい課題がありますが、この政策に合わせるようにとか、社会のこのような課題に取り組むようにとか、外部からの影響を受けて、雇用保険制度がいわば受動的に変わるのはどうかと思っていますので、雇用保険制度が主体となって、雇用保険制度自身の在り方を考えることはとても重要と考えます。ここで示された諸点、全て難問でありますけれども、今後、さらに検討を進めることができればと思います。
 各論ですけれども、基本手当でお示しいただいた給付制限期間につきまして、短縮する方向に基本的に賛成だったのですけれども、本日、補足資料で示していただいた諸外国の状況を見ますと、一定の期間を設けており、直ちに短くすることは唯一の策ではないし、もう少し慎重に考えたほうがいい。佐々木先生もおっしゃっていましたけれども、一定の給付制限期間が必要で、それが制度の基本的な考え方にも合致するように思いました。
 失業認定のオンライン化対応を進めていくこと自体には基本的に賛成ですけれども、これも補足資料で示していただいた諸外国の状況を見ますと、初回を対面にすることには重要な意義が見出せそうですし、諸外国の状況等も踏まえつつ、オンライン化によるメリット、デメリットをさらに検討することが必要であることを認識しました。
 次に、14ページから始まる育児休業給付で、これは要望ですけれども、基本的に現行の給付を前提としていると思いましたが、短時間勤務の際の給付について、検討の視点に入れていただけないか、入れてもいいのではないかと思いました。15ページの2つ目の○で、育児休業期間の所得保障というよりは、就業継続の観点から、夫と妻が時短勤務をうまく組み合わせて・・の給付の在り方と、書いてはいただいているのですけれども、もう少し直接的に書いていただければと思います。
 並行して行われているこども未来戦略会議でも、共働き・共育ての推進が言われていて、男性も女性も共に働き、共に育てる、できるだけ対等・中立にしていくという方向性には、大賛成で、この記述もそれを踏まえているように思いましたが、シングルで子育てをしている労働者もいるわけで、夫と妻にフォーカスする必要はここではないのかなと思いました。むしろ、短時間勤務の際の給付、たとえば育休を早く切り上げるとか、育休を取らずに短時間勤務している人への給付の在り方、可能性を打ち出していただければと思いました。
 17ページの最後の表題、雇用保険制度に対する国民的な理解・議論について、その方向に異論はないのですが、表題がやや引っかかりました。国民には制度というよりも、雇用保険の機能や役割を理解してほしいと思いますし、また、制度について議論するよりも、制度が持っている課題について議論してほしいと思います。その意味で、最後から2行目にまとめていただいた「雇用保険制度が果たすべき役割や保護すべき対象は何か」を考えるための検討の視点を整理した、この点にはまさに賛同します。この趣旨に合うような表題の変更を御検討いただければと思います。
 もう一点だけ。先ほどの酒井先生のたしか2点目の御指摘に、国庫負担が増えると社会保険の性質が薄まるといったような御発言がありましたが、関連して2点述べます。
 社会保険の中でも年金や医療を見ますと、社会保険と言いつつ国庫負担が非常に多く、その国庫負担で制度の持続可能性が保たれたり、制度間のバランスが図られていたりしていますので、国庫負担を活用すること自体は悪くないと考えています。国庫負担に依存し過ぎるのはよくないと思いますが、適度な国庫負担の活用は、むしろ肯定的に考えています。
 それから、中間整理の中で財政についての言及が少ないように感じました。酒井先生の御発言を聞いて、初めて気になったのですが、どこかに書いていたら申し訳ありません。書く必要がないか、一度御検討いただければ、と思いました。
 以上でございます。
○尾田雇用保険課長 水島先生、ありがとうございました。
 続きまして、山川先生、お願いできますでしょうか。
○山川委員 ありがとうございます。
 基本的なことから書かれて、かつ現在の課題についても書かれて、かついろいろな委員の皆さんの御意見、多様な意見をいろいろ拾っていただいて、こういう書き方、構成、流れで結構だと思います。したがいまして、かなり個別的な書きぶりのお話になるのですけれども、幾つか述べたいと思います。
 まず、3ページ目の1つ目の○のところですけれども、前も言いましたけれども、自発的に離職した場合も失業給付の支給対象としているというところでは、保険事故は離職ではなくて失業ですので、自発的に離職して失業したというほうが正確かなと思います。そうするか、自ら保険事故を起こした。これも離職が保険事故みたいなので、書くとしたら、自ら保険事故の原因をつくったとか、そういうことではないか。ちょっと概念的なお話ですけれども、当然のことながら学卒者で一度も職に就かないのに失業している人がいるわけですので、離職と失業は別の概念になるかと思います。これは、言葉の説明なのですけれども、実は先ほど来、酒井先生、水島先生から失業という保険事故の特殊性のお話があって、これはかなりいろいろなところで生きてくる根本的なお話かと思います。
 1点追加したいのは、後でモラルハザードというものが出てくるのですけれども、失業という保険事故の特殊性として、もう一つは、失業からの脱却というのが個人の意思とか努力にもある程度かかってくるということがあるのではないか。だからこそ、モラルハザードで失業給付に依存するという状態というものは避けるという価値判断、政策判断があって、これは財政面もあるのでしょうけれども、失業という保険事故の特殊性とか、遡れば勤労の義務とか憲法上の要請にも関わるかもしれません。給付制限にも若干関わっているような気がしまして、自らが一生懸命就職活動しても就職できない。一生懸命というのは要らない形容詞かもしれませんけれども、それをしないのがモラルハザードだということになるかと思いますので、失業からの脱却が自己の意思にも一定程度依存する。
 全てそれだったら、保険をそもそもつくるのかという話になりますが、いろいろな社会条件の中で自らが失業から脱却するというプロセスが必要になるということが特色になるかと思います。
 偶発性ということは、これは書きぶりの話というか、単純な感想なのですけれども、これを読んで考えたのは、老齢というのは偶発的かという話です。必然的に皆さん、年を取るから偶発的ではないのではないか。考えてみたら、老齢になっても収入を失って生きていることが偶発的なことなのかと、老齢が偶発的だというのは一体どういうことかと思いました。
 これを考えるとさらに深い話になって、社会保険制度とか、およそあらゆる社会制度というのは、ある種のフィクションで、うそという意味ではなくて、あるものをどのようなものとして形容するか、それを民主的に正当化できるかという、社会制度をそもそもどういうものと見るかということに関わってくるのですが、そのような根本的な話はここで議論すべきではないと思いますので、これはこれで結構ですが、そういう問題に関わるのかなと思いました。
 もう一つは、5ページになります。これは水島先生がおっしゃったことですけれども、休業給付金とかのお話がここで出てきて、これは対比されるのは、二事業の雇用調整助成金とか支援金のお話なので、もう少し二事業の位置づけを書かないと、いきなり二事業で負担すべきなのか、国庫で負担すべきなのかというお話が出てくるので、附帯事業としての二事業というものをもうちょっと書き込んだほうがいいと思います。
 ここでも、二事業は保険システムなのかというと、附帯事業といいましても、恐らくそうではないわけです。というのは、保険事故が失業だとすると、それについて事故の主体になるのはあくまで労働者ですので、企業は保険事故のリスクを負うものではない。強いて言えば、会社都合で解雇されたようなときに、例えば訴えを起こされるとか、そういうお話が事故なのかもしれませんが、多分そういう見方はしていなくて。したがって、保険制度の中で二事業をどう位置づけるのかというのは、もうちょっと説明が要りますし、今回はあまり検討していませんでしたけれども、本来的にはこの二事業をどう考えるかは議論の対象になるのかなと思いました。
 前もちょっと基金というお話しをしましたが、ある種の基金のようなことかなという感じもするわけですが、少なくとも中間整理としては、二事業の話をもうちょっと書いたほうがいいかなと思いました。
 あと、言葉の問題で、7ページの先ほど山口さんが言い直されていたので問題ないですけれども、1行目とか4行目に拠出と負担の対応関係とありますが、これはもちろん拠出と給付の対応関係でよろしいですね。拠出と負担というのは同じことになりそうですので。
 それから、これも書きぶりの問題で、同じ7ページの2の2つ目の○のところで、私の誤解かもしれませんが、フルタイムパートも適用対象になっており、生計維持思想に合致しているとは言いづらいのではないかという点はちょっと分からない。例えば週40時間働いている人がフルタイムパートであるとすると、むしろ生計維持思想に合致するような感じもするのですけれども、ここはやや分かりにくかったところです。
 それから、8ページ目の3ですけれども、これは酒井先生が前回おっしゃっていただいたところで、現下の課題については結構重要なお話になりそうな気がするのですが、要は20時間未満の方も被保険者資格を持つように広げた場合に、給付のことを考えると、例えば現在38時間働いている人が15時間になった場合と、2仮に10時間という基準があったとすると、10時間働いていた人が5時間になった場合と、38時間働いていた人が15時間になった場合。
 そうすると、10時間以上は適用対象者だとすると、それがどういう影響を与えるのかということで、二通りの場合があり得るのか。もし適用基準と失業認定基準が一致すると、いろいろな問題が起きるのですが、1つは、ここを一致させないで、20時間以上の方と、10時間以上で20時間までの方というふうに2つに分けるということもなくはないのですが。
 ただ、これまでの山口さんの議論の中で、そうすると、短時間被保険者のようなものを別の形で導入することになって、そのこと自体、例えばコストとか、いろいろなことを考える必要があるということで、この両者、適用対象基準と失業認定基準を一致させた場合という前提ですが、一致しない場合にはこういう問題があるというのを、短時間被保険者の例を挙げて、現在ないものですけれども、書いてはいかがかなと思いました。これは、政策的には比較的直近で重要なお話になるかと思います。
 それから、10ページから11ページの給付制限期間で、これは皆さんおっしゃったようなところで、給付制限期間を短くする、またはなくすということが労働市場の活性化というか、活用につながるという。ここは保険とは離れた雇用政策的・労働政策的発想では、ある程度妥当する面もあるかと思います。
 ただ、ここはむしろ、最後、11ページの(ハ)の前に書かれていますように、在職者支援の充実が本筋ではないかという形で、佐々木先生も例を挙げられたかと思いますが、一旦、失業状態に陥るよりも、在職中にいろいろ再就職とか転職がしやすいような仕組みをつくることが、本来望まれるという感じもしますので、もうちょっとこの辺りは書き込んでもいいのではないかと思います。
 11ページの上から4行目にモラルハザードというのがありますが、これは先ほど言いましたように、要するに失業給付に依存するということだと思います。その前提にあるのは、本来、失業というのは自分の力でも脱却する要素がある程度ある問題であるということなので、モラルハザードというのが定義なく使われているので、どういうモラルハザードかというのは書いたほうがいいのではないかと思います。11ページのすぐ下にもあります。
 それから、12ページ、すみません、細かい書きぶりばかりで申し訳ありませんが、オンライン化に対応した給付制度の在り方はもっともなことで、中身は異存ありませんが、割とテクニカルな話とかコスト面とかフィージビリティーに中心が置かれているような気がしまして、問題は保険システムということで考えると、保険システムが有効に機能するためには、オンラインがいいのか、対面がいいのかということが本来、根本的なお話で、コスト的な点はやや付随的なことなので、多分、やり出すと心理学か何かを考える必要があるのかもしれませんが、就職活動にコミットするとか、あるいは実態が分かるのは対面のほうがいい。それはちょっと書いてありましたけれども、ここはシステムの保険という観点からどう考えるのかということを、ちょっと書き込んだほうがいいかなと思います。
 あと、15ページ、すみません、これが最後になります。雇用保険でやるべきかという男性の育児休業促進等で、家族政策として捉えるべきではないかということで、これは一定程度、もちろん賛成なのですけれども、そうなると一般会計で賄うということで。家族政策と考えると一般会計で賄う。保険で賄うべきではないという流れは分かるのですが、なぜ一般会計で賄うのかというのは、また1つ説明が要るような気がしました。これは、ある種の人口政策とか産業政策に関わるのかもしれませんし、多分、こどもとか育児というのは公共財である。きちんとこどもが生まれて成長していくことは、自由市場に任せるだけでは済まないという意味での公共財であるということなのかなと思いました。どこまで書けるのか分かりませんけれども。
 最後になります。16ページの「おわりに」の内容はもっともなのですけれども、特に失業という特殊性に応じて、本来の保険システムの適切かつ効率的な運営ができるかという視点と、これまで、何回も申し上げていますが、いろいろな意味での労働市場政策的な色彩を持たされてきているわけです。特に後者の場合は、保険とは別のところから目的を達成する手段とすると、手段としての適切さとか有効性というのが非常に問われやすい関係にあるということなので、目的を広く見るのはいいとしても、他の目的を考える場合には、EBPM的なことも含めて検証等がより要請される関係にあるというのを、この「おわりに」に書かれてはいると思いますが、そこはもうちょっと強調してもいいのかなと思っていました。
 すみません、長くなりましたが、以上です。
○尾田雇用保険課長 山川先生、ありがとうございました。
 それでは、渡邊先生、お願いいたします。
○渡邊委員 もう既に皆様からいろいろな御指摘があって、ここまで来ると私の申し上げることはほとんどありません。資料自体も大変よく整理されていて、この短時間の間によくまとめていただいたなという感想を持っております。
 私のほうからは、本当にわずかばかり申し上げておきたいと思いますが、既に御意見の中にもあることなのですが、雇用保険制度の今後の在り方を考えるといった場合に、最初に取り組むといいますか、考えなければならないのは、雇用保険制度の趣旨・目的というものを整理するということが肝要ではないかと思っています。雇用保険制度というもので何をなすべきなのか。雇用保険制度はどうあることが望ましいのかということを、ほかの社会保険制度・社会保障制度を含めて考える必要があるのではないかといったところで、他の制度との関わりといったところを意識することが必要なのではないかと思いました。
 その雇用保険制度の趣旨・目的ということが明らかになりますと、適用対象となる労働者の範囲というものですとか、それに見合った給付要件といったものの考え方というのはまとまってくるように思っております。ある意味、それが指標になるといいますか、指針になってくるというところがあろうかと思いますので、はじめに、そういった雇用保険制度の保障・目的といったところをきちんと整理する必要性について、改めて申し上げておきたいと思います。
 細かな点について申し上げておきますと、例えば失業認定の在り方を検討した際に出てきていたかと思います。資料では11ページにあるのですが、雇用保険というものが失業中の生活の保障、就職支援に大きな目的があるのだというところからしますと、諸外国の例を参考にして、個別支援計画を求職者全般に対して策定するといった手法、その導入について強く検討したほうがいいといったところを、私としては希望したいと思っております。諸外国の例というのがいろいろ検討の際に出てきておりますが、そこで各国が個別支援計画を策定している。そういった在り方を日本においても本格的に考えていく必要があるだろうと思います。
 さらに、そういったことを可能にするためには、その担い手の必要性をもう少し強調してもいいのではないか。つまり、ハローワークの常勤職員を増やす必要がある。そういったところについても強く記す必要性があるのではないかと、個人的には思いました。
 もう一つだけ申し上げておきたいのですが、雇用のセーフティネットの在り方、前回の議論で、現行制度の適用対象労働者への影響という点が出てきていたかと思います。中間取りまとめですと8ページの辺りで、既にいろいろなことが述べられている部分かと思うのですが、部分失業といったお話もあったかと思います。制度の適用対象者というものを今よりももっと拡大していこう。さらに、少しでも働いたら、それは雇用保険の適用対象に含めるのだといった制度の在り方自体を考えるのだということになってきますと、それに見合った保険給付の在り方ということに関しての議論がさらに必要だといったところがあろうかと思います。
 その例として挙げられているのが、1つは部分休業のお話かと思いますが、それ以外の点もあるのかなと思っています。例えば、基本手当日額、失業給付の算定基礎になっているところなのですが、上限とか下限額というのが定められるようになっているというのが現行制度の在り方です。現行制度で下限額を定めているというのは、ある意味失業中の生活を保障するためにふさわしい給付といった発想から、そういったものが出てきている。現行制度では、最低賃金と連動する形で下限額というものが定まっているといった状況にあるかと思うのですが、適用対象者を拡大していく、その拡大の仕方にもよりますが、場合によっては、そういった最低保障額といった下限額を設定することが困難になるのだ。そういった問題も新たに生じるといったことですとか。
 また、これは現行制度の問題として捉えているところですが、上限額に関しては、毎月勤労統計調査の結果に応じて自動的に改定するといった仕組みが採用されています。ただ、この毎月勤労統計調査の結果に基づいて自動的に改定するといったところですが、統計調査というのは後から修正されることもあります。
 これは、いろいろな理由で後から修正されるということが出てくると思うのですが、統計調査が修正されたから、給付のほうも自動的に調整といいますか、修正しなければいけないということになってきますと、わずかな金額の修正が入った。でも、自動的に給付のほうも修正しなければならないというのであれば、かなりの事務的な負担、コストというものがかかってくるだろうと思います。こういった手法が果たして妥当かといった点もあわせて見直す必要があるのではないか。そういった形で、現行の制度においても問題点や、まだ議論していない部分がたくさんあると思った次第です。
 最後に、今まで先生方の中からいろいろ御意見もあったところですが、この中間報告の取りまとめに関しては、私も雇用保険の二事業に関しての取扱いというのは、かなり少ないなという印象を受けました。求職者支援制度の位置づけといったものもありますが、雇用保険二事業というのは大きな役割を果たしている。特にコロナ特例においてはそうだったといったことを踏まえますと、取りまとめの中において、雇用保険二事業に関しての記載がもう少し必要ではないかと思いました。
 私からは、雑駁ですが、以上でございます。
○尾田雇用保険課長 渡邊先生、ありがとうございました。
 それでは、一通り御意見いただきましたけれども、重ねて御意見がございましたらいただけますでしょうか。どなたでも結構でございますけれども。よろしいでしょうか。
 それでは、様々、御意見いただきまして、ありがとうございました。本日の議題については、以上とさせていただきます。本日、皆様方からいただいた御意見に留意しつつ、中間整理に向けた取りまとめを事務局のほうでさらに進めさせていただきたいと思います。
 それでは、本日の議論を踏まえて、山川座長から総括をお願いできますでしょうか。
○山川座長 皆様方の御意見を聞いて、根本的なところから考えることの重要性というのを改めて感じました。雇用保険制度は、そのとき、そのときのいろいろな動きの中でいろいろな議論が出てくるのですけれども、最終的には根本的なところから考えないと、後から振り返ったときに非常に一貫性のないものとして捉えられて、それは最終的にシステムの信頼性に関わるのかなと思って、改めて、皆様方の御議論の中でいろいろな根本的なことが出てきたというのは、非常に意義の大きいものだと思った次第です。
 1点だけ最後に。追加することが出てきてしまいました。最後の最後のところで、幅広く国民に共有するということがありますけれども、それとの関係で言うと、なぜ国民に共有することが重要なのかという点は、皆様の意見を聞いておりますと、いろいろな点での重要性があり、1つは、国家財政に関わるので、財政全体の議論、財政民主主義というものがありますけれども、そこを国民的な議論をするために雇用保険の意味というのを議論していただくという点で、共有の必要性がある。
 それから、当然のことながら、国民生活に非常に大きな影響を及ぼすということで共有の必要性がある。それから、二事業などを考えてもそうですけれども、企業活動にも影響があるという非常に大きな、かつ広い影響を及ぼすということで国民に共有して議論する。それらの意味から、先ほど言いましたような根本的な議論の重要性が改めてクローズアップされるとしてまとめると、ある意味、より美しいのではないかなと思った次第でございます。研究者としては、非常に知的興奮に満ちた研究会という感じがいたしまして、法学者にしてもそうなので、経済学者の方々は多分もっとそうではないかと思った次第でございます。
 まとめになっているかどうか分かりませんが、どうもありがとうございました。
○尾田雇用保険課長 山川座長、ありがとうございました。
 それでは、本日は、皆様方、闊達な御議論をいただき、ありがとうございました。これをもちまして、本日の研究会は終了させていただきます。
 次回の日程及び会場等の詳細は、追って御連絡させていただきますので、よろしくお願いいたします。
 皆様方、本日は、お忙しい中、誠にありがとうございました。