第2回新しい時代の働き方に関する研究会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和5年3月29日(水) 10:00~12:00

場所

AP虎ノ門 Aルーム

議題

有識者からのヒアリング

議事

議事内容
○今野座長 それでは、ただいまから第2回「新しい時代の働き方に関する研究会」を開催いたします。
 本日の研究会も、会場参加とオンライン参加の両方で進めていきたいと思います。
 今日は、構成員に加えましてヒアリングをいたしますので、お二人の外部の有識者に来ていただいています。
 それでは、カメラ撮りはここまでとさせていただきます。
 議事に入る前に、前回欠席でありました伊達構成員から自己紹介も兼ねて、この研究会に関して考えていらっしゃることをお話しいただきたいと思います。
 では、伊達さんよろしくお願いします。
○伊達構成員 皆さんおはようございます。オンラインから失礼いたします。ビジネスリサーチラボの伊達と申します。
 私からは簡単にまず自己紹介をさせていただいた後に、今回の研究会のテーマと照らし合わせて問題意識、あるいは関心を持っている領域について説明をさせていただきます。
 私は、少し変わったキャリアを歩んでいまして、元々大学院で経営学を専攻していました。その途中で、在籍中に会社を立ち上げて、それ以降、学術界と産業界を行き来するような活動を行っています。
 まず産業界というところで言うと、ビジネスリサーチラボという会社を経営しているのですが、こちらの会社では主に人事の領域においてデータ分析の活動、サービスを提供しています。その際に、研究知見を活用するということが一つの特徴になっています。
 他方で、学術的には、専門は経営学の中でも組織行動論と呼ばれる分野になります。組織行動論というのはそこまで日本ではメジャーではないのですが、海外だと比較的メジャーな研究領域の一つになっています。経営学の中でも、主に心理学のアプローチを活用して研究を進める領域です。いわゆる組織の中の人の心理や行動について研究する領域になっています。非常にミクロな領域です。リーダーシップ、キャリア、モチベーションなど、そういったことを研究している領域が専攻となっています。
 今回の研究会に関連しての関心領域、あるいは問題意識というところなのですが、私自身関心を持っている領域が2つあります。1つがテレワーク、もう1つがエンゲージメントです。
 まず1つ目のテレワークなのですが、コロナ禍を契機に、特にテレワーク、在宅勤務をはじめとしたいわゆるオフィス以外の場所で働くという新たな選択肢ができてきたという社会的な動向があります。
 他方で、実は組織行動論を中心として、テレワークに関する研究はコロナ禍以前から蓄積されてきています。私自身もテレワークに関する調査というのをこれまで何度か行ってきていまして、なぜならば修士課程のテーマがCMC(Computer-Mediated Communicationの略)なのですが、コンピューターを媒介にしたコミュニケーションなどの研究を行っていたので、テレワークについては一貫して関心を持っています。
 従来は職場で働く、オフィスで働くという状態が一般的だったかと思うのですが、それ以外の場所で働くと労働者に一体何が起きるのだろうかということに主に関心を持っており、そういったことを新しい働き方を展望する際には考慮に入れていく必要があるのではないかと思います。
 特にそのテレワークの魅力に加えて限界、いわゆる効果と副作用の両方に触れてお話することができればと思っており、それが1つ目の関心です。
 2つ目の関心が、エンゲージメントになります。人事の領域においては、ここ5、6年ぐらい、非常にホットなトピックになっていまして、人的資本経営の文脈でも注目されている概念になっていて、定着した感もありますが、人事系のカンファレンスでは、一度数え上げたらエンゲージメントという言葉が入っているセッションが2、3割ぐらいあるというような状態でして、非常に関心が高いコンセプトになっています。
 エンゲージメントについては色々な意味で定義されている言葉になっています。実は、どれも組織行動論の主要な概念がそこに関連しています。そういう色々な意味合いで使われるエンゲージメントというのを整理しつつ、なぜエンゲージメントに注目されているのかを検討できるとよいのかなと考えています。
 また、エンゲージメントもテレワークと同じように魅力と限界というものがありますので、そちらも適宜紹介させていただきたいと考えております。
 以上、私の関心としてはテレワークとエンゲージメントという2つの観点をめぐって、組織行動論の研究知見を主に紹介させていただくことで、新しい働き方、これからの働き方を展望していく際の補助線を提供していくことができればと考えております。
 皆様、よろしくお願いいたします。
○今野座長 ありがとうございました。
 それでは、本日の議事に入りたいと思います。まず外部の有識者からお話をいただきますが、お一人目は株式会社日本総合研究所の副理事長の山田久さんです。山田さん、御参加いただきましてありがとうございます。
 それでは、山田さんから20分程度お話をいただいて、その後30分程度議論をするという形で進めたいと思います。では、山田さんお願いします。
○山田参考人 御紹介いただきました日本総合研究所の山田と申します。
 先ほど、伊達構成員のほうから非常にミクロな領域というお話がありましたが、私はどちらかといえば、マクロな視点でお話をさせていただきたいと思います。
 まず、経済社会構造で今、起こっている変化ということで、技術革新があります。特に大きいのはデジタルの技術ですし、もう1つここに加わってきているのはいわゆる脱炭素です。流行りの言葉で言うと、DXやGXということになります。それから、もう1つマクロの大きな変化でいいますと、実は世界経済の枠組みが変化して物価体系が大きく変わっているということだと思います。
 この2つで、要は産業の組替えということが従来からあったのですけれども、その枠組みが大きく変わり、また、金融市場や商品市場が非常に不安定な時代に入ってきているということで、企業経営にとっては、いかにこういう変革の時代にどう対応していくかということが大きな課題になっているということは言うまでもないことかと思います。
 この動き自体はずっと起こっているのですが、ここはやはり数年で加速してきているということです。その流れ自体は前からあったわけですが、(図表1-2)というところを御覧いただきますと、要は雇用に対してどういうインパクトがあったかというと、古典的な労使関係をある意味解体するような圧力が少なくとも働いてきました。
 1つの指標でいいますと、この図表は世界各国の2010年から2021年にいわゆる現役世代である、25歳から54歳の平均勤続年数がどう変化したかということで、国によって違うのですが、やはり全体として縮小しています。
 全体で取ると平均が上がっているところがあるのですけれども、25歳から54歳に限定してみると、やはり長期継続雇用関係が短くなっています。
 それから、特にデジタル化のインパクトが大きいということで、この問題は10年程前に結構大きな話が出始めたと思います。2015年あたりだったと思いますが、特に大きなインパクトがあったのはいわゆるオートメーションであり、要はデジタル技術によってオートメーションが進むことによって雇用が失われるという議論で、これはオックスフォード大学の研究者が発表したインパクトのあるレポートがあったと思います。これによって10年から20年だったと思いますが、その間に半分ぐらいの雇用が失われるという非常に衝撃的なレポートがありました。
 ただ、そこから実は既にもう10年ぐらい経っているのですけれども、マクロで起こっているのは逆のことであって失業率がむしろ下がってくるということで、個別の事象だけ取ると確かにそういう面があるのかもしれませんが、実際は雇用が失われるという状況は起こっていません。
 その後、実はAIが奪うのはジョブではなくタスクだという非常に説得力のある議論があって、結果的に重要なのは、仕事のやり方とか在り方というのが変わる、これが本質的だということではないかと思います。
 ただ、これはやはり雇用を二極化させていくというインパクトを持つわけですね。そうすると所得格差は拡大するということが起こってくるということなのですが、実は国際比較をしていくとそれほど単純ではないということが言えるのではないかと思います。
 確かにアメリカなどは経済学の教科書そのものの動きが出てきて所得格差は拡大しているのですが、例えば北欧のスウェーデンなどを見ると、ミクロではもちろんそういうことは起こっているのでしょうが、マクロ統計から見て比較的その分配の公平さが維持できている。あるいは、労働分配率などもアメリカでは大きく低下しましたが、スウェーデンなどは逆に若干上がる傾向もあるということで、単純にそういう話ではないと考えております。おそらくこれは労使関係の在り方というのがかなり大きく背後で影響しているということではないかと思います。
 もう1つ大きなインパクトというのはギグ・エコノミーの拡大で、雇用契約ではなくてオンラインを通じたマッチングですね。これによって、古典的な雇用関係ではない形で仕事を請け負う人が増えている。いわゆる「プラットフォームワーカー」とか「ギグ・ワーカー」と言われますが、これ自体、中身を見ると非常に多様で、必ずしも俗に言うフリーランス、狭い意味での自営業が増えているだけではなくて、むしろ副業が増えているというのが世界的にもドミナントな状況ではないかと思います。
 ただ、いずれにしても、これ自体が伝統的な雇用関係自体を見直すような動きになっているというのは間違いないかなと考えています。
 ただ、数字を見ると、これは取り方によるのですが、本当にコアで、ギグで、自営業の立場で働いている人というのはそれほど実は多くなく、数パーセントの世界であって、ややそこは過大に言われている感もあるのかなと思います。
 以上が非常に大きなマクロの話で、世界的な話なのですが、その中で日本がどうなっているかということで、特に雇用関係、労使関係というところで言いますと、次の4ページですけれども、日本は御案内のように長期継続雇用関係、いわゆるメンバーシップ型で、まずは就社型の会社に入って雇用契約を具体的なジョブ、職務を明示せずに関係を結ぶという形で、後で仕事が与えられます。まず人がありきの雇用関係ということになりますが、少なくともこれに対しての様々な見直しの動きが広がっているということだと思います。
 特にこの数年前から人的資本経営という言葉が出てきて、ここの考え方というのは、元々実はその前から戦略人事ということで経営戦略に対して人材戦略を立てるという話があったのですけれども、あえて言うと、そこを「見える化」することであったり、そういった話がプラスで入ってきているということかと思うのですが、いずれにしてもそういう流れが強くなってきている。冒頭で申し上げたように、事業構造の変化が激しくなってきていますから、やはりその経営戦略に対して人事を組み立て直すということになってくる。
 そのジョブというのは日本型と違ってまず仕事ありきですから、理屈で考えれば経営戦略があってジョブが決まり、そこに人を充てるということで、親和性があるということでジョブ型人事というのが広がっているということなのだと思います。
 ただ、これを達観して見ると、この流れというのはもうずっと歴史上、実は戦前から繰り返されていた流れであって、絶えずいろいろな変化が起こるときはジョブ型や職務型みたいな流れが繰り返されてきており、つい最近でも20年前の成果主義というのがあったわけです。ですから、ある意味、達観して見ると、取り立てて非常に大きな変化が起こっているというよりは、一つの長い流れの中では循環が起こっているという捉え方もできるのではないのかと思います。
 ただ、同じことを繰り返すわけではなくて、おそらく成果主義との違いということで言うと、これをあまりはっきり言いますと経営サイドからの批判があるかもしれませんけれども、ただ、やはりかつては人件費の削減というのが主な目的であったのではないかと思います。当時は非常に労働分配率も上がっていましたし、非常にグローバルな競争の中で中国、韓国の台頭の中、そこに対抗していかないと駄目だということで、そういった側面があった。
 ところが、今回は人件費というのもあるのかもしれませんが、それよりはむしろ外部の人材を確保する。いわゆる事業構造の変化のスピードが加速していますから、外部から競争力のある人材を取ってその企業に競争力に付け加えていくというニーズが上がってきているというのが大きいのと思います。
 ですから、ある意味、以前は守りというか、やや後ろ向きの傾向が強かったのですが、その変化に積極的に対応しようという動きがあるということについては以前とは少し違うのかなと思います。
 その入口を変えると、当然その出口も変わってくるわけで、いわゆる再就職支援や、退出のマネジメントあたりも、一定程度広がってきています。どの程度ドミナントになっているかというのは議論の余地がありますけれども、いずれにせよ、そういう変化が起こっているということだと思います。
 特にこのジョブ型の背景には色々なものがあるのですが、従来、10年前ぐらいまではいわゆる有名大学を出た人たちというのは、日系の有名企業に入っていく。ところが、ここ数年で、外資系のほうに移っているわけです。最も優秀な人は起業するとも言われておりますけれども、要は日本型でまず仕事を選ばずに入って、企業主導でキャリア形成されるということは耐えられない。やはり自分たちでそのキャリアを築いていく、やりたい仕事をやりたいと考える人たちが外資に流れていく。
 これに対して、やはり採用の競争力を獲得するためにその人事の仕組みをジョブ型に変えていく必要がある。まず、その職種なりを限定していくという流れがあるというのが大きなところではないかと思います。
 次のページは、一連はコロナ直前に発表されていた経団連の調査を引用していますけれども、考え方もやはりそういう意味では実際変わってきているということです。
 ただ、結論から言うと、実はその雇用契約自体をジョブ型に完全にシフトする、すなわち、職種を限定するとか職務を限定して雇用自体の契約を結ぶといった欧米型の雇用契約にシフトしているケースというのは必ずしも多くないのではないかと思います。むしろ、メンバーシップ型雇用の下で「ジョブ型人事」をやっている。社員さんが、やはり最初にこの仕事をやりたいと言えばそこを尊重する。まずそこに回す。
 ジョブ型を有効に機能させるならば教育システムも変えないといけないですし、色々な社会システムを変えないといけないのであって、そういうところまで日本はまだ変わっていない。この先どうなるかは分かりませんけれども、そうなると運用のところでやるというのが実態ということだと思います。
 今後は、やはりポスティングで本人の意向を尊重するとか、報酬決定で脱年功化がかなり強く出てきている。だから、ジョブ型雇用ではなくて「ジョブ型人事」という変化が改めて起こっているということだと思います。
 ただ、フリーランスの典型と言われるような自営業の立場で働いている、例えば最近増えている宅配のデリバリーの労働者というか、業務委託というか、それは立場によって違いますけれども、そういう人たちは統計を見ると一定程度増えていますね。(図表2-8)にありますけれども、なかなかよい統計はないのですが、労調のほうから見ていると一定程度それに近いというところがあります。
 ところが、全体で見ると必ずしも増えているわけではないということです。
 ランサーズさんという民間の事業者があります。これはサンプル調査なので、かなり幅をもって見る必要があると思うのですが、カバレッジが若干広めな感じはしますけれども、ここで言っているのは、フリーランスは副業がやはり多いということですね。
 そういうことで、世界と同じような傾向が日本でも見られるということです。
 問題は、そういう中で今、人的資本経営の話の中でも非常に焦点が当てられていますが、日本の人材投資というのはずっと減ってきているのではないかと、色々な統計の中でも示唆されるわけですけれども、ここをどうしていくのかというのは非常に本質的な問題なのだと思います。
 これに関しては、ミクロで見ると色々な動きが出てきて人材投資を積極的にしていこうという話になっています。
 では、もうちょっと全体で見たらどうかということで、少しこれは前の統計で、これも経団連の2019年の調査(図表2-12)ですけれども、これからのキャリアというのはどのような方針でやっていくか。基本的にはやはり本人の同意を尊重していくのですが、特定層に対しては関与していこうとするいわゆる選抜人事という考え方が反映されているのではないか。
 もう一つ注目したいのは、予想されるとおり、若者と中堅にはしっかり支援して働いてもらう。しかし、やはりそのミドル以上、シニアですが、ここを強化しようと強く思っている企業というのは非常に少ないということです。
 これは別に経済合理性から考えて当たり前であって、投資というのは回収しないと駄目で、短く働く人に対してはなかなか短く投資しても回収できるか分からない。しかも、若い人のほうがやはり柔軟性が高いから非常に合理的な判断だということです。
 ただ、これは短期的に見たときの企業の合理性には合致しているのですけれども、マクロで見たとき、それから長期で見たときに本当にそうなのかというのは、かなり私自身は疑問に思っております。
 1つ注目したいのは(図表2-13)であります。今の日本の労働力の構成の変化ということを見ますと、男性の25歳から54歳というかつてのコア労働力が劇的な勢いで減少しています。
 一方で、女性がどんどん増えてきている。そういう意味で女性活躍という話はずっとあったのですが、実は今後は女性の労働力率もかなり上がってきて、むしろボリュームで増えていくのは55歳以上のシニアということになってくるわけですね。従来の発想で言いますと、ここはなかなか扱いにくいなというところが増えてくるということです。
 労働力全体はもちろん海外の人材を増やすとかという話はありますけれども、海外の話は結論だけ言うとやはり限界もあるのではないか。そうすると、ボリューム全体で見たときのシニアをどう再活性化していくかということはすごく大きな課題になっている。
 もちろん、企業の中で財務的な余裕のあるところはこういった層にまでやられている企業もありますが、全体で見ると非常にまだ少数派というところではないかと思います。
 以上は大体、大手の話ですけれども、中小になってくるとまた違ってくるわけですね。これは能力開発基本調査から引用していますけれども、規模が小さくなるほど人材投資には余裕がないわけです。あるいは、非正規に対しても人材投資はやはり劣るということです。
 先ほど言いましたように、ミクロの合理的な企業の判断で言うと、当然ある意味、人材投資というのは極小化しながら、あるいは選抜化しながらということになるのですが、マクロで考えてみたら、実はやはりバリューチェーンとかサプライチェーンというのは非常に最近複雑に絡み合っていて、色々な部品とか投入するサービス自体が実は最終的な商品の品質とかに関わってくるわけです。どこかでやはりバグが発生してしまうと全体に影響する。
 しかも、今、世界は非常に安全保障等を考えざるを得ない状況になってくる中で、やはり日本企業全体、産業の競争力を底上げしていかないといけない。中小企業や非正規、あるいはシニアには投資しなくてよいと考えてしまうと、おそらく競争力を下げてしまうようなファクターになっていく。非常にマクロの視点が実は改めて今、求められているのではないかと思います。
 それともう一つ気になるのは、この働き方改革の影響です。働き方改革自体、私は正しい政策だと思います。労働時間があまりにも長い状態を当然とする考え方が続いてきた。
 ただ、物事は全て副作用というのもあり、若者の人材育成の問題がある。労働時間が短くなっている、これ自体はよいのですけれども、日本は従来からOJTを主体に、いわば仕事と育成を一体にして人材育成をやってきたということになりますので、労働時間が短くなってくるとそこがうまくいかなくなってくることがある。だから元に戻せということではなくて、新しい仕組みをつくっていかないといけないと思います。この部分が、残念ながらうまくいっていないということではないかと思います。
 昨今、リクルートワークスの古屋研究員が出された書籍、あるいは最近のレポートなどから引用させていただいていますけれども、そのあたりの姿が窺える状況になってきている。この人材育成という意味では、非常に色々なところで課題があるというのが今の状況かなということであります。
 次に個人の意識の変化についてですがテレワークは経済が正常化してきて少し落ちてきていますけれども、東京に限ってみると50%以上を維持している。地方はあまり普及していないということもありますが、ただ、やはり一定の普及はあると思います。
 一方、企業にとっては先ほどの伊達構成員の話にあったようにマイナスというのもあって、グーグルのCEOなどのように、あえて出勤を求めるところもあるわけであって、やはり対面の方が良いというのは色々な面であると思います。
 ところが、従業員のほうはそう考えていないわけですね。やはり一回こういうテレワークを経験すると色々な面で生活上プラスがあるということで、そういう意味では不可逆的な変化が起こっていると思います。
 それと、意識がやはり大きく変わってきている。物理的に集まると、色々な形で心理的なつながりとか様々な集団的なマインドというのは醸成されるわけです。それが、それぞれが在宅でいますと、人間はいろいろな知覚でコミュニケーションしているわけですけれども、オンラインで耳と口だけということになるとやはり限られてくるということで、心理的な距離が拡大していっているということではないかと思います。
 特に転職希望は大手で上がっているわけですが、実はマクロで見ると転職率が上がっているわけではない。なかなかいい統計がないのですが、賃金構造基本統計調査などを見るとやはり大手では流動性が上がっているような傾向は見えると思います。
 転職すること自体は前向きでいいと思いますし、事業構造の転換ということを考えますと、これはプラスに評価してよいと思うのですけれども、ただ、当然、良い転職と悪い転職があるわけです。個人から見るとやはりキャリアが継続するのかどうかとか、給料が増えるかといったように。
 若い人は比較的、最近は転職により賃金が上がる方がかなり増えているのですけれども、中高年は大きく下がる。海外、特にアメリカなどを見ると中高年でも上がるケースが多いのですけれども、日本は増えるケースが極めて少ない。かなり特殊な人ということになってくる。ですから、マクロで見ると、なかなか日本は流動性を上げることによって全体でプラスになるかというと、今の状況を見ているとそんな感じでもなさそうに感じます。
 それと、流動性の話で言うと、実はこれは皆様方専門家ですので言うまでもないと思うのですけれども、大手企業では変化は起こっていますが、昔から中小企業は流動的であって、そこはあまり変化していません。色々な統計を見ても、中小企業はあまり変化していない。大手企業は、入口のところと出口のところに少し変化が起こっているというのが全体を見たイメージなのではないかと思います。
 副業はちょっとブーム的なことがあったのですが、結論的にはあまり増えていないというところかと思います。
 それと、もう一つ重要なのはキャリアですね。キャリア自律と言われるのですけれども、現実はそこまでいっていないということです。意識は上がっているのですけれども、例えば自己啓発などは相変わらず少ないわけであります。そういう意味では、実は人材育成を考えるときに外部労働市場を使うことも大事になってくるのですけれども、現実問題として内部労働市場をしっかり使って、そこで人材育成するという重要性は決して落ちていない。むしろ、ここを評価しないと駄目な部分もあるというふうに思います。
 そういうことで、全体のまとめです。要は、変化は起こっているのですが、ある意味、やや強調され過ぎている面もあるのではないかということです。
 ただ、大手企業ではやはり変化が起こってきています。特に私が気になるのは、人材投資全体が非常に必要性を訴えられながら、特定の企業はできていると思うのですけれども、全体で見るとこの状態は非常に困難を伴う状況になっているのではないかということですね。
 実はその競争力について、日本は革新的なところも大事なのですが、やはり品質力ということで勝負しているので、中間層が日本の競争力を支えているし、国際的な優位性、世界での比較優位性で考えてもここの維持というのはすごく私は大事だと思っています。そういう意味では、中間層をどう維持するのかということがすごく大事で、やはり内部労働市場の重要性を再認識することが重要だと考えます。
 ただ、それだけではなくて、外部労働市場をそこにどう付け加えていくのかということが全体的なイメージではないか思います。
 最後に、では具体的にその提案ですね。申し上げましたように、現場力・品質力を維持・強化しながら革新力も高める、そういう意味では、内部労働市場の利点も維持する必要がある。
 ただ、外部労働市場の整備は非常に遅れていますので、ここをやっていく必要がある。労働法制上で言いますと、これは事実上、大手企業のほうで動き始めていますが、例えば労働者の職務選択意思の尊重ですね。それから、これは表裏一体になるのですけれども、雇用契約の解除ということがどうしても表裏一体で起こっているし、実際起こっている。ここはやはりデュープロセスというか、そこをどう確保していくのか。労働者の意識の問題もあるし、再就職の支援ということもあります。
 それから大事なのは、私は集団的労使関係によって対等性を確保していくことが大事じゃないかと思います。
 それ以外にフリーランスの保護の問題とか、例えば若い人材に対して、濫用は絶対駄目ですけれども、労働時間規制を柔軟化していくということも一定程度考える必要があるのではないかと思います。
 それから、能力開発支援で言いますと、大事なのは産学官の連携だと思います。実際に、ロミンガーの70対20対10の法則にありますように、やはり現場、企業で働く経験の提供をしておくことは大事だと思います。
 それから、外部労働市場の整備については、ジョブタグなどをうまく使って、いわば外部労働市場の共通言語を作っていったり、あるいは職業紹介事業に対して働くサイドに立ったようなしっかりした、キャリアコンサルをするような機能を強化するということが大事じゃないかと思います。
 最後に、集団的労使関係というものを改めて見直す必要があるのではないかということです。これは広い意味ではフリーランスなども含めて組合組織力が落ちていますが、従業員代表制を入れていくとか、産別組合を強化していくとか、そういうことの中で改めて集団的労使関係ということをもう一回再構築していくということも大事になってくるのではないかと思います。
 労働者の個人の意思は大事なのですが、実際にはなかなか対等な人と、そうではない人がいる。その対等じゃない人をサポートするという仕組みが必要であり、伝統的な労働組合だけではなくて、広い意味での集団的労使関係の在り方を見直すことも大事ではないかと考えております。
 以上でございます。
○今野座長 ありがとうございました。
 それでは、御質問や御意見をいただければと思います。水町構成員、どうぞ。
○水町構成員 ありがとうございます。
 山田さんのお話の中で労使関係というところが出てきましたが、スライド2枚目でスウェーデンモデルと日本との関係が出てきていましたが、その背景に労使関係の在り方が影響を与えているのではないかという話と、最後に課題の20枚目の4)のところで従業員代表制や産別機能の強化などが課題だとおっしゃっていましたが、スウェーデンの労使関係と労働政策の在り方、そして日本の労使関係と労働政策の在り方を比較した場合に、スウェーデンモデルが良いかどうかはさておき、どこが違って、ここに手を入れたら、日本でも実効的なというか、望ましい方向への改革ができるのではないかというところを少し補足して教えていただければと思います。
○山田参考人 ありがとうございます。
 まず、これはもう釈迦に説法ですけれども、日本の労働組合のやり方はある意味、欧米から見ると特異なわけです。まず個別企業内での企業内組合というのがベースになっている。
 ところが、欧米は産別組合がベースになっている。これはスウェーデンもそうなっています。そこはベースとして違う。
 ただ、非常にざっくりとヨーロッパを見ると、ヨーロッパの中でも南の国では、労働組合が例えば生産性という概念に対して、生産性というと労働強化だということで反対する傾向がある一方で北部のドイツ語圏や、特に北欧はそうではないわけです。むしろ生産性に関しては協力していかないと結局賃金が上がらない。特に北欧が革新的で、かなり特異性があるところとしては、雇用の流動化に対して否定的に考えないところです。
 一部で言われているように解雇自由では全くないのですけれども、労働組合がその変化ということを前向きに取り上げる。
 スウェーデンでいいますと、よく向こうの人たちは、我々が守るのは個別の仕事とか事業ではなくて人そのものだと言います。ですから、例えば積極的労働市場政策、今、日本で言うとリカレントとかリスキリングということをこれまでも非常にやってきている。
 日本の労働組合というのも歴史の中で色々な運動がありましたが、今ドミナントになっているのは基本的にはやはり生産性に対して協力していこうという姿勢です。
 ただ、雇用を守るということはもちろん当然必要で、違う言い方をするとスウェーデンは国全体で雇用を守っています。日本は一企業で雇用を守るということになってしまうので、ここの部分が組合の在り方とやはり関係していて、ここは2つ目の20ページのところに関わってくるのですけれども、日本の労使関係の中で、日本は品質がよいとかというのは長期雇用がありますから、個別労使を完全に解体するというのは、これは組合の考え方ですから無理ですけれども、ただ、産別のところをもうちょっと強くしていくような政策誘導はできるのではないかと私は思っているのです。
 そうすると、働く人たちが個別企業での雇用保障よりは、産業全体とかもう少し広いところになってくると、やはりもうちょっと前向きに考えてくれるところも出てくるのではないかと思うのです。
 具体的に考えているのはまさにここなのですけれども、私は従業員代表制をまず入れるべきじゃないかと思っています。従業員代表制は別に賃金とは関係ないのですけれども、最近、私がたまたま関わった実証研究でも、中小企業でも労使協議制などをかなりしっかりしているところのほうがやはり生産性が上がるとか、変化に対して対応できるというのが見えているのです。そういう意味では、従業員代表制を入れることによって労使関係を対話的に持っていくこと自体、実は中小企業にとってもプラスだと思います。
 一つの仕掛けとして、最近は労働条件の規制を強化しています。長時間労働の問題で、実は本当はもっと労働時間は欧米などとの比較を考えると短くしたほうがよいと思うのですけれども、ただ、例えば、人材育成のところなどは一定のルールの下でデロゲーションをやったほうが私はよいのではないかと思うのです。
 そうすると、そのときのデロゲーションの条件として従業員代表制を入れる。そこでしっかりした手続を踏んで、労働者に不利にならないことが担保されればデロゲーションを認めるということをやってもよいのではないか。
 そのときに、個別労使がしっかりしていればよいですが、そうではないケースもある。そこを、例えば産別がしっかり従業員代表制を作るときに裏からバックアップするとか、あるいは場合によってはコンサルテーションするとか、そうすることによって従業員代表制を本当の意味でワークするようにする。
 そういう関係を作っていくと、実は産別の個別の中小企業に対してのインパクトも出てくるので、そうすると例えば春闘などで産別の賃上げ交渉にも波及していくような、その結果として北欧型に近い形に持っていく。全く同じにはならないですが、同時に人材育成のところも産別のところが強くなってくるともうちょっと良い方向で進んでいくのではないか。
 雑駁な話なのですが、そんなイメージを持っています。
○水町構成員 ありがとうございます。よく分かりました。
○今野座長 戎野構成員、どうぞ。
○戎野構成員 それに関連して、1つ質問をさせていただければと思います。
 産別の強化というのを考えたときに、その対岸には経営側があると思うのですが、そちらにも変革が必要なのかなと思っています。先ほどテレワークのところで、大企業では大分離職が出てきているというご説明がありました。今まで長期雇用が中心だった大企業にも動きが出てきている。企業はどういう姿勢なのか。産業としてどう考えていこうという姿勢なのか。労使関係において、今、どちらかというと労側の御説明をしていただきましたので、できれば使側の方も追加でお話いただければと思います。よろしくお願いします。
○山田参考人 私が解説をするのが適切かどうかはありますけれども、多分、考え方がかなり多様ではないかと思います。
 基本的には、北欧をはじめヨーロッパというのは産別組合が強いので、使用者団体というのもかなりしっかりしたものが存在しています。日本ももちろん使側の団体はあるのですが、少し要素が違っていて、ヨーロッパの場合は労働条件を決めていくための存在というのがあるわけですけれども、基本的には、日本では情報交換や、共通の利害を政府に要望するなどといったことが中心になっているのではないかと思います。
 どうしてもそこが弱いので、実態を何らかの形でつくっていかないと北欧型に近づけていくというのは難しいのだろうと思います。
 特に日本の場合は、仕事の在り方とか標準化みたいなものが進んできていないというのもあると思います。個別に同業他社ですごく競争をしているということもあって、逆に言うとそれが最大のハードルになっているのではないかと思います。
 ただ、ちょっと変化し始めてくる可能性があるなと私が思うのは、あまりにも停滞が長くなったがゆえに、個別企業の中で共有していく部分と競争していく部分を少し分けていこうみたいな動きです。例えば医薬だったと思うのですけが、研究開発みたいなところを共有していこうというような話が出てきているというのを聞いたことがあります。
 それから、今後、世界経済の枠組みの中で経済安全保障という話が出てきています。こういうところは国とその産業界の連携みたいな話が入ってくるので、その中で産業界の連携みたいなものも出てくる。少し望ましい変化が起こり、そちらの方向に持っていくようなものがでてきている。
 例えばリスキリングのところなどで、結局バリューチェーンを考えれば自社の社員だけ育成しても駄目なので、子会社、取引先とか人材の質も上げないと駄目で、企業さんの中でいわゆる研修センターみたいなものを作られて、自社の教育だけじゃなくてその取引先とかの従業員の方も来てもらって、そこで育成しているという話を聞いています。
 だから、流れは少し変化している。そこを、より明確に重要性を政府などが情報発信して、あるいは一種のインセンティブを付けながらやっていく。そういう変化が起こらないかと期待しています。
○今野座長 安部構成員、どうぞ。
○安部構成員 ありがとうございます。
 マクロの状況が良く理解でき、様々な示唆に富んだ有意義な内容でした。私は、経営を進めていく上での重要な資本のうち、財務的資本と人的資本の決定的な違いは、時間軸だと思っています。人的資本は、必要な時に必要な質と必要な量を即時で備えることが難しいと言う制約を持っています。そう言った特質を踏まえた上で、求められるスキルをより明確に示すことで経営との連動を強化しようとする取り組みの一つがジョブ型だと理解していますが、どれだけ短期間でニーズに充足できるかは常に課題だと思っています。その中で、規模が大きい企業は、中小企業に比べると、まだ対応は容易かもしれません。
 例えば弊社の場合、ブラウン管テレビのエンジニアと言う職務はもはや全く存在しないわけですが、組織の規模を活かし、何とかその変化を受けとめて、スキル転換を支援する取り組みを進めてきました。ところが中小企業では規模の制約があります。それを克服する手立てとして、企業を超えた産別組合などに何等か一定の期待ができないか、などと考えてしまいます。ソニーの場合、多数組合は電機連合に加入しておらず、入っている各社さんたちの声を聴いても、企業を超えた同じ産業の集まりであるとは言え、当然、現時点では、このような事態に対応する活動や機能は持たれていないわけです。ただ私自身の北欧での経験から、今後、そう言ったことも視野に入れられないものか、と感じた次第です。
 携帯電話の後発だった我々が、IPの呪縛から解放されるために、スウェーデンのエリクソン社と、大規模の構造改革と共に合弁会社を設立しました。その際、山田さんもおっしゃられた通り、一旦、産別組合の理解を得られると、構造改革と言うのは意外と進めやすかったのです。
 これは、単に産別組合が支えているというより、むしろ職業転換に対する社会的な支援の仕組みが比較的構築されており、職業訓練などに留まらず、求職期間中の支援全般にわたり、企業による一定の金銭的負担も含め、職務、職種転換を支援する社会全体の仕組みが整っている。企業の取締役の中に組合代表が入ることで経営方針の決定と言う上流の意思決定に関与する仕組みが整っており、組合の理解と納得が得られやすい。それに加え、組合だけでなく、法の要請による企業の負担や義務など、社会全体で、そういった変化を支援する仕組みが出来ている印象を持ちました。
 長くなりましたが、産別組合への期待もあるものの、やはり行政の果たす役割が実質的には大きいのではないかなと思っています。大企業が何とか規模を活かしながら、競争に勝ち抜くべく、自ら人材の時間軸ギャップを埋めようとしている中、対応が難しい中小企業にとっては、産別組合に規模のメリットを創出する一定の意義があるかも知れない。ただ今の労使関係の中で、産別組合にそこまで期待するのでなく、むしろそれを支援する行政が果たす役割というのが、結構大きいのではないかと思う次第です。その点は、どうお考えですか。
○山田参考人 ありがとうございます。
 スウェーデンの話は、私の見てきたところでもおっしゃるとおりです。
 というのは、スウェーデンの場合は社会民主党という中道左派政権がずっと基本的には政権を取ってきた関係で、労働組合の出身の人が首相になったりとか、かなり政策に関わっているわけです。だから、労働組合と政策は一体ですね。まさにおっしゃるとおりで、そういうところで経営に対してかなりいろいろな要請をしてきている。
 それと、非常に小さな国なので、企業の競争力が強くならないと我々は給料も上がらないし、雇用もなくなるという意識をすごく感じます。そういうところのマインドセットがある組合だからこそ、それが可能になっている。
 日本も中期的にはそういうふうに持っていかないと駄目だと思うのですが、時間軸で言ったときにどうすればいいのかというと、そこはスウェーデンがそうであったように、やはり政策の色々なバックアップはすごく大事になってくると思います。
 それともう一点、人材育成のところで言うと、スウェーデンやドイツもそうですけれども、人材育成のところは実は使用者団体の役割が大きいです。組合の方は要求するのですが、例えば実際の人材育成というのはやはりOJTというか、現場で働くということがないとうまくいかないです。
 例えば、スウェーデンで2000年ごろにつくられたスキームで職業大学と訳されているのですけれども、これは2年コースで、1年目は座学なのですが、2年目は実際に企業の中で働くのです。
 たしかVOLVOのケースだったと思うのですが、VOLVOはエンジニアが非常に不足しているので人材をやはり育成したい。それで、エンジニア協会というのがあるのですけれども、エンジニア協会は当然政府とも関係があるので、そこで話をすると政府がスキームを作るのです。1年目の座学は、特定の大学や専門学校に依頼する。2年目はVOLVOで受け入れて、少し多めに人を受け入れるのです。それで、1年間実際に仕事をしてもらって、その中で結局いい人から採用するのです。
 企業にとってはすごくメリットがあり、それ以外の人も結局スウェーデンで働きますから、バリューチェーンで見ると全体を底上げする。そこは産業団体の方が特に人材、ドイツは基本的にはそういうものを作っていますので、産業側のそういう連携ですね。それと当然、組合の在り方ということも課題だと思います。
○安部構成員 おっしゃられたとおりだと思います。
 今、一方で我々が電機の中でシフトして、今後成長領域と言われているのは半導体で、半導体の領域にこれから一気に雇用のニーズが出てくるときに何が起こっているかというと、基本的な潜在的な労働力が不足している。そこを取り合っても仕方ないので、個別の企業が大学と連携しようとしているのですけれども、そこはやはり産業全体で仕組みを作っていかないといけない。
 そういうところを半導体の業界の集まりという場を今度持って議論しようとしているのですけれども、さっきおっしゃったような仕組みというのは全く私もそのとおりで、これからますます必要になってくると思います。
○今野座長 今、安部さんがおっしゃられたことで重要だなと思ったのは、時間軸という言葉なのですけれども、それの正確な理解をしたいと思って、おっしゃられていたのは、あるところでこういう人材が欲しいとなったときに、そこに人材を供給する間のリードタイムのことですか。
○安部構成員 そうですね。
○今野座長 時間軸というのは、大企業は比較的リードタイムを長く取れるけれども、中小は短いという意味ですか。
○安部構成員 経営戦略上、特定の事業を強化したい、そのために必要な人が必要というときに、単純に、マーケットから採用して既存の人材と即、入れ替えられるかというと、そう言うわけにはいかない。
 例えば、ブラウン管テレビが急速に衰退して液晶テレビになり、液晶テレビに求められるエンジニアをマーケットから採用する代わりに、ブラウン管のエンジニアを即解雇できるかというとそうではないし、やるべきでもない。他方、企業が生き残り、成長し続けるためには、将来の成長領域に必要な資本を向け、投資をすることが求められるわけですが、お金の動きに比べると人のシフトというのは時間を要する。内部人材の育成もそうですし、本人の意識もそう、また外部からの調達もそうです。色々な意味での時間軸ということです。時間軸の違いは大企業でも中小企業でも同じですが、対処の仕方の選択肢が、まだ大企業の方が大きいということです。
○今野座長 お話を踏まえると、リードタイムとほぼ同じ意味かなと思いました。つまり、欲しくなったときに再度そこに充てるまでの時間ということで、一種のリードタイムかなと。ありがとうございました。
 ほかにいかがですか。
 大湾構成員、どうぞ。
○大湾構成員 非常に包括的なお話をありがとうございます。
 山田さんのお話を聞いていて印象に残ったのが、ジョブ型という言葉を実態に合わせてすごく狭い意味でお使いになられていて、もともと濱口先生は労働契約の違いをジョブ型、メンバーシップ型という言葉で表現して、その中で中心的な核になったのが職の標準化、標準化された職務に基づく雇用契約ということだったので、割と学者の中でもそのジョブ型というのを職の標準化として捉える傾向があると思います。
 ただ、そのジョブ型という言葉が与えている意味は人によってすごく違っていて、私などは職の標準化がうまく機能するためには市場メカニズムがきちんと導入されていないとうまくいかないので、人事の分権化を含めてジョブ型という言葉を使っています。
 それで、今日のお話の中でジョブ型仕事基準ということでかなり狭い意味で捉えていて、ジョブ型ではなくて今、日本で起こっているのはジョブ型人事だと、実態はそうだと思うのです。本来であれば、自分でキャリア形成できるような人事システムを作らなければいけないのに、入口だけ対症療法でやっている。
 そういうお話の後で、最後の20ページのところで「日本版O-NETの普及・改善による外部労働市場の標準化」というところがあって、外部労働市場で職を標準化しようとしても内部労働市場で職が標準化されていなければ全く使い物にならないわけです。ですから、おそらくそのプロセスとしては会社の中でまず標準化があって、業界の中で標準化があって、それを反映する形で外部労働市場の標準化がないと、外部労働市場がうまく機能しないと思うのです。
 アメリカはもう70年ぐらい職の標準化の活動をやっていて、その結果として今のO-NETがある。日本の場合は本当に急ごしらえで作ったものなので、日米で中身が全然違うわけです。こういった現状を捉えたときに、ジョブ型がどういうふうに変わって、どういうふうに外部労働市場の円滑な整備につなげていくかということにどういった展望を持っていらっしゃるのか、ちょっとお聞きしたいと思います。
○山田参考人 ありがとうございます。
 アメリカで言うと、実はブルーカラーの世界とホワイトカラーの世界は全くと言っていいほど違うと思います。
 ブルーカラーの世界というのは結局ヨーロッパの伝統があるわけで、ドイツなどが典型ですが、まず産別組合があって、その組合と使用者団体が協議をして個別の職種ごと、レベル別にどういう要件が必要だということを標準化して、そこに人材を充てていく。ある意味、まず外部労働市場があって、その労働者を企業が使っているという構造です。
 ホワイトカラーは少し違います。アメリカの場合はそのホワイトカラーというのがやはり80年代、90年代以降、非常に変化する中で流動化が進んでいっている。結果として流動化が進んでいく形で、転職率などもすごく上がっていて、行ったり来たりするので、自動的に標準化されていった。
 ただ、制度的には公民権運動の話の中で、元々アメリカはジョブをベースにしているので、いわゆるポイント制などで標準化していこうというような動きがあったからというのも、外部コンサルがどんどん入っていったということがあったからというのもあると思うのですけれども、まさに先生がおっしゃるように長い歴史の中で作られていて、それを日本ですぐ入れるというのは非常に難しいです。
 ただ、必ずしも全部流動化する必要は、私はないと思っています。それは内部労働市場の強みというのもありますし、特に日本の現場労働者の実は長期雇用が、品質などを向上させるという意味では非常に強みになっている面もあります。そこをあえて潰す必要もないと思います。
 ホワイトカラーも、これはプラスマイナスあると思います。やはり新たな発想や改革をするためには、外から人をたくさん連れてこないとやはり変えられないですね。
 一方、産業の特性もあって安定した事業もあります。そういうところは、現場のことを知らない人がいきなりやって変えるとやはり混乱が起こる。
問題は、日本はやはり外部労働市場の整備がないものですから、そこの選択肢が非常に小さくなっているわけです。
 ただ、現実には最近だけじゃなくて、前から特定のプロフェッショナルの人材は外から取るというのが起こっているわけです。その間に入っているのは人材ビジネスの人たちです。
 ただ、人材ビジネスの人たちは特に給料の高い人たちと相対でやっている。そこで別に能力みたいな標準化をしていないのですが、こういう形で少しずつ中堅あたりや若い人も、今は、流動性が若干広がってきている中で、少なくとも間に入っている人材ビジネスの人たちが共通言語を持てば、それでもってその採用を取っていくと、少しずつですけれども、内部労働市場にその話が入っていくということです。
 でも、完全に欧米の方になるのかというと、これは産業の競争力とか色々なものが関わってくるので、それは今の段階で予測不可能だと思うのですけれども、各企業にとって互いにメリットを感じられる部分を見つけながら、限界的に少しずつ共通化をつくっていくということはできるのではないか。
 それによって比較的若い人などでまだ完全にキャリアを作れていない人が、あまり簡単に私は辞めるのはどうかという古い考えかもしれませんけれども、ただ、そこで色々な選択が広がるということは大事ですから、そこがもうちょっとうまく動きやすくなる。若い人もキャリアを少し考えやすくなるという手段として、このジョブタグというのを使うのはすごくよいのではないかなと、そんなイメージです。
○今野座長 人材投資のことですが、人材投資はマクロで下がっています。
 そうすると、その原因を決めないと政策が出てこないので、考えられる原因は2つあって、1つは山田さんが言われたことですけれども、非正規雇用が増えている。特に高齢者が増えている。こういう層はもともと教育投資が少ない層です。ということは、言い直せば、企業の教育投資のポートフォリオは変えなくても、労働者構成が変われば自動的に人材投資の総額は減るということですよね。これが一つの原因として考えられる。
 もう一つは、そうではなくて全体的に人材投資が下がっている。これによって政策の打ち手が違ってくるのですけれども、このあたりはマクロの数字で、例えば前者が8割、後者が2割とか、そういうのはないでしょうか。
 仮に前者ばかりだったら、政策的には非正規雇用をどうするかということを考えればよいですけれども、全体的なベースが下がるとなると、企業全体のベースとしての教育投資を上げるための政策を考えなければいけないと思いました。どうですか。直観でもいいです。
○山田参考人 ありがとうございます。本当に難しいところだと思います。
 あえて言いますと、その議論に加えてもう一つあるかなと思っていまして、人材投資の有効性というのが過去とやはり違っていると思います。従来のやり方から変えないと駄目な部分というところの変化が起こっていて、例えばデジタル技術の変化とか、最近は個人がネットで勉強したりできるということもあります。バーチャルリアリティーで、疑似的ですけれども体験に近いことができる。ロミンガーの法則で、従来だったらOJT中心で絶対やらなければならなかったのが、若干それを一部変えていかないと駄目になってきた。
 それから、おそらく業務そのものも高度化してしまって、こういう中で例えば研修をより強化していかないといけなくなっていたりか、日本の昔のOJTというのは現場でともかくやれみたいな実態が実は多かったのではないか。それこそさっきの時間軸の話であって、それでも間に合ったのですが、今はそうではなくなってきているので、ここのやり方をどう変えていくのか。それが今のリカレントみたいな話につながってきていると思い、そういうところも結構大きい気がします。
○今野座長 もし、今後そういう研究をされるのであればぜひともお願いしたいと思います。私が言ったのは、投資額のインプットが減っていますねという話です。今、山田さんがおっしゃったのは、インプットがアウトプットに結びついていますかという話なので、多分それは投資効率が落ちてしまっているという話で、そこの問題もありますよね。ですから、そういうのも含めてぜひとも研究をしていただきたい。
 もう一つだけよいですか。先ほど労働時間の問題で、育成期は少し緩めてもよいのではないかというのを例示でおっしゃいましたけれども、これは言ってみると労働基準の多様化を進めようという議論なのですよね。そういう議論で、それは一つのおもしろいコンセプトですけれども、多様化すると現場で悪いことが起こってしまう可能性があるので、従業員代表制みたいなものでしっかりガバナンスを効かせるというシナリオだと思います。この労働基準の多様化というのは育成期が1つ考えられますが、例示でいいので、ほかにも何かありますかというのをちょっとお聞きしておこうかなと思ったのです。
○山田参考人 今の段階ですぐに具体的に申し上げるのは難しいですが、副業の労働時間の管理はすごく難しいところでして、ここも、悪用されると問題ですが、副業に対してルールを作っていく必要があるかもしれないなと思います。
○今野座長 ありがとうございました。
 それでは時間ですので、次に移りたいと思います。山田さん、ありがとうございました。次は株式会社パーソル総合研究所の上席主任研究員の小林さんからお話をいただきます。
 それでは、小林さんよろしくお願いします。
○小林参考人 パーソル総合研究所の小林と申します。
 元々は社会学の人間なのですけれども、ここ8年くらいは人的資源管理を中心に調査研究を行っております。
 皆様、御承知のとおり、パーソルグループはいわゆる総合人材サービス業ですので、かなり実務に近い研究をしているというのが研究者としての特徴で、逆に言えばアカデミックな領域での貢献というのが非常に少ないので申し訳ないのですけれども、日々、経営ないし人事と対話しながら、ある種、意思決定に役立つような研究ということをしており、人事的な課題感みたいなところを重視して研究しております。
 「近年の日本労働市場の動向について」と大きく出ましたが、もう山田さんにマクロの動向などは言っていただきましたので、私からは主に就業者の意識、行動と、そして企業の人事管理の面から大きな提言というか、方向性をお話しさせていただきます。
 まずは「就業者の「意識レベル」の動向」というものを、若年層を中心に見ていきたいと思います。それほど皆さんにとって新しいものはないかとは思いますが、変わってきたのがまずは転職への意向といいますか、組織に対する心理的な距離感です。自分のキャリアプランに反する仕事を我慢して続けたくない。より長期的に見ても、転職者というのはものすごく増えているわけではないですけれども、転職希望者割合は中長期的にかなり伸びてきたというのがトレンドでございます。
 より近年で言うと、若年層の転職のイメージというものが徐々にポジティブなものに変わりつつある。これはコロナ期を挟んでおりますけれども、弊社の調査でも収入が上がるとか、市場価値が高まるとか、全体的にポジティブなイメージがやや上向き傾向、特に若年層でその傾向はここ数年も見られる。
 一方で、平成最後の10年のデータになりますけれども、今入った新入社員への調査では、入った会社で昇進を目指しますか、部長を目指しますか、専門職を目指しますか、それともどうでもよいですかというようなことを聞いた調査を日本生産性本部さんがやられていますけれども、「部長を目指す」はあまり変わらず、これは女性もあまり変わらずで、男女ともに上がったのが「どうでもよい」ということで、今、入った新入社員がこの会社で絶対に出世してやるぞ、もしくはエキスパートになってやるぞというよりも、どちらかというと出世のことをあまり考えないという感覚が少し伸びが見られるというようなところでございます。
 一方で、自己のキャリアというものへの興味、関心みたいなところは高まっているというのが、現場を見ての実感でございます。自己成長といったときに、やはりキャリアを明確化したいというような若者、特に20代前半のところですね。ここが徐々に高まりを見せつつある。
 一方で、そうなったかと思ったのですが、ワークライフバランスに10年ほどかなり意識が高まっていたなという認識でしたが、就業重視点としてはやや微減ぐらいにはなってきている。それでも高いのですけれども、やはり自己成長機会みたいなところで、色々なスキルが得られるとか、資格が得られるみたいなところは微増傾向、逆にワークライフバランスは求めてはいるのだけれども、これ以上ぐっと伸びそうにはないなというところまではきたというところでございます。
 近年の身近なところでの若年層の傾向をまとめますと、「脱・組織化」的な意識はかなり上がってきたなと思います。会社の論理よりも個の論理、私の論理がせりあがってきた感覚はデータ上も確認できます。
 転職サービスの動向などを見ても、新入社員であってもすぐ転職エージェントに登録するというようなことがかなり広範に見られるようになりました。常に傍らに転職のチケットだけは持って働くというような動向はかなり見られる。
 一方で「早期習熟」といいますか、「早く一人前になりたい」、早く手に職をつけてキャリアを安定的なものにしたい、そうした願望の上昇みたいなものも見られるなと思います。先ほど、外資系コンサルへの人気が高まっているというようなお話もありましたけれども、そこのあたりはこの2つが絡み合って起こっているかなと思います。
 ただ、一方で、日本企業の特に大手企業中心の人事管理の在り方というものがかなりここと不整合を起こしているなというのが私の認識です。現場が単純に言えば困っている。いくつかの特徴が不整合を起こしております。
 1つは「遅い昇進」ですね。組織の高齢化、そして管理職をこれ以上に増やさない。組織のフラット化、「長くて、細い」昇進構造と言っておりますが、20年、25年かけてようやく課長、部長というような昇進の遅さ、この感覚が今の特に優秀な若者層とは合わない。
 もう一つは、経済全体が特に伸びていない中で既存ビジネスを効率化しようとしたときに、前からあるビジネスをいかに効率的に回すかというところが、特に中堅までの若い層にかなり求められていて、やはり仕事全体感の見通しというものが見えにくい仕事についてしまっているなというところです。それが「細分化された業務」です。そこで、なかなか願望はあるのに成長実感が得られないということがよく起こっております。
 3つ目は、ジョブ型採用と言ってはいても、入った後には企業主導で配置転換するのが日本のジョブ型採用です。結局、企業主導の配置転換があるために、何かのプロフェッショナルになるのだというところがなかなか中長期的に見通しにくい。逆に言えば、ジョブ型ですよという企業に人気が集まりやすいのもこの見通し無さへの不満の反動であります。
 そしてもう一つはハラスメント防止、このあたりが近年の大きな動向の変化かなと思っておりますが、ハラスメントは非常に中小企業を中心に私も問題だと思っておりますし、防止の対策は進めるべきだと強く思っております。そして働き方改革もありますが、この2つの動向は、現場には「副作用」が強く出ている。単純に言えば、若年層に対して上司がしっかりとしたフィードバックができないという問題となっている。そして、労働密度というものが非常に薄い。新入社員に「仕事ってこんなものなのか」という感覚がかなり見られます。
 この上司、部下が適切なOJTの距離感を持てなくなっている。我々も調査いたしましたけれども、かなり現場的には課題になっていますし、それだけではなくて早く成長したい願望を持っている若者層とも不整合を起こしてしまっている。このあたりが足元で起こっている、特に若年層にみられるある種の企業、就業者間の課題でございます。
 それで、意識の方は見てきたとおりなのですが、もう少し「就業者の「行動レベル」の動向」をみていくと、転職率は中長期的には横ばいが続いております。今、転職サービスはコロナ回復期というところもあって活況ですけれども、やはり景気の波に左右される部分の方が大きいかなと思っております。これまたリセッションというところが起こってくると、また下がるだろうというようなところです。
 そして、勤続年数は全体でいうと高齢化というところもあろうと思いますけれども、短時間労働者を含めて中長期的に「伸びている」ような傾向であり、流動性というものはなかなか全体として高まっているとは言いにくい状況でございます。
 そして、副業ですね。よく話題にもなりますけれども、副業者の割合は我々もできるだけ業種などを合わせて比較してみてもあまり伸びていない、ないしは微減している。微差ですけれども、副業意向みたいなところもそれほど増えなかった。2018年から2021年の調査なのですが、かなりここで副業は話題になりましたし、注目も浴びましたが、さほど伸びなかった。むしろ伸びたのは企業側の副業解禁の流れです。労働者側よりもそちらの方が、より大きく動いた。
 そして、職場外での自己研鑽です。我々は国際調査でも、読書も含めて日本人はかなり自己研鑽の習慣がないということも明らかになっておりますが、それは中長期的に見たデータを見ると、減っている傾向が見られます。リカレント教育、生涯学習、そして今で言うとリスキリング、大人の学び領域というものを活性化させるということは、もちろん人材力みたいなこともそうですが、ずっと言われてきたわけですけれども、実際には伸びていなさそうだというところです。
 国際比較のデータも持ってまいりました。データの国際比較というのは難しいのであくまでも参考にはなりますけれども、日本の労働者、エンゲージメントが低いみたいなこともよく言われますが、継続して働きたいか、もしくは転職意向があるか、これは逆のことをほとんど聞いているのですが、両方低いみたいな出方をしています。
 自らの労働ということについて積極的な意思を持っていない、そういった層が多いのかなと思います。日本人はこういう意識調査で言うと、多くが極端な回答は出にくいという傾向もありますけれども、それを実態として見るべきなのか、アンケート的な問題として見るべきなのか、議論は分かれるところでございますが、実際に聞いてみるとこういうことにはなってしまう。
 そして、先ほど昇進、昇格の話もしましたけれども、我々の国際調査でも管理職を目指す人の割合というのが非常に低い。そして、男性に偏っているというのも特徴です。圧倒的に男性に偏っています。これは、なかなか労働者側の強い意思みたいなことが醸成されているとは言いにくい状況です。
 そして、労使関係です。「超」がつくほどの協調的な労使関係は相対的に見れば続いている。SNSを用いた新しい労働運動みたいな形も、あまり日本では目立った動きがないなとも思っております。
 こうしたデータを見たところで、「考察」をしてみました。
 90年代以降くらいから、労使関係は就業者と企業との関係というものを語る際にこうした言説というものがかなり支配的だなと感じておりました。それはどこで支配的かというと、企業人事の実務でもそうですし、いわゆる有識者の議論でもそうですし、人材コンサルタントもそうですし、ありとあらゆるところでこうした図式、思考フレームというものが支配的だったなと思っています。
 単純に言うと、かつての日本は「企業」が「個」を内包しており、内包関係であった。それがこれからは「企業」と対等な「個」というもの、こういう関係に移っていく、もしくは移っていった方がよいというような図式、「内包から対等へ」図式です。皆さんも何度もこういうスキームで議論、もしくは会話というものをなされてきたのではないかと思います。
 背景にはもちろん、やや企業の求心力が弱まった。中長期の経済低成長というところもありますし、逆に個人の就業期間が長期化していくという中で、こうした関係が望ましい、もしくは、なっていくだろうというのを、我々も30年間くらい聞いてきたといった感覚でございます。
 先ほど伊達構成員の方で、エンゲージメントが定着したというようなところも言及がありましたが学術的な定義はちょっと別にして企業が使っているエンゲージメントの意味はというと、個人と企業のある種の絆、信頼関係、そういった相互のコミットメント状況みたいなものがエンゲージメントと、特に実務では言われている。
 人事管理の流行も「キャリア自律」「副業解禁」、そして「ジョブ型」雇用も、こうした図式で説明されることが非常に多いわけです。私もこれは理想像としてはよいことだろうと思っていますし、この方が労働市場としては競争的になるだろうとも思いますので、間違っていると言うつもりはないのですけれども、現実が全然ついていっていないという感覚です。
 実際に起きていることは「意識のみ会社離れ」、つまり「個」の行動変容や、「個」のキャリアの自律化みたいなことがなく、単純に言えば強い「個」ができているわけではないのに「脱・組織化」の意識のみが高まっている。
 メタファーを繰り返すと、私はこれをある人の言葉を借りて”個の繰上げ当選”状態だと呼んでおります。つまり、別に個が強くなって企業と対等になったわけではなくて、企業の求心力、もしくは伝統的な共同体全体と言ってもよいかもしれません。それが下がったがゆえに個が浮いて見えるような状況が正しいのかなと思っております。
 それは具体的に言えば転職率、副業率みたいなものがこれだけ話題になっても横ばいであるということや、企業実務で言うと自律系の人事施策は大手企業を中心にかなり今、入れてきております。公募異動、副業、社内副業、越境学習への支援、これを手挙げ制にすると何が起こるかというと、ほとんど手が挙がらないということが起こるわけです。
 そして、自律的な学び、社外での学びということも伸びていない。結局、どうなるかというと、企業主導の業務命令異動メインのキャリア構築というものが結果的には起こっている。
 一方で、先ほど見たとおり、個人の願望レベルだけは、意識レベルだけは企業から離れていっている。この労使関係というのはかなり難しい状況になってきているなと思いますし、今後の人事施策を考えるに当たっても結構難しくなっている。
 そして、もう一つは先ほどのような「内包から対等へ」といった図式で自律的な個が求められるといった言説だけは非常によく聞くようになったわけです。これは、ある種、人材サービス業を含めて私は転職情報社会と呼んでいますけれども、電車に乗れば転職広告があるような時代になったわけです。我々はキャリア、転職、もしくはいろんな働き方の選択肢というものを色々目にして、かつそれを選んでいかなければいけない時代になったのだなということは少なくとも認知している。これは若者中心にそうだと思います。
 ただ、そのときに別に個は強くなっていない。中高年でいうと、例えば50歳過ぎてからキャリア自律研修とかに呼ばれても困ってしまうという戸惑いがよく見られるし、若年層でいうと早く一人前になりたいけれども、キャリアというものが大事そうだなとなるけれども、入ってみると先ほど見たとおり、なかなか貢献実感、成長実感が持てていなさそうということです。
 そこでキャリアへの焦燥感みたいなものが起こりやすくなっている。これは言説先行の副作用と呼んでもいいし、自律化が進んでいるというよりも、「孤立による焦り」というほうが強い状況かなと思っております。
 それで、今、人的資本経営ということがブームなわけですけれども、こうした個がなかなか育たない。育たないと言っているのは、専門スキルないしはスキルを身につけるための学習行動がつかないということもそうですし、自らのキャリアを自律的に構築しようというような意思の創発という意味での強い個もなかなか見られない。もちろん一部には見られるわけですけれども、それがマスとして大きくなっているようには見えないということで、そのときに人的資本経営というのが今フォーカスされているわけです。
一方で資本概念をこういうふうに拡張しようという動きは社会諸科学、色々あるわけです。1つはHR業界で言えば、ここ数年は「心理的資本」、希望や楽観性などの個人が持つ心理的なポジティブさというのはよいことが色々あるというようなことを資本として捉えようといった動きも注目されておりますし、社会学領域でいうと社会関係資本、ソーシャルキャピタルというものがあります。これは個人が持つ人間関係の互恵的な信頼のネットワークみたいなものですけれども、やはり労働キャリア、働き方みたいなことを考えるときに、こうした心理的資本、社会関係資本みたいなものをいかに作っていくかというところがポイントになってくるのではないかと思っております。
 それで、社会関係資本についてお話しすると、ここでの課題は、日本人は他者への信頼が著しく低いということです。他者というのは初対面の人ということですね。世界価値観調査などを確認しても、本当に下の方です。全員を信頼しないわけではなく、知っている人、既存の知り合いは信頼するけれども、他人に関しては全く信頼しない国になってしまっている。
 そして、その延長線上に孤独問題というものがあるわけです。これは人的資本云々の話ではなく、そのベースにあると私が考える社会関係資本というものがかなりぼろぼろな状態で、これだとやはり強い個は育たないのだろうなということです。
 「ここまでのまとめ」となりますけれども、企業と個人が対等な図式、スキームというものは90年代以降、人的資源管理の議論において緩やかな前提を供給してきたと私は思っておりますが、行動変動が少な過ぎる。新しいパラダイムとしては別の図式というものというか、先ほどのような図式が現実的ではないということをある種、踏まえて議論したほうがよいのではないかと思っております。
 逆に言えば、施策、政策を考えるに当たってもいわゆる手挙げ式で、皆さん手を挙げてくださいねといった自律的で主体的に動く個人を前提とした施策、政策はかなり効果が限定的であり続けるだろうと思っております。これは企業内でキャリアカウンセリングをやってみれば、やはり最後の駆け込み寺的にしかあまり機能しなかったりするわけです。個別の伴走支援も学びの補助金も「個別選択式」、手挙げ式ではなかなか厳しい、効果が薄い。そして、手を挙げる人が増えていかないという状況をどうするか。
 一方で、就業者の多様化、ダイバーシティ、そして「脱・組織化」の流れは、おそらく止まりようがないのではないかと思っています。
 ただ、これが先ほど見たような日本の社会関係資本の希薄さと組み合わさることによって、結構まずいのではないかと思うのです。単純に言えば、孤立化していく個みたいなものに直結していくリスクを少し感じておりますし、学ばないし、自律的でもないし、強い個が育たないということは、企業の競争力というものも限定的にしていくし、もちろん雇用の流動性も上がっていかないと思っております。
 外部労働市場の情報整備などもありますけれども、実際にはそれを見に行く個人をなかなか目にすることがないわけです。それでは、なかなか労働市場全体が競争的にもならない。
 そしてもう一つは、やはりキャリアにおいてのネガティブイベントに弱い個が育ってしまうということです。もちろん健康被害、解雇、失業などのときに支えがない、セーフティーネットがない状態でこぼれ落ちてしまう個を支援する。その必要性自体が増してしまうということをリスクとしては感じているし、今のキャリア自律みたいな流れが、これをある種、副次的に後押ししてしまうのではないかというのが私の懸念です。
 ですから、いわゆる個人の「多様化」、人それぞれだよねという感覚が個人の「孤立化」、支えのない個に議論としても直結してしまう、それを防ぐということが必要です。単純に言えば、社内外に「社会関係資本」、人のネットワークを構築するという人事管理の手法は多く存在いたします。人的資本投資というときに、そのベースとなる社会関係資本投資みたいなことがもっと必要だろうというのが私の意見です。
 例えば、今リスキリングブームですが、個に対して自律的に学んでくださいと言ってももう学ぶ人はなかなか伸びていない。そうであれば、学びというものをもっと共同体化するしかないかなと。つまり、学びをフックにした社会管理資本構築、例えばコーポレート・ユニバーシティーなどはその具体例ですし、コミュニティー・ラーニング、もしくは企業同士の連携ですとか、共同のコーポレート・ユニバーシティーみたいなものももっと出てきてよいのではないかと思っております。
 そして、テレワーク、これも私もずっと調査しておりますけれども、やはり孤立化状況は生みやすいと思っておりますし、まだまだICT投資を含めてコミュニケーションへの投資が少ないです。
 そしてもう一つは、例えば遠隔会議のシステムを入れました、労務管理のシステムを入れましたということでテレワークの工夫が終わっている企業が多い。組織開発的な、ではうちの組織のコミュニケーションは具体的にどうやっていこうか、そういったところまでなかなか話が及んでいません。バーチャルオフィスでしたり、コミュニケーションへの研修訓練などはもっと行われるべきだし、ここは行政としてもサポートしがいがあるところなのかなと思っております。
 そして3点目、社内のキャリアにおいて個別支援をいくらしていても、おそらくキャリア自律みたいなものはなかなか進んでいかないのだろうなと思います。集合的な機会というものをもっと作る必要がある。
 例えば、企業の中で同年代を集めてキャリアについてピアカウンセリングさせるみたいなことを私も参加したことがありますけれども、そうした機会や、もちろんキャリアについて考える研修訓練、キャリアを考えてみようというようなイベント事など、個への支援ではなくて集合的な単位でのキャリアを支えるという視点がより必要かなと思っております。
 そして、越境学習というところも今、注目されておりますけれども、これはある種、企業を通じて社外の関係資本を蓄積させる機会を創る手法です。NPO、プロボノへの支援を、企業を経由して行っていく、もしくは社内外副業の推進、単純に言えばもっと他社、地域活動との連携、こうした外に出てくださいねと、ただ自律的に促すのではなくて、そうしたところを企業として機会を作っていくこと。
 先ほど、日本人は他者をあまり信頼しませんよということを述べました。私は、これは単純に言えば、会社と家庭以外のサードプレイスで友達を作れない、社会開拓力がないと表現しております。そして、これは個に任せていてもおそらく解決しないです。
 ですから、キャリアを支援する、もしくは企業が個を大事にするというときに、キャリアを、意思を尊重しますよという言い方では少し足りないのではないかと思うのです。なぜかというと、そもそも意思を持っていない、もしくは意思を持てるようなセーフティーネット、社会関係のベースというものがなかなか開拓できていない。労働政策においても、この社会関係資本の領域というのはなかなかキーワードとして挙がってこなかったと思いますが、上記のような企業動向ないしは個人への支援というものが方向性としては望まれるのではないかと思っております。
 私からは、以上になります。ありがとうございます。
○今野座長 ありがとうございました。
 それでは、また先ほどと同じように自由に御議論いただきたいと思います。安部構成員、どうぞ。
○安部構成員 ソニーは77年前の創業時より、創業者の盛田が「会社と社員は対等な関係であり続けたい」と考え、それを表す例として今も語り継がれているのが、入社式でのメッセージです。「この会社が違うと思ったら早く辞めなさい、あなたの人生が、より重要なのです。そしてもし、ここで頑張ると決めたら、人生の終わりで後悔しないよう、全力で挑戦し続けて欲しい」
 今も継続して発信し続けていますが、正直なところ最近は内心びくびくしています。と言うのも、最近は本当に入社後、日が浅いうちに辞めてしまう社員が増えているのです。一般的に新卒は3年で3割が辞めると言われている中、ソニーはそれほどではないにせよ、1割程度にのぼり、一般的な水準に比べると少ないものの、傾向としては増えています。
 我々の文化が継承されている証しで、良いではないかという見方も可能ですが、正直なところ、さっきおっしゃられた通りだなと改めて感じた次第です。すなわち社会人として確立された人が、自分の力を軸にして様々な場を探索されるのは良いのですが、日本の新卒一括採用という仕組みの中で、まだ専門性を保有するほど出来上がっていない人が、3年でそう言った自主性を発揮するということに対しては、いろいろと思うところがあります。かつて東大の先生がおっしゃっていたのですが、企業は卒業していない人を内定と称して採用を確約する、学生は入社した後に決まって、もっと勉強しておけばよかったと言う。そうであれば、大学と企業の接点を一本の明確な線で区分するのではなく、むしろ重複させ、学びながら会社で就業する、と言った世界を実現させ、自身の職業観と言うものをより強固に確立してもよいのではないかと思うわけです。
 結局、会社と社員の対等な関係というのは、かつての「雇用」を確保する代わりに、「配置転換権」を会社が持つと言う関係性では、互いが依存し合うと言う状況は拭えず、むしろ、社員一人ひとりの「エンプロイアビリティー」を高めることを会社は支援する代わりに、「エンゲージメント」で社員を惹きつけ、それによってお互いを対等な関係にすると言う関係性もあるわけです。つまり、どこに行っても通用する社員であり続けてもらうための支援は惜しまず、その上で会社がその人を惹きつけ続けると言う関係に持っていくことを産業界全体が考えるべきだと思うのです。そこを追求すると、それが即ち人的資本への投資、と言う点に尽きると思っているのです。
 前置きが長くなりましたが、お仕着せの投資、すなわち自主性がないところに幾ら投資をしても結局、身につかないので、本来やるべきことは、やはりエンプロイアビリティーを高めていこうと言う、前提となる意欲に火をつけるところなのだと思うのです。
 他社の方から、ソニーは良いですね、自主的に自らのスキルを高めようとする社員ばかりでしょうからと言われますが、そんなわけはないんですね。数万人も集まると、全員がそうかと言うと決してそう言うわけではなく、私はそこには企業文化や風土と言うものが大変、大きな影響を及ぼしていていると思っているわけです。そして、その文化を醸成することにこそ注力すべきだと思っています。例えば、活発な社内人材流動性という一面は、一人ひとりの自主性を促進する、ダイレクトではないかも知れないが、非常に有効な施策だと思っているわけです。
 その観点で言うと、さっきおっしゃられた社内大学とか、色々な仕組みがたくさんあると思うのですが、自主性だけに委ねていると、なかなか全体としての成果が期待しにくい、と言うことも一面だと思います。そんな中、自主性に火をつける、と言った施策で、特に良い例や印象的な例、などがあるようなら、お聞きしたいなと思っております。
○小林参考人 ありがとうございます。
 先ほど、配置転換のお話に少し触れていただきましたけれども、学び直しですとか変化適応力との関係を色々調査、研究していると、やはり企業主導の配置転換というのは従業員主導の学び直しと非常に相性が悪いです。
 単純に言えば、3年後、5年後にどこに行くか分からない。結果的に人事畑、結果的に経理畑になる可能性はありますが、分からない状態でなかなか専門領域をこれだと決めることはかなり難しいということだと思います。
 その中で言うと、やはり公募制、従業員主導のいわゆる配置転換というものをもっと広げていかなければいけないだろうし、私が存じ上げている中で言うとソニーさんはそこがかなりうまい。かなり事業部側からも公募案件が出てくるし、実際に細かいものも含めて手が挙がるというようにお聞きしております。
 ただ、多くの企業ではそうはいかないわけですね。
 公募制がうまくいかない理由は2つあって、1つは先ほどから述べているように従業員が手を挙げないという問題、そしてもう一つは事業部サイドがノーという問題、もしくは公募案件を出さないという問題です。
 これは、いわゆる人事戦略と事業戦略の一体化ということが言われるときに、事業戦略側に人事戦略が合わせてよいところと、人事戦略側に事業戦略が合わせなければいけないところはあるわけです。特にキャリア施策に対しては、事業部の個別合理性だけを追い求めているとかなり難しいです。それは、事業部側は優秀な方には出て行ってほしくないし、優秀でない方は欲しくない。これが合理性ですね。
 ただ、一方で、この社員のキャリアというものを考えたときに、こういう内部流動性をもっと高めていかなければいけないのだという人事側の全体合理性をある種、事業側に説得しなければいけないのですが、これができないのです。特に入社した後の配置転換においてはかなり事業側が力を持っているので、なかなかこうした従業員主導の異動配置というものができにくいし、それはやはり従業員からある種キャリアへの意思、もしくは学びへの意思を奪っているなというような実感でございます。
○今野座長 伊達構成員、どうぞ。
○伊達構成員 ちょうど今お話があった企業と個人の関係性に関心があるので、今日の資料でいうと21ページの考察のあたりからお話しいただいた点について質問させていただければと思います。
 今回のお話の中で、労働者の意識としては「脱・組織化」が進んでいる。
 ただ、一方で、行動変容は薄いというふうなお話は非常に興味深い考察だなと思いながらお伺いさせていただきました。これは言ってみれば意識と行動、あるいは実態が乖離している状態なのかなと理解しました。
 そういう意識と行動が乖離しているような状態というのは、いわゆる心理学的には認知的不協和というふうに呼ばれる、何かちょっともやもやするとか、ストレスがあるような状態なのではないかと思われるのです。その認知的不協和を解消しようというふうに人は動いていくわけなのですが、意識と行動が乖離しているとしたら、意識を変える方が楽なんじゃないかとお伺いしながら一つの仮説として思いました。
 つまり、まぁこれでよいかというふうに実態に合わせていく。自律しなくてもよいかとか、あるいは「脱・組織化」しなくてもよいかという感じで、例えば10年後、20年後になると、もう思いどおりにいかないんだったら別に自律しなくてもよいかとなってしまいかねないのではないでしょうか。私は別にそういう未来を望んでいるというわけでは全然ないのですが、一つの仮説として何かそういうものが頭の中に浮かびました。
 そのときにちょっと質問させていただきたいのですが、今その意識と行動、つまり実態が乖離しているというのは非常に不安定な状態ですが、そのような状態は今後も継続されていくものだろうか、あるいは今後は企業と個人の関係は変わっていくものだろうかということについてどのような考えをお持ちなのかというのをお伺いしたいと思いました。
○小林参考人 ありがとうございます。
 まさに本当に認知的不協和的な状況かなとも思っておりますし、大手企業から自律的な若者が先に辞めていくという現象はかなり見られるようになりました。そこはある種、行動の方でその認知不協和を解消している例です。
 一方で、多くの方は動かないわけです。それは2つぐらいあって、1つは単純に言えば諦める。会社ってこういうものだよなというものですね。ある種、受け入れていく。
 そして、もう一つは結婚です。結婚というライフイベントは男女というものの分業意識をかなり強くするので、男性側が、もう守るべき家族ができたから会社にある種、埋没しても仕方ない。そこでわざわざ転職したり、自律的なキャリアみたいなものを追い求めない。ある種このライフイベントがあるせいで、そこでのトリガーになっているという状況はかなり強く見られます。
 ですから、若年の行動意識とかを見るときに、若年の行動意識というのは動きやすいのでそういうデータを私も今日持ってきましたけれども、1つ注意点は、結婚した後にかなり伝統的な価値観にバックラッシュが起こるということは言えるし、そこで先ほどのような認知的不協和、もやもやみたいなものをある種、家庭というものの重要性で置き換えるということは起きているかなとは思っています。
○伊達構成員 ありがとうございます。
○今野座長 大湾構成員、どうぞ。
○大湾構成員 先ほどの安部さんとのディスカッションの中で出てきた議論と重なるのですけれども、最初の話の中で自律系の人事施策をやっても誰も手を挙げないという問題を指摘されていて、そのとき私が思ったのは、自律的な個が成長していないからうまくいかないというふうに考えていらっしゃるのかなと思いました。
 その後のディスカッションの中で、社内公募制がうまくいかない一つの理由は事業の合理性を追求し過ぎて人を出さない。その事業の合理性をある程度抑えて、キャリアの自律的な成長のために必要だということを社内で合意を取る必要があるというような会話をされていた。
 ということは、どっちがどっちというわけではなくて、自律的な個の成長があって社内公募制がうまくいく。社内公募制をきちんと設計すれば、それを運用する中で自律的な個の成長が生まれるということもあるのかなと思うのです。
 それで、パーソルグループさんもかなりの異動を社内公募制で動かしているというふうに私は理解しているのですけれども、御社の中を見たときにそういった仕組みの中で自律的な個の成長が見られるのかどうかということですね。そういうことも含めて、どう考えていらっしゃるか。
 あとは、シスメックスという会社が新卒の配置にマッチングアルゴリズムを使っています。そのときに、要するに新入社員は自分の強み、自分の希望をプレゼンする。現場は自分たちの事業の紹介と、そこでどういった人材育成を行うかというプレゼンをする。双方がプレゼンした後で、それぞれが希望ランキングを出して、あとはアルゴリズムに従って配置を決めた。その新しい仕組みを導入して一番よかったのは、いくつかあるのですけれども、新入社員から見ると、会社に入ったときに自分のキャリアをどうするかというのを真剣に考えさせるきっかけを得た。それが非常によかったというフィードバックを得ています。やはり自分で選ぶという機会を与えることが、その個の成長にすごく大事なんじゃないかと思っているので、パーソル総研はどうなのかということをお聞きできればと思います。
○小林参考人 ありがとうございます。
 会社全体の施策に私は詳しいわけではないのですが、人材サービス業全体で言うと、やはりキャリアというものに近い仕事領域なので、ある種、自律的な個は仕事上からも生まれやすいかなとは思っております。俗な言い方をすれば、意識高い系みたいな人は多いので。
 ただ、それでも公募制がすごくうまくいっているかというと、そうでもない。おそらく数字的にはそんなにたくさんいるわけではないので、それは一方で数年後どこにいるか分からないみたいな状況と、ある種、人材サービス業もできてから隆盛するようになってから大分時間がたったので、やはり既存ビジネスのPDCAをいかに早く回すかというところが中心になってきてしまうと、なかなか貢献実感、成長実感が得られなくて、外に出て行ってしまうということはどこの企業でも見られます。
 もう一つ、マッチングのアルゴリズムなどで希望を合わせる。これは私も期待はしているのですが、一方で学生さんなどの就活の様子を見ていると、多くの方はやりたい希望が特にないわけです。これはもともとキャリアというものを考え出すのが遅いということもあり、私は何をやってよいか分からないという状態で就活を始め、たまたま出会ったある意味、人格的な魅力みたいなことでここの会社にしようということが現実的で、その後、ではジョブとして、キャリアとして何をやるかはその後さらに考える。それを新卒領域の段階でマッチングアルゴリズムをするというのは、一部の方は有効だと思うし、ものすごく理想的だなと思う一方で、多くの方は戸惑うだろうと思います。
 マッチングに関しては、意思をマッチングさせるという色々な技術だったりテクノロジーは今後も出てくると思います。
 ただ、一方で私はやはり多くのやりたいことなんてないという層、これをどうするかの方が重要なのではないかと思います。
○今野座長 武田構成員、どうぞ。
○武田構成員 ありがとうございます。
 今、私はメンバーズという会社に3月から入ったばかりなのですけれども、若者が本当に多いです。会社の平均年齢も20代だし、入社3年目までの人たちが全体の半分以上という環境にいるので、まさにその中で私自身が課題として感じているのも、おっしゃられていた社員の社会関係資本、ここは今、社内全体で足りない。
 この後、色々施策を組んでいかなくちゃいけないのですけれども、今回お話しいただいた内容というのは、基本的にいかに手を挙げさせるかというところが割と大きかったかと思うのですが、とはいえ、いわゆる偶発的キャリアの中で横幅を色々広げていったり、経験したりということも大切と思い、私は自分自身が人事の戦略を立てていく中で、ハイブリッドでいきたいなと思っているんですけれども、世の中的にはどんどん手挙げの方にシフトしていってしまうのか、いやいやまだそこもというふうに考えていいのか、お考えをお聞きしたいというのが1つです。
 もう一つは、まさに手上げのカルチャーを作り出す人事を企業が持つべきと思うのです。
 ただ、この手挙げのやり方すら上手にできない人事がまだまだ日本にいっぱいある中で、会社、経営として、人事がこの後どうなっていくべきか。個人のお考えでよいのですけれども、今こういう部分が一番足りないと思うことがもしもあれば教えていただきたいと思います。
○小林参考人 まず1点目の手挙げと企業主導配置のバランス感覚の問題ですけれども、ジョブ型雇用社会を見ても別に全部手挙げでいくわけではありません。幹部層候補はジョブローテーションがあるというのが私の認識ですし、やはり経営をつかさどるに当たって色々な事業部を経験しているというのはどこの世界でもこれからも必要だと思っております。
 日本の問題は、それが多過ぎるという問題です。つまり、下手すると課長にもなれない層にもジョブローテーションをさせているのがこの国です。それによって、個人のキャリアの自律意識もスキルを学ぶ意識も低めてしまっている。
 一方で、ではその人がずっと昇格できるかというと、そうではない世の中になってしまっている。このバランスをもう少し考えていくべきで、みんなが経営層を目指すのは諦めさせるけれども、自分のキャリア、専門性というものはよりもう少し早い段階で確定させてあげるような、そうしたバランス感覚が必要と考えております。
 もう一つは、キャリアの意識みたいなものを創発する、もしくは公募制をうまく生かせるためにというところで言うと、私はいわゆる欧米型のキャリアアンカー的な考え方、あなたの人生を振り返ってやりたかったことみたいなものを見つけてくださいといった、内省型と私は呼んでいますけれども、あれだと結構難しいかなと思っています。いくら振り返っても自分にやりたいことなんてなかったという方が多いので、どちらかというと対話型ですね。話しているうちに何とか見えてくる。これしかないのではないかとすら最近思っております。
 君って何かやりたいことはあるの、考えたことはあるの、と問われても、多くの方は、すぐには答えられない。でも、これを年間に数回、それを5年間くらいやると、何となく考えなければいけないのだなということが見えてくる。
 私は日本人の先ほどの意思のなさみたいなところを克服するには、そうした他者との対話をある種、半強制的に場を作っていくしかないのではないかと思っています。それはなぜかというと、個がわざわざそういうふうにしている姿をあまり見ないからですね。個人がキャリアカウンセリングで、いわゆるBtoCのキャリアカウンセリング領域がサービスとして成り立たないというのもそうですけれども、やはり企業が対話の場を作ってあげる。理想は上司だと思いますが、上司もなかなか忙しくてキャリアの話はできないという中で言うと、やはり集合的な場を作ってあげるというのが最後の論点になるかと思います。
○今野座長 小林さんありがとうございました。
 時間ですのでここで終わりにさせていただきます。本日は山田さんと小林さん、ありがとうございました。
 最後に、事務局から次回の日程についてお願いします。
○労働条件政策課課長補佐 事務局でございます。
 次回は、4月7日金曜日10時から12時に航空会館にて行います。
○今野座長 それでは、本日はここまでとさせていただきます。ありがとうございました。