第7回雇用保険制度研究会 議事録

日時

令和5年3月30日(木)13:00~15:00

場所

厚生労働省12階職業安定局安定第1会議室及びオンライン
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)

議事

議事内容
○尾田雇用保険課長 それでは、定刻になりましたので、第7回「雇用保険制度研究会」を開催させていただきたいと思います。
 事務局ですが、職業安定局長が本日公務のため遅れての出席となりますので、御了承願います。
 それでは、報道陣の皆様の頭撮りはここまでとさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
 それでは、本日の議事に移りたいと思います。本日の議題は「雇用のセーフティネットの在り方について」でございます。
 まずは、資料1、2につきまして事務局から御説明いたします。
○山口調査官 それでは、事務局のほうから資料の御説明をさせていただきます。
 資料1につきましては、前回の研究会における御意見をまとめたものでございますので、御説明は割愛させていただきます。
 資料2を御覧いただければと思います。「雇用のセーフティネットの在り方について」ということで、適用関係を中心に資料をまとめたものでございます。
 まず、「雇用保険の適用範囲」ということで制度的な変遷についてお示ししているものでございますけれども、最も重要なのが適用の考え方という部分でございまして、自らの労働により賃金を得て生計を立てている労働者というところを同種の危険集団と考えまして、具体的には、法定労働時間40時間の半分であります20時間というところを適用の下限としているということが基本的な考え方でございます。
 適用事業につきましては、一部の事業を除いて労働者を雇用している事業というのを強制適用事業所としております。この適用事業に雇用される労働者の方が被保険者になるということでありますが、一部適用除外となる方が法定されておりまして、週所定労働時間20時間未満の方、雇用期間が31日未満の方等々といったところが法定されております。
 被保険者の区分でございますけれども、区分は4つに分類されております。一般被保険者、高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者、日雇被保険者ということで4つの区分に分けて被保険者の資格を管理してございます。
 平成3年度の実績ですけれども、適用事業所数が約230万事業所、一般被保険者数が4,100万人、高年齢被保険者数が330万人、短期雇用が5万人で、日雇が6,748人、約7,000人という規模感になっております。
 適用の制度の変遷について御説明いたします。資料は7ページになりますけれども、失業保険法が施行された昭和22年当初の考え方といたしましては、臨時内職的に雇用される方は適用除外であると考えられておりました。当時の通達には家計補助的、又は学資の一部を賄うにすぎない労働は失業保険の対象外であるとされておりました。
 その後、昭和43年に通達が出されまして、このときに、短時間就労者であって、こちらに書いてございますイからヘを満たす方については失業保険の対象者として取り扱うという考え方が示され、ここで初めて週所定労働時間6時間等々といった基準が示されたということであります。
 その後、雇用保険法に昭和50年に生まれかわった際の適用の考え方といいますのが、週所定労働時間が通常の労働者のおおむね4分の3以上かつ22時間以上等の要件を設けていたということでございます。
 この制度の大きな見直しを行ったのが平成元年ということになりますけれども、当時、パートタイム労働が質量両面にわたって非常に増えてきていたということに鑑みまして、パートについても適用拡大を図ることが雇用の安定という観点からも意義があるとされております。
 このときはパートの就労、それから労働市場の実態に対応するように給付体系を見直した上で適用拡大を図るということで、労働時間の要件を見直して、通常の労働者のおおむね4分の3というところを取りまして、週所定労働時間22時間以上というところが適用基準になっております。
 この際、被保険者の適用の在り方も見直しておりまして、週所定労働時間が30時間未満である方とそれ以上の方というところで被保険者資格を区分しております。これは、一番上のところに書いてございますけれども、短時間労働者が一般の労働者に比べて労働時間が短いのみならず離職率が高く、また求人が豊富で就職が容易である等の特徴を持っていることから、給付内容というところを一般被保険者と分けた形で構築しておりました。
 しかし、その後、就労形態の多様化ということが進み、パートの方々の人数的な増加ということもありましたし、一般労働者の方がパートになったり、パートの方が一般労働者になったりといった離職就職も増加したということを踏まえて、平成15年改正でまず給付内容の特例を廃止し、平成19年改正で需給要件の特例の廃止をし、短時間労働被保険者という区分自体もこのときに廃止されたという経過がございます。
 また、適用基準のほうに戻りますけれども、平成6年には法定労働時間も40時間になったということを踏まえて、週所定労働時間20時間というところで適用基準の引下げが行われております。平成13年には年収要件の廃止、平成21年には雇用期間要件を短縮という改正が行われております。
 その後、リーマンショックが起こりますと、平成22年の雇用保険法の改正のときには、雇用期間の要件をさらに短縮したということになっております。また、この際、それまで要領で定めていた適用基準を、国民にとって分かりやすいものとするという観点から、法律上規定することとしたものでございます。
 平成28年の雇用保険法改正におきましては、65歳以上の高齢者の方についても強制適用の対象にする改正が行われております。令和2年の雇用保険法改正におきましては、65歳以上のマルチジョブホルダーの方々について任意適用する、労働者御本人様の申請によって適用させるという仕組みを試行実施しているというところでございます。
 次に、雇用保険被保険者の方々の状況ということで、業務統計を整理してお示ししております。被保険者数については先ほど御紹介したとおりですけれども、それに対して受給者、基本手当の受給者実人員の規模感といたしましては、令和3年度に43万人となっております。また、初回受給者数につきましては113万人、金額にしますと7,000億弱といったお支払いの規模になっております。
 適用されている230万事業所を企業規模別に分解してみますと、企業規模4人以下の企業が約6割、30人未満で見ましても9割といった水準になっております。一方、被保険者数4,400万人をどのぐらいの企業の規模に属しているかということで分解しますと、3割が規模500人以上に属しているということになっております。
 性別で見ますと、男性が約6割、年齢別に見ますと45~59歳のところが最も多くなっております。年齢構成割合については男女でそこまで差は見られないところであります。
 産業別で見ますと、製造業、卸売、小売業、医療、福祉業に適用が多くなっていることが見て取れます。
 次に、雇用形態別の適用状況ということになりますけれども、一般被保険者約4,100万人につきまして雇用形態別で分解したところ、約4分の1の方々が非正規となっております。一方で、右側のグラフですけれども、令和3年度に新たに雇用保険の資格を取られた方の雇用形態別の構成割合を見ますと、約半数が非正規の方々となっております。
 次に受給の状況でございますけれども、令和3年度に新たに雇用保険の資格を失ったという方々について雇用形態別に見ていきますと、半数弱ぐらいの方々につきまして非正規になっております。初回受給者の分布で見ますと、4割ぐらいが非正規の方ということになっております。
 それから、所定労働時間20時間以上30時間未満の方々に限ってそのデータを整理したものがこちらの資料、24ページになります。性別で見ますと8割の方が女性ということになっておりまして、年齢階層別で見ますと、男性は29歳以下が多く、女性は45~59歳が多くなっております。
 産業別に見ますと、新規に資格を取得された方、喪失された方、いずれも宿泊、飲食サービス、そして卸売、小売業といったところで人数が多くなっております。
 次に、直近の有事でありましたコロナが労働市場にどのような影響を与えたのか、また雇用保険からどのような雇用対策が行われたのかということについて資料を御用意しております。
 コロナにおいて最も特徴的な動きでありましたのが、最初の緊急事態宣言が出たときの休業者数の急増ということでございます。これを性別に分けてみますと、特に女性の休業者数というところで大きく影響が出ていたということ、また産業別に見ますと、宿泊、飲食サービス、卸売、小売、生活関連サービス、娯楽業への影響が大きかったということであります。
 また、非労働力人口というところについても、宣言が起きたときに、特に女性について一時的に疲労化の動きが見られたものの、その後はその傾向は改善されているということでございます。
 それから、転職者数の推移ですけれども、一般的に景気のよいときは転職活動というのは活発になっているわけですが、コロナの直前のときのアベノミクスで非常に景気がよかった辺りは、年間300万人を超える規模で転職者数というのが存在していた。コロナで一時的にそれが減少しましたが、再び300人を超える水準まで回復しているところでございます。
 人手不足の状況を表すものとして、日銀短観の資料を入れてございます。35ページを御覧いただきますと、製造業につきましては、最初の宣言が出た直後には人員過剰というところに振れておりましたが、すぐに人員不足というほうに転じております。
 一方で、非製造業を御覧いただきますと、宿泊、飲食サービスにつきましては過剰感が長期間残っていたものの、今、足元直近を見ますと最も人手不足になっているということが見て取れます。
 こうしたコロナの状況に対しまして、雇用対策として最も大きかったものが雇用調整助成金ということかと思います。こちら、基本的には雇用勘定における事業でありますので雇用保険の被保険者である週所定労働時間20時間以上の方々を対象に実施しているものでございますが、コロナ禍におきましては、20時間未満の方々につきましても、一般会計により雇調金同様の仕組みを設けたということでございます。また、雇用調整助成金は雇用保険二事業でありますので、通常、使用者のみの負担による保険料から構成されておりますことから、事業主向けの助成ということが基本になっておりますけれども、異例の措置といたしまして、個人の申請による直接給付の仕組み、休業支援金・給付金というものも創設したということでございます。
 また、雇調金も通常時に比べまして様々なコロナ特例措置というのを講じております。特に助成率の引上げ10/10という、企業の持ち出しがない形での助成ということもございましたし、また、その助成額の上限額を引き上げるといった措置も行っておりました。
 直近、支給の傾向でございますけれども、宣言が起こった直後はかなり多かったわけですけれども、足元はかなり少なくなってきているということが分かります。コロナの発災直後からの類型で見ますと、雇調金等の支給額は約6兆円、雇用調整助成金が5.8兆円で、20時間未満の方々に対する緊安金が5,000億弱となっております。
 支給状況を産業別で見ますと、業種としては飲食店、宿泊業への支給が多くなっております。1件当たりの支給決定額というベースで見ますと、航空運輸業が飛び抜けて高いということでございます。
 コロナ禍におけるまた一つの特徴といたしまして在籍型出向ということの動きが見られましたので、御紹介のため資料を入れております。
 それから、個人申請であります休業支援金・給付金ですけれども、支給累計額といたしましては3,646億円となっております。このうち週20時間未満の方々に対する休業給付金の支給割合のほうが高くなっているということが一つの特徴でございます。
 こちらも足元の支給状況というのは大分落ちついてきているわけですけれども、受給者の方々の年齢別・性別の支給決定状況を見ますと、20代の男女、それから40代、50代の女性に多くなっているということが分かります。業種としては、飲食店への支払いが最も高かったということでございます。
 雇調金の雇用対策に対する評価の部分ですけれども、こちら、極めて初期の頃の分析でありますが、一定の失業率抑制効果が見られたというようなポジティブな評価とともに、マイナス面も指摘されているところでございます。企業において雇用保蔵の動きを招いて、人手不足分野等への労働移動を過度に抑制したのではないかとか、あとは雇用調整助成金の不正受給、また雇用保険財政に極めて深刻な影響を与えたということが指摘されております。
 こちらは、御参考に海外の事例を入れております。もともと雇調金のような仕組みがなかった国においても、雇用維持スキームによる支援ということが行われました。また、各国特例期間の終期というところに着目いたしますと、もともとなかっところは早めにその仕組みがなくなっておりますけれども、日本の場合は結構長くまで特例措置が残っていたということでございます。
 次に、労働市場の構造変化ということで、働き方の質、量両方においてどのような変化が起こっているのかということに関する資料を入れております。まず、労働力人口の推移という部分ですけれども、少子高齢化が進展する中で労働力人口というのは一方で近年増加傾向にあったということが見て取れます。コロナにおいてちょっと横ばいになっているということは留意が必要かと思います。
 男女でそれぞれ労働力率を経年比較してみますと、男性の場合は60~64歳の辺りが労働参加が増加しているということが分かります。女性に関してはM字カーブが解消されるということで、全年齢において労働参加が高まっているということでございます。
 一方で、女性の労働参加、労働力率を雇用形態別に見ますと、いわゆるL字カーブと呼ばれる現象でございますけれども、非正規という形での労働参加が高くなっているということでございます。雇用者全体で見ましても非正規の比率というのはどんどん増加しておりまして、直近では約4割、パート・アルバイトがその主なものとなっております。
 不本意非正規の推移ということで資料を入れてございますけれども、これは右肩下がりという状況でございます。
 転職入職の動向ですが、これは経年的に長く見ても女性が多く、またパートタイムの方々の転職入職率が高いということでございます。
 それから、実労働時間の推移を見ますと、常用労働者全体、それから、うちパートタイムを切り出しても、これはだんだん減少しているという傾向でございます。
 それから、賃金に関する変化ということですけれども、2007年と2022年時点で、男性、女性、それから正規、非正規ということに分解して状況を見てみますと、女性の場合は正規も非正規もともに賃金が上昇傾向であるということに対して、男性の場合は、特に正規の方々において、40代から50代前半の方々が低下傾向であるということが分かります。
 次に、71ページに共働き世帯数と専業主婦世帯数の推移のグラフを入れております。昭和60年当時におきましては、男性の雇用者と無業の妻からなる世帯というのが最も多かったのですけれども、令和3年度直近で見ますと、それがどんどん減少して、最も少ない類型となっております。一方で共働き世帯が増加し、中でも、妻がパート、週35時間未満の就業になっているという世帯の形が多くなっております。
 それから、こちらが世帯収入に占める配偶者女性の収入の割合の推移を示したグラフになっております。昭和50年当時と比べまして、令和4年当時2倍以上ということで、かなり存在感が増しているということが分かります。
 それから、多様な働き方の御参考ということで、テレワークと兼業・副業の資料を入れております。テレワークにつきましては、コロナ禍でそれを導入する企業は非常に増えたということ。また、増加したといっても、それがなじむ産業、職種とそうでないものということでばらつきが見られるということであります。副業・兼業につきましては、右肩上がりで、実施者数、希望者数ともに増加しております。
 その働き手の状況を少し詳しく見てみますと、年収が非常に少ない層と高い層で兼業・副業が増えているということで二極化している動きが見て取れます。こうした多様な働き方に対して雇用保険の適用の制度改正ということが行われておりました。令和2年の改正におきまして、65歳以上の方を対象として、御本人様の申出を起点として、2つの事業所の労働時間を合算したときに20時間を超えるというケースにつきまして、雇用保険の適用対象とするという改正が行われております。
 こちらの改正に至る前の検討会の中では、酒井先生や渡邊先生にも御参画いただいて議論いただいたものですけれども、適用の必要性ということで、雇用保険制度の趣旨、まさに自らの生計を維持して働いていらっしゃる方々の生活の安定を図るものであるということに照らして、こうした方々を適用する必要性が高いかどうかといった観点から議論を行っていただいたということであります。
 また、考えられる適用給付の制度設計という部分につきまして、適用に関する制度設計の選択肢として、基準引下げ方式と合算方式ということを挙げております。基準引下げ方式といいますのが週所定労働時間20時間をさらに引き下げた形で雇用保険を適用するというやり方。合算方式は、複数の事業所で働いている労働時間を足し上げて20時間を満たしているかどうかということを判断するというやり方でございます。
 また、給付に関する制度設計といたしましても、基本手当方式と一時金方式という2つの集団について御検討いただいております。基本手当方式というのは、28日に1回失業の認定を行って、その都度給付するというスタイルであるのに対して、一時金というのは、一定の給付日数分を一度に払ってしまうという形の選択肢になっております。
 雇用保険を受給できない方々を対象とする制度といたしましては、求職者支援制度というものがございます。こちら、コロナ禍においてより活用しやすくするように特例措置ということが各種要件において講じられておりました。そちらを令和5年度もどうしていくかということにつきまして最近見直しを行ったという状況でございます。
 こうした雇用保険が適用されない労働者の方々についてデータを整理したということで資料をお示ししてございます。
 まず、人数的な問題ですが、全雇用者、役員を除く雇用者5,527万人に対して、20時間未満の方々というのは718万人、割合にすると13%程度のシェアということになります。5時間刻みで、その718万人の方々の状況をお示ししたのがこちらのグラフでございます。また、男女比で見ますと7割が女性ということになっております。
 業種別に見ますと、卸売、小売、医療、福祉、宿泊、飲食サービスといった辺りが構成割合が高くなっております。また、業種ごとにその産業で働く雇用者総数に占める20時間未満の方々の割合を比較してみますと、宿泊、飲食サービスで約4割といったところになっており、ここが最も高くなっております。
 それから、20時間未満の方々の状況を雇用形態別に見ますと、パート・アルバイトが約8割ですけれども、正規の職員、従業員であると回答されている方も1割程度ございます。
 離職率、それから転職入職率を比較したグラフがこちらでございます。点線が一般労働者で、実線がパートタイムということになりますが、男女で比較すると男性のほうが、離職率、それから転職入職率いずれも高いということになっております。また、一般とパートを比較すると、大体2倍程度、パートのほうが離職率や転職入職率が高いという傾向になっております。
 そうした離職者の勤続期間別の状況ということを整理したのがこちらのグラフでございます。転職する前のお仕事をどのぐらいの期間実施していたかということでございますけれども、傾向的に見ますと、パートの方々は6か月未満働いてから転職されているという割合が高い、比較すると高くなっておりまして、一般労働者につきましては、10年以上働いておられたというケースの割合が高くなっております。
 それから、転職に要する期間についての比較ですけれども、正社員、パートタイムいずれも離職期間なしで転職されているというケースが全体の4分の1くらいになっておりまして、ここの比率は余り差がございません。一方で、離職期間が1か月未満と回答された方につきましては、パートタイムのほうが約4割と高くなっているということが分かります。
 次に、雇用保険の加入の状況、適用の状況ということで就業形態別のデータをとったものですけれども、正社員の場合は9割が雇用保険適用されているというのに対して、パートの場合は約6割という適用状況になっております。
 こちらはまた別の調査から取ったものですので産業計の割合が違っていますけれども、こちらの調査ではパートの方々の約5割強ぐらいが雇用保険に入っていると回答されていて、それを産業別で分けて御覧いただきますと、宿泊、飲食サービスというところで最も加入割合が低くなっているということであります。
 こちら、リクルートワークス研究所のパネル調査からのデータの御紹介ということになります。雇用保険に加入されているかどうかということに着目していろいろな質問を行っているというものですけれども、雇用保険に加入されている方につきましては、性別で見ますと男性が約6割、未加入の場合は女性が6割強ということになっております。
 年齢割合で見ますと、雇用保険未加入の場合、65歳以上の高齢者の方々が3割弱ということで比率が高くなっております。また15~24歳につきましても、比較をすると比率が高いということが分かります。
 加入されている方で御自身が主な稼ぎ手であると回答された方の割合ですけれども、雇用保険に加入されている方については、7割が、自分が主な稼ぎ手だとおっしゃっており、未加入であっても4割の方が、自分が主な稼ぎ手であると回答されております。主な稼ぎ手の方の年齢別の構成割合を見ますと、雇用保険未加入の場合、その約4割が65歳以上ということになっております。
 それから、有期・無期ということで見ますと、雇用保険に加入されている方の7割が無期、未加入の場合は7割が有期ということになっております。
 それから、週の労働日数の比較ですけれども、雇用保険に加入されている場合は、8割の方が週5日勤務ということであるのに対して、未加入の場合は週3日、4日、5日勤務それぞればらつきが見られるということであります。
 また、副業の状況というところも見ますと、雇用保険に加入されている方につきましては約1割の方が副業されているというのに対して、未加入の場合は15%程度が副業しているという結果になっております。
 また、年収の水準ですけれども、雇用保険加入の場合は300~400万円未満というところが年収の山になっているのに対して、雇用保険未加入の場合は50~100万円未満というところが年収の山を構成しているものでございます。
 最後に、御参考に海外制度の資料をつけております。比較の視点ということで位置づけているものでございます。
 「議論の観点」ということで最後に書かせていただいておりますけれども、コロナ禍が労働市場に与えた影響や近年の労働者の意識や産業構造の変化を踏まえ、雇用のセーフティネットとしての雇用保険の在り方をどのように考えるかということで記載をしております。
 御説明は以上でございます。
○尾田雇用保険課長 それでは続きまして、酒井先生から、「セーフティネットとしての雇用保険:『適用』の在り方を巡って」というタイトルで資料をいただいておりますが、御説明をお願いしたいと思います。酒井先生、よろしくお願いいたします。
○酒井委員 画面共有されていますでしょうか。
○尾田雇用保険課長 はい、共有されております。よろしくお願いいたします。
○酒井委員 それでは始めさせていただきたいと思います。
 事務局の御説明、ありがとうございました。雇用保険適用に関する資料、非常に詳細な分析がなされており、私も非常に勉強になるところが多かったです。
 それで、本日私のほうから雇用保険の適用に関して最近考えていることを話させていただきたいと思います。
 雇用保険の適用ということに関してですけれども、やはり雇用保険制度の本丸とも言うべき議論で、この話をするのに私が適任かどうかもちょっと分からないということでお恥ずかしいのですけれども、最近考えていることを述べさせていただきたいと思います。
 私、経済学を専門としておりますけれども、とはいいましても、残念ながらといいますか、この適用に関して直接的な経済学の分析が多いというようなことは全くなくて、むしろほとんどないというような状況です。私自身ちょっと整理し切れていない部分もありますけれども、今日は一つの問題提起として話を進めさせていただきたいと思います。
 まず初めに、「問題提起の視点」ということを掲げさせてもらいました。このような視点から少し話ができたらなあと考えているのですけれども、1ポツ目に、「社会保険としての雇用保険において適用拡大することの意味」と書かせてもらいましたけれども、私は雇用保険というものを巡って、常々、社会保険として雇用保険どうあるべきかというような観点、その社会保険の一つとして雇用保険を捉えるという癖を持っております。
 ちょっとそもそも論的な話ですけれども、当然のことながら、この適用というものを議論するに当たっては、念頭に置いているのは適用拡大ということですよね。その背景に想定されているというのは、現在の制度の下では、雇用保険が適用されていないために受給ができないというような形で、不利益を被っているという人たちがいるだろうという想定のもとに、適用拡大をすべきなのではないかという問題意識のもと、議論が進められているということだと思います。
 この適用拡大ということですけれども、適用拡大の議論というのは、ほかの社会保険ですね。例えば公的年金ですとか健康保険といったものにおいても熱心にされているわけですね。適用拡大が進められてきたという事情があるのですけれども、雇用保険のこの適用拡大と、それからほかの公的年金ですとか健康保険の適用拡大というのは、似ている部分もありますけれども、本質的に異なる部分もあると思っています。
 例えば年金や健康保険においては、非正規雇用といった人たちに適用拡大するということの意味は、被用者保険の適用範囲を広げるという意味で、つまるところ、逆にいえば、その残りである国民年金ですとか国保、国民健康保険の範囲が縮小するということを意味すると思います。
 だから、そこで意図されていることというのは、例えば国民年金ですとか国民健康保険においては保険料の未納が多いといったこと、そういうことがあって、それを被用者保険の範囲を広げることによって、保険料の取りっぱぐれが少なくなるというか、未納者が少なくなるというようなことが意図されているわけですね。
 ですので、国民年金とか国民健康保険の適用拡大というのは、給付はあるのですけれども、負担の面でどのように取るかということの議論につながっていくと思います。もちろん、適用拡大、それだけではないですけれども、そういった側面が強い。負担をどうするかという面が強いかなあと思います。
 これに対して雇用保険の適用拡大というのは、求職者支援制度みたいなものはありますけれども、基本的には、現在では、適用されていないので受給資格もないという人たちに対してどのように広げて受給資格も与えていくかという話で、当然のことながら、その負担と同時に、給付どうするか、あるいは受給資格どうするかということとすごく密接に関わってくる問題だと思っています。
 あと、ちょっと細かいことですけれども、適用拡大ということで、当然ながら、何となくここにお集まりの方皆さんが念頭に置かれているのは、今、週20時間という労働時間の基準をどうやって引き下げるかと、引き下げた場合に何が起こるかといったことが何となく想定されているかと思うのですけれども、実は適用拡大というのはそれだけではなくて、例えば、先ほど御説明にもありましたけれども、雇用見込期間を短縮するということも一つの適用拡大であったわけですね。
 ただ、雇用見込期間はもう現在31日以上ということになっていて、かなり短くするだけ短くしたというところがありますので、そちらのほうは完全に適用拡大し切ったというか、やり切ったという形で、今議論になっているのがこの週労働時間になっているということなのかなと思うわけです。
 これがちょっと背景めいたことなのかなあと思うのですけれども、そのほかに、今回の話の中で、適用拡大と給付水準ですとか受給資格との一体性というか、混然一体となっているような様子、それから、常々適用拡大というのは給付自体が変わってくるのだということを思っているわけですけれども、そういったことについても話したいと思います。
 それでは、ちょっと最初にこのような議論からしたいと思うのですけれども、今既にほかの社会保険との比較で少し話を述べさせてもらいましたが、そもそも社会保険として雇用保険を捉えた場合に、社会保険としてのメリット、あるいはデメリットって何だろうというと、例えばメリットとしては、権利性の高い給付を実現できる。すなわち、ミーンズテストといったことに縛られない、そういった給付を行えるという側面。一方でデメリットとしては、そのメリットの裏返しではあるのですけれども、保険料拠出を前提に給付を行うという仕組みなので、逆にいうと、保険料拠出のところで何か支障がある、差し支えがあるとこの給付というものがなかなか実現しにくいという面があるのではないかと思います。
 また、ほかの社会保険との類似点、あるいは相違点ということも重要かなあと思うのですけれども、社会保険として共通すること、雇用保険とかほかの社会保険に共通することというのは、要は保険事故のリスクの水準が異なるようなグループが一緒くたに集まっているという面があると思います。これが民間保険ですと、基本的にはリスク確率という意味では非常に似通ったような、似たような人たちを集めていなければ民間保険として成立しないわけですけれども、そうでなくて、いろいろなリスクの人たちが一緒くたに含まれているという面があります。
 このことが意味することというのは、基本的には低リスクのグループの人たちから高リスクのグループの人たちへ所得再分配といいますか、所得移転が生じているということだと思います。
 一方で、ほかの社会保険と比べたときに、その雇用保険の特徴と言えることは、これはしばしばこの研究会の中でも言及されてきたわけですけれども、保険事故ということに関して、雇用保険の場合は自ら起こしやすいと、自らの意思というものが入る度合いが大きいのではないかということが言われるわけです。すなわち、モラルハザードといったことにほかの社会保険以上に注意する必要があるというのが雇用保険の特徴なのではないかなあと思う次第です。
 あと、社会保険ということであるならば、社会保険以外の制度との関係ということも重要になってくるかと思います。具体的には、生活保護といった公的扶助、福祉ですとか、あるいは最近の第二のセーフティネットというもの、こういったものとの関係を意識しなければいけない。社会保険という範囲が広がれば、それ以外の福祉の部分が狭まるというのがこの社会保障論の中での常識というか、一番基本的なところですけれども、そういったことがこの雇用保険にも当てはまるということです。
 少し図式的に書いたのですけれども、基本的に、だから雇用保険というものの範囲が広がる、適用拡大によって広がるということは、ほかの第二のセーフティネットですとか公的扶助の部分は狭まると考えられるわけですが、これはあくまで原則論というか、一般論であって、もしかして、適用拡大するだけではほかの範囲が狭まらないという可能性もあるのではないかということが言えるかと思います。
 それで、先ほど、雇用形態別に労働市場の状況、あるいは雇用保険適用の状況を大分詳しくお示しいただいたので、重複になって、本当は必要ないのかもしれませんけれども、一応確認しておきたいこととして、コロナ禍において、雇用がどうなったのか、雇用の状態がどうだったかということをざっくりと雇用形態別に分けて見てみると、これはちょっと変則的な見方ですけれども、コロナ禍の前と比べるために、2019年の同月比とそれ以降の3年間の雇用の状況を見たものです。
 そうすると、これを見て一目瞭然だと思うのですけれども、正規雇用に関しては実はほとんど減っていないのに対して、非正規雇用というのは、やはりコロナ禍において、コロナ以前の2019年に比べると減っていたということが分かるわけです。コロナというショックに対してやはり非正規雇用の減少が大きかった、要は、昔から言われていることですけれども、雇用の調整弁としての非正規雇用、こういった側面が改めて浮き彫りになったのではないかと思うわけです。
 こういう形で、先ほどの資料にもありましたけれども、非正規雇用の人たち、減るようなこと、離職するようなこと、失業に遭うようなことがあったときに、非正規雇用というのが一方で再就職しやすいのだという面はあると思います。ただ、これが例えば正社員に就職できるかというと、なかなか正社員には改めて再就職しにくいというようなこともあるかと思います。その背景にあるのが、非正規雇用の人たちが企業内で訓練機会に非常に乏しいということがあって、そういったことが再就職の妨げになっている可能性があるわけです。
 これも、先ほどの資格喪失者のグラフと対応するものですけれども、離職失業者のうち、今、約半数が非正規雇用からの失業者ということを押さえておきたいと思います。前のページのグラフを別の角度から見たものとも言い換えることができると思いますけれども、すごく雑駁な議論をさせてもらうと、正規雇用と非正規雇用の雇用者数としての割合、比が、正規雇用と非正規雇用と2対1くらいだとすると、離職失業者の5割が非正規雇用だということの事実は、非正規雇用のほうの離職確率というか、失業確率が著しく正規雇用より高いということだと思います。ですので、このように、やはり非正規雇用の失業確率が非常に高いのだということを意識しなければいけないかと思います。
 ただ、先ほどとこれも重複になりますけれども、適用ということで言うと、雇われて働いている人たち、かなりもう雇用保険適用されてきているとも捉えることができるのではないかなと思います。要は、長期的なトレンドとして、雇用者に占める非正規雇用の割合というのは増えてきているわけですね。3割からもう4割に達しようかというような状況の中で、実際には雇用保険の適用率はむしろこの四半世紀くらいで上がってきているというのが現状かと思います。
 このデータもちょっとラフなものですけれども、大体60%台だったものが今70%台を超えているというような状況かと思います。というようなことを押さえておきたいと思います。
 ただ一方で、雇用保険の適用者、そこそこ増えてきているということの一方で、失業したときに受給できているかという話があって、これは私もいろいろなところで何度も示しているようなグラフになるのですけれども、長期的に見れば、失業者のうち、失業給付受給している人たちの割合というのは減ってきている。これがコロナ禍においても別に決して上がることはなかったということで、3割を切っているというのはもう大体固まってきた事実なのかなあと思います。
 そうすると、今の話を概括すると、雇用保険が適用されている雇用者、決して少なくないのだけれども、失業者に占める受給者の割合ということで見ると、結構低いのではないかということが見て取れるわけですね。
 私、しばしばこのようなポンチ絵を示したりするのですけれども、雇用保険というか、失業給付の手厚さを評価する仕方というのは幾つかの軸があると思っておりまして、例えば今、適用拡大ということで議論になっている被保険者の範囲を広げる、被保険者割合というのがこの絵の1の軸だとすると、それとは別に、例えば給付額ですとか給付日数といった給付の水準に関わるような軸も必要である。一方で、最終的には受給者、どれぐらい受給できているのかという水準、その評価軸というのが必要だということで、2のような軸も必要だということだと思います。
 ということで、雇用保険における適用の問題を考えるということは、その受給資格とか給付水準等について考えることと表裏一体なのかなと思います。表裏一体という表現を使わせてもらったのは、例えば適用を考えるのだったらば、できればそのほかの軸も考えなければいけないというような生易しいレベルではなくて、これは本当に表裏一体として考えなければいけない、そのぐらい強いものなのだと思っております。
 例えばこの1と2、3が分離しているわけではなくて、当然ながら、密接に関わっているというか、例えば1や3の結果として、この2ですね。だから、被保険者適用範囲とか給付日数といったものの結果として、この受給者割合、2という軸の結果が決まっているという可能性もあるので、本当にこれらの軸というのが表裏一体、混然としているのかなというところかと思います。
 今、失業者に占める基本手当の受給者の数が少ない、割合が少ないという話をしたのですけれども、もちろん、給付期間が所定給付日数終了してしまったのだけれども、再就職できていないという意味で、いわゆる長期的な失業者ですね。こういった人たちがいるという、これによって受給者割合が低いということもあると思うのですね。それと同時に、そもそも受給できていない人たちの存在ということで、典型的には、それらが非正規雇用、短時間労働者等々とされるわけです。
 ただ、先ほどからお示しいただいているように、実は非正規雇用に雇用保険が全く適用されていないのかというと結構適用されているぞということで、パートタイム、大体6割ぐらいというお話がございましたけれども、契約社員、嘱託社員も非正規雇用だとすると、これらの人8割ぐらい適用されているということです。
 確かに、正規雇用に比べれば適用されている率は低いかもしれません。ただ、意外と高いというのが現状かと思います。それにもかかわらず、非正規雇用、実は正規雇用に比べると、先ほどこれもお示しいただきましたけれども、初回受給者にすると少し減ってくる。これは何でかというと、被保険者期間などが満たせないで、適用はされているのだけれども受給資格要件のほうを満たせないで受給できていない、そういう人たちもいるということになるかと思います。
 ただ、私、先ほど資料を見て、意外とそれでも非正規雇用受給できているなあという印象は持ったのですけれども、そこで適用されていないだけでなくて、適用されていても受給資格満たせていないというようなケースがあることは事実だと思います。
 そうすると、一般論として考えたときに、保険料拠出を条件に給付を行うような社会保険の枠組みだと、基本的にそのような断続的な就労、あるいは短期間、短時間の就労というような形態をとる非正規雇用の人たち、なかなか救済しにくいという面があるのではないかと思います。
 そういうことを前提として出てきた発想が第二のセーフティネットという発想なのかなと思っております。すなわち、保険料拠出と給付の対応関係を緩める、保険料拠出を必ずしも条件としないような給付ということで、第二のセーフティネットという発想が出てきたのかなあと思うわけです。
 それの一つの具現化したものが求職者支援制度だと思うわけですけれども、今日はそこのほう、第二のセーフティネットの話は一旦置いておいて、適用拡大するという方向で非正規雇用からの失業者というものに何か救済を行う方法はないのかということに関して考えてみました。これは私が述べるべきことでもないのかもしれませんけれども、幾つか、やはり留意しなければいけないことがあるのかなあと思います。
 1つは、今ある週労働時間20時間以上という適用基準を引き下げたとします。例えば週労働時間10時間というところまで引き下げたとします。そうすると、もし保険料負担、すなわち保険料拠出期間ですとか、あるいは非正規雇用、典型的に賃金が低いとされているわけですけれども、そのような賃金に対応するような形で給付が行われていくとなると、失業した際の給付が受けられたとしても、その給付の水準ですとか給付日数というのは必然的に少ないものになってくるというのが原理的に予想されるわけです。
 すなわち、この「生計維持的」という言葉を使わせてもらって、これはコントロバーシャルかなと思うのですけれども、どのラインが生計維持的かという議論というのは非常に難しい話で、人々が置かれている状況によると思いますので一概には言えないのですけれども、ただ一般的に、この週労働時間とか勤続期間が短い場合に生計維持的でなくなる場合が多くなると思いますし、それらがさらに短くなれば、より生計維持的でなくなるということは言えるはずだと思います。
 ですので、そういう意味で、短い週労働時間で雇用保険が適用されて、その短い労働時間の拠出に対応する形で給付が行われるということになると、そもそも生計維持的でない就業に対して、生計維持には必ずしも足りないような給付を行うということになってくるのかなということで、その意味で、これまでの雇用保険の給付、すなわち、先ほど御説明ありましたけれども、基本的に生計維持に足る給付を行うということであるとすると、それとは性質が異なってくるという面があるのかなあと考える次第です。
 では、これは給付水準低いとか給付日数が短いということで、むしろ生計維持的というか、給付水準引き上げようということが出てくると何が起きるかというと、負担、すなわち、保険料拠出に見合わないような給付を行うということになるわけですね。このことが意味することというのは、何らかの保険集団内での所得再分配の度合いというのが大きくなる。低リスクグループから高リスクグループへの所得再分配というのは社会保険だと常々行われているわけですけれども、さらに大きく行われてくる可能性がある。あるいは国庫による補填といったことが必要になってくるのかなあと思うわけです。
 これはさらに言うと、ちょっとここは私の筆が滑ったというような面もあるのですけれども、負担に見合わない給付を行うということは、結局、第二のセーフティネット的な側面が増えてくるということかと思います。すなわち、適用の問題というのは負担と給付の対応関係の問題でもあるのかなあという気がしております。
 これは整理ということで、繰り返しになるのでいいかと思いますけれども、第二のセーフティネットといったもの、すなわち、拠出と給付の対応関係を緩めることで必要な給付水準を達成するような、ごめんなさい、拠出と給付の対応関係を緩めるような制度ですね、こういった制度というのは必要な給付水準を達成しやすいという面があると思うのですけれども、コスト負担、もっと具体的にいうと財源の問題が生じてくるのかなあと思います。
 一方で、社会保険方式というのは、この拠出と給付の対応関係、厳格なものと考えると、コスト負担という話は出てこないのだけれども、望ましい給付水準がなかなか達成できないのではないかというジレンマがあるのかなあと思います。
 それから、適用拡大したときに、多分、複雑な問題として出てくるのが、週労働時間20時間以上という適用基準が、同時に現行の制度下では、雇用保険上の失業認定基準でもあるという側面かなあと思います。
 すなわち、現行の制度では、言ってみれば部分失業に対しても給付が行い得るという制度なのかなあと思います。実はコロナ禍では、本当に失業はしていないのだけれども、例えばパートとかアルバイトの人が、シフトが物すごく減少してしまって、実質的には失業に近いような状態にある、非常に困窮しているということが起きました。すなわち、部分失業のリアリティというのは実は結構高いと私は思うわけですけれども、こういったことに対しても、実は現行の制度は一部対応できていると考えられるわけですね。
 ただ、これを例えば適用拡大して、週労働時間10時間以上と適用基準を引き下げた場合、逆にいえば、労働時間が10時間を切らない限り失業給付は受けられない。これがもっと進んで、週労働時間、1時間働いてさえすれば例えば適用されるというところまで引き下げたときも、逆にいうと、ゼロ時間にならない限り、その給付が行われないというようなことかなと思います。
 このように適用拡大すると実は部分失業対応しにくくなるということなのかなあと思うのですけれども、果たして、先ほど述べたように、このように働き方が多様化していく中で、さらにその部分失業の問題というのが結構常識になってくるというか、ポピュラーになってくる可能性もあるという中で、部分失業にこのセーフティネットが対応しにくいということが果たして妥当なのかという議論もしなければいけない。
 実は、先ほどマルチジョブホルダーに関する御説明もございましたけれども、そのマルチジョブホルダーに関しても、すごく極端には適用拡大ということで対応する方法もないわけではないわけですけれども、部分失業している、すなわち、マルチジョブホルダーの人たちというのは、一つの職、失業するけれども、もう一つの職は持っているというような場合があるわけですよね。そういう人たちが多くいることを考えると、合算方式というほうが有効なのではないかということで、今、65歳以上のマルチジョブホルダー適用に関して合算方式を採用していることの根拠になっているということです。
 ということで、これはではどうしたらいいのかという話で、例えば先ほどの、かつてあった短期被保険者ですとか、グループ別に適用基準と失業認定基準を設定するとか、いろいろなことが考えられるかと思いますけれども、ちょっと私、思い及んでいません。
 1つ言えることは、この適用拡大をするのであれば、部分失業に関する精緻なエビデンスがないと、もっというと、適用拡大を主張するのであれば、部分失業がどの程度起こり得るのか、あるいは部分失業というのはそれほど深刻でないのだといったようなエビデンスがない限りは結構厳しいのではないかという気がしております。
 それから、まだ話があるのですが、ちょっと時間も時間なので少し巻いていきますが、適用拡大に伴って、例えば保険集団の同質性が薄れていくのではないかみたいな話も場合によってはあるかもしれない。これは基本的に社会保険というのはリスクが異なるグループを包含していくものなので、もともとそんなに同質的ではないと考えることができるのですが、これがどんどん、例えば物すごく離職率が高い、失業確率が高い人たちを含んでくると、保険集団として何らかの調整が必要にならないかという議論も出てくるかと思います。
 これは一応Cf.で労災保険と書かせてもらいましたが、労災保険とは全然性質が異なるものなので、労災保険はもちろん、例えば業種ごとに細かく保険料率が異なっているですとか、場合によってはメリットも適用されるというようなことで、大分違うのですけれども、一つの示唆を与えるものかなとは思います。
 ただ、例えば労災保険が何で業種ごとに細かく保険料率を設定しているかというと、それが多分同じグループとして労災抑止というインセンティブを与えるという面もあると思うのですね。同じグループとしてアイデンティティを持たせて、労災抑止というインセンティブを与えるという面があると思うのですけれども、そういったことに関して雇用保険を与えるわけではない。そういう意味では、この同質性が薄れていくということに関して何かすごく明確な問題が生じるようには思えないのですが、議論としてはそういうこともあり得るのかなと思います。
 それからあと、巷で言われることとして、社会保険の事業主負担があるので、適用を受けない短時間労働者の雇用を企業がしているということが言われたりします。そうすると、適用拡大するということはそういった企業の採用行動にも影響を与えるわけですね。これはいいほうにも悪いほうにも働き得ると思います。理論的にはですね。例えば適用拡大されて、非正規雇用にも社会保険、事業主負担が生じるので、むしろ正規雇用への揺り戻しが起きる可能性もありますけれども、逆に、雇用以外、例えば請負を受容するというのが非常に増えるという可能性もあって、ちょっと予測できない面があるかと思います。
 ただ、1つ言えるのは、こういった巷で言われる割には、事業主負担を企業が忌避するために非正規雇用を利用しているというエビデンスは実は少ないということがあって、これに関してもそれほど大きな問題にならないかなあという面は感じています。
 それから、ごめんなさい。4番を飛ばさせてもらいます。それほど大きなことではないです。
 それから、6番ですね。適用拡大した場合に、失業給付の問題はありますけれども、失業給付以外ですね。雇用保険のパッケージについている教育訓練給付ですとか育児・介護休業給付といった面についてはどうするのかという問題も考えなければいけないところかなあと思います。
 これらに関しては、育児・介護休業給付というのは基本的に休業前所得に比例するような形になっていますけれども、それ以上に、何か適用拡大したときにそもそも保険料拠出期間が少ないとか保険料拠出額が少ないということを前提に、それに対応したように何か差別的な給付を行い得るかというと、社会的通念上といいますか、こういったことを実際に行うことは難しいのではないかなという気がします。
 というのは、例えば教育訓練給付みたいなものを考えたときに、なぜ非正規雇用の賃金が低くて正規雇用に転換することができないかというと、先ほど少し述べたように、訓練機会が乏しいからということも1つあると思うのですね。そういう意味では、機会の確保という観点から、やはりこういう人たちにもしっかりとした給付を行わなければいけない。だから、逆にいえば、失業給付の面では多少拠出に対応するようなものが行われ得たとしても、こういった教育訓練給付といったものに関してはむしろ差別的な給付は行わないほうがいいという考え方もあるのではないかと思います。
 それで、ごめんなさい、もう終わりにしたいと思いますけれども、この延長にそもそも雇用されないような働き方に対して雇用保険適用すべきかといった議論もあると思うのですね。一般論として、そもそも雇用主を持たないような働き方に関して保険事故をどうやって認定するのかというところに難しさを、印象論ですけれども、感じてしまうわけですけれども、それを置いておいたとしても、フリーランスに雇用保険適用したとしても、これまでの非正規雇用と同じように、受給資格要件といったようなことをちゃんと整えなければ受給に至らなくて、受給したとしても給付額が低かったりするということで、セーフティネットとして意味がなくなる可能性もあるので、その辺も注意が必要かなあと思います。
 こういった問題を考えるとき、ちょっと鍵となる事実としては、フリーランスの約8割、大部分が、その後もフリーランスとして働き続けたい、要は雇用されるような働き方を望んでいないという事実だと思います。そうすると、例えば今は雇用保険適用されていなくても、後々被用者に雇用される働き方になることで、そのときに雇用保険料を取るという考え方も1つにはあるかと思うのですけれども、今示したように、フリーランスの人たちが今後もフリーランスとして働きたいと望んでいるとそういうわけにもいかないということで、そうするとちょっと対応を考えなければいけない、負担を誰がするのかという問題を考えなければいけないのかなあというところです。
 それから、ちょっと雇用保険財源を巡る問題というのは、適用の問題と、この問題もすごく密接に関わってきて、先ほど言ったように、雇用保険以外の選択肢ですね。第二のセーフティネットみたいなもので救済しようとすると、では財源どうするのかというのはすごくクルーシャルに効いてくるかなあと思うのですけれども、その問題というのもちょっと考えなければいけない。ただ、時間がないのでこれぐらいにさせていただきたいと思いますけれども、その辺の議論もあるかなと思っております。
 すみません。オーバーしてしまいましたけれども、私からは以上となります。
○尾田雇用保険課長 酒井先生、ありがとうございました。
 それでは、先ほどの事務局からの説明、そして今の酒井先生からの御発表につきまして、委員の皆様から御意見、質問をお願いしたいと思います。本日、酒井先生が御発表いただきましたので、五十音順でお願いしたいと思いますが、酒井先生は最後に改めて御発言の機会をお願いしたいと思っております。
 大変恐縮でございますが、まず佐々木先生から御発言をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
○佐々木委員 事務局と酒井先生、御説明していただき、どうもありがとうございます。
 雇用保険の適用範囲について余り深く考えたことがなかったので非常に勉強になったと同時に、今日私がするコメントは、もしかしてちょっと的外れな部分があるかもしれませんが、あらかじめ御了承ください。
 生計維持の判断基準として、所定週労働時間が20時間以上と決められているのですが、人々の価値観やライフスタイル、働き方の多様性が進む中で、一時的に決めるということはやはり無理があるのかなあとは思います。それらの多様性を踏まえた新しい社会保険制度の設計が現在議論されていると思うのですけれども、誰でもセーフティネットが確保されるよう被用者保険の適用拡大を目指そうという、そういう動きがあると思います。
 被用者保険の適用要件の変更は、働き方の多様化にも依存しますので、雇用保険の適用要件の在り方等に密接に関係しております。そういう意味では、雇用保険の適用要件について見直すというのはやはり必要なのかなあと思います。
 今のところ、雇用保険の適用要件は、生活維持水準と同じように、所定週労働時間20時間を下限にしております。今のところこれを拡大していこうということで、10時間なりに、そのような方向にいくのかなあと思うのですけれども、いずれにしろ、この離散的な感じですね。20時間、10時間というような離散的な線引きをしているような気がします。それよりかは、もうちょっと連続的な考え方もどうなのかなとは思いました。仮に、非常に極端な例ですけれども、週に1時間しか働いていない労働者がいるとした場合、その人が失業した場合、被保険者である限り、1時間の労働に対する失業給付が支払われるような、そういう仕組みであることが非常にフェアではないかなとは考えます。
 保険料は1時間当たりの賃金の何%かの保険料率を決めて、実際にはそれで週に働いた時間を掛けることによって失業保険料を算出します。そうすることによって、連続的な失業保険料と失業保険給付ということが可能ではないのかなあと思います。このようにすることで、産業別、企業規模別、雇用形態別関係なく一元的な共通ルールを適用することができるので、働き方の多様化にも対応できるのではないかなと思います。
 だから、今後いろいろな働き方の多様化というのは進んでいくと思うのですけれども、その要件の区分を変えていく、増やしていくのではなく、全てのタイプの労働者に適用できるような制度を構築していくことで労働者がもっと納得するのではないかなあとは思います。
 個人によって失業するというリスクへの先行というのは異なると思います。手厚い失業給付が欲しい人であるならば、失業保険、保険料率を引き上げることができるオプションがあってもよいと思います。重要なことは、あくまでも個人の選択に任せることではないかなと思います。
 また、失業しやすい産業や企業規模に応じては保険料率を変動することも考慮する必要があるでしょう。その反対に、失業しやすい特性に関係なくて、全員に対して同じ保険料率を適用してもいいと思います。その場合は、先ほど酒井先生のおっしゃった留意事項の3ですね。同質性が薄れる可能性があるということですね。また、その場合、大企業に勤める労働者にとっては失業しにくいのに同じ保険料率を適用されるので、フェアではないです。フェアではありませんが、ある意味、失業というリスクを踏まえた上での所得再分配というふうにも解釈できます。
 あと、マルチジョブホルダーに対しても結局同じルールが適用できるのかなあとは思います。これまで1つしか仕事がなく、通常は失業、就業というゼロイチという2つのステートというか2つの状態だったと思うのですけれども、これからは、例えば2つの仕事を持っていて、仮に週20時間ずつ働いていたとすると、そのうち仕事1つ失うと、酒井先生おっしゃった部分失業、半分だけ失業状態になるわけですね。0.5だけ失業というふうには言えます。それも結局連続的に考えるとすると、それに合わせて失業給付、部分失業であったとしても失業給付金が支払われるということが可能になるのではないかと思います。
 ここまでは生活維持の部分についてはすっぽり抜けておりまして、これまで話した共通ルールを適用すると失業給付だけで生活を維持することができないことは十分あり得ます。これまで酒井先生の留意事項1のところに関連すると思うのですけれども、しかし、経済学でいう労働者が合理的な場合、失業というリスクに対してある程度準備しているはずなので、雇用保険だけが生活維持を図る最後のとりでというわけではないのかなと。労働者も必ずしも最後の砦とは捉えていないのかなとは思います。
 ただ、労働者は必ずしも完全に合理的だとは言えません。認知バイアスの一つである正常位バイアスのように、失業することの不都合なことを無視したり、失業する可能性を過小評価したりするのもいると思います。だから、自分は失業しないと思ったり、本当は失業する確率が50%なのに、いやいや10%だと勝手に都合のいいように考えてしまうと思います。
 このように、思いもよらず失業してしまった労働者へのセーフティネットとして最低限のレベルの給付が必要とも考えられます。ですから、セーフティネットとして必要性について、合理的か合理的でないかによって相反することをちょっとお話ししてしまいましたが、私の中でまだ十分整理がし切れていないというのが今のところの状態であります。
 すみません。私のほうからは今のところ以上でございます。
○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。それでは続きまして土岐先生、お願いいたします。
○土岐委員 事務局の山口さん、それから酒井先生、御説明、御報告ありがとうございました。酒井先生のお話は今後の雇用保険の在り方を考えるときに気をつけるべき視点をお示しいただいたと思っていまして、特に10ページに出ていたカバー率であるとか受給者割合とか、給付額、給付日数がそれぞれ密接一体で不可分な形になっているというのは、私もちょっと今日何を言うかなというときに、適用範囲だけ考えているといろんなところにひずみが来るなというのを考えていましたので、まさにそのとおりだなと思って伺っていたところです。
 セーフティネットとしての雇用保険の在り方ということで、恐らく保険事故である失業の捉え方であるとか被保険者の範囲を考えるみたいなときには、酒井先生の話にも出ていたと思うのですけれども、セーフティネットが重層的に構築されているということを多分踏まえて、雇用保険がどういう役割を果たすかということに注意する必要があるのかなと思っています。
 基盤の部分で生活保護が最低限度の生活を保障していて、中間に雇用保険の対象とならないような求職者を支援する仕組みがあって、その上に雇用保険の特に失業に係る給付の仕組みがあると理解したときに、こうした一連の仕組みの中で雇用保険の中核となる失業等の給付の意義がどこにあるかというと、労使が実際の賃金を基準としてあらかじめ掛金を払って、保険事故発生前、失業の前の賃金に応じた形で、多分、最低限度より少し有利な水準なり従前の生活水準を保障するというところにその機能があるのかなと思いました。
 生計の維持というのが1つ基準とすべきかみたいなことが問題かなとは思うのですけれども、単に、例えば離職前の賃金に応じた所得保障の仕組みだと割り切ってしまうと、先ほど佐々木先生が1時間の例を出されていたと思うのですけれども、そのような仕組みもちょっと可能性はあり得るかなと。
 そうすると、確かに働き方を問わずに保険の制度というのをつくることができるかなと思うのですけれども、他方で、既存の制度に私がちょっと引きずられ過ぎているところはあるかもしれませんが、保険の制度が同じリスクの分散を図るものだというときに、賃金で生計を維持している人と必ずしもそうでない人がいるときに、そういう人たちを包括的に一体として対象にしてしまうと、同じ危険にさらされていると言えるのかというのは、先ほど酒井先生も御指摘されていたと思いますが、そこはやはり疑問になるかなと思いました。
 なので、ある種三層構造になっているみたいなことを踏まえたときに、理念として多分、生計を維持している、賃金で生計を維持しているというところはなかなか外しづらいのかなと思われまして、そうだとすると、そこからこぼれ落ちてしまう人というのは別の仕組みで手当てするということも十分考えられることかなと思っております。
 ただ、生計維持という理念の具体的な判断基準では、週所定労働時間20時間であるという必然性は多分ないのかなあという気がしていて、実際、資料とかを拝見していますと、週所定労働時間20時間未満で、様々な事情で20時間を超える形で働けなくて、しかし、生計維持のために労働することが必要だというのが、資料の105ページとか107ページ辺りですね。雇用保険に入っていない人が15.8%いて、そのうち38.5%が主たる稼ぎ手が自分であって、そのうち半分が現役世代ということだとすると、すごく大ざっぱに掛け算すると、3%ぐらいの人が週20時間未満で生計維持のために仕事をしていると言えるのかなという気がしております。
 ただ、大量の事案を処理する必要性があるということを踏まえると、個別の事情、この人は生計維持の必要性があるからとかそういった考慮は多分難しくて、数値で形式的に処理できる基準としては、労働時間が難しければ賃金による収入ということがもしかしたら考えられるかなぐらいのことしかちょっと今のところ思いついていないところです。割合として少ない人を何としても制度の中におさめるために、制度の根幹に手を入れるべきかというのは副作用もあり得るところかなと思いまして、非常に悩ましいかなと思っております。
 なので、先ほど触れた、もしかすると要保護性が高いけれども、今、雇用保険から漏れている人たちにどういうニーズがあるのかということは確認する必要があるのかなと思いまして、先ほど、非正規の人が適用対象になっても失業給付がなかなか受けられにくいという話もあったかと思うのですけれども、例えば20時間未満の人たちのニーズとして、よりよい就職ができるようにする必要があるということであれば被保険者範囲を拡大するよりは、恐らく求職者支援制度を充実させるということのほうが重要になってくると思いますし、あるいは育児休業とかの問題だということであれば、それは両立支援のところで仕組みを整えていく、無理に雇用保険の適用範囲でという議論をする必要はないのかもしれないなと思っております。
 生計維持という考え方からいくと、労働時間固定されていなかったり、兼業・副業で20時間を超える人たちも、技術的に可能かは別として、多分、理屈の上では適用対象にしたほうがいいのだろうなと思っています。ただ、その際の、実際そういう必要性があるのかとか、技術的な課題があるかというのは、以前、渡邊先生と酒井先生が入っておられた検討会の報告書を拝見いたしまして、非常に参考になるというか、私がこれにかなり説得されたところがあって、そこには生計維持の必要がある、マルチジョブホルダーの方にはよりよい就職の支援のほうが重要ではないかというコメントがあって、そのとおりだなと思ったところであります。
 最後に、これも酒井先生が最後のところでお話しされていたものと関わるのですけれども、雇用保険対象者に支給されている給付で、給付の目的みたいなところから検討を要すると思われるのが、教育訓練給付とか育児・介護休業給付だと思うのですけれども、こちら、いずれも労働者個々人の選択の問題で、ある種、支給事由となる事項が生じるみたいなところがあるのはちょっと否定しがたいのかなあと思います。
 しかも、教育訓練給付は能力開発をするということで、これは幅広くいろんな人を対象としなければいけないですし、育児・介護休業給付も、両立支援のための性格とかが大きく出てきていて、一定の要件を満たす雇用労働者だけを対象者として給付するというのはやはりなかなか今は難しいことになっているのかなと思うので、これら2つの給付をする仕組みを設けるということの必要性は多分明らかだと思われるので、こちらはフリーランスの人とかそういう人も含めてどうするのかということを、制度の位置づけとか財源とか、多分いろんな問題が絡んでくるので、こうすればいいというのをすぐには出せないのですけれども、改めて検討する必要があるのかなと思って伺っておりました。
 すみません。ちょっとまとまりが悪かったところもあったかもしれませんが、私からは以上でございます。
○尾田雇用保険課長 先生どうもありがとうございました。それでは、水島先生お願いいたします。
○水島委員 酒井先生、御報告ありがとうございました。非常に的確な御指摘で、大変勉強になりました。また、事務局におかれましては、充実した資料を御準備の上御説明いただき、ありがとうございました。
 今回の議論の論点として示された、コロナ禍が労働市場に与えた影響、近年の労働者の意識、産業構造の変化に加え、労働法制の変化、また労働市場の変化や家族の変化によって、雇用保険の在り方、あるいは雇用保険の理念について見直しが必要な時期に来ていると思います。
 雇用保険制度の根幹が失業時の保障にあること、これは変更できないと考えますが、その適用対象者が自らの労働により賃金を得て生計を立てていること、ここまであったこの生計維持要件ですとか、同種類の危険にさらされている人々として適用者を確定しているところについては見直しが必要ではないかということです。事務局からも御紹介ありましたように、共働き世帯が増え、家計における女性の収入の位置づけが高まっています。これらから、世帯内の生計維持者は1人とは限らないということが言えそうです。
 つまり、主たる生計維持者でない者の賃金も家計の生計維持の役割を果たしているのであれば、その者が失業することは同種類の危機、危険と言ってよいのではないでしょうか。
 スライド7で示していただきました昭和25年通達によりますと、臨時内職的に雇用される者として、家庭の婦女子、アルバイト学生が例として挙げられ、失業者となるおそれがないものとされています。当時のことはよく分かりませんが、少なくとも昭和の頃であれば、家庭の婦女子、要は、いわゆる主婦パートのような方とかアルバイト学生が職を失えば、それぞれ主婦、学生という属性になって、失業者、無職というふうには多分名乗らないと思うのですね。そうした考え方に近いなと思いました。
 その無職ではなくて、そうした人が主婦とか学生というふうな属性を名乗るのは、それは配偶者であったり親であったり、生計を維持して養ってくれる者がいるからだと思います。昭和の時代はそのような理解が標準的であったと考えますけれども、現代の働き方や生活の変化、家族の形、家庭内の役割は多種多様でありますし、それから、男女間格差が解消しつつある。完全に解消したと言ったら怒られそうですけれども、少なくとも男女雇用機会均等法が改正されて、その後もう40年近く経過している中で、家庭内の役割とか、共働きの増加とか、本当に状況は大きく変わっていると考えます。
 そのように考えますと、世帯の中で一人が大黒柱となって生計維持するというものだけではなくて、生計の一端を担っているもの、あるいは2人ともで生計維持なのか、それぞれが生計の一部を頑張って支えている者という、そこの人たちを含めて被保険者に取り込む必要があるのではないかと考えます。
 それから、これは先ほどの土岐先生の御指摘と多分重なるところだと思いますが、スライド95で、上から2つ目ですね。週20時間未満の労働者の半数近くは家事や育児、介護、その他があると回答しています。家事や育児があるから長く働けないというのはそのとおりなのですけれども、しかし、家事や育児をしていることと生計維持者でないことというのは全くイコールではなくて、これは別問題であります。家事や育児をしつつ就労して生計を維持している者、あるいは少なくとも生計の一端を担っている者というのが多いのではないかと考えます。
 社会保険の適用関係を明確にするため、また同種類の危険にさらされている者との観点から、所定労働時間や年収要件、雇用期間の基準を設けてきたということは必要であったと考えます。しかし、それらの基準を超えるか否かと実際に家計費を賄っているか否かというのは同じではありません。現行の週所定労働時間20時間未満の者が雇用のセーフティネットが不要であるということは考えにくいところです。所定労働時間等の基準では生計の一端を担っている者が被保険者から排除される可能性があります。
 酒井先生が適用拡大に伴う留意事項1でお話しいただいたことに関係いたしますが、生計維持的というところでいろいろお話しいただいたのですけれども、私は、この生計維持的というところを脱却して、生計に支障を与えるというか、生計の一端を担うというのか、生計維持というところを緩めてはどうかということを考えています。
 その場合、私は端的に、給付についてはそれに見合った形でいいと思っていまして、ですから、今出していただきましたけれども、必ずしも生計維持的でない給付になるけれども、それはそれで構わなくて、というのは、そもそも生計維持的というところを変えて、生計の一端、生計に影響を与える的なところを何とかする給付であれば、生計維持的な給付というのは必ずしも必要ではないと考えます。
 それから、失業の危険という点で、正社員については、失業により賃金を失い生活危険が生じるのに対し、所定労働時間が短い短時間労働者については、確かに生活危険が生じる者もいるでしょうけれども、そうでない者もそれなりに多くいる可能性があります。また、これも先ほど御指摘ありましたけれども、短時間労働者であれば、正社員とは異なり、早期の再就職が可能ということも言えます。しかし、雇用保険では、そもそも自己都合での退職者も基本手当を受給できるわけで、危険を自ら招いた者にも給付を行っているわけです。雇用保険は、こうした者、つまり、自発的離職を考えている者を含めて同種の危険集団とここは言えているわけなので、すみません、議論ずらしているのは承知しているのですけれども、そもそも雇用保険ってそういう自らリスクを招いた者に対しても給付は行うということを考えると、同種の危険集団を狭く限定的に理解する必要はないと考えます。
 私としましては、所定労働時間が短くても、生計の一端を担っている者の失業のほうが本来の失業といいましょうか、同種類の危険に近いと考えます。
 以上のことから、週所定労働時間20時間以上でないと生計を立てているとは言えない、所得喪失は保険事故として捉えないというのは適切ではないと考えます。労働者として働く以上、誰しも職を失うリスクというものがあるわけで、したがって、原則は、全ての労働者が雇用保険に加入し、保険料を払うということにしてはどうかと考えます。このことは、働き方に中立的な社会保障という考え方に適合します。また、このような考え方をとることによって、変動シフト制の労働者や複数就業者のところの問題もクリアーできるように思います。
 ただ、この原則を貫くと、行政コストの点で非常に不適当であるとか、あるいは保険料を払うだけ払って給付を受けられない等の問題が発生することも考えられます。そのような場合には、つまり、原則をそう定めた上で、その上で必要な限りで適用除外をするとか、保険料の負担方法を考えるとか受給資格要件を見直すとか、そのような策を考えることが可能と考えます。
 また、単発的、短期的な就労については除外するのが適切と考えますので、先ほど全ての労働者と申し上げましたが、雇用期間31日以上見込みの要件、ここは存続するほうがよいのかなあとも考えています。
 ここまで失業を念頭に置いて話をしてまいりましたが、週所定労働時間20時間未満の者への雇用保険適用拡大は、現在の政策課題であるリスキリングの観点、また、子供政策強化の観点からも適切であると考えられます。適用要件の見直し等の必要があるかもしれませんが、週所定労働時間20時間未満の者も、雇用保険の被保険者として教育訓練給付や育児休業給付、介護休業給付を受けられることが重要と考えます。
 最近、短時間労働者が育児休業給付を受けられないといった報道のされ方がありますけれども、雇用保険の被保険者でない者が育児休業給付を受給できないのは当然のことであります。子供政策強化の観点から国費等でこれらの者に給付を行うことも可能ですが、それでは実験的な対応になりかねず、それよりも雇用保険の被保険者となってもらった上で育児休業給付を支給するという方法をとるべきではないかと考えております。
 最後に、コロナ禍との関係で、これも御紹介いただきました新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の支給状況分析を見ますと、支援金よりも給付金の支給決定数、支給決定額が多いことが分かります。このデータからも、雇用保険被保険者以外の者に対する保障の必要と週所定労働時間20時間未満の者に適用拡大することの妥当性がうかがえるのではないかと思いました。
 以上でございます。
○尾田雇用保険課長 水島先生、ありがとうございました。それでは次に山川先生、お願いいたします。
○山川座長 事務局山口さん、酒井先生、大変ありがとうございました。非常に基本的で重要なお話をいただきました。
 今の水島先生のお話とちょっと重なりますので簡単にお話しします。すみません。事務局の皆さんで、雇用保険の適用範囲、資料2の2ページ目の「考え方」の右の上2つを大きく映していただけますか。
 ありがとうございます。このステートメントは非常に検討すべきところが、あるいは重要なステートメントだと思いました。極めて概念法学的に分解しますと、「自らの労働により賃金を得て生計を立てている労働者」というフレーズが危険集団を示して、「失業した場合」というフレーズが保険事故を示して、「生活の安定等を図る」というのが目的を示す文章であるということになります。
 先ほど来問題になっている自らの労働により賃金を得て生計を立てているというのが生計維持ということで週20時間以上になっているわけですけれども、これまで、特に先ほど水島先生がお話ししましたように、これは掛け持ちで生活している人とか、あるいはフルタイム、パートでも20時間以上で適用対象になって、逆に、一人で20時間以上で家族を抱えているとかなり生計は難しいのではないかという感じもしますので、どちらかというと、これは既に生計維持というよりも、自らの収入が生計に重要な役割を果たしているとか、あるいは、先ほど水島先生、一端を担うということでしたので、もうそれだけで生計維持という概念は既に現在でも言いにくいのではないかなという印象を抱いています。
 ただ、他方で重要な役割と言いましたのは、生活危険であるというのは制度の本質から出てくるので、生活危険と言えないようなものはやはり除かれると。何が重要かどうかというのはまた、20時間でない可能性も大いにあり得るかなと思ったところです。
 ただ、この問題って何のためにというのがありまして、1つは、生活のスタイルが変わったからというようなお話が1つ当然あって、それが主たる理由だと思うのですが、ひょっとしたら、裏に労働力人口の減少があるからなるべく労働市場に人をたくさん確保したいというような政策的要請がもしかしたらあるのかなという感じもします。それは保険制度の基本的な目的とは別のことであります。
 ただ、次に述べますように、それを私は考えてもいいことかなと思いますが、そういう労働市場に人がより多く参加するという効果がきちんと得られるかどうかはまた測定する必要があるかと思います。
 そこで、次の下の「考え方」のところですけれども、こちらも重要なステートメントでして、「本来想定する失業は労働者の非任意的な失業であり」という部分で、これは失業が事故であるということで、条文上は、失業の定義は、労働の意思と能力があるにかかわらず、失業した状態をいうということになっていまして、ちょっと気になったのが、非任意的な失業であると書いてあって、非自発的な離職であると書いていないというのは、これは意味が違うのかなと思ったところです。
 といいますのは、この文章は労働の意思と能力を有することが前提であるということで、労働の意思を持たない者は非任意的な失業ではなくて、任意的な失業だから保険事故に該当しないと。その場合に、非自発的な失業であるかどうかは問わないという読み方がこの文章からはできる。なので、意図的に非任意的と言って、非自発的と言っていないのかなとも思ったところです。
 つまり、失業の状態というものと失業の原因というものが概念的には区別されるので、つまり、非自発的に離職した者であっても、仕事が見つからないということが事故であると考える、失業状態の偶発性と離職の偶発性はまた別の問題と考えれば、「本来」ということは、ある意味で要らなくて、非自発的でも自発的でも、離職していれば失業には該当する。だけれども、自発的な、自己都合の離職については給付の内容等で別の取扱いをするということで、要は、ちょっとごちゃごちゃしましたけれども、失業の偶発性というのはどこにあるのかというと、例えばミスマッチとか摩擦的失業で仕事が見つからないということを偶発性と考えれば、自発的失業も、保険料取っていますから事故に該当するというのは一応説明はできるのかなと思った次第です。
 ただ、もちろん自己都合離職の場合は、事故の発生の可能性は高まるとは言えるかもしれませんので、いろんな効果面で差をつけるということはあり得るかと思います。
 そこで、以上が基本的な目的の話で、このスライドはもう離れていきますけれども、基本的な目的は、ここに書かれたように生活の安定ですが、現在の雇用保険制度は非常に政策的な色彩を強めているように思います。先ほどお話ししましたような労働力の確保というのも入るとすると、それは保険制度そのものというよりは経済政策に近いのではないかという気がします。
 先ほど申しましたように、適用範囲の拡大にこうした観点を入れても構わないと思いますが、ただ、きちんと、例えば適用範囲を拡大すれば年金の場合のように就業抑制のようなことが起こると逆効果ですので、そういうことはないようにする必要はあるかと思います。
 それから、労働力の質の向上みたいなものも多分積極的労働市場政策として考えると入ってきて、教育訓練給付などはそういう色彩が強い。先ほど皆さんもお話しされたように、前回もあったように、これは多分事故とは言いにくいと思うので、もう思いつきですけれども、三者の共同で拠出する基金のようなものだと考えたほうが、つまり、労働者にとっても能力が上がるし、使用者には生産性が上がるし、国の労働市場の質が高まるというような観点からお金をそれぞれ出し合っていると見たほうがいいのかなという感じもします。思いつきですけれども。
 さらに、成長分野とか人手不足分野への労働移動の促進というものも労働市場政策としては入るのですけれども、ただ、ここを雇用保険制度でどう仕組んでいくかというのはまだ余り考えられていない。例えば成長分野に就職した場合には再就職手当を高く出すとか、それがいいかどうかも分かりませんけれども、それを誘導するような給付の仕組みというのはあり得ないのかなと思ったところです。
 さらに派生的目的としては、失業の予防というのがもちろんあって、これは使用者都合による解雇を抑制する、だから、使用者が拠出する雇用勘定で雇用調整助成金を払うという、これは割と理にかなったお話かと思います。もちろん、モラルハザード等の問題はあるわけですけれども、要は、基本的な目的を考え直す必要があると同時に、派生的な目的もいろいろあって、それをどう実現するかというのもいろいろ考える必要があるのかなと思います。
 すみません、以上です。
○尾田雇用保険課長 山川先生、ありがとうございました。それでは、渡邊先生、お願いいたします。
○渡邊委員 資料の御説明、御報告どうもありがとうございました。大変勉強になりました。
 この雇用保険の適用範囲を改めて考えましょうといったようなお題について、私自身はまだ自分自身の考え方がまとまっていないといったような状況にあるのですが、つらつら考えているところを少しだけお話しさせていただきたいと思います。
 資料にもありますように、雇用保険制度の趣旨というのは、これまで自らの労働により賃金を得て生計を立てている労働者が失業した場合の生活の安定等を図る制度だと捉えられてきました。その趣旨に鑑みて保護の対象とする労働者の範囲というものを一定のものに限って保護を及ぼしていくといったようなことがとられてきていたかと思います。その保護を及ぼす範囲については、これも資料にありますように、一般的に保険といったようなものの原理から考えて、同種類の偶発的な事故による危険にさらされている人々が、この危険の分散を図るために危険集団を構成するものであると。雇用保険制度においては、この同種類の危険にさらされている労働者として、今現在、週の法定の労働時間が40時間であるということに鑑みまして、現行制度では週の所定労働時間20時間以上といったような形で適用基準を定めているとなっております。過去の雇用保険の制度改正でも、基本的な考え方というのは崩すことなく捉えられてきていたかと思います。
 この雇用保険の適用範囲を現行制度以上に広げようと考えた場合、問題となってくるのは、雇用保険の趣旨・目的とするところをどう捉えるのかと。自らの労働により賃金を得て生計を立てている労働者が失業した場合の生活の安定等を図るという考え方を改める必要があるのかどうかといった点を考えなければならないかと思います。また、その趣旨は変えないとした場合において、この週所定労働時間20時間という基準の定め方が妥当なのかどうかといったようなことも問題になろうかと思います。そもそもの制度趣旨というものは変更ないのだという場合に、独力で生計を立てる収入を得ている労働者といった点に照らして考えますと、労働時間による線引きを考えるのか、今はなくなっておりますが、かつての収入要件のような基準で線を引くのかといったような対応になってくるかと思います。
 事前の拠出を必要とする社会保険制度で制度を運営するのだといったような観点からしますと、保険料の負担能力といった要素は無視できない要素かと思っています。雇用保険制度の適用対象としました。そのことによって、いざというときには保障がありますよ。ですが、保険料負担によって毎月の手取り賃金は減りますよといったようなことについて、どこまで国民が納得するのか、国民としての合意というものが得られるのかといった点を考慮する必要があるのではないかと思っています。
 そのように考えていきますと、労働時間で基準を立てるといったようなところで考えれば、現行制度の週20時間といったような線引きというのは妥当なラインではないのかなあというのが個人的な印象として持っております。
 他方で、独力で生計を立てる収入を得ているといった点で考えますと、問題となっておりますマルチジョブホルダーという形での働き方については、今後は適用を見直す必要が出てくるのではないかと思っております。その場合は、異なる事業所において労働時間の把握をどうするのかといった別の問題は当然出てくるかと思うのですが、複数事業所での就労によって生計を維持するに足る収入を得ているといった方々の失業に対しては、雇用保険で対応すべきだろうというのが十分肯定できるような考え方であろうかと思っています。
 それではそもそも制度趣旨からして考え直すのだということで雇用保険の適用範囲を考えるということになりますと、これはかなり難しい問題に直面するなという印象を持っております。例えば雇用保険というものを、先ほど言った独力で生計を維持できるかどうかというのを問わず、求職者全般に対しての生活保障としての制度設計をするのだということになりますと、これは社会保険制度として制度を構築するというのが難しいのではないのかという思いを持っております。
 つまり、それはもう雇用保険というのではなくて、別の求職者生活保障制度といったような税方式で行うのがふさわしいような制度を要求しているように思っております。そういった制度を構築するのだ、新たに設けるのだということであれば、話題になっておりますフリーランスといった働き方をしている人も含めて制度の在り方を考えることができるのではないかとも思っています。
 あるいは、もう雇用保険としては雇用保険としてやっていくのだということでありますと、週20時間などの線引きをせずに、被用者として働いている人は制度の対象とするのだということであれば、事業主負担のみで保険料を徴収して、非自発的な失業というものに対しては補償は行わない。反対ですね。非自発的な失業に対してのみ補償を行うといったような制度設計をするのであれば雇用保険制度として成り立っていくのではないかと思っておりますが、その場合には、先ほど山川先生からは自発的とか否認的というような用語の使い方、いろいろ勉強になることを聞いたのですが、非自発的という言葉で表しておきますと、非自発的な失業のみを保護対象として、自発的なものは対象としないのだといったような制度の在り方が果たしていいのかどうかといった、これもまた別の問題が生じてくると思っております。その場合も、雇用保険といったような制度を根本から変更することにつながってきますので、改めて検討が必要になってくるだろうと思っています。
 最後に、既存の制度として雇用保険制度があるからといって、何でもかんでも雇用保険で対応すべきといった発想はやはり危険ではないかと思っています。雇用保険で保護すべき対象とそれ以外で対応すべきものというのはやはり分けて考えていいのだといったようなところで制度の在り方というものを考えていく必要があるのではないかという思いを強くしております。
 私からは以上です。
○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。それでは、今まで皆様方からいただいた意見も含めて、最後、酒井先生から御意見をいただければと思います。酒井先生、お願いいたします。
○酒井委員 皆様、いろいろと御意見、コメントありがとうございました。私、自分も余り整理できておりませんでしたけれども、皆さんのお考えを伺うことができて、非常にさらにいろいろなことを考えさせられたというところです。
 特に私からもう追加して述べることは余りございませんが、ちょっとだけ述べさせていただくと、私も、水島先生の御指摘にもありましたように、生計維持としての給付ということにこだわる必要はない、そういう方向性、選択肢もあり得ると考えております。そういう方向性あると思うのですが、結局、適用拡大をしていくことによって、自動的に考えればそういった、必ずしも生計維持的でない給付ということが行われるのだよということになれば、そのことをちゃんと国民が理解しなければいけないです。そこはもう国民がというか、全体を巻き込んで議論して、そこで、そういうものにしていいのだよということになれば、そういう選択肢もあり得るのかな。
 重要なことは、渡邊先生のお話にもございましたけれども、そこをちゃんと国民に知らしめて、そういうことがちゃんと共有されることなのかなと思います。だから、一番重要なのはそこかなと思っております。
 あともう一つは、山川先生のお話にございましたけれども、現状で雇用保険制度自体がセーフティネットなのか雇用政策なのかはっきりしなくなってきているというか、もう現状で既に雇用政策的な色彩がかなり強くなってきているというのは全くそのとおりで、いろいろな制度経緯というか、歴史的な経緯があってそのような姿になっているという面が現実的には強いのかなと思うのですけれども、そのようになったときに、今後さらに適用拡大ですとかそういったことを進めていくに当たって、そういった雇用政策的な色彩を強めていくべきなのかというところもやはり議論すべきところなのかなと思います。
 よく私がこういった雇用保険制度を考えているときに、いろいろなメニューがあるけれども、これは社会保険という方式が適切なのかということがしばしば思うわけですね。労使が保険料を拠出しているという制度で行うべきかというのはしばしば思うところで、それだったら、雇用保険制度から切り離して、別の、社会保険にこだわらないような制度として運営していくほうが妥当なのではないかという考えもあるかと思うのですね。ですから、それは本当にすごく制度の根幹に関わってくる、今後の方向性に関わってくるのではないかなあと思いながら聞いておりました。
 私からは以上となります。
○尾田雇用保険課長 酒井先生、ありがとうございました。
 それでは、ちょっと時間が押してしまいましたので、一応議題1については以上とさせていただきます。残り時間僅かでございますが、その他といたしまして、本日まで、雇用保険制度研究会において、本日は雇用のセーフティネットの在り方、そのほか基本手当、教育訓練給付、育児休業給付など雇用保険の各給付、あるいは雇用調整助成金、休業支援金、求職者支援制度など様々御議論いただきました。これまでの皆様の御議論の中間整理にも向けた取りまとめに当たりまして、整理の視点や留意すべき事項について皆様から御意見をいただきたいと思います。先ほどの意見に関する付随的な意見を含めまして、恐縮でございますけれども、五十音順で、酒井先生から御意見をいただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。
○酒井委員 ごめんなさい。ちょっと私、そういう流れだと理解していなくて、先ほど述べてしまったことに重複するかと思いますが、大きなストーリーとして、やはり雇用保険の中でやっていくべきなのか、それとも雇用保険制度以外でやっていくべきなのかという話があると思います。雇用保険の中でやるということであるならば、ちゃんと労使で社会保険料を拠出して、社会保険方式としてやっていくことの意義というものをしっかりと整理しなければいけないかなと思います。
 一方で、雇用保険外、一つの端緒が求職者支援制度のようなものだったかと思いますけれども、そういったものをやったときに一番問題なのは、これを誰が負担しているのかと。現状では、結局、雇用保険料で約7割くらいを負担している状況で、それが適切とも思えないわけですよね。ですので、先ほど私の話の中でジレンマ的な側面があると申し上げましたけれども、その辺りの整理というのがやはり必要なのかなあと思っております。そういったことを、これは議論を、雇用保険制度を変えていくに当たっては、雇用保険の性質がそもそも変わるのだということを、専門的な議論でなかなか難しいのですけれども、幅広く国民に共有していくということが重要な点になるのではないかなと思います。
 以上です。
○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。それでは続きまして、佐々木先生お願いできますでしょうか。
○佐々木委員 中間整理に向けた視点、留意点としましては、この研究会は雇用保険制度研究会なので、まず制度の整理が必要であることと、そして、たびたびここで議論されているように、先ほど渡邊先生おっしゃったように、雇用保険でできることとできないこと、カバーすること、すべきこと、すべきではないことというところをクリアーにすると同時に、制度のスリム化というのを検討して取りまとめていく、整理していくことが重要だなと思います。
 これもまたしばしば指摘されているのですけれども、雇用保険の目的はやはり保険事故に対する被保険者への保障なので、教育訓練給付や育児休業給付、求職者支援というのは非常に重要で、今後推し進めていくべき政策なのですけれども、果たしてこれが雇用保険でやるべきことなのかというところ、そういう議論があるというところをちょっとまとめていけばいいのかなとは思います。
 あともう一つ留意すべき視点としては、やはり今後とも効果検証の推進というのは必要なのかな。これまでもいろいろな形で効果の検証をお見せいただいたと思いますが、引き続いて最適な、例えば基本手当の水準だったり給付期間を決定するのにも最適な水準は何かを検証する際にはやはりデータを使って効果検証をしなければいけないので、今後ともデータを使った効果検証は必要であるということを留意していただければとは思います。
 以上です。
○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。それでは、土岐先生、お願いいたします。
○土岐委員 ありがとうございます。多分、働き方の多様化が進む中で、働き方によらない保護があるような仕組みを考えることが大事だなあと思う反面で、先ほどちょっと申しましたけれども、雇用保険のコアになるものが何かということをしっかり意識した上で議論しておかないと一貫した制度にならなかったり、あるいは予想しなかったような副作用が生ずるということがあり得るのかなと思っております。
 さっきちょっと生計維持にかなりこだわったような議論をしてしまったのですけれども、他方でそれにこだわり過ぎるとうまくいかないところもあるなと思って、そのときに、給付水準とかが今よりも下がる可能性があるなというところについて、国民の皆さん一般の納得が得られるのかしらというところがちょっと引っかかったりして、ちょっと生計維持にこだわらなければいけないのかなみたいに思ったところもあったので、その辺りの理解がきちんと得られれば、仕組みを根本的に見直すということも十分あり得るかなあと思っております。
 私の理解では、雇用保険の財政がいいときに導入された幾つかの仕組みがあって、それが雇用保険の機能を強化することに非常につながっていると思うのですけれども、そうしたものの中に、現在の位置づけ的に整合的に説明できるかみたいなものも幾つかあったのかなとちょっと思っておりまして、そうした点を含めて、何がコアで、それを本当に雇用保険でやるべきかやらないべきかという、さっき渡邊先生おっしゃっていたことをやはり考えることが重要かなあと思いました。
 私からは以上です。
○尾田雇用保険課長 土岐先生、ありがとうございます。それでは、水島先生、お願いいたします。
○水島委員 ありがとうございます。これまで雇用保険の本質や理念について十分に議論を確認しないまま雇用保険の給付が拡大してきた点は否定できませんし、労働政策、経済政策的に活用されてきたということもあります。雇用保険の側からはいかがなものかと思うこともありまして、そのため、渡邊先生や佐々木先生がおっしゃった制度のスリム化という点は非常に共感するところでございます。
 ただ他方で、今の雇用保険というのが時代に即していないのではないかという思いもあります。また、最近よく言われています働き方に中立的な社会保障ということを考えた場合には、雇用保険の本質というところにこだわらずにというか、そこの理念の転換というか、そこもやはり考えていく必要もあるのではないかなと思います。
 私からは以上です。
○尾田雇用保険課長 水島先生、ありがとうございます。それでは続きまして、山川先生、お願いいたします。
○山川座長 ありがとうございます。内容的なことというよりも、中間整理のまとめに向けてみたいなお話ですと、基本的には、今日も議論になりましたように、雇用保険制度の基本的な目的と、それから、その後出てきたいわば追加的な、派生的な目的を整理した上で、制度の役割分担みたいなものを検討するという論理の運びではいかがかと思います。それぞれの目的ごと、これは酒井先生も言われましたけれども、各制度の効果と要件がない交ぜになっているところがありまして、それぞれの制度の効果に照らしてどういう手段がとられるべきかといいますか、手段としての有効性みたいなのがそれぞれの制度について考えられるということかと思います。そこでは、EBPMといいますか、エビデンスに基づいてその手段の有効性を評価するというようなことではいかがかと思います。
 あとは、必ずしも委員の先生方全員が同じ考え方でも今日は特にないのかなとも思いましたし、また、この研究会はそういう性質のもの、一つにまとめる性質のものではないと理解していますので、基本的なことも含めて、考え方の選択肢といいますか、そういう論点を示すみたいなまとめ方がいいのかなと思いました。
 あと1点だけ、制度の有効性の話を、先ほど有効性を考える際の要素みたいなお話を省略したのですけれども、例えば本来的には目的を達成するのに必要十分かというのが基本ですけれども、ほかにモラルハザードのようなものが生じないかとか、あと、特に行政がやるということで制度の運営コストをどうするかとか、あとは、これはここまで書くべきかどうか分かりませんが、財政的な現実化の可能性みたいなものも制度設計を考える場合においては結構重要になるかなと思いましたので、そういう考慮要素みたいなものを挙げるということもひょっとしたらあり得るかなと思いました。
 以上です。
○尾田雇用保険課長 山川先生、ありがとうございます。それでは、渡邊先生、お願いいたします。
○渡邊委員 私からはもうほとんど申し上げることがなくて、既に出た意見と同じかと思いますが、雇用保険で対応すべき事柄なのかそうでないのか、そのほかの制度に任せるべき問題なのかどうかといったようなことをきちんと整理する上でも、雇用保険制度の趣旨、目的というものをきちんと整理する必要があろうかと思っています。
 そのような雇用保険制度の趣旨、目的を整理することで、適用範囲ですとか保険給付の内容とか、そのようなところの考え方というのが明らかになるのかなと思っております。
 以上です。
○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。
 先生方どうも御意見ありがとうございました。そうした御意見も踏まえて、また改めて議論を進めていただきたいと思っております。
 それでは、本日の議論を踏まえて山川座長から総括的なお話をお願いいたします。
○山川座長 ありがとうございます。3回同じことを言うことになりそうですので簡単にまとめますと、今回は恐らく、これまでも基本的な議論をしていましたけれども、最も基本的な議論ができた回だったのではないかと思っておりますので、それを踏まえてさらにいろんな議論ができていければなと思います。どうもありがとうございました。
○尾田雇用保険課長 委員の皆さんありがとうございました。山川座長、失礼いたしました。
 本日は、皆様方、闊達な御議論いただきまして誠にありがとうございました。これをもちまして、本日の研究会は終了させていただきます。次回の日程及び会場につきましては追って連絡させていただきますので、よろしくお願いいたします。
 委員の皆様、本日はお忙しい中ありがとうございました。