第3回社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提に関する専門委員会 議事録

●日時

2023(令和5)年4月5日(水)10時00分~12時00分

●場所

TKP新橋カンファレンスセンター 15F ホール15D 

●出席者

深尾委員長(オンライン)、権丈委員、小枝委員(オンライン)、武田委員(オンライン)、玉木委員、土居委員、徳島委員、藤澤委員、川口教授(東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科)(オンライン)
(オブザーバー)
前田参事官(内閣府計量分析室)、泉審議役(年金積立金管理運用(独):GPIF)、相澤企画部長(年金積立金管理運用(独):GPIF)

●議題

(1)有識者及び委員からのヒアリング
(2)総投資率と利潤率の関係について
(3)その他

●議事録

佐藤数理課長
定刻になりましたので、ただいまより、第3回「年金財政における経済前提に関する専門委員会」を開催いたします。
 委員の皆様におかれましては、御多忙の折、お集まりいただき、ありがとうございます。
 本日の委員の出欠状況について御報告いたします。
 本日は、深尾委員長と武田委員からオンラインでの御参加、小枝委員からは遅れてオンラインでの御参加の旨の御連絡をいただいております。なお、植田委員におかれましては、3月31日付で御退任されたことを御報告いたします。
 オブザーバーにつきましては、内閣府計量分析室から前田参事官に、年金積立金管理運用独立行政法人から泉審議役と相澤企画部長に御出席いただいております。
 また、本日は、有識者からのヒアリングを行いますため、大変お忙しい中、東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科教授、川口大司様にオンラインにて御出席いただいております。
 深尾委員長ですが、本日、発熱とせきの症状が出ているということでオンラインにて御参加いただいておりますが、議事進行については難しいということであります。本委員会はあらかじめ委員長代理を定めておりませんでしたが、委員長と御相談した結果、本日の議事につきましては玉木委員に代理をお願いしたいと思います。皆様、よろしいでしょうか。
 
(首肯する者あり)
 
佐藤数理課長 
 それでは、玉木委員、席の移動をお願いいたします。
 
(玉木委員、委員長席へ移動)
 
佐藤数理課長 
 続きまして、事務局の人事異動について御紹介いたします。
 総務課長の小野でございます。

小野総務課長 
 小野でございます。よろしくお願いいたします。

佐藤数理課長 
 なお、本日、審議官は公務により遅れて出席、また、年金課長は公務により欠席させていただいております。
 続きまして、審議に入ります前に資料の確認をさせていただきます。
 本日は、資料1「日本の賃金の変化」、資料2「日本の労働生産性に関するデータの整理」、資料3「総投資率と利潤率の関係について」、資料4「委員からお求めのあった資料等」をお配りしております。
 以降の進行につきましては玉木代理にお願いいたします。

玉木委員長代理 
 それでは、改めまして、委員の皆様には、御多忙の折、お集まりいただき、ありがとうございます。また、深尾委員長におかれましては、体調御不良のところ御参加ありがとうございます。
 議事に入らせていただきます。
 カメラの方々はここで退席をお願いいたします。
(カメラ退室)

玉木委員長代理 
 それでは、まず、有識者及び委員からのヒアリングということで、川口様と滝澤委員、お二方からの御説明と、御説明に対する質疑の時間を設けさせていただきたいと思います。
 まず、川口先生から資料1についての御説明をよろしくお願いいたします。

川口教授(東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科) 
 おはようございます。東京大学の川口と申します。画面のほうを共有させていただきながらお話をさせていただければと思います。
 私、専門が労働経済学でございます。今日は、日本の賃金の変化について、特に中長期的な見通しについて話をしてほしいというふうに依頼を受けましたが、短期的なところからお話をしたいと思うのです。
 日本の賃金が上がらないということがずっと指摘されてきておりまして、それについては様々な理由が指摘されているわけですけれども、今春の春闘に関しては、多くの大手企業が労働組合からの要求に対して満額回答をしたということが広く報道されております。この主要企業というのは、従業員規模が1000人以上で、資本金が10億円以上の企業なのです。あと、組合があるということです。これらの企業がどういうふうに賃上げをしたのかというところに関しては、厚生労働省のほうで民間主要企業春季賃上げ調査というものをやっておられて、それを集計した結果を夏に発表することになっています。ですので、2023年の賃上げに関してはまだ統計は出ていないという状況なのですけれども、去年のものに関していうと2.20%だと。
 時系列を持ってきたのですけれども、2013年ぐらいから2%を超える賃上げが実現されてきたというのが実態でして、大企業に関していうと、賃上げが全くなかったわけでもないというのが実態です。コロナのところで2%を切るところが1回あるのですけれども、ずうっと人手が足りないという基調はあって、結果として賃上げの基調にあったと言っても差し支えないかなと思います。今年は、足元のインフレ等の影響を考えると、恐らく3%ぐらいまで上がるのではないかと私は考えております。多くのエコノミストもそのような予測をしておられるようです。
 これは大企業の賃上げであって経済全体の賃上げではないという話がございます。それはもっともでして、大企業の賃上げと経済全体の賃上げの関係は一体どういうふうになっているのかを見てみたのがこのグラフになります。
 横軸は、先ほどの主要企業の春季賃上げ率でございます。今年は3%ぐらいになるのではないかと申し上げましたけれども、その数字です。これは、過去20年、30年ほどの関係をプロットしたものになるのですけれども、縦軸のほうに経済全体の賃金上昇率を取っています。経済全体の賃金上昇率といったときに何を見るかということがございまして、これは賃金構造基本統計調査という毎年6月の状況を厚生労働省が調べた統計から作られています。
 賃金の時系列を見るときに考えなければいけないのは、平均賃金というものを考えていくと、働いている人の構成が時代とともにどんどん変わっていくのです。特にアベノミクス以降なのですけれども、女性の就業率の上昇が激しいものがありました。女性の賃金は男性に比べると平均的に低いですので、女性の構成比率が上がると平均値を押し下げるような効果が機械的に発生する、自動的に発生してしまうということがあります。
 例えば、我々、時系列で物価水準を捉えることを考えるときは、バスケットを固定して、そのバスケットを買うのにかかる費用がどういうふうに変化しているのかを見ていくわけです。ですので、構成物は一定にして価格の動きを捉えるということが一般的にはなされるわけですけれども、賃金統計に関していうと、そういうことは余りされていないのです。平均賃金が時系列でずうっと動いていくときに、それは、同じタイプの労働者の賃金が変化している部分と働いている人の構成が変化している部分が両方合わさってしまっていることになります。物価の例で言うと、バスケットがどんどん変わっていってしまっているという統計になってしまうわけです。
 その問題は広く認識されていて、労働政策研究・研修機構(JILPT)と呼ばれる厚労省の外郭団体、旧労働省系の外郭団体ですけれども、JILPTが賃金インデックスを作っておりまして、ラスパイレスインデックスという、ある種、労働者のバスケットを固定して、賃金がどういうふうに変化しているのかという指標を作っておられます。ラスパイレス指標と呼ばれるものですけれども、各労働者の属性ごとに、例えば、男性の20から24歳の人の賃金上昇率が何%ありましたかというのを計算する。25歳から29歳は何%あったか。こういうのを計算していって、その加重平均したものがラスパイレス指標と呼ばれるものになります。そうすると、労働省の構成は固定した上で経済全体でどれぐらいの賃上げが実現されたのかということが分かります。これが縦軸に取られている数字になります。
 見てみると、大手企業の春季の賃上げとラスパイレス指標の間にはプラスの相関関係がありまして、大企業の賃上げ率が1%上がると、ラスパイレス指標のほうも0.93%上がるという形で、1対1とまでは言いませんけれども、かなり強い意味で相関関係があることが分かります。
 ただ、水準が低いのです。水準が2%ほど低いところに位置しています。ですので、仮に3%の賃上げが実現するとしても、今までの経験則からいうと、今年の経済全体の賃上げ率というのは0.7%ぐらいになるだろう。こういったことがこの関係からは予測されます。ですので、春季の広く報道されている賃上げ率と、足元で感じている賃上げの間のギャップというのは、主要企業とその他企業全体の間で発生している賃上げのギャップということが反映されていると考えることができるかと思います。
 ここまでが短期の話です。短期に関していうと、賃金上昇というのは起こるし、実際に起こっているわけですけれども、経済全体にも波及していくだろう。ただ、経済全体で見て3%の賃上げが実現できるのかというと、率直に言って厳しいだろうという見通しを持っています。
 では、この賃金動向というのは一体どういうふうに決まるのかというところの理屈を少し御紹介したいと思います。
 一番簡単な考え方は、需給で決まるという考え方です。需給で賃金が決まるという考え方が、外部労働市場における需給による賃金決定と呼ばれる、ここで書いたものになります。
 もう一つは、企業の内部のロジックによって賃金が決まっていくという内部労働市場の構造要因。特に大企業の正社員の賃金はこの内部のロジックによって決まっているところが大きいです。外部労働市場と内部労働市場の合わさったところで、人によっては、外部労働市場で働いていて、賃金決定は外部労働市場のメカニズムによって決まっている、これはいわゆる正規の人々です。有期雇用の方であったり、短期間労働の方であったり、間接雇用の方であったり、こういった方々の賃金というのは主に外部労働市場における賃金決定だと考えてよいと思うのです。
 一方で、正社員の方が無期で働いていて、フルタイムで働いていて、直接雇用の方々、こういう方々に関していうと、内部労働市場で賃金が決まっているような側面が強い。特に大企業の方々に関してはそういう側面が強いということが言えます。
 外部労働市場に関していうと、短期の労働需給で賃金が決まっていて、現状としては市場というのは引き締まっていて賃上げ圧力になっているということが言えます。引き締まっている理由については後で少し述べたいと思います。
 内部労働市場に関していうと、伝統的な大企業の中での賃金決定のように、企業内部での処遇決定。外部労働市場は引き抜きや離職の決定要因としての制約条件にはなるのですけれども、各企業が処遇を決定するというのが特徴になっています。例えば、大企業で賃金設計をしていくのですけれども、余りにも賃金が低いと転職されてしまうので、そこの部分、外部で、内部の会社員はどれぐらいの賃金を得られるかというのは、賃金設計する際の制約条件にはなるのですけれども、その制約条件が満たされている中では企業がかなり自由度を持って賃金設計をすることができるというのが内部労働市場という考え方になります。
 では、働いている人の賃金をだんだん上げていくということをなぜわざわざ企業はやるのか。外の賃金にマッチするようにぎりぎりの低い賃金を支払えばいいように見えるわけですけれども、労働者の技能育成ですとか、労働者に技能育成のためのインセンティブを与えないと、企業が一方的にトレーニングをやったからといって技能が蓄積するわけではないので、労働者にも技能蓄積のインセンティブを与える。このためにその技能蓄積と賃金の間にリンクを作り出す。あるいは、同様の話ではありますけれども、管理職を養成する。より上位の管理を伴う仕事をしている人に関しでは賃金を上げていくということが必要です。あるいは、トーナメント構造で、競争構造を企業の中の賃金構造として作ることによって労働者のやる気を引き出すといったこともあります。
 また、単純にトーナメント構造でないにしても、パフォーマンスに応じて賃金を動かすという成果給的な賃金を入れることによって労働者のやる気を引き出すといった様々なメカニズムが経済理論の中では提案されておりまして、理論物議をするときは1つのことに注目しながら分析をしていくわけですけれども、それらが合わさったもので内部の賃金構造というのは決まっているということでございます。でも、こうなってくると、短期の需給では賃金は決まらないわけです。
 日本の大企業の賃金構造に関して何が既に労働経済学者の中で言われているかというと、例えば日本の長期雇用であるとか年功型の賃金体系、あるいはボーナスをたくさん支払うといった特徴というのは、日本の経済の技術水準が遅れていて、最先端の技術にキャッチアップするようなタイプの経済成長の中では合理性があったということが言われています。特に生産のプロセスをちょっとずつよくするみたいな技術進歩、技術向上を実現するためには、日本型の雇用慣行というのは適合性が非常に高かったということが言われています。
 でも、その日本の経済が技術の一番のフロンティアのところに来て、イノベーションを通じてしか成長しないといった段階に来たときに、いわゆる日本型の雇用慣行というものが経済性、合理性を持っているかというと、必ずしもそうでもないということがあります。ですので、長期的な視点に立った社内の人材育成の重要性というのは総体的に低下していると言われています。これが直接見られているというよりも、勤続年数が短期化しているとか、勤続年数に伴う賃金上昇の幅が限定的になっているといったことをもってこのような議論がされています。
 あと、大企業でも、いわゆるジョブ型雇用の導入というのが言われておりまして、勤続を重ねていくことによって賃金が自動的に上がっていく側面というのは影を薄くしているというのが実態だと思います。日本銀行の研究で、勤続年数に伴う賃金上昇率をまとめた研究があるのですけれども、近年、勤続年数に伴う賃金上昇というのは小さくなっているという報告もされています。このように日本型の雇用慣行の特徴が弱まっていくということは、勤続に伴う賃金上昇がなくなっていくということですので、賃下げの圧力になっている。短期では賃上げなのだけれども、内部労働市場の理由によっては賃下げだと。こういった2つのメカニズムが合わさったところで賃金動向は決まっていくのだろうと考えています。
 短期のところでなぜ賃金が上がっていくのかという話なのですけれども、日本の賃金が上がらなかった1つの理由は、供給が緩かったということがあるわけです。その供給が緩かったというのはどこから来たのかというと、女性の就業率の向上が1つの原因です。あるいは主因です。この黄色い線が2000年の女性の年齢別就業率で、赤い線が2023年の女性の年齢別就業率です。全ての年齢層でこれが大きく上がっているわけです。もう既に25歳から54歳の層に関していうと、8割まで就業率が上がっていますので、この側面から、女性の労働供給がより伸びていくということは考えにくくなっているのではないかと思います。そうすると、供給の伸びが今後抑えられていくのではないか。これが短期で賃金が上がっていくと思う理由の1つです。
 もう一つは、社会保障・人口問題研究所の人口予測ですけれども、15歳から64歳のいわゆる生産年齢人口と呼ばれるものは減っているということでございまして、2040年にかけては、この生産年齢は毎年70万人のペースで減っていくのです。これはかなりのペースで減っているということでありまして、この現象を打ち消すような供給増というのはなかなか考えにくい。
 例えば、その供給増の要因としては外国人労働者というのがあります。毎年70万人減っていくので、その分、どこかから埋めなければいけないという形の力が働きますが、実際に外国人労働者の数は着実に増えているのです。2000年の時点では20万人というところだったのですけれども、直近の21年だと172万人まで増えていますので、激増しているということが言えます。
 この中で2018年に特定技能制度というのができました。日本の移民政策は基本的にはブルーカラーは入れないということでやってきました。そこの実態と建前のギャップを埋めるために技能実習制度というのがあって、トレーニーとして日本に入ってきてもらうということをやっていたのですけれども、彼らもトレーニーなので雇用主を替えることができなくて交渉力が弱いという問題が根本的にはあって、諸外国からそれが強く批判されるようなこともあり、遂に2018年には特定技能制度というものができました。これは、ブルーカラーの人たちを正面から労働者として日本の労働市場の中に入れるという政策転換で、大きな政策転換だと思います。ですので、今後もブルーカラーの外国人労働者が日本に入ってくるという流れは続くと考えます。コロナで一回落ち着きましたけれども、コロナも収束しつつあり、この中で外国人労働者の方々は増えていくだろうと予想しますが、毎年70万人減っていくというペースで外国人の方が入ってくるということはちょっと考えにくいのかなと考えます。ですので、需給は締まるということで賃金は上がっていく、そういうことがあるだろうと。
 一方で、日本型雇用慣行の変化に関していうと、勤続年数が短期化しているとか、勤続年数と経験年数と賃金の間の関係である賃金カーブは平たん化しているということが指摘されております。これは結構前の研究なのですけれども、長いトレンドの中で起こっている変化なので、現在も進行していると考えてよいと思います。
 そうすると、今後トータルで何が起こるのかということを考えますと、いわゆる外部労働市場のメカニズムで賃金が決まっている労働者に関しては賃金が上がる、一方で、内部労働市場のロジックで賃金が決まっている労働者に関しては賃金が伸び悩むという異質性が立ち現れるのではないかと思っています。
 今後の流れなのですけれども、今、足元のインフレで、賃上げをするというメカニズムができ上がったと。足元のインフレに今年の大企業の賃上げですら追いついていないという状況があって、恐らく、しばらくは賃上げというのは続いていくのではないかと考えています。
 名目での賃上げをやるというのは、賃金構造を変えていく好機でもあるのです。というのは、名目で賃金インフレがゼロの状態で、誰かの実質賃金を上げて誰かの実質賃金を下げようとすると、誰かの名目賃金を下げなければいけなくなるということなのです。全体的に賃金インフレが起こっている状況で、例えば中高年の名目賃金は据え置いて、若い人の名目賃金だけを上げるということをやれば、誰の名目賃金もカットすることなく賃金カーブをフラット化することができるということが起こります。ですので、インフレ基調のもとでは賃金調整がやりやすいということは知られていて、その特徴を生かしたような賃金構造の変化が今後起こっていくのかなと思います。それは賃金カーブのフラット化であり、雇用形態間の賃金格差の解消であり、男女間賃金格差の解消であるということではないかと思います。
 最後に、ちょっと関係がない話に聞こえるかもしれないですけれども、冒頭申しましたように、日本の賃金統計は、もちろんJILPTのラスパイレスのような試みというのはあって非常に重要だと思うのです。厚生労働省の毎月勤労統計とか賃金構造基本統計調査はサンプルサイズも大きくて回収率も高いので、ここ数年でいろいろな問題が指摘されたのですけれども、やや批判が過ぎるのかなと個人的には思っておりまして、これらの統計というのは引き続き重要な役割を果たしていくと考えています。
 こういった統計の質の精査・研究も総務省統計局さんと一緒にやったのですけれども、かなりしっかりとした統計だというような結論に至りました。問題は、この統計が悪いというよりも、統計の特性上、労働者の構成が時間とともに変わっていくことに対して頑健ではないのです。特に毎月勤労統計に関しては事業所単位での総労働時間と総賃金支払いしか聞いていないので、誰が構成者になっているかというのが分からないのです。そうすると、本当は同じ労働者の賃金変化を知りたいので、パネル調査がどうしても必要になります。
 これは何が深刻かというと、毎月勤労統計というのは日本銀行の展望レポートなどでも引用されていて、毎月勤労統計の賃金統計を時系列で見ながら経済政策が決定されているようなところもあって、それが労働者構成の変化によってぶれてしまうという特性を持っているのはかなり大きな問題ではないかと思っています。
 この問題を根本的に解決しようと思うと、同じ労働者をトラックしたパネル調査が必要なのですけれども、例えば税務情報です。国税庁ですとか東京大学の政策評価研究教育センターでも税務情報を使った研究を行っておりますけれども、こういった情報を使いながらパネルデータを作成することが大切だろうと思います。
 厚生労働省さんはまさに年金のところなのですけれども、年金の払い込みも給与収入にリンクしている部分がありますので、それを使って賃金変化を捉えることができるはずだと考えています。諸外国では、年金の払い込みに関する業務提携というのは学術研究のために使われているという例がありまして、こういったことも考えていく必要があるだろうと思います。
 あとは、賃金処理というのは、今、クラウドで行われているケースも結構あるわけです。大手企業は、例えばCOMPANYというシステムで賃金処理をしているケースが多いのですけれども、こういった情報を使うと、同じ労働者の賃金が去年に比べて今年はどうなのだということが計算できるので、そういった情報を使った統計の作成も考えていく価値があるのかなと思います。もちろん、企業が保有している個人情報をそういう目的のために使ってもいいのかどうかということに関しての法務的な議論の整理というのは必要になってくると思いますけれども、賃金の動向が年金制度の中で重要な役割を果たすのであれば、この賃金統計の整備の重要性というのはこちらにおられる方々にも知っておいていただきたいと思うことです。
 ちょっと話がそれてしまいましたけれども、これで私の発表を終わりにさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

玉木委員長代理 
 川口先生、ありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明につきまして、御質問等がございましたらお願いいたします。
 深尾委員長、お願いいたします。

深尾委員長 
 川口先生、御報告大変ありがとうございました。この委員会では、長期的な労働の需給を考えるときに、基本的にはコブ・ダグラス型の生産関数のようなことを考えて、資本と労働の代替の視点から予測をしているのですが、そのときのコブ・ダグラス型の生産関数のパラメータ、つまり労働分配率が今後10年、20年、我々、仮定を置かないといけないのですけれども、今の川口先生の御指摘に基づいて考えるとどうなっていくというふうに。例えば技術の変化とか日本型雇用慣行の変化とかを考えるとどうなると思われますか。答えるのが非常に難しい質問だと思うのですけれども、お考えをいただければ。特にどういうことが重要であって、こういうことを注視していかないといけないといったことを含めて教えていただけると助かります。

川口教授(東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科) 
 どうもありがとうございます。
 まさに今、深尾先生から御指摘いただいた点は重要だと思います。技術の進歩によって労働分配率が下がっていく可能性があるというのは御指摘のとおりではないかと思います。分配はそれほど重要ではないのかもしれないですけれども、今起こっているAIの変化というのが、ひょっとすると広義の労働者の賃金を下げるような方向で働く。今までは、ICTですとかロボットというのは技能が低い労働者の賃金を下げるような方向で働いてきたと言われていると思います。このAIに関しては、研究もまだそれほど進んでいるわけではないですけれども、知識労働者のやっていることを代替していくという側面が強いことも最近分かってきていると思うので、いずれにせよ、技術進歩によって分配率が下がっていくという側面はあるのかなと思います。
 あとは、これは深尾先生のほうがより御専門だと思いますけれども、資本価格が下落して、特に技術的な話がなかったとしても、代替の弾力性が仮に1よりも大きいとするならば、コブ・ダグラスなので変わらないということかもしれないですけれども、実態としては代替の弾力性が1よりも大きくて、資本価格が下落していくと、資本の分配が増えていくということもあるのかなと思っています。
 あとは、労働市場の話で日本型雇用慣行の話とも関係するのですけれども、注目されているのは価格支配力です。生産物市場における価格支配力の上昇によって、付加価値は増えるのだけれども、労働者に対しての分配は必ずしも増えないので分配率は下がっていくという生産物市場を通じての話。もう一つは、労働市場において買手独占力が強くなっていく。これによって労働者の分配率が直接的な意味で下がってくる。こういう2つの議論があると思います。これは2つとももっともらしい議論かなとは思います。
 私は、個人的にすごくそうだなと思っているのは、別におべっかを言うわけでも何でもないのですけれども、深尾先生が以前から非正規労働者の増加というのが重要だということを御指摘されておられます。経済学の文献の中で、この雇用形態の変化による分配率の低下というのは言われていないようにも思うのですけれども、重要だと思います。
 それほど多くない文献の中で言われているのが、技術の進歩によって仕事のタスクが分けやすくなって、アウトソースできるようになりましたと。ドイツの実証研究なのですけれども、例えば大企業で働いている清掃員の方というのは、昔は直接大企業で雇われていて、その大企業で働いていることのレントというのを取っていたのだけれども、今はアウトソースされるようになってしまったので、その清掃員の方が大企業に勤めているレントを取る機会はなくなって低賃金になってしまったということが言われています。
 これは恐らくドイツの清掃員だけに限った話ではなくて、IT技術の進歩等によって仕事を分割することが容易になっているというのはいろいろな側面で実現していて、ゆえに大企業は、何らかの意味で、稼いだレントというものにありつける労働者の数が少なくなっているのではないかという気がしています。非正規労働者の方々はレントを取るような賃金構造になっていないので、外部労働市場の競争的な賃金しかもらえないという形になっています。そういったこともあって分配率が下がっていくのかなと思います。
 ですので、技術と労働市場の構造と両方大事だというのはまさにそのとおりです。なので、どれぐらいのパーセンテージで下がっていくというのを言えないのが申し訳ないですけれども、視点としてはその辺に注意を払っていくべきなのではないかと思います。

深尾委員長 
 ありがとうございました。

玉木委員長代理 
 川口先生、ありがとうございました。
 ほかに御質問等いかがでしょうか。
 滝澤先生、どうぞ。

滝澤委員 
 学習院大学の滝澤です。
 川口先生、本日はありがとうございました。3ページ目の図を大変興味深く拝見しました。これは縦軸が全体の賃金上昇率だと思いますが、主要企業が2%ぐらい賃上げをしている中で、全体の賃金上昇率が結構マイナスで出ていたりするのです。これというのは、大企業のほうだけ賃上げができているという話は例えば製造業などでよく言われていますけれども、中小企業が価格に転嫁できないで賃金上昇がなかなか達成できないとか、そういう影響があるものなのかどうかということをお伺いしたいと思います。

川口教授(東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科) 
 そうですね。なぜ波及していかないのか、あるいは、右上がりなので波及はしているのだけれども、その絶対値が低いのかという話かなと思うのです。おっしゃるような垂直的な分業の中で、いわゆる下請の企業が中間財を川下の企業に売るときに価格を上げることができないので賃金が上がらない、そういったメカニズムも恐らくあるのだろうなとは思います。ですので、ここのところの波及が一体どういうふうに起こっているかということに関しては、率直に言って分からないとしか言いようがなくて、企業間の取引データなどを使って、川上の企業が賃上げ、あるいは川下の企業が賃上げをしたときに、川上の部品メーカーで賃上げがどういうふうに波及していくのかみたいなことは恐らく今後の研究課題なのかなと思います。ですので、ここのざっくりとした右上がりの関係の裏にある、よりマイクロな構造がどうなっているかというのは、滝澤先生御指摘の点というのは1つの仮説として非常に有力な仮説だと思うのですけれども、少なくとも私の知っている限りだと、そういう研究はまだ余りされていないような気がします。間違っていたらすみません。

玉木委員長代理 
 ありがとうございました。
 ほかにございますでしょうか。
 権丈先生。

権丈委員 
 川口先生、どうもありがとうございます。権丈です。
 この会議は100年先ぐらいまでいろいろ見通すために、前提となる経済変数を仮置きをしていろいろと試算をしなければいけないのですけれども、長期的に見て外部労働市場と内部労働市場の影響はどちらのほうが大きく出ると考えられているか。外部は上昇圧力、内部は下方圧力という形になるのですけれども、さてどうなるのか。と同時に、外部のところが今まで賃金のところをずっと作ってきたというのは、外部労働市場が非常に緩かったから、低賃金労働者でもいいよという制度を数多く作ってきたという側面もあると思うのです。制度がそうさせてきた。そして、その制度というところの根っこの部分のレントシーキング活動みたいなものを、これからの外部労働市場の圧力が阻害していく形になっていて、経営者側から見ると非常につらい状況が来るというような動きもある程度予測できるのではないかと思うのですけれども、さて、100年先ぐらいまでにどちらの影響が出るのかというのを教えていただければと思います。

川口教授(東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科) 
 ありがとうございます。
 数量的な構成比率の問題と価格の動き方・賃金の動き方の2つに分けて考えてるといいのかなと思っています。今後、いわゆる日本型雇用慣行の重要性はより低下していくのは間違いないと思っています。ですので、内部労働市場の重要性は下がっていくだろうとは思います。
 ただ、今、内部労働市場で決まっている賃金構造というのは影響力がすごく強いのも事実なので、そこの部分が。内部労働市場が増えると、そこは賃上げの圧力が効いているので、賃金が上がってきそうに見えるのですけれども、トランジションの中で日本型の雇用慣行の重要性が低下していくと、勤続年数の上昇に伴う賃金増加というのがなくなるという賃下げ圧力が入ってくるので、ここの価格の動きのところが十分に大きいと考えると、そこの構成比率がちょっとずつ減っているからといって、そこの動きが無視できるかというと、そうでもないだろうと思うのです。ですので、いわゆる日本型の雇用慣行で働いている人が絶滅するまでの期間においては、賃下げ圧力というのも相応に効いてくるのではないか。100年後とかに行くと、新たな均衡に行き着いて、人口動態がこのまま続けばということですけれども、賃上げの圧力がより強く効いてくるのかなと思います。
 権丈先生がおっしゃられたことはそのとおりで、外部労働市場のところに供給余力があるので、それを見越して制度が形成されてきた。なので、その余力がなくなると、そういった制度が段々と機能しなくなるというか、それではおかしいだろうという話が出てくるというのは自然なことなのかなとは思います。ありがとうございます。

玉木委員長代理 
 ありがとうございました。
 あと、武田委員、手が挙がっているようでございます。どうぞ。

武田委員 
 ありがとうございます。川口先生、本日は大変すばらしい御講演をいただきましてありがとうございます。三菱総合研究所の武田でございます。
 1点目は、先ほど滝澤先生も御指摘、コメントされました3ページの図表です。こちらに大変関心を持ちました。仮説の1つは、滝澤先生がおっしゃられたように、転嫁率の問題で、日本ではなかなか転嫁を認めづらい商慣行が根強いですが、それがこの1年で大分変わってきており、弊社の分析によりますと、日本でも数十%程度の幅で価格転嫁率が上昇し始めているというデータ分析がございます。アメリカ、ヨーロッパと比べてもその転嫁率はまだまだ低いですが、着実にその差が縮まっており、場合によっては、5年後ぐらいに振り返った際、今を契機に少しカーブが変わってくる、そんな仮説もあるのではないかと思いました。
 2点目は新陳代謝の問題です。これは、世界的に昔から日本が指摘されている問題で、生産性が高い企業と生産性が低い企業が混在しており、生産性が高い企業はこの正の相関がプラスの圏内で機能している一方で、生産性が低い企業が退出していないがゆえに、滝澤先生がおっしゃったように、2%以下のところがマイナスに見えてしまう問題はないのかという点です。
 3点目、このカーブが海外と比べてどうなのかという問題が気になりました。今申し上げた2点が日本の特徴として挙げられる点だと思います。海外ではこの2がゼロになっているわけではなく、中小企業と大企業の賃金の波及の関係が、例えば3であれば2%、2であれば1%ぐらい高いという成果はあるのかどうか。そこが見えていると、先ほどの2点が変化すれば海外と同様のカーブで考えられるということもあるのか。もしよろしければお考えを伺えればと思いました。ありがとうございます。

玉木委員長代理 
 川口先生、お願いいたします。

川口教授(東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科) 
 御質問ありがとうございます。
 転嫁の問題については、財の市場における価格転嫁の問題と、中小企業が高い値段で物を売れたときにそれを賃金に転嫁するかどうかという問題と、両方あると思うのです。ですので、両方見ながら考えていく必要もあるのかなと思いました。
 新陳代謝に関していうと、それが弱いという研究はあると思うのです。今回、コロナ対策で中小企業金融がかなり緩んだこともあって、そのペースがより遅くなってしまったのではないかというのは心配しているところではあります。そのカーブが海外においてどうなっているかというのは、残念ながら、私、知らないのですけれども、特に日本の春闘で大企業の賃金設定が行われて、中小がそれにフォローするというのは、必ずしも日本特有とは言えないかもしれない、海外でもあるのかもしれないですけれども、私のほうでは存じ上げていないので、ひょっとしたら、もうちょっと設定の位置が高いということがあるのかなとは思いました。
 どうもありがとうございました。

武田委員 
 ありがとうございます。

玉木委員長代理 
 川口先生、ありがとうございました。
 では、もうお時間も押してまいりましたので、川口先生、本日はお忙しい中、御講演をいただき誠にありがとうございます。川口様は所用により御退席となります。

川口教授(東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科) 
 どうもありがとうございました。失礼いたします。
 
(川口教授退席)

玉木委員長代理 
 引き続きまして、滝澤委員から資料2について御説明をいただきたく、よろしくお願いいたします。

滝澤委員 
 ありがとうございます。このたびはこのような機会をいただきまして、ありがとうございます。本日、御体調不良でオンラインで御参加いただいている深尾先生は、私の指導教官の1人でありますので、報告するのにいささか緊張しておりますけれども、せめて時間は守りたいと思います。
 2ページ目を御覧ください。本日は特に賃金と労働生産性、労働分配率の関係について、先行研究ですとか、私がこれまでに行ってきた分析の紹介をさせていただければと思います。
 御承知のとおり、特に実質賃金の変動を考える上で労働生産性の動きが重要になってくるかと思います。最初に、データを用いたマクロレベルの労働生産性の成長率の分解の国際比較の結果を御紹介します。その後、産業レベル、企業レベルの分析の結果を御紹介します。
 まずは、マクロレベルの国際比較の結果ですが、4ページ目を御覧ください。こちらの図は、生産性に関連するデータベースを構築・公開している国際的コンソーシアムでありますEUKLEMS&INTANProdにおける最新のデータを使って、労働生産性の成長率の要因分解を4カ国で示したものです。日本からは深尾先生が代表を務められているRIETIのJIPデータベース構築チームが、データを提供されていて、近々日本も、今、2018年までで図表を作っておりますけれども、2020年あたりまでデータを延長されるのではないかと思います。
 労働生産性成長率は、この図で申し上げますと、Labour compositionと書かれている労働の質、有形の非ICT資産投資、有形のICT資産投資、無形資産投資、そしてTFPの伸びに分解できます。
 日本ですけれども、右下の図を御覧いただきますと、まずは、近年にかけて、米国、英国と同様に労働生産性の伸び率が低下していることが分かります。それから、これらの国の中では労働生産性の伸びが最も小さくなっていることが分かります。近年の労働生産性上昇率減速の主な要因ですけれども、労働の質上昇の減速、有形の資本ストック増加率の減速、それから、他国と比べると低い無形資産投資の増加率などで説明できるのではないでしょうか。
 この図で赤の部分のTFP成長率を日本について見ますと、近年、2011年以降、貢献が大きいように思えますけれども、絶対値で見ますと0.5%未満の寄与度になっております。TFP成長率の低さ、労働の質の上昇率の遅さ等、気をつけるべき点が幾つかあるかと思います。
 それでは、先に進みまして、産業別の日本の労働生産性水準の状況を概観したいと思います。
 まず、6ページ目は、産業別の絶対水準の比較をする前に、日本生産性本部が公表している日米のマクロの労働生産性水準の比較図になります。アメリカを100としたときの就業者1人当たり、あるいは1時間当たり労働生産性水準が示されておりますけれども、日米の格差は一層広がる傾向にあります。アメリカを100とすると、大体60程度の水準になっています。
 7ページ目を御覧ください。こちらは産業別の結果です。今、2017年が最新年で、まさに延長しているところですけれども、2017年における米国の産業別労働生産性水準の平均を100として、日本の産業別労働生産性水準。こちらは1時間当たり付加価値額ではかっておりますが、横軸は付加価値のシェアを示したものです。図の上で白抜きとなっている業種は製造業で、青の網がけとなっている部分がサービス業に属する産業です。この図から、日本の労働生産性がアメリカの労働生産性を超えている産業は、このときは化学産業のみで、大半の産業において労働生産性がアメリカを下回っていることが分かります。
 特に第3次産業、金融・保険、専門・科学技術、業務支援サービス業、その他サービス業といったごく限られた業種以外はアメリカの半分にも満たない状況であるということです。サービス業全体で見ても48.7、アメリカの半分未満の水準です。製造業はアメリカの7割程度となっております。
 労働生産性水準の国際比較はいろいろと難しい問題があります。例えばどういった為替レートを使うべきかといった問題ですとか、そもそもサービス業は、特に対個人サービス業についてはどのように比較すべきなのか、サービスの質は考慮されているのかどうかなどの問題が指摘されています。日本は労働を投入することできめ細やかなサービスをたくさん提供していますので、労働生産性が低く計算されても仕方がないのではないかという指摘があります。
 8ページ目を御覧ください。こちらは、深尾先生方が調査された日米のサービスの品質差に関する調査の結果です。この数字は、willingness to peyといって、支払い意思を示しているものです。例えば「日本と同じサービスが受けられるならば幾ら多く支払ってもよいですか」という問いに対して、一番上のタクシーのサービスに関しては1.19、大体2割程度多く支払ってもよいという結果になっているということです。この図は、右側に棒が出ているほどサービスの品質が日本のほうが高いという結果になりますので、ほとんどの対個人サービスで日本のほうが品質が高いという回答結果でしたので、先ほどの指摘は当てはまっているように思います。ただ、アメリカを100とした場合、サービス業全体で5割ほどの労働生産性水準でしたので、このサービスの品質差だけで日米の労働生産性格差を埋められるかというと、そうではないような印象を持っております。
 次に、企業データを用いた賃金に関する分解分析の結果を簡単に紹介します。
 10ページ目を御覧ください。1人当たり賃金ですけれども、このように労働生産性と労働分配率の掛け算の形で表現することができます。ここで1人当たり賃金は労働生産性と労働分配率のどちらの要因と関係しているのかについて考えます。
 11ページを御覧ください。こちらは、賃金が高いグループと低いグループで労働生産性と労働分配率の分布に違いがあるかどうかを見たものです。一見して違いがあるのが左側の図の労働生産性の分布であることが分かります。つまり、賃金のドライバは労働分配率の高い低いではなくて生産性であるということが分かります。
 12ページ目は、では、この労働生産性がどういったものと関係しているのかということで、賃金をドライブする労働生産性をさらに分解すると、売上高付加価値率と1人当たり売上高に分けることはできます。
 13ページ目で、同じように労働生産性が高いグループと低いグループで分解すると、売上高付加価値率の分布には違いが余り見られませんでしたけれども、右側、1人当たり売上高で違いが見られます。つまり、労働生産性のドライバは1人当たり売上高の高低であることが分かります。
 最後に、14ページ目ですけれども、この1人当たり売上高をまた分解します。資本装備率と有形固定資産回転期間に分解できます。どちらがドライブしているかということですけれども、15ページ目、左側の図の資本装備率と1人当たり売上高が関係していることが分かります。このことから、資本装備率が高いと1人当たり売上高も高い。そして、1人当たり売上高が高いと労働生産性も高い。最後に、労働生産性が高いと1人当たり賃金も高いという関係性があることが分かりました。ですから、投資をして資本装備率を上げることが労働生産性向上につながる可能性がありますけれども、日本の設備投資は、先ほどの要因分解の図で述べましたけれども、異常な低さを示しているところです。
 それから、16ページを御覧ください。マクロの生産性の変動について、存続企業間、いわゆるIntensive marginでの資源の受け渡しに係る効率性の程度に加えまして、参入・退出に係るExtensive marginでの資源配分の効率性の程度がどれほどあるのかというのを見てみたいと思います。
 こちらは深尾先生方の2011年と2015年を対象とする経済センサス活動調査の調査票情報を使われた労働生産性、全要素生産性に関する生産性分解の結果です。労働生産性につきましては、この図を見ますと、内部効果が労働生産性を上昇させた主因であった、企業内での生産性上昇がマクロの労働生産性を上昇させた要因であったということでした。
 次のページ、全要素生産性については、内部効果ではなく企業間の資源の再配分ということで、生産性を上昇させた企業が付加価値を増やしたとか、もともと生産性が高い企業が市場シェアを伸ばしたとか、そういった効果を通じて全要素生産性が上昇したということでした。それから、生産性の高い企業が退出したということで、退出効果はマイナスで出ていますけれども、この時期、主には全要素生産性の上昇の要因というのが企業間の資源再配分であったといった結果が示されています。こちらは経済センサスを使われてやられている研究ですけれども、私どもが東京商工リサーチのデータを使って、足元までできるだけデータを延長して分析した結果を御紹介したいと思います。
 結果だけ御紹介すると、19ページ目になります。絵は見づらいのですけれども、右の図に注目をしていただくと、これは労働生産性の結果を示しておりますが、日本経済の特徴であります負の再配分効果が足元でやや縮小傾向にあることが分かります。議論の前提として、日本全体の生産性変動に与える再配分効果が一貫してマイナスだったということが見られます。つまりは、平時においては生産性の高い企業の規模の拡大が生じていなかったということになりますけれども、コロナ禍でこの負の再配分効果がやや改善していることがデータを見て分かってきました。再配分機能が向上したメカニズムの解明というのは今後の課題であると思います。
 次に、20ページ目。生産性に関しては企業規模間格差があることがこれまで指摘されていました。つまり、中小企業の生産性は大企業と比べると平均すると低いというものです。
 21ページ目は、企業規模で分けてはいないのですけれども、左側がヨーロッパ各国、右側が日本に関する労働生産性トップ10%とボトム10%の時系列の推移を見たものです。日本は、2010年頃から16年頃までは横ばい、その後、その差がやや拡大という結果でありました。
 22ページ目は、生産性ではかったトップ10%とボトム10%の推移ですけれども、足元の格差の拡大というのは、日本についてはトップ10%の生産性が改善した結果によるということでありました。
 23ページ目は、企業規模間生産性格差ということで、深尾先生の資料を引用させていただいております。多くの産業で労働生産性と賃金率の規模間格差は2005年までは拡大し、それ以降は縮小傾向にあるといったことを示されています。
 24ページ目以降で日本の資本蓄積の状況をお伝えしたいと思います。労働生産性は資本装備率と関係があるということを申し上げましたけれども、日本の資本蓄積、特に無形資産の蓄積の状況についてお話をいたします。
 25ページ目は、無形資産というものが近年注目されていて、特に人への投資、人的資本投資に注目が集まっているということをお示ししました。ここで言う無形資産ですけれども、26ページ目を御覧いただきますと、情報化資産のソフトウエア・データベース、それから、研究開発投資を含む革新的資産、人への投資を含む経済的競争能力、大きくはこういった3つの分類でデータを整理しています。日本については学習院大学の宮川努先生を代表にこの系列を整理しているわけですけれども、国際比較をした結果が27ページ目になります。
 これは、GDPに対する無形資産投資全体の比率ですが、フランスやアメリカよりも低いといった水準になっています。内訳を見ますと、28ページ目になりますが、先ほど申し上げた分類の中でも特にソフトウエア投資、研究開発投資、人的資本投資のGDPに対する比率を97年から10年、2008年から10年の平均値でお示ししています。これを見ますと、GDPがそれほど増えていないというのもあるかもしれませんが、ソフトウエア・データベース投資、R&D投資については、日本はそれ以外の国と比べても水準・レベルとしてはそれほど差はない中で、人への投資についてはこの中で最も低いイタリアの半分未満となっているということです。ですから、無形資産投資の中でも、この部分が国際比較して低い水準であるということは注意をする必要があるかと思います。
 29ページ目です。今、人への投資が注目されておりますが、これと生産性というのが関係あるのかどうかということで、こちらは基本的にミクロデータ、企業レベルデータ、あるいは従業員のデータを使った分析の結果になります。一橋大学の森川先生の研究ですと、教育訓練投資を行うことで企業の生産性は上がる。特に製造業より非製造業で顕著であるといった結果もありますし、内閣府の調査でも、労働生産性の水準によらず生産性に対してプラスに働くといったこと、あるいは、一番下の初見先生の御研究では、人への投資をすると、従業員のジョブエンゲージメント等が上がって、それが能動的な行動につながって生産性が上がるといった研究をされていますので、おおむね先行研究では、因果関係の意味で、人へ投資すると、その後生産性が上がるといった結果を示しています。
 最後、30ページ目になりますけれども、これは私のほうで行った研究で、日経スマートワークのデータを使った上場企業に関する研究です。横軸が1人当たり人的資本投資額、縦軸がその後の労働生産性の対数値になっています。弱いながらもおおむね正で優位な関係にあるということです。これは因果関係というよりも相関関係ですけれども、恐らく人へ投資することで労働生産性も上がるといった因果関係も示すことができるのではないかと思います。
 駆け足になりましたが、私からの報告は以上です。

玉木委員長代理 
 滝澤委員、ありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明につきまして、御質問等がございましたらお願いいたします。
 土居委員、お願いします。

土居委員 
 土居でございます。御説明どうもありがとうございました。大変勉強になりました。
 経済前提の議論との関係でお伺いしたいのは、特に今のプレゼンで無形資産の重要性を指摘されて、私もこれから経済を考える上では非常に重要なポイントを指摘されたと思っているのですけれども、経済前提のモデルでの生産関数というのは、コブ・ダグラス型生産関数で、もちろん資本というものは必ずしも有形の資本ではなくてもいいということではあるのだけれども、経済学の分野の議論では、いわゆる内生的経済成長理論というのが片やあって、どちらかというと無形資産とかは内生的成長を促すドライビングフォースになるもののうちの1つとして位置づけられているように思うのです。コブ・ダグラス型生産関数ないしは新古典派的成長理論の前提となっている技術進歩の考え方と、これから期待されるであろう無形資産の生産に対する寄与という意味、ないしは別の言い方をすると、内生的成長理論が想定しているような経済成長なり技術進歩との間の関係性というのですか、それらは相互に矛盾しないように解釈できるということなのか。それともそれは想定している経済が全然違うと言うべきなのか。そのあたりについて何かお考えがあれば聞かせていただきたいと思いますけれども、いかがでしょうか。

滝澤委員 
 非常に難しい質問だと思います。お答えできないと思うのですけれども。
 基本的に、これまでこの分野で行われている実証分析の結果だけ御紹介したいと思うのですけれども、新古典派的成長理論、今おっしゃったようなコブ・ダグラス型の生産関数を仮定して、無形資産、有形資産、労働というのを入れて実際に成長会計も行っていたり、一方で、内生的成長モデルのように、教育というもので我々が教科書的には学生に教えているような形で扱うものもあったりということで、すみません、今、そこのリレーションシップについてはうまく整理できていないということです。ですから、古典的なやり方で無形資産を生産要素として入れて成長会計をするということもやっていて、その結果、日本はそこの部分の寄与が小さいですということは分かっているところです。もしかすると、深尾先生のほうがお答えいただけるのかもしれませんけれども、以上です。

玉木委員長代理 
 権丈委員、どうぞ。

権丈委員 
 どうもありがとうございました。私は滝澤先生とか深尾先生とか、先ほどの川口先生もそうなのですけれども、その研究成果を見るたびに、社会保障の研究者として非常に申し訳ないと思っているところがあります。
 労働市場においても、安い賃金でもいいですよ、社会保険料の事業主負担分を払わなくてもいいですよというような市場を作っているのですね。したがって、付加価値生産性が低くても存続できますよ、労働力は余っているのだから大丈夫というのをずっと続けてきたわけです。そのような社会保険の適用除外規定とかいうものは、私は、皆さんの研究に多分に影響を与えているなというのを常々考えております。おまけに、金利も低くしますから大丈夫ですよとかいうようなことをこの国ではずっとやってきたわけです。
 そこでお伺いしたいことが1つあります。例えば、先ほど深尾先生の日米の比較というところで日米サービス品質差というのがありました。この前、本田選手が日本のラーメンの価値は2000円はあるよなということを言っていて、私もそうだと思うのですけれども、このサービスの価値を日本人、アメリカ人が評価するとおりの商品価格にしていったならば、その前のページの日米の生産性格差というのはどのようになっていくのかということをシミュレーションとして考えてもらいたい。考えたらどうなるかということ。
 そして、価格を上げるというのは、2000円の価値のあるラーメンを作ることができないところは、頑張ってね、努力してね、あるいはこの市場から消えてねというような話になっていくと思うのです。対人サービスにどれだけお金を払うかというのは文化の影響を受けますから、そのようなところの構造的な差を、対人サービス価格を上げて仮に埋めていったならば、この6ページとか7ページの図表がどのようになっていくのか。そして、そこに加担している社会保障とか最賃の低さとかもあると私は思うのですけれども、そのようなことを解決していくための1つの練習問題として、ラーメンが2000円になりました、サービスをみんなが評価する値段になりましたといったときに、この付加価値生産性議論というのはどうなるのかというのを教えていただきたい。
と同時に、我々社会保障の世界は残念なことに付加価値生産性と物的生産性の違いが分からないまま議論している人が山ほどいるわけですけれども、先生たちの世界は付加価値生産性に統一して議論できているというのは何かうらやましいなと思っておりまして、先ほどのようなシミュレーションというか練習問題を質問させていただきました。よろしくお願いします。

玉木委員長代理 
 滝澤委員、お願いいたします。

滝澤委員 
 ありがとうございます。
 まず、本日のスライドでお見せしていないのですけれども、最近、日本のビジネスダイナミズムに関連する10個の指標というのを整理していて、日本とアメリカで顕著に違う点が1つだけありまして、それは独占度の指標であり、裏を返すと競争度の指標ということです。アメリカは、GAFAなどが、市場占有度を高めて独占度合いが高まってきているのですけれども、日本は、ある意味、おっしゃったような部分もあって、独占度合いが上がっていないという点がユニークな違いです。
 逆を申し上げると、企業がたくさん存在していて、そこで比較的質が似ている、同質のサービス、例えば食べ物等を供給しているので、どこかの企業が10円上げると、全部ほかのところに需要が持っていかれてしまうような構造があるのかなと思います。
 ですから、まずラーメンを2000円にできるかどうかというところで、恐らくそこの点で重要になってくるのが差別化の度合いだと思います。だから、差別化された財、例えば私の家の近所でも、同じカレー屋さんでも、ランチで2000円取っても並んでいるところもありますし、そうでないところもありますので、うまく差別化してサービスを供給していくことで付加価値生産性というのは上がっていくと思います。そこら辺は市場の構造との関係があって、一律全部が2000円になれば、その財の価格が上がりますので、需要が減らなければそこの産業の付加価値生産性というのは上がると思います。ただ、ラーメンの価格が全部2000円に上がってしまうと、お寿司に流れたり、代替性が働くと思いますので、そこは難しいところかなと思います。
 以上です。

権丈委員 
 どうもありがとうございます。
 結局、価格支配力を持つことができるかなのですよねというのがある。完全競争市場では価格支配力など持っていなくて、コモディティ、要するに価格勝負の商品をどれだけ売るかという競争をこの国はずっとやってくるわけですけれども、果たしてこの国が価格支配力を持つための努力をやるか、できるかどうかにかなり大きく依存してくる。
 そして、先ほどの価格のところでも、今、目の前の店で値段が上がったら、あなたは他のところに行きますか行きませんかみたいなところも、金融の世界でいうノルムみたいな側面で、他のところに行きますと答えるという特殊なものをこの国は持っていたけれども、それが今、徐々に動き始めるかもしれないというところに来ているわけです。
 だから、仮に生産性が低い高いとかいう議論をするのであれば、そういう生産物市場の変化みたいなことを促さなければいけないのかなと。そういう競争をしなくても別にいいですよというような企業にとって優しい労働市場政策、生産物市場政策を展開してきたことがこういう結果になっているところがあり、そこに社会保障あるいは社会保険の適用除外の責任もあるのかなと考えているわけです。
 だから、商品価格を上げていくというのは、要するに価格支配力を持つ、つまり常に差別化を図っていって、独占的競争市場のほうに持ち込んでいくというような世界なのですけれども、それを余りにもこの国はやらなかった、あるいはやらなくてもいいですよという政策をずっと展開してきた。その究極の根っこの部分が川口先生が包括されていたような労働市場の緩みというものにあり、そこを大きく活用していた経済政策だったのかなということで、社会保障としては適用拡大とかしっかりやっていきましょうよということになります。

玉木委員長代理 
 ありがとうございました。
 滝澤委員、あるいは事務局からコメントありますか。

佐藤数理課長 
 すみません、事務局から恐縮でありますけれども、1点だけ質問させていただきたいと思います。
 今、権丈委員のお話にあった日米の労働生産性の格差のお話で、日本が6割ぐらいしか生産性がないということで非常に寂しいなと思いながら見ていたのですけれども、逆に言うと、まだまだキャッチアップの余地がある、つまり、キャッチアップで労働生産性を上げていく余地がある、そういうふうに考えてよろしいでしょうか。そのキャッチアップというのが、今、権丈委員がおっしゃったように、単に価格を適正に設定するという話なのかもしれませんが、もしキャッチアップできて労働生産性を上げることができるということであれば、さらに労働生産性というのは賃金と非常に密接な関係があるというデータもお示しいただいたところでありますので、賃金上昇の余地もあるというふうに考えていいかどうかというところをお聞かせいただければと思います。

滝澤委員 
 ありがとうございます。
 私はそのように希望的に考えております。なぜかというと、まず、分母のほうの労働の効率化もまだ図れると思いますし、それは先ほどの資本装備率という話とも関係していますので、新しい技術を体化した投資を行うことで生産効率が上がったり、DXとか言われていますけれども、主に中小企業のほうで余り進んでいないと思いますので、そう
いう部分は日本はまだまだあると思います。それとともに、人がトレーニングされてスキルが蓄積されていくことで、分子の付加価値のほうの、希望的にはイノベーションとか、そういったものも実現できて、付加価値を上げることで生産性を上げる。ですから、分母、分子両方に関してまだやれることが残っているので、キャッチアップする余地はあるのではないかと考えます。

玉木委員長代理 
 ありがとうございます。
 あと、武田委員、手が挙がっているようでございますが、どうぞ。

武田委員 
 滝澤先生、本日すばらしい御発表をいただきまして、ありがとうございます。多変分かりやすく御説明いただき、感謝申し上げます。
 滝澤先生が冒頭で強調されたのが、労働の質の低下には注意しなければならないということでした。また、後半のほうでは、無形資産、特に人的資本投資の割合が他国に比べると低いというお話をいただきました。最近、労働の質の低下が顕著になっているのであれば、人的資本投資の比率が下がってきていると思いますが、一方で、28ページを拝見しますと、1997-2007と2008-2018年で、0.1は下がっていますが、もとから低いという結果になっています。近年、労働の質の低下が顕著になってきている背景、あるいはその仮説についてどのようにお考えになっていらっしゃるか、もしよろしければお話を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。

玉木委員長代理 
 滝澤委員、お願いいたします。

滝澤委員 
 ありがとうございます。
 冒頭のEUKLEMS&INTANProdの図のところで、労働の質の寄与が小さいと申し上げましたのは、高スキルあるいは高賃金の労働者のシェアの寄与が小さくなっている、具体的にはそういうことを示しています。
 近年どうして日本にそれが起こっているのかということなのですけれども、1つは、非正規の雇用が増えてきて、今、4割とか、そのぐらいのレベルになってきているというところかなと思います。トレーニングは、正規の方と比べるとなかなか受けにくいですし、恐らくそういった要因が大きいのではないかと思います。
 それから、28ページ目でやや注意しなければならないのは、お伝えするのを忘れておりましたが、私どもが整備している人的資本投資というのは、基本的にはOff-the-Job Training、職場外の研修費用というのと、それに付随する機会費用のみを含んでおりますので、OJTの部分は捉えられていないというのが、この指標を見る上で一つ注意すべき点かなと思います。
 以上です。

玉木委員長代理 
 ありがとうございました。
 ほかに御意見、御質問等ございますでしょうか。
 ありがとうございました。
 それでは、次のテーマに行きたいと思います。議題2「総投資率と利潤率の関係について」、議題3「その他」の議事に入ります。
 事務局から資料3、資料4により御説明いただきたくお願いいたします。

佐藤数理課長 
 数理課長でございます。私から、資料3、資料4について説明させていただきます。
 まず、資料3を御覧ください。こちらは、第1回の本専門委員会におきまして委員長より、従来の投資率の設定に関して、利潤率が上昇したときに投資が停滞して利潤率がさらに上昇していくという議論になっているのですが、利潤率が上昇すれば逆に投資が促進されるというメカニズムも当然考えられるということで、投資率をどう想定するかというのが重要な論点だといった旨の御指摘がありました。こういった観点から、総投資率と利潤率の関係を調べたものでありまして、その結果に基づき、投資率の設定方法について事務局より1つ御提案をするというものであります。これをもとに委員の先生方に御議論いただければと考えております。
 2ページを御覧ください。こちらは前回の令和元年財政検証の総投資率の設定となっております。赤の実線が総投資率の実績で、その先に延びている赤の点線が総投資率の仮定となっております。下がっていく点線と横ばいで推移する点線、2通りの設定をしておりますが、下がっていくほうが総投資率の実績を外挿して設定したもの、横ばいのほうが総投資率の外挿から貯蓄率の外挿に遷移していく設定となります。
 3ページを御覧ください。こちらは前回の財政検証の総投資率の設定と、その結果得られる利潤率を重ねて見たものとなります。このページでは、投資率が緑のほうになりますが、おおむね横ばいで推移する前提のものとなっておりまして、その結果、計算された利潤率というのは一定の水準に収束するというものであります。
 4ページを御覧ください。こちらは投資率が低下していく前提のものでありまして、利潤率が上昇していく結果となっております。これは深尾委員長から御指摘のあったものと考えております。
 一方、実績のほうを確認いただきますと、総投資率と利潤率というのはおおむね同様の動きをしているということが確認できます。また、投資率は利潤率の動きに少し遅れているということも確認できます。すなわち、実績の動きと将来の動きが異なるものになっているというところであります。
 5ページを御覧ください。そこで、実績につきまして利潤率と投資率の相関を見たものになります。左下が当年度の利潤率と総投資率の年度を同じにした場合の相関となります。投資のほうがちょっと遅れているということですので、前年の利潤率と投資率の相関を見たものが右上で、右下が前々年度の利潤率と投資率の相関を見たものとなります。いずれも一定の相関が見られるものでありますが、当年度の利潤率との相関よりも前年度の利潤率との相関のほうが相関係数が高いことも確認できます。
 さらに、1980年代からの長期で相関を見たものと、2002年以降、投資率が非常に低くなった時期の相関を見たもの、2つありますが、2002年以降の相関を見たほうが弾性値が小さくなっているということでありまして、近年、利潤が上昇しても投資がなかなか活性化しないと言われることが表れているのではないかと考えております。
 6ページを御覧ください。5ページは前回財政検証時のデータで確認したものですけれども、この6ページは、SNAの2015年度基準で直近のデータまで含めて相関を確認したものとなっております。こちらは前年度の利潤率と当年度の総投資率の相関を見ております。左側の2019年までのデータを見ますと、同様に高い相関が見られるということであります。一方、2021年までのデータを含めますと、2021年がちょっとイレギュラーなところに位置しておりまして、2002年以降の相関を見ますと、相関係数がちょっと下がっているというところであります。ただ、長期で見ると、やはり高い相関が見られるということです。
 7ページを御覧ください。事務局からの御提案ですけれども、このような分析結果から総投資率の設定方法を見直しまして、先ほどの回帰式から投資率を設定するという方法に変更してはいかがかと考えております。この設定方法の考え方といたしまして、直近の利潤の状況から将来の期待が形成されて、期待に基づいて投資が決定されるという考え方になるのかなと思っております。
 また、従来の実績の外生で投資率を設定するという方法ですけれども、これは2004年財政再計算からずっと用いてきた方法であります。2004年当時の実績を見ていただきますと、投資率、緑のラインは、バブル後ずっと低下傾向というか下がる一方であったわけですけれども、リーマンショック後、投資率が緩やかに上昇しているというものも見られる。こういった状況の変化もあることも踏まえて、今回見直したらどうかと考えております。
 7ページが、前回の財政検証のデータを用いて設定方法を見直した場合の試算結果です。青い枠囲みのところを見ていただきますと、1982年以降の長期の相関を見て、回帰式を使って投資率を設定するという方法です。結果を見ていただきますと、将来においても投資と利潤がおおむね同様の動きをしているという結果となっています。
 8ページを御覧ください。こちらは2002年以降の相関による回帰式を使って投資率を設定するという方法にしたものです。先ほどと同様に、投資率と利潤率が同様の動きとなっています。一見、水準が異なっているところでありますが、動きについては同様であります。いずれの場合におきましても、推計結果を見ますと、投資率と利潤率の関係について、従来の方法より説得力が高いのではないかと考えておりまして、見直しを提案させていただいたところであります。
 あと、この見直しの影響について申し上げますと、前回検証と比べて総投資率は上昇して利潤率は低下することになります。この結果、総投資率の上昇は、資本装備率を上昇させまして、実質賃金を上昇させる要因になります。
 一方、対賃金の運用利回り、いわゆるスプレッドにつきましては、利潤率が低下するということで低下要因となることに加えまして、あと、実質賃金の上昇もスプレッドの低下要因になりますので、ダブルで影響があるということで、実質賃金の上昇よりもスプレッド、運用利回りの低下のほうが大きいことになります。
 以上を踏まえて、委員の皆様の御意見をお伺いできればと考えております。
 資料4のほうも続けて御説明させていただきます。資料4を御覧ください。こちらは、前回の委員会で御議論のあった事項につきまして、御議論を踏まえて追加で用意した資料となります。
 3ページを御覧ください。こちらは実質賃金と労働生産性の差の要因分解につきまして、前回、税・補助金の影響につきまして御議論があったところで、ここについてさらに詳細に分解したものであります。具体的には、上から2番目の紺色の折れ線を追加したということです。こちらは税・補助金を除いた名目GDPの伸びとなっております。すなわち、一番上の水色の折れ線と2番目の紺色の折れ線の差が、税・補助金が増加してきている影響、主に消費税の引上げの影響となりまして、紺色の折れ線とその下の黄緑色の折れ線の差が就業者と雇用者の差となりますので、自営業者、混合所得が減少してきている影響となります。
 1994年からの平均伸び率で見ますと、下の表のほうになりますが、一番上の0.7%と0.6%の差0.1%が税・補助金の増加の影響となりまして、その下の0.6%と0.5%の差0.1%というのが自営業者、混合所得減少の影響となります。
 4ページ、5ページにつきましては、前回提出資料に、同様に税・補助金の影響と自営業の影響についての分解を加えたものとなります。
 続きまして、6ページを御覧ください。国際比較についても同様にその影響を細分化したものとなります。前回は、紫色の「雇主の社会負担」と、赤色の「税・補助金」と、灰色の「自営業者、混合所得等」をまとめて「その他」と示しておりましたが、これをそれぞれ分解したものとなります。
 また、このデータですけれども、OECDのデータが1年更新されておりまして、2021年のデータが追加されておりますので、このデータ更新も行ってリバイスしたものであります。結果は御覧のとおりで、日本につきましては、今言った雇主の社会負担、税・補助金、自営業、いずれも0.1%ないし0.2%程度のマイナスの影響となっておりますが、他国を見ますと、国によってそれぞれでありまして、いずれの要素もプラス要因となっている国、マイナス要因になっている国、ともに見られるところであります。
 7ページ以降が、今見ていただいたCPIとGDPデフレーターとの差についてさらに要因分解したものになります。
 8ページは前回財政検証の設定になりまして、9ページは前回、第2回の委員会に提出した資料をリバイスしたものとなります。説明は省略いたします。
 10ページを御覧ください。こちらがCPIとGDPデフレーターの差を要因分解したものとなります。オレンジ色の部分がSNA統計でCPIと範囲をそろえました家計最終消費支出のデフレーターとCPIの差となります。なお、こちらにつきましては、前回「算定方式の違い等」と表記しておりましたが、委員長より、ラスパイレス式、パーシェ式といった算定方式の違いだけではなくて、ほかにも違いがあるという御指摘をいただきましたので、表記を見直しまして「作成方法の違い」と記載させていただいております。
 さらに、範囲の違いにつきましても分解いたしまして、輸出入の寄与と政府最終消費支出の寄与、その他の寄与に分解しております。最後のその他の寄与というのは、大部分が投資の寄与ということになります。
 日本について見ますと、作成方法の違いと輸出入の寄与、つまり交易条件の悪化ということになりますが、この2つでおおむねこの差が説明できるということでありますが、諸外国を見ると様々となっております。ただ、作成方法の違い、オレンジ色の部分につきましては、多くの国でマイナスに寄与しているということが見られると思います。あと、輸出入については、国によってプラスの国もマイナスの国もあるというところであります。また、日本では、緑色の政府最終消費支出の部分の影響が見られないということですが、多くの国ではこれがプラスに寄与していることも確認できるところであります。
 11ページを御覧ください。こちらは参考でございますけれども、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」において、CPIとGDPデフレーターの差がどの程度あると見ているかというのをお示ししたものであります。中長期的には0.6%ないし0.5%程度の差を見ているところであります。
 12ページを御覧ください。こちらは、前回の委員会で、作成方法の差について各国のCPI統計の作成方法に違いがあることが影響しているのではないかという御指摘をいただきましたので、違いの1つとして、CPIのウエートの更新頻度を調べたものになります。日本は5年に一度ウエートを見直して基準年を更新することになっておるわけですが、この更新頻度は国によって様々でありまして、多くの国は日本よりも多い頻度で見直しているところであります。また、毎年ウエートを見直す連鎖基準方式を取っている国も多く見られたところです。
 さらに、全ての国を調べ切れていませんので資料にはしなかったわけですが、ウエートをどのような統計から作成するかということについても違いが確認できたところであります。
 ちょっと御紹介いたしますと、日本のCPIは家計調査の2人以上世帯の消費バスケットにおいてウエートを設定しているのに対して、GDPデフレーターのほうは、SNA統計の中で推計しました単身世帯も含む全世帯の消費バスケットでウエートを設定しているところであります。
 他国を調べてみますと、例えばイギリスやフランスなどヨーロッパ諸国では、CPIのウエートをGDP統計に合わせて設定している国も多くあったところでありまして、こういったCPIの作成方法は国によって違いが見られますので、それがCPIとGDPデフレーターの差に影響している可能性があると考えております。
 14ページを御覧ください。こちらは、前回の委員会で、足元の2021年の労働分配率の水準が1990年代と同水準になっているということにつきまして、SNA統計は公的部門を含むためであって、民間部門だけで見ると必ずしもそうではないのではないかという御指摘があったということであります。そこで、民間企業の労働分配率を確認したものが左側のグラフとなります。法人企業統計で全産業(金融業、保険業を除く)の労働分配率を示しております。算式にお示ししたとおり、定義がちょっと違いますので、その水準をそのまま比較できないと思いますが、推移を御確認いただきますと、法人企業統計のほうでは、コロナ禍の2020年は上昇しましたが、2021年は再度低下いたしまして、その水準は1990年代より低い水準になっているというところであります。
 最後に、16ページを御確認ください。前回、利潤率の算式について、分子に税・補助金が入っているため、利潤以外のものが分子に入っているということで見直したほうがいいのではないかという御指摘がありました。仮にこれを見直すといたしますと、下のほうの式のように、まずGDPから税・補助金を控除して資本分配率を掛けると、分子が利潤だけになるかと思います。こうやって式を見直して実績を計算したものが赤の折れ線グラフとなって、全体として水準が低下することになっております。
 ただ、御議論いただきたいのは、過去の実績についてはこうやって計算できるわけですが、将来見通しを作成する場合は、従来、税・補助金というのが推計モデルの中に組み込まれておりませんでしたので、何らかの形でこれを推計しなければいけないことになります。算式を見直すということであれば、将来見通しにおいてどうやって税・補助金を計算するかということも併せて御検討いただければ幸いだと考えております。
 最後に、経済前提の設定において利潤率がどのように使われているかを申し上げますと、運用利回りの設定の際、過去の利潤率と将来の利潤率の変化率を用いていることになりますので、この水準の変化の影響というのは限定的なものになると考えているところであります。
 駆け足で恐縮ですが、私からは以上であります。

玉木委員長代理 
 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの事務局の御説明につきまして、御質問等ございましたらお願いいたします。
 土居委員、どうぞ。

土居委員 
 御説明どうもありがとうございました。3点ほど意見を述べさせていただきたいと思います。
 まず、資料3ですけれども、事務局から説明がありましたように、総投資率と利潤率の関係というのは、前回の財政検証ではどちらかというと固定的に捉えている仮定だったというふうに認識をいたします。それに比べると、生きた経済の実態により即して考えると、今、事務局から御説明のあったような形に設定を変更することは理にかなっているところがあると思いました。そういう意味では、次回の財政検証では、総投資率と利潤率の関係を御提案のような形で変えることは十分検討に値するものではないかと思います。
 2点目については、税・補助金の関係で資料4であります。先ほど16ページで最後に課長がおっしゃったような、税・補助金を除いた場合の影響を考えたときに、確かに、税・補助金は含まない形でモデルを回すことにしたほうがうまく説明がつく。つまり、税・補助金を除いたGDPにする。税・補助金だけを除いたGDPという形で、生産関数のところでもそう考え、ほかの指標でも分母にその値を持ってくるという形で経済前提となる設定をしてモデルを回せば、税・補助金のない状態でのモデルが整合的に回るということは十分に考えられる。ですから、コブ・ダグラス型生産関数のところでも、被説明変数というか、GDPと置いていたところにも、税・補助金を除いたGDPを持ってくることにして計算をすれば、利潤率であれば、分子のところにあるGDPと言っていたこれまでの指標も、税・補助金除きのGDPに置き換えて計算することにすれば、トータルで整合的になるので、将来、税・補助金がどうなるかということを考えずに済む形で、モデルでも整合的にデータが扱える。そういう考え方が1つの考え方としてあるだろうと思います。
 ただ、悩ましいものが幾つかあって、それは、税・補助金除きということに対する説明がなかなか素直にできず、なぜGDPを使わなかったのかというところに一々説明をつけ加えないといけないという手間がかかるというのが1点ある。
 それから、同じ資料4の4ページとか5ページを見ると、この影響というのが、除いたものと除かないものとで0.1%ぐらいしか違わないというレベルなので、そんなに大きな違いではないではないかとも受け止められる。
 もう一つは、この5ページを見ると、確かに、消費税率がほとんど上がっていない時期の1994~2009年の平均ではこの差は0.0だけれども、消費税比率が上がったところで0.2%という形になっていて、消費税率が上がったときには要因分解するとそれなりの大きな差が出てくるのですけれども、それ以外のときというのはほとんど影響が出てこないということです。
 それから、これは第2回目の会合だったかと思いますけれども、GDPの構成比の推移を示したグラフが資料として出されていて、確かに、統計が取れる1994年から見たときに、税・補助金の構成比が2.8%ぐらい増えているということが示されていたことを確認しているのですけれども、この構成比が上がるときというのは消費税率が変更になるときだけにしか起こっていなくて。例えば、1997年の時は構成比が6.0%から6.5%に上がっているとか、2014年は6.5%から7.3%に上がっているとか、2020年は7.8%から8.3%に上がっているとかという形で、対前年で0.5%以上ジャンプしているというのは確認できるのですけれども、それ以外の年はそこの構成比がほとんど動いていないので、今後は、税制の変更というのはあるかもしれないけれども、そこは推計で特に考慮するわけではない。確かに、消費税率を上げることによって付加価値税が増えて、その分だけGDPの構成比を変えるということが起こり得るかもしれないし、そのときには成長率に何らかの影響があるのかもしれないけれども、そこは固定して考えるということで割り切って、従来どおりGDPのままで行く、税・補助金除きにしないという考え方ももう一つの考え方としてできるとも思いました。差が軽微であるということが私の発言の根拠なのですけれども。
 もう一つは、TFP上昇率をどう考えるかというところにも影響することが悩ましい問題としてあって、税・補助金除きにすると、当然、従来のTFPの値とはちょっと違うことになるわけです。従来の内閣府が推計しているTFPないしTFP上昇率というのは、税・補助金を含んだ従来のGDPをもとにして計算しているということが大前提になっている。だけれども、税・補助金を除いたもので計算することになると、このTFP上昇率に相当するものをどう考えるのか。
 確かに残差ですので、残差が出てくるときというのは、当然、消費税率を上げた年に大きく変動するという部分で、それも残差と言っているのかもしれないのですけれども、これもこの委員会の第1回会合で出された資料にもありましたが、内閣府のTFP上昇率というのは、特に消費税率が上がったときにだけぴゅっと上がっているわけでもない。いろいろな要素をのみ込んだ形でTFP上昇率の計算結果が出ているので、そう考えると、税・補助金を除かないと論理的に整合性が取れないから、推計におかしなことが起こっているのではないかとまで断定するほどの数量的な影響というのはちょっと考えにくい。私が眺めてみた結果としてそういう感じがあって、論理的には除いたほうが利潤率という考え方にそぐうわけですけれども、除かないとほかのモデルが全部整合的に回らないかと言われると、税・補助金を除いたからといって、数量的には影響は軽微なものでしかないように私には思えているので、あとは、論理的にどう説明できるか。それから、わざわざ除いたことで余分な労力が必要になるわけですけれども、そこまでして税・補助金を除くことにするのかの割り切りが問われるということかなと思いました。
 すみません、2点目が長かったので、最後1点だけです。
 2020年と21年をどう見るかということです。コロナ禍なので、例外的な年であって、平時ではないというふうに見立てて推計をする、ないし、その指標を設定するときの数値からは外すということで割り切るのか、それとも、2020年も21年も連続している期間なのだからということで含んだ数字として今後経済前提を置くかというところは議論する焦点の1つかなと思います。
 以上です。

玉木委員長代理 
 ありがとうございます。
 では、事務局から一旦お答えいただいて、その後、徳島委員、深尾委員長からお願いしたいと思います。
 まずは事務局からお願いします。

佐藤数理課長 
 御意見ありがとうございます。
 利潤率、式についてどう見直すかということについて、いろいろな考え方があると思います。先生がおっしゃったことも1つの方法だと思います。委員の皆さんの御議論、御意見を聞いて検討していきたいと思います。

玉木委員長代理 
 それでは、徳島委員、お願いいたします。

徳島委員 御説明ありがとうございます。
 本日は、冒頭の川口先生の賃金に関する御報告、滝澤委員からの労働生産性の分解に関する御説明、また、今の事務局からの御説明と、これまでの議論の理解に大変プラスになったと思います。
 私から1点だけ御質問させていただきたいのは、今回のこの利潤率と総投資率の関係のところです。過去の推移を見ていると、御説明にもあったと思いますが、数年のタイムラグがあるように見えます。回帰式を作る際に、ラグを考慮した場合のほうがフィッティングが上昇することはなかったのでしょうか。逆に言うと、これから数十年単位で推計するので、多少のラグは捨象しても大丈夫という御判断をされたのでしょうか。そのあたり、テクニカルなところをお聞かせいただけたらと思います。

玉木委員長代理 
 事務局、お願いします。

佐藤数理課長 
 資料3の5ページを見ていただければと思います。相関を調べておりますが、左下の散布図は当年度の利潤率とそのときの総投資率の相関を見たもので、つまりラグがない前提で見たもの。右上は、前年度の利潤率と総投資率で、1年ラグをかましてみたもの。右下が、前々年度ですから2年ラグをかましたものとなっております。これを見ていただきますと、相関係数は1年ラグをかましたほうが高いということです。そういったことから、7ページ、8ページのご提案については、1年ラグをかまして前年の利潤によって投資が決定するといった式でやってみたものです。このように、1年ラグをかましてはどうかと考えているところであります。

玉木委員長代理 
 ありがとうございました。
 それでは、深尾委員長、その後、小枝委員、お願いいたします。

深尾委員長 
 2点あるのですけれども、1つ目は、土居委員の御指摘の件です。間接税マイナス補助金の扱いです。これは、国民経済計算の視点から、間接税マイナス補助金を込みで計測するものを市場価格表示のGDPと言って、間接税マイナス補助金を引いたものを要素費用表示のGDPと言って、概念的にはそれぞれ既存の概念としてあります。TFPを計算するときには実質総生産を求めて、それの生産要素の寄与を考えますので、基本的に市場価格表示のGDPで、普通我々が使っているGDPでいいということになります。
 一方で、分配のことを考えるときには、一次分配、最初に生産にどれだけ寄与したかでまず分配が決まってきて、その後、二次分配、例えば配当とか所得税とかで、土居委員の御専門の世界ですけれども、分配に影響があるということだと思うのです。その一次分配について考えるとき、つまり、資本や労働への報酬を考えるときには、やはり間接税マイナス補助金は最初に引かれてしまうので、引いて考える必要があると思います。ですから、私の意見は、TFPとか生産を考えるときには市場価格表示のGDPで、間接税マイナス補助金を引いてはだめ。だけれども、労働の分配率とかいうことを考えるときには、間接税マイナス補助金は引かざるを得ないということだと思います。そのときに、将来を推計すると、消費税が今後どれだけ上がってくるかという非常に微妙な問題に踏み込まないといけないことになりますけれども、これはやむを得ない。何なら消費税はこのまま上げないという仮定で議論するのか、またはさらに上がっていくと考えるのかということは無視できないというのが私の考えです。
 2番目は、事務局から今日御提案があった利潤率と投資率の関係について考えていくと、利潤率が上がれば投資が促進される、ある程度ラグを置いて投資が促進されるという投資関数の考え方をしようという御提案には基本的に賛成です。ただし、投資関数については、これまで長い蓄積があって、ここではラグがあるので、利潤率が投資を決めているというのはもっともらしい推計にはなっていると思いますけれども、例えば、投資が上がると景気がよくなって利潤率が上がるといった逆の因果関係も実際にはある。そうすると、例えば操作変数法とかによって、内生性の要因を除いて利潤率と投資関数を推計しなければいけないという話は、長い研究の蓄積がありますので、私は専門ではないですけれども、投資関数の専門家と相談して、この関数の形についてはさらに磨いていく必要があるのかなと思います。
 あと、もう一点だけ。長期的に投資率を考えるときに、最近、日経新聞にも書いてあったと思いますけれども、例えば介護みたいに資本係数が低い産業と、一部の製造業のように資本係数が非常に高い産業の産業構造の変化。日本は資本集約的な産業がだんだん小さくなっていく可能性があると思うのですけれども、そのあたりのことももしかしたら少し考えておいたほうがいいのかなと思いました。
 以上です。

玉木委員長代理 
 ありがとうございました。
 事務局、いいですか。
 では、小枝委員、お願いいたします。

小枝委員 私からはコメントを手短に申し上げたいと思います。ほかの委員と重なっているところもございますので。
 資料3の利潤率と総投資率の関係ですけれども、2ページ目にお示ししていただいた従来の考え方はそれなりに。青い線と赤い線の差を見ると、そこが経常収支で、やはりモデル的には閉鎖経済を考えているので、外挿していく際には、最後、閉じていくような形でいくのが適切なのではないかと。前は、それはそれなりのロジックであったと思います。ただ、総投資率を将来のパスを考えていく上で、利潤率の情報も使ってあげるというところが今回新しいところだと思いますし、私も賛成でございます。モデルでも総投資率と利潤率というのは1対1の関係です。ただ、深尾先生がおっしゃったように、そのままリグレッションするだけでいいのか、あるいはリバースコーザリティ、逆因果関係を考えるのか、あるいは因果関係についてこのような仮定でいいのかどうか。利潤率があった後に投資が増える、その因果関係を捉えていく上でのリグレッションの工夫というのは確かに余地があるのかなと、深尾先生の御意見に賛成です。
 以上です。

玉木委員長代理 
 ありがとうございました。
 ほかに。
 どうぞ。

藤澤委員 
 藤澤でございます。説明のほう、ありがとうございます。簡単にコメントしたいと思います。
 資料3のところで今回説明いただいた手法は一定の合理性があると考えてございます。ただ、こういったメンバーで議論していると、どうしても精緻な手法を追求する方向に行きがちだと感じていますが、一方で、前提の重要性も考慮する必要があると思っています。
 具体的には、今、議論している前提が所得代替率やマクロ経済スライドの終了時期にどの程度影響を与えるのかという観点です。そういったときに実務で見ているのは、感応度分析です。この前提がどれだけ重要なのかというところもセットで見ながら、どこまで精緻な前提をおくべきかという議論していくのがいいと思ってございます。ですので、今回のような議論をするときに、前提の重要性もセットで情報としてあると、より議論がしやすいと考えてございます。
 以上です。

玉木委員長代理 
 ありがとうございました。
 ほかに御意見等ございますでしょうか。事務局、よろしいでしょうか。

佐藤数理課長 
 はい。

玉木委員長代理 
 それでは、ちょうどいいお時間となりましたので、本日の審議を終了いたします。
 事務局のほうの御連絡がございましたら、お願いします。

佐藤数理課長 
 
次回以降の日程につきましては、改めて御連絡申し上げたいと思います。よろしくお願いします。

玉木委員長代理 
 ありがとうございました。
 それでは、本日の審議はこれで終了といたします。
 御多忙の折、お集まりいただき、誠にありがとうございました。