第6回雇用保険制度研究会 議事録

日時

令和5年2月28日(火)16:00~18:00

場所

厚生労働省 専用22会議室及びオンライン
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)

議事

議事内容

○尾田雇用保険課長 それでは、定刻になりましたので、第6回「雇用保険制度研究会」を開催いたします。
 本日は、大阪大学大学院国際公共政策研究科教授の小原美紀先生に臨時委員として御出席いただいております。小原先生、よろしくお願いいたします。
 それでは、報道陣の皆様の頭撮りは、ここまでとさせていただきます。
 なお、事務局についてですが、本日は急遽公務が入りましたため、局長、審議官が遅れて出席する予定となっております。御容赦いただければと存じます。
 それでは、議事に移りたいと思います。本日の議題は、(1)「基本手当等について」、(2)「教育訓練給付について」です。
 まず、議題(1)「基本手当等について」につきまして、事務局より資料1及び資料2について御説明申し上げます。

○尾崎課長補佐 事務局でございます。資料1と資料2について御説明いたします。
 資料1は前回の研究会における主な御意見を整理しておりますけれども、こちらは資料のとおりでございますので、個別の御説明は割愛させていただきます。
 それでは、資料2の「基本手当等について」を御覧いただければと思います。基本手当につきましては、昨年1月の雇用保険部会報告の中でも、令和4年度に、給付水準あるいは過去の改正の検証を行うこととされておりますので、そうした点も念頭に置いて資料を御用意しております。
 1ページ目を御覧いただければと思います。雇用保険制度の全体像でございますが、本日は、赤く囲っております、基本手当と再就職手当等を取り扱いたいと考えております。次の2ページ目でございますが、細かい給付も含めまして1ページ目をより詳細にしたものになります。
 続いて3ページ目を御覧ください。今度は制度ではなく、求職者側から見た給付の全体像になります。左側から、離職後に求職申込・受給資格決定がございまして、待機満了の後、一部の方には給付制限がございまして、失業の認定・基本手当の支給といった流れになっております。
 下側にオレンジがございますが、早期に再就職された場合は再就職手当等が支給されます。また、右のグレーの部分ですが、基本手当の支給終了後も、求職者支援制度が用意されております。
 続いて4ページ目を御覧いただければと思います。この表は、離職理由によって取扱いの違いを示しております。離職理由によりまして給付制限期間あるいは受給に必要な被保険者期間、さらには所定給付日数に違いがございます。
 続いて5ページ目は制度の主な考え方になります。青い囲みの給付水準の右側の部分を御覧いただければと思います。1ポツ目は給付率でございますが、低所得者に対しては十分な保護を図りつつ、高所得者に対しては再就職意欲を阻害しないように設定されております。2ポツ目の賃金日額の上下限の考え方もほぼ同様になります。3ポツ目の給付日数については、再就職の難易度に応じて長短が決められているという形になっております。
 続いて6ページ目ですが、基本手当の主な制度変遷になります。大まかに申し上げますと、左半分の平成12年あるいは15年の改正は、当時の雇用情勢あるいは財政状況が悪化したことも踏まえまして、給付の重点化を図っているものになります。一方で、右半分の平成23年や平成29年改正は、一部給付水準が改善・拡充を行っているというのが大きな流れになります。
 続いて7ページからが賃金日額の上下限と給付率の関係になります。次の8ページが制度の概要になります。上の計算式ですが、基本手当日額、つまり失業給付は、賃金日額に給付率を掛けて算出するものになっております。この賃金日額には上限・下限がございまして、給付率は基本的には50~80%となっております。
 次のページからが改正の経緯になるのですけれども、飛ばしまして、13ページを御覧いただければと思います。こちらは基本手当日額の分布の状況になっております。上限が年齢で違いますので、年齢別に次のページも併せてつけておりますが、どの年齢層でも平均的には大体5,000円程度、上下限に張りつく方はあまり多くなっていないと、このような形になっております。
 続いて、15ページは賃金日額の下限額に関する資料になります。上の四角囲みの1ポツですが、賃金日額の上下限については、原則は毎勤の賃金上昇率に応じて自動改定することになっております。ただ、平成29年の改正で、例外的に下限額が最賃日額を下回る場合には、最低賃金日額を下限額にすると、このようなルールが導入されております。最近は、最低賃金の上昇率が高いこともございまして、令和2年8月以降は、下限額が最低賃金日額となっております。
 続いて16ページのグラフを御覧いただければと思います。こちらは横軸に離職前の賃金を取っておりまして、再就職時賃金と基本手当の水準を比較しております。比較いたしますと、再就職時賃金のほうが高くなっているというものになります。この考え方ですけれども、失業給付のほうが再就職時賃金を上回る水準になってしまいますと、再就職の意欲を阻害することになってしまいまして、望ましくないというわけですけれども、平均的に見てそういった逆転現象は起こっていないというものを示すものになります。
 続きまして17ページでございます。今度は平均ではなくて個人で見てどれぐらい逆転が起こっているかというものを見たものになります。全年齢で見ますと、23.3%の方が失業給付のほうが再就職時賃金よりも高いということになります。年齢別では60歳以上で40%の方が逆転していることになります。ただ、下に小さい注がございますが、所定外賃金の関係でこの割合はやや高めに出ていることに留意が必要かと思います。いずれにしても、給付率や上限とかを引き上げますと、こういう逆転する方が多くなりまして、再就職意欲を阻害する可能性があるという点には留意が必要かと思います。
 次に18ページ、19ページは、こちらをより詳細に見たものでございますので、説明は割愛させていただきます。
 続いて20ページからが所定給付日数の関係の資料になります。21ページが制度の概要ですが、所定給付日数は上からの離職理由、さらに年齢、さらには被保険者期間に応じて長短が決まっている仕組みになります。
 ページを飛ばしまして、29ページを御覧いただければと思います。こちらは雇用保険受給者に限らず、労働市場全体で、転職される方の離職期間の分布がどうなっているかというものをお示ししたものになります。
 一番上の「合計」という部分を御覧いただければと思いますが、水色が離職期間15日未満、つまり離職期間がほとんどなく転職される方が40.9%となっております。黄色の四角ですが、所定給付日数の最短が90日ですので、離職期間3か月未満の方の割合を見たものになりますが、合計では67.5%、この割合は年齢によって違ってきているというものになります。
 続いて30ページを御覧いただければと思います。こちらは先ほどのものを離職理由別に見たものになります。下から2つ目の赤色ですが、会社都合、つまりは解雇等の方は3か月未満で転職される方が54.7%と、全体よりも離職期間長めになっております。青色の結婚とか出産・育児といったところを除きますと、それ以外のところは大体70~80%程度が離職期間3か月未満で転職されていると、このような実態になっております。
 31ページが平均受給日数の推移になります。平成20年、平成21年ぐらいのリーマンショックの後に上昇した後は、逓減傾向にございましたが、コロナ禍でやや伸びておりまして、直近では116.4日となっております。
 32ページは、解雇・倒産等の特定受給資格者の平均受給日数になります。平均いたしますと、所定給付日数の5~8割程度を受給しているという実態でございます。
 続いて33ページは、今度は特定受給資格者以外の方でございまして、こちらは8~9割程度が受給しているという形になります。
 続いて34ページを御覧いただければと思います。こちらは基本手当の受給資格決定者に対しまして、早期再就職の意向を聞いたアンケート調査になります。属性ごとに傾向はかなり異なっておりまして、表の左側の「一刻も早く就職したい」という方は、40~50代あるいは勤続年数が短い方に多くなっております。一方で、右側の「じっくり仕事を探したい」と考えられている方は、60歳以上あるいは勤続年数が長い方で多くなっているという傾向がございます。
 続いて、35ページは離職理由別の結果になります。こちらの倒産や解雇等の会社都合の場合は「一刻も早く就職したい」という方が多くなっておりまして、自己都合の方は「じっくり仕事を探したい」という方がやや多くなっております。
 36ページは飛ばさせていただきまして、37ページを御覧いただければと思います。基本手当の受給終了後に就業していない方に、今、生活の維持手段がどうかということを聞いたものになります。60歳未満のところ、表で言いますと左の上のほうになりますが、こちらは「配偶者や親などの収入に依存している」という方がやや多くなっていまして、60歳以上で見ますと、「年金を受給している」という回答がやや多くなっているという傾向にあります。
 続いて、38ページは御参考ですが、再就職の時期が遅い方ほど、再就職したときの賃金は低くなると、こういった傾向があるというものになります。
 39ページ以降は、今度は、様々設けられております、暫定措置や延長給付に関するものになります。
 42ページまで飛んでいただければと思います。特定理由離職者のうち雇い止めで離職された方を特定受給資格者という解雇・倒産等と同じ並みの所定給付日数にするような暫定措置がございます。グラフですが、コロナ禍の令和2年度は10.4万人でしたが、令和3年度は5.6万人と例年並みに戻っております。
 次に43ページですが、暫定措置の対象者の再就職状況でございます。こちらは基本手当支給終了までの割合、黄色で囲っておりますが、大体、直近ですと56.1%で特定受給資格者、解雇・倒産等で離職された方全体と比べますと、10ポイント程度低くなっております。
 続いて44ページを御覧いただければと思います。ここからは延長給付の関係ですが、訓練の必要性あるいは雇用情勢等の事情によって所定給付日数を超えて受給可能となる特例もございます。今回は、そのうちコロナ関連の延長給付について取り上げたいと考えております。
 少し飛ばしまして、48ページを御覧いただければと思います。こちらはコロナの影響で離職した方に関して特例延長給付がございますが、対象者は減少傾向にあります。実施期限として、緊急事態宣言実施期間の末日から1年と期限が区切られておりますので、令和4年10月には終了しているものになります。
 次に49ページを御覧いただければと思います。こちらもコロナ特例の関係ですが、コロナの感染予防を理由として離職した方を特定受給資格者とする特例措置でございまして、グラフを御覧いただければと思いますが、減少傾向にございます。
 続いて、50ページからは給付制限の関係の資料になります。51ページを御覧いただければと思います。自己都合離職者の方に関しては、原則としては2か月間の給付制限が設けられておりまして、下側は給付制限の考え方でございます。まず雇用保険では、解雇・倒産といった自らの意思によらない失業に対して給付を行うことが基本となっております。2つ目のポツですが、自己都合離職は、ある意味、自ら保険事故を起こし得るということですので、仮に給付制限がないとしますと、基本手当の受給を目的として離職するといったことを助長しかねないこと、さらには、解雇等で急に収入が途絶えた方とは生活保障の必要性が異なるということで、こういった仕組みが設けられているものになります。
 52ページは飛ばさせていただきまして、53ページを御覧いただければと思います。これまでの制度の変遷ということで、失業保険法時代から給付制限期間については1か月とされていたところですが、昭和59年の改正で3か月に延長しております。下のほうですが、令和2年10月に雇用保険部会報告によりますと、転職を試みる労働者が安心して再就職活動を行うことができるよう支援する観点から2か月に短縮されております。ただ、括弧書きですが、5年間のうち2回に限るということですので、5年間で3回以上離職された場合には給付制限は3か月になるという仕組みになっております。
 54ページからがデータになりますが、自己都合離職者数の年度別の推移になります。近年は、雇用保険の自己都合離職者は赤字ですが、70万人程度ということで、受給資格決定を受けた方の約半分が自己都合という形になります。
 55ページを御覧いただければと思います。こちらは自己都合離職者数数の月別の推移になります。令和2年10月に、給付制限期間が3か月から2か月に短縮されておりますけれども、その前後では傾向に大きな変化は見られないところであります。
 56ページを御覧いただければと思いますが、こちらは受給資格決定者に占める割合でございまして、こちらの傾向も令和2年10月前後で大きな変化は見られないところであります。
 続いて57ページですが、自己都合離職者の再就職までの期間別の割合になります。棒グラフの上が令和元年4~5月に受給資格決定をされた方ですので、給付制限期間が3か月になります。下が令和3年4~5月ですので給付制限は2か月となっておりまして、赤いラインが「給付制限中に再就職」というところですが、こちらは左に当然ながらシフトしているものになります。
 ここで見ていただきたいのが、点々と赤い丸で囲っている部分ですが、給付制限1か月未満がもともと10.4%だったのが9.0%、1~2か月というところが13.0%から10.6%にやや減っております。考えられる原因は2つございまして、上の四角囲みの2ポツ目ですが、1つは、給付制限期間が短くなったので、基本手当の受給開始まで再就職を待とうかという受給行動が引き起こされた可能性があること、もう一つは、単純にコロナ禍で早期再就職が難しくなったという、どちらの可能性もございまして、引き続き検証が必要なところかなと考えております。
 続きまして58ページになりますが、いわゆる循環離職と呼ばれる繰り返し離職される方がどうかというものを見たものになります。上の表ですが、令和2年10月に自己都合離職された方のうち2年以内に再度自己都合離職された方の割合がございまして、大体1%程度となっております。これは下の表ですが、平成29年10月の給付制限3か月のときとは変わっていないという状況になります。こちらも施行から2年強しか経過しておりませんので、引き続き検証が必要なものと考えております。
 続いて、59ページは御参考ですが、自己都合離職として受給資格決定された方であっても、給付制限期間中にハローワークから指示を受けて公共職業訓練等を受講された場合は給付制限が解除される仕組みになっております。ここ数年の状況ですが、表の真ん中辺りですが、公共職業訓練の受講者は自己都合離職者の5%程度となっております。
 最後に、60ページ以降が就業促進手当の関係になります。61ページは飛ばしまして、62ページを御覧いただければと思います。こちらは就業促進手当の趣旨ですが、下線にございますとおり、基本手当についてはともすれば再就職の機会があってもすぐに就職しないで給付を受け続ける傾向があるということで、こういった再就職意欲を喚起するために給付するものというのが趣旨とされております。
 次に63ページですが、こちらは再就職手当と就業促進定着手当の概要になります。まず、上の再就職手当ですが、所定給付日数の3分の1を残して再就職した場合に支給残日数の60%の一時金を支給するもの、3分の2以上残した場合には70%の一時金が支給されるという仕組みになっております。
 一方で、下の就業促進定着手当ですが、早期再就職をされた方で、再就職後6か月定着し、なおかつ、前職に比べて再就職後の賃金が低下した場合に支給されるものとなっております。こちらは、再就職時の賃金低下が早期再就職をちゅうちょさせる原因になっているのではないか、ということで創設されたものになります。
 続いて64ページは制度の変遷ですが、表の真ん中辺りの平成21年改正以降は一貫して、再就職手当等の給付率が引き上げられております。
 67ページまで飛んでいただければと思います。こちらは早期再就職者の割合の推移になります。表の赤枠のところを御覧いただければと思いますが、受給資格決定件数に占める再就職手当受給者の割合、つまり早期再就職された方の割合ですが、こちらは15%程度だったのが、近年は30%程度と増加傾向にございます。ただ、再就職手当の拡充の影響だけではなく、雇用情勢の改善等も考えられるものになります。
 続いて68ページを御覧いただければと思います。こちらは解雇・倒産等の特定受給資格者以外の再就職状況になります。グラフの赤い囲みですが、平成21年以降は、待機期間中の再就職が白い部分ですが、減少しております。一方で、オレンジの部分の給付制限期間中の再就職は増加しておりまして、実は、再就職手当は待機期間中には再就職しても支給されませんけれども、給付制限期間中に再就職した場合には支給されるという仕組みになっておりますので、この点は、再就職手当の拡充の結果による可能性もあると考えられるかと思います。
 69ページを御覧いただければと思います。こちらは再就職手当受給者の職場定着率になります。これまで再就職手当を拡充いたしまして、早期再就職のインセンティブを強めてまいりましたが、表の左の部分ですが、早期再就職者のうち6か月定着する方の割合は大体8割、1年定着する方の割合は7割程度と、定着率に大きな変化はないところでございます。
 続いて70ページですが、就業促進定着手当の支給状況になります。左上の表ですが、就業促進定着手当の受給者は約10万人で、再就職手当に占める割合は大体3割程度となっております。つまり、早期再就職者の少なくとも3割程度が再就職の際に賃金が下がっているということになります。その下の年齢別で見ますと、60~64歳の4割程度は受給者の割合が高くなっております。
 71ページを御覧いただければと思います。こちらは転職者全体で、再就職の際に賃金がどう変動したかを見たものになります。右側の賃金低下の部分ですが、こちらは35.3%となっておりまして、先ほどの早期再就職者の少なくとも3割程度が、賃金が低下すると、そういった傾向とはそれほど変わらないと言えるかと思います。年齢別に見ますと、年齢が高いほど賃金が低下するという傾向もございますので、こちらも早期再就職者と傾向はほぼ同様と言えるかと思います。
 最後に72ページですが、論点2点ございます。1点目は、再就職までの生活の安定と早期再就職の促進を図るという雇用保険制度の趣旨・目的に照らしまして、過去の制度改正の効果をどう考えるかという点と、2点目は、基本手当や再就職手当等の在り方についてどのように考えるかというものになります。
 事務局からは以上です。

○尾田雇用保険課長 それでは続きまして、雇用保険法改正の影響に関する統計的エビデンスにつきまして、小原先生から御説明をお願いしたいと存じます。
 それでは、小原先生よろしくお願いいたします。

○小原臨時委員 よろしくお願いいたします。
 本日、依頼を受けた内容ですが、まず最初は確認で、雇用保険法改正、特に所定給付日数の変更による影響について、今、統計的に分かっていることと、近年の施行研究で示されていることから、下の「疑問」と書いているところにある、所定給付日数の変更、過去に行われた制度変更でどんな影響があったと予想されるかということを、よい影響とよくない影響の両方について2つまとめたいと思います。特に細かいところでは、今後の制度設計で給付日数を延ばすことにどんな問題があるのかということや、より限界的な、つまり影響する可能性のあるグループの考慮、例えば求職者の異質性の考慮は必要がないのかであったり、地域の異質性、地域状況の差の考慮の必要性はないのかということ、訓練の必要性はないのかということ、などに答えたいと思います。併せて、自己都合の離職者の給付制限、待機期間の存在はどんな影響を与える可能性があるかについて、まとめたいと思います。
 次のページをお願いします。給付日数の削減が与える可能性ですが、よい効果と悪い効果とそれぞれあります。給付期間削減によって求職者は自分の求職意欲を高める。先ほどの説明にもありましたけれども、給付日数が削減されたことでより高い求職活動の努力を行う、もらえる日数が削減されていますので、早く就職しなければならないとか、そういう努力水準を上げるという意味です。
 それによって当然良い効果として、求職者の失業期間が減るという効果があります。むやみに失業期間が延期されないという意味です。ここで言った「むやみに」というのは、平均的な失業期間よりも長くなるか短くなるかという話ではなく、求職者個人において、給付期間が長かったときに比べて短かったときのほうが、その人本人にとっての失業期間がより短くなる、潜在的な失業期間が短くなるということを指しています。しかしながら、失業期間が短くなれば、その間に人的資本が磨耗せずに済むとか、メンタルヘルスがどんどん悪化していく、言い換えると失業期間が長くなるにつれてメンタルヘルスが加速度的に悪くなっていくのを防ぐことができるとか、失業期間が長くなると「長くなった」ということが求職者に関する悪い情報となって企業から雇われにくい、求人が雇用しにくいという、そういう負のシグナリング効果を抑制することができるといった良い効果あります。こうなれば、本人にとっての生産性は下がらずに済む、あるいは向上するので、賃金の低下を抑制する、何なら賃金は上がる、少なくとも大きく下がるのを抑制することができるし、長期失業確率も抑制することができるだろうと考えられます。特にこれらの効果が大きい可能性があると思われるのは、低技術・低技能労働者、若年(求人にとって、経験がないために情報が見にくい若者)で、良い効果が大きいと考えられます。
 一方で、悪い効果も言われていて、削減されて給付期間が短くなると、求職者がよくない再就職先に飛びついてしまうことがあります。もうちょっと時間をかければいいのに、そうせずに何でもかんでも飛びついてしまう。そうなると生産性は低下するし、さらに賃金は低下するし、それから、再就職後の定着も悪くなる。結局、早く新しい職場に就いたけれども、定着せずに辞めて、次の職に移らざるをえない。その次に良い職に行ければいいのですけれども、そうではなくて、辞めて、失業プールにたまってしまうという問題があります。
 この減少が所得や資産が少ない者とか、非労働所得のない者で影響が深刻と資料に書いたのですけれども、ここで言う非労働所得には、家族の援助も含まれていて、例えばそういう援助がないような人がどんどん良くない就職先に飛びつきやすくなってしまうという意味で、社会の中で弱者と言われている、就職がなかなか難しいと言われている人たちが、悪い就職先に飛びついて、なかなか定着できない、ジョブマッチングがよくならないという問題が出てくる可能性があります。
 次のページをお願いします。これらに関する統計的エビデンスですが、かつては、給付期間の延長は再就職意欲を低下させて、失業期間をどんどん長期化してしまうという統計エビデンスが多く、どの国でも報告されていました。給付水準はヨーロッパと北米では大きく違うのですけれども、どの地域であってもそのような結果は出ていて、モラルハザードなどと呼ばれ、給付を長くすることの問題として取り沙汰されてきました。
 近年になってもそれは変わらなくて、2000年代、2010年代の研究でも、やはり給付水準の拡大とか給付期間の延長は失業期間を長期化させてしまうことがずっと言われています。ただ、最近の研究は、この負の影響が存在しないグループもあるということを言っています。すなわちモラルハザードの存在を小さいグループもありますよと強調する研究が、学術研究雑誌ではたくさん取り上げられています。この点は大事なので、後で述べます。
 もう一つ大事な点は、先ほど述べた点ですけれども、ジョブマッチングにおいて再就職の確率だけでなく、再就職後のマッチングが悪くなる、つまり定着しないですぐ辞めてしまうとか、再就職先で高い生産性を発揮できないとか、そういう可能性についても最近はたくさん検証されています。結果は混在していて、真逆の結果もあります。悪くなるという研究もあれば、良くなるという研究も実は出ていたり、全く影響がないという研究もあったりします。
 次のページをお願いします。日本の統計エビデンスですが、日本でも多くの研究で、給付期間が長いだけだと失業期間は長くなってしまうという結果が示されています。今日お見せするのはちょっと古いのですけれども、もう10年前なのですが、佐々木さんと一緒に書いた論文で、実はこれは厚生労働省の方にもたくさん関わっていただいて、2つの日本の行政データを使った分析の結果です。厚生労働省から出していただいた、日本全国の、ある期間の全失業者のデータで、雇用保険のデータと離職のデータを併せて利用させていただきました。私たち研究者が分析できる最高のデータを出していただき分析させていただきました。
 そこでの関心は、失業期間が長くなったとしてもジョブマッチングがよくなるのだったらいいではないかというもので、次の仮説を検証してみました。失業期間が短くなったときに、ジョブマッチングは悪くなってしまうのか、です。所定給付日数を減らすという制度変更がかつてありましたが、この制度変更によりマッチングは悪くなってしまったのかを検証しました。
 やってみたら、そのような悪化は見られなくて、むしろ給付期間を短くしたときに、定着は改善する結果となりました。これは、実は最近のドイツや、他のヨーロッパの国でも出ている結果で、失業期間が短くなったときに、実は再就職先もよくなったというのがあります。それと似たような結果になっています。
 ただ、ちょっと誤解されてしまうといけないのは次に書いたところです。失業期間の長さが「真の原因」ではない可能性もありまして、これは10年前の研究ですが、因果効果が過大に出ている可能性もあります。何かというと、失業期間が長くなったというよりも、失業当初から求職活動を一生懸命やっていたかどうかが、どうやら重要なのではないかということです。データでは、離職した当初から求職活動を一生懸命やっていたグループとそうではないグループというのをデータから見分けることができます。
 データにはいつジョブオファーがあって、面接を受けたかどうかというのが記録されているので、最初から求職活動を熱心にやっていたかどうかが見分けられます。これに基づいてグループを分けてみると結果が違います。下の図は、離職後30日以内に仕事に1回でも応募していた人と、そうでなくて、最後のほうになって応募した人を分けて見ています。この図自体は、縦軸の上のほうに行くほど、再就職先での定着がいいことを表しています。ですから、上に行けば上に行くほど仕事を辞めてない、再就職後の職を辞めてないという意味です。離職後30日以内に求職活動を始めていた人は、次の再就職先でも辞めないという結果になっています。青いほうが遅く離職しています。離職後のいろいろな時点で区切りました。30日とか60日とか、それから、雇用保険が切れる、給付期間が切れる30日前とかでもみています。どれでも全く同じ結果になるのですけれども、給付終了近くで、初めて求職活動を始めた人は、最終正午も早めに辞めてしまう確率が高くなるということを示しています。
 もう一つ、その隣をお見せしておきたくて。今日の質問に答えるために、実は論文の中でも少し述べているのですけれども、前職を、非自発的離職者と自発的に辞めた人に識別すると、非自発的に辞めた人のほうが失業後に再就職した後も離職しない傾向にあります。自発的に辞めた人のほうが、先ほど繰り返して失業する循環失業の話がありましたけれども、その循環失業の確率が高くなります。
 次のページをお願いします。最近の研究では、給付期間がモラルハザードを起こすという結果についても少し新しい発見があって、この悪影響ですね、失業期間が長期化してしまうという、これは必ずしも存在しないのではないかという研究成果が出ています。よく聞かれるのですけれども、私たちがやってきた先の研究成果の結論は間違っていたのではないかと質問されるのですけれども、そういうわけではなくて、過去の研究と最近の研究では見ているところが違うと私は思っています。
 何かというと、給付期間の効果の異質性に最近は着目していて、例えば低技能労働者で見ましょうとか、長期失業者で見ましょうとか、グループで分けて影響を見ています。そうすると、悪い影響が出ないグループもあるよ、というのが最近の結果です。日本でもその可能性はあります。実は、求職者の年齢別に影響を検証することさえも、つまりグループでの異質性の検証もこれまではされてこなかったので、私の研究だけでなくほかの研究もそうですけれども、そもそも統計的エビデンスが日本では示されてきたと言えないと思っています。因果関係としてきちんと分析したものはほとんどないのではないかと。資料の下に、なぜこのような異質性が生まれるかを書いています。ここはちょっと飛ばしたいと思います。
 次のページをお願いします。2つ目に景気の差に注目している研究もたくさんありまして、例えば不況期にはモラルハザードは小さい可能性もあります。アメリカでは景気は関係ないのではないかという結果や、その逆もあったりして曖昧な結果ですけれども、日本でも不況期に悪影響が小さいという可能性はあります。というのも、先ほど佐々木さんとやった研究を紹介させていただきましたが、データは2005年のデータを使っています。なので、平成15年の雇用保険法改正はもちろん受けているのですけれども、2005年という景気が悪くないときに出てきた結果であって、良い影響が過大に出ている可能性はあります。景気状況によっては、影響が小さくなる可能性はあるのかなと思っています。
 3つ目に、最近の研究では、給付を受けていない人に着目している研究も多いです。非受給者ですね。給付制度を変えると非受給者の失業が減るという研究成果が幾つか出ています。このメカニズムは何かというと、給付期間が長くなると、受給者の失業状態が増えるので、もともと労働市場で奪い合っていた職が少なくなって、非受給者のほうが就職しやすくなるというものです。ですけれども、これは、ちょっと日本では考えにくいのかなと思っています。日本の給付期間の延長で受給者が失業期間をうんと長くするという可能性は小さくて。そもそも非常に失業期間が短いですし、ローカルエリアで受給者と非受給者が職を奪い合っているという状況ではないのかなと思うので、この可能性は日本では小さいのかなと私は思っています。
 4つ目は、地域での給付期間に差があることに注目している研究です。ある地域では悪影響はないという結果ですけれども、これも日本では本当に当てはまるのかな?と疑問に思っています。そもそも日本の場合は、制度変更は全国一律で起こるので、制度の差により地域間の労働移動が起こって、つまりマーケットを移動して就職することではないので、これも可能性は少ないかなと思います。
 次のページをお願いします。もう一個だけつけ足しさせてください。今日の質問に答えるためにもう一つ追加しました。近年のハローワークのような就職支援機関での実験の結果というところに、今日の質問への回答のヒントがあるかなと思って載せました。
 1つ目は、ハンガリーの2005年の研究で、フロントローディング(給付水準逓減)という制度についてです。資料の右に図を書きました。これはRCTではなく社会実験です。何かというと、ハンガリーの失業給付は失業者の就業の側面だけでなく失業者の福祉の面も含んだ援助であるので、非常に長い雇用保険給付になっていますが、もともと給付はこの青い点線のように、最初の90日(3か月)のところだけ大きく給付水準が上げられて、その次のところで大きく下げられていた。それが、全体としては変わらないのですが、失業期間中に給付を上げて下げる形がとられたというのが、この赤い線が表す政策変更後です。これによって何が起こったかというと、失業期間が短縮化されたことがわかりました。2週間~1か月ぐらい違っています。それから、再就職所得も上がるという、つまりマッチングがよくなるという結果になっています。
 2つ目はオランダの分析で、それが下の図のほうですが、これは大規模なRCTを行っています。何かというと、雇用保険の申請、失業給付の受給タイミングに関する実験です。ランダムに選ばれた人だけ、申請するのに「待て」という期間が置かれる、それが “Job search period”ですが、この「1か月待て」という期間があって、この間に求職活動をしなさいという指令が与えられます。この期間だけ求職活動をしてからなら給付申請ができますよという、1か月の待機期間をつくったのです。実験結果によると、これが置かれたことで就業率が上がります。求職者のフルタイムの雇用率が上がっていくという結果です。これによってどれぐらい雇用保険財政が改善したかという計算もしているのですけれども、失業給付の受け取り自体も減少しています。つまり、求職活動中に就職していて、そして、そうなれば給付申請も当然しなくなるわけですから、給付の受け取り額も少なくなるという結果です。
 この2つは、何を示唆しているかというと、先ほどの佐々木さんとの研究のところでも言いましたけれども、求職者が初期時点から意欲を上げて求職活動を始めていくことの重要性を述べています。
 次のページをお願いします。「まとめ」です。まずは、日本の平成12年、平成15年で給付期間を短縮した制度変更について、この改正は、再就職率を上昇させて、失業期間を短期化させることに貢献したと言えそうです。そして、求職期間が短くなったということ自体の悪いほうの影響ですが、つまり、マッチングが悪くなるのではという心配される方の影響ですが、これについては、私たちの分析では確認されなくて、むしろ良くなった可能性もある。あるいは、それは過大評価だとしても、初期時点から求職活動の意欲を高めていれば良くなると言えそうだとわかりました。初期時点から意欲を高めていなければ、逆に悪くなる可能性があるという結果でした。
 そして、自発的離職者で給付期間を短縮したことで、彼らの再就職後のジョブマッチングはよくなったのではないかなと思います。
 次をお願いします。この最初の疑問に答えると、失業給付期間を延ばすことで、失業期間は長くなると思います。そして、延ばすことで、再就職後のジョブマッチングがよくなるかと言われると、その効果は小さいのではないか、むしろ悪くなる可能性もあるのではないかというのが回答です。ただし、不況期には悪影響は小さい、あるいは無いかもしれないです。これはエビデンスがないので、分析をやらないと結論できないとは思います。
 それから、求職者のタイプによって差はあるかについても、統計的エビデンスは十分でなくてよく分からないというのが回答なのですけれども、複雑に設計することにはコストもあるだろうなと思います。ぱっと見では求職者がどんなタイプの人かというのは分からないので、そもそもその識別がとても難しいのかなと思います。このあたりは、ちょっとすみません、明確な回答がいまだに私の中にない状態です。
 それから、再就職後のジョブマッチングの向上は、やはり重要なカギは最初の時点から就職活動を熱心にさせられるかどうかではないかなと思っています。それを考えると、受け取りを据え置くとか、就職時に報酬を与えるとか、そういうメカニズムですね、今回は他国のフロントローディング設計を見せましたが、そういうようなものとか、期間によって給付水準を変えるとか、求職と同時に、求職活動を促すメカニズムは必要かなと思います。待機期間も、先ほどのほかの国の例でいくと、日本のエビデンスは必要ですけれども、もしかしたら効果があるかもしれないなと思います。
 ちょっとつけ足しですけれども、最近の経済の実験結果でいくと、求職者の再就職率を高めるためには、求職期間中の監視、モニタリングが重要とか、求職者に意欲を与えるためのゴールセッティングが重要と言っている行動経済学の論文があります。意欲を高めておく努力は侮れないという結果です。それにはハローワーク等での就職支援者の支援の関わり方もとても重要で、コストがかかるところですが、かかわり方次第で就職率が変わるという結果もたくさん出ています。
 最後に、これらの実験では、就職支援者のかかわり以上に、求人・求職者の情報を出すことの重要性が示されています。この実験成果には訓練の成果に関するものも含まれているのですけれども、「訓練を受けたことでこんな技能がつきました」という情報を求人に見せてあげることでジョブマッチングを良くする効果が非常に大きいということも締めされています。
 以上です。

○尾田雇用保険課長 小原先生、ありがとうございました。
 それでは、今ほどの事務局からの説明及び小原先生からの御発表につきまして、委員の皆様から御意見、御質問がございましたら、お願いいたします。大変恐縮ではございますが、五十音順で酒井先生から順次御発言をお願いしたいと思います。
 それでは、酒井先生よろしくお願いいたします。

○酒井委員 事務局からの御説明と小原先生の御報告、大変貴重なもので、ありがとうございました。
 事務局の説明に用いられた資料ですが、多分、これまであまり示されてこなかったようなものも含まれていると思いまして、こういったことを議論するのに極めて重要な指標かと思います。ちょっと時間もないので、早めにコメントしたいと思うのですが、資料2の17ページになりますが、再就職時賃金と基本手当日額を比べていて、いわゆるその逆転現象がどれくらい起きているのかということを示したものですけれども、非常に興味深く見ました。これを多いと見るか少ないと見るかというのはいろいろと議論があるかと思いますが、例えば60歳以上に関しては40%ですので、年齢によってはかなり多くなっているのではないかという印象を持ちます。
 所定給付日数を長くするべきか、それとも短くするべきかという議論は、また、先ほどの小原先生の報告にもありましたように、いろいろな議論があるかと思いますけれども、日本の給付水準に関しては、別に低くする必要はありませんけれども、高くすると、単純に考えて、逆転する人が多くなってくるということにはかなり注意すべきだと思います。給付水準を上げることに関しては慎重になるべきというメッセージかなと思うところです。
 続きまして、同じ資料の57ページになりますが、これは自己都合離職者の給付制限期間の短縮についてのグラフになりますが、まずそもそも論として、自己都合離職の給付制限期間というのは、たしか80年代前半くらいまでは1か月だったのですけれども、当時、結婚を機に退職し、必ずしも再就職するつもりもないまま受給するようなケースがかなり多くて、そういったものを減らす目的もあって、80年代の半ばくらいにたしか給付制限期間を3か月に延ばしたという経緯があったと記憶しております。それが一昨年の10月に2か月に短縮されたということだと思うのですけれども、ここのグラフで、給付制限中に再就職した割合がどういうふうに変わったかということを見ているわけですけれども、私としましては、それと同時に、一番右端のグレーのところですが、受給終了後に再就職または未就職というものの割合が、この増え方が、給付制限が1か月短くなったことを差し引いても増え方が大きいような気がしております。
 これが何を意味するかということですけれども、ここに含まれるのは、再就職している場合もありますし、受給終了後にモラルハザードのような形でずっと就職すらしないということも両方とも含まれるのでどちらか分からないのですけれども、本当に受給終了後に延々と就職しないような人たちが増えているとするとちょっとゆゆしきことかなということで、エビデンスが欲しいところだなと思っております。ということで、ここの点に関しても給付制限期間の短縮がどのような効果をもたらしたかというのは、もう少し精緻に検証というか調べてみる必要があるかなと感じているところです。
 次、68ページになります。待機期間中・給付制限期間中の再就職の状況ということで、再就職手当の効果の傍証でお示しされているかと思います。ロジックとしては分かるところですけれども、これだけをもって再就職手当が寄与していることが本当に言えるのかどうかというところはちょっと気になったところです。ですので、これについても、今後、精緻な検証が必要かなと思うところです。
 再就職手当というものは、私、海外でこういう例があるのか分かりませんけれども、先ほど小原先生の御報告にもあったように、海外などでは給付率のフロントローディングといいますか、給付水準がずっと一定なのではなくて、だんだん低下してくるとか、そういった設計がされている場合がありますけれども、日本の場合はそういう設計になっていない代わりにこの再就職手当というものがあるというか、再就職手当がそれに似たような機能をしているのかなと考えると、この再就職手当がどのように機能しているかというところが今後すごく重要なところで、これは自分自身にも言わなければいけないのですが、私も含めた経済学者はこの辺りをちょっと検証しなければいけないところなのかなと感じた次第です。 いろいろと思うところ、いろいろ感じるところが多い資料だったのですが、とりあえず私の発言は以上とさせていただきたいと思います。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございます。
 それでは、続いて佐々木先生、お願いいたします。

○佐々木委員 佐々木です。どうもありがとうございます。たくさんいろいろなトピックがありますが、給付制限期間と就業促進定着手当に絞ってお話しさせていただければと思います。
 まず、給付制限期間の短縮に関してですが、自己都合離職者に対しては、令和2年10月に給付制限期間が3か月から2か月間に短縮されまして、最近、現政権がそれを2か月からさらに短縮することを検討しているというニュースがありました。そうすることによって成熟産業からデジタルやグリーンなどの成長産業に労働移動を円滑に促すことを期待しているのでしょう。
 理論的な話をしますと、給付制限期間の短縮は、給付開始が前倒しされることになるので、給付全体の価値が上がることを意味します。それは離職を促進する効果があります。それと同時に、給付の増加は留保賃金を引き上げますので、短縮前に比べれば、平均的に求職期間は長くなりますが、留保賃金が増加した上で就職した場合、平均的に高い賃金で就職できることを意味します。これはマッチングの質の向上と解釈できます。特に、割引率が高い人、いうならば将来の給付を大きく割り引いてしまう人ほど給付制限期間の短縮は給付開始の大きな前倒しを意味するので、労働移動の効果が大きいのではないかと考えられます。したがって、早期に労働移動を促したいのであるならば、給付制限期間の短縮は一つのアイデアなのかなと思います。
 先程小原先生からご紹介していただいたオランダのBolhaar等の研究結果は、給付制限期間の短縮と反対で、手当給付開始を延期することに着目しております。彼らの研究結果から、背後にあるメカニズムとしては、留保賃金が下がり、早く就職しなければいけないということで求職期間が短くなり、そして、結果的に就職率が上がったということなので、理論分析が予想した結果と整合的な実証分析結果が得られたのかなと思います。
 しかし、理論的な予想と現実では違うとも言えます。例えば給付制限期間を完全に撤廃した場合、4月1日に新たな就職先を決めた上で、今日2月28日に仕事を自己都合退職して、明日から給付をもらって、1か月何もせずにちょっと休んで、4月1日から働き始めるというのは悪い考えではないし、そう考える人は多いのかなと思います。
 理論的分析から予想される行動と実際の行動とではちょっと乖離があり、給付制限期間を短縮しても期待していた通りにはならないのかなと感じます。転職を望む人はそもそも在職中から求職活動をしていると思います。もし、政権が考えるような、成熟産業から成長産業へ労働移動を促したいのであるならば、むしろ、在職者への求職者支援や後ほど議論する教育訓練支援をもっと充実させたほうが良いと思います。そうすることでミスマッチのないスムーズな労働移動が実現できるでしょう。
 次に、就業促進定着手当、これは、私はよく知らなかったのですが、早期再就職し、定着した者に対して賃金の低下分を補塡するという話だったと思いますが。リーマンショックのような大きな景気後退の場合なら、ステップアップするような転職は難しいので、労働者の生活水準を適正な水準に保つ意味でも、就業促進定着手当を支給するのは正当化されると思います。また、生産性よりも高い賃金をもらっていた中高年者が再就職する場合、賃金が大きく減少することから、生活水準の維持のためにも、ある程度就職促進定着手当を支払うことにも正当性があるでしょう。先ほど言ったとおり、60歳以上の人は、逆転現象が40%でありましたので、そのような人たちに就業促進定着手当が支払われているのかなと思います。
 でも、就業促進定着手当があることで、早期に就職をするが、低賃金の仕事に就いてしまうことになりかねません。すなわち、今度は質の悪いマッチングを助長することになってしまいます。補塡と言っても、永続的に補塡されるわけではないので、長期的な視点に立てば、労働者の便益が下がることにつながると思われます。特にさっき申し上げた割引率が高い人ほど、目先の手当に目がくらんで、賃金が多少低くてもオファーを受諾する可能性があります。また、採用する企業も、就業促進定着手当を当てにして低い賃金をオファーすることも考えられます。昨今、賃上げが喫緊の課題である中で、この手当があることによって低賃金の継続につながるのではないかと少し懸念いたします。
 私は、今のところ以上でございます。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。
 それでは、土岐先生お願いいたします。

○土岐委員 事務局の御説明、それから、小原先生の御報告ありがとうございました。大変勉強になるとお話をお伺いしておりました。
 事務局の御説明を伺っていると、これまでの制度改正が直ちに何か明らかな問題を生じさせているということはないと思いながらお話を伺う半面、よりベターな制度にするためにどうすればいいかは、実は研究が必ずしも十分ではないということで、今後どうすればいいかは結構難しいというのが経済学ご専門の先生方の共通の御認識なのかなと思ってお話を伺っておりました。ですので、私自身、直ちにここをどうすれば良い制度になるというのは、すぐに出てこないのですけれども、小原先生のお話を伺っていると、恐らく給付日数に関して、これを延ばすにせよ延ばさないにせよ、求職者の就職意欲とか活動意欲を刺激することが大事なのだろうとお話を伺っておりました。
 この点に関しては、再就職手当が問題になると考えておりまして、先ほど酒井先生も御指摘されていたと思うのですけれども、ハンガリーの場合は、最初にまとめて渡して徐々に減っていくので、早い時期に再就職すると。日本の場合は、早く就職すると後で支給されますよということで、多分その選択肢としてはどちらもきっと取り得るのだろうなと思いまして、あとは、どちらがより効率的であったりとか、あるいは日本の実情にマッチするかというのを恐らく分析していかなければいけないのだろうと。ただ、この点はあまり研究がないというお話だったと聞いておりましたので、恐らく今後の議論を待たなければいけないと思ってお話を伺っておりました。
 小原先生にお伺いしたいと思って聞いておりましたのが、求職者の就職意欲とか活動力を刺激する方法としてどういったものが考えられるという点です。ハンガリーの例ですと、結局、金銭的なもので刺激をしているということでしたが、以前、大阪のハローワークに見学に行ったときに、失業認定時に必要に応じて職業相談へ誘導する形で求職者の再就職への動機づけをしているという話もあったのですけれども、例えば金銭以外で、例えば求職者の意欲などを刺激するような方法があるのかどうか、もし、これまでの御研究で何かあれば御紹介いただくと大変参考になると思ってお話を伺っておりました。もしかすると、そこも十分に詰められていないところかもしれないのですけれども、もし、よろしければお話を伺わせていただければと思います。
 私からは以上でございます。

○尾田雇用保険課長 土岐先生、ありがとうございました。小原先生には最後に、先生方の御意見と御質問に対する回答をまとめていただければと思っております。
 それでは続きまして、水島先生お願いいたします。

○水島委員 水島でございます。事務局から詳細な御説明ありがとうございました。また、小原先生、いつもお世話になっています。興味深いお話をいただき、ありがとうございました。
 今回の論点の、制度改正の効果ですけれども、雇用保険制度の基本的な考え方に沿った制度改正が行われ、一定の効果があったと考えますが、小原先生の御報告で、よい効果が期待できる求職者のグループと、悪い効果、問題となる求職者を示されたのは、非常に興味深く思いました。
 聞き逃したのかもしれませんが、小原先生に質問があります。高い技術を持っている者や中高年齢者は、あまり影響を受けないのかを確認させていただければと思います。
 また、土岐先生から御指摘がありましたが、小原先生の御指摘で、求職者の求職意欲を失業初期時点から喚起し続ける必要というのは大変印象的で、これを行うことによって法の趣旨に即した適切な給付が行われるように思いました。
 それから、論点のうち延長給付につきまして、今回、事務局から御説明のなかったところで恐縮ですが、コロナ特例でない個別延長給付について、お分かりになる範囲で質問させていただければと思います。資料2の45ページですが、個別延長給付の対象者は就職に結びつかない理由が、障害等ご本人にある場合と、災害等にある場合に大きく分けられるように思いました。前者、就職に結びつかない理由が当該者にある場合については個別の状況を勘案して、それに対して、後者は地域の状況を勘案して、給付を延長するという理解でよいでしょうかという質問です。
 また、「再就職を促進するために必要な職業指導を行うことが適当であると認めた者」とありますが、恐らく個別具体的であり、お答えが難しいと思いますが、特に障害者の方々について、延長してどのような職業指導を行っているのかといった情報をもしお持ちであれば教えていただければと思います。
 次に給付制限についてですが、自己都合、自発的失業と言ってもいろいろあるわけで、そのうち、一応自己都合に分類されるけれども、やむを得ず失業するに近いケースとか、あと、積極的に転職したい人は、まさに小原先生がおっしゃった初めから意欲がある方なので、給付制限を短縮する、場合によってはなしにすることで、より早い転職が期待できると思いました。自己都合離職者の給付制限を短くすることは、再就職までの生活の安定と早期再就職の促進という雇用保険の趣旨・目的にも合致するようにも思います。
 他方で、給付制限は実は積極的転職における失業を生み出していない可能性があるのではないか。給付制限があると空白期間(雇用の切れ目であり、無収入の期間)が気になるので、在職中に再就職先を決めて、雇用の切れ目をつくらないのが合理的選択であり、そのような行動をとる人が一定数いるのではないか。もし今後、給付制限が短縮されたりゼロになって、所得の切れ目がより小さくなれば、失業を選択しやすくなると思います。転職しやすい労働市場が整っているならば、離職後に安心して転職活動に専念でき、よりよい職に就くことができると思いますが、もしそうでなければ、失業者が増えるだけかもしれないという懸念を感じました。
 59ページは参考でのご紹介ですが、自己都合離職者に対して公共職業訓練を受講して給付制限を解除されるものが割合としては小さいですけれども、一定数いて、給付制限解除という効果を期待して受講しているケースもあるのかなという印象を受けました。給付制限が解除されることによって、公共職業訓練の受講への影響が出るかもしれないと思いました。
 先ほど佐々木先生が離職が増えるとおっしゃっていましたが、離職が増えると、安易に離職するケースや、給付目的の離職も発生すると考えます。佐々木先生がおっしゃった、4月1日からの就職内定を得て、2月28日に自己都合退職するのは給付目的の離職と言えそうで、このような離職をどう防ぐかが課題となると考えます。
 最後に、就業促進定着手当についてですが、再就職の賃金が下がる要因には、前職の賃金が高過ぎたとか、前職では働き過ぎていて賃金が当然高かったなど、前職に理由がある場合と、そうではなくて、転職しようとしたけれども、能力や希望にマッチする仕事がそもそも労働市場にあまりないという労働市場の問題とがあるように思います。どちらを想定するかで就業促進定着手当の見方・考え方も変わるのではないかと思いました。
 私からは以上です。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。事務局に対する御質問は、最後にまとめて御説明させていただきます。
 それでは、山川先生お願いいたします。

○山川座長 事務局の詳細な説明、それから、小原先生の御説明、どうもありがとうございました。経済学的な知見の重要性が改めて分かったと思います。
 本日の論点で、非自発的失業か自発的失業かで受給日数等に差をつけるという、これまでの政策的な方向性は、その効果という面でも大きな問題はなかったということになるのであろうかと思います。その意味では、政策的にどうこうということにはつながらないのですけれども、そもそも失業保険の構造が、非自発的失業が本来の保険事故だという考え方自体がどうなのかという問題は、先ほど佐々木先生のおっしゃられた政策的なことを考えるとどうかというのはあるかと思います。
 といいますのは、給付制限の期間を置きつつも、自己都合に対して給付を行っているとか、そもそも本人から保険料を取ること自体が、自発的な失業でも給付がなされることを前提に成り立っていて、アメリカの場合は非自発的失業しか給付がなされない代わりに、雇用税ということで失業者だけが払うということなので、そもそも非自発的失業が本来の対象だと、そこには何となく感覚ですけれども、失業というのは、よくないことではあるのですけれども、本来望ましくない選択であるという発想があるような気がしなくもありません。しかし、モラルハザードというか、逆選択の可能性はあるのですが、何が本来かという問題と、その逆選択を防止するというのはちょっと別の次元かなと思ったところであります。
 それに関連しての感想ですが、水島先生が言われたように、自己都合退職でも、特定受給資格者に当たらない事例が結構ありまして、リクルートにおられた方から聞いたら、日本の転職活動の特色は、積極的なキャリアアップよりも職場の人間関係が嫌だからというのが多い。そういう者に対して逆にあまり給付を制限してしまうと、辞めようにも辞められないということで、かえってメンタルが悪くなったりということもあります。問題は失業保険面で対応するのか、あるいはハラスメント等、職場の環境を改善するのか、これは両にらみのお話かなと思いました。
 小原先生のプレゼンを聞いて、求職活動の積極化が必要だということはおっしゃるとおりかなと思いました。といいますのは、この問題は恐らく失業保険の問題だけでは解決できなくて、マッチングの機能をどう高めるかともかなり依存していまして、情報の開示を進めることもそうですし、能力開発とかもそうです。特に積極的に労働市場政策として活用していくためには、マッチング機能の改善と両にらみでやらざるを得ないのかなと思ったところです。
 個別的な求職活動の積極化というのは、本人の気持ちを前向きにさせるのはなかなか制度として難しいところがありますので、モニタリングというところにある程度ならざるを得ないという面があるかと思います。その点から、諸外国で行われているJob-seekers  agreement といいますか、就職活動といいますか、ハローワーク、職業安定機関で本人としっかり話し合いをして、こういうことをすれば給付につながるというように、単に就職活動の確認というよりも、こういうことをしてくださいというより強いモニタリングをしていくのは、就職活動の積極化につながる面があるのかなと、これまでも研究会で議論してきましたけれども、思ったところです。
 以上です。ありがとうございました。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。
 それでは、渡邊先生お願いいたします。

○渡邊委員 御説明、御報告ありがとうございました。大変勉強になりました。
 基本手当について、私からは給付率と所定給付日数、自発的失業者に対する給付制限といった点について少しコメントさせていただきたいと思います。
 失業給付の給付率についてですが、そもそも失業給付というのは、失業中の生活を保障するのが大きな目的としてございますので、その点からしますと、失業者個人の失業前の生活水準を保障するといった必要性は高くないだろうと考えられます。また、再就職を促進するといった観点からは、失業前の所得の一定水準を保障するという考え方は、かえって再就職に対して阻害するのではないかといったことも考えられます。そうしますと、失業時の生活の安定と再就職へつなげるといった観点からは、給付が平準化するような今の現行制度の在り方は妥当ではないかと考えております。
 所定給付日数についてですが、所定給付日数を延長するとどうなるのか、短縮するとどうなるのかといろいろ考えられるところかと思うのですが、長期化しますと、先ほどのお話の内容にも度々出てまいりましたが、失業期間は長期化するのだと。そうしますと、労働者個人が有している技能などが陳腐化してしまうといったところで、失業期間が長期化しやすい、再就職を阻害するといったことが言えてくるかと思います。そうしますと、所定給付日数の一律の延長といったことに関しては慎重であるべきだろうと考えております。個別的な事情による延長の必要性があるというのであれば、個別延長の仕組みといったところを整えていくというところが求められているのではないかと思いました。
 また、先ほどの特に小原先生の御報告からいたしますと、失業当初から伴走型で支援をしていく、求職意欲をそのまま維持していくといったところの支援が大変重要だと考えましたので、山川先生のお話の中にもありましたが、ハローワークを中心としたそういった就職につなげていく支援の在り方が検討に値するのではないかと思いました。
 最後に、自発的失業者に対する給付制限に関してですが、諸外国の例を見ますと、確かに雇用保険制度の在り方としては、自発的な失業者は保障の対象としないといった考え方もあり得ると思います。ただ、日本の雇用保険制度は、現行制度上、被保険者自身からも保険料を徴収して、それを財源として保険給付を行っているといった点とか、先ほどお話に出ておりますが、初めから自分の希望に合った職を必ず見つけられるかと言ったら、そういうことばかりではありませんし、働いている過程において希望する職種なども変わってくることは当然あり得ます。そういった希望が変わったときに転職してはいけないということは言えませんし、その転職に際しての支援といったことを雇用保険が含めて考えているのだと考えていいのではないかと。
 ただ、安易な離職を防止するといった考え方の視点はやはり重要であろうと思いますので、給付制限期間を完全になくすことには躊躇しますが、短縮するという方向性は私も賛同いたします。先ほど水島先生から、給付制限期間を1か月だとかそういうふうな期間に短縮してもいいのではないかといったお言葉もありましたが、私も安易な離職の防止といった視点と失業中の生活の安定といった要請、両方を加味しますと、給付制限期間は自発的な失業であったとしても、1か月程度でいいのではないかといった考え方を持ちました。
 私からは以上です。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。
 それでは、小原先生、先ほどの御質問への御回答も含めまして、御感想なりいただければと思っております。

○小原臨時委員 ありがとうございます。
 最初に、資料のどこかに書きましたし、言っておけばよかったのですけれども、私自身、雇用保険は働いているときに働いている人が保険料を払っているものであって、失業したときにそれをもらうのは当然だと思っていて、それに反対するつもりは全くないです。ですので、議論としては、それをゼロにする道理はない、それはそのとおりだと思っています。
 そうであっても、私がこの議論を、この分析を進めてきたのは、そのときは良かれと思ってとった行動が、後で振り返ってみたら損をしていたということがあるのではないか、失業した時に、すぐに就職しなくてもいいとか、今すぐに働く必要はないし、とりあえずは休めばいいや、給付があと3か月あるなら3か月延ばそうとか、6か月延ばそうと思っていたら、後になって、失業した時に早いうちにきちんと就職活動をしていたらもっと良いパスに乗れたかもしれないのに…ということが起こるのではないか。これが事実ならば、本人にとっても社会にとってもよくないことなので、それをどうにかしたいと考えたのが、私が最初にこの分析をやった理由、研究の出発点でした。
 ですので、保険自体について、労働者が自発的に辞めたのだからもらうべきではないとかというそういうことは全く思っていません。そうではなくて、待つことで自分自身が望んでいなかった状態に陥ってしまう…というのが、最後のマッチングに関する研究の示唆だと思います。失業期間が長くなることについて、いろいろな研究で最近非常に強く言われているのは、今は技術の進歩が非常に速くて、例えば1年休職すると、これは育休の議論でも言われていることですけれども、本当に望ましい状態に戻れるのかという疑問があります。実際に休暇を短く抑えている国もあるわけです。細く長くといいますか、早く復帰させて、ただし復職後の労働時間を短くすることで対応する国もあるわけです。長期間休むことは本当に労働者や社会にとって問題ないのかについて議論し直されているというのが世界的な流れだというのをつけ足しておきます。
 もう一つは、ここでの問題は「割引率が高い」ということの問題とは少し違っています。割引率が高い人は、最初から「将来を考えた行動をとりにくい」人という低学歴の人に多いと言われる個人の特徴、傾向ですが、むしろ、ジョブマッチングに関する一連の研究が言っているのは、「割引率が途中で変わってしまうこと」の問題です。すなわち、失業し始めたときにはさほど将来を割り引いてなかったのに、後になって基礎給付が切れる瞬間にがくっと割引率を変えてしまう問題です。すみません、経済用語ですが、ハイパーボリックディスカウンティングの問題、割引率を変えてしまうことの問題です。制度の存在が、同じ人の行動を変えさせてしまうところ、最初は将来は大事と思ってなかったのに、最後になってやはり……となる問題。それが駆け込み就職をもたらしてしまうという問題ですね。
 これを考えたときに、土岐先生からありました点、失業の初期時点からどうやって求職意欲を刺激できるかということについては、求職活動をモニタリングをしましょうと言っている国もあれば、伴走型という意味で、大阪ハローワークも一生懸命やっていますけれども、失業の最初の時点が勝負だと。ここで失業者を捉えて、トレーニングなどにも参加、それから、応募させる、再就職先を見つけさせようとする場合もあります。意外にこの重要性は共有されていなくて、いろいろなところへインタビューに行きましたが、この重要性を知っているハローワークの職員がどれぐらいいるか、知っていても、それを信じている、これが大事だと思って支援にあたっている職員がどれぐらいいるかというのは少ない感じでした。それは理論上の話でしょうと言う人もやはりいて、何となくもどかしい、エビデンスがうまく使われない苦しさを私は感じています。「そんなあわてて決めなくていいよ」と言うカウンセラーや支援者もいるぐらいです。もちろんあわてて決める必要はないのですけれども、「最初から考えてないと損することもあるよ」という一言があってもよいかもしれない。そういう状態になっています。
 就職トレーニングを早くからさせ、人と関わりを持たせる。給付手続きは普通トレーニングと同じところに行きますから、給付をうけながら人とつながる。就職情報を得る場所も大抵同じですよね、たとえばハローワークなら一緒の場所ですから。これらを同時にさせるメカニズムは必要だし、お金の設計よりもむしろ求職活動の在り方なのではないかというのは、私も最近思っています。多くの国でも言われていることです。
 それから、高い技術を持っている人への影響は2つで、マッチングしやすい人でもありますが、失業給付が変わったときに反応しやすい人でもあります。能力があるので、いつでも就職できると思っているところがあって、失業給付制度が変わったときに反応もしやすい。それによって、いつか就職できるからと言って就職活動を熱心にしない可能性があります。なので、相反する影響によって、マッチング全体には大きな悪影響を与えないと言われていて、私もそんな気がしています。つまり、給付が長くなったから、能力が高い人のマッチングが変わるかというと、それはむしろないのかなという気がします。そういう研究成果もほかの国では多いようです。
 水島先生、そのほかの先生もおっしゃった自己都合のところは、私もいつも難しいと思うところです。自己都合と言われている中に、どれだけの自己都合ではない人が含まれているかというのは常に言われる問題です。ただし、このような混在があったとしても、私は、自己都合とそうではない人を分けて政策を打つのは、意義があるのではないかと思っています。
 なぜかといいますと、政策では「平均的な人」をまず救うのが大事で、もちろんいろいろな人が混在するのはそのとおりですけれども、自己都合という中には本当に自己都合の人がやはり多く含まれていて、非自発的な失業には本当に非自発的な理由の人が多いので、かれらを救うというのがまずは大事なところではないかと思うからです。おっしゃっている問題はよく分かります。ただ、厳密に、この人が自己都合で、こっちは自己都合ではないと区別してサポートするのも制度上は難しいのではないかと思っています。
 回答は以上です。

○尾田雇用保険課長 小原先生、どうもありがとうございました。
 それでは、水島先生から御質問があった件について、事務局から御説明させていただきます。

○尾崎課長補佐 事務局でございます。
 水島先生からの個別延長給付の件に関連しまして、職業指導をどういったものを行っているのかということで御質問いただきました。
 職業指導につきましては、職業安定法に定義がございまして、適合する職業の選択を容易にさせること、あるいはその職業に対する適応性を増大させるために行う指導とございます。具体的に障害者の職業指導に関して申し上げますと、主治医の意見書等も踏まえながら求職者の強み・弱みを洗い出すなどして自己理解を深めていただくこと、あるいは知識・経験させるといったことも目的にした職場実習を組み込むといったことを、ハローワーク以外の機関も含めて、チームで再就職支援を行っているというところが実態かと思います。
 事務局からは以上です。

○尾田雇用保険課長 まだまだ御意見あろうかと思いますけれども、もう一つ議題がございますので、もし追加で御意見等ございましたら、そちらであわせて頂戴できればと思います。
 それでは、次の議題に移らせていただきます。議題2は「教育訓練給付について」です。
 それでは、資料4について事務局から御説明いたします。

○尾崎課長補佐 それでは、資料4に基づきまして、教育訓練給付について御説明いたします。こちらも、昨年1月の雇用保険部会の報告の中で検証を求められておりまして、特に専門実践の指定講座の偏りあるいは教育訓練の効果についてということでしたので、そういった資料を用意しております。
 1ページ目は飛ばしまして、2ページ目を御覧いただければと思いますが、教育訓練給付の概要ということで、上の四角囲みでございます、労働者の主体的な能力開発を支援するために雇用保険の被保険者や離職後1年以内の方が厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講した場合に費用を支給するというものになっておりまして、専門実践、特定一般、一般の3種類ございます。
 5ページまで飛んでいただきまして、こちらは各教育訓練給付の講座の訓練期間の分布になります。上から一般と特定一般は、水色の訓練期間1か月が大半55.8%、38.3%と多くなっておりまして、専門実践は特に赤色部分ですが、訓練期間1年以上が大半を占めております。
 6ページが教育訓練給付の受給者の属性でございます。左上の性別は、一般と特定一般は男女半々、専門実践は女性がやや多くなっております。右上ですが、在職・離職ですけれども、全体的に在職者が大半を占めておりますが、専門実践は離職者が多くなっております。受講開始時の年齢に関してはそれほどの特徴はないかなと思います。
 続いて、制度の変遷に関しましては、今回ちょっと飛ばさせていただきまして、20ページまで飛んでいただけますでしょうか。こちらからは一般あるいは特定一般の関係の資料になります。20ページですが、一般と特定一般の受給者に関しましては、通学制では、大型自動車の関係の免許が多くなっていまして、次いでTOEIC等の事務関係の受給者が多くなっております。
 次いで21ページですが、こちらは一般と特定一般の通信制の中身になります。医療・福祉系のほかは社労士等の士業の受給者が多くなっております。
 22ページが就職率に関するデータとなっております。一般と特定一般の受給者で、特に離職者に限っておりますが、雇用保険適用の就職率は大体65%程度で、正社員就職率は35%程度となっております。
 次いで23ページですが、特定一般の受給者のうち在職者に対してアンケート調査したものです。右側のグラフですが、受講後に賃金が増加した方は26.3%となっております。
 続いて24ページですが、今度は離職者に対するアンケート調査になります。右側のグラフですが、受講開始後に賃金増加した方は43.6%となっております。
 続いて25ページ以降が専門実践の関係になります。26ページの概要は飛ばさせていただきまして、27ページが指定講座数の推移となっております。グラフの赤い線になりますが、直近ですと、指定講座数2,670となっております。下側の内訳ですが、第一類型が最も多くなっておりまして、こちらは業務独占資格あるいは名称独占資格等を目的としているものです。具体的には、看護師、介護福祉士等が含まれます。そのほかは第三類型で、例えば専門職学位課程、MBAとか法科大学院等もございますし、最近多くなっておりますのが第六類型の第四次産業革命、つまりITとかデータ関係の講座となっております。
 続いて28ページを御覧いただければと思います。こちらは類型ごとに指定講座数を見たものですが、確かに第一類型が多くなっておるのですが、最近はIT関係の第六類型も一定程度新規指定されております。
 29ページを御覧いただければと思います。赤枠の部分が、課程類型ごとに、現在ある講座数のうち指定されているものの割合を見たものになります。例えば、下から2つ目の第六類型のIT関係ですが、指定講座数自体は100とあまり多くないところですけれども、全体に占める割合は85%と高くなっております。
 続いて30ページでございますが、開講形態別の指定講座数ということで、赤枠で囲っておりますが、1年前と比較いたしまして、通学制の中では夜間や土日、あるいは通信制の中ではeラーニング、オンラインの講座が増えております。
 続いて31ページですが、ここ数年で絶対数で見たものですが、特にピンクのオンラインの講座がコロナ禍で急激に増えております。
 32ページが専門実践の受給者の状況となります。福祉系あるいはキャリアコンサルタントが多くなっておりますけれども、真ん中辺りの第四次産業スキルの関係も講座が伸びております。
 33ページを御覧いただければと思いますが、こちらは専門実践の受給者のうち離職者の就職率を見たものになります。雇用保険適用の就職率は7割、正社員就職率は4割となっておりまして、特定一般や一般に比べますとやや高くなっております。
 34ページを御覧いただければと思いますが、そちらを目標資格別に見たものになります。全体に比べますと、看護師や第四次産業スキルが全体よりやや高くなっているという傾向がございます。
 35ページを御覧いただければと思いますが、今度は教育訓練支援給付金の訓練内容別の受講者数になります。看護師・准看護師は全体の4割以上となっておりまして、全体的には訓練期間は長い方が多くなっております。
 36ページを御覧いただければと思いますが、今度は教育訓練支援給付金の受給者の就職率になります。青が支援給付金の受給者、黄色が支援給付金を受けていない専門実践の受給者の数値となっておりまして、支援給付金の受給者のほうが就職率等が高くなっております。また、支援給付金に関しては45歳未満に限定しておりますので、年齢をそろえるために支援給付金を受けていない方も45歳未満で限定したのが緑となりますが、それでも、支援給付金受給者のほうが就職率等は高くなっております。
 37ページですが、こちらは専門実践の受講者(離職者)の中で、就職した後どれぐらい定着しているかというものでございます。1年以上定着する割合が93%となっております。
 38ページですが、専門実践の離職者の賃金の変化で、受講後に賃金が増加した方は47.9%となっております。
 39ページ、40ページはちょっと飛ばさせていただきまして、41ページを御覧いただければと思います。ここからは在職者のデータになりますが、就職率はないので、資格取得した場合の追加給付の受給率を見ております。おおむね6割となっておりまして、訓練期間が長い方であればあるほどその率は高くなっております。
 続いて42ページですが、前職が非正規雇用であった方で正規雇用に転換した割合でございます。表の上のところですが、55.8%となっております。
 43ページですが、在職者の賃金の変化ということで、先ほどの離職者よりも割合はやや低くなっておりまして、賃金増加は39.7%となっております。
 44ページは飛ばさせていただきまして、45ページが最後に議論の観点となります。1点目は、教育訓練給付の講座の指定状況あるいは受講状況についてどのように評価するかという点、2点目に関しては教育訓練給付の意義・在り方やその効果についてどのように考えるかということになります。
 事務局からは以上になります。

○尾田雇用保険課長 それでは、本議題につきましても、委員の皆様から御意見・御質問をいただければと思います。恐縮ですが、酒井先生からお願いいたします。

○酒井委員 教育訓練給付について、あまり細かいことについては私からコメントはないのですが、1つ、特に専門実践教育訓練給付に関して、受講者が偏っているのではないかということはほかのところでも言われているかと思います。これに関しては、例えば「偏っている」という意味をどう捉えるかということに関わってくるかと思うのですが、例えば、業種別の雇用者数に比べて偏っている、あるいは求人一般に比べて偏っているという考え方はあろうかと思いますが、一方で、社会にとってニーズがあるということ、そういう観点からこういった教育訓練給付の受講者数を評価されていいかなと思います。看護師とか介護福祉士という人たちの受講者数が高いということは肯定的に評価できる面もあるのではないかと感じているところです。
 あともう一点、そうは言っても、専門実践教育訓練給付、かなりレベルアップするような、キャリアが物すごくアップするような講座に対しても認定されているということで、雇用保険がセーフティネットだという観点からは、果たして、例えば斜陽産業みたいなところで、やがてその業種が非常に悪くなってくるので、それに備えて訓練を受けるのだということなら分かるのですけれども、何かキャリアアップということで、これがセーフティネットというものになじむのだろうかという見方もあるかなという気はするところです。そういう面はあるのですが、これはいろいろな議論があっていいかなと考えるところです。
 すみません、私ちょっと短いですけれども、以上です。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございます。
 それでは、佐々木先生お願いいたします。

○佐々木委員 どうもありがとうございます。
 私も、今回の問題は、全ての事業主や被雇用者から満遍なく保険料を徴収しているにもかかわらず、専門実践教育訓練がある分野の指定講座だけに偏っているということであり、それの見直しが求められているのかなと思います。
 ただ、酒井先生がおっしゃったように、やはり社会のニーズはありますから、指定講座の選定については、その講座の需要と供給からなる市場のメカニズムに依存すべきではないかと思います。今、デジタル系やグリーン系の労働需要が増えているのであるなら、それらに関連するスキルの需要は増えるでしょうし、それに対応してそれらのスキルを修得するための講座の供給も増えると予想されます。反対に、今後成長が見込めないような分野のスキルの需要は低下していくので、市場で決められる資源配分が最も効率的ではないのかなと思います。だから、市場に委ねることが一番効率的なキャリア形成支援につながると考えます。
 偏りの定義によりますが、指定講座の偏りの程度がそれほどひどくないなら、これまでどおりに均等に徴収していくので仕方がないかなと思います。その偏りがあまりにもひどいなら、徴収する金額を関連する指定講座数に連動させて、関連する分野の事業主の保険料を変えていくようなことが考えられます。しかし、事務作業的にそういうことをやるのは、実行するのは言うが易し行うは難しでちょっと難しいのではないかなと思います。
 また、今のところ教育訓練給付509億円のうち国庫負担はありませんが、一部国庫負担することも考えられます。ただし、国庫負担を増やすならばどこかを減らすことを考える必要があります。
 雇用保険はセーフティネットを目的としているのですが、教育訓練給付となるとキャリアのステップアップのために使われていることになるかと思います。先ほどの在職者への求職者支援でもお話ししたとおり、そのために雇用保険を用いることにちょっと違和感がなきにしもあらずという思いです。そういう意味では、教育訓練給付の意義について議論が今後必要ではないかなと思いました。
 私からは以上です。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございます。
 それでは、土岐先生お願いいたします。

○土岐委員 事務局の御説明ありがとうございました。
 それから、小原先生、先ほど補足をいただきまして、ありがとうございました。補足いただいた点に関連して、前回、鈴木先生がフランスの雇用センターの話をされているときに、雇用アドバイザーの強化が課題だという話をされていて、求職意欲の刺激といったときに、制度をつくり込むという話だけでなく、そのソフトの人の部分もやはり大事なのだなというのをつけ加えさせていただきます。その上で、教育訓練給付の関係で、講座の偏りの点については、先ほどお二人の先生がおっしゃっていたことと同じような考えを持っていますので、省略しまして、資料を拝見していて思ったのが、オンラインで受けられる講座の数が増えてきているのは、在職中の方も使いやすくなるということでいい傾向だと思っておりますが、eラーニングは身につくか身につかないかに関して、いろいろ功罪あると思いますので、今後、注視をしていく必要があると思ってお話を聞いていました。
 教育訓練給付は、自分で訓練を受けた場合に支給されるということですので、適切な言い方ではないかもしれませんが、自分で保険事故を起こしてしまうところがあると思っております。それを雇用保険で見る必要があるかという議論にもつながっていくのだと思うのですけれども、他方で、中長期的なキャリアに関する能力開発をしなければいけないというのは、必ずしも労働者に限った話ではなくて、個人で自営的に就労している方にも同じように当てはまる話だと思います。そうだとすると、雇用保険でカバーすべき話からは外れてしまって研究会の趣旨からもずれるかもしれませんが、労働者だけではなく、雇用類似的な人も含めて能力開発をしていかなければならず、こうしたことを包括的に面倒を見る仕組みも今後は考えていかなければいけないと考えております。
 以上です。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございます。
 それでは、水島先生お願いいたします。

○水島委員 小原先生、御教示、御回答ありがとうございました。
 大学の学びと就職先は必ずしも一致しないと思いますが、一般教育訓練、特定一般教育訓練で得たスキルと就職先、その関係はどうなのかなというのが気になります。訓練終了後、雇用保険の適用者になる正社員の就職に結びついていることはデータでお示しいただいていますが、実質的にも訓練を受けたことが就職に結びついたか、訓練で得られたスキル、例えば事務関係でTOEICがありますが、英語を就職先で発揮できているか。追跡が難しいことは分かっていますけれども、興味があるところです。
 専門実践については、酒井先生、佐々木先生に同感で、キャリアアップの性格が強くてセーフティネットになじむかというと、全然なじんでいないと思います。効率的なキャリア形成支援という佐々木先生の御指摘はまさにそのとおりですが、雇用保険の役割という点から考えた場合に、そうしたキャリアアップをどこまで支援すべきなのかという問題意識は私にもあります。
 短いですが、以上です。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございます。
 それでは、山川先生お願いいたします。

○山川座長 ありがとうございます。
 皆さんの言われたこととほぼ共通していまして、保険事故の捉え方が、自ら職業に関する教育訓練を受けることが保険事故というのは、ちょっと偶発的な事故としての保険事故には到底なじんでいないような感じがします。恐らく、これは政策的に国庫負担でもどうかということがあって、かといって、本来事業主に支給する二事業でも適切でないということから、当時、財政の余裕が比較的あった基本手当の財源を使うということで何とか保険事故の説明をつけたのかなと思いますが、ちょっと説明が本来の趣旨からはつきにくいかと思います。
 だからといって、これをやらないほうがいいかどうかというのはまた別で、雇用保険制度をそもそもセーフティネットと考えるかどうかということに、酒井先生、佐々木先生が言われたようなことと関係してきて、労働市場政策の一環だと捉えるほうがむしろ素直で、せめて言うとしたら、集団的ミスマッチをある種の事故と考えて、それへの対応とする。本来、保険は個人の問題ですのでこれも苦しいですけれども。
 ということですが、制度の趣旨の捉え方を超えて、その必要性自体があるかなと思いますが、ただ、もし集団的ミスマッチで考えるのでしたら、先ほど酒井先生も言われたように、人手不足のところに誘導するような訓練がよいかなと思います。もちろん生産性向上とか経済成長を目的とするとしたら、また別の話がありますけれども、効果の測定もなかなか難しいですが、給付の在り方について、再就職手当みたいな給付の設定があり得るかどうかということは考えられるかもしれませんが、しかし、教育訓練給付の場合は、それで成功した場合は収入水準が上がっているので、その人に手当を支払うのはちょっとどうかと思いますが、インセンティブを与えるうまい設定がないのかなと思います。すみません、ちょっと答えがなくて申し訳ありませんが、いろいろな意味でなかなか悩ましい制度だなと思いました。
 以上です。ありがとうございました。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございます。
 それでは、渡邊先生お願いいたします。

○渡邊委員 御説明ありがとうございました。
 ほかの先生方がいろいろおっしゃってくださっているので、私からつけ加えることはもうないという状態ですが、先ほど土岐先生からも御発言ありましたが、フリーランスの方も含めて能力開発は必要ではないかと。さらに、この教育訓練給付を受けて、それこそスキルアップしてフリーランスに転向されているといった方々もいらっしゃるのではないかということを考えますと、こういった働く人が個人で能力を開発していくといったようなことを雇用保険でどこまで対応しなければならないのかといったそもそもの意義を正面から考えていく必要があるのではないかと。何となく漠と今イメージしているのは、そういったことは雇用保険の枠外でやったほうが今後適切なのではないかという印象を持ちました。
 以上でございます。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございます。

○酒井委員 すみません。もう一点だけ発言させていただいてもよろしいでしょうか。

○尾田雇用保険課長 酒井先生、どうぞ。

○酒井委員 すみません。本当に一点だけです。
 今お話を伺っていて、こういった教育訓練を保険事故としてどう捉えるかという問題、全く同感するところで、そうは言いながらも、では、教育訓練給付というものをやらないほうがいいかというと、それも分からないというところで。
 そうすると、一番気になるのは、土岐先生も渡邊先生もおっしゃっていましたけれども、要は、単純に言うと、教育訓練給付は雇用保険を適用されている人たちのものだと思うのですけれども、雇用保険適用者だけが教育訓練の機会が恵まれていて、雇用保険から漏れ落ちている人たちになかなかないというと、これがますます正規と非正規の格差を広げることになるかと思いますので、そういう意味では、この教育訓練給付のメニューというか内容をどうしていくべきかというのは、まさに求職者支援訓練とかのメニューと一体的にというか、それとの均衡を考えて議論していくべきではないかなというところは思いました。もちろん2つは、性質的には異なっていることは分かっていますけれども、一応その均衡ということを包括的に考えていくべきかなと思いました。
 追加で申し訳ございません。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。
 それでは、他の先生方も、議題1、議題2にかかわらず御意見等、もうよろしいでしょうか。
 小原先生、よろしいですか。
 ありがとうございます。
 もしなければ、議題2は以上とさせていただきます。
 それでは、本日の議論を踏まえて、山川座長から総括をお願いいたします。

○山川座長 有益な議論ありがとうございました。特に小原先生、ゲストでおいでいただいて、大変充実した議論になったと思います。
 いつもながら思うのですけれども、この雇用保険制度の問題は、個々の分析あるいは細かな制度設計の問題と、基本的な制度の在り方の問題、両方にらんで考えていかないといけないというところがあって、なかなか難しい面が多いと思いますが、しかし、この研究会でないとそういう根本的な議論はなかなかできませんので、そういう意味は大きいかと思います。
 また、小原先生のお話を聞いて、実証的なデータ分析がいかに重要かということがよく分かりました。教育訓練給付もそうですが、ある種実験的な要素があって、制度をもし根本的に変えるということでなければ、制度を運営しながら、効果が上がっている部分を伸ばしていって、問題がある部分は改めていく、日本の制度はそういうものがなかなかないのですけれども。雇用保険についてはそういう実験的な政策のダイナミックスを考えていくことができるし、必要なのかなと思った次第です。
 非常に有益な御議論、ありがとうございました。

○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。
 委員の皆様方、本日は闊達な御議論をいただきまして、ありがとうございました。
 それでは、これをもちまして本日の研究会は終了いたします。
 次回の日程等の詳細は、追って御連絡させていただきますので、よろしくお願いいたします。
 本日は、委員の皆様、そして、小原先生、お忙しい中御参加いただき、誠にありがとうございました。