第3回産業保健のあり方に関する検討会議事録

労働基準局安全衛生部労働衛生課

日時

令和5年1月30日(月)15:00~

場所

中央合同庁舎5号館専用第15会議室

議題

(1)産業保健の現状と課題に関するヒアリング(中小企業を中心に)
(2)その他

議事

議事内容
○岩澤産業保健支援室長補佐 本日は大変お忙しい中、御参集いただきまして誠にありがとうございます。一部、構成員の方がまだつながらない状況ではございますが、定刻になりましたので、ただいまより「第3回産業保健のあり方に関する検討会」を開催いたします。本検討会は、資料及び議事録は原則公開といたしておりますが、カメラ撮影はここまでとさせていただきます。
 本日は、及川構成員、大下構成員、亀澤構成員、小松原構成員、冨髙構成員、中島構成員、古井構成員、三柴構成員がオンラインでの御参加となります。
 初めに、お手元の資料を確認させていただきます。資料1「相澤参考人提出資料」、資料2「松山参考人提出資料」、資料3「江口参考人提出資料」です。資料の不足はございませんでしょうか。
 それでは、以降の議事進行につきましては、森座長にお願いいたします。
○森座長 ありがとうございます。
 本日は、中小企業を中心とした産業保健の現状と課題について、3名の方々からヒアリングをさせていただきます。最初に、北里大学名誉教授の相澤様、2番目に、岡山県医師会会長、岡山産業保健総合支援センター長の松山様、3番目が、産業医科大学産業生態科学研究所産業精神保健学研究室教授の江口様でございます。3名の方のお話を伺った後に、全体を通じて、それぞれの方に質疑応答などを含めて、フリーディスカッションをしていただく予定になっております。それでは、初めに相澤様、お願いいたします。
○相澤参考人 北里大学の相澤でございます。今日は意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。スライドにございますが、お話する内容は、嘱託産業医の経験からということと、職場巡視の必要性ということ、それから、まとめというようになっております。
 少し小さくて申し訳ないのですが、私の自己紹介でございます。大学にずっとおりまして、退職後の現在は産業保健協議会とか全衛連、産業医学振興財団、日本医師会の産業保健委員会の委員長もしています。立場上多少の影響があると思いますけれども、本日は嘱託産業医の立場からということでお話をさせていただきます。
 右側が産業保健に関するものでございます。最初、内科におりましたので、企業の診療所におりました。それから、北里に来て髙田先生の下で産業医学を勉強させていただきまして、最初の産業医の経験は相模原清掃事業所という所で、便とか汚水のくみ取り業の所でして、大変な臭いがしておりました。デパートの嘱託産業医、バネの製造事業所、IT企業の嘱託産業医もやりました。それから、ストレスチェックのフォローアップをする事業所がありまして、そこに友人がおりました関係で頼まれて、現在も続いております。それから、健康情報関連企業の産業医もしておりました。また、ある会社の社外取締役をやっておりまして、そのときは、役員会でどういう議題が出るのか、特に産業保健のことも出るかと思っておりましたけれども、残念ながら出ることはなくて、健康経営のお話をしましたけれども、残念ながら任期が4年で終わりましたので、何もできませんでした。それで、今日は私の拙い嘱託産業医の経験からのお話をさせていただきたいと思います。
 今日は小規模事業所のテーマということですが、これは大きな事業所、IT関係の所でして、専属産業医も2人おりますし、私は嘱託産業医の1人として、面談だけを週1回、9年間やっておりました。そこで感じたことが幾つかございまして、ここにも書いてありますが、特定保健指導をやっておりましたけれども、別会社から訪問栄養士さんが会社に来ておりまして、指導内容が企業の保健師さんと十分情報交換されていないような感じがいたしました。それから、企業自体の働く所は非常に快適でございますけれども、CEさんが行っている常駐先の作業場所に一度行ったことがありますが、大変な密な所でございまして、いわゆる一般の職場巡視をする対象ではないと思いますけれども、そういった所も本当はしなければいけないかなと感じておりました。
 健康情報関連企業、これは100人ぐらいの所ですけれども、保健師さんが次から次へと交替して、最初は専属でしたけれども、嘱託になって、また専属になるという具合でした。ここの嘱託産業医をストレスチェック事業所からの紹介で8年間しておりまして、月1回訪問して、衛生委員会、職場巡視、面接指導、健康診断の事後措置等をしておりました。
 職場巡視をした結果、ちょうどコロナがはやっていた頃ですので、二酸化炭素モニター設置をするといったことを提案していました。それから、高ストレス者の作業状況を現場で見させていただいて、その方が、後ろが壁でないと心地よくないという、つまり人が後ろを通ると具合が悪いというような方で、高ストレス者にもいろいろな方があるということ、また冷蔵庫に古いものが入っているなど、現場に行って分かりました。それから、印象的だったのは、健康優良法人に認定された前後に、実は過労に起因する労災が発生した事例がありまして、この優良法人の認定と、いわゆる労働安全衛生の問題と、連携がうまくいっていない問題があるのかなと思いました。
 それから、会社と会社の関係で、産業医の報酬を少し減らしてくださいと言われて、交渉が不調に終わり失職いたしました。これは、健康サービス事業者の業務委託の課題が少しあると思います。むしろ、低くなってやめたということはよかったのかもしれませんけれども、ネット等を見ますと、産業医についても、産業医報酬を減らすトップテン、そういったことが自慢げに書かれているところがありまして、私の所は全く優良でございますけれども、世の中にはいろいろな事業所があって、うまく運用しないと、労働者の健康保持のためにはならないのではないかなと感じたところでございます。
 これは小さいIT事業所でして、100人ぐらいの所です。ここには衛生管理者と嘱託産業医がおられますけれども、嘱託産業医は健診医療機関の所属で産業医をされて、ストレスチェックのほうは私が担当するということで、面談を主にしております。年18回訪問して、メンタルヘルスの面接指導、集団分析結果の提示と職場改善の提案等をしております。
 ここで面接を行うときは5人ぐらいやりますので、十分な職場巡視をする機会がありません。そうしますと、騒音を気にする職員がいるのですが、作業状況や環境等がよく分からないということがあります。メンタルヘルス面接指導をしながらも、職場巡視は産業医としては必要だろうと感じたところです。
 次のテーマですが、職場巡視の必要性ということです。産業医は3管理を担うという前提ですし、そのためには職場巡視をする必要があるわけです。これは本当に基本的なことですけれども、どのように病気が発生するかというと、下に書かれている遺伝的な要因、これは今は対応できないのですけれども、上の2つはコントロールできるものと考えます。特に、職場では外部要因として病原体、有害物質、物理的要因、事故、ストレッサーといったことをコントロールしなければいけないということが、本来的にあるわけです。それから、それに加えて生活習慣要因もあると思います。
 職場巡視の意義で作業環境管理についてです。作業の確認をする。問題点を指摘する。機械や装置の確認をする。医師は、それほどこれらについてのエキスパートではございませんけれども、外部の人から見た目というのが非常に大事だろうと思います。特に空調・局所排気装置等の管理は、新型コロナ感染対策でも重要であると認識しております。
 それから、これから始まる化学物質の自律的管理で、医師がリスクアセスメントの後、健診の内容等について意見を述べる機会が増えてまいりますので、作業環境管理についても十分な知識と経験がないとできないものだと思います。感覚的に観察できる採光、照明、温度、騒音、粉じん、ガスということもありますし、5Sのこともあると思います。
 これは私が臨時で1年ぐらい嘱託産業医をした職場です。このように積み立てた場合は災害のときなどに崩れる危険性があることを指摘したり、非常用機器のある所に物を置くことを注意したりしました。
 それから、職場巡視の意義で作業管理についてですがこれも極端な例ですけれども、書類上では局所排気装置が確かにあるのに実際には使用していないとか、中腰での作業は腰痛になりやすいとか、こういったことは職場巡視をしないと分からないわけです。保護具の点検と手入れ、作業時間の管理、作業姿勢の管理、疲労の状況、そういったことも職場巡視で初めて分かるわけです。
 健康管理です。健康管理については余り関係がなさそうに思えますけれども、先ほどの私の事例にもありましたが、職場巡視をすることによって、健康管理がうまくいくというところがあります。作業内容の確認をする、作業環境の確認をする、面接指導対象者の作業場における状態を確認するというようなことです。そして、産業医の意見の提示や各種面談を適切に行うためにも巡視が必要ということです。労働者が、どこでどのような仕事をしているか、有害要因があるかどうか、健康状況を悪化させるリスクがあるかどうか、介入でリスク低減できるのか、配置転換の措置が必要かどうか、そういったことを判断する上で、最後に書いてあることは是非強調したいところです。「現場を見ない産業医は、患者を診察しない臨床医である」とどなたかが言ったことでございますけれども、私も全く同感であります。
 職場巡視の効果です。職場巡視をすることによって、初めて職場改善ができるわけでありますけれども、これらを常に回していくわけです。そのためには、右のほうにありますが、作業を知ることが必要ですし、適切な安全管理、適切な健康配慮の上で、職場を知ることが重要であるということ以外に、従業員の人も産業医を見ているわけです。健康な人は相談にも来ませんけれども、職場を我々が回ることによって、産業医の活動や人物を直接見るという、そういった副次的なこともあります。それによって産業医業務が円滑に行われると私は考えています。
 まとめでございます。少し古い話ですが、髙田勗先生が作られたものを改変したもので、これも一般的なことですが、戦前と戦後と、それから戦後においては工業化復興期、近代工業化、今の1990年代以降は情報化社会に入っていくということです。
 産業保健のテーマが赤字で書いてありますが、最初の明治期は労働力を確保することであって、国を守る意味もあったのだと思います。二次予防が主に行われました。戦後になりまして、まだ重大な災害や職業病がありました。近代化社会でもVDT作業、ビジュアルディスプレイ作業ですが、こうしたことや過労死などということが言われ始めて、そして現在は、メンタルヘルスや生活習慣病が大きなテーマになっているわけです。したがいまして、職業病防止から生活習慣予防、メンタルヘルス、一次予防、そして多様な労働力の確保、それから感染症がまた出てきてしまったということで、ちょうど明治の頃に産業保健の課題が戻ったような感じがしております。
 対応するものとして、そこに書かれておりますけれども、法律が労働基準法から労働安全衛生法になって、働き方改革ということも言われるようになりました。
 産業医関係では、はじめに工場医が、さらに労働基準法で医師である衛生管理者、昭和47年の安衛法で、産業医という言葉が初めて出てきたわけであります。
業務上疾病者数ですが、令和3年のものです。その他の疾病で新型コロナ感染症の数が入っておりますが、そこはちょっと特別なところです。緑のグラフですが、これは平成6年ですから、27年前のデータでして、比べるとじん肺及びじん肺合併症が激減しております。ところが、物理的因子、作業態様あるいは化学物質によるものについては、それほど実数も変わっていないのです。じん肺及びじん肺合併症は環境を良くすることによって減ったわけでありますが、ほかのものもちょっと気を緩めると、また数が増える可能性があるので、3管理、これをきちんと産業医を中心にやっていく必要があるだろうと、私は感じております。
 これは宣伝になりますけれども、日医の産業保健委員会と労働衛生行政の推移です。第1回の産業医講習会が1965年に始まりました。そして、労働安全衛生法は1972年ですから、7年の間、医師が産業医学を勉強する機会があったわけであります。そして1990年、日医の認定産業医制度が発足した年でありますが、それまでは実に25年間の時間が経過しているわけです。
 医師会長という欄がありますが、武見太郎先生は第11代の医師会長でございますが、実に25年間、医師会長を務められています。そこの右の所に髙田勗先生のお名前が書いてありますけれども、このお二人が常に情報を共有しながら、日医の産業医制度や、安衛法に産業医という名称を作られたことが、次のスライドに出ております。幸い、産業医制度はうまくいって、2001年には5万人、2019年には10万人、実際に働いている方は3分の1ぐらいでありますけれども、そのような数になってきているわけです。
 産業医制度の発足当時のお話ですが、安衛法の前、基準法の頃、昭和47年制定労働安全衛生法の骨格を検討する労働基準法研究会というものができました。そして、その記録によりますと、医師である衛生管理者については、一般的な医師不足を反映して、選任そのものが極めて困難な状態にあり、法律の要求に現実が追い付いていけない状況にあるという認識でございました。その医師である産業医の会社における位置でありますけれども、右の黒い所にありますように、医師である衛生管理者、医師でない衛生管理者、安全管理者というのがありました。その上に主任衛生管理者がおりまして、医師である衛生管理者は主任衛生管理者の管理、指揮下にあったわけであります。ところが、労働安全衛生法によりまして、医師である衛生管理者は産業医ということになり、2つ目の図にありますように、産業医は総括安全衛生管理者の下にはなくて、嘱託と専任の違いがありますけれども、直接事業者と雇用関係というか、委託を受けて、産業医は事業者及び総括安全衛生管理者に勧告ができるということになったわけです。衛生管理者に対しては指導・助言ができるというように、全く安全衛生法で変わったのです。
 どうしてそのようになったのかというところですが、これは産業医学振興財団から出ている小さな冊子ですけれども、ここに武見太郎先生と髙田勗先生が登場しています。労働基準法の医師である衛生管理者について、これは武見先生の言葉ですが、「君ら行政官がそんな変な言葉を使っているのではないか。」、「医師というのは、一度医者になったら死ぬまで医者なんだ、衛生管理者とは違う。医師というのは職業として確立しているのだから変な言葉を使うんじゃない。海外の状況を調べなさい。名称を考えなさい。」と言われまして、髙田先生は勉強して「産業医」という案を提案したところ、武見先生は「これでいこう。」ということになりました。それが間違っていなかったということは歴史が証明してくれていると私は思います。
 次のスライドは、産業医の選任状況です。これは今回のこの検討会の大きな目玉だと思いますが、どうしても産業医の人数が足りないということからこの委員会が作られたのだと思いますけれども、御覧いただきますように、左側のカラムは従業員の数でして、右に産業医の選任割合というのがあります。これは平成23年、少し古いのですが、右は平成30年、余り変わっていないということがお分かりになると思います。
 注目していただきたいのは50~99人の事業所ですが、これが78.6%なのです。要するに、選任義務があるのに約8割しか選任されていないというのは、なぜそうなっているのか。これは経営者の問題もありますし、マッチング等がうまくいっていないとか、いろいろな要因があると思うのですが、ここを何とか改善するということが1つの大きなテーマだと思います。そして、49人以下の所も、いわゆる健康管理等を担当する医師も含めて、4割から3割という数字が出ております。右の平成30年のほうも大体、同じような状況です。ですから、今回は49人以下の事業所をどうするかということもありますけれども、50人以上の所も十分選任されていない状況ですので、そういった状況を十分検討した上で取り計らわないと、全くこれと同じようなことになってしまうということを危惧しているところであります。
 ただ、日本医師会でずっと提案しておりますのは、30~49人の所、ここまで産業医の選任義務を追加したらどうかということであります。そうすると恐らく、とてもできないのではないかとおっしゃるのだと思いますけれども、計算してみますと、今の認定産業医、活発な産業医が3万2,000人ぐらいだとしますと、5か所ぐらい事業所を担当すれば、カバーできるという、そういう推計が成り立つわけですので、全く不可能ということはございません。ですから、産業医は零細小規模事業所では選任は無理だと、諦めるのはまだちょっと早いと考えております。
 最後のページです。左側は1995年のWHO/ILO合同委員会が産業保健について採択した定義です。働く人々の全ての身体的、精神的及び社会的健康を最高度に増進すると。そこにありますように、作業条件に基づく疾病を防止する。健康に不利な条件から雇用労働者を保護する。そして、作業者の生理的、心理的特性に適応する作業環境にその作業者を配置する。要約すると、人間に対して作業を適応させること、各人をして各自の仕事に対し適応させることということで、これは国際的なコンセンサスであります。ですから、今後の労働衛生も、これに従うべきであると思います。
 そうしますと、産業保健というのは、労働者の安全と健康を守るものであるということが労働安全衛生法にも書かれていますので、これは確認しておく必要があります。今、取り上げられている生産性を上げることとか、プレゼンティーズムについては、その安全と健康を守るという結果として得られる成果であって、言わば生産性向上の必須条件です。生産性は結果として得られるものですから、経営者にとっては、経営は大事なのですけれども、成果を求めるより、職場の安全衛生を守ることが一番大事なことであると私は思います。
 それから、3番目ですが、一般的な疾病の管理です。これは産業保健の対象外だということは、左の国際的な考え方にも従っております。確かに、労働者、労働人口は高齢化しているので、いろいろな生活習慣病を持っている人が増えてゆきます。しかし、それは作業関連疾患という区分けの中で、それに対応することは間違いないけれども、それ以外の疾病を扱うと、労働者の不利になる可能性もあると思いますので、十分注意しなければならないことだと思います。
 4番目です。産業医は産業保健の設計者であって、統轄者であるべきであるということです。そのためには3管理の統括を続けるべきであって、職場巡視は絶対に必要であると思っております。産業保健の範囲に広げて質が低下しないように、しかも、労働者のためになるような設計をしていただくことを切に願うところでございます。
 最後のスライドは、歴史を振り返りながら、活発で慎重な審議を行って、生産性を上げるためではなくて、労働者の安全と健康を守る対策を立てられることを切に願って、私の意見陳述といたします。どうも御清聴ありがとうございました。
○森座長 相澤様、ありがとうございました。それでは続きまして、松山様にお願いいたします。
○松山参考人 それでは、説明させていただきます。私は、岡山県の医師会長、そして産業保健総合支援センターのセンター長ということで、もう30年ぐらい産業医をさせていただいています。
 では、ちょっと自己紹介のスライドですが、向かって左は1964年の東京オリンピックの聖火リレーということで、ちょうど20歳でした。この8年後に安衛法が制定されています。その歴史をずっと追っていきますと、2回目の東京オリンピックが57年後ということで、その間、ずっと産業保健活動が、どういうふうにつながってきたかということで、このスライドをよく出しております。
 岡山県の状況をお知らせさせていただきたいと思います。岡山県はもともと農業県で、昭和30年までは本当に何もなかったのですが、この水島に大型船を入れようということで、当時の三木行治知事がこの計画を打ち立てます。三木知事は岡山大学医学部を御卒業後、九大の法学部をご卒業されています。最終的には厚生省衛生局長を歴任されて、岡山県知事ととして赴任をされています。左の写真がほとんど出来上がったところでしょうか、昭和30年の前半から浚渫工事を行い、その土砂を埋め立てに使用し今の工業地帯水が完成しています。臨海工業地帯は昭和35年に三菱ガス化学が最初に入ってきまして、その後、石油精製、鉄鋼生産、それから自動車等の日本の基幹になる産業が入ってきて以来、重化学コンビナートとして発展をしています。
 一方、5年後にはもう既に公害が出てきています。喘息などが発生し、倉敷市には対策の委員会が立ち上げられています。その当時、地元の水島の先生方が非常に公害を憂慮しまして、水島産業医学研究会を立ち上げられています。53年ぐらいなのですが、その間ずっと1年に1回この研究会を続けておられます。これは医師だけではなく、現場の会社の衛生管理者、そして専属産業医の先生方及び地元の産業医の先生も一堂に集まって開催されており、非常に有意義な会となっています。毎回、私も参加させていただいています。  昭和47年、ちょうど労働安全衛生法が制定された年に岡山県医師会の産業医部会、産業医と言っていたか定かではないのですが、この岡山県医師会50年史を見ますと産業医部会という名前がもう付いています。水島の産業医学研究会の先生方が核となって、この部会を整備、立ち上げておられます。この目的が産業従事者の保健の増進を図り、かつ産業医の社会的地位の向上を期するということでした。そのときに岡山県の208の事業所に対して、185人の先生方がいわゆる医師の衛生管理者ということで参加をしておられましたが、その中の131人は無報酬、ボランティアで参加されていたということで、本当に頭が下がる思いがしています。
 同時に、労働者健康診断実施促進3年計画というものが当時出来ていまして、そこでも部会として、各医療機関において、付近の工場、事業場から健康診断について要請があった場合には、できる限りこれを受けるようにという要望を出しています。まさにこれは産業保健活動の始まりでして、産業保健というのはいわゆる地域医療の延長線上にあるということも言えるわけで、知り合いの社長から頼まれて、医師が産業医に就くというような方程式がこの頃から出来上がっています。岡山県医師会では、これを脈々と受け継いでいまして、岡山県医師会産業医部会というのが昭和47年に立ち上げられて、そのときはまだ14人の委員ということで1回目の委員会が行われています。現在では、私を中心として、産業医担当理事、産業医部会委員ということで進められていまして、各郡市医師会に産業医担当の理事を置いています。そして、この先生方が地産保の所長や運営主管になっていただいて、地産保の運営に当たっていただいているということです。
 岡山県の産業医の状況なのですが、産業医の新規申請者数というものがそちらに出ています。全部で1,800人ぐらいの方が登録はしていただいているのですが、実際に現在名簿に載っている先生方は1,145人です。男女別を見ますと934人が男性、211人が女性ということで、昔は男性の医師だけだったのですが、最近は女性医師も増えてきています。特に病院勤務の先生などが、積極的に女性産業医として登録をしていただいています。中には、20代の女性医師も登録をしていただいているということで、産業医に対する考えというのは、次第に岡山県では広がってきているということではないかと思います。
 この1,145人ですが、実際に活動している先生方は556人で約48.6%です。活動していない先生も589名いらっしゃいます。していない理由というのは、本業が忙しいと言われる先生が多いのですが、やはり我々が職業の紹介など、そういうことをもう少し積極的に行うべきではないかという反省はあるのですが、今のところ岡山県では事業場が必要としているニーズには十分足りているという状況です。男女別でみると、女性のほうがやはり仕事をしておられる先生は少ないということです。
 一番問題なのは年代でして、産業医もやはり高齢化、80代の方もまだやっていただいているということで、私ももうじきこの部類に入ってしまうのであまり言えないのですが、60代が中心ということですから、今後どうなるかというところもあります。ただ、最近は、新しい先生方、30代、20代の先生もどんどん入っていただいています。ですから、日医が言っているような30人から49人の事業場においても産業医を選任するということに対しても、岡山県では十分に対処できると思っています。
 産業医活動を行っている先生方が何社受け持っているかということですが、5社までというのが一番多くて514人いらっしゃいます。あとは、6~10社というのが25人ということで、この辺がほとんどで、10社以上の方も7人、それから16~20社の方も3人、21社以上の方も7人ということで、一番多い方は50社持っておられて、この先生は多分内科の先生だと思いますが、産業医に特化して活動しておられる先生ではないかと思います。医師の働き方として、こういう方向性も持てるというのは、産業医にとって非常に明るいことだと思います。
 研修会ですが、産保センターと共催で行うものが58件あるのですが、岡山県においては産業医の先生方が5年間で更新20単位を修得するというのは、これを見ていただいても十分クリアできる数字だと思っています。
 次は中小企業の産業保健サービスの現状ということですが、ここに書かせていただきましたように、まず産業医は50人以上の所にはいるわけですが、事業主と産業医、それから労働者の関係だけがあるだけす。衛生管理者や保健師、看護師という方の影はなかなか見えてきていません。実際に、健康診断の事後措置で地産保に来られる方も、例えば社長の奥さんが来られてデータだけ持ってこられて、基準監督署に出すための判を押してもらって帰るだけで、健康診断の結果が労働者になかなか伝わっていないということが多くあります。毎年、同じ方が同じように有所見になってくるということ、しかも結果が次第に悪化するということが繰り返されている現状もあります。中小事業場の労働者が健康診断に行けるかどうかということも大きな問題でして、1,000人以上の会社の方は年休で健康診断に朝から行くということでしょうが、中小事業場では昼の時間に健診をするとか、御飯を食べた後で健診するとかで、労働者の健康状態を正確に把握できるかどうか疑問です。
 産業医と事業主の連携がいい事業場は非常に多いと思いますが、やはり横の関係、産業医がなかなか十分活動できないという所もあります。ですから、今回の保健師、看護師という方がこういう所に居てくださったら、我々としても非常に有り難いのですが、このような事業場では我々産業医に対する報酬も非常に少ないです。しかも今、ストレスチェック、メンタルヘルス、両立支援への対応が必要とされてきたのに加え、今後は化学物質の自律的な管理への対応が求められるようになりますが、それらを理由に産業医の報酬が上がるとか、上げてもらうということはとても言えない状況にあるということを産業医の皆様は十分ご存じですから、少なくともこういうしっかりした水平と垂直の連携、衛生管理者もほとんどは事務員の方が兼ねているということですので、50人、30人以上の事業所でもこういう体制ができれば、働く労働者の60%以上、70%以上がこういう事業場で働いておられるので、そういう方にもあまねく産業保健サービスが届く体制ができると思っています。
 この課題を解決するには、事業主の意思改革が必要です。健康診断を実施したという事実だけで、その後のフォローはないというようなこと、これは労働基準監督署や産業保健総合支援センターが研修や指導をすることで解決できると思っていますが、いまだに健康診断の事後措置はどうしたらいいかと産保センターに聞きに来られる企業もあります。そういう状況ですから産業医がそこで事業主に教育をする、お話をするということも必要です。
 それから、産業保健スタッフの充実です。これはひとえに予算です。私は産業保健活動推進全国会議で常に発言するのですが、昔は厚労省は中小零細企業と言ってまして、4、5年前からは中小企業ということになったのですが、そういうことがセーフティネットになりますので、そこへ予算を付けてくださいというお願いを何回もしていました。最近は5億、8億など、毎年少しずつ予算を増やしていただいているので、いいのですが、それでも産保センターの専門職が1人増えたというようなところで、なかなか地産保、それから中小企業のほうへも予算は回っていないというのが現実だと思います。
 それから、産業保健の体制の構築ということで、人材をきちんと確保すること、特に衛生管理者が必要だと思います。先ほど相澤先生もお話しされていましたように、職場巡視・3管理、これはもう産業医しかできないものですから、是非、産業医を中心にきっちりやっていただかなければいけないわけで、この体制ができるように事業主に対しても何らかの予算が必要になってくると思います。
 それから最後、産業保健総合支援センターは令和4年度の予算を減されました。補助金予算額が、岡山県の産業保健総合支援センターでは全体で24%減額されたということで、うち地産保では18.1%ということになっています。実際に令和3年と比べてみましても、実績で8,000万ほどあった事業が今年度は6,800万の予算で地産保をやっています。最終的には、こういうことが起こると、必ず下へ下へしわ寄せが寄ってきて、18ページで見るように、地産保の事業というものが75%ぐらい減っているということです。これはコロナの影響も多少はあるのかもしれませんが、こういう個別訪問支援などというところで減っているということです。両立支援については、国が一生懸命やられるので、何とか保てているということで、こういう地産保の事業は非常にしわ寄せを受けたということがあります。
 21ページですが、事業をお断りした事業場数というのが2番目にあります。健康診断の事後措置と長時間労働の面接などを受けることができなかったという例が79例ありましたので、産業保健センターに登録していただいている先生に手挙げをお願いして、事業場から要請があった場合に有料で対応していただく制度を作っています。これも職業安定法に触れる、触れないということがありますので、手挙げをしていただいて、こちらからは相談をするということで76人の先生方が応募していただいて、プラットフォームに乗っていただいています。事業場からは79件のうちの19件から相談があり、そのうちの6件がまとまりました。しかし、こういう事業は本来、産業保健総合支援センターではなく、行政などが行うべきだと思いますが、我々が取り組まなければならなかったのです。もう1つ産業保健研修の一覧表を書いていますが、岡山県医師会で行った研修会については会場費を無料として開催するなど、いろいろなことで本当に苦労しながら地産保は運営をしています。ただ、また予算が付いて、その会場費については返していただきましたが、二度とこのような事態が起きないことを祈りながら、産業保健総合支援センター事業に取り組んでいきたいと思います。
 本日のまとめです。同じようなことを何回も言うことになりますが、中小事業場の保健師・看護師を選任されることは、労働者の健康保持にとって有用であると同時に、産業医の負担軽減につながり、産業保健活動の充実に寄与することになるが、実際には現実の中小事業場主はその保健師・看護師を雇用する余裕はありません。この辺の処置を何とかお願いしたいところです。
 それから、岡山県では認定産業医の新規申請者がいるということで、30人から49人の事業場についても十分、産業医の選任が可能と考えていますので、是非事業場30人ということでやっていっていただきたいと思います。
 中小事業場に産業保健サービスを届けようとするなら、まずはやはり中小事業場が産業保健サービスを受け入れられる体制の整備が必要です。これも財源の問題だと思います。
 それから、その実現のためには産業医が中心となった水平、垂直の連携が必要ということで、救急のほうではメディカルコントロールといっていますが、ドクターがどこかで救急隊などをコントロールするということで、そういう意味で産業医もメディカルコントロールの主管となって活動できる体制ができれば、労働者にとっても非常に有用なのではないかと思います。
 補助金制度、これはもう来年からはないということですので、いいとしましょう。
 それから、産業保健活動は限られた予算の中で運営しており、コーディネーターなどの出務の制限がされているということで、中小事業場にあまねく産業保健サービスが提供できる体制にはなっていないということで、これも何らかの措置が必要であると思います。
 それから、地産保に十分な予算を付けることは、中小事業場で働く労働者の健康と安全を担保する制度設計が可能となるということで、結果的には生産性の向上につながるということですので、検討会でも是非このようなことを考慮に入れて、中小事業場の労働者の安全を守っていただきたいと思います。以上です。
○森座長 松山先生、ありがとうございました。それでは、最後に江口様、お願いいたします。
○江口参考人 本日は、産業保健サービスが届いていない低調な中小企業において、どのような課題があって、中小企業の産業保健活動を有効に機能させるにはどのような取組が必要かということで、産業医科大学からの推薦という立場でお話をさせていただきます。まず、このような機会を頂きまして、大学を代表して御礼を申し上げます。どうもありがとうございます。
 今回お話をさせていただくにあたりまして、直近のあり方検討会の資料では、経産省のほうに資料が掲載されておりましたので、そちらの検討事項(1)~(8)と中小企業との関連を踏まえてお話をさせていただきます。
 私自身は産業医科大学を卒業して、もともと中小企業での産業保健サービスのお仕事をさせていただいて、その後エクソンモービル、京セラと10数年産業医をさせていただいておりました。北里大学にいたときには、相模原の地域産業保健センターの登録産業医として仕事をさせていただいておりました。一応、経営学の修士や医学博士を持っている立場で、多少経営のことも考慮しながらお話できればと思います。
 このお話の大前提というところですが、基本的には労働安全衛生法というのは、今日御参加の皆様は既に御承知のところだと思いますが、労働者の保護というものが大前提としてありますので、まずその点はしっかり押さえながら中小企業さんについても議論をしていかなければいけないのかなと考えております。
 また、同法の第3条では事業者の責務ということで、労働安全衛生というのは、基本的には事業者責任で進めていくものという前提で進んでまいりましたので、その点も注意をしていかなければ、ともすると中小企業さんにおいては、事業者と労働者とのパワーバランスというものもありますので、事業者責任であるということは、是非押さえていかなければならないところだと思っております。
 そうした中で、労働安全衛生法第13条の2に、労働者の健康管理を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師、その他、厚生労働省令で定める者ということが書かれております。ここの部分については、後ほどお話させていただきますが、規則のほうで既に保健師の名称が出てきております。そういったところで、既に中小企業でお仕事をされて、かなりアクティビティ高くお仕事をされている保健師さんは多くいらっしゃるということで、保健師さんの機能は中小企業においては不可欠になっているということがあります。ですので、その方々の教育については、またいろいろと検討していかなければいけない。保健師さんの多くの教育は、やはり地域の保健師ということになっておりますので、産業保健師の育成については別途育成方法について留意するところがあるかと思います。
 そういった中で、労働安全衛生規則の中に5管理の重要性が、これまで相澤先生、松山先生にお話いただいたとおりで、5管理は産業保健上とても大切なところかと思っております。私自身も、もちろん健康管理を行っていく上で、作業管理、作業環境管理は大切になってくるかと思っています。昨今、先ほど相澤先生からお話があった物理的要因、化学的要因もさることながら、私が専門としている職場の心理・社会的要因等についても、作業管理、作業環境管理で対応していくことになってきます。そうしますと、やはり職場を知らないことには、的確なストレスチェックのフィードバック等もできていかないということになり、メンタルヘルス対策が今回のあり方検討会においても特別取り上げられておりますが、やはりこの5管理を徹底することで、メンタルヘルス対策は進んでいくのではないかということ、職場環境に関心を持っていただくことはとても大切ではないかと思います。
 この労働安全衛生規則の15条の2に、「労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する保健師とする」とあります。今のところは、自然と産業医と保健師さんの役割分担がある程度できているというのがありますので、その辺を改めて手を入れていくと、どういう形で収まりが付いていくのか。ただ一方で、保健師さんが現場で活躍しているという実態は、我々としても十分尊重していかなければならないというか、保健師さんなしでは、地域の小規模事業場の産業保健は成り立たない状況ですので、その点は留意をしていく必要があろうかと思います。
 さらに労働安全衛生法の中の指針の公表という所、第70条の2ですが、THPも入ってきております。最近、THPの中には健康経営の文脈も多く含まれてきておりますので、労働安全衛生法の、あくまでも労働者保護、事業者責務の文脈の中で、健康経営について関心を持っていただくことは、私も一産業医としてはすごく重要なことかと思いますが、それが労働者保護の部分とのバランスが必要になってくるかと思っています。その点についてこれからもう少し詳しく御説明いたします。
 この辺は既に御案内のとおりで、職場は多様化しております。今回の御議論の中にも恐らく入っているのではないかと思いますが、高齢者や外国人、障害者、多様な方々が入ってきます。この多様な方々が入ってくるということは、それだけ職場では脆弱な立場の労働者が増加していくということがあります。正規、非正規も含めて、職場の中でマイノリティが生じてくることは、その方々は脆弱な方々になってきますので、従来以上に労働者保護というところは考えていかなければならないのではないかと思います。
 先ほど松山先生からセーフティネットという言葉がありましたが、産業保健もそのような役割も生じてきているのではないかと思います。最近、リスキリングとか言われておりますが、それに対応していける方は生産性がどんどん上がっていくことと思います。この際に使う生産性という言葉の意味についても十分な検討が必要で、人それぞれ考える生産性は異なるということも大切なポイントかと思います。生産性の向上に関する経営上の合理的な判断が脆弱な立場にある労働者により大きな悪影響を及ぼすことにも留意する必要があります。ではリスキリングをしていけばいいではないかとなると、できない労働者さんについてはどのようにフォローしていくのかということで、業務革新が激しくなる中で、ベースとして仕事の不安定化などが労働者のメンタルヘルスを悪化させていることに対して、経営と産業保健の適切な「綱引き」が必要となってくるのではないでしょうか。今は独立した立場が産業医には与えられていると思いますが、そこが経営サイドに取り込まれていったときに、適切な綱引きすらも行われなくなってしまうのではないかということは心配するところです。
 副業や兼業についても同じ議論になりますし、その次のひとり親世帯も増えてきております。
 まだまだ中小規模事業場において労働災害の発生件数は多い状況です。かつ、減り止まっているという状況もありますので、まずはこういった減り止まっている状況に生産性という文脈が入ってきた場合、どういった影響があるのか。もちろん善意に基づくものであれば大きな心配はないのですが、更なる労働災害等の発生につながっていかないかというところは十分注意していかなければならないことかと思います。
 自殺者も下げ止まっている状況です。次の過労死・過労自殺の状況も御案内のとおりで、業務に起因した精神障害を訴える方は増えております。こういった状況も踏まえて、職場の状況はまだまだ労働者の保護を必要としている状況ではないかとも思っております。
 そうした中で、心の健康の保持増進のための指針には、あえて小規模事業場という言葉で、もちろん労働安全衛生法の中にも国の援助は触れられておりますが、「小規模事業場においては」というような文脈が入っております。かつ、地域職域連携の枠組みもとても大切で、私が勤務していた北里大学がある相模原市の場合には、地域職域連携担当の保健師が保健所から出向いて中小企業さんに対して産業保健の啓発を行っておりました。企業規模が小さくなればなるほど、地域保健と産業保健はより密接になっていくと思いますので、そういった連携を深めていくことも、中小企業さんで産業保健を進めていく1つの課題というか、それをより進めていくのを支援していくことができれば、より多くの中小企業さんに産業保健が届いていくのではないかと思います。
 地域窓口については、相澤先生、松山先生からも御案内がありましたが、地域において50人未満の中小企業さんで、産業保健サービスを提供していくには核になってくるところかと思います。この業務について予算が減っているというお話もありましたが、やはり地域窓口の業務をより国の支援を受けながら充実させていくことが大切ではないかと思います。
 ここで、今どういうことが行われているのかということについてですが、まだまだ労働基準監督署から健康診断結果の確認が不十分との指摘を受けて、地域窓口に依頼するケースが多いのです。そこに事業者へのコメントとして、私自身はこのようなコメントを付けて返しております。現状において、これができていない大企業というのはないと思うのですが、中小企業においてはまだまだこういった状況なのです。こういった状況の中小企業に対して、例えば生産性という話をしていったときに、的確にその意味を聞いてくれるのかというところは注意をしていかなければいけませんし、事業場訪問をして、そこで実際に労働者さんの現場を見てみますと、例えば実際にある事例としては、事前に提出された健康診断結果には日本人の方の名前しかなかったにも関わらず、職場巡視をすると結構外国人労働者さんが働いていたりするということがあって、そこに対してこちらから状況の確認をすることで、そういった方々に対する健康状態を確認するといったことにもつながってきたということがあります。
 ただ、個々のコーディネーターについては様々な方がいらっしゃりますが、私の経験からですと、相模原の場合には保健師さんがコーディネーターをされています。そこで非常にアクティビティ高く、職場の中に飛び込んで行って、職場からいろいろお話を聞いて、場合によっては登録産業医につないでいくという形ができておりますので、その形はすごく機能しているのではないかと思っています。ただ、いかんせん予算の問題がありまして、無料で提供している地域産業保健センターのサービスに対して、中小企業からお金が取れるのかということも今後の検討課題としてはあるかと思います。
 少しお話が変わりますが、あとは産業医科大学として、今まで様々な形で研修を産業医の先生方にさせていただいておりますので、今後、産業医の能力向上という部分については、引き続き貢献していきたいとも思っています。ちなみに、産業医科大学では、医学部6年間の学部教育で他学より圧倒的に多い産業医学教育の機会を提供しながら、良質な産業医の育成をしています。ただ、産業保健学部については、保健師の定員が決まってしまっているという現状があって、産業保健師の育成に苦慮しているところです。実際、私の研究室に、来年度大学院生として、他学の保健師過程を修了された方が入学する予定なのですが、産業保健を勉強したいという方が、そういった形で本学にいらっしゃることもあります。そういった中で、本学のこれまでの蓄積した産業保健に関する豊富なリソースを使いながら、国の支援もいただきつつ、良質な産業医、産業保健師の育成に貢献していければと思っています。
 最後に幾つか論点について、今までお話したことのまとめになります。多様化するニーズに対応した管理保健の位置付けということで、脆弱な立場の労働者は増加していることから、労働者保護の点をより留意すべきではないかということです。取組を推進すべき行動として、健康経営や生産性の向上ということは、プレゼンティーズム防止の観点からは重要だと思います。しかし、それが労働者保護の目的である労働安全衛生法の目的にまで含めるというところについては懸念があります。やはり労働者保護というセーフティネットがあった上での生産性向上ではないかと思います。私自身も、ポジティブメンタルヘルス、生産性向上、ワークエンゲージメントといったような研究論文を書いておりますが、その議論をするためにはベースの安全、安心な職場というのが構築されている必要があるのではないか。特に中小企業さんにおいては、どうしてもコストとのぎりぎりのせめぎ合いがありますので、そこで生産性向上という言葉をどういうふうに使っていくのかというところには注意が必要かと思っています。
 産業医活動の基本は5管理ということで、作業環境管理、作業管理があった上での健康管理と考えています。そこに民間企業が参入することによって、先ほど申し上げたように、ぎりぎりの産業保健と経営との綱引きを考えたときに、事業場規模が小さくなるほどコストと安全の面からの難しい対応が出てくるように思います、その際に、労働者保護というものが毀損されないか、コストが優先されるあまり労働者保護がより厳しい状況になることはないかというところには心配、留意をしていく必要があるかと思います。
 産業保健体制・担い手についてということで、産業保健師の育成については先ほど申し上げたように、私どもの大学でも積極的に行っていきたいと考えおりますが、ただ、定員が決まっていることが課題となっています。その点については、是非御留意いただければと思います。あとはコラボヘルス、我々産業保健は労働保険が100%事業者負担でやっています。先ほど申し上げたように、産業衛生は事業者責任で行ってきた経緯がありますので、そこに健康保険とは役割分担を意識して協力することが必要ですので、そこが混在することがないような議論のが必要ではないかと思います。
 資質向上については、申し訳ないのですが日医という言葉を使わせていただきましたが、日本医師会の全国医師会産業医連絡協議会が行う産業医の資質向上の取組に、本学としても貢献していくことで、何とかそこの部分に協力していければと思っています。先ほどお示ししたように、本学は様々な研修機会を通じて、産業医の育成に努めておりますが、まだまだ需要を満たしていないところもありますので、そこについては貢献していければと思います。中小企業における産業保健活動については、何か新しいものということではもちろんないのですが、地産保や産業保健総合支援センターなどの活動を更に充実させていくべきではないかと思います。
 生産性向上効果については、先ほどの繰り返しになりますが、労働者保護が目的である労働安全衛生法に、健康経営とか生産性向上が目的として入ってくることについては十分注意が必要ではないか、それが労働者の本当の保護になるのかということについては考える必要があるということです。個別の事業者の判断、対応に任せるほうがいいのではないか。そういうところを熱心にやっていく、性善説に基づいてやっていこうという事業者には、そういったことをやっていただければと思いますが、そこを法律上規定して進めていくことについては留意をする必要があるのではないかと思います。IT技術の活用促進については、本学も科研費、AMED研究等で様々な取組に関わっておりますが、一方で、これについても労働者保護の点からいろいろ心配な部分もありますので、その辺はしっかりと議論していく、世の中に対してアウトプットを出していければと思います。少々急ぎになりましたが、私からは以上です。御清聴どうもありがとうございました。
○森座長 江口様、ありがとうございました。ただいまのとおり、本日は3名の方を参考人という形でお呼びして、皆様の経験を御発表いただきました。ただいまからは、構成員から発表に対して御発言を頂く時間となっております。構成員の皆様には、どの発表に対する御質問かを明確にした上で発言を頂ければと思います。それでは、どなたからでもどうぞお願いします。オンラインの方々は挙手をしていただければと思います。いかがでしょうか。
 では、最初は私から何か発言したほうが出やすいかと思いますので、相澤先生にお聞きします。相澤先生がストレスチェックの面接指導をする仕事をされていて、なかなか職場のことに対する提言などができないとおっしゃいましたが、面接指導だけを委託するという形式での医師の活用は、やはり限界があるという趣旨での御説明でしょうか。
○相澤参考人 御質問ありがとうございます。そのとおりでして、面接をしているとかなり時間がびっちりになってしまって、時間をオーバーしてしまうことがありますので、なかなか職場まで行くということがないのですが、そこで職場巡視の義務があれば、その時間を割いてでも行くとなると思うのですけれども、会社のほうでも面接を要望しているので、なかなかできないでいます。
○森座長 クリアになりました。ありがとうございました。では、いかがでしょうか。三柴構成員、お願いします。
○三柴構成員 質問というより意見になってしまうのですが、大丈夫ですか。
○森座長 はい、どうぞ。
○三柴構成員 恐縮です。多分、私の立場でないと言いづらいかなと思うので、あえて申し上げるのですが、やはり産業保健というのは病院の臨床と大分違うので、マクロ視点では医療者側にも内省は必要なのではないかと私は感じております。例えば、嘱託の報酬の引き上げには私も賛成ですし、必要だと思います。ただし、企業側、事業者側にも頼りになると思わせる必要があって、それにはやはり経営者の悩みや苦労も知る必要があるとは感じます。
 例えば、以前、某県の看護師協会からお呼びがあって、パワハラ問題についてお話に伺ったときも、結局、背後を洞察していると、看護師不足の問題が大きかったりするわけです。医師不足もあるのですが、看護師も不足していると。そうすると、地域で連携しても、団体で動いていかないといけないといったような話になってくるわけで、予防となると多分そういうことまで手を伸ばさざるを得ないと思うのです。つまり、産業保健の枠だけで考えていては駄目だろうということです。
 そうなると、産業医の教育システムを見直す必要があるだろうと思いますし、保健師、看護師が働きやすいようにしながら、管理の手綱を医師が握っていく方向性が求められるだろうと。しかし、産業医自身も要所要所で自ら職場の実地、例えば組織の人物相関図をつかむことも含めて、そこを知っていく仕組みが必要なのだろうと感じます。
 最後に、保健師、看護師さんについてなのですが、私自身は、ただ法令上の格上げや書き込みとか、そういうことをすればいいとは思っておりません。寄り添う姿勢とともに、論理的思考やバランス感覚などもお持ちいただかないと難しい、これはあくまでマクロの話です。現場で非常に頑張っておられる方々がいるのはよく承知しておりますが、全体として見たときに、そうした面での養成の確保が必要だろうと。その意味で、スクリーニングの仕組みとセットで考えないといけないかなとは思っております。以上です。
○森座長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。では、もう1点、私から発言させていただきます。江口参考人にお聞きしたいのですが、三柴構成員から産業医、医療者も事業者の立場をよく理解をする努力が必要だという趣旨のお話がありました。一方、先ほどのご発表の中で、事業者との間で「綱引き」という言葉がありました。どのようなことを意味して綱引きと言ったかというのを、少し追加で御説明いただければと思います。
○江口参考人 少し抽象的な表現になってしまいました。その点については、やはり産業医の「医」という部分が、看護師も保健師もそうだと思うのですが、場合によっては企業側の意向に反するような判断であったり、こちらからの勧告であったり、そのようなことを申し上げるというか、企業側が生産性の向上といったときに、労働者にとって専門家として看過できないほどの過剰に労働強化となる場合に、やはりそれはやりすぎだよということが言える、そこの健全な綱引きという、要は経営上合理的と思われることが健康上不合理である場合に、そこを綱引きをすることで、かといって一方的に産業医側が健康を押し付けるのではなくて、そこはきちんと経営者と話し合って、よりいい状況にもっていくというか、そういった議論、やり取りができるのがいいのではないかということでお話をさせていただきました。
○森座長 ありがとうございます。三柴構成員、どうぞ。
○三柴構成員 すみません、その論点を、実は私も重視したのですが、結局、産業保健側は、労使双方の立場をよく知って、間を取り持つことが重要なのではないかと感じています。その意味では、経営者が何に悩んでいるかということは掘り下げて知らなければいけないですし、労働者についても然りだと思うのです。両方の悩みをよく知った上であれば、恐らく接点が見つかってくることも多いと思うのです。一方が本当に偏ったことを言っていて変わらないのであれば別ですが、労使というのは、日本の場合は、海外に比べれば、そんなに隔絶して立場が違うことは少ないので、そういうことかなと思っています。以上です。
○森座長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。神村構成員、お願いします。
○神村構成員 医師会の神村です。ただいまの議論の中で綱引きという、経営側と産業保健側と本当にうまい融合を図るというのは、大きな企業でどのようにできるのかは私はよく分からないのですが、特に本日のお話は小規模事業場、それから地域に根ざしたような産業保健というのをテーマにしていると理解しております。その中では、まさに経営が正しくあるべきことを産業保健もサポートできると確信しております。
 本日は、様々な状況の産業保健について、相澤先生には大規模も小規模も教えていただきましたし、松山先生には地域によっては歴史もあって非常に活躍されている産業保健もあるのだということを教えていただきました。そのように、その地域によって、産業の種類によって、あるいは産業保健のいろいろな職種の方々によって、大分差があると。ただ、その中で私どもが目指しているのは、やはり労働者の健康、安全の保持増進ということですので、その点を外さないで、さらに今は健康経営ということではなく、経営の中で正しく産業保健を位置付けていただくことを常に念頭に置いて考えていきたいと思います。本日の参考人の方の御発表は大変心に響くものがあったと思います。以上です。
○森座長 ありがとうございます。武藤構成員、お願いします。
○武藤構成員 人間ドック学会の武藤です。意見と質問をさせていただきます。私も産業医をたくさん行っておりますし、周りも産業医をたくさんやっている者がいます。相澤先生からの職場巡視の重要性については、そのとおりだと思っております。高ストレス者の面接指導をたくさん行っておりますが、作業環境や作業方法に問題があって高ストレスになっている方に対して適切な指導をするためには、やはり職場巡視は必要であろうと思っております。
 追加で申し上げますと、我々産業医で職場巡視をするときは、中小企業の衛生管理者や産業保健スタッフが一緒に見て回ってくるのです。そうしたときに、中小企業の産業保健スタッフであったとしても、衛生管理者であったとしても、やはり知識不足で、レベルとしてはあまり高くないということがありまして、産業医と一緒に回ることによって、レベルが上がってくることがあります。いわゆるOJTのようなことを普段、職場巡視でしているわけで、そういった指導的、教育的なことも行っているということを付け加えさせていただきます。
 さらに、恐らく皆さんが思っているよりも、中小企業のスタッフの方々は労働安全衛生法のことをあまりよく知らないのです。労働安全衛生法ではこうなっているのだということを、労働安全衛生法のとおりに企業は行わなければいけないということを常に私は話しているのです。そういった教育、統括管理の話を相澤先生もされていましたが、そういったことを指導することも非常に重要な役割だと思っています。単に、少し安全衛生委員会に出席するとかだけでは不十分かなと。そういったことまで踏み込んで指導していくこと、教育までも含めた役割が産業医にはあるのではないかと思っております。
 今回、検討会でお話されていることで気になっているのは、私は労働安全衛生法は非常によくできた法律だと思っていまして、先ほども申しましたように、労働安全衛生法のとおりに企業はやっていけば、大体健康管理が確保できると言っているのですが、そもそもそれができている所と、できていない所があって、今回は、法律に則ってできていない所があるという問題点と、それ以外に、法律に書いていない、特に50人未満の企業に対する法律の整備ができていないという問題点がごちゃ混ぜになっている点が気になっております。まずは、法律にのっとってできていない部分をしっかりすることが大事かなと思っています。
 松山先生に伺いたいのですが、特に50人未満の事業所に対する産業医は、医師会の先生にもかなりたくさんやっていただかなければいけないようになるかと思います。医師会の先生などのお話を聞くと、面接指導が増えてきて結構時間が掛かってしまうと。いろいろな医師会があると思いますが、例えば木曜日の午後が休診になっていて、そこを使われている方もいますし、お昼の時間帯を、休憩時間帯を利用して産業医に行かれている方もたくさんいると思いますが、そのお昼の時間帯で行くことができなくなってしまっていて、産業医ができないと言われている方が結構いらっしゃると思うのです。今後、医師会の先生方がその辺りをうまく進めていかなければいけないとは思うのですが、その辺りはどのような状況か、もし分かりましたらお願いしたいと思います。
○森座長 お願いします。
○松山参考人 ありがとうございます。岡山県医師会では、やはりそういう問題、特に事業場から医院が離れている所へ出務する時間はどうなるのだと、その間の災害の担保はどうなるのだという話もあったりして、なかなか難しい問題があると思います。面接ということになりますと、やはり時間が非常に掛かりまして、なかなかその日のうちに終わらないこともしばしばあります。
 私の場合は、自院に来ていただいて面接をするというようなことをやっております。それなら、少々時間が延びても何とかなる、出務の時間、通勤の時間はクリアできる、もう1人できるというような状況もありますので、そういうことも多分多くの先生がされているのではないかと思います。その代わり、労働者のほうは来る時間が少し掛かりますが、そういう意味では我々にとっては非常にいいことではないかと思います。
 それから、産業医と事業主の関係ですが、先ほど言いましたように、我々は地元の中小企業の社長と知り合いでやっていることが多いので、その会社の経営状態や職員も私の患者ということもあって、非常に地域医療の延長としての産業保健ということで、うまくいく場合も多くあります。ですから、産業保健、労働衛生法の中では、産業医の中立性ということをよく言われるのですが、かえってそれが仇となるのではないかと。喧嘩をするわけではないのでしょうが、中立であることで、かえって事業主と話がうまくできないというようなことも出てくると思います。ですから、今の我々の方法というのは間違いではないかなと、事業主に頼まれていく制度というのは非常にいい環境にあるのではないかと思っています。以上です。
○森座長 ありがとうございました。先に古井構成員にお願いして、その後に冨髙構成員の順番でいきます。では、古井構成員、お願いします。
○古井構成員 ありがとうございます。私からは2点ありまして、ちょっと感想になってしまうのですけれども、1点目は松山先生から先ほどお話がありまして、改めて50人未満の事業場の例えば選任の割合が極端に低いとか、産業保健を担う体制というものをこれから中小企業の事業場に広げていくということは大賛成ではあるのですが、産業医の先生だけが頑張っても手が回らないですとか、あるいは予算が足りないこと、それから武藤先生のような所の地域性の高い健診機関がサポートしていただくとか、いろいろな要素を合わせて考えなければいけないのかなということを改めて実感をしました。
 2点目は、江口先生のお話からも印象的だったのが、産業保健はあくまでも事業者責任であるということです。これをそのまま中小企業により広げていくためには、大企業はある程度法律の存在から組織体系を持たれているのですが、50人未満の所に力を入れる場合に、経営者に対して、監督ということだけではなくて、教育的な視点が大事かと思います。
 50人未満に産業保健をしっかり根付かせるための体制整備はもちろん大事ですし、加えて経営者側にしっかりと意識付けをしたりとか、モニタリングをしていくということでう。特に江口先生の言葉で印象的だったのが、これから女性とか高齢者とか、いわゆる健康弱者的な層が中小企業に増えるということを考えたときに、必要な要素を合わせて中小企業特有の課題解決することが必要になってくると考じたところです。以上です。
○森座長 ありがとうございます。続いて、冨髙構成員、お願いいたします。
○冨髙構成員 2点お伺いします。
 まず、相澤先生にお伺いします。働く者の立場からすると、労働者が安全に、安心して働くためには、産業医に職場巡視をしていただき、職場環境を改善していくことが重要だと考えています。職場巡視が必要だという相澤先生の考え方には非常に共感するところであり、現場を見ない産業医は患者を診療しない臨床医だという言葉も、重要な示唆であると考えています。
 また、スライドの21枚目に「私見」として記載をされている、産業保健は労働者の安全と健康を守ることが第一で、生産性向上や健康経営というのはそれらの結果として得られるもの、という考えも全く同感です。
その上で、(3)に記載されている「一般的な疾患の管理」は産業保健対象外で「労働者の不利になる可能性」について、もう少し詳しくお伺いできればと考えています。
○森座長 それでは1つずつの質問に区切って説明をお願いしたいと思います。相澤先生、今の産業保健の範囲の話ですね。快適職場とか健康増進、この辺りについてお願いします。
○相澤参考人 御質問ありがとうございました。一般的な疾患というのもいろいろあるのです。仕事に関係するとか、仕事によって起きるような一般的な疾患というのは作業関連疾患ということなのですが、それ以外の疾患というか、仕事と関係のない癌、あるいは精神的な疾患、そういったものというのは、会社に知られると不利になるというのがあるわけですけれども、それを全て含めるということになると、もちろん産業医は知ってもいいと思うのですけれども、それが経営者や人事に知られると不利になるという可能性があるので、進めていきたい一方、そういったリスクがあるので、そういうふうにしました。
 快適職場もこれは疲労を生じさせない環境等ですので、いわゆる有害なものということではありませんけれども、仕事のしやすい環境ということを求めているものであって、全く一般的なことというふうには考えていないので、もちろん快適職場を進めることも産業保健の中に入るべきことだと思います。それでお答えになっていますでしょうか。
○森座長 ありがとうございます。それでは、冨髙構成員、続きをお願いします。
○冨髙構成員 ありがとうございました。江口先生には非正規を含めた脆弱な立場におかれる労働者への保護の強化についてお話いただきました。我々もフリーランスなどの曖昧な雇用で働く者も含めて、脆弱な立場におかれる労働者が増加する中、労働者保護の観点から産業保健機能を強化していくことが重要であり、また、先ほどの松山先生のお話にもありましたが中小企業等では公的な財源確保や人材の確保育成が必要だと考えています。
 江口先生のスライドの23の3番の「産業保健の実施体制・担い手」についてお伺いします。労働保険と健康保険の数が混在するとそれぞれの保険の目的が不明確になるのではないか、とありますが、この混在による影響についてもう少し詳しくお伺いできればと思います。以上でございます。
○森座長 ありがとうございます。それでは、江口先生、お願いします。
○江口参考人 御質問ありがとうございます。この点は大学の話をして、余り詳しくはないところではあるのですけれども、要は産業保健というのは基本的には労災保険のほうから、我々の大学も含めて事業者責任という名の下で行ているところがございます。一方で、健康保険は労働者の負担分も入ってきているわけですので、そこを産業保健でやっていくことについて、協力してはいけないということを決して申し上げているわけではなくて、その2つの財源、目的の違うものが出てきているので、そこを例えば我々もコラボヘルスであったりとか、そういう健康増進の意味での健康保険との共同ということはあり得ると思っているのですけれども、財源が異なるということを念頭においた上で協力をしていくということ、最終的にはもちろん労働者一人一人の健康に資するというところがあると思うのですが、ただ、お金の出所というものは意識してやっていく必要があるのではないか。その中で、一義的には労働衛生が事業者責任による労働者保護を前提であることに留意をしていく必要があると。すみません、ちょっと歯切れが悪くて恐縮なのですけれども、そのようなことを申し上げたかったということです。
○森座長 ありがとうございます。恐らく、それぞれの立場によって活動の目的が違うので、優先順位が違っていて、その優先順位をお互いに理解をしながら、事業者責任のものは事業者責任の優先順位を分かった上で、医療保険のサービスを組み合わせないと難しいことがあり得ると、そのような趣旨かなと思いましたが、よろしいですか。
○江口参考人 ありがとうございます。
○森座長 ありがとうございます。
○冨髙構成員 ありがとうございます。
○森座長 それでは、鈴木構成員からいきましょう。ちょっと会場の皆さまの発言をお願いして、そのあと、またオンラインで参加の皆様に振りたいと思います。
○鈴木構成員 経団連の鈴木でございます。先生方におかれましては、産業保健に対して大変熱い思いでお取組をされているということで、改めて敬意を表したいと思います。ありがとうございます。
 私からは、相澤先生に1点御質問させていただければと思います。産業医の職場巡視の必要性についてお話を頂きました。全くそのとおりだと思ったところでございます。その一方で、例えば一通り巡視をした後で、iPhoneなどを持って、遠隔的に産業医の先生が、先ほど言われたスタッフの方と同行されて、状況を見ながら適宜指導やアドバイスを行うこともできるのではないかと思いがございます。そのような取組に対する相澤先生のお考えをお聞かせいただければと思います。よろしくお願いいたします。
○相澤参考人 ちょっと確認なのですが、産業医が職場巡視をしながら、iPhoneを使って、何か連絡するとか、衛生委員会のことをするとかということでしょうか。それとも、職場巡視をしないで、遠隔で職場の人がその場を映しながら、産業医が遠隔でその職場を評価すると、そういうことでしょうか。
○鈴木構成員 後者でして、作業されている方が遠くにいるような場合ですと、ベストではないけれども、まずは職場のスタッフが携帯端末を持って巡視している場面を産業医の先生が画面で見るというようなイメージでございます。
○相澤参考人 それは一見非常に便利なのですけれども、ちょっと危険なところがありまして、会社の方でまともな方ならいいのですけれども、悪いところは映さないということがありますよね。ですから、それがちょっと気になるところなのです。信頼関係があれば、全て見させていただけるのなら問題ないと思います。
 それからもう1つ、例えば現場ですと有機溶剤などは臭いがするわけです。iPhoneは今のところはまだ臭いは感知していないので、そういうのが克服できればいいかと思うのですけれども、そういうリスクがあるのではないかと思って、余り私は賛成しないところであります。
○鈴木構成員 ありがとうございました。
○森座長 ありがとうございます。この後、4名が手を挙げていただいています。会場のほうで神津構成員、中嶋構成員、オンラインの大下構成員、小松原構成員という順番でお願いしようと思っています。それでは、神津構成員からお願いします。
○神津構成員 ありがとうございます。全国衛生管理者協議会の神津です。相澤先生、松山先生、江口先生、本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。
 その中で松山先生に伺いたいのですが、ページとしては14、15ページで、現状の産業保健サービスということで、ここは衛生管理者が産業医と直接連携していない位置に入っておりますが、次の15ページでは産業医を中心に垂直と水平の連携がございまして、そちらは衛生管理者、産業医、それから保健師、看護師が連携するということで、大変有り難い図式になっていると思います。
 つまり、14ページにありますように現状では、事業主と産業医と労働者が縦軸でつながっている中で、衛生管理者の力不足という点もあろうかと思うのですが、産業医と衛生管理者が機能的にうまくいっていない状況にあり、それを今後は15ページにあるように産業医の先生が、衛生管理者を活用して、そして保健師・看護師も活用して、先ほど武藤先生もおっしゃられていましたが、職場巡視の際に衛生管理者にOJTで教育を行っていただいたり、そして当然我々も衛生管理者の力量の向上を図っていかなければいけないわけですけれども、そういう形で産業医と衛生管理者が連携するというように、今はあまり十分ではないけれども、今後、衛生管理者も活用いただきながら連携してそこを進めていくという、そのような理解でよろしいでしょうか。その点を教えていただければと思います。
○松山参考人 ありがとうございます。言われましたように、衛生管理者というのは今は事務員が兼任しているとか、そういう方も多々いらっしゃるというところで、中にはちゃんと衛生管理者の職務を遂行しておられる方もいらっしゃることは間違いなくて、我々も産業医をしながら、今後、衛生管理者にいかにお世話にならなければならない場面が出てきます。特に化学物質の自律的管理というところは我々も弱い部分がありますので、衛生管理者で十分理解をしていただいている方には非常に期待をしているわけです。相談をますますさせていただきたいと思います。そういうことで、できれば次のはっきりした垂直・水平の連携が完成すれば、産業医にとっても、労働者にとっても、非常にいい体制になるのではないかと思っています。
○神津構成員 ありがとうございます。是非、衛生管理者を御活用いただいて、職場巡視も衛生管理者は週1回義務付けられていますので、産業医の先生による月に1回の職場巡視は衛生管理者も交えてやっていただけるように、先生からもご指導いただければと思います。
○松山参考人 よろしくお願いします。
○森座長 それでは続いて、三井記念病院の中嶋構成員お願いします。
○中嶋構成員 中嶋でございます。江口参考人に御質問なのですが、今日のお三方の参考人とも医師でいらっしゃいまして、安全と健康という当たり前なことをきちんと守ることと、それからその上での産業医の役割、巡視の役割というのは強調されていたと思います。
 一方で、中小企業で産業医が選任されていない所が多いということで、1対1で対応させることが難しいということが現実としてある上に、先ほど武藤構成員や鈴木構成員が示唆されたように、実際上の解切策としては、私個人は中小企業こそIT技術の活用しかないのではないか、むしろそれによって、時間や場所にとらわれない支援ができるのではないかと考えております。
 その上で、IT技術の活用について、7番目でしたか、問題があるとおっしゃっておられまして、江口先生がお考えになられるIT技術の活用に関して、私が考えるのは基本的には安全と真正性と、後はそもそものテクノロジーとリテラシーの問題ぐらいはすぐに思い付くのですが、それ以外にIT技術の活用、特に産業保健分野でこれを活用しようと思った場合に、先生がお考えになっておられる現時点での問題点について少し教えていただければと思っております。以上です。
○江口構成員 それについては、IT技術といったときにイメージしているものが、少し私の説明が不足していたかと思います。例えば、今言われているのがウエアラブルなアプリケーションであったりとか、そういったものでメンタルヘルスの向上に資するようなものだったりとか、オンラインでカウンセリングを受けるであるとか、そういったような、いわゆるスタートアップといいますか、産業がどんどん広がってきております。そういった中で、我が国においてメンタルヘルスにいいよと言われるIT技術であったりといったものが、ちゃんとエビデンスがあるものなのか、ちゃんと裏付けがあるものなのかというと、かなり玉石混淆感が強いところがあります。そういったときに、リテラシーが余り高くない労働者さんに対して、そういったものが悪用されかねないというところで、今、産業衛生学会と共同して、お仕事の中でちゃんと利用者が安心して使えるようなIT技術というものはいったい何なのかというところを考えているところです。
 あと、例えば今ですと、オンラインで面談をするといったときに、この点についても、正直申し上げて各産業医の裁量に任されております。例えば復職の面談を対面でするという先生もいらっしゃれば、オンラインで大丈夫というという先生もいらっしゃいます。そういったところで、まだちょっと出てきたばかりですので、良し悪しであったりの判断をしかねるところがありますので、その辺はいいものはもちろん取り込んでいくのですが、ともすると、先行的に取り込んでしまうと、弊害が出てからでは遅いところがありますので、アジャイル的なスピード感はもちろん大切だと思うのですが、ただ、頭の片隅には、そういうデメリットもあるのではないかということを考えながら取り込んでいくということで御説明をさせていただいた次第になります。
○森座長 よろしいでしょうか。それでは、続いて大下構成員、お願いします。
○大下構成員 御説明ありがとうございます。日本商工会議所の大下です。まずもって、お三方の御報告、御説明に感謝申し上げます。また、日頃から地域の産業保健に熱心にお取り組みになられていることを改めて伺いまして、頭が下がる思いです。
 1点だけ申し上げたいと思います。先ほど、松山先生から地域医療の延長としての産業保健というお話があり、なるほどなと思った次第です。国が仕組みとして構築する部分ももちろん必要でしょうけれども、やはり実際に従業員の健康を診ていただくお医者様が、その会社、そこで働く人のことを考えて、お仕事をしていただくということと並行して重なっていくからこそ、効果を生む部分もあるのだろうと思いました。
 私ども商工会議所は、全国に515商工会議所がありますが、515の商工会議所には、地域に根ざした企業の支援・経営指導というものが、国や自治体から補助金を頂いて、我々の仕事として課せられており、この中で、経営指導員という肩書を持つ職員が商工会議所にそれぞれ配置されています。今回お三方とも職場巡視の重要性について触れていらっしゃいましたが、我々も、中小企業や小規模事業者の経営指導をするときには、巡回指導が求められています。例えば融資のあっせん等をするときに、必ず現地に行って、企業の状況を見て、あっせんに入っていくという形になっています。
 今、いろいろと御議論されていたIT、オンラインの活用については、例えば何らかの産業保健の仕組みを使って地域の事業者様、あるいは衛生管理者の方を集めて、昨今の衛生管理の重要なポイントはこういうことですよ、と解説するセミナー等はオンラインを活用されても構わないかもしれないと思いますし、あるいは取り急ぎ先生に相談したいというときは、ZoomやTeamsを活用するということはあってもいいのかなと思いますけれども、定期的に各事業所の状況をしっかり見ていただくためには、現地を先生に回っていただくことは非常に重要なのかなと思っております。
先ほど申し上げました私どもがやっている経営指導の巡回のお金は自治体から出ています。今、申し上げたように、産業医の方に各中小企業や小規模事業者を回っていただくという仕組みを作るのであれば、何らかの公的な仕組みでしっかりとサポートをしていただくということが、一番の根っこのセーフティネットの部分として重要なのではないかと思いました。私からは以上です。ありがとうございました。
○森座長 ありがとうございます。続いて、小松原構成員、お願いします。
○小松原構成員 3名の先生方、詳しい御説明をどうもありがとうございました。大変勉強になりました。
 質問というよりも、少し実態をお話させていただきたいと思います。江口先生の解説、23ページにありましたが、事業者が保険料を100%負担する労働保険と折半する健康保険の数が混在するというお話でした。現状ですと、単一型と呼ばれる大企業の健康保険組合の場合は、労働安全衛生法の健診を保険者が頂いて、それをもって特定健診として保健指導介入をしています。要は、対象者から見た場合、1つの健診で労働安全衛生法の保健指導と保険者の特定保健指導が混在している実態があるのです。
 一方、中小型の健保組合の場合は、事業主健診を事業主自体でほぼ実施できていない状況の所に対して、保険者が健診を実施して、労働安全衛生法の健診として渡している実態もあります。このように混在すると徐々に保険の目的が不明確になる点を今後どう整理していくのか、この検討会の大きな課題だと思っております。この点について先生の御知見を頂ければというのが1点あります。
 もう1つは健診です。これは先ほど座長の森先生から役割分担というお話がありましたが、今、現場で起きていることは、労働安全衛生法の健診は法定健診として受け、特定健診は特定健診として受けてと、同じような健診を年2回受ける方も一部いるわけです。こういう現状の整理について、同じ厚生労働省の施策でありながら、目的が違うから完全に分ける方がいいのか、そこは役割分担をもって、目的が違ってもコラボしていく方がいいのか、少し議論が必要かなと感じた次第です。
○森座長 ありがとうございます。今の件、江口先生、一言いただけますでしょうか。
○江口参考人 御意見はごもっともなところはあると思います。基本的には、労働者の過剰な負担にならないというところ、建前と実態の部分は分けて考えていかないとならないと思います。ご指摘のございました健康診断の実態については、私自身も実務で存じ上げているところですので、今後の議論の際には、労働保険と健康保険の本来の目的、役割には留意しつつある程度現場で齟齬がない形で合わせていく、事業者、労働者の不利益にならない形でとは思っております。
○森座長 ありがとうございます。岡田構成員、お願いします。
○岡田構成員 本日は、3人の先生方から歴史を踏まえてお話を聞かせていただき、大変勉強になりました。ありがとうございました。私は小規模の50人未満の支援については、地産保の役割が非常に大きいのかなと思っています。そこが今、いろいろな課題があって、改善ということも望まれるところかと思います。
先ほど衛生管理者の先生からも御意見があったとおり、松山先生から具体的にイメージできる垂直と水平という図を示していただきましたので、そこから具体的な体制が発展していけばいいと思っているところです。実際、私ども保健師の仲間でも、地産保で活動させていただいておりいますが、その中でも、一部コーディネーターという機能を担っている保健師もあり、窓口機能を保健師がすることによって緊急性を判断したり、利用目的に合わせて事前に情報収集したり、それを登録産業医の先生に御報告して、判断をしていただき、その判断、意見を事業者にも伝える。先生の意見を伝える際には、そこに少し解釈を加えて分かりやすく伝えるなど、そういうふうに活躍している保健師もおります。
 そういったことも踏まえて、水平の連携ということは、これからの議論のところかと思いますが、少し松山先生に、保健師に対して期待をしていただけるような何かありましたら、御意見を頂きたいなと思いました。よろしくお願いします。
○松山参考人 岡田委員、ありがとうございます。保健師さん、私の所の産保センターにもいらっしゃるのですが、他の産保センターに聞きますと、なかなか保健師が来てくださる方がいらっしゃらないというのが一番大きな問題です。保健師さんが1人いることで、例えば両立支援とか、そういうときの相談も非常に積極的にやっていただいていますし、まして保健師さんは地産保への常勤というわけにいかなくて、1週間に3日とか4日とか、働き方として、そのほうがいいと言われる方もいらっしゃるのかもしれませんが、そういう雇入れの方法ができるとすれば非常に助かることだと思います。
 今のコーディネーターも、どこかで衛生管理者とかをやっておられて、その仕事を退職して来られるという方がたくさんいらして、積極的になかなか動けないのです。時間的、それから報酬の制限がありますから、そういう中で保健師さんに一生懸命動いていただければ、地産保もより活用できるのではないかと思います。是非、一緒にやっていきましょう。
○岡田構成員 先生、ありがとうございます。力強いお言葉ありがとうございました。
○森座長 ありがとうございます。三柴構成員から手が挙がっていますので、三柴構成員に御発言いただいて、まとめに入りたいと思います。では、三柴構成員、お願いします。
○三柴構成員 ありがとうございます。まずは、お三方の御報告には多々感じる重要な示唆があったと認識しています。
 その上で2点です。1つは、産業保健の範囲を業務上リスクへの対応に限定されるお立場の方に、業務上の範囲というのはどこまでと理解しておられるのかを、今後の検討課題としてお尋ねしたいと思います。今日お答えいただかなくても大丈夫なのですが、これは国によって異なるが故のお尋ねです。日本の場合は、企業のウェットさ、信頼関係重視と、高齢化などの事情を踏まえて、政策なり判例なりの展開があるわけです。例えば、システムコンサルタント事件というケースの高裁判決だと、会社は定期健診によって労働者の素因とか増悪を認識していた以上は、具体的な法令があろうとなかろうと、それを悪化させないように、過重な業務に就かせないとか、業務を軽減するなどの配慮をする義務があり、自己対応に任せきりにすべきではないと明言しており、このような立場の判例は非常に多いわけです。また、産業保健というのは、ある種のパターナリズムを前提に領域ができている面もあると思うので、その辺は考えなくてはいけないのではないかというのが1つです。
 もう1つは、労使を二律背反に置くというのは、労働者保護にとっても必ずしも正しくないのではないかということを申し上げたいのです。要するに、先ほどとは別の地方の看護師の例ですが、残業を拒否する看護師の雇用形態を非正規にという指示を看護師長クラスの上司がして、それがパワハラだという、そういう相談があったと。ただ、よく詰めて考えると、自分が管理者になったら同じことをしかねない問題だったりするわけです。ですから、どこが「労」で、どこが「使」かというのは、非常に相対的な問題なわけなので、余り切り分けて労働者保護というと、かえって労働者保護は進まないのではないかということは思っているということです。以上です。
○森座長 ありがとうございました。いずれも今後の議論の大変基盤になる話なので、その点は記憶にとどめて議論していきたいと思います。
 最後に、時間が来ておきながら私の立場で1つだけ発言したいと思います。それは、生産性の問題を取り上げるべきではないイコール健康経営という議論がかなりあったことです。ここには少し誤解があると思っていまして、健康経営というのは、そもそも従業員の健康に投資した結果、従業員が健康になることによって、それが企業にとって価値があることを目指すことであり、ただ単に生産性を目的にしているものではないということです。そこを今後の議論の中でも御理解いただければと思います。ですから、生産性のために産業保健というのは明らかにおかしいわけで、従業員が健康になることが前提だということです。
 もう1つは、その中の1つが生産性で、それもあくまでも労働者の健康を害することによって生産性が低下することを、何とか労働者の健康状態を上げたり、ワークエンゲージメントを上げたりと、これはウェルビーイングの一部ですが、働く人のいきいき度を上げて改善して、結果的に生産性を上げようという話なので、労働者が健康になることが全ての基本なのです。
 また、健康経営のプログラムでは、安全衛生リスク対策の優先順位が低くなるという問題が課題として残っているのもそのとおりであります。しかしながら実際、企業が従業員の健康のためにということで、例えば運動プログラム、栄養プログラムをやったとしても、安全衛生のリスクは極めて高い職場で、その投資というのはほぼ無駄になるのではないかと思います。そのような職場では、従業員の健康増進プログラムへの参加が見込めません。安全衛生が基盤であることは、健康経営が成果を上げるためにはどうしても必要なことだという位置付けです。
 さらに、健康経営で生産性との関連指標としても用いられるプレゼンティーズムの改善を図っていこうとすると、一番価値がある、影響がある取組は、労働安全衛生法のプログラムでいうと、ストレスチェックの後の職業環境改善です。これが非常に大きな影響があるだろうということもエビデンスがあります。以上のことを考えると、労働者の健康保持増進のために、どこから経営者は意識をして手を付けるかという入口の問題であって、生産性を目的にすることは間違っているというのはそのとおりかもしれませんが、健康経営の考え方がなじまないという話ではないと思っています。私の専門分野でもあり、その点を発言させていただきました。
 それでは、今日はお三方の先生の詳しい御説明、基盤となる御説明ありがとうございました。そして、構成員の皆様にも本質的な御意見を頂きまして、今後の議論につなげていければと思っています。少し時間をオーバーしましたが、これでここまでの議題1は終了したいと思います。ありがとうございました。
 本日頂いた御意見なども踏まえて、事務局で次回の議論に向けて整理をお願いします。本日の主な議題は終了しましたが、事務局より何かありますでしょうか。
○美濃安全衛生部長 私から一言御礼申し上げたいと思います。本日は御多用のところ、本検討会に御参加いただきまして誠にありがとうございます。また、貴重なお話を頂きました相澤先生、松山先生、江口先生におかれましては、改めまして深く感謝申し上げる次第でございます。本日お話いただきましたこと、本日御議論いただきましたことを、今後の検討に活かしてまいりたいと考えてございます。本日は誠にありがとうございました。
○森座長 ありがとうございました。本日の議題は以上です。時間が少し延びましたことをお許しいただければと思います。それでは、事務局から連絡事項があれば、お願いします。
○岩澤産業保健支援室長補佐 連絡事項は2点です。次回の日程については、改めて御連絡を差し上げます。また、本日の議事録については、先生方に内容を御確認いただいた上で、厚労省ホームページに掲載いたします。その点についても、追って御連絡を差し上げます。以上です。
○森座長 ありがとうございます。それでは、本日の検討会は以上で終了します。どうもありがとうございました。