令和4年度 第1回 化学物質のリスク評価検討会(発がん性評価ワーキンググループ) 議事録

労働基準局安全衛生部化学物質対策課

日時

令和5年1月18日(火) 13:30~15:30

場所

TKP新橋カンファレンスセンター カンファレンスルーム16B
(東京都千代田区内幸町1-3-1 幸ビルディング16階)

議題

  1. (1) がん原性試験結果の評価について
  2. (2) その他

議事

○有害性調査機関査察官  本日は、大変お忙しい中、御参集いただきまして誠にありがとうございます。
 それでは、定刻になりましたので、令和4年度第1回発がん性評価ワーキングを開催いたします。
 私は、本日座長に進行をお渡しするまで司会を務めさせていただきます、有害性調査機関査察官の福田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず、本日の委員の出席状況についてですが、本日は、6名の先生方全員に御出席いただいております。
 また、本日は、会場参加とオンライン参加の併用という形で開催させていただいておりまして、6名の先生方のうち、津田委員と西川委員の2名がオンラインでの参加となっております。
 なお、本日は、がん原性試験の結果の概要の説明などのため、独立行政法人労働者健康安全機構日本バイオアッセイ研究センターの御担当者4名にも御参加いただいております。
 続きまして、本日の会議の進行に当たっての留意事項となります。
 会場とオンラインの併用で開催しておりますので、会場参加の委員の皆様方におかれましては、御発言の際に必ず手元のマイクのスイッチを入れていただいて、御発言いただきますようにお願いいたします。
 オンライン参加の委員の皆様方におかれましては、周囲の音を拾ってしまうことがございますので、御発言される場合を除きましてマイクをミュート、オフに設定していただきますよう、よろしくお願いいたします。
 また、御発言の際には、あらかじめチャットで御発言の旨を入れていただくか、またはお名前を名乗っていただいて、座長の指名を受けてから御発言いただきますよう、お願いいたします。
 なお、本日の検討会の内容につきましては議事録を作成しまして、後日公表いたしますので、御承知おきいただければと思います。
 本日の会議は公開としておりまして、本日の会議の一般傍聴者の方につきましては、ウェブでの音声配信のみとさせていただいております。
 それでは、平林座長に以降の議事進行をお願いいたします。
○平林座長  平林でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず、事務局から資料の御確認をお願いします。
○有害性調査機関査察官  本日の会議はペーパーレスということで、会場にお越しの委員の皆様方のお席の上にはタブレット端末を配置させていただいております。
 資料としましては、議事次第、その裏に配付資料一覧、資料1から資料4-2、参考1から参考6までを御用意させていただいております。
 会場にお越しの先生方におかれましては、タブレット上の資料に抜けなどはございませんでしょうか。ありましたら、事務局まで御連絡いただきたいと思います。
 また、オンラインで参加されている先生方にも資料を事前に送付させていただいております。また、一部ホームページ等で御案内させていただいておりまして、御覧いただくものもあるかと思います。何かありましたら、事務局までお知らせいただきたいと思います。
 資料説明時には、会場モニターの画面にも資料を映し出します。
 手元の資料の確認は以上でございます。
 本日の資料につきましては、先ほども申し上げましたとおり、厚生労働省のホームページにもあらかじめ掲載しておりますので、一般傍聴者の方におかれましては、そちらのほうを御覧いただきたいと思います。
 以上となります。
○平林座長  ありがとうございました。先生方、よろしゅうございますか。
 それでは、本日の議題に入ります。まずは議題の1、がん原性試験の結果の評価等についてですが、事務局より説明をお願いします。
○有害性調査機関査察官  本日は、ブチルアルデヒドとアリルアルコールの2物質のがん原性試験の結果の評価を予定しております。
 ブチルアルデヒドのがん原性試験としての選定理由につきましては、染色体異常試験、先日、事前に先生方にお配りした資料、Ames試験になっておりましたので、もしそこが直ったものをお持ちでなければ、染色体異常試験という形で手元でお直しいただければと思いますが、染色体異常試験の結果において陽性が出ていること、発がん性の疑いがあるが明確ではないことなどを考慮した上で、がん原性試験の実施の可能性を判断するフィージビリティー試験の結果、がん原性試験が可能と判断されたものとなっております。
 また、アリルアルコールの選定理由につきましては、労働安全衛生法第57条の4の規定に基づく新規化学物質の有害性調査の結果として届出に添付されて提出された変異原性試験において、強度の変異原性が認められた化学物質であることなどを考慮した上で、発がん性試験の実施の可能性を判断するフィージビリティー試験の結果、がん原性試験が可能と判断されたものとなっております。
 試験のほうは、ラットを使用した吸入による2年間の長期のがん原性試験と、rasH2マウスを使用した吸入による26週間の中期発がん性試験がセットとなっております。いずれの物質ともそのセットになっております。
 いずれの試験も日本バイオアッセイ研究センターが試験実施機関となっておりまして、個別の試験結果の詳細につきましては、がん原性試験の結果を中心に、バイオアッセイ研究センターの御担当者から説明いただくこととしております。
 続きまして、本日の発がん性評価ワーキンググループでの議題1の議事の進め方です。
 まず、昨年度の第1回の発がん性評価ワーキンググループで御説明させていただきました、職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書に、特化則等への物質追加を念頭に置いて、国が行ってきた化学物質のリスク評価は、今後行わないこととされていることを踏まえまして、今回、仮にがん原性試験の結果が陽性の評価となったとしても、リスク評価のほうには進めないこととしております。
 また、昨年5月31日に労働安全衛生規則等の一部を改正する省令が公布されておりますが、この改正省令に基づく新たな化学物質規制におきましては、改正労働安全衛生規則第577条の2の規定によりまして、厚生労働大臣が定めるがん原性物質に関する作業記録及びリスクアセスメント結果に基づき実施する健康診断の結果などの30年保存が義務づけられることとなっております。
 このがん原性物質の範囲につきましては、昨年9月開催の第1回化学物質管理に係る専門家検討会での議論を踏まえまして、国によるGHS分類で発がん性区分「1」、1Aまたは1Bの化学物質を対象とし、ただし、エタノールや特化則で既に作業記録等の30年保存が義務づけられている特別管理物質を除外することとしております。
 こうした状況に鑑みまして、今日の発がん性評価ワーキンググループで評価する2物質につきましては、新たな化学物質規制におけるがん原性物質の基準の中で運用していくこととし、仮にがん原性試験の結果が陽性の評価となったとしましても、新たに労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質、いわゆるがん原性指針の対象物質として追加しないということで考えております。
 このため、今日の発がん性評価ワーキンググループにおきましては、先生方には試験結果の陽性、陰性の評価だけをお願いしたいと考えております。
 なお、日本バイオアッセイ研究センターのがん原性試験の結果につきましては、政府向けGHS分類ガイダンスにおいて、現在、GHS分類に当たっての情報源として採用の優先度の高いList1の情報源リストに位置づけられております。今回の2物質のがん原性試験の結果につきましては、今後、「職場のあんぜんサイト」に掲載するとともに、当該物質のGHS分類の再分類を行う際に活用することとしております。
 事務局からの説明は以上となります。
○平林座長  それでは、試験実施機関の日本バイオアッセイ研究センターの担当者から個別の試験結果の詳細を説明していただきます。
 まずは、ブチルアルデヒドについて、試験実施者から説明をお願いいたします。
○試験機関  ブチルアルデヒドを担当いたしました笠井でございます。では、資料に沿って説明いたしたいと思います。
 資料の1-1を御覧ください。
 資料の5ページに腫瘍の発生状況、6ページに生存率、7ページに体重、8ページに摂餌量のグラフを添付いたしております。
 まず、1-1、被験物質。被験物質はブチルアルデヒドです。別名は、ブタナールです。
 被験物質の構造式、分子量、物理化学的性状については、1-2、1-3にお示ししたとおりです。本物質はアルデヒドの一種で、構造的にはブタンの誘導体に当たります。
 1-4、製造量等。輸出・輸入数量といたしまして、2020年の報告では、輸出量は7,900トン近く、輸入量は5,100トン余りとされています。
 1-5、用途。合成樹脂原料、2-ヘキシルアルコール原料、ゴム加硫促進剤とされています。
 1-6、許容濃度、発がん分類等。管理濃度は未設定です。日本産業衛生学会並びにACGIHの許容濃度は未設定、IARCでの発がん性分類も未評価となっております。
 1-7、遺伝毒性については、複数のAmes試験で、代謝活性化の有無によらず陰性の結果となっております。一方、ほ乳類培養細胞の染色体異常試験では、代謝活性化の有無によらず陽性との報告がなされています。小核試験では、マウス末梢血において陰性との報告があります。
 次ページをお願いいたします。試験結果の概要を説明いたします。
 試験目的は、ブチルアルデヒドをラットに104週間全身ばく露し、そのがん原性を検索することです。
 3、方法。対照1群、被験物質投与3群の計4群の構成で、各群雌雄とも50匹とし、合計400匹を用いました。
 投与は、ブチルアルデヒドを1日6時間、1週5日間、104週間、動物に全身ばく露することにより行いました。
 投与濃度は、雌雄とも0、300、1,000、3,000ppmとし、観察・検査として、一般状態観察、体重・摂餌量測定、尿検査、血液及び血液生化学的検査、剖検、臓器重量測定、病理組織学的検査を行いました。
 4の投与濃度設定理由です。発がん性試験の投与濃度は13週間試験の結果を参考にして決定いたしました。
 13週間試験は雌雄のラットを用いて0、100、300、1,000、3,000ppmの濃度で実施しました。
 その結果、投与による死亡は各群に認められず、特記すべき一般状態の変化もみられませんでした。しかし、雌雄の3,000ppm群で体重増加の抑制、摂餌量の低値がみられました。雄の最終体重及び摂餌量は、対照群に対してそれぞれ91%でした。雌の変化は軽微で、最終体重は対照群の96%、摂餌量は98%でした。
 病理組織学的検査では、ブチルアルデヒドの刺激によると思われる影響が雌雄とも鼻腔から喉頭にかけてみられました。
 雄では、100ppm以上の群から呼吸上皮に扁平上皮化生がみられ、この変化は3,000ppm群では雌雄の全例にみられました。
 嗅部では、嗅上皮の萎縮が1,000ppm以上にみられました。
 喉頭では、扁平上皮化生が3,000ppm群の雌雄にみられました。
 呼吸器でのこれらの所見の程度は、最高濃度の3,000ppm群でも軽度であり、投与期間を104週間に延長しても、動物の生死にかかわるような重篤なものにはならないと判断いたしました。
 以上から、104週間試験の最高濃度は3,000ppm、以下1,000、300ppmを設定いたしました。
 5の発がん性試験結果を報告いたします。生存率を6ページ図1、体重を7ページ図2、摂餌量を8ページ図3として添付しております。
 生存率につきまして、雄では投与による影響は観察されませんでしたが、雌では3,000ppm群で生存率が低下しました。その多くが餌の嚥下障害による窒息死でした。
 3,000ppm群の生存率は雄で62%、雌は44%、これは22匹に当たりますが、44%でした。
 一般状態観察では、3,000ppm群で雌雄とも投与後半から異常呼吸音が観察されました。雄では、投与最終週まで多くに観察されました。雌では、投与終盤の99から101週にかけて半数以上にみられましたが、それ以降は減少し、投与最終週では4例にみられたのみでした。
 体重は、3,000ppm群で雌雄とも投与期間を通して体重増加の抑制がみられました。最終計測日の3,000ppm群の体重は、対照群に対して雄は76%、雌は81%でした。
 摂餌量は、雄では3,000ppm群で投与期間を通して、雌でも投与期間前半及び投与期間後半で有意な低値が認められました。
 病理組織学的検査の結果を報告いたします。
 主な腫瘍性病変の結果を5ページにお示ししました。資料の5ページを御覧になりながら、お願いします。
 雄から説明いたします。鼻腔の扁平上皮癌が、3,000ppmで19匹にみられました。1,000ppm以下の群では、対照群も含めてみられておりません。この変化は、対照群と比較してFisher検定で有意な増加を示しました。また、傾向検定でも増加傾向が示されました。さらに、3,000ppm群では、癌肉腫、腺扁平上皮癌がそれぞれ1例みられております。扁平上皮癌にこれらを加えた鼻腔の癌の総数は21となり、Fisher検定で有意な増加、傾向検定でも増加傾向が示されました。
 その他、鼻腔では、3,000ppm群で、悪性腫瘍の肉腫NOSが1例みられております。
 雄ラットの鼻腔腫瘍は極めてまれで、当センターで行った直近10年間のヒストリカルコントロールデータでは、鼻腔の扁平上皮癌、癌肉腫、腺扁平上皮癌は、発生のない腫瘍でした。
 以上の結果から、雄F344ラットの鼻腔の腫瘍の発生は、がん原性を示す明らかな証拠であると判断いたしました。
 続きまして、雌です。雌でも、鼻腔で扁平上皮癌が3,000ppm群で8匹に認められ、Fisher検定で有意な増加を示し、傾向検定でも増加傾向が示されました。さらに、3,000ppm群では、扁平上皮乳頭腫が1例みられ、扁平上皮癌にこれを加えた9匹は、Fisher検定で有意な増加、傾向検定でも増加傾向が示されました。
 雌ラットでの鼻腔腫瘍は、雄同様、極めてまれで、当センターの直近10年間のヒストリカルコントロールデータでは、鼻腔の扁平上皮癌、扁平上皮乳頭腫とも、発生のない腫瘍でした。
 以上の結果から、雌F344ラットの鼻腔の腫瘍の発生は、がん原性を示す明らかな証拠であると判断しました。
 (2)の非腫瘍性病変の結果です。
 雌雄で鼻腔、喉頭、気管、肺、そして目に投与による影響が観察されております。腫瘍関連病変として、雌雄とも、1,000ppm及び3,000ppm群で、扁平上皮化生の増加がみられ、3,000ppm群で、扁平上皮過形成の発生増加がみられました。これらに加え、鼻腔では鼻炎、嗅上皮の萎縮、基底細胞過形成や甲介の癒着等がみられました。さらに、喉頭と気管では、扁平上皮過形成、肺では炎症が雌雄とも3,000ppm群でみられました。
 目に対する影響として、角膜の炎症及び変性が最低投与濃度の300ppmからみられました。これらの病変は、ブチルアルデヒドの刺激性を示す病変と考えました。
 6、まとめです。
 F344ラットを用いて、ブチルアルデヒドの2年間にわたる吸入ばく露によるがん原性試験を実施した結果、雌雄ラットに対するがん原性を示す明らかな証拠が得られたと結論しました。
 ラットの発がん性試験報告は以上です。
○平林座長  ありがとうございました。それでは、ブチルアルデヒドについて、御質問、御意見をお願いいたします。小野寺先生。
○小野寺委員  死亡例が嚥下障害による窒息死となっていますけれども、これは、鼻腔の腫瘍が起きたための嚥下障害なのですか。それとも、腫瘍に全然関係なくて、死亡した動物がいるということですか。
○試験機関  嚥下障害による死亡は、鼻腔腫瘍が発生する随分前から出ております。口の中に、餌と粘稠の粘液とが詰まっている状態で死んでいます。腫瘍に直接関係するものではないと思います。
○小野寺委員  がん原性の疑いがあるというか強いということは、結論としては変わりないのですけれども、これは途中で、いわゆる鼻腔の傷害というか刺激によってではない嚥下不全による窒息死が起きるということは、これがなかったならば、もう少し発がんの率が上がっている可能性もあるということでよろしいですか。
○試験機関  はい、そのとおりです。嚥下障害がなくても十分にFisherで有意差がついています。雄、雌とも、特に雄は20例以上腫瘍が出ておりますので、明らかな発がん性だと思っております。
○平林座長  ありがとうございます。ほかに。ウェブの先生方は、どなたか手を挙げていらっしゃいますか。大丈夫ですか。こちらからは確認できないのですが。
○西川委員  西川ですけれども。
○平林座長  西川先生、お願いします。
○西川委員  表1を見ていただければと思うのですが、鼻腔に肉腫NOSと書いてあります。特に特徴的な所見がない肉腫ということなのでしょうけれども、これが未分化な癌でないということは確認されていますでしょうか。
○平林座長  腺癌ではなくて肉腫かという。
○試験機関  腺癌でないことは確認しています。肉腫なのですが、これが未分化なものかどうなのか。
○西川委員  未分化な癌かどうか。
○試験機関  今の鼻腔の腫瘍の件ですが、この表の中に、肉腫NOSと癌肉腫というのも所見を入れています。実際、HE標本だけですと、なかなか診断の難しい腫瘍がありまして、特にこの2例に関しても難しかったのですけれども、パンケラチンとビメンチンを染めたかな、そういった免疫染色で確認をして診断しております。
○西川委員  ということは、ケラチンがネガティブということですね。
○試験機関  はい。それで決めたと思います。
○西川委員  そうであれば肉腫かと思いますが、これ、鼻腔の悪性腫瘍なので、上の癌と合わせた評価というのはしないのでしょうか。
○試験機関  御質問ありがとうございます。おっしゃるとおり、鼻腔の腫瘍という考え方で、肉腫と癌を両方足すというのも、やり方としてはありなのかなとも思うのですけれども、実際、この1例を足さなくても十分に評価ができるかなと思っておりまして、上皮由来の腫瘍と非上皮由来の腫瘍という分けた形だけで表しております。
○西川委員  これ1例を加えようが加えまいが明らかながん原性はそのとおりなのですけれども、仮に微妙な数の場合、これを加えるか加えないかによって、がん原性ありかないかという判断が変わってくる可能性もあると思うのです。つまり、取り扱いをどうするかということについては、きちっとされたほうがいいかなと思いました。
○試験機関  ありがとうございます。
○平林座長  ありがとうございます。若林先生。
○若林委員  雄、雌に鼻腔関連の腫瘍、癌、悪性腫瘍が発生したということに関しては、非常にクリアなデータだと思うのですが、これは3,000ppmのばく露によってなのですけれども、1,000ppmに関してはほとんど反応がないですよね。そこのところは、投与量が3倍違いますと、発がんするかしないかということが時々見られる現象でありますけれども、1,000ppmは非腫瘍部のところにも鼻腔関連の変化は全くなかったのでしょうか。
○試験機関  腫瘍以外の一般病変として扁平上皮化生であるとか、扁平上皮過形成という所見が、特に扁平上皮化生が1,000ppmでもみられております。鼻腔に対する影響はこの物質はあったが、1,000ppmの濃度では腫瘍の発生が出なかったということになると思います。
 この扁平上皮化生というのは、腫瘍に育っていく病変であると考えておりますので、やはり腫瘍に関連する病変が1,000ppmから増えたというように判断しております。
○若林委員  発がんのメカニズムにも関連するようなことですけれども、Amesがマイナスで、小核がマスナスで、染色体異常がポジティブだというようなことで、非遺伝性に近いような発がん物質なので、1,000ppmと3,000ppmによる、いわゆる二次的な反応がそこで非常に違ってくるというように理解すればよろしいでしょうか。
○試験機関  そのように判断しています。
○平林座長  ありがとうございます。ほかに。小川先生。
○小川委員  今までの御質問とちょっと重なるところはあるのですけれども、扁平上皮化生のようなものは、300ではなかったということになるのですか。非腫瘍性病変のところの用量が、少し読みとりにくかったかなと思ったのですけれども。
○試験機関  300ppmでは、鼻腔に対する影響はみられていません。目に対する影響だけです。
○小川委員  目に対する影響というのも、細胞傷害性というか、刺激性のような機序であるという理解でよろしいですか。
○試験機関  目に対する影響も刺激の影響が強いと思われます。
○平林座長  ほかに。小野寺先生。
○小野寺委員  今の、多分、これの原因は、若林先生がおっしゃいましたように、遺伝毒性もCHOを用いた試験ででは、染色体ではプラスだけれども、遺伝毒性のものがネガティブだったので、その中で、結局、刺激性が長期に、鼻腔の腫瘍を誘発したと考えるほうがリーズナブルなのですが、目の刺激というのは、やはり外界からの刺激性があった場合に、結構敏感にいろいろなのが出てくる臓器だと思うのですけれども、目というのは、ただ炎症が起きただけで止まっていたわけですか。
○試験機関  炎症と変性でとどまっています。
○小野寺委員  炎症がひどくなってというのはなかったですか。
○試験機関  そういうところまでは出てきていません。
○小野寺委員  ありがとうございます。
○平林座長  よろしゅうございますか。
○津田委員  津田です。
○平林座長  津田先生、お願いします。
○津田委員  資料1−1の表2、雌のところの300ppm投与群の下垂体腺腫で星印*がついているのですが矢印は無し、しかし線維腺腫の中で乳腺で下向き*矢印は下向きの矢印ですがどう違いますか?
○平林座長  津田先生、雌の下垂体の傾向が下方の印がついていないということですよね。
○津田委員  はい。
○平林座長  それは本当にそうですかということだと思います。
○試験機関  ありがとうございます。Cochran-Armitage検定で下方の有意差検定がついているかどうかというところを、手元に資料がありますので、今ちょっと確認します。
○試験機関  検定の結果はついておりません。
○平林座長  津田先生、いかがでしょう。
○津田委員  同じ1/7でもChoerhan-Armitaze検定では有意差とならないということですね。
○平林座長  乳腺は、ベースが7で1になっているのですけれども、下垂体は6が4ですから、つかないということかなと思うのですが、いかがでしょう。
○津田委員  6が4というのところのことですか?
○試験機関  下垂体の腺癌が7、1、2、3ということで、低濃度の300ppmでFisherの有意差はついているのですけれども、その後、2、3と増えているところで、傾向検定では下がっていないと判断されたと思います。
○津田委員  了解です。
○試験機関  乳腺は段階的に下がっているので。
○平林座長  ほかに。西川先生、お願いします。
○西川委員  誤植かどうかの確認なのですが、3ページ、腫瘍性病変の雄の鼻腔の下から4行目に「異形性的な様相」と書いてあるのですが、この「性」というのは「成」ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。――質問の意味は分かりますでしょうか。
○小野寺委員  西川先生、多分、これは単なる誤植だと思います。
○西川委員  まずバイオの人に確認しているのです。
○試験機関  すみません。アティピアという意味の異形成です。
○西川委員  ですよね。だとしたら、「成」という字ですよね。
○試験機関  はい。すみません、間違いです。
○平林座長  よろしゅうございますか。ほかに。小川先生。
○小川委員  ホルムアルデヒドと似ているのかなと思って見ているのですけれども、ただ、遺伝毒性はこちらではほとんどないと。見られた病変的にも、ホルムアルデヒドも御検討されていたかもしれないと思ったのですけれども、かなり違うような像という印象なのか、発生部位なども含めて類似しているという認識でよろしいのか、かなり違うということなのか、もし印象等ございましたらお聞かせ下さい。
○試験機関  扁平上皮の形態的なところですね。このブチルアルデヒドなのですけれども、13週のときから扁平上皮化生が起きていて、あまり強い異形を持っていない、比較的おとなしいというのですか、きれいな層状分化をするタイプの扁平上皮化生でして、あれっ、これ、腫瘍に行くのかなというような印象がありました。
 ホルムアルデヒドの経験がバイオは長期はやっていないですよね。低濃度か何かでやったことはあったかもしれないのですけれども、長期の吸入ばく露はやっていないのです。ただ、ほかの物質でも扁平上皮化生を引き起こす物質はありますけれども、ブチルアルデヒドは比較的きれいな層状分化を示す、13週ぐらいまでではちょっと分かりにくい、特殊ではないですね。そういった形態だったと思います。
○小川委員  ありがとうございます。
○平林座長  ほかによろしゅうございますか。
 私から1ついいですか。雌なのですけれども、最高用量のところで、乳腺の線維腫が低下していて、これは多分、コンペティティブリスクで説明ができるかなと思うのですけれども、脾臓の単核球性白血病は、1,000から低下傾向が、星がついているということで、ただ、ここでは鼻腔の腫瘍は全くないということなので、この辺はどのようにお考えでしょうか。
 確かに、そんなに数が変わっていないので、とはいうものの、星がついているということで、どうなのかしらと思った次第です。
○試験機関  それについて考察はしたことがないもので、体重もそれほど落ちているわけではないですし、どういう理由でこういうことが起きているか、ちょっと分かりません。
○平林座長  ありがとうございます。ほかに。小野寺先生。
○小野寺委員  今の質問にも関連するのですけれども、雌の3,000ppmというのは、生存率が早いうちから低いですよね。そういうものが腫瘍の発生に関係している可能性はないですか。
○試験機関  その可能性はあると思いますけれども、よく分かりません。
○平林座長  ほかによろしゅうございますでしょうか。
 御意見が出尽くしたようでございますので、それではブチルアルデヒドの発がん性の評価に移りたいと思います。先ほどの事務局の説明のとおり、今回は陽性か、陰性かの評価だけ。今、ラットの話ですね。ごめんなさい。あと、マウスの話がございますね。
 では、すみません、その説明をまずお願いします。
○試験機関  それでは、ブチルアルデヒドのrasH2マウスの説明をいたします。
 資料2-1を御覧ください。
 1の被験物質から1-7の遺伝毒性まではラットと同様のため省略します。
 試験結果の概要です。
 2、試験目的。試験目的は、ブチルアルデヒドを遺伝子改変マウス(rasH2マウス)に26週間全身ばく露し、その発がん性を検索することです。
 方法。対照1群、被験物質投与3群の計4群を設け、投与濃度は、雌雄とも0、300、1,000、3,000ppmを設定しました。
 投与は、1日6時間、1週5日間の全身ばく露による経気道投与で26週間、動物に全身ばく露することにより行いました。観察・検査項目はラットと同様です。
 4の投与濃度設定理由です。
 投与濃度は、雌雄のrasH2マウスのnon-Tgを用いた4週間の反復投与毒性試験の結果を基に決定しました。
 ブチルアルデヒドを4週間、0、100、300、1,000、3,000ppmの濃度でばく露しました。
 その結果、動物の死亡はみられず、一般状態の変化も観察されませんでした。
 しかし、3,000ppm群の雌雄で体重増加の抑制がみられました。最終体重は対照群に対して雄92%、雌93%でした。
 病理組織学的検査では、ブチルアルデヒドの刺激によると思われる影響が、3,000ppm群の雌雄とも鼻腔にみられました。
 呼吸上皮の扁平上皮化生及び嗅上皮の萎縮がみられました。これらの変化の程度は軽度であり、これらの濃度で、中期発がん性試験として投与期間を延長した場合でも動物に重篤な変化は引き起こさないと判断しました。
 以上のことから、26週間試験の最高濃度は3,000ppmとし、以下1,000、300ppmを設定しました。
 5の中期発がん性試験結果です。
 26週間ばく露の結果、動物の生存率及び一般状態に、ブチルアルデヒド投与による影響は雌雄ともに認められませんでした。
 しかし、体重は、3,000ppm群の雌雄で投与早期から投与終了までの間、低値で推移しました。最終計測日の体重は、対照群に対して雄は86%、雌は94%でした。
 摂餌量は3,000ppm群で、雌雄とも体重と対応した低値がみられました。
 病理組織学的検査の結果です。
 (1)腫瘍性病変の結果を5ページに、雄を表1、雌を表2にお示ししました。
 雄では、肺の細気管支-肺胞上皮腺腫の発生が、対照群0、300ppm群2匹、1,000ppm群2匹、3,000ppm群2匹に認められました。しかし、Fisher検定で有意な増加を示した群はありません。
 細気管支-肺胞上皮癌の発生が、対照群0、300ppm群2匹、1,000ppm群1匹、3,000ppm群2匹みられました。こちらも統計学的に有意な増加を示した群はありませんでした。
 細気管支-肺胞上皮腺腫と上皮癌を合わせた発生は、対照群0、300ppm群4匹、1,000ppm群3匹、3,000ppm群4匹となりました。こちらも統計学的有意差はありませんでした。
 過去に当センターで実施した雄rasH2マウスのヒストリカルコントロールデータでは、細気管支-肺胞上皮腺腫と上皮癌を合わせた腫瘍の自然発生の上限は25匹中3匹でありました。300ppm及び3,000ppm群で4匹となり、これを超えたことから、雄では、rasH2マウスの肺に対する発がん性を示す不確実な証拠が得られたと判断しました。
 雌では、肺で細気管支-肺胞上皮腺癌の発生が、対照群で1匹、300ppm0、1,000ppmで2匹みられました。3,000ppm群では認められておりません。また、1,000ppm群で、前胃の扁平上皮乳頭腫と胸腺の悪性リンパ腫がそれぞれ1例観察されました。ブチルアルデヒドの投与による腫瘍の発生増加は認められませんでした。
(2)の非腫瘍性病変の結果です。
 被験物質の投与による影響が、雌雄の鼻腔、気管、肺に認められました。
 鼻腔では、雌雄とも主に3,000ppm群で嗅上皮の萎縮及び呼吸上皮化生がみられ、呼吸上皮では、炎症、エオジン好性変化、扁平上皮化生等がみられました。また、嗅部の浸出液の貯留、移行上皮の過形成の増加もみられました。これらの病変は、ブチルアルデヒドによる鼻腔への傷害と修復、あるいは炎症に伴う変化と考えられます。
 さらに、雌雄とも300ppm以上の群で、気管の気管上皮や肺の気管支上皮の空胞変性が観察されました。
 6のまとめです。
 遺伝子改変マウス(rasH2マウス)を用いて、ブチルアルデヒドの26週間の吸入による中期発がん性試験を行った結果、雄rasH2マウスに対する発がん性を示す不確実な証拠が得られたと結論しました。
 一方、雌rasH2マウスに対する発がん性を示す証拠は得られなかったと結論しました。
 rasH2マウスの発がん性試験の報告は以上です。
○平林座長  ありがとうございました。それでは、ブチルアルデヒドのrasH2マウスを用いた吸入による中期発がん性試験について、御質問、御意見をお願いいたします。若林先生。
○若林委員  言葉の定義の問題で、またこれを評価する上に重要なのですけれども、「不確実な証拠が得られた」のと「証拠は得られなかった」という定義の違いはどこに根拠があるのでしょうか。
○試験機関  今回の試験結果をみますと、雄の肺の腫瘍発生が、コントロール0に対して低濃度4、中濃度3、最高濃度4ということで、いずれも有意差がついていませんけれども、ヒストリカルコントロール、これまでのコントロールの発生率を非常に超えているというところで、まるきり発がん性がなしとするには、腫瘍発生があるだろうと考えて、このような結論にしております。
○若林委員  発がん性のいろいろな定義または評価においては、IARCの評価ですとか、アメリカのEPAですとか、NTPの評価ですとかいろいろありますけれども、この言葉は、国内では一定に用いられている表現で、それに関しての理解度もよく進んでいるものなのでしょうか。
○試験機関  inadequateという英語になりますが、NTPでの評価がこの用語を使っています。これに相当するものだと判断しました。
○若林委員  分かりました。
○平林座長  小川先生。
○小川委員  私も理解としては、FDA等でも、まれな腫瘍等に関しては、有意差水準を下げて、有意に取るというわけではないですけれども、結果を排除しないということで、equivocalとかinadequateという言葉を使いつつ、今回はequivocal evidence of carcinogenic activityという記載になっていますけれども、そういう使い方をされることが、一般的には認められているという認識ではあります。
 西川先生、それでよろしかったでしょうか。
○西川委員  はい。それでいいと思います。
○平林座長  では、小野寺先生。
○小野寺委員  今、そのことについてなのですけれども、これ、300、1,000、3,000の中で、先ほども言いましたように、コントロール0に関して、4例、3例、4例という、数の上では結局、ドーズレスポンスというのはないのですけれども、程度とか、組織学的とか、その大きさとか、重症度においても差はなかったのでしょうか。
○試験機関  癌としましたけれども、それほど、悪性度が物すごく強いというものではありませんでした。
○小野寺委員  例えばの話なのですけれども、結局、300とか1,000の低用量では1個か2個というか、矮小というか小さい腺癌だったのですけれども、3,000の高濃度になれば、その範囲が大きく広がったり、マルチプルになってきたというような所見はなかったということですか。どのドーズでも同じ程度での癌だということで理解してよろしいですか。
○試験機関  濃度が上がるたびに、程度が強くなるとか、大きくなるとか、そういう傾向はありません。
○平林座長  ほかに。若林先生。
○若林委員  少し勉強不足で恥ずかしいのですけれども、rasH2マウスとラットとの発がん性の違いに関しては、ばく露時間が明らかに、片方が104週でこちらが26週ですよね。マウスに関して26週というのは、議論があって26週というところに設定したかに私は覚えておりますけれども、26週と決めてそれをエンドポイントとした科学的根拠は何でしたか。
○試験機関  26週を超えますと、自然発生の腫瘍が急激に増えていくというところで、自然発生のない26週で評価をするというのが、このrasH2の評価法ということになります。
○若林委員  それでも、他のワイルドタイプのものよりも、感度が上がっていることや、ほかのいろいろなエビデンスからして26週で十分なばく露期間であると理解しているわけですね。
○試験機関  そのとおりです。
○平林座長  小川先生。
○小川委員  少しだけ補足というか、私の私見かもしれないのですけれども、rasH2については、いろいろ調査がなされて、歴史的に一応26週で評価しましょうということになっているのです。けれども、その辺のところは議論をお持ちの方もあり、被験物質によっては、やはりrasに関連しないような発がん経路のものは、26週では検出できないのではないのかというような意見もあり、本当に26週で大丈夫なのですかという若林先生の御質問は、そのとおりだと思うのですが、一般的にrasH2マウスを使ったがん原性試験は26週で評価しましょうというのが、ICHでも認知されている方法ではあるという状況だと思っております。
○平林座長  ありがとうございます。ほかにございませんでしょうか。西川先生。
○西川委員  西川ですけれども、よろしいでしょうか。
○平林座長  はい。
○西川委員  図1を見ますと、一番高い用量群で死亡例が雄、雌ともないですね。図2を見ると、体重は高用量群で若干少なくなっているのですが、用量設定の問題で、もう少し高い用量でできなかったかということがちょっと気になるのですが、いかがでしょうか。
○試験機関  この物質を行う前に、4週間の予備試験を行っております。この4週間の予備試験で、雄の体重が92%、雌93%ということで、これ以上、上げると体重に影響して試験として成り立たなくなるだろうという判断で、この濃度を設定しています。
○西川委員  要するに、コントロールに比べて、10%未満の低下ですよね。このぐらいの体重増加抑制でも、十分であるというように考えられていると思うのですが、通常、こういう形で決められているのですか。
○試験機関  雄92%、雌93%の体重でしたので、ほぼ1割減というように予備試験では。
○西川委員  だから、10%まで行っていないですよね。
 特にこだわるわけではないのですが、バイオでそういうデータに基づいてきちっと用量設定をしたということであれば、全く問題ないかと思いますが、ちょっと気になったのでコメントしました。
 以上です。
○試験機関  先生、ありがとうございます。確かに先生のおっしゃるとおり、4週の濃度設定で、雄で92%、雌で93%の体重だったということで、この濃度を設定したというのが、今までバイオアッセイでも大体10%減ぐらいで濃度設定しています。実際、26週ばく露してみますと、26週での体重は、雄は86%とかなり下がってしまっているので、雄では十分だったのではないかなと考えています。
 ただ、雌のほうは94%ですので、雌はもうちょっと高いほうがよかったのかなと、結果論なのですけれども、そういったところはあるかもしれませんが、バイオアッセイで持っている吸入ばく露装置は雄、雌、同じ濃度でしかばく露できないので、そこも限界があったかなといった感じです。お答えになっていますか。
○西川委員  はい。バイオで通常やられている設定であれば、問題ないかと思います。ありがとうございました。
○平林座長  ほかに。津田先生、よろしゅうございますか。
○津田委員  はい、結構です。
○平林座長  ありがとうございます。ほかの先生方もよろしゅうございますか。
 それでは、改めまして、ブチルアルデヒドの発がん性の評価に移りたいと思います。
 先ほどの事務局の説明により、今回は、陽性か陰性かの評価だけとなります。
 ブチルアルデヒドの発がん性の評価はどういうことにしたら、よろしゅうございますでしょうか。小川先生。
○小川委員  ラットにおきまして、明らかな発がん性が雄と雌と両方に見られているということから、マウスはequivocalでありますけれども、雌雄でということですので、IARC等の評価の仕方からすると、発がん性ありという評価になると考えます。
○平林座長  小野寺先生、若林先生、うなずいてくださいましたが、西川先生、津田先生、いかがでしょうか。
○西川委員  小川先生の意見に同意します。
○平林座長  ありがとうございます。津田先生。
○津田先生  津田です。それでよいと思います。
○平林座長  ごめんなさい。肝腎なところが消えてしまいました。
○津田委員  発がん性ありということですね。
○平林座長  発がん性陽性というように評価してよろしゅうございますかということです。
○津田委員  はい。
○平林座長  ありがとうございます。では、ブチルアルデヒドにつきましては、発がん性陽性と評価いたします。ありがとうございました。
 次に、アリルアルコールにつきまして御説明いただきたいと思います。まずは、2年間のラットのほうからですね。よろしくお願いします。
○試験機関  バイオアッセイ研究センターの加納です。よろしくお願いします。
 アリルアルコールのラットの結果です。資料3-1をご覧ください。
 資料の5ページに腫瘍の発生状況、6から8ページに生存率、体重、摂餌量のグラフがあります。
 被験物質はアリルアルコール、別名、IUPAC名で2-プロペン-1-オールです。
 構造式、物理化学的性状については、1-2と3に示してありますが、説明は省略させていただきます。
 製造量は、経済産業省の報告で、届出事業者が2社以下であるため非公表とされています。また、「令和2年度PRTRデータの概要」において、大気への排出量が年1,958kg、公共用水域への排出量が年1,002kg、主に産業廃棄物としての移動量が年6万3,548kg と報告されています。
 用途としましては、アリルグリシジルエーテル、エピクロロヒドリンの合成原料、ジアリルフタレート樹脂の合成樹脂原料、医薬品、香料、難燃化剤の合成原料とされています。
 許容濃度等につきましては、管理濃度が未設定、日本産業衛生学会では許容濃度1ppm、ACGIHではTLV-TWAが0.5ppm、発がん性分類はA4、ヒト発がん性物質として分類できないとされています。
 ドイツ研究振興協会ではMAK Valueが未設定、経皮吸収による危険性があり、発がん性分類としてはCategory3となっています。IARCでは発がん性分類は未評価となっています。
 遺伝毒性については、Ames試験につきましては幾つか報告がありますが、Ames試験、ほ乳類培養細胞のhprt遺伝子突然変異試験、ほ乳類培養細胞の染色体異常試験でいずれも陽性の報告があります。
 結果になります。アリルアルコールをラットに104週間全身ばく露し、そのがん原性を検索しました。
 方法は、対照群1群、投与群3群の計4群で、各群雌雄50匹、合計400匹を用いました。
 投与は、1日6時間、週5日の104週間で、動物に全身ばく露することにより行いました。
 投与濃度は、雌雄とも0、4、10、25ppmとし、観察・検査項目につきましては、先ほどのブチルアルデヒドと同様です。
 投与濃度の設定理由です。
 13週間試験の結果を参考にして決定しました。
 13週間試験は雌雄ラットで、0、1.6、3.1、6.3、12.5、25ppmの濃度で行いました。
 結果、投与による死亡は各群に認められず、特記すべき一般状態の変化もみられませんでした。しかしながら、雌雄25ppmで体重増加の抑制、摂餌量の低値がみられ、最終体重は対照群に対しまして雄88%、雌93%でした。
 病理検査では、雌雄の鼻腔にアリルアルコールの刺激性によると思われる影響がみられました。
 呼吸部の炎症と呼吸上皮の異形成が12.5ppm以上、呼吸上皮の扁平上皮化生が6.3ppm以上に認められ、呼吸上皮の再生は6.3と12.5ppmにみられました。
 嗅部では炎症と嗅上皮の呼吸上皮化生、萎縮、壊死、再生が25ppmに発生または発生増加が認められました。しかしながら、呼吸上皮の異形成と扁平上皮化生の程度は軽度から中等度であり、これらの所見は上皮の修復、増生に関わる変化であるが、最高濃度である25ppmにおいても気道を塞ぐような強い変化ではありませんでした。
 さらに、傷害性の変化である壊死、炎症が25ppmの呼吸部と嗅部にみられましたが、その程度はいずれも軽度であり、発がん性試験で投与期間を延長しても動物の生死に関わるような重篤な変化は引き起こさないと判断しました。
 以上から、104週間試験の最高濃度は25ppmとし、以下10ppm、4ppmに設定いたしました。
 結果です。
 投与による最終生存率への影響は、雌雄とも認められませんでした。一般状態観察でも、投与に関連した特徴的な所見、あるいは異常所見の増加は認められませんでした。
 体重は、25ppmで雌雄とも投与期間を通して有意な低値を示し、体重増加の抑制がみられました。4及び10ppmでは、雄は投与期間初期と終期に、雌は投与初期に低値を示しました。最終計測日の25ppmの体重は、対照群に対して雄89%、雌90%でした。
 摂餌量は、25ppmで雄の1週から26週にかけて、雌の1週から10週にかけて多くの週で低値が認められ、雌雄の4及び10ppmで投与期間中に有意な低値、あるいは高値がみられましたが、平均摂餌量としては対照群と比べて顕著な差はありません。
 病理の結果です。5ページ、表1と表2に腫瘍の表を示しております。
 まず、雄の肝臓です。肝細胞腺腫が、対照群0、4ppm2匹、10ppm6匹、25ppm3匹に認められ、10ppmは対照群と比較してFisher検定で有意な増加を示しました。高濃度の25ppmでは有意な発生増加は示されず、傾向検定でも増加傾向は示されませんでした。
 当センターで直近10年間の雄ラットのヒストリカルデータでは、肝細胞腺腫の発生が平均2.7%、試験ごとの発生率は、最小0から最大8%で、今回の10ppmの発生、6匹、12%はヒストリカルデータの範囲を僅かに超えました。しかしながら、肝臓腫瘍の前腫瘍性病変と考えられる好酸性小増殖巣の発生増加はみられませんでした。
 以上から、雄ラットの肝臓の肝細胞腺腫の発生は、がん原性を示す不確実な証拠であると判断しました。
 雌の結果は表2になりますが、御覧いただくように、雌では腫瘍の発生増加は認められず、雌ラットに対するがん原性を示す証拠は得られませんでした。
 次に、非腫瘍性病変です。
 先ほどのブチルアルデヒドと同様に、雌雄の鼻腔に投与による影響が認められました。鼻腔の呼吸上皮に扁平上皮化生、鼻炎の発生が、雄の全投与群、雌の10ppm以上で増加し、鼻炎につきましては雄の10ppm以上、雌の25ppmでその程度が増強しました。
 鼻腔病変は前方のレベル1から2の鼻甲介に強く認められ、高濃度ではより広い領域に強い病変として認められました。鼻炎は好中球性の炎症細胞浸潤に加え、移行上皮の増生及び杯細胞化生も伴っていました。これらの鼻腔病変は、アリルアルコールの刺激性ないし傷害性病変及びその修復を示す病変と考えられました。
 最後、まとめです。
 F344ラットを用いて、アリルアルコールの2年間104週間にわたる吸入によるがん原性試験を実施した結果、雄F344ラットに対するがん原性を示す不確実な証拠が得られたと結論しました。また、雌ラットにつきましては、がん原性を示す証拠は得られなかったと結論しました。
 ラットは以上です。
○平林座長  ありがとうございました。ただいまのラットの結果について、まず御質問、御意見をお願いいたします。小野寺先生。
○小野寺委員  すごく紛らわしいというか、不可解な、どう解釈していいか難しい結果だと思うのです。まず最初に、先ほどの西川先生の質問にありましたように、用量設定のところで、予備試験で体重抑制が起きているということと、雌雄が同じ濃度でなければできないという物理的な考慮からすれば、最高用量というかMTDに近いような濃度を投与したのかなということなのですけれども、体重が落ちている割には、摂餌量がほとんど変わっていないのですね。10%ぐらい体重が落ちるということは、摂餌量もそれなりに減ってくる傾向が普通は見られるのですけれども、これは肝臓の腫瘍が出ているということなので、酵素か何かに影響して、食べても栄養が十分に回っていなくて、肝臓に対してある程度の作用があると考えられるようなエビデンスというか所見はあるのでしょうか。
○試験機関  まず、摂餌量につきましては、吸入チャンバー内で飼育しておりますので、高濃度の刺激があったりしたときに、本当に実際に食べた量かどうかというのは確認できませんで、経口試験の場合は、動物の状態が悪いときに、かなり下にこぼしていて、計算上はこのぐらい食べているのだけれども、実際は食べていないだろうという、事実の確認はできるのですが、吸入の場合、それが本当に食べている量かどうか、データ上、数値がこれしかちょっと出せないということで。
○小野寺委員  体重と摂餌量の関係というのも、食べていて減るのか、食べなくて減るのかによって全然意味合いが変わってくると思います、今回の試験は、チャンバー内では、個別飼いでしたか、集団飼いですか。
○試験機関  チャンバー内で個別飼育になります。
○小野寺委員  個別観察で特に体重が落ちている動物と摂餌量減少の相関というのは、別になかったということでいいのですか。
○試験機関  結果的にはそういうことになります。ただ、かなり刺激が強い物質で、予備試験でもっと高濃度のときには、くしゃみや異常鼻音など、強い影響が出ておりましたので、やはり実際そんなに食べてはいないのではないかなという感じはします。
○平林座長  ほかに。若林先生。
○若林委員  先ほどから、不確実な証拠というのが随分と気になっているのですが、アリルアルコールのラットの雄で、肝臓で10ppmで明らかに有意差があるのですけれども、ドーズレスポンスがないということで、不確実なデータということになりますね。
 先ほどに戻って、rasH2のマウスの雄のところは、別に何も有意差はないのですけれども、対照群に比べて何となく数字が上がっているから不確実とという話ですよね。
○平林座長  ブチルアルデヒドのほうのrasH2の話ですよね。
○若林委員  そこで不確実だという定義をしていますよね。だけれども、今度は、アリルアルコールのラットの雌で、例えば乳腺の腺腫に関しては、対照群が1匹に対して、4、10、25は、4、3、2と数が上がっているのですけれども、ここはノーエビデンスということになっていますよね。そうすると、むしろ、私的には、アリルアルコールのラットの雄は不確実なのですけれども、rasH2のマウスのところとアリルアルコールのラットの雌に関してはノーエビデンスと言ったほうが、何となく、すっきりするような感じがするのです。これは非常に線引きが難しいと思うのですが、不確実だと言いますと、やはり少しあるのではないかというような用語になると思うのですけれども、そこのところはどう答えられますでしょうか。
○平林座長  たしかヒストリカルデータで線引きされていましたよね。その辺り、雌の今回のラットのデータとの比較で何かお話しできますか。
○試験機関  ラットの雌の乳腺腫瘍というのは、今ちょっと手元に発生率はないですけれども、やはりそこそこ発生する腫瘍ではあります。肝臓のほうはそれほど発生がない腫瘍で、それもあって、10ppm群の雄では6例という、自然発生腫瘍の上限を2匹超えるということになっていると思います。ということで、この6例というのはやはり多いと判断していますが、最高濃度で例数が落ち込んでいますのでちょっとあると、確実に判断ができないというところで、不確実な証拠と。
○若林委員  これを不確実だということに関しては、私は賛成なのです。前のブチルアルデヒドのところの雄ですとかが、やはり不確実だということと、このアリルアルコールのラットの雌がノーエビデンスになっている違いは何だろうという質問なのです。
○試験機関  すみません、確認させていただいて。アリルアルコールの雌がノーエビデンスになっている理由ということでしょうか。
○平林座長  こちらがノーエビデンスで、ブチルアルデヒドのrasH2の結果が、不確実な、equivocalになっているという、その違いがどこにあるかということだそうです。
 たしか御説明では。
○試験機関  ブチルアルデヒドの雄のほう、ヒストリカルコントロールを超えています。今回のアリルアルコールの雌のほうは、ヒストリカルの範囲内というのもありまして、そこのところが評価が変わるという。
○平林座長  お願いします。
○試験機関  先ほど、ブチルアルデヒドのマウスの例数というのは、25匹中に3匹というのが上限で、4匹になっているのでそれを1匹超えたから、equivocal evidenceと説明しました。しかしながら、今回は、その範囲に入っているので、ないと。
○若林委員  アリルアルコールのラットの雌はその範囲にぎりぎり入っているので、こちらのほうはノーエビデンスとしたということですか。
○試験機関  はい。
○若林委員  分かりました。
○平林座長  よろしゅうございますか。ほかに。西川先生、津田先生もよろしゅうございますでしょうか。
○西川委員  本質的なことではないのですけれども、蒸気圧の単位です。先ほどのブチルアルデヒドがkPaで、アリルアルコールはmmHgになっているので、これは多分、換算すればどちらかに統一できると思うのですが、これは単位は一定のほうがいいような気もしますが、どうでしょうか。細かいコメントで、すみません。
○試験機関  確かに先生言われるように換算すれば数値が出ますが、一応、基の資料からそのまま写しているということで、今回、単位が違っています。現在では、Paに合わせたほうが適切かもしれません。ありがとうございます。
○平林座長  ほかに。小川先生。
○小川委員  むしろコメント的なところですけれども、今のラットの試験で、雄の10 ppm群の肝臓にできているのはアデノーマで良性の腫瘍であるが有意と。雌の乳腺についても、線維腺腫は良性のもので、悪性のものは全くなくて、比較的よく見られるもので、コントロール群にもあったということが、先ほどのブチルアルデヒドのrasH2雄群の、コントロールは0で投与群は癌もできているというものとはちょっと違うというような印象は受けております。
 むしろ、このアリルアルコールの場合は、25ppmまでしか投与ができていないので、鼻腔の腫瘍はできていないのですよね。もっと高用量だったらできたかもしれないのですけれども、全身状態が悪くなってしまって投与ができないという状況で、25ppmではむしろ肝臓の腫瘍も下がってしまうという条件ですので、良性の腫瘍しか肝臓はできていないけれども、全く影響がないとは言えないというのは、致し方ない結論なのかという印象です。ちょっとすっきりしないのですが、高用量で投与できるのだったら、鼻腔のほうにも影響がありそうなというところはあるかもしれないですけれども、用量設定上、これは仕方がないのかなと思って拝察いたしました。
 コメントです。以上です。
○平林座長  お願いします。
○試験機関  小川先生、ありがとうございます。アリルアルコールは、大変傷害が強い物質でして、鼻腔の粘膜を物すごい、高濃度だと強い壊死を起こしたりするものですから、なかなか限界があったかなといった印象があります。そういった意味で、先ほどのブチルアルデヒドより、アリルアルコールのほうが病理像としては悪かったのです。異形が強いようなところもあったのですけれども、可能な限り投与した結果、鼻腔に腫瘍は出なかったというのが結果だと思います。
○小川委員  ありがとうございます。
○平林座長  ほかによろしゅうございますか。
 そうしましたら、また後で戻っていただくことにして、次のマウスのrash2の中期発がんの説明に移りたいと思います。お願いします。
○試験機関  では、資料4-1をご覧ください。アリルアルコール、rasHマウスの結果です。6ページから9ページに表とグラフがあります。
 1の被験物質につきましては、先ほどと同様ですので、省略させていただきます。
 2の目的からです。
 アリルアルコールを遺伝子改変マウス(rasH2マウス)に26週間全身ばく露し、その発がん性を検索しました。
 方法として、対照群1群、投与群3群の計4群で、投与濃度は、雌雄とも0、0.15、0.5、1.5ppmとしました。先ほどのラットと比べるとかなり低い濃度となります。後で若干説明しますが、1.5ppmは投与開始から3回目まで投与濃度を1ppmとしました。
 投与条件、検査等はラット同様です。
 投与濃度の設定理由です。
 濃度は、雌雄のrasH2マウスのnon-Tgを用いた、今回、6週間の反復投与毒性試験の結果を基に決定しました。
 アリルアルコールを6週間、0、1、2、4、8ppmの濃度でばく露しました。なお、2ppm以上の群は、アリルアルコールの刺激に馴化させるために、それぞれの投与濃度まで段階的に濃度を上げていきました。もともと、バイオでrasの予備試験は4週間でずっとやっておりました。今回は約2週間かけて、例えば8ppmですと、1、2、4と途中で2回か3回ずつばく露しながら上げて、最終的に全部設定濃度になった段階で、約4週間のばく露をしまして、ちょっと変則的な予備試験になります。
 結果、動物の死亡は認められず、一般状態の変化も観察されませんでした。
 2ppm以上で対照群に比べて体重増加の抑制、あるいは体重の低下がみられました。雌雄の8ppm群では最終体重が開始時の体重よりも低下しました。4ppmでも雄の体重はほとんど増加せず、最終体重は対照群に対して、雄1ppm95%、2ppm88%、4ppm82%、8ppm81%、雌でも、1ppmは100%でしたが、2ppm93%、4ppm89%、8ppm84%でした。
 摂餌量も2ppm以上で対照群に比べて低値でした。
 病理組織学的検索では、これもラットと同様、雌雄の鼻腔に投与による影響がみられ、これらの変化は動物の生存に影響する程度の変化ではないと判断しました。
 以上の結果から、2ppm以上の濃度では中期発がん性試験で投与期間を延長した場合、摂餌量の低下もみられていることから、体重増加の抑制がさらに強くなる可能性が高いと思われました。1ppmでは体重増加の抑制がわずかであったことから、体重の結果を基準にしまして2ppmと1ppmの間の1.5ppmを最高濃度とし、以下、0.5ppm、0.15ppmを設定しました。
 次に、結果になります。
 動物の最終生存率、一般状態に、投与による影響は雌雄とも認められませんでした。
 体重は雄の1.5ppmで投与期間を通して、雌でも投与期間の多くの週で有意な低値がみられ、最終計測日、1.5ppmの体重は、対照群に対しまして雄は83%、雌は90%を下回っておりませんが、93%でした。
 摂餌量は雄の1.5ppmで投与期間を通して、雌の1.5ppmでも多くの週で有意な低値がみられました。
 病理検査の結果です。6ページ、表1と表2を御覧ください。
 まず雄です。肺で細気管支-肺胞上皮腺腫の発生が、対照群2匹に対しまして、0.15ppm6匹、0.5ppm6匹、1.5ppm3匹に認められました。これは有意差がついておりません。
 細気管支-肺胞上皮癌の発生が、対照群0、0.15ppm1匹、0.5ppm5匹、1.5ppm0、0.5ppm、中間用量のみFisher検定で有意な増加を示しました。
 また、細気管支-肺胞上皮腺腫と上皮癌を合わせた発生は、対照群2匹、0.15ppm7匹、0.5ppm9匹、1.5ppm3匹、これも0.5ppmはFisher検定で増加を示しました。一方、傾向検定では、最高濃度の1.5ppmの発生が低下したため、有意差を認めませんでした。
 当センターの雄rasH2マウスのヒストリカルデータでは、細気管支-肺胞上皮腺腫の発生率が6%、試験ごとの範囲が最小0から12%で、細気管支-肺胞上皮癌の発生は1例もありませんでした。
 また、本試験では、対照群で、細気管支-肺胞上皮腺腫の発生が2匹、8%、上皮癌の発生はありませんでした。
 本試験で、先ほど中間用量のみ腫瘍が増えているという話で、0.5ppmの細気管支-肺胞上皮癌の発生、5匹、20%、細気管支-肺胞上皮腺腫と上皮癌を合わせた発生、9匹、36%、さらに0.15ppmと0.5ppmの細気管支-肺胞上皮腺腫の発生、各6匹、24%が、ヒストリカルコントロールデータの範囲を大きく超えました。したがいまして、0.15ppm、0.5ppmにおける肺腫瘍の発生は投与による影響であると判断しましたが、高濃度の1.5ppmでは肺腫瘍の発生増加はみられませんでした。
 次に、肝臓です。肝細胞腺腫、対照群1匹、0.15ppm0、0.5ppm5匹、1.5ppm1匹、これは0.5ppm群で多くみられましたが、統計学的有意差は示されませんでした。また、悪性の肝細胞癌の発生もみられませんでした。
 ヒストリカルコントロールデータでは、肝細胞腺腫の発生が平均0.7%、試験ごとの発生率が0から4%ですが、0.5ppmの発生は、この範囲を大きく超えました。したがいまして、0.5ppmの肝細胞腺腫の発生増加も投与による影響と考えられましたが、肺の腫瘍と同様に最高濃度1.5ppmでは肝臓腫瘍の発生増加はみられませんでした。
 次に、鼻腔です。表1には鼻腔の腫瘍を示しておりません。鼻腔腫瘍の発生は認められませんでしたが、腫瘍関連病変として、前腫瘍性病変と考えられる移行上皮の過形成が対照群と0.15ppm群には発生がありませんでしたが、0.5と1.5ppm群では全匹に発生が認められました。
 以上の結果から、高濃度群の1.5ppmにおける肺及び肝臓腫瘍の発生増加は認められなかったものの、雄rasH2マウスの肺及び肝臓における腫瘍の発生増加は発がん性を示す明らかな証拠と判断しました。
 次に雌です。表2になります。
 肺で細気管支-肺胞上皮腺腫の発生が、対照群1匹、0.15ppm0、0.5ppm4匹、1.5ppm1匹に認められました。0.5ppmで発生が多くみられましたが、統計学的有意差はついておりません。
 また、細気管支-肺胞上皮癌の発生は、対照群1匹、0.15ppm0、0.5ppm1匹、1.5ppm2匹に認められ、さらに、細気管支-肺胞上皮腺腫と上皮癌を合わせた発生が、対照群2匹、0.15ppm0、0.5ppm5匹、1.5ppm3匹に認められ、0.5ppmで発生が多くみられましたが、Fisher検定では有意差はなく、傾向検定でも有意差がありませんでした。
 雌のヒストリカルコントロールデータでは、細気管支-肺胞上皮腺腫の発生率が平均4%、試験ごとは0から12%であり、本試験の0.5ppmの発生、4匹、16%は、この範囲を超えました。0.5ppmにおける細気管支-肺胞上皮腺腫の発生は投与による影響と考えられましたが、雄と同様に1.5ppm群では肺腫瘍の発生は対照群と変わりませんでした。
 次に、鼻腔です。ヒストリカルコントロールでは発生がない、まれな腫瘍である乳頭腫が最高濃度の1.5ppmで1匹のみ発生しました。乳頭腫の前腫瘍性病変である移行上皮過形成が、対照群と0.15ppmでは発生がなく、0.5ppmで19匹、1.5ppmで23匹と高率に発生しました。鼻腔の移行上皮過形成は、特に鼻腔レベル1の移行上皮に認められ、乳頭腫の発生部位と一致していました。したがいまして、雌でみられた鼻腔腫瘍の発生は1匹でありますが、投与による影響は否定できないと考えました。
 以上の結果から、雌rasH2マウスの肺の細気管支-肺胞上皮腺腫の発生及び鼻腔の乳頭腫の発生は、発がん性を示す不確実な証拠と判断しました。
 次に、非腫瘍性病変です。
 投与の影響は、これもラットと同じく、雌雄の鼻腔にみられました。前述した移行上皮の過形成のほかに、雌雄で嗅上皮の呼吸上皮化生が1.5ppm、雄で嗅上皮の萎縮が1.5ppmで増加しました。雌では嗅上皮の萎縮が0.5と1.5ppm、滲出液が1.5ppmの少数例にみられました。嗅上皮の呼吸上皮化生や萎縮は、鼻腔に対する傷害性やその修復を示す変化であり、鼻腔に対する傷害性の変化は、雌雄とも0.5ppm以上で認められました。
 まとめになります。
 遺伝子改変マウス(rasH2マウス)を用いて、アリルアルコールの26週間の吸入による中期発がん性試験を行った結果、雄rasH2マウスに対する発がん性を示す明らかな証拠が得られたと結論しました。雌では、発がん性を示す不確実な証拠と結論しました。
 以上です。
○平林座長  ありがとうございました。それでは、ただいまの御説明に御質問、御意見はありませんでしょうか。小野寺先生。
○小野寺委員  これも非常に難しい数字が出ていると思うのですけれども、先ほど若林先生がおっしゃったように、結局、rasH2だと血管腫が各臓器にたくさん出てくるということで、26週の時点で判断するということが一般的に言われて、実際実施されているわけですなのですけれども、これ、雄、雌ともに血管腫の発生率を対照群で見ると1例か2例、この程度だと、もう少し長い投与もできるのではないかなという気にもなってくるのですが、そういう通常出てくるべき血管腫が物質を投与すると出てこなくなるという現象もよく分からないのです。
 本来ならば、こういう自然発生で出てくる血管腫が増強されて出てきて検定するという、いわゆる評価するというのがrasを使ったときの大きな意味合いだと僕は思っていたのですけれども、今回の2つの物質は吸入という特殊な投与方法と、刺激性があるということで、血管腫よりも、いわゆる気管支とか鼻腔という呼吸器系のところに刺激があって、腫瘍が出てくるということなのですが、今回みたいに肝臓で腫瘍が増加、それも1つの用量だけに出てきたときの評価をどう解釈するかというのは、非常に難しいというか、限界があると思うのです。
 ですから、このときが、例えばヒストリカルデータ等を見たときに、肝臓の腫瘍の組織像の大きさとか、悪性度とか、増殖性の大きさというか強さとか、そういう総合的なところを見て、投与との関連を肯定するか、それとも、spontaneousな範囲内で収めておくのかという判断をしないと、数だけで見ていると、不確実性の結果がどんどん出てくる気がするので、何か考えなければいけないなと思うのですけれども、その辺について、どこまでやれるのでしょうか。
○試験機関  ありがとうございます。先生のおっしゃるとおり、今回の結果はバイオの中でもすごく悩みました。アリルアルコールですが、先ほどラットの説明をしたときにも、すごく傷害性の強い物質とお話しさせていただいたのですけれども、マウスのほうは気道がラットよりも狭いので、組織が壊死を起こしてしまうと、また、炎症が強くて固有層が腫れ上がってしまうと、結構気道を塞いでしまうのです。
 当方から説明がありましたけれども、予備試験の4週を段階的に上げたというのも、いきなり高用量をやりますと粘膜が剥がれてしまって、気道を塞いでしまうという、窒息死してしまうので、本来の毒性を得られないのではないかということで、予備試験のときは段階的に濃度を上げて、本来の毒性をみようと思ったのですが、実際、肝臓等には変化がみられていないのです。
 1度だけ、飲水とか腹腔内投与で、アリルアルコールは肝臓のポータル領域に傷害を起こすことがよく知られている物質なのですけれども、アリルアルコールを吸入ばく露しまして、2週を段階的に上げて、30ppmまで上げたときのマウスは、さすがに肝臓のポータル域に腫れ上がったような、細胞質が好酸性になるような変化が出てきたのですが、これも長くばく露した方では逆にみえなくなるという、ちょっと分かりにくい、代謝が活発になったのか、そこのところがかなり解釈が難しいなと、短い試験を行ったときから思っていたのですけれども、出るものがあれば、反復ばく露すれば、26週で何らかの肝臓の変化も出てくるのかなと思って、可能な限り濃度を高い形で設定してみたという感じです。
 ただ、実際のところ、1.5でばく露しても、肝臓に投与の影響と思われる変化はなく、むしろ、1.5まで上げてしまったら腫瘍はなくなってしまって、0.5までの濃度設定だったほうが分かりやすい結果になっただろうという、本当に評価が難しかったなといったところです。
 今回、クリアエビデンスとしたことは、ちょっと行き過ぎたかなという感じもするのですけれども、根拠としましては、悪性の腫瘍がFisher検定で、中間ドーズとはいえ、上がっていますので、また、ヒストリカルコントロールデータの範囲も大きく超えているという説明もしましたが、私ども、rasH2を始めてまだそんなに多くはないですけれども、9匹、やはり多いかなという感覚も持っております。そういったところで、今回このような結論としました。
○平林座長  ありがとうございます。ほかに。小川先生。
○小川委員  質問というか、高用量のほうで肝臓の腫瘍も減ってしまった理由というのは、一番にはどのように考えたらよろしいのでしょうか。肝臓の重量自体も、そこまではあまり変わらなくて、最高用量だけ肝臓の重量も減っているということがあるようですけれども、何か。そこの理由が説明できると、言いやすいなと思うところはあるのですけれども。
○試験機関  御質問ありがとうございます。肝臓の影響、腫瘍が下がってしまっているというのは、今回の結果からははっきりは言えないのですけれども、やはり代謝は絡んでいるのだろうと思っていまして、アリルアルコールは吸入ではなくて、腹腔内投与とか経口投与などの実験だったと思いますが、CERIか何かで評価書が出ていて、そういった投与の場合、多分、肝臓での代謝だとは思うのですが、アルコール脱水素酵素で代謝されてアクロレインになるだとか、アルデヒドの脱水素酵素によってさらに代謝されるだとか、そういった文献もありまして、代謝に関するきちっとしたデータが出てくればいいのにと思っているぐらいなのですけれども、バイオの結果の中からは今回の数値を説明できるものはありません。
○平林座長  若林先生。
○若林委員  アリルアルコールのマウスの雄に対する肺の腺腫と腺癌のところのエビデンスと、肝臓の腺腫の0.5ppmで上がっているということから、クリアな発がん性のエビデンスだと言っているのですけれども、1.5ppmのドーズレスポンスが上がっていないという理由についてもあまりクリアではないことを考えると、ここまで言っていいのかなというような気もするのです。不確実な証拠と言ったほうがむしろいいかもしれないという、ここは非常に議論があるところではないかなと思うのですけれども、西川先生、津田先生たちはどのように思うのか、ちょっと聞いていただければと思うのですが。これをもってクリアなエビデンスと本当に言えるかなという、率直な感想です。
○西川委員  西川です。
○平林座長  お願いします。
○西川委員  明らかな証拠と不確実な証拠の間に、サムエビデンスのような評価があったのではないかと思うのですが、もしそうであれば、そのほうがしっくりくるかなと思いました。
○平林座長  ありがとうございます。津田先生、いかがですか。
○津田委員  生物学的に考えれば、毒性が出てしまって、そして発がんが影響を受けてしまったというように考えたほうが分かりやすいと思います。
○平林座長  ありがとうございます。津田先生の御意見は、高用量のところでは、どのように説明をするかはちょっと正確にはできないというようなお話はありましたけれども、少なくとも体重の推移を見ると、かなり毒性は強かっただろうということでありまして、それがむしろ腫瘍の発生を妨げたというように考えれば、0.5までのドーズレスポンスでクリアエビデンスとしてもいいのではないかというような御発言でした。
 西川先生は、サムエビデンスでもというようなことでございましたが、その辺はどうお考えになりますか。
○試験機関  バイオアッセイのほうでも、これをクリアエビデンスに持っていったのは、確かにやり過ぎだという声も出ていました。ただ、バイオアッセイとしては、一番上の1.5ppmの体重が雄で非常に落ちているというところを考えると、あと、鼻腔の病変が出てしまって、肺なり肝臓の腫瘍がその分出にくくなったのだろうという考えから、クリアエビデンスにしています。
○平林座長  ありがとうございます。という説明ですが、先生方、いかがでしょうか。小野寺先生。
○小野寺委員  よくドーズレスポンスという言葉の中で、最高用量の腫瘍の発生率が下がるということはままあることなのですけれども、その理由が、先ほど言われたように、結局、毒性が出ていて、摂餌量が減って、体重が落ちて、生物活性が落ちて、腫瘍の発育が劣るということとか、あと、早期に生存率が下がって、見かけの腫瘍の発生がなくなるという、いろいろな理由がつけばこうなのですけれども、今回見ていると、下がるのが体重だけなのです。ということで、確かに1.5ppmのほうが0.5ppmと比べれば、悪性リンパ腫の1例だけ除いて見れば、ほかのよりも雄に関しては全て下がっているのです。少ないのです。この結果をどう解釈するかと思うのですけれども、僕はやはり、細気管支というか、肺胞上皮の癌が結構な数で出ているということは、発がん性なしとかequivocalとか不確実性という結論を出すのはちょっと難しいのかなと。やはり何らかの影響で、用量は変わっても、ドーズレスポンスはなくても、こういうふだん見られない癌が出ている。25匹のうち5例ということは結構な数なので、やはり、ありとするのが妥当ではないかなという意見です。
○平林座長  ほかはいかがですか。一応確認なのですけれども、サムエビデンスという言い方もあるのですか。
○試験機関  サムエビデンスという用語もバイオアッセイでは用いたりしています。
○平林座長  小川先生。
○小川委員  私も、扱っているところは見たことがありますが、定義がよく分からなくて。このデータだけからの判断ですと、クリアというのはちょっと言い過ぎかなという印象です。もし本当に体重増加抑制もなく、ちゃんと投与できる状況だったら、違ったかもしれないという状況ですが、クリアと言っていいのか難しいです。肺の癌までできるというのは、なかなか普通はないという点は、小野寺先生のおっしゃるとおりですが、クリアエビデンスまで言えるか躊躇するのは、多分同じような印象を持つのだろうと。
 肝臓のALT、AST等もあまり変動していなくて、とはいっても、全体に代謝とかも落ちるような状況にはなっているのだろうかと考えると、何もかもが可能性みたいな形になってしまうので、言葉を換えるだけで何か変わるのかと言われると、困るところではあるのですが、クリアと言うと、えっという人は必ず出てきてしまうのだろうなという印象を受けております。
○平林座長  ありがとうございます。若林先生。
○若林委員  マウスの雄の肺の癌の分化型については、非常に悪性度が強いものなのですか。それとも、高分化型で、アデノーマからカルシノーマにちょっと行ったようなところなのでしょうか。
○試験機関  ありがとうございます。良悪の診断もなかなか難しいところが実はありまして、バイオアッセイではrasH2に関しては、肺の腫瘍は大きさと細胞異形で分けているところがありまして、明らかにこれは投与でしかみられないような形態だというほどのものはなく、通常の形態です。ただ、コントロールでは癌まで行かないので、癌と診断するまでのものを取ったことがないので、そういった意味では、大きさと異形度で診断しますが、そういったものが強い個体がコントロールにはなかったけれども、0.5で5匹出たという結果です。
○平林座長  今、サムが2人で、クリアが2人で、若林先生の御意見がというところなのですが。
○若林委員  それから、もう一つ、肝臓の0.5ppmの5匹というのは、確かにヒストリカルコントロールですとか何か考えればいいのですけれども、少なくともFisher検定では有意差はついていないことは確かですよね。ですから、ここのところは結論として強調はできるのでしょうかということを考えると、私はサムのほうが適当ではないかなという気はします。
○平林座長  このドーズに限っては有意差はついているのですよね。
○試験機関  はい。
○平林座長  細気管支の肺胞上皮癌については。
○試験機関  肺の腫瘍は。
○若林委員  肺ではなくて、肝臓。
○平林座長  肝臓のほうはつかないのですよね。
○試験機関  肝臓はついていないです。
○平林座長  では、サムが3人、クリアが2人です。そうすると、クリアにしている小野寺先生と津田先生、いかがでしょうか。
○津田委員  津田です。
○平林座長  お願いします。
○津田委員  先ほどちょっとお話があったアデノーマ(腺腫)とカルシノーマ(癌)との違いは、組織上、肺の構造を明らかに壊している腫瘍は癌となる。細胞異形性が著しくなく周辺圧迫性に増殖するものは大体アデノーマです。しかしながら、腺腫と癌の間にきれいな線が引けない場合もよくある。しかしこのマウスは肺腫瘍の自然発生においてかなりバックグラウンドが高いと思います。
 以上です。
○平林座長  ありがとうございます。西川先生。
○西川委員  細気管支-肺胞上皮癌ということであれば、厳密には、浸潤のない癌なのです。したがって、腺腫との鑑別が難しいというのは、先ほどバイオの方がおっしゃったとおりですけれども、ひょっとして、その大きさだけで決めているというようなことではないでしょうか。
○試験機関  大きさと、あとは細胞の異形ですとか、今、津田先生も補足していただきましたけれども、構築を壊すといったところも指標にして診断しております。
○西川委員  ヒトの細気管支-肺胞上皮癌で浸潤があってはいけないのです。だから、そのクライテリアとは違うということですね。動物は動物のクライテリアがあると思いますので。
 以上です。
○平林座長  小野寺先生。
○小野寺委員  今の表1の雄の肺のところで、A+Bという数が出ていますよね。0が2で、0.15が6と1で7、0.5が6と5で何で9なのですか。これは同じ動物がいるということですか。
○試験機関  同じ動物に良性腫瘍と悪性腫瘍があった場合、これは匹数で書いてあります。
○津田委員  両方あるということですね。
○平林座長  そのようです。
○津田委員  それから、先ほど西川先生、少しあったけれども周囲への浸潤があれば、それは癌です。
○平林座長  ごめんなさい。お声が途切れてしまいました。津田先生。
○津田委員  細気管支-肺胞上皮癌は必ず肺を壊す所見があるということです。
 以上です。
○平林座長  癌と診断されたものが構造を必ず壊しているかどうかということをコメントされたと思いますけれども、それはそういう理解でよろしゅうございますか。
○津田委員  そのとおりです。
○平林座長  バイオアッセイの方、いかがでしょう。
○試験機関  写真を出してあるのですが、出せますでしょうか。資料4-2で、癌として写真を出しているものがあります。それです。細胞異形の強さというものがこの写真で出てはいます。破壊性の増殖というものがあまりはっきり出ていません。これはアデノーマとしたもので、その下ですね。フォトグラフの。
○平林座長  3ですよね。
○試験機関  ええ。これなのです。
○平林座長  3で、それの強拡が4ですね。
○試験機関  ええ、そうですね。特に核の異形のあるものをもって癌と診断しているものです。評価としては、恐らく、サムエビデンスであろうと、クリアであろうと、陽性のほうに持っていってしまうとは思うのですけれども、確かに、良性合わせて9匹というのは非常に多いですし、癌だけで5匹というのも非常に多いものだと思っています。
○平林座長  いかがでしょうか。この組織でいかがですか、西川先生。
○西川委員  ヒトですと、通常の腺癌のように見えるのですが、これは分裂はほとんどないですね。とか、いろいろ細かく見れば見るほど難しいのですけれども、弱拡で見れば、イクスパンシブな増殖をしていて、はっきりした浸潤像はよく分からないのですけれども、癌と診断するのはいいのですが、これが本当にBronchiolar-alveolar carcinomaでいいのかというのは、ヒトとの違いもありますので、よく分かりません。すみません。
○平林座長  ありがとうございます。小野寺先生。
○小野寺委員  僕も1つ気になっているところがあるのですけれども、アリルアルコールのラットの肝臓の雄が、コントロールが0で、投与群から2、6、3なのです。Rasが、コントロールが1で、0、5、1と、中間用量が両方とも肝臓で高いのです。これが全く無影響かと言われると、有意差がついていないだけで、コントロールが1があればつかないし、投与群がもう1例あって、1、6だとついてしまうという感じの、数の有意差だけで言えば、これが本当に投与と関係ないのかと言われると、必ずしもあるとは言えないのですけれども、だんだんサムに近くなってくるのですが、全くないとは言えないなという感想です。
○平林座長  サムが少し増えました。津田先生、どうしましょう。サムでよろしゅうございますか。
○津田委員  多数決ですけれども、どうあろうと癌だということは変わらないと思います。それを総合的に評価していただければ良いと思います。
○平林座長  ありがとうございます。確かに高用量での減少が明らかに何か理由が説明できてということであれば、これはこれでクリアと言ってもいいかもしれませんが、いろいろな条件、仮定に仮定を重ねてというような面もなきにしもあらずというところからすると、これはサムエビデンスというように整理をしていただいたほうがいいかなということが、一応皆様方のコンセンサスかと思います。そこまではよろしゅうございますか。
 そうしましたら、それを踏まえて、このアリルアルコールについて、発がん性の陽性か陰性かという評価でございますが、それはいかがでしょうか。
○小野寺委員  どっちか、プラスかマイナスで結論つかなければ駄目なのですか。
○平林座長  そうですよね。そのようです。ただ、所見がこれだけ、通常ないようなものが、用量反応性が明らかではないとはいうものの、見られているということからすると、否定はしがたいということかなとは思いますので、陰性にはできないかなということが率直に感じることでございますが、先生方、いかがでしょうか。若林先生。
○若林委員  陰性か陽性かでしたら陽性なのですが、ただし、陽性においても、括弧書きが必要な陽性の気がしますけれども、それは記載するということは可能なのですか。
○平林座長  それは、事務局、いかがですか。ただいま協議中です。少しお待ちください。
○津田委員  津田ですけれども。
○平林座長  津田先生、お願いします。
○津田委員  「あり」が「なし」に突然変わったということはまずいですね。その辺はある程度説明をいただきたいですね。
○平林座長  陽性にするにしても、説明を入れるべきだという御意見でよろしゅうございますか。ごめんなさい。途中が途切れ途切れだったので、よく聞き取れなかったのですが。
○津田委員  今まで発がん性陽性がついたのでははっきりしないというのはやめて、発がん性あり、なしにしてしまうほうが行政もやりやすいということですね。
○平林座長  事務局、いかがですか。
○有害性調査機関査察官  事務局、福田です。今までの評価の部分も、直近のものについては、NTPのクライテリアに沿って報告書をつくられていまして、その中で、この評価ワーキングなり有害性小検討会なりという場では、サムエビデンスとクリアエビデンスのものは、発がん性あるなしという意味合いでは、ありという意味で、陽性という形で実際は報告をさせていただいているのが実情ですけれども、形で残るものは、どうしても議事録になっていますが、そこに何らかの要件を書き加えるなり、そういうのは全然構わないと思っていますので、その対応方法は少し考えさせていただきたいと思います。
○平林座長  津田先生、よろしゅうございますか。
○津田委員  行政であり、なしとはっきりしないと分からないですね。今までに、突然、あり、なしで行きますと言われても、何のことやら僕も分からなかったのでお聞きしました。
○平林座長  ありがとうございます。これまでの議論で、この考え方がクリアカットにすんなり陽性というような結論が出たわけではないということは、議事録にしっかり残るかと思いますので、そういった意味で、ここでは陽性と判断するということになろうかと思いますが、先生方の思いは議事録に残るということかと思います。それでよろしゅうございますでしょうか。
○津田委員  いいと思います。
○平林座長  そうしましたら、アリルアルコールにつきましては、発がん性陽性というところで評価いたします。ありがとうございました。
 次に、その他ということでございますが、事務局から何かありますでしょうか。
○有害性調査機関査察官  検討をお願いしたい案件は以上でございます。
 なお、今回、参考資料としまして、ジブロモメタンと2-クロロベゾイルクロリドの2物質の遺伝子改変動物を用いた中期発がん性試験の結果もホームページのほうは掲載させていただいております。これらの2物質につきましては、本来、p53KOマウスとrasH2マウスの2種類のマウスでの試験をセットという形で予定しておりましたけれども、先ほど前段でもちょっとお話ししました、職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書におきまして、特化則等への追加を念頭に置いて国が行ってきた化学物質のリスク評価は、今後行わないこととされたことを踏まえまして、いずれの物質も、途中で中断なり着手もしなかったというのもあるかもしれませんけれども、という形になりましたので、いずれの物質も片方の動物だけでの試験の実施結果となっております。このため、今回は特に審議、議論等の対象にはせずに、報告書の掲載のみにとどめさせていただきました。
 厚生労働省のホームページの本日の発がん性評価ワーキンググループのところにも掲載しておりますので、御関心がある場合は、後ほど御覧いただきたいと思います。
 その他、遺伝子改変動物を用いた中期発がん性試験の結果の一覧とラット肝中期発がん性試験の結果の一覧を、今回、総括という意味合いで掲載させていただいております。
 なお、先ほども申し上げたとおり、本日検討対象としましたブチルアルデヒドとアリルアルコールの、長期発がん性試験に限定されますけれども、がん原性試験報告書につきましては、後日、厚生労働省が運営しております「職場のあんぜんサイト」に掲載する予定としております。
 このサイトには、御存じでない方もまだいらっしゃるかもしれませんけれども、昭和62年以降、厚生労働省に報告を受けています、これまでのがん原性試験報告書が掲載されておりますので、ぜひ御活用いただければと思っております。
 それでは、最後に事務局の化学物質評価室長の佐藤から御挨拶となります。
○化学物質評価室長  本日は長時間にわたり御審議のほど、どうもありがとうございました。先ほど福田からもお話がありましたが、本日の発がん性評価ワーキンググループにつきましては、今日で最後ということになります。これまで国が行ってきました個別の化学物質ごとのリスク評価の流れ中での最後の検討会ということでした。
 これまで長きにわたりまして、先生方の御厚情により、リスク評価検討会、特にこの発がん性評価ワーキンググループを運営することができましたのは、ひとえに先生方の御協力の賜と思っております。
 化学物質対策課といたしましては、新しい化学物質の規制のあり方ということで、自律的な管理を進めていくこととしております。これによりまして、今後とも引き続き、労働災害及び職業性疾病の防止に努めてまいります。
 先生方におかれましては、引き続き、安全衛生行政に御協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
 最後になりますが、長い間、発がん性評価ワーキンググループで様々な物質の御審議をいただきまして、誠にありがとうございました。
○有害性調査機関査察官  事務局からは以上となります。
○平林座長  それでは、以上で本日の発がん性評価ワーキンググループを閉会とさせていただきます。先生方、御活発な御議論、ありがとうございました。本日はお疲れさまでございました。