2022年12月6日 第184回労働政策審議会労働条件分科会 議事録

労働基準局労働条件政策課

日時

令和4年12月6日(火) 14:00~16:00

場所

AP虎ノ門 Aルーム
(東京都港区西新橋1-6-15 NS虎ノ門ビル11階)

出席者

公益代表委員
荒木委員、安藤委員、川田委員、黒田委員、藤村委員
労働者代表委員
大崎委員、北野委員、櫻田委員、東矢委員、冨髙委員、八野委員、世永委員
使用者代表委員
池田委員、鬼村委員、佐久間委員、佐藤(晴)委員、鈴木委員、鳥澤委員、兵藤委員
事務局
鈴木労働基準局長、青山審議官(労働条件政策、賃金担当)、古舘総務課長、松原労働条件政策課長、吉村労働関係法課長、益原労働関係法専門官、木原労働条件政策課課長補佐、宮田労働関係法課課長補佐、長澤労働条件企画専門官

議題

  1. (1)労働時間制度について
  2. (2)解雇無効時の金銭救済制度について

議事

議事内容
○荒木分科会長 それでは、皆様、寝不足かもしれませんけれども、御出席予定の方はおそろいということでございますので、ただいまから第184回「労働政策審議会労働条件分科会」を開催いたします。
 本日の分科会も、会場からの御参加とオンラインでの御参加の双方で実施をいたします。
 本日の委員の出欠状況ですが、公益代表の佐藤厚委員、水島郁子委員、両角道代委員、労働者代表の川野英樹委員、使用者代表の山内一生委員が欠席と承っております。
 なお、本日、黒田委員、藤村委員、鬼村委員は、所用のため、途中で退席されると伺っております。
 カメラ撮りはここまでということで、お願いします。
 本日の議事に入りたいと思います。
 議題(1)「労働時間制度について」です。
 前回の分科会において、委員より、事務局への質問事項がございました。まずは、事務局より御回答いただくとともに、本日の資料の説明をお願いいたします。
○労働条件政策課長 事務局でございます。
 前回の分科会におきまして、2点、委員から御質問がございました。
 まず、1点目でございますけれども、労働者側の北野委員より、行政の関与・記録の保存等に関しまして、現状、健康・福祉確保措置の実施状況に関する書類のみの保存を意図しているのかとの御質問がございました。現行制度におきましては、使用者は、労働時間の状況と講じた健康・福祉確保措置や講じた苦情処理措置等に関する労働者ごとの記録を保存するということにつきまして、労使委員会決議もしくは労使協定において定めることが求められるところでございます。これに加えまして、直接これらの書類の保存を義務付けることが適当かどうかということを御議論いただきたいと考えて論点とさせていただいている状況でございます。また、現時点におきましても、労使協定もしくは決議におきまして、3年の保存をすることを定めることが求められているということでございます。
 2つ目でございます。藤村委員より、裁量労働制の対象業務としてふさわしいか否かにつきまして、これまでどのようなことを考慮して判断しているのかという御質問がございました。裁量労働制の対象業務につきましては、企画業務型では、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務とされ、専門業務型におきましては、専門的な能力を必要とする業務が厚生労働省令等で定められているところでございます。特定の業務が裁量労働制の対象としてふさわしいかどうかにつきましては、業務の遂行に必要な高い専門的能力が必要かなどの業務の性質、また、業務命令の在り方その他業務の遂行方法、基本的には具体的な指示によってではなく、抽象的、一般的な命令によって業務が遂行されるか否かということなどを踏まえましてこれまでは総合的に判断されてきたものと考えております。一方で、今般、学識者に参集いただきました検討会におきましては、その報告書におきまして、裁量労働制が実労働時間管理から離れるという制度の性質、及び、実労働時間に対応したみなし労働時間しか許されないものではないことを考慮しますと、能力や成果に応じた処遇は裁量労働制の趣旨に含まれるものであり、制度として相応の処遇の確保が求められることになるのではないかという報告をいただいているところでございます。
 事務局からの回答は、以上でございます。よろしくお願いいたします。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
○労働条件政策課課長補佐 続きまして、資料の説明をさせていただきます。
 資料No.1を御覧ください。
 こちらの資料ですが、1ページ目をまずはお開きいただきまして、下の※のところを御覧いただければと思います。こちらの資料は、第183回労働条件分科会の資料No.3を基にした資料でございまして、赤字部分が第183回の議論を踏まえて追加した内容となってございます。その追加した部分を説明させていただきます。まず、御覧いただいております1ページ目です。裁量労働制の対象業務について、まず、労働者側委員からの御発言を1点、「労働時間と成果が比例しない」ことは対象業務拡大の理由として適切ではないのではないかという御発言を追加してございます。次に、使用者側委員からの御発言も1点追加してございまして、「また」以下のところでございます。金融機関において顧客に対し資金調達方法や合併・買収等に関する考案及び助言をする業務については、顧客等との調整を主に行うフロント部署が拾ったニーズに対して専門性を発揮して提案内容を考案する業務であり、顧客都合により裁量が持てないということはない。また、チームで仕事をすることがあるものの、各担当者が上司の具体的な指示の下に業務遂行するものではなく、それぞれの専門性を発揮して個別に担当業務に当たっているという御発言を追加してございます。
 次に、8ページ目を御覧ください。裁量労働制の苦情処理措置について、労働者側委員からの御発言で、専門業務型においては、苦情処理措置が通達にとどまっているが、企画業務型と整合性をとることが必要ではないかという御発言を追加してございます。
 次に、9ページ目を御覧ください。裁量労働制についての行政の関与・記録の保存等の論点でございますけれども、労働者側委員からの御発言で、労働者の健康確保や行政による監督指導に支障が生じないようにする観点から、労働者の労働時間の状況や本人同意についても記録の保存を義務付けるべきではないかという御発言を追加してございます。
 最後でございます。10ページ目を御覧ください。年次有給休暇についてでございます。労働者側委員からの御発言でございますけれども、年次有給休暇の趣旨が心身の疲労回復であることを踏まえれば、時間単位年休の取得日数上限の拡大については慎重に検討すべきという御発言を追加してございます。
 事務局からの資料の説明は、以上でございます。よろしくお願いいたします。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 前回の議論に引き続き、これまでの議論を踏まえた御質問、御意見があれば、お願いいたします。なお、オンライン参加の皆様におかれては、御発言の希望がある旨をチャットで書き込んでお知らせいただければと思います。
 まず、前回、質問事項について事務局より説明がございましたけれども、この関連で何かあれば御発言いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
 藤村先生、お願いいたします。
○藤村委員 事務局におかれましては、私がお尋ねした点について御報告いただきまして、どうもありがとうございました。
 労働基準法の条文を踏まえて、これまで業務の性質、業務命令の在り方、その他の業務の遂行方法といったことが基準として判断されてきたということと思います。また、事務局の報告にもありましたが、私も参画をいたしました検討会でいろいろ議論した中で、一定の所得要件の検討が必要ではないかという話になりました。ただ、一義的に何百万円以上とか、そういうものを決めるのは難しいということは私もよく分かっているところですが、例えば、低い所得で裁量労働制で働いているという実態は本来の趣旨から外れているのではないかと考えざるを得ない。その辺りも含めて、裁量労働制を考える上では検討していく必要があると思います。
 以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 それでは、ほかにはいかがでしょうか。 冨髙委員、どうぞ。
○冨髙委員 ありがとうございます。
 事務局から前回までの対象業務に関する労使の発言について説明がございましたが、まず、裁量労働制の運用に当たっては労働時間や業務の遂行方法等に裁量があるという点が重要と思っておりまして、賃金・評価制度や成果との関連付けはあくまで個別労使の判断であり、裁量労働制の対象業務を拡大する根拠にはなり得ないということを改めて申し上げておきたいと考えております。
 また、処遇については、これまでも労働側から発言をしてきたところではありますが、適切な処遇を労使委員会等で議論することは必要ですが、一方で、処遇が高ければ裁量労働の対象にしてよいのだ、といったようなことがあってはならないと思います。
 前回、使用者側から金融機関における合併・買収等に関する考案及び助言を行う業務は専門性が極めて高いというお話もございましたけれども、この業務は、業界動向の調査分析、また、どういったやり方がふさわしいのかという調査分析、交渉、M&Aの手法の精査、PMIのアドバイスなど、非常に多岐にわたる内容のものであり、相当程度密度が濃い業務かと思っております。一方で、今までのヒアリングの概要などでは、労働時間についてはあまり長くないという主観的な御意見もありましたけれども、これだけ相当密度が高い業務にもかかわらず実態として長時間労働になっていないのかというところが明確になっていないと考えております。実際に従事している労働者の働き方や、労働時間の実態がどうなっているのか、1年で見たときの労働時間の状況はどうなっているのかというところを明らかにする必要があると考えているところです。
 また、この合併・買収等に関する考案及び助言する業務は、コンサルティング会社や仲介会社などでも行われており、必ずしも金融機関に限らないのではないかと考えておりまして、対象がさらに広がる可能性を非常に懸念しております。さらに、一概に、金融機関といいましても、例えば、銀行や証券会社など、具体的に何を指しているのかというところも明確ではありません。
 前回、使側から、考案及び助言する業務はフロント部署ではなくて、ミドル・バックで行っているということで、顧客都合による影響はないというお話もございましたけれども、例えば、フロントとミドル・バックが完全に分けられるのかというところも不明確だと考えております。また、例えば、専門部署の中での編成を見たときに、個社によってそのフロント業務の範囲やミドル・バック業務の範囲も異なるのではないか。このように業務の範囲等も不明確な部分があり、場合によってはかなり幅広く拡大解釈をされて、本来適切ではない対象者の方に適用されてしまうのではないかということも懸念していますが、議論するには明確でない部分が多いのではないかと考えているところでございます。
 以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 八野委員、どうぞ。
○八野委員 ありがとうございます。
 今の冨髙委員の発言とつながるところですが、個社によっては対顧客業務がミドル・バックにおいて生じるのではないか、そうであれば労働時間に係る裁量はないのではないかと思いますが、個社ごとに業務の範囲が異なるような場合において、実際に資金調達方法や合併・買収に関する考案や助言をする業務に直接従事していない労働者にも裁量労働制が適用されてしまうといった濫用的な利用がなされる懸念があるのではないかということでございます。
 さらに懸念される点を挙げますと、顧客都合でないといっても、結局は、そのフロント部署を通じた最終的な期限、または、フロント部署との関係を含めて、労働時間や業務遂行における裁量に影響が出るのではないかと考えております。
 また、クライアントの特性や案件によっても、裁量が確保できるのかどうか全く異なってくるのではないか。対象業務の具体的な範囲や裁量が確保できるかどうか全く定かでないため、やみくもに適用対象が広げられ、裁量がないまま長時間労働をさせるなどの不適切な運用がされるのではないかという様々な懸念があるということを、労働者側委員として申し上げたいと思います。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 鈴木委員、お願いします。
○鈴木委員 ありがとうございます。
 ただいま、冨髙委員と八野委員から御懸念が幾つか表明されましたが、私から改めて金融機関の一定の業務の資金調達方法や合併・買収及び事業承継に係る考案及び助言を行う業務を裁量労働制の対象業務に追加いただくことを繰り返し強く申し上げます。金融機関の幅について、私どもは銀行と証券会社を想定しており、考案及び助言の業務は直接携わる方のみを対象にすることをお願いするものです。私どもが要望している業務は、繰り返しですが、顧客ニーズに対して専門性を発揮して提案内容を考案及び助言する専門的な業務です。先ほど、仕事の密度の話や顧客からの影響に裁量の有無が左右されるのではないかという御懸念がありました。M&Aを例に取りますと、確かに一時的に顧客都合に左右されるケースもあるとは聞いておりますが、一方で、M&Aの戦略策定、取引スキームの考案を行う工程、交渉がまとまった後の売り手企業のデューデリジェンス、これは買収先企業を分析調査する工程ですが、そういった工程では基本的に裁量を持って働いており、案件全体を通して見ると、働き手が自身の裁量を持って働いていると聞いております。
 また、専門性について、前回も申し上げましたが、M&Aによる事業収益の効果やリスクの分析、個別プロジェクトの将来キャッシュフローの正確な予測など、上司でさえ答えを持ち合わせていないような仕事に取り組んでおり、まさに、業務の性質上、適切に遂行するためには遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務だと思っております。
 なお、当該業務は高プロで適用すればいいのではないかという労側の御指摘が前回分科会でありましたが、裁量労働制と高プロは制度内容と要件を大きく異にしており、いずれの制度を適用すれば自社の労働者に最も能力を発揮してもらえるかという観点で、労使の判断で要件に合致する制度を選択できるようにすることが大切だと考えています。現状、裁量労働制としてふさわしい業務があるにもかかわらず適用対象になっていないことに問題意識を持っており、各企業労使の多様なニーズに対応できる選択肢を増やすという観点から、ぜひとも金融機関の一定業務を裁量労働制の対象業務として追加いただくことを強くお願いいたします。
 私からは、以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 櫻田委員、お願いします。
○櫻田委員 ありがとうございます。
 今、対象業務のことについて、冨髙委員、八野委員、それに対して鈴木委員からも御意見をいただいたところでありますけれども、私からも追加で申し上げたいと思います。
 資金調達方法を考案する業務の専門性については、資金調達支援業務の種別ごとに異なるというところですけれども、業務全般にわたって高い専門性が確保されているということが言えるのかは疑問だと思っています。資金調達支援業務の種別として、どのようなものに携わる業務に高い専門性が求められるのか、その具体的な業務範囲を明確に区別することができるのかというところについても、疑問だと言わざるを得ないと思っています。また、M&Aアドバイザー業務に関しましても、必ずしもその専門的な資格の取得が必須の配属要件とはされていないと認識しておりまして、どのように専門性を担保できるのかということも疑問に思っているところです。
 使用者側委員から、前回、職務経験の要件を一律に課すことは適当ではないという旨の発言がございましたけれども、経験年数や資格に関する要件などがなければ、実態として裁量が与えられていない職務経験の浅い労働者が適用対象となってしまい、長時間労働を強いられるようなことにつながるのではないかと懸念しております。裁量の確保はもちろんですが、専門性を担保する資格や職務経験も明確でないものは、対象業務として疑問があると思っております。また、単に資格を持っていても、経験に裏打ちされた専門性がなければ、裁量労働制の対象としてはふさわしくないのではないかと思っておりますので、重ねて申し上げたいと思います。
 以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 冨髙委員、どうぞ。
○冨髙委員 ありがとうございます。
 健康・福祉確保措置について申し上げたいと思います。労働側がこれまで申し上げてきたとおり、複数措置の適用が重要だと考えているところでございます。今の健康・福祉確保措置の内容を見てみますと、例えば、連続した年次有給休暇の取得促進といった事業場のルールとしてあらかじめ定めておくという措置と、実際に問題があったときに適切な部署に配置転換をするといった事後的な措置という形で、事前の措置と事後の措置とがあると思っております。確実な健康・福祉確保措置の実施にはどちらかだけでは不十分と考えておりまして、例えば、事前のルールと事後のルールを組み合わせて、それぞれのルールから選択させることを措置することも考えられるのではないかと思います。
 先ほど、鈴木委員から様々な御意見をいただきましたけれども、ミドル・バックのところにつきましても直接携わるものとされております。しかし、企業によっては、先ほど申し上げたように、フロントとミドル・バックの範囲が個社ごとに異なるではないかというところをどのように整理していくのか、櫻田委員が発言された専門性をどのように担保するのかといった明確ではないところが多いと思いますので、それらの点について引き続き議論する必要があると考えております。
 以上でございます。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 池田委員、お願いいたします。
○池田委員 ありがとうございます。
 私から、対象業務について申し上げさせていただきたいのですが、ただいまの冨髙委員の御発言にあった件にも関わるかもしれませんが、いかなる労働時間制度管理の仕方を適用するかというのは、あくまで企業労使の選択の問題ではないかと考えます。裁量労働制の対象業務要件を満たす業務であっても、同じ時間帯にみんなで働くことを重視する場合は通常の労働時間制度であったり、始業・終業時刻の柔軟性を重視する場合はフレックスタイム制であったり、さらに仕事の進め方の裁量や生産性と処遇のリンクを重視する場合には裁量労働制を適用するという選択を各企業労使がするというイメージでございます。その選択肢を広げるという観点で、我々はこれまでに繰り返し裁量的にPDCAを回す業務の追加を要望しておりまして、例えば、人事部門において働き方改革を推進する担当者などが、事業運営、企画立案、調査及び分析の一端で、現場への落とし込みや実施状況の把握等を一体的に行う業務など、課題解決型開発提案業務と同様に、裁量労働制を適用するにふさわしい業務であると思っています。現在、工場法の時代とは打って変わって、仕事や働き方自身が多様化しておって、適用可能な労働時間制度の選択肢は、それに比べると限定的なのかなと考えてございます。ぜひとも多様なニーズに応えられるよう、裁量労働制の対象業務の拡大をお願いしたいと思います。
 私からは、以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 続いて、鬼村委員、お願いいたします。
○鬼村委員 ありがとうございます。
 私からは、改めて裁量労働制の意義と対象業務の拡大について、一言、申し上げたいと思います。
 前回の分科会で、裁量労働制というのは、必ずしもその時間と成果が比例しない業務にふさわしい制度だとはされていないという御指摘があったかと思います。確かにそうした要件はございませんが裁量労働制が時間と成果が必ずしも比例しない業務に従事する働き手を適切に処遇する上で親和性が高い制度で、そうした処遇を望む労使の選択肢を増やすものであると考えております。実際、検討会の報告書にも、13ページで、能力や成果に応じた処遇が裁量労働制の趣旨に含まれることについては、法律上、明文で規定されているものではないものの、みなし労働時間制度に内在する趣旨と考えられるという記載もあったかと思います。
 次に裁量労働制とフレックスタイム制との関係について、裁量労働制は業務の性質を踏まえて、時間配分だけではなくて、その業務遂行方法までも労働者に委ねるということが要件になってございます。加えて、このみなし労働時間の効果があることから、こうした要件や効果をてこにして、働き手の能力発揮や生産性向上に期待する労使があれば、この裁量労働制を活用すればよいと思いますし、フレックスタイム制などがよいと考える企業はフレックスタイム制を活用するということだろうと思います。企業の労使が選択する際には、要件や導入によって期待される効果などを総合的に判断して選択することから、制度趣旨として明文化されていないことを理由に一概に否定するということではないだろうと思っております。
 こうした選択肢を増やす観点で我々は対象業務の拡大を要望させていただいておりまして、例えば、ITシステムの開発提案と特定顧客向けのシステムを、企画、立案、調査及び分析した上で、それに基づいた開発・提案まで行う課題解決型開発提案業務がございます。これは顧客の抱える課題と解決策が多様化・複雑化する昨今においては、労働者の裁量に委ねる必要のある業務と言えますし、また、成果がその労働時間に必ずしも比例しないために、まさに裁量労働制を適用するのにふさわしい業務であろうと考えております。
 私からは、以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 ほかにはよろしいでしょうか。
 それでは、この議題につきましては、ここまでとさせていただきます。
 ここで説明者の交代がありますので、しばしお待ちください。
(説明者交代)
○荒木分科会長 続きまして、次の議題(2)「解雇無効時の金銭救済制度について」に移ります。
 本件については、前回、改めて皆様の自由な御意見を伺うこととしておりました。本日は、解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会の報告書の内容や、先日報告がありました解決金額等に関する調査の結果も踏まえつつ、皆様の自由な御意見を伺いたいと考えております。
 まずは、事務局より、資料の説明をお願いいたします。
○労働関係法課長 それでは、事務局から説明させていただきます。
 まず、解雇無効時の金銭救済制度につきまして、少し経緯について御説明をさせていただきます。資料はございませんけれども、解雇無効時の金銭救済制度につきましては、2015年の日本再興戦略等を受けて、2015年から公労使で構成いたします「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」において検討が行われてまいりました。2017年の取りまとめを受けまして、労働条件分科会においては、法技術的な論点について専門的な検討を行う必要性が指摘をされまして、2018年からは新たに法学者で構成をいたします「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的な論点に関する検討会」において検討が行われてまいりました。この検討会につきましては、今年の4月に報告書が取りまとめられまして、4月の労働条件分科会において報告がなされております。報告書の概要につきましては、本日資料No.2という形でお配りしておりますけれども、4月に一度御報告をしておりますので、本日は、説明を省略させていただきます。また、今年6月の閣議決定におきましては、「解雇無効時の金銭救済制度について、解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的な論点に関する検討会報告書を踏まえ、労働政策審議会の審議を経て、その結果に基づき、所要の措置を講ずる」とされているところでございます。検討会の報告書につきましては、4月に労働条件分科会の報告をした際に、解雇紛争解決の現状などを把握する必要性について御指摘がございまして、10月26日の分科会に、先ほど分科会長からお話がありました労働審判事件等における解決金額等に関する調査の結果を報告させていただきました。その後、この調査結果につきまして、委員より追加の資料のお求めがございましたので、本日、資料No.3という形でお配りしております。
 内容を簡単に御説明いたしますと、労働審判手続と労働関係民事通常訴訟におきまして、解雇等がなされた日から、労働審判の申立てあるいは訴訟提起までの期間をお調べしたものでございます。青の棒グラフが労働審判手続、赤の棒グラフが民事訴訟でございまして、その期間を中央値で見ますと、労働審判が3.0月、民事訴訟が4.9月ということで、民事訴訟のほうが中央値で見ますと少し期間が長くなっていたという状況でございます。
 事務局からの説明は、以上でございます。よろしくお願いいたします。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの説明も踏まえつつ、皆様の自由な御意見をお伺いしたいと思います。
 冨髙委員、どうぞ。
○冨髙委員 ありがとうございます。
 まず、解雇は使用者の一方的な意思表示で労働契約を解約するものであり、労働契約の解約について労働者が同意していないことが前提だと考えております。また、解雇無効時というのは、その使用者が行った解雇の意思表示が権利濫用として認められないもの、また、使用者が行う解雇は不当なものであるということが前提だと考えております。その上で、それが無効か否かを決めるのは裁判所であり、本来であれば、無効である場合には職場環境が改善されて職場に戻ることが一番望ましいのでしょうけれども、残念ながらそうならないような場合もあるということで、そうした解雇をめぐる紛争につきましては、現在、労働審判などによって既に迅速な解決が図られているわけでございます。そのような中で、労働側としては恣意的に使われかねない制度を新たに創設する必要性を全く感じておりません。
 今回、解消金の請求の権利行使は労働者の訴えのみによるということで、今までも使側から言われておりますし、検討会の報告書にも記載がありますけれども、労働者の選択肢というところがかなり強調されております。それだけを見れば労働者のための制度のように見えますけれども、実際には濫用されるのではないかという懸念がございますし、ひとたび、このような制度が導入されることがあれば、従来の違法解雇をすると解雇無効で地位確認という日本における法意識自体が崩されるのではないか、結果的にそれが雇用の流動化にもつながっていくのではないかということを非常に懸念しているところです。また、労働者のためと言いながら、将来的には使用者側の申し立ても認められる可能性も極めて高いと考えております。救済という言葉が使われておりますけれども、むしろ企業のリストラや退職勧奨を後押ししかねないような制度だと考えておりまして、労働側としては導入の必要性は全くないと考えております。先ほど申し上げたように、労働審判のような既存の制度を活用していくべきだと考えているところでございます。
 以上でございます。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 北野委員、お願いします。
○北野委員 ありがとうございます。
 私からは、金銭救済制度が仮に導入された場合の濫用の懸念と労働行政としての対応の難しさについて、意見を申し上げたいと思います。
 まず、裁判に訴えて解雇の有効・無効を争うことになれば、ある程度の時間が必要だとなります。しかし、使用者から、例えば、裁判に時間がかかり、無効かどうか分からない、そうであれば、今、解決金の8割を支払うから、示談に応じてはどうかというようなことが横行する懸念があります。そうした場合に、労働者としても、1年余りまたはそれ以上の期間が訴訟にかかり、さらには、解雇が有効と判断されるリスクもあると言われれば、使用者からの訴訟外の示談を拒否できる労働者がどれだけいるのでしょうか。結果として、解雇の金銭救済制度は、訴えの提起は労働者のみが選択権を有する制度であっても、訴訟外の示談、率直に申し上げれば、退職勧奨、リストラを増やすだけということにつながりかねないと強く思っているところでございます。
 労働契約法は民事法規であり、労働局や労働基準監督署に是正指導等の権限はないと理解しておりますが、制度外での自主的な解決を使用者から強要された場合、労働行政として一体どのように労働者保護を図ることができるのか。この点については、厚労省の認識を伺いたいと思います。先ほど冨髙委員も発言しましたが、こうした訴訟外での濫用が懸念される労働者保護に欠けるような制度を導入する必要は全くないということは申し上げておきたいと思います。
 以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 お尋ねがありましたので、事務局から、お願いします。
○労働関係法課長 今、北野委員からは、労働契約法につきましては民事ルールを定めているものであって労働行政としてどのように対応するのかという御質問だったかと思っております。
 おっしゃるとおり、労働契約法につきましては、労働契約の基本的な部分のルールを定めている民事的なルールであると思っておりまして、労働基準法のような、労働基準監督官の権限行使とは別の体系になっていると思っております。ただ、基本的なルールでございますので、労働行政といたしましてもそのルールがどういったものであるかというところの周知はさせていただいているところでございますし、争いになった場合につきましては、個別労働紛争解決制度におきまして、労働局におきまして御相談に応じてあっせん等で解決を促しているという対応をしているところでございます。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 それでは、鈴木委員、お願いします。
○鈴木委員 ありがとうございます。
 私からは、制度導入の是非について、一言、申し上げます。違法な解雇をなくしていくことが望ましいですが、労側委員もおっしゃったように、現実には、なかなか戻りにくく、いろいろな諸事情によって解決金の支払いを伴う和解が行われている実態があろうかと思います。参考資料No.2の11ページに調査結果が載っております。これは、解決金の中央値が、労働審判で月収の4.7月分、民事訴訟上の和解で7.3月分で、紛争解決機関によっても解決金に差があると思いますし、また、同じ紛争解決機関であっても、分布がかなり分かれていて、ばらつきが大きく、予見可能性が低いという印象を持ったところです。
 また、本日の資料ではありませんが、OECDがまとめた2020年版のOECD雇用アウトルックを見てみますと、日本における勤続20年の労働者の方が受け取る不当解雇に伴う労働者への補償というデータがあり、これは日本の場合月収の6月分です。ちなみに、イギリスが8月分、フランスが12.38月分、ドイツが18月分、イタリアが28.5月分ということで、少なくとも単純にOECDのデータを比較すると、日本の補償額が低いということが言えるのではないかと思います。制度の必要性、各論の議論を行うに当たっては、まず、その労働審判、民事訴訟上の和解における解決金の額が、現状で、予見可能性が低く、必ずしも十分ではないのではないかという仮説の検証が重要になってくると思っております。また解雇無効時の金銭救済制度は、不当解雇された方が原職に戻りたいと考えれば、これまでどおり、地位確認請求が保障されることを前提に、労働者の救済手段の選択肢を増やす制度でもあると理解しています。
 いずれにしても、予見可能性を高め、労働者の保護に資する観点に立って、その導入の是非を検討する必要があると考えています。
 私からは、以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 東矢委員、お願いします。
○東矢委員 ありがとうございます。
 私からは、検討会報告書の中にございました、労働者に選択権があるという点について発言をさせていただきます。検討会報告では、制度を選択する労働者がどのようなメリットがあるかを理解した上で判断できるようにすることが不可欠といった指摘がございますが、そもそも労働者に選択ができるのかといった懸念がございます。無効な解雇をするような使用者におきまして、その労働者が選択権を行使する前に示談を強要されるといったおそれがあります。検討会報告書の中で、「裁判外での和解や裁判上の和解等の合意によって自主的な解決が行われることは本制度外での対応」とございますけれども、制度導入により制度外の濫用が増大することになるのではないでしょうか。報告書では示談は自主的な解決とございますが、労働者として自由意思に基づいた自主的な解決がどれほどできるものなのか、疑問があります。労働者の自由意思に基づいていない示談は、自主的な解決ではなく、使用者による解決の強要ではないでしょうか。労使双方の合意が必要といいましても、例えば、ここで合意しなければ解消金を減額するなど、合意することを強要されるおそれがあり、また、労働者としても、解雇されて、生活基盤としての賃金収入を失った際に、無収入でどこまで使用者と戦うことができるのか。そうしますと、当座の生活費のために、不本意であっても合意せざるを得ない労働者がほとんどなのではないかと考えております。金銭救済制度は労働者のための制度と言いながら、実際には使用者が主導権を握った制度外の自主的解決を促進するための仕組みでしかないと考えております。制度をつくることによって、制度外での自主的な解決の強要が多発するようなおそれが多分にある制度は必要ないと、労働者側としては考えております。
 以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 オンラインから、発言希望が出ております。
 鳥澤委員、お願いします。
○鳥澤委員 御指名ありがとうございます。
 私からは、1点、意見を申し上げさせていただきたいと思います。本分科会において、何度か私は申し上げてきましたが、多くの中小企業は人材確保に悩んでいることから、安易な解雇を検討するよりも、むしろ従業員が働きやすい環境を整え、より一層活躍してもらえるように努力していることが事実でございます。人手不足が進む中、こうした中小企業は今後も増えると考えております。しかしながら、労使双方の何らかの事情により無効となる解雇が生じているのも事実かと思います。そうした無効な解雇に対する金銭救済について、一定のルールを設け、救済の実効性を高めることは、労働者にとって、今後の選択肢が増えることだと思っております。例えば、中小企業においては、規模が小さいため、勤務地や部署などの環境を変えることが難しく、仮に無効解雇だったとしても労働者が職場復帰を希望しないことも考えられるため、結果的に解決金の支払いで解決することも多いかと思っております。また、解雇無効時の金銭救済制度は、労使双方が早期に次のステージに進むための選択肢となり得ることから、ベストな手段ではないものの、労使の妥協案の一つになると考えております。ぜひとも御検討をお願いしたいと思います。
 以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 続いて、池田委員、お願いいたします。
○池田委員 ありがとうございます。
 私からは、2点、意見と質問です。
 まず、1点目は意見です。紛争の権利行使期間について御意見させていただきたいと思います。紛争の解決におきましては、この解雇ということにかかわらず、労使双方にとって早期に紛争解決できる制度が重要であると考えてございます。法的安定性の観点から一定の権利行使期間を設けるべきと考えますが、期間が長過ぎると、結局、紛争の長期化につながり、紛争の迅速な解決という制度の趣旨に反していくのではないかと考えます。報告書には、少なくとも2年程度の期間を確保する必要があると記載されておりますが、資料No.2を見ると、先ほど御説明もありましたが、解雇等がされた日から労働審判の申し立て及び訴訟提起までの期間の中央値は、労働審判が3.0月、民事訴訟上の和解が4.9月となっています。また、全体の分布を見ても、24月以上の割合は非常に少なくなっています。こうした実態を踏まえると、権利行使期間を少なくとも2年程度とすることは若干長過ぎるように感じまして、検討課題ではないかと思います。
 また、解雇の金銭救済制度の議論とは異なりますが、我が国の場合、いつまでにその裁判所に提訴するかという制限、いわゆる出訴期間の制限がないことが紛争の長期化にどう影響しているかという点も今後検証する必要があるテーマと考えます。いずれにしましても、権利行使期間については、解雇事案における紛争解決の実態を踏まえながら、紛争の迅速な解決という観点も十分に踏まえた検討が大切ではないかと考えます。まず、意見は以上です。
 もう1点は質問なのですけれども、権利の消滅の件で質問です。報告書では、労働者の再就職を阻害しないよう、金銭救済請求権を行使した後に辞職した場合は、労働契約解消金債権は消滅しないとすることも考えられると整理されています。労働者の再就職を促す労働者の選択肢を妨げないという意味で、辞職の場合は権利が消滅しないと整理することは十分に理解できるところであります。別のケースとして、早期に再就職するために金銭救済請求権を行使する前に辞職してしまうケースもあるのではないかと思っています。そこで、事務局にお聞きしたいのですが、金銭救済請求権を行使する前に辞職した場合と、その後に辞職した場合で、権利の消滅の取扱いに違いがあるのはなぜか。その点を教えていただきたいと思います。
 私からは、以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 それでは、質問がございましたので、事務局からお願いします。
○労働関係法課長 池田委員から御質問がございました、訴えの提起の前に辞職した場合と訴えの提起の後に辞職した場合で、権利の消滅の取扱いについての差が生じている理由でございますけれども、本日お配りしております検討会の報告書でもその点については検討がなされておりまして、そもそも労働者が金銭救済請求権を行使する前や金銭救済を求める訴えの提起等をする前に、他の事由によりまして労働契約が終了した場合につきましては、労働契約関係が存在することというその形成権の行使の要件や形成判決構成の場合は形成原因といったものを欠いてまいりますので、もはや本制度の適用は認められないと解される、と整理をされております。訴えの提起等の前に辞職があった場合につきましては、その時点で労働契約が終了をしていることになりますので、訴えを提起した後とは異なりまして、この制度を利用する要件を欠いているということになるという整理でございますので、この制度の適用は認められないという形で整理がなされていると考えております。
○池田委員 ありがとうございました。
○荒木分科会長 ほかにはいかがでしょうか。
 世永委員、お願いします。
○世永委員 ありがとうございます。
 物流業界における退職勧奨の実態について、お話しさせていただきたいと思います。ドライバーとしては安全運行のルールを守ることが第一だということは重々承知していますけれども、本来、譴責、減給等で済む事案であるにもかかわらず、所属支店、実名を記載して、退職勧告の理由、退職勧告日、退職となった日を印刷して全国のグループ内で職場に掲示するという事案がありました。当然、組合からも、人権への配慮が不可欠であり、そういった対応は不適切であると強く抗議をしたところですけれども、多くのドライバーが萎縮してしまいます。また、会社から、遵法意識の下に運行管理をするようにということで真面目に従事していたが、歩合給等の関係もあって、ドライバーへの対応が強くなるということがあります。その企業はいわゆる未払賃金が多かったということで、皆で一緒に会社に請求したら、会社はドライバーへの対応がパワハラにあたるということで突然解雇をしてくるケースもあります。さらには、障害者であることを隠さずに雇用契約して、業務に従事していたケースでも、軽微な事故を起こして、譴責処分となったが、その後、自己退職を強要されたということです。今は車内にドライブレコーダーがあり、安全運行が第一ですけれども、労働者をピンポイントに選択して不安全運行を探し出して退職に追い込むという事案も発生しております。人権への配慮や遵法意識が欠如している経営者を正していくのは、行政や事業所団体の役割でもあると思っています。先ほど来、労働側が申し上げておるとおり、解雇の濫用をフリーハンドで使用者側に渡すような制度については絶対反対であるということを、強く申し上げさせていただきます。
 以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 佐久間委員、お願いします。
○佐久間委員 ありがとうございます。
 中小企業の立場から申しあげますと、先ほど鳥澤委員が言われましたとおり、大部分の中小企業は「人」が大切でございますので、そういう解雇を言い渡すことは、ほとんど実際にはできないことだと思います。ただ、逆に、中小企業であるからこそ、数が多いからこそ、そういう案件が発生しやすいこともあるのではないかと思います。そういうときのためにも、これは使用者というよりは労働者のためにも、一つの仕組みができれば、何か道筋が一つのモデルとして出来上がるのではないかと思います。制度全体としてはそういう整備をしていくべきだと私は考えます。
解雇を言い渡された労働者は、それが無効であっても、裁判や労働審判に至るまでに、使用者との間の話で解決をしてしまっている例も多々あると思うのです。労働審判とか、裁判になった場合、特に3審制で上告まで裁判を続けることになると、お互いに弁護士等の費用がもちろんかかってくるし、規模の小さい中小企業ですと、解決するまでの間のその解消金とバックペイの関係で、これが何年になるか分からないということで、その資金繰りもままならなくなることが大いに考えられます。労働側にとってはそれだけの賃金を使用者側が保障するのは当然だと言う意見となりますが、費用と賃金等の支払いの問題が出てくると思われます。
なお、仕組みを整備していただきながらも、今回の報告の中では、「政策的に判断をすべき」という項目が非常に多いという問題があります。合併の問題、解消金の算定方法の問題、かなりの項目がある中で、そこにこれらの項目を詰めていくことは非常に難しいのではないかと思います。労働条件分科会の審議においても、制度の必要性みたいなものは確認して、もう一度検討していくことが必要なのではないかと思います。労働者にとっても、皆さん方の労働組合に入っていればそういう後ろ盾は非常にあると思うのですけれども、今、個人単位では入れる労組もあって、例えば、外国人の方々もそういう一人でも加入できる労働組合を利用し、その後、審議等が終わったら労働組合を辞めてしまうということももちろんあると思いますけれども、使用者にとっては、そういう労組の力がバックにあると、使用者側の小さい規模の企業では労働組合が一緒にくるということで、身構える企業も少なくないと思います。そのためにも整理をして、一つの仕組みづくりをしていくことが必要なのではないかと思います。
 以上でございます。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 オンラインから発言の希望が出ておりますけれども、藤村委員が退室予定でございますので、まず、藤村委員から発言をお願いできればと思います。
○藤村委員 どうもありがとうございます。
 労働側、使用者側、それぞれの主張を聞いておりまして、その制度というものをどう運用するかという難しさを感じています。今回のこういった制度が入ることによって、その状態がよくなる方もいらっしゃれば、労働側が盛んに指摘しておられるように、悪用されるのではないかという懸念もあります。どんなにいい制度でも、悪用されると、結局、制度の存在自体が疑問視されて、その制度によって助けられていた人たちまでも不利益をこうむるということがありますよね。こういった制度を考える際は、いかに悪用を防ぐかということも同時に考える必要があると思います。ただし、全てを盛り込んでというのは非常に難しいので、ある制度をつくった上で、それが本来の趣旨で使われるようにしていくという努力が必要かと思います。その上で、事務局にお伺いしたいのですけれども、こういった制度ができることによって、今、不利益をこうむっている人たちが助けられる、こういう人たちがいるからこの制度は意味があるのだという、何かそういったデータがあれば、お示しいただければと思います。
 以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 事務局から、お願いします。
○労働関係法課長 藤村委員、ありがとうございます。
 もしこの制度が導入されたら、今不利益をこうむっておられる方がどれぐらい助けられるか、という御質問だったかと思っております。
 この点につきましては、日本の現状といたしまして、解雇の数がどれぐらいあるか、あるいは、解雇された場合の理由はどういったものであるかといったものにつきまして、推計も含めまして、データ的なものはこちらで把握している限りは存在していない状況でございますので、今の制度を利用しておられない、裁判とかに出てこない中で不利益を被っておられる方がどれぐらいおられるかということについて、こちらとしては把握しているものはないという状況でございます。
○荒木分科会長 藤村先生、よろしいでしょうか。
○藤村委員 分かりました。確かにそこは難しいですよね。でも、本来は、こういった制度ができることによって救われる人たちがいるんだというデータなり、データが難しくても、いわゆる数値データですね。難しくても、実際にこんな事例があるということが示されれば、労側の考え方も少しは変わってくるかなとも思いました。ありがとうございます。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 それでは、オンラインから、佐藤晴子委員、お願いします。
○佐藤(晴)委員 ありがとうございます。
 私からは、各論の論点のところについて、2つ、質問をさせていただきたいと思います。
 1点目は、参考資料No.1の報告書でいいますと、10ページ目ですかね。対象となる解雇・雇止めというところがありまして、この中に、禁止解雇は除くか、あるいは、それを含むかという論点があって、この報告書によりますと、使用者側が禁止解雇を行っていたこともって、その選択肢をなくす、除外するということは、労働者の選択肢を増やすという観点とは整合しないと考えられると整理をされています。この論点を考える上では、データといいますか、要はこういった禁止解雇によって解雇された労働者とほかの理由で解雇された労働者を比べた場合の原職復帰率のデータを比較して、禁止解雇によって、解雇された労働者のほうがほかの理由で解雇された労働者に比べて原職復帰をしている実態があるということであれば、この報告書で整理されたこととは逆ですけれども、禁止解雇は対象から外すとか、そういった検討をしていくことになると思います。そういった検討の一つの論拠として、報告書で整理されているような選択肢を増やすという観点で、除かないほうがいいのか、あるいは、対象から外すほうがいいのか、今申し上げた原職復帰率のデータがあれば、参考になるかと思っておるのですけれども、そういったデータがあれば教えていただきたいということが1点目です。
 もう一つは、また別の論点ですけれども、報告書の26ページ以降でしょうかね。労働契約解消金の上限・下限という論点があります。解雇された労働者が金銭救済請求権を行使して、裁判とか、そういったものを起こす前に、使用者、会社が、その労働者に対して、金銭を支払って解雇していた場合ということなのですけれども、しかもそれが解消金の上限を上回る金銭を支払った上で解雇していた場合、その後に、労働者がその請求権を行使して解消金を支払いなさいという判決が出た場合には、使用者は、その労働者に対しては、事前に支払った上限を上回る金銭に加えて、新たに認容された分の解消金を支払う必要があるといった理解でよろしいのでしょうか。請求権を行使する前に払った使用者の金銭が、その後の請求権で認容された解消金との関係でどのような関係になるかというところを教えていただければと思います。
 以上、2点、お願いいたします。
○荒木分科会長 事務局から、お願いします。
○労働関係法課長 佐藤晴子委員、ありがとうございます。
 2点、御質問があったかと思っております。
 まず、1点目の御質問でございますけれども、禁止解雇をされた労働者の原職復帰率とそれ以外の理由で解雇された労働者の原職復帰率を何かデータとして把握しているかどうかということでございます。この点につきましては、禁止解雇をされた方の原職復帰率あるいはその他の理由で解雇された労働者の原職復帰率といったものについては、いずれもこちらで把握しているものはございません。ただ、参考になるかどうか分かりませんけれども、解雇が無効であると判断されたものの職場に復帰できないケースは、過去、2005年に弁護士を対象に行った調査では、原職復帰できないケースが3~4割程度存在するという調査がございますけれども、2005年以降の最近の動向についてはこちらで把握しているものはございません。
 2点目の御質問でございますけれども、解雇される前に、金銭をお支払いして、解雇をしましたと、その後で、労働者が解消金の請求を行って、その請求が認められた場合の解消金の支払いの義務はどうなるのかという御質問だったかと思っております。これにつきましては、検討会の報告書の前提に沿って考えますと、契約解消金債権が発生をいたしますのは、形成権構成では、訴えの提起等の時点、形成判決構成では判決等の確定時点となっておりますので、今おっしゃられたようなケースにつきましては、その前に使用者が労働者に金銭を支払っておられることになろうかと思いますので、基本的には労働契約解消金を支払ったということにはならないのではないかと考えております。ただし、使用者が事前に労働者に支払った金銭につきましては、民法上取り消せる錯誤のような場合、あるいは不当利得返還請求ができるような場合には、事前に使用者から労働者に対して支払った金銭の返還を受けることができるような場合もあろうかと思いますけれども、具体的に返還を受けられるかどうかということにつきましては、個別事案での司法での判断になると考えております。
○荒木分科会長 佐藤委員、よろしいでしょうか。
○佐藤(晴)委員 ありがとうございます。
 1点目のほうなのですけれどもお答えいただいた復帰できないケースが3~4割というのは、禁止解雇をされた労働者ではなくて、全体の話でしょうか。その対象はどうなりますでしょうか。
○労働関係法課長 佐藤晴子委員、御質問をありがとうございます。
 こちらの説明が不十分で、失礼いたしました。過去、2005年に調査したケースにつきましては、禁止解雇かどうか、特に区別をしているものではございませんので、禁止解雇に限ったものではないものと承知をしております。
○佐藤(晴)委員 分かりました。ありがとうございました。
○荒木分科会長 続いて、大崎委員、お願いいたします。
○大崎委員 ありがとうございます。
 先ほど池田委員から早期の紛争解決のためにもこの制度が必要という発言がございましたので、それに対しての意見になります。この解雇無効時の金銭救済制度は、訴訟上の手続と認識しておりまして、制度を新しく仮に設けたとしても、時間的・金銭的負担が大きいことに変わりがないということを考えれば、制度導入の必要性はないと考えております。そもそも解雇事案は様々でありまして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合、この要件に基づいて、総合的に評価していくことが今後も必要だと考えております。この解雇無効時の金銭救済制度も同じ要件を前提とする以上、紛争解決の迅速性は高まらないと考えております。また、労働契約解消金の基準の設定いかんによっては、金額算定等のために、より解決までに時間がかかることになるのではないかということも懸念しております。
 以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 兵藤委員、お願いします。
○兵藤委員 ありがとうございます。
 私からは、質問を申し上げたいと思います。本制度の議論を行うに当たりましては、解雇の実態と個別労働紛争解決機関の利用状況を把握することが重要だと考えています。その中で、先ほど事務局からお話がありましたけれども、日本全体の雇用、年間の解雇の件数や解雇の理由別の件数等は、現時点では把握はされておられないということでございましたが、併せまして、解雇された労働者が、あっせん、労働審判、民事訴訟などの救済機関を全国でどれくらい利用しているのか、また、救済機関を利用していない労働者はどのような理由で利用していないのかということと、和解は双方の合意によって成立いたしますが、裁判官や審判官から和解の打診があったものの使用者側が拒否をしたことで和解が成立しないケースの割合について、その2点、もしお分かりになればお伺いできればと思います。お願いいたします。
○荒木分科会長 ありがとうございます。
 事務局から、お願いします。
○労働関係法課長 兵藤委員、ありがとうございます。
 冒頭に御発言があった部分につきましては、先ほど藤村委員の御質問の際に御回答したことでございますので繰り返しませんけれども、解雇された労働者が救済機関を全国でどれぐらい利用しておられるのかということと、利用していない理由は何か、ということでございますけれども、まず、どれぐらい利用しているかということにつきましては、10月26日の資料でも少しお出ししているところでございまして、参考資料No.2が、本日、あろうかと思います。こちらの4ページに、3つの紛争解決制度の取扱件数を御紹介しております。令和3年におきましては、解雇・雇止めを理由としております個別労働紛争解決制度における労働局のあっせんの申請件数につきましては、1,116件でございますし、労働審判につきましては、地位確認を求めておられるような新規の受理件数は1,751件、また、民事訴訟につきましては、地位確認を求めておられるような件数については1,082件となっている状況でございます。実際にこういった制度を利用しておられない労働者がなぜ利用しておられないのかというところにつきましては、こちらで把握しているものはないと承知をしておりますので、現時点ではお答えができないという状況でございます。
 もう一つ、和解につきまして、和解の打診があったけれども、使用者側が拒否をされたことによりまして和解が成立しないようなケースがどれぐらいの割合であるか、ということでございます。こちらにつきましては、民事訴訟における和解や労働審判の調停が成立しないようなケースがどれぐらいあるかということについて、こちらで何か調査をしたようなものは承知をしておりませんので、現時点でお答えはできないという状況でございます。
○荒木分科会長 よろしゅうございますか。
 ほかにはいかがでしょうか。
 八野委員、お願いします。
○八野委員 ありがとうございます。
 冒頭、冨髙委員から発言がありましたように、労働側としては、この制度は一切必要ないと考えているということでございます。その上で、労働契約解消金について、定義をどのように定めるかは、今後、政策的に判断すべきということで、報告書に記載があります。例えば、労働審判等における解決金額の調査結果が示されていますが、特に労働審判においては、解雇無効であったとしても、原則3回という審理の中で、厳密に判断しているというわけではないのではないかと思います。また、できる限り迅速な解決を探る方向のため、金額もそれほど高くない。加えて、どういった要素が考慮されているかも事案によって様々であると捉えております。ここで示されている解決金額は、労働審判や、裁判上の和解など、いずれも労使当事者が折り合うことが前提の手続であって、導入するつもりは全くないにせよ、解消金の水準の検討材料にはならないのではないかと思っております。
 解雇事案は、整理解雇、普通解雇、懲戒解雇で、労使双方が責めを負う程度も事由によって全く異なります。また、労使双方が争っている以上は、事実関係が事前に確定できず、結局事前に解消金の予見可能性を高めることは不可能であると考えています。そもそも解消金の水準を定めたところで、使用者に支払能力がなければ、労働契約解消金の金額が書かれた判決文はただの紙切れにすぎないことになります。さらに、ひとたび基準が示されれば、現在有効に機能している労働審判等の他の制度に悪影響を与えかねない。また、労働審判や民事訴訟など、個別事案に即して当事者の納得を重視して行われている実態に負の影響を与える懸念が非常に高いと考えておりますので、このような制度は一切必要がないと思います。
 また、先ほども使用者側から資金繰り等がかなりきつい場合における解決金水準への配慮という発言が出てくることを踏まえると、これはこの制度が労働者の救済のための制度ではないということを示しています。何かしらの労働問題、トラブルがあったときに、かなりいろいろな問題点が裏に控えているので、労働者のセーフティーネット、労働者保護、労働者救済ということをしっかりと考えてやっていく必要がある。そうであれば、現行の制度で、現状は問題ないのではないかと思われます。
 以上です。
○荒木分科会長 鈴木委員、お願いします。
○鈴木委員 ありがとうございます。
 私からは、解消金の水準について、一言、申し上げます。参考資料No.2の11ページ目に、先ほども御覧いただきましたが、和解等の解決金の分布、中央値などが示されていますが、ここでお示しいただいております解雇の事案は、先ほど八野委員からもお話があったかと思いますが、必ずしも不当解雇の案件ばかりではないと理解しております。違っていたら、後で事務局から御指摘いただきたいと思いますが、理論的に考えれば、不当解雇の事案に絞ってこの解消金の水準を設定するのであれば、参考資料No.2の11ページに示された解決金の金額は当然高くなります。報告書は、解雇の日から、判決の日あるいはその解雇の日から、労働審判でいうと和解調停までの期間、ざっくりというとバックペイ分の期間にプラスする形で解消金の支払いをするということが提案されています。事務局に質問ですが、参考資料No.2の実態調査の事案の中から、例えば、解雇の日から和解の日までの期間に相当する期間、これを仮に6か月だとして、6か月以上の解消金が支払われるような事案、ケース、すなわち、正確ではないのかもしれませんが、バックペイ相当の解決金以上の金額が支払われた事案を抽出して、この解決金の中央値などのデータをお持ちかどうか、確認させていただきます。
○荒木分科会長 事務局から、お願いします。
○労働関係法課長 鈴木委員、ありがとうございます。
 2点、御質問があったかと思っております。
 まず、10月26日にお示しいたしました調査の結果につきましては、不当な解雇の事案に限られていないのではないか、という御質問だったかと思います。おっしゃるとおり、どういった事案だったかというところまでは区別をしておりませんので、限られていないと思っております。
 また、もう一つの御質問といたしまして、その実態調査の中で解雇の日から和解の日までの期間に相当する期間のバックペイ相当を超えたような解決金が支払われているような事案を抽出した場合は、中央値とかはどうだったか、という御質問だったかと思っております。これにつきましては、こちらの手元で計算をしておりまして、今回調査を行いましたJILPTの確認は取っておりませんけれども、未払賃金や損害賠償の影響を除くために、バックペイだけを請求しておられるような事案だけを抽出いたしまして、バックペイ相当の解決金以上の額が支払われた事案の解決金額の中央値を見てみますと、労働審判ではおよそ8月分、労働関係民事通常訴訟ではおよそ20月分となっておったという、データがございます。
○荒木分科会長 鈴木委員、どうぞ。
○鈴木委員 ありがとうございます。
 軽々に申し上げるのはいけないのかもしれませんが、バックペイ相当の解決金以上の額が払われている事案というのは、違法な解雇の心証が高い事案の可能性があるのではないかと思っております。繰り返しですが、報告書では、バックペイ、プラス、解決金の支払いという提案がされており、そういう観点から考えますと、現状、バックペイ分に加えて解決金を支払っているケースは少ない可能性があるのではないか。この点も踏まえて議論をしていくことが労働者保護という観点からも重要ではないかと思いましたので、一言、申し上げたいと思います。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 ほかには、会場からはいかがでしょうか。
 冨髙委員。
○冨髙委員 ありがとうございます。
 今の鈴木委員の発言もそうですけれども、先ほどから使側委員の発言を聞いていると、労働者保護という言葉を使えば何でも許されるというように聞こえるわけでございます。そもそも、解雇事案は非常に様々でございますので、水準を定めること自体にあまり意味がないのではないかと考えます。例えば、中小企業では、解雇の事案が発生しやすいので、このようなルールを示すべきではないか、また、早期に次の職場に移るための一定のルールを設けるべきではないか、金銭的な予見可能性を高めるということも、全て労働者保護の観点という言葉がつけられておりましたけれども、我々としては全く必要ないと考えております。冒頭に申し上げたように、金銭救済制度は使用者にとっての予見可能性を高める制度であって、労働者にとっては救済でも何でもないのではないのかと思っておりますし、かえって示談の強要のような濫用、訴訟外における濫用を増やすような制度だとしか思えません。労働者にとって選択肢を増やすと言いますけれども、現行制度において既に迅速な解決の仕組みは図られているわけでございまして、金銭救済制度は現行制度に悪影響を与えかねないという意味からも、全く必要がないと考えております。先ほど藤村委員から実際に救われる人がいるのかという質問もございましたけれども、既に労働審判の制度がある中で、新たにこの制度をつくることで救われる人がいるのかというと、我々としては全くいないのではないかと考えているところでございます。
 また、北野委員から、労働契約法は民事法規であって、例えば、制度外の自主的な解決のような濫用を強要された場合に、労働行政としてどのように労働者保護を図るのかという質問がありましたが、事務局からは、労働契約法は民事的なものであり、基本的なルールの周知を行うという発言がございました。解雇は労働者にとっては本当に一生を左右するような非常に大きなことなのです。それを、民事的なものなので基本的なルールの周知をしますと、そんな簡単なことでこのような制度を入れていただきたくないと考えておりますので、その点は強く申し上げたいと思います。労働行政としてこのような制度を導入する必要があるのかということは考えていただきたいと思います。労働側は、全くないと考えております。
 以上です。
○荒木分科会長 会場から、ほかにはいかがでしょうか。
 それでは、オンラインから、安藤委員、お願いいたします。
○安藤委員 安藤です。よろしくお願いします。
 これまで、労働側からは労働審判等があるので問題はない、新たな制度は不要というお話をいただきました。一方で、使用者側からは新たな制度により救われる労働者が存在すると、このような主張がございます。これに対して、藤村委員からの質問に対する事務局の回答としては、今回の仕組みを導入することで救われる可能性がある労働者を把握はできていないということで、幾分見えているものがすれ違っているようにも感じているところです。
 そこで、今、労働側からも、新たな仕組みは全く不要であるというお話があったのですが、そうであったとすると、ただそう思うだけではなく、何らかの根拠がある発言だと思われますし、また、使用者側からも何らかの根拠があってこのような仕組みが必要だと主張されていると思われます。よって、厚労省は現時点では把握できていないということですので、ぜひ労使双方が持っている情報等を厚労省に共有していただくことなどを通じて、または、別にかもしれませんが、厚労省で、現状、どのような問題があるかということが把握できていないのだとしたら、把握する用意があるのか、または、今後の計画があるのか辺りを教えていただければと思います。よろしくお願いします。
○荒木分科会長 それでは、事務局、いかがですか。
○労働関係法課長 安藤委員、ありがとうございます。
 労使が持っている情報を共有し、厚労省で把握する用意があるのかという御質問だったかと思っております。その点につきましては、先ほど申し上げましたとおり、藤村委員に対してお答えいたしましたけれども、現時点で把握している、この制度によってどれぐらいの方が救われるかというデータはないということはお答えさせていただきました。労使で御意見が対立している中で、もう少し厚生労働省としても実態を把握していく必要があるという御指摘を皆様からいただくようなことになりましたら、こちらとしてもできる限り把握をしていく努力をしていきたいと思っております。
○荒木分科会長 オンラインから、川田委員からも手が挙がっております。
 お願いします。
○川田委員 ありがとうございます。
 まず、この議題については、今回の資料の中でも示されている法技術的な論点に関する検討会を設けて、そこで検討した内容を踏まえて、審議するという形になってきていると思います。制度の導入の是非についても、いろいろな考え方がある問題だと思いますが、そういった点について仮に制度を導入するとしたらどのようなものがあり得るのかという点を踏まえながら、制度導入の是非、導入する場合の内容を検討するという、大きな方向性は、現状、適切であり、そのような方向で進めていくことが大事ではないかと思っています。
 それを前提として、論点は非常に多岐にわたるのですが、私なりにいろいろなところに関わる基本的な点かと思う点について、2点、御発言させていただきたいと思います。
 まず、一つは、現在、この法技術的な論点に関する検討会の報告を踏まえて、基本的には、労働者側からの申立てに基づく制度ということで検討が進められており、そういう前提の下では、本日、ここまでの中で発言がありましたが、違法な解雇に対する救済の在り方について、労働者側の選択肢を増やすものと言えるのかどうかという点が一つ、重要な点になると言えると思います。そういった観点からは、この制度に関する論点の中で、既に今日出てきた話と重複するところはあるかと思いますが、何らかの権利を新たに労働者側に設けるとして、その権利を適切に行使する機会が確保できるかどうかという点は重要であると思います。そうした観点から、例えば、制度の内容についての周知の在り方が、一つ、ポイントになるかと思います。既に出てきている論点の中では、今回の資料でいうと、資料No.2の(6)とか(8)の辺りで出てきている。(6)では、権利の放棄の論点が挙げられていますが、これについては法技術的な論点に関する検討会でも検討されていることですが、仮にこの種の権利を新たに設けることになるとすると、基本的には強行法規的な性格を持つ解雇に対する救済の一環という位置付け、あるいは、実質的に見ても、労働者に対する実効的な救済を図るという観点から考えますと、少なくとも事前の権利放棄に関しては制度の趣旨から見て許されないということが報告書でも言われているところですが、これをベースにした検討を進めることが適当だろうと思っています。
 それから、権利行使の期間、(8)のところに出てくるものですが、これは一方では紛争を早期に解決するという観点からの論点である一方で、解雇からの救済という、ある意味、基本的な制度の性格を踏まえる必要があるといえるかと思います。また、現在の法制度の下で認められている解雇無効を前提とした地位確認の救済については、具体的な基準、例えば、解雇から一定期間内に救済を求める手続を起こす必要があるということを求められておらず、やや法理論的というか、解釈論的な枠組みの中で、具体的な事情に応じて、そうはいっても、解雇後、余りにも長期間たってから訴訟が提起されるようなケースについては、その時点での救済の必要性があるのかという観点から何らかの考慮が必要という検討がされているという状況にあると認識していますが、そのような地位確認の記載の場合との対比なども考えながら検討する必要があるかと思っております。いずれにしても、具体的な制度の中身とともに、新しい権利を創設するというときに、新しい権利が、労働者に対する選択肢、救済の選択肢としてどのような意味を持ち得るのかという視点からの検討が幾つかの論点についての必要なのではないかということです。それが一つです。
 もう1点が、これも既に議論の中で出てきているところかとは思いますが、このような制度について検討する際に、解雇紛争の自主的な解決に与える影響、あるいは、さらに遡って、解雇に至るまでの、労働者を解雇することを決定する使用者側の行動にどのような影響を及ぼし得るのかという点についても、可能な限り、視野に入れた検討が必要かと思います。この辺りは、できるだけ、一方では、客観的な事実というか、実態を把握した上での検討が望ましいということが言える一方で、新しく制度をつくった場合に与え得る影響というのは、仮定的な要素が入ったり、あるいは、想定される因果関係が非常に多様であったりということで、なかなか客観的な事実としてどういうものが収集できるのかという点が難しいところもあるのかなと思います。ここは事務局への質問で、今申し上げたようなことから、金銭解決の制度が解雇法制あるいは解雇そのものに与える影響は、個人的にはなかなか客観的なデータで捉えることが容易ではないのかなと思っているのですが、外国の状況なども踏まえて、何かこういった点について把握しているところがあれば、お示しいただきたいと思います。
 御回答いただいた後で簡単に発言したいところがありますが、取りあえず、以上でお願いします。
○荒木分科会長 それでは、質問がありましたので、事務局からお願いします。
○労働関係法課長 解雇無効時の金銭救済制度が仮に導入された場合のその解雇等への与える影響は、まだ制度がない中での予測でございますので、おっしゃるとおり、影響を把握することは、現実的にはなかなか難しいところがあるのかなと思っております。
 その上で、川田委員から、外国での事例について、お話がございました。おっしゃるとおり、外国においては解雇の金銭救済制度が導入されている国もございますけれども、そういった国でこういった救済制度ができた場合に解雇にどういった影響を与えたかということについてまで事務局で把握しているものはございません。
○荒木分科会長 そういうことですけれども、川田委員、いかがでしょうか。
○川田委員 ありがとうございました。
 1点だけ、このように関係する実態について把握することについては、この論点について重要である一方で難しさもあるということなのかと思います。そのような中で、本日は、資料No.3ということで、一定の資料を示していただいて、これも、この後の審議をしていく上で有用な資料になるのではないかと思います。
 その一方で、さらに、先ほど安藤委員からの御発言もございましたが、紛争の実態とか、関連する現行の法制度の下での解雇をめぐる紛争の状況、場合によっては、解雇そのものに関する実態、更にはこうした問題を労働契約の終了をめぐる紛争と広げて捉える必要もあるのかなと思っていて、そうなってくると、例えば、雇止めとか、場合によっては、さらに休職からの復職とか、定年後の再雇用をめぐる問題なども視野に入ってくるのかもしれませんが、そうした実態については、難しいところはあると思いますので、時間はかかることもあるかもしれませんが、できるだけ客観性の高い実態を把握して、それを反映した議論をしていくことには重要な一定の意義があるのではないかと思いましたので、それを述べさせていただきたいと思います。
 以上です。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 ほかに何か御意見等はございますでしょうか。
 安藤委員から、もう1点、お願いいたします。
○安藤委員 短く、1点だけ。
 今の川田委員からのお話を受けての発言です。使用者側からも発言がありましたが、今回の制度が導入されると予見可能性が向上するといった見方がございます。しかし、例えば、形式的な算定式を制定すれば確かに予見可能性が向上するとしても、それが納得感につながるのかというところに、いまだ私は疑問を持っています。特に諸外国において何か月分といった形で形式的に算定することが導入されているということは承知しておりますが、日本企業、特に規模が大きいような企業などでは、年功賃金を採用しているケースがあり、そのような場合にはさらに難しさが大きいのではないかと考えております。そう申しますのも、年功賃金というのは、経済学の視点から言えば、実質的には賃金の後払いであって、その場の貢献度に見合った賃金をその場で払っているような雇用形態とは違います。その会社で働き続けた場合に、ある意味、企業内に強制社内貯蓄させられていたお金が返ってくるといった部分の要素をどのように捉えるかというところで、例えば、ある企業では年功賃金の程度が強い、ある企業では弱い、ある企業では年功の要素はなく貢献度に見合った給料をその場で払っているような違いがあったときに、それぞれの会社に対して、全て一律の算定式を当てはめるというのはなかなか納得感がないのではとも思っております。
 そういうわけで、諸外国で実行できているという仕組みを日本にそのまま移植してうまくいくかどうか分からないので、この辺りは、この制度の必要性ということについて先ほど実態の把握ができればというお願いを申し上げたところですが、同時並行で、この仕組みを導入した場合に具体的に算定式をつくるのだったらどのようなものなら納得感があるのかということも検討を進めていくことが必要なのではないかと感じております。
 私からは、以上です。ありがとうございました。
○荒木分科会長 ありがとうございました。
 ほかにはよろしいでしょうか。
 それでは、この議題についてはここまでとさせていただきます。
 この労働条件分科会では、これまで、労働時間制度、労働契約法制度について、累次にわたって御議論をしてきていただいております。また、本日においても非常に有益かつ闊達な御議論をいただいたところでございます。次回以降も、これまでの議論を整理していただいて、さらに議論させていただければと思いますので、事務局においては、資料の準備をお願いいたします。
 それでは、本日は以上とさせていただきます。
 最後に、次回の日程等について、事務局から説明をお願いいたします。
○労働条件企画専門官 次回の日程等につきましては、調整の上、追ってお知らせいたします。
○荒木分科会長 それでは、本日の労働条件分科会は以上といたします。
 御参加いただきまして、どうもありがとうございました。