第1回社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提に関する専門委員会 議事録

●日時

2022(令和4)年11月18日(金)16時30分~18時09分

●場所

航空会館ビジネスフォーラム 大ホール(7階)

●出席者

植田委員、権丈委員(オンライン)、小枝委員、滝澤委員、武田委員(オンライン)、玉木委員、土居委員、徳島委員、深尾委員、藤澤委員
(オブザーバー)
前田参事官(内閣府計量分析室)、泉審議役(年金積立金管理運用(独):GPIF)、相澤企画部長(年金積立金管理運用(独):GPIF)
 

●議題

(1)委員長の選出について
(2)令和元年財政検証における経済前提の設定等について

●議事録

佐藤数理課長
定刻になりましたので、ただいまより第1回「年金財政における経済前提に関する専門委員会」を開催いたします。
 委員の皆様におかれましては、御多忙の折、お集まりいただき、ありがとうございます。
 委員長を選出するまでの間、年金局数理課長の佐藤が議事進行を務めさせていただきます。
 開催に先立ちまして、事務的な御連絡を申し上げます。
 本委員会は、オンライン併用により開催いたします。
 オンラインにて御参加される委員におかれましては、会議中、御発言される際「手を挙げる」ボタンをクリックし、委員長の指名を受けてからマイクのミュートを解除し、御発言をお願いいたします。
 また、御発言終了後は、マイクをミュートにしていただきますようお願いいたします。
 また、議題に対して御賛同いただく際には、カメラに向かってうなずいていただくことで、いわゆる「異議なし」の旨を確認させていただきたいと思います。
 まず、今回就任いただいた委員の皆様について、五十音順に御紹介させていただきます。
 共立女子大学教授の植田和男委員でございます。

植田委員
 よろしくお願いします。

佐藤数理課長
 慶應義塾大学商学部教授の権丈善一委員でございます。
 本日は、オンラインにて遅れて参加の予定でございます。
 早稲田大学政治経済学術院教授の小枝淳子委員でございます。

小枝委員
 よろしくお願いします。

佐藤数理課長
 学習院大学経済学部教授の滝澤美帆委員でございます。

滝澤委員
 よろしくお願いいたします。

佐藤数理課長
 三菱総合研究所研究理事シンクタンク部門副部門長兼政策・経済センター長武田洋子委員でございます。
 本日は、オンラインで遅れて参加の予定でございます。
 大妻女子大学短期大学部教授の玉木伸介委員でございます。
 本日は、遅れて御参加の予定でございます。
 慶應義塾大学経済学部教授の土居丈朗委員でございます。

土居委員
 よろしくお願いいたします。

佐藤数理課長
 本日は、所用にて中途退席されると伺っております。
 ニッセイ基礎研究所取締役金融研究部研究理事年金研究部長の徳島勝幸委員でございます。

徳島委員
 徳島でございます。
 よろしくお願いいたします。

佐藤数理課長
 日本貿易振興機構アジア経済研究所所長・一橋大学特命教授の深尾京司委員でございます。

深尾委員
 深尾です。
 よろしくお願いします。

佐藤数理課長
 早稲田大学大学院会計研究科講師・年金数理人の藤澤陽介委員でございます。

藤澤委員
 藤澤でございます。
 よろしくお願いします。

佐藤数理課長
 また、年金財政の経済前提を議論するに当たり、オブザーバーとして、内閣府計量分析室から前田参事官。
 年金積立金管理運用独立行政法人から泉審議役と相澤企画部長に御出席いただいております。
 次に、事務局から、年金局長の橋本より御挨拶申し上げます。

橋本年金局長
 年金局長の橋本でございます。よろしくお願いいたします。
 社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提に関する専門委員会の開会に当たりまして、一言御挨拶を申し上げます。
 委員の皆様方におかれましては、それぞれ大変お忙しい中、当委員会の委員をお引き受けいただきまして、誠にありがとうございます。改めて御礼申し上げたいと思います。
 さて、公的年金は、約6700万人の方々が加入され、約4000万人の方々が受給されている、我が国の社会保障制度の根幹をなす制度でございますし、また、我が国の社会における最大の社会システムと言っても過言ではないだろうと思っております。高齢化が進んだ我が国の社会経済におきまして、既に必要不可欠な社会基盤となっております。
 この大切な仕組みを将来にわたって持続させ、遠い先々の世代も含めて、この国の社会で生きる全ての方々が安心して暮らせるようにしていかなければなりません。
 御承知のとおり、公的年金をめぐっては、その持続性を確保するために、幾多の制度改正が積み重ねてこられました。
 これらの中でも、とりわけ重要な意味を持っておりますのが、平成16年の改正だと思っております。この改正におきまして、保険料上限の固定、基礎年金の2分の1国庫負担、積立金の活用、マクロ経済スライドの導入といった持続性確保のための様々な措置と並んで、5年ごとに財政検証を行うことが明記されました。
 それまでの段階保険料率の仕組みの下での財政再計算とは異なり、保険料の上限が固定されている仕組みの下で、約100年先までを見通して、制度の持続可能性は確保されているか、マクロ経済スライドによる調整はいつまで続ける必要があるかといったことを精緻に検証する、言わば5年ごとの定期健康診断とも言うべきものでございます。
とはいえ、遠い先を見通すのは、そう簡単なことではありません。
 公的年金を左右する数値的な要素は数多くあり、ほかの機関が出しているものとしては、例えば国立社会保障・人口問題研究所が行っている人口推計。
 あるいは労働政策研究・研修機構が行っている労働力需給の推計。
 内閣府が行っている中長期試算などが挙げられます。
 しかし、年金について、約100年先を見通していく上で、これだけでは足りません。
 長期間にわたる年金財政の推計を行うに当たりましては、賃金、物価、運用利回りといった多くの専門的、技術的な事項について、どのような前提を置くのが適当なのか、専門家の方々の英知を結集した御議論をいただくことが不可欠であります。
 当専門委員会の委員をお引き受けいただきました皆様方におかれましては、それぞれがお持ちの豊富な知識、経験を存分に発揮していただきまして、忌憚のない御意見を賜り、次の財政検証につなげていっていただきたいと思っております。
 何とぞよろしくお願いいたします。
 次の財政検証は、令和6年夏頃を予定しております。
 そこに向けまして、令和6年春頃までに、財政検証に必要な経済前提に関する意見をまとめていただきたいと思っております。
 本日は、まず、令和元年に行いました、前回の財政検証についての振り返りを中心に御議論いただければと思っております。
 年金制度は、ただでさえ分かりにくい、実感が湧きにくいといった声をよく耳にいたしますし、まして、経済前提専門委員会というこの委員会の性質上、どうしても専門的、技術的で分かりにくい要素があるのは確かでございますが、私ども事務局としても、できるだけ分かりやすい説明を心がけていきたいと思っております。
 そして、財政検証の先にある、次の制度改正に向けまして、多くの国民の方々の理解が得られるように、絶えざる努力をしてまいりたいと考えております。
 以上をもちまして、開会に当たりましての私からの挨拶とさせていただきます。
 何とぞよろしくお願い申し上げます。

佐藤数理課長
 その他の事務局の出席者について御紹介いたします。
 大臣官房審議官(総合政策、年金担当)の朝川でございます。

朝川審議官
 よろしくお願いいたします。

佐藤数理課長
 総務課長の岡部でございます。

岡部総務課長
 よろしくお願いします。

佐藤数理課長
 年金課長の若林でございます。

若林年金課長
 よろしくお願いいたします。

佐藤数理課長
 資金運用課長の西平でございます。

西平資金運用課長
 よろしくお願いいたします。

佐藤数理課長
 数理調整管理官の木村でございます。

木村数理調整管理官
 よろしくお願いいたします。

佐藤数理課長
 続きまして、議事の公開及びペーパーレス化の御説明と、お手元の資料の確認をさせていただきます。
 参考資料1でお配りしておりますとおり、本委員会の設置要綱に基づき、本部会及び議事録については、原則公開することといたしております。
 また、厚生労働省では、審議会等のペーパーレス化を推進しており、本日の委員会におきましても、ペーパーレスで実施しております。
 なお、傍聴される方には、あらかじめ厚生労働省ホームページでお知らせしているとおり、御自身のタブレット等の携帯端末を使用して、厚生労働省ホームページから資料をダウンロードして御覧いただくこととしております。
 次に、資料の確認をさせていただきます。
 資料は、右上に番号を付しております。
 資料1「令和元年財政検証における経済前提の設定について」。
 資料2「令和元年財政検証の経済前提等に対する諸意見等」。
 参考資料1「社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提に関する専門委員会設置要綱」。
 参考資料2「社会保障審議会関係法令・規則」。
 参考資料3「前回の経済前提専門委員会の報告書」。
 参考資料4「前回の経済前提専門委員会の報告書(参考資料集)」をお配りしております。
 それでは、議事に移らせていただきます。
 初めに、本専門委員会の委員長の選出についてです。
 参考資料1を御覧ください。
 社会保障審議会年金部会において承認いただきました、本委員会の設置要綱になりますが「3.運営等」の(1)におきまして、本委員会の委員長は、委員の中から互選により選任することとされております。
 あらかじめ各委員に御相談いたしましたところ、深尾委員に委員長をお願いするということで御了承いただいておりますので、これでよろしいでしょうか。
 
(「異議なし」と声あり)

佐藤数理課長
 ありがとうございます。
 それでは、深尾委員に委員長をお願いすることとし、これからの議事運営につきましては、深尾委員によろしくお願いいたします。
 恐れ入りますが、深尾委員、委員長席に御移動をよろしくお願いいたします。
 
(深尾委員、委員長席へ移動)

深尾委員長
 ただいま委員長にお選びいただきました、深尾です。
 委員の皆様の御協力を得ながら、円滑な議事運営に努めてまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
 それでは、カメラの方々は、これで御退室ください。
 
(カメラ退室)

深尾委員長
 それでは、議事に移らせていただきます。
 「令和元年財政検証における経済前提の設定等について」資料1及び資料2により、事務局より説明をお願いします。

佐藤数理課長
 数理課長でございます。
 私から資料1、資料2について御説明いたします。
 まず、資料1につきましては「令和元年財政検証における経済前提の設定について」であります。
 経済前提の設定方法だけでなくて、そのベースとなります公的年金の財政フレームや、その中の財政検証の位置づけ、さらに、年金財政に影響を与える要素などについてまとめております。
 資料1の2ページを御覧ください。
 現行制度における財政フレームとなります。
 現行制度の財政フレームは、平成16年の年金改正において導入されました。
 概略を申しますと、財源を固定した上で、長期的に財政が均衡する水準まで給付水準を調整するものになります。
 保険料水準につきましては段階的に引き上げて、2017年度に上限に達し、その水準で固定しております。
 国庫負担につきましては、基礎年金の3分の1から2分の1に引き上げて固定。
 積立金も活用していくことといたしました。
 一方、給付は、年金水準を緩やかに調整していって、100年にわたる長期の財政均衡を図ることができる水準で調整を終了することといたしております。この給付水準を調整する仕組みとして導入されたものがマクロ経済スライドとなります。
 3ページを御覧ください。
 「マクロ経済スライドの仕組み」となります。
 公的年金は、実質価値を保障するために、新規裁定時の年金は賃金の変動に応じまして、受給開始後の年金は、物価に応じて改定することが基本となります。
 マクロ経済スライドは、この年金の伸びを賃金、物価の伸びより抑制するものになります。
 また、平成16年改正におきまして、年金水準をはかる指標として導入されたものがモデル年金の所得代替率となります。我々は分かりやすく、物差しという説明をさせていただいております。
 所得代替率の式は、左上の式になりますが、分母に現役被保険者の平均手取り収入、分子に厚生年金の標準的な年金額、これがモデル年金額となります。こういう式となっております。つまり、現役の賃金に対する相対的な年金の水準を測る指標となります。
 所得代替率ですが、マクロ経済スライド中は、分子の伸びが、賃金よりスライド調整率分低く抑えられることになります。そうすると、分母の伸びより小さくなりまして、その結果、所得代替率は低下していくことになります。
 マクロ経済スライド調整が終了いたしますと、分母、分子とも賃金で変動することになりますので、所得代替率は一定の水準で推移することになります。左下のグラフのようなイメージとなるところであります。
 また、マクロ経済スライドには発動条件があります。これが右図の絵になります。
 名目下限と呼ばれるものでありまして、賃金、物価が伸びている場合のみ調整を発動するということで、調整によって年金額が低下しないようにする仕組みがあるところであります。
 この仕組みによりまして、平成16年改正以降、マクロ経済スライドが実際に発動されたのは3回にとどまっておりまして、当時の想定と比べ、給付水準の調整が進んでいない現状があります。
 4ページを御覧ください。
 財政検証は、平成16年改正によって導入されました。
 100年にわたる将来の年金の財政見通しを作成した上で、マクロ経済スライドにより、将来の給付水準はどの程度になるか、見通しを作成して、併せて調整の終了の是非を判断する仕組みとして導入されたものとなります。
 将来の見通しは、実績が出れば、乖離が出てくるのは避けられませんので、5年ごとに判明している人口や経済の実績を織り込んで、新たな見通しを作成することとされております。
 また、給付水準を測る指標として導入した所得代替率ですが、正確な定義は、一番下の式にあるとおりであります。
 所得代替率につきましては、50%を維持できるかどうかが注目されるわけですが、中段の枠囲みにありますが、法律の規定におきまして、次の財政検証までに50%を下回ると見込まれる場合には、給付水準の調整の終了、その他の措置を講じるとともに、給付及び負担の在り方について検討を行い、所要の措置を講じる旨が規定されております。
 ただ、足元の所得代替率は約60%でありますので、令和6年に予定されている財政検証では、次の財政検証、つまり、令和11年まで、5年以内に所得代替率が50%を下回ることは想定し難いと考えております。
 5ページを御覧ください。
 将来の見通しを作成するに当たっては、一定の前提を置く必要がありますが、財政検証で重要な前提は3つあります。
 一つが、人口の前提。
 労働力の前提。
 経済の前提となります。
 人口につきましては、社会保障・人口問題研究所の作成する将来推計人口。
 労働力につきましては、労働政策研究・研修機構の作成する労働力需給の推計を用いております。
 経済の前提につきましては、具体的には物価上昇率、賃金上昇率、運用利回りの3つとなりますが、これは本専門委員会において御議論いただいた上で、一定のシナリオに基づき、幅広く6ケース設定したところであります。
 6ページを御覧ください。
 積立金の役割を確認したものとなります。
 左図を見ていただきますと、公的年金は、世代間扶養の賦課方式を基本としているところでありますので、現役被保険者の保険料が大きい割合を占めておりまして、約7割を占めることになります。
 残りは、国庫負担が約2割で、積立金は約1割程度となります。
 100年間を平均いたしますと、このような姿となるわけですが、積立金を活用する時期を右図で確認していただきますと、2040年前後より大きくなっていることが分かります。
 2040年というのは、団塊ジュニア世代が現役を引退する時期と重なるものであります。
 その後、現役の被保険者が少なくなりまして、保険料収入が低下する中で、積立金を活用して給付水準を下支えする役割があるというものであります。つまり、積立金は、将来世代のために活用するものであります。
 また、積立金がなければ、黄色の部分の財源がなくなることになりますので、将来の給付水準がさらに低下することは避けられないことになるものであります。
 7ページを御覧ください。
 経済がどのように年金財政に影響を与えるかを示したものであります。
 公的年金は、収入、支出とも、原則として賃金水準の変化に応じて変動いたします。この性質によって、激しいインフレとか経済変動に対しても、一定の安定性をもって、その時々の賃金水準、つまり、現役世代の生活水準に応じた年金給付を可能にしているものであります。
 したがいまして、収入、支出のうち、賃金に連動しない部分が年金財政に大きな影響を与えることになります。
 具体的には2つの要素がありまして、一つは、運用収入のうち、運用利回りと賃金上昇率の乖離部分となりまして、ここが賃金に連動しない部分となります。つまり、その差である実質的な運用利回りとかスプレッドと呼ばれるものが1つ目の要素となります。
 もう一つは、年金給付に当たりますが、年金の改定は、新規裁定時は賃金となりますが、受給開始後は物価でスライドすることになりますので、賃金との乖離が生じるということであります。よって、賃金と物価の差、つまり、実質賃金が2つ目の要素となります。
 つまり、実質的な運用利回り(スプレッド)と実質賃金上昇率が年金財政へ大きな影響を与える要素となるところであります。
 8ページを御覧ください。
 物価が年金財政にどのような影響を与えるかを示したものであります。
 先ほど御説明いたしましたとおり、年金財政にとって重要なのは、実質賃金と実質的な運用利回りとなりますが、これらが変わらないといたしますと、物価上昇率は、収入、支出とも名目の水準を等しく変化させるものでありますので、基本的には年金財政に中立ということであります。
 ただし、2つ目の○に書いている部分でありますが、マクロ経済スライドには、名目下限という条件がありまして、受給開始後の年金は物価でスライドする。このため、物価上昇率が低い場合には、マクロ経済スライドによる給付水準調整が十分に発動されないことになりまして、年金財政にマイナスの影響を及ぼすことになります。
 9~11ページが、令和元年財政検証の結果の概要となります。
 9ページを御覧いただければと思います。
 給付水準調整が終了した後の所得代替率を示したものであります。
 経済前提6ケースの中で、経済成長と労働参加を仮定したケースⅠ~Ⅲにつきましては、所得代替率50%を確保しているところでありますが、経済成長と労働参加がより低調なケースにおきましては、長期的に年金財政の均衡を図るためには、所得代替率50%を下回る、そこまで調整する必要があるという結果になっております。
 10ページが、所得代替率の分母になります現役の手取り賃金と、分子のモデル年金額の推移をケースⅢの結果で示したものとなります。
 こちらは、物価で割り戻した実質額、つまり、購買力を示したものとなります。
 実質賃金1.1%を仮定しておりますので、赤の現役の賃金が上昇していることになります。
 この中で、モデル年金、緑の棒グラフを見ていただきますと、給付水準調整期間中も伸びておりまして、購買力の増加が見られるところであります。
 ただ、現役の賃金の伸びに対しては及ばないことになりますので、賃金との相対的な水準を示す所得代替率は低下していくことになります。
 しかし、基礎年金、緑の棒グラフの下の部分を見ていただきますと、調整期間中は購買力の低下が示されておりまして、基礎年金の水準の低下が課題となっているところであります。
 11ページは、より成長と労働参加の低いケースⅤ、こちらは実質賃金上昇率0.8%を仮定した試算結果となります。
 このケースでは、モデル年金でも購買力の低下が示されているところでありまして、特に基礎年金の低下が大きくなりまして、2058年度には、夫婦2人で10.2万円、1人分で5.1万円まで低下することが見込まれているところであります。
 13ページ、14ページが、前回の専門委員会で取りまとめいただいた経済前提となります。
 13ページが足元、2028年度までの前提となりまして、内閣府の中長期の経済財政に関する試算に準拠して設定しております。
 14ページが、長期、2029年度以降の経済前提となります。
 特に重要な前提が、オレンジの色塗りの部分の実質賃金と、賃金に対しての運用利回り(スプレッド)となります。
 ケースⅠ~Ⅵのそれぞれのシナリオにつきまして、幅を持ってお示ししていただいておりますが、財政検証を行うに当たっては、一定の数値を定めないと計算ができないということになりますので、その幅の中間値を用いて計算しております。その数字を括弧書きで記しているところであります。
 15ページは、前回の専門委員会の委員名簿と開催状況となります。
 16ページ以降が、前回の経済前提の設定方法となります。
 ここからは、項目ごとに、前回取りまとめいただいた報告書の記述を確認いただいた上で、必要に応じて関連資料を付する構成にしております。
 17ページを御覧ください。
 経済前提の基本的な考えについてまとめております。
 (3)におきまして、100年にわたる長期の見通しを作成する財政検証は、予測というよりも、一定のシナリオに基づく投影という性格であることに留意し、幅広く複数のシナリオを設定する必要があること。
 また、結果については、幅を持って解釈する必要があることを記しております。
 また、足元の一時的な変動にとらわれず、設定する必要があることも指摘されております。
 19ページを御覧ください。
 足元の経済前提については、内閣府試算に準拠していることが記されております。
 また、運用利回りにつきましては、内閣府試算の長期金利を基に、内外株式等の分散投資効果等を加味して設定しているところであります。
 21ページが、長期の経済前提に用いる経済モデルについての報告書の記載となりまして、そのモデルの計算式は、22ページにありますので、そちらを御覧ください。
 マクロ経済の推計の枠組みについては、コブ・ダグラス型生産関数を用いて、全て実質で計算しているところであります。すなわち、このモデルには、物価水準は出てこないことになりますので、物価については、経済モデルの外枠で別途決定することになります。
 推計におきましては、GDPと資本ストックにつきまして、足元の実績値を起点といたしまして、その成長を順に計算していく計算手法になります。
 その上で、毎年度労働生産性上昇率と利潤率は、真ん中の枠囲みの式になりますが、この式によって計算することになります。
 労働生産性上昇率は、TFP上昇率に、資本装備率の上昇の寄与を加えて計算されることになりますし、利潤率は、資本ストックに対する資本分配の比率から、資本減耗率を控除して計算することになります。
 こうやって経済モデルで計算した上で、実質賃金上昇率と実質運用利回りがどのように計算されるかというのが、下2つの枠囲みとなります。
 いずれも、まず、対CPIで見た実質で計算することになります。
 その上で、対賃金の運用利回りにつきましては、ここで計算された実質運用利回りと実質賃金上昇率の差によって設定されることになります。
 実質賃金上昇率につきましては、労働生産性上昇率をベースにして、GDPデフレーターとCPIの差、及び被保険者の労働時間の変化を加味して設定しております。
 ここで、経済前提を設定する賃金上昇率について、どのような性質のものか、御確認いただきたいと思いますので、注書きを御覧いただきたいと思います。
 経済前提の賃金上昇率につきましては、性、年齢、適用区分、適用区分というのは、一般、短時間別になります。これらの構成割合の変化の影響を除去したベースアップに相当するものとして設定されております。
 財政検証におきましては、これらの構成割合の変化については、別集団で計算して、人数の変化を織り込むことによって、別途織り込んでいることになります。
 続いて、実質運用利回りの設定になりますが、こちらはGPIFの実質運用利回りの実績をベースに、利潤率の過去と将来を比較した変化率を乗じることによって設定しております。
 GPIFの実績につきましては、10年間の移動平均の変動の幅を踏まえて保守的に設定することになっております。
 また、ケースⅥについては、10年国債のフォワードレートを用いて、別の方法で設定しているところであります。
 23ページは、以上の計算を概念図、フローチャートで表したものになります。
 24ページが、ケースⅠ~Ⅵまでの設定の考え方をまとめたものになります。
 外生変数であるパラメーターの設定方法となりますが、それぞれのシナリオの内容と言えるものとなっております。
 経済モデルの要素につきましては、左から「足下の前提」。
 こちらは、内閣府試算を用いておりますが、ケースⅠ~Ⅲが「成長実現ケース」で、ケースⅣ~Ⅵが「ベースラインケース」と使い分けているところであります。
 「労働力需給の推計」につきましては、JILPTの推計を用いておりますが、ケースⅠ~Ⅲが労働参加が進むケース。
 ケースⅣ、ケースⅤが一定程度進むケース。
 ケースⅥが進まないケースとなっております。
 以下、TFP上昇率とGPIFの実質運用利回りの実績、資本分配率・資本減耗率、経済モデルの外になりますが、物価上昇率について、過去の実績や内閣府試算との整合性といったものを踏まえて、記載のとおり、仮定しているところであります。
 長期の経済前提の設定に当たっては、このシナリオをどう設定するかが重要になってくるということでありまして、本専門委員会での検討課題になるものと考えております。
 次のページ以降が、このパラメーターをどのように設定しているかを確認しているものであります。
 まずは、TFP上昇率と労働投入量となります。
 25ページが、報告書の記載となりまして、26ページを御覧いただきたいと思います。
 TFP上昇率の設定について、内閣府試算との関係を見たものとなります。
 ケースⅠ~Ⅲは、成長実現ケース。
 ケースⅣ~Ⅵは、ベースラインケースにつながるものとなっております。
 27ページを御覧いただきたいと思います。
 過去30年の実績を踏まえて、TFP上昇率をどのように設定したかを確認しているものであります。
 左図の実績の分布を見まして、ケースⅠ~Ⅵそれぞれについて、上位から20%タイル、40%タイル、続いて60、70、80、100%タイルと順に設定しているものであります。
 ケースⅥについては、100%タイルを取っておりますので、過去の実績のうち、最も低い水準で設定していることになります。
 右図が、過去の推移を表したものとなります。
 最も低い0.3は、当時の直近の値でもありました。
 この点について、前回の専門委員会でも御議論になったところでありまして、恐縮いたしますが、戻っていただいて、25ページの報告書の記載を確認していただきたいと思います。
 25ページの(5)になります。
 財政検証は、一定のシナリオに基づく投影という性格のものであることを考慮すべきという意見や、人口成長率が低いと、逆に技術進歩率が高まる可能性を指摘する意見もありまして、実績の範囲内で設定することとしたという整理がなされているところであります。
 なお、御参考までということでありますが、内閣府が公表しております直近のTFP上昇率を四半期ベースで確認いたしますと、2022年第2四半期のTFP上昇率は、0.6%まで回復しているところであります。
 28ページを御覧ください。
 労働投入量の見通しとなります。
 総労働時間を推計していることになりますが、こちらは、労働力需給推計におきます就業者数の見通し、短時間雇用者割合、平均労働時間などを基に推計しているものであります。
 将来につきましては、現役世代の人口減少に伴いまして、労働参加が進むケースであっても、大きく減少する見通しとなっております。
 続いて、運用利回りの設定になります。
 29ページを御覧ください。
 まず、ケースⅠ~Ⅴの運用利回りの設定についてとなります。
 真ん中の枠囲みにあるとおり、GPIFの実績を基礎としているところであります。
 その実績が、30ページになります。
 10年移動平均を取った緑色の折れ線の範囲を基に、保守的に設定することになっておりまして、ケースⅠ~Ⅵは、上位70%タイルを取って、2.3%。
 ケースⅣ、ケースⅤは、80%タイルで1.8%を用いているところであります。
 31ページは、ケースⅥの運用利回りの設定となります。
 ケースⅥにつきましては、長期金利のイールドカーブを用いまして、そこからフォワードレートを算出して、それに内外の株式等の分散投資効果を加味することで運用利回りを設定しております。
 32ページが、その設定に用いたフォワードレートとなります。
 当時の直近、2019年1月31日のスポットレートを採用している。青色の線となります。
 続いて、資本分配率、資本減耗率、総投資率の設定となります。
 33ページが、報告書の記載となりまして、資本分配率と資本減耗率については、ケースⅠ~Ⅲについて、過去30年平均を使う。
 ケースⅣ~Ⅵについては、過去10年平均を用いることとしております。
 34ページが、資本分配率の実績の推移と設定した値となります。
 35ページは、資本減耗率の実績の推移と設定値となっていまして、御確認いただいたとおりであります。
 36ページが、総投資率の設定になります。
 総投資率については、2ケース設定しております。
 一つは、過去の総投資率の低下傾向を外挿して設定するケースとなりまして、実線が投資率の実績になりますが、赤の点線のうち、下に低下していっているほうがこの設定に当たります。
 もう一つは、貯蓄率の推移も勘案して、総貯蓄率の外挿に緩やかに遷移していくケースとなります。こちらは、赤の点線のうち、横ばいに推移しているケースに当たります。こちらは、総投資率と総貯蓄率の差が一国経済の経常収支に相当することを勘案して設定したものになります。
 この2つのケースについて、経済モデルを計算して、その範囲で経済前提を設定することになっております。
 以上のように、経済モデルのパラメーター、外生変数をセットいたしまして、実質成長率と利潤率の推計結果を示したものが次ページ以降となります。
 38~40ページが、実質経済成長率とその寄与の分解したものの推計結果となります。
 赤色のTFP上昇率は、いずれのケースもプラスで設定しておりますので、当然、プラスとなっておりますが、労働投入量、紫色の部分になりますが、こちらがいずれのケースもマイナスに寄与しているところであります。
 その結果、長期的に実質成長率を見ますと、ケースⅠ~Ⅳまでは、実質でプラス成長となっているところでありますが、ケースⅤはおおむねゼロ成長、ケースⅥはマイナス成長となっているところであります。
 41ページ、42ページは、利潤率の推計結果であります。
 41ページが、総投資率がおおむね横ばいで推移するケースの結果になります。
 ケースによって、その水準は異なりますが、一定の水準に収れんしていく結果となっております。
 42ページは、総投資率が低下していくケースの推計結果となります。
 投資率が低下していく場合は、投資が減りますので、固定資産のGDPが低下していくことになり、いわゆる資本係数になりますが、こちらが低下していく。そうすると、利潤率が逆に上昇していく結果になっているところであります。
 44ページを御覧ください。
 物価上昇率の設定についてです。
 ケースⅠは、日銀の目標の2.0%と設定いたしまして、ケースⅥは、過去30年の実績の平均値の0.5%で設定しているところであります。
 その間は、内閣府の推計値なども踏まえて、各ケースを設定しているものであります。
 46ページを御覧ください。
 経済の変動を仮定するケースとなります。
 (2)の記載になりますが、平成28年の年金改正法におきまして、年金額の改定のルールの見直しが行われました。
 このことから、国会の附帯決議におきまして、その効果を検証するため、景気循環を仮定したケースの設定を求められたものであります。
 具体的には、47ページを御覧いただきたいと思います。
 ケースⅠ~Ⅵそれぞれにおきまして、平均値は変わらないように、賃金、物価の変動を仮定したケースを設定しております。
 名目賃金の変動幅は2.9%、物価の変動幅は1.1%としておりまして、賃金の変動を大きく取ることによって、実質賃金上昇率がマイナスとなる経済を仮定しているところであります。
 48ページが、平成28年改正において、年金額の改定ルールの見直しは、どういうことが行われたのかという資料になります。
 2つほど見直しが行われております。
 まず、①になりますが、デフレ下におけるマクロ経済スライドの在り方について見直したものであります。
 デフレ下でマクロ経済スライドが十分に発動できなかった場合、発動できなかった未調整分を翌年度以降に繰り越すキャリーオーバー制を導入したものであります。
 もう一つは、②ですが、そもそもの物価・賃金スライドの在り方の見直しとなりまして、新規裁定年金の賃金スライドの徹底と呼んでおります。
 賃金が物価より低下する局面ですが、その際、従来のルールでは、物価までしか年金を下げなかったということになるのですが、賃金まで引き下げるように見直したものであります。
 これらの改正の影響を確認するためには、景気循環で賃金の変動を仮定するケースを設定しなければいけませんので、こういったケースを設定したものであります。
 資料1の最後になりますが、前回の専門委員会では、労働生産性上昇率と実質賃金上昇率の関係につきまして、バブル崩壊後の20年間の動向について分析を行って、その取扱いについて整理しているものであります。
 50ページが、報告書の記述になりますが、51ページについて、分析のまとめになりますので、そちらを御覧いただきたいと思います。
 経済前提の設定におきましては、長期的には、労働生産性の向上に伴って、実質賃金も上昇するといった考え方がベースになっております。
 しかし、近年、我が国では、生産性の向上は確認されておりますが、それが賃金の上昇に結びついていないということで、その要因を調べたものになります。
 赤字の数字に注目していただきたいと思いますが、右上の0.9%が労働者1人当たり実質成長率、付加価値、GDP成長率となります。
 一方、実質賃金上昇率は、右下のマイナス0.7%となっておりまして、1.6%の乖離があるところであります。
 しかし、名目で比較いたしますと、成長率は0.3%に対して、賃金はマイナス0.6%ということで、その差が縮小します。
 すなわち、実質化する際のデフレーターが違う。賃金はCPIに対して、GDPはGDPデフレーターといった違いがあることが一つの要因となっているところであります。
 あと、名目の差は、それでも0.9%ほどになるわけですが、その要因を見てみますと、労働分配率の低下と雇主の社会負担の増加が要因であることが確認できたところであります。
 さらに、デフレーターの差につきましては、要因を分解しますと、左下になりますが、家計消費のみを対象とするCPIに対して、GDPデフレーターは、政府消費や投資、輸出入も対象としているということで、対象範囲の違いに起因する部分と、ラスパイレス指数とパーシェ指数に代表されるような算定方法の違いに起因する部分に分けられることが確認できたところであります。
 また、範囲の違いにつきましては、交易条件の悪化が大きな要因であることも確認しているところであります。
 この分析結果を基に、前回の専門委員会で整理したのが、こちらも恐縮でありますが、戻って、50ページの(4)を御覧いただきたいと思います。
 おおむね100年にわたる超長期の推計であることを踏まえますと、労働分配率の低下、雇主の社会負担の増加、交易条件の悪化といった状態の変化が将来にわたり続くと仮定することは、必ずしも適切でないと整理しているところであります。
 ただし、デフレーターの差のうち、算式の違いにより生じる部分については、将来にわたり続く可能性も考えられるため、一定程度考慮することとしたとされております。
 そのデフレーターの差は、52ページを御覧いただきたいと思います。
 こちらは、できるだけ長期の期間を取りまして、1981~2017年の37年間の平均を見ます。
 左下の図になりますが、そうすると、算定方法の違いは0.4%となっております。
 さらに、アメリカ、カナダの年金財政の見通しの経済前提の設定を調べてみますと、アメリカ、カナダとも同様に設定しているわけですが、デフレーターの差はアメリカが0.4%、カナダが0.0%としていることから、幅を持って0.4~0.0としたところであります。
 結果として、財政検証に用いた数字としては、中間値を用いることになりますので、0.2%ほど考慮していることになります。
 デフレーターの差を勘案したのは、前回が初めてということでして、前々回との変更はあまり大きくならないような設定になっておりますが、今回、どのようにするかは、再度御検討いただければと思っております。
 以上が、前回の経済前提の設定になります。
 続きまして、資料2についても御説明させていただきます。
 こちらは、令和元年財政検証の公表後、経済前提に関して、国会や審議会からいただいた意見をまとめたものであります。
 2ページを御覧ください。
 前回の財政検証を受けて、令和2年に年金法の改正が行われましたが、その国会審議におきまして、経済前提についても御議論となりまして、参議院の附帯決議となったものであります。
 まず、コロナの影響につきまして、社会経済への長期的な影響について検討を行い、その結果を踏まえて、財政検証を実施することが求められております。
 さらに、全要素生産性上昇率や実質賃金上昇率につきまして、足元の状況を踏まえ、現実的かつ多様な経済前提を設定するよう求められているところであります。
 当時の足元の状況が低い水準であったことを踏まえますと、実質賃金上昇率について、より低い水準の設定を求められていると理解しているところであります。
 3ページを御覧ください。
 令和2年改正の国会審議における御指摘となります。
 3ページは、主に全要素生産性や実質賃金に関する御指摘となります。
 左側の「指摘事項」につきまして見ていきますと、足元10年間の内閣府の見通しは楽観的ではないかといったこと。
 また、実質賃金上昇率は、なぜ全てのケースで過去30年の平均より高いのか。
 その次が、TFP上昇率や賃金上昇率がマイナスのケースがないのはなぜか。
 続きまして、全要素生産性上昇率は低下傾向にあり、さらに低下する可能性について検討されたのかという御指摘がなされているものであります。
 これに対して、右側が国会答弁でお答えした内容や、前回報告書で示された考え方となります。
 1つ目の○が、複数のシナリオを幅広く想定した上で、結果も幅を持って解釈する必要があることや、足元の一時的な変動にとらわれず、超長期の視点に立ち、設定する必要があるといった旨をお答えしているところであります。
 2つ目の○が、専門家による客観的な議論を経て設定されていることを指摘しております。
 3つ目は、長期的な労働生産性上昇が賃金上昇に結びつくという考え方の下で設定されているということ。
 また、近年、労働分配率の低下などによって、実質賃金の上昇に結びついていないことがありますが、この変化が将来にわたり継続すると仮定することは、必ずしも適切ではないとされたことをお答えしております。
 4つ目の○は、TFP上昇率が将来低下していく可能性について、人口の成長が低いと、逆に技術進歩率が高まる可能性があるとの指摘があったことや、一定のシナリオに基づく投影という性格も考慮して、実績の範囲内で設定することとされたことといったことをお答えしているもので あります。
 4ページを御覧ください。
 国会審議の指摘事項の続きとなります。
 上段が、国債金利と運用利回りの乖離について、御指摘があったものであります。
 これに対しては、積立金の運用は、国内外の株式も含めた分散投資を行っており、実績を見ても、平均的に運用利回りは長期金利を上回っていることをお答えしているところであります。
 下段は、コロナの影響により、シナリオが崩れてきているのではないかとの御指摘でありますが、これに対しては、超長期の推計であることから、足元の一時的な変動にとらわれてはいけないことと、次の財政検証におきましては、この5年間の状況を踏まえて検証を行うこととなりますとお答えしております。
 以上が、国会での御指摘になります。
 5ページを御覧ください。
 社会保障審議会の年金数理部会において、財政検証のピアレビューを実施しております。そこでの御指摘となります。
 (3)におきまして、実質賃金上昇率について、実績との乖離が生じていることを踏まえ、さらに低水準である前提の追加も検討すべきとの指摘が行われております。
 また、GPIFの実績の用い方につきましても、基本ポートフォリオが過去から変わってきていることを踏まえまして、その相違を補正することも検討すべきとされております。
 (4)につきましては、積立金の初期値の設定方法について指摘が行われております。
 財政検証のシミュレーションの出発となります、足元の積立金は、前回の財政検証では、一時点の時価評価枠を用いたことになりますが、時価は、短期的な金融経済情勢の変動の影響を受けることから、一定期間の時価の平滑化を行うような方法を用いるべきではないかとの指摘がなされているところであります。
 積立金の平滑化につきましては、数理部会では、毎年の決算の財政状況を確認しておりますが、その際に既に導入されているものであります。経済前提の設定とは少し離れるかもしれませんが、積立金の初期値の在り方についても整理していただければと考えております。
 また、平滑化を用いる際は、経済前提の運用利回りとの関係の整理も必要になると考えております。
 6ページを御覧ください。
 年金部会における議論の整理での指摘事項となります。
 年金部会において、平成28年改正で導入されたマクロ経済スライドのキャリーオーバーの効果について、引き続き検証を行うべきと指摘されております。
 この指摘の意味するところでありますが、キャリーオーバーの効果を検証するためには、景気循環による変動を仮定する必要があるということになりますので、このためには、景気変動を仮定するケースについても設定する必要があるということであります。
 あとは、参考資料になります。平準化に関する資料などをつけております。
 説明は省略いたします。
 以上、駆け足になって、少し長くなってしまい、申し訳ありませんでしたが、私からは以上であります。

深尾委員長
 ありがとうございました。
 それでは、本日は第1回目ですので、皆様から御自由に御意見等をいただきたいと思います。
 よろしくお願いします。
 御発言の際には、どうぞ手を挙げて、マイクでお話しください。
 土居委員。

土居委員
 途中で退室いたしますものですから、先に発言させていただきたいと思います。
 御説明をどうもありがとうございました。
 2019年の財政検証の経済前提をしっかりと議論されていたことを確認するとともに、今後、改善することもいろいろとあるかなと思って、これからこの場で議論できるといいなと思っております。
 特に、この会場に来て、気がついたところがあったものですから、前もってお話ししていなかったものも含めて、意見として申し上げさせていただきたいと思います。
 1点は、これまで佐藤課長から縷々御説明があったところは、前回の財政検証は、SNAが2011年基準だったということで、それは当時の最新のものですから、当然なのですが、今は2015年基準に変わっているということで、その趨勢は、2011年基準のものとあまり大きく変わらないのか、それとも、それなりに違うところがあるのか。
 そういうところは、ここでの議論をこれから2024年の財政検証のために用いるということですので、少し確認が必要かなと思います。
 特に、釈迦に説法ですが、2015年基準は、より広範な経済活動をSNAできちんと推計できるように整えられているということですので、経済活動は、2011年基準よりかは、より広範なものをカバーしているということなのだろうと思います。
 そういうことで、私のイメージで言うと、2011年基準のときの数字よりも、いろいろなことを考えなければいけないというのですか、私がすぐに例えられる例ということで申し上げると、例えば2015年基準では、資本形成をより広範に加味することになっていると。
 そうすると、これまでの貯蓄率や投資率と言っているところで、特に投資率は、2011年基準だと、必ずしも含んでいなかったけれども、2015年基準だと広範に入っていることを前提とした投資率なり、利潤率なりの解釈をした上で、それをどのように財政検証に反映させていくのかを考えなければいけないということが、これからの議論として重要になってくるところなのかなと思いました。
 もう一点は、コロナの影響であります。
 過去20年間の平均とか、今までそのような数字の取り方をすることがなされていたことが佐藤課長の御報告であったわけですが、コロナの影響がどうしても入らざるを得ない。
 例えば2年間、3年間は少しイレギュラーな動きがあって、それもそういうものだということとして受け止めるのか、それとも、そこは何らかの調整をした上での長期的な平均を考えるのかというところの議論は、私も、今、直ちにこれが答えだというものを持ち合わせているわけではございませんが、そういう平均を取るときなどでも、コロナの影響をどのように加味するのか、加味しないのかというところの議論も、もろもろ必要になってくるのかなと思います。
 私からは、ひとまず、以上です。

深尾委員長
 よろしいですか。
 両方とも重要な論点だと思います。今後、考えていきたいと思います。
 ほかに御意見はありますか。
 滝澤委員。

滝澤委員
 御指名ありがとうございます。
 御説明ありがとうございました。
 私から、細かな点なのですが、資料1の23ページあたりからの内容に関連する部分で、幾つか質問とコメントがございます。
 前の資料には、マクロ経済に関する試算に基づく設定方法は、諸外国における経済前提の設定方法と比べても工夫されたものとなっているので、むやみに手法を変えるべきではないと書いてあるのです。
 そのような中で、大変恐縮なのですが、1点目なのですが、質問で、労働参加につきましては、JILPTの労働力需給推計を使用されているということなのですが、労働参加が進んで、経済成長があまり進まないケースは、あまり想定されていないのか。モデルから出てこない、想定されないケースなのかということが1点目に伺いたい点です。
 もう一つは、既に御説明いただいたのですが、資本分配率・減耗率外挿ということで、一定で変化しない数値を置かれていると思うのですが、一定だった場合、利潤率の変化は資本係数の変化になると思うのですが、22ページを見ると、利潤率がおおむね上がっているので、資本係数がずっと下がっていくことを想定されていると思うのですが、実際は、利潤率の変動は、資本分配率の変動による部分が割とあるのかどうかという点をお伺いしたいと思います。
 3点目は、コメントなのですが、投資率の外挿なのですが、資本ストックとかGDPの値は利潤率に影響するので、非常に重要な変数だと思いますが、例えば投資率は、経常収支といいますか、輸出入について、何らか簡単なモデルを組み立てて、モデルの中からどうするということはあまり考えられないのかどうか。
 以上、3点をお伺いできればと思います。

深尾委員長
 どうぞ。

佐藤数理課長
 御質問がありましたので、お答えできる範囲でさせていただければと思います。
 まず、JILPTの推計についてですが、こちらは、労働参加が進むケース、一定程度進むケース、進まないケースの3ケースでやっている。
 進むケースについては、年齢別の労働力率を見ますと、女性で言いますと、90%近い。30代、M字の底でも80~90%近いような水準まで参加しておりまして、高齢者も相当参加が進むという前提を置いているものであります。
 それにあっても、総労働時間が減っていくのは、現役の人口の減りがこれから非常に急激だということで、それをカバーするほど労働参加が進むというのは、JILPTの推計では行われていないところであります。
 続いて、資本分配率が利潤率にどういう影響を与えるかということですが、こちらは、どこまで適切なお答えができるかというのはあるのですが、手元で数字を確認したものはありませんが、実績を見ますと、もちろん、資本分配率の変化が利潤率に影響を与えることはあるのだろうと思います。
 このモデルにおきましては、コブ・ダグラスを仮定しているということで、分配率については一定という前提を置いてやっているものであります。
 ここら辺は、見直すほうがいいということであれば、見直す余地はもしかしたらあるのかもしれません。ここら辺は御議論いただければと考えております。
 あと、投資率の外挿について、輸出入の影響ですが、用いている経済モデルについては、御覧いただければ分かるように、輸出入については、変数に入っていないところであります。ですので、モデルの中で輸出入を直接みているわけではありませんが、投資率について、総貯蓄率の外挿に緩やかに遷移するケースを仮定しているところであります。
 これは、投資と貯蓄の差が、輸出入も含めた経常収支となっておりますので、それを勘案して、そういった設定もしているところであります。
 私からは以上です。

深尾委員長
 最後の点については、経常収支決定に関する貯蓄投資バランス論みたいな感じで、どっちかというと投資が決まって、経常収支が決まってくるという考え方に近いのかなと思います。
 ほかによろしいですか。
 どうぞ。

玉木委員
 玉木でございます。遅れて参りまして、申し訳ございませんでした。
 私からは、国民への説明の仕方に関するコメントとして、2点申し上げようかと思います。
 一つは、運用利回りの出し方の話でございます。運用利回りに関する説明は、スプレッドを重視したものを毎回繰り返してはいるのですが、世の中ではそのような説明がなかなか浸透しません。運用利回りの説明については、浸透しにくかったという事実を踏まえて、なるべくシンプルな形で、この作業を進めていくという手もあるのかなと思うところでございます。
 前回は、GPIFの運用利回りの実績と利潤率から出す方法と、イールドカーブから出す方法が併用されたわけでございますが、これは方法論として優劣がそんなにつくものではないといったことも考えますと、なるべくなら、イールドカーブを用いたものを使わないで、片方にまとめてしまうほうが分かりやすさという点でいいのかなと思います。
 GPIFの実績は、これから5年分ずつ増えてまいりますので、実績を使ったやり方といったものは、より頼りがいのあるものになっていくとも考えられます。
 また、長期金利のイールドカーブにつきましては、何しろ今、日本銀行の金融政策は、10年金利を縛るという非常にユニークといいますか、異例なものになっていることに加えて、特にここ最近は、10年金利の縛りが実際に意味を持つといいますか、日本銀行が0.25辺りで抑えることが実際に起きてきております。
 世の中、あるいは経済全体の長期金利への影響、世の中全体の長期金利を決めるいろいろな力がそのまま素直にイールドカーブに反映するとは、どこまで言えるかは分からないといったところもございます。どんどん説明が複雑になっていくといったことを考えますと、イールドカーブを用いたやり方を併用することについては、もう一回じっくりと、慎重に考えたほうがいいかと思うところでございます。
 もう一つは、物価上昇率の扱いなのですが、既に御説明がありましたとおり、このモデルは全部実物のモデルでございまして、モデルから物価上昇率が出てくるというものでは全くないわけです。
 ところが、例えば資料1の5ページに、前回の経済前提のケースⅠ~Ⅵの総括表が出ているわけですが、ここを見ると、賃金上昇率のように、モデルから出てきたものと、物価上昇率というモデルから出てこないものが同じような位置づけで出ているようにも見えてしまいます。
 そうすると、物価上昇率は、後から外挿的にぽんと乗っけたものですよという説明をしっかりと加える必要があるところでございます。
 それに対しまして、今日頂いた資料1の24ページの表を見ると、物価上昇率が右端にありまして、こういった形で、物価上昇率がモデルから離れているのですということがなるべく伝わるような書き方は、物価といったものはモデルから出してくるのではありません、後からぽんと乗っけたものなのですという説明をしやすくするものだと思いますので、24ページのような物価上昇率の書き方は賢明だなと思ったところでございます。
 以上でございます。

深尾委員長
 何かありますか。よろしいですか。
 お願いします。

徳島委員
 徳島でございます。
 ありがとうございます。
 詳細な御報告、御説明をありがとうございました。
 私からは、大きく3点ほど申し上げたいと思います。
 今、玉木委員から御説明のあったところに関するところから申し上げますと、前回、ケースⅥでイールドカーブを基にしてということをされていらっしゃいます。
 債権の運用を実際に行っていた経験から申し上げますと、イールドカーブはよく動くものだと思っています。したがいまして、ある特定の時点のイールドカーブを用いて、将来をプロジェクションするのは、なかなかメインの手法には置きにくいと考えます。
 前回はケースⅥのみとされていらっしゃいますので、採用できる手法かと思いますが、全体に使えるものではないというのが私の感触ですし、特に御指摘されていらっしゃいましたように、前回はなかった日本銀行によるイールドカーブコントロールのさなかのものについては、到底マーケットの期待を反映しているものではないと私は思っています。
 日銀の方からは反対意見を受けたことがあり、日銀もマーケットで国債を買っているので、市場を反映しているとおっしゃるのですが、私は巨大なガリバーのような存在による市場供給量のほぼ半額に達する購入ですから、市場の適切な反映ではないと思っております。
 2点目ですが、それ以外のケースで、運用利回りに関して、GPIFの実質運用利回りの実績を用いられました。これは、前回の経済前提を置かれる際に、それ以前の運用利回りの置き方とやり方を大きく変更されたところでございます。
 これも前回拝見していて、こういう手法もありかなと思ったのですが、実際にGPIFがマーケット運用を開始してから、基本ポートフォリオが大きく変化しております。
 基本ポートフォリオの変更がプラスに働いた面も、マイナスに働いた面も、どちらもあったかと思ったので、こういうやり方もあるかなと思ったのですが、特に2010年代以降の株価上昇に際して株式を増やしたことがあまりにもプラスに効き過ぎている可能性もあります。また、逆に、基本ポートフォリオを大きく変更する前、例えばリーマン・ショックの当時の基本ポートでは、国内債券の配分比率が70~80%といった高い水準でございました。その結果、リーマン・ショックに際しての株価下落の影響は小さくなっています。
 現在の各資産区分に25%ずつを配分するGPIFの基本ポートに変更したことがどのように影響があるのか、シミュレーションも行い、きっちり議論して、単純に過去の実績を使うことが本当に適切か検証をする必要があるのではないかと考えております。
 3点目でございます。
 労働参加については、滝澤委員からも御指摘がありましたが、今、私たちの実感として、労働参加が増えている中で、賃金上昇があまり見られていません。いわゆる正規・非正規の比率とか、そういった労働に関する構造変化が起きている影響が出ているものと考えます。
 例えば今日の資料でいくと、賃金上昇率は、短時間労働と正規労働の構造変化を考慮しているという注書きがされていらっしゃいますが、今後についてどう考えていくのかといったところは、労働力全体の問題と、単純な平均だけを見ているのでは、ちょっと違うのではないかとも思います。
 実質賃金がどう影響を受けているのかといったところは、特に注意して見ておかないと、国民の皆さんに納得される賃金推計ができないのではないかと危惧しておりますので、今後、議論させていただけたらと思っております。
 以上でございます。

深尾委員長
 はい。

小枝委員
 御説明いただき、ありがとうございました。
 私からは、先ほどの国会審議での主な指摘で、TFP上昇率や賃金上昇率がマイナスになるシナリオはないのかという仮定について、少しコメントしたいと思います。
 賃金上昇率の仮定は、財政検証結果を見ても、他国のものを見ても、マイナスに仮定している国はあまりないという印象を受けています。
 使われているモデルのフレームワークで考えると、実質賃金は、労働の限界生産性に依存しているので、それを分解してみると、TFPに加え資本労働比率も大事な要素となっているといえます。
 さらに、資本労働比率は、利潤率を考える上でも大事な変数となっています。
 資本と労働のそれぞれの移り変わりに加えて、その比率が上がっていくか下がっていくかは、モデルの結果を考える上で重要な情報であると思います。
 以上です。コメントです。

深尾委員長
 どうぞ。

藤澤委員
 藤澤でございます。よろしくお願いします。
 御説明をありがとうございました。
 初回で、初めての出席ですので、基本的な部分を2点教えていただきたいと思います。
 1点目が、賃金上昇率に関する質問です。
 資料2の国会審議の指摘事項やピアレビューの提言を見ていると、賃金上昇率をどうやって設定するのかという点が、今回の専門委員会の重要な論点の一つだと感じています。
 この賃金の定義を教えていただきたいのですが、資料1に幾つか賃金という言葉が出ています。
 例えば資料1の7ページのよく見かける図ですが、左側の①の「保険料収入」は「賃金上昇に応じて増加」とございます。ここでの賃金は、標準報酬月額と標準賞与の合計、いわゆる総報酬のことだと思います。
 右側の「年金給付」も、再評価の指標ですので、ここも同じ総報酬のことだと考えています。
 資料1の22ページを御覧いただくと、実質賃金上昇率の設定方法の記載がございますが、括弧書きに「被保険者1人あたり賃金」とあり、これも総報酬のことだと考えています。
 「ベースアップに相当するもの」という記載もありますが、標準報酬月額と標準賞与の合計の上昇率を設定しているのが、実質賃金上昇率のことだと理解しています。
 そうしたときに、資料1の51ページのデフレーターの調整のスライドですが、このスライドの賃金上昇率は、使っている統計は「民間給与実態統計」という記載がございますので、ここの給与だけは、総報酬とは違う概念だと考えています。
 この定義の違いが、このスライドで行った分析にどういう影響があるのか、今後確認したほうがいいのではないかと考えています。
 2点目は、シンプルな点なのですが、国会審議の指摘事項を見ていると、足元10年の内閣府の見通しは楽観的ではないかという点がございました。
 先ほど土居先生からコロナの影響をどう見るのかというお話もありましたが、足元の前提も、コロナの影響をどう見るのかも含めて、この有識者会議で議論すべきスコープなのかという点について、念のため確認させていただければと思います。
 以上、2点です。

深尾委員長
 どうぞ。

佐藤数理課長
 御質問がありましたので、お答えさせていただきたいと思います。
 まず、賃金上昇率に関してですが、7ページの賃金と、22ページの賃金上昇率については、年金制度の財政の話とか、年金の財政検証に用いる賃金でありますので、厚生年金の標準報酬を対象にしていまして、御指摘のとおり、月額と賞与を合わせた総報酬ベースのものとなります。
 51ページの民間給与実態調査も、御指摘のとおり、必ずしも厚生年金を対象にしているわけではありません。
 こちらは、比較として、上のSNAの「雇用者報酬」や「賃金・報酬」との比較を行うものでありますので、できるだけ広い範囲の賃金と考えていまして、厚生年金に適用されない短時間労働者や非適用事業所の人の賃金も含むものになっております。だから、賃金の範囲、対象となる人が異なるということであります。民間給与実態調査のほうがより広い。
 特に、民間給与実態調査では短時間を含みますので、この過去20年間の伸びで言いますと、短時間の人が増えてきているということで、こちらは賃金が低下する要因が加味されているということだと思います。
 あと、経済前提の賃金上昇率を設定するときとの関係というお話で言いますと、22ページの実質賃金上昇率の設定方法を見ていただきますと、労働生産性上昇率をベースにしておりまして、労働生産性上昇率は、マンパワーベースで計算しております。ですので、先ほど言いました短時間が増えることによって、賃金が下がっていくといった要素は調整されているということではないかと考えております。
 あと、もう一点御質問にありました足元の内閣府試算というか、足元の設定ですが、足元は内閣府試算に準拠して設定するということでありまして、内閣府試算のほうでコロナの影響とかがどう反映されるかは、こちらで御議論することではないのかもしれませんが、内閣府試算をどう使うかは、この専門委員会で御議論の対象になるのかなと思っております。
 例えば24ページを御覧いただきますと、内閣府試算は、ケースⅠ~Ⅲは「成長実現ケース」で、ケースⅣ~Ⅵは「ベースラインケース」と使い分けておりますが、この使い分けをこのままにするのかどうかとか、こういったところは本委員会での御議論の対象なのかなと考えているところであります。
 以上であります。

深尾委員長
 ほかには。
 植田委員。

植田委員
 これから次のラウンドをやっていくということで、前回の財政検証、あるいはその前も私は関与しましたので、感想めいたことを申し上げたいと思います。
 まず、使用している理論的なモデルというか、フレームワークは、資料1では23ページにあるものだと思いますが、経済学的には極めて簡単なフレームワークなので、これ自体は、ある意味否定しようがないところを使っている面があるのだと思います。
 ですから、もっと難しくすることは、いろいろな形でできると思うのですが、何度もいろいろと考えたのですが、ある程度使うことができるような形で難しくするのは非常に難しくて、同じようなフレームワークをずっと使い続けているということだと思います。
 一つは、大事だけれども、取り入れられていない大きな点としては、現実のGPIFは、国際分散投資をかなり大規模にしているわけですが、このモデルは、一国の閉鎖経済のモデルになっていまして、運用の5割ぐらいを占める外国資産の利回りをモデルの中で考えることができないような枠組みになっている点はあるかと思いますが、これはどう改善していったらいいかというのは、非常に難しいかと思います。
 フレームワークは単純ですので、結論は、いろいろなところで外生的に与えられているパラメーターであったり、変数の動きをどのように設定するかで大きく変わってくるということだと思います。それがポータブルなものかどうかは、常に何度も議論されるわけですが、決定的なそこの答えはなかなかないわけです。
 例えば今回であれば、前回の検証から3~4年たっているわけですから、その間のデータと前回の前提を若干なりとも比較しつつ、修正するべきところがあるかどうか考えてみるのは、一つの重要なポイントだと思いますが、複数の方がおっしゃいましたように、この間、御案内のように、コロナをはじめとする大きな、めったに見られないような外的なショックがありました。
 さらに、それに対応して、大規模な財政金融政策が日本だけでなく、海外でも発動されたことが、経済の動きや資産運用の利回りにも大きく影響しているということで、中長期の経済前提を置く我々の作業の中で、どれぐらい重視して外生変数やパラメーターの設定に、教訓ないし、情報として取り入れるべきかどうかは、また非常に難しい問題かなと思います。
 取りあえず、そういうあまり意味がないことを言いまして、すみません。そういう感想を持ちました。

深尾委員長
 はい。

土居委員
 2点。
 まず、玉木委員の御指摘は、非常に重要な御指摘だと思っております。
 経済学的には、古典派的二分法と一言で言い切れる物価の動きと、実質経済の動きは、それぞれが別々に動いている。
 これはもちろん、その仮定を認めるか、認めないかは、経済学的にいろいろとあるのは、皆さんに釈迦に説法ですが、古典派的二分法の世界だと理解すると、すっと入ってくるというか、そういうものだと思います。おっしゃるように、物価は外生で与えられているというか、23ページのモデルとは違うところで決めていることは、はっきり言っても、全然それ自体をおかしいと言い切れるものではないということだと思います。
 もう一つ、藤澤委員がおっしゃった点は、私も非常に触発されて、気になったので、確認しておくとよいのかなと思ったことです。
と申しますのは、22ページで、先ほど佐藤課長から御説明がありましたように、労働生産性上昇率をマンパワー単位ではかっていることは確かにいいと思うのですが、私の理解では、2019年財政検証では、総報酬がこの率で伸びるということだと認識した上で、中長期的にそれを使っているということなのだろうと思っていて、それは確かに一つの仮定としてはリーズナブルな仮定ではある。
 そこで、先ほど私も申し上げたように、これは多分にSNAの影響を受けますので、2015年基準の国民経済計算でもう一度確認しておくとよいのかなと。
 つまり、総報酬の対CPIでの実質上昇率の過去の中期的というのか、あまり30年とかと長くなると、経済構造も違うし、いわゆる正規・非正規の雇われ方の違いとかも、30年前とは大分違うので、中期的な趨勢として、総報酬の実質上昇率がどういう値であり、そして2015年基準ではかった国民経済計算における個々の労働生産性上昇率とどれぐらい近似しているのかというところをいま一度確認した上で、今後、どうするかというところを議論する素材として考えられるのではないかと思いました。
 私からは、2点コメントです。

深尾委員長
 私からも意見をよろしいですか。
 何点かあるのですが、一つは、小枝委員がおっしゃった総投資率の設定方法について、確かに、例えば資料1で利潤率がどんどん上がっていくときに、投資率が停滞して、利潤率が上がっていくという議論になっていると思うのですが、利潤率が上がれば、投資が促進されるという逆のメカニズムも当然、考えられるわけで、投資率をどう想定していくかは、重要な論点なのかなと私も思いました。
 現在、足元で日本の投資は、非常に低迷していることもありますので、これが今後、どう動いていくかは大事なことなのかなと思います。
 それから、藤澤委員がおっしゃった、賃金をどう考えるかということは、私からもう一点指摘したいのは、コブ・ダグラス型の生産関数とかで出てくるのは、限界生産になるので、企業がどれだけ負担しているかなのです。
 ですから、社会保障の企業負担分とかも込みで考える必要があって、そこのところでも、また一つ、実際に労働者が得ているものとの乖離も生じますので、そういうことも含めて、賃金の定義については、幅広く考える必要があるのかなと思います。
 それから、徳島委員がおっしゃった、非正規雇用の問題とも絡むのですが、今、内閣府でも人的資本の蓄積とか、非正規雇用において、優秀な労働者をうまく使いこなしていないという問題、それから、国会などで議論になったのですか、高齢化がTFPにどういう影響を及ぼすかという問題は、言わば人的資本の問題と全てつながる問題でして、それが今、賃金があまり上がらないことと密接に関係しているわけです。
 そういうところは、海外の研究で言うと、ジョルゲンソンとかグリリカスがやってきたようなヒューマンキャピタルの蓄積という視点をさすがに考えないといけない。
 例えば私がやっているJIPデータベースだと、日本で初めてというか、2015年以降ぐらい、労働の質と呼んでいますが、ヒューマンキャピタル、1人当たりの人的資本の上昇が止まった、または低下しているようなことが観測されていますので、その辺りの労働の質の問題、人的資本の問題をどう考えるかも、仕事が多くなりすぎる危険があって、内閣府等とも協力して考えていく必要があるのかと思いますが、可能性としては、課題としてはあるのかなと思いました。
 最後に、事務局からも御説明があった、CPIの上昇率とGDPデフレーターの差については、今、足元でも交易条件が非常に悪化して、CPIが上昇する一方で、GDPデフレーターがほとんど上がらないことが起きていると思うのですが、この辺りのことを中長期的にどう考えるかというのも大事なことなのかなと思います。
 私からは以上です。
 ほかには。
 オンラインで権丈先生、武田先生、いかがですか。
 権丈先生、お願いします。
 ごめんなさい。では、武田委員、お願いします。

武田委員
 聞こえておりますでしょうか。

佐藤数理課長
 聞こえております。

武田委員
 改めまして、三菱総合研究所の武田と申します。
 今回、初めての委員会の開催ということで、どうぞよろしくお願いいたします。
 私は、前回、前々回と参加させていただいており、その際にも、様々検討してまいりましたが、本日、皆様からの御意見を伺いますと、新たな御指摘もございますし、この間の経済状況やコロナという状況を考えましても、また新たに考えなければいけないことが生じておりますので、そうした視点で参加したいと思います。
 その上で、私が重要と考えます問題意識について、そ2点申し上げます。1点目は、既にお話がございましたように、17ページにある前回「財政検証に用いる経済前提の基本的な考え方」についてです。
 今回も、この経済前提の基本的な考え方をベースとしてスタートするという認識でおりますが、その認識でよろしいでしょうか。
 2点目は、先ほど藤澤委員、委員長からも御指摘がございましたが、賃金上昇率は、ピアレビューでも書かれておりますように、賃金上昇率の実績と経済前提での乖離の問題がございます。その点は今回、どう考えていくかという点です。
 また、足元では、GDPデフレーターと消費者物価の問題も、テクニカルではありますが、委員長が御指摘されましたように一つの論点になると考えます。
 以上です。
 本日は、オンラインでの参加で、皆様の御意見が途切れ途切れでしたので、もし重複しておりましたら、申し訳ございません。

深尾委員長
 ありがとうございました。
 権丈委員はいかがですか。

権丈委員
 私が、武田さんの質問に答える形になるのかもしれないのですが、政策の必要性があって、年金の財政検証が制度的に組み込まれているわけですね。
 政策的な必要性は、将来、給付水準がどう推移するのかを知りたいと。保険料もある程度固定している。この制度の中で、給付水準がどうなるのかを知りたい。
 だから、投影という形で、資料1の17ページにあるような形で、幾つかの条件を設定していきながら投影を行い、社会が目指すべき方向性といいますか、このくらいの所得代替率が欲しいというようなものとの乖離を確認していって、政策という制度要因を変えることによって、あるべき給付水準をどう達成していけばいいのかということを年金サイドから見る。これは年金の健康診断としてやらざるを得ないわけですね。
 長期的な試算に基づいてやらざるを得ないけれども、どの世界においても、30年後、40年後、50年後、100年後はどうしても分からない。どのモデルが正しいかもよく分からない。
 この会議には、前回だと、吉川先生も参加されていて、要するに、こういうサプライサイドのコブ・ダグラス型のモデルそのものにも異論はあるけれども、人口構成とかの変化を組み込むためには、この方法しかないだろうということで、この形でやらざるを得ないという話をされていた。
 私も、そういう考え方ですので、コブ・ダグラス型生産関数のyとf(x)も、因果関係は本当に右側を原因とし、左をその結果として読んでいいのかというところも含めて、これは仮置きのモデルとしてやっていって、我々が知りたいのは、所得代替率がこの制度の下だとどうなるのかということになっていくと思います。
 そういう意味では、資料1の7ページが、この会議の中で極めて重要になっていき、我々が議論している、どんな経済前提が所得代替率にどんな影響を与えるのかということを考えながら、経済前提を設定して投影をせざるを得ない。しかし、多くの人たちが予測を求めます。これは人間の仕方がない部分です。
 けれども、資料1の17ページにあるような形で、基本的な考え方として、我々は、予測は難しいから、1回限りではなくて、5年に1回見直していく投影と呼ぶものをやっている。
 その中で、制度改革にどうつなげていって、所得代替率を望ましい水準でキープしていくためには、どうすればいいかということになっていくので、17ページの基本的な考え方は、基本的な考え方で、今回も踏襲せざるを得ないだろうし、その中で、私たちが意識しておかなければいけないのは、資料1にある7ページのようなところで、それぞれの経済前提がどのように所得代替率に影響を与えていくのかになる。
 そして、今回は、資料の8ページ。
 要するに、所得代替率に物価上昇率がどのように影響を与えるのかという図が加えられています。
 ただ、物価上昇率がどういう影響を与えるかというのも、制度に依存しているところがあって、マクロ経済スライドをフル適用すると、もう少しニュートラルになっていくのだけれども、そうでない制度設計をしているために、低い物価上昇率だったら所得代替率に影響を与えるということとかを勘案していきながら、我々が知りたいのは、大体次回の財政検証の後の制度改革のあり方になります。
 それに対して、プロジェクション、投影が役に立つという観点でやっておかないことには、議論が無限になっていく可能性があって、帰ってこられなくなる可能性もあるので、先ほど武田委員が質問した資料1の17ページは、今回も基本とならざるを得ないのではないかと私は思っております。
 以上になります。
 どうも。

深尾委員長
 ありがとうございました。
 前提はどういうことを考えるとか、基本的な考え方については、今後も議論するわけですね。

佐藤数理課長
 基本的な考え方も含めて、いろいろな観点から御自由に御議論いただければと考えております。
 あと、いろいろな貴重な御意見をどうもありがとうございました。
 今後も、事務方として、どこまで能力がついていくかもありますが、必要なデータとか基礎になる資料を整えて、御議論いただきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

植田委員
 さっき申し上げればよかったのですが、基本的なフレームワークは、理論的に考えると、ソローの成長モデルに非常に近いのだと思うのです。
 したがって、投資関数とかはなくて、貯蓄が恒等的に投資に等しいソローモデルそのものであれば、貯蓄率が一定である。その一定の貯蓄率と外生の労働人口の成長率、外生の全要素生産性上昇率を与えられると、実質成長率とか利潤率、賃金上昇率が決まるというフレームワークだと思うのです。
 ただし、それだけでは使えないので、貯蓄率一定をそのまま使う代わりに、ところどころ投資率のデータを外挿して使ったり、いろいろと現実化しているのですが、理論的な推論として出てくる中身としては、ソローの成長モデルが一番やっていることに近いのだと思うのです。
 すみません。技術的な話で恐縮です。

深尾委員長
 先ほど植田さんがおっしゃったように、実際にはオープンエコノミーで、資本移動があって、経常収支がゼロではないというあたりとの整合性については、仕方がないのですか。

植田委員
 そうですね。
 世界全体のモデルをつくるか、あるいは別途理論の中に投資関数をきちんと取り込むかということになると思うのです。

深尾委員長
 おっしゃるとおりだと思います。
 ほかにはよろしいですか。

権丈委員
 では、付け加えをよろしいですか。
 昔の財政試算、財政再計算と呼ばれていた時代は、過去の傾向を延ばして、外挿して、当面5年間の保険料をどのように設定すればいいかを計算するということをやっていたのですが、2000年ぐらいのときの年金の会議の中で、これから労働力人口が減っていくことを組み込んだ議論をしなければいけないのではないかという意見があった。
 そこで、年金局が考えていって、労働力をLという変数として、減っていくことを組み込むことができるモデルがあるということを2004年の財政検証においてはじめて使った形で始まってくるのがこのモデルで、昔は全然違ったわけです。
 前回は、出口さんとかは、諸外国に比べて、こんな細かい前提を置いているところはどこにもないのだから、こんなことをやらなくてもいいのではないか、グローバルスタンダートに合わせる視点がないのは残念という発言をされていた。
 つまり、年金制度としてやらなければいけない改革は、ここまで複雑にいろいろな議論をしなくても、分かるのではないかという発言をされていた意見もあって、いろいろな意見がございましたということです。
 以上になります。

深尾委員長
 ほかに、何かこれは言っておきたいという方はありますか。よろしいですか。
 では、特に追加の御意見はないみたいですので、いただいた御意見を参考にしつつ、次回以降の準備を進めていきたいと思います。
 次回以降も、活発に議論できることを期待しています。
 それでは、本日の審議を終了させていただきます。
 事務局より、何か御連絡はありますか。

佐藤数理課長
 次回以降の日程につきましては、改めて御連絡申し上げたいと思います。
 よろしくお願いいたします。

深尾委員長
 ありがとうございました。
 それでは、本日の審議は終了いたします。
 御多忙の折、お集まりいただき、ありがとうございました。