2022年10月13日 第8回「精神障害の労災認定基準に関する専門検討会」 議事録

日時

令和4年10月13日(木) 18:00~20:00

場所

中央合同庁舎5号館共用第9会議室(17階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者

参集者:五十音順、敬称略
厚生労働省:事務局

議題

  1. (1)精神障害の労災認定の基準について
  2. (2)その他

議事

議事録
○本間職業病認定対策室長補佐 定刻となりましたので、第8回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」を開催いたします。委員の皆様におかれましては大変お忙しい中、会議に御出席いただきありがとうございます。今回は座長の黒木先生以外の先生方については、オンラインでの参加となります。また中益先生と三柴先生におかれましては、遅れての御参加となります。
 はじめに、オンラインで参加される先生方へ発言の際のお願いです。マイクのミュートを解除した上で、お名前と発言があります旨の御発言を頂くか、又はメッセージで発言がありますと送信してください。その後、座長から「誰々さんお願いします」と指名がありますので、その後に御発言をお願いいたします。また大変申し訳ございませんが、通信が不安定になったりすることで発言内容が聞き取りにくい場合があることに、あらかじめ御了承をお願いいたします。
 検討会に先立ち、傍聴されている皆様にお願いがあります。携帯電話などは必ず電源を切るか、マナーモードにしてください。その他、別途配布しております留意事項をよくお読みの上、検討会開催中はこれらの事項をお守りいただいて傍聴されるようお願い申し上げます。また、傍聴されている方にも会議室に入室する前にマスクの着用をお願いしておりますので、御協力をお願いいたします。万一、留意事項に反するような行為があった場合には、この会議室から退室をお願いすることがありますので、あらかじめ御了承ください。写真撮影等はここまでとさせていただきます。以後、写真撮影等は御遠慮ください。よろしくお願いいたします。
 次に本日の資料の御確認をお願いいたします。本日の資料は、資料1、第8回における論点、資料2、論点に関する裁判例、資料3、第7回検討会の議論の概要となります。本検討会はペーパーレスでの開催とさせていただいておりますので、お手元のタブレットで資料の確認をお願いいたします。それでは、座長の黒木先生、以後の議事の進行をよろしくお願いいたします。
○黒木座長 それでは始めます。今回はまず論点1として、前回までに引き続き「業務による心理的負荷評価表」の検討を行い、ついで論点2として認定要件の3番目「業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと」という要件について議論したいと思います。それでは、事務局から資料の御説明をお願いいたします。
○西川中央職業病認定調査官 前回第7回の検討会では、業務による心理的負荷評価表に関して、心理的負荷評価表の「具体的出来事」の部分について、類型1から類型3の部分の具体的出来事の項目名、総合評価の視点、そして「強」「中」「弱」の具体例と、これに関連して労働時間の考え方について御議論いただきました。また、精神障害の認定要件の第一要件である「対象疾病を発病していたこと」についても御議論を頂いたところです。
 今回第8回の検討会では、先ほど座長の黒木先生からありましたように、その続きとして心理的負荷評価表の類型4の部分、それから認定要件の第三要件である「業務以外の心理的評価及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと」について、御議論を頂きたいと存じます。これまでの検討会と同じように、資料1が論点となります。今回は資料2が論点に関する裁判例、資料3は第7回検討会の議論の概要です。説明は割愛いたしますが、適宜御参照ください。
 それでは、資料1に沿って論点を説明いたします。資料1を御覧ください。いつものとおり1ページ目には、論点をまとめた形で記載しております。少し細かく示したものが、2ページ以降の具体的な論点のたたき台となっております。2ページ目以降に沿って説明いたします。
2ページを御覧ください。大きな論点の1つ目は、業務による心理的負荷評価表についてです。具体的出来事の検討の続きとして、類型4の具体的出来事の項目名、総合評価の視点、そして強中弱の具体例を検討いただきます。右の欄に、「別紙のたたき台で検討してはどうか」としているところで、3、4ページがたたき台となります。3、4ページは、前回第7回の検討会にお出しした資料と形は同じものとなっております。
 まず3ページですが、第5回において具体的出来事の追加、統合、修正、それと平均的な強度について御議論を頂きました。その際の御指摘、それからその際のたたき台と今回のたたき台とを比較した形で示したものです。第5回の御指摘を踏まえて、たたき台を再度修正して示しております。
 今回示しているたたき台の項目名ですが、この表の真ん中の「改正案」の下の「具体的出来事」と書いてある所に記載しているものが、新しいたたき台となります。前回と同じですが、現行の評価表からの修正点について下線を引いており、第5回との相違は、一番右の第5回の列と見比べて見ていただければと思います。
内容を説明いたします。項目20は現行と同じです。項目21は、出向を含むということを明確にするために御指摘を頂き、第5回の案に「等」を追加しており、「転勤、配置転換等があった」としております。項目22の転勤のほうは、項目21に統合しております。項目23は、担当者の減少を捉えて1人当たりの業務量が増えたということで、項目15の仕事内容、仕事量の変化に統合する形で第5回は示したところですが、御指摘があれば賜れればと考えております。
 項目24は、現行では「非正規社員であるとの理由等により、仕事上の差別、不利益取扱いを受けた」という項目名となっております。これは非正規雇用のみをここで取り立てて示すことはいかがかという御指摘もあり、第5回では理由を削った業務に関連し、不利益な処遇等を受けたという案を示したところです。これについて第5回での議論においては、何ら理由の明示がないと、かえって分かりにくいといった趣旨の御指摘を頂きました。そのため今回は、「雇用形態や国籍、性別等を理由に」という理由を追記したたたき台といたしました。もちろん「等」と記載しているとおり、ここに示した理由に限るものではありませんが、この例示により理解・当てはめがしやすくなればという趣旨での修正です。
 項目25は、昇格・昇進です。こういったものを「労働条件の変更」とは呼ばないという御指摘を頂き、「立場・地位の変更」と修正をしております。項目26は、部下が減ったことによる業務量の増加を捉えて、項目15に統合する。項目27は、早期退職制度の対象となるということが、社内における立場の変更と捉えて項目25に統合するというのが、現時点のたたき台となっております。項目28も、御指摘を踏まえて表現を修正したものです。
 こういった項目名の修正のたたき台とした上で、これに応じて次の4ページが、心理的負荷評価表のたたき台となります。現行の評価表から、変更のない部分を黒、修正点となる部分は赤で示したたたき台です。水色の括弧書きは、修正や追加等に当たって参考とした第3回の資料3に示した裁判例の番号となっております。
全体としては前回のご説明と重なることにはなりますが、総合評価の視点については、具体例のほうで検討要素となっている事項がなるべく漏れないように、追記をしております。また、他の具体的出来事と共通する総合評価の視点については、なるべく表現ぶりが統一されるように、それから統合した出来事については、統合前の総合評価の視点をできる限り網羅するようにという趣旨での修正をしております。
 さらに強中弱の具体例です。現行の評価表では、平均的強度がⅢの具体的出来事については、中や弱のものは示されていない。平均がⅠの場合は中や強の具体例が示されていないというような状況ではありますが、裁判例や非公開で開催しました第4回の検討会において見ていただいた事例、それからこれまでこの負荷表上に示されていた解説の記載などを参考に、なるべく各段階の具体例を追加するという趣旨で示しているところです。前回の類型1から3のたたき台においては、平均がⅠの場合には強の具体例を示していなかったところですが、御指摘を踏まえて今回の資料においてはそういったものについても強の具体例を示すような形として、現行にあります「解説」は落としているたたき台となっております。
 こういった具体例については、あくまで例で、それぞれの強度の上限や下限という趣旨ではありませんが、どのような場合には心理的負荷が「強い」と評価されるのか、どのような場合には「中程度」、どのような場合には「弱い」と評価されるのかといった観点も含めて御議論を頂ければと思っております。
 内容については、簡単に幾つか説明をいたします。まず項目20の「強」の具体例ですが、裁判例の内容などを踏まえて記載を修正しております。その結果、表現が重複していると思われた部分については削除をしております。項目21については、基本的には項目22の転勤の項目にあった具体例を統合した内容になっております。項目24は、現行と同じように差別や不利益取扱いに当たる、そしてその程度が著しいというようなものは「強」、軽微なもの、処遇差が小さいものは「弱」の具体例としております。また、明確化のために「強」の具体例においては、雇用形態、国籍、性別だけでなく、人種や信条といった理由を具体的に記載しているところです。もちろん、こちらの具体例のほうも項目名と同じく「等」と記載をしておりますので、理由を限定する趣旨ではありません。
 さらに実際の事例などを踏まえて、「弱」の例としては客観的には不利益と言えないもの、あるいは自宅待機を命じられたけれども他の例と比べても均衡を失するものではなく、会社の手続に瑕疵はなかったといったような例を記載しているところです。
 項目25です。「強」になる例や「中」になる例については、これまでの解説の内容から考えられるものを記載しております。また項目27の「早期退職制度の対象になった」をここに統合するということを明らかにする趣旨で、注として「早期退職制度の対象となったこと等を含む」としております。ここも「等」ということで、立場の変更の内容を限定するものではありません。例えば、雇用管理区分・人事コースといったようなものが変わったことなども、立場の変更ということで含まれるのではないかと考えているところです。
 項目28です。こちらも事例などを踏まえて、「弱」の例としては事前に説明のあった雇止め、あるいは雇用契約自体は継続しているけれども、特定の派遣先における派遣期間が終了したといった例を記載しているところです。「強」の例は裁判例を参考に記載をさせていただきました。こういった3、4ページのたたき台を全体として一括して御検討いただき、御議論を頂ければと思っております。論点1の説明は以上です。
 続いて大きな論点の2つ目です。精神障害の労災認定の3つの要件のうちの第三要件である「業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと」。この関係の論点について説明いたします。2ページに戻ります。現行認定基準の認定要件は、右欄の参考事項に示しておりますように、3点あります。ずっと御議論いただいております心理的負荷の評価表については、認定要件の2、業務による強い心理的負荷が認められるかどうかに関するものです。前回第7回では、入口の認定要件1を御検討いただきました。そして3番目の要件として、今回御議論いただく業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないことという要件があるところです。これについて医学的知見の状況などを踏まえて、現時点においても妥当なものと考えてよいかということが論点2のAの本文の部分です。この3番目の認定要件ですが、実際の運用上は第二要件を満たした場合に問題になるもので、業務による強い心理的負荷が認められる場合であっても、なお業務以外の強い心理的負荷、あるいはかなりの個体側要因、つまり御本人の重度のアルコール依存状況などの状況などがあり、これにより発病したものであると医学的に判断されるものなのかどうかといったことを検討していただくという要件です。
 業務以外の心理的負荷、又は個体側要因により発病したと医学的に判断される場合には、この要件を満たさず労災とは認められない。一方で、こういったものによって発病したとは認められない場合にはこの要件を満たすということで、既に第一要件、第二要件も満たしているという前提からすれば、業務上の精神障害と判断されるということになるところです。
 実際の労災請求事案において、この業務による強い心理的負荷が認められたにもかかわらず、この第三要件、業務以外の心理的負荷又は個体側要因により発病したとは認められないとはいえない、そういったものにより発病したというような判断となり、結論として業務外となった事案は極めて希なものとなっております。右側の参考事項欄に件数を記載しておりますが、平成23年の現行認定基準の制定後、平成24年度から直近の令和3年度まで、監督署では支給・不支給合わせて約15,000件の事案の決定を行っております。この第三要件を満たさないとして不支給とした事案、対象疾病を発病していて、かつ業務による強い心理的負荷もあったけれども、その事案の被災労働者の方に生じた出来事の全体、その方の状況の全体を見た場合に、請求のあった精神障害の発病は、業務によるものとはいえず、この業務以外の心理的負荷、又は個体側要因によるものといわざるを得ないといった形で不支給となった事例は、この10年間で8件のみです。そのうち7件については、業務以外の心理的負荷により発病したものと判断されたもので、3件は個体側要因によって発病したものと判断されたものです。ここには重複がありますので、8件中2件は業務以外の心理的負荷と個体側要因の双方が顕著で、それらにより発病したと判断されたものとなるところです。
 平成23年の検討会において、この第三要件は必要であるということと、併せてその当時においてもやはりこの要件を満たさないとして業務起因性が否定される事案はほとんどなかったということも踏まえ、この業務以外の心理的負荷や個体側要因については、基本的には請求人の方から御提出いただく申立書であるとか、あるいは御本人に精神科の受診歴がおありの場合には、主治医の先生から収集させていただくカルテなどの医証によってどういったものがあったかを把握させていただき、その方法によって顕著な事情が認められた場合に限ってその詳細を調査するという方針が示されているところです。監督署がこの点について徹底して調べたい、調べようと思っても収集できる資料には限界がありますし、請求人側の負担の軽減の観点からもこういった調査方法が示されております。実際にもそのように運用しているところです。
 さらにその上で、どうやって判断していくか、判断のやり方としても、この論点Aの下のポツに記載しておりますように、①業務以外の心理的負荷や個体側要因で、特段目立つものがなかった場合にはもちろんですが、②何がしか認められるものの、業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したことが医学的に明らかだと判断できない場合。精神科医の先生方に御検討いただき、先生方が確かにこちらのせいだと御判断されない、どちらかよく分からないというような場合には、この第三要件は満たすといった判断方法が、現行認定基準では示されているところです。この要件を満たすということであれば、第一、第二要件を満たしているということなので、支給されるということです。いうなれば、ネガティブチェックのような判断のやり方となっているわけですが、第二要件までを満たしている事案、業務による強い心理的負荷が認められる事案についての判断のやり方であることを前提に、こういったやり方が示されているところです。
 事務局としては、医学的な考え方からしても、実際に僅かではあるけれどもこういった業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したと判断されている事案があることからしても、この第三要件自体は重要なもので引き続き維持する必要があるのではないか。併せて、判断のやり方としては現在示されているように、これらにより発病したということが医学的に明らかだといえる場合にのみ業務起因性を否定する。そうでなければ、業務起因性は肯定されるというやり方も維持することが適当ではないかと考えているところではありますが、先生方に御検討を頂きたいと思っているところです。
 続いて論点2のBです。現行認定基準においては、この第三要件に関して業務以外の心理的負荷の判断方法と、それからこの個体側要因の評価についてのことをそれぞれ示しております。それに対応して論点B、論点Cを示しているところです。論点Bは、業務以外の心理的負荷の判断についてです。これについて現行認定基準においては、別表2により評価を行っているところですが、5ページにこれを示しています。5ページを御覧ください。こちらを見ていただきますと、業務以外の様々な出来事を示したものとなっており、業務による出来事と同様に、平均的な心理的負荷の強度をⅠ、Ⅱ、Ⅲで示しているものとなります。強度がⅡやⅠのものしか認められないという場合には、原則としてこういった業務以外の心理的負荷により発病したものだとは判断できないと取り扱っております。
 Ⅲのうち、心理的負荷が特に強いものがある場合や、Ⅲの出来事が複数ある場合などについては、それらの内容等を詳細に調査の上、それが発病の原因だと判断することの医学的な妥当性を慎重に検討していただくというような判断の仕方が示されている。つまり、不支給の判断は慎重に行うということが示されているところです。
 2ページに戻ります。Bの下のポツが今説明したようなやり方を示しているところです。この別表2そのものや判断のやり方については、現時点でも運用上特段の支障は生じていないところですし、これを修正するだけの医学的知見も事務局としては把握していないところです。先生方に、現在の医学的知見の状況等を踏まえて、これが現時点においても妥当と考えてよいかどうかを御議論いただければと思っております。
 また右側の欄ですが、裁判例について第3回の資料の一部抜粋したものを資料2に示しております。つまり資料2の内容は、第3回の資料の一部再掲です。ここでは、多少なりとも関連があるものを幅広に示しており、第二要件を満たしたけれども、この第三要件で判断したというようなものではなく、国が勝訴したAの9の事案については、業務による強い心理的負荷がない、第二要件を満たさないとした上で、業務以外の心理的負荷が発病に相当影響を与えた可能性があるとしているものです。また、国敗訴事案のB11からB48については、業務による強い心理的負荷がある、第二要件を満たすとした上で、業務以外の心理的負荷も裁判所で検討されてはいるが、強いものではないとか、発病に影響を与えていないといった判示がなされているものです。
 続いて論点C、個体側要因の評価についてです。個体側要因について現行の認定基準においては、Cの本文の所ですが、その有無と内容について確認する。何らか存在が確認できた場合には、それが発病の原因であると判断することの医学的な妥当性を、慎重に検討するといったこととしているところです。ここでいう個体側要因としては、精神障害の既往歴やアルコール等の依存状況等が挙げられるところですが、こういったものが調査で把握された場合には、専門医の先生、専門部会の先生方において御検討いただき、この要件について御確認いただいているところです。
 ここにも記載しておりますように、個体側要因が発病の原因であると判断すること、つまり不支給と判断することについては、慎重に行うこととしております。こちらも論点Bと同じように、このようなやり方について現在の医学的知見の状況を踏まえて妥当と考えてよいかどうか、御議論を頂ければと思っております。
 さらに最後の部分ですが、現行認定基準においては、「業務」による強い心理的負荷が認められる事案であって、「個体側要因によって発病したことが医学的に見て明らかな場合」というものについて、*の所で記載のとおり、「就業年齢前の若年期から精神障害の発病と寛解を繰り返しており、請求に係る精神障害がその一連の病態である場合」と、「重度のアルコール依存状況がある場合」等があるということを、認定基準上示しているところです。ただ、この1つ目の例示については、実際の事案を見ますと発病の有無の判断が問題になっている事案や、悪化の有無の判断が問題になっている事案と、ある程度似通っている部分もあるところです。その観点から、右側の※で示しておりますが、この具体的な例示については発病の有無や悪化等との関係も踏まえて、具体的な決定事例を踏まえて検討する必要があるのではないかというような問題提起を、事務局からさせていただきたいと思っております。
 具体的な決定事例については、個別の事案に係るものとなるところ、第1回の検討会で示しましたこの検討会の開催要綱には、4の(1)検討事項に個人情報等を含み、特定の個人の権利又は利益を害するおそれがあるときは非公開とするといった規定があります。先生方の御賛同がいただけましたら、次回の検討会を個人情報保護の観点から非公開として、この具体的な決定事例を御検討いただければと考えているところです。
いずれにしても、この個体側要因の評価方法については本日公開の場で御意見を賜りたいことと併せて、次回具体的な決定事例を御検討いただくという方針についても御指摘があれば賜りたいと考えているところです。
なお、個体側要因について検討された裁判例についても、資料2に示しております。こちらも幅広に示しており、国勝訴事案のA5やA10は、業務による強い心理的負荷がない、第二要件を満たさないとした上で、個体側要因の影響が否定できないとしているものですし、国敗訴事案B1からB50に書いてあるものについては、業務による強い心理的負荷があるとした上で、個体側要因について裁判所が検討をし、主たる原因でないとか、そもそも個体側要因として評価すべきでないといったような判事示がされているものを、幅広に示しているところです。
長くなりましたが、説明は以上です。論点1については、その全体を一括して、また論点2についてはA、B、Cそれぞれに区切って御議論を頂ければ有り難いなと思っております。それでは、御議論のほどよろしくお願いいたします。
○黒木座長 事務局から論点1、論点2に関する資料について御説明がありました。では始めに論点1について資料1の2ページのA、「具体的出来事」の類型4に関して「強」「中」「弱」と判断する具体例や総合評価の視点について、どのような内容を示すべきかについて検討します。この論点について事務局から別紙のたたき台で検討してはどうかという提案もあったところです。御意見、御質問があれば御発言をお願いいたします。丸山先生。
○丸山先生 概ね出来事についての修正、削除についてはたたき台の方向でよいかと思っているんですけど、26の部下が減ったというのを15に統合するのは、これは概ね理解ができるんですが、23の複数名担当していた業務を1人で担当するようになったという項目ですけど、これまでは少なかったかもしれないんですけど、日常の産業医をする中では、過重労働の面談であったり、結構こういうことで時間外労働が増えたりとか、休日出勤が増えたりとか、今テレワークが多いので特に1人でする業務が増えていて、そのことで心理的負荷になって精神障害を発病するという例も経験していないわけではないので、必ずしも15に統合することに反対はしないですけど、今の時代背景を考えるとこれから増えてくるように思うので、これは残してもよいのかなというふうにも思うので、検討していただきたいと思います。
○黒木座長 ありがとうございます。ただいまの御意見に関して何か事務局のほうでご意見はありますか。
○西川中央職業病認定調査官 これまでの御議論の中で、項目15と質的にそれほど変わらないというものであれば統合していくという御指摘をいただいておりますし、また一方で、項目10などもそうでしたが、質的に違うということであればやはり残しておいたほうがいいというような御意見もいただいていたところですので、いろいろと御指摘をいただきまして、内容を踏まえてまた事務局で調整してまいりたいと思っております。
○黒木座長 統合するということはその中に事象が含まれるということですが、しかし丸山先生おっしゃったこの23ですね、こういう在宅勤務とかそういうところで見えない部分とか、あるいは全体的に見ると、1人でかぶってしまうというところもあるということで、これに関してはまた事務局のほうで検討していただければというふうに思います。中野先生いかがでしょうか。
○中野先生 具体的な評価表に関しまして、非常に丁寧にまとめていただいたと思います。24の不利益取扱いについてなんですけれども、この点も差別、不利益取扱いが起こる理由について、幾つか例示をしていただくことで分かりやすくなったと思います。また具体的に理由を書き過ぎてしまうと、現場の判断を縛ることになってしまいますので、差別理由に「等」を付けて、それが例示であるということを明確にし、判断の幅を認めるというのはよいと思います。その上で「強」となる事例のところで、雇用形態、国籍、人種、信条、性別等を理由とする不利益取扱いが挙げられていますが、この「強」の具体例に挙げられている事由については、これは特に注意をして見るべき事由、差別的取扱いに当たりうる事由だということでしょうか。心理的負荷が「強」になりやすい事由が例示されているというように捉えてよろしいでしょうかということを、確認させてください。
○黒木座長 ありがとうございます。これについてはいかがでしょうか。
○西川中央職業病認定調査官 御指摘につきまして、これは程度の問題と理由の問題とそれぞれあるところで、基本的には程度が著しいものが「強」の具体例であり、程度が軽微なものが「弱」の具体例というところではありますが、この程度を判断するにあたっても、理由との関係は非常に重要であるというふうには思っておりますので、今、中野先生の御指摘がありましたとおり、この「強」になるような例に挙げられているような理由によって、異なる取扱いがされている場合にはそれが差別に当たるものではないのかということについて、特に注意して検討していくということが必要であるのではないかと考えているところです。
○黒木座長 いかがでしょうか。よろしいですか。
○中野先生 はい、ありがとうございます。
○黒木座長 品田先生何か御意見ございますか。
○品田先生 まず先ほどの丸山先生の御意見ですが、御意見は分かるんですが全体としてかなりスリム化しているという状況の中において、複数名で担当していたことを1人でやったということで「強」となる例というのは、ほとんどないかなという気もしますし、仕事内容、仕事量も変化というところの「中」の例として、どこかに入れるということで帰着させるという方法があるんではないかという気がします。
 その他の点で細かいことなんですけども、3点ちょっと気付いたことを言わせていただきたいと思います。まずたたき台を見ていただきますと、先ほどちょっと説明にもありました24の「弱」の例の中で、1番下のところ、不正行為等の疑いのあるためというようなことで書かれている例なんですが、これはちょっとこの差別を理由とする不利益という中に入れるにはやや奇妙な気がするので、むしろグループとしては具体的出来事の5とか6のほうに集約されるべき事例かなという気がしました。
 2つ目ですけれども、25の「弱」の例の2つ目です。業績悪化にともなう早期退職うんぬんということですが、これも立場や地位の変更の話というよりは、退職の話というように受けとめるべき内容かと思いますので、そういう意味ではこの例を入れるとすれば20のほうに入れて、例えば業績悪化等の理由から早期退職制度の対象となり、個人面談等が行われたというような形の中で、位置付けたほうが分かりやすいのではないかなという気がします。
 それからもう1点、これは議論があるところかもしれないんですが、例えば25の「中」のところ、さらには28の「強」のところの表記の中に、例えば26の「中」では、真ん中の辺りですね、昇進後の職責を果した等というような言い方になってますが、これ、いわゆる結果から見た表記になっているんですね。28も実際に契約が更新されなかったというような言い方なんですけども、やはりそのこうした結果を評価するような表記は望ましくないんではないかという気がします。それは発病の時期との関係も出てきますので、例えば25のほうは、昇進後の職責は困難なものとは言えなかったというような形にするとか、28も契約が更新されなかったというところは結果の表記なのでいらないとするというような形にしたほうがいいような気がします。もちろん現実には結果を評価するということが有り得るんですけども、少なくとも当該具体的な出来事の表記が、地位の変更があったとか、雇用契約の期間満了が迫ったということでありますので、具体例において結果を表記するのは望ましくないと思うという意見です。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。4点ほど品田先生から御意見をいただきました。この点に関しては先生方、いかがでしょうか。まず、1点目の丸山先生の御意見に関して、これは残さないで統合したほうがいいという御意見でした。23番、これに関しては先生方、御意見いかがでしょうか。荒井先生、何か御意見ありますか。
○荒井先生 丸山先生の御指摘はよくあるというふうに私も思いますが、リモートワーク等々の仕事の内容の変化によって起こってくるということも理解できますが、やはり業務量についての増加に集約させて、そこは部会その他で検討して、最終的に総合的に判断していくということで集約できるのではないかと思っております。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。例えば、その1人で任されたと。それは孤立化していくというふうな観点ではいかがでしょうか。
○荒井先生 孤立化した場合には上司のサポート、上司の支援とか、上司にどういうふうに連絡したかとかいう、対人関係上の問題もここには当然発生してまいりますし、あるいは組織のその状況に対する判断がどうなったかということも、判断の要点になってくるかと思います。
○黒木座長 丸山先生、いかがでしょうか。
○丸山先生 仕事がどんどん高度化していって、いろいろなITのツールもかなり個別に違うものを使っていたりとか、結構難しくなっていますね。その上司といえどもサポートがなかなか入りにくいということがあって、この現在の改正から、これまではそんなになかったかもしれませんけど、今後は結構そういうことが増えてくると思っているのは、さっきも言いましたけど、日常の過重労働の面談で、そういうことですごく時間が長くなっている。それが結構あるのですね。そういうことで精神障害の発病は大いにあり得ることです。確かに集約化していくことも大事なのですけど、この今の時代の背景というか、そういうものを象徴するような項目は、やはりそれはしっかり捉えているという意味合いでも残しておくのも必要かと思っています。もちろん、こちらは絶対に残したほうがいいという、そこまでの拘りはありませんけど、議論しておく必要があると思って、意見を述べました。
○黒木座長 ありがとうございます。田中先生、いかがでしょう。
○田中先生 そうですね、1人で担当するようになったというところで結構状況が、これは限定されるかなと。サポートしながら1人でやったのが、サポートはいなくたってとするのか。例えば、3人でやっていたのを2人でやるといった状況もたくさんあるわけで、これはこれで、本当によくあるパターンではありますけれども、これ一つ独立してさせるには若干範囲がどうかなという気がいたしています。他に集約をすることはできるのではないかと。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにこの件に関して御意見、児屋野室長。
○児屋野室長 すみません。先ほど品田先生に御指摘いただいた件について、事務局から若干話をさせていただきたいと思っています。品田先生がおっしゃっていただいたとおり、25、28は結果のほうから言うものではありませんということは、そのとおりかと思っておりまして、28のほうは、特に裁判例のB45のところを念頭に、品田先生にお話を頂いたものだと考えております。これまでいろいろな検討会の場での品田先生の御発言等を踏まえまして、B45には結果のことがありましたが、こちらに例示するときにはそこのほうを抜いて記載はさせていただいております。以上です。
○黒木座長 そうすると、この結果、25の果たしたというのも、その品田先生の表現に関してはいかがですか。で、構わないと。
○児屋野室長 はい、いいと思っています。
○黒木座長 では、丸山先生の御意見に関しては事務局のほうで検討していただくということにさせていただきます。それと、あと品田先生から何点か御意見がありましたけれども、不利益24番、それからあとは25番、これに関して御意見ございますか。不正行為等の対象となったと。そして自宅待機ということになった。これをこの25番ではなくて、先生、5番か6番ということは、これは責任を問われたとか、そういうことでよろしいですか。
○品田先生 そうですね。入れるならそういうことかと思いますし、取り立てて入れる必要があるかどうかからも議論してよいかと思いますが。
○黒木座長 ありがとうございます。この件に関して御意見ございますか。阿部先生、御意見ございますか。
○阿部先生 阿部です。私も、この24の項目の「弱」の3つ目の例示がほかの「弱」「中」「強」のに比べるとちょっと異質な感じがして、恐らく事務局としては、その国籍や人種差別を受けた人のような場合を想定しているのかとは思うのですけれど、あまりにもここだけが具体的すぎて、分かりづらいなというのが率直な印象としてあります。品田先生と同じような疑問を私も持ったというのが、あります。まず、この点だけ私意見させていただきました。
○黒木座長 ありがとうございます。そうすると、これは書き込むことも含めて検討してもらいたいということで、よろしいですか。
○阿部先生 はい。
○黒木座長 あるいは、品田先生がおっしゃるように5番か6番のほうに持っていくとか、これも含めて検討ということで、よろしいでしょうか。
○阿部先生 はい。
○黒木座長 この件に関して御意見ございますか。よろしいですか。
それでは、次の早期退職制度の対象ということですけれども、これも25番ではなくて、退職のほうにまとめる。退職を強要されたというところに持ってくる。確かに、ここに持ってくるほうがすっきりもするような感じもしますが、何かこれについては御意見ございますか。
○小山先生 小山ですけれども、私も、この早期退職制度の対象になったというのを、20番のほうに持っていくほうがよいかなと思っていたのですけれども。ここの25番は昇格とか昇進とかという立場、地位変更ということになりますよね。でも、早期退職の対象者というのはそういう概念から言えば、地位の変更になるのかなというところがあったので。でも、かといっても対象者になったというのを強要されたというところまでは強いものではないので、「弱」ぐらいのところに入ってきてもいいのかなと思うのですけれども。どうも早期退職者の、これは20のほうがすっきりするのじゃないかなとは思っております。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがですか。三柴先生、いかがですか。
○三柴先生 現状ではございません。品田先生のおっしゃったところに、私も賛成です。
○黒木座長 ありがとうございます。それでは、この件に関しても事務局で検討していただくということで、よろしくお願いします。
 次に、論点2ということでよろしいでしょうか。ほかにまだこの論点1に関して御意見がある先生方いらっしゃいますか。どうぞ、阿部先生。
○阿部先生 阿部です。項目24のところについて、発言したいのですけれども。雇用形態や国籍、性別等を理由に不利益な処遇を受けたというところで、雇用形態に基づく不利益取扱いと、国籍や性別、LGBTも含めてなのですけれども、これらを、理由にする不利益取扱いというのは、かなり差別というか、不利益取扱いの質が違うと思うのですけれども、ここの「弱」「中」「強」では全く同列なような形で論じられているので、その点がちょっと。例えば、「強」になる例から雇用形態の部分は除くとか、何か伝統的な差別事由に当たるものと、雇用形態というのを全く同列に扱うのは、ちょっとどうなのかなという意見があります。
○黒木座長 ありがとうございます。三柴先生。
○三柴先生 すみません。今の阿部委員の御意見についてです。私は結論的には今のままでいいのじゃないかというふうに考えます。というのは、非正規の合法化のために間接雇用や有期契約などの雇用形態の手法が取られるということで、実際受け手側からすると、ある種の社会的身分のような受け止めがあるということからすると、日本の状況を踏まえると広く差別の問題として捉えていいのかなと思うからです。もう一つは、法的な整理というよりは、心理的な負荷がどうかという議論なので、ここではこれでいいのかなと感じております。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょう、今の件に関して御意見ございますか。阿部先生、何か加えることありますか。
○阿部先生 そうですね。法的に、正確に言えば違うけども、その心理的な負荷として、非正規もそういった身分格差があるという状況を捉えれば、それでもいいかもしれないですけど。でも、何か「強」に、雇用形態があるというのはやはり何となくどうかなという気が個人的にはしますということで。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。品田先生、何か御意見ございますか。
○品田先生 特に意見はありませんが、阿部先生の御疑問はよく分かります。しかし、三柴先生の言うとおりかなという気もします。以上です。
○黒木座長 それでは、この件に関してはまた事務局のほうで検討していただくということで、よろしいでしょうか。ありがとうございます。田中先生、何か御意見ございますか。
○田中先生 今議論されたところでありますけれども、ちょっと気になったのは24番の総合的評価の視点のところで、差別というところが記されているわけですけれども、これはもう全部、何でしょうかね。先ほど阿部先生のお話ともつながりますけれども、雇用形態においても別に今は希望して、兼業副業も含めて、自分で希望して非正規を選択するような時代にもなっている。その中で差別的な扱いを受けたときに、やはりそれが非常に大きな問題になるわけで、何でしょうかね、それは総合的な視点の中で差別という言葉も入れておくと、ちょっとこういった強いものを指しているという形になっていいのかなと思ったりもしているのですけれども。差別というのを消したのは、何かどんな理由だったでしょうか。
○西川中央職業病認定調査官 すみません。消したといいますか、不利益な処遇等というふうに、総合評価の視点の欄については、書き換えるたたき台とさせていただいたというところです。この項目名を「差別、不利益取扱い」から「不利益な処遇等」に変えたからということが理由となります。ただ、御指摘がありましたように、その中でも結局差別に当たるのか、不利益取扱いと言えるのか。そう言えた場合に「強」になる例になってくるということ、著しい場合にそうなってくるという場合もございます。そこをどういった形で総合評価の視点に書くのがいいかということについては、引き続き検討させていただきたいと思います。
○黒木座長 ここは、事務局のほうでまた検討していただくということにしていただきたいと思います。ほかはよろしいですか。吉川先生、何か御意見ございますか。
○吉川先生 吉川です。今の議論のところは非常に重要なところだなと思いながら聞いておりました。今の、「強」になる中で、やはりどういうキーワードが入るかというのは非常に重要かなと思っておりまして、その中で差別、人種、信条。これは、「強」の中に入れるような形で、用語が使われているとして考えると、やはり差別は「強」にしかなくて。それ「中」「弱」のところでは差別という評価にはならないというか、明らかに用語として分かるようなものが入っているということで、今の修正案でいいのではないかと思いました。
○黒木座長 ありがとうございます。それでは論点1、この件に関してはよろしいでしょうか。
 それでは、論点2に進めさせていただきます。まず、論点2として認定要件のこの3番目ですね。業務以外の心理的負荷及び固体側要因により対象疾病を発病したとは認められないという、この要件について御議論をお願いいたします。丸山先生、いかがでしょうか。
○丸山先生 いろいろなモデルをベースに、そういうふうなことが作られているので、これで問題ないと思います。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがですか。
○荒井先生 よろしいでしょうか。これは今、この現行でよいというふうに思っています。その根拠は、個体側要因あるいはその他の精神医学的な確定がまだなされていない要素がたくさんあるということが実際あると思いますし、それを基に、それをあまり強く取り上げていない今の判断基準のほうが、現時点での医学的な知見には相応しているのではないかという考えを持っています。特に、遺伝要因とか、性格傾向とかそういうものについてのエビデンスレベルがやはり高くないという、何年かたったらまた変わるかもしれませんが、現時点ではその関係的なことは言えないという現状だと、現状を反映した基準だろうと思っております。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。
品田先生、何か御意見ございますか。
○品田先生 まず、その業務外の出来事について、別表2があるわけですが。これに、新しい視点で何かないか、一生懸命考えてみたのですが、かなり全てのことが網羅されており、現行でいいかなというのが結論です。社会科学的に言うのはそこだけでありまして、現実の適用においてはほとんどがもう医学マターです。つまり、個体側の要因の程度とか、経過がどうであったかとか、業務外の出来事の発生時期とか、その継続性がどうであったかということについて、医学的な視点からまず意見を頂戴するということでしか、もう判断できなかったというような記憶があります。そういう意味においては、「医学的に明らかな場合のみ」というような形の表記は適当かなと感じております。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。中野先生、どうぞ。
○中野先生 判断の順序というか、手法についてお伺いしたいのですが、現行の認定基準では業務上の心理的負荷が「強」と判断されて、初めて業務外の心理的負荷や個体側の要因によって発病したものでないかということを判断するのですけれども、裁判例では業務上のストレスと業務外のストレスや個体側要因を全て検討した上で、総合評価として精神疾患の業務起因性を判断している例が見受けられるというか、そういうものが多いと思います。
 本日、資料2でお示ししていただいている裁判例でも、業務上のストレスと業務外のストレス、個体側要因を全て検討した上で総合評価しているかと思います。現在の認定実務の評価の手順と裁判例のような総合評価の手法の、どちらかを取ることによって精神疾患の業務起因性の認められやすさが変わる、言い換えれば労働者にとってどちらかのほうが有利にまたは不利に働くというようなことはありますでしょうか、ということをお伺いしたいと思います。
○黒木座長 ありがとうございます、よろしいですか。事務局から説明をお願いいたします。
○西川中央職業病認定調査官 今、中野先生から御質問いただいた点ですが、裁判例の書き方を見てみると、確かに先生が今御指摘されましたように業務上のストレスはこういったものがあって、業務外のストレスはこういうものであって、個体の要因はこういったものであってという、それを全て検討した上での裁判所としての判断というような形に読めるものがある、実際判決文がそのように読めるということは確かにあるかというように思っております。
 ただ、これにつきましては、必ずしも単に業務上のストレスと業務外のストレス、それから明らかな個体側要因、外に見えるような個体側要因を単純に天秤に乗せてどちらが大きいかということだけで裁判所も御判断をされている、総合評価をされているというわけではなく、これまでのこの検討会でも御議論いただきましたストレス脆弱性理論に基づきまして、外から見て明らかにならない個体側要因としての個人の脆弱性、反応性というものがあるところですので、業務上の疾病と判断するためには業務による心理的負荷、それだけを見た時に業務による心理的負荷が強い、業務による強い心理的負荷があるということが必要だということは、裁判所においてもそのように解釈した上での判断が示されているものと考えているところです。
 訴訟におきましては原告側、被告側、請求人側、国側、両方が自分が立証したい内容、請求人側のほうは業務上の疾病だというように御主張されるわけですし、我々としましては原処分で不支給としたもので争っていますから、これは業務上の疾病ではないということを立証したいということが当然背景にありますので、それに資するような資料・事実については全て裁判の場において主張して、裁判所がその全体を見て判断をするという形になるために、御指摘のような判決文の記載ぶりになっていると考えています。いずれにせよ業務による強い心理的負荷が必要であるという前提の下では、精神障害の業務起因性の認められやすさが変わるということはない、労働者にとって有利・不利はないというように考えているところです。
○黒木座長 よろしいでしょうか。
○中野先生 そうしますと、裁判では基本的に労働基準監督署で業務起因性が認められなかった事案について争われるわけですけれども、裁判所で判断が引っくり返る、業務起因性が認められる場合というのは、総合評価に拠っているかどうかといった判断の手法、判断の順序が影響しているのではなく、例えば「長時間労働があったかどうか」といった事実認定であるとか、ある具体的な出来事によってどの程度の心理的評価を受けたかという心理的負荷の強度の評価であるとか、そういった点について裁判所で異なる判断がなされる、それが分かれ目になるという理解でよろしいですか。
○西川中央職業病認定調査官 事務局としてはそのように理解しているところです。
○中野先生 分かりました、ありがとうございます。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。小山先生、何か御意見ございますか。
○小山先生 この3番目、「業務以外の」というところが原則論ですので、これは守ったほうがいいと思います。裁判例を見ておりましても、今、事務局が御説明されたように「業務上の心理的負荷がどうであるか」というのをまずきちんと評価して、その上で個体側の要因だとか業務外の要因があるとしても、それは大きな、発病にまでなるような要因ではないということをきちんと裁判例でも言っているので、そういう意味からすればこの3というのは妥当だと思いますけれども。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。中益先生、御意見ありますか。
○中益先生 中益です。現行基準の評価構造について質問させていただきたいと思います。
 現行基準は、3段階でチェックをして、2段階目の所で業務のストレスが「強」とされるもののチェックを経てから、3番目に個体要因とか業務外の要因を見るという段階選抜審査のようにもみえます。そこで伺いたいのは、これはちょっと数字に出しにくいものとは思いますけれども、精神疾患を惹起するのに必要な心理的負荷が100だとして、2段階目のチェックにおいて業務上の負荷が「強」だということは、基本的には2段階目の審査の段階では、業務による心理的負荷その100程度の強度があり、業務単体で精神疾患を発症させるような心理的負荷があるとの評価に一応はなるけれども、更に3段階に進むという場合には、個体側要因の方が業務要因よりもさらに強く、たとえば150とか、そのようなより強い影響を与えるものであったので、両者を比較して、個体側要因の方が相対的に有力な原因であって業務外となるという判断なのでしょうか。
○黒木座長 いわゆる業務による心理的負荷が「強」ということですから、これは認定基準によって「強」の出来事でなければまず駄目ということになります。この「強」の出来事があって、例えば個体側要因とか業務外の要因というところを見ていくことになるわけですけれども、配分がどうかというところは、認定の実務のところでは見えないことが多くて、実際に個体側要因があっても認定されたり、あるいは認定の請求をしたいというところで、いわゆるなかなか見えないということがあるのも事実です。これは治療をずっとしていくと、本態が何かということが後で見えてくるということは当然あるので、認定というところでやはり忘れてはいけないのは、この3つの視点を忘れてはいけない。何がどうなっているのかということを把握していくことが大事かなと思います。
○中益先生 すみません、そういう個体側の事情がないケースも当然あるかと思いますが、その場合には第2チェックまでで「強」とされれば業務上となるわけですよね。
○黒木座長 いやいや、第2までとか段階的にというよりも、この3つのものを必然的に検討しなければいけないということです。
○中益先生 ということはやはり基本的には各要素を同時に総合評価をするということなのですか。
○黒木座長 はい、総合評価です。
○中益先生 分かりました、ありがとうございます。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。三柴先生、お願いします。
○三柴先生 中野先生と中益先生にちょっと教えていただきたいのは、行政が今採っている、最終的には全部、3つを見るとしても手順を踏んでいくという手法では、裁判所と結論が変わってくる場合があるとすると、どういう場合を想定されているのか、ここだけちょっと教えていただきたいのですが。
○黒木座長 中益先生、いかがでしょうか。
○中益先生 私が気になりましたのは、第2段階を経た上で「強」となるケースについては、この段階で相当因果関係があるとの評価もありうるのではないかと思ったということです。つまり、刑法で言うと択一的競合のように、業務と業務外の要因がいずれも精神疾患を発症させるような強度を持っているケースにおいて、これを基準においてどういうように評価するのかなと思ったということです。
 実際、単体で精神疾患を発症させる強度があると評価されうるならば、業務に関して相当因果関係があるように言えそうにも思います。つまり、認定基準では、業務上の事情が「強」であるならば、ほかの事情にかかわらず、業務に関して相当因果関係を認めるだけの結果に対する寄与があったと評価できるのではないかと考えたということです。
○黒木座長 ありがとうございました。中野先生、御意見ありますか。
○中野先生 私は、三柴先生が御質問されるようなケースが想定されるのかということを、事務局にお伺いしたという感じです。裁判例ですと最初から業務上の出来事と業務外、個体側の要因を並べて比較するので、先ほど事務局の言葉にもありましたけれども、天秤のどちらが重いかを比較して、それを評価することによって行政実務よりも緩やかな判断が行われているのではないか。裁判例ではどうしても、行政の段階で業務起因性が否定されたものが争われて結論が変わり得るということになるので、総合評価することによって、緩やかな判断がなされているという可能性はないのかということをお伺いしたということです。事務局のお考えとしては、判断手法による差ではないというお答えをいただいたということです。
○黒木座長 この件に関して品田先生、お願いします。
○品田先生 正にこの問題は、先ほど私が医学的な問題だと言ったことの意味合いをもう少し理解していただいたほうがいいかと思ったのですが、先ほど小山先生が言われましたように、本来、ああいう形で、業務上の事由であったかも調べ、そしてそれにおいて「強」と考えられれば、次の段階として個体側要因等がなかったかというような形で、やはり考えていくべきです。
 これは少なくとも、先ほど中野先生が言われましたように、裁判所なんかでは両方を比較考慮をすると言いましょうか、そういう形で判断しているのではないかと思わしきことがあるのですが、しかし行政判断としては、やはり小山先生がおっしゃられたような順序できちんとやるべきだと、私は思っております。
 したがって、それが医学的判断に帰着すると言ったわけですが、どういうことかというと、個体側の要因を当初から斟しゃくしてしまうと、どうしてもその心証が形成されてしまう。つまり、この人だからこういうことが起こったのではないかというようなことで、うがった見方をしてしまう可能性があるということで、業務上の出来事については、まず客観的な評価をするべきでありまして、そしてその後に個体側の要因等を考えるということなのですが、この問題は、かなり精緻な分析が必要でありまして、多くの場合、専門科のお医者さんしか分かり得ない。
 例えば多額の借金をしているからと言ったところで、もう発病以前から借金は既にあったというように考えられるようなケースにおいては、それがどのような影響をもたらしたかというのは、その方の病態の変化とか、そういう経緯をもって判断をしていただくしかない、それはやっぱりお医者さんしかできないことなので、そういう意味で医学的な知識をもって、評価されるべきだというように申し上げたわけであります。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。確かにカルテを取り寄せて、初めてこの人の、例えば発症の要因というのが、こういうところにあったのかということが、後で分かるということもあり得ますので、実際に本人は業務上だというように言っていても、実際にあった事例で、例えば災害地に乗り込んだその記者が発病したときに、その前にカルテを見るとペットロスだったというようなこともあり得ます。だから、このいわゆる業務外の要因をどれだけ把握するかということが非常に大事ですし、我々が一番大事にしている、必要だというように思っているのは、やっぱりカルテが一番、ものを言っているというように思うことがよくあります。ほかに、御意見はありますでしょうか。
○三柴先生 私のほうから頂いたお答えについて一言、私も品田先生のような認定判断実務の御経験はないですが、品田先生のお考えと同じ考えでおりました。そうだろうなと、お察ししていたということです。結局、行政の今の判断の手順というのは、合理的で、というのも、やはり、ほとんどは業務上の過重負荷があったかどうかで決していて、そこはなるべく客観的に判断すべきでもあって、総合評価を一挙にやるか、手順を踏んでやるかの違いが出てくるとすると、まあ、中益先生がおっしゃった競合のケースに限られると思いますが、そこで引っくり返すとすると、結局のところ、医学的にこれは本人要因が強いというように明解な場合に限られてくると思うのですよね。
 結局、品田先生がおっしゃったとおりですが、法的な因果関係も結局のところ、医学的な因果関係がはっきりしない場合に、じゃあ社会常識では、あるいは価値判断ではどうすべきかという判断の手順を踏むので、結局のところ、医学的にこれはどう見ても本人要因ですと、確かにひどい目に遭ったけど、本人要因です、そこははっきりしていますということであれば、もうそれで決着が着くというのは、法律論でも同じだと思うので、結論的には、品田先生の御意見がごもっともだというように思います。以上です。
○黒木座長 ありがとうございました。精神科の先生で、御意見はありますか。
○田中先生 田中ですが、よろしいでしょうか。
○黒木座長 はい。
○田中先生 正に、手順の問題もありますが、実際の実務においては、業務要因については、いろいろ客観的なデータもたくさんある一方、業務以外要因だとか個体側要因については、かなり情報も限られていて、必然的に業務要因を主な判断要因とせざるを得ないという実態もあります。
 いただいた裁判例で見て、B50でしたかね、実際にアルコール依存症とずっと診断されていて、更に薬物の併用もしている、そういった状態の方がメンタル疾患を発症して、たまたまその前に業務上要因もあったということですが、本来、いろいろ詳しく突っ込んで調べられれば、その個体側要因の強さが少しはっきりとしてきて、医学的にも、業務要因もあるかもしれないけども、個体側要因が主かもしれないというのが、より強く評価されるケースもあり得るのじゃないかとは思うのですが、実態、運用上は、その調査というのは非常に難しいということがあって、そういうことであれば、まずはしっかりと業務要因を調べて、その上でというような順番というか、完全な天秤というのは実務上、ちょっと難しいところがあって、そういった形で手順的に判断していくというのに限るしかないのかというような感じは持って、運用しているところです。
○黒木座長 ありがとうございます。荒井先生、御意見はありますか。
○荒井先生 皆さんのおっしゃっているとおりだと思うのですが、実務的に申しますと、私たちが事案を検討しているときには、ある種のストーリーを検討いたします。この障害が、こういうことで発症したのではないかという仮説を立てまして、その中で業務要因が主であろうというものについては、監督署が十分に調査してくれていますので、それを参考にいたします。
 あと医証が出てまいりますが、医証については、相当因果について述べているものは前後関係で因果を言っていることが多くて、内容については書いていないことがほとんどです。今、黒木先生が御指摘されましたが、カルテを読みますと、なるほど、そういうことでこの障害が発生したのかということが分かる場合がありますが、それをやっておりますと、とても今、2,000件を超えている請求事案を、時間内に検討し尽くすことは難しいので、明白な「強」があった場合には相対的な、我々の臨床的な経験からこういう要因はないだろうかと思う場合には、追加調査をお願いするというようなやり方で、現在は進んでいるかと思います。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。丸山先生、何か御意見はありますか。
○丸山先生 やっぱり実務の実態ということが関係してくるかと思うのですが、その3つの要素が、かなり真実として俯瞰的に見られるのであればいいのですが、上がってくるのは見えてくる事実ですよね。そこの中で判断するということで、まあ、業務上のことは結構、調べが付きます。でも業務以外のこととか、個人、特に業務以外の出来事というのは、調査した範囲でどうかというようなことになるので、かなり限られてくるかもしれません。それはカルテを見ても、そのことは一定の限界はあると思います。一応、カルテは付いてくるので見ていますが、そんなにそこまで細かく記述されているわけではないので、難しいと思います。
 それから個人の脆弱、個人的要因ということですが、やっぱり精神障害というのは、遺伝子的には複合遺伝子ですね、一説には数十の遺伝子が絡んで発症するという背景があるというので、解明するのはそう簡単ではないのですね。もし分かってくれば内科の疾患になるかもしれませんが、今のところはやはりいろいろなこれまでの医学的な知識、それからスキル、それからいろいろな経験を踏まえて判断していくということになります。そのときに重要なのが、先ほどから私が何回か言っています、いろいろなモデルですよね。その有効性のあるモデルというのがほぼ今、分かっているわけで、それに基づいてやっていく手立てが一番、今のところ妥当かというように思います。
○黒木座長 ありがとうございます。中益先生、御意見をお願いします。
○中益先生 すみません、再度、確認をさせてください。この基準によれば、つまり同じ項目に同じように「強」が付いて、例えば時間外労働が月に150時間だいうような労働者が2人いたとして、そしていずれも同程度の同じ精神疾患になったとして、一方に個体要因があり精神的に脆弱な個体であるということになれば、またそれが発症に寄与したという評価となれば、業務認定が変わることがあるということですよね。
○黒木座長 いや、ないです。
○中益先生 ないですか。
○黒木座長 150時間の時間外労働があって、それが前提として、その後に発症しているということであれば、その脆弱性が高くてもそれは業務上ということになります。
○中益先生 繰り返しとなり恐縮ですが、同じ項目に「強」が付いて、そして同じような精神疾患を、同じ職場で例えば2人が発症したとして、しかし片方には、非常に重い精神疾患がもともとあったようなケースでは、基準によれば、業務上の判断がわかれうるのではありませんか。○黒木座長 多分、その辺は、例えば既存の精神障害があるとか、あるいは発達障害があるとか。同じ150時間の時間外労働をして、片方はその精神疾患、うつ病になった。片方も個体側要因があるけれども、やっぱりうつ病になったと、この部分に関しては、やっぱり認めるべきだと思います。
○中益先生 認めるべきかについては、そのように考えうると思うのですが、しかし基準では、第2段階で「強」が付いても、第3段階の個体側要因の評価によって業務上認定が引っくり返り得るということだと思います。したがって、先ほどの例のように、まったく同じように業務に関する事情の評価がなされ同じ項目に関して「強」と評価されても、一方により強力な個体側要因があれば、引っくり返るということではないのですか。
○黒木座長 ちょっと事務局のほうから、説明をお願いします。
○西川中央職業病認定調査官 中益先生が聞いていらっしゃるのは、単純に脆弱性があっただけということではなくて、例えば重度のアルコール依存状況があって、今回の請求疾病はうつ病であるとして、このアルコール依存状況のために、発病の直前に大量飲酒などもされていて、そのときにこの今回発病したうつ病が、この150時間のせいではなく、個体側要因のせいだと判断される場合が理論的にあり得るのかどうかということの御質問ですよね。
○黒木座長 今の件に関して、小山先生、いかがでしょうか。
○小山先生 どう説明すればいいのですかね。中益先生たちが想定していらっしゃるのは、多分、発達障害の人たちを例に取れば分かりやすいのですかね。150時間があれば発達障害の人であれ、そうでなかろうが、これはちゃんと業務上のという捉え方をしますよね。それが発達障害があるばっかりに、中益先生のご指摘は、引っくり返されるというのは、どういう意味になるのですかね。150時間がもっと短い100時間とか、そういう短い時間でもというところに持っていきたいのですか。その意味がよく分からないのですけれども。
○黒木座長 中益先生、いかがですか。
○中益先生 つまり、第2のチェックの部分で、同じような項目で「強」が付き、その結果、同じ精神疾患を発症する2人の労働者がいたとして、3つ目のチェックがある意味は、このうち一方に、例えば強度のアルコール中毒であるとかいうような事情があるときには、業務認定が分かれるということですよねと、御確認したかったということです。
○小山先生 150時間があれば、アルコール依存症の方であれ、発達障害の人であれ、業務上のという、長時間ということで認めますよね。
○中益先生 とすると、第3のチェックの意味は何なのかという。すみません、私もちょっと、うまく申し上げられてないかもしれないですが。
○黒木座長 品田先生、お願いします。
○品田先生 よろしいでしょうか。例として、150時間が特別な出来事に当たるに近いような形の水準であるから、少し混乱を生じたというのかもしれませんが、特別な出来事であれば、それは従来の基準であれば悪化といいますか、その後、著しく悪化したような場合であれば認める形になっております。中益先生の疑問でいえば、事務局も先ほど説明されたように、そういう例はあるわけです。15,000件のうち8件でしたが、基本的に業務上の負荷は「強」であるにもかかわらず、本人側の、個体側の要因が決定的になっているから、これは労災ではないという判断をされるものはもちろんあるわけです。ただ、これがまた難しいのは、悪化なのかとか、状況がどうなのかというような、もう1つの要因が重なってくるとかなり複雑なことになってくる。取りあえずそんなところでしょうか。
○中益先生 分かりました。ありがとうございます。
○黒木座長 よろしいでしょうか。この件に関して、ほかに御意見はありますか。田中先生、何かありますか。
○田中先生 中益先生がおっしゃっているように、そういう可能性がないと理論的に3を付ける意味は全くないと思いますので、それは本日のご発言のとおりだと思っていますし、ただ、先ほど申しましたように、個人要因、業務外要因を調べる理由は難しい、かつ、それを否定するためには、正に業務以外の要因が主な、明らかにかなりの主な要因であることを医学的に証明しなくてはいけないわけです。それはちょっと難しい作業になるので、可能性としては低いが、論理的、理論的にはもちろんあり得るつもりで運用していた次第です。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。理論的にはあり得るけれども、業務上の要因が大きければ業務上の可能性が高いということでよろしいですか。
○荒井先生 よろしいですか。
○黒木座長 荒井先生。
○荒井先生 今、150時間が例に出たので、そのような例では今まで、個体側要因、業務以外の要因はほとんど関係なく判定されていると思います。出来事評価が「中」が複数であるとかいう場合、業務以外の要因あるいは個体側の要因について検討して、それを比較検討して判断するときに、個体側の要因や業務以外の要因についての検討が必要になってくると考えております。ですから、「強」があったとすれば労災認定上は、基本的には業務上になると考えたのです。裁判になると、それはまた立場は違うかもしれませんが、行政上の労災認定においては、「強」があれば基本的には労災認定されることになると思います。以上です。
○田中先生 田中です。「強」ではなくて、特別な出来事である場合は、それだけでも。
○荒井先生 そうです。
○田中先生 「強」についてはやはり個人要因もちゃんと調べて、可能性を総合的に判断するわけですね。
○荒井先生 そうですね。特別な出来事はそれだけで業務上というふうに。「強」があったとして、「強」が2つあったときには、それは相対的な評価を検討して、医学的にも検討しなくてはいけないことだと思います。
○品田先生 ちょっと重要な話かと思いますので、よろしいでしょうか。
○黒木座長 どうぞ。
○品田先生 今の点なのですけれども、従来のものをこれから変えるというなら話は別ですが、従来においても特別な出来事に該当する出来事があって、精神障害が自然経過を超えて著しく悪化した場合には、それをもって業務災害と判断することになっておりますので、特別な出来事があればイコール業務上だというようなことにはなっていないと思います。また、そのために、今回、医学的に明らかであると判断できない場合、そうした特別な出来事があった場合においては、個体側要因が多少あっても、明らかにこの個体側要因が原因でなったと。今回、発病した、若しくは重症化したことが明らかでないことが多いことは言えるかもしれませんが、基本的には、枠組みとしては、個体側要因が医学的に明らかであるという場合であれば、これは認められないと確認しておく必要があろうかと思います。
○黒木座長 ありがとうございます。先生のおっしゃったように、個体側要因の確認と。田中先生、何か御意見ありますか。
○田中先生 いや、ありません。品田先生のおっしゃったように、同じように理解しているつもりです。
○黒木座長 あとは、何か御意見ありますか。ここは本当に非常に大事なところだと思います。また、判断も非常に難しい。よろしいでしょうか。それでは、この認定要件の、「業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと」。これは今までどおりと、重要な項目ということで、これを妥当なものと考えることにしたいと思います。ありがとうございます。
 それでは、次にBの「業務以外の心理的負荷について別表2により評価を行っているが、医学的知見の状況等を踏まえ、妥当なものと考えてよいか」について、御意見、御質問があれば発言をお願いします。荒井先生、いかがですか。
○荒井先生 これは今までも使ってまいりましたし、行政の継続性ということもありますし、今回は新しいデータも出てきておりませんので、心理的負荷の強度のⅠ、Ⅱ、Ⅲはこのまま維持してよろしいのではないかと思います。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。
○田中先生 よろしいでしょうか。今、おっしゃったように、今回の新しい調査で、令和2年度の調査では含まれていませんが、実際、調べても、それ以外のライフイベント調査は、最近あまり行われていないような状態だったと思います。もし丸山先生に御意見を伺って、特に新たな知見が加わっていないようであれば、このままでもいいのではないかと考えております。
○黒木座長 ありがとうございます。丸山先生、いかがでしょうか。
○丸山先生 そうですね。今、新たに大きな調査があったわけではないので、業務外はこのままでいいと思います。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがですか。吉川先生、何か御意見ありますか。
○吉川先生 先生方のおっしゃっていただいたとおりなのですが、田中先生が責任者になって、日本産業精神保健学会のほうで調査したところでは、業務上の内容、仕事上のことを聞いていて、生活のこととか個人の要因、業務以外の心理的負荷は調査を行っていないので、その意味では今ある別表2のままで運用していくのでいいと思います。
ただ、今少し、生活のスタイルとか、それから、ウエブ空間でも友達ができたりとか、いろいろな個人の生活がウエブとかデジタルトランスフォーメーションの中で非常に変わってきている状況があって、その中で友達の喪失感があったりとか、いろいろな状況があって、恐らくこの中に入ってくるだろうと思いますが、もう少し、物理的にも、空間的にも、時間的にも、人と人との関係性が変わり得る中で、今後、大きな心理的変化があるようだとしたら、その時点でまたこの心理的負荷がこのまま適用できないものがあれば、検討すればいいのではないかと思います。現在の状況では、先生方がこの別表2で判断されている中で進んで、問題がないのではないかと思います。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。それでは、業務以外の心理的負荷の別表2、これは現状どおりでお願いすることで御意見を頂きました。あと、個体側要因も先ほど御議論いただきました。今日の議論はここで終了です。まだ時間がありますが、何か御意見とかありますか。全体を通して御意見があればお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。品田先生、何か御意見ありますか。
○品田先生 是非、個別事案を検討する必要があるかと思います。本日の議論の中でも出てきたように、既往の症状を持っている方とか、発病歴のあるような方の再発、更に、一定期間寛解をしたという状況の中において、また新たな発病というようなことは度々あったような記憶があります。そういう意味で、このことについては是非、個別の事案を一つ一つ検討しながら、どういう方向性がよいかを考えていく必要があるのではないかと、切に思います。以上です。
○黒木座長 貴重な御意見、ありがとうございます。吉川先生、何か御意見ありますか。
○吉川先生 品田先生がおっしゃっていただいたこと、私も深く思っていまして、やはり個体要因の中では、どういう病名が付いて、それがどういう、先ほど、荒井先生の中でも、文脈の中でどう判断されていくのかは、疾患との関係で非常に重要だと思いますので、具体的な診断名が出てきたり、その状況が分かるような、今までの具体的な事例を先生方と少し拝見しながら、個体側要因の取扱いについて改めて、確認をするという時間があったほうがいいように思いました。
○黒木座長 ありがとうございます。それでは、ほかに何か御意見ございますか。よろしいでしょうか。中益先生、御意見ありますか。
○中益先生 ありません。ありがとうございます。
○黒木座長 それでは、本日の検討会はこれで終了とします。事務局は本日の検討内容を整理して、今後の検討会に提示できるよう、作業をお願いしたいと思います。個体側要因によって発病したと判断される場合の具体例については、発病の有無や悪化等と関連してきますので、次回、具体的な決定事項等を踏まえて、更に検討を深めることにしたいと思います。
なお、事務局から説明があったように、決定事例には個人情報を含み、特定の個人の権利、又は利益を害する恐れがありますので、次回開催は開催要項4(1)に基づき非公開とさせていただきます。日程等を含めて、事務局から何かありますか。
○本間職業病認定対策室長補佐 長時間の御議論、大変ありがとうございました。次回の検討会の日時、開催場所については、後日、改めてお知らせしますので、どうぞよろしくお願いいたします。本日はお忙しい中、大変ありがとうございました。