第3回雇用保険制度研究会 議事録

日時

令和4年7月25日(月)16:00~18:00

場所

厚生労働省 仮設第1会議室及びオンライン
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)

議事

議事内容

○尾田雇用保険課長 それでは、定刻になりましたので「第3回雇用保険制度研究会」を開催いたします。
報道陣の皆様の頭撮りはここまでとさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
本日は、御議論いただく内容を踏まえまして、職業訓練の効果分析に関する有識者として、明治大学政治経済学部准教授原ひろみ先生に臨時委員として御出席いただく予定です。原先生につきましては、16時半頃から御参加いただけると伺っております。
また、同様に、職業訓練の効果分析に関しまして、政策統括官統計・情報総務室の戸田淳仁政策企画官も出席しております。
よろしくお願いいたします。
また、事務局に異動がございましたので、御紹介させていただきます。
職業安定審議官の松本です。
○松本審議官 松本でございます。どうぞよろしくお願いします。
○尾田雇用保険課長 申し遅れましたが、私、雇用保険課長に就任いたしました尾田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、議事に移りたいと思います。本日の議題は、「求職者支援制度、教育訓練給付、休業支援金・給付金について」です。
まずは、事務局より資料1~2について御説明申し上げます。
○山口調査官 それでは、まず資料1につきまして御説明をさしあげます。
前回の雇用保険制度研究会における御意見、御指摘に関する資料をまとめたものになってございます。
まず、前回の主な御意見としておまとめいたしましたのが2ページでございます。基本手当の在り方といたしまして、佐々木先生から関連する研究について御紹介をいただいたところですけれども、この御紹介なども受けまして、少なくとも所定給付日数を延ばすとマッチングがよくなるという一貫したエビデンスはなく、失業期間が長いほど再就職後の賃金が低くなるという研究もあるので、総合的に考えると、所定給付日数を延ばす、あるいは給付額を上げることは慎重になるべきところがあるという御意見がございました。
また、2点目でございますけれども、定着率とサーチ期間に関する研究は全体的な効果を示すものですけれども、個々の求職者で見ると、様々な属性に異質性が存在しているので、この異質性を考慮した分析が必要であるという御意見がございました。こちら、資料では「取り除いた」と記載をしてございますけれども、「考慮した」に修正してほしいという御意見をいただいておりますので、後ほど、資料も差し替えたいと思っております。御了承いただければと存じます。
3点目の御意見としましては、諸外国では給付日数の定めのない失業扶助制度が失業保険制度の後に用意されていて、そういうものがあるのとないのとでは、失業給付の給付日数の考え方が変わってくるのではないかという御意見がございました。
また、4点目といたしまして、失業という事故に対する所得保障に加えて再就職の促進という2つの目的がございますけれども、その再就職の促進につきましては、雇用保険制度の本質的な目的なのか、それとも積極的雇用政策の一環としての位置づけなのか、財政面での位置づけなのかということで、その位置づけいかんということを指摘する御意見がございました。
次に3ページでございます。失業認定の在り方について何点か御意見をいただいております。
まず、失業認定に当たってハローワークに出頭してもらうこと自体は非常に重要であるという御指摘をいただいた上で、他方で、出頭が著しく困難である場合はオンラインの活用を検討すべきであるということ。例えば具体的には、市町村取次というケースに当たっては、オンラインを活用することも検討してもいいのではないかという御意見がございました。
また、職員の負担を減らす、職員の業務負担の観点からも御意見をいただきましたし、モラルハザードが起こりやすいという、失業という特性を踏まえつつ、必ずしも全員に対して対面の失業認定を行う立てつけにしないことも考えられるのではないかという御指摘。
また、諸外国の例を見ると、求職者に個別的に就職支援のための計画を策定しているということで、このような取組で再就職支援活動を可視化していくという工夫が、失業認定のオンライン化に当たって有益な意味を持つ可能性もあるのでないかという御指摘をいただいたところでございます。
次に4ページでございます。宿題をいただいていたことに関連する資料でありますけれども、日本の場合、自発的失業と非自発的失業で幾つか取扱いを変えている部分があるということですけれども、この点を諸外国を比較するということで、日本の制度の評価も適切にできるのではないかという御意見をいただきました。したがいまして、海外の制度についてまとめたものでございます。
まず、日本の場合は、被保険者期間や給付制限期間、給付日数という点におきまして、非自発・自発で区別を設けているというところでございます。
これに対して、アメリカとフランスは、基本的には自発的な離職者に対しては支給対象としないという整理でありつつも、フランスのところを御覧いただきますと、近年、職業訓練を必要とするような転職計画や起業の計画を有する自主退職者であって、これまで5年以上勤続した方に支給対象を拡大するという動きがございます。
また、イギリスとドイツにつきましては、自己都合退職の場合、一定期間支給が停止されるという仕組みがございます。日本の給付期間制限にも類似した仕組みなのかなと認識をしておるところでございます。
また、もう一点、口頭での御回答になりますけれども、ハローワークの求人で週所定労働時間の20時間未満の求人、20時間以上の求人がどれぐらいあるのかといった御質問をいただいておりました。ハローワークの求人の労働時間数ですけれども、例えばシフト勤務制というような求人もございまして、正確な労働時間数を把握することは困難ですけれども、ある一時点におけるハローワークシステムの中に入っております全有効求人数に占める雇用保険未加入の求人数を計算しましたところ、おおよそ全体の20%程度が雇用保険未加入の求人になるという計算結果でございました。
ただ、御留意いただきたいのは、雇用保険未加入ということは、週所定労働時間20時間未満というものもございますし、20時間以上だけれども、雇用期間の見込みが31日以上に満たない、31日未満であるというケースも含まれております。その点を御留意いただければと存じます。
次に、資料2について御説明をさしあげます。本日の議題であります、求職者支援制度、教育訓練給付、休業支援金・給付金について、基礎的な資料をまとめたものになってございます。
2ページを御覧いただきますと、雇用保険全体の体系の中で、今回議題といたします各制度がどこに位置づけられているのかということを御確認いただけるかと存じます。
まず、求職者支援制度でございます。4ページを御覧いただきますと、求職者支援制度が第2のセーフティネットとして位置づけられてきたことが御覧いただけるかと思います。
また、5ページを御覧いただきたいと思いますけれども、求職者支援制度の主な適用要件とか受給資格要件といったところの考え方を整理してございます。主に対象者といたしましては、雇用保険被保険者以外の方、20時間未満の働き方をされているパートの方や学生バイト、もしくはフリーランスの方というところとか、あとは、雇用保険受給資格者以外の方ということで、基本手当を受け終わった長期失業者の方といったあたりをターゲットとして考えてございます。これらの方々についてハローワークが必要と認定する場合は、無料の職業訓練を受けることができるとともに、さらに、本人収入要件や世帯収入要件を満たす場合は、月10万円の訓練受講手当が受けられるという仕組みになっております。
財政運営のところを御覧いただきますと、本人の保険料負担はない、訓練を受けられる方の本人の保険料負担はない無拠出の仕組みですけれども、被保険者であった方や被保険者になろうとする方を対象とした制度であるということで、失業給付の労使の保険料の一部、そして、国庫負担を財源として構成をされているものでございます。
少し飛ばしまして、8ページを御覧いただければと思います。就職支援の流れということで、3か月訓練の例として図示しているものがございます。求職者支援訓練につきましては、訓練受講中、原則として月に1回ハローワークの指定来所日を設けてハローワークにおいでいただいているとともに、訓練を修了してから3か月後まで就職支援を行っております。また、訓練実施期間でキャリアコンサルティングを行うことも実施しておるところでございます。
次に10ページを御覧いただければと思います。現在、この求職者支援制度につきましては、コロナ禍で様々な特例措置が講じられているところでございます。10万円の給付金につきまして、本人収入要件、世帯収入要件、出席要件の緩和といったこととか、訓練対象者を在職者に拡大する、訓練基準となる時間数、期間数につきましても、特例を設けているところでございます。こちらが令和4年度末までの時限措置となっておりまして、現在、特例を受けている方々の実態などについてアンケート調査を実施しているところでございます。
11ページを御覧いただければと思います。求職者支援制度の制度創設時からの実績数が記載されてございます。制度が創設されて間もなくは、求職者支援訓練受講者数、最大で10万人弱というところまで行っておりましたが、その後、雇用情勢がよくなるにしたがって受講者数が減ってまいりました。令和2年度ですが、コロナの影響で受講者数が少し増えておりまして、2年度、3年度と増加しているところでございます。一番上の段が訓練受講者数で、次の段が10万円の給付金の受講者数でございます。訓練受講者の約半数程度が10万円の給付金を受けているということであります。
また、直近の訓練の受講者数を御覧いただきますと、令和4年度でも、対前年同月比で増えているということで、地道に受講者数を増やしているということであります。
12ページを御覧いただきますと、受講者の就職率の数字がございます。求職者支援訓練につきましては、比較的基礎的なレベルを扱います基礎コースと、実践的な技術の養成を目指す実践コースと、2つ訓練コースがございますが、基礎コースで52.5%、実践コースで60%の就職率となっております。
それから、14ページを御覧ください。求職者支援訓練の受講者数につきまして、男女別、年齢階層別でお示しをしたグラフになっております。訓練受講者につきましては、男女で3:7という比率になっております。また、年齢階層別に見ると、20代から50代まで満遍なく受講いただいていることが確認できます。
10万円の給付金に限って見ますと、男性の比率が少し上がるという部分と、年齢階層別に見ますと、20代、30代、40代の比較的若い層の比率が高まるということであります。
15ページを御覧いただければと思います。訓練を実際どのような分野について受けているかということですけれども、全体の2割が基礎コース、8割が実践コースとなっております。また、実践コースのうち最も多いのが営業・販売・事務、次に多いのがデザイン(ウェブデザイン、フラワーデザイン)といった訓練内容になっておりまして、次に多いのが介護福祉になっております。男女別で御覧いただきますと、全体的に女性の受講が多いわけですけれども、IT分野につきましては、男性の比率のほうが高いということになっております。
それから、16ページを御覧いただければと思います。求職者支援訓練を受講されている方3万人弱のうち、約3割の方が10万円の給付金を受けておられます。一方で、10万円の給付金を受けておられる全体を分母にしたときに、その給付金は求職者支援訓練を受けている場合も公共職業訓練を受けている場合も受給することができますので、どちらの訓練を受けているかという比率を示したのが下の図であります。求職者支援訓練が6割、公共が4割といった結果になっております。
17ページを御覧ください。こちらはコロナ禍で講じております特例措置の適用者数となっております。最も適用者数が多いのは出席要件の緩和の部分でありまして、やむを得ない理由以外の欠席を認めるという部分が多くなっております。次に多いのが世帯収入要件の緩和の部分であります。
18ページにつきましては、訓練受講申込事例の求職者の声を整理したものでございます。左側に様々な属性別で区分がされておりますが、丸めて申し上げますと、受講申込につながった事例といたしましては、コロナを契機にキャリアチェンジ、ジョブチェンジを考えて訓練受講に至ったという事例であります。一方で、つながらなかった事例といたしましては、訓練を受講するよりも早期に転職をして賃金を稼ぎたいといったニーズがあったということであります。
19ページ以降ですけれども、こちらは過去のJILPTの調査結果を御紹介しております。詳細はお目通しをいただければと思いますけれども、1つは、訓練実施機関に対する調査でございまして、求職者支援制度が施行されてから1年後に実施した調査であります。対象機関としては1,376機関から回答を得たものであります。政策的インプリケーションのところを御覧いただきますと、受講者の就職実績を高めていくためには、キャリアコンサルティングの能力を高めることが重要であるという指摘がされております。また、受講者に対して、地域や業界の労働市場に関する説明や情報の提供を行うことも就職状況の改善に寄与するとされています。
次に、21ページを御覧いただければと思います。こちらは求職者支援制度の利用者に対する調査でありまして、訓練前・訓練後・追跡調査という3時点で実施しております。21ページ、「主な事実発見」を御覧いただきますと、利用者属性といたしまして、女性が7、男性が3ということで、こちらは制度ができてから1年後ぐらいの受講者を対象にしたものでありますので、現在とそこまでトレンドは変わっておりません。この中で受講者像を類型別にお示しをしておりまして、4つの分類に区分しております。1つが、親と同居する正社員経験の乏しい若者、2つ目が失業期間がやや長期にわたる独身男性、3つ目が、正社員経験が長く、生計維持だった中高年の長期失業者、4つ目が配偶者あり子ありの主婦となっております。
23ページを御覧いただきますと、政策的インプリケーションのところで、これらの類型の特徴に沿った形で訓練機会の提供を模索する可能性が指摘されております。また、基礎コースの受講者のほうがよりレベルが低い方が受講されておりますので、訓練の効果を実感しやすいといった指摘がなされております。
24ページでございます。第1回の研究会資料の再掲でありますが、雇用保険部会におきまして、教育訓練給付と求職者支援制度についてどのような指摘がなされているかということをまとめたものでございます。いずれの訓練につきましても、市場のニーズ、雇用の安定性、労働条件向上の効果といったような具体的な指標に基づき効果検証を行うべきであるという指摘とか、求職者支援制度につきましては、利用者が大幅に増加しない要因について不断に調査、検証するべきであるといった御指摘をいただいております。
次に、教育訓練給付につきまして御説明をさせていただきます。26ページを御覧いただければと思います。
まず、意義ということで整理をしております。こちらの給付につきましては、平成10年雇用保険法改正で創設されておりまして、「自ら職業に関する教育訓練を受けた場合」を保険事故と位置づけております。この改正の背景ですけれども、当時、企業の中で高度で幅広い職業能力が求められることと、また、企業における即戦力指向の高まりがある中で、労働者個々人の主体的な職業能力開発の促進が労働者に共通の雇用上の課題として認識されるに至ったということで、被保険者としての個々の労働者に共通して発生する雇用に関するリスクに対処する仕組みである失業等給付でこれに対応することは適当ということで考えられたものであります。
27ページを御覧いただければと思います。こちらは教育訓練給付の概要でございまして、種類としては、一般教育訓練給付、特定一般教育訓練給付、専門実践教育訓練給付という3つのカテゴリーに分けられます。創設経緯といたしましては、一番右の一般教育訓練給付が最初につくられ、その次に一番左の専門実践がつくられ、その後、特定一般が創設されたという経緯でございます。主たる対象者としては在職の労働者が、企業に言われたのではなくて、自分で主体的に厚生労働大臣が指定する講座を受講して勉強したという場合に、その訓練費用の一部を助成する仕組みであります。一般教育訓練給付の場合は受講費用の2割、特定一般の場合は受講費用の4割を支援するという仕組みになっておりまして、専門実践の場合は受講費用の5割をお支払いするとともに、訓練修了後1年以内に資格取得等をして就職した場合には、受講費用の2割を追加で支給するという仕組みになっております。専門実践のほうが長く時間がかかり、高度な訓練仕上がり像となるような訓練内容になっております。
28ページを御覧いただければと思います。専門実践のところですけれども、訓練期間が2年とか3年とか非常に長きにわたる中で、在職者の方であればいいのですけれども、離職者の方、特に45歳未満の弱年離職者の方はその間の生活費の不安がございます。したがいまして、基本手当日額の8割を訓練受講中に支給するという、教育訓練支援給付金という仕組みがございます。こちらは令和6年度末までの暫定措置となっております。
少し飛ばしまして31ページを御覧いただければと思います。教育訓練給付の受給者数、支給金額の推移をお示ししたものでございます。上の四角が一般教育訓練給付、下の四角が特定一般の実績となっております。一般教育訓練給付の受給者数については、平成23年度と比較いたしますと、若干減っているということでありますけれども、特定一般が、一般教育訓練給付からより資格が分かりやすいようなものを一部切り出したということがございますので、両方の受給者数を併せて御覧いただきますと、直近では横ばいないし少し増えているということで御覧いただけるかなと思います。
それから、32ページでございます。こちらは専門実践の教育訓練給付の受給者数の推移です。制度の認知度がだんだん上がってきたこともあるのか、受給者数が少しずつ増えているということでございます。
また、33ページを御覧いただきますと、専門実践の教育訓練を受けている方のうち、45歳未満の弱年離職者の方が受けておられる教育訓練支援給付金の受給者数の推移の数値が出ております。こちらも専門実践の増加と同じような傾向でございまして、右肩上がりで増加しているというものでございます。
35ページを御覧いただければと思います。令和3年度の一般教育訓練給付の受給者の属性でございます。男女別で御覧いただきますと、男性が6割、女性が4割、在職・離職の別で御覧いただきますと、在職者が8割、離職者が2割となっております。受講開始時の年齢については、20代から50代まで割と満遍なく受講いただいていると認識しております。
36ページ、37ページが、具体的にどのような訓練を受けておられるかということを整理したものでございます。36ページ、通学制の訓練内容ですけれども、最も多くなっておりますのが大型自動車第一種免許等でございます。次いでTOEIC、建築士といったあたりが多くなっております。
37ページを御覧いただきますと、通信制の訓練内容でグラフをつくっております。多いのは介護初任者研修、医療事務、社会保険労務士といったあたりになっております。
次に38ページを御覧ください。こちらは専門実践の教育訓練給付の受給者の属性でございます。こちらの場合は女性の比率のほうが高く、女性が6割、男性が4割となっております。また、在職・離職の別で見ますと、在職が7割、離職が3割となっております。受講開始時の年齢別で見ますと、30代、40代の比率が高くなっております。
39ページを御覧ください。専門実践の主な受講内容のグラフになっております。最も多いのはキャリアコンサルタントとか介護福祉士、社会福祉士、看護師といったような医療系の講座になっております。また、絶対数としては少ないのですけれども、第四次産業革命スキル習得講座といったようなIT系の講座の受講者数の伸び幅も大きくなっております。
それから、40ページを御覧いただきますと、教育訓練支援給付金の受給者の主な受講内容となっておりまして、看護師・准看護師で全体の4割を占めているという結果になっております。
41ページを御覧ください。専門実践の受講者の状況で、訓練の効果を少し測定するためにデータを整理したものでございます。在職中に専門実践を受けられた方のうち、訓練修了後に目標とする資格を取得された方の割合を調査した結果、おおむね6割となっておりました。この内訳をさらに見ていきますと、長期の訓練を受講した方ほどその資格取得割合が高くなっているということが確認されております。
42ページを御覧いただきますと、教育訓練支援給付金の受給者に限って目標資格の取得と再就職の割合を確認したものでございます。こちらはおおむね受講者の7割になっておりまして、また、訓練期間別で見たときにもそこまで差がないという状況になっておりました。
43ページを御覧いただければと思います。こちらは専門実践の効果の測定する一環ですが、専門実践を受けておられる方のうち離職者の方の動向、特に45歳未満の離職者の方の動向に着目して、離職して訓練を受けて再就職をした、その前後において賃金がどの程度増減したのかということを整理したグラフでございます。右側のグラフのほうが、転職入職者全体の動向となっておりまして、これを御覧いただきますと、離職前と離職後で賃金は変わらないと答えている方の比率が最も高く、増えたという右側の赤いゾーンの方と減ったという左側のゾーンの方は大体同程度の割合になっております。
これに対して、専門実践の教育訓練支援給付金受給者のほうで見ますと、変わらないとおっしゃっているのが2.2%となっておりまして、逆に増えたとなっているのが右側の赤いところでございます。半分弱の比率になっております。逆に減ったという御回答になっているのが半分強になっておりますが、円グラフのすぐ下の※書きのところにございますけれども、こちらのデータの制約として、離職前の賃金には所定外労働時間にかかる賃金が含まれるのに対して、再就職時の賃金につきましては、その残業代が含まれてないという前提があることに御留意いただければと思います。また、このうち就職日の1年後も修了継続している方の割合を見ますと、84.5%となっておりました。
それから、44ページでございます。教育訓練給付に関連して人への投資について、今年の骨太にどういった記載があるかということの御紹介であります。多様な人材の一人一人が持つ潜在力を十分に発揮できるよう、年齢や性別、正規・非正規といった雇用形態にかかわらず、能力開発やセーフティネットを利用でき、自分の意思で仕事を選択可能で、個々の希望に応じて多様な働き方を選択できる環境整備を進めるとされております。
少し飛ばしまして、雇用調整助成金、休業支援金・給付金についてでございます。49ページを御覧いただければと思います。雇調金の概要でございますが、こちらは経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主の方が、労働者の雇用維持を図った場合に休業手当の一部を助成する制度でありまして、通常、財源は雇用保険二事業で行っておりますが、様々なコロナ特例が設けられているところでございます。
少し飛ばしまして、52ページを御覧いただきますと、雇調金の支給状況という資料がございます。コロナが始まって以来の累計額になりますけれども、7月15日までの時点の数字といたしまして、雇調金と緊急雇用安定助成金合わせまして5.9兆円という支給実績になっております。
54ページを御覧いただければと思います。雇調金の支給状況の推移のグラフをお示ししております。雇調金の支給決定額は令和3年夏以降、減少傾向にございまして、1件当たりの支給決定額も減少傾向にございます。
55ページを御覧いただきますと、中分類で産業別に支給実態を分解した資料を入れてございます。累計支給決定額のうち最も多い中分類は飲食店、次いで宿泊業、次が道路旅客運送業となっております。また、1件当たりの支給決定額が高い業種として、航空運輸業になっております。
58ページを御覧いただければと思います。雇調金についてはコロナの前から平時の雇用保険二事業のうちの一つのツールとして実施していたわけですけれども、コロナを契機としてこれが非常に拡大した形で実施されております。基本的には、雇用保険二事業でやっているものですので、週所定労働時間20時間以上の方が雇調金の対象でありましたが、20時間未満の方々については緊急雇用安定助成金という形で、雇用勘定の外で一般会計により同様の事業を実施しております。
また、事業主が休業手当をお支払いしない、受け取っていないという労働者の方が直接請求できるという仕組みを創設しております。これについては、週20時間以上の労働者の方については雇用勘定の中で、雇用安定事業の一環として実施しており、20時間未満の方については雇用勘定の外で、一般会計で予算事業として実施しておるところでございます。
59ページを御覧いただければと思います。これが休業支援金・給付金の概要になっております。受け取られる金額が雇調金と同じような額になるように制度設計はしてあるのですけれども、特に申請期限のところを御覧いただきますと、個人の方に申請をしていただくという仕組みになっておりますので、雇調金よりも比較的長い申請期限にしております。
それから、60ページでございます。休業支援金・給付金の支給実績の資料でございます。これまでのコロナによるものの累計ですけれども、7月14日までの累計として3,200億の支出となっております。このうち週20時間以上の方を対象といたします休業支援金と20時間未満の方を対象といたします給付金の比率を見ますと、1:2という比率で給付金のほうが多くなってございます。
61ページを御覧いただければと思います。さらに休業支援金・給付金の支給状況を細かく整理したものでございます。支援金のほうが雇用保険被保険者となる方でございますけれども、1人当たりの月額支給額が約8.2万円となっております。他方、雇用被保険者以外の方に対する給付金につきましては約6.7万円でございます。また、休業前の平均賃金月額といたしまして、支援金対象者は平均20万円、給付金対象者は平均11万円となっております。それから、一番下の段でありますけれども、1人当たりの平均支給月数として、休業支援金が4.5月、給付金が5.8月となっております。
62ページを御覧いただければと思います。これまでの休業支援金・給付金を支給対象月別に決定件数の推移をグラフ化したものでございます。実際に休業を行った月に対して決定された件数でありますので、直近のほうはまだ申請が出てきていない部分がございますので、それを御了承いただければと思いますけれども、過去の推移を見ますと、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出ている時期については支給決定件数が多くなっております。
63ページでございます。受給者の方々を男女別・年齢別に分解したグラフになっております。全体的に女性の方の比率が非常に高いということでありますけれども、20代は学生バイトの方々もいらっしゃる影響で、男性の比率も高くなっております。
64ページと65ページでございます。これは支給対象月別に性別、年齢別ということで分解して件数をプロットしたという資料になっております。個々の推移を御覧いただきますと、特に20代の方々の件数の凸凹が非常に多くなっております。また、65ページを御覧いただきますと、女性の方に限って言うと、20代だけではなくて40代、50代の方々の動きも大きくなっております。
66ページと67ページでございますが、これらは休業支援金・給付金の初回申請件数の推移をグラフ化したものでございます。緑の折れ線は参考でありますので、青と赤のところをメインに御覧いただければと思いますけれども、青い線のところは中小企業に雇用されている労働者の方の初回申請件数、初めて申請した方の件数でございます。赤茶のところが大企業になっておりまして、宣言やまん防が出ますと、初めて申請したという方がそれなりに発生するということでございます。
69ページを御覧いただければと思います。こちらは休業支援金・給付金の支給決定額を産業分類別、特に中分類別で整理したものでございます。この数字については、全件というわけではないのですけれども、支給要件の確認書で報告された適用事業所番号を基に適用事業所台帳とひもづけることができたものについて集計したものでございます。金額ベースで言いますと、全体の8割ぐらいを網羅した結果ということで御理解をいただければと思います。支援金と給付金それぞれ御覧をいただきますと、最も多い中分類の業種が飲食店となっておりまして、特に給付金につきましては4割を占めております。また、その他サービスとか専門サービスなどにはいろいろなものが含まれておりますけれども、宿泊業も上位業種に入っているところでございます。
それから、70ページに小学校休業の助成金・支援金の概要を入れてございます。こちらは基本的には事業主様に御活用いただくものでございますが、一番下の個人申請を御覧いただきますと、事業主が助成金を活用しない場合は、休業支援金・給付金の仕組みによる労働者からの直接申請が可能となっているということの御紹介でございます。
71ページを御覧いただければと思います。これまでの雇用保険部会や雇用保険法改正における附帯決議で、休業支援金についてどのような指摘がなされてきたのかというのを整理した資料でございます。雇用保険部会におきましては、休業支援金については雇調金の特例措置の取扱い等の対応に合わせて制度の在り方を検討することになされております。また、附帯決議におきましては、特例として創設された休業支援金制度の効果、適用対象範囲の妥当性、及び申請手続の在り方等について検証を行い、休業を余儀なくされた方の支援に関する実効性のある仕組みの検討を行うこととされております。
72ページは今年の骨太の方針における雇調金の特例措置等についての記述でございます。この「等」という部分に休業支援金・給付金も含まれているということでございます。
74ページ、75ページは、海外の雇用維持スキームについて、参考で資料をおつけしているものでございます。76ページから78ページまでは、これまでの雇調金に関するJILPTの研究につきまして、御参考に記載しているものでございます。適宜、お目通しをいただければと思います。
最後、79ページでございます。今日の議論の観点ということで何点かおまとめをさせていただいております。求職者支援制度、教育訓練給付、休業支援金・給付金それぞれにつきまして、制度の効果とか意義、在り方についてどのように考えるかということで観点をまとめているものでございます。
御説明は以上でございます。
○尾田雇用保険課長 続きまして、職業訓練の効果をどのように考えるかという論点に関する内容といたしまして、原先生より、これまでの職業訓練の効果に関する研究の状況について御説明をお願いしたいと思います。
原先生、よろしくお願いいたします。
○原臨時委員 明治大学の原ひろみと申します。事務局の方から、公共訓練の効果計測に関する研究の状況や、これまで私が関与した実証分析の例を紹介していただきたいという御依頼を受けまして、本日この場に参りました。よろしくお願いします。
私たちが知りたい公共訓練の効果は、例えば失業者が公共訓練を受けたら、もし、その人本人が受けなかった場合より例えば再就職しやすくなるのか、です。そのためには、反実仮想(「もしも」のデータ)が必要になります。でも、そんなものは存在しないわけですね。そうしたないものの代わりに何ができるのか。ついつい私たちがやりたくなってしまうのが、訓練を受けなかった人との単純な比較。でも、今はもう誰もこんなことをやらないと思うのですが、これはまずい方法です。訓練の受講者と非受講者では異なったタイプの労働者である可能性が高いので、訓練効果の推定結果にはこのタイプの違いが反映されてしまうかもしれない。つまり、セレクション・バイアスというバイアスが発生し、正しい効果を知ることができないということになります。
このような方法の代わりに私たちが取るべき方法が、反実仮想を擬似的につくり出す計量経済学的な手法となります。これには実験的手法と準実験的手法があります。訓練受講者を介入グループ、非受講者を比較グループとします。実験的手法(RCT)は現実の世界で実際に実験をすることで、ランダムに介入グループと比較グループをつくり出します。そうすることで介入グループと比較グループの間にタイプの違いがなくなって、両者の間にある違いは訓練を受けたか否かという政策介入の違いだけになるので、訓練の効果を純粋に検出することができるようになります。これは政策の因果効果を明らかにするゴールドスタンダード、つまり、最良の方法と考えられています。でも、RCTをいつもできるとは限らなくて、RCTができない場合でも、準実験的な方法を使うことで訓練効果を計測することができることになります。
まず、海外の研究の動向は、Card, Kluve, & Weberの論文に基づいて御紹介したいと思います。これは、世界各国で実験的・準実験的手法を用いた積極的労働市場政策の効果に関して様々な結果が報告されているので、今ある複数の研究結果、207本の論文を取上げて、全般的に見て効果があると言えるのかをメタ分析で検証した論文です。
取り上げられた論文は幅広く検索をかけて漏れがないように収集されていて、2014年の秋以前に収集されています。査読を経て学術雑誌に公開された論文だけではなくて、ワーキングペーパーやmimeoなども含みます。国で言うと47か国における研究が含まれています。その中には欧米諸国だけではなくて、南米や発展途上国のもの、同じ東アジアでは韓国、中国のものなどが含まれますが、これには実は日本の研究は含まれていません。日本でこの分野の研究がその時期に停滞していたがうかがえるかと思います。
主な結論はこのスライドにまとめてあるのですが、図や表でご説明したいと思います。この図は公共訓練の効果に限られたものではなくて、積極的労働市場政策全般の評価についてですが、プログラムの開始年別に実験的・非実験的手法の分布を見たものになります。これを見ていただくと、右に行くほど近年のプログラムになるのですが、黒がRCTを適用した推計になります。なので、近年のプログラムになるほどRCTを用いた研究の割合が高くなっていることが分かるかと思います。
次に、公共訓練にフォーカスしたものを御紹介したいのですが、赤でくくったTrainingとあるところを御覧ください。公共訓練の効果分析の結果は、プラス、マイナスあるいは何も影響はないなど、様々な結果が報告されていますが、これまでに発表されている418の分析結果を平均して見たのがこの表になります。これは就職率に対する効果を見ていますが、短期・中期・長期、訓練が終わってからすぐ、中期、長期、しばらく時間がたった後ということですが、短期、訓練が終わってすぐですと、2ポイント就職率が上がる。中期、つまり1年から2年たつと6.6ポイント、長期、2年以上たったら6.7ポイント上がる。つまり、このメタ分析の結果からは、公共訓練には効果があると考えられます。この効果も、短期よりも長期、訓練からしばらく経ってからのほうが、効果が大きいことが分かります。詳細は省きますが、訓練の効果は女性のほうが大きいということも、彼らの論文から示されています。
日本ではこの分野の研究でRCTが行われたこともないと思うのですが、準実験的手法を試みたものがあります。私が関係したものを2つ御紹介したいと思います。1つは、公共職業訓練の効果測定手法に関する調査研究会で行ったもので、随分前のものになりますが、この研究会で目指したのは、RDデザインを用いた公共職業訓練の効果測定です。なぜRDデザインを使うことを目指したかというと、RDデザインは準実験的手法ですが、境界線付近では自然につくられたRCTと理解ができる手法で、境界線付近のみという限定がありますが、ほかの準実験的手法と比べてRCTとより近い状況をつくり出せるという利点があります。
RDのエッセンスはここに書いてあるのですが、図を使って説明したほうが分かりやすいと思うので、次のスライドに進みます。この研究会で考えたRDデザインのフレームワークはこのようになっています。横軸が割当変数ですが、公共職業訓練施設の入所選考の得点です。縦軸がアウトカム変数、成果を測る指標になります。例えば就職率などが考えられます。公共職業訓練施設への入所は、入所選考によって決まります。つまり、試験を受けて合格すれば入れる、不合格だったら入れないということです。Cが合格点、つまり合否を決める境界点となって、赤の線が境界線となります。境界線よりも上の得点になった人は合格なので訓練受講者となって、下の得点だった人は不合格なので訓練非受講者となります。この境界線を境に訓練の受講に関するステータスが変わるので、Cのところでアウトカムに非連続な違い、赤の四角でくくった部分になりますけれども、例えば就職率に非連続のジャンプが観察されれば、これは訓練に効果があったと考えられます。
ただし、すごく得点が低い人とすごく得点が高い人、この人たちを比べても意味がないわけです。なぜならば、タイプが違う人たちで、タイプと言うと分かりづらいのですけれども、率直に言って、エンプロイアビリティとかトレーナビリティが異なると言ったほうが伝わりやすいかもしれませんが、つまり、同質性が低い人たちかもしれないからです。この人たちを比較してもしようがなくて、同質性が低い、似たような人たちを比較しないと意味がないので、境界線付近、青の点線の中だけの比較に意味があります。なぜならば、これは同じような得点の人たちなので、似通ったような人たち、つまり、同質性が高いと考えられるからです。ただし、この境界線付近、境界線の右と左の人たちが本当に似たような人たちなのかというチェックは必要になります。
この分析を実行するために、縦軸のアウトカム変数に関してはアンケート調査から、そして、横軸の入所選考の点数データは実は訓練施設から提供を受けて入手しました。アンケート調査ですけれども、似通った人をできるだけ集めたいので、調査対象はこの図のとおりに集めてきました。できるだけ同質性が高い受講者と非受講者の情報を集めるために、調査対象施設開催の訓練受講説明会、つまりハローワークであっせんをされて行ったほうがいいかなと説明会に来た人たちに、調査協力依頼書を配付する。説明会に来た人たちが母集団で、その中で希望した人たちだけを調査対象としました。協力してもいいと言ってくれた人には調査参加申込書を渡して、住所、氏名、年齢、性別等を記入していただいて、事務局に郵送してもらいました。申込者の意思で御提供いただいた個人情報を使ってアンケート調査と入所選考の得点データをマッチングして、受講者と非受講者のアウトカムの情報と得点情報をマッチするということをしました。
かなり苦労しましたし、多くの方、多くの施設の方に御協力いただいたのですが、実は境界線付近の人たちが本当に似通った人たちなのかというチェックで引っかかってしまったのですね。入所選考の得点はここに書いてあるように、筆記試験または適正試験と面接の得点を合わせたものになります。これは割当変数、入所選考の合計点の分布を書いたものですが、訓練のタイプ、機械系と居住系で分けて書いています。赤のラインは先ほどと同様で境界線になるのですが、境界線のところで分布がスムーズになっていないのですね。このちょっと右側のところで大きくジャンプをしていて非連続な差が出てしまっている。面接試験では実は訓練や就職に対する意欲を重視して得点をつけているらしいのですね。なので、筆記試験の得点が低い人でも、意欲で面接の得点が加算されれば合格できるわけです。ちょっと筆記試験ができなくても、意欲があればぽんと右側に移れるわけですね。逆に、合格しなかった人、右に移らなかった人はかなり意欲が弱かった人たちということで、境界線の右と左にいる人たちは、たとえ近傍であったとしても、同質性が高くなく、意欲とかに違いがある比較可能な人たちではない可能性が否定できない、そういう結果になってしまいました。実は、研究会後もいろいろ試みて議論を重ねたのですが、こういう重要な仮定が満たされていると確信のない状況で分析を進めても、政策効果の検証にはならないということで頓挫してしまったということがあります。
2番目のポツのところですが、これは決して研究会の結論ではなくて、私個人の私見ですが、日本の公共訓練の制度とか運用を考えると、このような形でRDデザインを提供するのが難しいのかなと感じています。
次に、何か別のやり方でできないかと始めたのがマッチング法の適用です。マッチング法というのは、結果に影響を与えるような共変量を用いて、コントロールグループの中から、トリートメントグループによく似たサンプルをマッチさせて、比較する。つまり、うまく定量的な指標を使って、介入グループとよく似た比較グループをつくり出して、両者の比較を行うという手法ですけれども、2番目にこちらを御紹介したいと思います。
これはよく使われていて、このマッチング法を使って訓練効果を推定するときにバイアスを小さくするための条件なども整理されていて、よく使われる方法になっています。データがなければ分析ができないので、後で厚生労働省の戸田さんから業務統計を用いた分析結果の御報告があるようですが、私は業務統計を使えなかった、アクセスできなかったので、政府統計(サーベイデータ)を用いて分析をしました。業務統計のように公共訓練の受講者を把握できるようなデータを使えたらいいのですが、そうではない場合、労働に関する一般的な統計データを使うことになります。いろいろここに書いてあるとおり、検討したのですが、訓練の情報も含まれている総務省統計局の就業構造基本調査の個票データを利用するのが一番よいだろうという結論になって、それを使って分析をしました。傾向スコアマッチング法を適用してやりました。
分析の結果をちょっと御紹介すると、主な結果ですが、この表が分析の結果をまとめたものです。上が男性の結果、下が女性の結果で、これは就業確率何ポイント上がったかということになります。*が3つついているものだけが統計的に有意な結果になっています。言葉で結果を御説明させてもらうと、就業確率、就職できたかどうかというところでは、男性が訓練を受けると15.4ポイント就業確率が上がって、女性は17.4ポイント就業確率が上がる。男性の場合、受講しなかった場合の就業確率が0.568、つまり56.8%なので、これから15.4ポイント上がる。つまり、訓練を受けると72.2%まで就業確率が上がるということを意味します。2番に行きますが、女性に関しては、所得に対してのプラスの効果があるし、正社員雇用確率にもプラスの効果があることが見出せました。これはいろいろ頑健性チェックをやったのですが、ほぼ似たような結果が得られたもので、かなり頑健な結果だと私自身は信じています。
結果をまとめると、日本の離職者訓練には多分プラスの効果があるのであろうと、私自身は強く感じています。男性と女性だと、Kluve たちの研究でも明らかにされていますが、女性のほうに効果がより大きいのかなという印象を持っています。
ただ、気になっているのは、Kluve たちの研究でまとめられている諸外国のケースの平均値を見ると、短期の効果は大体2ポイントだったのですね。それと比べて、15.4ポイント、17.4ポイントと、かなり係数のサイズが大きくなっているので、このあたりは気になっていて、これはやはりデータの制約があったのかなというのをちょっと感じているところです。いずれにせよ、この研究は、これまで研究の中で何とかやってみた日本における第一歩にすぎませんので、さらなる研究が必要だと思っています。
最後に、公共職業訓練の訓練効果検証を推進するための私見を述べさせてください。今あるデータの中で適したデータは業務統計だと思うのですね。業務統計の活用をぜひ進めていただきたいと思っています。
日本では、優秀な経済学者がいっぱいいるのですけれども、当該分野になかなか参入してくれないのですね。そのせいもあって、多分、研究が停滞していると私は感じているのですけれども、それはなぜかというと、上質なデータへのアクセスができないことが一因になっていると思います。質の高いデータにアクセスできれば、みんな参入してくるのですね。この業務統計を外部の研究者にぜひ公開していただきたいと思っています。よく分からないので、もしかしたら、既に公開されているのかもしれませんが、申請したら使えるようになったらいいなと思っています。これは研究の発展のためでもありますけれども、EBPMの信頼性を高めるためにも必要だと考えています。もちろん厚生労働省さんの中でやっていただくのはいいことだと思うのですけれども、内部だけでやっていても、EBPMへの信頼性であったり、透明性は高められないと思っています。外部の研究者への公開もぜひお願いしたいと考えています。
2番目は、RCTの実現を考えなければいけないと考えています。ゴールドスタンダードであるRCTを用いた検証は、私はやはり必要だと考えています。なぜか。それは、準実験的な手法の結果よりも制約がない、言い訳しなくて、いつも内生性を十分にコントロールできなかったから限界があるとかそういった言い訳をしないで結果を受けとめることができるからです。もちろんRCTにはRCTの限界はありますが、それでも、かなり強力な手法になっています。
RCTを実現するためには、乗り越えなければならない障壁はいろいろあると思います。例えば、RCTに対する倫理的な問題があります。公共訓練を受けたいという人をランダムに受けられる・受けられないで分けることには倫理的な問題があります。ただ、今、RCTは、いろいろな研究分野でやられているので、そういった分野でも知見とか経験を生かせられたら何とか乗り越えられないかなと思っています。アカデミックなバックグラウンドの持った人、様々な経済学分野の人との連携ができれば、何かできるのではないかと感じています。
RCTの実施に当たっては、費用・労力・時間・各機関の協力が必要で、すごく労力が要るわけですね。先ほどのRDデザインでもすごく大変だったのですけれども、そうすると、大きなプロジェクトを動かさなければいけないので、最後まで完遂するためには、研究者のインセンティブ、そして、現場や実務家の方たちのインセンティブをきちんと考えて、最後まで完了できるような研究プロジェクトのフレームワークが必要となってくるので、ここも知恵を絞るべきところだと思います。
あと、ここはよく分からないのですが、法律的な問題があったりするのかなと思ったりもしています。公共訓練を受けたいと言ってきた人をランダムに、あなたは実験のために受けては駄目みたいなことをするのがもしかしたら駄目だという知見とかルール、または法律か何かあったりするのであれば、そういったところを克服していくような検討も必要になってくるかなと思っています。いろいろ乗り越えなければいけない障壁はありますけれども、こういうことは考えていくべきだと私は考えています。
ちょうどいただいた時間20分が過ぎましたので、私の報告は終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
○尾田雇用保険課長 原先生、ありがとうございました。
それでは続きまして、政府が実施しております雇用・就労分野の統計データを活用したEBPMの取組の実例といたしまして、戸田企画官から、公共職業訓練の効果分析について御説明をお願いしたいと思います。
戸田企画官、よろしくお願いいたします。
○戸田政策企画官 政策企画官の戸田と申します。公共職業訓練の効果分析について、御説明させていただきます。
まず、資料の説明に入る前に、今回の分析を行った背景について一言申し上げます。政府全体でEBPMを推進しているところでございますが、昨年6月に閣議決定されました経済財政運営と改革の基本方針2021において、雇用保険の業務データ等を用いて、公共職業訓練等の効果分析を行い、今後の施策に反映させると明記されたことを受け、厚生労働省におきましても分析を進めてまいりました。本日は、昨年度に行った分析結果について御報告いたします。
今回の分析の主な内容は、先ほど御説明のあった求職者支援訓練ではなく、公共職業訓練の受講によって再就職の効果があるかというところの分析でございます。また、後ほど御紹介いたしますが、訓練分野別の分析も行いまして、今後、労働力の需要が高まる分野と言われている介護・福祉分野やIT分野の訓練につきましても、訓練を受けた場合に当該産業へ人が移動しやすいかどうか、また、前職との関係はどうか、どういった人に訓練を行うことが効果的かといったこと。また、訓練内容に関する課題等について考察を行ったところでございます。
まず初めに、分析に使用したデータセットについて御説明させていただきます。資料の後ろからで恐縮でございますが、14ページを御覧ください。今回の分析には、原先生からもお話ございましたように、3つのいわゆる行政記録情報を活用しております。1つは、雇用保険の資格取得・喪失の情報、2つ目は、ハローワークへ求職申込の際に把握する職業紹介の情報、3つ目は、職業訓練の受講に関する情報でございます。これらのデータを結合するという作業を行いましたが、その際には、雇用保険の被保険者番号や求職者番号を用いて同一個人が分かるように、かつ重複のないようにいたしました。また、職業訓練の再就職に及ぼす効果を分析するに当たり、訓練の受講の有無及び再就職の有無によって、グループA~グループDと書いてございますが、4つのグループに分ける必要がございます。
データのつくり方といたしましては、まず、雇用保険のデータより、2020年1月~6月の間に、前職を離職した者のデータを抽出いたしました。こちらが約396.7万人いらっしゃる中で、そのうち、離職後、ハローワークに求職申込をした者は、職業紹介データとマッチングできるもので、かつ重複を除いたところを119.7万人いらっしゃるというところでございます。これをさらに、訓練データとのマッチングによって、訓練の受講者・非受講者に分け、受講者が約3.5万人、非受講者が約116万人という状況でございます。これらのグループについてそれぞれ、さらに雇用保険の新たな資格取得日があるかどうかといった観点で、再就職したか否かというところで4つのグループに分けてございます。データセットの構築に当たっては、例えば就職の有無を、雇用保険の資格取得・喪失に係る情報で判断してございますので、雇用保険不適用の仕事への就職などは捕捉できないといった限界もございますが、利用可能なデータの範囲内で最大限の捕捉を試みたものでございます。
それでは、分析の結果について御紹介いたしますが、前に戻って恐縮でございますが、4ページ目を御覧ください。こちらは、4ページ目のグラフについては、いわゆるサバイバル分析の手法を用いて、訓練の受講者と非受講者それぞれについて、前職の離職日から経過日数に応じて、無業者の割合の推移を見たものでございます。左上の100%から始まって下に行くほど就職した人の割合が増えていくと見ていただければと思います。
最初は、いずれのグループにおいても100%失業している状態から始まって、離職直後においては、訓練受講グループは訓練を受けている状況でございますので、再就職する方はいらっしゃいませんが、訓練を終えて、徐々に就職する人が増えて、途中で非受講のグループの就職率を逆転し、最後は受講者の方の再就職の割合は大きく上回っている状況でございます。
同じ4ページの右の表においては、再就職率に影響を与える訓練受講者・非受講者のいわゆるセレクション・バイアスを取り除くため、先ほど原先生からも御紹介ありましたように、傾向スコアマッチング法を用いた分析結果を御紹介しております。傾向スコアマッチング法を用いた場合においても、訓練受講者のほうがより就職をしている状況が伺え、原先生の結果と整合的であるのではないかと考えてございます。
続きまして、5ページを御覧ください。5ページにおきましては、先ほどのサバイバル分析を訓練の種別に行ってみたものでございます。再就職の速度に差はあるところでございますが、いずれの分野の訓練においても、再就職率は順調に高まっている状況がうかがえます。
以上の結果から、まず、訓練一般の再就職への効果については、分野を問わず効果があると言えるのではないかと考えております。
続きまして、6ページを御覧ください。6ページにおきましては、訓練の分野別にその効果や課題を見たものでございます。6ページ目につきましては、新職のある産業・職業に就いた者について、当該産業・職業に関連する分野の訓練を受講していた場合に、訓練を受けていない場合や、その産業・職業と関係のない訓練を受けた場合と比較して、他の産業・職業から移動してくる割合がどう違うかというところを見たものでございます。
実際には、様々な組み合わせで分析しておりますが、ここでは代表的なものとして、医療・福祉のサービス職、情報通信の技術職の結果を載せてございます。これによりますと、左側の医療・福祉のサービス職、ここでは介護や保育サービスを想定してございますが、これについては、関連する分野の訓練を受講したグループで、他の産業または職業から移動してくる人の割合が高いという結果が出てございます。他の分野については、こういった他産業や職業からの移動割合が特段高くなるといった結果は見られませんでしたので、介護・福祉分野におきましては、受講した場合に、他産業や職業からの移動が促進されている効果があると考えてございます。
次に7ページ以降でございますが、代表的な分野である介護・福祉分野やIT分野の訓練について、もう少し深掘りした課題について御紹介させていただきます。
まず、7ページ目は介護分野でございます。これまで見たように、訓練を受けた場合の再就職の効果とか、他産業や他職業からの労働移動を促す効果があるということが示されております。その一方で、7ページ目の左の図にございますように、介護分野は、訓練の応募倍率や定員充足率が低めであることからも分かりますように、そもそも介護分野の訓練に人が集まりにくいという課題がございます。この課題に対しては、訓練受講のターゲティングを改善する、例えばどういった方が介護分野の訓練を受けると介護分野に就職しやすいかということを分析し、重点的に訓練を呼びかけることが考えられると考えてございます。
その上で介護分野については、対人サービスやホスピタリティのような要素が強いと思われますので、タスクの性質が近い職種の経験者、例えば飲食・宿泊サービスや生活衛生サービス職の方々は比較的なじみやすいのではないかという仮説から、前職と介護職のタスクの距離を日本版O-NETのデータから算出して、これと福祉分野への就職割合の関係を見てみました。その結果が7ページ目の右側のグラフでございます。上側に書いてございます福祉職と前職のタスクの距離が近いか遠いかというものを横軸に示しておりまして、縦軸は介護に関連した職種に就職していらっしゃる方という結果でございます。
こちらを見ますと、緑の丸にございますように、福祉職との距離が近い職種に関しては、一定程度介護職に関連した職業に就職しているところがある一方、福祉職との距離が遠い職種、図では赤い丸で示してございますが、そういったところに関してもある程度関連就職している割合が高いという状況でございます。ですので、介護に関しては、前職のタスクの性質にかかわらず幅広く訓練を受けて就職されているという状況でございます。
続きまして、8ページ目を御覧ください。8ページ目は、実際にどういう方が介護の訓練を受けているかを示したものでございます。介護・福祉分野の訓練を受けている者の割合が高い職種が左側の表でございますけれども、医療・福祉系などのタスクの距離が近い職種もございますが、ビル・建物清掃員や事務職など、介護職種との距離が遠い職種が、介護の訓練を受けられている方の中にある程度いらっしゃることが分かります。
続いて、9ページ目を御覧ください。9ページ目はIT分野の訓練に関する結果でございます。大きな結果の特徴としては、IT分野の訓練を受けるからといって、その後IT技術者になるとは限らないというところが分かりました。例えば9ページ目の左側のグラフを見ていただきますと、IT分野の訓練受講者のうち最も多い就職先としては、サービス業、事務職業、公務事務的職業というように、事務職となってございます。
また、9ページ目の右の図につきましては、IT分野の訓練を受けて就職した者のうち、今の仕事と訓練内容が関連していると回答した者の割合でございますが、情報通信業の専門技術職は上から3つ目にございますが、高い一方で、事務職の者も一定程度はIT分野の訓練が役に立っているという結果になってございます。
続きまして、次の10ページ目を御覧ください。10ページ目の左側の図は、IT分野の訓練受講者のうち、新職がサービス業の事務系職員になっている確率について、様々な属性で回帰分析を行ったものでございます。前職が派遣や事務職であると新職が事務職になりやすいとか、IT分野の訓練受講者に関しては、事務職のほうがITスキルを身につけて新しい仕事で事務職としてそのITスキルを活用している可能性もあるのではないかと考えてございます。
また、10ページ目の右の図につきましては、IT分野の訓練を受けて情報技術者になる可能性について見たものでございます。こちらは、女性であったり、年齢の高い層でIT技術者になりにくいという傾向が見られております。このうち、女性が情報技術者になりにくい傾向については、11ページ目で考察しておりますが、こちらは時間の関係で省略させていただきます。
2ページ目にお戻りいただきまして、分析の目的・主な分析結果について御紹介させていただきます。まず、2ページ目の2つ目の○に書いてございますように、訓練全体の再就職への効果については、訓練の種別にかかわらず一定程度あるという示唆が得られました。
また、介護分野やIT分野についても分析をしておりまして、介護分野については次の3ページ目に書いてございますように、介護・福祉分野の1つ目の丸にございますように、こうした訓練を受ける方に関しては、他の産業や職業で働いていらっしゃる方が、介護の訓練を受けることによって介護・福祉職に就職されるという効果がうかがえる一方、後半に書いておりますように、訓練の定員の充足率が相対的に低い状況を見れば、受講者をいかに確保していくかが重要な課題であるところでございます。
また、IT分野に関しては、介護分野と少し状況が違いまして、IT分野の1つ目の丸に書いてございますように、他の職業から情報技術者へ移動促進しているというエビデンスは確認できなかったところでございます。その一方で、事務職に就職されている方が多くいらっしゃるというところがうかがえるところからも、3つ目の丸に書いてございますように、デジタル人材が求められているところで、事務職でもそういった人材が求められているというところが考えられるのではないかと考えてございます。
また、IT分野の2つ目の丸に書いてございますように、女性が情報技術者に就職しにくいという状況でございますので、そうしたところに対しての支援も必要なのではないかと考えてございます。
駆け足でございましたが、説明は以上でございます。御静聴ありがとうございました。
○尾田雇用保険課長 戸田企画官、どうもありがとうございました。
それでは、今ほどの事務局からの説明及び原先生、戸田企画官からの御発表を踏まえまして、委員の皆様から御意見・御質問をお願いできればと存じます。大変恐縮ではございますが、本日は名簿の50音順で、まずは酒井先生から順次御発言をお願いしたいと思います。酒井先生、佐々木先生、土岐先生、水島先生、渡邊先生、こういった順に御意見・御質問を順次御発言いただければと思います。
それでは、酒井先生からよろしくお願いいたします。
○酒井構成員 では、私から発言させていただきます。
原先生、御報告ありがとうございました。また、事務局及び戸田さんからの御報告もありがとうございました。
私からは、原先生及び戸田さんから御報告のあった職業訓練に対する研究の状況に関して1点コメント、それから、求職者支援制度と休業支援金に関して、それぞれ1点ずつコメントさせていただきたいと思います。
まず、原先生から御報告のあった職業訓練の効果に関する研究の動向ですけれども、大変貴重な研究の紹介ということで、私としても非常に勉強になりました。研究も非常に苦労されていることが伝わってきたものでした。
マッチング法による研究の御紹介ということで、かなり頑健な結果が得られているということで、私も非常に学ぶところがあったわけですけれども、究極的には、RDとかRCTでできたほうがいいということには変わりないのかなと思っております。特にRCTの重要性は、経済学者が何か荒唐無稽なことを言っているかのように思われることもないわけではないですけれども、私のほうとしても、RCTの重要性はここで強調しておきたいと思います。
といいますのは、RCTというのはいろいろな問題はあるのかもしれない、ハードルはあるのかもしれませんけれども、一回でもきちんとしたRCTをやっておくと、それが一つのレファレンスとなって、それ以降、例えば準実験的な手法とかそういった手法でやったときに、それが一つの参照点になるという意味でやはり重要になるのではないかなと思っております。
ですので、長期的にはこういった職業訓練の効果に関しても、RCTといったものを実現していくことが重要なのではないでしょうか。直近では、こういった原先生の研究を含めて、準実験的な手法から類推していくことが重要なのではないかと感じた次第です。
次に、事務局から説明のあった求職者支援制度について、コメントさせていただきたいと思います。求職者支援制度に関しては、その効果云々以前といいますか、利用が進んでいないという実態が大きいかと思います。したがって、今後の課題は利用促進というところが大きいと考えられるわけですけれども、その意味で先ほどから御紹介ありました、このコロナ禍における特例措置の効果について、点検が必要なのではないかという気がします。
資料の中の17ページに、いろいろな特例措置について適用されている人たちの数が報告されておりました。その中でも私が注目するのは、転職希望がない場合の利用というところで、転職希望がない場合の希望は、今までの従来の求職者支援制度が労働移動ありきで、労働移動を前提として制度設計されていたということに対して、労働移動を必ずしも前提としない場合にもその対象となるという意味で、ある意味、求職者支援制度の今後の在り方を考える上で、非常に重要な措置なのではないかと考えているわけですね。
今お示しいただいておりますけれども、累計で、20名で非常に少ないということです。ただ、非常に少ないのはある意味当然と言えば当然とも考えられるわけです。というのは、これは転職希望をしているわけではないので、ハローワークを利用するインセンティブはないわけですね。そのハローワークを利用しないような人たちに対してこういった制度をどういうふうに普及させていくか、周知していくかというところが非常に大きな課題なのではないかなということで、今後、ここのところをどうするかということをよく考えていかないといけないと思っています。
もう一つ、まさに今お示しいただいている表に書かれていないのではないかと私は思ったのですが、特例措置の中に訓練期間の短縮という措置もあったと思うのですけれども、実際に訓練期間の短縮も認められた上で、そういった短縮した訓練で実施されているものがどれくらいあるのかということも情報としてちょっと知りたいなと思いました。行く行くは、短縮された訓練によっても同じような効果が見込まれているのかというところを検証する必要があるのではないかと思いました。私は、求職者支援制度において、訓練期間の短縮は非常に重要な措置だと考えております。なかなか参加しづらい受講者に対して、訓練期間を短縮することによって使い勝手をよくすることが非常に重要だと思っているのですけれども、一方で、訓練期間を短縮することで例えば訓練の質が落ちてしまったということではしようがないと思いますので、訓練期間の短縮というところに関して、その効果の点検も必要ではないかなという気がしております。
先ほど戸田さんから、公共職業訓練に関して、分野別の就職率とか、あるいは応募倍率、そういったものを含んだ情報が提供されたわけですけれども、願わくば、求職者支援制度、求職者支援訓練に関しても、各分野別の就職率とか、各分野別の応募倍率、それらの関係がどういうふうになっているのかということがちょっと情報としてあったら、さらに議論が深まるのかなと思いました。
話が長くなっているので、もう少しで切り上げさせていただきますけれども、もう一点、休業支援金に関してです。私、第1回のこの研究会で、制度間の代替性・補完性といったことを考えてみるべきだというようなことも申し上げたかと思うのですけれども、休業支援金はまさに制度間の代替性とかそういったことの典型かなと思います。雇調金の代わりに休業支援金のような制度があるということの意味が非常に重要で、例えば、先ほどの休業支援金の受給実績の推移を見てみると、緊急事態宣言とかまん防といったものが発令されると増えていくということで、それに対して私の見たところだと、雇調金のほうはそれほどはっきりした推移ではないのかなと思うと、実は、休業支援金がそういう調整に使われているという面もあるのかなと思われるのですね。
そうすると、企業行動として、その2つがあるときに、どういうときに休業支援金を使って、どういうときに雇調金を使っているのか、どういった事業体で休業支援金を使っているのかといった分析が必要かなと思います。これは、事務局にそういったことを分析してくださいとお願いする話ではなくて、我々研究者も含めてそのあたりを知ることが、今後の議論にとって重要なのかなと感じた次第なので、述べさせていただきました。休業支援金は、今回のコロナで初めてこういった制度が現れてきたと思うのですけれども、そのあたりのメカニズムというか、そこらを明らかにしてみる必要があるのかなと考えた次第です。
すみません。ちょっと長くなりましたが、以上、私からのコメントです。
○尾田雇用保険課長 ありがとうございます。
続きまして、佐々木先生、お願いできますでしょうか。
○佐々木構成員 大阪大学、佐々木です。原先生、戸田さん、どうもありがとうございました。また、事務局の方も丁寧な詳細な御説明をしていただき、どうもありがとうございました。
研究者の立場から言いますと、RCTという実験的な方法はやはり非常に重要であり、そのような実験が手軽に実施できるような環境になることを期待します。ただ、そうでなくても、今日、紹介してくださった、準実験的手法である傾向スコアマッチング法や回帰不連続デザインという分析方法があるので、厚生労働省が持っているデータを誰でも使いやすく、アクセスしやすいような状況になれば、定量的な政策効果評価が可能となるので、早くそのような環境になってほしいと思います。
RCTに関しては、最近、私個人が感じるところですけれども、以前よりも実施するのが非常に難しくなったと思います。「難しくなった」というのは、実験を実施する上で倫理的に妥当なのかいう基準が厳しくなり、倫理委員会から非常に厳しい要求を突きつけられて、本当に何年か前に比べればなかなか実験実施がしにくくなったような印象があります。こういう傾向が更に進めば、RCTの手法は、たとえ実験に関与するステークホルダーが「やろうよ」と言っても、倫理委員会が駄目だと言ってしまえばそれは実施できなくなります。そのような状況になる可能性を見据えて、準実験のためにデータの開示を進めてほしいと思いました。
今回の議論の観点から、求職者支援制度と教育訓練給付と休業支援金・給付金のお話があったと思います。求職者支援制度はもともとの目的は、第二のセーフティネットとありまして、潜在的な生活困窮者を出さないようにするための一つの政策であります。これは、アウトカムや政策効果はどうなんだと言う前に、やはり推進しなければいけない事業ではないのかなと思います。当然、効率的な推進方法として、キャリアコンサルティングの育成などの対策が重要と思いました。
次に、教育訓練給付のお話ですけれども、当然、教育訓練給付の効果を検証することは必要です。私も訓練の効果に関する研究を進めたことがありますが、そこで難しいなと感じたことは、アウトカムとなる変数が非常につかみづらいということです。特に、今回の教育訓練給付のように、今働いている状況の中で訓練を受けて、そして、訓練が終わってから、今の会社で働き続ける場合、訓練を受けた労働者は内部労働市場の中にいるので、訓練によって労働生産性のレベルがどれだけ上がったのかは、外部の研究者からすると非常に把握しづらい状況になります。賃金を観察することは可能かもしれませんが、内部労働市場の中で、本当に賃金の伸びが生産性の伸びを表しているかというと、短期的には必ずしもそうとは言えないので、訓練による労働生産性への効果が非常に把握しづらいという問題があります。
また、アウトプットだけでなく、インプットも然りで、例えば働いている間に教育訓練給付を受けていました。でも、それと同時に、会社内ではOJTを受けていたとすると、実は2つの訓練を受けている状況になります。今回、教育訓練給付の効果検証を知りたいので、教育訓練の効果のみを取り出したいところですが、教育訓練の効果とOJTの効果を識別することはなかなかできません。従って、訓練の効果検証の手法は一見簡単そうに聞こえるかもしれませんが、アウトプットにしろ、インプットにしろ、データからなかなか捉えづらいと言う問題があります。
だからといって、教育訓練給付の効果検証はできませんと言うつもりはなく、正確でなくても、セカンドベストな方法を採用していくことが必要かなと思います。我々の研究では、生産性のアウトカムの場合ですけれども、例えば生産性が向上したかどうかを主観的に尋ねました。ベストな方法ではないですが、一つの方法かなと思います。特に、同じ労働者を対象にある程度の期間にわたって複数回尋ねることができるのであるならば、パネルデータを構築し、固定効果モデル分析をすることによって、ある程度は観察できない個人の特性や主観という個人間の異質性をコントロールできるのかなと思います。
インプットに関しても、例えば教育訓練給付期間中にOJTを受けたかどうかを主観的に尋ねて、OJTの効果を検証するのも一つの方法ではないかと思います。正確な効果検証に耐えうるデータのための整備は常に進めていかなければなりませんが、できる範囲で分析できるところから始めていくのが重要と思いました。
休業支援金・給付金のお話ですが、雇調金と同様、徐々に縮小、廃止に向けた取組が必要ではないかと思います。現在、新型コロナウイルス感染者数が急激に増えておりますが、経済活動を止めるような行動制限は今回実施しないという報道がありました。62ページの休業支援金・給付金の支給決定件数は、直近のデータが反映されてないという可能性がありますが、減少傾向にあります。経済活動が回復していく中で、休業支援金・給付金、雇調金の役目はそろそろ終わりに近づいていると思います。
新型コロナウイルス感染症が拡大してからもう3年目ですけれども、感染リスクの高い仕事に就き、休業状態にあった労働者は、もうこの時点で感染リスクが低い仕事に就いたり、失業状態や非労働力化になっていたりする可能性があります。日本労働研究雑誌の深井さんの研究によりますと、2020年の後半までのデータから、新型コロナウイルス感染症が就業状態に与える影響は、休業ではなく、失業や非労働力化と変化していることを示しております。2020年後半でそうですから、もう既にこの時点で労働者はニューノーマルにある程度順応しているのではないかと思います。休業しているのではなく、次に感染リスクの低い仕事に就いている可能性があるので、そう思えば、この休業支援金・給付金、そして、雇調金も、以前のようなサイズに戻るときかなと思いました。
以上でございます。
○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。
続きまして、土岐先生から御発言をお願いできればと思います。
○土岐構成員 原先生、戸田さん、事務局の皆さん、御説明をありがとうございました。大変興味深くお話を聞いておりまして、勉強になりました。
私からは、求職者支援制度とか教育訓練給付の在り方のところですけれども、制度の複雑さ、つまり、雇用保険制度に再就職支援制度をどう位置づけるかにもかかわるのですけれども、この2つの仕組みが、対象者に訓練を行う点では基本的に共通しているのに、お話を伺っていると複雑な仕組みになっているなという印象を受けました。それぞれ2つの仕組みが、求職者支援事業のほうは将来の被保険者を増やすことを目的にしており、それから、教育訓練給付のほうが就業中にあっても、幅広い職業能力を身につける必要性に対応するということで、そうした違いに応じて、訓練自体に対する自己負担の有無とか、それから、求職者支援の場合には、主として、どちらかといえば基本的な内容の研修を行う。あるいは教育訓練給付のほうは、主として在職者を対象として専門的な訓練を行うといった違いがあり、それから、それに応じてというか、財源もそうした制度趣旨から、国庫負担が違うとかということになっています。もちろん、これは歴史的な展開があって、徐々に制度が形成されてきたことを踏まえると、そういうふうに違いがあると説明をされると、確かにそうですねと思うのですけれども、財源とかの問題をちょっと脇に置いたりして、対象者個人に教育訓練をするというところで共通点があるというふうに整理すると、それから、教育訓練に当たって、もし生活の面倒を見る必要があれば、そこを補助するということで整理することも可能かなと思っています。
求職者支援制度のほうでも、恐らく幅広い職業能力を開発していく必要性があるのは、教育訓練給付の場合と同じかなと。特にデジタル化によって大きく社会が変わっていくというときには、求職者支援制度のほうもそうした内容のものを整えていく必要があるのではないかと思っております。
それから、2つ目でちょっと細かいところではあるのですけれども、求職者支援制度であまり利用が進まないというお話があったかと思います。その要因が、単に制度の周知不足にあるのか、それとも支援を受けるための要件が厳しいからなのかというところはうまく切り分けて考えないといけないのだろうなと思います。周知不足であれば、周知を徹底するということは考えられるとは思うのですけれども、少なくとも求職者支援事業で対象としている利用者が、そういう人たちをどうやってアプローチすればいいのかなと言われると、何か業界団体を通じてとかそういうのもちょっと難しいのかなという気がしておりまして、すみません、私もちょっと案はないのですけれども、周知が必要といったときにどういう方法があるかなというのは、今後考える必要があるかなと思っています。
3つ目として、休業支援金と給付金の在り方の点について申しますと、現行法が現在想定している仕組みは、雇調金を最大限利用して事業主が休業手当を労働者に支払うと。休業支援金と給付金は、基本的には雇調金の支給を受けられなかった労働者を対象とするということですので、今後、休業支援金・給付金をどうするかということについては、雇調金に合わせて対応を考えていくということで、縮小するのであれば、それに合わせて縮小するということなのだろうと思います。
問題はというか、理論的にみてどういうことかなと思っているのが、今回の休業支援金・給付金の制度は特例的につくられ、生活保障を確実にするとか、迅速な対応をするためにということで、比較的必要性が高いからということが前面に出て制度になっているのではないかなと思っています。一般的な仕組みとして、今後もこうした支援金・給付金の仕組みを維持したときの問題点として、少なくとも現行法で想定している仕組みは、まずは雇調金を最大限活用して事業主が労基法の休業手当を払うということなので、支援金・給付金の仕組みを維持すると、今度、事業主が本来払うべき休業手当の支払いについてモラルハザードといったものが生じてくるのではないかと思っています。
これはちょっと質問的なものですけれども、失業の場合には、労働者に対して失業認定とかをして個別に給付をしているということをやっていると思うのですけれども、休業等の場合には、事業主を通じて実質的に給付するという仕組みになっているところに、なぜそういう違いが生じているのかなというところがちょっと私自身分かってないところがあって、例えば休業の場合は事実確認が容易でないとかいろいろな問題があると思うのですけれども、逆に言うと、現在の休業のときの基本的な仕組みが雇調金を使って休業手当を払うという、何でそういう仕組みになっているのかということについて、しっかりとした理由があるのだろうと思っているのですけれども、というのがあれば教えていただければと思っています。
すみません。ちょっと長くなりましたが、私からは以上です。
○尾田雇用保険課長 ありがとうございます。
土岐先生からの御質問に関しまして申し上げますと、先生の触れられました休業に関しましては、労働基準法第26条で、使用者の責に帰すべき事由による休業については、事業主が平均賃金の6割以上の負担をすることが求められております。この規定の前提には、民法の536条がありますので、いずれにしても何らかの形で事業主側の理由により休業をした場合には保障するということが事業主の責務になっております。それを前提といたしまして、一定の経済状況の悪化等によって急激に業績が悪化したような場合につきましては、従来から雇用調整助成金を設けまして、そういった企業の責任の一定部分を政府で保障することによって雇用維持を支援すると、こういうスキームで従来やってまいりました。
今回のコロナ禍におきましても、そういった原則的な枠組みは維持した上で、まずは雇調金の要件緩和の対象拡大ということでやらせていただきましたが、ただ、それでは対処できない、特に中小企業を中心として、労働者に対して財政支援等を行うことがままならないということが、コロナの中でそういう問題が生じてまいりましたので、そういったところで、今回、特例的に個人に対する休業支援金交付金というものを講じたという経緯でございます。
ですから、歴史的な経緯から申しますと、労働基準法が戦後できたときに、既に休業に関しては事業主の責に帰すべき事由については、事業主が負担することとし、このことを前提として雇調金ができたということでございます。
○土岐構成員 ありがとうございます。
そうであるとすると、休業支援金・給付金はもちろん必要性があるのはすごく分かる一方で、他方で、一般的に今後も維持していくということであれば、やはり労基法26条の休業手当の仕組みが、本来、事業主が払わなければいけないものを払わなくなってしまうという方向に行かないような形で、多分、制度を運営していくことが必要なのだろうと思います。
ありがとうございます。
○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。
続きまして、水島先生、お願いいたします。
○水島構成員 大阪大学の水島でございます。
原先生、戸田様、御報告ありがとうございました。また、山口さん、詳細な御説明ありがとうございました。
まず、戸田さんの分析に関しまして、いろいろ勉強になりました。興味深かったのは、IT分野の訓練を受けた女性が情報技術者に就職しにくいということで、何らかの対策が求められるように思いました。
私もよく分かっていないのですけれども、情報技術的な仕事には、エンジニア、本物の技術者と言ったら変ですけれども、それ以外に技術営業の仕事があって、その技術営業に女性が多く就いておられるのでは、と思います。これらの方は、一般の文系の人間に比べれば十分な技術と知識を持っているけれども、自分で高度なプログラムを作れるわけではない。技術営業の場面ではエンジニアがほかにいて、先方と技術に関することを理解したうえで営業面での話ができる。そうした仕事に女性が就いている印象があります。
こうした人たちが、分析いただいた情報技術者に含まれるか否かで、数字が変わるのではないかと思ったのが1点と、私を含め労働者の側にも企業の側にも、女性は技術者よりも技術営業に向いているというジェンダーバイアスがあるかもしれないように思いました。工夫することによって女性、また、中高年の方にもIT分野への就職を進められるのでは、と思いました。
議論の観点ですけれども、私は、教育訓練給付を中心に述べたいと思います。雇用保険の法構造という観点から教育訓練給付を眺めてみます。そもそも雇用保険は労働者の失業という社会事故に備える保険であって、その中核にあるのは失業時の保障です。もちろん現行の保険制度がそれにとどまるものではなくて、総合的な雇用政策法的役割があることは承知していますが、中核にあるのは失業時の保障であり、最も本質的な役割は失業者の生活保障にあって、それは憲法25条の生存権の理念や27条の勤労権から導かれるものであることをまずは確認しておきたいと思います。前回の御意見で、再就職の促進が本質的な目的なのかとの御指摘がありましたけれども、私は本質的な目的とまでは言えないと考えております。
雇用保険は失業時の保障のほか、就職促進や失業予防、雇用継続の確保をその役割としています。教育訓練給付は、失業予防や再就職促進に資すると考えますが、訓練内容を見ますと、広範囲で、高いスキルを獲得するものも含まれていることが分かります。
例えば、今の仕事が将来的に衰退していく、業務量が将来的に増える見込みがないとか、今のスキルでは低賃金の職にしか就けない、あるいは、正社員になるためにスキルが必要であるとか、そのような立場にある被保険者が訓練を受け、スキルを身につけ、資格を取り、安定した職に就く。こうした例は教育訓練の成果が生活の安定につながるものであって、雇用保険が対応すべき役割と考えます。
しかし、資料を見ますと、米国公認会計士、税理士、社会保険労務士といった資格があり、このような資格は失業予防や生活安定といった目的を超えているように思います。キャリアアップして、より恵まれた生活をするためのものであるように思われ、社会保険である雇用保険が支援する必要があるのか、疑問に思いました。もちろん人々のキャリアアップを後押しすることはよいことなのですけれども、雇用保険による給付がなくても受講できる者は少なくないように思います。
社会保険は被保険者が回避できない社会的事故、病気であったり、労災であったり、そうしたものを保険事故として給付を行うものですが、教育訓練給付は、自ら職業に関する教育訓練を受けた場合が保険事故になっていて、これは被保険者自らが保険事故を積極的につくり出し、しかも、それを保険が推奨しているようなことになってしまい、これは社会保険の本来の考え方からすると、かなり無理があるように思います。
訓練受講につき被保険者個々人の選択を可能にして、給付を被保険者本人に直接支給することは効果的で、そのため保険給付である必要があると思いますけれども、内容的にはどちらかというと二事業に整理されるものでは、と個人的に思います。
現在、政府方針として「人への投資」が進められていますが、この全てを雇用保険が担うべきかというと、それはそうではないように思います。その理由は2つありまして、政府が進める「人への投資」は、その者がスキルアップし、雇用の安定が図られることのほか、企業が成長し、社会経済が活性化する、そうしたことも目的としているからです。つまり、「人への投資」の目的は、就職促進や失業予防といった雇用政策にとどまらず、経済政策の側面があり、特にデジタル人材の育成はそうした側面が強いように思います。そうなりますと、それは雇用保険のみが担うのではなくて、省庁を超えた幅広な施策ではないかと思います。
2つ目の理由は、学び直しをしたいのは雇用保険の被保険者に限らないということです。自然科学系の分野の学び直しでは、企業で働く労働者、技術者、企業の研究職という方が多いように思いますが、少なくとも法学系では、企業で働く労働者よりも、むしろ、公務員や資格を持っている自営業者、あるいは無職の者に学び直しのニーズがある印象です。学び直しは国民全体の問題であり、雇用保険の被保険者に限定するものではないと考えます。そのように考えますと、雇用保険の被保険者にのみ学び直しを支援することが適切なのか。国民全体の学び直しを支援する。例えば、学び直しを受け入れる大学等の機関を経由した助成の方法も十分可能であるように思います。これも雇用保険の枠を超えた話ではありますけれども、意見として述べさせていただきます。
私からは以上です。
○尾田雇用保険課長 水島先生、ありがとうございます。
それでは続きまして、渡邊先生、お願いいたします。
○渡邊構成員 原先生初め御報告いろいろありがとうございました。大変勉強になりました。
その原先生の御報告との関連で、RCT手法が実証の効果分析において非常に優れた手法だというようなことかと思ったのですが、国としては、その点どのようにお考えになっているのかと。倫理的な観点からそういった実証実験が難しくなっているというような御指摘が多々ございましたが、国として、そういった効果分析において、きちんと裏づけを持って証明しながら進めていこうというのであれば、国としては、その点どのように考えているのかといった点を伺いたいと思いました。
また、コロナ禍における特例措置に関しては、酒井先生から御指摘ありましたように、働きながら受講しやすい環境を整えるために訓練基準の引き下げといいますか、時間の短縮というような措置を講じているということですが、確かに、働きながら受講しやすい環境を整えるのは大変重要なのですが、私も、酒井先生が御指摘いただいたように、目標とする能力の獲得が、それによってきちんと担保されているのかどうかといったような検証はやはり不可欠であろうと思いました。単に短縮すればいいというだけではなくて、受講しやすい環境を整えるというのであれば、ほかの資料のところにもございましたように、オンラインでの受講を可能にするとか、土日の開講を可能にするとか、そういったような視点もありますので、短縮に関しては、改めて検証する必要があるのではないかと思われました。
また、資料で言うと8ページに出てくるのですが、求職者支援制度に関しての受講訓練者に対する就職支援に関する説明資料がございました。ここでは、訓練受講者ごとに就職支援計画を作成して、就職までの支援を訓練実施機関と連携を図りながら、個別・伴走型できめ細やかに行うというようなことがございました。このような就職支援計画を個別ごとに作成して就職支援を行っていくと。それは訓練の開始当初から始まっていくのだといったような視点は大きな利点があると考えております。特に2つ大きな利点が指摘できるのではないかと。
1つ目は、それによって高い就職率といったようなところが結果として生じてきていると。そこでは、丁寧なキャリアコンサルティングの存在がやはり重要であることが示されているように思います。以前、JILPTなどで実施された調査結果からも明らかにされているところですが、そういった丁寧なキャリアコンサルティングを実施するためにも、このような個別・具体的な就職支援計画を作成することが非常に重要ではないかと思いました。
2点目の利点としては、今後、多くの人材が必要とされている分野に人を誘導するといったような働きが期待できるのではないかと思っています。というのは、その訓練を受けて、新たに就職をしようと考えている人たちに対して、今後、将来的にこういった産業で人手が足りなくなるとかそういったような情報を提供して、今からその技能を身につけましょうといったようなことを伝えていくということは、必要となる産業に人を誘導していくといったような効果が期待できるのではないかという点からも、この就職支援計画をきめ細やかに作成していくのは、大きな利点が得られるのではないかと考えています。
そうしますと、失業者一般に対する取扱いに対しても、このような求職者支援制度の下で行っている取扱いを拡大していく、あるいはそれを一般化させていくといったような検討が望ましいのではないかという感想を持ちました。
私からは以上でございます。
○尾田雇用保険課長 渡邊先生、ありがとうございました。
それでは、まず、先生方からいくつか御指摘いただいた点について事務局からお話しさせていただいた後に、原先生からも、今まで皆様からの御発言に対して、コメント等あればお伺いしたいと思います。
まず事務局から、いただいた御質問等について、御説明させていただきます。
まず、渡邊先生からいただきました、国としてRCTをどう考えているのかということにつきましては、私、全体の状況を存じ上げているわけではございませんが、まず、雇用労働施策については、RCTを導入すること自体については、その必要性は、原先生からも強調いただいたとおり重要かと思っております。ただ現実的には、様々な制約がありまして、佐々木先生からも御発言のあった倫理的な問題はもちろんのこと、また、予算的な問題と、雇用対策は即時性と申しますか、すぐに成果を出すということが求められるところがございますので、まずは、RCTをやってみて効果があったものを選択してという段取りが実際には組みにくいというところがございました。一番大きいのは、恐らく倫理的なところかと思います。ハローワークや職業訓練校で、ランダムに対象者を選ぶということは、我々としてもちょっと抵抗があるところでございますので、そういったハードルをどうやって乗り越えていくのかというところが課題かと思っております。
○訓練企画室 皆様、御質問ありがとうございました。訓練企画室でございます。
まず酒井先生からいただきましたお話の中で、求職者支援訓練制度につきまして、短期間や短時間の特例措置についてというようなお話がございました。
ざっくりした数字で申し訳ないのですけれども、大体ですけれども、現在の求職者支援訓練全体の実績に占めます訓練の設定コースで見ますと、3割ぐらいが短期間または短時間の訓練となっております。それから、受講者数のベースで見ましても、2割程度が短期間や短時間のコースの受講者でございまして、コース数や定員数の増加あるいは受講者数の増加にある程度は寄与させていただいているのかなと見ております。
こういった短期間・短時間を受けられた方の就職率につきましては、まだ速報値ベースしかないのでございますけれども、一般的な実践コースが大体6割程度の就職率でありますところを、5~6%ですけれども、多少低下するのではないかなと見ております。
それから、関連いたしまして、渡邊先生から、短期間・短時間とともに、働きやすい、働いている方でも実行しやすい環境かというようなお話ございました。最近は、求職者支援制度でもオンライン訓練も始まっておりますし、そのほかに、オンデマンド方式で、いつでも見られるというようなものも少し始まってきておりますので、そういった環境整備もされているということだけ申し上げます。
それから、水島先生から、公共職業訓練の戸田企画官の訓練結果についてお話ありましたので、若干補足させていただきます。先ほど、戸田企画官から説明しました資料4の11ページを御覧ください。女性が情報技術者になりにくいという結果が出ましたので、さらなる訓練に関して分析を進めました。最初のところで申し上げましたIT分野の訓練という中には様々なレベルのものが含まれていたのですけれども、それを詳細に分析しますと、情報ビジネス科を受講されている割合が非常に高くなっております。この情報ビジネス科というのは、カリキュラムの中にPCやソフトウェアの操作が含まれる訓練で、レベル的にはユーザーレベルでございまして、どちらかというと情報技術者、専門職になる方が受ける訓練ではなかったものでございまして、こういったものが多く含まれていたところでございます。そして、この受講者は、女性が非常に多いというものでございましたので、こういった方々が含まれている訓練で、先ほど見ましたところ、情報技術者になる方が少なかったというような結果になっておりました。
次の12ページを御覧いただきたいのですけれども、そうしたたくさんいろいろなものが含まれているという状況を踏まえて、情報技術者の専門的な訓練のみに絞って訓練の効果がどうかというものを見たものが12ページでございます。一番下を見ていただきたいのですけれども、ITの専門的な訓練を受講した者を男性・女性で比較いたしますと、交差項は有意ではないというところになっておりまして、一番下ですけれども、ITの専門訓練の受講に関しては性別による有意差がないということで、女性だから訓練を受けてIT技術者になりにくかったというわけではないということだけ申し添えさせていただきます。
それから、水島先生、非常によい観点で御指摘いただいたのですけれども、ここで言う情報技術者というのは、あくまでも情報通信業の専門的・技術的職業に従事した方だけを拾っておりますので、例えばほかの産業の専門家になられた方とか、情報通信業の営業に就いた方は含まれないので、先ほどおっしゃったような技術営業の方については入ってこないのかなと思っております。
以上です。戸田企画官、補足をお願いいたします。
○戸田政策企画官 ありがとうございます。
○尾田雇用保険課長 それでは、原先生、お願いできますでしょうか。
○原臨時委員 発言の機会を与えてくださって、どうもありがとうございます。
政策評価に関しまして、佐々木先生、酒井先生もおっしゃられたように、RCTに一足飛びにいかないだろうから、今できるところからやっていきましょうという話ですけれども、それはその通りと思います。でも、ずっと今できるところを何とかやって、何とかやって、でも、なかなか説得的な議論ができなくてというのも経済学者は繰り返してきているので、どこかでRCTの議論が始まってほしいなという気持ちはあります。ただ、労働政策は人の生活に密接に関係しているのでなかなかRCTができないというのは分かるのですけれども、国際的に見ても、積極的労働市場政策の中でRCTを使った政策評価も増えてきています。その政策評価というところでも、日本だけが遅れていくという状態はやはりどうかなと思うところがありまして、全ての政策でできると私も思っていません。でも、何かできる政策があると思うので、できるところからパイロット的に始めてみて、ほかのものにも適用していくということができるのではないか。いつか始めないとこの先ずっと始まらないと思っています。なので、もし、御検討いただけたらうれしいと私は思っています。
もう一つ、業務統計の活用。今回、戸田さんからの御報告を聞いても、こういうことを厚生労働省さんがなされたというだけでも画期的と思うのですけれども、ぜひ、もう一歩進んで、外部の研究者にも使わせていただいて、透明なEBPMができるようになったらいいなと思っています。
どうもありがとうございました。
○尾田雇用保険課長 ありがとうございました。
それでは、終わりの時間を過ぎておりますけれども、本日はこのあたりで議論を終了させていただきたいと思います。山川座長から、総括をお願いできますでしょうか。
○山川座長 原先生、戸田企画官、大変有益なお話ありがとうございました。今日は、政策的にも重要なお話をいただいたと思います。
視点としては、全体の中では、水島先生おっしゃられましたけれども、幾つかのレベルがあって、政策目的の観点からですけれども、前回のお話が失業状態からの救済と、それから、再就職促進のお話で、今日は、3つ目として、言わば非自発的な離職の防止のお話で、雇調金とかを取り扱いまして、それから、4番目が恐らく受給機能の円滑化といいますか、ミスマッチ解消というような意味があるかと思います。
さらに、5番目になるかと思いますけれども、供給される労働力の質の向上のようなな、DX問題とか、そちらも出てきて、5つぐらいのレベルが今日までに示されていたと思います。水島先生がおっしゃったように、4番目と5番目は、特に5番目は経済政策の領域に入るかと思いますので、逆に言いますと、労働政策と経済政策の境界が非常に曖昧になってきているのが現代ではないかと思います。
しかし、それは、私は重要ではないかと思っていまして、Race to the bottom問題といいますか、底辺への競争を国際的に避けるためには、質の向上を図らないといけないということだと思います。ただ、そこで雇用保険システムをどう使うかという点についても給付の仕組みの中でやるのか、二事業でやるのか、さらに、国庫負担でやるのかというお話があって、さきに経済政策との絡みが入ってきますと、ほかの経済政策、IT技術者の問題などは、むしろ、教育政策の問題ではないかと私は思っているところで、前も申し上げたかもしれません。
その中でも、今日の4番目、ミスマッチ解消と質の向上の点では、訓練との関係が非常に密接なので、それで、今日はお二人のお話が非常に有益だったと感じた次第です。目的別に考えるというさっきの発想からすると、多分、ニーズがまずあって、ニーズに照らしてターゲットが決まってきて、酒井先生もおっしゃられましたように、対象者とどういう目的を達成するのかを、ターゲットごとにいろいろ考えていくということになるのではないか。ターゲットによっては再就職率で考えられますし、あと、労働条件の向上などという別の目的を達成しようと思うと、別の指標を考えるということになるのかなと思った次第です。
政策目的が広がれば広がるほど、なかなか難しくなってくるという感じもしなくもないのですけれども、それでも、EBPMがだんだんと進んできているのだなということを実感しまして、その分析の手法もいろいろ深いものが出てきているということを今日学んだ次第です。大変ありがとうございました。
以上です。
○尾田雇用保険課長 山川座長、ありがとうございました。
進行が不手際で申し訳ございませんでした。
本日は、皆様方闊達な御議論をいただきまして、どうもありがとうございました。予定の時間が過ぎましたので、これをもちまして、本日の研究会は終了させていただきます。
次回の日程及び会場等の詳細は、追って御連絡させていただきますので、よろしくお願いいたします。
本日は、お忙しい中、どうもありがとうございました。