2022年7月29日 第1回「労働基準法施行規則第35条専門検討会」議事録

日時

令和4年7月29日(金) 10:00~12:00

場所

厚生労働省 共用第9会議室(17階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者

参集者:五十音順、敬称略
厚生労働省:事務局

議題

  • 労働基準法施行規則第35条専門検討会の検討経過等
  • 化学物質による疾病に関する分科会検討結果報告書(令和4年3月)について
  • 「芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会」報告書(令和2年12月)について
  • 脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(令和3年7月)について
  • その他包括救済規定に該当した疾病について

議事

議事録
○本間補佐 定刻になりましたので、これより、第1回労働基準法施行規則第35条専門検討会を開催いたします。委員の皆様におかれましては、御多忙中のところ御出席いただき、誠にありがとうございます。初めに、御発言の際の御案内を申し上げます。会場で御出席の方におかれましては、長いマイクの下のボタンを押し、赤いランプが付きましたら御発言をお願いいたします。終わりましたら再度、ボタンを押してください。オンラインで参加される方に、発言の際のお願いです。マイクのミュートを解除した上で、お名前と発言がある旨の御発言をしていただくか、メッセージで「発言があります」と送信してください。その後、座長のほうから「誰々さん、お願いします」と指名がありますので、その後に御発言をお願いいたします。また、大変申し訳ございませんが、通信が不安定になることで、発言内容が聞き取りにくい場合があることに、あらかじめ御了承をお願いいたします。
 検討会に先立ち、傍聴されている皆様にお願いがあります。携帯電話などは必ず電源を切るか、マナーモードにしてください。そのほか、別途配布しております留意事項をよくお読みの上、検討会開催中はこれらの事項をお守りいただいて、傍聴されるようお願い申し上げます。また、傍聴されている方にも会議室に入室する前に、マスクの着用をお願いしておりますので、御協力をお願いいたします。万一、留意事項に反するような行為があった場合には、この会議室から退室をお願いすることがありますので、あらかじめ御了承ください。
 それでは、議事に入る前に、本検討会に御参集を賜りました先生方を、五十音順に御紹介させていただきます。公益社団法人全国労働衛生団体連合会会長、北里大学名誉教授の相澤好治先生、平塚共済病院院長の稲瀨直彦先生、産業医科大学産業生態科学研究所所長 職業性中毒学研究室教授の上野晋先生、中央労働災害防止協会大阪労働衛生総合センター所長、大阪市立大学名誉教授の圓藤吟史先生、慶應義塾大学名誉教授の大前和幸先生、医療法人社団新光会不知火クリニック院長、一般社団法人日本うつ病センター・産業メンタルヘルスセンター所長、産業医科大学名誉教授の中村純先生、関東労災病院副院長、循環器内科部長の並木淳郎先生、埼玉医科大学名誉教授の西村重敬先生、信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室教授の野見山哲生先生、公益財団法人日本股関節研究振興財団理事長、聖マリアンナ医科大学名誉教授の別府諸兄先生、横浜労災病院病院長・運動器センター長の三上容司先生、東京慈恵会医科大学学長補佐の柳澤裕之先生、千葉労災病院健康診断部医師の由佐俊和先生です。なお、杏林大学医学部脳神経外科学教室教授の中冨浩文先生におかれましては、本日の検討会は御欠席との御連絡を頂いております。
 続いて、厚生労働省の出席者等を御紹介いたします。大臣官房審議官の梶原、補償課長の西岡、職業病認定対策室長の児屋野、補償課長補佐の中山、中央労災医療監察官の井上、中央職業病認定調査官の西川、同じく千葉です。私は、職業病認定対策室長補佐の本間です。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは開催に当たり、大臣官房審議官の梶原より御挨拶を申し上げます。
○梶原審議官 おはようございます。改めまして、官房審議官労災担当の梶原でございます。本日はよろしくお願いいたします。労働基準法施行規則第35条専門検討会の開催に当たりまして、一言御挨拶を申し上げます。
 本日、御参集の先生方におかれましては労働基準行政、取り分け労災補償行政に関して、日頃より御理解と御協力を賜り、誠にありがとうございます。厚く御礼申し上げます。御承知のとおり、労働基準法施行規則別表第1の2は、医学経験則上、業務との因果関係が明白であると考えられている疾病を具体的に列挙することにより、業務上疾病に罹患された被災労働者の労災請求を容易にすること、併せて私ども行政庁における労災認定業務の円滑な処理を図ることを目的としております。本日のこの検討会では、この趣旨を踏まえまして、別表第1の2に例示列挙することが適当である疾病について、医学専門家の先生方から御議論、御示唆、御提言を頂くために開催しているものです。
 振り返りますと、前回のこの検討会は、平成30年度に開催しており、今年で4年が経過しているわけです。前回の検討会の開催以降、各種検討会等で検討を重ねておりまして、これらの知見を踏まえ、今回の検討会にこの御報告をお諮りし、御議論を頂きたいと思っております。
 具体的には後ほど事務局のほうから詳細を御説明いたしますが、検討のテーマとして4つほど御用意しております。1つ目は、化学物質による疾病に関する分科会という、有識者による検討会の開催をお願いし、その検討結果報告書がこの間にまとまっております。この報告書において、別表への追加や変更等を行うことが適当であるとされた化学物質による疾病について複数の御示唆を頂いておりますので、こちらの是非について御議論を頂きたいと思っております。2つ目がMOCAによる膀胱がん、3つ目が脳・心臓疾患の対象疾病について、最後の4つ目が別表の中にあるその他包括救済規定、バスケットクローズでこの4年間に認定をした症例について、別表に具体に例示列挙することが適当であるかどうか。この4点について御検討を頂きたいと考えております。
 検討の対象となる疾病は様々な医学専門分野に属して、非常に多岐にわたるものでございます。本日お集まりを頂きました委員の皆様方には、大変な御議論をお願いすることになります。限られた時間ではありますが、専門的な見地から活発な御議論を賜りますよう、お願いを申し上げる次第です。以上、検討会の開催に当たりまして、御挨拶をさせていただきます。本日はよろしくお願いをいたします。
○本間補佐 ありがとうございました。続いて配布している資料の確認をさせていただきます。本検討会はペーパレスでの開催とさせていただいておりますので、お手元のタブレットで確認をお願いいたします。本日の資料は、資料1「開催要綱」、資料2「業務上疾病の関係法令」、資料3-1「労働基準法施行規則の一部を改正する省令等の施行について(抄)」、資料3-2「労働基準法施行規則の一部を改正する省令等の施行について」、資料4-1「労働基準法施行規則の規定に基づき労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに労働大臣が定める疾病を定める告示の全部改正について(抄)」、資料4-2「労働基準法施行規則の一部を改正する省令の施行及び労働基準法施行規則の規定に基づき労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに労働大臣が定める疾病を定める告示の適用について(抄)」、資料5「労働基準法施行規則第35条専門検討会の検討の経過」、資料6「労働基準法施行規則別表第1の2の例示列挙の考え方」、資料7「検討対象とする疾病」、資料8「労働基準法施行規則第35条専門検討会化学物質による疾病に関する分科会検討結果報告書(抄)」、資料9「芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会報告書(抄)」、資料10「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(抄)」、資料11-1「労働基準法施行規則別表第1の2の各号のその他に包括される疾病における労災補償状況調査結果」、資料11-2「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」となっております。不足等はありませんか。
 議事に入らせていただく前に、本検討会の開催要綱について説明させていただきます。資料1を御覧ください。資料1は検討会の開催要綱です。1、開催目的についてです。本検討会は昭和53年に設置されて以降、定期的に検討を重ねているものですが、新たな業務上疾病の発生が見られる中、令和4年3月に化学物質による疾病に関する分科会報告書が取りまとまったこと、令和3年7月に脳・心臓疾患の労災認定基準について、専門検討会報告書が取りまとまったことなどを踏まえ、業務上疾病として新たに労基則別表第1の2等に追加すべきものの有無等について、検討を行うために開催するものです。
 2、検討会の構成及び検討事項です。本検討会ではアのとおり、臨床医学、病理学、衛生学等の専門家に御参集いただいております。本検討会の座長は、御参集の先生方の互選により選出させていただくこととしております。2の(2)の検討事項です。本検討では、ア、令和4年3月に取りまとめられた「化学物質による疾病に関する分科会」の検討結果を踏まえ、新たに労基則別表第1の2に追加すべき疾病の有無等の検討、イ、令和2年12月に取りまとめられた「芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会」の検討結果を踏まえ、新たに労基則別表第1の2に追加すべき疾病の有無等の検討、ウ、令和3年7月に取りまとめられた「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」の検討結果を踏まえ、新たに労基則別表第1の2に追加すべき疾病の有無等の検討、エ、平成29年度から令和2年度までに業務上疾病としたもののうち、新たに労基則別表第1の2に追加すべきものの有無等の検討、以上についての御検討をお願いする予定です。
 3、その他についてです。本検討会は、原則として公開となっております。また、本検討会に御参集賜りました先生方の名簿も、開催要綱に掲載をしておりますので、御一覧いただければ幸いです。資料1についての御説明は以上です。
 それでは、議事次第に沿って進行をさせていただきます。初めに、ただいま御説明した開催要綱に従い、本検討会の座長を選出していただきたいと思います。座長は、参集者の互選により選出することとされております。どなたか御推薦等はありませんか。
○柳澤委員 相澤先生を御推薦したいと思います。
○本間補佐 ただいま、相澤先生を座長に御推薦いただきましたが、いかがでしょうか。
   (異議なし)
○本間補佐 ありがとうございました。皆様の御賛同を頂きましたので、相澤先生におかれましては、恐れ入りますが、座長をお務めいただくこととして、これからの議事の進行をお願いいたします。なお、カメラ撮りについてはここまでとさせていただきますので、御了承願います。
○相澤座長 皆さん、おはようございます。活発な御議論をよろしくお願い申し上げます。それでは、議事次第に沿って進行したいと思います。最初の議事は、労働基準法施行規則第35条専門検討会の検討経過等について、事務局から御説明をお願いいたします。
○本間補佐 それでは、資料2から資料5について御説明申し上げます。資料2は、業務上疾病の関係法令です。一番上に記載のある労働基準法第75条が、業務上疾病の根拠の法令となっております。労働者災害補償保険法と、3つ目のマルにある労働基準法施行規則第35条に、先ほどの基準法第75条第2項の規定による業務上の疾病についての記載があります。その下が別表第1の2です。1号の「業務上の負傷に起因する疾病」から、11号の「その他業務に起因することが明らかな疾病」の1~11号までが記載されております。
 今回の検討事項のうち、化学物質よる疾病に関する分科会の検討結果については、別表第1の2のうち、資料2ページの第4号の1において、厚生労働大臣が定めるとされている大臣告示の見直しについての御検討をお願いすることとしております。大臣告示の詳細については、資料の5ページ以降に別紙として一覧表を掲載しているところですので、御覧いただければと思います。また、MOCAによる膀胱がんについては、資料の3ページの中段の第7号への追加を検討いただきたいと思っております。加えて脳・心臓疾患の対象については、資料4ページの8号に記載のとおりです。こちらの見直しも今回の検討の対象としております。なお、その他包括救済規定については、別表1の2の複数の号に例示列挙の疾病のほかとして掲載されているものです。
 資料3を御覧ください。こちらは別表及び告示の改正に伴い、厚生労働本省から各都道府県労働局、労働基準監督署に対して、その運用等について指示をしているものです。資料3、資料4についてはそのような内容ですので、必要に応じて御参照いただければ幸いです。
 続いて資料5です。こちらは、これまでの35条専門検討会の検討経過についてまとめたものです。概要について御説明をさせていただきます。繰り返しになりますけれども、労働基準法施行規則第35条専門検討会は、昭和53年の労働基準法施行規則の改正に当たり、中央労働基準審議会及び労働者災害補償保険審議会に対し諮問を行ったところ、両審議会から改正規則の運用について配慮すべき事項として、新しい疾病の発生などに対処し得るような、医学専門家による定期的な検討を行うべきである旨が、答申に付記されたところです。
 この答申を踏まえ、本検討会は昭和53年から医学専門家により構成される検討会として、定期的に開催しているところです。近年はおおむね4~5年に1度の頻度で開催しており、検討会を踏まえた主な改正事項については、資料5のア~キに記載のとおりです。直近では平成30年度の検討会での御議論を踏まえ、裏面のキに記載をしているとおり、オルト-トルイジンによる膀胱がんを別表に追加したところです。また、前回の検討会では指摘事項として、行政当局において情報収集した化学物質による新たな疾病について分科会を設置し、速やかに検討に着手するとともに、製造業をはじめとした各事業場では、常に新たな化学物質が使用される可能性があることを踏まえ、行政当局においては引き続き情報収集に努め、同分科会の中で新たな化学物質による疾病について幅広く検討することを望むとされたところです。資料5の説明は以上です。
○相澤座長 ただいま事務局から御説明がありましたけれども、これについて何か御質問がおありでしたら、挙手をお願いいたします。
○大前委員 大前です。質問というか、発言してよろしいですか。資料2の6ページの砒化水素です。今日の議題にもあるのですが、この砒化水素の障害の所に誤字があります。「黄疸又は浴血性貧血」とあるのですけれども、これを「溶血性」というように修正してください。以上です。
○本間補佐 了解いたしました。
○相澤座長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。ありがとうございます。それでは、次の議事で、労働基準法施行規則別表第1の2の例示列挙の考え方について、事務局から御説明をお願いいたします。
○本間補佐 続いて資料6を御覧いただければと思います。こちらは従来からの例示疾病の考え方を取りまとめたものです。これは今回新たに提案させていただくものではなく、これまでにもこの考えに基づき、別表への追加について御議論を行っていただいているところです。従来から業務との間に因果関係が確立していると認められる疾病については、労働基準法施行規則別表第1の2に例示列挙することが適当という考え方が基本です。その例外的な取扱いとして、1~4を四角囲みで整理させていただいております。
 1番が、過去において相当数の発症が見られましたが、労働衛生管理の充実などによって、今日発症例が極めて少ないものです。2番として、諸外国において症例報告があるが、国内においては当該疾病の発生に係る化学物質などが、製造及び輸入の禁止等により使用される見込みがない、又は研究機関などの特定の機関においてのみ使用されるなどの理由から、当該疾病の発症例が極めて少ないと認められるものです。3番が、ばく露から発症までの期間が短いもの以外で、因果関係が明らかになっていないものです。4番が、有害業務の集団及び疾病の集団としての類型化が困難であり、法令上の列挙・指定になじまないものです。この4つについて、別表への例示列挙から除くとされております。事務局としては今回もこの考え方を踏襲し、御検討願えればと考えているところです。資料6については以上です。
○相澤座長 今、事務局から御提案がありましたが、この検討の仕方でよろしいでしょうか。御意見がありましたらお願いします。よろしいようですかね。ありがとうございます。それでは、今回の検討会も、従来の例示列挙の考え方に基づいて進めたいと思います。
 それでは、次の議事です。検討対象とする疾病について、事務局から御説明をお願いいたします。
○本間補佐 それでは、資料7を御覧いただければと思います。事務局としては資料7に記載の4つの検討事項について、今回の検討会で御検討をお願いしたいと考えております。1についてです。分科会の検討結果から、①大臣告示に規定されている化学物質について、新たな症例報告があるなどにより疾病の症状又は障害を追加・更新するものです。②SDS交付義務のある化学物質について、一部の化学物質による症状又は障害を大臣告示に追加するものです。③シャンプー液による皮膚炎について、今回、シャンプー液に含まれる化学物質のうち、一部の化学物質による皮膚炎を大臣告示に追加するものです。④大臣告示に定めのある複数の物質において記載されている血管運動神経障害について、個別に検討し、症状又は障害の見直しを行うものです。以上の4点についての御検討をお願いします。
 2です。化学製品等を製造する複数の事業場において請求のあった、MOCAと呼ばれる化学物質による膀胱がんの発症について、MOCA検討会の検討結果を踏まえ、別表への追加の御検討をお願いいたします。3についてです。脳・心臓疾患の認定基準の見直しの際に、専門検討会にて脳・心臓疾患の対象疾病についても見直すよう報告があったことを踏まえ、見直しの御検討をお願いするものです。4は、その他包括救済規定に該当した疾病について、事務局で要因・疾病別に集計表を御用意させていただきましたので、こちらに沿って新たに別表への追加の必要の有無について、御検討をお願いするものです。資料7については以上です。
○相澤座長 ただいま事務局から、本検討会において4つの項目について検討をお願いしたいという御提案がありました。これについて御意見、あるいは御質問等がありましたらお願いしたいと思います。また、事務局から提案されたもの以外でも、本検討会で検討すべき疾病がありましたら、御提案をお願いしたいと存じます。いかがでしょうか。よろしいでしょうか。ないようですね。ありがとうございます。それでは、今回の検討会は、事務局から提案のあった4つの項目について検討を進めたいと思います。
 それでは、次の議事です。労働基準法施行規則第35条専門検討会化学物質による疾病に関する分科会の検討結果に入らせていただきます。資料8の報告書については、労働基準法施行規則第35条専門検討会化学物質による疾病に関する分科会の座長を務められていた圓藤先生から、御説明をお願いします。
○圓藤委員 資料8、化学物質による疾病に関する分科会検討結果報告書を御覧ください。1ページに検討会の開催経緯等について記載があります。平成30年に取りまとめられた労働基準法施行規則第35条専門検討会の報告書において、今後の検討事項について次の3点が示されました。第1に、大臣告示に規定されている化学物質に関し、新たに報告されている症状又は障害については、化学物質による疾病に関する分科会において、各症例について別表への追加の必要性及び表記について検討を行うことが妥当と判断すること。
 第2に、SDS交付義務のある化学物質のうち、別表第1の2等に規定されていない化学物質について、幅広く情報収集に努めるとともに、改めて化学物質による疾病に関する分科会において別表第1の2へ追加すべきか否かの検討を行うことが妥当と判断すること。第3に、理美容師のシャンプー液等の使用による接触性皮膚炎については、別表第1の2第4号9に該当する疾病として認定例も多いことから、行政当局において最新の情報収集に努め、別途化学物質による疾病に関する分科会を設置して検討を行うことが妥当と判断すること。
 また、平成25年に取りまとめられた分科会の報告書では、木材粉じんによるがんについて別表への追加は見送られたものの、IARC(国際がん研究機関)の報告において木材粉じんによる鼻咽頭がんについて新たな知見が集積されており、今後とも引き続き情報収集が必要であると考えるとされました。これらの報告を受け、令和元年7月から12回にわたり開催した分科会において、新たな業務上疾病として別表第1の2等に追加すべきものの有無について、検討を行いました。
 検討事項ですが、本分科会における検討事項は先ほども説明しました専門検討会報告書や、前回の分科会報告書において示された次の4項目です。検討事項の1つ目は、現在大臣告示に規定されている168の化学物質に係る新たな症状又は障害として、別表第1の2に追加すべきものの有無を検討しました。検討事項の2つ目は、SDS交付義務のある化学物質673物質のうち、大臣告示に規定されていない物質による疾病で、別表第1の2に追加すべきものの有無を検討しました。検討事項の3つ目は、理美容師のシャンプー液等の使用による接触性皮膚炎について、別表第1の2に追加すべきものの有無を検討しました。検討事項の4つ目は、木材粉じんによるがんについて、前回報告書が取りまとめられた平成25年以降の状況を踏まえ、別表第1の2への追加の要否を検討しました。
 検討対象物質の選定、各検討事項について具体的に説明いたします。検討事項1については、大臣告示に規定されている168の化学物質のうち、当該化学物質による新たな症状又は障害に関して、新たな症例報告や疫学研究報告のある124物質について検討を行いました。検討事項2については、令和2年3月時点における、SDSを交付する義務のある化学物質673物質の中から、既に大臣告示に規定されている物質を除いた509物質のうち、①平成25年度の第35条専門検討会において検討されたものの大臣告示に規定されていない等の32物質のうち、当該物質による症状又は障害に関して症例報告がなされた物質。②は、①以外の物質のうち、当該物質による症状又は障害に関して、症例報告が3件以上ある物質等の74物質について検討を行いました。検討事項3については、平成20年4月の独立行政法人労働者健康福祉機構による職業性皮膚障害の外的因子の特定に係る的確な診断法の研究・開発、普及、研究報告書において示されている、理美容師が使用する製品に含まれている成分がある32種類のアレルゲンのうち、既に大臣告示に規定されているものを除いて、理美容師へのパッチテストの結果、陽性率が高い値を示した18物質について検討を行いました。検討事項4については、木材粉じんについて検討を行いました。
 検討に当たっての基本的な考え方です。検討に当たっては、化学物質のばく露を受ける業務と、これに起因して生じる疾病との間に、一般的な医学的な因果関係があることが確立されているかどうかを基本とし、国内外の症例報告のあった疾病について通常労働の場において発生し得ると、医学経験則上評価できるかどうかという観点から検討を行いました。
 具体的には、①自殺、誤飲等、非職業性ばく露による疾病、②事故的な原因であり、発生頻度が極めて低い急性中毒等の疾病、③国内での使用が確認されていない化学物質による疾病については、通常労働の場において発生すると考えにくく、これらの症例報告は検討から除いております。その上で、職業性ばく露による症状を検討し、化学物質と疾病との間に医学的な因果関係が確立していると認められる場合には、原則として例示疾病に追加すべきとしました。また、職業がんについては、疫学による証拠が重要であると考えられることから、上記の考え方に加えて国内外で疫学としての証拠がある場合は、判断の指標としました。
 5、検討結果。これらの考え方を踏まえて、検討結果について説明いたします。検討事項1については、検討を行った124物質のうち、弗化水素酸あるいは弗化水素による低カルシウム血症、組織壊死、砒化水素による腎障害、トリクロルエチレンによる皮膚障害について、大臣告示に追加することが適当であると結論を得ました。
 検討事項2については、検討を行った74物質のうち、二酸化塩素による気道障害、2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタンによる肝障害、臭化水素による気道障害、水酸化カリウムによる皮膚障害、前眼部障害、沃化メチルによる中枢神経抑制について、大臣告示に追加することが適当であると結論を得ました。このことについて、事務局より補足説明をお願いいたします。
○児屋野室長 圓藤先生の御発言の途中ですが、事務局から若干の補足をいたします。資料8の4ページを御覧ください。中ほどから2、検討事項としての物質が羅列されております。先ほど圓藤先生がおっしゃいました74物質というのは、ここにあります(1)~(74)の74物質のことです。このうち70番に、沃素及びその化合物とあります。沃素とその化合物全般を検討していただいたところです。その結果、その化合物のうち、沃化メチルについて、中枢神経抑制というものが対象となったということです。したがって、同じ資料8の4ページですが、表2として検討結果2の取りまとめがあります。5の所に、沃化メチル、中枢神経抑制とありますが、これは正確に申し上げますと沃素及びその化合物を検討したところ、沃化メチルが対象となって中枢神経抑制という障害が認められたという表です。
 しかしながら、沃化メチルというのは、大臣告示に既に規定されている物質です。前後して申し訳ありませんが、資料2の法令一覧の8ページの中ほどに、沃化メチルとあり、そこに障害が羅列されております。ただ、この羅列されている障害の中には、先ほど申し上げた中枢神経抑制というのがないということで、若干表記の仕方が、事務局から言葉が足りずに申し訳ありませんでした。以上説明です。
○圓藤委員 続いて、検討事項3について、検討を行った18物質のうち、パラトルエンジアミン、チオグリコール酸アンモニウムによる皮膚障害について、大臣告示に追加することが適当であるとの結論を得ました。検討事項4の木材粉じんによるがんについては、今回の結論においても新たに国内発症例の報告は確認できず、国内における現在の木材粉じんへのばく露状況が不明であること、また、木材の種類、粒径に依存すると考えられますが、がんの発生するメカニズムについて十分な情報が集まっていないことから、現時点において新たに追加する必要はないとの結論を得ました。これについては、今後新たに知見が集積された際に、改めて検討を行う必要があると考えております。
 6、大臣告示による血管運動神経障害についてです。現行の大臣告示において、カルシウムシアナミド、ニトログリコール、ニトログリセリンには症状又は障害として、血管運動神経障害が規定されておりますが、最近の知見を踏まえるとカルシウムシアナミドは代謝によりアセトアルデヒドを蓄積すると考えられており、アセトアルデヒドの血管拡張作用による血圧低下や頻脈が生じることが知られております。また、ニトログリコール、ニトログリセリンについては、一酸化窒素が神経ではなく血管に直接作用し、狭心症のような症状が生じることが知られております。このことから、大臣告示におけるこれらの物質は、血管運動神経障害を削除し、カルシウムシアナミドには不整脈、血圧降下等の循環障害を、ニトログリセリンには狭心症様発作を追加することが適当であるとの結論を得ました。これらの検討結果を踏まえて、有害性の認められている化学物質と、これにばく露することによって生じる疾病について、新たに業務上疾病として大臣告示に掲げるとともに、既に規定されている症状又は障害に関して、必要な名称の変更等を行うことが適当であると判断いたしました。説明は以上です。
○相澤座長 ありがとうございました。1点確認いたします。分科会報告書の検討事項2において、沃化メチルによる症状又は障害として、中枢神経系抑制を追加することが適当であると考えられていると結論付けられております。沃化メチルに関しては、既に大臣告示に規定されておりますが、沃化メチルに関わる症状又は障害には、中枢神経系抑制の記載がありません。そのため、分科会報告書の結論に基づいて、大臣告示の沃化メチルに関わる症状又は障害に、中枢神経系抑制の記載を追加すべきであるということですが、圓藤先生、この認識でよろしいでしょうか。
○圓藤委員 はい、おっしゃるとおりです。
○相澤座長 ありがとうございました。それでは、沃化メチルの大臣告示への追加については、症状又は障害に中枢神経系抑制を追記すべきと考えております。先生方、御意見、御質問はありますか。
○柳澤委員 圓藤先生に確認したいのですが、告示に規定する症状又は障害の表現として、神経系の疾病等の所で、①中枢神経系抑制とあります。これを用いてここに記載するということなのだろうと思うのですが、沃化メチルの所で意識障害という言葉が出てきているのです。中枢神経抑制というのは、ものすごく抽象的な文言で、いろいろな症状が含まれると思うのです。ですから、中枢神経抑制と言われたときに、どのような中枢神経抑制を指しているのだろうと今お話を聞いていて感じたのです。この辺りは、どのように理解したらよろしいのでしょうか。
○圓藤委員 私は、この意識障害の現れ方が中枢神経系の抑制だと思いますので、ここは頭痛、めまい、嘔吐等の自覚症状、視覚障害、言語障害、協調運動障害等の神経障害、せん妄、抑うつ、うつ状態等の精神障害又は中枢神経系抑制等の意識障害ということでいいのではないかと思っております。
○柳澤委員 承知いたしました。よく分かりました。ありがとうございます。非常にきれいな形になると思います。
○相澤座長 ということですが、先生方から御意見はありませんか。
○大前委員 大前です。よろしいでしょうか。
○相澤座長 お願いします。
○大前委員 資料2の5ページで、現在、弗化水素酸がもちろんあるのですが、弗化水素酸(弗化水素を含む。以下同じ。)という言葉は、どういう意味か。同じように、アルキル水銀化合物の所も「以下同じ。」という文章が入っているのですが、これは必要かどうか事務局で検討していただけませんか。
○相澤座長 事務局、資料の5ページの弗化水素酸とアルキル水銀化合物の括弧ですね。
○大前委員 そこです。そこに「以下同じ。」という文言が入っているのですが、意味がないと思います。削ったほうがいいと私は思いますが、事務局で検討をお願いします。
○相澤座長 では、今お返事いただかなくても、よろしいですか。
○児屋野室長 大前先生、ありがとうございます。今、先生がおっしゃったのは、「含む。以下同じ。」という表現をどのような判断基準でやっているかということでしょうか。
○大前委員 そうです。
○児屋野室長 承知しました。今、全物質について、これは含むのか含まないのかという類型がすぐにはできませんので、少し事務局で整理して報告させていただくということでよろしいですか。
○大前委員 はい。よろしくお願いします。
○相澤座長 ありがとうございました。よく読んでいただいて、ありがとうございます。ほかに先生方から、いかがでしょうか。御意見はありませんか。よろしいですか。
○西村委員 西村です。
○相澤座長 西村先生、お願いします。
○西村委員 5ページの項目6の下から3行目の「したがって」の段落で、一番最後に「ニトログリセリンには『狭心症様発作』を追加することが適当であるとの結論を得た」とあります。ニトログリセリンを吸入した場合、その効果は、狭心症様発作よりも、一般には血圧が低下する、それも静脈と動脈に作用することから、血管運動性神経障害ではないかと考えます。狭心症様発作は誤解をまねく懸念があるように感じます。御検討いただければと思います。以上です。
○相澤座長 ありがとうございました。5ページのニトログリセリンの件ですが、圓藤先生、いかがですか。
○圓藤委員 ニトログリセリン並びにニトログリコールも同じだと思いますが、先生のおっしゃるように血圧低下等の作用があります。問題は、ニトログリコール、ニトログリセリンが離脱した後に狭心症様の発作が起こりますので、その離脱症状として狭心症様発作という表現にしております。
○相澤座長 西村先生、よろしいでしょうか。
○柳澤委員 圓藤先生のご説明に補足させていただいてよろしいでしょうか。職場でニトログリセリンなどを製造、取り扱っている方々は毎日ばく露されていて、週末になってばく露されないと、休日明けの月曜日辺りに狭心症様の発作(Monday morning angina)が起こることが多いのです。ずっと1週間ばく露されていて週末にばく露されなくなって、そのときに冠動脈が収縮して一過性に狭心症様発作が起こると病態的には考えられています。それで、この狭心症様発作という言葉がずっと今まで生きていたと私は理解しています。多分、そのことなのだと思うのです。
○相澤座長 西村先生、よろしいでしょうか。
○西村委員 ありがとうございました。そうしますと、就業中ではなくて、就業していないときに起こるということですね。
○柳澤委員 はい。ずっと血管が拡張していて、ばく露がなくなったときに冠動脈が収縮することによって冠血流量が減り、そのときに狭心症様発作が起こるという理解です。
○西村委員 はい、理解しました。そのような時間的経過も含めて影響を判断したということですね。ありがとうございました。
○相澤座長 ありがとうございます。圓藤先生、お願いします。
○圓藤委員 資料2を御覧ください。9ページ、ニトログリコールの所で、狭心症様発作又は血管運動神経障害という記載になっていたこと。それから、ニトログリセリンに対しては、血管運動神経障害になっていたこと。そこで、血管運動神経障害という言葉は適切でないと考えました。それで、ニトログリコールの所では狭心症様発作というのは従来から使っている言葉であることから、それを使って、ニトログリコール、ニトログリセリンとも、血管運動神経障害を廃止して、狭心症様発作で十分理解できるのではないかという判断をいたしました。実際の状態は、今、柳澤先生のおっしゃったように、離脱した段階で発作が起こるということですので、単なる血圧管理だけでは済まないだろうということで、狭心症様発作という言葉を残しました。以上です。
○相澤座長 ありがとうございました。よろしいですか。
○西村委員 ありがとうございました。理解いたしました。
○相澤座長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは、本検討会としては、分科会で検討された各疾病の別表等への追加の可否について、分科会報告書でまとめられた方向性で、沃化メチルに関しては大臣告示に症状又は障害を追記するということで、承認することにさせていただきます。ありがとうございました。
 それでは、次の議事です。MOCAによる膀胱がんに入ります。資料9の報告書については、芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会の座長を務めておりました柳澤先生から御説明をお願いいたします。
○柳澤委員 芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会の報告書が資料9として出ていますが、この中で重要なところをかいつまんでお話をさせていただきたいと思います。まず、検討会の開催経緯です。本検討会は、化成品等を製造する2事業場において、3,3'-ジクロロ-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、通称MOCAの取扱業務に従事した複数の労働者から、膀胱がんを発症したとして労災請求があったことを受け、過去にMOCAによる膀胱がんを業務上疾病として認定した事例はないことから、業務と膀胱がんとの因果関係について検討を行うため開催されたものです。令和2年3月から11月まで、計5回の検討会を開催し、検討を行いました。
 次に、膀胱がんに関する医学的知見です。本検討会において得られた膀胱がんに関する医学的知見は、次のとおりです。1、膀胱がんについて。膀胱がんは、尿路上皮のがん化によって引き起こされ、膀胱がんの90%以上が移行上皮がんで、まれに扁平上皮がんや腺がんがみられます。病理学的・組織学的特徴として、膀胱がんは、筋層非浸潤性がん、筋層浸潤性がん、転移性がんに大別されます。膀胱がんの危険因子としては、喫煙、職業性発がん物質へのばく露、飲料水中のヒ素などが挙げられていますが、中でも喫煙は最も重要な危険因子とされ、男性の膀胱がんの50%、女性の膀胱がんの30%は、喫煙が関与していると考えられています。タバコに関連した発がん物質として、60種類以上の物質が指摘されていますが、中でもアリールアミン類や活性酸素種が発がんに影響を与えていると推定されています。職業性の膀胱がんの臨床病理学的特徴についてです。①若年発症の傾向、②高悪性度で浸潤性の傾向、③上部尿路再発のリスクが高いことなどが指摘されています。また、MOCAを含む芳香族アミンに特徴的な遺伝子変異に関する報告は確認できませんでした。
 2、好発年齢及び罹患・死亡状況等です。年齢別で膀胱がんの罹患率は、男女ともに60歳代から増加し、40歳未満の若年での罹患率は低いと報告されています。また、男性の罹患率は、女性の約4倍です。
 膀胱がんの有害因子の考察です。膀胱がんの有害因子については、以下のとおり考察しました。1、有害因子。労災請求を受けて実施した労働基準監督署の調査によると、2つの事業場のうち一方の事業場において、被災労働者はMOCA、4,4'-メチレンジアニリン、メタ-キシレンジアミン、アニリン、オルト-クロロアニリンの5種類の芳香族アミンを取り扱った可能性があり、これらを用いて化成品の製造等を行っていました。もう一方の事業場においては、被災労働者はMOCA以外にもオルト-トルイジン、アニリン、オルト-クロロアニリンの3種類の芳香族アミンを取り扱った可能性があると考えられました。
 これらの芳香族アミンの中で、IARC(国際がん研究機関)が膀胱がんを引き起こすとして、ヒトに対する発がん性を認めている化学物質は、MOCA及びオルト-トルイジンのみですが、一方の事業場ではオルト-トルイジンは使用されておらず、また、もう一方の事業場においても、被災労働者はオルト-トルイジンにばく露する作業環境ではなかったことを踏まえ、検討会においてはMOCAのばく露と膀胱がん発症との関連性について検討することにしました。
 2、ばく露形態。厚生労働省の依頼により実施した独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の調査結果報告書によりますと、一方の事業場においては、環境中MOCA濃度は測定した作業場所のいずれも検出限界以下となりましたが、作業中に使用した軍手や手袋の内表面からもMOCAが検出されたこと、及び作業者の尿中からMOCAが検出されたことを踏まえ、MOCAの経皮ばく露による生体への取り込みが示唆されました。
 もう一方の事業場においては、過去のMOCAに関する作業環境測定結果において、管理濃度を超える数値が複数年にわたって記録されており、第3管理区分と評価されています。このことから、当事業場では、高濃度のMOCAにばく露していたと推測されました。また、同事業場では、作業状況からMOCAの経皮ばく露による生体への取り込みが示唆されました。
 MOCAのばく露と膀胱がん発症との関連性です。検討会においては、MOCAのばく露と膀胱がんとの関連性について、現時点の発がんメカニズムに関する知見を整理した上で、MOCAのばく露による膀胱がんの発症リスクをばく露期間、潜伏期間の観点から検討しました。医学的知見の整理及び発症リスクについては、IARCが2010年にMOCAをグループ1へ分類換えを行った際のモノグラフに加えて、PubMedを検索し、文献の収集を行った上で検討しました。
 検討結果は、次のとおりです。2、MOCAによる膀胱がんの発がんメカニズムについて。MOCAによる膀胱がんの発がんのメカニズムについては、多くの種類の酵素による代謝活性化が関与していると考えられており、完全には解明されていないものの、検討会で収集した文献の検討結果としては、1、体内に取り込まれたMOCAは、N-水酸化され、代謝生成物を生成する、2、この代謝生成物がDNA付加体を形成し、ヒトの膀胱内でDNA損傷を引き起こす結果、発がんを誘導すると考えられる、との結論に至りました。
 次に、MOCAのばく露と膀胱がん発症リスクの関係です。MOCAのばく露と膀胱がんの発症リスクの関係について、検討会で収集した文献を踏まえた検討結果は、次のとおりです。1、ばく露期間については、他の膀胱がんの発症が疑われる化学物質と混合ばく露の事例を除く3事例では、高濃度と推定されないMOCAのばく露作業従事期間がそれぞれ6年、10年、14年となっており、少なくとも5年程度のばく露で膀胱がんを発症する可能性が認められました。一方で、混合ばく露の事例では、5年未満のばく露でも膀胱がんを発症している事例が認められたため、そのような事例では個別に検討する必要がありました。
 2、潜伏期間については、混合ばく露の事例を除く3事例では、それぞれMOCAのばく露開始から膀胱がん発症まで10年以上の潜伏期間があり、少なくともMOCAのばく露開始から10年以上経過した後に発症する可能性があると認められました。一方で、混合ばく露の事例では、10年未満の潜伏期間でも膀胱がんを発症している事例が認められるため、そのような事例には個別に検討する必要があると考えられました。
 3、喫煙の影響については、MOCAのばく露により膀胱がんを発症した症例には喫煙者も非喫煙者も存在し、MOCAと喫煙の影響を分けてリスク評価することは困難であることから、喫煙者であってもMOCAにばく露している場合には、業務に起因して膀胱がんを発症した可能性は否定できないとの結論に至りました。
 4、また、ポリウレタン製品製造工場において、MOCAのばく露作業に従事した労働者を対象とした研究によると、MOCAの作業従事者では尿中のMOCA濃度が上昇しましたが、非ばく露作業従事者においては尿中にMOCAが検出されることはありませんでした。このことから、尿中のMOCA濃度がMOCAのばく露状況を把握する上で参考になり得ると考えられました。
 最後に結論です。これらの検討結果から、検討会では次の結論に至りました。MOCAのばく露作業に5年以上従事した労働者で、ばく露開始後10年以上経過して発症した膀胱がんについては、業務が相対的に有力な原因となって発症した蓋然性が高いと考えられること。MOCAのばく露作業への従事期間が5年に満たない場合、あるいはMOCAのばく露開始後膀胱がん発症までの潜伏期間が10年に満たない場合は、作業内容、ばく露状況、発症時の年齢、既往歴の有無、喫煙の有無などを総合的に勘案して、業務と膀胱がんとの関連性を検討する必要があること。また、その際に、尿中のMOCA濃度はMOCAのばく露状況を把握する上で参考となり得ること。このような結論を得ました。説明は以上です。
○相澤座長 ありがとうございました。ただいま御説明いただきました内容について、御質問を頂きたいと思います。また、MOCAによる膀胱がんについては、別表に追加するかどうか、それについての御議論をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
○大前委員 大前です。よろしいでしょうか。
○相澤座長 大前先生、お願いします。
○大前委員 別表第1の2に追加するのは賛成ですが、過去の芳香族アミンによるがんについては、移行上皮がんで尿管や腎盂にがんが出ていたということがあるのですが、MOCAについては膀胱だけに限定していいものなのか、あるいは、例えば下部尿路のような形で、尿管や一部の腎盂を含めたほうがいいのではないかと、そのような議論は検討会では出なかったでしょうか。
○柳澤委員 大前先生、重要な御質問、どうもありがとうございました。まさに検討会ではそのことが出ました。議論の中で、尿路系腫瘍ということでまとめても良いのではないかという案も出たのですが、今回、労災申請された5例が全員膀胱がんだったのです。ですから、検討会では、今回は膀胱がんでまとめようとの結論に至りました。ただ、その後の症例を見ていますと、下部尿管がんの症例も出てきていますので、下部尿路系腫瘍あるいはがんという形でまとめるのがよろしいかと思います。
○相澤座長 大前先生、よろしいですか。
○大前委員 ありがとうございます。今、柳澤委員がおっしゃった、検討会の時点では、膀胱がんだけだったけれども、それ以降、下部尿路も症例があるというお話だとすると、広げたほうがいいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○柳澤委員 実は、検討会後に何例かMOCAの労災申請が出ているのですが、1回膀胱がんを起こして、その後に何年かしてから下部尿管にがんが発生した症例がありました。主治医によりますと、転移ではないという見解です。ですから、その症例に対しては、膀胱がん及び下部尿管がんとして意見書を書かせていただいています。
○相澤座長 大前先生、いいですか。
○大前委員 ありがとうございます。今のお話を伺っても、下部尿管というのを入れたほうがいいかと思いました。これは労災の認定の話なので、例えば尿管のがんが出たときに、MOCAと尿管のがんですと、別表第1の2にないから労災にならないというようなことになると、これはむしろ患者さんにとってはかわいそうなので、そういう意味では、少し広めに表現したらどうかという意見です。これは検討していただければと思います。
○柳澤委員 良い意見をどうもありがとうございました。
○相澤座長 そうしますと、報告書の段階で少し検討が必要ですかね。
○柳澤委員 検討会の段階では、膀胱がんだけだったのですが、その後、何例か労災申請があって、その中に膀胱がんだけでなく、尿管がんも発生した症例があるので報告書作成の段階で検討が必要だと思います。
○相澤座長 分かりました。ありがとうございます。ほかの先生方から御意見はありますか。膀胱だけに限らないという御意見も出ましたので、その辺も少し検討させていただければと思います。いずれにしろ、ここではMOCAによる膀胱がんについて、別表に追加する方向でまとめたいと思いますが、よろしいでしょうか。
(異議なし)
○相澤座長 ありがとうございました。それでは、次の議事です。脳・心臓疾患の対象疾病に入ります。資料10の報告書については、事務局から御説明をお願いします。
○西川中央職業病認定調査官 脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書について御説明させていただきます。資料10を御覧ください。資料10の報告書の表紙の次に、参集者名簿を掲載しています。この検討会は、令和2年度から令和3年7月にかけてお集まりいただき、座長は大阪大学の磯先生にお願いしたところです。磯先生はこの検討会に御参集いただいておりませんので、恐縮ですが、私から御説明させていただきます。こちらにございますように、御臨席の西村先生にはこの検討会に御参集いただきまして、心臓の専門家として御意見を頂き、いろいろと御指導いただいているところです。
 この検討の経緯ですが、本文の1ページ、「はじめに」の所を御覧いただければと思います。業務による過重負荷を原因とする脳血管疾患及び虚血性心疾患等、これを「脳・心臓疾患」と呼んでいますけれども、この検討会の当時は、平成13年の認定基準に基づき労災認定を行っていたところです。ただ、その13年の認定基準の改正から約20年が経過するということで、働き方とか職場環境の変化などいろいろ変わっている。医学的知見も蓄積されてきているということで、改めて全体にわたって専門家の先生方に御検証いただいたというのが、この検討会開催の背景ということになります。
 認定基準そのものも幾つか変えていまして、大きなポイントとして4点認定基準を改正する内容の取りまとめになっていますが、今回、この35条専門検討会では、労基法施行規則の別表1の2の規定をどうしていくかということで、そこに関係する対象疾病の考え方の部分について、少し詳しく御説明させていただきたいと思います。資料本文の21ページまで進んでください。報告書の21ページですが、こちらに認定基準における対象疾病の考え方が書いてございます。この報告書の中で現行認定基準と書いているのは平成13年の認定基準ですけれども、そのときには脳血管疾患及び心臓疾患として、21ページの1の(1)(2)の所にございますように、脳内出血(脳出血)、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)、解離性大動脈瘤、この8疾病を記載していたところです。現行の省令(別表1の2)は、この平成13年の認定基準ができた後、平成22年に35条専門検討会で御検討いただいて改正されたもので、この平成13年の認定基準に従って、この8疾病がそのまま列挙されています。
 ただ、この専門検討会におきまして、次の22ページですが、対象疾病に追加する疾病ということで、1番目に重篤な心不全についての御指摘を頂いたところです。平成13年の検討会におきましても、不整脈が一義的な原因となった心停止のほか、そういったものを原因とする心不全症状についても、過重労働によって起こるものとして補償の対象としていたところです。ただ、それを運用上、心不全症状も含めて心停止に含めて取り扱うとしていたところですが、そもそも異なる病態であるため、これに含めて取り扱うことは適切とはいえないという御指摘を、この検討会では頂戴したところです。
 そのために、この検討会におきましては、次の23ページの(2)の上の「このため」の所ですが、入院による治療を必要とする急性の心不全を念頭に置いて、重篤な心不全という限定を掛けた上で、この心不全そのものを対象疾病に追加することが適当だというような結論を頂いたところです。
 また、24ページを見ていただければと思います。表記の適正化を図る疾病というものがございます。ここで解離性大動脈瘤についての御指摘がございまして、結論としましては、「解離性大動脈瘤」については「大動脈解離」に表記を改めることが妥当であると、こういった御指摘を頂いたところです。これを踏まえ、認定基準のほうは既に令和3年9月に改正していまして、重篤な心不全というものを対象疾病に追加し、また、解離性大動脈瘤については大動脈解離に修正した認定基準が既に運用されているところです。この報告書全体としましては、このほかに認定基準として何が業務上の脳・心臓疾患かというところの判断の基準に関して、労働時間を一番重要な要素と考えているところは平成13年のものと変わらないわけですが、労働時間がいわゆる過労死ラインですね、発症前1か月におおむね100時間、また発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たり平均として80時間を超えるような場合、それに至らない場合についても、これに近い時間外労働を行った場合には、労働時間以外の負荷要因の状況も十分に考慮して、業務と発症との関連が強いと評価できるということを明確にしたり、また、そこでいう労働時間以外の負荷要因として勤務間インターバルが短い勤務であるとか、あるいは身体的負荷を伴う業務であるとか、そういった幾つかの負荷要因を新たに明確にしたところです。そのほか、短期間の過重業務や異常な出来事として過重性が認められるような、強い負荷となるような例について明確化したというような改正をしています。このように、対象疾病の改正と併せて大きく4つのポイントをまとめていただいて、そのような改正をしたところですが、この検討会におきましては、労基法施行規則の別表1の2の表記について、重篤な心不全を追加するということでいいかどうか。また、解離性大動脈瘤と現行は記載していますけれども、こちらを大動脈解離に修正するということでよろしいかどうか。こちらについて御議論いただければと思います。以上です。
○相澤座長 ありがとうございました。ただいま事務局から御説明がございましたけれども、2つについて、特に重篤な心不全について御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。西村先生、何か追加はございますか。
○西村委員 埼玉医大の西村でございます。西川さんから4点まとめていただきましたが、就労者で安定した状態にある方が、過重負荷で心不全を発症することは頻度としては高く、それを今度の疾患の対象にすることは画期的なことであるとも考えます。労災申請をされる方も増えると予想しています。後から振り返ったときに、あのとき心不全を追加した報告書であったとなるのではと思っています。2つ目は、解離性大動脈瘤という名前を真性大動脈瘤との成因、病態等の差異と最新の知見から検討した結果、病名を整理する結果となりました。以上です。
○相澤座長 西村先生、ありがとうございました。いかがでしょうか。御意見、ございませんか。柳澤先生、どうぞ。
○柳澤委員 西村先生に教えていただきたいのですが、先ほどの御説明の中に過重労働によっていろいろな不整脈が出てきて、それで心不全になってくるという説明があったと思います。例えば不整脈という言葉がダイレクトに出てくると労災申請しやすいと思いますが、重篤な心不全という言葉ですとかなりいろいろな病態が含まれてきて、労災申請する側が、不整脈が出現したとき、不整脈の程度によると思いますが、例えば重いものであれば産業医がアドバイスして労災申請をするかもしれませんけれども、軽い場合でも長期間出たり出なかったり、例えばPAFみたいなもので迷っている方のケースの場合、そういう方が重篤な心不全という文字だけだとすると、自分は労災申請の対象になるのだろうかと考えると思いますが、その辺りはいかがでしょうか。
○西村委員 先生の御指摘はごもっともで、心不全は症候群であって、軽いものから重篤な例までを含みます。一過性の頻脈系の不整脈あるいは徐脈系の不整脈で心不全を発症することも稀ではありません。そうすると、議論もあったのですが、例えば、急患室を受診し不整脈を正常洞調律に戻した後は利尿剤の投与を受けて帰宅できるような軽症の心不全もありますし、即入院となって重症治療室での集中的治療を要する例、さらに重篤例では人工心肺を用いる治療が必要となる例等が存在します。重症度に大きな差がある中で、どう評価するかが問題となりました。窓口は広げておき、入院を要する重症度を念頭に置いた結果になっています。多様な原因疾患、増悪要因等が複雑に絡み合って発症してくるのが心不全の特徴でもあり、認定については、個別な検討も重要とする方針になりました。
 心不全の初発のときも不整脈が原因になる方もありますし、慢性心疾患あるいは慢性心不全で治療中の方は、疾患の進行によって不整脈を合併する率が増してくるため、軽い負荷で心不全を発症することもあります。そのような心不全の病態の特徴を前提として、個別に判断せざるを得ないとの内容になったと考えています。以上です。
○柳澤委員 西村先生、ありがとうございました。そうしますと、重篤な心不全というよりは、ただ単に心不全という言葉で載せることは、あまり考えられないでしょうか。多分、重篤というと相当重症でないと労災申請できないのではないかと考えると思いますけれども。
○西村委員 先生の御指摘はごもっともです。今、循環器疾患の中で最も多数の方が診療を受けている疾患が、心不全です。年間に何百万人が発症して、高齢者が多いのですが、就業中の方も少なくありません。今までの、脳・心臓疾患の労災認定基準の専門検討会で、議論されてきた脳梗塞や心筋梗塞発症例との比較において、発症要因と重症度等の基準を示すことは、医学的には難しい課題でありました。その辺はいろいろな事例を集めての今後の解析も必要と思います。疾患の重篤度について、例を挙げますと、心停止を起こして蘇生された方は心停止の疾病名で労災申請となることが一般的です。発作性の不整脈で軽い心不全を発症したが入院治療を要しない例、あるいは数日で良くなった方は、重篤度において、心停止とは差があります。同時に、医学的な重症度評価は様々な観点からもできるため、定義は容易でないとの議論もありました。以上です。
○柳澤委員 ありがとうございます。もう1点、例えば健常で元気だった方が過重労働をすることによって、いろいろな原因で心不全に陥ることはあると思います。あるいは、もともと心不全を持っていた人が、それで増悪するということがあるかと思いますが、例えば心不全の発症とか増悪など、そういうような言葉にこれは置き換えられないでしょうか。重篤な心不全にすごく引っ掛かっているのですけれども。
○西村委員 急性心不全を発症した初回の急性心不全と、心不全発症歴があり慢性的に経過しているが安定した状態である平均的就労者における心不全(慢性心不全の急性増悪)とでは、発症様式あるいは増悪要因等は異なっていることが多く、個別的な検討を要するのではと議論されました。特に後者の場合、慢性心不全の急性増悪と加重労働負荷との関連についての評価は、総合的な検討が必要であるとしたのが基本的な考え方です。基礎疾患の有無と疾患、重症度や経過と平均的な進行程度、多数の負荷要因等、たとえば治療アドヒアランスの問題も複雑に関与してきます。疾病名のみからの判断は難しいのではないかとの結論となりました。以上です。
○相澤座長 ありがとうございます。大変貴重な議論だったと思います。重篤なという定義をどこで引くかというところは私も気になっていたところです。ほかの先生方、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。それでは、脳・心臓疾患の対象疾病については別表に追加する方向でまとめたいと思います。次の議事です。その他包括救済規定に該当した疾病について、事務局から御説明をお願いいたします。
○千葉中央職業病認定調査官 事務局から説明させていただきます。資料11-1を御覧ください。資料11-1は、包括規定について説明した資料になります。労働基準法別表第1の2におきましては、各号において具体的に列挙されている疾病以外で業務に起因することが明らかな疾病を労災認定する、いわゆる包括救済規定が置かれているところです。この資料は、この包括救済規定による認定状況を取りまとめて御説明しているものです。平成30年度に開催された前回の検討会におきましては、平成24年度から平成28年度までの5年度について御報告させていただきました。つきましては、本日の検討会においては、それ以降の平成29年度から令和2年度までの4年度分について御報告し、御議論いただきたく存じます。
 表紙をおめくりいただきまして、資料の1ページを御覧いただきたいと思います。資料の1ページは総括表となっています。この表の下に注意書きがございますけれども、各号の認定状況につきまして、第2号13というのは物理的因子にさらされる業務を表しています。第3号5は身体に過度の負担のかかる作業態様の業務による認定を表しています。第4号9は化学物質等にさらされる業務、第6号5は細菌、ウイルス等の病原にさらされる業務、そして第11号は別表の1号から10号に該当しない、その他業務に起因する疾病が計上されています。
 次のページから具体的に御説明させていただきます。2ページを御覧いただきたいと思います。2ページにお示ししているのが物理的因子にさらされる業務の状況です。御覧のとおり、令和2年度から遡り過去4年度は4件の事例がございまして、うち3件は脱水症の事例となっています。もう1点は航空機圧外傷による内耳障害となっていますが、航空機を複数回利用した方に発症した外リンパ瘻の事例となっています。
 3ページを御覧ください。身体に過度の負担のかかる作業態様の業務による認定状況です。下の欄にその他の疾患となっていますが、この中の脊椎症等につきましては、不自然な姿勢による頸部脊髄症等の事例となっています。(2)の血行障害ですが、これはいわゆるエコノミー症候群の事例です。(3)その他につきましては、肘関節症の事例、足の疲労骨折等の事例となっています。
 次の4ページを御覧ください。こちらのページは化学物質等による事例をお示ししています。表は大きく2つに大別されていて、初めが単体又は化合物、その後に混合物及びその他の順にお示ししています。まず、単体又は化合物ですが、最も件数が多いのは(8)次亜塩素酸ナトリウムによる事例です。具体的には皮膚炎とか化学熱傷の事例ですが、これは消毒で使用する液体に触れて発症したという事例になっています。
 また、10ページを御覧いただくと、(117)その他となっていますが、このその他の具体的な事例につきましては、令和2年度で見ますと苛性ソーダの中和によるアルカリ熱傷、エタノールを吸引したことによる頭痛、ジアセチルによる慢性閉塞性肺疾患の事例となっています。令和元年度以前のその他の事例につきましては、エタノールがもう1件あるほかは、また異なる化学物質による事例となっています。先ほど、令和2年度の事例としましてジアセチルによる慢性閉塞性肺疾患の事例があると申し上げましたが、このジアセチルにつきましては昨年度の分科会で御議論いただいた結果、日本における労災認定事例が少なく、また、ばく露状況につきまして海外の文献と比較する上で不明な点が多いといったことから、大臣告示に追加することは見送りとなったという経過がありますので、併せて御説明させていただきます。
 11ページを御覧ください。こちらは混合物による認定事例の一覧となっています。この中で最も認定事例が多くなっているのが、(2)の洗剤、洗浄剤、洗浄液による湿疹、接触性皮膚炎、中毒、咽頭炎となっています。業務は様々ですけれども、洗剤や洗浄液に直接触れたことによって皮膚炎等が発症した事例となっています。
 18ページを御覧ください。18ページの下のほうに(129)その他となっていますが、混合物による認定事例のその他としてまとめられたものが計上されています。この中で令和2年度の事例を見てみますと、動物の排泄物による過敏性肺臓炎、過熱用オイルによる気管支喘息が複数件ございました。以下、ガソリン中毒、剥離剤に含まれるベンジルアルコールによる中毒、これが3件ございました。配管の付着物を抑制するための溶剤による中毒、原因物質が特定できないガス中毒、ポリマーによるじん肺症、カビによる気管支喘息、以上11件がこの内容となっています。また、平成29年度から令和元年度までの事例につきましては、ベンジルアルコールとポリマーを除きまして、令和2年度とは異なる物質による事例となっています。
 19ページを御覧ください。細菌、ウイルス等による事例です。一番上の海外出張等ですが、これは、いずれも海外出張中に細菌やウイルスに感染した事例となっています。その他にはデング熱とかカンピロバクター等がございます。2の給食等につきましては、職場にて提供された食事による食中毒が主な内容となっています。下の欄にその他となっていますが、このうち(5)その他につきましては、令和2年度で見ますと結核、大腸菌、レジオネラ感染症の事例となっています。なお、新型コロナウイルス感染症については、医療従事者等の皆様は別表第6号1に、それ以外の労働者は第6号5である包括規定に該当するものとなっていますが、今回、お示しした表にはこの新型コロナウイルスの事例は数として含めていません。なお、下の欄の注2にございますとおり、令和2年度に新型コロナウイルス感染症で新規受給された方の件数は、4,553件となっています。
 20ページを御覧ください。こちらは別表1から15に該当しない、その他の疾病として認定した事例となっています。令和元年度と2年度で計6件となっていますが、ここに示されている7番のワクチンによる健康被害のほかは、いずれも疾患名、発症がそれぞれ異なる内容となっていました。
 以上、駆け足となって恐縮ですが、包括救済規定の認定事例の概要について御説明申し上げました。事務局としましては、会議の冒頭に御説明いたしました例示列挙の考え方、資料6に照らして考えますと、現時点で例示列挙に追加すべき疾病はないものと考えておりますけれども、御検討をお願いしたいと思います。事務局からは以上です。
○相澤座長 ありがとうございました。ただいま事務局から御提案がありました資料の御説明と、現時点では別表への例示列挙の必要はないという事務局の考え方です。御意見、御質問等がございましたらお願いします。
○大前委員 大前です。よろしいですか。
○相澤座長 大前先生、お願いします。
○大前委員 事務局の意見には賛成です。8ページの82番、アルシンですけれども、これは先ほど砒化水素という表現になっていました。ここら辺の文字の統一はされたほうがいいと思うので、事務局のほうで御検討ください。
○相澤座長 アルシンは砒化水素と同じものなのでということですね。82番ですね。
○千葉中央職業病認定調査官 検討させていただきます。ありがとうございます。
○相澤座長 ほかにはございませんか。柳澤先生、どうぞ。
○柳澤委員 検討していただきたいのは、増粘剤として使われている架橋型アクリル酸系水溶性ポリマーです。架橋型アクリル酸系水溶性ポリマーを取り扱う複数の労働者から労災申請があり、検討会が開催されて報告書が取りまとめられました。今、その対象となる会社は全自動のオートメーション化となり、作業者がばく露することはなくなったわけですが、同じような増粘剤を作っている会社は国内にまだ幾つかあるのです。今後、そのような事業場で作業環境あるいは作業状況によっては、事例が発生する可能性はあると思いますので、将来的で結構ですから、架橋型アクリル酸系水溶性ポリマーも御検討いただけると有り難いと思います。以上です。
○千葉中央職業病認定調査官 ありがとうございます。今後とも労災認定の状況等を蓄積しまして検討させていただきたいと存じます。
○相澤座長 ありがとうございました。ほかに先生方から、いかがでしょうか。野見山先生、お願いします。
○野見山委員 些末な点で恐縮ですが、沃化メチルの記載方法で、漢字で「沃化メチル」と書いてあるものと片仮名で「ヨウ化メチル」と書いてあるものがあって、これの統一をしていただければと思います。お願いします。
○相澤座長 そうですね。沃化メチルの沃という字ですかね。片仮名か漢字か統一を。
○児屋野室長 承りました。
○相澤座長 ありがとうございます。ほかに、いかがでしょうか。よろしいですか。よく見ていただいてありがとうございました。それでは、包括救済規定により認定した事例につきましては、事務局から御提案がございましたように、現時点では別表に追加する必要はないものの、引き続き行政において情報収集に努めた上、検討を行うことということでまとめたいと思います。まだ時間がございますが、先生方から何か全般的に御意見がございましたら。よろしいですか。本日、予定されました議事は以上になります。事務局から、次回のスケジュール等について何かございましたら御説明をお願いします。
○本間補佐 次回の検討会では、今回、御検討いただきました各疾病の別表への追加等につきまして、報告書をまとめていただきたいと思います。次回の検討会は、9月22日(木)、17時から19時を予定しているところです。詳細は後日、改めてお知らせしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。以上です。
○相澤座長 ありがとうございます。大変活発な御議論を頂きまして、ありがとうございました。これで終了させていただきます。