第1回雇用保険制度研究会 議事録

日時

令和4年5月30日(月)16:00~18:00

場所

厚生労働省 共用第9会議室及びオンライン
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館17階国会議事堂側)

議事

議事内容

○長良雇用保険課長 それでは、定刻になりましたので「第1回雇用保険制度研究会」を開催いたします。
まず初めに、職業安定局長の田中より、本研究会の開催に当たっての御挨拶を申し上げます。
○田中職業安定局長 本日は大変お忙しいところ、ありがとうございます。委員の御就任に際して御快諾いただきまして厚く御礼申し上げます。
さて、雇用保険制度は、その前身である失業保険制度が昭和22年に創設されまして、昭和50年に雇用保険制度となり、その後も附帯事業含めて雇用のセーフティーネットとしての役割を充実・強化してまいりました。
直近ですと、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前は、景気回復の中で財政状況も好転しまして、相当額の積立金、雇用安定資金を背景としまして、保険料率、国庫負担率の暫定的な引き下げが行われるに至っておりましたけれども、コロナの感染拡大により状況は一変しまして、失業の増大を抑制すべく、令和2年6月の雇用保険臨時特例法を制定し、その下で、積立金の貸付けや一般会計の投入による雇用調整助成金(雇調金)の特例対応を現在に至るまで継続しております。その結果、雇調金の累計支出は5兆円を超えまして、積立金、雇用安定資金については、ほぼ枯渇する状況になっています。
そうした中で、本年3月、雇用保険法を改正しまして、引き続きコロナ禍への対応に万全を期するとともに、国庫の機動的な繰入れ規定を整備するなど、将来的な財政リスクにも一定対応することとしましたけれども、その際、労働政策審議会の議論の過程あるいは国会審議において、雇用保険制度について様々な課題を御指摘いただいたところでございます。
具体的な課題については、後ほど制度の概況とともに御説明させていただきますが、雇用保険制度は単なる失業中の生活保障制度ではありませんで、より早期に適職に再就職できるように求職活動を効果的に支援するという視点に立って制度設計が行われてきております。その制度設計、どういう理念で、どういう制度が整備されるべきか、こうした根管から本研究会でぜひ御議論いただき、今後、中・長期にわたって雇用のセーフティーネット、なかんずく雇用保険制度を適切かつ効果的に設計・運営していくための土台となる考え方を整理できればと思っております。
こうした基本的な議論は、直近では平成17年度に雇用保険基本問題研究会において行われておりまして、雇用保険制度の在り方に係る議論の整理がなされておりますけれども、その時点からも相当期間が経過しまして、また、コロナ禍があり、さらにコロナ禍の影響のみならず雇用保険制度が前提とする労働市場の状況も大きく変化しつつあります。一言で申し上げますと、働き方が多様化する、あるいはそれを求める求職活動の多様化、さらにはより中・長期的に見ますと、キャリア形成の在り方の多様化といったこともあろうかと思います。こうした様々な多様性の中で、どのような雇用のセーフティーネットを設計・運用するかという大きな課題があると考えております。
また、育児休業給付についても平成6年の改正で雇用保険制度に盛り込まれて発展してきた経過がございますけれども、ここにきてかなりの議論がございます。また、全体の給付額が毎年大きく伸びる中で、どのような制度設計の再設計が可能なのか、様々な政策的観点の中で議論していく課題でもあります。
様々な雇用保険制度に係る課題がある中で、皆様方にはぜひ忌憚のない御意見をいただき、総合的な見地から将来的な、中・長期的な雇用保険制度の在り方について、御指導・御指摘をいただければありがたいと思います。
簡単ではございますが、私からのお願いと御挨拶とさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
○長良雇用保険課長 よろしくお願いします。
報道陣の皆様の頭撮りは大丈夫ですね。
本日は第1回目ですので、まず、研究会の開催要綱、資料1を御覧いただければと思います。趣旨などは今し方、職業安定局長から申したとおりでございます。
資料1の次のページ、別紙で本研究会の構成員、委員の皆様を記載してございます。順番に委員の皆様を御紹介させていただければと思います。
まず、酒井正法政大学経済学部教授でございます。よろしくお願いします。
続いて、佐々木勝大阪大学大学院経済学研究科教授でございます。よろしくお願いします。
続いて、土岐将仁岡山大学大学院社会文化学研究科(法学系)准教授でございます。よろしくお願いします。
続きまして、水島郁子大阪大学理事・副学長でございます。よろしくお願いします。
続きまして、山川隆一東京大学大学院法学政治学研究科教授でございます。よろしくお願いします。
続きまして、渡邊絹子筑波大学ビジネスサイエンス系准教授でございます。よろしくお願いします。
経歴等誤りはございませんでしょうか。
次に、座長の選任に入らせていただきます。資料1の要綱を御覧いただければと思います。4の(2)に基づきまして、研究会の座長は、構成員の互選により選出することとなります。事前にお話しをさせていただいたとおりでございますが、事務局といたしましては山川委員にお願いしたいと考えてございますが、よろしいでしょうか。
(首肯する委員あり)
○長良雇用保険課長 御異論ございませんようですので、本研究会の座長を山川委員にお願いしたいと思います。
それでは、山川座長、一言御挨拶をよろしくお願いします。
○山川座長 山川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
先ほど田中局長のお話にありましたように、雇用調整助成金等をはじめとして、このところ雇用保険制度に関する注目が集まっているところでございます。その一方で、審議会等で制度の在り方について基本的な議論を行うべきであるという御指摘もありまして、この研究会が組織されたものと理解しております。この問題、基本的な検討ということで学際的・理論的な検討の必要性が非常に大きいものと思っております。そのような意味で、最適任の委員の皆様に御就任いただいたと考えております。今後とも幅広な意見、どうぞよろしくお願いいたします。
議事の進行につきましては、委員の皆様の間での議論のいわば取りまとめについては私のほうで行わせていただければと思いますけれども、それ以外の進行につきましては事務局にお願いいたしたいと思っております。
それから、座長代理を指名させていただきたいと思います。座長代理につきましては、座長の指名になっております。そこで、酒井正先生にお願いしたいと思いますけれども、御異議ございませんでしょうか。
(首肯する委員あり)
○山川座長 ありがとうございます。それでは、酒井先生、どうぞよろしくお願いいたします。
○酒井委員 よろしくお願いいたします。
○長良雇用保険課長 続きまして、議事の公開について申合せをしておきたいと存じます。事務局から御説明いたします。
○山口調査官 資料1要綱の4の(5)を御覧いただければと思います。「本研究会の会議、資料及び議事録は、原則として公開とする。ただし、座長は、公開することにより、個人の権利利益を害するおそれがあると認めるときその他正当な理由があると認めるときは、非公開とすることができる。この場合においては、非公開とする理由を明示するとともに、少なくとも議事要旨を公開する」としております。このように取り扱うこととしてよろしいでしょうか。
(首肯する委員あり)
○長良雇用保険課長 ありがとうございます。それでは、そのように取扱いいたします。
それでは、本日の議題であります雇用保険制度の概要に入ります。
まず、事務局から資料2、資料3、参考資料につきまして順次御説明いたします。
○山口調査官 それでは、資料の御説明をさしあげます。
まず、資料の御確認ですけれども、資料2で「雇用保険制度の概要」ということで制度の簡単な中身について資料をまとめてございます。資料3は「今後の論点(案)」ということで、今後御議論いただきたい中身について、いろいろと資料を集めているものでございます。参考資料1でございますが「雇用保険制度の主要指標」ということで、直近までのデータをそろえておりますので、後ほど御参照いただければと思います。参考資料2は、先般の令和4年雇用保険法改正に係る関係資料でございまして、法案の概要、部会報告書、審議会の答申意見、附帯決議をまとめてございます。こちらも適宜御参照いただければと思います。
それでは、まず資料2に基づきまして、雇用保険制度の概略について簡単に御説明をさしあげたいと思っております。
まず、4ページを御覧いただければと思います。雇用保険制度とはということでございまして、失業中の労働者の生活の安定と失業者の就職の促進という2つの観点から、失業等給付、育児休業給付の支給を行うとともに、失業予防や能力開発等の事業を行うという雇用に関する総合保険制度となっております。
こちらの制度の主な考え方につきまして、7ページで整理してございますので、そちらを御覧いただければと思います。適用の要件、受給資格要件、給付水準、財政運営の4つの観点から整理しているものでございます。
まず、適用でございますが、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ31日以上の雇用見込みがある雇用者の方を対象としております。この考え方を右の欄に整理してございますけれども、雇用保険は、自らの労働により賃金を得て生計を立てている労働者が失業した場合の生活の安定を図ることを目的にしております。現在、週の法定労働時間が40時間であることを考慮いたしまして、その半分である20時間を一つの目安といたしまして、同種の危険集団と考えて雇用保険制度を適用しているものでございます。
主な受給資格要件でございますけれども、離職前2年間において通算12か月以上の被保険者危険があること、倒産解雇の場合はもう少し短いですが、このような被保険者期間の要件が設定されております。こちらにつきましては、保険財政の給付と負担のバランスを考慮するのは当然でございますが、それに加えて安易な離職や循環的な給付の防止という雇用政策上の観点も付加しているということでございます。
また、ハローワークに求職申込みを行っていることや、労働者の意思及び能力があるにもかかわらず失業状態にあるという要件も求めております。こちらにつきましては、雇用保険制度が本来想定する失業は、労働者の非任意的な失業でありまして、労働の意思と能力を有することを要件にしております。ハローワークに求職の申込みを行っていることをもって労働の意思があると推定しているものでございます。
給付水準でございますが、離職前賃金の一定割合を一定期間保障するという形で設定されております。その際、低所得者については十分な保護を図るとともに、高所得者については再就職の意欲を減退させないように要件を設定しております。
また、給付日数でございますけれども、年齢、被保険者期間、離職の理由で再就職の難易度を判断して設定しているものでございます。
財政運営ですけれども、労使折半の保険料と国庫負担から構成されております。労働者が保険料を負担しているのは、労働者の責めに帰すべき理由、労働者の自己都合等による失業についても失業給付の支給対象としているためですし、国庫負担につきましては、雇用保険の保険事故である失業について政府の経済政策等々の関係が無縁ではなく、政府もその責任の一端を担うという考え方から負担が行われているものでございます。
次に、適用に関して御説明させていただきます。雇用保険の適用は労働者が雇用されている事業、強制適用事業としておりますけれども、12ページを御覧いただければと思います。適用労働者の範囲の変遷ということで資料を入れてございます。雇用保険制度ができました昭和50年当初ですけれども、通常の労働者の4分の3以上の労働時間の方を適用対象としておりましたが、平成元年にパートタイム労働者に適用拡大をするという観点から、当時の週所定労働時間が44時間でしたので、この半分である22時間以上を適用対象としておりました。また、年収、雇用期間の要件も設定しておりましたが、その後平成13年に年収要件を廃止いたしまして、さらに平成21年、22年にはリーマン・ショックによる雇用情勢の悪化を受けまして、非正規労働者のセーフティーネット機能を強化するという観点から、雇用期間の見込み要件の緩和が行われております。
特に平成22年の改正によりまして、それまで適用と受給資格要件を判断する雇用期間は一致しておりましたけれども、これが切り離されるという事態が生じることになっております。
また、ここにはございませんが平成28年改正では、65歳以上の高齢者化に雇用保険を適用するとともに、13ページにございますけれども、令和2年改正で65歳以上の複数就業者について、本人の申出を起点として適用する仕組みを導入しております。
次に、失業等給付の概要についてでございます。少し飛びますが22ページを御覧いただければと思います。失業等給付の中心的な給付であります基本手当に係る主な制度変遷について記載してございます。
真ん中の欄に所定給付日数がございます。こちらは平成12年の改正する前でございますが、所定給付日数が保険の加入期間と年齢に応じて設定されておりまして、最大300日となっておりました。この点について平成12年の改正で、離職理由によって差をつけております。倒産解雇等による離職につきましては最大330日、それ以外の場合は最大180日ということで、特に定年退職者の給付水準に影響があったということでございます。
また、平成21年のリーマン・ショックのときですけれども、一番下の注の欄に記載がございますが、有期契約労働者の雇止めの場合の給付日数を暫定措置で延長することを行っておりまして、その後、暫定措置を継続してきているところでございます。
一番下の欄の給付率でございますが、こちらは平成15年改正のときに高所得者に対する給付率を60%から50%に引き下げたということでございます。
また、法定賃金日額につきましては、最低賃金との逆転現象が生じないように下限を見直す等の改正を行ってきております。
次に23ページでございますが、給付日数の特例で各種延長給付について記載をしてございます。
所定給付日数につきましては、例えば、公共職業訓練受講期間中も基本手当の支給を継続するや、災害で離職した場合には給付日数を延長するといった延長給付の仕組みを設けてございます。
次が、教育訓練給付でございます。こちらは平成10年の改正で創設されたものでございますけれども、27ページに概要の資料を入れてございます。こちらが労働者の雇用の安定、就職の促進を図るために、労働者による主体的な職業能力開発が必要であるということで、そうしたことが被保険者に共通して発生する雇用に関する問題であると捉えて、雇用保険制度から能力開発に必要な費用の一部を助成することを行っております。
基本的には在職者の方が受講する場面を想定しておりますけれども、離職後間もない方も受講可能となっておりまして、訓練の仕上がり像に応じて給付の類型が3段階に分かれているものでございます。
このうち最も高度な訓練を受講する場合が専門実践教育訓練給付でございまして、28ページに概要資料を入れてございます。特に真ん中にございますが、教育訓練支援給付金がございまして、こちらは訓練の受講期間が長期にわたることから、45歳未満の若年離職者の方に対して、この訓練を受講している期間中、生活費の支援を行うという仕組みになっております。こちらは暫定措置でございまして、令和6年度末までとなっております。
次は、雇用継続給付の概要でございます。こちらの給付の趣旨でございますけれども、そのまま放置するとさらに深刻な保険事故である失業に結びつきかねないケースにつきまして、雇用の継続が困難となる状態を失業に準じた職業生活上の事故と捉えまして、失業を回避するために支給するものでございます。具体的には、高年齢雇用継続給付と介護休業給付の2つの種類がございます。
30ページが、高年齢雇用継続給付でございますけれども、こちらは年金の支給開始年齢引き上げを背景に、60歳以降の雇用継続意欲を喚起するために平成6年に創設された仕組みでございます。その後、高齢者雇用の進展や令和7年度には65歳未満の全ての労働者が希望すれば継続雇用制度の対象となることを踏まえまして、給付率につきまして60歳以降の賃金の原則10%とする改正を令和2年に行ったところでございます。
31ページが介護休業給付でございます。こちらは平成10年改正で創設された給付でございまして、介護休業期間中に休業開始前賃金の67%を支給する仕組みでございます。
次が、求職者支援制度でございます。こちらは平成23年度から施行されているものですけれども、34ページに主な考え方を整理してございます。失業等給付と対比するような形で記載してございますが、まず、適用の欄ですけれども、求職者支援制度は無拠出の制度ですので、厳密には適用という概念ではありませんが、雇用保険の被保険者以外の方、また基本手当の受給が終わったような方を対象にしております。保険料の負担はございません。
主な受給資格要件でございますが、訓練受講の要件につきましては、失業等給付と共通しておりまして、ハローワークに求職の申込みを行っている、労働の意思と能力がある、訓練受講が必要とハローワークが認めているということになっております。
これに加えて10万円の職業訓練受講給付金の受給要件が設定されております。無拠出の仕組みですので、本人の収入や世帯の収入・資産要件が設定されております。
給付水準といたしましては、職業訓練受講給付金は月10万円の定額となっております。
また、一番下の財政運営の欄でございますけれども、失業等給付の労使保険料の一部と国庫負担から構成されております。趣旨といたしましては、雇用保険の被保険者であった方、または被保険者になろうとする方を対象とした制度ですので、国と労使で半分ずつ負担するという考え方に基づいているものでございます。
39ページを御覧いただければと思います。求職者支援制度につきましては、コロナ禍で特にシフト制労働者の支援の必要性に焦点が当たったことを踏まえまして、幾つか特例措置を講じているところでございます。本人の収入要件、世帯の収入要件の緩和やシフト制で働いている方が働きながら訓練を受けるというケースを想定して、訓練対象者の拡充を行っているところでございます。
40ページにその実績を記載しております。一番上の表が制度創設時からの実績でございます。制度創設直後をピークに利用者数は減少傾向にございましたが、コロナ後足元では徐々に増加しているという状況でございます。
次は、育児休業給付でございます。こちら平成6年の改正で創設された給付でございます。労働者の方が育児休業のために働くことができず、賃金収入を失った状態で放置すると、結局、育児休業を取得できなくなってしまうし、その後の円滑な職場復帰に支障を生じるということで、さらに深刻な保険事故に結びつきかねないことから、失業に準じた職業生活上の事故として雇用継続を促進するために雇用保険で給付を行うこととしたものでございます。
制度がつくられた当初は雇用継続給付の一部でしたが、令和2年の雇用保険法改正のときに給付と負担の関係を明確化する観点から、失業給付とは異なる体系に位置付けられたという経緯がございます。
42ページの図を御覧いただきますと、育休開始から6か月は給付率が67%、それ以降は50%とされておりまして、男女ともに育児休業を取得する場合は年間を通じて給付率が67%となるという設計になっております。
43ページを御覧ください。育児休業給付に係る主な制度変遷でございます。制度創設当初の給付率は、失業等給付の給付水準とのバランスを考慮して25%とされておりましたが、その後少子化対策としての要請等も勘案し、給付率を引き上げてきたものでございます。
44~46ページは、近年の改正について資料をおつけしているものでございます。
次は、雇用保険二事業でございます。48ページの一番上に趣旨を記載しておりますけれども、この二事業、雇調金や職業訓練等の雇用対策によって失業等給付の抑制を図るものとして実施されております。
この財源ですが、事業主の保険料のみを原資とした事業主連帯の仕組みとなっているものでございます。
また、49ページにありますように、最近は人への投資に力が入れられておりまして、二事業の各種事業においても人材の確保・育成の支援を行っているところでございます。
財政運営(保険料・国庫負担)についてでございますが、まず51ページに保険料についての資料をおつけしてございます。一番上の原則を御覧いただきますと、保険料は3つに分かれておりまして、失業等給付、育児休業給付、二事業となっております。上の2つは労使折半、一番下が事業主のみの負担という構図です。
53ページを御覧いただければと思います。今度は国庫負担のルールですけれども、求職者給付につきましては、4分の1もしくは40分の1ということで、雇用情勢等に応じて設定されることに加えて、機動的に国庫から繰入れできるという制度が設けられております。
また、雇用継続給付、育児休業給付につきましては、国庫負担率は原則8分の1、求職者支援制度は原則2分の1となっておりまして、右側の上に波線で囲んでありますが、教育訓練給付等々は国庫負担なしとなっております。
56ページを御覧いただければと思います。コロナ禍における特例的な財政措置ということで資料を入れてございます。一番左側に雇用保険被保険者か、それ以外かで分かれておりまして、被保険者につきましては雇用勘定の枠内で給付を行っておりますが、週20時間未満の雇用保険被保険者以外の方についても、雇用勘定の外枠で一般会計によって雇調金と同様の給付を行うことを実施しております。
また、助成上限額の引き上げを行っておりまして、特に中小企業の上限引き上げ相当額につきましては、一般会計を雇用勘定の中に繰り入れて支給しているという状況でございます。
長期にわたるコロナ特例を講じた結果、雇調金の累計支給額は5兆円を超えておりまして、こうした費用を賄うために56ページの一番下に一般会計からお金を雇用勘定に入れる仕組みの図がございますが、この①と②の矢印によって、令和3年度補正予算で2.2兆円の一般会計繰入れを行ったところでございます。
60ページを御覧ください。グレーの棒グラフが積立金の推移となっております。失業等給付の貯金であります積立金ですが、過去6兆円を超えていることもございましたが、コロナ禍における雇調金の支給額が膨大となり、積立金から二事業へ貸し出しを行ったことを理由といたしまして、令和4年度末で500億円と見込んでいるところでございます。
また、63ページを御覧いただきますと、雇用保険二事業の貯金であります雇用安定資金の推移のグラフがございます。こちらは令和2年度に枯渇し、その状況が3年間続いているということでございます。
その後大幅に割愛いたしまして、最後に海外制度について御説明させていただきます。81ページを御覧いただければと思います。諸外国の失業保険制度について概況を御説明いたします。
まず、一番上の被保険者の欄を御覧いただければと思います。欧米諸国を見ると、年齢や所得水準で区切りを設けておりまして、日本のように労働時間で線引きしているところは、この中では見当たらないということでございます。
また、受給要件、受給資格要件につきましては、各国共通しているのは公共職業紹介機関に求職登録をするなどして、求職活動していて労働の意思・能力があることを求めております。
この中で、アメリカとフランスにつきましては、自己都合の退職の場合は支給対象としないという整理になっております。また、ドイツにつきましては、週15時間未満の就労は失業と同じと扱って、短時間勤務給付という形で減額給付を行ってございます。
次に、82ページの給付水準を御覧いただければと思います。おおむねどの国も離職前賃金の一定割合を支給するフレームになっております。
給付期間につきましては、日本は最長1年となっておりますが、アメリカ・イギリスは最長半年、ドイツ・フランスは給付期間が長いのですけれども、近年削減してきたという経緯がございます。
管理運営機構につきましては、各国とも公共職業安定機関が関与していると見受けられます。
次に、83ページは財源を整理しているものでございます。保険料につきましては、アメリカとフランスは全額使用者負担となっております。また、イギリスは労使保険料で国庫負担はないことになっておりまして、また、保険料が年金等と一緒に一元的に徴収されているという格好でございます。ドイツにつきましては、労使折半の保険料となっております。
全体的に見ますと、国庫負担について定率負担の国はございませんで、ドイツでは不足した分は政府が資金を貸し付けて、特例法によって返済を免除したというケースがございます。
資料2は以上でございます。
続きまして、資料3について簡単に御説明をさせていただきます。今後の論点ということで大きく4点記載してございます。この4点に係る部会報告や附帯決議、国会での議論の内容をまとめてございます。
まず、基本手当でございますが、部会報告の中で効果検証を行うべきであるといった御指摘をいただいております。
また、2ページですが、規制改革実行計画ということで昨年6月に閣議決定された文書の中で、失業認定関連手続を含む雇用保険の受給関連手続について、オンライン化を含む利用者負担の軽減策について検討するよう求められているところでございます。
3ページでございますが、基本手当に係る国会の先般の法改正の際の質疑を引用しているものでございます。基本日額を引き上げることを考えるべきでないかという質問に対して、失業中の労働者の生活保障のみならず、早期の就職促進という2つの観点から給付水準を設定していると大臣から答弁しているものでございます。
4ページが、教育訓練給付と求職者支援制度でございます。いずれも部会報告からの引用となっておりますが、教育訓練給付について制度の周知を図ること、利用しやすい環境整備をする、加えて市場ニーズ、雇用の安定性、労働条件向上の効果をきちんと検証するとともに、給付金の指定講座の偏りを是正すべきであるという御指摘をいただいております。
求職者支援制度につきましても制度周知を課題としていただいておりまして、また、就職率や職場定着といった効果検証を行うべきであるという御指摘をいただいております。
次に5ページでございます。非正規雇用労働者に対する支援策の在り方で、関連すると考えられます雇調金・休業支援金の指摘事項について部会報告から抜粋をしております。また、附帯決議におきましても、特例として創設された休業支援金制度の効果、適用対象範囲の妥当性及び申請手続の在り方等について検証を行い、休業を余儀なくされた方の支援に関する実効性のある仕組みの検討を行うこととされております。
6ページが関連する国会質疑の抜粋でございます。こちらは失業者に対する基本手当受給者の割合、いわゆるカバー率についての御質問でございます。カバー率についてどのように受け止めているのかと御質問がございまして、大臣からは受給者実人員に含まれない失業者の方として、基本手当を受け終わった方や、そもそも受給資格が得られなかった方が想定されているけれども、何より円滑な労働移動支援が重要であるので、求職者支援制度をより利用しやすくする特例を講じる等々の支援策を行っていきたいという答弁をしているものでございます。
7ページは、週20時間ということで適用している考え方について、時間だけ就業時間の適用範囲を求めることは現代の労働環境にそぐわないのではないかという御質問がございました。特に、家計を支える人が1人とは限らないのではないかという御指摘をいただいたものでございます。
8ページが、法案の参考人質疑のときの参考人の意見陳述からの抜粋でございます。一番下のパラグラフに、加入対象を週10時間以上に引き下げるなど抜本的な引き下げが必要ではないかといった御指摘をいただいております。
次に、9ページも同じく法案の参考人の意見陳述からの抜粋でございますが、北欧の雇用政策の中でアクティベーションプログラムがあるという御紹介でございます。具体的な支援の在り方として、職業訓練もあればコーチングのように伴走型で再就職を支援するということや、実際に職場で働いてみる経験もプログラムに含まれているという御紹介がございました。
10ページは、育児休業給付とその財源の在り方で、部会の報告の中で雇用保険制度本来の役割との関係や他の関係諸施策の動向等も勘案しつつ、令和4年度から検討を開始し、6年度までをめどに進めていくべきであるという御指摘をいただいております。
また、一番下の附帯決議でございますけれども、育児休業給付につきましては雇用労働者に限らず、フリーランスとして就業する者などを含む全ての働く者の育児・子育てを広く社会で支援する体制の構築を検討することという附帯決議が付されております。
11ページは、育児休業給付に係る国会質疑の抜粋でございます。育児をしながら短時間勤務をした場合に、減額されるけれども育児休業給付が支給される仕組みの検討について御質問いただいたものでございます。
12ページは、5月17日に提出されました全世代型社会保障構築会議の議論の中間整理の抜粋となっております。3つ目の○ですが「子育て・若者世代が子どもを持つことによって収入や生活、キャリア形成に不安を抱くことなく、男女ともに仕事と子育てを両立できる環境を整備するために必要となる更なる対応策について、国民的な議論を進めていくことが望まれる」とされております。
最後に13ページは、その他としておりますが、雇用保険法の法案要綱を諮問した際の答申意見の抜粋でございます。特に、雇調金の長期にわたる全例のない特例措置が雇用保険財政に与えた影響を含めて、今回の対応について検証を進めて、将来の有事における対応に資する必要があるという御指摘をいただいているところでございます。
資料の御説明は以上でございます。
○長良雇用保険課長 今ほど事務局から、雇用保険制度の概要と今後の論点の案という形で御説明させていただきました。
まず、事務局からの説明、資料に関しまして、委員の皆様から御質問などがございましたらお願いいたします。何かございますか。
○佐々木構成員 1つよろしいでしょうか。
今後の論点案に「効果検証」という言葉がありますが、報告書を執筆する際には何かデータを使って分析することを考えているのでしょうか。
○長良雇用保険課長 今の佐々木委員からの御指摘でございますが、効果検証をすべきというのは労働政策審議会の取りまとめのときにも御指摘をいただいているところでございます。この効果検証というのが雇用保険制度の趣旨に沿っているかということで、いわば雇用にしっかりとプラスの貢献があるかということで、典型的には就職率などの指標を用いて、これまでも実はそのような資料などをお出しさせていただきながら議論をしているところでございます。
一方で、効果検証のやり方に関しましても、例えば特に教育訓練給付などがそのような議論があったのですが、単純な就職率のみならず雇用の質といいますか、定着率あるいは賃金水準なども含めて、もう少し深い分析が必要ではないかという御議論もございました。ここは既存のデータなどで我々として調査しきれるかというところもございますので、深い分析をしていく必要がもしあるのであれば、そのような御意見もいただければと思いますし、その手法・やり方についても委員の先生方とも御相談をさせていただきながら進めていきたいと考えているところでございます。
○佐々木構成員 今の深い分析というのは、まさしく個別データみたいなものを使って分析なされるということですね。
○長良雇用保険課長 そのように考えてございます。
雇用保険データの現状だけ申し上げますと、主に資格を持っているか、持っていないかのデータがシステム的に比較的容易に把握可能でございますけれども、それ以外のデータでどのようなものがとれるかは事務的にも我々現在少し調べているところでございます。そういう意味で、どこまでできるかも含めていろいろと御相談させていただきながら進めたいと思っております。
○佐々木構成員 分かりました、ありがとうございます。
○長良雇用保険課長 そのほか何か御質問などございますか。
○水島構成員 水島ですけれども、質問ではないのですが、情報提供させていただいてもよろしいでしょうか。
○長良雇用保険課長 よろしくお願いします。
○水島構成員 資料3の12ページで御紹介いただきました全世代型社会保障構築会議に出席しておりましたので、議論の状況につき情報提供、共有させていただければと思います。
中間整理の取りまとめは先ほど御紹介いただいたとおりでして、3つ目の○が重要です。
なお、1つ目、2つ目につきましては、会議で特段の異論はなく、積極的に進めていこうという方向であったと理解しております。
3つ目は、現行制度のままでよいのか、更なる国民的な議論が必要であるのか、ということです。中間整理には書いてありませんが、育児休業給付制度には次のような意見がございました。育児休業制度や育児休業給付制度は、労働者の雇用継続を目的として制度化・拡充してきたものであり、子育てをする女性が希望どおり働き続けることに貢献したが、男性の育児休業は雇用継続の目的よりも子育てを行う機会の確保に主眼が置かれてきた面が強いのではないか。つまり、当初の目的から変化が見られるのではないかとの指摘がありました。
そして、今後の構想として、育児休業給付を雇用保険制度の給付としていることを見直し、より個人としての取得の権利を確立する制度あるいは子育てのための金銭給付として、よりユニバーサルなものとして構想する必要があるといった意見がありました。
また、現行制度に関する意見として、非正規労働者の中には育児休業給付の対象となっていない者もいるとの指摘が、また、短時間勤務制度に経済的な支援がないといった指摘がありました。短時間勤務制度と育児休業給付制度は別物ですけれども、育児休業給付制度の検討に当たりセットで考えるべきものとも思われますので、紹介させていただきました。
このように育児休業給付を雇用保険制度の給付として存続させることについての疑問は、複数の委員から示されておりました。
以上でございます。
○長良雇用保険課長 ありがとうございます。ほかに御質問などございますか。
また後刻、何かありましたら順次御発言いただければと思います。今回は第1回目の会合でございますので、事務局からも制度全般の御説明をさせていただきました。まず、各委員の皆様から、お一人5分程度で結構でございますので、それぞれのお立場から御自身が持っておられる雇用保険制度に関わる問題意識などにつきまして、御自由に御意見をいただければと存じます。委員の皆様の御意見を一通りお伺いした後で、またフリーディスカッションのような形式の議論をさせていただければと存じます。
それでは、委員の名簿順で恐縮でございますが、酒井委員、佐々木委員、土岐委員、水島委員、山川座長、渡邊委員の順で、お一人5分程度で御意見を頂戴できればと思います。
それでは、酒井委員からよろしくお願いいたします。
○酒井構成員 よろしくお願いします。先ほど、局長からもお話がありましたけれども、この研究会は中・長期的な視点からということで、私もその点が非常に重要な点だと考えております。審議会等ですと非常に深いところまで議論されているのですけれども、どちらかというと目の前のことに対してという傾向が強いのかと感じておりました。ですので、そういった目の前の課題に対しての議論とは別に、中・長期的な観点から雇用保険制度がどうあるべきかを議論することが非常に重要かと思います。
そういうことを踏まえた上で、幾つか意見を述べさせていただきたいのですけれども、先ほどの事務局からの説明にもありましたように、雇用保険でなかなか救済できていないような失業者もいるということで、そういった状況を前にすると、雇用保険の適用拡大や受給資格要件の緩和が議論されて、どうしたら雇用保険で救済できるのかという方向に思考が行きがちかなと感じているのですけれども、一方で私としては、そういった人たちに対して、そもそも社会保険である雇用保険で救済を行うべきなのかという視点も必要かと感じております。何でもかんでも雇用保険で行うということではなくて、場合によっては福祉あるいは雇用保険の本体ではないところで求職者支援制度がありますけれども、そういったものを活用するほうがいいのではないかと、そういった視点が一つ必要なのかなと考えております。
また、それと関連するのですけれども、雇用保険と雇用保険外という対比と同時に、雇用保険制度内の相互関係もこの研究会で議論できたらいいのではないかと考えております。といいますのは、とかく雇用保険制度、各制度について議論すると、雇調金なら雇調金、失業給付なら失業給付ということで、議論がどちらかというと縦割りになりがちなのかなと思っております。ただ、実際には雇用保険制度という枠組みの中で、それらが並立して行われていることこそ重要と考えておりますので、その各制度間の代替性や補完性といった視点から議論することが、この研究会だからこそできるのではないかと考えております。
もう一点だけ述べさせていただきたいのですけれども、こういった議論をすると負担と給付の観点から、負担の議論はどうなのか、給付の議論はどうなのだということで、負担と給付についてはたくさん議論することになると思うのですけれども、一方で、先ほども少しそういうお話があったかと思いますが、例えば、運用上というか雇用保険制度において失業の認定がどう行われているのかということ、それが今後どうあるべきかという議論も必要かと感じております。といいますのは、就業形態が多様化してくる中で、例えば、現行のハローワークへの出頭を前提とした失業認定といったものが、やや現実にそぐわないような事例も出てきているのではないかと感じている次第です。ですので、そういった論点についても議論する機会があればいいかなと思います。
これは事務局に少しお願いになってしまうのですけれども、現在でもハローワークにおける様々な業務の中で失業認定や就労支援でオンラインが活用されている事例が、特にコロナ禍で出てきているのではないかと思いますけれども、運用としてどこの部分でオンラインが利用されているのかといった点について、この研究会のどの時点でもいいのですが、もう少し情報として頂ければ、我々としてはイメージしやすいかなと感じております。
現時点で私の意見はこのような形になります。ありがとうございます。
○長良雇用保険課長 ありがとうございます。
今、御指摘がございました失業の運用の実態、オンラインの活用状況などにつきましては、また追って資料なども活用して御説明の機会を設けたいと思います。
それでは続きまして、佐々木委員、よろしくお願いいたします。
〇佐々木構成員 大阪大学の佐々木と申します。よろしくお願いします。
私は、以前JILPTによる幾つかの研究会に参加した経験がありますが、厚生労働省の研究会に参加するのは初めてです。今回、このような機会をいただき大変ありがとうございます。また、初めてなので、どのようなことをするのか、まだよく分かっておりませんが、ほかの委員に御迷惑を掛けないようにしたいと思っております。
私は、酒井先生と同じ労働経済学を専攻しております。これまで雇用のミスマッチや失業期間を決める要因について、データを使って分析しておりました。昔、一度だけ職業安定業務統計の個票を頂いたことがありまして、それをもって雇用保険給付がその後の雇用のマッチングの質にどのように影響を与えるのか。雇用保険給付があることで、ある程度じっくり時間をかけて仕事を探す期間を設けることができることから、次の仕事の定着率が上がるのではないかと思い、そのことを検証しました。期待通りの結果にはなりませんでしたが、定着率が上がるという海外の研究はあります。そういう意味では、失業保険は生活を支える部分としてある程度必要なのではないか。当然、与えすぎはよくないのですけれども、そこのさじ加減が一番重要なところかと思います。
最近まで、JILPTによる新型コロナウイルス感染症と労働市場に関する研究プロジェクトに参加していました。新型コロナウイルス感染症の拡大が、ジョブ・フロー、つまり、求人数や求職者数、就職件数に及ぼす影響を検証し、更にミスマッチ指標を計算することによって、2020年3月以降、どのようにミスマッチが拡大したか、拡大していた場合はどこのローカルな労働市場なのか、そしてどのような職業形態なのかを研究しておりました。最近、ワーキングペーパーとしてJILPTから公表しました。
雇用保険について、特に着目したいのは、生活を支える部分で非常に重要であると同時に、教育支援としての役割です。労働市場の状況はダイナミックに変化しているので、それに対応できるような教育訓練が必要なのではないかと思います。成熟産業から成長産業へ、労働者を円滑に移動させるような教育支援が必要ではないかと思います。
とは言うものの、成長産業は何かというと介護分野が該当すると思います。介護の分野に行きたがらない労働者も多いかもしれませんが、付加価値の高い生産性を身につけられるような教育訓練を用意する必要があります。その意味では、教育訓練の内容を精査して、Aという分野で失業しても、訓練を受けてBという分野に移動できるようなダイナミックな労働移動ができるようになれば良いと個人的に思っております。
今回初めて説明を聞きまして、雇用保険事業に対して実に多くの事業があることを改めて理解しました。これまでは複数の事業を別々にフォーカスしていましたが、先ほど酒井先生がおっしゃったように、事業間の代替性や補完性というのは確かに重要だと思いました。補完することによって強力になることもあるし、代替性が強ければあまり必要ないのではないかというところを見極める必要があると思います。
以上、私の研究している内容と、教区訓練を含めた、今後の方向性をお話ししました。今後、様々な制度の勉強をしながら、いろいろ貢献していきたいと思います。どうもありがとうございます。
〇長良雇用保険課長 ありがとうございます。
続きまして、土岐委員、よろしくお願いいたします。
〇土岐構成員 岡山大学の土岐と申します。私も、このような研究会に参加させていただくのは初めてでございまして、委員の皆様方と一緒に勉強させていただければと思っているところです。
私自身は労働法を専攻しておりまして、必ずしも雇用保険制度それ自体を直接これまで研究してきたわけではないのですけれども、多様な働き方が広がる中でギグワークとかフリーランスの方について、労働法上の保護がどのようなものがあり得るかを考える機会はこれまでございました。現在の法制度は、基本的には労働者かあるいは労働者ではないかによって保護があるかないかと変わってしまうということですけれども、雇用保険に関しましても、労働者であれば保護が受けられる形になっているかと思います。そうした中で、今日も御指摘があったかと思いますが、フリーランスの方を含めた制度の在り方を考えていく必要があるのではないかと思っております。
その際に、中・長期的に物事を考えていくことで、恐らく制度の仕分けとして雇用保険で見るのがいいのか、あるいはそれ以外の社会保障制度の中で見ていくのかみたいなことも含めて考えていく必要があるのだろうと思っている次第です。
恐らく働き方が多様化している中でこの問題が生じてきているのだと思うのですけれども、従来、労働者の中でいろいろな働き方が増えている中で、パッチワーク的に少しずつ保護が拡張してきているみたいなところがあるかと思いますが、フリーランスといった働き方も含めて、一旦ゆっくり中・長期的に保護の在り方を恐らく考えていくということだろうと思っています。
私からは非常に簡単なのですけれども、以上です。
〇長良雇用保険課長 ありがとうございます。
それでは続きまして、水島委員、よろしくお願いいたします。
〇水島構成員 大阪大学の水島でございます。労働法、社会保障法を専門としております。
酒井委員がおっしゃったことと共通しますが、審議会では雇用保険の理念や目的を問う議論がなかなかできず、目の前の課題解決が優先されてしまう。やむを得ないと思いつつも、特に令和2年改正の議論等では非常にもやもやするものがございました。そのため、このような中・長期的な議論をする場を設定いただいたことに感謝申し上げます。
その上で、冒頭で局長もおっしゃっていたとおり、雇用保険の役割は単なる失業時の所得保障ではないと認識しております。また、大臣答弁でも失業中の労働者の生活保障のみが目的ではないということが先ほども示されておりました。
他方で、審議会や様々な場所では、失業時の保障にフォーカスした意見が多いように思います。これは、現行の雇用保険が失業時の保障として十分ではないとの批判であると考えます。つまり、制度と実態、国民が求めているものと現行の雇用保険制度の間に解離があるのではないかと感じるところです。もっとも、雇用保険が十分でないとしても、十分でない課題を雇用保険が担うという選択だけではなく、生活支援ないし所得保障制度を、雇用保険の外で行うことも検討する必要があると思います。要は失業保険ではなく、失業扶助的な制度が必要かもしれない。
そのように考えますと、雇用保険で行うべき部分とそうではない部分を切り分ける。その際に、雇用保険制度の中で行うけれども、保険料財源としないで税財源すべきだという議論と、そもそも雇用保険制度の外に出してしまうという議論があると思うのですけれども、そうしたことを含めて今後、議論させていただければと思っております。
このこととも関連しますが、先ほど全社の議論を紹介しましたけれども、育児休業給付は当初は雇用継続の機能が専らでしたが、少子化対策としても用いられるようになり、今では男性の育休促進として用いられているという経緯を考えますと、育児休業給付については、雇用保険の役割が終わりつつあるのではないかと個人的には考えているところです。今回、論点案に育児休業給付を取り上げていただきましたが、育児休業給付や、その財源の在り方については、今後、議論させていただければと思います。
一言述べさせていただきたいのは、介護休業給付です。これまでは育児休業給付と介護休業給付がセットになっていましたし、育児休業と介護休業も1つの法律で定められていますので、セットで議論し、介護休業給付が育児休業給付に引っ張られることが可能だったと思いますが、育児休業給付が雇用継続給付から切り離されて、今後どうなるのか。もう一つ、介護休業の利用率が低いことも問題です。介護休業・介護休業給付がどれほど機能しているのか、より被保険者に有用なものがあるのでは、と思っております。
恐らく今回の検討の対象にならないと思いますけれども、問題関心として一言触れさせていただきました。
以上でございます。
〇長良雇用保険課長 ありがとうございます。
ただいま介護休業の御意見がございまして、恐らく育児休業制度あるいは介護休業制度は、育児・介護休業法という1本の法律の中で、それぞれの休業の考え方などが整理されております。現行の育児休業給付、介護休業給付が育児・介護休業制度との連関性を非常に強くした形で制度設計をしているところでございまして、その意味で恐らく両給付はいわゆる雇用保険であるかどうかに加えまして、両休業制度との兼ね合いとの議論も今後お願いできればと考えているところでございまして、追って必要な資料などは提供の上、御説明させていただければと存じます。
続きまして、山川座長、お願いいたします。
○山川座長 東京大学の山川でございます。労働法専攻なのですが、雇用保険制度はこれまで研究をきちんとやったことがありません。そこでいろいろ勉強させていただきたいと思っております。
数年ちょっとやってきましたのが、労働政策の実現手法というテーマで、その点から大変興味があるところです。労働政策の実現手法を考える場合には、まず目的として、どのようなものを設定するかという点と、その目的を達成するためにどのような手段・手法を使うかという観点と、現実にその手段が目的を達する上で実効性を挙げているかという実態の把握の観点があるかと思いますので、そうした点からいろいろ見ていければと思っております。
それから、既に20年ぐらい前になるのですが、前の職安法の改正のときに、労働市場政策の国際比較みたいなことをちょっとだけやったことがありまして、そのときは非常に有益でした。そこで、今回も可能な範囲で、状況もいろいろ変わっていますので、先ほど御紹介が少しありましたけれども、各国の制度の比較、運用状況がどうなっているかという点も紹介していただければと思っております。
3つ目は、既に各委員の皆様方から御紹介・コメントのあった点ですが、労働市場政策あるいは労働政策ないし国の政策の中での雇用保険制度の位置づけをどう考えるかというのが基本的なポイントになるかと思います。労働政策としての守備範囲みたいなところで御意見をいろいろいただきました。就業形態の多様化等の中で、他の分野の政策、特に社会保障とどう関連して、どう役割分担をしていくかというのが、財政も含めてかなり基本的な問題になっていくのではないかと思います。
一方で、労働政策の中で見てみますと、労働市場政策の一環ということになりまして、国ないし政府が一体、労働市場にどういう関わり方をするかという点が出てくるかと思います。
1つは、今回職安法がつい最近改正されましたのは、労働市場機能の透明化の確保というか、市場が果たす役割の中で経営がどう対応していくようにするかというのが1つで、もう一つ、かつて研究会に参加して気になっておりますのが、労働市場の質という発想です。そこは市場そのものの機能の質と労働需要と労働供給の双方の質の問題が関わりますが、そこに国がどう役割を果たしていくのか。先ほど御意見がありましたけれども、例えば、成長産業への労働移動を促進するという形で、積極的に国が労働市場政策を果たしていくというスタンスをとるとすると、その中で雇用保険制度がどういう機能を果たしていくか。制度目的がそのようなものを含むとすると、手段としてそれをどう仕組んでいくかが出てくるかなと思っております。
今回、全部取り上げられるかどうか分かりませんけれども、中・長期的な検討ということで理論的にも根本的な点から検討ができる機会となればと思っております。どうぞよろしくお願いします。
〇長良雇用保険課長 ありがとうございます。
それでは、渡邊委員、よろしくお願いいたします。
〇渡邊構成員 筑波大学の渡邊と申します。社会保障法、労働法を専攻しております。
以前、雇用保険関係ですとマルチジョブホルダーの取扱いに関してどう考えるべきかといった検討会に参加させていただく機会を賜りました。そこでの議論を踏まえて、最近法改正がされたという65歳以上の方への取扱いといったものを検証して、原則的な取扱いをどうするのかといった議論に発展させていく必要があるのではないかと思っております。
雇用保険全体に関してですが、先ほどもいろいろな委員からお話がありましたが、雇用保険制度自体で保障すべき問題なのか、それ以外のもので保障する必要があるのかといったような大元に立ち返って議論する必要性を痛感しております。雇用保険に現にあるから、例えば育児休業給付があるから、それを使えばよいといったような発想ではなくて、趣旨・目的に照らしまして雇用保険の中で行うのが妥当なのかどうかといった根本に立ち返って議論ができればと考えております。
雇用保険の保障をする対象者をどう考えるのかといったときに、現在の解釈では生計を維持するに足る収入を得ているといった労働者を保障対象にしていると。それ自体が妥当なのかどうかをそもそも考えなければ、例えば、週20時間以上といったような現行制度の取扱いの妥当性を評価することはできないのではないかと考えております。
例えば、生計補助的な収入を得ている人を雇用保険の中で保障するといった場合、労働時間で区切ったり、収入で区切ったりするといったことが困難になります。そういったときの線引きをどう考えるのかも含めて見ていかなければならないと思っておりますし、また、対象の方をどうするのかと密接にかかわって、受給要件をどう定めるのかも非常に重要な観点だと思っております。というのも、実際には適用対象にしたけれども、受給要件を満たすことが困難であって、結局は受給に結びつかないということでは、雇用保険で適切に保障していると評価できないと思いますので、適用対象者と受給要件といったものの関係性を意識した議論が必要だろうと考えております。
さらに、働き方の多様化といったところでは、労働条件をどう把握するのかというのが難しい方もいらっしゃいます。労働者ではあるけれども、例えば、シフト制で働いているような方、今回の新型コロナの関係でも問題になっていたかと思いますが、そういった方について、どう労働時間なりを把握していくのかといった労働法の観点からの問題も関わってくると考えております。また、労働者類似の働き方をしている方々を雇用保険に含めるのかといったことも検討の対象になろうかと思っております。
最後に、雇用保険全体の今のありように関していいますと、暫定的措置や特例的措置があまりにも多くて、一般国民が理解しづらくなっているのではないかといった問題を指摘しておきたいと思います。その時々の問題に柔軟に対応する意義も理解できますが、次々と新たな措置、特例的な措置が講じられておりまして、制度を正しく把握できているかと言われると、私自身も社会保障法を担当しておりますが大変不安な面がございまして、そういった暫定的特例措置の取扱いの在り方自体も考えていかなければならないのではないかと思っております。
制度は複雑化させるよりはシンプルであったほうが、国民全般も理解しやすく、制度を利用するといった促進につながっていくと思いますので、そういった視点も大事ではないかと。その場合に、広報・周知をどうしていくのかといったハローワークなどの役割も含めて検討する必要があるのではないかという問題・関心を持っております。
雑駁ではございますが、以上でございます。よろしくお願いいたします。
〇長良雇用保険課長 ありがとうございました。
皆様から一通り御意見を頂戴いたしましたが、皆様からの御意見を受けてのコメントなどございましたら、フリーディスカッションのような形で残り時間を進めていきたいと思います。その意味で、どなたからでも結構でございますので、何か御発言がございましたら、よろしくお願いいたします。
〇酒井構成員 すみません、私から皆さんの御意見をそのまま踏まえてという話ではないのですけれども、先ほど発言させていただいたことに付加するような形で、皆さんの御発言も聞きながら思ったことを述べさせていただきます。
フリーランスに限らず働き方が多様化する中で、現在の適用基準が妥当なのかという議論があるかと思います。事務局からの説明にもありましたけれども、労働時間による基準が果たして妥当なのかという論点は非常に重要な点だと感じている次第です。働き方が多様化して、典型的にはギグワーカーのような人たちを労働時間ではかることが非常に困難になってきているというのはよく分かります。ただ、雇用保険制度における適用を考えた場合に、では、労働時間以外の指標・基準がどれくらい妥当なのかという視点も同時に必要なのではないかと感じております。
確かに、労働時間で測るということが新しい働き方をしている人たちにそぐわない側面が出てきていることは承知しているのですけれども、一方で、どのような基準ならば適用基準を決め得るのかという点も重要だと思っております。具体的には、諸外国の例などを見ていても所得くらいしかその候補になり得ないのではないかと考える次第ですが、一方で、所得で線引きすることが、時間で線引きする以上に有効なのかという点も少し思う次第です。もちろん、この研究会は幅広い選択肢を検討することも趣旨かと思いますので、そういうことは重要だと思いますけれども、同時にそれは本当にエフェクティブなのかということで何か提起できたらいいのではないかと思った次第です。
以上です。
〇長良雇用保険課長 ありがとうございます。
〇水島構成員 水島ですけれども、よろしいでしょうか。
今、酒井先生のお話を聞きながら、あまり考えがまとまっていなくて申し訳ないのですけれども、全社の議論で勤労者皆保険の実現、できるだけ拡大するという話がありまして、時間要件をどんどん短くして、究極的には、労働者であれば必ず保険に加入し、保険料が発生することが、医療・年金に限らず、雇用保険でも選択肢として考えられるのではないかと思います。
年金保険の保険料を納付してもらうために一時期、将来に対する安心や障害を負った場合に給付を得られるとか、2000年頃はそういうことをよく耳にしたように思います。保険料を払うことによって対価がきっちり得られますというメッセージを発していたように思います。そのため、保険料の掛け捨てになるような制度は望ましくないという意見が多いのかなと思います。しかし、医療保険はみんな基本的に入っていますが、病気にならなかったら、それはそれでラッキーなわけで、病気になってしまった場合、すなわち保険事故が起こった場合に保険給付が受けられて生活が破綻しないというのが、そもそもの社会保険ですよね。そのように考えますと雇用保険につきましても、全体を広くカバーする制度を考えることも可能なのではないかと思います。
以上です。
○長良雇用保険課長 ありがとうございます。
ちょっと補足だけさせていただければと思いますが、先ほども実は資料2の7ページで若干紹介したのですけれども、雇用保険の仕組みの中で、適用と受給資格要件はそれぞれ別の制度設計をしているのが現状でございます。ただ、平成元年にパートタイム労働者への適用拡大をしたときの状況を見ますと、1年以上の雇用見込み要件というものがそのときに設けられておりまして、これが当時、短時間被保険者というカテゴリーがあったのですが、短時間被保険者の受給資格要件が12か月でございました。したがいまして、受給可能性のある人を適用するという発想がこのときにあったわけでございます。その後、制度改正によりまして、雇用見込み要件が31日以上に短縮されまして、要は、受給可能性がない働き方をする人も適用される可能性があるということで、現在の姿としては給付と適用が少し切り離されているのが雇用保険制度の現状かなと思っているところでございます。
以上でございます。
ほかに何か御意見などございましたら、よろしくお願いします。
〇佐々木構成員 佐々木ですけれどもよろしいですか。
今の話ですが、日本の場合、時間で区切っていますが、諸外国の失業保険制度は時間で区切っていないように見えます。ということはフランスやイギリスは極端な話、1分でも働いたら被保険者になるのでしょうか。諸外国ではどのように運用しているのか、もう少し詳しい情報があれば教えていただきたいと思います。
〇長良雇用保険課長 諸外国の資料は、資料2の81ページにございます。私どもも詳細の調査までしきれていない部分がございます。あるいは最新の実態などを追いかけきれていない部分もございますので、それを前提にコメントだけさせていただければと思いますが、例えば、アメリカなどでは時間で線引きしているものではございませんで、対象となる事業主に関して、こういう事業主だという要件を設けて、そこに雇用される人に関して全額事業主負担の保険でカバーしているという形をとっているものでございます。一方で、事業主都合で離職をされる方は給付の対象になりますが、自己都合で辞められた方はそもそも給付の対象から外れているという制度設計になっております。
これと似たような形がフランスです。フランスは、83ページにありますように、従来、被用者負担、つまり本人負担もあった国でございますが、全額使用者負担の形で整理していまして、労働者の給与の何パーセントという形で保険料負担をしていると。一方で、いわゆる労働者都合の離職に関しましては給付しないという制度設計もあるところです。
実は、我が国の他制度に当てはめると、労災保険制度は雇用保険制度のような適用の概念はございませんで、労働者を1人でも雇ったら、その賃金の総額の一定割合を使用者が負担するという仕組みになっているところでございます。これは使用者責任のための保険ということで、使用者が加入するという立てつけを労災保険制度はとっているところからの違いがあるとは思いますけれども、その意味では、実は本人をつかまえない形で労災保険制度は運用していると。給付のときに初めて本人をつかまえるという運用をとっているところでございまして、他制度あるいは外国の運用なども、もしかするとそのような方策があるのかなと思っているところでございます。
○佐々木構成員 ありがとうございます。
○長良雇用保険課長 では、山川座長、お願いします。
○山川座長 今の点に直接関わることでもないのですけれども、検討に当たって雇用保険というものの保険としての特性みたいなものは明らかにしておく必要があるかなと思います。保険事故として何を捉えているのか、今のところは失業に着目していて、それによって所得が失われたという失業の概念とも関係して、それがまた給付にもはね返ってくるという構造になっていると思いますけれども、保険としての特質は何かです。
それと、いろいろモラルハザードとか逆選択という問題が保険を考えると常に入ってくるので、そうしたものが生じないようにする仕組みがどうなっているか。あるいは現行の制度でもモラルハザード、逆選択の防止のための仕組みはどういうものがあるのかが、将来を考える上では有効ではないかと思いました。
あと、これは理論的な話ではないのですけれども、運用上のコストみたいなものをどう考えるかという問題もあろうかと思いました。
以上です。
○長良雇用保険課長 ありがとうございます。
今の山川座長の御発言に少しかぶせてコメントさせていただきますと、近年特にモラルハザードや逆選択の議論で問題になったのが、マルチジョブの雇用保険の適用の関係でございまして、資料2の13ページでございます。先ほど渡邊委員に、検討会に御参画いただいていろいろ御議論いただいたという紹介をしていただいたところでございますけれども、2つの雇用関係にある場合に、2つの事業所の労働時間を合算して適用する。つまり2つ足して20を超えた場合に本人が申し出て雇用保険に入ると。これは本人の申出ですので、いわゆる任意加入のような仕組みでございます。これが逆選択やモラルハザードなどを生ずるような懸念が当時から議論されておりまして、65歳以上の方に限定して本年1月からのトライアルの形で導入したという経緯がございます。
そういう議論の中で、実は今先生がおっしゃったようなモラルハザードや逆選択の議論を今後検証していく必要があることを、この場で紹介させていただければと存じます。
そのほか何かございますか。
○佐々木構成員 今の話は、労働時間が把握できない中、情報の非対称性があるということを前提にしているわけですよね。
○長良雇用保険課長 はい、そうですね。御本人しか自分が合計して何時間働いているか分からないという状況の中で、御本人が主体的に20時間を超えたので雇用保険に入りたいと手を挙げる仕組みをこのときに設けております。これが、いわゆる強制加入を原則とする社会保険制度の仕組みから考えると、かなり異例の制度を導入したということもございますので、その意味で注目といいますか、要検証という理解で我々は現在運用しているところでございます。
○佐々木構成員 ありがとうございます。
○長良雇用保険課長 そのほかに何かございますか。
○渡邊構成員 質問ですが、適用労働者の範囲の変遷の資料、概要の12ページだと思うのですが、適用範囲を変えていったところで平成13年、今まであった年収要件を撤廃というか廃止したところがあったかと思います。このときにも恐らく年収要件をどうするのか、労働時間でいくのかといった議論があったのではないかと思われるのですが、この年収要件を廃止した経緯・理由をお話しいただければと思うのですが、いかがでしょうか。
○山口調査官 当時、部会の報告の中で議論をしていく中で、短時間労働者の方の存在が非常に増してきているという状況を踏まえて、年収にかかわらず短時間労働者の方々が経済社会における重要な労働力であることが反映されるように年収要件を廃止するという議論があったと承知しております。
○渡邊構成員 その際には、労働時間と収入の要件、どちらでいくべきかといった議論はあったのでしょうか。
○山口調査官 すみません、現時点でそこまで細かく把握できておりませんので、また調べて御報告させていただきます。
○長良雇用保険課長 恐らく、いわゆる生計維持の基本的な考え方を変えずに、そのメルクマールの下で労働時間あるいはこの場合収入ということでございますが、どういう形で整理するのがよいのかという議論がそのときにあったのかどうかという御質問だと思います。もし、その辺詳細が分かれば、次回以降少し整理したいと思います。
○酒井構成員 まだ時間があるようなので、私からもう一点ほど質問させてもらってもよろしいでしょうか。
育児休業給付の在り方についてですけれども、先ほどからいろいろな御議論が出ておりまして、私自身も現行の育児休業給付では非正規雇用の方たちがかなり受給できていないのではないかという問題意識から論文を書いたこともあるのですけれども、育児休業給付を雇用保険の中でやるべきかどうかに関しては、私自身問題意識を持っております。問題意識を持っているというのは、必ずしも雇用保険制度から切り離すべきだという単一の答えだけが導かれているわけではないのですけれども、すごく悩ましい問題だなという意味でいろいろと感じるところがある次第です。
その中で、雇用保険制度における育児休業給付がほかの給付とどのように違うのか、その特質をしばしば考えるのですけれども、1点だけ非常に細かいことで恐縮なのですが、事務局でお答えがありましたら教えていただきたく思います。いわゆる失業給付は離職前賃金が低ければ代替率は高く、離職前賃金が高ければ代替率は低いという構造になっておりますけれども、一方で育児休業給付の所得代替率については基本的に一律の割合が適用されると認識しております。その違いはどういう思想に基づくものなのでしょうか。この点について今回でなくてもいいのですけれども、教えていただければと思います。
もう一つコメントですけれども、私も雇用保険制度で育児休業給付を支えていることの限界は常々感じていますが、もし雇用保険以外でそれに代わるものをやるとなると、財源の問題はかなり深く議論しなければいけないところかと思います。ただ、育児休業給付に限らず言えることだと思いますが、財源の問題というのはステークホルダーの問題でもあると思うんです。社会保険でしたら労使という形で負担者が明確であるがゆえに、その権利として給付もあると考えられるわけですけれども、これが国庫を投入するとなると税金の本来の支払手である国民に対する説明責任も生じるという意味で、ステークホルダーの構造が変わってくるとみなすべきだと感じております。現在も失業給付等々すべて国庫負担が入っているわけですが、国庫負担の割合がより大きくなってくるということはステークホルダーのバランス関係も変わってくるのだということを念頭に置いた上で議論すべきだと考えております。
以上です。
○長良雇用保険課長 ありがとうございます。
1点目の育児休業給付の給付率の問題が、基本手当の率の構造と異なる点に関しましては調べてみたいと思います。実は、失業給付と共通している部分は離職前賃金の計算方法でございまして、賃金日額を算定する際に上限・下限額がございます。育児休業給付に関しましても上限額は設定されておりまして、30歳から45歳までの基本手当を計算するときの賃金日額の上限に合わせているところでございまして、その意味で失業給付、基本手当との連関性も実は育児休業給付は残っているところがございます。
以上です。
ほかに何かございますか。
事務局から漠とした御質問で恐縮でございますが、先ほど雇用保険の適用の関係でいろいろ諸外国の資料を御説明して、私からコメントをさせていただいたところでございますが、適用に限らずではございますが、今の日本の雇用保険制度と外国制度との違いに関しまして、もし、外国制度の特徴などを御存じの先生方がいらっしゃったら少し紹介いただけるとありがたいのですが。特に、適用あるいは今日話がありましたように、給付の問題や育児の問題など様々あろうかと思いますので、こういう考え方で制度が仕組まれているということが分かれば、この場でも結構ですし、あるいは次回以降でも結構ですので、少し紹介をいただけると大変ありがたいと思うのですが、いかがでしょうか。
○佐々木構成員 私は正直知りませんが、多分、JILPTの研究者がよく知っているのではないかと思います。このような内容をまとめて機会があれば紹介しているような印象がありますので、多分、諸外国の制度の運用の仕方は御存じではないかと思います。
○長良雇用保険課長 分かりました。諸外国の制度の関係は、事務局の検討・調査含めて次回以降いろいろと先生方とも御相談させていただきながら少し議論を深めていければと思います。
○佐々木構成員 ただ、アメリカの場合は州によって違いますから、50州あれば50通りあると思いますので、イギリス、ドイツ、フランスのほうが調査してあるのかなと思います。
以上です。
○水島構成員 水島です。今、佐々木先生からアメリカのお話がありましたが、大阪大学の地神准教授がアメリカの雇用保険を研究していまして、州ごとに異なるので調査がなかなか難しいことと、アメリカの失業保険の仕組みは、日本でいえば労災保険の仕組みに近いことを、聞いています。日本の雇用保険とはかなり制度が違うことを認識する必要があると思います。
事務局にお願いですけれども、イギリス、ドイツ、フランスには、雇用保険制度のほか政府の一般財源によって運営される失業扶助制度があるわけで、その概略を見ながら検討できたらありがたいです。検討すべき、比較すべきは雇用保険本体ですけれども、可能な範囲で失業扶助に関する各国の情報を頂ければと思います。よろしくお願いします。
○長良雇用保険課長 承知しました。
○土岐構成員 岡山大学の土岐でございます。
今のところと関連して、アメリカの場合は失業保険の仕組みの発想がほとんど労災保険のようになっているというお話がございましたが、同じ失業給付や失業保険という言葉を使っていても、もしかすると微妙に核になっている理念の考え方が違うみたいな議論があるかもしれなくて、それがそれぞれの要件や範囲の違いに結びついているかもしれないので、要件や被保険者の範囲はこうですという情報に加えて、基本的な制度の考え方、理念みたいなものが分かったほうが、恐らく今後議論する上では有益なのではないかと。先ほどの雇用保険の目的を考えつつやっていく必要があるのではないか、それがパッチワーク的にいろいろなっているものをうまく仕分けていく上で必要になってくると思うので、ちょっと大きな話になるかもしれないのですが、仕組みの理念みたいなものが分かると非常に有益なのではないかと思いました。
○長良雇用保険課長 承知しました。少し検討してみたいと思います。
○山川座長 山川です。
先ほどの失業扶助のお話も含めて、非常に重要な御指摘と思いました。雇用保険がいわゆる失業給付だけでない部分もあって、逆に失業について社会保障的な記載もあり、雇用保険制度の広がりみたいなものと関わってくるので、そのあたりも分かるような国際比較が、難しいかもしれないけれども、あればいいのではないかと思いました。
雇用保険の役割について昔の経験ですけれども、先ほど少しお話ししました20年ぐらい前に厚労省の研究会だったと思いますが、イギリスの担当省に行って聞いたところ、イギリスの当時の政権の下では、解雇を予防しようとは思っていないと言われました。つまり、日本の雇用調整助成金のような発想は当時なかったということで、今は違うかもしれませんし、特にこのコロナ禍の下で解雇予防的な発想に基づく措置を各国でとったようなお話も報道等で聞いておりますので、雇用保険制度全体としての役割は、国によって違ってくるし、そのときの政権によってあるいは状況によって違ってくることもあろうかと思いました。補足です。
○長良雇用保険課長 ありがとうございます。
そのほか何かございますか。
それでは、終わりの時間も迫っておりますので、本日はこのあたりで議論を終了したいと思います。
座長から御発言をお願いできればと思います。
○山川座長 ありがとうございます。本日はフリーディスカッションですので、まとめ的なことは要らないかと思いますので、感想的なことだけ申し上げます。
期待したとおり、皆様方から非常に有益なお話を幅広にいただいたところで大変勉強になりましたし、この研究会としても非常に有益であったと思います。次に出てきますが、資料3が割とスペシフィックで重要な論点が書かれております。本日の議論はそれよりもかなり広くなりまして、「その他」がありますから、その中にいろいろ入ってくる部分もあろうかと思います。多分(1)から(4)は、それぞれスペシフィックではありますけれども、多分基礎的なことを考えないと、なかなか論旨がうまく展開できないような形になっているのかなと思っております。その意味で個々の論点の展開の中でも、本日のような基本的な議論がいろいろ生かされてくるのではないかと考えている次第です。どのような取りまとめ方になるのかまだ私も分かりませんし、これから事務局とも委員の皆様とも御相談して考えていくことになろうかと思いますけれども、本日は基本的なところで非常に有益な議論をいただきましたので、これをさらに生かしていければと思っております。大変ありがとうございました。
○長良雇用保険課長 ありがとうございました。
なお、今後の進め方につきましては、先ほど事務局から今後の論点案をお示しして御説明させていただいたところでございますので、基本的にはその形で進めさせていただきたいと存じます。ただ、「その他」も論点の中にございますので、随時必要な論点を加えて御議論いただくという柔軟な運営に努めていければと存じます。
そういった進め方でよろしいでしょうか。
(首肯する委員あり)
○長良雇用保険課長 ありがとうございます。
それでは、本日は闊達な御議論をいただきありがとうございました。
次回は6月20日を予定してございますが、詳細は決まり次第御連絡をさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
その他何もないようでしたら、予定の時間もまいりましたので、これをもちまして本日の研究会は終了いたします。本日はお忙しい中、ありがとうございました。