2022年2月8日 第2回「精神障害の労災認定基準に関する専門検討会」 議事録

日時

令和4年2月8日(火) 17:00~19:00

場所

中央合同庁舎5号館厚生労働省議室(9階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者

参集者:五十音順、敬称略
厚生労働省:事務局

議題

  1. (1)精神障害の労災認定の基準について
  2. (2)その他

議事

議事録

○本間職業病認定対策室長補佐 定刻となりましたので、第2回精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会を開催いたします。委員の皆様におかれましては、大変お忙しい中、会議に御出席いただきありがとうございます。今回は、阿部先生、荒井先生、小山先生、品田先生、田中先生、中野先生、中益先生、丸山先生、吉川先生の9名の方がオンラインでの参加となります。
はじめに、御発言の際の御案内をいたします。会場で御出席の方につきましては、長いマイクの下のボタンを押していただき、赤いランプがつきましたら御発言をお願いします。終わりましたら、再度ボタンを押してください。オンラインで参加される方につきましては、マイクのミュートを解除した上で、お名前と「発言があります」旨の発言をしていただくか、あるいはメッセージで「発言があります」と送信してください。その後、座長から「誰々さん、お願いします」と指名がありますので、その後に御発言をお願いします。なお、メッセージと御発言が重複した場合に、御発言をお願いする順番が前後することがあり得ますので、御理解をお願いいたします。また、大変申し訳ございませんが、通信が不安定になったりすることで、発言内容が聞き取りにくい場合があることにあらかじめ御了承をお願いいたします。
傍聴されている皆様にお願いがあります。携帯電話などは必ず電源を切るか、マナーモードにしてください。そのほか、別途配布しております留意事項をよくお読みの上、検討会開催中はこれらの事項をお守りいただいて傍聴されるようお願い申し上げます。また、傍聴されている方にも、会議室に入室する前にマスクの着用をお願いしておりますので、御協力をお願いいたします。万が一、留意事項に反するような行為があった場合には、この会議室から退出をお願いすることがありますので、あらかじめ御了承ください。
写真撮影等はここまでとさせていただきます。以後の写真撮影等は御遠慮ください。よろしくお願いいたします。
次に、本日の資料の御確認をお願いいたします。本日の資料は、資料1「令和2年度ストレス評価に関する調査研究報告書」、資料2「精神障害の現状」、資料3「第2回における論点」、資料4「論点に関する最近の裁判例」、資料5「第1回検討会の議論の概要」及び参考資料として「団体からの意見要望(働くもののいのちと健康を守る全国センター)」です。本検討会はペーパーレスでの開催とさせていただいておりますので、お手元のタブレットで資料の御確認をお願いいたします。それでは、座長の黒木先生、以後の議事の進行をよろしくお願いいたします。
○黒木座長 それでは、始めさせていただきます。今回は資料に沿って、まず資料1「令和2年度ストレス評価に関する調査研究報告書」について説明と意見交換を行います。その後、資料2「精神障害の現状」について事務局から説明を受け、次に資料3の論点である「判断の基準となる労働者」について議論を進めていきたいと思います。
それでは、資料1について、事務局から研究の背景を説明した上で、研究責任者の田中先生から御説明いただきたいと思います。まず、事務局からお願いいたします。
○西川中央職業病認定調査官 それでは、資料1につきまして、この研究は厚生労働省からの委託事業として実施いただいたものですので、まず事務局よりこの委託の背景や委託内容について御説明させていただきます。
この研究は、精神障害の認定基準において、心理的負荷による精神障害の業務起因性を判断する要件として、対象疾病の発病の前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められるということを掲げ、かつ、この心理的負荷の強度の判断に当たっては、認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」を指標としていることを前提に、今の認定基準、平成23年の認定基準の策定から10年が経過する中で、この間、社会情勢や職場環境が大きく変化しているということから、職場における労働者の心理面に影響しているストレスについて評価、検討を行い、業務上疾病の認定に資する医学情報を整理する必要があるということで、令和2年度の委託事業として実施いただいたものになります。
委託に当たりましては、精神科医、産業医等の専門家の皆様に御検討いただき、現行の認定基準の心理的負荷評価表に掲げる37項目の具体的出来事のストレスの強度のほか、負荷表に掲げられていないけれども職場において多くの方がストレスを感じると考えられる出来事や、強いストレスを感じられる出来事などについて、新規設定項目としてライフイベント法によりストレス強度を測定いただくということを委託内容としたものです。
なお、厚生労働省においては、平成22年にも同様の研究を委託事業としており、平成23年の専門検討会では、平成22年調査の結果を踏まえて御議論いただき、報告書において現行の認定基準における心理的負荷評価表をお示しいただいたところです。研究の背景や委託の内容は以上です。
それでは、この研究の結果につきまして田中先生から御説明を賜りたいと思います。田中先生、よろしくお願いいたします。
○田中委員 北里大学の田中です。どうぞよろしくお願いします。今、西川調査官からありましたように、本研究は、様々な業務上の出来事のストレス強度、現行37項目ありますが、それ以外に、最近の報告等から必要と思われるものを追加した計78項目についてのストレス強度の評価を行った研究です。現行以外の新規の項目については、先ほどありましたように、検討委員会で審議等を行い、決定しました。
調査方法ですが、3万人を対象にインターネット調査を行いました。インターネット調査というのは対象者がインターネットにアクセスできる方という限界があり、ある程度選択バイアスが危惧されますが、満遍なく様々な業種、職種から多数例を集めるためにインターネット調査が必要なためこの方法で行っております。ここからは、調査報告書を基にお話をしたいと思います。
調査報告書の2ページを御覧ください。3.2、調査対象者ですが、全国の産業別就業者の割合に近くなるように、業種、職種をある程度揃えた形で調査会社に依頼し、調査参加者を募っています。3.3、調査項目に関してです。まず、基本属性ですが、性別、業種、職種、雇用形態、職位、従業員数、事業場規模について調べています。
ストレスマネジメントの有無とストレス強度についての調査にはライフイベント法を用いました。ライフイベント法というのは、簡便でありながらもその妥当性、有用性が検証されておりますし、平成22年度の同様の調査も同じくライフイベント法を用いて行われています。
2ページの下から5行目からですが、インターネット調査では質問項目として、「あなたがこの半年間に、提示された出来事や状況を経験したことがある(現在もそのような出来事や状況が続いている場合も含みます)場合には「ある」に、ない場合には「ない」にチェックを付けて回答してください」という形で、最近半年間のストレスイベント体験の有無を調べています。そのストレス体験があった方に対しては、追加で、「あなたがそのことによって、どの程度のストレス(心理的負担)を感じたか、もしくは感じているかを、0~10の中でお答えください」と質問しています。そして、これは0点から10点満点の11件法で評価するわけですが、0点は「全くストレスを感じなかった(感じていない)」、真ん中の5点は「中程度のストレスを感じた(感じている)」、10点が「極めて強いストレスを感じた(感じている)」となります。
解析については、それぞれの属性の解析のほかに、ストレスの体験した割合・頻度とともに、ストレス強度については、平均点と項目反応理論を用いたストレス強度の評価を行っています。
まず、調査対象者の基本的な属性の結果です。10ページと11ページを御覧ください。調査対象者3万人の属性について記載されています。それぞれ、本調査の結果と全国平均の数字を示しています。性別に関しては、男性のほうが全国平均に比べてやや多い傾向があります。表12の年代については、20代以下がちょっと少なく、50代が少し多いというばらつきがありますが、その他の年代においては比較的全国平均と同じようになっています。表13の業種についてはほぼ全国平均と同じような値になっています。
次の12ページ、表14、雇用形態についてです。経営・役員の方がちょっと少ない、契約社員がやや多いという傾向は認められます。表15、職種については、上から3番目の生産工程従事者において全国平均よりやや少なく、下から2番目の管理的職業従事者がやや多い結果になっていますが、その他の職種についてはほぼ同様の割合になっています。13ページ、表16の事業場規模別では、おおむね全国平均に即した内容になっています。これらのことから、今回の調査対象者は若干の差異はあるものの、日本の平均的な労働者集団といえるのではないかと思います。
続きまして、具体的な結果についてお話いたします。まず頻度です。27ページを御覧ください。回答頻度についてです。ざっと次のページまで見ていただければと思いますが、例えば27ページの質問項目の7番、8番ですが、「仕事上のミスをした」か「軽微な仕事上のミスをした」という問いに対して「ある」と答えた割合が、それぞれ15.6%、44.1%と多くなっています。なお、今回の質問票調査においては、例えば7番、8番にあるように注釈を付けておりまして、前回の平成24年度の調査では「仕事上のミスをした」だけで、それぞれ解釈の幅がある状態だったわけですが、今回はその幅をある程度コントロールする目的で、「仕事上のミスをした」というのは「被害が生じる等軽微ではない仕事上のミスをし、その後事後対応を行うようなものを想定してください」と追加説明が付記されています。また、軽微な仕事上のミスをしたというのは「「軽微な仕事上のミス」は、被害等が少ない、わずかなミスを想定してください」などといった注釈を加えて質問をしております。
その他、経験があると答えた人の割合が多い項目としては、28ページ、16番の「顧客や取引先からクレームを受けた」が16.7%、19番の「上司が不在になることにより、その代行を任された」が10.1%、20番の「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」が14.1%、26番の「勤務形態に変化があった」が14.5%、27番の「仕事のペース、活動の変化があった」が19.4%などとなっています。
29ページ、ここの40番から45番の間が空いていますが、41番から44番については非正規雇用労働者についての質問でして、別途これは注記をしておりますので、後で説明をさせていただきます。50番から60番の間も空いておりますが、これもパワハラについての下位項目、その具体的な細かい内容ごとの集計を行っていますので、これも後で報告させていただきます。ちなみに、「上司からのパワーハラスメントを受けた」は、全体で2,442名、8.1%が半年間に経験があると回答していますし、62番の「上司とのトラブル」についても7.9%が経験があると言っています。次の30ページですが、「セクシュアルハラスメントを受けた」は3.1%となっています。
25ページに戻って、非正規雇用労働者についてです。表24、非正規雇用労働者自体は全体の回答者の大体31.3%を占めていますが、この中で何人いたかの割合を示しています。
26ページ、表25、パワーハラスメントに関する項目です。質問番号50番で上司等から身体的・精神的パワーハラスメントを受けたと回答した方の中で、具体的に51番から59番までの質問項目についての経験があったかを示しています。これを見ますと、パワハラの中でも、53番の「上司等から業務上必要のない又は業務の目的を逸脱した叱責が1回あった」が34.3%、54番の「上司から業務上必要のない又は業務の目的を逸脱した叱責が今までに数回あった」が38.2%、57番の「上司等から過大な要求を受けた」、これは「達成不可能な目標を与え、できないと叱責する、業務と無関係な雑用を強制する、などを想定してください」という注釈が付いたものですが、これも29.7%と、比較的高い割合を示しています。
この経験があったという項目に対しては、先ほど申しましたように、具体的にどの程度のストレスと感じたかを0点から10点満点で答えていただいています。64ページを御覧ください。これが回答の得点分布になります。縦軸がそれぞれの点数の人数、横軸が0点から10点を示しています。それぞれの表の上に、項目の具体的内容は割愛していますが、質問項目のナンバリングをしています。ここを見ていただけるとお感じになると思いますが、それぞれの出来事について、ストレスを感じなかった(0点)と評価をしている方と、ちょうど真ん中、やや中程度のストレスを感じたと回答している方(5点)、次に極めて強いストレスを感じた(10点)と答えた方、この3つのグループが多いことが分かります。真ん中の点数に集約しやすい傾向は多くのアンケート調査等で見られることなのですが、本調査では、真ん中の点数が多かったことの他、全くストレスを感じなかった方が多いこと、また、極めて強いストレスを感じた(10点)までがあまり連続していない、6点から9点までは比較的少ないけども、10点になってポンと跳ね上がるといった分布がみとめられたのが、本ストレスの調査の特徴的なところかと思います。
65ページの一番上の3つのグラフ、項目22、23、24ですが、項目22は時間外労働が80時間以上から100時間未満、項目23が100時間以上から120時間未満、項目24は120時間以上といったものです。通常は残業時間が多くなれば多くなるほどストレス平均点は高くなるだろうと想定されるわけですが、平均点から見ると逆になっています。その理由としては、この分布から見ると、例えば項目22の80時間以上100時間未満の方の場合は、一番多いのは真ん中の5点ですが、6点から9点を付ける人が結構多かったということ、また、項目24の120時間以上については0点を付ける人も実は多かったこと、120時間残業をしていても全くストレスを感じないという方の割合が、それより少ない残業時間の方よりも高かったのです。もちろん極度のストレス(10点)を感じるという方も多いのですが、その手前の6点から9点を付ける人はその他の時間に比べて少ないという、こういった特徴が見られています。こういった分布の特徴などもあって単純に平均点だけから見ると、解釈がむずかしいところがあるわけです。
66、67ページを御覧ください。項目50番から59番はいわゆるパワハラに関する項目です。50番がパワハラの経験の有無で、51番から59番までは下位分類、細かいパワハラの出来事を分類したものです。これはこれまで見た多くの分布とは違っています。これは、弱いストレスと感じる方は少なく強いストレスと感じる方が多いというわかりやすい分布になっています。
また、61番から64番も、同僚からのいじめや、上司、同僚、部下とのトラブルといったことが含まれていますが、これについても一方向性に強いストレスを感じる割合が増えるという分布が見られます。
分布の特徴を捉えた上で平均点を見ていただければと思いますが、平均点については、報告書では属性別にいろいろ書いてありますが、分かりやすい例として87ページの平均値のランキングを御覧ください。この87ページにおいては、現行37項目についてのみを取り上げたものですが、強いストレスを感じた方が多い項目については、50、62、63、61、64番といったパワハラとか上司、同僚とのトラブル、対人関係の問題が上位を示していることが分かります。
88ページです。平均点で評価しますと、この表の19番、今回の質問項目の22番に当たりますが、1か月に80時間以上100時間未満の時間外労働を行った者は平均が5.62点と中程度からちょっと上がったところです。また、21番の1か月に100時間以上120時間未満の時間外労働を行った者の平均は5.57点、120時間以上の時間外労働を行った者の平均は5.53点ということで、微妙な差ではありますが、残業時間が増えるほどストレスの値は低いという、そういった結果が示されています。
90ページ以降は、現行37項目を含めた全項目78項目についてのストレスの平均値を強い順に並べたものです。順位1番から8番までは、やはりパワハラ関係が上位を占めています。1番の「上司から業務上必要のない又は業務の目的を逸脱した叱責が今までに数回あった」が7.93点と非常に高い平均値を示しています。その他パワハラに関連することは7点台の高い数値を示しています。
基本的には、上司、部下、同僚とのトラブル、ひどいいじめ、嫌がらせといったところが上位を占めていますが、対人関係のトラブル以外では、10番目の「給与が大きく減った」が6.95点、13番目の「非正規雇用労働者であるとの理由等により、仕事上の差別、不利益取扱いを受けた」が6.72点、14番目の「達成困難なノルマが課された」が6.65点、19番目の「顧客からのクレームを受けた」が6.27点、20番目の「健康状態が不良にもかかわらず出勤を強要された」が6.27点、21番の「作業環境や作業管理の状況が悪化した」が6.23点で、その他、22番から24番については、「顧客から無理な注文を受けた」や「成果主義・能力主義評価制度において評価が下がった」といった、対人関係のトラブル以外の項目も高くなっています。
その他の項目については、本資料を御覧になって確認していただければと思います。平均点のほかに標準偏差や回答数、回答率などについても資料に含めております。
続いて95ページですが、平成22年度調査との比較を簡単に示してあります。平成22年度も、同じように0点から10点までの11件法で評価をしています。選択肢は同様のものを使っていますので、比較可能だと思います。
37項目について、文言は一部変わっているので、全く同一とは言えませんが、平成22年度調査と有意な差異があったものをまとめています。平均値の差、効果量、p値と書いてありますが、p値は解析対象者の数が多くなると有意差が出やすくなりますし、平均値もそれぞれの分散が違ったりして比較が難しくなりますので、効果量といって、差の偏差値みたいなものを使って示しています。この効果量が0.3以上あると有意な違いがあると考えて良いと思います。
前回調査と有意に違ったものとしては、1番の「業務に関連し、重度の病気やケガをした」というのは、平均値でいうと、1.14点低くなっています。前回は6.20点だったが、今回は5.06点と低くなっていて、その効果量は0.39になっています。また、3番の「業務に関連し、交通事故にあった」というのも、評価は低くなっています。
あと、96、97ページも見ていただきますと、96ページだと、13番の「ノルマが達成できなかった」というのは、有意に点数が上がっています。また、16番の「取引先からクレームを受けた」、19番の「上司が不在になることにより、その代行を任された」、21番の「1か月に60時間以上80時間未満の時間外労働を行った」というのは、平成22年と比べて有意に平均点が上がっています。。
97ページです。22、23、24番の1か月80時間以上、100時間以上、120時間以上の時間外労働についてですが、80時間以上100時間未満の時間外労働は、有意に自覚的ストレス強度は上がっているのですが、23番、24番については、前回調査よりも有意にマイナス、ストレス強度は平均からいうと有意に低くなっていることが示されています。その他、34番、39番などについては、有意にストレス点数が上昇しています。
98ページですが、62番から67番は、上司、同僚、部下とのトラブル関係ですが、これらはは前回調査に比較して有意にストレス点数が上がっています。
最後ですが、平均点による評価のほかに、今回は項目反応理論というものを用いた評価も行いました。項目反応理論というのは、最近のテストの評価、健康評価などの質問票調査の中で最も信頼性の高いテスト理論です。例えば、TOEICやTOEFLといった国際的ないろいろなテストにおいても項目反応理論を用いたものが標準になっています。
具体的にどのようなイメージかといいますと、例えば視力検査では、ランドルト環を見たり、文字を見たりして行うわけですが、例えば、1.0の視力がある方の真の能力がここだとすると、0.1とか0.2の文字は簡単に回答できるわけです。逆に2.0を見ると、難しいと感じます。このように、その人の持つ真の値を探るために困難度が違うものを見せながらだんだんと絞り込んでいくわけです。その際1.0の人に0.1と0.2とかばかり見せても両方共簡単すぎてあまり役には立たない。1.0の人の真の視力を探るには、1.0周辺の回答が役に立つわけで,1.2を見せると、1.0の人は少し間違ってしまう。そこを間違ったら、それが難し過ぎたのだなと思って、0.9を見せると、0.9は回答できる。そうすると次は、1. 1を見せたり、1.0を見せたり、行ったり来たりしながら、難しい質問、簡単な質問を繰り返しながら、真の値に近付こうといったものであります。
項目反応理論では、質問項目を評価するモデルを作るのですが、困難度というものと、識別力という母数を推定する数式のモデルを作ります。識別力というのは、ストレス強度を高く評価しやすい人と、強いストレスでもあまりストレスを高く評価しない人、そういう違い、個別性があるわけですが、こういったものを敏感に峻別するためにどれだけ役立つかというのが識別力です。一般的には、識別力が0.5以上あると、この質問項目は、そういったことをきちんと判別できる質問項目というように評価されます。
困難度というのは、言葉のイメージが少し逆になってあれなのですが、例えば先ほどの視力検査の話は分かりやすいのですが、今回は項目反応理論の中でも正しいか正しくないかということだけではなくて、1点から10点の中で多段階に評価をするという方法を取っております。段階反応モデルと言いますが、これでは例えば困難度が高いというのは、この出来事を経験した中で、もともとストレスイベントの出来事を、ストレスが高いと評価する傾向がある方が、このストレスは高いと評価することを指します。つまり、それほどストレスの高くないものであっても、高く評価されやすい項目であり、それはどちらかというと、それほどストレスが高くない項目であると評価されるわけです。
一方、困難度が低いと評価された場合には、ストレス強度はあまり強く評価しないという人、強いストレスはあるのだけれども、なかなか強いと評価しない人、その人でも、ストレスが高いと評価してしまうといった質問項目の特性を表しているということになります。つまり、イメージが逆になるかもしれませんが、困難度が低いと推定された質問項目というのは、実はストレス強度が高い項目だと評価されるわけです。
その結果、110、111ページを見ていただければと思うのですが、ここには1から78までのそれぞれの質問に対する識別力、困難度が示されています。困難度はたくさんの段階を取っていて分かりにくいかもしれませんが、最終的には、真ん中から下3分の1、上3分の1ぐらいの所の評価をとっているのですが、一番左側の項目の識別力というのは、全部1以上であって、ストレス評価に役に立つ質問であることが示されています。また、パワハラ関係の50、54、56番とか、上司、同僚等のトラブルを示す61、62、63、64番は、困難度について、ほかと比べて低い数字が示されているのが分かるかと思います。
あと、項目反応理論では、112ページに簡単に書いてありますが、特異項目機能、DIFといったものを算出することができます。これは「テストが測定しようとしている特性・能力が等しいにも関わらず、所属する下位集団によって正答率が異なる状態」を検出するものです。今回、その解析も同時に行いました。しかし、業種とか職種というのはあまりにもサブカテゴリが多く、この算出が少し難しいため、業種や職種以外のサブカテゴリにおける特異項目機能のみを算出しています。
どういう結果になったのかは116ページ以下に示してあります。ここには、平均値とその順位について左側に書いてあります。その右側に困難度③基準、困難度⑥基準とありますが、10段階の中で下3分の1、上3分の1のレベルの困難度を調べ、それが両方とも低いと判断された場合は困難度の低い項目、つまりこの項目自体はストレス強度の高い項目であるという評価が行われることになります。
その結果ですが、困難度の部分の評価を見ていただきますと、低いほうを▼にしていますが、▼が困難度③基準、困難度⑥基準の両方に付いていた場合は、かなり強いということ、ストレスをなかなか強いと評価しない人でも、強いと評価してしまう項目であることを示しています。片側1つだけ▼があった場合には、ⅡとⅢの間の強度かといったようなことです。逆に△があった場合には、これは困難度の高いものですので、これについてはストレス強度は低い項目であると示されています。これに基づいてⅠ~Ⅲの強度案がどう示されるかを、右から2番目の欄に書いてあります。
あと、先ほど示したDIFについてもこちらに書いていますが、例えば2番の「業務に関連し、悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」という項目については、▼が1つ、△が1つで、Ⅱ程度であろうということと、役職が「その他」の属性に所属している場合は困難度は更に低くなる、よりストレスが高くなる項目になるということを表しています。
同様に各項目についてな方法で一通り見ていただければと思います。
○黒木座長 どうもありがとうございます。なかなか難しい統計学的な読み方や見方なども含めて貴重な報告を頂きました。ただいまの御説明に対して、御意見、御質問があれば御発言をお願いいたします。よろしいですか。田中先生、平成22年度の結果と今回の結果で、大体ほぼ同じような結果が出たということでよろしいですか。
○田中委員 パワハラに関する問題については、前回も同じⅢの評価でしたが、上司とのトラブルや同僚、部下とのトラブルというのは前回はⅡの評価でしたが、今回のIRTの結果及びその平均値の結果においても、上司だけでなく、上司、部下トラブルというのもⅢ、強いストレスというふうに評価すべきであろうという結果が出ております。そして一方、業務に関し重大な事故、人身事故を起こしたというのは、前回はⅢだったのですが、今回の平均値及びIRTの結果ではⅡ程度ではないかというところが主な相違と言えます。
○黒木座長 ありがとうございます。中益先生、御質問ありますでしょうか。
○中益委員 質問させていただきます。現在の認定基準におきまして、異常な出来事という項目があるかと思うのですが、これは今回の質問項目ではストレス強度を調べられていないかと思うのですけども、これまでの例えば平成23年でしたか、平成22年からの調査で、この異常な出来事はどのくらいの強度になるかというようなことが調べられたことがあるかどうかを教えていただけましたら幸いです。もしかしたら事務局の方に伺ったほうがいいかもしれないのですが、よろしくお願いいたします。
○西川中央職業病認定調査官 事務局のほうからお答えをいたします。今、先生御指摘の前回の調査、平成22年の調査でございますが、このときも、その当時の職場における心理的負荷評価表というものが判断指針にありまして、そちらの出来事についてお調べいただいたのですが、いわゆる特別な出来事に該当する事項についての調査というのは行っていないところです。
○中益委員 では、どうして異常な出来事であると、ストレスが強であるというふうに判断されたのですか。
○西川中央職業病認定調査官 前回の検討会の議事録を今、手元においているものではありませんが、先生方の御議論において、そもそもストレス調査の結果以上にといいますか、実際調査をするまでもなく、皆様に御議論いただいた中で、これはここの表にあるものよりも更に強い、正に特別な出来事であって、非常に極度の心理的負荷を与えるものであろうというような御議論をしていただいて、今のような表の形になっているものと認識をしております。
○中益委員 分かりました。質問をされた方は、10をどういうときに付けるかなと考えるのですが、例えば異常な出来事を示した上で、これが10であるというようなものがあれば相対的に付けられるかなと思うのですが、そういうような相関関係というのは特にない、ないというか、今回の調査では、頂点がどの辺にあるかとかそういう感じではないわけですね。いずれにせよ、異常な出来事は、例えばほとんどの人が10と評価されるようなものであるという評価のもとに、そのような異常な出来事というふうに位置付けられているということですか。
○黒木座長 田中先生。
○田中委員 異常な出来事といっても、その異常なというのが例えば具体的にどういうことを指すのかというところが提示できないと、なかなかその評価というのはできないわけだし、これはやはりインターネットの調査、アンケート調査ということなので、受け取る側がどう受け取るかということによって評価を聞いているということなので、例えば客観的にその異常な出来事というものが、その具体的にどう示せるかということは、なかなか難しいのではないか、これは統計の調査ということでは、やはり難しいのではないかと思います。
○中益委員 私も、評価が難しいので一般的には多くの人に聞いた場合にどういうふうに評価されるのかを知りたかったということではあるのですが、そうすると、異常な出来事がこの程度なので、ということがわかるかと。
○田中委員 その異常な出来事の定義をきっちりしないと、それは質問項目に反映できないと思います。
○中益委員 分かりました。とにかく今回は調べられておらず、要するにちょっと別次元といいますか、そういうものなので並べられてはいないという感じですかね。
○西川中央職業病認定調査官 おっしゃるとおりです。
○中益委員 分かりました。ありがとうございます。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは、ただいまの皆さんの御意見については今後の議論ということで、活用できるように事務局で整理をお願いいたします。
それでは、次に進みたいと思います。資料2、精神障害の現状について、事務局から説明をお願いいたします。
○西川中央職業病認定調査官 それでは、事務局から資料2について御説明をさせていただきます。資料2は「精神障害の現状」ということで、第1回検討会の資料4の補足・追加の資料となります。精神障害の労災認定に関する現状について、第1回では様々な資料を御用意しまして、それをもって先生方に共通認識をお持ちいただくということでしたが、その際に、この第1回の資料4、一般的な労災を離れた精神障害の現状に関するデータについての御議論の中で、こういったものもあるとよいのではないかという御指摘を頂きまして、これを踏まえて追加で御用意した資料となります。
資料2の中に1から12まで項目がございまして、順に御説明をさせていただきます。まず、1ページ目の目次に1から12まで全体を示しておりますが、1から4までが患者数に関するもの、5と6が傷病手当金の受給者に関するもの、7以降が自殺に関するものとなります。
次に、2ページ目の1のグラフですが、精神疾患を有する総患者数の推移を示したものです。前回、第1回検討会では、患者調査の数字をお示ししましたが、この患者調査というのは、ある特定の日に病院を受診したあるいは入院している患者さんの数でして、患者さん全体の数字がイメージしにくいということで、患者数そのものの推計があるはずだという御指摘を頂いていたかと存じます。このグラフがその推計となりまして、もととなるデータはやはり患者調査ですが、この患者調査のデータから担当部署で総患者数を推計したものということになります。
この項でいう精神障害者の数は、ICD-10の「精神及び行動の障害」から知的障害を除き、てんかんとアルツハイマーの方を加えた患者数に対応しているものとなりますが、直近の平成29年の調査結果をもとにした推計では、全国で約420万人の精神障害の患者さんがおられるというデータになっております。このグラフは御覧いただいたとおり、経年的に増加傾向という状況です。
次のページに2と3の図を載せておりますが、こちらは同じ患者数の総計の中で、今度は男女比を表したものです。上のグラフは先ほどと同じで全体数は約420万人ですが、そのうち58.9%が女性、41.0%が男性という結果になっております。ただ、これは全年齢ですので、もう少し就労世代に近いものとして3のグラフを示しております。65歳未満で見ますと少し男女比が近付いてきていて、女性が53.9%、男性が46.4%といった数字になっております。
先ほど年齢についても少し触れさせていただきましたが、次の4のグラフが年齢別で示したデータとなります。こちらは入院のほうのデータはなく、外来の患者さんをベースに、年齢階層別に患者数全体の推計をしたものです。一番下の黄色い所が0~24歳となっていまして、そこから上を就労年齢と考えて64歳までで見ますと、外来の患者さんのうち206万人が25~64歳、いわゆる働く世代ということになるのではないかというデータでございます。
続いて、5と6は傷病手当金の状況です。全国健康保険協会では、傷病手当金を受けておられる方、つまり仕事を休んでおられる方ということになりますけれども、その方々がどういう理由で休んでいるのかというデータを示しております。傷病手当金受給者の中で、直近の令和2年では、32%が精神及び行動の障害を理由として休んでいるということになります。
次のページの6のグラフは、これを平成23年と令和2年の比較で、年齢階層別に棒グラフで精神及び行動の障害を理由とされる方の比率を示したものです。御覧のとおり、令和2年では20~24歳、25~29歳で、6割に近い方が精神及び行動の障害を理由に休んでいるという状況になっております。いずれの世代においても、平成23年に比べて比率が上がっているという状況になっております。
次の7からは自殺に関するデータです。前回お出ししたもののうち、職業別のデータや勤め人の方のデータを詳しく、あるいは理由が雇用問題、勤務問題とされる方のところを詳しく示したものとなります。まず、自殺者数の年次推移を職業別に見たグラフ、下から2番目のオレンジの所が、被雇用者・勤め人という分類となっております。令和2年では全体で21,000人の方が自死されておりますが、そのうち働いていた方、雇われて働いていた方が6,742人という状況です。
続いて8は、被雇用者・勤め人の方の年齢別の内訳です。オレンジが20代、その上の薄い青が30代、40代、50代、60代となっていますが、見ていただきますと、20代から50代までどの年代もかなり均等に近いような形で、もちろん少しの違い、40代が少し多いというようなことはございますが、いずれの年代が特に少ないというような状況でもないという形になっております。
続いて9は、自殺者総数のうち勤務問題を原因・動機とする方の割合の推移です。こちらは、そもそも自殺者の方全員の動機が分かっているわけではないということは前提でありますが、自殺をされた方全体の中で勤務問題を原因・動機の1つとしている方というのは、直近では9%前後、令和2年では9.1%、その前の令和元年は9.7%という状況になっております。直近では少し下がっていますが、経年的には上昇傾向にあったということでございます。
次の10、勤務問題を原因・動機の1つとされる方、これは第1回でもお示ししましたが、人数でいくと1,918人となりますけれども、その皆様の職業ということで見ますと、これはやはり被雇用者・勤め人の方が1,583人と大多数を占めるという状況です。
そして、次に11、そういった勤務問題を動機の1つとされる方の年齢別の内訳ですが、こちらも20代も30代も40代もそれぞれ多い、50代も多いというようなグラフになっております。
最後に12、この勤務問題の詳細ということで、こちらを見ていただくと、仕事疲れ、職場の人間関係、仕事の失敗、職場環境の変化、その他というような区分けになっておりますが、仕事疲れという形で分類をされたものが比較的多い、職場の人間関係という方も同じぐらいという状況になっております。資料2については以上でございます。御質問、御意見等ありましたら、よろしくお願いいたします。
○黒木座長 ありがとうございました。ただいまの御報告、御説明に対して、何か御意見がありましたら御発言ください。品田先生、何かございますか。
○品田委員 質問は特にありませんが、私が留意したいというふうに、この資料から言わせていただいたのは、やはり相当、数が増えている、精神障害の患者数は稼得世代において相当増えているという現実と、さらに自殺者の中においても、全体の数が減ってる中で勤務問題を原因とする人も増えているというように見るべきだろうと、そうした中で、今回の認定基準をどう見るかということは、この前提を頭に入れておくべきだろうと、そういう意見です。
○黒木座長 ありがとうございます。確かに若い人がすごく精神障害で休んでいるという現状があるのは、少し驚きました。ほかにはいかがでしょうか。品田先生から御意見ありがとうございました。それでは、事務局では更なる整理をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
次に、第2回における論点に進みたいと思います。今回、第2回検討会の論点は、「判断の基準となる労働者」はどのような労働者を想定するのが妥当であるのかということになります。この論点は第1回でも少し議論を行ったところですが、本日は資料3の3-2ページ、認定基準の検証に係る具体的な論点の項目ごとに議論をしていきたいと思います。はじめに事務局から論点について説明をお願いいたします。
○西川中央職業病認定調査官 本日の論点となります資料3と、資料3の御議論の参考としていただくための資料4について御説明いたします。なお、資料5は第1回の御議論の概要となっています。また、2月2日付けで、働くもののいのちと健康を守る全国センター様から意見要望を提出いただきましたので、こちらも参考資料として提出しております。こちらの資料5と参考資料につきましては、ここで御紹介をさせていただきますので、適宜御参照いただければと存じます。
それでは、資料3から御説明いたします。こちらは、論点としておりますけれども、1枚目に論点を簡略にまとめておりまして、2枚目以降、論点と参考事項という資料と合わせて載せるような形で少し詳しい内容となっています。横向きの左側に書いてあることと、1枚目に書いてあることは大きくは変わらないわけですが、横向きの紙のほうが詳しくなりますので、2ページ以降に沿って御説明をさせていただきたいと存じます。
論点についてA、B、そしてBについてはB1、B2の形で分けております。事務局からの説明については、最初に資料4まで通して説明させていただき、御議論に当たっては、少しずつ分割して進めて行っていただければ大変有り難いと思っております。今回は第1回にいろいろ御指摘を頂いたものの中で、同種労働者の関係、判断の基準となる労働者について御議論を頂きたいということで、論点をお示しさせていただいております。これは今の認定基準の要件の中ですと、要件の2番目、「業務による強い心理的負荷」があったかどうかというこの判断をするに当たって、強い心理的負荷かどうかをどうやって判断していくか、その判断の基準となる労働者に関しての御議論となります。大きく分ければ2番目の要件に関する御議論ということです。
まず、Aについてですが、前回の御議論で、「ストレス-脆弱性理論」に基づいて今後も考えていくという整理をしていただいたと考えております。「ストレス-脆弱性理論」に基づいて心理的負荷の強度を客観的に評価するに当たり、どのような労働者にとっての過重性を考慮することが適当かということです。ここで問題になるのは、発病された本人を基準とするのか、こういった同種の労働者を基準とするのかということですけれども、現行の認定基準は「同種の労働者」を基準とするとしており、本人ではなく、同種の労働者を基準とする考え方は、「ストレス-脆弱性理論」であるとか、あるいは裁判例等に照らして、引き続き適当と考えてよいかどうかというのが1つ目の論点A1です。
Bは「同種の労働者」を基準として評価をするとした場合に、「同種の労働者」をどうやって定義していくかということです。どうやって定義していくか、どのような労働者と考えることが適当かということに関して、B1とB2に論点を細分化しています。
B1ですが、同種の労働者について、現行の認定基準は右のほうに書いていますが、「同種の労働者」とは職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者をいうという記載の仕方になっています。こうした職種、職場における立場、職責、年齢、経験、そして「等」ということで、そのほかの事情も考慮する、想定するということになりますけれども、こうした定義の仕方、こうしたもので明示して想定することについて、医学的知見やこれまでの裁判例等に照らして、引き続き適当と考えてよいかどうかということです。参考事項のほうには、この点についてまとめていただいた平成23年の報告書についても示しているところです。
続いてB2です。B2については、前回の検討会で御指摘があったところと考えておりますが、同種の労働者、あるいは平均的労働者と判決文では書かれることがありますけれども、これには一定の幅があるというような指摘を裁判例等ではされているところです。前回の御議論で、今の精神の認定基準にはそこが書き込まれていないのではないかと、その点についてどう考えるのか、どう示していくのがよいのかというような御指摘を頂いたかと考えております。
まず、この同種の労働者には一定の幅があると考えられるが、このことについて明確化、具体化することが必要か、あるいは、これについては、業務による心理的負荷評価表等の内容に反映する形で対応することが適当かという大きな論点とさせていただいておりますけれども、下に3つのポツで少し説明を加えています。一定の幅についてですが、この一定の幅というのはあると、現行認定基準も一定の幅を否定していないと考えておりますし、事務局としてもそのように理解しているところです。現行認定基準におきましては、認定基準の中で業務による強い心理的負荷、そのように示されている出来事がありますが、こういうものを体験した場合にも、実際に精神障害を発病される方もいらっしゃれば、発病されない労働者の方もいらっしゃるところです。また、心理的負荷評価表を検討いただくに当たって、先ほども御議論いただきましたけれども、前回もストレス調査に関する調査研究をやっていただいて、それに基づいて今の心理的負荷評価表ができているのですが、そこで回答をされた労働者の方は多様な性格傾向の労働者の方が含まれている、ストレスの受け止め方に幅のある労働者群が回答をされていらっしゃるということです。
こうしたことから、同種の労働者に一定の幅があるということは当然であって、既にこの業務による心理的負荷評価表に一定程度反映されているのではないか、という提示としております。ただ、一定の幅を広く捉え過ぎると、一定の幅の中に最も弱い方を想定したとして、かつ、さらにその方を同種の労働者として想定してしまうと、本人ではなく、同種の労働者を基準とする意味、一般的な受け止めを基準とするということの意味が失われて、実質的に本人を基準とすることとなってしまうのであるとすると、それは論点のAと関係してきますけれども、適当ではないのではないかということです。
そうした中で、この幅について何か明示できるかどうかということについて、前回も脳・心の認定基準ではこういう書き方があるけれども、それはどうかという御指摘も頂きましたので、右側に脳・心の認定基準もお示しして、検討の議題としているところです。脳・心の認定基準は右側の下のほうですが、「ここでいう同種労働者とは、当該労働者と職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者をいい」と、ここは現行の精神の認定基準と同じですけれども、「基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できるものを含む」という形で、認定基準上こうしたある程度の幅が明示されています。
ただ、これと同じように書けるかということについて検討しますと、その下に3つの*印で箇条書きにしていますが、こちらのような課題があって、精神障害について同様の表現を行うことは慎重に検討をする必要があるのではないかということです。1つ目、脳・心臓疾患では、「基礎疾患を有していたとしても」という記載がされていますが、ここで想定されている基礎疾患は、高血圧や動脈硬化であったり、そのまま放置しておくと脳・心臓疾患、心筋梗塞や脳梗塞といったようなものを発症する、正に対象疾病の基礎となる疾患の状態ですけれども、精神障害の場合に、対象疾病とは区別して基礎疾患として想定されるもの、病態が明らかではないのではないかという課題。そして2つ目、前回の御議論の中でも御発言があったかと思いますが、これまで日常業務を支障なく遂行できていたことの意義が、脳・心臓疾患の場合とは異なり得るのではないかという問題。そして3つ目ですが、実際には今、様々な業務軽減措置を受けながら働いていらっしゃる方、障害を持ちながら働いていらっしゃる方や治療と仕事の両立をしながら働いていらっしゃる方、いろいろな労働者がいらっしゃいますけれども、裁判例などでは、特段の業務軽減措置を受けず、日常業務あるいは通常業務を支障なく遂行できるものを含むというようなことが書かれることが実際にもありますが、そういったことを書いてしまうと、例えば身体的負荷に関する業務軽減措置を受けている場合に、かえって認定基準による判断が困難になるおそれがあるのではないかということ。このような課題があるために、同じように記載をすることができるかどうかについては、慎重に検討する必要があるのではないかという論点の提示にしております。いずれにしましても、このA、B1、B2ともに先生方の御意見を頂きたいと思っておりますので、御議論をお願いしたいと存じます。
資料4についても御説明させていただきます。本日の論点に関係すると思われる最近の裁判例、直近の確定のものから幾つか新しい順にピックアップをしてお示ししています。幾つか種類がありまして、1つ目の事例は、心理的負荷、ストレスの受け止めに関する事例です。心理的負荷の評価の所に下線を引いていますが、一番最後、「単に被災者の個人的な受け止め方の問題であるとはいえない」という評価をしております。つまり、御本人の受け止めの問題ではなく、一般的に、そのように受け止めるのであるから、強いストレスであったという評価がされている、本人を基準にするのではなくというような趣旨での判示だと考えております。
これの逆のパターンが4番の事例になります。先に4番の御説明をさせていただきます。こちらについても心理的負荷の判断の所に下線を引いておりますが、本件の方も発病して自殺をされてしまった被災者の方がいらっしゃるわけですが、これについて過剰に受け止めた結果、自殺に到った可能性を否定することができないということで、やはりこれは御本人がそう受け止めたということであって、一般的な受け止め方についてはその上の段で評価をされているわけですが、逆の面から書かれているものでありますけれども、御本人の受け止めではなく、一般的な受け止めで評価するという形の判示であるというように整理をしているところです。
2番目と3番目は平均的労働者の幅に関して言及があったものです。2番目の事案は被災者の方が執着型性格あるいはメランコリー型性格であったことは否定できないということを示されているわけですが、こういう性格傾向は平均的労働者の性格傾向の範囲内というべきだという判示です。
また、3番の事例は、この方についても不眠症等により治療を受けたという事実はあるけれども、「被災者が必ずしも高いストレス耐性を備えていなかったとしても、それは同種の労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内のもの」というような判示がされています。
最後の5番目は、同種労働者としてどのような方が想定されているのかということに関する判旨です。概要を見ていただきますと、この被災者はきつ音をお持ちであった労働者になります。こうした方のストレスを評価することに当たってということで、この事案については、2つ目の下線ですが、「被災者については、きつ音を有するものであることを理解し、そのことに対する配慮がされるべきことは前提にしつつ」ということで、きつ音に対する配慮がされるべきということは前提にすべきだという判示になっております。さらにその少し下、下線の下から3行目、「きつ音を有する労働者を基準とする必要はなく」と書いてありますが、しかし、被災者の有していたきつ音については、必要な限度でこれを考慮するというような判示がなされているところです。
そのほか、第1回の裁判例の資料も枠組みについて示していたものがありますので、必要に応じて参考にしていただきまして、この第2回の論点について御議論を頂ければと思います。先生方、どうぞよろしくお願いいたします。
○黒木座長 ありがとうございました。それでは、これまでの事務局の説明を踏まえて資料3の項目に沿って検討を進めます。まず、具体的な論点のA、ストレス-脆弱性理論に基づき、心理的負荷の強度を客観的に評価するに当たり、どのような労働者にとっての過重性を考慮することが適当かについて議論したいと思います。何か御意見があれば御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。中野先生、お願いします。
○中野委員 ありがとうございます。
前回の御議論や、これまでの裁判例などに照らしまして、法律学の立場からしても、ストレス-脆弱性理論から大きく外れる必要はないのかなと思います。この点に関しては従来と同様、ストレス-脆弱性理論に基づいて同種の労働者を基準とする、すなわち本人ではなく、ある程度一般化された労働者を基準とすることについては、引き続きそのように扱っていいのではないかと思います。
また、「同種の」という文言についてですが、裁判例ですと平均的という文言を使うことがありますので、同種という文言でいいのかということもあるかと思います。この点については、同種という文言も多義的ですけれども、平均的という言葉はそれ以上に多義的で、何と何の平均をするのかということの説明を付け加えないといけなくなるかなと思いますので、現状の「同種の」という文言でいいのかなと思っています。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。品田先生、何か御意見はございますか。
○品田委員 私も今の御意見に賛成です。従来のままでよいというのが基本的な意見です。そこで、2番についても言っていいのでしょうか。
○黒木座長 はい、お願いします。
○品田委員 1番については全く異論はありませんので、そういうことでいいと思います。そうしたところで、「同種の労働者」について裁判例、資料4を読ませていただくと様々な表現があるわけですが、私は、平均的な労働者について「特段の労務軽減までは要せず」といった表現は極めて陳腐だと思います。「社会生活が困難であったという事情は認められない」も同じように基準として用いるべきではないと考えています。言うまでもなく、これは脳・心においても同じだと思いますけれども、業務軽減措置を受けていれば、その時点で平均的な労働者ではないと考えるべきことは明らかですので、その表現自体においては何らの意味もないと思います。この点、次の文章、つまり、「通常の業務を遂行することができる程度」という言葉につなげるための修飾語にすぎないと考えても、こういう表現を用いることは不適当だと思います。そもそも基礎疾病を有する労働者が業務軽減措置を求めるなどということは、よほどの場合でありまして、そこに至っていないことをもって平均的労働者であるという論理になるのは、あまりにも非現実的だと思います。
また、その後の脳・心で使っている文章ですが、つまり、日常生活を支障なく遂行できるかとか、通常の業務を遂行できる程度の心身の健康状態であればという表現について、これは脳・心においてはいいと思いますが、精神にこれを持ち込むことは、およそできないことだと考えています。
理由は2つあるのですが、まず第1に、精神障害の問題と脳・心が決定的に異なることは、高血圧とか不整脈といった症状はかなり医学的に評価可能であり、お医者さんの前で言うのは何ですが、違ったら教えてほしいのですけれども、かなり評価可能であると考えられます。そういった意味で、業務によって急激に増悪することになったものであるか否かは、かなりの程度、正確に把握できるものだと、これまでの実務経験の中から感じてきました。しかしながら、精神障害については精神的な脆弱性とか性格特性といったものを定量的に把握すること、定量的に評価することは困難でありまして、直前まで普通に生活できていたとか、若しくは業務に支障がなかったかというのは本人にしか分かり得ないことであります。労災保険制度における保険事故であるかどうかという傷病の概念は、極力医学的な知見に基づいて判断されるべきものであり、本人の主張とか関係者の憶測をもって通常の労働や生活ができていたといった形で、既往症の有無を推認するようなことはあってはならないと考えます。
2つ目は、日本人の場合、高血圧とか不整脈などの既往症がある人は一定年齢になるとかなりの程度認められるものであり、これらを平均的ないしは同種の労働者の概念に含めないこととすると、脳・心臓疾患によって救済される可能性は著しく低くなると思います。そう考えると、一定程度こうした人たちを包摂するということは重要だと思います。しかし、一方で、先ほどの統計では精神面で苦悩を抱えている労働者が増えてきているとはいえ、法的な因果関係で考えた場合に、業務によってそうした症状が顕在化するような例が多いとは考えられないと思います。そうすると、脆弱性とか一定の性格特性をもって通常の生活ができる状態であったという基準を持ち込まなければ、こうした疾患に対して補償ができないという実情にあるとは思えないのです。そういう意味において、法制度の意義として脳・心と精神の場合においてはかなり違うということ、これが2つ目の理由です。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。三柴先生、どうぞ。
○三柴委員 かなり品田先生の見解と通じると思いますが、私も精神的課題の特殊性という点からコメントさせていただきたいと思います。結論的には、事務局案のAとB1には賛成です。B2についての見解という前提になるのですが、まず原理論、そもそも論として、労災補償と労災民訴、民事損害賠償責任というのは趣旨が違うということです。労災補償であれば、基本的には、帰責性、本人や使用者らに落ち度などがあったかどうかということはあまり問わないで、客観的に判定していくことになります。災害性、ストレス問題なら業務の過重性があれば救済するのが一応の原則になるわけで、例えば怪我であれば不安全行動とか基礎的な障害が前提にあったとしても、おおむね補償されることになると思います。
しかし、精神障害というのは、品田先生がおっしゃるように、身体障害とは異質であって、その労災認定を客観化する場合には、客観化といっても文化の枠に恐らく左右されると思います。したがって、どんなに客観化しても、個々の要件とか要素の判断というのは必ず価値判断になってくるということだと思います。現に過重負荷とされる出来事も、恐らく平均人基準に当たるものを比較しても海外とは違うわけです。つまり、過重負荷も平均人もその国の常識、つまり、一定の属性を持つ国民だったらどう受け止めるかというところに照らして評価を制限する必要があるだろうということです。しかし、一方では、例えば高所恐怖症の人に高所作業を命ずるとかで、本人にとっての過重負荷となるような場合には補償の対象から外すわけにはいかない。弱点があるからといって、就労自体をさせないというのも現実的でないわけです。この点については以前、粕屋農協事件というのがありましたけれども、そういった方にも働いてもらわないといけないし、配慮も必要だということなので、労災保険との関係では、ストレスの多面性とか多層性を前提にして、ストレスを客観化する手順が必要なのではないかと考えられるわけです。
そうすると、平均人基準、同種の労働者の基準の考え方ですけれども、脳・心臓疾患の場合と同様に、普段は特段の配慮なく働ける方を想定とか、そういった基準設定ないし文言の使い方は賛成できないということです。ここは品田先生と一緒です。なぜかというと、精神障害の場合は発症とか増悪のポイントがよく分からない面があるということ、それから逆に、配慮が必要な方がいるということです。そういうことは踏まえないといけないわけです。労災補償に関する裁判例でも、自ら脆弱性とか脆弱なポイントを申し出た方とか、そういうものが客観的に明らかな方については配慮を求め、配慮がされずに発症、増悪すれば労災と認めるとしてきたので、そこは考慮せねばならないのではないかと思います。しかし、あらゆる特異性を、個性だからといって認めたのでは制度にならないので、そこは自ずと常識的に理解可能な範囲内という制約が付くのではないかと思います。
ここで1つ、最後に申し上げたいのは、精神疾患とか心因的な要因というのは単純に強いとか弱いというふうに捉えられない面があると思うのです。例えば繊細だというのは、一定の出来事を強く捉えてしまうような面では弱さになるかもしれないけれども、人の心を読んで行動するようなある面では強さになるかもしれないわけなので、たとえ脆弱性という表現を残すとしても、個体差や脆弱性というふうに表現を少し変えていったほうがいいのではないかと思っています。というわけで、医学と法学との両見解を組み合わせて判定していかなければいけない課題かなと思っています。長くなってすみません。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。品田先生、三柴先生から貴重な御意見を頂きました。精神科の先生、いかがでしょうか。丸山先生、いかがですか。
○丸山委員 今のお話を聞いて、おおむね賛成です。A1、B1については賛成です。B2は同様の感じでは難しいだろうと思います。
私は用語の表現がちょっと気になっています。特に資料3、裁判例の右側の所です。3行目に「「同種の労働者」(平均的労働者)」となっていますが、これは正しい表現ではないと思っていて、裁判例を見ると全部「同種の平均的労働者」となっていますね。その辺の使い方として、単に「平均的労働者」という場合と、「同種の平均的労働者」とは、きちんと使い分けていかないと混乱します。というのは、そもそもが業務上の負荷評価表を見てもらえば分かりますけれども、まずⅠ、Ⅱ、Ⅲがありまして、その次に強、中、弱ということを決めていくわけです。出来事の強度をⅠ、Ⅱ、Ⅲで示しています。今回の調査がその裏付けになるのだろうと思いますが、これが一般にいう「平均的な労働者」の評価です。つまりこの段階の評価は同種労働者による評価ではないです。雑多な労働者全てを含めた一般的、平均的強度です。
では、同種労働者はどこで評価するかというと、その次なのです。前に中益先生が言われたように、認定要件の3ではなくて認定要件の2で評価するのです。要件2の中の特に強、中、弱の評価については、出来事とその後の状況に「同種労働者(あるいは同種の平均的労働者)」との比較を含めていかざるを得ないのです。現行もそういうところで評価していると思います。そのときに同種の一般的、平均的な労働者というのを想定しながら強、中、弱というのを考えるというふうになっていると思います。だから、平均的な労働者、同種労働者というのは、用語の使い分けをまずきちんとしていただかないと、安易に「「同種の労働者」(平均的労働者)」などとすると判断を誤るおそれがあるので、そこはきちんと、この専門検討会では共通の認識で議論を進めてもらったらいかがでしょうかというのが、今の私の意見です。よろしいでしょうか。○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。荒井先生、いかがですか。
○荒井委員 今の議論はとても難しい議論だと思います。我々、同種の労働者を大体いつもイメージしているわけですね。職種とか職位、その他を考えて同種の労働者というふうに考えているわけですが、平均的な労働者というと、もうちょっと対象が広がってしまうという問題があると思うので、今、丸山先生がおっしゃったように、同種と平均的というのは使い分けていいのではないかと思います。ですから、厳密に申し上げれば、同種の労働者のほうがより狭い表現になると思いますから、まず同種の労働者を使うべきで、平均的というのは本人基準説に対して平均人を基準にするという、その対象のときに使われるのかなという気がいたします。ですから、同種の労働者という表現を労災上は使うのが適正だろうと私は思っています。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。田中先生、何か御意見はありますか。
○田中委員 私も丸山先生、荒井先生と大体同じ意見です。ただ、この心理的負荷表を、平均点をもとに作っていくのか、IRTの結果をもとに作っていくのかで、実は微妙に意味合いが違ってくるのですが、IRTは先ほどお話したように、個人、集団の属性とは切り離された母数の推計ですので、平均か、ずれかみたいなところは実はあまり関係ない評価方法でして、ある意味で絶対的基準に近いところがあります。そういう意味では、IRTの結果をもとに評価した心理的負荷表を使った場合には、理論的にはあまり個人の特性というものは、それほど大きな影響は受けない形に評価が可能になるかと思います。
ただ、実際の今後の策定作業においては平均点も考慮しながらということでしょうから、そういったところまでは言えなくなるというところだろうなと予測すると、先生方が言ったように、具体的な手続の中でそういったところは入れ込んでいくのが現実的かなと感じています。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。小山先生、何か御意見はございますか。
○小山委員 小山です。私も荒井先生や丸山先生の言われた意見に大賛成です。確かに、同種と平均的という言葉の使い方というのは、きちんと使い分けが必要だなというのはかねがね思っていましたので、そのとおりだと思っています。ただ、同種の労働者という言葉で引っ掛かってくるのは、この前少し申し上げましたけれども、最近の労災の申請を見ていますと、発達障害の背景を持っている人やパーソナリティの障害を持っている人などがいて、その人たちは確かにストレス度とか他の因子から見れば、かなりはっきりしたものを持った中で病気を発症してきている例がありますので、そういう意味では、その人たちの扱いをどうするかというのも、少し例外的に考えるか、どういうような評価の仕方をするか、それをみんな同種の労働者ということで脆弱性で切ってしまうのもどうなのかなというような思いを、最近の実際の症例を見ながら考えているところでして、そこら辺を教えていただければと思います。
確かに同種の労働者ということで、職種、職場における立場や年齢、経験が同じことを同種という見方をしていますけれども、発達障害の人たちの中でも同じような地位に就いて同じような仕事をしてきちんとやっていて、例えば今まで理解のある上司の下にいる間は、そのとおりきちんとやれていたのが、上司が代わった途端にやれなくなって適応障害を起こしてくるという、そういうことだってありますので、その方にとっての負荷度というか、特定の個人の評価の問題にはしたくないのですが、でも個人の立場になればそういった方たちが現実には増えているので、そういう人たちの扱いをどうするかというのも少し考えていただけたらなと思っています。
話をややこしくしてしまいますので、その意味でここで発言していいことか分かりませんけれども、同種の労働者という言葉が、この定義の下では確かに同種という言葉はいいのですけれども、そこをどう考えるか。例えば発達障害の方たちが増えていることも現実だと思いますので、そういうところでの対応をどうするかというのも少し念頭に入れながら、同種の労働者のことを考えてもらえればなと思っています。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。阿部先生、どうぞ。
○阿部委員 小山先生とは違うかもしれませんが、同種か平均かという用語の使い方については、私も同種のほうが平均よりは多義的でないという意味ではいいと思いました。一点、「一定の幅」という表現方法なのです。品田先生や三柴先生が今のままほうが誤解がなくていいのではないかというご意見は、脆弱性があっても通常勤務をこなしていればいいという多くの裁判例の判断基準では広すぎると考えて、今のままのほうがいいとおっしゃっているのか、それとも、裁判例と同じ基準だけれども、誤解を招くから一定の幅という表現にとどめたほうがいいというのか、どちらの趣旨なのだろうというのが分からなかったのでお聞きしたかったです。もし仮に裁判例と全く同じぐらいの幅を想定しているのであれば、私は表現方法は考えたほうがいいかもしれないですが、文言に反映したほうがいいのではないかと思いました。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。今の御発言に対して何かございますか。品田先生、どうぞ。
○品田委員 今の阿部先生の御意見に対してですが、どちらが広いとか狭いという話ではなくて、論理的にどうであるかという筋で問題を考えるべきだという意味合いでお話させていただきました。私も丸山先生、荒井先生の話を聞いて、なるほどなと思ったのですが、同種という表現がいいというか、これしかないなという感覚を持ちました。
というのは、どういうことかというと、平均的な労働者かどうかというのは判断者の経験とか考え方によってかなり幅を持ってしまうわけです。そうしたことは致し方ないことです。しかしながら、ではどうやって判断するかというと、丸山先生が正におっしゃったように心理的評価表の具体例を見て、それをもって強であるか中であるかというような形で判断をしていくわけです。その際には、こんなことが起こったら誰でも病気になってしまうという感覚で、これが強になっていくという思考をたどることがほとんどだと思います。そうすると、平均的な労働者も疾患になるかどうかというのは、具体的な出来事を想定する中において相対的に決まるものであるわけでして、そういった意味においては、この基準を幅広く考えるか、狭く考えるかという問題ではないということです。
もう1つ、先ほど事務局が出された資料の中に、3つの*印でこのような記載を追記することで、例えば身体的負荷に関する業務軽減措置を受けている場合にと書かれていますが、業務軽減措置を受けている場合かどうかという話だけでなく、その人が業務災害と認められるべきか否かは、そういう脆弱性があった人が仮に通常の人でも強い負荷を感じるような場合であったら、当然その人も労災と認められるべきなのです。そうすると、前提条件でそうした幅を狭めるような言葉を設けることは、どうしてもバイアスを掛けてしまう、プラスにもマイナスにもバイアスを掛けてしまう結果になる。そういう意味でやめたほうがいいという意見です。
○黒木座長 ありがとうございます。中野先生、いかがでしょうか。
○中野委員 ありがとうございます。先ほどAについて発言させていただいたので、Bのほうで改めて発言させてください。まず、B1の同種の労働者の書き方というか具体的な内容ですけれども、1つは、「職種、職場における立場や職責、年齢、経験等」の「等」に何が入るかという問題があるかと思います。現在、「等」として考慮している要素としては、前回事務局から説明いただいたように、例えば障害の有無などが入る、それ以外にも様々な要素が入りうるのだろうと思います。それらの考慮要素を全て網羅的に列挙することは恐らく不可能でしょうし、実務を不必要に縛ることになるので不適切であろうと考えます。ですから、認定実務の柔軟な運用ができるように「等」という、ある意味包括的な考慮を可能とするような文言を入れておくことが必要であり、かつ、適切であろうというのがB1の論点についてのコメントです。
その上で、先ほどから議論になっているB2ですけれども、私も前回と今回の事務局からの説明を聞いて、現在の認定基準においても、同種の労働者の性格の多様性について一定の幅があることを前提としていることは理解いたしました。また、現在の認定基準の書き方を、例えば脳・心臓疾患の認定基準のような書き方に近付けることができるかという点についても、今、品田先生からいろいろ御指摘がありましたし、事務局からも先ほど資料に基づいて説明いただいたように、様々な困難があることも理解いたしました。ただ、一方で、これは前回、阿部先生が御指摘くださったことですが、裁判例における平均的労働者の書き方との違いから、認定基準における同種の労働者というのが、我々のような研究者にとってすら、やや硬直的な基準であるというふうに受け取られていることも事実であろうと思います。
ですから、認定基準そのものの書き方を変えることが難しいのだとしても、同種の労働者が多様な性格的傾向というか、一定の幅を含むことなのだということを何らかの形で示していただけると、我々のような研究者であれば認定基準をどう理解するか、検討会の報告書などを見ますので、例えばそういった場などで示しておけるといいのかなと思いました。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかに御意見はございますか。
○三柴委員 これも品田先生の意見と重なるかもしれませんが、阿部先生からのお尋ねに改めてお答えすれば、裁判所の取っている相場感みたいなものについては、一部おかしいなと思うものもありますが、概ね私も同じなのです。あとは表現ぶりの問題なのでしょうけれども、例えば同種と言ったときにも、そこから普通の人がイメージするものよりは凹凸があるということ、また、その凹凸が必要だというところは強調したいのです。表現は同種でもいいのでしょうけれども、少なくとも報告書レベルで書き加えるか何かで、適材適所等の合理的配慮によって持続的に労働参加可能な者はそれに含まれてくるのだということ、それが障害者という括りになっているのかもしれないし、個性という括りなのかもしれませんけれども、そういう方は現に持続的に働けているのであれば補償の対象なのだと思います。逆に、その意味で多様な労働者が通常耐え得るか耐えるべき出来事は、評価の対象外とすべきなのだろうと思います。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかに御意見はありますか。なければ、丸山先生がおっしゃいましたけれども、我々は認定をする手順としてストレス度を決めていく、そして職場の中のストレスをどう評価するかということについては、例えば職場の人間関係や様々な出来事がその中で起こっているわけですから、職場のいろいろな出来事を評価する上で、この同種労働者というのは必要だろうと思います。それで、皆様の御意見をお聞きしまして、現行の認定基準の定義である「職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者」と考えることが引き続き妥当というふうに整理させていただきたいと思います。
次に、B2にある一定の幅ということについてはよろしいでしょうか。何か御意見がございますか。阿部先生、どうぞ。
○阿部委員 その一定の幅で先生方が御発言なさっているように、的確な表現方法が難しくて逆に誤解を招くというのは私も承知していますが、裁判所の基準とかなり近いというのであれば、議事録だけでは弱いと思うので、報告書なのか課長通知なのか、どういった形かは分からないですけれども、見る人が見たら分かるような形で、かなり近いということをどこかに明示したほうがいいのではないかと思いました。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。明示するとまた何か問題が起こりそうな気もしますが、いかがでしょうか。
○西川中央職業病認定調査官 いずれにしましても、先ほど先生方からも御指摘がありましたとおり、最終的にはこちらの検討会で報告書をまとめていただくことになりますので、その文言のときにまたいろいろ推敲していただければと思っています。
○黒木座長 ありがとうございます。事務局でもまた検討していただけるということで、よろしくお願いします。それでは、ただいまの検討の結果として、同種労働者に一定の幅があるとの理解については、皆様、御異存がなく、また一方で、その一定の幅については広く捉え過ぎると実質的に本人を基準にすることと同義であり不適切であるということについても、皆様の共通の御認識と考えさせていただきたいと思います。
その上で、論点における検討結果として、認定基準における同種労働者の定義については、今回敢えて変更することは不要であると整理させていただくとともに、御議論で頂いた様々な御指摘については、検討会報告書において明確化、具体化を図っていきたいと思います。よろしいでしょうか。
以上で、本日予定された論点の検討は終わりました。本日の全体の議論を通じて御意見、御質問のある方がおられたら御発言をお願いいたします。よろしいでしょうか。それでは、ちょうど時間になりましたので、本日の御議論で頂いた様々な御指摘について検討会報告書に反映していただくことにさせていただき、事務局でまた整理させていただきたいと思います。それでは、検討会を終了させていただきます。ありがとうございました。事務局にお返しします。
○本間職業病認定対策室長補佐 長時間の御議論ありがとうございました。次回の検討会の日時、開催場所につきまして、後日改めてお知らせをさせていただきます。よろしくお願いいたします。本日はお忙しい中、ありがとうございました。