- ホーム >
- 政策について >
- 審議会・研究会等 >
- 労働基準局が実施する検討会等 >
- 解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会 >
- 第15回 解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会(議事録)
第15回 解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会(議事録)
日時
令和3年10月26日(火)10:00~12:00
場所
厚生労働省労働基準局第1会議室
(東京都千代田区霞が関1-2-2)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)
出席者(五十音順)
垣内秀介 東京大学大学院法学政治学研究科教授
鹿野菜穂子 慶應義塾大学大学院法務研究科教授
中窪裕也 一橋大学大学院法学研究科特任教授
山川隆一 東京大学大学院法学政治学研究科教授
議題
解雇無効時の金銭救済制度の検討に関する議論の整理
議事
○山川座長 おはようございます。それでは、定刻となりましたので、ただいまから第15回「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を開催いたします。
委員の皆様方におかれましては、本日も御多忙のところ御参加をいただき、大変ありがとうございます。
本日の検討会も新型コロナウイルス感染予防のため、Zoomによるオンラインでの開催となります。御理解をいただければと思います。
本日は小西康之委員が御欠席で、その他の委員の皆様はオンラインでの御出席になります。
現在、御出席の委員の皆様、こちらの音声、画像は届いておりますでしょうか。
(首肯する委員あり)
○山川座長 ありがとうございます。
それから、法務省からオブザーバーとして、法務省民事局の笹井朋昭参事官がオンラインにて御参加の予定であります。よろしくお願いいたします。
それから、事務局に異動がありましたので、御紹介をいただけますでしょうか。
○宮田労働関係法課課長補佐 事務局に異動がございましたので、御紹介させていただきます。大臣官房審議官(労働条件政策、賃金担当)の青山です。
○青山審議官 青山です。よろしくお願いいたします。
○山川座長 よろしくお願いいたします。
本日はZoomによるオンライン開催ですので、事務局から操作方法について御説明をいただいて、併せて資料の確認もお願いします。
○宮田労働関係法課課長補佐 改めまして、労働関係法課課長補佐の宮田でございます。よろしくお願いいたします。
本日はZoomによるオンライン会議となっております。座長以外はオンラインでの御参加となっておりますので、簡単に操作方法について御説明いたします。
事前にお送りさせていただいております「会議の開催・参加方法について」を御参照ください。現在、画面には会議室の映像及びオンラインでの会議に御参加いただいている委員の皆様が映っているかと思います。
まずは下のマイクのアイコンがオフ、赤い斜線の入った状態になっているかを御確認ください。本日の検討会の進行中は、委員の皆様のマイクをオフの状態とさせていただきます。御発言をされる際には、サービス内の手を挙げるボタンをクリックし、座長の許可があった後にマイクをオンにしてから御発言いただきますよう、お願いいたします。アイコンの赤い斜線がなくなった状態になっていれば、マイクがオンになっております。
また、本日は会議資料を御用意いたしております。事務局から資料を御説明する際には画面上に資料を表示いたします。
そして、会議の進行中、通信トラブルで接続が途切れてしまった場合や音声が聞こえなくなってしまった場合等、トラブルがございましたら、お知らせいたしております担当者宛てに電話連絡をいただきますよう、お願いいたします。
なお、通信遮断等が復旧しない場合でも、座長の御判断により会議を進めさせていただく場合がございますので、あらかじめ御了承くださいますよう、お願いいたします。
Zoomによるオンライン会議に関する御説明は以上となります。
続きまして、資料の御確認をお願いいたします。本日御用意した資料といたしましては、資料1から資料7までとなっております。委員の皆様方におかれましては、あらかじめ送付させていただいた資料を御確認いただけますと幸いです。
以上でございます。
○山川座長 ありがとうございました。
カメラ撮りの方がおられましたら、カメラ撮りはここまでとさせていただきます。
(カメラ撮り終了)
○山川座長 それでは、本日の議題に入ります。議題は「解雇無効時の金銭救済制度の検討に関する議論の整理」となっております。
本日の資料1から資料6は、前回までの議論と今回の論点を整理した資料でございます。資料7はこれまでの議論の全体像を簡単にまとめた資料となっているようです。
本日の進め方でありますが、まずは資料1から資料5に記載されている議論の内容、論点1について御意見を伺いまして、次に資料6に記載されている前回の議論の内容、論点2についての御意見を伺いたいと思います。最後に資料7について御意見を伺いたいと思います。
それでは、事務局から資料1から資料5までについて説明をお願いします。
○宮田労働関係法課課長補佐 事務局でございます。
今、資料を共有いたしましたので、画面に映し出しているものに沿って御説明させていただきます。
まず資料1を御覧ください。資料1はこれまで御議論いただいておりました法技術的論点の主な議論を整理したものでございます。内容としましては、前回の検討会においてお配りした資料1に今回の検討会で扱う論点を記載したほか、前回の検討会までの御議論を踏まえ、一部修正を加えております。主な修正点については、分かりやすいように赤色にしております。論点及び主な修正点を中心に御説明させていただきます。
1ページの上側にあります「■権利(形成権)の行使要件・形成原因」の欄を御覧ください。こちらは行使要件・形成原因として、①~③までが考えられるとして整理されているところでしたが、これらの判断の基準時についての前回の御議論の内容を下の※として追加しております。「※ これらを満たすか否かの判断の基準時については、制度全体の仕組みを踏まえた個々の発生要件ないし形成原因毎の解釈によるものと考えられる」と記載しております。
2ページに行きまして、上側の「■意思表示の撤回」の欄を御覧ください。こちらは金銭救済請求権行使の意思表示の撤回と訴えの取下げ等との関係についての前回までの御議論の内容を※として記載しておりまして、「※通常は、労働者による訴えの取下げ等をもって、実体法上の金銭救済請求権行使の意思表示の撤回もする意思があるものと考え得るため、そのようにみなす旨の規定を設けることも考えられる」と記載しております。
同じページの下側にあります「■相殺・差押禁止」の欄に移らせていただきます。こちらの左側の欄、「形成権(※)構成 ※解雇無効時の金銭救済請求権」の欄を御覧ください。まずこれまでの議論の内容をまとめたものとして、上からですが「支払日について原則通りとし、権利行使後は解消金債権が具体的に発生していると考えれば、支払日は到来しているため、権利行使後の相殺・差押えは可能」とした上で、矢印としまして「相殺・差押禁止の措置の要否・範囲は政策的に判断」との結論を記載しておりました。
その上で、この点につきまして、今回の論点1の記載がございます。「形成権構成につき、相殺・差押えが可能となる時点について、『■債権発生の時点等』において、『判決又は審判の確定により金額が判明するまで労働契約解消金の支払による効果が発生しないことや、判決又は審判の確定日に支払日が到来すると規定することが考えられる』としていることとの関係で、権利行使後からの相殺・差押えを可能と考えてよいか」というものでございます。
こちらは1ページに戻りまして、下側の「■債権発生の時点等」の欄の左側の欄の一つ目の矢印に、先ほど論点1で出てくる内容として読み上げましたものが記載されているところでございます。こことの関係で相殺・差押えが可能となる時点につき、どのように考えられるか御議論いただきたいと考えております。
2ページ目の「■相殺・差押禁止」の欄に戻らせていただきます。論点1が記載されている枠内の黒字の※として「※支払日を判決又は審判の確定時とした場合には、判決又は審判の確定時まで、少なくとも労働者からの相殺は不可能となる」と記載しておりますところ、こちらは支払い日、弁済期のことですが、このときまでは使用者に解消金債権の期限の利益があるため、労働者からの相殺は不可能であることを説明した部分でありまして、これまでも資料1に記載されていた内容となっております。
その下に赤字の※として、次のページに続きますが「※仮に、金銭救済請求権を行使した時点から労働契約解消金債権の相殺・差押えが可能であり、かつ、金銭救済請求権の意思表示の撤回が可能であるとする場合、仮に労働契約解消金債権の相殺・差押えがなされた後であっても、なお金銭救済請求権の意思表示の撤回は可能であるとするかが問題となる」と記載がございまして、こちらは論点1の結論によっては、前回の検討会で御議論いただきました相殺・差押えと意思表示の撤回との関係が問題になってくる旨を記載したものでございます。
3ページから4ページにかけての「■解雇の意思表示の撤回」の欄に移ります。こちらは前回の御議論の内容をまとめたものになっております。「使用者が解雇の意思表示を撤回する旨の意思表示をしたとしても、本制度は、解雇の意思表示が無効であること(労働契約が存続していること)が前提となっているため、そうした法律関係に影響を与えることはないと考えられる」として、前提となる考えを記載しております。
その上で一つ目の矢印として「無効な解雇を撤回するという使用者の意思表明をもって、労働契約解消金の支払請求を妨げる事由とするかについては、別途問題になり得る」との問題提起を記載しております。
二つ目の矢印は、この点についての前回の御議論の内容を簡潔にまとめたものでして、「紛争解決に向けた労働者の選択肢を増やすという観点からは、金銭救済請求権の行使や労働契約解消金に係る訴え提起等の前後を問わず、労働契約解消金の支払請求を妨げる事由とはならないとすることが考えられる」と記載しております。
5ページから6ページにかけまして「■労働契約解消金の算定の基礎となる事情の基準となるべき時点」の欄に移ります。こちらも前回の御議論の内容を簡潔にまとめたものでして、左側の「形成権(※)構成 ※解雇無効時の金銭救済請求権」の欄から見ますと、「労働契約解消金の算定の基礎となる事情の基準となるべき時点としては、①無効な解雇の意思表示の時点 ②金銭救済請求権の行使の時点 ③口頭弁論終結の時点が考え得るが、どの時点が適当かについては、労働契約解消金の性質や算定方法等の考え方を踏まえつつ、政策的観点も加味した上で、判断されるべきものであると考えられる」。矢印としまして「必ずしもすべての要素につき一つの時点で割り切る必要はなく、たとえば、解雇時点の事情を基本としつつも、個々の考慮要素の趣旨等に鑑みて、その後の事情の変化を考慮する余地を残しておくといったことも考え得る」と記載しております。
右側の「形成判決構成」の欄では、形成権構成に出てきた②の金銭救済請求権の行使の時点が形成判決構成の場合の選択肢として挙がっておりませんでしたので、右側の選択肢としましては「①無効な解雇の意思表示の時点」「②口頭弁論終結の時点」の二つを記載しております。その他の部分の記載ぶりは、左側の形成権構成のものと同内容となっておりますので、読み上げは省略させていただきます。
6ページの下側「4.本制度の対象となる解雇等の捉え方(《資料6》参照)」の欄を御覧ください。こちらに今回の論点2として「本制度の対象となる解雇等の捉え方に関し、《資料6》記載の各論点についてどのように考えるべきか」というものを挙げております。こちらにつきましては、後ほど資料6と併せて御説明いたします。
その下の「5.その他」には、これまでの御意見を踏まえまして「裁判外での和解等の合意によって自主的な解決が行われる際は、労働契約解消金と異なる水準の個別合意も可能となるが、無効な解雇について労働者の申立てにより金銭解決を図り得るという本制度の趣旨を踏まえ、必要に応じて本制度を参照してもらうことができるよう、本制度の仕組みについて周知することが適当」との記載をしております。
資料2に移ります。資料2は労働契約解消金の支払いと労働契約の終了についてまとめた資料となっておりますところ、前回の検討会の資料2と同内容でございますので、説明は省略いたします。
資料3に移ります。資料3は労働契約解消金の内容・考慮要素等についてまとめた資料になっておりますところ、こちらも前回の検討会の資料3と同内容ですので、説明は省略させていただきます。
資料4に移ります。資料4は形成権構成を例に取って、有期労働契約に関する議論を整理した資料になっておりまして、前回の検討会の資料4からこれまでの御議論を踏まえ、一部修正を加えております。主な修正点は1点のみでございまして、分かりやすいように赤色にしておりますところ、この点を中心に御説明させていただきます。
4ページ目になりまして「■労働契約解消金の算定の基礎となる事情の基準となるべき時点」という欄を御覧ください。一番左の欄には、資料1で御説明した形成権構成の場合についての記載をそのまま載せております。この中の「①無効な解雇の意思表示の時点」との記載ですが、真ん中の欄、こちらは有期労働契約の契約期間中の解雇の場合ですが、この場合では「①契約期間の途中での無効な解雇の意思表示の時点」とし、また、右側の欄、こちらは有期労働契約の雇い止めの場合ですが、こちらでは「①期間満了の時点」とそれぞれ置き換えて①を考えることになると思われますので、その旨記載しているものです。
その他の部分の記載ぶりは、資料1で御説明したものと同様になっておりますので、読み上げは省略させていただきます。
最後に資料5になります。資料5は有期労働契約の期間途中の解雇・雇い止めが無効になる場合の労働者の地位の状況についてまとめた資料となっておりまして、前回の検討会の資料5と同内容になっておりますので、説明は省略させていただきます。
資料1から資料5の説明は以上となります。
○山川座長 ありがとうございました。
それでは、ただいま説明していただきました資料1から資料5につきまして、御意見等がございましたら、お願いいたします。垣内委員、どうぞ。
○垣内委員 垣内です。どうもありがとうございます。
特に資料1につきましては、これまでのこの検討会での議論をまとめていただいたということで、そのまとめの内容については、私はおおむね異存ないものと考えております。
途中、論点として、資料1の2ページの論点1というのが今回提示されているということですけれども、こちらにつきましては、御説明でもあったかと思いますが、債権発生の時点について、形成権構成であれば意思表示の時点で一応債権は発生するという前提に立つといたしますと、一応債権として発生しているということですので、他に差押禁止等の特別の規定がないということであれば、その時点から差押えは一応可能ということにはなると今のところ考えておりまして、そうしますと、その関係でその後の意思表示の撤回の可否という問題、下で※の赤字で書かれている問題について、さらに検討が必要な場合が生じるという理解でおりますけれども、相殺の可否については民法の問題ということでもあるかと思いますので、必要があれば民法の先生からさらに追加で御教示をいただければありがたいと感じているところです。
差し当たり、私からは以上です。
○山川座長 ありがとうございました。今回、論点1が新たに提示されておりますので、これに関して特に御意見をいただいたところです。
ほかに何かございますでしょうか。笹井参事官、お願いします。
○笹井法務省参事官 おはようございます。法務省の笹井でございます。
今、垣内先生からもございましたけれども、相殺のところに関してでございます。私もこういった形で御整理いただくことに異存があるわけではございませんし、そういった場合に撤回が許されるかといった問題が出てくるということもあり得るのだろうと思います。整理のところは、今、垣内先生が前半でおっしゃったとおりで、形成権によって債権が発生しているということであれば、その相殺も当然問題になってくるわけでございまして、その場合に撤回が許されるかどうかという点に関しては、相殺における債務消滅の効果の安定性といいますか、現行法上も条件や期限をつけることができないとされていることとの関係と申しますか、そういったところで相殺の効果を後から覆せるのかどうかという点は、考えておく必要があるのではないかと思っています。
私もこの点について明快に説明ができるわけではございませんけれども、恐らく直感的と申しますか、結論の妥当性ということでいいますと、労働者側からの選択肢という点からすると、相殺後の撤回を制限するというのは望ましい結論とは言えないのではないかと感じました。ただ、これは私の立場で申し上げることではないかもしれませんし、また、こういった形で論点を整理していただきましたので、今後、機会があれば御検討いただければと思っております。
私からは以上でございます。
○山川座長 大変ありがとうございました。
ほかに御意見はございますでしょうか。鹿野委員、お願いします。
○鹿野委員 私も相殺・差押禁止のところについてです。先ほど垣内委員からもお話がありましたように、形成権構成というものを、意思表示をしたときに金銭債権発生という効果が生じることを前提とした構成と捉えた場合には、それについての相殺・差押えは、これを制限する特別な規定を置かない限りはできる、それぞれの一般的な要件を満たした限りはできるということになりそうです。一方、その撤回について、この間、これは意思表示をした後でも撤回ができる、それは労働政策上の観点から撤回ができるということで、併せてここで検討されきました。
これは改めて言うまでもないことですが、民法でいう撤回については、形成権を一旦行使した後には撤回は認めないということが一般的ではありまして、その趣旨は、成権を行使すれば効果が発生してしまうこと、その後に効果を覆すということになると、相手方あるいは第三者の利益を害するおそれがあること、そのようなことから撤回が認められないという考え方が一般的に採られてきたのではないかと思います。民法でいうと、解除については、明文で民法540条2項に、解除権を行使した場合には、それは撤回できないということが規定されているわけですが、ほかの形成権でも一般的にはそう解されてきました。
ただ、先ほども言いましたように、あるいはここで議論してきましたように、ここでは労働政策の観点ということが一つございます。もう一つは、この解消金の請求の意思表示というのは、金銭債権を発生させるという側面と労働契約を解消するという側面があって、二つの効果がついてくるのですが、その一方である労働契約の解消がまだ生じていないという段階であれば、一定の時期までは撤回を認めてもいいのではないかという考慮もあったのではないかと思います。
ところが、相殺とか差押えについては、金銭債権だけを労働契約関係と全く切り離して、完全な金銭債権として発生させるとして、それで相殺等を認めてよいのかということを改めて検討する必要があるようにも感じてきたところでございます。もちろん政策的にということがありますけれども、政策的にということでどこまでが許容できるのかということ、これは主に労働法の専門家の先生方でお考えになることだと思いますけれども、普通の場面で民法において考慮されてきたいろいろな利益との関係で、一旦発生したものを相殺で消し、さらにそれを覆すということを簡単に認めていいのかという気もしているところです。
それから、ついでに申しますと、2ページの論点1のところですけれども、判決または審判の確定日に支払日が到来するという書き方がしてあって、先ほどの話との関係ででいうと、形成権を行使したら金銭債権は発生していて、ただ、支払日、弁済期がまだ到来していないという状態だと捉えられているように思います。弁済期が到来していないということであると、どこかに書いてあったと思いますが、その支払を債権者が強制することはできないということになるので、労働者側から相殺をするということは恐らくできないのではないかと思うのですが、逆に債務者が期限の利益を放棄するということは一般の理屈ではできるということになります。だから、使用者の側からの相殺というのは理屈の上ではできそうなのですが、ただ、使用者の側が相殺をしたということになると、その分を弁済してしまいましたということで、弁済をしたけれども、労働契約関係は終了していないということになるわけです。労働契約関係は終了していないということになると、その間、判決が確定するまではずっとバックペインなどは支払をするということになるのでしょうか。相殺あるいは実質的には弁済をするということが、どのような意味を持つことになるのかということが気になりました。私の勘違いもあるのかもしれませんけれども、単なる弁済期の問題になるのだろうかということが一つです。
もう一つ、ついでに申し上げますと、これについて相殺をどこまで認めるのかということについては、解消金というものに不法行為による損害賠償請求権的な要素がもしかしたら含まれるかもしれない、そういうことも踏まえて考える必要があるという御説明ないし御議論があったと思います。この点、御承知とは思いますが、民法のいわゆる債権法の改正のところで、不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止に関する規定も変わりまして、従来は債務者が不法行為による損害賠償債権を受働債権として相殺することが一般的な形で禁止される旨の規定があったのですが、新しい民法509条では相殺の禁止の範囲が大分狭く、限定的なものになっていますので、もしそういう要素を考えるのであれば、その点も含めて考える必要があると思いました。
以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
論点1に関しましては、まず相殺の可否が問題になって、相殺を認めるとなりますと、形成権行使の意思表示の撤回の可否が問題になる。これまでのところ、前提となる相殺の可否については、特に鹿野委員から詳細な御意見をいただいたところであります。相殺の可否に関する前提は形成権構成を取った場合の固有の問題ということですけれども、形成権を行使すれば、金銭債権発生という効果は生じていて、しかも、それが観念的には具体的な権利として発生しているという前提で相殺が可能であるということかと思いますが、その前提自体もある意味では問題にされていると思ったところであります。つまり形成権行使の効果というものが相殺までできるような具体的なものといえるか、それとももうちょっと観念的な地位のようなものになるかという、そういう論点も前提として含まれていると感じた次第であります。
中窪委員、お願いします。
○中窪委員 今おっしゃられたのは、論点1に書いてある後半、支払日が判決または審判の確定日に到来するということですけれども、その前のところ、金額が具体的に判決または審判によらないと確定できない中で、相殺・差押えというのはそもそも可能なのかということが、どうも気になります。昔、勉強した知識ではうやむやなものですから、教えていただければと思います。
○山川座長 ありがとうございます。
先ほど私がコメントしたこともそれと若干関連していることでしたけれども、御質問でありますので、これは事務局に聞いてよろしいでしょうか。後でほかの委員の先生方からも御意見があれば、お伺いしたいと思います。
○宮田労働関係法課課長補佐 事務局、宮田でございます。
これまでの議論を前提とした事務局の理解といたしましては、金額は判決等が確定するまで分からないにしても、具体的な金額を伴った権利が権利行使の時点において発生しているという前提でございましたので、そうすると、相殺や差押えの対象となるに足りる権利が発生しているという理解でございました。仮に相殺されたとしても、それが足りる金額だったかどうかなどについては、判決等が確定して、額が判明するまでは分からない状態になるという前提なのだと理解しておりました。
以上でございます。
○山川座長 ありがとうございました。
この点、委員の先生方から何かございますか。あるいは先ほど来の御意見の追加でも結構かと思います。垣内委員、お願いします。
○垣内委員 垣内です。
大変難しい問題だと改めて感じたところですけれども、論点1のところで書かれている債権発生の時点等において、金額が判明するまでは支払っても効果が発生しないというところがまずあって、意思表示をしたら使用者のほうでこの額だろうと思う金額を勝手に支払うことによって、労働契約の終了の効果が発生するということになってしまうと、その金額が妥当だったのかどうかということが、これは算定基準がどうなるかということにもよるかと思いますが、不安定になって、労働者としての地位が続いているのかどうかということ自体がよく分からない状況に陥ってしまう。そういうことになると、形成権構成でのこういった制度を設けることについて、非常に不都合なのではないかといった観点からこういう議論がされていたということかと思います。
このことは相殺によって弁済の効果と申しましょうか、解消金請求権の満足という効果が生ずる場合でも同様に妥当する問題だろうと思われますので、先ほど鹿野先生が言われましたように、相殺の場合でも、金額が確定するまでの間は、少なくとも労働契約終了の効果は発生しない。どうもそういうふうに考えるべきことになると、先ほどお話を伺っていて感じたところです。ですので、相殺ができるといいましても、対当額が幾らで、幾らの範囲で効果が生じているのかということは、観念的には決まっているはずではあるのですけれども、最終的には判決等で受働債権である金銭救済の解消金請求権の金額が確定することによって、初めて受働債権が幾ら消滅しているのかということも分かる。現実的にはそういった推移を想定することになる。
そのこととの関係で、そうした主要な効果、労働契約の終了という効果が発生しないにもかかわらず、弁済期だけは到来しているという状況に使用者が置かれるということは適切でないだろうということで、次に書かれている判決または審判確定日に支払日が到来すると規定することが考えられるのではないかという議論がされていたということだと理解をしております。そうしたときに、鹿野先生も御指摘されましたように、相殺等を認めておいて、後からこれを覆すということが果たして適切なのかというのは、確かに大変疑問があり得るところで、その点を重視しますと、一つの考え方としては、相殺等がされた場合には、もはや撤回ができないと考えるのが一つの方向であろうかと思います。
他方、政策的な観点を強調したときに、そうした混乱を生じさせないという観点で整理をいたしますと、そもそも相殺ができないという規律にするということが考えられ、その場合では、一旦した相殺の効果が不安定になって後で覆るといった事態がそもそも生じないということになるかと思います。
両者のいずれがよいのかというのは、まさに政策判断が大きいところだと思われまして、相殺禁止につきましては、先ほど鹿野先生から御指摘がありましたように、不法行為との関係では平成29年の民法改正で範囲が限定されたこともありますので、容易に相殺が禁止できないという流れなのかもしれませんけれども、この制度特有の政策的考慮からそれはどうしても必要である。特に金額が確定せず、支払い日も到来していないという状況では、使用者側からのみ期限の利益を放棄しての相殺が認められる状況にあって、労働者の側では相殺ができないということになるわけですけれども、そのような状態を生じさせることが、この制度創設の趣旨から見てどうなのかといったところで、あるいは相殺そのものを禁止するということができるのであれば、相殺ができないということで撤回の機会も確保できる。撤回の可否そのものにつきましても、形成権の一般的な取扱いとは違うところがありますので、一般的な民法の考え方からして、そこを政策的に例外とするのは困難であるということになれば、これは撤回ができないといった規律もやむを得ないと思いますけれども、この制度を内在的に考えたときには、撤回ができるという規律を想定するのがこの制度の論理としては一貫することになるという印象を持ちました。
感想程度のことですけれども、以上です。
○山川座長 ありがとうございました。形成権の性格づけの経緯についても、御説明をいただいたところです。
笹井参事官、お願いします。
○笹井法務省参事官 ありがとうございます。
大体は垣内先生がおっしゃってくださったとおりだと思っているのですが、幾つかそれ以外の点を申し上げますと、まず相殺の金額が確定していない段階で相殺ができるのかという中窪先生の御質問については、事務局でお答えになられたとおり、実体法上は具体的に発生していて、神様から見れば、金額的にも確定しているのだけれども、我々人間には分からないというケースは不法行為における損害賠償請求権などを含めてほかにも存在しているわけで、そういったものについて相殺がその段階でできないかと言われると、恐らくできると考えるのだろうと思います。
ただ、現実に相殺の範囲、対当額が幾らなのかというのは、判決が確定してみないと分からないということになりますので、そこに伴う不安定さは出てくるのかもしれませんけれども、それはこの場合だけではなくて、ほかの場合でも存在している。同じように考えることも、形成権構成を前提とする限りはできるのではないかと思いました。
それから、バックペイなどのことは、鹿野先生が指摘された点を私も申し上げようと思ったのですが、恐らく垣内先生のおっしゃるとおり、バックペイなどは発生していくことになるのだろうと思います。いろいろと難しい問題があることは、今、先生方が御議論のとおりですけれども、使用者側から相殺をするということが現実にどれだけ起こり得るのか。実際にお金を払ったところで、労働関係を終了させることもできないし、弁済期前ですので遅延損害金も発生しないということですから、使用者側が弁済期前に弁済するメリットはあまり考えられないように思われまして、そうだとすると、相殺といったことは、理論的には難しいけれども、現実にはあまり問題にならないケースもあるのではないかと感じます。
そこは理論的にきっちり検討しておかないといけないということはもちろんあり得ると思うのですが、そうだとすると、これも垣内先生がおっしゃいましたように、そもそも相殺ができないということは、つまり弁済期前に消滅させることができないということだと思うのですけれども、そうだとすると、そもそも弁済自体ができるのかということも併せて検討する必要があるのではないかと思います。つまり相殺の意思表示ではなくて、お金が振り込まれてきたときに、それによって解消金の債務自体がなくなるという効果自体も発生させられないのかどうかということと整合的に考えておく必要があるのではないかと思いました。
長くなって恐縮ですけれども、最後に相殺が可能であるというルートを取った場合、相殺後に撤回がされると不安定になるのではないかという御指摘についてです。これは確かにそういう問題があろうかと思いますし、私も条件や期限をつけることとの整合性から考える必要があると思います。
それと政策的な要請を両方考慮して考える必要があると申し上げましたけれども、他方で、これまでのいろいろな経緯の中で、労働者側の意思表示が訴訟上の意思表示によってしかできないという判断がされていると思いますので、そうだすると、判決確定までずっと訴訟状態があるわけです。訴訟状態における相殺の抗弁が出された場合、ここは垣内先生が御専門の分野ですので、誤っていれば先生に補充していただければと思いますが、そちらの抗弁については既判力が発生することとの関係で、選択的な抗弁が様々ある中で、一番最後に判断しなさいといわれています。そうだとすると、準備書面といいますか、訴訟上、相殺の意思表示がされたのだけれども、それが最終的には判断されなかったということですとか、あるいは訴訟において相殺の抗弁がされたのですが、訴訟自体が取り下げられてしまった場合、相殺の効果はどうなっているのかという問題もありまして、そのこと自体はここだけではない不安定さといいますか、取下げによる不安定さが生ずるのはこの場面だけではないようにも思われまして、そうすると、ここでだけ撤回を許さないということをあえて取る必要もないのではないかという印象を受けております。
これは御議論の参考にということで申し上げましたので、法務省を代表してということではございませんけれども、そういった形で受け止めていただければと思います。
私からは以上でございます。
○山川座長 ありがとうございました。
相殺に関して非常に詳細な御説明をいただいたところですが、ほかに何かございますでしょうか。
先ほど笹井参事官からお話のありました弁済ができるのかという点については、いかがでしょうか。先ほど垣内先生から御説明がありましたように、判決または審判の確定日に支払日が到来するということは、これまで議論されてきたのですけれども、私、間違っているかもしれませんが、使用者から期限の利益を放棄して、期限前に弁済するということはどうなのかということだと思ったところです。
垣内委員、お願いします。
○垣内委員 垣内です。
弁済そのものができるかどうかという点については、これまでは恐らく弁済はできるので、実際に債務の本旨に従った弁済だといえるのであれば、弁済の効果としての債権の消滅ということは発生するのだけれども、だからといって、労働契約がそれに連動して終了することにはならない。そのため、論点1の前半に書かれている支払による効果は発生しない。ここでいわれている支払による効果というのは、専ら労働契約の終了という趣旨でこういうふうに見たのだと思います。
それとの関係で申しますと、先ほど来、特段相殺禁止等の特則を設けるということでなければ、相殺も一応できるので、相殺の効果も観念的には発生しているということになるけれども、それで労働契約が終了したということにはならないので、そこは弁済とパラレルで、したがってバックペイ等の問題はなお発生し続けるという、先ほど笹井参事官に整理いただいたとおりになるという感じがいたします。
仮に相殺禁止の規定を明文で設けるということを行った場合、弁済についてはどうなのかという問題がむしろクローズアップされる部分が出てくるという感じもいたしますけれども、ほかにあまり例がない不法行為の場合などは、弁済は当然していいわけでしょうから、弁済もできないというのは、あまり例がない事態だという感じもしますので、それはなお慎重に検討すべき問題があることだと感じます。
他方で、先ほどの笹井参事官の御発言で、後半のほうで御説明いただいた相殺についてですが、これは裁判上での請求ということが想定されている制度であるということを前提に考えますと、実際、裁判上で相殺についても基本的には訴訟手続で審判の対象になるということでありますし、また、被告、使用者側としては、この制度で仮に相殺しても撤回が可能だということなのだとすれば、そのことも踏まえた上で相殺をするなり、あるいは普通はしないのではないかという御示唆も先ほどいただいたように思いますけれども、そういうことですので、その上で最終的にその結果が認められないということがあったとしても、そのことを取り上げて撤回ができなくなるとまでいう必要があるのかという点については、そこまでいう必要はない。したがって、相殺が仮にできるという理論的前提を取ったとしても、撤回についてその後も認めるということは、一つの選択肢として、そこまで致命的な弊害を生ずるということでもないという気もしてまいりました。
そういたしますと、そこをあえて明確化しようということであれば、相殺を禁止するということも、あるいは相殺にあまりメリットがないということであれば、それほど債権者側の利益を深刻に損なうということではないという主張もできるのかもしれませんけれども、逆にあまりメリットがないということであれば、そこまでの規定を設けるまでもなく、それほど問題は生じないのではないかという評価が可能かもしれませんので、その点については、解釈に委ねていくということもあり得るという感想を持ちました。
以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。中窪委員、どうぞ。
○中窪委員 先ほどの金額が確定していなくても相殺等が可能であるという御説明は、よく分かりましたが。ただ、普通の不法行為などの場合と、解消金のようなもの、先ほど鹿野委員もおっしゃったように、それを支払うことによって労働契約が終了するという効果がついてくるものについて、要素の考え方にもよりますけれども、例えば悪質性の程度などを考えるときに、裁判所でこの額でいくということを確定して初めて決まるものについて、普通の不法行為で損害額を裁判所が決めるのとは少し違う部分もあるのではないかという感じがします。結論は相殺可能にしてもいいのですが、ちょっと別の考慮も必要だろうと思いました。
それから、形成権構成にすると、正直いろんな問題が出てきて複雑だなあというのは、前から考えていたところでありまして、私自身は頭が単純なものですから、形成判決のほうが分かりやすいと思っていたところです。もちろん他方で、無効な解雇がなされたことに対し、労働者の側がそれを争う中で、こういう形の意思表示をすることによって、こういう形成権が発生する、という構成にも、解雇法制として積極的な要素もあると思います。
今回、資料1の最初のページの「■権利(形成権)の行使要件・形成原因」というところで、従来あった黒のところに、赤で、これらを満たすか否かの判断の基準時については、全体の仕組みを踏まえた個々の発生要件ないし形成原因ごとの解釈による、という記述が加わりました。これは確かに書いてあるとおりなのですけれども、あまりに漠としていて、せっかくここでこういうことが要件ですと書いた意味が薄れる気もします。
例えば形成権ではこういうふうに考えるのが自然であるとか、形成判決ではこういうふうになるといった、筋のようなものもある気がするものですから、全体のところでこのように一般的に書くと、全体がぼやっとしてしまった感じがいたします。
また、それとの関係で5ページの一番下のところ、算定の事情の考慮の仕方として、形成権構成では①~③と考えられて、形成判決では①と②になるという、両方の違いが出てくるわけですけれども、それぞれについてどれが本筋になるのかというのが、もう少し示せないのかなという感じもしております。
それから、どちらの構成にしても、最終的には判決の時点でこれだけの金額を払えば契約を解消してよいという判断になるわけです。その間、さまざまな要素をどういう形で考慮するかというときに、形成権構成では行使の時点にまず目が行って、後の事情を考えつつ、最終的にどういう額にするかというふうに、前から考えていく感じになるのに対して、形成判決構成のほうだと、口頭弁論終結時に焦点が当たって、そこで解消するためにどういう金額にするかということを前に遡って考えるような気がいたしますが、すっきりするという意味では、口頭弁論終結時を基準にするというのは、それなりのメリットがあるのではないかと改めて思ったところです。
前回、資料6で複雑な議論をして大変なことになったのですが、今日、資料6は御説明がなかったのですけれども、これは今からそちらにいくということなのでしょうか。
○山川座長 そのとおりです。申し訳ありません。前半のほうで非常に充実した議論をいただいておりますが、資料6は次の段階で御説明いただいて、議論をしていただく予定です。
○中窪委員 分かりました。ありがとうございます。
○山川座長 ありがとうございました。
鹿野委員、お願いします。
○鹿野委員 時間が多分押しているのではないかと思いますので、手短にいたします。
先ほど来、中窪先生の問題提起に関してはコメントがあったので、私から付け加えることはないのですが、金額が確定していなくても、それこそ不法行為の場合ですと、まだ争いがあって最終的に額は確定していないとしても、被害者から損害賠償請求権を自働債権として相殺することができるとされていて、そのこと自体は問題ないのだろうと思っています。ただ、これも御指摘があったように、ここでの特殊性というのは、単なる金銭債権を互いに清算しますということだけではなくて、労働契約関係の解消というところがくっついていて、それがほかにはあまりない特有の問題であるように思います。それをどういうふうに組み合わせるのかということで、先ほど来も議論があったと認識しているところです。
それから、相殺についてですが、確かに相殺を一旦認めた上で、だけれども、撤回されるかもしれない、そういうものだということを覚悟してするのであれば問題なく、しかも、相殺とか弁済を使用者の側からしても、労働契約解消の効果は得られないということであるなら、使用者の側からそれをするインセンティブもなく、だから、実際に問題になることはないのではないか、事実上はあまり問題にならないのではないかという御指摘もいただきました。確かにそうだとは思います。ただ、弁済とか、相殺をしても、労働契約解消という形での効果は発生しないということですし、その後も継続的に支払義務が生じているということですから、実際に判決等が出るまでは全体として支払っても意味がないことになり、形成権構成といいましても、形成判決構成に近いものになるのではないかという気がします。
もちろん理屈の上では、形成権構成の場合、観念的には意思表示かあって、一方の金銭債権の発生はしているということにはなるのですが、いろいろな制約を課していくと、判決の確定まではメインであるところの効果は生じないということなので、その点では形成判決構成に近くなります。私はどちらかというと、形成権構成のほうが将来的に手続をもっと拡大するという意味ではよいと思っていたのですが、いろいろなことを考えておりますと、これは感想めいたことですけれども、形成判決構成のほうがすっきりするといいましょうか、中窪先生の御指摘のとおり、そういうところもあるという気がしてまいりました。
最後のほうは感想です。失礼しました。
○山川座長 ありがとうございました。
形成権構成の把握の仕方をどうするかという前提の下で、相殺禁止、撤回の可否、それらは政策的に今回の論点に即して考えるということになろうかと思います。
申し訳ありません。まだあるかもしれませんが、時間の関係で次に移らせていただきたいと思います。中窪委員がおっしゃられた基準時等と他の論点の関係は、論点2で改めて出てくるので、そちらでも御議論をいただきたいと思います。
それでは、次に論点2の議論に移りたいと思います。事務局から簡単に御説明をいただけますか。
○宮田労働関係法課課長補佐 事務局でございます。
時間の都合上、簡潔に御説明させていただきます。御了承いただければと思います。
資料6を御覧ください。先ほど資料1のところで御説明した論点2に関する具体的な論点が記載されたものになっております。
※にありますとおり、1~3は前回の議論の対象だったものであり、4~6が今回の議論の対象になるものでございます。
1~6につきましては、パターン1、パターン2などと呼ばせていただきます。
パターン1につきましては、基本的な参考パターンとして載せているものでして、解雇が1回あっては、判決、解消金支払いまでいって、労働契約が終了するといったオーソドックスなパターンを図にしているものでございます。
パターン2です。パターン2は、先ほどのオーソドックスなパターンとは違って、解雇の意思表示が複数回されて、それがいずれも無効だったような場合、解雇についてどのように捉えるべきかといったところで、前回御議論いただきました。
御議論いただいた内容を法技術的に取り得る考え方というところで、まずは選択肢として整理させていただいております。
左側の形成権構成としましては、大きく①と②がありまして、①は発生する権利は一つ、②は解雇の意思表示ごとに権利が発生するという考え方でございます。
①の権利は一つという考え方にも㋐と㋑の二つがあり得るということでして、㋐は原因となる無効な解雇の意思表示が複数あって、労働者がどの事由を主張するか選択する。㋑は原因となる解雇の意思表示は最初の一つのみという考えでございます。
②につきましても、二つ考え方があり得るところでして、㋐は複数の金銭救済請求権を行使すれば、競合する複数の解消金債権が発生する。㋑は複数の請求権が発生するものの、労働者は一つしか行使の意思表示ができないという考え方でございます。
右上の形成判決構成につきましては、解雇の意思表示が複数あっても、形成判決等で認めることができる労働契約解消金債権は一つのみであることを前提として、前回御意見をいただいたと承知しておりますので、このように記載しております。
その上で、先ほど御説明した形成権構成の①と同様の㋐と㋑の二つの考え方があり得るとして記載しております。
下の※として、いずれの考え方が適当かについては、解消金の算定の基礎となる事情の基準時点等の考え方を踏まえつつ、政策的観点も加味した上で判断されるべきだが、例えば形成権構成、形成判決構成ともに、法的構成のシンプルさという観点も踏まえ、解消金の支払により終了し得る無期労働契約は一つであることに重点を置き、発生する請求権又は形成判決等で認めることができる解消金債権は一つであるとしつつ、労働者の選択肢を増やす観点も踏まえて、原因となる事由が複数ある場合には、労働者が選択することも考え得るということで、一つの考え方、例えばということで記載しているところでございます。
2ページ目のパターン3に行きまして、こちらは有期労働契約の雇い止めがあって、その後、期間満了が複数来た場合、どのように捉えるかといった問題点について御議論いただいたところでございます。
真ん中の青囲みのところには、労働契約法19条を載せておりますが、読み上げは省略いたします。
下の黄色囲みのところで、裁判例を一つ載せております。こちらは有期労働契約等の捉え方について直接参考となるものではなく、かつ、いわゆる事例判断であるとの理解ではございますが、前提となる再度の期間満了があった場合の判断に関する参考裁判例として記載しているものでございます。こちらに記載のとおりでございまして、読み上げは省略させていただきます。
右側に前回の議論の内容をまとめております。先ほどのパターン2と同様の構成で、考え方の選択肢を記載した上で、※でいずれの考え方が適当かについて記載しております。無効な解雇の意思表示というところと、期間満了というところとで、パターン2と違うのですけれども、それ以外は対応した整理になっておりますので、具体的な説明は省略させていただきます。
3ページ目のパターン4からが今回の議論の対象になるものでございます。
パターン4が有期労働契約期間中の解雇があった後に、19条更新がされた場合にどのように考えるべきかというところで、論点Gとしては、形成権構成の場合、権利の行使要件の判断の基礎となる有期労働契約をどのように捉えるべきか。論点Hとしては、形成判決構成の場合にはどうなるのかといったところで論点を挙げております。
形式的には別個の有期労働契約が複数あるわけですけれども、それごとに金銭救済請求権等が発生するのか、それとも全部で一つになるのか、また、原因となるものとして解雇や期間満了をどのように捉えるべきなのかといったところで問題になるものと考えております。
下の黄色囲みには、裁判例を載せておりまして、こちらも論点に直接関係するものではなく、かついわゆる事例判断という理解ではございますが、前提となる有期労働契約期間中の解雇後に期間満了があった場合の判断に関する参考ということで載せております。読み上げは省略させていただきます。
右側、パターン5に移ります。パターン5は有期労働契約の雇い止めがあった後に無期転換がされ、その後、判決がなされるような場合を前提としたパターンでございます。
下に労働契約法18条を記載しておりまして、いわゆる無期転換権についての条文を載せているところでございます。有期労働契約を結んでいる労働者が一定の要件を満たした場合には無期転換権を行使し、無期労働契約になることを規定したものになっております。
そのようなものが裁判の途中でなされた場合にどう捉えるべきか。論点Iとしては、形成権構成の場合、権利の行使要件の判断の基礎となる契約は、無期転換前の有期と転換後の無期のいずれと捉えるべきか。論点Jは、形成判決構成ではどうなるのかといったところで論点を挙げているものでございます。
最後に4ページ目のパターン6に行きます。パターン6は、無期労働契約期間中に解雇がありまして、裁判を提起した後、定年が来てしまった。ただ、その後、再雇用につき合理的期待があるなどとして、そのような地位が認められるような前提になった場合にどのように考えるべきかということで載せているものでございます。
下のほうに前提となる定年後の再雇用契約の成立に関する最高裁判例等を載せております。こちらも論点に直接関係なく、かつ事例判断というところで理解はしておりますが、定年後の再雇用契約の成立に関して参考となるものとして記載しているものでございます。
上の最高裁判決につきましては、再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であるとされた例でございます。
下の東京高裁判決におきましては、一定の場合には期間の定めのある再雇用契約が成立するとみる余地があるという判示がされた裁判例でございます。
このような裁判例を参考にしまして、一定の場合には、定年後も再雇用の地位が認められ得るところでございますので、こういった場合にどう考えるべきかということで問題提起をさせていただいております。
論点Kは、形成権構成の場合、権利の行使要件の判断の基礎となる契約は、定年前の無期と定年後の有期のいずれと捉えるべきか、形成判決構成ではどうなるのかというところで論点を挙げております。
右上の青囲みで高年法9条の条文を載せております。9条1項2号に継続雇用制度というものに関する規定がございます。パターン6につきましては、継続雇用制度を必ずしも前提とするわけではありませんが、パターン6を考える上で参考になる条文、制度ということで記載したものでございます。
簡潔で恐縮ですが、御説明は以上になります。
○山川座長 ありがとうございました。
前回の御議論を踏まえて資料を整理していただきました。前回、パターン1からパターン3までは相当議論をいただいたと思いますが、パターン4からパターン6までは議論がなされる時間がなかったと思いますので、こちらを中心にしたいと思います。
また、先ほど中窪委員のお話にありました論点の相互関係といいますか、形成権構成か形成判決構成かという点、それから、金額の算定の基準となる時点という論点とも関わっていると思います。ほかにもあるかもしれませんので、論点の相互関係についても御議論をいただければと思います。
それでは、お願いいたします。垣内委員、お願いします。
○垣内委員 垣内です。ありがとうございます。
資料6に書かれている様々なパターンも非常に複雑で難しい問題ですけれども、前提として前回の議論の対象だった1~3の部分について、今日まとめていただいた資料も踏まえて若干の意見を述べた上で、その後の論点について簡単に述べさせていただきたいと思います。
資料6の1ページの下のほうで、無期労働契約の解雇、複数回解雇の意思表示がされている場合に関する整理で、両構成を含めると、都合6通りぐらいの考え方があるという整理になっておりますけれども、結論としまして、私自身は右下の※でまとめていただいているような方向でよろしいのではないかと考えております。論理的には非常に多様な組合せを構想することができるかと思われますけれども、いずれにしても、一定の金銭を支払って労働契約を終了するときに、終了の対象となる労働契約というのは一つだろうということでありますので、お金を何重にももらえるという事態は認めるべきでないだろうと思われます。
そうしますと、請求権は複数だけれども、請求権競合という構成も論理的にはあり得ますけれども、あえてそのような構成を新たに制度をつくるに当たって前提とする必然性もないように思われまして、対象となる労働契約が一つであれば、それを解消するための金銭請求権も一つと考えるのが自然であり、かつ様々な関係する規律を考える上でも明確でよいのではないかと考えます。
その上で、形成権構成ですと、①の構成ということになりますけれども、無効解雇の意思表示が数回あったときに、最初というのがどの範囲の最初を指すのかといったことで、㋑の考え方ですと問題が生じてきそうでありますし、そのように限定をする必然性も特には認められないように思われますので、これは金銭救済を求める労働者の側において、その根拠となる解雇の意思表示を一つ主張すればよいのであり、そのほかにそういった意思表示があったかどうかということは、特段問題とはならないと考えればよろしいのではないかと思います。そうしますと、右下でまとめてある労働者が主張する無効な解雇の意思表示に基づいて、1個の労働契約解消金の請求権あるいはそういう形成権が発生する。形成判決の構成を取る場合でも基本的に同様に考えればよいのではないかと思っております。
その上で、今回の4以下、3ページ以下になりますけれども、有期労働契約の場合でありましても、法律上、更新であるとか、無期転換といった効果が認められている場合につきましては、解雇が無効である以上は有効に労働契約が続いており、それについて法で認めている効果も発生すべきものだと考えられますので、かつ法律で更新や無期転換を認めているというのは、有期労働契約における労働者の地位を保護する観点から認められているものであって、その趣旨を考えますと、この場合にはあたかも元の契約が続いていると同じように考えまして、しかし、それについて金銭的に解決したいと労働者が考えるのであれば、それを求めることができるという形にするのが適当だろうと考えます。
ただ、特に無期に転換された場合、金額の算定基準についてどうするのかという、当初の雇い止めの段階での有期労働契約の条件を前提にするのか、無期転換後の最新の状況を算定の基礎とするのかといったところについては、算定基準に関する基準時の問題とも関係しまして、そこでどういった考え方を取るのか。同じような問題は無期の場合でも程度の差はあれ存在する問題かと思いますので、そこでの考え方を基本的には当てはめていく方向で考えていけばよいと思います。
他方、4ページの6、無期労働契約の解雇の意思表示がされた後に定年を迎える場合で、しかし、再雇用につき合理的な期待がある場合ということで、これも判例で示されておりますように、定年による雇用契約終了後も雇用契約の存続が再雇用されたのと同じような形で擬制される場合があるのだとすると、実質論としては4や5の場合と同様に考えるという考え方もあり得ると思います。
ただ、4や5の場合について、仮に制度を設けたときに、法律でどのような形で規律を設けるかということにも関連するかと思いますけれども、4や5については、労働契約法19条で更新がされたり、18条の適用がある場合については、これこれという規律を明文で整理することが可能かと思われますが、6の場面につきましては、法律上こういう効果が明定されているということではないように理解をしておりますので、仮に4や5について何らかの規定上の手当をするとしても、6について同様の手当を考えることは少し難しいという感じが現時点ではしております。
解釈としては、この判例で認められているような事例について、4や5の規律を類推して同じように考えるといった議論は、今後あり得る議論として存在すると思いますけれども、制度の創設の段階で、そこまで規定としてカバーするような形での制度設計をすることは、まだ判例が幾つかある段階では難しいところもあるという気がしているところです。
取りあえず以上にさせていただきます。
○山川座長 ありがとうございました。
ほかの委員の皆様方、いかがでしょうか。中窪委員、お願いします。
○中窪委員 ありがとうございます。
文句を言うみたいで恐縮ですけれども、資料6の先ほどの※のところの文章が何度も出てくるのですが、あまりに長過ぎてどこにポイントがあるのか分かりにくい気がします。いろいろ考慮した上で判断されるべきだがというのは、いわば枕言葉で、中心は「例えば」以下になり、その中で、やはりシンプルさが重要なので、基本としては、金銭請求権は一つと考えるべきだということを言っているのだと思うのですが、そこがあまりにもいっぱい書いてあるので分かりにくい。ポイントの部分だけ色を変えるとかしていただければと思いました。
その上で、1と2の違いというのは、2の場合、1回解雇を争って訴訟を起こしたところで、訴訟中に②の解雇がなされて、これも無効であると労働者の側が主張して、それが認められるということだと思うのですけれども、解消金を考える以上、①も②も無効であって、労働契約が存続しているというところが当然前提になっているわけです。その場合に判決によってどれだけの金額を払わせるか、どの時点のどの要素を考えるかということについて、いろいろあり得るということで、そこは結構だと思います。
問題は③の解雇で、前回、ひょっとしたら説明があったのかもしれませんけれども、判決がなされた後に解雇がなされた場合でこれが無効というのは、どういう位置づけになるのか。今、改めて見て分からなくなったのですが、解消金が支払われるまでは確かに労働契約があるのだけれども、そこで使用者が支払う代わりに、使用者としては正当事由ありと考えて解雇をした。しかし、それが無効であったというのは、改めてこれを争って、裁判所が公的な判断をするという形になるのでしょうか。③について教えていただければと思います。
○山川座長 ありがとうございます。
事務局からお願いします。
○宮田労働関係法課課長補佐 事務局でございます。
無効解雇③を記載した趣旨としましては、仮に無効解雇ごとに金銭救済請求権等が発生すると考えるのだとした場合には、法技術的に取り得る考え方の形成権構成の場合の②で整理している考え方ですが、そうした場合には判決後も新たに権利が発生するという整理になるのか、そうした場合にどのような当事者等の動きが想定されるのかといったところも一つ観点としてあり得るというところで、記載したところでございました。ただ、実際には、判決後に無効解雇があることが明確な問題点になるといったところまでは想定しておりませんで、あくまでも一つのあり得る事態の参考ということで載せた趣旨でございます。
以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
中窪委員、よろしいでしょうか。
○中窪委員 解消金による解決に影響を与えることはあり得ないのですか。解消金を実際に払わなかったということで、労働契約が存続した場合、改めて別訴でこれを争うという理解でよろしいのですか。
○山川座長 事務局、何かありますか。
○宮田労働関係法課課長補佐 仮に解雇毎に別個の金銭救済請求権等が発生するとした場合には、判決で解消金債権が認められた後であっても、別の訴訟物ということで改めて訴え提起することもあり得るかと思います。また、仮に全部で一つの権利とした場合でも、判決で解消金債権が認められた後、解消金支払前に有効な解雇があった場合には、認められた債権が消滅するといった話になるかと理解しておりまして、そういった効果のあり得る有効な解雇がなされたというところで、使用者が請求異議等で争うといったこともあり得ると思います。
今出てくる例としては、以上でございます。
○中窪委員 ありがとうございます。
有効な解雇だったら、ここで労働契約が解消することをどう考えるかが一つ問題になるけれども、無効だったら効果は生じない、でも無効だとどこがどう判断するのかということになると思います。そういう意味で、①と②はいいのですけれども、③があるために、必要以上に複雑になっているような感じがしました。感想として。
○山川座長 ありがとうございました。
先ほどの有効な解雇の場合は請求異議で、あと、それぞれ別個に権利が発生するとしたら、③の解雇が無効であれば、それまでに発生した請求権が消滅するという考え方を取るとしたら、そのこと自体が別途請求異議事由になることもあり得ると、今、考えていた思った次第ですが、実際あまり問題にならないので、図の③はなくてもいいと私も思ったところです。
ほかに何かございますでしょうか。垣内委員、どうぞ。
○垣内委員 垣内です。
今の③の無効解雇の件ですけれども、確かにそこまで考えると複雑になるということなので、この点は捨象したほうが議論の整理としては分かりやすくなると思います。
ただ、理論的には問題が全くないわけでもなかろうかという感じもしまして、解雇が有効であれば、請求異議を認めるかどうかという話になるということですけれども、無効な解雇がさらにされたときに、意思表示ごとに請求権が発生する立場に立てば、それは別の請求権がさらに問題になり得るという話になってくるわけですが、そうではない①の請求権が一つであるという立場に立ったときに、③の無効な解雇を主張すると、判決で認められたものよりも額として大きい請求権が成立し得る場合が仮にあったといたしますと、その場合に訴訟物としては一つ、請求権としては一つなので、それが増額されましたという、増額事由が発生したことを理由として追加請求できるのかどうかという話で、その際、一部請求に関する議論でありますとか、あるいは後遺症障害等について追加請求を認めた判例であるとか、その辺りの基準時と増額請求の可否に関するいろいろな論点がここに関係してくる話になると思います。理論的には興味深い素材を提供する事例だと思いますけれども、制度設計の基本的なところで、その点をあまり大きく問題にするということは、バランスを失しているという感じもしますので、結論としては、もう少しシンプルに問題を設定するほうがいいのかもしれないという感じがいたします。
他方、無効解雇の①②につきましては、意味がある説明だと思うのですけれども、場合としては、①の前にさらに⓪と申しますか、そういうものがある場合が考えられて、そのときに①を主張して訴え提起したのですが、使用者側としてはその前に⓪という無効解雇の意思表示があったということを主張すると、形成権構成のうち、①の㋑という考え方に立ちますと、そちらを主張しないと認められないみたいな話になりそうなので、それが合理的なのかということを問題にするに当たっては、①のさらに前に一つ想定するというのは、整理にとって多少の役に立つ可能性があると思います。ただ、どうしてもそうしてほしいということではありませんので、蛇足ですけれども、簡単にコメントさせていただきました。
以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
ほかはいかがでしょうか。できればパターン4からパターン6についての御議論もしていただければと思っております。中窪委員、お願いします。
○中窪委員 前のほうで引っかかってしまいましたけれども、4、5については、先ほど垣内委員からもありましたように、有期の途中で解雇が無効になって、しかし、その後、更新で延びているわけですから、それは同じものとして、上のほうと同様に考えるのが適切であろうと思います。
それから、無期転換した場合もそこから無期になったわけで、今、解消すべき労働契約としてそれがあるわけですから、そこを見てやるというのは自然だと思います。
他方で、定年についてはちょっと複雑です。垣内委員もおっしゃっていましたけれども、これは雇用継続の制度の趣旨にも関わるところでありまして、労働条件としても従来と大きく変わることが多いわけですし、それから、使用者が法律に違反してこういう制度を設けなかったとして、労働契約が継続するという効果が発生するかどうかをめぐっても議論があり、どちらかといえば、ネガティブな議論が多いように思います。
ここに書いてある最高裁判例は津田電気計器だと思いますけれども、あの事件は、定年になった後に1年間有期の嘱託雇用をして、それが終わるところで基準を満たしていないということで、雇い止めになった事案です。本当は基準を満たしていたということで、雇い止め法理の判決を引用し、同時に法の趣旨等に鑑みという言葉も入っているものですから、雇止め法理と高年法の趣旨の両者が合体したような判断になっています。定年ですぐに切れたものではなく、ある意味特殊なケースですので、一般的にこういうふうに常に労働契約が同じようなものとして存続していくとはいえない気がいたします。6については、定年後の再雇用の問題との整合性といいますか、そこを考えた上でないと、この解消金の制度をどういうふうに適用するかということはいえないと思います。
○山川座長 ありがとうございます。
ほかはいかがでしょうか。ほかはと言っても、現在出席されているのは鹿野委員だけですけれども、何かございましょうか。
○鹿野委員 雇い止めなどについては、この方向でいいと思います。
先ほどから発言しておりませんでしたので、まず2から言うと、労働者の選択を認めるようにという方向性を若干匂わせる形での書きぶりだと思います。それで異論はございません。
中窪委員から※に書いていることが分かりにくいという御指摘もありましたが、それは文章表現の問題でありまして、文章表現については工夫していただければと思いますけれども、内容について異論はありません。
雇い止めについては、御指摘のとおりなのですが、ある程度ルール化しているものについては、同じように考えてよいのではないかと思いますが、先ほど来出ておりますように、6などについては、もちろん一定の合理的な期待があるとしても、金額とか、条件が全く違い得るということでありましょうし、労働法の中でも違反の場合の効果がどうなるのかということも含めて、こういう場合の取扱いについて、安定的な解釈が確立されているわけではないように理解しましたので、これについては先ほど垣内委員から御指摘があったように、解釈の可能性は残すとしても、ルール化というのは現時点では難しいという印象を持っております。
これについては以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
こちらは比較的御意見は一致していると思いました。6については私も同感でありまして、参考裁判例の平成31年の東京高裁も、最後から2段目にあります「特定されている契約内容による」というのがある種ポイントで、特定されていないような場合には請求が認められないという裁判例もありますので、そこはケース・バイ・ケースで、逆に言うと、前の無効な解雇による権利の発生というよりも、再雇用の拒否について雇い止めが許されないのと同様の結論になる場合については、それについて権利を別途考えるということだと私としては思っております。
それぞれ御意見をいただいたところですけれども、金額の算定の基準時という論点との関係で、資料6につきまして、何か御意見はありますでしょうか。中窪委員、お願いします。
○中窪委員 先ほど前半のところでも少し申しましたけれども、どちらの構成にいくかによって、自然の流れがあると思うのですが、形成権構成でいっても、最終的にそこでお金を払わせることによって、労働契約を解消するという効果が出てくるわけですから、その段階で前提となるような条件が整っていることの確認がなされるという意味で、口頭弁論終結時で一つ整理するというのは、それなりに理由があるのではないかという気がいたします。どの時点のどの金額を考えるか、あるいは勤続年数をどう考えるかとか、いろんな調整は必要だと思うのですけれども、最終的に口頭弁論終結時で一括して整理するというのも、メリットのある考え方だと思いましたので、補足させていただきます。
○山川座長 ありがとうございます。
ほかに御意見はございますでしょうか。垣内委員、どうぞ。
○垣内委員 垣内です。ありがとうございます。
先ほどの資料1の最初のページ、形成原因についてというところがあったかと思いますけれども、例えば考慮要素の基準時については5ページ以下だったでしょうか。個々の考慮要素の趣旨等に鑑みてと整理をされていて、そこはそのとおりだと抽象的には思っております。
個々の考慮要素というものが確定されているわけではないかと思いますけれども、現在までの議論ですと、資料1の4ページから5ページにかけて、現在の地位の価値に関連する要素、補償を得る必要性、紛争に寄与した程度といったものが挙げられている。
これを前提にして考えましたときに、例えば現在の地位の価値に関連する要素ということで、給与とか、勤続年数があるわけですけれども、これにつきましては、解消金の支払いによって終了する労働契約が労働者にとってどの程度の価値を持っているものなのかということを問題にする。それが終了する関係で一定の額の支払いが相当だろう。そういう形で算定要素になるということだとしますと、中窪先生がおっしゃったように、実際に解消される時期に一番近い時期としての口頭弁論終結の時点でどういう給与額で、どういう勤続年数なのかということを考慮するという考え方は、説明としてはあり得るという感じがいたします。
また、合理的な再就職期間といった②のところにつきましても、実際に再就職ということが問題になりますのは、労働契約が終了した後のことになりますので、そのときにどうなのかということに着目すべきだということであれば、これも最新の時点としての口頭弁論終結の時点ということが適切だという感じがするところです。
③の紛争に寄与した程度に関連する要素ということは、解雇の意思表示がどう評価されるものだったかということに関係しますので、こちらについては、基本的に解雇の意思表示、主張されている当該解雇の意思表示についてということですので、そういう意味では、もちろん口頭弁論終結までに集まった資料等を考慮しつつ、問題となっている解雇の意思表示がどうだったのかということを判断していくということだと思いますので、そういう意味では、基準時という問題が顕在化しないといいますか、口頭弁論終結時において、過去にあった解雇がどうだったかを評価するという話になると思います。
私自身の現時点での理解はそういうことですけれども、ほかにどういう要素を考えるのかとか、制度の趣旨をどう考えるかということによっては、変わり得る問題だろうと思っております。
まとまりがない発言で恐縮ですけれども、以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
ほかに御意見等はございますでしょうか。垣内委員、どうぞ。
○垣内委員 すみません、先ほど言い落としたのですけれども、形成権構成か、形成判決構成かということとの関係で申しますと、先ほど多くの要素について最新のものを考慮するのではないかという方向で発言をさせていただきましたが、形成判決構成ですと、それが説明しやすいところはあると思います。形成権構成ですと、少なくとも形成権の意思表示をしたときに、観念的には発生しているということだと思われますので、それ以後の事情によって金額が変わるということは、やや説明が難しくなる側面があると思いますけれども、ただ、不法行為等の場合でも観念的には不法行為の時点で発生していますが、実際上はその後の事情を踏まえて算定されることもあるかと思いますので、観念的には意思表示のときに発生している権利の内容がどういうものであったのかということが、その後の事情も踏まえて判断されるということが、絶対にあってはいけないということでもないという気もしております。
以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
鹿野委員、お願いします。
○鹿野委員 今の垣内委員の御発言と重なってしまうのですが、基準時については、形成判決構成だと口頭弁論終結時までの事情を考慮してという方向につながりやすいのだろうと思います。
それから、形成権構成で一般的な形成権として捉えると、基本は意思表示がなされたときが基準となるけれども、その後の事情は一切考慮されないのかというと、前回、私も不法行為の事例に関して少し発言をしましたように、どういう要素なのかということによって、口頭弁論終結時までの事情を考慮できるものがあるのではないかということで、恐らく本日の資料の5ページから6ページ辺りについては、そういうことも踏まえて記載していただいたのではないかと理解しているところです。
その上で、先ほど垣内委員からは、具体的にどういう点であればということで、考慮要素を幾つか挙げて御意見が出されていたのではないかと考えているところです。その方向で異論はありません。ただ、基本の出発点との結びつきとしては、形成判決構成なのか、あるいは形成権構成なのかで若干違いが出てくるという気はしております。
○山川座長 ありがとうございました。
いろいろな論点と相互関連があって、特に根本的な制度を設定する場合にどういう趣旨のものと捉えるのかという法的構成の問題とも関わっているという感じがいたしました。
基準時等の関連については、大方意見は共通していたという感じがいたします。補償の考慮要素、内容と考え方のところで、労働条件を変更することを考えますと、将来、得べかりし賃金等というのが補償の内容と考え方に出てきますので、そうすると、口頭弁論終結時ということとの親和性が高いと私も思った次第であります。
ほかに追加で御意見等はございますでしょうか。よろしいでしょうか。鹿野委員、お願いします。
○鹿野委員 今の論点ではなくて、蒸し返しになるのですが、最初に議論していた論点について、一言付け加えてもよろしいでしょうか。
○山川座長 どうぞ。
○鹿野委員 ここで相殺を認め、相殺後に撤回を認めるかという話、弁済も一部同じようなことがいえるわけなのですが、その話がありました。全体としては、意思表示がなされた後でも、やはり撤回は認めるべきだということで、労働政策的な観点からここでずっと議論がなされてきたので、そのことについて異論を唱えるつもりはありません。
ただ、ここでいうところの撤回というのは、恐らく民法で一般的に言うところの撤回ではなくて、いわば具体的に金銭債権が発生し、しかも、相殺も有効になされたときに、その効力を遡って否定するという意味合いの撤回なので、一種の特殊な取消権を認めるようなものになると思います。どういう呼び方にせよ、そういうことになるのだろうという気がしております。
そこで、それは普通の撤回とは違うということも自覚しておく必要があるということと、特殊ないわゆる撤回が認められるというのは、労働政策的な観点だけなのか、それともここでも金銭債権自体は独立して具体的に発生していると見えるけれども、形成権にはもう一つの重要な効果が予定されていて、そこが発生していないという特殊性を捉えて理論的に説明していくのか、今まで一般的に議論されてきた形成権としての意思表示の撤回とは違うところがありますので、そこの説明についても若干工夫が必要だという気がしております。
全体の方向性について否定するものではありませんが、特殊なところがありますので、一言付け加えたということです。失礼します。
○山川座長 ありがとうございます。
確かに特殊なということで、取消権という説明をしたほうが、恐らく民法的には理解しやすいと思います。あとは、それをどういうふうに政策的に考えていくのか、権利の性格とも関連するということだと思いました。
どうぞ。すみません、私が余計なことを言ったかもしれません。
○鹿野委員 取消権と言ってしまうと、少なくとも従来の民法上の考え方だと、意思表示に何らかの瑕疵があるとか、あるいは制限行為能力による取消しなども意思表示自体に何らかの原因があったということなのですが、ここではそういう瑕疵というのは、形成権の意思表示にはついていなかったわけです。それを後に自由に遡って効力を消滅させるということなので、そういう遡及効を認め、既に発生した弁済とか、相殺の効力まで否定するという意味では、効果の面では取消しに近いのですが、取消権があったのかというと、少なくとも従来、民法などが想定していたような取消権があるわけではないということで、これを理屈も含めてどう説明していくのか検討する必要があるという指摘でございました。
○山川座長 ありがとうございました。
ほかに追加で全般にわたってございますでしょうか。
もう一点ありまして、資料7でこれまでの議論の整理的なことでありますけれども、こちらについては何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。こちらはまた御意見をいただく機会があろうかと思います。
それでは、特段ございませんでしたら、本日、非常に有益な御議論をいただきましたので、改めて資料の準備をお願いしたいと思います。事務局には様々な御意見を踏まえて客観的かつ慎重に整理をしていただきまして、今回の御議論ですと、論理必然というよりは、こうしたほうが説明として分かりやすい、あるいはすっきりするというような観点もありましたので、どの程度それが貫徹できるかは分かりませんけれども、そういう視点も入れていただければと私としては思っております。
それでは、時間になりましたので、本日の議論はここまでにさせていただきたいと思います。
それでは、次回の日程等について、事務局からお願いします。
○宮田労働関係法課課長補佐 次回の日程につきましては、現在調整中でございます。確定次第、開催場所と併せて御連絡いたします。
○山川座長 ありがとうございました。
それでは、これで第15回「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を終了いたします。本日はお忙しい中、お集りいただき、また、大変有益な御議論をいただきまして、ありがとうございました。終了いたします。
照会先
労働基準局労働関係法課
(代表電話) 03(5253)1111 (内線5370)
(直通電話) 03(3502)6734