第14回 解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会(議事録)

日時

令和3年8月3日(火)10:00~12:00

場所

厚生労働省労働基準局第1会議室
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者(五十音順)

(かき)(うち)(しゅう)(すけ) 東京大学大学院法学政治学研究科教授

鹿()()()()() 慶應義塾大学大学院法務研究科教授

(かん)()()()() 東京大学大学院法学政治学研究科准教授

()西(にし)(やす)(ゆき) 明治大学法学部教授

(なか)(くぼ)(ひろ)() 一橋大学大学院法学研究科特任教授

(やま)(かわ)(りゅう)(いち) 東京大学大学院法学政治学研究科教授

議題

解雇無効時の金銭救済制度の検討に関する議論の整理

議事


○山川座長 それでは、定刻となっておりますので、ただいまから第14回「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を開催いたします。
 委員の皆様方におかれましては、本日も御多忙のところ御参加いただき、大変ありがとうございます。
 本日の検討会は、新型コロナウイルス感染症の感染状況を踏まえて、Zoomによるオンライン開催となります。御理解いただければと思います。
 本日は、委員の皆様、全員御出席です。吉永労働基準局長は、別の公務が終了次第、参加される予定です。
 委員の皆様方、こちらの音声、画像は届いていますでしょうか。
(首肯する委員あり)
○山川座長 ありがとうございます。
 それから、オブザーバーで、法務省から民事局の笹井朋昭参事官にオンラインで御参加いただきます。よろしくお願いします。
 それから、本日の検討会は、先ほど申しましたようにZoomによるオンライン開催ですので、事務局から操作方法について説明をしていただいて、併せて資料の確認もお願いいたします。
○宮田労働関係法課課長補佐 労働関係法課課長補佐の宮田でございます。よろしくお願いいたします。
 本日はZoomによるオンライン会議となっております。座長以外はオンラインでの御参加となっておりますので、簡単に操作方法について御説明させていただきます。
 事前にお送りさせていただいております「会議の開催・参加方法について」を御参照ください。現在、画面には、会議室の映像及びオンラインで会議に御参加いただいている委員の皆様方が映っているかと思います。まずは、その下のマイクのアイコンがオフ、赤い斜線の入った状態になっているかを御確認ください。本日の検討会の進行中は、委員の皆様のマイクをオフの状態とさせていただきます。御発言をされる際には、サービス内の「手を挙げる」ボタンをクリックし、座長の許可があった後に、マイクをオンにしてから御発言いただきますようお願いいたします。アイコンの赤い斜線がなくなった状態になっていれば、マイクがオンになっております。
 また、本日は会議資料を御用意いたしております。事務局から資料を御説明する際には、画面上に資料を表示いたします。
 そして、会議の進行中、通信トラブルで接続が途切れてしまった場合や音声が聞こえなくなってしまった場合等、トラブルがございましたら、お知らせいたしております担当者宛てに電話連絡をいただきますようお願いいたします。
 なお、通信遮断等が復旧しない場合でも、座長の御判断により会議を進めさせていただく場合がございますので、あらかじめ御了承くださいますようお願いいたします。
 Zoomによるオンライン会議に関する御説明は以上になります。
 それでは、資料の御確認をお願いいたします。今回御用意した資料といたしましては、資料1から資料6までとなります。委員の皆様方におかれましては、あらかじめ送付させていただいた資料を御確認いただけますと幸いでございます。
 以上でございます。
○山川座長 ありがとうございました。
 それでは、カメラ撮りにつきましては、ここまでとさせていただきます。よろしくお願いします。
 それでは、本日の議題に入ります。議題は「解雇無効時の金銭救済制度の検討に関する議論の整理」となっております。資料1から5は、主に前回までの議論を整理した資料でありまして、資料6が本日議論する論点1に関する資料となっております。
 本日の進め方につきましては、資料1に論点として1から5までが挙げられていますが、まずは、これまでの議論の整理、それから論点2から5までについて議論を行った後で、論点1に関して御議論いただきたいと思います。
 それでは、事務局から、資料1から資料5について説明をお願いします。
○宮田労働関係法課課長補佐 まず、資料1を御覧ください。今、共有いたしております。
 資料1は、これまで御議論いただいておりました法技術的論点の主な議論を整理したものでございます。内容としましては、前回の検討会においてお配りした資料1に、今回の検討会で扱う論点を記載したほか、前回の検討会までの御議論を踏まえ、一部修正を加えております。主な修正点については、分かりやすいように赤色にしております。論点及び主な修正点を中心に御説明させていただきます。
 まず、1ページ目の上の「対象となる解雇」の欄を御覧ください。こちらは、過去の資料には記載されていた項目でして、改めて資料1に記載させていただいたものになっております。無期労働契約における無効な解雇(禁止解雇等を含む)が対象となる解雇であるとして整理されております。有期労働契約に関しては、資料4に記載がございますので、後ほど御説明させていただきます。
 次の「権利(形成権)の行使要件・形成原因」の欄ですが、こちらの③の要件において、一部修正点がございまして、②の解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことにより、又はその他の法律上の制限により無効であることとなっており、「又は」以下を追記したものになっております。これは、先ほど御説明した「対象となる解雇」に禁止解雇等が含まれると整理されていることから、より正確と思われる表現に修正したものとなっております。
 ※印としまして、解雇の無効に係る主張立証責任について、現在の裁判実務を変更する趣旨のものではないとの記載をしておりまして、こちらは、前回の検討会の際にあった主張立証責任についての御意見を反映させたものになっております。
 ここで、論点1として、権利の行使要件・形成原因の判断の基準時や基礎となる解雇等に関し、資料6記載の各論点についてどのように考えるべきかというものを挙げております。この論点1につきましては、資料6と併せて、後ほど御説明させていただきます。
 次の「解雇の意思表示の撤回」の欄を御覧ください。こちらは、過去の資料には記載されていた項目でして、改めて資料1に記載させていただいたものになっております。
 使用者による解雇の意思表示の撤回は、①そもそも形成権である解除(解雇)の意思表示は撤回できない、②労働契約解消金制度の適用対象は無効解雇であり、本来、撤回の対象となる効果自体が発生していない状況であるが、仮に事実行為としての解雇の意思表示を撤回できたとしても、金銭救済請求権の発生後又は行使後の権利の帰趨に影響はない、と解されると整理しておりまして、ここで論点2として、上記の議論の整理のとおり、使用者が解雇の意思表示をした後、事実上解雇の意思表示を撤回して復職を促していた場合でも、労働者が金銭救済請求をすることは可能ということでよいかというものを挙げております。この論点2につきましては、これまでの議論の整理の内容に関しましても御意見をいただければと考えております。
 次の「権利行使の方法」の欄の右側の形成判決構成のところで、括弧書きとして、労働審判によって労働契約解消金債権を発生させることも可能であると考え得ると記載しておりまして、こちらは前回の検討会での労働審判に関する議論の内容を簡潔に記載したものになっております。
 少し飛びまして、2ページ目、中ほどの「意思表示の撤回」の欄の、左側の形成権構成のところで、論点3としまして、形成権構成の場合、訴えや申立ての取下げ等と意思表示の撤回の関係をどう考えるべきかというものを挙げております。この点に関しましては、これまでの検討会でいただいている御意見がございまして、簡潔に御紹介いたしますと、訴訟行為としての取下げがあった場合に、実体法上の意思表示の撤回の効果が生じるとみるかについては、解釈の問題である。そのような規定を設けるといったことも考え得るというものでございます。本日は、さらなる御議論をいただければと考えております。
 2ページ目の一番下の「相殺・差押禁止」の欄の3ページ目に入ったところに論点4としまして、相殺や差押後の金銭救済請求の撤回の可否についてどう考えるべきかというものを挙げております。こちらは、形成権構成の場合に出てくる論点でして、仮に労働契約解消金債権の相殺・差押えが可能であり、かつ金銭救済請求権の意思表示の撤回が可能であるとした場合、両者の関係についてどう調整すべきかといった論点になっております。
 少し飛びまして、4ページ目の一番下の「考慮要素」の欄の5ページ目に入ったところに、※印としまして、何を考慮要素とするか、どの程度定型的な要素とするかなどについては、原則3回以内の期日で終結するとされている労働審判での円滑な運用が可能かという点にも関わるものと考えられると記載しておりまして、こちらは、前回の検討会での労働審判に関する議論の内容を簡潔に記載したものになっております。
 資料1の最後のところに「4 その他」という項目を追加しておりまして、こちらで論点5としまして、その他、本制度を導入することとする場合に考えるべきことはあるかというものを挙げております。この点に関しまして、これまでの検討会でいただいている御意見を赤字で記載しておりまして、裁判外での和解等の合意によって自主的な解決が行われる際は、労働契約解消金と異なる水準の個別合意も可能となるが、労働契約解消金制度の趣旨を踏まえ、本制度を参照してもらうことができるよう、本制度の仕組みについて周知することが適当というものでございます。本日は、このほかの本制度を導入することとする場合に考えるべきことについて御意見をいただければと考えております。
 資料2に移ります。資料2は、労働契約解消金の支払と労働契約の終了についてまとめた資料となっておりますところ、前回の検討会の資料2と同内容でございますので、説明は省略させていただきます。
 資料3に移ります。資料3は、労働契約解消金の内容・考慮要素等についてまとめた資料になっておりますところ、こちらも前回の検討会の資料3と同内容ですので、説明は省略させていただきます。
 資料4に移ります。資料4は、形成権構成を例にとって、有期労働契約に関する議論を整理した資料になっておりまして、前回の検討会の資料4から、これまでの御議論を踏まえ、一部修正を加えております。主な修正点については、分かりやすいように赤色にしておりますところ、この点を中心に御説明させていただきます。
 まず、1ページ目の上の「対象となる解雇等」の欄を御覧ください。こちらは資料1と同様、対象となる解雇等についてのこれまでの議論の整理になっておりまして、無期労働契約の解雇の場合には、無期労働契約における無効な解雇が対象となるのに対し、有期労働契約の契約期間中の解雇の場合は、有期労働契約における無効な契約期間中の解雇が、有期労働契約の雇止めの場合は、労働契約法19条に該当する雇止めがそれぞれ対象となるとの整理になっております。
 次の「権利(形成権)の行使要件」の欄ですが、左側の無期労働契約の解雇の場合の③の要件の修正部分につきましては、資料1で御説明させていただいたとおりでございます。
 真ん中の有期労働契約の契約期間中の解雇の場合の③の要件につきましても、同様の趣旨で赤字になっている「又はその他の法律上の制限により」との部分を追記いたしております。
 また、いずれの場合におきましても、※印として赤字になっている部分がございますところは、資料1で御説明させていただいたとおり、前回の検討会の際にあった主張立証責任についての御意見を反映させ、いずれの場合も、主張立証責任について、現在の裁判実務を変更する趣旨のものではない旨、記載しております。
 少し飛びまして、3ページ目の「考慮要素」の欄に赤字の部分がございます。こちらも資料1で説明させていただいたとおり、前回の検討会での労働審判に関する議論の内容を簡潔に記載したものになっており、具体的な記載内容は資料1と同様でございます。
 資料5に移ります。資料5は、有期労働契約の期間途中の解雇・雇止めが無効になる場合の労働者の地位の状況についてまとめた資料になっておりまして、前回の検討会の資料5と同内容ですので、説明は省略させていただきます。
 資料1から資料5についての御説明は以上となります。
○山川座長 ありがとうございました。
 それでは、資料1から5に基づきまして、論点2から5に関する議論に入りたいと思います。御発言の際には、先ほど説明がありましたように、「手を挙げる」ボタンをクリックしていただければと思います。
 それでは、御意見等がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
 垣内委員、お願いします。
○垣内委員 垣内です。どうもありがとうございます。
 論点2についてですけれども、こちらは従来の議論について資料にまとめていただいているということかと思います。ここでの問題は、解雇の意思表示の撤回ができるかどうかという問題というよりは、無効な解雇の意思表示でありますので、その意思表示の効果自体が撤回によって生じなくなるということは、もともと問題にならない局面での話ということで、ここでの問題は、解雇の意思表示がされた後に、それを撤回する旨の意思表示が新たにされたということが、この解消金制度の適用を妨げる事由となるかどうかという問題だろうと理解しております。
 そうしますと、これは撤回の可否というよりも、むしろ、この解消金制度をどういう場合に認めるべきかという問題として理解されるところかなと思われまして、1つの考え方としては、論点2に記載されておりますように、そのような撤回の意思表示があったとしても、金銭救済請求は妨げられないという考え方が十分あり得るところだろうと思いますし、他方、使用者がそのような撤回をした場合に、あえて金銭救済請求まで認める必要がない、あるいは場合によっては認める必要がない場合があるという立場に立つのであれば、これはその場合については金銭救済請求はできなくなるということになるだろうと思われます。
 いずれにしても、政策的な判断が第1に立って、それをどう反映するかというお話なのかなと理解しております。私自身は、可能ということでもよいのではないかと今のところは考えているところです。
 以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
 以上の点、論点2につきまして、ほかに御意見等ございますでしょうか。
 中窪委員、どうぞ。
○中窪委員 私も、垣内委員のおっしゃったことはもっともだと思います。今の論点2のところで、上のほうには、そもそも形成権だから撤回できないとか、あるいは、②のところはちょっと分かりにくかったのですけれども、法制度の対象は無効解雇であるところ、解雇が無効である以上、撤回の対象となるものが発生していない、文章を補うとそうなるのかなと思うのですが、そのように書かれている。いずれにしても、そういう解雇の意思表示がなされ、しかし、それは無効だという状況が発生しているところで、新たにこの解消金の制度をつくったときに、それをどういうふうに設計するかという問題だと思います。
 ですから、ここに書いてあるように、解消金の請求はそれでも可能とするのが、1つ自然な考え方でありますけれども、今、御指摘がありましたように、そういう場合は解消金を払わせて解消するという効果を特に与えるまでもないだろうというのも、1つの政策判断だと思いますので、そこは両方書いておいてもいいのではないかなと思いました。 
○山川座長 ありがとうございます。
 では、鹿野委員、どうぞ。
○鹿野委員 ありがとうございます。
 私も、今、お二人の先生がおっしゃったように、解雇の意思表示の撤回の可否と言うと誤解を招くかもしれないと思いますが、要するに、ここでの問題は、事実上撤回をすることによって、解消金請求権に影響を与えることができるかどうかということ、これが中心なのだろうと考えております。その上で、これは質問になりますが、この論点2で念頭に置かれているのは、形成権が行使された後、つまり訴えの提起等があった後のことでしょうが、それとも、その形成権行使の前も含んで、この論点2が立てられているということなのでしょうか。
 と申しますのは、形成権行使があった後には、解雇に意思表示の事実上の撤回をして、形成権を失わせるということは認める必要ないのと、これも最後は政策判断でしょうけれども、認めるべきでないいう気がするのですが、形成権行使の前には、別の考慮もあり得るかもしれないなという気もします。そこで、そもそも、この資料の論点2がどういう場合を想定して立てられているのかということについて質問させてください。
お願いします。
○山川座長 ありがとうございます。
 質問が含まれていましたので、事務局、いかがでしょうか。
○宮田労働関係法課課長補佐 事務局といたしましては、権利の行使前、行使後、どちらも含んだ前提として、権利の帰趨に影響があるかどうかというところを御意見いただければと考えておりました。
○山川座長 ありがとうございます。
鹿野委員、何かございますか。
○鹿野委員 ありがとうございます。
 そうすると、広く対象を取られているということですね。ところで、形成権を行使する前、つまり、訴えの提起とか労働審判の申立てをする前に、労働者のほうからいわば催告的なことをすることは全く必要ないでしょうか。使用者が一旦解雇の意思表示をしたものの、客観的には有効な解雇とは認められないような場合において解雇の意思表示をしましたというときに、その後に使用者の側でも、これは正しい解雇ではなかったと考えて、その解雇の意思表示が無効であるということを自ら認めるということ自体は、撤回という表現を使うかどうかはともかくとして、ありそうな気がします。
 けれども、使用者が一旦解雇の意思表示をすれば、その場合には労働者として、この制度に基づくところの権利を行使して金銭請求権、解消金請求権を発生させ得るのだから、使用者の側でそれに手出しをすることは一切できないということになるのでしょうか。
○山川座長 ありがとうございます。
 続けての御質問の趣旨も含まれていると思いますが、いかがでしょうか。何かございますか。
○宮田労働関係法課課長補佐 これまで御意見いただいているとおり、考えているところとしましては、無効な解雇があるという前提で、その後、形成権構成の場合は金銭救済請求権という形成権が発生した後に、使用者がそれを無効であると認めるというところになるかもしれませんが、認めた上で撤回するという場合に、何かしら労働者の権利に影響があるのかというところが問題意識としてはございました。質問の回答になっているか不安でございますが、以上になります。
○山川座長 ありがとうございます。
 ほかに何かございますか。
 恐らく委員の先生方、多分一致していると思いますけれども、無効であれば撤回というのは法律上は意味がないということが挙げられるかと思います。その上で、権利の帰趨をどうするかというのは、また別個、いろいろな考えがあり得るということかと思います。恐らく、無効な解雇の撤回というのは、その解釈によりますけれども、1つは、解雇が無効であることを自認して、解雇は一般に労務の受領拒否としての意味を持ちますから、それを撤回するというのが1つ考えられる。もう一つは、契約の終了を争わないということもあるのではないかと思います。
 後者の契約の終了を争わないという趣旨だとすると、地位確認の訴えを起こしても、それは確認の利益がないということになりそうな感じがします。そのことと、金銭請求権の帰趨をどうするのかということを関連させて、どう考えるかという問題になりそうな感じがします。
 あと、鹿野委員が後半でおっしゃられたことは、恐らく自主的な解決の促進といいますか、特に訴えを起こしたりする前に使用者が撤回したような場合に、自主的な解決の促進ということも別途あり得るので、その辺りをどう考えるか。およそ請求権の帰趨に影響がない、あるいは影響を与えさせないとすると、自主的な解決の促進には影響を与えないかと、そういう趣旨も含まれていたのかなと推測したところでございます。
 すみません、私のほうのコメントになってしまいましたけれども、ほかにこの点、理論的にも実際的にも結構重要な意味を持ち得るかなという感じを抱いたところですが、ほかに何かございますか。
 垣内委員、お願いします。
○垣内委員 どうもありがとうございます。垣内です。
 今、山川座長の御説明を伺いまして、なるほどと感じたのですけれども、確かに使用者のほうが解雇の意思表示を撤回するという趣旨のことを述べていて、したがって、雇用関係が存続しているということを争っていないという態度を示しているときに、地位確認の利益が失われるのではないかという問題があるように思いました。確かに、認めているとすると確認利益がないということも考え得るような感じもするのですけれども、他方で、ここでの解雇の意思表示というのが、有効な解雇であることも客観的にはあり得ることなのかなと思われます。
 その場合に、この資料の①のところに記載されているように、通常は解雇の意思表示そのものが有効であるとき、これが撤回できるかというと、できないという考え方もあるようで、そうすると、その場合も、撤回したと言ってみても解雇は効力を生じているということなのだとすると、地位がどうなっているのかということについては、確定されるべき利益があるという場合もありそうな感じもいたしまして、その場合に解消金制度の適用を認めるかどうかとも関連するかと思いますけれども、興味深い問題があるように感じたところです。
 その前に、鹿野先生から、つまり、この解消金を請求するという意味での形成権行使がされる前なのか後なのかによって、利害状況がやや変わるのではないかという御指摘があって、そこも御指摘の部分もあるように私も感じます。形成権行使の後ということになりますと、その段階で前提を覆すということは、相当的にはより困難、認めにくいように思われますけれども、形成権行使の前の段階ということですと、形成権行使後よりは認めやすいのではないかという考え方もあるかもしれません。
 ただ、先ほど申しましたように、解雇の意思表示そのものが有効なのかどうなのかということも、当事者間で必ずしも明確でないこともあり得て、そういったことも考えますと、そうした状況の下で使用者のほうで撤回するという旨の意思表示を、行使前であってもしたときに、当然に解消金制度の適用がなくなるとはなかなか考えづらいところもあるのかなという感じもしているところで、何らか使用者のほうが実質的に真摯な姿勢で労働環境をきちんと存続させるという態度を示していて、そういった態度を考えると、お金を払って解消することを労働者の側に認めるまでもないと言えるような、具体的な事情があるということであればいいのかなという感じもするところです。
 撤回しますと、一言で言えば駄目になりますよということでいいかどうかというと、そこはいろいろ議論の余地があるのかなという感じもしたところです。余り整理ができておりませんで恐縮ですけれども、以上です。
○山川座長 ありがとうございました。以上、非常に有益な御指摘をいただきまして、その辺りは撤回をめぐる行為規範的なこととも関わりがあるといいますか、撤回の趣旨をどうクリアにするかという点とも関わってくるかなという感じがいたしました。
 ほかに御質問、御意見等ございますか。
 神吉委員、どうぞ。
○神吉委員 ありがとうございます。
 いたずらに問題を複雑にしたくはないのですけれども、①のところで、解雇はそもそも撤回できないとあるところで、他方で、同意を得てした解除の効力は否定されないということもあるので、それだけで言い切ってしまっていいかなという、ちょっと迷いがあるところです。同意をして解除して解雇がなかったことになったということになれば、それは労働者の側から金銭請求することは許されないということになるのでしょうか。そういう場合もちょっとあり得るかなと思いました。
○山川座長 ありがとうございます。
 事務局からの御説明があります。
○宮田労働関係法課課長補佐 事務局でございます。
 こちらの論点の趣旨は、あくまでも使用者の一方的行為によってという前提で、すみません、分かりにくかったのですけれども、そういう前提がございまして、合意で解雇の解除のようなものができるということにつきましては、全く排除する趣旨ではございませんし、これまでの検討会の中でも、合意での解決というところは否定するものではない、そういう論点ではないというのは、前提として御議論いただいたこともあったかと認識しております。
○山川座長 ありがとうございます。
 中窪委員、どうぞ。
○中窪委員 この表について、私としては対象となる解雇があって、権利行使の方法があって、とにかくどういう制度であるかということを解消まで一通りやってから、より例外的な場合を考えるほうが頭にすっとくるものですから、最初に対象となる解雇はこうだと言って、すぐ後に解雇の意思表示の撤回の話となると、ちょっとずっこけてしまう感じがするのです。そういう意味で、私は、これは形成権を行使する前に、こういう制度に乗ってくる前に使用者が解雇を事実上撤回した。しかし、そういう場合にもこういう権利が発生するのだろうか。そういう意味で、ここのところに置かれているのかなと思っておりました。
 ですから、1回そういうふうに訴訟を提起した後については、むしろ後ろのほうの「権利の消滅等」の一事由として、使用者が解雇を撤回して就労を促した場合、その権利はどうなるのかという話になるのかなと思っていたのですけれども、両方ともここに入ることになるのでしょうか。つくり方だけの問題ですけれども、私は、そこはちょっと違うように考えていましたものですから。
○山川座長 ありがとうございました。
 そこは、権利行使の方法とも関わることかなと思います。いずれにしても、ここでは論点として挙げているということで、報告書等にする際には、もうちょっと制度の立てつけとの関連が分かりやすいような形に整理する必要があるのではないかと考えております。
 ほかに何かございますでしょうか。
 論点2について、いろいろ有益な御指摘をいただきましたが、論点3から5につきましては何かございますでしょうか。
 垣内委員、お願いします。
○垣内委員 どうもありがとうございます。垣内です。
 論点3についてですけれども、形成権構成の場合に訴え等が取り下げられるということと、形成権行使の意思表示の撤回との関係をどう考えるのかということでありまして、これは結論から申しますと、先ほど事務局からの御説明にもありましたように、解釈の問題ということで考える以外ないのかなという感じがしております。もともと、この制度が実際に効果を発揮する場合というのは、判決等で解消金の金額が定まって、それが支払われたということで効果が発生するということで、もし訴え等が取り下げられてしまいますと、金額がこういう形で確定することはないということです。
 なので、撤回と言おうと言うまいと、当初の意思表示どおりの効果を発揮するということが基本的にはないということになりそうですから、一般的には訴え等を取り下げて意思表示についても撤回する趣旨と申しますか、そういう意思を推認できるということはあるように思いますし、場合によっては、そうでないということも全くあり得ないわけではないのかもしれませんけれども、そのために特段の規定を設けるというほどに重要な事例というのが問題になるかというと、今のところ、私自身は見つからないように感じております。
 それから、次のページの論点4ですけれども、相殺あるいは差押え等と事後的な金銭救済請求の撤回に関することで、私自身の専攻という観点からは、差押えのほうがどうかなということを考えていましたけれども、差押えによって被差押債権の処分が禁止されるということと、この撤回によって解消金請求権が発生しなかったということとの関係をどう考えるかというのが、ここでの問題ということかと思います。
 抽象的には両論あり得ると申しますか、差押債権者の要保護性を考えると、みだりに撤回を認めてよいのかという議論もあり得るように思いますし、他方、この金銭救済請求というのは、労働者にとっては、まさに金銭支払に伴って労働契約の終了という効果が生ずるものでありますので、単に金銭債権を消滅させるかどうかという問題にはとどまらないところがあるかと思います。そうした点を重視しますと、そもそも差押えがない場合に撤回を認めると。ですから、最終的に撤回ができなくなる段階までは、労働者の保護の観点から選択を認めておくという政策判断に立つのであれば、差押えがあった場合でも同様に考えるという議論も十分あり得るのかなという感じがいたします。
 もともと差押えの処分禁止効との関係では、基礎となる法律関係の処分については、必ずしも妨げられないべきであるという議論がされているところかと思います。例えば、給与債権の差押え後に退職して給与債権が差押えの対象となったものも含めて不発生となるとしても、退職そのものを制限することはできないだろうということだと思います。ここでの問題もそれに準じたような形で、つまり、労働関係そのものが終了するかどうかという問題を含んでおりますので、そういった位置づけをするという議論もあり得るところかなと感じました。
 以上です。
○山川座長 ありがとうございます。
 ほかに御質問、御意見等ございますか。よろしいでしょうか。
 今の垣内委員の御指摘も、ほかのところでも出てくるのですけれども、この制度をもし設計・採用する場合に、金銭請求権としての性格を重視するか、それとも契約の存否とか解消に関わる側面を重視するか、その辺りの理解がどうも基本的なところで影響を与えてくる。その一つの現れかなという感じがしたところであります。
 ほかに論点2から5につきまして御意見等ございますでしょうか。
 小西委員、どうぞ。
○小西委員 小西です。
 論点5について、質問という形になるかもしれませんが、上の「4 その他」というところに関してです。裁判外での和解等の合意によって自主的な解決が行われる際はということで、次の労働契約解消金制度の趣旨を踏まえ、周知することが適当と書かれているところですけれども、ここで書かれている労働契約解消金制度の趣旨というのは、どういうことを意味されて書かれているのかという点を少しお伺いしたいと思っております。
 というのは、今回の労働契約解消金制度は、解雇無効ということが前提の場合ということで制度枠組みとかがつくられているかなと思いますけれども、契約の解消の場面、裁判外での自主的な解決の場面では、そういうことは明らかにならないケースが多いかなと思っている次第ですので、ここで言うところの労働契約解消金制度の趣旨を踏まえという点について、どういう趣旨なのかという点を教えていただければと思います。
以上です。
○山川座長 ありがとうございます。
 事務局から何かありますか。
○宮田労働関係法課課長補佐 事務局でございます。
 この趣旨に何が入るかというところ、ちょっと明確に述べることまではなかなか難しいところですけれども、今おっしゃっていただいたとおり、無効な解雇が前提になった制度というのは間違いないところでございますので、そういう前提があるのだという制度そのものの立てつけ等の理解というところをまずしっかり周知した上で、その理解を前提として合意による和解等の解決も図っていっていただくようにしたらどうかという趣旨で記載しているところでございます。
○山川座長 ありがとうございます。
 小西委員、何かありますか。
○小西委員 特にございません。どうもありがとうございます。
○山川座長 私も、今の事務局の宮田課長補佐のお話と同じような感じを抱いておりまして、これまで紛争調整委員会の委員としてあっせんに関わったことがありますけれども、あっせんの場合は、解雇有効・無効という心証は、労働審判と違って明確に示すことはできないのですけれども、もし裁判所に行ったらこういう制度がありますよということを言える、言えないというのは、結構影響があるかなと思っております。
 現在でも、例えば訴えを起こせば解雇権濫用として無効になるということもあり得ますよということで、解雇無効については、裁判所に行ったらこうなるということを説明しているのですけれども、金銭解決については、そのようなことを説明することが制度としてはなかなか難しいという現状があるということもあろうかと思います。あっせんの場合、制度の趣旨から、労働審判みたいな心証を説明するということは、ケースにもよるかもしれませんけれども、なかなか難しいということはありますけれども、本制度の存在自体に言及するということはあり得るところかなと思ってきたところでございます。
 ほかに何かございますでしょうか。
 では、ありませんようでしたら、また戻ってくることもあり得るかと思いますけれども、本日の中心的なところになろうかと思いますが、論点1の議論に移りたいと思います。では、論点1に係る資料1と資料6についての説明をお願いいたします。
○宮田労働関係法課課長補佐 御説明いたします。
 まず、資料1を御覧ください。共有いたしております。
 資料1の1ページ目の「権利(形成権)の行使要件・形成原因」の欄に、先ほど御紹介いたしましたとおり、論点1として、権利の行使要件・形成原因の判断の基準時や基礎となる解雇等に関し、資料6記載の各論点についてどのように考えるべきかというものを挙げております。
 この論点につきましては、資料6で具体的に記載しておりますので、そちらの説明をさせていただきます。資料6を御覧ください。資料6は「参考パターン図」として、パターン1からパターン3までございまして、それぞれのパターンにおける具体的な論点を記載しております。
 まず、1ページ目の左側のパターン1でございます。こちらは、無期労働契約の解雇が1回なされたパターンでございまして、無期労働契約を締結していた場合に、無効解雇があった後、それを原因として労働者が金銭救済を求めて訴えを提起し、その後、口頭弁論終結を経て、判決で認容判決がなされ、労働契約解消金の支払により無期労働契約が終了するという、本制度においてオーソドックスなパターンとして想定されているものと理解しております。
 このパターンを前提として、論点Aと論点Bを挙げております。
 論点Aは、前段としまして、形成権構成の場合、権利の行使要件の判断の基準時は、訴え提起時、正確には意思表示の効果が生じる訴状送達時となりますが、このときということでよいかというものを挙げております。ここにいう権利の行使要件というのは、資料1に戻りまして、1ページ目の「権利(形成権)の行使要件・形成原因」の欄に記載されている①から③までの要件を指しているものでございます。
 資料6の1ページ目に戻りまして、論点Aの前段ですが、形成権構成の場合、訴え提起時(訴状送達時)において、形成権たる金銭救済請求権が行使され、その効果として労働契約解消金債権が発生するという整理がされておりますところ、これを前提とすれば、権利の行使要件が満たされているか否かの判断の基準時は、訴え提起時、正確には訴状送達時と考えてよいかという問題とさせていただいております。
 また、後段としまして、労働契約解消金の算定の基礎となる事情(給与、年齢等)はどの時点のものを捉えるべきかというものを挙げております。こちらは、例えば無効解雇がなされた後、口頭弁論が終結するまでの間に、労働者、原告の年齢が増えることが想定されますし、役職定年がくるなどして給与が下がるということもあり得るというところでございます。このような場合に、労働契約解消金の算定の基礎となる事情をどの時点で捉えるべきかという問題となっております。
 論点A後段の括弧書きとしまして、仮に、権利の行使要件の判断の基準時を訴え提起時(訴状送達時)と考え、かつ、労働契約解消金の算定の基礎となる事情を口頭弁論終結時のものと考える場合、労働契約解消金債権の内容が訴え提起時(訴状送達時)において観念的には定まっているという理解との関係をどう考えるかというものを挙げております。
 論点Bは、論点Aと同様の問題について、形成判決構成の場合にはどのように考えるべきかというものになっております。具体的には、前段としまして、形成判決構成の場合、形成原因の判断の基準時は口頭弁論終結時ということでよいかというものを挙げております。形成判決構成の場合は、判決によって労働契約解消金債権が発生するという整理がされておりますところ、これを前提とすれば形成原因が満たされているか否かの判断の基準時は口頭弁論終結時と考えてよいかという問題となっております。
 後段は、論点Aと同様、また、労働契約解消金の算定の基礎となる事情(給与、年齢等)はどの時点のものを捉えるべきかというものを挙げております。
 次に、1ページ目の右側のパターン2でございます。こちらは、無期労働契約の解雇が複数回なされたパターンでございまして、無期労働契約を締結していた場合に、無効解雇があった後、それを原因として労働者が金銭救済を求めて訴えを提起し、その後、使用者から再度解雇の意思表示がなされたものの、これも無効となるような場合で、その後、口頭弁論終結を経て、判決で認容判決がなされ、労働契約解消金の支払により無期労働契約が終了する。場合によっては、判決後、労働契約解消金支払の前にも無効な解雇がなされるといったこともあり得るといったパターンでございます。
 こちらは、これまでの議論では、無効解雇を原因として労働者が金銭救済を求めて訴えを提起した後、有効な解雇があった場合には、形成権構成の場合には発生していた労働契約解消金が消滅し得る、形成判決構成の場合には労働契約解消金の支払を認める判決をし得ないと考え得る、と整理されておりますので、訴え提起後、使用者において、再度解雇の意思表示を行うことがあり得るところでございますが、それも無効であったような場合を想定しております。
 このパターンを前提として、論点Cと論点Dを挙げております。
 論点Cは、前段として、形成権構成の場合、権利の行使要件の判断の基礎となる解雇をどのように捉えるべきかというものを挙げております。こちらにつきましては、複数の無効解雇がある場合、金銭救済請求権が複数発生し得るのか、金銭救済請求権は1つであると考える場合は、どの無効解雇が原因となるのかなどといった問題があるのではないかと考えております。また、後段としまして、労働契約解消金の算定の基礎となる事情(給与、年齢等)の時点ついて、論点Aと異なる点はあるかというものを挙げております。こちらは、論点Aにおける議論に加えて考えるべきことがあるかといった観点からも、御意見をいただければと考えております。
 論点Dは、論点Cと同様の問題について、形成判決構成の場合にはどのように考えるべきかというものになっております。具体的には、前段として、形成判決構成の場合、形成原因の判断の基礎となる解雇をどのように捉えるべきかというものを、後段としまして、また、労働契約解消金の算定の基礎となる事情(給与、年齢等)の時点について、論点Bと異なる点はあるかというものをそれぞれ挙げております。
 最後に、2ページ目に行きまして、パターン3でございます。こちらは、有期労働契約の雇止めのパターンでございまして、有期労働契約を締結していた場合に、無効となる雇止めがあった後、それを原因として労働者が金銭救済を求めて訴えを提起し、その後、再度期間満了となるも、労働契約法19条による更新が認められる場合で、その後、口頭弁論終結を経て、判決で認容判決がなされ、労働契約解消金の支払により有期労働契約が終了する。場合によっては、判決後、労働契約解消金支払の前にも再度期間満了となるも、労働契約法19条による更新が認められるような場合もあり得るといったパターンでございます。
 このパターンを前提として、論点Eと論点Fを挙げております。
 論点Eは、前段として、形成権構成の場合、権利の行使要件の判断の基礎となる有期労働契約をどのように捉えるべきかというものを挙げております。括弧書きで具体的な問題を記載しておりまして、当初の雇止めにより発生した労働契約解消金債権は期間満了によって消滅しないと考えることは可能か。他方、労働契約法19条は、従前の労働契約は終了し、新たな労働契約が成立するという構成をとっているため、当初の雇止めにより発生した労働契約解消金債権は期間満了により消滅し、新たな労働契約につき労働契約解消金債権が発生すると考えることもあり得るかと記載しております。
 また、後段として、労働契約解消金の算定の基礎となる事情(給与、年齢等)の時点について、論点Aと異なる点はあるかというものを挙げておりまして、こちらは、論点Aにおける議論に加えて考えるべきことがあるかといった観点からも御意見をいただければと考えております。
 論点Fは、論点Eと同様の問題について、形成判決構成の場合にはどのように考えるべきかというものになっております。具体的には、前段として、形成判決構成の場合、形成原因の判断の基礎となる有期労働契約をどのように捉えるべきかというものを。後段として、また、労働契約解消金の算定の基礎となる事情(給与、年齢等)の時点について、論点Bと異なる点はあるかというものを、それぞれ挙げております。
 最後に、2ページ目の右下には、参考として労働契約法19条を載せておりますが、読み上げは省略させていただきます。
 論点1に関する説明は以上となります。
○山川座長 ありがとうございました。
 それでは、論点1の議論に入りたいと思います。さらに、具体的には資料6で論点AからFまで示していただいています。それでは、何か御質問、御意見等ございますでしょうか。
 鹿野委員、お願いします。
○鹿野委員 ありがとうございます。
 まずは、論点Aについて、一言申し上げさせていただきたいと思います。形成権構成の場合には、訴えの提起等で形成権行使がなされると、そこで解消金請求権が発生している、つまり債権が発生しているということなので、そこがまずは基準となるのではないかと思います。ただ、考慮される事情を口頭弁論終結時まで広げるとすると、その関係をどういうふうに説明するのかということで記載されているものと思います。確かに、一般的には債権発生時というのがまず基準になるということではあると思いますが、どこまでの事情を拾えるのかというのは、解消金の性質ないし解消金請求権を認めるところの趣旨にもよるのではないかという気がしています。
 ちなみに、形成権とはちょっと違うのですが、不法行為による損害賠償請求権に関する議論も多少参考になるかもしれません。例えば交通事故などでけがをした、足を切断するなどして要介護の状態になりましたというときに、被害者が、損害賠償請求の訴訟を提起したところ、事実審の口頭弁論終結前に、例えば天災とか、その他,全く別の原因によって死亡したというときに、それが損害賠償請求権にどのように影響するのかどうかという論点がございます。判例は、逸失利益の算定については、この場合の別原因による死亡という事情は原則として影響しないとしております。
 その理由としては、労働力の一部喪失による損害は、不法行為時に一定の内容のものとして発生しているのだということ。それから、偶然の事由によって、被害者ないしその遺族が損害の塡補を受けられなくなるというのは公平の理念に違反するということなどが挙げられているところです。
 ただ、他方で、別の事由による死亡等という事情が賠償額に全く影響する余地がないのかというと、そうではありません。将来の介護費用、先ほどの例ですと、足を切断したので介護が必要だということで、逸失利益とは別に介護費用というのが損害項目として挙がってくるわけですが、その介護費用については、これが影響することを認めています。口頭弁論終結の前に本人が別原因で死亡したという場合には、もはや将来介護をする必要性というのがなくなるわけです。それで、その介護費用については、その時点までしか認めない。つまり、別事由というのが賠償額の算定に影響するということを認めております。
 これをどういうふうに説明するのかということについては、学説によっても多少の違いがあるのですが、要するにここで申し上げたかったことは、形成権構成を取ったら、全て影響して解消金が否定されるとか全く影響しないという話では必ずしもなくて、最初に言いましたように、解消金の性質、当該事由の内容とか、この制度の趣旨ということに照らして考えていくということが必要なのではないかと思っております。
 以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
 ほかに御意見等ございますか。
 垣内委員、お願いします。
○垣内委員 どうもありがとうございます。垣内です。
 私も、今、鹿野委員がおっしゃったように、訴え提起時とか口頭弁論終結時であるということで、様々な要件あるいは算定基礎となる事情等について、全て一律になる規律というのはなかなか難しいところはある問題なのかなという感じがいたしております。
まず、権利の行使要件という点について1つ取りましても、資料1で①から③の各要件を挙げていただいているわけですが、このうち、①の労働者であることという要件については、基準時を語ることはそれなりに意味があると申しますか、恐らく無効な解雇の意思表示をされた時点では当然労働者であったということですけれども、その後、自ら辞職したという場合に、形成権行使後の辞職については、また別途検討課題とされているところですけれども、もう自分で辞職してしまったという場合に、その後でこの制度を使うということは、恐らくこれまでのここでの議論では想定されていなかったところかと思います。
 したがって、そういう意味で、形成権行使の意思表示の時点で労働者であることが必要なのだという意味で、この①の要件については、基準時は形成権の意思表示の時点、あるいは訴え提起による意思表示であれば訴え提起の時点ということになるのかなと思われますけれども、他方で、解雇の意思表示がされたことというのが、それまでの間にされた特定の解雇の意思表示を問題とするということだと思われますので、それ自体について、何か基準時を問うということは余り本質的な問題ということではないのかなという感じがいたします。
また、当該解雇の意思表示が無効であったのかどうかということについて、③の要件ですけれども、一般の労働法の議論について、若干不案内なところで、自信がないのですけれども、解雇の意思表示の時点では無効な解雇だったのだけれども、その後有効になるということがあるのかどうかという問題で、仮にそういうことがあるのであれば、訴え提起時が基準ですというお話になると思いますけれども、これはあくまでも解雇の意思表示の時点で有効か無効か決まるということだとすると、それはむしろ解雇の意思表示がされた時点でどうだったかということを問題にするということになるのかなという感じもします。
 ですので、一般論としては、形成権行使の要件があるかどうかというのは、形成権行使の時点で形成権があったかどうかという問題であると考えれば、その時点が判断基準時という言い方はできることはできるように思いますけれども、その内実を見てみますと、それぞれの事由によって、そのことが意味する内容というのが異なっているということもあるような感じもいたしますので、その辺りは法律で全て書き込めるという性質のものでは、必ずしもないようなところもありそうですので、最終的には解釈問題が出てくるということなのかなという感じもしております。
 さらに難しいのが、算定の基礎となる事情のほうかと思われまして、ここでも給料、年齢等。そもそもどんな事情とするのかということ自体が別途論点となっているわけですけれども、事情それぞれによって、また考慮すべき問題、観点が変わってくるというところもあるのかなという感じがいたします。
 私自身は、出発点としては、基本的には解雇の意思表示の時点でどうだったかと。それが、解雇の意思表示の時点で形成権が一旦発生し、その形成権を行使するかどうか、労働者が決めるわけですけれども、行使の時点で行使の要件があれば、それが行使されて、そこで発生する解消金請求権というのは、基本的には解雇の意思表示の時点で発生すべきものとして、形成権の内容を構成していたものということが出発点となるのかなという感じがしています。そう考えますと、基本的に不法行為の損害賠償の場合のように、その不法行為の時点で、観念的には一定の内容をもって発生しているはずである。
 そうすると、出発点としては、その後の変動が影響を及ぼさないということになりそうだけれども、それは事情ごとに考える必要があるということで、先ほど鹿野委員からも御指摘がありましたように、例えば不法行為の場合に、将来の介護費用等々というのは、これは別の原因で死亡した場合には請求できなくなるということもあるわけですので、この解消金の場合でも、当該事情の趣旨等に鑑みて、どういう扱いをすべきかということを個別に考える必要があるのかなという感じがいたします。
 例えば給与というものを考えたときに、解雇の時点での給与というのが当然あるわけですけれども、その後、一定の年齢に達すると給与がだんだん下がっていくことが想定されているとか、様々なことがあると思いますが、それは解雇の時点で既に前提とできるものであれば、そういったことを含めて考慮することもあり得るように思われますけれども、無効な解雇の後に何か恣意的に言及するとか、そういったこともあり得るかもしれませんが、そうしたことが、この解消金の金額に当然に影響してくるということになったのかどうかとか、あるいは年齢によってだんだん下がっていくときに、使用者の側では、それでは支払を先延ばしにすればするほど金額が少なくていいということになるのか。
 そういったことが仮にあるとすると、使用者の側に引き延ばしのインセンティブを与えることにならないかといった、様々な観点というものが問題となりそうな感じもいたしますので、そういったところも含めて個別に判断する必要があるのかなという感じが差し当たりしております。
 以上です。
○山川座長 ありがとうございます。
 ほかにはございますでしょうか。
 今のところ、論点Aについての御発言が中心かと思います。お二人の委員が御指摘された不法行為に基づく損害賠償請求との比較は、非常に示唆深いものではないかと思います。すなわち、権利としては存在しているけれども、損害の項目によっては、その後の解雇後の事情によって変わり得るものもあるということの御指摘があったかと思います。そうすると、結局のところ、補償金といいますか、金銭請求の考慮要素をどう考えるかということとリンクしてくるのかなという感じがいたしております。
 中窪委員、お願いします。
○中窪委員 ありがとうございます。
 私も、これはどういうふうな制度としてつくるかというところにかかってくると思います。論点Bの形成判決の場合にも、無効解雇があったということを判決の前提として確認することは必要だと思うのですけれども、その途中で権利消滅するような事由があったかどうかということも、もちろんそこに入ってきます。解消金の算定についても、口頭弁論終結時でなければならないわけではなく、例えば無効な解雇の時点での金額に基づいて算定するというのも、1つ自然な考え方としてあり得ると思いますので、そこはこっちの構成だから、こっちでないといけないということはないと思いました。
 それから、解雇が2回以上あるやつについては、ちょっと複雑過ぎて頭がついていかないのですけれども、基本的にはここも同じではないでしょうか。ただ、どの解雇を選んで、その金額とかを計算するかというのは、ちょっと複雑だなと思いますけれども、一番最初の解雇でそもそもそういう問題が発生したのであれば、そこの要素に基づいてやるということも1つ合理的なというか、自然な考え方ではないかなと思います。
 例えば、2回目が有効であれば、これは前に議論した権利の消滅の話ということになりますから、そこは実際上、有効な場合と無効な場合をどこでどういうふうに判断するかですね。最終的にここの判決のところでやるしかないわけで、実際にはなかなか大変だと思いますけれども、整理としてはそういう形かなと思いました。
○山川座長 ありがとうございます。論点A、Bのほか、論点Cについても御意見をいただきました。
 この点も含めて、いかがでしょうか。
 垣内委員、お願いします。
○垣内委員 ありがとうございます。
 論点C、Dですけれども、これは本当に複雑な問題で、なかなか難しいなと感じます。これも、解消金請求権というものの性質・趣旨をどう捉えるのかということが出発点となるのだろうということですので、理論的に当然こうだとすることは難しいところかなという感じがしています。幾つかの考え方が方向性としてはあり得るだろうと思っております。
 1つの考え方としまして、特に形成権構成の場合、これは論点Cということになるかと思いますけれども、個々の無効な解雇の意思表示に伴って解消金を求め得る地位、そういう形成権が発生し得ると考えますと、一番シンプルには、それぞれの無効な解雇の意思表示に由来して、複数、解消金請求権あるいは形成権が発生するということになりそうで、それぞれについて、行使の意思表示をすれば解消金請求権も複数発生することがあり得る。しかし、1つ選んで意思表示をすれば、当然その1つのみの解消金請求権が発生するということが考え得るように思います。
 そうしたときに、最終的に1つの労働関係・労働契約の解消金請求権が、例えばここで無効解雇①、②、③というものがありますけれども、これが仮に訴え提起の前にあった場合に考え得るわけですが、それらを全て主張すると、例えば1つについて300万円の解消金請求権が発生して、3つで仮に同じ金額であったとすれば900万円ということになりそうですが、じゃ、900万円取れるのかというと、それは恐らくこの制度の趣旨からすると、どうも適当ではないのではないかということではないかと思います。したがって、最終的に法律上の理由をもって得られる金額というのは、300万円ということなのではないかと思われます。
 問題は、そのことがどのような理論をたどって、その結論に到達するのかということで、1つの考え方としましては、先ほど申しましたように、複数発生するけれども、これは一種の請求権競合にあたり、1つが履行されれば、ほかはそれによって同時に満足する、消滅する。したがって、一般的な訴訟物の考え方に従って考えますと、仮にそれぞれについて併合して請求すると、それは訴訟物が無効な解雇の意思表示3つで形成権を3回行使したのであれば3つということになるけれども、それは請求権競合の関係にある。
 訴訟物は3つだけれども、仮に単純併合で全て請求したとすれば、本来、全部認容ということがあり得るということになりますが、そのうち1つについて満足された時点で、ほかが消滅するということになりますので、もし債務名義がその3つについてあれば、これはいずれにしても請求異議の対象になるということで、最終的には全部、900万円は取れない。
 そのことを前提とすると、従来の広く行われている実務を前提とすれば、併合するにしても選択的な併合という形で訴えを提起するということになるのではないかという考え方が1つあり得ようかと思います。
 他方、1つについて形成権を行使した場合には、他の既に発生している形成権について、事後的に行使の要件が失われるという形で、形成権の行使要件のレベルで1つに絞ってしまうという実体法上の規律というものもあり得るかもしれませんし、また、そうではなくて、形成権が3つ発生して、したがって解消金も3つ発生し得るのだけれども、訴訟物としては、同一の労働契約の解消という効果をもたらす解消金請求権を発生させる複数の事由があるにすぎないという捉え方をして、何か訴訟物としては1個であるという議論ということも、およそあり得ないわけではないかなという感じがいたします。
 それであれば、選択的併合というテクニックを使わないとしても、300万円の請求しか立たないということにはなるのかなと思います。しかし、その辺りは、法律上の条文で決めるということはなかなか難しいことかなと思います。
 若干、この論点を拝見して思い出した裁判例としまして、詐害行為取消権の訴訟物について、時効との関係で判議した最高裁の判例がありますけれども、詐害行為取消権については、被保全債権の行使の一環であるという捉え方をすると、被保全債権ごとに詐害行為取消権があって、それぞれ訴訟物は別個だという考え方も理論的にはあり得そうなわけですけれども、最高裁はそうではない。債権者という地位が1つであれば、1つと申しますが、個別の債権ごとではなくて、1人の債権者につき1個という形での処理と整理しているということです。そうしたところを参照しますと、複数の無効な解雇の意思表示がある場合でも、訴訟物としては同一の労働契約に係るものについては1個なのだという議論もあり得るのかなという感じもいたします。
 いずれにしても、最高裁も詐害行為取消権について、条文の規定で当然そうなるということではなくて、判例上、そういう取扱いがされているということですので、いずれにしても非常に難しい問題と感じているところです。整理がついていなくて恐縮ですけれども、私から以上です。
○山川座長 詳細なコメント、ありがとうございました。
 ほかに御質問、御意見等はございますか。
 中窪委員、お願いします。
○中窪委員 私も、複数回のやつは非常に難しいと思います。ただ、そのたびに権利が発生しても、実際行使されるのは1つの金額になると思いますので、どれになるかという話を詰めて考えればいいのだろうと思うのですけれどもね。
 1つ、労働紛争的には、最初の解雇が無効であって、それが続く形でまた解雇したけれども、無効で繰り返されているという意味では、①の解雇から続いている1つの労働紛争という感じがしますので、それについて直感的で申し訳ないですけれども、基準としては、とにかく最初の解雇を基本に考えつつ、その後のものをどこまで取り入れるかというはなしになってくるのかなと思います。
 そういう意味では、最初の1と同じになってしまうのですけれども、無効な解雇を繰り返したという点は、解消金の額で使用者の有責性を仮に考えるのであれば上乗せ要因になるとか、あるいは別途、不法行為の損害賠償というのを追加するという形で整理するのが、頭の落ち着きとしてはいいのではないかと思います。すみません、余り理論的ではないですが。
○山川座長 ありがとうございました。
 確かに、普通の場合は最初に解雇して、次に使用者が解雇して、それが有効であるとして、形成権構成の場合は解消金請求権は発生しないとか、消滅するという形での主張が一緒になることが多いのかなという感じはいたします。あえて2番目の解雇無効だとして請求してくる場合をどうするかということが問題になるのかもしれません。
 鹿野委員、お願いします。
○鹿野委員 今の点ですけれども、いずれも後から見ると、無効な解雇なのかが明らかになるかもしれませんが、争っている最中には、無効な解雇というふうに1番目のものが判断されるかどうかが分からないので、恐らくは使用者の側は2番目の解雇も主張し、労働者側はその無効についても主張するということになるのだろうと思います。
 そして、その場合、解消金のの額については、考慮要素をどういうふうに立てるのかということにも関わるのですが、最初のものも無効解雇ではあるけれども、2番目のほうが、例えば使用者側に落ち度がより大きいというか、解雇の不当性が大きいという場合で、そのことも金額にカウントされるということであるとすると、1番目と2番目は確かに無効解雇という意味では同じかもしれませんけれども、金額が同じになるとは限らないわけですね。そのときの取扱いをどうするのかという問題も出てきそうな気がいたします。
○山川座長 ありがとうございます。
 ほかに何かございますか。
 垣内委員、お願いします。
○垣内委員 たびたび失礼いたします。
 今、直前に鹿野先生がおっしゃった問題は非常に重要な問題ではないかと思っておりまして、論点Aの理解にも密接に関わってくるわけですけれども、どの解雇の意思表示を問題にするかによって解消金の額が変わってくるという場合があり得るといたしますと、そのうちどれを主張するのかということが問題となるかと思います。これは、基本的には、無効な解雇があったときに、それを理由として解消金の制度を使うかどうかということは、労働者の意思に委ねられるべき問題であるということが、この制度の出発点だといたしますと、これは労働者の側で自分が最も有利だと考えるものを選んで主張することになるということかなと、今のところは感じています。
 しかし、仮に複数主張することをしたといたしまして、そのときに一方は300万で他方は400万であるということがあったといたしますと、恐らくそれが確定すると、使用者のほうは、少ないほうの金額の解消金を支払えば、とりあえず制度の効果として、労働契約がその支払いの時点で終了することになるわけですので、そのことが多いほうの金額の解消金請求権の消滅事由になると捉えますと、それで普通はもう請求されないでしょうし、仮に困るということであれば、請求異議の訴えによってそれを主張できるということが1つ道筋としては考えられるのかなという感じがしております。
 そういう考え方が一方であるとともに、他方で、中窪先生の趣旨は若干異なっていたかもしれませんけれども、一連の無効な解雇の意思表示が複数ある場合には、最初の解雇の意思表示を問題にするということが適切だということであれば、それはそういう形で何か特別規定を設けるなり、そういったことも考えられるのかもしれません。その辺りについては、政策的にどこまで労働者の選択を認めるのかどうかといったところとも絡んで検討されるべき問題かなと考えております。
 以上です。
○山川座長 ありがとうございます。
 お伺いしていて、2つ問題があるような感じがしまして、1つは、どの解雇を解消金請求権の行使に当たって対象とするかという問題と、もう一つは、関連しているのですけれども、そのことによって複数の判決が出されるか、あるいは複数の請求権というものを観念できるかという点が別途挙げられるかなと思います。先ほど鹿野委員がおっしゃられた300万と400万の事例ですけれども、そちらでは、300万を支払えという判決と400万円を支払えという判決が2つ出る。そういうことまで含んでおられたのでしょうか。
○鹿野委員 いえ、300万と400万を二重取りするなどということは考えていないのですが、これも政策判断かもしれませんけれども、400万円、高いほうを認めるということもあり得るのかもしれないという趣旨で申し上げました。
○山川座長 ありがとうございます。そういう趣旨かなと思っていまして、ということは、先ほど私の申したところでは、どの無効解雇を選択できるかということについてのお話であったという理解かなと思いました。ありがとうございます。
 ほかに何か御意見ございますでしょうか。
 中窪委員、お願いします。
○中窪委員 たびたびすみません。
 私も、複数の場合に、それぞれで計算したら金額が少し変わってくるというときに、労働者として解消する場合に、例えば②を選択して、この金額を請求したことに対して、判決として②に基づく解消金を命じる。これは、1つあり得ると思うのです。ですから、そこはどういうふうに設計するかだと思うのですけれども、他方で、さっき申しましたように、①の無効解雇がなければ、そもそもこういう一連の問題は起きなかったという意味では、ここが出発点になって、だからこそ就労もさせてもらえず、しかし労働契約は実は存続しているという状態ができているわけなので、ナチュラルな感覚として①を基準にしつつ、算定に当たっては、より有利なところを考慮して金額を命じるということはあり得るかなと、補足としてそういうふうに思いました。 
○山川座長 ありがとうございます。
 ほかはいかがでしょうか。
 垣内委員、どうぞ。
○垣内委員 すみません、たびたび失礼いたします。垣内です。
 先ほど山川先生から分析いただいたように、複数の問題、2つの問題が含まれているということかと思います。それで、先ほどの発言では、私、十分整理できていなかったかなと思うのですけれども、例えば300万と400万の可能性がある場合に、最終的にどういう判決が出ることになるのかということは、これは先ほど少し言及しました、訴訟物をどう考えるかとか、あるいは訴訟物が複数であるとして、その併合形態がどうなっているかといったことに関連する問題かと思われます。
 訴訟物としては別だけれども、したがって、併合になるけれども、選択的併合であるということで考えますと、恐らく300万と400万と両方あるときに、これは請求の趣旨がもともとどう書かれるのかということも問題かと思われますけれども、恐らく400万ということを事前に想定しているのであれば、400万払えということで判決を求めていって、請求訴訟物としては、2つの解雇の意思表示に基づく解消金請求権が主張されているけれども、そのうち400万円の金額が認められるものが認められれば、請求認容の判決がされて、300万円のほうについては判決されない、選択的ですので、そちらは対象にならないという形になるでしょう。
 訴訟物が1個であるということであれば、400万円払えという判決を、恐らく原告の請求への応答としてはすると考えれば、2つ、300万円払え、400万円払えというのが両方出て、後で請求異議ということは心配しなくてもいいということになるのかなという感じがいたします。
 若干、先ほどの発言への補足として発言させていただきました。以上です。
○山川座長 クリアな御説明ありがとうございました。
 何かほかの委員からございますでしょうか。
 先ほどの垣内委員の御説明で詐害行為取消の最高裁判例が非常に興味深いところで、原因が幾つかあったようでも訴訟物は1つだということで、それだとシンプルな構成になるかなという感じがします。多分、形成判決構成の場合はそれが割とやりやすくて、無効な解雇がなされた労働契約上の地位みたいなものを形成原因と捉えれば、何回解雇があっても形成原因は1つと考えられる。主張立証の対象はもちろんいろいろあるわけですけれども、形成権構成のほうがやや説明が難しくなるかと思いますけれども、先ほどの詐害行為取消の説明からすると、不可能ではないのかなという感じがします。
 ここからは個人的なコメントですけれども、訴訟物が複数になって判決が複数になりうるというのは、やや複雑になるかなという感じがしまして、これまでかなり複雑な話になっていますので、なるべくシンプルなほうが法技術的にもよろしいのかなという感じもしたところです。理論的に無理がないということであればですけれどもね。
 すみません、私のコメントになってしまいましたけれども、ほかに何かございますでしょうか。
 神吉委員、お願いします。
○神吉委員 ありがとうございます。
 垣内先生の御説明、非常にクリアで、それでも多少自信がないので、ちょっと確認させていただきたいと思いました。
 訴訟物として複数あるのだけれども、選択的併合の話になっていくのか、それとも訴訟物を1個と考えるかというのは、これは解釈問題になるということで、実体法としてどういうふうにいくのかということと直接関係ないということなのでしょうか。そうだとしたときに、山川先生がおっしゃったように、訴訟物は1つであると考えて、その方向で整理するほうが分かりやすいということはあるのかなと私も思いました。
 その根拠を考えていったときに、1つは、中窪先生がおっしゃったように、紛争として見れば1つであるという考え方と、もう一つは、労働者として解消の対象となる地位が1つであるという、そのどっちもありますし、どちらもあるということなのかもしれません。そうすると、1つ、労働者が選択した解雇で、その他の前後の解雇があるとしても、それらを付随事情として解消金の算定などに考慮されていくというのが1つの方法なのかなと思いました。
 複数あるときに、有利なものを選ぶというときに、300万と400万の例がありましたけれども、それも実際には観念的には並立しているように見えるのだけれども、こっちで訴えたら300万取れそう、こっちで訴えれば400万取れそうという意味での並立なのかなと思っておりまして、それは判定の場合の考慮要素の組み方にもよるかもしれませんけれども、例えば勤続年数などを考えていったときに、どちらも勤続15年対価のものとしてあり得るか。片方だけを選択すれば、もちろんそういうことになるかもしれないのですが、両立するというのは考えにくいのかなというのが1つあります。
 いずれにせよ、最終的には1つと考えて、付随事情として、その上乗せないしマイナスとして考慮されるという点では、先生方の御意見は共通しているのかなと思いました。ですので、実態上、どういうふうに組むのかというのは別問題としてあるのかもしれませんけれども、それを運用していく、実際実務に持っていくときに、様々な行政的手法で、そういった詐害行為取消の最高裁判決なども考慮して、こういうふうに解釈することが望ましいという指針を出していくとか、そういう方向になるのかなと考えました。
 以上です。
○山川座長 ありがとうございます。この点も、先ほど申し上げたこととの関係では、制度の基本的な位置づけとかイメージをどのようなものとして設計するのかという点が影響を及ぼしてくるような感じがいたします。
ほかに御質問、御意見等ありますでしょうか。
ございませんでしたら、最後、雇止めもやや難しい話が出てきますが、論点E、Fについても御議論いただければと思います。
 中窪委員、どうぞ。
○中窪委員 これについても、私は頭が単純なものですから、先ほどの複数の解雇の場合と同じように、もともと問題になった雇止めが一番最初に起きていますので、ここが基本になって、雇止め法理というのは結局解雇法理の類推ということになっていますけれども、これと同じような形に扱って、その後、期間満了が来るにしても、ある意味解雇と同じように、最初の雇止めがあった時点で無効な解雇が行われたと同じように扱うほうが、理解しやすく、制度としてもシンプルになるのではないかなと思っております。もちろん、その途中でいろいろな問題が起きて変化があった場合に、解消金の額をどういうふうに算定するかということについては、別の考慮があり得ますけれども、基本としては最初の雇止めかなと思っております。
○山川座長 ありがとうございます。基本的に解雇と同様に考えることができる、あるいは適切ではないかというお話として伺いました。
 ほかにいかがでしょうか。
 小西委員、お願いします。
○小西委員 小西です。
 私も中窪先生のように考えたほうが、シンプルで分かりやすいかなと思っております。有期労働契約の雇止めの場合には、今日の資料にも載せていただいていますけれども、労働契約法の19条で法律でも定められているところで、下線も引っ張っていただいていますが、従前の労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件ということも書かれているということもあったりしますので。特に、先ほどの解雇の場合は、途中で解雇の態様とか、そういうことが問題になるケースだったかと思いますが、この2ページ目で予定されているのは、その後、解雇の態様とかが問題になるようなケースでもありませんので、当初の雇止めというものを基準に考えるという形でシンプルなほうが分かりやすいかなと考えております。
 以上です。
○山川座長 ありがとうございます。
 ほかにいかがでしょうか。
 垣内委員、お願いします。
○垣内委員 ありがとうございます。垣内です。
 私も実質的な方向については、今、中窪先生、小西先生が御指摘のようなことではないかと考えております。
 そうしたときに、2点、整理と申しますか、考える必要があるかなと思われる点としまして、資料の論点Eの前段に書かれておりますように、まず、解消金債権あるいは形成権そのものということが考えられるかもしれませんけれども、これが雇止めがされた時点での直近の労働契約の期間満了等によって消滅しないということがまず必要で、これが更新後も存続しているということが前提になるだろうと思います。
 そして、最終的に解消金が支払われるというときに、それによって労働契約が終了するわけですけれども、そこで終了する労働契約というのは一般的な場合とは少し異なりまして、解消金支払の時点における更新後の労働契約が終了するという効果が生ずることになるということですので、解消金債権あるいは形成権が更新等によって存続を妨げられない、消滅しないということと、効果として終了するのは支払時における労働契約であるということが、この場合、一般の場合と比べて少し特殊なところということになるかと思いますので、これらの点が条文上であるのか、その他の場合であるのか分かりませんけれども、明確にできれば、今、先生方が御示唆されたような方向での規律というものを実現することが可能で、実質的にはそれが合理的ではないかと考えております。
 以上です。
○山川座長 ありがとうございます。
 先ほど鹿野委員から、解雇のときに複数回のうち、形成権構成の場合ですけれども、選んで主張するというお話があったと思いますが、この点、雇止めの場合はどうなりますでしょうか。こちらから積極的に質問するのもややどうかなという気もしますけれども、先ほどの議論との関係で。
○鹿野委員 私でしょうか。
○山川座長 解雇について、性格の違う無効解雇がなされた場合に選択できるかについて御指摘があったと思いますけれども、雇止めについてもそういうことはあり得るという感じでしょうか。
○鹿野委員 その点を特に考えていたわけではないのですが、雇止めについては、最初の無効の雇止めというものがあって、それをまず基準にするということで基本はいいのではないかと思うのですけれども、その後の何らか違うところを選択するという余地とそのことのメリットが労働者側にもしあるとすると、それは先ほどの問題についてどういうふうに考えるかということと、ある程度整合性を取った形で検討しなければいけないとは思っております。
○山川座長 ありがとうございます。解雇と違って、雇止めの場合は期間満了で終了ということなので、それぞれの行為ごとで違いが目立つことはそんなにないかなという感じはします。
 すみません、中窪委員、お願いします。
○中窪委員 私、先ほど少し不正確に言ってしまったのですけれども、複数の解雇の場合と同じようにではなくて、むしろ最初の1の状況と同じ、1回解雇があった場合に、無効であった場合に基本的に準ずると考えております。その後の更新というのは、もともと雇止め法理が適用されるということで、実質的に無期と同じ、あるいは合理的な期待があるということが満たされていることになりますので、そこは1の場合と基本的に同じではないかと思っております。
 契約が確かに変わっているのですけれども、更新されても同じ内容で続いていくということなので、あとは、要素の算定に当たって、何かより有利な状況になった場合にどうするかという問題は別途あると思うのですが、それは基準1の場合と同じであるということで、すみません、先ほどちょっと不正確でしたので修正させていただきます。
○山川座長 ありがとうございました。よりクリアにしていただきました。
 ほかに御意見等ございますか。
 多分、先ほどの垣内委員の御意見と中窪委員の今の御意見と、共通している面があると思いますけれども、有期契約の場合は、一応契約は雇止めが無効になるというよりは、更新されていくということですので、形式上は別の労働契約なのですけれども、実質的には同じ契約が存続していくということで、これは先ほどの解雇のところで2番目で申し上げた、訴訟物が幾つかということとも関連しているような気がしまして、有期契約が幾つもあるからといって、別にそれぞれについて請求権が発生するとか訴訟物が別だということには、先ほどの議論からするとならないのかなという感じがいたします。
 判決があったかどうか分かりませんけれども、たしか我妻先生の教科書だったか、賃貸借契約が更新されても、訴訟物といいますか、権利としては実質的に同一だという記述があったような記憶がかすかにあるのですけれども、それと似たような感じで、同一の条件で更新されるということは、実質的に権利は1つのものと見るということは可能かなと思ったところです。
 ただ、更新限度条項か何かがあって、それで雇止め後でも、どのみち更新限度条項に引っかかって契約が終了するという場合は、また別途あり得るかもしれませんけれども、それはちょっと別の実体法上の問題になり得るのかなと思います。
 神吉委員、お願いします。
○神吉委員 ありがとうございます。
 質問なのですけれども、最初の雇止めのところで発生した解消金請求権が承継されていくようなイメージというのは、多分共通しているのかなと思いつつ、その構成がちょっとよく分からなくなったのですけれども、それは訴訟法上、訴訟物が同じであるという見方だからということなのか、それとも19条の労働条件が同一で続いていくという絶対的なところからの解釈としてもできるものなのか、それはどうなのでしょうか。労働条件となっていますけれども、いわゆる内包されている瑕疵みたいなものも承継されているという解釈になり得るのかどうなのか。すみません、ちょっと分かりにくくて。
○山川座長 ありがとうございます。私もそれは考えていたところですが、またこちらから積極的にお伺いするようなことで申し訳ありませんけれども、御専門の垣内先生、今の点、いかがでしょうか。
○垣内委員 垣内です。
 私、先ほどの発言で何となく想定しておりましたのは、最初の雇止めがされたけれども、更新がされるというときに、この制度の下で発生する形成権と、その行使に基づいて発生する解消金債権があって、それはその後、更新が固められていったとしても同一の債権として存続していく。しかし、その効果としては、解消金支払時の契約終了という効果が発生するということで、そうすると、実体法上も権利は1つという場合を想定しております。契約更新によって、期間ごとに異なる労働契約が形式的にはあるとしても、解消金債権は1個ということで考えられるのではないか。
 これに対して、3と2の場合を組み合わせるようなことで、雇止めに加えて、期間中の解雇とか、また雇止めとか、そういうものが複数入ってきたらどうなるかというのは、これは2の場合に準じて、また考えるということになるのかなと理解しております。
○山川座長 神吉委員、よろしいでしょうか。
 実体法上の理解が訴訟物にも反映するということになるということでよろしいのでしょうか。
○垣内委員 実体法上の請求権が1つであれば、これは訴訟物としても1つということになるかと思います。
○山川座長 ありがとうございます。
 ほかに何かございますか。今のお話も、形成権構成の場合を前提としていて、形成判決構成ですと、多分無効というか、許されない雇止めがなされた労働契約上の地位みたいなことを形成原因として考えていけば、比較的シンプルに、どの雇止めを問題にするかはまた別の話としてあり得るのかなと感じたところです。
 中窪委員、お願いします。
○中窪委員 今のとは少し別の話になるのですけれども、無効な雇止めというのは、確かに俗に使われている言葉なので、正確には、この労働契約法19条によって申込みを承諾したものとみなすという形で労働契約が更新されることを言ってくるわけです。これはある意味、従来の判例を無理やりに条文化したという面があるわけですけれども、その関係でやや気になりましたのは、資料4の権利の行使要件のところです。無期の解雇の場合と、期間途中の解雇の場合と、雇止めの場合が並べて書いてありまして、権利の行使要件の欄で、今回、その他法律上の制限により無効であることというのが、無期の場合の解雇と期間途中の解雇に加えられました。期間途中の解雇も、やむを得ない事由だけじゃなくて、法律上の制限に引っかかるという場合も確かに無効になると思いますので、それは結構だと思います。
 そうすると、雇止めについても、19条のどちかに該当する状態で更新拒絶があって、それが合理的な理由を欠き、社会通念で相当であると認められないときだけではなくて、法律の制限に反する場合もあるのではないでしょうか。例えば妊娠したからといって雇止めするとか、労基署に申告したからとか、そういう違法な理由で雇止めがなされた場合、やはりその雇止めは向こうで労働契約が更新され、解消金の対象になると思います。それも合理的理由がなく社会通念上、相当でないということに入ってくるとは思うのですけれども、労働契約法の条文はそれを書いていないものですから、ここの中に入れていいのかどうか。あるいは、それとは別に、雇止めそのものが法律上許されない事由によるときと、別に書くのか、考えていくとよく分からなくなったのですけれども、いかがでしょうか。
○山川座長 ありがとうございます。
 私のほうから若干コメントしますと、実は事務局との間で、この点、議論しているところでして、法律上、雇止めが許されないというか、何かの法律に違反する場合であっても、1号、2号の要件を満たさないと、多分更新の効果というのは発生しないことになると思います。その場合には、合理的な理由を欠きとか、社会通念上相当とはいえないということで、中窪委員御指摘のように、この要件を満たすということに、普通はなると思います。
 しかし、19条とは別に、合理的期待等の要件が満たされた場合で、法律上許されない、強行法規に違反するような雇止めがなされた場合にも、なお従来の判例法理のような形で更新がなされるということもあり得るのかなと私としては思っていまして、例えば、ややシチュエーションが違いますけれども、高年齢者の再雇用の問題についても、19条の条文そのものが適用されない場合でも、更新といいますか、再雇用契約が認められる場合もありますので、そこは、もし報告書に記載する場合には、19条に厳密に該当しない場合も含まれるということを何らかの形で示すことは考えられるのかなと、今のところは思っております。
○中窪委員 確かに、1号、2号、どっちかに当たって、初めて労働契約の更新というものが出てくるけれど、強行法規違反の場合には下敷きとなっている従来の判例法理に依拠する余地があるかというのは、おっしゃるとおりだと思います。そこをこの枠組みの中でどういうふうに書くか、非常に難しいですが、例えば注記というのも1つあり得ると思いますので、引き続き御検討をよろしくお願いします。
 ありがとうございました。
○山川座長 ありがとうございます。確かに注記という形もあり得るかと思います。大変ありがとうございました。
 すみません、もう時間になっておりますけれども、ほかに何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。
 また何か追加でございましたら、事務局宛てにお寄せいただければと思います。
 大変申し訳ありませんけれども、非常に有益な御意見を多々いただきました。予定の時刻に既になっておりますので、本日の議論はここまでにさせていただきたいと思います。
 構成をシンプルにするといった新たな視点も出てきたところですので、本日いただいた御意見を踏まえて、さらに事務局のほうで資料の修正をお願いしたいと思います。
 それでは、特に委員の皆様からございませんようでしたら、次回の日程等について事務局からお願いします。
○宮田労働関係法課課長補佐 次回の日程につきましては、現在調整中でございます。確定次第、開催場所と併せて御連絡させていただきます。
○山川座長 ありがとうございました。
 それでは、これで第14回「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を終了いたします。
 本日はお忙しい中、お集まりいただきまして、大変ありがとうございました。
 

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