2021年7月1日 令和3年第2回目安に関する小委員会 議事録

日時

令和3年7月1日(木) 13:00~15:45

場所

三田共用会議所第四特別会議室(4階)

出席者

公益代表委員
 藤村委員長、鹿住委員、小西委員、中窪委員
労働者代表委員
 伊藤委員、小原委員、冨田委員、永井委員
使用者代表委員
 大下委員、佐久間委員、高原委員、新田委員
事務局
 大塚賃金課長、小城主任中央賃金指導官、尾崎賃金課長補佐、長山賃金課長補佐

議題

令和3年度地域別最低賃金額改定の目安について

議事

(第1回全体会議)
 
○藤村委員長
 ただいまから第2回目安に関する小委員会を開催いたします。会議が始まります前に、前経団連会長の中西さんが御逝去されたということで、心から哀悼の意を表したいと思います。
 まず、お手元の資料について、事務局から御説明をお願いいたします。
 
○尾崎賃金課長補佐
 本日はお手元の資料のほかに、各種団体の要望書の一部を回覧していますので、適宜御参照いただければと思います。次に配布資料ですが、No.1からNo.5、参考資料があります。こちらは一気通貫で御説明させていただければと思います。
 それでは資料No.1を御覧ください。令和3年賃金改定状況調査の結果です。1ページは、調査の概要です。資料の真ん中を御覧ください。調査事業所数は約1万6,000事業所、集計事業所数は約5,000事業所、回収率は31.9%と昨年の30.7%と同水準となっています。
 下段の5を御覧ください。調査事項は、例年どおり昨年6月と本年6月の基本給、諸手当や労働日数、労働時間等を調査しています。そこから賃金上昇率等を算出しています。
 3ページ目の第1表を御覧ください。こちらは今年の1月から6月までに賃金の引上げ、引下げを実施した、あるいは実施しなかったという区分で、事業所単位で集計したものです。左上の産業・ランク計を御覧ください。1月から6月までに賃金の引上げを実施した事業所の割合は36.3%となっていまして、昨年よりも低下しています。隣の賃金の引下げを実施した事業所割合は1.5%となっていまして、昨年と同水準です。それから更に隣ですが、1月から6月までに賃金改定を実施しない事業所のうち、7月以降も賃金改定を実施しない事業所の割合は48.8%、7月以降に賃金改定を実施する予定の事業所の割合は13.5%となっています。
 産業別に見ますと、1月から6月までに賃金の引上げを実施した事業所の割合は製造業、医療、福祉で昨年より上昇、その他の産業では低下しています。
 4ページの第2表を御覧ください。回答のあった平均賃金改定率を事業所単位で集計したものです。左下の産業・ランク計を御覧ください。賃金引上げを実施した事業所の平均賃金改定率は3.0%と、昨年と比べて上昇しています。真ん中の賃金引下げを実施した事業所は-14.0%、一番右の改定を実施した事業所と実施しなかった事業所を併せて全体を平均した平均賃金改定率、こちらは0.9%となっています。
 5ページ目の第3表を御覧ください。賃金引上げを実施した事業所の賃金引上げ率の分布の特性値です。産業・ランク計を見ていただきますと、第1・四分位数が1.0%、第3・四分位数が3.0%、こちらは昨年と同程度ですが、中位数が1.7%ということで昨年の2.0%から低下しています。
 続いて、6ページ目の第4表を御覧ください。こちらは賃金上昇率についてです。第4表の①は男女別の内訳を示しています。こちらの産業・男女計を御覧ください。ランク計の賃金上昇率は0.3%で、昨年から低下しています。ランク別で見ますと、Aランクでは0.3%、Bが-0.1%、Cが0.6%、Dが0.4%となっており、いずれのランクでも昨年から低下しています。
 男女計で産業ごとに見ますと、製造業が1.0%、卸売業、小売業が0.4%、学術研究、専門・技術サービス業が-0.5%、宿泊業、飲食サービス業が0.0%、生活関連サービス業、娯楽業が0.0%、医療、福祉が0.8%、サービス業(ほかに分類されないもの)は0.6%となっています。
 男女別の賃金上昇率を見ますと、産業・ランク計で男性が0.1%、女性が0.6%で、男女とも昨年よりも低下しています。
 次に7ページの第4表②です。一般・パート別の賃金上昇率です。こちら産業・ランク計で見ますと、中段の一般労働者は0.3%、下段のパートは0.2%ということで、ともに昨年よりも低下しています。
 8ページは、賃金改定の実施時期別の事業所数の割合をお示ししています。9ページは、こちらは事由別の賃金改定未実施事業所の割合を参考表として付けています。10ページを御覧ください。こちらは、この調査における労働者構成比率と年間所定労働日数も付けています。適宜、御参照いただければと思います。資料No.1の説明は以上です。
 続いて、資料No.2を御覧ください。生活保護と最低賃金の比較についてです。1ページ目を御覧ください。生活保護水準と最低賃金額との関係を示したグラフで、ともに令和元年度のデータに基づくものになります。右上にグラフの説明がありますが、波線の三角は生活保護水準で、生活扶助基準の人口加重平均に住宅扶助実績値を加えたものになります。実線でひし形のものは最低賃金額で、法定労働時間働いた場合の手取り額を示しています。グラフを御覧いただきますと、全ての都道府県において最低賃金が生活保護水準を上回っています。
 続いて2ページ目ですが、こちらは1ページの最低賃金のグラフを令和2年度のものに更新したものになります。こちらも同様に、全ての都道府県において最低賃金が生活保護水準を上回っています。
 次に3ページ目です。47都道府県について、最新の乖離額を示すとともに、その乖離額の変動についての要因を分析したものになります。列のCを御覧ください。2ページのグラフでお示しした乖離額を時間額に換算したものです。列のDの額が、昨年度の目安小委でお示しした乖離額です。こちらの三角(マイナス)は最低賃金額が、生活保護水準を上回っているということを示すものになります。そして、列Eに示した額が昨年度から今年度の乖離額の変動分になります。こちら乖離額が変動した要因として、右側の所ですが、1つ目は昨年度の最低賃金の引上げ、2つ目は可処分所得割合の変化、3つ目は生活保護扶助基準の見直し、最後に住宅扶助実績値の増減があります。今年度に関して申し上げますと、eの①にある最低賃金の引上げよりも、eの③の生活扶助基準の見直しの影響が大きくなっています。
 続いて、資料No.3を御覧ください。地域別最低賃金額、影響率及び未満率に関する資料です。第1回の目安小委では全国計の数字について御説明しましたが、今回はランク別、都道府県別の数値を記載しています。1ページは、過去10年間の推移を「最低賃金に関する基礎調査」に基づき示したものです。一番右の列が令和2年度となります。
 未満率に関して申し上げますと、Aで2.4%、Bで1.5%、Cで1.8%、Dで1.8%、ランク計としては2.0%となっています。
 影響率について見ますと、Aが4.5%、Bが3.4%、Cが4.5%、Dが6.9%、ランク計としては4.7%となっています。
 次の2~3ページは、未満率と影響率の都道府県別のグラフです。2ページは、最低賃金に関する基礎調査に基づく未満率と影響率の都道府県別のグラフです。上の波線の影響率は青森が最も高く、京都が最も低くなっています。下の実線は未満率ですが、こちらは北海道が一番高く、鳥取が一番低くなっています。
 3ページは、2ページと同様のグラフを賃金構造基本統計調査に基づいて示したものです。上の波線の影響率では、青森県が最も高く、長野が最も低くなっています。下の実線の未満率では、青森と大阪が最も高く、徳島が最も低くなっています。
 続いて、資料No.4を御覧ください。こちらは令和2年の賃金構造基本統計調査を基に、各都道府県別の賃金分布を示したものです。目次ですが、一般・短時間計、一般、短時間の順でそれぞれAランクからDランクまで総合指数の順に都道府県を並べています。最頻値と最低賃金額との関係、あるいは張り付きの具合については、影響率や未満率と同様に同一ランクの中でも異なった傾向が見られるところです。個別の紹介については、割愛させていただきますが、適宜御参照いただければと思います。
 続いて、資料No.5を御覧ください。最新の経済指標の動向です。こちらは、最新の経済指標の動向を客観的に示すものとして、本年も昨年までと同様、内閣府月例経済報告の主要経済指標を提出させていただいています。主立った指標については、第1回の目安小委で主要統計資料の中で御説明させていただいたところですので、個別の御説明は割愛させていただきますが、適宜御参照いただければと思います。
 最後になりますが、参考資料を御覧ください。こちらは委員の皆様から御要望のありました資料をまとめたものです。
 2ページ目は目次になります。この参考資料は、基本的に前回の目安小委で御要望いただいた資料ですが、真ん中辺りに雇用調整助成金の関係の資料があります。こちらは先日の全員協議会で要望のあった資料になります。前回の目安小委の後に公表された資料ということで、今回併せて提出させていただくことにしました。
 3ページ目を御覧ください。こちらは高卒初任給の関係の資料です。前回の目安小委では、労政時報の初任給のデータについて、上昇額と率の形でお示ししましたが、実額を把握できる資料ということで御要望がありました。令和3年度は、高卒、事務・技術について基幹職・補助職で差がない一律の場合ですが、こちらは17万2,049円となっています。
 4ページ、5ページは、パートタイム労働者の募集賃金の資料です。注書にはありますが、ハローワークの求人票の募集賃金の欄は、上限額と下限額を記載する形式となっています。4ページは上下限の平均額、5ページは下限額を示した資料になります。いずれも令和2年の平均のほか、直近の令和3年3月、4月のデータを掲載しています。都道府県ごとにばらつきがありますが、一番下の所の全国計を見ていただきますと、4ページの平均額は1,080円台で推移しています。次に5ページの下限額は1,020円台で推移しています。
 続いて、6ページですが、地域別最低賃金の最高額と最低額の推移を、時間額に統一された平成14年以降のデータを載せています。
 7ページです。都道府県別の新規求人数の水準の推移です。前回は新規求人数について、足下の3か月とコロナ前の3か月を比較した資料をお示ししたところですが、その間の推移が把握できる資料について御要望がありました。こちらの資料は、2020年1月を100とした場合の推移を示しています。一番上の全国計を御覧ください。2020年4月は78.1、5月は84.8となっており、その後、上下はありますが、足下の3、4月には94.0、90.0となっています。
 表の下のほうにABCDランクでまとめています。Aランクでは昨年4、5月の落ち込みも大きかった分、足下の今年4月に関しては84.0と相対的に低くなっています。Dランクについては、足下では99.6とおおむね2020年1月の水準に戻っています。
 8ページは、今、申し上げたABCDランクの推移をグラフ化したものになります。
 続いて、9ページです。厚生労働省の助成金に関する執行状況です。執行率に関して申し上げますと、業務改善助成金は31.8%、働き方改革推進助成金は89.6%となっています。
 続いて、10ページから26ページは、内閣府から東京商工リサーチが請け負って実施した調査の結果です。11ページの上のほうですが、この調査は今年の2月から3月に実施された中小企業へのWebアンケートに基づくものとなります。11ページの下のほうに主な結果が掲載されていますので、後ほど御参照いただければと思います。
 24ページですが、こちらは委員から特に御指摘がありました支援策の利用度・認知度に関する調査です。表の真ん中辺りですが、業務改善助成金について「知らない」とする割合は52.9%、一番下の働き方改革推進助成金については49.6%となっています。
 続いて、27ページを御覧ください。こちらは新型コロナウイルス感染症の影響により、名目支出額に大きな変動が見られた主な品目です。右側から2019、2020、2021年の4月の状況が並べられていますが、支出が減少しているのは食事代や飲酒代、交通費、宿泊料などです。一方で支出が増加しているのは、食材、保健用消耗品、インターネット接続料などです。
 続いて、28ページから31ページは雇用調整助成金の支給決定額に関する資料です。28ページは産業大分類ですので、29ページの産業中分類別の支給決定額を御覧ください。こちらの産業中分類で見ますと、雇用調整助成金は飲食店、宿泊業、道路旅客運送業の順に多くなっています。また、雇用保険の被保険者以外を対象とした緊急雇用安定助成金に関しては、飲食店、その他の事業サービス業、宿泊業の順に多くなっています。
 30ページ目ですが、こちらは都道府県別の支給決定額です。2つの助成金ともに、東京が一番多く、次いで大阪、愛知の順になっています。
 31ページは、企業規模別の支給決定額です。こちらも2つの助成金ともに、8割以上が中小企業の支給決定額ということになっています。
 32ページを御覧ください。産業別の売上高営業利益率の推移です。前回は、33ページの売上高経常利益率の推移をお示ししたところ、経常利益には営業外利益として補助金などが含まれますので、営業利益率について御要望いただいたところです。経常利益と比較しますと、どの年でも全体的に数値は低くなっていますが、トレンドとしては令和2年4月~6月期、7月~9月期に落ち込みまして、10月~12月期、令和3年1月~3月期に回復してきているというような傾向には変わりはありません。また経常利益率と同様に、一部の業種ではマイナスが続いています。
 34ページを御覧ください。こちらは資本金階級別の労働分配率の推移です。規模計を御覧ください。特に令和2年4月から6月期には、一時的に労働分配率が上昇しています。ただ、令和2年の10から12月期、令和3年の1から3月期といった足下では、労働分配率はおおむね低下傾向となっています。
 35ページは、骨太の方針の中で「感染症の影響で賃金格差が広がる中」でと記載されていることに関する資料です。この点については、経済財政諮問会議に提出された資料をお付けしています。内閣府に確認したところ、この骨太の表現は通常の意味での賃金格差というものでもなく、右側の図の表10のとおり、昨年度、今年度と春闘で賃上げがなされているのに対し、昨年の最低賃金は0.1%の引上げにとどまったということで、最低賃金と一般労働者の賃金との間に差が生じている、こういった趣旨であるということです。
 最後に、36ページと37ページは、希望する高齢者に対するワクチン接種の終了時期の見込みに関する自治体からの回答です。全ての自治体で、7月末までに希望する高齢者向けの接種が終了する、こういった見込みの結果になっています。事務局からの資料の説明は以上です。
 
○藤村委員長
 どうもありがとうございました。では、今御説明いただきました資料の内容について、御質問がありましたらお願いいたします。労働側、使用者側、特にございませんか。よろしいですか。ないようですので、配布資料に関する議論は以上といたします。
 次に、前回、委員の皆様にお願いしたとおり、目安についての基本的な考え方を表明いただきたいと思います。はじめに、労働者側委員からお願いいたします。
 
○冨田委員
 基本的な考え方を述べる前に、今御説明いただきました参考資料、それから様々な資料に関し、労働側から大変に多くの参考資料を求めさせていただいた中、短期間で資料を御準備いただいた事務局のご努力に御礼を申し上げさせていただきたいと思います。
改めまして、本年度の目安審議に臨むに当たっての労働側の見解を述べさせていただきたいと思います。私から、総括的見解を3点述べさせていただいた上で、労働側の各委員から補強的見解を述べさせていただきたいと思います。
 まず1点目ですが、本年の審議においては、環境変化を見極めた議論が必要である、という点です。現在もコロナ禍は予断を許さない状況であり、広範に蔓延防止等重点措置が継続される中にあって、依然として生活実態が厳しい状況にあることに変わりはありません。しかし、コロナ禍が始まって1年余が経過した今、先行きを見通す環境は確実に変化していると考えています。特に、昨年度と決定的に異なるのはワクチンの接種です。本日の参考資料にもありましたとおり、国内のワクチン接種は着実に進み、政府は希望者全員への接種も10月から11月に終える目標を掲げておられます。世界経済は、ワクチン接種率の高い国ほど着実に回復基調の道を歩んでおり、国内経済においても2021年の政府経済見通しでは、本年度中にコロナ禍前のGDP水準に回復することが見込まれております。そうした中、我が国において、経済回復の鍵を握るのは、内需の大半を占める個人消費の拡大であり、消費喚起の原動力は、将来不安の払拭と賃金であることは言うまでもありません。また、雇用情勢についても、雇用を維持するという経営者の固い決意と、雇用調整助成金の特例措置などをはじめとする政策の総動員により、リーマンショック時と比べても落ち込み幅が抑制され、回復のスピードも上がっております。昨年度の審議では、休業者数の増加や有効求人倍率の低下、失業率の上昇などから、感染症が雇用に与える影響を注視する必要があるとされましたが、主要統計資料を見る限り今年度においてはその傾向は見られないと受け止めています。さらに、中小零細企業が賃上げしやすい環境整備についても、価格転嫁策の強化や業務改善助成金など各種支援策の拡充なども示されています。本年度の目安審議では、こうした昨年度と明らかに異なる環境変化をしっかりと見極めた上で議論を尽くす必要があると考えています。
 2点目は、最低賃金法第1条に基づいた議論をするべきである、という点です。昨年の審議会でも申し上げましたが、最低賃金を改定しないことは、社会不安を増大させ、格差を是認することと同義であり、中賃の役割からしてあってはならないことであると思っています。コロナ禍の影響により、最低賃金近傍で働く労働者の生活困窮度は深刻さを増しています。さらに、コロナ禍の影響はリーマンショック時とは異なり、いわゆる非正規雇用の女性の労働者ほど深刻であり、連合の労働相談にも、解雇や勤務日数の減少により収入が激減しているといった声が日々寄せられています。また、5月に連合が実施したアンケート調査でも、「収入が減少し生活への影響があった」との回答が全体の4割弱を占めています。そもそも我が国の最低賃金は、世界と比して低位に置かれており、労働者の生活の安定にはほど遠い水準に置かれ続けています。加えて、昨年は中央で目安を示すことができなかったため、引上げ率は0.1%にとどまりました。一方で、連合の春季生活闘争集計では、昨年も今年も賃上げ率は2%近傍を維持しており、また例年、使用者側が重視される賃金改定状況調査の賃金上昇率もプラスを示しています。そうした状況にもかかわらず、最低賃金の引上げ率だけが低位に据え置かれているのであり、昨年、目安を示さなかったことが結果として最賃近傍で働く者とそれ以外の労働者の賃金格差拡大を是認したことは明らかではないでしょうか。本年は、これ以上、社会不安を増大させないためにも、中賃の役割に立ち帰り、最低賃金の確実な引上げにつながる有額の目安を示すことで社会安定のセーフティネットを促進し、最低賃金法第1条にある国民経済の健全な発展に寄与するという目的を達成しなければならないと考えます。この点を労働側として特に強く主張しておきたいと考えます。
 最後に、3点目は本年の具体的な引上げの方向性についてです。はじめに、最低賃金の額についてですが、労働側は「誰もが時給1,000円」の実現を目指し、2008年の円卓合意、2010年の雇用戦略対話を大事にし、2020年までに「800円未達の地域をなくすこと」、「トップランナーであるAランクは1,000円に到達すること」を繰り返し主張してまいりました。2020年を1年経過した本年は、その両方を達成する目安を示すべきだと考えています。次に、地域間格差の是正についてです。昨年は中央で目安が示せなかった中、正に地方の自主性が発揮された審議となりましたが、議論の状況を地方審議会の労働側委員に確認しますと、引上げを決めた40県では、隣県や大都市圏との金額差を意識した議論が引上げの根拠となったと聞いています。労働側としては、現在の最高額と最低額の221円差が地域の経済情勢などに見合った差であるのか、この点に最大の課題意識を持って臨んでまいりたいと思います。
 以上が総括的な3点の考え方です。この後、それぞれの委員から補強意見を述べさせていただきたいと思います。
 
○伊藤委員
 御指名ありがとうございます。私からは、我が国の最低賃金が抱える課題がコロナ禍によってなくなったわけではなく、むしろ最低賃金のセーフティネット機能としての脆弱性が顕在化したことから、今こそその解決を図るべきなのだということについて、発言させていただきたいと思います。
 まず、我が国の最低賃金が抱える第1の課題ですが、それは、先ほど冨田委員もお話しされたとおり、絶対水準の低さです。現在の地域別最低賃金は、最高額の1,013円をもってしても、2,000時間働いても年収200万円程度にすぎず、憲法第25条、労働基準法第1条、最低賃金法第1条の求める「健康で文化的な最低限度の生活を営む」に足る水準として十分とは言えません。そして、この水準は国際的に見ても非常に低位です。第1回目安小委員会の参考資料にもありましたが、最低賃金と平均賃金の中央値比較では、フランスが61%、イギリスは55%、ドイツが48%、これに対して日本は43%程度にとどまっており、日本の最低賃金は先進国でも最低レベルの水準です。加えて、世界的にコロナ禍に直面していた昨年度の引上げの状況を見ても、第1回目安小委員会の参考資料No.2の諸外国の最低賃金の状況報告書にあるとおり、諸外国では最低賃金が着実に引き上げられております。翻って我が国は、加重平均1円の引上げにとどまりました。これ以上の停滞は世界の動きから劣後する動きになっていくということです。我が国の最低賃金は、グローバルスタンダードも見据えつつ、誰もが健康で文化的な最低限の生活を営むのに足り、セーフティネットとしての十分な機能を果たし得るナショナルミニマムにふさわしい水準に引き上げていくべきであると考えております。
 第2の課題としては、地域間格差です。これまでも労働側は、最低賃金の地域間格差が隣県や都市部への労働力流出の一因となっていることを指摘してまいりました。超少子高齢化や労働力人口減少といった構造的な課題を抱える中、これ以上最低賃金の地域間格差を放置すれば、更なる労働力の流出につながることが明白であると考えております。さらに言えば、本年度の審議において配意が求められております「骨太方針2021」では、4つある柱の中の「日本全体を元気にする活力ある地方づくり~新たな地方創生の展開と分散型国づくり~」の中で最低賃金が言及されており、方向感として、「地域間格差にも配慮しながら」という文言が記されております。東京一極集中是正の観点からも、地域間格差の是正はもはや喫緊の課題であると考えております。昨年の地方審議会の審議結果を見ても分かるように、各地域は懸命に地域間格差の是正に向けて努力しています。これらを踏まえ、本年度も地域間格差の縮小の歩みを確実に進めるべきと考えております。私からは以上です。
 
○永井委員
 続いて私より、働く者の思いや実態を受け止めるべきという視点から述べさせていただきたいと思っております。大きく分けて2点述べます。
1点目は、コロナ禍で懸命に働く労働者の努力に報いるべきだということです。この1年、私たち労働者は、それぞれの職場で、感染症拡大防止に取り組みながら懸命に働いてまいりました。医療、介護の皆様は元より、社会生活を支える職場で働くいわゆるエッセンシャルワーカーは、日々見えない感染の恐怖や不安だけでなく、お客様対応による精神的な不安とも闘いながら、文字どおり命を懸けて働き続けております。残念ながらそうした方の中には、処遇が高くない方も少なくなく、もともと時給で働いている方も多く、最低賃金に強い関心を持っており、特に今年の動向を熱い期待を持って見守っていると認識しております。本年の春季生活闘争の連合の集計においても、中小企業や有期・短時間・契約等労働者の賃金は引上げが続いております。これは、昨年から続くコロナ禍の中でも、労使がそれぞれの立場で真摯に交渉を続けた結果だと認識しております。コロナ禍でも企業や社会機能を支えるために、使命感を持って懸命に働き続けている全ての労働者の努力に報いるためにも、こうした労使の判断を最低賃金の確実な引上げをもって波及させていくべきと考えます。
 2点目は、労働者の厳しい生活実態を直視すべきという視点です。冒頭、冨田委員も触れましたが、連合は5月に、労働組合員に限らず、一般の有期雇用や短時間で働く1,000人を対象にアンケート調査を実施いたしました。その中では、コロナ禍による生活への影響について、「収入が減少し生活への影響があった」との回答が4割弱を占めておりました。さらには、その対応策として、6割弱が生活費を切り詰めるとともに、3割強が貯蓄の切り崩しをして何とか生活している実態が明らかとなっています。さらに、本日、追加資料で総務省家計調査の追加参考図表をお示しいただきましたが、感染症対策としてマスクや手指消毒液にかかる費用などが、家計の恒常的な支出となっております。本年度の目安審議では、切り詰めることができないこれらの恒常的な支出増が最低賃金近傍で働く者の家計に大きな影響を与えていることも考慮すべきであると考えております。私からは以上です。
 
○藤村委員長
 小原さん、どうぞ。
 
○小原委員
 今、各委員から最低賃金引上げの必要性について述べさせていただきましたが、労働側としては、中小企業が賃上げしやすい環境整備も極めて重要だと考えておりますので、私からはその観点で意見を述べさせていただきたいと思います1点目は、各種施策の拡充と周知についてです。。
最低賃金引上げの支援策の1つに、賃金課が所管されている業務改善助成金があります。業務改善助成金については、利用者ニーズに応えた低額コースの新設や、活用事例の紹介、さらには、賃金課自らが企業を個別に訪問して周知に努力されてきたものと承知しています。電機連合としても、微力ながら業務改善助成金の情報が更新される都度、加盟組合向けサイトで発信してまいりました。しかし、本日の追加要望資料の9ページにあるとおり、残念ながら業務改善助成金の執行率は3割強にとどまっています。さらに、追加要望資料24ページ以降に示されている東京商工リサーチの調査によれば、業務改善助成金の認知度は5割を切っており、活用が進まない要因の1つに周知不足があると伺っております。なお、第1回目安小委員会の参考資料No.1の11ページに、6月8日に開催された「新型コロナに影響を受けた非正規雇用労働者等に対する緊急対策関係閣僚会議」の資料がありますが、会議の中では、総理が事業所内の最低時間給を引き上げるための助成を拡充すると御発言されたと伺っています。これは業務改善助成金の拡充を意図された御発言であると推察しております。併せて総理は、各省庁が連携して取り組むとも御発言されています。同じく11ページには、経済産業省の補助金事業などの支援策が記載されておりますが、こういった各種支援策の拡充と併せて、全省庁支援策をまとめて紹介することや、問合せや応募に対して自らの省庁の支援策に要件が合わなければ、他の省庁の合いそうな案件を紹介するといった各省庁が連携した周知の工夫、努力が必要であり、その点をお願いしたいと思います。
 2点目として、通常の事業の支払い能力を高める、「中小企業が価格転嫁できる環境整備」の観点で申し上げたいと思います。連合は、「働くことを軸とする安心社会」に向けた政策実現に取り組んでおり、2021年度の重点政策として、「経済・産業政策と雇用政策の一体的推進および中小企業への支援強化」をタイトルとして掲げ、サプライチェーン全体で産み出した付加価値の適正分配に取り組んでおります。また、連合を構成する私ども産別組織もそれぞれに取組を行っております。この取組の根幹は、中小企業が産み出した付加価値を確実に価格に転嫁できる環境の整備にあり、企業の健全かつ持続的な成長にあると思っています。第1回目安小委員会の参考資料No.1の9ページにありましたが、特に中小の製造業では取引先への価格転嫁が進まず、労働生産性が低迷し、また、同じ資料の11ページにあったように価格転嫁の協議すらできなかった企業が少なくない実態も浮き彫りになっています。こうした状況を踏まえ、労働側からは、「未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」において政労使で確認した「パートナーシップ構築推進宣言」の取組強化や宣言企業の更なる促進、価格交渉力の実態調査、官民契約における最低賃金引上げの価格転嫁の徹底といった、中小企業の価格転嫁力の実効性を高める取組を政府に強く求めたいと思います。
改めてこれらの取組を着実に推進していただくことを政府に要請させていただくとともに、本年の審議はこれらの政策展開を踏まえて論議させていただきたい、と考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
 
○冨田委員
 ありがとうございました。以上が本年の労働側の基本的考え方です。今年の審議の中でも公労使で真摯な議論を積み重ねて、誤りのない解を見い出していきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 
○藤村委員長
 どうもありがとうございました。それでは、引き続いて使用者側の委員からお願いしたいと思います。
 
○大下委員
 それでは、私から使用者側見解を述べさせていただき、後ほど他の委員から補足の発言をさせていただきたいと思います。初めに、中小企業を取り巻く環境について、現状認識を申し述べたいと思います。
 昨年の4月7日に、新型コロナウイルス感染拡大に伴う最初の緊急事態宣言が発令されてから、間もなく1年3か月が経とうとしています。この間、数次にわたる緊急事態宣言、ならびにまん延防止等重点措置の発出、延長、適用地域の拡大等がありまして、経済活動が大きく制限されてまいりました。今もなお、沖縄県が緊急事態宣言、東京をはじめ、10の都府県がまん延防止等重点措置の対象となっており、足下では大変残念ですが、東京を中心に感染の再拡大の兆候が見られ、いわゆる第5波の到来が懸念されているところであります。
 こうした1年余にわたる新型コロナウイルスによる影響の長期化は、中小企業の経営に極めて深刻な影響を与えております。一部に、巣ごもり需要等で好調な業種、業界が見られる一方で、特に「人の移動」に関わる宿泊・飲食、交通・運輸、これらの業種を中心に、依然として回復の見通しがつかず、極めて厳しい状況の企業が多いというのが実態です。
 多くの中小企業は、公的な融資や雇用調整助成金、あるいは各種給付金等の支援策を最大限に活用して、何とか「事業の継続」と「雇用の維持」に必死に取り組んできているところであります。しかしながら、地方自治体による休業の要請や営業時間の短縮要請など、経済活動が厳しく抑制された状況下では業況の回復は程遠く、企業によっては、もう我慢も限界である、こうした声も多く聞かれているところであります。
 中小企業庁の中小企業景況調査においても、本年4月~6月期の全産業の業況判断DIは-25.8、特に、宿泊業では-54.3、飲食業では-50.0と、依然として大幅なマイナスとなっております。
 金融機関等による中小企業向け貸出残高も大変増えてきています。このまま業況が十分に回復しない状態で返済が始まりますと、事業を建て直す上でも大きな負担になります。そもそも中小企業では、コストの価格転嫁が困難な状況であることに加えて、小規模企業では労働分配率が8割に達しております。コロナ禍の影響により、従前にも増して、賃金の支払い能力が乏しい状況にあることは明らかです。今後、ワクチンの接種が進んで、感染が終息に向かうことを心から期待しておりますが、先ほども申し上げましたとおり、足下では、残念ながら東京を中心に感染の再拡大が見られております。また、新たな変異株の流行・拡大も懸念されております。一切予断は許さない状況であるというように我々は認識しております。
 仮に今後、感染が収束して、「人の移動」に関する制限が緩和されてきたとしても、国内の経済活動が元に戻るには、一定の期間が必要ですし、コロナ前の経済を支えてきた海外需要の取り込み、特にインバウンドの回復は、更に時間を要することが想定されます。コロナ禍で影響が深刻な業種が、いつになれば以前の業況水準に回復することができるのか全く見通しがたたないというのが現状です。
 東京商工リサーチが6月に行った調査では、コロナ禍の収束が長引いた場合に、「廃業を検討する」と回答した企業の割合は、中小企業全体で8.2%と1割近く、また宿泊業、飲食業、生活関連サービス、これらの業種では3割を超えております。加えて、中小企業のうち「廃業を検討する可能性がある」と回答した企業のうち、「1年以内」と回答した企業は38.1%と、4割近くに及んでいます。中小企業、あるいはコロナ禍で大きなダメージを被った、こうした業種こそが最低賃金近傍で多くの労働者を雇用しています。仮に今年度、最賃が引上がるようなことがあれば、その影響が直撃し、雇用の削減や廃業につながることが、強く懸念されます。
こうした非常時とも言える極めて厳しい経済情勢のもとで行われる今年度の目安審議に対する基本認識について、次に申し上げたいと思います。 昨年度の答申では、コロナ禍の影響を踏まえ、「現行水準を維持することが適当」とされました。一方、その前の2016年度から2019年度までの4年間は、政府方針への配意から、「最低賃金を含めた賃金引上げにより所得、消費の拡大につなげる」との考え方に則り、企業収益の持続的な改善や生産性の向上が十分に伴わない中で、名目GDPの成長率、消費者物価、中小企業の賃上げ率といったデータを、大幅に上回る3%台の引上げが行われてまいりました。
 また、今般、閣議決定された「骨太の方針2021」においても、「感染症下での最低賃金を引上げてきた諸外国の取組も参考にして、感染症拡大前に我が国で引上げてきた実績を踏まえて、地域間格差にも配慮しながら、より早期に全国加重平均1,000円とすることを目指し、本年の引上げに取り組む」との考えが示されています。これを受けて、全国の中小企業からは、「コロナ禍の影響が依然として大変厳しい状況にもかかわらず、最低賃金が引上がるのではないか」といった不安の声が多く聞かれています。
 使用者側としてはこれまで、最低賃金は各種の指標やデータなど、明確な根拠のもとで納得感のある水準を決定すべきであり、賃金水準の引上げなど、法が定める目的以外に用いるべきではないこと、強く主張してまいりました。こうした考えに、一切変わりはございません。
 通常時であれば、今期の最低賃金の決定にあたっては、最低賃金法で定められた労働者の生計費、労働者の賃金、通常の事業の賃金支払い能力、この三要素を考慮して、総合的にこれらを表している賃金改定状況調査の第4表を重視した審議を基本とすべきであると考えています。加えて今年度は、コロナ禍における中小企業、取り分け厳しい状況にある業種の中小企業の窮状を考慮しますと、三要素のうち「通常の事業の賃金支払い能力」を最も重視して審議を進めるべきであると考えています。最低賃金の主たる役割・機能は、全ての労働者の賃金の最低限を保障するセーフティーネットにあります。だからこそ、業績の善し悪しに関係なく、一律に強制力を持って適用される仕組みになっております。加えて、最低賃金は下方硬直性が強く、景気の後退局面においても、実質的に引下げることはできません。
 こうしたことから、繰り返しになりますが、今年度の審議においては、コロナ禍で企業の業況が二極化している状況をしっかりと踏まえて、平均賃上げ率など企業の平均的な状況のみに着目するのではなく、とりわけコロナ禍で影響が深刻な宿泊、飲食、交通・運輸等の業種における経営状況、支払余力にしっかり焦点を当てるべきであると考えております。
 最後に、今年度の目安額に関する使用者側の主張を申し上げたいと思います。
これまで申し上げたとおり、コロナ禍により足下の景況感は極めて厳しく、先が見通せない経済情勢が続いています。有効求人倍率など雇用情勢も予断を許さない状況であり、「現行水準を維持することが適当」と答申された昨年度と比較しても、状況は決して改善しているとは我々は認識しておりません。
政府は、このコロナ禍において、あらゆる支援策を総動員して中小企業の「事業の存続」と「雇用の維持」を強力に支えてきていただきましたが、もし、このタイミングで最低賃金が引上がるようなこととなれば、これら一連の政策効果を打ち消し、中小企業を更なる窮状に追い込むことが強く懸念されます。
さらに、仮に、「骨太の方針2021」に示された政府方針に配意する形で、現下の厳しい経済の実態を超える大幅な引上げがなされるようなことがあれば、政府による中小企業の切り捨てのメッセージとも受け取られ、経営者の心が折れ、廃業が更に増加し、雇用に極めて深刻な影響が出ることが懸念されます。
 一方、今般、骨太の方針とともに閣議決定されました「成長戦略実行計画」では、その冒頭で、「生産性向上の成果を賃金として分配し、需要拡大を通じた成長を図る」とする「成長と分配の好循環」の道筋が明確に示されております。これこそが、賃金引上げのあるべき姿であると我々は考えております。この非常時において、事業の縮小や休業を強いられている中小企業の中にも、平時であれば地域の生活と雇用を支え、あるいは高い技術やノウハウを持ち、コロナ後、将来の成長を大いに期待できる企業がたくさんあるはずです。こうした企業を含め一社でも多くの中小企業が、従業員とともにコロナ禍の厳しい経営状況を何とか乗り越えて、その先に「成長と分配の好循環」を生み出していくためにも、今は官民、労使で力を合わせて、「事業の存続」と「雇用の維持」を最優先すべきと我々は考えております。
以上を踏まえまして、今年度は、最低賃金を引上げず、「現行水準を維持」することを強く主張いたします。私からの発言は以上です。あと、各委員より適宜補足発言をさせていただきます。よろしくお願いいたします
○新田委員
 前回の目安小委員会の際に提出されていた資料にもありますとおり、コロナ禍の下で昨年度の答申の後にも、政府から経済界に対して数次にわたり、雇用の維持あるいは採用活動に関する様々な要請がなされてきたことは、皆さん御承知のことだと思います。我々、経済団体といたしましてはそれを非常に重く受け止めて、雇用の維持と事業の継続に最大限の努力を、引き続き行っているところです。
 その結果、直近のデータによると、失業率は3%となっておりまして、その3%前後の水準で何とか維持をしてきている。このように雇用情勢は、大きく悪化する状況には至っておりませんが、一方で雇用への影響というものは、例えば失業率、有効求人倍率といったデータに具体的に変化が表れてからでは、もう手遅れだということを認識すべきと考えております。引き続き多くの企業は、雇用調整助成金等政府からの様々な支援策を活用しながら雇用維持に懸命の努力をしています。こういった状況下で、昨年の公益委員見解の中にも言及がありましたけれども、最低賃金の引き上げが雇用調整の契機となることは絶対に避けなければならないと、強く考えております。したがいまして、こうした認識をここにおられる公労使の先生方全員で共有させていただきながら、真摯な議論を重ねて、先ほど労側からも御発言がありましたように、是非とも適切な着地点を見い出していくべく、議論を重ねていければと切に願っているところです。私からは以上でございます。
 
○高原委員
 私からは、企業を取り巻く経営環境や経営状況について、少し各委員と重複する部分がありますけれども、補足発言をさせていただきたいと考えております。
 まず、倒産件数、完全失業率等の推移並びに有効求人倍率や賃金、労働時間指数等の推移からはコロナ終息がまだまだ見通せない中で、雇用調整助成金をはじめとした国の各種支援策の活用によって各企業は何とか踏ん張り事業を継続し、雇用を維持している実態にあるというように考えております。また、コロナ禍において業種によって各企業の業況がはっきりと二極化しているという実態があると考えております。
 業績が拡大した企業におきましては、過去最高益の業績を出している企業が一部ある一方で、観光・宿泊、飲食・サービス業を中心に雇用調整助成金をはじめとする国の各種支援策によって倒産、廃業になることを何とか耐えている企業が多くあります。これらの企業におきましては、上場企業を中心に正社員に対する希望退職の募集を行う企業が増加してきております。報道によりますと、中小企業と比較して体力があるとされる上場企業でさえも、2021年に募った希望退職者数が、6月上旬に既に1万人を超えており、新型コロナウイルスの影響で退職の募集が急増しました昨年の同時期と比べても、1.7倍に増加している実態にあるとされております。上場企業においても、ある意味雇用に手を付けざるを得ない状況となっていることが明らかになっており、体力のない中小企業におきましては事業の継続と雇用の維持が、ますます厳しくなっている現状にあるというように考えております。
 また、中小企業景況調査の業況判断の推移を見てみますと、昨年の最悪期の数値からは改善されているものの、依然として悪化が強く続いており、特に経営環境の厳しいサービス業の1、3月期の数値につきましては、前期の10-12月期から更に悪化を強めており、とても改善に向かっている状況にはないというように考えております。現在、感染力の強いインド型変異株の流行で、4回目の緊急事態宣言が発出される可能性もくすぶっています。経営環境が他産業と比べて極めて厳しい観光・宿泊や、飲食・サービス業においては、更に危機的な状況に陥る可能性があるとされており、今後の事業継続、雇用維持にも大きな懸念となっております。このような状況下におきまして、審議を進めていくにあたっては、やはりコロナの終息がまだまだ見通せない状況下にあること。2つ目として、業種によって各企業の業況がはっきりと二極化しているということを、是非とも共通認識として審議を進めていく必要があると考えております。
 先ほども新田委員からもありましたけれども、最低賃金の引き上げによってコロナ禍で厳しい経営環境下にある企業の人件費を増やした結果、倒産、廃業や雇用調整を招く懸念があるということは言うまでもないと考えています。最低賃金の引き上げが、そのトリガーを引いてしまうことは避けなければならないと考えており、このような認識で、今後の審議に臨んでまいりたいと考えております。私からは以上となります。
 
○佐久間委員
 私からも一言述べさせていただければと思います。中小企業の景況感について御説明させていただければと思いますが、全国の中小企業者から毎月取りまとめております私どもの中小企業月次景況調査、直近は6月25日にまとめたものですけれども、いずれも景況感とか、売上げ、収益状況などの指標で、実際の改善の動きというのは見られてきておりますけれども、新型コロナウイルス感染症が拡大する以前の状態まで回復しているものではありません。全国の中小企業からは、「取引先の倒産や大幅な受注減少により、廃業や事業の大幅な縮小を余儀なくされている。」、「派遣契約の継続は困難、従業員の雇用の維持も難しい。雇用調整助成金を活用して休業せざるを得ない。」といった悲痛な声が多く寄せられております。また、昨年のセーフティーネット貸付の返済が始まる企業もあることから、資金繰りを心配する声も多く寄せられております。不要不急の外出禁止が各地において発令される中で、飲食業を問わず、来店される顧客が少なくなり、売上げが上がらず、固定的な経費だけがかかり、経営に窮している事業者も少なくありません。飲食業や、ホテル・旅館業など、大変厳しい業界だけがピックアップされておりますけれども、飲食業と取引のある食料品製造業でも民事再生手続に入る企業があったり、ホテル・旅館業と取引のあるリネンサプライ業も大変厳しい状況であったりと、その関連する事業者も大きな影響を被っています。
 一例を挙げますと、職場のテレワークや学校のリモート授業などにより、職場や学校周辺のパン販売店が休業してしまい、パンを製造している企業も、製造して納入する先が店を閉めているため、大幅な売上げの減少となっていると聞いております。多くの業界や個別の企業に、新型コロナウイルス感染症は、昨年の春以降、影響を及ぼしているのは言うまでもありません。このコロナ禍の状況下にあって、景況感良く、賃金を引き上げることのできる余力のある企業は、最低賃金にこだわらず、大いに賃上げを行っていただき、消費の拡大を促進して地域の経済活性化の一助を図っていただければよいのではないかと考えています。
 この危機的な経済情勢において、経営困難な事業者にも法的拘束力をもって最低賃金を引き上げる、つまり、労務費を増加させるということは、経営者たちの「事業を継続したい」「雇用を維持したい」という切実な思いを切り捨てるものにほかならず、経済情勢が回復するまでは、最低賃金は現行水準の維持が妥当であると考えております。以上でございます。
 
○大下委員
 我々からの意見は以上でございます。現在、大変厳しく、また先を見通すのが難しい状況でありますが、明確な根拠のもとで労使とも納得感のある水準を決定できるよう、真摯に議論に臨んでまいりたいと思います。よろしくお願いいたします。
 
○藤村委員長
 どうもありがとうございました。ただいま双方から基本的な考え方を述べていただいたわけですが、それぞれに御質問がありましたらお願いしたいと思います。いかがでしょうか。特にないですか。お伺いしていると、労使の御主張には相当な開きがあるということですので、これからは公労・公使で、個別に主張を伺いながら開きを詰めていきたいと思いますが、その方式でよろしいでしょうか。
 
(異議なし)
 
○藤村委員長
 分かりました。それでは、公労会議から始めたいと思いますので、事務局から連絡事項をお願いします。
 
○長山賃金課長補佐
 まず、公労会議からということですので、使用者側委員の皆様は控室へ御案内させていただきます。
 
(第2回全体会議)
 
○藤村委員長
 どうもお待たせいたしました。
 ただいまから、第2回目の全体会議を開催したいと思います。本日は本年度の目安取りまとめに向けて労使双方から基本的な考え方をお出しいただき、それに基づいて御議論いただきました。その結果、双方の御主張はかなり明確になってきたと考えますが、その主張の隔たりは非常に大きなものがあると考えております。そこで、次回の目安小委員会において更なる御議論を行っていただき、目安の取りまとめに向けて努力いただきたいと思います。
 それでは、次回の日程と会場について、事務局から連絡をお願いします。
 
○長山賃金課長補佐
 次回、第3回目安小委員会は、7月7日(水)13時から、本日と同じ場所で開催いたします。
 
○藤村委員長
 それでは、以上をもちまして、本日の小委員会を終わりたいと思います。どうもお疲れさまでした。