第4回多様化する労働契約のルールに関する検討会(議事録)

日時

令和3年6月24日(木)10:00~12:00

場所

AP虎ノ門 A会議室
(東京都港区西新橋1-6-15NS虎ノ門ビル11階)

出席者(五十音順)

(あん)(どう)(むね)(とも) 日本大学経済学部教授

(えび)(すの)(すみ)() 立正大学経済学部教授

(たけ)(うち)(おく)()寿(ひさし) 早稲田大学法学学術院教授

(もろ)(ずみ)(みち)()  慶應義塾大学大学院法務研究科教授

(やま)(かわ)(りゅう)(いち) 東京大学大学院法学政治学研究科教授

議題

  1. (1)有識者からのヒアリング
  2. (2)その他

議事

議事内容
○山川座長 それではほぼ定刻ですので、ただいまから、第4回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」を開催いたします。
 委員の皆様方におかれましては、本日も、御多忙のところ、御参加いただき、誠にありがとうございます。
 本日の検討会につきましては、新型コロナウイルス感染症の感染状況を踏まえてZoomでのオンラインの開催になります。
 本日は、桑村委員と坂爪委員が御欠席になります。
 吉永労働基準局長は、別途公務のため、欠席でございます。
 最初に、今日の議題に入ります前に、Zoomによるオンライン開催ということで、事務局から操作方法の説明、併せて、本日の資料の確認もお願いいたします。
○竹中課長補佐 事務局より、操作方法の御説明と資料の確認をいたします。
 本日の資料は事前に送付しておりますとおり、9点でございます。説明時に画面に投影しますので、そちらも御覧ください。
 御発言の際には、Zoomの「手を挙げる」という機能を使用して、御発言の意思をお伝えいただき、座長の許可がございましたら御発言ください。御発言時以外はマイクをミュートにしていただき、発言の際にミュートを解除の上、御質問等をいただきますようよろしくお願いいたします。不安定な状態が続く場合には、座長の御判断により、会議を進めさせていただく場合がございますので、御了承ください。
 次に、資料の御確認をお願いいたします。
 資料といたしましては、まず、配付資料ということで、資料1が峰弁護士提出資料。
 資料2が、嶋﨑弁護士提出資料。
 資料3として、検討会で議論していただく論点でございます。
 参考資料1から3につきましては、第3回検討会までの議事概要、委員の主な御意見をお付けしています。参考資料4で第1回検討会資料6の修正版、参考資料5で第1回検討会資料6の正誤表等でございます。参考資料6につきましては、先週18日に閣議決定されました「規制改革実施計画」と「経済財政運営と改革の基本方針2021」のうち、本検討会に関係する記載を抜粋したものでございます。
 なお、委員の皆様には事前に御説明しておりますけれども、参考資料4につきましては、第1回検討会で提出した資料につき、大変申し訳ございませんが、参考資料5のとおり、修正等を行っております。詳細の説明は割愛させていただきますけれども、今後の検討に当たりましては、修正後の資料を御参照いただければと思います。
 以上でございます。
○山川座長 ありがとうございました。
 カメラ撮りがありましたら、ここまでとさせていただきます。
 それでは、本日の議題に入ります。本日の検討会は、事前に委員の皆様方にはお伝えしたところでありますけれども、有識者からのヒアリングということで、労使団体から御推薦をいただきました法律実務の専門家であられる弁護士の先生方からヒアリングを行いたいと思います。
 本日の進め方ですけれども、使側、労側のヒアリングで、それぞれ40分ほどの合計の時間を予定しておりまして、ヒアリング、お話しいただく皆様方からは、それぞれ15分ほど御意見をいただきまして、残りの25分ほどで委員との質疑応答をさせていただければと思います。ヒアリング終了後は、残りの時間でヒアリングを踏まえた意見交換を行いたいと思います。
 それでは、早速、事務局から本日ヒアリングにお越しいただいております先生方の御紹介をお願いしたいと思います。
 よろしくお願いいたします。
○竹中課長補佐 それでは、本日ヒアリングをさせていただく先生方につきまして紹介させていただきます。
 本日ヒアリングをお願いするに当たりまして、日本経済団体連合会及び日本労働組合総連合会に御推薦をお願いしております。
 日本経済団体連合会からは、第一協同法律事務所の弁護士であり、経営法曹会議の常任幹事であられます、峰隆之弁護士の御推薦をいただいております。
 また、日本労働組合総連合会からは、神奈川総合法律事務所の弁護士であり、日本労働弁護団の常任幹事であられます、嶋﨑量弁護士の御推薦をいただいております。
 以上でございます。
○山川座長 ありがとうございました。
 まず、峰弁護士からお話を伺いたいと思います。
 峰先生、本日は、大変御多忙のところ、検討会に御出席をいただきまして、大変ありがとうございます。改めて御礼を申し上げたいと思います。
 申し遅れましたけれども、検討会の座長を務めております、山川でございます。
 それでは、15分程度御説明いただいて、その後、25分程度の質疑応答をさせていただきたいと思います。
 どうぞよろしくお願いいたします。
○峰氏 今、御紹介いただきました、峰と申します。
 私は、御紹介いただきましたように、経営法曹会議に所属しておりますけれども、本日お話しする意見につきましては私の個人的な見解になりますので、よろしくお願いいたします。
 簡単なものですが、本日は事前にレジュメを御用意させていただいております。大きく分けて、無期転換ルールの関係と多様な正社員の関係という2つに分かれます。
 まず、無期転換ルールの関係からお話しさせていただきます。
 総論的な状況認識ということで、何点か指摘をさせていただいております。今日お集まりの方々に改めて説明するようなことでもないと思いますけれども、労働契約における期間の定めが、矢印のところになりますけれども、主に雇用保障を前面に出してきております我が国の労働政策の下で、企業の経済活動の柔軟性を担保してきたということです。要するに、企業を取り巻く経営環境も時々刻々と変化していく中で、どうしても企業活動は柔軟性を持たないと必ずどこかで行き詰まってしまうと。その企業が長期にわたって存続し雇用を生み出していく上では、こういった企業の経済活動の柔軟性は本質的に必要な要素であろうということでございます。
 このレジュメの下のほうに、菅野和夫先生の教科書、314ページの脚注引用をさせていただいております。長期雇用システムの下での雇用は、通例、期間の定めのない労働契約の形態を取っていると。そちらの形態については、解雇権濫用法理が確立し、立法化されていると。当然、今、労働契約法の16条という条文になっておりますけれども、このこととの対比において、有期労働契約の長期の法的意義というのは、菅野先生の本の中では、一時的需要の対応、期間満了を理由とする雇用契約の終了機能になりますけれども、実際上、大きな機能なのだと。企業は比較的短期間の有期労働契約の労働者を多数雇い入れるとともに、労働需要が続く限りそれらの労働契約を更新し続けることが多かったと。こうして、有期労働契約は、雇用調整もしやすく継続的な労働需要にも対応できる柔軟な雇用形態として機能してきたと。
 この認識が全般にわたってベースになるわけですけれども、補足的になりますが、ポツの2つ目に移りまして、ただ、期間満了を理由とする雇用の終了は、オールマイティーなものではなくて、徐々に、判例法理の形成を通じて、一定の雇い止めについては、雇い止めを無効とするといった労働契約法19条ができるところまで至っております。無期雇用との対比において、地位が不安定とされております有期雇用については、裁判実務を通じまして、個別的な判断となりますが、雇用保障のシステムも用意されている状況でございます。
 御承知のとおり、無期転換ルールの導入時の議論として、いわゆる入口規制論も出てきたわけですけれども、こういった有期雇用自体、現下の解雇権濫用法理だけでは担保されてこない、企業活動の柔軟性を保障する、確保するためのものでございますので、この現下の解雇権濫用法理を維持したまま入口規制を導入することは、それによって救われる雇用も多少はあるのかもしれませんけれども、それ以上に我が国の経済全般についての悪影響が懸念されるということですね。企業活動の柔軟性がそがれますと、企業経営が立ち行かなくなる。労働需要そのものが減退して、結果的に多くの方の就業可能性を奪う可能性が高いのではないかと。労働契約法が制定されてからある程度時間が経過してきておりますけれども、全く状況は変わらないのではないかと考えております。
 これも補足で、かなり私の個人的な見解というところもあるので、多少聞き流していただいても結構ですが、無期転換の導入は、いわゆるリーマンショックの影響がございまして、2009年頃に有期雇用労働者の雇い止めや派遣労働者の契約終了が多く行われた結果というのでしょうかね。完全失業率が急上昇するという事態があって、それに対する反省として行われたもので、この無期雇用ルールもそれに対応するための立法政策であると説明されることが多いのですけれども、レジュメの2ページ目に行きたいと思いますけれども、これはその原因と結果の流れをきちんと整理しないとあまり意味がないのではないかなと思うのですね。結局何が言いたいかというと、参考資料4のスライド4などでも完全失業率が急上昇しているものがあるのですけれども、法律によって雇い止めや派遣の終了を強制的に禁止しても、結果的にその後の経営が成り立たなくなる企業が出てきてしまって、企業倒産による失業が今度は出てくる可能性があるので、その場合は、非正規だけではなくて正社員層も雇用を失う危険があることをぜひ認識しておくべきだし、結果的に失業率は変わらないのではないのかなと。これは確たる根拠がある話ではなくて私の経験的なものからする予想でございますが、そういうふうに考えております。
 最近、非正規雇用の増加という話が出てきますけれども、参考資料4のスライド6がその点を指摘されている資料になっております。この増加しているという数値的な動きは事実でしょうけれども、この中の多くに、昨今、法律によって義務づけられております60歳以上の高齢者層の雇用保障が多分に含まれておりますので、企業の都合でいわゆる非正規労働者が激増しているといった状況ではないと私としては認識しております。
 それを踏まえまして、御下問いただいております議論についての見解をお話ししたいと思います。
 まず、労基法の無期転換ルールの活用状況についての評価ですけれども、結論的に言うと、2つ目のポツにも書いてありますけれども、参考資料4の24枚目のスライドでございます。こちらを枠で囲んでいただいておりますけれども、事務局の方につけていただいた赤い囲みですけれども、企業規模が大きいほど無期転換できる場合を設けている企業が増加しているのだということが数字分析から指摘されております。要するに、正社員募集をしても労働者が応募してこないような中小零細企業もあれば、優秀な社員であれば最初は有期社員から入ってもらって正社員登用していくし、正社員登用とはまた別の形で、無期雇用、無期転換をしていってもいいよという会社もありまして、いろいろな企業があるので、同一平面で論じられるようなことではないのではないかという認識でございます。
 無期転換ルールが全て社会にどれだけ認知されているのか、認知されていないから無期転換権の行使実績が上がらないのではないかという指摘もあるようですけれども、その辺りの相関関係は、私としては、よく分からない、不明だと考えております。ただ、企業体力が低い中小企業に対する規制の強化は、総じて、かえって雇い止めを誘発してしまう可能性が高いのではないかと懸念しております。
 無期転換権発生期間を現行の雇い入れから5年超えた場合という期間からもっと短い期間で無期転換権を発生させてはどうかという議論もあるようですけれども、これは先ほど言った雇用の柔軟性の低下につながることもありまして、中小企業にとっても大企業にとっても雇用意欲の低下につながる恐れがあって、私の言い方になりますが、誰の得にもならないのではないのではないかと考えております。
 いわゆるクーリングという問題も指摘されておりますが、御承知のとおり、6か月間以上当該企業から離職している場合、再度の有期雇用をしても前の契約期間と通算しないということですけれども、参考資料4の33ページにこの調査が出ておりますが、これはサンプリングがどうなっているのかにもよるのですけれども、この調査においては、こういったクーリングを行っているという回答を行った企業さんは全体の6.2%だったということでございます。この6.2%に規制をかけることでどれだけの雇用が救済されるか、私は疑問があるなと考えております。こういうクーリングを行っているということは、それだけ生産量の柔軟な調整が必要な業界、要するに、グローバルまで含んだ経済市場との関わりの中で、雇用調整が適宜できないと非常に困るという業界もあるので、逆に言うと、そういう業界が我々の経済界全体を引っ張っている、牽引しているという状況もございますので、ここの経済活動の停滞を招くような雇用政策には極めて慎重に臨むべきであると考えております。そのような業界の内部を見てみますと、既に多数の企業が参加して構成されている労働市場が一定程度形成されておりまして、有期で何回か更新された後で雇い止めをされても、同業他社に雇用されたりとか、あるいは、まさに、そのクーリング期間は、のんびりしたり、ほかの仕事に就いたりして、また戻ってくるという、いろいろな慣行的な労働市場が出来上がっているので、ここについて規制する必要性がどれだけあるのかという観点からも、慎重に臨むべきではないか。クーリングに対するこれ以上の規制導入については反対しますと、意見を書かせていただきました。
 更新上限の合意が、多くの裁判例で雇い止めを有効とする判断の肯定要素として指摘されていることは事実でございますけれども、これは労働契約法19条をめぐる個別の雇用終了について司法審査が行われる場合の、公平なというか、納得のいく、社会的に相当性のある雇い止めと言えるためには、こういうやり方がよろしいのではないのですかと。よろしいというか、裁判所が勧めるわけでもないですけれども、そういうやり方であれば労働者に対する打撃も少ないので、もともと柔軟な雇用形態ということで、日立メディコ事件で最高裁もそういう認識を示しておりますけれども、そういう前提での雇用であれば、更新上限合意は、そのことを明確にするという意味もあって、社会通念上、不当なものではないと考えてよろしいのではないかと思います。したがいまして、私としては法律による介入や規制については反対という意見を書かせていただきました。
 仮に無期転換権を脱法する意図の雇い止めがあったとすると、これについては、先ほど言いましたように、個別の司法救済制度、システムができております。もっとも、そもそも論なのですけれども、無期転換権が発生することを避けるための雇い止めであっても、そのことが直ちに公序良俗に反するものではないケースもあることを認識していただければと考えまして、3ページの冒頭に1つの例を挙げさせていただきました。これは私が実際に労働審判で関わった事例でございますが、新規開発製品の製造は、当初は人手を要するのですが、事業が軌道に乗って生産量が増えることで初めて生産工程をオートメーション化することのメリットが出てきて、実際にオートメーション化をされていくということなのですね。この辺は誤解があるかもしれませんけれども、製造ラインは本当に試行錯誤の連続で、量産に至るまでの製造ラインは、最初の製品が製造・出荷されてから数年ぐらいを経てようやく完成するのですね。製造ラインは、まずは原始的なラインを組んでみて、人の手でもって物を作りながら、徐々に理想的なラインを設計していって、オートメーション化が進む。そうすると、せいぜい数年で人の手を要する工程がどんどんなくなっていくのですよね。そもそも事業の採算に乗るかどうかも未知数ですので、当然そういったことから最初は有期雇用とする、必要に応じて正社員化することが労使にとって極めて合理的だと考えております。こういうビジネスモデルを否定してしまいますと、新規ビジネスへのチャレンジを圧迫して、将来の労働需要を摘み取ってしまう、我が国の国際競争力をそいでしまう可能性があるため、反対だと考えております。先ほど労働審判になったというお話もしましたけれども、この事例では、労働審判までは至らず、和解で終了しております。4年目で雇い止めをしたということでしたけれども、裁判所からは雇い止めは有効という心証で、和解をさせていただきました。
 無期転換後の労働者の労働条件、既存の正社員との処遇均衡等につきましては、有期から無期に転換するということで、その当該労働者の想定される就業期間は有期から定年までの雇用と環境変化を遂げますので、これは雇用の前提変更が生じますので、それを前提に、無期転換後の労働条件として、例えば、転勤がある程度は可能になるような労働条件に変えていこうといったことについては、個別企業における労使自治で決めるべき問題ではないかと思っておりまして、そういった事情を全部網羅して斟酌することができないような状況で法律が介入すべき問題ではないと、私としては、考えております。
 時間が押してしまっていますけれども、すみません。有期特措法の活用状況につきましては、現在、そんなにたくさん活用されてはおりませんが、これは労働者の多様な働き方を可能とする選択肢が用意されていると評価しております。いい意味で、評価しております。したがって、この有期特措法の利用を狭める方向での法改正は控えていただくべきではないかと考えております。制度の周知状況や手続の手間などから普及が進んでないように思われますので、その観点からの何らかの措置は考えられてもよろしいのではないかと思っております。
 以上が、有期雇用に関する私の見解となります。
 次に、多様な正社員の雇用ルール関係です。
 総論的な状況認識は、ここに書いておるとおりでございます。要は、企業の人事権そのものに対する介入にならないかという懸念があるというのが最初のポツでございます。現状認識としまして、全国転勤が想定されている企業では、雇用区分がきちんと整理されていて、その雇用区分ごとに、どの程度の距離的範囲、地域的限定で配転命令が可能かというのがきちんと整理されて明示されているケースがほとんどでございまして、こういった企業において転勤範囲が不分明という事例は、私は見たことがございません。こういった問題についてある程度問題意識として持っているのは、技術系の方なのですね。エンジニア系の職種などで、どんどん技術革新していく、あるいは、事業そのものが企業再編の対象になって、会社分割をしてほかの会社が買い取っていくとか、そういう環境変化が激しいので、労働者の学生時代の専門分野がもはや自分の会社の中になくなってくるという事態も頻繁に生じております。自分が専門分野を生かせるような部門が廃止されたり、ほかの企業に売却されたりする事例もあるので、あまり職種変更可能な範囲を限定してしまうとかえってトラブルのもとになる可能性があるので、この点についてはぜひ意識して議論していただきたい。入社当時に存在しなかった新たな拠点ができることもあるということも補足的に指摘しておきたいと思います。
 配置転換そのものについての規制強化という議論もあるのかよく分かりませんけれども、これについては、現在、異議を唱えつつ、人事権濫用かどうかを争うことも可能ということで、転勤を拒否してその場で解雇されるという事例はほとんど存在しておりません。今の人事権の濫用という物差しを使っての司法判断で、それ以上の立法による強化の必要があるとは認識しておりません。育児介護休業法26条の制定・施行以降、企業内では育児や介護のため転居を伴う転勤については割と謙抑的な姿勢を持つようになってきております。これを前提に考えると、それほど配転命令についての規制強化という必要性はないのではないかと認識しております。
 こういった認識を踏まえて、4点だけ、最後にお話しします。
 限定正社員に対する労働条件明示義務、雇い入れ時や契約変更時ですけれども、これについて私としては特に反対するものではございませんが、あえて立法による規制を行う必要がどれだけあるのかなとは思っております。
 限定正社員等に対する労基法による就業規則への記載義務化ですが、こういった勤務地限定や職種限定は個別の合意によって決せられることが多いこと、仮にこの点を就業規則の必要記載事項として立法化しますと、就業規則の記載と個別合意のどちらを優先するか等をめぐってかえって誤解やトラブルが生じる可能性があるので、こういった立法プランには私は賛成しておりません。
 限定正社員等に対する労働契約締結時や変更時の書面確認につきましては、先ほど申し上げた状況認識から、立法による規制を行う必要性は特段認めておりません。
 正社員を含めた上記①から③と同様の立法措置についても、先ほどの認識から、特段の必要性を認めないと書かせていただきました。
 すいません。ちょっと押してしまいましたが、私の説明とさせていただきます。
○山川座長 大変ありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明につきまして、委員の皆様方から、御質問、御意見等がありましたら、お願いいたします。
 竹内委員、どうぞ。
○竹内(奥野)委員 峰先生、非常に様々な件につきまして御意見を御紹介いただきまして、ありがとうございました。
 私、竹内でございます。労働法を専攻させていただいております関係でご教示いただいたことに関心がありまして、いろいろ教えていただければと思っております。多数になるかもしれませんけれども、よろしくお願いいたします。
 1つ目の質問は、資料全体のページで申しますと3ページ目で、労働者の無期転換ルールの認知度について先生が触れていらっしゃる箇所ですけれども、中小零細企業に対する規制の強化はかえって雇い止めを誘発とありますけれども、ここの文脈で念頭に置かれている規制とは、どのようなものでしょうか。文脈上は無期転換ルールの周知を義務づける規制だと思われるのですけれども、そういう周知をさせることがかえって雇い止めを誘発するということなのでしょうか。ルールの中身ではなくてそのルールを知らせること自体が雇い止めにつながるということについて、何かそういう実例なり御知見なりがあればお教えいただきたいというのが1点目でございます。
 2つ目なのですけれども、資料の4ページ目に入りますけれども、労働審判関連のところで御紹介いただいた事例に関するところです。有期雇用として雇用し、必要に応じて正社員化することが労使にとっては合理的であると、このようなビジネスモデルを否定する強制的な無期転換制度はよろしくないということなのですけれども、これは本当に釈迦に説法みたいな形になるかもしれませんけれども、無期転換ルールは原則期間の定めがある状態からない状態にするだけで正社員化を強制するわけではないはずでして、そうすると、この意見はある意味で無期転換を正社員化と捉えているようにも思えるのです。質問したい点は、例えば、企業の実務、人事担当の方とか、あるいは、先生のような企業に助言する弁護士の方々の実務という観点、その2つを念頭に置いているのですけれども、そうした実務においては、無期転換ルールは、単に無期になるだけではなくて、むしろ正社員化という理解でいろいろと制度に対して対応されていると理解してよろしいでしょうか。実務での無期転換ルールの意義、受け止め方について教えていただきたいというのが、2点目でございます。
 たくさんで恐縮ですけれども、3つ目は、多様な正社員関連で先生から御意見をいただいたところで、配置転換についてお話がございました。組合側からのヒアリングとかの中では、現在の労契法14条の出向の規定に配転についても付け加えるべきだという意見も出ましたけれども、そういうことについて、先生が先ほど御説明された以外に何か付け加えることがあれば教えていただきたいと思います。そういう意見とはまた別に、現在の東亜ペイントの判例法理をそのまま立法化するという、労契法が初めにできるときにやったのと似たような手法ですけれども、要するに、ルールの中身自体はそのままで立法化する、ルールの中身自体は強化しないという案については、先生はどのようにお考えかということについて、もしよければ教えていただきたいと思います。この質問の背景は、転勤拒否即解雇ということになっていないとしても、そのルールを知らないことで応じなくてもよかったかもしれない配転に不本意に応じる、ひいては多様な働き方が妨げられるような事例があり得るのではないか、そういう観点で、ルールが知らされること自体は意味があるのではないかということでお伺いさせていただく次第です。先生の御意見を教えていただければ、大変幸いでございます。
 たくさんで恐縮ですけれども、よろしくお願いいたします。
○峰氏 まず、最初の無期転換ルールの認知度を上昇させた場合に中小企業で雇い止めを誘発するのではないかということは、どういう論理というか、どういうことを考えているのかという御質問でした。逆に言うと、あまりいいことではないのかもしれませんけれども、要するに、中小企業で5年も6年も10年もというのは幾らでもあるのですよね。お互いに何も知らない状況で、無期転換をしなくても別に不便を感じないというか、要するに、中小企業とかの場合は、無期転換権を知っているか知っていないかにかかわらず、無期になりたいとも思わないみたいなものもあるので、そういう無期転換権を知って急に怖くなって雇い止めをしてしまうようなものもあるので、仮に周知をするにしても、何年以降はどうのこうのとか、経過期間みたいなものをつくっていかないと混乱が生じるのかなと何となく思ったという話でございます。
 無期転換権とは、単純にその期間の定めが取っ払われて無期雇用に転化するだけで、正社員化を意味しないと。それにもかかわらず私の紹介したような事例では有期雇用から必要に応じて正社員化していくことが多いという話について、人事担当者や我々実務家の感覚を聞きたいという御質問でした。これにつきましては、簡単に申しますと、人事担当者の基本的な発想としては、雇用区分を増やすことに対する抵抗感が結構多いのですね。要するに、結局、無期雇用なのだけれども正社員でもないという、会社の制度というか、会社のビジネスモデルというとちょっと聞こえがよいのかもしれませんけれども、その会社の風土や会社のビジネスの仕組み等から会社独自に編み出していったものの中に法律によって突然無期転換という層ができることの使い勝手が悪いという認識になってしまっているということなのですね。これで御理解いただけるかどうか分からないのですけれども、単純な話ではないということで説明させていただきたいと思います。
 3点目、東亜ペイント事件と同じような、人事権というか、転居を伴う転勤に対する規制を、東亜ペイントどおりで付け加えると。現状、労働契約法15条に出向に関する規定があるのだから、上のものをつくってもいいのではないのかと。これはなかなか反論するのは難しいところがございまして、それについては、解雇権濫用法理が法定化されたのと同様の話で、あまりそれによって規制が強化されることは特にはないと思っています。ただ、非常に最近企業の中で転勤したくないという意思を素直に表示される方が多いのですよ。立法の周知によってそういう層がさらに増えるのかなと。法律ができたら争うという気になる人がいるのか分からないですけれども、既にそういった確立された個別の救済ルールがあるという状況の中で、立法化するというのは、それはそれで意義のあることかとは思いますけれども、この辺については、賛成とも反対ともなかなか言いがたいところかと思います。
○竹内(奥野)委員 大変どうもありがとうございました。
 これは1点目の先生の御回答に関する感想を付け加えるだけですけれども、労働者に対する周知だけではなくて、こういう周知とかを義務づける場合には、もしかしたら、中小の場合は、経営者にもこういうルールなのだということを、周知といいますか、教育といいますか、広告というか、そういうところも必要かなという感触を、先生の御意見をいただいて思った旨、最後に付け加えさせていただきます。
○山川座長 ありがとうございました。
 それでは、ほかに、御質問、御意見等はありますでしょうか。
 安藤委員、どうぞ。
○安藤委員 安藤です。よろしくお願いします。
 私からも、3点、教えていただきたいことがございます。
 まず、1点目は、峰先生より企業が雇用の柔軟性を必要とするというところを御説明いただいたわけですが、とはいえ、日々の経済活動の中では、保障する代わりに保険料を受け取るというタイプの取引が行われることも多々ございます。例えば、プロ野球選手などを考えても、複数年契約をすることによって、単年度契約よりも選手としては保障が強くなる代わりに、1年当たりの報酬が下がるという意味で、保険の提示みたいなことがございます。また、今でも、正規雇用の新卒採用、また、中途採用も続いておりますし、柔軟性が必要という面はありつつも、安定的な条件を提示することも多いということで、企業が柔軟性を必要とするといったときに、どういう場合には、または、どんな職種については柔軟性が必要で、どんな職種については一定の条件の下で安定を提供することができるのか。この辺りを経営側の弁護士の先生の視点から教えていただきたいと思いました。
 2点目が、無期転換ルールをポジティブに評価するような視点はないかということを、先生の視点から教えていただきたいと思います。例えば、一律に認めるということではないという御指摘がこれまではあったのですが、どのような業種であったら、または、どういう条件であったら、意味があるのか。また、基本的には全く意味がないと捉えられるのか。例えば、経済学の視点から無期転換ルールをポジティブに評価する理屈としては、心理的な要素を考えた分野である行動経済学の視点からは、人間は先送り行動をしがちであると言われています。例えば、男性と女性がお付き合いをしていて、結婚するかどうかという判断をずるずると先延ばしをしてしまうよりは、一定期間で結婚するか別れるかはっきりするみたいなほうがお互い適切な判断ができるかもしれない。このように、締切りを設けることに意味がある。また、法律事務所を含む、プロフェッショナルファームでアップ・オア・アウトルールを導入するケースがあります。例えば、弁護士の先生だったら、アソシエイトのまま使い続けるという選択肢をなくして、一定の期間で、パートナーになるか、それとも、離脱、外に出るかということをやる。このようにアソシエイトのままずっと使われてしまう可能性をなくすことでアソシエイトが安心して努力できるようになります。同様に、有期雇用で継続的に更新を続けていくよりも一定期間で選別を行うことを正当化する理屈はないわけではないのです。この点は先生の視点からはどう見えているのか。
 3点目、無期契約への転換といったときに、もちろん雇用契約のパターンをいたずらに増やしたくないというのはよく分かるのですが、ただ無期への転換を前提としたときに、どういう取組が併せて必要だと思われているのか。先ほど解雇権濫用法理について御説明いただきましたが、例えば、職務を限定して雇用して無期転換した場合に、職務が限定されている場合に、その仕事がなくなった場合には、仕事がないのだから雇用は継続できないという整理解雇について、ある程度認められる可能性が高いとか、どういうことをすれば、問題がなくなるとは言わないまでも、軽減されるのか。この辺りで御意見があったら教えていただきたいと思います。
 よろしくお願いします。
○峰氏 なかなか難しいお話を御質問いただきました。
 最初の1点目の質問の御趣旨なのですけれども、雇用の調整機能、柔軟な雇用が必要なのだということに対して、どういう場合だったら長期雇用を提供できるのかという趣旨と伺ったのですけれども、大体そんなことでよろしいでしょうか。
○安藤委員 そのとおりです。
○峰氏 長期雇用が提供できるというのは、要するに、企業の活動が点々流転と言うと言い過ぎですけれども、いろいろと新しいビジネスにスクラップ・アンド・ビルドをしていくわけなので、結局、そういうものにキャッチアップができる人材であれば長期雇用を提供できるとなっていまして、それに対して、スキルが限定されていてほかの仕事を命じてもなかなかそういうものに追従していけないという方については長期雇用はできないという考え方が基礎になっております。ですので、有期雇用の場合は、そういう多種多様の仕事に対応できる人材という形で募集をしたいのですけれども、事実上、企業の中でその人間を見極めていって、正社員にも匹敵するような資質を見いだしてきたような場合には正社員として登用していくということを、多くの企業ではやっていると。例えば、企業の中で、会計とか、お役所様対応とか、そういったものは永続的にあるのでしょう。そうかといって、そういうところ、ずっと同じところに配置するのがいいのかどうかというのもあるので、そういう観点から、長期雇用が提供できるというのは、多種多様な、多能工的なという言い方になるのかも分かりませんが、逆に言うと、その企業のビジネスをどれだけ存続できるかの話なので、明確にお話しすることはなかなか難しいのです。
 時間もあるので、2点目に行きたいのですけれども、無期転換をポジティブに捉えられないかと。一定の期間でもって、その企業にい続けるのか、ほかに転身するのか、そういうものを促す機能もあるのではないのかということで、私はそれはまさにおっしゃるとおりだと思うのですよ。今回の5年ルールは、短過ぎず長過ぎずという意味で、5年以内に正社員になるか無期転換をしない場合は、雇い止めになっても仕方がないというか、そこで新陳代謝というか、お互いにお別れする時期ですよと。そういうものをポジティブと言うのかネガティブと言うのかよく分からないのですけれども、私はそういうルールがあってもいいとは思います。ただ、そこが明確であるべきだと思うのですよね。
 ただ無期の転換、その仕事がなくなった場合は雇用調整できるというルールの導入がもしきちんと明確に社会的に認知されるのであれば、別に、ただ無期という雇用形態を存続させても、企業側にはそれなりの雇用調整的な意味で、メリットというか、あることになりますから、それはそれであってもいいのだとは思います。ただ、今までの裁判実務の流れからすると、無期になったのだからほかにも配置できる可能性があるかどうかは模索せよと言われる気が相当するのですね。その辺りが、企業から見ると、ただ無期の方の存在を扱いづらいなと思ってしまうところなのかなと思っております。
 こんな形なのですが、よろしいでしょうか。
○安藤委員 ありがとうございました。
○山川座長 戎野委員、お願いします。
○戎野委員 いろいろな視点から御説明いただきまして、ありがとうございました。私は労使関係が専門なので、大変勉強させていただきました。
 私からは1点なのですが、無期転換後の労働者の労働条件のところで、転換後の労働条件については労使自治に委ねるべきであるという先生のお考えがありまして、労使自治に委ねることが本当にできれば、適切に行われればいいと思うのですけれども、情報の非対称性など、その力関係から、特に中小零細企業などでは、適切な労使自治が実現できているのかなと思うところもあります。その辺りについて、ほとんどうまくいっているのか、あるいは、うまくいかないときには法の介入ではなくて違うやり方もあるのかなど、何か先生の御存じのことがあれば、教えていただきたいと思います。お願いします。
○峰氏 中小零細企業で無期転換権を行使した場合は、逆に言うと、ただ無期みたいな話になっても問題が生じにくいですよね。要するに、中小零細企業は転勤とかを基本的に想定しておりませんので、もちろんケースとしてないわけではないのですけれども、事業の範囲が割と固定的なので、それで長年やってきました、これからもそれでやっていきますよという事業の場合が多いので、安定的に働いてくれる人が増えましたねというので、中小零細の場合は結構喜ぶ企業もあるのですね。私がここで書きましたのは、どちらかというと、本当に多数の社員が定期的に全国的にシャッフルで異動されていくような大企業において、無期なのだけれども、ずっと1つの事業場にい続けるという雇用は、なかなか難しくなってしまうよねと。なるべく定年までい続けるという言葉はちょっとあれですね。定年までの雇用を提供させていただくのであれば、いろいろな経験も積んでもらって、会社に貢献するようなスキルを磨いていただきたいと企業としては思うので、ただ、そういう必要性を感じない企業もあるでしょうから、まさにその点を労使自治でやっていただきたいと思っている次第です。
○戎野委員 ありがとうございます。
○山川座長 ありがとうございます。
 両角委員、どうぞ。
○両角委員 峰先生、どうもありがとうございました。
 私からは、1点、小さい点ですけれども、伺わせていただきたいと思います。
 たしか、4ページで、多様な正社員について就業規則の記載義務を定めるとかえって個別合意との関係などをめぐってトラブルが生じるおそれがあるという御指摘がありましたけれども、ただ理屈で考えると、就業規則があって、より限定的な個別合意があれば、そっちが優先するように思うのですが、そのトラブルが生じる可能性をもう少し具体的にお教えいただければと思います。
○峰氏 結局、どういう場合に起きるかということですよね。例えば、就業規則に何らかの勤務地限定みたいなものが書いてあって、個別の合意で、仮に、自分は別に就業規則の記載にこだわりませんよと。そうなると、今度は労働契約法12条の問題が出てきてしまったりするので、何だこれはみたいな話になる可能性はある。労働契約法12条などは普通の人事の担当者は分かりませんので、それで別に問題ないでしょうと最初は始まるのだけれども、いつかの時点で、これは労働契約法12条ということが分かった時点で何かトラブルが発生したりということもあるのではないのかなということですね。
○両角委員 分かりました。就業規則に限定があるけれども、それにこだわらないと本人が言われたような場合と。ありがとうございます。
 この点については、企業側のヒアリングでは、特に中小企業では、就業規則にいろいろ記載するとか、事務的な義務づけが多過ぎるので、負担が非常に増えるみたいな、そういう回答もあったのですけれども、どう思われますか。
○峰氏 まさに私もそう思いますよ。だから、それを補足して、さらにこういう問題もありますねという趣旨で書いたつもりでございます。
○両角委員 分かりました。どうもありがとうございます。
○山川座長 ありがとうございます。
 それでは、時間が経過しておりますので、峰弁護士からのヒアリングはここまでとさせていただければと思います。
 峰弁護士は、ここで御退室の予定でございます。
 峰先生、本日は貴重なお話をいただきまして、大変ありがとうございました。
○峰氏 こちらこそ、ありがとうございました。
(峰氏退室)
○山川座長 続きまして、嶋﨑弁護士からお話を伺いたいと思います。
 嶋﨑先生、本日は、大変御多忙のところ、検討会に御出席いただきまして、大変ありがとうございます。また、お待たせいたしました。
 私、検討会の座長の山川でございます。
 それでは、15分程度御説明いただいて、25分程度の質疑応答を行わせていただきたいと思います。
 どうぞよろしくお願いいたします。
○嶋﨑氏 御紹介いただきました、弁護士の嶋﨑です。
 本日は、ヒアリングにお招きいただきまして、どうもありがとうございます。
 労働側にとっても本当に大事なルールですので、私の拙い実務経験等を踏まえてのものになりますが、お話をさせていただけたらと思います。
 私は、日本労働弁護団、労働者・労働組合側の立場で、日頃、弁護士として活動しております。このテーマについて、労働弁護団内でも多少議論していた点も含め、本日はそれを反映させてはいただく予定ですが、最終的に述べる意見は私個人の見解になりますので、その点は御容赦ください。資料を使いながら、説明させていただきます。
 まず、冒頭から、無期転換ルールの点からお話をさせていただきます。
 コメントのところですが、通常、基本書等に書かれている趣旨のような無期転換ルールとはちょっと違う書きぶりになっているように思われたかもしれません。一般に言われる無期転換ルール、有期労働契約の濫用的な利用を抑制して労働者の雇用の安定を図るというものは、当然のことなのですけれども、さらに、その背景、当時、立法時に議論された背景として、このようなこと、雇い止めの不安から当たり前の権利行使をためらう有期雇用の労働者の実態は、立法時も現在も私は全く変わっていないと思います。ですが、ここでは無期転換を待遇の改善の契機とするというところをあえて記載させていただいています。
 労働者の当たり前の権利といっても、例えば、残業代とか、有期の方は時給計算で働いている方が多いですが、時給15分や30分は切捨てで賃金が払われているとか、教科書ではあってはならないことでも世の中にはごまんとある事実で、山のようにそういう事案を見てきました。有給休暇は、理論上はもちろん権利行使はできるわけです。ただ、それがなかなかできない。理由は幾つもありますし、もっと言えば、無期雇用の労働者であってもなかなか権利行使ができないわけです。ただ、雇い止めが一つ大きな障壁になっているので、これを一つ取っ払うというのがこの無期転換ルールの大きな趣旨と考えています。
 旧労契法20条と同時にこの法律ができたという点も大きいと思っています。非正規労働者の皆さんに、一般的には、大きな格差、不公正な格差があるという前提の下に、その格差を是正する意味で有期と無期との間での格差是正で旧20条があり、それを転換することで雇い止めの不安から解放された労働者がより自発的に労使関係の中で改善を求める契機になるという意義があると思っています。そのように考えなければ、「ただ無期」という言葉が本日も何度か出てきておりますけれども、無期転換をした瞬間に、旧20条、89条等の権利が消えてしまうということであれば、それは全く不均衡なものです。立法当時も旧20条と無期転換ルールが両輪で機能することが想定されており、具体的には、無期転換ルールの規定中の「別段の定め」を活用し、労使関係の中で待遇が改善されることを念頭に法律がつくられていると理解していますし、実際の審議の中でもそのような議論がなされました。
 そうは言いつつも、極めて残念ですが、「別段の定め」の実際の活用はまだまだ不十分であると思っています。実際に法制定時の国会の審議では、労働組合出身の議員の質問に、当時の政府側からも労働組合出身の方が、御自身の経験として御答弁もされています。集団的な労使関係がある職場であれば、比較的「別段の定め」を使って転換後の状況に不合理な格差があるのであれば、職務の内容の見直しと合わせて、全く差がないのであれば単純に是正だけでよいのでしょう。ですが、通常は、何らか、職務の中身、仕事の中身に違いがある場合が多いと私も思います。そこを含めて、場合によっては、責任も重く、責任に差がないのであれば、単純に格差を是正する。それを労使関係の中で期待されたのがこの制度だと思っております。
 この活用が不十分である要因として、周知の点は大事で、より広げていくべきだと思います。多様な形での周知には賛成でございます。ただ、周知だけではなかなか限界があるのかなというのが、2つ目のポツの箇所で、私の意見です。無期転換権という権利行使は、先ほどの有給とか、休憩を取りたい、賃金が一部不払いで時給がカットされているとか、そんな問題でも権利行使をためらう風習が現に労働者の中に有期・無期を問わずあるわけです。無期転換権は、先ほどの使用者側の峰先生のお話を聞いていても、立場は違えどうなずくところが多かったのですが、転換権を行使したときに、使用者側から強烈な反発を受けるものだと私は思っています。労働者が権利行使することを喜ぶ使用者というのは、よほど理解がある方でない限りなく、何らかの不穏当な労使関係というか、思いをされる使用者の方が多いし、それを意識した労働者側もためらわれる。これを職場風土という言葉で書かせていただきました。現実にあるので、有給すらなかなか行使できない方が、気軽に無期転換を行使できるのかと言われれば、それはそのとおりかもしれません。立法上もより転換権を促すような制度をつくれないかと思います。具体的には、使用者側の無期転換阻止で、先に幾つかお話しさせていただきますが、制度はありますが、クーリングや更新条件などに対して、場合によっては無期転換阻止の雇い止め自体に対して、何らかの明確で具体的な提案をすることで、より周知が図られればと思っています。
 (2)①のお話をします。重ねてのコメントになりますが、社会的な啓発などは改善を求める上で賛成です。労働者への周知徹底をするという辺りは賛成ということで、さらに、関連することで幾つか意見を重ねさせていただきます。
 労働契約の締結時に使用者から明示的に無期転換ルールが適用され得る契約であることも明示されるべきだと思います。これはあらゆる契約がそうなのですが、5年を超えればあり得るのだと思うのですが、労基法の中でも明示事項として入れる。当然のことかもしれませんが、明示されることで、契約書に書いてあることで、周知はされると思います。また、無期転換の取得に近い時期、例えば、この更新で5年を超えるという最後の更新の場面などで、使用者は労働者に具体的に転換権があなたに付与されているということを周知しなければならないという義務を課すことも極めて有効だと思います。使用者の側もこの義務を果たすために無期転換ルールをより認識する契機になります。実際に裁判などで正面切って「無期転換阻止の雇い止めであるがこれは合理性がある」のだと使用者から主張されるケースはないのではないかと思います。無期転換の雇い止めなのか、需給調整のための雇い止めなのか、別の雇い止めなのか、結局そこは主観の問題です。明示されていれば裁判所の判断も無効だと決まったようなものだと私は思うのですが、主観面は立証が難しいわけです。具体的な周知義務などを課す中で、何のための雇い止めなのかが使用者側でも慎重に検討され無期転換阻止の雇止めが防止できるようになるのかなと思います。
 また労働契約に入るそのさらに前の段階、求人段階においても、一般的に労働契約の中身になるわけではないですが、具体的に無期転換ルールについて何かトラブルがあったときに、1つ、契約自体を解釈する指針にもなります。何よりも、求人段階での労使双方、労働市場を通じての周知の機会は、この無期転換ルールを広げるために極めて有効だと思います。
 次の②に行きます。無期転換前の雇い止めは、コメントに書かせていただいたとおり、相談はとても多いのです。例年、2月、3月辺りに本当に相談は多いのですが実際に裁判なり交渉にまでいくケースは、私に限らず労働側の弁護士などの実感としてはすごく少ないです。これは、裁判などコストの問題もあります。やれば確実に費用が回収できるのであればやれるのかもしれないが、もともとそれほど蓄えがない労働者の方が有期労働契約の方は多いです。何よりも、私が正面切って言うのは非常にためらわれるのですが、端的に、労働者側がなかなか勝てない事件類型なので、しっかりとコストを回収してあげられないリスクがあります。とりわけ、不更新条項などを入れた場合、もちろんそれでも労働組合などの支援を得て、無期転換阻止の不更新条項が入っているから直ちに全てが雇い止めへ移行になるわけではないというのが今の裁判実務だとは思いますが、それで争いづらい。圧倒的に多くの労働紛争は判決まで至る前に和解などでの解決があり得るわけですが、これが入っているだけで、和解解決の水準においても大きなネックになってきて、労働者が争う機運をそがれてしまうところはあります。
 無期転換阻止の雇い止めの類型として、幾つか紹介しております。今無期転換関係の相談などで経験しているものを幾つか挙げさせていただいております。例えば、無期転換後の労働条件の切下げは何を意味するかというと、転換権を行使するのであれば、例えば、配転に応じてくれとか、もっと極端な話でいけば、時給を下げますとか、時給を100円下げるけれどもいいのかとか、そういう形をして、下がってしまうなら私は転換しませんと拒否をして実際に雇い止めになるといったことがあります。もしくは、転換権行使自体を断念せざるを得なかった方とか、このタイプは裁判にはなかなか出てきませんが、実際には存在します。試験の選抜や能力登用型のパターンも非常に多い類型です。いろいろな使用者側のお考えもあるのかもしれませんが、無期転換というか、ある程度の有期契約の皆さんを正社員化していくことについて、全否定をされる方はあまりいらっしゃらないのだろうと思うのです。実際に長期間働いている方はいらっしゃる。ただ、誰でも正社員化したいとは思っていらっしゃらない。ある程度選びたい、選別をしたいと思う方が多くて、このような正社員登用の試験があるからということです。ですが、労働者側から見れば、ここで恣意的な選別がなされがちで、使用者にとって面倒くさい、いろいろな意見を言う、物を言う労働者などが排除されがちです。この辺り、客観的に年数で現実に労務提供し、会社に貢献できた期間だけで転換できるというこのルールの意味が骨抜きになってしまうということです。
 クーリング期間について、実際に派遣・請負の中に入れさせるという分かりやすいパターンもそうですが、クーリング期間、一度契約更新をしない、例えば、6か月後にまた雇い入れることを提案しているケースもあります。こういったケースは紛争が顕在化するケースも少ないのですが、実際に相談などではあります。
 具体的な提案として、制度の創設に対する、労契法上の創設に対する提案となります。使用者において、無期転換阻止の雇い止めが好ましくはないといった趣旨の国会答弁などもあり、厚労省などの啓発文書などにも記載がございます。少なくとも好ましくないということをもう一歩進めて、無期転換阻止の雇い止めならば許されないとの禁止規定を設けて明示することを提案いたします。結局は無期転換阻止の雇い止めであるかどうかが議論になるわけで、どこまでこんなものに意味があるのかとなるかもしれませんが、そういう規定が明記されるだけでまず大きく違うだろうと思います。
 さらに言えば、使用者により転換権行使の近い近接した時期での雇い止めであれば、無期転換阻止の雇い止めになることの推定規定を設けるとかがあればさらに有効かもしれませんが、この無期転換阻止の雇い止めについて、法律の明示上、許されないということが明記された規定があるというのは大きいと考えます。
 通算期間とクーリングのところですが、通算期間を2年にすべきという意見を書かせていただきました。ちなみに労働弁護団では3年という意見を以前だしたことがあり、私のほうが少しプラスで意見を出しています。
クーリングのところは、無期転換阻止の雇い止めで述べたように悪用されている実態があるので、削除すべきだと思っています。立法時から、労使双方、労働側、使用者側、それぞれどのような場合にクーリングがなされるかという例示のようなものが国会答弁等であり、通達なども出ているのですが、実際にはもっと幅広くクーリングの期間が使われてしまっているというのが実情であろうと思います。今回のヒアリングの中でもその例があったので、悪用されている実態がある以上、廃止するべきであろうと思います。
 転換後の労働条件は、先ほど冒頭でお話をさせていただいた「別段の定め」による改善が期待されているけれども、実際にはなかなか機能はしていない事実があります。ですので、旧20条、現行パート有期法8条9条との比較の問題でも、そこは何らかの法的な規制が必要であろうと思います。転換権を行使した労働者についても、転換前の状態において、いわゆる正社員との比較で格差を是正できるような規定、転換権を行使した場合もしない場合も包括的に不合理な格差の是正がなされるような規定が必要だろうと考えています。
 有期特措法の話ですが、ここは、それほど深い考えはないのですが、一応書かせてはいただいたという程度で御理解ください。利用されていないから廃止すればいいのではないかと少し乱暴な意見でございますが、高度専門職は利用実績が1件だけだと思います。無期転換ルールという大事なルールの例外、ほぼ利用されていない制度の特例をいろいろなコストを入れて導入する意味はないと思います。
 二種のほうは、御相談等、紛争はすごく多いというのが実感です。これは何もこの第二種の問題により紛争が起きているというのは、ダイレクトにそうではないだろうと、違う次元であろうとは思いますけれども、高年齢者の処遇は、労働法制上、これからますます大事な課題になってくると思いますが、そのときに、実際にかなり待遇の問題で不公正な処遇がなされているのではないかという点は大きな課題ですので、この契機になるようなものはなくてもよいのではないかという意見を書かせていただいています。
 申し訳ありません。時間が来てしまいましたが、その他のところ、不更新条項への対応のところは先ほどある程度お話をさせていただいたとおりでございます。入口規制の点ですが、入口規制が必要であろうと、労働弁護団で2016年に出した立法提言、3つの例外を入れつつということで示させていただいています。入口規制とは別に入口規制を導入しないのであれば、有期契約を締結する理由を明示するよう契約締結時に説明を課す。これは現状でもあればよいと私は思っています。
 非正規公務員が直接の検討対象ではないのは理解しておりますが、労働契約法の適用がない職場における、いわゆる非正規公務員と言われる方の待遇が、労契法適用職場に大きく影響している実態があると思います。公務員関係の影響を受ける職場、独法や学校や研究施設等で、無期転換ルールや雇止めのトラブルが多いのは偶然ではないと思います。
 多様な正社員のところは少し理念的な話が多いのですが、(1)と(2)を両方まとめてのコメントを総論的にまずは書かせていただいています。現状の認識ですけれども、いわゆる正社員において、無限定正社員と評されるような勤務地と労働時間、勤務時間の関係で、すごく不安や不満が多いと思います。それが非正規の方の働き方と両輪、表裏であると思っています。女性だけの問題ではありませんが、とりわけ女性の労働者への影響は大きいと思います。
 今回の資料などにもあるとおり、確かにM字型の問題は解消傾向にあるようには見受けられますけれども、問題が消えたわけではありません。今でも、、正社員として働き続けられている方の働き方だけを見ていると分からない問題があります。そのうえでなぜジョブ型を選ばざるを得ないのかということが重要です。家庭責任、育児や介護などとの両立、遠隔地配転の問題があります。勤務地についても、地域のつながりを大事にしながら生きていきたいという自分の生き方の問題とも抵触します。例えば、育児介護休業法26条でも、歯止めがあるとはいえ、あまり機能はしていないというのが私の実務の実感でございます。いつまでもその状態でいいのか。これは無期転換ルールと併せて、単に労働者自体の保護ではなくて、社会全体の安定、不安定化の問題にもつながるはずです。それが、一時的、短期的、もしくは、一部の労使関係における時給の問題だけではなくて、社会全体の不安定化、経済的な面でも大きな問題になっているのではないかと思います。社会の変化にあわせて働き方自体もいつまでも、労働者の異動不可欠、ジョブローテーションでもいろいろな勤務地を経験することでキャリアを形成するという働き方が本当に必要なのかという問題意識があります。それが日本社会全体の活力につながるのかという視点です。私は、労働政策等の専門家ではありませんが、現場で多くの労働者などと接していて、労働者がキャリアを構築する機会を逸しているのではというのは労働側弁護士の実感です。
 具体的ないただいた明示の点については、明示されることそれ自体に対して特段反対はないのですが、危惧は抱いております。資料の「ただし」というところで長々と書いているのですが、どうしても明示された勤務地が限定であると、その勤務地がなくなれば、そのジョブがなくなれば、解雇される、もしくは、不利益な労働条件を受け入れるしかない。そのような解釈が使用者側から提示されることを促すような形であれば、むしろ明示などされないほうがいいと思います。労働契約は、時間の流れで、労使双方、これは使用者側だけではありません。労働者側もいろいろな生活環境が変わり得るわけですが、当然経営者側も状況は変わると思います。そのような中で、変化があったときに直ちに雇用継続を断念せざるを得ないような事態は労使双方にプラスではないので、そのような明示があったとしても、悪用がなされないよう、だからといって、その勤務地、その職務等がなくなったときに直ちに解雇等が認められるわけではないと。緩やかであっても何らかの歯止めの徹底、当たり前の徹底が必要であろうと思います。
 時間を超過してしまい、申し訳ありません。私からは、取りあえず以上とさせていただきます。
○山川座長 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明につきまして、委員の皆さんから、御質問、御意見等があれば、お願いいたします。
 竹内委員、どうぞ。
○竹内(奥野)委員 非常にいろいろな点につきまして詳細に御教示いただきまして、ありがとうございました。
 私からは、ちょっと多くて恐縮ですけれども、4点、お伺いしたいと思います。
 1つ目は、資料の6ページの一番下から7ページにかけて、労働契約締結時に書面で無期転換ルールが適用され得ることを追加ということですけれども、その点についての質問です。先生のお考えは、例えば、使用者が5年を超えて雇わないという意図をはっきり持っている場合でも義務づけるというお考えでしょうか。これをお伺いしている背景は、先生はもちろん御存じだと思いますけれども、そういうことを言うと、雇用継続に対する合理的期待が生じてしまう可能性がある、すなわち、雇いどめとの関係で影響するのではないかと思ってお伺いする次第であります。同様に、合理的期待との関係で、求人段階から示すということも含めて、今のような指摘に対して先生のお考えを教えていただければと思います。要するに、無期転換のルールについて労働者側に周知する必要性はもちろんあると思うのですけれども、特にあなたにはこの権利があるかどうかということはある程度将来のことですので、いつから知らせるべきかというのは制度を具体的に設計していくに当たっては実際に重要になってくると思いますけれども、その観点でお伺いする次第でございます。これが1点目でございます。
 2点目で、相談の中で、権利行使をしたら時給を下げるという事例があるというお話でしたけれども、それで妨害を禁止というお話でしたけれども、例えば、権利行使を理由とする不利益取扱いの禁止という労基法とかでは存在するような規定を18条に関連して入れるというアイデアについて、先生はどのようにお考えか教えていただきたいというのが2点目でございます。
 3点目の質問なのですけれども、3点目と4点目は不更新条項関連の質問ですけれども、資料の中で無期転換期間よりも短い不更新条項を定めることは実質的な脱法だという御指摘があるのですけれども、他方で、一つの考え方かもしれませんけれども、現行法は5年以内の有期雇用は認めているのだと。そうすると、5年よりも短い通算雇用期間とするという条項がなぜ脱法となるかについて先生のお考えを教えていただきたいというのが3点目でございます。
 不更新条項を入れる場合は説明義務を課すべきだというお話でしたけれども、これはある意味入口規制に近い側面を持つと思うのですけれども、仮に入口規制は現状のまま課さないとした場合、こういう説明義務については課すとなると、整合性が問題になってくるようにも思われるのですけれども、仮に入口規制そのものは課さないという現在の政策を維持した上で説明義務を課すとすることについて、整合性とかの点で問題がないかについて、先生のお考えをお聞かせいただきたいというのが4点目でございます。
 多くて恐縮ですが、よろしくお願いいたします。
 周知関連のところですね。
○嶋﨑氏 まず、1つ目の5年の上限を入れた場合、私は入れることを許すべきでないという立場ですけれども、実際にたくさん更新の上限が入っている契約はございます。そのような場合にその労働契約における周知をするべきかどうか。上限が入っているのに転換できると書けば矛盾してしまいますので、これはなかなか難しいと思います。むしろ、私は不更新条項を入れるべきではないという立場なのですが、もし仮にやるのであれば、むしろ誠実に説明するべきだと思います。実際に契約書に書いてあるわけですが、例えば、求人段階でもしっかりと、労働市場において、しっかりと更新ができる、むしろ積極的に無期転換を促進していて、安定した雇用、正社員化を目指して、有為な人材、やる気を生み出して労使双方ハッピーな環境を目指している企業さんもあれば、高齢者の更新はない、むしろフレッシュな人の入替えを求めているのだということを考えていらっしゃる企業もございます。それは労働市場の段階から明確に、契約の締結時もそうですけれども、むしろしっかりと説明をされたほうがいいのではないかと私は思います。
 2つ目ですけれども、先生からお話しいただきました権利行使を伴う不利益取扱いの禁止の規定は、害はないものですし、あればプラスになるであろうと思います。妨害を禁じる規定として、権利行使の妨害をしてはならないという規定で好ましいものであると思います。思いついてもよさそうなのに私が挙げていない理由は、やろうと思ったけれどもというよりは、むしろ、やったら妨害されてしまうという、もっと入口の段階というか、原始的なところで抵抗があるので、もしくは、使用者側においてもそのような部分があるので他の制度を挙げているに過ぎず、ご提案のあった制度もあれば好ましいと思います。
 4点目は、入口規制を入れた場合と。もう一度、よろしいですか。
○竹内(奥野)委員 3点目と4点目になるかと思いますけれども、無期転換の期間よりも、要するに、5年以下の不更新条項、更新限度の条項とかについては、実質的な脱法だというお話ですけれども、他方で、現行法は5年以内の有期雇用は認めているとも考えることができるわけでして、そうするとなぜ脱法なのかということについて先生の御説明をいただければというのが3点目です。
 もう一つ、不更新条項を入れるときには説明すべきだというのは、先ほどの1点目のお答えに重なってしまうかもしれませんけれども、そのような説明をさせるというのは、ある意味、入口規制に近い側面があると思うのですけれども、そうすると、現行法で入り口規制は入れていないという状態を仮にこのまま維持するとした場合に、整合的なのでしょうかという質問がされたときに、先生はどのようにお答えになるかについて教えていただければと思っております。
○嶋﨑氏 ありがとうございます。
 3点目ですけれども、確かに5年を限度に認められますが、私の資料で不更新条項への対処という箇所で、「実質的に脱法的」と説明させていただいております。これは、「特段の事情」が示されない限り、不更新条項により更新回数・更新年度を制限できないということです。入口規制に類するものといえるかもしれませんが、上限の回数・年度を超えない限りにおいて有期労働契約は締結できますし、「特段の事情」として何らか合理的な説明がなされれば許されるので、入口規制と比較すれば使用者側にとっても影響は少ない穏当なものであると思います。実際、参考資料で今回御準備いただいたものをみても、参考資料4・31枚目のスライドにあるように5年を超えないようにしようと考える企業のいろいろな対応など従来からそういう管理をしてきたものがあると思います。これは複数回答なのですけれども、新陳代謝を図りたい、固定化させたくないという理由で無期転換させたくないという使用者の本音はでているので、こういった本音が合理的に説明ができるようなものなのかという疑問があるので、その辺りで不更新条項を縛っていくことは、有期契約が5年の範囲内で認められることと、矛盾はないのだと思います。
 4点目ですが入口規制に一歩近づくようなものと言われればそうかもしれません。ただ、先ほど説明させていただいたように、「特段の事情」なる合理的な理由があれば許されるのであり、入口規制それ自体よりは使用者側にとっても影響が少ないものであろうと思います。そもそも、5年を超えないようにする努力も労使双方に実益のないもので、それこそもともと無期転換ルールの趣旨を果たすためには、濫用的な理由自体をしっかりと説明をさせる。場合によっては、その説明の中身についてさらに一歩進むと入口規制になるのだと思います。無期転換ルールをつくりその充実を図ることで、濫用的な有期雇用、社会の不安定化の要因になっているものを1つ進められると思うのですが、さらにその先、入口の段階までなければ、実効性を確保するのは難しいのではないかという意見でございます。
○竹内(奥野)委員 どうもありがとうございました。
○山川座長 ありがとうございました。
 ほかに、御質問、御意見等はありますでしょうか。
 両角委員、どうぞ。
○両角委員 嶋﨑先生、ありがとうございました。
 私から、1点、お伺いしたいと思います。
 無期転換後の労働条件というところで、先生が提案される対策として、無期転換後の労働者と期間の定めのない労働者との間で、不合理な労働条件を禁じる規定を創設してはどうかということがありました。これは、理屈を進めていきますと、無期転換後の労働者は無期雇用、期間の定めのない契約で、もともと先生が想定されているのは正社員のような人だと思うのですけれども、無期と無期の労働者の間に処遇の格差があって、それが不合理であればそれは法で禁止することになると思います。それを進めていくと非常に広がっていく可能性があるというか、考え方として、例えば、もともと無期で雇われた一般職と総合職とか、そういう間の労働条件の格差も不合理であればいけないのではないかみたいな話にもつながっていく可能性のあることなのかなと思うのですけれども、先生のお考えはそこはいかがでしょうか。これは無期転換後の人だけに限定したものとしてお考えになっていらっしゃるでしょうか。
○嶋﨑氏 ありがとうございます。
 現状の労働者の置かれた状況として、無期雇用の間の中で、特に性別による格差の問題が多いのですが、現在も確固たるものとしてあるとは思いますので、いわゆる正社員間の格差も課題があると理解しております。けれども、また性別による差別などは均等法など別の規定もありますので、その問題として捉えております。正社員間というか、無期雇用の中での格差は確保されるべきであろうと思いますし、その点が放置して良いわけではありませんが、優先順位としては有期と無期との間のほうが、より広い格差、不合理さがあるのではと思っております。無期雇用の方と有期の方や、さらに転換した後の方、これは転換権を行使するかしないかによって格差の是正の手段が変わってしまう方を対象に、まずは対策を考えるべきであろうと思います。旧20条の裁判などをやるために、転換権を行使しない方は私の依頼者でもいらっしゃるので、まず優先的にそういった矛盾を解消すべきであろうと思います。労使の自治の中でどこまでを是正して、もしくは、その他の性別を理由とした規定の中でどう是正するかという点もありますが、実態としては、有期・無期との部分のところは新たな法的救済をはかる制度を設ける優先順位が高いと思います。
 よろしいでしょうか。
○両角委員 ありがとうございます。
 そうすると、一般的な均等待遇原則みたいなことよりはむしろ無期転換制度の趣旨や意義を実質的に担保するためにという御趣旨ですか。
○嶋﨑氏 そうですね。一般的なものが要らないとかという意味ではないのですけれども、ここで提案しているものと、それだけを進めたときのバランスの悪さはあまり感じないという意味であります。
○両角委員 分かりました。どうもありがとうございます。
○山川座長 安藤委員、どうぞ。
○安藤委員 安藤です。よろしくお願いします。
 私からは、2点、教えていただきたいことがございます。
 まず、無期転換前に伴う労働条件の切下げという問題を御指摘いただきました。配置転換を伴うとか、転居を伴うという話についてはあり得るかなと思ったのですが、気になった点として、時給が100円下がるというお話です。この点について、経済学者的な乱暴な議論に聞こえるかもしれませんが、雇用保障が強くなった分、保険料分だけ賃金が安くなってもしかるべきではないかと考えられませんか。逆に言ったら、有期雇用で雇用保障が弱い場合には、そのリスク分だけ賃金は高くてもしかるべきではないかと考えてもしまうわけです。処遇が改善する、時給が上がるということは、例えば、責務が重くなるとか、何かとセットであれば、理解ができます。しかし、有期雇用からただ無期になる、仕事内容も変わらない、責任も全く変わらないのに、有期から無期になったということで処遇が上がるべきだともし考えるとしたら、そこにはどういう理屈があるのかと。例えば、ある1時点で考えたときに、同時に同じ能力の二人を同じ仕事をやる条件で雇用するとします。ただし1人は有期雇用で、もう1人は無期雇用です。このとき無期雇用の人より有期雇用の人のほうがリスクを負っているのだから、その分、時給を高くしてあげないとおかしいではないかというのも一つの整理だと思うのですね。能力や仕事内容が変わるわけでもなくただ無期に変わりますみたいなケースで、労働条件が同じまたは切下げといったときに、これは全て認められないのか。それとも、何らかの条件が付されるのか。この辺りについて、まず、教えていただきたいというのが1点目です。
 2点目は、限定正社員、多様な正社員についての話にも関連するのですが、無期転換した後、その会社には、ばりばり働く無限定型の正社員、つまり転勤もあれば、配置転換もあれば、残業もあるような正社員と、有期雇用から無期転換した、ただ無期になった、職務が限定された無期の労働者がいた場合、この間のバランスをどう考えるのかというところが少し気になっています。例えば、有期雇用の入口規制についてもお話しいただきましたが、私の理解では、諸外国で取られているバランスというのは、基本的には職務が限定されていて、入口規制はあるけれども、その労働者にやってもらう職務がなくなった場合には、経済的理由による解雇はある程度認められている。労働者側も、それをある程度は仕方がないものだと言って受け入れるものだという認識が、特に欧州などではあるのかなと理解していました。これに対して、無限定の日本型のばりばり型の正社員について、たまたま会社の都合で配属していた今の仕事、勤務地がなくなったときに、それで解雇というのは濫用だと疑われる可能性が高いとは思うわけですが、職務を限定して、また、勤務地を限定して雇った労働者を、狙い打ちで恣意的に解雇するような目的で特定の仕事や特定の事業所を廃止するということは、私としてはなかなか考えにくいかなと思うのです。この点、仕事が限定された無期雇用労働者の経済的理由による整理解雇についてどう考えればいいのかということについて、先生の御見解を教えていただければと思っています。
 よろしくお願いします。
○嶋﨑氏 どうもありがとうございます。
 最初の御質問ですけれども、現状の認識、まず、安藤先生にお話しいただいた中身は、これがあれば、仮定的にはすごくすとんと私も落ちます。実際に有期の方が実際に不安定であるがゆえに賃金が高いという現状があるのであればすとんと落ちるのですが、実際には、冒頭、旧20条と両輪でこの制度ができたと私の理解をお話しさせていただいており、非正規の方に現状で圧倒的に格差があります。実際、非正規の有期契約の皆さんの現状に対する満足度などの中でも、待遇に関するものなどもすごく不満度が高いし、賃金の水準なども、いろいろな統計を見てもすごく低いという現実があって、格差を是正すると同時に、賃金の低い有期の方を引き上げるようなものと同時に、引き上げる要求もしやすい転換権も付与するということを考えています。ですので、例えば、具体的に法解釈に落とすと、別段の定めの中で切り下げることは許されないと一般的には言われておりますけれども、現状、もし万が一、例えば、有期の方は1万円だけれども、有期であるプレミアムによって、ある意味のデメリットを享受するために、時給が1万円であると。ただ、ほかの無期の方は時給換算にすれば7,000円しかないのだから格差を是正するというケースであれば、私も、立場上、怒られてしまうかもしれませんが、あまり不合理だとは思いません。実際には、私が実務上触れる事案では、非正規の方のほうが、身分に例えられるぐらい賃金も圧倒的に低い立場にある方ばかりですので、問題意識としては、転換後の待遇が下がる場面で、これが正当化されるような場面が浮かばないというのが私の実感でございます。1点目は、以上です。
 2点目ですけれども、判例の分析など、今回、コメントとしてつけていないのですが、有期契約の労働者の皆さんに関する整理解雇、いわゆる限定的な仕事である整理解雇の場面の裁判例においても、この勤務地において仕事がなくなったから有効になるかというと、いろいろと意見が分かれていて、私は、そうではない、必ずしもイコールではないと思っていて、少なくともその解雇を回避するための努力とかをして、ほかに余地があればほかの勤務地で労働者に提示して打診するとか、具体的な解雇回避の努力は、このジョブがなくなったから、この店舗が閉鎖されたからといっても、A駅前店は駄目だけれども、B駅前店でもあって、そこでの配転などで可能性があるかどうか打診して協議をするとか、そういう仮定はあるので、直ちにその仕事がなくなったら整理解雇が認められるわけではないという理解にのっとって、それは決して不合理ではないと思っています。いわゆる無限定と言われる正社員と全く同じでいいかということついては、これはいろいろ議論があると思いますけれども、ジョブが限定されたから、それによって直ちに有効になってしまうという形でこの限定正社員の議論が進むのであれば、まさにその点が危惧をする点であるという説明をさせてください。
 ご指摘のあったような、狙い打ちで恣意的に解雇するような目的で特定の仕事や特定の事業所を廃止することはなくても、そもそも特定の仕事や特定の事業所が廃止されたからといって、その労働者の解雇が認められるべきではないと考えており、判例もそのように判断していると理解しております。
 以上です。
○安藤委員 ありがとうございました。
○山川座長 戎野委員、どうぞ。
○戎野委員 大変多岐にわたり、いろいろとご説明をありがとうございました。
 私からは2点ほどお願いしたいと思います。
 1点目は、まず、高齢者の処遇の紛争が頻発し相談も多いということなのですけれども、御存じのとおり、高年齢者雇用安定法の改正が進んでいく中で、制度も変化してきましたので、その中で紛争の内容や相談の内容が変わってきているのか教えて下さい。この間、公務員の60歳以降の雇用についても決まりましたけれども、処遇が低下することは前提になっている内容のようで、いわゆる高齢者の扱いについては、ある程度、暗黙の了解みたいになっている。これまでの慣行もあるかと思いますし、これがいいか悪いかは別としましても、そのように進んできていると思うのです。そこで、法改正が与えている影響や、昨今どのような状況が発生しているのか。裁判に至らない例が多いと最初に御説明いただきましたので、相談レベルでどのようなものがあるのかというところを教えていただければというのが1点です。
 2点目は、この無期転換ルールを希望するような労働者は、比較的労働組合に加入していないような労働者が多いかと思うのですけれども、こういう制度をスムーズに機能させるためにはどのような労使関係の形成があるべきだとお考えなのか。少し、漠然とした質問かもしれませんけれども、組織率というのもなかなか上昇してこない中で、先生のお考えがあれば教えていただきたいと思います。
 よろしくお願いします。
○嶋﨑氏 ありがとうございます。
 まず、1点目ですけれども、高年齢者の法改正の影響は、これは単純な感覚ですけれども、影響はあるのだろうと思います。年金の制度も含めての社会の動き、高年法の頻繁な改正によるのだと思いますが、処遇がある程度下がるのは仕方がないと多くの方が思ってはいるけれども、とはいえ、同じような仕事をしているのにここまで低いのかという形の納得感がないとか、現実に、この賃金では食べてはいけないという生活相談に近いような面でご相談が多いです。そこで自分自身の提供している労務提供の中身、果たしている役割と賃金に見合わない感覚をお持ちなのだと思います。それが、不公正感、不公平感につながっていて、その辺りが、再雇用の方だから仕方がないようなやむを得ない感覚がどうしてもあるのですが、その辺りは何らかの政策があればいいなというのが獏とした私の実感でございます。
 2点目は非常に難しい問題だなと思うのですけれども、私の理想で言えば、この転換権行使を通じて労働組合の組織率が上がればいいなと思っておりました。「別段の定め」のところなどをどうやって生かすのかも含めて組織率向上に活かされたらと考えておりました。理屈の上では、労働者個人でも待遇改善の交渉ができるわけですが、こんなものは絵に描いた餅というか、集団的な労使関係がなければ実のある交渉はむずかしいです。労働組合においても現在も頑張って周知されているので、今はやっていないという趣旨では全くありませんし、私のような労働側の弁護士もその役割を果たすべきなのですけれども、組織化において、もっとこの無期転換のルールをもっとうまくアピールできたらいいのにとか、まだできるはずだと私は思っています。そのためにも、さらに周知等、幾つか今日は政策提言をさせていただきましたが、集団的な労使関係は労使双方にとって健全な社会の発展にも資するし、経済界にとってもプラスだと私は信じているのですが、それにこの転換ルールが生かされればと考えています。
 以上です。
○戎野委員 ありがとうございました。
○山川座長 ほかに、御質問、御意見等はございますでしょうか。
 ございませんようでしたら、ヒアリングはここまでとさせていただきたいと思います。
 嶋﨑先生、大変貴重なお話をいただきまして、大変ありがとうございました。
○嶋﨑氏 ありがとうございました。
○山川座長 おおむね時間の終了が近づいておりますけれども、委員の皆様方から、何か特段、本日のヒアリング全体を通じてコメント等がありましたら、よろしくお願いいたします。
 竹内委員、どうぞ。
○竹内(奥野)委員 ありがとうございます。
 質問の中でやり取りさせていただいたものの繰り返しに近い発言になってしまうところがあり恐縮なのですけれども、本日のやり取りを通じて、これまで、私は、無期転換ルールについて、制度そのものの周知とか、教育とか、そういうものと、その対象になる労働者へ、その権利がありますよという周知、それは重要だということを申し上げて、その考えは別に変わってはいないのですけれども、他方で、契約更新に対する合理的期待、労契法19条の法理との関係で、具体的に何かそうした周知に関して義務を課していくという場合に、具体的な制度策定についてはさらに考える点があるなと思っています。そこはまた議論なり調査なりをして詰めていく必要があるのではないかと思いました。
 また、これは自分の不勉強をさらけ出してしまうような発言になるかもしれませんけれども、嶋﨑先生とのヒアリングのやり取りの中で、18条と旧20条について車の両輪という形で御説明されていたかと思うのですけれども、その18条と旧20条との関係も今後検討した上で、無期転換後の労働条件のところについては議論を深めていく必要があるなと思いました。
 以上でございます。
○山川座長 ありがとうございます。
 ほかに、特に委員の皆様方から、コメント、感想等はありますでしょうか。
 よろしいでしょうか。
 非常に有益なヒアリングであったかと思いますので、今後の議論についても参考にさせていただきたいと考えております。
 それでは、特段ございませんようでしたら、本日の議論はここまでにさせていただければと思います。
 次回の日程等につきまして、事務局からお願いいたします。
○竹中課長補佐 ありがとうございます。
 次回の日程につきましては、現在、調整中でございます。確定次第、開催場所と併せまして連絡いたします。
○山川座長 ありがとうございました。
 それでは、これで第4回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」を終了いたします。
 お忙しい中、お集まりいただきまして、大変ありがとうございました。

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