第3回多様化する労働契約のルールに関する検討会(議事概要)

日時

令和3年5月27日(木)16:30~18:30

場所

厚生労働省労働基準局第一会議室 中央合同庁舎第5号館16階
 (東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者(五十音順)

(あん)(どう)(むね)(とも) 日本大学経済学部教授

(えび)(すの)(すみ)() 立正大学経済学部教授

(くわ)(むら)()()() 東北大学大学院法学研究科准教授

(さか)(づめ)(ひろ)() 法政大学キャリアデザイン学部教授

(たけ)(うち)(おく)()寿(ひさし) 早稲田大学法学学術院教授

(やま)(かわ)(りゅう)(いち) 東京大学大学院法学政治学研究科教授

議題

企業及び労働組合からのヒアリングについて
 

議事概要

F社(中小企業、従業員50名以上100名未満、全体の5%程度が有期雇用)(プレゼンターは中小企業団体の経営労働委員長であり、社労士でもある)

(1)無期転換関係
・5年を超えて有期雇用を継続した事例は無いし、6か月以上の有期雇用をする予定も方針も無い。
・定年を超える一般の社員がいないため、有期特措法の特例を申請する必要がない。
 
(2)多様な正社員関係
・特定の従業員から相談を受けて、当該従業員のために短時間正社員制度(本来7時間勤務のところ3時間から4時間の勤務を可能とした)を設けたが、業務上のコミュニケーションの面等で苦労しているようだった。
・当該従業員は既に退職しており、現在では上記短時間正社員制度の適用を受ける従業員はいない。
・多様な正社員制度の導入にかかる現行の就業規則の「絶対的記載事項の範囲の拡大」を法制化する必要性は無い。適切に文書で「労働条件明示」と「就業規則必要記載事項の明示」を徹底することで足りると考える。理由・課題としては、①近年パッチワーク的な法改正が続いており企業の負担を考えると不必要な事務負担拡大は避けるべきという点、②中小企業における多様な正社員制度では「短時間正社員」が主流を占めると考えられ、この場合は、労働時間と時給単価、手当の関係が主であり、従来の労働条件明示の範囲で対応可能である点、③10人未満の事業所において労働条件の明文化を進める上では現在定められている項目をきっちり作ることがむしろ大事である点、がある。
 
(3)中小企業アンケート(回答は103件)
ア.共通事項
・今回のヒアリングの依頼を受けて、中小企業団体の会員に対して独自にインターネットで2021年5月にアンケート調査を行った。
・回答した会社の業種は主にサービス業、卸売・小売業、製造業、建設業等。
・社内に労組があるという回答は1%。
・社員総数について、10名から29名の企業規模の会社が30%程度、30名から100名の企業規模の会社が23%程度。
イ.無期転換関係
・無期転換制度について、知っていたという回答が68%。
・無期転換に際して労使での話し合いをしたことがあるという回答が21.4%。
・現在の有期労働契約の人数について、0名が52.9%、1~2名が25.5%。
・これまで労働者の申込みによる無期転換をした者について、0名が77.5%、1~2名が10.8%。
・無期転換の制度があるという回答が30.4%。
・(無期転換の実績のある会社への質問で、)会社として無期転換に対応するために行われた取組内容(複数回答)について、「個別に対象者に説明」が51.9%、「就業規則にルールを定め説明会を実施」が37%。
・(無期転換の実績のある会社への質問で、)無期転換制度の概要(複数回答)について、「社員区分を、正社員にした」が57.7%。
・(無期転換の実績のある会社への質問で、)対象となる者に「無期転換」制度の利用をすすめても「利用しない」場合、その主な意見・理由(複数回答)について、「現状に不満はない」という回答が最も多く、47.6%。
・(無期転換の実績のある会社への質問で、)「無期転換」の効果と運用面の課題や改善を求める意見(自由記載)について、「無期転換は労働局の補助金の対象になっており、まず支給が遅い。」、「一年以上雇用する場合は自動的に無期転換される法整備をすすめてほしい。」、「ルールで縛りすぎると自由度が減る。」、「国・地方公共団体の「有期雇用」は目に余るものがあり、この分野こそ急いで有期雇用を廃止すべきである。」等があった。
・(無期転換の実績のない会社への質問で、)無期転換の実績が無い原因について、「有期雇用契約で雇用する社員がいない」という回答が最も多く58.4%、次いで「まだ5年が経過していない」という回答が22.1%。
・(無期転換の実績のない会社への質問で、)「無期転換」の制度導入をすすめようとしても「導入しない」ことになった場合、その主な意見・理由(複数回答)について、「対象となる者がいないから」が最も多く62.5%。
・有期特措法について制度面で改善を求めたいこと(自由記載)について、「「無期転換ルール」について撤廃を求めたい」、「定年後については、高年齢者雇用確保措置があり、無期転換ルールを定年後再雇用者に適用すること自体が、制度を無駄に複雑にしている。」、「制度の周知を求めます」等があった。基調として、そもそも定年後の再雇用であって、届出を必要とする制度は煩雑であって、届出を不要とすべきという意見が多いし、自分もそう思う。
・定年後引き続き雇用される有期雇用労働者等がいるという回答が37.3%、いるという回答のうち有期特措法を活用しているという回答は24%。
ウ.多様な正社員関係
・多様な正社員制度の導入を労使で話し合いをしたことがあるという回答が17.6%。
・多様な正社員制度については、これからの少子高齢化あるいは人間尊重の経営ということを考えると考慮に値する制度だということで、極めて肯定的な意見が多い。社内の多様な働き方を認め合う社風づくりやコミュニケーションを重視しないと運用が難しい。
・「多様な正社員」制度の導入を労使で話し合いが「有る」場合に出された意見(自由記載)について、「身分が異なる人がいると、社内の団結が難しくなるという意見がありました。」等があった。
・現在の多様な正社員の人数について、0名が66.3%。
・現在、多様な正社員制度の定めがあるのが11.1%。
(以下の質問は、多様な正社員制度を導入している会社への質問)
・制度として限定している内容(複数回答)について、労働時間の限定が最も多く77.8%、他方、職務内容の限定は22.2%、勤務地の限定は0%。中小企業はお互い近接する仕事をやっていくことが多いため、職務内容を限定するのは難易度が高いという気がしている。
・制度として限定している内容に関して正社員の処遇とどのような違いがあるかという質問(複数回答)について、基本給の総額の変更(時給単価は変わらない)が最も多く66.7%。
・限定内容と処遇の社員への周知・説明(複数回答)について、就業規則に制度を定めて説明会を実施しているという回答が最も多く55.6%、次いで個別に希望者に説明という回答が33.3%。
・限定内容の定め方(複数回答)について、就業規則の制度の条文で説明が最も多く66.7%。
・限定内容の変更方法(複数回答)について、就業規則の制度の条文で説明と口頭で条件を説明が共に44.4%。
・限定内容を明示することについては、「明示しないことにははじまらない」等、総じて肯定的な意見。
・多様な正社員制度を巡るトラブルの有無について、あるが33.3%。
・「多様な正社員」制度についての意見(自由記載)について、「元々日本は「メンバーシップ型」であり、「ジョブ型」も専門性を高めるというよりも、むしろその仕事しかやらないという認識があるために不協和音が起きやすくなる。」、「多様な働き方の浸透とともに、「正社員」という概念自体が曖昧になりつつあり、…「正社員」「非正規雇用」という枠組みから離れた、新たな言葉や概念が必要になってきている」、「一律で標準ラインに合わせざるを得ない「制度」は、ときとして(経営者ではなく)社員の邪魔になっていることを考慮して制度設計をして…いただきたい。」、「どのような基準で社内での制度導入の検討をすればいいのかわからない。」等があった。
エ.労働条件明示等
・多様な正社員制度等を展開するにあたっては、就業規則や雇用契約を大事にしながら、同時に口頭でもよく話し合って処遇を決めていくことが大事だと考えている。
・労働条件を明示することや、就業規則の作成・記載すべき事項、その他雇用ルールの明確化に関し、制度面で改善を求めたい事項(自由記載)について、「就業規則が複雑過ぎて内容を把握出来ていない経営者が多いため、存在価値がない。」、「紙の書面ではなく、雇用契約等をネット上で保存し、労使双方がいつでも閲覧できる第三者的立場で保存してくれるサービスがほしい。」、「就業規則の見直しを年に1度は行うことと、就業規則の説明を年1回以上開催を経営指針書に明記することの推進」、「10人未満の企業でも就業規則の作成義務を導入すべきと考える。」、「雇用時に就業規則の説明を必須事項とする。」等があった。
 
【質疑応答】
〇中小企業において、有期雇用契約は試用期間目的での利用が多いとのことだが、それ以外の目的での利用はないのか。中小企業における有期雇用の主な利用目的の状況についてご教示頂きたい。
→統計的に網羅したものを持っていない。なお、中小企業は実務が苦手で、例えば試用期間として有期雇用契約を締結しても有期雇用契約だったことを忘れてしまうことが多い。
 
〇アンケートでは無期転換申込権発生まで5年も要らないという意見もあるが、中小企業の立場から、無期転換申込権が発生するために5年が必要という点についてどう評価しているか。
→中小企業では2,3年勤続している方を雇止めにする余地はない。また、中小企業は人の確保が大変で、無期転換ルールについて関心が薄いのが実態。
 
〇適切に文書で労働条件明示と就業規則必要記載事項の明示を徹底すべきという意見だったが、労働条件明示の徹底のための具体的方策に関する意見は。
→雇用契約書についてまだ理解できていない中小企業は多いので、あまり項目を増やすよりは現行の明示事項を徹底することが大事だと思う。古い会社等では、正社員には雇用契約書を提示せず非正規社員にのみ雇用契約書を提示していることもある。
 
〇10人未満の小規模事業所ではそもそも働くルールが明文化できていないという指摘があったが、労基法で10人未満の事業場にも就業規則作成を法的に義務付けるという考え方についてはどう思うか。
→団体として、10名未満の会社でも書面で労働条件明示すべきという活動をしている。
 
〇多様な正社員制度を推進するにあたり、業務遂行上の問題以外で法律上の課題や法で講じてほしい方策はあるか。
→特に思い浮かばない。
 
〇アンケート回答では有期雇用を利用している会社が少ないようであるが、アンケートの回答は中小企業を代表する回答となっていると考えられるか。また、中小企業にとって無期転換の魅力がない理由は何か。
→そもそも1年以上の有期契約を繰り返している中小企業は少ない。中小企業は人の確保が問題で、有期雇用だと人が集まらないので、できれば最初から正社員で採用する。実務も苦手。また、労使の距離が近いこともあり、雇止めという発想にはならない。なお、アンケートに回答してくれたのは、真面目で労働者のことを真剣に考えている会社が多いと思う。
 
〇アンケートに記載されているように、多様な正社員がいると職場の団結力が下がる等の課題はあるか。
→当該企業では、社員の中でなんであの社員だけ優遇するのかという形で、労働者間のコミュニケーションの問題が解決していなかったのかもしれない。
G組合(情報通信等の組合が加盟する産別労働組合、正社員:パート=6:1、組織規模49人以下が7割。)

(1)G組合の考え方
・雇用の原則は直接・無期雇用。臨時的・突発的業務以外の業務というのは本来無期雇用の労働者に担わせるべき。
・恒常的な仕事に有期雇用労働者を従事させない「入口規制」が必要。どのような規制にするべきかというのを明確に持ち合わせていないが、仮にそのような規制を行った際でも、会社にとってそれが本当に必要な業務である限りは何らかの形で雇用は発生するのではないか。
・多様な正社員について、あくまで正規社員という枠組みの中で働き方の多様化の実現を目指すべき。
 
(2)無期転換関係(※以下のデータ関係は当該産別に加盟する労働組合へのアンケート結果)
・中小企業は大企業と比較して、有期契約労働者が少ない傾向にあると考えられる。
・転換後の無期契約労働者の労働条件や処遇について、全体として何らかの差異を設けている組織は多い。大企業と比べると、中小企業では職務や人事異動の点で正社員と同じという割合が高いかもしれない。
・無期転換の実績等について、有期契約労働者がいる組織では、半数程度の企業が法改正後に対応したと回答しており、法改正が一定程度不安定雇用の改善につながったのではないか。転換制度はないが、実績はあるという企業が20~30%程度あり、改正された法律を根拠に転換を実施しているようである。
・個別労働組合a(印刷業)について、転換後の賃金水準は、定年再雇用労働者と同一(無期転換前よりは向上)。契約社員から正社員への転換については、会社から長く働いてほしいという趣旨で40歳未満の有期契約労働者を対象に実施された。法改正前でもパートタイム労働者から無期契約に転換した実績もある。業務の広がりと処遇にあまりリンクがない。法改正によって無期転換の時期が明確になり、無期転換がしやすくなったとして、好意的に受けとっているとのこと。
・個別労働組合b(印刷業)について、転換後の賃金水準は、定年再雇用労働者と同一。法改正によって、明確な制度はないものの、有期雇用契約から正社員への流れになりそうで、よき事例。ただし、勤続年数は正社員登用からカウントしている。
・個別労働組合c(通信建設業)について、法改正による無期契約の制度化後、契約社員(無期・有期)の賃金制度(昇給)及び一時金に関して制度化。無期転換したことで同一労働同一賃金の対象から外されている労働者がいることも懸念し、契約社員の組織化にも注力、強化した上で会社と交渉し、会社として統一した賃金体系というものを導入し、転換ルールについても整備した。登用までの流れが明確になったというよかった点がある反面、これまでの実績の中では拠点の裁量で有期契約から正社員に直接行くという実績もあったことを見ると、遠回りになっているということはある。
・個別労働組合d(情報サービス業)について、契約社員の雇用は、プロジェクト対応期間を想定した有期雇用か、正社員を前提とした中途採用。半年ぐらいで上長から正社員にならないかという話がある。無期契約で継続している場合には、仕事の責任が比較的軽いような業務を任せているという配慮があるようである。
・無期転換権が生じる前の雇止めの発生状況について、中小企業では転換逃れを目的とした雇止めは概ね発生していない状況だが、大手企業の事例として、地域・職種限定の正社員への選考(登用率低い)の機会を設けた上で、5年を上限とした有期契約雇用が運用されている実態がある。有期雇用を行っている業務に関しては、会社として切り出した業務という印象を受けており、そういった業務に対して、無期雇用にすごく慎重になっている。
・無期転換制度を利用できる人が利用しない理由について、無期転換に伴う業務内容の拡大や責任の増加を避けたいという点、無期雇用そのものを希望していないという点があった。後者については、無期雇用は定年までの会社との契約関係にあるということを拘束であったり、新たな責任と受け取るということなのではないか。
・有期特措法の課題は特にない。
・課題としては、処遇を見直さずただ無期転換した労働者について、その後の同一労働同一賃金による処遇改善の対象から外れており、労働組合はあらゆる雇用形態間での均等・均衡を求めて交渉はしているが、その点、法制度がもう少し後押ししてくれると良いという意見も聞いている。また、ジョブ限定に起因する改善の程度はどうあるべきかというのが労働側にとっても悩ましい。法改正により5年という明確なルールができたことは良い点である。しかし、本来長く働いてもらいたいとするならば、5年も待つなということではないか。将来的になくなってしまう、または何らかの置き換えが可能、という可能性がある業務や作業を切り出して担っていただいている場合に、無期転換することをより敬遠しがちという点もある。実際問題できる限りの雇用継続の努力が法的責任上どこまで発生するのかがあまり見えない以上、体力のある会社ほど敬遠することがあるのではないか。
・労働者への無期転換ルールの周知徹底について、周知徹底は望ましい。更新の度に周知するのは、5年上限だということは真っ当なことではないのではないかと気づかせることにつながるとしたら、それはよい意味でプレッシャーになるのではないか。
 
(3)多様な正社員関係
・中小企業では、特に導入事例は確認できなかった。
・無期転換しても職種としては特に変わるものでもないが、遂行する業務の幅が広がっていき、業務内容という意味では正社員とだんだん差がなくなっていくものと思われる。
・中小企業では正社員の勤務地や勤務時間の限定という希望は実現できており、特に限定正社員を設定する必要性はうすいと思われる。
・均等・均衡処遇の実現のないまま有期契約の期間をタダ無期に転換した労働者は正社員とは言えないのではないかということを議論してきた。裏を返せば、均等・均衡待遇が実現した上で無期契約雇用したならば、それは多様な正社員と言えるのではないか。
・有期契約上限を5年とし、地域・業種を限定した正社員制度を設けている大手企業では、登用後の処遇は定年までの雇用を意識して賃金カーブが描ける制度としている一方、業務の範囲については、有期契約と比較して多分に広がっていく設計になっている。部門や事業所閉鎖等の場合の人事上の取扱いについて、直近の、事業閉鎖の事例では、有期契約については契約の期間内での対応を前提に個別事業所を案内する等の対応を行っている。
・法制度に限定内容を明示することについては、とりわけ職務をどこまで書き込むのか、業務に細かく書き込むのかは分からないが、どこまで書き込むか次第で取り得る反応が違ってくるのではないか。

【質疑応答】[1]
〇中小企業では無期転換逃れの雇止めは概ね発生していないとのことだが、なぜそのように考えたか。情報を把握しているのか。
→ヒアリングした際、雇止めは発生しておらず、人手不足で採用している中で、せっかく知識・スキルを手に入れてくれた人なので、雇い止めをするのではなく、継続して登用したいという発想のようである。
 
〇小規模の企業では試用目的の有期雇用はあるようだが、中~大規模の企業ではどういう目的で有期雇用を利用しているか。
→中~大規模の企業では、定年まで面倒みる労働者の人数を抑制したいということがあるのではないか。
 
〇無期転換は正社員化につなげるべきとのことだが、期間の定めが無期になるだけという現行制度に関する意見は。
→無期転換労働者は同一労働同一賃金の対象から漏れているという懸念はある。均等・均衡待遇というものを先に実現した上で無期に転換されるのであれば、今の制度上、同一労働同一賃金の中の枠組みから漏れることはないかと思うが、先に同一労働同一賃金の対応がすごく走っている中で、単純にただ無期契約にされた人が置いていかれていることに関しては懸念がある。
 
〇5年の試用期間とされることに懸念があるようだが、最初から無期雇用とすると雇用機会そのものが縮小しかねないという点に関する意見は。
→臨時的・突発的業務でないなら無期雇用を前提とすべき。最初は有期で雇用して無期転換するにしても、5年も引っ張る必要があるとは思えない。
 
〇入口規制が必要とのことだが、入口規制を入れることによって雇用機会を減少させる可能性があるとの意見もある。そうした意見に対する見解如何。
→当該労働者が担う業務がある状態で5年上限を超える前に契約解除し、別の労働者、又はクーリング期間をおいて同じ労働者を任にあたらせる「業務内容」ならば、本来無期雇用労働者に担わせるのが望ましいのではないか。どの様なルールにするかはわからないが、仮にそのような業務に対する有期契約を規制したとしても、会社として必要な業務である限りは何らかの形で雇用は発生すると考える。その上で、無期契約であっても当該業務が無くなれば、出来得る限り雇用継続の努力の上での解雇について労使で納得のいく形を模索することは、現行のマルチスキル契約の労働者でも、業務スキルが限定される労働者でも、変わらないのではないか。
 
〇職務限定について、限定された職務以外やらなくてよいという点で労働者にメリットがあるが、労働者のデメリットについてどう思うか。
→限定された職務の範囲が、例えば一般事務業務とされた場合、どこまで入るのか、話し合いが必要になる。中小ではそこまでできずに曖昧になる懸念。また、無期転換労働者を適切にフォローできるのかという運用面の心配もある。職務が明確だからそれ以外の仕事を断れるというメリットはあるが、デメリットとしては当該職務が無くなったことが賃金減額や解雇の理由となりえ、労使の課題と思っている。
 
〇個別労働組合cでは法改正前から登用制度があったようだが、転換制度導入によって、5年以前の転換に向けた交渉が困難になったという状況だと理解していいか。
→法改正前は、制度はなく裁量で有期契約から正社員登用していた。無期転換制度導入によって、直接正社員登用されなくなり、無期転換を挟むことが必要になった。
 
〇個別労働組合b(印刷業)には正社員、無期契約社員、有期契約社員、パートという形態があるようだが、①待遇(賃金水準、ボーナス、昇給、昇格等)でどの程度の違いがあるか、②業務内容や労働時間ではどの程度違うか、③左記②を踏まえ、①は適切な賃金格差と考えられるか。
→①パート労働者は時給制で昇給は無、ボーナス無。契約社員(無期・有期)は月給制で昇給は無、ボーナスは正社員の半分。正社員は月給制で昇給有。契約社員の給与水準はパート労働者よりは若干良くなる程度、正社員との差も大きく開いているわけではないが、正社員よりも低い水準(定年再雇用者の賃金水準と同一)。②労働時間はいずれも同一。業務内容は職務としては同じだが、幅が異なる。しかしながら、幅の違いは経験により生まれるもので、パートの区分の中で経験を積むことで、出来る仕事の量や幅が増える。行程の最終チェックや検品は正社員が担当しているが、それ以外の業務については、パートや契約社員であっても、その業務を担えるスキルがついたと判断すれば適宜業務を担わせる。③経験やスキルの向上や担う担務の幅の広がりと雇用区分はあまり連動していないので、課題はあると考える。長く働いてもらう前提で採用していたのであれば初めから正社員として採用し、経験やスキルの向上に見合う定昇を制度に則ってさせるべき。
 
〇「企業から当該労働者への無期転換ルールについては、周知徹底を求めることは望ましい」とあるが、制度面や運用面で改正・改善すべきと思われる点はあるか。
→労働者に対し自社のルールのみならず、日本のワークルールを知らせることは重要だとの視点で見れば、たとえ自社は5年を契約上限にしたとしても、「法的にはこのような制度となっている、その趣旨は非正規労働差の不安定雇用や低処遇の改善にある」、ということを初回契約時に企業側から伝えることを当該企業に課すことで、企業側が趣旨に反する対応をすることに対して一定のプレッシャーになるのでないか。
 
 
[1] なお、質疑時間が不足したため、G組合に対する質疑応答については、一部、ヒアリング終了後にEメールによって行った。
H組合(個人加盟の労働組合の連合体、組合員が勤務する企業の業種・業態・規模は様々)

(1)課題1:無期転換権を行使させないための上限設定について
・5年以上ある仕事であるにもかかわらず、契約期間だけは最初から5年上限の契約とされているケースや、1年目、2年目は自動更新なのだけれども、3年目の契約書には更新する場合もあり得るという書き方に気づかないうちに変更されていて、次の年度で雇止めになったケースがある。この5年以内の雇い止めは本当に非常に増えていて、例えば独立行政法人などはかなり予算で縛られるような傾向がある。
・このような問題は、直接・無期を原則にしつつ入り口規制を設けなければ基本的に対応できないのではないかと考えている。
・無期転換制度が導入されたことにより、日常的に労使関係を構築していれば、無期転換した事例もあるが、労使関係がそうした状況にない場合は無期転換も厳しくなってくるという印象を持っている。
 
(2)課題2:無期転換と労働条件について
・大学のケースとして、無期転換をした途端にコマ数が減る等の問題があるが、これは無期転換を抑制してしまうことにつながっており、何らかの形で是正なりをしていくことは必要だと思う。
・派遣労働者のケースとして、無期転換をきっかけに交通費の支給がなされるが交通費の分時給がダウンする、有期になったほうが紹介できる仕事の幅が広がると言われる、という事例がある。本当に無期転換を理由にしたものかどうかは分からないところではあるが、実際に無期転換するというのは、僅かずつでも労働条件がよくなっていくことを本人としては期待して無期に転換している。にもかかわらずこういう形で時給がダウンしていくと、果たして現在の無期転換制度にどれほどの意味があるのか。
 
(3)課題3:派遣労働者の「名ばかり無期転換」について
・就業規則において、無期雇用派遣社員(”無期転換した派遣労働者”を含む。)について、就業場所及び業務を1か月間確保できず、会社が無期雇用派遣社員に就業場所及び業務を指示できない旨を通知した日から暦日数30日が経過したときには自動退職すると規定されている事例がある。
 
(4)地域限定社員について
・退職に追い込むため、本人から辞めますと言わせるために遠方への転勤を命ずるようなケース、組合活動を活発にやり始めた途端に、その中心的な人物に対して何らかの異動を命じるケース、家庭の事情があるのに遠方への異動命令を出すケース等がある。
・地域限定ということの裏返しの問題として、そもそも全国転勤を可能にするありよう自体を見直す必要があるのではないか。
 
【質疑応答】[2]
〇無期転換逃れについて、当初から上限を設定するパターンと途中から不更新条項を入れるパターンがあるが、実態としてはどちらが多いか。
→当初から上限を設定するパターンが多い印象。途中から不更新条項を入れるパターンだともめ事になりやすい点も理由かもしれない。
 
〇課題3(派遣労働者の「名ばかり無期転換」)について、仮に業務が無くても賃金を払い続けることとすると、そのリスクを踏まえて業務があるときの賃金も減額されることになりうるが、どういう対案が考えられるか。
→無期転換したのであれば通常の正社員の休業手当を支払うべき。その財務面は企業努力でやって頂くしかない。派遣会社の中には、仕事がなくてもその間に無期社員に職業訓練をしている企業もある。
 
〇課題3(派遣労働者の「名ばかり無期転換」)について、特定の企業の例か、それとも相当数同様の相談があるか。
→大手派遣会社の子会社の事例なので、グループ全体でそのような設計なのではと推測。また、同様の相談は一定数寄せられている。
 
〇無期化したら時給が下がる、有期のままの方が仕事を紹介できると会社から言われているという事例があったが、なぜそのような事情になるかについて意見はあるか。
→会社としては、無期転換したら休業手当を支払わなければならなくなるという点が念頭にあるかと思う。派遣先を確保できないときに、できればその間賃金を払いたくないと考えているのではと推測している。
 
〇労働者の中には無期契約についての理解が不十分な人もいると思うが、相談等を受ける中でどのようなことについて特に理解が必要だと感じているか。その内容はどのようにすれば周知されると思うか。
→働くうえで、どのような権利が与えられているのかについての理解が足りていないため、学校でのワークルール教育などが必要と考える。学校を卒業して大半が雇用労働者になるにも関わらず、労働法を学ぶ機会がほとんどないことは問題であると考える。また、これは労働組合の問題でもあるが、トラブルに遭遇したり、おかしいと思ったことがあったときに、どんなところに相談できるのかわからずに、相談機関を転々としている人もいるため、各相談機関の周知が必要と考える。有期契約の雇い入れに際し、企業に無期転換ルールについて周知させ、違反した場合に罰則を設けた義務化を進めることが必要。また、有期契約の労働者数が一定の割合を超えた企業に対し、有期契約の雇い入れ人数と無期転換の人数をホームページ上で公開させるなども効果的だと考える。
 
〇課題1に対する方策として入口規制がないといけないという主張だったと理解したが、入口規制を入れることによって雇用機会を減少させる可能性があるとの意見もある。そうした意見に対する見解如何。
→例えば、労働者派遣法は旧民主党政権時に規制が強化された。しかし派遣労働者数の推移をみると、2008年は399万人だったが、リーマンショックの影響で翌2009年には302万人、2010年271万人、2011年262万人、2012年245万人と減少するものの、2013年には252万人、2014年263万人と増加に転じている。法制度の変化がまったく影響を及ぼさないとは思わないが、それは景気変動による影響から考えれば、ごく小さいと考える。また、労働政策としては単に数としての雇用を増やすのではなく、良質な雇用を増やすためことを考えていくべきだと思う。
 
〇転居を伴う転勤をすることが前提とされること自体を変えるきっかけにすべきとのことだが、具体的にはどのようなことを検討すべきと考えているか。
→労働契約法第14条では「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」と定めている。この条文の「出向」を「出向及び配置転換」に改正すべきと考える。長く働いていれば、その間に老親と同居することになった、離婚してシングルで子どもを育てなければならなくなったなど生活に変化が生じ、入社当初は全国転勤をする意向を持っていてもできなくなることも考えられるし、またその逆も考えられる。にもかかわらず、人材活用の仕組みとして転居を伴う異動に応じることができるか・否かで昇進や待遇に差をつけることが、容認されている。オンライン上で可能になる業務が増える中、この点の見直しも必要と考える。
 
 
[2] なお、質疑時間が不足したため、H組合に対する質疑応答については、一部、ヒアリング終了後にEメールによって行った。
委員による意見交換

〇①労働組合は無期転換したら処遇が上がるべきと考えているようだったが、労働経済学の観点からは、業務内容が変わらないのに無期転換するだけで処遇が上がるというのは違和感がある。逆に無期雇用は、雇用保障の保険料として賃金が下がってもおかしくない。この有期と無期のバランスについて、通常は無期転換する際に責任が重くなるとか、こういうことがセットで処遇が上がっているということがなかなか理解されないのかなという点に少し関心を持った。②そもそも無期雇用とは何か、無期転換とはどういう労働者にとっての権利なのかを検討する必要がある。無期雇用については、いつまで仕事があるかわからずどちらからでも解約申入れできるが、賃金後払い的な年功賃金で実質的に長期雇用が保障されている場合は仕事があるのに解約するのはおかしいでしょうという話と理解していた。仕事が無くなっても定年まで雇用され続けるという発想には違和感がある。正社員になっても、仕事がなくなれば整理解雇が有効とされうるということを前提として、無期雇用・無期転換の意義を検討し、広くそれを共有していくといいのかなと感想として持った。
 
〇無期転換した場合の労働条件設定については、原則として従前の雇用条件が継続するが、別段の定めも可能という制度枠組みである。別段の定めについては、例えば不利益変更で合理性がないということであると法律上難しくなる。
〇無期転換後の労働条件について、施行通達で「引き下げることは望ましいものではない」という記載をしているが、原則引き下げ可能と読める。不利益変更は原則不可で、例外的に合理性や合意があれば可能という話。引き下げができる場合をもっと具体的に説明すべき。この施行通達の記載は修正した方がよいのでは。
 
〇有期雇用がどのような目的で利用されているかの実態をさらに確認できればなおよい。また、転換逃れの実態として、当初から上限を設定するパターンと途中から不更新条項を入れるパターンのどちらが多いかも追加で情報収集できれば非常に良い。
 
〇労働組合側としては、無期転換は正社員化につながっているという認識のようである。法的理解とは違うが、そのような認識があるという前提で検討会としてどのようなメッセージを出していくか、考慮に入れていくとよい。解雇権濫用法理の中身としてどの程度の雇用保障をするかも考えるべき。法制度・専門家の理解と現場の認識のずれを踏まえて、検討会としてメッセージを出していく必要がある。
 
〇契約期間のみ無期となるいわゆるタダ無期と正社員の区別も問題であり、また、タダ無期から正社員への移行については、処遇の改善と仕事の幅の違いがセットになって、場合によっては新たな負担もありうることを整理しておく必要がある。
 
〇有期雇用だと業務を切り出すという点が気になった。人事管理上の問題であろうが、なぜ業務を切り出して担当させるのか、いわゆる同一労働同一賃金との関係か、そのあたりを含め有期雇用の場合の担当業務のあり方も気になった。

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