第7回 生活保護基準の新たな検証手法の開発等に関する検討会 議事録

日時

令和3年2月22日(月) 14:00~16:00

場所

AP虎ノ門11階B室(一部オンライン)
(東京都港区西新橋1-6-15NS虎ノ門ビル)

出席者(五十音順)

議題

  • 検討課題と論点の整理
  • その他

議事

議事録

○駒村座長 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第7回「生活保護基準の新たな検証手法の開発等に関する検討会」を開催いたします。
事務局より、本日の委員の出欠状況と資料の確認をお願いいたします。
○本間保護課長補佐 本日の委員の御出欠の状況でございますが、全ての委員にオンラインで御出席をいただいております。
なお、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、本日は一般の方の傍聴は御遠慮いただいており、報道機関の方のみの傍聴とさせていただいております。
議事録につきましては、後日ホームページに掲載いたしますので、御承知おき願います。
続きまして、本日の資料でございますが、議事次第に続きまして、資料1「これまでの議論を踏まえた検討課題と論点の整理(案)」、参考資料1「生活扶助基準における新たな検証手法の開発に向けた年次計画」となっております。
資料の不足等がございましたら、事務局までお申しつけください。
それでは、これからの議事運営につきましては、駒村座長にお願いしたいと存じます。よろしくお願いいたします。
○駒村座長 本日の議事に入ります。
本検討会としては本日の議論をもってこれまでの議論の整理、取りまとめを行う予定です。前回の検討会では、検討課題に沿ってこれまでの意見の整理を行いました。本日はさらに検討課題に関する論点を事務局で整理いただきましたので、これについて議論を行い、取りまとめとしたいと思います。
専務局から資料1の説明をお願いいたします。
○本間保護課長補佐 それでは、資料1につきまして説明いたします。
1ページを御覧ください。本検討会の設置に至る経緯でございます。現在の保護基準は一般国民の消費水準との比較において相対的なものとして設定されております。
昭和59年度以降、生活扶助基準の改定は、一般国民の消費実態との均衡を図る水準均衡方式の考え方を採用いたしまして、平成16年以降は、生活扶助基準の水準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているかについて定期的に検証を実施しております。これは一般低所得世帯の消費水準が上がれば最低生活の水準も上がり、消費水準が下がれば最低生活の水準も下がるという「強い相対的貧困線」の考え方に基づくものでございます。
平成29年に社会保障審議会生活保護基準部会において実施した検証におきまして、モデル世帯である夫婦子1人世帯につきまして、一般低所得世帯の消費水準と生活扶助基準とがおおむね均衡していることが確認されましたが、その基準部会の報告書におきまして、1つ目、一般低所得世帯の消費水準との均衡のみで生活扶助基準の水準を捉えていると、比較する消費水準の低下に伴い絶対的な水準を割ってしまう懸念があり、これ以上下回ってはならないという水準、言わば下支えとなる最低生活の水準について検討する必要があること。最低限度の生活を送るために必要な水準とは何かという本質的な議論を行った上で、単に消費の実態に合わせることの考え方によらず、理論的な根拠に基づいた複雑ではない検証手法を開発することが求められること。そのような新たな検証手法の開発に取り組むために、年次計画を立てて計画的かつ不断に検討を進めていくことを強く求めたいとの御指摘がなされたところでございます。
この御指摘を踏まえ、次回の基準検証に向けた当面の検証の場として、社会・援護局長の下に本検討会を設置いたしました。
1ページの下段から3ページにかけては、これまでの本検討会の議論の経過についてまとめております。
2ページを御覧ください。中段に「2)検討課題の整理」とございますが、昨年3月の第4回検討会におきまして、第1回から第3回にかけての御議論を踏まえ、検討課題を整理しました。大きく3つございまして、1つ目が「最低限度の生活を送るために必要な水準」。2つ目が「最低限度の生活を送るために必要な水準を検証・検討するための手法」。3つ目が「現行の検証手法」という検討課題でございます。
3ページを御覧ください。中段に「本資料の位置づけ」とございますが、本検討会では各検証手法に係る調査研究、諸外国の公的扶助制度等を基に、専門的かつ客観的な見地から生活保護基準の新たな検証手法等について検討を行いました。
本資料は、検討におけるこれまでの議論を踏まえ、検討課題及びその論点を事務局において整理したものでございます。次の基準部会におきまして、本資料を基に、新たな検証手法の開発や現行の検証手法の改善について円滑な議論が図られることを期待するものでございます。
4ページを御覧ください。「最低限度の生活を送るために必要な水準」につきまして、これまで本検討会において提出された資料等を基に整理いたしましたものでございます。
5ページを御覧ください。「標準世帯」及び「モデル世帯」の定義についてまとめてございます。本検討会及び今後の基準部会におきまして検証手法について御議論いただく際、この2つの用語の定義を整理することが重要であるため、記載のとおりまとめてございます。
まず、「標準世帯」について説明いたしますと、「標準世帯」とは、生活扶助基準に際し、生活扶助基準の基軸として想定する具体的な世帯のことでございます。
生活扶助基準の改定の手順でございますが、標準世帯の生活扶助基準額を算定し、この額を基軸として、年齢区分・世帯人数別に設定されている指数によって基準額を算定いたします。このことを「展開」と呼びますが、現在の標準世帯は、33歳、29歳、4歳の夫婦子1人で構成される標準3人が設定されております。
続きまして、「モデル世帯」について説明いたします。「モデル世帯」とは、生活扶助基準の水準検証を行う際に、比較対象として用いる世帯のことでございます。比較するものは、生活扶助基準と消費水準でございまして、これまでの水準検証では、標準世帯が33歳、29歳、4歳の夫婦子1人世帯であることを踏まえるとともに、検証用のサンプルデータを一定程度確保する観点から、年齢を限定しない「夫婦子1人世帯」を「モデル世帯」として、その消費水準と生活扶助基準との比較を行っております。
また、過去には「高齢者世帯」をモデル世帯として水準検証を実施したこともございます。
6ページを御覧ください。最低限度の生活を送るために必要な水準についての検討課題でございます。7つのポイントからまとめてございます。
7ページを御覧ください。この検討課題に関するこれまでの主な意見についてまとめてございますが、いくつか紹介させていただきます。まず一番上の御意見です。経済成長に伸び悩みがあって、参照する消費水準が低下することになった場合における下支えとなる最低生活の水準について、セーフティーネットの役割と国民からの信頼と納得を得られる水準はどのような水準なのかということを改めて考えておく必要があるといった御意見。
下から4つの丸でございます。下支えとなる最低生活の水準を検討するに当たっては、費目ごとに水準設定の考え方を分ける方法もあるといった御意見。
下から3つ目の丸です。そういった費目ごとに必要な水準を検討する際は、消費実態と比較するだけでは生活扶助基準は下がっていく。一方で、食費などの中には数量が不足すると用をなさないものもあるので、一般世帯の何%でいいというようなことは言えないという御意見。費目の一部に理論生計費的な考えを持ち込むというのは、今後検討すべき手法であるといった御意見をいただいております。
8ページにもこれまでの主な意見をまとめております。「社会参加」は、相対的に金額が決まるものであるが、絶対的に必要なものであるといった御意見もいただいております。
こういった御意見を踏まえまして、検討課題に係る論点は2点まとめてございます。まず、1点目の論点でございます。「消費支出の中には数量が不足すると用をなさないものもあることを踏まえれば、一般低所得世帯の消費実態との相対的な関係により最低生活の水準を検証する場合にも、生活扶助相当支出を全体として評価するだけではなく、食費、通信費、教養娯楽費等の費目ごとに必要な水準を検討する必要があるのではないか」。2点目、「社会参加の状況や健康状態を含めた生活水準は、金銭給付の水準のみによって評価されるものではなく他の支援と相まって確保されるものであることに留意しつつ、保護基準で踏まえるべき社会的経費の水準については、生活の質を確保する観点からも検討課題する必要があるのではないか」と整理してございます。
9ページを御覧ください。2つ目の大きな検討課題「最低限度の生活を送るために必要な水準を検証・検討するための手法」について、これまでの検討会の資料をまとめたものでございます。
11ページを御覧ください。最低限度の生活を送るために必要な水準を検証・検討するための手法についての検討課題を事項別に分類し、それぞれ検討課題2-1、検討課題2-2といたしました。11ページにつきましては、検討課題2-1についてまとめてございます。
まず、各検証手法についてです。令和元年度に実施した調査研究事業であるMIS手法、主観的最低生活費、諸外国のマーケットバスケット方式による最低生活費の算出事例につきまして、今後の検証・検討にどのように活用していくかといった観点から整理したもの。
諸外国における公的扶助制度の検討につきましては、第2回及び第3回の検討会において報告のあった諸外国の公的扶助についてどのように考えるかという検討課題としております。
12ページを御覧ください。検討課題2-1に関するこれまでいただいた主な御意見でございます。12ページから15ページにかけてまとめてございますが、そのうちいくつか紹介させていただきます。
まず、12ページ上から4つ目の御意見でございます。MIS手法と主観的最低生活費の活用について、生活費全体ではなく、費目別に議論していくことが考えられるといった御意見。
5つ目の丸。費目ごとに検討する際の留意点として、費目ごとに最低限度必要なベンチマークについて検討することが非常に重要であるといった御意見。
13ページ上から2つ目の御意見です。消費が下がっている局面では、社会参加のニーズを取り入れ、下支えとなる最低生活の水準を導入するという「弱い相対的貧困線」の考え方で、下支えを設ける必要があるといった御意見。
一番下の御意見です。加算について議論する場合は、検証に耐え得るデータがあるかどうか、理論生計費的な方法で積み上げるか、生活扶助本体に組み込むかなど課題はあるのではないかといった御意見をいただいております。
14ページ上から5つ目の御意見でございます。現行の1類費、2類費の設定から考えると、複数の標準世帯を設定する場合、展開時における課題についての御意見をいただいております。
諸外国の公的扶助につきましては、記載のとおり御意見をいただいております。
15ページを御覧ください。検討課題2-1に係る論点でございます。各検証手法について3点ございます。
「MIS手法による最低生活費」及び「主観的最低生活費」については、今回具体的な試算結果が示されたところである。消費支出の中には数量が不足すると用をなさない支出費目があるとの指摘を踏まえ、これらの結果を生活扶助基準と全体として水準比較をして検証するのではなく、食費、通信費、教養娯楽費等の費目ごとに、一般低所得世帯の消費実態との均衡を図る基礎データとなる「全国消費実態調査(全国家計構造調査)」の結果と比較するほか、現行の生活保護基準の下での生活保護世帯の消費支出の状況である「社会保障生計調査」の結果と比較することにより生活扶助基準の検証に活用することが考えられるのではないかという論点。
2つ目の論点です。検証において複数のモデル世帯を設定する場合、生活扶助基準の本体と加算との関係も踏まえるとともに、検証に耐えうるデータの有無を確認する必要があるのではないか。また、検証結果を踏まえて複数の標準世帯を設定する場合、各標準世帯から展開される水準同士に齟齬が生じないよう留意する必要があるのではないかという論点。
3つ目です。「マーケットバスケット方式による最低生活費」については、今回具体的な試算結果が示されておらず、今後、今日の社会に即した形での算出可能性や、代替される手法を含めて、引き続き検討を行うことが必要ではないかという論点でございます。
16ページを御覧ください。諸外国の公的扶助についての論点でございます。諸外国における公的扶助制度については、その制度設計や社会保障制度の位置付けが国によって様々であり、我が国の生活保護制度との単純比較ができないが、今後、マーケットバスケット方式等の手法による最低生活費の算出を検討するに当たり、部分的に諸外国の手法を採用すること等も考えられるのではないかという論点で整理してございます。
17ページを御覧ください。検討課題2-2でございます。こちらにつきましては、「生活保護世帯における生活の質の面からみた消費支出や生活実態等の分析」についての検討課題としております。
これまでいただいた主な御意見としては、一番上でございます。剥奪指数に見られる一般低所得世帯と生活保護世帯との差について、複数の尺度、評価軸で見ていく必要があるのではないかといった御意見。
上から4つ目の御意見でございます。生活保護世帯の支出上、交際費や教養娯楽費は低いものとなっているが、一般世帯においても個人差が大きいこれらの費目については、評価が非常に難しいといった御意見をいただいております。
18ページを御覧ください。検討課題2-2についての論点を2つ整理いたしました。
1点目です。過去の生活保護基準の見直しの中で、生活保護世帯において生活の質が維持されているかについては、今後も本検討会で報告のあった「生活保護世帯における生活の質の面からみた消費支出や生活実態等の分析」(第3回検討会資料1)と同様の分析を行っていくべきではないか。ただし、一般世帯においても個々の世帯の差が大きい交際費や教養娯楽費の支出について、生活保護世帯の支出が少ない等の結果が出ているが、この評価が非常に難しいことに留意が必要であるという論点。
2点目です。「家庭の生活実態及び生活意識に関する調査」について、調査を実施する福祉事務所及び調査対象となる世帯の負担に留意しつつ、本分析に資するよう、これまで不定期の実施とされていたものを定期的な(3年ごとの)実施とするほか、社会的必需項目に関する調査項目を充実する等の見直しをすることが考えられるのではないかという論点に整理してございます。
19ページを御覧ください。3つ目の検討課題「現行の検証手法」についてです。19ページから21ページにかけましては、これまでの検討会に提出された資料についてまとめてございます。
22ページを御覧ください。現行の検証手法についての検討課題でございます。こちらも事項別に検討課題を分類しております。まず、検討課題3-1でございます。「水準検証における比較対象の設定」と「年齢・世帯人員・級地別の体系検証」に関する検討課題について、それぞれまとめてございます。
23ページを御覧ください。検討課題3-1に関するこれまでいただいた主な御意見について整理しております。いくつか紹介させていただきます。
高齢者世帯をモデル世帯として設定すべきではないかといった御意見ですとか、あとは、内閣府の研究レポートによれば、実際は自分の寿命を長く見込んだり、将来の不確実性に備え、取り崩しのペースを抑えて消費を抑えていることが判明しているので、高齢者世帯をモデル世帯とする際にはそういったことに留意すべきではないかといった御意見。
年齢・世帯人員・級地別の体系検証についての御意見です。展開についての御意見ですが、前回の平成29年の検証において高齢者世帯の検証にトライしたものの、貯蓄の扱いをどうするかという難しい問題が出てきたという御意見。
一番下の御意見です。これまで使用していた全国消費実態調査が見直されて、全国家計構造調査が実施されたことにつきまして、調査対象や調査方法が変わると、これまでの傾向と変わる可能性もあるので、統計が変わることに関しての対応等について整理しておく必要があるのではないかといった御意見をいただいております。
24ページを御覧ください。検討課題3-1に関する論点でございます。2点ございます。
1点目が「高齢者世帯については、生活保護世帯の中で大きな割合を占めていることを踏まえ、平成29年検証と同様、その生活実態を把握する観点から、モデル世帯として設定を検討するべきではないか。なお、高齢者世帯の生活実態の把握に当たり、収入だけでなく資産の状況も踏まえて、生活保護基準との比較対象とする世帯の範囲を検討する必要があり、その際、高齢者世帯では自分の寿命を長く見込んだり、将来の不確実性に備え、資産の取り崩しのペースを抑えて消費していることが指摘されていること等に留意する必要があるのではないか」という論点。
もう一つが「これまで検証に使用していた全国消費実態調査が見直され、全国家計構造調査が実施されたことによる調査対象や調査方法の変更がこれまでの傾向に影響を与える可能性もあることから、使用する統計が変わることに関しての対応は整理する必要があるのではないか」といった論点をまとめてございます。
25ページを御覧ください。検討課題3-2でございます。基準見直しの影響把握の方法につきまして検討課題としてまとめてございます。
これまでいただいた主な御意見です。生活保護世帯に限らず、全体の調査において生活保護への出入りの状況を把握しなければ、基準見直しの影響の全体像が把握できていないのではないかといった御意見。
また、「家庭の生活実態及び生活意識に関する調査」は、一般世帯と生活保護世帯の比較ができる調査であるため、現在不定期なところ、定期的に実施して状況を把握するのがよいのではないかといった御意見をいただいております。
26ページを御覧ください。検討課題3-2に係る論点でございます。平成30年10月より実施した基準見直しによる影響を把握する方法については、平成29年検証で行った影響把握の3つの方法に加えて、「被保護者調査」により保護の開始・停止・廃止の状況の分析を行うこと。「社会保障生計調査」により生活保護世帯の消費支出の変化の分析を行うこと。統計調査による影響把握が困難な部分を補完するため、福祉事務所のケースワーカーへのヒアリングを実施することが考えられるのではないかという論点で整理してございます。
続きまして、検討課題3-3でございます。27ページを御覧ください。生活扶助基準の定期検証年以外の年における社会経済情勢の反映方法等について、検討課題をまとめてございます。
これまでにいただいた主な御意見でございます。経済の先を見通す手法としては、民間最終消費支出の見通し以外になく、毎年度改定の手法の改善は難しいのではないかという御意見。
また、マクロ経済スライドのように高齢世帯に影響を与えるものがあって、一般の低所得高齢世帯にも与える影響が大きいため、そういった見通しとの兼ね合いも見る必要があることから、全世帯に当てはまる指標があるかどうかが最大の問題点ではないかという御意見がございました。
こういった御意見を踏まえまして、検討課題3-3に関する論点でございます。「生活扶助基準の定期検証年以外の年における社会経済情勢の反映方法等については、現時点では実施可能な手法がないことから、今後更に議論を深めていく必要があるのではないか」と整理いたしました。
28ページ、検討課題3-4でございます。級地制度についてでございます。平成29年検証の報告書においても、今後の検証に向けた課題として、今後も引き続き部会において議論を重ねていく必要があると指摘されているところでございますので、本検討会の開催趣旨からすれば、検討課題と論点を整理する必要があると考えまして、検討課題として整理してございます。
検討課題に関する論点としては、「級地指定の見直しを含む級地制度のあり方については、昭和62年度以降、基本的な枠組みは変わっていないところであり、平成29年検証において、「今後も引き続き議論を重ねていく必要がある」との指摘がなされていることから、級地制度に関する調査研究の成果を踏まえつつ、次期基準部会においてその適切なあり方の検討課題を行うべきではないかと整理いたしました。
29ページ以降は参考資料でございます。
事務局からの説明は以上です。
○駒村座長 ありがとうございました。
それでは、今日で取りまとめということでございますので、報告書に反映するのはある最後の機会ということであります。ただいまの事務局からの説明について、委員の皆様から御意見があったらよろしくお願いいたします。いかがでしょうか。山田委員、お願いします。
○山田委員 これまでの2年近くにわたる検討会の意見を詳細に、ポイントを押さえてこのような形でまとめていただきましてありがとうございます。
コメントとしては、何回か出てくるキーワード、「下支えとなる最低生活の水準」という言葉については、まさにこの検討会の場において、少なくとも私がいろいろと考えたことをうまく表している言葉で、非常に重要なキーワードではないかと思います。
その上で、2点あるのですが、1つ目は、今朝の新聞でも「格差拡大」について、非常に大きなトレンドが諸外国でもあるということで、7ページの1つ目の丸「経済成長に伸び悩みがあって」という中で、ここでも重要なキーワードである「下支えとなる最低生活の水準」というのが出てきているのですけれども、単に経済成長による伸び悩み以外にも、格差の拡大によって相対的に変わってくる部分もあるので、所得の分布の話も踏まえて、「経済成長に伸び悩みや、格差の拡大によって」というふうに文言を入れたほうがいいのではないかと思います。これが1点目になります。
もう一点ですけれども、これはむしろ岩永先生のほうが詳しいかもしれませんが、例えば14ページの5つ目の丸で展開の話があるわけです。この展開の話に関連して、20ページの「現行の検証手法」で2)と3)の間に、実は基準部会が閉まる、1つの区切れ目が終わる直前に、このデータに基づいて出てきた結果で基準額表への展開を行うという作業が入っていたと理解しています。コメントに移る前に、部会で最後に基準額表への展開を行って、非常にばたばたしているのですけれども、実際には基準部会ではいくつかのモデル世帯での比較を実施して、例えば前回だと、高齢モデル世帯と比較すると、基準額表に落とし込んだ場合、低いという意見を出すわけですが、それが最終的にどのように反映されているのか分からなくて、最終的にどういうふうに基準額表に落とし込んでいるのかというのをまず教えていただければと思います。その上で、2つ目のコメントを申し上げたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
○駒村座長 1つ目のコメントについては、後で事務局も交えて委員の中でも議論したほうがいいと思います。
2つ目の展開の議論は事実確認の話ですので、事務局から御説明をお願いします。
○本間保護課長補佐 まず、29年検証におきましては、年齢・世帯人員・級地別に消費実態から生活扶助基準額とのゆがみを見たわけでして、そのゆがみを是正するために、生活扶助基準の水準検証では、夫婦子1人世帯の水準がおおむね均衡しているということから、そこを基軸として指数を調整して基準額表に反映させたという過程を取っております。
○駒村座長 分析結果から推計された指数を使って、それで基準額表に反映させていると。こういう理解でいいということなのですか。
○本間保護課長補佐 はい。
○駒村座長 山田さんの質問はそういう質問ですね。
○山田委員 はい。いろいろとパラメータがデータに基づいて最終的に出てきますけれども、それをどこまでの範囲で忠実にというか、もしくはパラメータを当てはめているのか、それともパラメータから調整している部分もあるかどうかということです。その点、もう一回確認したいと思います。
○駒村座長 事務局は推計されたパラメータと基準額表への反映はどういうふうにやられているかという質問ですね。
○森口保護課長補佐 基準額表の作成に使用する展開指数というのは、まさに基準部会においてゆがみの検証で用いました指数をそのまま使わせていただいております。ただ、その際に、改定前の基準額と比較して何%以内の下げ幅に抑えるとか、そういった部分のみを最終的に調整させていただいているところでございます。基本的には検証において分析のために算出していただいている指数を基に展開しております。
○駒村座長 山田先生、いかがでしょうか。
○山田委員 ありがとうございます。
今の基本的にパラメータを忠実に基準額表に当てはめて、前の基準額表と差がある場合にはいくつかの調整をしていると理解しましたが、ちょっと気になった点が2つあります。1つは、今の基準額表というのは、パラメータを忠実に基準額表に当てはめようという試みで、ある意味では複雑になってきていて、素人がなかなか計算できない。現場でもひょっとしたら計算に苦労している可能性があるかもしれない。制度の簡素性といった点から、どんな人でも自分が受けることができる生活保護の給付額が幾らかというのが分かりやすいようにというところからだと、ひょっとしたら、ややそういったところでは困難を抱えている部分が出てきているのではないかということが懸念されます。
もう一つ、パラメータを当てはめているということですが、パラメータは基本的に点推定で、例えば95%信頼区間というような幅をもって見る必要がある。理由としては、その時々に取られたデータの観測誤差もあるかもしれないということで、最終的には厚生労働大臣が決めるということになっていますけれども、実は20ページの2の体系検証と基準見直しの間に、基準額表に落とし込んだときにモデル世帯というものに比べてどういうふうに高いか低いかという意見を我々は出すわけですが、例えば展開の結果、あまりにも低くなり過ぎたモデル世帯については、その幅の範囲内で引き上げる必要、そういった検討が基準部会でも最後行われる必要があるのではないかというのが私からのコメントになります。
私からは以上です。ありがとうございます。
○駒村座長 山田先生、今のは修文要請になるのですか。それとも意見として、記録にとどめておきたいということですか。
○山田委員 それはこれからの議論ではないかと思いますけれども、私としては、最後あまりにもばたばたして、モデル世帯との比較のところで高齢世帯が少し低過ぎるのではないかという議論が、今のお話だと乖離幅があまりにも大き過ぎるときにはちゃんと勘案しているということですけれども、体系的な方法でそれが反映されていないということであれば、その部分を入れることが必要ではないかという意見も入れていただければと思っています。
○駒村座長 この話は2つあって、1つは非常に複雑になっているという部分と、2つ目は、むしろこちらのほうが重要なのかもしれませんけれども、推計結果のパラメータには当然ながら95%の区間がある話なのだ。それをどのように基準額表に落としていくのかということについて、留意すべき点があるのだという御指摘だと思います。
今の御指摘について、事務局から何かありますか。
○森口保護課長補佐 山田先生、御指摘ありがとうございます。
御指摘いただいたような問題意識を持っての具体的な御議論というのは、まさに今後の基準部会の中で行われていく話になるかと思っております。基準部会の目的としましては、現行の生活扶助基準額が妥当な水準にあるかどうかを検証していただくことが最も大きな目的になると考えておりますので、その際、検証作業の一環として、データによる誤差についても併せて評価しつつ、現行の基準額の評価という形で取りまとめていただくということになるかと考えております。
○駒村座長 今後、基準部会ではそういう議論が具体的に行われていくと思うのですが、今回の検討会においてはどの辺がいいかですけれども、推計結果を基準額表に当てはめるときには、推計結果に幅があるということを留意しておかなければいけないという書きぶりだと、山田先生、いかがですか。
○山田委員 その書きぶりと、あと、もう少し踏み込んでいただければ、モデル世帯をもしつくるのであれば、それとの比較も最終段階で行って、展開の結果、あまりにも低過ぎるのであれば、幅の範囲内で引き上げる等のことを実際に行っていただくということも意見として入れていただければなと思います。
以上です。
○駒村座長 これまでの山田さんの話をまとめますと、まず推計結果には幅がある。これを基準額表に当てはめる際に、モデル世帯に当てはめてチェックし直したときにあまりにも変化が大きいようなことになれば、その推計結果をそのまま基準額表に反映するということについては留意しておかなければいけないという形だと思います。
岩永さん、どうですか。今、手が挙がっていたような気がいたしました。お願いします。
○岩永委員 ありがとうございます。
山田先生のコメントの最後、そして今、駒村先生がまとめてくださったことについてつけ加えると、前回はマイナス5%以内にとどめるということにされて、先ほどのような御説明だったと思うのですが、その後に、この5%にどういう意味があるのかというのは、多分基準部会では議論されていなかったと思います。幅があるといったときに、上を取るか、下を取るか、5%にどういう意味があるのかというのは、基準部会で議論すべきなのか、すべきでないのか分からないのですけれども、今の流れの範囲では議論の範疇にあるのかなと思って伺いました。
○駒村座長 そこで1回確認したほうがいいかもしれないですね。激変緩和的な部分があるというものの幅というのは一体何なのかというのは、基準部会がコミットメントしておくべきものなのか、そうでないのかという御意見というか、御質問でしょう。事務局はどうされますか。
○本間保護課長補佐 岩永先生のおっしゃるとおり、5%の下げ幅というか、下限を設けたというのは、まさに激変緩和措置として厚労省が行ったものですので、そのことについてまで部会で合意を得るとなると、部会の役割というのは、生活扶助基準が一般国民の消費水準と比較して妥当なものかどうか、均衡が取れているかどうかといったことを検証することが一番の目的であると考えますので、そこまでの激変緩和措置とか、下げ幅何%とか、上げ幅はどのぐらいかということまで議論いただくというのは、部会の範疇を超えてしまっているという認識でございます。
○駒村座長 部会で出されたパラメータをどう反映するかというところで、激変緩和、幅の範囲というのは、行政的な判断のほうにとどめておいて、部会はパラメータの計算と水準のチェックというのは責任を持つと。こういう理解ですか。
○本間保護課長補佐 はい。そこは明確に分けたほうが。基準額についても部会が合意するかどうかということで決まるものではなく、基準額については厚労厚労大臣がその裁量の範囲で決めることですので、山田先生のご指摘を論点として追記することはなかなか難しいのではないかと考えております。
○駒村座長 パラメータに幅があるということは問題ないわけですね。
○本間保護課長補佐 それにつきましては部会で御議論いただければと思うのですが、実際に当てはめたときの額、上げるか下げるかとか、その範囲まで御議論いただくかとなると、それは部会の範疇を超えてしまっているという認識でございます。
○駒村座長 岩永さん、どうぞ。
○岩永委員 では、それを踏まえて、どこを修正してくださいという意見ではなく、取りまとめということなので、先ほどの資料について、今回の議論に関する私の理解を述べさせていただきたいと思います。
○駒村座長 文言修正ではなくて意見ですね。
○岩永委員 文言修正ではないです。
○駒村座長 分かりました。どうぞ。
○岩永委員 まず、1つ目ですが、「標準世帯」の意味を確認するということは極めて大事だと思います。今回の資料の5ページ目と32ページ目からあるとおりでして、5ページ目に「生活扶助基準の基軸として想定する具体的な世帯」と書いてありますように、標準世帯は1つで、ここから「展開する」という言葉を使われているように、基準額表に展開していくとなっていると思います。
なお、今回の部会の議論について、専門ではない方に念のための補足をしておきます。この3人世帯が標準というのをおかしいと考える方もいらっしゃるかもしれません。保護世帯の多数は単身の高齢世帯で、保護世帯の「標準」ではないからです。また、国全体でみても、単身が増え、3人が標準というのはおかしいと思われる方もいるかもしれません。一方で、この「標準」という意味は、歴史的に見ますと、国民の中で人口を再生産していける家族というのを想定しています。そういう文脈があるということです。
2つ目です。今回の報告書は、先ほど説明してくださったように3つのパートからなりまして、1つ目に「最低限度の生活を送るために必要な水準」、2つ目に「最低限度の生活を送るために必要な水準を検証・検討するための手法」、3つ目に「現行の検証手法」となります。先ほど御説明いただいたように、ほとんどが2のパートに位置することになっていて、このような構成になったことと中身についての私なりの理解です。先ほどの山田先生の議論とつながるのですけれども、基準設定の建前としての順番は、まず基準算定方式があって、これをステップのAとする。その次に基準額表、ステップのBがあって、3つ目、Cとして検証があります。一連なりの3つのステップがあるということを想定していただかないと、この報告書自体、すごく読みにくいかなと思います。
先ほどの厚労省の説明にもあったように、基準部会の位置づけは、基本的にCの検証部分です。参考資料の1ページにもあるように、「検証」と書かれています。一方、この検討会の位置づけは、Cの検証に関係することから派生して、A、基準の算定方式にも言及しています。資料の項目の2がAの基準算定方式に該当し、資料の項目の3がCの検証に該当しています。
ところで、先ほどの保護課からの御説明にもあったとおり、実はBの基準額表については、この検討会も基準部会も議論の範疇にないです。これは誤解の多い点なので、強調しておきたいと思います。
他方で、基準算定方式の話と検証の話は一連なりなので、基準額表も含めて議論の範疇にはないのですが、互いに影響を与えることになると思います。このように考えると、先ほどの山田先生の御意見も理解しやすいかなと思います。
標準世帯の話はAからBに移るとき。これを「展開」と呼んでいるわけですけれども、そこに関わります。したがって、標準世帯を1つとせずに、いくつかに設定してしまうと、今の基準額表の形を変えなければならないということになってしまいます。それは資料1の14ページの6点目のところに既に意見が入っていますし、先ほどの説明でも触れられたと思います。
今の基準額表を変える場合、今回調査された外国の例が参考になると思いますが、そういう選択肢を取るとすると、Aの基準算定方式に加え検証Cの方式も変えなければならず、結果的に、水準均衡方式をやめる、離脱するという大きな決断をすることになると考えます。私はこれに反対とか賛成ということではなく、今回の検討会でそういうことを含む案も提案されています。基準部会は検証のみが守備範囲ですので、今後、厚労省がどういうアジェンダ設定をされるのかにかかっていると思います。なお、これは資料1の14ページ目、諸外国の公的扶助論の丸の2点目のところに書いていることと関係すると思います。
最後に3つ目です。水準均衡方式から離脱するといった場合の懸念点は、資料1の2に書いている内容と重複し、先ほど申し上げたことと関係しますが、大きく2つあります。1つは資料1の14ページの丸の7点目に書かれておりますように、いくつかの標準世帯を設定した場合、整合性のある理論がつくれるかということがあります。もう一つは、この検討会では範疇にないので議論していないのですけれども、離脱していくという場合には、恐らく生活保護法の8条の改正も視野に入れなければならないのではないかと考えます。つまり、8条には「年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、且つ、これをこえないものでなければならない」と書いてあるわけで、恐らくこのようなことまで議論の範疇に入ってくると思うので、部会ではなく国会で議論されるべき論点になると推測します。
さらに、もしこの際、標準世帯をいくつか置くのであれば、もはや保護の単位を世帯単位ではなく個人単位にしたほうがすっきりするかなと思われまして、それは先ほどの基準額表の簡素性ということにも関わりますが、法改正も視野に入れるような議論なのではないかと理解しました。
以上です。
○駒村座長 御意見というよりは岩永さんの御理解ということだったと思いますので、岩永さんはそう御理解されているということであります。
事務局、今の御意見に対して何かありますか。
○本間保護課長補佐 いただいた岩永先生の御理解ということで、複数の標準世帯を設定することについての御懸念等については、次の部会で御議論いただきたく検討課題2-1の論点としてまとめさせていただいているところですので、そこは御理解いただければと考えております。
○駒村座長 事務局、続きがあるのですか。どうぞ。
○森口保護課長補佐 岩永先生、A、B、Cと段階を分けて整理していただいて、どうもありがとうございます。
事務局の担当として認識をお話しさせていただきますと、本検討会については、あくまでも新たな検証手法に関するところに全て尽きていて、もちろん関連事項としてAの改定やBの基準額表の議論につきましても言及はされていますが、基本的にはCの検証の部分について主な論点として挙げていただいているもので、Cの枠組みの中で議論がなされるべきなのではないかと考えております。
○駒村座長 報告書、どこに着目するかというところは、委員それぞれで見ている部分が違う部分もあって、最初に山田先生が御指摘されていたところで、質問の以前のところにあった「下支え」という言葉が報告書の一つの重要なキーワードである。そこでの「下支え」というのは、前提としては水準均衡方式というものを維持しているのだけれども、低成長や格差拡大の際に、従来の水準均衡方式だと下がり続けてしまう危険性があるので、下支えつきの、ストッパーつきの水準均衡方式という意味で、弱い相対貧困水準という考え方が前に出てきているというのが、一つの重要なメッセージであるということ。
岩永さんのご意見は、このことで水準均衡方式の考えを放棄することになると心配しているのでしょうか。
○岩永委員 違います。
○駒村座長 もう少し解説御願いします。
○岩永委員 そういうことに発展する示唆も含まれているというのであって。
○駒村座長 そういうふうにつながってしまう可能性があるよということは理解したほうがいいという意味ですね。
○岩永委員 そうです。だから、意図せず離脱してしまう、ですね。先ほどの保護課の方の説明を踏まえれば、あくまでも守備範囲をCと。「C」というのは私の整理ですけれども、検証にとどめていると考えても、ほかに波及してしまうので、そちらでそういう選択を取ることがほかに波及してしまうよということを言いたかったのであって。
○駒村座長 分かりました。そういうふうに発展してしまう可能性が含まれているものだというコメントを入れておきたいということですね。
○岩永委員 はい。
○駒村座長 分かりました。
それから、山田先生の「格差拡大」という一文を入れるかということに関しては、水準均衡で参照している中間層、低所得層というのが、経済全体はよくても下に落ちていく可能性もあるので、「格差」というキーワードは入れておいたほうがいいのではないかという御指摘だったので、これはそのとおりかと思います。
事務局、修文はいいでしょうか。
○本間保護課長補佐 はい。承知しました。
○駒村座長 ほかにいかがでしょうか。阿部さん、お願いします。
○阿部委員 これも修文依頼ということではなく、私どもの理解が正しいかどうかということを確認したいということです。この点は今まで一度も議論してこなかったところかなと思うのですけれども、6ページの一番最初の目的の1つ目の丸、最低生活の水準ということについて、2つの観点から検討すると書いてあります。「セーフティーネットの役割を果たせる水準」というのが1つ目で、2つ目が「国民からの信頼と納得を得られる水準」というところかなと思います。このうちのマル1については、私たちは非常にたくさんの議論をしたかなと思います。マル2のところはあまり明示的な議論はしていないなと思っております。
ですが、私の個人的な見解で言えば、例えば今回MISといった手法ですとか、山田先生がやってくださったインターネット調査によるというのは、ある意味では国民の皆さんの意見を聞くということを取り入れた手法と理解しておりますけれども、だからといってそれを使わなければいけないということではなくて、次の本体の生活保護の基準部会があるときに、そこでは恐らくセーフティーネットの役割を果たせる水準かどうかというについてはたくさん議論するかなと思うのですが、そこの生活保護基準部会の中でこれが国民からの信頼と納得が得られる水準であるかどうか、つまり、例えばこのような手法を取り入れて国民にも話を聞いているということは、国民からの納得が得られていると理解することができるのではないかということも踏まえて、ここが基準部会でも議論をさせていただけるところなのか、それとも基準部会は検証のところの数値だけでして、そこから先にそれを国民が納得できるかどうかという判断は厚労省がなさるのか。そこを確認したいなと思いました。
○駒村座長 ありがとうございます。
「信頼」と「納得」という言葉がこの部会でどういう文脈で使われているのかというのは確認しておく必要があるだろうと思いますので、今の御指摘は大事だと思います。後で事務局にも確認したいと思いますけれども、この文脈の中での「信頼」というのは、現代の社会の中で最低生活の水準としてこの水準が保障されていると。セーフティーネットとしてこれ以下にはしないよという意味での社会が持つ「信頼」ということだろうと思います。
もう一つは、阿部先生が大分時間を費やして研究していただいた子供に関することでも、仮に困窮世帯、生活保護を受けている世帯に生まれたからといって、この子供たちがこういう公助を活用して自立して、いずれは共助や社会を支える立場のほうになる可能性を保障している水準である。そういうふうな社会を人々は信頼できる水準だという文脈で「信頼」ですね。
「納得」というのは、まさにMIS的な、「私たちは生活保護を使っていない、彼らは生活保護を使っているからずるい」とかいう感情的な「納得」ではなくて、もし相互に立場が変わったときにその水準を許容し得るのかという意味で、市民がMISを通じて熟議して納得した水準を意味しているのだというふうにこの文脈の中では捉えていたつもりなのですが、委員の皆さんはどうなのでしょうか。
○阿部委員 私も駒村先生のおっしゃったような捉え方をしております。私が懸念をしているのは、実際に基準部会となったときに、私たちは様々な数字とか、MISの結果とか、主観的な生活水準の結果というところでも考慮してそれを検証するわけですが、その後に、これでは国民の納得が得られませんよと言って引き下げられたり、引き上げられたりといったことがあるのかどうかということなのです。では、そのときの国民の納得というのは一体どのように決めているのかといったこと。そこは一委員としても一国民としても知りたいところかなと思うのです。ですので、そういったことがあるのかないのかということと、もしそういったことがあるのであれば、そのときの「納得」というのは一体何なのかといったことをお聞きしたいなと思います。
○駒村座長 分かりました。「納得」「信頼」のうち、特に「納得」のほうですね。「納得」については、今、言ったようなMIS的な文脈の中で我々は使っているということを押さえた上で、しかし、「納得」という言葉が一般用語として捉えられてしまった場合に、国民の納得をこの委員会が得るように訴えて説得していくということも含まれているのかどうなのか。そういう最終的な政治決定的な部分まで意味が出てしまっているのかどうかというのを確認したいということなので、事務方、どうでしょうか。
○本間保護課長補佐 先ほども申し上げたように、基準部会というのが、一般国民、低所得世帯の消費水準と生活扶助基準の水準を客観的かつ専門的な見地から検証・検討いただくという場でございますので、そういった意味では、マル1、セーフティーネットの役割を果たせる水準というのが中心になるかと思いますが、それを踏まえて、一方で、そういった検証結果を踏まえて決めていくかというのは厚労大臣の裁量になり、マル2の部分もどちらかといえば部会だけではなくて厚労省側にもそういったことを検討することはあろうかと思いますが、この点についても次の部会で「国民からの信頼と納得を得られる水準」について御議論いただければと考えております。
○駒村座長 「納得」と「信頼」の使い方というのは、今、阿部さんや私も少しお話をしましたけれども、そういう文脈でここでは使っているということを確認しました。そこと違う「納得」と「信頼」については別途行政的な、政治的な判断につながるので、この検討会の言っている「信頼」と「納得」ではない。社会的な信頼とか納得を当委員会とか基準部会のほうで引き受けていくというか、そうではなく政治・行政の判断があるということなのだろうと思います。ここで書いてある「納得」と「信頼」というのは、先ほど議論したような文脈で言っていると確認しました。
○本間保護課長補佐 はい。
○駒村座長 そこははっきり記録に残っていれば、我々がいわゆる一般的な納得、信頼を得るという作業までコミットしているわけではなくて、ここでの文脈、「納得」というのは、熟議、市民同士、MIS的な発想の中で、自分がその立場になったときにそれが許容し得る生活水準なのかという意味での「納得」ということを意味している。「信頼」というのは、信頼できる、社会としてその保障、生活全体のセーフティーネット以下の生活にはしないのだと。その水準であれば信頼できるという「信頼」。あるいは困窮世帯の子供たちに可能性を持たせるという意味での「信頼」という文脈で使われているのだということが、一応議論の中で明確になっているということだと思いますが、この点について、ほかの委員から何かありますか。
阿部さんが懸念されているのは、「納得」にどこまでこの学識者なりが部会であろうが、検討会であろうが関わるのかということについて非常に心配だという趣旨だと思いましたが。ほかの委員のほうからありますか。渡辺さん、どうぞ。
○渡辺委員 私も阿部先生御指摘のとおり、マル2のところは今回相対的には議論が少なかったかなと思っていました。私も駒村先生や阿部先生と同じで、特に今、コロナ禍でマクロ経済的なショックが日本全体、世界全体を覆っているわけですが、そういう状況下になったときに生活が困窮して生活保護に至る人が潜在的に増えてくるわけですけれども、困窮に陥った方たちが利用をためらわれるような水準であっては決してならないと思いますし、利用がためらわれるような制度であってはならないと思うのです。これまで縁がないと思っていた方たちであっても生活保護を信頼して利用していただける制度、水準であるべしと思っておりますし、そういうところからの「納得」と「信頼」だと思っております。生活保護は他制度と比べて水準が低い高いということが言われるわけですが、生活保護ですので、健康で文化的な水準というところを堅持して、その水準が広く理解される、信頼される制度というところでの「信頼」と「納得」というところだと思っています。
以上です。
○駒村座長 ありがとうございます。
コロナの影響でここにいる人もみんなそうですけれども、誰もが生活保護を利用する可能性が等しく出てきているという状態を考えると、「彼ら」と「私たち」みたいな分け方ではなくて、みんなにとって許容し得る、理解できる、納得できる水準なのかという文脈になっているということで、そういう共感というか、みんなが利用し得るものの水準として納得できるのかというような議論につながるように、ぜひとも行政・政府もそういう方向の議論ができるように環境を整えていただきたいなと思います。我々が危惧している「生活保護を使う人と使わない人」を分断するような、あの生活保護水準はずるいとか、自分には関係ないみたいな文脈で議論されて、納得するのか、納得しないのかという議論につながらないような環境整備、説明を今後も期待したいなと思います。
ほかに意見、どうでしょうか。今の話でつけ加えることはありませんか。
事務局、今のようなやり取りでいいでしょうか。
○本間保護課長補佐 はい。
○駒村座長 期待をしています。
○本間保護課長補佐 はい。
○駒村座長 ほかに御意見はいかがですか。修文、アイデア等々ありましたら、この場で。渡辺さん、どうぞ。
○渡辺委員 立て続けで恐縮ですけれども、山田先生が御指摘された「下支え」というところはそのとおりだと思います。経済成長が止まっているときのみならず、格差が拡大するときにというのも重要な点だと思います。なので、現行の水準均衡方式の前は格差縮小方式で算定方式がとられていたわけで、歴史的に見ても困窮世帯を決して取り残しにしない、どうやったら引き上げられるのかという視点から、算定方式が定められていた時期ももちろんあります。格差が拡大する時期においてもちゃんと引き上げていくのだという観点は必要だなと思いました。
以上です。
○駒村座長 ほかはいかがでしょうか。
もしなければ、今の点、「格差」という一文を入れるのと、あと、山田先生が御指摘した、パラメータに自ずと推計の幅があるのだということは、基準額表に反映するときによくよく留意をしておかなければいけない。山田先生、これはどこに入れるのでしたか。
○山田委員 私は、特に具体的な箇所についてまでは指摘していません。適当なところはどこでしょうかね。
○駒村座長 事務局と私で今の2点の修正を引き受けて、山田先生のほうにここでよろしいでしょうかと。あるいは全員のほうにこの部分に挿入しましたという御説明をして、取りまとめるという方法もありますが。
○山田委員 それでお願いできれば。
○駒村座長 岩永さん、今のところに何かありますか。大丈夫ですか。
○岩永委員 はい。
○駒村座長 渡辺さんはいかがでしょうか。いいですか。
○渡辺委員 はい。
○駒村座長 阿部さんはどうでしょうか。ここぞというところは大丈夫ですね。
○阿部委員 はい。
○駒村座長 それでは、皆様の御議論を承って、大半の部分は原案どおりということで、今、2か所についての修文が入ってきたということで、後で事務局と私のほうで対応して、私に一任させていただければと思います。
それでは、長い間にわたって活発な議論をいただきました。事務局に今後の進め方について御説明いただければと思います。
○本間保護課長補佐 活発な御議論を賜りありがとうございました。
資料の修正につきましては、座長と相談しながら事務局で作業をさせていただきます。修正した資料については後日厚生労働省のホームページに公表いたします。
それでは、本検討会での議論の終了に際しまして、橋本局長より御挨拶をいただければと思います。よろしくお願いいたします。
○橋本社会・援護局長 橋本でございます。取りまとめに当たりまして、一言御礼を申し上げたいと思います。
改めて振り返れば、前回の基準の検証におきまして頂戴した御指摘を踏まえてこの検討会を設置したわけでございまして、一昨年の3月から大変長い時間をかけて、そしてまた大変充実した実りのある御議論を賜りました。委員の先生方におかれましては、2年間にわたりまして精力的に御議論いただいたことに心より感謝申し上げたいと思います。
特に駒村先生には座長として本当に御尽力をいただきました。本来であれば私ども事務局のほうでもっともっと気を遣わなければいけないところが多々あったかと思いますが、行き届かないところを座長に助けていただきまして、検討会の円滑な運営に大変御尽力いただいたこと、改めて御礼を申し上げたいと思います。
今後は議論の場を生活保護基準部会のほうに移しまして、生活保護基準の検証を行っていくということになります。こちらの検討会で御議論いただきました内容、整理した検討課題、論点といったことを踏まえて、引き続き基準部会において具体的な議論を進めてまいりたいと考えてございます。
委員の先生方におかれましては、引き続き御指導、御鞭撻、そしてまた御意見を賜りますようにお願いを申し上げまして、私からの御礼の挨拶とさせていただきます。大変ありがとうございました。
○駒村座長 局長、ありがとうございました。
それでは、最後になりましたが、私からも一言御挨拶を申し上げたいと思います。
今日の議論もありましたように、大変重要な意見が取りまとめられたと思います。1984年、当時、安定した経済成長の中で導入された水準均衡方式でした。平均的な消費水準の上昇や国民生活の上昇に連動して生活保護水準も上げていくという仕組みで、生活保護水準を困窮者の生活も生存ぎりぎりの状態に残さない、社会から取り残さないという仕組みであったと思います。水準均衡方式は、社会が豊かになったときにこの生活保護の水準も引き上げられるように、困窮者を取り残さない、文化的、健康的にも、さらには社会の中でも引け目や孤独を感じさせないということを目的にした仕組みだったと思います。
ただ、今日議論があったように、低成長。デフレ経済あるいはマイナス成長、格差拡大の中で生活保護水準も平均的な消費動向に連動して引下げる圧力がだんだん強まっていく状況になっています。しかしながら、報告書にも書いてあるように、平均的な消費水準が下がったからといって、衣食住の基本的な支出や社会的な交流費用が下げられるということは簡単ではない、極めて難しいということを確認しました。
水準均衡の考え方を基本としつつ、経済が低迷して格差が拡大しても、これ以上引き下げてはいけないという下支えの水準を考える必要があるという問題意識で検討会が始まり、報告書の方向としては、従来のような平均的な消費水準が上がったときは保護基準も上がり、下がったときは下がるという考え方から、「弱い相対貧困水準」という、下支えつき、ストッパーつきのような水準という発想が出てきたということだと思います。
また「納得」と「信頼」という言葉ですけれども、先ほども話がありましたように、コロナの下で多くの方がそれまでの生活の基盤が失われているということで、困窮に直面している方も増えてきて、困窮が我が事のようにも感じられる方も増えていると思います。生活保護は、いざというときに全ての国民に生活できるという水準を保障するという意味での「信頼」というものを保障する仕組みであるという意味で信頼感がますます重要となります。
「論語」では社会の「信頼」の重要性を強調しています。「信無くば立たず」とは、軍備や食糧よりも社会の人間同士の信頼が一番大事であるという趣旨です。社会は、人々が困窮になっても決して見捨てないのだという意味での信頼感が極めて大事で、生活保護というのは、そういう社会の信頼を守るしんがりというか、防波堤になっているわけです。社会の信頼を保障する機能を果たしているわけです。社会保障の要石という役割は今後もますます重要になっているのではないかと思います。
本日議論がでた「納得」というのは、「彼らはもらって、自分はもらっていない」という感情的な部分から左右される納得ではなくて、自分がその状態になったときにその程度の生活は保障されるべきであるという市民同士の納得感、あるいは明日は我が身という共感によって理解と納得が得られるようなものだというふうに考えているのだろうと思います。
そういう感情、すなわち共感、あるいはMIS的な熟議や市民同士の明日は我が身、立場が変わったときにその水準はやはり欲しいよねという意味での納得感ということです。あるいは先ほども少しお話ししましたが、困窮な世帯、生活保護を受けている家に生まれた子どもにとっても、生活保護はいきなり最初のセーフティーネットになるかもしれませんけれども、そういう子供たちがこの公助の仕組みを使っていつかは自立して、共助として支える立場になっていく。そういうことをしっかり社会が応援する、そういう可能性を広げる意味での信頼感という意味もあると思います。困窮世帯に生まれる子供には何の責任もないわけですので、生活保護がそうした子どもや人々の人生の可能性を拡大する、そういう仕組みを持っているという信頼感、納得感が大事だと思います。
今日、最後に報告に当たって委員からも懸念事項、あるいはコメント、説明があったと思います。これも含めて報告書ということになると思いますので、議事録でこの報告書の解説というのが、今、委員の皆さんがやったとおりのものであるということで、厚生労働省におかれましては、この生活保護水準に関する議論が今後の基準部会においてもきちんと反映されるように、ぜひとも社会保障の要石としての生活保護を充実・強化するということで、議論を今後の基準部会で進めていただきたいと思います。期待しております。
以上をもちまして、「生活保護基準の新たな検証手法の開発等に関する検討会」を終了させていただきます。
委員の皆様におかれましては、一昨年の3月から大変精力的に御議論いただきまして、誠にありがとうございました。これで検討会を終了させていただきたいと思います。どうもありがとうございます。