第一種健康診断特例区域等の検証に関する検討会(第2回)議事録

日時

令和3年2月18日(木)14時00分~

場所

TKP新橋カンファレンスセンター 14階 ホール14G
(東京都千代田区内幸町1ー3-1)

出席者(五十音順)

【構成員】
・ 荒井 史男
・ 一ノ瀬 正樹《web出席》
・ 岩崎 俊樹 《web出席》
・ 鎌田 七男 《web出席》
・ 木戸 季市
・◎佐々木 康人
・ 柴田 義貞 《web出席》
・ 永山 雄二 《web出席》
・ 増田 善信
・ 山澤 弘実 《web出席》
※ ◎は座長
※ 荒井構成員の「荒」の草冠は、正しくは間が空いている四画草冠

【参考人】
・ 五十嵐 康人(京都大学複合原子力研究所教授)   《web出席》
・ 杉浦 信人(広島市健康福祉局原爆被害対策部長)
・ 高宮 幸一(京都大学複合原子力研究所准教授)   《web出席》

議題

(1)前回の指摘事項について
(2)検証の進捗状況について
(3)放射線被ばくによる健康影響について
(4)その他

議事

議事内容
○山本室長 それでは、定刻になりましたので、ただいまより、第2回「第一種健康診断特例区域等の検証に関する検討会」を開催いたします。
 構成員及び参考人の皆様におかれましては、お忙しい中、お集まりいただき、誠にありがとうございます。
 本日の出欠について御案内いたします。
 小池構成員の代理としまして、広島市原爆被害対策部長 杉浦信人様に参考人として御出席いただいております。
 一ノ瀬構成員、岩崎構成員、鎌田構成員、柴田構成員、永山構成員、山澤構成員の皆様におかれましては、オンラインにて御参加いただいております。
 また、京都大学複合原子力研究所 五十嵐康人先生、及び同研究所の高宮幸一先生には、議事の2番目に関する参考人としまして、オンラインにて御参加いただいております。
 なお、誠に恐縮でございますが、健康局長は公務の都合により欠席させていただいておりますので、御了承ください。
 本日の傍聴ですが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、一般及びマスコミの方のいずれも傍聴は行わず、代わりに会議の模様をYou Tubeによるライブ配信にて公開しておりますので、御承知おきください。
 オンラインでの参加の方に何点かお願いさせていただきます。
 まず、ビデオカメラはオンにしておいてください。
 マイクはミュートにしていただき、御発言のときのみマイクをオンにしてください。
 御発言のときには、お名前をおっしゃった上で御発言ください。
 御発言が終わりましたら、マイクをミュートにしてください。
 以上、よろしくお願いいたします。
 操作方法につきまして御不明な点がございましたら、事前にお伝えしてある電話番号におかけいただければ御案内いたしますので、お問い合わせください。
 それでは、以降の進行は佐々木座長にお願いいたします。
 なお、頭撮りはここまでとさせていただきますので、報道関係者の方は御退室をお願いいたします。

(カメラ退室)
 

○佐々木座長 皆様、本日はお忙しい中、御参加くださいまして、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 早速ですけれども、事務局より本日の資料の確認をお願いいたします。
○山本室長 それでは、資料の御確認をお願いいたします。
 まず、議事次第の次に座席表と、資料1-1と1-2、1-3、資料2-1、2-2、2-3、資料3-1と3-2。それから、参考資料1と2がございます。それから、第1回の検討会におけます資料、参考資料は、別途、1冊のファイルにまとめております。
 また、構成員のみになりますけれども、広島市様からの机上配付資料を2つ御用意いただいております。
 資料の不足等ございましたら、議事の途中でも結構ですので、お声がけください。よろしくお願いいたします。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 本日の議事は、4つございます。「前回の指摘事項について」「検証の進捗状況について」「放射線被ばくによる健康影響について」「その他」であります。
 議事に入る前に、前回の議事録について一言申し上げておきたいと思います。その後、前回御欠席で今回御出席いただいております山澤構成員に、一言、もし何かありましたら御発言をいただいて議事に入りたいと思っております。
 議事録については、御存じのように、構成員の皆様の御承認を得まして、既に公開しております。来場の構成員のお手元のファイルに綴じられております。山澤構成員は、前回御欠席でありましたけれども、事前にいただいた御意見を事務局から読み上げていただきまして、検討会の中で御披露させていただいております。そのことは、議事録の中にも記録されております。
 山澤構成員、一言何か御発言いただけますでしょうか。
○山澤構成員 ありがとうございます。名古屋大学の山澤です。よろしくお願いいたします。
 私、気象のシミュレーション、それから放射能の拡散のシミュレーション等やっていますけれども、今回、この検討の中で、そういったことを実際やってみるということで、かなり難しいことをやることになるのだろうと考えておりまして、出てきた結果については、かなり慎重に検討する必要があるのではないかなと考えております。ただ、内容の進み具合をここでいろいろお聞きしながら、私としてもできる限り慎重な評価をしていきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 それでは、議事(1)「前回の指摘事項について」です。事務局より資料の説明をお願いいたします。
○丸山課長補佐 それでは、事務局でございます。
 資料は、お手元、1-1を御用意いただければと思います。前回、第1回の検討会で種々御指摘をいただいた中で、事務局として明確に御回答できなかったものや、その他もろもろについて、現時点で判明している、整理ができたものについて、本日、御説明を改めてさせていただきたく、この資料を準備させていただきました。
 1枚目のスライドでございます。第一種健康診断特例区域の対象者と被爆者の関係について、これは荒井構成員から法律との関係性について御指摘をいただいた部分でございますが、まず上の緑の範囲に書かせていただいていますとおり、被爆者については、法律上は、援護法第1条において4項目、御覧のとおり規定されております。これらに該当する方について、被爆者健康手帳の交付をするということでございます。
 今回、広島及び長崎のほうで、その外側に設定されております健康診断特例区域については、オレンジ色で記載させていただいておりますが、法律上は、上の緑のマル1、当時、広島・長崎市内又は一定の隣接地域内において直接被爆した方、この地域に隣接する地域を、法律の下位規則で定めているところでございまして、具体的にどこで定めているかというのは、表の中に記載させていただいておりますが、第一種と第二種ということで、それぞれ表に町名が書いてあったり、被爆者とみなすということで、援護法の附則第17条に書かれておりますが、その健康診断の適用する範囲については、第一種と第二種でこのような地域がありまして、健康診断の事後の措置についても、それぞれ一種と二種で異なるという整理がなされているものでございます。
 おめくりいただきまして、2枚目は、そういった形で手帳の交付を受けられた方がどのようなサービスを受けられるかというものを、これは前回の資料でもございますが、改めて再掲させていただきますと、健康診断、被爆者の方は年2回で、希望される方はさらに年2回と左上に書いております。恐縮です、1枚戻っていただくと、第一種健康診断受診者証を受けられる方が同等のものが受けられ、第二種、長崎のみの設定でございますが、こちらは一般検査、血液検査等でございますが、これを年1回受けられるといった差があるということでございます。
 2枚目にお戻りいただきまして、被爆者の方であれば、健康診断、医療、福祉サービス、そのほか、下のほうにありますが、各種手当を受給できるというサービス、援護措置の体系になっております。
 1枚めくっていただいて、3枚目は、令和2年度時点でのそういった手当にいろいろな種類がございます。合計8種類あるかと思いますが、そこについて細かい内容を参考までにつけさせていただいている次第です。
 おめくりいただきまして、4枚目、雨の色について前回の検討会で御指摘いただいておりましたので、関係する記載を事務局のほうで引用してきたものを取りまとめさせていただきました。黒い雨という言葉自体は、普通の雨は黒くありませんので、印象的なところでございますけれども、その黒さの正体については、放射線影響研究所の要覧によると、オレンジ色の囲いになりますが、基本的に黒い雨の本体は、火災の結果発生した煤(すす)であるということでございます。
 色と放射線の強弱には、直接的な関係がないといったことを前回の検討会の中でも御指摘いただいたと理解しておりまして、出典については、このように記載させていただいた次第です。
 実際、雨が黒くなるということは、非常にまれではございますが、四角い青囲いでございまして、国内であれば、大阪の大空襲の後とか、国外であれば、湾岸戦争による油田の火災の結果、観測されているのは事実でございますし、それ以外にも、森林の大規模火災の結果、こういったものが見られるということは、インターネット上でも幾らか散見されていることでございます。
 ですので、前回の資料3ではございましたが、検証課題の設定におきまして、下の点線囲いでございますが、本検討会の検証については、雨の色に着目するのではなくて、また、そもそも雨があるか、ないかではなくて、増田構成員からも御指摘あったように、ちりといった乾性沈着のようなものも含めた総合的な検証が必要だということでございます。
 最後、おめくりいただきまして、5枚目のスライドでございます。これは、一ノ瀬構成員から御指摘あった点だと理解しておりますが、長崎の第二種健康診断特例区域は、どういった経緯で定まったのかということを御質問いただいたかと理解しております。これは、前回の第二種が指定されるまでの経緯のうち、平成12年10月から行われた検討会の部分を少し細かめに書かせていただきました。
 何かと申しますと、1個目の四角囲いで第1回検討会とありますが、ここで長崎市が取りまとめられた報告書以外に、専門家で組織した研究班の設置を決定され、その中で、地域において被爆体験を持っている方と持たない方を、きちんと年齢・性別などをマッチングして面接されたということでございます。
 その結果について第4回の検討会、下の四角囲いで報告されていまして、幾つかデータが細かく示されているわけでございますが、その中で1つ挙げさせていただくのであれば、GHQ-28(General Health Questionnaire)ということで、日本語版は総合健康質問票と申し上げたり、幾つか和訳名称はございますが、28項目版、ほかにも12項目、30項目といったバージョンがあるのですが、当時は28項目版を採用し、質問した結果、明らかに被爆体験をされている方の精神的・健康状態が悪かったということを、これは1つのエビデンスとして示していただいて、ほかの調査票での点数も総合的に御判断されたということでございます。
 詳しい話になりますと、報告書自体もそれなりのボリュームがございましたので、報告書は本日の参考資料1という形で御用意させていただいております。平成13年のもので、報告書原本では無く厚生労働省のホームページでの掲載という形での御紹介となりますことを御容赦いただければ幸いでございます。
 残りは、資料1-2と1-3でございますが、前回の検討会後に、御意見があれば事務局にお寄せいただきたいとお願い申し上げたところ、木戸構成員と増田構成員から御提出いただきましたので、本日、資料1-2、1-3という形で御用意しております。それぞれの内容については、願わくば、それぞれの構成員から少しお言葉をいただければと思っております。
 事務局から資料の紹介としては、以上でございます。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 資料1-2、1-3については、後で御説明いただくことにいたしまして、まず、資料1-1について、ただいま事務局から御説明がありましたけれども、御質問、御意見がありましたら、御発言をお願いいたします。
 どうぞ、荒井構成員。
○荒井構成員 荒井でございます。
 第1回の会議のときの私の発言に関連する部分が資料1-1にあるかと思いますので、一言述べさせていただきたいと思います。私が第1回に発言したかった趣旨は、今日御説明いただいたことで十分明らかにしてくださっているのですが、申し上げたかったのは、援護法というのは被爆者という概念を中心に構成されている。ただ、第一種の特例区域等の指摘につきましては、今日の資料にもありますように、健康診断に関しては被爆者とみなすという規定を法律の附則に書いてあるのです。という意味では、援護法の枠外の問題ではないので、枠内の問題であるということは、今日、はっきりしていただいたということでございます。
 健康診断に関して、いわば限定的な被爆者という立て方になっておりまして、それはそれで、その限りにおいて、被爆者に対して行政的な配慮に基づいての援護措置の一環だということで、大変結構なことだと思うのですが、そこから進んで、今日の御説明にありますように、医療のサービスとか諸手当のサービスにつながっていくということがありますので、入り口のところといいますか、この健康診断特例区域の検討ということが、ひいては医療とか諸手当につながっていく可能性のある重要な問題だから、十分な検討が必要だということを申し上げたかったということでございます。
 よろしくお願いいたします。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 ほかに御発言ありますか。
 増田構成員、お願いします。
○増田構成員 増田でございます。
 雨の色の問題について、ちょっと。確かに、黒い雨というのは、火災に伴って出た煤(すす)の色が黒くなっていたと思うのですけれども、実は前回のときも原爆の雨には2種類あったというお話しをしたことがあると思いますが、キノコ雲から降った雨は黒くないのです。ですから、現地では泥雨と一般には言われております。褐色の雨が降っておりますので、この説明だけではちょっと不十分だと思います。別にこれが重要な問題ではございませんから、たいして問題にすることではないと思いますけれども、一応黒い雨だけではなくて、泥雨というところにも放射能を含んだ降下物、放射性降下物が含まれていたということは大事な点ではないかと思いますので、一言発言させていただきました。
 ありがとうございました。
○佐々木座長 ありがとうございます。
 その泥雨という言葉は、どこかで使われている。
○増田構成員 泥雨というのは、一般には南のほうが多いのですけれども、最初は北のほうでも泥雨が降っていますので、そういう意味では、泥雨というのは、一般の広島の人たちはそういうふうなことを言っておられるのではないか。私は、そういうふうに聞いております。具体的に、直接そういう方にはっきりとただしたわけではございませんが、一般にはそう言われているということを聞いております。
○佐々木座長 ありがとうございます。貴重な情報をいただきました。
 ほかに御発言ありますでしょうか。資料1-1の説明に関してですが。遠隔で参加しておられる方は、声を挙げていただくと分かるかと思いますので。
 鎌田構成員、お願いします。
○鎌田構成員 今の泥雨という言葉について、ちょっと申し上げたいのですが、宇田論文の証言者の中に、泥雨というのは二、三人の方が使っておられます。それは、木灰を溶かしたような雨という意味の、かなりどろどろしたぐらいの濃度の濃いものを泥雨と表現しているようであります。
 以上です。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 ほかに御発言ありますでしょうか。
 一ノ瀬構成員、お願いします。
○一ノ瀬構成員 今の資料に関してですけれども、私が以前にも発言した長崎での第二種健康診断特例区域の部分ですが、被爆体験がトラウマとなったり、精神上の健康悪化がというところですけれども、これは佐々木座長にも言及していただいたのですけれども、原爆の被爆をしたことによって受ける差別的な事態が要因となって発生したような精神上のトラウマというか、問題というのは、ここには言及する必要はないのでしょうか。重ねての質問になるかと思いますけれども、以上です。
○佐々木座長 ありがとうございます。
 前回も御質問いただきまして、私は自分の記憶だけで、そういう趣旨の議論というのはなかったように思うということを申し上げましたが、必ずしも正確ではありません。どうしましょうか。報告書を見ると分かるかな。どうぞ、事務局からお願いします。
○丸山課長補佐 事務局でございます。
 参考資料1に平成13年当時の報告書を添付させていただいておりまして、右上にページ番号が17枚のうち何枚目というのが書いてあるのでございますが、12枚目辺りが、その検討会の中で設置された研究班の報告の中身になっております。一ノ瀬構成員の今の御指摘に回答致しますと、私としては、この報告書を読む限りではございますが、何が原因でこういった精神的な影響を受けたのかは区別していないだろうと読み解いております。
 と申しますのも、12枚目の(3)現在の精神状態に影響を与えている要因ということで、るる何項目か書いてあるかと思いますが、これについては、GHQやIES-Rといった指標でございますが、それを採るに当たっては、定められた手順にのっとって、構造化面接という言い方をするのですが、面接していって、その方のストレスがあるかどうかということを把握されていったのだろうと、報告書を見る限りでございます。
 ただ、5)、6)のスティグマの部分が書いてあるところでございますが、「スティグマを受けたことの苦痛」を尋ねる項目も設けているが、その項目とは有意連関が見いだされず、より客観的な、スティグマ体験の程度を尋ねる項目との間に連関が見られたということでございますので、ストレートにそういったものが関係しているかは、事務局の中でも現時点では把握し切れていないところでございます。
○佐々木座長 一ノ瀬構成員、いかがでしょうか。
○一ノ瀬構成員 了解いたしました。もともと、そこを区別するのは、時間がたっているということもありますし、時間がたっていなくても難しい問題だったと思いますので、今の御説明で了解いたしました。
 ありがとうございました。
○佐々木座長 ありがとうございます。
 ほかに、資料1-1の説明に関して御発言がありますでしょうか。
 それでは、次に、資料1-2と1-3の議論をしたいと思いますが、まず、資料1-2について木戸構成員から御発言がありますでしょうか。
○木戸構成員 発言の機会を与えていただいて、ありがとうございます。
 削除・追加という部分については、そこに書いてあるとおりですので、時間の関係で、もう申し上げません。これに関連しまして、今、私が思っていることを発言させていただきたい。この修正を補強する意味合いを込めて、一応文章にしましたので読み上げさせていただきますけれども、場合によっては、この文章は事務局のほうに提出してもいいかと思っております。
 私は、長崎の5歳被爆なのですけれども、今から30年前から被爆者の運動といいますか、被団協の運動に参加いたしました。この30年の間に、どうも不思議でしようがないという問題があるわけです。それは、私を被爆者と認めなさい。要するに、被爆者健康手帳を交付してくださいということと、それから、私の病気は原爆のせいなのだということで、原爆症認定をという要求がずっと絶えないわけです。そして、それが裁判までになっていく。
 これはどうしてなのだろう。被爆してから、戦後75年で既に4分の3世紀がたって、被爆者は本当に高齢になって数少なくなってきて、余生も幾ばくかという中で、この問題が未解決のままであるということが許されるのだろうか。これは、本当に少なくなりましたけれども、被爆者が生きている間に解決してもらいたいということを切に望んでいるわけです。
 そうやって見たときに、法律の専門家ではありませんけれども、現在の被爆者援護というのは、原爆の被害者に対して本当に対応するものになっているのだろうかということを問い直す必要があるのではないか。そして、現在、実施されている援護というのは、先ほど言われました原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律と、長いので現行法という表現で述べさせていただきたいと思いますけれども、今日の資料にもありましたように、その援護の対象になるのは4種類の被爆者だということで、原爆被害者の全てを対象にしているものではない。私の感じでは、極めて限定されているということです。
 この原爆被害者というのと、法律で定められた被爆者、この問題が援護施策の乖離の矛盾というのを実は生み出しているのではないかということで、援護の対象を原爆被害者という具合に広げなければいけないということを痛切に感じているわけです。併せて、新しい状況として、核兵器禁止条約というのが発効いたしました。そういう中で、国際法と日本国憲法に基づいて、援護施策というのも進められなければいけないのではないでしょうか。
 私、実は最後の国民学校に入ったのです。そのときに、21年の議論ですけれども、もうこれから日本は戦争しないのだということを、私の父親とか大人の人たちが、あの何もない状況の中で喜々として語り合っていたのを忘れられないです。いまだに頭に残っておりますし、私も戦争はもうないのだということを信じていました。最初のショックは、朝鮮戦争でした。戦争はないと思っていたのが、戦争が起こったではないかというショックを受けたのですけれども、多くの被爆者が本当に傷つき、荒れ野の中で飢えと闘いながら、生きる支えというのが戦争をしないという憲法だったわけです。その思いは、今に至るまで変わっておりません。
 そういう中で禁止条約が発効したわけですけれども、ここでいろいろと言うのではなくて、この条約には、これまでの被爆者や核実験の被害者、これからの被爆者や核実験被害者への援助を義務づけていくということであります。そういう中で、今、日本政府も含めて、私たちは、この被爆者・被害者に対する援護の在り方というものが問われていると思うのです。原爆の投下によって、私たちは、世界はと言ってもいいと思いますが、核兵器が人類を滅ぼすか、人類が核兵器をなくすか。そういう核の時代に突入したのだろう。そして、今、世界の方向というのは、核兵器をなくして人類を守るという道筋を示した。すぐ核廃絶にならないにしましても、その方向がはっきりと示されたと思います。
 そういう中で、私は被爆者の願いというのは、何時も、またどこでも、再び被爆者をつくらないことだ。そういう意味で、この会議で核兵器による人類絶滅の危機から人類を救うという被爆者援護施策ということについて議論していただいて、少なくとも一定の方向を皆さんに示すことができればということをお願いしたいと思います。
 どうもありがとうございました。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 ただいまの御発言に関して、検討会の構成員の方々の御意見を伺いたいと思いますが、御発言がありますでしょうか。
 まず、荒井構成員、その後、増田構成員、お願いします。
○荒井構成員 今、木戸構成員がるるお述べになりましたことの中で、御意見につきましては聞かせていただきましたということですが、本日の資料1-2で、今回の検討会の資料3の検討の基本的考え方についての削除・修正の御提案に関連して意見を申し上げさせていただきます。
 現在の原爆被害に対しての対応の仕方の基本になっているのが、昭和55年の基本問題懇談会の御提言です。あそこにも今回の資料にも出されておりますけれども、第二次世界大戦、太平洋戦争というものが、いろいろな意味で全国民的に被害を及ぼした問題だということが前提にありまして、原爆の被害ということに対して、何が一般の戦争被害と違うのだろうかということを考えたときに、それは放射能の影響によっての疾病問題だということが前提になっていたと思うのです。そうすると、放射能によって病気になったということをどういうふうに捉えるかということになりますと、それは科学の力、科学の知見によって判定・判断していくほかないのではないだろうか。
 そうすると、端的に言えば、放射能の線量ということをメルクマールというか、基準にして考え、対応していくしかないのではないかという考え方が、この基本懇の提言のいわば骨格になっていると思います。
 それを前提にして、行政にしろ、あるいは、その後の裁判の基本になるような対応の問題にしても、1つの大きな基準として長年尊重されてきているのが基本懇の考え方だろうと私は理解しているわけですけれども、これは、この検討会の議論の前提として受け止めて、そこから特例区域の範囲をどういうふうに設定していくのかということを検討していくことになると思うのですが、放射能による影響ということを前提にしていくとなると、科学的な知見というものをベースにするしかないじゃないだろうかと思うのです。
 この点をここの基本問題懇談会の基本的な考え方から外した上で自由に議論をするということは、言ってみれば、基本の大問題のところに私たちが注力するということで、果たしてそういう任に堪えられるかというと、恐らくこの昭和55年の基本懇のメンバーの方々というのは、当時、日本の各分野の代表的な第一級の先生方が集まって知恵を絞られて、私は、今でもこの文章というのは、格調が高いというだけではなくて、具体的なあらゆる原子爆弾の被害の局面というか、影響の及ぶ範囲をいろいろと想定されて、こういう提言に結びついてきていると思うのですね。
 科学の内容そのものについては、科学的な知見については日進月歩ということもございましょうから、それはそれで新たな知見も取り入れて対応していくことは必要であると思うのですが、基本的な基本懇の考え方、つまり、突き詰めると、科学的・合理的な根拠を追求するということをベースにするということは、異論がある方もいらっしゃると思います。それはそれで、そういう御意見を述べていかれればいいので、私たちとしては、これは基本のキということで前提にして対応せざるを得ないのではないかというのが私の意見でございます。
 それから、木戸先生のお書きになったペーパーの後段のほうに、原爆投下時の科学的な検証・知見の不十分性を認めというところは、今、申しましたように、科学的知見の日進月歩の部分というのは、新たにできる限り導入、取り入れていくという必要は大いにあろうかと思いますが、不十分性を認めというのは結構なのですが、単なる数値のみを根拠にすべきではない。これは、なかなか難しい問題ですけれども、その後にある被害の事実ということについても、何をもって原子爆弾、放射能の影響による問題なのかということを判断するときにも、まさに科学的な知見に頼らざるを得ない部分が大いにあろうかと思うのです。
 単なる数値のみにというところは、科学的知見を放射能の影響性ということを考えるときには、申しましたように、線量ということがどうしても基本にならざるを得ない。そうすると、数値ということを無視はできないと思います。ただし、次の行にある被害の事実ということについても、科学の知見を借りながらですが、それじゃ、実際に何をもって、先ほど木戸先生がおっしゃった、被害を受けた方々が病気は原爆のせいだと。いわゆる起因性という問題ですね。それについても、いろいろと基準になる物差しというのを使っているわけですけれども、いわば原爆症の認定の段階などでは、まさに線量を前提にして、どういう病気がどの程度かということがいろいろ判断の対象になります。
 しかし、一言申し上げたいと思いますのは、具体的な場面では、基準を金科玉条にして、それでばっさり切ったり、区別したりするということはなかなかできないので、具体的な状況というものを、例えば厚生労働省の管轄の医療分科会というものがございます。私、平成20年から29年頃まで、法律の立場からではありましたけれども、医療分科会で原爆症認定の作業に関与させていただいたことがありました。それは、例えば線量認定の基準になっているのが被爆の爆心地からの距離、あるいは入市の日時・場所ということが1つ問題になってきますけれども、それはできる限り被爆者の方々に不利にならないようにということで、きめ細かく資料に当たって調査しているのですね。その事実認定の段階そのものも、できるだけ弾力的に、具体的な状況まで審査した上で判断する。
 それから、起因性の問題につきましても、専門の先生方の議論を聞いておりましても、数値だけで判断をばっさりと決めてしまうということではなくて、いわゆる総合的判断という手法を最近使っておりますけれども、被爆当時の状況ということを具体的に個々にしんしゃくした上で判断しているということですから、数値のみを根拠にすべきではないというのは当然ですけれども、現実、数値のみを前提にして、そういう対応がされているわけではないということは認識しておいたほうがいいのではないかということを申し上げたいと思います。
 以上です。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 増田構成員、お願いします。
○増田構成員 増田でございます。
 今の荒井先生のお話、ごもっともな面もあると思うのですけれども、私は基本懇の考え方そのものにも大きな問題があるのではないかと思っております。前回の配付資料の中に基本懇の概要ということが載っておりますので、その部分で基本理念のところだけもう一回読ませていただきたいと思うのです。
 戦争という非常事態のもとで、国民が何らかの犠牲を余儀なくされたとしても、それは国をあげての戦争による「一般の犠牲」として、すべての国民がひとしく受忍しなければならないものである。
 2番目が、しかしながら原爆被爆者の受けた原爆放射能による健康障害は、一般の戦争損害とは一線を画すべき「特別の犠牲」であり、広い意味における国家補償の見地に立って、被害の実態に即応した対策を講ずべきものと考える。
 3番目が、しかし、広い意味における国家補償の見地に立って対策を講ずるといっても、戦争遂行に関し、国の不法行為責任を肯定し、賠償責任を認めるという趣旨ではなく、放射線による健康障害について、原因行為の違法性の有無にかかわりなく、結果責任として、戦争被害に相応する「相当の補償」を認めるべきだという趣旨である。
 4番目が、また、ほとんどの国民が何らかの戦争被害を受けている実情のもとでは、被爆者の犠牲が特別なものであるとしても、その対策が、他の戦争犠牲者に対する対策に対し著しい不均衡が生ずるようであっては、国民的合意は得られない。これが基本的な考え方なのですね。
 私自身は、もちろん全てが戦争の犠牲者だからというところについては、意見を持っておりますけれども、一番問題になるのは2番と3番のところだと思うのですね。それで、2番では、一般と違うのは、原爆による被害を受けた人として、被爆者は特別に考える必要があるということを言っておられる。続いて、3番目は、しかしながら、広い意味において国家補償をするという見地から言うと、何らかの補償はすべきであろうけれども、その原因の違法性の有無にかかわらず、結果責任として戦争被害に相応する「相当の補償」を認めるべきだという趣旨であるということで、一応、原爆症に対するある程度の補償は認めておられると思うのです。
 問題は、それを適用するときに科学的・合理的でなければならないというところが、いつも問題になってまいります。特に、放射線による影響という問題については、今でもなかなか困難な難しいところがあるわけです。だから、それに対して科学的・合理的ということだけで切っていくというやり方が果たしていいかどうかというところが、今まで問題になっておりました。広島地裁の昨年の7月29日の今回の判決は、そういう意味では、原爆症認定の中にある放射能の影響という点に重点を置けば、それによって生じた障害・疾病は、原爆症と同じものであれば、その人は認めると拡大されたと言ってもいいかもしれない。
 私は、そういう点では、今までの合理的・科学的という点が大きく変化したと思います。そういう意味では、荒井先生には申し訳ないですけれども、この文章だけで決められるというのは、いろいろ問題が起こるのではないか。もう少し被爆者という人たちの立場に立って、例えば原爆症と同じような障害が出た人は、科学的根拠があるかないかなどという問題ではなくて、既に結果が出ているじゃないかということで、その方を原爆症として認定されるというのがいいのではないかと思いますので、この点は、今回のこの検討会の主要な問題になってまいりますので、今後、まだまだ議論を続けさせていただければと思っております。
 少し長くなりましたが、申し訳ございませんでした。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 ほかに構成員の方から御発言。恐れ入ります、木戸構成員、皆さんの御意見を伺った後で、最後にまた御発言いただくようにしたいと思います。先に御意見を伺っておきたいと思いますが、いかがでしょうか。オンラインで参加しておられる構成員の方から御発言がありますか。
 柴田構成員、お願いします。
○柴田構成員 先ほどの荒井構成員のお話というのは、私は全く同感です。今、増田構成員からお話があったのですけれども、原爆に遭ったと言う人の話は、全部そのまま受け入れるべきだというのは、ちょっとどうかなと思っています。実際にその辺が科学的な根拠というか、いわゆるデータを見て、それで合理的であれば認めればいいだろうけれども、ただ、当時被爆するところにいたのだということで承認するというのはどうなのかなと思います。
 実際に、原爆被爆というのが非常に特別だというのは分かっています。だけれども、例えば東京の大空襲を考えれば、一晩で10万人ぐらい殺されているわけです。だから、その辺との兼ね合いというか、そういうものを考えないと、ちょっとまずいのではないかと思っています。
 以上です。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 ほかに御発言ありますでしょうか。
 山澤構成員、お願いします。
○山澤構成員 私の個人的な意見として申し上げさせていただきたいのですけれども、私も今の発言で、荒井構成員が説明された基本懇の考え方、昔も読ませていただいて、非常に高尚で納得できる、腑に落ちる文章だと考えております。心情としましては、そういう被害を現に受けられている方に対して、何らかのサポートをしてあげたいという気持ちは私も当然持っているわけですけれども、基本懇の基本理念の最後の部分、国民的合意は得られないと書いてあります。その国民的合意が得られるかどうかという部分の一つの重要な担保として、科学的な根拠というものが出てくるのだろうと考えております。
 ですから、これを抜きにして、際限なくとは言いませんけれども、できるだけ広げましょうということについては、かなり慎重に見ていくべきところがあるのではないかなと考えております。
 以上です。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 ほかに御発言がありますでしょうか。よろしいですか。
 特に御発言がないようですので、ただいま4人の構成員から御意見を伺いました上で、木戸構成員から御発言をいただきたいと思います。
○木戸構成員 もう既に1時間近く時間を取っているので、簡潔に。
 今、申し上げましたような問題、確かに基本懇のときに、被爆者はメンバーを見て大変期待しました。しかし、その報告を見て、怒り心頭なのです。この事実はきちんとお伝えしたいと思います。
 それで、1つ私が申し上げたのは、基本懇を前提にしてはいけませんと言ったのは、これは私的諮問機関の文書なのです。現行法は、現在の法律です。形式的に私的諮問機関の意見をこの会合の前提にしていいのか。荒井先生、どうなのでしょう。現行法に基づいて議論すべきではないかという意味も含まれております。
 それから、もう一つは、戦争ということで戦争被害。これは、国民全体に被害を及ぼした。だから、そのことに対して、政府はどのように応えるべきなのかという問題があります。被爆者を含めて。同時に、あの戦争の被害は、戦争は日本国憲法を生み出しているわけです。大きな被害を国民にもたらしたと同時に、日本国憲法という国民のこれからの生きる道を示したという形で、戦争というものを受け止めるべきだと。
 そういう意味でいきますと、これは一度か二度か、こういう根本問題を中心に議論する場をつくっていただく。そうしないと、これをやっていたらいつまでも、大変申し訳ないと思うのは、ほかの今日の議題があと1時間になってしまったわけですから、これで一応、私の発言は終わりますけれども、根本問題を議論する場にこの場がなれば本当にありがたいと思っております。
 以上です。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 大変重要な基本的な問題、あるいは戦後の国の原爆被爆者に対する政策の根本に関わるような御議論をいただいたわけでありますが、前回も私、申し上げましたけれども、この検討会の役割といいますか、枠組みの中には収まり切らないような気がいたしております。いかがでしょうか、次回までに事務局で、この検討会の枠組みといいますか、役割というものをもう一度明確にしていただくことは可能でしょうか。
○丸山課長補佐 事務局でございます。
 構成員の皆様のお手元には、第1回の資料もあろうかと思いますが、その資料1に、この検討会を開催させていただく趣旨の記載がございます。この検討会は、健康局長よりお願いし、関係者にお集まりいただいて開催しております。
 この目的の2行目でございますが、これは今、座長御指摘のとおり、現在の第一種健康診断特例区域について、同区域の設定について再検討を行うため、中途略しますが、可能な限りの検証を行うこととした。この検討会については、検証課題を整理するとともに、検証の進捗・成果を踏まえ、第一種健康診断特例区域の在り方等について意見を集約するといったことを健康局長からお願いさせていただいている次第です。
 木戸構成員の御指摘、戦争について、我が国としてどう捉えるのだということは非常に大事なテーマだということは、小生も理解させていただく次第でございますが、この検討会で議論するには、原爆被害以外に戦争で被害に遭われた方、それは国内に限らず、国外に行かれた方々も含めだと理解しておりますが、非常に幅広い議論になるということは想像に難くないところでございまして、これをこの検討会の主たるテーマの一つとするのは非常に難しいのではないかというのが、運営させていただく事務局としては感じているところでございます。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 まだいろいろと御意見があろうかと思いますけれども、議事の進行ということもございますので、この話題については、一旦ここで終わらせていただきたいと思います。
 引き続きまして、資料1-3「増田構成員提出資料」について増田構成員から御説明をお願いします。
○増田構成員 増田でございます。たびたび発言して申し訳ございません。そして、また時間を取っていただきまして、ありがとうございます。
 私の資料1-3を見ていただきますと分かりますように、私は、この会に2つの提案をしております。
 まず、1つは、資料の1ページの大きな1のところに、被爆者の体験記を電子化し、検索機能によって、原爆由来の雨、チリの降下範囲、および原爆由来の歯ぐきからの出血、下痢、嘔吐など急性疾患の発現範囲の推定に関する調査。このことについては、前回のこの検討会でも発言させていただき、さらにそれを補完いたしまして、添付資料1の2のところに具体的な検証課題として、原爆由来の雨、チリの降下範囲を確認する課題という点で、いわゆる電子化することのメリット等を述べておるわけでございます。
 添付資料2に、日本原水爆被害者団体協議会の代表委員の田中熙巳先生が、たまたま原爆死没者追悼平和祈念館運営企画検討会というのに参加しておられて、10年ほど前からこの問題を提起しておられたということが明らかになりました。そういう点では、前からそういう要望が既になされていたことが分かっておりますので、ぜひそれを実現していただきたいと思います。
 その点との関連で、この前の検討会のときに、私が広島の原爆死没者追悼平和祈念館の中にあるホームページから、最初の60人の方の黒い雨だけを検索した結果を口頭で報告いたしましたが、それをさらに、今、提案していますチリとか歯ぐきからの出血とか、高温、斑点が出たことで、果たして本当に検索できるかどうかということをチェックしたのが添付資料3でございます。そうしますと、60人の中から9人の方の資料が得られました。そういう意味では、何としてもこれを実現していただきたいと思います。
 ただ、その結果が出たときに、それをどう利用するかというときには非常に気をつけていただきたいと思います。というのは、これはあくまでも被爆者の体験記であって、広島県の中に住んでおられた人たち全員の傾向を示したものではないということです。したがって、これをもって全ての原爆を被爆した人の結果だとは言えない。そういう意味では、その結果を適用したり、使う場合には考えていただきたいということを最後につけ加えておきます。
 2番目の問題は、このことと非常に関係があるのですけれども、奈良大学の高橋博子先生がアメリカの公文書館の資料をいろいろ調べておられたら、ABCCの初代の所長さんが、アメリカの科学アカデミーのほうに手紙を出して、私の添付資料4の赤い字で書いてあるところですけれども、戦後も米軍調査団として広島・長崎の黒い雨・残留放射線の調査を実施しました。1948年から53年まで、米軍特殊兵器計画の下で米原子力委員会と協力し、放射線兵器の開発に取り組んでいました。残留放射線も内部被爆の影響も把握していたのです。実は米軍は、ここにありますように、放射線兵器の開発のために調査をしていたのです。
 その下の1950年3月29日に、米科学アカデミーの科学者に向けて次のように報告しています。赤い字で書いてありますように、「私が電話で漠然とした形で話したように、広島の残留放射線について大まかな調査を行った測定研究所の2人の紳士、メンカー氏とレベンソール氏が訪ねてきました。しかしながら、重要な点は、彼らの集められる、雨どいや泥の堆積、その他気象学的データで示された地域で、広島や長崎中で彼らはサンプルを得て、その一部をABCCに残し、そしてまた持って返ったという記事が載っています。
 それで、先ほどからの科学的・合理的な資料という点で言えば、今までも広島・長崎の中心地域はある程度の調査はあるのですけれども、そのほかのところでは放射線の影響のような資料がなかなかございません。そのことでいつも水かけ論になったりしてまいりました。そういう意味では、これをぜひ政府としてアメリカに、あるいはABCCの後の機関である放影研に資料を提供するようにということで交渉していただければ、科学的な資料が得られる可能性があるので、ぜひよろしくお願いしたいと思います。
 発言させていただき、ありがとうございました。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 ただいまの御提案に関しまして、検討会構成員の方々の御意見を伺いたいと思います。御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。
 どうぞ、荒井構成員。
○荒井構成員 荒井でございます。
 専門的なことが分からないことを前提に、恐縮ですが、質問させていただきたいと思いますけれども、増田先生の3ページの1の1 検証の基本的考え方の3つ目、原爆由来の歯ぐきなどからの出血、下痢、嘔吐など急性疾患の発現を確認する課題。これが2の具体的な検証課題(案)にもつながってくるわけですが、これはどういう御趣旨なのでしょうか。つまり、我々の役割というか、使命というのは、いわゆる区域の問題だと思います。ほかの御提案の検討課題というのは分からないではないのですけれども、急性疾患の発現の確認というのをどういうイメージで提言されていらっしゃるのか、それが区域の問題にどういうふうにつながってくるのかという点がちょっと分かりにくかったものですから、お願いいたします。
○佐々木座長 増田構成員、お願いいたします。
○増田構成員 増田です。
 その点は、御存じのように、昨年の7月29日の広島地裁の判決の中では、具体的な問題としては、原爆症と同じような症状を持っている人たちを、区域外におられた人たちがそういう症状になっているから被爆手帳を出しなさいという判決だったのですね。そういう意味では、どういうことをその人たちは訴えておられるかというと、原爆の後に実際に下血したり、ここにある歯ぐきから出血したりした。そういうことをおっしゃった後で、現在、原爆症と同じ病気にかかっておられるということ。したがって、原爆症と類似したことであれば、その人は原爆症と認定すべきだというのが、昨年の7月29日の判決でございます。
 そういう意味では、下血とか嘔吐とか歯ぐきから血が出るなどというのは、放射線の影響によって生じた初期の段階の状態だと考えられると思います。したがって、そういう人たちが実際問題、どの程度おられたか、どの範囲におられたかということを調査するというのは、原爆の影響がどの範囲まで広がっていたかということを示すのには、最も好適ではないかと考えて、私はそういうものを調査すべきだと言っております。
 以上です。
○佐々木座長 荒井構成員。
○荒井構成員 現れた身体的な状況を、いわゆる急性症状から入っていくという方法も考えられなくはないと思うのですけれども、そこは起因性の問題を考えていく上では、距離というものが一定の前提になければ、病気のほうから入っていって起因性があるかどうかというのは、ちょっと逆のようだし、調査が非常に茫漠として、どういう方法があり得るのか、ちょっと想定できないような気がしたものですから、一応ここで意見として申し上げておきます。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 症状と線量あるいは影響に関しては、後ほどもう一回議論する場があるかもしれません。ただいまの増田構成員からの御提案に関して、御意見、ほかにございますでしょうか。
 事務局ではある程度調査をしていただいているかと思いますが、御発言ありますでしょうか。
○丸山課長補佐 事務局でございます。ありがとうございます。
 増田構成員から事前に資料を頂きましたので、本日まで時間は限られておりましたが、我がほうで調べられる限りでご報告致します。座長御指摘のとおり、資料2-1、3-1に関連事項を御用意しておりますが、改めてそのときに御紹介させていただくとしまして、1つ目の被爆者の体験記の電子化という点につきましては、前回の検討会で確かに増田構成員から御指摘いただいておりますので、広島の祈念館で持っている体験記についての調査をお願いしております。まだ調査を始めたところでございますので、細かい御報告は今できない状況ではございますが、電子化といっても、大多数がPDFのような形になっていると聞いておりまして、先生が御検索いただいたような形で、要は文字まで検索をかけられるといった形式になっているものは、ごくごく限られた一部と承知しております。
 その中で、前回の御指摘の中では、雨といったことがキーワードになっていたと理解しておりまして、雨という記載を中心に、今、記録の掘り起こしをしていただいています。該当するものはどれなのかということでございますので、雨の記載のある方について出ている症状というものを見るように作業はしていただいているのですが、今、御指摘いただいた出血、下痢、嘔吐というものを新たにポジティブなリストとしてやるというと、作業のやり直しという部分がありますので、そこはスピード感等を含めて、まず今やっている作業について取りまとまりましたら御報告をさせていただいて、次の作業はという段取りをさせていただければ幸いと考えております。
 2点目のABCCが行われた調査につきましては、まさに先生御指摘いただいたとおり、ABCCの後を引き継いでいる放射線影響研究所に事実関係、どういった資料があるのか、照会を始めさせていただいたところでございますので、これも結果が返ってきましたら、この検討会にて御報告させていただきたい、そのように考えております。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 まだ調査が続くようでありますので、さらに調査が進んだところで御報告をいただいて、また検討会の構成員の方々にも御意見をいただきたいと思いますので、この議題はここで終わらせていただきたいと思います。
 議事(2)は「検証の進捗について」であります。事務局から資料の御説明をお願いします。
○丸山課長補佐 恐れ入ります。資料2-1を御用意ください。なるべく端的に御説明申し上げたいと思います。
 資料2-1の1枚目でございます。前回の検討会で原爆由来の放射性物質を確認する課題と、健康影響が生じているかということで2つ分けさせていただきました。すみません、先ほどの増田構成員の御指摘に1点、お答えし忘れたのですが、ちりについては、気象シミュレーションの中に織り込んでと考えております。
 資料の説明に戻らせていただきますと、ここで水色で示させていただいている5つの枠が、前回の検討会の資料3という形でお示しさせていただいた5つの個別課題となっております。ただ、11月の検討会でお認めいただいた後、実際に走らせ始めることを専門家と御相談したり、公募したりという中で、幾つか状況の変化というものが若干ございました。具体的には、気象シミュレーションと地域の土壌調査は、相互にかなり連関性が高いということでございますので、今年度は一体として作業をお願いさせていただいております。今年度、作業をお願いさせていただいた主たる取りまとめの京都大学の五十嵐教授には、後ほど御説明をお願いさせていただければと思っております。
 原爆投下後の気象状況等に関する文献調査は、アメリカの公文書館とか、増田構成員に御指摘いただきましたが、実際に調査に行こうというものでございましたが、このコロナの流行に鑑みて、公文書館も今、閉じております。ですので、これを踏まえて、公文書館の調査にたけた国内業者がおりましたので、こちらにリスト化を今、お願いさせていただいているということでございます。
 紫になっているものは、まさに祈念館での体験記調査ということで、これは増田構成員の御指摘を踏まえて設定したということでございます。
 おめくりいただきまして、2枚目が個別の御報告です。一部、既に御紹介しておりますが、気象シミュレーション、土壌調査については、年末に契約を締結してスタートしておりまして、この後、御報告させていただきます。
 気象状況調査については、申し上げたとおり、実地調査が困難ということで、本年度は同館の目録がインターネット上、公開されております。可能性のありそうな資料のリスト化を進めまして、開館次第、現物の入手ができるといった体制を今、整えさせていただいております。
 祈念館における体験記調査は、先ほどの説明と重複いたしますが、年末に依頼しておりまして、今、15万件保管されている体験記の中から、これが該当し得るのではないかというものを、今のところ6000件ほど当たりをつけることまで作業が進んでおります。ですので、その中身について、今、作業の開始をしているといった状況です。ある程度取りまとまり次第、この検討会できちんと御報告させていただきたいというものです。
 おめくりいただいて、3ページ目で、健康影響の関係でございますが、2課題ございました。
 1つは、広島赤十字病院にあるカルテということで、5万人ほどの被爆者のカルテがあるということでございますが、正式に依頼させていただき、同病院からも御協力いただけるというお返事をいただいております。
 ただ、判明している事項として、ここは御承知おきいただきたいということで申し入れがあったのは、広島赤十字・原爆病院でございますので、同院が基本的に保管しているカルテというのは、手帳を持っている方であるということでございます。ですので、今回の広島県・市さんがおっしゃっている拡大要望地域の方々は、手帳を持っていらっしゃらない方が多うございますので、必ずしもそこが反映されるかどうかは分からない。
 その一方で、今、雨に曝露したという、医療のカルテの中で被爆状況について記載する欄がございまして、そういった特定ができているのは100名弱の患者さんでございますが、特定ができているということで、この方々について、それ以外の入市被爆者とか、被爆直後の症状や、被爆40年以降と書いておりますが、これはその病院で個別のIDを振り始めた1980年代後半と伺っておりますので、そこからであれば、疾病状況についてトラックができるような状況であるということですので、深掘りの調査を今、お願いさせていただいているということでございます。
 最後、5つ目の課題、相談支援事業。要は、今、拡大要望地域の方々に相談支援事業というのをさせていただいておりますが、こちらに来ていただいている方のカルテ調査であるとか、アンケート調査ができないかということでございますが、これは過去、広島で行われたもの、長崎で行われたものについて事務局のほうで調べさせていただくとともに、有識者、その当時関わられた方も含め、情報収集を進めております。
 原爆投下後75年たっておりますので、高齢化がかなり進んでいらっしゃいます。今日の参考資料1に出したような調査は、1時間近く面接を心理士・医師にしていただいて調査する内容でございますので、調査をうける方の負担というのはそれなりに高いということを、有識者から御指摘を厳しくいただいているところでございまして、実行可能性も含め、あとは今、広島赤十字でやっていただいているカルテ調査が、ある程度模範といいましょうか、枠組みを提示していただけるのではないかと思っておりますので、これも含めて、この調査については、再度設計を深めてまいりたいと事務局として考えている次第です。
 長くなりましたが、事務局からの報告は以上でございます。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 本議題に関連して、広島市のこれまでの取組について御説明をいただくことになっております。杉浦参考人、お願いいたします。
○杉浦参考人 ありがとうございます。広島市原爆被害対策部の杉浦と申します。本日、広島市では市議会開会中でございまして、副市長が出席させていただいております。私が代わりに着席させていただきました。
 それでは、恐れ入ります、お手元のパワーポイントの資料になりますけれども、御覧いただけますでしょうか。本市では、これまでも黒い雨の実態解明に努めてきたところですが、このHiSoFと言いますものが直近のものになります。こちらの紹介をさせていただければと思います。このHiSoFと言いますのは、ちょっと長い名前がついていますけれども、広島原爆による放射性降下物等実態検証に係る関係者協議会、これを我々、HiSoFと呼んでおりますが、その概略について説明させていただければと思います。
 そこに目的を書いてございますけれども、広島市では、平成22年度から、広島原爆による放射性降下物等の実態を解明することを目的として、地球科学、放射線物理学、原子力工学などの様々な分野の専門家で構成する協議会、HiSoFを設置し、最新の研究結果やデータの収集に取り組んでまいりました。
 次のページをお願いします。HiSoFでのこれまでの取組になりますが、平成22年に協議会を立ち上げた後、平成24年までの2年間で、会議をトータル5回開催しまして、初期条件や検証データ作成に係る方向性、気象シミュレーション実験、これは国際共同実験を目指しておりましたが、その実施の可否の検討などを行いました。
 平成23年10月の第4回の会議においては、キノコ雲の発生状況や、原爆投下当日の火災状況など、必要なデータの大半は集まったものの、気象シミュレーションを実施するに不可欠な原爆投下日前後の広島市及び周辺地域の詳細な風向、風力等の気象データが十分に整っていない状況にあることが確認されました。こうした気象データの収集に当たっては、ホームページ上でも情報提供を募るなど、努めてまいりましたが、有用な情報がなかったというものでございます。
 こうしたことから、平成24年10月、第5回目の会議において、この時点では、気象シミュレーションを実施することは難しいだろうということで、見送ることといたしました。しかしながら、引き続き、科学的知見やデータの収集に努めていくことにしたところでございます。
 次のページ、お願いします。これが、現在開設されておりますHiSoFのホームページの御紹介でございますけれども、こちらにHiSoFでの研究成果について、英語の論文を中心に掲載しております。
 このホームページの目的は、必要なデータの継続的な収集ということもございますが、原爆による放射性降下物と黒い雨の実態検証に係る気象シミュレーション実験に向けて、国内外の研究者にモデル計算のための初期値と検証のためのデータベースを提供することにあります。本協議会においてこれまでに収集したデータは、本サイトのデータベースに掲載しております。そちらにホームページのアドレスがいろいろございますけれども、HiSoFと打ち込んでいただければ、そのページに行くことができます。
 最後のページ、お願いします。こちらがHiSoFでの成果をまとめた出版物になります。こちらにもお持ちしておりますが、2回出版しておりますけれども、左側が平成23年7月に研究結果や収集した知見を、今後の研究の基礎となる初期条件や検証データとしてまとめたもので、右側が平成25年、第2巻として研究結果やデータをまとめたものになっております。いずれも英語版ではございますが、日本語版につきましては要約版というものも作っておりまして、その資料については、ダウンロードできる部分についてのみになりますけれども、皆様方の資料にもおつけしております。
 最後になりますけれども、ワーキンググループによって気象シミュレーションや土壌調査といった準備が進められているという御説明がございましたが、これまでのHiSoFの活動で得られた、こうした研究成果についても活用していただけるのではないかと考えております。
 以上でございます。ありがとうございます。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 さらに、気象及び土壌調査のワーキンググループより、京都大学の五十嵐参考人に御説明いただくことになっております。五十嵐参考人、よろしくお願いいたします。
○五十嵐参考人 座長の佐々木先生、御指名いただきまして、ありがとうございます。五十嵐と申します。
 私は、もともと放射性物質の分析のバックグラウンドを持っておりまして、長らく気象庁の気象研究所におりまして、増田先生の後輩筋に当たるのかなと思いますが、そういった背景がございまして、最初は協力者の立場という具合に考えておりましたのですけれども、ぜひともというお話をいただきまして、前半、非常に重たいお話もございましたけれども、重要な課題だと捉えまして、積極的に対応していこうと考えたわけでございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 スライドを共有いただけないでしょうか。私の所属が書いてございますけれども、昔は原子炉実験所と申しておりましたけれども、現在では複合原子力科学研究所に改称されておりまして、そこの安全管理を担っている分野に所属してございます。よろしくお願いいたします。
 次、お願いいたします。こちらは、厚労省さんから頂戴いたしました仕様書の抜粋で、見にくくなっておりますけれども、要点といたしまして、1番が文献調査及び数理モデルの作成、2番が土壌の採取方法の検討及び調査の実施ということでございまして、先ほど広島市の方から御紹介があったような、いわゆる気象モデルと呼ばれるもの。これは、放射性物質の輸送・沈着を扱います、実態としては物質の輸送モデルでありますけれども、気象が大きく関与することから気象モデルと呼ばせていただいております。そういったものをどういう具合に作っていったからいいかという課題。
 2番目において、その検証のデータ。これも御指摘あったわけですけれども、従来得られている放射性物質の分布のデータというものが、モデルの結果、あくまでモデルはモデルでして、検証しないと絵に描いた餅になります。この検証のデータを作っていく上で、従来のデータは足らないということでございますので、いかに作っていけるかということで、今年度、あくまで予備的な検討になりますが、納入期限をこちらに示させていただいている。非常に短期間でありまして、年末の12月28日から契約開始ということで、非常に厳しいものなのですが、何とかできる範囲で頑張っていきたいと考えています。
 次、お願いいたします。実施の計画概要の中で、事業者と構成をお示ししました。京都大学の我が研究所と、広島大学、長崎大学の先生方に御協力いただくということになりました。
 次、お願いいたします。こちらが提案の計画概要であります。1番、2番というのが、先ほどの厚労省さんの仕様書に対応する部分でありますけれども、我々、既に実施いたしておりますが、全体を俯瞰した取組、レビュー会議ということで、先ほど御紹介があったHiSoFの先生方の御講演を伺いまして、今後の調査をどう進めるということであります。我々として、本年度はどういったことが調査できるか、どういった組合せ、特にモデルをやっていけるかということで、レシピを作成するということが目標になっております。
 次、お願いいたします。これは、過去の丸山先生、吉川先生が実施されたモデル計算、気象モデルと呼ばれているものの再現計算の抜粋でございますけれども、彼らが実施されましたことをまず捉えて、我々も計算ができるのではないかと考えております。この計算においては、原爆雲と衝撃塵と、その後に生じました火災による火災煙という3つにつきまして計算しているということでございます。
 次、お願いいたします。我々のこのモデルに関しては、ここに記載しましたようなステップでいけるのではないかと考えています。
 まず、爆発雲ですが、爆発再現計算から最新のコンピュータ・フルイド・ダイナミクス・モデルが使えないかということを考えつつ、計算できないかということを検討してもらっております。特に、文献調査等におきまして、爆発のシミュレーションというものがどのように進捗しているかということを探っております。
 次に、雲形成等の再現計算ということで、こちらは黒い雨を実際に計算するということですが、最初は静的な、先ほどの丸山・吉川の仮定に基づきまして行うような計算から始まりまして、徐々に難度を上げていきたい。現在のモデルの再現のレベルということで言いますと、最終的にDのような形で示させていただいておりますが、具体的にエアロゾルの放射性物質が大気中で粒子となって挙動するわけですが、それらの詳細な挙動というものを完全にモデルに組み入れて計算するというのは、現段階では非常に難しいということです。
 実際に天気予報で使われている気象予測モデルにおきましても、実大気ではエアロゾルがないと、水蒸気凝結というのは相対湿度が400%ぐらいにならないと起きないと考えられていますが、そういったプロセスが入っているものではございません。そこまで我々としても踏み込めるかどうかというのは非常に微妙でして、現在もこれは非常に困難ではないかと考えているのですが、そこまで届くことができるかどうかも含めて検討したい。ここにも書いてあるような雷雲というのは、例えば雷の静電気ですけれども、そういったものについても、現在の気象モデルには全く入ってございません。そういうことが現実にできるかどうか、まだまだ難しいなと考えてございます。
 次、お願いいたします。次に、放射性物質の分布の調査ですが、1つ参考になる事例を見つけておりまして、長崎の西山地区にプルトニウムあるいは黒い雨が降ったというのはよく知られているところでありまして、そこの水源地でコアを採ったという事例が、20年ほど前の文献にございました。その中では、爆弾から由来する成分であったり、あるいは、火災から生じた微粉炭、すすの大きなものと想定しておりますけれども、そういったものの濃度のピークが検出された。それも同位置に、これは3mぐらいコアを採っているのですけれども、検出されたという事例がございます。こういったものを参考にして臨んでいきたいと思っております。
 次のスライドをお願いします。ここに示しましたように、層状がきれいに残っているような地表の地層、表面ですけれども、薄く1cmあるいは5mm程度採っていきますと、右側に放射性セシウムと放射性の鉛の濃度分布というものが書いてございます。この放射性セシウムは、大気圏内の核実験、これは1960年代、70年代まで行われた旧ソ連、アメリカ、中国等の爆弾の実験に由来するピークでありまして、広島・長崎のものではございませんが、こういったピークの下に広島・長崎のものが何らかの格好でシグナルが出てくるのではないか。つまり、従来のように、バルクでごそっと採ってということではなくて、薄くはいでいって層序を確認しつつ、その証拠を検出できないかということを想定いたしております。
 次、お願いします。最終的には、達成するのはなかなか容易ではないのですが、これは福島県の汚染の土壌マップでありますけれども、こういったたぐいのものを作っていく。これは非常に細かい、2kmメッシュのものですが、こういった細かいものが達成できるかどうか、なかなか厳しいのですけれども、75年前の痕跡を探すということで容易ではないのですが、これに近いものを作成していって、気象モデルの検証に使っていきたいと考えております。
 次、お願いします。こういったことをレシピという形で最終的にまとめたいということで、計画線表を一応作ってございますけれども、3月の半ばまでに最終取りまとめしなければいけないという状況で、非常に迫られておりまして、厳しい中で最大限やれることをということで取り組んでおります。既に手をつけておりますのは、地点の現地調査。それから、試掘をしたいということで、関係機関の許可を得ようということは実施しておりますし、放射性物質の分離なども手をつけておりますが、どこまで到達できるか、なかなか難しいということをあらかじめお断りしたいと思います。
 以上でありますけれども、よろしくお願いします。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 ただいまの御説明、事務局、杉浦参考人、五十嵐参考人からありましたけれども、御質問、御意見がありましたら、簡潔に幾つかお願いしたいと思います。この後、いろいろおありになると思いますので、それは事務局のほうに御質問や御意見をお寄せいただいて、必要があれば次回、もう一度議論したいと思います。大変申し訳ないのですが、時間が押しておりまして、私の不手際でございますが、今、必要な御質問、御意見がありましたら、簡潔に御発言ください。
 鎌田構成員、お願いします。
○鎌田構成員 今の進捗状況のマル2の赤十字病院のカルテの問題ですけれども、これはデザインが今回の検証目的に合致したものではないように私は感じます。というのは、被爆者手帳を持った方の中で雨に遭ったかどうかということを比較されるようなことですけれども、まだもらっていない方々、円形外におられる方に病気が多いのかどうかをあぶり出していかなければいけない作業だと思うのです。それを既に手帳をもらっている方の中での内部比較ということであれば、それはこの検証会の目的とデザインが違うと思います。私は、がん検診のがんの登録事業というのが既にやられておりますので、それを参考に進めていくべきだと考えます。
 以上です。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 事務局から御発言ありますか。
○丸山課長補佐 鎌田構成員、御指摘ありがとうございます。
 まさにおっしゃっていただいたとおりだと思っておりまして、当初、広島赤十字病院さんに5万のカルテがあるということでございましたが、実際に中について詳しくお話を伺ってみると、ここに御報告させていただいたとおり、今回の地域の方々というよりは、手帳を持っている方々での内部比較しか現時点ではできないと。
 ただ、それでも黒い雨、要は色にかかわらずということでございますが、雨に遭った方々と、そうでない被爆をしている方々の間で、何かしら見いだすことはできるかどうか、やってみたいということが広島赤十字の先生との話し合いの中でございましたので、これについて、引き続き、広島赤十字病院の先生のお手を大きく煩わせない範囲できちんと調査していただきたいと、事務局として現時点では考えている次第ございます。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 いろいろおありかと思いますが、大変申し訳ないのですが、御意見、御質問ありましたら、事務局までお寄せいただくということで、この議題をここで終わらせていただきます。
 どうぞ。
○丸山課長補佐 1点だけすみません、事務局でございます。
 本日、広島市さんにHiSoFの御説明いただいた点で、事務局として1点お詫びを申し上げたいのが、前回の議事録でございますが、第1回の検討会で、HiSoFが気象シミュレーションをやっていないところについて、予算的な制約もあったやに聞いているということで私から御報告申し上げましたが、実際としては、まさに今日御報告いただいたとおりでございまして、初期条件としての風向き、風力等のデータが純然として不足しているということが根本的な原因であるということでございましたので、この点、謹んで訂正させていただきたく存じます。
○佐々木座長 分かりました。
 ここで御相談があります。次の議題がまだ残っているわけでありますが、本日は16時終了の予定になっているのですけれども、この会場は16時30分まで使うことが可能だそうであります。もし検討会の構成員の皆様が御同意いただければ、16時30分まで会を延長させていただきたいのですが、いかがでしょうか。御都合の悪い方も出てくるかもしれないですが、よろしいでしょうか。すみません。それでは、終了を16時30分の予定とさせていただきます。
 議事の(3)は「放射線被ばくによる健康影響について」であります。事務局及び鎌田構成員に御説明いただくことになっております。御意見、御質問については、御説明の後にお願いいたします。まず、事務局から資料の説明をお願いします。
○丸山課長補佐 では、事務局からは資料3-1を御用意しております。非常に枚数が多く見えますが、これ自体は、前回、座長から内部被爆等々について、ある程度基礎的な知見をまとめるようにという御指示があったことと、前回、これは増田構成員からの御指摘だったと思いますが、内部被曝について、どういった調査をされているのかという御指摘をいただきましたので、なるべく分かりやすい資料を御用意させていただいたという性格のものでございます。
 早速でございますが、2枚目に移っていただきます。これは、皆様御承知のところも多々あろうかと思いますが、外部被曝と内部被曝、両方、被曝の対応としてあり得るということでございます。本日の資料の大半が、環境省作成の「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料」によっているところを御了解いただければと思います。
 進んでいただきまして、3枚目でございますが、放射線には、大きく分けてα線、β線、γ線、レントゲンのX線がございますが、それぞれ飛べる距離が違います。電離放射線と言っておりますが、それによって生じる電離の密度というものも変わってくるわけでございます。
 おめくりいただくと、4枚目で、これが非常に分かりやすいので持ってまいりましたが、α線というのは非常にエネルギーが強いものの、非常に短距離しか飛べない一方で、レントゲンは写真を撮ることでなじみのある方もいらっしゃるとおり、通っていくというところが特徴の放射線でございます。こういった放射線の線種の違いというものも意識した上で、放射線の影響というものは測っていかなければならないということでございます。
 おめくりいただいて、5枚目でございますが、放射線でよく出てくる単位で、ベクレルとかグレイとかシーベルトというものがございますが、最終的にがんといった、この後出てまいりますが、確率的影響を測るに当たっては、シーベルトという単位が使われておりまして、これにきちんと換算することで、体外からであろうと、体内であろうと、シーベルトに換算することで、放射線影響の程度をきちんと定量できるような体系が現在は整っております。これは、これまでの様々な知見が反映されているものでございますが、当然、被爆者の方々が御貢献された放射線影響研究所の研究成果も含めて、こういったものが現在でき上がってきているというものでございます。
 おめくりいただきまして、6枚目は、そういった換算に当たって、このスライドで申し上げたかったのは、先ほどの線種の違いでございます。α線、β線。中性子線は原爆投下直後のみでございますが、こういったものによって体への影響というものが違ってまいりますので、真ん中にα線20倍と書いておりますが、こういった線種による違いというものもきちんと加味できるように、シーベルトというものは規定されているというものでございます。
 おめくりいただくと、7枚目、一瞬何が違うのかということでございますが、これは実は内部被曝も同じようなものが定められていて、計算できるものがきちんとつくられているということを示したいがためでございます。
 おめくりいただくと、8枚目、内部被曝の計算について、実は内部被曝というのは、1回取った後、おしっこや便のような形で外に出ていくものも含め、体内に残留する部分もございますので、どのような計算がなされているかという分かりやすい図として持って参りました。1年でぱっと終わるものではなくて、その後も続いていくものもございます。今、ICRP(国際放射線防護委員会)でつくられている計算においては、その後50年間にわたって被曝するであろう線量というものを足し上げる預託実効線量と書いておりますが、その年に積み上げた50年分の線量を計算して、その方の体への影響というものを見積もるということでできているものでございます。
 御参考までに、9枚目、これは前回も提示しておりますが、放射線被曝というものは、我々は日常的に無縁のものではなくて、左にありますとおり、宇宙線という形で被曝していたり、吸入被曝という形で被曝したり、食べ物から被曝したり、国際線に乗れば、それなりに宇宙線からの被曝があるということを示しておる次第でございます。
 10枚目は、その細かい内訳でございます。見ていただくと、外部被曝のほかに、内部被曝であっても、呼吸することによる吸入被曝、食べることによる経口被曝、両方あるということは御覧いただけるかと思います。
 11枚目、吸入被曝でよく挙げられる例などをここに持ってきておりますが、吸入被曝の最たる寄与は、ラドンと言われております。余りなじみのない元素でございますが、国内にはラドン温泉という温泉があるがごとく、これはα線を放出する気体でございまして、こういったものがこの会議室にもごく微量ではございますが、あることで、我々、呼吸することで被曝しているというものでございます。
 おめくりいただいて、12枚目、こちらは食べることによる被曝でございますが、最も寄与が大きいのは、10枚目に書いてある鉛とかポロニウムでございますが、それ以外にカリウム、体の中に非常に多い元素でございます。これは、天然のカリウム40というものが最も寄与が大きいものになりますが、牛乳にもお米にも、それなりに入ってきているというものが御覧いただけるかと思っております。
 13枚目は、前回の資料で、私ども事務局から御報告していなかったのですが、線量が問題だと荒井構成員からも言っていただきましたが、線量をきちんと見なければいけないという中で、どういった健康影響が出るのかというのを事務局としてきちんと報告させていただきたいという趣旨でございます。
 14枚目が、先ほども話題になりましたが、急性障害、数週間以内に症状が出ると書いておりますが、その中には、脱毛があったり、皮膚の紅斑があるというもののほかに、下の晩発性障害、後々、数か月から数年以上たって出てくるというものの中に、白内障、がん、白血病といったものがあるわけでございます。
 15枚目のスライドにありますとおり、確定的影響、今は組織反応という言い方が正式になりますが、ある程度被曝した状態で影響が現れてくる。これは、1個の細胞だけではなくて、細胞の集団、臓器という形で我々の生体活動に何かしらの役に立っているわけでございますので、たった1個の細胞が駄目になったからどうこうということではなくて、一定の細胞が駄目になることで、こういった影響が出てくるのだという概念でございます。
 片や、もう一つ、確率的影響と言っているものが、がん、白血病といったものでございますが、これは疫学調査の結果、一定の線量以上の領域で、線量と影響の関係が見つかっているということでございますが、それ以下の部分については、線量に依存して影響があるのではないかという仮定を置いた上で、我々、放射線から日々身を守る。医療従事者であれば、レントゲンやCTから身を守るといったことの基準を定めるのに役に立てているということでございます。基本的には、線量に応じて、ある程度影響が出てくるのではないかと言われている疾病のたぐいが、こちらに該当いたします。
 16枚目、おめくりいただいたものが、まさにがんのリスクがどれだけあるものかというものを模式したわけでございますが、がんは、国民の死因の第1位でございます。であるがゆえに、放射線以外の要因でもこういった生活習慣によるがんも出てくる中で、どうやって放射線によるがんを見つけるかというのがなかなか難しいということを表している図でございます。
 おめくりいただいて、17枚目、先ほど祈念館の手記から、こういった急性症状を見つけてはどうかということを御提案いただいておりますが、急性放射線症候群というものがこういった形で出るというものが、これまでの被爆者の方々の知見も含めて、例えば医療で使う放射線の状況も含めて、こういったことが分かってきているというのをまとめております。それは、嘔吐や嘔気、吐き気といったものは、1グレイ以上の放射線を浴びた瞬間から48時間ぐらいの前駆期に現れてくる。その他、頭痛、下痢、発熱、意識障害ということが書かれているかと思います。
 そこからしばらくぱたっとやむ潜伏期というものがあって、その後、発症期というところで、消化管障害、下痢であるとか、皮膚障害、これは皮膚に赤みが出てきたり、脱毛したりというところでございますが、こういった発症期になっていくというのが、放射線で出てくる障害の出方ということで分かっているものでございます。
 おめくりいただいて、18枚目がその後の確定的影響、組織反応についてでございますが、どういった線量を浴びたらどのようなものが出てくるのか。一時的不妊であったり、皮膚が赤くなったり、脱毛というものがどういった線量で出てくるのかというのをここに書かせていただいております。
 先ほど説明したシーベルトとグレイというものが違うという御指摘もあろうかと思うのですが、念のため事務局の補足として下に書かせていただいておりますが、シーベルトというのは、発がんを含めた確率的影響のときに使う単位で、こういった組織反応のときは、エネルギー量の単位になりますが、グレイを使うというのが専門家内でのコンセンサスですので、その点は厳密に使わせていただいた次第でございます。
 実際に内部被曝で起こる影響ということで、1つ引用してきたのが、小児甲状腺がんがチェルノブイリの原発事故後に見られているというものでございまして、それは19ページ、ロシアの高汚染地域とかベラルーシで、こういった甲状腺がんが増えているということが、国連科学委員会(UNSCEAR)のほうで報告されているのが現にございます。
 20枚目を見ていただくと、では、甲状腺にどれだけ線量が集まったのかということでございまして、実際に国連科学委員会のほうで評価されたものを見ていると、先ほど挙がったベラルーシについては、甲状腺に対して1100ミリグレイ、1.1グレイの線量が集まっている。これが実効線量、体全体でならした線量になると、すごく低く見えてしまうのですけれども、これ自体は、チェルノブイリの事故によって放出されたヨウ素131、甲状腺ホルモンをつくるための元素でございますが、これが甲状腺に特異的に集まったということがきちんと評価されているということでございます。
 75年前のことでございますので、ここまで厳密なことができるかというところはありますが、こういったことをきちんと見ながら、今後の検証を進めていかねばならないのではないかというのが事務局側の問題意識でございます。
 21ページ目が、前回、西山地区の点を御報告させていただきましたので、22ページ目の下の赤囲いのところでございます。
 めくっていただくと、23枚目がその内容をなるべく簡単にした内容でございますが、当時、西山地区の住民の内部被爆調査というものがどういったものだったかというのが、左の格子を見ていただければと思いますが、1969年に男性20、女性30、西山地区の方々と、それに対照となる方々をそれぞれ選んできて測定いたしました。これの差が長崎原爆由来の残留放射線によるものだろうという仮定を1つ置いております。
 もう一つは、1969年に高かった人10名にお越しいただいて、もう一度12年後に測ってみました。この差が西山地区の方々のセシウム137が減少していくスピードなのだろうという仮定をもう一つ置いているわけで、これを組み合わせると、40年分の積算線量が紫の囲いの中にあるようなものであるというのが、岡島先生らが2点やった調査の概要でございます。
 それ以降の話は、セシウム137というのは、実は先ほど御指摘ありましたが、その後の大気中の核実験などの影響で、我々の日常食の中にも入ってきております。それが24枚目。
 その中で、25枚目に移っていただきますと、そういった落ちてきた放射性物質というものは野菜の中に吸収されていくわけでございます。
 26枚目、最後は、セシウム137というのは、人間が食べると、普通70~100日ぐらいで外に出ていってしまうのですけれども、こういった地産地消のお野菜を召し上がっている場合にあっては、一定の高濃度摂取が続くということで、23枚目にお戻りいただくと、半減期7.4年と書かれておりますが、要は、常に取っているので、本来下がるスピードよりも遅く下がっているということを仮定した上で、どれぐらいの寄与があるものかという相場観を見積もられたという報告があるということでございました。
 事務局からは、以上でございます。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 それでは、鎌田構成員、お願いいたします。
○鎌田構成員 鎌田です。
 前回の会議の資料2の22ページに、残留放射能に係るこれまでの検証・報告についての説明がありましたけれども、物理的なものばかりでして、人体影響に関する資料は項目の中にはほとんど見当たりません。先ほど内部被曝のことの一通りの説明がありましたが、私は、入市被爆あるいは黒い雨に関しての論文あるいは報告書を、委員の皆さん方とともに共有したいと思いまして、今回、資料を出させていただきました。
 スライドを出してもらえますか。このページと次のページは、原爆投下後1年以内の残留放射線人体影響についてまとめたものです。一番左側には調査者、右には調査時期、さらに右は場所と対象者で、これには広島か長崎か、また入市被爆か黒い雨かに色分けしております。一番右には、調査の結果を記載しております。
 1番目の論文は、昭和20年10月に軍医部衛生連報9号に発表されたもので、江田島や大竹にいた船舶練習教育隊が当日から死体処理に当たっておりますが、136名の中の89名の人に白血球減少があった。しかも白血球減少というのは、0.8から1シーベルト、ミリでいきますと、800ミリシーベルトから1000ミリシーベルト辺りで発症してきます。しかも、この報告では、直後より500m以内に入った者、あるいは滞在日数の長い者ほど著明なる影響があると明確に記載されております。
 2番目の論文は、軍医部からのもので、後から入った人には、下痢とか食思不振、白血球減少もあったということ。
 3番目の論文は、宇田論文でありますけれども、高須の自宅での黒い雨の状況が脚注として書かれておりまして、読んでみますと、「筆者の次男が山奥の学童疎開から帰って来て、雨に打たれた雨戸のそばに寝ていたが脱毛し始め急ぎ片づけた」。この雨戸に付着していた泥の部分を採取し、理化学研究所の佐々木・宮崎氏に調べてもらったところ、爆発2か月を経過しても、爆心地の数倍のすこぶる強大な放射能であったと記載されております。
 宇田論文には、付録1、2、3がありますが、付録3には、体験談聴取録というものがあります。そこには、人や魚や牛への影響が記載されております。その証言104番に当たる方は7キロの地点です。この方が、黒い灰を泥にしたような泥雨状態だったと記載されておりまして、北西7キロの地点でも、高須地区と同じように、より強い泥雨状態だったということが想定されます。
 一番上の4番目の論文でありますが、これは先ほど言った付録3ですが、116人の証言者中、北西方向の証言者20名の中の6名が、魚(鯉、鰻、鯰など)の死を目撃しております。また、その証言106の中に、8キロ地点ですけれども、黒い雨のかかった草を食わせた牛は下痢をしたと、牛の症状も記載があります。
 5番目は、京都大学からの報告で、白血球減少があったということを述べたものであります。
 6番目は、陸軍軍医部からの黒い雨地域の古田町の6名全員に倦怠、下痢、嘔吐、頭痛などがあって、3名に白血球増加があった。8600~1万1600。
 7番目は、長崎の西山ですけれども、半年後に白血球増加が1万2000、84%の人が白血球増加になっていた。これが2年間続いたということであります。内部被曝の場合は、骨髄が放射性物質により刺激されて、白血球減少じゃなくて増加を示すようであります。
 次のページをお願いします。このページからは、原爆投下後1年以降の残留放射線の人体影響について述べたものを記載しております。
 8番目の論文は、原爆12年後に於保先生が行った調査で、2km以遠で被爆して、人を探しに市内に入ってこられた方の場合、脱毛率は倍ぐらい高くなっています。
 9番目の論文は、長崎の西山地区で、人口約200名ですが、被爆時が1歳、発病時16歳の女性と、被爆時12歳で発病時37歳の男性、2名が慢性骨髄性白血病になったという症例報告があります。一般人口より10倍高い発症率じゃないかと報告されております。
 10番目は、広島大学からの報告で、被爆23年から37年までの間での調査ですけれども、入市被爆者5万人を統計処理いたしますと、がん死亡相対リスクが明らかに高いという報告であります。
 11番目、同じく広島大学からですけれども、被爆25年から45年の20年間における入市被爆者白血病の調査では、男女とも8月6日に入市した場合には、9日以降に入市した人に比べて3.4倍高い発症率であったということであります。
 次のページ、お願いします。12番目は、黒い雨の証言ですけれども、「小川に黒い水が流れる。隣のおじさんは小川の水で足を洗われたため、やけどしたようになり汁が出て病院通いをし、長い間困られた」とあります。
 また、宇田論文の付録3の証言94にも、同じように爆心地8.5kmのところですけれども、田の草取りの女の人が軽いやけどをした。熱感ありと証言しております。
 これらの証言は、β線の被曝の様相がよく分かる文章であります。福島原発事故のときのトレンチ内作業員2名の被曝と類似したものであります。原爆直後は、半減期の短い放射性物質も含めて、かなり線量の高いものが川の水となっていたと思われます。
 13番目は、8月7日から7日間、中心部で救護活動をした賀茂北部隊10名の染色体異常について報告されたもので、60~130ミリシーベルトの推定線量が見られたということであります。
 14番目は、黒い雨地区の古田町ですが、爆心地から4.1kmにありまして、直接の被爆はありませんが、産後3日目の29歳の女性が、60歳頃に6つの脊椎圧迫骨折があり、82歳には右の肺がん、同年胃がん、84歳で大腸がん、いずれも完全摘出しておりますが、86歳になって前白血病と言われる骨髄異形成症候群になっております。87歳のときには甲状腺機能低下症。これらは、いずれも放射線に関連した病気であります。被爆58年後の染色体を調べましたが、この方の場合、外部線量として313ミリシーベルトであったと報告されています。
 次のページ、お願いします。15番目は、広島大学の論文で、1970年~2010年までの調査で、8月6日と7日に入市した人の固形がん死亡リスクが高いという報告であります。
 16番目は、14番目の症例について、右肺がんの摘出組織から、乳剤感光法を用いまして組織内に放射性物質の飛跡(ウラニウム)が確認されております。その飛跡の数から53年間の線量を求めましたところ、がんの組織では1200ミリシーベルト、非がん組織では120ミリシーベルトであったということであります。これは、リンパ球の染色体については、先ほど申しました313ミリシーベルトに比べて、約3倍高い線量が推定されております。
 17番目は、広島大学の論文で、入市被爆者で、71年後でがんの既往歴が有意に高かったということであります。
 次です。これは、物理学的測定値が、人に見られる症状や染色体観察値と乖離している理由は何だろうかというものを考えたものであります。
 右側にありますように、放射性降下物の行動特徴を幾つか挙げておりますが、一番上は、風に舞う。山の形状によっては、ホットエリアを形成するのが特徴であり、また微粒子となって遠方まで飛ぶということであります。古田地区だけでなく、爆心地よりも8km地点にある前原というところでも、ホットエリアが測定されております。
 次は、集積するという特徴ですけれども、屋根に落ちてきた放射性降下物は、雨どいをつたって雨おけに集められ、人間がそれを飲む。同じように、山に落ちた放射性降下物は、小川に集まり、さらに大きな川へと集積していくというものであります。
 次は、連鎖・循環という特徴ですけれども、放射性降下物がついたコケを食べた小魚が大きな魚に食べられて、食物連鎖が起こっている。終戦後は食べるものがなかったため、鰻など、川に魚を取りに行って食べるのが常でした。
 次の落葉の循環についてですけれども、落ち葉の放射性降下物は、新芽へと循環するということです。福島の原発事故でも観察されておりました。
 一番下の居座るという表現がありますけれども、これは適切かどうか分かりませんけれども、放射性降下物が土中にとどまるということを意味しています。当時は、放射線の知識がなかったため、汚染した田畑で収穫されたお米や松茸なども何年にもわたって食べたものと考えられます。
 下のほうに書いていますように、物理学的思考は、いろいろな条件を平均化し、現象の解を求めたり、予測をいたします。原爆線量推定計算では、高さ1mでの外部線量を推定しておりますが、福島原発時にIAEAの調査団が来たときには、地上10cmの高さで測定しておりました。放射線の強さは、距離の二乗に反比例して弱くなっていきます。このことから考えますと、この方法では非常に低い値になってくるという原因の一つじゃないかと思います。
 一方、医学的思考は、検査結果や症状から、体に変化を起こさせた物質や原因を推定するものであります。この両者の推定値の間に、大体2桁の違いが見られるように思われます。この乖離理由の解明は、黒い雨問題の解決に大きく関係してくるものと思われます。
 以上であります。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 ただいま事務局及び鎌田構成員から御説明いただきましたが、御意見、御質問があれば御発言をお願いいたします。
 一ノ瀬構成員、お願いします。
○一ノ瀬構成員 事務局から御説明いただきました放射線被爆の健康影響について、1点確認させていただきたいと思います。15ページに確定的影響と確率的影響のコントラストが載っておりましたけれども、確率的影響の中に、がん、白血病以外に遺伝性影響等とありますけれども、専門家ではありませんが、私のつたない知識からすると、確率的影響の中で遺伝性影響というのは余り聞いたことがないので、これについて、もし何か教えていただければすっきりするかなと思います。確率的影響というのは、常識的に言うと、がんや白血病のことで、遺伝的影響というのは余り聞いたことがないので、その辺り。
 もう一点、ついでにつけ加えますれば、17ページの急性放射線症候群の病期のスライドですけれども、色がついている表の下に※印の注がついていて、全身に1グレイ以上の放射線を一度に受けた場合に見られる急性放射線症候群とありますけれども、これは一度に受けた場合というのがかなり重要なのかなと思うのですけれども、累積の場合と一度に受けた場合とで、これは区別すべきだということを暗示していると受け取ってよろしいでしょうか。
 その2点、お伺いしたいと思います。
○佐々木座長 事務局からお願いします。
○丸山課長補佐 事務局でございます。御指摘ありがとうございます。大変貴重な御指摘ありがとうございました。
 まず、15枚目については、先生御指摘のとおりでございまして、環境省の冊子では、説明書きがこの下に一緒についてくるのでございますが、14枚目のスライドにも遺伝的影響と書かれておりまして、遺伝的障害については、特殊なマウスなどの動物実験で見られている結果のみでございます。ここについて説明書きを読ませていただきますと、人については、「動物実験の結果と同じような頻度で、こういった遺伝性疾患が出現することは確認されていません」という説明書きが書いてあるとおりでございまして、これは放射線の影響の一般論としては、こういったことも動物実験の結果を踏まえて記載がございますが、人に対して見られているものではないということで、その点は先生の御疑問に対して、事務局として回答させていただきたく存じます。
 もう一つ、2点目御指摘いただきました17枚目の※の全身に1グレイを一度に受けた場合というところのお話でございますが、これも先生御指摘のとおりでして、急性放射線症候群というのは、基本的に一度に大量の放射線を浴びた場合に見られるというのが今、分かっている知見でございます。放射線を分割で照射した場合については、こういった影響が見られるとしても、かなり大量であったりする必要があるなど、この表がそのまま即座に適用できるものではないと理解しております。
○一ノ瀬構成員 ありがとうございました。
 特に、遺伝性の影響があるという点に関しては、被爆された方に対する見方に大きな影響がある情報ですので、そこはできれば慎重にしたほうが。マウスではあるけれども、人体では確認されていないという点は、強く強調したほうがよいのではないかと私は感じております。
 それから、もう一点、ついでに発言してよろしいですか。
○佐々木座長 どうぞ、一ノ瀬構成員。
○一ノ瀬構成員 鎌田先生の御発表に関して、私、概念として理解していないところがあるので、こういう機会にぜひ教えていただきたいのですけれども、入市被爆という言葉は一般によく聞くのですけれども、これはどういうふうに定義するのかということです。私が知っている一日本人としての常識からして、広島で8月に原爆が投下されても、その年の昭和20年12月には、かなりの方が市内に戻ってきたということを一般常識として知っておりますが、12月ぐらいになって入った方は入市被爆という概念からは外れるのですか。その辺り、定義というか、教えていただければありがたいと存じます。
○佐々木座長 鎌田構成員、お願いいたします。
○鎌田構成員 入市被爆者という概念は、厚労省のほうでしっかりと規定されておりまして、2km以内に2週間以内に入った方をもって入市被爆とするとなっております。ですから、私がここで述べたのも、全て今の定義に基づいて述べております。
○一ノ瀬構成員 ありがとうございました。よく分かりました。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 ほかに御発言がありますでしょうか。
 柴田構成員。
○柴田構成員 鎌田先生にちょっとお伺いしたいのですけれども、この17の例で原爆手帳を持たれていない方というのは、どこに当たりますか。
○佐々木座長 鎌田構成員、お願いします。
○鎌田構成員 手帳を持っていない方は、4番です。
 6番の人は、手帳を持っています。
 7番は、長崎です。
 8番は、2km以遠といっても、場所によっては手帳を持っている方もおられますが、恐らく大半は持っていない方と理解していいと思います。
 それから、9番は持っておられると思います。
 10番も持っておられます。
 それから、11番も持っておられます。
 12番の方、証言は持っておられないです。
 それから、13番の賀茂北部部隊の方々は、入市被爆として持っています。
 14番目のおばあちゃんは持っています。
 15番の論文は、入市被爆者というラベルが貼られておりますので、持っております。
 16番は、先ほどと同じ。
 17番の方については、64名で、全員が全員、手帳を持っているかということは、私は分かりません。軍隊の人ですから、東京のほうに行ったり、茨城のほうに帰ってしまった人たち。ただ、当時軍隊におったというのを根拠にして問い合わせた結果です。
 それでよろしいでしょうか。これは入市被爆と黒い雨ですので、中には手帳を持っている方もおられると理解してください。
○柴田構成員 ありがとうございました。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 ほかに御発言ありますでしょうか。ありがとうございました。
 この今日の2つの御説明も検討会の構成員が共有しておくべき情報あるいは知識であろうと思います。場合によると、異論と申しますか、違う考え方があるかと思いますけれども、折に触れて検討会構成員の間で共有できるものをしっかりと共有して明らかにしていきたいと思っております。何かお気づきの点がありましたら、どうぞ事務局のほうに御意見をお寄せいただければと思います。
 どうぞ。
○丸山課長補佐 事務局でございます。恐縮でございます、2点ほど。
 1点は、先ほど、一ノ瀬構成員、ありがとうございました。御指摘を踏まえて、誤解のないように、資料3-1のウェブの掲載版は後ほど修正させていただきたいということを、まず御報告いたします。
 もう一点、資料3-2で鎌田構成員に御教示いただきたいのですが、先ほど柴田構成員が御指摘いただいたように、4と12については、手帳をお持ちでないということだと理解したのですが、この方々について、今の第一種健康診断特例区域にいらっしゃる方なのかどうなのかということについて、先生が御存じでしたら御教示いただきたいということでございます。
 事務局からは、以上でございます。
○鎌田構成員 10kmという離れたところでの証言もあります。これは、黒い雨の地域の中での小さな卵形の中に入りますが、入るか、入らないか、証言者について詳しく尋ねないと分からないところがありますが、先ほど申しましたように、8km地点とか7km地点というところは、既に手帳を持っておられる方ですので、ここで述べているような証言の中には、持っていない方も一部は入っていると理解していただきたいと思います。実際に宇田論文の付録3を御覧になってみれば、距離まで書いてありますので、その距離の人がどこの人か、このような証言をしたと書いていますので、ぜひそこを参考になさってください。
 以上です。
○佐々木座長 ありがとうございました。
 本日、事務局から提示のあった議題は以上となりますが、ほかに何か全体を通じて御発言があれば、お願いいたします。
 それでは、本日の議論はここまでとさせていただきます。大変貴重な御発言をありがとうございました。座長の不手際で時間が延びてしまいましたことをお詫びいたします。
 それでは、事務局から最後にお願いいたします。
○山本室長 構成員の皆様、貴重な御意見等ありがとうございました。
 座長からもございましたように、追加で御意見などございましたら、2月26日金曜日までに事務局までお願いいたします。
 それから、本日御出席いただいている構成員の皆様におかれましては、机上に配付しております2冊のファイルは机の上に置いたままにしておいていただければと思っております。
 次回以降の日程等につきましては、別途、事務局より御連絡させていただきます。
 以上でございます。
○佐々木座長 それでは、本日の会議はこれで終了いたします。オンラインで御参加の方々は、御退室をお願いいたします。ありがとうございました。