2020年12月22日 第6回「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」 議事録

日時

令和2年12月22日(火) 17:00~19:00

場所

中央合同庁舎5号館厚生労働省議室(9階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者

参集者:五十音順、敬称略
磯博康、小山勉、杉薫、髙田礼子、高橋正也、
嵩さやか、豊田一則、西村重敬、野出孝一

厚生労働省:事務局
小林高明、西村斗利、西岡邦昭、中山始、中村昭彦 他

議題

  1. (1)脳・心臓疾患の労災認定の基準について
  2. (2)その他

議事

議事録


○中村職業病認定対策室長補佐 これより、第6回「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」を開催いたします。委員の皆様におかれましては、年末の大変お忙しい中、会議に御出席いただきありがとうございます。本日の委員の出席状況について御報告いたします。水島委員が御欠席となります。また、今回は小山委員、杉委員、嵩委員、豊田委員、野出委員の5名の方がオンラインでの参加となります。なお、杉委員と野出委員、事務局の審議官の小林は所用により遅れての参加となります。
 最初に、会場で御出席の方にお願いがあります。前回と同様に、発言される際には、マイクの下のボタンを押していただき、赤いランプが付きましたら御発言をお願いいたします。終わりましたら、お手数ですが、再度ボタンを押していただくようお願いいたします。
 次に、オンラインで参加される委員の方にお願いがあります。前回と同様に、発言される際には、マイクのミュートを解除した上で、お名前と発言があります旨の発言をしていただくか、またはインスタントメッセージで発言がありますと送信していただき、さらにその後、座長から「誰々さん、お願いします」と指名させていただいた後に発言をお願いします。御協力をお願いいたします。また、大変申し訳ないのですが、通信が不安定になったり通信速度が遅くなったりすることで、発言内容が聞き取りにくい場合があることに御容赦願います。
 傍聴される方にもお願いがあります。携帯電話などは、必ず電源を切るかマナーモードにしてください。そのほか、別途配布しております留意事項をお読みの上、検討会開催中はこれらの事項をお守りいただいて傍聴されるようお願い申し上げます。また、傍聴される方にも、会議室入室する前にマスクの着用をお願いしておりますので、御協力をお願い申し上げます。万一、留意事項に反するような行為があった場合には、この会議室から退室をお願いすることがありますので、あらかじめ御了承ください。写真撮影はここまでとさせていただきます。以降、写真撮影等は御遠慮ください。よろしくお願いいたします。
 では、磯座長、以後の進行よろしくお願いいたします。
○磯座長 では、議事に入る前に、事務局から本日の資料の確認をお願いします。
○中村職業病認定対策室長補佐 それでは、資料の御確認をお願いいたします。本検討会はペーパーレスの開催とさせていただいておりますので、お手元のタブレットで資料の確認をお願いいたします。本日の資料は、資料1「第6回における論点」、資料2「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書(抜粋)」、資料3「第5回検討会の議論の概要」でございます。
○磯座長 本日の論点は、資料1の1ページ、1から3になります。初めに、論点1「対象疾病」の説明をお願いします。
○西川職業病認定調査官 事務局から御説明いたします。資料1を御覧ください。本日の検討会では、資料1の1ページにございますように、先ほど座長の磯先生からもおっしゃっていただきましたが、論点を3点挙げてございます。論点1が対象疾病、論点2が長期間の過重業務・短期間の過重業務における身体的負荷、論点3が労働者の多様性を考慮した業務の過重性の評価です。論点ごとに事務局から御説明して、先生方に御議論いただく形で進めさせていただきたいと考えております。
 なお、論点1の関係で、13年の検討会の報告書のうち、疾患別の概要に関する部分を資料2として、また、前回第5回検討会の議論の概要を資料3として提出しております。こちらの内容の御紹介は割愛いたしますが、適宜御参照いただければと思います。
 それでは、論点1について御説明をいたします。1ページ目には3つの論点をまとめておりますが、資料1の2ページ目から具体的な論点のたたき台をお示しておりますので、こちらの2ページ目以降を御覧ください。2ページ目、論点1「対象疾病」についてです。まず、Aとして、現行の対象疾病8疾病のほかに、追加すべき疾病、表記等を修正すべき疾病はないかという論点を示しております。
 この論点について、少し細分化させていただいておりますので、A1を御覧ください。A1は循環器系の疾患ではございますが、作業態様が発症に大きく影響するもの、いわゆるエコノミークラス症候群といわれるような疾病についてです。肺塞栓症と深部下肢静脈血栓症について記載をしておりますが、これらの疾病は、長時間の座位、座った姿勢を長く継続することによって下肢の静脈に血栓ができる疾病、また、その血栓がその後立ち上がって動いたことなどにより、肺の血管を閉塞させて生じる疾病となります。航空機の狭い座席に長時間座っていたときなどに発症しやすいことから、エコノミークラス症候群と呼ばれることがあるところです。
 これらの疾病は、労災保険の脳・心臓疾患の認定基準では、対象疾病に掲げられておりません。一方で、これらの疾病について、労災認定が全くされていないということではございません。長時間の座位という作業姿勢、作業の態様が発症の原因となる疾病として、右の欄に記載しておりますが、業務による座位などの状態やその継続の程度などが、深部下肢静脈における血栓形成の有力な要因であったといえる場合に、業務に起因して発症した疾病として労災認定を行っているところです。つまり、過労死のカテゴリーではなく、腰痛や振動障害と同じカテゴリーとして取り扱っているということですが、そのような形で労災認定を実際に行っています。
 ただ、循環器系の疾病にはなりますので、脳梗塞や心筋梗塞等と同様に、業務の過重性との関連があると考えられるかどうか、業務の過重性との関連があると考えられるのであれば、脳・心臓疾患の認定基準の対象疾病に追加すべきかどうかといったことについて、発症機序を踏まえ、先生方に御検討いただきたいと思います。
 次にA2を御覧ください。A2は、各種の動脈系の閉塞や解離、動脈が詰まったり裂けたというような疾病となります。ここに4つ疾病を列挙させていただいておりますが、上の2例については、訴訟において労災として認められた事案になります。下の2例は、個別事案の判断として、専門医の御意見も踏まえて、監督署長が労災として認定した事案です。
 これらの疾病は動脈の疾病であり、現在の脳・心臓疾患の対象疾病と同様に、動脈硬化等の血管病変が、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、その自然経過を超えて著しく増悪し発症すると考えられるかどうか。疾病としてもともと発症数が比較的少ないものでして、疾病ごとに見れば事例はごく僅かなのですが、これらの動脈の疾患について、個別に事情を検討しつつ、対象疾病と同じように考えて認定していくことについてどのように考えるか。さらに、対象疾病と同じように考えて認定していくことができるとした場合には、対象疾病の規定ぶりとして何らか対応を考えていくべきか、あるいは症例数なども考慮して、対象疾病には規定せずに個別に対応していくことが適切か、そういうことについても御意見を頂ければと思います。
 次のページ、3ページ目のA3は現行の対象疾病の表記に関する論点です。現行の対象疾病は、右の欄の下のほう、左側に記載しておりますが、この現行の対象疾病の表記について、特にICD-10との関係を踏まえて修正が必要なものがあるかどうか。13年の検討会におきましても、ICD-10と一定の整合性を保つ趣旨で心停止などの規定が改められておりますが、約20年が経過いたしました現時点において、修正が必要なものがあるかどうかを御検討いただきたいと思います。
 併せまして、A3では不整脈による突然死等の取扱いについても論点としております。ここでのところ、それからその下の※印です。まず、最初に※印のほうですが、平成8年の労災の脳・心臓疾患の認定基準の改正におきまして、専門検討会の報告書を踏まえまして、「不整脈による突然死等」というものを対象疾病として追加したところです。この部分については、平成13年の改正におきまして、今、対象疾病に挙がっている「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うというふうに、認定基準上規定されております。ここでいう「不整脈による突然死等」とは、具体的には「心室細動や心室静止等の致死的不整脈による心停止、又は心室頻拍、心房頻拍、心房粗・細動等による心不全症状あるいは脳虚血症状などにより死亡又は療養が必要な状態になったもの」を指しておりまして、その旨は平成8年の改正時に発出されました補償課長事務連絡に記載されているところです。
 13年の認定基準の改正においては、対象疾病を狭める意図はなかったところでして、これについては心停止に含むという取扱いとしているところですが、この取扱いについて、引き続き維持するということでよいか、何らか改善すべき点があるかについて、御議論いただければと存じます。
 対象疾病の関係の最後の論点は、Bの基礎疾患の取扱いについてです。13年の報告書において、さらに平成7年の認定基準においてもそうですが、「先天性心疾患等を有する場合についても、その病態が安定しており、直ちに重篤な状態に至るとは考えられない場合であって、業務による明らかな過重負荷によって著しく重篤な状態に至ったと認められる場合には、業務と発症との関連が認められる」と取り扱っております。この考え方について、引き続き維持するということでよいか御検討をお願いいたします。
 4ページ目からは、参考資料を添付させていただいております。まず、4ページ目は、労働基準法施行規則別表第1の2、いわゆる職業病のリストです。関連する部分のみの抜粋としておりますが、現在検討いただいている脳・心臓疾患は八号に規定をしております。エコノミークラス症候群としての肺塞栓症は、第三号の5、作業態様に起因する疾病のその他条項で認定しているということです。
 5ページ目は、13年の検討会報告書の対象疾病に関する部分の抜粋です。論点のBで御説明をしました基礎疾患の取扱いについての部分を四角囲みとさせていただいております。
 6ページ目です。こちらは現在の対象疾病ごとの支給決定件数になります。高橋先生のいらっしゃいます過労死等防止調査研究センターにおいて、私ども行政で認定した事案の復命書の分析をしていただき、報告書として取りまとめられたものの抜粋となります。対象疾病や8疾病の内訳としては、22年度から29年度の、ここに挙がっております8年間の合計で見ますと、脳血管疾患が約6割、虚血性心疾患等が約4割、疾病別で最も多いのは脳出血の30%、次いでくも膜下出血が17%、心筋梗塞が16%といった状況です。高血圧性脳症がもっとも少ないところではありますが、ここにある8年間で6件が認定されています。
 7ページから9ページは裁判例です。C1からC4は国勝訴の事案、労災として認定されなかった事案です。C1は冠動脈血栓症、C2は脳静脈洞血栓症、C3は硬膜動静脈瘻、C4は直静脈洞血栓症です。C1、C4については脳心の認定基準と同様の考え方で判断をされておりますが、C1からC4のいずれについても、業務内容からみて業務起因性が否定される、労災には該当しないとされたものです。9ページのD1、D2については国敗訴事案、論点のA2のところでも御紹介しました労災として認められた事案となります。D1が左下肢動脈急性閉塞とS状結腸壊死の事案で、D2が上腸間膜動脈閉塞の事案です。いずれも、脳・心臓疾患の認定基準と同様の考え方により、長時間労働を評価して業務の過重性を認め、労災として認定したものとなります。
 10ページから18ページは現行のICD-10で、検討に関連する部分を幅広に添付しております。
 19ページを御覧ください。19ページからはICD-11に関する資料です。19ページ中ほどに、2019年にWHO総会でICD-11が採択されたとあります。このICD-11は、このように英語としては内容が定まっているところですが、統計基準のためのICD-11の和訳については、現在、厚生労働省の統計担当部署において関係学会と調整中と聞いております。今後、和訳が整えば、その下の社会保障審議会への諮問・答申を経て、最終的には総務省で統計法に関する告示の改正がなされ、国内で施行されるとのことです。この手続にはまだしばらく時間を要するようでして、ICD-11の英文の内容は21ページ以降に参考にお示しておりますが、本検討会の検討においては、ICD-11ではなく、ICD-10との整合性等について御検討いただきたいと考えております。論点1についての説明は以上です。御検討よろしくお願いいたします。
○磯座長 それでは、本日の論点は対象疾病ということで、資料の2ページの具体的な論考、たたき台に従って検討を進めたいと思います。
 まず、2ページの対象疾病です。A、現行の8疾病のほかに追加すべき疾病、8疾病のうち表記等を修正すべき疾病はないか。このうち、A1には肺塞栓症と深部下肢静脈血栓症、A2はA1以外の循環器系の疾患です。これについて、先生方から御意見等がありましたら、御発言のほどよろしくお願いいたします。A1については、これまでの会議でこういった肺塞栓症並びに深部下肢静脈血栓症というのは、非常に重篤な病気になり得る循環器系の疾患で、かつ事務局から説明があったように、作業態様による認定が可能であるといったところなのですが、それについて御意見等はございますか。
 私から、肺塞栓症については、これまでも議論されてきたので特に御異論はないと思うのですが、深部下肢静脈血栓症といったときに、どの程度それだけで重篤な病態になるのかということについて、臨床の先生から何かコメントを頂ければと思うのですが、いかがでしょうか。豊田先生、いかがですか。
○豊田委員 深部静脈血栓症だけだったら、重篤な症状は起こらないと思います。もちろん、下肢の浮腫が出たりとか、下肢の痛みが起こったりすることはありますが、深部静脈血栓症だけならその程度です。その血栓が剥がれて飛んで肺塞栓を起こせば、これは逆に命に関わる重症な病気になりますので、深部静脈血栓症の結果起こった肺塞栓症とか、あるいは奇異性の塞栓症といわれる特殊な脳梗塞、深部静脈血栓症から起こる脳梗塞などが労災に認定される可能性はあると思います。深部静脈血栓症だけでは、重篤なものにはならないのではないかと個人的には思います。以上です。
○磯座長 ありがとうございます。それは、心臓に中隔欠損症があって脳梗塞を起こすという意味ですか。
○豊田委員 そうです。深部静脈血栓症があって、なおかつ心臓に卵円孔開存のような右左短絡、右左シャントがある場合に、結果として脳梗塞になる場合があります。
○磯座長 ありがとうございます。ほかにこの点について御意見のある先生はいらっしゃいますか。西村先生、いかがですか。
○西村委員 西村です。この疾患については、前回私が参加したときにも議論になった記憶があります。そのときは、血管性の疾患であって重篤な場合は突然死に至るということで、先生方の御議論のとおりなのですが、動脈硬化が進行する動脈性の疾患とは機序が異なるということで、従来どおりとなったように思います。
 相談を受けた事案もありますが、発症機序が動脈硬化性のものとは異なる点を重視しました。血栓形成傾向、線溶系機能低下の条件のもとで下肢静脈(膝窩静脈、ひらめ静脈等)の圧迫で、血栓が形成され大量の血栓が肺動脈に塞栓性閉塞をきたし心原性ショックで亡くなった例でした。長期間の負荷でそういうことが起きるのかどうかという観点からは、動脈硬化性の虚血性心疾患とは異なるように思います。
 臨床研究から、震災のときに多くの方が余震等で車中泊をされたときに、ストレスと脱水と膝を曲げた位置で安静にしていることが誘因であることが分かってきました。循環器学会で警告に関する仕事をされていた野出先生などがお詳しいのですが、予防するキャンペーンをしましたら、熊本地震とか、最初は新潟の地震で分かったのですけれども、発症が減ってきたということがあります。そのときのデータもかなり詳細に取られており、地震があって余震があって車中泊をされて、多くは大体1週間以内に発症されていますので、長期間ということで月の単位での病態との関連を示すエビデンスは、乏しいのではないかと思います。
 もう1つ付け加えますと、肺塞栓症の中で、慢性の再発性で階段状に悪くなるタイプがあるのですが、このタイプで下肢静脈血栓が見つかることもあるし、案外そういうタイプには下肢静脈血栓がないということも分かっておりますので、病態は全て解明はされていないのですけれども、長時間負荷との関連を示すエビデンスはないのです。経験則からも、例えば月の単位の過重負荷で起きるということは、言えないのではないかなと思っております。
○磯座長 ほかに御意見等はございますか。特に、臨床の先生方からいかがですか。杉先生、どうぞ。
○杉委員 参加が遅くなりまして、すみません。深部静脈血栓症に関しては、豊田先生のおっしゃるとおりで、これが重篤なという感じはあまりしないのですが、それから派生する肺血栓塞栓症は、いわゆるエコノミークラス症候群として知られているものですから、肺からの血流がなくなって左心室に血流が入らないと、圧がほとんど出なくなるということで、そのまま、圧が出ないまま、心室細動で死んでしまうということがありますので、重篤な病態だと思います。
 それで、今も西村先生がおっしゃったように、私のほうで聞いたのは熊本の地震のときのまとめです。済生会の、名前はちょっと忘れてしまったのですが先生の講演で、大体一晩なのだと思いますけれども、車中泊をして10時間以上にわたって車の中にずっと居たという人が、その中の10%ぐらいで肺血栓塞栓を起こしたという講演を聴いたことがあります。ですから、数としては少ないかもしれませんが、週の単位や日にちの単位ではなくて、非常に短い時間でも起こるのではないかと思います。
 ただ、このことに関しては、これが全て労災だというよりは、予防の手立てもあると思うのです。車中泊でずっとそこに居るというよりは、少しは動けるはずですから、少し動くということと水分を多く取るとか、そういうことで予防できる部分もあるのではないかと思っております。
○磯座長 貴重な御意見をありがとうございます。労災認定するとすれば、作業様態、足を動かすとかいったようなことができない状態に、強制的にというか、作業によってさらされた場合には、かつ、深部下肢静脈血栓症が生じて、それが肺に飛んで、肺塞栓を起こして危篤になった場合には、労災認定されるという、そういう理解でよろしいでしょうか。西村先生がおっしゃったような、数か月とか、そういった単位でなくても、数日とか、1日以内で起こる可能性もある。そういった特殊な労働条件が重なった場合で、本人が足を動かしたり体を動かしたりできないときには、労災認定になるのではないかと考えるのが妥当かと思います。それについて、ほかの先生方から何か御意見はございますか。どうぞ。
○高橋委員 教えていただきたいのですが、こういう血栓の病気が、もしかしたら、脳梗塞や不整脈による過労死が認められている背景として、ありそうなわけでしょうか。
○磯座長 西村先生の裁判例というか、ケースにはあったのですよね。
○西村委員 昭和62年の報告書に二次性の心原性ショックで急死にいたる原因疾患で「巨大肺動脈塞栓」と記載がされています。解剖されたときに病名が肺塞栓だったと分かった場合は、突然死であれば剖検による基礎疾患が判明し、審査の機会はあり審査されているということになっていたのではと思います。心臓突然死の原因疾病は多数あり、それがまた一部混乱を生じている場合もあるのではと思っています。
○高橋委員 過労死ですと、剖検まではなかなかしないですよね。
○西村委員 心臓突然死で急に亡くなられた、特に急死という定義は、24時間以内とか1時間以内まで健康に普通の生活ができていた方が突然死された場合です。いろいろな立場による解剖があり、法的にも原因不明の突然死で行政解剖に至る場合もあります。
○高橋委員 ありがとうございます。
○磯座長 小山先生から何かコメントはございますか。
○小山委員 小山です。やはり、豊田先生がおっしゃるとおり、先に下肢静脈血栓症がなければ、通常は肺塞栓症は起こさないというのが臨床的に原則だと思っています。実際にエコノミー症候群とよく言われているのですが、本当にエコノミー症候群というのはパーセンテージ的にそんなに高い疾患としてとらえるべきなのでしょうか。それとも、レアな疾患としてとらえるべきなのでしょうか。よく労災でも、飛行機に乗っていたからとかというのがあるのですが、実際には肺塞栓症かどうか診断は付いていませんけれども、労災の問題が出てくるわけです。いわゆる重篤な肺塞栓症まで至るケースというのは、自分の経験上はレアだと思っているのです。以上です。
○磯座長 多分これまでの事例から見ると、わりと少ないのではないでしょうか。事務局の方からはいかがですか。
○西川職業病認定調査官 事務局から御説明させていただきます。作業態様に関するものとして、実際に過去に何件も認定例はあるのですが、数が多いかどうかということについては、御指摘のとおり非常に少ないです。年に1件あるかどうかといった程度、もちろん年にもよりますが、そういった数という状況です。それも、全部肺塞栓症になっているということではなく、肺塞栓症であったり、あるいは血栓症の段階で見つかって治療されているというケースもあります。
○磯座長 実際に認定されるかどうかというのは、様々な状況を加味して判断されると思います。例えば肺塞栓症にしろ、仮想のケースですが、ずっと仕事で出張で何十時間と飛行機の中にいる、それもエコノミークラスの窮屈な所にいると。けれども、今はアナウンスでも時々立ち上がって足をストレッチしてくださいという案内もあって、ある程度発症が防がれるのであれば、それだけの条件で労災認定されるかということは、ほかの状況も踏まえなければいけないと考えます。
 逆に、出張が何回も続いて、例えば12時間ずっと飛行機で、中継地区でまた別の所で7、8時間、10時間とやっているうちに、その前から疲労が蓄積していて、そこで疲れて長時間寝てしまうことで、肺塞栓を起こした場合には、認定にされる可能性はあると思うのです。
 ですから、予防可能なことは可能なのですが、予防できないような状況に自身が陥ったときには、やはり労災として考える可能性もあると理解していますが、ほかの先生はどういった御理解でしょうか。これだけでは、すぐに労災にはならないというのが私の考え方です。よろしいでしょうか。ほかに御意見等はございますか。
 ただ、肺塞栓症は非常に重篤になる循環器系の疾患で、かつ作業態様による影響が強い疾患ですので、これについては疾患単位として明記する可能性があると。本日は皆様方からいろいろな御意見を頂いて議論していただいて、本日この件について決めるのではなくて、また事務局で整理して、次回以降の議論にするということが方針です。ですから、様々な観点から御意見を頂ければと思います。よろしいでしょうか。杉先生、どうぞ。
○杉委員 杉です。今の御説明の中で教えていただきたいところがあるのですが、そういう肺血栓塞栓でも、これまでも労災で認定されたということがあるわけですね。
○磯座長 はい。
○杉委員 ということは、私どもが意見書を書く場合に、心疾患として書いた場合には4つの事例、心筋梗塞と狭心症と大動脈瘤と心停止という4つの概念で書かせていただいて、それが心血管病変については労災になるのかなと思っていたのですけども、肺血栓塞栓も労災として認められているのであれば、何かそこの項目がどこかに示されているのではないかと思うので、それを教えていただければと思うのですが、いかがでしょうか。
○磯座長 事務局からどうぞ。
○西川職業病認定調査官 事務局から御説明させていただきます。認定例があると申し上げましたが、今、杉先生がおっしゃったのは、脳・心臓疾患の対象疾病4つに入らないところ、そこに含めるような何か注意書きとか、そういったことがあるのかという御指摘だったかと思うのですけれども、あくまで認定をしているのは、脳・心臓疾患としての労災認定ではありません。先ほどの別表1の2の第八号としての認定ではなく、第三号のその他条項です。第三号というのは、作業態様に関する職業病ですが、作業態様に関する職業病として個別に事例を専門医の先生にも御検討いただいて、例えば業務で非常に長時間座って動くことができないような状態であって、その後、立ち上がった直後に発症したというような形態、発症までの経過を見ていただいて、この発症については、業務のためにそういった長時間の座位を強いられた、実際そういった業務によって長時間の座位の状態にあったということが血栓形成の有力な要因であったといえるというような個別の御意見を頂いたもので、それを踏まえて労災認定をしているものです。脳心の対象疾病の4疾病に関連するものという形で認定させていただいているものではありません。
○杉委員 ありがとうございます。よく分かりました。ということは、対象疾病以外でも、条件に合えば血管のものとしてでも何か認められることがあるということで理解してよろしいでしょうか。
○西川職業病認定調査官 いろいろな業務の態様がありますが、その業務の態様が有力な発症の原因となって何らかの疾病が発症したと考えられる場合には、具体的に職業病リストに明記されていない疾病であっても、個別に判断して業務上とさせていただくことがあります。
○杉委員 ありがとうございました。
○磯座長 野出先生がいらっしゃった。現在、対象疾病についての議論をしていて、現行の8疾病のほかに追加すべき疾病ということで、資料のA2の肺塞栓症と深部下肢静脈血栓症についての議論をしているところです。これについて、何か先生のほうで御意見等はございますか。
○野出委員 そうですね、肺塞栓症に関しては、おそらく一定時間以上の臥位とか座位とか、そういう負荷に関しては肺塞栓にはなるのですが、例えば慢性的な長時間労働によって肺塞栓が起こるというエビデンスはないと思うのです。だから、心筋梗塞や脳梗塞の場合は、ある程度の慢性的な長時間労働負荷ということで、労災認定に関係付けられると思うのですが、肺塞栓に関しては、直近の数時間以上の運動負荷であれば因果関係が明確なのですけれども、例えば1か月間10時間以上の労働をしたからといって、肺塞栓や肺血栓が増えるというところまではいかないと思います。
○磯座長 ありがとうございました。割と短期間の労働の様態、姿勢については非常に影響があるという御意見を賜りました。
 それでは、A1については大体御意見が出そろったようですので、A2の議論に移りたいと思います。A2については、先ほど事務局から話があったように、事例は非常に少ないのですが、同じように血管系の疾患として下に記載があります。下肢動脈の急性閉塞で、そのときにS状結腸の壊死があったとか、上腸間膜動脈塞栓症とか、その4つの疾患について、それぞれ裁判例、認定例とありますけれども、こういった疾患についても考慮していくという方針です。これについて何か御意見等はございますか。
○野出委員 先生、私からよろしいでしょうか。
○磯座長 どうぞ。
○野出委員 下肢動脈の閉塞とか腸間膜動脈の閉塞に関しては、動脈血栓症ですので、心筋梗塞やナトリウム血栓性脳梗塞と同じ病態だと思います。したがって、先ほどの肺血栓のような静脈血栓とは少し違いますので、こういった腸間膜動脈閉塞とか下肢の閉塞動脈硬化症に関しては、心筋梗塞のような動脈血栓症とある意味では同等に扱ってもいいような気がいたします。
○磯座長 ありがとうございます。ほかに御意見等はございますか。杉先生、どうぞ。
○杉委員 杉です。野出先生の意見と全く同じです。これは動脈の疾患でして、動脈硬化が原因となって起こっていると理解いたしますので、血管が足だろうと冠動脈だろうと同じだろうと思っております。それは同等に扱ってよいと私も思います。
○磯座長 ありがとうございます。豊田先生、どうぞ。
○豊田委員 野出先生が最初の2つのことをお話されたので、私は網膜中心動脈閉塞症と椎骨動脈解離のことを少しコメントいたします。網膜中心動脈閉塞症は、脳梗塞、脳塞栓症と機序はほとんど同じで、頚動脈を通過した血栓が目の循環に飛ぶか脳の循環に飛ぶかですから、機序的に脳梗塞に準ずるものと考えていただければいいと思います。ただ、脳梗塞や脳出血と同じように大きな見出しの中にこの疾患名を挙げるかと言われると、疾患の頻度とか規模が大分違うように思いますから、これは脳梗塞と準じて考えたらよいというような、ただし書程度で考えていただければと思います。
 椎骨動脈解離なのですけれども、解離を起こすのは椎骨動脈だけではありませんから、頚動脈解離や中大脳動脈解離等も合わせた広く脳動脈解離ということになると思いますが、解離はベースに長時間の労働があるからとか、動脈硬化の蓄積があるからというのは必ずしも当てはまりません。ごくごく健康な、例えばスポーツマンの若者がスポーツをしていて、ちょっと首をひねったときにビリッといくとか、極端なことを言えば大声を発したときに解離を起こしたとか、子供を肩車したら解離を起こしたとか、労働の負荷と関係なく起こることが多いのです。ただ、中にはやはり、長時間の疲労などが誘因と考えられるものもありますから、私は解離に関しては、先ほどの肺塞栓症と同じように、ケースバイケースで考えるということでいいのではないかと思っております。以上です。
○磯座長 ありがとうございます。ほかに御意見等はございますか。
○小山委員 小山ですが、よろしいでしょうか。
○磯座長 どうぞ。
○小山委員 豊田先生と同じ考えなのですが、椎骨動脈というのは、やはり解剖学的に大動脈血管と構造が全然違いますから、それと本質的にまだ解離性椎骨動脈は、先ほど豊田先生は頭蓋内の解離性動脈瘤を指摘されたのですけれども、これもまだ原因が分かっていないわけで、エビデンスがないので、これを1つの疾患として出すのはどうかなとは思っています。網膜中心動脈のほうは、確かにTIAとかそういう形で出てくる場合もあります。頚動脈の狭窄がある場合は生じ得るので、それをどうとらえていくかは豊田先生と同じ考えでもいいと思っています。以上です。
○磯座長 ありがとうございます。豊田先生、どうぞ。
○豊田委員 解離で1つ言い加えるのを忘れていたのですが、脳動脈解離の結果、脳梗塞を起こしたり、脳動脈解離の結果、くも膜下出血を起こしたりする方が過半数ですので、結果として脳梗塞やくも膜下出血を起こしたときには大きな見出しの中の該当疾患になりますから、基本的には労災になっていくのだろうと思います。脳動脈解離で頭痛だけが強い方とか、あるいは無症状だけれども脳動脈解離のために経過観察というか、安静のために休業を強いられるような方がいますので、これはちょっとケースバイケースで考えていただければと思いました。以上です。
○磯座長 ありがとうございます。事務局に確認なのですが、椎骨動脈解離認定例になったケースというのは、この資料にありますか。
○西川職業病認定調査官 訴訟の例は、訴訟の判決文が公表されていますので、この公開の検討会でお示ししているのですが、認定例については、ここの資料には載せていません。
○磯座長 分かりました。ほかに臨床の先生方、御意見等はございますか。西村先生、何か今の議論でございますか。
○西村委員 2つあります。1つは、動脈解離というのは、先生がおっしゃったように、いろいろな要因が想定されており遺伝性で若い人でも発症します。ここに出ているA2の左下肢動脈急性閉塞、S状結腸壊死というのも43歳の人なのです。この事案は相談を受けたことがあって、おそらく急性の大動脈解離であり、手術をされた後に亡くなったので全身の解剖はされていないための診断名と推測します。診断名がどのレベルかということで、差が出てしまうということは避けられないのかと思います。冠動脈でも解離が起きて、20-40歳台の女性が急性心筋梗塞を発症する場合もあり注目されていますし、全身の中レベル径の動脈に多発性に解離が起きたりすることもあります。なかなか難しい病態ですので、大動脈解離以外の動脈解離を含めるかということは、もう少し医学的に検討したほうがいいと思います。
○磯座長 確かに、腹部大動脈がずっと解離を起こして、下の方に行けば起こり得ますね。全体としては、明らかな動脈硬化による塞栓・血栓については、心筋梗塞と同じように考えていいのではないかということですが、ほかの疾病に関してはそれぞれケースバイケースで考える必要がある可能性もあるという御意見でした。よろしいでしょうか。
 それでは、次のA3についてですが、ICD-10との関係等といったところで、右側にそれぞれ現行の対象疾病とICD-10が記されています。ここで見ていただくと分かるように、食い違うのは「心停止(心臓性突然死を含む。)」というのが、ICD-10では括弧内がなく「心停止」ということと、前回も議論になりました「解離性大動脈瘤」は現在は使われていないので、ICD-10では「大動脈の解離」となっています。
 ここで先生方に議論していただきたいのは、「不整脈による突然死等」について、「心停死(心臓性突然死を含む。)」に含めてはどうかという点について御意見等を頂ければと思います。杉先生、どうぞ。
○杉委員 今のA3のところ、復唱しますが、「不整脈による突然死等とは」というところで「具体的には」と入っておりますが、心不全症状も一緒に含むということでよろしいでしょうか。つまり、心房細動とか心房頻脈で脈が非常に早くなると、心不全症状は起こしますが、死に至ることはまずないと思っております。ですから、この「不整脈による突然死等」という「等」の中に、心不全を含めるということで理解してよろしいということでしょうか。
○西川職業病認定調査官 事務局よりお答えいたします。平成8年の認定基準の改正のときには、おっしゃるように、「不整脈による突然死等」ですので、「等」の中には突然死に至らないものを含んでいるという解釈でございました。具体的に、ここの※印でかぎ括弧で囲んである解釈を示しておりまして、まず心停止がございますが、その次に頻拍や粗・細動による心不全症状が解釈として示されておりますので、不整脈による心不全症状についても、もちろん、治療が必要という前提ですが、そういった心不全症状についても補償の対象とするということを、平成8年の改正のときに行ったところでして、平成13年の改正についても、その取扱いは変えずに、そこを心停止の中に含めて取り扱うというような認定基準の書き方にしたということで、このままでよいか、改善すべきところがあるかということを御議論いただければというように思ってございます。
○磯座長 文言、表現の仕方について、※印のところには、心不全症状で療養が必要な状態になったものも含むということですよね。死亡に至らなくても。
○西川職業病認定調査官 はい。
○磯座長 多分、表現の話ですが。この記載だと、心停止の中に心不全を含むのですか。
○杉委員 心不全という状態と心停止そのものは、ちょっとニュアンスが違うのではないかと思っております。不整脈による突然死は、大抵心室細動が8割以上、あと心静止はありますが、要するにそのままの不整脈で死に至るということで、私どもは理解していたところです。
 でも、この文章によりますと、もう以前から心不全を認められているということであれば、昨今思っていた心房細動の発症、そしてそれによる心不全ということになりますと、労災として認められるような形になるのではないかと思うのです。裁判例が非常に多いのですが、心房細動そのものも、睡眠不足、疲労、ストレス、お酒も入りますが、そういうような労働環境の悪化で心房細動を起こすこともあり得る。頻脈性の心房細動になると、心不全という状態になります。そうすると、これは労災として扱っていいかどうかということにつながるのですが、その点で教えていただければと思います。
○西川職業病認定調査官 今、先生から御指摘のありましたものは、正に心房細動による心不全症状であって、療養が必要な状態になったものであるということかと思いますので、それであれば労災補償の対象になり得ます。もちろん、過重業務があったかどうかという問題がございますが、そこで過重業務が認められるということであれば、対象になるというのが8年改正の趣旨であると理解をしています。
○西村委員 平成13年の検討会報告書には、「心不全」という言葉は意識して使われていなく、心臓突然死をきたす疾患形でまとめる考え方でした。多分13年報告書を調べたら、「心不全」の記載は1か所ぐらいかと思います。「心不全」の説明、概念と定義は難しいものです。不整脈死、心停止をどう扱うかという議論をして、心不全という病名ではなく心停止を起こしたものについては、その病態を入口にし、基礎心疾患を検討する考え方でした。平成13年の時はどういう立場になっていたでしょうか。確認したいのですが。
○西川職業病認定調査官 確かに、平成13年の検討会の認定基準では、「急性心不全」という言葉について、急性心不全は疾患名ではないことから、可能な限り疾患名を確認するようにというような考え方を取っております。それとともに、不整脈については、平成8年基準の不整脈による突然死等というのは、不整脈が一義的な原因となって心停止又は心不全症状等を発症したものであることから、不整脈による突然死等は心停止に含めて取り扱うことということが、併せて認定基準の第5の「その他」に記載されている状況です。
 資料の5ページですが、報告書においても、(2)虚血性心疾患等で、イ、ロ、ハ、ニとありまして、その下に解説が付いています。「「脳内出血」は現行認定基準の「脳出血」であり、「心筋梗塞」は同じく「心筋梗塞症」である。また、現行認定基準の「一時性心停止」及び「不整脈による突然死等」については、臨床的観点から、上記(2)のハ、これが心停止(心臓性突然死を含む。)なのですが、これに含める形で整理した」という形で、報告書上は整理されているところです。
○磯座長 今の議論の中で、不整脈による突然死を「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うということについては、異論はないと思うのです。ところが、その下の平成8年の※印に心不全が入っているので、委員の皆様方は迷ってしまうのだと思うので、そこをどのように整理するかだと思います。宿題にしますか。
○西川職業病認定調査官 今のままでは、心不全症状のところをどう整理するかが読みにくいという御指摘だと思いますので、一旦事務局で整理をさせていただきたいと思います。
○西村委員 今の議論に関係するのですが、次のBでも同じように、「重篤な状態」「著しく重篤な状態」とあります。これは臨床的なイベントが起きて、入院とか治療のきっかけになった、あるいは最悪の場合に亡くなったことのどれに相当するのか、それらの定義と関係してきます。心不全という病名で治療を受けている方は、高齢者人口増加に伴って急増しているので、「心不全および心不全の基礎疾患」と業務による負荷と関連をどう評価するかは、重要なポイントだと思っております。
○磯座長 ありがとうございます。その辺りは次回、対象疾病の検討をするときまでに整理してください。心不全で本当に死に至る場合もあるし、死に至らなくても療養が必要な場合をどのように整理するかだと思います。
 それでは、Bのほうに移りたいと思います。Bについては、先ほど説明がありましたように、先天性心疾患等を有する場合についても、病状が安定している場合はいいのですが、業務によってそれが悪くなってしまい著しく重篤な状態に陥るという場合には、業務と発症の関連を認めると考えていいかということです。これについては、何か御意見等はございますか。まず、杉委員からお願いします。
○杉委員 Bについても、「先天性心疾患等」ですから、いろいろな病気もあると思うのです。落ち着いている器質的な心疾患を持っている方と理解して、それが過重労働によって重篤な状態になるということは、おそらく心不全になるということなのではないかと思うのです。そうすると、先ほどの「不整脈等」ということもあるのですが、心不全という病態について、どのように扱うかというのは難しいところもあると思います。野出先生に、その点の御意見を伺ってはいかがでしょうか。
○磯座長 野出先生、お願いします。
○野出委員 杉先生がおっしゃったとおりでして、成人の先天性心疾患が増えております。救命率が上がっているということで、ASDとかVSDとか肺動脈狭窄症のような方がアダルトになっている、延命される方が多いのです。その場合に、やはり肺高血圧を来したり、心不全になって悪くなる、亡くなる方がまれにございますので、やはり心不全というのは1つの最終の病態像と考えていいと思います。ただ、心不全が非常に難しいのは、非常に軽症の場合もあるのです。だから、そこには重症の心不全であるとか、重篤な心不全であるとか、そういうような文言を入れておいたほうがいいのかなと思います。ただ、心不全は、最近は病気が増えておりますので、「心不全」という言葉は入れていただいて、プラス「重篤な心不全」とか「致死性の心不全」とか「重症心不全」というような言葉で表現いただいたらいいのかなと思います。
 明らかに長時間労働の負荷によって、例えば先天性心疾患を合併されている方に関しては、心不全のリスクは高まるという認識で結構ですので、これは労災認定に当たり得るというように考えます。
○磯座長 ありがとうございました。今、先生がおっしゃったことは非常に重要な観点なのですが、私が気になるのは、先ほどより事務局からあるように、心不全というのは病気ではなくて病態であると。もし、ここに「重篤な心不全」としますと、その後の、更に重篤な状態に陥ると考えられない場合にあってもということで、表現が非常に難しいですね。心不全でも、ある程度症状が進展していて、そこに負荷が掛かると重篤になる場合があるので、表現が法律上も難しいのではないかという印象を持ちます。
○野出委員 そうですね。1つは慢性心不全ではなくて、急性心不全に限定するという方法もございます。重症の急性心不全ということで、それに対して長時間労働なり負荷の関与を考えるということが1つです。ただ、確かに心不全は病名ではございませんので、それが難しいということであれば、そこのハードルは高くなるかなと思います。そこは厚労省の方にお聞きしますが、心不全ということに関しては、これは病名でなくては難しいのでしょうか。
○西川職業病認定調査官 そこは先生方の御議論を踏まえて、また検討させていただくということにはなろうかと思うのですが、確かに心停止も、ある意味では病態ではないかというところもありますし、心不全も病態であって病名ではないのではないかということは、平成13年のときの報告書もそうですし、平成13年の認定基準はそういった考え方で、急性心不全ということについては更に病名を追求しろという形で整理をしてきたところです。
 一方で、どうしてもそれ以上は分からないときには、それはそれとして認定してもよいということも認定基準には書いてはあるのですが、ただ、先ほどの先生方からの御指摘でも、やはり20年前と比べても、心不全という名前の付く患者は増えていらっしゃるということも承りましたので、その辺りはどういう整理ができるかということも含めて、ICD-10にも「心不全」という項目はあるので、そことの関係、どういったものがそこに分類されるのかということも勉強させていただいて、また御相談させていただきたいと思います。
○野出委員 一方で、心不全の定義が広がっているのです。拡張不全を含めた軽症の場合も心不全というケースが多いので、そこは先ほどからお話しているように、「重篤な」あるいは「重症の」というのは、必ず入れておいたほうがいいかなと思います。
○磯座長 先生がおっしゃる重篤な若しくは重症な心不全でも、今は病態が安定していると、さらに業務の負荷によって危篤な状態になるという理解でよろしいでしょうか。
○野出委員 はい、そうです。今は安定しているのですが、それが長時間負荷等の過重労働によって増悪をして、それが致死性になるということは十分にあり得ますので、そういったことを踏まえた表現でよろしいのではないかと思います。
○磯座長 その辺りの文言は、事務局で考えていただければと思います。
○西村委員 ここは重要なポイントだと思うのですが、平成13年の報告書の19ページで、「先天性心疾患等(高血圧性心疾患、心筋症、心筋炎等を含む。)」と病名が出ております。評価にあたっては基礎疾患を重視する考え方が基本にあったと理解しております。この点について今回はどうするのかということが1つの論点です。
 それから、病名が増えれば増えるほど、個々の疾患の病態、自然歴等の医学的データが少なくなってきます。自然歴を超えて増悪したというのは、虚血性心疾患ほどの頻度が高い疾患で、多くの研究による種々のデータがある場合は、医学的にも想定できます。まれな疾患の場合に、自然歴のデータが乏しい、また労務負荷との関連がどの程度なのかのエビデンスが乏しいなかでの判断となり、見解も分かれ議論になります。負荷となりうる時間数は、心不全の場合も程度、重症度により異なる可能性もあり、今の基準が本当にいいのかどうかもエビデンスがないというわけです。この点は、検討しなければいけない点です。
 それから、「重篤」といったときの臨床の出来事は生死に関わるような事態と定義するのか、そうではなく、補償の考え方から入院程度とするのかは、公平性の観点からも議論が必要と思います。
 また、原病主義というか、基礎疾患に則って労災認定はするという考え方からは、心不全あるいは心停止例では基礎疾患を明確にして審査判断することになります。剖検等で急性心筋炎であったことが判明する場合もあります。「虚血性心疾患等」に含める疾患についての議論は必要であると思います。
○磯座長 その辺の論点は、整理が難しいところがありますので、事務局に整理していただいて、再度検討することとしたいと思います。ありがとうございました。
 次に、資料の25ページを御覧ください。論点2の「長時間の過重業務・短時間の過重業務における身体的負荷」の説明をお願いします。
○西川職業病認定調査官 論点2について御説明させていただきます。資料1の25ページから、具体的な論点のたたき台をお示ししておりますので、25ページを御覧ください。
 論点2は、長時間の過重業務・短期間の過重業務における身体的負荷についてです。Aとして、業務の過重性の評価に当たり、身体的負荷の程度を適切に評価する方法についてどのように考えるかという論点を示しております。
 これをA1とA2に分けておりますが、A1の※印について先に御説明いたします。現行の認定基準において、長期間の過重業務や短期間の過重業務における特に過重な業務とは、「日常業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいう」とされております。ここでは「身体的負荷」という表現が出てきておりますが、個々の負荷要因としては、労働時間、不規則な勤務、出張の多い業務などが挙がっている一方、「身体的負荷」という言葉は負荷要因として規定されていないところです。もちろん、労働時間が長いことなどにより、身体的負荷が生じるという趣旨では評価をしているのですが、業務そのものの身体的負荷、例えばデスクワークではなく肉体労働に従事した場合に、その作業の強度が疲労の蓄積に影響する程度について、適切に評価するためには課題があるのではないか。
 右側の参考事項欄ですが、第3回の検討会でも御紹介しましたが、身体的負荷に関する医学的知見としては、酸素摂取量が高い労働、エネルギー消費量の増加が脳・心臓疾患の発症や内膜の厚みの増加といったものに有意な関連があったとするものが出ているところです。また、裁判例では、労働者が従事していた労働が身体に負荷を与えるものであった場合には、こういったことについても指摘をし、評価をして、業務の過重性を認めるというような例が見られるところです。
 こういったことを踏まえまして、A1の論点ですが、身体的負荷の程度を適切に評価するため、身体的負荷を伴う業務というものを負荷要因として掲げることについて、どのように考えるか。また、これを負荷要因として追加する場合には、その検討の視点について、A2にたたき台の記載をしております。「身体的負荷を伴う業務については、業務内容及び業務量のほか、当該業務のうち重量物の運搬作業、人力での掘削作業などの身体的負荷が大きい作業の種類、作業強度、作業時間、歩行や立位を伴う状況、日常業務と質的に著しく異なる程度(事務職の労働者が激しい肉体労働を行うなど)等の観点から検討し、評価すること。」、このようなたたき台ですが、こういったことを考えてはどうかと。あくまでたたき台でございますので、先生方から様々な御意見を頂きたいと考えておりますが、これらについて御検討いただければと存じます。
 次に26ページですが、これはたたき台を作成する際にも参考にしましたが、職域における様々な作業の作業強度、活動強度を表にしたものです。これは、心疾患患者の運動許容条件に関するガイドラインで示されているものです。右端の強度(METs)という欄に数字が入っておりますが、この点数、METsが高いほど、強度の高い作業、循環器系に負荷を掛ける作業というように理解されるかと思います。こういったものを参考に、もちろんこの作業強度だけで業務の過重性を判断できるものではございませんが、労働時間などと総合的に評価して、どのような強度の作業をどの程度の時間実施したかということを併せて評価していくことを想定しているものです。
 次のページからは、第3回検討会にも提出しました資料の再掲になりますが、27ページと28ページは身体的負荷に関連する医学的知見、また、29ページから31ページについては身体的負荷に関する裁判例です。論点2についての御説明は以上です。御検討のほど、よろしくお願いいたします。
○磯座長 今、説明がありましたように、まずA1ですが、こういった身体的な負荷を伴う業務を負荷要因として掲げることについて、是か否かという論点です。いかがでしょうか。これについては、これまでの先生方の議論で、特に反対といった議論になった経緯はなかったかと思います。髙田委員、産業医での経験上いかがでしょうか。
○髙田委員 髙田です。身体的負荷が強度の場合は、影響してくるとは思います。ただ、どこまで書き込むかが問題になってくるのではないかと感じています。
○磯座長 ほかに御意見等はありますか。野出先生、どうぞ。
○野出委員 私も、このように身体負荷を具体的に挙げていただくのは、循環器疾患にとっても妥当かなと思いますので、これでよろしいと思います。
○磯座長 ありがとうございます。ほかに御意見等はありますか。杉先生、どうぞ。
○杉委員 杉です。身体的負荷ということで、何回か意見書を書かせてもらったことがあります。ただし、身体的負荷の種類がかなりあると思いますので、これはやはり個別の判断になるのではないかと思うのです。ですから、一言、「身体的負荷」という言葉が入ることが重要で、これによって先ほどの問題の心不全などのいろいろな状況になるということで理解していただければいいのではないかと思います。以上です。
○磯座長 ありがとうございました。それではA1については、負荷要因として挙げることを御了解いただいたということで理解いたします。では、A1を負荷要因として考えた場合、どのような視点で考えるかということで、先ほど事務局からA2の案が出ております。これについて、何か御意見等はいかがでしょうか。
○嵩委員 東北大学の嵩です。こちらに挙げている内容でお聞きしたいのですけれども、1行目の「業務内容及び業務量のほか」とありますが、その先の部分は業務内容と業務量とはまた別のものになるのでしょうか。業務内容と業務量のことを具体的に書いてあるのかなという気がしたのですが、「ほか」というと、何かまた別のものというイメージになってしまいますので、例えば「業務内容及び業務量のうち、取り分け」といった感じで、取り分けこの点について重視して評価するということなのかなと思ったので、この「ほか」という部分がちょっと気に掛かりました。以上です。
○磯座長 事務局、いかがでしょうか。
○西川職業病認定調査官 どのような表現ぶりが適切か、是非御議論いただきたいと思っております。たたき台を作成した段階で想定をしていたのは、業務は作業の束であるといいますか、業務のほうが広い概念であると。運送の業務というようなものを想定して、その中に具体的に何キロのものを持って平地を歩いたとか、階段を上がったというものを作業と想定したところです。分かりにくいとあまり意味がないので、そういった点についても御指摘を頂ければ有り難いと思います。
○磯座長 文章を読み込むと、「業務内容及び業務量」が、「例えば」につながるとしたら、その後の2行目からの「運搬作業、人力での掘削作業」、あとは「作業強度、作業時間、歩行や立位を伴う状況」というところまでは、「業務内容及び業務量」の1つの例なのです。そこと次の「日常業務と質的に著しく異なる程度」というのは、少し違う観点ですよね。ですから、「業務内容及び業務量について、例えば」うんぬんとして、並びにとか、及びとして、「日常業務と質的に著しく異なる程度」は別の括りでつなげると少し明らかになるのではないかと思います。その辺りの文言は、少し整理してください。今の嵩先生の御質問は、そういったことでよろしいでしょうか。
○嵩委員 はい、ありがとうございます。では、もう一度御検討いただきたく存じます。
○磯座長 事務局が文言を訂正しましたら、嵩先生のほうで確認をしてください。よろしくお願いします。A2について、ほかにありませんか。
○小山委員 小山ですが、1点よろしいでしょうか。
○磯座長 小山先生、どうぞ。
○小山委員 この文章はいいのですが、業務量の具体的な基準は、METsを用いてやるのですか。これ以上、例えば6METs以上の作業が何時間続いたから、これはもうオーバーだと、過重労働だというようにもっていくのか。この文章は分かるのですが、何を基準にしていくのかが分からないのです。教えていただければ有り難いのですが。
○磯座長 事務局、いかがでしょうか。
○西川職業病認定調査官 そこまで具体的な組み合わせでお示しをできるエビデンスがあれば、認定はやりやすくなるのでしょうけれども、残念ながらそこまでの、例えば何METsのものを何時間、時間外でやればというようなエビデンスはないのではないかと思っておりますので、検討の視点の中に入れて、結局のところは全体を見て検討していくことになっていくのかなと考えております。
○小山委員 分かりました。
○磯座長 確かに、例えば、シャベルですくう:きつい、建設業とあるが、最後のほうに書いてあるように、事務職で普段あまり肉体労働をしない人が、何か災害が起こって泥をすくったり、工場の泥をすくうのにかり出されて、そこでシャベルを使うきつい労働をして、そのために何か起こるという可能性もある。肉体労働に慣れている人はそれほど大きな影響はないが、また、肉体労働の作業をする人でも個人差があると思いますので、その辺りのスコア化は難しいかと思います。そういう理解でよろしいでしょうか。ほかにありませんか。
○高橋委員 ここの論点が、異常な出来事ではなくて、短期間若しくは長期間における過重業務としての身体的負荷という位置付けで、一時的なものというよりは、ちょっと長めの身体的なばく露ということなので、簡単に言えば異常な出来事の切り分けというか、その辺りを意識しながらやっていくと、実際の認定などが円滑になるのかなと思いました。
○磯座長 いかがでしょうか。これは短期間も入ると考えていいのですか。
○高橋委員 一応、短期と長期でリストをしようという流れなのですが。
○磯座長 短期も長期も両方ありますね。
○高橋委員 ですから、突発的な大きな異常な出来事で救われるようなものではないので、そこのところのすみ分けというか。
○磯座長 はい、分かりました。ほかにありませんか。この辺りは、質的、量的な評価は難しいところなので、質的にいろいろな状況や重なり合いを見ながら評価することになるかと思います。よろしいでしょうか。それでは、これについては、先生方の合意として、一応事務局で確認していただきたいということですが、「身体的負荷を伴う業務」を負荷要因として追加するということでよろしいでしょうか。ありがとうございます。
 次に、A2の負荷要因として追加する視点について、特に大きな御意見はなかったので、先ほどの文言の整理、文章の整理を事務局のほうでお願いします。
 次は、32ページの論点3「労働者の多様性を考慮した業務の過重性の評価」について、説明をお願いします。
○西川職業病認定調査官 御議論ありがとうございました。論点3について説明いたします。資料1の32ページから具体的な論点のたたき台をお示ししておりますので、32ページを御覧ください。論点3については、労働者の多様性を考慮した業務の過重性の評価となります。どのような労働者を基準に、業務の過重性を評価していくべきかという論点です。
 現行の認定基準において、業務の過重性の判断は、疾病を発症したその労働者本人を基準とするのではなく、同僚労働者又は同種労働者、これを「同僚等」としておりますけれども、この同僚等にとっても特に過重な身体的、精神的負荷と認められるかを客観的かつ総合的に判断することとしているものです。
 この業務の過重性の評価に当たっては、客観的な評価が重要ということから、当該労働者が行っていた業務が当該労働者本人にとって過重であったか否かということをもって判断するのではなく、当該労働者と同様の業務に従事している同僚等にとっても、過重であるか否かという観点から判断する必要があるということで、このような判断基準としているところです。
 ここでいう同僚等とは、右側の欄の中段に記載しておりますが、「当該労働者と同程度の年齢、経験等を有する健康な状態にある者のほか、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者をいう」と定義をしております。被災労働者本人ではないけれども、被災労働者と同じような状況にある方を抽象的に想定し、そのような同種労働者にとっても過重な負荷といえるかどうかを判断するという形で、客観的な評価を行っているところです。
 左の欄の上のほうのポツに課題を3つ記載しております。まず、現行認定基準では、「同僚労働者又は同種労働者」としていますが、この違いが分かりにくいのではないかといこと、また、現実の同僚が想定されるケースはどんどん少なくなってきていると思われますので、精神障害の認定基準と同様に、「同種労働者」とのみ示すことが分かりやすいのではないかという点があります。また、労働者の多様性を考慮して、現在病気の治療を行いながら就労をしておられる方など、労働者の方々は非常に多様化してきているところですので、あえて「健康な状態にある者」というような言及をする必要性は乏しいのではないかという点があります。一方で、「基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者」を含むことについては、引き続き明示する必要があるのではないかということも課題として考えております。
 右の欄の下に、精神障害の認定基準における同種の労働者の定義を参考に記載しております。こちらの同種労働者の定義ですが、業務による心理的負荷を適切に評価するために、職種、職場における立場や職責、「年齢、経験」は共通していますけれども、等が類似する者をいうという定義の仕方になっております。脳・心臓疾患の業務の過重性の判断に当たっても、業務の心理的負荷についても考慮していくということになりますので、この点はある程度そろえていくべきではないか、同じように考えていくべきではないかという課題もあります。
 こういったことを踏まえて、新たな定義のたたき台を左の欄の下側に記載しております。1点目の違いは、同僚労働者又は同種労働者を、同種労働者としているところです。また、「ここでいう同種労働者とは、当該労働者と職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者をいい、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できるものを含む」という案で書かせていただいております。ここで、経験の後ろに「等」がありますけれども、この定義の後段に「基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できるものを含む」ということとの関係で、この「等」には、基礎疾患の状態といったものが含まれてくることになろうかと思います。
 先ほど、対象疾病のところでも御議論いただきましたけれども、基礎疾患を有していたとしても、ただちに重篤な状態に至るとは考えられない状態、日常業務を支障なく遂行できる状態であれば、そういった方を想定して、そういった方にとって、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かを判断していく、こういった考え方でよいか、また、その定義における表現の仕方について、御議論を頂ければと思います。
 先ほど御議論いただいた身体的負荷や、前回御議論いただいた心理的負荷、その他の負荷要因にも関連してまいりますけれども、どのような方にとって、どのような業務を、どのような時間従事されたことが、総合的に見て特に過重といえるのかどうかを検討していくことになろうかと思います。ですので、ここでの論点は、本人ではなく、同種の労働者を基準とする労災保険の考え方でよいかという点を確認いただくことと、この同種労働者の定義をどのようにしていくかということです。
 なお、本日御欠席の水島先生から、この論点について事前に御意見を頂いております。「本人ではなく、同種労働者にとって、特に過重な業務であるかを判断の基準とする方針については維持することが適当と考える。また、基礎疾患等の健康状態については、判断に当たって、年齢等と同様に考慮に入れることとしつつ、定義の表記としては、後段の「基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できるものを含む」という表現で、考慮の対象とすることができることから、定義にはあえて記載しなくてもよいのではないか」という御意見でした。長くなりましたが、事務局からの説明は以上です。御検討をよろしくお願いいたします。
○磯座長 今、説明がありましたように、基本的には同種の労働者を基準とするということと、基礎疾患を含むということで、下のほうに6行ほどの文面がありますが、この定義について、御意見等はありますか。
○嵩委員 よろしいですか。
○磯座長 どうぞ。
○嵩委員 東北大学の嵩です。私も、水島先生と同意見です。まず、本人基準ではなく、同種、かつて同僚と言われていましたけれども、同種労働者という表現でその考えを引き続き取るというのは適当だと思いました。というのも、業務に内在する危険が現実化しているものに対する補償ということになるので、本人ではなく、やはり業務主体というか、抽象的に似たような労働者を想定して、そういった労働者について過重だったのかどうかを判断するという枠組みは重要だと思いますので、同種労働者というもので結構かと思います。
 また、後段の同種労働者の定義ですが、こちらについてもここ10年ぐらいかの裁判例でも、職種、年齢、経験等という形で例示されるようになってきました。しかも、基礎疾患を有していたとしてもというところも維持されておりますので、それにならう形の基準ということで、お示しいただいた定義でよいかと思います。以上です。
○磯座長 ありがとうございます。ほかに委員から御意見等はありますか。
○高橋委員 これまでの定義にあった「健康な状態にある者」というのは削除する方向だというのは、いいかと思います。「ここでいう」のところで、基礎疾患を有しても含むという形で、一応は病気や先天的な疾患を持っている方も含むとなっているのですが、やはり前段として「経験等」のところで、経験、健康状態等というふうに入れるかどうかは1つの議論かなと思います。
○磯座長 いかがでしょうか。「経験」の後に、基礎疾患のことを意識して、健康状態ですかね。
○高橋委員 健康な状態というと、ヘルス(身体状況がよい状態)みたいになってしまいますね。
○磯座長 はい、なってしまいますね。
○高橋委員 一般的なというか、一般用語としての健康状態とか健康状況とか。
○磯座長 身体状況ですか。でも、心理的なものもあるから。精神疾患もありますから、難しいですよね。
○高橋委員 場合によっては、心身の健康状態等とかというように。
○磯座長 心身の状態等ですか。
○高橋委員 一応、これは過労死等に関わる問題なので、職種、職位、経験、年齢も大事なのですけれども、やはり健康の状態というのは加味しておいたほうがいいのかなと思います。
○磯座長 法律の先生からは、それはなくてもカバーできるのではないかということなのですが、医学的な立場からはそれは明示したほうがいいという御意見だと思います。ほかの先生方からはどうでしょうか。
○西村委員 私も、それを入れたほうがいいと思います。先ほどの心不全の議論ではないのですが、長年治療を受けている疾患(原病歴)を持つ中で就労している方で、セルフコントロールができているとか、リスクファクターの管理程度、あるいは治療のアドヒアランスも重要な要因であり、それらを含めて総合的に健康状態を評価する観点も大事だと思います。また、これから医学的にも、いろいろなデジタルデータが使えるようになると、比較する同様の方というのは、今後データとして利用できる可能性もあります。
○磯座長 ほかに医師の先生から御意見等はありますか。
○野出委員 多分これは、医学的見地と法律的見地とで違うと思うのです。医学的見地から見ると、健康状態、特に病気の程度が同じような方を比べることになると思うのですが、法律的には客観的な評価というのは、年齢、経験、職責に準じたような比較になると思うので、私はこの文章でよろしいのではないかと思うのです。
 もう1点は、そうしますと、例えば社会的環境や家庭環境まで考えてしまうと、かなり比較が難しくなるので、結論から申しますとこの表現でよろしいのではないかと思いました。
○磯座長 ほかの先生方、いかがでしょうか。
○小山委員 小山です。よろしいでしょうか。
○磯座長 はい、どうぞ。
○小山委員 今、野出先生がおっしゃったように、医学的には実際には疾患を持っていたとしても、それがコントロールされていれば働けているわけですよね。その中で同じように働いている人がこの中に入ってきても構わないので、治療中でうまくいっている患者さんは、我々はきちんと医療機関に行って治療を受けている患者さんで問題ない方は、この対象になってもいいというように考えるのですが、いかがでしょうか。
○磯座長 今、先生から御指摘があった健康な状態をどうやってうまく評価するかということで、個人差もありますし、評価の仕方が難しいということで、法律上は野出先生や嵩先生がおっしゃったように、法律上分かりやすい条件、ここに書いてある職種、立場、職責、年齢、経験、それらも曖昧なところはありますけれども、健康状態というのは非常に幅広いので、そこを入れるか入れないかで、ちょっと議論が分かれているのですが。いかがでしょうか。杉先生、いかがでしょうか。
○杉委員 同種の労働をしている方ということであれば、今、小山先生がおっしゃったように、病気の人でも基礎疾患があっても、同じような労働ができるような状況があります。それで、特に別の病態の疾病を発症しないのであれば、それはあまり過重なものではないと理解できると思います。ただし、ここで言う健康な状態というのは、やはり非常に難しいのです。ですから、入れてもいいのですけれども、何となく健康なというものを除いても、今までのいろいろな職業の経験のある人とか、どの程度の年齢や経験があるということでやっておけばいいことであって、健康というのを入れると何となく違和感が出てくるのですが、いかがでしょうか。
○磯座長 豊田先生、いかがでしょうか。
○豊田委員 この項目は、あまり自分の意見がなくて申し訳ないのですけれども、私はこの変更案のままでいいと思っていたのです。あまり強い意見はありません。
○磯座長 西村先生、いかがですか。西村先生は入れたほうがいいということですね。
○西村委員 何らかの現病歴の有無等の症状は、そこで考慮しないのかということなのです。
○磯座長 病状ですね。
○西村委員 自然経過を考慮するときに、対象者が何か疾患を持って治療を受けているのだけども安定しているようである場合、既往歴(あるいは治療中であれば現病歴)は別の要素として検討項目に入るのでしょうか。例えば、既往歴に心筋梗塞のある40歳の方が、普通に社会復帰されて、仕事もできているわけですけれども、一般的な予後を同年齢の男性と比較すれば、既往の有無でその虚血性心疾患発症リスクは異なります。そのようなデータがあったときにそれも後付け的に医学的判断に加えられるのであれば、文章での記載までは要らないのかもしれません。
○高橋委員 逆に言うと、基礎疾患を持たれていない方でも、過重な労働で倒れることがあるので、裏を示せば表が定義されるというような構造だと思うのです。ただ、やはり基礎疾患を持っておられない労働者もいて、過労死している現状が、20代、30代の方でもいるとなると、私はやはり健康状態なる言葉はあってもいいかなと思います。
○磯座長 髙田先生、いかがですか。
○髙田委員 私は、この事務局案のとおりでよろしいのではないかと思っております。
○磯座長 要するに、健康状態や身体の状況も含めるという理解でよければ、このままでいいのですけれども、いかがでしょうか。2人の先生は入れたほうがいいのではないかということなのですが。
○高橋委員 精神との文言の一貫性は非常に重要だと思います。精神のほうは、確かに経験等が類似するということで、特段健康とかは入っていないですよね。そうであれば、ここでもし脳・心のほうで入れてしまうと、ずれが生じてしまうこともありますから。
○磯座長 では、このままでよろしいですか。ありがとうございました。いろいろな御意見を頂きましてありがとうございます。これで論点3についての評価を終わります。先生方、御協力ありがとうございました。本日の論点は以上となります。
 もし、ほかに何か御意見、御質問等がありましたら、全体として御発言をお願いします。いかがでしょうか。杉先生、どうぞ。
○杉委員 本日は、いろいろ教えていただいて有り難く思っております。私どもの扱う疾患の中で、ストレスや業務の過重性で出てくる疾患名の中にたこつぼ心筋症というのがあります。ですから、そういうものも1つに含めるといったらおかしいですけれども、※のところで「等」というものの中に含まれるような文言を入れていただけると、過重労働でそうなることも、ストレスでなることもありますので考慮していただければと思いますが、いかがでしょうか。
○磯座長 それは、どこのところでしょうか。今の3番ではなくて前のところですか。対象疾患のところでしょうか。
○杉委員 最後のほうではなくて、最初の4つの疾患の中にあって、それから個々の例で、今日は肺血栓塞栓症も出てきましたし、心不全という呼び名もあったのですけれども、それにオーバーラップする形でたこつぼ心筋症というものがあります。それは過重労働でもなりますし、ストレスでもなります。ですから、その扱いでして、疾患名としては、その中に入れるのは難しいかもしれないのですけれども、※の中にそういう病態も含むような文言を入れていただけると、いいのではないかと思いました。
○磯座長 たこつぼ心筋症というのは、突然死を起こしやすいという理解でよろしいのですか。まず、たこつぼ心筋症という特定の疾患を出すということについては。
○杉委員 ある程度、業務上の問題で出てくる可能性があります。そういうものに遭遇したこともあります。ですが、疾患名として4つ以外だと認められないことになってしまいますので、過重労働などの影響がありますし、A3の※印ですね、不整脈も含めてなのですが、考慮いただければと思います。いかがでしょうか。
○磯座長 何か注釈みたいなもので入れていく可能性はあるのですか。
○杉委員 注釈に入ればいいのですけれども。
○西川職業病認定調査官 もし請求が出てきた場合には、いずれにしても、認定基準に載っている疾病というのは認定基準に沿って検討をするわけです。認定基準にない疾患の請求があった場合には、認定基準と離れたところで、実際にその疾患が業務によるものかどうかというのは個別に判断をしていくことになります。ただ、もし先生方でたこつぼ心筋症について御意見があれば承ることはできようかと思いますけれども、いずれにしても、載っていないものについては、個別の判断になってくるということではあります。
○磯座長 一応除外するというわけではなくて、個別判断という方針だそうです。
○杉委員 分かりました。個別の判断ということでいいわけですね。
○磯座長 個別の判断で、何か出てきたときに、それがたこつぼ心筋症のときに、それが業務によって起こって、危篤な結果になったかどうかを判断するということですね。
○西川職業病認定調査官 はい。
○杉委員 分かりました。ありがとうございました。
○磯座長 他にありませんか。
○嵩委員 すみません、論点3の最後の方がよく聞き取れなかったのですが、これは事務局案を維持したということになるのでしょうか。それとも、継続審議になりましたか。
○磯座長 最後のものですか。
○嵩委員 はい。
○磯座長 それは、事務局案を了承したということになります。
○嵩委員 分かりました。ありがとうございます。以上、確認です。
○磯座長 それでよろしいでしょうか。ありがとうございました。それでは、議事については以上となります。本検討会は、これで終了いたします。
 次回の日程と第4回の積み残し等を含めて、事務局から何かありますか。
○中村職業病認定対策室長補佐 長時間の御議論をありがとうございました。次回は、第4回の積み残しである支給決定事例などを踏まえた「短期間の過重業務」、「異常な出来事」などについて、検討を予定しております。次回の検討会の日時、開催場所については、後日改めて御連絡をさせていただきますが、支給決定事例には個人情報を含み、特定の個人の権利又は利益を害するおそれがありますので、次回の検討会は、第4回の検討会と同様に、開催要綱4(1)に基づき非公開とさせていただきます。よろしくお願いいたします。本日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。
○磯座長 先生方、ありがとうございました。